検索ワード:アベノミクス/79件ヒットしました

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    石破茂もワイドショーの餌になる? 総裁選が不毛な理由を私が書く

    異常な騒ぎに対し、1年以上批判を繰り返してきた。まさに悪い意味での大衆迎合主義の極致である。石破氏のアベノミクス批判は野党的? 確かに、ワイドショーが大衆に迎合するのは、視聴率などを考えれば、ある程度は仕方がないかもしれない。しかし、一国の重責を担う総理大臣になる資格を得るだろう自民党総裁にふさわしいだろうか。 答えは書くまでもなく、ノーだろう。そんな悪い意味での大衆迎合にくみするのであれば、政治家としての見識を疑ってしまう。ただ、それで説得される国民も多そうなので、むしろ、国民の側の見識こそ問われるのかもしれない。 それでは、石破氏の経済政策について見ておきたい。金融政策については、すでに別の論説でも厳しく批判したが、石破氏はアベノミクス、特に金融緩和政策について否定的な見解である。 アベノミクスは円安や株価の上昇で企業業績を改善したが、企業の売り上げも人々の所得(実質賃金)も増加していない、と石破氏は批判している。さらに、現状の雇用改善が、高齢化を反映した構造的な人手不足の結果生じたものであり、アベノミクスの成果とはいえない、というものだ。 なんだか、与党議員の発言というよりも、野党側からしばしば聞くアベノミクス批判に似ている。まず、高齢者の退職などで人手が不足しているという見解は、単に雇用の実態を理解していない誤解である。 高齢者の退職などによる生産年齢人口の減少は、安倍政権以前から続いている。むしろ、働き場がなく就職を諦めることで、かえって失業率が低下するという、地獄のような現象があった。2018年4月、漫画「ドラゴンボール」に登場するキャラクター「魔人ブウ」に扮した自民党の石破茂元幹事長(鳥取マガジン提供) だが、アベノミクス採用以後は、就職を諦めていた人たちが働ける場所を見つけることが可能となり、多くの若者や「失われた世代」と言われた人たちが、新たに正規雇用などに転換できている。 残念ながら、このような認識を石破氏は持っていない。まさに生活の基礎である働く場に対する認識がないのだろう。 ちなみに経済全体の売上高は大きく増加しているし、また(名目・実質)賃金の上昇トレンドも明瞭になってきている。ちなみに、先ほどのように、働き場がなく就職を断念する人が多く、失業率「低下」も見られる中で、実質賃金が上昇することがある。これは単にデフレを伴う不況のときに見られる現象である。つまり、実質賃金の上昇を重視する見解は、経済の実態を無視する傾向が強く、偏った見解になりがちである。「人生100年リスク」で消費伸びず? ところで、石破氏の財政政策や社会保障に関する見解も、問題にすべき点がある。その象徴が消費増税を巡る立場である。まず、消費が現状で伸びていないという石破氏の指摘は、2014年4月に税率が8%に拡大した消費増税の影響により、急激な落ち込みからいまだ回復していないからだ。消費増税は、恒常的な影響を消費に及ぼしているのである。 ちなみに、消費増税直前の13年、個人消費は極めて高い水準で上昇していた。だが、石破氏は近著で「消費が伸びないのは、『人生100年リスク』のせいだ」と指摘している。つまり、社会保障が充実していないせいで将来不安を抱えるから、消費が伸びないというのだ。 実はこの理屈、消費増税をしたい人たちに共通している。では、果たして14年の増税後に将来不安が解消して、消費が回復しただろうか。その点への石破氏の反省が見られない。 それどころか、「反省」を違った側面に求めているようだ。石破氏によれば「税と社会保障の一体改革」に問題があったという。一つは、消費増税がもたらす政治的リスクであり、もう一つは社会保障給付が多様なものかどうかを巡るものである。 ただ、後者の多様性に欠けるかどうかの具体的な議論を、石破氏が主張しているようには思えない。実際に、石破氏は近著で国民にその選択を任せている。しかし、それでは政治的リーダーシップというものを、石破氏はどう考えているのだろうか。 自分よりも国民の方が賢明な選択をするというのならば、それは一つの見識かもしれない。だが、消費増税が政権交代などの政治的リスクをもたらすという点だけを問題視するのはどんなものだろうか。 むしろ、消費増税の問題というのは、低所得者層がさらに苦しい生活を強いられる可能性、さらには経済全体の不安定化に原因があるだろう。石破氏が、本当に国民1人当たりの国内総生産(GDP)の改善を目指すのであれば、まずは消費増税の凍結か減税を行って、経済を安定化することが最優先ではないだろうか。2018年03月、衆院本会議に臨む自民党の石破茂元幹事長(右)と小泉進次郎筆頭副幹事長(斎藤良雄撮影) だが、そのような発想は石破氏にはない。公平に言えば、安倍首相も、来年の消費増税についてはそのような立場を採用してはいない。 両者の違いといえば、今のところ消費増税と金融緩和政策の効果ぐらいだろう。安倍首相は過去に消費増税を1回実施し、2回先送りし、石破氏は今書いたように増税派が好む「将来不安解消論」を採用している。国民の暮らしが本当の論点にならない 金融緩和政策の効果に関しても、安倍首相は積極推進派だが、石破氏は、緩和政策が国民の生活を改善するものとは見なしていない。要するに、金融緩和に否定的、そして政治リスクには注目するが経済的リスクを軽視している点で、緊縮政策側の「住人」であると言っていい。 ただ、石破氏には、積極的な財政政策を唱えているように見える点もある。財政政策はいたずらに拡大するのではなく、有意義なものをつくるべきだ、という主張だ。 だが、それは具体性を著しく欠けたものに映る。むしろ、今まで政府支出全体を削減(当然それは現在の経済状況を不安定化させる)してきた構造改革主義的な理屈に近い響きを持つ。いずれにせよ、具体像が少しも見えないのである。 こうして石破氏の主張を検証していると、ペラペラの中身にややげんなりしてきた。金融緩和を積極的に唱え、また財政政策も新しい提案を積極的に行っている金子洋一前参院議員の方がはるかに充実している。では、最後に金子氏の財政政策の具体的な提案を見ておこう。 もちろん金子氏は消費増税に反対である。その上で、積極的な財政政策として英労働党の政策である「公的ファンド」方式を採用して次のような主張を行っている。 総額50兆円以上のファンドを創設。教育・子育ての無償化をはじめ、次世代エネルギー開発、現状でも混雑・不足しているインフラ整備を大胆拡充するなど、わが国経済の将来の成長を促すための投資ともいうべき政府支出を増やします。教育や長期的な基礎研究、技術革新を促すといったことは、長い目で見れば必要なことですが、短期的に採算が合わないため民間にはリスクが大きすぎます。民間がやれないからこそ政府の出番です。 このファンドは現在の歴史的な低金利を利用し、超長期国債を原資の中心とした国債の追加発行でまかないます。『デフレ脱却戦記2 日銀貴族を討て!編』 今の日本経済の状況に応える素晴らしい提案だろう。正直かつ公平にいえば、石破氏にはこのような具体的なビジョンはない。また、安倍首相にも今のところ、そのような積極的な財政政策の姿勢は見られない。2016年6月、閣議に臨む安倍晋三首相(左)と石破茂地方創生担当相(斎藤良雄撮影) このままでは、単なるワイドショー的な「印象報道」の餌でしかなくなるだろう。経済、国民の暮らしが本当の論点にならないのである。ここに事実上の総理大臣の選択である、自民党総裁選の不毛さが現れているのである。

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    「日本型ハラスメント」がなくならない理由はコレだった

    滞したままでは、自殺者数の大幅な減少にはつながらない。「会社本位」の企業風土にメスを だから、冒頭のアベノミクスや、黒田総裁の下での積極的な金融緩和政策による大きな効果を見て取ることができる。実際に2013年以降、金融緩和政策の大規模化と自殺者数の急減に関係性がみられる。民主党政権のときよりも減少幅が大きいのである。図3を参照されたい。【図3】警察庁の自殺統計に基づく月別自殺者数の推移 現状では、最悪期の約3万2千人から2万1千人台まで減少し、その傾向は今のところ継続している。だが、まだ80年代の水準には戻っていない。もちろん自殺者が限りなくゼロに近づき、同時に人々が生きることに幸福を得ることができるようにしなければいけない。きれい事のようだが、それが経済学の目的であり、それ以外はない。 そのためにはどうすればいいのか。もちろん、現状の大胆な金融緩和政策を最低でも継続する必要がある。それだけはなく、拡大の工夫が求められる。例えば、インフレ目標の達成見込みを前倒しすることだ。これは、日本銀行の政策委員の物価見込みを前倒し可能なほどの強いコミットメントを促すことと表裏一体である。また、インフレ目標そのものを引き上げたり、長期国債の一層の買い入れ表明も必要だろう。 さらに財政政策のスタンスも重要だ。消費増税の廃止か、少なくとも凍結を表明することが大事である。また、全く無意味な財政再建の見通し指標である基礎的財政収支(プライマリーバランス)の黒字化目標を正式に放棄することも意味のあることだろう。もちろん財政支出の増額も重要な論点になる。 ところで、筆者は、上記の自殺の構造的要因で指摘した「会社本位」の企業風土にも以前から注目してきた。特に、マクロ的な雇用状況が大きく改善する中でも「悪化」が全く止まらない現象が職場の中にある。それが「職場のハラスメント(嫌がらせ)」といえるものだ。図4は、最近の都道府県労働局などにある総合労働相談コーナーに寄せられた「いじめ・嫌がらせ」に関する相談件数の推移である。【図4】都道府県労働局などに設置した総合労働相談コーナーに寄せられる「いじめ・嫌がらせ」に関する相談件数 これをみると、不況下の局面では相談件数の増加率が大きく、不況から脱却しつつある近年では相談件数の増加率は抑制されている。だが、それにも関わらず一貫して「いじめ・嫌がらせ」の増加がやむことはない。 図3もあわせて参照すれば、これは不況とは切り離して考えるべきであり、むしろ、日本の会社組織における構造的問題の側面が強いことがうかがえる。例えば、長時間労働が常態化する裏に職場のハラスメントがあることを、滋賀大の大和田敢太名誉教授が著書『職場のハラスメント』(中公新書)の中で指摘している。 不況から脱却できれば、労働強化や長時間労働などによる過労や精神的ストレスが大きく抑制されるといえる。実際に、図4にもマクロ的な観点での「増加率の減少」で現れている。だが、本来の構造的要因は残されたままだ。職場における嫌がらせやいじめに対する社会的な認知が進むにつれて、相談窓口に対してとはいえ、働く人たちが「異論」「ボイス」を大きく提起しているとみることも可能だろう。大和田氏も「職場のハラスメントは会社組織の構造的問題である」と指摘している。 長時間労働とハラスメントが表裏一体であることは、大和田氏が著書で繰り返し指摘している論点である。特に、大和田氏はハラスメントの範囲を日本ではパワハラやセクハラなどに限定して理解しているだけで、それに含まれない幅広い労働者の人格を毀損(きそん)し、生存を脅かす行為を見逃していると指摘している。その上で、労働基準監督署に対して、「広義」でのハラスメント対策として、直接会社に改善指導が可能となる法改正が望まれるとしている。大和田氏の重要な指摘を忘れてはならない。追記:今回で「田中秀臣の超経済学」も連載100回を迎えました。今回書いた日本のマクロ経済や、個々の働く人の問題、貧困、格差、弱者の問題、さらには政治と国際問題について、さらに議論をすすめていきたいと思います。読者諸賢のご理解とご支援を今後もよろしくお願いできれば幸いです。

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    雇用の前提を誤った「イシバノミクス」が賢明ではない理由

    倍政権の批判を繰り返すことで、「政治的ライバル」の位置関係を自ら築いてきた。経済政策のスタンスも「反アベノミクス」というものである。特に金融緩和政策(リフレ政策)への消極姿勢は際立っていて、リフレ政策を導入すればやがてハイパーインフレにつながる可能性を主張していた。また消費増税による財政再建にも積極的であった。 ところが、ロイター通信によれば、石破氏は6日の講演会において、財政政策や金融政策の「激変策」を採用しないと述べたという。これだけ聞くと石破氏が従来の反アベノミクスの立場を修正したかのように思えてしまう。だが、そんなことは全くないのである。 ロイターの記事をよく読めば、積極的な財政政策や金融緩和の維持可能性に言及しているが、従来の石破氏の経済観と矛盾していない。要するに「積極的な財政政策はいつまでも維持できない」ということは、「やがて消費増税しなければいけない」と述べているのと同じである。また、金融緩和をいつまでも維持できない、すなわち何年も続けるとハイパーインフレになる、というように従来の主張と無理なく読み替えることができる。やはり全く変わっていなかったのである。 さらに、石破氏で注目すべきは、賃金が上がらない理由について、生産年齢人口が高齢層にシフトしたことや、女性や非正規などへの構造的変化に求めていることだ。これはまさにアベノミクスの発想と異なる。しばしばアベノミクス批判として利用される理屈と同じである。2018年4月、東京都内のホテルで講演する自民党の石破元幹事長 「アベノミクス元年」の2013年度から、高齢者の再雇用が増加し、またパートやアルバイトなどで女性の雇用も増えていることが指摘できる。これはアベノミクス採用以前では顕在化していなかった現象である。例えば、民主党政権時代やリーマンショックの直撃を受けた麻生太郎政権では、不況のために職を探すのを断念した「求職意欲喪失者」が急増していた。その中核は、高齢者や専業主婦層、新卒者たちだったのである。 だが、アベノミクスが採用されてから、景気が安定化していくことで働こうという意欲を再び持つ人たちが増えていく。退職後にも再雇用される人たちやパート・アルバイトができる専業主婦層が増加したのである。もちろん新卒採用も増加した。これは生産年齢人口の変化とは全く関係ない。 なぜなら、今説明したような労働市場への供給増加(労働力人口増加)のペース以上に、労働需要(就業者数)の増加ペースの方が上回ることで失業率が低下していく現象を、生産年齢人口の推移では説明できないからだ。国民が迷惑するのはご勘弁 また、女性の雇用増加もアベノミクス以降の雇用環境の改善が後押ししている。非正規雇用についても5カ月減少が続き、不本意な形で非正規雇用になっている人たちも減少している。対して、正規雇用はやはり増加し続けている。これらは労働力調査など統計を単に検索すればわかることであり、石破氏の想定とは違っているのである。 石破氏は雇用の構造的変化を前提にして、つまりアベノミクスによる雇用増を無視して、再分配的な賃上げが必要だと考えるのだろう。だが、現状では構造的な変化ではなく、景気の改善という循環的要因での変化が主流である。石破氏の認識は前提からして間違っていることは指摘した通りだ。ならば、賃上げは、まず「人手不足」(労働への超過需要)のさらなる全般化で生じるだろう。 例えば、よく反アベノミクス論者で話題になる「実質賃金が低下しているからアベノミクス失敗」というトンデモ経済論がある。これは上述したように、新たに採用される高齢者やパート・アルバイト、そして新卒の増加という、いわゆる「ニューカマー効果」を全く無視した議論である。失業率が低下するなど雇用状況が改善していけば、実質賃金の低下はままみられる現象である。これは単純な割り算でもわかることだ。 実質賃金は、平均賃金を物価水準で割ったものである。仮に物価水準は変わらないとしよう。今まで働いていた人の賃金を30万円とすると平均賃金も30万円である。そこに新しく採用された大卒社会人の賃金が20万円だと、平均賃金は30万円から25万円に低下する。これがニューカマー効果である。このニューカマー効果を無視して、実質賃金の低下ばかりに目が行く議論は筋悪である。 では、物価の変化を加味するために、平均賃金ではなく、総雇用者所得でもみてみよう。総雇用者所得は、平均値ではなく、簡単に言うと経済全体の所得のうち、働く人たちがどのくらい得ているかを表す指標である。これを物価水準で割ったものが実質雇用者報酬である。最近の数値でいうと、実質総雇用者所得の2018年1月の対前年比は0・8%増(名目は2・2%増)である。この1年あまりの対前年比の平均は1・2%増となっている。 緩やかな増加傾向にあるといってよく、さらに加速させていくことが重要になる。増加させるためには、さらなる積極的な経済刺激策が求められる。財政再建による消費税増税や金融緩和の出口政策を取ることではないのである。だが、この発想はもちろん石破氏にはない。2016年3月、衆院本会議で予算案が可決され、石破茂地方創生担当相(中央)らと笑顔を交わす安倍晋三首相(右、斎藤良雄撮影) ただし、石破流「再分配的な賃上げ」を筆者は否定しない。例えば、「就職氷河期」といわれる世代の生涯所得の落ち込みが深刻である。十分な所得を得られないままだと定年後に年金などの社会保障を十分に得られない可能性もある。この対応には、石破氏の案でもなんでもないが、就職氷河期世代に対象を絞った持続的な再分配政策も一案だと思っている。 他方で、経済認識の前提を誤った上で、うまくいっているアベノミクスを維持可能性がないからといって次第に弱めてしまうことが賢明とはいえない。石破氏が賢明でなくても別に構わないが、国民が迷惑することだけは勘弁願いたい。

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    崖っぷち安倍政権 「増税教」が浮かれる退陣後の最悪シナリオ

    も深まったり、継続したりすれば、やはり政治的な火種になる可能性はある。 筆者は以前から安倍政権によるアベノミクス、特に第一の矢である大胆な金融緩和政策、つまりリフレ政策を支持している。しかも現状では、安倍政権以外にこのリフレ政策を採用する政治勢力が事実上存在しない。自民党内でもリフレ政策の支持者は安倍首相と菅義偉(よしひで)官房長官、山本幸三前地方創生相と3人しかいない。いま安倍政権が瓦解(がかい)するとなると、「ポスト安倍」の中に、安倍首相と同じ熱意と政策センスを発揮できる政治家は誰もいないのである。2018年3月19日、参院予算委員会に臨む安倍晋三首相(右)と財務省の太田充理財局長(斎藤良雄撮影) 現実的には、しばらくの間、現状の経済政策を継承するかもしれない。しかし、「ポスト安倍」たちの総意は消費増税による「財政再建路線」である。これは国際的には緊縮政策と呼ばれるものだ。それに対して、アベノミクスの大胆な金融緩和と、消費増税でとん挫しているが、機動的な財政政策は「刺激政策」と呼ばれているものだ。 この緊縮政策と刺激政策の対立が今、世界中で話題になっている。ただし、多くの国が政治あるいは経済学者の両陣営の割合がほぼ半々に近いのに対して、日本では政治家にほとんど刺激策側はおらず、大半が緊縮勢力である。 経済学者に至っては、デフレ不況の中での消費増税に対して、学会の重鎮たちを含め大挙して賛成を唱えていて、それはただの「増税教」の集団でしかない。世界的にみても異様な事態である。言い換えれば、政治家も学者も刺激策は日本では「異端」なのである。「異端」政策がもたらした大きな果実 今、この日本では「異端」の経済政策が行われ、かなりの成果を挙げている。特に代表的なのは雇用環境の改善である。この点を専修大の野口旭教授の優れた新刊『アベノミクスが変えた日本経済』(ちくま新書)を参考にして、簡単にみておこう。 リーマン・ショック時には5%台中盤まであった完全失業率は現時点では2・4%まで低下した。この水準は1980年代の平均的な水準に近く、そのレベルまで急減したのである。ただし、2・4%自体の数値はまだしばらく注意しておく必要がある。一時的な統計の誤りという見方もある。有効求人倍率の水準も大きく改善して、1970年代の状態にまでなった。 これらを生産年齢人口の減少で説明しようとする人たちがいるが、労働力人口(働きたいと思う人たち)と就業者数が安倍政権後に急増している理由を、生産年齢人口減少説は説明することができない。簡単に言うと、働きたいと思う人以上に、職についた人が多いという状況が現実化しているのである。そして、その原因は大胆な金融緩和以外には考えられない。 雇用環境の改善を政治的に無視したい人たちから、しばしば「雇用が増えてもそれは経済的な困窮を生み出しているだけだ」という指摘がある。だが、リフレ政策が実施された以降の雇用環境は量的だけではなく、質的にも大きく改善している。2018年3月、参院財政金融委で、自民党の西田昌司氏の質問に答弁する麻生太郎副総理兼財務相(奥)。手前は日銀の黒田東彦総裁(斎藤良雄撮影) 例えば、雇用市場では、交渉力が弱く「弱者」に陥りやすい新卒やパートを希望する主婦層、再雇用を望む高齢者、さらにアルバイトを希望する人たちの雇用増を生み出した。これはアベノミクスが開始された2013年から顕在化している動きであり、2014年の消費増税で一時立ち止まったが、今も改善を続けている。 つまり、富裕層の消費からのしたたりを待ったトリクルダウン(富める者が富めば、貧しい者にも自然に富が滴り落ちるという経済理論)ではない。いわば「下から=弱者からの雇用改善」をリフレ政策は生み出したのである。 また「失業の低下といっても低賃金の非正規雇用が増えたに過ぎない」という批判に対して、野口氏は「確かに、就業者にしめる正規雇用の比率は、2015年頃までは依然として低下し続けている。しかし、2016年以降は、それは明らかにトレンドとして上昇し始めている」とも指摘しており、この状況は現在も継続中である。緊縮勢力を喜ばせる黒田氏の発言 さらに非正規雇用の中身も大きく改善している。野口教授は「非正規就業者が数としては増加する中でも、『正規の職員・従業員の仕事がないから』という理由で非正規就業に甘んじている、いわゆる不本意非正規就業者は、数的にも割合としても一貫して減少してきたという事実である」と指摘している。非正規雇用そのものが悪ではもちろんない。さまざまな雇用形態が人々の暮らしに役立っていないだけである。 問題なのは、正規雇用を望んでいるのに非正規雇用に甘んじる人々がいることである。その状況はアベノミクス開始から一貫して大きく改善している。先の「雇用が増えても労働環境が改善していない」というのは個々の事例ではありえるかもしれないが、経済全体をみたときは妥当ではなく、むしろ誤りといえる。 さて、このようなアベノミクスの効果だが、実際には「リフレ政策=大胆な金融緩和政策」が大きく実績を挙げている。他方で財政政策は2013年だけが拡大基調で、後は消費増税など緊縮策に近いスタンスだ。財政政策には改善の余地が大きくある。来年に予定されている消費増税は早急に取り止めるべきだし、また政治的にハードルが高くても、消費減税を行うのが理想である。 さらに、金融緩和政策を継続していくことも重要である。なぜならまだ完全失業率には低下の余地がある。一つは、インフレ目標をいまだ達成していないからだ。これは他面では、われわれの賃金上昇が不足していることでもある。そのため金融緩和の継続は最低でも必要であり、また同時にさらなる緩和も必要である。 そのような状況の中、日本銀行の正副総裁人事が先日、国会で承認された。総裁には黒田東彦(はるひこ)氏が再任され、5年の任期を4月以降務める。同時に若田部昌澄早稲田大学教授と、雨宮正佳日銀理事が副総裁に任命された。この3名が新しい日銀の執行部であり、他の6名の政策委員とともに日本の金融政策を多数決で決める。2018年3月、参院議院運営委員会で所信聴取に臨む雨宮正佳日銀理事(左)と若田部昌澄早大教授(斎藤良雄撮影) 今のところ、安倍首相の主導によって黒田新体制もまた、金融緩和の継続を行うとみられている。ただし最近、黒田総裁は2019年度のインフレ目標達成を前提に、いわゆるリフレ政策の終了(出口政策)を模索することに関して発言している。実際には今の日銀は19年度にインフレ目標の達成を予測しているので、この黒田総裁の発言は見かけ上、矛盾しない。 しかし、大規模緩和を継続しても、追加緩和などをこの1年以上一切行わず、いたずらにインフレ目標の到達時期を後送りしてきたのである。このような人物が安易に出口政策を口にすれば、緊縮勢力をいたずらに喜ばせるだけだろう。実際に株式市場も「黒田出口発言」から大きく暴落し、現状でも不安定化する一つの要因となっている。政権瓦解が「最悪のシナリオ」 また、若田部副総裁は自他ともに認めるリフレ派の中心メンバーの一人であり、国会での所信聴取でも一貫して国債の買いオペ額の増加による追加緩和を主張している。財政政策でも消費税増税に反対している。他方で雨宮副総裁はリフレ寄りではなく、本来的には黒田体制の前まで継続していたデフレによる長期停滞を生み出した日銀の実務者の典型である。とりあえず、黒田体制の中では日銀官僚を代表して、リフレ政策のサポートを務めていた姿勢を偽装していた。副総裁は、そこを評価されて日銀枠によりエントリーされたのだろう。 つまり筆者からすると、雨宮氏は日本を経済不況にたたき込んだ「戦犯」の一人である。だから、政策に関する本音はインフレ目標に到達していようがしまいが、一刻も早く出口政策を採用したいのであろう。そういう雨宮副総裁の特徴をもちろん緊縮策勢力も理解している。 例えば、立憲民主党は総裁・副総裁人事案について、黒田・若田部案には反対だが、雨宮案には賛成だった。枝野幸男代表の政策スタンスにしても、「枝野ファン」には刺激派寄りに見えるのかもしれないが、彼と立憲民主党はゴリゴリの緊縮派であることがこの事例でも分かる。 他方で、自由党の山本太郎共同代表が若田部案に賛成し、他方で雨宮案に反対を投じたことは極めて興味深い出来事である。与野党問わずこのような刺激策への動きが広まればいいと思う。2018年3月、自民党本部で開かれた憲法改正推進本部の全体会合に出席する石破元幹事長 さて、話を冒頭の財務省の決裁文書書き換え・改ざん問題に戻そう。リフレ政策を支持する筆者からすればあまり想像したくはないのだが、仮に安倍政権が崩壊したならば、日銀の政策にも「赤信号」が灯るだろう。安倍首相が退陣すれば、石破茂元幹事長や岸田文雄政調会長が次の首相になる可能性もある。彼らのように緊縮策を好む政治家が首相になれば、インフレ目標を十分に達成し、物価が安定化する間もなく、出口政策にシフトする可能性もある。 そのときに主導するのは、政治忖度が強い黒田総裁と雨宮副総裁のコンビだろう。さらに、安倍政権瓦解のタイミングで、黒田総裁が高齢などを理由に任期途中で退任し、雨宮体制に移行する「最悪のシナリオ」も危惧されている。これは筆者の想像レベルであればいいのだが、今の国会情勢、世論の動向をみていると「想像」だけとは決して言いきれない側面もある。

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    黒田総裁続投、マンネリ人事の意味

    黒田東彦日銀総裁の続投が固まった。首相は「黒田総裁の政策は間違っていなかった」と評価したが、これまで6度延期された2%の物価上昇目標や金融政策を正常化する「出口戦略」のタイミングなど、次の5年に待ち受ける難題は山積する。賛否が分かれるマンネリ人事の意味を問う。

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    「リスクを恐れた臆病な人事」黒田総裁再任をどう評価すべきか

    飯田泰之(明治大学政治経済学部准教授) 2月16日、日本銀行の次期執行部について、4月8日に任期満了となる黒田東彦総裁の再任、3月19日任期満了の2人の副総裁の後任に若田部昌澄・早稲田大教授と雨宮正佳・日銀理事を充てる人事案が提出された。 意外性に乏しい今次の提案に「リスクを恐れた臆病な選択」と評される側面もあろう。市場の反応も薄く、各種報道に反応しての新たな動きは見られない。それでもなお今次の選択が日本経済において現実的な選択肢の中では妥当なものであったと筆者は考えている。その理由を語るとともに、新執行部への期待を述べたい。日銀の副総裁候補として国会に提示された雨宮正佳・日銀理事(斎藤良雄撮影) まずは総裁人事からみてみよう。日銀総裁の再任は山際正道(1956-64年在任)以来であり、現行の日銀法の下では初めてのことだ。異例であることのみをもって今回の再任を批判する議論もあるようだが、他の事情はさておき、再任があり得るとの前例ができたことは望ましい。 近年、金融政策に関する将来予想や政策姿勢・レジームといった数字だけではとらえられない要因が経済に大きな影響を与えるようになっている。総裁任期が5年に限定されるものではない、より長期になり得ることが明確になったことは、今後の総裁・執行部にとって小さくない財産となる。現任期を超えた長期的な政策を打ち出しやすくなるからだ。 一方で、2013年4月の現体制発足時に掲げられた「2年を目安に2%のインフレ率を達成する」との当初目標の未達をもって、その責任を取るべきであるとの議論も根強い。この目標未達は、日銀現執行部の二つの見通しの甘さに起因すると、以前筆者がiRONNAでも指摘した通りだ。2013年時点の日銀は、消費増税の景気へのダメージ、労働力プール(国内における働く意思と能力ある労働者の数)をともに過小評価していた。そのため、2013年の急速な資産価格・雇用、さらには物価上昇率の改善をもって「労働市場の逼迫(ひっぱく)による賃上げの本格化は目前であり、一時的な消費増税ショックを財政出動で支えれば、目標の達成はそう遠いことではない」と判断した。これが誤りであったことは言をまたない。 なお、公平を期すために付記すると、筆者も雇用者数が350万人以上増加し、非正規社員以上に正社員数が増加してもなお雇用改善のペースが鈍らないとは予想していなかった。黒田氏の代わりはいなかったのか さて、ここからより強力な金融政策姿勢を打ち出し、さらには財政政策についても拡大志向の総裁を望む声が出るのは自然なことだろう。しかしながら、後者については無い物ねだりの感を否めない。中央銀行総裁は、財政政策に関していかなる権能も有していない。仮に日銀総裁が大規模な財政出動を主張したところで、政府がそれを採用する理由はないし、逆もまた真(しん)である。財政政策姿勢については政府の方針にこそ検討・批判を加えるべき話だ。2018年2月、衆院予算委で答弁する日銀の黒田総裁。右は安倍首相 より金融緩和に積極的な人選を望む声についても、その道は容易ではない。確かに、黒田総裁よりも積極的な金融緩和拡大を主張する論者は日銀内外に存在する。しかし、黒田総裁自身が示した「グローバルな視点と実践的な能力と理論的な分析」という中央銀行総裁の資質、中でも日本銀行という巨大な官僚組織を御していく力を併せ持つ者となると具体的な名前を挙げることは難しくなろう。 これとは逆に、目標達成ができなかったのだから金融緩和を収束させて出口戦略に向かう、つまりは早期に金融引き締めに転じる総裁を選ぶべきだとの議論もあるが、これは顧みるに値しない。株・為替・雇用はもとより、長くマイナス域に沈んでいた物価上昇率を曲がりなりにもプラス値が継続する状況まで改善した実績を無視することはできないはずだ。 これらの実績を、米国経済の好調さに支えられた偶然の結果だとする主張もある。しかし、すでに米経済の好調が明確になっていた2013年初頭においても、金融緩和に批判的なアナリストの多くが円安は進んでも90円台、株価上昇も1万1000円から1万2000円程度であると予想していたことを忘れてはならない。米国の好景気は日本経済にとって強力な追い風ではあるが、その追い風を生かすためにも継続的な金融緩和の果たした役割は大きい。90年代や2000年代前半にも米国の経済状況は良かったが、近年ほどの資産価格や雇用の改善は生じていない。 より素晴らしい総裁はどこかにいるのかもしれない。しかし、その人を発見することはできなかった。現在行われている金融緩和の継続性への信認を傷つけず、それでいて2期目に訪れるかもしれない2%目標達成時に市場とコミュニケーションを採りながらの政策変更を進める-そのための適任者と考えると、黒田総裁の再任は、現時点では妥当な人選だと判断せざるを得ないのかもしれない。 一方で、本来ならば事前に十分に準備すべき後継者の育成を果たせなかったことは黒田体制1期目の問題点の一つとして指摘されてしかるべきだ。そして、この後継者の育成が2期目には必須の仕事となる。ここで注目されるのが二人の副総裁だ。「プリンス」と「研究者」 日銀理事からの昇進である雨宮氏は、企画局長、大阪支店長を経験した「日銀のプリンス」であり、1期目の黒田体制においても政策遂行の実務的な側面を支えた「異次元緩和」の立役者の一人だ。氏の「実践的な能力」について高く評価する関係者の声を聞くことは多い。その一方で、黒田緩和の効果の源の一つである、明確な思想を持って政策パッケージを示し、市場の予想に働きかける発信力は未知数だ。その経歴から、受動的な金融政策を旨とするかつての日銀に近い人物と受け止められることも多い。今後、氏の政策思想が明らかになり、発信とコミュニケーションの力量が明らかになることで、気が早すぎるかもしれないが、次々期総裁への有力候補となるかもしれない。 もう一方の副総裁候補である若田部氏は、経済学史の研究者として経済危機の中での経済学・経済思想の変遷を追ってきた人物だ。2000年前後から強力な金融緩和の必要性を訴え続けた生粋のリフレ派でもある。その意味で、政策思想は既に明確になっている。国内の経済論壇はもとより、国際会議での活発な討論をみてもその発信力は高い。個人的には本人にその気があるとは思わないが、5年の副総裁任期中で総裁に求められる実務的な視座を得るならば、総裁候補になり得る人物である。日銀副総裁候補として国会に提示された早大政治経済学術院の若田部昌澄教授(飯田耕司撮影) もっとも、若田部氏には、ごく近い未来に別の役割を期待したい。それが経済学史からの経済理論、それも実務的な政策論への提言である。副総裁が金融政策の理論家や実証分析家以外から選ばれたことを不満に感じている経済学者は少なくないだろう。しかし、理論家や実証家はともすると、現時点で最も正解に近いと考えられる「学会での主流派見解」や「最先端の学説」によって政策を一刀両断に語り尽くすことを好みがちだ。もちろん、それらの「正統派」が正しかったことも多い。しかし、経済(学)の長い歴史をみると「正統派」は時に誤り、時に「正統派」そのものの交代を経験してきたのである。 正統派の誤謬(ごびゅう)、学会における正統派の転換があり得る環境で、より広い歴史的視点から金融政策決定会合の議論を俯瞰(ふかん)し、近視眼的な決定に陥ることのないよう多様性ある議論を提供する重要性は高い。歴史、それも思想史研究者ならではの視点を実務に提供していただきたい。 安定感ある総裁、後継者候補になり得る副総裁、新たな視点を提供する副総裁と整理すると、2期目の黒田体制のバランスの良さがよくわかる。もっとも「バランスが良いこと」と「正しく、実効性ある政策を行うこと」はイコールではない。4月からの第2期黒田体制がどのような政策姿勢を打ち出すのか。ここのところ面白みがない政策決定会合に久々に注目が集まろう。

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    物価の抑制か財政の救済か、黒田続投「通貨の番人」はどこへ

    小黒一正(法政大経済学部教授) 日本銀行の黒田東彦総裁が2018年4月8日、中曽宏、岩田規久男両副総裁は3月19日に任期満了となる。このような状況の中、政府は2月16日開催の衆参両院・議院運営委員会の理事会で日銀の正副総裁人事案を示した。2018年1月、経済・物価情勢の展望について会見する日銀の黒田東彦総裁(宮川浩和撮影) この人事案は、黒田総裁が続投し、日銀出身の雨宮正佳理事とリフレ派で早稲田大の若田部昌澄教授を副総裁に起用するというものだ。現行の金融政策の枠組みは変えず、現行体制の維持を示すものと考えられる。すなわち、日銀出身の中曽氏の後任は日銀出身の雨宮氏、リフレ派の岩田氏の後任はリフレ派の若田部氏が選出され、「日銀枠」「リフレ派枠」が維持されるということになる。 毎日新聞の記事によると、リフレ派枠の有力候補は財務省出身でスイス大使の本田悦朗氏であったという。だが、首相官邸や財務省・日銀内部の抵抗もあり、「岩田氏に続くリフレ派の重鎮が見当たらない」(財界関係者)という大きな問題を抱えていたもようである。 こうした状況の中、若田部氏がリフレ枠で選出されたわけだが、選出方法について、当の若田部氏は『「日銀デフレ」大不況』(講談社)という著書で、今回の人事案との関係で興味深い指摘をしている。「審議員の選出には、女性枠、産業(非金融・証券業)枠、金融・証券業枠、学者枠などあらかじめ選出される枠が決まっている」「この選出方法は、外部からの多様な人材を登用できるという利点もある反面、結局のところ、業界や学界から審議員をあまねく選出しようと考える、官僚的な選出方法になりかねない」「そもそも、経済学の女性研究者は日本では圧倒的に少ない。そのうえ、さらに金融専門となると、選ばれる人は限られてくる」『「日銀デフレ」大不況』若田部昌澄(講談社) また、少し前の話だが、日銀政策委員会のある委員の略歴に関して、「博士課程単位取得退学」と博士号取得者を意味する「博士課程修了」との違いがあったことが問題となった。この問題でも、若田部氏は著書で次のように指摘している。「日銀の審議員の学歴は大学卒・学士が中心であり、一つの組織や会社で経験を積んだ人物が多い」「一方、FOMC(米連邦公開市場委員会)のメンバーは大学院の博士号取得者が中心」『「日銀デフレ」大不況』若田部昌澄(講談社) だが、今回の人事案を含めても、原田泰氏を除き、政策委員で博士号取得者はゼロではないかと思われる。 ところで、岩田氏の後任について、リフレ派の若田部氏でなく、非リフレ派を起用すれば、金融政策の方向性を転換するシグナルとなり、市場が動揺する可能性がある。そのような状況を回避するため、リフレ派枠を維持するという政府内の戦略的な判断があった可能性も否定できない。 もっとも、続投する黒田総裁は財務省出身の「リアリスト(現実主義者)」である。リフレ派の政策の限界は十分に理解しているはずで、リフレ派枠の維持は実質的な意味を持たない。その証拠として、既に日銀は2016年9月下旬、異次元緩和を軌道修正している。短期金利をマイナス0・1%に誘導するマイナス金利政策を維持しながら、長期金利を0%に誘導する新しい金融政策の枠組みの決定がそれだ。この新たな枠組みは「量」重視から「金利」重視への政策転換を意味する。そして今、黒田総裁の下で日銀はひそかに異次元緩和を縮小する「ステルス・エグジット」を進めており、筆者はこれが続くと予想している。政策正常化に3つの課題 ただ、金融政策の正常化に向けての課題も多い。 第一は、増税判断や景気変動との関係である。政府は、2019年10月に消費税率を10%に引き上げる予定であり、安倍晋三首相がその判断を今年秋ごろに行うはずだ。消費増税を実施すれば、マクロ経済に一時的なショックが走るはずで、日銀が「ステルス・エグジット」を順調に進められるか否かを含め、黒田総裁の手腕が求められる。また、2020年の東京五輪開催後は、日本経済の「景色」も大きく変わるだろう。 第二は中長期的な課題だが、デフレ脱却後に、日銀が金利の正常化に向けて利上げできるか否かだ。物価上昇を抑制するために金融引き締めを行えば、どうしても長期金利の上昇を許容する必要がある。だが、巨額の政府債務が存在する中、それは利払い費の増加を通じて財政を直撃してしまう。したがって、日銀には政治的な独立性が認められているが、選挙で選ばれる政治家とそれほど離れておらず、世論やマスコミから批判を浴び、政治的な強い風圧にさらされることも確実である。 そうなると、日銀は国債購入を通じて長期金利の上昇抑制を優先し、その結果、貨幣供給が拡大してしまう。これは日銀が直接責任を問われる物価安定の放棄を意味する。つまり、日銀は直接責任を問われる実際の物価上昇の抑制か、財政の救済か、二者択一を迫られることになるのである。 第三は、米連邦準備制度理事会(FRB)が保有資産の縮小に着手し始め、欧州中央銀行(ECB)も2018年初から資産買い入れの縮小を開始しているという状況にある。この現状が日銀の抱える問題をさらに複雑にする。マネーが世界を駆け巡るグローバル経済の下では、国外の金利水準と比較して、国内の金利だけを低い水準に抑制するのは極めて難しい。世界的な大規模緩和は転換点を迎えており、米国などの長期金利が上昇していけば、日本の長期金利にも上昇圧力がかかるだろう。2018年2月、米下院金融委員会で証言するパウエルFRB議長(AP=共同) なお、最後に忘れていけないのは「There is no such thing as a free lunch.」(世の中にただのランチなどない)という経済学の重要なメッセージである。政府と日銀を一体で考える場合、日銀が国債を保有するか否かにかかわらず、統合債務の負債コストは基本的に変わらない。今は金利がおおむねゼロのために負債コストが顕在化していないが、デフレ脱却後に金利が正常化すると、財政赤字を無コストでファイナンス可能な状況は完全に終了し、巨額な債務コストが再び顕在化する。これがまさに「不都合な真実」である。

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    異次元緩和をやめてもデフレには戻らない

    塚崎公義 (久留米大学商学部教授)前向きに読み解く経済の裏側 「日銀の異次元緩和は、当初こそ偽薬効果で役に立ったけれども、今は効果より副作用の方が大きいのだから、止めるべき」と筆者は主張しています。「そんなことをすればデフレに逆戻りしてしまう」という御批判を数多く頂いていますので、反論しておきます。 「日銀が異次元緩和をやめたらデフレに戻る」という人々の論拠が不明ですが、筆者なりに推測すると、以下の2通りです。第1は、素朴な貨幣数量説、第2は「金融緩和が景気を回復させ、景気回復がデフレを止めたのに、その流れが逆転してしまう」というものです。 素朴な貨幣数量説というのは、「世の中に出回っている資金の量が増えると物価が上がり、減ると物価が下がる。ダイヤモンドが水より高いのは希少だからである。それと同じで、世の中に資金が出回れば物の方が資金より希少になり価値が上がるのだ」というわけです。 つまり、「異次元緩和で世の中に資金が出回ったから、世の中の資金と物の比率が変わり、物の値段が上がった。異次元緩和をやめると、世の中に出回る資金が減るから、物の値段が下がるはずだ」というわけですね。 これは、全くの誤りです。統計を見れば明らかなように、世の中に出回っている資金(マネーストック)は増えていないからです。黒田緩和によって日銀から銀行に出て行った札束は、世の中に出て行くことなく、日銀に送り返されて準備預金(銀行が日銀に持っている預金口座)に入金されてしまったからです。 では、第2の経路はどうでしょう。異次元緩和で景気が回復したのは確かですが、それはなぜだったのでしょうか。 そもそも金融の緩和は、景気を回復させる力が強くありません。工場の稼働率が低い時に「金利が下がったから、新しい工場を建てよう」と考える企業は稀だからです。企業が設備投資をしようか否かを判断する際の最大の材料は「投資をすれば儲かるか否か」であって、金利ではないのです。 まして、金利がゼロの時に日銀が金融を緩和しても、企業の設備投資が増えるわけではありません。短期金利は下がりませんし、長期金利も僅かに下がるだけですから。 今回、金融緩和が景気を回復させたのは、株やドルの値上がりを通じてです。株高やドル高になったから景気が回復し、デフレが止まったのです。そうであれば、「異次元緩和をやめれば株とドルが暴落する」のか否かが、デフレが再発するか否かを左右することになります。筆者は、株もドルも暴落しないと考えているので、デフレは再発しないと考えています。以下は、そう考える理由です。2013年4月、就任後初となる金融政策決定会合後の会見で、大規模な金融緩和について説明する日銀の黒田東彦総裁(財満朝則撮影) 黒田日銀総裁が就任した時、多くの投資家が「これで世の中に大量の資金が出回るから、株やドルが値上がりするだろう」と考えて、株やドルを買いました。それにより株やドルが値上がりして、景気が回復したのです。 しかし、実際には世の中に資金は出回りませんでした。日銀の金庫から銀行まで出て行った札束は、そのまま日銀に送り返されて「準備預金」に入金されてしまったからです。 医者が患者に小麦粉を渡し、「良い薬だ」と言うと、患者の病気が治癒することがあり、「偽薬効果」と呼ばれています。今回の黒田マジックは、まさに偽薬効果だったわけです。 偽薬効果は、患者が薬だと信じているから病気が治癒するわけで、皆が偽薬だったと知ってしまったら、続ける意味がありません。小麦粉の大量摂取だって副作用がありますから、止めるべきです。それと同じで、不況や失業という病気は治癒しており、しかも世の中にお金が出回らなかった事も皆が知っているわけですから、異次元緩和はやめても構わないわけです。異次元緩和にも少しは副作用がありますから、そろそろ出口戦略を真剣に考えるべきだと筆者は思っているわけです。美人投票だけでは株価の1万円割れは起きない 普通の病気の場合、偽薬効果で病気が治癒した人は、偽薬だったと知っても病が再発することはないはずです。偽薬だったと気づいていない患者に「薬が品切れで処方できない」と伝えても、病が再発することはない筈です。 しかし、「病は気から」ですから、不安が引き起こす病の場合には、そうとは限りません。「偽薬だと知っても再発しない」という点は同じでしょうが、「薬が品切れだ」と言われたら、再発してしまうかもしれません。 さて、今回はどうでしょう。人々が既に偽薬だと気づいていて、「偽薬で病気が治癒したのだからメデタイ」と考えているのであれば、出口戦略が景気を逆戻りさせることはないでしょう。筆者は、そうであると信じています。 しかし、人々が偽薬だと気づいていないとしたら、「異次元緩和をやめる」と宣言した途端に株やドルが暴落するかもしれません。株安やドル安は、人々の不安が引き起こす病気に似ていますから、人々の気持ち次第で再発しかねないのです。「偽薬だと気づいていない人は稀だ」と筆者は信じていますから、株やドルは暴落しないと筆者は信じていますが。(iStock) 筆者を批判している人の多くは、黒田緩和が偽薬であったことを知りながらも、「市場は美人投票の世界だから、皆が下がると思うと皆が売るので本当に下がるのだ。市場参加者の多くは黒田緩和が終われば株価が下がると考えているから、黒田緩和が終わったら、本当に株価は下がるだろう」と考えているのでしょう。 そうしたことは、起こり得ると思いますが、影響はそれほど大きくないでしょう。株価の上昇過程では、偽薬だと知らずに買っている人が大勢いて、「偽薬だと知らずに買っている人がいるから値上がりするだろう。自分も買おう」という人が大勢いて、結局皆が買ったから株価が大幅に上昇したのです。 しかし今回は、偽薬だと知らずに小麦粉の品切れを嘆いて売る人は少ないはずです。そうだとすれば、「偽薬だったと知らずに売っている人がいるから値下がりするだろう。自分も売ろう」という人も少ないはずです。 今ひとつ、株に関しては好材料があります。黒田緩和前は、日本経済の先行きに悲観的な投資家たちが、「割安だけども買えない」と考えていたため、株価が割安に放置されていました。それを適正水準に戻したのが黒田緩和だった、という面もあったのです。今回は、株が割高だということでもありませんから、出口戦略が暴落の引き金を引くという可能性は小さいわけです。 そうしたことを総合的に考えれば、ドルや株が黒田緩和前の水準まで値下がりすることは考えにくいでしょう。ある程度下がった所で割安感からの買いが出て止まるでしょう。 ちなみに筆者は、黒田緩和の時には「偽薬効果を信じている黒田教信者が買うだろうから株価は上がるだろう。自分も買おう」という美人投票的な行動をしましたが、今回はしないつもりです。もっとも、筆者の株価予想ほど当てにならないものはありませんので、読者各位は筆者を真似することのないように。投資は自己責任ですから(笑)。

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    2014年の消費増税なければ今頃日経平均3万円も…

    日経平均2万円台を回復し、連騰が続く株式市場だが、2014年の消費税8%引き上げの苦い経験がある。 アベノミクスの異次元金融緩和で一本調子で急上昇していた日経平均株価は2013年末の大納会でリーマンショック後の最高値(1万6291円)をつけた後、2014年に入ると4月の消費税率8%への引き上げをにらんで急落に転じ、増税実施後の4月11日には1万3960円まで14%(約2300円)も下がった。 下がったのは株価だけではない。増税の後遺症による景気の落ち込みはいまも続いている。安倍政権ブレーンもその懸念をはっきり認めている。内閣官房参与を務める藤井聡・京都大学大学院教授が語る。2018年2月7日、前日終値より一時700円以上上昇したことを示す日経平均株価の株価ボード(桐原正道撮影)「総務省の家計調査などをもとに試算すると、増税後の3年間で家計の実質消費は1か月あたり平均2万8000円も減少、実質賃金は4%以上ダウンしています。民間企業の投資も大きく落ち込み、日本の経済成長率は増税の直前には4%成長(2014年1~3月期)という近来にない高い伸びを示していたのに、増税後はいきなり1.3%に下がり、直近の名目GDPはマイナスに転じた。日本経済は再びデフレ化しつつある状況なのです」 そのことがこの間の株価回復のペースを大きく鈍らせた。「たかだか株価2万円」突破にこんなに時間がかかったのは前回の増税が足を引っぱっているからだ。「マスコミは株価が20年ぶりの高値更新と騒いでいますが、2014年の消費税率引き上げによる景気失速さえなければ、株価上昇のペースはこんなものではなかった。今頃、日経平均3万円の声を聞いていても不思議ではありません」(同前) その反省から、安倍首相はこれまで2回にわたって増税を延期してきたのではなかったのか。関連記事■ 2年後の消費税10%への引き上げは「最悪のタイミング」■ 2020年秋 75歳年金繰り下げ、増税、「五輪不況」へ■ 社会保障カットの決まり文句「子や孫にツケ回さない」の欺瞞■ 森永卓郎氏が選ぶ「消費税を問い直す」ために読みたい本3冊■ 赤字国債発行停止には消費税率16%引き上げが必要と専門家

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    株価暴落「アベノミクス終了宣言」の妄執

    均が一時600円を超す大幅な下げで始まった。このような株式市場の暴落があると決まって「識者」たちの「アベノミクス終了宣言」とでもいうべき発言が出てくる。この種の「識者」たちの発想の前提には、アベノミクスは株価と円安だけしかもたらしていないという「妄念」があるように思える。雇用改善や経済成長の安定化などはまったく考えの中に入っていないようである。 米国の株式市場は、トランプ政権の発足直後からの積極的な財政政策への期待の高まりや、イエレン前連邦準備制度理事会(FRB)議長の雇用を重視した金融政策の正常化路線を背景にして、かなり高いパフォーマンスをみせた。だが、よく検証してみるとトランプ政権の経済政策は実際には「何もしなかった」に等しい。2018年2月5日、米株急落を受けて大幅続落し、終値は前週末比592円45銭安の2万2682円08銭となった日経平均株価(寺河内美奈撮影) 政権発足当初の「目玉」であった大規模なインフラ投資はまったく実施されていない。議会を通過した減税政策だが、これもまだ実施には移されていない。金融政策については、トランプ大統領がこの1年、イエレン議長に対して信頼を置いていたようには必ずしも思えない。だが、FRBは金融政策の「正常化」を目指して、雇用に配慮しながら利上げを継続するスタンスを変えなかった。つまり、FRBと政府との協調において、基本的にオバマ前政権のものを継承しただけである。 さらに、貿易面では環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)からの離脱に典型的なように、これまた「何もしない」戦略を採用した。この1年のトランプ政権の「何もしない」政策スタンスは鮮明である。むしろ何もしなかったがゆえにオバマ前政権の遺産を継承して、経済が好循環したのかもしれない。実際に先週の前半まで、NYダウ工業株30種平均はこの1年で3割ほど上昇していた。経済成長率、雇用、物価上昇率ともに改善を続けていた。 今回のNYダウの9年ぶりとなる大きな下落に、なにか経済的な意味があるかどうかはもう少し情勢を見てみないとなんともいえない。このNYダウの下落は、トランプ政権の「何もしない」政策スタンスにいよいよ国民が失望したのか、それともイエレン氏に代わって新しいFRB議長に就任したパウエル氏の金融政策へのかじ取りに、市場が不透明感を抱いたのだろうか。 トランプ政権の「何もしない」政策スタンスは減税政策で変わるだろう、という見方もある。ただし法人税の引き下げが経済成長を高める効果があるかどうかは、欧米の経済学者たちを中心に激しい論争がある。これは日本のケースだが、1990年代冒頭から今日まで、何度かの法人税の引き下げを行ってきた。だが、法人税の引き下げにかかわらず、その時々の日本経済の状態は悪かったり良かったりさまざまである。つまり法人税の引き下げと経済成長は、消費と投資増加という因果関係で結ばれていないかもしれない。株価暴落はトランプへの失望? 後者については、雇用を重視していたイエレン氏が金融引き締めとなるようなシグナルを発する政策を採用することはなかった。ただし、金融政策の「正常化」、すなわち金融政策の手段として名目金利のコントロールを明示的に回復することを狙った。イエレン氏は最近、テレビ番組に出演した際に、議長に再任されなかったことを率直に残念がっていた。今度のパウエル議長は当面はイエレン氏の手法を継承すると思われるが、イエレン氏ほどの実績を残せるのかどうか不透明感がある。この意味でトランプ政権側にも政策の不透明感、そしてFRBにも不透明感が消えない。これらが市場の懸念を生み出し、暴落に至ったのかもしれない。いずれにせよもうしばらく事態を見ないとなんともいえない。手を振るトランプ米大統領=2018年2月2日(AP=共同) もし仮に、1年経過したトランプ政権の成果への失望、そしてパウエル新議長が金融政策の正常化よりも金融引き締めに移行するのではないか、という懸念が相まって今回の株価暴落に至ったとしたらどうだろうか。日本株の暴落は今回だけの問題ではなくなるかもしれない。 ところで、日本経済は昨年の世界経済の堅調を背景にして、日本銀行の金融緩和政策の継続とともに実体経済を含めて堅調に推移した。ただし、インフレ目標の達成は今年も厳しい状況だろうし、その半面で完全雇用に到達してその後の安定的な賃金上昇などの所得拡大が本格化するまではまだ道半ばだろう。極度に悲観するのは禁物だが、楽観もできない。今回のような海外からのショックが長引けば経済が再び失速する可能性はある。だが、日銀の金融緩和の姿勢が変わらなければ、中長期的にはこれまた極度の悲観は禁物だろう。 現在、国会で与野党の論戦が展開されている。興味深い論点もあるが、少なくともマクロ経済政策については、与野党の論戦は不毛な状況が続いている。ひとつには民主党政権の後継政党たち(立憲民主党、希望の党、民進党など)といった「民進党なるもの」の経済政策が、単なるアベノミクスの全否定に傾斜しており、それが事実上のマクロ経済政策の無策に直結しているからだ。 立憲民主党の経済政策は、個別の再分配政策のメニューが並ぶだけである。消費税をいますぐに上げることはできないといいつつ、同党をはじめ「民進党なるもの」が国会で消費税凍結を最大の論争点にしている動きはない。むしろ相変わらずの森友学園・加計学園問題を主眼にした国会戦略を立てているようである。同問題についてはすでに多くを書いてきたのでいまここで再論はしないが、端的にいって不毛な時間潰しである。立憲民主党は実質賃金の引き上げを主張するが、それを実現する具体的な政策が不明である。「モリカケ」の掛け声だけの国会 例えば、立憲民主党の主張には最低賃金引き上げが関係しそうだが、最低賃金は名目賃金である。ただし、過去の民主党政権のときよりも現在の安倍政権の下での方が最低賃金の引き上げ幅が大きい。どうして最低賃金の引き上げが安倍政権下で継続的に可能で、引き上げ幅も大きかったのだろうか。その理由は、労働需要(雇う側)がほぼ継続して拡大基調にあったからだ。労働供給(労働者側)のコストである最低賃金が引きあがっても労働需要側はそれを十分に吸収できる体力があったということである。そして労働需要を拡大する政策とは、これは安倍政権の下で採用された金融緩和政策に大きく依存している。 だが、立憲民主党などの「民進党なるもの」は、雇用の拡大は人口減少による人手不足だ、という偏見でとらえている。この「人口減少が雇用を拡大させた」や「もし金融政策に効果があるならばとっくに完全雇用が達成している」という意見は、極度の偏見である。おそらくこの種の主張は失業率と人口の動向しかみていないのだろう。安倍政権開始時の失業率は4・3%でそれが現状で2・8%の前後を推移している。この間、15歳以上65歳未満の人口総数である生産年齢人口は「人口減少」を示していて、約8000万人から現状では7600万人程度に減少している。このうち15歳以上で働く意欲と能力をもっている「労働力人口」は6542万人から6750万人超まで拡大している。 労働力人口は、就業者と完全失業者に分かれていて、安倍政権以降ではこの就業者の拡大と完全失業者の減少が続いている。就業者数は2012年12月の政権発足以降ほぼ一貫して上昇していて約6250万から現状では6540万人超にまで拡大している。ちなみに民主党政権時代はほぼ一貫して就業者数が減少している。他方で民主党政権時代は生産年齢人口も労働力人口も減少していた。つまり、民主党政権の時代では失業率が見かけの低下をしているが、それは労働力人口の減少を意味していたのである。これは職を求めている人たちが、厳しい景気のために職探しを断念している状況を意味する。2018年1月、羽織袴姿で年頭会見に臨む立憲民主党の枝野幸男代表(斎藤良雄撮影) 他方で、安倍政権では持続的に労働供給も増加している。これは景気の好転で職探しを再開している人が増加していることにある。このアベノミクスの労働供給の復活効果は大きく、そのため失業率に一層の低下余地があり、また完全雇用に時間がかかる背景にもなっている。もちろん、この労働供給の復活を十分吸収できるほど労働需要が活発であることが裏付けにある。そしてこの労働需要が拡大していることが、前述の最低賃金上昇を無理なく実現していることの背景にあるのである。 筆者はアベノミクスの全否定ではなく、このような効果の著しい金融緩和政策をさらに拡充しながら、消費増税の凍結や先送りよりもその放棄ないし減税など積極的な財政政策を勧めたい。だが、現状では国会では毎日のように「モリカケ」の掛け声などが大きいだけで、野党にはマクロ経済政策をよくしようという意思がまったくみられない。それを支持する「識者」を含めて、本当に懲りない人たちである。

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    「日本株バブル」はいつまで続く?

    「バブルが起きているという状況ではない」。日銀の黒田東彦総裁がこう強調するほど、日経平均株価は2018年に入っても上昇を続けている。だが、2万4千円台というバブル崩壊以来の高値をつける強気相場に波乱の芽がないわけではない。「バブル超え」の期待感も膨らむ日本株市場の先行きを読む。

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    「歴史的大相場」の日本株、バブル超え3万8千円が見えてきた

    武者陵司(投資ストラテジスト) 2018年はすべての条件が整い、勇気凛凛(ゆうきりんりん)新たな船出に向かう、という年になるのではないか。ここ数十年、これほどの好条件で新年を迎えることは初めてである。平成最後の年は新たな繁栄時代の幕開けの年である、と考える。 世界同時好況に弾みがつき、世界経済に陰りが全く見られない。国際通貨基金(IMF)をはじめ各調査機関は軒並み、日米欧先進国経済の2017年、2018年見通しを上方修正した。消費に加えて投資の増加趨勢(すうせい)が顕著になっている。それは日本の機械受注、半導体製造装置のBBレシオ(出荷額に対する受注額の割合)、米国の耐久財や非国防資本財受注などに顕著に表れている。一様に先進国の失業率は大きく低下し需給ギャップは着実に縮小しており、賃金・物価に上昇圧力が高まるのは必至であろう。2018年1月4日、大阪取引所の大発会で、上げ幅400円を超えた日経平均株価のボードを背に写真撮影に臨む晴れ着姿の女性(鳥越瑞絵撮影) 金融政策は米欧で超金融緩和の転換が始まりつつあり、日本でも一段の緩和は見合わされている段階である。1980年以降、30年以上にわたって続いた長期金利の低下トレンドは2016年に底入れしたが、2018年は緩慢とはいえ、金利上昇傾向がさらに顕著になるだろう。 この趨勢をリードする米国では需給ギャップの顕著な縮小と賃金物価圧力の上昇がみられる。レーガン期以来、30年ぶりの本格的税制改革がさらに需要を押し上げるので、それは当然ドル高をもたらす。新産業革命の下で超過利潤を謳歌(おうか)する企業業績は好調であり、債券から株式への投資ウエートの転換、グレートローテーションは一段と進むだろう。 その上、日本では価格競争(ナンバーワン戦略)から抜け出し、技術品質のみに特化した新たなビジネスモデル(オンリーワン戦略)が咲き誇ろうとしている。ハイテク分野でもインバウンドでも、求められているものは日本の質である。世界的なIoT(モノのインターネット)関連投資、つまりあらゆるモノがつながる時代に向けたインフラストラクチャー構築がいよいよ本格化している。 加えて、中国がハイテク「爆投資」に邁進(まいしん)している。中国は投資によって経済成長が維持されている国家だが、換言すれば投資を止めた途端、経済成長も止まり、直ちに経済危機に陥る心配がある。その国がハイテクに照準を絞って巨額な投資を始めている。空前の企業収益をもたらすオンリーワン戦略 ハイテクブームにおいて日本は極めて有利なポジションに立っている。新たなイノベーションに必要な周辺技術、基盤技術のほぼすべてを兼ね備えている産業構造を持つ国は日本だけである。中国、韓国、台湾、ドイツはハイテクそのものには投資していても、その周辺や基盤技術の多くを日本に依存している。言い換えれば、日本のエレクトロニクス企業群は、このイノベーションブームの到来に際して、最も適切なソリューション(解決策)を世界の顧客に提案、提供できるという唯一無二の強みを持っている。2018年以降は、その強みが花開くのではないだろうか。 日本企業の技術品質で優位性を持つオンリーワン分野への特化という特徴は、観光などサービス業、内需産業においても当てはまることである。豊かになったアジアの中産階級が「高品質」日本に向かって群れをなして訪れている。中国人の人気旅行先で日本がトップになったとの報道があった。また、韓国の2017年対日渡航者数は約700万人で対人口比15%、台湾も同約450万人で対人口比20%と日本人気は著しく高く、うなぎ上りである。日本のオンリーワンのソフトパワーがものを言っていると考えられる。 このオンリーワン戦略の結実が、空前の企業収益をもたらしている。直近の企業収益は、営業利益対国内総生産(GDP)比11・9%で過去最高となっている。また、日銀短観による大企業製造業の売上高経常利益率は、2017年度は8・11%と予想され、それはバブル景気のピーク1989年度(5・75%)、リーマン・ショック直前のピーク2006年度(6・76%)を大きく上回るものである。 こうしたことから日本株式には大きな転換点が訪れていると観測される。日経平均株価は2017年9~10月に16連騰という、歴史上観測されたことがない「ギネスブック級の連騰」を記録した。さらに日経平均が高値からの半値戻しを達成した。「半値戻しは全値戻し」との格言に従えば、バブル期の1989年に付けた日経平均の史上最高値3万8915円が視野に入ってきたといえる。デフレマインドが和らぎ、人々が極端なリスク回避、安全志向を改め、積極的なリスクテイクで高いリターンを求めるようになってきたことの表れであろう。1989年1月、東京株3万298円を示す株価ボード=東京・大手町の山一証券 日本の投資の中心は、圧倒的に現預金、いわゆる安全資産で国民金融資産の実に7割を占める。これに対して、米国の金融資産内訳は、安全資産2割、リスク資産7割強と真逆である。米国の方向へ少し向かうだけで、強烈な需給改善と大幅な株高が期待できよう。新年に入って3日間で日経平均株価が1084円、4・5%上昇し2万3800円を突破したことは「歴史的大相場」に入っていることの証拠といえるのではないか。

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    2018年の日本株市場、波乱とリスクで「幸福感」は失われる

    近藤駿介(評論家、コラムニスト) 2018年の株式市場はロケットスタートとなった。それはトランプ米大統領誕生を警戒し過ぎて相場に乗り遅れた投資家が2017年の反省を踏まえて「膾(なます)吹きに懲りて羹(あつもの)を飲もう」としているかのようだ。 大発会で日経平均株価が741円39銭高と1996年以来、22年ぶりの大幅上昇を記録した日本を追いかけるように、NYダウ工業株30種平均も2018年に入って12日までの9営業日で7回、史上最高値更新を記録するという好調なスタートを切った。2018年1月、米ニューヨーク証券取引所でダウ平均が2万5000ドルを突破し、笑顔を見せるトレーダー(ロイター=共同) トランプ大統領が就任した2017年1月20日以降の248営業日で、NYダウの史上最高値更新は77回目、史上最高値が更新される確率は31%強と実に3営業日に1回のペースで史上最高値を更新してきた計算になる。特に、9月以降から12月末までの82営業日では36回、約44%の確率で史上最高値を更新しており、年末に向けて上昇基調に拍車がかかったことが鮮明となっている。 一方、2017年のNYダウの年間上昇率は約25%と、日本がバブルの絶頂にあった1989年の年間上昇率約29%には及ばなかった。とはいえ、1989年(249営業日)に日経平均株価が史上最高値を68回更新し、その更新率が27%強だったことを考えれば「トランプ相場」のまれにみる力強さがデータからも伝わってくる。 ファンドマネジャーにとって、強いベンチマーク(BM、指標)は「最大の敵」である。BMに勝つという目標を達成するためには、BMが弱いに越したことはない。特にポートフォリオ(資産構成)がBMに近づくという宿命を抱える、資金規模の大きいファンドマネジャーほど、強いBMの存在によって厳しい状況に置かれることになる。 日本では「運用先進国」と思われている米国だが、実はパフォーマンスのいいファンドにお金が集まるという「順張り」傾向の強い国でもある。それは戦後、ブラックマンデーやリーマン・ショックなど、短期的な暴落に見舞われたことはあるものの、トレンドとして下落したことがない国の特徴でもある。 2017年はNYダウが約25%の上昇を記録する一方、ヘッジファンド・インデックス(Eurekahedge North American Hedge Fund Index)のパフォーマンスは6・6%とNYダウの上昇率の4分の1程度にとどまった。 こうした状況から想像されることは、2018年はヘッジファンドなどのアクティブファンドよりも、インデックスファンド(指数に連動する投資信託)に資金が集まりやすいということだ。それはアクティブファンドのファンドマネジャーにとっては競争相手が一段とパワーアップすることを意味し、2018年も厳しい年になるという覚悟を強いられるものである。ロケットスタートの流れを変える事態 ファンドマネジャーが強いインデックスに勝つための必要条件は、インデックスの上昇に遅れず相場の上昇を享受しつつ、インデックスが下落する局面をうまく避けることである。言い換えれば「神業」が求められるということである。 「神業」が求められるファンドマネジャーにとって、直近3カ月40%強の確率で史上最高値を更新し続けている相場に乗らないという選択肢はない。日本銀行の黒田東彦総裁の発言を借りれば、「戦力の逐次導入」をする余裕はない。四の五の言わず、取りあえず上昇相場に乗り遅れないようにして、後は下落局面を避ける可能性、自らの運の強さに賭けるというのが現実的な選択肢となる。 こうした状況でロケットスタートを切った2018年の株式市場だが、その陰では市場の流れを変えかねない事態が起きる気配も見え始めている。そうした気配を醸し出しているのは、欧州中央銀行(ECB)と他ならぬ日銀である。2018年1月、記者会見を終え、引き揚げる日銀の黒田総裁 まず先陣を切ったのは日銀である。1月9日に実施された国債の買い入れオペレーション(公開市場操作)で、超長期国債の買い入れ額を100億円減額したことが市場でさまざまな思惑を生み、為替市場で円高が進む原因となった。 とはいえ、今回減額された超長期国債は10年国債などと違って世の中の金融取引の基準になるものではないため、そのこと自体が金融に直接的影響を及ぼすことはない。重要なことは、オペ減額によって「異次元金融緩和が曲がり角に来ている」という印象を市場に与えたことである。 日銀は2016年9月に「イールドカーブ・コントロール」(長短金利操作)を打ち出した時点から実質的に、市中に出回る現金と金融機関が日銀に預ける当座預金を合計したマネタリーベース(お金の量)のコントロールを直接的な目標から外している。年間80兆円増加させるという異次元の金融緩和におけるマネタリーベースの拡大方針は「めど」に降格され、実際に昨年からマネタリーベースの増加額は年間60兆円程度まで減少している。 メディアはこうしたマネタリーベース拡大の鈍化を日銀による「ステルステーパリング(ひそかな量的緩和縮小)」と称し、日銀が意図的に行っているかのように報じている。しかし、実態は「国債利回り(金利)」と「お金の量」を同時にコントロールすることはできないことが露呈し始めたということである。 日銀が「お金の量」とイールドカーブ(国債の利回り曲線)の両方をコントロールしようとするのであれば、国債利回りが0%以上である間は国債を購入し続けるはずである。10年国債の利回りが0・07%程度にあるタイミングで、日銀が今回、超長期国債の買い入れ額を減額したということは、10年国債利回りを0%に近づけることも、マネタリーベースを増やすことも放棄した印象を与えかねないものである。ETF連日買い入れの目的 1月9日に超長期国債の買い入れ額を100億円減額する一方で、日銀は続く1月11、12の連日で上場投資信託(ETF)を735億円ずつ、2日間合計で1470億円買い入れしている。したがって、日銀がマネタリーベースを増加させていることに変わりはない。しかし、異次元緩和で掲げてきた国債買い入れ額年間80兆円と比較すると、ETFの買い入れ額は年間6兆円程度に過ぎず、マネタリーベースを増やす政策としてさほど重要なものではない。 実際に黒田総裁は2017年9月の金融政策決定会合後の記者会見で「ETF買い入れはイールドカーブ・コントロールほど重要でない」と明言している。その日銀が、超長期国債の買い入れ額を減額した直後に、ETFを連日買い入れたというのは政策変更が行われているか、場当たり的に金融政策を発動しているか、どちらかであることを感じさせるものである。2017年12月、神戸市内の記者会見で上場投資信託(ETF)購入の必要性を強調した日銀の政井貴子審議委員 また、日経平均株価は1月23日に終値で2万4100円台をつけ、26年ぶりの高値水準にある。こうした状況下での日銀による連日のETF買い入れは、その目的が「株価維持」にあるという疑念を抱かせるものであり、中央銀行の政策として非難されても不思議ではない。 日銀の金融政策の変更に追い込まれる可能性が意識され始めた直後の11日には、昨年12月に開催されたECB理事会の議事要旨が発表され、フォワードガイダンス(将来の政策指針)の言い回しを今年の早い時期に見直すことが妥当との当局者らの見解が明らかになった。これによって、市場ではECBが市場の予想よりも早いタイミングで利上げに動くという見方が広がった。 2017年に世界の注目を浴びたのは、利上げやバランスシート縮小問題に加えて、イエレン議長の後任人事問題を抱えた米連邦準備制度理事会(FRB)だった。 FRBに関わるこれらの懸念について、イエレン氏の後任問題はこれまで連邦公開市場委員会(FOMC)で反対票を投じたことのないパウエル理事が就任することで、「穏やかな利上げ」という現状の金融政策の継続性が保たれるという見方が支配的になることで収まり、これが堅調な金融市場形成の大きな要因となった。 また、金融引き締め政策であるバランスシート縮小プログラムについては、FRBが具体的工程表を明らかにして市場に無用な混乱を起こさないよう配慮を示したことで、FRBに関する不透明感は一時的に消え去った格好になっている。 そうした中で浮かんできたのが、日銀とECBの政策変更が市場の期待、予想よりも早くなる可能性である。黒田総裁「後任」のタブー 日銀は黒田総裁が今年4月に、そしてECBのドラギ総裁は来年10月に任期終了を控えている。FRBに関してはパウエル理事が次期議長に就任することが決まったことでイエレン氏退任後のFRBがタカ派的スタンスになる懸念は薄らいだが、FRBとは対照的に総裁任期問題を抱える日銀とECBは、FRBよりもタカ派的な政策に転じる可能性が高い状況にあるといえる。米FRB次期議長に就任する人事が承認されたジェローム・パウエル氏=2017年11月、ワシントン(ロイター=共同) 金融緩和の「出口論」について、終始時期尚早だとする黒田総裁の後任問題については、国内では「出口論」同様、口にすることが許されないのかと勘繰ってしまうほど議論が活発化していない。それは、黒田氏の後任問題において「出口論」を避けて通れないことの証左でもある。 日本が「先進国」であれば、日銀は黒田日銀総裁の任期満了に伴って、金融政策の目標が「イールドカーブ・コントロール(金利)」なのか、「マネタリーベース(資金量)」なのか、再度明確にすることを求められるはずである。それとともに、「2%の物価安定目標」という目標設定が正しいのか、その目標を達成するための手段として異次元金融緩和が正しい政策なのかについて議論も出てくるはずである。 FRBもECBも「2%の物価上昇」という目標を達成できるめどが立っていない段階で「出口」に向かい始めた。そうした中で、日銀だけが達成するめどが全く立たない「2%の物価安定目標」を掲げ続け、目標達成時期を無期限延期する形で金融緩和を続けることにどれだけの正当性があるのか。こうした議論が出てくることの方が自然であり、政策議論として当然あるべき姿である。 政府と日銀がこうした議論を避ける中で、国債買い入れ金額の減額などが繰り返されていけば、日銀が「市場をコントロールする能力を失った」とみなされるリスクが高まってしまう。現在の金融市場で、円が低金利の通貨を借りて高金利の通貨で運用し、利ザヤを稼ぐキャリートレードの「調達通貨」となっていることを考えると、日銀の政策スタンスがタカ派的になる、あるいは市場をコントロールする能力を失ったと思われることは、市場を混乱させる大きな要因となり得るものである。 「トランプ相場」の中でFRB政策の継続性が保たれたことに安心しきっている投資家にとって、2017年は「脇役」に徹した日銀とECBにスポットが当たってくることは大きなリスクだといえる。「日本株」二つのキーワード 来年10月まで任期があるドラギ総裁の後任問題に絡んで、ECBの政策が市場の予想よりも早く引き締め方向に動く可能性があることには警戒が必要かもしれない。蛇足だが、ブラックマンデーの時は当時のブンデスバンク(西ドイツ中央銀行)、そしてリーマン・ショックの時にはECBによる利上げが最後の引き金になっている。 2018年のスタートが世界同時株高となったことで、「トランプ相場」がスタートした1年前とは打って変わって市場では強気な見方が支配的となっている。しかし、大発会の大幅上昇に始まった8年ぶりの3連騰が日経平均株価の「価格変動リスク」(ボラティリティー)を上昇させたことも見落としてはいけない。名実ともに新年度入りし「戦力の逐次導入」できない状況になる中でスタートした米国市場に対して、日本は3月の年度末に向けて神経質になる時期に突入している。 そうした中でのボラティリティー上昇は、リスク管理上の株式保有上限を下げる要因になる。日本株が昨年度末比で約25%上昇してきていることを考えると、実現益の確保を促すリスク管理上の指示は受け入れやすい状況にある。 国内では企業収益が堅調であることから、リスクは海外情勢であるという見方が支配的である。しかし、2018年の日本株市場にとっての最大のリスクともいえる黒田総裁の任期切れを4月に控えていることと、年初の株価の大幅上昇によって日本株の「価格変動リスク」が上昇したことを考え合わせると、日本の株式市場は投資家が考えるよりも早い時期に「国内要因」によって株式市場が波乱に見舞われる可能性は否定できない。2016年2月、衆院財務金融委で質問に答える日銀の黒田東彦総裁(中央)。左は安倍晋三首相(斎藤良雄撮影) 悲観の中で生まれた2017年の「トランプ相場」は、トランプ大統領に「懐疑」を抱き続けた市場参加者が「戦力の逐次導入」をした結果、77回も史上最高値を更新するという予想以上の長いブル相場となった。そして、年終盤には「ゴルディロックス相場」という堅調な株式市場を正当化する言葉が当たり前に受け入れられるほど「楽観的な雰囲気」が醸成され、ファンドマネジャーに「戦力の逐次導入」をする余裕さえ奪い取った。 2018年の株式市場は、2017年とは反対に多くの投資家が「戦力の逐次導入」をしなかったことでロケットスタートを切った。しかし、それは「戦力の逐次導入」をした2017年と比較すると、相場の持続性を弱める結果を招きかねない動きであり、相場が市場参加者の予想よりも早く息切れし「幸福感」とともに消えていく状況をつくり出す危険性をはらんでいる。 「もはや2017年ではない」「リスクは国内にあり」。この二つが2018年の日本株式市場のキーワードになりそうだ。

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    悲観論はもういらない「バブルなき株高」と断言できる理由

    東京・東新橋 短期的には米国の株価が史上最高値を更新し続けていることが追い風となっている。中期的にはアベノミクスによって日本の景気回復が一段と鮮明になっていること、そして長期的には日本経済がバブル崩壊後の低迷からようやく脱して本格回復が見えてきたことが背景にある。 では、日本経済の回復ぶりをいくつかのデータから見てみよう。最も顕著なのは雇用情勢だ。有効求人倍率の最新の数字である2017年11月は1・56倍。すでにバブル期のピーク(1・46倍=1990年7月)を大きく上回り、実に1974年1月以来、約44年ぶりの高水準に達している。雇用情勢は歴史的な改善を達成しているのである。  有効求人倍率の統計を都道府県別に見ると、さらに注目すべき変化が起きていることが分かる。前述の1974年1月の数字は1・64倍だったが、全国47都道府県のうち14道県では1・0倍未満にとどまっており、バブル期のピークでも6つの道県が1・0倍未満のままだった。 しかし、今回はすでに2016年6月に全ての都道府県で1・0倍を超え、同年10月からは1年以上にわたって全都道府県で1・0倍以上が続いている。全都道府県が1・0倍以上となるのは、有効求人倍率の統計開始以来初めてだ。これは地方でも雇用改善が進んでいることを示している。 有効求人倍率の上昇は、その裏返しとして人手不足という新たな問題を生じさせているが、そこまで雇用が改善したということは景気回復の証左であり、しかも地方にも波及していることを物語っている。改善する中小企業の景況感 また、雇用の改善は企業マインドが前向きになっていることの反映でもある。それは日銀短観からもうかがえる。昨年12月の製造業・大企業の業況判断指数(「良い」と答えた企業の割合-「悪い」と答えた企業の割合)はプラス25で、2006年12月調査以来、11年ぶりの高水準となった。 さらに中小企業・製造業ではプラス15で、1991年9月の調査以来、約26年ぶりの高水準だった。有効求人倍率の地方の改善と合わせて考えると、景気回復のすそ野は着実に広がりを見せている。 実際、企業業績は2017年3月期に過去最高益を更新したのに続き、今年3月期も増益の見通しだ。これは企業が構造改革を進め収益力を取り戻してきたことを表している。 このほかのさまざまな経済指標でも「○年ぶり」「リーマン・ショック以後で最高」などのデータが相次いでおり、中には有効求人倍率や日銀短観の中小企業のように「バブル期並み」「バブル期超え」などの数字も出始めている。よく「景気回復の実感がない」と言われるが、それでも着実に景気は回復しているのである。合同企業説明会で、採用担当者(壁側の3人)の説明を受ける学生。新卒採用で人手確保に苦慮する中小企業が多い=2017年10月、東京都新宿区 こうした変化は米国経済好調の恩恵もあるが、基本的にはアベノミクスがもたらしたものであり、日本経済の復活につながり始めているとみることができる。したがって株価も一時的な上昇ではなく、長期的な上昇トレンドに入っていると見ている。 しかし、一方で、ここまで株価が上昇してくると「バブルではないか」と懸念する声も聞こえてくる。確かに短期的には上昇スピードがやや速すぎる感はある。だが、現在の株価水準は、別に高すぎるわけではない。 一つの尺度としてPER(株価収益率)を見よう。PERは、1株当たり利益に対して株価が何倍あるかを示す指標(株価÷1株当たり利益)で、その倍率が大きいほど株価は割高、小さいほど割安と判断できる。別の表現をするなら、PERが大きくなりすぎると「バブルの恐れがある」とも言える。通常は14、15倍~17、18倍程度が適正水準と言われているが、直近では東証1部全銘柄のPER(連結・予想ベース)は17・52倍(1月17日現在)。妥当な水準でありバブルとは程遠い。過度な悲観論は不要 では、かつてのバブル期のPERはどうだったのだろうか。日経平均が史上最高値(3万8915円)となった1989年12月は70・6倍だった。確かにバブルだったことを物語る数字である。 現在の株価が1991年11月以来ということを考えれば、その当時の東証1部のPERも38・6倍と高い。この頃はすでにバブル崩壊が始まって2万4000円前後まで下落していたが、PERは現在の約2倍の水準である。株価が同水準なのにPERが2倍ということは、それだけ当時の利益が低かったことを意味しており、株価水準は高すぎだったといえる。しかも、当時の企業業績は悪化するばかりであったのに対し、現在は上向きに推移しており、これもバブル期とは正反対である(ただし、当時の企業決算は連結ではなく単体が主流だったためPERの計算式の分母となる1株当たり利益が単体ベースの数字で計算されており、現在と同じ基準ではない。ただPERの分子となる株価も、当時は単体決算が判断材料となっていたことを考慮すれば、大筋で現在と比較できる)。 また、「ITバブル」と言われた1999~2000年には、PERが算出不能の時期もあった。これは上場企業がトータルで赤字で、PERの計算式の分母がマイナスになったからだ。その前後の時期をみてもPERは100倍以上もあり、まさにバブル全盛だったということになる。 もちろん、PERだけで「バブルか否か」を論ずることはできないが、前述のように日本経済は着実に回復しており、現在の株価はそうした経済の実態を反映したものである。もっと言えば、まだまだ上昇余地があるとも判断できる。私見だが、日経平均株価は今年中に2万7000円程度まで上昇する可能性は十分にある。順調にいけば、年末から来年にかけて3万円台も視野に入ってくるかもしれない。東京証券取引所の大納会で手締めをする関係者ら=2017年12月29日、東京・日本橋兜町 もちろん一本調子で上昇するわけはなく、この間の上昇スピードの速さを考えれば短期的には調整も有り得るだろう。海外に目を向ければ、北朝鮮情勢や世界に拡散するテロの脅威、不安定なトランプ政権など、懸念材料はいくらでもある。場合によっては株式相場に波乱が起きてもおかしくない。 それでも日本経済そのものはかなり「粘り腰」になっており、中長期的には回復基調は持続できるとみている。これまで企業経営者も消費者も、長年の経済低迷の故か、日本人の元来の控え目な性格からか、過度な悲観論が強かったように思う。 そのことが経済活動や消費行動をより慎重にさせ、結果として景気や株価の頭を押さえる一因になっていたというのは言い過ぎだろうか。むろん、根拠なき楽観論は戒めなければならないが、これまでのような「過度な悲観論」はそろそろ修正してもよいのではないだろうか。

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    前回増税延期で日経平均3400円上昇 凍結ならそれ以上の効果

     日経平均が16連騰するなど株式市場は活況を呈しているが、その勢いをかって日本経済を成長路線に乗せるには、2019年10月に予定されている消費税10%引き上げの「再々々延期」が必要だ。 増税を公約して選挙で国民の信任を受けた安倍晋三・首相が、増税を撤回する可能性はあるのか。国政選挙5連勝で再び求心力を取り戻した安倍首相は、消費税凍結を言える力を取り戻したといえる。2019年夏の参院選で「やはり五輪前に景気の腰を折るわけにはいかない」とやりたかった増税凍結を掲げて戦う可能性もある。 仮に、凍結を決断した場合、株価へのインパクトは絶大だ。消費税10%への増税を最初に延期した2014年秋の株価の動きがそれを示している。2016年6月、記者会見で消費増税の2年半延期を正式発表する安倍晋三首相(宮崎瑞穂撮影) その年4月の消費税率8%への引き上げで不況が深刻化すると、首相は「経済状況を見て総合的に判断する」と増税延期の検討に入った。日経平均株価は増税実施後の4月11日には1万3960円まで年初から14%(約2300円)も下がったが、増税延期への期待で一気に急騰をはじめ、10月17日の1万4532円から11月14日には1万7490円までわずか1か月で20%(約3000円)もハネ上がったのだ。その4日後、首相は正式に増税延期と衆院解散を表明した。「増税延期」で株価3400円アップの効果なら、消費税引き上げを「凍結」すると表明すれば株式市場にも景気にもそれ以上のインパクトを与えるのは間違いない。「リーマンショック級の出来事が起こらない限り、消費税を予定通り引き上げる」 総選挙の投開票日、安倍首相は民放テレビ各局の選挙特番に相次いで出演してそう繰り返した。 だが、この言葉は首相が伊勢志摩サミット後の2016年6月に2回目の増税延期を表明する直前まで国民に語っていたのと全く同じセリフだ。そして、「リーマンショック級の出来事」は起きなかったにもかかわらず、増税は見送った。 2度あることは3度ある。恥も外聞も捨てて安倍首相が「国民生活本位」の判断をできるかどうかに、景気と株価の行方がかかっている。関連記事■ 2014年の消費増税なければ今頃日経平均3万円も…■ 2年後の消費税10%への引き上げは「最悪のタイミング」■ 安倍首相が増税撤回する可能性は十分 その根拠とは■ 引き上げ延期の消費税 いっそ5%に下げたらどうか■ 消費増税 安倍・海江田の「談合質疑」は国民をバカにしている

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    アベノミクス批判本に徹底反論! なぜ「成果」を過小評価するのか

    研究員、島倉原(はじめ)氏が、同志社大学教授の服部茂幸氏の『偽りの経済政策』(岩波新書)を援用して、アベノミクスの雇用創出効果について否定的な意見を提起した。服部氏の上記の本では、第二章「雇用は増加していない」という刺激的な見出しがついた、アベノミクスの雇用創出への否定的な意見が確かに展開されている。 そこで服部氏は「日本経済は実体経済が停滞しているだけではなく、雇用も労働生産性も停滞していることを明らかにした」(同書93ページ)とある。また同書を読むと、服部氏のいうアベノミクスはほぼ日本銀行のインフレ目標2%を目指す金融緩和政策、すなわちリフレ政策と同じものとみなしているようだ。 実は服部氏の所論については、以前に学会の依頼で「アベノミクスをめぐる論争―日本は復活したか、それともまだ罠にはまったままか?」という批判的な書評を書いたことがある。冒頭に紹介したように、討論番組などでその所説が利用されるようならば、改めて服部氏の議論を再検討してみたいと思う。実際に、世論やネットの中では、アベノミクス期間中の雇用の改善を否定し、過小評価する傾向があるからだ。(iStock) もちろんこの連載の読者ならばおわかりだろうが、雇用状況にはまだまだ改善する余地がある。だが、それは雇用の停滞という状況ではない。雇用はアベノミクス導入以前に比べると改善しているし、その成果は金融緩和の持続に貢献している。それに加えて、もちろん海外経済の好調もある。 金融緩和の雇用改善効果は、国内的には消費増税、国際的には2015年ごろの世界経済の不安定化によって一時期低迷したが(といっても底堅い状況だった)、現状では再び改善の度合いを深めている。ただし、消費の停滞は消費増税の影響が持続しているとみなしていいので、その面から日本の雇用の改善は抑制されてしまっている。 金融緩和や財政政策の拡大による経済政策を採用することで、雇用状況はさらに改善するだろう。例えば、より一層の失業率低下や賃金上昇、労働生産性の上昇などがみられるだろう。 さて、服部氏の主張を簡単にまとめておこう。1)アベノミクス期間で就業者数は増えた。ただし、それは短時間就業者が増えただけで、「経済学上の正しい雇用あるいは就業の指標」である「延べ就業時間」でみるとむしろ減少した。2)また、実質国内総生産(GDP)を述べ就業時間で測った労働生産性だと、その上昇率はほぼゼロにまで低下している。3)安倍政権は2%の実質経済成長率を目指しているが、そのためには延べ就業時間を増加させるか、労働生産性を上昇させるか、あるいはその両方が必要である。だが、1)2)により実現は不可能に思える。特に、延べ就業時間増加率は人口構造の変化(現役世代の減少)からゼロとみても楽観的なので、労働生産性次第になる。ところが、2)もほぼゼロなので、安倍政権はその目的を達しない。4)「労働生産性の上昇なき雇用の改善は、政策の成果ではなく、失敗なのである」(同書94ページ)。雇用状態より失業がマシ? 以上が、服部氏の「雇用は増加していない」という主張である。働く場が増えることは失業している状況よりも望ましいと思うが、服部氏はそのように考えていないということだろう。 まず延べ就業時間数だが、例えば労働力調査をみてみると非農林業の延べ就業時間(週間)は、民主党政権の終わりの2012年の23・58億時間から2016年は23・60億時間になっている。確かに、この数字だけみると、安倍政権は民主党政権と比べて雇用が全く増えていないということになる。他方で就業者総数は増加しているので、パートや高齢者の再雇用といった短時間労働が貢献しているかのようである。 だが、現状では、短時間労働の原因ともいえるパート労働などの非正規雇用の増加は頭打ちともいえる状況だ。最新の統計だと、2カ月ぶりに5万人ほど増加したにとどまる。対して正規雇用は、正規の職員・従業員数は3485万人。前年同月に比べ68万人増えて、35カ月連続の増加となっている。 それに加えて、服部氏はどうも失業よりも雇用された状態がいいとは思っていないのかもしれないが、専業主婦層のパート労働の増加は家計の金銭的補助となるだろうし、また高齢者の再雇用もまた経済的な助力になるだろう。延べ就業時間の「低迷」をいたずらに過大評価すべきではない。服部氏もそれを冒頭の番組で援用した島倉氏も、働くことができる人間的価値を軽視しているのではないか。また、最近では正規雇用の増加が進んでいるので、2017年の統計は服部氏目線でもさらに「改善」されている可能性が大きい。(iStock) 次に労働生産性についてである。服部氏の定義だと確かにゼロ成長率になる。ただ、この労働生産性の定義の場合、景気が回復していけば、延べ就業時間総数が一定でも実質GDPは事後的に増加していく。現状のような総需要不足の状況であれば、それを解消していくことで実質GDPは増加し労働生産性も伸びていく。それだけの話にしかすぎない。ちなみに、総需要不足の失業がある段階で、労働生産性の向上を重視するのは奇異ですらある。なぜなら失業のプールから雇用されていく人たちは限界生産性が低い人たちであり、そのため労働生産性は低下するからだ。先に指摘したように、どうも職を得るよりも服部氏らは労働生産性が重要なのだろう。しかしそれでは国民の幸せは向上しないだろう。 また、労働生産性の伸びがゼロに近くとも、正規雇用が増加し続け、それにより延べ就業時間も増加すれば、服部氏の定義でも問題はないだろう。そうであれば、答えは簡単だ。現状の「雇用の増加」傾向を強めることが必要である。そうである以上、少なくとも現状の金融緩和の継続をやめる理由はないし、また財政政策は現在明るみに出ている事実上の「増税シフト=緊縮主義」をますます正す必要があるだろう。

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    徹底検証「アベノミクス5年間の実績」

    相は遊説先で自らの経済政策の実績を強調するが、それを実感できない国民の声が止まないのも、事実である。アベノミクスの5年間は本当に正しかったのか。徹底検証する。

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    「異次元金融緩和は成功した」数字が語るアベノミクスの5年間

    年12月26日。既に第3次安倍内閣の第3次改造(17年8月3日)になっているが、この間の政策全体が「アベノミクス」と呼ばれた。 アベノミクスの3本の矢は「大胆な金融政策」「機動的な財政政策」「民間投資を喚起する成長戦略」であった。このうち、金融政策は13年から安倍総理によって任命された黒田東彦日本銀行総裁によって実施された。 「異次元金融緩和」と呼ばれた積極的な金融緩和によって円ドルレートは大きく円安に動き、日経平均株価も急速に上昇した。 【年間平均レート】2012年:1ドル79・79円、2013年:1ドル97・60円、2014年:105・94円、2015年:121・04円【終値】2012年12月:1万395円、2013年12月:1万6291円、2014年12月:1万7451円、2015年12月:1万9034円 経済成長率もリーマン・ショックによるマイナス成長(2008年マイナス1・09%、2009年マイナス5・42%、2011年マイナス0・12%)から1~2%のプラス成長に転じた。大胆な金融政策は明らかに成功し、日本経済は息を吹き返したのである。後場開始から高値を更新した日経平均株価 =10月11日、東京都中央区(春名中撮影) 2014年は5%から8%の消費税増税によって成長率は0.34%に鈍化したが、2015年には1・20%に戻し、その後も1~2%の成長が続いた。成熟段階に既に達している日本経済にとって1%前後の成長率は「巡航速度」といえるだろう。日本経済は1956~73年の高度成長期(年平均成長率9・1%)、1974~90年の安定成長期(年平均成長率4・2%)を経て、1990年から成熟期に入ったのである。(1991~2016年の年平均成長率1・00%) 経済成長率の低下に伴って、インフレ率もまた次第に低下した。高度成長期の年平均インフレ率は2桁に達することにあり、1970年代でも年平均9%、1980年代でも2・4%に達していた。90年代に成長率が鈍化し、日本経済が成熟期に入るとインフレ率も低下し、90年代は年平均1・21%、2000年代はデフレ状況になり年平均マイナス0・53%。2010年代に入ってデフレ状況は脱したものの、2010~16年の年平均インフレ率は0・27%と極めて低いものであった。日本は明らかに低成長、低インフレの局面に入ったのである。総裁人事のベストシナリオ この状況は日本だけの現象ではない。先進国は軒並み低成長、低インフレの局面に入っている。先進国の中では成長率が高いアメリカでも、2010~16年の年平均成長率は2・09%、年平均インフレ率は1・62%だった。同じく2010~16年のイギリス、ドイツ、フランス、イタリアの年平均成長率はそれぞれ1・96%、1・97%、1・13%、0・42%だった。 一方、インフレ率はイギリスが年平均2・18%、ドイツが1・23%、フランスが1・18%、イタリアが1・36%で、各国とも経済成長率は1~2%、インフレ率も1~2%に収斂(しゅうれん)しつつある。 こうした中で日本銀行は2%のインフレ・ターゲットを維持しているが、世界的な低成長、低インフレ時代に日本で2%のインフレ率を達成するのは極めて難しいだろう。「1%成長、1%インフレ率」が日本経済の巡航速度であり、それで大きな問題はないのではないだろうか。「2%ターゲット」を今すぐ引き下ろす必要はないだろうが、次第に1%に目標を下げることが妥当なのではないかと思われる。 アメリカの連邦準備制度理事会(FRB)が金融緩和を終了し、引き締めに転じ、欧州中央銀行(ECB)も金融緩和の出口を探り出している。こうした状況の中、いつ日本銀行が出口を模索するのかが、次第にマーケットの関心事になってきている。日本銀行は今のところ、大規模金融緩和を維持するとしているが、そろそろ黒田東彦総裁も出口戦略を考え始めているのかもしれない。前述したように大規模金融緩和は成功し、日本経済はリーマン・ショック前の状況に戻っている。いつまでも緩和を継続する必要は次第になくなってきている。日経平均もこの4年間大きく上昇し、既に2万円の大台を突破した。当面インフレの懸念はないものの、FRB・ECBと同様、日本銀行も次第に舵(かじ)を穏やかな引き締めに切ってくるのではないだろうか。インタビューに答える日銀の雨宮正佳氏=2012年12月、大阪市北区(柿平博文撮影) 日本銀行の黒田東彦総裁の任期は2018年4月に切れる。このところ、日銀総裁は1期5年で交代している。総裁はこれまで財務省OBと日銀プロパーが交互に務めるケースが多く、これまでの慣例からいけば、次の総裁は日銀出身者から選ばれることになるだろう。現在、日銀出身の副総裁は中曽宏氏だが、中曽氏がそのまま総裁になる可能性はそれほど高くないと思う。むしろ、「日銀のエース」と言われる雨宮正佳理事が昇格する可能性もあるが、理事からそのまま総裁ポストに就くのは現実的に難しい。 総裁ポストをめぐっては、さまざまなシナリオが考えられるとはいえ、来年4月の任期満了後に黒田氏が再任され、雨宮氏を副総裁に指名した後、短期間で雨宮氏に交代するという筋書きが有力だろう。時として総裁人事が国会承認でもめるということがあったが、このシナリオに抵抗があるとは思えないし、「黒田―雨宮」のバトンタッチがスムーズに進む可能性は十分にある。黒田総裁は財務省の国際派。財務官を務め、アジア開発銀行の総裁も経験している。以前は財務省出身の総裁は事務次官経験者で、どちらかというと国内派(23代森永貞一郎、25代澄田智、27代松下康雄)だったが、金融の世界でも国際化が進む中、国際派の起用は適切だと言えよう。

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    アベノミクスの限界「3本目の矢」は放たれない

    る可能性があり、そうなった場合にはポスト安倍が強く意識されることになる。いずれにせよ5年間続いてきたアベノミクスは今回の総選挙をきっかけに何らかの方向転換を余儀なくされる可能性が高い。本稿ではアベノミクスの成果について、あらためて検証していきたい。 アベノミクスは説明するまでもなく第二次安倍政権が掲げた経済政策のことだが、その内容は徐々に変化しており、現在では明確な定義が難しくなっている。 当初のアベノミクスは「3本の矢」というキーワードに象徴されるように、3つの柱からなる政策であった。1本目の矢は「大胆な金融政策」で、これは日銀の量的緩和策のことを指している。2本目は「機動的な財政政策」で、主に大規模な公共事業である。そして3本目が「成長戦略」である。   量的緩和策は、日銀が積極的に国債を購入することで、市場にマネーを大量供給し、世の中にインフレ期待(物価が上昇すると皆が考えること)を発生させるという金融政策である。期待インフレ率が高くなると、実質金利(名目金利から期待インフレ率を引いたもの)が低下するので、企業が資金を借りやすくなる。これによって設備投資が伸び、経済成長が実現するというメカニズムである。日銀本店=東京都中央区(早坂洋祐撮影) 日本は不景気が長期化し、デフレと低金利の状態が続いていた。名目上の金利は、これ以上引き下げることができないので、逆に物価を上げて、実質的な金利を下げようというのが量的緩和策の狙いであった。 しかし、物価が上がる見通しがついただけでは、経済を持続的に成長させることはできない。本当の意味での成長を実現するには、日本経済の体質を根本的に変える必要があると考えられており、それを実現する手段が成長戦略であった。 成長戦略の内容は、時間の経過とともに変わっていくのだが、少なくともアベノミクスが提唱された当初は、いわゆる構造改革のことを指していた。だが、構造改革を実施すると、一部の人は転職を余儀なくされたり、もらえていた補助金を失ってしまうなど、痛みを伴うことになる。また、構造改革が一定の成果を上げるまでには、それなりの時間が必要である。その間のショックを緩和するための措置として掲げられていたのが2本目の財政出動であった。  整理するとアベノミクスは、金融政策でデフレからの脱却を試み、財政出動で当面の景気を維持し、その間に痛みを伴う構造改革を実施するという流れだったことになる。 だが、アベノミクスは、当初描いていたような形には進展しなかった。構造改革に対する世論の反発が強く、安倍首相はやがてこの言葉を使わなくなり、構造改革の司令塔であった規制改革会議も有名無実化された。その後、成長戦略は何度か追加されたが、多くが予算措置を伴うものであり、3本目の矢は、実質的に2本目の矢に収れんしたとみてよい。つまり、アベノミクスは、量的緩和策と財政出動を組み合わせた2本立ての経済政策にシフトしたのである。 1本目の矢については、当初はうまく機能するかに見えた。量的緩和策がスタートした時点では、消費者物価指数(「生鮮食品を除く総合(コア指数)」)は前年同月比マイナスだったが、すぐにプラスに転じ、消費税が8%に増税された2014年5月にはプラス1・4%(消費税の影響除く)まで上昇した。2%という物価目標の達成はもうすぐかと思われたが、ここを境に物価は失速を開始し、2015年2月には0%まで低下。2016年に入るとマイナスが目立つようになってしまった。量的緩和策の限界 日銀は2016年1月にマイナス金利政策を導入し、同年9月にはイールドカーブ・コントロールという聞き慣れない手法の導入に踏み切っている。この手法は、購入額をコミットするという従来の考え方をあらため、購入額ではなく金利水準に軸足を置くというものだが、市場はこの措置について物価目標からの事実上の撤退と認識した。 結果として、消費者はデフレマインドを強めることになり、物価が上がるとイメージする人はほとんどいなくなってしまった。スーパー大手のイオンは、2度にわたって商品の値下げを敢行したほか、家具大手のイケアも大幅な値下げに踏み切っている。埼玉県越谷市にあるイオンの店舗 もっともアベノミクスがスタートして以後の実質GDP(国内総生産)成長率は、2013年度がプラス2・6%、2014年度がマイナス0・5%、2015年度がプラス1・3%、2016年度がプラス1・3%と微妙な状況が続く。直近の四半期については世界経済の回復もあって、1~3月期が年率換算でプラス1・2%、4~6月期が年率換算でプラス2・5%となっており、まずまずの結果だった。 かなりスローペースではあるものの、日本経済は回復しつつあると評価することもできるが、一方で、安倍政権が掲げていた名目3%、実質2%の成長目標という点からすると、現時点ではほど遠い状況にある。 ただ、量的緩和策については、国債の総量という上限があり、無制限に継続できるわけではない。市場では量的緩和策はそろそろ限界との見方が支配的であり、少なくとも緩和策の拡大という選択肢はなくなりつつある。消費増税については自民と希望で方針が異なっているが、アベノミクスの主軸であった量的緩和策が限界に近づいている以上、希望が獲得する議席数にかかわらず、何らかの形でアベノミクスが軌道修正される可能性は高いだろう。

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    前原誠司のアベノミクス批判はあながち間違っていない

    外国語大学教授) 10月22日投開票の第48回衆院選で、安倍政権は国民に信を問う。日銀の異次元緩和はアベノミクスの心臓部ともいえる経済政策の中軸であるだけに、その成否が問われることになるだろう。来春には、異次元緩和を導入した日銀総裁の黒田東彦が5年の任期を迎える。異次元緩和の功罪をあらためて検証したい。 民進党代表の前原誠司は9月28日に開かれた両院議員総会で、希望の党との合流を提案した。これで民進党は事実上の解党となった。「自分勝手に政治をゆがめる安倍政権を退場に追い込む」 前原は、希望への合流の目的を安倍政権打破と位置付けた。そして、その際に前原が安倍政権の失政として最初に取り上げたのが、異次元緩和だった。 「日銀に大量に国債を買わせて無理矢理に金利を下げて、円安にして株価が上がったかもしれない。しかし所得は上がっていない。実質賃金は下がり続け、企業の利益は増えたけれども国民の生活は困窮している」 「日銀にETF(上場投資信託)を買わせて、みせかけで株価を上げて、アベノミクスはうまくいっているということを引きずっているだけだ」 前原はアベノミクスに反対する姿勢を鮮明に示し、「反異次元緩和宣言」に踏み込んだ。小池百合子率いる希望の党は公約で「ユリノミクス」を掲げ、「金融緩和や財政出動に過度に依存せず、民間の活力を引き出す」と訴える。前原のように異次元緩和にはっきりとノーを突き付けたわけではないが、異次元緩和の出口に早期に向かわせる公約とも読める。希望の党公認候補の応援演説に駆けつけた民進党の前原誠司代表=2017年10月14日、群馬県伊勢崎市(吉原実撮影) ただ、小池はロイター通信のインタビューに対して、日銀が国債を買い過ぎていると指摘したものの、「大きく方向性を変える必要はない」とし、次期総裁の資質についても「今の延長の部分はあろうかと思う。あまり急激に変えるということは、株式市場にも影響を与えるのではないか」と話し、黒田日銀の異次元緩和の基本的な枠組みは支持する考えを示した。 黒田の任期は来春に迫っている。日銀法では、総裁は衆参両院の同意を得て内閣が任命すると定められており、事実上、人事権を握るのは時の首相だ。自民単独で過半数を占め、安倍政権が安定的な基盤を維持すれば、黒田の続投か、コロンビア大教授の伊藤隆敏ら、異次元緩和の理論的なバックボーンであるリフレ派から総裁が起用される可能性が高くなるだろう。 しかし、安倍が首相の座から降りることになれば、次期総裁の行方は途端に混とんとする。実は、日銀が大胆な金融緩和に踏み出せた背景には、安倍の経済ブレーンにスイス大使の本田悦朗や嘉悦大教授の高橋洋一らリフレ派がそろっていたことに加えて、第2次安倍政権の誕生と日銀総裁交代のタイミングが合致していたことがある。「敗北宣言」黒田の思惑 日銀の金融政策は、日銀法で政府からの独立性が守られている。たとえ首相であっても、5年間の任期の途中で、総裁の首をすげ替えるわけにはいかない。 つまり次期衆院選の結果は、日銀総裁人事を通じて、金融政策の行方に決定的な影響を与える可能性があるのだ。市場では、安倍退陣となれば「円高、株安」に向かうとの観測も出始めている。   異次元緩和の目標は、物価が持続的に下落するデフレを解消することにある。裏を返せば、デフレは、持続的に円という通貨の価値が向上していることを意味する。円に対する過剰な信任を破壊し、モノやサービスへの欲望を取り戻すことが、その狙いだ。そのために、日銀が国債を大量に買い込み、円の供給を爆発的に増やすことで円の価値を破壊することが、異次元緩和の要諦といえるだろう。 黒田は2013年春に、デフレ脱却の旗印として2年で2%の物価目標を達成することを示した。しかし、物価目標の達成時期は繰り返し先送りされ、今年7月の「展望レポート」では「19年度ごろ」とされている。デフレ脱却の見通しは不透明なままなのだ。 「賃金の上昇が価格の上昇に転嫁されるのを控えるような行動がとられている面もあります」 黒田は物価が上昇しない理由について、9月21日の金融政策決定会合後の記者会見でこう指摘した。G20財務相・中央銀行総裁会議の開幕を前に、取材に応じる日銀の黒田東彦総裁=2017年10月12日、ワシントン(共同) その背景について、日銀は1年前に公表した「総括的な検証」で「適合的な予想形成」という分析を示した。過去のデフレに引きずられて企業や消費者が行動するため、異次元金融緩和を実施しても人々の物価観を転換できなかったという説明だ。1年後の今も、根強いデフレマインドから抜け出せていないのだ。 黒田は総括的な検証と合わせて昨年9月、異次元金融緩和とマイナス金利10年物国債の利回りをゼロ近辺に誘導する長期金利の目標を導入した。伝統的な金融政策では、中央銀行が操作するのは短期金利で、長期金利は操作できないと考えられていただけに、異例の政策といえる。 この政策の枠組みでは、日銀の国債購入は政府の国債発行の増減と表裏一体となり、金融政策は事実上、政府の財政政策に従属する形になった。 なぜなら長期金利の行方を左右する最大のファクターは、政府が発行する「10年物国債」の量だからだ。政府が財政再建を進めて、国債の発行量を絞れば、長期金利は下落傾向を示し、財政の拡大を進めれば、長期金利は上昇傾向を描く。結局、長期金利をゼロ近辺に誘導するという目標は、政府の国債発行の動きに連動するしかなくなるのだ。 黒田は、国債購入のげたを政府に預けてしまったのだ。市場では、これを「黒田の敗北宣言」と受け止め、この段階で、異次元緩和は事実上の終止符を打ち、出口に向かって舵を切り始めたと受け止められている。解散を後押しした異次元緩和 欧州も「出口戦略」へと進んでいる。米連邦準備制度理事会(FRB)は2008年のリーマンショック後に導入した量的緩和政策を終結、10月から拡大した保有資産の縮小に向かう。米欧の金融政策が引き締めに向かっていることで、日銀は現状維持していても、為替相場は円安に向きやすい。これは、日本経済にとって追い風だ。 ただ、世界的な経済ショックに見舞われたとき、日銀には、もう多くの手段は残されていない。金融機関の収益を圧迫し猛反発を浴びたマイナス金利を深掘りするのは難しいだろう。市場の価格形成をゆがめていると批判の強いETFの買い増しも採用できないと考えられる。  そうするとデフレ脱却に失敗した異次元緩和は、前原が指摘するように「国民を困窮させた」だけの失政だったのだろうか。 民主党政権時代の2011年から2012年、為替相場は1ドル=70円台後半を軸に推移、歴史的な円高になっていた。日経平均株価(225種)も2012年には9000円の大台を割り込む場面もあり、低迷が続いていた。 こうした円高の流れを変えたのが、異次元緩和であった面は否定できない。異次元緩和はデフレ脱却が目的だが、対ドルとの関係でいえば、円の供給量が増えれば円安に向かう効果は当初から期待されていた。 グルーバル企業の海外子会社において、円安は円換算の利益を押し上げる。この効果は大きく、日経平均株価も、円安を好感して上昇トレンドを描いた。最近では1ドル=110円前後が定着、日経平均株価も2万円の大台を回復している。 総務省が9月29日に発表した8月の完全失業率(季節調整値)は、前月と同じ2・8%となり、バブル期並みの高水準となった。団塊の世代の大量退職による循環的な人手不足の効果もあるものの、円安による企業収益の好転も企業の採用意欲にプラスの影響を与えたと考えられる。   株価の好転と雇用の増大は、安倍政権の支持率を支えていると言えるだろう。森友学園、加計学園問題をめぐる対応の不手際で、支持率を大きく下げた安倍政権だが、解散総選挙に踏み切る力を与えたのは、異次元緩和の効果も大きかったと考えられる。街頭演説する自民党総裁の安倍晋三首相=2017年10月15日、北海道 9月21日の金融政策決定会合で、新任審議委員の片岡剛士が「効果が不十分だ」と、むしろ緩和強化の必要性を訴え、大規模な金融緩和策の維持に反対した。一方で、審議委員を退任した木内登英はマスコミのインタビューに「金融緩和の副作用は膨らんでいる」「2%の目標を断念して柔軟化すべき」と主張、日銀のOBの中にも、異次元緩和の効果を疑問視する声もある。 果たして、国民は異次元緩和に、どのように審判を下すのか、注目される。(文中敬称略)

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    このままでは政権維持しても「アベノミクスの果実」を享受できない

    が明確に変わったことは確かだ。株価・為替・雇用についてその数字を繰り返す必要はないだろう。 さらに、アベノミクスの勢いを大きくそぐこととなった14年の消費増税ショックもようやく一巡しつつある。先日発表された9月の日銀短観で、景気が「良い」と答えた企業の割合から「悪い」と答えた割合を引いた「業況判断DI」は、大企業で製造業・非製造業ともに20を超える。これは10年ぶりの水準であり、大企業の景況感がリーマン・ショック前まで回復していることを示している。そして、中小・中堅企業を含めても同指数は15となっており、これは27年ぶりの数字である。製造業・非製造業間、地域間、企業規模間の格差が相対的に小さい点も今回の景気拡大の特徴だ。 アベノミクスの政策目標である2%のインフレは達成されていないが、その意味するところは政策の失敗ではない。昨夏の寄稿で指摘したように、鈍い賃金上昇、その結果としての低インフレといまなお続く雇用の拡大が同居している状況は、日本経済の潜在能力の高さを意味している。2013年2月、「三矢の訓」を説いた戦国武将・毛利元就が本拠地とした広島県安芸高田市から贈られた「三本の矢」を手にする安倍晋三首相(酒巻俊介撮影) ここであらためてアベノミクスとは何かを振り返ってみよう。当初のアベノミクスは「大胆な金融緩和」「機動的な財政出動」「民間投資を誘発する成長戦略」の三本の矢であるとされていた。金融政策において大きな転換が行われたことは確かである。だが、成長戦略についてはようやく働き方改革の検討が始まったばかりだし、社会保障改革については手つかずと言ってよい。まだまだ不十分というのは多くの論者の見解が一致するところだろう。しかし、後述するように成長戦略はいわゆる構造改革のみによって達成されるわけではない点にも注意が必要だ。 一方、アベノミクスへの評価をめぐる議論でいつも混乱の元となるのが財政政策である。「財政・金融政策をフル稼働させて短期的な経済浮揚を果たしただけだ」といった言及が行われることがあるが、これは二重に誤りである。第一に、安倍政権下の財政運営は拡張的なものではない。アベノミクスのマクロ政策運営の基本方針は「金融緩和+財政再建」である。 政府支出(正確には公的需要)の対国内総生産(GDP)比は12年第4四半期の25・3%から17年第2四半期には24・5%まで低下している。また、政府の赤字を示す資金循環勘定の国と地方の資金過不足の対GDP比は-7%台から17年第2四半期には-1・8%(季節調整値)まで改善した。14年の消費増税だけでなく、支出の抑制や景況の回復による自然増徴によって財政再建が進んでいる。終盤を迎える衆院選をめぐる政策論争に際し、ここ数年の日本経済が抑制的な財政運営の中、事実上金融政策のみで一定の経済浮揚効果を得てきたという点を忘れてはならない。日本が人手不足対応型経済の先進国になる 第二に、財政政策・金融政策は短期的な経済の改善のみをもたらすものではない。短期の蓄積が長期なのだ。 労働者の能力・技能は現場で形成される。短期的な経済停滞によって青年期に仕事の経験を積み、その能力を向上させる機会を得られなかった労働者が多いと、10年後・20年後の日本の生産性に大きな足かせとなる。逆もまた真(しん)なりだ。さらに、労働市場の逼迫(ひっぱく)が深刻になる、つまりは人手不足が深刻化すると、企業は自動化・機械化といった省力化投資を余儀なくされる。 長期的な人口減少傾向の中で、その初期から人手不足対応型の経済にシフトしていくことは将来の日本経済にとっても必要な変化である。人手不足という圧力により、企業のみならず社会・制度が人工知能(AI)やモノのインターネット(IoT)にむけたシステムに変化していくことが予想される。制度や構造問題が景気に押されて変化するケースは、海外でも労働者保護的な制度改正などで頻繁に観察されてきた。 現下の短期的な(?)景気回復は、日本の企業・社会を「人手不足対応型経済」に変えていく上で大きな原動力となり得る。近年の東アジア、そして東南アジアの出生率の低下をかんがみると、日本が人手不足対応型経済の先進国となる意味は大きい。少子化・高齢化にマッチした商品・サービス、経営手法はより長期にわたる日本経済の成長の源泉なのだ。(iStock) 企業行動の変化、制度改革を後押しする人手不足状態を創り出したという点で、アベノミクスは短期的にとどまらない成果を残しつつある。次に課題となるのは、この状態をどうやって維持し、さらなる成長に結びつけていくかだ。そのためには、(1)安定政権による将来予想可能な政策運営、(2)適度の人手不足プレッシャーを引き続き維持するための財政・金融政策の組み合わせが必要となる。 この両条件が満たされるか否かに日本経済の未来はかかっている。第一の条件に関するリスクは当然衆院選にある。いずれの党も安定的な議席数を確保できず、連立の枠組みや政策協調が猫の目のように変わるようになると、政策の継続性に疑問符がつくことになり、経済政策は「効くモノも効かない」状態に陥る。 そして、第一の条件が満たされたとしても、第二の条件に配慮した政策運営が行われなければ、日本経済は「人手不足の果実」を享受することはできないだろう。10月22日以降の政権には、これまでの金融政策の効果を軽視することなく、そして2014年の消費増税ショックの教訓を生かして、財政・金融一体での「適度の人手不足プレッシャー」の維持をはかっていただきたい。

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    インフレ率2%の目標は死守すべきなのか?

    たり物価が下がったりすることはないだろう、と考えているからです。偽薬効果だと考える理由については、『アベノミクスの七不思議を考えながら、今後を占ってみた』をご参照ください。望ましい状態とは何か? 重要な点は、日本経済が既にデフレを脱しているということです。消費者物価指数の上がり方が日銀の目標に達していないだけで、下がっているわけではないのです。つまり、「金融政策による物価のコントロールが難しいから、ゼロより2%を目指す」「次回景気後退に備えたのりしろを持つ」といったことさえ考えなければ、まさに理想的な「失業もインフレもない経済」なわけです。 これを、大きなコストを払ってまで2%インフレに持っていくインセンティブは小さいと思います。次回の景気後退ですが、国内要因で景気が悪化するとは考え難い状況ですから(政府日銀が景気を冷やすことは考えられず、バブル崩壊による景気後退も考え難いでしょう)、あるとしたら海外発ですが、海外経済にも特段のリスクは見当たりません。 一方で、国内の労働力不足は一層深刻化しつつあり、非正規労働者の賃金は上昇しています。中小企業の賃金も、上昇し始めているようです。こうした中、物価が下落していく可能性は大きくないと考えて良いでしょう。 景気が悪化して物価が下落する可能性が大きくないのに、比較的大きなコストをかけて「景気が後退した時への備え」をするのでは、コストとベネフィットの釣り合いが取れないでしょう。インフルエンザが流行する見込みが大きくないのに、通常より高い費用を支払って予防注射を接種するようなものですから。(iStock) 日銀としては、「メンツ」があるので2%インフレの旗を下ろせない、と考えているかもしれませんが、筆者としては、総裁が交代したタイミングで政策の転換があっても構わないと考えています。 「現在の日本は、インフレも失業もない、望ましい状況にあります。日銀はこれまでインフレ率2%を目標に量的緩和等を行なって来ましたが、それは物価を上昇させて景気を回復させることが主目的でありました。物価が上がらなくても、景気が回復したのですから、主目的が達せられた以上、金融政策の正常化に向けた第一歩を踏み出すことが適当と考えるに至りました」と新総裁が発表したら、筆者は大いに納得すると思います。 金融市場関係者の多くは、これを「テールリスクとして扱う必要もないほど起こり得ないことだ」と思っているでしょうが、皆が起こらないと思っていることが起きかねないのがテールリスクですから(笑)。

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    アベノミクスの七不思議を考えながら、今後を占ってみた

    塚崎公義 (久留米大学商学部教授) アベノミクスで景気が回復したことには、疑いありませんが、過去30年以上にわたって景気を見続けてきた筆者にとって、不思議なことが非常に多い景気回復でありました。今後のことを考えるためにも、なぜ不思議なことが起きたのかを振り返っておくことが重要と考えて、本稿にまとめてみました。「アベノミクス」始まって以来の高値を一時超えた日経平均株価を示す電光掲示板=2017年10月、大阪市中央区(宮沢宗士郎撮影) 通常の金融緩和というのは、日銀が大量の資金を供給することで市場金利を押し下げ、それによって設備投資等を刺激して景気を回復させようというものです。しかし、ゼロ金利になると、金融を緩和しても金利がそれ以上は下がりません(マイナス金利のことは、忘れましょう)。それならば、金融緩和は効かないはずです。 ゼロ金利下で日銀が銀行から国債を購入しても、銀行は融資先が見つからないので、日銀から受け取った札束をそっくり日銀に貯金します(準備預金と呼びます)。従って、資金は世の中には出回りません。銀行の国債保有(銀行の政府への貸出)が減り、準備預金(銀行の日銀への貸出)と日銀の国債保有(日銀の政府への貸出)が増えた、というだけです。実際、白川総裁の時は、金融を緩和しても何も起きませんでした。 しかし、黒田緩和が始まると、株価(およびドル、以下同様)が値上がりしました。それは、一部の投資家(本稿では黒田教信者と呼びます)が「金融が緩和されると世の中に資金が出回るから株価が上がるはずだ」と考えて株に買い注文を出したからです。株価は人々が噂を信じて買い注文を出せば上がるので、その噂が真実であるか否かは関係ないのです。そうなると、黒田教信者でない投資家も、「黒田教信者が買い注文を出しているから、株価は上がるだろう」と考えて株の買い注文を出したので、株価は一層上がったのです。 医者が患者に小麦粉を渡して「よく効く薬だ」と言うと、患者の病気が治る場合があり、これを「偽薬効果」と呼んでいます。今回も、効くはずのない政策を「効く」と宣伝しながら実行したら、本当に効いてしまったというわけですから、まさに偽薬効果であったと言えるでしょう。 黒田総裁が、本当に効くと信じていたのか、効かないと知りながら効くと言っていたのかわかりません。後者であれば、彼を嘘つきと呼ぶことも名医と呼ぶこともできるでしょうが、本稿では結果重視で「名医」と呼んでおきましょう。円高トラウマの影響 1ドルが80円から120円になれば、普通は輸出数量が増えます。輸出企業が「輸出すれば儲かるから頑張って輸出しよう」とするからです。しかし、今回は輸出数量は増えていません。(iStock) 一因は、円高時に計画された海外現地生産が、円安後に実行され、海外の生産が開始したので、輸出先が減ってしまったというものです。しかし、円安から4年も経つのですから、既にそうした効果は剥落しているはずです。 輸出企業が輸出価格を下げていないから、海外から見て日本製品が安くなっていない、という指摘も聞かれました。契約通貨ベースの輸出物価指数を見ると、たしかに2014年までは、円安にもかかわらず輸出価格は下落しておらず、円建て輸出価格指数が上昇しています。しかし、2015年からは、一段の円安に応じて契約通貨ベースの輸出価格を引き下げる動きが明瞭となっています。輸出価格が下がったら輸出数量が増えるのが普通なのですが、そうなっていないのです。 輸出を増やすためには、国内工場の生産ラインを輸出品向けに組み替える必要がある、とも言われています。日本の輸出企業は、長期的に円高に傷めつけられ続けて来たので、円高トラウマがあり、「また、どうせ円高になるのだから、生産ラインの組み換えはやめておこう」と考えているのかもしれません。 輸出企業が円高トラウマ等で輸出を頑張らなくても、外国のバイヤーが「日本製品が安く買えるから」と押し寄せても良いのに、そうした動きも今ひとつのようです。日本製品はガラパゴス化しているので、国内用の製品と輸出用の製品では、あまりにスペックが異なっていて、外国人バイヤーのお目に留まる製品が無いのかもしれません。 輸入数量が減っていないことも不思議です。日本人にとって、輸入品が高くなったのですから、国産品に乗り換える消費者が増えても良いように思います。これについては、「カジュアルな服は中国で、高級品は国産で」といった棲み分けが確立しているので、国産のカジュアル服が存在せず、円安になっても中国から輸入せざるを得ない、という事情もあるようです。 それにしても、不思議です。筆者は輸入品のウイスキーやワインを減らして国産の日本酒や焼酎を飲むようにしていますが、そうした消費者は少ないのでしょうか(笑)。 景気の予想屋が経済成長率を重視するのは、「経済が成長すると、企業が物作りのために人を雇うから失業が減り、景気が良くなる」からです。従って、今回のように成長率が低いままだと、失業率が低下せず、労働力不足は生じないはずなのです。それなのに、失業率は下がり、有効求人倍率は上がり、人手不足の悲鳴があちらこちらから聞こえています。なぜでしょうか?一因は高齢化社会 一つには、高齢化に伴う医療・介護サービスの増加が挙げられます。ロボットが自動車を作る全自動の工場が減って、介護施設が建てられれば、GDPはプラスマイナスゼロだとしても、労働力の需要は大幅に増加するからです。もっとも、これは長期的なトレンドとして進んでいる話であり、アベノミクスによって始まったわけではありません。「アベノミクス前から徐々に水位が下がり続けていたが、誰も気付かなかったところ、アベノミクスにより川底の石が顔を出したために皆が水位の低下に気がついた」といったイメージでしょう。(iStock) もしかすると、アベノミクスを契機として、値下げ競争からサービス競争に変化した部分も大きいのかも知れません。従来は、ペットボトルの水を買うには自分でスーパーへ行って水を買い、自分で持って帰る必要がありましたが、今では通販会社にインターネットで注文すれば、早ければその日のうちに到着します。販売側としては、「送料無料」と宣伝することで、「代金と送料の合計から送料分を値引きした」というつもりでしょうが、買い手からすれば「水を買ったら宅配してくれた。サービス向上だ」と感じられる、というわけです。 企業収益が好調で、しかも労働力不足なのに、正社員の給料はそれほど上がっていません。なぜでしょうか? それは、正社員が釣った魚で、給料を上げなくても辞める心配がないからです。 正社員は年功序列賃金ですから、若い時には会社への貢献より給料が低く、中高年は会社への貢献より給料が高いのが普通です。そうだとすれば、途中で退職してしまい、転職先では会社への貢献に見合った給料しか受け取れないとすると、損をしてしまうので、転職をしないのです。 アルバイトや派遣といった非正規労働者の時給は上昇しています。それは、彼等が時給を上げないと退職してしまうからです。そこが正社員と非正規社員との大きな違いなのです。 かつて、日本企業が「従業員主権」で「会社は家族」であった時代には、会社が儲かったら、配当を増やすのではなく従業員に還元したものです。したがって、経済の成長につれて正社員の給料も順調に上がって行ったのです。しかし、最近では「企業は株主のものだから、儲かったら配当をするのが当然」という企業が増えています。中途半端に日本的(年功序列賃金だけ残り、会社は家族ではなくなってしまった状態)である事が、給料が上がらない理由なのかもしれませんね。 そうだとすると、非正規労働者の時給は引き続き上昇し、新入社員の初任給も就職戦線が売り手市場である事を考えると上昇せざるを得ず、意図せずして「同一労働同一賃金」に近づいて行くのかも知れませんね。消費が増えないメカニズム 企業の収益は好調で、史上最高レベルにあります。しかし、設備投資は盛り上がりに欠けています。その一因は、生産も売上も増えないので、能力増強投資を行なう必要がない、ということでしょう。今ひとつは、過去の不況のトラウマだと思われます。バブル崩壊後の日本経済は、何回も景気が回復しかけては挫折し、そのたびに「景気回復を期待して能力増強投資を行なった企業」が痛い目に遭ってきました。それがトラウマになって、「どうせ遠からず不況になるのだろうから、能力増強投資はやめておく」という企業が多いのでしょう。 一方で、省力化投資には期待が持てます。これまで安価な労働力が豊富にあったので、企業は省力化投資のインセンティブを持たず、省力化投資を怠って来ました。そこで、少しの省力化投資で大幅な省力化ができる余地がいたる所にあるからです。少子高齢化を考えると、中長期的に労働力不足は続きそうですから、「どうせ遠からず安価な労働力が豊富に手に入るだろう」とは思われませんから。レジにセルフ精算機を導入したスーパーマーケット=2017年7月、東京都内(蕎麦谷里志撮影) 労働者の平均賃金は、アベノミクスによってもほとんど上がっていません。しかし、これは正社員よりも非正規社員が増えたことによって平均が押し下げられたことの影響が大きいのです。サラリーマンに養われていた専業主婦がパートの仕事を始めると、家計の収入は増えて家計は豊かになりますが、労働者一人当たりの平均賃金は下がります。そうしたことが多くの家庭で起きているため、日本全体としても「労働者階級の稼ぎは増えているのに、一人当たり労働者の所得は増えていない」という統計になっているわけです。 このように、人知れず日本の労働者階級の総所得は増加しているのですが、その割に消費支出は伸びていません。「社会保険料負担が増加しているから、給料が増加しても実質的には豊かになっていない」「老後が不安だから人々が貯蓄に励んでいる」という面もありますが、「アベノミクス前から社会保険料は徐々に上がっていた」「アベノミクス前から人々は貯蓄に励んでいた」ことを考えると、「アベノミクスによって所得が増えたのに消費が増えない理由」の説明には使いにくいです。 やはり、不況のトラウマで、「どうせ遠からず失業するのだから、せっかく受け取った給料は貯蓄しておこう」と考えているのかもしれませんね。これについては、少子高齢化による労働力不足が今後中長期的に深刻化していくことを考えれば、おそらく心配無用なのでしょうが、そこまで考えずに不安に思っている人が多いのでしょう。景気は回復しているのか? 七不思議の最後は、そもそもなぜ景気は回復したのか、ということです。アベノミクスで景気が回復したことは疑いありません。今の景気が素晴らしいという訳ではありませんが、兎にも角にも消費税率を5%から8%に引き上げたのに景気が腰折しなかったわけですから、その程度には景気は強くなっていたわけです。では、なぜ景気は回復したのでしょうか?(iStock) 円安で輸出数量が増えたからでしょうか? 違います。輸出数量はほとんど増えておらず、輸入数量もほとんど減っていません。では、輸出企業が円安によって潤ったからでしょうか? 違います。日本は輸出と輸入がほぼ同額なので、輸出企業が外国から持ち帰ったドルが高く売れたのと、輸入企業が輸入代金を支払うためにドルを高く買わされたのと、同じくらいの金額なのです。 株高で個人消費が増えたからでしょうか? 違います。当初こそ、富裕層の高額品消費が話題になりましたが、最近では聞かれません。労働者の所得が増えたのに、消費が増えていないのは上記の通りです。インバウンドによる「爆買い」も一時的な現象に終わってしまいました。 企業が儲かったから設備投資をしているのでしょうか? 違います。企業は、史上最高レベルの高収益を稼いでいながら、設備投資には慎重で、銀行からの借金を返すことに熱心です。省力化投資は少しずつ増えていると思われますが。 そう考えると、景気を回復させた原動力が何であったのか、不思議です。公共投資は、当初は効果があったはずですから、これで景気の方向が変わり、そのまま「慣性の法則」で景気が回復を続けた、ということのようですが、いずれにしても不思議ですね。 安倍政権は当分続きそうですし、日銀の金融政策も大幅な変更は無いでしょう。その前提で、今後の日本の景気を占ってみましょう。 過去が説明出来ないのに将来を予想するのは無謀かも知れませんが、おそらく緩やかな景気の拡大は続くでしょう。最大の理由は、「景気は自分では方向を変えない」「景気を悪化させる特段の要因(消費税率引上げ、海外景気悪化等)が見当たらない」ということだと思います。 労働力不足が深刻化すれば、企業の省力化投資は着実に増えて行くでしょう。労働者の所得が増え続ければ、いつかは消費も増えるでしょう。景気回復が続けば、いつかは「不況のトラウマ」も弱まっていくでしょう。 加えて、円安水準が持続すれば、いつかは企業の円高トラウマも弱まると期待されます。円安効果によってワインやウイスキーより日本酒や焼酎を飲む日本人が増えることも期待しています。 もちろん、トランプ大統領が大規模な国際紛争を生じさせたりしない、ということが大前提ですが(笑)。

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    安倍政権が黒田日銀に仕掛けた片岡委員「反対票」の舞台裏

    田中秀臣(上武大学ビジネス情報学部教授) 9月20、21日の両日に行われた日本銀行の金融政策決定会合は、「現状維持」で今後の金融政策のあり方が決まった。表決に参加するのは、総裁と2人の副総裁、そして6人の審議委員であり、その多数決で政策のあり方を決めている。今回の日銀の政策決定会合は、ひとつのサプライズをもたらした。新たに任命された片岡剛士審議委員がただひとり、この「現状維持」決定について反対を表明したからだ。新委員になって最初の議決で、ひとり他の委員たちと違う票を投じることは、新日銀法下では初めての出来事である。金融政策決定会合に臨む、日銀の黒田総裁(奥中央)ら。手前右が新任の片岡剛士審議委員=9月21日、日銀本店(代表撮影) 片岡氏はいわゆる「リフレ派」のエコノミストとして有名だ。リフレ派は、大胆な金融政策を採用することを前提にして、デフレを脱却し、低インフレ状態で経済を安定化させることを目的としている。筆者もそのリフレ派の一員であることはこの連載で何度も書いているのでお分かりの読者も多いだろう。片岡氏は就任会見でも、物価安定目標の達成に並々ならぬ意欲をみせた。 また、若田部昌澄早大教授は片岡氏を評して「勇気の人」と述べている。片岡氏は長年、民間のエコノミストとして活動してきており、一企業のいわば組織人である。片岡氏の発言をみてきた経験でいうと、彼の発言は所属する組織の利害と全く関係なく、その経済学に立脚した視点と事実に対する検証に裏付けられた政策観で首尾一貫していた。日本の組織は一般的に同調圧力が強い。今回の決定会合のように、最初から自説を展開できる人が今までいなかったことも、論理と事実の検証という理屈が、いかに組織的な同調圧力=「空気」の前に弱いか傍証しているだろう。そのような日銀にも代表される同調圧力に抗する「勇気」を、片岡氏は民間エコノミスト時代から養っていたのだろう。 片岡氏の今回の日銀における「抵抗」は非常に強いメッセージを発している。片岡氏は日本銀行法が20世紀の終わりに改正されてから最も若い審議委員である。それ以前の日銀の歴史の中でも、われわれと立場が似ていた日本を代表するエコノミスト、下村治(1910-1989)に次いで2番目に若い審議委員である。またリフレ派でもあることを考えれば、この人選には官邸の意志が強く反映していると考えるのが普通だろう。つまり言い方をかえれば、官邸は片岡氏の意見を重視するはずである。ただのマイナーな意見の表明とは質が違う、と考えるべきだ。そして片岡氏が「勇気の人」であるならば、日本経済の状況と政策のあり方が変わらない限り、この「反対」の意見もまた変わることがないだろうと予測できる。繰り返すが、この「反対」は日銀への評価として、官邸や言論の場にも影響を与えることは間違いない。停滞脱出は金融政策のたまもの さて、次にいまの日本経済における金融政策のあり方を簡単にみておく。その上で今回の片岡氏の「反対」の理由について簡単にコメントしておきたい。 経済を安定化させ、雇用や生活の水準を改善していく役目を、各国の中央銀行は担っている。日本の中央銀行は日本銀行であり、その政策を決定するのは日銀正副総裁3人と審議委員6人からなる政策決定会合である。いまの日銀は経済の安定化を、物価安定目標(インフレ目標とも呼称される)を対前年比2%の水準を達成することで果たそうと考えている。なぜならば、日本経済の長期停滞は物価下落(デフレ)の継続にその真因があると、日銀は考えているからだ。 ただし、物価安定目標が導入されてから4年以上経過したが、いまだに物価水準は0%近くの低位置のままだ。その原因は、主に2014年4月導入の消費増税による消費低迷が現在も持続していることである。そして15年から本格化してきた新興国経済の不安定化、ギリシャ危機、英国の欧州連合(EU)離脱ショック、なによりも米国の金融政策が不透明化したことも大きい。 今日、後者の世界経済の撹乱(かくらん)は一息ついている状態だ。前者をみれば、17年6月の消費は名目・実質ともにプラス域に転じている。その意味では、ここ数年の日本経済の不安定感は次第に薄れているようでもある。だが、2%の物価安定目標への道のりは依然として厳しいだろう。もっとも雇用状況を含めて大半の経済指標は、日本が長期停滞に入る前の水準か、あるいは統計史上でもまれなほど改善しているものもあり、実体経済はかなり堅調ではある。これらは明らかに、不十分とはいえ長期停滞を脱しつつある証拠であり、また日本の金融政策の成果であることは疑いない。なぜなら日本経済全体を改善する政策効果のひとつである財政政策のスタンスは、この連載でも指摘しているように13年度は拡張基調だったが、それ以降は事実上の緊縮スタンスである。平成30年春に卒業予定の大学生らを対象にした企業の採用選考が解禁となり、三井住友海上火災保険の採用面接で、順番を待つ学生たち=6月1日、東京都千代田区 雇用状況を、世界経済の好転や生産年齢人口の減少による人手不足に求める不可思議な議論がある。だが、前者に関してはいま述べたように、ここ数年の世界経済は撹乱要因が大半であった。08年のリーマン・ショックにより落ち込んだ前後6年で比較すると、前では7・4%、後では5・3%である。先の「いまの雇用状況などがいいのは世界経済の好転のせい」という仮説に従うと、リーマン・ショック前は現状よりも日本経済はいいはずだ。だが、そんなことにはなっていない。つまりニセの議論なのである。 後者の生産年齢人口が減少したためにいまの雇用状況がいい、という議論もまたトンデモ経済論である。例えば、生産年齢人口は21世紀初頭から今日まで約1000万人減少している。今世紀に限定しても17年間、この減少は継続している。もし先の「生産年齢人口減少仮説」が正しければ、この減少トレンドと同時に失業率の低下や有効求人倍率の改善がみられただろう。だが実際には、小泉政権後期から08年までのリーマン・ショック以前、そして第2次安倍政権以降を抜かせば、失業率は高止まりし、有効求人倍率は極めて低かった。そうなると金融政策の緩和継続こそが、いまの雇用状況の改善に効果があったということはいえるであろう。安定的な経済再生にはあれしかない ただし、要するに金融政策は効果が極めて高かったが十分ではない。特に、経済の安定化というのは一時的なものであってはならず、継続的なものでないといけない。そのためには早急な物価安定目標の実現が必要である。その意味でも片岡氏の「抵抗」は高い評価に値する。それでは、現状までで公にされている片岡氏の反対理由をみておきたい。 「資本・労働市場に過大な供給余力が残存しているため、現在のイールドカーブ(国債の利回り曲線)のもとでの金融緩和効果は、2019年度頃に2%の物価上昇率を達成するには不十分であるとして反対した」と日銀のアナウンスメントにはある。これはまだ雇用状況の改善が不十分であり、まだまだ失業率の低下の余地もあり、そしてその結果としての賃金上昇圧力の可能性があることを、現状認識として言っている。資本市場の方は簡略にいうと企業の設備投資にまだ余力があるということである。この労働市場と資本市場の不完全利用を解消するには、いまのイールドカーブコントロールという日銀の政策手段は不十分である、というのが片岡氏の主張だ。これには私も賛同する。すでに今年の4月、この連載の中で指摘したことと全く同じだからである。以下に当該部分を再録する。 残念ながら、日銀の大胆な金融緩和政策は継続こそすれ、もう一段の緩和には動き切れていない。ここ1年をみても、短期・長期の金利を操作する「イールドカーブコントロール」やマイナス金利などを追加的に採用しただけである。これらの政策の効果はきわめて限定的だ。 例えば、イールドカーブコントロールは、具体的には国債の金利を操作することである。これは日銀の保有する国債の金利構成を変更することにもつながる。より大胆な政策であれば、最近、ノーベル経済学賞受賞者のジョセフ・スティグリッツ米コロンビア大教授が指摘し、さらに昔にさかのぼればベン・バーナンキ前米連邦準備制度理事会(FRB)議長も主張していたように、日銀のバランスシート(貸借対照表)の構成を変化させる、例えば保有国債の償還期間長期化を財務省と交渉することも一案である。そうなれば、10年物国債を20年、30年と長期化させることが可能だろう。 さらに、高等教育無償化などの目的を持つ国債を新規発行して、それを日銀に引き受けさせるのも一案である。いずれにせよ、政府との協調が重要であることは言うまでもない。この財政政策と金融政策の協調こそが、日本経済の安定的な再生のキーポイントである(「デフレ脱却はどうなった? 黒田日銀総裁4年間の『通信簿』」)。 筆者の観測が正しければ、片岡氏の「反対」には、黒田東彦総裁が安倍晋三首相と約束した「アコード」(政策協調)の再検討が含意されているのではないだろうか。そこに今回の片岡氏の「反対」のもつ大きな意義がある。経済財政諮問会議で、あいさつする安倍首相(左端)。右端は黒田日銀総裁=1月25日、首相官邸 やがて総選挙が行われるが、そのときに改めて政府と日銀の関係が問われることになるだろう。そのときに片岡氏の「抵抗」のもつ意味がより鮮明になってくるであろう。できればその「抵抗」が日本経済に実りをもたらす方向になることを期待したい。

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    北朝鮮危機、日本経済のリスクはこうやれば回避できる

    が繰り返され、半島情勢が危機感を深めていけば、「北朝鮮リスク」による経済危機の可能性も高まっていく。アベノミクスの財政政策は緊縮そのもの 「北朝鮮リスク」そのものは、もちろん北朝鮮の軍事的意図をその根源にして発生しているものだ。つまり「北朝鮮リスク」を抑制ないし、払拭(ふっしょく)するには、外交的・軍事的なカードしかない。 日本が経済面でできる「北朝鮮リスク」への備えはなんだろうか。それは冒頭にも書いたが、金融政策と財政政策を経済刺激に向けてて協調させることに尽きる。だが、現状では、財政政策が事実上の緊縮スタンスのままで、この協調を破綻させてしまうだろう。それは「北朝鮮リスク」に対して日本経済を脆弱(ぜいじゃく)なものにしかねない。 財政政策の緊縮スタンスは深刻である。アベノミクス初年度である2013年度だけ、予算規模(補正含む)が約106兆円であった。2014年が101兆円、2015年が100兆円を下回り、2016年は約100兆円で推移した。初年度だけ拡大で、あとは一貫して抑制気味なのは明らかである。そして、2017年度は当初予算規模で97兆4千億円であり、いまだ補正予算の声を聞くことは少ない。 しかも、2014年度以降の予算規模において注意すべきポイントとして、消費税のマイナスの影響を勘案しておかなくてはいけない。ざっと消費税の税収を年度ごとに8兆円とすれば、上記の予算規模からこの数字を引き算する必要がある。そうなると例えば、2014年度は実際には93兆円であり、アベノミクス初年度に比べてなんと約13兆円も緊縮財政に大きく振れたことになる。もし今年度の当初予算に同じやり方を適用すれば90兆円台を割り込んでしまう。大緊縮財政になってしまうだろう。3月27日、参院本会議で、平成29年度予算が成立し一礼する安倍晋三首相(右)ら閣僚(斎藤良雄撮影) 「北朝鮮リスク」が顕在化している状況でこのような大緊縮財政を採用するのは、強い言葉でいえば狂気の沙汰である。至急、大規模な補正予算を策定する必要があるだろう。例えば、アベノミクス初年度をひとつの目標とするならば、消費増税の影響を含めた実質の予算規模との差は、約17兆円である。これだけの規模の補正予算をすれば、「北朝鮮リスク」の中で、経済を安定化させる最低限の守りができる。もちろん積極財政の資金源は、国債発行で賄う。一例としては、教育国債を発行すれば、それを日銀が買いオペすればいいだろう。もちろん公共事業(できれば多年度のインフラ投資が望ましい)、減税、あるいは防衛費の増額などでも積極的な財政の必要は大きい。 このような積極的な財政政策と金融政策の協調が行われない場合は、「北朝鮮リスク」の影響をもろにかぶってしまうだろう。言い換えると、日本経済にとっての真の「北朝鮮リスク」とは、自らの緊縮政策のことなのである。

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    「消費増税、反アベノミクス」石破茂の総理への野望を阻止せよ!

    4日、東京都墨田区(納冨康撮影) 石破氏の経済政策のスタンスは、高橋論説にも言及されているように「反アベノミクス」に尽きる。アベノミクスは3点から構成されていて、大胆な金融緩和政策、機動的な財政政策、そして成長戦略である。このうちアベノミクスの核心部分が大胆な金融緩和政策にある。政府は日本銀行の人事を国会での議決を通じてコントロールし、この大胆な金融緩和政策、いわゆるリフレ政策(デフレを脱却して低インフレ状態で経済を安定化させる政策)を実現しようとしてきた。石破氏の「反アベノミクス」とは、このリフレ政策への批判に他ならない。 例えば、まだ民主党政権の時代に評論家の宇野常寛氏との共著『こんな日本をつくりたい』(2012年)の中で、宇野氏のリフレ政策をとっても良いのではないか、という問いに対して、石破氏は即時に否定している。石破氏の理屈では、リフレ政策は「二日酔いの朝に迎え酒飲むようなもの」で、続けていけばハイパーインフレ(猛烈なインフレ)になる可能性があるというものだった。 石破氏の反リフレ政策の議論は、マネーのバラマキを継続すればハイパーインフレになるというもので、これは石破氏の年来の主張でもある。2010年7月のインタビューで、すでに彼は次のように述べている。(みんなの党(当時)が提出したデフレ脱却法案について) わたしはああいう考え方をとらない。マネーのバラマキは効果的かもしれないが、1年限りで終わるものでなく、2年、3年、4年と続ける必要があり、そのときハイパーインフレにならないという自信がない。麻薬を打つと元気になるが中毒になる前に止めるからいい、という話にならないか。(デフレ脱却法案への反対は)党としてまとまっている。うまくいくかもしれないが、ギャンブルではないのだから(政策として採れない)インタビュー:民主代表選の結果次第で首相交代も=自民政調会長(2010.07.16)石破氏「反アベノミクス」政策の実態 まずマネーのバラマキとリフレ政策はそもそも同じではない。この点は後で説明するとして、とりあえず石破氏の懸念と異なり、日銀の大胆な金融緩和政策が始まってすでに5年目が経過した。しかし、ハイパーインフレになるどころか、14年の消費増税と世界経済の不安定化によって、いまだに事実上のデフレ状態が続いている。もっともこの点についても、単にデフレ状態のままだからという理由で、アベノミクスは否定されるわけではないことは、先に参照した高橋論説でも触れた就業者数の増加などの各種経済指標の大幅改善をみれば、よほどの悪意を持たない限り、誰もが認めるところだろう。 最近でも石破氏は、消費税を必ず上げることを約束していることが国債の価値を安定化させていることと、またプライマリーバランスの2020年度の黒字化目標を捨てることも「変えたら終わりだ」とマスコミのインタビューに答えている。 要するに、石破氏の「反アベノミクス」政策とは、①大胆な金融緩和政策は危険なので手じまいが必要、②財政再建のために消費増税を上げることが最優先、と解読することができるだろう。もしこれらの政策を実行すれば、間違いなく日本経済は再び大停滞に陥るだろう。6月16日、金融政策決定会合のため日銀本店に入る黒田総裁(代表撮影) まず①のようにマネーのバラマキを続ければハイパーインフレになる、という理屈だが、これを「金融岩石理論」という。坂道に巨大な岩があり、それをどかそうとしてもなかなか動かない。だが、一度動きだすと坂道を猛烈な勢いで転げだすというものである。このような「金融岩石理論」は、実証的には支持されていない。むしろ日本の現状をみれば、日銀がマネタリーベース(中央銀行が供給する資金量)を拡大してもなかなか物価水準は上昇しない期間が継続していた。 次期の日銀政策委員であるエコノミストの片岡剛士氏は、日本のマネタリーベースの水準と物価水準との相関が低いことを指摘した。これはいわゆる「失われた20年」で、マネーのバラマキをしてもデフレ脱却に結び付かなかったことを意味する(「金融緩和政策とハイパーインフレ」原田泰他編著『アベノミクスは進化する』所収)。 そのため、片岡氏や先の高橋氏、そして筆者ら日本のリフレ派といわれる政策集団は、一定の物価上昇率の目標を設定し、金融政策を運営する「インフレ目標」を導入することで、マネーと物価の関係が再構築されることを目指した。つまりインフレ目標のない金融政策だと、いつ金融引き締めが行われるかわからないために、人々の予想形成が困難になり、そのためデフレ脱却効果を大幅に下げてしまうことになる。石破氏の主張は「トンデモ理論」 安倍首相は、12年秋の自民党総裁選からこのインフレ目標の導入を掲げて総裁選に勝利した。そして政権の座に就いてからも日銀にインフレ目標の導入を事実上迫り、そして日銀の人事管理(正副総裁選出)を通じて導入の実現に成功した。13年のインフレ率の改善は目覚ましかった。これはインフレ目標によってそれまでとは違い、マネタリーベースの水準と物価水準の相関がよみがえりつつある状況になったといえる。ただ残念ながら、それを妨害したのは財政政策の失敗、つまり消費増税である。 ところで仮にマネタリーベースの水準と物価水準の相関がよみがえり、簡単にいうとマネーを増やせば物価もそれに応じて増加する世界になれば、石破氏の主張するようにハイパーインフレになるのだろうか。それはただのトンデモ理論である。 過去のハイパーインフレの経験をみると、物価が急速に上昇するまでに1年以上の時間の遅れがある。つまりその間に金融引き締めを行えばいいのだ。さらに、インフレ目標自体が重要になってくる。アベノミクスで、マネタリーベース水準と物価水準の相関が戻りつつあるのは、インフレ目標の成果だといま解説した。インフレ目標は現状では、対前年比2%の物価水準を目指す内容である。2%のインフレ目標の導入自体が、ハイパーインフレを起こさない強力な手段になっていることは論理的にもおわかりだろう。 つまり石破氏のリフレ=ハイパーインフレ論はまったくの誤りなのである。むしろ彼がリフレ政策に消極的ないし反対の立場に立てば、日本経済の各種の指標は大きく悪化していくだろう。2012年9月、安倍晋三総裁選出に伴う自民党新三役共同会見で握手する(右から)安倍総裁、石破茂幹事長、甘利明政調会長、菅義偉幹事長代行ら自民党執行部(古厩正樹撮影) さらに問題なのは、石破氏の「消費増税主義」といえる立場にある。まるで消費増税自体が自己目的化しているようだ。現在のリフレ政策が100%ではなく、合格点をなんとかクリアする状況にとどまっているのは、消費増税とその悪影響が続いているからに他ならない。デフレを脱却しないままで、消費増税を実施し財政を緊縮化し、さらにリフレ政策に否定的な消極的金融政策をとるであろう「石破政権」は日本に再び大停滞を引き起こすだろう。

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    働き方改革、新聞・テレビの報道ぶりがあまりにヒドい!

    に、注目が集まったのも無理からぬことだ。 なぜ「配偶者控除」にそんなに注目が集まっているかといえば、アベノミクスの根幹にかかわっているからだ。第2次安倍政権発足後、安倍首相は一貫して「女性活躍」を旗頭に掲げている。「ウィメノミクス」という言葉(最近あまり聞かれないが)を覚えている人も多かろう。「女性が輝く社会へ」というスローガンは、実は女性から不評であったが、いずれにしても女性の潜在労働力は厳然として存在するわけであり、働きたい女性が働けない理由があるのなら、それが何であれ、取り払わねばならないのは社会の共通の認識であるように思われる。 そうした中、「103万円の壁」など旧態依然の制度が残っているおかげで、パートなどで働く女性が、その壁を超える前に働く時間を自制するような制度は、女性活躍にはほど遠いのは誰が考えたって分かるだろう。 「配偶者控除」そのものを廃止し、共働きにも適用される「夫婦控除」に移行させようとの意見も自民党内で出ていたにもかかわらず、結局政府の2017年度税制改正大綱では、「配偶者控除」が対象となる配偶者の給与収入の上限を103万円以下から150万円以下に引き上げる、というなんとも中途半端な結論に終わった。与党税制協議会を終え、会見する自民党の宮沢洋一税調会長(右)と公明党の斉藤鉄夫税調会長=2016年12月8日、衆院第2議員会館(斎藤良雄撮影) 年末から年始にかけての新聞は、もちろんこの問題を丹念に報じている。ざっと各紙の社説や記事を上げてみると:朝日新聞「配偶者控除 働く「壁」を残す罪深さ」(2016年12月4日)毎日新聞 配偶者控除維持 「働き方改革」に値しない(2016年12月5日)日本経済新聞 働き方税制、かすむ理念 「夫婦控除」見送り パート主婦は減税(2016年12月9日)日本経済新聞「女性活躍」はウソですか(2016年10月7日) このように、今回の改正に対し厳しい見方を一斉に伝えた。問題が複雑なだけに特集や解説を組んでいるところがほとんどだった。産経新聞 よくわかる配偶者控除 103万円、106万円、130万円…妻の就労妨げる壁だらけ(2016年10月26日)産経新聞 年収500万円なら“減税額”は? 配偶者控除見直しQ&A(2016年11月24日) 他にも新聞ならではの具体的な試算などは読者に分かりやすい。また独自の視点の提供も新聞のお家芸だ。例えば、日本経済新聞は非正規にとってむしろ打撃だとの見方を紹介している。日本経済新聞 配偶者控除「上げ」、非正規に打撃 永瀬伸子氏 お茶の水女子大学教授 非正規雇用者が、安価な主婦労働者と競争を余儀なくされる、と警鐘を鳴らしている。こうした多様な意見を紙面に載せることが出来るのも新聞の強みだ。総じて、さまざまな深い解説記事を掲載しているという点で評価できる。 一方で、新聞を定期購読する層が高齢者に偏り、20代から40代くらいまでの層はネット版を読むか、もしくはウェブメディアで見出しだけ追うことが多くなっている。これは一つの情報を深く知り、自分の頭で考えることの放棄につながりかねないと懸念する。テレビはどう報じたかテレビはどう報じたか 一方、テレビはどうだったか。この問題に一番興味があるのはやはり女性だろう。パートの人も非正規の人も、専業主婦の人も、もしくは彼女たちのパートナーも、それぞれ関心を持ってニュースを見ているはずだ。彼らにとって一番身近なメディアと言ったらやはりテレビであろう。 一方で午前中から夜7時ぐらいまで続く情報生番組や夕方のニュースを見ている人はリタイアしている高齢者か専業主婦だ。つまり、実際に働いている人はテレビからリアルタイムに情報を入手することはできない。 出勤前の早朝からやっている情報番組はあまり難しい問題を取り上げず、むしろトレンドや事件事故モノ、後はスポーツやエンタメ、それに天気予報であろう。仮に「配偶者控除」問題を取り上げたとしてもじっくり時間をかけて解説することはやらないだろうし、なにより働いている人たちは午前7時から8時くらいに出勤する人が多いので、仮に「配偶者控除」問題を取り上げたとしてもゆっくり見ている時間はない。 そこで地上波放送は、仕事をしている人が帰宅する夜の時間帯のニュースでこの問題を取り上げている。例えば、日本テレビの夜の『NEWS ZERO』は2016年11月14日、「桜井翔イチメン!」というコーナーで「配偶者控除」について放送した。 その中で、Aさん、Bさんが同じ会社に務めていて給与が同じ、2人の妻はパートで収入を得ているという前提で試算を行った。Aさんの妻は年間150万円の収入があり、Bさんの妻は102万円に収入を抑えた場合、各家庭の手取りを試算して比較している。結果はAさんの世帯収入(手取り)が511万円、Bさんが510万円でほとんど変わらない。つまりAさんの妻は「働き損」ということになる、と言った具体的な解説をしていた。こういう情報は視聴者にとって有益だ。ウェブコンテンツが貧弱な日本のテレビ局 また、NHKは「NHK NEWS WEB」というニュースサイトで2016年9月20日の放送「賛否両論!配偶者控除」の内容を記事と画面のキャプチャで掲載している。また、同年10月19日には識者や解説委員が時事問題を取り上げる「視点・論点」という番組で「配偶者問題」を取り上げ、同じくウェブサイトに「配偶者控除をどう見直すか」というタイトルで記事と画面を掲載している。中央大法科大学院の森信茂樹教授による解説は分かりやすく、「夫婦控除」にも触れ、「働き方改革」の必要性にも触れている。そう、本質を突いた議論になっている。こうした深い解説をウェブで見ることができることは極めて重要だ。 なぜなら働いている人は、テレビ放送をリアルタイムで見られないことが多いからだ。ドラマやバラエティを録画する人は多いだろうが、日々のニュースを録画してまで見る人はそう多くはないだろう。 したがって、ウェブに記事や動画を残しておくことが今の時代必要なのだが、日本のテレビ局は長年ネット戦略に本腰を入れてこなかったため、ウェブ上のコンテンツは貧弱なケースが多い。番組ホームページから過去の放送内容が検索できなかったり、アーカイブ化されていなかったりする。残念なことだ。 そうした地上波のニュースをBS放送が補完している。BSフジの『プライムニュース』がそれだ。2009年4月にスタートしたこの番組は、月曜から金曜まで午後8時から約2時間放送されている本格報道番組の草分けである。2016年11月23日に「女性の活躍阻む『壁』 配偶者控除を見直しへ」と題して、自民党税制調査会の野田毅最高顧問と学習院大の伊藤元重教授、「イー・ウーマン」の佐々木かをり社長をゲストに放送した。放送の動画(ハイライトムービー:前後編各約20分)は過去10日分だけしか見ることができないのは残念だが、HPからテキストだけは見ることができる。 他にもBSには帯の報道番組がある。BS日テレの『深層ニュース』、BSジャパンの『日経プラス10』、BS11の『報道ライブINsideOUT』などだが、どれも過去放送動画やフルテキストのアーカイブはない。健闘するネットメディア健闘するネットメディア 2016年は、フジテレビとテレビ朝日がそれぞれインターネット放送局を立ち上げた年として記憶に新しい。特にフジテレビのインターネットテレビ「ホウドウキョク」はかなりの時間を割いて複数回この問題を取り上げている。解説委員が取り上げたり、識者にインタビューをしたりして工夫を凝らしている。 中でも「あしたのコンパス」は、識者にスタジオから電話インタビューしてニュースを深掘りする番組だ。専門家にじっくり話を聞くことができるため、一つのテーマを理解するには最適だ。過去の放送がアーカイブ化されており、興味のある話題や話を聞きたいゲストが出ている番組を動画で見返すことができるのは画期的だ。「LINE LIVE」でも配信するなど、積極的なウェブ戦略は注目に値する。 一方、テレ朝が参画する「Abema TV(アベマ・ティーヴィー)」は基本地上波放送のネット版であり、地上波ニュースを補完するという目的はもっていないように見える。ニュース番組はあるが、独自編成で地上波との連携性は薄い。将来、ニュース解説番組が放送できるのか、関心は尽きない。 さて、深い情報を知るにはやはり活字系のウェブメディアに一日の長がある。人々が実際に知りたい情報は何か? それは自分に照らし合わせて税制改革で損するのか得するのか、その一点に尽きる。残念ながら、新聞とテレビはその質問に十分に答えられていない。例えば、ダイヤモンドオンラインを見てみよう。新配偶者控除「150万円の壁」で世帯の手取り収入はこう変化する!(2016年12月16日) ファイナンシャルプランナー、深田晶恵氏のこの記事は今回の改正で具体的に各家庭の手取り収入がどう変化するのか具体的にシミュレーションしている。まず夫の年収別に、・1120万円以下…パート主婦家庭は減税、専業主婦世帯は変化なし・1120万円超~1170万円以下…パート主婦家庭は減税が多いが一部増税、専業主婦世帯は増税・1170万円超~1220万円以下…パート主婦家庭は減税が多いが一部増税、専業主婦世帯は増税・1220万円超…パート主婦家庭は変化なし、専業主婦世帯は増税 と示した上で、次に夫の年収を700万円に固定、妻の「パート収入の壁」ごとに家計への影響をグラフで比較した。詳細は記事を見てもらいたいが、グラフを使って説明しているためとても分かりやすい。 さらに、「手取り回復分岐点(壁を超える前の世帯手取りが回復する妻の収入額)」が今回の改正で引き下がっていることを示し、妻のパート収入が「壁」を超えてどのように変化するかを解説、就業調整をせず「壁」を超えて一時的に世帯手取りが減っても中長期的に見て働き続けることが大事だと提言している。 他にも厚生年金や健康保険、介護保険の負担を強いられる「106万円の壁」(従業員501人以上:2016年10月から適用)に着目。パートの主婦が自分で保険料を負担しなければならなくなったとき、勤務先の社会保険に加入するべきか、国民年金・国民健康保険に加入するべきか、独自の分析をしている。こうした実用的な情報は、やはり経済専門メディアの独壇場だ。特に専門雑誌は紙が売れなくなって久しいため、ウェブ版に長年力を入れてきた。それが今花開いているといえよう。 新興メディアには、ヤフー系のTHE PAGEやBuzzFeed Japan、朝日新聞系のハフィントンポスト日本版、独立系のNewsPicksなども元気が良い。今はまだニュース解説にさほど力を入れていないようだが、今後、その分野に進出してくるところもあるだろう。引き続き注視したい。伝統メディアの今後の戦略伝統メディアの今後の戦略 そうした中、伝統メディアは今後どのような戦略を取るべきなのか。 まず新聞だが、専門誌に比べ、分析が弱い。というか、せっかく膨大な数の記者を抱えているのにそれが紙面に活かされていない。特にウェブ版は情報がどこにあるかわかりにくく、検索もしにくいのが致命的だ。 新聞の強みは社会部、政治部、経済部、外信部、それぞれに経験を積んだ記者がいることだ。一つのテーマを縦割りでなく、横断的かつ有機的に分析し、深掘りした情報を提供できるはずだ。 特に、自民党の茂木敏充政調会長が強く主張していた「夫婦控除」案はなぜ消えたのか。「選挙対策で断念した」という記事はあるが、どこにどのような力学が働いたのか、読者にとって興味のあるところだろう。安倍内閣が本気で女性の働き方改革に向き合っているのかを知る一つの指針となり得るからだ。この件について、日本経済新聞が5日連続で興味深い連載を掲載した。税制改正 激変の構図(1)まだ分からないのか(2016年12月13日)税制改正 激変の構図(2)「雑魚はいい、森を呼べ」(2016年12月14日)税制改正 激変の構図(3)「すべて菅さん次第」(2016年12月15日)税制改正 激変の構図(4)「動かぬならムチを」(2016年12月16日)税制改正 激変の構図(5)「メンツ保てれば」(2016年12月17日) これを読むと、各省庁の思惑の違いと政府与党間でのせめぎあいが交錯し、結局抜本的な改革がなされず、小手先の改正で終わった顛末がある程度わかる。しかし、それだけでは読者は満足しないだろう。 せっかくこうした取材力があるのだから、どうしたら今の税制が女性の働き方を変えるようなものになるのか、具体案を出してもらいたい、と思うのではないだろうか。ウェブ版には紙面の制約がないのだから思い切った編成で記事を書けるはずだ。 次にテレビだ。テレビは地上波のリアルタイム視聴にこだわっているからなのか、放送した内容をネットで拡散してより多くの人に知ってもらおう、という意識が希薄なようだ。「配偶者控除」のような生活に身近で誰しもが興味を持つような内容こそ、放送後もきちんとコンテンツとして残しておくべきだと考える。テレビと新聞に欠けている視点 前項で述べたように、一部のテレビ局はネット放送局を立ち上げ、地上波やBSで放送出来なかった内容を深掘りする試みを始めている。フジテレビの「ホウドウキョク」がまさにそうだ。しかし、まだまだインターネット放送を視聴している層は10代から20代前半の若年層に限られ、25歳以上の働く女性や専業主婦らにはなじみが薄い。特に専業主婦層は地上波を見ることが多いだろう。 したがって、まずは地上波のワイドショーや夕方のニュースでしっかり「配偶者控除」のような問題を取り上げることが大事だ。さらに放送だけにとどまらず、その内容をネット上にアーカイブ化し、スマホで気軽に見られるような工夫が必要だ。 テレビ放送は一過性のもので放送時間の制限もある。難しいテーマを扱うには不向きなメディアだ。視聴者に一つ一つのテーマについて理解を深めてもらうためには、放送にさらにプラスした深い解説をウェブで提供すればよい。視聴者は放送で未消化だった部分を補強することができる。 番組でそれを告知し、視聴者をウェブに誘導することで番組、並びにその局のファンを増やし、そこからまたリアルタイム視聴に回帰させる。地上波・BS・ネット放送・各々のウェブページを連動させることにより、中長期的にステーションイメージをアップさせ、固定視聴層を囲い込む戦略だ。 最後に、テレビと新聞に欠けている視点は、真に女性が働きやすい環境とはどのようなもので、どうすればそれが実現できるのか、という視点だ。単に税制をいじるだけで解決できるものではない。安倍首相が年初から力こぶを入れる「働き方改革」が具体的に動き始めることが、日本経済再生への道でもある。 実際に子育てしながら働く意欲のある女性は多い。彼女(もしくは育休中の彼)らが働きやすい環境を作り出すのが経営者の務めであろう。彼らの背中を押すためにもメディアの果たす役割は大きい。

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    骨抜きの働き方改革をみれば「アホノミクス」批判も納得できる

    平野和之(経済評論家) アベノミクスも今や実感なきまま4年が過ぎた。アベノミクスを「アホノミクス」という人もいるが、前向きに考えると、そもそも自民党から賃上げ、ベアという言葉がこれほど使われた政権も記憶にない人がほとんどではないか。安倍政権は賃上げによる内需活性化、デフレ脱却において、賃上げだけでなく、少子高齢化、労働力減少を解消することも踏まえての共働きによる世帯所得増加政策を推進している。 日本の共働き世帯率の向上、共働きによる世帯所得を向上させようとする中で、特に労働規制改革の一つとして指摘されてきたのが103万円の壁と130万円の壁へのドリルだ。※写真はイメージ 103万円の壁は、配偶者控除として、世帯で38万円の所得控除が受けられることになり、これが理由で女性はもっと働けるのに、就労機会を調整されているとの指摘が長くなされてきた。これを今回は150万円の壁に引き上げるというものである。 もう一つの130万円の壁は、社会保険を夫の扶養に入れるかどうかの加入条件であり、これを超えると、社会保険の家庭の負担は増える。このため、これも就労機会を調整してしまうとのことで、10月から大企業のパートの25万人程度が対象だが、106万円の壁に下がる。今後中小企業にも拡大されていくかもしれないが、こちらは、夫と妻の扶養がセットのほうが負担が少ないととらえられがちになる。 ならば、これで劇的に働き方改革が進むかと聞かれて、ピンと来る人も少ないだろう。計算が得意な人は、最終的には、たかが38万円分の所得控除や、妻の社会保険扶養外になることより労働時間を増やし、働いたほうがトータル所得は増えるわけだ。しかし、そうなっていない社会の実情を踏まえての103万円と130万円の壁に対してメスを入れる方法は下記のようにすべきと考える。 ① 壁をそもそもすべて撤廃する。控除をなくせば、自然と働かざるをえなくなる。 ② これまで以上に労働力投入、世帯収入の引き上げ、政府の歳入増加を考えるなら、逆に103万円以下に増税、負担増加、103万円以上に減税など、負の負担を与え、働きたくなる仕組みへ傾斜させる。 ③ 一般的には①が有識者では提言されているが、②はさらに過激である。しかし、どちらも政策を実現すると、有権者の票を減らすリスクがあり、結果として、103万円の壁を150万円に引き上げる折衷案とする。そもそも効果があるのか疑問 では、この150万円の壁に引き上げた給与所得控除は効果があるのか。そもそも非正規、パートタイマーの年収は200万円を超えることは極めて難しい。最低時給1000円で8時間、20日働き、192万円。4時間なら、96万円。150万円の壁だから、6時間平均で働けるのか。パートのシフトを考えたら現実的ではない。 サービス産業がパートの場合は多く締めるが、昼時と夕方、夜のシフトを考えると、10時から6時間だと組みにくい。もちろん、人手が不足しているので6時間も考えざるを得ないだろうが、扶養世帯の女性が6時間労働って、家事等を考えた場合にも効果は限定的ではないだろうか。 ということで、4時間から5時間のパートの人を、契約社員状況までまずは引き上げたくなる仕組みを作るインセンティブが第一のバーなら、思い切って年収200万円を所得控除のバーとして引き上げてみてはどうだろうか。 これは積極的な案ではなく、折衷案でという現実的な判断を踏まえた場合の提言である。社会保険のバーは、200万円までは選択式でいいようにも見える。または、こちらは、強制的な社会保険制度の加入を義務化するなら年金のみは必須という、セパレート的な政策案も一つかもしれない。 個人的には、年金は一旦解散し、シンガポール方式の確定拠出年金政府管理型のような制度にするなら社会保険は全加入でも問題ないとは思っている。 次に、そもそも女性の就労率の増加、M字カーブ(日本人女性の年齢階級別労働力率のグラフ)の解消という点については、すでにM字カーブは、アメリカと変わりはなくなってきており、限界が近い。あとは、女性一人当たりの所得をいかに引き上げるかだ。※写真はイメージ 正社員比率が4割程度ということで、世帯収入が同一賃金同一労働で変われば引き上がると思いたいが、こちらも実効性には疑問符が付く。そこで、給与所得控除に逆M字カーブを作ってみてはどうかという折衷案も出してみたい。 200万円までの非正規労働者は給与所得控除そのまま38万円で、200万円以上の正社員になると、給与所得控除は76万円と倍増させる。さらに、労使折半の会社負担分は、この制度の対象者には減免する。あるいは、250万円までは減免する。本来は野党の役割 減税ばかりすると財源がなくなるではないかと、聞こえが良すぎて実現性に乏しいという声が出るわけだが、103万円の人が200万円になれば、正社員のため会社と労使折半の社会保険料が国に入る。 税金も社会保険料も1円も払わない人に実質数万円の減税をしていた人から、減税額が10万円近くまで引き上げても、それを上回る税金と社会保険料で会社負担を減免しても、倍増して払ってくれる人を作り出すことになる。 家庭も世帯年収が平均の約600万円が700万円に引き上がるわけだ。財務省主導で消費増税、社会保険料増加などで個人の家計は実質賃金が伸び悩み、可処分所得はもとより、苦しいという家庭が多いのが現実である。 本来はこれらの対案こそ、与党より野党がやるべき政策である。「一強多弱」の理由は与党が強いのでなく、野党が「無責任」すぎる点にある。今回の150万円の壁の引き上げも、何でも反対の野党なら反対、理想は控除廃止。でも、これは野党が与党ならやっぱり踏めない踏み絵。与党が出した折衷案に理想を言いつつ、何種類か対案を出してほしいものである。民進党の蓮舫代表(右手前)の質問に答弁する安倍晋三首相 トランプ現象を野党が意識して「日本でも不満の受け皿を」とパクリ的にやろうとしてもうまくいかないだろう。トランプ現象の最大の効果は、インフラ投資と減税、所得格差是正。減税して税収を増やせる投資をしてリターンを生むビジネス感覚を政治にもという声がこれまた、日本でも潜在的な「トランプ現象」の入り口にあるのだろうと思われる。 とにかく、財政再建と減税、税収増加、景気拡大のトータルバランス、相反する矛盾の解決を与野党の政治家及び官僚に期待したいものである。

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    配偶者控除をなくしてどうする? 女性は「家庭」にあってこそ輝く

    細川珠生(政治ジャーナリスト) 誤解を恐れず言えば、女性が「仕事も子育ても」どちらも完璧にこなしていくことは不可能だ。必ず「どちらか」を選択しなくてはならない。それは一生にわたっての選択の場合もあるだろうし、瞬間的な場合もある。また時期による「濃淡」という意味の選択もある。 別の言い方をすれば、どちらもやっていこうと思えば「そこそこ」というので精一杯というのも現実である。最近は、ここに親の介護も加わり、そこそこの様相はますます強まっている。男性も積極的にこれら家庭の事情に加わっていくことが求められる時代になったが、それでも男女が全く同じようにその役割を担うのも不可能だ。 それは男性と女性という性別の違いが存在し、その違いをなくすことは根本的に不可能であるからだ。違いをなくすことより、むしろその違いを生かす社会の方が私は合理的であり、効果的であると思う。 その視点に立つと、「配偶者控除」という仕組みはあって然るべきものと考える。昨今の「女性の活躍」を目指す風潮の中で、配偶者控除がその障害となっているように捉えられているが、私はそうは思わない。 「先が見えない」と思ってきた私自身の子育ても、気がつけば義務教育を3分の2終えるところまでたどり着いた。私はどこかの社員として働いてきたのではないので、この間産休もなければ育休もなかった。事実、出産の4日前まで仕事をし、産後1カ月で仕事を再開した。また、いわゆる「自営業」扱いでもあり、夫の扶養家族にも結婚以来入っておらず、よって配偶者控除の適用対象者でもない。 また、保育園入園可否の優先度も低く、保育園など公的な子育て支援のお世話にならずに、仕事と子育ての両立を行ってきた。現実はとても厳しい毎日で、いつも「どっちつかず」と思いながら12年間この状態が続いてきた。 「中途半端」な自分自身にイライラすることもあったし、いつも時間に追われ、セカセカしている日常生活に、私の家族は本当に幸せなのだろうかと自省することもあった。しかしその中でも、私の軸足は常に母親としての役割に置くという決意は変わらなかった。 それは、仕事はその気さえあれば、後からいくらでも挽回できるが、子育てはやり直しがきかないと思ってきたからである。その結果、30代後半から40代前半に、思うように仕事ができなかったのも事実だ。子供にとって本当に幸せなことは何なのか しかし、子供が小学校中学年以上になれば、それまでに比べて随分仕事との両立が可能になる状況が増えてくる。それは子供の帰りが遅くなったり、子供が自分自身でできることが増えてくるので、物理的に余裕ができるということでもある。とはいえ、まだ小学生は幼く、いざという時の判断はできない。そう考えると、ちょっと楽になったことに油断して、軸足を仕事へ移すと、子供は一気に悪い方向へ進んでしまう。ここで気を緩めず、母親としての軸足をずらさないことが重要であるのだ。 母親の心配は尽きないもので、中学生になったらなったで、高校生は高校生で、その時々の母親としての役割に自分の存在意義を見出そうとするのかもしれない。時期的にはそこへ親の介護の問題が覆いかぶさってくる。介護はすべての人がその負担を経験するものでもないが、長寿社会の日本においては、育児と介護のダブル負担の問題は益々深刻化していくだろう。 子育ても介護も、別に女性だけの役割ではないし、特に介護は力仕事も多く、男性の協力は子育て以上に欠かせない。しかし、私が根本的に男女の役割の違いがあると思うのは、子供や親への対処の仕方が全然違うからだ。 女性、つまり母親は目の前にあることへの対処能力が高い。食事の支度をしながら、子供の勉強を見たり、親からの電話に対応したりしても、家の中のことは、常に同時多発的に起こる場合が多いが、それも何とかこなしていくことができる。食事の支度ひとつをとっても、片方で煮物をしながら、片方では炒め物をするなど、そもそもが同時進行の連続なのである。子供のちょっとした表情や顔色の変化に気づくのも、母親の能力として重要なところである。 一方、男性は、一つのことに集中して高い解決能力を発揮する。子供との勉強や遊びにしても、子供と同じ目線で徹底して、集中して行うことができるのだ。また目の前にあることだけでなく、もっと広い視点から物事をとらえることができるのも、女性にはなかなかできないことでもある。 もちろん、個人差はあるし、ひとり親世帯では両方の役割をしなければならないことが多いとはいえ、父親と母親が同じ能力で同じ役割でよいのなら、そもそも男女の違いがあることにすら意味がなくなってしまう。 私は配偶者控除の事を考える時、女性の家庭での役割の重要性をもっと考えるべきであると思う。特に昨今の配偶者控除廃止の議論は、女性を労働力として活用したいという産業界の都合だけに立っていることに、相当の違和感を覚える。 確かに、日本の経済力の縮小により、夫婦共働きが避けられない状況を抱えている家庭も多い。また、家族の形態が多様化している中で、世帯単位の考え方を再考する余地もあるだろう。高い能力を持った女性が、社会でその能力を発揮できないことは「社会的損失」であるというのも、分からないこともない。 しかし、女性は一度母親となったのならば、その役割や責任は、仕事の有無で変わるものではない。そう考えると、母親としての時間を大きく削ってまで社会に出ることが、特に子供にとって、本当に幸せなことなのかどうかは女性の活躍に関心が高まる今こそ、改めて考えるべきである。女性の能力は家庭においてこそ、発揮される場合も多くある。 時期はあるにせよ、母親と子供を引き離すような制度をあえて作ることが、社会の在り方として本当によいのか、母親の立場から再考を促したい。

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    アベノミクスの働き方改革は必ず失敗する

    限を150万円まで引き上げるが、女性の社会進出や所得向上にどれほどの効果があるのか疑問だ。期待されるアベノミクスの一環とはいえ、野党もメディアもその役割を果たしておらず、予想される結末は「失敗」ではないか。

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    負担増ラッシュが始まるも国と地方の税収は年間21兆円増

     半年前、安倍晋三首相は「内需を腰折れさせないため」と消費税率10%への引き上げを再延期し、国民は「これで大増税が遠のいた」と胸をなで下ろした。 しかし、こういう時が一番危ない。財務官僚は大型増税ができないとなると、細かい増税や減税廃止、社会保険料アップで国民の負担を増やそうとする“習性”がある。 かつて小泉純一郎首相は「私の内閣では消費税は上げない」と約束したが、財務省はそのかわりに所得税・住民税の定率減税廃止、年金保険料の引き上げなどを実施し、政権が代わるときには国民負担がなんと年間13兆円(国民1人あたり年間10万円)も増えていて愕然とさせられた。 案の定、今回も“消費税を上げなかった分を取り返せ”とばかりに負担増ラッシュが始まった。 政府はまず「増税見送りで財源がなくなった」と、来年4月に廃止されるはずだった自動車取得税の存続を決め、来年度の税制改正で自動車やビール類への課税強化を次々に打ち出した。「財源がないなら仕方がない」と鵜呑みにするとバカを見る。実は、安倍政権になって国と地方の税収は年間約21兆円も増えている(2012年の78.7兆円から2016年見込みは99.5兆円)。2014年に消費税率を8%に引き上げた分の税収増(年8兆円)を差し引いても年13兆円の純増だ。元大蔵官僚の高橋洋一・嘉悦大学教授が語る。「実は財務省が税制改正で一番狙っていたのは配偶者控除の廃止です。メディアにも“103万円の壁(※注)が女性の勤労意欲を抑制している”とキャンペーンを張らせて準備万端のつもりだったが、官邸は途中から、配偶者控除の廃止ではなく、控除を増やしてパート主婦がもっと働けるようにする方針に転換した。【※注/妻(もしくは夫)の年収が103万円までなら38万円の所得控除(配偶者控除)が受けられる。そのため、妻の収入を103万円以内に抑えようとする意識がはたらき、女性の社会進出を妨げているといわれる】 控除廃止で6000億円の増収をあてこんでいた財務省は面子が潰れた。まともな理屈で考えれば、せっかく消費税を延期して景気回復を優先したのだから、いま増税を急ぐ必要はない。しかし、この失敗で意地になった財務官僚は“それなら他でとってやる”といろんな増税に手を付け始めたわけです」関連記事■ 高額ローンの家 2014年4月~2015年9月に買うとおトクな理由■ 森永卓郎が増税他の影響試算 4人家族で1年に24万円負担増■ 消費税5%アップで年収300万円世帯 13万4046円負担増加■ 増税と値上げで年収300万円世帯の負担は年間40~60万円増■ 菅総理言及の消費税増税 「経済の常識知らぬ妄言」と専門家

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    大前氏 日本に必要なのは働き方改革ではなく「休み方改革」

     8月3日に行なわれた閣議で、安倍内閣は事業規模28兆1000億円もの経済対策を決定した。このなかの目玉は「働き方改革」で特命担当相を新設、加藤勝信1億総活躍担当相を兼務させている。経営コンサルタントの大前研一氏が、日本に最も求められている本当の働き方改革とはどんな内容なのかについて解説する。* * * 安倍政権が「最大のチャレンジ」と位置付けているのが「働き方改革」だ。とくに、同じ仕事をしている人に同じ給料を払う「同一労働同一賃金」の実現や長時間労働の是正、最低賃金の引き上げなど非正規労働者の処遇改善に力点を置き、それを実行するために第3次安倍再改造内閣で「働き方改革担当相」を新設した(加藤1億総活躍担当相が兼任)。 安倍首相は記者会見で「“非正規”という言葉をこの国から一掃します」と大見得を切っている。また、厚生労働省は、仕事を終えてから次の始業までに一定時間の休息を入れる「勤務間インターバル」制度を導入した中小企業に対して助成金を支給する方針を明らかにし、2017年度予算の概算要求に約4億円を計上した。  まさに“上から目線”のマイクロ・マネージメントだらけで、民間企業の箸の上げ下げまで政府が差配しようとしている感が強い。 それに経団連も表向きは同調しているが、実は“面従腹背”である。たとえば、御手洗冨士夫・元経団連会長(現在は名誉会長)が会長を務めているキヤノンは「国内生産回帰」を高らかに宣言しながら、今も半分ほどは珠海やベトナムを中心とした海外生産で、国内雇用はほとんど増えていない。 いま日本に必要なのは、政府による強制的・一律的な働き方改革ではなく、国民が自由に長期間の休暇を楽しめるようにする「休み方改革」の施策である。 観光庁がまとめた2016年版『観光白書』によると、2015年の国民1人あたりの国内宿泊観光旅行の回数は年間1.4回、宿泊数は同2.3泊にすぎない。一方、欧米の観光旅行宿泊数は、統計では年間20泊前後だが、実際に私が見るところでは30泊以上だ。 マッキンゼー時代の経験から言うと、たとえばイタリア事務所からは6月末に「See you in September.」という連絡が届き、7~8月の2か月は夏休みで誰もいなくなる。私たちが「なぜイタリアだけ2か月も休むのか」と文句を言ったら、「お客さんがいないから」という答えが返ってきた。 つまり、お客さんがバケーションで旅行に出かけてしまうため、コンサルタントはやることがないというわけだ。アメリカは事務所全体ではなく、個々人が自分の仕事の状況に応じてバラバラに2週間単位の休みを年3回くらい取得する。勤勉と言われたドイツも近年は1か月の休みを取るようになった。そうすると結局、日本だけが休めない。お客さんが休まないし、上司や同僚への遠慮、部下の手前などもあるからだ。人気取りのための押し付け愚策はいらない 実際、総合オンライン旅行会社エクスペディア・ジャパンの「有給休暇の国際比較調査」(2015年)によると、日本の有休消化率は60%で、韓国(40%)に次いで世界ワースト2位である。しかも、日本人は53%が自分の有休支給日数を把握しておらず、これは他国を大きく引き離して第1位だ。 また、有休を取得することに罪悪感を覚える日本人は18%で、これも第1位となっている。休み方に関しては、日本は世界の中でも極めて特異な国なのだ。 ドイツの場合、夏季は6月下旬~9月前半、冬季は12月後半~3月末に約2週間ずつ休みを取るのが普通だ。冬季はスキーバケーションで、その時期は学校の地区によって異なっている。だからドイツのスキー場は週末や年末年始だけ大混雑する日本のスキー場と違い、平日も週末も年末年始も同じようにそこそこ混んでいる。これはスキー場やホテルにとっても、利用客にとっても非常にありがたいことである。日本の場合はゴールデンウイークやシルバーウイーク、お盆、年末年始にバケーションが集中しているわけだが、今後はアメリカスタイルで自分の好きな時に1~2週間の休みを取れるような工夫をしなければならない。そうやって休みを平準化しないと、日本のツーリズム産業は成長しないと思う。そもそも国が祝日や連休を増やして国民を強制的に休ませようとすること自体、大間違いなのだ。 また、日本は1人あたりGDPが欧米より低く、初任給も大卒で平均月額20万円程度と、この20年くらい上がっていない。これは生産性が向上していないことの証左にほかならない。雇用を減らして1人あたりの生産性を高める努力を、企業が怠ってきたからである。つまり(雇用が大幅に減る)生産性の改善こそが日本企業に求められる最優先項目ということになる。 働き方・休み方改革は企業が各々の社内事情に応じて自主的に取り組むべき副次的な課題である。それを安倍政権は人気取りのために「働き方」を企業に一律的に押しつけようとしているわけで、これほどのポイント外れの愚策はない。さっさと引っ込めるべきである。関連記事■ 全国最年少31歳の千葉市長が地方行政の現場状況を綴った本■ 「秋の9連休実現より月1の有給消化定着を目指すべき」と識者■ 無制限残業の温床「36協定」見直し 労働者はラクになるのか■ 元経産官僚・古賀茂明氏が省庁の縄張り争いの実態明かした書■ 年収減少時代 公務員の給料は1001万円に増えている

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    「副業解禁」で成功する人、失敗する人

    いま大手企業を中心に社員の「副業」を認めるケースが増えている。経産省の調査によれば、副業を容認している企業はわずか3・8%。労働人口の減少が続く日本の働き方改革の切り札としても注目を集めるが、本当にそうなのか。「副業解禁」によるメリット、デメリットを考えてみたい。

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    本業に生かす経験と年収補完 副業はメリットも普及にはなお時間

                                                                                       (THE PAGEより転載) 社員の副業を積極的に認める会社が徐々に増えつつある。年収の減少や倒産リスクといった切実な事情を背景に、副業解禁を求める声も高まっている。企業側は、社員が副業での経験を本業に生かすといった好循環を当て込む。ただ、依然として大多数の企業で禁止されており、一般的に広まるにはなお時間がかかりそうだ。ロートが副業を認めた理由とは 製薬大手のロート製薬は2016年2月、多様な働き方を推進する取り組みの一環として「社外チャレンジワーク」制度を立ち上げた。休日などの就業時間外で本業に差し障らないという条件付きで、社会貢献をする趣旨に合えば、社員の副業を容認する。既に60人超から応募があり、薬剤師の資格者がドラッグストアの店頭に立つといった形で既に働き始めているという。 ロート製薬は、お金に換算できない「プライスレス」な経験を社員に積んでもらうため、「社外の人と共に働くことで、社内では得られない大きな経験ができ、自立・自走できる社員を育てられる」として副業制度を設けたと説明する。 一般的に、副業をしたい理由で最近人気を集めているのは、やりがいや経験といった金銭面以外のメリットだ。一般に、会社員は会社の看板を背負って取引先やお客さんと接する。長く勤めていると、会社独自のルールが染みつき、それが常識と思い込んでしまう嫌いがある。 一転して副業で他社に身を置いてみると、社風や商品、戦略といったさまざまな違いに気付かされ、自社を客観視できるきっかけになる。また、自社で培ったノウハウが多かれ少なかれ副業先で歓迎され、本業で苦労したことが報われた気分にもなる。逆に、副業で増えた人脈や知識が本業で生かせることもあるだろう。 増収を続け、過去最高の連結純利益を上げている安定企業が、副業という新たな取り組みに挑むのは珍しい。副業を認めている企業は他に、日産や花王、ITのサイボウズなどが知られている。減り続ける会社員の平均年収会社員の平均年収の推移 会社員にとって副業のメリットは大きい。1つは収入源を増やせることだ。国税庁が毎年実施している民間給与実態統計調査によると、会社員の平均年収は1997年の467万円をピークに減り続け、世界的な金融危機、リーマン・ショックに見舞われた直後の2009年には405万円まで急減。近年も410万円前後で推移し、上昇の兆しは見えない。そうした中、補完的に収入を得たいという需要は拡大している。副業を認める企業は依然として少数派 また、非正規雇用の増加を背景に、企業が人員削減するリスクはつきまとい、雇われる側にとっては不安定な時代だ。しかし副業をしていれば、万一リストラで退職を余儀なくされても、すぐに食い扶持が無くなるわけではない安心感がある。退職と同時に無職となるのに比べ、精神衛生上の健全さを保てる。副業を認める企業は依然として少数派 副業への関心は、インターネットが普及して個人間で自作品や中古品を売買しやすい環境が整い始めた2000年前後から高まった。特にリーマン・ショック後、リストラや倒産のニュースが連日報じられていた頃、副業に関するセミナーや出版物も増えた。ロート製薬の山田邦雄会長兼CEO(大阪市北区) とは言え、副業を認める企業は少数派だ。人材採用のリクルートキャリア(東京)が2015年2月に公表した兼業・副業に関する実態調査によると、兼業・副業を「容認」としたのは全体(回答数4513社)の3.8%にとどまり、「不可」が96.2%と圧倒的多数を占めた。 容認する場合も、ロートのように「就業時間以外で本業に支障を来さない」といった条件を示すのが通例だ。副業をしようとするなら、勤め先の服務規定に従う必要がある。規定に違反すると懲戒処分を受けるケースもある。また公務員は公務員法によって副業が原則禁じられている。 望めば誰でも副業が可能という時代はまだ遠そうだ。しかし、ひとたびリーマン・ショックのような危機が起こり、雇用環境が悪化するような事態になれば、副業を含む多様な働き方の議論が急速に熱を帯びるかもしれない。それに向けた準備を今から始めても遅すぎることはないだろう。

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    なぜ大手企業は「副業」を解禁するのか?

     金子欽致(起業コンサルタント) 今年、大手企業はベアを実施し、所得も上向いていると言われます。しかし、景気回復を実際に肌で感じている人は、いったいどれくらいいるのでしょうか? 国税庁によれば2014年の平均年収は414万円。派遣社員、契約社員など非正規雇用となれば、これよりさらに少ない金額となります。一方で平均寿命は延び、男性も80歳まで生きる時代となりました。65歳で定年退職するとして、その後15年間生活するための老後の蓄えが必要となります。1カ月の生活費を20万円とすると1年で240万円、15年では3600万円にも上ります。写真はイメージ 昨年ベストセラーとなった『下流老人』の著者・藤田孝典氏は、「高齢者の9割は貧困化する」と、これからの老後不安に警鐘を鳴らし話題となりました。最近、副業を始める人が増えているのも、まさにこうした背景があってこそでしょう。シンクタンクのMDD研究所が2015年にビジネスパーソン7724人に調査をしたところ、「14%が副業をしている」という結果になったそうです。また『月刊SPA!』の調査によると、「副業はしたことはないが興味がある」と答えた人は43%に上るといいます。世の中が下流化するなかで、副業人口は今後ますます増えていくことが予想されます。 大手企業が副業を認める本当の理由とは? とはいえ現在のところ、副業を禁止している会社のほうが圧倒的に多いのが現実です。ただ、ここ数年で副業NGが当たり前の風潮に変化が起こり始めています。最近も、ロート製薬が4月から副業を容認すると公表し話題となりました。あまり知られていませんが、日産、富士通、花王など、大手企業にも以前から副業を認めている会社は少なくありません。 では、なぜこれらの大手企業は副業をOKとしているのか。その理由はシンプル。「優秀な人材を確保する」というのが最も大きいのです。優秀な人材であればあるほど、各種プロジェクトからの誘いや会社を通さない形で直接仕事を依頼されるケースもまた多くなりますが、副業規定の制限があると当然、彼らも動きにくくなります。その結果、「副業がNGなら会社を辞めようかな」と、より魅力的で自由度の高い会社に引き抜かれてしまうということが起こります。これは企業にとって大きな痛手であり、リスクです。ならば、「優秀な人材を組織に留めておくために、副業を容認しよう」ということになるのです。月30万を稼ぐ「パラレルワーカー」も 副業を奨励することで、優秀な人材を育成している会社の代表格がリクルートです。会社の仕事をしながら、自分で会社を興し、事業をこなしている社員も少なくありません。IT系の会社ではサイボウズも副業OKの会社として有名です。ベンチャー企業のなかには、逆に専業を禁止している会社まで存在しています。オンラインショピング事業を展開する株式会社エンファクトリーは「専業禁止」、つまり、「会社の仕事だけをしていてはいけない」というユニークな制度を導入し、ネット上で話題となりました。自身の事業を持つことで、起業家精神やスキルが身につくので、人材が早く育ち、本業のほうも加速しているといいます。 これらの事例はあまりに突飛で極端な印象を受けるかもしれませんが、将来的には複数の事業を持つ「複業」や「パラレルワーク」を奨励する会社に優秀な人材が集まる時代になっていくことは間違いないでしょう。 月30万を稼ぐ「パラレルワーカー」も また、経済の先行きが見えない不確実な時代において、キャッシュポイントが会社の給料だけというのはリスクが高い、と感じる人は増えているはずです。大手企業でもリストラが当たり前になっていますし、リーマンショックのような経済危機や震災などの大きな自然災害が起これば、瞬時に経済が停滞し、個人の所得はますます打撃を受けます。大企業でも突然倒産するリスクもあります。収入源が1つということではいささか心もとない。 こうした時代の流れを考えたとき、個人として家庭を守るため、本業とは異なる別の収入源を得るための「パラレルワーク」をする人が増えていくことは、もはや間違いないと思われます。 私は起業コンサルタントとして1000名以上の起業指導をしてきましたが、会社に勤めながら自分のビジネスを立ち上げる方は、ここ数年で劇的に増えてきています。そのなかには、本業とは別に副収入だけで月30万円を超えるパラレルワーカーも数多く誕生しています。会社を辞めての「独立起業」となると、リスクがつきまといます。収入ゼロの状態が続くことで精神的にも苦しくなり、再び会社員に戻っていく方を、私も多く見てきました。だからこそ、むしろ会社員の立場のままサイドビジネスを立ち上げるパラレルワークをお勧めしたいのです。 ここまで読んできて、「副業には興味があるけど、うちの会社にもきっと副業規定があるし……」と思っている方も多いと思います。そういう方はまず、今の会社が本当に副業を禁止しているのかどうか、または自分が考えている副業があるなら、その内容が就業規則に抵触するのかどうか、人事部に問い合わせてみることをお勧めします。もし副業そのものを禁止しているなら、その理由を尋ねてみてください。マイナンバーによる「副業バレ」をどう考えるか? 一般的には「本業がおろそかになるから」「情報が漏洩するから」「会社の信頼を落とすようなリスクがあるから」などが代表的な理由として返ってくるはず。その場合、さらに食い下がり、「これらに抵触しない副業ならいい」ということなのかを探ってみてはどうでしょう。それでも「ダメだ」と言われたら、どうするか。そのときはそのとき。時代の流れに逆行する古い体質の会社に自分の未来を託すべきかを冷静に考え、副業OKの会社に転職するという選択肢を一考してみるいい機会かもしれません。 マイナンバーによる「副業バレ」をどう考えるか? また、「マイナンバー制度が普及することで、副業が会社にばれるのでは……」と考え、副業に足踏みしている方もいると思います。この点については、私は逆にマイナンバー制度の普及によって優秀な社員が会社から流出することを恐れる企業が、副業を認めるケースも増えていくのではないかと見ています。それでも副業がNGのままであれば、先ほど申したように転職する道も視野に入れればいいのではないかと考えます。写真はイメージ 確かに、「今」だけを考えるなら、サラリーマンとして安定した給料をもらうことが、安心をもたらしてくれるかもしれません。しかし、あと10年後、20年後の社会を想定したとき、収入源が1つしかないという未来に安心と希望を感じることができるでしょうか。そもそも、副業を禁止する会社は、私たちの未来を保証してくれるというのでしょうか。もし将来、信頼しきって尽くしてきた会社が倒産してしまったとして、「人生が台無しになってしまったのは会社のせいだ」と訴えても、失った未来を取り戻すことはできません。結局、どのような未来を選択するかは、会社がうんぬんではなく、すべて自己責任であるということです。 以上はあくまでも私の考えです。人によっては違和感を抱くかもしれませんし、そのまま鵜呑みにする必要も一切ありません。今回の文章が、あなたやあなたの大切な家族にとっての今、そして未来を考えるうえで、なにかしらの題材としていただければ嬉しいです

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    アベノミクスを「特効薬」のように煽った安倍政権とメディアの罪

    渡邉哲也(経済評論家) 印象論で語られることが多いアベノミクスであるが、そもそも論として、アベノミクスとは何なのだろうか? アベノミクスとは、「デフレ脱却」を目的に 1.量的緩和(金融政策) 2.財政出動(財政政策) 3.成長戦略(経済政策)という3種類の政策を主軸とし、「適宜適切な対応を行ってゆく」という安倍政権の総合政策の名称である。何かの特効薬のように捉えられがちであるが、まともな政府であれば当たり前の政策であり、国民を豊かにするために必要なことを行うという話でしかない。 いつも言っていることだが、問題を解決したければ、印象で語ることは絶対的な間違いであり、問題を分解し、整理したうえで、問題を見つけ対処する必要がある。アベノミクスは政策をミックスした総合政策であるため、特にこれを行う必要があるわけなのだ。これが適切に出来ていないことに関しては、メディアとともに印象論で煽ってしまった安倍政権にも責任があるのだと思う。記者会見する安倍晋三首相=6月1日、首相官邸 また、グローバル化が進む現在、国内の経済情勢を国内事情だけで語るのは絶対的に間違いである。現在発生している株価の低迷も、英国の欧州離脱の国民投票結果による市場の混乱や中国のバブル崩壊などが主要因であり、これは直接的に日本政府が左右できる問題ではないのである。 まずは目標である「デフレからの脱却とは何か」ということについて、考えてみたい。デフレとは、物の価格が低下し続ける現象のことを言う。つまり、今日よりも明日、明日よりも明後日というように、徐々に物が安くなる現象をいうわけだ。これは一見すると良いことのように思われがちである。消費者からすれば、同じ金額で買える物の量が増えるわけであり、得をした気分にさせられるのである。 例えば、100円のものが95円で買えるならば5円得した気分になる。しかし、これを1万人が買っていたとすれば、100万円の売上が95万円の売上になることを意味する。つまり、経済の全体的な縮小が起きてしまうのである。100円のものを95円で売るためには、利益の圧縮も必要となり、これが企業の利益の低下と人件費の圧縮やリストラ原因にななり、先安観から購入を控える動きも起きやすい。そして、商品の購入サイクルの長期化は消費をさらに冷え込ませる。 これがバブル崩壊以降、数十年に渡り続いていたのが日本の現状であり、デフレスパイラルと呼ばれる経済の縮小の再生産を起こしていたわけだ。これから脱却するというのがアベノミクスの目標だったわけである。そして、デフレからの脱却とは政治が意図的にインフレに持ち込むというものである。値上げにヒステリックになるメディア インフレとはデフレとは逆であり、徐々に物の値段が上がる状況であり、経済の拡大に持ち込むには必須の経済環境であるといえる。しかし、長いデフレに慣れてしまっていた日本人の多くはこれにアレルギーを持っている人が多いのも事実である。企業などが少しでも値上げすると、ヒステリックに騒ぐ人やメディアが存在するのも事実であり、これこそが日本の景気が改善しない最大の理由でもある。日本ではこの点に関しての理解が少ないのだと思われる。 また、デフレからインフレへの転換には、時間的な大きな問題もある。デフレの恩恵は物価の下落という形で先に受けられるのに対して、デフレの影響による賃金下落は後から生じる。それに対して、インフレの影響は、物価の上昇が先に生じ、賃金の上昇は企業利益が出てからになる。日本の場合、定期昇給などの賃上げは年1回の企業が多く、恩恵を受けるまで1年以上のタイムラグが生じてしまうのである。 この問題に対処するため、安倍政権では政府と労働者と使用者の三者で政労使会議を作り、政府が使用者(企業)に対して、積極的賃上げを求めたのであった。安倍政権ではこれを「好循環社会の実現」と言っていたわけであるが、一定の効果はあったものの国民の理解を得るところまで認知されたかといえば、疑問符が残る部分も大きい。政府がすべきは、このような経済の基本的な部分の啓蒙であり、国民の理解を深める事にあるのだと思う。この点に関しては、反省すべき点も大きいのだと思われる。政労使会議であいさつする安倍晋三首相(左から2人目)=2014年12月、首相官邸 デフレからの脱却を困難にした最大の理由に、消費税増税もあったのだと思う。消費税増税は、消費に税金をかけるという基本構造から、消費の押し下げ効果が大きい。デフレ脱却が出来ていない状況で、消費税増税を行ったため、改善を始めていた消費が大きく減退し、それが景気改善を妨げてしまったのである。そして、再びデフレに戻ってしまった。この問題に関する反省は、総理がこだわり強硬に進めた今回の消費税増税延期に反映されたのだと思う。 現在の状況であるが、1の量的緩和による対応は、国債のマイナス金利化を見てもわかるように限界に近いものがあり、これ以上の金融緩和を行ったところでそれが国内消費に向かう可能性は低い。アベノミクス初期の超円高への対応としては正しかったが、これ以上の効果はなかなか見込めない。 2の財政出動であるが、地震対策などやるべき問題は山積みであるが、建設労働者の不足など予算だけで対処できる問題でもなく、増やすにも限界があるのだと思われる。そして、3の成長戦略であるが、日本は資本主義の自由経済の国であり、そもそも論として、国に出来ることは産業助成や減税などに限られるのである。 また、助成金や補助金に依存する国内経済構造を作ることは、中長期的に望ましくない。インフラや産業インフラ、海外事業支援など、国でなければ出来ない。または、国の支援が必要な部分に限定すべきだと私は考える。その意味では、価値観外交による国と企業が一体となったインフラ輸出の拡大は成功例であるといえる。逆に、国内向けの支援策には具体的な成功例が見受けられない。この点に関しては、もう一度考えなおす必要があるように思われる。 今回の参院選であるが、与党野党ともに印象論ばかりでろくな争点が見受けられない様に思う。本来、選挙で問うべきは、国家の未来像とその実現のための具体的な政策でなくてはならない。そのためにも、政府は積極的な経済に対する啓蒙活動を行うべきだと思う。国民に正しい知識を与え、判断の基軸を作ることこそが政府に求められている。そして、正しい知識を得れば、それが正しい判断とデフレからの脱却につながるのだと思う。

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    アベノミクスは「失敗」だったのか

    アベノミクスの宴は終わった」。民進党の岡田克也代表が政権批判をしきりに繰り返している。確かに、ここ最近は円高が進んで株価も下がり、日本経済の先行きが怪しくなった感は否めないが、本当のところはどうなのか? まだ道半ばとはいえ、アベノミクスを一度評価してみる。

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    インフレ期待はまがい物 日銀は日本人の価値観を理解していない

    型の国民なのです。「インフレ期待」どころか、「インフレ失望」が働きやすいお国柄なわけです。 今では、アベノミクスの実質的な失敗により、インフレ期待がまがい物だったことが一般の人々にも理解できるようになってきています。おまけに、日本社会の高齢化が進み、貯蓄を取り崩す年金生活者が増えている中、穏やかなデフレのほうが暮らしやすいと考える人々が増え続けてきています。 そんなわけで、原油安によってデフレになるのは、国民経済にとって好ましい状況であるというのは、新しい経済の捉え方として常識になっていくでしょう。「原油安が誤算だった」と説明する日銀の目指すインフレには、いったい何の意味があるのか、私にはまったく理解しようがありません。日銀の黒田総裁は意固地にならずに、いい加減に日本人の価値観を理解する必要があるのではないでしょうか。『経済はこう動く〔2016年版〕』よりG20財務相・中央銀行総裁会議が閉幕し、記者会見に臨む日銀の黒田東彦総裁 =4月15日、米ワシントン 企業がグローバル化に成功するための秘訣は、進出した先での徹底した現地化にあります。徹底した現地化においては、進出先の国の歴史、宗教、哲学、文化、価値観、ライフスタイル・・・そういったものすべてをそのまま、ありのままに受け入れるということが前提となります。たとえ自分の価値観とは相いれないものがあったとしても、すべてをありのままに受け入れる努力こそが、今のグローバル競争には欠かせないわけなのです。 実体経済を動かしているビジネスの現場では、こういったことが当たり前であるのに対して、経済学の理論では、すべての国々の人々が同じように行動するはずだという幻想が未だに信じられているようです。クルーグマンは自分の誤りを認め、「金融政策ではほとんど効果が認められない」と襟を正しましたが、クルーグマンの持論を最大の根拠にしたリフレ派の学者たちは意固地になりすぎて、軌道修正をできないままでいます。 日銀の金融政策は破綻に向けて、一歩一歩近づいているといえるでしょう。マイナス金利は経済全体で見れば副作用のほうが多く、愚策以外の何物でもありません。現代の経済システムでは、金利は必ずプラスになるという前提で構築されています。マイナス金利はまったく想定されていないため、これから数々の副作用が経済を脆弱な状態へと貶めてしまうリスクが高いのではないでしょうか。(2016年05月18日『中原圭介の『経済を読む』より転載)

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    結局成功したのか アベノミクス景気は謎だらけ

    塚崎公義(久留米大学商学部教授)     アベノミクス開始から3年以上経過しましたが、景気は良いのか悪いのか、はっきりしない状態が続いています。それより何より、従来の常識からは説明が難しいような事が数多く起きています。どんな事が起きているのか、見てみましょう。金融緩和の偽薬効果で景気が回復 経済学者のなかには、「金融緩和をすれば世の中にお金が出回って、それがデフレを終わらせ、景気を回復させる」と考えていた人がいました。「リフレ派」と呼ばれる人々で、黒田日銀総裁もその1人です。しかし、実際には世の中にお金が出回ったわけではないので、彼等は間違っていたことになります。  一方で反対派は、「ゼロ金利の時に金融を緩和しても景気は回復しない」と主張していました。しかし、実際には金融緩和により株価やドルが値上がりし、それが景気を回復させたので、彼等も間違っていたわけです。 「金融が緩和されれば世の中に資金が出回ってドルや株が値上がりする」と考えた投資家がドルや株を買ったわけで、それが景気を回復させたのですが、これは「偽薬効果」とでも呼ぶべきものでしょう。 医者が患者に「良い薬だ」と言って小麦粉を飲ませると、「病は気から」なので治ってしまうことがある、というのと同じです。本来は金融緩和をしても世の中にお金が出回らないのだから、株やドルが高くなるわけでも景気がよくなるわけではないけれども、人々が株やドルが高くなると信じたことで、目指した成果の一部が実現したわけです。東京外国為替市場で円が上昇し、1ドル=104円台と高値をつけた =6月16日、東京都中央区円安でも輸出入数量は変化せず 1ドルが80円から120円に変化したのに、輸出入数量は、ほとんど変化しませんでした。円安になった当初は「企業が円高期に工場を海外に移転したから」という説明がなされていましたが、さすがに円安が始まって3年も経つと、この説明では不自然でしょう。円安なのですから、海外の工場で生産している数量を減らして国内工場の生産量を増やせば良いからです。 実際には、日本企業が「再び円高に戻るリスクがあるので、生産を国内に戻す決断が出来ない」といった要因が強いのかもしれません。そうだとすると、円安傾向が持続し、企業経営者が円高に戻る可能性は小さいと考え始めるまで、本格的な輸出の回復は見込めないのかも知れません。 もしかすると昨今の円高ドル安で日本企業が、再び円高に戻るかも知れないという恐怖心を思い出してしまい、ますます生産を国内に戻す動きが遅れることになったかも知れませんね。 人口が減少する日本ではなく、成長しそうな海外で生産する方が良いと考えている企業も多そうです。そうなると、生産の国内回帰は一層難しいかもしれませんね。 一方で輸入は、消費者が「国産品の方が安いから輸入品は買わない」と思えば減るので、輸出数量増よりも輸入数量減の方が先に生じるかも知れません。もっとも、日本企業が国内生産を高付加価値品だけに限定しているとすれば、輸入数量もあまり変化しないかもしれません。 たとえば日本企業が普段着は国内では生産せず、ドレスだけを国内で生産しているとしましょう。その場合、消費者が「円安だから中国製の普段着を買わずに同品質の日本製の普段着を買おう」と思っても、売っていないから、仕方なく値上がりした中国製の普段着を買い続けるのかも知れませんね。ゼロ成長なのに雇用も企業収益も好調ゼロ成長なのに雇用も企業収益も好調 アベノミクスで景気が回復したと言われていますが、成長率を見ると、過去3年間を平均してわずかな成長にとどまっており、「概ねゼロ成長」と言えるレベルです。 にもかかわらず、雇用情勢は絶好調で、有効求人倍率は高く、各種アンケートでも人手不足感が強くなっています。脱デフレで値下げ競争からサービス競争に移行している事が一因かもしれませんが、それだけでは到底説明し切れるものではありません。 企業収益も好調です。ゼロ成長で企業収益が好調となれば、労働者にしわ寄せが行っているのかと言えば、そんな事もありません。原油価格下落は一因でしょうが、それだけでは到底説明し切れるものではないでしょう。 筆者は、GDP統計に若干の疑問を感じていますが、仮にGDP統計が上方修正されたとしても、雇用と企業収益の絶好調を説明できるようなものにはならないでしょう。 おそらく、高齢化によって医療や介護といった労働集約的な仕事が増えていることが人手不足の一因なのでしょうが、それだけでは説明しきれないでしょう。今後とも、この違和感の解明は筆者の課題です。画像はイメージです結局アベノミクスは成功したのか 経済政策の目標が、「インフレも失業も無い世の中を作ること」だとすれば、今の日本経済ほど理想的な状況は考えられません。一方、多くの庶民は景気回復の実感が得られずに消費税率の引き上げ分だけ生活が苦しくなったと感じています。 結局、アベノミクスの恩恵が、株を持っている富裕層と失業を免れた最下層に集中していて、一部はワーキング・プア等の非正規労働者にも待遇改善という形で及んでいるものの、サラリーマン等の一般庶民には及んでいないため、景況感がバラバラになっているのでしょう。 しかし、兎にも角にもアベノミクスにより株とドルが値上がりし、株高で高級品が売れるようになり、円安で外国人観光客が増加した事、就業者が大幅に増えた事、などを考えると、アベノミクスが景気を回復させたと考えて良いでしょう。 景気の回復速度は充分ではありませんが、安倍政権発足前と比べれば、明らかに景気は改善しています。消費税率の引き上げ(これはアベノミクスと無関係)が無ければ、景気は更に良くなっていた筈ですから、アベノミクスの景気回復効果は決して小さくなかったと考える事も可能でしょう。 今後については、「景気は自分では方向を変えない」ので、引き続き緩やかな回復が続くと考えて良いでしょう。海外の景気が急激に悪化したりすれば別ですが、そうした可能性も高くはなさそうです。 筆者が期待しているのは、労働力不足によって企業が省力化投資を活発化させることです。バブル崩壊後の日本経済は、失業が問題でしたから、企業は安いコストでいくらでも労働力を集めることが出来、それによって省力化投資をせずに来ることが出来ました。 したがって、今の日本経済は「労働生産性の向上余地(少しだけ省力化投資をすれば労働者一人当たりの生産量が大きく増える余地)」が大きいのです。そこに企業が目をつけるはずだ、と考えているわけです。そうなれば、景気の回復が続き、少しずつ拡がりを持ったものになっていくと期待しているのです。【関連記事】■英国のEU離脱でも世界経済は大丈夫 (塚崎公義 大学教授)■アリとキリギリスで読み解く日本経済 (塚崎公義 大学教授)■経済情報の捉え方 (塚崎公義 大学教授)■株価は景気の先行指標だが、景気は改善しそうな理由 (塚崎公義 大学教授)■大学教授が教える、本当に役に立つ就活テクニック (塚崎公義 大学教授)

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    円高の主因はデフレ圧力だ 日銀は毅然としてマイナス金利を進めよ

    のまま、日銀が手をこまねいていると、円高が進行する結果、デフレ不況に舞い戻りかねない。株価も低迷し、アベノミクスへの逆風が強まるだろう。チャイナリスクが爆発してからでは、遅すぎる。日銀は毅然(きぜん)としてマイナス金利政策を展開すべきではないか。

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    見くびられた日本経済の実力 アベノミクス「再起動」は今しかない!

    済問題が並ぶ。これをうけて、各党の公約・主張においても経済問題への言及が目立つ。与党は3年半にわたるアベノミクスの成果と実績を訴え、野党は生活実感の悪化を非難するというのが基本的な展開である。 選挙の時期が固定されている参議院選挙には、現政権の政策を採点するという中間選挙的な役割があるのは確かだ。株価・為替・雇用・GDPが2012年以降どのように変化したか、直近の動向だけではなくやや長い、といっても5年程度の話だが、視点をもって各自検討されたい。その一方で、選挙によって決まるのは「過去の実績」ではなく「これからの政策」であることも忘れてはならない。安倍首相が強調するアベノミクスのエンジンをふかし、脱出速度を最大限に上げるために必要な政策は何か。民進党が指摘するふつうの人から豊かになる経済政策とは何か。ここでは、アベノミクスの今後(またはポスト・アベノミクス)のために必要な経済政策を考える基本について説明したい。 マクロの経済環境、例えば雇用や平均所得などは一国経済における需要(総需要)と供給能力の小さい方から決まる。誰も買わないものを作る企業はなく、みんなが欲しがるものでも作る能力がなければ供給はできないと考えれば当然のことだろう。需要と供給のいずれが経済の足かせになっているかによって、必要な経済政策は大きく異なる。結論に先回りすると、日本経済は未だ総需要不足、それも深刻な需要不足状態にあると考えられる。トヨタ自動車の元町工場=愛知県豊田市 2012年時点では、日本経済の需要不足状態は2年からせいぜい3年程度で解消されると考えられていた。人口減少社会に突入した日本において、労働者の供給には限りがあり、ある程度の需要改善があれば経済は「供給能力の天井」にぶつかる。需要が供給能力を上回るようになると、ディマンド・プル・インフレーションが発生する。さらに労働市場は本格的な人手不足に陥るため、賃金上昇率は高くなる。これが2012年当時想定されていたデフレからの脱却であり、そのために提示されたのがアベノミクス第一・第二の矢(大胆な金融政策・機動的な財政出動)である。そして、需要が供給を上回った後には供給能力の増強が経済成長の源泉となる。そのためには第三の矢(成長戦略)が必要となる。これがアベノミクス始動当初の政策パッケージである。日本経済の実力は事前の想定よりも高かった しかし、ここには大きな誤算があった。一国経済の供給能力とは、言い換えればその「経済の実力」と言い換えても良い。多くの専門家も官邸も、この日本経済の実力を過小評価していたきらいがある。金融政策によって極端な円高が是正され、雇用情勢が改善すると、これまで職に就くことをあきらめていた女性、高齢者が想定外の規模で労働市場に参入してきたのである。数年で頭打ちになると考えられていた雇用者数は2012年平均に比べ157万人(うち正社員37万人)の増加を経てなお増え続けている。「職に就くことをあきらめていた人」が働き出してみると、日本経済の供給能力、いわば日本経済の実力は事前の想定よりも高いということがわかってきた。 実力を過小評価していた――ということ自体は悪いニュースではない。その一方で、政策スケジュールは変更を迫られることになる。事前の想定よりも供給能力と需要の差が大きかったわけであるから、そのギャップを埋めるにはより長い期間とより強力な需要政策が必要とされることになる。 このように、今後のアベノミクスに必要とされる政策の姿が見えてくる。需要不足経済では、「需要を足してやる」ことで経済全体の成長を導くことが出来るからだ。そのために必要となるのが、アベノミクス第一の矢(金融政策)と第二の矢(財政政策)の再起動であり、両者の連動性を高めるための工夫である。 金融政策にはまだまだ出来ることが多い。なかでも重視すべきは、継続性への信頼を高める方法である。金融緩和がより長期にわたって継続されること、金融引締(量的緩和の縮小や利上げ)ははるかに先の話であることを市場に信用させなければならない。そのためには、政府が経済に関する明確な数値目標を設定し、その達成までは現在の金融緩和が強化されることはあっても縮小されることはないこと――それを政府・日銀が共同宣言として発表するべきだろう。目標としては、「(食料・エネルギーを除く指数で)2%のインフレが1年以上継続し、かつ名目GDPが600兆円を超えるまで」といったものや、雇用情勢とリンクさせたものが考えられる。大幅下落した日経平均株価の終値などを表示するボード さらに、政府の財政政策もこのような政府・日銀共同宣言と整合的なものに改めるべきであろう。2014年の消費増税、さらに2015年以降の公的支出の停滞をみても、第二の矢は継続性・一貫性を欠いている。自民党の公約集でも触れられている財政出動について、有効性の高い分野を見極めた上で、財政支出をためらわないことが求められる。 このような政策パッケージは与党の専売特許というわけではない。野党側にとっても合理的な方針となり得る。多くの論者が指摘するように、アベノミクスの政策パッケージは海外ではむしろリベラル政党に典型的な政策方針である。例えば、中道左派政権の首班であるカナダのトルドー首相は大胆な低金利のチャンスを逃さずに財政支出を拡大すべきだと主張している。民進党であれば金融緩和をさらに拡大し、低金利を生かした国債発行や財投債発行によって資金を調達し、自民党案よりも生活支援や低所得世帯対策に予算を優先的に配分することで消費の拡大を目指すといった提案も可能だろう(ちなみに英労働党はこのような方針を「人民のための量的緩和」と呼んでいる)。 アベノミクスの三年半によって、日本経済は大きな変化の時期を迎えている。改善されたことも多い。その一方で、まだまだ満足のいくパフォーマンスではないのも確かだろう。選挙戦も残り少なくなってきたが、次の一手の経済政策について、各党の活発な論戦を期待したい。

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    「財政的幼児虐待」を知っているか? 安倍決断は諸刃の剣だ

    小黒一正(法政大経済学部教授) アベノミクスの評価や今後の日本経済を展望する場合、最も重要な視点は、消費増税の再延期の影響や妥当性を含め、財政の持続可能性や各世代への影響をどう評価するかであろう。増税が不可避な理由は、社会保障を中心とする歳出削減も重要だが、それも一定の限界があり、日本の政府債務(対GDP)が終戦直前の200%を超え、先進国中で最悪の水準であるためである。 政府債務(対GDP)が200%を超えても、利払い費が急増しないのは、日銀による量的・質的金融緩和(異次元緩和)で長期金利が低下しているためである。だが、それも限界がある。2015年時点での国債発行残高約800兆円のうち、既に日銀は約300兆円の国債を保有しており、毎年80兆円の国債買いオペレーションや約30兆円の保有国債償還分を考慮しても、単純な計算で約10年間[(800-300)兆円÷(80-30)兆円]で日銀は全ての国債を保有し、国債市場が干上がってしまう。厳密には、銀行や保険・年金基金等は資金運用のために一定の国債を保有する必要があるため、2017-18年頃に異次元緩和が限界に達する可能性があるとの指摘も多い。このため、財政再建を図る観点から、消費増税や社会保障の抜本改革は、もはや先送りできない喫緊の課題であることは明らかである。 また、増税や歳出削減といった正攻法で財政再建を行う場合、日本財政に残された時間は15年程度の可能性が高い。米アトランタ連銀のアントン・ブラウン氏らの研究では、日本財政の持続可能性を分析している。具体的には、「実施シナリオ」(社会保障費の膨張を抑制せず、消費税率10%を維持するシナリオ)や「先送りシナリオ」(同様に、消費税率5%を維持するシナリオ)という前提の下、「政府債務残高(対GDP)を発散させないために、消費税率を100%に上げざるを得なくなる期限を何年まで先延ばし可能か」という分析を行っている。 この分析に基づく場合、「実施シナリオ」では2032年まで持続可能であるが、「先送りシナリオ」では2028年まで持続可能であるとの推計結果を導いている。 ここで注意が必要なのは、財政を安定化させるため、消費税率を100%に引き上げることは政治的に明らかに不可能であるということである。また、例えば消費税率を30%に引き上げて、残りの消費税率70%分に相当する歳出削減を行うのも政治的に不可能だろう。 もっとも、現在の消費税率は8%である。このため、ブラウン氏らの研究を利用すると、追加の改革を行わない限り、2028年と32年の中間である「2030年頃」を過ぎると、もはや財政は持続不可能に陥る可能性を示唆する。上記の分析が妥当な場合、日本財政に残された時間は15年程度ということになる。つまり、「国家百年の計」でなく、「国家15年の計」が必要な状況である。経済財政諮問会議であいさつする安倍晋三首相=首相官邸 このような状況の中、政府は昨年6月末、新たな財政再建計画を盛り込んだ「経済財政運営と改革の基本方針2015」(骨太方針2015)を閣議決定し、骨太方針2015では、2020年度までに国と地方を合わせた基礎的財政収支(PB)を黒字化する従来の目標のほか、2018年度のPBの赤字幅を対GDPで1%程度にする目安を盛り込んでいる。 また、内閣府は2016年1月の経済財政諮問会議において、「中長期の経済財政に関する試算」(いわゆる中長期試算)の改訂版を公表している。同試算によると、楽観的な高成長(実質GDP成長率が2%程度で推移)の「経済再生ケース」でも、政府が目標する2020年度のPB黒字化は達成できず、約6.5兆円の赤字となることが明らかになっている。 しかも、この「経済再生ケース」は、2017年4月に消費税率を10%に引き上げていることが前提となっている。だが、今年の6月1日に安倍首相は消費増税率10%への引き上げを2019年10月まで2年半延期する方針を表明した。2019年10月の増税は政治的に可能か では、2019年10月の増税は政治的に可能であろうか。最も大きなハードルは、選挙等の政治日程である。次の増税時期は、2018年9月までの自民党総裁任期を超えるが、2019年夏の参院選が直前に控えている。2019年度の税収見積もりを前提とする2019年度予算の執行を考える場合、その予算編成が終了する2018年12月頃には増税判断を行う必要があるが、それは2019年夏の参院選前に増税するか否かを明らかにするという政治的な要因も、次の増税判断には影響しよう。なお、もし2017年4月に増税を行うのであれば、増税判断は2017年度の予算編成が終了する2016年12月頃でも十分間に合い、それは今回の参院選が終了した後でよかった。国会議事堂 その際、2019年10月に増税を実施できれば、「経済再生ケース」で、2020年度のPB赤字は約7兆円と見込まれるが、もし2019年10月の増税も再々延期すれば、2020年度のPB赤字幅は約12兆円に拡大し、2020年度のPB黒字化のハードルは一層上昇するため、財政再建計画が破綻してしまう可能性も否定できない。 このような状況を踏まえつつ、世代会計でみると、増税再延期の影響はどう見えるだろうか。「世代会計」は、「国民が生涯を通じて、政府に対してどれだけの負担をし、政府からどれだけの受益を得るか」を推計する手法をいい、具体的には、「20代」とか「30代」とか「50代」といった世代ごとに、その生涯の受益(年金、医療・介護といった政府の公共サービスから得られるもの)と負担(公共サービスを供給するのに必要な税金・保険料といったもの)を推計して、純受益(=受益-負担)を試算する。 内閣府「2005年度版・年次経済財政報告」の付注を参考に、筆者が試算した結果によると、60歳以上の世代と将来世代との世代間格差は約1億2千万円にも達し、これは普通のサラリーマンの生涯賃金を2億円とすると、約5割にも達する格差である。このような実態を、世代会計の提唱者であるボストン大学のコトリコフ教授は「財政的幼児虐待」と呼び、その改善を訴えている。図表:世代会計の試算結果(単位:万円) もし消費増税の再延期をせずに2017年4月に増税を行った場合、将来世代(0-19歳を含む)は8221万円の損(負担超過)、60歳以上の世代は3982万円の得(受益超過)であったが、2019年10月に増税を行った場合、将来世代の負担超過は8265万円に拡大、60歳以上の世代の受益超過は3990万円に拡大する。すなわち、今回の増税再延期で、将来世代は一人当たり約44万円も損が拡大する可能性を意味する。なお、増税を恒久的に延期すれば、将来世代は一人当たり約780万円も損が拡大する可能性がある。 現在のところ、安倍首相は、次回は増税の再々延期はせず、2019年10月に消費税率を確実に10%に引き上げる旨の発言をしているが、これ以上の延期は、将来世代にさらにツケを先送りするだけである。2020年度までに国と地方を合わせたPBを黒字化するという従来の財政再建目標を堅持する姿勢は言うまでもないが、将来世代の利益も視野に、しっかり財政再建の道筋をつける必要があろう。 なお、そもそも増税判断は「増税実施か延期か」の二者択一ではない。財政再建目標を堅持しつつ、イギリスのEU離脱に伴う世界経済の不透明性や影響も顕在化する中、景気循環の先行きにも配慮するならば、消費税率を2017年4月、18年4月で1%ずつ引き上げることも検討する余地があり、段階的な増税も早急に検討するべきである。

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    安倍首相 野党呼びかけの党首討論に応じず上手に争点隠す

    順番に出演した後、野党側が開催を要求しても一切受けない。民放キー局の報道スタッフが語る。「安倍政権はアベノミクスと連呼しているが、本音は憲法改正。前回の総選挙でもアベノミクスを争点にしながら、選挙後は安保法制を強行した。それと一緒で、一番の争点を隠そうとしている。政治部の記者はそれをわかっているが、ニュースでは言えない。政権からクレームが来るからだ。仮に、党首討論をやれば野党が憲法改正を議論するから報じることができるのだが、自民党は党首討論に応じない。 放送局の方も、どうせニュースやワイドショーで参院選を取り上げても数字(視聴率)が取れない。視聴率が取れないのに政権に睨まれるリスクをおかして党首討論をゴリ押しすることもないと考えている。視聴率が高かった舛添スキャンダルがなつかしい」 このままでは与党の望み通り、「過去最低の投票率で3分の2の大勝」ということになる。関連記事■ 民主党 TPP参加を選挙公約にすれば小選挙区議席40との予測■ 菅首相 党首討論に「×詰問 ○真摯に」などのカンペを持参■ 安倍首相 集団的自衛権の是非問う解散総選挙を仕掛ける説も■ 安倍首相 選挙棄権した1000万人超の大衆が動き出すこと恐れる■ 夏の参院選 愛知は河村たかし・名古屋市長の動向が鍵を握る

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    消費税5%に引き下げできる財源を内閣府資料は示唆していた

    5%に戻すのが正論です」と指摘するのは長谷川幸洋・東京新聞論説副主幹だ。というのも、2013年度からアベノミクス効果で日本の景気が良くなっていたにもかかわらず、突然失速したのは2014年の消費税8%への増税がきっかけだからだ。だからこそ5%に戻せば個人の所得は増え、株価上昇も間違いなく、日本経済は瞬く間に回復するだろう。にもかかわらずなぜ引き下げをしないのだろうか。 単純な疑問がある。公共事業の景気対策を組む財源があるなら、消費税率を下げられるのではないか。前出・長谷川氏の説明はわかりやすい。「消費減税をすれば社会保障の財源がなくなる、というのは官僚が与野党の政治家と結託して国民に減税をあきらめさせるための理屈です。国の一般会計の社会保障予算は32兆円、それに対して消費税収は17兆円。今も足りない分は別の税収等でまかなっている。消費税収が減っても、他の収入を回せば社会保障予算を削らないで済む。一時1ドル=100円台の円相場を示すモニター =7月6日午前、東京・東新橋の外為どっとコム しかも、政府・与党は経済対策の補正予算を検討しているが、特定の業界にカネを落とす公共事業などより、国民に広くメリットが行き渡る消費減税の方が景気刺激効果ははるかに高い。消費減税で景気が回復して所得税や法人税収が増えれば、社会保障の財源は十分まかなえます」 社会保障財源については、民進党は「赤字国債」の発行を主張し、「法人税減税をやめればいい」(経済アナリストの森永卓郎氏)といった意見もある。 実は、どちらも必要がない。内閣府が作成した興味深い資料がある。「アベノミクスの3年間の成果」という表題で、倒産件数、失業率、財政など安倍政権前と現在の経済指標を比較・分析した資料だ。今年1月の経済財政諮問会議に提出されたものである。この中に、ズバリの数字が書かれている。 国と地方の税収は、安倍内閣発足前の2012年度は78.8兆円だったが、2016年度は99.5兆円に大きく増えた。資料には、〈消費税率引き上げ分を除いても約13兆円の増収〉とある。 消費税率を8%から5%に戻すために必要な財源(税収減)は年間約8兆円であり、13兆円の税収の純増分をあてれば、他に増税しなくても、当面は5%に戻せることを物語っている。やればできるのである。 会期末会見で安倍首相は、「アベノミクスのエンジンを最大限にふかす」と語った。その言葉どおりなら、「8%据え置き」ではなく「5%に戻す」が筋だろう。あとは安倍首相が政治的な面子を捨て、国民と日本経済のための決断を下せるかどうかなのだ。関連記事■ 消費税率を5%に下げない理由を首相ブレーンが解説■ 消費増税 安倍・海江田の「談合質疑」は国民をバカにしている■ 安倍首相 消費増税の一方で法人税減税は明確な企業優先政治■ 赤字国債発行停止には消費税率16%引き上げが必要と専門家■ 安倍政権の増税論は「少子化対策」の失敗を自ら予測している

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    デフレと戦うアベノミクス 大東亜戦争との意外な類似点

    タント)  7月10日投票の参院選では、安倍政権がデフレ脱却を目指して黒田日銀と二人三脚で進めてきたアベノミクスの継続か否かが争点になっている。デフレ脱却を目指して世界でも類のない空前の金融緩和に踏み切ってすでに3年以上が経っている。進むか退くかを考えても良い時期だろう。  ところで、デフレと戦うアベノミクスを戦争と捉えると、あの大東亜戦争と類似点が多いように思う。以下、類似点を紹介しよう。  (1)  追い詰められて逆切れ開戦。大東亜戦争は、ABCD包囲網に追い詰められて、「やるなら戦力が残っている内に」と開戦した。アベノミクスも、デフレ・円高・国際競争力の低下・財政悪化といった問題に直面し、破れかぶれで金融緩和に打って出た。  (2)  効果がなかった戦略をさらに拡大して実施。日本軍は、中国侵攻が行き詰まりを見せる中、東アジアなどに侵攻した。黒田総裁は、前任の白川総裁の金融緩和が効果を発揮していないのを「中途半端だったからだ」として、規模を拡大して実施した。  (3)  コンティンジェンシープランや停戦・終戦のプランなし。大東亜戦争では、真珠湾攻撃の後にどう終戦に持ち込むか、うまく行かなかったらどうするか、というプランがなかった。黒田総裁も、出口戦略の明示を求める市場の声に対し、3年が経っても「デフレ脱却が見えない内に出口戦略を検討するのは時期尚早」としている。 参院選公示を前に開かれた討論会で党の主張を記したパネルを掲げる安倍晋三総裁 =6月21日、東京・内幸町の日本記者クラブ (4)  短期決戦のはずがいつの間にか長期戦に。日本軍は、真珠湾攻撃でアメリカの戦意を喪失させ、短期で講和する予定だったが、ずるずると3年半以上も戦った。アベノミクスも、「2年でデフレ脱却」と高らかに宣言したが、2013年の異次元の金融緩和からかれこれ3年が過ぎている。  (5)  身の丈を超えた戦線拡大。大東亜戦争では、国債濫発で戦費を賄い、中国に始まり東アジア・南洋・インドまで戦線を広げた。アベノミクスも、先進国最悪の財政状態を無視して、世界最大級の金融緩和を展開している。  (6)  戦術的なサプライズを重視。戦力に劣る日本軍は、真珠湾攻撃・インパール作戦・アウトレンジ戦法など敵の裏をかくことを重視した。黒田日銀も、直前まで「検討していない」としていたマイナス金利をこの1月に導入するなど、奇策を市場関係者が予想しないタイミングで打ち出し、サプライズを与え続けている。 (7)  戦力を逐次投入。大東亜戦争で連合艦隊は、真珠湾の基地に打撃を与えるだけでなく米太平洋艦隊を殲滅させるべきだったが、中途半端な戦力投入で最大の勝機を失った。黒田総裁は、当初「戦力の逐次投入はしない」と明言したが、2度に渡って追加緩和を実施している。 大東亜戦争と同じような悲劇を繰り返すな (8)  全体主義的傾向。大東亜戦争では、「一億火の玉」を合言葉に、国家総動員法で全国民を動員して戦った。安倍政権が提唱する「一億総活躍社会」は、早期リタイヤや専業主婦を否定しており、多様な考え方を抑圧する傾向が見られる。 (9)  針小棒大の戦果発表。大本営は、大局的な戦況は悪化しているのに、「ミンダナオ島沖で米軍機を5機撃墜」といった局地戦の戦果を過大に発表した。安倍首相も、“経済の通知表”であるGDPは悪化しているのに、非正規社員が増えたに過ぎない雇用改善を取り上げて「アベノミクスは順調」と発表している。  もちろん、類似しない点もあるのだが、これだけ類似点が多いと、アベノミクスを続けて良いのか、日本の将来は大丈夫なのか、と不安になる。最終的にデフレ脱却・経済成長・財政再建が実現すれば良いのだが、原爆投下でようやく幕を引いた大東亜戦争と同じような悲劇が繰り返されないことを切に祈る。画像はイメージです ところで、たまに「日沖さんは安倍政権を支持していないんですね」「(アベノミクスの失敗を喧伝する)民進党の支持者ですか」と聞かれるが、これは難しい質問だ。アベノミクスは効果が出ていないという以前に金融緩和でデフレを解消できるというロジックが間違っており、安倍政権の経済政策はまったく支持できない。ただし、民進党の分配を重視する社会主義的な政策よりはかなりマシという気がする。  しかも、経済政策はともかく、安倍政権の外交政策は高く評価できる。安倍政権はアメリカとの同盟関係を強化し、問題児の中国や北朝鮮にも冷静・的確に対応している。激動する世界情勢の中、見事なかじ取りだ。当初、安倍政権は経済再生への期待が大きく、対中強硬派として外交が懸念されていたが、まったく逆になっている。  安倍首相は参院選を「アベノミクスへの信認を問う選挙」と位置づけている。むしろサミットを含めた外交の成果で政権の信任を受け、選挙後に経済政策を一新してほしいものである。 (日沖コンサルティング事務所『経営の視点』より転載)

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    聞けば聞くほど分からない!アベノミクス参院選で本当によかったのか

    か。聞けば、聞くほど、分からなくなってきた。 6月1日、国会の閉会に当たり、安倍晋三総理は記者会見でアベノミクスの成果を強調しつつ、経済の「リスク」を語り、「アベノミクスの加速か、それとも後戻りするのか、これが来る参議院選挙の最大の争点です」と明言した(なお正しくは参議院議員選挙)。参院本会議を終え退席する議員=6月1日午前、国会(斎藤良雄撮影) さらに「中国経済のかげりが見える」「成長の減速が懸念される」「リーマンショックの経験に学ばなければならない」等々の理由を挙げた上で「消費増税を延期すべきと判断した」と表明した。 総理は「延期」と言ったが、正しくは「再延期」である。総理自身、先の解散総選挙に際し「再び延期することはない。皆さんにはっきりと断言する」「必ずやその経済状況をつくり出すことができる」と明言した。にもかかわらず、前言を翻した。総理は「公約違反との批判は真摯に受け止めている」「参院選を通して国民の信を問いたい」と語ったが、それ以上の具体的な説明はなかった。 勝敗ラインについては「改選議席の過半数」という「高い目標」を掲げ、「厳しい選挙戦となる」と、与党への支持を訴えた。最初から最後まで、憲法改正への言及は一言もなかった。拍子抜けと感じたのは私ひとりだろうか。正直、私はガッカリした。 先の解散は「アベノミクス解散」と呼ばれた。私は当時から解散の法的妥当性について憲法上の疑義を表明してきた(拙著『護憲派メディアの何が気持ち悪いのか』PHP新書)。その論点は蒸し返さないが、先の解散を踏まえていえば、今回は「アベノミクス参院選」とでもなろう。本当にこれでよかったのだろうか。護憲派メディアと野党の不思議護憲派メディアと野党の不思議 当初は、「会期末の6月1日に衆議院解散があり、7月には衆参のダブル選挙になる」との見方が強かった。「週刊文春」が舛添要一都知事の金銭スキャンダルを報じたこともあり、「都知事選とのトリプル選挙になる」とも囁かれていた。 それが結局、「サプライズがないのがサプライズ」とでもいうべき結果となった。1日の会見で総理は「解散がよぎった」と漏らしたが、ついに解散は行われなかった。 伊勢志摩サミットも、懸念されたテロなどの事件や事故もなく、無事に終わり、日本で開催されたサミットとしては一人も逮捕者も出さない史上初めての快挙となった。 サミットの成果については様々な評価があり得よう。海洋安全保障について言えば、案の定「中国」という国名を挙げて指弾できなかった点など不満も残るが、厳しい非難に値するような失点はなかったと言ってよい。記者会見で、消費税増税の再延期を正式表明する安倍首相=6月1日午後、首相官邸 マスコミ世論はサミットそのものより、オバマ米大統領の広島訪問や安倍総理が会見で示唆した消費増税再延期に注目した。いずれも好意的に受け止められたと評してよかろう。私自身は「核のフットボール(発射コード)」が広島に持ち込まれた事実や、法律で明記されている税率や期日を内閣が変更しようとすることに異論を唱えてきた。 だが大半のマスコミ世論は、〝核の発射ボタン〟の持ち込みを黙認しながら、「持たず、つくらず、持ち込ませず」の非核三原則を唱え、オバマ大統領に「謝罪せよ」「被爆者と面会しろ」と迫った。いわゆる安保法制を「解釈改憲」「立憲主義に反する」「憲法違反」とまで合唱した護憲派メディアが、なぜ、法律を内閣が変更することに批判しないのか。なぜ「選挙公約と民主主義を踏みにじる暴挙」などと批判しないのか、不思議である。 さらに不思議なのが野党である。民進党の岡田克也代表は5月31日の衆議院本会議で「民進党・無所属クラブ、日本共産党、生活の党と山本太郎となかまたち、社会民主党・市民連合を代表し」、平和安全法制の整備を「立憲主義と平和主義への重大な挑戦」と非難した(安倍内閣不信任決議案趣旨弁明)。そうした非難が当たらないことは前掲拙著で詳論した。一点だけ挙げれば、岡田代表は「憲法違反であることは明らかです。憲法違反の法律は、いくら時間が経っても憲法違反です。我々は、安全保障法制を白紙化することを柱とする議員立法を今国会に提出しました」(同前)と訴えたが、「憲法違反」なら、平和安全法制はすべて無効であり(憲法98条)、改めて立法する必要などない。「最大の争点」たるべき憲法改正「最大の争点」たるべき憲法改正 問題は参院選の争点である。総理が「参院選を通して国民の信を問いたい」と挙げたのは、消費増税再延期の是非である。公約の重大性や財政規律、国際社会の信任など、再延期を非とすべき理由に事欠かない。記者会見を終え引き揚げる安倍晋三首相=6月1日午後、首相官邸(納冨康撮影) だが、最大野党の民進党はじめ野党は(政府与党とは異なる論拠とはいえ)消費増税の再延期を訴えている。つまり与党も野党も延期に賛成している。ゆえに、これが最大の争点と言われても、われわれ有権者は戸惑う。 来月の参院選では、選挙権が得られる年齢が、18歳に引き下げられる。これにより、18歳と19歳の約240万人が新たに有権者となる。また、駅構内や総合商業施設などに「共通投票所」が設置され、投票の利便性も高まる。自治体の判断により、期日前投票の投票時間も最大2時間拡大される。 国民に対し、正面から堂々と憲法改正を訴える絶好の機会だったのではないだろうか。 岡田代表は《安倍総理の目指す憲法改正とは何か。「本丸」は9条です》とも訴えた、この指摘に限り、私は同意する。まさに「本丸」たる9条の改正こそ、安倍政権にとって最大の使命であろう。 先の「アベノミクス解散」総選挙では、集団的自衛権に関する憲法解釈の一部変更を含む「平和安全法制」の整備を正面から掲げた選挙にはならなかった。そのことが、事後いわゆる安保法制の整備にネガティブな影響を与えたと考える。私は、野党が賛成する消費増税再延期などではなく、本来、「最大の争点」たるべき憲法改正を掲げた国政選挙となることを願ってきたが、今回も、その願いは叶わなかった。  先の総選挙同様、今度の参院選でも与党は勝つに違いない。だが、勝てば官軍という政治姿勢はけっして美しくない。もとより結果も大事だが、結果に至るプロセスの適正さも重要である。蛇足ながら、そう考えるのが正統的な保守思想でもある。

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    アベノミクスは半分しか成功していないことがバレてしまったぞ

    うべきであったことは当然のことなのです。また、どうして消費税が上がらないか、という点に関していえば、アベノミクスの失敗だ、という野党の追及は一定の説得力を持ってしまいます。 私も何度も指摘していることですが、アベノミクスは前半は絶対にうまくいっています。これは皆さん、疑わないで大丈夫です。事実、GDPもかなり上がっているでしょ?それに伴って税収はどれだけ上がっています?順調そのものでしょ? アベノミクスは方向性は間違っていないんです。最初の段階では。でも、続く場所が悪い。 これも何度も指摘していることですが、安倍政権の最大の欠点は2つだけしかなくて、一つは少子化対策。馬鹿の一つ覚えの「保育園を増やしましょう~」政策。私のコラムで何度も指摘している通り、保育園ごときで少子化は改善できません。これは19年も前に世界で行われた調査で明らかになっています。日本ではバカフェミニストたちが握りつぶした情報ですが、保育園を増やしてもイクメンを増やしても 働く女性へのゴマすり しかなりません。少子化は改善できません。結果は出てるでしょ?早く気づけよ、厚労省のアホども。 そして、もう一つが「地方創生対策」です。あまりに稚拙。幼稚園のお遊戯状態。何にも結果が出ていません。 国の経済を改善するための根本的処置って、実はこの2つをかなりドラスティックに改革しなければ出来ないようになっているんです。説明すると長すぎて面倒くさいけれど、とにかく、アベノミクスって、人間の体で言えば、 相当に病に侵されている人間にまず、モルヒネまでは打ちましたよ、と。 で、何とか動けるようにまでしましたけれど、アーダコーダと言い訳しながら「手術に踏み切れない根性なし」状態なのです。 なので時間が経てば経つほどバレてくるんです。「今のままじゃあ経済って回復しないんじゃね?」って。 以前のコラムで指摘した通りで、日本の経済は20年は最低でも回復しません。絶対です。それをちゃんと踏まえた対策を打たなきゃいけないんですけれど、その為には「日本人は間違えたんだ」「失敗したんだ」 とちゃんと厳しく指摘しなきゃいけないんです。「俺たちはバカだったんだ」と。 そして、その上で、老人にばかり垂れ流しになっているお金を奪い取って若者の「子育て世代」に注入しなければいけない。お年寄りはみんなゲロ吐きますが、無視してやらなきゃいけない。東京にばかり流れている金も物も全部奪い取って地方に流さないといけない。東京に土地もってる人は泣き叫びますが、それも断行しなきゃいけない。そうしないと日本って回復しないようになっています。 さて、安倍政権の経済政策が中途半端で止まっていることは完全にバレました。岡田さん以下がダラシナサ過ぎるので今回の参院選は救われるでしょうが…次は持つかな…?応援している人間としては、なかなか心配の尽きない2016年後半と言えそうです。

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    消費再増税をすればアベノミクスの息の根はとまる

    党議員がわが党に「けしからん!」と怒鳴り込んできたそうだ。私は野党議員だから、読者のみなさんは私が「アベノミクスは終わった!」と金切り声をあげて批判すると思われるかもしれないが、そうではない。エコノミスト出身の議員として、ここは理路整然と、アベノミクスと現下の日本経済の問題点を説こうと思う。 一番強調したいのは、わが国経済の将来を考えれば、消費税再増税はとめる以外の選択肢はないということだ。増税を強行すればアベノミクスは、「生活者の消費」という最大の基盤から崩れ落ちるだろう。 ありがちな『アベノミクス崩壊論』は、最近の個人消費の剥落への消費増税の悪影響については目をつむり、原因を日銀による「異次元の金融緩和」の副作用に押しつけるものだ。たとえば、金融緩和をしても、日本経済の「経済の実力」というべき潜在成長率が上がらないからダメなのだという「量的緩和は偽薬のようなものだ」とするもので、主に財政を切り詰めることしか考えていない霞が関官僚からくる批判だ。私は黒田日銀総裁にはあまり高い評価ができないのだが、彼を含む政策担当者はだれも金融緩和で「成長率の天井」や「経済の実力」を上げようとしていない。だから、実はこの議論はまったくあてはまらない。それゆえ与党にとってもまったく痛くもかゆくもない批判だ。12月26日に政権発足3年を迎えるにあたり報道陣の取材に応じる安倍晋三首相=2015年12月25日、首相官邸 実態はこうしたありがちな批判とは逆だ。金融緩和は2013年春以来、なんとか機能しているのだが、2014年4月からの消費増税が原因となって国内で深刻な消費不況が起きてしまった。だから来年4月の消費税の再増税などもってのほかだということが事実だ。 まず、私自身の立場をあきらかにしよう。私は民主党内で政権交代直後の2010年3月に「デフレ脱却議員連盟」を事務局長として結成し、そこで「量的緩和と2~3%程度のインフレ目標の実現」を提唱していた。また、党内の消費税論議では「消費増税を慎重に考える会」の事務局長として、景気が悪くなると予想されるときには消費増税を延期できるという「景気条項」を法案の中にいれるために活動をした。もともとは、経済企画庁やOECDなどで景気動向指数作成や、経済対策の取りまとめなどの仕事をしていた霞が関の役人であった。 さて、アベノミクスをどう評価するのか、この間の経済の動きをみてみよう。経済は、金融緩和に伴う円安がもたらした「円安メリット」で回復した。政府が景気動向指数に基づいて世界的に標準化された方法で定める「景気の谷」(最悪期)は2012年11月。これはちょうど円高が終わった月だ。そこを境に景気が回復しつつある。有効求人倍率、失業率などの雇用状況も改善している。株価にしても、日経平均はいまでこそ世界経済の混乱を反映して1万7千円台をきっているが、昨年夏には15年ぶり2万円に乗せた。これはわが国経済のためにまずは喜ばしいことだ。 やはり債券を主に買い入れ、株式を含む実物資産に民間資金をシフトさせる日銀による金融緩和の力は大きかったというのがすなおな評価だろう。少し以前の話だが、主要122社に対して行われたアンケートでは、安倍政権に対する政策評価の中で最高評価を受けた項目は「金融緩和」だった。われわれが民主党デフレ脱却議連として再三提言したとおり、民主党政権でこの政策を実現していれば、わが国経済の回復はより早かった。この間に失われた国富は少なく見積もっても10兆円以上の莫大な損失となるだろう。慚愧に堪えない。 では、国会で今の野党が政府に対して行っている批判は、全部まとはずれなのだろうか。そうとはとても言えないのだから物事は複雑である。 今、景気がいいというのは半分本当で半分ウソなのだ。確かに従来からの景気動向指数で測れば明らかに景気はよい。雇用も堅調。しかしこれは主に製造業中心に生産する側である企業の好不況をとらえた指標だ。サービス業の動きはこうした指標ではとらえきれない。そしてまた製造業は、のちほど述べるが国内で空前の「消費不況」がおきていても、輸出によって大幅な利益を生むことができる。だから企業の生産が順調であることだけ見て、「日本経済のファンダメンタルズ(基礎的条件)は良好」などと政府がうそぶいている余裕はない。 ここで目を転じて、個人消費を見てみたい。実は2014年4月からこのかた厳しい「消費不況」が続いている。もちろんその原因は、その月から行われた消費税の5%から8%への引き上げである。 消費税は、本来、消費に対するペナルティである。消費税は最終的に消費者が負担するものである以上、その最大の悪影響は消費者がこうむることになる。だから消費税再増税はとめなければならないし、同時に消費へのてこ入れが絶対に必要となるというのが私の結論だ。空前の「消費不況」の実態空前の「消費不況」の実態 私が、消費税再増税に反対する第一の理由は、2年前の消費増税がすでにサラリーマン・消費者のふところを直撃し、賃金が目減りしてしまったことだ。 まず、今、日本を覆っている「消費不況」がどのようなものであるかを述べよう。今、特に自動車、住宅、家電などの耐久消費財が国内で売れなくなってしまった。 105円出して買えていたものが増税で108円出さなければならなくなった。その一方で、われわれの給料はどうなったのだろうか。いい例を挙げよう。昨年2015年の春闘で、日産自動車は大手製造業最高の賃上げを記録した。そのベースアップ(基本給の賃上げ分)を含む1人当たり平均賃金改定額は1万1千円、年収増加率は3・6%。しかしベースアップ分だけなら、月5千円であり、2%を切る。他にも物価上昇が起きている中で、これでは消費増税分すらまかなえない。大手最高の賃上げでもこういう状況だ。日本中のサラリーマンの給料が実質的に目減りをしてしまったのだ。これが「消費不況」の原因だ。 データで見てみよう。増税から一年半以上たった昨年10~12月期の実質GDPは前期比0.4%減。個人消費が同0.8%減で年額換算額304兆円。これは消費税引き上げ直後の14年4~6月期の305兆円をも下回ってしまった。 もっと細かく「消費者が使うお金(個人消費支出)」をみる。総務省「家計調査」をみてみよう。(表参照)この統計は、全国約9000世帯を対象に、家計簿と同じように購入した品目、値段を詳細に記入させ、毎月集めて集計したものだ。増税から一年半以上たっても消費税引き上げ直後の“反動減”の時期に当たる4月95.5、5月92.5とほとんど変わらない。特に2015年11月は91.8と増税後最悪を更新した。グラフを見ていただければ、L字型となっていて、数値が底ばい状態であることが判るだろう。これは反動減などではなく、構造的な減少だとしか考えられない。 今、国会では来年度予算が審議されている。霞が関によるマスコミや政治家への根回しもさかんだ。最近のはやりの言い回しは「消費増税からもうすでに二年たっているので、反動減の影響は終わった」とするものだ。また、最近の個人の消費の弱さは、経済財政担当相によれば「記録的な暖冬が原因で、景気の先行きは緩やかに回復する。」としている。「暖冬だから冬物衣料などの季節商品がうれない」というのだ。 騙されてはいけない。彼らは国内の消費に大きな変化が起きているのを覆い隠そうとしているのだ。前に書いたとおり、私も旧経済企画庁出身でエコノミストの末席に連なっていたのだが、昔から天候不順を景気が悪い理由にするときはほとんどがこじつけだった。今回も決して例外ではない。それとも政府は消費税増税後一年半もずっと気候不順だったとでもいうのだろうか。 こうした弱い消費の動きは、来年4月の消費税再増税を織り込んでいるのかもしれない。重ねての消費税引き上げは、わが国消費者を奈落の底に叩き落とすことになりかねない。ここでは論じないが軽減税率は低所得者対策になるどころか、高所得者優遇であることはすでに明らかになってきている。われわれが地元活動の途中で吉野家によって、牛丼並盛380円を注文してもそれは消費税10%、その一方で100グラム数千円する高級牛肉は軽減税率の対象となって税率が低いというのは本末転倒、極めて不公平ではないか。 だからこそ私はいち早く『軽減税率の導入を前提にした消費税再増税には絶対に反対』であると、与党が反発する中でも唱えているのだ。景気条項:自公政権の増税判断のミス景気条項:自公政権の増税判断のミス 自民公明政権、財務省や一部の学者は2014年4月の消費税8%への引きあげ前に『消費増税は景気に悪影響がない。一時的な反動減はあってもすぐ元に戻る。なぜなら増税で社会保障が安定化するので消費を下ざさえする非ケインズ効果が働くから。』としていた。この非ケインズ効果とは、われわれの常識とは正反対に、財政削減や増税が景気にプラスの影響を与えるとする現象である。ただし、過去のほんの一時期に北欧の小国でそういう現象が起きたことは確かだが、本当に日本でそういう効果がおきる可能性があるのかどうかは極めて疑問だ。実際に、当の財務省官僚に「今後の日本で非ケインズ効果がでると思いますか?」と党内の部門会議などでたずねても、「そうだ」という明快な返事がもどってきたことはない。彼らも保身に巧みなので、表の場ではしっぽをつかまれないようにしていて、目の届かないところで自分で考える力のない政治家たちに盛んに振り付けていたことは明らかだ。 私は6年前の私自身の参議院選挙でも、菅直人総理が、なんら党内手続なしにいきなり「消費税の増税が必要です。」と発言し、増税に前のめりになる中、「景気が悪い状況での消費税増税は経済に大ダメージを与える」と反対を明言した。暑い夏の選挙戦の中で有権者に訴えかけたときから、私の考えはまったく変わらない。給料が伸びない中での増税は悪であることは現在のヨーロッパの例を見るまでもない。 消費増税法には成立当時、通称「景気(判断)条項」があった。これは民主党政権時、党内の法案審議のなかで、「デフレ不況から脱却していない今はまだ消費増税をすべきではない」と考えたわれわれが、当時の前原誠司政調会長に直接申し入れるなどして採用させたものだ。 その内容は、「一年間の名目経済成長率で3%程度かつ実質経済成長率で2%程度の経済成長を目指し経済運営を行う」ことと、消費増税を決定する前に「経済状況などを総合的に勘案した上で、その施行の停止を含め所要の措置を講ずる」ものだ。つまり、景気がよくないと判断される場合には、増税を見送るという仕組みだった。 この数値目標は、名目成長が実質成長を上回るという形にもなっている。つまり、デフレ脱却が増税の前提となっていた。実は、われわれが党内で提案したときには、この経済成長率を満たすことを「条件」にはじめて増税できるとするきわめて拘束力が強いものだった。その後、当時の政府・執行部の反対で、「条件」ではなく、「努力目標」になってしまったが、この「景気条項」が本来の趣旨に沿ってその当時の政権担当者によって運用されれば、デフレ不況下での増税は避けることができたはずだった。このことは、その後2014年11月18日に行われた安倍総理の解散表明記者会見で「社会保障・税一体改革法では、経済状況を見て消費税引き上げの是非を判断するとされています。今回はこの『景気判断条項』に基づいて、延期の判断をいたしました。」としていることでも判る。増税を停止することができる法的効力を持つことから、マスコミからは「増税派への時限爆弾」と言われたこともあるが、まさにその名称通りの働きを前回果たしたことになる。 この自公民三党協議でも、現在の私の消費税再増税凍結の提案に対してと同様に与党からの反発が厳しかった。「法律で時の政権の判断を縛るべきではない」というのが自民党側からの反論だった。しかしそれは建前であり、「経済の状況がどうであろうと増税をしたい」というのが本音だったのだろう。残念だがわれわれの力が及ばなかったことはお詫びするしかない。しかし2013年秋、そして2014年秋、総理官邸にエコノミスト、学者、団体関連の代表などが集められて行われた、増税の賛否をヒアリングする「消費増税点検会合」が開かれたのも、この「景気条項」の縛りがあったからである。 ノーベル経済学賞学者であるクルーグマンもこう指摘している。彼は、2014年11月、マスコミによるインタビューに答えて「私としては『インフレ率が2%程度に達してから引き上げる』といった条件付きの延期の方が望ましいと考えるが、そうした可能性がないことも理解している」と述べた。彼が述べたこの「条件」こそが、まさにわれわれが提案した「景気条項」の本来の姿である。 しかし、2015年3月31日、税制改正法が可決成立し、われわれが心血を注いだ「景気条項」は廃止されてしまった。それにしても安倍総理はなぜ「景気条項」を霞が関の要求に屈して唯々諾々と削除してしまったのだろうか。「景気条項」があったからこそ、霞ヶ関に対して交渉力を維持できたのではなかったか。『いつでも増税を止められるんだぞ。』という脅しがなければ相手に言うことを聞かせることができなくなるはずだ。今、野党側からは、まさに野党5党の共闘によって、政府与党に対して『景気条項』の復活要求をすべきだ。復活すれば今の消費不況では消費再増税は中止するしかなくなる。これに応じなければ自公民三党合意を与党が破棄したことが再度明らかになる。民主党は三党合意が守られないのだから、晴れて堂々と増税に反対できることになる。 なお、「消費増税を決定したのは民主党」と宣伝なさる与党びいきの方がいるが、2012年6月15日の自公民三党協議合意文書「税関係協議結果」をご覧いただければ、増税は「その時の政権が判断すること」と明記してある。つまり前回の消費増税は「自公政権が引き上げの判断を下した」ということだ。実際に安倍総理も2015年2月5日の参議院予算委員会での私の質問に対して、「今回の消費税の引上げでございますが、もちろん、最終的には私の判断で引上げを行ったところでございますが、(以下略)」と答えている。財源は「自然増収」でまかなえる財源は「自然増収」でまかなえる 皆さん方の中には、消費税再増税をしなくて一体、国の財源は大丈夫なのかと心配される方もいるだろう。安心していただきたい。日本経済の中で調子のいい分野がある。それは企業、会社である。そこからの納税は極めて順調である。 2年前の消費増税はサラリーマンの懐を直撃した。これは先にも述べたように、消費税が最終的には消費者が負担する税だからである。一方で企業にはサラリーマンと比較すればダメージは小さかった。それどころか、金融緩和の副産物である円安ドル高はわが国企業に大きな円安メリットをもたらした。一時は1ドルが80円を切るほどの円高が、120円となった。実に5割も円安になったのである。これで輸出ができる企業、海外に子会社があるような大企業は好調となった。例を挙げれば自動車産業だ。2015年度上半期は、自動車産業大手が相次ぎ最高益を記録した。景気が回復しつつある北米市場が好調であることと同時に円安効果も影響があった。トヨタの2016年3月期の連結営業利益は過去最高の2兆8千億円となる見通しだ。少し以前の試算になるがSMBC日興証券の予測によれば東証一部上場企業の今年度経常利益は28.9兆円。これは史上最高益を昨年度に続き更新することになる。実際には、世界経済の混乱の影響が出るだろうが、国内の消費の動きに比べれば、ほぼ史上最高益に近い状態にある法人企業分野は経済的に恵まれていると表現して問題はないだろう。 だからまず財源は、「好景気の企業からの法人税」などの税収を中心とした、いわゆる「自然増収」を頼りにすべきである。安倍総理がよく「10兆円国債の新規発行額を減らした」と発言するが、この約半分が消費増税分、のこり半分が自然増収分だと考えられる。法人税は基本的に赤字企業は納税しない。景気回復に伴う大手企業の業績回復で法人税収は経済成長率をはるかに超えて大幅に増加するのだ。 実際に、政府の試算によると、これまで消費税率を10%にすることが赤字半減の大前提だったが、円安、株高、大手企業の業績回復で法人税収は大幅に増加する見込みとなることから、いわゆるプライマリーバランス(財政の基礎的収支)は消費増税延期でも赤字半減が達成可能だという。もちろん中国経済の急減速、新興国経済の不振は今後、わが国の輸出に影をおとすことだろう。世界の景気が回復しないことは政府の責任ではないが、わが国のGDPにしめる比率が約17%である輸出をはるかに超え約56%を占める生活者の消費が消費増税で打撃を受けている今、政府とるべき経済政策の第一は、まず消費税再増税をとめるアナウンスではないだろうか。逆走する経済政策 金融緩和は成功したが、消費増税が今の「消費不況」の原因となっていることを述べた。ここからは公平の観点から現政権の政策は誤りであり、政策を転換して消費不況対策として「国民のための金融緩和」を行わなければならないことを述べたい。 ここまで説明してきたように、「企業は調子がいいが、消費者のふところ具合が問題」というのが今のわが国の経済だ。こういう状況でとるべき政策はただ一つ、「所得の再分配」だ。つまり企業から法人税、社長や役員のみなさんから所得税としておさめていただいた税金を、教育、子育て、社会保障といったわれわれサラリーマン・消費者にとって役に立つ分野に活かすことが、景気回復の手段としても絶対に必要となる。 しかしアベノミクスの欠陥は体系だった所得再分配政策がないことだ。私を含めて何回も国会質疑で取り上げているはずだが、政府は所得再分配にはかなり否定的だ。 それらしい政策も最近少し見られるようになったが、残念ながらすべてが付け焼き刃だ。 現政権は法人実効税率を現行の32.11%(標準税率)から2%強引き下げて20%台とすることを決めた。「法人税20%台は世界標準だ。世界で一番企業が活躍しやすい国を目指します。」と胸をはられても、一方で、われわれ消費者に対しては消費税増税というのでは困る。しかし、それが実際の政府与党の方針だ。これはどう考えてもサラリーマン・消費者にとっては不公平なやり方だ。改めなければならない。消費税再増税をとめることはその第一歩ともなる。同時に「所得再分配政策」(教育・子育てや給付金、賃上げや低所得者層への直接補助など)が必須だ。 もう一つの財源は国債発行だ。「国民のための金融緩和」を実現しなければならない。日銀のいわゆる「マイナス金利」政策や、国債金利がマイナスになったことなどを財政破綻などとかんちがいしている人も多い。しかし、実際は、「国がほとんど金利をつけなくても借金できるようになった」わけである。日本経済が異常な状態であることにはかわりないが、起きた現象でいうならば、いくら高い金利をつけても国債が売れなくなってしまう状態である財政破綻とはまったく正反対のことだ。日本経済の根本的欠陥は、実は企業が、能力増強などの設備投資も従業員への賃上げもせずお金をただ貯蓄に回していることなのだ。いわゆる内部留保がどんどん貯まる現象がこれの結果だ。このままだと国内で誰もカネを使わないので、政府は国債を発行して銀行を通じてカネを吸い上げ、景気対策などで民間のかわりにカネを使って、国内の需要を下支えしている。政府が財政赤字になったのはその結果。企業が積極的にカネを使わないという構造があるかぎり、政府が国債を発行しないと、日本経済自体の回転自体が止まってしまう。例えば、企業が銀行に預金しても、貸出先がなければ利息が付かなくなってしまう。 今起きていることは、世界経済の混乱によるリスク回避先として円が買われていること、つまり国債が投資家から大人気になっているという意味だ。その結果、国債がマイナス金利となった。ここは日本政府としてはありがたく国債を新たに発行し、これまでどおり日銀に市場から買い上げてもらって長期間保有してもらうのがトレンドにのった対処法だ。日銀が持っている間に償還期限を迎えた国債は、政府から日銀に元本が支払われる。日銀はいくら利益をあげても法人税は取られない。そのかわり、日銀は広い意味で政府の一員なので最終的には政府が日銀に支払ったカネはその95%が国庫納付金という形で政府にもどってくるから心配はいらない。これが今採るべき政策、「国民のための金融緩和」だ。 長期国債の金利はわが国史上初めてマイナスとなった。もし政府がマーケットのシグナルを重視するならば今、借金しなくていつするのか。市場は「どうか国債を発行してカネを借りてくれ」と切実なメッセージを発しているのだ。まさに国からすれば絶好の借りどきだ。そこでこの際、十数兆円の単位で超長期国債(仮称で教育・生活扶助国債とする)を発行して特に低所得者の子弟を意識した教育の基金としてはどうか。子どもの教育は社会的意義も大きく、また利回りが8〜15%とされる。このチャンスに格差是正の資金を調達するのだ。長期金利の指標となる利付10年国債が、史上初めてマイナスになり、一時マイナス0.025パーセントに低下。日経平均株価も終値の下げ幅は今年最大となった=2月9日、東京都中央区 繰り返すがこれは国内でお金を借り入れて事業を拡大しようとする企業がないことから起きている異常な状態であることは確かだ。しかし、これは将来の展望が開けず景気が悪いことから起きている。この状況で財政危機への対応を優先する人は政策の順番がおかしい。 今の日本に必要な経済対策はなにか。まずは日銀による追加緩和。次に、三党合意を無視して削除された景気条項を復活させ、それにもとづいて消費税再増税をとめること。さらには家庭の消費不況対策を最優先し、教育・子育てや給付金の形で低所得者層への所得再分配をめざす、10兆円以上の国債の新規発行を伴う経済対策だ。先に述べたように、国債の増発を伴わない形での経済対策は、今の状況ではナンセンスだ。 今年1月の総額3.3兆円の補正予算は、2014年度から消費税の8%引き上げにあわせて支給されていた子育て世帯への給付金をスクラップ財源とすることによって編成された。なぜこんなことをするのだろうか。 今、日本の子どもの6人に1人が相対的に貧困とされ、そのうちひとり親家庭の貧困率は50.8%と先進国で最も高い。日本の母子家庭の問題は特異だ。他の先進国の母子家庭は福祉の対象になっており無職というのが典型的だが、わが国ではほとんどのお母さんが働いている。それにもかかわらず貧困状態にあるのは彼女たちが非正規、低賃金で働かざるをえないからだ。わが国が先進国であるのならばこうした状態の解消にはぜひ力を入れなければならない。また、困窮家庭の学童に給食費や学用品費を補助する「就学援助」を利用した小中学生は約150万人で過去最高レベルだ。しかしその国の予算はわずかに年間8億円。こうした子どもの貧困対策にも更に予算を投入すべきではないか。 その一方で、低所得年金受給者へ3万円を給付することを決めた政府与党。低所得年金受給者に対する給付を頭ごなしに否定するつもりはまったくない。が、なぜ子育て世帯はその犠牲にならなければならないのか。すべての政策の財源をスクラップアンドビルドで求めようとすることは「ペイアズユーゴー原則」といって霞が関の悪しき習慣だ。確かに投票率でいえば子育て世帯より高齢者の方が高い。が、政治家の決断がそんなことに左右されていいのか。新規国債を発行して両方とも給付するという選択肢を検討すべきではなかったか。 国債発行をともなう補正予算を組んで、こういう人々のために使うことができる。発行した国債は、現在の「異次元の金融緩和」政策を日銀が続けている限り、市場から日銀が買い切りオペとして買い入れることになる。 低所得層こそお金に欠乏しており、需要を作り出すという面での景気対策としての効き目も大きくなる。また、「企業が高い利益を上げているのに、なぜ国内で設備投資が出ないのか」とよく議論されているが、国内需要がこれだけ弱ければ国内で設備投資が行われる(=国内の工場のラインを増強する)わけがない。低所得者層への給付は、それ自体が社会的に善であると同時に、まわりまわって日本全体の景気をよくするための最初の手段であるべきだ。財政再建への早道とは財政再建への早道とは では、財政再建をどうするのか?国の財政再建を考える上で、有害な議論は、財政を家計に例えることだ。あなたのお宅にはお札を刷ってくれる銀行はないだろう。しかし、国には発券銀行である中央銀行があり、金融政策が行える。これは本質的なちがいだ。 クルーグマンも緊縮財政を批判するコラムでこう書いている。「(ギリシャ危機によって)本当にユーロがダメになったら、その墓碑にはこう記されるべきだ。『国の負債を個人の負債になぞらえるというひどいたとえによって死去』と。」家庭では節約が有効だが、国の経済全体としては、合成の誤謬という問題があり節約は解決策にならない。だからこそ財政・金融政策で介入するというマクロ経済のマネジメントが必要となっている。 ではどうするのか。これは簡単なことで、難しい最新の経済理論は必要ない。「景気が十分立ち上がるまで、財政も金融も引き締めないこと」の一言につきる。1997年の橋本増税も、2000年の日銀によるゼロ金利解除も、2006年の量的緩和終了も、2014年の消費増税もすべてが早すぎる政策の引締めであり、防げたことだった。金融政策決定会合を受けて、記者会見する日銀の黒田東彦総裁=3月15日、東京都中央区 私も財務省の官僚に、『増税は絶対ダメだといってるんじゃない。景気がよくなってから、つまり豚は太らせてから喰えといっているんだ。』といつも言っている。それでもまったく反応はないのだが、彼らは経済成長しても税収は増えないと本気で考えているのだろうか。 増税しても景気が悪くならないなどという夢物語に基づく財政再建計画ではなく、具体的にここまで述べた最近の世界の金融やわが国の経済情勢をふまえた戦略を作る必要がある。そしてそうした戦略はこれまでみてきたとおり霞が関からは出てくるはずがない。だからこそ、消費税再増税回避にあわせて、財政再建戦略を見直し、信頼するに足る戦略を策定することが必要だ。これまで1997年の橋本増税の時代から20年間繰り返されてきた増税のみによって財政再建を実現しようとする試みは失敗の連続であったことを認め、かつてわれわれ民主党デフレ脱却議連が行った提言にあるような経済成長を優先する財政再建戦略に切り替えることが必要だ。  増税しなくても大丈夫だと書いた。増税回避をしても国債の信認は損なわれないのか、金利は上昇しないのか、疑問に思う方も多いだろう。 前回の2014年の例をみてみよう。増税の判断時期がせまるにつれて、霞が関の息がかかった人々が「消費増税は国際公約。延期なら国債の信認が失われ、長期金利が上昇し、さらなる円安も」などと発言しはじめた。ところがときに増税延期の観測が流れ、ときに予定通り実施の噂が出ても、国債や為替市場はまったく反応しなかった。本当に国債市場が増税延期をマイナス要因として受けとめていたならば、市場は報道に一喜一憂したはずであったにもかかわらずである。逆に、増税延期の立場にたつ内閣官房参与の本田悦朗静岡県立大学教授は、10月に入って欧米で接触した約70社の機関投資家の7割弱は、消費増税を延期しても国債の信認に問題はないとの見方だったと発言していた。本田氏によれば残りの2割程度について、増税を延期する場合の国債の信認に関し「自分は心配しないが、他の市場関係者の見方が心配」とのことだったという。もちろん増税延期が決定されても国債価格は暴落しなかった。消費増税は国際公約だと主張していた人々が、今に至ってもこういう現象に対してきちんとした説明責任を果たしたという話は聞かない。この件に関してはやはり増税に反対したわれわれの議論が正しかったということだろう。その後も順調に国債金利は低下(=国債価格が上昇)し、現在、長期国債の金利がマイナスになっている。今も、増税延期の噂が出ているが、金利は上昇などしていない。つまり杞憂に終わったわけである。「国民のための金融緩和」を実現しよう! 数々の世論調査の結果をみても、野党は「国民のための金融緩和」つまり「金融緩和プラス所得再分配」というスタンスをとらなければ与党には歯が立たないだろう。とはいっても一般の理解は、「金融緩和政策=金持ち優遇」というくらいのものでしかない。これは的外れの理解だ。なぜか。資産家でもなく不労所得がなく、働く以外に収入を得るすべのないわれわれにとっては、金利を引き下げることによって景気を刺激する金融緩和には大きなメリットがある。かりに金利が高くなったとしても、それはすでに銀行預金をもっている人にとっては受け取る利息が増えてメリットがあるだろうが、一文無しの人間にはメリットはない。むしろ景気が悪化することによって、働いている会社の売上げや収益が落ち、受け取る毎月の給料も下がるだけだろう。金融緩和政策が欧米では労働者陣営の政策であることもこうした性質が原因だ。 今、民主党を中心とした野党再編の真っ最中だ。私も民主党神奈川県連の代表として少しでも有権者の皆さんに期待していただけるように力を入れている。そこで新党に対して提案だが、昨年、コービンという新たな党首が選ばれた英国労働党が、スティグリッツとピケティをブレーンにすると発表した。新党もこれにならって、御用学者などではなくクルーグマン、スティグリッツなど海外の経済学者を招いてアベノミクスなどものともしない経済財政戦略を作ってはどうだろうか? 新しい野党第一党の党首は、自分自身のプリンシプル、思想を持っていなければならない。霞が関の言いたいことをオウム返しにするような人間では絶対ダメだ。そしてそうした人の考え方に国民の間に共鳴現象が起きてはじめて野党は再生できるのではないかと思う。その最初の一歩となる政策が、「消費税再増税はとめよう!『サラリーマンへの不公平税制』をなくそう!」ということだと私は信じてやまない。

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    日銀は失敗を認めるべき 決断求められる安倍首相

    場機能を破壊するマイナス金利の二本立ての金融政策が、精査されることなく延々と継続される可能性は高い。アベノミクスの結果を直視するアベノミクスの結果を直視する 昨今の安倍政権の立場は、経済問題は日銀に任せておくという、一見日銀を信頼しているように見えて、実は責任をすべて日銀に追わせようとする、逃げの姿勢である。財政出動の余力がなく、面倒な規制緩和への意欲を失っているからだ。そして経済ペースの低迷の原因を、中国経済や原油市場など外部要因に押し付けている。 いま必要なのは、政府が3年間のアベノミクスの結果を真摯に直視し、過ちを認めて経済政策を転換させることである。具体的には、日銀の迷走を止めること、財政政策に知恵を絞ること、そして規制緩和へのエンジンを再開することだ。民間では、金融機関がマイナス金利の時代に見合った新しい融資手法を開発することも必要である。 日銀に関しては、インフレ目標を長期的な目途に戻し、その数値や期限に関する固定的な概念を放棄して、金融政策の自由度を取り戻す必要がある。それを黒田総裁に強く要請出来るのは、アベノミクスの責任者でありかつ日銀総裁を任命した責任者でもある安倍首相以外にいない。日銀のマイナス金利がスタート。黒田総裁の異次元緩和策は三度目の正直となるか 株式市場や為替市場は一時的に動揺するだろうが、現行政策を続けたとしてもいずれ市場は大きな衝撃に見舞われる可能性が高い。それは、アベノミクスが当初から胚胎していた必然の代償でもある。傷は早いうちに治療した方が賢明だ。 また、財政赤字削減が急務の日本に財政政策発動の余力は小さいが、既存国債を超低金利の超長期や永久債などに借換えしたり、GDP連動利子の永久国債発行で成長分野へのファイナンスを支援したりすることは出来るだろう。先進国の財政問題の本質とは、新興国と違って元本のGDP比ではなく、歳出に占める利払い費用の割合であるからだ。民間金融にも必要な逆転の発想 GDP連動利子の永久国債とは、株式に似たいわば成功報酬型の債券であり、民間金融機関の融資にもその方法は応用可能である。足許は厳しい環境にあるが将来性の見込める企業に対し、当初はゼロ金利を適用し、業績向上に応じて配当型の金利を支払ってもらうことを融資条件とすればよい。成長資金供給体制として、必要があれば政府がその元本の一部を保証するような手法も検討し得るだろう。 マイナス金利の世界は、まさに鏡の国の世界であり、民間金融にも逆転の発想が必要になる。こうしたアイデアを現実化するのは容易ではないが、現状批判ばかりでは何も生まれないのも事実であろう。転換期に直面しているのは、アベノミクスだけではない。

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    安倍内閣には「経済が、結果を出す」

    相の金銭授受疑惑の発覚が象徴しています。 安倍内閣の功績としてはTPP妥結は評価したいところですが、アベノミクスが長い目でみれば駄目でした。異次元の金融緩和で円安誘導し、株価があがって、為替で大企業が未曾有の利益をあげた。それで宴となりました。 そこまでは良かったのですが、その擬似好景気によって、ほんとうの課題であった産業構造の転換が遅れる結果になったように感じます。しかもお題目としては切れ味がよくない「一億総活躍」を唱えたのですが、でてきた政策はがっかりするものが多かったのではないでしょうか。2月12日の日経平均株価は終値が1年4カ月ぶりに1万5000円を割り、円高も進んだ=東京都港区 アべノミクス第二弾も、総花で、これといった経済政策の目玉がないままに、中国経済の減速、原油安が引き金となり、株価の下落、さらに円安から円高へと流れが変わりました。アベノミクス効果は足元から揺らいできています。運もツキも尽きたの一言ではないでしょうか。 つい最近、不要な書籍を処分しようとしていたら、高橋洋一氏の「アベノミクスで日本経済大躍進がやってくる」がありました。今からすれば、まるでブラック・ジョークです。 日本の経済停滞は「デフレが原因だ」とう風説がメディアを支配し、経済停滞という原因とデフレという結果を混同した話がまことしやかに広がっていた頃の一冊でしょうか。その頃は、異を唱えると「それはデフレ容認だ」とまるで魔女狩りのような状況になっていました。 高橋氏にかぎらず、リフレ派の人たちは、日本経済大躍進とならかったのは、消費税をあげたからだということのようですが、本当にそうなんでしょうか。俄には信じられないことです。残念ながら、経済に関しては、昨年秋の予感どおり、いやそれよりも思わしくない展開になってきたようです。 安保法制は数の論理で成立しても、経済はそうはいきません。ほんとうの力量が問われてきます。さて起死回生の手を打てるのか、なすすべもなく経済が減速し、内閣が失速するのか、安倍内閣に残されている時間の余裕は少ないのではないかと思います。  安倍内閣は残念ながらもうすぐ失速しそう いずれにしても、安定していることが最大の取り得だった安倍内閣ですが、足元の経済が思わしくなくなれば、自然、やがて支持率も下がってくるでしょう。自民党が掲げた「経済で、結果を出す」どころか安倍内閣の寿命は「経済が、結果をだす」ことになりそうです。 ただ、自民党は小選挙区制で党内にリーダーが育ってくるメカニズムを失い、頼みの野党も、いつまでも過去の時代のパラダイムから抜け出せず、混迷したままで、安倍内閣に代わる政権リーダーが見当たらないために、安倍内閣の黄昏状態が長く続くのかもしれません。それはそれでも、次世代のリーダーなり、新しい改革の芽が生まれ、育ってくる状況ができればいいことです。 ただ、実体経済を変えるのは政治ではなく、民間の知恵や努力です。政治ができるのは、そんな民間の知恵や努力を引き出すためのビジョンを示すことや、日本が世界経済のなかで勝ち残るための戦略を示すことではないでしょうか。 もはや政治や官僚で経済が動く時代ではなく、ビジネスも、政治で左右されるというのはよほどの大企業か、利権ビジネスぐらいなものです。それぞれが、やるべきことをやる、チャレンジするものが報いられるという時代の空気が広がっていくのがいいと感じます。(2016年01月22日「大西 宏のマーケティング・エッセンス」より転載)