杉山崇(神奈川大人間科学部教授)

 サッカー日本代表のバヒド・ハリルホジッチ監督が解任され、日本サッカー協会の西野朗技術委員長が新監督に就任しました。ロシア・ワールドカップ(W杯)開幕を間近に控えた難しいタイミングではありますが、あらゆる要素を考慮すると最善の人事だったと思われます。ここでは、なぜ後任は西野氏だったのか、ハリルホジッチ氏の失敗は何だったのか、W杯まで残り2カ月でいかにチームを作るのか、この三つのテーマを心理学的に考えてみましょう。

 西野新監督はとても慎重な人物として知られています。22年前、アトランタ五輪代表を率いたときには、西野氏の慎重な采配が、攻撃力に自信のある選手たちとの軋轢(あつれき)を生んだともいわれています。ですから、今回の就任はあくまでスクランブル人事であって、西野氏が日本代表の監督をやりたかったとは思えません。

 ですが、ハリルホジッチ氏、その前任のハビエル・アギーレ元監督に支払った報酬はすでに8億円を超えるといわれています。この「失われた8億」の責任は誰かが取らなければなりません。西野氏は技術委員長として、代表チームの後ろ盾のような立場でした。いわば、傭兵(ようへい)に失敗した「司令官」です。当然のことながら、ハリルジャパンの「失態」に対する責任の一端を担う立場にあったわけです。

 また、西野氏は監督としての実績も豊富です。確かに、日本代表には華のある外国人監督を据えることが多いです。それでも西野氏は、アトランタ五輪でブラジル相手に勝利する「マイアミの奇跡」を演出したり、J1でも柏レイソル、ガンバ大阪などで監督として一時代を築いたといえる実績を残しています。

 仮に、スポンサーもファンも「日本代表監督は日本人で」と望んだとしたら、西野氏が第一候補に挙がっていたはずです。だから、「組織における責任の構造」と「監督としての実力と実績」の掛け算を考えれば、最適な人事だったといえるでしょう。

 ところで、日本代表を応援してきたファンの多くは、ハリルホジッチ氏が監督であることにずっと違和感を持っていたのではないでしょうか。この違和感の背景については、サッカー協会が検証することになりますが、ここでは外部から見ていても明らかだった最大のポイントを挙げたいと思います。
2018年3月、サッカー国際親善試合のウクライナ戦で日本代表の指揮を執るハリルホジッチ監督。右は本田圭佑(共同)
2018年3月、サッカー国際親善試合のウクライナ戦で日本代表の指揮を執るハリルホジッチ監督。右は本田圭佑(共同)
 それは「日本」への敬意がなかったことです。あらゆる監督は選手からリスペクトされなければ務まりません。そして、自分へのリスペクトを求める人は、誰よりも人をリスペクトしなければなりません。リスペクトには、他人に何かを与えられると、人は何かをお返ししようと考える「返報性の法則」があります。だから、まずは監督から選手をリスペクトすることが大切なのです。

 ハリルホジッチ氏は、監督就任直後のインタビューで「(選手としての)テクニックという点では、誰に対しても何らうらやましいと思わないだけのものを備えているつもりだ」と公言していました。それは「俺は世界一のサッカー選手の一人だ」と言いたいかのような態度でした。自分をリスペクトするのは大好きな雰囲気が伝わってきます。

 ただ、報道されている選手たちの声を聴く限り、選手がハリルホジッチ氏からリスペクトされていたという印象は薄いです。ハリルホジッチ氏が「調子のいい選手を呼ぶ」という建前で選手を固定しないのも、「選手選考の権限」という自分の効力を最大化するための詭弁(きべん)にも聞こえてきます。