この評価は、利用者がいつでも確認可能であり、ホテル利用時の保証金が不要になるケースもある。また、評価基準には学歴や職歴、交友関係なども設けられ、利用者がアリババに自らの個人情報を提供することで高い評価を得ることもできる。

 そして、アリババは、この信用評価や蓄積する膨大な電子決済のビッグデータを利用して、人工知能(AI)の予測モデルで資金回収の不確実性などを判断し、融資を行う。なお、融資判断を行うのはAIの予測モデルであるため、融資業務の担当者は不要だ。しかも、利用者が融資申請に掛かる時間は3分、AI融資に至っては1秒という速さである。

 以上から明らかなように、もし国家主導でデジタル通貨を導入することができれば、そのインパクトははるかに大きいことが予想できる。

 ただ、デジタル通貨の導入にあたって、最も大きな問題となるのはプライバシー保護である。紙幣のすごい点は「紙」であるために、「誰が何を買ったか」、あるいは「誰が紙幣をどのくらい保有しているか」といった情報について、政府を含めて第三者が把握しにくいということである。このため、消費者は安心して買い物ができるし、人々や企業も安心して現金を保有できる。

 この解決のために、何かいいアイデアはないだろうか。ブロックチェーン(分散型台帳)技術を利用する仮想通貨の中には、取引を行ったときにデータをシャッフルすることなどにより、仮想通貨の受け取り側と受け渡し側を匿名で行うことができるものも存在する。

 そこで、これは筆者のアイデアであるが、日銀が発行するデジタル通貨にもこの技術を適用したらどうか。50万円未満など一定以下の金額の取引で、10%程度の追加手数料を支払えば、この技術を利用して匿名での取引を選択できるようにするのである。

 取引を完全に透明化すると、息苦しい社会になってしまう。だから、取引全ての透明化が必ずしも「善」だとは限らない。そこで、一定のコストを支払うことで匿名化を許容し、追加手数料は国の収入とするのである。

 ここで気をつけなければならないのは、デジタル通貨の受け取り側は「売り手(企業)」が多いことから、受領側のプライバシー保護をあまり気にする必要はないことである。だから、デジタル通貨を受け取った側のデータは蓄積しても、デジタル通貨を渡した側のデータを蓄積しないようにする対策も考えられる。
(iStock)
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 なお、クレジットや小切手による決済が主流の欧米と異なり、日本で現金決済が多いのは、日本の治安が極めて良い、という側面も忘れてはならない。このような状況の中では、高額紙幣である1万円札を廃止しようとしても、国民があまり利便性を感じないかもしれない。むしろ、このデジタル時代において、1円や5円、50円、100円、500円といった硬貨の持ち運びの方が財布もかさばり、面倒だと考えている国民も多いのではないか。

 また、日銀が異次元の金融緩和を行う中で、デジタル通貨の導入が金融政策や金融セクターに及ぼす影響についても、一定の実験を行いつつ、十分に検討する必要がある。このため、デジタル通貨の導入にあたっては、高額紙幣である1万円札の廃止ではなく、まずは硬貨の廃止から議論や実験を進めることをおすすめしたい。