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    韓国と対峙するうえで想定すべき「国際世論戦」

    渡瀬裕哉(パシフィック・アライアンス総研所長)日韓慰安婦問題、元徴用工訴訟、そして輸出管理の問題をめぐって亀裂を深める日韓関係――。日本政府は安全保障の観点から、韓国の「ホワイト国」除外を決めた。気鋭の政治アナリストでパシフィック・アライアンス総研所長の渡瀬裕哉氏は、安倍政権の決定を支持しながらも、国際世論戦における悪手を指摘。日本が真にとるべき道を提言する。 安倍政権閣僚のメディア向けメッセージが適切なものにならなかった理由の一つは、本人たちは認めないだろうが、輸出管理見直し措置が参議院議員選挙を意識したものだったこともあるだろう。 対ロ外交、対イラン外交、G20に関しても選挙戦にインパクトを与えるほどに目覚ましい成果が上がったとはいえず、今年に入ってから「外交の安倍」の看板に有権者から疑問符が付き始めたことは否めない。 また、保守系の支持者からも同政権に対して過剰に阿る人びとを除いて、同政権の韓国の振る舞いに対する中途半端な対応についてフラストレーションが溜まっている状態も生まれていた。 そこで、直近の外交交渉相手のなかでは最弱国である韓国に対し、自国内の手続きを変えるだけの措置で実行できる手段を用いて、国威発揚のデモンストレーションを実施することは、選挙向けに手っ取り早く外交成果を得る方法としては妥当なものといえる。 そのため、選挙戦略上の趣旨から、韓国の輸出管理に関する安全保障面の懸念のみに言及すべきところで、自ら徴用工などの歴史問題という余計な話題に触れざるをえなかったのだろう。※写真はイメージです(ゲッティイメージズ) 3年間も放置されてきた問題に対して同見直し措置が選挙直前に実施されたこと、そして選挙期間中の最終盤に外務大臣が駐日韓国大使を説教したことなど、WTO(世界貿易機関)での係争開始を見据えた場合、デメリットしかないタイミングだといえる。 万が一、閣僚の発言を根拠の1つとして韓国側の主張がWTOで認められる事態となった場合、日本政府は韓国に対して自国内の輸出管理すらも自由に運用できない状況に追い込まれることになる恐れもあり、それらの安易な発言を行なった人びとはどのように政治責任を取るつもりなのだろうか。トランプの「対日カード」 さらに、文大統領がトランプ大統領に日本政府の輸出管理運用見直しについて仲裁を依頼したことが明らかとなっている。 もちろん安倍首相とトランプ大統領はきわめて良好なリレーションを維持しているため、韓国側の主張が理不尽な形で日本に押し付けられる可能性は高くないだろう。 ただし、韓国側から対日関与の依頼がトランプ大統領に行なわれたことは、同大統領にとっては興味深い対日カードを新たに1つ手に入れたことを意味している。 安倍政権とトランプ政権との貿易交渉は参議院議員選挙後に大詰めを迎える段階となっているが、そのような重要な局面において本件はトランプ大統領に無用な借りをつくってしまうことになるだろう。 仮にトランプ大統領が同見直し措置の問題に介入する場合、それは日本の対韓政策の敗北といえる。 したがって、安倍政権はトランプ政権による介入を絶対に回避しなくてはならないため、トランプ政権は労せずして日本政府に対してきわめて有効な貿易交渉カードを手に入れたことになる。 また、ロシアや中国は安倍政権が両国に対して強い態度に出てこない姿勢を笑っているに違いない。ロシアは北方領土を奪って平気な顔をしているどころか、領土交渉も日本側から果実を引っ張り出した上で意図的に内容を後退させている。※写真はイメージです(ゲッティイメージズ) 中国は現地邦人を不当に拘束した上、急速な軍拡を実施しながら日本に対する示威行為を繰り返している。 筆者には、傍若無人な振る舞いを繰り返す国々に対して生温いメッセージを送りながら、韓国という弱国にしか強気に出られない政権と、中露両国がまともに外交交渉を行なうとは思えない。きわめて粘着質の国 しかも、同見直し措置の意図すら純粋な安全保障目的ではなく、参議院議員選挙目的のように見えかねない現状に鑑み、両国の独裁者たちから日本が鼻で笑われても仕方ないだろう。 日本国民は単発の行為としては「よくやった」と思える外交措置であったとしても、それに伴うメッセージや実行のタイミングなどの全体像を踏まえた上で、二国間交渉ではなく多国間レベルの視座をもって日本政府はどのように振る舞うべきか、ということを意識するべきだ。 二国間交渉において交渉相手をやり込めることは当然のこととして、交渉行為自体を第三国との交渉に有利な影響を与えるように設計し、政権担当者がそれらの設定を踏まえた発言を行なえるよう事前に準備しておくことが重要だ。 少なくとも外交政策を展開し始める前に、必ず国際的な世論戦の形を想定してからスタートするべきである。 筆者は今回のように参議院議員選挙直前という「事前に周到に準備された発言」以外の不測の発言が飛び出しやすい環境で、韓国半導体産業に対する締め上げに直結する重要なカードを切るという安倍政権の判断には疑問をもたざるをえなかった。 WTOでの訴訟の結果が出るまで数年かかる見通しであるが、結果が出るころには安倍政権は次の政権に道を譲っていることになるだろう。※写真はイメージです(ゲッティイメージズ) 今後、韓国のようなきわめて粘着質の国と対峙するにあたっては、将来的に責任をもつことができる政権が万全な体制を築いて戦いを挑むようになることに期待したい。関連記事■ 混迷の日韓関係、日本政府が行なった“手痛い悪手”■ 海軍反省会ー当時の中堅幹部が語り合った400時間の記録■ 韓国が日本政府を侮辱し続けても、止められない「ごね得」■ 日米開戦を「近衛総理に一任」した及川古志郎海相を、元・海軍中堅幹部はどう評価するのか■ 拡大する韓国の武器輸出 日本が国益のために「取るべき行動」

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    「弱肉強食」新冷戦で喰われるニッポン

    東西冷戦終結から30年。今や米国と中国の対立が激化し、「米中新冷戦」時代に突入したと言われる。米中の覇権争いと、その裏でうごめくロシア。国際秩序は崩壊状態といっても過言ではなく、国家間のパワーバランスの変化も目まぐるしい。この混迷を読み解けば、日本が乗り越えるべき試練は自ずと見えてくるのではないか。

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    「結果的に得する」中国を叩きのめしたいのはトランプだけじゃない

    堅持といった各国共通の大きな議論にはなっていない。 その背景にあるのが、トランプ大統領の登場以降の「アメリカの変質」にある。「保護主義に対抗」というかつての先進7カ国(G7)やG20の決まり文句は、トランプ氏の「アメリカ第一主義」に真っ向から対立する。さらに、お決まりの「気候変動対策」も同じだ。 その米国の態度の変化の向こう側にあるものは、もちろん「壊し屋」的なトランプ氏の手法だろう。ただ、国際関係を見ていくと、やはり中国の台頭がアメリカの変質を促進しているのは言うまでもない。 つまり、G20という多国間の国際秩序が揺らいだ背景には、米中対立の中で、「やり方を変えないといけない」という米国側の焦りがあったといっても言い過ぎではないだろう。 過去の米国の対中政策は「ヘッジ(強硬論)」と「エンゲージメント(関与論)」のいずれかを使い分けるというバランスが基本だった。特に、1989年の天安門事件以降は、中国に対する米国の姿勢は非常に厳しかった。 だが、貿易パートナーとしての中国の存在が大きくなってくる中、基本的には自由貿易の枠組みに入れて「関与」し続ければ、中国の国家資本主義的な体制が減るという見方が米国の中で大きくなっていった。その象徴的なものが2000年に立法化された「対中恒久正常通商関係(PNTR)」法であり、中国に恒常的に最恵国待遇を与えることになった。その結果として、中国の世界貿易機関(WTO)加盟が認められることになる。2019年6月28日、G20大阪サミットで首脳の特別行事を終え、トランプ米大統領(左)と握手する安倍首相。右は中国の習近平国家主席 ただ、この見方が「間違い」であるということが、トランプ政権発足前後から米国内ではコンセンサスになっている。中国はWTOの仕組みの中で、中国側が逆に他の国を「自由でない」と主張ができるようになってしまったためである。 中国の場合、知的財産権も守らない。米国の貿易赤字は増えていく。「中国だけが結果的に得をする」状況に対するいら立ちが極めて大きくなっているわけだ。緩まない「矛先」 2018年10月4日、ペンス副大統領がハドソン研究所で行った演説は、中国に対する米国の生ぬるい態度を自己批判するものだった。「米国は、中国に自国の市場へのオープンなアクセスを与え、WTOに招いた。これまでの政権は中国があらゆる形の自由を尊重するようになると期待し、こうした選択をしたが(中略)その期待は裏切られた」とペンス氏は指摘した。 トランプ氏は2016年大統領選で「貿易赤字は是正せねばならない。対中国はその筆頭」「政権発足初日に中国を為替操作国と認定する」と公約した。「貿易赤字がその国にとって有害である」という見方は、学術的には支持されていない。だが、トランプ氏の支持層には「グローバル化は中国に米国の雇用が流れた」というわかりやすいメッセージに支持者は歓迎した。 トランプ氏は「貿易赤字こそが問題」と提唱する経済学者のピーター・ナバロ氏を選挙戦からのアドバイザーとしてだけでなく、政権発足後は貿易戦略のブレーンとして登用した。為替操作国の方はまだ行われていないが、貿易赤字解消の政策は、実際にメキシコ、カナダとの北米自由貿易協定(NAFTA)見直し、米韓自由貿易協定(FTA)の見直しなどとともに、中国に厳しく迫っている。 対中強硬の動きが本格的に明らかになったのは第1回米朝首脳会談の直後の2018年6月15日である。自動車や情報技術製品など、中国からの輸入品計1102品目に対し、500億ドル規模の追加関税措置を行うと発表した。ここから米国側の「どんどん中国を締め上げていく」という動きが明確化した。 トランプ政権は2018年中に各種中国製品に対して3度の制裁関税を課している。先述の500億ドルのうち、7月に自動車など340億ドル(25%)分、8月に半導体など160億ドル(25%)分を課し、9月には日用品など2000億ドル(10%。2019年5月10日に25%)分に適用した結果、制裁関税は計2500億ドルに達している。 これに対して、中国もそれぞれの制裁のタイミングに合わせて、大豆など340億ドル(7月、25%)、医療器具など160億ドル(8月、25%)、家電など600億ドル(9月、5から10%。2019年6月1日に最大25%)の報復関税を課している。米国も2019年5月に第4弾として、これまでに対象外だった3250億ドルに25%関税をちらつかせた。 結局、冒頭で述べたG20に合わせて行われた米中首脳会談で、関税の先延ばしを決めている。ただし、あくまでも延ばしただけであって、まだ中国への矛先は全く緩んでいない。米ハドソン研究所で演説するペンス副大統領=2018年10月4日、ワシントン(AP=共同) 中国に対する圧力は貿易だけではない。トランプ政権の対中政策で特筆されるのが、貿易戦争と安全保障政策の密接な関連である。トランプ氏やナバロ氏が重視していた対中貿易問題に対して、官僚や利益団体、シンクタンク研究員など、政権周辺の安全保障に関心のあるグループが乗っかっていった。 トランプ政権は2017年末に国家安全保障戦略(National Security Strategy)、2018年1月に国家防衛戦略(National Defense Strategy)、2019年6月にはインド太平洋戦略(Indo-Pacific Strategy)を掲げてきた。いずれも主なターゲットは中露だが、その中でも中国を強く意識している。根底にある「不信感」 その根底にあるのが、中国の国家資本主義に対する不信感である。技術なり、あるいは盗んだ情報なりを吸い上げて、国や軍に渡してしまう可能性を危惧している。 「いかなる組織及び個人も、国の情報活動に協力する義務を有する」という中国の「国家情報法」(2017年6月)の第7条や、中国のハイテク発展ロードマップである「中国製造2025」などが、トランプ政権の危惧をより大きくさせている。それもあって、第5世代移動通信システム(5G)を基盤とするハイテク武器への影響が問題となり、最大手の華為技術(ファーウェイ)に代表される中国通信系企業の製品の利用に対して、大きな制限をかけようという動きがあるのは言うまでもない。 トランプ政権の動きも急だ。2019年度国防権限法(2018年8月)では米政府の情報システムの調達企業からファーウェイと中興通訊(ZTE)、海能達通信(ハイテラ・コミュニケーションズ)、杭州海康威視数字技術(ハイクビジョン)、浙江大華技術(ダーファ・テクノロジー)という中国企業5社を排除した。 その他、大統領令13873(サイバー空間などで国家安全保障にリスクがあるとする企業の通信機器をアメリカ国内の企業が使うことを禁止)、商務省のエンティティリスト(米連邦政府の許可を得ることなく、外国企業が米企業から部品などを購入することを禁止)などでの規制強化を進めている。 G20という多国間の国際秩序が、中国という「異分子」をうまく飼いならせなかった現実にあって、多国間秩序を引っ張ってきた米国そのものも大きく変貌しつつある。 ただ、2020年の大統領選に向けて、トランプ氏にとっての最大の懸念は景気後退である。トランプ氏としても支持者への影響を考えながら、貿易の面では少しずつ取引や妥協をしていく可能性もないわけではない。 貿易問題では、ある程度合意できるかもれない。しかし、安全保障上の脅威としての中国の問題は、既にトランプ政権だけでなく民主党を含む、ワシントンのコンセンサスとして広く認識されるようになっている。 米国の対中世論全体を見ても、中国に対する一般の見方も厳しくなっているほか、安保では民主党側も相乗りしている。これまでには机上の空論とみられていた中国を米企業のサプライチェーン(部品調達網)から外す「デカップリング」論も正面から議論されるようになっている。中国・北京にあるファーウェイのショールーム=2019年5月20日(UPI=共同) 安保の面での「中国叩き」はだいぶ続くとみられる。米国とソ連の「冷戦」は代理戦争を含めて、実際にかなりの軍事衝突があった。今回の米中の場合は、当面の軍事衝突こそないものの、軍拡が続く中国をけん制しながら静かに展開する「冷たい戦争」が長く続くものとみられる。 形骸化するG20の向こう側には、米中の激しい2国間対立の世界が広がっている。■ 米中貿易戦争「日本が得する」逆転シナリオが一つだけある■ 「安保は不平等」トランプの持論蒸し返しで鮮明になる日米の主戦場■ 習近平はなぜ金正恩に6年間の「借り」を返す気になったのか

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    宮崎正弘×吉川圭一対談 米国が描く中国崩壊シナリオはこれしかない

    宮崎正弘(評論家)吉川圭一(グローバル・イッシューズ総合研究所代表) 宮崎 日本のメディアは、アメリカと中国の貿易摩擦を「米中貿易戦争」と報じています。もちろん貿易戦争には間違いないですが、そもそも米中は基本的に長い間衝突の構造にあります。今は単に関税のかけ合いのレベルなので、これはいずれ終わります。お互いにものすごく傷ついていますからね。むしろ決定的なのは、関税をかけたことによって中国の経済構造がガラッと変わったことでしょう。中国で生産できないものはすべてベトナム、カンボジアに移しています。つまり、中国の「産業の空洞化」をもたらす構造変化が起きたということです。これが一番大きい問題です。 二番目に大きいのは、アメリカが為替操作国として認定すると脅しをかけていますが、逆に今、人民元はものすごく弱いということです。弱い通貨を強くするために、一番稼いできたドルをすべて人民元の買い支えに使っているわけです。こうしたことで、中国の経済力が弱まっています。これはおそらくトランプではなく財務長官あたりのアイデアだと思いますが。 そして米中対立というのは、貿易戦争の関税かけ合いレベルから、第5世代移動通信システム(5G)のテクノロジー覇権争奪戦に完全に移っているわけです。で、この流れから、私はまもなく金融戦争が始まるだろうという見立てをしています。 吉川 なるほど。先の20カ国・地域(G20)首脳会議(サミット)でトランプがアメリカのマイクロチップを中国通信機器大手のファーウェイに売っていいよ、中国人のハイテク技術者へのビザ優遇もしますよということは言いましたが、だからといってファーウェイ製品をアメリカが買うわけではないのです。国内の規制を緩めるつもりはないでしょう。 中国人技術者のビザの件も、アメリカのメディアをこまめに見ていると、アメリカのどのハイテク企業も、理系の大学も、中国人の専門家にビザを申請するときには米連邦捜査局(FBI)がうるさく調べにくるので、できるだけもう取りたくない、という実際の現場の温度感が分かります。 宮崎先生がおっしゃっているようなアイデアで中国を徐々に弱めつつ、5Gの問題ではアメリカが中国に先んじるよういろいろな手を打っていくのではないでしょうか。米中新冷戦について対談する宮崎正弘氏(右)と吉川圭一氏=2019年7月、東京都千代田区(三尾郁恵撮影) 宮崎 中国はすでに相当先んじていますからね。いろんな側面から考えられますが、まずは特許の問題でしょう。4Gのときはことごくアメリカが特許を押さえていて、ファーウェイでさえOS(基本ソフト)は「アンドロイド」です。それをひっくり返すのはファーウェイもできない。 もう一つできないことは、半導体を中国が作ること。今の時点で半導体を20%作ったなんて豪語していますが、それはどの程度の半導体か分からない。さらにアメリカは「半導体製造設備は売らない」と言っている。これが決定的で、中国は半導体を作れないということなのです。 アメリカがここまで焦っているのは、将来のマーケットの取り合い程度ではないということ。例えば、米国の最新鋭ステルス戦闘機「F35」の部品は中国製が相当入ってきていましたが、それによってF35の性能が落ちる、ということが起こっているわけです。逆に中国はミサイルの性能が上がっています。コンピューターの精度やドローン技術、航空産業、宇宙産業の技術、すべてアメリカから盗んだものによって成り立っている。アメリカはうかうかしていたら、圧倒的な軍事的優位という立場が脅かされると、アメリカ人の心底に恐怖感がある。だからあんな強い態度で臨んでいるわけで、ちょっとやそっとではこの対立は終わりません。中国が白旗を上げるか、共産党がつぶれるまで続くか、そこまでは分かりませんが。もし、トランプが次の選挙で敗れることになれば、また別の展開になるかもしれません。トランプは再選する! 吉川 私はトランプが苦戦しそうなのは、ハリスという民主党上院議員ぐらいだと思っています。ハリスは黒人で女性ですが、それ以上にトランプと同じように2016年までワシントンにいなかった。冷戦終結以来のワシントン政治は、ローテーションで同じ顔ぶれが政治を行ってきました。政治家も、官僚も。彼らの理性一辺倒でマニュアルにはまった政治では、もうアメリカの国家も国民生活も保てなくなっています。そこで今までワシントンにいたことのないトランプが出てきたと、私は考えています。今年3月に出版した『救世主トランプ-“世界の終末”は起こるか?』(近代消防社)でも、そのように書かせて頂きました。 それを考えるとハリスならトランプと良い勝負ができそうに思いますが、2000年や2016年のような状況になっても、地方の保守的な票の力でトランプが勝つでしょう。そもそもハリスは新人議員で思想的にも穏健派とは言えない。民主党の候補者になるのも簡単ではないと思います。 ハリス以外は左翼メディアに応援されていてもアメリカ国民の多数からも嫌われている極左か、あるいは2016年以前のワシントン政治にどっぷり浸かってきた、それも親中派的な候補が多い。今アメリカでは左翼メディアまでが反中です。それを考えるとトランプと似たような3人目の独立候補が出て票が割れない限り、トランプは再選されると私は今の段階では思っています。 その反中国テクノロジー競争の話に戻すと、5Gでアメリカが中国を上回れば、サイバー攻撃で中国に対抗できるという算段もあるでしょう。 今年の春ぐらいにワシントンでずいぶん評判になった、ブルッキングス研究所のオハンロン氏の著書の中で、「もし尖閣が中国に占領されたらどうするか」ということが書かれていました。日本の海上自衛隊と米海軍で取り囲んで、あとは中国に経済制裁をした上で、サイバー攻撃みたいな形でやんわりと出て行ってもらうというのが主旨です。これがアメリカでずいぶん評判になったのですが、裏を返せばアメリカとしては日本のために本気の戦争はやりたくない、自国の若者の血を日本のために流したくない、という空気になっているということですね。 イラン攻撃も、トランプは実際の攻撃を思いとどまった後、サイバー攻撃を考えたとされていますが、そのサイバー攻撃をイランは撃退したと主張しています。イランも北朝鮮もロシアの技術が入っており、米中だけではなくロシアも入って、イラン、北朝鮮、ベネズエラが駒として動いています。北朝鮮とイランの間には、おそらくロシアの仲介により、ミサイルや核の協力関係があるとされています。アメリカの裏庭のベネズエラに、イランの支援する国際テロ組織の支部ができて、ロシアも軍事顧問団的なものを送っているようです。 非常に複雑な立体地図の中で、トランプとプーチンと習近平がどう動くのか、それに対して日本も先読みして安倍晋三首相がどう動くか。それによって日本がこれからの生き残れるのか決まってくると思います。G20首脳会議のデジタル経済に関する特別イベントであいさつする安倍晋三首相(中央)。左はトランプ米大統領、右は中国の習近平国家主席=2019年6月、大阪市住之江区(代表撮影) 宮崎 もう一つ、昨年の10月4日に、ペンス米副大統領が演説で「われわれは今までハッカー戦争で受け身だったけれども、これからは攻撃型に変える」と言っています。それと宇宙軍を作ることも明言しています。 これがどういうことかと言えば、例えば5Gで中国が先んじた場合、通信速度は現状の100倍ぐらいになる。今0・001秒差ぐらいなのが、0・00001秒ぐらいの差で中国のハッカーが米国防総省(ペンタゴン)の中枢に入り込んで命令系統をズタズタにしたら、アメリカは戦えない。だから宇宙軍を作って、アメリカが先に中国の指揮系統を叩く、そういう戦争になっていくと思いますね。ソ連型と異なる「中国崩壊」 吉川 そういうことも今までのワシントン政治では既成勢力の予算獲得競争などで上手くいっていなかったのが、トランプが大統領になってから軌道に乗り始めた。そのようなサイバー攻撃や宇宙軍がしっかりしていれば、超音速で飛ぶミサイルも、事前に宇宙から索敵しておいて撃墜することなどもしやすくなります。そういう新スターウォーズ構想のようなものをトランプは中間選挙の後に明らかにしました。 最初のスターウォーズ構想は、レーガン大統領が言い出したものです。まったく同じことは当時のソ連には技術的にできなかったから、ソ連は降参して冷戦は終結したわけですが、それと同じような形にもっていこうとしているのではないかと考えています。 宮崎 ソ連の場合、経済制裁を受けていましたが、ソ連には全く輸出するものがなかった。原油とウォッカとマトリョシカくらいじゃないでしょうか。でも、中国は山のように輸出するものがあって、外貨が入ってくる。だから、経済的に中国を干すというのはなかなか難しい。つまり、ソビエト型の崩壊というシナリオは考えにくいでしょう。 吉川 そうでしょうね。ただ国際政治の理論で、「軍事競争というものは量的な競争であり、量的な競争をやっていれば接戦になるので熱い戦争になるけれども、質的な競争は一方が急激に伸びて圧倒的に勝つ可能性があるので、もう片一方が何らかの形で降りざるを得なくなる」という考え方もあります。米ソ冷戦はそういう形になったわけですが、今回の米中の5Gやサイバーというのも、質的競争で決着がついてくれればいいなと思います。 宮崎 先ほど米中対立は、次に金融戦争になると言いましたが、アメリカにはもう一つ癪(しゃく)に障っていることがあるからです。それは「ドル体制」という戦後のブレトン・ウッズ体制を中国がひっくり返そうとしていることです。 中国が進めているのは、まず人民元の勢力圏を作ること。アジアインフラ投資銀行(AIIB)なる奇怪な銀行をつくって、それから国際通貨基金(IMF)に人民元が入ってきた。そして通貨スワップ、もしくは人民元決裁権を方々に広げています。例えばタイでは食堂に入っても人民元が使えるぐらいです。ロシアとの貿易決済も一部人民元にしています。 これをどうやってアメリカが食い止めるかなのです。つまり、通貨覇権を絶対に死守するということですが、これから使うであろう手というのは、中国の外貨を払底させるというのが一番でしょう。そうすると人民元という価値がぐっと下がりますから。二番目に実行するのは、中国の銀行の信用力を崩壊させることです。こういうわれわれには全く見えない手を打っているのだろうと思います。完全に機密になっているので、今は想像でしか言えませんが。 ただ、こうした状況を見ていると、中国は自壊が始まっているようです。何しろ、中国の負債総額が日本円で6千兆円ぐらい、一説によれば9900兆円という見方もあります。ただ、中国の国内総生産(GDP)は1千兆円ぐらいあるでしょう。このGDPの飛躍をどこで止めるかですが、そもそも大半が不動産投資です。だから簡単で、金融を閉めたら不動産投資にいかない、いかないばかりかこれまで不動産のローンを組んだ人たちは相当哀れな結末になるのではないかと思います。要するに、アメリカが金融面における攻撃を始める前に、中国が自滅していくのではないでしょうか。すでに包商銀行が危うくなって、中国政府が救済しました。徐々にアメリカで起きたサブプライムによる破綻で起きたリーマン・ショックと似た状況になっている。中国政府もまだ小さな銀行は助けますが、次に大手がひっくり返ったときは危ないですよ。評論家の宮崎正弘氏=2019年7月、東京都千代田区(三尾郁恵撮影) 吉川 アメリカの新聞を見ているだけでも、25%の関税のおかげで輸出ができなくなって困った中小企業を助けるために、そういう中国の大手銀行が積極的に貸出するように中国政府が命令して貸し出した。しかし、お金をもらった中小企業は何をやっているかというと、どうせ新しい工場を建てても輸出はできないから、不動産投資をやっている。どんどん中国経済の実態がなくなってきているわけで、関税政策が中国の金融崩壊を速めているのは確かですね。親中派も多い自民党 宮崎 ではこの状況に日本はどうすればいいのかと言っても、74年間憲法を変えられない国が主体的にどうしようと言っても無駄な気がしますし、基本的なことを言うしかない。自分が正しく判断したことを、主権を行使してやりなさい、という。これはどの国でも基本でしょう。リーマン・ショックのときには、三菱UFJ銀行が銀行を買わされて、野村証券が、中東かどこかのリーマンブラザーズを強制的に買わされたじゃないですか。ということは、中国が悲鳴を上げて日本に助けを求めたときに、お人好しな自民党政権はやっぱり助けると思います。 吉川 そうですね。自民党は親中派も多いですからね。 宮崎 そうそう、そこが危ない。特に伊藤忠商事はまだ、中国に投資していますから。中国と心中するつもりなのでしょうか。 もう一つ留意すべきは、大々的に生産しているトヨタ、日産、ホンダが結局どうするかでしょう。最悪のシナリオはかつての満洲と同じように財産を全部おいて逃げ帰ってくることですね。中間的なシナリオとしては、トランプが仕掛けた今の貿易規制がますます強化されるでしょうから、日本企業のハイテク部門やケミカル関係など、すべて影響を受けることになります。 吉川 すでに昨年末の段階で、南部中国アメリカ商工会の調査によると、会員企業の約7割が中国からの撤退の準備をしているそうです。別の統計ですが、オバマ政権末期には456億ドルもの対中投資を米国企業はしていたのに、2018年は20億ドル。サプライチェーンは切断され始めています。そうなれば、経済・金融・技術面での覇権争いで、アメリカが優位になれるだけではありません。軍事的な「熱い戦争」をしてもアメリカは困らなくなる。 私は南シナ海問題がこれからもっと深刻になってくると思いますね。南シナ海はほかに比べて水深が深いので、水中発射でアメリカまで届く核ミサイルを装備した潜水艦を沈めておけます。ですから、アメリカは南シナ海で行われる中国の軍事訓練に非常にナーバスになっていて、人工島やミサイル発射台を撤去してほしいと強硬に言っていますし、南シナ海では部分的に「熱い戦争」になる可能性もあるのではないでしょうか。 第一列島線である沖縄、台湾、フィリピンあたりに、核は積まないにしても中距離弾道ミサイルを置いておけば中国をつぶせるという戦略が、ワシントンのシンクタンクからも正式に出ています。そのために米国は中距離核戦力全廃条約(INF)から撤退しました。結局80年代の欧州と同じで、そういうものを一度配置して、中国側が南シナ海から撤退するならアメリカもそれを撤去し、かつ関税も下げるというような取り引きが、トランプと習近平の間で来年の選挙後ぐらいにあるのではないかと予想しています。 宮崎 G20前後に言っていたトランプの日米安保条約破棄というのは冗談ではなく、かなり本気の部分があると言えます。でも、それは大いに歓迎すべきことではないかと思います。わが国が主権国家であるならば、自分で防衛するのは当然ですからね。それをトランプは早くやれと言っているわけです。 吉川 米ソ冷戦が終結したときにアメリカが一方的に日本を守らなければいけない理由がなくなったので、日米安保の見直し、日本の憲法問題、核武装など何から何まで考えなければならなくなることを、冷戦終結当時に何人かの先生と話した記憶があります。 ところが、そこへいわゆる「瓶の蓋(ふた)」論が出てきた。「もし米軍が撤退したら、日本はすでに相当な能力を持つ軍事力を、さらに強化するだろう。誰も日本の再軍備を望んでいない。だから、われわれ(米軍)は(軍国主義化を防ぐ)瓶の蓋なのだ」という考え方です。そしてクリントン政権というものができてしまった。彼は非常に理性的な学歴エリートで、その彼と体質を同じくするワシントンの役人も、日本が軍事大国になるのは脅威ではないかという考え方だったわけです。その考え方をする官僚らが25年もワシントン政治を仕切ってしまった。本来、私の認識では25年前に出るべき「日米安保の見直し」論が、クリントン政権以来、延び延びになっていたのが、今になって出てきたのではないかと思います。吉川圭一氏=2019年7月、東京都千代田区(三尾郁恵撮影) 宮崎 その前に、1980年に日米安保改定20周年のシンポジウムを開催しており、これはフォード前大統領と岸信介元首相が共催したものです。そのときにアメリカから「もう改定して20年も経っているのだから、中身が不均衡なものをより対等なものに改定する必要がある」と提案がありました。日本の新聞も報道はしましたが、それで終わってしまう。誰も重視していなかった。日米安保の改定というのは本来なら日本が言い出すべきですが、そのままずるずると時間だけが過ぎていったのが事実です。 だからトランプは「非常にアメリカだけ負担が大きい、それからアメリカだけが犠牲になる」と認識している。戦争でもし闘っても、日本はそれをソニーのテレビで見ているだけだと、不満がマグマのように噴出しているのが分かります。障害は日本の現行憲法 吉川 トランプは大統領選挙、特に予備選挙の最中からそういうことを言っていました。今回トランプから日米安保の見直し論が出てきたのは、イランのことがあるからだと思います。 イランがアメリカの無人機を攻撃したので、それに対する報復攻撃をやろうとしたが、直前で思いとどまった。そのときに、日本は消費する石油の6~7割をペルシャ湾から買っているにもかかわらず、日本がペルシャ湾の防衛をやらないのはおかしいのではないかとツイッターでつぶやいて、G20後の記者会見でもそのことは言っていました。こういう一連の流れからすると、トランプは本気なのではないかと私は思いますね。 宮崎 本気であることが分かる一方で、トランプは日本に関する勉強をほとんどしてないから、理解度は低いですね。北朝鮮危機のときも、日本に協力しろ、と言ったら日米安保条約、日米地位協定、それから日本の憲法があってできないということを初めて知ったようで、本当にびっくりしたという話もあった。日本は戦争に巻き込まれるようなものではなく、後方支援や終わった後の地雷処理とか、そういう協力しかできないことを今はだんだん分かってきたのではないでしょうか。 だから次にその不満をどこにぶつけるかというと、結局日本の障害になっている憲法だと。だから、憲法改正を迫るのは内政干渉になるけれども、形を変えて言ってくるのではないかと思いますね。 吉川 「在日米軍基地駐留経費の日本側負担を何倍かに値上げしろ!」などですね。それくらい言われたらさすがの日本人も、そんなお金を払うなら憲法を改正して強力な自前の軍隊を持った方がよいと目覚めるかもしれません。米国製の兵器と今まで引き取ってきた米国債を交換してもよい。その代わりに、むしろ在日米軍基地駐留経費を今までは7割負担していたのを5割にしてくれと交渉する。最初から5割と言えば6割にされてしまうので、3割と言っておいて5割で手を打つ。それくらいのことを日本がしてもよいと思います。 そうなれば、在日米軍基地の見直し問題も出てきます。マティス国防長官が退任後、しばらく国防省のトップが不在でしたが、今年6月にボーイング社の理系重役だったシャナハン国防長官代行が国防長官への指名を断ったのです。彼はボルトン大統領補佐官に影響されてイランとの早期開戦論者だった部分があるので、イランとの流血の大惨事を少なくとも来年の選挙まではしたくないというトランプの意向が、もしかしたら少しあったのかもしれない。そしてポンペオ国務長官の陸軍士官学校時代からの友人で、マティスと同様に元制服軍人だからこそ部下を戦死させるようなことは避けたいエスパーが国防長官に就任しました。 ただ、本当に日米安保を見直すということになった場合、「この基地とこの基地は日本の領土上になくてよい」などとコンピューターで計算して交渉をするなら、シャナハンが最適だったと思います。エスパーのような制服軍人はどちらかというと、日本の軍事基地は守りたい方が多いのです。 日米安保を大きく見直す、日本側も憲法を大きく見直さざるを得ないという話が出てくるとしたら、エスパーから民間出身の人に再び国防長官が代わったときではないか、と今の段階では思っています。米ホワイトハウスで、エスパー国防長官(左)を見やるトランプ大統領=2019年7月(AP=共同 宮崎 いずれにしても、すべてまた劇的に変わり始めるのは選挙の後でしょう。その前に中国の自滅が金融面で始まると思いますがね。 吉川 それと中国国内の知的財産権保護と産業補助金制度撤廃という米国の主張が関税などの圧力で実現するか?そうすれば5Gでもアメリカが中国に巻き返しできるかもしれない。 これは、われわれ日本人には既視感があります。80年代に日本がアメリカにされたこととよく似ています。あのときは、そういう日本国内の構造改革そしてドル安誘導や国際決済銀行の規制がバブル崩壊へと繋がりました。そういう意味でも宮崎先生の考えは間違っていないと思います。 みやざき・まさひろ 昭和21年、金沢市生まれ。早稲田大中退。「日本学生新聞」編集長、雑誌『浪曼』企画室長を経て、貿易会社を経営。58年『もうひとつの資源戦争』(講談社)で論壇へ。著書に『拉致』(徳間文庫)『中国大分裂』(文藝春秋)『出身地で分かる中国人』(PHP新書)『中国権力闘争 共産党三大派閥のいま』(文芸社)など多数。 よしかわ・けいいち 政策コンサルティング事務所「グローバル・イッシューズ総合研究所」代表。2016年まで米国ワシントンDCにも拠点を持ち、 東日本大震災を契機に一般社団法人日本安全保障・危機管理学会防災(JSSC)ワシントン事務所長として、日本に米国と同様の危機管理専門省庁の立ち上げを目指す政策提言活動に取り組む。2017年以降は日本国内をベースに、テロ対策や米国政治に関する政策提言活動を続ける。著書に『911から311へ—日本版国土安全保障省設立の提言』『東京オリンピック・パラリンピックは、テロ対策のレガシーになるか?』(近代消防新書)など多数。■「米国はもう崖っぷち」5G戦争、ファーウェイ排除のウラ側■「宇宙軍創設」トランプの真意は中国への宣戦布告に他ならない■日本の円圏構想をパクった中国の「一帯一路」はどうせ失敗する

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    新冷戦から生まれた中露印の新勢力「3G」から恐怖は始まる

    欧米諸国が結束する自由主義陣営が対峙する「東西冷戦」は、軍事だけではなく文化、スポーツにまで及んだ。アメリカと張り合ったソ連は結果的に敗北したが、ロシアでは往年の栄光に浸る人々が増加している。モスクワ都心にはソ連スタイルのカフェやレストランが人気で、少なくとも15軒を数える。 その日、私はロシアの友人、ドミートリーと「ドクトル・ジバゴ」で久しぶりに軽めの昼食をとる約束をしていた。真っ白なテーブルクロスが敷かれたテーブルを囲んでドミートリーはシベリア名物のペリメニ(羊肉の水餃子)を口に運びながら、世にも奇妙な物語を披露する。 「ある日、モスクワの狭い通りを、ロシア男性が運転するソ連製のオンボロ車が走っていました。その前には2台の自動車が快走しており、それぞれの車の運転手は神と悪魔だったらしい。その道の先は、行き止まりになっていた。 神は急に右折して繁華街が広がる大きな通りに向かいましたが、悪魔はその手前を左折し、路地に迷い込みました。後を追うロシア運転手は2台の自動車の動きを見定めてからどちらに曲がるべきか、迷うことはありませんでした。神を追うかのように右方向のウインカーを出しておいて、実際には悪魔の方に左折しました」 悪魔を追いかけるロシア人。どうやら建前では神を崇拝するそぶりを見せながらも、悪魔にすっかり魅了されてしまっているようだ。そんなロシア人を率いる最高指導者、ヴラジーミル・プーチン大統領は2016年11月24日、ロシア地理協会が主催するコンテストで入賞した9歳の男児ミロスラフ君の肩を引き寄せ、こう問いかけた。 プーチン「ロシアの国境線は、どこで終わっていると思う?」 ミロスラフ「ベーリング海峡のところです」 プーチン「正しくないね。ロシアの国境線には終わりがないんだよ」 プーチン氏が意味ありげな表情でニヤリとすると、授賞式の会場から大きな拍手が巻き起こった。少年の言う海峡とは、アメリカ領のアラスカとロシア北東端を隔てる水域だ。ソ連邦の崩壊で領土がすっかり縮小してしまったロシアなのだが、プーチン氏は失地回復どころか、まるで大英帝国に匹敵する「プーチン帝国」を築こうと目論んでいるように私には思える。 先の友人の例え話には続きがあり、悪魔を追って左折したロシア人を、中国をはじめとしてトルコ、イラン、そしてインド、北朝鮮の各指導者が追随するのだ。私は、まるでロシアが先導する「悪魔の館」に彼らが結集し、暗闇のなかでコソコソと悪巧みするような不穏な気配を感じる。露モスクワで会談後、合意文書の署名式に出席したウラジーミル・プーチン露大統領(右)と中国の習近平国家主席=2019年6月5日(AP=共同) 2019年7月23日、衝撃的なニュースが報じられた。ロシアと中国の爆撃機が約11時間にわたって編隊を組み、日本海と東シナ海の上空で初めての共同警戒監視活動を展開したと言うのだ。極東アジアでの中露による軍事的な存在感を強烈にアピールするもので、日米軍事協力体制の最前線に中露の軍事的脅威が迫っているに等しい。中露訓練に北朝鮮が参加の意思? 実は両国の軍事協力はかつて、大規模に実施されたことがある。2018年9月11日から1週間、ロシア極東やシベリアで繰り広げられた軍事演習「ボストーク(東方)2018」に、中国軍とモンゴル軍が参加していた。その規模は1981年以降、最大規模だったと言われている。 そもそも中露の軍事協力が本格化したのは、2017年6月7日のことだ。カザフスタンで両国の国防相が会談し、ロシアのショイグ国防相は中国の常万全国防相(当時)に「2020年までの防衛軍事協力」を約束した。両国軍による軍事演習を初めて実施し、軍事機密の共有、さらには軍事ドクトリンの整合性を盛り込んだ。 中露の共同訓練が確認された翌々日の7月25日、北朝鮮が動いた。G20の閉幕直後にトランプ大統領と文在寅大統領とそろって首脳会談した金正恩委員長だったのに、北朝鮮はロシア製の「イスカンデル」にきわめて似た弾道ミサイルを2発打ち上げた。おそらく、シリアでロシア軍が使用しているミサイルが転用されたのだろう。 北朝鮮がミサイルを発射したのは、中露による共同訓練に参加する意思を示したのではないだろうか。中露と北朝鮮が警戒しているのは、8月に予定されている米韓合同軍事演習であり、韓国大統領府は「計画通りに実施される」と表明している。今年の夏は「中露+北朝鮮」対「米韓」の対立が激化する危険性が高まっている。まさに「新冷戦」の始まりだ。 プーチン政権は、中露関係の強化だけでは飽き足らないようだ。反米同盟の拡大を画策し、インドに触手を伸ばしている。2018年12月以降、アメリカはインドの市場開放が不十分だと非難し、関税優遇措置を停止すると宣言。アメリカへの不信感を募らせるモディ首相は、ロシアに急接近している。 インドは、ロシア製の最新型地対空ミサイルシステムのS400を購入する契約を結んだ。総額は50億ドルに達し、インドとアメリカの関係にきしみが出ている。トランプ政権の発足以降、両国は中国を牽制するための信頼関係を醸成してきたが、一気に亀裂が走っている。 ロシアの思惑は、どこにあるのだろうか。2014年以降に拡大した欧米諸国の経済制裁でロシア経済は衰退したために、東方外交に舵を切り、中国との関係改善に乗り出した。しかし、中国の経済成長も超高齢化社会を迎えて、将来は先細りになると予想されている。経済統計によれば、2024年にはインドは中国を抜いて世界一の人口を擁し、2030年にはインド経済は飛躍的に台頭する。プーチン氏はいつまでも中国に依存すれば、共倒れになると危惧している。インドとアメリカの摩擦につけこんで、将来を見据えてインドを取り込む戦略にプーチン氏は打って出た。 プーチン氏は、インドと中国が放つアメリカへの不満に勢いづいて、こう息巻いた。 「ロシア、インド、中国の3カ国の枠組みは保護主義や単独行動主義、不法な制裁を否定する。3カ国の協力関係は著しく発展しており、安全保障と財政の各分野での協議が発展している」左からインドのモディ首相、ロシアのプーチン大統領、中国の習近平国家主席 反米を軸にまさに「3G(グル)」の巨大な勢力圏が誕生しようとしている。3カ国とも核保有国であり、日本海から西太平洋、東シナ海、インド洋に及ぶ軍事的な影響力は絶大である。3カ国の総人口が世界で占める割合は38%、世界の陸面積の20%に達する。「日本は祈る」は通用せず プーチン氏は今年6月に大阪で開催されたG20の直前、フィナンシャル・タイムズのインタビューで、欧米諸国を厳しく批判した。 「現代の自由主義といわれる思想は結果的に、時代遅れになっています。その思想のいくつかの要素は、単に現実とマッチしていません。多文化を認めることが大切です。移民問題が発生すると、自由主義思想は機能不全を起こし、自国の住民の利益を優先するハメに陥っているのです」 プーチン氏の発言は、移民と難民への対応で苦慮するアメリカとヨーロッパ諸国にはびこる民族排外主義を念頭に置いている。自由主義を掲げてきた諸国の自己欺瞞を非難しているかのようだ。ただ注意しなければならないのは、プーチン氏は自由主義に代わる新しい思想を打ち立てているわけでも、まして移民問題を解決する施策を提案しているわけでもない。 ロシアにも中央アジア諸国からの出稼ぎ労働者の問題が生起しているが、プーチン政権は武力で弾圧しているだけである。国際政治は一般的な理念よりも国益を優先に、ときには陰謀や策略も辞さないリアルポリティックスの時代に逆戻りしているかのように映る。まさに弱肉強食の権力政治家が跋扈するのである。 日本は、北方領土交渉でプーチン政権にすっかり揺さぶられてしまった。平和条約の締結さえも、困難な状況にある。プーチン氏は2019年6月22日、ロシアの国営テレビ局のインタビューで北方領土を日本に返還する「計画はない」と言明した。 そして、8月2日にはメドベージェフ首相が択捉島を訪問する。実は択捉島、国後島、色丹島には2011年以降、中国の水産関連企業が進出し、新しい工場が続々と建設されている。 2018年9月には中国の通信機器大手「ファーウェイ」が、サハリンと北方3島を結ぶ光ファイバー回線の海底敷設工事を完了した。北方領土はいまや、中露蜜月関係のシンボルのように見える。最悪の場合には中露首脳会談が択捉島や国後島で開催されたり、中露軍事演習が北方領土で実施されたりする事態も想定しておかねばならない。 日本を取り巻く国際状況をざっくり描くと「日米+α(EU)」と「3G+α(北朝鮮、トルコ、イラン、シリア)」の対立構図が浮き彫りになる。ただトランプ大統領は自国ファーストを掲げており、必ずしもEU諸国と友好的とは言えない点があり、日本への反発を強める韓国は「3G+α」に寝返るかもしれない。そうなれば、3Gの最前線と立たされる日本の防衛政策は緊急に再検討を迫られる。 米ソ冷戦は両国が直接的に衝突しなかったという点では、日本では「祈りの平和」で済んだ。でも現状は、緊迫度がまったく違う。日本に近い朝鮮半島、日本が天然資源を依存する中東、さらにはベネズエラ内戦(「アメリカ」と「ロシア、中国、北朝鮮、イラン、トルコ」の勢力に分断)など地雷はいくつも点在している。ちょっとした事件や小競り合いを契機に、アメリカと中露が軍事的に全面衝突する危険性は十分にある。G20大阪サミットが閉幕し、トランプ米大統領(右)と握手を交わす安倍首相=2019年6月29日、大阪市 だからこそ、日本の防衛政策を根本的に考え直す時期にきている。明治維新もそうであったように、日本は外圧があってこそ、自国を変革できる。集団自衛権を含む憲法改正の必要性を、皮肉にも「新冷戦」が迫っている。■北方領土は返さない! ロシア「反日アイヌ民族」の正体■「プーチンは一島も返さない」最悪シナリオは中国への北方領土売却だ■安倍外交85点の理由は「欧米と仲良く、中国と喧嘩せず」

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    中国からの投資が9割減、問われるトランプの経済政策

    土方細秩子 (ジャーナリスト) ピーク時の2016年には年間460億ドルもあった中国から米国への直接投資が2018年には48億ドルにまで落ち込んだーー。リサーチ会社ローディアムが発表した数字が波紋を呼んでいる。もちろん理由の一つは中国が貨幣流出を防ぐために国外投資に規制をかけたことだが、2016年はトランプ大統領就任の年。そこから現在までの間に貿易摩擦などもあり、投資額が激しく落ち込んだ、と指摘されている。 中国による米国企業への投資内容を見ると、トップはエネルギー関連、次いで不動産関連となる。企業への直接投資、買収などが含まれるが、昨年1年間で中国の投資家は総額130億ドルにも及ぶ米国内の資産を売却したという。 この傾向は今年も続き、アンバンは米国内の高級ホテルを、HNAグループも米国内数十億ドル規模の不動産を、フォーサム・インターナショナルはニューヨークの不動産を、ダリアン・ワンダ・グループは映画会社レジェンダリー・エンタテイメントの株式売却を試みている。 この中には米政府が主導した売却もある。例えばHNAが今年に入り売却したマンハッタンのビルは、「トランプタワーに近い高層ビルである」という保安上の理由から米政府が売却を迫ったもので、HNAはこれにより多額の損失を出したと報道された。逆に中国企業が買収しようとした米企業に対し、「個人の情報保護や国家安全の見地から」米政府が売却を阻止したケースもある。 とかく批判されながらも、中国マネーが米経済を活性化させてきた、というのは事実だ。特にミシガン、ミズーリ、サウスカロライナ、テキサスなどでは中国マネーが雇用促進の原動力にもなり、カリフォルニア、ニューヨークでさえ都市開発の要の部分を中国マネーが請け負っていた面が大きい。 エンターテイメントの部分も然りだ。中国は今や世界最大の映画市場であり、ゲーム市場でもある。ハリウッドは中国との共同制作という形で中国からの投資を引き出し、中国市場に受ける映画を作ることで採算を取ってきた経緯がある。ゲームに至っては世界の市場の5割強が中国であり、ソフトからハードまでこの巨大市場を目指しての競争が続いている。(出所)リサーチ会社ローディアム 1980年代を思い起こしてみれば、米国の困惑がよく分かる。当時バブル期の日本は米国の不動産を買い漁っていた。ロサンゼルスのボナベンチャーホテル、ニューヨークのロックフェラービルなど、ランドマークとも言える建物を日本企業が買収し、米国では激しい日本叩きが巻き起こった。しかしバブル崩壊によりこうした建物や日本による投資が冷え込んだことが米国経済にも影響した。 今回の中国投資の減速でも同じことが言える。米国では黄禍論などと言われ、あまりにもアジアパワーが強すぎることへの警戒が巻き起こるが、いざその影響が米国経済の停滞に及ぶと、今度は待望論が巻き起こる。いわく、中国からの投資が減少したことにより特にラストベルトと呼ばれる地域への影響が大きい、トランプ支持基盤でもあるこの地域の経済をトランプ自身が苦しめている、などである。原因は中国かトランプか この問題、表面的な部分よりも根が深い点がある。それは「どちらが“先”の原因であるのか」という部分だ。先にも述べた通り、中国からの投資が減少したのはトランプ政権による関税圧力などの貿易摩擦も一因ではあるが、それ以前に中国政府による外国投資規制が行われていた。つまりトランプ大統領が政権についた時にはすでに中国マネーの後退は始まっていた。 トランプ大統領による中国への不信感、批判はここに端を発するものかもしれない。このまま中国がラストベルト地帯への投資を減少させれば地域経済はより疲弊し、それが「Make America Great Again」という自身のスローガンに反することになり、支持率が減少する。それゆえに中国を批判し、関税圧力などの政策を実施した。 関税圧力というのはある意味自国への企業誘致の方法でもある。日本の自動車メーカーが現地生産率を上げ、「米国産の日本車」を前面に打ち出すようになったのも元はと言えばこうした日本叩きや圧力に対抗する策でもある。 ただし中国の場合、米国に進出して現地生産するような企業がまだ少ない、というのがネックとなる。現在に至っても中国メーカーの車は一部のEVバスなどを除いては米国で販売されていない。また今のところはまだ価格面で競争せざるを得ない中国製品にとって、米国での生産はコストがかかり競争力を失う原因にもなりかねない。 しかし米国の経済学者などからは「米中双方が不信感を抱き合い、貿易摩擦の解消のきっかけすらつかめない現状は行く行く米経済に悪影響を及ぼす」という警戒感をあらわにしている。※写真はイメージです(ゲッティイメージズ) 一方で米国にとっての明るいニュースは、直接投資が減少する一方で中国によるベンチャーキャピタルは増加している、という点だ。特にシリコンバレー周辺で、中国による投資は31億ドルを記録した。ただしこれも技術移転や機密保持の観点から規制がかけられる可能性が無きにしも非ず。 もし中国企業や個人が米国内の資産売却を急激に進めれば、特に不動産のバブル崩壊のような現象が起こる可能性もあるし、企業の倒産、失業率の増加にも中国投資の減退が関わってくるかもしれない。二選目を目指すトランプ大統領にとって、中国マネーの扱いは難しいものになりそうだ。ひじかた・さちこ ジャーナリスト。ボストン大学コミュニケーション学部修士課程終了、パリ、ロサンゼルスでテレビ番組製作に携わり、1993年より米国でフリーランスのジャーナリスト活動を行う。

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    櫻井よしこ氏「米中対立はどちらかが倒れるまで続いていく」

    国は相変わらず憲法9条に縛られたまま、自力で自国を守ることすらできない。櫻井よしこ氏は、日本がすがるアメリカと中国との対立は長期化すると言い、憲法改正の必要性を訴える。* * * 日本を取り巻く国際情勢はかつてないほど厳しさを増しています。 米中対立は基本的に中長期的にわたって続き、さらに深刻化していくことが予想されます。トランプ政権の一連の動きを見れば、米国が問題視しているのが貿易赤字だけではないことがわかります。知的財産の不正入手、企業の最先端技術を提供させるなどの不公正な取引、発展途上国に対する「債務の罠」、そしてチベットやウイグルへの弾圧をはじめとする人権問題。これらはすなわち共産党による一党独裁体制、中国のあり方そのものです。 中国の経済成長の基盤は知的財産を盗むことで成り立っており、これをやめるわけにはいきません。また、中国の国防費は表向きで約15兆円、実際にはその1.5倍から2 倍と見られていますが、それと同等かそれ以上の予算を割いているのが武装警察やサイバーポリスといった国内治安対策です。これほどのお金を投入して、激しい弾圧を加えることによって中国共産党はようやく国内の不満を押さえ込んでいるのです。 人権問題の改善は共産党の一党支配の崩壊につながりますから、根本のところで中国が米国と妥協することは絶対にあり得ません。2019年5月3日、第21回公開憲法フォーラムで基調提言を行う櫻井よしこ氏(桐原正道撮影) 2018年12月、トランプ大統領と習近平主席がG20で会談し、貿易摩擦の「一時休戦」をアピールしましたが、その一方で米国はカナダに要請し、中国の通信機器大手「華為技術(ファーウェイ)」の創業者の娘で最高財務責任者(CFO)の孟晩舟氏を逮捕しました。 一時的に対立を回避するようなポーズを見せながらも、米中対立はどちらかが倒れるまで続いていくでしょう。「我慢する時」の習近平 中国側はトランプ政権はあと2年、再選されても6年で終わることを見越していますし、景気の悪化などで米国内での国民の不満が高まれば、トランプ政権は政策を変えると読んでいます。一党独裁体制の中国とは違い、民主主義国家は弾圧で国民を押さえ込むことはできないからです。 習近平は「今はじっと我慢する時」と考え、日本に対して盛んに秋波を送っていますが、やっていることはまったく変わっていません。それは尖閣諸島への領海侵犯を続け、東シナ海の日中中間線付近で新たなガス田の掘削を始めたことからも明らかです。 2017年10月の共産党大会で、習近平は3時間20分にわたる大演説を行い、中国は2035年までに世界一の経済大国になり、建国100年に当たる2049年までには軍事力でも米国を追い抜いて、「国際社会の諸民族の中に中華民族がそびえ立つ」と言いました。 中国共産党の価値観を世界に浸透させて、その教えの下で人類運命共同体を築き上げる。逆らう者は徹底的に弾圧する。このような中国の野望、中国が描く世界秩序を決して実現させてはなりません。 米中対立において、日本が米国側に立つのは当然のことです。さらに長い歴史の中で育んできた人間重視の穏やかな価値観をもとに、独自の旗を立てて国際社会の中で大きな役割を果たしていくべきだと思います。 そのためにも、日本は節度と責任ある民主主義国家として、憲法改正を実現し、国の基盤である経済力と国防力を整えていかなければならないのです。●さくらい・よしこ/新潟県長岡市出身。ハワイ州立大学卒業。元日本テレビ「きょうの出来事」キャスター。1995年、『エイズ犯罪 血友病患者の悲劇』で大宅賞受賞。執筆・講演活動を続ける一方、インターネット放送「言論テレビ」を運営中。最新刊は『韓国壊乱』(PHP新書、共著)。関連記事■櫻井よしこ氏、世界で一つの変な憲法の改正は今が最後の好機■朴前大統領の弾劾訴追を見れば韓国立法・司法の歪み分かる■櫻井よしこ氏「韓国とは悪い関係でなければ幸せ、程度でOK」■ケント氏「議論すら許さない日本のリベラル派は全体主義者」■ケント氏「憲法によって危険に」櫻井氏「日本は商人の集合体」

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    日米同盟破棄したら中国は尖閣強奪、韓国は謝罪と賠償要求

     G20後に板門店を訪れ金正恩・朝鮮労働党委員長と電撃会談したアメリカのドナルド・トランプ大統領。それに先立つ6月25日、米ブルームバーグ通信がトランプ大統領による「日米同盟破棄発言」を伝えた。 記事によればトランプ大統領は、日本が攻撃されれば米国が援助することを約束するが、米国が攻撃された場合は日本の自衛隊による支援が義務ではない日米安全保障条約について「あまりにも一方的だと感じて」おり、「日米安保を破棄する可能性」について側近に漏らしたという。 トランプ大統領は29日、G20サミット閉幕後の記者会見でも日米安全保障条約について「不公平な条約だ」と不満を表明し、安倍晋三・首相に対し「片務性を変える必要がある」と伝えたことを明かしている。 もし「日米同盟破棄」が現実となれば、日本の外交・防衛は抜本的な見直しを余儀なくされる。 1960年に締結された日米安保条約では、米国は日本の防衛義務を負う。その代わり、日本は在日米軍基地や空域を提供し、さらに年間約2000億円という巨額の米軍駐留経費を負担している。 在日米軍が撤退するとなれば、米軍駐留経費の負担はなくなるものの、日本は隣国の脅威に一気に晒されることになる。産経新聞ワシントン駐在客員特派員の古森義久氏が言う。「中国はこのところ沖縄・尖閣諸島周辺の日本領海への公船の侵入を活発化させている。もし東アジアにおけるアメリカの最前線部隊である在日米軍がいなくなれば、中国人民解放軍は即座に尖閣諸島強奪作戦を開始する可能性がある。場合によっては沖縄まで標的になるかもしれない。 それに乗じて北朝鮮やロシアも一気に動き出す。中国を敵に回せば国連の安全保障理事会は機能しない。自衛隊の戦力だけで侵略行為をしのぎきるのは不可能です。アメリカを頼ろうにも、同盟破棄してしまえば積極的な介入は期待できません。2014年にロシアがクリミアに侵攻した時のように、中国に対して軍事力は投入せず、抗議や経済制裁をするのみではないか」 そのような事態に備えるためには、現在5兆3000億円に膨れ上がっている防衛予算を、さらに上積みしなければならない状況も考えられる。元駐韓大使で外交評論家の武藤正敏氏は、韓国の動きも注視すべきと指摘する。「トランプ発言はブラフだと見ておくべきだが、片務性を正したいという意思があるのは間違いない。仮に日米同盟が破棄されるならば、より重要度が低い米韓同盟も破棄され、在韓米軍も撤退する可能性が高い。すると、韓国は中国と北朝鮮の影響下に入ることが、自国の安全保障につながると考える。 米軍撤退によって野心を再燃させた北朝鮮の金正恩・朝鮮労働党委員長が核・ミサイル開発に邁進しても韓国の文在寅・大統領では対応しきれず、日本は核の脅威に晒されることになる。日米会談を前に、トランプ米大統領と共に長女イバンカ大統領補佐官(手前左)と娘婿クシュナー大統領上級顧問(同右)を迎える安倍首相=2019年6月28日、大阪市(代表撮影) 一方で韓国は慰安婦問題や徴用工訴訟などでの反日姿勢をさらに強め、これまで以上の謝罪や賠償を日本に突き付けるでしょう。G20での日韓首脳会談が見送られるなど戦後最悪とされる日韓関係のもとでは、そうしたリスクもゼロではありません」 これまでの経緯を考えれば、トランプ大統領と金正恩委員長の「友好的演出」は一時的なものにすぎない可能性は十分にある。再び北朝鮮が強硬路線に走り、韓国も反日姿勢を強めれば、まさに四面楚歌状態──その中で求められるのは高度な外交手腕だが、60年の長きにわたって日米同盟に依存するばかりだった日本の政治家や外交官に、各国と立ち回る能力があるかは疑わしいのが現実だ。 トランプ大統領の「日米同盟破棄」にどれだけ現実味があるかは今のところ全くわからない。だがトランプ発言は、日本外交が「主体的な安全保障体制とは何か」を真剣に考える契機となったのは間違いない。関連記事■日米同盟破棄で日本は繁栄か沈没か 外交論客3人が分析■中国富豪男の夢「蒼井そらを1晩300万円でセッティングしろ」■ケント氏「韓国には嘘が恥ずかしいという概念がないのか」■もし日韓戦わば… 軍事力の差は歴然だった■韓国で女児の胸が大きくなる「性早熟症」、囁かれる原因

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    トランプと金正恩が電撃会談で仕掛けた「天敵封じ」

    重村智計(東京通信大教授) 米国のトランプ大統領は6月30日、北朝鮮の領土に入り、出迎えた金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長をホワイトハウスに招待した。一方、金委員長はことし9月の米ニューヨークでの国連総会に出席し、演説で「非核化」を宣言し、ホワイトハウスを訪問する検討を始めた。 気をつけておきたいのは、米朝首脳の再会で核問題が直ちに解決するわけではない。むしろ最大の成果は、非核化に向けての強大な抵抗勢力が「朝鮮人民軍」であるとの認識を共有した事実にある。だから、両首脳は人民軍を説得しようと「敵対から平和へ」を強調した。 金委員長の発言は、これまでの立場では考えられない内容だ。会談冒頭で「敵対関係だった両国がこのように平和の握手をすること自体、昨日までと変わった今日を表現している」と述べ、「敵対関係」の終わりを強調した。 明らかに朝鮮人民軍を意識した発言だ。かつて北朝鮮攻撃を口にしたトランプ大統領の行動を「並々ならぬ勇断」と表現した。異例の言及にほかならない。 北朝鮮の朝鮮労働党機関紙、労働新聞は首脳会談5日前の6月25日、米国を「米帝国主義」と攻撃したうえで、「いかなる戦争にも対処できる」と警告した。ところが、同日の政府機関紙、民主朝鮮は「米帝」の表現を使わずに「米国」と表現した。 これは、北朝鮮内部の対立と不安定さを示唆している。北朝鮮では、昨年6月の首脳会談以後「米帝」の表現を使っていなかった。板門店での米朝首脳会談を伝える2019年7月1日付の韓国主要各紙(共同) 「米帝」批判の復活は、軍部の不満と反発の強さを明らかにしている。iRONNAでも述べた通り、金委員長は2月の米朝首脳会談の失敗や米スパイ狩りの影響で、国内でかなり追い詰められていた。 人民軍幹部や若手将校は非核化に同意せず、「『核を最後まで放棄しない』との金正日(キム・ジョンイル)将軍の遺訓に反している」と抵抗している。軍部が米国を「米帝国主義」と表現しているのも、この表れだ。北朝鮮、唯一の「世論」 つまり、トランプ大統領の「呼びかけ」は、窮地の金委員長を救う行動だったのである。会談翌日、労働新聞は一面全面を使い、「歴史的な会談、トランプ米合衆国大統領」との見出しを掲げて米朝首脳会談を伝えた。 それだけではなく、「両首脳の大勇断は、敵対国家として反目した両国に前例のない信頼を創出した」と称賛したのである。異例の表現だ。 労働新聞の記事が、「抵抗勢力」である人民軍を対象に書かれたのは明らかだ。北朝鮮の「世論」というものは軍部にしか無いからだ。 そもそも、北朝鮮がこれほど手放しで米国の大統領を持ち上げたことはない。米大統領は帝国主義の頭目であり、北朝鮮を攻撃するかもしれない最大の敵であったからだ。 トランプ大統領も「金委員長に感謝したい。あなたのおかげで、互いによく知り合えた。すぐにもホワイトハウスに招待したい」「かつては、ここで大きな戦争があった。今は正反対(平和)だ。私の名誉であり、委員長の名誉だ」と金委員長をたたえた。人民軍を意識して持ち上げたのは明らかだ。 米大統領の板門店(パンムンジョム)訪問は、間違いなく歴史を変えた。まず、米朝両首脳の再会が、大阪の20カ国・地域(G20)首脳会議(サミット)中に投稿されたツイッターを通じて実現した事実だ。新聞やテレビ報道でも、外交官のやり取りでもなく、首脳間のSNS(会員制交流サイト)交信で実現したのである。 この事実は、報道と外交に革命的な変化をもたらした。両首脳は、今後もSNSを通じて意見を交換できるだろう。 トランプ大統領の行動は、金委員長と北朝鮮軍部の「メンツ」を守った。朝鮮半島における最大の価値観の一つが「メンツ」だ。彼らはメンツを汚されると怒り、命をかけるほどのけんかになる。2018年9月、国連総会で演説するトランプ米大統領=ニューヨーク(ロイター=共同) 北朝鮮は公式に、韓国が自国の領土であるとの「フィクション」を維持している。ただ、現実は米帝国主義が支える傀儡(かいらい)政権が実効支配している、と解釈している。北朝鮮のフィクションからすれば、歴代米大統領は北朝鮮の「メンツ」を無視し、韓国を訪問してきたわけだ。金正恩が描く「シナリオ」 だが、トランプ氏は、板門店の南北軍事境界線を越えて北朝鮮領に入り、指導者への「入国」のあいさつという仁義を切った最初の米大統領だ。しかも、その際に韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領を同行させなかった。これは、北朝鮮の指導者と軍部を満足させる行動だった。 もちろん先述の通り、これだけで核問題が解決するわけではない。金委員長が「非核化」でどこまで譲歩するかは、明らかでない。G20直前に平壌(ピョンヤン)で実現した中朝首脳会談では「十数年内の完全非核化」で合意したと、北朝鮮高官は明らかにする。 北朝鮮の高官によると、金委員長が数年前から「国連総会で演説し、制裁を解除させる」との意向を側近に明らかにしていた。トランプ大統領は、これを知ってホワイトハウスに招待したのだ。来年の大統領選での再選を果たすため、金委員長をホワイトハウスに招いて会談すれば、大きな成果を誇示できるわけだ。 金委員長が描くのは、9月の国連総会の時期に訪米し、総会と安保理で演説し「非核化を宣言して、制裁解除を求める」とのシナリオだ。米政府関係者によると、金委員長は国連総会出席の検討を指示したという。 一方、トランプ大統領のもう一つの狙いはノーベル平和賞だ。板門店では、米朝首脳再会のテレビ演出に文大統領を同行させず、首脳会談にも参加させなかった。あいさつを許しただけで、文大統領を徹底して「排除」した。 これは、同じようにノーベル平和賞を狙う文大統領の追い落としを狙った行動だ。文大統領は6月にスウェーデンとノルウェーを訪問したが、実はノーベル平和賞受賞を働きかけるためであった。トランプ大統領もノーベル平和賞候補に推薦されており、文大統領に受賞させるわけにいかないのである。2019年4月、施政演説を行う北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長(朝鮮中央通信=共同) ホワイトハウスでトランプ大統領と金委員長の会談が実現することになれば、国際法上で米朝国交正常化への準備段階を意味する。トランプ大統領は大統領選を見据えて、2年連続のホワイトハウス会談を計画しているだろう。その際に「非核化」と米朝国交正常化で合意して、北朝鮮の軍部を抑え込む作戦だ。 金委員長の訪米とホワイトハウスでの会談が実現すれば、来夏の東京五輪への参席も可能になる。五輪期間ごろには、日朝首脳会談が実現し、拉致問題解決と日朝・米朝同時国交正常化への動きも見えてくるだろう。■ 金正恩最愛の妹、将軍様の料理人も狙われた平壌「暗闘の季節」■ 反安倍メディアに騙されるな!日朝会談「無条件」は方針転換ではない■ 金正恩が「完全な非核化」に初めて言及した意味

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    トランプ「イラン包囲網」で割を食うG20議長国ニッポン

    黒井文太郎(軍事ジャーナリスト) 主要国の首脳が一堂に会する20カ国・地域(G20)首脳会議では、もちろん国際問題が話し合われる。国際問題にもいろいろあるが、最も重要なのは「戦争」の危機だ。中でも現在、注目されているのが、イランと米国の対立だろう。 もっとも、そもそも緊張を作ったのは米国側だ。オバマ前政権が結んだ核合意ではイランの核とミサイルの開発は止められないとして、昨年5月に米国が核合意から離脱し、独自に制裁強化に動いたことで、両国関係は悪化したのだ。 また、今年4月に米国が、イラン最高指導者直系の軍事組織「イスラム革命防衛隊」を外国テロ組織に指定したことに、イランが強く反発。米国は「テロの情報がある」として5月上旬から大規模な軍の増派をしたが、そんな最中の6月13日、ホルムズ海峡東方のオマーン湾で民間のタンカー2隻が攻撃された。米国はイランの犯行と断定したが、イランは否定している。 さらに6月20日には、ホルムズ海峡近くを哨戒していた米軍の無人偵察機が、革命防衛隊に撃墜される。イランは米軍機が領空侵犯したためとしているが、米軍側はそれを否定、国際空域を飛行中に攻撃されたと発表した。両国とも「相手が悪い」との主張だ。 その後も両国は互いを非難している。6月24日には米国がイランのハメネイ最高指導者を対象とする制裁を発表したが、それに対してロウハニ大統領は翌25日「極めて愚か。精神的な障害に陥っている」などと批判。それに対してトランプ大統領も同日、「イラン指導者の声明は無知で侮辱的であり、現実を理解していない。いかなる攻撃も、圧倒的な力に直面する。地域によっては、それは壊滅を意味する」と応じた。すると今度はハメネイ最高指導者が翌26日、「イランは40年間無敗だ」と応戦している。 しかし、こうして激しく互いを非難し合ってはいるものの、両国とも自分たちから戦争に討って出ることは否定している。ロウハニ大統領は6月26日にフランスのマクロン大統領と電話会談し、「イランは米国との戦争は望んでいない」と発言しており、米側でも同日、エスパー国防長官代行が「われわれは戦争を始めるつもりはない」と語った。イランの首都テヘランで会談する最高指導者ハメネイ師(右)と安倍首相=2019年6月13日(イラン最高指導者事務所提供・ロイター=共同) ただし、両国とも互いに相手が挑発してくるなら受けて立つというスタンスで、特に米側は、トランプ大統領は同じ26日に「戦うとしても地上部隊は出さない」など、空爆ならあり得ることを示唆している。そのような状況で開催されるG20だが、イラン問題での論点は主に3つある。 一つ目は、イランの核問題だ。トランプ大統領としては、圧力をかけることでイラン側を屈服させ、核ミサイル開発能力の破棄まで持っていきたい。そこで米国としては、国際的にもイランに対する圧力の包囲網を敷きたいところだ。しかし、国際社会はその流れにはない。同調しているのは、イランと敵対するイスラエルやサウジアラビアなどごく一部にとどまる。核合意に参加したのは、国連安保理常任理事国5カ国とドイツだが、米国以外はいずれも核合意破棄は支持していない。むしろ米国の核合意復帰を望んでいる。 したがってG20では、米国側の呼びかけで核問題での対イラン包囲網が形成される可能性は低い。参加国で同調しそうなのはサウジアラビアのみで、むしろ核合意の有効性回復を呼び掛ける声が多数を占めそうだ。米国に同調するのは2カ国だけ 二つ目は、タンカー攻撃と米無人機撃墜に関するイランへの非難についてだ。タンカー攻撃や無人機撃墜を受けて、米国はイランの挑発的行動を非難する論調で各国の支持を集めようともしているが、それもG20の場では困難だろう。タンカー攻撃では、イランの犯行である決定的証拠がまだ示されていない。無人機撃墜でも、米国とイランの主張のどちらが正しいのかがまだ決着していない。 これらの問題で、G20参加国で米国に同調しているのは、サウジアラビアとイギリスにとどまる。ドイツはタンカー攻撃については「イランの犯行である強力な証拠がある」(メルケル首相)との見方だが、それでも対イラン包囲網には参加していない。 フランスのマクロン大統領は「G20でトランプ大統領とイラン問題を話し合いたい」と語っており、G20でももちろんさまざまな局面で話し合われるだろう。しかし、対イラン包囲網を形成したいトランプ大統領に対し、主要国はむしろ緊張が激化しないよう米国、イラン両国に自制を求めており、トランプ大統領をなだめることになりそうだ。 以上のように、G20参加国の多くは、イランの核問題に関しては、核合意を支持しており、米国の核合意離脱を支持していない。 また、タンカー攻撃や無人機撃墜で高まる米国とイランの対立に対しても、多くの国はイランを非難するというより、両国に自制を求めるという姿勢に立っている。 そして三つ目は、いくつかの国にとって悩ましいホルムズ海峡の安全の確保だ。米国とイランの緊張が続けば、またタンカーが攻撃される事態も予想される。ホルムズ海峡の安全は、国益に直結する重要問題だ。 そこでトランプ大統領が打ち出しているのは、米国単独ではなく、ホルムズ海峡の安全で利益を得ている国々が、自ら同海域の安全保障に責任を負うべきとの考えだ。それは米国側に立ってイランに対処するということに他ならないため、当然ながらG20の主要な合意になることはないが、米国は個別の会合ではこれを持ち出す可能性が高い。 米国ばかりがコスト負担することには反対というのは、トランプ大統領のいわば信念だ。 その要求に対しては、原油の輸出側であるペルシャ湾岸の産油国では、サウジアラビアなどすでにペルシャ湾で活動している軍のある国は、その役割の拡大というかたちで協力していく流れにある。問題は輸入側の国々で、その主力はアジアの国々、中でも中国と日本だろう。日米首脳会談 共同記者会見で話すトランプ米大統領=2019年5月27日、東京・元赤坂の迎賓館(代表撮影) G20でもトランプ政権としては、そうしたコスト負担という観点から原油輸入国に負担を求めてくる可能性がある。中国はもちろん米国とはそこは主張が相いれないから、矢面に立つ国はあるとすれば、やはり日本となるだろう。 トランプ大統領は日米安保条約の片務性にも不満を表明しているが、それらの分野における日本の負担増を要求するトランプ大統領に対し、そうした要求をこれまでのようなトランプ大統領個人を徹底的に褒める手法でかわしていけるか、安倍首相の対応にも注目したい。■「宇宙軍創設」トランプの真意は中国への宣戦布告に他ならない■サウジ記者殺害「事件の黒幕」ムハンマド皇太子とは何者か■「21世紀最凶の殺戮者」プーチンがもたらす憎悪の世界

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    米中貿易戦争「日本が得する」逆転シナリオが一つだけある

    熊野英生(第一生命経済研究所首席エコノミスト) トランプ米大統領が用意している中国への制裁関税第4弾が、日本経済を本格的不況に陥れるのではないかと恐れられている。これまでの制裁で、意識的に除外されてきたiPhoneや日用品に関税率が上乗せされることは、米国の消費者と中国の生産者、そして中国企業に部品や設備を供給している日本企業がダメージを受ける。 この対立を巡って、「トランプ大統領が理不尽だ」という側面をクローズアップすると、日本には何のメリットもないように感じられる。筆者も、自由貿易の考え方に基づいて、トランプ大統領のことは何一つ支持したくない。 しかし、今回、改めて米中対立の構図を吟味して、米中貿易戦争は日本企業にも何かメリットがあるのではないかという別の視点を考えてみた。その結果、日本にとってメリットのある展開は、中国にも中長期的なメリットがあると考え方を進めた。 すなわち、日本企業が長く悩まされてきたのが、数多くの中国の構造問題である。それは、欧米企業でも共通している。最も代表的なのは、巨大な産業補助金の問題である。日本では、経営が悪化した一部の電機メーカーは、経営の失敗と指弾され、メディアからバッシングされる。その一方で、背後に隠れた中国企業の補助金問題はほとんど語られることがない。補助金で支えられた企業と競争すると、日本企業は価格競争でも勝つことができないのだ。 これまで、中国の成長に期待して進出した多くの日本企業もまた苦労してきた。現地で合弁企業をつくると、そこでは思うように活動ができなかった。行政上の手続きはやや恣意(しい)的であり、海外製品が不利に扱われることもあった。G20首脳会合に合わせ、中国の習近平国家主席(左端)との会談に臨むトランプ米大統領(右端)=2018年12月1日、アルゼンチン・ブエノスアイレス(AP=共同) 最近は人件費の高騰によって、低コストのメリットも失われてきている。当初の期待が思うようにならなくなってきているのが実情である。従業員の離職率の高さや、労務管理の難しさもある。さらに、現地で人民元で稼いだ利益を外貨に戻して持ち出すことが制限されたり、債権回収が困難であるということもある。これらの課題は、日本とは違う国だから仕方がないという一言で片付けるわけにはいかないだろう。 今回、トランプ大統領は、特に技術移転の強要と、知的財産権の保護を求めている。米中協議の中で、これら中国特有の不公正なルールの是正が持ち出されていることは、日本企業がこれまで求めてきた問題の是正とも共通している。実は、中国でもこれらの構造問題が是正されることを望んでいる良識派は少なくない。例えば、中国でも知財に絡んだ訴訟は多く、今や中国は米国以上の訴訟大国とされる。こうした課題の解決は、中国企業にとってもメリットになるはずだ。習近平の「新しい秩序」 貿易戦争の緊張感が高まっていく中で、根拠のない楽観論があることも事実である。トランプ大統領は、強烈な圧力を中国にかけているが、楽観論者はそれは自作自演のアピールであり、それほど困った状態にはなるはずがないという。水面下で米国と中国は握っていて、時間がたつと、どこかで昔よりも良好な関係に戻るというのだ。 筆者はそうならないだろうし、それが望ましいことだとも思わない。対立がなくなる→経済の火種はなくなる→万事まるく収まる、という発想は正しくはない。中国ビジネスの抱える矛盾をそのまま看過することになるからだ。 中国の構造問題には、北朝鮮問題にも同じようなところがある。トランプ大統領は、北朝鮮に圧力をかけて金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長を対話の場に引きずり出した。今も交渉が決裂しないか、筆者はハラハラしてみている。この交渉の目的は北朝鮮の非核化である。米朝の緊張関係はなくなった方がよいと思うが、最終的な目標が達成されなくては意味がない。 おそらく習近平体制は歴代中国の政権の中で、厳しい改革を成し遂げる実力を持っている数少ない政権だろう。習主席が、これまで腐敗防止と綱紀粛正によって、国民から支持を得てきたことは周知の事実だろう。その対象を不公正な取引慣行やルールに向けて、新しい秩序をつくることは可能だと考えられる。 逆に、なぜ習主席はそれを行わずにいるのか。それは、公正なルールづくりよりも、中国企業が他国の技術を盗用することを見逃しながらでも、経済発展を優先したいと考えているからだろう。そのことは、先進国では許される行為ではないが、急速に大国化する中国にとっては必要悪と考えているのだろう。 多くの人は、トランプ大統領があまりに性急な貿易不均衡の是正を求めていることの間違いには気が付いていると思う。その一方で、中国もまた性急な経済発展を求めていて、それが公正なルールの順守を軽視する素地(そじ)を作っていることは見逃されやすくなってしまう。中国は、経済強国という夢を捨てて、もっと穏健な「普通の経済大国」を追求することを目指した方がよい。 時間をかけてでも、米国が訴える公正なルールづくりに大枠で賛同する方が、中国は日本や欧州の良識派を味方につけやすい。会談を前に握手する安倍晋三首相(左)と中国の習近平国家主席=2018年10月26日、中国・北京の釣魚台迎賓館(代表撮影・共同) 最後にもう一つ。中国経済は、現在、大きな曲がり角に来ている。これまでの人件費高騰に加えて、貿易戦争のようなリスクに直面して、以前よりも日本企業にとって魅力が感じられなくなっている。日本企業の中には、ベトナムやタイに生産拠点を移す動きもある。これまで問題を抱えながらも、中国への進出をしてきた日本企業が行動を変化させつつあるのだ。 おそらく、中国が公正な企業活動を目指して自己改革をすることは、再び日本企業にとって中国市場の魅力を高めることにつながるだろう。それを遅らせることは、日本や欧米企業の中国離れを加速させる。自己改革こそが中国のためにもなることを肝に銘じるべきだろう。■安倍外交85点の理由は「欧米と仲良く、中国と喧嘩せず」■「米国はもう崖っぷち」5G戦争、ファーウェイ排除のウラ側■米中貿易戦争の渦中で激化する韓国「謝罪ゲーム」のツケ

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    ミサイル発射に込めた金正恩の「メッセージ」

    か、そこに注目です。うんの・もとお 明治大学教授、心理学博士。明治大学政治経済学部教授。心理学博士。アメリカン大学(ワシントンDC)異文化マネジメント客員研究員(08~10年、12~13年)。専門は異文化間コミュニケーション論、異文化マネジメント論。08年及び12年の米大統領選挙においてオバマ陣営にボランティアの草の根運動員として参加。16年米大統領選挙ではクリントン陣営に入る。著書に「オバマ再選の内幕―オバマ陣営を支えた日本人が語る選挙戦略」(同友館)など多数。

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    米朝に「田舎芝居」を打つ文在寅の安倍コンプレックス

    重村智計(東京通信大教授) 韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領の支持率が41%に下落した。韓国の世論調査は政権に忖度(そんたく)するため、実質的には30%台といわれる。 国民の支持を失った文大統領が、11日に米ワシントンでトランプ大統領との首脳会談に臨む。10日、11日の訪米とはいえ、実質的にわずか1日の訪問で、米国の扱いは冷たい。 韓国で40%台に落ちた支持率を回復した大統領は一人もいない。これ以上の支持率下落を食い止めるため、文大統領が狙ったのが「安倍より先の訪米」だった。 背景には「米韓関係の悪化」「南北関係の悪化」「日韓関係の悪化」「中韓関係の悪化」「第3回米朝首脳会談への対応」「日朝首脳会談の動き」「良好な日米関係に対する牽制(けんせい)」「欧州と東南アジア外交の失敗」と数え上げればきりがない。日米中朝だけでなく、欧州や東南アジア諸国にも自らの失態で見放され、文大統領はまさに「六面楚歌」である。 米韓関係は、懸案だった在韓米軍の駐留経費増額問題で一応は合意したが、トランプ大統領はなお不満を募らせている。米国は、物別れに終わった第2回米朝首脳会談における文大統領の動きに不信感を強めている。首脳会談直前に、ハノイでの南北首脳会談を画策したが拒否され、米韓朝の3国首脳会談も打診したが、全く相手にされなかった。 さらに韓国は、洋上で積み荷を移し替え、石油精製品などを密輸入する北朝鮮の「瀬取り」を黙認した「証拠」を米国から突きつけられ、厳しい取り締まりを求められた。こうした問題に対する弁明の機会をつくることが、米韓首脳会談の理由だ。2018年5月、ホワイトハウスでトランプ米大統領(右)と話す韓国の文在寅大統領(ゲッティ=共同) 米国は、北朝鮮融和策を進める文大統領を「邪魔者」と考えている。それでも、同盟国として北朝鮮への圧力強化に必要なので我慢しているだけだ。米国のマスコミが文大統領を「北朝鮮の手先」と酷評した背景には、ホワイトハウスの意向がある。失敗続きの韓国外交 一方、北朝鮮も第2回米朝会談の決裂後に、崔善姫(チェ・ソンヒ)外務次官が文大統領を「米朝の仲介者ではない」と批判し、韓国に裏切られたとの感情を示した。文大統領は金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長に「開城(ケソン)工業団地が再開できる」「朝鮮戦争終戦宣言が出せる」「韓国の支援も可能になる」「資金も送る」「在韓米軍が撤退する」「瀬取りの密輸は黙認する」と、甘い見通しを並べ立てていたから、怒り心頭になるのも無理はない。 韓国の外交は失敗続きだ。日米中朝という北東アジアの関係4カ国に加え、昨秋のアジア欧州会議(ASEM)に伴う欧州訪問や3月の東南アジア歴訪も、文大統領自らの「外交的欠礼」で批判された。もはや各国の信頼を失っている。それでいて、安倍晋三首相が6月までトランプ大統領と3回も首脳会談を行うのは耐えられない。 安倍首相の動きに、文大統領は韓国民から「日本に後れを取った」と批判され、さらに支持率も下がることは確実だ。それを阻止するために考えたのが、安倍首相より先にトランプ大統領に会う「田舎芝居」だ。 これまで、文大統領は「米朝の仲介役」を公言してきた。それが第2回米朝会談の決裂により完全に崩壊した。米朝両国からも信頼されていない事実が明らかにされたのである。 面目を失った文大統領は米国の意向を探り、北朝鮮に伝えようとしている。探りたい問題は「スペインの北朝鮮大使館襲撃は『トランプの意図』なのか」「第3回米朝首脳会談はいつやるのか」だ。この二つの問題をトランプ大統領から聞き出し、金委員長に伝えることで失地を回復しようとしている。 北朝鮮の首都、平壌(ピョンヤン)は今、在スペイン大使館襲撃事件の衝撃に揺れている。盗まれたコンピューターには暗号解読の文書が入っていた。このため、海外公館や工作員に暗号文書を送れない状態にある。さらに、これまでの文書や指示が全て米国に解読されたと考えている。2018年4月、板門店宣言に署名後、共同発表に臨む韓国の文在寅大統領(左)と北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長(韓国共同写真記者団・共同) この襲撃事件は、単に反北朝鮮団体のハプニングか、米中央情報局(CIA)の仕業か、それともトランプ政権が北朝鮮崩壊を狙ったいわゆる「金正恩斬首作戦」の一環なのか。北朝鮮首脳部は判断に苦しんでいる。 もしトランプ政権による意図的な「作戦」なら、米朝首脳会談を中止して、核とミサイル実験を再開するしかない。だが、実験再開はより強硬な対北朝鮮制裁を招くと苦悩を深めている。文在寅、最大の「心配の種」 平壌の混乱を知らされた文大統領は、「米朝仲介役」である自分の出番と誤解し、トランプ大統領に「スペイン大使館襲撃」の真実を聞き出し、金委員長にその回答を伝えることで、恩義を売ろうとしているわけだ。でも、トランプ大統領は「知らない」と答えるだろう。 また、文大統領は、米朝両国がひそかに第3回の首脳会談の準備や接触をして、「韓国外し」を行っているのではないかと憂慮している。そのために米朝の動きを聞き出そうとしている。 文大統領がもう一つ心配しているのは、日朝首脳会談の動きだ。拉致問題を担当する菅義偉(よしひで)官房長官の5月訪米に、韓国が強い関心を寄せている。 韓国に、日本の在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)関係者から「自分たちが日朝首脳会談の準備をしている。菅と接触している」との連絡も来たが、たぶん偽情報だと思われる。平壌からは、高官の間で「米朝がダメなら、日朝首脳会談がある」との意見もある、との動きも入った。「内閣官房参与が近く訪朝する」との情報も東京の韓国大使館から届いた。 韓国は、南北関係より先に日朝関係が前進するのを常に妨害してきた。韓国の大統領が訪朝できないのに、日本の首相に訪朝されてはメンツを失う。このように、「文在寅訪米」の背後では多くの情報工作が展開されているのである。 公安関係者によると、北朝鮮の工作機関につながる組織が平壌に「安倍はいつでも動かせる。われわれの思うままだ。安倍が膝をかがめ、日朝首脳会談をわれわれにお願いしてきた」と連絡している、という。2018年5月、日中韓サミットを前に記念撮影に臨む安倍晋三首相と韓国の文在寅大統領(代表撮影) 平壌では、金委員長が朝鮮総連の情報を信用せず、「総連幹部は、金日成(キム・イルソン)主席と金正日(キム・ジョンイル)総書記にウソの報告ばかりしてきた」と述べている事実が知られている。北朝鮮問題では「百鬼夜行」の工作が展開される。官邸の内外に、北朝鮮工作機関の手先がいるのではないかと、危惧する声も出ている。■ 米朝決裂もアベガー 「日本軽視」韓国より重視すべき隣人■ 「親日清算」も政治ショー? 文在寅はいずれ「歴史の罪人」となる■ 「日本を奴隷扱い」文在寅の外交ゲームを攻略するベスト戦術

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    安倍外交を採点したらこうなった

    歴代首相で最多の78か国・地域を訪れ、文字通り「地球儀を俯瞰する外交」を続ける安倍首相だが、その外交手腕をどう評価すべきなのか。米国一辺倒と揶揄され、日韓関係は最悪、対露交渉も遅々として進まない。政権復帰7年目、正念場の安倍外交を識者に採点してもらった。

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    安倍外交85点の理由は「欧米と仲良く、中国と喧嘩せず」

    櫻田淳(東洋学園大学教授) 昔日、国際政治学者の高坂正堯は、日本の対外政策方針の原則として「米国とは仲良く、中国とは喧嘩(けんか)せず」と語ったと伝えられる。現下、米中両国を軸とした「第2次冷戦」の到来が語られる折柄(おりから)、「第1次冷戦」の歳月を凝視し、その歳月の終わりとともに世を去った高坂の言葉は、次のように読み替えられるべきかもしれない。 「米国や欧州諸国のような『西方世界』諸国とは仲良く、そうでない国々とは喧嘩せず」。この言葉が日本の対外政策を評価する基準を表しているのであれば、日本の対外政策方針の大黒柱は、「西方世界」諸国、すなわち「自由・民主主義・人権。法の支配といった価値意識」を共有する国々との協調にこそあり、他の国々との関係は、それに代替することはないということになる。 この評価基準にのっとれば、第2次安倍晋三内閣発足以降に披露された対外政策展開には、特段の瑕疵(かし)はない。安倍晋三首相は、再執政始動直後に米豪印3カ国との提携を打ち出して以降、「自由・民主主義・人権。法の支配といった価値意識」の意義を強調しつつ、対外政策を展開してきた。 その徹底性において、安倍首相は過去に類例がない宰相である。安倍首相の徹底性の故にこそ、日本の対外政策展開には相応の「強靱(きょうじん)性」が備わるようになった。 米国のドナルド・トランプ大統領の登場、英国の欧州連合(EU)離脱、英仏独墺蘭各国における「ポピュリズム」の様相を帯びた「反動」政治勢力の台頭、さらにはフランスにおける「ジレ・ジョーヌ(黄色いベスト)運動」の激化は、その一つ一つが「西方世界」諸国の内なる動揺を表している。日本の対外政策上の「強靱性」は、そうした「西方世界」諸国の動揺の中では、それ自体が日本の国際政治上の「声望」を担保している。 国際政治学者でプリンストン大のジョン・アイケンベリー教授が米外交評論誌『フォーリン・アフェアーズ』(2017年5月号)に寄せた論稿の中で、「リベラルな戦後秩序を支持する二人の指導者」の一人として安倍首相の名前を挙げているのは、誠に象徴的である。 方や、米中第2次冷戦が語られる中でも、安倍の対外政策展開に際して、「中国と喧嘩しない」ための手は、確かに打たれている。2018年10月、安倍首相が中国の習近平国家主席との会談の席で、「競争から協調へ、日中関係を新しい時代へと押し上げていきたい」と表明したのは、そうした対応の事例であろう。2018年5月、第6回日中韓ビジネス・サミットに臨む韓国の文在寅大統領(左)と安倍晋三首相(斎藤良雄撮影) むしろ、安倍内閣下の対外政策に係る難題は、その「西方世界」協調方針に齟齬(そご)が生じた結果として現れる。その齟齬が最も鮮明に現れているのが、対韓関係である。「不安要素」の危うさ 韓国紙『朝鮮日報』(日本語電子版、2月23日配信)は「386世代」の動静を評した記事の中で、「民主化・高度成長の達成感も味わった世代だ。80年代後半の物質的豊かさは、世界に向けて足を踏み出す動力になった」と記している。「386世代」とは、1990年代に30代を迎え、80年代に大学へ通った、60年代生まれの世代であり、現在の韓国社会を主導している。 そもそも、「民主主義」「南北融和」「グローバリゼーションの波に乗った経済発展」「対中関係や対露関係における外交の幅」「日本に対する『尊大』姿勢」といった当代韓国を彩るさまざまな相は、第1次冷戦終結後、韓国にとって「米国か中国か」という選択に悩む必要がなくなった時代の所産である。目下、この「386世代」人士を傍らに多く置き、その思考に強い影響を受けているとされるのが文在寅(ムン・ジェイン)大統領である。 文氏は、過去30年の韓国にとっての「幸福な時代」の惰性を反映して、「安全保障は米国、経済は中国」という「米国も中国も」の姿勢が通用せず、「米国か中国か」という選択に再び迫られるようになる環境下でさえも、「米国も中国も」という姿勢が続けられると錯覚しているのであろう。 文氏の対外姿勢は、安倍首相のものとは明らかに相いれない。日韓関係の現下の冷却には、歴史の中で積み重ねられた「感情」以上に、こうした対外政策上の「構造」が反映されている。 もっとも、安倍首相の対外政策展開にも一つの不安要素がある。現下、ロシアと「西方世界」との関係は険悪である。 ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は「西方世界」に対する協調と対抗の論理の相克に彩られたロシア史の中では、ソ連のミハイル・ゴルバチョフ元大統領とは対照的に、その対抗の論理を体現してきた政治指導者である。2018年12月、ブエノスアイレスで会談に臨むロシアのプーチン大統領(右)と安倍首相(共同) 安倍首相は、そうした「西方世界」に親和的ではないプーチン大統領との会談を既に25度も経ているけれども、北方領土問題における六十余年の膠着(こうちゃく)を解くためとはいえ、その対露姿勢は、ロシアと「西方世界」の確執の中で、どのように整合するのか。 もし、安倍首相における対露政策展開が「ロシアと喧嘩しない」という姿勢を示す域に止まらず、対中牽制の思惑をも含んでいるのであれば、そうした没価値的な思考は、安倍内閣下の対外政策展開全体における「つまずきの石」になるかもしれない。万事、「似合わぬ振る舞い」に走ることの危うさは、強調されてよい。■ 「安倍時代の終焉」が現実的とは言えない理由■ 鈴木宗男手記「北方領土交渉、安倍総理を1000%信頼する」■ 「石破を干し、次を育てる」安倍人事の容赦なき適材適所

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    日韓関係は最悪、北朝鮮問題で出番なくとも安倍外交は「78点」

    島政策を支える大きな柱になる日米関係を傷つけるのではないか、という憂慮が広がっていた。 一方、当時のアメリカはオバマ政権下にあり、人権問題に強い関心を持つリベラルな大統領との関係にも疑問が投げかけられた。そして当初は、その危惧は現実のものとなるかに見えた。 ピークはおそらく13年12月の靖国神社参拝だった。事実、第2次世界大戦の戦勝国であるアメリカはこの動きに「失望」を表明している。同盟関係にある日米関係としては異例の事態であったということができる。 このような状況の中、朴槿恵政権は慰安婦問題で攻勢を強め、アメリカをはじめとする各国に対する宣伝攻勢を展開した。日本国内で「告げ口外交」と揶揄(やゆ)された動きである。当時の韓国では「道徳的優位」という言葉が用いられ、韓国政府は国際社会における自らの優位に自信を有しているように見えた。 しかしながら、このような動きは、14年に入ると変わってくる。転換をもたらしたのは二つの要素であった。一つは南シナ海問題を巡る米中関係の悪化であり、このような中、中国への接近を強める朴槿恵政権の動きにアメリカは警戒を強めることとなった。「抗日戦争と世界反ファシズム戦争勝利70周年」の記念行事で演説する習近平国家主席(中央後方)。手前は(左から)カザフスタンのナザルバエフ大統領、韓国の朴槿恵大統領、ロシアのプーチン大統領=2015年9月、中国・北京(共同) だが、それと同じほど重要だったのは、二つ目のポイント、すなわち、この時期、第2次安倍政権が歴史修正主義的な言辞を封印していったことである。ピークは15年8月のいわゆる「安倍談話」だろう。第1ラウンドは日本優位 同年3月に河野談話の見直しを断念していた第2次安倍政権は、この「談話」にて第2次世界大戦における日本の行為に対して「深い悔悟」の念の表明のみならず、「戦場の陰には、深く名誉と尊厳を傷つけられた女性たち」がいたことについてもあえて触れ、慰安婦問題に対しても間接的な言及を行った。 このような第2次安倍政権による歴史修正主義的な言辞の封印は、結果として、朴槿恵による慰安婦問題に関わる宣伝攻勢を大きく無力化し、同年12月、アメリカの強い圧力下での慰安婦合意へと結実する。 自らが主張してきた慰安婦問題での法的賠償請求権を放棄させられた韓国では強い敗北感が広まった。第2次安倍政権下のワシントンを舞台とした日韓両国の競争は、この第1ラウンドでは日本優位の下、終わりを告げた。 しかしながら、こと朝鮮半島にかかわる状況は、17年に入ると変わってくる。転換点は韓国とアメリカの新政権の成立であった。 弾劾された朴槿恵の後を受けて政権についた文在寅(ムン・ジェイン)の最大の外交的目標は、北朝鮮との対話再開である。文在寅はここで、先立つ朴槿恵政権と自らが大統領秘書室長として直接携わった盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権の二つの失敗を参考に、この目標の実現のためにはまずはアメリカの事前の了承を取り付けることが必要だとして、ワシントンへの積極的な外交攻勢を行った。 すなわち、政権成立当初から文在寅政権は2週間に1度を超える頻度でワシントンに使節を飛ばし、アメリカに対して北朝鮮との対話の重要性を説く外交攻勢に出たのである。 このような戦略を文在寅政権が取った理由は、同じ年に成立したアメリカのトランプ政権の性格にもあった。古いリベラルなエリートに支えられたオバマ政権とは異なり、ポピュリスティックなトランプ政権は気まぐれな大統領のリーダーシップに支えられている。 だからこそ、ワシントンに巣食う安全保障エリートたちを通じて間接的に訴えるのではなく、ホワイトハウスに近い人々に直接自らに有利な観測を積極的に伝えていけば、気まぐれな大統領に率いられたアメリカの政策を自らの望む方向に誘導できる、と考えたわけである。会談で握手するトランプ大統領(右)と安倍晋三首相=2018年9月、米ニューヨーク(共同) そして、少なくとも昨年実施された初めての米朝首脳会談実現までは、この韓国の戦略は上手く機能した。18年1月の北朝鮮「新年の辞」に始まる極めて早い事態の展開の中、韓国はアメリカを交渉に引き出すことに成功し、自らも宿願であった北朝鮮との対話再開を実現することができたからである。北朝鮮問題で失点した日本 他方、進展する北朝鮮を巡る状況の中、ワシントンの古い安全保障エリートたちと、数少ない安倍・トランプ間の首脳会談に多くを依存した日本の外交戦略はスピード感を欠き、日本は北朝鮮問題にかかわる足場を喪失することとなった。その意味でワシントンにおける日韓両国の競争の第2ラウンドは、韓国の優位に進んだように見える。 しかしながら、事態は再び変化を見せている。ここでも転換点を二つ挙げるなら、一つはあまりに事態が早く展開した結果、韓国が次の戦略目標を見失ったことである。 17年に成立した文在寅政権は、北朝鮮によって繰り返される核とミサイル実験の中、北朝鮮との対話の実現は容易ではないと考え、ゆえにまずその実現を目指していた。 だからこそ、その対話が早々に実現された今、彼らは「ここから何をすべきか」について明確な展望を有していない。北朝鮮の核廃棄を早々に実現することが困難なのは明らかであり、これを巡る米朝協議の停滞は、当然ながらアメリカを大きくいら立たせることになる。そして、これを解決する方法を韓国政府は有していない。 もう一つは、やはり事態のあまりに早い展開の結果、韓国が日本の影響力を過小評価するようになったことである。18年後半に入り、旭日旗問題や徴用工判決、さらにはレーダー照射問題や国会議長による天皇謝罪発言にみられる、いたずらに日本を刺激する発言が目立った。 この背景には、日本政府の反対にもかかわらず、北朝鮮を巡る対話が急速に進んだことで、ワシントンにおける日本の影響力を小さく見るようになったことがある、と言われている。文正仁(ムン・ジョンイン)大統領特別補佐官が2月の東京における講演で述べたように「北朝鮮問題で日本の役割はない」という認識が広がっている。 だとすると、安倍政権の朝鮮半島外交における手腕は、この日韓両国の競争の第3ラウンドでこそ問われることになる。重要なのは、この朝鮮半島を巡る日韓両国の競争が、単に東京とソウルの間でのみ行われているのではなく、主としてワシントン、さらには国際社会における影響力競争として行われていることである。中韓ビジネス・サミットに臨む(左から)文在寅大統領と安倍晋三首相=2018年5月、東京・大手町の経団連会館(斎藤良雄撮影) 日本外交の最大の武器は、自らの経済力でも軍事力でもなく、同盟国アメリカをはじめとする各国との協力関係だ。そのことを確認して、この小稿を終えることとしたい。(文中一部敬称略)■「親日清算」も政治ショー? 文在寅はいずれ「歴史の罪人」となる■天皇陛下を「おじさん」 韓国議長、もう一つの侮辱発言■安倍総理の「やってる感」に愛想を尽かした拉致家族のホンネ

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    禍根を残す「やったふり外交」安倍首相の評価は65点止まり

    見で大々的に成果を誇る「やったふり外交」がハマってきたからだ。 例えば、トランプ氏の「米国第一主義(アメリカ・ファースト)」によって、ロシアや中国、欧州連合(EU)、イランなどさまざまな国との摩擦が高まる中、「ドナルド・シンゾー」の個人的な信頼の構築によって、「日米関係は過去最高の良好さ」を保ってきたとされる。安倍首相は、他の首脳と違い、トランプ氏の別荘に招かれ、ゴルフに興じながら、サシで話をしてきたという。果ては、トランプ氏に頼まれて、大統領を「ノーベル平和賞」に推薦する文章まで書いたとまで言われている。2019年2月、トランプ米大統領との電話会談を終え、記者団の取材に応じる安倍首相 トランプ氏が、安倍首相を「いい奴だ」と言っていることに嘘はないだろう。だがそれは、ドイツのメルケル首相やフランスのマクロン大統領が米国の保護貿易や移民政策などに正面から異を唱えるのと対照的に、安倍首相が「耳が痛いこと」をなにも言わないからではないだろうか。ロシア「大国」の幻想 また、アメリカ・ファーストの柱である保護貿易主義では、これまで「米国にモノを売りつけてきた国」が厳しい批判の対象となっているが、一方で「米国のモノを買う国」が必要となる。現在、事実上の「敵対関係」にある中国を除けば、最も米国のモノを買える国は日本であることは明らかだ。その意味で、トランプ氏は少なくとも現時点では、日本のことを悪く言うことはないのだ。 日露関係はどうだろうか。安倍首相とプーチン氏の日露首脳会談は通算25回になる。安倍首相は「私とウラジーミルの間で、北方領土問題を解決し、日露平和友好条約を締結する」とぶち上げたが、実際には進展が見られない。 なにせ安倍首相が再三「ウラジーミル」と呼びかけても、プーチン氏は「安倍首相」と返し、決して「シンゾー」とファーストネームで呼んでくれない。それはともかくとしても、プーチン氏が「両国の間にはまず信頼関係の構築が必要だ」と言い、ロシアの求めに応じて経済協力だけが進んでいる。それは、2014年のロシアによるウクライナ南部クリミア半島の併合に端を発した、米国やEUなどの「対露経済制裁」に、日本が足並みを揃えずに進められている協力だということが重要だ。 日露交渉において、北方領土問題を日本側が持ち出すと、ロシアのラブロフ外相が「第2次世界大戦の結果を認めていないのは日本だけだ」と激しく非難するなど、ロシア側の強硬な態度が目立ち、交渉難航が伝えられる一方で、経済協力ではロシアだけが着々と利益を得ている状況にみえる。だが「そもそも論」だが、なぜ日本がロシアに対して「下手」に出る必要があるのだろうか。 ロシアは「大国」のイメージを高めているが、それは「幻想」にすぎない。1991年のソ連崩壊以降のロシアは、英米やEUによる旧ソ連圏や東欧諸国の「民主化」の画策によって、影響圏をドイツの東ベルリンからウクライナまで後退させた。 東欧諸国の多くがEUや北大西洋条約機構(NATO)軍に加盟し、ついにウクライナがそれに加わる可能性が出てきていた。20年間にわたり、ロシアは負け続けていたのである。「クリミア半島併合」は防戦一方の中で、辛うじて繰り出した「ジャブ」のようなものにすぎない。 また、ソ連崩壊後、ロシアは幾度となく経済危機に見舞われてきた。かつて高い技術力を誇った宇宙産業や軍需産業、原子力産業などは見る影もない。過度に石油・天然ガスの輸出に依存する経済で、その価格下落が経済危機に直結する脆弱(ぜいじゃく)な構造だ。2018年11月、会談を前にロシアのプーチン大統領(右)と握手する安倍首相(共同) 「シェールガス・オイル革命」によって世界一の産油・産ガス国になった米国の攻勢で、石油・天然ガス価格は不安定だ。プーチン政権にとって、「脱石油・天然ガス依存」は急務であり、製造業を育成するために日本の支援を切実に望んでいるのだ。 さらに言えば、急拡大してきた中国との関係も微妙だ。ロシアと中国は、極東の天然ガスパイプラインの建設プロジェクトで合意するなど良好な関係にあるとされる。安倍首相自身の焦り しかし、ロシアはシベリア・極東地域の開発を中国だけとやりたくはない。アフリカなどへの進出でも分かるように、中国は海外に進出する際、政府高官や建設業者、労働者から家政婦まで乗り込んで、「チャイナタウン」を作ってしまう。現地にカネが落ちず、雇用も増えないと不満が高まることも多い。 要は、元々人口が少ないシベリア・極東地域を中国と一緒に開発すると、「人海戦術」で中国に実効支配されることを、ロシアが恐れている。だから、日本にも参加してもらいたいのだ。 日露協力は、「経済的」にはロシアが切実に望むものであるが、日本側は進展しなくても別に困らない。もちろん「政治的」には北方領土問題があり、安倍首相は「戦後70年以上動かせなかった問題を、自分たちの時代で解決する」と意気込んでいる。 だが、この意気込みを裏返せば、「70年動かなくても、大きな問題とならなかった」ともいえる。なぜ、これだけ日本が有利な状況にある交渉で、「北方四島のうち、2島だけでも先に返してもらえないか」と下手に出て、ロシアの言うままに経済協力を進めないといけないのか、理解できない。 要するに、安倍首相が世界の強烈な個性を持つ首脳たちと何度もサシで話し合い、笑顔で握手する映像を流し、記者会見で長時間成果を語っているが、相手に何を話しているかわからない。繰り返すが、かつて「空気を読めない男」と呼ばれ、現在でも国会で野党に対してすぐ感情的になる政治家が、日本の主張を強く、論理的に訴えて、説得できるのであろうか。 むしろ、「安倍外交」がおおむね適切だったのは、アメリカ・ファーストのトランプ氏をはじめ、プーチン氏や習氏ら権威主義的な指導者が跋扈する国際社会で、あまり積極的に動かず、日本の公的な主張を棒読みしながら、笑顔で相手の主張にもうなずき続けて機嫌を損ねないという、無理のない対応に終始してきたからではないだろうか。 しかし、今後も安倍首相が、無理のない、おおむね適切な外交を続けられるかどうかはわからない。アメリカ・ファーストを掲げたトランプ氏は「北朝鮮の核・ミサイル開発への介入」「エルサレムのイスラエル首都承認」「米国のイラン核合意離脱」「ロシアのサイバー攻撃への制裁」「米中貿易戦争」と世界を振り回し続けた。安倍首相はトランプ氏に徹底的に従う姿勢で「いい奴」と思われてきたが、今後もそれでいいのだろうか。2017年11月、北朝鮮による拉致被害者家族らと面会後、感想を語るトランプ米大統領(前列右から3人目)。同4人目は安倍晋三首相(代表撮影) そもそも、安倍首相自身に焦りが見られるように思う。例えば、「北朝鮮問題」は、トランプ大統領とサシで話し続けていても、「拉致問題」に動く気配がなく、「北朝鮮の完全な非核化」にしても、大統領が本気で取り組んでいるのかよくわからない。 2度目の米朝首脳会談こそ物別れに終わったが、韓国やロシア、中国などが隠れて経済協力を始めておかしくない。日本に向けて中距離核ミサイルがズラッと並んだまま、日本が「蚊帳の外」になりかねない状況だ。「われ先に利益を」ではダメ またも繰り返すが、北方領土問題で「北方四島のうち、2島だけでも」と自分からハードルを下げている。困っているのはロシア側なのだから、「4島返還でなければ経済協力は難しい」と構えていればいいのだ。 ラブロフ氏が怒り狂っても、静観していればいい。交渉事は、大体怒っている方がうまくいかず焦っているものだ。 安倍首相は、現実的対応というかもしれないが、今、現実的であっても、30年後に現実的な対応だったと評価されるかどうかはわからない。むしろ、後世に取り返しのつかない禍根を残したと評価される可能性が高い。 日本外交に求められることは、アメリカ・ファーストなど、自国第一主義の魑魅魍魎(ちみもうりょう)が跋扈する国際社会の中で、焦って動かないことだ。 大事なことは、着実に経済成長を続けることだと考える。前述のように、アメリカ・ファーストには「米国のモノを買う国」が必要だ。日本が経済力を維持し、米国製のモノを買い続けられる限り、米国は日本を守ってくれるだろう。 また、米中貿易戦争が激化する中で、中国が日本に接近し、日中関係が改善してきている。中国の急拡大は脅威だが、日本が強い経済力を維持している限り、中国は日本を潰そうとはしない。 「慰安婦問題」「徴用工問題」「レーダー照射問題」と日本に対して挑発的な態度を取り続ける韓国も、国内経済が悪化し、大学生は日本での就職活動に熱心だという。日本経済が強ければ、いずれ関係は改善していくと考えられる。  さらに、日本は米国が離脱した後の環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)を、「TPP11」という形でまとめ上げた。日・EU経済連携協定(EPA)も発効した。TPP11には、英国が「EU離脱後」の加盟に強い関心を持っているという。日本は、権威主義的な指導者による保護貿易主義がはびこる中、「自由貿易圏」をつなぐアンカー役になれる。2017年9月、国連総会出席のため政府専用機で米国へ出発する安倍晋三首相(川口良介撮影) 世界に自国第一主義が広がる中で、日本がわれ先に利益を得ようとすることはない。むしろ、多くの国が自由貿易圏で豊かになれることを、支える役目に徹することだ。それが、日本を守ることになるのである。■「武士の情は通用しない」韓国との情報戦はこう戦え!■「在韓米軍撤収」これが習近平を黙らせるトランプの隠し球だ!■「安倍時代の終焉」が現実的とは言えない理由

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    近隣諸国に根回しした中曽根外交と安倍外交の明確な違い

     「大勲位」中曽根康弘・元首相は5月27日に100歳の誕生日を迎えた。背筋をピンと伸ばし、いまなお、決して椅子の背もたれに体を預けようとはしない。 「首相としても自民党総裁としても中曽根総理に学びたい」 安倍晋三首相は「戦後レジームからの脱却」を掲げ、憲法改正、規制緩和、日米同盟の再構築など、中曽根氏の背中を追いかけてきた。いま、安倍氏は仰ぎ見る存在だった中曽根氏をすでに在職期間で追い抜いたが、国民の目に映る安倍氏の姿は“大宰相”とはほど遠い。100歳を迎えた中曽根大勲位は日本の政治の現状について、こうコメントを発表した。 〈時代の抱える問題と課題に対し政治の責任を自覚し、勇断を以って確りと役割を果たしていくべきだ〉 その言葉を誰に向けたか、中曽根氏は名指ししなかった。「ロン・ヤス」が最優先ではなかった 史上初の米朝首脳会談を控え、安倍首相は6月7日に緊急訪米してトランプ大統領との首脳会談に臨む。「日米同盟の強化」を公約に掲げて首相に返り咲いた安倍氏は、民主党政権時代に悪化した対米関係の改善に取り組み、とくにトランプ大統領とは「強固なシンゾー・ドナルド関係」を確立した。 なにしろ、安倍首相はトランプ大統領がやることなすこと全部ウェルカム。米朝首脳会談開催が公表されるといち早く歓迎を表明したかと思うと、会談中止を言い出した時も即座に、「大統領の決断を支持する」と賛成。再び会談開催に傾くと「トランプ氏を引き込んで圧力をかけ続けてきた結果だ」(菅義偉・官房長官)と我田引水を交えて賛同した。こんななりふり構わぬトランプ追従は、他国の首脳には真似できそうにない。 安倍首相がモデルにしているのが中曽根外交だ。1982年、首相に就任した中曽根氏は「日本は不沈空母」という発言で悪化していた日米関係を修復し、ロナルド・レーガン大統領と「ロン」「ヤス」とファーストネームで呼び合う関係を築いた。 当時、父の安倍晋太郎外相の秘書官を務めていた若き安倍氏は「首脳外交には個人的な信頼関係が重要だと学んだ」と述懐している。しかし、木を見て森を見なかったようだ。中曽根氏は昨年1月、在任時の外交記録公開にあたってこうコメントを出した。 〈首脳外交では常にアジアの一員であることを心掛けた。サミットの際にアジアの各国首脳と連絡を取り意見や要望を聴き、その上でサミットの場に臨んだ。(中略)米国追随型といわれたそれまでの日本外交を脱し、アジアを背景に自主外交路線を打ち出すことは、アジアの国々や国際社会から信頼を得る上でも非常に重要な視点であったと思う〉2017年5月、「中曽根康弘先生の白寿を祝う会」で中曽根康弘元首相に挨拶する安倍晋三首相(宮川浩和撮影) 事実、中曽根氏は日米関係を重視する一方、サミットでは「哲人宰相」と呼ばれたフランスのミッテラン大統領の見識を高く評価して個人的親交を結び、「鉄の女」サッチャー英首相やコール西ドイツ首相とも本音で語り合う信頼関係を築いたことで知られる。 北朝鮮との交渉も拉致問題解決もトランプ大統領に頼り切りの安倍外交にそうした心構えと近隣諸国への周到な根回しはみられない。 亀井静香氏や石原慎太郎氏ら“応援団”からも「トランプのポチみたいな扱いをされちゃいかんぞ」と念を押される始末なのだ。これでは“トランプがコケたらシンゾーもコケる”と他国から危うく見られても仕方ない。

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    先鋭化するトランプ大統領のメディア攻撃

    斎藤彰(ジャーナリスト、元読売新聞アメリカ総局長) 米中間選挙を前に、トランプ・ホワイトハウスのメディア攻撃が先鋭化してきている。政権運営に対する批判を極力封じ込めると同時に、超保守的な支持基盤固めを意図したものだが、新聞社やジャーナリスト個人が一部の過激なトランプ支持者の脅迫電話、メール攻撃にさらされるなど、両者の関係は緊迫の度を高める一方だ。 去る8月30日、FBI(米連邦捜査局)はカリフォルニア州エンチノ在住の68歳の男性を脅迫容疑で緊急逮捕した。男の自宅からは20丁のけん銃、ライフル銃なども押収された。 「ニューヨーカー」誌電子版によると、男は東海岸のボストン・グローブ紙が、最近メディア攻撃を強めつつあるトランプ大統領を糾弾する社説を掲げたことに腹を立て、同社編集局宛ての電話で「お前らは『人民の敵』だ。一人ずつ殺してやる」などと脅迫した。 たまたま同じ日の数時間前には、トランプ氏が自分のツイッターでCNN,NBC両テレビ局の経営者に名指しでかみつき「大半のメディアの不正直な態度はいくら強調してもし過ぎない。いつも私のことについて匿名ソースを使ってでたらめ報道をしている。この中にはフェイク・ブックも含まれる。『人民の敵』だ!」と非難したばかりだった。逮捕された男はそのタイミングからみて、大統領のツイートで触発された可能性を否定できない。 このほか、8月22日には、AP通信ロサンゼルス支局に別の人物から「いずれお前らクソったれどもをぶっ放してやる」といった殺害予告電話が入ったほか、同月初めにはペンシルバニア州ステートカレッジの「ドン」と名乗る男からC-spanテレビ局に電話があり「CNNテレビのドン・レモンとブライアン・シェルターを撃つ」といずれも著名な放送記者を名指しで脅迫してきた。MSNBCの女性キャスター宛てには「あんたがレイプされ殺されるといいのだ」と記した差出人不明の手紙も届いているという。 このようなマスメディアに対する脅迫やいやがらせは、ここ半年の間にとくに増えつつあるが、同じ頃からエスカレートしてきた大統領個人による先鋭化したツイートなどによる攻撃と機を一にしているとみられる。 その特徴は、段階的に3つに分類できよう。 昨年1月ホワイトハウス入りする前後から、トランプ氏がテレビや新聞報道批判に乗り出した当時、もっぱら好んで使われた言葉は「フェイク・ニュース(虚報)」だった。ホワイトハウス内部での人事抗争や大統領個人の内輪の人種差別的発言などがリークされるたびに「マスコミ報道の全部とは言わないが、85%はフェイク・ニュースだ」などと根拠もない数字まで挙げて批判を続けてきた。2018年7月23日、米ホワイトハウスで演説するドナルド・トランプ大統領(AP=共同) とくに主要メディアに対する不信感はその後もエスカレートしてきており、いまや唯一信頼を置いているのは、右翼的体質がめだつFOXニュース放送局のみといっていいほどだ。事実、大統領は毎週のように同テレビ局の人気キャスターとのインタビューに応じ、視聴者向けに「インチキ報道」に反論するかたちで自説を正当化するのが常態化してきている。発言の大半が「フェイク」 では、大統領自身、これまで真実を語って来たかと言えば、実際はまるで異なる。 ワシントン・ポスト紙は社内に特設された「ファクト・チェッカー」と呼ばれる入念な追跡調査で、本人がこれまで記者会見や声明発表、ツイート発信などを通じ「事実とは異なる(false)、あるいは誤解を招く(misleading)発言」を具体的に回数にしてどれだけしてきたかについて興味ある結果を公表している。 去る9月4日付けワシントン・ポストによると、昨年1月20日就任以来、592日間にその数は実に「4713回」に達し、1日平均にすると「8回」になるという。就任後の最初の100日間は「4.9回」だったのと比較すると、虚言回数は急ピッチで増えつつあることを示しており、また、最近の3か月では毎日平均「15.4回」というすさまじいペースだ。 しかも事実と異なる発言ながら、同じ間違いを最低3回は繰り返してきたケースが「113回」もあり、その中には「自分は大統領として史上最大規模の減税を実現した」(実際は史上8番目)との表現を様々な機会に「72回」も使っていた例もあった。ロシアが2016年米大統領選挙に介入した事実はこれまでのあらゆる公的米情報機関調査で明確になっているにもかかわらず、大統領が「ロシア関与説はでたらめ」と言明してきた回数は「53回」に達している。 またつい最近では、昨年プエルトリコに甚大な被害をもたらしたハリケーン「マリア」に関する大統領発言が、物議をかもしている。 ホワイトハウスで記者団を前に大統領は「わが政府が展開したプエルトリコでの災害対策・救援作戦は信じがたいほどの成功を収め、死者も6~8人程度ですんだ」と豪語して見せた。ところが、実際の死者は「推定3000人以上」に達しているだけでなく、島民の半数近くはいまだに水や電気を十分に使えず困窮生活を強いられており、首都サンファン市長はじめ地元側からトランプ発言に対し猛烈な反発を引き起こした。 こうしたことは、マスコミを十把一絡げに「フェイク・ニュース」と一蹴してきた大統領のこれまでの数限りない発言の大半が、実は「フェイク」であったことを如実に示している。 しかし大統領はその後、さらにマスコミ批判を強め「フェイク・ニュース」から攻撃性の濃い「米国人民の敵(enemy of American people)」との表現を使い始めた。偏狭で超保守主義的な一部のトランプ支持層の心情をかきたてることを意識したものだ。 とくにこの言葉が飛び出してきたのは、去る7月、ヘルシンキでの米ロ首脳会談でプーチン大統領に媚を売るような醜態を演じたことが米マスコミで大々的に報じられ、連邦議会共和党幹部たちからも酷評されたことに端を発している。 そしてその後は、大統領が顔を出す地方の政治集会などでは、取材の同行記者団に対し、トランプ支持派の聴衆から「人民の敵」のヤジが浴びせられ、同じ表現のプラカードが報道陣の前に数多く掲げられるケースが増え始めてきた。挑戦受ける国家の存立基盤 大統領のメディア批判はさらにとどまることなく、つい最近ではテレビ局や新聞社の特定の記者たちを名指しで非難するほど先鋭化してきた。“各個撃破”の様相を呈し始めており、報道に携わる関係者たちの間で身辺警護を強める人たちが増えている。各地の報道関係機関の建物も、暴漢の襲撃を警戒し、玄関の出入りチェックを強化する動きも出てきた。 ニューヨーク・タイムズの場合、自社の記者たちに対する脅迫が増加しつつあるため、編集局の入り口に武装警備員まで配置しているという。 これまでに大統領から個人口撃を受けたジャーナリストの中には、ウォーターゲート事件報道でニクソン大統領を追い詰め、ピューリツァー賞を受賞したワシントン・ポスト紙のカール・バーンシュタイン記者も含まれる。 同氏は今年7月、CNNが放映した特ダネ番組の中で、モラー特別検察官が捜査中の「ロシア疑惑」に関連してトランプ氏が、長男トランプ・ジュニアら同陣営とロシア側弁護士との間で行われた秘密会談を事前に知っていたと報じた。これを受けてトランプ氏は最近、バーンシュタイン氏を「お粗末で退化した愚人でアメリカ中で笑いものになっている」などと酷評した。 9月初めには、大統領は、トランプ・ホワイトハウスの混乱ぶりを鋭く描写した話題の本「不安:ホワイトハウスのトランプ」(原題“Fear:Trump in the White House)の著者ボブ・ウッドワード氏を「バカ者」などと容赦なく非難した。 一方、国連人権会議専門委員二人と「汎アメリカ人権委員会」は8月3日、トランプ大統領による最近のメディア攻撃に関連して特別声明を発表、その中で「トランプ氏の言動はジャーナリストが暴力にさらされる危険を増大させているだけでなく、報道の自由と国連人権保護法を蹂躙するものだ」と指摘した。 トランプ政権の対メディア対応は今や米国内にとどまらず、重大な国際的関心事となりつつあることを示している。 アメリカの歴史を振り返ると、もともとイギリスからの独立運動は、圧政に対する北米13植民地の住民たちによる異議申し立てから始まった。言い換えれば、アメリカ合衆国の建国は「言論の自由」の行使によってこそ達成されたといえる。2018年11月、ホワイトハウスでの記者会見で、CNN記者(右)を指さすトランプ大統領(AP=共同) その「言論の自由」が今日、トランプ政権下で執拗な攻撃にさらされつつあるとすれば、アメリカという国家の存立基盤そのものが挑戦を受けていることになる。さいとう・あきら ジャーナリスト、元読売新聞アメリカ総局長。1966年早稲田大学卒業。68年米カリフォルニア州立大学バークレー校大学院修士課程修了、70年読売新聞入社。ワシントン常駐特派員を2度務めた後、アメリカ総局長、東京本社取締役調査研究本部長などを歴任。近著に『中国VSアメリカ』、『アメリカはカムバックする!』(いずれもウェッジ)がある。

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    誰がための米朝首脳再会談

    朝鮮半島の非核化プロセスは本当に描けるのか。昨年6月以来、2度目となる米朝首脳会談がベトナムの首都、ハノイできょう始まる。初会談はただの「政治ショー」に終わったが、目先の成果を急ぐ余り、両首脳が演出と妥協で交渉を進展させる可能性もある。誰がための会談か、その意味を改めて考えたい。(写真は共同)

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    北朝鮮非核化の主導権を虎視眈々と狙う文在寅「逆転シナリオ」

    木宮正史(東京大学教授) 2月27日、28日に行われる第二次米朝首脳会談を考察する上で、その比較対象はやはり昨年6月12日にシンガポールで開催された第一次米朝首脳会談だ(本稿の執筆は2月26日)。第一次米朝首脳会談および共同声明で提示された基本コンセプトが第二次首脳会談でも提示されることになる。①新たな米朝関係②朝鮮半島平和体制③北朝鮮の安全保障④朝鮮半島の非核化である。 しかし、今回の第二次首脳会談では、これに加えて⑤制裁の緩和⑥(長距離)弾道ミサイル問題が新たに付け加えられる可能性がある。ただ、第二次首脳会談までの限られた時間の中で、北朝鮮の非核化の具体的な道筋とそれに対して、北朝鮮が満足するだけの米国の見返りについて、双方の妥協がどの程度実現するのか、依然として不透明であることには違いない。 まず米国であるが、第一次首脳会談の直後は③北朝鮮の安全保障の提供として朝鮮戦争の終戦宣言や米韓合同軍事演習の中止などに言及していたが、演習中止は実現するが、終戦宣言に関しては米国内からの慎重論もあり、実現に至っていない。 そこで、北朝鮮は代わりに制裁緩和を要求するが、これについては非核化が実現されなければ制裁の緩和はないという姿勢で臨む。ただし、トランプ大統領もそうだし、特に米国務省のビーガン北朝鮮担当特別代表は、寧辺(ニョンビョン)核施設の廃棄などに対する見返りとして、人道支援の拡大、終戦宣言、米朝相互の連絡事務所の開所を示唆している。 寧辺以外の核施設の申告、その廃棄などをめぐる行程表の提示などが、どの程度達成されるのかが未来の核、核の凍結だけではなく、過去から現在に至る核の廃棄をも含められるのかどうかの試金石になるだろう。 興味深いのは、首脳会談の直前25日になって、韓国発で興味深い発言が二つ出てきたことである。 一つは、大統領府の首席補佐官会議で、米朝首脳会談への期待を表明する中で文在寅(ムン・ジェイン)大統領自身が「歴史の周辺ではない中心に立ち、戦争と対立から平和・共存に、陣営とイデオロギーから経済と繁栄に向かう新韓半島体制」を主導的に準備しなければならないという立場を表明したことである。2019年1月、ソウルの韓国大統領府での年頭記者会見で、報道陣の質問に応じる文在寅大統領(共同) もう一つは、大統領府のスポークスマンによる「米朝2国間の終戦宣言」に対する肯定的発言である。北朝鮮の非核化の具体的な措置に関する米国の提示する見返りが何であるのかについて注目されていたが、「米朝2国間の終戦宣言」が急に注目されてきた。本来であれば、韓国もこれに加わるべきであったのだが、韓国は既に2018年9月の平壌宣言で実質的な終戦宣言、不戦宣言、不可侵宣言を行っているということで、北朝鮮の非核化が進むという条件付きではあるが、韓国は歓迎の意思をあらかじめ示している。「悲観論」渦巻く日本 また、これは従来から言われてきたことではあるが、米国にとっての最大の問題は核兵器それ自体ではなく、米本土を射程に入れる核弾頭搭載可能なミサイル、大陸間弾道ミサイル(ICBM)であり、たとえ同盟国である日韓などが短距離および中距離ミサイルも削減、もしくは廃棄対象に含めるべきだと主張しても「米国第一主義」の立場からは、まずはICBMの削減・廃棄の方を優先させる可能性が高いと言える。 一方で、これが短距離・中距離ミサイルの削減や廃棄と切り離されてしまい、短距離・中距離ミサイルの削減・廃棄につながらないと日本の利益は無視されたことになり非常に困った結果になってしまう。したがって、米国に対して日本の利益も重視するように働きかけることは重要だろう。しかし、長距離ミサイルの削減・廃棄が短距離・中距離ミサイルの削減・廃棄につながるのであれば、それをむしろ支援することが有効だろう。 ただし、米国政府内部でも北朝鮮が「核兵器を完全に放棄する可能性は低い」(コーツ国家情報長官)、北朝鮮は「米国に直接的な脅威を及ぼす長距離核弾頭ミサイルの開発に注力している」(ハスペル中央情報局=CIA=長官)という慎重な見方も依然として根強い。従って、北朝鮮の非核化に対する見返りとして、今回の首脳会談で「制裁緩和」という言葉を米国が明示的に約束することはないだろう。 北朝鮮としては、もちろん寧辺の核施設の廃棄の見返りとして上記の三つ、すなわち人道支援の拡大、終戦宣言、米朝連絡事務所の開所は最低限確保しておきたいと考えるだろう。そして、可能であれば、ある意味では制裁緩和の突破口として、韓国との南北経済協力に関する米国の姿勢の緩和を求めるということも考えているのではないか。 金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長の2019年の新年辞でも、開城(ケソン)工業団地と金剛山(クムガンサン)観光という南北の二大経済協力事業の再開に明示的に言及したことにも現れる。北朝鮮にとって、とりあえず経済発展のためには南北の経済協力事業を再開させることが最も近道ではあるのだが、それが国際制裁によって行き詰まっており、韓国だけの判断では再開が難しいということになると、それを突破するためには、米国の了解が必要になるということだろう。 元来、北朝鮮が非核化を実施することによって米国から制裁緩和による経済発展と体制保証を求めるというプロジェクトは、ある意味では南北の共同プロジェクトとでも言うべき性格を持っているので、米国さえ、それを許諾すれば可能になるという暗黙の合意が南北にも存在する。 日本では、ともかく北朝鮮の非核化に対する懐疑論、悲観論が依然として根強い。もちろん、せっかく開発したものを容易に手放すはずはないということは理解し得る。他国を欺いて核ミサイルを保有することが北朝鮮の目的であるとすれば、それは実現されたと言える。2019年2月26日、米朝首脳会談のためベトナム・ドンダン駅に到着し、出迎えの人に手を振る北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長(共同) しかし、それが北朝鮮の現在から将来にわたる安全を保証することにならなかったことも北朝鮮は十分に自覚している。だからこそ、2018年に入って、それまで蓄積してきた核ミサイル能力を使って、自体制の安全保障を最大の脅威である米国から獲得しようとしてきた。米朝間の不信という条件の下で、そうした自体制の安全保障を獲得するという確信がないために、可視的な非核化に踏み切るのは容易ではないのかもしれない。 しかし、いったん指導者自ら下した決断の意味は過小評価されるべきではない。そうした決断をどの程度持続することができるのか、できないのか、それは一義的には北朝鮮の指導者自身の選択にかかっているが、それ以外、特に米国をはじめとする国際社会の対応が、そうした決断を活かして持続させるのか、それとも、そうした決断自体不確かなものであり、信頼に値しないと考えるのか、さらに北朝鮮をより一層追い込むことによって、北朝鮮の非核化以上、例えば、北朝鮮の体制転覆のようなものまで獲得しようとするのか、という選択にかかっている。「前のめり」になる韓国 ただ、米国は「制裁緩和」という見返りは、もっと可視的な非核化が進まない限りは提供しない意志が固いだけに、「制裁緩和」ではない南北経済協力の再開をどのように論理づけるのか、もしこの問題が議論の俎上(そじょう)に上がるのであれば注目されることになる。 韓国としては、過去においても、北朝鮮の核ミサイル開発が行われていた時も開城工業団地や金剛山観光という経済協力事業は行っていたという実績がある。したがって、文在寅政権としては、この事業を再開することによって、北朝鮮に対する韓国の影響力の回復を狙いたいと考える。前述した「新韓半島体制」における「韓国の主導権」云々は、そうしたコンテクストの中で理解される。 しかし、北朝鮮の核ミサイル開発に対する対抗措置として、この経済協力事業を中断したという経緯があるため、やはり相応の可視的な非核化の進展がないと、そして何よりもそれに対する見返りとして米国がそれを寛大に見るということがないと、韓国独自の判断で再開するということは難しく、予定されている金正恩のソウル訪問も難しい、ということになる。 実際に、文在寅大統領は若干奇妙な論理ではあるが、北朝鮮の非核化に対する米国の見返りに関して韓国がその費用の一部を南北経済協力という形で負担する用意があるという論理を提示する。米国トランプ政権さえ許容すれば、南北経済協力を復活させる意欲は強いように思う。 また、今回の米朝首脳会談で、開城工業団地はともかく金剛山観光事業程度は復活する条件が準備できるのではという期待が大きいように思う。 確かに、北朝鮮の非核化が不確かな状況で韓国が「前のめり」になっているという印象を拭えないことは確かであるが、それを「韓国は北朝鮮にだまされているだけだ」「トランプ大統領もそれに乗せられているだけだ」と悲観的に見る必要もない。韓国としては南北関係を改善することが北朝鮮に対する韓国の影響力を復活させて、それが主導権の掌握につながると考えていることは確かであるからだ。 最後に、日本の取るべき対応については以下のように考えられる。北朝鮮の非核化はあり得ないことであると頭から決めつけるのではなく、むしろ、北朝鮮を非核化に追い込むために外堀を埋めていく作業に日本も積極的に関与するという基本姿勢が必要ではないかと考える。2019年1月、北朝鮮の金英哲朝鮮労働党副委員長(右)から金正恩党委員長の親書を手渡されるトランプ米大統領(ホワイトハウスのダン・スカビーノ氏のツイッターから・共同) もちろん、その確実な保証があるわけではなく、北朝鮮はまた核実験やミサイル発射をすることで、約束を裏切るのかもしれない。しかし、その時はまた従来の制裁局面に戻るようになるし、それを主導すればいいだけの話である。米韓も、そうなればいつまでも融和局面にしがみつくということにはならないはずだ。 現状では、一方で北朝鮮の非核化を既成事実にするように慎重にかつ着実に見返りを提供することに関与する、その点での日米韓の協力を行っていくという姿勢が必要ではないか。しかし他方で、北朝鮮の非核化の不透明さが高まる時にも備えて、いつでも制裁局面に戻ることができるような態勢を準備しておくことが必要だし、そのための日米韓さらには中露を含めた協力を準備しておくことが必要だ。そうした二面作戦を採用するべきであって、今の時点から、どちらか一方に決め打ちをするというリスクを冒す必要はない。■ 金正恩が「完全な非核化」に初めて言及した意味■ 「反トランプ」のうねりはなぜ起こらなかったのか■ 崖っぷちの金正恩、万策尽きた文在寅「南北首脳の叫び」

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    「金正恩と恋に落ちた」トランプの口説き文句に隠された意味

    前嶋和弘(上智大総合グローバル学部教授) 「北朝鮮政策はうまくいっている。そして、今後もうまくいかせないといけない」。2月27、28日の米朝首脳会談を前にして、トランプ大統領の「胸の内」はこんな一言で表されるのではないだろうか。 トランプ氏の本質はポピュリスト(大衆迎合政治家)である。常に自分を支持する人々を意識し、それを2016年大統領選挙における当選の原動力にした。 もちろん政権発足後も、規制緩和や大型減税、環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)と「パリ協定」離脱、エルサレムへのイスラエル首都移転など、利益還元に勤しんだ。そして、大統領選再選のために何を訴えたらよいのかに腐心し、最近では対中貿易戦争や、メキシコ「国境の壁」建設のための非常事態宣言など、さまざまな言動に拡大させている。 では、トランプ氏の過去2年間の政策において、最大の「レガシー(遺産)」とは何か。国内政策では、何といっても経済発展であり、外交では対中強硬策などもあるが、何よりも目立つのが北朝鮮政策である。 規制緩和と大型減税が「トランプ景気」を支えてきたが、景気循環のサイクルにより今後の景気が頭打ちとなる可能性を考えれば、今後訴えたいのは北朝鮮問題での成果である。北朝鮮政策がうまく進むことを支持者にアピールし続けることで、トランプ氏の2020年大統領選の再選に直結するとみているはずである。 2019年2月5日に行われた一般教書演説では、北朝鮮政策について述べたのは、わずか1分弱である。しかも、具体的な非核化への言及や北に対する否定的な言葉は一切なかった。 それでも実際の時間よりも、北朝鮮政策の存在感は非常に大きかった。第2回会談の日程を公表したのがこの演説であるほか、「私が大統領でなければ北朝鮮との戦争だった」というのは、この演説の最大の決め台詞(ぜりふ)だったからだ。2019年2月15日、米ホワイトハウスで記者会見するトランプ大統領。国家非常事態を宣言した(ロイター=共同) 「金正恩とは恋に落ちた」「北朝鮮政策はうまくいっている」「北朝鮮は経済のロケット(のように急成長)となる」といった「前のめり」発言が続いているように、トランプ氏の北朝鮮政策に関する見立ては肯定的なものばかりだ。ポンペオ国務長官や国務省のビーガン北朝鮮担当特別代表といった実務担当者は、トランプ氏の「思惑」に慎重ながらも言葉を合わせているようにもみえる。 ただ、そもそも昨年6月の第1回米中首脳会談前に米国が望んでいたのは「まず北朝鮮が先に非核化する」ことだったはずである。それを端的に示す「完全で検証可能かつ不可逆的な核廃棄(CVID)」という言葉は今や完全に消えてしまってしまったようにみえる。昨年夏ごろから、ポンペオ氏の北朝鮮の非核化目標は「最終的かつ全面的で検証可能な非核化(FFVD)」という言葉に変わっていった。政敵のようにこき下ろす さらに、今年1月末のスタンフォード大での講演で、ビーガン氏は北朝鮮の非核化に対して、シンガポールの合意事項は「同時的かつ並行的に進展させる」と述べた。米国側の北朝鮮に対する「アメ」を段階的に与えていくという政策変更が明言されたのである。 ビーガン氏のこの日の言葉には、米国側が「戦争を終わらせる準備ができている」や「北朝鮮政権の転覆を追求しない」などといったものもあった。CVIDを全面的にうたい、「相応の措置をするなら、まず北から」と言及した半年ほど前と比べ、かなり「前のめり」になっているようにみえる。 この「前のめり」のトランプ氏や担当者に対して、北朝鮮の核放棄の意図に関するインテリジェンス・コミュニティーはかなり懐疑的だ。1月29日の上院情報特別委員会の公聴会は、このトランプ氏とは180度異なる見方が政権内に強く存在するという意味で衝撃的だった。 この公聴会で、コーツ国家情報長官は「北朝鮮の政治指導者は体制存続のために核兵器が極めて重要だとみている」「同国が核兵器を完全に放棄する公算は小さい」と明言。ハスペル中央情報局(CIA)長官も「北朝鮮指導部は、米国への直接脅威となる長距離弾道ミサイル開発の意志を持ち続けている」と指摘した。 両者の発言を聴くと、トランプ氏や実務担当者の発言はまるで「はったり」のようにすら思えてくる。これらの発言に対して、トランプ氏はツイッターで「ナイーブだ」「学校教育からやり直せ」と綴り、まるで政敵をこき下ろすように手厳しい。 同じ政権内部からのメッセージがこれほど大きく異なるのは、一種の攪乱(かくらん)作戦なのかもしれないと勘繰ってしまう。あるいは、「北の核放棄の意志はかなり怪しいが、それでも米朝交渉の順調さをアピールしないといけないための演出」としたら、これは茶番劇なのか。2019年2月、ハノイのホテルに到着した米国のビーガン北朝鮮担当特別代表(左、AP=共同) それでも、トランプ氏や実務担当者たちの言葉を信じ、北朝鮮に積極的な核放棄の意図があるとするなら、今度の第2回米朝首脳会談は歴史的なものになる可能性がある。そのシナリオを考えてみたい。 北朝鮮が何を提供したら、積極的な核放棄といえるだろうか。核実験場の廃棄を表明し、坑道などを爆破した豊渓里(プンゲリ)の抜き打ち査察を認めるようなことが大前提である。「誘い水」のツイート これに加えて、弾道ミサイル発射基地がある東倉里(トンチャンリ)の基地解体、核開発施設が集中する寧辺(ニョンビョン)などでの施設の解体とその抜き打ち査察ぐらいまでは期待できるのかもしれない。あるいは、もし北朝鮮が地下などに核保有すると言われる核兵器リストの提出と米国側のインテリジェンスのつかんだ情報との照合、さらには核廃絶のロードマップ提出などが行われた場合、北朝鮮の核放棄の姿勢を否定するのは難しくなる。 北の態度次第で、トランプ政権からの「アメ」は、ビーガン氏の言葉を借りれば「同時的かつ並行的に」豪華になっていく。まずは人道支援から始めて、南北間の経済交流の容認、朝鮮戦争終結宣言、将来の大使館となる連絡事務所建設といった人的交流が考えられる。 トランプ政権後のことを考えて、連邦議会を巻き込んだ平和条約や不可侵条約の締結なども米国側が用意するかもしれない。もし、さらに北朝鮮から核兵器リストの提出までの対応があった場合、経済制裁から180度転換し、経済支援の方に少しずつ舵(かじ)をとりながら、場合によっては直接投資まで行く可能性すらある。 2回目の米朝首脳会談を前にした2月24日の「北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長は、核兵器をなくせば経済大国になれると誰よりも認識している」というトランプ氏のツイートは、北朝鮮に核を放棄させるための「誘い水」である。 朝鮮戦争終結宣言は休戦協定に繋がり、いずれは在韓米軍の縮小の可能性も出てくる。ただ、在韓米軍は対中用でもあるため、今のところ、トランプ氏は強く否定している。 見えない最大の「アクター」が中国である。北朝鮮の後ろにいるのが中国であり、中国が北朝鮮という国を支えているというのがトランプ政権の見方である。中国としても、親米国家が近くにできるのは心良しとしないはずであり、現状維持を願っているはずであろう。2018年12月、ブエノスアイレスでの首脳会談で握手するトランプ米大統領(左)と中国の習近平国家主席(新華社=共同) もし核廃棄が進めば、日本と韓国、中国などの北朝鮮の近隣諸国に非核化の資金を出させるのがトランプ政権の立場であるため、日本としては資金提供とともに、拉致問題を進める必要性がある。そして、北との交渉を一気に本格化させなければならない。 「前のめり」のトランプ氏の思惑通りとなり、大きな節目となるのか。全世界が注目している。「朝鮮戦争を終わらせた歴史的な大統領」という形容詞がトランプ氏に与えられる日は来るのだろうか。■ 金正恩が「完全な非核化」に初めて言及した意味■ 「反トランプ」のうねりはなぜ起こらなかったのか■ 崖っぷちの金正恩、万策尽きた文在寅「南北首脳の叫び」

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    米朝再会談、非核化の先にある金正恩独裁「崩壊へのカウントダウン」

    は、何としても経済制裁の解除を勝ち取る必要があるわけだ。 だが、それ以上に北朝鮮にとって重要なのは、アメリカとの関係正常化だ。今回の交渉で相互にリエゾン・オフィス(連絡事務所)を置くことで合意するとの報道もある。北朝鮮の非核化が急速に展開するとは思えないが、そうした中で米朝関係の国交正常化に向けた成果を上げることができれば、首脳会談の具体的な実績となるだろう。金委員長は、おそらくトランプ大統領から合意を引き出せるとみているのではないか。 第2回目の首脳会談は、北朝鮮の非核化が先か、制裁解除や経済援助が先かをめぐって展開されると予想される。また、非核化の具体的な内容も焦点となるだろう。2019年2月5日、米国の上下両院合同会議で一般教書演説をするトランプ大統領=ワシントン(AP=共同) すなわち非核化の対象となるのは核兵器や大陸間弾道ミサイル(ICBM)、生物化学兵器の開発の中止にとどまるのか、既存の核兵器や中短距離ミサイルの放棄まで及ぶのかが議論の対象となるだろう。 さらに非核化の検証をめぐる問題もある。2日間の首脳会議で、そうした点まで詰められるとは思えない。前回同様に抽象的な声明の発表に終わり、具体的な議論は先送りされる可能性が強い。非核化は「武装解除」 首脳会談の内容は注目されているとはいえ、それ以上に重要なのは、北朝鮮の核兵器に対する考え方が根本的に変わったのかどうかである。北朝鮮は、金体制の維持を「最優先課題」とし、核保有国になることが体制維持にとって必須であると考えてきた。 かつてリビアが核兵器開発を断念することで、結果的に体制転換を迫られた例がある。リビアの二の舞を踏みたくないというのが、北朝鮮の本音であろう。とすると、単に経済制裁解除と引き換えに核保有国の立場を放棄するとは思えない。非核化は北朝鮮にとって武装解除に等しい。事実、金委員長は核兵器を「すべて」放棄するという発言は一度も行っていない。 アメリカ政府の中にも北朝鮮に対する根強い懐疑論が存在している。たとえば、1月に上院諜報委員会で行われた公聴会でダン・コーツ国家情報長官は「北朝鮮が核兵器と核兵器製造施設を完全に放棄するとは思われない」と証言している。非核化のためには、北朝鮮はさらにハードルを上げてくる可能性もある。 昨年12月、朝鮮中央通信は「われわれが朝鮮半島の非核化というとき、それは北朝鮮と韓国だけでなく、すべての隣国からの核の脅威を取り除くことを意味する」と書いている。 さらに、仮に朝鮮戦争終結宣言で合意すれば、北朝鮮は間違いなく韓国からの米軍撤退の要求を突き付けてくるだろう。そうなればアメリカは東アジア戦略全体の見直しを迫られることになる。 もう一つ忘れてはならない重要な問題は、北朝鮮の非核化が実現した場合、それでも北朝鮮の独裁体制が存続するのか、あるいは民主的な体制に変わっていくのかどうかである。今回の首脳会談の開催場所としてハノイが選ばれた理由に、ベトナムの民主化と経済発展モデルを北朝鮮に示すためだと言われている。2019年2月23日、平壌駅で(左2人目から)北朝鮮の崔竜海朝鮮労働党副委員長、朴奉珠首相らに見送られる金正恩朝鮮労働党委員長(朝鮮中央通信=共同)  だが、北朝鮮のベトナム化はおそらく最終的には金体制の崩壊につながるだろう。もし金体制が生き残った場合、世界はこの非民主的な独裁国家と共存していかなければならない。 北朝鮮の非核化は、単に核兵器の問題にとどまるものではない。北朝鮮の体制問題、アメリカの安全保障政策、外交政策の基本がかかわってくるのである。非核化問題は、単に核兵器や大量破壊兵器の廃棄問題にとどまらないことを正確に認識しておく必要がある。■ トランプ「下院敗北」が持つ本当の意味■ 「反トランプ」のうねりはなぜ起こらなかったのか■ 金正恩が「完全な非核化」に初めて言及した意味

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    「トランプが金正恩の落とし穴にはまる」北亡命外交官が断言した理由

    朴承珉(在韓ジャーナリスト) 「金正恩時代に、日本との国交正常化の代価は100億ドル以上になるだろう」。ベトナムのハノイでの米朝首脳会談を1週間後に控えた最近、会談展望についての様々な予測が出ている。国際社会の視線がハノイに集中している微妙な時期に、2016年、韓国に亡命した北朝鮮の太永浩・元駐英公使の記者会見が19日、ソウル外信記者クラブで開かれた。 太元公使は、北朝鮮の亡命外交官としては一番地位が高い。亡命前に北朝鮮の駐英国大使館ではナンバーツーだった。昨年、北朝鮮の金正恩政権の内部実相を暴露した『 太永浩証言―3階書記室の暗号』という著書が発刊された。 北朝鮮の核保有戦略について、自分が北朝鮮の外交官だった時、「金正恩が望んだのは、(国際社会に)"戦争危機論"を訴えて核保有国に行く」という戦略だったと述べた。これを通じて「金正恩は米国と北朝鮮の間で核戦争が起きかねないという懸念を全世界に拡散させるのに成功した」と解釈した。 こうした北朝鮮の戦略に「17年11月、トランプ米大統領が落とし穴にはまった」とし、トランプ大統領が国連総会で「北朝鮮を完全に破壊できる」と演説したのは、米国としては非常に大きな戦略的失敗だったと、分析した。 当時国際社会は、「金正恩という核列車と、トランプという核列車、あたかも両核の列車が向かい合って駆けつけるという国際的錯視現象が起きた」とし、北朝鮮と米国の間に戦争の危機はまったく存在しなかったと述べた。 ところが、米国が金正恩のレトリックによる戦争の可能性に浸り、北朝鮮と米国の間で核戦争が起こる恐れもあるという憂慮を抱かせた」と、これが金正恩が望んだ戦略だったと述べた。 太氏は、米国はベトナムでの2回目の米朝首脳会談を前に、「非核化交渉にするか、それとも核軍縮交渉にするか」というジレンマに陥っている、との見方を示した。また、北朝鮮は自分たちが持っている核について誰にも放棄するという約束も宣言していないとし、「いまだに米国がベトナム第2回目の首脳会談(実務会談)で、北朝鮮にIAEAとNPTに復帰するように要求しないことが最も憂慮される事案」と、トランプ大統領の対北交渉の姿勢に不満を示した。ソウルで記者会見する北朝鮮の元駐英公使、太永浩氏=2019年2月19日(共同) また、「もし今回の会談で北朝鮮の寧辺核施設+aに対する相応措置として、米国が何かを与えてディールをするなら、それは非核化会談ではなく、核軍縮会談に突入することを意味する」とし、結局それは、"トランプ・ドクトリン"に向かっている証拠だと述べた。トランプへの適合型外交政策 トランプ・ドクトリンとは、「北朝鮮の米国に対する核脅威は米国がなくしてしまう。ところが、韓国に対する北朝鮮の核の脅威は、韓国と北朝鮮が自ら解決するというのがトランプ・ドクトリンの中核だ」と定義した。 「(北朝鮮は)トランプ任期内には寧辺核施設を検証し、廃棄できないことは承知している」と述べた。また、北朝鮮はすでに核兵器を製造できる核物質を十分に生産していたため、過去の核である寧辺の核施設を廃棄するという話は、すでに廃棄された自動車をペンキ塗りして、米国に売り飛ばすものと相違ない。いま、北朝鮮の外交は、トランプ大統領に照準を合わせ、トランプ大統領に対する"適合型(テーラーメード)外交政策"に進んでいる、と説明した。 北朝鮮が果たして核を放棄するかどうかについて「北朝鮮にとって核兵器は北朝鮮が持っているすべてのものの集約体だと言える。核兵器は、体制を結束させる求心の役割、韓国との体制対決で、北朝鮮が劣勢に置かれている状況を正当化できる説得力のある論拠になるだろう」と、述べた。また「北朝鮮は数兆ドルを与えられても、金正恩体制が存在する限り核兵器を絶対にあきらめない」と見通した。 さらに、金正恩がハノイで実際に狙うのは、中国からの制裁解除だ。金正恩は、開城工業団地と金鋼山観光再開を突破口として、数十億ドルの中国との貿易関係を正常化させようとしている。 (国連など国際社会が)石炭のような主要輸出物資を塞いでいるため、北朝鮮の基幹企業と軍隊、大きな企業が危機状況に追い込まれている。制裁が続けば北朝鮮の基幹企業(公企業)は死んでいき、逆に個人が運営する私企業と資本主義的な要素はさらに活性化する現象が生じるだろう、とし、北朝鮮に対する経済制裁は続けるべき必要性を強調した。 太氏は、米国が北朝鮮の完全な非核化よりは、米国まで飛ばされる大陸間弾道ミサイル(ICBM)を廃棄するのにとどまるのではないかという懸念を意識したのか、「米国は北朝鮮がICBMをどれだけ持っているのか正確な情報がない。北朝鮮はICBMの一部を廃棄する振りを見せるだろう。北朝鮮はICBMをすべて廃棄し、米国に対する北朝鮮の危険がなくなるというショーをしようというロードマップを用意した」とし、ICBMの廃棄についても懐疑的に展望した。 金正恩委員長が、今回のベトナム米朝首脳会談で、望むことが得られなかった時、その次の手は何か、という問いに太氏は、「それは核の伝播」(核技術の移転だ)と断言した。「核技術を買うという購入者がいるのに、この道に進むしかないと米国に脅迫するだろう」と言った。 北朝鮮はすでにこのような脅迫を数十回も使った。以前、自分がスウェーデンでの会談に参加した際、イスラエルが北朝鮮に10億ドルを与えなければ、北朝鮮の核技術を中東国家に輸出できると米国に脅迫した事実があると証言した。拉致問題の解決は? 北朝鮮の内部情勢について「2月8日、北朝鮮では空軍節(記念日)の行事があったが、北朝鮮軍3人の首長、総政治局長と人民武力部長、総参謀長がいずれも新しい人に変わった」。1年間に北朝鮮軍の中枢の首長がすべて変わったといい、金正恩が、「周囲でかなり不安を感じていることを意味する」と解釈した。 太氏は、日本人拉致被害者問題に対する質問に、「拉致問題の解決において、北朝鮮は現金のような経済的な補償がなくては、拉致問題の解決に積極的に乗り出さないだろう。以前は、国交正常化の代価(賠償)として100億ドル程度を考えたが、金正恩時代には100億ドル以上の経済援助を受けてこそ、国交正常化まで進むと思う」と、見通した。 文在寅大統領の「トランプ大統領は十分にノーベル平和賞を受賞する資格がある」ということについて、太氏は、「 ノーベル平和賞についての話は北朝鮮の核の脅威が完全に消えた時、論議されなければならないと思う。核がある状態でノーベル平和賞の受賞は、ノーベル賞の真の平和の原則に合わないと思う」と否定的な考えを示した。 北朝鮮の駐イタリアチョ・ソンギル元大使代理の亡命の件について、太氏は、チョ大使代理が脱北の過程で娘を連れて脱出できず、北朝鮮はその子どもを直ちに北朝鮮に(強制)送還した。平壌にいる友人から、チョ・ソンギルの娘が北朝鮮に送還され、現在、北朝鮮当局が管理しているという事実を確認した。 このような状況の中、チョ・ソンギルは娘の身辺安全のため、自分の居所を公開したり、公開的な活動ができない状況に置かれている、同じ大学出身で、外務省の同僚だったチョ大使代理の消息を伝えた。 このような状況を知る前は、チョ・ソンギルに「韓国入りしろ」と要請し続けたが。いまは、そのような要請はできない。なぜなら、脱北した外交官が韓国に亡命するのと、米国や欧州に亡命するのとは、北朝鮮に残っている子どもやその家族に対する処罰のレベルが全く異なるためだと、いままでと違った、静かなトーンで語った。チョ大使代理の娘は17歳の高校生で障害者と知られ、大使館員が脱出を防いだという。2019年1月2日、ホワイトハウスで、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長から届いたという書簡を手にするトランプ米大統領(AP=共同) 最後に金正恩は、開城工業団地と金剛山観光が再開されれば、板門店宣言(南北会談)1周年になる4月27日を期して、韓国を訪問する可能性が高いと見通した。太氏は記者会見中、終始一貫して北朝鮮の故・金日成主席や金正日総書記、金正恩委員長に対する呼称はすべて呼び捨てにした。パク・スンミン 在韓ジャーナリスト。在ソウルジャーナリスト。時事通信ソウル支局記者を経て、「文藝春秋」「週刊文春」のソウル特派員。長年、北朝鮮問題をウオッチ。平壌や開城工業団地、板門店、金剛山など7回以上北朝鮮入りして取材。日韓メディアに寄稿している。

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    米朝首脳会談で日本は「核軍拡競争の暴風圏」に放り込まれる

    定がある。ハノイ会談でこれに踏み込む懸念があります。北朝鮮は終戦を強く望んでいる。終戦協定を結べば、アメリカから先制攻撃を受けるリスクがぐんと少なくなるからです。 米朝の融和や朝鮮戦争の終結を韓国も望んでいます。今の(韓国の)文在寅政権は民族統一を掲げて北に傾いています。 1989年にベルリンの壁が崩壊し、冷戦は終結した。だが、それはあくまで欧州の情勢であり、北東アジアではまだ「冷戦構造」は残っているのです。その北東アジアでのベルリンの壁に相当するのが38度線です。西側陣営と東側陣営の分断の象徴“38度線の壁”は、現時点ではぐんと低くなりました。 韓国の「力ベクトル」が北朝鮮に向かっている分、日本には遠心力が働き、日韓関係はひどく悪化しているのが実情です。昨年の徴用工の問題、レーダー照射問題、さらにここへきて韓国国会議長の発言(米通信社のインタビューで、「天皇が元慰安婦に直接謝罪すれば慰安婦問題は解決できる」と述べたこと)で日韓の溝は広がっています。 一方で、米朝の首脳同士は間合いを縮めています。トランプ大統領と金正恩委員長が朝鮮戦争の終戦宣言に踏み込めば、北東アジアの冷戦構造は終結に向かい、ベルリンの壁崩壊と同じく、38度線も事実上溶けてしまうでしょう。それによって、在韓米軍の撤退が現実味を帯びてきます。アメリカの「防衛ライン」から朝鮮半島が外れてしまえば、38度線という防衛線は対馬(長崎県)まで迫ってきます。2018年11月、トランプ米大統領(右)と握手する安倍首相=ブエノスアイレス(代表撮影・共同) そうした事態になれば日本は否応なく、背後に中国が控える朝鮮半島と角突き合わせる「西の端」に置かれることになります。恐るべき「米国第一主義」 トランプ・金正恩の基調は「雪解け」の方向に向かっている。その結果、日本が「北朝鮮よりはるかに強大な相手」と直に対峙する事態を想定すべき時に来ているのです。ロイターの記事も「東アジアにおける米国の防衛線が後退し、日本が中国やロシアと直接向き合う『最前線国家』になる恐れがある」(2018年6月5日)と指摘しています。 そんな中で出てきたのがトランプ大統領による中距離核戦力(INF)廃棄条約の破棄です。これによってロシアもINF条約から離脱。今後、米ロ両国は核軍拡競争に再突入していきます。INFに加盟していない中国も中距離核の開発競争に巻き込まれていくはずです。そのターゲットは在日米軍基地やグアム島です。いまや核軍拡競争の主戦場は東アジアです。その台風の暴風圏に日本は放り込まれることになります。 米朝、南北の融和が進むにつれ、日本が防衛ラインの最前線となってしまう。日米同盟という前提に立てば、米国は在日米軍の強化に動くはずですが、「異形の大統領」は果たしてそう判断するでしょうか。ここが「アメリカ第一主義」の恐ろしいところなのです。 彼の本音は大統領選の発言によく出ています。安全保障政策では「NATOなど時代遅れ」「日本も韓国も、アメリカに頼らず自分で防衛すべき」。日本については「自動車などの輸出によってアメリカで多くの失業を引き起こしながら、アメリカに防衛を担ってもらっている」と非難している。 今やトランプ大統領が、アメリカの安全保障をリスクにさらしてまで、ヨーロッパや東アジアの同盟国のために進んで一肌脱ぐと心から信じる人はいないでしょう。だからこそ、日本は多国間の安全保障システムの構築という新しいゲームに参加し、外交力を鍛えるべきなのです。日米安保で事足れり、という時代は終わったのです。 ハノイ会談はその始まりになるかもしれない。戦略のかけらもない超大国のリーダーが今、日本にとって極めて危ういディールに手を染めようとしています。【プロフィール】てしま・りゅういち/外交ジャーナリスト・作家。NHKワシントン支局長時代に9.11テロに遭遇。ハーバード大学国際問題研究所フェローを経て2005年にNHKから独立。インテリジェンス小説『ウルトラ・ダラー』を発表。近著に佐藤優氏との共著『米中衝突 危機の日米同盟と朝鮮半島』がある。関連記事■ 米朝首脳会談 日本は北朝鮮非核化の「資金援助役」か■ 38度線は対馬まで下がる 南北統一朝鮮は金正恩の思うがまま■ 文在寅政権よりも日本のほうが対北朝鮮制裁に消極的■ 韓国で女児の胸が大きくなる「性早熟症」、囁かれる原因■ ケント氏「韓国には嘘が恥ずかしいという概念がないのか」

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    ベトナムでの米朝会談は再び「政治ショー」に終わる理由

     2018年6月に開かれた初の米朝首脳会談から8か月が経過したが、米朝間の最大の懸案事項である「非核化」は一向に進んでいない。果たして2月27、28日にベトナムの首都・ハノイで開催される2度目の首脳会談で何らかの進展はあるのか、それとも今回も“空手形”に終わるのか──。朝鮮半島問題研究家の宮田敦司氏がレポートする。 * * * トランプ米大統領は金正恩朝鮮労働党委員長との首脳会談にこだわっているが、北朝鮮の非核化を進めるためには、まず中国と協議を行わなければならない。中国は北朝鮮の事実上の「宗主国」であり、中国の習近平国家主席が金正恩氏をコントロールしていると考えられるからだ。中国の後ろ盾 歴史を振り返ると、北朝鮮と中国の関係は常に友好的といえるものではなかったが、少なくとも現在の中国は、政治的にも経済的にも北朝鮮の後ろ盾となっている。中国にとって北朝鮮は中国軍と米軍が直接対峙することを避けるための「緩衝国」となっているからだ。 北朝鮮は強力な経済制裁を受けているにもかかわらず、メディアに公開された平壌の街や人々の様子を見る限りでは、経済が上向いているように見える。これは、経済制裁にもかかわらず、中国との貿易が行われているだけでなく経済支援を受けているためだろう。 米国は偵察衛星の画像から、中朝国境の橋を物資を積んだトラックが往来していることを把握していてもおかしくはないのだが、中国を非難しない。また、米国は北朝鮮船と外国船による瀬取りを把握していても、監視を行うだけで阻止することはしない。 中国は、中朝国境と北朝鮮の周辺海域を封鎖できるだけの軍事力を保持している。つまり、中国が米国と共同歩調をとって経済制裁を行えば、北朝鮮はたちまちのうちに干上がるのだが、そうした動きもない。「成果」を焦るトランプ米大統領 安倍首相からノーベル平和賞の推薦を受けたことを公表するほど「困窮」しているトランプ大統領は、今回、2度目の米朝首脳会談で何らかの成果をあげなければならない。 2度目の米朝首脳会談が1度目と同様に、非核化に向けて何の進展もなかったとしても、トランプ大統領が自画自賛できる程度の成果があればいいわけだが、本当に何の進展もなかった場合は、議会ではトランプ大統領の外交能力について疑問が提起されるだろうし、ノーベル平和賞が授与される可能性も当然ゼロとなる。 北朝鮮としては、経済制裁の部分的な緩和などの何らかの実利を得るために表面的には譲歩するだろう。しかし、最近の米中関係の悪化ぶりを考慮すると、習近平氏の意を受けた金正恩氏が米国に譲歩する可能性は低い。弾道ミサイル発射で揺さぶり 北朝鮮は2017年11月以降、弾道ミサイルを発射していない。北朝鮮はトランプ政権から実利を獲得できると考えているうちは弾道ミサイルを発射することはない。しかし、何も得られないと判断した場合は、トランプ政権に揺さぶりをかけるために弾道ミサイルの「発射実験」を行う可能性がある。 弾道ミサイルの発射は、長距離弾道ミサイルを日本海で落下させるなど、トランプ大統領のメンツを完全に潰さない程度にとどめるだろう。発射の時期は、過去の例から考えると、米国の独立記念日である7月4日になる可能性がある。2019年2月、店頭に並ぶトランプ米大統領と北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長の顔をデザインしたTシャツ=ハノイ(共同) 中国の後ろ盾があるかぎり、北朝鮮が弾道ミサイルを発射して再び緊張状態を作り出しても何らおかしくはない。過去の米朝間の緊張状態だけでなく、2017年の「米朝開戦説」の際にも、米国が北朝鮮を攻撃できないことが明確になったからだ。朝鮮戦争は「終戦」にできない 米朝間で将来的に「平和条約」や「相互不可侵条約」を締結する以前に、休戦状態にある朝鮮戦争を終戦とする必要がある。しかし、中国も朝鮮戦争の休戦協定の当事者であるため、休戦から終戦へと移行するためには、中国の意向を無視することはできない。 たとえ2度目の米朝首脳会談で何らかの「合意」や「宣言」が発表されたとしても、それを履行することは困難だ。例えば「終戦宣言」の場合、朝鮮半島を南北に分断する約248kmの軍事境界線と非武装地帯を撤去する必要がある。習近平のコントロール下 さらに「終戦」とするにあたっては、北朝鮮は在韓米軍の撤退を求めてくるはずだ。つまり、「宣言」や「合意」を実際に履行することは一朝一夕で行うことは不可能であり、米朝間(場合によっては、中国などの関係国を含む)の実務レベルの協議を何十回も繰り返す必要があるのだ。 実際に1990年代以降、北朝鮮の核問題をめぐる米朝2国間協議や6か国協議(米国、中国、ロシア、北朝鮮、韓国、日本で構成)が何度も開かれたが、結局、北朝鮮が核開発を続けていることが判明して中断した。朝鮮戦争を終戦にするということは、非核化と同じように多くの困難をともなう。終戦を「宣言」するだけなら簡単だが、名実ともに終戦とするためには多くの課題をクリアしなければならない。 朝鮮半島の現状の大幅な変更、すなわち完全なる平和をもたらすことは、米国の対中戦略と中国の対米戦略が大きく変わらないかぎり極めて困難なのだ。これは、日本を標的とする弾道ミサイルの問題を解決する際にも同じことがいえる。日朝の2国間協議では解決できない。習近平のコントロール下にある金正恩 繰り返しになるが、北朝鮮を非核化するにあたり協議すべき相手は中国も含まれる。習近平氏の承認なしに、金正恩氏は「勝手に」動くことはできない。だからこそ、金正恩氏は2018年3月以降に4度も中国を訪問したのだ。 習近平氏にしてみれば、最高指導者としての経験も能力もなく、恐怖政治に依存しなければ国を統治することが出来ないような金正恩氏を信用していないだろうから、中国が北朝鮮をコントロール下に置く必要がある。 北朝鮮の非核化は、米国と北朝鮮による2国間協議だけでは極めて困難なのだ。少なくとも米国は中国と協議を行い、北朝鮮の非核化への下地を作っておかなければ、北朝鮮に米国の要求を飲ませることは難しい。 しかし、中国を説得する時間は限られている。何も進展しない協議を続けているうちに、トランプ政権がレームダック化し、譲歩に譲歩を重ねたような「合意」や「宣言」は覆されることになるかもしれない。最悪の場合は、これまでと同様に、北朝鮮が経済支援を獲得して終わる可能性も十分に考えられる。2019年2月、トランプ米大統領と北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長が握手を交わした場所に設置されたプレート=シンガポール(共同) 報道によると、トランプ大統領は2月19日、ホワイトハウスで記者団に北朝鮮の非核化について「核実験がない限り、急がない」と明言した。自ら逃げ道を作って自己満足と自画自賛のハードルを下げたようだが、そもそも2度目の首脳会談は開催する意味があるのだろうか──。 事前に実務レベルの協議がかなり用意周到に行われていなかったとしたら、1度目と同じように政治ショーで終わってしまうことになるだろう。関連記事■ もし日韓戦わば… 軍事力の差は歴然だった■ 韓国で女児の胸が大きくなる「性早熟症」、囁かれる原因■ 櫻井よしこ氏「米中対立はどちらかが倒れるまで続いていく」■ 米朝首脳会談 日本は北朝鮮非核化の「資金援助役」か■ 米朝首脳会談で日本は「核軍拡競争の暴風圏」に放り込まれる

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    米中5G戦争、ファーウェイの脅威

    中国通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)を排除する動きが米国主導で進んでいる。日本でも4月以降、政府機関や自衛隊が使用する情報通信機器から、同社と中興通訊(ZTE)の2社の製品を事実上排除する。背景にあるのは次世代通信規格「5G」をめぐる米中の覇権争いだが、今後どうなるのか。

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    「米国はもう崖っぷち」5G戦争、ファーウェイ排除のウラ側

    山田敏弘(国際ジャーナリスト) 米国の対イラン制裁に違反したとしてカナダ司法省が中国通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)の最高財務責任者(CFO)兼副会長である孟晩舟(モウ・バンシュウ)氏を逮捕してから2カ月がたった。 孟氏は昨年12月11日に1000万カナダ・ドル(約8億5000万円)の保釈金で釈放された後、現在もバンクーバーにある邸宅で、GPS(衛星利用測位システム)ブレスレットを足首につけた状態で監視下にある。自宅周辺に張り付いていたマスコミに孟氏がピザのデリバリーを振る舞い話題になったこともあった。 米国は1月末までに孟氏の身柄引き渡し要請を行う方針を明らかにしており、対立する米中、カナダの間で緊張が高まっている。今回は事件の背景を振り返りつつ、今後のファーウェイなどが絡む米中の覇権争いがどこに向かうのか、探ってみたい。 まず最初に、この件について知っておくべきことがある。今回騒がれた米中のサイバー空間における覇権争いは、今に始まった事ではないという事実だ。ファーウェイが米国などへ進出を始めた2000年代初頭から長年にわたって、同社と米国のせめぎ合いは続いてきた。今回、イラン制裁に絡む話が浮上したことで、米国がファーウェイを締め出す好機を得たということにすぎない。 そもそも米国が見据えているのは、ファーウェイや中国通信機器大手、中興通訊(ZTE)ではない。むろん、その背後にいる中国政府だ。 米国に言わせれば、中国共産党と人民解放軍、民間企業は一蓮托生(いちれんたくしょう)である。軍のハッカーなどが世界から知的財産や機密情報を盗み、それを民間企業に漏洩するという流れがあるとの見方もある。 米国家安全保障局(NSA)の元幹部、ジョエル・ブレナー氏は筆者の取材に、グーグルの検索エンジン技術の「ソースコードが、中国に盗まれてしまっている」と語っている。また、米ニューヨーク・タイムズ紙のデービッド・サンガー記者も、中国は盗んだグーグルのソースコードで「今は世界で2番目に人気となっている中国の検索エンジンである百度(バイドゥ)を手助けした」と指摘している。 つまり、こうした政府系ハッカーらによるサイバー攻撃が、中国系企業を下支えしてきたともみられている。いや、それだけではない。軍事機密も盗んでおり、戦闘機や潜水艦の設計図なども盗み出すことに成功しているのである。モスクワでのフォーラムでプーチン大統領(左)と同席する華為技術(ファーウェイ)の孟晩舟副会長兼最高財務責任者(CFO)=2004年10月(ロイター=共同) 中国ではもともと、民間企業であっても政府の命令には従う必要があった。米高官や外交官らが中国を訪問し、民間のホテルに泊まれば当たり前のように盗聴器が仕掛けられているという類いのエピソードは、何度も米政府機関関係者などから聞いたことがある。しかも中国は最近、それを明文化した法律も制定している。2017年に施行された「国家情報法」がそれであり、民間企業も個人もすべて政府が行う情報活動に協力しなければならない、という決まりを徹底している。 こうしたことから、米国は長年ファーウェイなどが米企業などの知的財産を盗んでいると批判し、政府のために機密情報などをスパイする可能性を指摘してきた。そして最近になって、米国が本気で中国製品を排除しなければならない事情も浮上してきた。5G(第5世代移動通信システム)のインフラ機器やスマホの分野における中国企業の台頭である。情報の掌握を狙う中国 5Gは、現在の100倍とも言われる超高速のシステムであり、それが普及すれば、世界は一変すると言っていい。全てがIoT(モノのインターネット)などでつながり、ほぼすべての情報がデジタル化され、ネットワーク化される。すなわち、個人情報から軍事機密まで莫大(ばくだい)な多種多様のデータを運ぶ通信インフラを支配できれば、情報を思いのまま手に入れることができるというわけだ。 中国はファーウェイを介して、その5Gインフラを世界中に安価で提供し、シェアを広げようとしている。つまり、データが行き来するサイバー空間の覇権、ひいては世界における情報の掌握を狙っている。中国は80年代後半の段階から「情報を制するものは世界を制する」と考え、インターネットの検閲といった支配権なども「情報戦争」の一環と捉えてきた。最近、国家戦略としている「製造業2025」の核として中国製の5G機器などを世界で広めようとしているのは、そうした背景からだ。 一方の米国を中心とする欧米側は、世界を一変させる5Gインフラ市場で劣勢にある。少し前に筆者が米政府関係者から手に入れた60ページほどの米政府公式文書によれば、「ファーウェイは(通信の基地局などの世界的シェアを高めていることから)インフラそのものになりつつある。シェアの拡大に成功し、特に途上国ではそれが顕著である。ただ、米国のような先進国はそれを許してはいけない。ファーウェイがインフラになれば、中国のインテリジェンス(スパイ)活動につながっていくからだ」とした上で、こう警戒する。「米国は今、崖っぷちにある。情報化時代の未来を率いるか、もしくは、サイバー攻撃の渦から抜け出せなくなる」 こうしたせめぎ合いから、米国は実際に中国企業であるファーウェイなどの排除に乗り出し、同盟国にもファーウェイ製品の禁止措置を取るよう促してきた。事実、オーストラリアやニュージーランドはすでに5Gのインフラからファーウェイ製品を締め出す措置を決めているし、英国の電気通信社も同社製品を禁止にした。カナダはファーウェイの社員がスパイ工作に関与している可能性があるとして、ビザの発給を拒否したこともある。 その一方で、中国を目の敵にしている当の米国も、これまでサイバー空間でスパイ工作を繰り広げてきた国の一つである。中国・深圳市でメディアの取材に応じるファーウェイ創業者の任正非氏=1月15日(AP=共同)  米国家安全保障局(NSA)はファーウェイを脅威と警戒し、創業者である任正非(レン・ジェンフェイ)CEOを2009年頃からハッキングによって監視。その作戦は「ショット・ジャイアント」と呼ばれ、NSAは内部情報や同社製品のソースコードまで入手していた。さらにスパイ工作という意味で言えば、米国は例えば「エックスキースコア」という監視システムなどで世界中の人々のネット上での活動を、日本も含む世界150カ所の収集拠点で集めて監視してきたし、中国メディアは中国を狙うサイバー攻撃は米国からのものが最大であると指摘している。 このように、サイバー工作をめぐる対立は水面下で続いてきた。では5Gの登場で今後、この攻防はどう展開していくだろうか。米国政府のプレッシャー まず、日本が排除を発表するに至ったように、今後も米国と同じ価値観を共有する国々の間で、ファーウェイ排除の流れが続く可能性は避けられないだろう。 現時点では、ファーウェイの禁止に乗り出した日本(各省庁や自衛隊)を含む国々では、排除対象は基地局やルーターなどに使われるファーウェイ製品であり、スマートフォンやタブレットまでは対象になっていない。ただ今後、これらの国では、政府関連の事業やプロジェクトに関与する際には、民間企業であってもファーウェイの機器は使えないようになっていく可能性があるし、関係者もスマホやタブロイドを使うわけにはいかなくなるだろう。 例えば日本では排除の対象をインフラ事業者まで広げるとの話も出ているが、そうなればさらにインフラ事業にも携わる多くの人たちがファーウェイのスマホなどを使っていられなくなるだろう。こういう形で、結果的にすべてのファーウェイ製品が使われなくなっていく可能性は高い。 さらに言えば、米国のイラン経済制裁を破った容疑という「威力」は大きい。世界的に見ても、制裁違反をするファーウェイとのビジネスを控えなければ、米国企業とは取引ができないという現実に直面しかねない。世界中でファーウェイとの取引を控える動きが起きるかもしれない。例えば、世界的な大手銀行は既にこの動きを見せている。イラン制裁違反に絡んで、英金融大手HSBC銀行やスタンダードチャータード銀行などは米国政府からのプレッシャーなどもあってファーウェイとのビジネスを制限してきた。それが最近では、シティバンクなども今後の対応を検討していると言われている。 むろん、こうした動きに中国政府もファーウェイも、黙ってはいない。 中国政府は孟氏の逮捕以降、中国国内でカナダ人を13人拘束し、そのうち5人ほどは今も釈放されていないとみられている。いずれも取ってつけたような容疑であり、ピーター・ナバロ米大統領補佐官(通商担当)が「中国らしいやり方だ」と言及したように、報復措置であることは明らかだ。また今後、中国政府が米通信機器メーカーを中国市場から締め出す報復措置を取る可能性を指摘する声もある。中国広東省深圳にあるファーウェイの本社 (GettyImages) また、米国内で米政府と対峙(たいじ)するための法務チームの強化も行っているし、同社は「われわれは世界をリードしている」「他国の安全保障に対して脅威になっているという証拠はない」と強気を崩さない。さらに任CEOが珍しくメディアの取材に応じ、中国当局にデータを提供することはないと主張している。 日本でも、ファーウェイ側は疑惑を否定する声明を発表して対抗している。「(ファーウェイ製品を)分解したら余計なものが入っていた」「スパイウェアのような動きをする」という日本のメディア報道が事実誤認であると指摘し、法的措置に乗り出すとも発表している。いち早くファーウェイ離れ ところで、実際に同社の製品が何らかの「怪しい動き」をすることは考えられるのだろうか。先日、筆者はネットテレビ「Abema Prime」に出演し、そこで実際に解体されたファーウェイのスマホを目にする機会があった。というのも、「スマホ分解のプロ」という専門家が番組の始まる前に実際に解体してファーウェイのスマホに「おかしなもの」が入っていないかを確認したのである。その結論は「余計なものは見つからなかった」というものだった。 とはいえ、筆者は以前、ある欧米諸国の情報機関関係者から、政府系通信会社が市民に提供する機器にチップを埋め込む工作を担当していたという話を直接聞いたことがある。また、米政府も国外の要人に対して同様の工作を仕掛けていたことが明らかになっているし、中国が数年前に米IT企業が使うサーバーに製造過程でチップを埋め込んでいたという疑惑も、米メディアで大々的に報じられて物議を醸したばかりだ。 もっとも、今はチップをわざわざ仕込むような時代ではない。「チップを使う」というやり方はいかにも古い工作という印象で、今もやっているとは考えづらい。今なら、電子機器のプログラムに後でアクセスできるような、いわゆるバックドア(裏口)を埋め込んでいたり、何らかのマルウェア(不正プログラム)を入れておいた方が手っ取り早いだろう。 いずれにしても「ファーウェイ製品が怪しい」と見られてきたことは紛れもない事実だ。最近話を聞いた国際的大手企業の元サイバー担当者は、こんな発言をしていた。「2014年にオーストラリアの大手企業が会社のネットワークからファーウェイ製品を介して不正にデータが中国に送られていることに気がついたんです。それ以降、オーストラリアは政府関係機関や大手企業にファーウェイ機器を使わないよう非公式に通達していた」 2018年8月にファーウェイとZTEを5Gインフラから排除したオーストラリアでは、2014年の時点で既に非公式にファーウェイ排除の方向に舵を切っていたという。※写真はイメージです(GettyImages) いずれにせよ、これまで各地で続いてきた動きからも分かる通り、ファーウェイをめぐる話はハイテク産業における中国のビジネス的な台頭を米国が押さえつけようとしている、という単純な話ではない。次世代の覇権と安全保障に深く関わる話である。それゆえに、米中両国は一歩も譲歩できない。少なくとも米国は今後も、引く構えをみせることはないだろう。 今、欧州や南アジアなど世界中の国々がファーウェイとどう付き合っていくのか検討が行われている。5Gをめぐる米国vs中国の攻防は引き続き、世界を巻き込んで激化していくはずだ。■習近平「終身独裁」で中国の自滅は確実になった■「習近平の独裁に黙っていない」中国ネットユーザーのあくなき闘い■米露を呑み込む中国の「一帯一路」 巨大利権に潜む習近平の大戦略

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    トランプがファーウェイ幹部を捕らえた本当の理由

    して不必要な過剰反応を示す必要はないでしょう。うんの・もとお 明治大学政治経済学部教授。心理学博士。アメリカン大学(ワシントンDC)異文化マネジメント客員研究員(08~10年、12~13年)。専門は異文化間コミュニケーション論、異文化マネジメント論。08年及び12年の米大統領選挙においてオバマ陣営にボランティアの草の根運動員として参加。16年米大統領選挙ではクリントン陣営に入る。著書に「オバマ再選の内幕―オバマ陣営を支えた日本人が語る選挙戦略」(同友館)など多数。

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    「日本人に感謝」の裏に潜むファーウェイ副会長の本音

    のためではなく、こんな多くの人たちが私を信じてくれたことで泣きました。日本福島地震の時、私はちょうどアメリカのIBM本社にいました。1週間のワークショップの最中でした。(中略)アメリカをすぐ離れることができないため、孫総経理を日本に送り込みました。(中略)一通り仕事を片付けたところで、私はすぐに東京行きの航空券を取りました。日本の支店に行くと、震災後の復旧作業、顧客のネットワークの修復とわれわれ自社の日常運営についてスタッフ全員と打ち合わせを行いました。私の日本出張に先立って、会社の緊急処理班はすでに機能していました。孫総経理も日本から帰国したばかりで、私には現地での実務作業がほとんど残されていませんでした。私は日本へ行き、震災後の業務対応を総括し、業務プロセスの確認を行いました。私自身もたくさんのメモを取りました。(中略)このたびの経験は、私は後日もほとんど言及したことがありません。何も特に自慢できるものがなく、すべてが私の仕事だったからです。しかし、善は報われる。8年後のいま、ある普通の日本人からの手紙で私は報われたのです。無比な誇りと慰めで胸がいっぱいです。誇りは、あの時あれだけのリスクに直面しながらも、私は日本行きの飛行機に乗り込んだことから来ています。勇気とは恐れないことではなく、心の中に確固たる信念をもつことです。慰めとは、われわれの努力を神が見つめ続けていたことで、われわれが払ってきた努力は決して無駄にならなかったことです。 体裁的には「日記」よりも、対外的なブログ投稿に近い。前半の情に訴える部分には心に響くものが若干あったものの、後半ないし締めくくりの部分に至ってはナルシスト的な表現に一転し、どうも盛り下げる蛇足になったような気がする。まあ作文の巧拙は別として、それよりも、最終的に世間一般、あるいは日本人の目にこの胸中の告白はどう映ったのか。これに興味をもった。孟氏の論理破綻 この日記を取り上げて報じた日本のメディアは、私が調べたところでは、日本経済新聞と時事通信の2社であった(ほかにあるかもしれないが)。 日本経済新聞電子版は12月21日付けで「ファーウェイ、孟副会長の日記公開 日本からの激励に謝意」と題して報じた。果たして真実を反映した見出しであろうか。日記の前半を額面通りに受け取り、しかも、日本人の性善説的な視線からすれば、見出しに書かれた通りかもしれないが、原文の後半ないし結尾へ読み進めると、ニュアンスの変化に気付くはずだ。 孟氏は自分がいかに「危険を冒して」、被災直後の日本へ旅立ったことを誇りに思っているかを、情緒的に表現した。業務遂行の作業場が被災地近辺かどうかは知らないが、本当のネットワークの修復作業に当たったのはファーウェイの従業員、あるいは請負業者だったのではないか。彼女は部下が一通り仕事を片付けた後に日本に「駆けつけた」のだった。もし、顧客が感謝を述べるのなら、ファーウェイ社に対してであって、彼女という一個人ではないはずだ。「彼たちはファーウェイを知っています。ファーウェイを認めています。だから、彼たちは私を信用してくれたのです」と、孟氏の日記に記されているが、論理的な文脈にはなっていない。ファーウェイを認めているから、副会長の孟氏を信用する。このようなロジックは成立するのだろうか。立派な会社であっても、その経営者や幹部が犯罪に及ぶ事例は世の中枚挙にいとまがない。 同日12月21日付けの時事通信の報道、「日本人の激励手紙に感動=ファーウェイ孟氏の日記公開」も基本的に日経記事と同じ基調であった。私はこれらのメディアを批判しているわけではない。むしろ日本人的な性善説からすれば、このような文脈は当たり前だと思っているからだ。しかし、日本から一歩出れば、外の世界は基本的に性悪説でできている。思考回路と現実のかい離は容易に消滅するものではない。むしろ日本人が抱える永遠の宿命なのだ。 日本人の宿命といったらそこまでだが、何としてでもこれからの世界でサバイバルしていかなければならない。そんな日本人には何が必要なのか。「日本の常識」や「世界の非常識」が語られるなかで、ときには親和感のない思考回路や目線をもつことも大切ではないかと私は考える。カナダ・バンクーバーの裁判所で、華為技術(ファーウェイ)の副会長、孟晩舟容疑者の釈放を求める支持者ら(Darryl Dyck/The Canadian Press、AP=共同) 今回はファーウェイに関連して、私はふとある古い報道記事を思い出した。中国の大手経済紙「第一財経日報」に掲載された1本の論説、「『情・理・法』と『法・理・情』」。その一節を訳出する――。「中国大陸で20年以上も事業を経営してきたある香港人企業家が中国と香港の比較をする際にこう語った。中国大陸と香港は、どちらも法律、人情と道理を重視するが、ただしその順序と比重がまったく異なる。中国は『情・理・法』 香港の順序は、『法・理・情』。まず法律を重視する。企業は法律の保障を得ながらも、これらをすべて使い切ることはしない。法律を見渡して(契約の)合理性があるかないか、さらに人情があるかないかを検討し、相手方がより納得して受け入れられるように工夫するのである。 しかし、中国大陸の順序は、『情・理・法』。まずは情。親戚や知人、元上司がいるかどうかを見る。いると、理を語る番になる。理に適っていればいいのだが、理がない場合はどうするかというと、情さえあれば、無理して理を作り出し、理を積み上げ、『無理』を『有理』に変えていくのである。情があって、理があって、そこでやっと法の順番が回ってくる。法は重要だ。適法なら問題なし、みんながハッピー。違法の場合はどうするか。それでも大丈夫、法律ギリギリすれすれのグレーゾーンで何とかする。それでも難しいようであれば、みんなでリスクを冒して一緒に違法する。法は衆を責めず、法律は、みんなで破れば怖くない。(中国大陸には)数え切れない『情』があって、説明し切れない『理』がある。これらが法の均一的な実施を妨害し、法体系を弱体化させ、規則の整合性を破壊する。法の実施は人治に依存し、人の主観によって規則も変わる。法治の躯体に人治の魂が吹き込まれ、法の形骸化に至らしめる。中国の社会や経済の矛盾は、法の意志を無視し、法治を基本ルートや最終的解決法としないところから生まれる。いわゆる人情や調和に価値を追求すればするほど、適正な目的に背馳し、縦横無尽な悪果を嘗め尽くすことになる」(以上引用・抄訳) 孟氏の日記は、「日本でこんなに良いことをやったのだから、私は犯罪に及ぶ悪人ではない。人情のある善人だ。信用されてもいいはずだ」と言わんばかりのニュアンスである。しかし、既述した通り、文脈における主体である会社と個人、その所為の無関連性が明らかであって、論理がすでに破たんしていた。 つまり、「情」に訴えようとしたところで、「理」が破たんしたのである。裏返せば、理がそもそも破たんしていたのだから、情に訴えざるを得なかった。そういう状況だったかもしれない。2018年12月、中国・北京の華為技術(ファーウェイ)の店舗でパソコンを見る客(AP=共同) 気がつけば、孟氏のカナダでの逮捕は法律案件であって、「法」次元の話ではないか。さらに言ってしまえば、量刑にあたっての情状酌量の段階でもないのに、「情」や「理」を差し挟む余地はないだろう。たちばな・さとし エリス・コンサルティング代表・法学博士。1964年生まれ。早稲田大学理工学部卒。LIXIL(当時トステム)東京本社勤務を経て、英ロイター通信社に入社。1994年から6年間、ロイター中国・東アジア日系市場統括マネージャーとして、上海と香港に駐在。2000年ロイター退職後、エリス・コンサルティングを創設、代表兼首席コンサルタントを務め、現在に至る。法学博士、経営学修士(MBA)。早稲田大学トランスナショナルHRM研究所招聘研究員。

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    金正恩が「完全な非核化」に初めて言及した意味

    が、金委員長の「新年の辞」を読み解けば「対内的には自立経済を強調、対外的には既存の核を保有した状態でアメリカとの関係改善を図る」ことを宣言したようなものだ。 対内的には「自力更生の社会主義建設の新たな進撃路を拓(ひら)いていこう」と呼びかけ、当面は国際社会の制裁が緩和されることはなく、厳しい状況が続くことへの予防線を張ったとみるべきだ。 金委員長にとって2018年は大変な年だったのだろう。中国税関の統計を基にすれば、昨年1年間の北朝鮮の対外向け輸出総額は2億ドルに満たなかった。猛暑や集中豪雨などで農作物の作況もよくなく、この先2~5月をどう凌(しの)ぐかを心配しなければならない状況だ。 ソファに座り、新年の辞を読み上げるという「余裕」を見せたのは、困窮した国内状況を隠し、焦りを見せまいとの演出だったのかもしれないが、金委員長は今、対内的にも対外的にも難しい状況に直面している。 関係者の間では、200万人に上る餓死者を出した90年代後半の「苦難の行軍」と似た第二の「苦難の行軍」が始まるのではないかとささやかれているという。このような難局を打開し、一気に国内外の問題を解決するには、対外関係で突破口を開く必要がある。 金委員長は、対外関係では三つの目標を挙げた。それは、①事実上の核保有国としての地位を国際社会に認めさせること②制裁の緩和③外来勢力の干渉を排除し韓国との経済交流の実現、である。 では、この三つの目標を金委員長はどう実現するつもりだろうか。まず、核保有国としての地位について、金委員長は「完全な非核化へ向かっていくのは、わが党と共和国政府の不変の立場であり私の確固たる意思だ」と述べた。世界が注目した金委員長のメッセージの中で最も重要な部分と言っていい。 金委員長が初めて肉声で「完全な非核化」に言及したとして、本当に非核化へ向けて動き出そうとしているのではないかと見る向きもあるが、このメッセージを誤って受け取ってはならない。 実は、金委員長の非核化に対する姿勢は全く変わっていないのだ。金委員長は「われわれはもうこれ以上、核の武器をつくることも実験もせず、使用も伝播(拡散)もしないことを内外に宣布」したと述べている。だが、過去に製造したとみられる核の武器をどうするかについては触れていない。むしろ、過去の核については、使用しないこと、拡散しないことを約束しておらず、廃棄についても言及していない。 北朝鮮の核は、既に保有しているとみられる「過去の核」と、現在なお能力の向上を目指して核物質を増やし、高度化を図っている最中の「現在の核」(国際原子力機関=IAEAやアメリカの研究機関の報告によれば、北朝鮮は核活動をやめていない)、核施設やミサイルエンジンの実験台など核能力を増強できる「未来の核」に分けられるが、金委員長が新年の辞でやめることにしたと言及したのはあくまで「未来の核」である。 金委員長は、このような「複雑に絡んだ問題」を解決するために、トランプ大統領と2回目の会談に臨む意思を示したが、未来の核をなくすことについても、既に前提条件をつけている。つまり、アメリカが先に核の脅威をなくすべきだと主張しているのだ。実際、金委員長は新年の辞で「アメリカが(トランプ大統領が)世界の前でした約束を守るべきだ」と述べている。 そもそも、昨年6月のシンガポールにおける米朝首脳会談で、トランプ大統領が金委員長に約束した事項は二つあった。「北朝鮮の体制の安全を保障すること」と「朝鮮半島の完全な非核化」だ。「これ以上の譲歩なし」 ただ、今まで「非核化」について、米・朝・韓・国際社会では各自が異なる解釈をしてきた。特に米朝の間では決定的に違う解釈をしている。非核化とは、当然ながら「北朝鮮の非核化」だ。しかし、最近になって金委員長が約束したのは「朝鮮半島の非核化」であり、アメリカが言う「北朝鮮の非核化」は誤りだと主張する(2018年12月20日付、朝鮮中央通信の論評)。 北朝鮮は米軍の「朝鮮半島を狙っている周辺からの全ての核の威嚇の要因を除去すること」を前提にしている。朝鮮半島周辺に米軍が原子力空母や核潜水艦、核弾頭を搭載可能な爆撃機など戦略武器を展開することをやめなければならない。 また、金委員長は「韓国は外勢(アメリカを指す)との合同軍事演習をこれ以上許容してはならず、外部からの戦略資産をはじめとする戦争装備の搬入も完全に中止されなければならない」と新年の辞で主張した。 そして、昨年から北朝鮮が講じてきた非核化の措置にアメリカが応える番との認識を示した。北朝鮮が非核化のための一環として豊渓里(プンゲリ)の核実験場を爆破し、ミサイル発射台、実験場の解体に動いた「誠意ある先導的な措置」に対し、アメリカがそれ相応の措置を講じなければならないと述べた。 さらに、金委員長は、アメリカに「何かを強要し、依然共和国に対し制裁と圧迫を続けるのであれば、新しい道を模索する」としながら、「正しい姿勢で対話に臨むべきである」と、一方的な制裁には屈しない姿勢をみせた。要するに、これ以上の譲歩がないことを表明したのだ。 北朝鮮はこれから、最高指導者の言葉を実現すべく、アメリカが先に相応の措置を講じない限り、一歩も引き下がらないだろう。アメリカが北朝鮮の要求に応じない限り、非核化交渉は進展しないとみるべきだ。 そしてその次は、制裁緩和を狙って硬軟両面戦術を駆使するだろう。「朝鮮半島と地域の情勢安定は決してたやすくつくられたものではない。周辺の国と国際社会は朝鮮半島の肯定的な情勢発展を推進しようとする北朝鮮の誠意のある立場と努力を支持すべきだ」とし、まずは国際社会が北朝鮮を評価し、「制裁緩和」に踏み切るべきだとする。 韓国との関係については、アメリカや国際社会の干渉や圧迫を排除し、北南関係を発展させるべきだと強調する。具体的に、開城(ケソン)工業団地の事業、金剛山観光事業再開を促している。ただ、これらの事業では「代価を求めない」「条件をつけない」と言ったが、制裁突破のための手段として、なんとしても2019年にはこの二つの事業は再開させたいのではないか。 狙いは、国際社会の制裁を無力化し、韓国との経済交流で突破口をつくり、平和と協力の雰囲気を維持しながら、国際社会の圧迫をはねつけるためとみられる。 非核化交渉において北朝鮮の本音は以下の三つだ。①核施設の無力化、例えば寧辺(ミョンビョン)の核施設の凍結については、査察の段階でアメリカ、日本、韓国などが独自で科している制裁の解除を求める②核能力の廃棄、すなわち核物質の廃棄、施設の廃棄を引き換えに国連制裁を解く③保有している核については、アメリカに核保有(国)を認めさせた上で、駆け引きを続けつつ、段階を踏みながら軍縮会談に持ち込む。ドナルド・トランプ米大統領(左)と北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長=2018年6月、シンガポール(AP=共同) この三つのうち、トランプ大統領は①だけについては、応じる可能性はあるかもしれない。なぜなら、トランプ大統領は金委員長との2回目の会談に意欲を示し、完全な非核化の意思を一応は歓迎する意向を表明しているからだ。 ただ、金委員長は今まで、2018年4月20日の労働党中央全体会議で採択した決定(核実験場は使命を終え、ミサイル発射実験はもはや必要ない)内容を超える非核化の措置を講じていない。それ以上の行動に踏み切るのは北朝鮮内部でのコンセンサスが必要で、形式だけでも党内の手続きを踏む必要があるが、今のところそのような気配はない。迫られる二者択一 非核化交渉で進展を見るためには、トランプ大統領がまず一定の譲歩をするしかないが、トランプ大統領の立場がそれを許すか否かが問題だ。アメリカ議会の動向が影響するからだ。 2回目の米朝首脳会談は、トランプ大統領の政治的計算によって、妥結できるか否かが決まると思うが、トランプ大統領も容易に金委員長に譲歩できないだろう。 結果的に、非核化の交渉は困難を極めることが予想され、結果的には北朝鮮を「核保有国」として認めるか、決裂するかの二者選択に帰結されるのではないか。それを占う試金石が2回目の米朝首脳会談だが、スムーズにいくとは思えない。 では、日本との関係はどうなるだろうか。金委員長は、周辺国家との関係を再構築する突破口として、まずは休戦協定を終戦協定とし、ひいては平和協定を結ぶことだが、実現するには南北だけでは無理なことは分かっている。そのためには中国の協力が必要だが、既に中国は北朝鮮にその際の立場を伝えているのではないかと思われる。 新年の辞で金委員長は、韓国に対し、米韓合同軍事演習の中止のほか、戦略資産および高高度ミサイル防衛システム「THAAD」(サード)のような戦争装備に関する武器の持ち込み中止を求めたが、それは中国の立場を一部代弁しているものとみられる。 さらに、休戦協定締結当事国との間で終戦協定を結ぶべきだという要求も突き付けているが、これも中国の意向を反映しているものとみるべきだ。 要するに、金委員長は中国という後ろ盾との関係が最も大事だという認識を持っているのだろう。新年早々に中国を訪問したが、今年は中国との関係、特に経済面での関係改善に全力を挙げるはずだ。北京の人民大会堂で歓迎式典に参加する金正恩委員長(右)と習近平国家主席=2019年1月8日(新華社=共同) ただ、中国はアメリカと北朝鮮との間で二者択一を迫られており、中国の動きによっては北朝鮮問題で大きな転換(北朝鮮がやむを得ず中国の圧迫でアメリカの要求の一部を受容)をする可能性も否定できない。 日本との関係は、非核化交渉、米朝関係の改善、南北経済交流の次に考慮すべき問題で優先順位から外れている。 ただ、アメリカとの交渉が思う通り進まなかったり、決定的に破局を迎えそうになったりした際は日本との関係改善に動くのではないか。また、拉致問題や日朝国交問題を持ち出す可能性もある。いずれにせよ、日本との関係では、米朝の結果が見え始めたタイミングで動きを見せるはずだ。■北朝鮮非核化「トランプの財布」に日本が甘んじてどうする■感情論を捨てれば見えてくる、日本「北非核化」負担のメリット■金丸信「1兆円の約束」 日本が北朝鮮を支援する道理はない

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    トランプの「内なる敵」

    「ケネディ以来の歴史的快挙だ」。大統領就任後、初の審判となった米中間選挙について、トランプ氏はこう自賛した。「ねじれ議会」の結果にも強気を崩さず、トランプ流はエスカレートするばかりだ。分断した米国社会の一端も見えた今回の選挙。四面楚歌を地で行くトランプはどこへ向かうのか。(写真はロイター=共同)

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    米国民の選択は「まあ、いいか」 トランプはリベラルよりも強し

    米国を、いや世界中を騒がせてきたのか、その結果とも言えるだろう。 そのせいか、朝から主要メディアは「アメリカの運命が決まる」「トランプの今後が決まる」と騒ぎ立ていた。しかし、ここニューヨークは、静かなものだった。ニューヨーク州は民主党の鉄板の牙城で、無風もいいところだからだ。 「トランプの出身地であり、マンハッタンのど真ん中にはトランプタワーが建っているではないか」などと言っても、そんなことは選挙には全く関係ない。ここの人々は、ほぼ誰もトランプなど相手にしていない。 今回、ニューヨーク州の上院議員選挙は、2人の議員のうち、チャック・シューマー議員(民主党)は非改選で、改選されるのはカーステン・ギリブランド議員(民主党)だったが、予想通りに圧勝した。何といっても、彼女は民主党の女性議員の中ではエース的な存在である。本人は出馬を否定しているが、2020年の大統領候補の一人と目されている。 トランプが「フェイクニュース」と呼ぶメディア、CNNは出口調査で、議会にもっと女性議員を増やすべきかどうかという質問を行ったが、約8割の人間が「重要だ」と回答していた。そんな中、ギリブランド議員は、トランプが「ポカホンタス(米先住民女性の名前)」と呼び、既に2020年の大統領選に出馬を表明しているエリザベス・ウォーレン議員(マサチューセッツ州)と並んで、今後の民主党の女性議員を引っ張っていく存在である。 ただし、ギリブランド議員と争った共和党候補も、チェリー・ファーレーという、夫が弁護士で自身がエクイティ投資家という才女だった。このような図式を見ていると、トランプ以後は、米国初の女性大統領が誕生するのは間違いないのでは、と思う。 それにしても、米国の選挙を見て思うのは、これが「民主主義大国」の選挙なのかということだ。大統領選挙は投票率が6割に達するが、中間選挙は前記したように4割がやっとだ。つまり、6割の人間が選挙に行かない。これは、日本の国政選挙の比ではなく、世界でも下から数えた方がいいというひどさだ。※写真はイメージです(ゲッティイメージズ) よって、日本のメディアが得意げに解説する「米国民の意思」=「民意」などというものは、選挙にはあまり反映されない。 なぜ投票率が低いのか。選挙民が「平気で嘘をつく」トランプに怒りを感じていないからではない。投票日が火曜日だからだ。これでは多くの人間、特に時間給を稼がなければならない低所得層は選挙になど行けない。火曜日投票をやめない理由 会社によっては、休みを認めたり、投票後出勤を認めたりしているが、それはホワイトカラーの話である。 しかも、米国には住民登録制度がないので、投票のための有権者証明ハガキなどは送られてこない。選挙権を行使したければ、有権者自身が事前に有権者登録を行う必要がある。これは非常に面倒臭く、余裕のある人間しかやらない。 なぜこんなシステムになっているかというと、1845年に制定された連邦法が改正されていないからだ。当時、米国は農業国で、人々は日曜日に教会に行き、移動手段は馬車が基本だった。 そのため、月曜日に馬車で投票所に出向いて一泊し、火曜日に投票することがもっとも理にかなっていたのだという。しかし、今やこれは完全な時代錯誤である。 一説に、日曜日などに選挙を行うのは労働者の休日を奪うことになるから、このシステムは「国民のためを考えてのものだ」という話がある。しかし、こんなことを鵜呑みにするのは、とんでもない「情弱」と言わざるを得ない。 米国が火曜日投票を止めない、今ではすぐにでもできるインターネット投票を採用しないのは、その方がエスタブリッシュメント(支配層)に都合がいいからである。一般のワーカーが大挙して投票したら、何が起こるか分からない。それで、投票に行きにくい日をわざと投票日にしていると考えた方が自然だ。 しかも、中間選挙は上院、下院議員を選ぶだけではない。州上院議員、州議会議員、州最高裁判事、州長官、市議会議員、教育区委員などをまとめて選ぶことになっている。そのため、誰が候補者かも知らない人間が多く、結局、行かない人間の方が多くなるのだ。 トランプはそれを知っている。それで、白人低所得者層の恐怖を煽って「お前ら移民に仕事を奪われるぞ!」と叫び、投票所に行かせることに成功した。それが前回の大統領選挙である。 ラストベルト(さびついた工業地帯)にいるトランプ支持者たちは、大体が怠け者だ。仕事がなければ朝からダイナー(レストラン)に行き、クアーズビールを飲んでステーキを平らげている。彼らはこれまで選挙に行ったことがなかった。それが前回、メディアの予想を裏切って選挙に出掛けた。 そして今回もまた「ワシントンDCの連中の中で、オレだけが本音を言っているのだ」というトランプに投票したようだ。これに、都市部のインテリ白人の中にいる「隠れトランプ」が加わったので、「ブルーウェーブ」(民主党の「青い波」)の勢いは、選挙直前に失速してしまった。ホワイトハウス(ゲッティイメージズ) しかし、私はつくづく思うが、選挙取材など、ほとんどが無駄だ。日本のメディアの記者や米政治研究者などが格好をつけるために、かなりの数がこちらに取材に来て、有権者の声を聞いたりしている。そうして、激戦州やワシントンDCからリポートを送っている。 だが、そんなものは何の役にも立たない。この前のトランプ当選や英国の欧州(EU)離脱を顧みれば、いかに取材して予測することが虚しいかが分かるだろう。NYの投票所の光景 前回の大統領選では、米メディアと世論調査を信じて「ヒラリー・クリントンで間違いない」という記事を書いた私としては、今回もこのことを痛感する。予想は競馬だけにしておきたい。 そうは言っても、ニューヨークに滞在中なので、投票所に出向いてみることにした。ここはマンハッタンのミッドタウンサウス。連邦議会下院の選挙区では第12区、州上院選挙区では第28区、州議会選挙区では第75区というようになっていて、一番近い投票所はレキシントン街25ストリートのバルーク・カレッジの中にある。 雨の中25ストリートを歩くと、マディソン・スクエア・ガーデンの交差点手前で、英エコノミスト誌が選挙インフォメーションブースを出していて、通行人に無料のコーヒーを提供しながら、年間購読を勧めていた。呼び止められて、少しだけ話を聞いたが、商魂たくましいと思った。 投票所に着くと人影はまばらだ。大学のキャンパス内だというのに、投票者は若者より老人が多い。その老人を捕まえて、メディアが出口調査を行っていた。いかにもニューヨークらしいと思ったのは、投票所を示す張り紙に中国語が書いてあったことだ。 連邦議会の下院は、人口比により全米で435の選挙区に別れていて、ニューヨーク州には27選挙区がある。下院議員の任期は2年で、435人全てが改選となったが、ニューヨーク州はほぼ変動がなかった。全体的に民主党が完勝した。 そんな中で、第14区で予備選挙から旋風を巻き起こした元バーテンダーのアレクサンドリア・オカシオコルテス候補(民主党)が勝ったのには、さすがに少々驚いた。バーモント州の上院選で当選したバーニー・サンダース議員の申し子の、バリバリの左派。29歳という若さで、最年少の女性連邦議会議員となった。2018年11月、バルーク・カレッジの中にある投票所入口=ニューヨーク(山田順氏撮影) もちろん州知事選も行われた。こちらは完全無風といってよく、現職のアンドリュー・クオモ氏(民主党)が難なく3選を果たした。今回の知事選で注目されたことと言えば、映画『セックス・アンド・ザ・シティ』に出演した人気女優で、リベラル派の活動家としても知られるシンシア・ニクソン氏が、予備選でクオモ知事に挑戦したことだった。全く相手にならずに敗れたが、ニューヨークらしい出来事とはいえた。 それでは、ここからはどのメディアも注目した「民主党VS共和党」の勢力図の変化を見ておこう。 まず、今回の選挙で考えられた「結果」は、次の4通りだった。(1)上下院で共和党が過半数を維持する(現状のまま)(2)下院は民主党の過半数となるが、上院は共和党が過半数を維持する(ねじれ議会になる)(3)上院で民主党が過半数を取り、下院は共和党が過半数を維持する(4)上下院ともに民主党が過半を獲得する 選挙前、ほぼ全メディアが(2)となると予測していた。次が(1)で、その次が(4)、最後が(3)だった。政治情報サイト「リアル・クリア・ポリティクス(RCP)」は、選挙前日に次のような予測を出した。下院(定数435、過半数218):民主党優勢202、共和党優勢195、接戦38上院(定数100、過半数51) :非改選を含め、共和党50、民主43、接戦7メディア予想に大外れなし 下院はほぼ的中したが、上院はなんと共和党が議席を予想外に増やしてしまった。これにより「共和党は辛うじて過半数を維持する」とした予想屋は大恥をかいたが、トランプとしては、まさに「してやったり」だ。 調子に乗って「今夜はものすごい成功だ。みんなありがとう!」(Tremendous success tonight. Thank you to all!)とツイートする始末だった。しかし、前回の大統領選と違って、メディアの予想に大外れはなかった。 こうして米議会は、下院は民主党が握り、上院は共和党が握るという「ねじれ状態」になったが、これまでとそう大きくは変わらないだろう。大方の日本のメディアは「民主党が下院において過半数を握ったということは、大統領が出してくる政策を阻止できるので政治状況は混迷を深める」などと指摘しているが、本当にそうなるかどうかは分からない。 民主党は今回の選挙でとことん疲れて、やる気を失っている。そのため、しばらくは「トランプよ、勝手にやってくれ。落とし前は次の選挙でつける」と体制立て直しに専念するだろう。つまり、トランプが自動車関税をふっかけ、自由貿易協定(FTA)交渉をねじ込んできても、米議会は反対などしない。 上院で共和党が過半数を維持したとはいえ、トランプにとって頭痛のタネがある。なぜなら、トランプは共和党を分捕っただけで、もともと共和党員ではないからだ。 彼には政策、主義というものがないから、共和党の穏健派は彼を嫌っている。つまり、敵は内部におり、特に女性議員はトランプを毛嫌いしている。マディソン・スクエア・ガーデン近くに英エコノミスト誌が出した選挙情報のための臨時ブース=ニューヨーク(山田順氏撮影) 今回、民主党の追い上げがあまりに厳しかったため、テキサスでは大統領選であれほどトランプを罵ったテッド・クルーズ議員が、トランプに応援をおねだりするという醜態を見せた。その結果、民主党のベト・オローク候補の猛追を振り切ったが、これで、彼は「トランプの犬」になったも同然だ。 しかし、女性議員はそんなことはしない。その筆頭は、メーン州のスーザン・コリンズ議員とアラスカ州のリーサ・マーカウスキー議員である。この2人は、オバマケア(医療保険制度改革)見直し、減税法案、ブレット・カバノー氏の最高裁判事承認などに対して反対を表明してきた。カバナー承認問題では、最後には仕方なく賛成に回ったに過ぎない。 2人とも今回は改選ではなく、2020年に改選されるが、早くも「民主党に鞍替えすべき」という話が飛び出している。 今回の上院選では、いくつかの州が全米の注目の的になった。レッドステートの波乱 まずはテネシー州だ。ここは強固な共和党の地盤で、「レッド・ステート」(赤い州)と呼ばれる州の一つだが、今回、有力議員のボブ・コーカー氏が引退したため、共和党新人の女性候補マーシャ・ブラックバーン氏と民主党新人のフィル・ブレ-デセン元同州知事の争いとなった。 というより、全米を代表する地元のカントリー歌手、テイラー・スウィフトが反トランプを表明したため、注目の州となったと言った方がいいだろう。 なんといっても、トランプ支持者はカントリーソングが大好きだ。テネシー州の州都ナッシュビルはその中心地である。 そのため、テイラーの反トランプ宣言は反響が大きく、民主党支持者が少なかったテネシー州で、なんと6万5千人が有権者登録をし、期日前投票をした。そして、有権者は4年前の中間選挙から約3倍に増加したと伝えられてきた。 しかし、蓋を開けてみればブラックバーン候補の完勝。トランプ人気の根強さを見せつけた結果となった。 続いてフロリダ州を見てみよう。ここは、大統領選でも勝敗を分けた「スウィング・ステート」(接戦州)の一つ。毎回、大接戦が続いてきた。それもそのはず、人種別人口構成比は、白人が約5割、ヒスパニック約2割強、アフリカ系1・5割、アジア系・その他0・5割と、まさに米国の「今」を象徴している。 ところが、民主党現職のビル・ネルソン上院議員は、ここで2000年に初当選して以来18年も議員を続けてきた。2006年と2012年の2回とも共和党の挑戦者を退けてきたのである。彼はフロリダ生まれ、フロリダ育ちのコテコテの地元政治家である。 ところが、今回は大接戦の末に落選してしまった。今回の共和党候補は、これまでと違う大物で、州知事から鞍替えして来たリック・スコット氏だったからだろう。スコット氏は、全米有数の病院チェーンの経営者を務めた後、ベンチャーキャピタリストとして巨万の富を築いた人物である。2018年11月6日、米中間選挙で、トランプ大統領のまねをする共和党の支持者=米フロリダ州オーランド(ロイター=共同) さて、今回の中間選挙では、実は州知事選の方が、トランプにとっては重要な意味を持っていた。というのは、大統領選のキャンペーンでは、寄付金を募ったりボランティアを集めたりする場合、州知事が党候補のサポートすることになるからだ。 となると、今回の中間選挙で選出された新州知事が、2020年の大統領選に大きな影響を持つ。トランプは臆面(おくめん)もなく大統領を続けると言っているので、その際には州知事たちの支持が必要だ。注目のフロリダは共和党 今回は、全米50州中36州で知事選が行われたが、目ぼしいところは、共和党が獲った。注目されたのは、フロリダ州とジョージア州だったが、2州とも共和党が獲ったのである。 フロリダ州知事選では、同州初の黒人知事を目指す民主党のアンドリュー・ギラム候補が、トランプ支持を前面に押し出してきた共和党のロン・デサンティス候補をリードしていると言われてきた。 また、ジョージア州でも、民主党のステイシー・エイブラムス候補が優勢と伝えられてきた。このエイブラムス氏は黒人女性。これまで、黒人女性が知事になったことはないので、初の黒人女性知事の誕生かとメディアは注目した。 しかし、2候補とも大激戦の末に落選した。フロリダ州では、デサンティス候補が黒人のギラム候補を「モンキー」と呼んだにもかかわらず、勝利した。 また、ジョージア州の共和党候補、ブライアン・ケンプ氏は州務長官で、ゴリゴリの共和党保守派のトランプ追随者だ。結局、トランプはリベラルより強いということなのだろう。 こうして、米中間選挙は幕を閉じ、これから2年間、世界はトランプに振り回されることになった。私自身は、左派でもリベラルでもなく、どちらかと言えば民主党より共和党の方に親近感があるが、トランプだけはいただけない。こんな人物が世界覇権国、米国のリーダーであっていいのだろうか。 結局、今回の中間選挙では、女性票や若者票が大きく動かなかったと推測される。各種調査によると、大学の奨学金返済に苦しむ若い世代は、多くが民主党支持者であり、彼らが投票に行けば、選挙結果が大きく変わった可能性があった。何しろ、トランプ支持者は年寄りが多いのだ。 人間、歳をとるにつれて、保守的になり、現状を変える気がなくなってくる。そこを目がけてトランプは、これまで無茶苦茶な発言を投げつけ、その結果、老人の心の中に眠っていた差別意識や恐怖心を引きずり出してきた。 つまり「分断」である。もはや、米国はトランプによってズタズタに分断されてしまった。2018年11月6日、米中間選挙で投票所を訪れた下院選の民主党・女性注目候補、オカシオコルテス氏=ニューヨーク(UPI=共同) しかし、これから米国を築く新しい世代である「ミレニアル(新千年紀)世代」は分断を望んでいない。現在では、ミレニアル世代が成人人口の30%近くを占め、これまで最大勢力だったベビーブーマー世代と同様なパワーを持つようになっている。彼らは、1980年から1990年代半ばまでに生まれ、現在は20代前半から30代後半にあたる。 果たして、今後、彼らはどう動くのか。そして「ガラスの天井」を打ち破れないまま来ている女性たちはどう動くのだろうか。今回は、トランプがこのまま大統領でも「まあ、いいか」という結果になったが、次の大統領選挙では全く分からない。(一部敬称略)

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    「反トランプ」のうねりはなぜ起こらなかったのか

    中岡望(東洋英和女学院大客員教授、ジャーナリスト) 11月6日にアメリカの中間選挙が行われた。任期2年の下院議員435議席と、任期6年の上院議員100議席のうち3分の1の35議席が改選された。通常、中間選挙は大統領選挙と同時に行われる本選挙に比べると関心が低く、投票率も低いのが特徴である。また、もう一つの特徴は、与党が議席を失うケースが多いことだ。 ただ、今回の中間選挙は従来とは異なった様相を見せていた。多くの論者やメディアはこぞって「アメリカの選挙史上、最も重要な選挙」であると指摘していた。すなわち、単なる議員の改選にとどまらず、トランプ大統領の「信任投票」の意味合いも含まれていたからだ。世論調査でも、60%以上が、トランプ大統領が投票決定の要因になると答えている。 トランプ大統領の2年間の政策はアメリカの政治や社会を大きく変えただけでなく、戦後、アメリカが作り上げてきたリベラルな国際秩序も逆転させるものであった。トランプ大統領は「アメリカ・ファースト」や「アメリカを再び偉大にする」、「雇用を取り戻す」というスローガンを訴え、中西部や南部の白人労働者、妊娠中絶や同性婚に反対する立場をとることで「エヴァンジェリカル」と呼ばれるキリスト教原理主義者などの支持を得てきた。 また、公然と白人至上主義やネオナチを支持し、ナショナリズムを主張するだけでなく、人種差別や女性差別的な発言を繰り返し、物議を醸していた。人種的多様化にも否定的で、不法移民を犯罪者扱いするなど、従来のリベラルなアメリカ社会を根底から覆す政策を取ってきた。 同時に共和党は大統領選で勝つためにトランプ大統領と「悪魔の取引」(『民主主義の死に方』で著者が使った表現)をした。伝統的な保守主義者を共和党から排除したことで、穏健派は口を閉ざし、共和党はトランプ大統領の言いなりになる「トランプの党」へと変貌していった。そしてトランプ大統領は反対者やメディアを口汚く罵(ののし)り、極めて権威的な政治体制を作り上げてきた。 今回の中間選挙でも、劣勢が予想される共和党候補を支援するため、積極的に支援活動を展開してきた。トランプ大統領が取った戦略は、移民の増加で白人社会が消滅すると強調し、白人有権者に恐怖感をあおった。移民に対する怒りを植え付け、国民を分裂させることで、「トランプ連合」と呼ばれる支持層を結束させようとした。 『ニューヨーク・タイムズ』は、この戦略を「南北戦争以降、どの大統領もやったことのないような方法でアメリカ社会に人種的な分裂を引き起こし、今回の中間選挙は最も両極に分裂した」(11月5日)と分析している。 中間選挙は、有権者がトランプ大統領の政策や理念にどのような判断を下すかが最大の焦点となっていた。選挙前の調査では、下院は民主党が過半数を占めるが、上院は共和党が過半数を維持するというのが大方の予想であった。米オハイオ州のクリーブランドの集会で、父のトランプ大統領(右)の隣で演説するイバンカ大統領補佐官=2018年11月(ロイター=共同) まだ議席の最終確定はしていないが、予想通り民主党が過半数の218議席を上回った。ただ、民主党が圧倒的勝利を収めたとはいえない。オバマ政権が誕生して2年後の2010年の中間選挙では民主党は63議席を失う大敗北を喫している。それから見れば、今回の議席喪失は30議席程度で想定を上回っているが、共和党にとっては大敗北とはいえない状況である。 上院は、現時点では共和党は3議席増やして、非改選を含め51議席を確保している。民主党は3議席失い、非改選を含め46議席にとどまっている。未確定の選挙区もあり、民主党がさらに議席を失う可能性も残っている。起きなかった「ブルー・ウェーブ」 上院選挙に関していえば、民主党は厳しい戦いを強いられていた。そもそも、改選議席が共和党議員と比べると圧倒的に多かったからだ。さらに26の改選州のうち10州は大統領選でトランプ候補が勝利したトランプ支持の州である。 もう一つ注目される選挙は州知事選だ。共和党は伝統的に州知事選では強く、圧倒的な数を占めてきた。前回の知事選では、共和党候補が33州で勝利し、民主党候補の勝利は16州にすぎなかった。 今回の選挙では、現時点で民主党候補が7州で共和党候補に勝利し、現職の再選を含めて22州で勝利を収めた。共和党候補の勝利は25州にとどまった。下院と知事選では民主党が勝利し、上院では共和党が勝利するという結果となった。これに対して、トランプ大統領は選挙後、「今夜は大勝利である。皆さんに感謝する」とツイートしている。 また、選挙前にトランプ大統領はAP通信とのインタビューに答えて「下院が負けても自分の責任ではない」と予防線を張っていた。上院の予想を上回る勝利に安堵したのは間違いないだろう。 今回の選挙の特徴は、民主党も共和党も支持者の投票率を高めることに注力したことだ。通常、中間選挙では投票率が低下する。特に民主党支持者の投票率が低下する傾向がある。他方、共和党支持者は党に対する忠誠心が強く、民主党よりも高い投票率を示してきた。 だが、今回は有権者の関心が極めて高かったのが大きな特徴である。特に民主党支持者は、トランプ大統領の政策に対して極めて強い懸念と怒りを抱いており、強い危機感が投票率を高めた。そうした選挙に対する関心の高まりは「ブルー・ウエーブ」と呼ばれた。 ブルーは民主党を示す色である。ブルー・ウエーブの高まりが下院での民主党勝利に結びついた。ただ、ブルー・ウエーブは「波」にとどまり、「津波」になって共和党を圧倒するところまではいかなかった。オバマ大統領の誕生を支えたような大きなウネリは起こらなかったのだ。 ただ、下院での民主党勝利の背景には、女性の有権者がトランプ大統領に反発し、民主党候補を支持したこともある。郊外の住む中産階級の高学歴の既婚女性は共和党支持が多かったが、今回は民主党支持に回ったとみられる。投票所で報道陣に囲まれる下院選の民主党女性候補、オカシオコルテス氏=2018年11月、ニューヨーク(AP=共同) もう一つの特徴は、女性が主役であったことだ。女性候補者は過去最高を記録している。下院では少なくとも95人の女性候補の当選が見込まれている。そのうち70人が民主党候補で、28人が新人である。 結果として、民主党の支持者動員は成功したといえる。では、なぜ民主党は圧倒的な勝利を得ることができなかったのか。それは同時に共和党の動員戦略も奏功し、多くの共和党支持者も投票所に足を運んだからである。 トランプ大統領の恐怖と不安をあおり、国境に押しかける中米からの移民を求める人々を批判する戦略が共和党支持者に浸透したことは間違いない。民主党支持者がトランプ大統領に危機感を抱いて投票したのと同じように、共和党支持者は不法移民によって白人社会が消滅するかもしれないという恐怖感を抱いて投票所に向かったのである。それが全体の投票率を高めた。乱発が予想される「大統領令」 現在のアメリカの政治の現実を見ると、選挙運動を通して支持者を増やすことは期待できない。共和党支持者はどんなことがあっても共和党支持の立場を変えないし、トランプ大統領がどんな大統領であっても支持し続けるからだ。民主党にも同様な傾向がある。お互いが自分の支持層にのみ語りかけているのである。 選挙の結果は、いかにして支持者を投票所に向かわせるかによって決まるといっても過言ではない。無党派をどう取り込むかも勝敗を大きく分けるが、政治の両極化が進む中で無党派層も政治的な色分けが明確になってきており、風の向きで支持政党を変える可能性は小さい。 では、選挙結果はトランプ大統領にどのような影響を与えるのであろうか。下院の敗北や州知事選での後退によって、政策の軌道修正を図るのだろうか。その可能性は皆無であろう。むしろ上院の勝利によって大統領に対する支持が確認されたと主張するだろう。 また、常套(じょうとう)手段であるが、下院選挙で不正が行われたと主張するのは間違いなく、民主党に対する対決姿勢を強めていくことは間違いないだろう。 ただ、議会は民主党が下院で、共和党が上院で多数派を占めることになる。議会運営はますます困難になるだろう。下院は民主党が過半数を占めたことで、常設委員会の委員長のすべてを占めることになる。予算案の作成を担当する歳出委員会や財政委員会は、トランプ大統領の予算案や減税案に反対するだろう。 一方、トランプ大統領のロシア疑惑などを審議する司法委員会は、トランプ大統領に関連する様々な疑惑や不正行為の調査を始めたり、弾劾問題を取り上げたりする可能性がある。2020年の大統領選を見据え、下院民主党との対立が先鋭化するのは間違いない。 トランプ大統領の下で行われた環境規制や金融規制などの規制緩和の政策の見直しも行われるだろう。移民政策も大きな対立点になると予想される。ただ、共和党が上院で過半数を確保したことで、任命人事はトランプ大統領の思い通りに進むことになる。特に連邦裁判所判事に保守派を登用する動きは強まるとみられ、連邦裁判所判事の承認に際して、上院はフィリバスター(議事妨害)を使えないので、過半数で承認することが可能である。 さらに、トランプ大統領は下院民主党との対立が強まれば、議会を迂回(うかい)する手段として「大統領令」を乱発すると予想される。この2年でも多くの大統領令を出してきたが、連邦裁判所の違憲判決に合い、トランプ大統領の思い通りには進まなかった。だが、トランプ大統領はゴーサッチ最高裁判事とカバノー最高裁判事を任命し、9人の最高裁判事のうち5人が保守派が占め、大統領令に対して違憲判決を下す可能性は少なくなっている。米中間選挙で共和党候補を支持し、トランプ大統領を応援する旗を掲げる人たち.=米フロリダ州オーランド、2018年11月(AP=共同) 先の大統領選で、オバマ大統領に対して共和党が一致団結して抵抗したことが思い起こされる。おそらく民主党もトランプ大統領に対する対決姿勢を強めることは間違いない。今後、トランプ大統領と民主党の対立は深刻化し、議会が機能しなくなるだろう。 いつものことだが、選挙が終わると、識者やメディアは「アメリカは2つに分裂している」というコメントを出すが、今回の選挙は改めてアメリカ社会の分裂の深刻さを示したといえる。

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    トランプ「下院敗北」が持つ本当の意味

    舛添要一(前東京都知事) 11月6日に投票が行われた米中間選挙は、事前の予想通り、上院(全100議席)は共和党が多数派を維持し、下院(全435議席)は民主党が多数派を奪還した。 この結果、議会は「ねじれ」状態となり、今後のトランプ大統領の政権運営が思い通りに行かない可能性が強まった。選挙結果の詳細な分析は、すべてのデータがそろった後になるが、今の段階で説明できる点を以下に記してみたい。 まずは、期日前投票の出足を見ても、今回は中間選挙にしては極めて高い投票率であり、それだけ熱気に包まれていたと言ってよい。トランプ政治は米国社会を二極化、分断させ、それが有権者の政治的関心を高めたものと思われる。 選挙の争点としては、経済と社会保障、とりわけ医療保険が突出していた。経済については、トランプ政権は極めて有利な状況にあったと言ってよい。 米経済は絶好調で、失業率も2000年以降初めて4%を切っており、これがラストベルト(さび付いた工業地帯)の白人労働者らの強固な支持につながったのである。「米国第一主義」を掲げ、外国産品に高関税を課す保護主義も称賛されたし、低賃金で働くことで米国人の職を奪う不法移民を、国境に壁を築いて締め出すという政策も評価された。 その点では、ホンジュラスなど中米諸国から数千人の規模の「キャラバン」と呼ばれる移民たちが、米国を目指して北上していることは、トランプ氏にとって神風が吹いたようなものである。1万5千人の米軍兵士をメキシコ国境に派遣するという大統領の指令は反移民感情に強く訴えた。最近、正式に移民として認められたヒスパニック系なども、自らの既得権益を守るためにトランプ氏支持に回ったようである。2018年11月5日、米国を目指してメキシコ南部の道を歩く移民集団(ロイター=共同) そのことを象徴的に示しているのが、メキシコと国境を接するテキサス州の上院議員選挙である。共和党現職のクルーズ議員は、2年前の大統領選挙の指名争いではトランプ氏と激しく対立し、罵倒し合ったが、今回は大統領に応援を依頼するほど苦戦を強いられた。 相手の民主党のオローク候補は「オバマの再来」と言われるほどカリスマ性がある候補だったが、接戦の末、クルーズ議員が51%対49%という僅差で勝っている。北上する難民キャラバンがテキサス州民の恐怖心を煽り、共和党に勝利をもたらしたと言っても過言ではない。トランプ「上院勝利」の意味 ミズーリ、インディアナ、ノースダコタ州では、民主党の現職上院議員が共和党に敗れており、これも「トランプ現象」の波及効果だと言ってよい。若いころ、インディアナ州の大学で教えたことがあり、福音派(エバンジェリカル)も含めキリスト教の信仰に篤い地域の保守性を肌で感じてきたが、人工妊娠中絶やLGBTに反対するトランプ氏の姿勢が支持されたと考えてよい。 知事選も、フロリダ州では、「ミニ・トランプ」と呼ばれる共和党のロン・デサンティス候補が民主党の黒人アンドリュー・ギラム候補に勝ち、ジョージア州では共和党「超保守派」のブライアン・ケンプ候補が民主党の黒人女性のステイシー・エイブラムス候補をリードしている。 これら共和党の勝利であるが、上院については改選議席から見て共和党が過半数を獲得するのは当然であった。改選議席は35で、非改選議席は民主党が23、共和党が42であり、共和党は8議席獲得すればよいという状況であったからだ。 最高裁判事や閣僚、大使などの人事の承認権を持つ共和党が上院を制したことは、トランプ氏にとっては大きな意味を持ち、再選戦略にプラスになる。特に、最高裁判事の人事で保守派判事を任命できれば、三権のうち、行政と司法の二権を握ることになるからである。 また、条約の承認権を持っているのも上院であり、トランプ色の強い貿易協定などを成立させるためにも、上院多数派の確保は大きな意味を持つ。トランプ氏が上院での共和党の勝利に安堵(あんど)しているのは、そのためである。2018年10月、米フロリダ州マイアミでの集会後、記者らの質問に答える州知事選の共和党候補デサンティス氏(共同) ところで、下院で民主党が多数派を制した理由は、投票率が高まったことにある。これまでは女性や若者、LGBTなどの少数派はあまり投票所に足を運ばなかった。 ところが、今回は下品な言葉で少数派を侮辱するトランプ氏に反発して、投票に行ったのである。特に若者票が下院での勝利に大きく貢献したと見られている。 ニューヨーク州の下院14選挙区では、元ウエートレスで民主党の急進左派アレクサンドリア・オカシオコルテス候補が当選した。29歳、史上最年少の下院議員の誕生だ。これもまた、今回の「多様な民主党」躍進の象徴である。日米関係はどうなる? さらには、同性愛を公表した男性候補が州知事に当選したり、多数の女性議員が誕生する中で、イスラム教徒の女性2人と原住民の女性2人が下院で当選している。これらは、米国社会の多様性を守ろうとする意思が表現されたものと思われる。 さらには、医療保険については、実際に受診してみると、一部の富裕層を除いてオバマケア(医療保険制度改革)の有り難さを認識する国民が多く、この制度を廃止しようとするトランプ政権への反感も、民主党への投票を後押ししたと思われる。 民主党が8年ぶりに下院の多数派を奪還したため、大統領と議会との対立が深まることが予想される。温暖化対策のパリ協定やイランとの核合意からの離脱、イスラエル寄りの中東政策、反移民政策、保護貿易主義、オバマケア廃止など、前政権の実績を次々と否定してきたが、それらに一定の修正が施される可能性が高まるであろう。 トランプ氏は議会での議決が必要な法律ではなく、大統領令のような形で政策を実現しようとするであろうが、予算案を含め議会のハードルは高くなっていくであろう。 ただ、下院における民主党と共和党の議席数が30議席程度であれば、民主党の圧勝とまでは行かないので、行政府と立法府が妥協する余地は十分にある。しかし、両者の緊張が高まると、大統領の弾劾という問題が浮上してくる。 下院で多数派を制した民主党は弾劾訴追を議決することができる。実際に弾劾裁判を行うのは上院であるので、罷免には至らないが、トランプ氏が政治的打撃を受けることは間違いない。米ウェストバージニア州ホイーリングで、「労働者の守護神なのか?」と書いたプラカードを掲げトランプ大統領に抗議する男性=2018年9月(共同) 日米関係については、「シンゾー・ドナルド」の関係も良好であるし、さほど大きな影響はないと考えてよかろう。しかし、トランプ氏の「米国第一主義」や傍若無人ぶりが修正される可能性はあまりないと見た方がよい。 日本製自動車に対して関税を課してくるような事態は十分に起こりうるのであり、下院での民主党の勝利が日米関係の好転につながるというような甘い幻想は捨てたほうがよい。

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    「お灸を据えられたトランプ」日本経済への影響は?

    が起これば、経済にはマイナスである。共和党候補への支持を訴えるトランプ大統領=2018年11月5日、アメリカオハイオ州(加納宏幸撮影) 2019年は、アメリカの中央銀行にあたる連邦準備制度理事会(FRB)の利上げも予想される。現在は、景気が良い前提で利上げを追加しているが、関税率引き上げの悪影響は少し時間をかけて現れる可能性もある。もちろん、こうした影響は、日米株価を下落させる要因である。 中間選挙を前に、トランプ大統領が11月末にアルゼンチンで開かれる20カ国・地域首脳会合(G20)で習近平主席と会談し、貿易戦争の終結に向けた合意をするという観測があった。株価はこの観測に反応して、10月の下落から急反発した。 しかし、この観測は、株価下落に何とかテコ入れしたいトランプ大統領が流した情報だろう。中間選挙を意識した情報操作であると考えられ、11月末のG20が近づくと期待感がはげ落ちて株価を押し下げる要因になりそうだ。日本経済へのダメージ 貿易問題は、2018年10~12月、2019年1月以降に米中景気を下押しするだろう。米国は、9月24日から中国輸入品2000億ドル相当に10%の制裁関税を追加し、さらに2019年1月からこれを25%に引き上げる予定である。10月の米雇用統計をみる限り、米経済の絶好調はゆるぎがないように見える。しかし筆者は、きっと高関税のダメージは時間差を置いてやってくると考えている。 米中貿易戦争は、下院が民主党の過半数となったことで、さらに悪化すると予想する。議会では、共和党以上に民主党の方が、対中強硬派が多い。しかも、彼らは貿易赤字を問題視するよりも、中国がハイテク分野で経済覇権を握ろうとするのを何としても阻止したいと考えている。 「中国製造2025」という習近平主席が掲げている経済プランは、航空・ロボット・ITなど10分野で競争力を高めて、2049年には世界トップレベルの製造強国になると宣言するものだ。名目上は製造業の強国といっているが、実質は軍事強国の実現である。だから、民主党でも対中強硬派がトランプ大統領の貿易戦争をさらに煽(あお)るとになりはしないかと強く警戒されている。 また、今回の中間選挙は、北朝鮮との外交を決裂させない歯止めになってきたと考えられる。トランプ大統領にとって、金正恩委員長との関係改善は、外交における最大の成果だとみられてきたからだ。何としても、中間選挙までは北朝鮮との良好な関係を保とうと、マイク・ポンペオ国務長官も力を尽くしてきた。今、中間選挙が終わり、この歯止めは効力を失った。 もしも、北朝鮮が今のままの外交を続けるならば、業を煮やしたトランプ大統領が融和姿勢を見直すかもしれない。2020年夏までに北朝鮮が核放棄に向けて具体的に行動しなければ、再び緊張が高まる。 そのときに日本は、円高という形でそのダメージを被るだろう。為替レートの推移をみていると、ドル円レートは異様なほど円高になりにくい状態が続いている。2018年6月の米朝首脳会談以降、1ドル109~114円という円安水準がずっと維持されている。日経平均一時下げ幅が800円を超える=2018年10月、大阪市中央区(前川純一郎撮影) 筆者は、この円高になりにくい要因こそが、東アジアにおける北朝鮮リスクの後退だとみている。つまり、中間選挙まで封印されていた北朝鮮リスクが、今後は再び変化し始めると考えることが妥当であろう。トランプ大統領は、2019年1月に金委員長との再び会談を行うという観測がある。この会談後に円高リスクが起こり得るとの心構えを持っておくことが必要だとみている。 最後に、今回の中間選挙を通じて、共和党も「トランプ頼み」の図式が一段と強まることとなった。トランプ的な発想に、伝統的な共和党の良さが染まっていくことが怖い。共和党が自由貿易を尊重する人々から、保護主義的な考え方に染まっていく人々へとオピニオンを変えていくことは、長い目でみても由々しき事態とみられる。

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    トランプ「宇宙軍」構想の目算

    トランプ大統領が突然表明した「米宇宙軍構想」の波紋が広がっている。トランプ氏の発言は、国防が最大の目的とはいえ、宇宙を潜在的な戦争の場として捉えた点で、国際的な注目を集めた。中間選挙をにらんだ人気取りの思惑も透けて見えるが、そもそもトランプはどこまで本気なのか。構想の目算を読む。

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    トランプの「宇宙軍構想」はどうせ絵に描いた餅で終わる

    西恭之(静岡県立大グローバル地域センター特任助教) 宇宙空間における米軍の戦力の整備(編制・訓練・装備)または運用を、空軍から別組織に分ける方法はいくつかあるが、トランプ大統領は、宇宙軍を管理する宇宙軍省も新設するという、最も大がかりな方法を選んだ。 それゆえ、宇宙軍構想は法令や組織の整備に時間がかかるものとなっており、国防総省は宇宙軍省・宇宙軍の新設に消極的だ。議会上院の約3分の1と下院の全議席が改選される11月6日の中間選挙後、来年1月3日に開会するまで、国防総省は必要な法案の審議を先送りすることができる。 宇宙軍構想はトランプ大統領の政治的な色がついている上に、議会では上院よりも下院の方が積極的なので、中間選挙で野党の民主党が下院の多数党となった場合、実現する見込みは低い。 この問題を理解するには、まず米軍がどのような仕組みで戦力を整備し、作戦を指揮しているのかを概観するのがよいだろう。 米軍は陸軍省・海軍省・空軍省の3省と、陸軍・海軍・海兵隊・空軍の4軍種からなっている。3省の長官には、上院の承認を経て文民が就任し、それぞれの軍種の戦力整備を受け持っている。海軍省は平時から海軍と海兵隊を管轄し、議会による宣戦布告または大統領の指示があった場合は、沿岸警備隊を編入する。なお、3省の長官は、国防長官の部下なので閣僚ではない。 3省が整備した戦力を軍事作戦で運用するのは、統合軍(ユニファイド・コマンド)である。軍事作戦の指揮系統は、大統領―国防長官―統合軍司令官と法律で定められている。統合軍は10個あり、そのうち6個は米インド太平洋軍のように地理的に定義され、4個は米戦略軍のように機能別に定義されている。統合軍は2省以上の部隊からなり、幅広く恒久的な任務を担っている。米インド太平洋軍の下の在韓米軍のように、「サブ統合軍」(サブ・ユニファイド・コマンド)が設置されることもある。ホワイトハウスで軍関係者を前に演説するトランプ米大統領=2018年5月、ワシントン(AP=共同) なお、「米軍制服組トップ」とも呼ばれる統合参謀本部議長は、軍事作戦の指揮系統に入っていない。その任務は、大統領や国防長官に軍事的な助言を行い、また、3省が整備した戦力が統合軍司令官のニーズを満たすと保証することである。 宇宙空間については現在、戦力の整備を担当する空軍宇宙軍団司令官が、昨年12月1日から米戦略軍の統合軍宇宙構成部隊司令官を兼任して、作戦の指揮統制も行っている。スターウォーズ計画の行方 実は、統合軍としての米宇宙軍は過去にも存在した。レーガン政権は、ソ連の長距離弾道ミサイルを迎撃するため、早期警戒衛星のほか迎撃ミサイルやレーザー装置も衛星軌道上に配備することを目指して、戦略防衛構想(通称・スターウォーズ計画)を推進した。 初代の米宇宙軍は、その最中の1985年に設置された。それが2002年に廃止されたのは、統合軍の数が制限されている中で、米同時多発テロを受けて、北米を担当する米北方軍を設置したからである。 宇宙軍について積極的な動きをみせる下院は昨年7月、国防予算の費目別の上限を定める2018年度国防権限法案を可決した際、海兵隊(マリン・コー)が海軍と同じ地位で海軍省に監督されているように、空軍と同じ地位で空軍省の監督を受ける「スペース・コー」を新設する条文を盛り込んだ。 しかしマティス国防長官は、「間接費の節約と統合作戦の取り組みに集中しているので、新たな軍種を作り、屋上屋を架することに反対」する書簡を、上下両院軍事委員会首脳に送った。それもあって、上院は「スペース・コー」新設に反対した。 結局両院協議会は、国防総省の下で宇宙活動を管轄する新たな省を設置するための行程表を、空軍から独立した機関に国防副長官が諮問するという条文を加える形で、2018年度国防権限法案の時点では、宇宙軍に関する決定を先送りした。韓国・烏山上空を通過する米軍のB戦略爆撃機=2016年1月(共同) 慎重なマティス氏や上院とは対照的に、トランプ大統領は今年3月13日、「宇宙空間も陸・空・海と同じように、一つの作戦領域だ。わが国は将来、宇宙軍をもつだろう」とカリフォルニア州のミラマー海兵航空基地で発言した。 さらに5月1日にも、ホワイトハウスで陸軍士官学校フットボールチームを表彰した際、「第6の軍種、宇宙軍の創設を考えている」「わが国は宇宙を軍事的にも他の理由でも大いに利用するようになっているから、宇宙軍について真剣に考えている」と語った(既存の軍種に沿岸警備隊を含めると、宇宙軍は第6の軍種になる)。 その結果、宇宙軍がトランプ大統領ならではの構想としてメディアの注目を集めるようになった。これは、さまざまな政策課題に取り組んで進展させている印象を与えたい、トランプ大統領の狙い通りだ。トランプのうっかり発言 トランプ大統領は6月18日の国家宇宙会議の冒頭で、「わが国は空軍を保有し続けるし、宇宙軍も保有する。分離されても平等に」と発言、「国防総省に対し、第6の軍種として宇宙軍を創設するため必要なプロセスを直ちに始めるよう」指示した。 ちなみに、「分離されても平等」という表現は、思い浮かんだ表現を深く考えずに言ったものかもしれないが、米国民にとっては、公立学校における人種隔離を認めた1896年の米最高裁判決を表す表現であり、トランプ大統領の発言は、その点でも注目された。 それから2カ月足らずの8月9日、ペンス副大統領は、マティス国防長官を伴って記者会見し、ロシアと中国の対衛星兵器の脅威を訴え、宇宙軍創設に向けて国防総省が直ちにとる措置を指示した。 ペンス副大統領はここで、宇宙軍を管理する宇宙軍省も新設する方針を示した。国防長官の下で兵力・機能の増強を監督する文官として、まず宇宙担当国防次官補を新設するが、このポストが「将来、完全に独立した宇宙軍長官に移行するため重要」だと発言した。 そのほか、統合軍レベルの米宇宙軍、宇宙関連の調達を加速するための「宇宙開発局」、宇宙担当軍人の質と量を増強するための「宇宙作戦部隊」の創設も指示した。宇宙軍創設のイベントに参加した米国のペンス副大統領(左)とマティス国防長官=2018年8月、ワシントン近郊の国防総省(AP=共同) しかし、このままペンス副大統領が指示した通りに事が進むわけではない。8月13日にトランプ大統領が署名した2019年度国防権限法は、宇宙開発局や宇宙作戦部隊に似た内容を含むものの、米戦略軍の下にサブ統合軍として米宇宙軍を創設すると定めており、トランプ政権の計画ほど急進的ではないのだ。宇宙軍省の新設はむろん、空軍省の下で宇宙軍を新設するにも、立法が必要である。 マティス国防長官とダンフォード統合参謀本部議長は、8月28日の記者会見で、ペンス副大統領ほど宇宙軍省・宇宙軍種の新設を急がない姿勢をのぞかせた。マティス長官は、国防総省が宇宙軍省を設置する法案について議会と協議していると述べる一方、「わが国が直面している宇宙問題を定義するため、議会およびホワイトハウスと作業してきた」として、ホワイトハウスから独立した専門家集団としての立場を示した。「トランプ色」作戦は失敗か ダンフォード議長の方は、統合軍および軍種として宇宙軍を創設するための費用に関する質問に対し、「国防権限法はサブ統合軍を2018年に設置するよう定めているので、その細部を詰めるプロセスに入っている」と答えた。要するに国防総省は、議会が立法化した内容と期限より速くは進まないというのだ。 すると、宇宙軍種が新設されるかどうかは、11月6日の中間選挙で選ばれ、来年1月3日に開会する第116議会が決めることになる。 宇宙軍種を新設することへの軍事的な反対論は、前述の書簡でマティス長官が指摘した、間接費が増え、屋上屋を架する問題にとどまらない。米国が宇宙空間の軍事利用を自制すべきかどうかという問題とも別だ。 そのことは、サイバー戦力を陸海空軍などと同格の軍種とすべきだという議論が、下火になったのはなぜか考えれば明らかだろう。米軍のあらゆる活動に必要な機能は、軍種として分離すべきでないという理解が広まったからだ。米サイバー軍は、米戦略軍の下のサブ統合軍だったが、今年5月4日、軍種ではなく統合軍として独立した。宇宙軍種創設論はこの経緯を踏まえていない。 宇宙軍を軍種として新設すると、人材確保も妨げる恐れが強い。空軍は国民的人気が高いので、宇宙システムの運用と調達を担当する約5千人の要員を確保できている。宇宙軍を分離した場合、既存の軍種よりケタ違いに小規模で、独自の伝統も有人宇宙活動のドラマもないので、既存の空軍部隊のように人材が集まるとは考えにくい。すると、宇宙軍は民間企業の助言に頼ることになり、軍と民間企業の優先順位の違いによって、政策がゆがめられることになる。米アイオワ州で選挙演説するトランプ大統領=2018年10月(ゲッティ=共同) さらに、政治的には、トランプ政権側が宇宙軍創設を支持層へのアピールに使い、トランプ大統領の色をつけているので、中間選挙後の下院民主党で、宇宙軍創設への反対が高まるのは必至だ。ペンス副大統領が宇宙軍創設について記者会見した8月9日、トランプ・ペンス再選のための政治資金団体は支持者に対し、宇宙軍のロゴ候補6案を送り、投票を求めた。 この投票の結果を国防総省が採用することはないだろうが、トランプ大統領が宇宙軍構想をも金もうけに利用しているという批判が、民主党支持者の士気を高めていることは確かだ。好景気なのに支持率が低めの大統領の色がついていることも、宇宙軍新設のハードルを高くしている。

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    「宇宙軍創設」トランプの真意は中国への宣戦布告に他ならない

    鍛冶俊樹(軍事ジャーナリスト) トランプ米大統領が6月、宇宙軍創設の指示を出した。マスコミはトランプの発言をとかくフェイクと見なしたがる。そこで、この発言もトランプ一流の大ぼらかのような報道ぶりだった。 もっとも、マスコミの責任ばかりとは言えない。米国は1980年代、当時のレーガン大統領がスターウォーズ計画を発表した。当時から人気のSF映画の題名そのままに、レーザー砲で旧ソ連の大陸間弾道ミサイル(ICBM)を破壊する画像がニュースなどで繰り返し流されたものだった。 結局、米ソ冷戦の終結で、この計画も沙汰止(さたや)みになった。ただし、ここで開発された技術が現在のミサイル防衛に生かされているので、レーガンの大ぼらだったというのは言い過ぎであろう。 とはいえ、発表当初から膨大な予算を必要とすることから実現を疑問視する声が絶えず、ICBMをレーザーで破壊する画像が文字通り絵に描いた餅に終わったのは事実である。 従ってトランプの宇宙軍創設も当初マスコミは大統領の大ぼらと見なしたわけだが、8月にペンス副大統領が具体的な計画を打ち出し、にわかに現実性を帯び始めた。なにしろペンスは誠実な人柄で知られ、マスコミからも評価が高いからだ。 ペンスは「2020年までに宇宙軍を設置する」と述べ、それまでの当面の措置として宇宙担当の国防次官補を新たに任命し、統合宇宙司令部、宇宙作戦部隊、宇宙開発局を設置すると発表した。 さらに9月、ロイター通信は米国防総省の試算として、宇宙軍創設の費用について1年目に30億ドル超、その後4年で100億ドル、要員は1万3000人以上、と具体的な数字を報じた。 レーガンのスターウォーズ構想には、こうした具体的な数字が出てこなかった。しかもこの数字は現実的な数値だ。宇宙軍創設はもはやトランプの大ぼらでもなければ、絵に描いた餅でもない。 トランプは宇宙軍創設の発表時、「第6軍として宇宙軍を創設する」と述べた。「野球だって2軍までだ。それを第6軍とは何事ぞ?」といぶかる声もあったが、これを理解するためには各国の軍種を認識しなければなるまい。ミッション(任務)の内容がほとんど公開されず「謎の宇宙機」と呼ばれるX-37(米空軍提供) 20世紀半ばにおいては陸軍、海軍、空軍の3軍種が世界標準だったが、米国の場合、第4軍として海兵隊、第5軍として沿岸警備隊が位置付けられている。そこで宇宙軍は第6軍となる。 しかし、宇宙空間が初めて軍事化されたのは第2次世界大戦であり、ドイツが初の弾道ミサイルV2を開発してからである。戦後、軍事衛星が配備されるに至り宇宙の軍事化は急速に進んだ。意識しているのは中国 米国においてはICBMなどの弾道ミサイルや軍事衛星は空軍の所掌とされていた。つまり、米空軍は事実上、航空宇宙軍だった。対するソ連や中国では空軍とは独立した軍種として戦略ロケット軍が設けられた。特にソ連は米国の軍事衛星を破壊するための衛星、キラー衛星を開発していた。 軍事衛星は敵情を低高度で細かく観察する偵察衛星、高高度で弾道ミサイルの発射を監視する早期警戒衛星、情報伝達のための通信衛星などがあるが、米軍のこれらの衛星と同じ軌道上にソ連はキラー衛星を打ち上げ、戦争勃発と同時に米軍衛星を一気に破壊する計画だった。 これが成功すれば、米国はソ連がICBMを撃っても、それを認識すらできないうちに壊滅するわけだ。もちろん米国もソ連の軍事衛星を破壊するためのミサイルを開発していたため、米ソ大戦が勃発していたら、最初の戦場は間違いなく宇宙だったはずだ。 そしてソ連崩壊後、新たな軍事大国として台頭してきたのが中国である。中国の海洋進出は今やインド太平洋地域での大問題であるが、中国の軍事拡大は海軍や空軍に留まらない。むしろ宇宙分野こそ隠れた大問題だと言ってよかろう。 2007年1月に中国は、中国上空850キロの軌道上にあり、すでに機能を停止した気象衛星を弾道ミサイルで破壊した。当時、宇宙ゴミとして国際的に問題視されたが、その実、軍事関係者に与えた衝撃は大きかった。 というのも、中国が衛星破壊実験を行い成功したということは、ソ連と同じ軍事的意図を持っているとしか考えられないからである。すなわち、米国との核戦争に勝利しようとする意図である。 2008年9月、中国は宇宙船「神舟7号」で宇宙飛行士の宇宙遊泳に成功した。ロシアの援助を受けていたが、それでも宇宙開発の目覚ましさに世界中が驚いた。2011年には宇宙ステーションの原型となる「天宮1号」の打ち上げに成功した。翌年には宇宙飛行士3人が乗り込み中国初の宇宙ステーションとなった。16年には「天宮2号」の打ち上げに成功している。中国の習近平国家主席(左)と米国のトランプ大統領=北京(AP) こうした宇宙開発の姿は1950年代後半からのソ連の宇宙開発を彷彿とさせる。1957年にソ連は人類初の人工衛星「スプートニク1号」の打ち上げに成功し、1961年にガガーリンによる人類初の有人宇宙飛行に成功した。 米ソの宇宙開発競争においてソ連は当初優位な位置を占めていたが、この競争の実態は宇宙戦争に他ならず、その背景には米ソ冷戦があった。中国はこの時のソ連の軍事思想と技術を継承している。 ちなみに中国は「天宮宇宙ステーション」を2020年に完成させる予定である。なぜ、ペンスが「2020年までに宇宙軍を設置する」と述べたのか、これで分かるだろう。そして、ペンスはワシントンのハドソン研究所で、中国の覇権主義を非難するとともに全面対決すると宣言した。その内容はかつて英国のチャーチル首相が米国で行った「鉄のカーテン」の演説(米ソ冷戦のさきがけとなった)にも比せられている。 トランプの宇宙軍創設は決して口先だけのものではない。それは中国との全面対決を視野に入れた明確で緻密な計画なのである。

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    米国vs中露「サイバー戦争」の行方

    岡崎研究所 米国国防総省は9月18日、「サイバー戦略2018」の概要を発表した。その内容は、国防総省のサイトで読むことができる。一部、その要点を紹介する。・米国の繁栄、自由及び安全保障は、情報への開かれた信頼のおけるアクセスに依拠する。・デジタル時代の到来は、国防総省や米国に新たな問題も生じさせる。米国や同盟諸国の競争相手達は、サイバー空間を使って技術を盗んだり、政府や財界を欺いたりする。また、我々の民主的手続きや基礎インフラを脅かす。・我々は、中国及びロシアと長期的戦略的競争関係にある。これらの諸国は、競争をサイバー空間にまで広げたので、米国及び同盟・パートナー諸国にとって、長期的戦略的リスクとなっている。中国は、米国の公共及び民間組織から絶え間なく重要情報を抜き取り、米国の軍事及び経済を浸食している。ロシアは、サイバー空間を使って米国民に影響を与え、民主主義に挑戦している。他にも北朝鮮やイラン等は、同様なやり方で、米国民や米国の利益を害している。このようなサイバー空間の悪用は規模が拡大し、その速度も早くなっている。これは、米国にとって緊急かつ許容できないリスクである。・国防総省は、米国の軍事的優位及び国益を守るために、毎日のサイバー空間上の競争の対処しなければならない。我々の焦点は、米国の繁栄と安全保障に脅威をもたらす諸国、特に中国及びロシアにあてられる。我々はサイバー空間で作戦を行い、情報を集め、軍事的サイバー能力を高め、危機や紛争でも使用できるようにする。我々はネットワークの安全性と強靭性を高め、軍事的優位を保てるようにする。我々は、省庁間、財界、外国のパートナー達と協力して相互利益を促進する。・戦時には、米国のサイバー部隊は、陸海空・宇宙の部隊とともに作戦を行い、敵を打つ。統合部隊は、攻撃的サイバー能力も駆使し、あらゆる紛争場面を通じて、サイバー作戦を展開できるようにする。※画像はイメージです(ゲッティイメージズ)・「国防総省サイバー戦略2018」は、「国家安全保障戦略」及び「サイバー空間のための国家防衛戦略」に基づくもので、「国防総省サイバー戦略2015」にとって代わる。・米国は行動しないわけには行かない。我々の価値、経済競争力、軍事力は、毎日危険の増大する脅威にさらされている。中国とロシアを名指しサイバー空間における戦略的競争(1)サイバー空間を含むあらゆる局面で、米軍が闘い勝利をおさめられるようにしなければならない。(2)米国の基礎インフラに影響を与える悪意のあるサイバー攻撃を抑止、先制攻撃し、負かす。(3)国防総省は、米国の同盟諸国・友好諸国と協力し、サイバー能力を強化し、双方向の情報共有を増やして、相互利益を促進する。米軍の優位を可能にする民間アセットを守る・国防総省は、国防総省が所有者ではない防衛基礎インフラ(DCI)や防衛産業基盤(DIB)のネットワークやシステムを守る必要がある。厳しいサイバー環境においても国防総省の目的が達成されるようにDCIが継続して機能していることが重要である。戦略的アプローチ・我々の戦略的アプローチは、次のことを相互に同時並行的に行うことである。(1)より強力な統合軍の創設(2)サイバー空間での戦いと抑止(3)同盟の強化と新たなパートナー(4)国防総省の改革(5)能力向上・サイバー時代の到来は、国防総省及び米国に、新たな機会と挑戦を生む。情報への開かれた信頼のおけるアクセスは、米国及び同盟諸国の利益に不可欠なものである。我々は、それを断固として守ると言うことを、競争相手国は理解すべきである。「国防総省サイバー戦略2018」は、国防総省に対して、上記の戦略的アプローチで、前に出て防御し、毎日の競争に対処し、戦争に備えることを指示している。参考:Department of Defense ‘Summery Cyber Strategy 2018’ (September 18, 2018) 今回の「国防総省サイバー戦略2018」は、中国とロシアを名指しして、サイバー空間での相手の攻撃に対して、積極的に、すなわち防御とともに先制攻撃も含め、対処しようという意思を明確に示したものである。昨年末の国家安全保障戦略及び本年の国家防衛戦略でも、対立する大国として中国とロシアが挙げられていた。2018年6月、米ホワイトハウスで国家宇宙会議に出席したトランプ大統領(ゲッティ=共同) 中国は、サイバー空間を通じて、米国の重要な軍事情報や民間の技術情報、更には政府高官の個人情報まで盗取している。トランプ大統領は国連安全保障理事会で、最近、中国は米国の中間選挙に介入しようとしていると釘をさした。ロシアは、2016年の米国大統領選挙に介入したとされ、その事が今回の戦略文書にも明記された。 上記には、同盟国との連携も述べられている。日米同盟のもと、日本もセイバー・セキュリティーを強化する必要がある。米国も指摘しているように、防衛省や公共部門のみならず、民間との連携も欠かせない。そして防御をするには攻撃方法を知らなければ、効果的な防御策は取れない。サイバー空間に国境はない。緊急な課題であることは、日本も同様である。

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    「トランプに2期目はない」中朝蜜月で変わる非核化ゲームの行方

    重村智計(東京通信大教授) トランプ米大統領は8月1日、中国製品への経済制裁「第3弾」の発動を指示した。北朝鮮はこの「米中貿易戦争」泥沼化を歓迎している。米中首脳による「戦争ゲーム」が北朝鮮への制裁を減圧し、米中朝の「非核化ゲーム」を大きく変質させたのである。 金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長は、朝鮮戦争休戦65周年(7月27日)を記念し、中国人民志願軍烈士陵園に参拝した。金委員長の訪問は2013年以来5年ぶりだ。中朝関係が好転すると、北朝鮮の指導者は地方にあるこの墓苑を訪問し、平壌の記念碑も整備する。反対に、関係が悪化すると放置した。実にわかりやすい。 北朝鮮は「中ソ・イデオロギー戦争」時代に、中国と旧ソ連の間を行き来して支援を得る「振り子外交」を得意とした。この戦略を「米中貿易戦争」でも展開しようとしている。 米朝関係は、3月末の中朝首脳会談までは、トランプ大統領が主導権を握り、「北朝鮮の『完全な非核化』」への期待が高まった。ところが、中朝首脳会談後に北朝鮮の姿勢が急変した。トランプ大統領は「中朝首脳会談後に北の姿勢が変化した」と批判し、一度は米朝首脳会談の中止に踏み切った。 最近の中国は、北朝鮮の石油密輸の「瀬取り」への制裁に反対するなど、それまでの米中協力の姿勢を変えた。米朝関係と米中関係が明らかに変わったのである。トランプ大統領は、中国が「米中貿易戦争ゲーム」で北朝鮮を利用している証拠を握ったという。そこで中国は、貿易戦争を緩和すれば、北朝鮮への追加制裁にも協力するとの駆け引きを見せたのである。中国の習近平国家主席(左)と握手する金正恩朝鮮労働党委員長=北京・釣魚台国賓館(朝鮮中央通信=朝鮮通信) 中国は「瀬取り」を明らかに放置している。その背後に何があったのか。米国務省の高官は、3回にわたる中朝首脳会談で、習近平主席は「トランプへの非協力」に姿勢を変えたという。その証拠に、米国は中朝首脳会談の内容を入手しているというのである。 それによると、習主席は「金正恩体制の維持は保証する。そのため、10年間に1千億ドル(約11兆円)の支援を実施する」と約束した。韓国政府によると、北朝鮮の国内総生産(GDP)は約3兆円であり、中国は毎年その3分の1の支援をすることになる。 裏にあるのは、日米が制裁を強化しても心配するなとの中国の「保証」だ。つまり、「瀬取り」密輸こそが支援の始まりだったのである。さらに、中朝国境の人の往来や北朝鮮労働者の移動も黙認された。 また、中朝首脳がすでに合意した「朝鮮半島の非核化」について、「確実に実現してほしい」と伝えた上で、「10年の時間をかけてもいい」と述べた。要するに、習主席が退任するまでに非核化すればいいという意向だろうか。 習主席は「北朝鮮が数年で非核化できない事情はわかる」と語り、「数年内の非核化には、北朝鮮軍が納得せず、クーデターの危険がある」との理解を示した。また「中国は決してクーデターを支持しない」とも伝えていた。 米メディアは7月末に、北朝鮮が大陸間弾道ミサイル(ICBM)の製造を継続しているとし、「北朝鮮に非核化の動きはない」と報じた。これは「非核化」に反発する北朝鮮軍部の「不満」を抑えるための「製造継続」の妥協策だろう。「トランプの2期目はない」 習近平発言は、金委員長と朝鮮人民軍の関係について、「完全非核化」をめぐり緊張関係にある事実は知っている、との脅しだ。知った上で、金委員長を支持するとの立場を表明したのである。 また、中朝の首脳は「トランプ大統領の2期目はない」との見通しで一致し、「あと2年半時間稼ぎすればいい」との判断を確認したという。金委員長は中国の巨額支援と体制保証で安心したのか、対米姿勢を変えたわけである。 6月12日、トランプ大統領は金委員長との首脳会談後の記者会見で、ポンペオ国務長官が直ちに平壌に向かい、非核化の具体的な交渉を始めると明らかにした。 ところが、国務長官の訪朝までおよそ1カ月の時間がかかった上、金委員長と会見できなかった。さらに悲惨だったのは、北朝鮮外務省の報道官は国務長官訪朝直後に談話を発表し「ポンペオ長官の態度は強盗的だった」と非難した。なんとも失礼な対応である。 北朝鮮の姿勢変化を受け、トランプ大統領は「非核化交渉に期限は設けない」と述べ、ポンペオ長官も「交渉には時間がかかる」と議会で証言した。これは、習主席の「非核化を急がなくていい」との発言を、米首脳が入手していた事実を示唆するものである。 そして習主席は、金委員長が9月の国連総会に出席し、世界に向けて演説すれば「制裁解除」の空気が生まれるとアドバイスした。その際に第2回米朝首脳会談を行うように勧め、米朝関係改善も支持したという。理由として「北朝鮮は、中国の属国にはなりたくないだろう。そのために、米国との関係改善を必要とするのは理解できる」と述べ、金委員長を感激させた。中国の習近平国家主席(右)と談笑する北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長=5月、遼寧省大連(朝鮮通信=共同) 中朝蜜月化と「非核化交渉」の停滞は、日朝関係と拉致問題解決にも影響を与えそうだ。北朝鮮が日朝関係改善を必要とするのは、1兆円とみられる経済協力資金が狙いだ。ところが、中国が毎年1兆円以上の支援をすると、日本の資金への期待が失われてしまう。 北朝鮮の朝鮮労働党機関紙、労働新聞は最近「拉致問題は解決した」との論評を掲載した。拉致問題の解決よりも日朝国交正常化を優先させようとの戦略だ。これに呼応するように、日本でも超党派の「日朝国交正常化推進議員連盟」が活動を活発化している。北朝鮮からの工作に呼応している、とみられても仕方がないだろう。 北朝鮮が中国から多額の資金を導入すれば、現代版シルクロード経済圏構想「一帯一路」のようにいずれ膨大な借金となり、中国に従属せざるをえなくなる。それを避けるためにも、日朝国交正常化が必要だからこそ、「拉致問題は解決した」と主張しているのである。北朝鮮の手口に決して騙されてはいけない。「拉致より国交正常化」と主張する政治家や日本人は北朝鮮の手先で、「売国奴的」と非難されても当然なのである。

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    感情論を捨てれば見えてくる、日本「北非核化」負担のメリット

    その中でも多くの専門家が、会談の最大の「勝者」は金委員長であると考えているようだ。なぜなら北朝鮮は、アメリカの歴代政権が拒んできた米朝2カ国会談を実現させたからだ。 そして両首脳が調印した共同声明には、北朝鮮の非核化と引き換えに北朝鮮の安全を保障する文言が盛り込まれていた。北朝鮮にとって最大の目的は、アメリカによる「体制保証」である。一方で、北朝鮮の人権抑圧に触れられることはなかった。 逆にトランプ大統領は、金委員長の独裁政治を容認しているかのような発言を行っている。要は、金委員長は労せずして、いくつかの目的を達成したのだ。帰国した金委員長は、自らがトランプ大統領と対等な立場であることを国民に示し、自らの権威を高めることに成功したといえよう。 また、共同声明に盛り込まれた北朝鮮の非核化については、具体的なスケジュールや査定方法に関する言及はなかった。アメリカの多くのメディアは、「具体的な内容がない」とこぞって批判を加えた。 会談後の記者会見で、この点について質問されたトランプ大統領は、時間がなく詳細な議論ができなかったことを認めた。その上で、ポンぺオ国務長官とボルトン安全保障担当大統領補佐官を平壌に派遣し、北朝鮮当局と非核化に関する具体策について協議することで補う意向を示した。実際、7月6日にポンペオ氏は平壌を訪問したが、目立った成果は出ていない。 また、トランプ大統領は共同声明のほかに、重要な発言をいくつか行っている。一つは、米韓軍事演習の中止だ。これは北朝鮮が常にアメリカに要求してきたものである。また、中国政府は、金委員長に対してトランプ大統領に米韓共同軍事演習の中止を求めるように要求したことを認めている。2018年4月、ホワイトハウスでブリーフィングを受けるトランプ米大統領(左)とボルトン大統領補佐官(ロイター=共同) そもそもアメリカの歴代大統領は北朝鮮のあらゆる要求を拒否してきた。それが一転して、トランプ大統領は米韓共同軍事演習中止も受け入れたのである。トランプ大統領は、中止の理由としてコストがかかりすぎることを挙げている。安倍首相「費用準備」発言の謎 そしてこの決定をめぐっては、マティス国防長官が国防総省と事前協議をしていたことを明らかにしており、トランプ大統領のスタンドプレーではないことは明白だ。だが、この中止は安全保障関係の専門家は一様に北朝鮮に対する抑止力の低下につながると批判的な評価をしている。 また、多くの人を驚かせたのは、トランプ大統領が韓国から米軍の撤退もあり得ることを示唆したことだ。これも、多くの安全保障問題の専門家が米韓軍事同盟の根本が揺らぐとして、批判的なコメントを加えている。 さらに、北朝鮮の非核化は合意したが、共同声明でも、記者会見の中でも北朝鮮が保有する短距離、中距離のミサイル処理に関する言及がなかったことも重視すべきだ。北朝鮮はミサイルとエンジン実験用地を閉鎖することに合意しているが、中短距離ミサイル問題は放置されたままだ。仮に北朝鮮が非核化されても、武装解除されるわけではない。 そして、非核化が「完全かつ不可逆的、証明可能な方法」で査察をどう行うのかに関しても何の合意もない。期待された朝鮮戦争終結宣言も行われず、重要な問題はすべて今後行われる両国政府の事務協議に委ねられている。 さらに、記者会見では、日本に関わる重要な発言もあった。それは非核化に伴う費用負担問題である。トランプ大統領は、非核化を実現するために必要な経費については日本や韓国などの隣国が負担すべきだと明言した。 軍縮問題の専門家によれば、非核化に伴う費用は少なくとも200億ドル(日本円で2兆円を超える)とされ、実現するためには数年、場合によっては10年かかる可能性があるという。ちなみに、北朝鮮は現在、20~80個の核弾頭を保有しているとみられ、非核化費用の総額はさらに拡大する可能性もある。2018年6月、米ワシントンへ出発する安倍首相と昭恵夫人=羽田空港 こうした動きに対して、安倍晋三首相は早々と国際原子力機関(IAEA)による非核化の査察を条件に、日本が費用を負担する準備があることを明らかにした。まだ何も具体的に決まっていない段階での発言としては理解に苦しむ人もいるだろう。 安倍首相の意向については、解釈によっては、米朝首脳会談の過程で日本は埒外(らちがい)に置かれていたため、非核化費用を分担する準備があると発言することで、日本が当事者としての立場を主張することができると考えたのかもしれない。目先の感情で論ずるな また、安倍首相は北朝鮮に対してメッセージを送り、日朝首脳会談開催への手がかりを求めたのかもしれない。さらに言えば、拉致問題の解決を優先する政治的立場からの発言かもしれない。いずれにせよ具体的な状況が分からない中、費用負担問題で先走るのは賢明な策とは言えないだろう。 ただ、北朝鮮の非核化が実現できるのであれば、日本は応分の費用を負担すべきであることは論を俟たない。なぜなら、朝鮮半島の非核化は日本外交の最優先課題の一つであり、朝鮮半島から軍事的脅威がなくなることは、日本に大きな恩恵をもたらすからだ。 ゆえに、この問題は、目先の感情論ではなく、日本の安全保障という長期的な視点に立って議論すべきものである。日本が朝鮮半島の安全保障問題に当事国の一つとして積極的に関わっていくためには、応分の費用負担は避けられないだろう。 その意味でも、状況が整えば、日本は積極的に関係国に働きかけ、国際的な協議の場を設定する必要がある。トランプ大統領は、アメリカは負担しない意向を示しているようだが、当然、アメリカに対しても負担を求めていくべきだ。 先に触れたように、非核化のために必要な額は2兆円を超えるとされるだけに、日本の負担額は決して少なくはない。日本は巨額の財政赤字を抱えており、さらなる財政負担が加わるとなると、国民が納得のいく額を模索する必要があるだろう。 そして単に北朝鮮の非核化だけでなく、北朝鮮の民主化に結び付くものでなければならない。非核化の費用負担が最終的に両国の関係改善と国交回復に結び付くのが理想だが、果たして北朝鮮が前向きに応じるかどうかわからない。2017年11月、横田早紀江さん(前列右から3人目)ら北朝鮮による拉致被害者家族のメンバーと面会し、発言するトランプ米大統領(同左から2人目)。左端は安倍晋三首相(ロイター=共同) 費用負担の前に明確な北朝鮮政策を立てる必要があるだろう。また、将来、戦後賠償や経済援助の問題も必ず浮上してくるはずだ。 いずれにせよ、どのような形で北朝鮮の非核化が進むか、現時点では見通せない。米朝事務レベル協議は続くとみられ、今後出てくる具体策によって、日本は柔軟に対応していかなければならない。

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    米朝の相互不信 演出された首脳合意や協定では解消できない

     史上初の米朝首脳会談がシンガポールで開かれた。トランプ大統領は会談の成果を自画自賛しているが、会談の時間は短く、共同声明への署名を前提とした、すべてが演出されたものだった。 会談の冒頭で二人は笑顔で固い握手を交わし、昼食後は通訳なしで二人だけで笑みを浮かべながら会談場のホテルの敷地を歩き、トランプ氏は自分の専用車の車内を金正恩氏に見せるというサービスまでした。 トランプ氏は首脳会談前に1分で相手を見極めると公言していたが、金正恩氏と会ってみて、交渉の相手としてふさわしいことは確かめることは出来たようだ。しかし、初の首脳会談を通じて構築された信頼関係は、トランプ氏にとっては個人的、金正恩氏にとっては表向きのものに過ぎない。 それにしても、共同声明は原則論ばかりで具体的に何かを約束するものではなかった。実現のための交渉をこれから行うというものであり、実現可能かどうかは今後の交渉に委ねられるため、場合によっては交渉決裂もあり得る。 共同声明の内容は次の4項目。(1)新たな米朝関係の確立に取り組む(2)朝鮮半島の持続的で安定した平和体制の構築(3)朝鮮半島の完全な非核化(4)朝鮮半島の戦争捕虜/行方不明兵の遺骨回収──。これらの項目のうち(4)は過去に行われていたものであるため、北朝鮮側へ多額の費用を支払えば、すぐにでも実現できるため、トランプ氏は自分の宣伝に使うことができる。 首脳会談後に行われた、この共同声明に関する記者会見でのトランプ氏の発言は、残念ながら言い訳と自己弁護にしか聞こえなかった。記者会見を見ていて、首脳会談前に板門店で行われた米朝実務協議の難航ぶりが想像できた。ワーキングランチを前にカペラホテル内を並んで歩くトランプ米大統領(左)と金正恩朝鮮労働党委員長=2018年6月12日、シンガポール南部セントーサ島(ロイター)「戦争ムード」だった1年前 終始笑顔の二人だったが、1年前(2017年6月12日)を振り返ってみると、マティス米国防長官が議会で、北朝鮮を「平和と安全に対する最も緊急かつ危険な脅威だ」としたうえで、もし外交交渉が失敗し、軍事力を行使することになれば深刻な戦争になるだろうとして強い懸念を示していた。 今回の首脳会談が、このような懸念を払拭する第一歩となったのは確かだ。1年前は「米朝開戦説」を専門家やジャーナリストがまことしやかに流布していた時期だったこともあり、トランプ氏と金正恩氏が笑顔で握手することになるとは、誰も想像していなかっただろう。 しかし、今年11月の中間選挙を考えると、トランプ氏が「予測不能」な決断をすることは予想できた。これからも北朝鮮との「予測不能」な「政治ショー」が続くのだろう。 共同宣言には、当初の予想に反して「朝鮮戦争の終結」は含まれていなかった。しかし、避けては通れない問題であるため、本稿では「終戦」の難しさについて触れておきたい。空文化している休戦協定空文化している休戦協定 朝鮮戦争の休戦協定は、締結(1953年7月27日)から2か月も経っていない9月18日に北朝鮮兵が韓国へ侵入して以降、戦闘機やヘリコプターの撃墜、銃撃戦などが続いたことで、空文化した。 非武装地帯の中央を走る軍事境界線を挟んで、時には越境して小規模な武力衝突が繰り返されてきた。これは長きにわたる低強度紛争といえる。その結果、休戦後からこれまでに、米軍は80人、韓国軍は405人以上が北朝鮮軍との「戦闘」により死亡している。北朝鮮軍も857人以上が死亡している。 今日も韓国軍・在韓米軍と北朝鮮軍の、軍事境界線を挟んでの対峙は続いており、その緊張状態は「休戦」とは程遠い状態にある。毎日24時間態勢で米軍の偵察機が北朝鮮軍の動向を監視しているだけでなく、今夜も夜通しで韓国陸軍の偵察部隊が非武装地帯のなかをパトロールしているはずだ。 これまで、実態として「休戦」が存在していなかったので、「休戦」もできていない状態なのに「終戦」を宣言されても、どのような状態になるのか想像がつかない。「終戦」となっても軍事境界線を含む非武装地帯は解消されず緩衝地帯として残るだろうし、韓国軍と在韓米軍による偵察活動も継続されると思われるからだ。 また、「終戦」とするのであれば、北朝鮮軍は非武装地帯付近に大量に配備している長射程砲を削減する必要があるし、韓国軍・北朝鮮軍双方が戦略兵器を削減する必要もある。しかしこれは、非核化が完了するまで実現することはないだろう。板門店で抱き合う北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長(左)と韓国の文在寅大統領=2018年5月26日(韓国大統領府提供、AP) 一般にいう「朝鮮戦争の終結」が具体的にどのような状態を意味しているのか分からないが、休戦協定を平和協定に転換し、韓国軍と北朝鮮軍を削減し、非武装地帯を解消するなど、全面戦争に備えるものを完全に撤去することは不可能に近い。 朝鮮半島の非核化と朝鮮戦争の終戦が実現できないのは、米国への不信感が根底にあるためなので、切り離して考えることはできない。 つまり、米国と北朝鮮の敵対関係は、首脳同士の個人的な信頼関係や合意や協定で解消できるものではなく、軍備の削減など物理的な側面からも、相互不信が完全に解消されるまで終わらないのだ。●文/宮田敦司(朝鮮半島問題研究家)関連記事■ 北朝鮮の高校生に金正恩氏をどう呼ぶか? と聞いてみたら…■ 米朝首脳会談報道に見る各局キャスターの悲喜こもごも■ 拉致解決ないなら安倍氏は米と決別しようが北への支援拒否を■ 撮影場所は平壌 街頭で見つけた北朝鮮の美女たち■ 北朝鮮大学生 「金正恩を陰では『子豚野郎』と呼んでいる」

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    どうなる? 米朝首脳会談

    2018年6月12日、史上初めてアメリカと北朝鮮の首脳が対面した。会談の目的は朝鮮半島の非核化だが、トランプ大統領と金正恩委員長はギリギリまで駆け引きを繰り広げた。会談の成否は、東アジアの秩序に多大な影響を与える。世界が注目する両首脳の思惑を読む。

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    トランプは金正恩に「日本の100億ドル拠出」を約束する

    西岡力(麗澤大学客員教授、モラロジー研究所教授) ついに米朝首脳会談が実現する。主要議題は北朝鮮の核・生物化学兵器・弾道ミサイルの廃棄だが、日本にとって絶対に譲れない拉致問題もトランプ大統領は取り上げると約束した。どのような結果となるか、痺(しび)れる思いで見つめている。 私はこの間、米朝首脳会談の結果は次の三つの可能性があると主張してきた。 ①米国が中途半端な譲歩をしてしまう可能性だ。大陸間弾道ミサイル(ICBM)の即時廃棄など目の前の成果に固執し、核などの廃棄については原則的に口約束だけでよしとしてしまうことなどが考えられる。これまで北朝鮮は1992年に南北非核化宣言、94年に米朝ジュネーブ合意、2005年に6カ国協議共同声明などで核の完全廃棄を約束したが、見返りを先に受け取った後、その約束を破棄してきた。同じことが繰り返される危険がある。 ②北朝鮮が核・生物化学兵器・弾道ミサイルのCVID(完全で検証可能かつ不可逆的な核廃棄)を受け入れる可能性だ。金正恩がそれを行う声明を出し、米国の情報機関と軍が北朝鮮に入って、核爆発物質(濃縮ウランとプルトニウム)、起爆装置、ウラン濃縮施設の核心部品、ミサイルの推進装置などを米国に持ち出すという作業が始まる可能性だ。 リビアのムアンマル・カダフィ大佐は2003年12月に核廃棄を宣言し、翌年1月に米軍輸送機がリビアから核物質、ウラン濃縮施設の核心部品、ミサイルの推進装置を米国に搬出し、3月に米軍輸送船がウラン濃縮装置、ミサイルなどを持ち出した。まさに短期間でのCVIDが実行された。 ③交渉が決裂する可能性だ。トランプ大統領は金正恩と会って彼がCVIDをする気がないと分かればすぐ席を立って帰るという意味のことを繰り返し話している。そうなれば昨年9月下旬から11月まで米軍が自衛隊のサポートを受けつつ最高度に高めた軍事緊張が再びやってくるだろう。シンガポールに到着した金正恩・朝鮮労働党委員長=2018年6月10日(ロイター) 昨年10月、金正恩は米軍が本当に「斬首作戦」、すなわち金正恩暗殺作戦を実行する危険が高まったと恐怖にかられた。秘密にしている自分の所在情報が米軍に漏れているのではないかという強い危機感を持ち、米軍が斬首作戦を実行する場合、自分の側近をスパイにするはずだと側近らに対する疑心暗鬼にとらわれたという。 それで2017年10月7日に労働党中央委員会総会を開き、唯一信頼できる肉親である妹の金与正(キム・ヨジョン)を新設した当部署の責任者に抜てきして、金正恩の全ての日程と行事の安全管理、党、軍、政府全ての幹部人事を任せたという。 与正は同総会で政治局員候補になったが、これは表向きのことで実際は事実上の権力ナンバー2になった。与正は金正日(キム・ジョンイル)時代に最強の権力をふるった組織指導部の老幹部らを含む金正日時代の幹部を全て取り換えて、若い世代で金正恩、与正に忠誠心を持つ人材に交代させる作業を昨年秋以降精力的に進めてきた。100億ドルは「見せ金」 2017年2月に党組織指導部検閲によって金元弘(キム・ウォンホン)国家保衛部長が解任されて以降、金正恩政権は党組織指導部が支えていた。ところが金正恩は組織指導部さえも信頼できなくなり、同部出身で序列2位だった黄炳瑞(ファン・ビョンソ)軍総政治局長を11月に解任した。 また組織指導部第1副部長として張成沢(チャン・ソンテク)の粛清などを主導した趙然俊(チョ・ヨンジュン)を同部から左遷して党中央検閲委員長という閑職に追いやった。10月7日の中央委員会総会で崔龍海(チェ・リョンヘ)が序列2位に上がり組織指導部長に就任した。しかし、崔は形式的な部長であって、幹部人事など重要案件は崔ではなく与正が仕切っているという。 与正はトランプ政権が斬首作戦を実行する意思と能力を確実に持っていることを知っている。したがって、上記三つの可能性のうち③の決裂だけは徹底的に避けようとするはずだ。 そうなると①と②のせめぎ合いになる。日本の最大の関心事である拉致問題は、トランプ大統領が訪米した安倍晋三首相に約束した通り、議題となるだろう。そこでトランプ大統領は金正恩に②を迫るに当たり、それを本当に実行すれば斬首作戦は放棄するし多額の経済支援を行うという鞭(むち)の放棄と飴(あめ)の提供を提案するだろう。 トランプ大統領は「金正恩がCVIDを実行すれば、豊かな朝鮮が実現する」と話しながらも、米国は金銭的支援を行わないと釘(くぎ)を刺し、日韓中が支援すると言っている。安倍首相は6月8日、日米首脳会談後の記者会見で、拉致問題について次のように語った。 「最終的には私と金氏で直接協議し、解決していく決意だ。問題解決に資する形で日朝首脳会談が実現すればよい。日朝平壌宣言に基づき不幸な過去を清算し、国交を正常化し、経済協力を行う用意がある。できる限りの役割を果たしていく」 安倍首相は拉致問題の解決とは全被害者の即時帰国だと繰り返し表明してきた。つまり、②が実現した場合、日朝首脳会談を開いて全被害者の即時帰国を迫り、それが実現すれば「日朝平壌宣言に基づき不幸な過去を清算し、国交を正常化し、経済協力を行う」と明言している。 2002年9月に平壌にいて、現在は韓国に亡命している党や政府の複数の元高官は私に「当時、小泉政権は早期に国交正常化をして100億ドル規模の経済協力を行うと約束した。ただし、現金で払うのではなくプロジェクトへの出資という形をとるのが条件だとされたので、党と政府の経済部署にプロジェクト案を作れという指令は下った」と証言している。 金正恩は父の死後に後継者になってから、父ができなかったこの100億ドルを日本から取ることで、父の権威を乗り越えたいと考えていたという。金正恩政権は100億ドルが取れなかった一番大きな原因は核開発を問題にして日朝国交に反対した米国の干渉だと総括し、金正恩は核ミサイル開発を続けながら米国の反対をかわしてどうしたら日本から100億ドル取れるか、「この難しい詰将棋を俺が解いてみせる」と数年前から話していた。ホワイトハウスでトランプ米大統領の出迎えを受ける安倍首相=2018年6月7日、ワシントン(ロイター=共同) 金正恩の狙いを安倍首相とトランプ大統領は十分承知し、CVIDを飲め、飲んだら平壌宣言に戻って100億ドルもらえる可能性が開けるというメッセージを送っているのだ。トランプ大統領の立場では、自分が金正恩と行う取引(ディール)の中に日本が出す100億ドルを見せ金として組み込んでいるのだ。トランプ大統領が拉致問題を取り上げると約束したのは、安倍首相の熱意や人道主義の立場だけではない。自国第一主義の立場から米国の財布は開かず、かわりに日本のカネをディールに使おうと考えているのだ。 しかし、米朝首脳のディールに拉致問題が組み込まれたこと自体、日本から見ると大きな外交成果だ。米国の軍事圧力を拉致解決の後ろ盾に使うことができる構造を作り上げたことになるからだ。 いよいよトランプ、金正恩会談が開かれる。私は痺れる思いでシンガポールを見つめている。

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    習近平よりトランプ、金正恩「屈辱の選択」が意味するもの

    重村智計(東京通信大教授) ドナルド・トランプ米大統領と北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長は12日、歴史的な米朝首脳会談に臨む。朝鮮戦争が終結し、歴史から最後の冷戦対立地域が消える。日朝首脳会談も実現するだろう。 ただ、北朝鮮の核放棄の終着点は、なお見えない。核の完全廃棄には、5年以上の時間と膨大な資金がいるからだ。  北朝鮮は、トランプ大統領が2年後に任期を終え再選はないと読む。大統領が変われば、核再開発の可能性が出てくることを期待しているのである。それを踏まえても、シンガポールでの首脳会談は「トランプ大統領の勝利」に変わりはないのである。 指導者の政治力は、サプライズの力で判断される。日本なら、小泉純一郎元首相がサプライズの天才だった。指導者の決断による、世界をあっと驚かせる提案や合意といったサプライズがないと、会談は失敗に終わる。トランプ大統領と金委員長は、相手の出方に合わせたサプライズを準備していたのである。 金委員長が、全てのミサイル発射台を破壊し核兵器の全面廃棄を約束して、核弾頭と科学者の海外移転に合意、日本人拉致被害者全員の帰国を応じれば、歴史的なサプライズだ。 トランプ大統領も、在韓米軍撤退と平和協定締結、米朝国交正常化を表明し、首脳の相互訪問に合意すれば、世界に大きな衝撃を与えることができる。米国の平壌連絡事務所設立や、大使館の相互設置もサプライズになるだろう。 米朝の指導者がシンガポール入りするまで、実務交渉は最終合意に達していなかった。北朝鮮は全てを指導者が握り、外務省高官に決定権がないからだ。しかし、指導者の指示を受けて交渉し、再び平壌に指示を仰ぐやり方では、時間がかかってしまう。2018年6月11日、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長が宿泊しているシンガポールのセントレジスホテル前に集まった報道陣(松本健吾撮影) そのため、トランプ大統領と金委員長は会談の2日前にシンガポール入りすることを選んだ。2人の首脳が近くにいる環境で、最後の交渉に首脳が決断を下したのである。歴史の行方を決める「最後の1日」 だから、首脳会談は事実上11日で終わっていた。2人は示し合わせたように、10日にシンガポール入りし、11日に最後の決断を下していたのである。金委員長側近の金英哲(キム・ヨンチョル)党副委員長が、この構想をトランプ大統領のもとに運んでいた。指導者が同じ場所にいれば、決定は早い。歴史の行方を決める「最後の1日」となった。 北朝鮮が南北首脳会談と米朝首脳会談を「提案」した時点までは、金委員長のサプライズがリードしていた。その後、トランプ大統領が首脳会談に応じ、シンガポールの開催を認めさせる反撃で、トランプ氏が逆転した。ところが、米朝双方は後に「北朝鮮が首脳会談を提案しなかった」という事実を認めた。韓国が仕掛けたのだろうか、謎は残る。 金委員長は形勢を立て直すため、中朝首脳会談と南北首脳会談を相次いで行った。中韓の指導者を味方につけて、「朝鮮半島の非核化」と、譲歩のたびに見返りを得る「段階的解決」を公言し始めたのである。だが、トランプ氏は朝鮮半島ではなく、あくまで「北朝鮮の完全非核化」と「非核化後の見返り」の方針を変えず、米中と米韓の関係は悪化した。 トランプ大統領は、なかなかの役者だ。交渉が行き詰まる中、北朝鮮がペンス副大統領とボルトン大統領補佐官を「人間のクズ」などの激しい言葉で非難すると、すかさず「会談中止」の書簡を金委員長に送った。 この交渉術は見事としか言いようがない。北朝鮮との交渉は、会談中止か中断を覚悟しないと譲歩を勝ち取れないからだ。一方「大統領書簡」で、トランプ大統領は金委員長を非難せず、「感謝」の言葉を3回も使う巧みな配慮も忘れなかった。 慌てた北朝鮮は「会談再開」を伝え、金副委員長をワシントンに送り、金委員長の親書を渡した。奇妙なことだが、この親書の内容は公表されていない。北朝鮮国内で公表されると困る内容だったのだろう。 金副委員長は、北朝鮮で「人の心を引きつける話術の天才」と評される。彼はトランプ大統領の心をつかみ、いくつかの願いを受け入れてもらうことに成功した。トランプ大統領は「最大限の圧力」の言葉は使わない、と明言し、親書の非公開にも応じた。2018年6月、米ホワイトハウスで北朝鮮の金英哲朝鮮労働党副委員長(左)と会談を終え、言葉を交わすトランプ米大統領(AP=共同) トランプ大統領の姿勢後退が報じられたが、あくまで北朝鮮軍部の反発を理解し、金委員長がシンガポールに来やすいように配慮したのである。 首脳会談のシンガポール開催は、ボルトン補佐官の提案だ。米国は、開催決定までの間、金委員長の軍部への指導力と北朝鮮内部の状況が情報機関の報告通りか確認しようとした。屈辱でも「会談」北朝鮮の苦境 実は、北朝鮮の指導者は、中国やロシアなど友好国しか訪問していない。もし、金委員長が遠く離れた場所に向かい、国を空ければクーデターが起きる可能性がある。また、北朝鮮軍部には米国が留守を狙って軍事攻撃する、との疑心暗鬼も生じる。北朝鮮がこうした不安を克服できるかを、見極めようとしたのである。 米国は、金委員長がシンガポール会談を受け入れたことで、北朝鮮の軍部を抑えることに成功したと受け止めた。朝鮮人民軍は、米国との核交渉と譲歩に強く反対していた。米国は、それでもシンガポールに来ざるをえないのは、国連制裁が効果を挙げている証拠だと理解した。 北朝鮮には途中給油なしにシンガポールへ移動できる飛行機はなく、中国が提供した。ホテルの宿泊代金の支払いにも問題が生じた。誇り高い北朝鮮にとって屈辱のはずだが、それでもシンガポールまで行かざるをえない状況が、北朝鮮の苦境を物語る。 朝鮮半島の国家は、李朝時代まで中国への「朝貢国家」であった。外交権と軍事権を中国に握られてきたのである。北朝鮮は、朝貢国家から脱却するために「主体(チュチェ)思想」を主張するようになる。 再び中国の影響下に組み込まれるのか、米国の影響力を取り入れるのか。北朝鮮はこの「歴史的選択」に直面し、米朝首脳会談に応じた。朝鮮半島全域に米国の影響力を呼び込み、中国の影響力を弱体化させる戦略を選んだのである。 一方、中国は、トランプ大統領の「反中政策」を緩和させるために、北朝鮮を利用しようと画策する。金委員長にシンガポール行きを促し、対米協力の姿勢を見せながら、北朝鮮が求める「非核化の段階的解決」を支援し、米国に対抗させようとしている。要するに、北朝鮮を「対米カード」に利用しているのである。 北朝鮮は、中国の影響力と支配から独立するためには、米国の影響力が必要だ。中国に完全に従わないためには、米国の支援も必要だ。中国国営通信新華社が2018年5月8日に配信した、中国遼寧省大連で会談する中国の習近平国家主席(右)と北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長の写真(新華社=共同) 「核保有国」のインドやパキスタンのケースを考えると、米国の友好国にならなければ、北朝鮮は「核保有国」とも認めてもらえない。だが、北朝鮮が米国と友好関係を築いて西側世界に近づくと、中国は当然反発する。微妙な駆け引きが、これから展開されるのである。 米朝首脳会談で、朝鮮半島全土に米国の影響力が及ぶ国際関係が初めて生まれる。朝鮮半島の国際関係は、新たな時代に入る。そして、日朝首脳会談が実現することで、拉致問題も解決に向かうであろう。

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    「親米国家」北朝鮮の誕生で日本の安全保障はこんなに変わる

    長との「世紀の対決」の注目ポイントは何か、考えてみたい。 今回の米朝首脳会談の結果次第では、北朝鮮とアメリカという「不俱戴天(ふぐたいてん)の敵」が「友好国」に一変する可能性を秘めている。実際、おそらく米朝首脳会談が始まる段階で「北朝鮮の非核化」とその見返りとなる「体制保証」という大きな「取引」の枠組みは決まっていると推測される。 ただ、枠組みをより具体的にさせ、友好国同士になるためには「敵」である米朝のどちらも相手に大きく譲歩する必要性がある。もし、譲歩が十分でなければ、米国側の経済制裁や軍事的圧力、北朝鮮の核・ミサイル開発の再開という昨年までの流れに戻ってしまうだろう。では、実際に何を米朝が譲ることになるのか。 米国側の「誘い水」ともいえる妥協のポイントは、すでに少しずつ明らかになっている。中でも、トランプ氏が日米首脳会談直後の記者会見で伝えたように、「朝鮮戦争終結宣言」は米国の考えるスタートラインのようである。北朝鮮に対する「敵視政策」を止めるという意思表示であり、あくまでも「協定」とかではなく、「宣言」ならしやすいという見方であろう。 また、米国の一部メディアがすでに指摘しているような米国の領事館や大使館を平壌に設立することで、人的交流を図り、米国が簡単に攻撃しにくいという状況を作り出すのが米国側の次の手でもある。人的交流の中には、同時に今後のトランプ氏の北朝鮮訪問や金正恩氏の米国訪問なども含まれるだろう。  ただ、こんなことはあくまでも序の口であろう。北朝鮮の体制保証はまず、非核化のペースと経済支援をめぐっての大きな攻防になるとみられる。 あくまでも、北朝鮮がもし、米国が望んでいる「完全で検証可能かつ不可逆的な廃棄(CVID)」に近い形で積極的で期限を切った非核化に取り組んだ場合、米国はかなり包括的な経済支援を行っていくのではないだろうか。2018年6月、シンガポールに到着し、バラクリシュナン外相(中央)と握手する北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長(バラクリシュナン氏のツイッターより、共同) 例えば、米国内に届くとされている大陸間弾道ミサイル(ICBM)だけでなく、日本や韓国に届く短・中距離のミサイルについても廃棄を決めた場合などは、経済制裁解除から始め、米国だけでなく、日本や韓国、中国と組んだ直接投資を広範に行っていくとみられている。北朝鮮の安い労働力を利用した工場進出だけでなく、豊かな鉱物資源の国際共同開発なども予想される。 利益相反になるかもしれないため、トランプ氏の家族が経営するホテルの建設は難しいかもしれない。それでも、韓国メディアが報じているように、トランプ氏の盟友である「カジノ王」シェルドン・アデルソン氏と協力した元山(ウォンサン)地域へのカジノ誘致なども有り得るかもしれない。日本には複雑な展開も この辺りの振興策はビジネスマンであるトランプ氏の本領発揮が期待される。だが、このような信じられない展開は、北朝鮮がどれだけ譲歩するかにかかっている。 一方で、日本にとっては複雑な状況もある。すでにトランプ氏は「経済支援の主体は日本や韓国、中国から」と公言している。 だが、言うまでもなく、日本にとっては「拉致問題が進展しなければ、経済支援はしない」という原則は崩したくない。安倍晋三首相が強調するように「拉致、核、ミサイル」の三つで北朝鮮が動かなければ、経済制裁解除や直接投資も動きたくないのが日本の立場だ。米朝関係が進展することで、日本は拉致問題解決のために、日朝首脳会談を急がないといけなくなる。 問題は経済関係だけではない。本格的に米朝の雪解けが進めば、日本の安全保障環境が劇的に変化するのは確実だ。「朝鮮戦争終結宣言」が「宣言」でなく「協定」となった場合、一気に国交正常化の動きが出る。 そうなれば、米朝には議会も関与する不可侵条約が締結されていくというのがシナリオとなる。当然、東アジアに残されていた「冷戦構造」も消えることになるが、必要がないはずの北朝鮮と戦うために配置している在韓米軍が縮小するという論理になっていくであろう。 実際のところ、在韓米軍は対中国の目的にも当然ながら利用されている。もし、在韓米軍が縮小される場合、縮小分だけ在日米軍の負担を大きくせざるを得ない。そのまま、日本の負担増につながってしまうのである。さらに、在韓米軍が大幅に縮小された場合、日本としては「前線」となってしまう対馬の防衛を自らが強化せざるを得ない状況になるのである。2018年6月7日、ホワイトハウスで行われた共同記者会見で握手する安倍首相とトランプ米大統領(共同) ただ、北朝鮮の狙いも複雑だ。北朝鮮が求める「朝鮮半島の非核化」には在韓米軍の撤退も含まれるという解釈が一般的である。だが、一部には別の解釈もある。例えば、北朝鮮が今後「親米国家」に生まれ変わった際には、中国を牽制したいという狙いのために、むしろ北朝鮮が在韓米軍の容認を望むという見方もあるのである。 このあたりをどう読み解くのか。日本としては注視し、状況に応じて機敏に対応すべきなのは言うまでもない。 いずれにしろ、「世紀の対決」の幕は今、まさに開こうとしている。その向こうに見えるのは、これまでとは全く別の風景かもしれない。

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    北朝鮮の「体制保証」と「人権改善」は両立できない

    崔碩栄(ジャーナリスト) 6月12日、米国と北朝鮮のシンガポール首脳会談が近づいている。一度はトランプ米国大統領の中止発表で無くなった思われた会談だが、北朝鮮側が積極的に開催の意志を示したことで会談の実施が決定、両国の実務陣が慌ただしく動いている。 5月27日からは板門店で米国側のソン・キム代表と北朝鮮側代表が事前調整を行い、北朝鮮の金英哲労働党副委員長が、米国を訪問し、トランプ大統領と面談をするなど、6月12にシンガポールで開催が予定されている日米朝首脳会談のための下準備が着々と進められている。 両国の要求は実に明確だ。米国が求めているのは、北朝鮮の完全な非核化であり、北朝鮮が求めているのは、金正恩の体制保証である。他にも、経済制裁解除、経済支援、北朝鮮の開放と人権問題、米軍駐留問題などの多くの事案が山積みだが、両国が最も重視している問題は「完全な非核化」と「金正恩体制維持」である。 会談において最も重要な話題はやはり「非核化」であろう。米国が迅速な「完全かつ検証可能、不可逆的な非核化(CVID)」を希望するのに対し、北朝鮮は時間をかけて少しずつ進めていく「段階的非核化」を主張。各国の専門家たちからはこの対立こそ会談の最大の障害物だと言われてきた。 しかし、トランプ米国大統領が6月1日米国で開かれた金委員長の最側近、金英哲党副委員長との面談で「時間をかけても構わない。速くやることも、ゆっくりやることもできる」と「段階的非核化」の引用する可能性を示唆したことで楽観論が広がっている。 もし米国が北朝鮮の段階的非核化を容認し、それに対する見返りとして、北朝鮮の体制を保証して、経済制裁を解除すればどうなるだろうか? 朝鮮半島から核と戦争の脅威がなくなり、南北が経済・文化交流を通じて繁栄を成し遂げる平和の時代が訪れるだろうか?ホワイトハウスで北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長の親書を金英哲党副委員長(左)から受け取るトランプ米大統領=6月1日(ホワイトハウス提供・共同) 少なくとも、文在寅政権をはじめとする北朝鮮に信頼と支持を送る人々にはそのように見えているようだ。しかし、北朝鮮の非核化と体制維持が実現されることはあっても、その結果として平和の時代が訪れることは不可能である。少なくとも北朝鮮という「国家」においては。なぜなら、北朝鮮の体制維持と北朝鮮の人権の改善は同時達成が不可能だからだ。 国際社会はこれまで北朝鮮の人権弾圧状況を批判し、改善を求めてきた。北朝鮮にある複数の政治犯収容所には8万人から12万人の政治犯とその家族が収監されていると推定されている。そして収容所内では、飢餓と強制労働、処刑、拷問、性的暴行、乳幼児殺害が頻繁に起きていることが、脱北者たちの証言によって明らかになっているのだ。 国連は、2006年以来、2017年まで毎年、北朝鮮人権決議案を採択し、北朝鮮の組織的な人権蹂躙を批判し、加害者処罰を促しており、米国国務省報告書は、「北朝鮮の住民は、政府を変える能力がなく、北朝鮮当局は、メディアと集会、結社、宗教、移動、労働の自由を否定するなど、住民の生活をさまざまな側面から厳しく統治している」と指摘している。自国民への過酷な弾圧こそ、金正恩体制維持の「必須条件」なのだ。金正恩がトランプより怖いもの 金正恩は執権してから無慈悲な粛清を続けてきた。自分の叔父の張成沢を始め、人民武力部長、内閣副総理、総参謀部作戦局長など執権6年間処刑と粛清された軍と党の幹部が数百人に上る。 一般国民についても同様である。脱北を試みて捕えられた人や国境地帯での密輸が見つかり逮捕された人はもちろん、韓国の歌、ドラマを所持したり、楽しんだという理由だけでも強制労働収容所に送られ、時には公開処刑が行われるなど、それは正に恐怖政治である。現在の金正恩体制を維持するためには、人権弾圧は続けるしかない。そうしなければ、体制の維持は不可能だからである。 徹底的に閉鎖された社会で生きてきた北朝鮮住民に開放と交流という経験は動揺をもたらし、それは自然に統治体制への不満と反発という連鎖を起こすだろう。金正恩にとってこれほどの脅威はない。もし米国が非核化の見返りに、金正恩体制の維持を保証したならば彼は依然として国民に閉じられた世界での生活を強いるに違いない。それすれば内部の動揺が広がることはない。しかし、北朝鮮内では何一つ変われず地獄のような状況が続くだろう。 もしかすると、金正恩にとって非核化より受け入れがたいのは、政治犯収容所の閉鎖と政治犯釈放などの人権問題かもしれない。核兵器が外部からの体制を守る「盾」だとすれば、恐怖政治と人権弾圧は、内部(自国民)の反発から体制を守る「武器」だからだ。 外部からの軍事的脅威より怖いのが、内部の反発から始まる体制の崩壊である。それは過去のソ連をはじめ東欧の共産国家が外部からの力の圧力ではなく、内部の反発と抵抗から崩壊した歴史がよく証明している。北朝鮮の立場からすれば、非核化より受け入れがたいのが自国内の人権問題への干渉かもしれない。 米国は人権にうるさい国だ。特に2016年に北朝鮮を訪問中に逮捕された後、脳死状態で釈放された直後に死亡した米国の大学生オットー・ワームビアの事件は、北朝鮮の凄惨な状況を世界に知らせ、米国民を怒らせするきっかけとなった。これを鑑みれば、米国が非核化の見返りに金正恩体制を保証することはまた新しいの非難を招くことになるかもしれない。会見に臨む北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長=2018年4月27日、板門店(韓国共同写真記者団撮影) 6月12日の会談で「非核化」の他に北朝鮮が米国に提示できるカードはない。一方、米国は「段階的非核化」という譲歩のカードだけでなく、経済制裁解除、経済支援など多くの魅力的なカードを持っている。 米国は果たして米本土攻撃の脅威を除去することに満足して、国際社会から非難される北朝鮮の人権弾圧を黙認するだろうか。それとも、非核化以外の厳しい条件を付けて、北朝鮮をさらに窮地に追い込むのか。米国の交渉術に注目する。チェ・ソギョン ジャーナリスト。1972年韓国ソウル生まれ。韓国の大学で日本学を専攻し、1999年渡日。関東地方の国立大学で教育学修士号を取得。日本のミュージカル劇団、IT会社などで日韓の橋渡しをする業務に従事する。現在、フリーライターとして活動、日本に関する紹介記事を中心に雑誌などに寄稿。著書に『韓国人が書いた 韓国で行われている「反日教育」の実態』(彩図社刊)、『「反日モンスター」はこうして作られた-狂暴化する韓国人の心の中の怪物〈ケムル〉』(講談社刊)がある。

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    「同情するならカネをくれ」金正恩がプーチンを見限った理由

    名越健郎(拓殖大学海外事情研究所教授) 昨年まで一度も外遊したことがなく、世界の「のけ者」だった北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長が一躍国際舞台の主役となり、各国首脳がこぞって面会に動いている。朝鮮半島外交で出遅れたロシアのプーチン大統領も9月にウラジオストクで開かれる「東方経済フォーラム」に金委員長を招待しており、巻き返しに必死だ。 プーチン大統領は9月11~13日の東方経済フォーラムに、安倍晋三首相、韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領、中国の習近平国家主席を招待しており、金委員長が出席すれば、5カ国首脳が一同に会することになる。 シンガポールの米朝首脳会談で米朝関係に進展があれば、トランプ米大統領も飛び入りする可能性があり、その場合、歴史的な「6カ国首脳会談」の開催となる。そこでは日朝首脳会談も実現し、日本人拉致問題が一気に解決に向かうかもしれない。 米朝首脳会談に続く焦点は、ウラジオストクの「5カ国(または6カ国)首脳会談」となり、外交によるかけ引きが続きそうだ。こうした中で、プーチン大統領は朝鮮半島の緊張緩和、核問題解決で主導権を握ろうとしているかにみえる。 ロシアのラブロフ外相も最近、「北朝鮮非核化の最終段階で、すべての国が参加する多国間協議の開催は避けられない」と述べ、6カ国プロセスの主導に意欲を見せている。 ロシアは2014年のウクライナ危機後、欧米の経済制裁を受けて孤立が続くが、先のG7(主要7カ国)サミットでは貿易通商問題で欧米の亀裂が露呈。5月にはメルケル独首相、マクロン仏大統領、安倍首相が訪露した。今月14日からのサッカーW杯ロシア大会の主催もあり、一気に国際的孤立の脱却を狙っているようだ。プーチン大統領 積極的な朝鮮半島外交も孤立脱却戦略の一環だろう。朝露間では、5月末にラブロフ外相が9年ぶりに訪朝し、金委員長と会談。段階的な非核化の方向性で一致した。 ロシアでの報道によれば、W杯開会式には北朝鮮の序列ナンバー2、金永南(キム・ヨンナム)最高人民会議常任委員長が出席する。9月初めには、マトビエンコ上院議長が訪朝し、10月にロシア議会代表団が訪朝するなど、両国の交流が一気に活発化する。 ただ、金委員長が9月にウラジオストクを訪問するかどうかは微妙だ。金委員長は15年5月にもロシアの対独戦勝70周年式典に出席を計画していたが、10日前にドタキャンした経緯がある。 この時は、当時の玄永哲(ヒョン・ヨンチョル)人民武力部長(国防相)が金委員長の訪露準備で同年4月に訪露したが、帰国後公開処刑され、ロシア側が不快感を表明。その後、朝露関係は停滞していた。「脇役」にすぎないプーチン 外交経験に乏しい34歳の金委員長が、国際会議デビューを果たすのか、プーチン大統領や安倍首相ら首脳外交のベテランと渡り合えるのか。北朝鮮の改革開放を探る上で重要な試金石となる。 ロシアは北朝鮮核問題では、米国の強硬論をけん制し、対話による解決、段階的非核化を支持してきた。 プーチン大統領は6月8日、北京で習主席と会談し、北朝鮮の非核化に歩調を合わせて対応することで一致。北朝鮮が求める体制保証を中国とともに後押しする考えを示した。ウラジオストクに関係国首脳を集め、朝鮮半島外交で一気に主導権を握る野望がにじむ。 しかし、ロシアの朝鮮半島政策には「実力不足」も目に付く。第一に、中国はロシアが主導権を握ることを望んでおらず、中露は半島外交で一枚岩とはいえない。6カ国協議を主催してきた中国は、自らイニシアチブを取ろうとするだろう。 第二に、ロシアには北朝鮮に経済援助を行う能力がない。2015年の朝露貿易は往復8400万ドルにすぎず、57億ドルの中朝貿易の1・4%にすぎなかった。中国が石油や食糧の一部を無償供与するのに対し、ロシアは市場価格での決済に固執しており、援助能力はない。国連安保理決議を受けて、武器輸出も禁止している。 第三に、ロシアはソ連時代と違って、北朝鮮と利害を共有する同盟関係ではなく、後ろ盾でもない。シンクタンク「国際危機グループ」(ICG)が指摘したように、露朝関係は「実利に基づく制限された友好関係」と位置づけられよう。APEC首脳会議の写真撮影に向かうトランプ大統領(手前右)とプーチン大統領=2017年11月、ベトナム中部ダナン(共同) 日本は半島外交で出遅れたといっても、拉致問題が解決して関係が正常化した場合、大型援助を行うことが小泉純一郎首相訪朝時の日朝平壌宣言に明記されており、いずれ日本の出番が必ずくる。 しかし、ロシアには支援能力がなく、北朝鮮はそれを熟知していよう。北朝鮮からすれば、「同情するなら、カネをくれ」ということだ。 ロシアは半島外交で、反米外交を進め、日米韓の連携を阻止し、存在感を高めて孤立脱却を図ろうとするだろうが、しょせん影響力は限られ、「脇役」にすぎない。とはいえ、キーパーソンとなった金委員長の対応次第で、9月にロシアが関係国首脳会議を主催する可能性もあり、見逃せない展開となってきた。

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    米朝首脳会談 安倍首相は舞台に立てぬまま外交的敗北

     米朝首脳会談では、安倍晋三首相は自ら檜舞台に立てないまま“外交的敗北”を味わうことになりそうだ。それほど、トランプ大統領のあの言葉は首相に大きなダメージを与えた。「『最大限の圧力』という言葉はもう使いたくない」。金正恩氏の書簡を携えてきた“北のスパイの親玉”金英哲・朝鮮労働党副委員長との会談後、記者団に上機嫌でそう語ったときだ。 よりショックな内容はその前段の発言にあった。トランプ氏は金正恩氏の密使との2時間にわたる会談で非核化から経済制裁の解除、朝鮮戦争の終結まで「我々はほぼ全てのことについて話した」と語りながら、日本が強く望んでいる拉致など人権問題については「今日は話していない」と断言。そのうえで「北朝鮮への経済協力は韓国、中国、日本がすると思う。米国が多額の資金支援をすることはない」と踏み込んだ。 商売人のトランプ氏は「拉致被害者が全員帰国するまでビタ一文出せない」という方針をとってきた安倍首相に、聞こえよがしに“NO”のメッセージを送ったのだ。 首相は急いで米国に飛んでトランプ氏と会談したが、外交専門家の間では安倍外交の孤立がはっきりしたと受け止められている。武藤正敏・元駐韓大使が語る。「安倍総理は拉致問題をなんとか米朝首脳会談の中に組み込んでもらおうとトランプ大統領に働きかけてきた。しかし、当事者双方の事情を見ると、それは叶いそうにないと考えられる。北朝鮮側は金正恩自身の命と国家の存亡を賭けた交渉で、一方のトランプ大統領は今秋に中間選挙を控えている。米朝ともに自分のことで精一杯で、日本の事情を考える余裕はない」安倍晋三首相=2018年5月14日、首相官邸(春名中撮影) 外交のプロから見てもトランプ発言は決定的だった。「トランプ氏が核・ミサイル開発と並んで拉致問題を重視しているなら、金英哲氏との会談で自ら拉致に言及し、本番の首脳会談で前向きな回答を用意しておくように求めてもおかしくなかったが、人権問題には言及さえしなかった。つまり、日本の方針とは逆に、拉致問題は棚上げで、制裁強化は先送りの方向に進んでいるということ。まさに安倍外交は孤立する形になっている」(同前) 北朝鮮は日米の離間に成功したと見るや、「拉致問題はすでに解決された」「過去にわが民族に与えた前代未聞の罪をまず謝罪し、賠償すべきだ」と外交的宣伝攻勢を掛けてきた。関連記事■ 北朝鮮外交に巻き込まれるな 安倍首相は「高みの見物」を■ 金正恩氏の「執事」の正体、五輪参加など北朝鮮外交影の主役■ 米朝首脳会談 壮大で愚かな「政治ショー」で終わる可能性■ 高須院長 米朝会談で指摘「韓国は相当空気が読めてない」■ 安倍昭恵さん、ロシア行きをめぐりけっこう批判出た