武田邦彦(中部大学特任教授)

 『ニュース女子』はテレビ番組制作会社が作ったものを放送局が購入し、放映している番組である。多くのニュース番組が事実の一部をそのまま放映するのに対して、『ニュース女子』は女性と識者のやり取りを中心として、事実の核心にできるだけ迫ることを目的にしている。

 そもそも、地上波テレビ番組の多くが「事実の核心部分の報道を避けている」と視聴者からよく指摘される。それは、本当に知りたい核心部分が常に曖昧だからだ。一方、放送を視聴する側にとっては「当たり障りのないこと」は既に知っており、むしろ「核心部分があやふやではなく、批判を受けやすい裏側」を知りたいのである。この矛盾を解消するために、放送局内部に「番組審議会」などを設置し、ギリギリの内容でも放送ができるようにしている。それが本来の存在理由であろう。

 従来、多くのマスコミが沖縄を中心として「基地反対運動は善、米軍や自衛隊は悪」という報道スタンスを続けてきた。それに対して、『ニュース女子』では忌憚(きたん)のない意見交換の材料として、制作会社がロケを行った。実際、数人の方が「顔も名前も隠さず」に取材を受け、「基地反対運動で暴力が振るわれ、比較的大勢の人が知っている」という趣旨のコーナーを放映したのである。

 この放送について、放送倫理・番組向上機構(BPO)は、視聴者から指摘があったとして、放送倫理検証委員会で審議入りした結果、番組内容に「重大な倫理違反があった」と認めた。その判断は番組内容そのものが事実かどうかより、番組を放送した地上波テレビ局が「チェックを怠った」というものであり、かつ放送界内部の資料ではなく、社会に対して事案を公表した。また、自身の名誉を毀損(きそん)されたとして、市民団体の共同代表も「人権侵害」を訴え、BPOの放送人権委員会が審理を行い、人権侵害があったと結論づけた。

 その後、朝日新聞が「『ニュース女子』打ち切りへ」というフェイクニュースを流し、筆者もこの報道に振り回された。事実は、番組を購入していた約30の放送局のうち、何局かが購入をやめたということであった。本論評は上記の事実に対して、主として倫理面から考察を加えたものである。
2018年4月、米軍普天間飛行場の移設先、沖縄県名護市辺野古のキャンプ・シュワブのゲート前で、工事に反対して座り込む人たちと排除しようとする機動隊員
沖縄県名護市辺野古のキャンプ・シュワブのゲート前で、工事に反対して座り込む人たちと排除しようとする機動隊員=2018年4月
 まず、現代社会で共通して守るべきものは法律であり、これは国民を代表する国会で決まる。放送に関しては放送法があり、その第4条では番組を編集するにあたって、「公安及び善良な風俗を害しないこと」「政治的に公平であること」「報道は事実を曲げないですること」「意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること」と、具体的に4つの規制を明記している。

 筆者が自著『正しいとはなにか?』(小学館)で示したように、法律を守ることは「倫理」とは無関係なので、BPOの放送倫理検証委員会は法律で決めていないことを審査することになる。そのとき、審査が恣意(しい)的にならないために倫理規定、つまり「放送倫理基本綱領」を定めなければならない。

 倫理綱領は1996年9月19日に定められているが、この倫理綱領は、あくまで放送局側の特定の検討機関において恣意的に決定されたものであり、放送によって知る権利を得る視聴者の参加がない。したがって、倫理綱領の成立過程自体が「非倫理的」なのである。

 特に、倫理綱領では放送法第4条で定められていること以外の思想や行動などが記されている。だが、国民が定めた放送法を超える基準を、放送局側だけで決めることができるという理論は示されていない。