あくまで一般論ですが、人は自覚して嘘をつくよりも、真実だと思い込んでその通りに動く方が楽です。自己を救世主と位置づけた麻原にも、そうした面があったのではないかと感じています。心理学的にも「空想虚言症」という概念があるからです。

 ともかく、原因や動機は別にして、アレフは新しい信者に陰謀説を説いて、入信や麻原への抵抗感を弱めています。そして、新しい信者は陰謀説を信じてしまえば、麻原の死刑がひどい冤罪(えんざい)であって、必然的なものとして受け入れられることではなくなってしまうのです。

 これらの現状を踏まえれば、今後のアレフには、麻原の死刑執行に加えて今まで避けてきた「過去の清算」として、二つの問題が生じる可能性があります。

 一つは、被害者に対する賠償の問題です。長年続いていた被害者団体とアレフの調停が、アレフが拒絶する形で昨年12月に決裂し、今年2月初めに被害者団体が10億円以上の賠償を求めて東京地裁に訴える事態に至りました。基本的にアレフは信者の教化活動において、麻原の事件関与を認めずに陰謀説を説いており、それは賠償と相矛盾する行為です。

 今後、アレフが現有資産を流出させて支払いを回避する恐れや、被害者団体が差し押さえの措置を取るか、また裁判がどのくらいのスピードで終了するかが、注目されると思います。

 さらに、脱会した信者によると、支払いを逃れるためか、アレフの幹部信者が1年半ほど前から教団の自主解散を検討しているという情報もありました。言い換えれば、こうした水面下の駆け引きが被害者団体とアレフの間で続いてきたということです。

 二つ目は、麻原の死刑執行とともにアレフに起こり得ることは、彼らが使用している麻原個人やオウム真理教の著作物に関する著作権問題です。アレフは、麻原やオウム真理教の著作物を使って教団を運営し、収益を上げています。これに対して、被害者団体はオウム真理教の著作権が宗教法人オウム真理教の破産業務の終結とともに、被害者団体に譲渡されており、その使用の停止をアレフに求めてきました。
オウム真理教事件をめぐる賠償の状況
オウム真理教事件をめぐる賠償の状況
 
 これに対して、アレフは「麻原個人の著作物であり、被害者団体に著作権はない」と反論し、事態は膠(こう)着しています。ところが、麻原が死刑になると、これらの著作権は麻原の妻と子供たちに相続されます。

 相続者が複数いる場合、すべての相続者が合意しない限り、アレフに著作権の利用を認めることはできず、1人の相続者だけでも単独で、他者が著作物を使用することを差し止め、損害賠償を求める手続きができるようです。
 
 その中で、麻原の四女はメディア上で両親とアレフを繰り返し否定しており、アレフの使用を認めないと思われます。また、三女、次女、長男も「自分たちはアレフとは関係がない」と主張しており、アレフの著作権使用には反対するかもしれません。こうして相続人全体がアレフの使用で合意する見込みは乏しい中で、利用を拒む正当な理由があるか否かが問題となります。そのために、家族間で訴訟が起きる可能性もあります。

 仮にアレフの使用が禁じられた場合、それを無視すれば犯罪になる可能性があります。著作物とは、書籍や説法ビデオに限らず、教学用の説法集や瞑想(めいそう)教本、詞章・歌・マントラなどの映像・音響教材の一切を含み、その複製、販売、陳列、上映などが禁止されますから、教団には大きな打撃になると思われます。

 こうしてみると、オウム事件は平成元年に始まり、2018年以降平成の時代の終わりとともに、アレフが教祖、教え(教材)、教団組織という、宗教団体の要となる三つの要素すべてにおいて、過去の清算を迫られる重要な時期を迎える可能性があるということになります。

 こうした意味でも私は、オウム・アレフが「平成の宗教」だったのではないか、という印象を今強くしています。