中岡望(東洋英和女学院大客員教授、ジャーナリスト)

 去る3月23日、トランプ大統領が安全保障を理由に鉄鋼に25%、アルミ製品に10%の関税をかける大統領令に署名した。これを受けて中国政府は4月1日に米国からのナッツ類やワイン、豚肉などの128品の輸入品に対して最高25%の報復関税を課す計画を発表した。

 この中国政府の報復措置に対して、同月3日、トランプ大統領はさらに知的所有権の侵犯を理由に通商法301条を発動し、中国製品1300品目に新たに関税を課すことを検討するよう通商代表部に指示した。中国政府は再び、この措置に抗議し、米国製品106品目の関税を引き上げる計画を明らかにした。

 その中には、米国の農業に大きな打撃を与えかねない大豆も含まれており、両国の関税をめぐる報復合戦は国際的に米中貿易戦争に発展するのではないかという懸念を呼び起こしている。

 こうした関税引き上げ競争は、大恐慌の原因の一つとなった1930年6月に成立した「スムート・ホーリー法」を想起させた。同法によって米国の関税は平均40%を超える引き上げが行われ、各国も相次いで保護主義的な通商政策を導入し、世界の貿易は大きく落ち込んだのだ。

 では、今回のトランプ大統領の通商政策は、過去の過ちを繰り返すことになるのだろうか。また、本当にメディアがセンセーショナルに報道する「米中貿易戦争」が始まるのだろうか。

 過去の大統領選挙を振り返れば、各候補は一様に中国との「貿易不均衡是正」を主張している。中国製品に対する関税の引き上げや輸入規制、中国の「為替操作国」への指定によって、貿易不均衡是正を迫るべきだと口をそろえて主張していた。

 だが、いったん大統領に就任すると、中国批判は急速にトーンを低め、過激な保護主義的政策に代わって両国政府でマクロ経済政策を含めた協議が行われるパターンが繰り返されてきた。

 ブッシュ政権でもオバマ政権でも年2回、北京とワシントンで相互に開催される「米中戦略経済対話」が行われてきた。だが、そうした対話にもかかわらず、貿易不均衡は拡大を続けているのが現状だ。

 トランプ大統領は選挙中、貿易不均衡は国内産業を衰退させ、雇用の喪失を招いていると主張し、「アメリカ・ファースト」を基本とする抜本的な通商政策の見直しを公約に掲げ、保護主義色を強めていた。
米ホワイトハウスで発言するトランプ大統領(右)ら=2018年4月
米ホワイトハウスで発言するトランプ大統領(右)ら=2018年4月
 そして大統領就任直後に環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)離脱、北米自由貿易協定(NAFTA)、米韓自由貿易協定の見直しを決めている。さらに、昨年4月、商務省に対して鉄鋼とアルミ製品の輸入が米国の安全保障に与える影響を調査するように命じた。その報告書が今年の1月に提出され、今回の安全保障を理由に鉄鋼とアルミに対する高関税を課す決定に結びついた。

 実はこの一連の動きは、鉄鋼やアルミ製品に対する関税引き上げの理由が、反ダンピング課税でもなく、セーフガード条項の発動でもなく、安全保障を根拠にしているところがポイントである。

 要は、鉄鋼とアルミ製品の関税引き上げの狙いは中国にあるからだ。現在、鉄鋼は国際的に生産過剰の状況で、その最大の原因は中国にあり、国際的な生産調整をめぐる協議が行われている。