実際、ワシントン大学が2001年にローズボウル(毎年1月1日に開催される、全米カレッジフットボール王座決定戦)を制覇したときのメンバーには、24名の逮捕歴をもつ選手が含まれていた。

 さらに驚くべきは、入学前の高校生が逮捕された際、当時ヘッドコーチだったジム・ランブライト以下数名のコーチが、「われわれがこの若者を正しく導き、社会へ送り出す責任を負う」と、裁判所に情状酌量を求める嘆願書を提出していたことだ。

 アメリカのスポーツ指導者、とくに大学スポーツの指導者は“Nation Builder”つまり国づくりを担っている、といわれており、とくに問題を起こした若者を更生させ、社会に送り出す義務を果たしてきた。

 元警官でワシントン大学フットボールチームのメンター的存在のアバナ・トーマス(故人)によると、「このチームには大学でフットボールをしていなければ、ストリートギャングになっていたかもしれない若者も少なくない。われわれが社会の中にある問題から目を背け、トカゲの尻尾切りをすれば、この国はますます荒んでいく」と、大学スポーツが果たす役割を示した。

 ジョージア工科大学のバド・ピーターソン学長によると、「学生アスリートが過ちを犯してもSecond Chance(更生の機会)を与えることは重要で、時には3度、4度チャンスを与えることも必要」と、アスリートを受け入れた大学が責任をもち、大学を代表するアンバサダーとして社会へ送る義務がある、と話した。

 ランブライトは時に過ちを犯した若者と膝を突き合わせ、なぜこのようなことになったのかじっくり話し合い、解決策を若者と共に見出した。時には早朝4時から面談することもあった。「従順な人間を育てるのではなく、自ら考え問題を解決するリーダーを育てること」と、ランブライトはコーチの役割を強調している。
ミスをした選手に寄り添うジム・ランブライト氏(左、写真提供:ワシントン大学=筆者)
ミスをした選手に寄り添うジム・ランブライト氏(左、写真提供:ワシントン大学=筆者)
 リーダー育成には3つのゴールが必要だ。勝つことを目的にするシングルゴールでは不十分で、選手の人生にも責任をもつダブルゴールと、社会を豊かにするために貢献するトリプルゴールが、国を背負う未来のリーダーという究極のリーダー育成のカギとなる。

 この風土で育ったアメリカのアスリートは、次は自分が若者を導く番だと、地域の子どもの良きメンターとなる。

 MLB(メジャーリーグベースボール)のシアトル・マリナーズが行なうD.R.E.A.M Teamプログラムがその一例だ。DはDrug Free(薬物防止)、RはRespect(敬意を払う)、EはEducation(教育)、AはAttitude(姿勢・態度・振る舞い)、そしてMはMotivation(やる気)だ。どれも子どもの成長に必要なライフスキルの要素をもっており、Dは薬物防止だけでなくあらゆるリスクマネージメントにつながり、Rはスポーツマンシップの重要な要素となり、いじめなどの問題行動を改善できる。

 アスリートはフィールドの内外の立ち振る舞いを整え、子どもたちの模範となることを実践する。チームのエース、フェリックス・ヘルナンデスは教育でとくに読書力を高めることを重視し、自身の絵本をつくり小学生にプレゼントしている。またいじめ防止のプログラムを独自につくり、小学校にプログラムを提供している。チームからの強制ではなく、自ら率先して実行するという、自己モチベーションを子どもたちに示している。