藤井靖(明星大心理学部准教授、臨床心理士)

 4月25日、衝撃のニュースが報じられた。国民的アイドルグループ、TOKIOの山口達也が、警視庁により強制わいせつ容疑で書類送検されたのだ。その後、被害者で番組共演者である女子高生との示談が成立し、被害届が取り下げられたとみられる。5月1日には、検察が双方で示談が成立していることなどをかんがみ、起訴猶予処分とした。

 そして5月6日、リーダーの城島茂がメンバーを代表して、ジャニーズ事務所のジャニー喜多川社長に対し、山口から託された辞表を提出。二人が協議した結果、TOKIO脱退と事務所からの退所が発表された。その裏には、山口本人からジャニー社長へ直接の意思表明があったとされている。

 事務所は同日付のマスコミ向け文書で、社会復帰するために積極的かつ継続的な支援を行っていくことを表明した。その上で、支援のためには本人の強い意志と周囲のサポートが不可欠であるとした。

 そもそも今回の事件は、山口による未成年者を対象にした卑劣な犯罪であり、全く擁護できるものではない。しかも、社会的には非常に大きな影響力を持っている存在であることも考慮すると、グループ脱退・事務所退所という厳しい処分は妥当であると考えられる。

 しかし、山口本人の会見や残りのメンバー4人だけで行われた会見、さらには所属事務所のファクスによるプレスリリースを含め、脱退までのプロセスには常に一定の疑問が伴う。これは私だけが感じたものではなく、おそらく情報の受け手である日本国民の一定数が共通に抱えた疑問や不同意であり、それが世論として形成されたのである。

 事務所の動きは常に世論と警察・検察当局の対応の後手に回ってしまった。さらに総じて言えば、積極的な対処に基づく被害者保護や情報の公表、再発防止策の発信の度合いも考慮に入れると、事件に正面から向き合っている印象を受けにくい。なぜこんな対応をしてしまったのか。

2018年4月25日、TOKIO山口達也が
強制わいせつ容疑で書類送検されたことで、
ジャニーズ事務所前に集まった報道陣
(桐山弘太撮影)
 感じられるのは「損失回避」の心理だ。人は失うことを極端に恐れる動物である。失うことで受ける心理的なダメージは、何かしらの成功から得られる「利益」より、はるかに大きいと感じられるからだ。

 事実、今回の山口の「失敗」は、これまで数十年かけて積み上げてきたものを一瞬にしてゼロにしてしまう破壊力があった。

 おそらく、事務所関係者は事件が明るみに出たことのインパクトを肌身に感じながら、それを受け入れることができず、心理的に否認していたと思われる。そのため、特に初期対応で所属タレントの不祥事に向き合うことができず、それがたった2文という最初のプレスリリースにつながったのではないか。