佐山一郎(作家)

 サッカー日本代表チームの最終選考では、今より1人少ない22人だった時代、98年フランスW杯直前の「カズ外し」が回顧の定番だ。だが、これは戦前からの悩ましい問題でもあった。実際、今や監督報酬の3分の1が「選考料」で、残りの3分の1ずつが勝利へと導く日常業務と解任リスクへの慰謝料と言ってもよいくらいだ。

 こうした仮借(かしゃく)なきピッチ外の闘いまでをも含めて包摂的に楽しむのがサッカー大衆のはずなのだが、電撃リセットをされたヴァヒド・ハリルホジッチ前監督への同情論が思いのほか強い。
  
 解任理由の一つとされる「コミュニケーション不足」が、ハリルと日本サッカー協会(JFA)との間で最大の争点になるのは当然すぎる話だ。今も気になるのは、田嶋幸三会長が4月9日の会見で語った「選手たちとのコミュケーションや信頼関係が多少薄れていた…」の「多少」の部分だ。惻隠(そくいん)の情が裏目に出て、「多少の薄れくらいなら改善できる余地はいくらでもあった」となってしまうからだ。

 ただそれでも、JFAなりに契約・対決社会慣れはしてきている。ハリル側の訴える「名誉毀損(きそん)に対する1円の慰謝料と謝罪広告掲載」の実現性は高くなさそうだし、欧州連合(EU)圏での移籍自由化を促進させた、かつてのボスマン判決の監督版のように、サッカー監督の地位向上につながる波及効果が生まれる可能性も低い。

 CM出演にも妙に積極的だったという3年間の高額報酬に対する共感がどこにもないのが、ハリルにとって何より痛いところだ。

 しかも海外組を入れた国際Aマッチにおける、秋口からの戦績は1勝2分け3敗、格下相手が多かった通算戦績で38試合21勝9分け8敗となれば、契約解除に抵抗できるわけもない。個人的には「慰謝料1円」ではなく、御縁がなかったということで「5円」にしてほしかったのだが…。

 それにつけても、新体制への賛意がこれほどまでに少ないのは一体なぜなのか。私には、ロシア大会を迎える上での物語構造が壊されたからとしか思えない。最後の仕上げに定評のあるらしいハリル采配を見届けたかったところに、2年半も現場から遠ざかっている西野朗新監督を時間もない中で持ってきてどうするのだ、という大方の切迫感はあって当然と言える。

 それは同時に「監督解任ブースト(援助・あと押し)」など起きるはずがないという、大きな賭けを否定する物語形成の絵姿でもある。
壮行セレモニーで厳しい表情を見せる日本代表・本田圭佑ら=2018年5月30、日産スタジアム(撮影・甘利慈)
壮行セレモニーで厳しい表情を見せる日本代表・本田圭佑ら=2018年5月30、日産スタジアム(撮影・甘利慈)
 その上さらに、当落線上だった本田圭佑(31=パチューカ)に対する不要論も根強く存在し、「かわいさゼロ」の自信家ぶりを傲慢(ごうまん)と受け取る人たちも増えていた。チームごとコンディショニングに失敗した前回ブラジル大会での期待外れっぷりが、サポーターの残像として消えていないようなのである。