2018年06月12日 9:15 公開

ドナルド・トランプ米大統領と北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長の会談が12日午後1時半(日本時間同2時半)ごろ、シンガポールで合意文書に署名した。朝から会談していた両首脳は互いに感謝し合い、トランプ氏は北朝鮮との関係や朝鮮半島の情勢は大きく変わると述べた。

両首脳は一対一の会談、拡大会談、ワーキングランチを経て、署名式に臨んだ。トランプ大統領は、「素晴らしい時間を過ごした。この文書に署名できるのは光栄だ」と述べた。金委員長は、「歴史的な会談で、これまでのことを過去のものにすると合意した。歴史的な文書に署名する。世界は大きな変化を目にすることになる」と述べ、会談実現をトランプ氏に感謝した。

両首脳は握手の後、合意文書に署名し、交換し合った。報道陣に非核化について質問されると、トランプ氏は、「そのプロセスをすぐに始める」と付け足し、文書について「包括的」なものだと説明した。

トランプ氏はさらに「今日の成果を誇りに思う。我々の北朝鮮や朝鮮半島との関係は、過去とかなり違うものになる。私たちは、誰が予想したよりもはるかに良く協力し合えた。今後、何度も会う。あなたと作業できて光栄だった」、「素晴らしい日だった。お互いやお互いの国のことを、たくさん知ることができた」と述べた。さらに金委員長については、「とても才能豊かな人で、自分の国をとても愛している」と称えた。

トランプ氏は記者の質問に答え、金委員長を「もちろん」ホワイトハウスに招くつもりだと強調した。

両首脳は最後にもう一度握手して、会場を後にした。

昼食を終えて庭に出た両首脳は、待ち構える報道陣の方へ並んで歩いた。トランプ大統領は、「本当に素晴らしい会談だった。たくさんの進展があった。本当にとても前向きで、大方の予想以上だ。最高級だ。これから署名するんだ」と述べた。

現職の米国大統領が北朝鮮の最高指導者と会談するのは初めて。拡大会合には、北朝鮮がその発言に強く反発していたジョン・ボルトン米大統領補佐官(国家安全保障問題担当)も同席した。

現地時間午前9時(日本時間同10時)すぎに対面した両首脳は両国国旗を背に握手し、通訳2人を挟んで2人だけで言葉を交わすと、再び握手し、並んで回廊を歩いてカペラ・ホテルの書斎に入った。

会談開始前にトランプ大統領は、金委員長と「素晴らしい関係を構築できると思う」と述べ、「本当に気分は最高だ。最高の話し合いをして、素晴らしい成功を収める」と述べた。

金委員長は、「ここまで来るのは簡単ではなかった(中略)古い慣習が障害となっていたが、克服してここへきた」と話した。

回廊を歩く両首脳の近くにいた報道陣によると、金委員長が「世界中が見ている。大勢がこのあり得ない会談を、サイエンスフィクションの出来事のように見るでしょう」とトランプ大統領に話しかけたという情報もある。

ホワイトハウスによると、両首脳はこの後、通訳を挟んで一対一で38分間会談した。午前10時(日本時間午前11時)前には、米国のマイク・ポンペオ国務長官やジョン・ケリー大統領首席補佐官、ボルトン大統領補佐官(国家安全保障問題担当)、北朝鮮の金英哲(キム・ヨンチョル)朝鮮労働党副委員長、李洙墉(リ・スヨン)同副委員長、李容浩(リ・ヨンホ)外相も交えた拡大会談に入った。両首脳らはその後、昼食をとりながら協議を続けるワーキングランチを続けた。

トランプ大統領は12日夜には帰国の途に就く予定。金委員長は午後2時には出発するだろうと言われている。

前例のない首脳会談は、朝鮮半島の緊張緩和が目的。米政府は、北朝鮮による完全かつ検証可能で不可逆な核放棄を求めており、北朝鮮が体制保証や制裁解除、経済援助と引き換えにどこまで譲歩するのかが注目されていた。

トランプ氏は今回の会談を、平和実現の「一度きりの機会」と呼んでいた。米政府は今回の会談を端緒として、いずれ朝鮮半島の非核化につながる交渉プロセスの開始を期待している。

トランプ氏は当面、会談実現にこぎつけたのは自分が「最大の圧力」を北朝鮮にかけ続け、経済制裁を強化し、軍事行動も辞さない姿勢を示したからだと主張するものと見られる。

金氏にとっては、北朝鮮の旗が星条旗に並ぶ前で米大統領と握手したというそれだけで、祖父も父も果たせなかった大勝利を収めたことになる。米大統領と対等な立場で会談したことで、自分自身と北朝鮮の正統性を国際社会が承認したという文脈づくりが可能になった。

両首脳はシンガポール市内で近接するそれぞれのホテルを出発し、現地時間午前8時半(日本時間同9時半)ごろ、シンガポール島から数百メートル南のリゾート地、セントーサ島のカペラ・ホテルに入った。

11日にはポンペオ国務長官が記者会見し、米国は「完全かつ検証可能で不可逆な非核化」しか受け入れないとあらためて強調しつつ、その代わりとして「独特の」形で北朝鮮の安全を保証する用意があると述べた。

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トランプ大統領は数時間後に首脳会談を控えた12日早朝、自分の批判勢力に強い調子で反論するツイートを投稿した。

「憎む連中や負け犬どもは、僕が会談するのが米国にとって大損失だと言う。人質は戻ってきた、実験も研究もミサイる(原文はmissileをmissleと誤記)打ち上げも全部止まった。あの有識者どもは、最初から僕が間違ってると言ってきた連中は、これ以上もう何も言えない! みんなもう大丈夫だ!」と大統領はツイートした。

https://twitter.com/realDonaldTrump/status/1006296018210603008

トランプ氏はこの前には、双方の事務方による事前協議は「良好に、素早く」進んでいるとツイートした上で、「でも最後にはそれはどうでもいいことだ。以前のと違い、本物の合意が実現できるのか、みんな間もなく分かる!」と書いた。

金委員長は11日夜、シンガポール市内の観光名所を次々と訪れた。金氏の登場に興奮した人たちが歓声を上げるなか、委員長はほほ笑み手を振るなどした。

同行していたシンガポールのバラクリシュナン外相は、並んで撮ったセルフィー(自撮り写真)をツイートした。

https://twitter.com/VivianBala/status/1006169863163973637

12日付けの北朝鮮の朝鮮労働党機関紙「労働新聞」は、この観光地めぐりの様子を写真つきで一面で伝えた。これによって北朝鮮の国民は、自分たちの国と大幅に様子の異なる外国の街中に最高指導者がいるという珍しい光景を、垣間見ることになった。

国際社会で長年孤立していた独裁国家・北朝鮮の最高指導者が、外交のひのき舞台で、主要国の要人として扱われていることについて、国際人権団体「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」は、「これほど重大な事態でなければ、このサーカスじみた雰囲気を面白がることもできるのだが」と書いた。

これまでの経緯

北朝鮮の核・ミサイル開発が進展するに伴い、両首脳は昨年、激しい罵倒と中傷を交わし続けた。トランプ氏は金委員長を「ロケットマンは自殺任務に突き進んでいる」と嘲笑し、北朝鮮が米国を核兵器で脅し続けるなら「炎と激怒」で対応すると発言した。対する金委員長は、トランプ氏を「狂った」「老いぼれ」などと罵倒した。

米政府は中国に協力を求めつつ、北朝鮮に「最大圧力」をかけ続けたものの、北朝鮮は昨年9月に6回目の核実験を慣行。昨年11月には、米本土に到達可能な新型の大陸間弾道ミサイル(ICBM)「火星(ファソン)15」の発射を成功させ、「核武力完成の歴史的大業」を実現したと発表した。

北朝鮮の一連の動きに対して、国連や米国は経済制裁を重ね、昨年12月には、北朝鮮への石油精製品の年間輸出量を最大90%削減する追加制裁案を、15理事国の満場一致で可決した。

今年元日には、金委員長が「新年の辞」で韓国との対話姿勢を示し、韓国・平昌で開かれた冬季五輪への選手団と高位級代表団の派遣、南北首脳会談と米朝首脳会談の提案と、事態は展開した。

韓国政府代表が3月、金委員長の意向を米政府に伝えると、トランプ氏は首脳会談に応じ、世界を驚かせた。

しかし、核廃棄の条件などをめぐり米政府高官の発言に北朝鮮が反発し、トランプ氏は5月下旬にいったん会談中止を通告したが、韓国の仲介など外交交渉を経て、再び実現に向けて動き出した。

(英語記事 Trump Kim summit: US and North Korean leaders to hold historic talks