当時、W杯予選突破を決めたデンマーク戦の直後、歓喜に包まれたスタジアムでは「岡田武史にあいさつしろ」というファンからの大きな横断幕がメーンスタンドの記者席に向けて広げられた。岡田監督と代表選手がそろって凱旋(がいせん)帰国した後には「サッカージャーナリストは岡田武史に謝罪すべきか否か」と大真面目に論じられた騒動も記憶に新しい。そのことをファンはまだ覚えているのである。

 ところが、ここにきて突然の代表監督の解任である。W杯予選リーグの初戦まで残り71日というタイミングでの解任劇だった。

 「合理的に考えれば解任の判断は有り得ない」。1980年代から日本代表を追い続ける最古参サポーター、武藤文雄氏はこう断言した。「ハリルホジッチから監督を代えても、勝率を高める監督が他にいるとは思えない。仮にいたとしても今から監督をさせるのは無理だろう。愚かとしかいいようがない」。武藤氏は過去の日本代表監督の交代劇の中で「今回が最も不可解な人事」と手厳しい。これは大方のファンの見方も同じだろう。

 通常では考えられないタイミングでの日本代表監督の解任で、その疑問を埋めるために出てくるのが、次のような話である。

 いわく、電通とスポンサーが契約選手の起用をゴリ押しして、それをハリル監督がはねつけてきたが故に解任された、というものである。言うなれば「陰謀論」の一つなのだが、これは解任劇の裏にあったと言えるだろうか。

 サッカー界では、選手起用に外部の圧力が加わることは珍しくない。W杯ではブラジルのような強豪国でさえ、スポンサーから圧力を受けた例もあるくらいだ。これがアフリカ諸国だと縁故や地域主義、中東だと王族が平気でちょっかいを出してくる事例は枚挙にいとまない。日本の場合、これが「電通」ということらしい。

 事実、国際サッカー連盟(FIFA)の代理店として電通が入っており、代表の試合はなるべく衛星生中継で日本のゴールデンタイム近くになるよう合わせている。そのため、W杯ドイツ大会では、真夏の日中に試合をすることになり、それが日本代表に不利になったという話もある。

 むろん、W杯といえば一大ビジネスである。テレビの視聴率は特に重要だ。確かにそういうマーケティング的なもくろみはあったのだろう。ただ、ドイツ大会の成績は0勝2敗1分という惨敗だった。

 さて、ここで少し過去を振り返ろう。まだ日本サッカー界が今のように華やかではなかった頃、協会はその運営費用に事欠いていた。一部の専従スタッフを除いて組織は、会長から下までほぼボランティアだった。

 海外遠征も選手の自己負担だったくらいだ。当時を述懐し、昨年死去した岡野俊一郎・元日本サッカー協会会長は、スポンサー企業の所属選手を優先的に遠征に入れていたことを明らかにしていたことがある。
サッカー・キリンチャレンジカップのウクライナ戦。ハリルホジッチ監督(右)と握手する本田圭佑=2018年3月27日、ベルギー・リエージュ
サッカー・キリンチャレンジカップのウクライナ戦。ハリルホジッチ監督(右)と握手する本田圭佑=2018年3月27日、ベルギー・リエージュ
 考えて見れば、サッカー協会の仕事の大半は全国に張り巡らされた地方のサッカー組織を統括することであり、言ってしまえば、そこにどれだけ潤滑に資金を回せるかということでもある。協会会長選挙の投票権の過半数は都道府県のサッカー協会に割り振られている。

 日本代表や海外で活躍する選手だけを見ると分からないだろうが、そのような華やかな日本のサッカー界は頂点の一部であり、それを支えるのは昔と変わらず、少ない予算でやりくりしている地方のサッカー協会と、その所属選手や関係者なのである。