「中国を追いつめても益しない」


 遺族の無念は以上に留め、一視聴者として論を続ける。冒頭で触れた韓国に対するNHKの宥和的な姿勢は、中国に対する姿勢と表裏一体である。

 最近でこそ「日本固有の領土である沖縄県の尖閣諸島」と言うようになったが、それ以前は「日本と中国がともに領有権を主張している尖閣諸島」と中立的な表現を繰り返してきた。2010年の事件も「海上保安庁の巡視船と中国の漁船による衝突事件」と報じていた。これでは、日中どちらに非があるのか判然としない。CHK(中国放送協会)ならともかく、日本の公共放送として使用すべき表現ではない。

 こうした姿勢は今年も健在である。公式サイトから「反日デモから一年 どうなる日中関係」と題した主張の結論を引用しよう。

 「隣り合う主要国が、政府から国民レベルまでいがみ合い続けることは、けっして好ましいことではありません。どうしたら険悪な状態から抜け出し、まともな関係にヨリをもどせるのか、日中両国政府には、関係改善への強い意志と粘り強い努力を求めたいと思います」

 一般論ならともかく、「反日デモから一年」を過ぎたいまなお、こうした主張を掲げる感覚を共有できない。ただすべき対象は「日中両国政府」ではなく、中国政府であろう。国際社会は小学校の教室とは違う。喧嘩両成敗の世界ではない。

 同様に、平成25年に起きた、中国軍による火器管制レーダー照射事案について「証拠を提示して、中国を追いつめても、益することはない」と解説した(2月8日ラジオ)。

 彼らは勘違いしている。放送法第四条が求めているのは「政治的に公平であること」であり、国際政治における中立性ではない。いや、中立ですらない番組もある。平成24年9月18日の「クローズアップ現代」は「激化する反日デモ ~中国とどう向き合うか」。なかで劉江永教授(清華大学)がこうコメントした。 

 「日本政府は中国政府と話し合わなければならないのに、領土問題があることすら認めようとしていません。このままでは安全保障に関わる重大な問題になりかねないのです」

 まるで日本への恫喝ではないか、私は個人的に彼を承知している。中国人としてこう言わざるを得ない立場を憐れむ。それを承知でNHKは起用する。しかもスタジオのゲストに毛里和子・早大名誉教授を起用。「日本にとってはやっぱり、歴史っていうのはすねに傷持つ、傷ですから」と反日史観を語らせ、「尖閣を巡るこの国有化の問題、なぜ国有化したのかという問題ですね」と日本政府を批判させた。さすが札付きの左翼番組である。

 同月30日の「NHKスペシャル」は「日中外交はこうして始まった」。なかで「日中国交正常化が一気呵成だったので、歴史認識問題と、尖閣を巡る領土問題が残った」と述べた。領土問題は存在しないとする日本政府の見解を批判する内容であった。もはや日本のテレビ放送とは思えない。
放送法第四条は「報道は事実をまげないですること」も明記する。

 火器管制レーダー照射について2月5日夜のBS1「ワールド・ウェーブ・トゥナイト」は「自衛隊には交戦規定がなく、正当防衛でしか反撃できない(から対処できない)」と解説した。だが事実は正反対。航空自衛隊には行動規定があり、対領空侵犯措置に関する規則もある(中身は秘密)。そこにどう書いてあろうと、「正当防衛でしか反撃できない」のではない(そもそも「反撃」なら違法)。もしそうだとしても、火器管制レーダー照射は「正当防衛」要件を満たす「急迫不正の侵害」に当たる(と解釈できる)。その他、毎日毎夜、事実を曲げた報道を続けている。