重村智計(東京通信大教授)

 韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領と北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働委員長は27日、南北を分断する板門店の韓国側施設で初めて会談する。2人は「朝鮮半島の非核化」に合意することで、日米を煙に巻こうとしている。

 何より、文大統領は「北の非核化」を求めそうにない。それどころか、中朝の求めに呼応し、経済協力と制裁措置の緩和を推し進めようとしている。さらに、南北不可侵協定、南北鉄道の開通など長年の懸案に合意し、米朝平和協定の締結も呼びかけるだろう。

 そもそも、朝鮮半島緊張の原因は何か。どの識者も指摘していないが、北朝鮮が取り続けた二つの「政策」が最大の原因だ。第一に、北朝鮮は韓国を国家として認めていない。朝鮮半島における唯一合法政権は朝鮮民主主義人民共和国だけである、との立場を変えていない。だから、北朝鮮は「平和共存」政策に移行できないのである。

 第二に、北朝鮮は韓国を統一する方針を「国是」としている。しかも、公式上は「平和的統一」をうたうが、巨大な工作機関を事実上維持しており、軍事的統一の可能性を変えていない。ところが奇妙なことに、韓国はこの二つの政策の放棄を北朝鮮に求めていないのである。

 文大統領と金委員長の会談目的は、北朝鮮支援の推進と、韓国左派政権の長期政権化である。2人で制裁緩和を米国に認めさせる「芝居」を打とうとしている。このため、会談は「朝鮮半島の非核化」「南北平和協定」「南北鉄道の開通」「人道支援の拡大」「北の経済集中政策への支持」「制裁の緩和」「南北離散家族の交流」「朝鮮戦争平和協定の締結」-に合意し、朝鮮半島の緊張緩和を実現した、と世界にアピールする。

 だが、疑問点もいくつか残されている。例えば、会談の焦点となる「朝鮮半島の非核化」は「北の非核化」を意味しない。米国による韓国への「核の傘」の放棄も含まれ、履行が不可能になるからである。

 また北朝鮮は、2010年3月に起きた韓国哨戒艦「天安(チョナン)」撃沈事件の再調査を求めている。李明博(イ・ミョンバク)政権下で行われた調査では、撃沈の原因を「北の攻撃」と断定していた。これに対し、北朝鮮は事件を「米軍による誤射であり、でっち上げである」と主張し、関与を否定し続けてきた。韓国の左派勢力は北の主張を支持しており、彼らを基盤とする文大統領が再調査に合意する可能性がある。
2010年5月、韓国の哨戒艦沈没事件を北朝鮮の犯行と主張する韓国と日米を非難するため、平壌の金日成広場で行われた集会(朝鮮中央通信=朝鮮通信)
2010年5月、韓国の哨戒艦沈没事件を北朝鮮の犯行と主張する韓国と日米を非難するため、平壌の金日成広場で行われた集会(朝鮮中央通信=朝鮮通信)
 韓国は、北朝鮮への独自制裁の理由として「天安」撃沈事件を挙げており、事件への謝罪か解決なしには制裁解除は難しいという事情がある。そこで、再調査を理由に制裁解除につなげる意図もある。