前嶋和弘(上智大総合グローバル学部教授)

 今後の東アジアの安全保障と国際関係を大きく左右する米朝首脳会談がいよいよ始まる。トランプ米大統領と金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長との「世紀の対決」の注目ポイントは何か、考えてみたい。

 今回の米朝首脳会談の結果次第では、北朝鮮とアメリカという「不俱戴天(ふぐたいてん)の敵」が「友好国」に一変する可能性を秘めている。実際、おそらく米朝首脳会談が始まる段階で「北朝鮮の非核化」とその見返りとなる「体制保証」という大きな「取引」の枠組みは決まっていると推測される。

 ただ、枠組みをより具体的にさせ、友好国同士になるためには「敵」である米朝のどちらも相手に大きく譲歩する必要性がある。もし、譲歩が十分でなければ、米国側の経済制裁や軍事的圧力、北朝鮮の核・ミサイル開発の再開という昨年までの流れに戻ってしまうだろう。では、実際に何を米朝が譲ることになるのか。

 米国側の「誘い水」ともいえる妥協のポイントは、すでに少しずつ明らかになっている。中でも、トランプ氏が日米首脳会談直後の記者会見で伝えたように、「朝鮮戦争終結宣言」は米国の考えるスタートラインのようである。北朝鮮に対する「敵視政策」を止めるという意思表示であり、あくまでも「協定」とかではなく、「宣言」ならしやすいという見方であろう。

 また、米国の一部メディアがすでに指摘しているような米国の領事館や大使館を平壌に設立することで、人的交流を図り、米国が簡単に攻撃しにくいという状況を作り出すのが米国側の次の手でもある。人的交流の中には、同時に今後のトランプ氏の北朝鮮訪問や金正恩氏の米国訪問なども含まれるだろう。
 
 ただ、こんなことはあくまでも序の口であろう。北朝鮮の体制保証はまず、非核化のペースと経済支援をめぐっての大きな攻防になるとみられる。

 あくまでも、北朝鮮がもし、米国が望んでいる「完全で検証可能かつ不可逆的な廃棄(CVID)」に近い形で積極的で期限を切った非核化に取り組んだ場合、米国はかなり包括的な経済支援を行っていくのではないだろうか。
2018年6月、シンガポールに到着し、バラクリシュナン外相(中央)と握手する北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長(バラクリシュナン氏のツイッターより、共同)
2018年6月、シンガポールに到着し、バラクリシュナン外相(中央)と握手する北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長(バラクリシュナン氏のツイッターより、共同)
 例えば、米国内に届くとされている大陸間弾道ミサイル(ICBM)だけでなく、日本や韓国に届く短・中距離のミサイルについても廃棄を決めた場合などは、経済制裁解除から始め、米国だけでなく、日本や韓国、中国と組んだ直接投資を広範に行っていくとみられている。北朝鮮の安い労働力を利用した工場進出だけでなく、豊かな鉱物資源の国際共同開発なども予想される。

 利益相反になるかもしれないため、トランプ氏の家族が経営するホテルの建設は難しいかもしれない。それでも、韓国メディアが報じているように、トランプ氏の盟友である「カジノ王」シェルドン・アデルソン氏と協力した元山(ウォンサン)地域へのカジノ誘致なども有り得るかもしれない。