小黒一正(法政大経済学部教授)

 4月3日の衆院財務金融委員会で、日本銀行の宮野谷篤理事の発言がインターネット上で話題となっている。それは、日本維新の会の杉本和巳議員が高額紙幣廃止の必要性を質問したことに対して、宮野谷理事が「わが国における高額紙幣廃止の議論については、現時点で慎重に考える必要がある」などと答弁したのである。

 「現時点で慎重に考える必要」とは、官僚答弁で「当分の間、廃止する予定はない」という否定的な側面を持つものだ。しかし、その発言に対して、ネット上では賛否両論で盛り上がっている。

 否定的な側面を持つ証拠としては、宮野谷理事が、この答弁で「(高額紙幣である1万円札は)日本の現金流通システムにおいて非常に重要な役割を果たしている」と指摘したことからもうかがい知れる。また「諸外国の高額紙幣に比べると、1万円という額面金額はそれほど大きくない」という発言も行っている。

 日銀が現在発行している発行銀行券には、1万円札、5千円札、2千円札、千円札がある。確かに、このうち1万円札の発行枚数は全紙幣の約6割、発行残高の約9割を占めている。

 また、世界には、スイスの1000フラン紙幣、カナダの1000ドル紙幣、スウェーデンの1000クローナ紙幣、サウジアラビアの500リヤル紙幣といった高額紙幣もあり、日本の1万円札が突出して高くないという発言も正しい。

 ただ、以前「iRONNA」でも指摘したように、情報通信技術(ICT)革命の次に起こるのは「データ産業革命」である。この「本丸」が金融、中でもデジタル通貨であるという認識が世界で広まる中、現金決済中心の経済では今後のグローバル競争に日本が敗北してしまう可能性も否定できない。

 データ産業革命の本丸である「キャッシュレス経済」に向けて、スウェーデン、エストニア、インド、ベネズエラ、トルコ、ロシアなどのほか、中国もデジタル通貨の発行を検討しているとの噂もある。

 また、企業レベルの動きだが、デジタル通貨の可能性に最も早く気づき、既に動き出している企業の一つが、中国の電子商取引最大手、アリババであろう。アリババが展開する電子決済サービス「支付宝(アリペイ)」の利用者は既に5億人を突破した。2013年が約1億人であったから、急成長を遂げている。
(iStock)
(iStock)
 アリペイは「微信支付(ウィーチャットペイ)」や「騰訊控股(テンセント)」などの電子決済サービスとの激しい競争を繰り広げつつ、日々の取引で蓄積される膨大な決済のビッグデータを武器に利用して、融資や信用評価といった新たな事業領域にも進出し始めている。

 融資は、決済データとリンクする個人の信用力に関する評価を利用している。その中核を担うのは「芝麻信用(セサミ・クレジット)」と呼ばれる信用評価システムだ。評価は毎月1回更新され、支払期日をしっかり守る高評価の利用者は融資の際に金利優遇や与信枠の拡大などの特典が受けられる。