杉山崇(神奈川大人間科学部教授)

 サッカーのワールドカップ(W杯)ロシア大会に臨む日本代表が発表されました。MF本田圭佑(パチューカ)やMF香川真司(ドルトムント)、FW岡崎慎司(レスター)、DF長友佑都(ガラタサライ)、MF長谷部誠(フランクフルト)といった前回のブラジル大会の主力が順当に選ばれました。ここでは代表を率いる西野朗監督の決断を心理学的に考えて、ロシアW杯の楽しみ方を探ってみましょう。

 今回の代表チームはまず27人が選ばれ、発表前日のガーナ戦を経て23人が選ばれるという流れでした。27人が発表された段階で話題を集めたのが、ベテランのMF青山敏弘(広島)の選出と、昨シーズンの欧州でブレークしたFW中島翔哉(ポルティモネンセ)とMF堂安律(フローニンゲン)の落選でした。

 中島と堂安の活躍はめざましく、欧州でもW杯の出場を期待する声がありました。実際に代表に呼ばれれば、新たなスターとして日本のサポーターも専門家も注目する楽しみな選手になったことでしょう。

 ですが、西野氏は2人のいない日本代表を選んだわけです。活躍を楽しみにしていた専門家やファンからはがっかりされています。また、「ビッグ3」と呼ばれる本田、香川、岡崎など実績が豊かな選手を選んだこともあって、「名前で選んだ」と批判的に受け取る声もあります。

 ただ、この決断を意思決定の心理学から考察すると、少し違った側面が見えてきます。意思決定の心理学では難しい決断を迫られると「損害回避バイアス」が発生することが知られています。損害回避バイアスとは損害が利益の何倍にも大きく感じられることです。結果的に、利益を追求するよりも損害を回避する決断が下されます。

2018年5月31日、サッカーW杯ロシア大会の
メンバー発表会見にのぞむ日本代表の西野朗監督
=東京都港区のホテル(吉澤良太撮影)
 このバイアスは、特に失敗できない投資や大金を賭けたギャンブルのように緊張感が高い場面ほど強く働きます。選手選考もチーム作りも、投資やギャンブルではありません。

 しかし、失敗できないプレッシャーは投資やギャンブル以上のものがあると思われます。その中で損害回避バイアスが働くことはやむを得ない状況といえるでしょう。

 では、西野氏が避けようとした「損害」はいったい何だったのでしょうか。サッカーが点を取り合うゲームである以上、最も避けたい損害は「点を取られる」ことです。

 W杯グループリーグでの対戦相手、コロンビア、セネガル、ポーランドはいずれも世界的なストライカーを有しています。世界有数の攻撃力を持つチームと同組になってしまったのです。