藤井靖(明星大学心理学部准教授、臨床心理士)

 評論家の西部邁(すすむ)さんが1月21日、多摩川で遺体となって発見されてから3カ月半、西部さんの出演番組を担当していた東京MXテレビ子会社社員と、知人で会社員の2人が自殺幇助(ほうじょ)の疑いで逮捕された。

 2人は容疑を認め、「先生の死生観を尊重し、力になりたいと思った」などと供述した。また、西部さんの身体に安全ベルトを巻いたり、ロープを川岸の木にくくりつけたりしたことを認めている。現場で見つかった遺書については、MXの子会社社員が西部さんの代わりに書いたものだという。

 既に報道されている通り、西部さんは独自の死生観を近著の中でつづっている。


 述者は、結論を先にいうと病院死を選びたくない、と強く感じかつ考えている。おのれの生の最期を他人に命令されたり弄(いじ)り回されたくないからだ。


 西部さんが自らの死について語るのは近著に始まったことではない。本人いわく「かなり若いときから死について考える性癖が強かったように思う」というように、彼は長い間かけて、死または生に向き合い続けた結果、死生観が形成され、熟成されてきたことは想像に難くない。

 著書の中にも、生や死に関連づけられた記述や話題が非常に多い。心理学的にいえば、自ら死を望む者のうち、心理的な背景にある種の性格、信条がある場合、実は、その行動を止めるのは非常に困難である。
死亡した西部邁さんが発見された多摩川の現場付近。西部さんの体はロープで土手の樹木に結びつけられていた=東京都大田区
死亡した西部邁さんが発見された多摩川の現場付近。西部さんの体はロープで土手の樹木に結びつけられていた=東京都大田区
 厚生労働省の調査によれば、日本における自殺者は8年連続で減少している。しかし、2017年でも年間2万人以上の自殺者が出た。行方不明者の一部が自死を遂げている可能性があることを踏まえると、数字よりも多数の自殺者が存在していると考えられる。

 自殺の背景は多岐にわたるが、原因や動機として最も多く計上されているのは、「健康問題」である。身体の病気に起因するもの、うつ病や統合失調症などの精神疾患、アルコール依存症や薬物乱用などの嗜癖(しへき)の問題などがそれにあたる。しかし、これらには心理療法や精神医学的な治療など、自殺を防ぐための一定の効果を有する対処法が存在する。

 また「経済・生活問題」、つまりお金に起因した背景は景気の動向と連動している。そのため、自殺対策として、例えば個人の債務に対する法律的側面からの援助や、政治・行政的な施策が大局的には奏功することもある。さらには、職場の環境などの「勤務問題」、いじめや不適応、人間関係や進路の問題に起因した「学校問題」も早期発見・対応や環境改善により対処が可能である。