重村智計(東京通信大教授)

 ドナルド・トランプ米大統領と北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長は12日、歴史的な米朝首脳会談に臨む。朝鮮戦争が終結し、歴史から最後の冷戦対立地域が消える。日朝首脳会談も実現するだろう。

 ただ、北朝鮮の核放棄の終着点は、なお見えない。核の完全廃棄には、5年以上の時間と膨大な資金がいるからだ。

  北朝鮮は、トランプ大統領が2年後に任期を終え再選はないと読む。大統領が変われば、核再開発の可能性が出てくることを期待しているのである。それを踏まえても、シンガポールでの首脳会談は「トランプ大統領の勝利」に変わりはないのである。

 指導者の政治力は、サプライズの力で判断される。日本なら、小泉純一郎元首相がサプライズの天才だった。指導者の決断による、世界をあっと驚かせる提案や合意といったサプライズがないと、会談は失敗に終わる。トランプ大統領と金委員長は、相手の出方に合わせたサプライズを準備していたのである。

 金委員長が、全てのミサイル発射台を破壊し核兵器の全面廃棄を約束して、核弾頭と科学者の海外移転に合意、日本人拉致被害者全員の帰国を応じれば、歴史的なサプライズだ。

 トランプ大統領も、在韓米軍撤退と平和協定締結、米朝国交正常化を表明し、首脳の相互訪問に合意すれば、世界に大きな衝撃を与えることができる。米国の平壌連絡事務所設立や、大使館の相互設置もサプライズになるだろう。

 米朝の指導者がシンガポール入りするまで、実務交渉は最終合意に達していなかった。北朝鮮は全てを指導者が握り、外務省高官に決定権がないからだ。しかし、指導者の指示を受けて交渉し、再び平壌に指示を仰ぐやり方では、時間がかかってしまう。
2018年6月11日、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長が宿泊しているシンガポールのセントレジスホテル前に集まった報道陣(松本健吾撮影)
2018年6月11日、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長が宿泊しているシンガポールのセントレジスホテル前に集まった報道陣(松本健吾撮影)
 そのため、トランプ大統領と金委員長は会談の2日前にシンガポール入りすることを選んだ。2人の首脳が近くにいる環境で、最後の交渉に首脳が決断を下したのである。