辺境を守るという電波の使命


 地方と中央の情報環境ギャップを埋め、国民の一体感を確保させ、外国からの間接侵略工作に常続的に反撃することも、公共放送(ならびに各公許放送)の事業者が自覚すべき意義、節度でなくてはならない。

 北海道の稚内市をドライブすれば、日本語の中波ラジオ放送よりも、ロシア語の放送の方が良い感度でカーラジオが受信する。沖縄県の先島群島では、台湾の中波ラジオの電界が優勢である。

 どこであれ、外国の陸地に近い辺境では、その外国の放送電波が強くなる。日本政府は、地方のかかる電波環境を、漫然と放置していてはならない。

 もし、ある地方において、日本の放送コンテンツよりも、隣国の放送コンテンツの方が、ラジオやテレビで受信がしやすく、内容もまた興味深いとなったら、日本の領土的一体性すら、そこからほころびるだろう。

 ゆえに、国家の放送行政は、辺境ほど、入念に配意しなければならないのだ。

 たとえば北海道根室地方には、「スカイツリー」以上の高塔を建てて、中波ラジオとFMラジオと短波で、近海に広く濃密に日本の放送電波が覆っている状態を維持すべきであろう。タワーは「自立式」でなく「支線式」とすれば、費用は大してかからない。

 基幹放送、なかんずく公共放送には、大都市部と辺陬の国内文化格差を縮小させる使命もあると「放送基本法」で謳っていないことが、近年のわが国において、中央と地方のユーティリティのギャップをますます拡大させている。典型的なのが「放送大学」だ。

 教育に、電波放送メディアをフル活用しようとすることは、良いアイディアである。たとえば、出力が大な短波ラジオ放送であったなら、どんな僻地の山奥でも、あるいは近海の漁船の中であっても、ポータブルなラジオで、簡単容易に受信ができる。

 しかるに「放送法」によって設置された「放送大学学園」は、そのような利用者の都合を一切顧慮していない。僻陬の住民は、衛星受信システムを設置せぬ限りは、放送大学のテレビ・コンテンツも、FMラジオ・コンテンツも、受信はできないのである。「放送大学」は、全国民から集めた税金で運営費の半分以上を補助されているというのに、利便を最大且つ安価に享受できているのは、専ら首都圏の住民たちなのだ。こんなふざけた話があるか? 首都圏には、ことさら電波放送メディアなどに頼らずとも、いくらでも最高の学習機会に接してそれを利用し得る便宜が満ち満ちているではないか。誰もこの不公平をおかしいとは思わないとは不審である。日本の法曹界の哲学レベル向上のためにも、法曹教育を放送で拡充することが早道かもしれない。

 NHKのテレビ放送網とFM放送網が、その深夜の時間帯を活用して、日本全国津々浦々で「放送大学」を受信できるようにとりはからうのが、筋であろう。利用者はそれを録画・録音して、昼間のじぶんのいちばん都合のよい時と所で、再生・視聴ができるであろう。

電波放送網施設と番組コンテンツの
運営主体は分離するのがよい


 NHK設置法である「放送法」も、もちろん大幅に改正される必要があろう。

 全国放送網であるNHKの放送局施設を全国規模で整備し、維持し、研究し、改善する部門は、それだけを分離独立させ、総務省の支配下に、実質国営の設備運営機関とするのが望ましい。

 そして報道番組コンテンツをつくる部門は、政府が株式の半数以上を保有する半官半民の法人として、分離独立させるのが良かろう。戦前の「同盟通信社」を復活させて、取材・ニュース配信部門と、報道番組コンテンツ制作部門を、さらに分割してしまうのも、研究の価値がある。

 国会中継や国政選挙の政見放送のコンテンツを制作する部門も、分離独立させるのが妥当だろう。そしてこの部門は、これからはインターネット放送に、むしろ軸足を移すべきであろう。

 児童向け教育コンテンツは、制作部門を分離して文科省の支配下に移し、文科省が、放送設備を有する「新NHK」に放映を委託するという形にするのがいいだろう。

 これまでNHKならではの観があった、伝等芸能の紹介番組は、文科省の予算で制作して、文科省がインターネットで配信する(無料でダウンロードさせる)ようにするのが最善と考える。そして文科省が特にそのことに意義があると信ずるのならば、放送設備を有する「新NHK」から、それに必要な放映時間帯を、適価で買い取って放映すればよかろう。

 放送設備を有する「新NHK」には、これからチャレンジしてもらわねばならぬことがたくさんある。紙数が尽きたので一例だけ挙げたい。「地上波ナビゲーション信号バックアップ・サービス」が、早急に構築されねばならない。米空軍が管轄するGPS(全地球測位システム)の信号は、米支戦争や日支戦争、日韓戦争が勃発したあかつきには、民間向けサービスまでがエリア選別的に停波させられる可能性がある。すなわち、日本国内で誰も利用ができなくなってしまう。さなきだに、米支ともに、有事にGPS信号を撹乱したりハッキングしたりする(偽GPS信号を発して敵の無人機や巡航ミサイルのコースを狂わせる)さまざまな電子戦技術を開発中だ。日本国民は、GPSに頼りきって安心しているわけにはいかないのだ。その点で、NHKが全国の陸上に設けている放送局チェーンは、各局の座標が既知だ。そこに地上波ナビゲーション信号の送信施設を増設する。送信点が平地であるため、山間やビルの谷間には届き難いという不利は否めないものの、アメリカのGPSがまるで使えなくなったさい、この国内地上波信号だけを頼りに、必要最小限の位置情報を得られるよすがとなるであろう。


 ひょうどう・にそはち 1960年生まれ。軍学者、軍事評論家、著述家。北海道函館市在住。

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