西岡力(麗澤大学客員教授、モラロジー研究所教授)

 ついに米朝首脳会談が実現する。主要議題は北朝鮮の核・生物化学兵器・弾道ミサイルの廃棄だが、日本にとって絶対に譲れない拉致問題もトランプ大統領は取り上げると約束した。どのような結果となるか、痺(しび)れる思いで見つめている。

 私はこの間、米朝首脳会談の結果は次の三つの可能性があると主張してきた。

 ①米国が中途半端な譲歩をしてしまう可能性だ。大陸間弾道ミサイル(ICBM)の即時廃棄など目の前の成果に固執し、核などの廃棄については原則的に口約束だけでよしとしてしまうことなどが考えられる。これまで北朝鮮は1992年に南北非核化宣言、94年に米朝ジュネーブ合意、2005年に6カ国協議共同声明などで核の完全廃棄を約束したが、見返りを先に受け取った後、その約束を破棄してきた。同じことが繰り返される危険がある。

 ②北朝鮮が核・生物化学兵器・弾道ミサイルのCVID(完全で検証可能かつ不可逆的な核廃棄)を受け入れる可能性だ。金正恩がそれを行う声明を出し、米国の情報機関と軍が北朝鮮に入って、核爆発物質(濃縮ウランとプルトニウム)、起爆装置、ウラン濃縮施設の核心部品、ミサイルの推進装置などを米国に持ち出すという作業が始まる可能性だ。

 リビアのムアンマル・カダフィ大佐は2003年12月に核廃棄を宣言し、翌年1月に米軍輸送機がリビアから核物質、ウラン濃縮施設の核心部品、ミサイルの推進装置を米国に搬出し、3月に米軍輸送船がウラン濃縮装置、ミサイルなどを持ち出した。まさに短期間でのCVIDが実行された。

 ③交渉が決裂する可能性だ。トランプ大統領は金正恩と会って彼がCVIDをする気がないと分かればすぐ席を立って帰るという意味のことを繰り返し話している。そうなれば昨年9月下旬から11月まで米軍が自衛隊のサポートを受けつつ最高度に高めた軍事緊張が再びやってくるだろう。

シンガポールに到着した金正恩・朝鮮労働党委員長=2018年6月11日(ロイター)
シンガポールに到着した金正恩・朝鮮労働党委員長=2018年6月10日(ロイター)
 昨年10月、金正恩は米軍が本当に「斬首作戦」、すなわち金正恩暗殺作戦を実行する危険が高まったと恐怖にかられた。秘密にしている自分の所在情報が米軍に漏れているのではないかという強い危機感を持ち、米軍が斬首作戦を実行する場合、自分の側近をスパイにするはずだと側近らに対する疑心暗鬼にとらわれたという。

 それで2017年10月7日に労働党中央委員会総会を開き、唯一信頼できる肉親である妹の金与正(キム・ヨジョン)を新設した当部署の責任者に抜てきして、金正恩の全ての日程と行事の安全管理、党、軍、政府全ての幹部人事を任せたという。

 与正は同総会で政治局員候補になったが、これは表向きのことで実際は事実上の権力ナンバー2になった。与正は金正日(キム・ジョンイル)時代に最強の権力をふるった組織指導部の老幹部らを含む金正日時代の幹部を全て取り換えて、若い世代で金正恩、与正に忠誠心を持つ人材に交代させる作業を昨年秋以降精力的に進めてきた。