西岡力(麗澤大学客員教授、公益財団法人モラロジー研究所教授)

 文在寅(ムン・ジェイン)大統領は2000年6月の金大中(キム・デジュン)、金正日(キム・ジョンイル)首脳会談、2007年10月の廬武鉉(ノ・ムヒョン)、金正日首脳会談での宣言を高く評価している。今回の首脳会談でもそれを踏まえ、統一へ向けての話をするだろう。

 既に何回か指摘してきたが大切な論点なので、文在寅大統領の南北統一政策の危うさを書いておく。大統領選挙中の2017年4月25日、ケーブルテレビ局JTBCが主催した候補者テレビ討論で文在寅氏は「低い段階の連邦制とわれわれが主張する国家連合はほとんど違わない」と発言した。これは憲法違反ともいうべき危険な発言だった。そして、文在寅氏の対北政策の核心に何があるかを示すという意味でも重大な発言だった。しかし、韓国と日本のマスコミはこの発言を取り上げなかった。 

 多くの日本人読者のために、まず、この発言の背景を説明する必要があるだろう。2000年6月15日に平壌で持たれた金正日、金大中の南北首脳会談で発表された南北共同宣言には統一の方法について以下のように記載された。

1.南と北は国の統一問題を、その主人であるわが民族同士で互いに力を合わせ、自主的に解決していくことにした。

2.南と北は国の統一のため、南の連合制案と北側のゆるやかな段階での連邦制案が、互いに共通性があると認め、今後、この方向で統一を志向していくことにした。

 金大中大統領はソウルに戻った直後、この第2項の「南の連合制案」について、自身が1995年から唱えている3段階統一案(第1段階「国家連合」、第2段階「連邦制」、第3段階「統一」)の第1段階だと説明した。

 しかし、それに対して批判が出るや、金大中大統領は前言を翻して、第2項は盧泰愚(ノ・テウ)政権が1989年9月に公式に決定した「韓民族共同体統一案」(第1段階「南北協力」(交流・協力と平和定着段階)、第2段階「南北連合」(統一のための準備作業を行う段階)、第3段階「統一」)の第2段階だと説明した。

 韓国の現行憲法では「第3条大韓民国の領土は韓半島とその付随島嶼(とうしょ)とする。第4条大韓民国は統一を指向し、自由民主的な基本秩序に即した平和的統一政策を樹立してこれを推進する」とされ、全半島を自由民主主義の下で統一することを規定している。
南北首脳会談を終えた金正日総書記(左)と金大中大統領は平壌国際空港で向かい合い、別れのあいさつを交わした=2000年6月(韓国取材団=共同)
南北首脳会談を終えた金正日総書記(左)と金大中大統領は平壌国際空港で向かい合い、別れのあいさつを交わした=2000年6月(韓国取材団=共同)
 北朝鮮は国と認められておらず、国家保安法により「反国家団体」とされ、そこに加担すると最高死刑とされている。ちなみに、国家保安法では朝鮮総連も反国家団体とされている。そのため、金大中大統領も南北共同宣言では「国家連合」という用語を使わず「連合制」と記したのだ。

 ところが、文在寅新大統領は、前述の通り、選挙戦での討論で「低い段階の連邦制とわれわれが主張する国家連合はほとんど違わない」と語った。金大中氏さえ使えなかった「国家連合」という用語を使ったという点で憲法違反の素地(そじ)がある発言だった。なお、盧武鉉大統領も大統領在職時、「国家連合」という用語を使っているから、文在寅氏の発言はそれに倣ったものと言えるのかもしれない。