都並 教えるようなことはできないですよね。学ぶべきものでもない。日本のスポーツは文部省、学校主導で、フェアプレイの精神で健やかな心身を作って行くものです。

 マリシアは奨励するものではない。けれども、知っておく必要があります。ワールドカップでは、そういうことをやられるのだから、防御方法を準備しておくべきです。だから海外のチームと試合する意味がある。自分がやるかどうかは個人の価値観です。この日本では必要ない。

風樹 試合の中で、やられたことはありますか?

都並 さんざんやられましたね。審判がいないところで、殴られるなんて始終です。先ほど話したアルゼンチンの監督パチャメさんがぼくに最初に教えてくれたのは、コーナーキックのときのシャツのつかみ方でしたから。

 たとえば「コーナーキックを蹴る前、審判はディフェンスとオフェンスの駆け引きを見ているから、手はパーで待っていろ。キッカーが蹴る瞬間にグ―に変えろ」って、そこまで教えられましたからね。

風樹 アルゼンチンサッカーの精神を具現化しているのは、アトレティコ・マドリード監督のチョーロ(スペイン語ではギャング、泥棒の意味もある)と呼ばれるディエゴ・シメオネですね。98年フランス大会でベッカムを徴発し、わざと蹴らせて退場させ、02年日韓大会ではベッカムがPKを蹴る前に、にやにや笑って握手をもとめたのを思い出します。でも、どんなことをしても勝つという精神を注入されたアトレティコは物凄く強くなった。(参照「アルゼンチンサッカーは憎悪の祭典だった」)

サッカー2006ドイツW杯決勝トーナメント延長後半、暴言を吐いたイタリアのマルコ・マテラッツィに頭突きし、レッドカードを受け一発退場となったフランス主将のジネディーヌ・ジダン。=2006年7月9日、ベルリンの五輪スタジアム(共同)
サッカードイツW杯決勝トーナメント延長後半、
レッドカードを受け一発退場となった
フランス主将のジダン=2006年7月(共同)
都並 日本やブラジルはサッカーをすることが楽しい。でも、アルゼンチン人はサッカーで勝つことが楽しい。勝つことから逆算するから、なんでもありになります。70年代のアルゼンチンは針で太腿を刺したっていいますから。でも、そこまでやったらスポーツにはならない。

風樹 汚い言葉での威嚇とかはどうですか?  2006年のドイツ大会の決勝では、イタリアのマルコ・マテラッツィに侮蔑言葉を浴びせられて、頭突きで仕返しをしたジダンは退場処分になっていますが。

都並 汚い言葉で駆け引きをする、レフリーにイエローを出させる、熱くさせて殴らせる、そんなのはしょっちゅうです。実は、ぼくもやったことがあります。82年にゼロックス・スーパー・サッカーで全日本がマラドーナを擁するボカジュニアズと3試合やったんです。1対1で引き分けた1試合目はマラドーナは本気出していなくて、2試合目は前半2対0で勝っていたので、後半は本気出してきて、3対2で負けました。