小林信也(作家、スポーツライター)

 大谷翔平が、鮮烈な二刀流デビューを飾った。打者としては、メジャーリーグ(MLB)初打席でヒットを打ち、投手としては2日のアスレチックス戦に先発し、6回3失点ながら初勝利を挙げた。

 また、本拠地初スタメンの3日(現地)のインディアンス戦では、いきなりセンター右へ3ラン本塁打。そして翌4日のインディアンス戦でも2014、17年のア・リーグのサイ・ヤング(最優秀投手)賞右腕、コリー・クルバー投手から5回に2号2ランを打った。

 大谷はこの滑り出しですっかりエンジェルス・ファンの心をつかんだ。そして、半信半疑のまなざしもあった全米のファンとメディアに「二刀流の実力がホンモノである」との強烈な印象を与えた。

 一連の衝撃デビューには、いくつもの驚きがある。一つは、投打ともオープン戦であれほど厳しい結果だったが、ごく短期間で修正し、見違える輝きを見せたことだ。何しろ、投手としての大谷はオープン戦で4試合17失点。「動かないフォーシーム(ストレート)」を狙い打たれて、メディアの論調は「マイナーから経験を積んだ方がいい」とまで評価が下がっていた。

 打者としてもMLBのスピードと厄介な動くボールに対応できず、15打席ノーヒットを含め一時は打率1割を切った。そうした苦しみがウソのような活躍だ。

 もう一つは、日本のファン以上に、全米の野球ファンが「二刀流」への憧憬(しょうけい)と期待を持っていたことだ。開幕スタメン出場した野手が、10試合以内に先発登板するのはベーブ・ルース以来90年ぶりで、二刀流に対する全米の湧き方は想像以上だった。

 投手デビューとなったアスレチックス戦は、昨年のアメリカン・リーグ西地区4位のエンジェルスと、5位(最下位)の戦いになった。普通なら全米が最も関心を寄せないカードといっていい。ところが、この試合が全米に生中継されており、いかに注目が高かったかを物語っている。
 
 では、大谷がこれほど短期間に変身を遂げた理由は何だろうか。まず、打者としては、フォームを変えたことだろう。MLBのスピードと変化に対応するため、右足を高く上げるのをやめ、ほぼノーステップのすり足に変えた。これで、速球に差し込まれる不安を解消し、余裕を持ってボールを捉えられる間合いを作った。
2試合連続本塁打となる2ランを放つエンゼルスの大谷翔平投手
=2018年4月4日、米カリフォルニア州(ゲッティ=共同)
2試合連続本塁打となる2ランを放つエンゼルスの大谷翔平投手 =2018年4月4日、米カリフォルニア州(ゲッティ=共同)
 イチローが、日本のプロ野球では振り子打法だったが、MLBではそれを封印して成功した例に通じる。大谷は元々、打者としての才能の方が高いと筆者は感じている。なぜなら、投手を上から目線で捉え、自分の間合いに持ち込む感覚を持っているからだ。MLBでも開幕からずっと自信に満ちた構えをしている。すり足打法に変えたあと、特に弾みをつける動きをしなくても「MLB投手の球がスタンドまで届く」と確信できたため、力(りき)む必要もなくなった。打者としては、着実に活躍を重ねることが期待される。

 一方、投手としては、スライダー、スプリットなどの変化球を多投し、「動かないから打ちやすい」と酷評されたフォーシームで真っ向勝負する雰囲気からの転換に成功したことで、初勝利を挙げた。特に、2ストライクに追い込んでから、外角低めのボール・ゾーンに沈むスプリットが効果的だった。投手デビュー戦で奪った6個の三振のうち5個がこのスプリットだった。