では、習主席はなぜ「金正恩電撃訪中」に応じたのか。それはひとえに「トランプの背信」にある。トランプ大統領は、大統領選中に中国に対して激しい非難を繰り返したが、就任後は一転して「米中友好」に切り替えている。

 それが、中国製品への大幅な関税引き上げで「貿易戦争」に方針を変えた。中国はトランプ大統領の「敵対政策」復活を敏感に受け止め、「対北朝鮮政策では協力できない」と米国に反撃に出たのである。

 一方で、トランプ大統領は、大統領選でのロシアによる選挙干渉疑惑の捜査の行方を心配している。メディアと世論の関心を他に向けるために、米朝首脳会談に即座に応じたわけである。韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領にしても、支持率回復と憲法改正によって政権の延命を図り、北朝鮮を支援するために南北会談の求めに応じた。言い換えれば、米朝の「仲介役」を演じているのである。要するに、金委員長や習主席をはじめ、トランプ大統領も文大統領も、それぞれが政治的問題を抱えているから首脳会談に応じたのである。

 とりわけ、朝鮮半島の国家は「乗り遅れ」論を流すことで、周辺の大国を外交競争に引きずり込む戦略を展開する。まさに「巻き込み外交」の天才だ。例えば、米ソ冷戦が終結した1990年9月に、旧ソ連は密かに「ソ韓国交正常化」を北朝鮮に伝えていた。

 何も知らない日本は、金丸信元副総理を団長、田辺誠社会党副委員長を副団長として訪朝し、日朝国交正常化や経済支援を約束する羽目になった。国家崩壊を恐れた北朝鮮が日本に画策した「巻き込み外交」が成功したのである。

 北朝鮮は冷戦時代、大国の対立を利用し、中ソの間を行き来する「振り子外交」を得意としていた。だから、今でも周辺諸国に「乗り遅れ懸念」を撒き散らす。南北関係が悪化すれば米朝交渉に向かい、米朝がダメとなれば日本に秋波を送ることを繰り返したのである。

 南北関係と米朝関係、中朝関係、露朝関係が同時に友好であることはなかった。つまり、南北首脳会談も米朝首脳会談も「簡単に成功するとは限らない」、この戦略的視点が大切である。米朝首脳会談の焦点は「北朝鮮の核放棄」「在韓米軍撤退」「米朝平和条約」「対北制裁の解除」、この4つの外交カードをどのように組み合わせた合意ができるかだ。極めて難しい交渉であり、決裂の可能性もある。
2018年3月26日、北京の人民大会堂で中国の習近平国家主席(右)と握手する北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長(朝鮮中央通信撮影・共同)
2018年3月26日、北京の人民大会堂で中国の習近平国家主席(右)と握手する北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長(朝鮮中央通信撮影・共同)
 ただし、日本にとって朝鮮半島に関わらない政策が「戦略的」だとしても、拉致された日本人の救出は急務だ。そのためには日朝首脳会談が欠かせない。日本は、拉致問題と核問題を切り離した交渉に持ち込むのが望ましい。安倍晋三首相は4月中旬の訪米でトランプ大統領に対し、米朝首脳会談で拉致問題の解決を議題にさせ、核問題と切り離した日朝首脳会談の実現を改めて求める必要がある。

 拉致問題はなぜ解決しないのか。2002年、当時の小泉純一郎首相と金正日(キム・ジョンイル)総書記の間で行われた日朝首脳会談で、日本側が「拉致被害者全員の帰国」「北朝鮮の主権侵害」を主張しなかったからだ。北朝鮮高官によると、日本の交渉責任者は「拉致被害者の安否情報」だけを求め、「全員帰国」を要求しなかったという。「国交正常化後の拉致被害者の段階的帰国でいい」という方針だったらしい。

 過去の国際政治から、北朝鮮は必ず「日本に近づく」という教訓を残した。日本は拉致問題解決のために、日朝首脳会談を、欧米の首脳やプーチン大統領、習主席など大国の首脳に常に働きかけ、国連決議に盛り込むことが大切である。