小澤一郎(サッカージャーナリスト)

 「グループリーグ屈指の好カード」。W杯の組み合わせ抽選会が決まった直後から世界中がこう語り、注目したイベリア半島ダービーのポルトガル対スペインは、注目度の高さに見合ったスペクタクルな試合で3−3の引き分けに終わった。

 ブラジル、ドイツに次ぐ優勝候補の一角としてロシア入りしたスペインだが、この初戦2日前に衝撃が走る。5月22日にスペインサッカー連盟と2020年までの契約延長を結んだばかりのフレン・ロペテギ監督が、6月12日に突如、来季からのレアル・マドリードの監督就任を発表したのだ。

 W杯を率いた監督が大会後にクラブチームの監督に就任すること自体は珍しいことではないが、契約延長発表直後、しかもW杯開幕と初戦を直前に控えたタイミングで連盟のルビアレス会長の許可なくレアル・マドリード行きを発表したことで会長の逆鱗に触れた。

 「発表の5分前に突然、知らせを受けた。こうしたやり方は断じて許されない」

 13日に会見を開いたルビアレス会長は冒頭でロペテギ監督の解任をアナウンス。後任監督にはテクニカル・ダイレクターとして代表チームを支えてきたフェルナンド・イエロが抜擢された。

 前代未聞の事態に試合前日のイエロ新監督とセルヒオ・ラモスの記者会見では監督交代の質問が集中した。セルヒオ・ラモスは「僕らはまるで葬儀場にいるみたいだ」と苦笑いする次第で、イエロ監督も「いつも通りのスペイン代表を見せる」と平常心を取り戻すことに躍起だった。

 スペインがこうした一大騒動の中で迎えた初戦は、EURO2016王者のポルトガル、中でもあの男が相手の隙を見逃すはずがない。大舞台になればなるほど、結果を出すのがクリスティアーノ・ロナウドだ。

 監督交代の動揺もあるスペインが慎重な試合の入りになることを見越してか、開始からロングボールを駆使して揺さぶりをかけたポルトガル。3分にロナウドがドリブル突破からPKを獲得し、4分にそのロナウドが先制点を奪う。

 鍛え上げた強靭な肉体は健在ながらロナウドもすでに33歳。全盛期のスピードはなくなり、所属クラブのレアル・マドリードでもサイドアタッカーではなくワンタッチゴールを狙うフィニッシャーとして新境地を切り開いている。
【ロシアW杯2018】ポルトガル対スペイン 同点ゴールがハットトリックとなり、喜ぶクリスティアーノ・ロナウド=ロシア・ソチ(中井誠撮影)
【ロシアW杯2018】ポルトガル対スペイン 同点ゴールがハットトリックとなり、喜ぶクリスティアーノ・ロナウド=ロシア・ソチ(中井誠撮影)
 今大会のポルトガルもロナウドの決定力を引き出すためのシステム、戦術を採用しており、このスペイン戦ではそれが見事に功を奏した。

 結果的にロナウドはこの初戦でハットトリック(3ゴール)を達成するわけだが、1点目のPKを獲得するまでの流れ、2点目の流れともにDFライン(ペペ)から中盤を省略したロングボールを前線に挿し込み、そこで起点を作った落としをロナウドが受けてドリブル突破、シュートした形だ。

 「4−4−2」システムを採用してスペインの2センターバックとロナウド、ゲデスの2トップで「2対2」のマッチアップができるよう仕向けたことも含め、ポルトガルの知将フェルナンド・サントスは意図的に相手DFラインの前でロナウドにボールを持たせる攻撃のオーガナイズをチームに落とし込んでいた。