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    渋谷すばるに脱退を決断させた「関ジャニ∞」の悲しき事情

    平本淳也(元ジャニーズ所属タレント) 4月15日、「関ジャニ∞(エイト)」が記者会見し、メインボーカルの渋谷すばるが脱退、ジャニーズ事務所からも独立することが発表された。このニュースは大きく報じられたが、筆者からすれば、2年ほど前から聞いていた話であり、「ようやくか」という思いしかない。 雑誌などで渋谷脱退の可能性が報じられて以降、相変わらずメディアは「ジャニーズ王国の崩壊」といった憶測や妄想を膨らませているが、これは的を射ておらず、渋谷の決断の理由はもっと単純だ。 ジャニーズ事務所社長のジャニー喜多川氏がよく言っていたことがある。「タイガース」や「ドリフターズ」は、メンバー全員の名前を全国民が答えられるほどの知名度があり、それこそがスーパースターの証左だと。 では、関ジャニ∞はどうか。渋谷すばる、横山裕、村上信五、丸山隆平、安田章大、錦戸亮、大倉忠義、この中で知名度が高いといえるメンバーは、かろうじて村上ぐらいだろう。コンサートツアーで国内最大規模の動員数を誇るとはいえ、現実はその程度のもので、SMAPや嵐にはあって関ジャニに足りないのもそこだ。 そもそも関ジャニは知っていても「渋谷すばる」を知っている人はどれだけいるのか。村上はバラエティー番組の出演も多く、そこそこ有名だろうが、他のメンバーは、顔は知られていても名前までとなると、ファン以外はさほど知らないだろう。 NHKの大河ドラマ「西郷どん」に出演している錦戸にしても、関ジャニを離れたら「誰だっけ」となっても不思議はなく、本人たちもそれを理解している。関ジャニはSMAPや嵐より稼ぐと言っても、個々のネームバリューは極端に低いのだ。となると、「このままでいいのか」という不安は日々増幅していくものだ。 渋谷は10年も前からアーティストとして本格的な音楽に取り組み、ソロやバンドの活動も行ってきた。もちろん、関ジャニやジャニーズの看板があってできることだが、逆に「足かせ」になってできないことも多々ある。記者会見に臨んだ「関ジャニ∞」の渋谷すばる=2018年4月、東京都港区 あくまでも関ジャニとしてのグループ活動が優先であり、スポーツでいえば個人の成績よりチームの勝利が重要だからだ。関ジャニに帰属する個々の活動はできるが、そうでない場合は許されない。 やりたいことができないわけではないが、物理的に時間がないのだ。普通の会社に置き換えれば、1日8時間の就労と往復の通勤時間、加えて家に仕事を持ち帰ることもあり、それ以上別の仕事をやろうと思えば難しい。 グループでの活動は歌やダンスに楽器など、「仕事」は膨大にある。さらにテレビやラジオ出演があり、ツアーもある。この繰り返しの中で、年齢の問題が刻々と迫ってくる。 当たり前だが、30代後半となれば人生の岐路だ。新たなことにチャレンジするにはギリギリだと思ったのだろう。安定を求めて関ジャニで活動するか、過酷ではあるが本当に自分の能力が生かせる仕事を追求するか。 こうした現状がある中で、渋谷も36歳の大人として一つの決断をしただけだ。確かに関ジャニというグループの存在は大きいが、現状以上はもう期待できない。そこから脱皮したいなら、関ジャニを卒業するしかなかったのだ。「高齢化」する人気ジャニーズタレント では、なぜこのタイミングかを考えれば、関ジャニが絶頂期にある時を選択したにすぎない。先にも述べたが、関ジャニは知られていても「渋谷すばる」個人では限界がある。コンサートツアーも決まった中での脱退といった注目度が高い分「今」というタイミングは申し分ない。 渋谷個人に限界があるとはいえ、2億円を超える年収があり、ブレーンやスポンサーの算段も背景にあることは間違いない。ただ、こうした環境が整っているからといって、アイドルグループからの脱退のタイミングは思うほど簡単ではない。他のジャニーズ所属のグループにもよくあるが、メンバーの不祥事などで逆風がいつ何時吹くかわからないというリスクもあるからだ。 ではなぜ、渋谷はジャニーズ事務所に残った上でのソロ活動を選択しなかったのか。それは、ジャニーズでソロは売れないし、売る気もないのが90年代からのポリシーになっているからだ。 光GENJIの絶頂期を経てソロデビューした諸星和己もそうだったが、いずれも売れているといった域に達しておらず、むしろジャニーズのブランドレベルでは失敗例だろう。 最近で言えば、NEWSから離れてソロに転じた山下智久もよい例だ。今一つといった感がぬぐえない状況に、「山下のようになりたいか?」という思いが強いのだ。もちろん、キムタクや中居正広らは別格であり、同格で考えるわけにはいかない。 そして、今回の渋谷脱退騒動で興味深いのは、やはり関ジャニメンバーそろっての記者会見だろう。 ただ、これはジャニー喜多川氏が明言している「大人の決断を尊重する」といった企業としての姿勢の表れだ。もちろん、SMAPの時のようなゴチャゴチャした面倒にならぬよう最善を尽くした結果ではある。渋谷すばるの脱退について会見する関ジャニ∞のメンバーら=2018年4月、東京都港区 ゆえに、冒頭でも記したが、今回の騒動に「ジャニーズ王国の崩壊」といった意味合いはない。そしてSMAPの解散であったようなメンバー同士の衝突や不仲があるわけでもない。 不仲があったとしても、グループ内のいざこざは少なからずあり、それが脱退まで発展したと報じるメディアは無責任な憶測だ。ただ、あてえジャニーズに課題があるとすれば、人気グループの「高齢化」だろう。 当然だが、人気グループのメンバーらはいつまでも子供じゃない。長年続けていれば、立場や将来を考えるようになる。ジャニーズやグループでずっと安定を求めるか、自分の才能を信じてステップアップするか、どちらを取るかメンバーそれぞれで考えが分かれるだろう。 筆者は関ジャニ以外のグループでも、渋谷同様の決断を模索しているメンバーがいると聞いている。この状況を鑑みれば、再び渋谷のような騒動が起きても、不思議ではないのである。

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    【太田房江特別寄稿】大相撲「女人禁制」 私の解決策

    太田房江(参院議員) 京都府舞鶴市で4月4日に行われた大相撲春巡業の際に起きた、土俵の「女人禁制」問題は今も尾を引き、日々ワイドショーで取り上げられている。これは、私が大阪府知事に就任した2000年から8年間、「大阪場所での府知事賞は自分の手で優勝力士に渡したい」と発言したことが発端になっている。また現在、私が自民党女性局長を務めている立場から、この問題について改めて再考したい。 今回の問題は、舞鶴市の多々見良三市長が土俵上で倒れ、観客と思われる女性数人が心臓マッサージなどを施し、必死の救命措置が行われている最中に起きた。その際、繰り返し流れた「女性の方は土俵から降りて下さい」という場内放送が不適切であったことは、直後に日本相撲協会の八角理事長(元横綱北勝海)が謝罪した通りであり、この相撲協会の対応は的確だったと評価している。「人命」と「伝統」とでは、「人命」が重いことに疑う余地はない。 私は、この件に関するマスコミの取材には「勇気を持って土俵に上がり、『降りて下さい』のアナウンスが何度も流れる中で、必死に人命救助に当たられた女性を、同じ女性として誇りに思い、拍手を送る」と答えた。これは正直な感想である。 ただ、表彰などで女性が土俵に上がって良いかどうかは、こうした緊急時の対応とは別に熟考すべき問題である。大阪府知事として8年間、8回にわたって、相撲協会に「今回はいかがでしょうか」と問いかけを行ったのも、「日本の伝統」と「女性活躍」という社会の変化について、多くの方に考えていただく契機にしてもらいたいと思ったからであり、どうしても土俵に上がりたかったという訳ではない。 横綱審議委員も務め、東北大学大学院で大相撲の研究をした脚本家の内館牧子氏によれば、「土俵は聖域」であり、そこが「女人禁制」であることを理解する知性と品性が必要、と述べている。もともとは、中国において仏教徒の修行の場を囲み、修行僧の心を乱す障害物が入らないように「区切った」ことが始まり、とも説明していた。女人禁制の寺院が、日本で今も残っているのは、その流れだろうか。大阪場所で優勝した貴闘力関に楯を贈呈する太田房江・大阪府知事(当時)= 2001年2月28日  この他にも、昔は炭鉱で石炭を掘るための坑道や、石油を採取する海上のリグ(掘削装置)などにも女性は立ち入りできなかった。私は旧通産省(経済産業省)の出身だが、1986年、初の女性局長として札幌通商産業局長となった先輩の坂本春生(はるみ)氏が、その伝統を変えて仕事のために坑道に入った時には、心の中で拍手を送ったものだ。 このように、「男性が命を懸けて戦う」、あるいは「男性が集中力を絶やしてはいけない区域」には、女性が入ることができない歴史は、様々な分野に存在してきた。これらを前提に、女性が表彰のために土俵に上がることを、女性総理が近い将来誕生するかもしれない現代にどう考えるべきか。伝統と女性を両立させる方策があった 内館牧子氏は、ある取材(2007年2月)にこう答えている。「どうしても女人禁制を止めるなら、力士、親方、行司、呼び出し以外の人間は、男女とも神送りの儀式を済ませた後の土俵に上げることです。千秋楽の式次第を変え、神送りの後に表彰式セレモニーとする案です。でも、私はそこまでする必要はないと思っています」 私が大阪府知事時代、部下の女性が、解決の道がないか調べてくれたことがあるが、同じような答えだったと記憶している。千秋楽の弓取り式が、内館氏の言う「神送り」に当たると彼女は言っていた。従って、弓取り式の後は女性が土俵に上がっても問題はない。神は天上にお上がりになって、土俵には宿っておられないから、というものだったと思う。京都府舞鶴市の大相撲春巡業で、倒れた多々見良三市長を救おうと土俵で救命処置を行う女性 (ユーチューブより)  あの時は、それを相撲協会に提案する勇気はなかったが、あれから10年たって、女性総理も現実味がある時代を迎え、改めて「伝統」と「女性」を両立させる方策はこれしかないのか、と思い始めた。「緊急時」と「知事や市長など国民が選んだ女性が、力士の表彰を行う場合」には、神送りの後に一定の間「女人禁制」を解く、というものである。 舞鶴市での様々な状況を見ると、「女人禁制」は相撲界に永く、深く浸み入った伝統であり、そう簡単に変えられる問題ではないということはよく分かっている。 ただ、今、多くの課題に取り組もうとしている相撲協会は、常に国民の目線を忘れず、一つ一つの問題に説明責任を果たしていく必要がある。もちろん、それが「こういう理由で出来ません」というものであっても良い。国民に向かって説明する、明らかにすることが大事だ。 大相撲は、①神事であり、②スポーツであり、③伝統文化であり、④興行であり、⑤国技であり、⑥公益財団法人である。この6つを認識しバランスを取りながら、一つ一つ丁寧に説明していく。その姿勢が大相撲に対する国民からの信頼を取り戻すことにつながるのではないだろうか。一相撲ファンとしても、そう願いつつ、「勇気を出して」提案する次第である。

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    「首相の訪朝を実現する」詐欺師と同じ日本置き去り論に警戒せよ

    重村智計(東京通信大教授) 南北首脳会談が4月27日に開催されることが決まった。5月中には米朝首脳会談が行われる予定である。これに先立つ形で、北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長は3月末に中国を訪問し、習近平国家主席と首脳会談を行った。 この動きを受けて、日本政府の「置き去り」「乗り遅れ」を主張する報道や論調が多い。中には、便乗して「私が平壌につなぐ」「首相の訪朝を実現する」と売り込み、首相官邸周辺を徘徊する「詐欺師」まで現れた。 しかし、日本で金委員長に直接つながる個人や組織など99%いない。そんなチャンネルがあれば、とっくに機能しているだろう。北系団体や親北政治家、運動組織の多くは嘘つきだ。民主党政権時代、官邸はこの手の「詐欺師」に多額の「機密費」を騙し取られてしまった。 「置き去り」や「乗り遅れ」を唱える論者は、真実を隠す「北の手先」なのだろうか。さもなくば「朝鮮半島の国際政治」を知らず、「日本への愛情」もない人たちといわざるを得ない。 かつて、1990年の「金丸訪朝団」をはじめとして、渡辺美智雄氏(95年)、森喜朗氏(97年)、飛鳥田一雄氏(77年)など与野党の指導的政治家が、北朝鮮を競って訪問した。だが、結局コメなどを北朝鮮に「援助」として奪われただけで、日本の成果は何も残っていない。その「成果なき訪朝」を動かしたのは「乗り遅れ」と「置き去り」の声だったのである。だから「置き去り」論は「戦略的歴史観」に欠けている。 朝鮮半島に軍事的、政治的に深く関与すると、日本は必ず大敗北することを歴史は教えてくれた。7世紀の白村江の戦いや、豊臣秀吉による文禄・慶長の役は歴史的大敗北に終わった。中国が必ず介入するからだ。近代に入っても、日清、日露の戦勝後は帝国主義的植民地化の失敗により、韓国と北朝鮮からいまだに恨まれ、日韓・日朝外交も混迷したままだ。1990年9月、会談の冒頭、「金丸訪朝団」の金丸信元副総理(左)と田辺誠・社会党副委員長と握手する北朝鮮の金日成主席 しかしながら、朝鮮戦争に直接参加しなかった戦後の日本は、「朝鮮特需」により経済復興という利益を手にしたのである。この教訓は非常に重い。 実は、中朝首脳会談において、報道も専門家も見落とした一節がある。「朝鮮半島情勢は重要な変化も起きている。情義の上でも道義の上でも、私は時を移さず、習近平総書記同志と対面して状況を報告すべきだった」。中国外務省の公表文には、金委員長のこの発言があった。 この発言は「これまで中国を訪問せず申し訳なかった」という金委員長の謝罪である。「情義」「道義」という言葉にも、「義理と人情を忘れていた」とのお詫びが込められている。「時を移さず、状況を報告すべきだった」ということから、北朝鮮が南北首脳会談と米朝首脳会談を中国側に事前説明しなかった事実が読み取れる。 また、夕食会でのあいさつで、金委員長はこうも述べている。「両国関係を継承・発展させる一念で、中国を電撃的に訪問した。我々の訪問提案を快諾した習近平国家主席に感謝する」。特に「訪問を受け入れた習近平主席に感謝する」との言葉には、中国がようやく訪問を許した、との真実がうかがえる。中国は「核放棄を約束するまで訪問させない」との方針を示していたとされるが、金委員長の言葉により、くしくも裏付けられた格好である。「巻き込み外交」の天才 では、習主席はなぜ「金正恩電撃訪中」に応じたのか。それはひとえに「トランプの背信」にある。トランプ大統領は、大統領選中に中国に対して激しい非難を繰り返したが、就任後は一転して「米中友好」に切り替えている。 それが、中国製品への大幅な関税引き上げで「貿易戦争」に方針を変えた。中国はトランプ大統領の「敵対政策」復活を敏感に受け止め、「対北朝鮮政策では協力できない」と米国に反撃に出たのである。 一方で、トランプ大統領は、大統領選でのロシアによる選挙干渉疑惑の捜査の行方を心配している。メディアと世論の関心を他に向けるために、米朝首脳会談に即座に応じたわけである。韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領にしても、支持率回復と憲法改正によって政権の延命を図り、北朝鮮を支援するために南北会談の求めに応じた。言い換えれば、米朝の「仲介役」を演じているのである。要するに、金委員長や習主席をはじめ、トランプ大統領も文大統領も、それぞれが政治的問題を抱えているから首脳会談に応じたのである。 とりわけ、朝鮮半島の国家は「乗り遅れ」論を流すことで、周辺の大国を外交競争に引きずり込む戦略を展開する。まさに「巻き込み外交」の天才だ。例えば、米ソ冷戦が終結した1990年9月に、旧ソ連は密かに「ソ韓国交正常化」を北朝鮮に伝えていた。 何も知らない日本は、金丸信元副総理を団長、田辺誠社会党副委員長を副団長として訪朝し、日朝国交正常化や経済支援を約束する羽目になった。国家崩壊を恐れた北朝鮮が日本に画策した「巻き込み外交」が成功したのである。 北朝鮮は冷戦時代、大国の対立を利用し、中ソの間を行き来する「振り子外交」を得意としていた。だから、今でも周辺諸国に「乗り遅れ懸念」を撒き散らす。南北関係が悪化すれば米朝交渉に向かい、米朝がダメとなれば日本に秋波を送ることを繰り返したのである。 南北関係と米朝関係、中朝関係、露朝関係が同時に友好であることはなかった。つまり、南北首脳会談も米朝首脳会談も「簡単に成功するとは限らない」、この戦略的視点が大切である。米朝首脳会談の焦点は「北朝鮮の核放棄」「在韓米軍撤退」「米朝平和条約」「対北制裁の解除」、この4つの外交カードをどのように組み合わせた合意ができるかだ。極めて難しい交渉であり、決裂の可能性もある。2018年3月26日、北京の人民大会堂で中国の習近平国家主席(右)と握手する北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長(朝鮮中央通信撮影・共同) ただし、日本にとって朝鮮半島に関わらない政策が「戦略的」だとしても、拉致された日本人の救出は急務だ。そのためには日朝首脳会談が欠かせない。日本は、拉致問題と核問題を切り離した交渉に持ち込むのが望ましい。安倍晋三首相は4月中旬の訪米でトランプ大統領に対し、米朝首脳会談で拉致問題の解決を議題にさせ、核問題と切り離した日朝首脳会談の実現を改めて求める必要がある。 拉致問題はなぜ解決しないのか。2002年、当時の小泉純一郎首相と金正日(キム・ジョンイル)総書記の間で行われた日朝首脳会談で、日本側が「拉致被害者全員の帰国」「北朝鮮の主権侵害」を主張しなかったからだ。北朝鮮高官によると、日本の交渉責任者は「拉致被害者の安否情報」だけを求め、「全員帰国」を要求しなかったという。「国交正常化後の拉致被害者の段階的帰国でいい」という方針だったらしい。 過去の国際政治から、北朝鮮は必ず「日本に近づく」という教訓を残した。日本は拉致問題解決のために、日朝首脳会談を、欧米の首脳やプーチン大統領、習主席など大国の首脳に常に働きかけ、国連決議に盛り込むことが大切である。

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    【和田政宗独占手記】森友問題「メディアリンチ」と私は断固戦う

    和田政宗(参院議員) 3月2日の朝日新聞朝刊での財務省による「文書書き換え疑惑」報道から約1カ月。 佐川宣寿前理財局長の証人喚問により、安倍首相や首相夫人、首相官邸が書き換えに関与も指示もしていないことや、学校法人森友学園(大阪市)の国有地取引に全く関与していないことが明確になった。 しかし、依然はっきりしないのは、誰がいつどのような理由で書き換えを指示したのか、なぜ止められなかったのか。また、3月2日の報道以後、書き換えの事実を公表するまで、なぜ10日も時間がかかったのかという点である。 その点を明らかにするため、私は3月19日の参院予算委員会で太田充理財局長に質問を行った。その中でのやりとりの一部が下記のように新聞でも報じられたが、ワイドショーなどでは、私の質問が切り取られた形で放送され、一方的に批判された。 学校法人「森友学園」の国有地売却をめぐる財務省の決裁文書改竄(かいざん)問題について、自民党の和田政宗参院議員は19日の参院予算委員会集中審議で、改竄の経緯などを答弁している太田充理財局長について「まさかとは思うが」と前置きしたうえで、太田氏が旧民主党政権時代に野田佳彦前首相の秘書官を務めていたことを指摘し「増税派だからアベノミクスを潰すために安倍晋三政権をおとしめるため、意図的に変な答弁してるのでないか」とただした。 太田氏は「私は公務員としてお仕えした方に一生懸命お仕えするのが仕事なんで、それをやられると、さすがにいくらなんでもそんなつもりは全くありません。それはいくら何でも、それはいくらなんでもご容赦ください」と色をなして反論した。 (産経新聞 2018.3.19) 太田理財局長に対する個人攻撃とも取られかねない部分については取り消すとともに、3月26日には太田理財局長に会い、率直に私の気持ちを伝えた。この面会は予算委員会前の短い時間であったので、改めて場を設定し太田理財局長とお話をすることになっている。詳細についてお話できるのはその後になると思う。参院予算委で質問する和田政宗議員=2018年3月19日 19日の私の太田理財局長への質問は、以下の点を確認するためのものだった。 書き換え前の文書が存在することは、3月10日未明に大阪地検に押収されていた資料を財務省が持ち帰ってきたことで明確に判明した。つまり、書き換えの事実が分かる客観的証拠は検察が持っていたということになる。2日付朝日新聞朝刊の「森友文書書き換え」報道は、検察リーク説と財務省リーク説が囁かれているが、「よもや財務省のリークではないですね?」という点をあえて確認したのである。 そしてもう一つは、書き換え報道のあった2日朝の時点で、財務省は書き換えを把握していたのではないかという点である。人間性すら否定するメディアリンチ 2日朝、財務省は参院自民党会派に対し、「本省の指示により文書が書き換えられたとの報道について」と説明したが、朝日新聞の報道は「本省の指示によって書き換えられた」とは一行も書いていない。また、書き換えた人物は理財局内に存在する。財務省が使っている文書管理システムで検索すれば文書が書き換えられていることは一目瞭然であり、検索そのものも簡単にできる。パソコンにログインすれば数クリックで該当文書にたどり着くのである。 以上のことから「太田理財局長は一生懸命答弁してくれているが、そこに一部メディアで切り取られかねない発言も入っている」と懸念を述べた上で、「まさかとは思いますが」と留保をつけ、このままでは財務省に意図的に調査を遅らせているように取られかねない、安倍政権に立ち向かっているとも取られかねない、と説明を求めるための質問だった。 太田理財局長の答弁は、これらを否定するもので、さすがだなと思った。ただ、2日朝の時点で書き換えを把握していたかについては依然、財務省は言葉を濁し、明確な答えを述べない。 昨年2月の森友問題の報道から今回の書き換え疑惑が報道された後も、私は一貫して理財局を守る立場で行動してきたし、理財局の職員とも何度も何度も話してきた。しかし、書き換えを行っていたとは私でも想像だにせず、怒りというより「何でこんなことをしたんだ」という失望の方が大きかった。 財務省には徹底的な調査を求めるとともに、佐川前理財局長が「事後報告を受けたが、私は指示していない」と話しているという毎日新聞などの報道もあることから、佐川前理財局長一人に責任を押しつけることなく、誰がどのような理由で書き換えを指示したのか、また書き換えの事実をいつ把握し、なぜ公表が遅れたのか。財務省はその理由をしっかりと説明すべきである。衆院予算委員会での証人喚問で質問に聞き入る佐川宣寿前国税庁長官=2018年3月27日、国会(納冨康撮影) そして、一連のワイドショーの私に対する一方的な批判であるが、私に取材に来た番組は一つもない。なぜ私があのような質問をしたのかについて、自分の意見や説明も紹介されていない。事実に基づいた批判であれば、政治家として甘んじて受けるが、事実に基づかず人間性すら否定する一方的なコメントは、論評の域を超えた誹謗(ひぼう)と中傷でしかない。 まさに「メディアリンチ」ともいう状態であり、名誉を毀損(きそん)した番組や週刊誌に対しては断固たる措置を取るために、名誉毀損訴訟に強い弁護士と協議に入った。 特に、フジテレビ系情報番組『バイキング』については、私に対する汚い言葉や事実に基づかない誹謗中傷が過ぎており、視聴者からも番組内容について批判が相次いでいる。この番組の司会者に関するWikipedia(ウィキペディア)の書き換えがあったことについて、iRONNA編集部よりコメントを求められているが、私は詳細を知らない。ただ、本人に関わる情報で、知られたくなかったり、公表されたくないものについては配慮がなされるべきであると思う。どんな困難があっても安倍政権を支える こうした中、私に対するメディアリンチに便乗したとみられる人物が、私と家族に対する殺害予告、事務所に対する爆破殺害予告を新聞社2社にメールで送ってきた。 その内容は極めておぞましいものであるし、こうした政治に対するテロは絶対に許されるものではなく、断固として戦わなくてはならない。しかも、このメールは細工が施されており、ただの愉快犯ではなく何らかの組織が便乗して私をバッシングするためにやっている可能性も、決してゼロとは言えない。 そして、ワイドショーなどの一部メディアは、物事の本質を無視した「言葉狩り」になっており、ここ最近のメディアの劣化は著しいと言わざるを得ない。国民の知る権利に寄与するという理念より、むしろ視聴率や部数など利益優先になっているからである。 実は歴史上、過去にも同じようなことがあった。満州事変の際の若槻礼次郎内閣の不拡大方針を「弱腰」と批判し、その姿勢を覆させたのは、新聞主要全紙によるリンチにも近い書きぶりだった。私は、民族独立の観点から満州国建国は重要であったと思うが、関東軍、朝鮮軍の越権行動は当時においても許容されるものでなかった。しかし、それを覆したのは「戦争や事変が起これば新聞が売れる」と自らの利益優先で、事態拡大を後押しする新聞であった。 今こそ過去の歴史に学び、メディアはそのあり方を正しい形に変えるべきである。国民も声を上げなければ、メディアの劣化はさらに進む。参院予算委員会で民進党の大野元裕氏(右手前)の質問に答弁する安倍晋三首相。奥前列左は財務省の太田充理財局長 =2018年3月19日、国会・参院第1委員会室(斎藤良雄撮影) 安倍政権は、家庭の貧富の差によって教育の格差が生まれないようにする、待機児童は徹底的に解消することなど、極めて国民に優しい政策を打っているのに、これまでメディアはほとんど報道せず、強権との印象を強調して批判を繰り返した。森友学園への国有地取引に首相も首相夫人も関与していないことが明確になっても、さも関与しているのではないかと印象報道を連日続けている。  森友問題の焦点は、財務省がなぜどういった理由で文書の書き換えをしたのか、法令に則っているものの、森友学園側と近畿財務局との国有地取引交渉に何があったのか、である。こうした点をなぜメディアは追わないのか。 安倍政権は、民主党政権時代のどん底の経済状況から、デフレ脱却、国民生活を豊かにするために戦っている。安倍首相の外交は、首脳会談国数、会談数においても歴代首相と比べても圧倒的に多く、世界の外交のトップリーダーとして各国と交渉できることによって日本の平和も守られている。 安倍政権がしっかりと続くことが、ひいては国民の幸せにつながる。どんな困難があっても私はしっかりと安倍政権を支えていく。

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    習近平先生の怒りを買った「悪ガキ」金正恩の大チョンボ

    重村智計(早稲田大名誉教授) 北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長が突然、中国を訪問した。メディアは電撃訪問に驚き、「中朝関係改善」「(米朝首脳会談へ)中国の支援確保」といった北朝鮮の「外交勝利」とみるコメントや報道を並べた。だが、外交問題は双方の立場を確認しないと危険だ。同じ報道や解説を掲げるのは、ただの「大本営発表」である。他とは違う報道や解説をしないと専門家の意味はない。 中朝双方の報道機関は、28日午前に「中朝首脳会談」を報道した。中国国営新華社通信は「(金委員長は)非核化への努力を約束した」と報じた。一方で北朝鮮は「非核化の約束」を報じなかった。それどころか、政府の公式発表もない「冷たい中朝首脳会談」だった。 中国側の報道映像は、習近平国家主席が余裕を持って対応し、金委員長がメモを取る姿を映し出した。この映像は「先生」のように指示する習主席の言葉に、「生徒」のような北朝鮮指導者が聞き入る姿を強調していた。 日本の新聞、テレビは28日の朝刊で「金正恩訪中」を確認できなかった。産経新聞だけが「電撃訪中」の見出しを掲げた。「正恩氏? 突然の訪中」(朝日)「訪中の情報」(日経)「訪中の要人 金正恩氏か」(毎日)「初の訪中か」(読売)と、いずれも曖昧な見出しだった。別の言い方をすれば、産経以外は「特オチ」である。日本メディアの確認取材の能力が欠如しているというしかない。 最近の日本メディアは、韓国の報道や韓国政府発表に頼りすぎている。独自の取材源を持っていないようだ。かたや、中国の報道関係者や当局者は知っていた。中国の対応からは、誰が見ても「金正恩訪中」しかないと判断できたはずである。北京駅(奥)に入る北朝鮮の要人を乗せたとみられる車列=2018年3月27日(共同) 電撃訪中の焦点は「中国に呼びつけられた」のか、「中国がお願いして来てもらったのか」である。朝鮮問題の専門家や記者は「中国が頭を下げた」との見方が大勢を占めるが、これまたおかしな話だ。最近の北朝鮮に対する中国の怒りや、中朝関係の過去の経緯を知らないはずもあるまい。北朝鮮は、南北首脳会談や米朝首脳会談について、事前に中国に説明してこなかった。中国はメンツを傷つけられ、怒っていたのである。 最近の中朝関係は最悪の状態だった。中国は、北朝鮮による昨年の核実験に失望し、国連制裁に同調して多量の石油禁輸を実行していた。北朝鮮の報道機関は、あからさまに中国を非難していた。 中国は東アジアの超大国であり、北朝鮮は小国だ。中国が北朝鮮に頭を下げたのではなく、北朝鮮が中国に呼びつけられたと考える方が真実に近いだろう。この判断をテレビで示したのは、元外交官の宮家邦彦氏ぐらいであり、さすがは中国外交を知り尽くす専門家である。 今回の電撃訪中でまず考えるべきは、それが公式訪中か非公式訪中か、という判断だが、今回は明らかに非公式だった。仮に公式訪中であれば、中国は歓迎式典を行うだろうし、メディア向けに報道文も発表し、中国メディアも大きく報道していたはずである。そして、最後に中国は「お土産」を準備し、北朝鮮側はそれを誇示する。しかし、今回の場合、金委員長の訪問は秘密裡に行われ、北京を出発した後も公式発表は行われていない。 中国と北朝鮮は、ともにメンツを重んじる国である。習主席と会談したのに、石油などの経済支援を獲得できなければ、指導者は大義名分とメンツを失う。首脳会談を前に、日米韓三国への中国による牽制(けんせい)と北朝鮮への支援確保が目的、との解説もあった。仮にそうならば、大々的に公表して報道しなければ意味がない。「非核化に努力する」の意味 また、メディアは「北朝鮮の指導者が中国を電撃訪問したのは2000年以来18年ぶり」と歴史的意義を強調した。実は2000年以降にも、電撃訪中を繰り返している。例えば、2005年の米国による金融制裁を受けて、北朝鮮はマカオの銀行の秘密口座から資金を引き出せなくなった。それに慌てた金正日(キム・ジョンイル)総書記が電撃訪中し、マカオ近くまで長時間列車で移動した。このときは、中国当局と交渉したが失敗したと報じられた。要するに、北朝鮮は困り果てたから電撃訪中したのである。 中国は、金委員長の訪中を北朝鮮に帰国するまで発表しなかった。指導者が国を空けてといると分かると、クーデターの危険があったからだ。また、列車の往来で爆破テロの恐れもあった。これは北朝鮮内部が決して安定していない事実を示唆している。 北朝鮮は南北首脳会談の合意と米朝首脳会談の提案を事前に中国に説明していなかった、と中国政府筋は明らかにしていた。国際関係が大きく変化する際には、事前に説明するのが外交上の礼儀である。中国は当然、説明のための特使派遣を求めた。一方で、北朝鮮筋によると、平壌では「中国側から特使を派遣したいとの申し入れがあった」との噂が意図的に流されたという。事実はまったく逆であったようだ。 普通に考えれば、南北首脳会談と米朝首脳会談の発表直後に、中朝首脳会談が実現するのが理想である。それが発表から1カ月もかかったというのは、中朝の調整がうまくいかなかった証左であろう。では、なぜ金委員長は電撃訪中をせざる得なくなったのか。中国政府筋によると、中国は北朝鮮に「送油施設の故障で、半年ほど原油を送れない」と通告したという。石油供給を中断したのである。 さらに、北朝鮮は米朝首脳会談の事前接触がうまくいっていない事実にも困り果てていたという。トランプ米大統領は、軍事攻撃を主張していたボルトン元国連大使を国家安全保障担当の大統領補佐官に任命するなど、その後も軍事攻撃を示唆する言動を続けていたからである。 北朝鮮の歴代指導者は、就任前と就任後には必ず訪中していた。ところが、金委員長は就任以来一度も訪中できなかった。習主席が金委員長を快く思っていなかったことが原因らしい。北京の人民大会堂で握手する北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長(左)と中国の習近平国家主席(新華社=共同) そのため、中国は国連制裁に従い、石油供給を減少させた。その上で、北朝鮮に「非核化」を約束しないと首脳会談は難しいと伝えていた、と中国政府高官は述べている。 中国メディアは会談で「朝鮮半島の非核化に努力する」と約束したと報じた。しかし、かつて金日成(キム・イルソン)主席も金総書記も用いたこの表現は、韓国の非核化も意味する。だが、韓国に核兵器はないので実効性を伴わない。実は、会談の中で金委員長が一歩踏み込んで「朝鮮半島」の言葉を外し、単に「非核化に努力する」と言及したのではないだろうか。これは北朝鮮の非核化を約束したに等しい。つまり、北朝鮮指導者の「最大限の譲歩」を意味しているのである。

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    「ポンキッキ、やめるのやめた!」と言えないフジテレビの苦悩

    影山貴彦(同志社女子大メディア創造学科教授) 『ポンキッキ』が終わってしまった。「ガチャピンやムックにもう会えないのか?」と一瞬不安になったが、版権はフジテレビが今後も所有するということで、イベントやCMを通して、これからも姿は見られるようだ。 ただ、私は同番組の放送終了について強く反対である。何より視聴者のため、そして今後のフジテレビのためにも、番組としての『ポンキッキーズ』の看板を残すべきだと思う。 フジの看板番組として長く続いた『めちゃ×2イケてるッ!』や『とんねるずのみなさんのおかげでした』をこの春で幕引きしたことと、『ポンキッキーズ』の件を同列で語るべきではなかろう。むろん、『めちゃイケ』や『みなさん』についても、その終了を惜しむ声は多く聞かれる。 私自身、両番組を楽しんできた視聴者の一人であるし、自らの青春時代を懐かしく思い出したりもする。だが、そうした感情とともに、新しい時代を創り出すために幕を引く必要性の強いものがある。また、その一方で時代を超えて守り続けることが組織にとって何より大切なこともある。『めちゃイケ』と『みなさん』は前者、『ポンキッキーズ』は後者であろう。『ポンキッキ』の人気キャラ、ガチャピン(左)とムック=2014年4月撮影 ここで、筆者のプロデューサー時代のささやかな経験を少しお話ししたい。かつて仕事柄、何人もの出演者に「卒業」を打診した。「卒業通知」といえば響きはいいが、「降板通告」である。プロデューサーの仕事として最もつらいのは、出演者やスタッフのクビを切ることだ。その際、常に心掛けていたことがあった。マネジャーと話すだけではなく、必ず本人と向き合う時間を設けてきた。大多数が素直に受け止めてくれたが、時に不平不満や嫌味なことを言う人、ひたすら涙を流す人もいた。 随分前の話になるが、あるタレントに「降板通告」した数日後、「夜道を歩くときは気ぃつけろと、ダンナに言うとけっ!」と脅迫まがいの電話が自宅にかかってきたことがあった。このとき私は不在だったが、電話に出た妻は放送、芸能の世界と全く関係ない人間ということもあり、少し動揺していた。「大丈夫やからっ!」と少々大きめの声を出し、心配する妻を安心させたことを今でもよく覚えている。本来の仕事から「逃げる」プロデューサー 幸い、その電話以降何事もなかった。「降板通告」したタレントが所属する事務所関係者が電話してきたのか、全く関係のないイタズラ電話だったのか、今となっては定かではない。出来の悪いプロデューサーだったが、厄介なことから「逃げ」なかったという少しばかりの自負はある。2014年11月、東京・大手町のイベントで、「スパリゾートハワイアンズ」からやってきたフラガールズと一緒にフラダンスを披露したガチャピン(寺河内美奈撮影) タレントたちとあまり密なコミュニケーションを取らない局の社員プロデューサーが、昨今テレビ界に少なからずいるという。それが事実であるならば、今後は一層、一部のプロダクションの人間や放送作家のみが大物タレントと密な関係を持つことになりかねない。それはフジテレビに限らず、テレビ局全体にとって決して好ましいことではない。 局のプロデューサーでありながら、出演者や芸能事務所との人間関係も希薄となれば、大物出演者を切ったり、番組を終了させる作業もスムーズに進まない。ただ、言うまでもなく、出演者や番組は杓子(しゃくし)定規に変えればいいというものではない。 演者やスタッフたちとしっかり人間関係を構築した人間が、その局にどれほどいるかによって番組作りはうまく流れてゆく。作り手と演者がなれ合いになってしまうことと、人間関係を構築させることとは異質のことだ。もちろん、大物タレントの「イエスマン」でしかない局プロデューサーも時にはいる。それは仕事をしているのではない。本来の仕事から「逃げ」ているのである。 さて、フジテレビである。フジが少々長めの苦戦を強いられている理由はいくつかあるだろうが、その一つは番組改編のタイミングを誤ってきたからであろう。「まだいける」「もう少し大丈夫」というファジーな思い込みと、波風を立てたくないという消極的な「逃げ」の姿勢が重なり合い、傷が深くなってしまった感は否めない。 時代を先取り、流行を作り上げたイケてるテレビ局だったはずが、いつの間にか多くの人々から、時代の空気を読むことが苦手で、ブームの後追いをする局というイメージが色濃くついてしまった感がある。テレビに限らず、組織にとってイメージは驚くほど重要である。「分からないから、やらない」からの転換 今、優秀な若手社員たちの「攻めたい姿勢」に対し、トップが「ストップ」をかけてはいないか気になっている。攻めの姿勢で成果を上げ続けた人が、地位を得た途端に保身に走るという単純な図式ではないかもしれない。でも、社会の経済状況やコンプライアンスを隠れみのに、冒険を好まなくなってはいないだろうか。口先では「新しいことにチャレンジしろ!」と言いながら、若手からの企画・提案を受け止められずにいるのではないか。体力のみならず、感性も年老いたことを認めたがらない上層部が少なくないのではないか。 もうお気づきだろうが、これらもフジだけの話ではない。実は各局に当てはまることだ。「分からないから、やらない」ではなく、「自分が分からないからこそ、面白そう」と発想を転換させることが今、テレビのトップに求められる資質だろう。 最後に話を冒頭の『ポンキッキ』に戻す。なぜ『ポンキッキ』は終了させるべきではなかったのか。それは現在の視聴者たちの反応を見て分かるように、「文化」の色合いが極めて強いからである。フジテレビにとって同番組は、ランドマークのような存在なのである。 正直なところ、今この文章を読んでいる人の多くも、ここしばらく日常的に『ポンキッキ』を見ていた人は多くないかもしれない。それでも、番組終了を耳にし、この上ない喪失感を抱いていることだろう。「文化」とはそういうものだ。前述の通り、フジテレビがいま最も大切にしなければならないのは、ステーションイメージだ。コストカットのみを優先し、イメージを落としては元も子もないし、ガチャピンもムックも報われまい。守ることでイメージを維持し、アップさせられることもある。 今からでも間に合う。『ポンキッキ』は放送終了ではなく、しばらくの休止扱いとすべきである。そして、秋辺りからフジテレビ制作陣が力を結集し、『ポンキッキーズ』を地上波で復活させてはどうだろう。視聴者のニーズとの乖離(かいり)が進み、苦戦を強いられているフジテレビだが、こうした状況がこれほど長く続くほど脆弱(ぜいじゃく)なステーションではないはずだ。メディアの世界にかかわる人間の中には、「フジテレビに元気でいてもらわないと!」とエールを送る人々が数多い。フジの苦しみは、他局にも通じている。2017年3月、神戸市消防局の特別隊長に任命されたガチャピン あっと驚くことを成し遂げるのが同局の持ち味だったはずだ。「ポンキッキーズ、やめるのやめました!」そんな元来のフジらしい発表を筆者は心待ちにしている。

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    「#韓国人になりたい」インスタ女子はなぜ急増したのか

    鈴木朋子(ITジャーナリスト) 「#韓国人になりたい」――若い女性に人気のSNS「インスタグラム」で、こんなキーワードが流行していることをご存じだろうか。「#○○」という風に、「#(半角シャープ)」に続いてキーワードを付ける「ハッシュタグ」は、SNSでキーワード検索をする際に使用できる機能なのだが、執筆時点で「#韓国人になりたい」を付けた投稿は9951件にも上る。一方で、「#アメリカ人になりたい」は256件、「#フランス人になりたい」は158件だ。 この違いは何なのか。彼女たちは本当に韓国人になりたいのか。 政治的な側面から見れば、慰安婦問題や竹島問題などを抱える日韓関係は冷え込んだままだ。その韓国に国籍を移したいのか、あるいは韓国に移住したいのかと疑問を感じる人もいるだろう。 しかし、彼女たちがイメージする韓国は、大人のそれとはまったく異なるのだ。 振り返れば、大ヒットした韓国ドラマ『冬のソナタ』に代表される第1次韓流ブーム、少女時代や東方神起などK-POPアイドルによる第2次韓流ブームがあった。ドラマ、ミュージックと韓流ブームには中心となるカルチャーがあるのだが、現在は韓国のファッションを基点とした韓流ブームが巻き起こっている。韓国女性9人組、少女時代=2012年11月13日、東京・代々木第一体育館( 栗原智恵子撮影) 10代を中心とした若い女性たちにはやっているのは、「オルチャンメイク」だ。「オルグル(=顔)」に「チャン(=最高)」を組み合わせた「オルチャン」がしているメークという意味で、数年前から高い支持を得ている。オルチャンメイクの特徴は、平行した太めの眉、垂れ目風に仕上げたアイライン、涙袋の強調、赤い口紅、陶器のように真っ白な肌だ。さらにシースルーバングと呼ばれる、おでこが少し見える薄めの前髪で、韓国語で「タンバルモリ」というショートヘアやおかっぱ頭との組み合わせが多い。 オルチャンメイクの方法を指南したYouTube(ユーチューブ)動画は多数アップロードされており、ある女子高生は毎日チェックしているという。韓国コスメも「安くて質がいい」と人気が高い。 服装に関しても同様で、自身のファッションコーディネートを投稿する「WEAR」というアプリ内では、「韓国ファッション」をキーワードにしたコーディネートが3万件以上存在する。韓国ファッションはK-POPのアイドルがしていそうな、体の線が出るミニスカートやパンツスタイルが多く、若い男性の投稿も多い。 さらに、先ほど「K-POPは第2次韓流ブーム」と書いたが、現在もK-POPアイドルの人気は高まっている。昨年、NHK紅白歌合戦に出演した「TWICE」をご存じだろうか。韓国で結成された9人組の女性グループで、メンバーには韓国人のほかに日本人と中国人が含まれている。彼女たちは小学生女子や中学生男子にも人気があり、彼らのSNSにはTWICEのポーズである「TTポーズ(手をアルファベットのTにして泣き顔にする)」や指を重ねる小さなハートポーズを撮った自撮りが並ぶ。女子高生が韓国に熱狂するワケ 先日取材した女子高生は、「防弾少年団(ぼうだんしょうねんだん)」という、韓国のヒップホップアイドルグループが好きだと言っていた。他には、「exo(エクソ)」という男性アイドルグループや、女性グループ「BLACKPINK」が人気だという。韓国語でファンのことを「ペン」というので、防弾少年団(韓国語でバンタンソニョンダン)のファンは「バンタンペン」となる。10代の利用率が高いTwitter(ツイッター)で「バンタンペン」を検索すると、ハングルで自分の名前を表記している若い女性のアカウントが多数ヒットする。 彼女たちはハングルをネットで勉強するそうだ。韓流好きの女子高生に聞いたところ、ハングルは○などが入っていて「かわいい」と感じるようだ。「推し(好きなアイドル)が同じ」人とはTwitterで知り合い、韓国関連のショップが多い新大久保で待ち合わせて、ショッピングやおしゃべりを楽しんでいる。 韓国へ友人同士で旅行に行く女子高生もいる。韓国はアルバイト代をためればすぐに行ける国だからだ。ネットの動画で韓国語を学んでいるため、現地でも苦労することはない。韓国グルメを味わい、コスメや服を購入して帰路につく。 これほどまでに若い女性たちが韓国に熱狂する理由のひとつは、「センスが近しい」からだろう。「オルチャンメイク」は、日本で爆発的に人気になった「SNOW」や「BeautyPlus」といった自撮りアプリの加工後の顔と似たような、幼いかわいらしさを強調しており、日本人の「カワイイ文化」にも共通する。昨年12月2日、香港で、音楽授賞式「2016 Mnet Asian Music Awards」に参加し、ポーズをとるK-POPグループ「Twice」(AP) インスタグラム人気も相乗効果を上げている。「インスタ映え」が流行語大賞を取った日本では、若い女性のインスタグラムユーザーが急増している。インスタグラムには使っているコスメを並べて写真を撮る文化があるのだが、韓国のコスメはプリンセス感があふれる外装で、インスタ映えするのだ。また、韓国の街にはインスタグラム向けのスポットも多いそうで、インスタ女子の人気を集めている。ファッションに関心が高いユーザーが集まるインスタグラムでの韓流ブームが、彼女たちをさらに盛り上げているのだ。 外国という神秘感と、それでもまねしやすいカルチャーが、若い世代の心をつかんでいるのだろう。国家間の思惑と別の潮流が、日韓の間を進行している。

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    『コロコロコミック』販売中止、サヨクに屈した外務省は恥を知れ

    中宮崇(サヨクウォッチャー)ナチスが最初共産主義者を攻撃したとき、私は声をあげなかった私は共産主義者ではなかったから社会民主主義者が牢獄に入れられたとき、私は声をあげなかった私は社会民主主義ではなかったから彼らが労働組合員たちを攻撃したとき、私は声をあげなかった私は労働組合員ではなかったからそして、彼らが私を攻撃したとき私のために声をあげる者は、誰一人残っていなかった 反ナチス運動指導者マルティン・ニーメラーの有名な詩である。今まさに日本で、ナチスならぬサヨクから、共産主義者ならぬ漫画がそうした攻撃を受けている。 小学館の子供漫画雑誌『コロコロコミック』におけるチンギス・ハーン落書き事件に関して、主にサヨク諸氏からの言論弾圧、いや中国顔負けの人権抑圧が目に余る。もっとも、しばき隊、SEALDsなど、彼らサヨクが「人間じゃねぇ! たたっ斬る!」と本屋に押しかけ、気に入らない本を「焚書(ふんしょ)」するという姿を普段から散々見せられている者としては、当然の反応と言うべきか。 彼らは人権等の正義を騙(かた)る、その実ただの中国政府そっくりな弾圧者にすぎない。「やりすぎイタズラくん」が掲載されている月刊コロコロコミック3月号 しかし、そういったエセ左翼にすぎない人々と違い、まじめな左翼は今回の事件に関してまっとうな見解を表明している。例えば「『丸山眞男』をひっぱたきたい--31歳、フリーター。希望は、戦争」で知られる赤木智弘氏は「チンギスハン揶揄は守られるべき」と題した論考を発表し、この問題を主に人権面から丁寧に分析している。左右を問わず、まともな人権感覚をもつ現代人であれば、文句のつけようのない内容であろう。 ところが、このようなまともな人権感覚を持たないのが一部のサヨクである。 彼らは戦後一貫して現在に至るまで「外患誘致」「告げ口プロパガンダ」戦法がお得意である。反日のためにフェイクニュースを垂れ流し、息を吐くように嘘をつく「ならず者」をまともに相手にする日本人なんてそうそういない。一線を越えた外務省 そのことは彼ら自身がよく分かっているので、海外の非政府組織(NGO)やマスコミ、国連、そして中国や韓国、北朝鮮などの人権抑圧国家を利用し、「世界市民様は愚かな日本人どもをこう言って批判しておられますぞ!」という錦の御旗、いやフェイクニュースをクリエイトし、それを口実にして日本人を攻撃し、寄付を集め活動資金とする。 慰安婦問題などはその典型であるし、最近では「秋葉原には児童ポルノや児童買春があふれている」というデタラメを海外に垂れ流して国連組織などを悪用し、漫画規制や言論弾圧を図る団体も話題になった。 こうした事実からすると、今回の事件のポイントは、外務省の対応である。朝日新聞の報道をみる限り、外務省は「日本国民の権利を擁護する」という職責を放棄し、海外政府の出先機関、いや手先機関に堕したとしか言いようがない。 記事によれば、日本外務省によると、来日中のモンゴル外相と日本の国会議員による23日の会合に同行した外務省職員に対してモンゴル側から抗議があり、同省は小学館に連絡した。 朝日新聞 2018年2月23日 と言うのだ。なんと外国の政府による一民間組織に対する「抗議」に対し、外務省は「うちは自由と民主主義の国なんで、そんな筋の通らんこと言われても知りまへんで」とはねつけるどころか、唯々諾々(いいだくだく)としてその抗議を小学館に伝え、いわば言論弾圧に加担したということらしい。小学館前で「月刊コロコロコミック」にチンギスハンを侮辱する漫画を載せたとして、抗議する在日モンゴル人ら 2018年2月26日、東京都千代田区 どこの国に、そんな手先機関の役所が存在するというのか。考えてみれば、外務省はこれまでもそうであった。特に「チャイナスクール」(外務省の中国語研修組出身者)と呼ばれる中国シンパの存在は、かつて慰安婦問題や南京大虐殺、政府開発援助(ODA)などにおいて日本の国益をむしばみ、中国や北朝鮮などの利益のために活動してきた外務省の象徴という批判もあった。 かつて外務省アジア大洋州局長だった槙田邦彦氏が拉致問題に対して「たった10人のことで国交正常化が止まっていいのか」と発言し、問題になっただけではない。左翼はチャンスを見逃さない 2002年に中国で発生した「瀋陽総領事館北朝鮮人亡命者駆け込み事件」、いわゆる「ハンミちゃん事件」においては、中国武装警察がウィーン条約を無視して日本領事館に押し込み、ハンミちゃん一家を乱暴に連れ去ったのに対し、なんと外務省職員は抗議するどころか武装警察の帽子を拾い、媚(こび)を売るような姿が放映されて批判を受けた。 こんな組織であるから、中国や韓国政府等がこれまで日本の「右派」を名指しで弾圧してきた際にも、日本人の生命や権利を擁護するどころか、冷淡極まりない態度に終止した例が多数見られた。そこに今回の「抗議口添え」である。 外務省は一線を越えた。これまでも十分、日本人のことなど眼中にない、結構とんでもない組織であったが、完全に常軌を逸したのだ。従来から海外に「告げ口プロパガンダ」をしてきた一部のサヨクは、このチャンスを見逃さないであろう。彼らは自分たちの気に入らない「ネトウヨ」「右翼」を弾圧するために、中国や韓国を焚き付けて日本の外務省に「抗議」させ、今回のような出版中止等の営業妨害に悪用するかもしれない。いや、このままでは必ずそうなる。 もし、こんな人権侵害が許されるというなら、立場を置き換えて考えて見るとよい。 日本も韓国外務省に対し「日本大使館前に慰安婦像を設置するなど言語道断だ!」として抗議し、それを韓国外務省が突っぱねず、ソウル市や韓国挺身隊問題対策協議会に唯々諾々と伝えたらどうなるか。ただでさえ反日で有名な韓国のこと、必ずや日本人の生命財産が危険にさらされることになるだろう。そして、もし10人の日本人が殺されても、日本の外務省はそれを冷淡に「たった10人のこと」と言い放つのかもしれない。外務省庁舎=東京・霞が関 われわれ日本人が今回の問題を看過し、外務省の体質を改めずにサヨクの横暴を放置すれば、将来必ずこんな詩が囁(ささや)かれることになるであろう。サヨクが漫画家を攻撃したとき、私は声をあげなかった私は漫画家ではなかったからそして、彼らが私を攻撃したとき私のために声をあげる者は、誰一人残っていなかった

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    新燃岳噴火は前兆か 「スーパー南海地震」は2年以内に起こる

    高橋学(立命館大環太平洋文明研究センター教授)                       2011年3月11日に東北日本を襲った東北地方・太平洋沖地震(東日本大震災)から7年が経過した。ゆえに東日本大震災は過去のものとして、メディア、行政、住民などの間では「復興」に話題の中心がシフトしてきている。だが、本当にそれだけでいいのだろうか。筆者には、はなはだ疑問に思われる。 なぜならすでに新燃岳の火山活動が活発化しており、筆者は、直下型地震、プレート型地震、火山噴火との間に密接な関係があると考えているからだ。そもそも、これら3つの現象を引き起こすのは、東北日本の場合、北米プレートとその下にもぐり込む太平洋プレート、西南日本の場合にはユーラシアプレートとその下にもぐり込むフィリピン海プレート4枚のプレートの動きがカギを握っている。そこから導き出せる結論は、新燃岳の噴火などは、筆者が「南海トラフ地震」を四国沖—東海沖地震に範囲を限定せず、「スーパー南海地震」と呼ぶ巨大地震の前兆であり、2020年の東京五輪までに起きる可能性が極めて高いということだ。 「スーパー南海地震」は名古屋や大阪などの大都市に津波がおよぶため、筆者の推計では、津波などによる死者と行方不明者が47万人以上にのぼるとみられ、日本はこの巨大地震に備え、その到来を覚悟しなければならない。 では、これらのプレートや火山の動きを5つのステージごとに確認し、「スーパー南海地震」や火山の大規模噴火が起きるメカニズムを検証してみよう。 まず、「ステージ1」である。相対的に上にあるプレート(東北日本の場合=北米プレート、西南日本の場合=ユーラシアプレート)が、もぐり込むプレート(東北日本の場合=太平洋プレート、南西日本の場合=フィリピン海プレート)の圧縮で歪(ひず)み、限界を超えると直下型地震が発生する。直下型地震では揺れの周期が約1秒であり、一戸建て住宅が倒壊しやすく「キラーパルス」ともいわれる。 1896年に岐阜県根尾谷を震源として発生した濃尾地震では、岐阜市、大垣市、一宮市周辺において、住宅倒壊率が80~100%であった。このステージに発生した直下型地震として、1995年の兵庫県南部地震(阪神大震災M7・3)や、2000年の鳥取県西部地震(M7・3)などがある。 「ステージ2」は、もぐり込むプレートが相対的に上にあるプレートのマグマだまりを圧縮し、火山が噴火する。この時、マグマが噴出したり、水蒸気爆発が起きたりする従来知られている火口からかは定かでない。このステージではマグマだまりにあるマグマが出きってしまえば、噴火は休止する。噴火は比較的短期間で小規模である。 ただし、噴火口近くに観光客などがいて被害がでる恐れはある。地震とその被害である震災とが違うように、噴火と火山災害も同じではない。今年起きたフィリピンのマヨン山噴火や2011年前後からの阿蘇山、霧島新燃岳、桜島の噴火、14年の木曽御嶽山噴火などがこれにあたる。噴煙を上げる宮崎、鹿児島県境の霧島連山・新燃岳=2018年3月2日 桜島の噴火活動に注目すると、波打ちながらも2005年まで減少し一時ほとんど停止した。しかし、その後反転し、東日本大震災の起きた11年に噴火回数が観測史上最多の1355回に達した。ただ、15年10月にはユーラシアプレートの中のマグマたまりにマグマがほとんど無くなり噴火が停止した。そして、17年3月になると再び噴火が起きるようになったのである。 これまで、西南日本が位置するユーラシアプレートでは、フィリピン海プレートの影響を受けるだけで、太平洋プレートの影響を受けるとは考えられていなかった。しかし、上記のようにフィリピン海プレート自体の動きも太平洋プレートの影響を受けているし、ユーラシアプレートの火山活動にも間接的に関与していると思われる。「スーパー南海地震」は近い 次に「ステージ3a」であるが、表1に示したように、相対的に上にあるプレートで歪に耐えかねて、比較的大規模な直下型地震が発生する。1943年の鳥取地震、2008年の岩手・宮城内陸地震、16年の熊本地震、鳥取県中部地震などがこれにあたる。同年に韓国で起きた慶州地震、17年の浦項(ポハン)地震はユーラシアプレートの歪が大きく、通常、地震の少ない韓国においてすら活断層が活動したことを示している。また、フィリピン海プレートの圧縮を受けるフィリピン地震(17年)、台湾地震(18年)も同様なメカニズムによる地震である。 さらに、熊本地震を、東アジアという視点でみるならば、アリューシャン列島、カムチャッカ半島などから熊本を経てフィリピン、パプアニューギニア、ソロモン諸島方面まで、同日に規模の比較的大きな地震が発生したことは意外に知られていない。この日の地震は熊本にとどまるものではなかったのである。 しかし、メディアは、熊本と大分に限定して地震の状況を発表していた。阿蘇山を挟んで西側と東側に震源を持つ地震は、日本最大の活断層である中央構造線と関係することは明白であった。放送する映像の範囲をやや広域にとるだけで、西は鹿児島県の川内(せんだい)原発が、東は愛媛県伊方原発が視野に入ってくるのを意図的に避けたと思わざるを得ない。現在の西南日本はこのステージに属する。 筆者が「南海トラフ地震」を「スーパー南海地震」と呼んでいるのは、フィリピン—台湾—琉球列島—南海—東南海—東海に広がるフィリピン海プレートとユーラシアプレートの接触する範囲全体を視野に入れているからである。1944年の昭和東南海地震(M8・2)や46年の昭和南海地震(M8・0)というプレート型地震の前に43年に発生した昭和鳥取地震(M7・2)や45年に発生した昭和三河地震(M6・8)などがこのステージにあたると考えられる。 東日本大震災の3年前に起きた岩手・宮城内陸地震や、その後の熊本地震、韓国の慶州(キョンジュ)地震、鳥取県中部地震、韓国の浦項地震などは、「スーパー南海地震」の前段階にあたる。ユーラシアプレートの歪は、すでに韓国南東部まで及んでいる。ゆえに、経験則によれば、「ステージ3a」からプレート型地震まではおよそ3年。「スーパー南海地震」は、2020年の東京五輪までに発生する可能性が高いのである。 次に「ステージ3b」をみてみよう。東日本大震災のように、太平洋プレートに引きずり込まれていた北米プレートが跳ねあがり、巨大地震と津波を生じさせるのがこのステージだ。西南日本では、1944年に昭和東南海地震、46年に昭和南海地震が発生したが、この時、東海沖地震は発生しなかった。長年にわたって東海地震が注目され続けたのは、これがいつか起きると想定されていたためである。 しかし、地震考古学者、寒川旭氏の研究によれば、南海地震、東南海地震、東海地震の3つが常に起きていたわけではないことが明らかにされている。南海、東南海しか地震が起きない場合と、全部が地震を起こす場合が交互に繰り返してきたらしい。この次は西南日本で少なくとも3つの地震が連動する可能性が高いという。 ただ、プレート型地震は揺れの周期が約5秒と長く、高層・超高層ビルは大きく揺れるが、一戸建住宅の倒壊は少ない。1944年の昭和東南海地震の場合、濃尾平野の南西端の最も軟弱地盤が約90メートルと厚いところでも倒したのは5~10%であった。プレート型地震の被害は津波によるものが大部分を占めるのである。見過ごしがちな前兆 そして「ステージ4a」は、現在の東北日本の状態である。陸側プレートの跳ね上がりにより、プレート間の固着域が少なくなり、海側プレートの沈み込む速度が速くなる。東日本大震災の場合、太平洋プレートの沈み込み速度は地震前の年間10センチから、年間30~40センチに加速した。そして、太平洋プレートは深さ200~500キロに到達し、溶けて大量のマグマが生成されている。 このステージでは火山の噴火が再び生じるが、今度の噴火はマグマが大量に生成されているために、噴煙が1万メートルの成層圏まで達する爆発的噴火になると考えられる。プレート型地震であった明治三陸地震(1886年)の後には会津磐梯山(1888年)が大噴火した。また、東北地方・太平洋地震の影響で、カムチャッカ半島から千島列島にかけてシベルチ山、クリュチュシュコア山、ベズイミアニ山、カンバルニー山、エベコ山など5つの火山が爆発的噴火を起こしている。 現在、東北日本では、浅間山、草津白根山、蔵王などで火山活動の活発化が認められるものの、まだ、本格的な火山活動は起きていない。しかし、これまでに観測されたM8・5以上のプレート型地震のほとんどで大規模な火山活動を伴っていることを忘れてはいけない。前述した熊本地震のように、日本という国の範囲だけで地震や火山活動などをみていると、重要なポイントを見過ごしかねないのである。草津白根山の本白根山が噴火し、火山灰で覆われた山頂付近=2018年1月、群馬県草津町 たとえば、1960年のバルデビア地震では地震の2日後に、コルドン・カウジェ山が、49日後にはペテロア山、54日後にはトゥプンガティト山、7カ月後にカルブコ山が次々と噴火し風下のアルゼンチンで大きな被害が生じた。また、2010年2月にチリ中部のビオビオ州で発生したマウレ地震(M8・8)でも、最大到達標高30メートルの津波が発生し、同年6月にはコルドン・カウジェ山、11年6月にはプジェウエ山、15年3月にはビジャリカ山、4月にはカルブコ山などが噴火し、巨大地震と火山活動との間に密接な関係があると推測される。 最後に「ステージ4b」では、太平洋プレートの沈み込み速度が数倍にも加速したことで、東側に続くプレートが追従できず正断層が生じる「アウターライズ型」地震が起きる。東北日本では、もう一度発生し大きな揺れとともに津波が発生する可能性がある。明治三陸地震(1896年)に対して昭和三陸地震(1933年)はアウターライズ型地震であった。巨大地震は予知できる この時は、37年と長い時間がかかった。しかし、インド洋大津波を起こしたスマトラ・アンダマン地震(2004年)の場合、8年後にアウターライズ型地震が生じている。東日本大震災から7年たち、カムチャッカ半島や千島列島で火山の爆発的噴火が起きている状況の中で、東北日本でアウターライズ型地震が発生するのは時間の問題であろう。 仮に、このアウターライズ型地震で津波が東京湾に来た場合、東京駅、有楽町駅、品川駅周辺や銀座、築地、豊洲をはじめ下町地域を中心に水没の恐れが高い。その範囲は群馬県館林まで及ぶ可能性がある。また地上から地下街や地下鉄への階段の傾斜は約30度であり、深さ10センの水が流入するだけで年配者や女性は手すりにつかまっても階段を登れない。30センチの水では屈強な青年男性でも階段を上ることは不可能となる。 大阪でも中心市街地は津波におそわれる地域である。また、東京ディズニーランドや大阪のユニバーサル・スタジオ・ジャパン、名古屋のレゴランドなど多くの観光客が集まるところでの津波に襲われやすい場所での対策は極めて重要である。 これまでステージごとに関連性を見てきたが、巨大地震は突然起きるものではないことがわかるだろう。約2万人の人命を奪った津波が起きた東日本大震災の発生前に注目すれば、2008年6月に岩手・宮城内陸地震が発生。10年9月からは福島県中通りで、10月からは上越地方で直下型地震が頻発した。そして、11年3月9日から三陸沖を震源とした地震が連続的に起きていた。地元の研究者はこれが本震であると誤解しメディアを通して情報が流れた。 ところが、3月11日にM9・0の地震が起き、大規模な津波が東北地方太平洋岸を中心に発生したのである。また、宮城県栗原市で震度7の揺れが記録され、揺れは非常に広域に及んだ。しかし、その周期は約5秒と長かったため、地震そのものによる住宅倒壊は少なかったのだ。他方、臨海部の地盤沈下(約50センチ)と高さ21・1メートルの津波(最大遡上高43・3メートル)が生じ、臨海部で人口の1%から最大9%の死者と行方不明者が出た。東日本大震災 津波で流された住宅 =2011年3月、仙台市若林区(本社ヘリから) そしてその総数は約2万人を数えた。その後、震源は茨城県沖や福島県沖へと移動し、東京電力福島原発での事故などが問題をより深刻なものにしたのである。さらに、3月12日になると、震源は長野県北部や新潟県上・中越地方へと移っていった。このような震源の移動は、この地域で発生する地震のクセのようなものである。 東日本大震災はしばしば869(貞観11)年に似ており、千年に一度の地震であったと言われるが、1896年に発生したプレート型地震である明治三陸地震の場合も死者と行方不明者は約2万2千人であり、大船渡市綾里湾で津波の遡上高は38・2メートルであった。震災の規模としては明治三陸地震もよく似ている。決して千年に一度の地震ではない。 なお、1960年のチリ・バルデビア地震も、本震の前にM8・2とM7・9の地震が発生しており、突然、M9・5の地震が起きたわけではなかった。地震記録を詳細に検討すると95年の阪神大震災、2004年の中越地震、16年の熊本地震や鳥取県中部地震においても約60日前と、3日~半日前の2度にわたって、巨大地震と大地震の発生する地点で前兆となる地震がみられる。要するに巨大地震と大地震は突然起きてはいないのである。この前兆をつかまえることができれば、発生を予測・予知できるのだ。

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    「金正恩の敗北」トランプ電撃会談の舞台裏を読む

    重村智計(早稲田大名誉教授) 米朝首脳会談が開催の方向に動き出した。これは「安倍・トランプ外交」の成功を意味する。実現すれば、朝鮮半島情勢を大きく変える可能性がある。それでも、北朝鮮は核放棄を約束しないだろう。苦境打開を狙った金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長のサプライズ戦略とも言えるが、成功するのはラクダが針の穴を通るより難しい。米朝の指導者はともに行き詰まった国内情勢を打開するため、「同床異夢」ながら首脳会談を急いだとみるのが自然だろう。 サプライズ外交は、金正日(キム・ジョンイル)総書記の得意技だった。予想外の提案や行動に出て、相手を翻弄(ほんろう)して成果を挙げる。過去にも米朝の枠組み合意で、世界は希望を抱かされたが、あっさり覆された。核開発を放棄すると約束して、原子炉の冷却塔を破壊する芝居に、米国はまんまと資金をだまし取られた。 トランプ米大統領との首脳会談提案は、金委員長としては初めてのサプライズ外交である。外国首脳とは初の会談だ。歴代の北朝鮮首脳は、最初に中国首脳と会談した。そして、中朝関係が悪化すると、今度はロシアに傾斜した。いずれも北朝鮮の友好国である。2018年3月9日、米国のトランプ大統領が北朝鮮の要請を受諾し、金正恩朝鮮労働党委員長との首脳会談が実現する方向に動いたことを伝える街頭テレビ(寺河内美奈撮影) その慣例を破る米首脳との会談は、言い換えれば中国へのあてつけである。中国が国連や米国主導の制裁に協力する姿勢に対する不満の表明だ。北朝鮮が米朝首脳会談を呼びかけたのも、中国の気を引くためだったとみていいだろう。中国は水面下で相当の圧力をかけるだろうから、米朝首脳会談がトランプ大統領の思惑通り開催できるかは、なお不透明だ。 米国は、韓国側からの伝達内容が本当かどうか、北朝鮮に確認しないと話に乗れない。北朝鮮の思惑は裏読みしないと見えない。たとえ公式報道で「人民は党に従い、思想の学びを徹底し帝国主義の策動に立ち向かっている」と伝えていても、実際は党に従わない人民の方が多く、むしろ韓国のビデオや音楽が人民の間で流行っているのが実情である。首脳会談提案からは、金委員長が相当な苦境に立たされている事実が読み取れよう。 一方、トランプ大統領もサプライズが好きだ。金委員長の提案を逆手に取り、「5月までにやろう」と逆サプライズを仕掛けた。北朝鮮はまさかそんなに早い実現を予想していなかっただろう。日程と首脳会談の場所が最初の関門になる。実は北朝鮮では首脳会談について一切報じられていない。これはおかしな話だ。北朝鮮の本気度が問われる。 なぜトランプ大統領は「5月までの会談」を提示したのか。一言で言えば、北朝鮮が相当に困り果てている現実をよく理解していたからだ。つまり、北朝鮮への制裁が効果を挙げているのである。首都・平壌では最近、米や食料品の価格が上昇しているという。石油の値上がりも伝えられている。国民生活は圧迫され、軍隊は石油が底をつき、演習や訓練がまともにできない。空軍の飛行時間は極端に減った。 こうした状況は、トランプ大統領に詳細に報告されており、「制裁は効果を挙げている」との大統領発言の裏付けになっている。トランプ大統領が平昌五輪への北朝鮮参加や、南北首脳会談の合意について「俺のおかげだ」と述べたのは理由がある。制裁の成果が確認できたからだ。このため、制裁を続けていれば、金委員長は必ず譲歩すると読んでいたのである。米朝首脳会談は成功するのか トランプ大統領が首脳会談に臨む真の目的は「支持率の上昇」「秋の中間選挙への利用」「次期大統領選挙への野望」の三つだ。 言わずもがな、トランプ外交は内外で批判され続けている。特に欧州各国は彼をまったく尊敬していない。戦後、これほど欧州で不人気の米大統領は初めてだ。教養がなく知性と品格に欠けるとみられている。歴史と文化の教訓に学ぼうとしない態度を欧州はもはや我慢できないのである。 この不人気を打破するために、金委員長との会談を利用しようとしている。「金正恩に最初に会う外国元首」としてメディアに大きく扱わせる。特に、金委員長をワシントンに招待できれば、世界中の話題を独占して、中国やロシアの鼻を明かすこともできる。支持率は上昇し、その勢いで中間選挙も乗り切りたいとの思惑はみえみえである。2018年3月8日、ホワイトハウスで会談する韓国大統領府の鄭義溶国家安保室長(左)とトランプ米大統領(韓国大統領府提供・共同) とはいえ、米朝首脳会談は本当に成功するのか。はっきり言って、乗り越えるべき難問が余りに多すぎる。まず、北朝鮮は絶対に核放棄を約束できない。金委員長は朝鮮人民軍を掌握はしたが、核放棄を宣言すれば軍が反乱を起こしかねない。クーデターに直面するリスクをはらんでいるのである。不満を抱く中国やロシアも、裏でクーデターを画策する可能性もある。 さらに、会談場所をどうするのか。北朝鮮の指導者は海外に出掛けるつもりはない。これに対し、トランプ大統領は是が非でも米国に呼びたい。ただ、金委員長にとっては訪問の隙を突いて、北朝鮮国内でクーデターが起きるかもしれない。もし第三国でやるのであれば、北朝鮮側は中国の顔を立てて、北京を提案するかもしれない。 一方で、トランプ大統領が北朝鮮を訪問すれば、米国内で批判が高まるのは必至だ。かつてのオルブライト国務長官の訪朝時のように、マスゲームを見せられ、人権問題に言及しなければ「失敗」と非難される。 金委員長は、首脳会談を盛り上げて少しでも制裁を緩和させ、今年9月の建国70周年の式典を盛り上げたい。米国に近づき、中国とロシアの気も引き、ひそかに支援を得る戦略だ。韓国も協力するとみている。 この北朝鮮の戦略と作戦に乗せられると、トランプ大統領は必ず失敗する。トランプ大統領は安倍晋三首相と協力し、「成功しなくてもいい」と腹をくくり、これまでの強硬政策を継続しないと足をすくわれる。 トランプ大統領に「石油制裁が最も効果的だ」と伝えたのは他ならぬ安倍首相だった。トランプ大統領も、北朝鮮政策をめぐる安倍首相の判断力を信頼している。「制裁を継続すれば北朝鮮は譲歩する。もう少しだ」との理解を二人は共有している。 だからこそ、トランプ大統領が安倍首相を出し抜いて、米朝正常化に踏み切る恐れはまずないと断言できる。北朝鮮は米韓合同軍事演習に反対し、核実験を続けた。その上、米国とトランプ大統領を激しく罵(ののし)った。これまでの対応を180度転換した金委員長の譲歩は、結果的に「北朝鮮外交の敗北」を意味するのである。 日本は米朝首脳会談で拉致被害者の帰国を強く訴えるだろう。「拉致被害者の帰国なしには、米朝国交正常化はない」との立場を共有しなければならない。拉致被害者の帰国を、日米同盟の基本的な価値として改めて確認すべきだ。

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    南北首脳会談、なぜこのタイミングだったのか

    重村智計(早稲田大名誉教授) 韓国と北朝鮮は6日、4月末に板門店で3回目の南北首脳会談に合意した。合意は、会談場所と米韓合同軍事演習の「是認」、南北首脳のホットライン以外は目新しいものはない。北朝鮮は核放棄への明確な言及を避けた。資金獲得と制裁緩和を狙ういつもの「目くらまし戦略」だ。トランプ米大統領は首脳会談を歓迎しながらも「希望は裏切られるかもしれない」と慎重だ。 韓国と北朝鮮は、首脳会談を4月末とすることで軍事演習の短縮を目指している。まさか首脳会談中に演習はあるまいと期待している。そうすると、北朝鮮は5月の田植えの時期に兵士を動員できる。建国当初から兵士の動員なしに田植えは困難だからだ。 日米両政府は最近、北朝鮮の海上での「瀬取り」による密輸を摘発し、シリアへの化学兵器の闇ビジネスを報道させ、南北首脳会談をけん制してきた。米国は米韓合同軍事演習を4月から行うと首脳会談の「妨害」に動いた。 それに挑戦するように、韓国と北朝鮮は特使を派遣し合い、首脳会談に合意した。首脳会談をめぐり、「南北対日米の戦争」が展開された。米国は平昌五輪の開会式にペンス副大統領を派遣し、金正恩(キム・ジョンウン)委員長の妹の与正(ヨジョン)氏との会談との北朝鮮提案を受け入れたが、直前に北が拒否した。これは、明らかに「北の外交敗北」であった。 それでも南北は首脳会談実現に突っ走った。北朝鮮は、平昌五輪の閉会式に金英哲(キム・ヨンチョル)統一戦線部長を派遣し、秘密会談を行った。ここで特使派遣と首脳会談の条件が話し合われた。最大の懸案は米韓合同演習の継続問題であった。韓国側は、パラリンピック後の軍事演習開始を伝えた。 金委員長は、それでも特使派遣を受け入れ、米韓合同軍事演習を「理解する」と述べた。これは、「軍事演習」を理解すると言ったのではなく、軍事演習中止に努力した「韓国側の立場」を理解すると述べたのだろう。この発言を、韓国側は米国の気を引いて米朝対話につなげるために、意図的にミスリードしたのではないか。会談し握手を交わす韓国大統領府の鄭義溶国家安保室長(左)と北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長。金委員長が抱えているのは文在寅大統領からの親書=2018年3月5日、平壌(韓国大統領府提供・共同) なぜ首脳会談を急いだのか。北朝鮮は米国の軍事攻撃を最も恐れており、それを阻止したい。そのためには南北首脳会談が一番だ。北朝鮮への制裁が相当な効果をあげている事実がある。石油制裁が北朝鮮軍を追い詰めている。日本での論議は、北朝鮮の深刻な石油不足を理解していない。 国連によると、一昨年までの北朝鮮の石油輸入量は原油50万トン、石油製品約70万トンで合わせて120万トンであった。密輸を合わせても最大150万トンだろう。日本の石油輸入量は2億トンだ。北朝鮮軍は「世界で最も石油の乏しい軍隊」である。それなのに、今年は原油と製品合わせて70万トンに減らされる。海上での密輸も発見された。 これでは軍は戦闘能力を失い、崩壊の危機に直面する。現在の体制を維持しているのは、軍と秘密警察だから事態は深刻だ。北朝鮮の譲歩は、国連や日米の経済制裁が効果をあげた結果である。特に石油製品の輸入禁止は、体制の崩壊につながりかねないとの危機感がある。「同盟より民族を選んだ」文在寅 この危機を回避するために、北朝鮮は「韓国からの経済支援」「開城工業団地の再開での外貨収入回復」「石油制裁緩和」を狙っている。外交敗北とみられるほどの譲歩の背景には、北朝鮮国内の苦境がある。 北朝鮮は、公式には韓国の存在を認めていない。今回も「大韓民国」の表現を使わず、「南側の文在寅大統領」との表現に終始した。北朝鮮の指導者が韓国側に足を踏み入れれば、初めてのことになる。北朝鮮が主張する「朝鮮半島における唯一正統性ある国家」との「正統性」で譲歩したことになる。 それ以外は新しいものはない。核実験の中止は以前もあったが、反故(ほご)にされてきた。「体制の安全が保証されれば、核保有の理由はない」との表現も目新しいものではない。金日成(キム・イルソン)主席も金正日(キム・ジョンイル)総書記も「朝鮮半島の非核化」について公言していたからだ。 北朝鮮の報道機関は、韓国政府の発表内容をいまだに報じていない。「満足いく合意」「首脳会談合意」を伝えたにすぎない。ただ、金委員長の「米韓合同軍事演習を理解する」との発言は、軍を完全に掌握した事実を物語る。軍は、米韓合同軍事演習の中止を強く求めてきた。「理解する」との発言は、軍を掌握した金委員長の自信を示している。北朝鮮の核放棄には軍が絶対に応じない。少なくとも軍を押さえないと核放棄はできないからだ。 金委員長は、人民軍記念日を2月8日に変更し、軍事パレードを行っていた。これは、軍を党の指導下に置いた事実を誇示する行事だった。金委員長はパレードの演説で「軍は党に従え」と強調した。 文在寅(ムン・ジェイン)政権の「北朝鮮支援」方針は「同盟より民族を選んだ」と説明される。米韓同盟が崩壊に向かい、北朝鮮に取り込まれると国内の保守派から憂慮の声が上がる。韓国政府は金委員長にどのような提案を行ったのか明らかにしていない。韓国のメディアは取材記者を同行させなかった事実を批判している。韓国内では前2回の首脳会談のように、多額の外貨資金を運んだのではないか、という疑惑も生まれている。2018年3月6日、ソウルの韓国大統領府で、特使としての訪朝を終えた鄭義溶国家安保室長(手前左)と握手する文在寅大統領。左奥は徐薫国家情報院長(大統領府提供・聯合=共同) 韓国は、米韓軍事演習の延期や縮小を求めていたが、米国は断固として拒否した。韓国側が米韓軍事演習への了解を求めたため、金委員長は「理解する」と述べた。韓国は、支援の再開と韓国企業が操業する開城工業団地の再開、外貨送金の問題も提示したのだろう。韓国側からの何らかの提案なしに、金委員長が「リップサービス」をするわけがない。韓国側の提案を明らかにすべきだ。 北朝鮮が南北首脳会談を急ぐのは、体制動揺の危機に直面したからだ。一方、文在寅大統領も、平昌五輪後の支持率低下に悩んでいる。支持率を回復し、憲法改正に踏み切るためには、首脳会談での支持率上昇が必要だ。現在の憲法で規定されている大統領任期を、1期5年から2期8年に改正し、長期政権を目指す文大統領の野心もまた見え見えである。