杉江義浩(ジャーナリスト)

 安倍晋三首相が放送法を改正する意向というニュースを聞いたとき、最初は放送法の第4条を強化して罰則を作るのかと思いました。

 しかし、目的が第4条の撤廃にあると知り、安倍首相の顔が「ネトウヨ」の代表のように見えてしまったというのが正直な気持ちです。民放のテレビには政治的な公正中立を求めない、というのです。そうなると私たちは何を信じればよいのでしょうか。

 長年、NHKで番組やニュースを作ってきた私にとって、放送法はバイブルのような存在でした。限りある公共の電波を使って、広くあまねく情報を伝えるテレビの影響力は莫大なものがあります。人々の物の見方や感じ方を左右するだけに、一歩使い方を間違えると凶器にもなり得るのだ、と新人の頃からたたき込まれてきました。

 特に「週刊こどもニュース」という番組を、当時の上司であった池上彰さんと一緒に、苦楽をともにして作り続けた8年間は、テレビはどうあるべきか、政治的に中立公正とはどういうことか、お互いに考え続けた8年間でもありました。

 池上さんと私の議論のベースになったのは、やはり我々にとってのバイブルである放送法でした。とりわけ第4条の4つの項目です。

1 公安及び善良な風俗を害しないこと。

2 政治的に公平であること。

3 報道は事実をまげないですること。

4 意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること。

 放送番組の編集にあたって守るべき条件を定めた、これら4つの項目のうち、1の公序良俗と、3の事実主義は、当然の話として議論にはなりませんでした。議論になったのは2の項目と4の項目です。

 政治的に公正中立であるかどうか。これは正解を出すのがとても難しく、しばしば論争になりました。池上彰さんが子供に分かりやすく政治を解説したところ、結果的に政権に対して批判的な内容となり、放送直前になって報道局政治部からストップがかかったこともありました。
2016年7月、テレビ東京系の参院選開票特別番組「池上彰の参院選ライブ」に出演するジャーナリストの池上彰氏(中央)ら
2016年7月、テレビ東京系の参院選開票特別番組「池上彰の参院選ライブ」に出演するジャーナリストの池上彰氏(中央)ら
 NHKという組織が、ともすれば時の政権の意向を忖度(そんたく)しかねない、報道機関としてデリケートな構造になっていることは、iRONNAの過去の記事に書いた通りです。特に長期政権となると、首相の意思は、NHK経営委員の選任という形で、会長の人事を左右することになり、編集方針にも反映されやすくなります。

 しかし、NHKの制作現場は放送法に基づくので、「できるだけ多くの角度から」すなわち少数野党の意見も反映した、バランスの良い報道姿勢をとり続けることが、かろうじてできていました。
 
 できていました、と過去形で書いたのは、私がNHKを離れた今となっては、局内の事情がどうなっているのか確認できないからです。流れてくるウワサによると、政治部出身の小池英夫報道局長の権限が今までになく強大で、岩田明子記者など首相官邸を担当していた職員が影響力を持ち、全体として首相に忖度する傾向にあるとの話です。もし本当だったら残念なことです。