2018年平昌オリンピックでは、ノルウェーが獲得総数38個と最も多くのメダルを獲得した。人口500万人ほどの国がいかに世界最高水準の競技力を維持するのか? 

 ノルウェーのオリンピック委員会によると、ノルウェーでは子どものあいだでは競争心をあおらないよう指導している。子どもにとってスポーツは楽しいもの、そして友達との関係を良くすることを目的にする。13歳くらいまでは決して勝ち負けや点数の優劣などを意識させず、楽しむことを促す。これこそスポーツが本来あるべき姿なのだ。

 2006年トリノオリンピックのクロスカントリー女子チームスプリントの決勝戦で、2番目を走行していたカナダチームの選手がストックを折り4番手まで後退、そのとき近くにいたノルウェーチームのビョルナル・ホーケンスモーエン・ヘッドコーチが、予備のストックをカナダ選手に与えた。

 その後カナダは挽回し、2位で銀メダルを獲得した。一時首位に立っていたノルウェーチームは、終盤に失速し最終4位でメダル獲得とならなかった。もし自国コーチがカナダチームを助けなければ、ノルウェーチームは銅メダルを獲得できたかもしれない。

 ホーケンスモーエン・ヘッドコーチは「普通のことをしただけ」と、子どものころから教わった「たとえどんな状況であっても、共に走る者を敬い、助け合うことが重要」という言葉を実践したまでと語った。スポーツマンシップはまず指導者が模範を示し実行すること、選手の先頭に立ち背中で選手に教えることが重要だ。

 相手を敬うこと、敬意をもつということは、スポーツマンシップの重要な要素だ。スポーツに関わるすべての者は、このスポーツマンシップの精神をしっかり育んでおくことが重要となる。

男子滑降で初優勝したノルウェーのアクセルルント・スビンダル。熟練の滑りを見せた=2018年2月15日 (ロイター=共同)
男子滑降で初優勝したノルウェーのアクセルルント・スビンダル
=2018年2月15日 (ロイター=共同)
 私は現在、追手門学院大学でアスリート教育を担当し、1年生にはライフスキルやスポーツマンシップを基に指導を行なっている。使用している教材「スポーツマンシップ・フィットネス」では、日常生活で実践を通しスポーツマンシップが育まれるよう構成した。スポーツマンシップはスポーツをする上で必須であり、それが社会で生きるシチズンシップに繋がっていく。アスリート教育の重要な位置付けとして、とくに早い段階で実施することが望ましい。

 現在国が進める大学スポーツ政策、いわゆる「日本版NCAA」でもアスリート教育はとても重視されている。今年は年明けから日本代表クラスやプロ野球選手トップアスリート(いずれも大学スポーツを経験したトップアスリート)、そしてプロ野球をめざす現役大学選手の不祥事が続いている(カヌー・ドーピング、競泳日本代表合宿暴力、強化費不正受給、ナショナルトレーニングセンター規約違反、元プロ野球選手の暴力事件、未成年飲酒など)。この事実を大学スポーツ界は深刻に受け止め改革していかないと、たんなる掛け声で終わってしまう。仏作って魂入れずだ。

 メダルの数という“Cult of Olympic-Medals(オリンピックメダルに熱狂する)” ではなく、スポーツ界が社会を豊かにする責任という、明確な価値観と具体的な実行が必要だ。スポーツマンシップを実践したアスリートや指導者がその役割を全うしたとき、メダルの数は自ずと付いてくる、とノルウェーが示している。
(本記事は、『Voice』2018年5月号、吉田良治氏の「スポーツに暴力は必要ない」を抜粋、編集したものです。)

よしだ・よしはる 大学スポーツマネジメント研究会理事。1962年、大阪府生まれ。86年、追手門学院大学経済学部卒業。米国・ワシントン大学アメリカンフットボールアシスタントコーチ、神戸商科大学アメリカンフットボール部コーチ、京都産業大学アメリカンフットボール部コーチなどを経て、現在、追手門学院大学客員教授、日本アメリカンフットボール協会指導者育成委員会副委員長、ホーマー・ライスリーダーシップアカデミートータル・パーソン・プログラムファシリテータ。