しかし、この欲が道を逸れると簡単にダークサイドに落ちてしまう。2016年にスポーツ界で起こった賭博や薬物の事件も、アスリートの強みであるはずの欲が悪さをしたのである。指導者の体罰も選手にとって良かれと思って、行きすぎた欲がもたらす結果である。

 スポーツにはルールがあり、そのルールに則り競技することが求められる。スポーツは社会の一部であり、指導者やアスリートなどスポーツ関係者も社会の一員である。

 当然、社会のルールに則り生活することが求められる。暴力は法律違反であり、いかなる理由があっても(正当防衛などを除き)暴行罪となり、相手を傷つければ傷害罪となる。スポーツ指導の現場も治外法権とはならず、法を犯せば刑事罰を受ける。

 桜宮高校の体罰・自殺事件で、生徒に体罰をした教員は傷害と暴行で懲役1年、執行猶予3年の判決を受け、大阪市が遺族に支払った損害賠償のうち、4361万円の支払いを命じられた。また元横綱日馬富士は貴ノ岩への傷害罪で略式起訴、罰金50万円の略式命令を受けた。選手や後輩への躾・指導・やる気を引き出すための体罰も、犯罪として処罰されるのである。

 スポーツの暴力は家庭での躾による児童虐待、学校教育での体罰、そして職場でのブラック問題等、そのまま社会の問題と根っこでつながっている。

 公益社団法人セーブ・ザ・チルドレン・ジャパンの調査によると、56.7%の大人(20歳以上男女2万人)が子どもの躾に体罰は必要、と答えている。実際に18歳以上の子どもがいる親(1万人の男女)では、70.1%が躾で子どもを叩いたことがあると答えている。

 スポーツ界に限らず日本社会には、とくに子どもや若者の躾なら暴力は必要、という考えが一般的となっている実態がある。
画像はイメージです(iStock)
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 子育て、教育、そしてスポーツの指導の現場では、子どものころ体罰を受けた大人の経験がそのまま受け継がれてきたことが、日本社会の体罰文化を形成してきた。しかし家庭の躾や学校の体罰でも、近年、暴行・傷害罪で処罰されるケースも増えており、スポーツの体罰も今後法的に処罰を受けるケースが増えるだろう。

 大人が子どもの躾や若者の指導に、暴力という法律違反をしていては、正しく導くことはできない。大人同士なら法律違反の暴力行為が、子どもや若者の指導に使われる時点で、それは教育・子育てが破綻していると大人は自覚すべきである。

  私がワシントン大学のフットボールチームでアシスタントコーチをしていたころ、コーチが選手に体罰をする姿を見たことはなく、また人権を傷つけるようなネガティブな対応もなかった。そして日本で不祥事として処分するような問題行動があっても、チームが活動を自粛したり、選手を退部・退学させることもなかった。