指導者と選手の不協和音や諍(いさか)いは、別に珍しい話でもなく、それは職場の上司部下の関係と同じく、いわば日常茶飯事である。そして私の経験を鑑みて、おおよそサッカーに関して言えば、選手が監督を公然と批判したり、戦術や選手起用をめぐり異を唱えて監督より上位の職責に告げ口をするようなケースは、結果としてうまく行かないのではないかと思う。個人的にはむしろ、「選手のため」と称しながら、協会側に何か別の事情があると考えたくなる。

 そうして目を凝らしてみてみれば、今回の解任劇を読み解くヒントとなるものが浮かび上がる。それは先月行われた日本サッカー協会の役員改選である。このとき、田嶋会長は再選している。

 同時に岡田監督が副会長を退任した。かつてはメディアに叩かれて解任直前まで追い込まれた岡田氏の退任は一つのヒントとなるだろう。これについて岡田氏は「会長の判断を支持する」とコメントしているが、その心中や、在任中に浮上したであろうハリル氏の監督解任についてどのような意見であったか、コメントからは窺い知れない。

 さらにもう一つ、この前段階の話を説明する必要がある。ハリル監督を招聘した原博実氏は、かつて日本サッカー協会の会長選挙に出馬し、現職の田嶋氏と争ったことがある。
 
 結果は僅差で田嶋氏が勝利したのだが、選挙後には田嶋氏が原氏に対して2階級降格を提示し、「報復人事」を行ったと報道されている。これを避けて、原氏は下部組織であるJリーグの副理事長のポストに落ち着いた。ハリル氏の招聘は当時専務理事だった原氏の責任下であり、監督更迭の判断には何らかの障害があったのではないか。それが今年3月の役員改選であり、さらに親善試合2試合での不甲斐ない結果も重なった。しかも、テレビの視聴率は軒並み低迷しており、今回のような電撃解任につながったと、筆者は見ているのだが、読者諸氏はいかがだろうか。

 4月10日、原氏が日本サッカー協会の技術委員に復帰した、とのニュースが飛び込んできた。これで新体制で勝っても負けても、責任は原氏が負うことになる。つまり、この体制で勝てば、ハリル氏は「ダメだった」という原氏の任命責任が問われ、仮に負ければ監督を補佐する技術委員として「敗北の連帯責任」となる。何とも言えない協会内の勢力争いの構図が目に浮かぶ。

 日本代表という興行ビジネスは、おそらく2002年の日韓W杯から数年がピークであり、そこから少しずつマーケットを縮小させてきた。W杯がもうそこまで来ているのに、世間が全く盛り上がっていない、とはサッカー関係者からよく聞く言葉だ。
ハリルホジッチ監督に関する会見に臨む田嶋幸三会長=2018年4月9日、東京都文京区
ハリルホジッチ監督に関する会見に臨む田嶋幸三会長=2018年4月9日、東京都文京区
 NHKニュースでは、ハリル監督解任のニュースよりも、米大リーグ、大谷翔平の活躍ばかりを放送していた。この事実を「野球ファンが多いから」と解釈する向きもあるが、至って単純に日本代表とサッカーの話題が、野球と比較して視聴率が取れない、それだけの話だろう。

 サッカー日本代表のマーケティング価値は、今やその程度になってしまったということである。それは一つの危機とも言えるだろうが、だからといってハリル監督を日本人監督に代えて一体どんなメリットがあるというのか。さらに、このドタバタ劇を見せつけられたライト層のファンにどんな影響を与えるのか。残念ながら、今の自分には判断できない。6月まで待つことにしよう。