そして最後のチャンスとしてギリギリのタイミングだったのが、昨年12月に行われた東アジアE-1選手権での韓国戦大敗である。1対4というスコアもショックだったが、ライバルだったはずの韓国との間に歴然とした実力差が開いていることが見えた衝撃的な敗戦だった。しかも試合終盤、韓国の選手たちは完全に「流し」てプレーしていたのだ。

 まさに屈辱的なゲームであった。言い換えれば、サッカー協会にとっては最も解任しやすいタイミングであり、あのゲームの後ならば世論も納得しやすい。しかし、動かなかった。そして、まさに直前も直前の時期になって、切羽詰まった事態を招いてしまったのである。

 ただ、筆者自身はこの非常事態に少し高揚している面もある。そして、サッカー協会が機を逃し続けたおかげで面白くなったと感じている。日本が初めてW杯出場を果たした1998年のフランス大会(最終予選)での電撃的監督交代を思い出すからである。

 あのときも切羽詰まっていた。日本代表は、まだW杯に出場したことがなく、しかも崖っぷちの連続だったため、もしかすれば今回よりもその度合いは強かったかもしれない。

 だが、だからこそチームの変貌ぶりはすごかった。選手一人一人の目の色が変わり、チームの団結力が変わった。その結果、ドラマチックなゲームが続き、極上のエンターテインメントを目撃することができた。ゆえに、今回もあのような経験ができるかもしれないという期待感が大きいのだ。

 振り返ってみれば、フランス大会後の4大会、日本代表監督だったオシムが病に倒れた南アフリカ大会を除き、一人の監督が4年間続投し、それなりのチームを作り、それなりの結果を残してきた。

 もちろん、それなりの面白さはあったが、そこにカタルシスがあったかと言えば疑問だった。W杯までは2カ月しかないが、その短い間にまだまだ事件は起きるだろう。でも、何が起きるかわからないという予測不能感こそが醍醐味なのだ。久々にそのチャンスがめぐってきた、と考えてここは楽しみたい。そんな気分なのだ。

 新監督は西野朗に決まった。アトランタ五輪ではガチガチに守った実績がある。ブラジルを破る奇跡を起こしたが、「守備的だ」と批判されて、随分傷ついた。そのリベンジで柏レイソルやガンバ大阪などでは攻撃的なサッカーを展開した。今回はどんな戦術で臨むのか。
西野朗氏。ガンバ大阪の監督だった2007年、川崎フロンターレ戦に勝ち、西日本勢初のナビスコ杯優勝を決めた=国立競技場 
西野朗氏。ガンバ大阪の監督だった2007年、川崎フロンターレ戦に勝ち、西日本勢初のナビスコ杯優勝を決めた=国立競技場 
 冒頭でも書いたが、時間はほとんどないのだ。できることなら予定を変更して、短期合宿でも組みたいところだが、JリーグはW杯による中断期間をカバーするため、過密日程の真っ只中だ。5月20日までリーグ戦とカップ戦が週2回のペースで組まれている。Jリーグの日程を動かして実現すれば大したものだが、とても選手を招集できる隙間はない(現行のサッカーカレンダーではほとんど無理)。

 そして、最大の懸念は選手の精神的コンディションではないだろうか。何せ、指揮を執る監督が代わったからだ。さらに言えば、誰が選ばれるかわからない。選手にしてみれば宙ぶらりんな状態である。

 壮行試合として予定されていた5月30日のガーナ戦が、西野ジャパンのお披露目試合となる。どんなメンバーで、どんなサッカーをするのか五里霧中。やや焼けくそ気味だが、日本代表チームがどう化けるか、楽しみにしておこう。(敬称略)