現在の国際情勢を考えても、米中が長期的な視野での軍事的な緊張を強めつつあり、日本の同盟国としての重要性が長期的に増していくことが明らかな時に、本格的に日本との貿易戦争を戦って日本の世論を反米にするのは得策ではありません。したがって、日米は「適度な落とし所」を水面下で探っているということだと思われます。

 米中貿易戦争についても、対韓国と本質は同じです。米国は中国に対して「交渉が成立しなければ、俺はお前と喧嘩する。喧嘩になれば、俺の痛みは1、お前の痛みは10だ」と言って脅しているわけです。対韓国では在韓米軍の引き上げが選択肢でしたが、対中国では米中全面貿易戦争が米国の選択肢です。

 米国の対中国輸入は中国の対米輸入より遥かに大きいので、米中間の貿易が止まると中国の輸出が激減し、米国より遥かに大きな打撃を受けるでしょう。加えて、米国は中国からの輸入品を国内で作ることができますが、中国は米国からの輸入品を国内で作ることができず、日欧から輸入せざるを得ません。そもそも人件費の高い米国から輸入しているのは、自分で作れないからです。米国が中国から輸入しているものが「自分でも作れるが、中国の方が安いから」というのとは事情が異なるのです。

 あとは、米国がどこまで本気なのか、ということですね。どこまでの「お土産」で手を打つつもりなのか。本気で米国が頑張るつもりならば、中国が相当真剣に著作権保護の仕組みを作る必要があるでしょうが、それは容易なことではなさそうです。あるいは、「それができないなら、北朝鮮に核を放棄させろ」という事もありそうです。それも中国にとって容易なことではなさそうですが。

 ただ、トランプ大統領の対中強硬姿勢が支持者向けのポーズである可能性も否定できません。その場合には、中国からの「お土産」が包装紙だけになるかもしれません。たとえば「著作権保護法を作る」けれども、国内では法律違反を取り締まらない、といった具合です。
北京の故宮で京劇を見るトランプ米大統領(中央左)と中国の習近平国家主席(同右)=2017年11月8日(AP=共同)
北京の故宮で京劇を見るトランプ米大統領(中央左)と中国の習近平国家主席(同右)=2017年11月8日(AP=共同)
 対米貿易黒字を減らすのはさらに簡単です。中国がカナダから輸入しているものを、米国にある中国の商社がカナダから輸入して中国に輸出すれば良いのです。米国の貿易赤字も失業も減らないけれども、米国の対中国赤字は確実に減るわけです。

 まあ、実際には「包装紙だけ」ということはなく、ある程度の中身は伴ったものになるのでしょうが、いずれにしてもそれで米中貿易戦争が防げるのであれば、世界経済は安泰でしょう。

 上記のように考えると、トランプ大統領が「メチャクチャな米国ファーストで世界の自由貿易体制を崩してしまう」といった懸念は、杞憂かもしれないですね。もちろん、上記が誤っていて、本当に貿易戦争が始まってしまう可能性も否定はできませんが。何といっても「相手が屈することを前提として脅してみる」ほど、危険なことはありませんから。

つかさき・きみよし 1981年、東京大学法学部卒業後、日本興業銀行(現みずほ銀行)に入行。主に調査関連部署に勤務した後、2005年に銀行を退行して久留米大学へ。著書に『増補改訂 よくわかる日本経済入門』(朝日新書)、『老後破産しないためのお金の教科書』(東洋経済新報社)、『世界でいちばんやさしくて役立つ経済の教科書』(宝島社)、『なんだ、そうなのか! 経済入門』(日本経済新聞出版社)など多数。