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    アメリカをマジギレさせた韓国「GSOMIAファイター」の誤算

    重村智計(東京通信大教授) 日韓軍事情報保護包括協定(GSOMIA)破棄通告の効力をいつでも終了できる前提のもとに停止する-。11月22日夕方、土壇場に韓国大統領府が発表したこの声明の背景には米国の怒りがあった。 米国は米韓同盟崩壊の危機を感じ、最大限の圧力をかけ続けた。期限直前には、上院も協定の重要性を訴え、韓国に破棄再考を求める決議を全会一致で採択するという異例の対応を見せた。 米国との同盟関係を危うくする政権は日本でも韓国でも持たない。その現実にようやく気がついた文在寅(ムン・ジェイン)大統領は、外交でも完敗を喫した。 韓国大統領府の金有根(キム・ユグン)国家安保室第1次長が記者会見場に立ち、声明を発表したのは協定期限切れの約6時間前のことだ。表現には、多くのごまかしと政権の苦悩が散りばめられている。改めて全文を確認してみよう。 「韓日両政府は、昨今の両国間の懸案解決に向け、それぞれ自国が取る措置を同時に発表する。わが政府はいつでも韓日軍事情報包括保護協定の効力を終了できる前提の下、2019年8月23日発表の終了通告の効力を停止させることにし、日本政府はこれに理解を示した。韓日間の輸出管理政策対話が正常に進められる間は、日本側の3品目の輸出規制に対する世界貿易機関(WTO)への提訴手続きを停止させる」 この声明では、日韓両国が「同時発表する」と述べ、あたかも日韓が合意に達したようにごまかしている。だが、日本側は同時に発表したわけではない。 あくまで「日本側が譲歩したから合意した」と演出しようとしているわけである。「GSOMIA破棄通告停止」に「日本政府は理解を示した」と述べ、あたかも日韓の合意があったかのように表現した。 さらに、WTOへの提訴手続きを「停止させる」と言及したことで、明らかにGSOMIAと輸出管理問題を関連付けて、国民に強調しようとしている。権力は、メディアや国民に真実を語りたがらないという「ジャーナリズムの常識」を裏付ける事例である。 ところで、今回の発表で奇妙だったのは、協定に関する記者会見に金第1次長が初めて登場したことだ。GSOMIA破棄を強行したのは金第1次長ではなく、金鉉宗(キム・ヒョンジョン)国家安保室第2次長だったからだ。 金第2次長は上長である国家安保室長や外相、国防相よりも力があり、他の省庁の人事にも介入すると言われた。しかも反日、反米の姿勢が強いとされる。 康京和(カン・ギョンファ)外相や鄭景斗(チョン・ギョンドゥ)国防相の意向を無視できるほどの実力者で、「GSOMIAファイター」とまで呼ばれた。ところが、その金第2次長は会見に姿を見せず、逃げてしまった。2019年8月23日、GSOMIAの破棄に関して会見する韓国大統領府の金鉉宗・国家安保室第2次長(共同) 実は、金第2次長は22日まで米ワシントンを訪問していた。そのうえで、大統領府で行われる国家安全保障会議(NSC)会合に間に合うように帰国していたのである。 彼を交えたNSC会議で、ワシントンの怒りを報告し「破棄通告停止」を決めたのだから、彼の威信は崩れた。8月のGSOMIA破棄発表の際、彼は「米国の理解を得た」と述べていたが、真っ赤な嘘であった事実が明らかにされたのである。韓国人の血がのぼる「言葉」 米国のポンペオ国務長官は、金第2次長の「米国も理解している」と発言した直後に深い「失望」を表明している。disappointed(失望)は日本語と違い、絶交や人格否定の意味を含む強く激しい言葉だ。 また、21日に米上院で超党派議員が提出したGSOMIAの継続を求める決議を全会一致で採択したのも、協定の破棄回避を決定的にした。政府と議会が一致して韓国を批判したら、誰も韓国を擁護できない。 その恐ろしさに韓国はようやく気がついたわけである。政府と議会が怒る理由は、協定破棄の背後に「超大国中国への韓国の期待と傾斜」「在韓米軍撤退要求で米韓同盟崩壊」を目指す韓国左派の意向があると警戒した。 直前の世論調査で、韓国国民の過半数が協定破棄に賛成した。多くの韓国人は「日本」「軍事」という言葉を目にすると、瞬時に頭に血がのぼる。文大統領はこの感情を利用して、日韓関係の破壊にいそしみ、反米政策を採り続けたのだ。 GSOMIA締結を強く望んでいたのは米国だった。米情報機関によると、米国が入手した機密情報が韓国経由で北朝鮮に流される事実をつかみ、頭を痛めていた。 このため、米国は日本に機密情報の70%以上を教えても、韓国には5割程度しか伝えない、と言われていた。それでも、日本に与えた情報が韓国経由で北朝鮮に伝わることを警戒し、日韓にGSOMIA締結を求めた。 韓国で「左翼」という言葉は新聞報道でも使われず、「革新勢力」「進歩勢力」と呼ばれる。韓国の「左翼」は北朝鮮を支持し同調する人たちの意味で、文在寅政権は明らかに左翼勢力を糾合した政権である。韓国のMBCテレビの番組に生出演し、参加者の質問を受ける文在寅大統領=2019年11月19日、ソウル(聯合=共同) 彼らの多くは、朴正煕(パク・チョンヒ)大統領などの保守政権下で逮捕や拘束され、不利益を受けた人たちだ。1965年に結ばれた日韓基本条約を不平等条約や国際法違反だとして、見直しを求める方針で一致している。 だから、慰安婦問題や徴用工問題で、日本政府に補償や賠償させることで日韓基本条約を骨抜きにし、再交渉につなげる戦略を展開した。その道具として、慰安婦問題と徴用工問題に関する判決が利用された。その先に待つのは米韓同盟の解消だ、と米国は警戒したのである。韓国左派の「こだわり」 文大統領が、GSOMIA破棄を決断した裏には、中国への恐怖と尊敬がある。韓国の歴代政府は、中国の脅威を決して口にすることはない。中国の反発を恐れると同時に、中国がやがて超大国になると展望しているからだ。 「将来の超大国」に対応するためには、日本と米国との関係を徐々に弱体化させる必要がある。特に、日本がアジアの二流国に没落することを期待している。 また、文在寅政権を支える左派勢力が強く意識しているのが、在韓米軍の撤退だ。 韓国の左派勢力は、国家の正統性が北朝鮮にあると考え、「反体制運動」を展開した人々の集まりだ。彼らの考えからすれば、他国の軍隊が駐留する韓国は「独立国家」ではないことになる。一方、北朝鮮は外国軍隊が駐留しないため、真の「独立国家」に位置付けられる。 だから、韓国が本当の独立国家としての正統性を確立するには、在韓米軍の撤退が不可欠だと考えている。韓国政治で絶対に譲れない儒教的価値観が正統性だからだ。 しかも、「北朝鮮が韓国に戦争を仕掛けることはなく、脅威にはならない」と考えている。この安全保障に対する理解が、日米とは全く異なるのだ。 このように、GSOMIAの破棄問題には、文在寅政権と韓国左派が考える日韓基本条約の再交渉と北朝鮮支援、そして対中政策という「三つの期待」が隠されていた。韓国・平沢の米軍基地を訪問した康京和外相(中央)。左はエイブラムス在韓米軍司令官=2019年9月20日(韓国外務省提供・共同) 日本は、「日韓友好」の美名に惑わされずに、韓国に対して冷徹な現実認識で臨む必要があることには変わりない。ただ、外交においては、「文政権と国民を分離する」戦略をとって、韓国国民の反発を買う言動や政策を避けなければならない。 だからこそ今回、韓国から破棄通告の停止を引き出したのは、現実認識と戦略に立った日本と、米国との協力による勝利の証しだといえる。こうして、文外交は全面敗北の道をたどったのである。

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    GSOMIA破棄で示したかった韓国・文政権の野望

    界大戦後、朝鮮半島は南北に分断され、北を支援するランドパワー・中国とロシア、南を支援するシーパワー・アメリカなど西側諸国の間で戦争が起こり、朝鮮半島は日本の支配が終わった後、再び戦火に包まれたのである。 このように朝鮮半島の歴史は勢力圏を朝鮮半島全域に拡大しようとする大陸のランドパワーと、それを阻止しようとする太平洋のシーパワーの衝突の歴史であり、その構図は現代でも基本的には変わっていない。 こうした歴史の事実を振り返れば、地政学上、韓国が発展するには二つの道しかないことがわかる。 それは、太平洋のシーパワーと連帯して大陸のランドパワーに対峙するか、もしくは大陸のランドパワーに寄り添い、太平洋のシーパワーと対峙するかである。実際に現代の韓国がこれまで進んできた道はシーパワーと連帯する道であり、米韓同盟はまさにそのシンボルである。韓国はこれまで米国の核の傘のもと安全を確保し、日本の莫大な経済支援を受けながら経済発展を遂げてきたのであり、日米韓のシーパワーの連帯こそが韓国の発展の源泉であることを忘れてはならない。 ところが、文大統領の国家観は韓国発展の基盤となってきたシーパワーの連帯を否定し、大陸のランドパワーに寄り添おうとしているようにさえ見える。李氏朝鮮時代への回帰である。 地政学を海軍戦略へと発展させた著名な米国の戦略家であり、海軍軍人だったアルフレッド・セイヤー・マハンは100年以上前、次のように説いた。「いかなる国家もランドパワーであるならシーパワーにはなれず、シーパワーであるならランドパワーにはなれない」。このマハンの指摘が正しいことは次のようにすでに近代の歴史が証明している。▼ランドパワーの帝政ロシアはシーパワーになろうと南下政策を進め、日本に撃退された。それを契機に国家の威信が傷つき、革命が起きた。▼ランドパワー・ドイツは二つの世界大戦を通して海岸線を拡張してシーパワーへの転換を図ろうとしたが失敗し、結局、破滅した。▼冷戦時代のランドパワー・旧ソビエトは海洋支配を試みたが、シーパワーの西側諸国との冷戦に敗れ、結局、国家が崩壊した。▼シーパワー・日本は第二次世界大戦前、大陸へ進出し、ランドパワーになろうとしたが失敗し、破滅した。 国家は本来備えている地理的要因からどのような国家になれるかは自ずから限定されており、輸送や通信の技術がいくら進歩しても、その特性は変えられない。その意味で、文政権のめざす新しい国家戦略が最終的にどのような結末を迎えるのか、すでに過去の歴史が明らかにしているところである。 この文政権の地政学的チャレンジに呼応して、大陸のランドパワーは一斉に反応している。日本の輸出規制をめぐって日本と韓国の対立が先鋭化すると、ロシアと中国は7月23日、日本海の上空で共同の軍事演習を始め、戦略爆撃機や早期警戒機を日本の竹島の上空に意図的に進入させた。そこは韓国が防空識別圏を設定している空域であり、日本と韓国の対立をあおり、日米韓の連帯を牽制しようという意図が明確にうかがえる。北朝鮮が5月9日に発射した短距離弾道ミサイル(朝鮮中央通信=共同) また、韓国が8月22日、日本とのGSOMIA破棄を決定すると、北朝鮮は24日、国連安保理決議に違反する短距離弾道ミサイルを発射し、ロシアも同日、北極圏のバレンツ海から最新型のSLBM(潜水艦発射弾道ミサイル)の発射実験を行った。これら一連の出来事が韓国のGSOMIA破棄決定の前後に集中して起きていることは、明らかに大陸のランドパワーが日米韓のシーパワーの連帯に揺さぶりをかけようとして行ったものである。 このように日本の輸出管理の強化に対して、文政権がGSOMIAを破棄し、歴史問題を絡めて日本非難を繰り返していることは、背景に「反日」を利用して韓国を新しい国家に変貌させようとする文大統領の野望があることを強く想起させる。しかし、それは、これまで緊張しつつも安定を維持してきた東アジアに地政学的な大変動をもたらす極めて危険な実験であると言わざるをえない。

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    ブルームバーグが呼び覚ますヒラリーの「黒い噂」

    吉川圭一(グローバル・イッシューズ総合研究所代表) 前ニューヨーク市長のブルームバーグ氏が、来年の民主党大統領候補選びに名乗りを上げたことを受け、ワシントンでは困惑が広がっている。それは彼の出馬に刺激されて、先の大統領選挙で出馬したヒラリー・クリントン氏も再び立候補する可能性が出てきたからだ。そしてこれは、全世界にとって悪夢の始まりといっても過言ではないだろう。 まず、ブルームバーグ氏が出馬に名乗りを上げた理由は、以下のような背景があったと思われる。 ①民主党の候補者選びが混戦している。 ②2020年はスーパー・チューズデー(予備選挙及び党員集会)が前倒しになり、特に500人の代議員を持つ大票田のカリフォルニアの予備選挙が3月初旬に行われる。 ③党則の改正により、予備選挙の結果に左右されない特別代議員は、予備選挙で過半数の代議員を取った候補者がいなかった場合にのみ、党大会で投票できることとなった。 こうした背景から、ブルームバーグ氏は、スーパー・チューズデーで大勝利して多くの代議員を得た上で、夏の党大会で特別代議員を説得して過半数を確保し、大統領候補になる戦略のようだ。そのため初戦で勢いを付けるために重要と言われるアイオワ、ニューハンプシャーなどでは、党員集会や予備選挙を戦わない方針だ。これらの州は最初に予備選挙などが行われるため候補者の勢いが重視されるが、人口の少ない地方の州なので代議員数は多くはないからだ。 ただ、このブルームバーク氏の戦略には、いくつもの問題がある。第一に、カリフォルニアなどでは黒人も多く、オバマ前大統領の後継者と思われているバイデン前副大統領が有利だ。ブルームバーグ氏はニューヨーク市長時代に、日本の警察官職務執行法と似た条例を制定し、黒人差別的と批判された。他にも最低賃金の引き上げなどにも反対していたことなど、黒人票は期待できない。 第二に、2008年に弁護士で元ニューヨーク市長のジュリアーニ氏(共和党)が、アイオワやニューハンプシャーなどを無視し、大票田のフロリダに賭ける戦略を取り、失敗している。この年、彼は共和党内で有力視されていた。 第三に、90年代以降、選挙の年の前年秋になって立候補を表明した人は、党内で有力だったにもかかわらず、誰も大統領候補になれなかった。  これら以外にも問題がある。著名な世論調査会社「Five Thirty Eight」(ファイブサーティエイト)が2019年初めに作成したグラフがあるが、縦軸が(ネット)好感度を、横軸が民主党的な価値観を表しており、これに2020年の民主党大統領選挙に立候補しそうな人をあてはめてみると、他の立候補予定者が45度線に近い場所にいるのに対し、ブルームバーグ氏は右に外れた場所にいる。 また、ハフィントンポストが10月初旬に行った世論調査では、民主党支持者の83%が、現状の候補者に満足している。そのためか、FOXが11月3日に発表した世論調査では、ブルームバーグ氏が立候補した場合、必ず投票すると答えた人は6%しかいなかった。「考慮する」を入れても38%にとどまった。前ニューヨーク市長のブルームバーグ氏(共同) ただ、今年1月段階に行われた複数の世論調査では、ブルームバーグ氏の支持率は平均して3%しかなかった。つまり、直近では倍になっており、その理由は主要候補の混戦にあるとみられる。ブルームバーグ氏は、ここに勝機を見いだしたのだろう。また、別の著名な世論調査機関「Real Clear Politics」(リアルクリアポリティクス)の調査では、ウクライナ疑惑の影響で40%以上あったバイデン氏の支持率が25%まで低下し、ウオーレン上院議員に一瞬でも抜かれたのも大きいと言われる。複雑化する政治ニーズ 余談だが、候補者選びのディベートを繰り返す度に、バイデン氏の「物忘れ」の酷さが明確になり、7月には支持率が25%にまで落ちていた(その後、一時30%台まで回復し、ウクライナ疑惑が小康状態になった後も30%台に戻ってはいる)。この7月の時点でトランプ氏がバイデン氏に脅威を感じていたからといって、リスクの高いことをするとは思えない。大統領として当然のことだが、自国の有力政治家の裏マネー疑惑解明が目的だったと考えてよいだろう。 いずれにしてもブルームバーグ氏は、ウオーレン氏が主張する富裕層増税は、米国の経済活力を減退させるとして反対してきた。同様に経済活力向上のため、銀行業務への規制にも反対している。また、ユダヤ系であるため中東情勢に関しては共和党以上にタカ派だ。この辺がブルームバーグ氏を、民主党の中では「右」に位置付けている理由だろう。 ただ、彼は銃規制や地球温暖化対策に関しては、非常な積極論者である。しかし、銃規制や温暖化対策に積極的な民主党の若手のホープが2人も候補者選びから脱落している。それを考えてもブルームバーグ氏が大統領候補になるのは容易ではない。ちなみにブルームバーグ、バイデン、ウオーレンそしてトランプ各氏は、70歳代半ばで、高齢だ。彼ら自身が米国での団塊世代であり、その世代の支持が中心と言われている。民主党の若手のホープたちは、いま20代くらいのミレニアム世代の支持が多い。 だが、米国でも白人は少子化が進んでおり、移民によって若年人口が増えているように見えるに過ぎない。そのため、ミレニアム世代の政治的ニーズは非常に複雑で、それを二大政党が吸収できなくなっている。ミレニアム世代の棄権率は、非常に高い。 実際、若手のホープで最も支持の高い候補者でも支持率は10%未満だ。だが、逆に見ると、従来の二大政党とは異なる政策の組合せを行う候補者が現れれば、その人物が非常に有利になる可能性もある。ただ、トランプ氏については、選挙の前年に作成された好感度と党の政策との一致度を表したグラフで、45度線から外れていたにもかかわらず、当選した。彼の支持者は中高年の貧しい白人が多かったとされているが、若者同様に政治的ニーズが複雑化していたとも考えられる。 今の米国は税制、規制、銃問題、環境問題などにおいて、今までと同じ政策パッケージでは、国民の複雑化したニーズに応えられなくなっている。それを理解した上で、2020年の大統領選挙だけではなく、これからの米国の政治全般を予測し、そして日米関係に関する戦略を練ることが、今後の日本にとって重要になる。 そのためには、ファイブサーティエイトのグラフのような分析の中で、45度線から外れた候補者でも注目し、その人物の当選に備え、あるいは主張している政策パッケージを分析することが重要だ。このような考え方を2016年当時からしていれば、多くの日本の有力な政府機関や大企業などが、トランプ氏当選を予測し、それに備えた政策を準備しておくこともできたかもしれない。 ちなみに私は2016年の大統領選挙の直後に、ニューヨークとワシントンを取材して回ったが、その際、日本の有力な政府機関や大企業の関係者から「トランプ氏が当選すると思っていなかったので、彼とパイプがなくて困っている」と相談されたことが何度もあった。 こうした米国民の政治的ニーズの複雑化にブルームバーグ氏も活路を見いだしたのだろう。だが、彼にとって強大なライバルになり得る人物がいる。その人物こそ、冒頭で触れたヒラリー氏だ。FOXの世論調査では、ヒラリー氏が立候補した場合、確実に投票する人と回答したのは27%で、「考慮する」まで含めると65%を超え、ブルームバーグ氏を大きく引き離した。政治集会で演説するヒラリー・クリントン氏=2016年11月、オハイオ州クリーブランド ヒラリー氏であれば今からでも巨額の資金を集めることが可能だ。2016年の組織を復活させれば、組織力についても問題はない。彼女は米国の公共放送PBSの番組で、意欲満々とも受け取れる発言をしている。ブルームバーグ氏と同様のことを、彼女も考えたのかもしれない。奇矯な言動が目立つヒラリー その一方で、彼女はニューヨーク・タイムズなどに対しては、「最終的に州の取り方で勝てる候補を民主党が選ぶことの方が重要だ」とも述べている。先の大統領選では、全米でトランプ氏に300万票上回ったにもかかわらず、州の取り方で負けた経験を踏まえた発言だろう。あのときも3つの激戦州のトータル8万票差で、ヒラリー氏は負けている。 現状を見てみると、11月4日に発表されたニューヨーク・タイムズの調査結果では、激戦州と考えられる6つの州のうち、4つでバイデン氏の支持率がトランプ氏の支持率を上回っている。だが、サンダース氏やウオーレン氏の場合、逆に4つの州でトランプ氏に引き離されている。 とはいえ、いずれも2016年の3つの激戦州で、トランプ氏が直前までヒラリー氏に負けていた支持率差程度である。ゆえに、トランプ氏がバイデン氏を倒す可能性も十分ある。これを踏まえてトランプ陣営は、既に各州の住民の政治的ニーズを調査し、それをコンピューターで分析した精密な選挙戦略を立て始めている。 確かにFOXの調査でも、トランプ氏の支持率は、例によって40%台で低迷していて、バイデン、サンダース、ウオーレン各氏の誰と戦っても負けが予想されている。だが、それは現段階での全国レベルでの数字である。先に述べた州の取り方の問題だけではない。バイデン氏は前述のように重度の「物忘れ」がある。サンダース氏も何度か心臓発作を起こしている。ウオーレン氏は医療改革などで具体的な財源を示していない。3人が有利な激戦州は、それぞれ違う。そう考えると6つの激戦州で勝てそうな状況になれば、ブルームバーグ氏にも、そしてヒラリー氏にも勝機がないとは言えない。 前述したが、民主党の候補者選びが混乱している理由は、誰も予備選で過半数を取れなければ、党大会で特別代議員が投票する制度改革のおかげで、誰もが絶対的な支持を受けられなくても、数の勢いさえ見せつければ党大会で逆転できると考えているからだ。そのためか比較的無名の若い女性議員も何人か立候補している。その一人でヒラリー氏と親しかった女性議員に対して、ヒラリー氏が「あなたは民主党を分裂させてトランプを再選させようとしているロシアのスパイだ」と急に言い出し、物議を醸したことがある。 このように、ヒラリー氏はトランプ氏との大統領選挙に敗れて以来、奇矯な言動が多く、それが日に日に悪化している。それだけではない。 多くの有力者に少女の性接待を行うことで富豪になったと言われるエプスタインという人物が、性接待に関する容疑で連邦拘置所に拘置中、自殺する事件が8月に起きた。エプスタイン氏の顧客には、ヒラリー氏の夫であるビル・クリントン元大統領もいた疑惑があり、それをトランプ支持の有名芸能人がツイッターで指摘。これをトランプ氏がリツイートしたことがあったが、そのとき、ヒラリー氏は「あと数日でエプスタインは自殺する」と事前に言っていたというツイートなどが、米国中で何百万も飛び交ったという。安倍晋三首相(右)との会談を前に握手するビル・クリントン元米大統領 =2015年3月、首相公邸(代表撮影) また、ヒラリー氏の電子メール問題を追及し、もう少しで動かぬ証拠をつかみかけていたジャーナリストが、曖昧な内容の遺書を残して自殺したり、「これ以上、不正に手を貸すことは良心が許さない」と言っていた、ヒラリー氏の選挙対策本部(正確には民主党本部)のサーバー管理者が何者かに背後から射殺されたりしている。 ロシア疑惑に関しても、若手のホープたちは解明に積極的で、ベテラン民主党議員が消極的という不思議な現象がある。ロシア疑惑でもウクライナ疑惑でも、ヒラリー氏関係のロビースト事務所などが莫大なマネーを動かしていた疑惑の方が重要で、それに民主党のベテラン議員も深く関係しており、それを隠蔽するためにトランプ氏に罪を被せようとしているとの見方がある。また、それを明らかにすることで、若手のホープたちは自らの支持率浮上を狙っているのかもしれない。 一方、若手のホープではないが、オバマ前大統領が自ら本命の後継者と考えているとされるパトリック元マサチューセッツ州知事も、ブルームバーグ氏の次に出馬を表明。彼は黒人だが、金融ビジネスで成功しており、ユダヤ系で大富豪のブルームバーグ氏とは似た部分もある。「ヒラリー大統領」は悪夢 そもそも、オバマ前大統領やヒラリー氏が医療改革にこだわったのは、医療保険会社を通じて金融市場にマネーを回し、ウオール街を儲けさせるためだったという説もある。いずれにしてもビル・クリントン時代の金融規制緩和などが、世界的な格差拡大の元凶であることは間違いない。 これと戦って、額に汗してモノを作ったり売ったりする人々の雇用を守ろうとしているのがトランプ氏であり、ヒラリー氏やパトリック氏、そしてブルームバーグ氏を含む金融ビジネスに近い民主党の候補者らこそが、米国と世界を格差拡大で混乱させようとしていると理解することも可能だろう。このように考えると、金融界や医療保険問題に近しい民主党の候補者が米国大統領になるのは、極めて望ましくない。特にヒラリー氏の奇矯な言動を踏まえれば彼女が米大統領になることは、悪夢であることは想像がつくだろう。 また、ヒラリーもユダヤ系の多い金融ビジネスとの関係からか、中東情勢に関してはトランプ氏よりタカ派である。むやみに中東戦争を起こされては、石油調達の面などを考慮すれば、日本への影響は甚大だ。だが、彼女の周囲には金融ビジネスで世界を動かす勢力がいる。そのマネーの力は侮れない。 2016年の大統領選挙でヒラリー氏はいくつかの激戦州で、1%未満の差でトランプ氏に敗れたため、大統領になれなかった。実は、このような事態には、同年夏時点で複数の世論調査機関が予測していた。 だが、なぜか多くの米国の主流メディアや学者らが、「トランプが勝つはずがない」などと軽々しく断言していた。その答えは、「エプスタイン氏の死」やヒラリー氏の関係者の自殺や他殺が教えてくれたように思う。ヒラリー氏がトランプ氏に敗れるという予測をすれば、予測実現効果が起きかねない。その結果、エプスタイン氏らのようになりたいと思う人が、誰もいなかったのであろう。ホワイトハウスで記者団の取材に応じるトランプ大統領=2019年9月(UPI=共同) このように、ヒラリー氏、そして民主党の金融界に近い政治家を巡っては、多くの恐怖がある。バイデン氏の息子もウクライナ問題だけではなく、中国マネーを使って米国の精密機械の会社を中国の兵器会社に売却している。多くの国務省の関係者がウクライナ問題でトランプ氏に不利な証言をしているが、共和党の反対尋問を受けると曖昧なことしか言えず、何かを恐れているようにも思える。 これが今の米国の実相である。それをよく理解して日本は米国と向き合うべきだろう。【イベントのお知らせ】当サイト執筆陣の吉川圭一氏が代表を務めるグローバル・イッシューズ総合研究所と一般財団法人尾崎行雄記念財団の共催(協力/産経デジタル「iRONNA」、近代消防社)によるパネルディスカッション「阪神大震災と地下鉄サリン事件から25年-あの時、何が起こったか?あれから何が変わったか?」が、令和2年1月21日(火)午後6時~8時に、憲政記念館(東京都千代田区永田町)で開催されます。パネラーは自衛隊元高官の松島悠佐氏と濵田昌彦氏で、日本の危機管理の課題などについて問題提起します。参加費は2千円(当日受付にて)。参加希望者は、氏名・所属・電話番号を「info[a]ozakiyukio.jp」へ電子メールでお送り下さい([a]をアットマークに置き換えてください)。メールで申込み頂いた時点で受付完了となり、財団などから確認の連絡は致しません。急遽中止など緊急の場合のみ連絡致します。

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    「GSOMIA狂騒曲」日韓が口をつぐむアメリカの本音

    松竹伸幸(ジャーナリスト、編集者) 11月23日に期限を迎える日韓の軍事情報包括保護協定(GSOMIA)をめぐって、メディアの事前報道が過熱した。率直に言わせてもらえば、なぜ大騒ぎをするのか、全く理解できないほどの過熱ぶりであった。それだけのエネルギーがあるのなら、もっと大事なことを論じてほしかったというのが、私の率直な思いである。 北朝鮮が度重なるミサイル実験を通じ、ミサイル技術を向上させているのは事実である。軍事面において、日本と韓国が関連情報を直接やり取りできるGSOMIAによって、ミサイルに関する情報を素早く正確に共有できることも確かであろう。だから、協定延長に意味がないとまでは言わない。 さらに言えば、ひたすら非難の応酬になっている現在の日韓関係を見れば、何か一つでも両国が合意に達することがあれば、少しはホッとできるという要素があるかもしれない。その合意に、長期的な視点では問題があるとしても、一息ついている間に、本筋の徴用工問題などで対話をする雰囲気が醸成されることを期待する向きもあるかもしれない。 しかし、軍事的な正解が、必ずしも政治的にも正解だとは限らない。また、GSOMIAがこれほど問題になる背景にあるのは、そもそも日米韓関係の実体が政治面でゆがんでいることにある。 その実体面での関係を正常化させる努力はしないまま、GSOMIAだけを何とかしようとしても、手術が求められる患部を放置したまま、湿布で痛みを緩和して済ませるようなものであり、患者の容体が深刻化するだけだ。議論が過熱する背景にある日米韓関係の歪みこそ正されるべきではないか。 韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領の発言を見ていると、果たしてどういう日米韓関係を望んでいるのか、さっぱり分からない。ご自分も分かっていないのではないか、とさえ感じる。 そもそも、GSOMIAを必要だと思っているのかどうか。日本による輸出管理の強化措置を踏まえ破棄を決定したことは、それが冷静な判断ではなく激情に駆られたものとはいえ、絶対に必要だというほどの思い入れはないのだろう。 しかも、韓国国民の多数がGSOMIAの破棄を支持しており、市民運動に依拠して誕生し、政権運営をしてきた文大統領も、本音はそこにあるのかもしれない。ソウルの韓国国防省前でGSOMIA破棄を訴える市民団体メンバーら=2019年11月15日(聯合=共同) 一方で、韓国側から聞こえてくるのは、日本が輸出管理の強化を撤回すれば、GSOMIAを失効させることはしないということであった。ということは、GSOMIAが、別の何かと引き替えできる程度の軽い気持ちから破棄が決められたものだとしても、本当は存在していた方がいいというのが、文大統領の本音なのだろうか。 文大統領が目指しているのは、まずは北朝鮮の非核化を実現し、さらには南北統一を実現することだ。しかも、それを平和的な話し合いで成し遂げようとしているはずだ。文大統領に残った「恨み」 それならば、日米韓の軍事関係の強化から距離を置き、その軍事的結束を緩めることをテコにして、北朝鮮に働きかけるという選択肢があったはずなのだ。 GSOMIAは北朝鮮を直接の視野に置いた協定なのだから、破棄することは対北朝鮮外交の打開のために生かせる格好の手段だったのに、文大統領の頭にはなかった。あったのは「日本が韓国を信頼できない国だとして輸出管理の強化措置をとった」という恨みだけだったように思う。 文大統領の政治姿勢はいびつだ。盧武鉉(ノ・ムヒョン)元大統領以来の左派政権を誕生させたのは、北朝鮮を敵と位置づけ、それに異を唱える勢力、思想を徹底弾圧する軍事独裁政権を打倒した市民の力であった。だから、慰安婦問題や徴用工問題に見られるように、軍事独裁政権下では声に出せなかった日本による植民地支配時代のことを、今あれほど糾弾するのである。 その長期間にわたる軍事独裁を支えたのは、他でもない米国であるし、日本も経済では支えた面があった。そして、民主化運動を誕生させた最大の動機は、多大な犠牲を生んだ80年の光州事件における軍事弾圧を在韓米軍司令官が許可したことにあった。だから現在の韓国の市民運動家たちは「米国は韓国国民の命を大切にしない」とみなしている。 ところが、文大統領はそのような市民の声は大事にしていない。「市民主導政治」は、日本に対しては発揮できても、米国が支配する軍事分野には及んでいないのだ。かえって軍事同盟を絶対化する古い政治に縛られている。 文大統領が市民主導政治を貫くというのであれば、「GSOMIAをどうすべきか」といった細かい問題にこだわって、日本だけを批判の相手にしていてはいけない。客観的には、戦後ずっと続いてきた日米韓の「軍事一体化」そのものを解消するかどうかという、根幹の問題に手をつけるべきなのだ。そうでなければ、文大統領は早晩市民から見放され、引きずり下ろされることになるだろう。 日本もまた、岐路に立つ日米韓関係を正確に把握していないようだ。結果として、適切に対応しているようにも見えない。 日本は、北朝鮮のミサイル対応を理由に、GSOMIAを維持したいとの考えを韓国に何回も伝えている。だが、文大統領は「安全保障面で信用できないとして輸出管理の優遇措置対象から韓国を外した日本と、軍事情報を共有するのは難しい」と反論してきた。2019年11月15日、ソウルの大統領府でエスパー米国防長官(左から2人目)と握手する文在寅大統領(韓国大統領府提供=共同) これに対する日本の反論は弱々しい。「輸出管理と安全保障は別問題」と反論しているというが、韓国を優遇措置の対象から除外するにあたって、日本政府は徴用工問題への報復措置であることを隠すため、「韓国の対応に、安全保障面で信用できない事態が生まれたからだ」と繰り返し説明した。今になって、別問題だと言っても支離滅裂である。 日韓関係は「同盟」とは呼ばれない。しかし、戦後の日米韓は、北朝鮮をはじめとするアジアの社会主義を標的にした事実上の同盟関係を結んできたと言っても間違いはないだろう。 日本は、いわば準同盟の相手に公然と「軍事面で信用できない」と表明したのである。今になって、日本政府はミサイル問題での日韓連携が必要だと言うが、その連携を崩してきたのが日本なのだ。日本の「脅威」が消えた? しかも、日本がそういう態度をとれたのは、実は本音では、以前ほど北朝鮮を「脅威」と見ていないからではないのか。昨年末、韓国軍によるレーダー照射問題が焦点となった際、韓国が事実関係を認めないことに怒り、問題を公然化したのも日本側だった。 脅威が目の前にあると本気で信じているならば、たとえ準同盟国の言動に問題を感じていても、その脅威の前で暴露するようなことはしない。戦後の日韓はそのような関係だった。安倍政権は、そのようなことはもはや不要だと判断したのである。 つまり、韓国だけでなく日本を見ても、北朝鮮を脅威とした日米韓の結束は転機を迎えているということだ。韓国を軍事面で信用しないと公言する日本政府の「勇み足」も、その実態の反映なのだ。それならば、実体面での変化を素直に受け入れ、変化に対応した新しい外交を目指すべきではないか。 日本はこれまで、国連による北朝鮮人権非難決議の共同提出国に加わっていたが、今回は外れた。「北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長と無条件で対話したい」という、安倍晋三首相の言明を何とか実現するテコにしたいのであろう。 実は、日本政府も変化に対応した新しい外交を模索しているのだ。ただし、この程度ではインパクトは小さい。北朝鮮からの反応もないようだ。 ならばいっそのこと、GSOMIAの失効をバネにすることで、北朝鮮との関係を再構築すべきではないか。既に述べたように、軍事的正解が必ずしも政治的正解というわけではない。 GSOMIAを延長して、北朝鮮のミサイル情報を瞬時にやり取りすることは、ミサイルからの安全確保上、米国を経由するよりも即時性という点で意味があるだろう。けれども、米国経由でもやり取りできる、つまり軍事面での利益がなくなるわけではないのだから、拉致問題をどう動かすかという点に、知恵と力を使うべきだと思う。 具体的に言おう。日本と韓国は準同盟関係にあるといっても、米韓合同演習に加わっているわけではない。 そういうオモテに見える現実を上手に利用して、「日本は自衛の場合を除き、北朝鮮に対する軍事行動をとるための態勢は一切とらない」という宣言ぐらいしてもいいのではないか。ただ、膠着(こうちゃく)した拉致問題を動かす上で、宣言程度では足らないことを忘れてはならない。2回目の会談後、トランプ米大統領と握手する安倍首相=2019年8月、フランス南西部ビアリッツ(共同) それにしても、日米韓の関係をこれほどゆがませたのは、最近の米国の「迷走」にある。米国は3国関係をどうしたいのか、はっきりさせる必要がある。 GSOMIAの失効期日を前に、エスパー国防長官をはじめ、米高官が何人も韓国入りして説得に当たった様子は壮観とも言えた。韓国を説得できる立場にない日本としては「米国効果」を期待していたであろう。しかし、米国の説得には何の効果もなかったどころか、かえって韓国の自主独立の気概を駆り立てたように見えた。「脳死」する日米韓 それは当然である。この問題を説得するのに、米国以上に不似合いな国はないからだ。 エスパー長官は「GSOMIAが失効すると、北朝鮮や中国に間違ったメッセージを与える」と強調したそうだ。けれども、それが本当に間違っているのであれば、トランプ大統領が発するメッセージは間違っていないとでも言うのか。 冒頭で述べたように、北朝鮮では、国連安保理決議に違反する弾道ミサイルの発射実験が行われている。トランプ大統領は、日本や韓国が当事者となる短距離ミサイルの場合「問題ない」と繰り返し表明している。 GSOMIAで焦点となるのは、どうやってミサイル情報を素早く交換するかだ。だが、トランプ大統領はミサイルの発射自体に問題ないと「お墨付き」を与えているのである。 問題のないミサイルであれば、何のために情報交換がそれほどまでに必要なのか。大統領を説得できない国防長官が、米国の権威をかさに着て、他国を強引に説き伏せるなどみっともないとしか言いようがない。 最近、フランスのマクロン大統領が、北大西洋条約機構(NATO)の現状を「脳死」と表現したことが話題になった。対「イスラム国」(IS)作戦で重要な貢献をした少数民族クルド人でさえ平気で見捨てるトランプ大統領なのだから、「自分の国だけは米国が助けてくれる」とNATO加盟国も思えなくなっているのも無理もないだろう。 実は、日米韓の軍事関係でも同じような事態が進行している。NATOと異なり、心理面での米国依存から抜けきれない日本と韓国だから、いまだに表面化していないだけだ。 今、米国が日本と韓国に対し、米軍駐留経費の負担を、それぞれ現行の4倍、5倍にせよと提案していることが報じられている。一方で、日韓を目がけた北朝鮮のミサイルは問題にしていない。 この現実を目の当たりにして、米国は自国のもうけになるなら駐留するが、もうからない他国防衛には本気ではないと、誰だって本音では思っているはずだ。日韓の政府高官も心の奥で思っていても、何十年もの習慣に縛られて口にできないだけなのだ。2019年7月25日、北朝鮮が発射した「新型戦術誘導兵器」(朝鮮中央通信=共同) だから、どこからどう見ても、今問われているのは「GSOMIAをどうするか」という枝葉末節の問題ではない。「日米韓の関係を今後どうしていくのか」という本質的なことなのだ。 議論すべきは根幹の問題である。より明確に言えば、頼りにならない米国をあてにせず、どうやって日本の防衛戦略を構築していくのか、ということだ。問題点をあぶり出すことができただけ、「GSOMIA狂騒曲」は無意味ではなかったといえるのではないか。

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    米国が「世界の警察」をやめる前に日本は独り立ちできるか

    吉川圭一(グローバル・イッシューズ総合研究所代表) シリア北部(トルコとの国境地帯)からの米軍撤収を決めたトランプ大統領に批判が集まっている。米下院は10月16日、反対決議案を共和党からも多くの賛成者が出て圧倒的賛成多数で可決した。以前にもシリアからの撤収に関しては上院の3分の2の多数で反対決議が通ったことがある。ウクライナ疑惑で上院の3分の2の多数が必要とされる弾劾の危機に晒(さら)されているトランプ氏が、なぜ急にシリア北部からの撤収を言い出したのか?  その背景にはワシントン内部での「内戦」状態がある。トランプ氏としては、それを突破し、当初からの公約である「世界に広げ過ぎた米国の軍事力をできるだけ縮小する」ことを実現したいのではないか? そうなれば日米安保などの関係で、日本にも大きな影響が出てくる。この問題に関して考えてみたい。 いまワシントン、特に共和党内部では、ウクライナ問題とシリア問題を巡って、分裂があるようだ。例えばウクライナ問題ではトランプ氏擁護派の議員が、シリア問題ではトランプ氏を批判したりしている。ところが、これが彼らや共和党そしてトランプ氏に有利にも作用している。 このような議員は、トランプ氏と自分は一体ではないと主張して、次の選挙を有利に戦える。共和党を支持する田舎の選挙民にとっては、シリア問題にあまり関心がない。シリア北部にはキリスト教徒も多いため、キリスト教保守派の反発はあるものの、これからの最高裁判事指名などを考えると、ウクライナ問題でトランプ氏が弾劾されたりしたら困る。 このように共和党に有利な状況もある。しかし10月8日に発表されたワシントン・ポストの世論調査によれば、共和党支持者の20%がトランプ弾劾を支持しているという。さらに保守系のFOXが10月9日に発表した世論調査によれば、米国民の51%が、トランプ弾劾を支持しているという。この数字は、ワシントン、特に共和党を震撼(しんかん)させた。 しかし両調査でも、トランプ氏の支持率は40%台半ばで安定したままである。共和党支持者内でのトランプ弾劾賛成が増えたのは、共和党内の反トランプ系議員の発言などの影響が大きいのではないかと思われる。つまり一過性のものである可能性も低くない。FOXの調査でもトランプ氏の絶対的支持者である貧しい白人や地方居住者の間では支持率が10%前後も増えていて、シリア問題を懸念しているはずのキリスト教保守派の間でも5%支持率が上昇している。 非常に興味深いのは、米国で最も信頼される調査機関ゾグビー社(Zogby)が、同じ時期に行った調査の結果だろう。この調査によれば、米国民の53%が弾劾調査を支持。反対は40%。47%が弾劾手続きも支持。反対は41%だ。 ところが米国民の46%が、トランプ氏は来年の大統領選挙で再選されると考えている。そう考えない人は33%なので非常な大差である。 この調査でも、トランプ氏への支持が最も低い女性とヒスパニック(中南米系)以外の人々の間では、若者、高齢者、大都市居住者、地方居住者、労働組合員、富裕層、どれを取っても2020年にトランプ氏が再選されると思う人が思わない人を上回っている。女性とヒスパニックの間でも、再選されると思う人と思わない人は、40%前後で拮抗(きっこう)している。 この調査では、トランプ氏とウクライナ大統領の電話会談を不適切と考える人は46%。考えない人は40%。分からないが14%。 FOXの調査では、弾劾に値するか、適切だったか、それとも不適切だったが弾劾には値しないか?―という聞き方をしている。すると後者の二つを足した数字が、弾劾に値すると、ほとんど同じ40%台半ばなのである。 つまり米国民は調査などによって真実を知りたがっているのではないか? その真実次第では、トランプ氏再選は十分以上にあるということだろう。 例えば共和党内の調査では、2020年の下院の選挙で95の激戦選挙区で、共和党の候補が民主党の候補を、平均して10%近くもリードしている。2016年にトランプ氏がヒラリー氏に勝った下院選挙区に、いま31人の民主党下院議員がいるが、これらの選挙区でも共和党候補者が10%以上リードしている。 このままの情勢でトランプ氏や共和党に有利な真実が次々と明らかになり喧伝(けんでん)されれば、トランプ氏再選の可能性は非常に高い。では米国民が知りたがっている「真実」とは何か? それはFOXの調査の中にヒントがある。この調査によれば、民主党の下院議長やウクライナ疑惑を調査しているペロシ下院情報委員長(民主党)の支持率は、トランプ氏を下回っているのである。トランプ米大統領のウクライナ疑惑に関し、下院情報特別委員会が公開した内部告発の文書=2019年9月26日(AP=共同) 米下院情報特別委員会のシフ委員長は、9月に突然退任したウクライナ担当特別代表ボルカー氏が提出した通信記録のうち、弾劾に有利なメールだけを一般公開した。実はボルカー氏が提出した通信記録の中には、トランプ氏がウクライナ大統領にバイデン前副大統領関係の調査を強制した事実はないことを示すものもあったはずなので、共和党側は全ての通信記録の公開を迫っている。民主党ペロシ議長への不信 しかも中央情報局(CIA)職員と報じられる内部告発者が事前にシフ委員長と相談していた事実が露見し、さらにシフ氏のスタッフの中に二人もオバマ時代の国家安全保障会議(NSC)などで内部告発者と同僚だった人物がいることも判明。そこでシフ委員長が公正でないとして共和党側は彼の解任を求めている。 さらに内部告発者は、オバマ時代にバイデン氏のウクライナ訪問に同行したこともある。これではバイデン氏を庇(かば)うために真実ではないことを言っていることも疑われる。 内部告発者の首席弁護士バカジ氏は、そのような事実を否定しているが、同氏は非常に強固な反トランプ派だ。彼の事務所の若い弁護士ザイド氏は、かつてムラー特別検察官にロシア疑惑に関する調査の内容の機密部分を公開することを提案したことがあり、また政府の情報開示などに関するプロジェクトにも関わっているが、このプロジェクトはヒラリー氏や反トランプの大富豪ソロス氏と深い関係がある。 ウクライナの天然ガス会社とバイデン氏の息子の癒着には、ペロシ下院議長その他の何人かの民主党有力政治家の息子たちも関わっていた事実も判明した。 トランプ氏がウクライナ側に汚職の調査を頼んだと聞いたペロシ氏が、正式の手続きを経ずに弾劾調査を始めた理由は、そこにあるのかもしれない。 このような事実は少しずつ米国のメディアも報道し始めていて、そのためFOXの世論調査のようなペロシ氏たちへの不信のような結果が出ているのかもしれない。いずれにしてもウクライナ疑惑とはロシア疑惑と同様、民主党が自らの不正をトランプ氏に押し付けている部分が大きい。 そして弾劾の調査や手続きが進めば、バイデン氏の息子や内部告発者も議会で証言せざるを得なくなるかもしれない。少なくとも共和党は、それを主張している。 そうなれば、今まで述べてきたような民主党に不利な「真実」が米国民の目に明らかになる。それを米国民も望んでおり、そうなればトランプ氏の再選の可能性も高まる。 もちろん民主党としては、それは望ましくない。 10月10日、バイデン氏の圧力で天然ガス会社の不正追及を断念したことが納得できないウクライナ検察関係者をトランプ氏の顧問弁護士、ジュリアーニ元ニューヨーク市長に紹介した2人の在米ウクライナ人が、ロシアからの莫大(ばくだい)な資金を資金洗浄して、トランプ氏の関係団体に献金していたとして司法省に逮捕されている。 これも今後の捜査を見守らなければ断言できないが、ロシア疑惑と同様、司法省、連邦捜査局(FBI)そしてCIAの中にも反トランプ派が多いことの逆の証明のようにも思われる。 ウクライナ疑惑の内部告発者も、サウジ人ジャーナリスト暗殺事件を仕組んでサウジ王家とトランプ一家の協力を妨害したと思われる人々も、ともにCIA関係者である。司法省やFBI、CIAだけではない。国務省も同様である。 ジュリアーニ氏はウクライナ疑惑への介入に関しても追及されているが、トルコのビジネスマンと協力したトルコ、イラン間での裏マネー作りに関しても追及されている。 それにも関連してトルコ人の在米イスラム教指導者で、反エルドアン大統領派であるギュレン師のトルコへの引き渡しに関係したとも言われる(引き渡しは実現しなかった)。 これはトルコのエルドアン政権とトランプ政権のパイプを太くし、また逆にイラン内の反体制派とのパイプを作ることが目的だったようだが、ロビー活動に関する規制などに触れている可能性もあるらしい。この情報は国務省筋から出たものである。 国務省はトランプ政権になってから弱体化され、2010年には2万3千人の外交官が採用されたが、2018年には9千人未満だった。トランプ氏はエリート官僚の組織よりも優秀な個人に仕事を任せるスタイルである。そういう意味でキューバ危機の時のケネディに似ている。 それが既存のワシントン政治、民主、共和両党の議員だけではなく官僚によるものにも、真に国民のためになるものではないのではないかという疑問が広がり、トランプ氏が当選した大きな理由だったと思われる。 そのため今回のジュリアーニ氏や中東和平をめぐるクシュナー大統領上級顧問のような人々の動きが出てくる。それが既存の国務省の官僚などには非常な不満がある。米ホワイトハウスで開かれた行事で話すトランプ大統領=2019年10月15日、ワシントン(AP=共同) 11日に元ウクライナ大使が議会で、トランプ氏に不利な証言をしたようであるが、そのような背景を考えると国務省の組織防衛が目的であって、信用できないのではないか? 発言内容を精査すると、明らかに民主党を庇(かば)っている。 そしてトランプ政権の「今の弾劾調査は適正手続きにのっとっていない」として下院の弾劾調査に協力しない方針に反して、その後も国務省の官僚による下院での証言は続いている。いかに彼らが国務省の組織防衛に必死かが分かるように思う。それは果たして米国や世界のためになるのだろうか?弾劾手続きの疑問 なお米大統領補佐官(国家安全保障問題担当)を解任されたボルトン氏は、超タカ派ではあっても「国務省の官僚」の側面もある人物だった。ウクライナ疑惑は、彼の関係からリークされたのではないかという説が、ワシントンの一部で囁(ささや)かれている。 このようにトランプ氏が米国と世界のためになる新しい柔軟な政治を実現するには、民主党だけではなく司法省や国務省そして既存の官僚組織と結びついた共和党の政治家とも闘う必要があるものと思われる。 10月18日、首席大統領補佐官代行のマルバニー氏は、このような国務省の官僚主義を批判し、またウクライナへの軍事援助をしばらく保留にしていた理由として、2016年の大統領選挙における民主党本部の電子メール流出問題に関し、ウクライナに調査を依頼する意味もあったと述べた。 そこで弾劾手続きが不思議な意味を帯びてくる。仮に上院での弾劾裁判が始まったとする。共和党支持者内におけるトランプ氏の支持率の高さを見ると、最終的に3分の2の多数で弾劾されることはないものと思われる。以前のシリア撤収反対決議とは重みが全く違う。しかし何名かの賛成者は共和党からも出るのではないか? 共和党の上院議員の中には2020年の選挙で再選が危ぶまれている人が10人前後もいて、この人々は2018年の中間選挙後に、何度もトランプ氏の通したい法案に反対したり、通したくない決議に賛成したりしている。この人々は当然シリア撤収に反対したりしている。だが、そうすることで彼らの一部は、トランプ弾劾に反対しやすくなっている。 また「小さな政府」論者である保守系草の根運動「ティーパーティー」(茶会)は、実は民主党的な「大きな政府」論者であるトランプ氏とは相いれない。しかし2020年以降に党内の主導権を握るため、トランプ弾劾には強硬に反対している。「小さな政府」論者の彼らが、米国が世界に広げ過ぎた軍事力の撤収に賛成する可能性は低くない。 そのような側面もあるものの、何人もの共和党の有力議員がウクライナ問題やシリア問題でトランプ氏に批判的な立場に立っている。彼らは長くワシントン政治に関わってきた。民主党と同様に官僚機構との結び付きの強い人々である。 そこで弾劾裁判で賛成に回った共和党議員には、対抗馬を立てたりスキャンダルを追及したりする方法で、ワシントンから追放する。ないし弱体化させる。それをやってもらうため8月に以前トランプ政権の元首席戦略官だったバノン氏と和解したのかもしれない。 もちろん弾劾裁判のプロセスで、多くの民主党有力者の政治生命がなくなるような「真実」が、出てくるかもしれない。 こうして2020年以降のワシントンがトランプ氏に完全に掌握されたら何が起きるか? それは今のシリア情勢が教えてくれているように思う。 トランプ氏は大統領になる前から外交問題では2つの悲願があった。1.  ロシアと和解、協力して、イランや中国をけん制し、米国にとっての脅威を払拭する。2.  アフガンその他の駐留正規軍を民間軍事会社にできるだけ置き換える。 これは二つとも既存のワシントンの官僚や政治家が彼らの利権や体面を守るために嫌がることなのである。しかし米国と世界に新しい安定をもたらすことを考えると、そうした方が望ましいように思われる。 いま米軍のシリア北部からの撤収によって、イランが後押しする同地域の反米勢力が、一時的には有利になっている。しかしシリアを自らの勢力圏と見做(みな)すロシアと、中東情勢全般に関して交渉することは、より望ましくなったという考え方もある。 実際、10月13日、米国政府はロシアやアサド政権とクルド人の間で協力関係ができたため、より多くの米軍をシリアから撤収させると表明。米軍が両者の挟み撃ちに会うような危険な状態に置かれたからとも言えるが、この三者とトルコの間で力の均衡が成立すれば、米軍がいなくなっても、この地域の安定は保てるかもしれない。 ワシントンの専門家の中にも、クルドが迅速にアサド政権との協力を打ち出したことを以って、アサド政権の力の回復の証明と理解し、それによるISの復活阻止も含めたシリアにおける秩序回復を支持することは、米国にとって現実主義的な対応であると考える人々もいる。 そして10月14日からロシア軍が、トルコ軍とシリア軍およびクルド人勢力の間に入って、米国に代わって力の均衡を作り出そうとしている。これは水面下で行われたトランプ氏とプーチン氏の取引の結果である可能性もあると思う。 これは昔からの協力者シリアのアサド政権のためだけではない。クルド人の脅威を恐れるトルコにも、クルドの脅威から同国を守ることで、ロシアは大きな影響を持てる。  シリア北部で実施された合同パトロールから戻る米国、トルコ両軍=2019年9月8日(ロイター=共同) 北大西洋条約機構(NATO)で二番目の軍事大国で、ロシアが外洋に出るために必要な海峡を抑えるトルコに対する影響力を増やすのは、ロシアにとっても望ましく、今までもミサイル防衛システムの売却などを行ってきた。今後米国がトルコの行き過ぎた軍事行動に干渉するにも、ロシアの仲介が重要になってくるかもしれない。 このように、ロシアに異常接近しているトルコが、シリア北部で戦闘を開始してくれたので、米国としても今後トルコを批判しやすくもなる。実際、既にトルコに対する経済制裁が始まっている。そして、この経済制裁をめぐって、シリア問題で民主党と協力してトランプ氏を批判してきた共和党議員の一部とトランプ氏の協調が起こる可能性もある。民間軍事会社の活用 10月17日、米国政府はペンス副大統領とポンペオ国務長官をトルコに派遣し、シリア北部における軍事行動の停止を説得させた。 そして4日間の戦闘停止と、その間にクルド人勢力が20マイルの緩衝地帯を設けることで合意した。この合意にはトルコと米国が協力しての「イスラム国」(IS)対策も部分的に含まれている。 ただし、トルコのエルドアン大統領は、決して「停戦」という言葉を使わず、また緩衝地帯ができたら、そこのパトロールもトルコが行うと主張している。またクルド人勢力が緩衝地帯を作る約束を守らなければ、攻撃を再開するとも言っている。今後の動向は予断を許さないと思われる。 そこでワシントンの政治家の間では、トルコへの経済制裁を強化する法案なども構想されているのだが、今まで述べたような親トランプ、反トランプあるいはウクライナ疑惑重視、シリア問題重視などの違いにより、まとまるのは難しい状況である。 また10月11日の紅海(こうかい)におけるイランの船舶に対する攻撃を、サウジの責任とするイランの主張に対し、米国が2千人の兵士とミサイル防衛システムをサウジに派遣した。 これらの問題が進展していけば、トルコにおけるサウジ人ジャーナリスト暗殺事件の真実を明らかにし、サウジと米国が協力してイランと対峙(たいじ)するというトランプ氏が構想した方向に、サウジと米国が進路を切り替えやすくなるかもしれない。 なおロシアもサウジに対して数十億ドルの取引を締結した。先に述べたトルコの場合と同様、米国とロシアの協力による新しい中東のバランスが着々と作られつつあるようにも思われる。 いずれにしても今後のシリア情勢次第によっては、撤収した米軍の代わりに民間軍事会社が派遣されるという展開もあるかもしれない。それをさらにアフガンにも応用するためにも、ロシアの背後からの協力は欠かせない。 実際、米国はいったんは反故(ほご)になったタリバン勢力との交渉を再開している(この交渉がいったん頓挫したのもボルトン氏関連からのリークが原因ではないかとワシントンの一部ではうわさされている)。 この交渉は基本的に、タリバンがアルカイダなどとの関係を清算する代わりに、米国はアフガンから撤収するというものである。しかし1万4500人もの米軍を撤収させた後のアフガンの治安維持などには、やはり民間軍事会社の派遣が必要になるのではないか? 仮に撤収のプロセスだけだとしても…。 なおロシアもシリアなどでは民間軍事会社を使っている。21世紀には世界各国が民間軍事会社などに自国の安全保障戦略を任せ、できるだけ正規軍を使わない時代になるのかもしれない。 冒頭で述べたように、シリア北部からの米軍の撤収に関して10月16日、米国の下院で共和党の一部(60人)以外全員が賛成する非難決議が可決された。今後、トルコへの厳しい制裁を含んだ法案が共和党内からも提出される可能性もある。 しかし、トランプ氏は「トルコ、シリア、クルド間の抗争は彼らの問題である」として非難決議に反論。そして「クルド族はシリア政府によって十分に守られている」とも言っている。やはりシリアの背景にいるロシアとの裏交渉ができている可能性もあると思う。 そして同じ日に発表されたエコノミストの世論調査では、米国のシリアからの撤収を共和党支持者の6割近くが支持している。つまり少なくとも共和党内のシリア撤収反対派は、彼らの支持者の意向に反していて、トランプ氏の方が共和党支持者の意向に沿っているのである。そして最初に述べたように来年の選挙で共和党は、決して不利な状況ではないのである。 このようにトランプ政権は2020年以降も続き、しかも世界からは次第に軍を撤収させる方向になる可能性が高いのである。トランプ氏としては、そのためにはイランと中国だけは安全な状態にしたいようであるが、できるだけ軍事力を使わず、金融制裁等で両国の力を弱めたいようである。 サウジ石油施設攻撃の問題でイランの中央銀行を世界から封鎖した。今回の経済交渉で中国に少しの妥協をしたが、それは2020年の大統領選挙のために米国内の景気に最低限の配慮をしただけで、中国から米国への投資の制限等を止める気配はない。サミットの夕食会を楽しむ(左から)トランプ米大統領、安倍首相、ロシアのプーチン大統領=2019年6月28日、大阪迎賓館 このように考えると2020年以降の日本は、石油の問題をめぐり中東で、そして南シナ海などの情勢をめぐり対中国で、かなりのことが軍事的にも自分でできるようにならないと、生きて行けなくなってしまう。 そういう意味でも10月18日に安倍政権がペルシャ湾への自衛隊の派遣を決定したのは間違ってはいない。しかし今のフルスペックの集団的自衛権も使えない自衛隊の自衛隊派遣で十分だろうか?  やはり一刻も早く憲法を改正し、軍事予算もできるだけ多く使うべきだろう。憲法改正に手間取るようなら日本版民間軍事会社を設立し、それを中東に派遣するようなことも考える時期ではないか。言うまでもなくトランプ、プーチン両氏との協力が不可欠であり、以上のことができるのは安倍総理しかいないと私は考える。

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    習近平の逆ギレで始まる「中国の暴走」

    建国70年を迎え、中国の習近平政権は過去最大規模の軍事パレードで軍拡路線をアピールした。一方で、経済大国に成長しながら、共産党一党独裁という政権の異質さは変わっていない。覇権主義を突き進み、悪しき原点と評される「毛沢東時代」に立ち戻ろうとする中国は、暴走の果てにどこへ向かうのか。(写真は共同)

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    渡邉哲也×吉川圭一対談 覇権争いで剥がれ始めた中国の「仮面」

    になっていますが、この根底には世界の大きな覇権争いが存在するわけです。どういうことかと言えば、中国はアメリカに対して太平洋の分割を迫り、覇権国家であるアメリカの体制を壊そうとした。それに対してアメリカ側は安全保障上の問題も含めて現代戦に持ち込みました。大量破壊兵器が生まれた現代としてはかつてのようないわゆる武力だけの紛争ではなく、経済も大きな戦争の要因になっている。だからよく米中貿易戦争という言葉がありますが、正しくは「米中戦争貿易版」と考えた方がよいでしょう。 そしてアメリカとソ連の冷戦終結後、グローバリズムが世界に広まっていきましたが、これは、モノ、カネの移動の自由ということです。グローバリズムとは、一つのルールで世界が動くことを意味しますが、中国はその自由側社会、つまり西側社会に入ってくるとき、西側社会のルールのもとで活動すると言っていたのに、実際は資本移動の自由どころか、国有企業の改革もしなかった。結局、開発独裁型の経済をそのまま維持し、しかもそれが軍事と連動しているので、アメリカは圧倒的に不利なわけですね。あくまで中国は自分たちのルールでやっていますからね。 例えば日本やアメリカの企業が完全な民間資金でビジネスをやっている一方で、中国企業はバックに国がついていていくらでも資金が調達できる。これを同じ土俵で戦えるかというのがアメリカ側の言い分なわけです。中国は世界貿易機関(WTO)に入るとき、完全な資本の自由化と、国有企業をなくして民営化していくと言った。でも、それを守っていない。また、国際通貨基金(IMF)からの特別引出権(SDR)についても為替の自由化を約束しておきながら、これもやっていない。人民元は管理変動相場制で管理するかたちで、いわゆる人民元レートを自由に移動できる、自由に調整できるから好きなようにビジネスができる。こういうような状況なわけですね。 これに対して改善しろと言っているのがアメリカですが、それをすると崩壊に面している中国のバブルがもうもたないという中で、さてどうするかというのがこの米中貿易戦争の始まりだと思いますね。 吉川 まさに渡邉さんのおっしゃる通りで、やはりトランプ大統領の登場を見ていると、冷戦時代に当時のキッシンジャー国務長官が中国と協力してソ連の包囲網をつくったように、今の状況ではロシアと協力して中国を封じ込めないといけないという視点が生まれました。ただ、既存のワシントンの政治家や官僚が、冷戦思考から抜けきれず、特にウクライナのクリミア問題以来、反ロシアで固まってしまっている中で、「ならばトランプさん、君やらないかね」というような空気になったことも、トランプが大統領になるきっかけだったと、私は思いますね。 渡邉 そうですね。いわゆる新たな冷戦の始まりを米中の間において言えば、南シナ海における「航行の自由作戦」の本格化ですから、2010年あたりからですよね。それでいわゆる米露に関してはウクライナ問題が2014年の2月、ソチオリンピックの直後です。この二つによって世界の分断が始まったと言えますね。そして、それが「鉄のカーテン」なのか、いわゆる「竹のカーテン」なのかと、最近よく言われますが、もちろんかつての冷戦は「鉄のカーテン」で、これはアメリカとソ連。今、言われているのが「竹のカーテン」でアメリカと中国ですが、ロシアは今、どちらかというとフリーハンドの状況ですね。中国経済の現状や先行きなどについて対談する渡邉哲也氏(右)と吉川圭一氏=2019年9月、東京都千代田区(飯田英男撮影) 吉川 この前、尖閣諸島の上空を中国とロシアの爆撃機が飛行した際、中国側が飛ばしたのは最新鋭のものでしたが、ロシアが飛ばしたのは冷戦時の中古とは言わないけれども、それぐらい古い年式のものでした。私はこれを見て、やはり、ロシアとしては半身の構えなんだなと、使った爆撃機の性能からそう思いましたね。イスラムのテロ対策と称してロシアに相談もなくカザフに中国軍を送ったことも、ロシアの対中不信感の原因になっている。一方で、中国もプーチン大統領を取り巻く財閥などを信用していないので、ロシアに本気で投資をしていない。 渡邉 中国とロシアは、そもそも国境に面して互いに敵対していますが、敵対していることを表に出さないという空気があります。今の北朝鮮情勢もそうですが、中国とロシア、どちらもどっちつかずで動いているじゃないですか。 吉川 私はどちらかというと、北朝鮮は、今はもうロシアに近く、金正恩朝鮮労働党委員長は習近平国家主席が叔父や兄を使って自分を排除しそうになったから、叔父や兄を殺したと聞いています。北朝鮮のミサイルの技術などは明らかにロシア製ですからね。狙われるグリーンランド 渡邉 いずれにせよ、中国とロシアは核心的な利益の部分で確実に対立するものがあります。それは「水」です。ロシアの水を中国は水源として狙っていると言われていて、ここに関してロシアと中国は絶対的に敵対することになります。 吉川 私もワシントンにいたとき、ロシア大使館の関係者と話をすると、公の席ではなく、酒席では、中国からの不法移民がシベリアには多すぎると聞きましたね。このままだとシベリアを取られてしまいそうだと、相当警戒していますね。 渡邉 そうですね。今は、習近平が打ち出した経済圏構想「一帯一路」がよく言われますが、新たな軍事的対立点になろうとしているのは、北極海です。北極海においてはロシアと中国は完全に対立しているわけです。中国がかなり北極に進出しており、これに対してアメリカもロシアも、中国は北極隣接国ではなく、開発権限はないと主張していますからね。 吉川 北海道の土地も中国資本がかなり買い漁っています。中国の船が年中北極に行く海路を抑えるためではないかと聞いていますが、実際どうしようとしているのでしょうか。 渡邉 それについては、ロシアと中国、アメリカの三つ巴(どもえ)の中でトランプはグリーンランドを買いたいと言っています。 吉川 その通りです。私もそれを申し上げようと思っていたのです。 渡邉 メキシコとアメリカの国境の壁の話もそうですが、グローバリズムというものは、カネの移動の自由化なのでしょうが、トランプが壁を作ると言って大統領選で勝利しましたが、これらはカネの間に壁を作っていくということだと思います。その壁の意味というのは、象徴的な意味合いの方が強いと思います。難民対策という面もありますが、例えばモノで言えば、中国に対する関税、すなわちそれが壁です。今、中国人にビザ規制をしていますが、これも壁と言えます。 吉川 ですが、アメリカは中国を為替操作国指定はしたし、そろそろカネに関する壁作りも始めるということではないでしょうか。 渡邉 為替操作国指定をして、そろそろ始めるというより、すでに始まっていますね。結局、トランプのビジネス、いわゆる口先介入というかツイッター介入というのはすごく分かりやすくて、規制のかけ方も分かりやすい。株価が最高値をつけたところで中国に対する再規制をツイッターで宣告することで、株価が下落する。そしてまた戻ると、再規制をかけるという具合です。それで足りない場合は、米連邦準備制度理事会(FRB)による利下げなどで、さらに金融支援をさせるかたちで株価をうまくコントロールしながら、中国に制裁をかけているのです。要するに、株価連動政治ということです。経済評論家の渡邉哲也氏=2019年9月、東京都千代田区(飯田英男撮影) 吉川 トランプの減税で一度よくなったアメリカの景気が今年の第1四半期に3%成長だったのが、第2四半期には2%成長になり、来年には1%台になるかもしれません。失業率は下げ止まりしていますが、トランプを当選させた自動車工場などで働いている人の失業が実は30万人ぐらい出てしまっており、その辺がトランプの大統領再選に関して気にしているところです。 ただ、トランプの政策をもってしても、なかなか中国に進出したアメリカ企業の工場などが、アメリカに戻ってこないので、そのためかもしれません。中国に進出したアメリカ企業の8割以上が「トランプ関税」の影響を感じていますが、今ある工場などを中国から撤退させることを予定している企業は1割ほどです。中国のまやかし 渡邉 ところで、米中貿易戦争の中で進んでいる協議の中に、資本移動の自由があります。中国の場合、中国で出た利益を国外に持ち出せないので、結果的に撤退できないという事態になっています。中国に資本移動の自由を認めさせることができれば、いわゆる利益を持ち出すかたちで海外に移すことができる。でも、これができないので、企業の中にはその中国からの撤退ができない企業がたくさんあります、実際「チャイナプラスワン」(中国でのリスクを避けるため他国にも拠点を設ける)というかたちで中国工場を最小限にとどめつつ、別の国に工場をどんどん移している。もう7割以上の企業が今年に入って、中国拠点の規模縮小や中国以外の国で始めています。 吉川 実はそのトレンドは、トランプの関税政策が始まる前から、東南アジアの方が、労働賃金が安くなってきたので、もう始まっていた流れを加速させたということでしょうね。 渡邉 そうですね。だいたい2012年あたりからチャイナプラスワンを始めていて、ベトナムやミャンマーなどが低賃金の国と言われ、こうした中で2015年8月に中国株式のバブル崩壊がありましたよね。あの辺りから中国の景気がかなりおかしいと、気がついているわけですよ。ただ、中国共産党の目もあるので、表立って中国からの離脱は言わないですが、もうすでにTシャツなどの縫製の移転はかなり進んでいました。 それから、中国の一番のまやかしというか誤解は、14億人いる人口に関するとらえ方ですね。そもそも、中国の社会構造は一種の「カースト」で、実際日本人と同等レベルの生活ができる人は5千万人しかいない。そしてこの5千万人を含んだ1億5千万人が経済協力開発機構(OECD)加盟国レベルとされています。また、この1億5千万人を含んだ3億人が都市住民と言われ、残りは地方住民。さらに、地方住民の中の3億人だけが将来的に都市住民なれるわけです。要するに、14億人のうち8億人は農工民を中心とした貧困層という構造なのです。 吉川 なるほど、経済が都市部に集中しているアメリカの方が14億人いる中国よりも、本気で大規模な核戦争になったときに脆弱だと言う人はいますが、中国も都市部への極端な集中はしていますね。 渡邉 集中はしていますが、中国とアメリカの違は人権のあるなしですよね。中国はかつての偉大なる毛沢東が中国人は半分死んでも大丈夫というような話をしていました。 吉川 そう。だから習近平もそういう意味のことを言っていますよ。アメリカに「やれるものならやってみろ」と言っていますよ。 渡邉 ただそれはもう結局、最終的というか、最悪な手段という選択で、互いに核を保有して抑止する「相互確証破壊」の世界に入ってくるわけですね。 吉川 でも最近は人権問題などでアメリカのリベラル派も対中国強硬路線になってきました。保守派は安全保障問題などで反中。要するに、今はもうアメリカは国をあげて反中国で、実はトランプが来年の再選のために対中関税などで経済を悪化させたくないため、最も中国と特に経済問題でディール(取引)したがっているといった不思議な話になってきています。グローバル・イッシューズ総合研究所代表の吉川圭一氏=2019年9月、東京都千代田区(飯田英男撮影) 渡邉 先にも述べましたが、中国は開発独裁国家ですからね。だから一番みなさんが勘違いしているのは、中国共産党というだけに、共産主義国家だと思っている人が多いでしょうが、巨大な開発独裁国家であって決して公平分配は目指していません。むしろ世界で一番格差の大きい共産主義を名乗る国家です。 吉川 そうですね。習近平の娘は香港に何百万ドルもする不動産を持っていると言われているぐらいですからね。 渡邉 中国の本当の現状を知るには、日本のバブル崩壊期に何が起きたかを考えれば非常に分かりやすいですね。日本がアメリカの不動産を買い漁っていたとき、日本の銀行の自己資本がおかしいと言われて「ジャパンプレミアム」と呼ばれていましたが、日本の銀行がアメリカ市場でお金を借りる際に、アメリカの銀行に比べて2%前後高い金利にされていました。今はもう「チャイナプレミアム」がつき始めているわけですよ。例えばその典型なのは、中国の通販大手「アリババ」などは、ニューヨークのマーケットで株式公開ができない。だから今香港にマーケットを移して、資金調達をしようと思った矢先に、大規模デモが起きて香港でも資金調達ができなくなったわけです。 吉川 それから、中国の国内総生産(GDP)が、世界のGDPで占める割合が15%だとされていますが、人民元ベースでカウントすればそうなるというだけですよね。その人民元による貿易決済は、世界の貿易決済の1、2%程度。このギャップが非常な問題だと思います。 渡邉 そうですね。だから結果的には、中国の人民元というのはしょせん中国人、中国企業が借りているのも中国人が稼いでいるのも人民元なので、潰れるときは一番に潰れていくわけです。現在の日本円と、日本のバブルが弾けたときの円はまったく違うわけです。なぜかといえば、バブルが弾けたときの円は金融ビッグバン以前だったので為替が自由化されてない国内通貨だったからです。ですから、中国の人民元も今は国内通貨で、日本のバブル崩壊のときと同じような位置付けと言えます。「戦わずして勝つ」 吉川 為替操作国としてIMFに認められれば、中国大陸にある1200億ドルを引き上げてしまうこともできます。香港情勢が悪化すれば、1992年の特例法によって、香港にある800億ドルも引き上げることも可能です。すると中国は人民元をドルで買い支えることができなくなるので、人民元は40%前後大暴落するでしょう。いずれにしても80年代に日本に対してアメリカがやった同じことを中国に対してやっているということですね。 渡邉 成功体験を持つ人がやっていますからね。日本のバブル崩壊のプロセスを追っかけていけば、どうやって内側に倒していくことができるかを知っている人たちがやっている。 吉川 だからそういう意味で、全面核戦争にならないために、「戦わずして勝つ」というかたちで中国を弱めていければ一番ありがたいですがね。 渡邉 こうした中で、さて日本はということになりますが、日本企業も必然的にアメリカか中国か、いずれかを選ばなければいけないのですが、当然、安全保障の問題もあって中国を選べない。特に親米でも何でもないけれど、アメリカを選択した上で、日本市場や世界中のマーケットに中国がシェアをとってきた商品があり、それが追い出されていくので、結果的にそこに枠ができるわけですよね。 この枠は、よくよく考えればかつて日本企業が持っていたもの。ならば、取り返せばいいということですよ。14億人という中国の巨大市場がなくなる恐怖を語る人はいますが、先に述べたように、中国は14億人ではなく、実質的には1億5千万人ですから。しょせん日本と同じ規模しかないことを認識すれば、それほど怖いことでもないでしょう。 吉川 たしかに自由貿易協定(FTA)の問題も含めて、日本企業は、トランプ政権の恩恵を受けることが期待できるわけで、5G(第5世代移動通信システム)もそうですが、アメリカと中国が全面戦争になるときのために宇宙軍を創設して新スターウォーズ構想もあって、こうした中から日本企業に商機があるではないかと思います。 渡邉 そうですね。中国通信大手の華為技術(ファーウェイ)が象徴的ですが、5年以内にアメリカ国内から中国製通信機を全面排除するということで、そのために協力業者を探して育成していくというアメリカの方針が出ましたから。それに合わせて日本の通信企業も今動いていています。コストの面でも、これまで中国で生産していたものを生産地移転などで対応できると言っていますからね。 いずれは日米のFTAが結ばれると思いますが、アメリカはバイオ分野にしても最先端の技術を持っていますが、作る技術がない。でも、日本は作る技術と材料を持っています。だから日米がきちんと組めばウィンウィンで、非常によい関係が生まれ、今までとは違う経済効果をもたらすはずです。要は中国やヨーロッパがなくても、日米両国が手を組むことによって大きな変革を生み出すことができますよと、一連の日米協議で口説いたという話を聞いています。ファーウェイ製品を扱う北京の店舗(UPI=共同) 吉川 とにかく日米で5Gの先にある5・1Gや6Gを構築していけば、日米が世界を支配できるということですね。今アメリカは挙国一致で中国との対決姿勢に入っているわけですから、ここで日本はアメリカとのスクラムを崩すわけにはいきませんね。渡邊さんが先ほどおっしゃったように、変に中国の市場が巨大だとか、そういう幻想に惑わされはいけないということですね。 わたなべ・てつや 経済評論家。昭和44年生まれ。日大法学部卒。貿易会社に勤務した後、独立。複数の企業運営などに携わる。著書に『本当にヤバイ!欧州経済』(彩図社)など多数。近著に『「中国大崩壊」入門 何が起きているのか? これからどうなるか? どう対応すべきか?』(徳間書店)。 よしかわ・けいいち 政策コンサルティング事務所「グローバル・イッシューズ総合研究所」代表。2016年まで米国ワシントンDCにも拠点を持ち、 東日本大震災を契機に一般社団法人日本安全保障・危機管理学会防災(JSSC)ワシントン事務所長として、日本に米国と同様の危機管理専門省庁の立ち上げを目指す政策提言活動に取り組む。2017年以降は日本国内をベースに、テロ対策や米国政治に関する政策提言活動を続ける。著書に『救世主トランプ—“世界の終末”は起こるか?』(近代消防社)、『東京オリンピック・パラリンピックは、テロ対策のレガシーになるか?』(同)など多数。

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    習近平は「米中経済戦争」にむしろ救われた

    富坂聰(ジャーナリスト、拓殖大学海外事情研究所教授) 中国経済に関する評価は、常に好悪の両極端に振れてきた。この現象は、インターネットを主な情報源として、現地を見ることもなく、また現地の人々と話すこともなく発信されるレポートがあふれて以降、さらに顕著となっている。 中国経済の盛衰は常に変化してきた。当然のこと、日本の書店でよく見かける大混乱や大失速はもちろん、大崩壊といったことが予測されるような話題ではない。 ここ数年、日本の新聞は四半期ごとの中国経済統計が発表されるたびに、「中国経済、減速が鮮明」との見出しをつけて報じてきた。 確かに、中国自身が認めているように、「高速発展」の時代は2012年の時点で終わっている。その後は、「ニューノーマル(新常態)」という言葉が使われるようになったように、中国経済は量から質への転換のプロセスに入った。 つまり、数字が下がることを織り込んだ上で「変革のプロセス」に入ったのである。ゆえに、その数字が良くないと批判するのは不思議な話だ。 本来、中国経済の未来を判断するのであれば、まず「質的転換」の進捗(しんちょく)状況を分析すべきである。具体的には、第2次産業依存の体質から第3次産業中心へのシフトの状況であったり、製造業における高付加価値化の進展具合である。株式市場「科創板」の取引開始を記念し、中国・上海で行われた式典=2019年7月22日(共同) 経済発展の牽引車から、いまや成長の足かせとなった重厚長大型産業を中心とした「オールドエコノミー」の体質改善が進んでいるか否かの見極めも必要だ。換言すれば、中国経済のダメージは、個人消費の不振やニューエコノミーの育成不良、はたまたオールドエコノミーのリストラが進まないといった状況から評価されるべきなのだ。「不景気」は出口なしか 財政面では、主に2008年の世界金融危機に際して出動した4兆元の投資が重くのしかかり、足を引っ張っている。景気刺激策として財政出動をしなければならない状況に追い込まれれば、それは宿題の先延ばしになる分だけ、経済にはダメージとなるだろう。 現状、北京などで取材すると、誰もが「中国の景気は良くない」と答える。 だが、日本をはじめとする休日の海外旅行の勢いは衰えず、電子商取引(EC)も隆盛を続けるように、深刻な影響とはいえないだろう。問題の深浅をどう判断してゆくべきかは、「中国大崩壊が始まった」「中国が世界経済の覇者となる」といった漫画チックな話ではなく、精緻に分析していかなければならないことだ。 景気は明らかに陰っていて、かつては大行列だった高級レストランに閑古鳥が鳴いている様子は、北京に行けば目にすることができる。それは狂乱の好景気が終わったことを意味しているが、いわゆるニューノーマルへの変化という範囲に収まる低速化なのか、それ以上のことなのか。 中国は今年、預金準備率を用いてマネーの供給量を増やそうとしたが、昨今の米連邦準備制度理事会(FRB)と欧州中央銀行(ECB)がともに金融緩和を決めたような動きの中で、中国人民銀行は緩和に追随しないことを表明している。まだ、そこまでは必要ないとの判断だと理解された。 中国経済は前述のような高速発展期を過ぎて、減速を余儀なくされている。だが、この停滞は出口の見えない落ち込みかと問われれば、そうではない要素も多くみつかる。少なくとも政治的な影響は小さい。 本来、習近平政権は経済発展の落ち込みとサプライサイド(供給側)改革という名の大リストラで大きな逆風にさらされるはずだった。2017年11月、北京で開かれた歓迎式典に臨むトランプ米大統領(左)と中国の習近平国家主席(共同) しかし、ここに米中経済戦争という要素が持ち込まれたおかげで、政治的にはむしろ救われている。というのも、人々の不満を一身に受け止めるはずだった景気の問題は、全て「米国の圧力のせいだ」と居直れることとなり、国民も落ち込みに耐える心構えを持てたからである。緩やかな「脱米」 一方、米国の圧力に晒されることで被る物質的なダメージはどうかといえば、現状を見る限り、乗り越えられないレベルではなさそうだ。カギとなるのは最先端産業と国内の大市場、加えて貿易の中身の転換が、そのダメージを緩和できると考えられるからだ。 例えば、スマートフォン市場である。安全保障上の脅威を理由にトランプ政権は華為技術(ファーウェイ)排除に動いたが、2019年4~6月のスマートフォンの出荷台数からは、同社が窮地に陥っている状況は見えてこない。むしろ、中国国内での出荷台数を伸ばし、米アップルを抑えて2四半期連続で世界シェア2位をキープしているほどだ。 スマートフォンを含め、多くの高付加価値製品は中国市場で旺盛な伸びが期待されている。今やスマートフォンに関しては、世界のおよそ3分の1が中国で売れていて、今後の伸びも期待されている。自ら成長市場を持つ強みは明らかだ。 また中国のスマートフォンメーカーは、飽和市場である西側先進国では苦戦しているものの、今後の伸びが期待されるインド市場ではシェア1位の小米科技(シャオミ)を筆頭に3位の維沃移動通信(ビーボ)、4位の広東欧珀移動通信(オッポ)、5位の伝音控股(トランシオン)と上位にひしめいている。この趨勢(すうせい)は今後、多くの新興国・発展途上国で、一つのモデルになるといえよう。 というのも、中国は米中経済戦争が激化して以降、緩やかな「脱米」に舵(かじ)を切っている。これは米国との対決姿勢を鮮明にするという意味ではなく、保険の一つとしての「米国離れ」だと考えられる。 貿易面では、少しずつ対米輸出への依存の割合を減らし、「一帯一路」沿線国とアフリカへのボリュームを高めていくというものだ。5Gスマホの販売を始めた北京のファーウェイ販売店=2019年8月16日(共同) 世界金融危機のなかで、先進7カ国(G7)の役割に限界が指摘され、20カ国・地域(G20)へと主導権が移行されていったように、今後の経済発展は、先進国から新興国や発展途上国へとシフトしていくことが考えられる。 このトレンドと、中国の「脱米」がシンクロする可能性は決して低くない。

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    米中貿易戦争、なぜ中国は自らが勝てると考えるのか

    立花聡(エリス・コンサルティング代表・法学博士) 米中貿易戦争はある折り返し地点を経過したのである。その折り返し地点は8月だった。 まず、8月までの経過を見てみると、中国は基本的に「引き伸ばし戦術」だった。米側との通商交渉は一進一退しながらも、正面衝突を避けてきた。その目的は来年(2020年)の米大統領選でトランプ氏が落選すれば、次の新大統領との再交渉に持ち込み、対中政策の緩和を引き出すというものだった。 いわゆる「他力本願」の戦術でもあった。しかし、この「引き伸ばし戦術」が決定的な破綻を迎えたのは、中国が5月に合意内容を反故にしたときだった。 昨年から交渉が始まって合意されたほとんどの内容を一旦白紙撤回した中国を前面に、トランプ氏は怒りを抑えきれず、交渉テーブルを蹴った。そこからトランプ氏は制裁の度合いを一気に高め、中国が望んでいた「再交渉」はついに実現できなかった。 つまり「他力本願」ということで依存してきたトランプ氏は中国が望んでいた通りの行動を取らなかった。それは中国の企みが見破られてしまったからだ。バイデン氏が次期米大統領になれば、トランプ氏路線の撤回も可能になるという中国の企みがとっくにばれていた。 ここまでくると、もう受身的な他力本願では無理だと中国は判断し、戦術の変更に踏み切る。能動的な出撃に姿勢が一変した。 8月23日中国は、合計750億ドル相当の米国製品に追加関税を課すと発表した。大方の報道は、これがトランプ米大統領が発動を計画する対中関税第4弾に対する報復措置としていたが、それは間違った捉え方である。 出撃ではあるが、報復ではない。逆に米国の報復を引き出すための出撃であった。案の定、中国の読みが当たった。 トランプ氏はすぐに反応し、わずか数時間後に、すでに発動済みの2500億ドル分の追加税率を10月1日に25%から30%に、9月以降に発動する対中制裁関税「第4弾」の追加税率を10%から15%に引き上げると発表した。 貿易戦争がこれで一気にエスカレートした。中国はもはや「引き伸ばし戦術」に固執しなくなった。いや、一転して攻撃型戦術に転じたのだった。なぜそうしたかというと、貿易戦争の激化という結果を引き出そうとしたのではないだろうか。非常に逆説的ではあるけれど。※写真はイメージです(ゲッティイメージズ) 貿易戦争が激化すれば、米中の両方が傷付く。それは百も承知だ。それでも戦いをエスカレートさせようとするのはなぜか。答えは1つしかない。戦いの末、中国よりも米国のほうがより深刻な致命傷を負うだろうという読みがあったからだ。あるいはそうした「賭け」に出ざるを得なかったということではないだろうか。「我慢比べ」と「傷比べ」 まず、米国が負い得る「傷」を見てみよう。何よりも米経済がダメージを受け、景気が後退する。 特に対中農産品の輸出が大幅に縮小することで、米農民の不満が募る。それが来年(2020年)の大統領選にも影響が及びかねない。トランプ氏は大票田の農民票を失うことで、当選が危うくなることである。むしろこれは中国がもっとも切望していたシナリオではないだろうか。 「引き伸ばし戦術」でじわじわ攻めても、そのシナリオが実現せず、トランプ大統領が続投することになった場合、まさに中国にとっての地獄になる。あと4年(任期)などとてももたないからだ。そこで一気にトランプ氏を追い込む必要が生じたのである。中国の力で倒せないトランプ氏を、米国民の票で倒すしかない。ここまでくると、逆説的に米国の民主主義制度が中国に武器として利用されかねない。 次に、中国の「傷」はどんなものだろうか。すでに低迷していた中国経済の衰退が加速化し、対米関税の引き上げによって特に大豆やトウモロコシ等の供給が大問題になり、食用油や飼料価格が急騰すれば、肉類や食品価格も押し上げられ、インフレが進む。 物価上昇が庶民の生活に深刻な影響を与え、民意の基盤を揺るがしかねない。ただ、中国の場合、1人1票の民主主義制度ではないゆえに、トランプ氏のようにトップが政権の座から引き摺り下ろされることはないのである。 庶民の生活苦は一般に政治に反映されにくい、あるいは反映されない。そこは逆説的に中国の強みとなる。つまり民意による政治の毀損、その影響が他の形で致命的に至りさえしなければ、中国は我慢比べの結果で米国に勝つ可能性があるわけだ。 これに対して米国は逆だ。たとえ長期的に国益になるといえども、短期的な「民意への耐性」面をみると、民主主義国家の脆弱性が浮き彫りになる。 この局面の下では、トランプ大統領にとって取り得る政策の選択肢はあまり残されていない。それはつまり、中国の「傷」をより深いものにし、より短期的に致命的なものにする、それしかない。関税の引き上げはもちろんのこと、何よりも外資の中国撤退、サプライチェーンの中国からの移出が最大かつ最強の武器になる。 これからの1年が勝負だ。トランプ氏は米国企業の中国撤退を命じると言ったが、それは単なる冗談ではない。直接命令の代わりに法や政策の動員が可能であろうし、実際に中国国内のコスト高がすでに外資の撤退を動機付けているわけだから、それをプッシュする力を如何に加えるかである。 そうした意味で、中国は危険な「賭け」に乗り出しているといっても過言ではない。その賭けに負けた場合、中国にとって通商や経済の問題だけでは済まされない。深刻な政治問題、統治基盤の動揺にもつながりかねない。 昨年(2018年)12月18日、習近平主席が改革開放40周年大会で、中国の未来について「想像し難い荒波に遭遇するだろう」と述べた。さすが偉人だけにその予言は当たっている。

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    「ウクライナ疑惑」でむしろトランプ再選の可能性が高まった!

    ントン氏の電子メール疑惑の再捜査の追い込みに入っている。ヒラリー・クリントン米上院議員(クリントン前アメリカ大統領夫人)UPI=共同 前述のようにウクライナの検察関係者からの通報を司法省は無視している。今回のウクライナ疑惑も内部告発によって発覚したが、その内容は伝聞に基づくもので、そもそも伝聞に基づく内部告発は取り上げない規則だったはずなのである。 そのため告発を受けた国家情報長官が、これを議会に取り次ぐ必要がないと考えたのも、間違いだったとは言えない。ところが告発が行われる直前に規則が改正され、伝聞による内部告発も有効になるようにされてしまっていた。民主やヒラリーが乗っ取り ロシア疑惑も同じだったが、司法省その他が民主党やヒラリー氏に乗っ取られている。そして多くの不正利益をむさぼっていると思われるのである。 その中には中国が南シナ海に進出した直後の2013年12月にバイデン氏が副大統領として北京を訪問した12日後、ハンター氏が中国銀行から数十億ドルを引き出してBHRというファンドを設立した問題もある。ハンター氏はBHRの株を43万ドル分以上、2019年6月の時点でも持っていたことが確認されているが、このBHRは設立以来、世界のエネルギーと兵器産業に莫大(ばくだい)な投資を行ってきたことの方が問題だろう。 さらに2015年にBHRと中国航空宇宙公司がミシガン州の自動車会社を買収した問題でも議会の調査でハンター氏の介入が明らかになっている。この自動車会社の製品は兵器転用可能なので国家安全保障に関わる問題だったからである。にもかかわらず、この会社は中国に買収され、この会社の技術が今では中国の戦闘機生産に使われていると言われている。 いま米国でトランプ弾劾を主張する人々は、トランプ氏が軍事援助と引き換えにウクライナに調査を強制したのなら、それは国家安全保障上の問題であり、ロシア疑惑のような選挙関係のみの場合とは異なると主張している。確かにバイデン氏がウクライナ政府に検事総長を解任させる取引に使ったのは軍事援助ではない普通の援助だった。 しかし、軍事援助と引き換えの取引は、トランプ氏もウクライナ大統領も否定している。そして真に国家安全保障に脅威を与えるようなことを、中国との間で、己のファミリーの利権のために行ったのは、バイデン氏および彼を庇(かば)い立てする民主党の方なのである。 確かにトランプ氏の対中経済制裁のために米国の景気は後退してきている。だが、それでも来年の成長率は予測でも1・6%。今後の動向次第では、もっと高くなる可能性もあると思う。 また、今年の夏から短期金利が長期金利を上回る、いわゆる「逆イールド」現象が起きている。これは普通、景気後退の予兆ではある。だが景気後退が起こるまで18カ月はかかると言われていて、これは大統領選挙の後になることを意味する。 しかも原因が長期運用の余裕がなくなった中国マネーによる短期運用の増加という一過性のものだったからか、逆イールド現象が起きたらすぐに起こるはずの株式の暴落も起きなかった。それほど米国経済は堅調なのである。 そのためかインフレと失業を足した数字も6%程度。これが10%を超えればトランプ氏の再選は赤信号だが、このまま行けば再選される可能性の方が高い。 日本は当面、「トランプのアメリカ」と付き合っていくしかない。それは中国との貿易で儲けるのは難しくなり、米国との絆を経済、軍事両面で強くしていくこと以外の道はないことを意味する。そして、そうしなければ南シナ海情勢の悪化など、日本にとって致命的なことにもなりかねない。記者団らに話すドナルド・トランプ大統領 =2019年2月19日、米ホワイトハウス(ロイター=共同) それは民主党政権になったとしても同じなのだが、トランプ政権の方が民主党政権よりも信用できることは、今まで述べてきたことからご理解いただけると思う。バイデン氏のように中国に軍事情報を売るような政治家が、民主党には他にもいる可能性は、クリントン家と親しいロビイスト会社のウクライナ問題との関わりなどから考えても、低くないように思われる。 そして今後ウクライナ疑惑の真相が明らかになってくれば、大統領選で民主党が勝つ可能性は、ますます低くなる。つまりトランプ再選の可能性は高くなるのである。われわれ日本人は、そこをよく考える必要があるだろう。【iRONNAリアルイベント第2弾を開催!】政治学者で元在沖縄米海兵隊政務外交部次長のロバート・D・エルドリッヂ氏とグローバル・イッシューズ総合研究所代表の吉川圭一氏を講師に迎え、対談形式の講演会を開催します。世界の秩序を大きく変えると共に、貿易交渉や日米安保の見直しなど、日本にとっても大きな影響力を持つ米国大統領、トランプについて激論を交わします。■テーマ「神か? 悪魔か? 米国大統領ドナルド・トランプ」■日時、会場 10月31日(木)午後2時~3時半、産経新聞大阪本社(大阪市浪速区)■定員 50人募集■参加費 3千円■申し込みは産経iDのサイトから。登録(入会金・年会費無料)が必要です。https://id.sankei.jp/※詳細は下記をご確認くださいhttps://ironna.jp/theme/1057

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    戦争をしないトランプが日本にとって「不都合」な理由

    吉川圭一(グローバル・イッシューズ総合研究所代表) 9月14日にサウジの石油施設が攻撃された事案は、イランとの戦争を勃発させるだろうか。そして日本に少なくとも石油の側面で大きな影響があるだろうか。その疑問に対する回答は、現段階では限りなく「No!」に近い。では日本は何もせずに安心していてよい状況なのか。それを考えてみたい。 まず、イラン戦争は起こるか。そもそもトランプ大統領が米国外での戦争を積極的に望まず、イランとは交渉と経済制裁で諸問題を解決しようとしている。米国民も支持政党にかかわらず8割以上が、その方針を支持している。米軍も90万人の巨大な陸上兵力を持ち、ロシア製の高性能なロケットその他を保有するイランとの全面戦争を望んでいない。そしてイランも80年代のイラクとの戦争で人口の2%近い100万人が死亡し、国家経済などに重大な悪影響が出た現象を繰り返したくはない。 サウジアラビアもまた、この事案まで日産1200万バレルの石油を精製してきたが、確かに今回の攻撃で半分近い570万バレルが精製できなくなった。だが、サウジは早ければ9月末には日産1200万バレルを回復できるのではないかと考えている専門家もいる。 また、日本を含む重要な顧客向けに備蓄している石油が1億8000万バレルもある。つまり、実は大きな影響があったとは言い切れないのである。 実際、国際石油価格は、この事案前の1バレル約60ドルから、65ドルに上昇した程度である。これは比較的穏やかな変化であると市場関係者は受け止めている。 さらに米国も自国が産油国になった関係上、80年代には1日200万バレルを中東地域から輸入していたのが、今では半分以下である。そのためトランプ政権成立以前から言われている「米国は中東地域に軍を展開させている必要があるのか?」という論調が、米国の有力なメディアやシンクタンク報告書の紙面を踊っているほどなのである。 しかし、サウジがその防衛を米国に依存しており、地域のバランスを考えると、米国も簡単に放棄してしまうわけにはいかない。20カ国・地域(G20)首脳会合 記念撮影に臨む、サウジアラビアのムハンマド皇太子(奥)とドナルド・トランプ米大統領(右)=2018年11月30日、アルゼンチン・ブエノスアイレス(ロイター=共同) そこで9月20日、トランプ政権は、サウジとアラブ首長国連邦(UAE)に、防空システムと追加の兵力を送ることを決定した。ただし国防省高官は、これは防衛的な措置であり、サウジなどに追加派遣される部隊は、数千人規模にはならないだろうと述べている。つまり政治的、象徴的な意味が大きいのである。 それよりも非常に重要なのは、同時に発表されたイランへの新しい金融制裁だろう。 トランプ政権は9月20日、前述のサウジなどへの軍事的支援と同時に、イランの中央銀行および国家開発基金に対する新しい制裁を発表した。その結果、これらの金融機関が米国に持つ資産は凍結され、米国に拠点を持つ金融機関や企業との取引も停止させるだけではなく、これらイランの金融機関とビジネスを行う外国企業などの米国市場へのアクセスも禁止することができる。 ムニューシン米財務長官によれば、これらのイランの金融機関は、レバノン、シリア、イラク、イエメンなどで活動するヒズボラなどの国際テロ組織に資金を供給してきたという。例えば今年1月に国家開発基金は、「イスラム国」(IS)などのテロ組織に48億ドルもの資金提供を行っているという。 このような問題は以前から続いていて、そのため米国は昨年、イラン中央銀行のバリオラ・セイフ総裁を国際テロリストに指定するという非常に珍しい措置を既にとっていた。もちろん他国の中央銀行に対する金融制裁が異例なものであることは言うまでもない。イラン戦争は起きない! もともと米国のイラン強硬路線は、単に核武装阻止だけではなく、テロに対する支援を止めさせることにあった。例えばレバノン、シリア、イラクを中心に展開してイスラエルを狙い、米国の裏庭ベネズエラにまで進出しているイスラム教シーア派民兵組織ヒズボラは、シリアとイラクだけでも、そこに展開する米軍5200人の20倍以上の兵力を持つ。このヒズボラやイエメンからサウジを狙い今回の石油施設攻撃を行ったと言われるテロ集団などに対し、イランは莫大な資金援助を行ってきた。 そのための重要な送金ルートで、イラン国家開発基金だったわけだが、これは確かにイランの核開発などにも予算を回している。イランの核開発問題に関しては、イラン核合意に参加した欧州の国々などは、いまだに同合意を尊重し、米国の対イラン制裁には積極的ではない。 しかし、国際的なテロ対策が目的であるということになれば、この度の金融制裁に関しても、積極的に協力する可能性がある。例えばイランの中央銀行や国家開発基金が、新しい秘密口座を開設することへの取り締まりなどである。 それが成功すれば、テロ対策に非常に効果的なことは言うまでもない。それだけではなくイランの国内経済が破綻寸前になり、現政府が国民の蜂起で崩壊する可能性もある。それには時間がかかるかもしれない。しかし最初に述べたような理由で軍事攻撃を行うよりはベターと思われる。 もしボルトン氏が国家安全保障会議(NSC)の大統領補佐官を続けていたとしたら今回の石油施設攻撃を契機に一気に対イラン戦争が起こったかもしれない。しかし石油施設の攻撃は、彼の解任から数日後に起こった。そしてイランへの金融制裁などが決定される2日前の9月18日に後任のロバート・オブライエン氏が大統領補佐官になっている。 オブライエン氏はボルトン氏が国連大使時代に副官として仕え、歴代の共和党大統領候補の選挙参謀も勤めたタカ派に近い人物ではある。しかし基本的には在野の弁護士としての業績や経歴の方が大きく、トランプ政権になってからも国務省の国際人質救出交渉担当者として辣腕(らつわん)を振るった。つまり米国人を人質にするような国際テロ組織の問題には精通していると思われる。 そして基本的には交渉人タイプの人材なので、ボルトン氏のように自らの意見を推し進める(そのためにNSC内部の決定プロセスを不透明化する)のとは違い、NSCの決定プロセスを重視するだろうと言われている。 就任2日で、どれくらい影響があったかは分からないが、このような決定スタイルが、この度の金融制裁などには適していることは確かだろう。 ボルトン氏からオブライエン氏に大統領補佐官が交代する期間に、サウジでの石油施設攻撃が起こっている。何か大きな力が働いたのかもしれない。こう考えてみるとアクシデントがない限り当面はイラン戦争はないと考えてよいだろう。スウェーデン・ストックホルムを訪れたオブライエン米大統領特使(AP=共同) だが、それは日本にとって、望ましいわけではない。この金融制裁や今までの石油輸出への制裁が続いて、しかしイランが米国となかなか妥協しない、あるいはイラン政府が倒れない状況が、長く続いたとすると、今年の年末くらいから、1バレル80ドルに近い石油の値上がりが起こる可能性がある。 世界の国内総生産(GDP)の1・2%を占めるイランの経済が大打撃を受ければ、その影響が世界経済に出るからである。これは今の米中間の貿易戦争と同じ0・2~0・3%も世界のGDPを縮小させる。特に中東の石油や経済への依存度が高い日本経済には、はるかに大きなダメージが予想されるように思う。 では日本は、どうしたらいいのか? たとえ苦しい時期はあっても、米国のイラン金融制裁に積極的に協力し、イランを妥協ないし崩壊に追い込むしかないと思う。 米国に逆らってイランと石油などで取引しても、あるいは石油の備蓄を増やしたりしても、米国の金融制裁の世界のGDPなどへの影響は打ち消せない。いずれにしても日本は米国との関係なしに世界では生きて行けない。 特に今回の金融制裁のターゲットが核開発阻止だけなら英仏独などと協力できなくはないかもしれないが、テロ対策が真の目的であることが明確になってきたので、ますます積極的に協力せざるを得ない。また、積極的な協力を正当化できるとも言える。具体的にはイランの金融機関の秘密口座開設の取り締まりなどが重要だろう。 その結果として時間はかかってもイランの現政権が米国に協力的になり、あるいは崩壊してイランが民主化されれば、それがテロ対策も含めて日本にとっても最も望ましい最終的解決になるだろう。【iRONNAリアルイベント第2弾を開催!】政治学者で元在沖縄米海兵隊政務外交部次長のロバート・D・エルドリッヂ氏とグローバル・イッシューズ総合研究所代表の吉川圭一氏を講師に迎え、対談形式の講演会を開催します。世界の秩序を大きく変えると共に、貿易交渉や日米安保の見直しなど、日本にとっても大きな影響力を持つ米国大統領、トランプについて激論を交わします。■テーマ「神か? 悪魔か? 米国大統領ドナルド・トランプ」■日時、会場 10月31日(木)午後2時~3時半、産経新聞大阪本社(大阪市浪速区)■定員 50人募集■参加費 3千円■申し込みは産経iDのサイトから。登録(入会金・年会費無料)が必要です。https://id.sankei.jp/※詳細は下記をご確認くださいhttps://ironna.jp/theme/1057

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    トランプが「ビンラーディン息子暗殺」をアピールできないワケ

    吉川圭一(グローバル・イッシューズ総合研究所代表) 9月14日、トランプ大統領は、2011年に米国特殊部隊によって暗殺された9・11テロの首謀者ウサマ・ビンラーディンの息子ハムザ・ビンラーディンを、やはり米国特殊部隊が暗殺したことを確認する声明を出した。 ハムザは2015年にネットを通じて父親の後継を宣言し、その後は彼の父親譲りのカリスマ性の下、ウサマ暗殺以降、壊滅状態に近かったアルカイダは、急速に力を回復しつつあった。トランプ氏の声明に対してアルカイダは、今のところ否定ないし肯定する声明を何も出していない。いかに彼が重要な人物だったかは理解できるだろう。 これはトランプ氏にとっては重大な業績のはずなのである。しかしトランプ氏は暗殺の日付を明らかにしない。米国内では実は7月中に暗殺されていたらしいという情報が多い。 では、なぜ今になって発表したのか? 9・11から18年目の節目という意味もあるだろう。DNA鑑定などに手間取っていたのかも知れない。 しかし、同時にアフガンからの撤退のためにアルカイダをかくまっていたタリバン勢力と和平会議を行うつもりだったのが、ボルトン氏その他の反対でキャンセルせざるを得なかった。そのボルトン氏は直後に解任された。それから1週間後というタイミングには非常な意味があるのかもしれない。 アフガンからの撤退に道筋を付けたいトランプ氏としては「アルカイダを安全にした。だからタリバンと対話をしても大丈夫である」。そのようなメッセージを国内外に送りたかったのではないか? だが、米国の専門家筋では、今アフガンにいるテロ勢力の中で、最大なのはタリバンであり、2001年のアフガン戦争後より巨大化していて、とても米国が信用してアフガンの今の政府と協力させることができる状況にないと考えられている。 ちなみにアフガンには数千人の訓練された「イスラム国」(IS)の戦闘員もいる。アルカイダはなんと数十人規模の戦闘員しかアフガンには残っていないのではないかと言われていて、それもハムザ暗殺がアフガン情勢を安定させるとは言い切れない理由とも考えられる。 ただ、アルカイダは南アジア中心に多くの支部を持っている。それは数百支部にも上ると言われている。 実際、ハムザは父親暗殺後、スンニ派とシーア派の枠を超えて、イランの庇護(ひご)を受けていた時期がある。その時期に彼は米国大使館襲撃などを計画したエジプトのアルカイダの指導者であるアブドラ・アフメド・アブドラの娘と結婚している。 トランプ氏のハムザ暗殺確認の声明から数時間後、そのイランに支援されているイエメンの国際テロ組織がサウジの石油精製施設をドローン攻撃した。被害は同国の石油輸出の半分を停止させるほどのもので、これは世界の石油需要の約6%に相当するという。攻撃で損壊した国営石油会社サウジアラムコのアブカイクの石油施設(米政府、DigitalGlobe提供・AP=共同) また、タリバンの指導者たちはトランプ氏との会談キャンセルの数日後にロシアを訪問し、協力を模索している。イランもロシアと協力して、イスラエルを狙うシリアのテロ集団を支援している。さらに、それと同時に米国本土まで標的にできるベネズエラのテロ集団も支援している。 実はトランプ氏がボルトン氏を解任してまでイランとの対話路線にこだわったのは、彼の真の目的がイランの核武装阻止だけではなく、この国際テロへの支援を止めさせることにあるからだ。イランへの「アメとムチ」 核武装阻止だけだったら、特にサウジや欧州諸国の協力を得ることができれば、軍事力による空爆などでも解決ができなくはない。しかし、テロ勢力支援を止めさせるには、イランの現政権を打倒しなければ難しい。それは、今述べたような各国の協力が得られたとしても、陸上戦を含む大惨事を起こす可能性が非常に高い。 米国の対外介入を減らすことを公約に掲げて当選したトランプ氏としては、それは避けたい。そこでイランとの対話と制裁という「アメとムチ」によって、テロ集団への支援を止めさせることを考えているものと思われる。 しかし、それは簡単なことではないのではないか? ましてイランの国際テロへの影響は、部分的なものである。 例えばアルカイダのナンバー2であるアイマン・ザワヒリは、2014年にパキスタンの軍艦を奪って米国の軍艦を攻撃し、パキスタンと米国の間に戦争を起こそうとする大計画を実行しようとした。ザワヒリは力を失いつつあるという情報もあるが、だが、同時にタリバンとの協力関係の要(かなめ)であるという情報もある。 いずれにしてもザワヒリやオサマは、カリフ(預言者ムハンマドの後継者)制や領土保有を重視するISとは、ライバル関係にあった。しかしISが領土などを失った今は、アルカイダとISは接近しているとも言われている。 そして両組織共に、いわゆる国際テロよりも、むしろ各国内にいる当該国内の不満分子をネットで誘導してテロを起こさせる「一匹狼(おおかみ)」型テロに、この数年は力を入れてきた。 この問題は重要で、特に最近は米国でも、イスラムの一匹狼型テロと、例えば米国内の人種差別主義者による大量殺人とを分けて考えない傾向になってきている。そのように考えるとき、米国内で9・11以降に何らかの意味で「テロ」によって殺された人の数は、イスラム過激派が関係するものよりも、人種差別主義者によって起こされたものの方が、多いと言われている。 私も拙著『サイコ型テロへの処方箋』(近代消防社)の中で、相模原市の障害者施設で起きた事件などを、国際テロと区別せずに対応するべきだと主張した。それが米国内でも最近の銃撃事件などの影響で、同じ傾向が出てきたようである。 ある研究によれば、世界166カ国を所得別に分類すると、このような「国内テロ」は下位20%の国では世界の7%しか起こっていないのに対し、60位から20位の国の間では83%で起こっている。真に貧しい者は、テロを考える余裕もなく、豊かであればテロを考える必要は少ない。現状に不満を持つ中上級の部分からテロが起きる。 これは各国でも同様だと思う。※写真はイメージです(GettyImages) 現状に強い不満があるが、決して(少なくとも世界標準で)極貧なわけではない人は、何らかの意味で「テロ」を起こすとき、ネットで必ず事前準備をする。アニメ制作会社「京都アニメーション」の事件の犯人も、インターネットカフェで事前にいろいろな検索をしていたらしいが、プライバシー問題があるため閲覧履歴が消されているという。容疑者に対する通信傍受 いわゆるGAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)には、テロの事前準備をしている人が、分かっているはずだと思う。実際、これらの会社は、子会社などを使って、イスラムのテロに走りそうな人々を、ネットを介して「逆洗脳」するようなことはやっている。しかし、警察などとの直接協力には非常に慎重である。 そこで米国でもオバマ政権末期くらいから、令状がなくても個人のパソコン履歴を連邦捜査局(FBI)などが調べられるようにする法整備が、少しずつ進んでいる。また、最近の人種差別主義者によるテロを契機として、家族や同僚の申し立てにより、72時間まで令状なしに人を拘束できる「レッドフラッグ法」の制定も考えられている。この問題と日本で応用できるかに関しては『サイコ型テロへの処方箋』で詳しく書いた。 こうしたネットを通じたものも含む個人の通信記録の傍受に関しては、9・11以降ブッシュ二世政権がセットした「ステラウインド・プログラム」により、国家安全保障局(NSA)が米国では部分的に行っていたが、機密情報を暴露したスノーデン証言の影響などもあり、トランプ氏は最近、同プログラムは現在閉鎖していると表明している。 このステラウインド・プログラム以外にもブッシュ二世政権の設立した愛国者法により、米国国内ではテロ容疑者に対する通信傍受は、非常に簡単にできるようになっている。また、1990年代からあった「軍用装備転用プログラム」により、警察が連邦政府の助成金で、機関銃、装甲車などの軍用装備も購入できる。やはり9・11以降に作成された「ウォッチ・リスト」には、米国国民4600人を含む120万人が登録され、米国への入国や飛行機への搭乗を禁止されている。 実はアルカイダもISも、いったんは壊滅に近い状態になったものの、前記のように世界各国の支部をベースに復活してきている。ハムザが暗殺されたからといって、ザワヒリらの存在を考えると、アルカイダが再び弱体化する保証もない。イラン系のテロ集団の恐ろしさは、サウジの石油施設攻撃でも証明された。ネットを使ったテロ誘導の方法もある。そして彼らは東京オリンピックでテロを起こすことで、自分たちの復活をアピールしたいと考えている! 日本は一刻も早く日本版の監視プログラム「ステラウインド」、「軍用装備転用プログラム」、「ウオッチ(監視)リスト」あるいは「レッドフラッグ法」などを整備するべきだろう。私は『東京オリンピック・パラリンピックは、テロ対策のレガシーになるか?』(近代消防社)という書籍も書いているが、そのための取材を通じても、まだ日本のテロ対策は十分とは感じられない。 このまま東京オリンピックを迎えたら、重大テロが発生するかもしれない。それは外国から入って来たテロリストによるものとは限らない。京都アニメーションで起きたような不祥事が、オリンピック開催中に競技場からは遠い場所だったとしても、外国人観光客が多く集まるような場所で起こったら、どうするのか?東京五輪まで1年を迎えた新国立競技場=19日午後、東京都新宿区(本社チャーターヘリから、納冨康撮影) このように考えてみると、ハムザ暗殺は決して世界を安全にしたわけではない。まして東京オリンピックが安全になったわけではないのである。 以上の文章で私が展開した諸々の提言が、オリンピックまでに少しであっても日本でも実現することを願うものである。【iRONNAリアルイベント第2弾を開催!】政治学者で元在沖縄米海兵隊政務外交部次長のロバート・D・エルドリッヂ氏とグローバル・イッシューズ総合研究所代表の吉川圭一氏を講師に迎え、対談形式の講演会を開催します。世界の秩序を大きく変えると共に、貿易交渉や日米安保の見直しなど、日本にとっても大きな影響力を持つ米国大統領、トランプについて激論を交わします。■テーマ「神か? 悪魔か? 米国大統領ドナルド・トランプ」■日時、会場 10月31日(木)午後2時~3時半、産経新聞大阪本社(大阪市浪速区)■定員 50人募集■参加費 3千円■申し込みは産経iDのサイトから。登録(入会金・年会費無料)が必要です。https://id.sankei.jp/※詳細は下記をご確認くださいhttps://ironna.jp/theme/1057■ボルトン解任で「日本の核武装」が現実的になった■宮崎正弘×吉川圭一対談 米国が描く中国崩壊シナリオはこれしかない■「結果的に得する」中国を叩きのめしたいのはトランプだけじゃない

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    ボルトン解任で「日本の核武装」が現実的になった

    吉川圭一(グローバル・イッシューズ総合研究所代表) 9月10日、ボルトン大統領補佐官(国家安全保障問題担当)が解任された。その深層を分析してみると、トランプ政権の実態が見えてくる。そして、それは日米安保の大幅な見直しにもつながっていく可能性が極めて高いのである。 そもそもボルトン氏が前任者のマクマスター氏に代わって国家安全保障会議(NSC)の大統領補佐官になったのは、ポンペオ氏が中央情報局(CIA)長官からティラーソン氏に代わって国務長官になるのと、ほとんど同時だった。部下を戦死させたくない制服軍人のマクマスター氏と石油会社の社長だったティラーソン氏は、共に対イラン強硬路線に反対だった。 ボルトン、ポンペオ両氏は、共にタカ派として知られていた。北朝鮮に対しても先制攻撃論者だったが、二人ともNSCの大統領補佐官や国務長官に任命される前後から、トランプ政権が目指していた北朝鮮との対話路線に積極的になった。つまり、この人事は明らかに対イラン強硬派シフトであったのだ。 日本にとっては残念ながら、この段階で少なくともイラン問題が米国の目から見て解決するまで「二正面作戦」を避けるためにも、北朝鮮とは融和路線を進むことが、トランプ政権の方針だった。 だがトランプ政権は、サウジアラビア人記者、カショギ氏殺害事件を契機として、サウジの協力を得るのが難しくなった。欧州(おうしゅう)諸国を巻き込んだ対イラン有志連合の形成にも手間取っている。いずれにしてもトランプ大統領は、少なくとも2020年の再選までは、流血の大惨事を避けたいと本気で考えているようである。 と言うよりも、トランプ氏はこれまでワシントン既成勢力が行ってきた政治を改め、例えば外交に関しては過度な世界への介入を止めることを主張して大統領になった。そして、マクマスター氏ら制服軍人を含めた既存のワシントンの官僚や政治家を徐々に廃して、この公約の方向に自らの政権を変化させてきた。 ところが、ボルトン氏は印象とは違って、トランプ政権の中では珍しいくらいのワシントン既成勢力派だった。その中では最もタカ派的で、また個人としては真面目な理想主義者だったにすぎない。 それに対して、ポンペオ氏は2010年に下院議員になった元弁護士で、しかも将来は大統領の地位を狙っているとも言われている。ポンペオ氏がトランプ氏の方針に忠実だったのは当然だったかもしれない。 実は、ボルトン氏もこれまで多くの同僚たちとの摩擦が問題になったことはあっても、上司との関係は常に良好だった。しかし年齢も70歳。国家に対する最後の奉仕という気持ちもあったかもしれないし、いずれにしても個人としては実に真面目な理想主義者である。そのため、ボルトン氏は次第にトランプ氏の思惑を外れて対イラン、対北朝鮮その他で、強硬路線をひた走り始めた。 ここで同氏がワシントン既成政治派だったことの影響が出てくる。多くの元同僚を集めることで、NSCを彼は乗っ取ってしまったのだ。イランへの限定的空爆が行われそうになったのも、ボルトン氏がトランプ大統領に正確な情報―100人規模の戦死者が出ることなどを直前まで知らせなかったためだった。このような状況は、その数カ月前から始まっていた。 やはりワシントン既成勢力の一員というべき制服軍人のマティス氏が国防長官を解任されてから、国防長官代行だったシャナハン氏は、民間企業出身でワシントン政治に慣れていなかった。そのためボルトン氏に影響されることが多かった。 そこでシャナハン氏を解任し、ポンペオ氏と学生時代から親しいエスパー氏が国防長官に任命される人事が、イラン空爆の直前に行われた。そこでイラン空爆が直前に中止された経緯がある。ボルトン氏の後任候補 実はエスパー氏も制服軍人なのだが、少なくとも対中強硬派で、しかも宇宙軍創設には積極論者だった。ワシントン既成勢力である古いタイプの軍人や国防省官僚らが、ポストの奪い合いなどを嫌って宇宙軍創設に反対しているうちに、米国は宇宙軍で中国やロシアに後れをとってしまっていた。そこで宇宙軍を創設することもワシントン既成勢力打破を目的とするトランプ政権の重要な役割だった。 それを任されていたのが、ボーイングの元副社長で、理系でキャリアを積んだシャナハン氏だった。彼であれば制服軍人以上に上手くできたかもしれない。 さらに、仮に日米安保の大幅な見直しが行われることがあれば、どの在日米軍基地が本当に米国にとって必要で、どれは撤退させてもよい―といった計算も、コンピューターのプロである彼であれば、できるだけ多くの基地を守りたい制服軍人よりも的確にできただろう。 しかし、理系の彼はワシントン政治のプロであるボルトン氏に影響されすぎた。そこでシャナハン氏も解任され、ポンペオ氏に近く、部下を戦死させることを嫌う制服軍人であるエスパー氏が国防長官になった。これはボルトン氏とのバランスをとるためだったと思われる。 しかし、ボルトン氏は自らの理想と信念をひた走り続けた。イラン、北朝鮮、日本であまり報道されていないベネズエラなどに対して、これまで以上に強硬路線を主張した。そのため軍事境界線で行われた3回目の米朝会談のときは、モンゴルに出張させられていたほどである。 このような摩擦が何度も続き、ボルトン氏の解任の最後の決め手になったのは、9月7日、数日後に予定されていたアフガンのタリバン勢力とのキャンプデービッド和平協議を、トランプ政権がキャンセルせざるを得なくなったことだと言われている。これはテロ勢力との和解に反対する強硬派のボルトン氏によるリークも大きな原因の一つであるとワシントンでは考えられている。 このアフガンからの撤退問題に関しては、トランプ氏は大統領になる前から、正規軍を民間軍事会社に置き換えることを構想している。それは当然、制服軍人を中心としたワシントン既成勢力が嫌うことである。リークはボルトン氏からだけのものだったのだろうか? いずれにしても副補佐官、クッパーマン氏がしばらくは大統領補佐官代行になることになった。ボルトン氏に近すぎる彼が正式に大統領補佐官になる可能性は低いが、ないとは言えないようにも思う。彼はシャナハン氏と同様、ボーイングと非常に縁深く、宇宙軍の創設や世界の米軍展開見直しなどにおける活躍が期待できるからである。ホワイトハウスの執務室でトランプ米大統領(左)の話を聞くボルトン大統領補佐官=2019年8月20日、ワシントン(ゲッティ=共同) ほかにボルトン氏の後任として名前が挙がっているのは、みな今までイランや北朝鮮との対話路線で活動してきた人ばかりである。いずれにしても、今後のトランプ政権はアクシデントがない限り、当面はイランとも北朝鮮とも対話路線でいくことになるだろう。 その結果として、米国まで届く核ミサイルさえ持たなければ、核武装したままの北朝鮮と米国が和解する事態も考えられないわけではない。そうなれば日本は北朝鮮の核の脅威に常に曝(さら)されることになる。日米安保見直しの可能性 ボルトン氏がいてくれれば、日本に味方してくれるのに―と考える日本の保守派は多いかもしれない。しかし、そう一概には言えないだろう。 ボルトン氏は米国の愛国者で米国の国益を何よりも重視してきた。日本が国連安保理常任理事国になることを積極的に支援し始めたのも、彼が主導したイラク戦争が中国の反対で国連による容認決議がとれなくなってからであり、ブッシュ一世政権時代は湾岸戦争に中国も国連で容認したこともあり、その後の日本の安保理常任理事国入りに積極的ではなかった。 拉致問題に非常に積極的に協力してくれたのも、北朝鮮を追い詰めるための手段だ。そしてボルトン氏も実は沖縄米軍基地撤退論者だったはずなのである! この最後の問題も、私のワシントン時代の経験からすると、制服軍人以外のワシントン既成勢力―特に国務省の官僚の共通認識に実は、なってしまっているように思う。ボルトン氏と言えどもワシントン既成勢力の、それも国務省高官の一人である。 そのワシントン既成勢力を打倒することが歴史的使命であるトランプ政権もまた、米国が世界に広げすぎた手を縮めて、その分の予算で国内の格差問題などに注力することが目的だ。 そう考えると、シャナハン氏、クッパーマン氏といった理系のプロ的な人々が、米国の外交政策を取り仕切るようになったときが、米国が日本に日米安保の大幅な見直しを要求してくるときなのではないかと思う。 その際に米国は、核を持ったままの北朝鮮と和解し、日本は常に北朝鮮による核の脅威の下におかれるかもしれない。 日本は、それに備えて憲法を改正し、軍事力を増強するしかないだろう。だが日本の力だけで足りるだろうか? 一縷(いちる)の望みは今の米国の「反中」は本気だということだ。南シナ海でも航行の自由作戦を繰り返し、ボルトン氏の沖縄米軍撤退論も、その替わりに台湾に米軍基地を置くことを主張していた。中国だけではなく、中東方面での有事を考えるとき、在日米軍基地はロジスティクスの拠点として重要なものも多く、そんなに多くの在日米軍基地を削減できるか疑問もある。 今の米中の経済摩擦は、単なる貿易や技術の問題だけではない。通信技術の問題は、軍事力による世界覇権―特に宇宙軍やサイバーの問題と密接に関係している。 むしろここに、日本が米国に協力できる部分があるのではないか? 技術的な問題の一部だとしても、日米共同の宇宙戦やサイバー戦が行えるようになれば、中国や北朝鮮の核の脅威も低減させることができるかもしれない。 いずれにしても米国から購入するような形でも、もう日本も核武装も考える時期だと思う。それはワシントン既成勢力が、最も嫌がることではある。しかし彼らを打倒する歴史的使命を帯びたトランプ氏は、2016年の予備選挙の最中に一度とはいえ、口に出しているのだ。会談の前に握手するボルトン米大統領補佐官(右)と河野太郎外相(当時)=2019年7月22日、東京都千代田区の外務省(佐藤徳昭撮影) もし実はワシントン既成勢力の一員だったボルトン氏が、大統領補佐官のままだったら、それを許してくれただろうか? 今回の「ボルトン失脚劇」は、タカ派とハト派の対立というより、ワシントン既成勢力とトランプ改革政治の対立だった。いずれにしても制服軍人以外は、両者共にそろそろ在日米軍基地の大幅な見直しを考えていることは共通している。 しかしトランプ氏には日本の核武装も含めた既成勢力とは異なるビジョンがある。これからも日本はトランプ政権の人事その他の動向を注視し、その先手を打って協力するようにしていかなければ、世界の中で生き残ることができなくなってしまうだろう。【iRONNAリアルイベント第2弾を開催!】政治学者で元在沖縄米海兵隊政務外交部次長のロバート・D・エルドリッヂ氏とグローバル・イッシューズ総合研究所代表の吉川圭一氏を講師に迎え、対談形式の講演会を開催します。世界の秩序を大きく変えると共に、貿易交渉や日米安保の見直しなど、日本にとっても大きな影響力を持つ米国大統領、トランプについて激論を交わします。■テーマ「神か? 悪魔か? 米国大統領ドナルド・トランプ」■日時、会場 10月31日(木)午後2時~3時半、産経新聞大阪本社(大阪市浪速区)■定員 50人募集■参加費 3千円■申し込みは産経iDのサイトから。登録(入会金・年会費無料)が必要です。https://id.sankei.jp/※詳細は下記をご確認くださいhttps://ironna.jp/theme/1057■宮崎正弘×吉川圭一対談 米国が描く中国崩壊シナリオはこれしかない■トランプ政権誕生を暗示した?三島由紀夫「50年後」の予言■「結果的に得する」中国を叩きのめしたいのはトランプだけじゃない

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    「救世主トランプ」世界の終末は起こるか

    トランプ政権誕生から2年半が経過した。この間、中国との対立をエスカレートさせ、両国の覇権争いは経済だけでなく軍事面にも波及しつつある。緊張が高まる中、トランプ大統領がもたらすものは「新秩序」か、それとも「破壊」なのか。グローバル・イッシュー総合研究所代表の吉川圭一氏が大胆予測する。(写真はロイター=共同)

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    トランプ政権誕生を暗示した?三島由紀夫「50年後」の予言

    を希求している。 この点に関して私は、次のように考えている。 キリスト教が欧州文明のものだとすると、アメリカ大陸も日本も異界の地だった。その異界の地でキリスト教が突然変異を起こしたものが、米国における福音派その他の宗教保守派であり、そして日本における芥川龍之介、太宰治、三島由紀夫の文学ではないか? 米国福音派にしろ、日本の芥川、太宰、三島の文学にしろ、物質世界の存在や理性主義を、人間の純粋精神を抑圧するものとして、否定的に考える傾向がある。2019年7月7日、米ニュージャージー州の空港で、記者団に語るトランプ大統領(AP=共同) だが、それは物質や理性を重んじ過ぎた結果ではないか。米国は物質や理性を英国より重んじる社会である。芥川、太宰、三島にしても、日本の近代化=物質主義化の過程の中で、理性主義を徹底的に身につけた人々であった。米国福音派の信仰や、芥川、太宰、三島の思想は、理性や物質世界の限界を、米英経験論以上に深く悟ったために出て来たものとも考えられる。 その観点からすれば、芥川、太宰、三島の最期を、単なる“自殺”と理解するべきではないだろう。一種の「純粋精神」を貫き、物質世界や理性主義の限界を突破して、より高いステージに進んだと理解するべきだろう。そして、それは米国の福音派等が聖書の世界終末の預言を心の底から信じ、リセットとしての“世界の終末”を希求するのと、類似しているのではないか?来るべき「世界終末」 この“米英経験論をも超えた理性主義の克服”という意味で、トランプ氏の“脱理性主義”と、福音派等の宗教保守思想とが、交錯するのではないか? そのような観点から本書では、思想史の一般的な考え方とは異なり、あえてトランプ流“脱理性主義”と、福音派等の宗教保守思想を、一括して「反理性」主義と表記したい。 理系志望だった青年時代の私は、極めて理性主義的な人間であった。だが、大病をして医学(理性)的には解消できない後遺症と闘いながら生きて行かざるを得なくなり、そのため「反理性」主義と極めて良く似た考え方をするようになった。そうした境地に私をいざなったのは、三島由紀夫の文学であった。そのためか私は、米国の福音派等の宗教保守派にも、強い親近感を持っている。 本書で、私がトランプ氏と彼を支持する福音派等の宗教保守派に関して、非常に肯定的な書き方をした理由も、そこにある。そしてトランプ政権が中東や南シナ海で戦争を仕掛けるタイミングと、それを予想するための考え方を提示したのも、米国福音派的な、そして芥川、太宰、三島的な「“世界終末”への希求」による部分が大きい。三島は、“自分の思想は、自分の死後50年後に実現する”と言い残した。三島の死から50年後とは、2020年に当たる。実を言うと、私が“2020年に中東か南シナ海で戦争が起こるのではないか?”と考えるのは、この言葉に触発されたからである。 「明日、世界が滅びるとしても、私は今日、庭にリンゴの木を植える」という有名な諺がある。“世界終末”は、来るかもしれないし、来ないかもしれない。人間は、自分そして愛する家族や友人が、これからも最低限幸福に生きていくために、今日を生きるしかない。 トランプ政権によって起こされるかもしれない中東や南シナ海における戦争を始めとする諸々の事態に直面した際、本書が少しでも多くの人々の被害軽減に役立つなら、それはそれで喜ばしい。 しかし、本書の中で繰り返し触れたように、経済のグローバル化や人工知能の発達の強い副作用は、それと闘おうとするトランプ大統領の努力にもかかわらず、発症の時期を遅らせるだけで、人類社会に対し、重大な悪影響を及ぼして行くだろう。それは悲惨な結果に結びつく可能性が高い。東京オリンピックのボクシングの見物に会場を訪れた三島由紀夫=1964年10月 つまりトランプ氏の行動にかかわらず、リセット――“世界の終末”は必ず起こる。人類が理性主義や物質世界から解放されて、「純粋精神」に満ちた世界へ立ち返るべき時期は、そう遠い未来ではない。その時における心構えを考える上で、本書が少しでも役に立つならば、これ以上の幸いはないと思う。トランプ大統領の「文化防衛論」トランプ大統領の「文化防衛論」 2018年6月中旬よりメキシコ国境での不法移民親子の引き離しが米国で問題化した。この問題を考えている内にトランプ政権を成立させた思想と三島由紀夫の「文化防衛論」との共通性に気付いた。つまり精神的、文化的“共同体”の防衛である。 この「親子引き離し」問題に関しては、トランプ政権の不寛容政策のために極端になっている部分は否定できないが、不法移民の親が裁判中は子供を米国保健福祉省が預かるというのは、クリントン、オバマ政権が決めたものである。2018年は極端な状態が起きて政治問題化したため、トランプ大統領は応急処置の一環として、不法移民親子を軍事基地に収容するように命じた。これも実はオバマ政権でも1回は行われた政策なのだが、その時の収容人数は7000人だった。2018年は2万人以上の収容が必要だという。つまりオバマ時代における最悪の年の3倍もの不法移民が、米国に殺到したのである。 これは白人プロテスタントの共同体としての米国の危機と言わねばならない。実際、米国の保守派の間では、カトリック教団が「親子引き離し」問題等に批判的なのは、カトリック系が多い南米系移民を増やすことで、米国でのカトリックの影響力を増そうとする陰謀との意見が広まっている。そのためかトランプ大統領の前戦略顧問のバノン氏が、彼自身カトリック教徒にも関わらず、保守派枢機卿等と協力してフランシスコ教皇を退位に追い込もうとしているという噂も流れている。 これは『英霊の声』で三島由紀夫が、左翼以上に厳しい昭和天皇批判を行ったことを思わせる。他にもフランシスコ教皇はLGBTに寛容な発言を行う等、宗教者失格である。バノン氏を応援したい。 ただ、カトリックだけではなく、共和党支持の宗教保守派の一部にも、「親子引き離し」には批判的な宗教者がいるという。宗教といえども精神的、文化的“共同体”の同一性が保たれて初めて成立する。宗教だけではない。人権も同様である。国連人権理事会が同問題に関して批判した翌日、米国は同理事会を脱退している。表面上はパレスティナ問題が主要因であるが…。スティーブン・バノン氏=2017年12月(宮崎瑞穂撮影) 人権も理性主義の見地から精神的、文化的“共同体”を破壊するものになっているのではないか?人権も精神的、文化的“共同体”同一性保持の範囲内でのみ成立すると考えるべきだろう。また国際機関等も、グローバル化や理性主義の見地から、精神的、文化的“共同体”を破壊するものになっている。日本も国連人権理事会等を、脱退するくらいで良いだろう。 米国の国連人権理事会脱退から数日後、難民に寛容だったEUも、政策転換を表明。世界は国際主義的見地による移民、難民に寛容な方向から、精神的、文化的“共同体”防衛論の方向にシフトしつつある。この流れを日本人も理解し促進しなければならない。安易な人権主義的見地から移民、難民の保護等を考えるべきではない。突き放す良い意味の冷酷さを、日本人も身に着けるべき時だろう。よしかわ・けいいち 政策コンサルティング事務所「グローバル・イッシューズ総合研究所」代表。2016年まで米国ワシントンDCにも拠点を持ち、東日本大震災を契機に一般社団法人日本安全保障・危機管理学会防災(JSSC)ワシントン事務所長として、日本に米国と同様の危機管理専門省庁の立ち上げを目指す政策提言活動に取り組む。2017年以降は日本国内をベースに、テロ対策や米国政治に関する政策提言活動を続ける。著書に『911から311へ—日本版国土安全保障省設立の提言』『東京オリンピック・パラリンピックは、テロ対策のレガシーになるか?』(近代消防新書)など多数。

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    2020年「世界の終末」米中南シナ海戦争の現実味

    h of China's neighbours are set to profit?”では、南部中国アメリカ商工会が調査したところ、米国の中国からの輸入関税が高過ぎるため、219社の内70%が、生産拠点を中国外に移転させることを検討している。米国の関税政策も中国との戦争が可能な状況を作ろうとしているとも見られる。 逆に南シナ海を射程に入れる中国南部にも、中国は中距離ミサイルを、やはり500発以上、保有している。それも南シナ海周辺での局地戦の形ででも、米国に勝てる体制を作っていると考えられる。INF保有の「意味」 そこで米国がINFを保有する意味が出て来る。南シナ海を射程に入れる中距離ミサイルが配備された中国南部を狙うことが出来る場所に米国のINFが配備されれば、もし南シナ海の人工島等を米国が攻撃したりしたとしても、中国は報復核攻撃が難しい。そこにある中距離ミサイルが破壊されるだけではない。 そのような位置にある米国のINFは、中国の重要地帯にも届くのである! その到達時間は短く、中国が米国をICBMで脅かしたとしても、このINFの方が早く到達するため、米国を中国は核で脅かすことは難しくなる。前述のように潜水艦発射の核ミサイルは、報復攻撃には使えるものの、安定性等の点で十分ではない。また前述のように攻撃を行えば、位置を特定されて撃沈される。 INFが中国を射程内に入れて展開されれば、米国に対する中国の優位は成り立たなくなる。そこでボルトンNSC担当大統領補佐官はロシア側に、中国の中距離核戦力はロシアにも脅威となっていると、ロシアが米国と共に、中国の中距離核戦力の脅威封じ込めのため、軍備管理交渉に中国を加えるようロシア側に呼びかけている。それが上手く行かなければ、中国南部を射程に入れる地域への米国のINF配備という結果になる。具体的には台湾やインドの東岸沖の島等が有力な候補地だろう。 またNational Interestが10月22日に配信した前掲記事では、まず巡航ミサイルその後に弾道ミサイルを配備する方式で、北日本、グアム、南フィリピン、北オーストラリアも重要な候補地だという。これにより、いわゆる“第一列島線”の内側の海を、中国に自由にさせないことが出来ると同記事は主張している。(注:2019年2月、米国が日本を含む、これらの地域に、まず核を搭載しない中距離弾道ミサイルの配備を始めるという情報が、流れ始めた)このようなシステムが一部でも配備されたとしたら、それは南シナ海戦争――少なくとも人工島の破壊と、それに対抗する中国による米艦船への攻撃等が、近い可能性が低くない。中国も重要地帯への先制核攻撃の恐怖から、地上発射の核ミサイルは使えない。 あるいは人工島解体と中距離ミサイルの撤廃ないし配備中止を巡って、米国と中国が交渉に入るかも知れない。1980年代の米ソが、核兵器等の軍縮に入って行ったように…。あるいはキューバ危機の時のように…。偶発的に大規模な核戦争に発展しないと、今度は断言できないかもしれないが…。特に中国が潜水艦発射核ミサイルを完成させる2020年代以前に、何らかの意味での西太平洋地域へのINF配備が実現したら、それが要注意のタイミングだろう。 National Interestが10月14日に配信した“How to Goad China into a War in the South China Sea”によれば、2020年に米国は、今までにない大規模なリムパックを、南シナ海で行う予定である。それに米国は中国を参加させない方針である。そこで中国を敵に回すのが怖い東南アジア諸国の中には、そのリムパックに参加しない国も出て来ると思う。しかし“中国封じ込め”のために参加する国もあるに違いない。G20に出席するため来日した習近平国家主席=2019年6月、大阪空港(代表撮影) このタイミングで前述のような場所に米国のINFないし中距離弾道ミサイルが配備されるとしたら…。そして2020年の大統領選挙で、トランプ氏が劣勢に立たされたとしたら…。そして、その時に中東大戦が起きる状況でなかったとしたら…。その時が南シナ海戦争が、最も起こり易いタイミングだろう。われわれ日本人も、準備をして置かなければいけない。 例えば水中発射ミサイルを発射可能な潜水艦を保有しておくとか…。実は日本は、それを実現できる技術力はあるのである。更にNewsweekが11月15日に配信した“U.S.‘COULDLOSE' ITS NEXT WAR:REPORT SHOWS MILITARY WOULD‘STRUGGLE TO WIN' AGAINST RUSSIA AND CHINA”によれば、米国の軍事力は相対的に落ちて来ていて、少なくとも中露両国を相手にした“二正面作戦”に勝つ可能性は、極めて低いという。特にハイテク兵器分野での開発競争の遅れが深刻であるという。 その分野でも日本は、米国を助けられる力は、まだまだある。例えば日本の自動車会社の電気自動車のシステムは、敵のハイテク・システムを麻痺させる電磁波の発生装置としても、米国製のものより優れているという説もある。また前にも書いたように米国は、このような劣勢を挽回するため、宇宙軍を創設しようとしているが、これもロケットや衛星の誘導システムの一部では、日本が米国より良い技術を持っているという。米国宇宙軍創設にも日本は、可能な限り積極的に協力すべきだと思う。そして米国が宇宙軍を創設するタイム・リミットも、やはり2020年であることは要注意である。「中国!中国!」と絶叫 更にFOXが2019年1月17日に配信した“Trump announces new missile defense plan with focus on sensors in space”によれば、トランプ大統領は国防省で新ミサイル防衛構想と言うべきものを発表。宇宙にセンサーを張り巡らして、敵のミサイルが発射される前に探知して迎撃するシステムを確立すると言う。これは同記事の中でも、これから実現のための研究を始める段階であり、費用や効果の点で疑問も多いと述べられている。 だが同時に、ロシアや中国が開発した極超音速ミサイルに対抗するには、必要であるとも書かれている。この記事によれば、トランプ氏は、イラン、北朝鮮、ロシア、中国といった具体名は言わなかった。しかし同席したシャナハン国防長官代行は、それらの国々の名前を上げた。彼は宇宙軍構想も、最初から任されていた。 ロイターが1月3日に配信した“For Shanahan, a very public debut in Trump's cabinet”によれば、シャナハンは2019年の年明けに、事実上の国防長官として国防省高官達に対して演説した時、“今後の米国は、アフガンやシリアではなく、中国に焦点を集中するべきだ”と「中国!中国!中国!」と絶叫した。 この新ミサイル防衛構想が2020年までに実用化されるとは思えないが、特に対中国関係のものが部分的にでも2020年までに何らかの目処が付くようであれば、それも要注意の信号だろう。何れにしてもシャナハンの“就任演説?”を見ても、ロシアと中国との二正面作戦を、米国が避けたがっていることは間違いない。そうなれば安倍総理のトランプとプーチン双方との信頼関係は、米国と中露の“二正面作戦”を回避し、日米露(そしてインドやオーストラリア等)が協力して中国を封じ込める上で、非常に意義あるものになる可能性がある。 2018年12月初旬のG20で、トランプ大統領は、プーチン大統領との会談をキャンセルした。しかし安倍総理は、両方と会談している。更に中国を刺激しないため米国との首脳会談に慎重だったインドとの間に立ち日米印首脳会談を実現したのも安倍総理である。トランプ大統領がプーチン大統領との会談をキャンセルしたのは、表面上はロシアがウクライナの艦船を拿捕した事件である。 だが例えばFOXが11月29日に配信した“Ian Bremmer: I'd Be‘Very Surprised' If Trump and Putin Don't Meet Informally at G20”によれば、実際には国内の“ロシア疑惑”が進展しているためではないかと考えられている。7月に米露会談が延期されたのと同じで明らかに、理性主義者によるトランプ氏の“脱理性主義的外交”に対する妨害である。何れにしても安倍総理とトランプ、プーチン両氏との関係で、日米露首脳会談を実現させ、ウクライナ問題等にも一定の解決を付けたとしたら、それは日米露による中国包囲網に繋がる。 そもそもロシアがINF全廃条約を破ったのは、中国の脅威に晒されたからだ。Newsweek前掲記事でも最近の中露接近に強い懸念が表明されている。そこに楔を打ち込むことは不可能ではない。そのNewsweek前掲記事でも、北朝鮮の脅威にも言及されているが、日本人が気にかけている北朝鮮情勢は、以上のようなプロセスの一部として処理されるのではないかと思う。 トランプ氏は2019年3月に入って2020年度軍事予算増額の方向になっている。彼は本気なのだ。何れにしても、われわれ日本人は、南シナ海戦争に備えて準備をして置かなければいけないのではないか? 2020年までに…。南シナ海を航行中の護衛艦「いずも」=2017年6月、南シナ海(自衛隊ヘリから、松本健吾撮影)   そして、それは中東戦争以上に、日本を巻き込む核戦争つまり“世界の終末”になる可能性が高い。INF等の使用により…。やはり、それへの覚悟を決めておくことこそ、最重要なことかもしれない。(起筆:2018年11月19日) よしかわ・けいいち 政策コンサルティング事務所「グローバル・イッシューズ総合研究所」代表。2016年まで米国ワシントンDCにも拠点を持ち、東日本大震災を契機に一般社団法人日本安全保障・危機管理学会防災(JSSC)ワシントン事務所長として、日本に米国と同様の危機管理専門省庁の立ち上げを目指す政策提言活動に取り組む。2017年以降は日本国内をベースに、テロ対策や米国政治に関する政策提言活動を続ける。著書に『911から311へ—日本版国土安全保障省設立の提言』『東京オリンピック・パラリンピックは、テロ対策のレガシーになるか?』(近代消防新書)など多数。

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    韓国と対峙するうえで想定すべき「国際世論戦」

    渡瀬裕哉(パシフィック・アライアンス総研所長)日韓慰安婦問題、元徴用工訴訟、そして輸出管理の問題をめぐって亀裂を深める日韓関係――。日本政府は安全保障の観点から、韓国の「ホワイト国」除外を決めた。気鋭の政治アナリストでパシフィック・アライアンス総研所長の渡瀬裕哉氏は、安倍政権の決定を支持しながらも、国際世論戦における悪手を指摘。日本が真にとるべき道を提言する。 安倍政権閣僚のメディア向けメッセージが適切なものにならなかった理由の一つは、本人たちは認めないだろうが、輸出管理見直し措置が参議院議員選挙を意識したものだったこともあるだろう。 対ロ外交、対イラン外交、G20に関しても選挙戦にインパクトを与えるほどに目覚ましい成果が上がったとはいえず、今年に入ってから「外交の安倍」の看板に有権者から疑問符が付き始めたことは否めない。 また、保守系の支持者からも同政権に対して過剰に阿る人びとを除いて、同政権の韓国の振る舞いに対する中途半端な対応についてフラストレーションが溜まっている状態も生まれていた。 そこで、直近の外交交渉相手のなかでは最弱国である韓国に対し、自国内の手続きを変えるだけの措置で実行できる手段を用いて、国威発揚のデモンストレーションを実施することは、選挙向けに手っ取り早く外交成果を得る方法としては妥当なものといえる。 そのため、選挙戦略上の趣旨から、韓国の輸出管理に関する安全保障面の懸念のみに言及すべきところで、自ら徴用工などの歴史問題という余計な話題に触れざるをえなかったのだろう。※写真はイメージです(ゲッティイメージズ) 3年間も放置されてきた問題に対して同見直し措置が選挙直前に実施されたこと、そして選挙期間中の最終盤に外務大臣が駐日韓国大使を説教したことなど、WTO(世界貿易機関)での係争開始を見据えた場合、デメリットしかないタイミングだといえる。 万が一、閣僚の発言を根拠の1つとして韓国側の主張がWTOで認められる事態となった場合、日本政府は韓国に対して自国内の輸出管理すらも自由に運用できない状況に追い込まれることになる恐れもあり、それらの安易な発言を行なった人びとはどのように政治責任を取るつもりなのだろうか。トランプの「対日カード」 さらに、文大統領がトランプ大統領に日本政府の輸出管理運用見直しについて仲裁を依頼したことが明らかとなっている。 もちろん安倍首相とトランプ大統領はきわめて良好なリレーションを維持しているため、韓国側の主張が理不尽な形で日本に押し付けられる可能性は高くないだろう。 ただし、韓国側から対日関与の依頼がトランプ大統領に行なわれたことは、同大統領にとっては興味深い対日カードを新たに1つ手に入れたことを意味している。 安倍政権とトランプ政権との貿易交渉は参議院議員選挙後に大詰めを迎える段階となっているが、そのような重要な局面において本件はトランプ大統領に無用な借りをつくってしまうことになるだろう。 仮にトランプ大統領が同見直し措置の問題に介入する場合、それは日本の対韓政策の敗北といえる。 したがって、安倍政権はトランプ政権による介入を絶対に回避しなくてはならないため、トランプ政権は労せずして日本政府に対してきわめて有効な貿易交渉カードを手に入れたことになる。 また、ロシアや中国は安倍政権が両国に対して強い態度に出てこない姿勢を笑っているに違いない。ロシアは北方領土を奪って平気な顔をしているどころか、領土交渉も日本側から果実を引っ張り出した上で意図的に内容を後退させている。※写真はイメージです(ゲッティイメージズ) 中国は現地邦人を不当に拘束した上、急速な軍拡を実施しながら日本に対する示威行為を繰り返している。 筆者には、傍若無人な振る舞いを繰り返す国々に対して生温いメッセージを送りながら、韓国という弱国にしか強気に出られない政権と、中露両国がまともに外交交渉を行なうとは思えない。きわめて粘着質の国 しかも、同見直し措置の意図すら純粋な安全保障目的ではなく、参議院議員選挙目的のように見えかねない現状に鑑み、両国の独裁者たちから日本が鼻で笑われても仕方ないだろう。 日本国民は単発の行為としては「よくやった」と思える外交措置であったとしても、それに伴うメッセージや実行のタイミングなどの全体像を踏まえた上で、二国間交渉ではなく多国間レベルの視座をもって日本政府はどのように振る舞うべきか、ということを意識するべきだ。 二国間交渉において交渉相手をやり込めることは当然のこととして、交渉行為自体を第三国との交渉に有利な影響を与えるように設計し、政権担当者がそれらの設定を踏まえた発言を行なえるよう事前に準備しておくことが重要だ。 少なくとも外交政策を展開し始める前に、必ず国際的な世論戦の形を想定してからスタートするべきである。 筆者は今回のように参議院議員選挙直前という「事前に周到に準備された発言」以外の不測の発言が飛び出しやすい環境で、韓国半導体産業に対する締め上げに直結する重要なカードを切るという安倍政権の判断には疑問をもたざるをえなかった。 WTOでの訴訟の結果が出るまで数年かかる見通しであるが、結果が出るころには安倍政権は次の政権に道を譲っていることになるだろう。※写真はイメージです(ゲッティイメージズ) 今後、韓国のようなきわめて粘着質の国と対峙するにあたっては、将来的に責任をもつことができる政権が万全な体制を築いて戦いを挑むようになることに期待したい。関連記事■ 混迷の日韓関係、日本政府が行なった“手痛い悪手”■ 海軍反省会ー当時の中堅幹部が語り合った400時間の記録■ 韓国が日本政府を侮辱し続けても、止められない「ごね得」■ 日米開戦を「近衛総理に一任」した及川古志郎海相を、元・海軍中堅幹部はどう評価するのか■ 拡大する韓国の武器輸出 日本が国益のために「取るべき行動」

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    「弱肉強食」新冷戦で喰われるニッポン

    東西冷戦終結から30年。今や米国と中国の対立が激化し、「米中新冷戦」時代に突入したと言われる。米中の覇権争いと、その裏でうごめくロシア。国際秩序は崩壊状態といっても過言ではなく、国家間のパワーバランスの変化も目まぐるしい。この混迷を読み解けば、日本が乗り越えるべき試練は自ずと見えてくるのではないか。

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    「結果的に得する」中国を叩きのめしたいのはトランプだけじゃない

    堅持といった各国共通の大きな議論にはなっていない。 その背景にあるのが、トランプ大統領の登場以降の「アメリカの変質」にある。「保護主義に対抗」というかつての先進7カ国(G7)やG20の決まり文句は、トランプ氏の「アメリカ第一主義」に真っ向から対立する。さらに、お決まりの「気候変動対策」も同じだ。 その米国の態度の変化の向こう側にあるものは、もちろん「壊し屋」的なトランプ氏の手法だろう。ただ、国際関係を見ていくと、やはり中国の台頭がアメリカの変質を促進しているのは言うまでもない。 つまり、G20という多国間の国際秩序が揺らいだ背景には、米中対立の中で、「やり方を変えないといけない」という米国側の焦りがあったといっても言い過ぎではないだろう。 過去の米国の対中政策は「ヘッジ(強硬論)」と「エンゲージメント(関与論)」のいずれかを使い分けるというバランスが基本だった。特に、1989年の天安門事件以降は、中国に対する米国の姿勢は非常に厳しかった。 だが、貿易パートナーとしての中国の存在が大きくなってくる中、基本的には自由貿易の枠組みに入れて「関与」し続ければ、中国の国家資本主義的な体制が減るという見方が米国の中で大きくなっていった。その象徴的なものが2000年に立法化された「対中恒久正常通商関係(PNTR)」法であり、中国に恒常的に最恵国待遇を与えることになった。その結果として、中国の世界貿易機関(WTO)加盟が認められることになる。2019年6月28日、G20大阪サミットで首脳の特別行事を終え、トランプ米大統領(左)と握手する安倍首相。右は中国の習近平国家主席 ただ、この見方が「間違い」であるということが、トランプ政権発足前後から米国内ではコンセンサスになっている。中国はWTOの仕組みの中で、中国側が逆に他の国を「自由でない」と主張ができるようになってしまったためである。 中国の場合、知的財産権も守らない。米国の貿易赤字は増えていく。「中国だけが結果的に得をする」状況に対するいら立ちが極めて大きくなっているわけだ。緩まない「矛先」 2018年10月4日、ペンス副大統領がハドソン研究所で行った演説は、中国に対する米国の生ぬるい態度を自己批判するものだった。「米国は、中国に自国の市場へのオープンなアクセスを与え、WTOに招いた。これまでの政権は中国があらゆる形の自由を尊重するようになると期待し、こうした選択をしたが(中略)その期待は裏切られた」とペンス氏は指摘した。 トランプ氏は2016年大統領選で「貿易赤字は是正せねばならない。対中国はその筆頭」「政権発足初日に中国を為替操作国と認定する」と公約した。「貿易赤字がその国にとって有害である」という見方は、学術的には支持されていない。だが、トランプ氏の支持層には「グローバル化は中国に米国の雇用が流れた」というわかりやすいメッセージに支持者は歓迎した。 トランプ氏は「貿易赤字こそが問題」と提唱する経済学者のピーター・ナバロ氏を選挙戦からのアドバイザーとしてだけでなく、政権発足後は貿易戦略のブレーンとして登用した。為替操作国の方はまだ行われていないが、貿易赤字解消の政策は、実際にメキシコ、カナダとの北米自由貿易協定(NAFTA)見直し、米韓自由貿易協定(FTA)の見直しなどとともに、中国に厳しく迫っている。 対中強硬の動きが本格的に明らかになったのは第1回米朝首脳会談の直後の2018年6月15日である。自動車や情報技術製品など、中国からの輸入品計1102品目に対し、500億ドル規模の追加関税措置を行うと発表した。ここから米国側の「どんどん中国を締め上げていく」という動きが明確化した。 トランプ政権は2018年中に各種中国製品に対して3度の制裁関税を課している。先述の500億ドルのうち、7月に自動車など340億ドル(25%)分、8月に半導体など160億ドル(25%)分を課し、9月には日用品など2000億ドル(10%。2019年5月10日に25%)分に適用した結果、制裁関税は計2500億ドルに達している。 これに対して、中国もそれぞれの制裁のタイミングに合わせて、大豆など340億ドル(7月、25%)、医療器具など160億ドル(8月、25%)、家電など600億ドル(9月、5から10%。2019年6月1日に最大25%)の報復関税を課している。米国も2019年5月に第4弾として、これまでに対象外だった3250億ドルに25%関税をちらつかせた。 結局、冒頭で述べたG20に合わせて行われた米中首脳会談で、関税の先延ばしを決めている。ただし、あくまでも延ばしただけであって、まだ中国への矛先は全く緩んでいない。米ハドソン研究所で演説するペンス副大統領=2018年10月4日、ワシントン(AP=共同) 中国に対する圧力は貿易だけではない。トランプ政権の対中政策で特筆されるのが、貿易戦争と安全保障政策の密接な関連である。トランプ氏やナバロ氏が重視していた対中貿易問題に対して、官僚や利益団体、シンクタンク研究員など、政権周辺の安全保障に関心のあるグループが乗っかっていった。 トランプ政権は2017年末に国家安全保障戦略(National Security Strategy)、2018年1月に国家防衛戦略(National Defense Strategy)、2019年6月にはインド太平洋戦略(Indo-Pacific Strategy)を掲げてきた。いずれも主なターゲットは中露だが、その中でも中国を強く意識している。根底にある「不信感」 その根底にあるのが、中国の国家資本主義に対する不信感である。技術なり、あるいは盗んだ情報なりを吸い上げて、国や軍に渡してしまう可能性を危惧している。 「いかなる組織及び個人も、国の情報活動に協力する義務を有する」という中国の「国家情報法」(2017年6月)の第7条や、中国のハイテク発展ロードマップである「中国製造2025」などが、トランプ政権の危惧をより大きくさせている。それもあって、第5世代移動通信システム(5G)を基盤とするハイテク武器への影響が問題となり、最大手の華為技術(ファーウェイ)に代表される中国通信系企業の製品の利用に対して、大きな制限をかけようという動きがあるのは言うまでもない。 トランプ政権の動きも急だ。2019年度国防権限法(2018年8月)では米政府の情報システムの調達企業からファーウェイと中興通訊(ZTE)、海能達通信(ハイテラ・コミュニケーションズ)、杭州海康威視数字技術(ハイクビジョン)、浙江大華技術(ダーファ・テクノロジー)という中国企業5社を排除した。 その他、大統領令13873(サイバー空間などで国家安全保障にリスクがあるとする企業の通信機器をアメリカ国内の企業が使うことを禁止)、商務省のエンティティリスト(米連邦政府の許可を得ることなく、外国企業が米企業から部品などを購入することを禁止)などでの規制強化を進めている。 G20という多国間の国際秩序が、中国という「異分子」をうまく飼いならせなかった現実にあって、多国間秩序を引っ張ってきた米国そのものも大きく変貌しつつある。 ただ、2020年の大統領選に向けて、トランプ氏にとっての最大の懸念は景気後退である。トランプ氏としても支持者への影響を考えながら、貿易の面では少しずつ取引や妥協をしていく可能性もないわけではない。 貿易問題では、ある程度合意できるかもれない。しかし、安全保障上の脅威としての中国の問題は、既にトランプ政権だけでなく民主党を含む、ワシントンのコンセンサスとして広く認識されるようになっている。 米国の対中世論全体を見ても、中国に対する一般の見方も厳しくなっているほか、安保では民主党側も相乗りしている。これまでには机上の空論とみられていた中国を米企業のサプライチェーン(部品調達網)から外す「デカップリング」論も正面から議論されるようになっている。中国・北京にあるファーウェイのショールーム=2019年5月20日(UPI=共同) 安保の面での「中国叩き」はだいぶ続くとみられる。米国とソ連の「冷戦」は代理戦争を含めて、実際にかなりの軍事衝突があった。今回の米中の場合は、当面の軍事衝突こそないものの、軍拡が続く中国をけん制しながら静かに展開する「冷たい戦争」が長く続くものとみられる。 形骸化するG20の向こう側には、米中の激しい2国間対立の世界が広がっている。■ 米中貿易戦争「日本が得する」逆転シナリオが一つだけある■ 「安保は不平等」トランプの持論蒸し返しで鮮明になる日米の主戦場■ 習近平はなぜ金正恩に6年間の「借り」を返す気になったのか

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    宮崎正弘×吉川圭一対談 米国が描く中国崩壊シナリオはこれしかない

    宮崎正弘(評論家)吉川圭一(グローバル・イッシューズ総合研究所代表) 宮崎 日本のメディアは、アメリカと中国の貿易摩擦を「米中貿易戦争」と報じています。もちろん貿易戦争には間違いないですが、そもそも米中は基本的に長い間衝突の構造にあります。今は単に関税のかけ合いのレベルなので、これはいずれ終わります。お互いにものすごく傷ついていますからね。むしろ決定的なのは、関税をかけたことによって中国の経済構造がガラッと変わったことでしょう。中国で生産できないものはすべてベトナム、カンボジアに移しています。つまり、中国の「産業の空洞化」をもたらす構造変化が起きたということです。これが一番大きい問題です。 二番目に大きいのは、アメリカが為替操作国として認定すると脅しをかけていますが、逆に今、人民元はものすごく弱いということです。弱い通貨を強くするために、一番稼いできたドルをすべて人民元の買い支えに使っているわけです。こうしたことで、中国の経済力が弱まっています。これはおそらくトランプではなく財務長官あたりのアイデアだと思いますが。 そして米中対立というのは、貿易戦争の関税かけ合いレベルから、第5世代移動通信システム(5G)のテクノロジー覇権争奪戦に完全に移っているわけです。で、この流れから、私はまもなく金融戦争が始まるだろうという見立てをしています。 吉川 なるほど。先の20カ国・地域(G20)首脳会議(サミット)でトランプがアメリカのマイクロチップを中国通信機器大手のファーウェイに売っていいよ、中国人のハイテク技術者へのビザ優遇もしますよということは言いましたが、だからといってファーウェイ製品をアメリカが買うわけではないのです。国内の規制を緩めるつもりはないでしょう。 中国人技術者のビザの件も、アメリカのメディアをこまめに見ていると、アメリカのどのハイテク企業も、理系の大学も、中国人の専門家にビザを申請するときには米連邦捜査局(FBI)がうるさく調べにくるので、できるだけもう取りたくない、という実際の現場の温度感が分かります。 宮崎先生がおっしゃっているようなアイデアで中国を徐々に弱めつつ、5Gの問題ではアメリカが中国に先んじるよういろいろな手を打っていくのではないでしょうか。米中新冷戦について対談する宮崎正弘氏(右)と吉川圭一氏=2019年7月、東京都千代田区(三尾郁恵撮影) 宮崎 中国はすでに相当先んじていますからね。いろんな側面から考えられますが、まずは特許の問題でしょう。4Gのときはことごくアメリカが特許を押さえていて、ファーウェイでさえOS(基本ソフト)は「アンドロイド」です。それをひっくり返すのはファーウェイもできない。 もう一つできないことは、半導体を中国が作ること。今の時点で半導体を20%作ったなんて豪語していますが、それはどの程度の半導体か分からない。さらにアメリカは「半導体製造設備は売らない」と言っている。これが決定的で、中国は半導体を作れないということなのです。 アメリカがここまで焦っているのは、将来のマーケットの取り合い程度ではないということ。例えば、米国の最新鋭ステルス戦闘機「F35」の部品は中国製が相当入ってきていましたが、それによってF35の性能が落ちる、ということが起こっているわけです。逆に中国はミサイルの性能が上がっています。コンピューターの精度やドローン技術、航空産業、宇宙産業の技術、すべてアメリカから盗んだものによって成り立っている。アメリカはうかうかしていたら、圧倒的な軍事的優位という立場が脅かされると、アメリカ人の心底に恐怖感がある。だからあんな強い態度で臨んでいるわけで、ちょっとやそっとではこの対立は終わりません。中国が白旗を上げるか、共産党がつぶれるまで続くか、そこまでは分かりませんが。もし、トランプが次の選挙で敗れることになれば、また別の展開になるかもしれません。トランプは再選する! 吉川 私はトランプが苦戦しそうなのは、ハリスという民主党上院議員ぐらいだと思っています。ハリスは黒人で女性ですが、それ以上にトランプと同じように2016年までワシントンにいなかった。冷戦終結以来のワシントン政治は、ローテーションで同じ顔ぶれが政治を行ってきました。政治家も、官僚も。彼らの理性一辺倒でマニュアルにはまった政治では、もうアメリカの国家も国民生活も保てなくなっています。そこで今までワシントンにいたことのないトランプが出てきたと、私は考えています。今年3月に出版した『救世主トランプ-“世界の終末”は起こるか?』(近代消防社)でも、そのように書かせて頂きました。 それを考えるとハリスならトランプと良い勝負ができそうに思いますが、2000年や2016年のような状況になっても、地方の保守的な票の力でトランプが勝つでしょう。そもそもハリスは新人議員で思想的にも穏健派とは言えない。民主党の候補者になるのも簡単ではないと思います。 ハリス以外は左翼メディアに応援されていてもアメリカ国民の多数からも嫌われている極左か、あるいは2016年以前のワシントン政治にどっぷり浸かってきた、それも親中派的な候補が多い。今アメリカでは左翼メディアまでが反中です。それを考えるとトランプと似たような3人目の独立候補が出て票が割れない限り、トランプは再選されると私は今の段階では思っています。 その反中国テクノロジー競争の話に戻すと、5Gでアメリカが中国を上回れば、サイバー攻撃で中国に対抗できるという算段もあるでしょう。 今年の春ぐらいにワシントンでずいぶん評判になった、ブルッキングス研究所のオハンロン氏の著書の中で、「もし尖閣が中国に占領されたらどうするか」ということが書かれていました。日本の海上自衛隊と米海軍で取り囲んで、あとは中国に経済制裁をした上で、サイバー攻撃みたいな形でやんわりと出て行ってもらうというのが主旨です。これがアメリカでずいぶん評判になったのですが、裏を返せばアメリカとしては日本のために本気の戦争はやりたくない、自国の若者の血を日本のために流したくない、という空気になっているということですね。 イラン攻撃も、トランプは実際の攻撃を思いとどまった後、サイバー攻撃を考えたとされていますが、そのサイバー攻撃をイランは撃退したと主張しています。イランも北朝鮮もロシアの技術が入っており、米中だけではなくロシアも入って、イラン、北朝鮮、ベネズエラが駒として動いています。北朝鮮とイランの間には、おそらくロシアの仲介により、ミサイルや核の協力関係があるとされています。アメリカの裏庭のベネズエラに、イランの支援する国際テロ組織の支部ができて、ロシアも軍事顧問団的なものを送っているようです。 非常に複雑な立体地図の中で、トランプとプーチンと習近平がどう動くのか、それに対して日本も先読みして安倍晋三首相がどう動くか。それによって日本がこれからの生き残れるのか決まってくると思います。G20首脳会議のデジタル経済に関する特別イベントであいさつする安倍晋三首相(中央)。左はトランプ米大統領、右は中国の習近平国家主席=2019年6月、大阪市住之江区(代表撮影) 宮崎 もう一つ、昨年の10月4日に、ペンス米副大統領が演説で「われわれは今までハッカー戦争で受け身だったけれども、これからは攻撃型に変える」と言っています。それと宇宙軍を作ることも明言しています。 これがどういうことかと言えば、例えば5Gで中国が先んじた場合、通信速度は現状の100倍ぐらいになる。今0・001秒差ぐらいなのが、0・00001秒ぐらいの差で中国のハッカーが米国防総省(ペンタゴン)の中枢に入り込んで命令系統をズタズタにしたら、アメリカは戦えない。だから宇宙軍を作って、アメリカが先に中国の指揮系統を叩く、そういう戦争になっていくと思いますね。ソ連型と異なる「中国崩壊」 吉川 そういうことも今までのワシントン政治では既成勢力の予算獲得競争などで上手くいっていなかったのが、トランプが大統領になってから軌道に乗り始めた。そのようなサイバー攻撃や宇宙軍がしっかりしていれば、超音速で飛ぶミサイルも、事前に宇宙から索敵しておいて撃墜することなどもしやすくなります。そういう新スターウォーズ構想のようなものをトランプは中間選挙の後に明らかにしました。 最初のスターウォーズ構想は、レーガン大統領が言い出したものです。まったく同じことは当時のソ連には技術的にできなかったから、ソ連は降参して冷戦は終結したわけですが、それと同じような形にもっていこうとしているのではないかと考えています。 宮崎 ソ連の場合、経済制裁を受けていましたが、ソ連には全く輸出するものがなかった。原油とウォッカとマトリョシカくらいじゃないでしょうか。でも、中国は山のように輸出するものがあって、外貨が入ってくる。だから、経済的に中国を干すというのはなかなか難しい。つまり、ソビエト型の崩壊というシナリオは考えにくいでしょう。 吉川 そうでしょうね。ただ国際政治の理論で、「軍事競争というものは量的な競争であり、量的な競争をやっていれば接戦になるので熱い戦争になるけれども、質的な競争は一方が急激に伸びて圧倒的に勝つ可能性があるので、もう片一方が何らかの形で降りざるを得なくなる」という考え方もあります。米ソ冷戦はそういう形になったわけですが、今回の米中の5Gやサイバーというのも、質的競争で決着がついてくれればいいなと思います。 宮崎 先ほど米中対立は、次に金融戦争になると言いましたが、アメリカにはもう一つ癪(しゃく)に障っていることがあるからです。それは「ドル体制」という戦後のブレトン・ウッズ体制を中国がひっくり返そうとしていることです。 中国が進めているのは、まず人民元の勢力圏を作ること。アジアインフラ投資銀行(AIIB)なる奇怪な銀行をつくって、それから国際通貨基金(IMF)に人民元が入ってきた。そして通貨スワップ、もしくは人民元決裁権を方々に広げています。例えばタイでは食堂に入っても人民元が使えるぐらいです。ロシアとの貿易決済も一部人民元にしています。 これをどうやってアメリカが食い止めるかなのです。つまり、通貨覇権を絶対に死守するということですが、これから使うであろう手というのは、中国の外貨を払底させるというのが一番でしょう。そうすると人民元という価値がぐっと下がりますから。二番目に実行するのは、中国の銀行の信用力を崩壊させることです。こういうわれわれには全く見えない手を打っているのだろうと思います。完全に機密になっているので、今は想像でしか言えませんが。 ただ、こうした状況を見ていると、中国は自壊が始まっているようです。何しろ、中国の負債総額が日本円で6千兆円ぐらい、一説によれば9900兆円という見方もあります。ただ、中国の国内総生産(GDP)は1千兆円ぐらいあるでしょう。このGDPの飛躍をどこで止めるかですが、そもそも大半が不動産投資です。だから簡単で、金融を閉めたら不動産投資にいかない、いかないばかりかこれまで不動産のローンを組んだ人たちは相当哀れな結末になるのではないかと思います。要するに、アメリカが金融面における攻撃を始める前に、中国が自滅していくのではないでしょうか。すでに包商銀行が危うくなって、中国政府が救済しました。徐々にアメリカで起きたサブプライムによる破綻で起きたリーマン・ショックと似た状況になっている。中国政府もまだ小さな銀行は助けますが、次に大手がひっくり返ったときは危ないですよ。評論家の宮崎正弘氏=2019年7月、東京都千代田区(三尾郁恵撮影) 吉川 アメリカの新聞を見ているだけでも、25%の関税のおかげで輸出ができなくなって困った中小企業を助けるために、そういう中国の大手銀行が積極的に貸出するように中国政府が命令して貸し出した。しかし、お金をもらった中小企業は何をやっているかというと、どうせ新しい工場を建てても輸出はできないから、不動産投資をやっている。どんどん中国経済の実態がなくなってきているわけで、関税政策が中国の金融崩壊を速めているのは確かですね。親中派も多い自民党 宮崎 ではこの状況に日本はどうすればいいのかと言っても、74年間憲法を変えられない国が主体的にどうしようと言っても無駄な気がしますし、基本的なことを言うしかない。自分が正しく判断したことを、主権を行使してやりなさい、という。これはどの国でも基本でしょう。リーマン・ショックのときには、三菱UFJ銀行が銀行を買わされて、野村証券が、中東かどこかのリーマンブラザーズを強制的に買わされたじゃないですか。ということは、中国が悲鳴を上げて日本に助けを求めたときに、お人好しな自民党政権はやっぱり助けると思います。 吉川 そうですね。自民党は親中派も多いですからね。 宮崎 そうそう、そこが危ない。特に伊藤忠商事はまだ、中国に投資していますから。中国と心中するつもりなのでしょうか。 もう一つ留意すべきは、大々的に生産しているトヨタ、日産、ホンダが結局どうするかでしょう。最悪のシナリオはかつての満洲と同じように財産を全部おいて逃げ帰ってくることですね。中間的なシナリオとしては、トランプが仕掛けた今の貿易規制がますます強化されるでしょうから、日本企業のハイテク部門やケミカル関係など、すべて影響を受けることになります。 吉川 すでに昨年末の段階で、南部中国アメリカ商工会の調査によると、会員企業の約7割が中国からの撤退の準備をしているそうです。別の統計ですが、オバマ政権末期には456億ドルもの対中投資を米国企業はしていたのに、2018年は20億ドル。サプライチェーンは切断され始めています。そうなれば、経済・金融・技術面での覇権争いで、アメリカが優位になれるだけではありません。軍事的な「熱い戦争」をしてもアメリカは困らなくなる。 私は南シナ海問題がこれからもっと深刻になってくると思いますね。南シナ海はほかに比べて水深が深いので、水中発射でアメリカまで届く核ミサイルを装備した潜水艦を沈めておけます。ですから、アメリカは南シナ海で行われる中国の軍事訓練に非常にナーバスになっていて、人工島やミサイル発射台を撤去してほしいと強硬に言っていますし、南シナ海では部分的に「熱い戦争」になる可能性もあるのではないでしょうか。 第一列島線である沖縄、台湾、フィリピンあたりに、核は積まないにしても中距離弾道ミサイルを置いておけば中国をつぶせるという戦略が、ワシントンのシンクタンクからも正式に出ています。そのために米国は中距離核戦力全廃条約(INF)から撤退しました。結局80年代の欧州と同じで、そういうものを一度配置して、中国側が南シナ海から撤退するならアメリカもそれを撤去し、かつ関税も下げるというような取り引きが、トランプと習近平の間で来年の選挙後ぐらいにあるのではないかと予想しています。 宮崎 G20前後に言っていたトランプの日米安保条約破棄というのは冗談ではなく、かなり本気の部分があると言えます。でも、それは大いに歓迎すべきことではないかと思います。わが国が主権国家であるならば、自分で防衛するのは当然ですからね。それをトランプは早くやれと言っているわけです。 吉川 米ソ冷戦が終結したときにアメリカが一方的に日本を守らなければいけない理由がなくなったので、日米安保の見直し、日本の憲法問題、核武装など何から何まで考えなければならなくなることを、冷戦終結当時に何人かの先生と話した記憶があります。 ところが、そこへいわゆる「瓶の蓋(ふた)」論が出てきた。「もし米軍が撤退したら、日本はすでに相当な能力を持つ軍事力を、さらに強化するだろう。誰も日本の再軍備を望んでいない。だから、われわれ(米軍)は(軍国主義化を防ぐ)瓶の蓋なのだ」という考え方です。そしてクリントン政権というものができてしまった。彼は非常に理性的な学歴エリートで、その彼と体質を同じくするワシントンの役人も、日本が軍事大国になるのは脅威ではないかという考え方だったわけです。その考え方をする官僚らが25年もワシントン政治を仕切ってしまった。本来、私の認識では25年前に出るべき「日米安保の見直し」論が、クリントン政権以来、延び延びになっていたのが、今になって出てきたのではないかと思います。吉川圭一氏=2019年7月、東京都千代田区(三尾郁恵撮影) 宮崎 その前に、1980年に日米安保改定20周年のシンポジウムを開催しており、これはフォード前大統領と岸信介元首相が共催したものです。そのときにアメリカから「もう改定して20年も経っているのだから、中身が不均衡なものをより対等なものに改定する必要がある」と提案がありました。日本の新聞も報道はしましたが、それで終わってしまう。誰も重視していなかった。日米安保の改定というのは本来なら日本が言い出すべきですが、そのままずるずると時間だけが過ぎていったのが事実です。 だからトランプは「非常にアメリカだけ負担が大きい、それからアメリカだけが犠牲になる」と認識している。戦争でもし闘っても、日本はそれをソニーのテレビで見ているだけだと、不満がマグマのように噴出しているのが分かります。障害は日本の現行憲法 吉川 トランプは大統領選挙、特に予備選挙の最中からそういうことを言っていました。今回トランプから日米安保の見直し論が出てきたのは、イランのことがあるからだと思います。 イランがアメリカの無人機を攻撃したので、それに対する報復攻撃をやろうとしたが、直前で思いとどまった。そのときに、日本は消費する石油の6~7割をペルシャ湾から買っているにもかかわらず、日本がペルシャ湾の防衛をやらないのはおかしいのではないかとツイッターでつぶやいて、G20後の記者会見でもそのことは言っていました。こういう一連の流れからすると、トランプは本気なのではないかと私は思いますね。 宮崎 本気であることが分かる一方で、トランプは日本に関する勉強をほとんどしてないから、理解度は低いですね。北朝鮮危機のときも、日本に協力しろ、と言ったら日米安保条約、日米地位協定、それから日本の憲法があってできないということを初めて知ったようで、本当にびっくりしたという話もあった。日本は戦争に巻き込まれるようなものではなく、後方支援や終わった後の地雷処理とか、そういう協力しかできないことを今はだんだん分かってきたのではないでしょうか。 だから次にその不満をどこにぶつけるかというと、結局日本の障害になっている憲法だと。だから、憲法改正を迫るのは内政干渉になるけれども、形を変えて言ってくるのではないかと思いますね。 吉川 「在日米軍基地駐留経費の日本側負担を何倍かに値上げしろ!」などですね。それくらい言われたらさすがの日本人も、そんなお金を払うなら憲法を改正して強力な自前の軍隊を持った方がよいと目覚めるかもしれません。米国製の兵器と今まで引き取ってきた米国債を交換してもよい。その代わりに、むしろ在日米軍基地駐留経費を今までは7割負担していたのを5割にしてくれと交渉する。最初から5割と言えば6割にされてしまうので、3割と言っておいて5割で手を打つ。それくらいのことを日本がしてもよいと思います。 そうなれば、在日米軍基地の見直し問題も出てきます。マティス国防長官が退任後、しばらく国防省のトップが不在でしたが、今年6月にボーイング社の理系重役だったシャナハン国防長官代行が国防長官への指名を断ったのです。彼はボルトン大統領補佐官に影響されてイランとの早期開戦論者だった部分があるので、イランとの流血の大惨事を少なくとも来年の選挙まではしたくないというトランプの意向が、もしかしたら少しあったのかもしれない。そしてポンペオ国務長官の陸軍士官学校時代からの友人で、マティスと同様に元制服軍人だからこそ部下を戦死させるようなことは避けたいエスパーが国防長官に就任しました。 ただ、本当に日米安保を見直すということになった場合、「この基地とこの基地は日本の領土上になくてよい」などとコンピューターで計算して交渉をするなら、シャナハンが最適だったと思います。エスパーのような制服軍人はどちらかというと、日本の軍事基地は守りたい方が多いのです。 日米安保を大きく見直す、日本側も憲法を大きく見直さざるを得ないという話が出てくるとしたら、エスパーから民間出身の人に再び国防長官が代わったときではないか、と今の段階では思っています。米ホワイトハウスで、エスパー国防長官(左)を見やるトランプ大統領=2019年7月(AP=共同) 宮崎 いずれにしても、すべてまた劇的に変わり始めるのは選挙の後でしょう。その前に中国の自滅が金融面で始まると思いますがね。 吉川 それと中国国内の知的財産権保護と産業補助金制度撤廃という米国の主張が関税などの圧力で実現するか?そうすれば5Gでもアメリカが中国に巻き返しできるかもしれない。 これは、われわれ日本人には既視感があります。80年代に日本がアメリカにされたこととよく似ています。あのときは、そういう日本国内の構造改革そしてドル安誘導や国際決済銀行の規制がバブル崩壊へと繋がりました。そういう意味でも宮崎先生の考えは間違っていないと思います。 みやざき・まさひろ 昭和21年、金沢市生まれ。早稲田大中退。「日本学生新聞」編集長、雑誌『浪曼』企画室長を経て、貿易会社を経営。58年『もうひとつの資源戦争』(講談社)で論壇へ。著書に『拉致』(徳間文庫)『中国大分裂』(文藝春秋)『出身地で分かる中国人』(PHP新書)『中国権力闘争 共産党三大派閥のいま』(文芸社)など多数。 よしかわ・けいいち 政策コンサルティング事務所「グローバル・イッシューズ総合研究所」代表。2016年まで米国ワシントンDCにも拠点を持ち、 東日本大震災を契機に一般社団法人日本安全保障・危機管理学会防災(JSSC)ワシントン事務所長として、日本に米国と同様の危機管理専門省庁の立ち上げを目指す政策提言活動に取り組む。2017年以降は日本国内をベースに、テロ対策や米国政治に関する政策提言活動を続ける。著書に『911から311へ—日本版国土安全保障省設立の提言』『東京オリンピック・パラリンピックは、テロ対策のレガシーになるか?』(近代消防新書)など多数。■「米国はもう崖っぷち」5G戦争、ファーウェイ排除のウラ側■「宇宙軍創設」トランプの真意は中国への宣戦布告に他ならない■日本の円圏構想をパクった中国の「一帯一路」はどうせ失敗する

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    新冷戦から生まれた中露印の新勢力「3G」から恐怖は始まる

    欧米諸国が結束する自由主義陣営が対峙する「東西冷戦」は、軍事だけではなく文化、スポーツにまで及んだ。アメリカと張り合ったソ連は結果的に敗北したが、ロシアでは往年の栄光に浸る人々が増加している。モスクワ都心にはソ連スタイルのカフェやレストランが人気で、少なくとも15軒を数える。 その日、私はロシアの友人、ドミートリーと「ドクトル・ジバゴ」で久しぶりに軽めの昼食をとる約束をしていた。真っ白なテーブルクロスが敷かれたテーブルを囲んでドミートリーはシベリア名物のペリメニ(羊肉の水餃子)を口に運びながら、世にも奇妙な物語を披露する。 「ある日、モスクワの狭い通りを、ロシア男性が運転するソ連製のオンボロ車が走っていました。その前には2台の自動車が快走しており、それぞれの車の運転手は神と悪魔だったらしい。その道の先は、行き止まりになっていた。 神は急に右折して繁華街が広がる大きな通りに向かいましたが、悪魔はその手前を左折し、路地に迷い込みました。後を追うロシア運転手は2台の自動車の動きを見定めてからどちらに曲がるべきか、迷うことはありませんでした。神を追うかのように右方向のウインカーを出しておいて、実際には悪魔の方に左折しました」 悪魔を追いかけるロシア人。どうやら建前では神を崇拝するそぶりを見せながらも、悪魔にすっかり魅了されてしまっているようだ。そんなロシア人を率いる最高指導者、ヴラジーミル・プーチン大統領は2016年11月24日、ロシア地理協会が主催するコンテストで入賞した9歳の男児ミロスラフ君の肩を引き寄せ、こう問いかけた。 プーチン「ロシアの国境線は、どこで終わっていると思う?」 ミロスラフ「ベーリング海峡のところです」 プーチン「正しくないね。ロシアの国境線には終わりがないんだよ」 プーチン氏が意味ありげな表情でニヤリとすると、授賞式の会場から大きな拍手が巻き起こった。少年の言う海峡とは、アメリカ領のアラスカとロシア北東端を隔てる水域だ。ソ連邦の崩壊で領土がすっかり縮小してしまったロシアなのだが、プーチン氏は失地回復どころか、まるで大英帝国に匹敵する「プーチン帝国」を築こうと目論んでいるように私には思える。 先の友人の例え話には続きがあり、悪魔を追って左折したロシア人を、中国をはじめとしてトルコ、イラン、そしてインド、北朝鮮の各指導者が追随するのだ。私は、まるでロシアが先導する「悪魔の館」に彼らが結集し、暗闇のなかでコソコソと悪巧みするような不穏な気配を感じる。露モスクワで会談後、合意文書の署名式に出席したウラジーミル・プーチン露大統領(右)と中国の習近平国家主席=2019年6月5日(AP=共同) 2019年7月23日、衝撃的なニュースが報じられた。ロシアと中国の爆撃機が約11時間にわたって編隊を組み、日本海と東シナ海の上空で初めての共同警戒監視活動を展開したと言うのだ。極東アジアでの中露による軍事的な存在感を強烈にアピールするもので、日米軍事協力体制の最前線に中露の軍事的脅威が迫っているに等しい。中露訓練に北朝鮮が参加の意思? 実は両国の軍事協力はかつて、大規模に実施されたことがある。2018年9月11日から1週間、ロシア極東やシベリアで繰り広げられた軍事演習「ボストーク(東方)2018」に、中国軍とモンゴル軍が参加していた。その規模は1981年以降、最大規模だったと言われている。 そもそも中露の軍事協力が本格化したのは、2017年6月7日のことだ。カザフスタンで両国の国防相が会談し、ロシアのショイグ国防相は中国の常万全国防相(当時)に「2020年までの防衛軍事協力」を約束した。両国軍による軍事演習を初めて実施し、軍事機密の共有、さらには軍事ドクトリンの整合性を盛り込んだ。 中露の共同訓練が確認された翌々日の7月25日、北朝鮮が動いた。G20の閉幕直後にトランプ大統領と文在寅大統領とそろって首脳会談した金正恩委員長だったのに、北朝鮮はロシア製の「イスカンデル」にきわめて似た弾道ミサイルを2発打ち上げた。おそらく、シリアでロシア軍が使用しているミサイルが転用されたのだろう。 北朝鮮がミサイルを発射したのは、中露による共同訓練に参加する意思を示したのではないだろうか。中露と北朝鮮が警戒しているのは、8月に予定されている米韓合同軍事演習であり、韓国大統領府は「計画通りに実施される」と表明している。今年の夏は「中露+北朝鮮」対「米韓」の対立が激化する危険性が高まっている。まさに「新冷戦」の始まりだ。 プーチン政権は、中露関係の強化だけでは飽き足らないようだ。反米同盟の拡大を画策し、インドに触手を伸ばしている。2018年12月以降、アメリカはインドの市場開放が不十分だと非難し、関税優遇措置を停止すると宣言。アメリカへの不信感を募らせるモディ首相は、ロシアに急接近している。 インドは、ロシア製の最新型地対空ミサイルシステムのS400を購入する契約を結んだ。総額は50億ドルに達し、インドとアメリカの関係にきしみが出ている。トランプ政権の発足以降、両国は中国を牽制するための信頼関係を醸成してきたが、一気に亀裂が走っている。 ロシアの思惑は、どこにあるのだろうか。2014年以降に拡大した欧米諸国の経済制裁でロシア経済は衰退したために、東方外交に舵を切り、中国との関係改善に乗り出した。しかし、中国の経済成長も超高齢化社会を迎えて、将来は先細りになると予想されている。経済統計によれば、2024年にはインドは中国を抜いて世界一の人口を擁し、2030年にはインド経済は飛躍的に台頭する。プーチン氏はいつまでも中国に依存すれば、共倒れになると危惧している。インドとアメリカの摩擦につけこんで、将来を見据えてインドを取り込む戦略にプーチン氏は打って出た。 プーチン氏は、インドと中国が放つアメリカへの不満に勢いづいて、こう息巻いた。 「ロシア、インド、中国の3カ国の枠組みは保護主義や単独行動主義、不法な制裁を否定する。3カ国の協力関係は著しく発展しており、安全保障と財政の各分野での協議が発展している」左からインドのモディ首相、ロシアのプーチン大統領、中国の習近平国家主席 反米を軸にまさに「3G(グル)」の巨大な勢力圏が誕生しようとしている。3カ国とも核保有国であり、日本海から西太平洋、東シナ海、インド洋に及ぶ軍事的な影響力は絶大である。3カ国の総人口が世界で占める割合は38%、世界の陸面積の20%に達する。「日本は祈る」は通用せず プーチン氏は今年6月に大阪で開催されたG20の直前、フィナンシャル・タイムズのインタビューで、欧米諸国を厳しく批判した。 「現代の自由主義といわれる思想は結果的に、時代遅れになっています。その思想のいくつかの要素は、単に現実とマッチしていません。多文化を認めることが大切です。移民問題が発生すると、自由主義思想は機能不全を起こし、自国の住民の利益を優先するハメに陥っているのです」 プーチン氏の発言は、移民と難民への対応で苦慮するアメリカとヨーロッパ諸国にはびこる民族排外主義を念頭に置いている。自由主義を掲げてきた諸国の自己欺瞞を非難しているかのようだ。ただ注意しなければならないのは、プーチン氏は自由主義に代わる新しい思想を打ち立てているわけでも、まして移民問題を解決する施策を提案しているわけでもない。 ロシアにも中央アジア諸国からの出稼ぎ労働者の問題が生起しているが、プーチン政権は武力で弾圧しているだけである。国際政治は一般的な理念よりも国益を優先に、ときには陰謀や策略も辞さないリアルポリティックスの時代に逆戻りしているかのように映る。まさに弱肉強食の権力政治家が跋扈するのである。 日本は、北方領土交渉でプーチン政権にすっかり揺さぶられてしまった。平和条約の締結さえも、困難な状況にある。プーチン氏は2019年6月22日、ロシアの国営テレビ局のインタビューで北方領土を日本に返還する「計画はない」と言明した。 そして、8月2日にはメドベージェフ首相が択捉島を訪問する。実は択捉島、国後島、色丹島には2011年以降、中国の水産関連企業が進出し、新しい工場が続々と建設されている。 2018年9月には中国の通信機器大手「ファーウェイ」が、サハリンと北方3島を結ぶ光ファイバー回線の海底敷設工事を完了した。北方領土はいまや、中露蜜月関係のシンボルのように見える。最悪の場合には中露首脳会談が択捉島や国後島で開催されたり、中露軍事演習が北方領土で実施されたりする事態も想定しておかねばならない。 日本を取り巻く国際状況をざっくり描くと「日米+α(EU)」と「3G+α(北朝鮮、トルコ、イラン、シリア)」の対立構図が浮き彫りになる。ただトランプ大統領は自国ファーストを掲げており、必ずしもEU諸国と友好的とは言えない点があり、日本への反発を強める韓国は「3G+α」に寝返るかもしれない。そうなれば、3Gの最前線と立たされる日本の防衛政策は緊急に再検討を迫られる。 米ソ冷戦は両国が直接的に衝突しなかったという点では、日本では「祈りの平和」で済んだ。でも現状は、緊迫度がまったく違う。日本に近い朝鮮半島、日本が天然資源を依存する中東、さらにはベネズエラ内戦(「アメリカ」と「ロシア、中国、北朝鮮、イラン、トルコ」の勢力に分断)など地雷はいくつも点在している。ちょっとした事件や小競り合いを契機に、アメリカと中露が軍事的に全面衝突する危険性は十分にある。G20大阪サミットが閉幕し、トランプ米大統領(右)と握手を交わす安倍首相=2019年6月29日、大阪市 だからこそ、日本の防衛政策を根本的に考え直す時期にきている。明治維新もそうであったように、日本は外圧があってこそ、自国を変革できる。集団自衛権を含む憲法改正の必要性を、皮肉にも「新冷戦」が迫っている。■北方領土は返さない! ロシア「反日アイヌ民族」の正体■「プーチンは一島も返さない」最悪シナリオは中国への北方領土売却だ■安倍外交85点の理由は「欧米と仲良く、中国と喧嘩せず」

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    中国からの投資が9割減、問われるトランプの経済政策

    土方細秩子 (ジャーナリスト) ピーク時の2016年には年間460億ドルもあった中国から米国への直接投資が2018年には48億ドルにまで落ち込んだーー。リサーチ会社ローディアムが発表した数字が波紋を呼んでいる。もちろん理由の一つは中国が貨幣流出を防ぐために国外投資に規制をかけたことだが、2016年はトランプ大統領就任の年。そこから現在までの間に貿易摩擦などもあり、投資額が激しく落ち込んだ、と指摘されている。 中国による米国企業への投資内容を見ると、トップはエネルギー関連、次いで不動産関連となる。企業への直接投資、買収などが含まれるが、昨年1年間で中国の投資家は総額130億ドルにも及ぶ米国内の資産を売却したという。 この傾向は今年も続き、アンバンは米国内の高級ホテルを、HNAグループも米国内数十億ドル規模の不動産を、フォーサム・インターナショナルはニューヨークの不動産を、ダリアン・ワンダ・グループは映画会社レジェンダリー・エンタテイメントの株式売却を試みている。 この中には米政府が主導した売却もある。例えばHNAが今年に入り売却したマンハッタンのビルは、「トランプタワーに近い高層ビルである」という保安上の理由から米政府が売却を迫ったもので、HNAはこれにより多額の損失を出したと報道された。逆に中国企業が買収しようとした米企業に対し、「個人の情報保護や国家安全の見地から」米政府が売却を阻止したケースもある。 とかく批判されながらも、中国マネーが米経済を活性化させてきた、というのは事実だ。特にミシガン、ミズーリ、サウスカロライナ、テキサスなどでは中国マネーが雇用促進の原動力にもなり、カリフォルニア、ニューヨークでさえ都市開発の要の部分を中国マネーが請け負っていた面が大きい。 エンターテイメントの部分も然りだ。中国は今や世界最大の映画市場であり、ゲーム市場でもある。ハリウッドは中国との共同制作という形で中国からの投資を引き出し、中国市場に受ける映画を作ることで採算を取ってきた経緯がある。ゲームに至っては世界の市場の5割強が中国であり、ソフトからハードまでこの巨大市場を目指しての競争が続いている。(出所)リサーチ会社ローディアム 1980年代を思い起こしてみれば、米国の困惑がよく分かる。当時バブル期の日本は米国の不動産を買い漁っていた。ロサンゼルスのボナベンチャーホテル、ニューヨークのロックフェラービルなど、ランドマークとも言える建物を日本企業が買収し、米国では激しい日本叩きが巻き起こった。しかしバブル崩壊によりこうした建物や日本による投資が冷え込んだことが米国経済にも影響した。 今回の中国投資の減速でも同じことが言える。米国では黄禍論などと言われ、あまりにもアジアパワーが強すぎることへの警戒が巻き起こるが、いざその影響が米国経済の停滞に及ぶと、今度は待望論が巻き起こる。いわく、中国からの投資が減少したことにより特にラストベルトと呼ばれる地域への影響が大きい、トランプ支持基盤でもあるこの地域の経済をトランプ自身が苦しめている、などである。原因は中国かトランプか この問題、表面的な部分よりも根が深い点がある。それは「どちらが“先”の原因であるのか」という部分だ。先にも述べた通り、中国からの投資が減少したのはトランプ政権による関税圧力などの貿易摩擦も一因ではあるが、それ以前に中国政府による外国投資規制が行われていた。つまりトランプ大統領が政権についた時にはすでに中国マネーの後退は始まっていた。 トランプ大統領による中国への不信感、批判はここに端を発するものかもしれない。このまま中国がラストベルト地帯への投資を減少させれば地域経済はより疲弊し、それが「Make America Great Again」という自身のスローガンに反することになり、支持率が減少する。それゆえに中国を批判し、関税圧力などの政策を実施した。 関税圧力というのはある意味自国への企業誘致の方法でもある。日本の自動車メーカーが現地生産率を上げ、「米国産の日本車」を前面に打ち出すようになったのも元はと言えばこうした日本叩きや圧力に対抗する策でもある。 ただし中国の場合、米国に進出して現地生産するような企業がまだ少ない、というのがネックとなる。現在に至っても中国メーカーの車は一部のEVバスなどを除いては米国で販売されていない。また今のところはまだ価格面で競争せざるを得ない中国製品にとって、米国での生産はコストがかかり競争力を失う原因にもなりかねない。 しかし米国の経済学者などからは「米中双方が不信感を抱き合い、貿易摩擦の解消のきっかけすらつかめない現状は行く行く米経済に悪影響を及ぼす」という警戒感をあらわにしている。※写真はイメージです(ゲッティイメージズ) 一方で米国にとっての明るいニュースは、直接投資が減少する一方で中国によるベンチャーキャピタルは増加している、という点だ。特にシリコンバレー周辺で、中国による投資は31億ドルを記録した。ただしこれも技術移転や機密保持の観点から規制がかけられる可能性が無きにしも非ず。 もし中国企業や個人が米国内の資産売却を急激に進めれば、特に不動産のバブル崩壊のような現象が起こる可能性もあるし、企業の倒産、失業率の増加にも中国投資の減退が関わってくるかもしれない。二選目を目指すトランプ大統領にとって、中国マネーの扱いは難しいものになりそうだ。ひじかた・さちこ ジャーナリスト。ボストン大学コミュニケーション学部修士課程終了、パリ、ロサンゼルスでテレビ番組製作に携わり、1993年より米国でフリーランスのジャーナリスト活動を行う。

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    櫻井よしこ氏「米中対立はどちらかが倒れるまで続いていく」

    国は相変わらず憲法9条に縛られたまま、自力で自国を守ることすらできない。櫻井よしこ氏は、日本がすがるアメリカと中国との対立は長期化すると言い、憲法改正の必要性を訴える。* * * 日本を取り巻く国際情勢はかつてないほど厳しさを増しています。 米中対立は基本的に中長期的にわたって続き、さらに深刻化していくことが予想されます。トランプ政権の一連の動きを見れば、米国が問題視しているのが貿易赤字だけではないことがわかります。知的財産の不正入手、企業の最先端技術を提供させるなどの不公正な取引、発展途上国に対する「債務の罠」、そしてチベットやウイグルへの弾圧をはじめとする人権問題。これらはすなわち共産党による一党独裁体制、中国のあり方そのものです。 中国の経済成長の基盤は知的財産を盗むことで成り立っており、これをやめるわけにはいきません。また、中国の国防費は表向きで約15兆円、実際にはその1.5倍から2 倍と見られていますが、それと同等かそれ以上の予算を割いているのが武装警察やサイバーポリスといった国内治安対策です。これほどのお金を投入して、激しい弾圧を加えることによって中国共産党はようやく国内の不満を押さえ込んでいるのです。 人権問題の改善は共産党の一党支配の崩壊につながりますから、根本のところで中国が米国と妥協することは絶対にあり得ません。2019年5月3日、第21回公開憲法フォーラムで基調提言を行う櫻井よしこ氏(桐原正道撮影) 2018年12月、トランプ大統領と習近平主席がG20で会談し、貿易摩擦の「一時休戦」をアピールしましたが、その一方で米国はカナダに要請し、中国の通信機器大手「華為技術(ファーウェイ)」の創業者の娘で最高財務責任者(CFO)の孟晩舟氏を逮捕しました。 一時的に対立を回避するようなポーズを見せながらも、米中対立はどちらかが倒れるまで続いていくでしょう。「我慢する時」の習近平 中国側はトランプ政権はあと2年、再選されても6年で終わることを見越していますし、景気の悪化などで米国内での国民の不満が高まれば、トランプ政権は政策を変えると読んでいます。一党独裁体制の中国とは違い、民主主義国家は弾圧で国民を押さえ込むことはできないからです。 習近平は「今はじっと我慢する時」と考え、日本に対して盛んに秋波を送っていますが、やっていることはまったく変わっていません。それは尖閣諸島への領海侵犯を続け、東シナ海の日中中間線付近で新たなガス田の掘削を始めたことからも明らかです。 2017年10月の共産党大会で、習近平は3時間20分にわたる大演説を行い、中国は2035年までに世界一の経済大国になり、建国100年に当たる2049年までには軍事力でも米国を追い抜いて、「国際社会の諸民族の中に中華民族がそびえ立つ」と言いました。 中国共産党の価値観を世界に浸透させて、その教えの下で人類運命共同体を築き上げる。逆らう者は徹底的に弾圧する。このような中国の野望、中国が描く世界秩序を決して実現させてはなりません。 米中対立において、日本が米国側に立つのは当然のことです。さらに長い歴史の中で育んできた人間重視の穏やかな価値観をもとに、独自の旗を立てて国際社会の中で大きな役割を果たしていくべきだと思います。 そのためにも、日本は節度と責任ある民主主義国家として、憲法改正を実現し、国の基盤である経済力と国防力を整えていかなければならないのです。●さくらい・よしこ/新潟県長岡市出身。ハワイ州立大学卒業。元日本テレビ「きょうの出来事」キャスター。1995年、『エイズ犯罪 血友病患者の悲劇』で大宅賞受賞。執筆・講演活動を続ける一方、インターネット放送「言論テレビ」を運営中。最新刊は『韓国壊乱』(PHP新書、共著)。関連記事■櫻井よしこ氏、世界で一つの変な憲法の改正は今が最後の好機■朴前大統領の弾劾訴追を見れば韓国立法・司法の歪み分かる■櫻井よしこ氏「韓国とは悪い関係でなければ幸せ、程度でOK」■ケント氏「議論すら許さない日本のリベラル派は全体主義者」■ケント氏「憲法によって危険に」櫻井氏「日本は商人の集合体」

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    日米同盟破棄したら中国は尖閣強奪、韓国は謝罪と賠償要求

     G20後に板門店を訪れ金正恩・朝鮮労働党委員長と電撃会談したアメリカのドナルド・トランプ大統領。それに先立つ6月25日、米ブルームバーグ通信がトランプ大統領による「日米同盟破棄発言」を伝えた。 記事によればトランプ大統領は、日本が攻撃されれば米国が援助することを約束するが、米国が攻撃された場合は日本の自衛隊による支援が義務ではない日米安全保障条約について「あまりにも一方的だと感じて」おり、「日米安保を破棄する可能性」について側近に漏らしたという。 トランプ大統領は29日、G20サミット閉幕後の記者会見でも日米安全保障条約について「不公平な条約だ」と不満を表明し、安倍晋三・首相に対し「片務性を変える必要がある」と伝えたことを明かしている。 もし「日米同盟破棄」が現実となれば、日本の外交・防衛は抜本的な見直しを余儀なくされる。 1960年に締結された日米安保条約では、米国は日本の防衛義務を負う。その代わり、日本は在日米軍基地や空域を提供し、さらに年間約2000億円という巨額の米軍駐留経費を負担している。 在日米軍が撤退するとなれば、米軍駐留経費の負担はなくなるものの、日本は隣国の脅威に一気に晒されることになる。産経新聞ワシントン駐在客員特派員の古森義久氏が言う。「中国はこのところ沖縄・尖閣諸島周辺の日本領海への公船の侵入を活発化させている。もし東アジアにおけるアメリカの最前線部隊である在日米軍がいなくなれば、中国人民解放軍は即座に尖閣諸島強奪作戦を開始する可能性がある。場合によっては沖縄まで標的になるかもしれない。 それに乗じて北朝鮮やロシアも一気に動き出す。中国を敵に回せば国連の安全保障理事会は機能しない。自衛隊の戦力だけで侵略行為をしのぎきるのは不可能です。アメリカを頼ろうにも、同盟破棄してしまえば積極的な介入は期待できません。2014年にロシアがクリミアに侵攻した時のように、中国に対して軍事力は投入せず、抗議や経済制裁をするのみではないか」 そのような事態に備えるためには、現在5兆3000億円に膨れ上がっている防衛予算を、さらに上積みしなければならない状況も考えられる。元駐韓大使で外交評論家の武藤正敏氏は、韓国の動きも注視すべきと指摘する。「トランプ発言はブラフだと見ておくべきだが、片務性を正したいという意思があるのは間違いない。仮に日米同盟が破棄されるならば、より重要度が低い米韓同盟も破棄され、在韓米軍も撤退する可能性が高い。すると、韓国は中国と北朝鮮の影響下に入ることが、自国の安全保障につながると考える。 米軍撤退によって野心を再燃させた北朝鮮の金正恩・朝鮮労働党委員長が核・ミサイル開発に邁進しても韓国の文在寅・大統領では対応しきれず、日本は核の脅威に晒されることになる。日米会談を前に、トランプ米大統領と共に長女イバンカ大統領補佐官(手前左)と娘婿クシュナー大統領上級顧問(同右)を迎える安倍首相=2019年6月28日、大阪市(代表撮影) 一方で韓国は慰安婦問題や徴用工訴訟などでの反日姿勢をさらに強め、これまで以上の謝罪や賠償を日本に突き付けるでしょう。G20での日韓首脳会談が見送られるなど戦後最悪とされる日韓関係のもとでは、そうしたリスクもゼロではありません」 これまでの経緯を考えれば、トランプ大統領と金正恩委員長の「友好的演出」は一時的なものにすぎない可能性は十分にある。再び北朝鮮が強硬路線に走り、韓国も反日姿勢を強めれば、まさに四面楚歌状態──その中で求められるのは高度な外交手腕だが、60年の長きにわたって日米同盟に依存するばかりだった日本の政治家や外交官に、各国と立ち回る能力があるかは疑わしいのが現実だ。 トランプ大統領の「日米同盟破棄」にどれだけ現実味があるかは今のところ全くわからない。だがトランプ発言は、日本外交が「主体的な安全保障体制とは何か」を真剣に考える契機となったのは間違いない。関連記事■日米同盟破棄で日本は繁栄か沈没か 外交論客3人が分析■中国富豪男の夢「蒼井そらを1晩300万円でセッティングしろ」■ケント氏「韓国には嘘が恥ずかしいという概念がないのか」■もし日韓戦わば… 軍事力の差は歴然だった■韓国で女児の胸が大きくなる「性早熟症」、囁かれる原因

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    トランプと金正恩が電撃会談で仕掛けた「天敵封じ」

    重村智計(東京通信大教授) 米国のトランプ大統領は6月30日、北朝鮮の領土に入り、出迎えた金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長をホワイトハウスに招待した。一方、金委員長はことし9月の米ニューヨークでの国連総会に出席し、演説で「非核化」を宣言し、ホワイトハウスを訪問する検討を始めた。 気をつけておきたいのは、米朝首脳の再会で核問題が直ちに解決するわけではない。むしろ最大の成果は、非核化に向けての強大な抵抗勢力が「朝鮮人民軍」であるとの認識を共有した事実にある。だから、両首脳は人民軍を説得しようと「敵対から平和へ」を強調した。 金委員長の発言は、これまでの立場では考えられない内容だ。会談冒頭で「敵対関係だった両国がこのように平和の握手をすること自体、昨日までと変わった今日を表現している」と述べ、「敵対関係」の終わりを強調した。 明らかに朝鮮人民軍を意識した発言だ。かつて北朝鮮攻撃を口にしたトランプ大統領の行動を「並々ならぬ勇断」と表現した。異例の言及にほかならない。 北朝鮮の朝鮮労働党機関紙、労働新聞は首脳会談5日前の6月25日、米国を「米帝国主義」と攻撃したうえで、「いかなる戦争にも対処できる」と警告した。ところが、同日の政府機関紙、民主朝鮮は「米帝」の表現を使わずに「米国」と表現した。 これは、北朝鮮内部の対立と不安定さを示唆している。北朝鮮では、昨年6月の首脳会談以後「米帝」の表現を使っていなかった。板門店での米朝首脳会談を伝える2019年7月1日付の韓国主要各紙(共同) 「米帝」批判の復活は、軍部の不満と反発の強さを明らかにしている。iRONNAでも述べた通り、金委員長は2月の米朝首脳会談の失敗や米スパイ狩りの影響で、国内でかなり追い詰められていた。 人民軍幹部や若手将校は非核化に同意せず、「『核を最後まで放棄しない』との金正日(キム・ジョンイル)将軍の遺訓に反している」と抵抗している。軍部が米国を「米帝国主義」と表現しているのも、この表れだ。北朝鮮、唯一の「世論」 つまり、トランプ大統領の「呼びかけ」は、窮地の金委員長を救う行動だったのである。会談翌日、労働新聞は一面全面を使い、「歴史的な会談、トランプ米合衆国大統領」との見出しを掲げて米朝首脳会談を伝えた。 それだけではなく、「両首脳の大勇断は、敵対国家として反目した両国に前例のない信頼を創出した」と称賛したのである。異例の表現だ。 労働新聞の記事が、「抵抗勢力」である人民軍を対象に書かれたのは明らかだ。北朝鮮の「世論」というものは軍部にしか無いからだ。 そもそも、北朝鮮がこれほど手放しで米国の大統領を持ち上げたことはない。米大統領は帝国主義の頭目であり、北朝鮮を攻撃するかもしれない最大の敵であったからだ。 トランプ大統領も「金委員長に感謝したい。あなたのおかげで、互いによく知り合えた。すぐにもホワイトハウスに招待したい」「かつては、ここで大きな戦争があった。今は正反対(平和)だ。私の名誉であり、委員長の名誉だ」と金委員長をたたえた。人民軍を意識して持ち上げたのは明らかだ。 米大統領の板門店(パンムンジョム)訪問は、間違いなく歴史を変えた。まず、米朝両首脳の再会が、大阪の20カ国・地域(G20)首脳会議(サミット)中に投稿されたツイッターを通じて実現した事実だ。新聞やテレビ報道でも、外交官のやり取りでもなく、首脳間のSNS(会員制交流サイト)交信で実現したのである。 この事実は、報道と外交に革命的な変化をもたらした。両首脳は、今後もSNSを通じて意見を交換できるだろう。 トランプ大統領の行動は、金委員長と北朝鮮軍部の「メンツ」を守った。朝鮮半島における最大の価値観の一つが「メンツ」だ。彼らはメンツを汚されると怒り、命をかけるほどのけんかになる。2018年9月、国連総会で演説するトランプ米大統領=ニューヨーク(ロイター=共同) 北朝鮮は公式に、韓国が自国の領土であるとの「フィクション」を維持している。ただ、現実は米帝国主義が支える傀儡(かいらい)政権が実効支配している、と解釈している。北朝鮮のフィクションからすれば、歴代米大統領は北朝鮮の「メンツ」を無視し、韓国を訪問してきたわけだ。金正恩が描く「シナリオ」 だが、トランプ氏は、板門店の南北軍事境界線を越えて北朝鮮領に入り、指導者への「入国」のあいさつという仁義を切った最初の米大統領だ。しかも、その際に韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領を同行させなかった。これは、北朝鮮の指導者と軍部を満足させる行動だった。 もちろん先述の通り、これだけで核問題が解決するわけではない。金委員長が「非核化」でどこまで譲歩するかは、明らかでない。G20直前に平壌(ピョンヤン)で実現した中朝首脳会談では「十数年内の完全非核化」で合意したと、北朝鮮高官は明らかにする。 北朝鮮の高官によると、金委員長が数年前から「国連総会で演説し、制裁を解除させる」との意向を側近に明らかにしていた。トランプ大統領は、これを知ってホワイトハウスに招待したのだ。来年の大統領選での再選を果たすため、金委員長をホワイトハウスに招いて会談すれば、大きな成果を誇示できるわけだ。 金委員長が描くのは、9月の国連総会の時期に訪米し、総会と安保理で演説し「非核化を宣言して、制裁解除を求める」とのシナリオだ。米政府関係者によると、金委員長は国連総会出席の検討を指示したという。 一方、トランプ大統領のもう一つの狙いはノーベル平和賞だ。板門店では、米朝首脳再会のテレビ演出に文大統領を同行させず、首脳会談にも参加させなかった。あいさつを許しただけで、文大統領を徹底して「排除」した。 これは、同じようにノーベル平和賞を狙う文大統領の追い落としを狙った行動だ。文大統領は6月にスウェーデンとノルウェーを訪問したが、実はノーベル平和賞受賞を働きかけるためであった。トランプ大統領もノーベル平和賞候補に推薦されており、文大統領に受賞させるわけにいかないのである。2019年4月、施政演説を行う北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長(朝鮮中央通信=共同) ホワイトハウスでトランプ大統領と金委員長の会談が実現することになれば、国際法上で米朝国交正常化への準備段階を意味する。トランプ大統領は大統領選を見据えて、2年連続のホワイトハウス会談を計画しているだろう。その際に「非核化」と米朝国交正常化で合意して、北朝鮮の軍部を抑え込む作戦だ。 金委員長の訪米とホワイトハウスでの会談が実現すれば、来夏の東京五輪への参席も可能になる。五輪期間ごろには、日朝首脳会談が実現し、拉致問題解決と日朝・米朝同時国交正常化への動きも見えてくるだろう。■ 金正恩最愛の妹、将軍様の料理人も狙われた平壌「暗闘の季節」■ 反安倍メディアに騙されるな!日朝会談「無条件」は方針転換ではない■ 金正恩が「完全な非核化」に初めて言及した意味

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    トランプ「イラン包囲網」で割を食うG20議長国ニッポン

    黒井文太郎(軍事ジャーナリスト) 主要国の首脳が一堂に会する20カ国・地域(G20)首脳会議では、もちろん国際問題が話し合われる。国際問題にもいろいろあるが、最も重要なのは「戦争」の危機だ。中でも現在、注目されているのが、イランと米国の対立だろう。 もっとも、そもそも緊張を作ったのは米国側だ。オバマ前政権が結んだ核合意ではイランの核とミサイルの開発は止められないとして、昨年5月に米国が核合意から離脱し、独自に制裁強化に動いたことで、両国関係は悪化したのだ。 また、今年4月に米国が、イラン最高指導者直系の軍事組織「イスラム革命防衛隊」を外国テロ組織に指定したことに、イランが強く反発。米国は「テロの情報がある」として5月上旬から大規模な軍の増派をしたが、そんな最中の6月13日、ホルムズ海峡東方のオマーン湾で民間のタンカー2隻が攻撃された。米国はイランの犯行と断定したが、イランは否定している。 さらに6月20日には、ホルムズ海峡近くを哨戒していた米軍の無人偵察機が、革命防衛隊に撃墜される。イランは米軍機が領空侵犯したためとしているが、米軍側はそれを否定、国際空域を飛行中に攻撃されたと発表した。両国とも「相手が悪い」との主張だ。 その後も両国は互いを非難している。6月24日には米国がイランのハメネイ最高指導者を対象とする制裁を発表したが、それに対してロウハニ大統領は翌25日「極めて愚か。精神的な障害に陥っている」などと批判。それに対してトランプ大統領も同日、「イラン指導者の声明は無知で侮辱的であり、現実を理解していない。いかなる攻撃も、圧倒的な力に直面する。地域によっては、それは壊滅を意味する」と応じた。すると今度はハメネイ最高指導者が翌26日、「イランは40年間無敗だ」と応戦している。 しかし、こうして激しく互いを非難し合ってはいるものの、両国とも自分たちから戦争に討って出ることは否定している。ロウハニ大統領は6月26日にフランスのマクロン大統領と電話会談し、「イランは米国との戦争は望んでいない」と発言しており、米側でも同日、エスパー国防長官代行が「われわれは戦争を始めるつもりはない」と語った。イランの首都テヘランで会談する最高指導者ハメネイ師(右)と安倍首相=2019年6月13日(イラン最高指導者事務所提供・ロイター=共同) ただし、両国とも互いに相手が挑発してくるなら受けて立つというスタンスで、特に米側は、トランプ大統領は同じ26日に「戦うとしても地上部隊は出さない」など、空爆ならあり得ることを示唆している。そのような状況で開催されるG20だが、イラン問題での論点は主に3つある。 一つ目は、イランの核問題だ。トランプ大統領としては、圧力をかけることでイラン側を屈服させ、核ミサイル開発能力の破棄まで持っていきたい。そこで米国としては、国際的にもイランに対する圧力の包囲網を敷きたいところだ。しかし、国際社会はその流れにはない。同調しているのは、イランと敵対するイスラエルやサウジアラビアなどごく一部にとどまる。核合意に参加したのは、国連安保理常任理事国5カ国とドイツだが、米国以外はいずれも核合意破棄は支持していない。むしろ米国の核合意復帰を望んでいる。 したがってG20では、米国側の呼びかけで核問題での対イラン包囲網が形成される可能性は低い。参加国で同調しそうなのはサウジアラビアのみで、むしろ核合意の有効性回復を呼び掛ける声が多数を占めそうだ。米国に同調するのは2カ国だけ 二つ目は、タンカー攻撃と米無人機撃墜に関するイランへの非難についてだ。タンカー攻撃や無人機撃墜を受けて、米国はイランの挑発的行動を非難する論調で各国の支持を集めようともしているが、それもG20の場では困難だろう。タンカー攻撃では、イランの犯行である決定的証拠がまだ示されていない。無人機撃墜でも、米国とイランの主張のどちらが正しいのかがまだ決着していない。 これらの問題で、G20参加国で米国に同調しているのは、サウジアラビアとイギリスにとどまる。ドイツはタンカー攻撃については「イランの犯行である強力な証拠がある」(メルケル首相)との見方だが、それでも対イラン包囲網には参加していない。 フランスのマクロン大統領は「G20でトランプ大統領とイラン問題を話し合いたい」と語っており、G20でももちろんさまざまな局面で話し合われるだろう。しかし、対イラン包囲網を形成したいトランプ大統領に対し、主要国はむしろ緊張が激化しないよう米国、イラン両国に自制を求めており、トランプ大統領をなだめることになりそうだ。 以上のように、G20参加国の多くは、イランの核問題に関しては、核合意を支持しており、米国の核合意離脱を支持していない。 また、タンカー攻撃や無人機撃墜で高まる米国とイランの対立に対しても、多くの国はイランを非難するというより、両国に自制を求めるという姿勢に立っている。 そして三つ目は、いくつかの国にとって悩ましいホルムズ海峡の安全の確保だ。米国とイランの緊張が続けば、またタンカーが攻撃される事態も予想される。ホルムズ海峡の安全は、国益に直結する重要問題だ。 そこでトランプ大統領が打ち出しているのは、米国単独ではなく、ホルムズ海峡の安全で利益を得ている国々が、自ら同海域の安全保障に責任を負うべきとの考えだ。それは米国側に立ってイランに対処するということに他ならないため、当然ながらG20の主要な合意になることはないが、米国は個別の会合ではこれを持ち出す可能性が高い。 米国ばかりがコスト負担することには反対というのは、トランプ大統領のいわば信念だ。 その要求に対しては、原油の輸出側であるペルシャ湾岸の産油国では、サウジアラビアなどすでにペルシャ湾で活動している軍のある国は、その役割の拡大というかたちで協力していく流れにある。問題は輸入側の国々で、その主力はアジアの国々、中でも中国と日本だろう。日米首脳会談 共同記者会見で話すトランプ米大統領=2019年5月27日、東京・元赤坂の迎賓館(代表撮影) G20でもトランプ政権としては、そうしたコスト負担という観点から原油輸入国に負担を求めてくる可能性がある。中国はもちろん米国とはそこは主張が相いれないから、矢面に立つ国はあるとすれば、やはり日本となるだろう。 トランプ大統領は日米安保条約の片務性にも不満を表明しているが、それらの分野における日本の負担増を要求するトランプ大統領に対し、そうした要求をこれまでのようなトランプ大統領個人を徹底的に褒める手法でかわしていけるか、安倍首相の対応にも注目したい。■「宇宙軍創設」トランプの真意は中国への宣戦布告に他ならない■サウジ記者殺害「事件の黒幕」ムハンマド皇太子とは何者か■「21世紀最凶の殺戮者」プーチンがもたらす憎悪の世界

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    米中貿易戦争「日本が得する」逆転シナリオが一つだけある

    熊野英生(第一生命経済研究所首席エコノミスト) トランプ米大統領が用意している中国への制裁関税第4弾が、日本経済を本格的不況に陥れるのではないかと恐れられている。これまでの制裁で、意識的に除外されてきたiPhoneや日用品に関税率が上乗せされることは、米国の消費者と中国の生産者、そして中国企業に部品や設備を供給している日本企業がダメージを受ける。 この対立を巡って、「トランプ大統領が理不尽だ」という側面をクローズアップすると、日本には何のメリットもないように感じられる。筆者も、自由貿易の考え方に基づいて、トランプ大統領のことは何一つ支持したくない。 しかし、今回、改めて米中対立の構図を吟味して、米中貿易戦争は日本企業にも何かメリットがあるのではないかという別の視点を考えてみた。その結果、日本にとってメリットのある展開は、中国にも中長期的なメリットがあると考え方を進めた。 すなわち、日本企業が長く悩まされてきたのが、数多くの中国の構造問題である。それは、欧米企業でも共通している。最も代表的なのは、巨大な産業補助金の問題である。日本では、経営が悪化した一部の電機メーカーは、経営の失敗と指弾され、メディアからバッシングされる。その一方で、背後に隠れた中国企業の補助金問題はほとんど語られることがない。補助金で支えられた企業と競争すると、日本企業は価格競争でも勝つことができないのだ。 これまで、中国の成長に期待して進出した多くの日本企業もまた苦労してきた。現地で合弁企業をつくると、そこでは思うように活動ができなかった。行政上の手続きはやや恣意(しい)的であり、海外製品が不利に扱われることもあった。G20首脳会合に合わせ、中国の習近平国家主席(左端)との会談に臨むトランプ米大統領(右端)=2018年12月1日、アルゼンチン・ブエノスアイレス(AP=共同) 最近は人件費の高騰によって、低コストのメリットも失われてきている。当初の期待が思うようにならなくなってきているのが実情である。従業員の離職率の高さや、労務管理の難しさもある。さらに、現地で人民元で稼いだ利益を外貨に戻して持ち出すことが制限されたり、債権回収が困難であるということもある。これらの課題は、日本とは違う国だから仕方がないという一言で片付けるわけにはいかないだろう。 今回、トランプ大統領は、特に技術移転の強要と、知的財産権の保護を求めている。米中協議の中で、これら中国特有の不公正なルールの是正が持ち出されていることは、日本企業がこれまで求めてきた問題の是正とも共通している。実は、中国でもこれらの構造問題が是正されることを望んでいる良識派は少なくない。例えば、中国でも知財に絡んだ訴訟は多く、今や中国は米国以上の訴訟大国とされる。こうした課題の解決は、中国企業にとってもメリットになるはずだ。習近平の「新しい秩序」 貿易戦争の緊張感が高まっていく中で、根拠のない楽観論があることも事実である。トランプ大統領は、強烈な圧力を中国にかけているが、楽観論者はそれは自作自演のアピールであり、それほど困った状態にはなるはずがないという。水面下で米国と中国は握っていて、時間がたつと、どこかで昔よりも良好な関係に戻るというのだ。 筆者はそうならないだろうし、それが望ましいことだとも思わない。対立がなくなる→経済の火種はなくなる→万事まるく収まる、という発想は正しくはない。中国ビジネスの抱える矛盾をそのまま看過することになるからだ。 中国の構造問題には、北朝鮮問題にも同じようなところがある。トランプ大統領は、北朝鮮に圧力をかけて金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長を対話の場に引きずり出した。今も交渉が決裂しないか、筆者はハラハラしてみている。この交渉の目的は北朝鮮の非核化である。米朝の緊張関係はなくなった方がよいと思うが、最終的な目標が達成されなくては意味がない。 おそらく習近平体制は歴代中国の政権の中で、厳しい改革を成し遂げる実力を持っている数少ない政権だろう。習主席が、これまで腐敗防止と綱紀粛正によって、国民から支持を得てきたことは周知の事実だろう。その対象を不公正な取引慣行やルールに向けて、新しい秩序をつくることは可能だと考えられる。 逆に、なぜ習主席はそれを行わずにいるのか。それは、公正なルールづくりよりも、中国企業が他国の技術を盗用することを見逃しながらでも、経済発展を優先したいと考えているからだろう。そのことは、先進国では許される行為ではないが、急速に大国化する中国にとっては必要悪と考えているのだろう。 多くの人は、トランプ大統領があまりに性急な貿易不均衡の是正を求めていることの間違いには気が付いていると思う。その一方で、中国もまた性急な経済発展を求めていて、それが公正なルールの順守を軽視する素地(そじ)を作っていることは見逃されやすくなってしまう。中国は、経済強国という夢を捨てて、もっと穏健な「普通の経済大国」を追求することを目指した方がよい。 時間をかけてでも、米国が訴える公正なルールづくりに大枠で賛同する方が、中国は日本や欧州の良識派を味方につけやすい。会談を前に握手する安倍晋三首相(左)と中国の習近平国家主席=2018年10月26日、中国・北京の釣魚台迎賓館(代表撮影・共同) 最後にもう一つ。中国経済は、現在、大きな曲がり角に来ている。これまでの人件費高騰に加えて、貿易戦争のようなリスクに直面して、以前よりも日本企業にとって魅力が感じられなくなっている。日本企業の中には、ベトナムやタイに生産拠点を移す動きもある。これまで問題を抱えながらも、中国への進出をしてきた日本企業が行動を変化させつつあるのだ。 おそらく、中国が公正な企業活動を目指して自己改革をすることは、再び日本企業にとって中国市場の魅力を高めることにつながるだろう。それを遅らせることは、日本や欧米企業の中国離れを加速させる。自己改革こそが中国のためにもなることを肝に銘じるべきだろう。■安倍外交85点の理由は「欧米と仲良く、中国と喧嘩せず」■「米国はもう崖っぷち」5G戦争、ファーウェイ排除のウラ側■米中貿易戦争の渦中で激化する韓国「謝罪ゲーム」のツケ

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    ミサイル発射に込めた金正恩の「メッセージ」

    か、そこに注目です。うんの・もとお 明治大学教授、心理学博士。明治大学政治経済学部教授。心理学博士。アメリカン大学(ワシントンDC)異文化マネジメント客員研究員(08~10年、12~13年)。専門は異文化間コミュニケーション論、異文化マネジメント論。08年及び12年の米大統領選挙においてオバマ陣営にボランティアの草の根運動員として参加。16年米大統領選挙ではクリントン陣営に入る。著書に「オバマ再選の内幕―オバマ陣営を支えた日本人が語る選挙戦略」(同友館)など多数。

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    米朝に「田舎芝居」を打つ文在寅の安倍コンプレックス

    重村智計(東京通信大教授) 韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領の支持率が41%に下落した。韓国の世論調査は政権に忖度(そんたく)するため、実質的には30%台といわれる。 国民の支持を失った文大統領が、11日に米ワシントンでトランプ大統領との首脳会談に臨む。10日、11日の訪米とはいえ、実質的にわずか1日の訪問で、米国の扱いは冷たい。 韓国で40%台に落ちた支持率を回復した大統領は一人もいない。これ以上の支持率下落を食い止めるため、文大統領が狙ったのが「安倍より先の訪米」だった。 背景には「米韓関係の悪化」「南北関係の悪化」「日韓関係の悪化」「中韓関係の悪化」「第3回米朝首脳会談への対応」「日朝首脳会談の動き」「良好な日米関係に対する牽制(けんせい)」「欧州と東南アジア外交の失敗」と数え上げればきりがない。日米中朝だけでなく、欧州や東南アジア諸国にも自らの失態で見放され、文大統領はまさに「六面楚歌」である。 米韓関係は、懸案だった在韓米軍の駐留経費増額問題で一応は合意したが、トランプ大統領はなお不満を募らせている。米国は、物別れに終わった第2回米朝首脳会談における文大統領の動きに不信感を強めている。首脳会談直前に、ハノイでの南北首脳会談を画策したが拒否され、米韓朝の3国首脳会談も打診したが、全く相手にされなかった。 さらに韓国は、洋上で積み荷を移し替え、石油精製品などを密輸入する北朝鮮の「瀬取り」を黙認した「証拠」を米国から突きつけられ、厳しい取り締まりを求められた。こうした問題に対する弁明の機会をつくることが、米韓首脳会談の理由だ。2018年5月、ホワイトハウスでトランプ米大統領(右)と話す韓国の文在寅大統領(ゲッティ=共同) 米国は、北朝鮮融和策を進める文大統領を「邪魔者」と考えている。それでも、同盟国として北朝鮮への圧力強化に必要なので我慢しているだけだ。米国のマスコミが文大統領を「北朝鮮の手先」と酷評した背景には、ホワイトハウスの意向がある。失敗続きの韓国外交 一方、北朝鮮も第2回米朝会談の決裂後に、崔善姫(チェ・ソンヒ)外務次官が文大統領を「米朝の仲介者ではない」と批判し、韓国に裏切られたとの感情を示した。文大統領は金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長に「開城(ケソン)工業団地が再開できる」「朝鮮戦争終戦宣言が出せる」「韓国の支援も可能になる」「資金も送る」「在韓米軍が撤退する」「瀬取りの密輸は黙認する」と、甘い見通しを並べ立てていたから、怒り心頭になるのも無理はない。 韓国の外交は失敗続きだ。日米中朝という北東アジアの関係4カ国に加え、昨秋のアジア欧州会議(ASEM)に伴う欧州訪問や3月の東南アジア歴訪も、文大統領自らの「外交的欠礼」で批判された。もはや各国の信頼を失っている。それでいて、安倍晋三首相が6月までトランプ大統領と3回も首脳会談を行うのは耐えられない。 安倍首相の動きに、文大統領は韓国民から「日本に後れを取った」と批判され、さらに支持率も下がることは確実だ。それを阻止するために考えたのが、安倍首相より先にトランプ大統領に会う「田舎芝居」だ。 これまで、文大統領は「米朝の仲介役」を公言してきた。それが第2回米朝会談の決裂により完全に崩壊した。米朝両国からも信頼されていない事実が明らかにされたのである。 面目を失った文大統領は米国の意向を探り、北朝鮮に伝えようとしている。探りたい問題は「スペインの北朝鮮大使館襲撃は『トランプの意図』なのか」「第3回米朝首脳会談はいつやるのか」だ。この二つの問題をトランプ大統領から聞き出し、金委員長に伝えることで失地を回復しようとしている。 北朝鮮の首都、平壌(ピョンヤン)は今、在スペイン大使館襲撃事件の衝撃に揺れている。盗まれたコンピューターには暗号解読の文書が入っていた。このため、海外公館や工作員に暗号文書を送れない状態にある。さらに、これまでの文書や指示が全て米国に解読されたと考えている。2018年4月、板門店宣言に署名後、共同発表に臨む韓国の文在寅大統領(左)と北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長(韓国共同写真記者団・共同) この襲撃事件は、単に反北朝鮮団体のハプニングか、米中央情報局(CIA)の仕業か、それともトランプ政権が北朝鮮崩壊を狙ったいわゆる「金正恩斬首作戦」の一環なのか。北朝鮮首脳部は判断に苦しんでいる。 もしトランプ政権による意図的な「作戦」なら、米朝首脳会談を中止して、核とミサイル実験を再開するしかない。だが、実験再開はより強硬な対北朝鮮制裁を招くと苦悩を深めている。文在寅、最大の「心配の種」 平壌の混乱を知らされた文大統領は、「米朝仲介役」である自分の出番と誤解し、トランプ大統領に「スペイン大使館襲撃」の真実を聞き出し、金委員長にその回答を伝えることで、恩義を売ろうとしているわけだ。でも、トランプ大統領は「知らない」と答えるだろう。 また、文大統領は、米朝両国がひそかに第3回の首脳会談の準備や接触をして、「韓国外し」を行っているのではないかと憂慮している。そのために米朝の動きを聞き出そうとしている。 文大統領がもう一つ心配しているのは、日朝首脳会談の動きだ。拉致問題を担当する菅義偉(よしひで)官房長官の5月訪米に、韓国が強い関心を寄せている。 韓国に、日本の在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)関係者から「自分たちが日朝首脳会談の準備をしている。菅と接触している」との連絡も来たが、たぶん偽情報だと思われる。平壌からは、高官の間で「米朝がダメなら、日朝首脳会談がある」との意見もある、との動きも入った。「内閣官房参与が近く訪朝する」との情報も東京の韓国大使館から届いた。 韓国は、南北関係より先に日朝関係が前進するのを常に妨害してきた。韓国の大統領が訪朝できないのに、日本の首相に訪朝されてはメンツを失う。このように、「文在寅訪米」の背後では多くの情報工作が展開されているのである。 公安関係者によると、北朝鮮の工作機関につながる組織が平壌に「安倍はいつでも動かせる。われわれの思うままだ。安倍が膝をかがめ、日朝首脳会談をわれわれにお願いしてきた」と連絡している、という。2018年5月、日中韓サミットを前に記念撮影に臨む安倍晋三首相と韓国の文在寅大統領(代表撮影) 平壌では、金委員長が朝鮮総連の情報を信用せず、「総連幹部は、金日成(キム・イルソン)主席と金正日(キム・ジョンイル)総書記にウソの報告ばかりしてきた」と述べている事実が知られている。北朝鮮問題では「百鬼夜行」の工作が展開される。官邸の内外に、北朝鮮工作機関の手先がいるのではないかと、危惧する声も出ている。■ 米朝決裂もアベガー 「日本軽視」韓国より重視すべき隣人■ 「親日清算」も政治ショー? 文在寅はいずれ「歴史の罪人」となる■ 「日本を奴隷扱い」文在寅の外交ゲームを攻略するベスト戦術

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    安倍外交85点の理由は「欧米と仲良く、中国と喧嘩せず」

    櫻田淳(東洋学園大学教授) 昔日、国際政治学者の高坂正堯は、日本の対外政策方針の原則として「米国とは仲良く、中国とは喧嘩(けんか)せず」と語ったと伝えられる。現下、米中両国を軸とした「第2次冷戦」の到来が語られる折柄(おりから)、「第1次冷戦」の歳月を凝視し、その歳月の終わりとともに世を去った高坂の言葉は、次のように読み替えられるべきかもしれない。 「米国や欧州諸国のような『西方世界』諸国とは仲良く、そうでない国々とは喧嘩せず」。この言葉が日本の対外政策を評価する基準を表しているのであれば、日本の対外政策方針の大黒柱は、「西方世界」諸国、すなわち「自由・民主主義・人権。法の支配といった価値意識」を共有する国々との協調にこそあり、他の国々との関係は、それに代替することはないということになる。 この評価基準にのっとれば、第2次安倍晋三内閣発足以降に披露された対外政策展開には、特段の瑕疵(かし)はない。安倍晋三首相は、再執政始動直後に米豪印3カ国との提携を打ち出して以降、「自由・民主主義・人権。法の支配といった価値意識」の意義を強調しつつ、対外政策を展開してきた。 その徹底性において、安倍首相は過去に類例がない宰相である。安倍首相の徹底性の故にこそ、日本の対外政策展開には相応の「強靱(きょうじん)性」が備わるようになった。 米国のドナルド・トランプ大統領の登場、英国の欧州連合(EU)離脱、英仏独墺蘭各国における「ポピュリズム」の様相を帯びた「反動」政治勢力の台頭、さらにはフランスにおける「ジレ・ジョーヌ(黄色いベスト)運動」の激化は、その一つ一つが「西方世界」諸国の内なる動揺を表している。日本の対外政策上の「強靱性」は、そうした「西方世界」諸国の動揺の中では、それ自体が日本の国際政治上の「声望」を担保している。 国際政治学者でプリンストン大のジョン・アイケンベリー教授が米外交評論誌『フォーリン・アフェアーズ』(2017年5月号)に寄せた論稿の中で、「リベラルな戦後秩序を支持する二人の指導者」の一人として安倍首相の名前を挙げているのは、誠に象徴的である。 方や、米中第2次冷戦が語られる中でも、安倍の対外政策展開に際して、「中国と喧嘩しない」ための手は、確かに打たれている。2018年10月、安倍首相が中国の習近平国家主席との会談の席で、「競争から協調へ、日中関係を新しい時代へと押し上げていきたい」と表明したのは、そうした対応の事例であろう。2018年5月、第6回日中韓ビジネス・サミットに臨む韓国の文在寅大統領(左)と安倍晋三首相(斎藤良雄撮影) むしろ、安倍内閣下の対外政策に係る難題は、その「西方世界」協調方針に齟齬(そご)が生じた結果として現れる。その齟齬が最も鮮明に現れているのが、対韓関係である。「不安要素」の危うさ 韓国紙『朝鮮日報』(日本語電子版、2月23日配信)は「386世代」の動静を評した記事の中で、「民主化・高度成長の達成感も味わった世代だ。80年代後半の物質的豊かさは、世界に向けて足を踏み出す動力になった」と記している。「386世代」とは、1990年代に30代を迎え、80年代に大学へ通った、60年代生まれの世代であり、現在の韓国社会を主導している。 そもそも、「民主主義」「南北融和」「グローバリゼーションの波に乗った経済発展」「対中関係や対露関係における外交の幅」「日本に対する『尊大』姿勢」といった当代韓国を彩るさまざまな相は、第1次冷戦終結後、韓国にとって「米国か中国か」という選択に悩む必要がなくなった時代の所産である。目下、この「386世代」人士を傍らに多く置き、その思考に強い影響を受けているとされるのが文在寅(ムン・ジェイン)大統領である。 文氏は、過去30年の韓国にとっての「幸福な時代」の惰性を反映して、「安全保障は米国、経済は中国」という「米国も中国も」の姿勢が通用せず、「米国か中国か」という選択に再び迫られるようになる環境下でさえも、「米国も中国も」という姿勢が続けられると錯覚しているのであろう。 文氏の対外姿勢は、安倍首相のものとは明らかに相いれない。日韓関係の現下の冷却には、歴史の中で積み重ねられた「感情」以上に、こうした対外政策上の「構造」が反映されている。 もっとも、安倍首相の対外政策展開にも一つの不安要素がある。現下、ロシアと「西方世界」との関係は険悪である。 ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は「西方世界」に対する協調と対抗の論理の相克に彩られたロシア史の中では、ソ連のミハイル・ゴルバチョフ元大統領とは対照的に、その対抗の論理を体現してきた政治指導者である。2018年12月、ブエノスアイレスで会談に臨むロシアのプーチン大統領(右)と安倍首相(共同) 安倍首相は、そうした「西方世界」に親和的ではないプーチン大統領との会談を既に25度も経ているけれども、北方領土問題における六十余年の膠着(こうちゃく)を解くためとはいえ、その対露姿勢は、ロシアと「西方世界」の確執の中で、どのように整合するのか。 もし、安倍首相における対露政策展開が「ロシアと喧嘩しない」という姿勢を示す域に止まらず、対中牽制の思惑をも含んでいるのであれば、そうした没価値的な思考は、安倍内閣下の対外政策展開全体における「つまずきの石」になるかもしれない。万事、「似合わぬ振る舞い」に走ることの危うさは、強調されてよい。■ 「安倍時代の終焉」が現実的とは言えない理由■ 鈴木宗男手記「北方領土交渉、安倍総理を1000%信頼する」■ 「石破を干し、次を育てる」安倍人事の容赦なき適材適所

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    安倍外交を採点したらこうなった

    歴代首相で最多の78か国・地域を訪れ、文字通り「地球儀を俯瞰する外交」を続ける安倍首相だが、その外交手腕をどう評価すべきなのか。米国一辺倒と揶揄され、日韓関係は最悪、対露交渉も遅々として進まない。政権復帰7年目、正念場の安倍外交を識者に採点してもらった。

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    日韓関係は最悪、北朝鮮問題で出番なくとも安倍外交は「78点」

    島政策を支える大きな柱になる日米関係を傷つけるのではないか、という憂慮が広がっていた。 一方、当時のアメリカはオバマ政権下にあり、人権問題に強い関心を持つリベラルな大統領との関係にも疑問が投げかけられた。そして当初は、その危惧は現実のものとなるかに見えた。 ピークはおそらく13年12月の靖国神社参拝だった。事実、第2次世界大戦の戦勝国であるアメリカはこの動きに「失望」を表明している。同盟関係にある日米関係としては異例の事態であったということができる。 このような状況の中、朴槿恵政権は慰安婦問題で攻勢を強め、アメリカをはじめとする各国に対する宣伝攻勢を展開した。日本国内で「告げ口外交」と揶揄(やゆ)された動きである。当時の韓国では「道徳的優位」という言葉が用いられ、韓国政府は国際社会における自らの優位に自信を有しているように見えた。 しかしながら、このような動きは、14年に入ると変わってくる。転換をもたらしたのは二つの要素であった。一つは南シナ海問題を巡る米中関係の悪化であり、このような中、中国への接近を強める朴槿恵政権の動きにアメリカは警戒を強めることとなった。「抗日戦争と世界反ファシズム戦争勝利70周年」の記念行事で演説する習近平国家主席(中央後方)。手前は(左から)カザフスタンのナザルバエフ大統領、韓国の朴槿恵大統領、ロシアのプーチン大統領=2015年9月、中国・北京(共同) だが、それと同じほど重要だったのは、二つ目のポイント、すなわち、この時期、第2次安倍政権が歴史修正主義的な言辞を封印していったことである。ピークは15年8月のいわゆる「安倍談話」だろう。第1ラウンドは日本優位 同年3月に河野談話の見直しを断念していた第2次安倍政権は、この「談話」にて第2次世界大戦における日本の行為に対して「深い悔悟」の念の表明のみならず、「戦場の陰には、深く名誉と尊厳を傷つけられた女性たち」がいたことについてもあえて触れ、慰安婦問題に対しても間接的な言及を行った。 このような第2次安倍政権による歴史修正主義的な言辞の封印は、結果として、朴槿恵による慰安婦問題に関わる宣伝攻勢を大きく無力化し、同年12月、アメリカの強い圧力下での慰安婦合意へと結実する。 自らが主張してきた慰安婦問題での法的賠償請求権を放棄させられた韓国では強い敗北感が広まった。第2次安倍政権下のワシントンを舞台とした日韓両国の競争は、この第1ラウンドでは日本優位の下、終わりを告げた。 しかしながら、こと朝鮮半島にかかわる状況は、17年に入ると変わってくる。転換点は韓国とアメリカの新政権の成立であった。 弾劾された朴槿恵の後を受けて政権についた文在寅(ムン・ジェイン)の最大の外交的目標は、北朝鮮との対話再開である。文在寅はここで、先立つ朴槿恵政権と自らが大統領秘書室長として直接携わった盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権の二つの失敗を参考に、この目標の実現のためにはまずはアメリカの事前の了承を取り付けることが必要だとして、ワシントンへの積極的な外交攻勢を行った。 すなわち、政権成立当初から文在寅政権は2週間に1度を超える頻度でワシントンに使節を飛ばし、アメリカに対して北朝鮮との対話の重要性を説く外交攻勢に出たのである。 このような戦略を文在寅政権が取った理由は、同じ年に成立したアメリカのトランプ政権の性格にもあった。古いリベラルなエリートに支えられたオバマ政権とは異なり、ポピュリスティックなトランプ政権は気まぐれな大統領のリーダーシップに支えられている。 だからこそ、ワシントンに巣食う安全保障エリートたちを通じて間接的に訴えるのではなく、ホワイトハウスに近い人々に直接自らに有利な観測を積極的に伝えていけば、気まぐれな大統領に率いられたアメリカの政策を自らの望む方向に誘導できる、と考えたわけである。会談で握手するトランプ大統領(右)と安倍晋三首相=2018年9月、米ニューヨーク(共同) そして、少なくとも昨年実施された初めての米朝首脳会談実現までは、この韓国の戦略は上手く機能した。18年1月の北朝鮮「新年の辞」に始まる極めて早い事態の展開の中、韓国はアメリカを交渉に引き出すことに成功し、自らも宿願であった北朝鮮との対話再開を実現することができたからである。北朝鮮問題で失点した日本 他方、進展する北朝鮮を巡る状況の中、ワシントンの古い安全保障エリートたちと、数少ない安倍・トランプ間の首脳会談に多くを依存した日本の外交戦略はスピード感を欠き、日本は北朝鮮問題にかかわる足場を喪失することとなった。その意味でワシントンにおける日韓両国の競争の第2ラウンドは、韓国の優位に進んだように見える。 しかしながら、事態は再び変化を見せている。ここでも転換点を二つ挙げるなら、一つはあまりに事態が早く展開した結果、韓国が次の戦略目標を見失ったことである。 17年に成立した文在寅政権は、北朝鮮によって繰り返される核とミサイル実験の中、北朝鮮との対話の実現は容易ではないと考え、ゆえにまずその実現を目指していた。 だからこそ、その対話が早々に実現された今、彼らは「ここから何をすべきか」について明確な展望を有していない。北朝鮮の核廃棄を早々に実現することが困難なのは明らかであり、これを巡る米朝協議の停滞は、当然ながらアメリカを大きくいら立たせることになる。そして、これを解決する方法を韓国政府は有していない。 もう一つは、やはり事態のあまりに早い展開の結果、韓国が日本の影響力を過小評価するようになったことである。18年後半に入り、旭日旗問題や徴用工判決、さらにはレーダー照射問題や国会議長による天皇謝罪発言にみられる、いたずらに日本を刺激する発言が目立った。 この背景には、日本政府の反対にもかかわらず、北朝鮮を巡る対話が急速に進んだことで、ワシントンにおける日本の影響力を小さく見るようになったことがある、と言われている。文正仁(ムン・ジョンイン)大統領特別補佐官が2月の東京における講演で述べたように「北朝鮮問題で日本の役割はない」という認識が広がっている。 だとすると、安倍政権の朝鮮半島外交における手腕は、この日韓両国の競争の第3ラウンドでこそ問われることになる。重要なのは、この朝鮮半島を巡る日韓両国の競争が、単に東京とソウルの間でのみ行われているのではなく、主としてワシントン、さらには国際社会における影響力競争として行われていることである。中韓ビジネス・サミットに臨む(左から)文在寅大統領と安倍晋三首相=2018年5月、東京・大手町の経団連会館(斎藤良雄撮影) 日本外交の最大の武器は、自らの経済力でも軍事力でもなく、同盟国アメリカをはじめとする各国との協力関係だ。そのことを確認して、この小稿を終えることとしたい。(文中一部敬称略)■「親日清算」も政治ショー? 文在寅はいずれ「歴史の罪人」となる■天皇陛下を「おじさん」 韓国議長、もう一つの侮辱発言■安倍総理の「やってる感」に愛想を尽かした拉致家族のホンネ

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    禍根を残す「やったふり外交」安倍首相の評価は65点止まり

    見で大々的に成果を誇る「やったふり外交」がハマってきたからだ。 例えば、トランプ氏の「米国第一主義(アメリカ・ファースト)」によって、ロシアや中国、欧州連合(EU)、イランなどさまざまな国との摩擦が高まる中、「ドナルド・シンゾー」の個人的な信頼の構築によって、「日米関係は過去最高の良好さ」を保ってきたとされる。安倍首相は、他の首脳と違い、トランプ氏の別荘に招かれ、ゴルフに興じながら、サシで話をしてきたという。果ては、トランプ氏に頼まれて、大統領を「ノーベル平和賞」に推薦する文章まで書いたとまで言われている。2019年2月、トランプ米大統領との電話会談を終え、記者団の取材に応じる安倍首相 トランプ氏が、安倍首相を「いい奴だ」と言っていることに嘘はないだろう。だがそれは、ドイツのメルケル首相やフランスのマクロン大統領が米国の保護貿易や移民政策などに正面から異を唱えるのと対照的に、安倍首相が「耳が痛いこと」をなにも言わないからではないだろうか。ロシア「大国」の幻想 また、アメリカ・ファーストの柱である保護貿易主義では、これまで「米国にモノを売りつけてきた国」が厳しい批判の対象となっているが、一方で「米国のモノを買う国」が必要となる。現在、事実上の「敵対関係」にある中国を除けば、最も米国のモノを買える国は日本であることは明らかだ。その意味で、トランプ氏は少なくとも現時点では、日本のことを悪く言うことはないのだ。 日露関係はどうだろうか。安倍首相とプーチン氏の日露首脳会談は通算25回になる。安倍首相は「私とウラジーミルの間で、北方領土問題を解決し、日露平和友好条約を締結する」とぶち上げたが、実際には進展が見られない。 なにせ安倍首相が再三「ウラジーミル」と呼びかけても、プーチン氏は「安倍首相」と返し、決して「シンゾー」とファーストネームで呼んでくれない。それはともかくとしても、プーチン氏が「両国の間にはまず信頼関係の構築が必要だ」と言い、ロシアの求めに応じて経済協力だけが進んでいる。それは、2014年のロシアによるウクライナ南部クリミア半島の併合に端を発した、米国やEUなどの「対露経済制裁」に、日本が足並みを揃えずに進められている協力だということが重要だ。 日露交渉において、北方領土問題を日本側が持ち出すと、ロシアのラブロフ外相が「第2次世界大戦の結果を認めていないのは日本だけだ」と激しく非難するなど、ロシア側の強硬な態度が目立ち、交渉難航が伝えられる一方で、経済協力ではロシアだけが着々と利益を得ている状況にみえる。だが「そもそも論」だが、なぜ日本がロシアに対して「下手」に出る必要があるのだろうか。 ロシアは「大国」のイメージを高めているが、それは「幻想」にすぎない。1991年のソ連崩壊以降のロシアは、英米やEUによる旧ソ連圏や東欧諸国の「民主化」の画策によって、影響圏をドイツの東ベルリンからウクライナまで後退させた。 東欧諸国の多くがEUや北大西洋条約機構(NATO)軍に加盟し、ついにウクライナがそれに加わる可能性が出てきていた。20年間にわたり、ロシアは負け続けていたのである。「クリミア半島併合」は防戦一方の中で、辛うじて繰り出した「ジャブ」のようなものにすぎない。 また、ソ連崩壊後、ロシアは幾度となく経済危機に見舞われてきた。かつて高い技術力を誇った宇宙産業や軍需産業、原子力産業などは見る影もない。過度に石油・天然ガスの輸出に依存する経済で、その価格下落が経済危機に直結する脆弱(ぜいじゃく)な構造だ。2018年11月、会談を前にロシアのプーチン大統領(右)と握手する安倍首相(共同) 「シェールガス・オイル革命」によって世界一の産油・産ガス国になった米国の攻勢で、石油・天然ガス価格は不安定だ。プーチン政権にとって、「脱石油・天然ガス依存」は急務であり、製造業を育成するために日本の支援を切実に望んでいるのだ。 さらに言えば、急拡大してきた中国との関係も微妙だ。ロシアと中国は、極東の天然ガスパイプラインの建設プロジェクトで合意するなど良好な関係にあるとされる。安倍首相自身の焦り しかし、ロシアはシベリア・極東地域の開発を中国だけとやりたくはない。アフリカなどへの進出でも分かるように、中国は海外に進出する際、政府高官や建設業者、労働者から家政婦まで乗り込んで、「チャイナタウン」を作ってしまう。現地にカネが落ちず、雇用も増えないと不満が高まることも多い。 要は、元々人口が少ないシベリア・極東地域を中国と一緒に開発すると、「人海戦術」で中国に実効支配されることを、ロシアが恐れている。だから、日本にも参加してもらいたいのだ。 日露協力は、「経済的」にはロシアが切実に望むものであるが、日本側は進展しなくても別に困らない。もちろん「政治的」には北方領土問題があり、安倍首相は「戦後70年以上動かせなかった問題を、自分たちの時代で解決する」と意気込んでいる。 だが、この意気込みを裏返せば、「70年動かなくても、大きな問題とならなかった」ともいえる。なぜ、これだけ日本が有利な状況にある交渉で、「北方四島のうち、2島だけでも先に返してもらえないか」と下手に出て、ロシアの言うままに経済協力を進めないといけないのか、理解できない。 要するに、安倍首相が世界の強烈な個性を持つ首脳たちと何度もサシで話し合い、笑顔で握手する映像を流し、記者会見で長時間成果を語っているが、相手に何を話しているかわからない。繰り返すが、かつて「空気を読めない男」と呼ばれ、現在でも国会で野党に対してすぐ感情的になる政治家が、日本の主張を強く、論理的に訴えて、説得できるのであろうか。 むしろ、「安倍外交」がおおむね適切だったのは、アメリカ・ファーストのトランプ氏をはじめ、プーチン氏や習氏ら権威主義的な指導者が跋扈する国際社会で、あまり積極的に動かず、日本の公的な主張を棒読みしながら、笑顔で相手の主張にもうなずき続けて機嫌を損ねないという、無理のない対応に終始してきたからではないだろうか。 しかし、今後も安倍首相が、無理のない、おおむね適切な外交を続けられるかどうかはわからない。アメリカ・ファーストを掲げたトランプ氏は「北朝鮮の核・ミサイル開発への介入」「エルサレムのイスラエル首都承認」「米国のイラン核合意離脱」「ロシアのサイバー攻撃への制裁」「米中貿易戦争」と世界を振り回し続けた。安倍首相はトランプ氏に徹底的に従う姿勢で「いい奴」と思われてきたが、今後もそれでいいのだろうか。2017年11月、北朝鮮による拉致被害者家族らと面会後、感想を語るトランプ米大統領(前列右から3人目)。同4人目は安倍晋三首相(代表撮影) そもそも、安倍首相自身に焦りが見られるように思う。例えば、「北朝鮮問題」は、トランプ大統領とサシで話し続けていても、「拉致問題」に動く気配がなく、「北朝鮮の完全な非核化」にしても、大統領が本気で取り組んでいるのかよくわからない。 2度目の米朝首脳会談こそ物別れに終わったが、韓国やロシア、中国などが隠れて経済協力を始めておかしくない。日本に向けて中距離核ミサイルがズラッと並んだまま、日本が「蚊帳の外」になりかねない状況だ。「われ先に利益を」ではダメ またも繰り返すが、北方領土問題で「北方四島のうち、2島だけでも」と自分からハードルを下げている。困っているのはロシア側なのだから、「4島返還でなければ経済協力は難しい」と構えていればいいのだ。 ラブロフ氏が怒り狂っても、静観していればいい。交渉事は、大体怒っている方がうまくいかず焦っているものだ。 安倍首相は、現実的対応というかもしれないが、今、現実的であっても、30年後に現実的な対応だったと評価されるかどうかはわからない。むしろ、後世に取り返しのつかない禍根を残したと評価される可能性が高い。 日本外交に求められることは、アメリカ・ファーストなど、自国第一主義の魑魅魍魎(ちみもうりょう)が跋扈する国際社会の中で、焦って動かないことだ。 大事なことは、着実に経済成長を続けることだと考える。前述のように、アメリカ・ファーストには「米国のモノを買う国」が必要だ。日本が経済力を維持し、米国製のモノを買い続けられる限り、米国は日本を守ってくれるだろう。 また、米中貿易戦争が激化する中で、中国が日本に接近し、日中関係が改善してきている。中国の急拡大は脅威だが、日本が強い経済力を維持している限り、中国は日本を潰そうとはしない。 「慰安婦問題」「徴用工問題」「レーダー照射問題」と日本に対して挑発的な態度を取り続ける韓国も、国内経済が悪化し、大学生は日本での就職活動に熱心だという。日本経済が強ければ、いずれ関係は改善していくと考えられる。  さらに、日本は米国が離脱した後の環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)を、「TPP11」という形でまとめ上げた。日・EU経済連携協定(EPA)も発効した。TPP11には、英国が「EU離脱後」の加盟に強い関心を持っているという。日本は、権威主義的な指導者による保護貿易主義がはびこる中、「自由貿易圏」をつなぐアンカー役になれる。2017年9月、国連総会出席のため政府専用機で米国へ出発する安倍晋三首相(川口良介撮影) 世界に自国第一主義が広がる中で、日本がわれ先に利益を得ようとすることはない。むしろ、多くの国が自由貿易圏で豊かになれることを、支える役目に徹することだ。それが、日本を守ることになるのである。■「武士の情は通用しない」韓国との情報戦はこう戦え!■「在韓米軍撤収」これが習近平を黙らせるトランプの隠し球だ!■「安倍時代の終焉」が現実的とは言えない理由

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    近隣諸国に根回しした中曽根外交と安倍外交の明確な違い

     「大勲位」中曽根康弘・元首相は5月27日に100歳の誕生日を迎えた。背筋をピンと伸ばし、いまなお、決して椅子の背もたれに体を預けようとはしない。 「首相としても自民党総裁としても中曽根総理に学びたい」 安倍晋三首相は「戦後レジームからの脱却」を掲げ、憲法改正、規制緩和、日米同盟の再構築など、中曽根氏の背中を追いかけてきた。いま、安倍氏は仰ぎ見る存在だった中曽根氏をすでに在職期間で追い抜いたが、国民の目に映る安倍氏の姿は“大宰相”とはほど遠い。100歳を迎えた中曽根大勲位は日本の政治の現状について、こうコメントを発表した。 〈時代の抱える問題と課題に対し政治の責任を自覚し、勇断を以って確りと役割を果たしていくべきだ〉 その言葉を誰に向けたか、中曽根氏は名指ししなかった。「ロン・ヤス」が最優先ではなかった 史上初の米朝首脳会談を控え、安倍首相は6月7日に緊急訪米してトランプ大統領との首脳会談に臨む。「日米同盟の強化」を公約に掲げて首相に返り咲いた安倍氏は、民主党政権時代に悪化した対米関係の改善に取り組み、とくにトランプ大統領とは「強固なシンゾー・ドナルド関係」を確立した。 なにしろ、安倍首相はトランプ大統領がやることなすこと全部ウェルカム。米朝首脳会談開催が公表されるといち早く歓迎を表明したかと思うと、会談中止を言い出した時も即座に、「大統領の決断を支持する」と賛成。再び会談開催に傾くと「トランプ氏を引き込んで圧力をかけ続けてきた結果だ」(菅義偉・官房長官)と我田引水を交えて賛同した。こんななりふり構わぬトランプ追従は、他国の首脳には真似できそうにない。 安倍首相がモデルにしているのが中曽根外交だ。1982年、首相に就任した中曽根氏は「日本は不沈空母」という発言で悪化していた日米関係を修復し、ロナルド・レーガン大統領と「ロン」「ヤス」とファーストネームで呼び合う関係を築いた。 当時、父の安倍晋太郎外相の秘書官を務めていた若き安倍氏は「首脳外交には個人的な信頼関係が重要だと学んだ」と述懐している。しかし、木を見て森を見なかったようだ。中曽根氏は昨年1月、在任時の外交記録公開にあたってこうコメントを出した。 〈首脳外交では常にアジアの一員であることを心掛けた。サミットの際にアジアの各国首脳と連絡を取り意見や要望を聴き、その上でサミットの場に臨んだ。(中略)米国追随型といわれたそれまでの日本外交を脱し、アジアを背景に自主外交路線を打ち出すことは、アジアの国々や国際社会から信頼を得る上でも非常に重要な視点であったと思う〉2017年5月、「中曽根康弘先生の白寿を祝う会」で中曽根康弘元首相に挨拶する安倍晋三首相(宮川浩和撮影) 事実、中曽根氏は日米関係を重視する一方、サミットでは「哲人宰相」と呼ばれたフランスのミッテラン大統領の見識を高く評価して個人的親交を結び、「鉄の女」サッチャー英首相やコール西ドイツ首相とも本音で語り合う信頼関係を築いたことで知られる。 北朝鮮との交渉も拉致問題解決もトランプ大統領に頼り切りの安倍外交にそうした心構えと近隣諸国への周到な根回しはみられない。 亀井静香氏や石原慎太郎氏ら“応援団”からも「トランプのポチみたいな扱いをされちゃいかんぞ」と念を押される始末なのだ。これでは“トランプがコケたらシンゾーもコケる”と他国から危うく見られても仕方ない。

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    先鋭化するトランプ大統領のメディア攻撃

    斎藤彰(ジャーナリスト、元読売新聞アメリカ総局長) 米中間選挙を前に、トランプ・ホワイトハウスのメディア攻撃が先鋭化してきている。政権運営に対する批判を極力封じ込めると同時に、超保守的な支持基盤固めを意図したものだが、新聞社やジャーナリスト個人が一部の過激なトランプ支持者の脅迫電話、メール攻撃にさらされるなど、両者の関係は緊迫の度を高める一方だ。 去る8月30日、FBI(米連邦捜査局)はカリフォルニア州エンチノ在住の68歳の男性を脅迫容疑で緊急逮捕した。男の自宅からは20丁のけん銃、ライフル銃なども押収された。 「ニューヨーカー」誌電子版によると、男は東海岸のボストン・グローブ紙が、最近メディア攻撃を強めつつあるトランプ大統領を糾弾する社説を掲げたことに腹を立て、同社編集局宛ての電話で「お前らは『人民の敵』だ。一人ずつ殺してやる」などと脅迫した。 たまたま同じ日の数時間前には、トランプ氏が自分のツイッターでCNN,NBC両テレビ局の経営者に名指しでかみつき「大半のメディアの不正直な態度はいくら強調してもし過ぎない。いつも私のことについて匿名ソースを使ってでたらめ報道をしている。この中にはフェイク・ブックも含まれる。『人民の敵』だ!」と非難したばかりだった。逮捕された男はそのタイミングからみて、大統領のツイートで触発された可能性を否定できない。 このほか、8月22日には、AP通信ロサンゼルス支局に別の人物から「いずれお前らクソったれどもをぶっ放してやる」といった殺害予告電話が入ったほか、同月初めにはペンシルバニア州ステートカレッジの「ドン」と名乗る男からC-spanテレビ局に電話があり「CNNテレビのドン・レモンとブライアン・シェルターを撃つ」といずれも著名な放送記者を名指しで脅迫してきた。MSNBCの女性キャスター宛てには「あんたがレイプされ殺されるといいのだ」と記した差出人不明の手紙も届いているという。 このようなマスメディアに対する脅迫やいやがらせは、ここ半年の間にとくに増えつつあるが、同じ頃からエスカレートしてきた大統領個人による先鋭化したツイートなどによる攻撃と機を一にしているとみられる。 その特徴は、段階的に3つに分類できよう。 昨年1月ホワイトハウス入りする前後から、トランプ氏がテレビや新聞報道批判に乗り出した当時、もっぱら好んで使われた言葉は「フェイク・ニュース(虚報)」だった。ホワイトハウス内部での人事抗争や大統領個人の内輪の人種差別的発言などがリークされるたびに「マスコミ報道の全部とは言わないが、85%はフェイク・ニュースだ」などと根拠もない数字まで挙げて批判を続けてきた。2018年7月23日、米ホワイトハウスで演説するドナルド・トランプ大統領(AP=共同) とくに主要メディアに対する不信感はその後もエスカレートしてきており、いまや唯一信頼を置いているのは、右翼的体質がめだつFOXニュース放送局のみといっていいほどだ。事実、大統領は毎週のように同テレビ局の人気キャスターとのインタビューに応じ、視聴者向けに「インチキ報道」に反論するかたちで自説を正当化するのが常態化してきている。発言の大半が「フェイク」 では、大統領自身、これまで真実を語って来たかと言えば、実際はまるで異なる。 ワシントン・ポスト紙は社内に特設された「ファクト・チェッカー」と呼ばれる入念な追跡調査で、本人がこれまで記者会見や声明発表、ツイート発信などを通じ「事実とは異なる(false)、あるいは誤解を招く(misleading)発言」を具体的に回数にしてどれだけしてきたかについて興味ある結果を公表している。 去る9月4日付けワシントン・ポストによると、昨年1月20日就任以来、592日間にその数は実に「4713回」に達し、1日平均にすると「8回」になるという。就任後の最初の100日間は「4.9回」だったのと比較すると、虚言回数は急ピッチで増えつつあることを示しており、また、最近の3か月では毎日平均「15.4回」というすさまじいペースだ。 しかも事実と異なる発言ながら、同じ間違いを最低3回は繰り返してきたケースが「113回」もあり、その中には「自分は大統領として史上最大規模の減税を実現した」(実際は史上8番目)との表現を様々な機会に「72回」も使っていた例もあった。ロシアが2016年米大統領選挙に介入した事実はこれまでのあらゆる公的米情報機関調査で明確になっているにもかかわらず、大統領が「ロシア関与説はでたらめ」と言明してきた回数は「53回」に達している。 またつい最近では、昨年プエルトリコに甚大な被害をもたらしたハリケーン「マリア」に関する大統領発言が、物議をかもしている。 ホワイトハウスで記者団を前に大統領は「わが政府が展開したプエルトリコでの災害対策・救援作戦は信じがたいほどの成功を収め、死者も6~8人程度ですんだ」と豪語して見せた。ところが、実際の死者は「推定3000人以上」に達しているだけでなく、島民の半数近くはいまだに水や電気を十分に使えず困窮生活を強いられており、首都サンファン市長はじめ地元側からトランプ発言に対し猛烈な反発を引き起こした。 こうしたことは、マスコミを十把一絡げに「フェイク・ニュース」と一蹴してきた大統領のこれまでの数限りない発言の大半が、実は「フェイク」であったことを如実に示している。 しかし大統領はその後、さらにマスコミ批判を強め「フェイク・ニュース」から攻撃性の濃い「米国人民の敵(enemy of American people)」との表現を使い始めた。偏狭で超保守主義的な一部のトランプ支持層の心情をかきたてることを意識したものだ。 とくにこの言葉が飛び出してきたのは、去る7月、ヘルシンキでの米ロ首脳会談でプーチン大統領に媚を売るような醜態を演じたことが米マスコミで大々的に報じられ、連邦議会共和党幹部たちからも酷評されたことに端を発している。 そしてその後は、大統領が顔を出す地方の政治集会などでは、取材の同行記者団に対し、トランプ支持派の聴衆から「人民の敵」のヤジが浴びせられ、同じ表現のプラカードが報道陣の前に数多く掲げられるケースが増え始めてきた。挑戦受ける国家の存立基盤 大統領のメディア批判はさらにとどまることなく、つい最近ではテレビ局や新聞社の特定の記者たちを名指しで非難するほど先鋭化してきた。“各個撃破”の様相を呈し始めており、報道に携わる関係者たちの間で身辺警護を強める人たちが増えている。各地の報道関係機関の建物も、暴漢の襲撃を警戒し、玄関の出入りチェックを強化する動きも出てきた。 ニューヨーク・タイムズの場合、自社の記者たちに対する脅迫が増加しつつあるため、編集局の入り口に武装警備員まで配置しているという。 これまでに大統領から個人口撃を受けたジャーナリストの中には、ウォーターゲート事件報道でニクソン大統領を追い詰め、ピューリツァー賞を受賞したワシントン・ポスト紙のカール・バーンシュタイン記者も含まれる。 同氏は今年7月、CNNが放映した特ダネ番組の中で、モラー特別検察官が捜査中の「ロシア疑惑」に関連してトランプ氏が、長男トランプ・ジュニアら同陣営とロシア側弁護士との間で行われた秘密会談を事前に知っていたと報じた。これを受けてトランプ氏は最近、バーンシュタイン氏を「お粗末で退化した愚人でアメリカ中で笑いものになっている」などと酷評した。 9月初めには、大統領は、トランプ・ホワイトハウスの混乱ぶりを鋭く描写した話題の本「不安:ホワイトハウスのトランプ」(原題“Fear:Trump in the White House)の著者ボブ・ウッドワード氏を「バカ者」などと容赦なく非難した。 一方、国連人権会議専門委員二人と「汎アメリカ人権委員会」は8月3日、トランプ大統領による最近のメディア攻撃に関連して特別声明を発表、その中で「トランプ氏の言動はジャーナリストが暴力にさらされる危険を増大させているだけでなく、報道の自由と国連人権保護法を蹂躙するものだ」と指摘した。 トランプ政権の対メディア対応は今や米国内にとどまらず、重大な国際的関心事となりつつあることを示している。 アメリカの歴史を振り返ると、もともとイギリスからの独立運動は、圧政に対する北米13植民地の住民たちによる異議申し立てから始まった。言い換えれば、アメリカ合衆国の建国は「言論の自由」の行使によってこそ達成されたといえる。2018年11月、ホワイトハウスでの記者会見で、CNN記者(右)を指さすトランプ大統領(AP=共同) その「言論の自由」が今日、トランプ政権下で執拗な攻撃にさらされつつあるとすれば、アメリカという国家の存立基盤そのものが挑戦を受けていることになる。さいとう・あきら ジャーナリスト、元読売新聞アメリカ総局長。1966年早稲田大学卒業。68年米カリフォルニア州立大学バークレー校大学院修士課程修了、70年読売新聞入社。ワシントン常駐特派員を2度務めた後、アメリカ総局長、東京本社取締役調査研究本部長などを歴任。近著に『中国VSアメリカ』、『アメリカはカムバックする!』(いずれもウェッジ)がある。

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    誰がための米朝首脳再会談

    朝鮮半島の非核化プロセスは本当に描けるのか。昨年6月以来、2度目となる米朝首脳会談がベトナムの首都、ハノイできょう始まる。初会談はただの「政治ショー」に終わったが、目先の成果を急ぐ余り、両首脳が演出と妥協で交渉を進展させる可能性もある。誰がための会談か、その意味を改めて考えたい。(写真は共同)

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    北朝鮮非核化の主導権を虎視眈々と狙う文在寅「逆転シナリオ」

    木宮正史(東京大学教授) 2月27日、28日に行われる第二次米朝首脳会談を考察する上で、その比較対象はやはり昨年6月12日にシンガポールで開催された第一次米朝首脳会談だ(本稿の執筆は2月26日)。第一次米朝首脳会談および共同声明で提示された基本コンセプトが第二次首脳会談でも提示されることになる。①新たな米朝関係②朝鮮半島平和体制③北朝鮮の安全保障④朝鮮半島の非核化である。 しかし、今回の第二次首脳会談では、これに加えて⑤制裁の緩和⑥(長距離)弾道ミサイル問題が新たに付け加えられる可能性がある。ただ、第二次首脳会談までの限られた時間の中で、北朝鮮の非核化の具体的な道筋とそれに対して、北朝鮮が満足するだけの米国の見返りについて、双方の妥協がどの程度実現するのか、依然として不透明であることには違いない。 まず米国であるが、第一次首脳会談の直後は③北朝鮮の安全保障の提供として朝鮮戦争の終戦宣言や米韓合同軍事演習の中止などに言及していたが、演習中止は実現するが、終戦宣言に関しては米国内からの慎重論もあり、実現に至っていない。 そこで、北朝鮮は代わりに制裁緩和を要求するが、これについては非核化が実現されなければ制裁の緩和はないという姿勢で臨む。ただし、トランプ大統領もそうだし、特に米国務省のビーガン北朝鮮担当特別代表は、寧辺(ニョンビョン)核施設の廃棄などに対する見返りとして、人道支援の拡大、終戦宣言、米朝相互の連絡事務所の開所を示唆している。 寧辺以外の核施設の申告、その廃棄などをめぐる行程表の提示などが、どの程度達成されるのかが未来の核、核の凍結だけではなく、過去から現在に至る核の廃棄をも含められるのかどうかの試金石になるだろう。 興味深いのは、首脳会談の直前25日になって、韓国発で興味深い発言が二つ出てきたことである。 一つは、大統領府の首席補佐官会議で、米朝首脳会談への期待を表明する中で文在寅(ムン・ジェイン)大統領自身が「歴史の周辺ではない中心に立ち、戦争と対立から平和・共存に、陣営とイデオロギーから経済と繁栄に向かう新韓半島体制」を主導的に準備しなければならないという立場を表明したことである。2019年1月、ソウルの韓国大統領府での年頭記者会見で、報道陣の質問に応じる文在寅大統領(共同) もう一つは、大統領府のスポークスマンによる「米朝2国間の終戦宣言」に対する肯定的発言である。北朝鮮の非核化の具体的な措置に関する米国の提示する見返りが何であるのかについて注目されていたが、「米朝2国間の終戦宣言」が急に注目されてきた。本来であれば、韓国もこれに加わるべきであったのだが、韓国は既に2018年9月の平壌宣言で実質的な終戦宣言、不戦宣言、不可侵宣言を行っているということで、北朝鮮の非核化が進むという条件付きではあるが、韓国は歓迎の意思をあらかじめ示している。「悲観論」渦巻く日本 また、これは従来から言われてきたことではあるが、米国にとっての最大の問題は核兵器それ自体ではなく、米本土を射程に入れる核弾頭搭載可能なミサイル、大陸間弾道ミサイル(ICBM)であり、たとえ同盟国である日韓などが短距離および中距離ミサイルも削減、もしくは廃棄対象に含めるべきだと主張しても「米国第一主義」の立場からは、まずはICBMの削減・廃棄の方を優先させる可能性が高いと言える。 一方で、これが短距離・中距離ミサイルの削減や廃棄と切り離されてしまい、短距離・中距離ミサイルの削減・廃棄につながらないと日本の利益は無視されたことになり非常に困った結果になってしまう。したがって、米国に対して日本の利益も重視するように働きかけることは重要だろう。しかし、長距離ミサイルの削減・廃棄が短距離・中距離ミサイルの削減・廃棄につながるのであれば、それをむしろ支援することが有効だろう。 ただし、米国政府内部でも北朝鮮が「核兵器を完全に放棄する可能性は低い」(コーツ国家情報長官)、北朝鮮は「米国に直接的な脅威を及ぼす長距離核弾頭ミサイルの開発に注力している」(ハスペル中央情報局=CIA=長官)という慎重な見方も依然として根強い。従って、北朝鮮の非核化に対する見返りとして、今回の首脳会談で「制裁緩和」という言葉を米国が明示的に約束することはないだろう。 北朝鮮としては、もちろん寧辺の核施設の廃棄の見返りとして上記の三つ、すなわち人道支援の拡大、終戦宣言、米朝連絡事務所の開所は最低限確保しておきたいと考えるだろう。そして、可能であれば、ある意味では制裁緩和の突破口として、韓国との南北経済協力に関する米国の姿勢の緩和を求めるということも考えているのではないか。 金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長の2019年の新年辞でも、開城(ケソン)工業団地と金剛山(クムガンサン)観光という南北の二大経済協力事業の再開に明示的に言及したことにも現れる。北朝鮮にとって、とりあえず経済発展のためには南北の経済協力事業を再開させることが最も近道ではあるのだが、それが国際制裁によって行き詰まっており、韓国だけの判断では再開が難しいということになると、それを突破するためには、米国の了解が必要になるということだろう。 元来、北朝鮮が非核化を実施することによって米国から制裁緩和による経済発展と体制保証を求めるというプロジェクトは、ある意味では南北の共同プロジェクトとでも言うべき性格を持っているので、米国さえ、それを許諾すれば可能になるという暗黙の合意が南北にも存在する。 日本では、ともかく北朝鮮の非核化に対する懐疑論、悲観論が依然として根強い。もちろん、せっかく開発したものを容易に手放すはずはないということは理解し得る。他国を欺いて核ミサイルを保有することが北朝鮮の目的であるとすれば、それは実現されたと言える。2019年2月26日、米朝首脳会談のためベトナム・ドンダン駅に到着し、出迎えの人に手を振る北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長(共同) しかし、それが北朝鮮の現在から将来にわたる安全を保証することにならなかったことも北朝鮮は十分に自覚している。だからこそ、2018年に入って、それまで蓄積してきた核ミサイル能力を使って、自体制の安全保障を最大の脅威である米国から獲得しようとしてきた。米朝間の不信という条件の下で、そうした自体制の安全保障を獲得するという確信がないために、可視的な非核化に踏み切るのは容易ではないのかもしれない。 しかし、いったん指導者自ら下した決断の意味は過小評価されるべきではない。そうした決断をどの程度持続することができるのか、できないのか、それは一義的には北朝鮮の指導者自身の選択にかかっているが、それ以外、特に米国をはじめとする国際社会の対応が、そうした決断を活かして持続させるのか、それとも、そうした決断自体不確かなものであり、信頼に値しないと考えるのか、さらに北朝鮮をより一層追い込むことによって、北朝鮮の非核化以上、例えば、北朝鮮の体制転覆のようなものまで獲得しようとするのか、という選択にかかっている。「前のめり」になる韓国 ただ、米国は「制裁緩和」という見返りは、もっと可視的な非核化が進まない限りは提供しない意志が固いだけに、「制裁緩和」ではない南北経済協力の再開をどのように論理づけるのか、もしこの問題が議論の俎上(そじょう)に上がるのであれば注目されることになる。 韓国としては、過去においても、北朝鮮の核ミサイル開発が行われていた時も開城工業団地や金剛山観光という経済協力事業は行っていたという実績がある。したがって、文在寅政権としては、この事業を再開することによって、北朝鮮に対する韓国の影響力の回復を狙いたいと考える。前述した「新韓半島体制」における「韓国の主導権」云々は、そうしたコンテクストの中で理解される。 しかし、北朝鮮の核ミサイル開発に対する対抗措置として、この経済協力事業を中断したという経緯があるため、やはり相応の可視的な非核化の進展がないと、そして何よりもそれに対する見返りとして米国がそれを寛大に見るということがないと、韓国独自の判断で再開するということは難しく、予定されている金正恩のソウル訪問も難しい、ということになる。 実際に、文在寅大統領は若干奇妙な論理ではあるが、北朝鮮の非核化に対する米国の見返りに関して韓国がその費用の一部を南北経済協力という形で負担する用意があるという論理を提示する。米国トランプ政権さえ許容すれば、南北経済協力を復活させる意欲は強いように思う。 また、今回の米朝首脳会談で、開城工業団地はともかく金剛山観光事業程度は復活する条件が準備できるのではという期待が大きいように思う。 確かに、北朝鮮の非核化が不確かな状況で韓国が「前のめり」になっているという印象を拭えないことは確かであるが、それを「韓国は北朝鮮にだまされているだけだ」「トランプ大統領もそれに乗せられているだけだ」と悲観的に見る必要もない。韓国としては南北関係を改善することが北朝鮮に対する韓国の影響力を復活させて、それが主導権の掌握につながると考えていることは確かであるからだ。 最後に、日本の取るべき対応については以下のように考えられる。北朝鮮の非核化はあり得ないことであると頭から決めつけるのではなく、むしろ、北朝鮮を非核化に追い込むために外堀を埋めていく作業に日本も積極的に関与するという基本姿勢が必要ではないかと考える。2019年1月、北朝鮮の金英哲朝鮮労働党副委員長(右)から金正恩党委員長の親書を手渡されるトランプ米大統領(ホワイトハウスのダン・スカビーノ氏のツイッターから・共同) もちろん、その確実な保証があるわけではなく、北朝鮮はまた核実験やミサイル発射をすることで、約束を裏切るのかもしれない。しかし、その時はまた従来の制裁局面に戻るようになるし、それを主導すればいいだけの話である。米韓も、そうなればいつまでも融和局面にしがみつくということにはならないはずだ。 現状では、一方で北朝鮮の非核化を既成事実にするように慎重にかつ着実に見返りを提供することに関与する、その点での日米韓の協力を行っていくという姿勢が必要ではないか。しかし他方で、北朝鮮の非核化の不透明さが高まる時にも備えて、いつでも制裁局面に戻ることができるような態勢を準備しておくことが必要だし、そのための日米韓さらには中露を含めた協力を準備しておくことが必要だ。そうした二面作戦を採用するべきであって、今の時点から、どちらか一方に決め打ちをするというリスクを冒す必要はない。■ 金正恩が「完全な非核化」に初めて言及した意味■ 「反トランプ」のうねりはなぜ起こらなかったのか■ 崖っぷちの金正恩、万策尽きた文在寅「南北首脳の叫び」

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    「金正恩と恋に落ちた」トランプの口説き文句に隠された意味

    前嶋和弘(上智大総合グローバル学部教授) 「北朝鮮政策はうまくいっている。そして、今後もうまくいかせないといけない」。2月27、28日の米朝首脳会談を前にして、トランプ大統領の「胸の内」はこんな一言で表されるのではないだろうか。 トランプ氏の本質はポピュリスト(大衆迎合政治家)である。常に自分を支持する人々を意識し、それを2016年大統領選挙における当選の原動力にした。 もちろん政権発足後も、規制緩和や大型減税、環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)と「パリ協定」離脱、エルサレムへのイスラエル首都移転など、利益還元に勤しんだ。そして、大統領選再選のために何を訴えたらよいのかに腐心し、最近では対中貿易戦争や、メキシコ「国境の壁」建設のための非常事態宣言など、さまざまな言動に拡大させている。 では、トランプ氏の過去2年間の政策において、最大の「レガシー(遺産)」とは何か。国内政策では、何といっても経済発展であり、外交では対中強硬策などもあるが、何よりも目立つのが北朝鮮政策である。 規制緩和と大型減税が「トランプ景気」を支えてきたが、景気循環のサイクルにより今後の景気が頭打ちとなる可能性を考えれば、今後訴えたいのは北朝鮮問題での成果である。北朝鮮政策がうまく進むことを支持者にアピールし続けることで、トランプ氏の2020年大統領選の再選に直結するとみているはずである。 2019年2月5日に行われた一般教書演説では、北朝鮮政策について述べたのは、わずか1分弱である。しかも、具体的な非核化への言及や北に対する否定的な言葉は一切なかった。 それでも実際の時間よりも、北朝鮮政策の存在感は非常に大きかった。第2回会談の日程を公表したのがこの演説であるほか、「私が大統領でなければ北朝鮮との戦争だった」というのは、この演説の最大の決め台詞(ぜりふ)だったからだ。2019年2月15日、米ホワイトハウスで記者会見するトランプ大統領。国家非常事態を宣言した(ロイター=共同) 「金正恩とは恋に落ちた」「北朝鮮政策はうまくいっている」「北朝鮮は経済のロケット(のように急成長)となる」といった「前のめり」発言が続いているように、トランプ氏の北朝鮮政策に関する見立ては肯定的なものばかりだ。ポンペオ国務長官や国務省のビーガン北朝鮮担当特別代表といった実務担当者は、トランプ氏の「思惑」に慎重ながらも言葉を合わせているようにもみえる。 ただ、そもそも昨年6月の第1回米中首脳会談前に米国が望んでいたのは「まず北朝鮮が先に非核化する」ことだったはずである。それを端的に示す「完全で検証可能かつ不可逆的な核廃棄(CVID)」という言葉は今や完全に消えてしまってしまったようにみえる。昨年夏ごろから、ポンペオ氏の北朝鮮の非核化目標は「最終的かつ全面的で検証可能な非核化(FFVD)」という言葉に変わっていった。政敵のようにこき下ろす さらに、今年1月末のスタンフォード大での講演で、ビーガン氏は北朝鮮の非核化に対して、シンガポールの合意事項は「同時的かつ並行的に進展させる」と述べた。米国側の北朝鮮に対する「アメ」を段階的に与えていくという政策変更が明言されたのである。 ビーガン氏のこの日の言葉には、米国側が「戦争を終わらせる準備ができている」や「北朝鮮政権の転覆を追求しない」などといったものもあった。CVIDを全面的にうたい、「相応の措置をするなら、まず北から」と言及した半年ほど前と比べ、かなり「前のめり」になっているようにみえる。 この「前のめり」のトランプ氏や担当者に対して、北朝鮮の核放棄の意図に関するインテリジェンス・コミュニティーはかなり懐疑的だ。1月29日の上院情報特別委員会の公聴会は、このトランプ氏とは180度異なる見方が政権内に強く存在するという意味で衝撃的だった。 この公聴会で、コーツ国家情報長官は「北朝鮮の政治指導者は体制存続のために核兵器が極めて重要だとみている」「同国が核兵器を完全に放棄する公算は小さい」と明言。ハスペル中央情報局(CIA)長官も「北朝鮮指導部は、米国への直接脅威となる長距離弾道ミサイル開発の意志を持ち続けている」と指摘した。 両者の発言を聴くと、トランプ氏や実務担当者の発言はまるで「はったり」のようにすら思えてくる。これらの発言に対して、トランプ氏はツイッターで「ナイーブだ」「学校教育からやり直せ」と綴り、まるで政敵をこき下ろすように手厳しい。 同じ政権内部からのメッセージがこれほど大きく異なるのは、一種の攪乱(かくらん)作戦なのかもしれないと勘繰ってしまう。あるいは、「北の核放棄の意志はかなり怪しいが、それでも米朝交渉の順調さをアピールしないといけないための演出」としたら、これは茶番劇なのか。2019年2月、ハノイのホテルに到着した米国のビーガン北朝鮮担当特別代表(左、AP=共同) それでも、トランプ氏や実務担当者たちの言葉を信じ、北朝鮮に積極的な核放棄の意図があるとするなら、今度の第2回米朝首脳会談は歴史的なものになる可能性がある。そのシナリオを考えてみたい。 北朝鮮が何を提供したら、積極的な核放棄といえるだろうか。核実験場の廃棄を表明し、坑道などを爆破した豊渓里(プンゲリ)の抜き打ち査察を認めるようなことが大前提である。「誘い水」のツイート これに加えて、弾道ミサイル発射基地がある東倉里(トンチャンリ)の基地解体、核開発施設が集中する寧辺(ニョンビョン)などでの施設の解体とその抜き打ち査察ぐらいまでは期待できるのかもしれない。あるいは、もし北朝鮮が地下などに核保有すると言われる核兵器リストの提出と米国側のインテリジェンスのつかんだ情報との照合、さらには核廃絶のロードマップ提出などが行われた場合、北朝鮮の核放棄の姿勢を否定するのは難しくなる。 北の態度次第で、トランプ政権からの「アメ」は、ビーガン氏の言葉を借りれば「同時的かつ並行的に」豪華になっていく。まずは人道支援から始めて、南北間の経済交流の容認、朝鮮戦争終結宣言、将来の大使館となる連絡事務所建設といった人的交流が考えられる。 トランプ政権後のことを考えて、連邦議会を巻き込んだ平和条約や不可侵条約の締結なども米国側が用意するかもしれない。もし、さらに北朝鮮から核兵器リストの提出までの対応があった場合、経済制裁から180度転換し、経済支援の方に少しずつ舵(かじ)をとりながら、場合によっては直接投資まで行く可能性すらある。 2回目の米朝首脳会談を前にした2月24日の「北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長は、核兵器をなくせば経済大国になれると誰よりも認識している」というトランプ氏のツイートは、北朝鮮に核を放棄させるための「誘い水」である。 朝鮮戦争終結宣言は休戦協定に繋がり、いずれは在韓米軍の縮小の可能性も出てくる。ただ、在韓米軍は対中用でもあるため、今のところ、トランプ氏は強く否定している。 見えない最大の「アクター」が中国である。北朝鮮の後ろにいるのが中国であり、中国が北朝鮮という国を支えているというのがトランプ政権の見方である。中国としても、親米国家が近くにできるのは心良しとしないはずであり、現状維持を願っているはずであろう。2018年12月、ブエノスアイレスでの首脳会談で握手するトランプ米大統領(左)と中国の習近平国家主席(新華社=共同) もし核廃棄が進めば、日本と韓国、中国などの北朝鮮の近隣諸国に非核化の資金を出させるのがトランプ政権の立場であるため、日本としては資金提供とともに、拉致問題を進める必要性がある。そして、北との交渉を一気に本格化させなければならない。 「前のめり」のトランプ氏の思惑通りとなり、大きな節目となるのか。全世界が注目している。「朝鮮戦争を終わらせた歴史的な大統領」という形容詞がトランプ氏に与えられる日は来るのだろうか。■ 金正恩が「完全な非核化」に初めて言及した意味■ 「反トランプ」のうねりはなぜ起こらなかったのか■ 崖っぷちの金正恩、万策尽きた文在寅「南北首脳の叫び」

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    米朝再会談、非核化の先にある金正恩独裁「崩壊へのカウントダウン」

    は、何としても経済制裁の解除を勝ち取る必要があるわけだ。 だが、それ以上に北朝鮮にとって重要なのは、アメリカとの関係正常化だ。今回の交渉で相互にリエゾン・オフィス(連絡事務所)を置くことで合意するとの報道もある。北朝鮮の非核化が急速に展開するとは思えないが、そうした中で米朝関係の国交正常化に向けた成果を上げることができれば、首脳会談の具体的な実績となるだろう。金委員長は、おそらくトランプ大統領から合意を引き出せるとみているのではないか。 第2回目の首脳会談は、北朝鮮の非核化が先か、制裁解除や経済援助が先かをめぐって展開されると予想される。また、非核化の具体的な内容も焦点となるだろう。2019年2月5日、米国の上下両院合同会議で一般教書演説をするトランプ大統領=ワシントン(AP=共同) すなわち非核化の対象となるのは核兵器や大陸間弾道ミサイル(ICBM)、生物化学兵器の開発の中止にとどまるのか、既存の核兵器や中短距離ミサイルの放棄まで及ぶのかが議論の対象となるだろう。 さらに非核化の検証をめぐる問題もある。2日間の首脳会議で、そうした点まで詰められるとは思えない。前回同様に抽象的な声明の発表に終わり、具体的な議論は先送りされる可能性が強い。非核化は「武装解除」 首脳会談の内容は注目されているとはいえ、それ以上に重要なのは、北朝鮮の核兵器に対する考え方が根本的に変わったのかどうかである。北朝鮮は、金体制の維持を「最優先課題」とし、核保有国になることが体制維持にとって必須であると考えてきた。 かつてリビアが核兵器開発を断念することで、結果的に体制転換を迫られた例がある。リビアの二の舞を踏みたくないというのが、北朝鮮の本音であろう。とすると、単に経済制裁解除と引き換えに核保有国の立場を放棄するとは思えない。非核化は北朝鮮にとって武装解除に等しい。事実、金委員長は核兵器を「すべて」放棄するという発言は一度も行っていない。 アメリカ政府の中にも北朝鮮に対する根強い懐疑論が存在している。たとえば、1月に上院諜報委員会で行われた公聴会でダン・コーツ国家情報長官は「北朝鮮が核兵器と核兵器製造施設を完全に放棄するとは思われない」と証言している。非核化のためには、北朝鮮はさらにハードルを上げてくる可能性もある。 昨年12月、朝鮮中央通信は「われわれが朝鮮半島の非核化というとき、それは北朝鮮と韓国だけでなく、すべての隣国からの核の脅威を取り除くことを意味する」と書いている。 さらに、仮に朝鮮戦争終結宣言で合意すれば、北朝鮮は間違いなく韓国からの米軍撤退の要求を突き付けてくるだろう。そうなればアメリカは東アジア戦略全体の見直しを迫られることになる。 もう一つ忘れてはならない重要な問題は、北朝鮮の非核化が実現した場合、それでも北朝鮮の独裁体制が存続するのか、あるいは民主的な体制に変わっていくのかどうかである。今回の首脳会談の開催場所としてハノイが選ばれた理由に、ベトナムの民主化と経済発展モデルを北朝鮮に示すためだと言われている。2019年2月23日、平壌駅で(左2人目から)北朝鮮の崔竜海朝鮮労働党副委員長、朴奉珠首相らに見送られる金正恩朝鮮労働党委員長(朝鮮中央通信=共同)  だが、北朝鮮のベトナム化はおそらく最終的には金体制の崩壊につながるだろう。もし金体制が生き残った場合、世界はこの非民主的な独裁国家と共存していかなければならない。 北朝鮮の非核化は、単に核兵器の問題にとどまるものではない。北朝鮮の体制問題、アメリカの安全保障政策、外交政策の基本がかかわってくるのである。非核化問題は、単に核兵器や大量破壊兵器の廃棄問題にとどまらないことを正確に認識しておく必要がある。■ トランプ「下院敗北」が持つ本当の意味■ 「反トランプ」のうねりはなぜ起こらなかったのか■ 金正恩が「完全な非核化」に初めて言及した意味

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    「トランプが金正恩の落とし穴にはまる」北亡命外交官が断言した理由

    朴承珉(在韓ジャーナリスト) 「金正恩時代に、日本との国交正常化の代価は100億ドル以上になるだろう」。ベトナムのハノイでの米朝首脳会談を1週間後に控えた最近、会談展望についての様々な予測が出ている。国際社会の視線がハノイに集中している微妙な時期に、2016年、韓国に亡命した北朝鮮の太永浩・元駐英公使の記者会見が19日、ソウル外信記者クラブで開かれた。 太元公使は、北朝鮮の亡命外交官としては一番地位が高い。亡命前に北朝鮮の駐英国大使館ではナンバーツーだった。昨年、北朝鮮の金正恩政権の内部実相を暴露した『 太永浩証言―3階書記室の暗号』という著書が発刊された。 北朝鮮の核保有戦略について、自分が北朝鮮の外交官だった時、「金正恩が望んだのは、(国際社会に)"戦争危機論"を訴えて核保有国に行く」という戦略だったと述べた。これを通じて「金正恩は米国と北朝鮮の間で核戦争が起きかねないという懸念を全世界に拡散させるのに成功した」と解釈した。 こうした北朝鮮の戦略に「17年11月、トランプ米大統領が落とし穴にはまった」とし、トランプ大統領が国連総会で「北朝鮮を完全に破壊できる」と演説したのは、米国としては非常に大きな戦略的失敗だったと、分析した。 当時国際社会は、「金正恩という核列車と、トランプという核列車、あたかも両核の列車が向かい合って駆けつけるという国際的錯視現象が起きた」とし、北朝鮮と米国の間に戦争の危機はまったく存在しなかったと述べた。 ところが、米国が金正恩のレトリックによる戦争の可能性に浸り、北朝鮮と米国の間で核戦争が起こる恐れもあるという憂慮を抱かせた」と、これが金正恩が望んだ戦略だったと述べた。 太氏は、米国はベトナムでの2回目の米朝首脳会談を前に、「非核化交渉にするか、それとも核軍縮交渉にするか」というジレンマに陥っている、との見方を示した。また、北朝鮮は自分たちが持っている核について誰にも放棄するという約束も宣言していないとし、「いまだに米国がベトナム第2回目の首脳会談(実務会談)で、北朝鮮にIAEAとNPTに復帰するように要求しないことが最も憂慮される事案」と、トランプ大統領の対北交渉の姿勢に不満を示した。ソウルで記者会見する北朝鮮の元駐英公使、太永浩氏=2019年2月19日(共同) また、「もし今回の会談で北朝鮮の寧辺核施設+aに対する相応措置として、米国が何かを与えてディールをするなら、それは非核化会談ではなく、核軍縮会談に突入することを意味する」とし、結局それは、"トランプ・ドクトリン"に向かっている証拠だと述べた。トランプへの適合型外交政策 トランプ・ドクトリンとは、「北朝鮮の米国に対する核脅威は米国がなくしてしまう。ところが、韓国に対する北朝鮮の核の脅威は、韓国と北朝鮮が自ら解決するというのがトランプ・ドクトリンの中核だ」と定義した。 「(北朝鮮は)トランプ任期内には寧辺核施設を検証し、廃棄できないことは承知している」と述べた。また、北朝鮮はすでに核兵器を製造できる核物質を十分に生産していたため、過去の核である寧辺の核施設を廃棄するという話は、すでに廃棄された自動車をペンキ塗りして、米国に売り飛ばすものと相違ない。いま、北朝鮮の外交は、トランプ大統領に照準を合わせ、トランプ大統領に対する"適合型(テーラーメード)外交政策"に進んでいる、と説明した。 北朝鮮が果たして核を放棄するかどうかについて「北朝鮮にとって核兵器は北朝鮮が持っているすべてのものの集約体だと言える。核兵器は、体制を結束させる求心の役割、韓国との体制対決で、北朝鮮が劣勢に置かれている状況を正当化できる説得力のある論拠になるだろう」と、述べた。また「北朝鮮は数兆ドルを与えられても、金正恩体制が存在する限り核兵器を絶対にあきらめない」と見通した。 さらに、金正恩がハノイで実際に狙うのは、中国からの制裁解除だ。金正恩は、開城工業団地と金鋼山観光再開を突破口として、数十億ドルの中国との貿易関係を正常化させようとしている。 (国連など国際社会が)石炭のような主要輸出物資を塞いでいるため、北朝鮮の基幹企業と軍隊、大きな企業が危機状況に追い込まれている。制裁が続けば北朝鮮の基幹企業(公企業)は死んでいき、逆に個人が運営する私企業と資本主義的な要素はさらに活性化する現象が生じるだろう、とし、北朝鮮に対する経済制裁は続けるべき必要性を強調した。 太氏は、米国が北朝鮮の完全な非核化よりは、米国まで飛ばされる大陸間弾道ミサイル(ICBM)を廃棄するのにとどまるのではないかという懸念を意識したのか、「米国は北朝鮮がICBMをどれだけ持っているのか正確な情報がない。北朝鮮はICBMの一部を廃棄する振りを見せるだろう。北朝鮮はICBMをすべて廃棄し、米国に対する北朝鮮の危険がなくなるというショーをしようというロードマップを用意した」とし、ICBMの廃棄についても懐疑的に展望した。 金正恩委員長が、今回のベトナム米朝首脳会談で、望むことが得られなかった時、その次の手は何か、という問いに太氏は、「それは核の伝播」(核技術の移転だ)と断言した。「核技術を買うという購入者がいるのに、この道に進むしかないと米国に脅迫するだろう」と言った。 北朝鮮はすでにこのような脅迫を数十回も使った。以前、自分がスウェーデンでの会談に参加した際、イスラエルが北朝鮮に10億ドルを与えなければ、北朝鮮の核技術を中東国家に輸出できると米国に脅迫した事実があると証言した。拉致問題の解決は? 北朝鮮の内部情勢について「2月8日、北朝鮮では空軍節(記念日)の行事があったが、北朝鮮軍3人の首長、総政治局長と人民武力部長、総参謀長がいずれも新しい人に変わった」。1年間に北朝鮮軍の中枢の首長がすべて変わったといい、金正恩が、「周囲でかなり不安を感じていることを意味する」と解釈した。 太氏は、日本人拉致被害者問題に対する質問に、「拉致問題の解決において、北朝鮮は現金のような経済的な補償がなくては、拉致問題の解決に積極的に乗り出さないだろう。以前は、国交正常化の代価(賠償)として100億ドル程度を考えたが、金正恩時代には100億ドル以上の経済援助を受けてこそ、国交正常化まで進むと思う」と、見通した。 文在寅大統領の「トランプ大統領は十分にノーベル平和賞を受賞する資格がある」ということについて、太氏は、「 ノーベル平和賞についての話は北朝鮮の核の脅威が完全に消えた時、論議されなければならないと思う。核がある状態でノーベル平和賞の受賞は、ノーベル賞の真の平和の原則に合わないと思う」と否定的な考えを示した。 北朝鮮の駐イタリアチョ・ソンギル元大使代理の亡命の件について、太氏は、チョ大使代理が脱北の過程で娘を連れて脱出できず、北朝鮮はその子どもを直ちに北朝鮮に(強制)送還した。平壌にいる友人から、チョ・ソンギルの娘が北朝鮮に送還され、現在、北朝鮮当局が管理しているという事実を確認した。 このような状況の中、チョ・ソンギルは娘の身辺安全のため、自分の居所を公開したり、公開的な活動ができない状況に置かれている、同じ大学出身で、外務省の同僚だったチョ大使代理の消息を伝えた。 このような状況を知る前は、チョ・ソンギルに「韓国入りしろ」と要請し続けたが。いまは、そのような要請はできない。なぜなら、脱北した外交官が韓国に亡命するのと、米国や欧州に亡命するのとは、北朝鮮に残っている子どもやその家族に対する処罰のレベルが全く異なるためだと、いままでと違った、静かなトーンで語った。チョ大使代理の娘は17歳の高校生で障害者と知られ、大使館員が脱出を防いだという。2019年1月2日、ホワイトハウスで、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長から届いたという書簡を手にするトランプ米大統領(AP=共同) 最後に金正恩は、開城工業団地と金剛山観光が再開されれば、板門店宣言(南北会談)1周年になる4月27日を期して、韓国を訪問する可能性が高いと見通した。太氏は記者会見中、終始一貫して北朝鮮の故・金日成主席や金正日総書記、金正恩委員長に対する呼称はすべて呼び捨てにした。パク・スンミン 在韓ジャーナリスト。在ソウルジャーナリスト。時事通信ソウル支局記者を経て、「文藝春秋」「週刊文春」のソウル特派員。長年、北朝鮮問題をウオッチ。平壌や開城工業団地、板門店、金剛山など7回以上北朝鮮入りして取材。日韓メディアに寄稿している。

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    米朝首脳会談で日本は「核軍拡競争の暴風圏」に放り込まれる

    定がある。ハノイ会談でこれに踏み込む懸念があります。北朝鮮は終戦を強く望んでいる。終戦協定を結べば、アメリカから先制攻撃を受けるリスクがぐんと少なくなるからです。 米朝の融和や朝鮮戦争の終結を韓国も望んでいます。今の(韓国の)文在寅政権は民族統一を掲げて北に傾いています。 1989年にベルリンの壁が崩壊し、冷戦は終結した。だが、それはあくまで欧州の情勢であり、北東アジアではまだ「冷戦構造」は残っているのです。その北東アジアでのベルリンの壁に相当するのが38度線です。西側陣営と東側陣営の分断の象徴“38度線の壁”は、現時点ではぐんと低くなりました。 韓国の「力ベクトル」が北朝鮮に向かっている分、日本には遠心力が働き、日韓関係はひどく悪化しているのが実情です。昨年の徴用工の問題、レーダー照射問題、さらにここへきて韓国国会議長の発言(米通信社のインタビューで、「天皇が元慰安婦に直接謝罪すれば慰安婦問題は解決できる」と述べたこと)で日韓の溝は広がっています。 一方で、米朝の首脳同士は間合いを縮めています。トランプ大統領と金正恩委員長が朝鮮戦争の終戦宣言に踏み込めば、北東アジアの冷戦構造は終結に向かい、ベルリンの壁崩壊と同じく、38度線も事実上溶けてしまうでしょう。それによって、在韓米軍の撤退が現実味を帯びてきます。アメリカの「防衛ライン」から朝鮮半島が外れてしまえば、38度線という防衛線は対馬(長崎県)まで迫ってきます。2018年11月、トランプ米大統領(右)と握手する安倍首相=ブエノスアイレス(代表撮影・共同) そうした事態になれば日本は否応なく、背後に中国が控える朝鮮半島と角突き合わせる「西の端」に置かれることになります。恐るべき「米国第一主義」 トランプ・金正恩の基調は「雪解け」の方向に向かっている。その結果、日本が「北朝鮮よりはるかに強大な相手」と直に対峙する事態を想定すべき時に来ているのです。ロイターの記事も「東アジアにおける米国の防衛線が後退し、日本が中国やロシアと直接向き合う『最前線国家』になる恐れがある」(2018年6月5日)と指摘しています。 そんな中で出てきたのがトランプ大統領による中距離核戦力(INF)廃棄条約の破棄です。これによってロシアもINF条約から離脱。今後、米ロ両国は核軍拡競争に再突入していきます。INFに加盟していない中国も中距離核の開発競争に巻き込まれていくはずです。そのターゲットは在日米軍基地やグアム島です。いまや核軍拡競争の主戦場は東アジアです。その台風の暴風圏に日本は放り込まれることになります。 米朝、南北の融和が進むにつれ、日本が防衛ラインの最前線となってしまう。日米同盟という前提に立てば、米国は在日米軍の強化に動くはずですが、「異形の大統領」は果たしてそう判断するでしょうか。ここが「アメリカ第一主義」の恐ろしいところなのです。 彼の本音は大統領選の発言によく出ています。安全保障政策では「NATOなど時代遅れ」「日本も韓国も、アメリカに頼らず自分で防衛すべき」。日本については「自動車などの輸出によってアメリカで多くの失業を引き起こしながら、アメリカに防衛を担ってもらっている」と非難している。 今やトランプ大統領が、アメリカの安全保障をリスクにさらしてまで、ヨーロッパや東アジアの同盟国のために進んで一肌脱ぐと心から信じる人はいないでしょう。だからこそ、日本は多国間の安全保障システムの構築という新しいゲームに参加し、外交力を鍛えるべきなのです。日米安保で事足れり、という時代は終わったのです。 ハノイ会談はその始まりになるかもしれない。戦略のかけらもない超大国のリーダーが今、日本にとって極めて危ういディールに手を染めようとしています。【プロフィール】てしま・りゅういち/外交ジャーナリスト・作家。NHKワシントン支局長時代に9.11テロに遭遇。ハーバード大学国際問題研究所フェローを経て2005年にNHKから独立。インテリジェンス小説『ウルトラ・ダラー』を発表。近著に佐藤優氏との共著『米中衝突 危機の日米同盟と朝鮮半島』がある。関連記事■ 米朝首脳会談 日本は北朝鮮非核化の「資金援助役」か■ 38度線は対馬まで下がる 南北統一朝鮮は金正恩の思うがまま■ 文在寅政権よりも日本のほうが対北朝鮮制裁に消極的■ 韓国で女児の胸が大きくなる「性早熟症」、囁かれる原因■ ケント氏「韓国には嘘が恥ずかしいという概念がないのか」

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    ベトナムでの米朝会談は再び「政治ショー」に終わる理由

     2018年6月に開かれた初の米朝首脳会談から8か月が経過したが、米朝間の最大の懸案事項である「非核化」は一向に進んでいない。果たして2月27、28日にベトナムの首都・ハノイで開催される2度目の首脳会談で何らかの進展はあるのか、それとも今回も“空手形”に終わるのか──。朝鮮半島問題研究家の宮田敦司氏がレポートする。 * * * トランプ米大統領は金正恩朝鮮労働党委員長との首脳会談にこだわっているが、北朝鮮の非核化を進めるためには、まず中国と協議を行わなければならない。中国は北朝鮮の事実上の「宗主国」であり、中国の習近平国家主席が金正恩氏をコントロールしていると考えられるからだ。中国の後ろ盾 歴史を振り返ると、北朝鮮と中国の関係は常に友好的といえるものではなかったが、少なくとも現在の中国は、政治的にも経済的にも北朝鮮の後ろ盾となっている。中国にとって北朝鮮は中国軍と米軍が直接対峙することを避けるための「緩衝国」となっているからだ。 北朝鮮は強力な経済制裁を受けているにもかかわらず、メディアに公開された平壌の街や人々の様子を見る限りでは、経済が上向いているように見える。これは、経済制裁にもかかわらず、中国との貿易が行われているだけでなく経済支援を受けているためだろう。 米国は偵察衛星の画像から、中朝国境の橋を物資を積んだトラックが往来していることを把握していてもおかしくはないのだが、中国を非難しない。また、米国は北朝鮮船と外国船による瀬取りを把握していても、監視を行うだけで阻止することはしない。 中国は、中朝国境と北朝鮮の周辺海域を封鎖できるだけの軍事力を保持している。つまり、中国が米国と共同歩調をとって経済制裁を行えば、北朝鮮はたちまちのうちに干上がるのだが、そうした動きもない。「成果」を焦るトランプ米大統領 安倍首相からノーベル平和賞の推薦を受けたことを公表するほど「困窮」しているトランプ大統領は、今回、2度目の米朝首脳会談で何らかの成果をあげなければならない。 2度目の米朝首脳会談が1度目と同様に、非核化に向けて何の進展もなかったとしても、トランプ大統領が自画自賛できる程度の成果があればいいわけだが、本当に何の進展もなかった場合は、議会ではトランプ大統領の外交能力について疑問が提起されるだろうし、ノーベル平和賞が授与される可能性も当然ゼロとなる。 北朝鮮としては、経済制裁の部分的な緩和などの何らかの実利を得るために表面的には譲歩するだろう。しかし、最近の米中関係の悪化ぶりを考慮すると、習近平氏の意を受けた金正恩氏が米国に譲歩する可能性は低い。弾道ミサイル発射で揺さぶり 北朝鮮は2017年11月以降、弾道ミサイルを発射していない。北朝鮮はトランプ政権から実利を獲得できると考えているうちは弾道ミサイルを発射することはない。しかし、何も得られないと判断した場合は、トランプ政権に揺さぶりをかけるために弾道ミサイルの「発射実験」を行う可能性がある。 弾道ミサイルの発射は、長距離弾道ミサイルを日本海で落下させるなど、トランプ大統領のメンツを完全に潰さない程度にとどめるだろう。発射の時期は、過去の例から考えると、米国の独立記念日である7月4日になる可能性がある。2019年2月、店頭に並ぶトランプ米大統領と北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長の顔をデザインしたTシャツ=ハノイ(共同) 中国の後ろ盾があるかぎり、北朝鮮が弾道ミサイルを発射して再び緊張状態を作り出しても何らおかしくはない。過去の米朝間の緊張状態だけでなく、2017年の「米朝開戦説」の際にも、米国が北朝鮮を攻撃できないことが明確になったからだ。朝鮮戦争は「終戦」にできない 米朝間で将来的に「平和条約」や「相互不可侵条約」を締結する以前に、休戦状態にある朝鮮戦争を終戦とする必要がある。しかし、中国も朝鮮戦争の休戦協定の当事者であるため、休戦から終戦へと移行するためには、中国の意向を無視することはできない。 たとえ2度目の米朝首脳会談で何らかの「合意」や「宣言」が発表されたとしても、それを履行することは困難だ。例えば「終戦宣言」の場合、朝鮮半島を南北に分断する約248kmの軍事境界線と非武装地帯を撤去する必要がある。習近平のコントロール下 さらに「終戦」とするにあたっては、北朝鮮は在韓米軍の撤退を求めてくるはずだ。つまり、「宣言」や「合意」を実際に履行することは一朝一夕で行うことは不可能であり、米朝間(場合によっては、中国などの関係国を含む)の実務レベルの協議を何十回も繰り返す必要があるのだ。 実際に1990年代以降、北朝鮮の核問題をめぐる米朝2国間協議や6か国協議(米国、中国、ロシア、北朝鮮、韓国、日本で構成)が何度も開かれたが、結局、北朝鮮が核開発を続けていることが判明して中断した。朝鮮戦争を終戦にするということは、非核化と同じように多くの困難をともなう。終戦を「宣言」するだけなら簡単だが、名実ともに終戦とするためには多くの課題をクリアしなければならない。 朝鮮半島の現状の大幅な変更、すなわち完全なる平和をもたらすことは、米国の対中戦略と中国の対米戦略が大きく変わらないかぎり極めて困難なのだ。これは、日本を標的とする弾道ミサイルの問題を解決する際にも同じことがいえる。日朝の2国間協議では解決できない。習近平のコントロール下にある金正恩 繰り返しになるが、北朝鮮を非核化するにあたり協議すべき相手は中国も含まれる。習近平氏の承認なしに、金正恩氏は「勝手に」動くことはできない。だからこそ、金正恩氏は2018年3月以降に4度も中国を訪問したのだ。 習近平氏にしてみれば、最高指導者としての経験も能力もなく、恐怖政治に依存しなければ国を統治することが出来ないような金正恩氏を信用していないだろうから、中国が北朝鮮をコントロール下に置く必要がある。 北朝鮮の非核化は、米国と北朝鮮による2国間協議だけでは極めて困難なのだ。少なくとも米国は中国と協議を行い、北朝鮮の非核化への下地を作っておかなければ、北朝鮮に米国の要求を飲ませることは難しい。 しかし、中国を説得する時間は限られている。何も進展しない協議を続けているうちに、トランプ政権がレームダック化し、譲歩に譲歩を重ねたような「合意」や「宣言」は覆されることになるかもしれない。最悪の場合は、これまでと同様に、北朝鮮が経済支援を獲得して終わる可能性も十分に考えられる。2019年2月、トランプ米大統領と北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長が握手を交わした場所に設置されたプレート=シンガポール(共同) 報道によると、トランプ大統領は2月19日、ホワイトハウスで記者団に北朝鮮の非核化について「核実験がない限り、急がない」と明言した。自ら逃げ道を作って自己満足と自画自賛のハードルを下げたようだが、そもそも2度目の首脳会談は開催する意味があるのだろうか──。 事前に実務レベルの協議がかなり用意周到に行われていなかったとしたら、1度目と同じように政治ショーで終わってしまうことになるだろう。関連記事■ もし日韓戦わば… 軍事力の差は歴然だった■ 韓国で女児の胸が大きくなる「性早熟症」、囁かれる原因■ 櫻井よしこ氏「米中対立はどちらかが倒れるまで続いていく」■ 米朝首脳会談 日本は北朝鮮非核化の「資金援助役」か■ 米朝首脳会談で日本は「核軍拡競争の暴風圏」に放り込まれる

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    米中5G戦争、ファーウェイの脅威

    中国通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)を排除する動きが米国主導で進んでいる。日本でも4月以降、政府機関や自衛隊が使用する情報通信機器から、同社と中興通訊(ZTE)の2社の製品を事実上排除する。背景にあるのは次世代通信規格「5G」をめぐる米中の覇権争いだが、今後どうなるのか。

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    「米国はもう崖っぷち」5G戦争、ファーウェイ排除のウラ側

    山田敏弘(国際ジャーナリスト) 米国の対イラン制裁に違反したとしてカナダ司法省が中国通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)の最高財務責任者(CFO)兼副会長である孟晩舟(モウ・バンシュウ)氏を逮捕してから2カ月がたった。 孟氏は昨年12月11日に1000万カナダ・ドル(約8億5000万円)の保釈金で釈放された後、現在もバンクーバーにある邸宅で、GPS(衛星利用測位システム)ブレスレットを足首につけた状態で監視下にある。自宅周辺に張り付いていたマスコミに孟氏がピザのデリバリーを振る舞い話題になったこともあった。 米国は1月末までに孟氏の身柄引き渡し要請を行う方針を明らかにしており、対立する米中、カナダの間で緊張が高まっている。今回は事件の背景を振り返りつつ、今後のファーウェイなどが絡む米中の覇権争いがどこに向かうのか、探ってみたい。 まず最初に、この件について知っておくべきことがある。今回騒がれた米中のサイバー空間における覇権争いは、今に始まった事ではないという事実だ。ファーウェイが米国などへ進出を始めた2000年代初頭から長年にわたって、同社と米国のせめぎ合いは続いてきた。今回、イラン制裁に絡む話が浮上したことで、米国がファーウェイを締め出す好機を得たということにすぎない。 そもそも米国が見据えているのは、ファーウェイや中国通信機器大手、中興通訊(ZTE)ではない。むろん、その背後にいる中国政府だ。 米国に言わせれば、中国共産党と人民解放軍、民間企業は一蓮托生(いちれんたくしょう)である。軍のハッカーなどが世界から知的財産や機密情報を盗み、それを民間企業に漏洩するという流れがあるとの見方もある。 米国家安全保障局(NSA)の元幹部、ジョエル・ブレナー氏は筆者の取材に、グーグルの検索エンジン技術の「ソースコードが、中国に盗まれてしまっている」と語っている。また、米ニューヨーク・タイムズ紙のデービッド・サンガー記者も、中国は盗んだグーグルのソースコードで「今は世界で2番目に人気となっている中国の検索エンジンである百度(バイドゥ)を手助けした」と指摘している。 つまり、こうした政府系ハッカーらによるサイバー攻撃が、中国系企業を下支えしてきたともみられている。いや、それだけではない。軍事機密も盗んでおり、戦闘機や潜水艦の設計図なども盗み出すことに成功しているのである。モスクワでのフォーラムでプーチン大統領(左)と同席する華為技術(ファーウェイ)の孟晩舟副会長兼最高財務責任者(CFO)=2004年10月(ロイター=共同) 中国ではもともと、民間企業であっても政府の命令には従う必要があった。米高官や外交官らが中国を訪問し、民間のホテルに泊まれば当たり前のように盗聴器が仕掛けられているという類いのエピソードは、何度も米政府機関関係者などから聞いたことがある。しかも中国は最近、それを明文化した法律も制定している。2017年に施行された「国家情報法」がそれであり、民間企業も個人もすべて政府が行う情報活動に協力しなければならない、という決まりを徹底している。 こうしたことから、米国は長年ファーウェイなどが米企業などの知的財産を盗んでいると批判し、政府のために機密情報などをスパイする可能性を指摘してきた。そして最近になって、米国が本気で中国製品を排除しなければならない事情も浮上してきた。5G(第5世代移動通信システム)のインフラ機器やスマホの分野における中国企業の台頭である。情報の掌握を狙う中国 5Gは、現在の100倍とも言われる超高速のシステムであり、それが普及すれば、世界は一変すると言っていい。全てがIoT(モノのインターネット)などでつながり、ほぼすべての情報がデジタル化され、ネットワーク化される。すなわち、個人情報から軍事機密まで莫大(ばくだい)な多種多様のデータを運ぶ通信インフラを支配できれば、情報を思いのまま手に入れることができるというわけだ。 中国はファーウェイを介して、その5Gインフラを世界中に安価で提供し、シェアを広げようとしている。つまり、データが行き来するサイバー空間の覇権、ひいては世界における情報の掌握を狙っている。中国は80年代後半の段階から「情報を制するものは世界を制する」と考え、インターネットの検閲といった支配権なども「情報戦争」の一環と捉えてきた。最近、国家戦略としている「製造業2025」の核として中国製の5G機器などを世界で広めようとしているのは、そうした背景からだ。 一方の米国を中心とする欧米側は、世界を一変させる5Gインフラ市場で劣勢にある。少し前に筆者が米政府関係者から手に入れた60ページほどの米政府公式文書によれば、「ファーウェイは(通信の基地局などの世界的シェアを高めていることから)インフラそのものになりつつある。シェアの拡大に成功し、特に途上国ではそれが顕著である。ただ、米国のような先進国はそれを許してはいけない。ファーウェイがインフラになれば、中国のインテリジェンス(スパイ)活動につながっていくからだ」とした上で、こう警戒する。「米国は今、崖っぷちにある。情報化時代の未来を率いるか、もしくは、サイバー攻撃の渦から抜け出せなくなる」 こうしたせめぎ合いから、米国は実際に中国企業であるファーウェイなどの排除に乗り出し、同盟国にもファーウェイ製品の禁止措置を取るよう促してきた。事実、オーストラリアやニュージーランドはすでに5Gのインフラからファーウェイ製品を締め出す措置を決めているし、英国の電気通信社も同社製品を禁止にした。カナダはファーウェイの社員がスパイ工作に関与している可能性があるとして、ビザの発給を拒否したこともある。 その一方で、中国を目の敵にしている当の米国も、これまでサイバー空間でスパイ工作を繰り広げてきた国の一つである。中国・深圳市でメディアの取材に応じるファーウェイ創業者の任正非氏=1月15日(AP=共同)  米国家安全保障局(NSA)はファーウェイを脅威と警戒し、創業者である任正非(レン・ジェンフェイ)CEOを2009年頃からハッキングによって監視。その作戦は「ショット・ジャイアント」と呼ばれ、NSAは内部情報や同社製品のソースコードまで入手していた。さらにスパイ工作という意味で言えば、米国は例えば「エックスキースコア」という監視システムなどで世界中の人々のネット上での活動を、日本も含む世界150カ所の収集拠点で集めて監視してきたし、中国メディアは中国を狙うサイバー攻撃は米国からのものが最大であると指摘している。 このように、サイバー工作をめぐる対立は水面下で続いてきた。では5Gの登場で今後、この攻防はどう展開していくだろうか。米国政府のプレッシャー まず、日本が排除を発表するに至ったように、今後も米国と同じ価値観を共有する国々の間で、ファーウェイ排除の流れが続く可能性は避けられないだろう。 現時点では、ファーウェイの禁止に乗り出した日本(各省庁や自衛隊)を含む国々では、排除対象は基地局やルーターなどに使われるファーウェイ製品であり、スマートフォンやタブレットまでは対象になっていない。ただ今後、これらの国では、政府関連の事業やプロジェクトに関与する際には、民間企業であってもファーウェイの機器は使えないようになっていく可能性があるし、関係者もスマホやタブロイドを使うわけにはいかなくなるだろう。 例えば日本では排除の対象をインフラ事業者まで広げるとの話も出ているが、そうなればさらにインフラ事業にも携わる多くの人たちがファーウェイのスマホなどを使っていられなくなるだろう。こういう形で、結果的にすべてのファーウェイ製品が使われなくなっていく可能性は高い。 さらに言えば、米国のイラン経済制裁を破った容疑という「威力」は大きい。世界的に見ても、制裁違反をするファーウェイとのビジネスを控えなければ、米国企業とは取引ができないという現実に直面しかねない。世界中でファーウェイとの取引を控える動きが起きるかもしれない。例えば、世界的な大手銀行は既にこの動きを見せている。イラン制裁違反に絡んで、英金融大手HSBC銀行やスタンダードチャータード銀行などは米国政府からのプレッシャーなどもあってファーウェイとのビジネスを制限してきた。それが最近では、シティバンクなども今後の対応を検討していると言われている。 むろん、こうした動きに中国政府もファーウェイも、黙ってはいない。 中国政府は孟氏の逮捕以降、中国国内でカナダ人を13人拘束し、そのうち5人ほどは今も釈放されていないとみられている。いずれも取ってつけたような容疑であり、ピーター・ナバロ米大統領補佐官(通商担当)が「中国らしいやり方だ」と言及したように、報復措置であることは明らかだ。また今後、中国政府が米通信機器メーカーを中国市場から締め出す報復措置を取る可能性を指摘する声もある。中国広東省深圳にあるファーウェイの本社 (GettyImages) また、米国内で米政府と対峙(たいじ)するための法務チームの強化も行っているし、同社は「われわれは世界をリードしている」「他国の安全保障に対して脅威になっているという証拠はない」と強気を崩さない。さらに任CEOが珍しくメディアの取材に応じ、中国当局にデータを提供することはないと主張している。 日本でも、ファーウェイ側は疑惑を否定する声明を発表して対抗している。「(ファーウェイ製品を)分解したら余計なものが入っていた」「スパイウェアのような動きをする」という日本のメディア報道が事実誤認であると指摘し、法的措置に乗り出すとも発表している。いち早くファーウェイ離れ ところで、実際に同社の製品が何らかの「怪しい動き」をすることは考えられるのだろうか。先日、筆者はネットテレビ「Abema Prime」に出演し、そこで実際に解体されたファーウェイのスマホを目にする機会があった。というのも、「スマホ分解のプロ」という専門家が番組の始まる前に実際に解体してファーウェイのスマホに「おかしなもの」が入っていないかを確認したのである。その結論は「余計なものは見つからなかった」というものだった。 とはいえ、筆者は以前、ある欧米諸国の情報機関関係者から、政府系通信会社が市民に提供する機器にチップを埋め込む工作を担当していたという話を直接聞いたことがある。また、米政府も国外の要人に対して同様の工作を仕掛けていたことが明らかになっているし、中国が数年前に米IT企業が使うサーバーに製造過程でチップを埋め込んでいたという疑惑も、米メディアで大々的に報じられて物議を醸したばかりだ。 もっとも、今はチップをわざわざ仕込むような時代ではない。「チップを使う」というやり方はいかにも古い工作という印象で、今もやっているとは考えづらい。今なら、電子機器のプログラムに後でアクセスできるような、いわゆるバックドア(裏口)を埋め込んでいたり、何らかのマルウェア(不正プログラム)を入れておいた方が手っ取り早いだろう。 いずれにしても「ファーウェイ製品が怪しい」と見られてきたことは紛れもない事実だ。最近話を聞いた国際的大手企業の元サイバー担当者は、こんな発言をしていた。「2014年にオーストラリアの大手企業が会社のネットワークからファーウェイ製品を介して不正にデータが中国に送られていることに気がついたんです。それ以降、オーストラリアは政府関係機関や大手企業にファーウェイ機器を使わないよう非公式に通達していた」 2018年8月にファーウェイとZTEを5Gインフラから排除したオーストラリアでは、2014年の時点で既に非公式にファーウェイ排除の方向に舵を切っていたという。※写真はイメージです(GettyImages) いずれにせよ、これまで各地で続いてきた動きからも分かる通り、ファーウェイをめぐる話はハイテク産業における中国のビジネス的な台頭を米国が押さえつけようとしている、という単純な話ではない。次世代の覇権と安全保障に深く関わる話である。それゆえに、米中両国は一歩も譲歩できない。少なくとも米国は今後も、引く構えをみせることはないだろう。 今、欧州や南アジアなど世界中の国々がファーウェイとどう付き合っていくのか検討が行われている。5Gをめぐる米国vs中国の攻防は引き続き、世界を巻き込んで激化していくはずだ。■習近平「終身独裁」で中国の自滅は確実になった■「習近平の独裁に黙っていない」中国ネットユーザーのあくなき闘い■米露を呑み込む中国の「一帯一路」 巨大利権に潜む習近平の大戦略

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    トランプがファーウェイ幹部を捕らえた本当の理由

    して不必要な過剰反応を示す必要はないでしょう。うんの・もとお 明治大学政治経済学部教授。心理学博士。アメリカン大学(ワシントンDC)異文化マネジメント客員研究員(08~10年、12~13年)。専門は異文化間コミュニケーション論、異文化マネジメント論。08年及び12年の米大統領選挙においてオバマ陣営にボランティアの草の根運動員として参加。16年米大統領選挙ではクリントン陣営に入る。著書に「オバマ再選の内幕―オバマ陣営を支えた日本人が語る選挙戦略」(同友館)など多数。

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    「日本人に感謝」の裏に潜むファーウェイ副会長の本音

    のためではなく、こんな多くの人たちが私を信じてくれたことで泣きました。日本福島地震の時、私はちょうどアメリカのIBM本社にいました。1週間のワークショップの最中でした。(中略)アメリカをすぐ離れることができないため、孫総経理を日本に送り込みました。(中略)一通り仕事を片付けたところで、私はすぐに東京行きの航空券を取りました。日本の支店に行くと、震災後の復旧作業、顧客のネットワークの修復とわれわれ自社の日常運営についてスタッフ全員と打ち合わせを行いました。私の日本出張に先立って、会社の緊急処理班はすでに機能していました。孫総経理も日本から帰国したばかりで、私には現地での実務作業がほとんど残されていませんでした。私は日本へ行き、震災後の業務対応を総括し、業務プロセスの確認を行いました。私自身もたくさんのメモを取りました。(中略)このたびの経験は、私は後日もほとんど言及したことがありません。何も特に自慢できるものがなく、すべてが私の仕事だったからです。しかし、善は報われる。8年後のいま、ある普通の日本人からの手紙で私は報われたのです。無比な誇りと慰めで胸がいっぱいです。誇りは、あの時あれだけのリスクに直面しながらも、私は日本行きの飛行機に乗り込んだことから来ています。勇気とは恐れないことではなく、心の中に確固たる信念をもつことです。慰めとは、われわれの努力を神が見つめ続けていたことで、われわれが払ってきた努力は決して無駄にならなかったことです。 体裁的には「日記」よりも、対外的なブログ投稿に近い。前半の情に訴える部分には心に響くものが若干あったものの、後半ないし締めくくりの部分に至ってはナルシスト的な表現に一転し、どうも盛り下げる蛇足になったような気がする。まあ作文の巧拙は別として、それよりも、最終的に世間一般、あるいは日本人の目にこの胸中の告白はどう映ったのか。これに興味をもった。孟氏の論理破綻 この日記を取り上げて報じた日本のメディアは、私が調べたところでは、日本経済新聞と時事通信の2社であった(ほかにあるかもしれないが)。 日本経済新聞電子版は12月21日付けで「ファーウェイ、孟副会長の日記公開 日本からの激励に謝意」と題して報じた。果たして真実を反映した見出しであろうか。日記の前半を額面通りに受け取り、しかも、日本人の性善説的な視線からすれば、見出しに書かれた通りかもしれないが、原文の後半ないし結尾へ読み進めると、ニュアンスの変化に気付くはずだ。 孟氏は自分がいかに「危険を冒して」、被災直後の日本へ旅立ったことを誇りに思っているかを、情緒的に表現した。業務遂行の作業場が被災地近辺かどうかは知らないが、本当のネットワークの修復作業に当たったのはファーウェイの従業員、あるいは請負業者だったのではないか。彼女は部下が一通り仕事を片付けた後に日本に「駆けつけた」のだった。もし、顧客が感謝を述べるのなら、ファーウェイ社に対してであって、彼女という一個人ではないはずだ。「彼たちはファーウェイを知っています。ファーウェイを認めています。だから、彼たちは私を信用してくれたのです」と、孟氏の日記に記されているが、論理的な文脈にはなっていない。ファーウェイを認めているから、副会長の孟氏を信用する。このようなロジックは成立するのだろうか。立派な会社であっても、その経営者や幹部が犯罪に及ぶ事例は世の中枚挙にいとまがない。 同日12月21日付けの時事通信の報道、「日本人の激励手紙に感動=ファーウェイ孟氏の日記公開」も基本的に日経記事と同じ基調であった。私はこれらのメディアを批判しているわけではない。むしろ日本人的な性善説からすれば、このような文脈は当たり前だと思っているからだ。しかし、日本から一歩出れば、外の世界は基本的に性悪説でできている。思考回路と現実のかい離は容易に消滅するものではない。むしろ日本人が抱える永遠の宿命なのだ。 日本人の宿命といったらそこまでだが、何としてでもこれからの世界でサバイバルしていかなければならない。そんな日本人には何が必要なのか。「日本の常識」や「世界の非常識」が語られるなかで、ときには親和感のない思考回路や目線をもつことも大切ではないかと私は考える。カナダ・バンクーバーの裁判所で、華為技術(ファーウェイ)の副会長、孟晩舟容疑者の釈放を求める支持者ら(Darryl Dyck/The Canadian Press、AP=共同) 今回はファーウェイに関連して、私はふとある古い報道記事を思い出した。中国の大手経済紙「第一財経日報」に掲載された1本の論説、「『情・理・法』と『法・理・情』」。その一節を訳出する――。「中国大陸で20年以上も事業を経営してきたある香港人企業家が中国と香港の比較をする際にこう語った。中国大陸と香港は、どちらも法律、人情と道理を重視するが、ただしその順序と比重がまったく異なる。中国は『情・理・法』 香港の順序は、『法・理・情』。まず法律を重視する。企業は法律の保障を得ながらも、これらをすべて使い切ることはしない。法律を見渡して(契約の)合理性があるかないか、さらに人情があるかないかを検討し、相手方がより納得して受け入れられるように工夫するのである。 しかし、中国大陸の順序は、『情・理・法』。まずは情。親戚や知人、元上司がいるかどうかを見る。いると、理を語る番になる。理に適っていればいいのだが、理がない場合はどうするかというと、情さえあれば、無理して理を作り出し、理を積み上げ、『無理』を『有理』に変えていくのである。情があって、理があって、そこでやっと法の順番が回ってくる。法は重要だ。適法なら問題なし、みんながハッピー。違法の場合はどうするか。それでも大丈夫、法律ギリギリすれすれのグレーゾーンで何とかする。それでも難しいようであれば、みんなでリスクを冒して一緒に違法する。法は衆を責めず、法律は、みんなで破れば怖くない。(中国大陸には)数え切れない『情』があって、説明し切れない『理』がある。これらが法の均一的な実施を妨害し、法体系を弱体化させ、規則の整合性を破壊する。法の実施は人治に依存し、人の主観によって規則も変わる。法治の躯体に人治の魂が吹き込まれ、法の形骸化に至らしめる。中国の社会や経済の矛盾は、法の意志を無視し、法治を基本ルートや最終的解決法としないところから生まれる。いわゆる人情や調和に価値を追求すればするほど、適正な目的に背馳し、縦横無尽な悪果を嘗め尽くすことになる」(以上引用・抄訳) 孟氏の日記は、「日本でこんなに良いことをやったのだから、私は犯罪に及ぶ悪人ではない。人情のある善人だ。信用されてもいいはずだ」と言わんばかりのニュアンスである。しかし、既述した通り、文脈における主体である会社と個人、その所為の無関連性が明らかであって、論理がすでに破たんしていた。 つまり、「情」に訴えようとしたところで、「理」が破たんしたのである。裏返せば、理がそもそも破たんしていたのだから、情に訴えざるを得なかった。そういう状況だったかもしれない。2018年12月、中国・北京の華為技術(ファーウェイ)の店舗でパソコンを見る客(AP=共同) 気がつけば、孟氏のカナダでの逮捕は法律案件であって、「法」次元の話ではないか。さらに言ってしまえば、量刑にあたっての情状酌量の段階でもないのに、「情」や「理」を差し挟む余地はないだろう。たちばな・さとし エリス・コンサルティング代表・法学博士。1964年生まれ。早稲田大学理工学部卒。LIXIL(当時トステム)東京本社勤務を経て、英ロイター通信社に入社。1994年から6年間、ロイター中国・東アジア日系市場統括マネージャーとして、上海と香港に駐在。2000年ロイター退職後、エリス・コンサルティングを創設、代表兼首席コンサルタントを務め、現在に至る。法学博士、経営学修士(MBA)。早稲田大学トランスナショナルHRM研究所招聘研究員。

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    金正恩が「完全な非核化」に初めて言及した意味

    が、金委員長の「新年の辞」を読み解けば「対内的には自立経済を強調、対外的には既存の核を保有した状態でアメリカとの関係改善を図る」ことを宣言したようなものだ。 対内的には「自力更生の社会主義建設の新たな進撃路を拓(ひら)いていこう」と呼びかけ、当面は国際社会の制裁が緩和されることはなく、厳しい状況が続くことへの予防線を張ったとみるべきだ。 金委員長にとって2018年は大変な年だったのだろう。中国税関の統計を基にすれば、昨年1年間の北朝鮮の対外向け輸出総額は2億ドルに満たなかった。猛暑や集中豪雨などで農作物の作況もよくなく、この先2~5月をどう凌(しの)ぐかを心配しなければならない状況だ。 ソファに座り、新年の辞を読み上げるという「余裕」を見せたのは、困窮した国内状況を隠し、焦りを見せまいとの演出だったのかもしれないが、金委員長は今、対内的にも対外的にも難しい状況に直面している。 関係者の間では、200万人に上る餓死者を出した90年代後半の「苦難の行軍」と似た第二の「苦難の行軍」が始まるのではないかとささやかれているという。このような難局を打開し、一気に国内外の問題を解決するには、対外関係で突破口を開く必要がある。 金委員長は、対外関係では三つの目標を挙げた。それは、①事実上の核保有国としての地位を国際社会に認めさせること②制裁の緩和③外来勢力の干渉を排除し韓国との経済交流の実現、である。 では、この三つの目標を金委員長はどう実現するつもりだろうか。まず、核保有国としての地位について、金委員長は「完全な非核化へ向かっていくのは、わが党と共和国政府の不変の立場であり私の確固たる意思だ」と述べた。世界が注目した金委員長のメッセージの中で最も重要な部分と言っていい。 金委員長が初めて肉声で「完全な非核化」に言及したとして、本当に非核化へ向けて動き出そうとしているのではないかと見る向きもあるが、このメッセージを誤って受け取ってはならない。 実は、金委員長の非核化に対する姿勢は全く変わっていないのだ。金委員長は「われわれはもうこれ以上、核の武器をつくることも実験もせず、使用も伝播(拡散)もしないことを内外に宣布」したと述べている。だが、過去に製造したとみられる核の武器をどうするかについては触れていない。むしろ、過去の核については、使用しないこと、拡散しないことを約束しておらず、廃棄についても言及していない。 北朝鮮の核は、既に保有しているとみられる「過去の核」と、現在なお能力の向上を目指して核物質を増やし、高度化を図っている最中の「現在の核」(国際原子力機関=IAEAやアメリカの研究機関の報告によれば、北朝鮮は核活動をやめていない)、核施設やミサイルエンジンの実験台など核能力を増強できる「未来の核」に分けられるが、金委員長が新年の辞でやめることにしたと言及したのはあくまで「未来の核」である。 金委員長は、このような「複雑に絡んだ問題」を解決するために、トランプ大統領と2回目の会談に臨む意思を示したが、未来の核をなくすことについても、既に前提条件をつけている。つまり、アメリカが先に核の脅威をなくすべきだと主張しているのだ。実際、金委員長は新年の辞で「アメリカが(トランプ大統領が)世界の前でした約束を守るべきだ」と述べている。 そもそも、昨年6月のシンガポールにおける米朝首脳会談で、トランプ大統領が金委員長に約束した事項は二つあった。「北朝鮮の体制の安全を保障すること」と「朝鮮半島の完全な非核化」だ。「これ以上の譲歩なし」 ただ、今まで「非核化」について、米・朝・韓・国際社会では各自が異なる解釈をしてきた。特に米朝の間では決定的に違う解釈をしている。非核化とは、当然ながら「北朝鮮の非核化」だ。しかし、最近になって金委員長が約束したのは「朝鮮半島の非核化」であり、アメリカが言う「北朝鮮の非核化」は誤りだと主張する(2018年12月20日付、朝鮮中央通信の論評)。 北朝鮮は米軍の「朝鮮半島を狙っている周辺からの全ての核の威嚇の要因を除去すること」を前提にしている。朝鮮半島周辺に米軍が原子力空母や核潜水艦、核弾頭を搭載可能な爆撃機など戦略武器を展開することをやめなければならない。 また、金委員長は「韓国は外勢(アメリカを指す)との合同軍事演習をこれ以上許容してはならず、外部からの戦略資産をはじめとする戦争装備の搬入も完全に中止されなければならない」と新年の辞で主張した。 そして、昨年から北朝鮮が講じてきた非核化の措置にアメリカが応える番との認識を示した。北朝鮮が非核化のための一環として豊渓里(プンゲリ)の核実験場を爆破し、ミサイル発射台、実験場の解体に動いた「誠意ある先導的な措置」に対し、アメリカがそれ相応の措置を講じなければならないと述べた。 さらに、金委員長は、アメリカに「何かを強要し、依然共和国に対し制裁と圧迫を続けるのであれば、新しい道を模索する」としながら、「正しい姿勢で対話に臨むべきである」と、一方的な制裁には屈しない姿勢をみせた。要するに、これ以上の譲歩がないことを表明したのだ。 北朝鮮はこれから、最高指導者の言葉を実現すべく、アメリカが先に相応の措置を講じない限り、一歩も引き下がらないだろう。アメリカが北朝鮮の要求に応じない限り、非核化交渉は進展しないとみるべきだ。 そしてその次は、制裁緩和を狙って硬軟両面戦術を駆使するだろう。「朝鮮半島と地域の情勢安定は決してたやすくつくられたものではない。周辺の国と国際社会は朝鮮半島の肯定的な情勢発展を推進しようとする北朝鮮の誠意のある立場と努力を支持すべきだ」とし、まずは国際社会が北朝鮮を評価し、「制裁緩和」に踏み切るべきだとする。 韓国との関係については、アメリカや国際社会の干渉や圧迫を排除し、北南関係を発展させるべきだと強調する。具体的に、開城(ケソン)工業団地の事業、金剛山観光事業再開を促している。ただ、これらの事業では「代価を求めない」「条件をつけない」と言ったが、制裁突破のための手段として、なんとしても2019年にはこの二つの事業は再開させたいのではないか。 狙いは、国際社会の制裁を無力化し、韓国との経済交流で突破口をつくり、平和と協力の雰囲気を維持しながら、国際社会の圧迫をはねつけるためとみられる。 非核化交渉において北朝鮮の本音は以下の三つだ。①核施設の無力化、例えば寧辺(ミョンビョン)の核施設の凍結については、査察の段階でアメリカ、日本、韓国などが独自で科している制裁の解除を求める②核能力の廃棄、すなわち核物質の廃棄、施設の廃棄を引き換えに国連制裁を解く③保有している核については、アメリカに核保有(国)を認めさせた上で、駆け引きを続けつつ、段階を踏みながら軍縮会談に持ち込む。ドナルド・トランプ米大統領(左)と北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長=2018年6月、シンガポール(AP=共同) この三つのうち、トランプ大統領は①だけについては、応じる可能性はあるかもしれない。なぜなら、トランプ大統領は金委員長との2回目の会談に意欲を示し、完全な非核化の意思を一応は歓迎する意向を表明しているからだ。 ただ、金委員長は今まで、2018年4月20日の労働党中央全体会議で採択した決定(核実験場は使命を終え、ミサイル発射実験はもはや必要ない)内容を超える非核化の措置を講じていない。それ以上の行動に踏み切るのは北朝鮮内部でのコンセンサスが必要で、形式だけでも党内の手続きを踏む必要があるが、今のところそのような気配はない。迫られる二者択一 非核化交渉で進展を見るためには、トランプ大統領がまず一定の譲歩をするしかないが、トランプ大統領の立場がそれを許すか否かが問題だ。アメリカ議会の動向が影響するからだ。 2回目の米朝首脳会談は、トランプ大統領の政治的計算によって、妥結できるか否かが決まると思うが、トランプ大統領も容易に金委員長に譲歩できないだろう。 結果的に、非核化の交渉は困難を極めることが予想され、結果的には北朝鮮を「核保有国」として認めるか、決裂するかの二者選択に帰結されるのではないか。それを占う試金石が2回目の米朝首脳会談だが、スムーズにいくとは思えない。 では、日本との関係はどうなるだろうか。金委員長は、周辺国家との関係を再構築する突破口として、まずは休戦協定を終戦協定とし、ひいては平和協定を結ぶことだが、実現するには南北だけでは無理なことは分かっている。そのためには中国の協力が必要だが、既に中国は北朝鮮にその際の立場を伝えているのではないかと思われる。 新年の辞で金委員長は、韓国に対し、米韓合同軍事演習の中止のほか、戦略資産および高高度ミサイル防衛システム「THAAD」(サード)のような戦争装備に関する武器の持ち込み中止を求めたが、それは中国の立場を一部代弁しているものとみられる。 さらに、休戦協定締結当事国との間で終戦協定を結ぶべきだという要求も突き付けているが、これも中国の意向を反映しているものとみるべきだ。 要するに、金委員長は中国という後ろ盾との関係が最も大事だという認識を持っているのだろう。新年早々に中国を訪問したが、今年は中国との関係、特に経済面での関係改善に全力を挙げるはずだ。北京の人民大会堂で歓迎式典に参加する金正恩委員長(右)と習近平国家主席=2019年1月8日(新華社=共同) ただ、中国はアメリカと北朝鮮との間で二者択一を迫られており、中国の動きによっては北朝鮮問題で大きな転換(北朝鮮がやむを得ず中国の圧迫でアメリカの要求の一部を受容)をする可能性も否定できない。 日本との関係は、非核化交渉、米朝関係の改善、南北経済交流の次に考慮すべき問題で優先順位から外れている。 ただ、アメリカとの交渉が思う通り進まなかったり、決定的に破局を迎えそうになったりした際は日本との関係改善に動くのではないか。また、拉致問題や日朝国交問題を持ち出す可能性もある。いずれにせよ、日本との関係では、米朝の結果が見え始めたタイミングで動きを見せるはずだ。■北朝鮮非核化「トランプの財布」に日本が甘んじてどうする■感情論を捨てれば見えてくる、日本「北非核化」負担のメリット■金丸信「1兆円の約束」 日本が北朝鮮を支援する道理はない

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    トランプの「内なる敵」

    「ケネディ以来の歴史的快挙だ」。大統領就任後、初の審判となった米中間選挙について、トランプ氏はこう自賛した。「ねじれ議会」の結果にも強気を崩さず、トランプ流はエスカレートするばかりだ。分断した米国社会の一端も見えた今回の選挙。四面楚歌を地で行くトランプはどこへ向かうのか。(写真はロイター=共同)

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    米国民の選択は「まあ、いいか」 トランプはリベラルよりも強し

    米国を、いや世界中を騒がせてきたのか、その結果とも言えるだろう。 そのせいか、朝から主要メディアは「アメリカの運命が決まる」「トランプの今後が決まる」と騒ぎ立ていた。しかし、ここニューヨークは、静かなものだった。ニューヨーク州は民主党の鉄板の牙城で、無風もいいところだからだ。 「トランプの出身地であり、マンハッタンのど真ん中にはトランプタワーが建っているではないか」などと言っても、そんなことは選挙には全く関係ない。ここの人々は、ほぼ誰もトランプなど相手にしていない。 今回、ニューヨーク州の上院議員選挙は、2人の議員のうち、チャック・シューマー議員(民主党)は非改選で、改選されるのはカーステン・ギリブランド議員(民主党)だったが、予想通りに圧勝した。何といっても、彼女は民主党の女性議員の中ではエース的な存在である。本人は出馬を否定しているが、2020年の大統領候補の一人と目されている。 トランプが「フェイクニュース」と呼ぶメディア、CNNは出口調査で、議会にもっと女性議員を増やすべきかどうかという質問を行ったが、約8割の人間が「重要だ」と回答していた。そんな中、ギリブランド議員は、トランプが「ポカホンタス(米先住民女性の名前)」と呼び、既に2020年の大統領選に出馬を表明しているエリザベス・ウォーレン議員(マサチューセッツ州)と並んで、今後の民主党の女性議員を引っ張っていく存在である。 ただし、ギリブランド議員と争った共和党候補も、チェリー・ファーレーという、夫が弁護士で自身がエクイティ投資家という才女だった。このような図式を見ていると、トランプ以後は、米国初の女性大統領が誕生するのは間違いないのでは、と思う。 それにしても、米国の選挙を見て思うのは、これが「民主主義大国」の選挙なのかということだ。大統領選挙は投票率が6割に達するが、中間選挙は前記したように4割がやっとだ。つまり、6割の人間が選挙に行かない。これは、日本の国政選挙の比ではなく、世界でも下から数えた方がいいというひどさだ。※写真はイメージです(ゲッティイメージズ) よって、日本のメディアが得意げに解説する「米国民の意思」=「民意」などというものは、選挙にはあまり反映されない。 なぜ投票率が低いのか。選挙民が「平気で嘘をつく」トランプに怒りを感じていないからではない。投票日が火曜日だからだ。これでは多くの人間、特に時間給を稼がなければならない低所得層は選挙になど行けない。火曜日投票をやめない理由 会社によっては、休みを認めたり、投票後出勤を認めたりしているが、それはホワイトカラーの話である。 しかも、米国には住民登録制度がないので、投票のための有権者証明ハガキなどは送られてこない。選挙権を行使したければ、有権者自身が事前に有権者登録を行う必要がある。これは非常に面倒臭く、余裕のある人間しかやらない。 なぜこんなシステムになっているかというと、1845年に制定された連邦法が改正されていないからだ。当時、米国は農業国で、人々は日曜日に教会に行き、移動手段は馬車が基本だった。 そのため、月曜日に馬車で投票所に出向いて一泊し、火曜日に投票することがもっとも理にかなっていたのだという。しかし、今やこれは完全な時代錯誤である。 一説に、日曜日などに選挙を行うのは労働者の休日を奪うことになるから、このシステムは「国民のためを考えてのものだ」という話がある。しかし、こんなことを鵜呑みにするのは、とんでもない「情弱」と言わざるを得ない。 米国が火曜日投票を止めない、今ではすぐにでもできるインターネット投票を採用しないのは、その方がエスタブリッシュメント(支配層)に都合がいいからである。一般のワーカーが大挙して投票したら、何が起こるか分からない。それで、投票に行きにくい日をわざと投票日にしていると考えた方が自然だ。 しかも、中間選挙は上院、下院議員を選ぶだけではない。州上院議員、州議会議員、州最高裁判事、州長官、市議会議員、教育区委員などをまとめて選ぶことになっている。そのため、誰が候補者かも知らない人間が多く、結局、行かない人間の方が多くなるのだ。 トランプはそれを知っている。それで、白人低所得者層の恐怖を煽って「お前ら移民に仕事を奪われるぞ!」と叫び、投票所に行かせることに成功した。それが前回の大統領選挙である。 ラストベルト(さびついた工業地帯)にいるトランプ支持者たちは、大体が怠け者だ。仕事がなければ朝からダイナー(レストラン)に行き、クアーズビールを飲んでステーキを平らげている。彼らはこれまで選挙に行ったことがなかった。それが前回、メディアの予想を裏切って選挙に出掛けた。 そして今回もまた「ワシントンDCの連中の中で、オレだけが本音を言っているのだ」というトランプに投票したようだ。これに、都市部のインテリ白人の中にいる「隠れトランプ」が加わったので、「ブルーウェーブ」(民主党の「青い波」)の勢いは、選挙直前に失速してしまった。ホワイトハウス(ゲッティイメージズ) しかし、私はつくづく思うが、選挙取材など、ほとんどが無駄だ。日本のメディアの記者や米政治研究者などが格好をつけるために、かなりの数がこちらに取材に来て、有権者の声を聞いたりしている。そうして、激戦州やワシントンDCからリポートを送っている。 だが、そんなものは何の役にも立たない。この前のトランプ当選や英国の欧州(EU)離脱を顧みれば、いかに取材して予測することが虚しいかが分かるだろう。NYの投票所の光景 前回の大統領選では、米メディアと世論調査を信じて「ヒラリー・クリントンで間違いない」という記事を書いた私としては、今回もこのことを痛感する。予想は競馬だけにしておきたい。 そうは言っても、ニューヨークに滞在中なので、投票所に出向いてみることにした。ここはマンハッタンのミッドタウンサウス。連邦議会下院の選挙区では第12区、州上院選挙区では第28区、州議会選挙区では第75区というようになっていて、一番近い投票所はレキシントン街25ストリートのバルーク・カレッジの中にある。 雨の中25ストリートを歩くと、マディソン・スクエア・ガーデンの交差点手前で、英エコノミスト誌が選挙インフォメーションブースを出していて、通行人に無料のコーヒーを提供しながら、年間購読を勧めていた。呼び止められて、少しだけ話を聞いたが、商魂たくましいと思った。 投票所に着くと人影はまばらだ。大学のキャンパス内だというのに、投票者は若者より老人が多い。その老人を捕まえて、メディアが出口調査を行っていた。いかにもニューヨークらしいと思ったのは、投票所を示す張り紙に中国語が書いてあったことだ。 連邦議会の下院は、人口比により全米で435の選挙区に別れていて、ニューヨーク州には27選挙区がある。下院議員の任期は2年で、435人全てが改選となったが、ニューヨーク州はほぼ変動がなかった。全体的に民主党が完勝した。 そんな中で、第14区で予備選挙から旋風を巻き起こした元バーテンダーのアレクサンドリア・オカシオコルテス候補(民主党)が勝ったのには、さすがに少々驚いた。バーモント州の上院選で当選したバーニー・サンダース議員の申し子の、バリバリの左派。29歳という若さで、最年少の女性連邦議会議員となった。2018年11月、バルーク・カレッジの中にある投票所入口=ニューヨーク(山田順氏撮影) もちろん州知事選も行われた。こちらは完全無風といってよく、現職のアンドリュー・クオモ氏(民主党)が難なく3選を果たした。今回の知事選で注目されたことと言えば、映画『セックス・アンド・ザ・シティ』に出演した人気女優で、リベラル派の活動家としても知られるシンシア・ニクソン氏が、予備選でクオモ知事に挑戦したことだった。全く相手にならずに敗れたが、ニューヨークらしい出来事とはいえた。 それでは、ここからはどのメディアも注目した「民主党VS共和党」の勢力図の変化を見ておこう。 まず、今回の選挙で考えられた「結果」は、次の4通りだった。(1)上下院で共和党が過半数を維持する(現状のまま)(2)下院は民主党の過半数となるが、上院は共和党が過半数を維持する(ねじれ議会になる)(3)上院で民主党が過半数を取り、下院は共和党が過半数を維持する(4)上下院ともに民主党が過半を獲得する 選挙前、ほぼ全メディアが(2)となると予測していた。次が(1)で、その次が(4)、最後が(3)だった。政治情報サイト「リアル・クリア・ポリティクス(RCP)」は、選挙前日に次のような予測を出した。下院(定数435、過半数218):民主党優勢202、共和党優勢195、接戦38上院(定数100、過半数51) :非改選を含め、共和党50、民主43、接戦7メディア予想に大外れなし 下院はほぼ的中したが、上院はなんと共和党が議席を予想外に増やしてしまった。これにより「共和党は辛うじて過半数を維持する」とした予想屋は大恥をかいたが、トランプとしては、まさに「してやったり」だ。 調子に乗って「今夜はものすごい成功だ。みんなありがとう!」(Tremendous success tonight. Thank you to all!)とツイートする始末だった。しかし、前回の大統領選と違って、メディアの予想に大外れはなかった。 こうして米議会は、下院は民主党が握り、上院は共和党が握るという「ねじれ状態」になったが、これまでとそう大きくは変わらないだろう。大方の日本のメディアは「民主党が下院において過半数を握ったということは、大統領が出してくる政策を阻止できるので政治状況は混迷を深める」などと指摘しているが、本当にそうなるかどうかは分からない。 民主党は今回の選挙でとことん疲れて、やる気を失っている。そのため、しばらくは「トランプよ、勝手にやってくれ。落とし前は次の選挙でつける」と体制立て直しに専念するだろう。つまり、トランプが自動車関税をふっかけ、自由貿易協定(FTA)交渉をねじ込んできても、米議会は反対などしない。 上院で共和党が過半数を維持したとはいえ、トランプにとって頭痛のタネがある。なぜなら、トランプは共和党を分捕っただけで、もともと共和党員ではないからだ。 彼には政策、主義というものがないから、共和党の穏健派は彼を嫌っている。つまり、敵は内部におり、特に女性議員はトランプを毛嫌いしている。マディソン・スクエア・ガーデン近くに英エコノミスト誌が出した選挙情報のための臨時ブース=ニューヨーク(山田順氏撮影) 今回、民主党の追い上げがあまりに厳しかったため、テキサスでは大統領選であれほどトランプを罵ったテッド・クルーズ議員が、トランプに応援をおねだりするという醜態を見せた。その結果、民主党のベト・オローク候補の猛追を振り切ったが、これで、彼は「トランプの犬」になったも同然だ。 しかし、女性議員はそんなことはしない。その筆頭は、メーン州のスーザン・コリンズ議員とアラスカ州のリーサ・マーカウスキー議員である。この2人は、オバマケア(医療保険制度改革)見直し、減税法案、ブレット・カバノー氏の最高裁判事承認などに対して反対を表明してきた。カバナー承認問題では、最後には仕方なく賛成に回ったに過ぎない。 2人とも今回は改選ではなく、2020年に改選されるが、早くも「民主党に鞍替えすべき」という話が飛び出している。 今回の上院選では、いくつかの州が全米の注目の的になった。レッドステートの波乱 まずはテネシー州だ。ここは強固な共和党の地盤で、「レッド・ステート」(赤い州)と呼ばれる州の一つだが、今回、有力議員のボブ・コーカー氏が引退したため、共和党新人の女性候補マーシャ・ブラックバーン氏と民主党新人のフィル・ブレ-デセン元同州知事の争いとなった。 というより、全米を代表する地元のカントリー歌手、テイラー・スウィフトが反トランプを表明したため、注目の州となったと言った方がいいだろう。 なんといっても、トランプ支持者はカントリーソングが大好きだ。テネシー州の州都ナッシュビルはその中心地である。 そのため、テイラーの反トランプ宣言は反響が大きく、民主党支持者が少なかったテネシー州で、なんと6万5千人が有権者登録をし、期日前投票をした。そして、有権者は4年前の中間選挙から約3倍に増加したと伝えられてきた。 しかし、蓋を開けてみればブラックバーン候補の完勝。トランプ人気の根強さを見せつけた結果となった。 続いてフロリダ州を見てみよう。ここは、大統領選でも勝敗を分けた「スウィング・ステート」(接戦州)の一つ。毎回、大接戦が続いてきた。それもそのはず、人種別人口構成比は、白人が約5割、ヒスパニック約2割強、アフリカ系1・5割、アジア系・その他0・5割と、まさに米国の「今」を象徴している。 ところが、民主党現職のビル・ネルソン上院議員は、ここで2000年に初当選して以来18年も議員を続けてきた。2006年と2012年の2回とも共和党の挑戦者を退けてきたのである。彼はフロリダ生まれ、フロリダ育ちのコテコテの地元政治家である。 ところが、今回は大接戦の末に落選してしまった。今回の共和党候補は、これまでと違う大物で、州知事から鞍替えして来たリック・スコット氏だったからだろう。スコット氏は、全米有数の病院チェーンの経営者を務めた後、ベンチャーキャピタリストとして巨万の富を築いた人物である。2018年11月6日、米中間選挙で、トランプ大統領のまねをする共和党の支持者=米フロリダ州オーランド(ロイター=共同) さて、今回の中間選挙では、実は州知事選の方が、トランプにとっては重要な意味を持っていた。というのは、大統領選のキャンペーンでは、寄付金を募ったりボランティアを集めたりする場合、州知事が党候補のサポートすることになるからだ。 となると、今回の中間選挙で選出された新州知事が、2020年の大統領選に大きな影響を持つ。トランプは臆面(おくめん)もなく大統領を続けると言っているので、その際には州知事たちの支持が必要だ。注目のフロリダは共和党 今回は、全米50州中36州で知事選が行われたが、目ぼしいところは、共和党が獲った。注目されたのは、フロリダ州とジョージア州だったが、2州とも共和党が獲ったのである。 フロリダ州知事選では、同州初の黒人知事を目指す民主党のアンドリュー・ギラム候補が、トランプ支持を前面に押し出してきた共和党のロン・デサンティス候補をリードしていると言われてきた。 また、ジョージア州でも、民主党のステイシー・エイブラムス候補が優勢と伝えられてきた。このエイブラムス氏は黒人女性。これまで、黒人女性が知事になったことはないので、初の黒人女性知事の誕生かとメディアは注目した。 しかし、2候補とも大激戦の末に落選した。フロリダ州では、デサンティス候補が黒人のギラム候補を「モンキー」と呼んだにもかかわらず、勝利した。 また、ジョージア州の共和党候補、ブライアン・ケンプ氏は州務長官で、ゴリゴリの共和党保守派のトランプ追随者だ。結局、トランプはリベラルより強いということなのだろう。 こうして、米中間選挙は幕を閉じ、これから2年間、世界はトランプに振り回されることになった。私自身は、左派でもリベラルでもなく、どちらかと言えば民主党より共和党の方に親近感があるが、トランプだけはいただけない。こんな人物が世界覇権国、米国のリーダーであっていいのだろうか。 結局、今回の中間選挙では、女性票や若者票が大きく動かなかったと推測される。各種調査によると、大学の奨学金返済に苦しむ若い世代は、多くが民主党支持者であり、彼らが投票に行けば、選挙結果が大きく変わった可能性があった。何しろ、トランプ支持者は年寄りが多いのだ。 人間、歳をとるにつれて、保守的になり、現状を変える気がなくなってくる。そこを目がけてトランプは、これまで無茶苦茶な発言を投げつけ、その結果、老人の心の中に眠っていた差別意識や恐怖心を引きずり出してきた。 つまり「分断」である。もはや、米国はトランプによってズタズタに分断されてしまった。2018年11月6日、米中間選挙で投票所を訪れた下院選の民主党・女性注目候補、オカシオコルテス氏=ニューヨーク(UPI=共同) しかし、これから米国を築く新しい世代である「ミレニアル(新千年紀)世代」は分断を望んでいない。現在では、ミレニアル世代が成人人口の30%近くを占め、これまで最大勢力だったベビーブーマー世代と同様なパワーを持つようになっている。彼らは、1980年から1990年代半ばまでに生まれ、現在は20代前半から30代後半にあたる。 果たして、今後、彼らはどう動くのか。そして「ガラスの天井」を打ち破れないまま来ている女性たちはどう動くのだろうか。今回は、トランプがこのまま大統領でも「まあ、いいか」という結果になったが、次の大統領選挙では全く分からない。(一部敬称略)

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    「反トランプ」のうねりはなぜ起こらなかったのか

    中岡望(東洋英和女学院大客員教授、ジャーナリスト) 11月6日にアメリカの中間選挙が行われた。任期2年の下院議員435議席と、任期6年の上院議員100議席のうち3分の1の35議席が改選された。通常、中間選挙は大統領選挙と同時に行われる本選挙に比べると関心が低く、投票率も低いのが特徴である。また、もう一つの特徴は、与党が議席を失うケースが多いことだ。 ただ、今回の中間選挙は従来とは異なった様相を見せていた。多くの論者やメディアはこぞって「アメリカの選挙史上、最も重要な選挙」であると指摘していた。すなわち、単なる議員の改選にとどまらず、トランプ大統領の「信任投票」の意味合いも含まれていたからだ。世論調査でも、60%以上が、トランプ大統領が投票決定の要因になると答えている。 トランプ大統領の2年間の政策はアメリカの政治や社会を大きく変えただけでなく、戦後、アメリカが作り上げてきたリベラルな国際秩序も逆転させるものであった。トランプ大統領は「アメリカ・ファースト」や「アメリカを再び偉大にする」、「雇用を取り戻す」というスローガンを訴え、中西部や南部の白人労働者、妊娠中絶や同性婚に反対する立場をとることで「エヴァンジェリカル」と呼ばれるキリスト教原理主義者などの支持を得てきた。 また、公然と白人至上主義やネオナチを支持し、ナショナリズムを主張するだけでなく、人種差別や女性差別的な発言を繰り返し、物議を醸していた。人種的多様化にも否定的で、不法移民を犯罪者扱いするなど、従来のリベラルなアメリカ社会を根底から覆す政策を取ってきた。 同時に共和党は大統領選で勝つためにトランプ大統領と「悪魔の取引」(『民主主義の死に方』で著者が使った表現)をした。伝統的な保守主義者を共和党から排除したことで、穏健派は口を閉ざし、共和党はトランプ大統領の言いなりになる「トランプの党」へと変貌していった。そしてトランプ大統領は反対者やメディアを口汚く罵(ののし)り、極めて権威的な政治体制を作り上げてきた。 今回の中間選挙でも、劣勢が予想される共和党候補を支援するため、積極的に支援活動を展開してきた。トランプ大統領が取った戦略は、移民の増加で白人社会が消滅すると強調し、白人有権者に恐怖感をあおった。移民に対する怒りを植え付け、国民を分裂させることで、「トランプ連合」と呼ばれる支持層を結束させようとした。 『ニューヨーク・タイムズ』は、この戦略を「南北戦争以降、どの大統領もやったことのないような方法でアメリカ社会に人種的な分裂を引き起こし、今回の中間選挙は最も両極に分裂した」(11月5日)と分析している。 中間選挙は、有権者がトランプ大統領の政策や理念にどのような判断を下すかが最大の焦点となっていた。選挙前の調査では、下院は民主党が過半数を占めるが、上院は共和党が過半数を維持するというのが大方の予想であった。米オハイオ州のクリーブランドの集会で、父のトランプ大統領(右)の隣で演説するイバンカ大統領補佐官=2018年11月(ロイター=共同) まだ議席の最終確定はしていないが、予想通り民主党が過半数の218議席を上回った。ただ、民主党が圧倒的勝利を収めたとはいえない。オバマ政権が誕生して2年後の2010年の中間選挙では民主党は63議席を失う大敗北を喫している。それから見れば、今回の議席喪失は30議席程度で想定を上回っているが、共和党にとっては大敗北とはいえない状況である。 上院は、現時点では共和党は3議席増やして、非改選を含め51議席を確保している。民主党は3議席失い、非改選を含め46議席にとどまっている。未確定の選挙区もあり、民主党がさらに議席を失う可能性も残っている。起きなかった「ブルー・ウェーブ」 上院選挙に関していえば、民主党は厳しい戦いを強いられていた。そもそも、改選議席が共和党議員と比べると圧倒的に多かったからだ。さらに26の改選州のうち10州は大統領選でトランプ候補が勝利したトランプ支持の州である。 もう一つ注目される選挙は州知事選だ。共和党は伝統的に州知事選では強く、圧倒的な数を占めてきた。前回の知事選では、共和党候補が33州で勝利し、民主党候補の勝利は16州にすぎなかった。 今回の選挙では、現時点で民主党候補が7州で共和党候補に勝利し、現職の再選を含めて22州で勝利を収めた。共和党候補の勝利は25州にとどまった。下院と知事選では民主党が勝利し、上院では共和党が勝利するという結果となった。これに対して、トランプ大統領は選挙後、「今夜は大勝利である。皆さんに感謝する」とツイートしている。 また、選挙前にトランプ大統領はAP通信とのインタビューに答えて「下院が負けても自分の責任ではない」と予防線を張っていた。上院の予想を上回る勝利に安堵したのは間違いないだろう。 今回の選挙の特徴は、民主党も共和党も支持者の投票率を高めることに注力したことだ。通常、中間選挙では投票率が低下する。特に民主党支持者の投票率が低下する傾向がある。他方、共和党支持者は党に対する忠誠心が強く、民主党よりも高い投票率を示してきた。 だが、今回は有権者の関心が極めて高かったのが大きな特徴である。特に民主党支持者は、トランプ大統領の政策に対して極めて強い懸念と怒りを抱いており、強い危機感が投票率を高めた。そうした選挙に対する関心の高まりは「ブルー・ウエーブ」と呼ばれた。 ブルーは民主党を示す色である。ブルー・ウエーブの高まりが下院での民主党勝利に結びついた。ただ、ブルー・ウエーブは「波」にとどまり、「津波」になって共和党を圧倒するところまではいかなかった。オバマ大統領の誕生を支えたような大きなウネリは起こらなかったのだ。 ただ、下院での民主党勝利の背景には、女性の有権者がトランプ大統領に反発し、民主党候補を支持したこともある。郊外の住む中産階級の高学歴の既婚女性は共和党支持が多かったが、今回は民主党支持に回ったとみられる。投票所で報道陣に囲まれる下院選の民主党女性候補、オカシオコルテス氏=2018年11月、ニューヨーク(AP=共同) もう一つの特徴は、女性が主役であったことだ。女性候補者は過去最高を記録している。下院では少なくとも95人の女性候補の当選が見込まれている。そのうち70人が民主党候補で、28人が新人である。 結果として、民主党の支持者動員は成功したといえる。では、なぜ民主党は圧倒的な勝利を得ることができなかったのか。それは同時に共和党の動員戦略も奏功し、多くの共和党支持者も投票所に足を運んだからである。 トランプ大統領の恐怖と不安をあおり、国境に押しかける中米からの移民を求める人々を批判する戦略が共和党支持者に浸透したことは間違いない。民主党支持者がトランプ大統領に危機感を抱いて投票したのと同じように、共和党支持者は不法移民によって白人社会が消滅するかもしれないという恐怖感を抱いて投票所に向かったのである。それが全体の投票率を高めた。乱発が予想される「大統領令」 現在のアメリカの政治の現実を見ると、選挙運動を通して支持者を増やすことは期待できない。共和党支持者はどんなことがあっても共和党支持の立場を変えないし、トランプ大統領がどんな大統領であっても支持し続けるからだ。民主党にも同様な傾向がある。お互いが自分の支持層にのみ語りかけているのである。 選挙の結果は、いかにして支持者を投票所に向かわせるかによって決まるといっても過言ではない。無党派をどう取り込むかも勝敗を大きく分けるが、政治の両極化が進む中で無党派層も政治的な色分けが明確になってきており、風の向きで支持政党を変える可能性は小さい。 では、選挙結果はトランプ大統領にどのような影響を与えるのであろうか。下院の敗北や州知事選での後退によって、政策の軌道修正を図るのだろうか。その可能性は皆無であろう。むしろ上院の勝利によって大統領に対する支持が確認されたと主張するだろう。 また、常套(じょうとう)手段であるが、下院選挙で不正が行われたと主張するのは間違いなく、民主党に対する対決姿勢を強めていくことは間違いないだろう。 ただ、議会は民主党が下院で、共和党が上院で多数派を占めることになる。議会運営はますます困難になるだろう。下院は民主党が過半数を占めたことで、常設委員会の委員長のすべてを占めることになる。予算案の作成を担当する歳出委員会や財政委員会は、トランプ大統領の予算案や減税案に反対するだろう。 一方、トランプ大統領のロシア疑惑などを審議する司法委員会は、トランプ大統領に関連する様々な疑惑や不正行為の調査を始めたり、弾劾問題を取り上げたりする可能性がある。2020年の大統領選を見据え、下院民主党との対立が先鋭化するのは間違いない。 トランプ大統領の下で行われた環境規制や金融規制などの規制緩和の政策の見直しも行われるだろう。移民政策も大きな対立点になると予想される。ただ、共和党が上院で過半数を確保したことで、任命人事はトランプ大統領の思い通りに進むことになる。特に連邦裁判所判事に保守派を登用する動きは強まるとみられ、連邦裁判所判事の承認に際して、上院はフィリバスター(議事妨害)を使えないので、過半数で承認することが可能である。 さらに、トランプ大統領は下院民主党との対立が強まれば、議会を迂回(うかい)する手段として「大統領令」を乱発すると予想される。この2年でも多くの大統領令を出してきたが、連邦裁判所の違憲判決に合い、トランプ大統領の思い通りには進まなかった。だが、トランプ大統領はゴーサッチ最高裁判事とカバノー最高裁判事を任命し、9人の最高裁判事のうち5人が保守派が占め、大統領令に対して違憲判決を下す可能性は少なくなっている。米中間選挙で共和党候補を支持し、トランプ大統領を応援する旗を掲げる人たち.=米フロリダ州オーランド、2018年11月(AP=共同) 先の大統領選で、オバマ大統領に対して共和党が一致団結して抵抗したことが思い起こされる。おそらく民主党もトランプ大統領に対する対決姿勢を強めることは間違いない。今後、トランプ大統領と民主党の対立は深刻化し、議会が機能しなくなるだろう。 いつものことだが、選挙が終わると、識者やメディアは「アメリカは2つに分裂している」というコメントを出すが、今回の選挙は改めてアメリカ社会の分裂の深刻さを示したといえる。