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    新政権発足後も「トランプ旋風」冷めやらぬアメリカの針路

    党支持者であると認識するブルーカラーの有権者数は8ポイント減少した。これは黒人とヒスパニック(ラテンアメリカ系)では、もっと大きな変化が起きており、トランプ氏が開拓した新しい支持者と言っても過言でないだろう。 このような「保守」の在り方の変化が反映されたのか、今回のCPACに招かれたのは、コットン上院議員のほか、クルーズ上院議員、デサンティス・フロリダ州知事、ホーリー上院議員、ポンペオ元国務長官ら。その一方で、参加を拒否されたのはトランプ氏と決別したペンス前副大統領とヘイリー元国連大使だ。 特にペンス氏に関しては、彼が1月6日に強権を発動して、不正疑惑のある州の大統領選結果を各州議会に突き返さなかったのは、彼の首席補佐官が、グローバル石油財閥と繋がりが深かったため、といった話も出ている。マコーネル上院議員も中国マネーの問題で批判されている。 そしてバイデン政権は、トランプ政権が定めた中国のハイテク関連技術への規制を緩めつつある。また、電力事業にまで中国企業を参入させようとしているだけでなく、通信アプリの一部のほか、大学などにある中国共産党の工作機関とされる孔子学院の規制も緩和したようだ。新たな経済施策を発表するバイデン米大統領=2021年2月22日、ワシントン(ロイター=共同) そのほか、経済を重視するためなのか、バイデン政権は新彊ウイグル自治区の人権問題への追及や、日米豪印戦略対話(QUAD)に関しても積極的ではないという。「トランプ新党」は否定 さらに、1千万人以上の不法移民に精査することなく国籍を与えようとしたり、トランプ氏が設置した愛国教育を推進する委員会を解散させるなど、バイデン政権は米国を内部から破壊しようとしているとしか思えない。 いずれにせよ、2022年の中間選挙で「トランプ派」が上下両院で過半数を握らなければ先に触れた懸念は現実味を帯びてくる。 トランプ氏は近く、フロリダ州パームビーチにある別荘マー・ア・ラゴで候補者の審査を開始するという情報もある。彼と対立した現職の共和党員に対抗馬を立てるだけではなく、2022年に共和党が上下両院の過半数確保に向けた動きで、すでに数十人がトランプ氏との面会を予定している。 それ以前に2020年の大統領選を巡る不正投票疑惑を繰り返さないため、州知事候補に「トランプ派」の人材を送り込み、民主党知事だけでなく、「反トランプ」の現職共和党知事をも倒す計画があるという。 冒頭で触れたCPACに話を戻すが、トランプ氏の演説は1時間半を超える長いものだったが、その要点は以下の通りだ。①バイデン政権による移民などによる米国の内部からの破壊は許さない。②中国との特に経済面の対決は続けなければならない。③トランプ新党は設立しない。今後も共和党と協力する。 新党に関する③については、米国の二大政党制を前提に考えると仕方がない部分もあるだろう。ただ、CPAC参加者に対する調査では、68%がトランプ氏の再出馬を望み、95%が、共和党はこれまでトランプ氏が推進してきた諸問題を追求し続けるべきと答えている。 また、2024年の大統領選共和党候補としては、トランプ氏が55%、フロリダ州知事のデサンティス氏が21%、サウスダコタ州知事のノーム氏は4%、元国連大使のヘイリー氏は3%。元国務長官のポンペオ氏と上院議員のクルーズ氏が2%だ。要するに圧倒的にトランプ氏なのである。 とはいえ、先にも触れたように、共和党も一枚岩ではなくなりつつある。トランプ氏はCPACの演説で新党を否定したが、1月下旬に行われた米世論調査会社ギャラップによる調査では、米国民の3分の2が「第3政党」を望んでいるという。しかも民主党支持者や無党派の間では減少傾向だが、共和党支持者の間では急増している。 そもそも二大政党制とは、社会全体が裕福な人と貧しい人に分かれているような、シンプルな時代のものである。貧しい自営業者もいれば、医者や弁護士もいる。高学歴の給与所得者もいれば、そうではない人もいる。まして米国では移民問題もある。 そしてトランプ派の方針が、今までの共和党と民主党の折衷案のようなものであることは繰り返し触れた。こうした現状を踏まえれば2024年までに「トランプ新党」が誕生する可能性は、ゼロではないようにも思う。議会選挙などで選挙区のニーズに合わせた棲み分けを行えば、共和党と共倒れになることもないからだ。 CPACの演説をトランプ氏は「2024年の大統領選候補は誰でしょう?」と謎を掛けるような言葉で締めくくった。そのときに78歳となっているトランプ氏としては思うところがあるのかもしれない。例えばノーム氏を大統領にして院政を敷くというような手法も考えられる。米フロリダ州オーランドで演説するトランプ前大統領=2021年2月8日(AP=共同) だが、いずれにしてもこれまで米国政治をウオッチしてきた私としては、彼ほど新しい発想と、それを実現する実行力のある政治家はいないと思っている。 共和党なのか「トランプ新党」なのか分からないが、バイデン政権の懸念を払拭するには、言うまでもなく2022年の中間選挙が重大な試金石となる。ここで「トランプ派」が勝たなければ、民主党政権による米国の弱体化は免れないだろう。それは同盟国日本にとっても、極めて大きな不利益をもたらすにちがいない。【お知らせ】3月12日午後6時から東京・永田町の憲政記念館で、筆者主催の講演会「311から10年―あの時、何が起こったか?あれから何が変わったか?」が行われます。元総務省消防庁長官と元東京消防庁総監が講師として、東日本大震災の教訓や課題のついて語ります。事前申し込みはこちらから(参加費2千円、当日参加も可)。

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    バイデン政権は共和党とのケンカより中国と「正しい冷戦」を

     アメリカのバイデン政権にとって、パリ協定への復帰や同盟国との関係改善はそれほど難しくはないだろう。4年前までのアメリカに復帰すればいいからだ。しかし、中国との関係は違う。トランプ政権の4年間で、アメリカ人の対中国感情はかつてなく悪化した。そして、それは間違ってはいない。それ以前のアメリカが、経済的な結びつきを重視して目をつぶってきた中国の問題にアメリカ国民が気づいたことは、中国という国を世界秩序のメンバーとして受け入れるために必要な変化だった。だからこそ、バイデン政権は、そうやすやすとは中国と「和解」するわけにはいかない。日本にも深く関わる新しい米中関係について、ニューヨーク在住ジャーナリスト・佐藤則男氏がリポートする。 * * * ニューヨーク・タイムズのコラムニストであるニコライ・クリストフ氏は、アメリカ・ジャーナリズムの最高の栄誉であるピューリッツァー賞を2回受賞している一流のジャーナリストである。ただし、日本にとっては目の上のタンコブのような存在でもある。徹底して尖閣諸島は中国の領有権を認めるべきだと主張しており、日本政府は同氏とニューヨーク・タイムズに抗議を繰り返してきた。 ただし、クリストフ氏は必ずしも中国贔屓というわけではない。習近平・国家主席による独裁体制や、共産党による一党支配については批判的で、しかし中国とアメリカが対立することは世界にとって百害あって一利なしであるというのが氏の主張の骨子だ。 そのクリストフ氏は最新のコラムで、米中関係は難しい局面を迎えているが、米中戦争が起きる可能性はほとんどないだろうと予測している。日本人にとっては様々な捉え方がある話だとしても、このコラムの示唆することは重要だと思う。同氏は、米中戦争は起きないけれど、中台の小規模な軍事衝突は起き得ると語る(〈〉内は著者抄訳。以下同)。〈それは、アメリカ人がほとんど聞いたことのない小さな島で始まるかもしれない。台湾によって実効支配されているが、習近平が台湾に圧力をかけるために侵略を試みる可能性はある。あるいは、台湾と世界をつなぐインターネットの海底ケーブルを切断するために潜水艦を送り込むかもしれない。台湾の石油供給ラインを封鎖するとか、金融システムにサイバー攻撃を仕掛ける可能性もある。いずれも可能性は低いとはいえ、過去数十年では最もリスクが高まっているだろう。それはアメリカにとって、キューバ危機以来、他の核保有国との間で最も危険な対立になるだろう。〉 そのうえでクリストフ氏は、バイデン政権にとって中国問題は非常に扱いにくいと予測する。それは、香港での抑圧的な政策や、ウイグル族に対する「大量虐殺」など人権問題に関して妥協できないからだ。それは多くの専門家が同意していることだし、筆者も同じように考える。民主党政権は概して人権問題に敏感であり、貿易不均衡に怒ったトランプ政権とは別の理由で、対中強硬姿勢を崩せなくなるだろう。 クリストフ氏は、それは共和党にとって絶好の攻めどころになると指摘する。〈バイデン政権のプリンケン国務長官は、同盟国との友好関係を再構築したうえで、それでもなおトランプ政権の中国に対する厳しいアプローチは継続すると表明した。それに対して共和党は、中国問題こそバイデン政権の脆弱性だと見なしており、「北京バイデン」とあざ笑う者もいれば、テッド・クルーズ上院議員は「チーム・バイデンが中国共産党を受け入れた」と非難している。〉 この指摘は重要だ。トランプ氏が共和党に遺した「遺産」のひとつは、中国へのかつてない強硬な政策だ。それは中国の経済発展によって職を奪われたオールド・エコノミーの票を獲得するための戦略ではあったが、それによって中国の人権問題が多くのアメリカ人に知られることになり、バイデン政権はそれを無視できなくなった。野党となった共和党は、今度は中国の人権侵害を問題にすることで、バイデン政権が中国と融和できなくする縛りをかけることができる。※写真はイメージです(ゲッティイメージズ) それは米中が長く冷え込んだ関係になることを意味する。それは東アジア情勢にとっても必ずしも良いことではない。クリストフ氏はこう提言している。〈習主席と中国を分けて考えよう。前者を批判し、後者を悪魔と見なすことはやめるべきだ。バイデン大統領にとって、ミッチ・マコーネル共和党上院院内総務と話すことは習主席と取引するよりずっと簡単だ。中国の人権問題や不誠実を批判するのはいいが、気候変動や薬物汚染、北朝鮮問題では中国と協力できるはずだ。我々が旧ソ連との冷戦で学んだスキルを活かすべき時である。〉 クリストフ氏は中国に寛容な立場のジャーナリストだが、いわゆる「親中派」というわけではない。民主党と共和党が対中政策の厳しさで競えば、政権を担う民主党が厳しい立場に追い込まれることは必定だ。かといって米中が決定的に対立すれば、第二のキューバ危機を招きかねない。その舞台はキューバではなく東アジアになるかもしれないのだ。バイデン政権には、中国と「正しい冷戦」を維持しながら軍事的緊張を回避し、改革を促す技量が問われている。関連記事■ついに3大ネットワークで問われたバイデン氏の「認知症」■トイレ醜聞、入会拒否の屈辱受けるイバンカ・トランプの落日■「トランプはステロイドでおかしくなった」の声が続々■トランプ氏 姪の水着姿見て「こいつはすごい」と息荒らげた■「バイデンはパンダに抱きつく」説を国務省元高官に直撃

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    アメリカよ、どこへ行く 尾崎行雄記念財団 GII 共催パネルディスカッション

    たものを書籍化!今回はその一部を特別に動画配信する。「トランプ精神」は永遠に不滅だ!ーシンポジウム「アメリカよ、どこへ行く」https://www.amazon.co.jp/gp/product/4...​著書執筆者ケント・ギルバート1952年、米国ユタ州生。経営学修士(MBA)、法務博士。法律コンサルタントとして来日。弁護士業と並行しタレント活動を行う。『新しいナショナリズムの時代がやってきた! 』『日本人が知らない朝鮮半島史』『中韓が繰り返す「反日」歴史戦を暴く』『私が日本に住み続ける15の理由』『プロパガンダの見破り方』『素晴らしい国・日本に告ぐ』など。ロバート・D・エルドリッヂ1968年、米国ニュージャージー州生。リンチバーグ大卒(国際関係論)。神戸大学大学院法学研究科博士課程後期課程終了。政治学博士。2009年、在日海兵隊基地外交政策部次長就任。15年、退任。『沖縄問題の起源』『尖閣問題の起源』『トモダチ作戦』『トランプ政権の米国と日本をつなぐもの』など。第八回中曽根康弘賞などを授賞。松本佐保神戸生。聖心女子大学卒業(歴史学)学士。慶應義塾大学大学院文学研究科・修士号。英国ウォーリック大学大学院・博士号(PhD)。イタリア政府給費留学生としてバチカン機密文書館でローマ教皇研究を行う。現在、名古屋市立大学大学院・人間文化研究科教授。『バチカン近現代史』『熱狂する神の国アメリカ』『バチカンと国際政治』他。吉川圭一1963年、東京都生。修士(筑波大学)。ペマ・ギャルポ事務所特別秘書等を経て2002年グローバル・イッシューズ総合研究所設立。11年日本安全保障・危機管理学会ワシントン事務所長兼任。『楯の論理』『911から311へ–日本版国土安全保障省設立の提言』『日本はテロを阻止できるか?』『救世主トランプ“世界の終末"は起こるか?』他、講演歴多数。金子宗德1975年、愛知県生。京都大学総合人間学部在学中に京都大総合人間学部在学中に第3回読売論壇新人賞・優秀賞を受賞。京大大学院人間・環境学研究科博士課程修了退学。姫路独協大学講師を経て亜細亜大学講師。里見日本文化研究所所長。グローバル・イッシューズ総合研究所研究顧問。共著書に『「大正」再考』『保守主義とは何か』『国家神道と国体論』など。

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    歴史的な政権交代劇の先にあるアメリカの「憂鬱」

    くなってしまったという趣旨の報道にも、不謹慎ながら失笑してしまった。中東では、「アラブの春」ならぬ「アメリカの春」という風刺が会員制交流サイト(SNS)で拡散しているという。イラクでは、ブッシュ(子)大統領によるフセイン政権打倒の軍事行動を念頭に、「今こそイラクが有志連合軍と侵攻して、米国を圧政から解放しよう」などという投稿があったとも聞く。 今次の事件とその報道で、われわれが、いまさらながらに思い知ったことは、デモクラシーなしの米国というものはあり得ないということである。デモクラシーを失ってしまえば、他に国家を結合する基礎になる民族も文化も見当たらない。米ワシントンで連邦議会議事堂になだれ込むトランプ氏の支持者=2021年1月6日(ロイター=共同) かつてはキリスト教と英語が、そうした役割の一部を担っていたかもしれない。しかし、両者は、一頃よりはるかに相対化されてしまっている。キリスト教の信仰心は衰え、「多様性」崇拝教が勃興した結果、ヒスパニック系の増加と相まって、英語は、「事実として」多くの米国人が使う言語であるという程度の位置づけとなっているように見える。蔓延した「トランプ中毒」 貴族政であったときも武家政治であったときも、日本は日本であった。少なくともわれわれはそう思っている。もしも平安時代にタイムスリップしてしまえば、当時の「日本人」とはろくに言葉も通じないかもしれない。それでもなお、われわれはこの列島の歴史を、連続性と一体性で認識しているのだ。 一方で、米国は民主国家として出発しているから、それ以外の政体を経験していない。デモクラシーとは、米国人にとっての一種のナショナリズムのようなものなのだ。そう考えると、米国人にとっての連邦議会議事堂の象徴としての意味が見えてくる。国会議事堂に神聖さを感じる日本人は、絶無とは言わぬにせよ、比較的珍しい部類に属しよう。 しかし、国会議事堂は、連邦議会議事堂に完全に相当するものではない。米国人にとって、連邦議会議事堂とは、建物の機能としては国会議事堂と同じでも、半ばは、日本の皇居や御所に相当する意味があるのだ。自分たちが選ぶ一代限りの王様の住まいがホワイトハウスなら、連邦議会議事堂は、同じく自分たちが選んだ一代限りの貴族が集う場所なのである。 皇居に暴徒が大挙して乱入し、陛下が避難を余儀なくされるなんてことになったら、日本国民の反応は冷静だったろうか。ゆえに、今回の事件を不用意に嘲ったり茶化したりすることは、内々にとどめておくのが礼儀というものだろう。また、ドイツの首相、メルケル氏など説教くさいことを言った主要国の指導者も、いただけない。わが首相がそんなことを言わなかったのは賢明であった。 ところで、どうやら共和党ばかりか民主党にも、トランプ中毒が蔓延したようだ。そう言いたくもなる症状を呈している。下院では、トランプ氏の弾劾訴追が、あれよあれよという間に可決された。公聴会も開かず、トランプ氏側には弁護の機会も与えられなかった。 何のための弾劾訴追なのか。おそらくは、単にトランプ氏を、任期中に2度までも弾劾訴追された米国史上唯一の大統領にして、汚名を残そうということなのだろう。ならば、その目的は果たされた。上院での裁判は不要だろう。下院の訴追で十分だ。共和党議員から10人もの賛成者が出たのだから、共和党に亀裂を入れることにも成功した。もうそれで矛を収めてはどうか。それでも、2月9日に審理が開始されるようだ。下院が弾劾取りやめを議決して、上院か審理をしなかった前例はあるのだが。 トランプ氏の任期は、制度上1月20日の正午で終了した。上院は、前日の19日まで開会しないことが分かっていたのだから、弾劾審理は、トランプ氏の退任後に持ち越す前提だったのだろう。死人を死刑にしようとするようなものだと思う。 こうしたことに詳しくはないので、唯一の類似事例だとは断言しないが、退任後どころか死後に裁判にかけられた例はある。今を去ること1100年以上前の897年1月に、ローマ教皇フォルモススが、死後裁判にかけられている。彼の遺骸が墓から掘り起こされて被告席に据えられたという。偽証および不正に教皇の地位に就いたことで有罪を宣告され、遡及してフォルモススの教皇位は無効とされた。 そもそも、退任後の弾劾審理が憲法上可能なのか。前例はあるにはある。1876年3月2日、陸軍長官のウィリアム・ベルナップは、辞表を提出した直後に、汚職の容疑で弾劾訴追された。しかし、下院はそれでも弾劾決議を上院に送付し、翌4月に裁判が始まった。結果は、上院の過半数が有罪に票を投じたものの、3分の2には届かず、無罪となった。米連邦議会で、トランプ氏への弾劾訴追決議を撮影するカメラマン=ワシントン=2021年1月13日(ゲッティ=共同) また、2009年、連邦判事のサミュエル・ケントは女性職員2人に対する性的虐待に関して弾劾訴追された。その後、ケントが辞任に同意したため、下院は上院に審理の取りやめを求める決議を採択し、それを受けて2日後、上院は審理を取りやめた。ケントは、刑事裁判では有罪判決を受けている。150年ぶりの「荒行」? 憲法上明確に規定されている弾劾の刑罰は、罷免だけである。トランプ氏を将来公職に就けなくする、つまり2024年大統領選に立候補できないようにすると、民主党筋は述べているものの、筆者の知る限りこれには前例がない。 弾劾とは別に、合衆国憲法修正第14条第3項には、「合衆国に対する暴動または反乱に加わり、または合衆国の敵に援助もしくは便宜を与えた者」は、全ての州または連邦の官職に就くことはできないと規定されている。 さらに、同条第5項は、「連邦議会は、適切な立法により、この修正条項の規定を実施する権限を有する」と規定する。これは、連邦議会の制定法のみで、公職就任資格を剥奪できるとも読める。南部連合国に加わった政治家を念頭に置いたこの規定を、150年ぶりに引っ張り出すという荒業まで、ひょっとしてやりかねない雰囲気だ。 このような退任後の弾劾審理は、大統領退任後の年金や警護特権を受けられなくさせてやろうという嫌がらせと見なされるかもしれない。トランプ氏本人は、むろんそう言うだろう。少なからぬ米国民もまた、そう見なすかもしれない。民主党は、いつまでトランプ氏にかまけているつもりなのか。この問題の処理を誤れば、早くも1年9カ月後に迫った中間選挙で、民主党に鉄槌が下りかねないと筆者は思う。ただでさえ、中間選挙は、政権党が議席を減らすものなのだから。 バイデン氏は、この弾劾には気乗り薄であるように見える。高位の人事承認にあたる上院の審議時間が削られるということもある。加えて、氏の掲げる分断の修復とは相いれない。 1月29日配信の「FNNプライムオンライン」によれば、マンモス大学による最新の世論調査では、「弾劾への賛成が民主党支持層で92%にのぼったのに対し、共和党支持層では13%にとどまった」という。いささか暴走気味の議会民主党の動向は、注視する必要があろう。合衆国最高裁判事の定員増加や首都ワシントンの州昇格に取りかかろうとすれば、紛議を招くことは必至である。実現すれば、今後の米国政治に大変動をもたらす。具体的な動きが出れば、解説してみたい。 トランプ氏とその政権の政策の位置づけと評価とは、トランプ氏個人の人格への評価とは離れて、今後冷静かつ真剣に取り組まれるべき課題である。筆者なりの仮説では、リチャード・ニクソンとペアで評価することができるのではないか。 ニクソンが、ソ連牽制の意図もあって進めた対中国交回復は、中国を国際社会に組み入れ、その後のグローバリゼーション経済を準備したと言える。中国は、その後外国資本の導入により世界の工場と称される生産拠点となり、世界経済の一体化の不可欠な要素となる。 こうしたグローバリゼーションに疑念を抱き、その終焉をもたらしたとまでは言えぬにせよ、重大な転換を図ったのがトランプ氏だったのではないか。「アメリカ・ファースト」とは、そうした文脈で理解される。ニクソンがグローバリゼーションの幕を開き、トランプ氏が幕を下ろそうと試みたと言えるかもしれない。米アラスカ・アンカレジに立ち寄られた際の昭和天皇と出迎えたニクソン大統領=1971年9月 ニクソンと言えば、その業績にもかかわらず、未だに最初に語られるのはウォーターゲート事件であり、弾劾罷免を免れるために自ら辞任した、合衆国史上唯一の大統領だということである。それを思えば、同様にトランプ氏も、内外の業績にもかかわらず、連邦議会議事堂の騒乱を招き、2度までも弾劾訴追された唯一の大統領として語り継がれることは、やむを得ないことなのかもしれない。退屈な政権に そして、バイデン政権の展望については、何と言っても「断定的なことを言うには早すぎる」というこの魔法の文句を使えるうちに、少しだけ述べておこう。 バイデン氏は、就任当日に15もの大統領令を発出した。就任当日のトランプ氏は、国境の壁建設についての1件のみ、オバマ氏はゼロであったのに比べて印象的ではある。しかし、それらの内容と効果は一様ではない。世界保健機関(WHO)や温暖化防止のためのパリ協定への復帰のように実質のあるものから、マスク着用義務化のように象徴的意味合いのものまでさまざまである。マスク着用義務化の効果は限られる。 そのような権限は、州政府が持っているのが米国という国なのだと、昨年来思い知らされたばかりである。大統領令の効力は、国立公園敷地内、連邦刑務所、軍施設あたりに適用されるだけである。また、路線が州間にわたる列車、航空機にも適用される。マスク義務化よりは実質を伴うとはいえ、パリ協定への復帰と温室効果ガス排出量の削減とは別の話であるし、WHOに復帰すればすぐにコロナが収まるわけでもない。 就任当初よりの一連の政策と人事とは、それだけではないにせよ、詰まるところ「脱トランプ」を印象付けようという意図に出たという面も無視できまい。対中強硬姿勢は、脱トランプ化していない。しかし、これについては、トランプ時代から超党派合意が成立していた稀有の例であった。トランプ路線の継続というのは当たるまい。 また、先の就任式には、事実上の駐米台湾大使にあたる台北経済文化代表処代表の簫美琴(しょう・びきん)氏が招待された。1979年の断交以来初めてのことである。ただし、大統領就任式典の主催者は連邦議会であり、民主共和両党より成る実行委員会が招待したのだということを忘れてはならない。実は、過去の歴代政権は、いずれも台湾重視を表明はしている。しかし、トランプ氏が示したような、台湾への武器売却や米台合同軍事演習の実施という実質ある台湾重視政策をとるかどうかを、今後見守る必要があろう。 むしろ、トランプ路線の継続と見なしてよいのは、保護貿易を強化したことだ。1月25日の大統領令で、いわゆる「バイ・アメリカン」政策が強化された。政府が購入する物品の選定では、国産品を優遇することは、はるか以前から行われてきており、トランプ氏は、それを強化した。バイデン氏の大統領令は、それをさらに一層強化したと言える。しかし、この路線は、傾向としては民主党が以前よりとってきたものである。自由貿易に背を向けたかに見えたトランプ氏の路線が、共和党では異端であったのだ。 バイデン氏は、政権発足当初としては恵まれたスタートを切ったと言えるだろう。トランプ氏では「ない」からという理由で選ばれたということは、期待値がさして高くないということでもある。トランプ氏が去って舞い上がり、うわついた期待を抱いているのは、テレビの司会者やリポーターぐらいではないか。バイデン氏に投票した人々も、別に彼が目の覚めるような政治で国を一新するとは思っていまい。つまり、何か一つでも成功すれば、大人気を博すことだってできよう。 バイデン氏は、中道派の政治家として知られてきた。それは疑い得ない。しかし、中道派が意味するものは何だろうか。ある特定の政治信条、政策路線を固守する、言わば絶対値としての中道というものもあり得なくはない。 しかし、普通中道とは、右と左の真ん中という相対的な位置である。つまり、民主党全体が左にシフトすれば、中道も左に寄ることになる。バイデン氏は、今それに抗っているようにも見える。どこまで、従来の中道にとどまれるかは、今後を見るしかない。米ホワイトハウスで大統領令に署名するバイデン大統領=2021年1月28日(ロイター=共同) いずれにせよバイデン政権は、以前より退屈な政権になるだろう。頻繁な閣僚、スタッフの解任、辞任もなければ、暴露本が次々と書かれることもなくなるだろう。それでも、脱トランプのレトリックはともかくとして、結果として「トランプ氏なきトランプ路線」に収斂していくことになるのではないか。それは、筆者自身の希望でもある。

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    市場経済の導入示唆、新体制から浮かぶ金正恩の次なる目論見

    重村智計(東京通信大教授) 北朝鮮は、朝鮮労働党第8回党大会を新年早々の1月5~12日に行い、最高指導者の金正恩(キム・ジョンウン)氏を党中央委員会総書記に選出した。 この党大会の演説で金正恩氏は経済政策の失敗を認め、「市場経済導入」と日米との関係改善を強く示唆している。一方で、これまで新たな後継者とされていた妹の金与正(キム・ヨジョン)氏が政治局候補委員から外れ、金正恩氏の「与正離れ」が明らかになった。 ただ、米朝関係改善に関しては、ジョー・バイデン新政権が核兵器と人権問題に厳しい姿勢を見せており、当面は難しいであろう。さらに金正恩氏は日本への接近を模索はするものの、今年衆院選を迎える菅義偉(すが・よしひで)政権が短期で終わるかどうか見計らっていると思われる。 そして金正恩氏は今回の演説で「市場経済導入」の言葉は使わなかったが、「価格」「原価」「質」の言葉を繰り返し、「経済改善」を説いた。この3つの言葉は、北朝鮮では「市場経済導入」を意味する。 だが、日本では、これらの言葉は全く注目されなかった。北朝鮮の社会主義経済は、原価(コスト)を抑え利益を得るのは資本主義的とし、原価と価格は政府が設定する、いわゆる「中央統制経済」と呼ばれる政策をとり続けている。 そのため、製品価格は原価を割り、たとえ利益がなくとも生産ノルマの数さえ達成すれば評価される。品質が悪く、斜めに傾いたコップでも問題にされない。とにかく目標数量が重要なのだ。 資本主義経済では「価格」は本来需要と供給のバランスで決まる。金正恩氏は演説の中で、過去の経済政策の「欠陥と障害」を指摘し、「価格」と「原価」「質」を繰り返し強調している。これまでの北朝鮮では「中央統制計画経済」を誇り、指導者の指示に従うのが「主体経済」と理解されていた。 だが、たとえ金正恩氏が理想を掲げたとしても、国連による経済制裁下での北朝鮮経済は「自力更生」あるいは「自給自足」が現実ゆえに、「市場経済」への転換は簡単ではない。なぜなら旧ソ連はペレストロイカを掲げて市場経済を導入し、崩壊した前例があるからだ。これは金正恩氏にとって、かなり困難な道のりだ。 市場経済には外国からの投資を呼び込む「開放経済」が不可欠だが、今なお北朝鮮では導入していない。現実は、およそ30年以上前の東欧経済の状況である。 そして金正恩氏にとって頭が痛いのは、先週発足したバイデン政権であろう。それまで関係が続いていたドナルド・トランプ前大統領が落選したことで交渉チャンネルが途絶し、失望したのは想像に難くない。それでも党大会では外交向けに「対外関係推進」を表明している。これは日米との関係改善を進める方針を示している。 なお、北朝鮮にとっての「対外関係」とは、日米と欧州を意味する。今回の演説では日本を全く非難せず、言及さえなかったが、これは日本との関係改善を示唆しているものだ。 韓国については「対外関係」に含まれていない。あくまで「南朝鮮」という扱いである。北朝鮮は韓国を国家として認めておらず、「南朝鮮統一」を国家目標として今なお掲げているためでもある。軍事パレードに登場した「北極星5」と書かれた新型とみられる潜水艦発射弾道ミサイル=2021年1月14日、平壌の金日成広場(朝鮮中央通信=共同) 米国との関係については、「核兵器完成」を繰り返し言及した。これは「核兵器はすでに完成したから、核実験は必要ない」という意味であり、核実験を再開しないことを米国に強調している。 その一方で、大陸間弾道ミサイル(ICBM)や原子力潜水艦、多弾頭ミサイル開発、戦術核兵器の開発やミサイル技術の高度化も演説中で明らかにしている。軍事機密の新型ミサイル開発を明らかにした根底には、米国への「軍縮交渉」を呼びかけがあり、「米国側と交渉したい」という思いを暗に伝えている。しかし、米国は交渉を拒否しており、進展は簡単ではない。なぜならそれを許せば、北朝鮮を核保有国と認めることになるからだ。秘められたメッセージ この演説での対米外交姿勢について、一部のメディアは「主敵米国に強硬姿勢」と報じたが、的外れである。北朝鮮は、昔から公式には米国のことを「米帝国主義」と呼び、北朝鮮にとっての「宿敵」、もしくは「主敵」と表現してきた。けっして新しい表現ではない。しかし今回は、その言葉を使わなかった。 党大会では、金正恩氏はトランプ氏との3回に渡る首脳会談を自画自賛している。対米外交関係を首脳会談のレベルまで引き上げ、「敵の反動的攻勢を粉砕した」とまで述べている。 金正恩氏としては、対米関係は大統領が代わろうとも「敵の反動的策動を粉砕」するには必要だとすることで、国内の強硬派を押さえ込んでいる。ここから察するに、米朝関係改善の意欲を伝えようという懸命さが伝わってくる。 そして、今回の党大会後の軍事パレードには、これまで登場していたI C B Mの姿はなかった。出さなかったのは、米国に敵対しないという意図を込めているためだ。それでも米朝関係の早期改善は難しい。トランプ氏以上の実績を求められるバイデン政権は、当面トランプ氏によるこれまでの米朝首脳会談を失敗として否定せざるを得ない。 このため北朝鮮は、米韓を揺さぶるために日本への接近を図るしかないであろう。だが、菅政権には対応できるパイプ役がいない。何も知らない官邸周辺は在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)ルートへと群がる動きがあるものの、金正恩氏が現在の朝鮮総連議長に早期退陣を求めている以上、このルートでの交渉は無理だろう。 そして韓国に対しては「南北首脳会談での合意を履行していない」と文在寅(ムン・ジェイン)大統領を激しく非難している。これは「開城(ケソン)工業団地と金剛山の観光再開の約束を果たしていない」という意だ。さらに金正恩氏は「韓国は新型兵器を導入し米韓軍事演習中止の約束も履行していない」と厳しい口調で非難している。 こうした文大統領への非難は北朝鮮軍部の反発を抑えるための配慮だろうが、南北対話や南北首脳会談再開の可能性は否定されており、金正恩氏の文大統領に対する不信感は根深い。 そして今回、朝鮮労働党は書記局を復活させた。これは祖父、金日成(キム・イルソン)体制への復帰を意味し、父親である金正日(キム・ジョンイル)氏の「軍優先政治」を完全に解体したことになる。金正恩氏が軍を抑え、全権を掌握したのだろう。 今後は書記局が事実上の最高意思決定機関であり、そこに属する7人の書記が北朝鮮の新しい実力者だ。なお米朝首脳会談で米国を訪問した金英哲(キム・ヨンチョル)政治局員は外されている。 冒頭で触れたように、党大会では、金与正氏が政治局員候補を解任された。北朝鮮では政治局員候補が首脳部への登竜門になる。当初彼女は、党第一副部長の肩書で登場し、韓国では後継者とも報道された。彼女は第一副部長から、一介の副部長になった。これまでは党政治局会議や拡大会議にも出席したが、それもできなくなることになり、金正恩氏による「与正離れ」とみられる。 金与正氏は昨年、韓国が建築した開城工業団地内の南北連絡事務所を爆破した。これは与正グループが彼女を後継者にするために、実績作りを狙った行動だった。この「反乱劇」を阻止した李炳哲(リ・ビョンチョル)中央軍事委員会副委員長が事実上のナンバー2の地位に昇進したことは、金与正氏の影響力低下を物語る。政権内で、金与正氏への反発が生まれたのかもしれない。 平壌には隠れた激しい勢力争いと明かされない闇がある。一方、韓国の情報機関は、金与正氏が政治局員になるとの予測を流していたが、完全に外れたことになった。北朝鮮の朝鮮労働党大会に臨む金正恩氏(右)=2021年1月9日、平壌(朝鮮中央通信=共同) この他、対米外交を取り仕切った崔善姫(チェ・ソンヒ)外務次官も党中央委員から中央委員候補に降格された。米朝首脳会談失敗の責任を問われたのだろう。また、日本担当の書記が決まったはずだが、未だ明らかにされていない。 新体制となった北朝鮮に対応するために、日本は誰が対日担当の書記なのか、そしてどの部局が担当するのかについて今後注視すべきだろう。

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    バイデン政権で何が失われるのか

    第46代米大統領にバイデン氏が就任した。昨年11月の大統領選以降、トランプ氏の「敗北」を巡って国際世論も激しく揺れた。最たるものは連邦議会議事堂占拠事件や2度目となる弾劾訴追だが、それでもトランプ氏への支持の高さは異例である。バイデン政権によって失われるものは何なのか、改めて考えたい。(写真はゲッティ=共同)

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    バイデン政権で失う、トランプが築いた「台湾国家承認」への道標

    ロバート・D・エルドリッヂ(エルドリッヂ研究所代表、元在沖縄米海兵隊政務外交部次長) いよいよジョー・バイデン政権が誕生するが、筆者は、これからの台湾の未来に大きな不安を感じている。 2017年1月に発足したドナルド・トランプ政権の4年間で、米国と台湾(中華民国)の関係はより緊密なものとなった。 直近では今月9日に、マイケル・ポンぺオ国務長官が、それまで米国政府が「自主規制」していた米台間当局者との接触制限を撤廃したと表明した。 ポンペオ氏によれば、「当省は数十年間にわたり外交官や軍人、他の当局者の台湾側との意思疎通で複雑な内部の規制を作り出してきた」と述べた上で、この規制はそれまでの「中国の共産党政権をなだめるために行っていた」と説明し、「もはや存在しない」とした。 そうした背景もあり、今月にはケリー・クラフト米国連大使が、1971年の台湾の国際連合脱退以来、初めて訪問することが予定されていた。しかし、出発する前日の12日に、ポンペオ氏は「バイデン政権移行の一環」という理由で全ての海外出張を中止とし、クラフト氏の訪台が実現不可能となってしまった。 この裏には、バイデン氏の思惑があったと筆者は見ている。「バイデン政権がポンペオ氏が進める米国高官の台湾訪問に難色を示している」と語るのは、次期政権に近しい関係者である米戦略国際研究所(CSIS)のボニー・グレイザー氏だ。彼女によれば「政権移譲直前で行われたポンペオ氏による『自主規制撤廃』やクラフト大使の訪台に、バイデン氏は不満に思うだろう」と述べているからだ。 筆者を含む親台湾の専門家たちは、このクラフト氏の台湾訪問中断は中国にとっての「勝利」だと解釈している。 そしてこの「規制撤廃」と「訪台中止」という真逆の(矛盾した)流れは、トランプ政権の台湾政策を象徴している。つまり米台関係を大きく進めさせようとする一方で、むち打ち症になるほどの急ブレーキをかけている。思うに、こうした運転は周囲のドライバーへの影響が大きく、注意が必要だ。 もっとも米国と台湾の関係は、トランプ政権発足前の16年12月に民主進歩党の蔡英文総統がお祝いの電話をしたとき以来、それまで米台間の関係が中断して以降40年間何もなかった状況から大きく進展した。それは大歓迎すべきことで、トランプ氏によるこの4年間の数多くの実績も評価すべきだろう。 それでも、まだ2つの重要かつ大きな課題が残ってしまった。それは「合衆国大統領の台湾訪問の実現」と「台湾の国家承認」だ。台湾総統府で会談した蔡英文総統(右)とアザー米厚生長官=2020年8月、台北(台湾総統府提供・共同) 去る10月12日、筆者は国家安全保障会議の幹部に、あくまで助言としてトランプ氏の「台湾の国家承認」を進言していた。 海兵隊の後輩でもあるその幹部に筆者は、理想的な時期として大統領選投票日の11月3日以前、とにかく任期中に行うべきだと提言し、投票日前であれば次の3つのシナリオが考えられると説明した。 まず投票日であれば、トランプ氏の台湾承認は米国政治に大混乱を招き、野党である民主党は民主主義の理念を重視して台湾を支持するか、それとも経済的な利害を追求して中国を重視するかをはっきりさせることができる。また、民主党陣営は大パニックになり、トランプ氏の勝利もあり得る。 一方で、もしトランプ氏が台湾を承認したことで最悪中国が台湾を攻撃した場合、この武力行使は米国の台湾関係法に抵触し、米国が台湾を守ることになる。米国民は大統領を支持し、選挙で勝利することが考えられた。実現できなかった台湾訪問 また、もし中国が台湾や米国を攻撃しなければ、台湾が国家であることは既成事実となる。いずれの場合でも、トランプ氏や台湾にとって状況を進展させるシナリオとなるはずだった。 しかし、彼は投票日前にそういった行動をとらなかった。結果としてだが、トランプ氏や台湾にとっても現状を打ち壊す状況にはつながらず、トランプ氏は落選し、台湾問題の進展さえも失われた。 その後、政権交代までの任期中にトランプ氏の台湾訪問も期待されたが、かなわなかった。ポンぺオ氏が撤廃した米台関係者の「接触制限撤廃」はその第一歩と見られていたが、撤廃がなくても大統領の台湾訪問は実行できた。 実は、既にこの半年の間でトランプ政権高官たちによる訪台が実現している。去年7月30日に亡くなった李登輝元総統を弔問するために、アレックス・アザー米厚生長官が8月9日からの3日間、台湾を訪問し、同国の成功した新型コロナ対策についても意見交換や視察を行った。 もちろん中国政府は激しく反発している。8月12日には同外交部の趙立堅副報道局長が「どんな口実であっても米国と台湾で政府高官が往来することに断固反対する」と表明し、日本との関係も重視した李登輝総統を「独立を志向した人物」と批判した。 その翌月に行われた李登輝氏の告別式では、キース・クラック国務次官が出席し、同じく訪台した森喜朗元首相の隣に座った。なおこのクラック氏の訪台に合わせて、中国は台湾海峡で実戦演習を展開し、けん制している。 だが、親台湾の立場に立つ筆者にとって、選挙期間中のトランプ氏が李登輝氏の告別式に参加できないのであれば、少なくともマイケル・ペンス副大統領に代理で出席してほしかったのが正直なところだ。 しかし、方針を転換したのか、その後の12月には米環境保護局のアンドリュー・ウィーラー長官による台湾訪問が予定されていたが、米国内における「優先事項」や「出張費削減」を理由に延期となった。同氏は大統領顧問団の閣僚級高官の一人でもあったため、この訪問は非常に注目されていたのだ。 そうした背景もあり、閣僚ではなく外交官である今回のクラフト大使の訪台さえ中止となったのは、台湾にとって大変な打撃だった。 このように、バイデン政権が誕生するにあたり、米台関係が逆戻りすると見ているのは筆者だけではない。日本在住で香港出身の親友は「ポンぺオ氏が行った全ては、近いうちに台無しになってしまう」と悲しそうに述べた。 普段、この親友は政治に強い関心を持っていないが、近年香港で行われている中国共産党による弾圧を見て、この調子でいけば台湾も危なくなると感じているからこそそう発言したのだろう。 トランプ政権は、最後まで「米大統領訪問」と「台湾の国家承認」を実現できなかった。2021年1月12日、米国とメキシコ国境の壁近くで演説するトランプ大統領=テキサス州アラモ(Delcia Lopez/The Monitor提供、AP=共同) トランプ氏でさえ実現できなかったのであれば、親中のバイデン政権では「逆コース」になるだけでなく、台湾が危機的な状況になる可能性もある。今現在の米国が政治的混乱に陥っている隙に、今週にも中国が台湾に侵攻してもおかしくない。 そして「今日の香港は明日の台湾、そして明後日は沖縄と日本」が現実化することになりかねない。だからこそ、米台および日台関係が大切なのだ。バイデン政権が誕生する中で、日本には自身の自由が失われないよう、ぜひ危機にひんする台湾との関係を強化してほしいと思う。

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    バイデン政権は不満再燃、いずれ渇望されるトランプ政治の真髄

    せてきた。 これらの施策と国内的な減税、規制緩和が相まって、米国内では特に黒人、ヒスパニック(ラテンアメリカ系)、アジア系といった人々を中心に、グローバル経済による弊害を受けていた中下層階級の生活が向上した。このため、トランプ氏は共和党大統領としては異例の高い支持を集めていた。本来なら再選は当然であった。 だが、トランプ氏の再選は、グローバル経済の恩恵で軍事大国化し、世界を支配しようとする中国や、その中国と裏マネーなどで結び付いた民主党、共和党の一部の政治家にとって、非常に望ましくないものであった。 2020年初頭から始まった新型コロナの感染拡大や黒人暴動の激化は、中国の息のかかった勢力が裏で糸を引き、悪化させたとの見方も強い。それは民主党の知事や市長である地域でコロナ感染や黒人暴動が拡大していることから、あながち否定できない。 ただ、こうした逆風が吹き荒れる中であっても、トランプ氏の高い支持によって予測を上回る大量得票をしたため、不正選挙疑惑が広がったのだろう。 不正選挙はあくまで疑惑とはいえ、非公式の公聴会などで明らかにされたが、深夜に偽の郵送投票用紙が大量に持ち込まれたことを示唆する宣誓供述書やビデオ映像がある。また、中国資本の子会社が作製した電子投票システムで、トランプ票をバイデン票に入れ替えたとされる統計学的解析などもある。 しかし、裁判所は、これらの証拠を手続き的な問題を理由に退けてしまった。共和党の多数の州議会は、これら証拠に基づいて審議を行い、選挙結果を覆す用意はあったのだが、民主党あるいは一部の共和党の州知事らが、州議会を召集しなかったのも事実だ。 いかに米国の司法も立法も、中国の影響を受けた民主党や一部の共和党エリートに、都合のいいように動くようになってしまっているかが理解できるだろう。そこで1月6日の上下院合同会議の議長であるペンス副大統領に期待が集まった。ペンス米副大統領とペロシ下院議長(右)=2021年1月7日、ワシントン(AP=共同) この合同会議で各州から集まった選挙結果が確認されるのだが、米国憲法によれば議長は不正な選挙が行われたと思われる州の選挙結果は、その州に突き返し州議会で再審議させることも可能で、19世期には前例もあった。 19世期末に制定された選挙人集計法は、上院と下院からそれぞれ議員が1人ずつ異議申し立てを行えば、その州の選挙結果を承認するかどうかを上下両院の過半数で決めることができる。弾劾訴追の真意 だが、ペンス氏は20世紀以降の前例を重視して、不正疑惑のあった州の選挙結果を突き返すことをしなかった。下院は民主党多数であり、上院の共和党にも選挙結果を覆すことに反対の議員も多かった。 そこで選挙結果を調査する特別委員会を設置するという案も浮上した。その案が合同会議に諮られたまさにそのときに、議事堂周辺の抗議者が騒ぎ始め、一部が議会内に乱入、審議は一時停止した。そして不幸にも死者まで出る事態になったのだ。 このような事態になったため、再開された合同会議では、「バイデン勝利」の選挙結果に異議を唱えられなくなり、バイデン氏の勝利が確定。その後に暴動を扇動したとして、まもなく任期が切れるトランプ氏に対する弾劾訴追までされる結果となった。 これは弾劾裁判で「有罪評決」された大統領は再び大統領選に立候補する資格がなくなるためだろう。逆に言えることは、2024年の大統領選にトランプ氏が再チャレンジすることを恐れているからだ。 前記のようにトランプ氏は共和党大統領としては異例の全人種的な幅広い支持を得ている。また、選挙の敗北が確定したとされてから、数週間で2億ドル以上を集めたことも、敗北して退任する大統領としては前例がない。 そして、各種調査などによると、共和党支持者の7割以上、民主党支持者の一部を含む米国民の3分の1が、あの選挙は不正だったと信じていることが分かっている。 だからこそ、1月6日にはワシントンに多数が集まったのである。その目的はペンス副大統領や共和、民主両党の一部の議員らに選挙不正を暴くような議事を進めてもらうためであった。 結果的に連邦議会での暴動は、行き過ぎた行動をする一部の粗暴な集団が暴徒化したのであって、トランプ氏が暴力沙汰を望んだわけではない。 にもかかわらず、こうした事態になった理由として、警察が議会に普通の見学者のように呼び入れたため、デモ隊の中に黒人暴動関係を含む極左暴力集団の関係者も紛れ込んでいたという情報もある。ワシントン周辺は民主党支持者が多く、それは警察も例外ではない。 このように、トランプ氏と彼の支持者は、罠にはめられたとの見方もあるのだ。ゆえに、一部の暴力沙汰がなく、大規模な抗議行動になっていれば、不正選挙の証拠の調べ直しは実現していたかもしれない。米ワシントンの連邦議会議事堂に乱入したトランプ大統領の支持者らと話す警察官=2021年1月6日(ロイター=共同) だが、それもトランプ氏本人が、沈静化を図ったために実現しなかった。今回の連邦議会議事堂占拠事件については、トランプ氏が煽ったかのような報道が相次いでいるが、そもそもトランプ氏は平和主義者であることは明白だ。なぜなら、在任中の4年間、新たな戦争や紛争をしなかった。そのトランプ氏が自分のために流血の惨事を起こしたくなかったのは、当然だろう。いずれ不満が再燃? ただ、民主主義を守るため不正な権力に対して声を上げることは、それこそ米国の建国以来の精神でもある。暴力的な手段は許されないが、不正選挙疑惑が解明されずに大統領に就任するバイデン氏に異議を唱える行為は決して非難されるものではない。 一方で、バイデン政権になれば、トランプ政権と違い、専門官僚を重視するため安定した外交が行われ、中国の軍事的・経済的脅威の封じ込めにはかえってよいのではないかと考える人は多い。だが、そのような専門官僚の発想こそ、マニュアルにとらわれ、グローバル経済で中国を強大化させ、米国民を苦しめた原因そのものではないだろうか。 マニュアルというか過去の前例を大事にすることが安定した民主主義を発展させるという考え方はある。ペンス氏も同様に考えて合同会議で強権を発動しなかったのだろう。 しかし、真の民主主義とは過去の前例が新しい時代に合わなくなったとき、国民の選んだ政治家が、それを破壊して新しい状況に即したマニュアルを作ることにこそある。それをトランプ氏は行なったのである。 その結果として中国の対米投資(という名の米国乗っ取り)は行い難くなり、第5世代(5G)移動通信システムに対する規制も強化された。また、クアッド(QUAD)と呼ばれる日本、米国、オーストラリア、インドの4カ国による南シナ海などにおける中国海軍封じ込めのスキームもでき上がった。 さらに、パレスチナ国家の樹立容認や中国大陸との関係強化のために積み重ねられた前例も、トランプ政権はあえて無視した。そのため、中東和平も台湾の国際社会復帰も、一歩手前まできていたのは事実だ。だが、今回の政権交代を踏まえて、いずれも中途半端になってしまう懸念が強まっている。 これと同様に日本にとって非常に重要なQUADも、徐々に弱体化していくのではないかという強い不安を感じざるを得ない。 こうした中で、日本はトランプ氏のレガシーである中国からの投資や5Gに対する規制だけでなく、QUADと北大西洋条約機構(NATO)を部分的にでも結び付けて強化することを本気で考えるべきだろう。そのような発想が日本の官僚から出てくるかは疑問だが。 トランプ政治の真意は、官僚主義との闘い、そして米国の建国精神の復活にあったと繰り返し記した。ただ、それが広く国民に支持されていることを表しているのが、議会議事堂占拠事件直後の世論調査結果であり、実際トランプ氏の支持率は上昇している。 調査会社イプソスなどの今月中旬の世論調査によれば、トランプ支持者の92%は、彼が4年後の大統領選に再チャレンジすることを望んでいる。共和党内でも強力なトランプ支持者は4割未満だが、それでもトランプ氏が再出馬することに6割近い人が賛成しているのだ。米ワシントンで開かれた大規模集会に参加するトランプ大統領=2021年1月6日(AP=共同) このようにトランプ氏の根強い支持の背景にあるのは、先に記したように、やはり不正投票疑惑を払拭できていないバイデン政権の正当性の希薄さにほかならない。 かつてのオバマ政権などのように民主党が主導する政権は中国を利するだけでなく、米国民の不満も再燃し、遅かれ早かれ行き詰まるはずだ。そして再びトランプ氏の政治が評価される日がくるのだろう。

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    池上彰氏、バイデン政権の不安「日本もアメリカも民主党は内紛する」

    続く中、いよいよ1月20日にジョー・バイデン大統領が誕生する。長年大統領選を取材してきた池上彰氏と、アメリカでトランプ陣営への潜入取材を続けてきた横田増生氏が緊急対談した。* * *横田:トランプ支持者は「バイデンを大統領として認めない」と口を揃えて言います。7400万人(※トランプ氏は大統領選で現職としては最高となる7400万票を獲得した)全員ではないにせよ、その大半がアンチ・バイデンとみられる。逆風の中の船出となるバイデンは大変ですね。池上:バイデン氏はアメリカ大統領史上、最弱の大統領としてスタートするとの声があるほどです。これまでのアメリカには選挙で争っても、いざ大統領が決まれば国民一丸となって祝福する伝統がありましたが、今は穏健な共和党支持者がトランプ氏に愛想を尽かして姿を消し、その代わりにこれまで政治と無縁だった人が大挙してトランプ氏を支持するようになり、何があろうとバイデン勝利を認めません。共和党自体がトランプ党になってしまった感があります。横田:そう思います。今後もトランプ支持者がアメリカ社会の不安要素であることは間違いありません。何せ彼らは平気でライフル銃を抱えて集会に参加しますからね。池上:日本人は「アメリカ人は政治意識が高くてみんな選挙に行く」と思い込んでいますが、実際の投票率は6割前後で日本と変わりません。一方で、あらゆることを陰謀で解釈する陰謀論者が表に出て、トランプ氏を支持するようになった。トランプ氏の出現でこれまで見えなかったアメリカが可視化されました。横田:こうした状況でバイデンはアメリカをどうリードするでしょうか。池上:なかなか見えてきませんが、一つ言えるのは、多様性を重視する姿勢です。白人中心のトランプ氏とは違い、ラティーノやアジア系、LGBTQなどマイノリティの支持を得て政権を運営しようとしています。 そこで不安要素となるのがバーニー・サンダースやエリザベス・ウォーレンといった党内左派です。この人たちは、「バイデンの政策は生ぬるい」として、徹底した累進課税や国民皆保険の実現を訴えています。横田:左からも突き上げを食らうことになると。池上:日本もアメリカも「民主党」という名がつくと内紛します(笑い)。アメリカの民主党左派は、“バイデンは嫌だけど、トランプはもっと嫌”だから、鼻をつまんでバイデン氏に投票した。目下の敵がいなくなれば、内輪揉めが始まります。横田:一つの試金石になるのは、バイデン氏がコロナにどう対処するかでしょう。トランプ氏のコロナ対策は連邦政府と州政府がほとんど連携せず感染拡大を招く一因となりました。が、速やかなワクチン接種や感染拡大防止策でコロナが落ち着けば、人心がある程度、安定するはずです。※写真はイメージです(ゲッティイメージズ)【プロフィール】池上彰(いけがみ・あきら)/1950年長野県生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業後、1973年NHK入局。1994年から「週刊こどもニュース」のお父さん役を11年務め、2005年よりフリージャーナリストとして活動。2016年より名城大学教授、東京工業大学特命教授。横田増生(よこた・ますお)/1965年福岡県生まれ。アイオワ大学ジャーナリズムスクールで修士号。物流業界紙の記者、編集長を務め、1999年フリーに。2020年、『潜入ルポ amazon帝国』(小社刊)で新潮ドキュメント賞受賞。写真はトランプ陣営の選挙ボランティアに潜入時。関連記事■【アメリカ発】憂慮すべきバイデン親子の中国ビジネス■トランプ陣営の選挙ボランティアに1年潜入 衝撃レポート■トランプ氏 姪の水着姿見て「こいつはすごい」と息荒らげた■北朝鮮の秘密資金調達部門幹部 米ラジオを聴いて銃殺される■中国人が接待で「女体盛り」を要求、要した費用は32万円

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    バイデン新政権の「対中政策」 日本にとって追い風か、向かい風か

     アメリカではバイデン新政権が間もなく誕生する。トランプ政権の「対中強硬路線」がどう変化するのか注目が集まっている。そしてそれは、日本にどのような影響を及ぼすのか。まず、法政大学大学院教授の真壁昭夫氏はこう見る。「バイデン政権の外交政策を担う国務長官に、アントニー・ブリンケン氏が起用されることは重要です。オバマ政権時の国務副長官だった同氏は、中国と北朝鮮に対し厳しい姿勢を持つことで知られる。国際協調による対中包囲網形成を目指すブリンケン氏の起用は、対中圧力を強化したいバイデン氏の考えが込められているとみていい。 親中派といわれるバイデン氏ですが、トランプ大統領と違って、実務担当者と協議してボトムアップ型の政策運営を重視するタイプです。対中強硬派の外交トップが起用され、中国を取り巻く環境が厳しさを増すのは間違いなく、結果的にそれは日本にとって強い追い風となります」 一方、外交評論家の加瀬英明氏はこう分析する。「米新政権の閣僚人事を見ると、同じ民主党のオバマ政権でも要職に就いていた顔ぶれが非常に多い。 このことから、バイデン政権はオバマ政権の政策を継承する可能性が高いと思われます。日本の立場から見たオバマ政権の最大の失策は、米中で共同覇権体制を組もうとするなど中国への対応が非常に甘かったことです。 一方、トランプ大統領は対立関係を鮮明にし、日本、豪州、インドなどと中国包囲網の確立を目指した。バイデン氏が対中強硬策を継承すれば日本にはプラスだが、親中派と目されるバイデン氏にそれは期待できそうにありません。バイデン政権は日本にとって、逆風となる公算が大なのです」※写真はイメージです(ゲッティイメージズ)関連記事「バイデンはパンダに抱きつく」説を国務省元高官に直撃米中貿易 iPhoneに制裁関税かければ日本に深刻な影響もバイデン政権「左派400人リスト」に産業界は早くもウンザリ【アメリカ発】憂慮すべきバイデン親子の中国ビジネス韓国・中国・北朝鮮以外は「世界中ほぼ親日国家」である理由

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    「トランプ言論封殺」騒動で見え隠れ、巨大IT企業と欧州の下心

    田中秀臣(上武大学ビジネス情報学部教授) 米連邦議会の議事堂襲撃事件後に、会員制交流サイト(SNS)のツイッターがトランプ大統領のアカウントを「永久凍結」し、フェイスブックも同様の措置をとった。 ネットの世界だけではなくリアルな国際政治の場でも議論が起きた。ドイツのメルケル首相は報道官を通じて、言論の自由を制限する行為は一企業の判断によるべきではなく、立法府の決めた法に基づくべきだとして両社の対応を批判した。フランスの閣僚らもメルケル首相と同様に批判し、ウェブサービスの基盤を提供する「プラットフォーマー企業」への規制も視野に入れるべきだと、より立ち入った主張をしている。 だが、トランプ大統領に関する規制はさらに進展している。トランプ支持者が集うとされるSNS「パーラー」はネットの世界から姿を消した。アップルとグーグルは1月9日までに、それぞれのスマートフォン向けアプリストアからパーラーのアプリを排除していた。さらに、ウォール・ストリート・ジャーナルなどの報道によれば、パーラーのウェブサイトやデータを支えていたアマゾン・コムが支援を停止した。事実上の「消滅」だ。 ツイッターやGAFA(グーグル、アマゾン、フェイスブック、アップル)などが、トランプ大統領とその支持者への言論の機会を根元から奪った行為は、まさに大企業による私権の制限と言えるだろう。端的に不適切極まりない行為だと思う。 ただし、冒頭のメルケル首相やフランスの閣僚たちの発言を、単なる「言論の自由」の観点からのみとらえるのは妥当ではないだろう。経済金融アナリストの吉松崇氏から教えを受けたが、これは巨大IT企業と先進国政府のどちらが表現の自由をめぐる規制の実権を握るかの争いと見るのが正しいのではないか。 つまり、メルケル首相らは言論の自由をトランプ大統領やその支持者に認めるべきだ、という観点から発言したというよりも、実はその規制も含めて旧来の政府が担うのが正しいのだ、と言ったにすぎないのだ。2020年1月6日、米ワシントンの連邦議会議事堂の前に集結するトランプ大統領支持者ら(ゲッティ=共同) この吉松氏の指摘は興味深い。このことは今までの「デジタル課税」をめぐるフランス、ドイツと大手IT企業との攻防戦を見ても傍証することができる。GAFAなどのIT企業は「拠点なくして課税なし」という各国の課税ルールの原則から多額の「税逃れ」をしてきた。例えば、ネットを経由して大手IT企業が、ある国の消費者にさまざまなサービスを提供して利益を得ても、その国に恒久的な拠点(本店、支店、工場など)がなければ課税されない。新政権への「賄賂」? このため自国に拠点を持っている国内企業と大手IT企業との間には、税負担の点で不公正が発生し、また国際競争力の点で国内企業が不利になってしまう。欧州委員会は国内企業の課税負担は23・2%であるのに対して大手IT企業は9・5%だと報告している。 この税制上の大手IT企業への「優遇」を国際的な協調として是正しようという動きが、欧州勢には強かった。今までの国際課税のルール「拠点なくして課税なし」を変更して、IT企業に直接課税する提案や、また各国個別の対応が相次いで出されてきた。それに反対してきたのがトランプ政権であった。 最近は妥協点を見いだそうという動きもあったが、基本的にトランプ政権のGAFAなどへの課税議論は消極的なものだった。米国では、共和党よりも民主党のほうが大手IT企業の独占力への規制に積極的であり、バイデン政権になればその動きが加速化すると言われてきた。 現時点の大手IT企業の「トランプ封じ込め」ともいうべき現象は、発足まで秒読み段階に入ったバイデン政権への政治的「賄賂」に思えなくもない。そんな印象を抱いてしまうほど、あまりにも過剰な「言論弾圧」である。 もちろん、メルケル首相らのIT企業への批判をトランプ寄りと見なすことはできない。一国の大統領の発言を封じてしまうような大手IT企業の危険性を世界に知らせることで、デジタル課税などの規制強化をしやすくしたいという思惑もあるのではないだろうか。 米国の大統領選出をめぐっては、米国だけでなく日本でも、意見の分断や対立は激しい。トランプ大統領の業績について支持派は全肯定、反対派は全否定という大きな意見の隔たりも見られる。だが、誰が大統領であるにせよ、日本の備えを強めればいいだけではないか、と筆者は思う。 バイデン氏は中国の環太平洋地域への覇権的介入に、トランプ大統領ほど関心がないかもしれない。対中国よりも対ロシア、つまり大西洋の方をバイデン氏は重視しているという見方が有力である。現在の日米の基本的な外交方針である「自由で開かれたインド太平洋構想」という、事実上の中国包囲網をバイデン氏は積極的に推進しないかもしれない。米ワシントンで開かれた大規模集会で演説するトランプ大統領=2020年1月6日(AP=共同) だが、他方で米国では党派を超えて中国への警戒が強まっているのも事実である。バイデン氏は同盟国との協調も訴えているのだ。ならば、日本が積極的にバイデン氏に働きかけ、韓国を除いた環太平洋の同盟諸国が共通して抱いている、中国の覇権主義に対する枠組みを進展させるべきである。 米国に依存するのではなく、米国を日本の国益のために利用する。言うは簡単で行うのは難しいかもしれない。しかし、その気概がなくては、日本国の行方は危うい。

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    「2021」も失われた一年になるのか

    2020年は、新型コロナウイルスに翻弄された一年だった。東京五輪・パラリンピックが延期になったほか、業界によっては大打撃受けた。とはいえ、課題はこれだけではない。強力な与党から派生した政治の歪や米中覇権争いのあおりなど、日本は苦境のどん底だ。2021年も「失われた一年」になるのか。

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    米中覇権戦争の挟間で喘ぐ日本、「失われた経済大国」に陥るなかれ

    小倉正男(経済ジャーナリスト) 国の経済にも、何をやってもうまくいく時期があれば、何をやってもうまくいかない時期もある。世阿弥が風姿花伝に「男どき女どきとてあるべし」と書いているのだが、今どきは使ってはいけない言葉になっている。確かにそうしたことは経済でもあるものだ。 「米中貿易戦争」が本格化しておよそ4年を経たが、一方の主役であるトランプ大統領はその座を降りることになった。ただ、大統領がバイデン氏に代わっても「米中貿易戦争」は継続されるとみられる。 だが、どう継続されるのか、その中身が問われる。バイデン氏の思考がどうあれ、2021年以降の世界は、米中の「経済覇権戦争」にフェーズを変えて展開されることになる。 2020年の世界経済は、新型コロナ禍でマイナス5%を超える。08~09年のリーマンショックは100年に一度の恐慌といわれたが、それを大きく上回る最悪な事態だ。米国やドイツなどのEU諸国だけではなく、わが日本なども軒並みに大幅マイナス成長を余儀なくされる。だが、紛れもなく新型コロナの発生源である中国は、なんと一人だけプラス成長(2%内外)に達する状況である。 なんとも納得できないというか皮肉なことだが、中国は新型コロナ禍を機に米国との経済覇権戦争で先手を打てるポジションを確保している。中国は「ロケットスタート」で世界経済のトラックに戻りすでに走り出している。だが、米国は新型コロナ禍でトラックにまだ十分に立てないでいる。 トランプ大統領は「チャイナウイルス」と中国を非難してやまなかった。だが、新型コロナ禍で順風満帆だった米国経済がまさかの大変調に陥り、大統領の座も失うことになった。新型コロナ禍で政権を降りることになったのは、安倍晋三前首相に次いで2例目である。 トランプ大統領には厄災そのものだが、新大統領となるバイデン氏には思わぬ追い風になったことは否定できない。新型コロナの抑え込みに必死に取り組み、これを取り除かないと経済はまともに立ち行かない。ひいては政治権力トップの座も吹き飛ぶ。 菅義偉(すが・よしひで)首相にとってもこれは重要な教訓である。危機管理(クライシスマネジメント)をにわかに身に付けて、この有事に当らなければ安倍前首相、トランプ大統領の轍(てつ)を踏むことになる。 コロナ禍直前の2019年、米国の国内総生産(GDP)は21・4兆ドルで、それに対し中国のGDPは14・7兆ドルだった。米国のGDPに対して中国は7割弱(69%)の経済規模に追い付いたことになる。中国の経済統計は、一般にカサ上げされているという疑念が伴っているが、それを割り引いても中国はトップに君臨する米国をピッタリとマークする位置まで攻めのぼっている。※画像はイメージ(ゲッティイメージズ) ちなみに日本のGDPは5兆ドル規模であり、中国の3分の1。日本企業の世界化(国内空洞化)もあって日本のGDPは小さく表示される面がある。もちろん、中国とは人口の違いもあるのだが、リーマンショック後のわずか10年でずいぶん引き離されたものである。中国軽視は禁物 中国は言うまでもないが、共産党一党独裁国家であり、ウイグル、香港に見るように民主主義や人権などの抑圧を「国内問題」として断行している。南沙諸島海域の人工島、尖閣諸島への領海侵入など露骨な領土拡大の野望を隠さない。新型コロナ感染症では、勃発時に遺伝情報などを隠蔽する愚も行った。そうした国が世界経済の覇権を争う一方の雄にのし上がっている。これは脅威であり、問題であるのは間違いない。 日本は、モノマネ癖など「模倣経済」や極端な「不動産バブル」などから、中国経済をことさら軽視してきた。日本の矜持(きょうじ)といえば矜持であり、「新興の中国経済などいずれ破裂する」、と。 だが、いまや中国を軽視ばかりしていては大きく間違うことになる。イデオロギーや好悪感情に任せるのは極力抑え、プラグマティズムでリアルに見ていく必要がある。仮に間違うにしても、過小に評価してではなく、過大に評価して間違うべき対象になっている。 中国は2021年には8~9%内外の成長を目指すとみられる。米国が新型コロナ禍でもたつけば、21~23年には中国のGDPは米国のそれの75~80%近辺にまで膨張する可能性がある。 そうなれば、ほぼ米国経済に肩を並べることになる。ハイテク産業育成策「中国製造2025」の遂行で半導体など先端技術製品の「自国化生産」能力も徐々に追い付いてくれば、軍事覇権の膨張にも一段と拍車がかかる。 中国の習近平国家主席が進めているのは、中国のサプライチェーン(供給網)への「依存関係」を強化するという戦略である。「国際的な産業チェーンのわが国との依存関係を強め、外国が供給を止めようとすることに対する強力な反撃・抑止能力を作らなければならない」(20年10月31日 共産党理論誌「求是」)と指示している。 習主席はこの指示を2020年4月10日に共産党中央財政委員会で発令している。この指示は、湖北省武漢市の「都市封鎖」、その解除と関係している。武漢は、新型コロナの世界最初の発生源であり、都市封鎖は1月23日~4月7日の長期に及んで行われた。武漢の都市封鎖解除がなされたのは4月8日午前0時。習主席の指示発令があった4月10日は、武漢の都市封鎖解除からわずか3日後ということになる。PCR検査を受ける市民ら=2020年5月、中国・武漢(共同) 武漢では強権的に大規模検査を行って成り振り構わず新型コロナの抑え込みを終了させた。習主席は、いわば「後顧の憂い」を絶って、中国のサプライチェーンへの「依存関係」強化に歩を進め「有効な反撃能力」を備えよと指示をしている。 この時期、原油価格は大底値に低迷していたが、中国はいち早く原油購入再開を行った。4月後半には原油は徐々に底入れ気配に転じている。中国の反転攻勢はここから開始されていた。 トランプ大統領は、中国は米国の資本、技術、雇用など「富」のすべてを盗んだとして、中国に高関税を課し、通信関連事業などからファーウェイ(華為技術)を全面的に排除するなどの封じ込め政策をとった。「リーマン」も乗り越えた中国 米国以外の企業、例えば日本企業も米国製製造装置で作った半導体はファーウェイに供給してはならないといった規制が行われている。いわば、市場経済に一部規制をかける格好で、デカップリング(米中経済の切り離し)を断行した。 同時に過剰なほど集中している中国へのサプライチェーン見直しも進められた。中国へのサプライチェーンの依存・集中は、各国の安全保障からみて危険性が内在している。日本も日系企業の中国から本国への回帰、あるいは中国以外のアジア、すなわち東南アジア諸国連合(ASEAN)、インドなどへの移転に補助金を出すことで見直しを推し進めた。 高関税、さらにはデカップリングによる中国封じ込めという孤立化政策、加えて中国のサプライチェーンへの依存・集中を見直すという動きは、中国にとっては大きなピンチにほかならない。中国の「富」の源泉、成長力の原動力をそがれる恐怖がよぎる。中国はその危機感を持っていたからこそ武漢の都市封鎖を長期断行した。 武漢は、中国の自動車やその部品、半導体産業のサプライチェーンの一大拠点である。復旧を「大返し」で果たさなければサプライチェーンの「依存関係」は弱体化され分断される。中国にはそうした恐怖があり、いわば中国包囲網のピンチに立たされていたからこそ成り振りを捨てて新型コロナの封じ込めに取り組んだとみられる。 08~09年のリーマンショック時、中国は内需拡大を行い、ピンチをチャンスに切り替えた。中国は、遅れていた高速道路、高速鉄道、空港など国内インフラ投資に4兆元(57兆円)を投入。これにより10年には、中国はGDPで日本を追い抜いて2位に躍り出た。 この時点では中国と日本のGDPは大きな差はなかった。だが、その後の成長率は大きく違っていた。「失われた20年」、日本は長らくデフレに苦しんだ。安倍前首相による「アベノミクス」はデフレ克服に果敢に挑戦したが低成長を脱却することはできなかった。 一方の中国は、人為的計数による底上げが一部あるにしても二桁台の高成長が続いた。「不動産バブル」破裂などでいずれ行き詰まるという予測が一般的だったが、潜在的な成長力が勝った。 そして貧富の格差が拡大し、富裕層も形成された。巨大な国内インフラ投資で鉄鋼、セメントなどの生産能力が膨大化した。それが米国への超安値輸出などに回り、米国の製造業に打撃を与え、雇用を喪失させた。それが「米中貿易戦争」の引きがねになった。 米中の経済覇権をめぐる戦争だが、習主席の言う中国のサプライチェーンへの「依存関係」強化は着々と進んでいる。中国は、昨年11月には東アジア地域包括的経済連携(RCEP)に参加を果たした。習主席は、あろうことか環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)にも「参加を積極的に検討する」と表明している。テレビ会議方式で行われた「RCEP閣僚会合」に臨む梶山弘志経済産業相=2020年11月11日、経産省(那須慎一撮影) 中国はデカップリングどころか、ズブズブの「カップリング」に抱きつく戦略をとっている。この「抱きつき戦略」は米国のデカップリングに対する中国の反撃にほかならない。習主席が4月に指示した「強力な反撃・抑止能力」とはまさしくこれだったわけである。 TPPはもともと中国への封じ込めを意識して企画されたが、米国はトランプ大統領の反グルーバリズムによる「一国主義」から一転して不参加となった。新陳代謝が鈍る日本 では、バイデン氏はどうかといえば、サンダース上院議員など民主党左派が反グローバリズムであり、TPP参加には強く反対している。米国が「一国主義」でもたつくようならば、習主席の中国がちゃっかりTPPに参加する意欲を示すだけでも米国には大きな牽制になる。 米中デカップリング、あるいは封じ込めといっても、すでに中国を中心とするサプライチェーンが構築されている。これは市場経済をベースに形成されており、分断するのは容易ではない。習主席の言う「依存関係」を強める、あるいは弱めるといった綱引きゲームでしかない。デカップリング、そして封じ込めは、市場経済に逆らうものであり長期的には無理を生じかねない。高関税も関税を払うのは輸入するサイドで、例えば高い鉄板は購入する自動車産業などに高コストを背負わせるという側面がある。 「戦略的忍耐」ということで何もせず手をこまねいたオバマ政権とは対照的にトランプ大統領は中国に対して厳しい措置断行を連発した。これはトランプ大統領ならではの「荒事」な芸当であり、高く評価しなければならない。だが、高関税を含む封じ込めやデカップリングは「大統領選挙マーケテイング」、あるいは「ディール」といった駆け引き材料の面もあったといわなければならない。 中国はトランプ大統領の予測不可能な政策に当惑、いわばトランプ大統領の荒事にヨロめいたが、ようやく体制を立て直している。トランプ大統領の策は、決定打ではなく、中国の経済成長に一時的に歯止めをかける牽制に近いものだった。 そしてバイデン氏は、これらの策を継続するとしている。確かにトランプ大統領の遺産として手元に置き、限定的であるにしても、牽制や揺さぶりに有効に使うということなるに違いない。 米国は経済覇権で中国を圧倒するには、最終的には市場経済が決戦場にならざるを得ない。米国は、「GAFA」を生み出してきたが、新たな巨大ビジネスを生み出す資本主義のダイナミズムを取り戻すのが本道だ。 いまでは米国で巨大化した「GAFA」が批判の対象となっている。だが、皮肉なことに米国経済が必要としているのは、激しい新陳代謝の繰り返しによる従来にないビジネスの創造にほかならない。いわば次の時代の「GAFA」を生み出すことでしか中国を引き離せない。米国はどうあれ市場経済で中国を打ち負かさなければならない。 最後に日本経済だが、トヨタ自動車が、日本企業のトップに立ってすでにおよそ半世紀近く過ぎている。トヨタが優れた経営を行ってきたのは事実だが、トヨタを追い抜くような新たなリーディングカンパニーが見当たらない。会見で記者の質問に応じるトヨタ自動車の豊田章男社長(左)とNTTの澤田純社長=2020年3月24日、東京都千代田区(酒巻俊介撮影) 新陳代謝の停滞、日本の資本主義が閉塞を抱える根底にそれがある。日本こそ、いまの時代を体現する新産業や企業を生み出すことができないとしたら、「失われた経済大国」になる局面を迎えることになる。

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    非礼極まる菅とバイデン、正当性薄い新政権と歩む日米関係は茨の道

    ロバート・D・エルドリッヂ(エルドリッヂ研究所代表、元在沖縄米海兵隊政務外交部次長) 2016年の米大統領選で、劇的な「逆転勝利」によって誕生したドナルド・トランプ政権だったが、今回は、新型コロナ禍にもかかわらず辛うじて「逆転勝利」としているジョー・バイデンが政権を発足させるだろう。 バイデンの「勝利」ついて、いち早く「お祝い」の言葉を発した菅義偉(すが・よしひで)首相は、果たして本当のバイデンを知っているのかと疑問を持たざる得ないほどの政治的な失敗と、外交非礼であったと筆者は見ている。 つまり、いくらメディアが「当確」と報じても、相手(この場合は現職の大統領)は、「敗北」宣言を行わず、制度的な手続きが完了しない限り、「勝利」を勝手に宣言したほうに「おめでとう」と言ってはダメだ。 一人の米国人として、菅首相の行動は米国への内政干渉であると感じ、強い不快感を覚え、とても残念だった。 なぜなら、バイデン陣営は、メディアやIT企業をはじめ世論や世界のリーダーたちの祝福のメッセージを利用して、争い中の選挙結果を後押ししようとしたからだ。せっかく、トランプは、安倍晋三前首相とよい関係を築いてきたのに、菅首相はトランプを無視し、政敵のバイデンと組んだのだ。 それがプラスになればよいのだが、そうなると思わない。周知の通り、バイデンは中国寄りの政治家だ。これは彼の次男のハンターに関連していることだけではなく、以前からだ。取り巻きの人物も中国絡みばかりである。 そもそも、日米中は歴史的に三者関係にある。19世紀半ばからだが、激しくなり始めたのは、第一次世界大戦中からだ。第二次世界大戦前、戦時中、そしてその後、一貫して、そのバランスは三者関係を決定してきた。 この三者関係は、どちらかのほうに傾けば、バランスが崩れる。バイデン政権になれば、中国に傾き、日米中の関係が崩れる。少なくとも対中宥和政策になり、中国寄りになることは間違いない。 とはいえ、表面的な日米関係は基本的に良好になるだろう。なぜなら駐日米国大使などには知日、親日の人物が登用される見通しだからだ。日本政府に有益な情報がもたらされ、協力関係を維持するはずだ。 ただ、2つの問題がある。まず1つは、クリントン政権、オバマ政権でリサイクルされた人物など多くの無能な人々が要職に登用され、それが日米関係に悪影響を与えることだ。 もう1つの問題は、バイデン政権が、日本の意思決定過程にかつてないほど介入することが予想される点だ。つまり日本の自由度は完全になくなると言っても過言ではない。 バイデンはどういう人物かを8年間のオバマ・バイデン(副大統領)政権(09年1月~17年1月)で分かるはずだ。最も知られている内政干渉は、13年12月、安倍首相が靖国神社を参拝した際、オバマ政権は日本をけん制した。就任後初めて靖国神社を参拝する安倍晋三首相=2013年12月、東京都千代田区の靖国神社 国務省で作成され、在日米大使館が発表した声明では「Disappointed(落胆した)」との表現が使用された。その対応の中心だったのはバイデンで、当時一部のメディアが報道していた。懸念はやはり尖閣問題 靖国参拝を巡っては、実は在日米軍の関係者に「靖国神社に行くな」というような命令が在日米軍司令部か在日米大使館のどちらかから発されたと記憶している。その当時、筆者は文官として在沖米海兵隊司令部に勤めていたが、その指示を無視した。こうした指示は、(一般論として)信教の自由を侵害するものだったからだ。 筆者には、日本を誇り高く思っている日本人の妻と子供たちがいるため、何度か靖国神社を参拝している。また、日本の歴史や文化を専門的に研究している者として、実際に体験しなければ理解できないからだ。 本題に戻るが、バイデン政権になった場合、日韓関係の「修復」を強制させるだけでなく、日中関係にも介入してくるだろう。 最も懸念しているのは、やはり尖閣諸島問題だ。振り返れば、日本は尖閣諸島を含む沖縄が返還された1972年以降、実効支配らしいの政策をとってこなかった。 中でも象徴的なのは、2012年の衆院選を控えた当時野党だった自民党が、政権奪取目的としか思えないが、「尖閣諸島に公務員を常駐させる」と公約しながら、約8年間の安倍政権、菅政権はすでに3カ月が経過しても、いまだ実現していないことだ。 おそらく中国を意識して遠慮してきたのだろうが、著書「尖閣問題の起源」(名古屋大学出版会)にも詳述している通り、そもそも発言権がない中国になぜ遠慮しているのか不思議でしょうがない。 また、実効支配を示すチャンスを全く生かしていないのも事実だ。尖閣諸島にヘリポートや避難港、気象台、灯台を建設しておらず、これらは全て国際公共財であるにもかかわらず、日本政府が遠慮している。 これは無責任の極みだ。なぜなら、遠慮することで、中国に自信を与え、この半世紀で徐々に規模が大きくなり、回数を重ねているが、中国の沿岸警備隊「海警」(実際には白く塗って装っている軍艦が多い)や潜水艦、飛行機、情報収集能力搭載する「漁船」などを使って領海、領空の侵犯を繰り返してきた。 既成事実を重ねているだけでなく、防空・防衛などの日本の弱い部分を試している。このままであれば、いずれ尖閣諸島を巡って戦争になりかねない。 戦争を避けたいらなら、宥和政策ではなく、上記のように、しっかりした実効支配を示すべきだ。これこそ、日本は、尖閣諸島が自国の領土であるとの自信を世界に示すことになり、行政的な抑止力になる。尖閣諸島の魚釣島=2011年10月、沖縄県石垣市(海上自衛隊哨戒機P3-Cから鈴木健児撮影) もし、それでも中国が攻撃した場合、国際社会は日本の味方になる。そうしなければ、「尖閣諸島はやはり日本の領土ではない」と捉え、日本の政治・外交・防衛上の支援をしなくなる。正当性が薄い「バイデン大統領」 これは中国の狙いであり、日本を孤立させることだ。外国人である筆者が確信しているが、日本人の「生命と財産」、日本の領土を守る義務がある為政者たちが分かっていないからだろう。早く中国の恐ろしさに気付くべきだ。 中国と深い関係にあるバイデン政権になれば尖閣諸島を巡るもっと恐ろしいシナリオもあるが、それは別の機会で述べたい。 そして、日本が尖閣諸島問題に関して自由に行動できるのは、あと数週間だけだ。来年1月20日の大統領就任式でバイデン政権が誕生すれば、日本の自由度、すなわち主権はなくなる。繰り返すが、日本は主権国家として、自由に行動できるのは、あと数週間だけだ。 さらに、バイデン政権が誕生した場合、日本政府にとってもう1つの重要な問題がある。それは正当性と世論だ。要するに、メディアや裁判が認めるか否かではなく、大統領選の投開票で不正があったことは明らかだ。 少なくとも、筆者をはじめ、多くの米国の有権者はそう思っている。そのため、バイデンは大統領になっても、正当性のあまりない政権になる。政権発足から国内外で正当性が問われ、脆弱な大統領としてスタートするということだ。 だからこそ、バイデンも、トランプ陣営と協力して、公平・公正に結果を検証すべきだったが、非協力的だっただけではなく、「次期大統領事務所(Office of the President-Elect)」を設立し、菅首相をはじめ外国の首脳たちから祝賀を受理し、電話会議を行うなど既成事実を重ねていこうとした。 だが、手続きはまだ終わっていない。少なくとも、相手であるトランプはいわゆる敗北宣言をしていない。現職大統領へのバイデンの軽視姿勢を、国民は簡単に忘れない。 面白いことに、バイデンが勝って、トランプが負けたと思う日本人も少ない。そう思わないにしても、今回の米大統領選が公平・公正に行われたと認識している日本人もあまりいないようだ。 重要なのは、この現状だ。日本人の多くが、バイデン政権の米国に違和感を覚え、離れていくだろう。これは日米関係にとってよくないだけではなく、不信を孕む日米関係を担わざるを得ない菅政権にも打撃を与え始めている。 つまり、こうした健全的な疑問を持つ日本人は、今後、いち早くバイデンに「お祝い」のメッセージを送り、バイデン「次期大統領」とベタベタな関係になろうとした菅首相に強い不信感を抱いている。米大統領選で勝利を確実にしたバイデン前副大統領との電話会談を終え、記者団の取材応じる菅首相=2020年11月、首相官邸 新型コロナの対応も相まって、支持率が下落し始めており、安倍前首相でさえ(多くの政策運用上で)「裏切られた」と思っている菅政権との大きな乖離に発展していくだろう。(文中一部敬称略)

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    日本軽視のライス氏重用、「チームバイデン」に漂う危うさ

    前嶋和弘(上智大総合グローバル学部教授) 来年1月のジョー・バイデン政権発足を踏まえ、ホワイトハウスの国内政策会議を統括する補佐官にスーザン・ライス氏が指名された。その背景を考えてみたい。 ライス氏は、バラク・オバマ氏が大統領だった時代に前半4年間は国連大使、後半4年間は国家安全保障担当の大統領補佐官を務めた「外交のプロ中のプロ」のはずだ。同政権で副大統領だったバイデン氏との個人的な信頼関係もあり、副大統領候補や国務長官候補に浮上していた。黒人であることも多様性を強調する次期バイデン政権にとっては重要なアピールポイントだった。 そのライス氏を、なぜホワイトハウス国内政策担当補佐官に任命するのか。同氏の外交政策での経験を考えると、予想外の動きだ。 これは、共和党側がライス氏の外交手腕に大きな疑念を持っているため、という一言に尽きる。2012年9月にリビア東部ベンガジで米領事館が襲撃され、スティーブンス米国大使を含む4人の米国人が殺害された事件についての対応があまりにもまずかったという批判である。 米領事館襲撃事件の際、国連大使だったライス氏は各種メディアに登場し「自然発生的なデモが暴走したもの」という見解を繰り返した。しかし、実際には、リビアではイスラム過激派による襲撃計画があり、スティーブンス大使らが警備の増強を要請していたにもかかわらず、オバマ政権が放置していたことが判明したのだ。ちょうど、オバマ氏は再選を目指す選挙戦の最中だった。「選挙にマイナスにならないように対応が遅れ、真相を隠したのでは」と当時の国務長官であったヒラリー・クリントン氏だけでなく、次期国務長官候補の筆頭だったライス氏を、共和党は強く批判した。 12年の大統領選挙でオバマ氏は再選を果たすが、上院での承認時に共和党から激しい反発が出ることが予想され、ライス氏は国務長官ではなく、承認がいらない国家安全保障担当の大統領補佐官に収まった。代わりにオバマ第2期政権の国務長官になったのは、ジョン・ケリー氏だった。ケリー氏は上院議員、2004年の民主党大統領候補などの経験があり、今回のバイデン政権でも気候変動問題担当特使に指名されている。 ライス氏については、そのときのデジャビュ(既視感)のような印象もある。バイデン政権の国務長官候補の筆頭に、ライス氏の名前は常に挙がっていた。おそらくバイデン氏は11月3日の議会選挙で民主党が伸び悩んだ状況を見て判断したのだろう。スーザン・ライス氏=2016年4月(AP=共同) 来年1月5日に行われるジョージア州の2議席(現在2議席ともに共和党)の決選投票待ちだが、もともと共和党が強い地盤を持つ地域だ。最終的に2議席とも共和党が取り、上院全体では共和党52対民主党48(民主党側は統一会派の無党派を含む)で共和党が多数派を維持する可能性が高くなっている。 上院で共和党が多数を占めた場合、ライス氏の承認が困難、もしくは非常に荒れることが予想される。結局、国務長官にはバイデン氏の側近で、オバマ前政権下で国務副長官を務めたアントニー・ブリンケン氏が起用された。日米同盟を軽んじる発言も 省庁のトップではなく、アドバイザーや調整役にすぎない補佐官の場合、上院での承認が不必要である。ライス氏の場合、国家安全保障担当の補佐官は既にオバマ第2期政権で経験しており、外交分野でのポジションがない中、ホワイトハウス国内政策担当補佐官に落ち着いた。ただ、この役職はこれまでは調整役であって、実務に徹する人ばかりだった。一部で報じられた「国内政策チームのトップ」という感じではないのだが、ライス氏の起用でおそらくポストの機能強化を目指すとみられる。 それでも疑問なのが、共和党側から嫌われているライス氏にバイデン氏がなぜこだわるのか、という点だ。 今回のバイデン政権の閣僚や任命ポストの多くが「また昔の人を」といった選び方が特徴である。上述のケリー氏にしろ、退役軍人省長官のデニス・マクドノー氏や農務長官のトム・ビルサック氏にしろ、指名されたのはオバマ政権の要職だった人物ばかりだ。まるで「team of repeats(リピーターのチーム)」という表現がぴったりで、あとはオバマ氏が加われば「第3期オバマ政権」である。 それだけ人事でバイデン氏との個人的な関係が重要なようだ。ライス氏はそのお友達人事の象徴だ。お友達である分、たとえ内政であっても近くに置きたかったのだろう。 ところで、日本の外交関係者の中にはライス氏を蛇蝎(だかつ)のごとく嫌う人もいる。東アジアの安全保障に関わるこれまでの発言が、ことごとく的外れだったためだ。 ライス氏の甘いと言わざるをえない東アジアの現状認識を象徴するのが、13年11月、ジョージタウン大でオバマ政権のアジア・太平洋政策について語った演説である。安全保障担当補佐官だったライス氏は「米中は新たな大国関係を機能させようとしている。競争は避けられないが、利害が一致する問題では協力を深めていく」と述べた上で、「中国とは新たな大国関係を機能させようとしている」と中国の習近平国家主席が提唱した太平洋分割論を容認したような発言をした。習氏は同年6月、オバマ大統領との首脳会談で「太平洋には米中両大国を受け入れる十分な空間がある」と、太平洋を米中で分割支配しようという日米同盟を完全否定する提案をしていた。 さらに、ライス氏は講演後の質疑で尖閣問題を問われると「米国は主権の問題には立ち入らない」と、尖閣が日本の施政権下にあるという、これまでの米政府の公式見解から後退した発言も行っている。 米国にとって中国は競争者であるが敵対者ではない、というのがライス氏の持論のようで、その後も同じ話を繰り返してきた。さすがに最近では考えを改めたかもしれないが、「中国は近隣諸国を不法占領しているわけでもない」と言い出したこともある。デラウェア州ウィルミントンのバイデン次期米大統領(右)=2020年12月17日(ロイター=共同) ライス氏が外交政策に直接関与しないことになり、日本にとっては「まずはよかった」と言えるのかもしれない。ただ、内政の中でも外交に関連するようなものも今後出てくるだろう。特に分極化が激しい国内政治の状況を考えると、内政の観点からさまざまな外交政策が再定義されてしまうようなこともあり得よう。中国に対する気候変動対策などがその象徴だ。 国内政策では要職にあり、バイデン氏と近いライス氏の発言については、日本は今後も引き続き要注意だ。

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    バイデン勝利で終わらない、米国の未来を左右する「本当の選挙結果」

    かしてやろうなどという気を起こしてはならない。 いささか使い古されて陳腐になりかけたジョークだが、「アメリカ合衆国大統領とは、嫁さん(彼女)からのプレゼントのようなものだ。包みを開けて何が出てきても『うわあ、これ前から欲しかったんだよね、ありがとう!』と言うしかない。他に何か言えるか?」というものがある。 顧みれば4年前の今頃は、予想外に出現したドナルド・トランプ政権への対応に世界中が戸惑っていた。当時に比べれば、今回のほうが日本政府にも余裕があるように見える。 よほどのことがない限り、来年1月20日にはバイデン氏が、第46代米大統領に就任することになろう。屋外での就任宣誓の際にもバイデン氏がマスクを着けるかどうかはともかくとして、今回の異例ずくめと言われた大統領選は、言うまでもなくトランプ氏とバイデン氏の争いであった。 しかし、今回の大統領選は、ある意味ではトランプ氏と「反トランプ派」の争いであったとも言い得る。バイデン氏の最大の勝因が「彼がトランプ氏ではなかったから」とするならば、トランプ氏は自分自身に敗れたと言えるのかもしれない。 そもそも多数決原理に基づく選挙というものは、採るべき政策についての見解の相違を決着させ、ある公職に就くべき人物を決定するために行うのであって、真理を発見したり正邪善悪を定めるものではない。 だが、政治という営みが、単により良い政策の選択であるだけではなく、時に正邪善悪の選択という色彩を帯びることはある程度はやむを得ない。それが政治の「臭さ」であり、だからこそ少なからぬ人々が、友人との会話で政治の話題を避けたり政治から距離を置くのである。2020年11月19日、米デラウェア州で記者会見するバイデン前副大統領(ゲッティ=共同) トランプ氏が大統領に就任して以来の、とりわけ今回の選挙における反対派によるトランプ氏の「悪魔化」はいささか度を越していたように思われる。米国の分断の責任の半分は、トランプ氏と共に反トランプ派にもあるのだ。無論、含みを持たせた微妙な表現をしない、あるいはできないトランプ氏にも大きな責任と原因はあるにせよ。民主党の誤算 トランプ氏は11月22日時点では、まだ公式には敗北を認めていない。こうした状況に見苦しいという向きもあろう。しかし、トランプ氏にも開票結果に異議を唱えて法廷に訴える権利はあるし、州ごとに選挙の事情が異なることに注意すべきである。いくつかの州では、僅差であれば再集計を申し立てることが州法で認められている。 もちろんこうした制度が、末端の開票がずさんであるという前提である印象も否めない。それはそれとして、とにかくそうした州では僅差であること自体が再集計の根拠となるのであり、トランプ氏のすべての訴訟を「根拠がない」と一括して片付けてしまう反トランプ派の意見は当を得ていない。 そして今回の大統領選も結局、世論調査が示唆してきたような民主党の大勝は起こらなかった。民主党の躍進を同党のシンボルカラーである「青」にちなんで Blue Wave(青い波)と呼んでそれを予想し、また期待もした人々にとって、バイデン氏の僅差での勝利はかなり物足りない結果であったろう。ただ、現職大統領を選挙で打ち破るということは一つの偉業であると言ってもよく、その限りでは民主党が勝利に酔いしれているとしても別におかしなことではない。 とはいえ、トランプ氏は予想以上の票を集めて善戦した。今回バイデン氏には及ばなかったものの、実に7千万票を超える得票数は、今回のバイデン氏に次ぐ歴代2位に位置づけられる。この選挙は「トランプ氏と共和党に米国民が鉄槌(つい)を下した」と言うにはほど遠い結果であった。現時点での2020年大統領選の勝敗は「全体として民主党の辛勝、共和党の健闘及ばずの惜敗」とすることが公正であろう。 「青い波」は確かに水位を上げて押し寄せはしたものの、「赤い堤防」に阻まれて全米を浸す津波にまでは至らなかった。具体的には、民主党は以下の4つの目標を掲げて今年の選挙に臨んだと言える。①ホワイトハウスを奪還すること。②連邦議会上院の過半数を獲得すること。③連邦議会下院の過半数を維持して、さらに議席を積み増すこと。④州議会選挙では、より多くの州議会で多数派となること。 上記のうち、民主党は①は達成できたものの、③と④には失敗し、②は来年1月5日投票のジョージア州決戦投票に持ち越されている。連邦下院では民主党が過半数を維持するものの議席を減らし、民主、共和両党の議席差は縮小した。2020月11月5日、米ペンシルベニア州アレンタウンで大統領選の票を集計する担当者(AP=共同) 大統領選でも連邦上院選でも、民主党は推定で共和党の2倍の選挙資金を投入したにもかかわらず、際どい結果に終わったことは印象的である。言うまでもなく、上院議員2人が選出される来年のジョージア州の結果次第では、大統領と上下両院を民主党が支配する可能性も残ってはいる。民主党の良心は 現時点で共和党が50議席、民主党は48議席を確保している。つまりジョージア州で民主党が2議席を制すれば、厳密には両党とも50議席で拮抗(きっこう)するという可能性がまだある。可否同数となった場合にのみ、上院議長としてのカマラ・ハリス氏(副大統領に就任予定)が膠着(こうちゃく)を打開する1票を投じることができるので、共和党が辛うじて虎口を脱したと言うのはまだ早い。 しかしながら、連邦政府が完全に青(民主党)に染まった場合、私の抱く危惧は何と言っても民主党が連邦最高裁判事の定員を増やそうとすることである。定員自体は合衆国憲法に規定はなく、法律で増減できるからだ。 そのため民主党が現在9人の定員を4人増やして13人とし、増えた4人のリベラル派を大統領に就任したバイデン氏が指名し、民主党主導の上院が承認すれば現在の保守派6人、リベラル派3人の形勢を逆転できる。 公平を期して言えば、トランプ氏と共和党が大統領選直前のタイミングで、いささか強引に保守派と目されるエイミー・バレット氏の最高裁判事指名承認を断行したことがこの問題への伏線となっている。しかしそうではあっても、選挙に勝った党がその都度最高裁判事の定員を増やすようなことになれば、司法の独立と信頼は大きく揺らぐであろう。民主党の良識と自制を期待したい。 それゆえに、あまりにも多くのことがジョージア州の決戦投票にかかっている。現時点で共和党議会指導部は、トランプ氏の法廷闘争を支持しており、これをいさめるような助言はしていない。あるいは来年1月5日の投票日まで、熱狂的トランプ支持者の「熱を冷まさない」ようにしたいという理由もあるのだろうか。 また、訴訟費用を募る運動がネット上で展開されており、共和党全国委員会に対する寄付であればジョージア州の選挙に投入することができるという事情もあるのかもしれない。 もっとも、こうしたトランプ氏の法廷闘争戦略も暗雲が立ち込めている。接戦のジョージア州では再集計の結果、バイデン氏の勝利は覆らず、トランプ氏自身もミシガン州で起こしたバイデン氏の勝利認定への異議申し立て訴訟も撤回した。米デラウェア州ウィルミントンで勝利宣言した民主党のバイデン前副大統領(右)とハリス上院議員=2020年11月7日(AP=共同) 共和党内部ではトランプ氏の大統領選の結果を覆そうとする姿勢に懸念する声が日増しに挙がってきており、さらにはこうした苦しい背景もあってか、トランプ氏は不正投票を否定した国土安全保障省のサイバーセキュリティー・インフラセキュリティー庁(CISA)のクリス・クレブス長官を解任した。重要な今年の州議会議員選挙 そして極めて重要であるにもかかわらず、日本では大統領選と連邦上院議員選挙の陰に隠れてあまり注目されなかったのは州議会議員選である。 今回は44州で5876議席が改選された。州議会の勢力は民主・共和両党のいわば基礎体力を測る指標であり、また州議会議員は将来の連邦議会議員の人材プールでもあるから、そもそも極めて重要な意味を持っている。 しかし、西暦で末尾がゼロの年、すなわち国勢調査の年の州議会議員選には格別の重要性がある。米国では10年ごとに国勢調査が行われ、その結果を受けて連邦下院議員の定数が各州に再配分される。 そこで各州は、さらに州内の下院議員選挙区を各区の人口が均等になるように変更することになる。定数が変わらない州でも前回の2010年の国勢調査のときから州内での人口移動に対応して、やはり選挙区割りを見直さなければならない。 この作業にこそ、州議会が大きく関わってくる。今年行われた国勢調査の結果が出るのは来年になる。連邦下院議員選の区割りに当たるのは、主に今年改選された州議会なのである。全米36州では州議会が直接線引きの作業に当たり、残る14州では独立した選挙区画定委員会が行うものの、委員の任命には州知事や州議会の多数党の意向も反映されるであろう。 というのも米国では、州議会の多数党が自党に有利な選挙区割りをすることは選挙の勝者に与えられる、いわば一種の「賞品」として暗黙のうちに認められている。民主党が今年の州議会選に力を注いだのも、現在の下院での多数を今後10年間にわたって盤石にしようとしたためである。2020年10月26日、米ホワイトハウスで最高裁判事の就任宣誓をするエイミー・バレット氏=ワシントン(ゲッティ=共同) 無党派議会の建前をとる一院制のネブラスカ州を除き、選挙前の州議会の勢力は49州、上下両院合わせて98の州議会のうち、共和党が59、民主党は39で過半数を占めていた。全米州議会議員連盟(NCSL)によると、最終結果は集計が続いているアリゾナ州の結果次第となる。しかし、共和党は少なくとも改選前の水準を確保することになろう。 今回共和党は、ニューハンプシャー州議会の上下両院で過半数を奪回した。また現職の民主党知事が引退するモンタナ州では、共和党のグレッグ・ジャンフォルテ氏が当選した。この結果、全米50州のうち27州を共和党の知事が治めることになる。誰でも夢見ることはできる 思い起こせばトランプ氏は、2015年にニューヨークのトランプタワーのエスカレーターを降りて登場し、まさかとも思われた大統領選出馬を表明して以来、多くの予想を覆して侮り難い実績を残してきた。 共和党内の乱戦を制して候補者指名を勝ち取り、本選挙でもまさかの歴史的な勝利を収めた。大敗が予想された今回の選挙でも、今一歩及ばなかったものの、接戦に持ち込んだ。 また選挙結果は、マイノリティー、とりわけフロリダのヒスパニック系や黒人に対する共和党の訴求力をトランプ氏が強めたことを示すものだった。 CNNの投票所出口調査によれば、今回黒人の12%、ヒスパニックの32%がトランプ氏に投票した。この数字は4年前より、いずれも4%の増加である。 前回の選挙でトランプ氏の掲げた主要公約が、メキシコ国境から流入してくるヒスパニックを念頭に置いた「国境の壁」建設であり、また、いわゆるBLM運動が全米を揺るがせていた時期であることを思えば、驚くべき数字と言わなければならない。 人種差別主義者だの白人優越主義者だのとレッテルを張られた人物に、それでも黒人の8人に1人、ヒスパニックの3人に1人が票を投じたのだ。外交についても、スタンドプレーばかりで国際協調をかき乱したという負の評価ばかりが目立つ中、中東における外交上の突破口を開いたことを忘れてはならない。 コロナ感染拡大の直前まで好景気を持続させ、黒人や貧困層にもその恩恵は及んでいた。さらに幸運にも恵まれて、一任期の4年間で3人もの連邦最高裁判事を指名した。これらの判事たちはトランプ、バイデン両氏がホワイトハウスを去った後も、今後長年にわたって影響を及ぼすであろう。 こうした一連の業績が最後の政権移譲の混乱でかすんでしまうことは、トランプ氏自身の名声と歴史的評価を傷つける。おそらくトランプ氏は、最後まで法廷で争うであろうし、彼にはそうする権利もある。それでも裁判を横目にしつつ、円滑な政権移譲には協力してほしいと個人的には思う。 ところが日本時間11月10日未明、米ニュースサイト「アクシオス」のジョナサン・スワン記者の記事によれば、トランプ氏は側近に対して自身の4年後の大統領選出馬について語ったという。であれば、トランプ氏自身が既に敗北を理解して受け入れており、裁判はいわば「ダメで元々」というくらいのことなのかもしれない。 トランプ氏の4年後の再出馬などあり得ないと思う人々も多くいよう。しかし、年齢の壁は既にバイデン氏が崩してくれている。もしこれが事実であれば、共和党の大統領候補者として無視し得ぬ最有力候補者となることは間違いない。もっとも、共和党の次期大統領選に意欲を持つニッキー・ヘイリー氏やマルコ・ルビオ氏といった面々は「冗談ではない」と思っていることだろう。ワクチン開発関連のイベントに出席するトランプ米大統領=2020年11月13日、ホワイトハウス(AP=共同) トランプ氏の胸中は誰にも分からない。最後は自分自身に大統領恩赦を与えて退任後の訴追を封じ、自身のテレビ局を設立して既存メディアの「フェイク・ニュース」と戦い、そして4年後には、再びホワイトハウス入りを果たすというシナリオを思い描いているのかもしれない。 確かに、夢を見る権利は誰にでもあるのだから。

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    バイデンでも終止符を打てない米国の分断

    世界が注目した米大統領選はバイデン前副大統領の事実上の勝利となったものの、いまだ確定とはいえない事態が米国の混迷ぶりを象徴している。経済再生、安全保障といった日本の重要課題は米国に左右される部分が大きいだけに安定を求めたいが、それはほど遠いだろう。バイデン政権は日本にいかなる影響を及ぼすのか。(写真はゲッティ=共同)

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    中国が狙う「権力の空白」日米新政権は東アジア安保に新たな一歩を

    手嶋龍一(外交ジャーナリスト) 次期大統領に就任する見通しとなったバイデン氏は、菅義偉(すが・よしひで)首相率いるニッポンの優先順位を落としつつあるのではないか――首相官邸も外務省もそんな焦りを募らせているように見受けられる。バイデン氏は、トランプ大統領がかたくなに敗北を認めない中、バイデン外交を始動させつつある。 まずは隣国カナダのトルドー首相に電話をかけ、続いて英国のジョンソン首相、ドイツのメルケル首相、フランスのマクロン大統領と相次いで電話会談を行い、首脳外交を実質的にスタートさせた。 だが、東アジアで最重要の同盟国、日本の菅首相との電話会談は12日以降に先送りされてしまった。安倍晋三前首相がトランプ大統領と際立って良好な関係を保っていたのに対して、欧州の主要国のリーダーたちは、時にトランプ大統領と鋭く対立してきた。 このため、バイデン次期政権の外交を担う専門家たちは、大西洋を挟む欧州主要国の首脳とまず接触して信認を取り付け、それによって国際社会でもバイデン勝利を印象付けて民主党政権の基盤を揺るぎないものにしようと目論んでいるのだろう。 4年前の米大統領選直後には、当時の安倍首相が電撃的に訪米し、就任前のトランプ大統領と異例の会談を成功させた。そして「シンゾー・ドナルド」の信頼関係を素早く築き上げたのだった。 安倍首相はその足でペルーの首都リマで行われたアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議に乗り込んでいった。各国に先駆けてトランプ・タワー会談を実現させた安倍首相に、集った首脳たちは熱い視線を注いだという。次期大統領と膝を交えて話し合い、首脳たちの人物譚(たん)まで披露し、トランプ大統領の首脳外交の指南役まで務めたのだから、誰しも競って安倍首相の話を聞きたがった。米デラウェア州ウィルミントンで記者会見するバイデン前副大統領=2020年11月10日(ロイター=共同) こうして築き上げた「シンゾー・ドナルド」の絆は、その後の安倍政権にとって最大の外交的資産となった。初めての米朝首脳会談の開催場所は、板門店ではなくシンガポールにすべきだと進言したのもトランプ大統領の盟友、安倍首相だった。首脳会談の早期開催を 実は、いち早く側近の阿達雅志参議院議員を訪米させて、安倍・トランプ会談の可能性を探らせたのは、当時の菅官房長官だった。それだけにトランプ大統領の敗北は菅内閣にとっては痛手だったろう。菅首相自身も官房長官時代にワシントンを訪れて、ホワイトハウスでペンス副大統領と会談し、共和党政権との絆を強めてきた経緯がある。 在ワシントンの日本大使館は、選挙期間中からバイデン氏の外交アドバイザーたちに接触し、民主党人脈の開拓に努めてきたが、すべてはこれからと言っていい。 「民主、共和両党のどちらの政権が日本にとっていいのか」。日本の政界だけでなく、経済人からも繰り返し同じ質問を受ける。だが、長年、ワシントンに暮らして日米同盟の最前線に身を置いてきた経験から言えば、日本にとってどちらの政権がいいのかなどと心配する時代はとうに過去のものだと思う。 結論を先に記せば、インド太平洋に攻勢を強める中国の前浜に位置する戦略上の要衝ニッポンを粗略にして、米国の東アジア戦略はもはや成り立たない。バイデン政権の外交・安全保障政策を担う当局者たちは、誰しも日米同盟の重みを知り抜いているはずだ。 今回の米大統領選は、共和、民主どちらの党が、中国の習近平国家主席により強硬かを競う戦いとなった。バイデン政権が発足してもこの基調は変わらないだろう。米国が敗北宣言なき政権移行を余儀なくされ、大統領権力の中枢に巨大な空白が生じたとみるや、「習近平の中国」は、その隙を突いて東アジア海域でさらなる攻勢に出ている。 台湾海峡の制空、制海権を窺うべく、台湾の防空識別圏に多数の中国軍機を飛ばしつつある。そして、尖閣諸島の周辺に海警察局の艦艇を出没させているだけではない。中国当局はこのほど「海警局の艦艇が管轄する海域で外国船が命令に従わない場合は武器の使用を認める」という法律の草案を明らかにした。 「海警局の艦艇が管轄する海域」とは、中国側が恣意(しい)的に定めた領域で武力行使をするという意思表示に他ならない。彼らの行動を取り締まる「外国船」、すなわち日本の艦艇に武器を使用していいと認める危険な法律以外の何物でもない。 米国の政権移譲が滞れば滞るほど、東アジアの安全保障の砦となってきた日米同盟にはほころびが目立つことになる。「開かれたインド太平洋」構想は、日本・米国・オーストラリア・インドによる対中同盟によって具体的に下支えするときを迎えているのである。 そのためには、菅・バイデン首脳会談を早期に開催して、尖閣諸島に日米安保条約を適用し、日米両国の防衛範囲とすることを改めて確認することが急務だろう。そのうえで、台湾問題の平和的解決を求める姿勢を日米の両首脳が鮮明にし、台湾問題を武力で解決してはならないことを闡明(せんめい)すべきだろう。出邸する菅義偉首相=2020年11月11日、首相官邸(春名中撮影) 日米同盟は、朝鮮半島の有事だけでなく、台湾海峡の有事に備える平和の盟約である。菅・バイデン両首脳は、いまこそ揺るぎないメッセージを北京に向けて発するときなのである。

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    大統領選は「ダブルKO」お飾り同然のバイデンと暗黒時代が続く米国

    るような態度をとり、フェアプレーを無視する男だとは知らなかった。変わったセレブオヤジだけど「メーク・アメリカ・グレート・アゲイン(米国を再び偉大な国にしよう)」を掲げる愛国者ぐらいに思っていた。 今回は事情が違う。4年間の横暴、スキャンダル、同盟国軽視、地球環境無視で大統領としての資質に疑いがあることが分かっていた。多くのメディアは「人間失格」の烙印(らくいん)さえ押した。米大統領選の開票が進む中、ワシントンのホワイトハウスで演説する共和党のトランプ大統領=2020年11月4日(ロイター=共同) それでも、ほぼ半数がトランプに投票した。しかも、フロリダやテキサスの激戦州では前回よりヒスパニック票を増やしている。日本はどう付き合う トランプから「スリーピー・ジョー(ねぼけたジョー)」とからかわれたように、バイデンは事態を正確に認識できず、自分が多くの国民から熱烈に支持されて当選したと勘違いしているかもしれない。 米国の将来を担う若い世代はバイデンなど支持していない。学生ローンの返済に苦しむ、1981~96年生まれのミレニアル世代と、97年以降に生まれたジェネレーションZの有権者の多くは、「民主社会主義者」を自認する民主党上院議員のバーニー・サンダースの代わりにバイデンに投票したにすぎないのだ。 また、インテリの民主党支持女性にとってバイデンは、トランプに「ポカホンタス」(先住民の女性の名前)と呼ばれ揶揄(やゆ)された左派のエリザベス・ウォーレンや、中道派のエイミー・クロブシャーの代わりだった。 したがって、いくらバイデンが大統領になってホワイトハウスを奪還しても、民主党は分断されたままである。一方、トランプの岩盤支持層とされる民間の武装集団ミリシアや、インターネットで流れる陰謀説を信じるQアノンなどの「愛国軍団」は、大統領選前と変わらず気勢を上げ続ける。 バイデン新大統領の誕生が確実視されるなか、日本では、米国の対日政策や対中政策を予測する記事があふれたが、どれも競馬予想と同じであてにならない。なにしろバイデンは11月20日に78歳を迎える「史上最高齢の大統領」となる見通しであり、民主党は完全にまとまりを欠いている。 前記したように、民主党は急進左派、左派、中道派、右派寄りの中道派などイデオロギー的に多様であるうえ、予備選候補を見れば、人種的にも多種多様である。しかも「腐敗エスタブリッシュメント(支配階級)」は共和党より民主党に多く、ウオール街もほとんどが民主党支持で、献金額も共和党を上回る。 トランプが引っかき回し、民主党が混乱に拍車をかけ、バイデンが大統領としてお飾り同然になる米国と、日本はうまくやっていかなければならない。「宗主国と属国」という状況は変わらないから、首相の菅義偉(すが・よしひで)は早々に「ワシントンDC詣で」をするだろう。米ホワイトハウス前でバイデン前副大統領の勝利に歓喜する人々=2020年11月7日、ワシントン(共同) そのときに、東南アジア諸国連合(ASEAN)をアルゼンチンと読み間違いをしてしまうとか、そんなことがないように、くれぐれも気をつけてほしい。(文中敬称略)

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    バイデンの試金石、世界の脅威「巨龍中国」との覇権争いに勝てるか

    派のサンダース氏(上院議員)が反グローバリゼーションなのだが、民主党をリードするものではなかった。「アメリカファースト」、一国主義で中国が米国のジョブを盗んだと唱えるトランプ氏なら、ラストベルトにジョブを戻してくれると投票したわけである。 だが、今回は、ラストベルトはどの州も極めて僅差ながらバイデン氏への支持が上回った。ラストベルトは前回と違ってトランプ氏ではなくバイデン氏に勝利をもたらした。 トランプ氏の敗因としては、やはり新型コロナ感染症を甘くみたことが大きい。自ら感染したのが象徴的である。新型コロナの抑え込みに失敗したといわなければならない。トランプ米大統領の新型コロナウイルス感染を伝える大型モニター=2020年10月2日、東京都内(AP=共同) また、トランプ氏は、マスク着用などをことさら軽視し、新型コロナの感染拡大を許した。米国は、コロナ感染による死者は23万人超、感染者は960万人を上回っている。インド、ブラジルを超えて世界断トツだ。コロナが蔓延すれば、経済が停止しジョブが失われる。持てなかったトランプ再選の熱意 先に記したが、ラストベルトは僅差ではあるものの、軒並みバイデン氏が勝利した。これは旧来型製造業の人的集約型ジョブを米国に戻すことの困難さを示している。 そもそも世界のサプライチェーンを中国が占めており、米国の製造業が世界市場での競争から生き残るのは至難だった。オバマ氏が大統領、ヒラリー・クリントン氏が国務長官を務めるなどしていた時代に民主党が支持したグローバリゼーションは、中国に旧来型製造業のジョブと所得が移転することを黙認するものだった。ラストベルトの製造業は、人的集約型から脱して進化するしか生き残りの道はなく、労働者たちはジョブを失った。 トランプ氏は、一国主義を掲げて反グローバリゼーションを標榜した。中国は、米国の資本、技術、雇用などの富を盗んでいると「米中貿易戦争」をひたすら激化させ、中国に高関税を課した。しかし、それでもラストベルトに旧来型のジョブが戻ることはなかった。トランプ氏は、ラストベルトの中産階級のポケットを膨らますことを実現できなかった。 そうした要因が大統領候補の2人にとって、ラストベルトでの明暗を僅差で分けた。前回は、反グローバリゼーションのトランプ氏が支持された。だが、今回はお題目ではなく、ジョブが現実に戻らないなら、トランプ氏を再選させる熱意を持てない。 バイデン氏の大統領就任が確実になったことで「お前(トランプ氏)はクビだ」と全米はお祭り騒ぎである。だが、米国はそれどころではない。国内総生産(GDP)では、中国は米国のそれの7割弱のところまで膨張してきている。中国は虎視眈々とGDPで米国に肩を並べる勢いを示している。ちなみに中国はGDPで日本の3倍の規模を獲得している。 しかも、中国は新型コロナの発生源であるにもかかわらず、武漢封鎖など強権で新型コロナ抑え込みに成功している。中国はすでに経済を再スタートさせている。日本国内の電子部品・工作機械関連産業筋などは「中国経済の復活は本物だ」と声をそろえている。中国はいち早く新型コロナ禍から立ち直りをみせている。 米国は、大統領選のお祭り騒ぎを引きずって新型コロナ感染をさらに拡大するとしたら経済の混乱に拍車をかけるようなものである。新型コロナの抑え込み、大統領選の混乱など見ていても、米国は衰退の兆しが否定できない。ボヤボヤしていれば、世界の覇権は中国・習近平国家主席の思惑通りになりかねないことを見失ってはならない。 問題はバイデン氏の中国に対する政策である。オバマ政権当時、中国に対して融和政策をとったが、バイデン氏もその一翼を担ってきた。いまではバイデン氏も民主党も当時とは異なり、中国の覇権主義には強い警戒感を持っているといわれている。先祖返りで中国への融和政策に転じる懸念がなくもないが、香港、ウイグルなどの人権問題では強硬な方針を打ち出すとみられる。米大統領選で勝利を確実にしたバイデン前副大統領(左)と中国の習近平国家主席=2013年12月、北京(ロイター=共同) 経済ではITなど先端テクノロジー分野を含めて経済安全保障に関連する産業分野で、米中のデカップリング(切り離し)が進められるとみられる。中国としては、人権問題に加えて先端テクノロジー分野でデカップリングが進めば、米国経済を追い抜くという野望の大きな阻害要因になるのは間違いない。楽観できない「バイデン新大統領」 日本の経済界も先端テクノロジー分野を含めて安全保障に関わるデカップリングは受け入れている。ただ、デカップリングの範囲がさらに拡大することになれば軋みが出かねない。 経済界は一般にイデオロギーよりも売り上げ、利益というところが眼目であり、背に腹は代えられないという現実を抱えている。経済界では、「米中軋轢には日本はうまく立ち回って」という声が出ている。しかし、「うまく立ち回れる」といった保証はまったくない。 経済界がもう一つ抱えているのは、中国の巨大市場を捨てられないという現実だ。中国の14億人という巨大な人口もそうだが、1億人を超える金持ち層の存在がマーケットの魅力になっている。「中国のマーケットはまだ成熟しておらず、消費、贅沢に貪欲だ。米国のマーケットが成熟してきているのとは好対照だ」。製造業、サービス産業の経営者筋たちは、中国市場と米国市場の現状の違いをストレートに語っている。 中国の王毅外相が、「中国のマーケットを捨てられるか」と開き直った発言をしたことがある。確かに、新型コロナ禍に苦しむ日本の経済界にとっては、ここは急所だ。 ドイツなどが米国と少し距離を置いて、中国との関係見直しについては旗幟を鮮明にしていない。これはメルケル首相とトランプ氏の相性が悪いからということではない。ドイツ企業が中国マーケットで収益を享受している。それがメルケル首相を逡巡させている。 新大統領となるバイデン氏に求めたいのは、中国の追走を再び大きく引き離すような米国経済のダイナミズム再生に取り組んでほしいということだ。 かつて米国マーケットは世界断トツで、日本の家電製品、自動車などを成長させてくれた豊かさやおおらかさがあった。「GAFA」というイノベーションを伴った巨大ビジネスを創造したのも米国にほかならない。世界の尊敬や憧れはそうした懐の深い米国にあった。 20世紀は、世界がドイツとどう調和するのか、ドイツが世界とどう調和するのかという100年だったといわれている。現時点はおそらく世界と中国がどう調和するかという時代といえるかもしれない。米デラウェア州ウィルミントンで勝利宣言した民主党のバイデン前副大統領とジル夫人=2020年11月7日(ロイター=共同) 米国経済のダイナミズムを再生することで一党独裁国家である中国の凄まじい世界覇権に歯止めをかける必要がある。米国は衰退から再生を繰り返しながら世界経済をリードしてきた。「バイデン新大統領」の先行きはそう楽観できるものではなさそうだが、ともあれ米国経済のダイナミズム復活に期待したいものである。

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    混迷するアメリカの極み「バイデン政権」が日本にもたらす災厄

    吉川圭一(グローバル・イッシューズ総合研究所代表) 米大統領選でバイデン前副大統領が事実上勝利し、民主党政権となることが濃厚になっている今、「自分の主張は50年後に理解されるだろう」と訴え自決した三島由紀夫の憂いを改めて実感している。まもなく彼の自決から丸50年を迎えようとしているからだ。 バイデン政権になれば、トランプ政権が実現しつつあった台湾(日本の重要なシーレーン)との関係強化や中東和平が、再び悪化する可能性が高い。バイデン氏も副大統領に就任するとみられるハリス氏も中国共産党に「買収」されていると、トランプ氏周辺の人々によって選挙直前に暴露されている。 「買収」とまでは言わないにしても、バイデン政権になれば、ワシントンの既存の官僚組織に頼った政治を行うだろう。結果として、台湾との関係強化や中東和平が後退するということに他ならない。 そもそも日本に石油がもたらされなくなればどうするのか。日本の一部が中国から本格的な攻撃を受けたらどうするのか。 菅義偉(すが・よしひで)総理を含む各国のトップが、バイデン氏の「勝利」を祝福したようだ。外交官僚の意向で仕方なかったのかもしれないが、トランプ氏が起こしている選挙の不正をめぐる訴訟の結果を待てなかったのか。メキシコやロシアは静観していることを踏まえれば、非常に疑問である。 今回の大統領選を振り返れば、日米共に共和党系の人々が投票日以降、手のひらを返すように、トランプ氏を批判し始めた。私としては嘔吐する思いである。まして、トランプ陣営が主張する「不正投票」と言うと、ロシアや中国のスパイとしてマークされると吹聴する人がいる。そう言う人は少なくとも真の保守派ではないだろう。  実際に民主党極左派やワシントン官僚の代表的なオバマ前大統領周辺は、トランプ支持者のリストアップまで始めたという情報もある。バイデン政権になれば、どのような「恐怖政治」になるか分からない。 トランプ氏は、保守系のFOXニュースを含むメディアがバイデン氏の勝利を報じた後「バイデンが勝者を装うために急ぎ彼の仲間が彼を助けようと懸命な理由は真実が暴露されたくないからだ。単純な事実は、この選挙はまだ終わっていないということだ」と述べている。トランプ米大統領支援者に対抗するバイデン前副大統領の支持者=2020年11月8日、フィラデルフィア(AP=共同) 選挙結果をめぐり、トランプ陣営の戦略の中心は新型コロナ禍の中で投票を容易にするためのいかなる措置も違憲で欺瞞だと主張することだ。これは最高裁を対象とした枠組みになる。第2の論点は投票を容易にするための措置の多くは州議会ではなく州知事によって行われ、これも憲法違反だという点だ。相次ぐ不正投票疑惑 ペンシルべニアでは以前から郵送投票はあったが、今回だけコロナのために選挙日3日後到着分まで有効になる。この特例に対する共和党の異議によって選挙日以降に到着した分は別の場所にある。それをカウントするかどうかを決めるのは最高裁であり、選挙前にトランプ氏が任命したバレット判事が、どういった判断を示すかが注目される。 実際、不正投票のような事例がいくつもある。ミシガンで使用されている投票集計アプリがトランプ氏の得票数を低く見積もる可能性の証拠として、アントリム郡北部でバイデン氏と民主党のピーターズ上院議員が、数千票を誤って数えられたと指摘されるケースがあった。さらに、ミシガンの共和党の郡当局者によると、今週初めに100票差で負けを認めた選挙で、コンピューターの不具合が修正され、1127票差で勝利したという。 一方、ネバダの共和党は11月5日に「私たちの弁護士は少なくとも3062件の不正投票に関してバー司法長官に告発状を送った。その数は大幅に増えると予想しており、ネバダから引っ越した後、投票用紙を投じて法律に違反したと思われる何千人もの個人を特定した」と発表している。 これらの不正投票に関する情報は、メディアが「バイデン勝利」を報じる以前のものが多いが、その後もウィスコンシンの州法に基づきトランプ陣営は再集計を要請している。また、ジョージアではバイデン氏はトランプ氏を僅差でリードしており、再集計の準備が整っている。 郵送投票に関しては、ミシガンでもウィスコンシンでも、11月4日未明になって、バイデン票が10万票以上も急激に増えているのに対し、トランプ票はあまり伸び率の変化がなかったとの報道もあった。郵送投票や期日前投票の開票が進んだからだと言われているが、それらはワシントン・ポストの調査でも、ざっくりした計算でバイデン氏が60%、トランプ氏が40%のはずなのである。 まとめていた票を急に追加しただけであるとリベラル派メディアは主張しているが、それでもあまりトランプ票が増えていないということは、バイデン票だけ別の場所に分けられていた可能性が疑われるようにも思われる。いずれにしても今回のトランプ氏の得票率と共和党の躍進を全く予測できなかったリベラル派メディアの主張は信用できない。 また、トランプ氏の顧問弁護士であるジュリアーニ元ニューヨーク市長は激戦州での不正投票の疑いで4、5件の訴訟を起こすとしており、ペンシルべニアで50人以上の証人がいるという。それで不公正な選挙を実施し州法に違反し公民権を侵害したとして、2000年のブッシュ対ゴア事件に該当する平等保護違反を主張するという。封筒を捨てた45万の郵送投票用紙も持っているとされ、他の5つ前後の州でも訴訟を起こす用意があるようだ。米ペンシルベニア州アレンタウンで大統領選の票を集計する担当者=2020年11月5日(AP=共同) そもそも今回の選挙でトランプ氏は、私が前回の寄稿で記した予測に近く、ヒスパニック(中南米系)の31%を獲得し、4年前の28%から上積みした。中でもキューバ系の44%から支持を得たほか、黒人の支持率も4年前の8%に対して12%となった。漫然としてきたツケ これはレーガン元大統領以来、共和党にとって2番目に優れた結果だ。上下両院議員選でも、共和党は予想を覆す善戦をしている。このように考えるとトランプ氏が敗北したとすれば、それは不正投票が要因である可能性が高いということになる。 では、このままバイデン氏が大統領に就任し民主党政権になった場合、日本にどのような悪影響があるだろうか。 そもそもバイデン氏は健康状態を理由に1、2年以内に辞任し、ハリス氏が大統領になる可能性が高い。ハリス氏も中共裏マネーに関係しているという情報もあり、大統領になれば副大統領にヒラリー氏を選ぶとの憶測も広がっている。そうなればヒラリー氏は、ハリス氏の致命的なスキャンダルなどをリークして辞任に追い込み、ヒラリー氏の宿年の願望である大統領職に就くだろう。 ヒラリー氏は、バイデン氏やハリス氏以上に利権にまみれ、ワシントン既成勢力の代表者であることは言うまでもない。つまり民主党政権になれば、中国などを利することになり、どうしても日本にとって悪影響をおよぼすことは想像に難くない。 救いになるのは、トランプ氏が残したインド太平洋地域や中東における安全保障スキームが、これからも機能し続けられる可能性だろう。しかし、民主党政権がそれを引き継ぐかは疑問だ。 ただ、トランプ氏は来年1月19日までは大統領なのだから、それまでに中国やイランにこれまで以上に厳しい対応を迫るだろう。11月9日にエスパー国防長官を解任し国家テロ対策センター長官のミラー氏を後任に指名したのは、その布石と考えられなくもない。 いずれにせよ、日本への影響を鑑みれば、トランプ氏に大統領職を懸けて最後まで闘ってもらいたいが、訴訟の行方は決して楽観視できないのも事実だ。 最終的にバイデン政権になり、日本に災厄が降りかかっても、それは誰が悪いわけでもない。まさに三島由紀夫が自決してまで訴えた、憲法改正をせず、強力な自国軍を持たないまま漫然と過ごしてきたツケだ。1970年11月、陸上自衛隊市ケ谷駐屯地で演説する三島由紀夫 私には、トランプ氏が三島に代わって日本に軍事的自立を促していたように思えてならない。トランプ氏がホワイトハウスを去れば、ますます日本は軍事的に自立できなくなる。そこに中国などから侵略行為を受けたり、攻撃されたりしても、それは日本が「自己責任」として受け止めるしかないだろう。

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    マードック帝国「トランプ切り」の背景に「コロナとクスリ」

    ナ問題が大統領選挙後にさらに悪化するという予測が大きな要因だったらしい」 確かに大統領選と並行して、アメリカのコロナ感染は再拡大している。ところで、ダウド氏によれば、マードック氏に抗議して袖にされたのは、クシュナー上級顧問だったという。娘婿であり、ハーバード大学卒、MBA(経済修士号)と法学博士号を持つ天才とはいえ、普段ならこういうことはトランプ氏が自分でやりそうな気もする。筆者の疑問に、マイケルはさらに不穏な情報を明かした。「マードック氏がトランプ大統領はもうダメだと考えたもう一つの理由は、大統領が正常な判断をできなくなっていると見たからだと思う。コロナ感染して以来、強いステロイド剤を使い続けたことなどで、精神の高揚や落ち込みなど、深刻な副作用が出ているという噂が絶えない。クシュナー氏はマードック氏だけでなく、裏であちこちに電話したり指示を出したりしているようだが、それはトランプ氏がまともに陣頭指揮を執れなくなっているからだと聞いている」 そうだとすれば、クシュナー氏の妻でトランプ氏の娘であるイヴァンカ氏や、ファーストレディのメラニア夫人が「もう負けを認めましょう」と語っているという情報も合点がいく。マードック帝国による「トランプ切り」には、コロナの再燃と大統領の「異常事態」という恐ろしい背景があったということなのか。2020年11月5日、米ワシントンのホワイトハウスで演説する共和党のトランプ大統領(AP=共同)関連記事■「トランプはステロイドでおかしくなった」の声が続々■トランプ氏 姪の水着姿見て「こいつはすごい」と息荒らげた■FOXも手のひら返し!? 「トランプの口封じ」が始まった■まさかの飛び火!? トランプが「日本に復讐」の仰天証言■“味方”のFOXにいち早く「落選」報じられてトランプ激怒

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    米大統領選、「不正選挙」訴える中国発デマが飛び交った背景

    行語となった言葉だが、任期の最後にポスト・トゥルースとは何かを知らしめる特大の混乱が生まれている。「アメリカは大丈夫なのかしら」と不安になるところだが、残念なことに米大統領選がらみのデマは少なからず日本にも“輸入”されており、上述の“疑惑”は英語ではなく日本語の情報としてSNSで出回っている。このデマが英語から日本語への直輸入ならばまだ分からないではないが、なぜか中国語圏を一度経由してから入ってくるケースもあるから、また複雑だ。 毎日新聞は11月6日、「『大量のトランプ票を埋めた』動画は誤り 実際はサウジの冷凍チキンか」と題した記事を掲載した。トランプ氏に投じられた票が山に埋められているところを撮影したとする動画が日本で話題となったが、実は鳥肉の廃棄処分の動画で明らかなデマだったとしている。※写真はイメージです(ゲッティイメージズ) この動画を紹介し日本語でツイートしたのは、在日中国人漫画家の孫向文氏。他にもすでに死んでいる人物の投票が確認された、廃棄された票が発見されたなど、米大統領選の不正投票“疑惑”について数多くつぶやいている。だが、その中には中国語でのTwitterの書き込みを情報源としているケースも少なくない。中国発の「デマ」も 中国本土では、ネット検閲によりTwitterの使用が規制されているため、Twitterの中国語ユーザーのかなり多くを海外在住の中国人が占めており、その中には反体制派も多い。敵の敵は味方ではないが、中国共産党に反感を持つ中国人にとっては、対中強硬姿勢を取るトランプ氏はヒーローに見えるのだ。 トランプ支持を表明する反体制派中国人の代表格が、「盲目の弁護士」こと人権活動家の陳光誠氏だ。盲人でありながら法律知識を学び、農民や障害者など弱者を助けるなどの活動を行い、ついに当局から睨まれるようになった。2012年に軟禁されていた自宅から脱出して北京大使館に逃亡し国際問題となるも、最終的に米国への亡命が認められた。陳氏の亡命を手助けしたのはオバマ前大統領下の民主党政権だったが、今では陳氏はばりばりの共和党支持者になっている。 陳氏は、今回の大統領選で明らかなフェイクニュースも含めて、バイデン氏の不正疑惑をTwitterで紹介しまくっている。自らも障害を持つ身でありながら弱者を助けた人徳で知られる同氏が、フェイクニュースを連発する人に変わってしまう。反体制派中国人がどれだけトランプ氏に入れ込んでいるかを示すエピソードだ。 反体制派の在外中国人だけではなく、香港や台湾でもトランプ氏に期待する人は少なくない。同様にフェイクニュースを含めたバイデン・バッシングが見られるが、さらに一歩踏み込んだ問題も発覚している。バイデン氏の息子が中国共産党とビジネス上の関係を持っているといった内容の報告書がネットに流出していたが、この報告書は民主派寄りの香港紙アップルデイリーの関係者が出資して制作させたものであることが明らかとなったのだ。アップルデイリーの創業者である黎智英(ジミー・ライ)氏は組織的な関与を否定しているが、トランプ氏に向けたフェイクニュースの援護射撃を行ったのではとの疑いは拭いされない。 多くのデマが日本にも出回り、日本人まで踊らされている「ポスト・トゥルース」の米大統領選。だが、飛び交う怪しげな情報の中には米国直輸入のものだけではなく、中国発、香港発のものまで含まれているという、なんとも面倒くさすぎる状況になっている。※写真はイメージです(ゲッティイメージズ)【高口康太】ジャーナリスト。翻訳家。千葉大学人文社会科学研究科(博士課程)単位取得退学。中国の政治、社会、文化など幅広い分野で取材を行う。独自の切り口から中国・新興国を論じるニュースサイト「KINBRICKS NOW」を運営。著書に『現代中国経営者列伝』(星海社新書)など。関連記事■米大統領選・現地フォトレポート 熱狂するトランプ信奉者■トランプ猛追の2つの理由とバイデンのピンボケ選挙戦■トランプ信者 「真実か否かの基準はトランプのツイッター」■大統領選挙いよいよ最終局面「トランプの命運は尽きたか」■FOXも手のひら返し!? 「トランプの口封じ」が始まった

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    「日朝友好」に転換?金正恩が菅政権に送った秋波の真意

    重村智計(東京通信大教授) 世界の指導者の中で、トランプ米大統領再選を誰よりも期待したのは、金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長だった。それだけに、バイデン前副大統領の事実上の勝利に対して、人一倍穏やかではいられないだろう。 米大統領選2日前の11月1日、北朝鮮の労働新聞は1面トップ記事で、「日本人民との友好親善活動を能動的に展開」との金委員長の「お言葉(マルスム)」を掲載した。異例の報道で、明らかに菅義偉(すが・よしひで)政権へのメッセージだった。これに対し、日朝接近を警戒した韓国の朴智元(パク・チウォン)国家情報院長が急遽訪日しており、韓国側が衝撃をもって受け止めたことを表している。  また、北朝鮮の朝鮮中央通信は、同日午前6時、異例の報道を行った。この日に開かれる在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)の「分会代表者(全国)大会」に向けた金委員長の「お言葉」を報じたのだ。 分会代表者大会は初の全国大会で、同日午後1時から開催予定だった。金委員長の「お言葉」は、最大の機密事項で式典の前に公表されるのは、前代未聞である。そもそも朝鮮総連の記事は、1面トップには載らない。 この異例の報道にすぐに反応したのは、韓国の聯合ニュースや中央日報だった。「金正恩委員長、朝鮮総連に『日本国民と友好親善活動すべき』」と、大きく報じた。反日の文在寅(ムン・ジェイン)政権にとって衝撃で、北朝鮮が「日朝友好に動き出した」と感じたのだろう。 かなり長文の「お言葉」の中から、韓国メディアは「日本との友好親善」の言葉を探し出した。日本の新聞、テレビは全く報じなかっただけに、韓国はさすがと言うべきか、何も反応しない日本メディアの判断力欠如を恥ずべきか。見方は、さまざまだ。 韓国メディアは、北朝鮮が日本に関係改善のメッセージを送った、と受け止めたのだ。韓国政府や文大統領を通さずに、日本政府にメッセージを送った事実は、繰り返すが、衝撃以外の何ものでもない。 この「お言葉」報道には、別の意味も隠されていた。朝鮮総連の許宗万(ホ・ジョンマン)議長のメンツが潰れた。通常は、金委員長の「お言葉」は、許議長に届けられ、許議長が大会の最後に読み上げるのが慣例だからだ。 平壌はそれを許さず、第一副議長に昇進したばかりの朴久好(パク・クホ)氏に、代読を命じたのだった。北朝鮮の指導者は、これまで何回か「日本国民との友好親善」を指示してきた。ところが、朝鮮総連は従わず「お言葉」を無視し隠した、との疑いを平壌は抱いている。 有名なのは、1999年に金正日総書記は「金日成主席、金正日総書記の写真を朝鮮学校に掲げる必要はない」「民族服で登校しなくてもいい」「本国の真似事をしなくていいから、独自の取り組みをせよ」と、「お言葉」を伝えたが無視され、実行されなかった。 平壌は、こうした許議長の対応に不満で、9月5日の総連中央委総会に「お言葉」を送り「(末席の)朴久好副議長を第一副議長に昇格。許議長の後継者は、朴久好」と命じた。朴氏は、許宗万議長の反対派として知られていた。北朝鮮・平壌で朝鮮労働党政治局会議を司会する金正恩委員長=2020年10月(朝鮮中央通信=共同) 許議長は、この中央委総会の直前に別の副議長を呼び、「お前を後継者として発表する」と伝えていた。この情報が平壌に伝わり、阻止するための「朴第一副議長任命」の「お言葉」が伝えられたという。議長、副議長を任命する権限は、金委員長にしかないにもかかわらずだ。 背景には、長年に及ぶ平壌と許議長の虚虚実実の駆け引きがあった。北朝鮮は、何度も許議長の更迭を考えたが、実行できなかった。公開されると困る秘密を、許議長が握っていたからだ。トランプ落選は悪夢 日本の警察は、許議長がカナダに巨額の資金を送金した事実を、掴んでいた。危機的な事態が起きたら亡命する準備、と理解した。 朝鮮総連は、すでに朴体制への移行を促進している。そもそも許議長は、体調が悪く入退院を繰り返しており、議長専用車も、朴氏が使っている。許議長は11月1日の「分会代表者会議」には、「体調悪化」を理由に最初から姿を見せなかった。 また、北朝鮮は、菅首相の誕生後一度も菅政権批判をしていない。批判する材料はあるのに、全く言及しない。これも異例の対応である。 この背景には、米大統領選でバイデン氏が勝利した場合に、日朝関係改善に道を見いだそうとの思いがあった。バイデン氏は、トランプ氏のような米朝首脳会談はしない、と明言したことがあり、北朝鮮の核問題と人権問題に厳しい姿勢を見せた。 さらに、北朝鮮は中国から多くの支援を受けてはいるが、その強圧的な態度に不信感を抱いている。中国の習近平国家主席は、10月23日に「抗米援朝70周年記念式典」を行ない、朝鮮戦争で中国は米国に勝利した、と強調した。 北朝鮮は、中国の要請を受け平壌で小規模な式典を行ったが、不満を抱いている。北朝鮮では、朝鮮戦争は金日成主席が勝利したと教え、主張しているからだ。中国の態度はこれを否定し、中国のおかげで勝利したのだ、と言っている。 このように、中国の帝国主義的態度に、北朝鮮は辟易しているのだ。中国を牽制するためには、米国と日本の影響力が不可欠だ。ゆえにトランプ氏の敗北は、北朝鮮にとっては悪夢だ。そのため、万一の場合を考え、日本との関係再構築を準備したということだ。 そこで、11月1日は日曜日にもかかわらず、金委員長の「お言葉」を早朝に報じ、労働新聞が1面で掲載したのだろう。日本政府に気がついてもらいたい、との北朝鮮のいじらしい思いが伝わってくる。 金委員長は、今年4月以前と以後では、まるで人が変わったように、革命的な政策と方針を打ち出している。水害被災地を視察し、被害者に寄り添う立場を強調したほか、10月10日の労働党創建75周年式典では、日本と米国を全く批判しなかった。また、経済再建と国民生活改善を力説した。 さらに、北朝鮮の支配システムの柱であった「指導者無謬説」を自ら放棄し、国民に「自らの足りなさ」を謝罪した。労働党や国家運営でも「個人崇拝独裁体制」を変更し、「集団指導体制」を実行している。こんなに心優しい指導者は珍しい。 指導者の行動を権威づける「(会議を)指導なされた」などの指導者慣用句が消え、一般の高官と同じ「参加なされた」「司会なされた」の言葉に変わった。北朝鮮のミサイル発射を受け、警察官が増員された朝鮮総連本部=2017年8月、東京都千代田区(春名中撮影) 来年1月の党大会で、経済再建のための「改革、解放」に乗り出すとの期待が高まっている。朝鮮総連は、この党大会後に中央委総会を開催する。この中央委総会に、金委員長は新たな「お言葉」を寄せ、名実ともに朴体制を宣言し、人事を刷新すると期待されている。 来年1月の北朝鮮党大会と総連中央委総会後に、日朝関係が本格的に動き出すことは間違いないだろう。

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    「命を重んじるバイデン」朝日新聞が見向きもしないトランプの功績

    田中秀臣(上武大学ビジネス情報学部教授) 米国の大統領選は日本でも大きな注目を集めた。主要メディアは、次期大統領として民主党候補のジョー・バイデン前副大統領の当確を伝え、各国首脳の多くがバイデン氏に会員制交流サイト(SNS)などを利用して祝意を伝えた。 菅義偉(すが・よしひで)首相はツイッターを使い、日本語と英語で、バイデン氏と女性初の副大統領になる見込みのカマラ・ハリス氏にメッセージを送った。それは、短くともポイントを押さえたものになっていた。ジョー・バイデン氏及びカマラ・ハリス氏に心よりお祝い申し上げます。日米同盟をさらに強固なものとするために,また,インド太平洋地域及び世界の平和,自由及び繁栄を確保するために,ともに取り組んでいくことを楽しみにしております。菅首相の公式ツイッター 特に「インド太平洋地域」が入っていることに注意したい。オーストラリアのモリソン首相やニュージーランドのアーダーン首相も同じように「インド太平洋地域」の安全保障に期待する旨をバイデン氏に伝えている。 来年始動するであろうバイデン政権は不確実性を抱える。その一つが、不透明な対アジア戦略だ。要するに中国にどう向き合うのかという問題である。 トランプ政権は日本、米国、オーストラリア、インドの4カ国を軸にした「インド太平洋構想」を採用している。アジア圏には、欧米の北大西洋条約機構(NATO)のような、多国間の集団安全保障体制は構築されていない。それに代わるものとして、中国の覇権に抗することを狙いとしている構想である。当選確実となったバイデン氏との今後の日米関係について記者団の取材に応じる菅義偉首相=2020年11月9日、首相官邸(春名中撮影) 菅首相やモリソン首相らがこの「インド太平洋地域」をわざわざ文言に入れたのは、この構想へのコミットメントを明瞭にしていないバイデン氏へのシグナルだろう。もちろん、この「インド太平洋構想」は、中国の「一帯一路」構想に政治経済面で対抗する意味もある。米国、TPP復帰は 経済面では、米国を除く11カ国による環太平洋戦略的経済連携協定(TPP11)がその要だ。トランプ政権で米国はTPPから離脱した。TPPを主導したオバマ政権同様に、バイデン政権が復帰するのかどうか、またどの段階で復帰するかが重要になる。 日本はTPP11を主導した経験を活用し、さらにこの自由貿易圏にイギリス、インドを加盟させるべく努力しなければならない。米国の論者には、米国がTPPに復帰しないまま、中国が現状の加盟条件が緩いことを狙ってTPPに入ることを警戒する意見もある。 実際に、今年5月に中国の李克強首相は、TPPへの参加意思を記者会見で問われ、その可能性を否定しなかった。 中国は自国への資本投資の自由化を行っていない。そのため財、サービスの貿易自由化だけではなく、また投資の自由化を目的とするTPPには乗れないのではないか、という見方が一般的だった。 しかし、李首相の発言は、米国がいないすきを狙ってTPPになんとか加入し、この経済圏でも政治的影響力を強めたい考えがあるのかもしれない。バイデン氏は中国に対するデカップリング(切り離し)を見直すのか、それとも促進するのか。そこに、米国のTPP再加入、そしてTPPを重要な経済面の核として持つ「インド太平洋構想」の成否がかかっている。 日本の保守層は、バイデン政権が中国に融和的な態度を採用するのではないか、と警戒感を強めている。それはバイデン氏が副大統領を務めたオバマ政権が、中国に対してとった弱腰の態度に起因する。 だが、米国内の専門家たちの多くは、オバマ政権と現在では米国の世論、そして議会の中国に対する態度が、まるで違う厳しいものになったとしている。米デラウェア州ウィルミントンで勝利宣言した民主党のバイデン前副大統領(右)とハリス上院議員=2020年11月7日(AP=共同) カート・M・キャンベル元米国務次官補とミラ・ラップ=フーパー外交問題評議会シニアフェローは、米外交問題評議会が発行するフォーリン・アフェアーズ・リポート(2020年8月号)の論説「外交的自制をかなぐり捨てた中国――覇権の時を待つ北京」の中で、米国内の意見の変化は、中国の外交姿勢が露骨なほどの対外覇権に転じたことにあると指摘した。経済が守る命、人権 例えば、中国がオーストラリア産大麦に追加関税をかけるなどの措置をとったことは、オーストラリアが新型コロナウイルスの発生源の調査を中国に要求したことに対する「貿易制裁」ではないかと指摘されている。さらに、中国の関与が疑われるオーストラリアへのサイバー攻撃や、度重なる威圧的警告を北京は発している。サイバー情報活動の専門家らはしばらく前から、オーストラリアで起きたハッキングは中国と関連があるとしている。彼らは中国について、ロシア、イラン、北朝鮮などと共に、こうした攻撃を仕掛ける能力をもち、オーストラリアとは同盟関係にない数少ない国の1つだと説明している。BBCニュース キャンベルとフーパーの論説では、この中国の外交的頑迷さ、対外リスク回避の放棄ともいえる姿勢は、中国の指導体制が習近平国家主席に集中している結果だとしている。つまり、中国の集団指導体制から「習強権体制」への移行である。 中国の「独裁制」のリスクを世界に明らかにしたのは、トランプ政権の「遺産」でもあるだろう。日本のマスコミの多く、特に朝日新聞的な報道やワイドショーなどでは、トランプ大統領が人権を軽視し、経済を重視するというイメージを流布しようと必死である。 しかし、トランプ大統領の最大の功績に、武力や経済力で他国を脅し、香港やウイグル自治区などで人権弾圧を繰り返す中国のやり口に、国際社会が関心を持つ機会を作ったことが挙げられる。これは最大の「人権」的貢献だろう。 だが、日本ではワイドショー的な「経済のトランプVS人権のバイデン」のような、安易で薄っぺらい二元論で考える人も多い。まさにテレビの見過ぎの、思考停止タイプでしかない。 新政権になっても対中強硬姿勢は変わらず、場合によればトランプ政権よりも日本など同盟諸国を巻き込んで、より積極的に行動するという見立てをする人たちも多い。今のところまだ不透明感が強く、この対中姿勢は日本国民にとっても極めて重要な問題だけに、今後の動きに注意しなければならない。 朝日新聞も米大統領選の記事で、トランプ大統領とバイデン氏を比較して、バイデン氏を「命を重んじる」と評価していた。これほど愚かしいレッテル貼りはない。日本のワイドショーなどで「経済のトランプVS人権のバイデン」という安直な図式を採用しているのも、この朝日新聞的な二元論と同根だろう。 その根深いところには、日本型リベラルや左翼に共通する「経済問題は人権問題ではない」という偏見がある。だが、トランプ大統領が政策の根幹に据えた雇用確保は、まさに人の生活面、そして社会的地位の安定などを通じて、人の命と権利を保障するものだった。おそらく、バイデン氏もこのことに異論を唱えないだろう。米ワシントンのホワイトハウスで演説する共和党のトランプ大統領=2020年11月5日(ゲッティ=共同) 日本のワイドショーや朝日新聞的なるものに感化された人たちを中心に、経済と人権は対立関係にあるという妄信がはびこっている。そして、経済よりも人権を重視することこそ素晴らしいと褒めたたえ、経済問題の軽視を誘発しているのだろう。経済の見方もそうだが、人権意識の見方についてもお粗末だとしか言えない。

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    トランプvs反トランプの大統領選がもたらすバイデン「消極的」勝利

    山田順(ジャーナリスト) 「ドナルド・トランプか、ジョー・バイデンか」。さあ、どちらだ、といまさら述べても虚しいだけ。来週になれば結果は分かり、予想だけの記事は読まれなくなる。しかも、AかBかの二者択一、丁半ばくちだ。 何頭も出走する競馬なら外しても笑ってすまされるが、米大統領選の予想をするとなると、そうはいかない。外せば徹底的にたたかれ、信用は失墜する。逆に当たれば、もてはやされる。 で、前回の大統領選はどうだったのかと言えば、私は前者。世論調査もメディア報道でもヒラリー・クリントンの勝利が確実視されていたので、そのまま、トランプ惨敗の記事を書いて大恥をかいた。この会員制交流サイト(SNS)時代、「なにを偉そうに」「どこが専門家だ」と罵倒され、本当に傷ついた。 高校時代の替え玉受験を親族に暴露され、なにかと言えば「ディール?(これで合意だな?)」と迫り、テレビで虚像を売りまくり、A4用紙の短い報告書も読めない男が、なぜ米国の大統領になってしまったのか。 半世紀にわたって米国をウオッチしてきたが、心底がっかりし、この自由の国に対する敬意を失った。 しかし、今回もあえて「トランプ惨敗」とする。日本のメディアや識者は、前回の苦い経験から「最後まで分かりません」と言い続けているが、私は言わない。トランプを再選させるほど米国は地に落ちていないと信じるからだ。 今の米国は、まさになんでもありのアメコミ・ワールドと化している。新型コロナウイルスの感染者が世界最多となる累計800万人を超える中で分断と対立、不信がまん延している。 社会を害する勢力とトランプが戦っているという陰謀論を信じる「Qアノン」、武装した民間組織「ミリシア」がトランプ側につき、過激派左翼と戦っている。彼らは白人至上主義、人種差別で何が悪いのかと騒ぎまくっている。 中西部ミシガン州では10月8日、ミリシアの一団「ブーガルー・ボア」が、トランプを批判した同州知事の拉致を企て、13人が逮捕された。なにしろ、支持者から見ればトランプは政財界にはびこるディープステート(闇の政府)と日夜戦っているのだ。米ノースカロライナ州の空港で、トランプ大統領を待つ支持者=2020年8月24日(AP=共同) 一方、白人警官による黒人男性暴行死事件を受け、白人警官は皆、悪徳警官やレイシスト(人種差別主義者)に仕立てあげられた。シアトルではデモ隊が警察署の周辺を占拠して「自治区」を設置したと主張し、極左運動「アンティファ(反ファシスト)」の集団が気勢を上げた。トランプ氏のコロナ感染が影響 キャップやTシャツに「BLACK LIVES MATTER(BLM、黒人の命も大事だ)」の文字があふれ、首都ワシントンDCの道路は「BLMストリート」になってしまった。 そんな中で終盤に入った選挙戦、最大のハプニングは、トランプが新型コロナに感染したことだった。ホワイトハウスでクラスター(感染者集団)が発生し、トランプ陣営から感染者が続出した。 ところが、トランプはわずか4日で「ヒーロー」としてよみがえり、第2回テレビ討論会をキャンセル。両陣営は10月15日、それぞれ別のテレビ局が主催する有権者との対話集会に参加し、トランプはマスクを外して「史上最弱サイテーの候補者に負けたら、恥だ!」とバイデンを罵倒した。 こうして最終的に、大統領選は「マスクVS反マスク」の戦いになった。トランプは第1回のテレビ討論会でバイデンを「今まで見たことないような大きなマスクをしている」とからかい、その後、マスクをポケットに入れたまま遊説に飛び回った。バイデンはマスク着けて遊説したが、自宅からカメラ越しに支持を訴えるリモート演説も多かった。よって、バイデン陣営はまったく盛り上がらなかった。 トランプには、白人の非大卒者などの岩盤支持層があるが、バイデンにはない。トランプは嫌われ者だが、バイデンは単なるいい人。それで、今回の大統領選は「トランプVSバイデン」と言うより、「トランプVS反トランプ」になった。民主党支持者も熱心にバイデンを支持しているわけではない。 しかもトランプ支持者には、表向きは反トランプなのにトランプに投票する「隠れトランプ派」がいるが、バイデン支持者には「隠れバイデン派」がほぼいない。 トランプ支持者を見つけるのは簡単だ。工業の衰退が続く地域「ラストベルト(さびた工業地帯)」の街で、朝から米国風の大衆食堂、ダイナーに行き、ステーキを食べているので、すぐ分かる。飲むビールの銘柄は、移民の成功を描いたCMがトランプの移民政策に反対しているとされたバドワイザーではなく、クアーズだ。 同様に民主党支持者も、難民1万人を雇用すると発表してトランプ支持者の反発を招いたスターバックスでラテを飲み、現政権に批判的な米紙ニューヨーク・タイムズを読んでいるのですぐ分かるが、彼らがバイデンに入れるかどうか分からない。 とはいえ、この4年間で反トランプが増えたのは確かだ。トランプは鍵を握る激戦州、フロリダとペンシルベニアを落とすだろう。そして、ラストベルトの州も落とせば、間違いなく惨敗する。共和党は上院でも議席を失い、盤石な民主党政権が誕生する――というのがエスタブ(支配者階級)系メディアの筋書きだ。米ノースカロライナ州の集会で演説するバイデン前副大統領=2020年10月14日(ゲッティ=共同) というわけで、ここからは「バイデン大統領」の誕生で米国の政策がどうなるのかを、一足先に考えてみたい。いわば「宗主国」だけに日本の将来は大きく左右される。思いやり予算は大増額か まず、日本が抱える最大の問題、トランプが増額を求めた在日米軍駐留経費の日本側負担(思いやり予算)だ。6月には2020年度の約4・3倍にあたる年間約80億ドル(約8550億円)を要求したと報じられている。日米両政府は10月15、16日に実務者協議を行い、茂木敏充外相は「金額は提示されなかった」と述べた。 バイデン政権になろうと、ある程度の増額を飲まされるのは間違いない。ただ、民主党は綱領で「同盟国を中傷するのではなく、関係を強化する」としているので、トランプほどふっかけてはこないだろう。いずれにせよ、現行協定は来年3月に期限を迎える予定だ。 安倍晋三前首相は環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)でトランプにハシゴを外された。そのため、菅義偉(すが・よしひで)首相は米国のTPP復帰を請うかもしれないが、バイデンは早くから「復帰しない」と発言している。「日本国憲法はわれわれが書いた」と本当のことを言って、トランプの教養のなさを皮肉った男だ。日本に譲歩などしない。 茂木外相はTPPよりきつい条件で、事実上の自由貿易協定(FTA)を押し付けられ、その実態を隠すため物品貿易協定(TAG)という造語でごまかした「実績」がある。バイデン政権には、トランプ政権以上にモノを言えないだろう。 次に、日本が巻き込まれている「米中覇権戦争」だが、トップがバイデンになろうと米国の対中強硬策は変わらない。トランプは「カネと安全保障」だが、民主党は「人権と民主主義」だ。もはやワシントンDCに、パンダハガーと呼ばれる親中派はいない。 ナンシー・ペロシ下院議長は、かつてブッシュ大統領に「北京五輪をボイコットせよ」と迫った人権の女帝だ。バイデンが弱腰になったら尻をたたく。しかも、副大統領候補のカマラ・ハリス氏の母は、中国の宿敵インドの上位カースト、バラモンの出身。これ以上の中国の拡張主義を許すまい。 続いて、日本が今後、大出費させられそうな環境問題がある。トランプは「ただの気候だ」と言ってパリ協定から離脱した。しかし、バイデンはパリ協定に復帰し、「グリーン・ニューディールを進める」と表明している。また、2050年までに温暖化ガス排出量をゼロにする、電気自動車(EV)普及のために充電ユニットを50万カ所新設するなど、怒れる環境少女ことグレタ・トゥーンベリさんもニッコリの政策に数兆ドルを投じて「雇用を作る」と述べている。 となれば、日本も乗り出さざるをえない。莫大(ばくだい)な出費を覚悟する必要がある。米民主党大会で副大統領候補に指名され、演説するハリス上院議員=東部デラウェア州=2020年8月19日(ロイター=共同) 安倍政権は、トランプが甘かったのをいいことに環境対策に本気で取り組まず、原発再稼働、原発輸出、化石燃料発電を進めた。しかし、この政策は完全に失敗し、東芝はガタガタに、日立は英国で3千億円も失った。このツケは大きい。実体経済はどん底 環境問題、地球温暖化問題は、いまや一種の宗教となった。「環境に優しい(エコ・フレンドリー)」は誰もが反対できない絶対的な教義だ。それなのに、日本は昨年、世界の環境団体がつくる気候行動ネットワークから、地球温暖化対策に消極的な国に贈られる化石賞に2回も選ばれている。小泉進次郎環境相の「セクシー発言」で乗り越えられるような問題ではない。 そして、最後の大問題は、コロナ禍でさらに膨らんでしまった国の借金だ。国際通貨基金(IMF)は10月14日、財政報告書をまとめ、各国の債務拡大を警告した。コロナ禍で各国が9月までに行った財政刺激策の総額は、11兆7千億ドル(約1200兆円)あまり。2020年の世界全体の政府債務残高は、世界の対国内総生産(GDP)比で前年から15ポイント増の98・7%で、過去最悪になった。 国別の債務残高は、米国が前年比で22ポイント増の131%、ユーロ圏が17ポイント増えて101%、日本は、身の程知らずとも言える200兆円を超える額を計上したため、なんと30ポイント近く増えて266%と、世界でダントツの借金大国になった。これをどうやって解消していくのか。 日本銀行は今も異次元緩和を続け、国債のほか、上場投資信託(ETF)から不動産投資信託(J-REIT)まで買い、円は際限なく刷り続けられている。これで株価が維持されているが、実体経済はコロナ禍でどん底だ。 さらに、5頭のクジラと称される日銀、共済年金、ゆうちょ銀行、かんぽ生命、年金積立金管理運用独立行政法人 (GPIF)も大量に株を買っている。つまり、完全なコロナバブルが起こっていて、このバブルは緩和を止めたとたんに崩壊する。  ただし、バブルは米国も同じだ。連邦準備制度理事会(FRB)は史上ありえない規模で緩和を行っている。 リーマン・ショック時に初めて買った不動産担保証券(MBS)ばかりか、Private ABS(クレジットカード、学生ローンやカーローンの証券)、High Yield Bond(高利回りの債券に投資する投資信託)、投資不適格となったFallen Angel(堕天使債)まで買っている。そのため、ドルはどんどん刷られている。 9月16日、FRBは連邦公開市場委員会(FOMC)を開き、少なくとも2023年末まで物価上昇率が2%に到達しなければ利上げをしないと表明した。 FRBの方針はバイデンが大統領になっても変わらないだろう。バラマキを得意とするリベラルだけに、緩和は維持される。 しかし、その先は分からない。ドルは基軸通貨だから、いくら刷ってもいいが、円はそうはいかない。財政破綻と制御不能のインフレが視野に入ってくる。ホワイトハウスで共和党大統領候補指名の受諾演説をするトランプ米大統領と集まった支持者ら=2020年8月27日、ワシントン(ゲッティ=共同) 結局、米大統領になるのがトランプだろうとバイデンだろうと、日米関係は大きく変わらない。米国の要求をかわすために、その場しのぎの場当たり的政策が繰り返される。米国の矛先を徹底的に中国に向けさせ、日本はスルーしてもらう。そのぐらいしかできそうもない。気概もビジョンもない政権が続けば、日本は限りなく衰退するだけだろう。(文中一部敬称略)

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    「経済」か「コロナ」か、大統領選で米国人を悩ます究極の二者択一

    今村浩(早稲田大社会科学総合学術院教授) 去る10月2日に公表されたドナルド・トランプ米大統領の新型コロナウイルスへの感染は、合衆国大統領職にある者の健康状態と職務遂行能力という問題を浮き彫りにした。現在トランプ氏は、本人の言うような免疫獲得の有無はともかくとして、大規模選挙集会を再開できるほどには健康を回復しているようである。 しかし、今回の騒ぎは、伝染病以外にもさまざまの理由で大統領が執務不能に陥る可能性自体は常に存在するのだということを、改めて思い出させてくれた。この問題について、法規定や過去の事例を探ると共に、いよいよ大詰めの選挙情勢に少し触れたい。 まず念頭におくべきは、公選公職が任期満了を待って一斉に改選されることが原則である米国では、補欠選挙は例外的であり、任期途中に公選職が欠けた場合、何らかの補充で残りの任期をつなぐことが通例だ。合衆国大統領が執務不能になった場合については、当初の合衆国憲法には基本的に副大統領の昇格以外には特に定めがなかった。大統領だけでなく副大統領も欠けた際の措置は、当初特にとられないまま140年以上が経過した後、修正第20条、第25条において、さまざまの場合についての規定が追加されている。 また、法律のレベルでは、1792年、1886年、1947年に大統領職務継承順位を定めている。最初の1792年法では正副大統領が共に欠けた場合の補欠選挙も規定されていたものの、一度も実施されずに終わった。現在は正副大統領には補欠選挙の制度は存在しない。かなり煩雑にわたる経緯を省いて、現在の憲法上の制度を整理すると以下のようになる。 副大統領が健在のときについては、以下の通りだ。・大統領が死亡、辞任、弾劾裁判で罷免の場合、副大統領が、単なる職務代行ではなく正式の大統領に就任する。・副大統領が一度昇格して大統領に就任した後は辞任した大統領が復職することはできない。・大統領に意識があり、執務不能と大統領本人が判断すれば、権限を副大統領に委譲し、回復すれば復帰する。・大統領が意識不明か、執務不能と周囲が見ているのに大統領本人がそれを認めようとしない場合、副大統領が閣僚の過半数の賛同を得て、下院議長と上院仮議長に大統領が執務不能であると通告した上で大統領職務執行者となる。 次に副大統領が欠けた状態の場合はどうだろうか。・大統領が健在であれば、連邦議会の同意を得て、副大統領を指名し補充できる(現在までに2例)。 ただ、これについては憲法修正第25条が1965年に提案され、その後に成立するまでは空席となった副大統領を補充する方法はなく、副大統領が死亡したり大統領に昇格した場合、次の大統領選挙まで空席のままであった。最後に、正副大統領ともに不在か執務不能のときの手続きを見てみよう。・1947年の大統領職務継承法が定めた職務代行順位に従い、職務代行者が置かれる。なお現在の継承順位は、下院議長、上院仮議長(通常は上院多数党の最古参議員)、国務長官以下順に財務、国防、司法、内務、農務、商務、労働、保健、住宅都市開発、運輸、エネルギー、教育、退役軍人、国土安全保障の各省長官。退院後、ホワイトハウスに戻ってマスクを取るトランプ米大統領=2020年10月5日、ワシントン(UPI=共同) 法律上の手続きを確認したところで、過去の事例について見ていくことにしよう。憲法修正第25条が成立するまで、大統領が執務不能の場合の継承については、合衆国憲法には詳細な規定がなかった。権限移譲された大統領 1881年7月2日、ジェームズ・ガーフィールド大統領が銃撃を受け重体となった。しかし、当時のチェスター・アーサー副大統領は「大統領が現に執務不能であっても、回復の可能性があるときには大統領代理に就任すべきではない」として、しばらく待機した。 結局9月19日にガーフィールド大統領は死去し、そこでようやくアーサー副大統領が昇格した。そのためこの事例では、79日間にわたって大統領が生きてはいても職務を執行することが事実上できなかったことになる。 さらに深刻であったのは、ウッドロウ・ウィルソン大統領の場合だ。1919年10月2日に脳梗塞で倒れた彼は、半身不随で言葉も発することができなくなった。つまり執務不能となったにもかかわらず、主治医と夫人はこの事実を秘匿し、以後ウィルソン大統領が回復するまで、何と主にイーディス夫人が政務をとったという。 トーマス・マーシャル副大統領はこの事実を知りながら、積極的に動こうとはしなかった。そもそも、ウィルソン大統領との関係は良好ではなく、職務権限の代行を買って出ることはしなかった。 それは当時の憲法が詳細な職務継承規定を欠いており、また依拠すべき前例もなかったことによると思われる。ただ、決定的な理由としては、その時代に核ミサイルというものが存在せず、大統領が核攻撃の命令を下せない状態が米国、ひいては世界の破滅につながりかねないというわけではなかったからであろう。 近年大統領権限が副大統領に委譲された事例は、実は3つある。1つは85年にロナルド・レーガン大統領が、がんの手術のため入院した際、ジョージ・H・W・ブッシュ副大統領(後の大統領)に権限を委譲した。 残りの2つは2002年と07年にジョージ・W・ブッシュ大統領(前出ブッシュの子)が定期健診の一環として大腸内視鏡検査を受けた際に、ディック・チェイニー副大統領に権限を委譲した。 実は憲法修正第25条は、執務不能とはいかなる状態かについて規定していない。恐らく、将来の医学の進歩によって変わり得ると考えたからであろう。ちなみに短期間の委譲の目安の一つは、麻酔をかけられるかどうかであるようだ。初の日米首脳会談に臨む中曽根康弘首相(右)とロナルド・レーガン米大統領=1983年1月、米ワシントンのホワイトハウス(共同) 上記の例では、いずれも麻酔による鎮静措置がとられた。一方レーガン大統領が81年3月30日の暗殺未遂事件で負傷し、手術を受けた際には委譲措置はとられなかった。本人の意識が明晰(めいせき)であり、かつ全身麻酔が行われなかったからであると思われる。 今回、意識もはっきりしていたトランプ氏が、入院中も権限委譲を行わなかったことは上記の前例に沿うものではあった。ただし、新型コロナの特徴とされる「急激な重症化」に対して備えておくべきではなかったかと論ずることはできよう。あるいはむしろ、トランプ氏が入院している間はマイク・ペンス副大統領が外出を控えてホワイトハウスに待機し、大統領の容体急変に備えるべきであったと指摘することもできる。訴えるべきシンボル トランプ氏が重症化し、ペンス氏も感染して重症化するか厳重隔離を余儀なくされることになれば、合衆国史上一度も行われたことのない、下院議長による職務代行ということが起こり得たかもしれない。もしそうなれば、実は米国は大混乱必至だったりする。合衆国憲法は立法・行政・司法の三部門にまたがって地位を占めることを、以下の2例を除いて禁じている。・副大統領が上院議長でもあること。・上院が大統領の弾劾裁判を行う際、議長は副大統領ではなく最高裁長官が務めるとされること。 大統領代行とは行政官であるから、下院議長(下院議員)や上院仮議長(上院議員)がなることはできないはずである。つまり、大統領職務継承法自体が違憲であるとの議論が、十分な根拠を帯びてしまう。これは米国の政治制度に埋め込まれた、一種の「地雷」なのだ。それなら違憲の疑いを回避するために、下院議長や上院仮議長が議員を辞職すればよいのではないかと思われるかもしれない。 しかし、そうなると今度は、そもそも大統領職務継承法に定められた継承資格自体を当人が喪失することになってしまう。こうした事態を避けるには下院議長と上院仮議長が代行就任を辞退し、国務長官以下の閣僚にバトンを渡すしかあるまい。 ただ、現国務長官であるマイク・ポンペオ氏が大統領代行とは、いかにも軽量級という気もする。そのため結局は、大統領と副大統領には、健康でいてもらうのが一番なのだという、当たり前すぎる結論に至ってしまう。 顧みれば、16年の大統領選でトランプ氏に勝利をもたらした一つの要因は、彼が当時の米国人の少なからぬ層が抱いていた閉塞(へいそく)感を理解し、それを打開すると一貫して訴え続けたことにある。そしてその訴求力において、閉塞感への打開というシンボルが、トランプ氏を大統領として後押しする力もあったといえよう。 不法移民の流入、米国人の職を奪う「不公正な」貿易協定、だらだらと続く戦争は多くの米国人に「自分たちは割を食っている」という感情を抱かせていた。トランプ氏はそれらの是正を繰り返し訴え、しかも視覚に訴える表現を用いた。 そして欠かせぬ小道具としては、例の「マガ・キャップ(MAGA cap)」がある。Make America Great Againの標語の入った、あの赤い帽子だ。しかし、トランプ氏は今回の選挙では前回のように明快な政策課題を示し、なぜ自分がもう4年、大統領であらねばならないのかを、未だうまく説明できていない。米西部ネバダ州での支持者集会で演説するトランプ大統領=2020年2月21日(黒瀬悦成撮影) 一方、バイデン氏は民主党予備選初期において、当初本命視された割に目立つ存在ではなかった。もうはるか昔のことのように思われるが、バーニー・サンダース氏やエリザベス・ウォーレン氏は格差の是正を熱く語り、民主党の左傾化を促していた。こうしたリベラル左派の主張は米国民の融和よりも、トランプ氏とその支持者との対決に重点があったように思う。また他の中道と見なし得る候補者たちも、ピート・ブティジェッジ氏のような若くユニークな経歴の人材がそろっていた。バイデン氏は個性豊かな候補者の中に埋没しがちであった。 だが、バイデン氏は、出馬以来一貫して「米国の分断を修復し、人々を結束させる」という訴えを続けてきた。それは米国が人種差別暴動に揺れた今年の夏よりも、はるか以前からであることを忘れてはならない。またバイデン氏自身なのか彼の陣営の誰かなのかは分からないものの、新型コロナウイルスの流行を深刻な問題であると捉え、そう訴え続けてもいる。苦境のトランプ氏 米国民のバイデン氏に対する最大の支持理由は、かつては「彼がトランプ氏ではないから」というものであり、あるいは今でもそうかもしれない。しかし、バイデン氏は、現在ではもう少し積極的な支持理由を与えることに成功しているようだ。つまり、米国民を結束させ、新型コロナウイルスの流行を重大な問題として真剣に対処する点で、トランプ氏とは異なる候補者であるということだ。 その象徴は、バイデン氏が着用している「マスク」かもしれない。そうした意図があるかどうかは別としてこのマスクは、4年前のマガ・キャップに相当する役割を果たしているように見える。 一方でトランプ氏は、最近ようやく簡潔なメッセージを伝えることに集中し始めた。それは「法と秩序」である。これがどの程度米国人の心に響くかどうかは分からない。 経済運営の評価だけは、トランプ氏がバイデン氏をリードしている。実際、国際通貨基金(IMF)の予想によれば、今年の国内総生産(GDP)はマイナス4・3%であり、英独仏伊カナダ、そして日本よりは落ち込みが小さい。このことから、米国人は嫌でもバイデン氏の「米国民の結束とコロナ対策」もしくはトランプ氏の「法と秩序と経済」というパッケージのどちらかを選ぶことになる。 米国での各種の世論調査を見る限り、基本的にはバイデン氏優位、それも相当の優位とは言える。ただ、世論調査を持ち出すと「そんなもの、あてになるのか」とも思われそうである。ただ4年前に世論調査が大はずれしたように言われてはいるものの、実は全国レベルの結果は外れてはいなかったのだ。 制度として米大統領選は、全米の投票数を集計して決まるものではなく、州別の集計で各州に割り当てられた選挙人の数を競う。いくつかの州で、実に僅差でトランプ氏が競り勝ったことが、トランプ氏の「大番狂わせ」を生んだのだ。今回も州別に見ると、結果が予想しにくい激戦州はアイオワ、フロリダ、ノースカロライナ、ジョージアの4州である。 このうちアイオワ以外の一つでもトランプ氏が落とせば再選はおぼつかない。つまり逆に言えば、これらの州をたとえ一票差であってもトランプ氏が制すれば、奇跡の逆転(もうそう呼ぶしかないところまで来ている)も、まったくあり得ないことではない。 フロリダ州についてはトランプ氏が期待しているのはヒスパニック(南米系米国人)票、わけてもベネズエラ系の票である。なぜならヒスパニック系は全体としては民主党に傾いてはいるものの、黒人ほど圧倒的ではなく、共和党が浸透する余地はある。 ヒスパニック系の世論調査会社である『ラティーノ・ディシジョンズ』の9月調査によれば、全米のヒスパニック系の66%がバイデン支持、24%がトランプ支持であり、テキサス、アリゾナでもほぼ同様である。ところがフロリダでは、その差は、52%対36%と縮まる。とりわけベネズエラ系はここ数年で数を増し、登録有権者数で10年前より3倍に増えた。米ナッシュビルで討論会に参加するトランプ大統領(左)とバイデン前副大統領=2020年10月22日(ロイター=共同) 数はわずかでも、接戦においては無視できない。そして彼らはベネズエラの左派政権の失政と迫害から逃れてきた人々である。トランプ氏がバイデン氏を社会主義と結びつけようとしているのも、民主党の下では米国はベネズエラのようになると宣伝するのも、一つにはベネズエラ系へ訴えていると思われる。 先月ポンペオ国務長官が南米歴訪でベネズエラ包囲網の強化を訴え、トランプ氏がキューバ産ラム酒と葉巻の輸入規制を発表したのも、その理由の一つにはフロリダのキューバ系、ベネズエラ系の票を意識してのことであろう。コロナか経済か 一方、トランプ氏にとって不吉なのは、前回のトランプ氏当選の原動力の一つであった65歳以上の高齢者層で支持が減退していることだ。上述の激戦4州の中で選挙人の数が29人と最も多いフロリダは、全米ではメインに次いで高齢者人口比率が高い州なため、この部分がネックだ。 そんな中、LAタイムズ紙が伝えるところでは、トランプ陣営はアイオワ、ニュー・ハンプシャー、オハイオでテレビやラジオコマーシャル放送を打ち切ったという。 ではトランプ氏がこれらの州を諦めたのかというと、彼は退院後に再開した選挙運動での遊説でフロリダ、ペンシルベニアに続いてアイオワ入りしているのでそうとも言えない。 それならば資金事情ゆえの打ち切りも考えられる。実はトランプ陣営は、バイデン陣営に比べて資金面では劣勢なのだ。バイデン陣営は先頃、9月中だけで3億8300万ドルを集めたと発表した。これは大統領選における、月間集金額の記録を塗り替える巨額なものだった。 またトランプ氏は、自分ではどうすることもできない人口構成の変化に直面している。16~20年にトランプ氏の支持基盤である、大卒未満の白人が有権者人口に占める割合が45%→41%、大卒以上の白人が24%→26%、ヒスパニックが12%→14%となっている。 白人で大卒以上の学歴層とヒスパニックは、民主党支持に傾斜している。4年前は大卒未満の白人、大卒以上の白人そしてヒスパニックの合計では45%対36%で白人大卒未満が10ポイント近く優位であった。 しかし、それが今年は41対40と、ほぼ互角となっている。これはトランプ氏にとって朗報とは言えない。それでもトランプ氏は、大卒未満白人層に訴える選挙運動に注力しているように見える。それはこの層が、大卒以上の学歴層に比べて投票率が低いからではないか。つまり、まだ「のびしろ」があると考えれば、これはこれで理にかなってはいる。 一方、トランプ氏にも朗報がないわけではない。「4年前よりも、今の方が暮らし向きがよい」と回答した米国人が56%もいるという調査結果が今月7日、米世論研究所のギャラップ社から発表された。 新型コロナによる経済の冷え込みを考えると、どこか現実離れしているようにも感じられるが、これは好調な株式市場によるものかもしれない。トランプ政権下でダウ平均株価は、1万9800ドルから2万8500ドルへと44%余り上昇した。これで得をしたのは資産家だけではない。日本と異なり、米国では株価上昇の恩恵は、現物株を大量に保有している一部の資産家だけではなく「401K」と呼ばれる、株価に連動する確定拠出年金を運用している中産層にも及ぶ。以前の活気にはほど遠い米ニューヨークの観光名所タイムズスクエア=2020年9月23日(共同) その数は約6800万人にのぼるとされ、この4年間で25~34歳で職歴4年以内の401K運用者の平均残高は2・76倍となり、55~64歳で職歴20~29年の熟年層でもおよそ5割増というデータもある。 ギャラップ社の報道はトランプ氏にとっては、確かに朗報ではある。しかし、結局は有権者が投票にあたって「経済」か「コロナ」のいずれを重く見るかにかかっている。クライマックスに向かっている大統領選ではあるものの、まだまだ何が起こるか分からない。

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    「トランプ劣勢」でも私の再選予想を後押しするアメリカ社会の本音

    吉川圭一(グローバル・イッシューズ総合研究所代表) 今、米国で、かつて民主党大統領候補の支持母体として存在した「ニューディール連合」に代わる「トランプ連合」が生まれつつある。それはグローバル化を推進してきた民主党や財界とは違い、米国を真に愛する米国人による連合だ。 グローバル化は米国を経済格差の大きい社会をつくり出した。2016年の大統領選で民主党候補だったヒラリー氏が勝利した地区の地域総生産(GRP)が、トランプ氏が勝った地区の1・8倍だったことがそれを象徴している。 経済格差への対処だけではない。グローバル化による移民の増加も受け入れたため、民主党は、米国籍でありながら「米国が嫌いだ!」という人々が、18年の中間選挙以降、特に多く集まるようになってしまった。 こうした人々が主張する医療や環境などに関する政策は米国を財政的に破壊させかねない。彼らの思想の背景に日本で言う「自虐史観」がある。米国にも日教組ならぬ、いわゆる「米教組」があり、やはり米国の人種差別の歴史や格差問題を過度に強調する自虐史観教育を行っている。米国が好きな若者は14%しかいないと言う報告もある。これでは「反米米国人」で、日教組教育によって「反日日本人」が増えたとされるのと同じだ。 「反米米国人」と「反日日本人」が協力して、よりよい世界を形成することは不可能であろう。日本を愛する日本人と、米国を愛する米国人が協力してこそ、よりよい世界を形成できる。 米国に愛国心を持つ者は、どれほど相反する立場の人々でも協力し合って、よりよい米国をつくって行く。これがトランプ連合である。 ところで、トランプ氏のコロナ感染後、最初の世論調査で、再選可能性が急上昇している。ゾグビーの調査では10月初旬の支持率は、トランプ氏が47%、バイデン氏が49%。これは差が最小になりトランプ氏の支持率が4年前と比べ1ポイント増したことを意味する。 7月8日の調査では、バイデン氏はトランプ氏を7ポイント、8月29日発表の世論調査では、バイデン氏は6ポイントのリードを持っていたので激戦になっているのが分かる。 さらに10月22日に発表されたラスムッセン・レポートによると、トランプ氏の支持率は52%に上昇し10月14日に実施された同じ調査と比較して5ポイントの上昇。オバマ前大統領は、2012年10月22日の調査の際、支持率50%で再選された。また、保守系シンクタンクの民主主義研究所の世論調査でも10月初旬に、トランプ氏がバイデン氏の45%に対して46%と上回っている。ホワイトハウスで共和党大統領候補指名の受諾演説をするトランプ米大統領と集まった支持者ら=2020年8月27日、ワシントン(ゲッティ=共同) 他の世論調査ではバイデン氏が先行しているが、2016年に行われた英国のEU離脱の国民投票とトランプ氏勝利を正しく予測した民主主義研究所は、登録有権者全員ではなく「投票の可能性が高い」人々のみを対象にしている(ゾクビーやラスムッセン・リポートも同様と思われる)。 そしていわゆる「隠れトランプ」についても調査しており、トランプ氏支持者の77%が友人や家族にさえ真意を明らかにしていないという。カギを握るヒスパニック これらの調査結果として分かるのは、バイデン氏はヒスパニック(ラテン系米国人)で61%対34%、黒人で87%対11%と大幅リードだが、「ヒスパニック系で彼は66%以上の支持が必要。黒人も特に主要な激戦州で90%に達する必要がある」とされており、これによって、選挙人団(総数538)はトランプ氏が320、バイデン氏が218に分割されると予測する。 実際、バイデン氏はヒラリー氏よりヒスパニックに支持されていない。9月中旬にNBCなどが行った調査では、フロリダではヒラリー氏はトランプ氏に27ポイントも差をつけたのに、バイデンは4ポイントも負けている。 フロリダの住民の4分の1がヒスパニックであり、しかも大部分がキューバのような独裁政権から逃れた人々だ。オバマ政権のキューバとの国交などの「社会主義的側面」をバイデン氏と結び付けたトランプ氏陣営の宣伝がうまくいっているようだ。 ヒスパニックを白人以外のマイノリティと考える傾向があるが、多くのヒスパニックがプロテスタントまたは福音派のクリスチャンである。米国に何世代も住んでいると、同化傾向が高くなり、共和党に傾倒する白人のように投票する。 そうするとヒスパニック系有権者の中も、トランプ政権の宗教や経済政策に引き寄せられる。最近の調査では、ほとんどの米国の有権者と同様に、ヒスパニックは経済を選挙の第1の問題として評価している。    そもそも、新型コロナのパンデミックが発生する前は、ヒスパニック系の失業率は低く、世帯収入は以前よりも高かった。トランプ氏は移民対策と経済振興の両方に力を入れ景気回復の結果ヒスパニックの有権者の中で41%も支持されており、そのため一部の調査ではバイデン氏より支持率が高い。 次に黒人問題である。元々トランプ氏は7月のラスムッセン・リポートの調査で、黒人の21%がトランプ氏の再選を支持していると報告するなど、共和党大統領にしては黒人から高い支持を得ていた。 また、9月25日に白人至上主義団体であるクー・クラックス・クラン(KKK)もテロ組織として指定し、黒人コミュニティへの投資を5千億ドル近く増やす第2期の議題を提案。黒人のために300万人の雇用を創出した。それに加え、非暴力犯にもかかわらず、過度に長い懲役刑に奉仕する人のため「全国的な恩赦プロジェクト」を前進させた。 これらは既に一定の成果を挙げており、それがトランプ氏の共和党大統領として異例ともいえるほど高い黒人支持の理由だ。 さらに、より深い問題がある。米国の黒人の1、2割が、南北戦争以前の奴隷の子孫ではなく、60年代以降に移民として来た人々だ。その人々の多くは、努力して働いて子供たちを就学させた。カレッジ程度の学歴がある黒人は、今年の黒人差別への抗議デモも平和的に行っていた。こうした人々の中には、仲間の黒人の暴力的行動を抑止した人も少なくない。黒人男性暴行死事件を巡り、抗議するデモの参加者=2020年6月、ワシントン(ゲッティ=共同) こうした生活レベルの向上や、あるいは黒人は白人以上に宗教熱心なため、共和党を支持する可能性が高まってきている。このように米国における黒人問題は非常に複雑化している。ヒスパニックも前述したが、同様である。LGBT票も集めるトランプ氏 それにしても1964年以来、民主党の大統領候補が得た票に占める白人の割合は必ず半数以下で、これでバイデン氏のヒスパニックや黒人の支持が上述のような状況では、トランプ氏有利が実態というのも理解できる。 そこで選挙戦終盤になってオバマ氏が選挙応援を始めたのだろうが、これでは党の利権を守るために本当は支持していないバイデン氏の応援をしているのが見え透いている。どれくらい効果があるか分からない。 次は宗教の観点から見てみよう。カトリック教徒と白人福音派の大多数は、依然としてトランプ氏と共和党を支持する傾向だが、9月23日の調査では、トランプ氏のコロナ対応を評価せず、トランプ氏はカトリック教徒全体でバイデン氏に12ポイントも下回っている。  だが、バイデン氏は自らがカトリック教徒であることを強調するものの、人工妊娠中絶に寛容すぎる面がある。トランプ氏は4年前、カトリック票の過半数を制し、福音派の80%の支持を得た。その理由の一つは人工妊娠中絶の反対政策だった。そう考えると人工妊娠中絶反対派のバレット氏を最高裁に任命しようとしているのもカトリック票対策の意味もあると思われる。 また、4月の調査ではトランプ氏が福音派の78%の支持を得ていたが、6月には72%まで下落した。だが、トランプ氏は共和党大統領としては性的少数者(LGBT)差別反対の立場に近く、重要な地位に何人もLGBTを任命したので、LGBTの支持も集めつつある。 1970年代以降、福音派が共和党を支配し、彼らの基本的権利に積極的に反対したとしても、LGBTは大統領選で投票の4分の1が共和党だった。 中上流階級の白人男性が多いLGBTの共和党員が忠実であり続けた理由は、減税、規制緩和、強力な国防などの共和党の公約への支持だった。このように彼らは実は経済と国防の強化を求める愛国的な人々だったのだ。※画像はイメージ(ゲッティイメージズ) だが、白人福音派は共産主義に対する長年の恐れに代わる、新たな敵を同性愛者とした。とはいえ、米中枢同時テロ(9・11)以降は福音派も、不法移民とイスラム教徒に敵意を向けるようになった。 実際、2016年の大統領選で、トランプ氏はLGBTの14%を獲得。さらに、LGBTの差別防止に取り組む非政府組織のGLAAD(グラード)の最近の世論調査は、LGBTの有権者の支持率は17%としている。もっと多い数字を示唆する調査結果もある。 このようにトランプ氏は、愛国心中心に、福音派だけでなく、LGBTにも一定の支持を受けている。それと同じだが、ヒスパニックや黒人の支持も求めつつ白人の支持も離さないようにしているのだ。 トランプ氏の最も強い支持者は、労働者階級の白人有権者で、彼らの仕事を海外に流出させ、賃金と年金を削減する政策を進める人々への怒りも取り込んでいる。懸念される「第二の内戦」 米国は「額に汗して働く者は報われる」というピューリタンの共同体である。日本も戦国時代以来、同じ価値観を持ってきた。このような価値観の復活を望む愛国者=反「反米米国人」の連合が、トランプ連合なのだ。 今後、トランプ政権の恵まれない地域への税制優遇措置によって、推定750億ドルが民間投資に回り、100万人が貧困から救われる可能性がある。 トランプ氏の目的が白人労働者階級の生活向上であることは言うまでもない。ただ、前述のように黒人やヒスパニックに対しても同様で、白人労働者階級の支持が4年前に比べて1割ほど減少しているが、その分を後者で補えるのではないかと思われる。 こうした低所得者向けのトランプ氏の経済政策は、共和党と財界との関係を悪化させ、全米商工会議所が民主党の支持を増やし、彼の任期を超える再編成の可能性さえ示唆している。グローバル化を推進する財界と「反米米国人」中心の今の米国民主党ならよい組み合わせかもしれない。 だが、「反米米国人」の逆襲があるかもしれない。コロナ禍で今年は郵送投票を中心にしようと言う話が出て以降、トランプ氏や共和党が反対しているのは、米国では有権者名簿の管理が杜撰で、不法移民も既に亡くなった人も載っていることがある。こうした人の名前を騙った偽投票をされることを、彼らは心配しているからだ。 実際、10月初旬の段階で「既に投票した、または郵送で投票する予定」の有権者の中で、バイデン氏は25ポイントリード。逆に直接投票するつもりの人の中で、トランプ氏は19ポイントリードしている。 ゾグビーは、この数字が維持されればトランプ氏が勝利しても、全郵送投票がカウントされれば負けると予測している。  それもあってか英国の調査会社ユーガブ(YouGov)が9月に発表した報告によると、共和党支持者の44%と民主党支持者の41%が、大統領選の結果が意に沿わなかった場合、暴力の正当化があると回答したという。  選挙戦の後「第二の内戦」になるのか、それとも「トランプ連合」の成立で落ち着くのか。それは、およそ1週間後の結果次第だろう。 もちろん結果は日本にとっても重要だ。第2期トランプ政権になっても中国への強硬姿勢が変わるとは思えないだけに、在日米軍の大幅な撤退などはないはずだ。米ナッシュビルで討論会に参加するトランプ大統領(左)とバイデン前副大統領=2020年10月22日(ロイター=共同) だが、バイデン氏が勝利すれば「反米米国人」政権であり、先に記したように、日本を愛する日本人と協力関係が築けるとは思えない。当然だが、米大統領選の結果は日本の命運を握っているといっても過言ではない。 

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    「本命」なきアメリカ大統領選の行方

    アメリカ大統領選は最終盤を迎え、混戦の様相を見せている。特に今回は「トランプvs反トランプ」とされる中、民主党候補のバイデン氏優勢報道が目立つものの、多くの米国民の本音は「両者とも望まない」ではないだろうか。とはいえ事実上の二者択一の選挙戦。直前情勢から勝敗の行方を探る。

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    窮地のトランプ支持者「大統領のコロナ感染は陰謀」と主張

     混乱するアメリカ大統領選挙。トランプ大統領が新型コロナウイルスに感染したことで、選挙戦も厳しくなったかに見えるが、熱狂的なトランプ信者たちはそんなことは一切信じない。ジャーナリスト・横田増生氏が拾い上げた彼らの肉声を聞けば、米国の絶望的な“分断”が浮かび上がってくる。 共和党の新型コロナに関する姿勢を私が直接体験したのは、9月22日のこと。共和党全国委員会のロナ・マクダニエル委員長が、ミシガン州都のランシングにやってくるというので、州の共和党本部に見に行った。 トランプの支援者30人ほどが参加していたが、マスクをしている人はほとんどなく、ソーシャルディスタンスにも気を払っている様子もなかった。 しかし、地元のテレビ局が取材に来る直前、現場の担当者が支援者に向かって「テレビに映るときは、必ずマスクを着用してください」と言い渡した。ただし、マクダニエルは、マスクをすることなくテレビのインタビューに答え、支援者に向かって話しかけた。 そのマクダニエルが9月25日、ワシントンDCで開かれたトランプも参加した資金集めのイベントに参加。その後、新型コロナに感染したことがトランプの感染よりも前に発覚した。『ニューヨークタイムズ』紙は、トランプの感染経路の可能性の1つとしてマクダニエルの名前を挙げている。 ここで大切になるのは、共和党の支持者たちのトランプ観である。特にトランプが重要視する、郊外に住む白人たちがトランプをどう見ているのか、という点だ。ミシガン州の郊外の住人の声を集めた。 ゲイリー・メイヤー(80)は、新型コロナに罹ってもトランプ支持は揺らがない、と言う。「すぐに快復して、また選挙活動を再開し、バイデンを倒してもらわないといけない。バイデンになれば、税金が上がるし、電気料金も値上げになるからな」と言う。 ダナ・キャメロン(70)は、新型コロナの陰謀説を唱える。※写真はイメージです(ゲッティイメージズ)「大統領がコロナに罹ったのは、きっと陰謀なのよ。意図的にコロナをうつされたのよ。大統領がコロナに罹れば、一番得をするのは誰かを考えてみれば分かるわよね」 見逃せないのは、共和党員でもトランプに投票することを躊躇する人たちが少なくないことだ。 マーチン・フィリピッチ(65)は、上院議員と下院議員選挙では、共和党候補に投票するが、トランプに投票するかどうかは分からない、と言う。「大統領はツイッターをやめろ」「2016年にはトランプに入れたけれど、この4年間はどうだい。まずトランプはツイッターを、すぐにやめるべきだな。ツイッターに書き込まれる罵詈雑言には耐えがたいものがある。 それに、もっと側近の科学者や経済学者の声を聞いて、政策を練るべきだ。コロナでは行き当たりばったりを繰り返し、最後は自分自身がコロナに罹っているじゃないか。オレは共和党員だからバイデンに投票することはない。けれど、トランプに投票する確率は五分五分以下だな」 2016年の大統領選挙で、トランプはミシガンで約228万票を獲得。対するヒラリー・クリントンは約227万票を獲得。50州の中で最小僅差でトランプが勝利を収めた州である。 しかし、現時点での世論調査では、トランプがバイデンに8ポイントの差をつけられ、非常に厳しい立場に立たされている(FiveThirtyEight.comの10月12日時点の数字)。 しかし、仮にトランプが選挙に負けても、果たして、正常に政権交代が行なわれるのかが疑問視されている。まず、トランプ自身が、新型コロナ禍で増加する郵便投票に「不正が行なわれる可能性が高い」と言いがかりをつけて、選挙結果を受け止めるかどうかについて、態度を保留している。 第1回の討論会でも、司会者に「平和的に政権交代に応じると約束できるか」と訊かれ、トランプは「何が起きるか見なければならない」と回答するにとどめている。 さらに10月8日、白人至上主義の武装集団が、ミシガン州知事を拉致し、州政府の転覆を図ろうとしたとして13人が逮捕された。同州の司法長官は、「この事件は氷山の一角に過ぎない」と警告する。※写真はイメージです(ゲッティイメージズ) 実際、アメリカの複数のメディアが、トランプが11月の選挙で負ければ、同様の事件が起こる危険性を指摘している。『アトランティック』誌は最新号で「親トランプの軍事集団が、数千人の警察や兵士や元兵士を募集している」と題した記事で、選挙でトランプが負けることがあれば武装蜂起も辞さない集団について伝えている。 4年間かけてトランプが分断してきた国民の亀裂は、大統領選挙というアメリカの民主主義の根幹を担う制度の意味も打ち消す危険を孕んでいる。◆横田増生(ジャーナリスト・Support by Slow News)【プロフィール】よこた・ますお/1965年、福岡県生まれ。アイオワ大学ジャーナリズムスクールで修士号。1993年に帰国後、物流業界紙『輸送経済』の記者、編集長を務め、1999年フリーランスに。2020年、『潜入ルポ amazon帝国』(小社刊)で新潮ドキュメント賞受賞。他の著書に『仁義なき宅配』『ユニクロ潜入一年』など。■麻生太郎財務相が年700万円注ぎ込む高級クラブが閉店の怪■「トランプはステロイドでおかしくなった」の声が続々■「税逃れのトランプ」は学生時代から有名な嫌われ者だった■【動画】三浦春馬、死の1か月前に本名の名字を変えていた■佳子さま、紀子さまと深い溝 叱責受け「あらぬ言葉」で応戦

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    トランプvsバイデンの言葉遊びの陰で庶民は破産秒読み

    のメディア化が進むほどに、政策論争は遠のき、レトリックと相手をやり込めるテクニックばかりが発達する。アメリカ大統領選挙はまさにそんな様相を呈してきた。ニューヨーク在住ジャーナリスト・佐藤則男氏がリポートする。 * * * 10月15日夜(現地時間)、トランプ大統領とバイデン前副大統領が、それぞれ別々にタウンホール形式の討論会を開いた。もともとは第2回のテレビ討論会が予定されていた日だが、トランプ氏のコロナ感染により中止に。そのかわり、それぞれが別のテレビ局の中継で主張を戦わせたのである。 筆者は両中継を注目して見たが、あまり意味のある討論とは思わなかった。司会者と両候補の議論はあったが、どうせやるなら専門家を呼んで質問させるなど、もっと有意義な内容になるよう工夫すべきだったと感じた。 例えばコロナ問題では、トランプ氏は21万人もの死者が出ていることに対する責任を司会者から問われ、「自分がいなければ200万人が死んでいたはずで、その人たちの命を救ったのだ」と強弁した。一方のバイデン氏は、「トランプ大統領は(コロナを過小評価するコメントを出すことで)パニックを防ごうとしたというが、本当にパニックになっていたのは国民ではなく彼のほうだ」と論難した。いずれも無内容な言葉遊びにすぎない。 トランプ氏は現職大統領なのだから、コロナ対策に責任を負うのは当然である。彼は、2月はじめには国家安全保障担当補佐官から、これは大変な新型ウイルスであると警告を受けていながら何もしなかった。バイデン氏が指摘したように、それは「国民をパニックにさせないためだった」と後に述べたが、事実はおそらく違う。元国務省幹部のA氏は、「おそらく大統領は補佐官の警告を無視したのだろう。それほど重大だと考えなかったのだと思う。その誤解に気づいたときにはすでに遅く、パンデミックが始まっていた。その失態を覆い隠すため嘘を重ねる必要が生じ、そのせいで事態はさらに悪化していった」と推測した。 その通りであるなら、何万人という国民の命を奪った大失政である。本来なら、候補者同士の討論会であれタウンホール形式であれ、そうした本質的な問題に絞って徹底的に論じることが有権者にとって有意義なはずだ。47年間のニューヨーク生活で、4年に一度、大統領選挙を見てきた。今回の低レベルな討論を見て改めて気づくのは、大統領選挙では、もっと絞ったテーマで深い議論が必要だということだ。毎回、妊娠中絶や銃規制、最高裁判事の人選など、本質的ではあるが、いくら論じても結論や解決策が出てくるわけではないテーマばかりに多くの時間が割かれるのは国にとって良いことではない。共和党と民主党が争う限り、どの討論も似たり寄ったりの内容で、歩み寄ることはないのである。 さて、トランプ、バイデン両氏の直接対決はあと22日の1回だけだが、コロナ問題と並んで論じなければならないのが経済だ。アメリカ経済、特に庶民の生活はいよいよ限界に近づいている。ちょうど筆者が世話になってきた仕立て業者のボブから電話があり、「ついに来るべきときが来た。店を畳むことにした。仕立ての仕事は家で続けるから、必要があったら連絡してほしい」と言う。ボブの妻はがんを患い、治療を続けている。もちろん多くのカネがかかる。ボブの収入が減れば、妻の命も削られる。ヘアサロンを経営するジェニーも苦しい生活を嘆いていた。せっかく人気を得て繁盛し、営業を3店に広げていたが、それが仇になった。最近、無理して3店を再開したが、感染を恐れることと、客自体の懐が寂しくなったことで、閑古鳥が鳴いている。※写真はイメージです(ゲッティイメージズ) 庶民の経済が苦しくなれば、社会の治安も悪化する。なかには、ミシガン州知事を暗殺しようとしたグループのように、暴力や革命によって社会を変えようとする集団も出てくるだろう。コロナ対策、経済対策を正しく行うこと自体が法と秩序を守ることになる。政府が提案した1兆8000億ドル(約200兆円)の経済対策は、いつ国民の手に届くのか。共和党と民主党がワシントンの戦いを続ければ続けるほど、国民の間にはワシントン不要論が広がっていくことになる。■バイデン陣営「寄付くださいメール」大量送付の苦しい裏事情■トランプ「胎児の細胞」利用した新薬で保守派総スカンの危機■「トランプはステロイドでおかしくなった」の声が続々■首相任命拒否で注目の「学術会議」 研究者からも疑問の声■【動画】MEGA地震予測 異常変動全国マップ最新版!

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    「リバイアサン」トランプを生んだスティーブン・バノンの次なる野望

    者たちの公然のプラットホームにしたのが、バノンなのである。 バノンが主演するドキュメンタリー映画に『アメリカン・ダーマ(American Dharma)』というものがある。日本ではほとんど紹介されていないが、映画評論家の柳下毅一郎氏が唯一取り上げている。 この映画は、かつて映画プロデューサーであったバノンが数々の米国の名作映画とともに自身を語っていくというドキュメンタリーである。本作で彼の映画論とともに語られるエピソードの数々は、なかなかに興味深い。 そして、バノンが『レーガンの戦争』というドキュメンタリー映画を撮ったときのことだ。「西洋の自由は脆(もろ)く、西部劇のように悪と戦うことで守られる。そうして男は英雄になっていく」と、そのような思想の中でロナルド・レーガンを語る本作が映画祭で上映された際に、そこに現れたのがブライトバートだった。スティーブン・バノンが見いだしたもの 彼はバノンを見つけると、大きなクマのような体で抱きしめて映画を称賛したという。そしてバノンがゴールドマン・サックス出身の投資家でもあることを知ったブライトバートは、自分のサイトをビジネスにできないかと相談を持ちかけた。自宅の地下室で運営されていたブライトバートニュースは、そこからウェブメディアとして大きくなっていった。 しかし、その成功をブライトバートが喜ぶことはできなかった。彼はバノンとの協業を始めてすぐに心臓発作を起こし、亡くなってしまった。バノンはその後、ブライトバートニュースの最高責任者となる。 バノンは労働者階級のカトリックの家に生まれ、大学を出ると米海軍の士官を務めた。海軍に勤めながら大学院に通ったのだが、当時の海軍の同僚は、それは並大抵の努力でできることではないと証言している。 やがて海軍を離れ、ハーバード大のビジネススクールを卒業する。このときには既に30歳を過ぎていたというから、かなりの遅咲きの金融界入りだ。年齢がネックとなったもののゴールドマンサックスに入社し、メディア関係の投資業務で活躍した。 その後独立すると、香港でIGE社(インターネット・ゲーミング・エンターテインメント)を共同で運営する。これは『ワールド・オブ・ウォークラフト』という多人数参加ゲーム内の通貨を、売買するための市場を運営する会社だった。 香港の九龍の雑居ビルの一室にアルバイトを集めてゲーム内の武器を収集し、これを売買する。ウォールストリートの投資家は早いうちから仮想通貨のコンセプトを考えていたが、それがゲーム内で誕生したわけである。ゲームの中では総額100億ドルの取引が行われていたとバノンは証言する。 そして彼は、そこで一つ学んだことがあるという。それは架空のゲームの中でキャラクターになりきる人たちのことだ。ゲームの中ではそれぞれがコミュニケーションを行い、コミュニティーを作っていた。それぞれが知らない者同士が知り合い、本人とは違うキャラクターを作り出す。 そこにいるプレーヤーたちは、実際に生きている人間とは別のキャラクターとして現実社会よりも生き生きとしている。バノンのその学びは、ブライトバートニュースに生かされることになった。 人間には「現実に生きる存在」とは違う、「もう一人の人間の存在」がいることを、そしてそれこそが彼らが最も望んでいた自己像でもあったことをバノンは知ったのだ。 ブライトバートニュースのコアコンピタンス(他社にない自社の強み)は「ニュース」ではなく、「コメント欄」なのだとバノンは言う。「コメント欄」に人が集まり、コミュニティーを作る。そこから何かが起き、もう一人の自分たちがコミュニティーで活動する。この過程を経ることで、ブライトバートニュースは政治的な力を持つようになった。そこでは抑圧されていた「米国の無意識」が解放された。 しかし、バノンはそれを「無意識」とは表現せず、ジョン・フォードの映画を引き合いに出し、「デジタルの世界は『荒野の決闘』のような米国の理想郷を作り出した」と表現し、善と悪の戦いを通じて、人格を磨いていくということを訴えた。 「オルタナ右翼の本質とは、傷ついた男のイド(本能的衝動の源泉)と攻撃性がからみあって転がり続ける回転草だ」とはジョシュア・グリーンの言葉だ。彼は伝記『バノン悪魔の取引:トランプを大統領にした男の危険な野望』を書いたジャーナリストである。 そしてそのコミュニティーに飛び込んできた人物こそ、不動産王でリアリティーショーのホストで全米で人気を博したトランプだった。人々の持つ無意識が攻撃衝動とともに解放されたのが昨今のトランプ現象の本質であり、トランプのパワーの源泉はここにあるのだ。2016年2月1日 米大統領選 米アイオワ州で妻と共に支持を訴える共和党のドナルド・トランプ氏(ゲッティ=共同) リアリティーショーというのは、フィクションと現実の境界線にあることを売りにした独特な映像作品である。ゆえにそれが現実であってもいけないし、だからといって必ずしもウソではない。「これはウソである」というメタファー(暗喩)のメッセージがここには仕込まれている。ただ、そんな虚(うつ)ろさがかえって視聴者には「リアル」に見える。 トランプが虚構的な存在だということは、先日のニューヨークタイムズの記事でも分かる。記事によればトランプは、不動産王としてビジネスの成功者としてふるまっているが実際のビジネスは火の車であり、この十何年間で成功したのはリアリティー番組『アプレンティス』のロイヤルティーが最大のもので、あとは損失を生み出すばかりだった。 脱税のテクニックに至っては芸術の域までに高められ、所得税は15年間で10回払っておらず、直近の大統領になってからの納税額もわずか750ドル(約7万9千円)。これが真実ならば、日本の年収300万円程度の人たちが払う納税額と同等の金額だ。大統領選候補である民主党のジョー・バイデンは「学校の教師より税金を払っていない」とあげつらった。失脚してもなお戦う かつてウオーターゲート事件に関わったことがある元検察官のニック・アッカーマンは、米ニュースチャンネルCNNのインタビューで、「トランプが再選しなかった場合、脱税により懲役刑を受けることは疑問の余地はない」と述べた。トランプの娘であるイバンカもその可能性は高いそうだ。 けれども、トランプの支持者にとってはそれでいいのだ。トランプが本当に成功者であったなら、かえって彼らのコミュニティーで祭り上げる対象として居心地が悪いのである。 トランプがウソつきでどうしょうもない自己顕示欲の塊のような人物だからこそ、彼らにとって親近感がある。トランプは米国のネット社会にて奔流している無意識の中のアンチヒーローなのだ。 エスタブリッシュメント(既得権益層)に支配された現実に、トランプは虚構の世界から現れたアンチヒーローゆえ彼らは素直にトランプに魅力を感じる。「腐敗している? だからなんだ。不動産屋などそんなもんだろう」とバノンはほえる。いくらトランプが虚構と言っても、支持者にとっては無駄なのである。 しかし、そのカラクリを知っているバノンが今度はトランプに放擲(ほうてき)されてしまうのだから皮肉である。先に述べた『アメリカン・ダーマ』では、シェイクスピアの『ヘンリー4世』を原作とした1965年のコメディー映画『オーソン・ウェルズのフォルスタッフ』が引き合いに出されている。 この映画は、放蕩(ほうとう)の限りを尽くした強欲で狡猾(こうこつ)な悪漢フォルスタッフの物語だ。彼は共に悪事を尽くした王子ハルがヘンリー5世として即位すると、その後に追放、投獄されてしまう。 バノンも大統領としてトランプを生み出したところで、今度は穏健な外交政策を志向する娘婿と対立。そしてホワイトハウスの最高顧問の座から投げ出されてしまう。そればかりかインタビュー中にトランプの親族を批判したことからその逆鱗(げきりん)に触れ、トランプ支持者であるブライトバートニュースの大口出資者により社の最高責任者の地位を解任されてしまう。 だが、バノンはこんなことで消えていく人間ではない。困難に立ち向かうことは男の在り方で、それが「米国の生きる法」(アメリカンダルマ)だとする男だ。ちなみに「ダルマ」というのはサンスクリット語であり、仏教では「宇宙の法則」と「秩序」を意味する。そして人が生きる意味は、その「法」と「秩序」の中にあるとバノンは主張する。ただ、それは必ずしも主人公の幸福を意味しない。 バノンが『アメリカン・ダーマ』のインタビュー中で取り上げている映画は、そのようなストーリーばかりである。グレゴリー・ペッグ主演の『頭上の敵機』、ジョン・フォード監督作品でジョン・ウェイン主演の『荒野の決闘』や『リバティ・バランスを射った男』など、どれも困難な闘いにあくまでも力で闘う作品だ。その方法は荒っぽく、秩序を乱すことも厭(いと)わない。それぞれが自分たちの信じるもののためには、自分自身を自己犠牲にしながら最後には消えていく。その姿には、米国の根底にあるプラグマティズムの思想が垣間見える。東京都内で講演するスティーブン・バノン氏(岡田美月撮影) そしてバノンの人生はまだ終わっていない。彼が見いだしたのは、トランプに代わる人物だった。億万長者で自己顕示欲のエネルギーに満ちあふれ、そして舌先三寸のウソすらも個性の一つとなった男。詐欺師やウソつきだろうとかまわない、その人物こそ、郭だった。なお郭は「中国共産党は人権を無視し、人間性を損ない、民主主義を蹂躙し、法による政治に背を向け、公約違反、香港殺戮、チベット人虐殺、腐敗輸出、世界に危害を加えるといった非人道的な行為を行うという暴政を行っている」と主張している。 新中国連邦が設立宣言をした6月4日は中国で天安門事件の起きた日である。そして、その日発表された「新中国連邦宣言」をネット上で高らかに読み上げたのは、郝(かく)海東である。この名前に見覚えがあるサッカーファンもいるだろう。彼は元中国代表のフォワードで、代表キャップは115試合、得点は41点を記録し、アジアを代表するフォワード選手の一人だった。日本で言えば三浦知良や中田英寿と同じくらいの、中国随一の有名選手である。その人物がなぜか、郭の新中国連邦に参加しているのだ。 新型コロナウイルスは中国共産党のバイオテロであるという女性科学者や、元中国代表の世界的なサッカー選手、ウソかまことか定かならぬスキャンダル、日本のみならず世界中で行われた新中国連邦のデモ。そしてニューヨークの上空には、突然「新中国連邦成立おめでとう」という垂れ幕をつけた飛行機が飛びまわった。これら次々と繰り出す奇策を、私はなんと形容していいか分からない。太古からある反抗の病理 サバンナには、「ラーテル」というイタチ科の動物がいる。日本だとミツアナグマ、米国ではハニーバジャーと呼ばれるこの動物を、バノンはよく引き合いに出してくる。体長は60~70センチ程度で、見た目は愛嬌(あいきょう)があってかわいらしく見えなくもない。 だが、この小さな哺乳動物はサバンナ最強の動物と呼ばれている。狙った獲物は猛毒のコブラだろうとかまわず、食らいついたら離さない。皮膚は独特な弾力性があり、ライオンのような猛獣の牙にもダメージを受けない。危機になると、スカンクのように強烈な匂いを放出して、襲い掛かる獣を追い払う。 このタフな小さな猛獣こそが、バノンの生きざまだというわけだ。「どこかで爆発や火事が起きたら、近くにはスティーブンがマッチを手にして立っているかも」と、ブライトバートニュースで彼と共に働いたスタッフは言う。 オバマはアラブ人だとか、原爆の放射線は日本人の健康に寄与したという無根拠な主張、米国を操っているのはディープステートという組織で、その一員であるヒラリー・クリントンはワシントンのピザ屋の児童買春に関わっているといったデマの数々を、ブライトバートニュースは発信し続けてきた。 そして米国のネット匿名掲示板の差別主義者のアイドルに祭り上げられたマット・ヒュリーのキャラクター「カエルのペペ」が、なぜか香港では自由をめぐる闘いの象徴となり、ユダヤ人がつくったフレッドペリーのブランドは白人至上主義者の「プラウド・ボーイズ」の御用達ブランドになった。ブライトバートニュースは、そのような虚構と憎悪が暗黒の渦の中でぐるぐると回っている。 最近になりオンライン百科事典ウィキペディアの英語版は、英国のタブロイド紙デイリー・メールに続きブライトバートニュースを信用できないニュースソースとして情報掲載すること禁じた。 猛獣ラーテルの分泌液を吹きかけられると、臭いの強烈さに顔をそむけているしかない。それこそが、彼らにとってチャンスなのだ。ダークサイドには真実や事実は必要ない。「バノンにとって真実であること、正確であることは最優先事項ではなかった。事の真実より、物語の真実の方が彼にとって重要だった」と、ブライトバートニュースの元ライターは言う。 どうということはない。バノンが言う反エスタブリッシュメント革命とはそんなものだ。それはフィクショナルであるがゆえに、人間の本性に語りかける。 このような米国で起きている事態を「反知性主義」と言う人がいる。しかし、反知性とは知能的に劣っているとか、知性がないというような単純な話ではない。米国が建国の頃から持つ、エスタブリッシュメントへの反抗の病理なのだ。白人至上主義集会で衝突 米バージニア州シャーロッツビルで、ヘルメット姿の白人至上主義者ら(手前)と衝突する反対派(上塚真由撮影) バノンが郭のニュースサイトに深く関わっていることは一目瞭然だ。そこが提供する動画ニュースアプリ、といっても郭の中国共産党批判の演説がそのコンテンツの大半なのだが、G-TVのAPPストアのレビューを見ると、ほとんどが星5つである。どう考えても、アプリのクオリティーからすればヤラセのレビューである。 数少ない低評価のレビューを見ると「アプリ内のコインがお金と同じに使えると言われていたのに、絵文字以外に何も使い道がない」というクレームで、その次には「G-TVの未公開株や仮想通貨は詐欺だと訴えている。郭は国際金融詐欺師で、中国共産党批判は初めからお金を人からだまし取るための手段だ」と書いてある。 そしてこれ以外は星5つで、アプリへの絶賛評価と郭への感謝のレビューが延々と続く。G-TVのアプリの怪しげな課金システムや、国境の壁のクラウドファンディング詐欺事件も、どのようにバノンと関わっているのか、まだ分からない。 また、女性科学者のイェンが唱えた新型コロナウイルス陰謀論は公式ツイッターからフェイクニュースととがめられ、本人のアカウントは停止となった。これを郭らは中国政府の差し金だと主張するが、そんなことが本当にあり得るのだろうか。もっとも、彼らがこのようなファクトチェックに屈することはないだろう。 魑魅魍魎(ちみもうりょう)たちが跋扈(ばっこ)する、米国のネット世界で繰り広げられるアンチヒーローたちの闘いはまだ始まったばかりである。終わりのない彼らの闘いを、私はこれからも注視していこうと思っている。(文中一部敬称略)

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    トランプとの関係に懸念の菅外交、払拭の要は岸防衛相しかいない

    吉川圭一(グローバル・イッシューズ総合研究所代表) 菅義偉(すが・よしひで)政権が発足したが、米国のメディアを見ていると、その評価は分かれているようだ。ただ、菅首相と後ろ盾になった自民党の二階俊博幹事長を親中派ないしハト派と考える傾向は、どのメディアでも変わらない。 面白いことに安倍晋三前首相は巧みな外交で米国と中国の両方と良好な関係を築けたが、外交経験のない菅首相には難しく、ますます親米・反中にならざるを得ないのではないか、という意見もある。 だが、概ねは、菅政権は親中・ハト派政権であり、トランプ政権とはうまくいかないとの見方だ。ゆえに、むしろ11月の米大統領で民主党候補のバイデン前副大統領(親中派)が勝利した場合、協力しやすくなるという論調が大半を占める。 こうした評価になっている理由は、ワシントンでは安倍政権崩壊の一つの要因として、地上配備型迎撃システム「イージス・アショア計画」問題を挙げている点にある。計画が頓挫した後、高機能の巡航ミサイルを購入する計画をまとめられず、トランプ氏と安倍氏との関係が悪化したという説があるのだ。 また、菅氏と公明党との太いパイプは米国でも知られており、公明党の反対で高機能の巡航ミサイルが購入できなかったのであれば、新たな連立政権ができない限り、敵基地攻撃問題が解決しないとの懸念もワシントンで広がっている。 これらを踏まえれば、トランプ氏が再選した場合、菅内閣どころか日本の立場が、かなり苦しいものになりかねない。 一方で、米国の保守系メディアの一部が評価しているのは、岸信夫防衛相である。安倍氏の実弟として兄の志を継ぎ、巡航ミサイル導入や敵基地攻撃の法整備に力を入れるとの期待があるからだ。彼のよい意味でのタカ派的な思想は、ワシントンでもそれなりに知られている。栄誉礼を受けた後、巡閲する岸信夫防衛相(左から2人目)=2020年9月17日、東京・市谷本村町の防衛省(酒巻俊介撮影) それだけではない。ワシントンの保守派が岸氏に望むのは、台湾に近い人物であるということだ。8月には李登輝元総統の葬儀にも参列しており、その際も含めて蔡英文総統とも親交がある。ワシントン筋も安堵 そのため彼が防衛相に決まった際、台湾政府は実質的な祝賀コメントを出している。逆に北京政府は警戒の意思をあらわにした。岸氏の任命についての見解を尋ねられた中国の外務省スポークスマンは、日本が台湾との公式の関係を発展させないことを望んでいると述べた。 さらに、第5世代移動通信システム(5G)を巡る半導体禁輸などで、米中対立が激化する中、中国が半導体の宝庫である台湾に何らかの軍事的行動を起こす可能性も高まっており、米国の台湾防衛の重要度は増している。 それだけに、菅政権を親中派政権と警戒するワシントン筋も、岸氏の防衛相就任に、幾分か安心したようだ。 また、ワシントンと太いパイプを持ち、既に防衛相と外相の両方を歴任した河野太郎氏が官房長官ではなく、行革担当相となったことに、私も大きな不安を感じていた。 だが、「縦割り行政の打破」などの取り組みを鑑みれば、肥大化した内閣官房の力を分散させることで、スムーズに官僚を動かし、高機能の巡航ミサイル購入や敵基地攻撃の正当化を行えるようにするための人事との見方もできる。 内閣官房は縦割りの省庁の代表者が出向人事で数年いる場所であり、その機能を強化して縦割り行政を解消しようとしたこと自体が、矛盾を孕(はら)んでいたとも言える。 特に官僚の人事を司る内閣人事局を内閣官房に置いたことで、官僚が官邸に忖度して、正確な情報を上げないというような副作用が起きていたことは否めない。そこにイージス・アショア配備失敗の原因があるとも考えられる。そこで、そこまで可能か分からないが、内閣人事局を内閣府に移管し、行革担当相の下におけば、そのような副作用も解消できるだろう。 また、内閣府の他省庁への総合調整機能は飛躍的に高まる。出世を望む官僚は、自らの所属する縦割り官庁の利害や発想を乗り越えてでも、内閣府に協力せざるを得なくなる。国会議事堂(手前)と霞が関の官公庁のビル群=東京都千代田区(産経新聞ヘリから、彦野公太朗撮影) そのような力を防衛相としてイージス・アショア問題で苦労した河野氏が手に入れたとしたら、ハト派的な部分もある河野氏と、タカ派の岸氏の協力で高機能の巡航ミサイル導入問題などが解決に向かう可能性もある。高まる岸防衛相への期待 そもそも、トランプ大統領は4年前の選挙中、日本が北朝鮮や中国の脅威に自らの力で対峙し、米国の負担を軽減するためにも、日本に核武装してもらうべきではないかと発言している。 これがワシントンの多数意見になることは考え難い。しかし、今後の展開次第では、トランプ政権であればあり得るようにも私は思っている。もちろん米国から高額の核ミサイルを購入させられる形になるだろうが、核武装国家は自国の防衛のみならず、世界での発言力も劇的に向上する。まさにインドがそうだ。 また、自主開発ではなく米国から入手したという意味では、英国も実態として大差はなく、かえって世界から軽く見られることをあまり心配する必要はないように思う。 9月14日、米国の核戦力を統括指揮する戦略軍のリチャード司令官は、中国の核兵器の増強が先制不使用宣言と「一貫していない」と述べた。65~70隻の潜水艦の潜水艦部隊が太平洋を放浪しており「今や中国は弾道ミサイル潜水艦で米国を直接脅かす能力を持っている」としている。 一方、ペンタゴン(米国防総省)の最新の報告では、中国人民解放軍は陸上ベースのミサイル、潜水艦や爆撃機から発射されるミサイルを今後10年間で拡大、多様化させ、おそらく核弾頭の備蓄を2倍にするという。 こうなれば、第2次トランプ政権で予想される在日米軍の整理縮小と相まって、日本の核武装が俎上に載るかもしれない。それを考えると、就任会見で否定はしたものの、かつて「核武装論」を展開した岸防衛相の評価がさらに高まる可能性がある。 確かに菅、二階両氏は親中派かもしれない。しかし、したたかな現実政治家でもある。米国から親中派として敵視された日本の政治家は、田中角栄でさえ、あのような状況に追い込まれた。衆院本会議の前に、菅義偉官房長官(左、当時)と話す自民党の二階俊博幹事長=2017年5月、国会(斎藤良雄撮影) それが分かっているからこそ、野中広務は旧田中派では珍しい親米派の政治家を旧田中派の代表者選挙に出すことで親中派の巣窟だった旧田中派を分裂させ、自らは政界を引退して余生を政界のご意見番として過ごした。 菅、二階両氏が、それを見習うなら、米国との関係も違ってくる。日本や台湾を守るという視点では、高機能の巡航ミサイルはおろか、核兵器の購入も現実味を帯びる情勢の中で、岸防衛相の存在は重要と言えるだろう。

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    史上最重要の副大統領候補、ハリス女史の外交観を先取りしてみる

    STR)のライトサイザー代表に対して政権の対中関税引き上げを批判する書簡を送っている。「貿易戦争は、アメリカの企業や国民にとって逆効果である」「エスカレートする高関税合戦ではなく、中国の知的財産権の慣行に関する交渉を緊急に召集すべき」と指摘している。 中国との対決姿勢はバイデン政権になっても基本的には変わらないと見られているが、貿易戦争の見直しについては、民主党大会で触れられており、トランプ政権とは一線を画すものになる。この点もハリス氏とバイデン氏の間の政策上の共通点がある。 また、ハリス氏は過去に「気候変動などの世界的な問題で中国と協力していきたい」と指摘している。昨年9月に行われた民主党の第3回候補者討論会では、「われわれは気候変動の危機について中国と協力する必要がある」「北朝鮮の問題で中国と提携する必要がある」と部分的な中国との関係改善に言及している。 北朝鮮については、昨年11月の第5回討論会で、ハリス氏は「北朝鮮に譲歩しない。トランプ氏は何のために写真撮影をしたのか。トランプ氏は北朝鮮の核プログラムをチェックする能力を妥協してしまった」と発言し、金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長とのこれまでの首脳会談に否定的な立場を示している。 ハリス氏のいずれの指摘も、バイデン氏が訴えていることだ。外交についてはロシアとサウジアラビアに対して批判であり、イスラエルに近い政策立場、さらには気候変動に関するパリ協定への復帰、欧州の関係改善などについても、両氏の政策的な共通項となっている。2020年8月、米共和党大会の会場で演説するトランプ大統領=ノースカロライナ州シャーロット(AP=共同) 同じ政策的に中道であり、バイデン氏との政策的な相性の良さがハリス氏を副大統領候補に選んだ理由であるようにも見える。 少し意地悪な言い方かもしれないが、バイデン政権が早期に終わったとしても、後継者がすぐに引き継げるように副大統領候補の人選を工夫したようにも見える。バイデン氏が当選し、早期に退陣したら、と「もし」がいくつもつくが、「バイデン政権」から「ハリス政権」への移行には違和感が少ないのかもしれない。

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    大坂なおみ「反黒人差別行動」で直面する、政治色とスポーツの分水嶺

    武田薫(スポーツライター) 新型コロナ禍によって、すべてのスポーツが一時息を止めた。この夏に開かれるはずだった東京五輪・パラリンピックでさえ、1年の延期を余儀なくされ、来年の開催もおぼつかない。どの競技も、この空白から何とか抜け出そうと必死に努力している。 テニスのプロツアーは、男女とも3月から大会を封鎖してきた。グランドスラム4大会も、1月の全豪オープンは辛うじて開催したが、伝統のウィンブルドン選手権は中止、全仏オープンは5月から9月末に延期となった。 全米オープンも、その開催地であるニューヨークがパンデミック(世界的大流行)に陥ったため難しいとみられていたが、予定通りに8月31日、どうにか開幕にこぎつけた。大坂なおみ(日清食品)が快進撃を続けており、このまま無事に終わってほしい。しかし、昨年男子の覇者、ラファエル・ナダル(スペイン)や女子のビアンカ・アンドレスク(カナダ)をはじめ、ヨーロッパ勢を中心に欠場者が続出している。特に女子はシモナ・ハレプ(ルーマニア)を筆頭に、世界ランクトップ10のうち、6選手が渡米を見合わせる事態になった。 テニス・ツアーの最大の特徴は世界ツアーにある。世界的に新型コロナウイルスの感染が収まらない中、今回の全米オープンを主催する全米テニス協会(USTA)は慎重に対策を練った。 会場はニューヨークのマンハッタンとイーストリバーの対岸にあり、主要空港のJFK空港とは地続きだ。空港近くに専用ホテルを用意し、会場と宿舎を包んだ「バブル(泡)」内に選手を閉じ込めて外部との接触を遮断する形式をとった。無観客で、選手随行者数を3人に制限し、現場の取材記者は通信社と地元紙の11人、写真は3社のみ、会見はすべてリモートだ。 そこまでして大会を実施したのは、中止がもたらす莫大(ばくだい)な損失だ。中止すれば損失は2億8千万ドルとも言われ、開催すれば地元テレビ局からの放映権料1億8千万ドルが入る。そして何よりも、「とにかく始めよう」というテニス界全体の意思が開催を後押しした。女子ツアーの年間賞金総額だけで1億3900万ドル(2018年実績)というビッグマーケットを、漫然と閉じておくわけにもいかなかった。 それでも失敗は許されない。USTAは予行演習を兼ね、本来はシンシナティーで行われるウエスタン&サザン・オープン(W&Sオープン)を全米会場に移動した。これは男子では4大大会に次ぐ格のマスターズ、女子も東レ・パン・パシフィックオープン・テニス(PPO)と同じプレミア5というハイレベルの大会だ。 本大会(W&Sオープン)において錦織圭(日清食品)は、直前のPCR検査で陽性となって欠場したが、大坂は攻撃的なプレーで準決勝まで勝ち進んだ。よい感じで大会が進行していた矢先、大きな問題が発生した。 勝ち残った最大のスター、大坂が準決勝を棄権すると会員制交流サイト(SNS)で突如発信したのだ。なぜ彼女は棄権すると発表したのか。その背景には、昨今米国で深刻化している黒人差別問題がある。6月3日、米東部ニューヨーク市で行われた黒人男性死亡事件の抗議デモ。元警官全員が訴追されても各地でデモが続いている(上塚真由撮影) この問題の発端となった、ミネソタ州ミネアポリスで白人警察官の暴行によってジョージ・フロイド氏が死亡したのが、コロナ禍の真っただ中の5月20日。 その後「Black Lives Matter(BLM=黒人の命は大切だ)」と、黒人差別撤廃を訴える抗議行動が全米で展開され、大坂もボーイフレンドの黒人ラッパーと共にミネアポリスの抗議集会に参加し、SNSを通じて日本のファンへ理解を求めていた。棄権騒動から一転 ただ、アスリートである大坂の政治的発言に対し、批判の声も上がった。しかし、それに対して彼女は「イケア(家具メーカー)で働いていたら、ソファの話しか許されないのか」と反論し、さらにはボーイフレンドが集会で逮捕される事件さえ起きた。 そして8月23日夜、今度はウィスコンシン州ケノーシャで黒人男性のジェイコブ・ブレーク氏が警官によって銃撃され、重傷を負った事件が起きる。翌24日には、大坂はW&Sオープン緒戦を突破し、25日には3回戦で年下であるダイアナ・ヤストレムスカ(ウクライナ)に圧勝、翌26日の準々決勝ではアネット・コンタベイト(エストニア)に逆転勝ちを果たした。 なおこの26日には、米プロバスケットボール(NBA)と米大リーグ機構(MLB)の一部チームが抗議行動に賛同して試合が中止(延期)となっている。そしてその26日の夜に、大坂は自身のSNSで棄権を表明したのだ。翌27日(木曜日)には、エリーゼ・メルテンス(ベルギー)との準決勝の日程が発表されていたにもかかわらずである。SNSで彼女は、次のような趣旨の投稿をした。  私は明日(27日)の準決勝でプレーすることになっていました。私はアスリートである前に黒人女性です。黒人女性として、いまは私のプレーを見るより注意を喚起しなければいけない大切なことがあると思います。私がプレーしないことで劇的な変化を期待はしていませんが、白人中心のテニス界で議論が起きれば、正しい方向への第一歩となるでしょう。 「大坂なおみがBLMを叫んで大会を棄権」という、ネットを通じて発せられたメッセージはたちまち世界中に拡散した。この発信から数時間後、今度は全米オープンを主催するUSTAとプロテニス選手協会(ATP)および女子テニス協会(WTA)から、国際テニス記者協会(ITWA)と各報道機関にメールが届いた。そのメール(意訳)には、以下のように書かれていた。 テニス界は総体として、目の前の合衆国で再び起きた人種的不平等、社会的不義に対し一貫して反対する立場にあります。USTA、ATP、WTAは機を逸することなく、27日(木)の大会を中止することを決定しました。大会は28日(金)に復帰します。 そして翌27日(日本時間の28日)、大坂は一転して出場すると発表し、28日の準決勝でメルテンスに勝利。試合後の会見で、彼女はSNSでの棄権表明について以下のような趣旨の発言をした。 準々決勝の後でNBAの抗議行動を知り、私も声を上げるべきだと思い、マネジャーを通してWTAと電話で話しました。みんなが私の考えに賛同して、1日ずらすということになったので、あのSNSを出した。私は棄権するとは言っていません。次の日にプレーしないと言っただけで、それは水曜日、今日は金曜日です。だからプレーしました。女子シングルス3回戦でダイアナ・ヤストレムスカを下した大坂なおみ。準々決勝に進んだ=ニューヨーク(共同) 日本国内のメディアは、彼女が棄権することに対して当初同情論に偏って大騒ぎになった。しかしその当人から直接「棄権」を否定されたとあって、メディアはあっと驚くどんでん返しで2度も仰天することになった。ただ、そもそも当初の「棄権」という報道は誤報だったのだろうか? 確かに、大坂の最初のSNSでは「棄権(withdrawもしくはwalkover)という言葉は使っていない。だが、準決勝の日程が出た後に彼女は「By not playing(プレーしないことで)」とSNSで発言している一方、WTAと相談したことやその後1日延期になった経緯には触れていない。スポーツの政治利用 野球やバスケットボールと違い、個人競技のテニスでは「プレーしない」は「棄権」が常識であり、「延期」はない。では大坂はなぜ「話し合ってWTAが賛同し、明日は中止になった」と書かなかったのか。USTAとWTAも、彼女と話し合ったことには一言も触れず、さらにはウィスコンシン州の事件など具体的な名詞は避けている。この単純な手続きを省いた背後に、多くのテニス関係者が疑問を抱いた。 思い出すのは、68年のメキシコシティー五輪の出来事だ。当時も黒人による公民権運動が激しく繰り広げられ、指導的立場にあったマーティン・ルーサー・キング牧師がオリンピック開催の半年前に暗殺されていた。 すると、陸上200メートルで1位と2位に入った米国の黒人選手が表彰台の国旗掲揚で黒い手袋をはめ、拳を突き上げる抗議行動に出た。彼らのメッセージは、この大会で本格的に始まった衛星中継に乗って瞬時に世界中に広まった。「ブラックパワー・サリュート」と呼ばれるこの行動は、「黒人差別に抗議する」という点で先日の大坂のSNS発言と同じ趣旨であろう。しかし、2人は即刻選手村を追放され、米国選手団からも除名処分を受けている。 そこには、冷戦時代の真っただ中でスポーツを政治や思想から切り離そうという共通認識が存在していた。しかし、彼女のとった行動は、動機はさておきスポーツの場を利用したという点では明らかな政治行動であり、メキシコシティー五輪の事件と変わらない。だが、半世紀前なら出場停止処分もあり得た行為に対し、USTAのビリー・ジーンキング名誉会長が「誇りに思う」とツイートするなど、反応は当時と真逆になった。 この大坂の「棄権事件」が不可解であった原因として、米国内の空気が読めないことにある。それは、SNS時代の「壁」に起因する。USTAが彼女のメッセージに対し「スポーツの政治利用」などという理屈を掲げれば、全米オープンも開催できないほどの大騒動になる。 リモート取材では現場の緊張感は共有できない。だからといって、主催者が「なおみを支持する」と表現することもできない。時は大統領選挙戦の最中のニューヨークであり、選手会組織であるATPやWTAには民主党支持者も共和党支持者も、白人警官を擁護する選手もいる。下手をすれば、彼女が周囲から「その弱みを承知の上で抗議行動した」と受け取られる可能性さえある。 もちろん、大坂自身も知らない背景があるとは思う。彼女が電話を受けた主催者側は、8月27日を「差別への抗議」として大会を一時的に閉鎖し、テニス界の意思表示としてこの騒動を治めるつもりだったのではないだろうか。白人警官に暴行され死亡したジョージ・フロイドさんの名前が入ったマスクを着け、入場する大坂なおみ=9月8日、ニューヨーク(AP=共同) 人種問題はもちろん重要なテーマだが、全米オープンの主催者らは目の前に「コロナ禍でのテニス再開」というとんでもない難問を抱えていた、オリンピック委員会も注目する、コロナ禍真っただ中での試みなのだ。しかし、それでは人種問題を掲げた大坂の立場が消えてしまう。だからこそ彼女は先にSNSで自分のリーダーシップを発信し、大会組織がその後に延期を表明したのかもしれない。 この先走ったSNS発信は、コロナ後のテニス界が新たなヒロイン、大坂から始まると強調したかのようであり、主催者はこの行動が前例になることを恐れたようにも思える。 彼女はピュア(純粋)、イノセント(無邪気)と言われ、実際にウソの言えない正直な若者だ。だが、彼女の立つプロツアーという舞台、黒人女性として背負った背景はそれほど単純なものでもなく、生き馬の目を抜く世界である。東京五輪へ投げかけるもの 大坂は、日本人の母、ハイチ系米国人の父親の間に生まれた。3歳にして米国に移住し、ニューヨークからフロリダで育った。それでもテニスにおいて、全米協会ではなく日本協会にサポートを求めた理由は、米国には同世代に素質があふれており、一方で日本では若手育成に行き詰まっていたからだ。想像の域を出ないが、ハイチ系は国内で少数派という黒人同士の力関係もあるだろう。 同じ黒人プレーヤーとして時代を作ったビーナス、セリーナのウィリアムズ両姉妹(米国)を手本として育ち、コーチングスタッフに、サーシャ・バイン、ジャーメン・ジェンキンス、アブドゥル・シラーという、ウィリアムズ姉妹の元スタッフを登用し、大坂はメジャー2冠を達成した。彼女自身は、グランドスラム女子シングルスの優勝回数通算23回のセリーナを尊敬し、2年前の全米決勝ではその憧れの人を倒して衝撃のデビューを果たした。しかし、黒人だから一枚岩というわけではない。姉妹らもまた、黒人選手として苦難を味わってきた。 ただ、そのセリーナも男女差別に関しては攻撃的なメッセージを発しつつ、人種問題にはほとんど触れなかった。セリーナと保守派のトランプ大統領とは古くから親交がある。うがった見方をすれば、彼女の今回の行動には脱ウィリアムズの影が見え隠れする。実際今年5月にはコーチであるシラーとの契約を終了し、ウィリアムズ色が一掃されている。 28日、大坂はSNS発信の段階でセリーナから連絡があったことを認め、内容は「言いたくない」と言った。また、セリーナは記者会見で「なおみの考えはそれでいいと思う。私は違う。宗教的(spiritual)に別の考えがある」と話している。真実はもはや、闇の中だ。 そして、大坂は「棄権」を翻して臨んだ準決勝に挑み、勝利した。ただ、その後、右ふくらはぎの故障で決勝を棄権した。ちなみにプレミア大会決勝で棄権した例は、97年の東レPPOでシュテフィ・グラフ(ドイツ)がマルチナ・ヒンギス(スイス)との決勝を避けた例ぐらいしか思い浮かばない。SNS騒動も異常であったが、実は決勝での棄権も特異な事件でもあったのだ。 大坂は昨年、女性アスリートとして史上最高の約41億円の収入を手にした。抗議ストに出たNBAの80%は黒人選手であり、大リーグも多くの黒人選手の技能に多くを依存している。マラソンを筆頭にした陸上競技など、80年代から拡大してきたプロスポーツ市場は黒人アスリートが大半を占め、そこに差別はない。夕日を浴びる国立競技場(共同通信社ヘリから) ゆえにスポーツが「抗議行動へのツール」となったなら、それはスポーツのプロ化の「終着点」とも言える。では大坂が最大の目標とする東京五輪はどうなるのだろうか。 国際オリンピック委員会(IOC)、あるいは日本オリンピック委員会(JOC)は、もし今回の彼女と同様のことがあったとき、「黒人女性」としての主張、さらには「選手の政治的主張」を受け入れるのだろうか。大坂は昨年、米国との二重国籍から日本国籍を選択した「日本人」である。私たちは米国内の空気は読めないが、いずれ間もなく、今回のような問題も自分事として捉えなければいけなくなる。 同じ8月28日、実はテニス界には別の衝撃的事件が起きていた。男子世界ランク1位でATPの選手委員会代表を務めるノバク・ジョコビッチ(セルビア)が代表辞退を決め、選手組合は分裂に入ったのだ。コロナ禍の中で、テニス界では新しい波が押し寄せている。 そしてテニスは常にスポーツの先端を走ってきた。SNSが隆盛しているこの時代、大坂が提起した問題は私たち日本人自身にも、その答えを迫られている。

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    持病悪化だけが理由か?安倍辞任劇を導いたいくつもの「限界」

    吉川圭一(グローバル・イッシューズ総合研究所代表) 安倍晋三首相が辞任を表明した。表面上の理由は、2007年の辞任と同様、持病の潰瘍性大腸炎の悪化だった。これは偽りではないかもしれない。だが、別の深い理由もいくつか考えられる。 一つは、東京高検検事長の定年延長問題だ。その背景には、カジノを含む統合型リゾート施設(IR)事業をめぐる汚職事件を中心とした一連の疑惑回避があったとの情報もある。 実際、賭けマージャン問題で元東京高検検事長の辞職が波及したとみられ、7月に就任した新検事総長はカジノ疑惑を再び厳しく追及している。また、度合いこそ分からないが、菅義偉(よしひで)官房長官が、地元である横浜へのカジノ誘致計画に関係しているという疑惑もくすぶっている。そのような疑惑の真相が今後明かされれば、重大な政権の危機になるだろう。 そもそも、横浜へのカジノ誘致には、米国のトランプ大統領の有力支援者である世界のカジノ王が関係しているとされる。だが、コロナ禍もあってカジノ王の関連企業は日本から撤退しており、こうした現状を踏まえ、安倍首相とトランプ大統領の関係にも何らかの影響があったとの見方もある。 もう一つは、カジノ問題に加え、今秋の米大統領選で、トランプ大統領の再選が困難との情報がもたらされていることに不安を募らせた可能性だ。私は、トランプ大統領が再選されるとみているものの、日本では民主党候補のバイデン氏勝利予想の方が強い。 そしてさらに重要なのは米国と中国の対立激化だ。中国は、米国が南シナ海の軍事化に関し、中国側に新たな制裁を発表する直前だった8月26日、同海域に向け弾道ミサイル4発を発射した。その前には、米軍機が飛行禁止空域を通過して中国の軍事訓練を偵察し、中国が激しく抗議している。 米中はかねてから5G(第5世代移動通信システム)の主導権争いに加え、貿易面での対立、新型コロナをめぐる対応など摩擦が深刻化している。その上でのミサイル発射であり、米中の本格的な軍事衝突は遠い先の話ではない。 そこで、問題になるのが、安倍首相の長期政権を支えた菅官房長官と二階俊博幹事長の存在だ。安倍首相は、菅、二階両氏とは政治理念が同じとは言えないが、中選挙区時代に鍛えられた剛腕と調整力が「安倍一強」の後ろ盾でもあった。厳しい表情で記者会見に臨む安倍首相=2020年8月28日、首相官邸 その菅氏をめぐっては、先に述べたような不安がある。二階氏に関しては、ワシントンDCに本拠を置くシンクタンク「戦略国際問題研究所」(CSIS)の報告書で、名指しで「親中派」とされている。今秋の人事異動でこの2人を外さなければならないとすれば、安倍政権は成り立たないといっても過言ではない。 自民の有力政治家である二階氏をワシントン筋が言及したことは、過去の例ではロッキード事件以来とも言えるレベルであり、それぐらい米国は中国に対して本気なのだ。  こうした種々の問題が重なったことこそが、急な辞任劇の深層にあるとの見方が消えないゆえんだ。意外にも「平時のリーダー」 これまでの安倍首相の状況を見ていると、意外かもしれないが「平時のリーダー」だったように思う。当初は困難だとされた集団的自衛権を行使できるようにする安全保障関連法を難なく成立させ、さらに選挙は連戦連勝。コロナ禍は「国難」とされたが、日本だけの問題ではない。 要するに広い意味では、いずれも平時の出来事であり、真の危機はまさに、一触即発ともいえる米中対立と、迫りくる中国の日本への脅威と言えなくもない。この危機こそ、安倍首相にとっては「想定外」であり、健康問題も含めて対峙する余力がなくなったと見るべきではないか。 そして誰もが懸念するのが、ポスト安倍だ。これまで記してきたような状況を踏まえれば、親中派の岸田文雄政調会長は望ましいとは言えない。石破茂元幹事長に関しても、複数の防衛省筋から、「実は防衛問題が分かっていない」という批判を聞いている。 ならば、河野太郎防衛相か茂木敏充外相かとなる。もう少し幅広く見て、コロナ対応で奔走する西村康稔経済再生担当相や高市早苗総務相も悪くない。ただ、上記のポスト安倍の面々をワンポイントリリーフにして、その後、本命を首相に据えるといった考え方もある。 また、立憲民主との合流で、残された国民民主の玉木雄一郎氏による新党が一定の規模を維持した場合、連立政権に組み入れて公明の比重を減らし、憲法改正を実現に導くというシナリオもあり得る。 そして、本命のポスト安倍を考える上で、触れておきたいのが、来年に延期された東京五輪・パラリンピックだ。コロナ感染拡大が終息するにはまだまだ時間を要するとの見方が大勢で、すでに来夏でも開催は無理という見解は多い。 東京五輪が完全に中止になれば、東京都の小池百合子知事は「税金の無駄づかいをなくす」という大義をもってこれを受け入れ、責任を取って知事を辞任。その次の総選挙で衆院議員に返り咲き、一気に女性初の首相を狙っても不思議ではない。 以前の寄稿「ポスト安倍に小池知事も参入?評価を分けるリーダーの危機管理センス」でも記したが、小池氏は防衛相だった2007年、問題が発覚した防衛事務次官(のちに収賄罪などで有罪確定)を更迭し、自らも辞任した。このとき、ワシントンに赴き米国の有力者の了解を得た上で実行しており、こうした動きは国際政治に精通している証左だ。 このときからワシントンでは「小池は使える」という評価が高まったように思う。私が毎日、米メディアを見ていても「小池首相待望論」ではないかと思える記事は時折目にするのだ。記者会見で、安倍首相の辞任意向について「非常に残念」と述べた東京都の小池百合子知事=2020年8月28日、東京都庁(桐山弘太撮影) いずれにせよ、近いうちにポスト安倍は決まることになるので、推測や願望はほどほどにしておく。重要なのは、米大統領選の結果がどうであれ、米中の紛争も現実味を帯びている中で、日本のかじ取りを任せられるのは、安全保障と経済の立て直しを第一に考慮しなければならないことだ。これらを踏まえれば、やはりワシントンとのパイプを持つか、もしくは精通した人物を選ぶべきだろう。

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    アメリカも警告、沖縄に蔓延する中国「思想侵略」にはこう戦え

    仲村覚(日本沖縄政策研究フォーラム理事長) 米国のシンクタンク「戦略国際問題研究所」(CSIS)が7月末に発表した「日本における中国の影響力」と題する報告書が注目されている。 自民党の二階俊博幹事長と今井尚哉(たかや)首相補佐官が、安倍晋三首相の対中政策に大きな影響を与えている「親中派」のキーマンとして名指しされている。ただ、このことはメディアで大きく報じられたが、「中国の沖縄工作」に触れた部分はあまり知られていない。 約50ページに及ぶ報告書は、2018年から2年をかけ、約40人の専門家にインタビューするなどしてまとめられた。その中では、「中国の沖縄工作」についても多くの文字数が割かれている。 日本の安全保障上の重要懸念の一つとして、沖縄の人々が日本政府や米国に対する不満を理由に「独立を宣言」する可能性を指摘している。中国の最重要ターゲットも、米軍基地の多い沖縄であり、外交や偽情報、投資を通じて、沖縄独立を後押ししているという。 さらに、日本の公安調査庁が2015年と17年の年次報告『内外情勢の回顧と展望』で、「中国の影響力により沖縄の世論を分断する可能性の問題を取り上げた」とし、その内容を紹介している。まずは『内外情勢の回顧と展望』を改めて確認してみよう。 2017年版では「在日米軍施設が集中する沖縄においては、『琉球からの全基地撤去』を掲げる『琉球独立勢力』に接近したり、『琉球帰属未定論』を提起したりするなど、中国に有利な世論形成を図るような動きも見せた」と記されている。さらに「『琉球帰属未定論』を提起し、沖縄での世論形成を図る中国」というコラムでは、次のように解説している。 人民日報系紙「環球時報」(8月12日付け)は、「琉球の帰属は未定、琉球を沖縄と呼んではならない」と題する論文を掲載し、「米国は、琉球の施政権を日本に引き渡しただけで、琉球の帰属は未定である。我々は長期間、琉球を沖縄と呼んできたが、この呼称は、我々が琉球の主権が日本にあることを暗に認めているのに等しく、使用すべきでない」などと主張した。
 既に、中国国内では、「琉球帰属未定論」に関心を持つ大学やシンクタンクが中心となって、「琉球独立」を標ぼうする我が国の団体関係者などとの学術交流を進め、関係を深めている。こうした交流の背後には、沖縄で、中国に有利な世論を形成し、日本国内の分断を図る戦略的な狙いが潜んでいるものとみられ、今後の沖縄に対する中国の動向には注意を要する。「内外情勢の回顧と展望(平成29年1月)」(平成28年の国外情勢)公安調査庁米有力シンクタンク「戦略国際問題研究所(CSIS)」が発表した調査報告書「日本における中国の影響」の表紙 CSISの報告書は、慶応大教授の言葉を借りて、「中国は日本に影響を与えるために間接的な方法を使用している。資金調達を通じて沖縄の動きに影響を与え、沖縄の新聞に影響を与えて沖縄の独立を推進し、そこに米軍を排除するなどの隠れたルートがある」と指摘した。その上で、「中国は日本に、文化外交、二国間交流、国営メディア誘導などの温和な影響活動と、強制、情報キャンペーン、汚職、秘密の戦術などのより鋭くより悪質な活動の両方を展開している」と結論付けている。 筆者もこの報告にあるように、沖縄の琉球独立工作があらゆる面で進められていると認識している。特に、10年9月に起きた尖閣諸島(沖縄県石垣市)沖での中国漁船衝突事件直後から急加速してきた。危険すぎる「思想侵略」 これまで、自らを日本人と異なる琉球人という自己認識を持つ沖縄県民はほぼ皆無だった。自らを「ウチナーンチュ」(沖縄の人)という自己認識があっても、日本人という認識を持たない人もほとんどいなかった。 しかし、ここ10年間で沖縄は大きく変わってしまった。自らを日本人ではなく琉球人との「アイデンティティー」と、「沖縄は日本に植民地支配されている」という「歴史」を背景に、政治活動をする若者が多数出てきているのである。誰かに洗脳されたとしか筆者には思えないが、政治家になる若者がターゲットとして狙われたのだろう。 もし、琉球独立を公然と主張するこのような若者が、国会議員に当選すれば、沖縄の未来は危うくなる。「スパイ防止法」のない日本で長年続けられてきた「思想侵略」は、危険領域に達していると言わざるを得ない。 では、中国の標榜(ひょうぼう)する「琉球帰属未定論」は、今後どのように展開されていくのだろうか。カギとなるのが、13年5月12日の中国共産党機関紙、人民日報のウェブサイト「人民網」に掲載された論文にある。 それは「琉球問題を掘り起こし、政府の立場変更の伏線を敷く」というタイトルにも表れている。その論文には、中国は三つのステップで「琉球再議」を始動できるとし、次のように提言している。 第1ステップ、琉球の歴史問題を追及し、琉球国の復活を支持する民間組織の設立を許可することを含め、琉球問題に関する民間の研究・議論を開放し、日本が琉球を不法占拠した歴史を世界に周知させる。政府はこの活動に参加せず、反対もしない。 第2ステップ、日本の対中姿勢を見た上で、中国政府として正式に立場を変更して琉球問題を国際的場で提起するか否かを決定する。一国の政府が重大な地政学的問題において立場を調整するのは、国際的に珍しいことではない。その必要が確かにあるのであれば、中国政府はこのカードを切るべきだ。 第3ステップ、日本が中国の台頭を破壊する急先鋒となった場合、中国は実際の力を投じて沖縄地区に「琉球国復活」勢力を育成すべきだ。20〜30年後に中国の実力が十分強大になりさえすれば、これは決して幻想ではない。日本が米国と結束して中国の将来を脅かすのなら、中国は琉球を日本から離脱させ、その現実的脅威となるべきだ。これは非常にフェアなことだ。 さて、現在の日中関係はどのステップに位置するのだろうか。筆者はまもなく第3段階に突入すると見ている。沖縄・尖閣諸島周辺の領海で、日本漁船を追尾した中国海警局の巡視船=2020年4月10日(金城和司さん提供) まず、国際社会は米国を中心に、対中包囲網を構築しつつある。日本は心もとない面もあるが、結果的に米国側に付いて、対中姿勢を強めていくことになる。 また、現在は尖閣諸島をめぐって、日中がかつてない緊張した関係にある。この二つの要素から、「琉球再議」第3段階の「日本が中国の台頭を破壊する急先鋒」に該当するため、中国が沖縄に「琉球国復活」勢力育成を実行する段階に突入することになるだろう。中国にとっては、沖縄の独立工作が思うようにいかず、準備不足の部分も多いと思うが、それでも最終段階にさしかかっていると見ている。もはや推測不可能 現在、日本の対中安全保障の課題としては、尖閣諸島周辺海域に、中国海警局の武装公船などが連日のように侵入していることが挙げられる。また、8月16日の休漁期間終了後、尖閣諸島領海に多数の中国漁船を送り込んでくる可能性も指摘されている。 海上保安庁と沖縄県警、自衛隊は、尖閣諸島で起きるさまざまな事態を想定して、対処方法を検討し、訓練を続けているとみられる。だが、これだけでは、中国による尖閣・沖縄侵略に対峙(たいじ)する「図上演習」は不十分といえる。 軍事的な側面について、自衛隊はもれなく想定できるだろうが、琉球独立工作を含む中国の外交的反応は、現時点で既に日本人の想定を超えており、推測不可能だからだ。 例えば、中国が日本政府を飛び越して、沖縄県に直接「尖閣諸島と東シナ海の共同開発」を提案し、玉城デニー知事が提案を受け入れた場合、どうなるだろうか。しかも、沖縄の新聞が世論を誘導し、沖縄経済界も共同開発を望んだら、どうなるだろうか。 常識的には、外交権は日本政府に属するため、外交権のない沖縄県には不可能だ。しかし、国連では2008年以降、自由権規約委員会と人種差別撤廃委員会から日本政府に「琉球・沖縄の人々を先住民族と認め、その権利を保護すべきだ」という勧告が5回も出されていることを忘れてはならない。 琉球独立派が、国連人権理事会などに「琉球の自己決定権がないがしろにされた」「中国と沖縄の外交を認めよ」と訴えかねない。訴えを受けた国連も「琉球・沖縄の権利を保護せよ」と日本政府に勧告を出す危険性がある。 万が一日本政府が妥協して、沖縄が中国と独自外交を展開することになった場合、その先に何が待ち受けるのかは、語るまでもないだろう。中国の思惑通り、沖縄を日本の「一国二制度」行政区にし、中国によるコントロールを強化していくに違いない。沖縄県議選の大勢が判明し、記者の質問に答える玉城デニー知事。知事の支持派が過半数を維持した=2020年6月8日 CSISも報告書で危惧するように、中国は尖閣関連の混乱に乗じて、あらゆる手を使って沖縄を日米から引き剥がしに動いてくるはずだ。ぜひとも、尖閣有事の図上演習には、自衛隊のみならず、外務省や公安調査庁も参加してほしい。 その際には、琉球独立につながる沖縄の政界や経済界、マスコミ、国連の各組織の動向も「要素・要因」として組み込む必要がある。それらの要因をしっかり米軍と共有して対処することこそ「中国の野望」を打ち払う最善の策ではないだろうか。

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    敵か味方か、ハリスより黒人票を動かすカニエ・ウェストの本気度

    吉川圭一(グローバル・イッシューズ総合研究所代表) 今秋の米大統領選の民主党候補、バイデン氏は8月11日、ハリス上院議員を副大統領候補に指名した。初の黒人女性副大統領候補であることについては画期的である。母はインド移民の生物学者で、父はジャマイカ移民(黒人)の経済学者だ。ハリス氏は、カリフォルニア州検事総長などを経て2017年から上院議員となり、現在55歳。 バイデン氏がハリス氏を副大統領候補にした背景には、彼が得意としトランプ氏が苦手とする黒人票と女性票を固めたい意向があるのだろう。特に4年前と同様に重要な激戦州で意外にもバイデン氏の支持が盤石でないことが重視されたようだ。 だが、ハリス氏は昨年の民主党大統領候補選びに参戦していた際の実績などを考慮すると、それほど黒人の支持は高くない。強いて言えば、「女性」だから女性にアピールすることが期待される程度だろう。 いずれにしてもハリス氏は副大統領候補に決まったばかりで、バイデン氏にとってどれほど効果があるか分からない。むしろ、米国ではミネソタ州ミネアポリスで起きた警察官による黒人暴行死事件の余波が根強いだけに、米国における黒人の政治支持構造を分析する方が重要ではないだろうか。そう考えると、別の注目すべき人物の存在が浮かび上がってくる。 米国の建国記念日である7月4日、カニエ・ウェストという黒人が無所属での大統領選への立候補を表明した。ウェスト氏はミュージシャンであり、人気ラッパーとして知られる。これまでにも大統領選への出馬をほのめかすなどしていたが、何度も立ち消えになっていた。 しかし、今回はこれまでと少々違う。今回は米電気自動車メーカー、テスラのイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)がウェスト氏の支持を明らかにするなど、それなりの有力者を巻き込んでいるのだ。 そもそも、米国の大統領選は各州に候補者登録をしなければならない。人口が多い重要州のテキサスを含むいくつかは、すでに候補者登録を打ち切った後だ。そのため540人の代議員のうち、それらの州に割り当てられた225人を確保できない状況だ。 だが、ウェスト氏は、オクラホマでは候補者登録ができた。他にも候補者登録を締め切っていない州で登録を目指しており、勝敗を分ける激戦州のウィスコンシンとオハイオ、そして超大票田のカリフォルニアなどでも候補者登録に挑戦。8月初旬時点で代議員88人分の州に候補者登録できているとされる。ハリス上院議員=2019年1月、米カリフォルニア州(ロイター=共同) 一方、ウィスコンシン、イリノイ、ニュージャージーなどでは候補者登録に必要な署名を集めて提出したものの、州の選挙管理委員会が内容を精査した結果、不備が多く登録はされないようだ。オハイオ、カリフォルニアなどでも同様の状態になれば、(あり得ないが)候補者登録ができた全ての州で勝ったとしても代議員の過半数271人に到達せず、選挙に出ていること自体が全くの「冷やかし」になる。 だが、候補者登録に州民の署名が必要ないバーモントやコロラドなど、12を超える州の候補者登録申請は8月中旬だ。ウェスト氏は最後まであきらめないかもしれない。署名集めも有力な業者に依頼している。カニエ・ウェスト氏、今回は本気? つまり、ウェスト氏は今回、かなり本気なようなのだ。ウェスト氏は黒人ながらトランプ氏の強い支持者だった。実際、立候補表明してから、妊娠中絶反対など共和党的政策を主張している。宗教にも熱心である。 彼は立候補を表明したとき、トランプ氏への支持を捨てたと言った。だが、同時に「黒人の側にも自助努力が足りなかったのではないか?」、「民主党の黒人過保護政策が、黒人をダメにしてしまっていないか?」という趣旨の発言も繰り返している。 もちろんバイデン氏の「自分に投票しない黒人は黒人ではない」という発言にも激怒している。同じようなことをFОXテレビの黒人女性キャスターであるキャンディス・オーウェンズ氏が、しばしば主張していて、それも米国社会に影響を与えている。 実際、民主党は、米国の4100万人の黒人すべてに対し、南北戦争以前の奴隷制度の謝罪として、莫大な賠償金を払う決議をしようとしている。これは南北戦争以前の奴隷の子孫だった黒人に対する過保護政策との批判もある。 しかもこれを実現した場合、6兆ドル以上が必要になる。このような過保護政策が真に米国の黒人のためになるのかも疑問だ。 実際、7月中旬に実施されたワシントンポストとABCの合同世論調査では、回答者の63%が反対。黒人回答者の82%が賛成だったが、白人の賛成は18%にとどまっている。 前後関係その他から見ても、ウェスト氏の立候補表明は、バイデン氏を支持する黒人票を割り、バイデン氏を落選させるための作戦である可能性もある。前記のようにいくつもの州で立候補届出ができなかったのは事実で、無所属候補が各州で二大政党の候補より多くの票を獲得して代議員を得た例はないと言ってよい。だが、地方の州だけでも彼が本気で選挙運動を行えば、バイデン氏の黒人票が割れトランプ氏に有利になる。 ちなみにウェスト氏に依頼されて署名集めを行っている専門業者は、共和党系の業者だ。いくつもの州で共和党関係者がウェスト氏を支援していることが確認されている。現に、オハイオに提出されたウェスト氏の大統領選代議員10人中6人が共和党関係者だった。 トランプ政権は関係を否定しているが、実はウェスト氏に紹介した可能性もある。バイデン氏の黒人票を割るためなのか、あるいはウェスト氏の本気度に動かされたのか。 ただ、ウェスト氏はメンタル面に問題があるとされ、今回の立候補も本気ではないとの声も多い。実際に署名を集めて立候補届出をして却下された州では、メンタル面の問題を指摘する声が出たため、精査が行われた州もある。カニエ・ウェスト氏=2019年11月、米ニューヨーク(AP=共同) 指摘したのは、もちろん民主党関係者である。だが、彼は宗教活動に熱心で共和党的な発言が多いだけに、トランプ氏の票が割れるという見方もある。また、彼が多くの若者に愛されるスターであることは大きい。黒人支持が脆弱なバイデン氏 5月にワシントンポストに掲載された全米民主主義基金などの分析によると、警察の残虐行為と人種差別に対する全国的な抗議の中で、デモの多くで主導権を握った若い黒人有権者はバイデン氏に懐疑的だ。主要な結果を整理すると、以下のようになる。・65歳以上の黒人有権の91%がバイデン氏に投票・18~29歳の黒人有権者の68%がバイデン氏に投票・18~29歳の黒人有権者の13%はトランプ氏に投票 また、6月に実施されたワシントンポストと大手リサーチ会社イプソスの世論調査では、黒人有権者の92%が11月にバイデン氏に投票する意思を示している。その理由については、ほぼ半々に分かれている。50%が主にトランプ氏に反対しているためであるとし、49%は主にバイデン氏を支持すると回答している。 つまり、特に若い黒人のバイデン氏支持は意外に脆弱で、せいぜい反トランプ感情の受け皿でしかない。ハリス氏が副大統領候補になってもあまり変わらないかもしれない。 ハリス氏が副大統領候補に指名される前日の8月10日に行われた政治ニュースメディア、ポリティコの世論調査では、バイデン氏はいまだトランプ氏を9ポイントリードしているが、回答者の9%が態度を未定としている。そしてウェスト氏の支持率は2%だ。ただ、2%の支持を第三候補に獲られたことで、ゴア氏もヒラリー氏も、あのような負け方をしている。しかも人気ラッパーだけに20代のウェスト氏に対する支持率は6%もある。こうなると、若い黒人有権者は、ウェスト氏が州内で候補者登録した場合、バイデン氏ではなくウェスト氏に投票する可能性が低くない。 過去の大統領選を振り返ると、2004年に再選を目指したジョージ・W・ブッシュ氏が、黒人票の11%を獲得して勝利。16年のヒラリー氏に対して、トランプ氏は黒人票の8%で勝利した。 こうした中で、調査会社のラスムッセン・レポートは7月のホワイトハウスウォッチで、黒人の21%がトランプ氏の再選を支持していると報告。5~6月の各種調査会社の世論調査でトランプ氏の黒人支持が10%を割り込んでいたが、これが「異常」だったことが分かった。ホワイトハウスでトランプ米大統領(手前)と抱き合うカニエ・ウェスト氏=2018年10月(ゲッティ=共同) 異常だったというのは、トランプ氏に対する黒人の支持率は、そもそも20%程度あり、コロナ不況や今回の黒人暴動で一時的に下落していただけなのだ。減税による景気刺激に影響された黒人雇用の増大や、間違いを犯した黒人の社会復帰支援、そして学校民営化による黒人の子供に合った教育など、トランプ政権による改革は黒人の20%近い支持を得ている。 この20%という数字は、共和党の大統領としては、異例の高い黒人支持率だ。ちなみに、民主党候補は95%の黒人票が獲得できなければ当選しないとされている。黒人社会でも進む「分断」 このように実は底堅いトランプ氏に対する黒人の支持を、ハリス氏を副大統領候補にしたからといって、バイデン氏は打破できるだろうか。 より深い問題がある。米国の黒人の1、2割が、南北戦争以前の奴隷の子孫ではなく、アフリカ大陸などから60年代以降に移民として来た人々だ。その人々の多くは、努力して働いて子供を良い学校に行かせ、比較的エリートとして生活をしている。オバマ氏も、そしてハリス氏も、その典型だろう。 そこまで行かなくとも今回の黒人暴動で、仲間の暴力的行動を抑止した黒人も少なくない。そのような人々が抗議デモで、どのようなプラカードを掲げていたかと言えば「学費無償化」といった建設的で実現不可能とは言えない主張が多い。その人々が、カレッジぐらいは卒業していたであろうことは、想像に難くない。  このような人々の代表がウェスト氏だと考えてもよいのではないだろうか。つまり、今の米国では黒人の間でも、エリートと非エリートと中間層の違いが拡大しているのである。 こうした分裂現象は、黒人だけではない。ユダヤ系も従来型のリベラルが8割、宗教熱心な保守系が2割。前者が反トランプ、後者が親トランプなことは、言うまでもない。ヒスパニック系もキューバから来た人の子孫は反共産政権の立場から共和党支持、他は民主党支持だが、二世、三世以降で米国社会に溶け込み努力し裕福になった人は共和党支持も多い。 また、共和党は今、民主党とは違う医療費の透明性向上改革を断行中であり、これはオバマケア以上に医療費を下げられるのではないかとされ、特に女性の高い支持を得ている。トランプ氏が女性有権者に弱いとされているが、今後どうなるかは分からない。 さらに、今年の米国国勢調査の中間報告によると、10代の米国人は、ついに白人が過半数を割った。それよりも重要なことは10代よりも70歳前後の、いわゆる団塊の世代の方が人口に占める割合が増加する趨勢にあることだろう。 米国でも合計特殊出生率は、08年のリーマン・ショック後には少なくとも白人では1・7%と日本と大差がない。また、黒人やヒスパニックの人口増加率も次第に頭打ちになってきている。こうなると、当然若者よりも70歳前後の意見の方が社会の中心になる。これは、4年前や今年の、大統領候補の高年齢を考えれば分かるであろう。 これまで述べてきたように、大統領候補としてのウェスト氏は、話題性はあるとしても、考慮しなければならない存在とは言えない。彼は実際には候補者登録不備などの理由で大統領選に立候補できない可能性もある。 奇跡が起きて彼が大統領になったところで、米国を再統一することは無理だろう。それは、ハリス氏が副大統領候補になったことでバイデン氏の名の下に米国民が糾合することが、選挙前後に一時的にあったとしても同じなのだ。米デラウェア州で演説するバイデン前副大統領(左)とハリス上院議員=2020年8月12日、(ロイター=共同) それくらい米国の社会は人種、年齢その他の問題で、今まで以上に分断されているのだ。この点を理解しなければ今後の日米関係を望ましい形で維持することは難しいだろう。

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    偉人像も歴史の一端、破壊相次ぐ米人種差別抗議デモの深層

    非とは別の問題なのである。 すなわち、州(State)とは、本来国家であり、州が集まった連邦国家が「アメリカ合衆国」なのだ。そして、各州は、任意に合衆国を離脱できるとする考え方は、南北戦争までかなり有力に唱えられた。重なるかつての日本 事実、合衆国憲法をそう解釈する余地はある。南北戦争は、州の連邦離脱の権利をめぐる戦いでもあった。むろん、南部諸州の連邦離脱と「独立」は、奴隷制維持が目的であったから、州権と奴隷制が無関係の独立した問題であったとまでは言えない。 とはいえ、南北戦争は、奴隷制を廃止した自由州対奴隷州の戦いという単純な図式では捉え難い面がある。南部連合の構成州は、全て奴隷州であった。しかし、自由州ではあっても、奴隷州との境界付近には、奴隷を所有していた者が存在した。 そして、ミズーリ、ケンタッキー、デラウェア、メリーランドの4州は、奴隷州でありながら、連邦にとどまったのである。また、これらの4州以外にも、境界州と呼ばれた地域では、州内が連邦離脱か残留かをめぐって分裂し、家族や隣人を引き裂く、時として流血の対立を生んだ。内戦とは悲惨なものである。 今日、喧(かまびす)しい米国の分断などとは、およそ比較を絶している。何しろ、双方に61万8千人もの死者を生じたのである。第二次世界大戦の戦死者約32万人と比べて、絶対数で、またそれ以上に対人口比で、米国が経験した最大の「戦争」であった。 当時の米国の総人口は、約3100万人と見積もられている。現在の日本で、5年にわたる250万人の戦死者を出す内戦が起こったようなものなのだ。戦争終結後、この深く開いた傷口を癒すこと、南北の和解が求められたことは怪しむに足りない。 だが、自分たちの生活様式、価値観を武力によって変更させられたという恨みは、南部の大農園主に限らず、広く零細農民も含む南部白人に抱かれていた。その恨みには、北部軍のシャーマン将軍のとった焦土戦術のように、かなり残忍で非人道的な連邦軍の行為も寄与している。 傷口の癒しが、南部では、自らの勇戦敢闘の歴史を顕彰し、南部独立、彼らに言わせれば祖国の防衛に一命を捧げた犠牲者を讃えるという形で現われたのは、やはり不幸なことであった。 とはいえ、そのことを一概に非難すべきなのか。南部連合軍の兵士の大半を占めたのは、南北戦争を描いた小説『風と共に去りぬ』(1939年に映画化)に描かれたような貴族的大農園主ではなかった。彼らの多くは、奴隷などほとんど所有していなかった零細農民、その他の庶民たちだった。映画『風と共に去りぬ』の一場面 そして、史上初の軍需生産が戦争の帰趨を決した戦争でもあった南北戦争において、当初より産業基盤を欠く南部で、女性を含む多くの労働者が戦争に貢献して働いた。それは、かつての日本にどこか重なりはしないだろうか。 今日、米国との戦争に敗れた結果として日本に民主政治がもたらされ、多くの改革が可能になったと認める人も、そのためには、都市無差別爆撃、原爆使用は必要であったと言われれば、素直に同意はしまい。真珠湾攻撃や緒戦の勝利、その後の日本軍の奮戦を今なお語り継ぐことには、心情の深いひだに刻まれたある種の日本人の意地があるように思う。複雑なジェファーソンの評価 かつて名門イェール大には、ジョン・カルフーンの名称を冠したカレッジが存在した。そのカルフーンとは、奴隷制擁護論者の先鋒として隠れもなかった人物である。2018年になって、それを改称したこと自体は適切でも、彼が、イェールの卒業生であり、2期にわたって合衆国副大統領であったという事実は変わらない。 そして、かかる「歴史の清算?」をどこまで徹底するのかについて、いずれ米国人も立ち止まり、議論が生じるのではないか。 3年前の17年8月には、私が思い出多い研究生活を、1年8カ月近く過ごした典型的な田舎の大学町、バージニア州シャーロッツビルが、一躍有名になる事件が起こった。市中心部の公園にあった南部連合軍総司令官、リー将軍の騎馬像撤去をめぐって、賛成反対両派が衝突し、死者まで出す惨事となったのである。 その騒動の音が聞こえていたであろう、そこから歩いてほんの数分のバージニア大構内には、創立者にして第3代大統領、トーマス・ジェファーソンの銅像が佇立していた。彼が、起草に深く関与したとされる「独立宣言」は、冒頭に「All men are created equal」(すべての人間は平等につくられた)と謳う。 その彼は、しかし生涯奴隷を手放さなかった南部の大農園主であった。所有していた奴隷は600人にも及んだという。後に駐仏大使に任じられたとき、妻と死別していた彼は、パリに赴任後、13か14歳であった黒人の少女奴隷、サリー・ヘミングスを呼び寄せる。 彼女の肖像の類は残っていない。肌の色は黒くなく、一見黒人には見えなかったという。実は、死別したジェファーソンの妻の異母姉妹に当たるとも言われ、であれば父親は白人であったことになる。 ジェファーソンの所有物であり、30歳年下のサリーとの関係が、いかに始まったか、それが合意の上であったのかは分からない。とにかく、愛人となったサリーとの間に子供をもうけていたことは、ほぼ確認された事実だ。 子供の子孫が、ジェファーソンとの血縁確認を求めて訴訟を起こし、裁判所命令で墓が開けられて、遺体のDNA鑑定が行なわれたからである。クレーンで重い墓石を動かし、石棺を釣り上げたのだ。 では、第3代大統領としての彼の彫像、肖像は、すべて公共の空間から撤去して博物館に収納すべきなのだろうか。彼の肖像が刷られた3ドル札(日本の2千円札並みに珍しいものだが)は、すべて回収溶解すべきなのか。ワシントンDCにあるトーマス・ジェファーソン像(ゲッティイメージズ) 今日彼を、偽善者と謗(そし)ることはたやすい。しかし、一方で、彼の著作、書簡は、民主政治理論上重要な位置を占めているし、政治家としても非凡の才を発揮したと、私は考えている。そもそも、独立宣言に署名した56人のうち40人、さらに第12代までの大統領のうち、ジョージ・ワシントンを含む10人が奴隷の所有者であったのだ。評価は総合的に 歴代大統領や各国首脳が詣でるアーリントン国立墓地の一角には、482柱の南部連合軍兵士と軍属が眠っていることは、米国人にも、あまり知られていない。彼らが個人として奴隷制に賛成していたかどうかはともかく、まさか奴隷解放のために戦ったとだけは言えないだろう。 そこで、彼らの墓をあばいて、どこか他の墓地に移設せよということになれば、さすがにどこまでやれば収まるのかという話になろうかと思う。先に挙げたイェール大では、そもそも大学名の由来するイライヒュー・イェール(Elihu Yale)が、東インド会社で奴隷貿易に関わっていたとも言われている。 ウィキペディアに、はっきりと「slave trader」(奴隷商人)と記してあるのは事実だ。とすれば、単に一カレッジどころか、大学の名前を変えろという話になってしまう。どこでどう線引きをするかを、冷静かつ真摯に議論しなければならない。 こうしたモニュメントの扱いを判断するにおいて、いくつかの考慮すべき点を挙げてみたい。まず、人物像、肖像画の場合、当然ながらその人物の経歴、何を語り、何を為したかが問われなければならない。 その場合、評価は多面的総合的であるべきだ。バージニア大構内のジェファーソン像は、何よりも同大学の創立者の一人としての彼を、記念顕彰することが目的であると認めてよい。彼が、私生活で何をしたかは、無関係とまでは言えぬにせよ、像を撤去する理由にはしにくいと思う。 だが、最近では撤去すべきとの声もあるようだ。また、大学構内の別の場所にある彼の座像が、人種差別主義者と強姦犯を表す「racist+rapist」(おそらくはヘミングスに対して)と落書きされたと伝えられる。今後のことは、分からない。 例えが適切かどうかは自信がないが、早稲田大構内にある大隈重信像を、「対華21カ条要求」問題当時の総理大臣であったからという理由で撤去せよという主張にどう対応すべきであろうか。 また、名門プリンストン大は、研究機関や学生寮の名称から、かつて総長を務め後に28代大統領となったウッドロウ・ウィルソンの名前を廃止したと発表した。彼が、人種差別に加担していたとの理由である。彼が、総長として、プリンストンへの黒人の入学を認めなかったことは事実であろう。此度の大学自身の決定は、尊重されなければならない。 しかし、個人がどのような人物であったかに加えて、その表現のされ方も問われるべきであろう。セオドア・ルーズベルトは、第26代大統領として、独占禁止政策を推進し、富の公正な分配への関心を示したし、野生動物・自然保護に一定の業績を残した。セオドア・ルーズベルト元大統領(ゲッティイメージズ) だが、その外交政策、白人優位の人種観に批判があったことも事実であり、評価は難しい。とはいえ、このたびニューヨーク博物館の正面から、彼の騎馬像の撤去が決定されたことには、納得できる。なぜなら、この像は、馬上のルーズベルトの両脇に、黒人と先住民の男性が徒歩で付き従っているものであり、ルーズベルト自身の評価とは別に、白人優位と植民地主義を連想させるからだ。的外れなピラミッド批判 一方、首都ワシントンにある奴隷解放記念碑には、微妙な点がある。確かに、第16代大統領、エイブラハム・リンカーンが、足元の半裸の黒人男性を見下ろしているように見える。いかにも尊大な奴隷解放者のごとくである。  しかし、この像は、元来解放された奴隷たちの募金で建立されたことを忘れてはならない。足元の元奴隷は、リンカーンに跪(ひざまず)いているのではなく、軛(くびき)を脱して自由な人間として、今まさに立ち上がろうとしている瞬間なのだと解釈することもできるのだ。こうした像をどうするかは、冷静な議論が必要であり、決して実力による破壊に委ねてはならない。 全米で、既に多くの像が実力で引き倒された。復元されることもあってよいし、博物館に収納する措置もとられよう。その場合には、事なかれと死蔵するのではなく、均衡のとれた解説を付して展示するべきだ。 加えてそのいくつかは、復元せずに、引き倒され破壊された状態で展示し、何が起こったかを解説する措置がとられるべきである。ある時期に顕彰して建立され、後に評価を異にする人々によって破壊されたという「歴史」を後世に伝えるためにだ。 先に記したが、実際イェール大のジョン・カルフーン・カレッジは改名された。しかし、建物の門に刻まれた、ジョン・カルフーンの文字と、扉の上の彼の正面レリーフは残された。1933~2018年まで、この人物の名前を冠していたという「事実」を、消去せずに残したのである。 さすがに、逸脱事例であろうとは思うものの、今年6月7日、英国ブリストル市で、奴隷商人の像を引き倒して海中に投棄した活動家たちは、その後、ギザのピラミッドの破壊をエジプト政府に要請したという。 奴隷によって建造された遺跡だからという理由らしい。あまり真面目に反応するのも躊躇(ためら)われるものの、二点指摘しておきたい。 第一に、奴隷制の糾弾は、普遍的な価値の追求であり、国境を超える内容であるとは認めるとしても、外国にある遺跡について口出しすることは、無条件には許されるべきではない。エジプト人には、「大きなお世話だ」と言う権利がある。 第二に、最近では、ピラミッドの建設は、奴隷ではなく賃金労働者によって担われたという説が有力なのであり、奴隷制批判は的を外している。 とはいえ、このような議論は、まずそれぞれの国の国民がすべきである。要するに、南部連合と奴隷制に関連する像、記念碑、名称に関する議論は、何よりもまず米国人がすべきだ。当然だが、米国の歴史は、基本的に米国人のものだからだ。米バージニア州知事が撤去を表明した南軍司令官像。土台部分に多数落書きされている=2020年6月、バージニア州リッチモンド(ゲッティ=共同) このことについて、外国人であるわれわれは、安直に口出しすべきではない。人種差別は悪だ、奴隷制は悪だという一般論を語ることと、ある特定の人物の彫像や、ましてや墓をどうするかなどについて語ることは、全く別のことであると、よくよく肝に銘じるべきであろう。

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    香港の国家安全法導入でアメリカが香港から資金引き上げへ

     米国政府が香港で所有する不動産などの資産を売却するほか、香港政府に認めてきた経済的な優遇措置の廃止の手続き開始の準備を進めていることが明らかになった。中国政府が香港での国家安全法導入に対抗するためのものだ。米国による一連の措置が実施されれば、他の欧米諸国も追随する可能性もあり、香港の国際的な貿易・金融センターとしての地位に大きな打撃となることは必至だ。 香港のウェブメディア「香港01」によると、米政府が売却を検討しているのは香港島南部の南区寿山村道の米国総領事館職員宿舎として使われている6階建てのビル。米政府は1948年に購入しており、現在の不動産価値は100億香港ドル(約1400億円)に上る。 米ブルームバーグ通信も米国務省の海外資産担当者が香港総領事館に送った電子メールのなかで、「国務省資産管理局はグローバルな再投資プログラムの一環として、米政府は保有している海外不動産を定期的に見直している」と指摘。そのうえで、香港の職員宿舎ビルをはじめ、他の職員用の福祉・娯楽施設などの売却検討も始めていることを明らかにした。 同通信によると、これは中国政府が香港に国家安全法を導入することで、米国資産の差し押さえや米国市民の拘束・逮捕の恐れがあるため。米政府は今後、香港からの資金引き揚げを拡大し、米国民の帰国を促していくとみられる。 米政府は1992年制定の「米国・香港政策法(香港関係法)」で、香港の「一国二制度」が守られていることを前提に、香港を関税や査証(ビザ)発給などの面で中国本土とは異なる地域として優遇してきた。だが、トランプ米大統領はこうした措置の取り消しに着手すると明言。さらに、軍事・民生両方に利用できる高度な先端技術の輸出規制についても言及している。 また、ポンペオ米国務長官もさきに米国が香港に認めてきた特別扱いを「続ける状況にはない」と議会に報告したことを明らかにしている。※写真はイメージです(ゲッティーイメージズ) これらの措置が実施されれば、香港に進出している米国企業約1300社、米国人従業員8万5000人の撤退も検討されるとみられる。 このため、在香港米国商工会議所のタラ・ジョセフ会頭はトランプ氏の会見を受けて「香港にとっても、米国にとっても悲しい日となった」と声明を発表している。 一方、中国国務院(中央政府)で香港・マカオ政策を所管する国務院香港マカオ事務弁公室の張暁明副主任はこのほど「国家の安全保障という『譲れぬ一線』が強固になればなるほど、『一国二制度』の余地は広がる」と指摘し、香港の国家安全法制制定の必要性を改めて強調。そのうえで、「国家安全法によって、香港の国際的な貿易・金融センターとしての地位はさらに強固になる」との楽観的な認識を示している。関連記事■香港民主活動の女神「本当に怖いけど、声を上げ続ける」■NHKが林鄭月娥氏の名を「蛾」に誤植、香港人に大ウケ■コロナで8か国100兆ドル賠償請求に中国「ならリーマンは?」■中国軍が空母を含む陸海空軍の大規模演習を南シナ海で実施へ■FedExのパイロットが中国で拘束 ファーウェイ事件の報復か

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    ボルトン暴露本が示唆、トランプ政権ゆえに強靭化する日本の防衛力

    吉川圭一(グローバル・イッシューズ総合研究所代表) ボルトン前大統領補佐官の著書『それが起きた部屋』が波紋を広げている。本稿では、その内容に触れつつ、今ワシントンで何が起こっているか、そして日本への影響はどれほどなのか、分析してみたい。 というのも、私が昨年9月に寄稿した「ボルトン解任で『日本の核武装』が現実的になった」で論じたことがまさに現実になりつつあるのだ。 これを踏まえてボルトン氏の著書を評価してみると、意外なことが浮かび上がってくる。ボルトン氏の著書の中で最重要部分は、トランプ氏がウクライナ大統領に対し、バイデン前副大統領の裏マネー疑惑を暴くことと引き換えに、米国による軍事援助を行うと、電話で話した部分だろう。 これはトランプ政権が何度も否定しているが、その場にいた閣僚級の人物の証言は、初めてに近い。ボルトン氏の著書の題名が『それが起きた部屋』なのは、そのような理由によると思われる。 では、ボルトン氏は、ウクライナ疑惑でトランプ氏が弾劾されそうになったとき、何ゆえ証言を拒んだのだろうか。これに関してボルトン氏は、ウクライナ問題だけでトランプ氏を弾劾しようとした民主党の戦略が不十分であり、トルコの銀行の裏マネー問題まで追及しなければ、不十分と思ったからであると述べている。 このウクライナとトルコの裏マネーなどは、元ニューヨーク市長でトランプ氏の顧問弁護士、ジュリアーニ氏が個人的に任されていた問題である。ワシントンの官僚機構にいたボルトン氏には、このような「個人外交」が望ましくないと思えたのだろう。 だが、既存の官僚政治に捉われず、真に米国と世界の利益を追求するのが、トランプ政治である。トランプ氏がモデルにしているものと思われるジョン・F・ケネディ元大統領も、キューバ危機の際に、ワシントンの官僚に頼らず、タスクフォースを弟で外交と無関係な司法長官だったロバート氏に任せた。 それを考えるとジュリアーニ氏個人に複雑なバルカン情勢を任せたトランプ氏の判断は、間違っているとは言えない。 余談だが、ジュリアーニ氏の裏マネー問題を追及していた連邦検事のバーマン氏が解任され、その後にトランプ氏の友人で証券取引委員会(SEC)委員長だったクレイトン氏が指名されそうである。だが、前後して米国最高裁は、SECには明確な被害者のいる金融犯罪に強制的に介入する権限があるものの、それ以外の場合には強制権限がないという判断を示した。トランプ大統領(左)の暴露本を出版したボルトン前大統領補佐官=2018年6月、カナダ・シャルルボワ(ゲッティ=共同) クレイトン氏は在野からリーマン危機を克服しようとした金融専門の法律家である。リーマン危機とは不動産担保制証券の破綻が、同じ会計の中で行われていた石油などの先物に影響して莫大な追加保証金が発生したため、あのような不良債権が生じた。 それを会計科目の付け替えなどで隠蔽していたウォール街の金融機関が、米国の会計年度の終わりである9月末に、それを隠しきれなくなって破綻を宣言したのが、リーマン危機だった。 新型コロナ封鎖で5月に石油の先物がマイナスになった。リーマン危機以上の追加保証金である不良債権を、ウォール街の金融機関が隠している可能性は低くない。歴代国防長官が反トランプ このままでは今年9月に世界が金融的に破滅する。それを防ぐためにクレイトン氏を、強制力を持つウォール街を含む地区担当の連邦検事にする必要があったのではないか。 だが、前任者のバーマン氏が手続的な問題を理由に自主的な退任を拒否。実は彼には、よりよい上級職が用意されていた。このバーマン氏の辞任拒否も、ワシントン改革を目指すトランプ氏に対する司法省筋のクーデターの一種だったのかもしれない。 このように今ワシントンでは、トランプ改革勢力対既成勢力の闘いが続いているのである。 話を戻すと、ボルトン氏は、トランプ氏を騙して対イラン戦争を起こさせようとし、また反米テロ集団だったタリバンと和解することでアフガンから撤退するというトランプ氏の計画をリークして一度は中断させた。 この中東からの撤退は、米国の正規軍、つまりワシントン既成勢力の一部にとって、とても望ましくないものだ。特にトランプ氏は大統領になる前から、アフガンの治安を正規軍ではなく、「ブラックウォーター」のような民間軍事会社に任せる方針だったのでなおさらだった。 歴代の国防長官らが、トランプ氏不支持を言い出したのも、それが原因ではないかと思われる。中にはボルトン氏と共にイラク戦争を起こしたパウエル元国務長官もいる。 その2人の上司だったジョージ・W・ブッシュ元大統領が、バイデン氏を応援するという話まであった。これは立ち消えになったものの、ブッシュ氏のスタッフ数百人が、バイデン支持の方向で動くとの情報がある。バイデン氏はワシントン既成勢力の糾合として、それを望んでいる。そして逆にトランプ氏も、ワシントン既成勢力と自分との闘いを明確にできるとして歓迎している。 ボルトン氏もバイデン支持を表明したことがあった。これも立ち消えになったが、ボルトン氏は今回の著書で200万ドルの印税が入る。そのマネーを少なくとも共和党が今年、上院で過半数を割らないようにするために使う意向を示している。 だが、ボルトン氏から献金を受けているとみられる共和党の極右上院議員も、トランプ氏の支持者に遠慮してか、ひた隠しにしている。ブッシュ氏も、ボルトン氏の助言通りアフガンやイラクの占領政策を行なっていたら上手くいかなかった関係上、彼を信用していないという。 バイデン氏個人も、ボルトン氏の選挙応援は、ありがた迷惑だったようだ。民主党リベラル系のメディアも、ボルトン氏による今までの数次に渡る中東での戦役や、核軍縮条約の反故によって、この著書と作者には批判的である。2020年6月23日、米ニューヨークの書店に並べられたボルトン前大統領補佐官の回顧録(ロイター=共同) あの『TIME』誌でさえ、この著書の中で描かれるトランプ氏の無知、感情的、自己中心的という描写は、これまでのトランプ本でも描かれていたのと同じなので、トランプ支持者には何の影響もないだろうと論説している始末である。 つまり日本は、この著書の概ねは気にする必要がないと言えるだろう。むしろワシントンの中で大きな潮流の変化が起ころうとしていることに注目すべきだ。石油危機に日本はどう備える? 日本でも報じられているが、トランプ氏が中国に自身の再選のために協力してほしいと要請したという話は、トランプ政権の『それが起きた部屋』の閣僚のみならず、中国政府からも否定された。だが、ボルトン氏の著書では、トランプ氏に再選されたら、台湾を放棄するのではないかとまで述べている。 しかし、米国政府は、ボルトン氏が政権を去ってから、中国通信大手のファーウェイへの半導体の供給を、世界的に禁輸し、そのため米国の産業界にとって、台湾の半導体メーカーが生命線になっている。台湾防衛法も上院に提出されている。 仮にバイデン氏が大統領になっても今の米国の雰囲気では、中国の(情報通信を含めた)世界支配と闘う方針はブレないのではないか。 中東情勢に関しても今まで述べた通りであり、ボルトン氏は第2期政権でトランプ氏はイスラエルからも引けていくのではないかとまで主張している。 エルサレム首都宣言までしたトランプ政権が、そんなことをするとは思えないが、パレスチナを刺激しないためにヨルダン渓谷にトンネルを作ることにクシュナー大統領上級顧問(トランプ氏の娘イヴァンカ氏の夫)が反対したことを、ボルトン氏は問題視しただけである。 クシュナー氏の政権内の発言権が、かなり強いことはボルトン氏の著書からも読み取れる。だが、そもそもクシュナー家はイスラエルのネタニヤフ首相と一家ぐるみで親しい。ゆえにトランプ2期目があるとして、イスラエルは守られるだろう。だが、他の中東諸国からは前述のように引けていく可能性が高い。 その後に大きな紛争が中東で起こり石油が来なくなったら、日本はどうするのか。自ら石油を取りに行く軍事力を持つのか。米国のシェール石油を購入するのか。今から日本は戦略を立てておく必要がある。 一方、北朝鮮に関しては、どうだろうか。ボルトン氏は元々、北朝鮮との対話路線には否定的だった。ボルトン氏の著書によれば、トランプ氏は北朝鮮もイランも金融制裁で弱体化させ、その上でクリントン氏やオバマ氏以上の和解を行う考えを持っていた。それについてボルトン氏はもちろん反対だった。 そこで第2回米朝会談について、金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長の寧辺核施設解体と引き換えに、米国が北朝鮮への経済制裁を全て解除するという交渉を、トランプ氏が相手にせず、席を蹴って帰ったことは評価している。 それと同時に現実主義者であるボルトン氏は、寧辺核施設の解体は、北朝鮮全体の非核化の、大きな一歩にはなったとも主張している。ボルトン前米大統領補佐官=2019年9月、ワシントン(AP=共同) これに関しては保守系のFOXテレビなどが、タカ派のボルトン氏がいなくなった今こそ、その方向で北朝鮮と和解するべきだとも主張している。だが、北朝鮮全体の非核化とは、米国が北朝鮮を軍事的に占領できても、2年はかかると言う専門家もいる。つまり手遅れだ。トランプが強化する日本の安全保障 日本は来年以降、誰が米国の大統領でも、米国まで届くミサイルを北朝鮮が持たなければ、核武装した北朝鮮と和解してしまうことを覚悟するべきだろう。 冒頭で触れた昨年9月の寄稿でも書いたが、こうした場合、バイデン氏のようなワシントン既成勢力の一員が、日本が核武装して自ら北朝鮮に対峙することを許すことはあり得ない。ワシントン既成勢力には、日本だけは核武装させないという強い意志があるからだ。 だが、トランプ氏はそうではないだろう。日本が今までと違って米国に負担をかけず、自ら北朝鮮などと対峙する覚悟を決めれば、日本の核武装を許容する余地がトランプ氏個人にはあるかもしれない。少なくとも4年前の選挙中に、そのような発言をしたのは事実だ。 ボルトン氏の著書の中で触れられたと言われているが、トランプ氏は日米安保の維持経費として8500億ドルを要求したそうである。これも日本政府は否定している。 だが、著書の中では、トランプ氏が北大西洋条約機構(NATO)からの脱退を考慮した際に、ボルトン氏が説得して止めたという部分もある。前述のようにトランプ氏は、アフガンなどからの撤退も、本気で考えている。 ボルトン氏本人でさえ、沖縄米軍基地の台湾移転論者だったことも忘れてはならない。米国は次第に日本から引けて行く傾向にあるのだ。 それを考えると日本は、来年以降、誰が米国大統領でも、核武装してでも自国は自国で守る覚悟を決めるほかはない。バイデン氏が大統領でも北朝鮮や中国との大戦になったとき、日本を一方的に守ってくれる保証はない。彼は党内左派の票欲しさに、米国は国内の格差問題解決に注力し、そのためには海外での軍事行動は控える方針をとる可能性がある。2019年5月9日に朝鮮中央通信が配信した「火力攻撃訓練」の写真。米国防総省は弾道ミサイルと断定した(朝鮮中央通信=共同) それでいてワシントン既成勢力の中心人物として、日本が軍事的に強くなりすぎないようにするという考え方に変わりはない。繰り返すが、トランプ氏にはこうした発想はないだろう。 これらを踏まえれば、日本はトランプ再選のために貿易その他で協力するべきだ。そうすることによって来年以降の自国の安全を買えると思えば安いものである。 配備に10年近くかかるという地上配備型迎撃システム「イージス・アショア」を断念し、敵基地攻撃ができる巡航ミサイルに切り替えるというのも、北朝鮮有事や米中の紛争が早ければ今年中にも起こり得ることを踏まえれば重要になる。 このような危機に対処するには、配備に時間のかからない巡航ミサイルを購入するというだけではなく、カネで日本の核武装を許す可能性が少しでもあるトランプ政権を支える思惑が、安倍晋三総理にはあるのかもしれない。これは非常に優れた構想である。このような構想力があるのならば、安倍総理に今後も期待したい。

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    米中に淘汰された日本、復権の機はコロナ後の新グローバリズムにある

    小倉正男(経済ジャーナリスト) 今考えれば、1992年前後が世界経済の大きな分岐点だったかもしれない。日本経済でいえば87年に勃発した不動産バブルが崩壊現象を見せたのがまさしく91年後半~92年である。日本はピークを打ってバブルの終焉が始まっていた。日本にとってその衝撃は決して小さいものではなかった。 だが、まさしくそのときに世界では巨大な変革が起こっていた。91年末にソ連が崩壊。中国は92年に社会主義市場経済への転換を行った。全世界が資本主義に移行するというビッグバンが勃発した。 この92年に米国を中心に今のグローバリズムによる世界経済の形成が動き出した。いわば世界経済の「パラダイムチェンジ」が行われた。そのもたらされたものを大局で見れば、グローバリズムの勝者は米国、そして中国であり、敗者は日本にほかならなかった。 92年以前の日本はグロ-バリズムとは対極にある「ニッポン株式会社」という垂直統合型経済で「ジャパン・アズ・ナンバーワン」に登りつめていた。系列、グループ、下請けといった閉鎖的なシステムで成功した。 しかし、92年をターニングポイントに世界はグローバルな水平分業型経済に移行し、「ニッポン株式会社」は徐々に解体されていった。「世界の工場」は中国に移り、日本は電子部品、関連部材、半導体・液晶製造装置、半導体関連検査機器、工作機械などで中国のサプライチェーン(部品の調達・供給網)に組み込まれる形で生き残った。   日本の製造業が中国に本格的に進出を開始したのは2002年である。トヨタ自動車などトヨタグループ各社が中国に進出した。世界最大クラスの自動車企業が中国に進出し、これに伴って関連部品企業がこぞって中国に製造拠点を設けた。 これ以前はスーパーなど流通業、繊維、ビール、電気機器などの各産業が中国に進出していた。トヨタグループの進出を一つの契機として日本製造業が雪崩を打って中国進出を行った。日本の「空洞化」は決定的なものになった。 2000年代前半、中国で乗り物といえば自転車が圧倒的に主流だった。だが、巨大なマーケットが徐々に顕在化する兆しを見せていた。いち早く中国に進出していたフォルクスワーゲンが成功を見せてシェアを固めた。貧富の格差が生まれ、クルマを持つ富裕層はすでに現れていた。トヨタ自動車として進出をこれ以上は遅らせることはできなかった。中国天津市のトヨタ自動車工場=2002年10月 中国はソ連崩壊後に社会主義市場経済を標榜し、国外から資本を呼び込む「改革開放」を行った。当初は日本企業の多くは懐疑的だった。だが、あっという間に「世界の工場」に飛躍を遂げる中国のサプライチェーンに組み込まれていった。激化する「米中貿易戦争」 トヨタ自動車の世界的な成功は、垂直統合型から水平分業型への転換にあったといえる。トヨタ自動車は「日米貿易摩擦」の深刻化から米国に本格的に進出せざるを得なかったわけで、ローカルコンテント(部品現地調達)の洗礼を受けた。 その後クルマをマーケットに近いところでつくる体制に移行し、欧州、中国と世界化を果たした。日本の工場は、輸出向けではなく、国内マーケットへの新車供給を基本とする役割に切り替える配置変更を行った。トヨタ自動車は、連結収益がいくら上昇しても、これは北米マーケットで稼いだもので国内が稼いだわけではないと国内賃上げは一切行わなかった。 デンソー、アイシンなど傘下の部品サプライヤーには世界のどの自動車企業に部品を売ってもよいシステムに切り替えた。トヨタ自動車もグループ外でもよい部品サプライヤーがあれば併用して購入する。ただし、トヨタ自動車に納入する部品は「より安くしろ、品質は上げろ」という苛烈な要求は変わらない。傘下の部品サプライヤーに「親離れ(=子離れ)」を迫った。自社サプライチェーンを「最適化」に向けて再構築したわけである。 ところでグローバリズムが大きく絡んでいるのだが、「米中貿易戦争」が激化するばかりだ。問題は国内総生産(GDP)で世界2位という経済大国になった中国の覇権主義の傾向にある。 習近平国家主席の根底にあるには、「中華民族の偉大な復興」(=中国の夢)とみられる。中国の巨大経済圏構想である「一帯一路」やハイテク産業振興策「中国製造2025」はその発露であり、中近世に世界を制覇していたかつての偉大な「中華帝国」を復興するといった志向である。「中華民族の偉大な復興」はなにやら米国のトランプ大統領の選挙スローガンとほとんど同じ。これではどうしても「新冷戦」、米中による覇権の衝突が避けられない。 新型コロナウイルスでは2019年末に中国・武漢で起こっていた事態を明らかにして世界に警告することを怠った。新型コロナウイルスに世界が苦しんでいるのを尻目に香港、ウイグル、チベットなどへの露骨な弾圧を憚(はばか)らない。 全国人民代表大会(全人代)で香港への「国家安全法制」適用を決め、高度な自治を認めていた「一国二制度」を事実上破棄した。南シナ海では人工島を「西沙区」「南沙区」として行政区に組み込み実効支配を押し進めている。尖閣諸島でも中国公船が日本漁船を追い回すなど行動を活発化させている。この夏には南シナ海で空母「山東」、あるいは「遼寧」を総動員して陸海空軍合同の大規模軍事演習を行うとして緊張を高めている。 中国は米国に並ぼうとする経済大国になったが、共産党一党独裁をやめようとしない。多様な政党、多様な意見や価値観を認めない。民主主義や基本的人権は採用しない。グローバリズムによる水平分業の恩恵で「世界の工場」になったが、それはあくまで手段でしかない。目指すのは「中華民族の偉大な復興」、すなわち世界の覇権であることを隠そうとしない。中国全人代の閉幕式に臨む習近平国家主席(左)と李克強首相=2020年5月28日、北京の人民大会堂(共同) 米中貿易戦争は激化の一途をたどってきたが、2020年1月に一時的な「休戦」となった。米国は対中追加関税第4弾分の税率を15%から7・5%に引き下げる。それ以外の関税は引き下げや撤廃は行わない。中国は米国から農産物、工業製品など今後2年間に2千億ドルの輸入拡大を行う。さらなる「新冷戦」の様相 これで当面は落着するとみられていたが、新型コロナ禍が勃発して雲行きが変わった。トランプ大統領の米国は新型コロナ禍の損害賠償を中国に請求しており、応じなければ報復措置として関税を課すとしている。 トランプ大統領は、さらに安全保障の面から中国通信機器大手の華為技術(ファーウェイ)の締め出しを各国に呼びかけている。これに対して中国は米国からの農産物輸入を停止する動きを見せて牽制するなど激しく反発。米中貿易戦争は再び激化の兆しを見せてきている。米中の激しい非難の応酬は、「新冷戦」の様相を帯びつつある。 めまぐるしい米中の「新冷戦」の応酬に目を奪われていると本質が見えなくなる。92年のグローバリズム経済勃発時に戻れば見えてくるものもある。冒頭にグローバリズム経済の勝者は米国と中国だったと述べた。リアルにいえば、勝者は米国の資本、そして中国を支配している共産党だったと言わなければならない。 92年当時、系列、下請けといった垂直統合型の「ニッポン株式会社」の一国資本主義に米国はたじろいでいた。例えば、この時代はアップルのパソコン「マッキントッシュ」は1台50万円を超えていた。値段が高くても高性能の商品は売れるというのが米国資本の信念だった。 しかし、性能がよい商品でも高くては売れないという現実を抱えていた。北米でつくれば、高い人件費で製品が高価格にならざるをえない。 これに対して「ニッポン株式会社」は系列、下請けといったシステムに加えてトータルクオリティーコントロール(統合的品質管理、TQC)、「カイゼン」といったマニュファクチュア(工場制手工業)に強みがあった。「カイゼン」を念仏のように唱えて製品を日々改良するという愚直なシステムで、パナソニック、ソニーなどは自社製品に驚くべき進化をもたらした。パナソニックグループなどではカイゼンはほとんど信仰に近い趣すらあった。 その当時TQC運動は、労働時間外に行う自発的学習ということで残業代は発生しないという慣行が認められていた。TQCに残業代が支払われることになったのは2000年代に入ってからだ。04年頃、パナソニックに並ぶカイゼンの元祖・トヨタグループは、「労働基準局のご指導によりTQCによるカイゼンは労働に変わった」と。 米国はことあるごとに「ニッポン株式会社」という一国資本主義システムをアンフェア、閉鎖的、と目の敵にした。日米貿易摩擦では日本車をハンマーで叩き壊すという「ジャパンバッシング」が行われた。しかし、マーケットでは「よいモノを安く」という日本のマニュファクチュアは優位にあった。 米国の資本にとっては、とりあえず人件費が格安だった中国を「世界の工場」にしてサプライチェーンを確立することが己の利益だった。中国にとっては資本、設備、技術が入ってきて、そして格安の労働力を提供することで国内に雇用・賃金が生み出されるのだから棚からボタ餅である。※画像はイメージ(ゲッティイメージズ) ここで「パラダイムチェンジ」が勃発した。すなわち米中の「ウインウイン関係」から動き出したのがグローバリズムということになる。米国資本は、グローバリズムという世界資本主義の「ルール変更」、あるいはグローバリズムという「新ルール」の構築で勝者になった。「グローバルスタンダード」が変わったわけで日本製造業もこれに追随するしかなかった。米中に共通する「一国主義」 米国資本は勝者となり膨大な利益を手にした。だが、米国の労働者たちは失業して没落を余儀なくされた。工場が廃屋になり「ラストベルト」(衰退した工業地帯)が広がった。米国の貧富の格差はすさまじいものになった。 工場と雇用は中国に移動し、今では中国は習主席が言う「小康社会」(ほどほど余裕のある社会)に変わった。米国の労働者たちの所得がそっくり中国の労働者階級の所得に移転した。とはいえ、米中の賃金格差は巨大で、中国の労働者が得たのは「小康社会」でしかない。グローバリズムの勝者は中国共産党にほかならない。ただ、ささやかには中国の労働者もその勝者の一部といえる。中国は、社会主義市場経済(資本主義)を選んだことで共産主義理念を捨てたのか、極端なほど貧富の格差を放置している。 工場が中国に移転して雇用を喪失するという現象は、日本の労働者にとっても同様だった。系列、下請け、TQC、カイゼンなどを強みにした「ニッポン株式会社」のマニュファクチュアは有効性がなくなり、製造業は空洞化した。「アベノミクス」でゼロ金利にするなどどう頑張ってもGDPの高成長が戻らないという日本、そのデフレ経済の根底にあるのが92年からのグローバリズムの進行だ。 本来、国というものは「一国主義」なのだが、それを声高に主張したのはトランプ大統領の米国である。グローバリズムは、米国の資本に膨大な利益をもたらした。 しかし、トランプ大統領のみならず共和党、民主党としても、共産党一党独裁を捨てず民主主義を認めない中国が米国と世界の覇権を争う存在になったこと自体が面白いことではない。米中の貿易収支の大幅赤字も黙認することができない。新型コロナのパンデミック(世界的大流行)でもいち早く経済再開をしている中国にいら立ちを隠せない。 前回の大統領選では、グローバリズムで失業し没落している米国の労働者階級の票をかき集めたのはトランプ大統領だった。今秋の大統領選では、新型コロナ禍の直撃で米国経済の停止が長引いており、トランプ大統領の下馬評は有利から不利に変わっている。それだけにトランプ大統領はパンデミックの非はすべて中国にあると非難をやめない。 習主席も「一国主義」ではトランプ大統領に何一つ負けていない。中国はリーマンショック時の08年に4兆元(当時のレートで57兆円)の国内インフラ投資を行った。これをテコにGDPで世界2位の国家に飛躍した。中国はそれだけで決して満足しない。中国の長期戦争は、健国100周年にあたる2049年に米国と並び立つ世界の覇権国になるまで終わらない。 米国、日本、ドイツ、あるいは韓国、台湾などの資本が大挙して中国に進出するといったグローバリズムの恩恵で、中国は徒手空拳で復活を遂げた。しかし、復活した中国が発信しているのは、世界の覇権国家になるという「一国主義」そのものだ。※画像はイメージ(ゲッティイメージズ) 日本にとって、中国を「世界の工場」とするグローバリズムを見直すという世界的な機運は千載一遇かもしれない。日本企業系の工場を中国集中型からアジア諸国に分散するだけではなく、日本国内に復帰させる方策が求められる。避けられぬ「パラダイム」の再構築 「経済安全保障」の面から補助金などで優遇して国内に工場を戻す。水平分業による「世界最適配置」のサプライチェーンだけではなく、国としての「クライシスマネジメント」を想定してこれを再構築する。 日本は与野党、あるいは地方自治体なども選挙の票になるということで保育園ばかりに補助金を流し込んできている。中国が中央政府、地方政府とも「中国製造2025」で半導体など次世代の自国ハイテク産業の高度化にアンフェアなほど巨額補助金を注ぎ込んでいるのと極めて対照的だ。 中国が自国ハイテク企業に巨額で不透明な補助金を注入しているは競争上アンフェアであり問題が多い。だが、新しい「富国」を目指して次世代ハイテク産業育成を目指すのはまっとうといえる。アップルが中国で「iPhone」を製造しているように中国は世界のハイテク製品の製造基地になっている。 しかし、アセンブルされたそれらのハイテク製品の中に中国製部品は使われていない。中国が半導体などを筆頭に産業マニュファクチュアの高度化を目指していること自体は当然の動きである。 問題は、グローバリズムの推移の中で無策に中国の「中国製造2025」向けに半導体関連部品、半導体・液晶製造装置、検査機器、工作機械などを供給してきた日本である。それによって日本製造業は収益を得ているのだが、このまま推移すれば2025年以降には日本は中国から半導体を輸入する側に回る可能性もないとはいえない。少なくとも中国はそうした構図を目論んで「中国製造2025」に取り組んでいる。 問題は2025年以降という先々のことだけではない。現状でもあらゆるモノの製造を中国に依存している。過剰な「中国依存」はすでに大きなリスクになっている。医薬品原薬製造なども圧倒的に中国が押さえている。 中国は新型コロナ禍で自国が非難されると、「中国が医薬品原薬の輸出を止めなかったことを世界は感謝すべきだ」と。中国へのサプライチェーンの極度の集中をを逆手にとって世界に感謝を要求している。2020年6月7日、中国政府が公表した新型コロナウイルス感染症に関する白書について、記者会見場で習近平国家主席の映像にカメラを向ける報道関係者ら=北京(共同) 世界が中国に感謝すべきなのか。中国が世界に感謝しなければならないのか。新型コロナ禍は、中国に「世界の工場」、すなわちサプライチェーンが集中している今の世界経済の破綻をあぶり出している。グローバリズムという世界経済の背骨ともいうべきパラダイムが、新型コロナというパンデミックによって、再構築を迫られていることだけは確かである。

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    新型コロナで中国のGDPアメリカ逆転はかなり早まったか

    前のパンデミック「スペイン風邪」だ。その後、景気刺激策を連発した欧米ではインフレが加速、1929年にアメリカの株バブル崩壊に端を発した世界恐慌へとつながっていった。 世界恐慌はスペイン風邪から約10年後に到来したわけだが、今回の新型コロナ禍でもアメリカや日本をはじめとする世界各国が緊急経済対策のために国債を乱発しまくるので、これから世界経済が大混乱することは避けられない。もしかすると、身勝手なリーダーによる「一国主義」の加速や原油価格の暴落が引き金となって、戦争が勃発する恐れさえあるだろう。 実際、新型コロナ禍への対応では、各国指導者の危機管理能力のなさが露呈した。アメリカのトランプ大統領は、失業急増と株価下落などで支離滅裂な言動を繰り返し、もはや常軌を逸している。安倍晋三首相も対応が後手後手かつ粗略で、事業規模200兆円超の緊急経済対策は中身がなく、実効性が非常に疑わしい。自らがコロナウイルスに感染したイギリスのジョンソン首相しかり、中国の習近平国家主席やロシアのプーチン大統領しかりである。※写真はイメージ(Getty Images) また、米中首脳は新型コロナをめぐっても責任をなすりつけ合う不毛ないがみ合いを続けているが、ここで想起されるのは、スペイン風邪の前後に起きた「世界の主役」の交代だ。 19世紀の世界の主役は、七つの海を支配したイギリスだった。しかし、1870年代末にアメリカがGDP(国内総生産)でイギリスを超え、第一次世界大戦・スペイン風邪後に1人あたりGDPでも逆転が決定的となり、それ以降、イギリスがアメリカを上回ることは二度となかった。そして、主役が交代すると、世界秩序が大きく乱れる。その時と同じことが、もしかすると、現在のGDP第1位のアメリカと第2位の中国の間で起きつつあるのではないかと思うのだ。中国躍進の壁 たとえば、感染症対策で世界最強と謳われたCDC(疾病対策センター)を擁するアメリカは、新型コロナへの対応が遅れ、感染者数も死者数も世界最多になっている。このためトランプ大統領は「(発生地の)中国がひどい間違いを犯した。愚かな人間がいたのだろう」「断交してもいい」などと中国に責任転嫁するとともに、経済活動の再開を強引に推し進めている。しかし、本稿執筆時点(5月26日)では、アメリカが感染終息に向かっているとは言えず、経済活動の再開を急げば、さらなる感染拡大を招きかねないだろう。 かたや中国は、新型コロナの「封じ込め」に成功したと喧伝する一方で、すでに経済活動を再開し、感染が拡大している他の国々にマスクや防護服などの医療物資を提供する「マスク外交」も展開している。これから中国が世界で主導権を握ってくると、たとえば自動車はEV(電気自動車)化が一気に加速して中国のメーカーが台頭するだろうし、IT業界でも「BATH(バイドゥ、アリババ、テンセント、ファーウェイ)」が世界を席巻すると思う。 そういう中でも、「GAFAM(グーグル、アマゾン、フェイスブック、アップル、マイクロソフト)」をはじめとするアメリカの優良企業は生き残るだろう。だが、大勢として世界経済全体のバランスは、アメリカから中国に大きくシフトしていくと思われる。 従来のペースで行くと、GDPで中国がアメリカを抜くのは今から10年後の2030年頃と見られていた。しかし、それが今回の新型コロナ禍によって、もっと早まる可能性もある。 ただし、その前に大きな問題がある。中国共産党の一党独裁体制である。自国の経済圏を世界的に拡大するための「一帯一路」構想は21世紀の“新・植民地主義”であり、そのドクトリン(基本原則)のままで中国企業を受け入れる国は少ないだろう。※写真はイメージ(Getty Images) したがって、これから中国企業がグローバル化するためには、(情報を全部共産党に吸い上げられるような)一党独裁体制が弱体化するプロセスと同時進行することが前提条件になる。逆に言えば、共産党による一党独裁支配が終焉しない限り、世界のリーダーにはなれないと思う。●おおまえ・けんいち/1943年生まれ。マッキンゼー・アンド・カンパニー日本支社長、本社ディレクター等を経て、1994年退社。現在、ビジネス・ブレークスルー代表取締役会長、ビジネス・ブレークスルー大学学長などを務める。最新刊は小学館新書『経済を読む力「2020年代」を生き抜く新常識』。ほかに『日本の論点』シリーズ等、著書多数。関連記事■デジタル国家になれない日本 現金給付もテレワークも遅れ■大学のオンライン授業 どうすれば学生は寝なくなるのか■コロナで8か国100兆ドル賠償請求に中国「ならリーマンは?」■アメリカ大統領選挙 トランプ氏にコロナ逆風は吹くか■トランプ氏提唱「体内に日光を照射でコロナ対策」は効くのか?

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    コロナ禍がかき乱す、トランプ再選の行方を占うアメリカの真実

    今村浩(早稲田大社会科学総合学術院教授) 今秋、大統領選挙が行われるアメリカが、新型コロナウイルス禍により混迷を極めている。現状、全米の経済活動は「徐行運転」で再開されている。ただ、地域によっては、やや強引な「見切り発車」と思われる例もあり、今後のコロナ感染の推移は、執筆時点の5月末では全く分からない。それでは、コロナ禍による大統領選延期はあり得るのか、またそもそも可能なのだろうか。 実は、合衆国憲法には投票日についての規定はなく、任期についての定めがあるだけである。修正第20条1項には「4年ごとの大統領選の翌年の1月20日正午に正副大統領が交代する」と規定している。 憲法自体の修正は時間が足りないので無理であろう。だとすれば、今年の11月3日に全米で行われるはずの大統領選挙人選挙、すなわち大統領選は連邦議会の法改正により、少なくとも1月20日の新大統領就任に間に合う範囲でなら、延期は可能だ。 これに関連する連邦法は、1792年と1845年に制定された。前者は、各州の裁量により12月第1水曜日の選挙人投票日の34日前までに行うことができた。しかし、州ごとに五月雨式に投票が行われると、先行州の結果が後続州に影響することを嫌い、「大統領選は11月第1月曜日の翌日の火曜日」という現在まで続く形になったのである。 現在では事実上、この大統領選で勝負がつく。しかし、公式にはその後、各州で選挙人が会して正式な副大統領に投票する。そして封印した投票結果を首都ワシントンの上下両院合同本会議で、副大統領の司会の下に開票するという手続きを踏まなければならない。 この手続きに要する期間を考えれば、現実的には今年のクリスマス休暇前ぐらいまでであれば、大統領選を延期できないことはない。だが、現時点では、期日延期どころか、コロナ感染防止の観点から、むしろ投票所に人口が密集することを避けられる郵便投票の是非が論じられている。 いずれにせよ、憲法上の規定がなくとも問題は山積みだ。大統領選に合わせて、連邦議会の上下院議員に加えて、州レベル以下の公職者を選ぶことになっているからだ。そのため、連邦法改正だけでは延期できない選挙が膨大にある。各州議会の対応が間に合わない可能性もあり、たとえ40〜50日程度の小幅であっても、大統領選の延期は難しいのではないだろうか。 続いて、コロナ禍の中で再選を目指す現職、ドナルド・トランプ大統領の再選戦略について考えてみよう。 通常の任期では憲法上3選が禁じられている合衆国大統領について、半ばジョークとして言われていることがある。それは「大統領1期目の最大の課題と目標は、4年後に再選されること。2期目のそれは、歴史に自分の名を残すこと」というものだ。 そうは言うものの、従来の大統領はまず、就任直後しばらく選挙戦の傷を癒やす。そして「支持者のみならず、全国民のための大統領なのだ」という姿勢を取っている。 だが、トランプ氏は2017年の就任式からひと月と置かず、フロリダ州で自身の支持者を集めた大集会を開いてしまった。どこまで本気かはともかく、異例ずくめと言われるトランプ氏の就任後の行動の中で、最初に私が驚いたのはこの動きだった。 これは事実上、20年の選挙に向けたキックオフと受け止められた。トランプ氏は正直な人ではある。同時に、トランプ氏の選挙公約を実行しようとする姿勢は、すなわち「自分を支持しなかった人々が良しとはせぬ政策を愚直に実行しようとする」ことでもある。 歴代大統領は国民の統一のために、国民の間で意見の大きく分かれる公約の実現に性急に取りかかることには慎重であった。とはいえ、選挙公約を愚直に実行しようとすることが「ポピュリズム」と非難されるべきかどうかは、議論の分かれるところであろう。 17年の当選から今年の初めまでの3年間、トランプ氏の再選戦略はまずまず順調に推移し、進展してきた。ところが新型コロナウイルスによって、現在は全て一変したかに見える。 とりあえず、コロナ直前のトランプ政権の3年間について評価しておこう。正直に言えば、私自身トランプ氏を過小評価していたと反省するところがある。トランプ氏の3年間の実績には、認めざるを得ないことも多い。2020年5月28日、米ホワイトハウスで中国への対抗措置を発表するトランプ大統領(UPI=共同) まず彼に対する批判は、政策自体もさることながら、手法や政治姿勢、言動に向けられてきた。これらはどうでもよいとまでは言わない。しかし私にとっては、しょせん外国の大統領だ。同じような発言や振る舞いを、安倍晋三首相が行うのとはわけが違う。 話題にすべきは政策実績である。二つの視点から、それについて述べたい。侮れないトランプ氏の実績 一つ目は「好況の創出」である。トランプ氏が掲げて実現した公約として、製造業を含む雇用拡大がある。コロナ直前まで株式市場は好調であり、アメリカは好況に沸いていたと言ってよい。もちろん、全国民が等しく潤っていたかはともかくの話だ。 もっとも、バラク・オバマ政権時代の最後期あたりから景気は上向き始めており、トランプ政権初期では彼の功績ではないと言うこともできた。しかし、それから3年にもわたって持続していた好景気を、いつまでも前政権の功績に帰することはできまい。 トランプ氏の二つ目の実績として「対外政策」を挙げたい。17年12月6日、トランプ氏はエルサレムをイスラエルの首都と認定し、テルアビブにある大使館の移転手続きを開始する旨を発表し、西欧を含む国際社会の批判を浴びた。しかし、エルサレムを首都として承認すること自体、実はビル・クリントン元大統領が1992年の大統領選に名乗りを挙げた際に掲げた選挙公約であった。これは95年にエルサレム大使館法として連邦議会で議決されたものの、民主・共和を問わず歴代大統領は正面から反対せずに、実行を先延ばしにしてきたのである。 もちろん「なぜ今になって?」という感は否めない。しかしこれもまた、彼の愚直なまでに選挙公約を実行しようとする姿勢の延長線上だと理解できる。 中東に関しては、イラン革命防衛隊の精鋭「コッズ部隊」のカセム・ソレイマニ司令官を無人機を使って殺害した。これが今年に入って間もない1月3日であったことは、もうほとんど忘れられている。 この直後、アメリカとイランの全面軍事衝突かと思われたが、イランの「反撃」はかなり抑制されたものにとどまった。イランは勝算なしと見て自制したのであろう。さらに1月28日、新たな包括的中東和平案を発表している。内容は、総体としてイスラエルに有利なものであった。これらの一連の政策の背景には、やはりアメリカでのシェールオイルの生産量増大がある。 アメリカの原油産出量は、ロシア、サウジアラビアを凌駕(りょうが)するまでに伸長している。これはすなわち、中東原油への依存度低下を意味し、堂々とイスラエルに肩入れできるようになった。これは中東に緊張をもたらす軍事行動への敷居が低くなったということも意味する。 ソレイマニ司令官殺害は、決して衝動的な短慮に発したものではあるまい。イランの対応を読み切った上で、1月初頭に北朝鮮による核・大陸間弾道ミサイル(ICBM)実験の再開に対する警告効果をも計算した周到な作戦であったと私は考えている。 また、1月15日には中国と「第1段階」の貿易協定で合意した。その内容は、かなりアメリカの主張の通った点ばかりが目に付くものであった。つまり、中国に大幅な譲歩を強いたのであり、トランプ氏の勝利であったと言える。 だが、トランプ氏が公約に掲げたようなこれらの一連の動きがアメリカを再び「偉大」にしたのかどうか、一概には言えない。そもそも「偉大」とは何を意味するかによって、正反対の評価もできよう。 ただし、政治経験の乏しさや、側近、要職者の目まぐるしい交代ばかりに目を奪われ、果ては弾劾訴追で任期を全うできないかもしれないなどという評価は、弾追が空騒ぎに終わった今、完全に誤っていたといえる。 トランプ氏は18年の中間選挙で、下院の過半数を失う手痛い敗北を喫した。しかし、中間選挙はそもそも政権党に分が悪いものなのだ。1862年以後の中間選挙39回で政権与党が勝ったのは、わずかに2回にすぎない。その2回も第2次大戦と9・11テロという国家的危機のときである。 中間選挙史上、政権党の最大敗北は、議席数では2010年にバラク・オバマ政権時の民主党が下院で63議席を失っている。94年のクリントン政権時の民主党は下院で54議席を失った。共和党の場合、ウォーターゲート事件の影響で74年のジェラルド・フォード政権時に、下院で48議席を失った。議席の減少率からして、これこそが中間選挙史上最大の政権党の敗北であるとすることもできよう。これらに比べれば、トランプ氏の議席減は、よく踏みとどまったと言えなくもない。 なおかつ、トランプ氏は着々と再選に向けて手を打ってきている。それは、「黒人」「ヒスパニック」「ユダヤ」の3つの民主党支持の少数者集団に、くさびを打ち込もうとする試みである。2020年6月5日、米東部メーン州で話すトランプ大統領(AP=共同) 一つ目の黒人層は堅固な民主党の支持基盤であり、他の先進民主国には同様の例を見いだせない。もちろん、黒人層の過半数を取り込めるなどとは誰も思っていない。しかし16年の大統領選では、それでも8%の黒人がトランプ氏に投票した。さらに4~5%の黒人層に食い込むことができれば、大きな違いを生み出せる。大統領選は決して全国で得票数を争うのではなく、州ごとの争いであるからだ。 激戦州、接戦州でのわずかな票の上積みが、その州の選挙人の総取りにつながる。人種差別の時代には大学から締め出されてきた黒人に、トランプ氏は高等教育の機会を提供してきた「歴史的黒人大学」への連邦補助金支給法に署名し、これを成立させた。さらに黒人が不満を募らせている刑事司法制度の改革を図るなど、黒人層を意識した政策も実行してきたのである。大統領の苦難 二つ目のヒスパニック層に関しては、黒人をしのぐ(妙な言い方だが)全米最大のマイノリティー集団となり、黒人ほどではないにせよ、民主党に傾いている。それでも先の大統領選では、ヒスパニック系票の3分の1近くがトランプ氏に向かったとみられる。 ロイター通信と調査会社イプソスが昨年7~9月に実施した世論調査では、トランプ氏に対するヒスパニック系の支持率は29%に達した。そして彼らの多くは、アリゾナやフロリダといった激戦州に住んでいる。黒人層と同じく、ヒスパニック系へのわずかな浸透が巨大な差を生むことができるのだ。ただ、ロイターによれば、昨年5月から約半年間にわたるトランプ陣営の戦術は物議を醸しかねないと指摘している。 それはすなわち、英語とスペイン語のフェイスブック投稿の内容が全く違うため、「言語別差別化宣伝」だともいえる。英語では「不法移民取り締まり強化」への支持を呼びかける一方、スペイン語ではその点にほとんど触れていない。代わりに「アメリカ経済は好調だが、民主党はベネズエラ式社会主義を望んでいる」といった内容が表示されているのである。 そして、三つ目のユダヤ系については、前述したイスラエル寄りの政策が、同じく民主党に傾きがちな少数派のユダヤ系の票を意識したものでもあろう。それに加えて、トランプ氏は中絶反対派にも接近した。強硬な中絶反対派は、今日アメリカでは多数派ではなくなっている。実は、トランプ氏は政界に進出するまで中絶容認派であり、大統領選でもこうした社会文化争点に対する態度をあいまいにしていた。 しかし、1月24日、ワシントンで行われた人工妊娠中絶反対を訴える恒例の大規模行進デモ「マーチ・フォー・ライフ(命のための行進)」に現職大統領として初めて出席し、演説している。中絶反対派はキリスト教福音派(エバンジェリカル)と重なるところが大きく、トランプ氏がつなぎ留めておきたい層なのである。 ただコロナ禍により、トランプ陣営の再選戦略が大きく狂ってしまったといえよう。彼のお気に入りの大規模なコンサート風支持者集会を開くことは、もはやできない。とはいえ、ウイルスは党派を選びはしない。民主党のジョー・バイデン前副大統領も自宅からインターネットを介した「巣ごもり選挙」を余儀なくされている。候補者が自宅にとどまって選挙運動を行うのは1896年のウィリアム・マッキンリー大統領以来、実に124年ぶりのことになる。 なお、トランプ政権のコロナ対応への評価は世論調査を見る限り、高くない。しかし、トランプ氏に同情すべき点もなくはない。まず考慮すべき点は、都市封鎖や外出制限などの発動権限が州知事に帰属するということだ。 憲法上、明文で連邦政府に帰属する権限以外は各州の権限なのだ。都市封鎖を解除し、経済活動を再開しようとしても、大統領にできるのは「経済を再開できる一般的な条件を指針として示すこと」にとどまる。知事が従わなくとも、どうすることもできないのである。 さらに大統領には、それが連邦憲法に違反すると判断されない限り、州法に介入することはできない。南部中心にいくつかの州の州法では、白人至上主義の秘密結社「クー・クラックス・クラン(KKK)」取り締まりのために、公共の場所で顔を布で覆うことを禁じていた。 コロナ対策として、マスク着用の推奨や義務化に関し、こうした州法の改正や効力停止の措置が必要であったことはあまり知られていない。トランプ氏のマスクの嗜好は自ら決められても、これらは大統領がどうこうできないのだ。 ところで、アメリカがコロナ対策に難儀している理由として、アメリカ人自身が政府の干渉や強制に対して警戒し、強い拒否反応を持つということを挙げておきたい。参考に、ギャラップ・インターナショナル・アソシエーションが世界30カ国で行った「新型コロナウイルスに関する国際世論調査レポート」を見てみよう。 質問の中で「ウイルス拡散防止に役立つなら、自分の人権をある程度犠牲にしてもかまわない」に同意する割合が示された。アメリカは45%にとどまり、対象国中、下から2番目となった。ちなみに最高はオーストリアの95%で、他にもイタリア93%、タイ85%、フランス84%、韓国80%と目を引く。では、アメリカ人は少しわがままだといえるのだろうか。実はワースト2のアメリカを大きく引き離し、32%しか同意しなかった堂々最下位の国がある。 それは、わが日本である。確かに、昨今「マイナンバーで管理されるのは嫌だ。でも、給付金はすぐよこせ」とよく耳にするが、その両立は基本的にできない相談だろう。それはさておき、話をトランプ氏のコロナ対策に戻そう。 コロナに対するトランプ氏の対応を困難にしているもう一つの要因は、アメリカ全土で一様に感染爆発が起こっているわけではないことだ。さらに、共和党と民主党の支持州と相関しているので、事態はより複雑になる。 アメリカの政治的分断を語る際によく使われる表現に、共和党支持者が多い州は「赤」、民主党支持者が勝る州は「青」というものがある。これは必ずしも州内全てが「真っ赤」「真っ青」というわけではない。もちろん誇張はあるものの、この区分とコロナ禍の関係が実に興味深い。2016年米大統領選の各州の結果。赤が共和党、青が民主党(Getty Images) 赤の州と青の州を、各州知事の党籍で便宜的に分けてみる。そして、アメリカ疾病対策センター(CDC)が公開している全米感染者マップと比較すると、感染者の約3分の2が青の州に見られることが分かる。死者数でも人口当たり死亡者数でもほぼ同様の結果である。 別にウイルスが民主党を好むわけではない。青の州は人口の密集した大都市圏を含んでおり、大勢の人々が利用する公共交通機関が発達している。これらは、ウイルスの伝播(でんぱ)に好都合な環境である。トランプ氏の選挙戦法 そうなると、結果として党派に沿った反応が現れることは避けにくい。民主党優位の青の州に住み、感染爆発と医療サービスの逼迫(ひっぱく)、そしてその崩壊に直面する人々は、嫌でも厳格な都市封鎖と行動制限を受け入れざるを得ない。なにせ命あっての物種だからだ。ところが感染がさほど致命的ではない共和党優位の赤の州の住民は、厳格な都市封鎖など不必要な負担だと考える。 こうしてコロナ禍が終息していない地域が残る中で、いったん停止された経済活動を、いつ、どのようなペースで再開するかについての議論は、おおむね政党の方針に沿ったものになってしまう。知事は自州だけを考えて発言し行動すればよいが、大統領はそうはいかない。 トランプ氏は、経済再開の方向に傾いた姿勢を示している。しかしコロナの流行にも配慮せねばならず、いわば両にらみで臨まなければならない。ゆえに大統領は、どちらか一方だけに肩入れしにくいのだ。 いずれにせよ、トランプ氏の好景気を背景にした再選シナリオは霧消してしまった。現状では、コロナ対応をめぐる「トランプか、バイデンか」の信任投票の色合いが濃くなっているとする向きがメディアを中心に強い。しかし、現職大統領である候補者が臨む大統領選で、現職者への信任投票でなかった選挙などそもそもあっただろうか。 実はコロナ禍以降でも、大統領選の基本的構図は見かけほどには変わっていない。コロナ禍があってもなくても、トランプ氏を忌避する者は、誰であれ民主党候補者に投票するであろうし、トランプ氏の信者もまた忠実に投票すると思われる。 4年前と同様「不人気投票」に持ち込んで、重点州で僅差でも勝って、選挙人票で過半を制する。これがトランプ陣営の基本戦略だと考えられるし、それはコロナ以前からの姿勢でもある。  ただ仮に上記の戦略が維持されれば、今回の大統領選でトランプ陣営は前回以上の困難に直面するだろう。それは対戦相手だ。かつて共和党の指名争いが候補者乱立で混迷した際に、このようなジョークがあった。共和党を結束させられる候補者が1人だけいる。それは、ヒラリー・クリントンである。 クリントン元国務長官は、とにかく彼女を好きな人からは大いに好かれ、嫌いな人からはとことん嫌われるという人物のようだ。トランプ氏とは、その点だけ好一対であり、前回の大統領選は両者の「不人気投票」の末に競り勝つことができた。 その点、バイデン氏は熱狂的な支持者もいない代わりに、彼をひどく嫌悪する者もいない。良くも悪くも影の薄い人物なのである。穏健とは、そういうことも一面にあるのだ。そのような人物に対する嫌悪をかき立てることは容易ではない。とはいっても、過去の女性問題に関する今後の展開次第で変わる可能性はある。 現時点では、変動目まぐるしい世論調査から最終結果を予想することはできない。ただ、トランプ氏に不吉なことがいくつかある。まず、無党派層や65歳以上の高齢者層でバイデン氏がリードしている。これらがどう推移するか、目が離せない。 また、今年の大統領選の勝敗を決するとみられるアリゾナ、フロリダ、ミシガン、ノースカロライナ、ペンシルベニア、ウィスコンシンの6州だが、前回はトランプ氏が全て僅差で制していた。しかし、現在の支持率では全州でバイデン氏に後れを取ってしまっている。ここで、2016年の選挙結果と政治専門サイト「リアル・クリア・ポリティクス」による最新支持率(5月30日時点)を挙げてみよう。※いずれも「リアル・クリア・ポリティクス」の統計による これら6州の選挙人団は計101人にも達する。今回これらの半分でも失えば、トランプ氏の再選はほぼ絶望的となる。中でもペンシルベニア、ミシガン、ウィスコンシンの北部3州は12年に民主党のオバマ氏が勝利し、4年後にトランプ氏が僅差で獲得した州である。 ウィスコンシンは1988年以来計7回、ペンシルベニアとミシガンでは92年以来6回、民主党候補が勝利し続けている。それゆえ、16年の大統領選では意外な結果と受け止められた。現在はこの3州でバイデン氏がリードしており、とりわけペンシルベニアではやや差が広がっている。 しかし前回も、3州の支持率で、トランプ氏はクリントン氏を一貫して下回っていた。特にミシガンでは投票日直前の10月後半の時点で、その差は12ポイントにも達していた。今後も注視していく必要はあろうが、結局はふたを開けてみるまでは分からない。目につくバイデン氏の欠点 とはいえ、従前の大統領選とは趣を異にする点もある。一連の予備選を通して候補者が決まる現在のやり方が定着してからは、一つのパターンが出来上がった。予備選に投票するのは両党の熱心な支持者であり、アメリカ人全体の中では、共和党は保守寄りに、民主党はリベラル寄りに偏っている。 そうした票を競い合う中で両党の候補者は、保守寄り、リベラル寄りに偏り過ぎていく。そうしなければ予備選では勝てないからだ。しかし、晴れて大統領候補者の座を確実にした後には、候補者は自らの位置を中道寄りにシフトしていかなければならない。 ところが、本来中道のはずのバイデン氏は、民主党候補者の座を確実にしてからも、むしろリベラル寄りにかじを切っているように見える。それはやはり、指名争いから撤退したバーニー・サンダース上院議員の支持者をにらんでのことであろう。あまりに露骨な中道シフトは、熱心なサンダース氏の支持者に加え、同じく撤退したエリザベス・ウォーレン上院議員の支持者の失望と離反を招く。 これらの支持者は、まさかトランプ氏に流れないであろうが、棄権してしまうかもしれない。それを避けようと、バイデン氏はかなり際どい綱渡りを試みているように見える。すなわち、リベラル左派の意見を取り入れつつも全面的に採用はせず、郊外住宅地に住む中産階級の穏健な民主党支持者や、白人労働者階級が離れない程度の政策にとどめておくという芸当である。 バイデン陣営は、環境、医療保険制度改革、経済、教育、司法制度改革、移民制度の六つの政策分野について政策チームを設置した。6月中にも提言を行ない、選挙公約に反映させるためである。その一つ、環境問題チームの共同議長に起用されたのは、米国史上最年少の下院議員として話題となったアレクサンドリア・オカシオコルテス氏であった。彼女は民主党急進左派の顔として、紛れもないサンダース支持派である。 彼女はバイデン氏の指名が確実になってからも、しばらくは距離を置いていた。その彼女の起用は、将来の化石燃料全面廃止といった過激な政策を取り込むことで、サンダース支持派をつなぎ止めようとする意図に出たものであろう。しかし、もう一人の共同議長には、2004年の選挙で大統領候補者であった穏健派と目されるジョン・ケリー元国務長官を充てて、均衡を取ろうとしている。 ところで、トランプ氏はほんの少し前までサンダース氏の公約を社会主義として批判してきた。だがそのトランプ氏が、現代アメリカ史上最大規模のリベラル、社会主義的の政策、それも総額3兆ドルを越えようかという救済策を推進するとは、大いなる皮肉と言うほかはない。 とはいえ、トランプ政権発足から早いもので約3年5カ月がたった。ようやくこの人の類いまれな人となりにも慣れてきたように思う。おそらくは、他に例を見ない彼の能力の一つは、謝罪も訂正も躊躇(ちゅうちょ)も一切せずに前言を翻し、なおかつ「いや、最初からそのつもりだったのだ」と言い募って、恬(てん)として恥じずにいられる、あるいはそう見えることなのではないか。 これは皮肉でもなんでもない。実際、一貫性や整合性などという、つまらぬものにこだわる気の弱い私には、到底まねのできぬ芸当である。トランプ氏はこれからもトランプ氏であり続けよう。2020年6月5日、米東部デラウェア州の集会で話すバイデン前副大統領(ロイター=共同) 一方、バイデン氏にはさほど「アクの強さ」が感じられない。逆に不安が付きまとうのは、その失言癖である。最近もラジオ番組で黒人の司会者にこう言い放った。私かトランプのどちらを支持するか迷うようなら、君は黒人じゃない。you ain’t black” if ”you have a problem figuring out whether you’re for me or Trump. 上記の発言後、バイデン氏はこう陳謝している。(黒人の)偉そうな保護者気取りであってはならなかった。黒人社会が支持してくれて当然だなどと思ったことは、誓って一度もない。I should not have been so cavalier. I’ve never,never,ever taken the African American community for granted. いささか旧聞に属するものの、もっと見逃せない発言もある。2016年8月15日、ペンシルベニア州におけるクリントン氏の応援演説において、日本の核武装を容認するかのような当時のトランプ氏の発言を批判し、こう述べた。彼(トランプ)は、核武装を禁止した日本国憲法をわれわれが書いたことを、分かっていないのではないか。Does he not understand we wrote Japan’s constitution to say they couldn’t be a nuclear power? 全く根も葉もないでたらめを言ったわけではない。この人の「失言問題」は、その内容と別にある。それは、大局ではほぼ事実ではあっても、それを粗暴で直截(ちょくさい)に過ぎる仕方で語ってしまう点、要するにデリカシーを欠いているのだ。政治家としてのバイデン氏の欠点は、軽率さなのである。デモの先にある未来 実は過去にもそうした発言をした大物政治家はいた。それは1999年11月19日、カリフォルニア州シミ・バレーのロナルド・レーガン記念図書館にて、ジョージ・W・ブッシュ元大統領が行った外交政策についての演説である。彼は「真にアメリカ的国際主義」と銘打った演説において、過去のアメリカの「寛大な」外交政策に触れ、日本についてこう述べた。われわれは、日本を打倒した国民である。そののち、食料を配給し、憲法を書いてやり、労働組合の設立を促し、女性に投票権を与えてやった。報復を予期していた日本人は、代わりに慈悲を得たのだ。 ただし当時のブッシュ氏はテキサス州知事であり、有力とはいえ、大統領選の共和党候補者の、そのまた候補者の一人にすぎなかった。彼が大統領に就任してからは、さすがに公式にはこの種の発言は伝えられていない。ところがバイデン氏は現職の副大統領の地位にありながら、日本に関する上記の発言をしてのけたのである。 確かに副大統領は閑職であり、大統領が死亡するのを待つだけが仕事だと揶揄(やゆ)される。それでもやはり、公式には大統領職継承第1順位にある要職ではある。そのような地位を考えれば、失言と言うより暴言に近かった。 「日本国憲法はアメリカ製」という見方は、実はアメリカで広く共有されている。2016年の演説時の映像には、バイデン氏の背後で何度も深くうなずくクリントン氏が映っている。ある意味で、これは戦慄(せんりつ)すべきことなのではないか。かの国の態度に、そうした「両国を対等ではない、日本を一段下に見る意識」、今風には上から目線気味に感じることがままある。捉えようによっては、単に私がひがみっぽいだけなのかもしれない、とはいえだ。 それでも、アメリカ人にとっての憲法典とは、政治について、いわば「デモクラシー教」の神聖な経典のようなものである。だから「書いてやった相手」をどうしても対等だとは思えないのであろう。ただし、この憲法を一言一句も手直しすることなく時を過ごしてきたわれわれ自身にも、大きな原因と責任があることは言うまでもない。とにかくトランプ氏と同じく、これからもバイデン氏はバイデン氏としてあり続けよう。そしてバイデン氏がトランプ氏より付き合いやすい相手か、世界の指導者にふさわしい人物なのかについて、私は懐疑的なのである。「未知の天使より、見知った悪魔を」とまで言っていいものか、ためらわれはするのだが。 最後に、6月に入って急速に拡大した警察官による黒人男性暴行死に対する抗議行動が、大統領選にどのように影響するか考えておきたい。 抗議運動自体がどう終息するのか、しばらく続くのか、確かな見極めもつかない今の時点で、あまり断定的なことは言えない。しかし、意外にもこの暴動が選挙に決定的な影響は与えない可能性もある。確かに、黒人層に大きな不満が存在していることは紛れもない事実である。しかし、それは警察の暴力だけではなく、経済不況やコロナ禍も複合した不満だ。 コロナが流行する前の10年間、黒人の経済状況は着実な改善を見てきた。11年から今年2月までに、黒人の失業率は16%から5・8%に低下し、白人の約2倍とはいえ、半世紀で最低の水準となっていた。黒人の生産年齢における就業者比率も今年2月に59%に達し、白人より2ポイント弱低いだけであった。 だが、コロナ禍については、黒人の在宅勤務率は低いため、ウイルスにさらされやすい。結果的に、黒人層の犠牲者は人口比で突出して高くなった。学校閉鎖に伴って行われたオンライン授業でも、都心部の黒人層は郊外住宅地の中産層に比べ、通信環境や機器などの十分な準備や対応ができなかった。これらの苦境に対する不満に、警察の暴力事件が火をつけたのだ。 ただ、元来黒人の9割近くは民主党支持者であり、先述のように前回トランプ氏に投票した黒人は8%にすぎなかった。今回の件で黒人支持者がトランプ氏を離れることはないだろう。というより、離れるも何も、とっくの昔に共和党を離れてしまっている層だからである。 無論、黒人が「覚醒」することで大幅に投票率が上昇したり、前回の8%まで失ってしまえば、話は違ってくるかもしれない。とりわけ、ほんのわずかの票で勝負の決まる接戦州では勝敗を左右し得ないともいえない。しかし、人種や階層を問わず、アメリカ国民の間に「コロナ」「不況」「抗議運動」の3点セットによる閉塞(へいそく)感、無力感が広がるようなら話は違ってくる。2020年6月3日、米東部ニューヨーク市で行われた黒人男性死亡事件の抗議デモ(上塚真由撮影) そうした場合、とりあえず現政権を取り換えてみる、という方向の選択をするかもしれない。別にバイデン氏や民主党をさして好まなくともだ。また、そうした行き詰まり感を打破しようとする欲求は、1968年に「法と秩序」を掲げた共和党のリチャード・ニクソン元大統領に勝利をもたらした。80年のロナルド・レーガン元大統領の勝利も、79年末に起きたイラン米大使館人質事件をめぐるジミー・カーター政権の不手際などの行き詰まりを打破したいという感情が働いたのかもしれない。 「陰鬱(いんうつ)な天候から脱して抜けるような青空を見たい」という漠然とした感情は、「いったん広がってしまうと手に負えなくなりがち」という点で、ちょうど新型コロナウイルスに似ている。どれほど政策を語っても、効くことはないからだ。抗議運動があと5カ月も続くとはさすがに考えにくいが、コロナの感染爆発の終息と不況からの脱出の兆しが見えてこなければ、トランプ氏の再選は危ういものとなろう。

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    ポスト安倍に小池知事も参入?評価を分けるリーダーの危機管理センス

    吉川圭一(グローバル・イッシューズ総合研究所代表) 米ミネソタ州のミネアポリスで起きた白人警察官による黒人男性暴行死事件に対する抗議デモが全米に広がり、一部が暴徒化したため31の州が非常事態を宣言し、3万人以上の州兵が動員された。 デモの一部暴徒化は「ANTIFA」(アンティーファ)と呼ばれ、反ファシズムを標榜する極左過激勢力が背景にあるとみられており、トランプ政権はアンティーファを「国内テロ」団体に指定する意向を示した。5月末に彼らを監視していた連邦政府のテロ対策専門警備員が銃撃され1人が死亡しており、デモ隊の8割はアンティーファだという情報もある。 今回のデモでアンティーファは、ワシントンDCの歴史的建造物であるリンカーン記念館まで、黒人差別の象徴として破壊しているとされる。これが事実なら、黒人差別への抗議ではなく破壊のための破壊で、州兵の動員も当然と言えるだろう。 しかし、州兵を動員すれば、アンティーファ以外の真に善意で黒人の人権尊重のためにデモに参加した人が傷ついたりする可能性がある。平和的な抗議行動を取り戻すためにアンティーファと闘っている黒人がいるのも確かだ。 まして、6月1日になってトランプ大統領は、各州が州兵で暴徒を鎮圧できない場合を踏まえ、正規軍の投入まで示唆した。これについては賛否が渦巻き、その後トランプ大統領は事実上撤回したが、州兵で足りなければ正規軍投入を検討するという考えこそ、部分ではなく全体を守る意味で、後述するように真の危機管理である。 一方、パンデミック(世界的大流行)となった新型コロナウイルスに対する日本政府ないし東京都の緊急事態宣言には「行き過ぎ」だったのではないかとの批判も多い。 特に東京都の小池百合子知事に関しては、国の緊急事態宣言による休業要請にない飲食業や遊興業の一部を少なくとも都内では国と交渉して付け加えるなど、自らの存在感を誇示するようにも見えた。だが、それぐらい「行き過ぎ」をするのが危機管理だとも言える。 そして本当に「行き過ぎ」だったのだろうか。およそ2カ月前を振り返れば、緊急事態宣言が7都府県に発令された3日後の4月10日時点で、東京都の感染者増加率は、3月19日時点でのカリフォルニア州と同じくらいである。この日、外出自粛要請を出したカリフォルニア州では、4月10日現在の感染者数は約2万人でだった。 これに対して感染爆発(2週間前より感染者数が10倍)になった以降の3月22日に外出自粛要請を出したニューヨーク州では、4月10日現在の感染者は17万人である。つまり小池知事が危機管理のために「行き過ぎ」た対策をとったとは言えない。 だが、ニューヨーク州のクオモ知事は違うように見えた。明らかに今秋の大統領選を意識し、あわよくば民主党の大統領候補を視野に、「行き過ぎ」を行い必要以上に問題を大きくしたとの見方がある。2020年5月7日、米ニューヨーク州で記者会見するクオモ知事(ロイター=共同) こうしたクオモ知事の言動の背景には、民主党の大統領候補選びの混迷がある。有力者の一人だったサンダース上院議員は予備選から撤退したが、それは積極的な選挙運動を停止したにすぎない。予備選の残された州で使われる投票用紙には彼の名前も残っている。クオモ知事に残る疑念 そもそも、民主党の大統領候補であるバイデン前副大統領については「物忘れ」のひどさや、セクハラ疑惑、息子の裏金疑惑などがあり、不安材料が多すぎる。 ゆえに、バイデン氏が今後の予備選挙で過半数をそろえられないことがあったり、順調に過半数の代議員を確保できたとしても、民主党幹部らの説得により、クオモ知事に民主党大統領候補の地位を譲ることになるのではないかという観測さえあった。 いずれにしても4月上旬のいくつかの世論調査で、多くの人がバイデン氏よりクオモ知事が大統領候補として望ましいと答えた。クオモ知事は民主党だけに当然ではあるが、トランプ氏と競うかのように一日に何度も記者会見を開き、誇張が目立った。次のような一例がある。 ニューヨーク州は4月初旬時点で、3万台以上の人工呼吸器と14万人分の病床が必要だとして、その提供を大統領に求めたが、シアトルに本部がある国際的な医療関係統計調査機関、保健指標評価研究所(IHME)の試算では、これはそれぞれ、約5千台と2万3千床だった。つまり、自らが脚光を浴びるために相当誇張した数字を主張していた可能性が高いという。 これについては、トランプ大統領も直感的にクオモ知事の誇張を見抜いていた。3月下旬にFOXの番組に出演した際、クオモ知事の主張する数字への疑念を表明。いずれにしても3万台の人工呼吸装置を直ぐには作れないという「常識論」を主張した。 これに対し、クオモ知事は「2万5千人を殺す気か!」と絶叫し、それに多くのリベラル派メディアが追随した。こうしてスーパースターとしてのクオモ知事のイメージが作られていったのだ。特にCNNでは、キャスターの一人でクオモ知事の弟が、トランプ大統領の演説のビデオを編集し、「トランプがすべき準備をしていなかった」という誤った議論を助けるための欺瞞を行った。 実際は、トランプ大統領は1月末には、米疾病予防管理センター(CDC)を活性化し、タスクフォースを作り、公衆衛生に関する非常事態宣言により中国からの旅行制限をしていた。それが3月13日の国家非常事態宣言に繋がっていくのである。この連邦政府の非常事態宣言により、以下のことが可能になった。•財政、人事、サービス、ロジスティックス、および技術支援の形での州への連邦支援の活性化•社会保障法を含む他の法律で緊急規定を引き起こすこと•個人、組織、州政府、地方自治体に対する規制要件の緩和•国家インシデントマネジメントシステム (NIMS)およびその他の緊急対応システムのアクティブ化 これらを見ても分かるように、米国は連邦制なので、日本以上に非常事態の対応は州(地方自治体)の役割であり、それをサポートするのが国の役割である。実際、米国では州の非常事態宣言の方が重視される傾向があり、クオモ知事もトランプ大統領に先駆けて3月7日に宣言している。この州による宣言で、以下のようなことが可能になった。米ニューヨークの医療センターで、新型コロナウイルス用区画の近くを歩く医療関係者=2020年5月26日(ゲッティ=共同)•州緊急対応計画と相互扶助協定の活性化•州緊急オペレーションセンターとインシデントコマンドシステム(ICS)の活性化•資金を支出し、人員、設備、備品、備蓄を配備する権限•対応活動に関与する人々のための法的免責および責任保護の活性化•規則および規制(および許可されている場合は法令)の一時停止および放棄 このように米国では、国家と州の役割が「合わせ鏡」のようになっているが、非常事態対処の主体は日本以上に地方自治体(州)にあり、その足りない部分を補うのが国家の役割になっている。危機管理に伴う厳しさ そのためクオモ知事は、前述のような派手なパフォーマンスができるのである。休業させる業種に関して最後まで国との調整に苦労した東京都の小池百合子知事とは違うのである。 今回クオモ知事は、州内の緊急に必要ない人工呼吸装置を州兵に探させて、それを収集して必要な病院に運ばせたりしている。また、外出自粛に違反した場合、罰金を最大1万ドルとした このような権限があるにもかかわらず、なぜクオモ知事は感染爆発が起こるまで外出自粛命令を出さなかったのかという疑問がある。少々悪意が過ぎるかもしれないが、ニューヨーク州を悲惨な状況にすることで、自らに注目を集め、大統領への道を目論んでいたのではないかとさえ思う。 実際、ニューヨーク市だけで全米の新型コロナ感染による死亡者の3割近くにのぼっている。それがなければ米国の死亡率は通常のインフルエンザとあまり変わらない。コロンビア大の分析によると、ニューヨークが1週間早く外出禁止令などを出していた場合、メトロエリアで1万7千人以上の命が救われたとしている。 それどころかクオモ知事は連邦政府の指針を無視して新型コロナに感染した高齢者を介護施設に戻した。結果として5400人が介護施設で亡くなった。これは米国における介護施設での死亡者の20%以上である。共和党が調査に乗り出しており、介護施設で亡くなった人の家族でクオモ知事を「人殺し」呼ばわりしている人もいるという。 ニューヨーク州は人口1900万人中、約2万7千人が新型コロナで亡くなった。だが、約4千万人で最も人口の多いカリフォルニア州は約2800人。テキサス州は、約2900万人で2番目に人口が多いが、死亡者は1121人にとどまっている。これらの州がニューヨーク州より死亡者が少ないのは、むしろ感染したら生命に危険の及ぶ介護施設の入所者らに対策を集中したからである。 それは逆の視点から見れば、感染しても助かる可能性の高い若者への対策を減らしたということだ。その結果、亡くなった若者もいたかもしれないが、全体としての死亡者数を減らすことができた。阪神大震災以来、日本でも取り入れられるようになった「トリアージ」(助かる可能性のある人を優先的に救助する)の考え方だろう。真の危機管理とは、こうした厳しさを伴うものだ。 日本における在り方にもいまだ賛否があるが、憲法に組み入れるかどうかは別として、何らかの強制力を伴った緊急事態法の整備を急ぐべきではないだろうか。日本は米国と違う中央集権国家であり、東京以外の道府県の財政力も弱すぎる。米国の州兵のような制度もない。日本版緊急事態法は、国家が中心となるべきだろう。そうすれば米国のような地域による不整合は避けられる。 一方、日本で最も感染者が多い東京都を任された小池知事はどうだろうか。小池知事は「希望の党」を結党した2017年秋の都議選での失敗に学んだのか、評価はさまざまあるが、今回のコロナ対応では自身の存在誇示は比較的抑制的だったように思う。記者会見する東京都の小池百合子知事=2020年5月29日、東京都庁 それでいて一部の遊興業を休業要請に加えさせるなどのリーダーシップも発揮している。安倍晋三首相と小池氏は過去の失敗から学んで進歩し続けることや、危機に強いリーダーシップなど似た部分がある。ポスト安倍候補に小池知事も そもそも小池知事は、2007年に防衛大臣に就任した当時に断行した事務次官の更迭は、ワシントンでも高く評価された。 今回のコロナ対応についても、5月末に感染者数が増えているにもかかわらず、東京都の経済再開を「ステップ2」に進め、その数日後には感染率が再び増加したため「東京アラート」を出している。個人の人命に関わる感染リスクと都や国全体に関係する経済再開のバランスを、ギリギリで巧みに決断した。これも一つの「トリアージ」的な危機管理である。 また、2017年の総選挙の際、「排除する」という発言は重大な失言と思われてしまったが、この発想こそが「トリアージ」であり、危機管理で最も重要な発想でもある。 もし次の解散総選挙で都知事を辞し、衆院議員候補として再度出馬すれば当選する可能性が高いだけに、ポスト安倍の意外な有力候補なのかもしれない。今回の経緯を見ても彼女であればクオモ知事のようなことはしないだろう。 特にコロナ問題で米中関係は今まで以上に悪化し太平洋上で両国の超音速戦略(核)爆撃機が、お互いを牽制し合う状況にまでなっている。日本のメディアはあまり報道しないが、日本上空で米国の戦略爆撃機と航空自衛隊の戦闘機の合同訓練まで始まっている。いつ熱い戦争が起きても不思議ではない。特にコロナや香港の問題で米中関係は緊張の度合いを高めている。 こうした危機にもリーダーシップを発揮できる可能性が高い小池知事ならば、ポスト安倍も順当のようにも思われる。特に今回のコロナ対応は彼女にとってよいトレーニングになったように思う。 今まで述べてきたように危機管理や国家安全保障とは、マニュアルのない状態でギリギリの決断をすることである。まして先述のような米中の超音速戦略(核)爆撃機による攻撃などで、もし仮に1千万人以上の都民を強制避難させるような事態が起きたとしたら、非常に強力な強制力を持った、真の緊急事態法の整備は急務であり、今回の教訓が生かされるだろう。 米国では国家と州の「合わせ鏡」がなければ緊急事態は機能しない。そこでクオモ知事の行動にもトランプ大統領による一定の歯止めもあったことは先述した。米フロリダ州で発言するトランプ大統領=2020年5月30日(UPI=共同)  また、バイデン氏の副大統領候補で有力なミシガン州のホイットニー知事も、自らの指導力誇示のために州議会の反対を押し切って非常事態宣言を延長しようとして、共和党関係から訴訟を起こされたりしている。やはり日本では前述のような自治体の能力不足などの理由からしても国家中心でなければ機能しないだろう。 それでは真の緊急事態に間に合わないという意見もあるが、クオモ知事やホイットニー知事のようなケースを考えると、緊急事態宣言は内閣の一致で行い、1カ月以内に衆参両院の過半数の同意がなければ無効になるというような歯止めが必要なことは、確かだと思われる。

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    アフターコロナ「中国の野望」はトランプの自滅で動き出す

    せた」と語っている。当時のWHOはそんな米国に文句の一つも言えなかったのである。 変化の理由には、「アメリカ・ファースト」を前面に押し出すトランプ政権の4年間で、パクスアメリカーナや米国のソフトパワーの減衰を、世界の多くの国や国際機関が感じ始めたことが挙げられる。 昨年トランプ政権が仕掛けた「華為(ファーウェイ)包囲網」も、中国に対する為替操作国認定も、以前だったら西側先進国が米国と歩調を合わせ、中国も大きな打撃を被ったはずだ。 注目は欧州の米国離れだ。新型コロナ問題で中国への逆風が強まる中、独通信大手ドイツテレコムは第5世代(5G)移動通信網を構築する上でファーウェイの技術が必要だと有力紙「フランクフルター・アルゲマイネ・ツァイトゥング」に答えたという。 中国の視線もこの点に向けられている。武漢の封鎖解除がまだ解かれない中、イタリアやドイツ、フランス、スペインなどに医療物資やスタッフを送り込み、支援に動いたのは象徴的だ。2020年3月、ブリュッセルで記者会見するフォンデアライエン欧州委員長(AP=共同) さらに4月29日には、欧州連合(EU)欧州委員会のウルズラ・フォンデアライエン委員長と電話会談した李克強首相が、「中国は欧州とともにワクチンや新薬の開発を行いたい」と語った。新型コロナ後の争奪戦が予測される分野での協力を持ちかけた形だ。 米中の対立が激化する中、「西進」へと邁進する中国の選択は結実するのか。今後の世界の趨勢を決める大きな要素だ。 米国にはそれを阻止する力は十分あるが、トランプ政権が「新型コロナの武漢研究所発生説」や「台湾のWHO加盟」を持ち出す嫌がらせや、「中国と戦っている」というパフォーマンスに終始するなら、中国に吹く新型コロナの逆風はいずれ追い風に変わるだろう。それは米国の政治家の利益にはなっても、国益のための行いではないからである。

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    ざわめいたポスト金正恩、なぜ最愛の妹「与正」はダメなのか

    重村智計(東京通信大教授) 北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長がメーデーの5月1日に姿を見せた。中部順川(スンチョン)のリン酸肥料工場の完工式に出席したと北朝鮮国営メディアが報じたのである。 20日ぶりの登場に、「死亡説」「重篤説」を主張していた識者は批判に晒された。一方で、「手術もしていない」説や「影武者」説も浮上するなど混乱は続き、疑問もいまだに解消されていない。北朝鮮側が3日に韓国との軍事境界線付近で発砲したのも異常だ。 北朝鮮と韓国は工作国家である。この前提と認識がないのに、公式発表を完全に信じれば騙される。朝鮮半島問題を取材する記者の常識だ。 かつて、北朝鮮は「地上の楽園」と自らの国家を宣伝したが、帰国した在日朝鮮人の多くは「地上の地獄」で人生を失った。日本人拉致も「していない」と言い張り続けた。 34年前、韓国国防省は、北朝鮮が拡声器による政治宣伝放送で「金日成(キム・イルソン)主席死去」を伝えたと発表した。だが1週間後、平壌空港に降り立ったモンゴルのバトムンフ書記長を金主席が出迎えるサプライズを行った。今回の金委員長「登場」も、この事件を思い起こさせる。 北朝鮮問題に関する報道や情報は、三つのポイントで見極める必要がある。「親北朝鮮の専門家」か、「反北朝鮮の立場」か、「公平な立場の日本人」か、だ。韓国の文在寅(ムン・ジェイン)政権のように、北朝鮮に気を使って「何でもかんでも支持」する立場は信用できない。 今回、なぜ影武者説が出たのか。金正日(キム・ジョンイル)総書記に影武者がいたからだ。2020年5月1日、北朝鮮・順川の肥料工場完工式でテープカットを行う金正恩朝鮮労働党委員長。左から2人目は妹の金与正党1副部長(朝鮮中央通信=共同) 少なくとも2人の日本人が「金正日の影武者」と面会していた。1人は日朝貿易会の幹部、もう一人はイリュージョニストの引田天功(プリンセス天功)さんだ。情報機関の関係者は、声紋分析の結果から南北首脳会談や日朝首脳会談に現れたのは影武者だと、今も疑う。 日本では、本物と偽物を見分けることはできなかった。それほど、北朝鮮の影武者技術は優れているのだ。「金正恩登場」最大の謎 天功さんは、金総書記には整形手術した3人の影武者がおり、1人は女性だったと証言した。確かに写真を詳細に分析すると、喉頭(のどぼとけ)のない金総書記がいた。 こうした過去の事実から、金委員長にも影武者が存在すると言われてきた。20日ぶりに登場した金委員長の映像を点検した、ジャーナリストの西岡省二氏は「でもすっきりしない」と書いているが、正常な判断だといえる。 なぜ4月15日の金主席生誕記念日に、主席を安置する錦繍山(クムスサン)太陽宮殿に参拝しなかったのか、20日間何をしていたのか、なぜ愛用の腕時計をしていないのか、なぜ高官が4人しか同行しないのか-。いまだに解けない疑問が尽きないが、「金正恩登場」の謎は他にもある。 韓国の朝鮮日報は5月3日、大統領府の高官が「金委員長は手術していないと判断している」と語ったと報じたが、「根拠を示さなかった」とも付け加え、高官の名前と役職も明らかにしなかった。相手が匿名報道を求めたので、信用できないと判断したのだろう。 最大の謎は、米韓両首脳が真実を全く語っていないことにある。共にあれほど大騒ぎして会議まで開いたのに、何も言わないのはおかしい。 米国のトランプ大統領は1日に「今はコメントできない。適切な時期に発表する」と述べつつ、翌日「彼が健康なのはうれしい」とだけツイッターに投稿した。米情報機関が、はっきりするまで発言を控えるように、大統領に要請している様子が浮かび上がる。 文大統領も同じ状況なのだろう。いったい2人は何を待っているのか。情報機関は、声紋分析できる「声」が欲しいのに、映像で声を出さないから疑念が晴れないのだ。写真だと、いくらでもごまかせる。2020年5月3日、北朝鮮との軍事境界線に近い韓国・坡州の軍監視所で歩哨に立つ兵士(AP=共同) そのような中で3日に、南北軍事境界線付近の南側にある韓国側の監視所に向け、北朝鮮側から発砲があった。朝鮮人民軍では、中央の命令がない限り、「誤射」など絶対にありえない。誤射したら、関係者が処罰されてしまう。 もし、指示があったとすれば、国内引き締めのために軍事緊張を高めたのか。指示がなかったのであれば、軍の統制が乱れていることになる。「後継者」どう決まる? 金委員長の妹、金与正(キム・ヨジョン)朝鮮労働党第1副部長は、委員長から最も信頼され、また直言できる唯一の人物だ。5月1日の工場完工式典でも、金委員長に寄り添っていた。ただ、彼女の少しやつれた様子が、事態の深刻さを示唆した。 各国メディアやいわゆる専門家は、金委員長が姿を消した間、「後継者は金与正だ」という報道や分析を根拠もなしに広げた。これらの主張は、「金正恩が妹を後継者に指名した」との脱北者情報や、「妹にしか相談しないので、一番信頼されている」といった情報をもとにしているが、誰も金委員長に直接聞いたわけではあるまい。 脱北者のほとんどは、金委員長と接触できる地位にはなかったから、指導層の動向や人物像を知るはずがない。それでも自分を売り込むために、反北朝鮮の立場から確認できない情報を語る傾向がある。 何より、朝鮮半島の政治では、後継者を指名した途端に独裁者の地位が危うくなる、という歴史的な伝統を知らない。すぐに後継者に取り入る集団が形成されるから、実力ある人物が生まれやすく、「二重権力」体制ができる。 だから、南北朝鮮の指導者は、優秀で実力のある人物をナンバー2にしなかった。北朝鮮の崔竜海(チェ・リョンヘ)最高人民会議常任委員長も、全く力のない人物と知られているほどだ。 それでは、後継者はどのように決まるのか。北朝鮮では、金主席の血統が正統な指導者の最大の条件だ。 指導者に不幸がありそうな場合は、まず金主席の娘で金総書記の妹、金敬姫(キム・ギョンヒ)氏が主催する「家族会」が開かれる。会では、家族の意向として金主席の血統につながる人物が選ばれる。その上で、労働党と人民軍の長老に相談して同意を得る。 現在、党は敬姫氏が握っている。軍は呉克烈(オ・グンニョル)元国防副委員長が掌握している。2人の同意で後継者は決まる。2018年4月、文在寅大統領との会談に臨む北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長(左)と妹の金与正氏=板門店(韓国共同写真記者団撮影) 後継者候補には誰がいるのか。よく知られるのは、金総書記の異母弟の金平一(キム・ピョンイル)氏と、金委員長の兄の金正哲(キム・ジョンチョル)氏、金主席の隠し子だった敬姫氏の夫で2013年に処刑された張成沢(チャン・ソンテク)元国防副委員長が養育した金賢(キム・ヒョン、張賢とも)氏だ。この他にも、金主席と金総書記の隠し子が3人ほどいるといわれる。 いずれにしろ、儒教文化の根強い北朝鮮で、女性が指導者になる可能性はほとんどない。与正氏を後継者に指摘する論調は、北朝鮮の伝統と歴史、文化、そして内部の人間関係をよく知らない分析でしかない。

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    大統領選は混迷?コロナ大災厄で再燃するアメリカの「急所」

    吉川圭一(グローバル・イッシューズ総合研究所代表) 新型コロナウイルス問題は、米国民の医療保険に関する意識の一部を変えたようだ。米大統領選民主党候補であったサンダース氏が叫んだ「全ての人にメディケアを!」という政策に賛同する人が増えたとされる。しかし、彼は予備選撤退を余儀なくされた。なぜだろうか。 その答えは、米国の医療保険制度について知る必要がある。米国の医療保険制度は非常に複雑である。そこで以下の記述は、あくまで概略であるということを事前に断っておきたい。 米国の医療保険は、元々は1920年代から徐々に民間の生命保険、損害保険会社が始めた。そのため60年代には、65歳以上の高齢者で医療保険無加入の人が下の世代より多くなり、そこで「メディケア」という公的医療保険制度が導入された。 これは10年以上米国に合法的に居住していた人が収入の2・9%を払っていれば(雇用されている人は半分を雇用主に払ってもらえる)、65歳以上ないし重度の障害者などになった場合に適用される。 60日までならほとんど自己負担なしで入院できる(60日以降に関しては、徐々に上がっていき、150日以上は全額である)。追加として約135・5ドルの保険料を毎月払えば、外来診療および今回も問題になったようなワクチンや人工呼吸器などの特殊な治療も年間183ドルまでは無料で、その後は自己負担20%である。ただ、精神科は45%、検査は無料である。 メディケアは大部分の薬に関しては適用されていなかったので、2003年から追加料金を毎月支払えば、医師から処方される薬剤の費用が補償される。ただし、この部分に関しては、慈善団体や労組、民営医療保険会社なども関係しているため、保険料や補償内容は標準化されていない。だが、平均的な世帯の保険料は月30~50ドルくらいで、そして場合によっては薬剤費の100%が補償されることもある。 米国在住の私の知人で65歳以上の人が、何度も心臓関係の大手術を受けたが、1回の入院でほとんど費用を払わずに済んでいたようだ。これは北欧諸国並みに充実した医療福祉制度と言えるだろう。導入したジョンソン大統領が「偉大な社会」をスローガンにしたのも分かる気がする(他に彼は都市のインフラ整備など、後のオバマ政権のモデルとなった部分が多い)。 では、65歳未満で重度の障害者でもない低所得者はどうするのか。そのような(オバマケアができてからは米国政府が定める貧困線を33%まで超えている)人々向けに「メディケイド」という公的医療保険がある。米ニューヨーク市の病院で、新型コロナウイルスの感染歴の有無を調べる抗体検査を受けるため、列に並ぶ市民ら=2020年4月(上塚真由撮影) これは連邦政府から補助金を得ているものの、メディケア以上に各州に任されており、不安定である。そのため1990年代までは加入者は米国民の約10%だったが、2000年以降は約20%に増加した。 それぐらい米国では、2000年以降格差が拡大し、また医療費が高騰していたのである。「オバマケア」の矛盾 そこでオバマケアが登場した。これは65歳未満でメディケイドの対象にならない人でも、例えば既往症があったり、収入不安定などの理由で民営医療保険に入れない人が米国には多かったが、そのような差別を医療保険会社に禁止した。 また、米国の医療保険は掛金が高いので敢えて入らない人も多いが、そのような人には所得税を2・5%上げるといったペナルティーのようなものがあり、逆に(貧困線を33%以上超えている)低所得者には、民営医療保険に入るための補助金が出る。 これは一見、よいことのように思われるが、医療福祉に関する公的資金が激増することは言うまでもなく、各州も共和党も強く反発した。また、健康上のリスクの高い人を多く加入させたため、民営医療保険会社の掛金も高騰し、今まで普通に民営医療保険に加入していた人の生活が圧迫されるほどだった。 自己負担分も増えて医療保険の使い勝手も悪くなった。そこで補助金をもらっても医療保険に入れない人はおろか、オバマケアが成立したおかげで、むしろ無保険状態を望む中流生活者が増えたとも言われている。 そこでトランプ氏が大統領になってからオバマケアの廃止を試みたが、共和党にも貧しい州選出の議員や、リベラル派の議員もおり、その反対で実現できなかった。そこで共和党は、全国民に保険加入を強制するのは米国憲法違反であるという訴訟を起こしており、また、トランプ氏の税制改革によって少なくとも医療保険に加入しない人への罰金的増税は廃止された。 いずれにしても以上のような諸事情から、いまだに米国民の10%近い約3千万人の無保険者がいる。オバマケア成立時には無保険者は米国民の約20%だったが、オバマケアによって2020年には5%未満になるはずだった。 このように無保険者が多く医療保険の使い勝手が悪いという米国の実態が、新型コロナ問題を悪化させた一因ではないか、という考え方は、当然に広まった。そこで先に述べたように、サンダース氏の主張への賛同者も増えたにもかかわらず、なぜ、予備選撤退を余儀なくされたのだろうか。 彼の主張する「全ての人にメディケアを!」という政策を実現すると、何と36兆ドルもの費用がかかる。そんなカネが、どこにあるのかということだ。費用の問題をクリアできたとして、果たして「全ての人にメディケアを!」政策は、今回の新型コロナ問題のような状況に、効果的に対処できただろうか。米ニューヨークの民家で、新型コロナウイルスによる重症の高齢男性患者に処置を施す医療従事者ら=2020年4月(ゲッティ=共同) 例えば、メディケアは個人の医療費補償なので、それだけのカネを使ったとしても集中治療室や人工呼吸器までは、それほど増やすことはできなかったと思われる。そのような連邦補助金は既に別に存在し、それを使って、そのような設備を整えず、別のインフラ整備などを重視したニューヨーク州のクオモ知事の責任を追及する声が、米国でも徐々に高まっている。彼のトランプ批判は、自らの責任逃れの側面が強い。新型コロナ深刻化の背景 そして、設備に関し米国は、実は国民皆保険が実現している欧州諸国よりも、全米では充実し数も多かったのである。その欧州諸国でも多数の人が亡くなったのは、国民皆保険のために多くの人が病院に殺到し、医療崩壊が起きやすかったからであるという考え方もできる。 ただし、その欧州諸国では、病院の約半分が、営利を考えなくてよい公立病院である(ちなみに日本は約2割)。ところが米国では15%にとどまる。そのため営利の面で非効率的な地方に医療機関が少なく、7700万人の米国民が医療機関不十分な地域に住んでいるという。これも新型コロナが米国で猛威を振るった原因の一つかもしれない。 その代わり米国では、約1万2千にのぼる地区保健センターがある。これは約1300の非営利団体(NPO)によって経営され、2900万人以上の米国民に、精神科や歯科など、メディケアの対象になり難い分野を含め広く医療サービスを提供している。 サンダース氏ら民主党左派は、この地区保健センターの拡充にも力を入れてきたが、これには共和党も積極的に協力してきた。政府からの補助金予算が一時的に失効した2018年、105人の共和党議員が延長に賛成している。多くの補助金を得るには、十分に役立っていることを政府に説明しなければならないという、ある種の競争原理が働くからかもしれない。 一方、バイデン氏は、この地区保健センターへの年間補助金が今は56億ドルであるものを、およそ倍額にすると公約している。また、政府の計画によって医療保険の補償内容の選択肢見直しも公約に盛り込んでいる。これは、保険料が高い代わりに補償が厚いプランと補償が薄い代わりに保険料が安いプランを選ばせ、オバマケアの(経費的な面も含めた)持続可能性を高めるといったことなどだ。 ただし、これはメディケアの低レートで保険会社に払い戻しを行う可能性がある。人々が安い方のオプションを支持し民間保険を解約すると、医師や病院は彼らの収入が減少し、一部の保険会社はサービスを停止し、他の医療保険会社は、完全に閉鎖するだろう。 それでも民営医療保険会社の経営に悪影響を与えるのではないかと共和党は反論しているが、いずれにしても米国という国は、やはり競争原理によって活力ある社会を築くことが好きなようだ。バイデン氏の政策を見ていても、それに近いのは理解できる。テレビ討論会で発言するバイデン前米副大統領=2020年3月、ワシントン(AP=共同) 今回の新型コロナ対策に失敗したのも、米疾病予防管理センター(CDC)、米食品医薬品局(FDA)などが、その官僚主義のために、検査キットや人工呼吸器を、必要なとき、必要な場所に届けられなかったことが原因という意見も米国では多く、ワクチンの開発などを迅速に行なっている民間の医薬品会社への期待の方が大きいようだ。 ところでサンダース氏の考えていた「米国版国民皆保険」制度は、36兆ドルもの予算を使っても足りないため、この民間の製薬会社や病院などの受け取り分を40%も削減しなければならなくなるという。これでは製薬会社や医師などの士気が上がらず逆効果だという批判も、米国社会では多いのである。サンダース撤退の深層 だが、同時に米国の医療費のうち3割以上が、製薬会社や民営医療保険会社の、必要以上の利潤になっているという研究もある。オバマケアは、それを促進した側面があり、そのため製薬会社が大量に生産した合法的な鎮痛剤の過剰摂取によって廃人になる人が、コカインで同様になる人と同じくらいの比率になり、重大な社会問題になっていた。 そこでトランプ氏が登場したという側面もあるのだ。トランプ氏が大統領に就任以降、製薬会社、病院、薬局そして米国独特の処方箋管理組合などの競争を促進したり、日本でいう保険の点数の数え方を変えたりすることで、これらの組織が効率のよい仕事を行うようになった。 その結果として、医薬品などの値段を下げるため、努力をしてきた。それは民主党が下院で多数になってから、むしろ彼らの一部の協力を得て、軌道に乗りつつある。これによる薬価の切り下げこそが、米国における医療福祉問題解決の肝であると言っても過言ではないだろう。 米国の医療費の3割以上が医療関係業界の不当な利潤になっているのは、メディケアという公的制度があるために、競争原理が働いてこなかったためであるという考え方もある。民営医療保険会社も、メディケアの補償内容や自己負担を参考に、ビジネスを組み立てているからである。 そうして彼らの得た不当利潤のかなりの部分が、オバマ氏やヒラリー氏に流れているという噂は、ワシントンの一部で執拗に囁かれていた。それもヒラリー氏落選の理由の一つなら、そのカネの力で彼女がさまざまな妨害工作を行ったため、サンダース氏は予備選撤退に追い込まれたという説もある。「全ての人にメディケアを!」が実現したら、民営医療保険会社や製薬会社が儲からなくなり、ヒラリー氏にカネが入らなくなるからである。 だが、サンダース氏も実は2019年の1年間だけで160万ドルの献金を、医薬品業界や民営医療保険の会社から受け取っている。「目こぼし料」の意味もあるだろう。 しかし、同時に「全ての人にメディケアを!」が実現したとしても、メディケアという競争原理が働かないシステムでは、これらの業界は(今より少なくなっても)不当利潤を得続けることが不可能にはならない。所詮サンダース氏も、ヒラリー氏やオバマ氏、バイデン氏らと「同じ穴の狢(むじな)」なのではないか。 少なくともバイデン氏がオバマケアの持続可能性を高めようとしている理由は、もうお分かりだと思う。バイデン氏にセクハラ問題が持ち上がり急に立場が苦しくなった4月末になって、ヒラリー氏が彼の支持を表明した理由も言わずもがなだろう。オバマ前米大統領(左)とバイデン前副大統領=2015年1月(UPI=共同) やはりトランプ氏と共和党が考える「競争原理による民間活力活性化」政策こそが、最終的な解決策なのである。CDCやFDAといった政府機関も、NPOのような形ででも、政府の外に出した方が、他の類似したNPOなどとの競争によって、よりよい仕事をするのではないかと思う。先進国として異常 また、CDCという官僚組織で働く科学者の、経済に配慮しない科学専門家の立場からの硬直した悲観的発表により、米国経済は不安定化を増したと言えないだろうか。トランプ氏の楽観的発言は、米国経済を下支えする上では間違っていないと思う。無責任発言という批判は妥当とは言えない。 むしろニューヨークの担当者が、トランプ氏以上に楽観的な発言を最初は行なってきたことも、ニューヨークの状況悪化の原因の一つと言えるが、全く追及されていないことの方が重要だ。 トランプ氏は大統領になる前からアフガンの正規軍を民間軍事会社に置き換える戦略で、その方向で今でも動いている。やはり民営化こそが公的組織による硬直化や非能率を解決する万能薬なのである。 一方で、新型コロナ問題による米国経済の急速な悪化は、トランプ氏の再選に黄信号を灯した。しかし、米国民は「戦時」的な状況では、大統領の下に団結する。トランプ氏の支持率は、むしろ上がった時期もあった。ただ、新型コロナ問題による失業者の増大で、トランプ氏の支持率は低下傾向にある。 とはいえ、バイデン氏は1年前から誰の目にも明らかだった極度の「物忘れ」が悪化しているとされ、セクハラ問題も再燃している。とても大統領になれるとは思えない。そして医療政策に関してだけでも今まで述べてきたような問題がある。 そこで新型コロナ問題で注目されたニューヨーク州のクオモ知事を、バイデン氏に健康を理由に辞退させて、代わりに大統領候補にする案が、4月初旬には有力だった。ある世論調査では、民主党支持者の56%が、バイデン氏よりクオモ知事が大統領候補として望ましいと答えた。しかし、前述のようにクオモ知事が自らの失敗糊塗と(大統領候補としての)存在誇示のため必要以上に問題を大きくしているという認識が4月下旬には広がり、この数字は見事に逆転してはいる。 いずれにしても前述のように、米国では国民の約2割以上が十分な医療施設のない土地に住んでいる。クオモ知事の失政とは断言できないが、ニューヨーク州でも都市部以外は同様で、そこと都市部の往来も同州の異常な感染の多さの原因の一つかもしれない。また、約1割が医療保険を持たないという米国の現状は、どう考えても先進国としては異常である。それが中国以上に新型コロナ感染が拡大した理由の一部と考えられても仕方がない(本当に中国の感染者が米国より少ないのかについては大いに疑問もあるが)。 地区保健センターを拡充するのみならず、医療保険問題に関しても本気の改革が必要であることを、新型コロナ問題は米国民に示した。しかし、医療保険改革が民主党的な「大きな政府」の考え方で行われれば、むしろ製薬会社などの不当利潤を増やし、米国の国家財政を破綻させかねない。米ホワイトハウス=2017年2月、ワシントン(松本健吾撮影) トランプ氏が再選されれば、民主党の一部と協力して、まず薬価を下げる。そして可能ならメディケアも部分的に民営化して、オバマケアと上手く接続させればよい。こうして真に効率のよい「国民皆保険」を米国で実現したとするならば、それを後世の人は「トランプケア」として感謝するだろう。もし、新型コロナ問題のようなものが再発しても、よりよい対応ができるようになることは言うまでもないだろう。

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    消えた金正恩、重篤情報を解き明かす8年前の「秘密」

    重村智計(東京通信大教授) 北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長の動静が4月12日から途絶えた。「植物状態」から「地方滞在」まで、未確認情報が飛び交っている。 米国のトランプ大統領は重篤報道を「不正確でフェイク・ニュース」と否定した。韓国大統領府は「近く姿を見せる」と強調するが、「健康回復」とは言っていない。 米韓の指導者は今後のため、復帰に必死の期待を語るように、まさに「金正恩頼み」の状況だ。一方、中国当局者と医療関係者は、最悪の事態は政治的な「死」だと述べた。 確認された事実が何だったか、おさらいしておこう。金委員長は、2日遅れの4月12日に開かれた国会に当たる最高人民会議を欠席した。 さらに、15日の金日成(キム・イルソン)主席の生誕記念日「太陽節」に、金主席を安置する錦繍山(クムスサン)太陽宮殿に参拝しなかった。北の最大の祝日に、欠席は絶対ありえない。健康不安説が生まれたのは、この欠席からだった。 トランプ大統領は18日に、金委員長から書簡を受け取ったと述べた。だが、12日に手術を受けていた金委員長は、この時点で書簡を送る状態にはなかった。深刻な事態を示唆するかのように、北朝鮮は19日に「書簡を出していない」と否定した。 翌20日に、米CNNが「心臓手術で重篤な状態」と報じたことで、衝撃が世界を駆け巡った。トランプ大統領は23日に「報道は正しくないと聞いている。CNNは古い文書を基にしている。フェイク・ニュースだ」と否定し、金委員長の生存を強調した。2020年4月23日、米ホワイトハウスで記者会見するトランプ大統領(左)とペンス副大統領(AP=共同) 23日にロイター通信が、事情に詳しい3人の中国当局者の話として、中国共産党中央対外連絡部(中連部)の高官が、医師団を率いて23日に平壌(ピョンヤン)入りしたと報じた。一方で、米政策研究機関スティムソン・センターの北朝鮮分析サイト「38ノース」は、金委員長の特別列車が21日から東部の元山(ウォンサン)に停車している、と伝えた。 ロシアのイタル・タス通信は平壌に特派員を駐在させている。その特派員が22日、「平壌のスーパーマーケットに数百人の買い占めの行列が続く」と報じた。記事には「平壌では過去に見られなかった現象だ。生活必需品を備蓄しようとしている」と書かれていた。中国中連部「訪問」の秘密 ただ、平壌でスーパーに来るのは富裕層と軍・党幹部の家族だ。彼らは「金正恩異変」の情報を密かに知り、買い占めに走ったようだ。異例の光景は高官たちの不安を物語る。 以上が確認された事実だ。では、この事実から事態をどう分析するか。それには、報道されない正確な事実の確認と知識が不可欠だ。それを持たない専門家は「小説」を語るに過ぎない。 まずは、確認された事実から何が分かるのか。ずばり、金委員長の病状は峠は越えたが、なお不安定である。なぜ分かるかといえば、中連部高官の訪朝が容態を指し示しているからだ。 実は、報道されていない秘密だが、2011年12月の父親の金正日(キム・ジョンイル)総書記の死亡2日前に、中連部長が代表団を率いて平壌入りしていたのである。金総書記の病状を確認し、死後の指導体制を協議するためだ。こうして、中国は北朝鮮の安全を保障し、後継体制への支持を表明した。 中連部は北朝鮮労働党との公式の窓口機関であり、部長職は習近平国家主席に直結する高い役職だ。今回も中連部長が訪朝したが、下っ端では北朝鮮が相手にしないからである。となれば、金委員長の命に別条はないとしても、政治的には決して楽観できないと判断される。 さらに、金委員長は、既に心臓病と糖尿病の持病が確認されていた。昨年はペースメーカー手術も受けたという。 心臓疾患は祖父、金主席以来の遺伝的なものだ。このため、北朝鮮は心臓病専門の医師を養成し、在日の商工人が病院や最高水準の医療機材を贈った。また、上海・復旦大の心臓病の権威と頻繁に交流している。 この事実から、中国の医療関係者は手術で糖尿病との合併症が起きた可能性について検討している。最悪の場合は意識不明の状態で、軽い場合でも言語障害や歩行障害になるという。この見立てが「植物状態」情報の源流である。北朝鮮の最高人民会議について報じる街頭の大型テレビ=2020年4月14日、平壌(共同) 可能性はどうなのか。中国の医師団は、北朝鮮の要請がないと入国できない。ということは、術後の状態悪化を示唆する。リハビリが必要な状態なのだろう。 もし、口が動かず、ろれつも回らず、何を言っているのか判別できない状態であれば、指導者としては致命的だ。トランプ、本当の「フェイクニュース」 すなわち、政治的な死を意味するわけだが、この状況を一番心配しているのが韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領だ。だから、韓国大統領府も「近く姿を見せる」と強調しても、「健全だ」とは言わない。 文大統領は15日に行われた総選挙で大勝したが、「お先真っ暗」だ。今年の経済悪化は明らかで、米韓、日韓、南北関係も最悪の状況に陥る。今後の政権運営のために、金委員長との首脳会談が必要不可欠になる。 トランプ大統領の事情も同じだ。今秋の大統領選で勝利するために、米朝首脳会談を予定していた。それができないとなると、再選戦略が狂う。 つまり、米韓両首脳の未来が金委員長の健康にかかっていることになる。だから、トランプ大統領は「重篤報道はフェイクニュース」と否定したのである。 実は、トランプ大統領が「金委員長の書簡を受け取った」事実はなかった。手術は確認したが、生死が分からず、アドバルーンを上げたのだ。また、術後の状態も確認できず、CNNに「重篤」情報を流したのである。 一方、外貨獲得を統括する朝鮮労働党39号室の元幹部で、米在住の李正浩(リ・ジョンホ)氏が「14日の短距離巡航ミサイルの複数発発射で事故が起きた」と述べている。爆発か、暗殺かは明らかにしていない。 李元幹部は、13年12月に処刑された張成沢(チャン・ソンテク)元国防副委員長の側近で、北朝鮮の裏資金の流れを担当、命の危険を感じ、14年10月に韓国に亡命した。最近になって日韓メディアの取材に応じ、韓国の左派政権が秘密資金を提供したことで、北朝鮮は核開発を推進でき、国家崩壊を防いだと証言した。トランプ米大統領と電話会談する韓国の文在寅大統領(中央)=2020年4月18日、ソウル(韓国大統領府提供・共同) 朝鮮半島問題では日々、韓米中朝各国の情報工作機関が偽情報を流している。北朝鮮の朝鮮中央放送は26日、金委員長が中朝国境に近い北部の両江道(リャンガンド)の三池淵(サムジヨン)地域の労働者に感謝状を贈ったと報じた。 だが、日時は明らかにしていない。「38ノース」による金委員長の特別列車の衛星写真分析を意識した対抗情報だろう。こうした混乱情報は日常茶飯事だ。 だからこそ、可能性の高い分析力と判断力のある人物の意見を自ら探す必要がある。日本には、真実を知る人々が必ずいる。いい加減な予測に騙されず、自分の常識的判断力を信じることが大切なのである。

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    これは差別か?新型コロナにおびえるワシントンの奇妙な出来事

    ナウイルスの感染が進むにつれて、日本でも緊急事態宣言が発令され、外出自粛要請が始まっている。 すでにアメリカでは3月からニューヨークなどでいわゆる都市封鎖(ロックダウン)が始まり、私の住むワシントンDCでも職場の消毒と立ち入り禁止、公共交通機関使用禁止、外出禁止令など、状況が次々進展していった。感染患者も増え続け、すでにアメリカ全土では2万人以上が亡くなっている。 しかし、同じ非常事態といっても、東京で経験するものと、アメリカのワシントンで経験するものとでは大きく違う。東京は通勤も可能であり、飲食店や理髪店も営業している。 一方、ワシントンでは、政府関係者と医療関係者、インフラ業者など必要最小限の人を除いて、先にも触れたが、通勤は禁止、公共交通機関の利用も禁止、飲食店はテイクアウト(持ち帰り)ないしデリバリー(出前)のみで、理髪店でさえ営業禁止。だが、ビルの建設などの現場では工事を続けている。 そして、東京とワシントンで日本人が直面する大きな違いの一つは、いわゆる「差別」の問題があるかどうか、である。 今回の新型コロナウイルスは、中国の武漢で最初に確認された。ゆえに、中国系の人を見ると、アメリカでは「コロナ」と呼んで嫌がらせをする事例や、中国人のみならず、見た目が似ている北東アジア系から東南アジア系まで、つまり日本人に対しても、嫌がらせや、時に暴力の対象となったのである。 ただ、私の実体験からすると、この「差別」の問題は、過剰にクローズアップされている側面もあるように感じている。そこで、私の「差別」と言えなくもない実体験を記しておこうと思う。それは、外出禁止令などが発令される直前の通勤時、発令後の運動時やスーパーマーケットでの買い物のときに起きたものである。このときは、めずらしく仕事仲間などとは一緒ではなく、1人で他の人々と接する機会があった。 普段であれば、アメリカでは、あいさつのときに笑顔を浮かべ、敵意を示さないようにする。実際に、さまざまな国から来た多くの民族と接するため、相手が危険な人物ではないかどうか、常にチェックする必要があり、笑顔は大事な情報だ。 しかし、新型コロナウイルスの感染が広がり始めてからは、私は、笑顔が出るような雰囲気ではなくなり、緊張感を覚えるようになった。電車に乗った瞬間に、何か、空気が凍るのである。 運動時もジョギングしていると、皆、大きく私を避ける。感染を防ぐために距離をとる「ソーシャルディスタンシンング」(社会的距離)ということが推奨されているため、別に悪い行為ではない。新型コロナウイルスの影響で閑散とする米首都ワシントンの桜並木=2020年3月(共同) だが、あまり大きくそれるので、私が北東アジア系だから差別しているのではないか、などと考えてしまう。顕著なのは、スーパーでの経験だった。以前は、笑顔であいさつしていた人が、私があいさつしても返してくれなくなり、笑みも浮かべなくなったのだ。私は当然、「無礼だな」と思ってしまう。表情に現れた「恐怖」 しかし、そうしたときに、相手の顔をよく見ると、理解できなくもないと思えるのだ。なぜなら、皆の顔には明らかに恐怖の表情があったからである。 多くの人たちは、北東アジア系の私が電車に乗ってきたとき、ジョギングで走ってきたとき、スーパーで買い物をして近づいてきたとき、差別したかったのではない。怖かったのである。 感染するかもしれない、医者ですら死に至る病気、という恐怖が社会全体に高まってきたとき、「とにかく怖い」という表情が顔にはっきり出ていた。だから、悪意があって、私を害しようとしているのとは違うのである。それは差別なのだろうか。 スーパーでは別の体験もあった。レジに並んでいた際、隣のレジが空いたようなのである。だが、アメリカでは陳列棚が高く、隣のレジが空いたのかどうか、私はよく見えなかった。しかも、北東アジア系の私は、自分が差別されるかもしれない、と思って慎重に行動していた。ゆえに、空いたかもしれないレジにすぐに行くことはせず、別のレジに並んだままでいたのである。 空いたかもしれないレジ係は黒人女性だった。そのとき、レジ係の女性が私にこう言ったのだ。「私ではダメな何か理由でもあるのか」。このレジ係の女性が言いたかったことは、私が黒人だからいやなのか、つまり黒人を差別しているのか、という意味が含まれている。 アメリカ人はよくジョークを言うだけに、半分は冗談も含んでいたのかもしれないが、こういったことを言う場合、半分は本気だ。 ということは、私は北東アジア系であることで差別されるかもしれないと思っており、一方、レジ係の女性は黒人だから差別されるかもしれないと思っている。結果として、全然差別しているわけではないのに、差別に見えてしまっている、ということが起きたのだ。 こうして見ると、私の実体験については、差別があったと言えるだろうか。私も、相手も、差別を意識して生活しているが、実際には、多くの物事は悪意を持ったものではない。ただ、こういった社会に生きる以上、自衛措置は必要なだけであろう。 また、自衛措置にはどのようなものがあるだろうか。恐怖を感じている人に、それ以上、恐怖を感じさせないようにするのが、自衛措置の目的である。悪いことをしているわけではないので、堂々と背筋を伸ばして歩く。弱いわけではないから、強そうに歩く。だが、他人への礼儀や優しさを忘れない。政府や自治体の方針にはきちんと従う。こういった行為は、よき市民としてのあるべき姿だ。閑散とするワシントン。新型コロナウイルス感染拡大で、多くの公共エリアが閉鎖されている=2020年3月(ロイター=共同) ただ、もし、そうした自衛措置をとっても危険な雰囲気になってくれば、どうするべきだろうか。例えば、今回の感染拡大に関して、中国に対する怒りを抑えられないほど盛り上がり、「真珠湾攻撃」や「米同時多発テロ」と並べて語られるようになれば、われわれ日本人は、中国人ではないことを示さなければならなくなるかもしれない。 単純に考えれば、日本国旗に頼る方法があるだろう。外出するときは、日本とアメリカの国旗がついたバッジやワッペンをつけて行くという方法だ。実際に、日本はアメリカの同盟国であり、そういった自衛措置は、アメリカでの生活をより安全で、よいものにするだろう。このように、新型コロナウイルス問題は、在米日本人に、われわれが日本人であることを再認識させたのである。