小島伸之(上越教育大教授)

 今年1月、最高裁がオウム真理教の元信者、高橋克也の上告棄却を決定したことをもって(無期懲役確定)、オウムによる一連の事件(坂本弁護士一家殺害事件、松本サリン事件、地下鉄サリン事件)に関する刑事裁判がすべて終結した。

 共犯者全員の裁判が終了し刑が確定してから死刑囚の死刑が執行される慣例があるが、高橋の裁判が終結したことにより、オウム真理教事件における死刑囚の刑の執行が可能となった。

 3月14~15日には、教祖麻原彰晃こと松本智津夫をはじめとする13人の死刑囚のうち中川智正・新実智光・林(現:小池)泰男・早川紀代秀・井上嘉浩・横山真人・岡崎(現:宮前)一明の7人が東京拘置所から死刑の執行が可能な大阪・名古屋・仙台・広島・福岡の各拘置所・支所に移送された。

 その移送が共犯死刑囚における死刑の同日執行の慣例を前提に、オウム真理教死刑囚の同日執行に備えるものであるという推測から、いよいよ近づいているとの見方が広まっている。
 
 近代以降の日本において法と新宗教の摩擦の例は枚挙にいとまがなく、刑事裁判において有罪判決を受けた宗教者は多数存在するが、宗教の創始者(教祖)の死刑判決及びその執行の例は、ほとんどない。

 著名教団創始者の死として、1945年の創価学会創始者、牧口常三郎の獄死を想起する向きもあるかもしれないが、牧口の死は治安維持法違反並びに不敬罪裁判中の栄養失調による獄中死である。

 小規模な宗教集団においては、死者6人を出した1995年の福島悪魔祓い殺人事件の主犯とされた祈祷師、江藤幸子の死刑が2012年に執行された例はあるが、一定規模以上に教勢を伸ばして社会的に知られた教団の教祖が死刑判決を受けた例はオウム真理教事件以外には存在しない。
無期懲役の判決を言い渡された元オウム真理教信者の高橋克也被告=2015年4月、東京地裁(イラスト・宮崎瑞穂)
無期懲役の判決を言い渡された元オウム真理教信者の高橋克也被告=2015年4月、東京地裁(イラスト・宮崎瑞穂)
 このことは無差別テロを含むオウム真理教による一連の犯罪が近代史上においても稀有な例であることを示すものでもある。

 他の先進国(共産主義国を除く)に目を向けても、教祖の死刑は、アメリカのカルト集団「ファミリー(マンソン・ファミリー)」指導者チャールズ・ミルズ・マンソンが1972年に死刑判決を受けた例(死刑制度廃止により終身刑に減刑後、2017年獄中死)がある。そして、同じくアメリカのモルモン系カルト小集団の教祖ジェフリー・ラングレンが1990年に死刑判決を受けた例(2006年執行)など、少数が目にとまる程度である。