木曽崇(国際カジノ研究所所長)

 わが国のカジノ合法化と統合型リゾート施設(IR)導入に向けた論議が大詰めを迎えている。政府は、この通常国会に提出を予定しているIR実施法案において、日本人及び在日外国人のカジノ入場に対して入場料を課す案を提示した。また、一定期間内での入場回数上限を設けるとしている。連立与党である自民党と公明党はこの政府の主張に対し、入場料の設定を6千円とし、また入場回数上限を「週3回、月10日以内」とする案を両党間協議で了承し、近く法案の国会提出を行う予定だ。

 一方、これら政府が示す規制案に対しては与野党のみならず、各メディアも含めてさまざまな論議が飛び交っている。まず入場料の設定に関してだが、現在与党が合意している6千円という価格に対して、カジノ反対派や慎重派の立場にいる人間からは「それでは依存対策にならない」との意見が散見される。

 しかし、そもそもこの入場料は「国民の安易なカジノ入場を防止する」目的で設定されてはいるものの、政府も昨年昨年行われたIR推進会議の総括において「依存症対策として入場料の効果についての科学的知見は必ずしも確立されていない」と明言している。そのような何ら効果の検証されていない入場料に対し、「それでは依存対策にならない」という批判自体がいかにナンセンスなものであるかが見て取れる。

 そもそも、国際的なカジノ研究の中で、入場料賦課はギャンブル上の問題を抱えるプレーヤーに対して、それほど大きな行動抑制策にはならないどころか、総体としてその施策は逆効果を生むとする説が主流である。ワシントン州立大のフィランダー准教授はレジャービジネス誌『UNLV Gaming Research & Review Journal Vol.21』に掲載された論文で、二つの経済モデルを利用しながらこれら入場料の「効果」の検証を行っている。

 「Entry Fees as a Responsible Gambling Tool: An Economic Analysis(『責任あるギャンブルツールとしての入場料:経済分析』)」と題したこの論文では、入場料の賦課は健全な娯楽としてギャンブルを楽しむプレーヤーの需要を大きく減退させる一方、ギャンブル上の問題を抱えるプレーヤーに対する需要抑制としてはあまり効果がないことを論じている。この論文においてフィランダー氏は、入場料の設定がむしろカジノ産業に「ギャンブル上の問題を抱える消費者からの収益に重度に依拠した産業構造」を誘発させかねない施策であるとして警鐘を鳴らしている。
2018年2月、大阪市夢洲での統合型リゾート施設の構想案を説明する米MGMリゾーツ・インターナショナルのジェームス・ムーレン会長
2018年2月、大阪市夢洲での統合型リゾート施設の構想案を説明する米MGMリゾーツ・インターナショナルのジェームス・ムーレン会長
 実はこのことは、2015年に発刊された拙著『日本版カジノのすべて』においても、私自身が相当の分量を割いて論じてきたことでもある。


 一方で実はこれら(入場料が採用されている)地域においても、この入場料の徴収が真の意味で依存症対策になっているかどうかに関していまだ科学的な論証はありません。また、ラスベガスやマカオなど他地域のカジノ専門家の中には、むしろこの入場料の徴収が消費者にとってのサンク・コスト(撤退を行ったとしても回収ができないコスト)として認知され、ギャンブル依存者の施設内滞在を助長している可能性も指摘されています。