米山隆一(前新潟県知事)

 多くの方の期待を裏切り、ご迷惑をおかけした身で、この時期にこのような稿を書くことの是非を非常に悩みましたが、短い間とはいえ新潟県政の現場に携わったものとして、これからの県政に期待すること、そして知事として実現したかったことを書かせていただきたいと思います。

 県政の課題は多岐にわたりますが、私はそのすべてに共通する課題が、3点あると思います。それは(1)正確な現状認識(2)時代に適合した解決策(3)柔軟かつ果断な実行です。

 人にも社会にも歴史があり、過去の経緯を無視しては何事もできないことは(自分で書いていて胸がえぐられるようですが)、決して否定しません。しかし、共同体というものの本当の基礎部分である人口が増加から減少に転じているという事態は、あるべき社会のあり方、あるべき行政のあり方を大きく変えています。

 世界中で技術革新が起こり、それが瞬時に世界中に広がるということも、今までになかったことです。そういった大きな変化の中で、本来先頭に立って時代の変化に立ち向かうべき行政が、最も過去に縛られてしまっていることが、新潟県に限らず日本の大きな課題であると、私はこの1年半感じていました。

 原発問題は、新潟県のみならず、日本全体、ひいては世界全体の大きな課題です。この問題の私の立場は、ご承知のように政府などとは大きくかけ離れています。しかし、だからこそ、双方の立場の人が共通に話すことができる土台が、絶対に必要だと私は思います。率直に言って現在の日本にはいまだその土台はありません。

 私はそのために、①福島第一原発事故の原因の徹底的な検証②福島原発事故が人々の健康と生活にもたらした影響の徹底的な検証③万一事故が起きた場合の安全な避難方法の徹底的な検証の三つの検証を掲げました。
知事就任後、柏崎刈羽原発の再稼働について世耕弘成経産相との会談に臨んだ米山隆一氏=2016年12月
知事就任後、柏崎刈羽原発の再稼働について世耕弘成経産相との会談に臨んだ米山隆一氏=2016年12月
 ①の事故原因の検証については、事故直後に複数の調査報告書が作成されたことはもちろん承知しています。しかし、それらの間には相互の不整合がありますし、その中に書かれていないことで、新潟県の調査や裁判によって初めて明らかになったこともあります。

 私はぜひここで、今までの知見と事実をまとめて、事故の事実経過とその原因について多くの人が共通の土台とすることができる検証を行うべきだと思います。そしてその土台とともに、私たちは②の福島の原発事故が人々の健康と生活にもたらした影響を徹底的に検証すべきだと思います。私も着任後福島第一原発、柏崎刈羽原発にうかがい、事故後作成された様々な安全対策について説明を受けました。

 福島第一原発事故と同じ形で同じ事故が起こることは、おそらくはないのだろうと思います。しかし、人間のやる事に絶対はありません。絶対があるなら、そもそも福島第一原発事故は起こっていません。

 確率や形態は異なるにせよ、事故が起こる可能性は常に存在します。その時にいったいどのような事が起こり、私たちの生活にどのように影響するのか、私たちはそのリスクの全体像を、福島第一原発事故から学ばなければなりません。

 そして、①②の土台に立って、万一原発事故が起こった場合に、我々がなしうる最善の避難方法を、現実的具体的に確かめなければなりません。そうやってこそ初めて、万が一事故が起こった場合に我々は現実的にどこまで状況に対応できるのか、考える事ができるようになるからです。