藤江直人(ノンフィクションライター) 

 いつもはスポンサー企業のロゴマークがずらりと掲出されているひな壇の背景が、青色の無地に変わっている。記されているのは日本サッカー協会(JFA)のロゴマークだけ。ネガティブな衝撃を伴う人事を公表する上で、協賛してくれてきた企業へ施された配慮が、いやが応でも伝わってくる。
ハリルホジッチ監督の解任を発表する田嶋幸三会長=2018年4月9日、東京都文京区(撮影・蔵賢斗)
ハリルホジッチ監督の解任を発表する田嶋幸三会長=2018年4月9日、東京都文京区(撮影・蔵賢斗)
 東京・文京区のJFAハウス内で9日午後4時過ぎから始まった、JFAの田嶋幸三会長による緊急記者会見。その日の午前中に開催が告知されるなど慌ただしさが漂う中で、日本代表のバヒド・ハリルホジッチ監督の解任と、JFAの西野朗技術委員長を後任にあてる指揮官交代が電撃的に発表された。

 歴史を振り返ってみれば、日本代表監督の更迭劇は決して珍しいことではない。直近の例で言えば2015年2月、八百長疑惑の渦中にあったハビエル・アギーレ監督が解任され、後任としてハリルホジッチ監督が急遽(きゅうきょ)招聘(しょうへい)された。

 しかし、ワールドカップイヤーを迎えた中での解任は史上初となる。しかも、ロシア大会の開幕まで2カ月あまりに迫ったタイミングで大なたを振るうに至った理由を、田嶋会長は3月下旬のベルギー遠征でチーム内に生じた、決して好ましくない変化に求めている。

 「マリ代表戦とウクライナ代表戦の後に、(ハリルホジッチ監督と)選手とのコミュニケーションや信頼関係の部分が多少薄れてきた。それが最終的なきっかけになったのは事実であり、それまでのさまざまなことを総合的に評価して、今回の結論に達しました」

 ハリルホジッチ監督は選手たちに対して歯に衣(きぬ)着せぬ直言の数々を浴びせ、衝突することをいとわないほどのエキセントリックな、場合によっては独裁的と感じられる姿勢を貫いてきた。チーム内には少なからず溝が生じ、試合の結果次第では解任もやむなし、という最悪のケースがJFA内で議論されたのも一度や二度ではなかった。

 ピッチ内においても然(しか)り。フランス語で「1対1の決闘」を意味する「デュエル」をキーワードとして、ハリルホジッチ監督は縦に速いサッカーを標榜(ひょうぼう)してきた。3月のベルギー遠征でも「縦、縦、縦」とひたすら繰り返されたベンチからの指示に対して、選手たちがピッチ上で大きなストレスをため込んだことは容易に察することができる。