米国や欧州では7~10%程度の水準が標準的で、現金はあまり流通していない。しかも米ドルとユーロを現金で持っているのは、何らかの理由で資産を保全したいと考える外国人であることが多く、自国民はほとんど現金を持っていないというのが実情である。

 つまり日本の場合、手元に大量の現金が存在するにもかかわらず消費が停滞しているという状況であり、タンス預金は消費低迷の結果として生じた現象にすぎない。したがって、ここで高額紙幣を廃止したとしても、すぐに景気の浮揚効果が生じる可能性は低いと考えられる。

 ただ、日本の場合、現金決済の存在が社会全体の生産性を引き下げている可能性があり、高額紙幣の廃止をきっかけに電子決済への移行が進めば、経済にとってプラスの効果が生じる可能性はある。

 先にも述べたように日本は先進国では突出した現金大国であり、現金流通を維持するためのコストがバカにならない状況となっている。もっとも大きいのは、現金自動預払機(ATM)網の維持コストと、店舗で働く労働者の負担である。

 現在、国内では20万台ものATMが稼働しており、これが社会の現金決済を支えているが、金融機関が負担するコストは年間2兆円に達するといわれる。このコストは手数料などの形で消費者が負担しており、実は家計に見えない形で負担をかけている。

 昨年末、メガバンク各行が大規模なリストラ計画を打ち出して話題となったが、その中には、実は店舗とATM網の縮小が盛り込まれている。銀行がこの負担に耐えきれなくなりつつあるのだ。

 また、店舗における労働者の負荷も限界に達しつつある。飲食や小売りの業界では、深刻な人手不足から、できるだけ少人数で業務を回せるよう日々工夫を重ねているが、その大きな障壁となっているのが現金のやり取りである。店舗では現金を切らさぬよう、常に大量の現金を管理しており、これが従業員の生産性を大きく引き下げている。
大阪市内の遺品整理で、タンスから見つかった一万円札の札束(エクシア提供)
大阪市内の遺品整理で、タンスから見つかった一万円札の札束(エクシア提供)
 昨年11月にファミリーレストランを展開するロイヤルが「現金お断り」の店舗を試験導入したが、その理由は従業員の負担を軽減するためである。
 
 欧米各国や中国はすでにほぼ完全なキャッシュレス社会に移行しており、街中で現金を見かけるケースは極端に減った。日本でも電子マネーによる決済が増えれば、サービス業の生産性が向上し、その分の労働力を別なサービスの開発などに充当することができる。

 1万円札の廃止は、タンス預金対策や金融政策的な景気浮揚策としてではなく、日本全体の生産性向上策と考えれば、検討に値するかもしれない。

 日本はこれから空前の人手不足社会となり、従来の常識では社会システムが回らなくなる。現金と電子マネーのどちらが好きかといった牧歌的な議論ができる段階はすでに過ぎ去ったと考えるべきだろう。