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    「国力低下」 今そこにあるコロナ危機

    経済協力開発機構(OECD)の今年の成長率予測で、上方修正の欧米や中国とは裏腹に、低く据え置かれた日本。コロナ禍が続く中で懸念されるのが、教育現場の混乱や就職活動への悪影響が深刻化し、国力低下という将来の大きなダメージとなって跳ね返ることだ。第5回は、日本の「地盤沈下」の危機に関して考える。

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    日本の将来を左右する、コロナ禍が生む教育格差という「負の連鎖」

    杉山崇(神奈川大人間科学部教授)麻生マリ子(家族心理ジャーナリスト)司会・対談構成:梅田勝司(フリーライター、編集者、「PressRoom.jp」記者) 第2波の真っ只中にあるのではないか、という言葉が専門家の口から語られる中、日本の国内総生産(GDP)が新型コロナ禍の影響もあって戦後最悪の落ち込みを記録した。果たしてこれが底なのか、まだ下がるのかは誰にも分からない。 新型コロナ禍によってさまざまな市民生活が制限されたが、その影響が数字として明確になってきたといえる。しかし、教育についてはもう少し長い目でどんな影響を生徒たちにもたらしたかを見守る必要がありそうだ。 そして、心配になるのは日本の国力への影響だ。世界でどの先進国も新型コロナの影響であえいでいるが、まずは自国の現状を確認したい。* * * 梅田 杉山先生は新型コロナ禍で日本の国力が低下することを懸念しておられるそうですが、具体的にどのようなことを心配されているのでしょうか? 杉山 一斉休校とその余波による、生徒の学力低下が心配ですね。特に公立校は、緊急事態宣言の前後から授業をしなかった。私立校の先生方は結構頑張ってオンライン授業をしていたようですが、公立でできたところは少なかったようですね。 文部科学省は学習の遅れを正式に認めていて、政府も危機感を持っているのは間違いないですね。 梅田 夏休みは期間短縮され、お盆明けに1学期の続きがあったり、2学期が始まりました。これで遅れた分を取り返せるのでしょうか? 杉山 問題は学校だけの話ではないんです。家庭でする学習の習慣が崩れてしまったことが大きいですね。教育熱心な親は、家庭での学習習慣を崩さないよう頑張っていたと思うんですけど、それでも学習習慣が崩れる子はいます。そうなると、崩れた子供と崩れなかった子供との格差が広がることが考えられます。新学期が始まり登校する小学生たち=2020年8月17日、岐阜県大垣市 麻生 私は教育格差の連鎖がさらに深刻化するのではと懸念しています。もともと世帯年収や親自身の受けた教育水準が、子供の教育格差に連動する傾向があります。経済的に豊かな家庭で高い水準の教育を受けて育った子供が、社会に出て高収入を得られるようになる。そして親になったとき、わが子にも高水準の教育を受けさせることができますからね。 全国一斉休校の要請があったのが年度末でしたから、その時点で授業をどこまで終えられていたかで差が生じます。また休校中や夏休みの課題にも地域や学校、学級で致し方ない差がある中、オンライン授業の有無や、親が子供の勉強を見たり教えたりする素養があるかどうかも、子供の家庭学習を左右しています。 そもそも家庭学習に向く子と向かない子がいますし、発達特性のある子供たちを含め、どういう形であれば学習しやすいかに個人差があるのも事実です。 基礎学力でいうと、公立校の小中生は大変ですね。ましてや小学校では2017年3月に改訂された学習指導要領が、ちょうど20年度から全面実施となるタイミングでしたから。移行措置として、直前2年間で先行実施する必要性がありますが、休校となった時点で、それを終えていた学校と終えられていなかった学校とがありました。「生きる力」教えるのは難しい? 梅田 新しい学習指導要領は大規模なものだったんですか? 麻生 大きなところでいうと、小学校での外国語(英語)教科化ですよね。それに伴って、従来は中学1年生で履修していた内容を小学校高学年で学ぶといったように前倒しで難易度が高くなっていますし、授業時間数も増えています。 そのほか新しい学習指導要領は、中学校では18年度から3年間の先行実施を経て、21年度に全面実施されます。高校でも19年度から3年間の先行実施が行われ、22年度からの全面実施となります。 文科省は「生きる力」を掲げていて、今回は「主体的・対話的で深い学び」というアクティブラーニングを重視しています。知識と技能を身につけさせ、思考力、判断力、表現力を高めよ、ということです。学力向上はもちろん、実社会やグローバル社会で求められる力を育もうという方向性ですね。日本の国際競争力を高めることを目指してもいるのでしょう。 社会で受け身型の指示待ち人間が問題視されましたが、学校教育の中でコミュニケーションを通じて、主体的な動きのできる人間に育ってほしい狙いがあるのではと考えています。ただ、今の学校教員も保護者自身もそうした教育を受けて育っていません。自分が経験していないことを教えるというのは、想像以上に難しいことだと感じます。 学校が再開されてから、各学校とも前年度の未履修分を含めた休校期間中の巻き返しを図っていますが、教員から「子供たちの十分な理解度を図りながら進めていくことが困難だ」「つめこみ教育といわれても仕方ないが、そうするしかない」など悲痛な声を聞いています。それも、学校内の感染症対策や、新型コロナをきっかけにしたいじめや差別に配慮しながら進めているわけですからね。 さらに、休校中から聞かれたのは「実技を伴う理科・社会、生活科はどうしようもない」というものです。 学校再開後の弊害に関して具体例を挙げると、地域にもよりますが、社会科見学はほぼ中止となっていますし、理科の自然観察は本来4月に行うはずの授業が6〜7月にずれ込みました。しかし季節が変わっているので、予定通りの授業を行うことは現実的にできません。教員も映像や写真などの視覚教材を用いてフォローしてはいますが、やはり子供たちには理解が難しいようで、例年よりテストの点数が明らかに低かったそうです。 梅田 よりによってこんな年に、ですね。結果論ですが。国語の授業で児童は互いの意見を聞き合い、考えを深めていた=2020年2月、京都府南丹市の市立園部小学校 麻生 塾などでフォローできない家庭は、教育格差を突きつけられます。また、タイミングとして学年末や夏休み前後は転出入をする家庭も多いですよね。教科書も変わる、環境も変わる、前の学校でどこまで授業が進んでいたかなど、何重もの壁があるわけです。 杉山 私はどちらかといえば、「学校教育だけで、そこまで人生の格差は生じないだろう派」なんです。キャリアコンサルタントとしての立場から見ると、大学のブランド力は社会人としてのスタートダッシュ時に役立ちます。ですが、ブランド力のある有名大出身なのに、スタートダッシュしないまま成果を上げずに終わってしまう人も結構いるんです。 成果という点では、最後は学歴の格差ではなく、個人の才覚、仕事の才覚になると思うんですよ。だから偏差値中位の大学で教える面白さを感じています。「受験のランキングは仕事で逆転しよう」というところですかね。実際、私の所属する大学の卒業生たちは、社長や役員の数では全国で20位前後に入っていたりします。大学の規模とか偏差値を考えると、かなり頑張っている方ではないでしょうか。そこが面白いかな。受験での学力はそれほど高くなくても、仕事で挽回する人が好きです。 梅田 それでは、あまり心配する必要もなさそうですが。本当に憂慮すべき教育格差 杉山 いえ。本当の問題は国内での教育格差ではないんです。日本は「教育大国」と自分たちで信じていますが、実はそうではないんですよ。 経済協力開発機構(OECD)の「世界教育水準ランキング」で、日本は総合で40カ国中7位ですが、読解力となると真ん中あたりの15位になってしまいます。それに、何より怖いのは、1位が中国なんですよ。  中国の教育システムは、日本人が思っている以上に徹底していています。学力だけが国力ではないですが、少なくとも学力面では、日本の子供たちにはそれほどアドバンテージはないですね。 特に、読解力は、文章をしっかり読める力ですから、この能力が弱いと契約書の締結で騙されてしまいかねない。今、中国は読解力が伸びているので、中国を相手に交渉する中で、中国側が複雑で分かりにくい内容の契約書を作ってきたら、自分たちに不利な内容だと読み取れない日本人がこれから増えるかもしれないんです。 麻生 読解力は、学力だけでなく、生きていく上で基盤となる大切な力です。新しい高校の学習指導要領は、2015年にOECDが世界の15歳を対象に実施した学習到達度調査(PISA)で読解力が著しく低下したことを受けて導入され、2022年から全面実施となります。 その要領では、「現代文」を「文学国語」と「論理国語」の選択科目に分け、論理国語で契約書や企画書、報告書、手順書や取扱説明書、業務メールなど、実社会を想定した実務的な内容を教えることになり、物議を醸しました。私もこの再編を問題視しています。 中国勤務の弁護士など、周りの法曹関係者に聞くと、契約書を学校教育で取り上げることの危険性を指摘する人がいました。また、「生きる上で契約書に触れないことはないから、ある程度は教育しておくべき。しかし、文学国語を削るのは問題。文学は生きる上でもっと大切な他者の立場を考える想像力を高めるもの。情報化社会で論理的な読解力や思考能力を高めるなら、プログラミング学習や数学でやればよい」という声もあります。 グローバル社会で生きていく上でも、まずは母語である日本語をしっかりと身につけ、日本文化を学ぶことの方が大切だと考えています。外国語はそのあとで十分です。 梅田 では、高校から先の進路についてはどうしょうか? 実は、進学率が減少気味で就職率が増えているということはありませんか? それがイコール国力につながるとは思いません。 杉山 大学・短大・高専・専門学校など高等教育機関への進学率は、日本では2019年で82・6%と、前年から1%以上伸びています。不都合な真実かもしれませんが、1回目の対談で説明したように、日本人遺伝子は同調圧力を生む遺伝子です。少数派になるより、多数派になった方が現在の日本では何かと有利になりがちなようですね。 梅田 進学率こそ8割を超えていますが、中退してしまう生徒はどの程度いるのでしょうか? 杉山 退学率は統計手法で変わりますが、概ね7%程度という結果もありました。今、大学・専門学校では退学率を下げるための取り組みをやっていて、私も心理検査の開発をしていますが、それも対策の一つですね。退学リスクなどを評価して、どのような指導をしたら本人の能力を伸ばせるかを見極めます。そこに危機感を持っている学校さんが多いのも実情です。 梅田 専門学校は別として、大学に入れない子供もいるじゃないですか、家庭の都合や金銭面などの問題で。特に今年は新型コロナ禍により、仕事でダメージを負った両親も多く、塾や予備校の学費負担が大変です。※写真はイメージです(ゲッティイメージズ) 杉山 これは私も結構問題だと思っています。原因が学力不振の子供は、決して頭が悪いわけではなくて、勉強のやり方が分からないし、勉強する習慣もついてないんです。 勉強する習慣というのは、我慢する習慣なんです。勉強って、つまらなく感じることが多いじゃないですか。大学入試では、学力だけではなくて、どれだけ我慢できたかが求められるんです。要するに、入試は「ガマン大会」という側面もあるので、そこも見ているんです。我慢してやれる子だから、これからも我慢して社会の期待に応えて立派な社会人になるだろうというところを見極めているんです。 私も成績の振るわない生徒の多い予備校の講師をやっていたことがあるから分かるんですけれど、ちょっと我慢すれば勉強はできるんですよ。問題はその我慢させる仕組みをどう作るか。今年は特に我慢する力を試される可能性が高いですね。社畜では生き残れない 梅田 それは、会社に入って「社畜」になる人間を育てるということですよね? 矛盾だらけの会社でも文句を言わない。 杉山 大学が社畜候補を育てている部分はあるでしょうが、これからはただ従順な社畜だけでは、企業で生き残れません。 withコロナを経て、これからはイノベーション(技術革新)力がすごく求められるようになるはずなので、社畜のフリをしつつ、イノベーションの力を少しずつ蓄えて、ここぞというタイミングで頭角を現したり、ブレイクする。そういう社会人像が、大卒の若い人たちに求められるようになっていくと思います。 新型コロナ禍の話に絡めると、今後はオフィスワークが減る方向なので、会社で上司に言われたことをそのままやったり、マニュアルに沿って仕事するだけではなくなっていくでしょう。自分で課題を見つけ、ソリューション(課題解決)を作って、そこにみんなを巻き込んでいく。そういう力のない人は、これから仕事がなくなるかもしれません。 麻生 自分で仕事を作っていくタイプ、極端に言うと職業を作っていくぐらいの人じゃないと生き残れない、というわけですね。 梅田 そんな未来でも、やはり大学を出ることに意味はあるんでしょうか? 杉山 日本で学生が大学に払っている金額は、学費だけでなくて、その大学のブランド価値を買っている面があると思います。 麻生 私もそう思います。何を学んだかよりも、どの大学を出ているかということに価値が置かれている。就職にしても何にしても。でも、学んだ内容ではなくて、学部やゼミより、大学名の方が評価されているのは問題ではないかなと。 杉山 そうですね。実際、「学歴フィルター」というワードが一時期話題になりましたけど、今もたしかにありますよね。長い目で見ると、大学のブランド力が物を言うのは、就職活動のときと、20代の間までですね。 30歳を超えてくると、大学ブランド力の高い人はチャンスが多いことはみんな分かっているので、チャンスを上手にものにした人は評価されますけど、ブランド力の高い大学を出ている割にたいした実績を出していないと、評価が逆転してしまう。大学のブランド力を持て余し始める人が出てくるわけです。受験勉強ができると仕事ができるは別なので。 麻生 勉強ができることと、本質的な頭の良さ、インテリジェンスというのは全く違うものだと思います。仕事のやり方も。 梅田 今、みんな新型コロナに怯える異常な日々を過ごしているわけですが、学生はこの先心理的に影響が出たり、引きずっていくことにならないでしょうか?スペイン風邪の流行で90人以上の住民が亡くなったことを伝える福井県の面谷鉱山の石碑(大野市教委提供) 杉山 スペイン風邪もパンデミック(世界的大流行)が起こったんですが、2、3年後にはみんな忘れている状態になったそうなんです。それにウイルスは人間社会に長くとどまっていると、どんどん弱毒化していく例も多いようです。 私は「感染症の法則」と勝手に呼んでいます。簡単に言うと、毒性の強いウイルスだと宿主が活動できないし、殺してしまうので、感染力を失うんですね。結果的に人間社会から消えていくんです。 新型コロナウイルスといいますが、では新型以外のコロナウイルスはどうなのかといえば、常在化しているんです。鼻風邪を引き起こす程度です。新型も最終的にはそのレベルの毒性になるのではないかと言われています。そうなると、数年後には新型コロナのことをみんな忘れてしまうかもしれない。 これがトラウマになるかというと、ウイルスがトラウマになるのでなくて、ウイルスに対するリアクションや温度差が価値観の違いにつながるかもしれません。この価値観の違いが浮き彫りになって、新型コロナをめぐる考え方の違いから不信感を募らせていくのを懸念していて、人間関係が悪化したり社会不安にならないかが心配ですね。不安が募る就活生 梅田 今年度に就職活動をしている学生はどうですか? かなり大変だと思えますが。 杉山 就活している学生はとても不安がっています。対面面接を行っている企業さんもありますからね。オンライン面接でも部分的の場合もあるようです。 麻生 感染症対策を講じた上とはいえ、この最中に対面面接を行う企業姿勢に不安を覚える学生もいます。売り手市場と言われていたのが、新型コロナの影響で一転厳しい就職活動を強いられた学生たちにとって、面接してもらえるのはもちろん有難いことです。でも、「この会社は大丈夫なのだろうか。仮に受かったとしても従業員を大切にする会社なのだろうか」という疑問を抱く人もいました。 また、ビデオ通話で面接に臨んだ学生の話ですが、企業側がアイコンだけ表示されて、非常に話しにくかったそうなんです。面接担当者の表情が見えないし、声に出して相槌を打ってくれない担当者もいて、話すタイミングが掴みづらく、なにを求められているか、どこまで話せばよいか分からず戸惑ったそうです。そこで次の選考に進めなかったとなると、学生側はオンライン面接で力を発揮できなかったと思いたくなる。その心情は分かりますね。 梅田 オンライン面接でその人となりを見抜けるかも不安が残りますね。 杉山 採用する側は基本的に就活生にプレッシャーをかけて動揺させ、そのときにどういうリアクションをとるかを見ます。 麻生 かつては「圧迫面接」という言葉もありましたね。 杉山 今は分かりやすい圧迫をしませんけど、学生が困りそうな質問をするようですね。答えに困りそうな質問を考えるのが面接担当者の腕ですから。 麻生 その状況から想定外の事態に臨機応変な対応ができるか、柔軟性、レジリエンス(強靭=きょうじん=性)など、仕事に必要な力が見えてくるんでしょうね。ウェブ形式で実施された三井住友海上火災保険の採用面接で、モニター越しに学生と話す採用担当者ら=2020年6月、東京都内 杉山 企業はそういう力が欲しいですからね。学生が準備してきた内容を聴くだけでは面接になりません。なかなか内定が出ない生徒は、本当にいつまでも出ないんですが、例年よりそういう学生の数が多いですね。 それと、計画通りに採用活動を進めている企業と、計画を見直し始めた企業に分かれているようです。withコロナの社会が見通せないから、企業も慎重になっている部分は確かにあるようです。* * * 次回はグローバル化した世界情勢の中で、日本が国力を落とさないための方策について考えたい。 すぎやま・たかし 神奈川大人間科学部教授、同大心理相談センター所長、臨床心理士、1級キャリアコンサルティング技能士。昭和45年、山口県生まれ。学習院大大学院人文科学研究科博士課程単位取得退学。心理学専攻博士後期課程単位取得。専門は臨床心理学、応用社会心理学、産業心理学など。心理学オンラインサロン「心理マネジメントLab:幸せになる心の使い方」を主催する。著書に『ウルトラ不倫学』(主婦の友社)など多数。監修書に『マンガでわかる 心理学的に正しいモンスター社員の取扱説明書』(双葉社)。 あそう・まりこ 家族心理ジャーナリスト。昭和52年、福岡県生まれ。出版社勤務などを経て現職。生きづらさの背景として、親子・母子関係に着目。家族問題、母娘関係や子育て、孫育てなどをテーマに取材活動を続ける。そのほかにも家族問題に関する心理相談を行っている。

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    喪失だらけのコロナ後に受ける「リロケーションダメージ」の洗礼

    杉山崇(神奈川大人間科学部教授)麻生マリ子(家族心理ジャーナリスト)司会・対談構成:梅田勝司(フリーライター、編集者、「PressRoom.jp」記者) 東京都だけでなく、首都圏や近畿3府県では「第3ステップ」に進んでからほどなく、感染者が増加した。これを受けて、各都道府県では独自に検査を強化したり、感染対策の呼びかけを行った。飲食店の中には、東京で「夜の街」がクラスター扱いされたことから、夜の営業を自主的に自粛して、昼のランチ・弁当営業だけに戻した店もあるという。 さらにその後、東京都では感染拡大警報が出され、8月末まで酒類を提供する飲食店などに対する午後10時までの時短営業要請が出された。全国でも新規陽性者が拡大傾向にあり、独自に緊急事態宣言を出している県もある。 このように、新型コロナ禍の終息が見えない中、どの飲食店も自粛を余儀なくされたことで、資金はギリギリだ。こうした状況だけに、飲み会や会食が気軽に楽しめる日が戻るには時間がかかりそうだ。* * * 梅田 人は夜遊びや会食をしないと、どうなってしまうんでしょうか? 杉山 人によりますけど、好きなことができなくなると、生きるのがつまらなくなっちゃいますよね。気が紛れないので、嫌なことばっかり考えてしまう。 人と会うことは、とても強力な刺激になります。心理学では「ディストラクター」と言いますが、気を紛らわせる刺激を指します。何かに集中して考えることを「ディストラクトする」という使い方を心理学者はしています。 時々、気分をディストラクトしないと、嫌なことばかり考え続けてしまう。人間はそのように作られているのです。都庁での会見で「感染防止徹底宣言」のステッカーを掲げる小池百合子都知事=2020年7月(宮崎瑞穂撮影) 心はリスクのセンサーが原点にあって、リスクのデータベースがあった方がいいとなり、記憶というものが存在している。だから、ついつい嫌なことばかり、特に自分について嫌なことをよく考えてしまうんです。そして自己価値を疑い始め、「インポスター症候群」と呼ばれる状態になります。そこから、うつ病になってしまう可能性が生じる。 では、嫌なことからディストラクトされるためのポイントは、人間の心理が最も反応するのは人間だということです。人と会う刺激が人に一番影響を与えて活性化してくれるんです。実際、人から刺激を受けることって結構ありますよね。「巣ごもり」と誘いづらさ 麻生 ZOOM飲みでも、刺激になりますか? 杉山 ないよりはいいですよね。会話もできて、つながりも確認できますし。 麻生 文字ベースのSNSはどうでしょうか? 杉山 相手の存在感を心の中で感じることができれば、意味はありますね。人間は心の中に人を住ませる生き物なので、SNSで存在感を刺激されれば、リアルで会っていなくても、心の中では似たような心理状態になります。だから、それはそれで意味がありますね。 梅田 東京都では8月2日に472人の新規陽性者が確認されるなど、200人を超える日が常態化し、他府県でも新規陽性者の増加により、お盆の帰省もままならない事態になってしまいました。こうなると、まだ「巣ごもり」は続きそうですね。 杉山 あくまで増えているのは、検査によって判明した「新規陽性者」であるはずなのに、自然免疫でウイルスに対応できなくなった感染者扱いする雰囲気が続いていますよね。続けている人は変わらず「巣ごもり」しているわけですから、今後も続くでしょうね。 梅田 お二人の周りで、飲み会の誘いは普通にありますか? 杉山 それなりに…行く人は行くようですね(笑)。 私は少人数で短時間なら参加していますが、出ない人は徹底して出ないようですね。はっきり分かれています。もちろん、店では知らない人と距離を取っています。 麻生 お店側がそうしてくれていますよね。使用禁止の席を設けて、間隔を作るように。 私は緊急事態宣言前から、体調をこまめに記録しつつ、特に異変がなくても「自分は無症状の感染者かもしれない」という前提で常に行動し続けていて、基本的にほぼ変わらない生活をしています。 自宅にはもともと来客が多くて、頻繁に仕事関係者や友人、友人の親子を招いていましたが、まだ控えています。緊急事態宣言解除後や、都道府県をまたぐ移動が緩和されたときは、食事のお誘いなども増えたのですが「まだしばらく様子を見ようと思っているので」と伝えました。ウェブ会議システムでの飲み会に参加する女性=2020年4月、千葉県船橋市 近所の方と会えば、立ち話をするくらいですね。例年なら行っていた何組もの家族が集まるバーベキューやパーティーも「まだできないね」って言ってます。 子供も去年までは毎日のように友達を連れてきたり、お邪魔したりしていたのですが、各家庭の方針にもよりますから、お互い誘いづらい様子ですね。「外遊びはOK」という方針の家庭同士なら、遊ばせながら子供たちを見守りつつ、保護者もおしゃべりくらいはできますけれどね。執着心と喪失感 梅田 さて、自粛期間以降、世界は長くエンターテインメントがない時期を過ごしてきましたが、これも欠かせないものでしょうか? 杉山 エンタメがなかった時代ならともかく、私たちは生まれた時からエンタメがあるのが当たり前の暮らしをずっとしてきているので、あったものがなくなると、欠かせないものと思ってしまう。喪失感が大きいのと、禁じられるほど燃え上がるわけです。心理学では、「中断効果」「カリギュラ効果」と呼びますが、禁じられたことでますます執着するようになるんです。 梅田 音楽や舞台、プロスポーツは観客を入れ始めていますが、制限通り観客数は少ないし、大声も出せないし動き回れない。中にはそれを無視する観客もいるようですけど、やはり物足りなさは感じますね。 杉山 音楽もスポーツも、会場にいると場の一体感が凄い。高揚感で快楽物質が出るので、くせになると思うんですよ。要は脳内麻薬ですから、それも依存症になるんです。だから、エンタメの現場に行けないことで禁断症状になっているともいえますね。 でも、会場に行くのは、まだ用心した方がいいと思います。重症者とか死亡者が大きく増加しているわけではないとはいえ、万一感染したときに手立てがない状況は変わってません。私も必要に応じて出勤するときがありますが、電車内でも街中でもみなさん距離を取っているんです。ライブなどを楽しむ人たちも同様にしてもらえたらと思います。 梅田 7月22日から「GoToトラベル」が始まりましたが、感染者が増加している東京は対象外にされました。キャンペーンの実施時期や対象がころころ変わるせいで各道府県も迷いと不安があるようで、いまだに混乱が続いています。 杉山 国がOKと言っていても、基本的にはNGという人が多いように感じますね。日本人遺伝子と絡んだ話になりますが、日本人遺伝子は排他的な遺伝子でもあるんですよ。普段はそんなに強く働かないけど、危機感を感じると排他的になるので、「県外の人は危険」と考えるようになります。 麻生 観光ではないですが、今までの災害ボランティアの状況を聞きますと、現地の方がかえって迷惑したり負担になったりするようなボランティアの方もいるようですね。東日本大震災のときから、各地で災害ボランティアの難しさを被災者側、ボランティア側の双方からお聞きしています。7月に九州で豪雨災害が起きましたが、こういう話も、もしかすると「県外の人は危険」という感覚につながるかもしれませんね。 梅田 今や観光地となった日本では旅館やホテルも危機に瀕しています。倒産がいまだ続いているので、このまま街の風景が変わっていくのではないかと思えます。その喪失感や違和感の影響は人間の心理にどのような影響をもたらすのでしょうか? 杉山 一つは「リロケーションダメージ」という言葉があって、通常は引っ越しなどに伴っての喪失感に当てはまります。災害後に街が変わってしまうのも同様に喪失感が大きい。慣れ親しんだものを失うと喪失感を覚えるので、アフターコロナのリロケーションダメージがこれから増えてくると思うんですよね。 喪失感はだいたい「抑うつ感」をもたらします。そのダメージが強い人と弱い人がいて、強い人は、何かがなくなると新しいものが生まれてくるので、それを楽しめる人はそんなにダメージを受けません。逆に慣れ親しんだものにこだわる人もいます。日本人は慣れ親しんだものを大事にするタイプが相対的に多いんですよ。ちなみに、新しいもの好きな人が多いのはラテン系なんです。日本人は慣れ親しんだものを大事にするタイプが比較的多いので、ダメージを受ける人が多いだろうと予測できますね。「GoToトラベル」初日、栃木県日光市の鬼怒川温泉駅前の足湯でくつろぐ旅行者ら=2020年7月22日 梅田 新型コロナ禍後に関する経済関連の書籍では、今後街並みが変わることを予測しているものが多いような印象を受けます。中でも、東京は大きく変わりそうな気もしますが、東京都下在住の人は変化に慣れているのでしょうか? 杉山 東京人は江戸っ子気質の人は、街はそういうものだと思ってるところはありますよね。江戸時代のお江戸は火事が起こることを前提にした都市計画でした。どんどん燃えてどんどん街が変わるというわけです。だから、江戸っ子気質の人は、既に変化を織り込み済みだと思うんですよね。「新しい働き方様式」 麻生 とはいえ、生粋の江戸っ子は少ないですよね。 杉山 私も東京に30年住んでいますけど、30年では江戸っ子といえません。でも、東京に住んでいると街並みも変わりますし、慣れますよね。下北沢にずっと通っている店があるんですけど、その店がなくなったらリロケーションダメージを受けると思いますね。ダメージを受ける場所と受けない場所を、東京に住んでいる人はどこかで分けていると思うんですよ。ここだけは変わらないでほしいというところはあるんじゃないかな。 梅田 新規陽性者の増加で第2波の到来が恐れられていますが、この状況は人の行動も心の在り方も変えてしまうでしょうか? 杉山 現状は新規陽性者の全国的な増加であって、「感染者の爆発的な増加か?」という意味ではまだ第2波ではないですね。 実は、専門家の間で「第2波」が入国拒否の対象地域にいた人たちが駆け込みで帰国した4月過ぎには、既に来ていたと言われています。それでも日本では98%の人が自然免疫で対応できるから抗体もできないというシミュレーション結果もある。だから、強烈な突然変異がない限り、巷(ちまた)で言われている第2波はもう来ていて、終息に向かっていると私は思っています。 ただ、万が一を考えると突然変異がないとは言えないので、これまで言われているような「3密」を避けるなど、どこまで効果があるか分かりづらくても、感染対策を守る。コロナ禍でよかったのは店や街が清潔になったことで、この方向性はいいと思うんです。清潔な暮らしが、コロナが残したいい所として、これからも続いてほしいですね。 あと、テレワークは結果的に「働き方改革」につながりました。誰も想像しなかった契機だけど、改革の実現に近づきつつあって、これはこれで「新しい生活様式」じゃなくて「新しい働き方様式」へと変わろうとしている。 遅くまでひたすら会社にいるという日本式の働き方がテレワークで変われば、むやみに働かなくても経済活動は可能だし、仕事もできることに気づいたというわけです。もっと効率よく働いて、人生を楽しんでいただければ。 ただ、お金が回らなくなる業種も出てくると思うんです。例えば、オフィス不動産業。知人の会社もテレワークでやれることが分かったっと、オフィスを閉じてしまいました。 だから、お金が回らなくなる業界にしがみつくのはやめましょう。お金が回るマーケットを見つけて、そっちに仕事を拡大することをみんなで考えましょうよと。「スターバックスコーヒーCIRLES銀座店」内にある「Think Lab」が運営するソロワーキングスペース=2020年7月21日(スターバックスコーヒージャパン提供) お金が回るということは、誰かが必要としていて、誰かが幸せにするということですから、お金が回るところにみんなで向かいましょう。言うのは簡単で、やるのは難しいですけどね。 でも、テレワーク専用に空きスペースを貸し出している企業も出てきましたから、本当にたくましいですよね。新しいマーケットが生まれつつあるといえます。休校中にできた「新しい会話」 麻生 私もそう思います。不可抗力で突如余儀なくされた変化、自分の意志ではない変化とはいえ、今は変わる、変えるいい機会だと捉える方がいいでしょう。つらい局面であるとは思いますが、発想の転換をして生き抜いてほしいと願います。ビジネスでも暮らしでも、制限があると人はその中でなんとか工夫しようと知恵を働かせますから。 これだけ社会構造が根底から変わってしまった中で、自分もその変化の波に飲まれるのではなく、乗ってどのように対応していくか。新しい働き方にせよ、暮らし方にせよ、コミュニケーションにせよ、いかにアップデートさせるかという視点が必要でしょう。その意味で今後、人は二分化されていくように感じています。 子供たちに関しては、休校期間中に普段しないような話もできたということもありました。忙しい日々の中で立ち止まる時間ができて、なかなかできていなかったこと、勉強をじっくり見ることができたり、世界情勢や社会に対する子供たちの視点や価値観、考え方に、はっとさせられるような気付きや発見があったり。これは周りの保護者の方々もおっしゃっていました。今世界で起きていることに対しても、例えばイタリアの感染状況が深刻なときにお子さんとスーパーでイタリアの商品を探して買ってみようという保護者もいました。 仕事もICT(情報通信技術)化やAIの技術革新がますます進んで、今ある仕事がなくなっていくともいわれています。でも、変化にいかに適応して新しい時代を生きていくか、既存の職業や価値の枠にとらわれず、どう未来を築いていくか、親として楽しみなところです。 梅田 在宅ワークが増えると、今より父親の役割もだいぶ変わってきそうですね。 杉山 変わってくるでしょうね。ただ、現状では「家で仕事」って無理があるんですよ。父親はこれからどうあるべきかという新しい価値観が生まれてくるのではないでしょうか。 麻生 夫と妻がお互いに求め過ぎないとか、期待し過ぎないとかですかね。また、家の中で物理的に一人になれる自分だけの空間がちょっとあるだけでも違うと思います。一部屋とることが難しくても、間仕切り、突っ張り棒にカーテンやのれんを渡すだけでもいいから区切ったり、誰もタッチしない、関知しない一角を作れると望ましいですよね。家族問題のご相談でもよくお伝えしていることなのですが、精神的距離は物理的距離に比例しますから。※写真はイメージです(ゲッティイメージズ) 杉山 それはすごく大切です。ずっと顔を合わせていると煮詰まるとみんな言いますから。 麻生 ここは誰も触らない、自分だけの世界に入れる場所みたいな。子供部屋は作っても「お父さん部屋」「お母さん部屋」は作りませんよね。これから家造りや不動産関連も変わりそうですね。* * * 次回から2回にわたり、コロナ禍が招いた教育現場の混乱と、未来を見通す中で日本を襲うかもしれない国力の低下について議論する。 すぎやま・たかし 神奈川大人間科学部教授、同大心理相談センター所長、臨床心理士、1級キャリアコンサルティング技能士。昭和45年、山口県生まれ。学習院大大学院人文科学研究科博士課程単位取得退学。心理学専攻博士後期課程単位取得。専門は臨床心理学、応用社会心理学、産業心理学など。心理学オンラインサロン「心理マネジメントLab:幸せになる心の使い方」を主催する。著書に『ウルトラ不倫学』(主婦の友社)など多数。監修書に『マンガでわかる 心理学的に正しいモンスター社員の取扱説明書』(双葉社)。 あそう・まりこ 家族心理ジャーナリスト。昭和52年、福岡県生まれ。出版社勤務などを経て現職。生きづらさの背景として、親子・母子関係に着目。家族問題、母娘関係や子育て、孫育てなどをテーマに取材活動を続ける。そのほかにも家族問題に関する心理相談を行っている。

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    老若男女を翻弄、コロナ下でもはびこる「責任回避マインド」

    杉山崇(神奈川大人間科学部教授)麻生マリ子(家族心理ジャーナリスト)司会・対談構成:梅田勝司(フリーライター、編集者、「PressRoom.jp」記者) 5月の緊急事態宣言の解除前後には、マスコミでも盛んに言われていた「ステップ3」という言葉は、新型コロナウイルス感染拡大の再加速の前に、すっかりかき消されてしまった。東京都の「ステップ3」は、休業要請を3段階で緩和していく「ロードマップ」(行程表)の1ステップだ。カラオケ、バー・スナック、ネットカフェなどの遊興施設やライブハウス、接待を伴う飲食店、さらにマージャン店やパチンコ、遊園地やゲームセンターなど遊戯施設が6月12日から緩和され、19日に全面解除された。 国の「ステップ3」は、イベントや展示会開催などの制限を4段階で緩和する過程の1段階だ。7月10日からプロスポーツやコンサートの参加者数を上限5千人まで、会場の収容人数の50%までに拡大した。しかし、東京など都市部を中心に新規感染者数が拡大したことで8月1日に予定されていた制限解除は撤回された。 制限が緩和されるにつれて、都内の繁華街や昼のオフィス街に人が戻リ始めた。しかし、新宿の劇場でクラスター(感染者集団)が発生するなど、夜の街を中心に陽性者が続出、感染経路不明者も増加している。果たして「ステップ3」の緩和判断は正しかったのだろうか。* * * 梅田 東京都では、新型コロナの陽性が判明した人が連日のように200人を超えていますが、この数字は驚きを持って迎えられましたね。 杉山 いろんな意味で驚きですね。まず、この数字で騒ぐことに少し驚いています。本当に大事なデータは重症者数と死亡者数のはずですが、実は、重症者も死亡者も大きくは増えていない。減っている傾向もありました。その中で、検査の実施件数を5月に比べて2倍から3倍に増やしているんですよね。注目すべきところが違うのではないかと思ってしまいます。 それと、新型コロナでリスクが高いのは高齢者です。死亡者の70%は80代以上ですから。なので、若者を閉じ込める施策ではなく、高齢者を守る施策を進める必要があるのですが、あまり取られていないですよね。高齢者のみなさんは、自分が守られる施策を嫌がるのかなあ…。マスクを着用し、東京都庁で記者会見する東京都の小池百合子知事=2020年4月 麻生 杉山先生のおっしゃる数字のお話は、検査実施数という分母の異なる陽性者の数を単純比較することはナンセンスではないか、という疑問ですよね。それに、私は「感染者数」ではなく、より正確に「陽性判明者数」とした方がよいのではと考えます。それに、人口10万人あたりの陽性判明者数と検査実施数、受診者数や重症者数、死亡者数の推移を、その地域の風土、移動手段や人口密度、産業比などと照らし合わせて考察しないと、単に陽性者数だけに着目して扇情的に論じても…とも感じます。 また、高齢者を守るという点では、高齢者には「大切にされたいけれど、労られたくはない」というアンビバレンスが見られることがままあります。「年寄り扱いをされた」と感じる接し方に抵抗があったり、自尊心を傷付けられたりする人が決して少なくないのです。 これは高齢の親や親族との家族問題、介護問題の相談や、介護現場の方からよく聞かれることですね。もし高齢者を守る施策に当事者が抵抗を感じるとすれば、似たような心理が働いている面もあるのでしょうか。「世代間闘争」無き日本 杉山 それもあるかもしれないですね。それでも万一のリスクが高い人を守る施策、今の状況であれば高齢者への対策が最も効果があるはずで、例えば高齢者と若い人の接触を減らしたりするような対策をとった方がいい。それなのに「若い人が危ない」みたいな世論に持っていこうとしているのを感じます。 そもそも「世代間闘争」、つまりジェネレーション間の闘争は欧米では当たり前なんですよ。一方、日本は世代間闘争がないのが特徴です。とはいえ、実は若い人の不満がくすぶっている。 今の高齢者の年金は徐々に減額されてきたとはいえ、まだまだ手厚いですよね。ところが、私の世代やさらに若い世代は、年金はほとんどもらえないといわれています。企業では、仕事しないベテランのしわ寄せがいっぱい働く若手にきていて、給与格差が倍くらいあるという話もあります。 日本では若い人は表立って上の世代を批判しませんが、実は不満だらけなんです。その中で、若い人たちの不満をさらに積み上げるような施策や報道が続いているのが不安です。 麻生 世代間闘争のお話がありましたが、私は俗に言う「氷河期世代」です。同世代にはそれなりの大学を出ていても非正規雇用だったり、地方では家庭や子供を持つことはおろか、ひとり暮らしすらままならない賃金で自立できずに実家を出たことがない人が、非常に多くいます。 2019年に始まった「就職氷河期世代支援プログラム」によって、地方の役所など主に公的機関から求人の動きが始まった矢先に、新型コロナの問題が起きました。氷河期世代はますます救われないですよね。就職氷河期世代を対象に行われた厚労省の筆記試験=2020年2月2日、東京・霞が関 今の若い世代、特に就職を控えた学生たちも、売り手市場が続いていたところに、コロナのせいで大変な事態に陥っていますよね。そういう世代に対して、温かい目を向ける氷河期世代もいれば、自分たちの報われなさから同じ苦しみを味わえばよいという人たちもいるようですね。 コロナ禍で早期退職を募る企業も増えており、マスコミでも例外ではありません。ある企業では早期退職者募集以前に2、3月時点で中途採用の求人を掛けていました。他社でキャリアを積んだ若手というのは、新卒よりも育成コストが安く、50代以上の在職社員よりも安い給与で、仕事のセンスも若い存在ですからね。人件費削減や、社内体制の刷新が目的なのではと感じました。専門家で「御用会議」? 梅田 もう生涯を一社に捧げるという時代でもなくなってきていますよね。日本で長く続いた年功序列の給与体系も、今回を機に大きく変わりそうですね。 麻生 そうですね。 梅田 政府や自治体の対応に関して言えば、新型コロナ感染症対策分科会(元・専門家会議)には逼迫(ひっぱく)感があります。しかし、政府や都知事などは言葉でごまかして対応が遅い印象で、ダメージを少なく見せている気がします。庶民感覚と明らかに違う為政者の心理はどうなっているんでしょう。 杉山 行政を執行する側としては、「できれば無闇(むやみ)に責任を被りたくない」という心理が働いていると思います。一方で、成果と実績はちゃんと評価されたい。こういう心理はどんな時代でも働いているのではないでしょうか。 専門家会議というのも、要は「御用会議」になりやすいんですよね。学者の中でも「御用学者」と呼ばれる人が多く招聘(しょうへい)され、未知の人はあまり呼ばれないですね。 梅田 政権に近かったり、省庁などからヒアリングされて接触があった学者や識者ですね。 杉山 行政にとって、専門的な部分において自分たちでは責任を取れないという問題がありますね。そこで専門的な部分で責任を取ってくれる専門家が欲しいんですよ。逆に言うと、責任を被ってでも行政に協力したい人が御用学者になるわけですよ。新型コロナ感染症対策分科会の冒頭、あいさつする尾身茂会長(前列中央)。左は加藤勝信厚労相、右は西村康稔経済再生相=2020年7月6日(川口良介撮影) 梅田 ある意味、覚悟を決めている人たちなんですね。 杉山 とはいえ、責任は二重構造になっていて、学者や専門家が責任を取るのは自分の見識に対してです。ただ、その見識を採用して対策を立てる責任は行政にありますが、行政は「専門家の見識に基づいて施策を取りました」と、見識そのものに関しては専門家に責任を預ける。専門家は、自分の専門分野の学識や研究成果に責任を預ける。そういう構造で、うまく行かなかったときの責任を個人に負わせない仕組みになっているのです。日本固有の「責任分散」構造 麻生 専門家の議事録で、発言者を記録していないことが問題になりましたね。 杉山 発言者を記録した議事録もありますが、記録すると委員個人の責任が重くなってしまって、個人に責任を負わせるきっかけになりますね。こうなると委員をやってくれる人がいなくなっちゃうので、最近は少ないみたいです。 企業でもそうなんですけど、日本は基本的に、責任を個人に被せないようになっています。責任を細分、分散させて、組織として責任を取る形が日本は一般的なんです。欧米では、もう少し個人に責任を被せますね。そのかわり、責任に見合った待遇を個人に与えます。 日本の社長は世界的に見れば、給料が非常に安いんですよ。カルロス・ゴーン被告ではないけど、欧米の社長が数億円を手にするのは、万一のときの代償なんです。日本では法律の規定により、総理大臣の年収が約4千万円台になりますが、国のプレジデントという責任の重さを考えれば、安いんですよね。それでも給料が安いのは責任が分散されているからで、責任を取って辞めるということがそうそうない構造になっているわけです。それがいいか悪いかは別ですけどね。 梅田 そんな責任回避ばかりしているから、日本は対策の打ち出しが遅くなっているのでは? 杉山 日本的な責任回避が対策を遅くしている面もあるかもしれませんが、コロナ対応で日本の対策が遅れがちなのは、事態が想定されていないからなんです。米国の対応が早いのは、軍隊の延長線上に感染症対策の組織があるので、生物兵器を敵が使ったときのシミュレーションも対策もできている。でも日本は対策してないし、そもそも憲法上で軍隊がない。「緊急事態宣言」といっても、自粛の要請であって強制できない。実は日本って米国よりも民主的な国なんです。 米国はもともと「ルールは絶対だ」という意識の人が多くない感じがしますね。まずは、ルールが正しいもので納得できるかどうか考える。日本人よりも、自分は自分で守るという発想の国民性のような気がします。一方で、日本人はルールに同一化したい人が多いので、「要請」であっても守ろうとする国民性があるようです。参院予算委で答弁のため挙手する安倍首相=2020年6月11日 梅田 そんな中で、ステップ3が解禁されたそばから、「夜の街」を中心に陽性者が増えましたね。 杉山 「自粛解禁」と言われると、まずやんちゃな人たちから動き出すんですよね(笑)。で、濃厚接触しまくりみたいなやんちゃなことから始める。そうすると、やっぱり拡大するだろうなと。メディアの「高齢者」忖度 梅田 デパートや名所の再開で、オープン前から並んでいる高齢者がよくテレビでインタビューされていますが。 杉山 高齢者でも「やんちゃ」というわけではないけど、自粛が窮屈だったかもしれないですね(笑)。ただ、楽しみがなければ人間は生きられないので、並んで待つ気持ちもすごく分かるんですけど。 高齢者がうちの近くでよくジョギングしてるんですけど、マスクしてないんですよ(笑)。 高齢者ほどウイルスを排出して、人に感染させやすいという研究結果も日本感染症学会で発表されています。しかし、この結果をマスコミはあまり大きく取り上げない感じがします。 麻生 20代を中心に30代、40代へ行動を抑制するように警鐘を鳴らす向きはありますね。経済を支える層でもあるのですが、あたかも彼らがウイルスを媒介し感染を広げているかのような…。※画像はイメージです(ゲッティイメージズ) 杉山 そうなんです。でも、本当にそう断言してもいいのでしょうか。* * * 第4回は少しずつ緩和が進んでいるエンターテインメント業界と人間心理の関係、そして、「夜の街」に関する問題点を心理面から検証していく。 すぎやま・たかし 神奈川大人間科学部教授、同大心理相談センター所長、臨床心理士、1級キャリアコンサルティング技能士。昭和45年、山口県生まれ。学習院大大学院人文科学研究科博士課程単位取得退学。心理学専攻博士後期課程単位取得。専門は臨床心理学、応用社会心理学、産業心理学など。心理学オンラインサロン「心理マネジメントLab:幸せになる心の使い方」を主催する。著書に『ウルトラ不倫学』(主婦の友社)など多数。監修書に『マンガでわかる 心理学的に正しいモンスター社員の取扱説明書』(双葉社)。 あそう・まりこ 家族心理ジャーナリスト。昭和52年、福岡県生まれ。出版社勤務などを経て現職。生きづらさの背景として、親子・母子関係に着目。家族問題、母娘関係や子育て、孫育てなどをテーマに取材活動を続ける。そのほかにも家族問題に関する心理相談を行っている。

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    コロナ苦境に必要な環境メンテと心痛を和らげる「2つの脳」

    杉山崇(神奈川大人間科学部教授)麻生マリ子(家族心理ジャーナリスト)司会・対談構成:梅田勝司(フリーライター、編集者、「PressRoom.jp」記者) 「withコロナ」で強いられる「新しい生活様式」の中、スポーツやエンターテインメントでも観客を入れる試みが戻ってきた。しかし、以前と同じような状態にはまだまだ戻れそうにない。また現在でも、企業破綻や閉店の動きは後を絶たない。人々の不安と緊張感が続き、社会の混乱も収まりそうもない。* * * 梅田 県境をまたぐ移動も自由になり、電車・バスなどで通勤する社会人も戻りつつありますが、在宅ワークを引き続き取り入れている会社も多いようですね。 麻生 大手ゼネコン社員に取材したときに伺ったのは、どうしても社外へ持ち出せないデータや、会社のパソコンにしか入っていない設計関係のソフトウエアなどもあるため、3月から5月にかけても在宅勤務できる日が少しはあったものの、出社せざるを得ない日の方が多かったということです。従業員が個人の携帯端末を業務でも利用するBYOD(Bring Your Own Device)導入へのハードルは、システムを大幅に改善してセキュリティー面も強化すること。そうしなければ解決しない問題だと思います。 梅田 そもそも、日本の企業そのものが在宅ワークを想定していなかった面もありますよね。日本の雇用の70%が中小企業だと言われますが、設備投資を考えれば、IT化そのものが立ち遅れている企業も多そうですね。 麻生 業種によっては、やはりIT化の難しさや遅れが顕著に表れていますね。中小企業でも特にIT化の進みづらい面がある小売や飲食のチェーンでも、IT化やAI技術を駆使した無人店舗の運営を目指し、コロナ禍以前から試験運用を重ねている先進的な企業もあるのですが、多くはありません。  業種や経営者の考え方によるでしょうし、企業間のIT格差は残りそうですね。経営者側や管理職の方のITリテラシーも、在宅ワークやリモート会議の導入を左右するでしょうね。 梅田 会社を創業した高齢経営者は意固地に会社に来ることにこだわりそうな気がしますね。 ※写真はイメージです(ゲッティイメージズ) 杉山 そういったケースも少なくないですね。これは「恒常性錯覚」です。社会心理学の言葉では、「確証バイアス」といいます。自分が知っている、自分が分かっている、慣れ親しんでいるものを確証したい、確認したがるんです。新しい世界や新しい物に対し、非常に心が閉ざされている。年齢が上がるほどこの傾向は強くなります。 心理学では「結晶性知能」とも呼びます。塩の結晶とか雪の結晶をイメージしてください。結晶性知能は、経験の蓄積からこの世界を理解するためのパターンや、ある構造みたいなものを見つけ出して結晶化していく。 経験を結晶化していくと考えてもらえれば分かりやすいと思います。高齢者ほど優秀と言われています。ただ、あくまで結晶なので、柔軟性がないんですよね。心を保つ「環境メンテナンス」 梅田 自分のセオリーに誇りを持っていらっしゃる方ということですね。 杉山 そうですね。だから相手の方は新型コロナウイルスの感染を嫌がってるんだけど、「営業にはとにかく足で稼げ」みたいな自分の成功セオリーを押し付けるわけですよ。 梅田 ワクチンができない時期が長引けば、そんな人がリーダーになっている会社やお店は立ち行かなくなる可能性もあるのでは。 杉山 「withコロナ」「アフターコロナ」だからといって、全てがオンラインに変わるわけではありません。今後縮小するだろうけれど、「ビフォーコロナ」的なマーケティングやマーケットを好む層の範囲内で、その市場をうまく取り込んで事業展開すれば、ビフォーコロナの手法に誇りを持っていらっしゃる方でも生き残れる可能性があるんです。しかし、市場規模は明らかに小さくなるので、小さくなったマーケットを上手につかめるかどうかが勝負になるかなという気がします。 梅田 悩みを抱えていらっしゃる若い経営者や、柔軟さを持ち続けている経営者もたくさんいそうですね。杉山先生は企業の運営や人事のコンサルティング経験もありますが、企業カウンセリングはこれからますます重要になるのではないでしょうか。 杉山 社会保険労務士の資格を持つ知り合いも臨床心理士がいまして、「社長専属カウンセラー」というキャッチコピーで売っていますよ。経営者は結構孤独ですから、忙しくしてます。 社員も含めた企業カウンセリングも当然必要になるでしょう。ところが、そこにお金を出せる企業がどんどん減ってきています。 オンラインでキャリアコンサルティングやカウンセリングを展開している事業所は、その影響を被っています。新型コロナ禍の前はそれなりの契約数があったんですけど、コロナで先行きが見えなくなったせいもあるのか、契約打ち切りやキャンセルが相次いだそうです。本当は必要なときなのに、切り捨てられている。ただ、企業から見れば稼ぐ部門ではないですからね。※写真はイメージです(ゲッティイメージズ) ただし、従業員のメンテナンスを行わない企業は、これから伸び悩むだろうと思います。とはいえ、経営者の気持ちになってみると、まずは財政基盤の安定が先に立つんですよね。 心は環境に反応してどんどん変化していくものなので、心をいい状態に保つには、かなりの環境メンテナンスが必要です。社会人であれば、仕事の中でメンテナンスができれば理想的です。 仕事を通して自尊心の確認や、自分が役に立っていることの確認、それらを周りから評価してもらえるような、自尊心のメンテナンスができていると、いい状態を保てます。しかし、コロナ禍の中で仕事そのものがなくなってしまうと、メンテナンスもできないし、経済的にも困ってくる中では、心も経済も大打撃なんですよね。カウンセリングは安くない 麻生 自分のせいではないので、ある意味不可抗力的ですよね。 杉山 そこで無力感を感じる人はさらに感じてしまうし、今できることは何か考えられる前向きな人は、新しい生き方や新しい仕事、新しい生きがいを見つけられるんでしょうけどね。そこで一番ダメージを受けるのが、受け身のタイプです。よく言われる「命令待ち」の人ですね。自分から何かを仕掛けようとしませんからね。 麻生 それって、組織との一体感に安心する日本人には非常に多いのではないでしょうか? 杉山 そうですね。まさに現在のような状況が苦手な人が日本には多いですね。 梅田 かといって、心療内科やカウンセリングを自分で探して受診するのも少しハードルが高そうですね。 麻生 心療内科や精神科の受診や、カウンセリングを受ける方が急増したというような話は聞かれていないですね。コロナ禍でメンタルの不調を訴える方は確実に増えてはいるのですが、通院や外出による感染リスクが怖いため、受診したくてもできないという声は非常に多く聞かれました。 杉山 それと、カウンセリングって安くないんです。金額に幅がありますけれど、一番安くても5千円、高いと1万5千円くらいになります。仕事が減っていたり、職を失ってしまった人にそんな額を出す余裕はないと思えます。 お金がない人にとって、カウンセリングは行政の支援待ちになってしまいます。業界では、リタイアした臨床心理士が善意でボランティア活動をしたりしています。 麻生 私もコロナ禍で無料電話相談を受けていますが、カウンセリングでも友人への相談でも、話を聞いてもらうだけでちょっと気持ちが楽になることもありますよね。※写真はイメージです(ゲッティイメージズ) 杉山 心の痛みは大脳辺縁系で作られるんですよ。私は「ウマの脳」と呼んでいますけど、この大脳辺縁系は、気分の重さや心の痛みを誰かが共感してくれると活動が緩和します。 話を聞いてもらって、共感されると、気が楽になる。人間の大脳辺縁系が仲間を求める役割を果たしているからです。仲間がいることは、自分が社会的に安全でもあることなので、自分の社会的安全が確認されれば、心の痛みも軽くなっていくわけです。 ただ、共感され慣れてる人と、され慣れてない人がいるんですよ。共感され慣れてない人にしつこく共感すると、嫌がられますね。「外在化」で整理する 麻生 求めるものがクライアント側にもいろいろあって、共感や心情に寄り添うことを求めてる人もいれば、コーチングのように引っ張ってくれるもの、具体的なアドバイスが欲しい人もいますね。同じクライアントでも時々で求めるものも変わりますから、要求も汲み取る必要性がありますよね。 杉山 カウンセリングの話でいえば、ポイントはウマの脳をおとなしくさせることなんです。ウマの脳のほかにも、自分の立場や評価を気にする「サルの脳(内側前頭前野)」、課題達成や計画性を担う「ヒトの脳(外側前頭前野)」があるんですが、人類になってから進化した部分が働き始めると、ウマの脳の働きを緩和してくれるんです。 つまり、助言や提案、アドバイスによってヒトの脳は活性化するんですね。ウマの脳をおとなしくさせ、ヒトの脳を活性化させることで、人は気が楽になリます。この両方を行うのがカウンセリングというわけです。 麻生 近年はカウンセラー登録サイトをビジネスとして運営する企業もあるそうですが、「話すカウンセリング」と「書くカウンリング」では、書くカウンセリングの需要が上がっているようです。 杉山 文字にする行為は、心の中を外に出してみる意味で「外在化」と言うんですけれど、外在化すると、自分と距離を取って見ることができる。そうすると合理的に見えるから、ウマの脳を外に出すことで切り離せます。合理的に考えられないこと考えるときは、だいたいウマの脳が暴走している。これを調整するために文字化して、外在化で整理をするわけです。※写真はイメージです(ゲッティイメージズ) 麻生 確かに文章化する行為だけでも効果がありますよね。頭の中、心の中を文字にして外へ出す。そして、その文章を見る自分がいる。そうして距離を取ることで、自身を客観視できる。いわゆる「メタ認知」ですね。 杉山 あと、オンラインカウンセリングってずっとカメラに向かっていて、しかも自分の顔が映っているから、緊張感もあるし、何より疲れるんですよね。そういう面でも支持されているのかもしれませんね。* * * 社会の混乱が続く中、家族に変化はないか、同僚や部下などにも変調がないか、きちんと向き合っていく必要もありそうだ。次回は、より以前に近い状態を取り戻す「第3ステップ」に進むための問題点を探っていく。 すぎやま・たかし 神奈川大人間科学部教授、同大心理相談センター所長、臨床心理士、1級キャリアコンサルティング技能士。昭和45年、山口県生まれ。学習院大大学院人文科学研究科博士課程単位取得退学。専門は臨床心理学、応用社会心理学、産業心理学など。心理学オンラインサロン「心理マネジメントLab:幸せになる心の使い方」を主催する。著書に『ウルトラ不倫学』(主婦の友社)など多数。監修書に『マンガでわかる 心理学的に正しいモンスター社員の取扱説明書』(双葉社)。 あそう・まりこ 家族心理ジャーナリスト。昭和52年、福岡県生まれ。出版社勤務などを経て現職。生きづらさの背景として、親子・母子関係に着目。家族問題、母娘関係や子育て、孫育てなどをテーマに取材活動を続ける。そのほかにも家族問題に関する心理相談を行っている。

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    コロナ禍でもおとなしい「不安遺伝子」が宿る日本人の拠りどころ

    杉山崇(神奈川大人間科学部教授)麻生マリ子(家族心理ジャーナリスト)司会・対談構成:梅田勝司(フリーライター、編集者、「PressRoom.jp」記者) 新型コロナウイルスの感染拡大は、2020年の世界を大戦期のような事態に追い込んだ。現在も決定的なワクチンの開発には至っていないが、各国は独自の対策で新型コロナと向き合い、7月に入ると、経済活動の再開に向けて動き出した国が日本も含めて増えている。 日本では、事態進行に対策の遅れが指摘されていたが、4月7日に安倍晋三首相が発令を表明した「緊急事態宣言」が、当初予定から約20日後の5月25日まで続き、その間、国民は自粛生活を余儀なくされた。2月25日に出された「新型コロナウイルス感染症対策の基本方針」では、企業にできる限りのテレワークを呼びかけ、各種学校などにも休校を要請し、大半が応じることとなった。 まだ終わりの見えない新型コロナ禍の中で、私たちはこれまで体験したことのない生活を強いられている。感染抑制と経済活動を両立させる「新しい生活様式」の下で新型コロナと共存するには、心を壊さないための知識が求められる。コロナ禍の発生から今までを振り返りながら、心理学者で神奈川大人間科学部教授の杉山崇氏と、家族心理ジャーナリストの麻生マリ子氏に、対談を通して解説してもらう。* * * 杉山 私の勤務する大学の状況は、テレワーク半分、出勤半分です。やはり大学を維持しなければならないですから。テレワークといっても、子供が自宅待機になっている中では難しい方が多いですよね。 学生は8月まで完全オンライン授業です。教職員の出勤について、緊急事態宣言発令の前日までは、中間管理職クラスだと、あくまで要請だから普通に出勤と考えている人が多かったですね。それが一転、発令されたらすぐに大学への入構制限とテレワーク導入を決定しました。それだけ緊急事態宣言は威力があったと思います。 ちょっと話が広がるんですけど、この対応には「同調圧力」を感じました。同調圧力に抵抗すると、イメージも悪くなってしまう。大学に限らず、自社のブランドイメージを気にする企業や店舗などは緊急事態宣言を重く受け止めて、休業や在宅ワークにせざるを得なかったと思います。学童保育に子供を迎えに来た保護者ら。新型コロナウイルスによる臨時休校の影響で、一人親世帯の不安が募っている=2020年3月、大津市 梅田 麻生さんもお子さんがいらっしゃいますけど、大変でしたか? 麻生 現在、学校は再開されていますが、都内はおおむね6月の初めから分散登校が2週間続き、3週目から一斉登校になりました。2月27日夜に一斉休校要請が出て、取材した中ではおおむね翌週の3月2日か3日から休校に入りました。学校再開の時期に地域差はありますが、休校期間は特定警戒都道府県を中心に5月末まで最長3カ月に及んでいます。 休校中の学童保育(以下、学童)も地域や学校ごとに致し方ない差や方針の違いがありました。学童の多くは自治体から民間企業へ委託される半官半民で運営されています。お子さんが学校へ行っている時間帯や、放課後の小学生を対象に地域体験学習と居場所を兼ねた「放課後子ども教室」事業が行われている学校や地域では、その時間をパート勤務や傷病の療養にあてていた家庭もあり、その緊急受け入れをする学童もありました。それに伴う学童の支援員の緊急増員など自治体も大変だったと聞いています。 でも、隣の街に行けば、そもそも学童は常に待機児童を抱えている状態で、そのような対応はできないと言われたり、閉所になっていました。また、預かる学童にしても、医療関係者や生活インフラに関する業務に従事されている家庭や一人親家庭、自宅介護をされている家庭などに限定されていたそうです。そうなると、民間学童や、障害のあるお子さんであれば「放課後等デイサービス」に預けるしかありません。しかし、英会話教室や塾、スポーツクラブの運営する民間学童は、月額8万円ほどかかってしまうという話も取材の中でよく伺いました。社会問題が浮き彫りに 梅田 今は学校への登校も再開され、学童も同様だと思いますが、各種調査によると、出勤再開後も在宅ワークを取り入れる企業も増えてきたようですね。 麻生 取材した中では、この機に在宅やリモートワークを活用していく方向に舵(かじ)を切ったり、併用する企業が多い印象を受けています。出社したとしても時差出勤や分散勤務です。これは業務効率化の問題よりも、やはり新型コロナ禍の影響ですね。 時差出勤や時短という形態をとる企業は、在宅にはできなくても、感染リスクを極力下げるために緊急事態宣言中からその方法を採用していましたよね。コロナがきっかけではあったけれども、効率化にも繋がるから今後も在宅勤務やリモートワークを併用していこうという企業が、最も多いように見受けられますね。 梅田 今回の新型コロナ禍は、これまで放置されていた社会のさまざまな問題を浮き彫りにして、目に見えるような形にしてしまったというか、現象として顕在化させたような印象があるのですが、それに関して思われるところはありますか? 杉山 現代社会には矛盾というか、問題がいっぱいあったんですけど、問題をごまかしながらなんとかやってきたわけです。これまでも、問題が極限に行き着いたら大改革が起きたり、果ては革命や戦争が繰り返されてきましたが、新型コロナ禍のように社会を巻き込むような現象が起こると、一番弱いところに影響が集中してしまいます。 現代社会で最も影響が出るのが、派遣社員・バイトやフリーランスの方たちです。今回、生活や権利を守る社会の仕組みがないまま、政府がその働き方を推奨してきた問題が浮き彫りになりました。※画像はイメージです(ゲッティーイメージズ) 梅田 社会を回していく上で、社会一般の人たちの心理として、弱者は構造的に必要なんでしょうか? 杉山 犠牲はどの社会でも必要としています。古代ギリシャや昔の欧米列強でも奴隷制度がありました。便利に使われてくれる人というか、いろんな矛盾や問題を吸収してくれるような働き方をしてくれる立場の人は、どの社会でも時代でも必要だったということでしょうか。 これはよく言われる立場の上下を取り合う「マウンティング」ではなくて、社会を上手に回すために、臨機応変に柔軟に動いてくれる人が単純に必要なんです。 麻生 非正規雇用者などが社会の調整弁となってしまっていますよね。実際に、ショッピングモールのテナントでパート勤務されていた方は、3月から営業時間が徐々に短縮されていき、就労時間が短くなって収入減を心配していた矢先に、モールの従業員に新型コロナの感染者が出たため、臨時休業になって、翌日から仕事がなくなりました。突然収入が途絶えて、絶望的な気持ちになったそうです。 梅田 それで言えば、休業補償も給付金もまだ全然行き渡ってないですよね。だから休業中も従業員に給料を自腹で払える会社はいいんですけど、そうではないところはもうスタッフを切るしかない。緊急事態宣言前後で雇い止めが問題になりましたが、これは社会的に切り捨てられる人から先に切り捨てられたということでしょうか?デモをしない国民性 杉山 そう言えると思いますが、実際は自腹で休業中の給料を払えない企業の方が日本では多いわけで、実際とあるタクシー会社は一斉に全社員を切りましたね。これは、その間に失業手当をもらってくれ、というアイデアでしたが。 麻生 Uberもフルタイム勤務の従業員を対象に、世界で3千人以上の解雇を5月中に2度行ってますね。計6700人もの大規模な人員削減です。事業所の閉鎖や統合も行われました。コロナ禍で配車サービス事業が80%減少したことが主な理由です。 Uber Japanでも日本進出当初から数々の事業立ち上げに参画してきた日本人社員が解雇された事例もあります。一方巣ごもり消費で、Uber Eatsの配達員が担う仕事量は増加していますが、配達員は独立した一業者としての契約なので、社会的には弱者の立場といえるでしょうか。 梅田 となると、今回の新型コロナ問題では正社員も雇用の危機にさらされている。インターネットでは「おかしいじゃないか」という声が湧き上がっていましたが、時期的な問題もあって大規模デモなどは起きませんでした。米国はお構いなしにデモをやっていますけど。 杉山 日本人は、あまりデモなどで暴れない国民性なんです。まあ昔からですね。江戸時代にデモでもしたら打首ですからね。切り捨て御免の国でしたから。 だから、もともとあまりデモの文化がないというんでしょうか。戦後になってから、学生運動の時代の活動家たちがデモをしていましたが、別にみんながデモをしたというわけではなくて、「ノンポリ」と言われる学生運動に無関心な学生たちがけっこういました。今の日本でデモを起こして何かが変わると思ってない人はけっこう多いかもしれないですね。 というのも、日本人には会社に協力しようとするマインドが働くんです。いわゆる日本人気質というものです。組織に協力的なマインドを持った人しか日本では生き残れなかった。昔は村社会が組織ですから。村社会に協力的な人だけが生き残れる社会だったから、どうしても協力しようとする遺伝的な傾向が働いた。そういうマインドの人が子孫を残してきた結果が現在ですからね。安田講堂が学生らに封鎖された当時の東大本郷キャンパス=1968年7月 といいつつも、大正の近代化以降は、協力的でなくてほぼ村八分になるような一部の人が社会を変えてきたりしてきたんですけどね。でも、大多数はやっぱり村社会に協力的な人たちですよ。そういう遺伝的傾向を持った人が日本人は多いですね。 麻生 米国の方からは「この情勢下で、なぜ日本人はおとなしく暮らしているのか」とまで言われました。 梅田 日本人はあまりお上に逆らわない傾向がたしかにある気がします。SNSで声を上げている人はいて、時々盛り上がることもありますが、日本の根本は変わりませんね。「不安遺伝子」と日本人 杉山 心理学的に説明すると、「不安遺伝子」を持ってる人が世界で最も多い国の一つが日本なんですよ。不安を解消する方法はいろいろありますが、そのうちの一つが大きな組織の一部になってしまうことです。孤立は不安を高めるため、大きな組織と一体感を得ることで、自分が大きくなった気持ちになれる。だから、組織との一体感を求める人は多いです。 不安遺伝子とは別に「チャレンジャー遺伝子」というのがあって、これを持ってる人そのものが日本人では少ない上に、不安遺伝子があるとチャレンジャー遺伝子を働かなくしてしまう。不安遺伝子とチャレンジャー遺伝子学が拮抗して逆に身動きが取れなくなる。 梅田 今回の新型コロナ禍ではマスク不足が続いて、いろいろな企業や工場などがマスク作りに取り組み始めましたが、それはチャンレンジではないんでしょうか? 杉山 社会全体が「命を守れ」をスローガンのようにしているので、「みんなの身を守る」という流れに乗ることで、自分たちが大きくなった気持ちになれると思うんですよ。  何より、それは企業戦略としてマスク製造・販売で名が知られることにもつながるので、不安遺伝子の働きによるものといっていいと思います。 あと、マスク製造自体は、あまりチャレンジにならないですね。作り方は分かっているから、誰もやったことがないことをやるレベルのチャレンジではないんです。分かっていることで確実に結果が出ることやろうというのは、不安遺伝子が大好きなこと。マスク作りをするものづくり企業が増えるのは、日本人的な感覚として間違ってはいないんです。※写真はイメージです(ゲッティーイメージズ)* * * 次回はさらに、コロナ禍で浮き彫りにされた人間関係の心理について読み解く。 すぎやま・たかし 神奈川大人間科学部教授、同大心理相談センター所長、臨床心理士、1級キャリアコンサルティング技能士。昭和45年、山口県生まれ。学習院大大学院人文科学研究科博士課程単位取得退学。専門は臨床心理学、応用社会心理学、産業心理学など。心理学オンラインサロン「心理マネジメントLab:幸せになる心の使い方」を主催する。著書に『ウルトラ不倫学』(主婦の友社)など多数。監修書に『マンガでわかる 心理学的に正しいモンスター社員の取扱説明書』(双葉社)。 あそう・まりこ 家族心理ジャーナリスト。昭和52年、福岡県生まれ。出版社勤務などを経て現職。生きづらさの背景として、親子・母子関係に着目。家族問題、母娘関係や子育て、孫育てなどをテーマに取材活動を続ける。そのほかにも家族問題に関する心理相談を行っている。