北朝鮮の「微笑み外交」に乗じても、何ら果実を得られないことは、歴史が証明している。核は金正恩体制の命綱である。それを放棄するはずはない。にもかかわらず、なぜ北朝鮮の術中に、文在寅政権は自ら嵌まるのか。韓国人ジャーナリスト・朴承ミン氏が深層を読む。

三池淵管弦楽団の公演後、金与正・朝鮮労働党第1副部長(左)の手を取る韓国の文在寅大統領=2018年2月11日、韓国・ソウル(聯合=共同)
三池淵管弦楽団の公演後、金与正・朝鮮労働党第1副部長(左)の手を取る韓国の文在寅大統領=2018年2月11日、韓国・ソウル(聯合=共同)
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 親北政策に突き進む背景として最初に挙げなければいけないのは、青瓦台(大統領府)の秘書官(参謀陣)の面々である。文在寅大統領の秘書官のうち半数近くを占めるのが「586グループ」だ。

 現在50代で、1980年代に大学時代を送って、1960年代に生まれた世代を指す。彼らは80年代に盛んだった民主化運動、つまり反政府学生運動に参加していた人間だ。学生運動時代に金日成主体思想に傾倒していた者もいる。

 与党、共に民主党(民主党)でも586グループが重要なポストの約8割を掌握している。文大統領自体も大学時代に学生運動に勤しんでおり、586グループの先輩格にあたる。“後輩”の意見を反映させることを当然のように思っているかもしれない。

 もちろん、文大統領自身の野心もそこにはある。歴代大統領は、南北首脳会談に強い関心を示してきた。文大統領が系譜を継ぐ左派政権、2000年の金大中政権、2007年の盧武鉉政権もそれを実現した。文大統領も業績を上げる機会として狙っているのだろう。

 それにしても、現政権が北朝鮮に気を使う様は度を超している。その象徴が、歴史教科書改定だ。

 政府は新しい歴史教科書の執筆基準の試案で、「北朝鮮政権の全面的南侵で勃発した6・25(韓国)戦争」という表現を「6・25(韓国)戦争」に変えている。この指針通りになるなら、学生たちは戦争を誰が起こしたのかわからない。また、「北朝鮮体制の世襲」「北朝鮮市民の人権」という表現も抜いた。北朝鮮の首脳部が気に入らないと思うようなことは歴史教科書に入れないということだ。

 若者の歴史教育は、国家のアイデンティティー形成に大きく影響するだけに、慎重な舵取りを求めたい。

【PROFILE】朴承ミン/時事通信の元ソウル支局記者。長年、北朝鮮問題と韓国政治を取材。その間に平壌と開城工業団地、金剛山など北朝鮮の現地を5回ほど訪問取材。現在、韓国と日本のメディアに寄稿している。

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