櫻田淳(東洋学園大学教授)

 2012年以降の2次にわたる安倍晋三内閣は、戦後日本政治史の中でも顕著な「強靱(きょうじん)性」を発揮してきた。安倍内閣は、過去5年半近くの政権運営の過程で幾度も「失速」が語られたものの、5度の国政選挙を勝ち抜くことで権勢を維持してきた。しかし、目下、安倍内閣の「強靭性」にも陰りが見え始めた感がある。

 現下の財務省や防衛省を舞台にした政官関係に絡む混乱が軒並み、安倍内閣の政権運営の「歪み」として語られ、それを安倍内閣の責任として詰問する声が高まっているのである。数刻前まで既定のものとして語られた今秋の自民党総裁選挙に際しての「安倍三選」も、予断を許さなくなったと指摘する向きもある。

 既に幾度も指摘してきたように、筆者が下す内閣評価の基準は、第一が「外交・安全保障政策を切り回せるか」であり、第二が「経済を回せるか」である。この評価基準に照らし合わせれば、安倍内閣の政権運営は「上手く切り回している」と観るのが順当であろう。

 事実、例えば米誌『タイム』(2018年4月30日号)は、毎年恒例の「世界で最も影響力のある100人」を発表し「指導者」部門で2014年以来4年ぶりに安倍首相を選出した。オーストラリアのマルコム・ターンブル首相は選評中、「安倍氏の自信に満ちた力強いリーダーシップは日本の経済と先行きへの期待をよみがえらせた」と評した。

 また、ロイター通信(4月23日配信)が伝えた「4月ロイター企業調査」の結果によれば、「安倍晋三首相が自民党総裁に3選されることが望ましいか」という問いに「諾」と答えた大手・中堅企業は73%に達した。加えて、この記事は「次の政権も安倍首相続投による与党政権継続が望ましいとの回答が6割を占めた。次期首相も5割が安倍首相を支持した」と伝えている。

 こうした安倍内閣への評価を前にして、湧き上がる「安倍、辞めろ」の声には、日本の政治風土に根づく悪しき気風が反映されている。それはすなわち、「対外意識の希薄」と「民主主義理解の貧困」である。
1989年6月3日、組閣後に記者会見をする宇野宗佑新首相
1989年6月3日、組閣後に記者会見をする宇野宗佑新首相
 振り返れば、昭和中期以降、すなわち冷戦期の「55年体制」下、日本政界では金銭や女性に絡むスキャンダルが頻発した。リクルート事件や東京佐川急便事件といった金銭絡みのスキャンダルが相次ぐ一方で、女性スキャンダルで地位を追われた宇野宗佑元首相や山下徳夫元官房長官の姿は、そうした「55年体制」崩壊前夜の政治様相を象徴していたといえよう。