坂東忠信(外国人犯罪対策講師、作家)

 「民泊」という言葉をここ4、5年ほど前から耳にするようになった。その前は「ルームシェア」と言われていたが、私が刑事を辞めた15年ほど前には、まだその言葉さえなかった。しかし、私がまだ北京語通訳捜査官だった20世紀末ごろから、密航者の多い中国人や不法滞在者の多い韓国人により「ヤミ民泊」が行われていたのである。

 新宿や池袋での交番取り扱い経験や、警視庁本部通訳センター職員としての通訳捜査経験からいうと、当時、来日中国人の半数は20万元、当時のレートで日本円にして250万円ほどの密航費用を親が知人から集め、立て替えていた。そうして、福建省から大型貨物船のバラストタンクや漁船の船底に隠れて集団密航してきた。家族の期待を背負って、来日していたのである。

 残りの4割は、正規手続きで来日した末に、査証の期限が切れてオーバーステイした上海人だった。中国といっても広大だから、地域によって違うかもしれないが、合法に入国・滞在し続けていられた中国人は、体感として1割程度にすぎなかったのである。

 特に福建人は莫大(ばくだい)な借金を背負って来日するため、強制送還されてもお気楽な上海の不法滞在者より切羽詰まった生活をしていた。

 そのような環境の中、彼らは人脈を頼りにすみかを探し、職を探すのだが、その人脈は中国の実家に近い仲間ほどつながりが強い。借金を含む頼まれごとを「面倒」と敬遠しがちな日本人とは違って、頼りにされたら他人から借金をしてでも実力を見せつけるチャンスと捉えるからである。逆に異国の地で知り合いに頼りにされながらむげに断れば、密航費用を肩代わりしている実家の両親が「村八分」になりかねないので、これを断ることができないのである。

 そんな不法滞在者や密航者などがまず困るのが、どこに行っても身分確認を迫られるアパート探しと職探しだ。犯罪者や参考人を含む中国人約1400人の話では、それでも、友人や知人を3人ぐらい介すれば、目的の手助けが得られるという。

 特にアパートの場合は、1人で住むより2、3人で住み、家賃を分担したほうが1人当たりの負担も軽い。大家も月々の支払いを延滞させる日本人苦学生を相手にするより、確実な収入につながるため、契約外である複数の出入りも見て見ぬふりをしてしまう。
画像はイメージです(iStock)
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 だが、彼らは集合住宅の決まりを守らない。私が見つけた集団居住場所の中には、3人契約のはずが、16人ほどが生活しているアパートがあった。北京語を話す警察官を珍しく味方と勘違いしたのか、中まで見せてもらうことができたが、その部屋には、ベニヤ合板をうまく利用した5列3段の「簡易カプセルホテル」ができていたのである。

 15人が一度に休むことができるだけでなく、2人は畳で横になれるようになっていた。しかも、昼と夜に働く人を上手に交代させていたようで、実際の利用者はその倍近くいたようだ。