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    トランプの「内なる敵」

    「ケネディ以来の歴史的快挙だ」。大統領就任後、初の審判となった米中間選挙について、トランプ氏はこう自賛した。「ねじれ議会」の結果にも強気を崩さず、トランプ流はエスカレートするばかりだ。分断した米国社会の一端も見えた今回の選挙。四面楚歌を地で行くトランプはどこへ向かうのか。(写真はロイター=共同)

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    米国民の選択は「まあ、いいか」 トランプはリベラルよりも強し

    米国を、いや世界中を騒がせてきたのか、その結果とも言えるだろう。 そのせいか、朝から主要メディアは「アメリカの運命が決まる」「トランプの今後が決まる」と騒ぎ立ていた。しかし、ここニューヨークは、静かなものだった。ニューヨーク州は民主党の鉄板の牙城で、無風もいいところだからだ。 「トランプの出身地であり、マンハッタンのど真ん中にはトランプタワーが建っているではないか」などと言っても、そんなことは選挙には全く関係ない。ここの人々は、ほぼ誰もトランプなど相手にしていない。 今回、ニューヨーク州の上院議員選挙は、2人の議員のうち、チャック・シューマー議員(民主党)は非改選で、改選されるのはカーステン・ギリブランド議員(民主党)だったが、予想通りに圧勝した。何といっても、彼女は民主党の女性議員の中ではエース的な存在である。本人は出馬を否定しているが、2020年の大統領候補の一人と目されている。 トランプが「フェイクニュース」と呼ぶメディア、CNNは出口調査で、議会にもっと女性議員を増やすべきかどうかという質問を行ったが、約8割の人間が「重要だ」と回答していた。そんな中、ギリブランド議員は、トランプが「ポカホンタス(米先住民女性の名前)」と呼び、既に2020年の大統領選に出馬を表明しているエリザベス・ウォーレン議員(マサチューセッツ州)と並んで、今後の民主党の女性議員を引っ張っていく存在である。 ただし、ギリブランド議員と争った共和党候補も、チェリー・ファーレーという、夫が弁護士で自身がエクイティ投資家という才女だった。このような図式を見ていると、トランプ以後は、米国初の女性大統領が誕生するのは間違いないのでは、と思う。 それにしても、米国の選挙を見て思うのは、これが「民主主義大国」の選挙なのかということだ。大統領選挙は投票率が6割に達するが、中間選挙は前記したように4割がやっとだ。つまり、6割の人間が選挙に行かない。これは、日本の国政選挙の比ではなく、世界でも下から数えた方がいいというひどさだ。※写真はイメージです(ゲッティイメージズ) よって、日本のメディアが得意げに解説する「米国民の意思」=「民意」などというものは、選挙にはあまり反映されない。 なぜ投票率が低いのか。選挙民が「平気で嘘をつく」トランプに怒りを感じていないからではない。投票日が火曜日だからだ。これでは多くの人間、特に時間給を稼がなければならない低所得層は選挙になど行けない。火曜日投票をやめない理由 会社によっては、休みを認めたり、投票後出勤を認めたりしているが、それはホワイトカラーの話である。 しかも、米国には住民登録制度がないので、投票のための有権者証明ハガキなどは送られてこない。選挙権を行使したければ、有権者自身が事前に有権者登録を行う必要がある。これは非常に面倒臭く、余裕のある人間しかやらない。 なぜこんなシステムになっているかというと、1845年に制定された連邦法が改正されていないからだ。当時、米国は農業国で、人々は日曜日に教会に行き、移動手段は馬車が基本だった。 そのため、月曜日に馬車で投票所に出向いて一泊し、火曜日に投票することがもっとも理にかなっていたのだという。しかし、今やこれは完全な時代錯誤である。 一説に、日曜日などに選挙を行うのは労働者の休日を奪うことになるから、このシステムは「国民のためを考えてのものだ」という話がある。しかし、こんなことを鵜呑みにするのは、とんでもない「情弱」と言わざるを得ない。 米国が火曜日投票を止めない、今ではすぐにでもできるインターネット投票を採用しないのは、その方がエスタブリッシュメント(支配層)に都合がいいからである。一般のワーカーが大挙して投票したら、何が起こるか分からない。それで、投票に行きにくい日をわざと投票日にしていると考えた方が自然だ。 しかも、中間選挙は上院、下院議員を選ぶだけではない。州上院議員、州議会議員、州最高裁判事、州長官、市議会議員、教育区委員などをまとめて選ぶことになっている。そのため、誰が候補者かも知らない人間が多く、結局、行かない人間の方が多くなるのだ。 トランプはそれを知っている。それで、白人低所得者層の恐怖を煽って「お前ら移民に仕事を奪われるぞ!」と叫び、投票所に行かせることに成功した。それが前回の大統領選挙である。 ラストベルト(さびついた工業地帯)にいるトランプ支持者たちは、大体が怠け者だ。仕事がなければ朝からダイナー(レストラン)に行き、クアーズビールを飲んでステーキを平らげている。彼らはこれまで選挙に行ったことがなかった。それが前回、メディアの予想を裏切って選挙に出掛けた。 そして今回もまた「ワシントンDCの連中の中で、オレだけが本音を言っているのだ」というトランプに投票したようだ。これに、都市部のインテリ白人の中にいる「隠れトランプ」が加わったので、「ブルーウェーブ」(民主党の「青い波」)の勢いは、選挙直前に失速してしまった。ホワイトハウス(ゲッティイメージズ) しかし、私はつくづく思うが、選挙取材など、ほとんどが無駄だ。日本のメディアの記者や米政治研究者などが格好をつけるために、かなりの数がこちらに取材に来て、有権者の声を聞いたりしている。そうして、激戦州やワシントンDCからリポートを送っている。 だが、そんなものは何の役にも立たない。この前のトランプ当選や英国の欧州(EU)離脱を顧みれば、いかに取材して予測することが虚しいかが分かるだろう。NYの投票所の光景 前回の大統領選では、米メディアと世論調査を信じて「ヒラリー・クリントンで間違いない」という記事を書いた私としては、今回もこのことを痛感する。予想は競馬だけにしておきたい。 そうは言っても、ニューヨークに滞在中なので、投票所に出向いてみることにした。ここはマンハッタンのミッドタウンサウス。連邦議会下院の選挙区では第12区、州上院選挙区では第28区、州議会選挙区では第75区というようになっていて、一番近い投票所はレキシントン街25ストリートのバルーク・カレッジの中にある。 雨の中25ストリートを歩くと、マディソン・スクエア・ガーデンの交差点手前で、英エコノミスト誌が選挙インフォメーションブースを出していて、通行人に無料のコーヒーを提供しながら、年間購読を勧めていた。呼び止められて、少しだけ話を聞いたが、商魂たくましいと思った。 投票所に着くと人影はまばらだ。大学のキャンパス内だというのに、投票者は若者より老人が多い。その老人を捕まえて、メディアが出口調査を行っていた。いかにもニューヨークらしいと思ったのは、投票所を示す張り紙に中国語が書いてあったことだ。 連邦議会の下院は、人口比により全米で435の選挙区に別れていて、ニューヨーク州には27選挙区がある。下院議員の任期は2年で、435人全てが改選となったが、ニューヨーク州はほぼ変動がなかった。全体的に民主党が完勝した。 そんな中で、第14区で予備選挙から旋風を巻き起こした元バーテンダーのアレクサンドリア・オカシオコルテス候補(民主党)が勝ったのには、さすがに少々驚いた。バーモント州の上院選で当選したバーニー・サンダース議員の申し子の、バリバリの左派。29歳という若さで、最年少の女性連邦議会議員となった。2018年11月、バルーク・カレッジの中にある投票所入口=ニューヨーク(山田順氏撮影) もちろん州知事選も行われた。こちらは完全無風といってよく、現職のアンドリュー・クオモ氏(民主党)が難なく3選を果たした。今回の知事選で注目されたことと言えば、映画『セックス・アンド・ザ・シティ』に出演した人気女優で、リベラル派の活動家としても知られるシンシア・ニクソン氏が、予備選でクオモ知事に挑戦したことだった。全く相手にならずに敗れたが、ニューヨークらしい出来事とはいえた。 それでは、ここからはどのメディアも注目した「民主党VS共和党」の勢力図の変化を見ておこう。 まず、今回の選挙で考えられた「結果」は、次の4通りだった。(1)上下院で共和党が過半数を維持する(現状のまま)(2)下院は民主党の過半数となるが、上院は共和党が過半数を維持する(ねじれ議会になる)(3)上院で民主党が過半数を取り、下院は共和党が過半数を維持する(4)上下院ともに民主党が過半を獲得する 選挙前、ほぼ全メディアが(2)となると予測していた。次が(1)で、その次が(4)、最後が(3)だった。政治情報サイト「リアル・クリア・ポリティクス(RCP)」は、選挙前日に次のような予測を出した。下院(定数435、過半数218):民主党優勢202、共和党優勢195、接戦38上院(定数100、過半数51) :非改選を含め、共和党50、民主43、接戦7メディア予想に大外れなし 下院はほぼ的中したが、上院はなんと共和党が議席を予想外に増やしてしまった。これにより「共和党は辛うじて過半数を維持する」とした予想屋は大恥をかいたが、トランプとしては、まさに「してやったり」だ。 調子に乗って「今夜はものすごい成功だ。みんなありがとう!」(Tremendous success tonight. Thank you to all!)とツイートする始末だった。しかし、前回の大統領選と違って、メディアの予想に大外れはなかった。 こうして米議会は、下院は民主党が握り、上院は共和党が握るという「ねじれ状態」になったが、これまでとそう大きくは変わらないだろう。大方の日本のメディアは「民主党が下院において過半数を握ったということは、大統領が出してくる政策を阻止できるので政治状況は混迷を深める」などと指摘しているが、本当にそうなるかどうかは分からない。 民主党は今回の選挙でとことん疲れて、やる気を失っている。そのため、しばらくは「トランプよ、勝手にやってくれ。落とし前は次の選挙でつける」と体制立て直しに専念するだろう。つまり、トランプが自動車関税をふっかけ、自由貿易協定(FTA)交渉をねじ込んできても、米議会は反対などしない。 上院で共和党が過半数を維持したとはいえ、トランプにとって頭痛のタネがある。なぜなら、トランプは共和党を分捕っただけで、もともと共和党員ではないからだ。 彼には政策、主義というものがないから、共和党の穏健派は彼を嫌っている。つまり、敵は内部におり、特に女性議員はトランプを毛嫌いしている。マディソン・スクエア・ガーデン近くに英エコノミスト誌が出した選挙情報のための臨時ブース=ニューヨーク(山田順氏撮影) 今回、民主党の追い上げがあまりに厳しかったため、テキサスでは大統領選であれほどトランプを罵ったテッド・クルーズ議員が、トランプに応援をおねだりするという醜態を見せた。その結果、民主党のベト・オローク候補の猛追を振り切ったが、これで、彼は「トランプの犬」になったも同然だ。 しかし、女性議員はそんなことはしない。その筆頭は、メーン州のスーザン・コリンズ議員とアラスカ州のリーサ・マーカウスキー議員である。この2人は、オバマケア(医療保険制度改革)見直し、減税法案、ブレット・カバノー氏の最高裁判事承認などに対して反対を表明してきた。カバナー承認問題では、最後には仕方なく賛成に回ったに過ぎない。 2人とも今回は改選ではなく、2020年に改選されるが、早くも「民主党に鞍替えすべき」という話が飛び出している。 今回の上院選では、いくつかの州が全米の注目の的になった。レッドステートの波乱 まずはテネシー州だ。ここは強固な共和党の地盤で、「レッド・ステート」(赤い州)と呼ばれる州の一つだが、今回、有力議員のボブ・コーカー氏が引退したため、共和党新人の女性候補マーシャ・ブラックバーン氏と民主党新人のフィル・ブレ-デセン元同州知事の争いとなった。 というより、全米を代表する地元のカントリー歌手、テイラー・スウィフトが反トランプを表明したため、注目の州となったと言った方がいいだろう。 なんといっても、トランプ支持者はカントリーソングが大好きだ。テネシー州の州都ナッシュビルはその中心地である。 そのため、テイラーの反トランプ宣言は反響が大きく、民主党支持者が少なかったテネシー州で、なんと6万5千人が有権者登録をし、期日前投票をした。そして、有権者は4年前の中間選挙から約3倍に増加したと伝えられてきた。 しかし、蓋を開けてみればブラックバーン候補の完勝。トランプ人気の根強さを見せつけた結果となった。 続いてフロリダ州を見てみよう。ここは、大統領選でも勝敗を分けた「スウィング・ステート」(接戦州)の一つ。毎回、大接戦が続いてきた。それもそのはず、人種別人口構成比は、白人が約5割、ヒスパニック約2割強、アフリカ系1・5割、アジア系・その他0・5割と、まさに米国の「今」を象徴している。 ところが、民主党現職のビル・ネルソン上院議員は、ここで2000年に初当選して以来18年も議員を続けてきた。2006年と2012年の2回とも共和党の挑戦者を退けてきたのである。彼はフロリダ生まれ、フロリダ育ちのコテコテの地元政治家である。 ところが、今回は大接戦の末に落選してしまった。今回の共和党候補は、これまでと違う大物で、州知事から鞍替えして来たリック・スコット氏だったからだろう。スコット氏は、全米有数の病院チェーンの経営者を務めた後、ベンチャーキャピタリストとして巨万の富を築いた人物である。2018年11月6日、米中間選挙で、トランプ大統領のまねをする共和党の支持者=米フロリダ州オーランド(ロイター=共同) さて、今回の中間選挙では、実は州知事選の方が、トランプにとっては重要な意味を持っていた。というのは、大統領選のキャンペーンでは、寄付金を募ったりボランティアを集めたりする場合、州知事が党候補のサポートすることになるからだ。 となると、今回の中間選挙で選出された新州知事が、2020年の大統領選に大きな影響を持つ。トランプは臆面(おくめん)もなく大統領を続けると言っているので、その際には州知事たちの支持が必要だ。注目のフロリダは共和党 今回は、全米50州中36州で知事選が行われたが、目ぼしいところは、共和党が獲った。注目されたのは、フロリダ州とジョージア州だったが、2州とも共和党が獲ったのである。 フロリダ州知事選では、同州初の黒人知事を目指す民主党のアンドリュー・ギラム候補が、トランプ支持を前面に押し出してきた共和党のロン・デサンティス候補をリードしていると言われてきた。 また、ジョージア州でも、民主党のステイシー・エイブラムス候補が優勢と伝えられてきた。このエイブラムス氏は黒人女性。これまで、黒人女性が知事になったことはないので、初の黒人女性知事の誕生かとメディアは注目した。 しかし、2候補とも大激戦の末に落選した。フロリダ州では、デサンティス候補が黒人のギラム候補を「モンキー」と呼んだにもかかわらず、勝利した。 また、ジョージア州の共和党候補、ブライアン・ケンプ氏は州務長官で、ゴリゴリの共和党保守派のトランプ追随者だ。結局、トランプはリベラルより強いということなのだろう。 こうして、米中間選挙は幕を閉じ、これから2年間、世界はトランプに振り回されることになった。私自身は、左派でもリベラルでもなく、どちらかと言えば民主党より共和党の方に親近感があるが、トランプだけはいただけない。こんな人物が世界覇権国、米国のリーダーであっていいのだろうか。 結局、今回の中間選挙では、女性票や若者票が大きく動かなかったと推測される。各種調査によると、大学の奨学金返済に苦しむ若い世代は、多くが民主党支持者であり、彼らが投票に行けば、選挙結果が大きく変わった可能性があった。何しろ、トランプ支持者は年寄りが多いのだ。 人間、歳をとるにつれて、保守的になり、現状を変える気がなくなってくる。そこを目がけてトランプは、これまで無茶苦茶な発言を投げつけ、その結果、老人の心の中に眠っていた差別意識や恐怖心を引きずり出してきた。 つまり「分断」である。もはや、米国はトランプによってズタズタに分断されてしまった。2018年11月6日、米中間選挙で投票所を訪れた下院選の民主党・女性注目候補、オカシオコルテス氏=ニューヨーク(UPI=共同) しかし、これから米国を築く新しい世代である「ミレニアル(新千年紀)世代」は分断を望んでいない。現在では、ミレニアル世代が成人人口の30%近くを占め、これまで最大勢力だったベビーブーマー世代と同様なパワーを持つようになっている。彼らは、1980年から1990年代半ばまでに生まれ、現在は20代前半から30代後半にあたる。 果たして、今後、彼らはどう動くのか。そして「ガラスの天井」を打ち破れないまま来ている女性たちはどう動くのだろうか。今回は、トランプがこのまま大統領でも「まあ、いいか」という結果になったが、次の大統領選挙では全く分からない。(一部敬称略)

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    「反トランプ」のうねりはなぜ起こらなかったのか

    中岡望(東洋英和女学院大客員教授、ジャーナリスト) 11月6日にアメリカの中間選挙が行われた。任期2年の下院議員435議席と、任期6年の上院議員100議席のうち3分の1の35議席が改選された。通常、中間選挙は大統領選挙と同時に行われる本選挙に比べると関心が低く、投票率も低いのが特徴である。また、もう一つの特徴は、与党が議席を失うケースが多いことだ。 ただ、今回の中間選挙は従来とは異なった様相を見せていた。多くの論者やメディアはこぞって「アメリカの選挙史上、最も重要な選挙」であると指摘していた。すなわち、単なる議員の改選にとどまらず、トランプ大統領の「信任投票」の意味合いも含まれていたからだ。世論調査でも、60%以上が、トランプ大統領が投票決定の要因になると答えている。 トランプ大統領の2年間の政策はアメリカの政治や社会を大きく変えただけでなく、戦後、アメリカが作り上げてきたリベラルな国際秩序も逆転させるものであった。トランプ大統領は「アメリカ・ファースト」や「アメリカを再び偉大にする」、「雇用を取り戻す」というスローガンを訴え、中西部や南部の白人労働者、妊娠中絶や同性婚に反対する立場をとることで「エヴァンジェリカル」と呼ばれるキリスト教原理主義者などの支持を得てきた。 また、公然と白人至上主義やネオナチを支持し、ナショナリズムを主張するだけでなく、人種差別や女性差別的な発言を繰り返し、物議を醸していた。人種的多様化にも否定的で、不法移民を犯罪者扱いするなど、従来のリベラルなアメリカ社会を根底から覆す政策を取ってきた。 同時に共和党は大統領選で勝つためにトランプ大統領と「悪魔の取引」(『民主主義の死に方』で著者が使った表現)をした。伝統的な保守主義者を共和党から排除したことで、穏健派は口を閉ざし、共和党はトランプ大統領の言いなりになる「トランプの党」へと変貌していった。そしてトランプ大統領は反対者やメディアを口汚く罵(ののし)り、極めて権威的な政治体制を作り上げてきた。 今回の中間選挙でも、劣勢が予想される共和党候補を支援するため、積極的に支援活動を展開してきた。トランプ大統領が取った戦略は、移民の増加で白人社会が消滅すると強調し、白人有権者に恐怖感をあおった。移民に対する怒りを植え付け、国民を分裂させることで、「トランプ連合」と呼ばれる支持層を結束させようとした。 『ニューヨーク・タイムズ』は、この戦略を「南北戦争以降、どの大統領もやったことのないような方法でアメリカ社会に人種的な分裂を引き起こし、今回の中間選挙は最も両極に分裂した」(11月5日)と分析している。 中間選挙は、有権者がトランプ大統領の政策や理念にどのような判断を下すかが最大の焦点となっていた。選挙前の調査では、下院は民主党が過半数を占めるが、上院は共和党が過半数を維持するというのが大方の予想であった。米オハイオ州のクリーブランドの集会で、父のトランプ大統領(右)の隣で演説するイバンカ大統領補佐官=2018年11月(ロイター=共同) まだ議席の最終確定はしていないが、予想通り民主党が過半数の218議席を上回った。ただ、民主党が圧倒的勝利を収めたとはいえない。オバマ政権が誕生して2年後の2010年の中間選挙では民主党は63議席を失う大敗北を喫している。それから見れば、今回の議席喪失は30議席程度で想定を上回っているが、共和党にとっては大敗北とはいえない状況である。 上院は、現時点では共和党は3議席増やして、非改選を含め51議席を確保している。民主党は3議席失い、非改選を含め46議席にとどまっている。未確定の選挙区もあり、民主党がさらに議席を失う可能性も残っている。起きなかった「ブルー・ウェーブ」 上院選挙に関していえば、民主党は厳しい戦いを強いられていた。そもそも、改選議席が共和党議員と比べると圧倒的に多かったからだ。さらに26の改選州のうち10州は大統領選でトランプ候補が勝利したトランプ支持の州である。 もう一つ注目される選挙は州知事選だ。共和党は伝統的に州知事選では強く、圧倒的な数を占めてきた。前回の知事選では、共和党候補が33州で勝利し、民主党候補の勝利は16州にすぎなかった。 今回の選挙では、現時点で民主党候補が7州で共和党候補に勝利し、現職の再選を含めて22州で勝利を収めた。共和党候補の勝利は25州にとどまった。下院と知事選では民主党が勝利し、上院では共和党が勝利するという結果となった。これに対して、トランプ大統領は選挙後、「今夜は大勝利である。皆さんに感謝する」とツイートしている。 また、選挙前にトランプ大統領はAP通信とのインタビューに答えて「下院が負けても自分の責任ではない」と予防線を張っていた。上院の予想を上回る勝利に安堵したのは間違いないだろう。 今回の選挙の特徴は、民主党も共和党も支持者の投票率を高めることに注力したことだ。通常、中間選挙では投票率が低下する。特に民主党支持者の投票率が低下する傾向がある。他方、共和党支持者は党に対する忠誠心が強く、民主党よりも高い投票率を示してきた。 だが、今回は有権者の関心が極めて高かったのが大きな特徴である。特に民主党支持者は、トランプ大統領の政策に対して極めて強い懸念と怒りを抱いており、強い危機感が投票率を高めた。そうした選挙に対する関心の高まりは「ブルー・ウエーブ」と呼ばれた。 ブルーは民主党を示す色である。ブルー・ウエーブの高まりが下院での民主党勝利に結びついた。ただ、ブルー・ウエーブは「波」にとどまり、「津波」になって共和党を圧倒するところまではいかなかった。オバマ大統領の誕生を支えたような大きなウネリは起こらなかったのだ。 ただ、下院での民主党勝利の背景には、女性の有権者がトランプ大統領に反発し、民主党候補を支持したこともある。郊外の住む中産階級の高学歴の既婚女性は共和党支持が多かったが、今回は民主党支持に回ったとみられる。投票所で報道陣に囲まれる下院選の民主党女性候補、オカシオコルテス氏=2018年11月、ニューヨーク(AP=共同) もう一つの特徴は、女性が主役であったことだ。女性候補者は過去最高を記録している。下院では少なくとも95人の女性候補の当選が見込まれている。そのうち70人が民主党候補で、28人が新人である。 結果として、民主党の支持者動員は成功したといえる。では、なぜ民主党は圧倒的な勝利を得ることができなかったのか。それは同時に共和党の動員戦略も奏功し、多くの共和党支持者も投票所に足を運んだからである。 トランプ大統領の恐怖と不安をあおり、国境に押しかける中米からの移民を求める人々を批判する戦略が共和党支持者に浸透したことは間違いない。民主党支持者がトランプ大統領に危機感を抱いて投票したのと同じように、共和党支持者は不法移民によって白人社会が消滅するかもしれないという恐怖感を抱いて投票所に向かったのである。それが全体の投票率を高めた。乱発が予想される「大統領令」 現在のアメリカの政治の現実を見ると、選挙運動を通して支持者を増やすことは期待できない。共和党支持者はどんなことがあっても共和党支持の立場を変えないし、トランプ大統領がどんな大統領であっても支持し続けるからだ。民主党にも同様な傾向がある。お互いが自分の支持層にのみ語りかけているのである。 選挙の結果は、いかにして支持者を投票所に向かわせるかによって決まるといっても過言ではない。無党派をどう取り込むかも勝敗を大きく分けるが、政治の両極化が進む中で無党派層も政治的な色分けが明確になってきており、風の向きで支持政党を変える可能性は小さい。 では、選挙結果はトランプ大統領にどのような影響を与えるのであろうか。下院の敗北や州知事選での後退によって、政策の軌道修正を図るのだろうか。その可能性は皆無であろう。むしろ上院の勝利によって大統領に対する支持が確認されたと主張するだろう。 また、常套(じょうとう)手段であるが、下院選挙で不正が行われたと主張するのは間違いなく、民主党に対する対決姿勢を強めていくことは間違いないだろう。 ただ、議会は民主党が下院で、共和党が上院で多数派を占めることになる。議会運営はますます困難になるだろう。下院は民主党が過半数を占めたことで、常設委員会の委員長のすべてを占めることになる。予算案の作成を担当する歳出委員会や財政委員会は、トランプ大統領の予算案や減税案に反対するだろう。 一方、トランプ大統領のロシア疑惑などを審議する司法委員会は、トランプ大統領に関連する様々な疑惑や不正行為の調査を始めたり、弾劾問題を取り上げたりする可能性がある。2020年の大統領選を見据え、下院民主党との対立が先鋭化するのは間違いない。 トランプ大統領の下で行われた環境規制や金融規制などの規制緩和の政策の見直しも行われるだろう。移民政策も大きな対立点になると予想される。ただ、共和党が上院で過半数を確保したことで、任命人事はトランプ大統領の思い通りに進むことになる。特に連邦裁判所判事に保守派を登用する動きは強まるとみられ、連邦裁判所判事の承認に際して、上院はフィリバスター(議事妨害)を使えないので、過半数で承認することが可能である。 さらに、トランプ大統領は下院民主党との対立が強まれば、議会を迂回(うかい)する手段として「大統領令」を乱発すると予想される。この2年でも多くの大統領令を出してきたが、連邦裁判所の違憲判決に合い、トランプ大統領の思い通りには進まなかった。だが、トランプ大統領はゴーサッチ最高裁判事とカバノー最高裁判事を任命し、9人の最高裁判事のうち5人が保守派が占め、大統領令に対して違憲判決を下す可能性は少なくなっている。米中間選挙で共和党候補を支持し、トランプ大統領を応援する旗を掲げる人たち.=米フロリダ州オーランド、2018年11月(AP=共同) 先の大統領選で、オバマ大統領に対して共和党が一致団結して抵抗したことが思い起こされる。おそらく民主党もトランプ大統領に対する対決姿勢を強めることは間違いない。今後、トランプ大統領と民主党の対立は深刻化し、議会が機能しなくなるだろう。 いつものことだが、選挙が終わると、識者やメディアは「アメリカは2つに分裂している」というコメントを出すが、今回の選挙は改めてアメリカ社会の分裂の深刻さを示したといえる。

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    トランプ「下院敗北」が持つ本当の意味

    舛添要一(前東京都知事) 11月6日に投票が行われた米中間選挙は、事前の予想通り、上院(全100議席)は共和党が多数派を維持し、下院(全435議席)は民主党が多数派を奪還した。 この結果、議会は「ねじれ」状態となり、今後のトランプ大統領の政権運営が思い通りに行かない可能性が強まった。選挙結果の詳細な分析は、すべてのデータがそろった後になるが、今の段階で説明できる点を以下に記してみたい。 まずは、期日前投票の出足を見ても、今回は中間選挙にしては極めて高い投票率であり、それだけ熱気に包まれていたと言ってよい。トランプ政治は米国社会を二極化、分断させ、それが有権者の政治的関心を高めたものと思われる。 選挙の争点としては、経済と社会保障、とりわけ医療保険が突出していた。経済については、トランプ政権は極めて有利な状況にあったと言ってよい。 米経済は絶好調で、失業率も2000年以降初めて4%を切っており、これがラストベルト(さび付いた工業地帯)の白人労働者らの強固な支持につながったのである。「米国第一主義」を掲げ、外国産品に高関税を課す保護主義も称賛されたし、低賃金で働くことで米国人の職を奪う不法移民を、国境に壁を築いて締め出すという政策も評価された。 その点では、ホンジュラスなど中米諸国から数千人の規模の「キャラバン」と呼ばれる移民たちが、米国を目指して北上していることは、トランプ氏にとって神風が吹いたようなものである。1万5千人の米軍兵士をメキシコ国境に派遣するという大統領の指令は反移民感情に強く訴えた。最近、正式に移民として認められたヒスパニック系なども、自らの既得権益を守るためにトランプ氏支持に回ったようである。2018年11月5日、米国を目指してメキシコ南部の道を歩く移民集団(ロイター=共同) そのことを象徴的に示しているのが、メキシコと国境を接するテキサス州の上院議員選挙である。共和党現職のクルーズ議員は、2年前の大統領選挙の指名争いではトランプ氏と激しく対立し、罵倒し合ったが、今回は大統領に応援を依頼するほど苦戦を強いられた。 相手の民主党のオローク候補は「オバマの再来」と言われるほどカリスマ性がある候補だったが、接戦の末、クルーズ議員が51%対49%という僅差で勝っている。北上する難民キャラバンがテキサス州民の恐怖心を煽り、共和党に勝利をもたらしたと言っても過言ではない。トランプ「上院勝利」の意味 ミズーリ、インディアナ、ノースダコタ州では、民主党の現職上院議員が共和党に敗れており、これも「トランプ現象」の波及効果だと言ってよい。若いころ、インディアナ州の大学で教えたことがあり、福音派(エバンジェリカル)も含めキリスト教の信仰に篤い地域の保守性を肌で感じてきたが、人工妊娠中絶やLGBTに反対するトランプ氏の姿勢が支持されたと考えてよい。 知事選も、フロリダ州では、「ミニ・トランプ」と呼ばれる共和党のロン・デサンティス候補が民主党の黒人アンドリュー・ギラム候補に勝ち、ジョージア州では共和党「超保守派」のブライアン・ケンプ候補が民主党の黒人女性のステイシー・エイブラムス候補をリードしている。 これら共和党の勝利であるが、上院については改選議席から見て共和党が過半数を獲得するのは当然であった。改選議席は35で、非改選議席は民主党が23、共和党が42であり、共和党は8議席獲得すればよいという状況であったからだ。 最高裁判事や閣僚、大使などの人事の承認権を持つ共和党が上院を制したことは、トランプ氏にとっては大きな意味を持ち、再選戦略にプラスになる。特に、最高裁判事の人事で保守派判事を任命できれば、三権のうち、行政と司法の二権を握ることになるからである。 また、条約の承認権を持っているのも上院であり、トランプ色の強い貿易協定などを成立させるためにも、上院多数派の確保は大きな意味を持つ。トランプ氏が上院での共和党の勝利に安堵(あんど)しているのは、そのためである。2018年10月、米フロリダ州マイアミでの集会後、記者らの質問に答える州知事選の共和党候補デサンティス氏(共同) ところで、下院で民主党が多数派を制した理由は、投票率が高まったことにある。これまでは女性や若者、LGBTなどの少数派はあまり投票所に足を運ばなかった。 ところが、今回は下品な言葉で少数派を侮辱するトランプ氏に反発して、投票に行ったのである。特に若者票が下院での勝利に大きく貢献したと見られている。 ニューヨーク州の下院14選挙区では、元ウエートレスで民主党の急進左派アレクサンドリア・オカシオコルテス候補が当選した。29歳、史上最年少の下院議員の誕生だ。これもまた、今回の「多様な民主党」躍進の象徴である。日米関係はどうなる? さらには、同性愛を公表した男性候補が州知事に当選したり、多数の女性議員が誕生する中で、イスラム教徒の女性2人と原住民の女性2人が下院で当選している。これらは、米国社会の多様性を守ろうとする意思が表現されたものと思われる。 さらには、医療保険については、実際に受診してみると、一部の富裕層を除いてオバマケア(医療保険制度改革)の有り難さを認識する国民が多く、この制度を廃止しようとするトランプ政権への反感も、民主党への投票を後押ししたと思われる。 民主党が8年ぶりに下院の多数派を奪還したため、大統領と議会との対立が深まることが予想される。温暖化対策のパリ協定やイランとの核合意からの離脱、イスラエル寄りの中東政策、反移民政策、保護貿易主義、オバマケア廃止など、前政権の実績を次々と否定してきたが、それらに一定の修正が施される可能性が高まるであろう。 トランプ氏は議会での議決が必要な法律ではなく、大統領令のような形で政策を実現しようとするであろうが、予算案を含め議会のハードルは高くなっていくであろう。 ただ、下院における民主党と共和党の議席数が30議席程度であれば、民主党の圧勝とまでは行かないので、行政府と立法府が妥協する余地は十分にある。しかし、両者の緊張が高まると、大統領の弾劾という問題が浮上してくる。 下院で多数派を制した民主党は弾劾訴追を議決することができる。実際に弾劾裁判を行うのは上院であるので、罷免には至らないが、トランプ氏が政治的打撃を受けることは間違いない。米ウェストバージニア州ホイーリングで、「労働者の守護神なのか?」と書いたプラカードを掲げトランプ大統領に抗議する男性=2018年9月(共同) 日米関係については、「シンゾー・ドナルド」の関係も良好であるし、さほど大きな影響はないと考えてよかろう。しかし、トランプ氏の「米国第一主義」や傍若無人ぶりが修正される可能性はあまりないと見た方がよい。 日本製自動車に対して関税を課してくるような事態は十分に起こりうるのであり、下院での民主党の勝利が日米関係の好転につながるというような甘い幻想は捨てたほうがよい。

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    「お灸を据えられたトランプ」日本経済への影響は?

    が起これば、経済にはマイナスである。共和党候補への支持を訴えるトランプ大統領=2018年11月5日、アメリカオハイオ州(加納宏幸撮影) 2019年は、アメリカの中央銀行にあたる連邦準備制度理事会(FRB)の利上げも予想される。現在は、景気が良い前提で利上げを追加しているが、関税率引き上げの悪影響は少し時間をかけて現れる可能性もある。もちろん、こうした影響は、日米株価を下落させる要因である。 中間選挙を前に、トランプ大統領が11月末にアルゼンチンで開かれる20カ国・地域首脳会合(G20)で習近平主席と会談し、貿易戦争の終結に向けた合意をするという観測があった。株価はこの観測に反応して、10月の下落から急反発した。 しかし、この観測は、株価下落に何とかテコ入れしたいトランプ大統領が流した情報だろう。中間選挙を意識した情報操作であると考えられ、11月末のG20が近づくと期待感がはげ落ちて株価を押し下げる要因になりそうだ。日本経済へのダメージ 貿易問題は、2018年10~12月、2019年1月以降に米中景気を下押しするだろう。米国は、9月24日から中国輸入品2000億ドル相当に10%の制裁関税を追加し、さらに2019年1月からこれを25%に引き上げる予定である。10月の米雇用統計をみる限り、米経済の絶好調はゆるぎがないように見える。しかし筆者は、きっと高関税のダメージは時間差を置いてやってくると考えている。 米中貿易戦争は、下院が民主党の過半数となったことで、さらに悪化すると予想する。議会では、共和党以上に民主党の方が、対中強硬派が多い。しかも、彼らは貿易赤字を問題視するよりも、中国がハイテク分野で経済覇権を握ろうとするのを何としても阻止したいと考えている。 「中国製造2025」という習近平主席が掲げている経済プランは、航空・ロボット・ITなど10分野で競争力を高めて、2049年には世界トップレベルの製造強国になると宣言するものだ。名目上は製造業の強国といっているが、実質は軍事強国の実現である。だから、民主党でも対中強硬派がトランプ大統領の貿易戦争をさらに煽(あお)るとになりはしないかと強く警戒されている。 また、今回の中間選挙は、北朝鮮との外交を決裂させない歯止めになってきたと考えられる。トランプ大統領にとって、金正恩委員長との関係改善は、外交における最大の成果だとみられてきたからだ。何としても、中間選挙までは北朝鮮との良好な関係を保とうと、マイク・ポンペオ国務長官も力を尽くしてきた。今、中間選挙が終わり、この歯止めは効力を失った。 もしも、北朝鮮が今のままの外交を続けるならば、業を煮やしたトランプ大統領が融和姿勢を見直すかもしれない。2020年夏までに北朝鮮が核放棄に向けて具体的に行動しなければ、再び緊張が高まる。 そのときに日本は、円高という形でそのダメージを被るだろう。為替レートの推移をみていると、ドル円レートは異様なほど円高になりにくい状態が続いている。2018年6月の米朝首脳会談以降、1ドル109~114円という円安水準がずっと維持されている。日経平均一時下げ幅が800円を超える=2018年10月、大阪市中央区(前川純一郎撮影) 筆者は、この円高になりにくい要因こそが、東アジアにおける北朝鮮リスクの後退だとみている。つまり、中間選挙まで封印されていた北朝鮮リスクが、今後は再び変化し始めると考えることが妥当であろう。トランプ大統領は、2019年1月に金委員長との再び会談を行うという観測がある。この会談後に円高リスクが起こり得るとの心構えを持っておくことが必要だとみている。 最後に、今回の中間選挙を通じて、共和党も「トランプ頼み」の図式が一段と強まることとなった。トランプ的な発想に、伝統的な共和党の良さが染まっていくことが怖い。共和党が自由貿易を尊重する人々から、保護主義的な考え方に染まっていく人々へとオピニオンを変えていくことは、長い目でみても由々しき事態とみられる。

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    トランプ「宇宙軍」構想の目算

    トランプ大統領が突然表明した「米宇宙軍構想」の波紋が広がっている。トランプ氏の発言は、国防が最大の目的とはいえ、宇宙を潜在的な戦争の場として捉えた点で、国際的な注目を集めた。中間選挙をにらんだ人気取りの思惑も透けて見えるが、そもそもトランプはどこまで本気なのか。構想の目算を読む。

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    トランプの「宇宙軍構想」はどうせ絵に描いた餅で終わる

    西恭之(静岡県立大グローバル地域センター特任助教) 宇宙空間における米軍の戦力の整備(編制・訓練・装備)または運用を、空軍から別組織に分ける方法はいくつかあるが、トランプ大統領は、宇宙軍を管理する宇宙軍省も新設するという、最も大がかりな方法を選んだ。 それゆえ、宇宙軍構想は法令や組織の整備に時間がかかるものとなっており、国防総省は宇宙軍省・宇宙軍の新設に消極的だ。議会上院の約3分の1と下院の全議席が改選される11月6日の中間選挙後、来年1月3日に開会するまで、国防総省は必要な法案の審議を先送りすることができる。 宇宙軍構想はトランプ大統領の政治的な色がついている上に、議会では上院よりも下院の方が積極的なので、中間選挙で野党の民主党が下院の多数党となった場合、実現する見込みは低い。 この問題を理解するには、まず米軍がどのような仕組みで戦力を整備し、作戦を指揮しているのかを概観するのがよいだろう。 米軍は陸軍省・海軍省・空軍省の3省と、陸軍・海軍・海兵隊・空軍の4軍種からなっている。3省の長官には、上院の承認を経て文民が就任し、それぞれの軍種の戦力整備を受け持っている。海軍省は平時から海軍と海兵隊を管轄し、議会による宣戦布告または大統領の指示があった場合は、沿岸警備隊を編入する。なお、3省の長官は、国防長官の部下なので閣僚ではない。 3省が整備した戦力を軍事作戦で運用するのは、統合軍(ユニファイド・コマンド)である。軍事作戦の指揮系統は、大統領―国防長官―統合軍司令官と法律で定められている。統合軍は10個あり、そのうち6個は米インド太平洋軍のように地理的に定義され、4個は米戦略軍のように機能別に定義されている。統合軍は2省以上の部隊からなり、幅広く恒久的な任務を担っている。米インド太平洋軍の下の在韓米軍のように、「サブ統合軍」(サブ・ユニファイド・コマンド)が設置されることもある。ホワイトハウスで軍関係者を前に演説するトランプ米大統領=2018年5月、ワシントン(AP=共同) なお、「米軍制服組トップ」とも呼ばれる統合参謀本部議長は、軍事作戦の指揮系統に入っていない。その任務は、大統領や国防長官に軍事的な助言を行い、また、3省が整備した戦力が統合軍司令官のニーズを満たすと保証することである。 宇宙空間については現在、戦力の整備を担当する空軍宇宙軍団司令官が、昨年12月1日から米戦略軍の統合軍宇宙構成部隊司令官を兼任して、作戦の指揮統制も行っている。スターウォーズ計画の行方 実は、統合軍としての米宇宙軍は過去にも存在した。レーガン政権は、ソ連の長距離弾道ミサイルを迎撃するため、早期警戒衛星のほか迎撃ミサイルやレーザー装置も衛星軌道上に配備することを目指して、戦略防衛構想(通称・スターウォーズ計画)を推進した。 初代の米宇宙軍は、その最中の1985年に設置された。それが2002年に廃止されたのは、統合軍の数が制限されている中で、米同時多発テロを受けて、北米を担当する米北方軍を設置したからである。 宇宙軍について積極的な動きをみせる下院は昨年7月、国防予算の費目別の上限を定める2018年度国防権限法案を可決した際、海兵隊(マリン・コー)が海軍と同じ地位で海軍省に監督されているように、空軍と同じ地位で空軍省の監督を受ける「スペース・コー」を新設する条文を盛り込んだ。 しかしマティス国防長官は、「間接費の節約と統合作戦の取り組みに集中しているので、新たな軍種を作り、屋上屋を架することに反対」する書簡を、上下両院軍事委員会首脳に送った。それもあって、上院は「スペース・コー」新設に反対した。 結局両院協議会は、国防総省の下で宇宙活動を管轄する新たな省を設置するための行程表を、空軍から独立した機関に国防副長官が諮問するという条文を加える形で、2018年度国防権限法案の時点では、宇宙軍に関する決定を先送りした。韓国・烏山上空を通過する米軍のB戦略爆撃機=2016年1月(共同) 慎重なマティス氏や上院とは対照的に、トランプ大統領は今年3月13日、「宇宙空間も陸・空・海と同じように、一つの作戦領域だ。わが国は将来、宇宙軍をもつだろう」とカリフォルニア州のミラマー海兵航空基地で発言した。 さらに5月1日にも、ホワイトハウスで陸軍士官学校フットボールチームを表彰した際、「第6の軍種、宇宙軍の創設を考えている」「わが国は宇宙を軍事的にも他の理由でも大いに利用するようになっているから、宇宙軍について真剣に考えている」と語った(既存の軍種に沿岸警備隊を含めると、宇宙軍は第6の軍種になる)。 その結果、宇宙軍がトランプ大統領ならではの構想としてメディアの注目を集めるようになった。これは、さまざまな政策課題に取り組んで進展させている印象を与えたい、トランプ大統領の狙い通りだ。トランプのうっかり発言 トランプ大統領は6月18日の国家宇宙会議の冒頭で、「わが国は空軍を保有し続けるし、宇宙軍も保有する。分離されても平等に」と発言、「国防総省に対し、第6の軍種として宇宙軍を創設するため必要なプロセスを直ちに始めるよう」指示した。 ちなみに、「分離されても平等」という表現は、思い浮かんだ表現を深く考えずに言ったものかもしれないが、米国民にとっては、公立学校における人種隔離を認めた1896年の米最高裁判決を表す表現であり、トランプ大統領の発言は、その点でも注目された。 それから2カ月足らずの8月9日、ペンス副大統領は、マティス国防長官を伴って記者会見し、ロシアと中国の対衛星兵器の脅威を訴え、宇宙軍創設に向けて国防総省が直ちにとる措置を指示した。 ペンス副大統領はここで、宇宙軍を管理する宇宙軍省も新設する方針を示した。国防長官の下で兵力・機能の増強を監督する文官として、まず宇宙担当国防次官補を新設するが、このポストが「将来、完全に独立した宇宙軍長官に移行するため重要」だと発言した。 そのほか、統合軍レベルの米宇宙軍、宇宙関連の調達を加速するための「宇宙開発局」、宇宙担当軍人の質と量を増強するための「宇宙作戦部隊」の創設も指示した。宇宙軍創設のイベントに参加した米国のペンス副大統領(左)とマティス国防長官=2018年8月、ワシントン近郊の国防総省(AP=共同) しかし、このままペンス副大統領が指示した通りに事が進むわけではない。8月13日にトランプ大統領が署名した2019年度国防権限法は、宇宙開発局や宇宙作戦部隊に似た内容を含むものの、米戦略軍の下にサブ統合軍として米宇宙軍を創設すると定めており、トランプ政権の計画ほど急進的ではないのだ。宇宙軍省の新設はむろん、空軍省の下で宇宙軍を新設するにも、立法が必要である。 マティス国防長官とダンフォード統合参謀本部議長は、8月28日の記者会見で、ペンス副大統領ほど宇宙軍省・宇宙軍種の新設を急がない姿勢をのぞかせた。マティス長官は、国防総省が宇宙軍省を設置する法案について議会と協議していると述べる一方、「わが国が直面している宇宙問題を定義するため、議会およびホワイトハウスと作業してきた」として、ホワイトハウスから独立した専門家集団としての立場を示した。「トランプ色」作戦は失敗か ダンフォード議長の方は、統合軍および軍種として宇宙軍を創設するための費用に関する質問に対し、「国防権限法はサブ統合軍を2018年に設置するよう定めているので、その細部を詰めるプロセスに入っている」と答えた。要するに国防総省は、議会が立法化した内容と期限より速くは進まないというのだ。 すると、宇宙軍種が新設されるかどうかは、11月6日の中間選挙で選ばれ、来年1月3日に開会する第116議会が決めることになる。 宇宙軍種を新設することへの軍事的な反対論は、前述の書簡でマティス長官が指摘した、間接費が増え、屋上屋を架する問題にとどまらない。米国が宇宙空間の軍事利用を自制すべきかどうかという問題とも別だ。 そのことは、サイバー戦力を陸海空軍などと同格の軍種とすべきだという議論が、下火になったのはなぜか考えれば明らかだろう。米軍のあらゆる活動に必要な機能は、軍種として分離すべきでないという理解が広まったからだ。米サイバー軍は、米戦略軍の下のサブ統合軍だったが、今年5月4日、軍種ではなく統合軍として独立した。宇宙軍種創設論はこの経緯を踏まえていない。 宇宙軍を軍種として新設すると、人材確保も妨げる恐れが強い。空軍は国民的人気が高いので、宇宙システムの運用と調達を担当する約5千人の要員を確保できている。宇宙軍を分離した場合、既存の軍種よりケタ違いに小規模で、独自の伝統も有人宇宙活動のドラマもないので、既存の空軍部隊のように人材が集まるとは考えにくい。すると、宇宙軍は民間企業の助言に頼ることになり、軍と民間企業の優先順位の違いによって、政策がゆがめられることになる。米アイオワ州で選挙演説するトランプ大統領=2018年10月(ゲッティ=共同) さらに、政治的には、トランプ政権側が宇宙軍創設を支持層へのアピールに使い、トランプ大統領の色をつけているので、中間選挙後の下院民主党で、宇宙軍創設への反対が高まるのは必至だ。ペンス副大統領が宇宙軍創設について記者会見した8月9日、トランプ・ペンス再選のための政治資金団体は支持者に対し、宇宙軍のロゴ候補6案を送り、投票を求めた。 この投票の結果を国防総省が採用することはないだろうが、トランプ大統領が宇宙軍構想をも金もうけに利用しているという批判が、民主党支持者の士気を高めていることは確かだ。好景気なのに支持率が低めの大統領の色がついていることも、宇宙軍新設のハードルを高くしている。

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    「宇宙軍創設」トランプの真意は中国への宣戦布告に他ならない

    鍛冶俊樹(軍事ジャーナリスト) トランプ米大統領が6月、宇宙軍創設の指示を出した。マスコミはトランプの発言をとかくフェイクと見なしたがる。そこで、この発言もトランプ一流の大ぼらかのような報道ぶりだった。 もっとも、マスコミの責任ばかりとは言えない。米国は1980年代、当時のレーガン大統領がスターウォーズ計画を発表した。当時から人気のSF映画の題名そのままに、レーザー砲で旧ソ連の大陸間弾道ミサイル(ICBM)を破壊する画像がニュースなどで繰り返し流されたものだった。 結局、米ソ冷戦の終結で、この計画も沙汰止(さたや)みになった。ただし、ここで開発された技術が現在のミサイル防衛に生かされているので、レーガンの大ぼらだったというのは言い過ぎであろう。 とはいえ、発表当初から膨大な予算を必要とすることから実現を疑問視する声が絶えず、ICBMをレーザーで破壊する画像が文字通り絵に描いた餅に終わったのは事実である。 従ってトランプの宇宙軍創設も当初マスコミは大統領の大ぼらと見なしたわけだが、8月にペンス副大統領が具体的な計画を打ち出し、にわかに現実性を帯び始めた。なにしろペンスは誠実な人柄で知られ、マスコミからも評価が高いからだ。 ペンスは「2020年までに宇宙軍を設置する」と述べ、それまでの当面の措置として宇宙担当の国防次官補を新たに任命し、統合宇宙司令部、宇宙作戦部隊、宇宙開発局を設置すると発表した。 さらに9月、ロイター通信は米国防総省の試算として、宇宙軍創設の費用について1年目に30億ドル超、その後4年で100億ドル、要員は1万3000人以上、と具体的な数字を報じた。 レーガンのスターウォーズ構想には、こうした具体的な数字が出てこなかった。しかもこの数字は現実的な数値だ。宇宙軍創設はもはやトランプの大ぼらでもなければ、絵に描いた餅でもない。 トランプは宇宙軍創設の発表時、「第6軍として宇宙軍を創設する」と述べた。「野球だって2軍までだ。それを第6軍とは何事ぞ?」といぶかる声もあったが、これを理解するためには各国の軍種を認識しなければなるまい。ミッション(任務)の内容がほとんど公開されず「謎の宇宙機」と呼ばれるX-37(米空軍提供) 20世紀半ばにおいては陸軍、海軍、空軍の3軍種が世界標準だったが、米国の場合、第4軍として海兵隊、第5軍として沿岸警備隊が位置付けられている。そこで宇宙軍は第6軍となる。 しかし、宇宙空間が初めて軍事化されたのは第2次世界大戦であり、ドイツが初の弾道ミサイルV2を開発してからである。戦後、軍事衛星が配備されるに至り宇宙の軍事化は急速に進んだ。意識しているのは中国 米国においてはICBMなどの弾道ミサイルや軍事衛星は空軍の所掌とされていた。つまり、米空軍は事実上、航空宇宙軍だった。対するソ連や中国では空軍とは独立した軍種として戦略ロケット軍が設けられた。特にソ連は米国の軍事衛星を破壊するための衛星、キラー衛星を開発していた。 軍事衛星は敵情を低高度で細かく観察する偵察衛星、高高度で弾道ミサイルの発射を監視する早期警戒衛星、情報伝達のための通信衛星などがあるが、米軍のこれらの衛星と同じ軌道上にソ連はキラー衛星を打ち上げ、戦争勃発と同時に米軍衛星を一気に破壊する計画だった。 これが成功すれば、米国はソ連がICBMを撃っても、それを認識すらできないうちに壊滅するわけだ。もちろん米国もソ連の軍事衛星を破壊するためのミサイルを開発していたため、米ソ大戦が勃発していたら、最初の戦場は間違いなく宇宙だったはずだ。 そしてソ連崩壊後、新たな軍事大国として台頭してきたのが中国である。中国の海洋進出は今やインド太平洋地域での大問題であるが、中国の軍事拡大は海軍や空軍に留まらない。むしろ宇宙分野こそ隠れた大問題だと言ってよかろう。 2007年1月に中国は、中国上空850キロの軌道上にあり、すでに機能を停止した気象衛星を弾道ミサイルで破壊した。当時、宇宙ゴミとして国際的に問題視されたが、その実、軍事関係者に与えた衝撃は大きかった。 というのも、中国が衛星破壊実験を行い成功したということは、ソ連と同じ軍事的意図を持っているとしか考えられないからである。すなわち、米国との核戦争に勝利しようとする意図である。 2008年9月、中国は宇宙船「神舟7号」で宇宙飛行士の宇宙遊泳に成功した。ロシアの援助を受けていたが、それでも宇宙開発の目覚ましさに世界中が驚いた。2011年には宇宙ステーションの原型となる「天宮1号」の打ち上げに成功した。翌年には宇宙飛行士3人が乗り込み中国初の宇宙ステーションとなった。16年には「天宮2号」の打ち上げに成功している。中国の習近平国家主席(左)と米国のトランプ大統領=北京(AP) こうした宇宙開発の姿は1950年代後半からのソ連の宇宙開発を彷彿とさせる。1957年にソ連は人類初の人工衛星「スプートニク1号」の打ち上げに成功し、1961年にガガーリンによる人類初の有人宇宙飛行に成功した。 米ソの宇宙開発競争においてソ連は当初優位な位置を占めていたが、この競争の実態は宇宙戦争に他ならず、その背景には米ソ冷戦があった。中国はこの時のソ連の軍事思想と技術を継承している。 ちなみに中国は「天宮宇宙ステーション」を2020年に完成させる予定である。なぜ、ペンスが「2020年までに宇宙軍を設置する」と述べたのか、これで分かるだろう。そして、ペンスはワシントンのハドソン研究所で、中国の覇権主義を非難するとともに全面対決すると宣言した。その内容はかつて英国のチャーチル首相が米国で行った「鉄のカーテン」の演説(米ソ冷戦のさきがけとなった)にも比せられている。 トランプの宇宙軍創設は決して口先だけのものではない。それは中国との全面対決を視野に入れた明確で緻密な計画なのである。

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    米国vs中露「サイバー戦争」の行方

    岡崎研究所 米国国防総省は9月18日、「サイバー戦略2018」の概要を発表した。その内容は、国防総省のサイトで読むことができる。一部、その要点を紹介する。・米国の繁栄、自由及び安全保障は、情報への開かれた信頼のおけるアクセスに依拠する。・デジタル時代の到来は、国防総省や米国に新たな問題も生じさせる。米国や同盟諸国の競争相手達は、サイバー空間を使って技術を盗んだり、政府や財界を欺いたりする。また、我々の民主的手続きや基礎インフラを脅かす。・我々は、中国及びロシアと長期的戦略的競争関係にある。これらの諸国は、競争をサイバー空間にまで広げたので、米国及び同盟・パートナー諸国にとって、長期的戦略的リスクとなっている。中国は、米国の公共及び民間組織から絶え間なく重要情報を抜き取り、米国の軍事及び経済を浸食している。ロシアは、サイバー空間を使って米国民に影響を与え、民主主義に挑戦している。他にも北朝鮮やイラン等は、同様なやり方で、米国民や米国の利益を害している。このようなサイバー空間の悪用は規模が拡大し、その速度も早くなっている。これは、米国にとって緊急かつ許容できないリスクである。・国防総省は、米国の軍事的優位及び国益を守るために、毎日のサイバー空間上の競争の対処しなければならない。我々の焦点は、米国の繁栄と安全保障に脅威をもたらす諸国、特に中国及びロシアにあてられる。我々はサイバー空間で作戦を行い、情報を集め、軍事的サイバー能力を高め、危機や紛争でも使用できるようにする。我々はネットワークの安全性と強靭性を高め、軍事的優位を保てるようにする。我々は、省庁間、財界、外国のパートナー達と協力して相互利益を促進する。・戦時には、米国のサイバー部隊は、陸海空・宇宙の部隊とともに作戦を行い、敵を打つ。統合部隊は、攻撃的サイバー能力も駆使し、あらゆる紛争場面を通じて、サイバー作戦を展開できるようにする。※画像はイメージです(ゲッティイメージズ)・「国防総省サイバー戦略2018」は、「国家安全保障戦略」及び「サイバー空間のための国家防衛戦略」に基づくもので、「国防総省サイバー戦略2015」にとって代わる。・米国は行動しないわけには行かない。我々の価値、経済競争力、軍事力は、毎日危険の増大する脅威にさらされている。中国とロシアを名指しサイバー空間における戦略的競争(1)サイバー空間を含むあらゆる局面で、米軍が闘い勝利をおさめられるようにしなければならない。(2)米国の基礎インフラに影響を与える悪意のあるサイバー攻撃を抑止、先制攻撃し、負かす。(3)国防総省は、米国の同盟諸国・友好諸国と協力し、サイバー能力を強化し、双方向の情報共有を増やして、相互利益を促進する。米軍の優位を可能にする民間アセットを守る・国防総省は、国防総省が所有者ではない防衛基礎インフラ(DCI)や防衛産業基盤(DIB)のネットワークやシステムを守る必要がある。厳しいサイバー環境においても国防総省の目的が達成されるようにDCIが継続して機能していることが重要である。戦略的アプローチ・我々の戦略的アプローチは、次のことを相互に同時並行的に行うことである。(1)より強力な統合軍の創設(2)サイバー空間での戦いと抑止(3)同盟の強化と新たなパートナー(4)国防総省の改革(5)能力向上・サイバー時代の到来は、国防総省及び米国に、新たな機会と挑戦を生む。情報への開かれた信頼のおけるアクセスは、米国及び同盟諸国の利益に不可欠なものである。我々は、それを断固として守ると言うことを、競争相手国は理解すべきである。「国防総省サイバー戦略2018」は、国防総省に対して、上記の戦略的アプローチで、前に出て防御し、毎日の競争に対処し、戦争に備えることを指示している。参考:Department of Defense ‘Summery Cyber Strategy 2018’ (September 18, 2018) 今回の「国防総省サイバー戦略2018」は、中国とロシアを名指しして、サイバー空間での相手の攻撃に対して、積極的に、すなわち防御とともに先制攻撃も含め、対処しようという意思を明確に示したものである。昨年末の国家安全保障戦略及び本年の国家防衛戦略でも、対立する大国として中国とロシアが挙げられていた。2018年6月、米ホワイトハウスで国家宇宙会議に出席したトランプ大統領(ゲッティ=共同) 中国は、サイバー空間を通じて、米国の重要な軍事情報や民間の技術情報、更には政府高官の個人情報まで盗取している。トランプ大統領は国連安全保障理事会で、最近、中国は米国の中間選挙に介入しようとしていると釘をさした。ロシアは、2016年の米国大統領選挙に介入したとされ、その事が今回の戦略文書にも明記された。 上記には、同盟国との連携も述べられている。日米同盟のもと、日本もセイバー・セキュリティーを強化する必要がある。米国も指摘しているように、防衛省や公共部門のみならず、民間との連携も欠かせない。そして防御をするには攻撃方法を知らなければ、効果的な防御策は取れない。サイバー空間に国境はない。緊急な課題であることは、日本も同様である。

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    「トランプに2期目はない」中朝蜜月で変わる非核化ゲームの行方

    重村智計(東京通信大教授) トランプ米大統領は8月1日、中国製品への経済制裁「第3弾」の発動を指示した。北朝鮮はこの「米中貿易戦争」泥沼化を歓迎している。米中首脳による「戦争ゲーム」が北朝鮮への制裁を減圧し、米中朝の「非核化ゲーム」を大きく変質させたのである。 金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長は、朝鮮戦争休戦65周年(7月27日)を記念し、中国人民志願軍烈士陵園に参拝した。金委員長の訪問は2013年以来5年ぶりだ。中朝関係が好転すると、北朝鮮の指導者は地方にあるこの墓苑を訪問し、平壌の記念碑も整備する。反対に、関係が悪化すると放置した。実にわかりやすい。 北朝鮮は「中ソ・イデオロギー戦争」時代に、中国と旧ソ連の間を行き来して支援を得る「振り子外交」を得意とした。この戦略を「米中貿易戦争」でも展開しようとしている。 米朝関係は、3月末の中朝首脳会談までは、トランプ大統領が主導権を握り、「北朝鮮の『完全な非核化』」への期待が高まった。ところが、中朝首脳会談後に北朝鮮の姿勢が急変した。トランプ大統領は「中朝首脳会談後に北の姿勢が変化した」と批判し、一度は米朝首脳会談の中止に踏み切った。 最近の中国は、北朝鮮の石油密輸の「瀬取り」への制裁に反対するなど、それまでの米中協力の姿勢を変えた。米朝関係と米中関係が明らかに変わったのである。トランプ大統領は、中国が「米中貿易戦争ゲーム」で北朝鮮を利用している証拠を握ったという。そこで中国は、貿易戦争を緩和すれば、北朝鮮への追加制裁にも協力するとの駆け引きを見せたのである。中国の習近平国家主席(左)と握手する金正恩朝鮮労働党委員長=北京・釣魚台国賓館(朝鮮中央通信=朝鮮通信) 中国は「瀬取り」を明らかに放置している。その背後に何があったのか。米国務省の高官は、3回にわたる中朝首脳会談で、習近平主席は「トランプへの非協力」に姿勢を変えたという。その証拠に、米国は中朝首脳会談の内容を入手しているというのである。 それによると、習主席は「金正恩体制の維持は保証する。そのため、10年間に1千億ドル(約11兆円)の支援を実施する」と約束した。韓国政府によると、北朝鮮の国内総生産(GDP)は約3兆円であり、中国は毎年その3分の1の支援をすることになる。 裏にあるのは、日米が制裁を強化しても心配するなとの中国の「保証」だ。つまり、「瀬取り」密輸こそが支援の始まりだったのである。さらに、中朝国境の人の往来や北朝鮮労働者の移動も黙認された。 また、中朝首脳がすでに合意した「朝鮮半島の非核化」について、「確実に実現してほしい」と伝えた上で、「10年の時間をかけてもいい」と述べた。要するに、習主席が退任するまでに非核化すればいいという意向だろうか。 習主席は「北朝鮮が数年で非核化できない事情はわかる」と語り、「数年内の非核化には、北朝鮮軍が納得せず、クーデターの危険がある」との理解を示した。また「中国は決してクーデターを支持しない」とも伝えていた。 米メディアは7月末に、北朝鮮が大陸間弾道ミサイル(ICBM)の製造を継続しているとし、「北朝鮮に非核化の動きはない」と報じた。これは「非核化」に反発する北朝鮮軍部の「不満」を抑えるための「製造継続」の妥協策だろう。「トランプの2期目はない」 習近平発言は、金委員長と朝鮮人民軍の関係について、「完全非核化」をめぐり緊張関係にある事実は知っている、との脅しだ。知った上で、金委員長を支持するとの立場を表明したのである。 また、中朝の首脳は「トランプ大統領の2期目はない」との見通しで一致し、「あと2年半時間稼ぎすればいい」との判断を確認したという。金委員長は中国の巨額支援と体制保証で安心したのか、対米姿勢を変えたわけである。 6月12日、トランプ大統領は金委員長との首脳会談後の記者会見で、ポンペオ国務長官が直ちに平壌に向かい、非核化の具体的な交渉を始めると明らかにした。 ところが、国務長官の訪朝までおよそ1カ月の時間がかかった上、金委員長と会見できなかった。さらに悲惨だったのは、北朝鮮外務省の報道官は国務長官訪朝直後に談話を発表し「ポンペオ長官の態度は強盗的だった」と非難した。なんとも失礼な対応である。 北朝鮮の姿勢変化を受け、トランプ大統領は「非核化交渉に期限は設けない」と述べ、ポンペオ長官も「交渉には時間がかかる」と議会で証言した。これは、習主席の「非核化を急がなくていい」との発言を、米首脳が入手していた事実を示唆するものである。 そして習主席は、金委員長が9月の国連総会に出席し、世界に向けて演説すれば「制裁解除」の空気が生まれるとアドバイスした。その際に第2回米朝首脳会談を行うように勧め、米朝関係改善も支持したという。理由として「北朝鮮は、中国の属国にはなりたくないだろう。そのために、米国との関係改善を必要とするのは理解できる」と述べ、金委員長を感激させた。中国の習近平国家主席(右)と談笑する北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長=5月、遼寧省大連(朝鮮通信=共同) 中朝蜜月化と「非核化交渉」の停滞は、日朝関係と拉致問題解決にも影響を与えそうだ。北朝鮮が日朝関係改善を必要とするのは、1兆円とみられる経済協力資金が狙いだ。ところが、中国が毎年1兆円以上の支援をすると、日本の資金への期待が失われてしまう。 北朝鮮の朝鮮労働党機関紙、労働新聞は最近「拉致問題は解決した」との論評を掲載した。拉致問題の解決よりも日朝国交正常化を優先させようとの戦略だ。これに呼応するように、日本でも超党派の「日朝国交正常化推進議員連盟」が活動を活発化している。北朝鮮からの工作に呼応している、とみられても仕方がないだろう。 北朝鮮が中国から多額の資金を導入すれば、現代版シルクロード経済圏構想「一帯一路」のようにいずれ膨大な借金となり、中国に従属せざるをえなくなる。それを避けるためにも、日朝国交正常化が必要だからこそ、「拉致問題は解決した」と主張しているのである。北朝鮮の手口に決して騙されてはいけない。「拉致より国交正常化」と主張する政治家や日本人は北朝鮮の手先で、「売国奴的」と非難されても当然なのである。

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    感情論を捨てれば見えてくる、日本「北非核化」負担のメリット

    その中でも多くの専門家が、会談の最大の「勝者」は金委員長であると考えているようだ。なぜなら北朝鮮は、アメリカの歴代政権が拒んできた米朝2カ国会談を実現させたからだ。 そして両首脳が調印した共同声明には、北朝鮮の非核化と引き換えに北朝鮮の安全を保障する文言が盛り込まれていた。北朝鮮にとって最大の目的は、アメリカによる「体制保証」である。一方で、北朝鮮の人権抑圧に触れられることはなかった。 逆にトランプ大統領は、金委員長の独裁政治を容認しているかのような発言を行っている。要は、金委員長は労せずして、いくつかの目的を達成したのだ。帰国した金委員長は、自らがトランプ大統領と対等な立場であることを国民に示し、自らの権威を高めることに成功したといえよう。 また、共同声明に盛り込まれた北朝鮮の非核化については、具体的なスケジュールや査定方法に関する言及はなかった。アメリカの多くのメディアは、「具体的な内容がない」とこぞって批判を加えた。 会談後の記者会見で、この点について質問されたトランプ大統領は、時間がなく詳細な議論ができなかったことを認めた。その上で、ポンぺオ国務長官とボルトン安全保障担当大統領補佐官を平壌に派遣し、北朝鮮当局と非核化に関する具体策について協議することで補う意向を示した。実際、7月6日にポンペオ氏は平壌を訪問したが、目立った成果は出ていない。 また、トランプ大統領は共同声明のほかに、重要な発言をいくつか行っている。一つは、米韓軍事演習の中止だ。これは北朝鮮が常にアメリカに要求してきたものである。また、中国政府は、金委員長に対してトランプ大統領に米韓共同軍事演習の中止を求めるように要求したことを認めている。2018年4月、ホワイトハウスでブリーフィングを受けるトランプ米大統領(左)とボルトン大統領補佐官(ロイター=共同) そもそもアメリカの歴代大統領は北朝鮮のあらゆる要求を拒否してきた。それが一転して、トランプ大統領は米韓共同軍事演習中止も受け入れたのである。トランプ大統領は、中止の理由としてコストがかかりすぎることを挙げている。安倍首相「費用準備」発言の謎 そしてこの決定をめぐっては、マティス国防長官が国防総省と事前協議をしていたことを明らかにしており、トランプ大統領のスタンドプレーではないことは明白だ。だが、この中止は安全保障関係の専門家は一様に北朝鮮に対する抑止力の低下につながると批判的な評価をしている。 また、多くの人を驚かせたのは、トランプ大統領が韓国から米軍の撤退もあり得ることを示唆したことだ。これも、多くの安全保障問題の専門家が米韓軍事同盟の根本が揺らぐとして、批判的なコメントを加えている。 さらに、北朝鮮の非核化は合意したが、共同声明でも、記者会見の中でも北朝鮮が保有する短距離、中距離のミサイル処理に関する言及がなかったことも重視すべきだ。北朝鮮はミサイルとエンジン実験用地を閉鎖することに合意しているが、中短距離ミサイル問題は放置されたままだ。仮に北朝鮮が非核化されても、武装解除されるわけではない。 そして、非核化が「完全かつ不可逆的、証明可能な方法」で査察をどう行うのかに関しても何の合意もない。期待された朝鮮戦争終結宣言も行われず、重要な問題はすべて今後行われる両国政府の事務協議に委ねられている。 さらに、記者会見では、日本に関わる重要な発言もあった。それは非核化に伴う費用負担問題である。トランプ大統領は、非核化を実現するために必要な経費については日本や韓国などの隣国が負担すべきだと明言した。 軍縮問題の専門家によれば、非核化に伴う費用は少なくとも200億ドル(日本円で2兆円を超える)とされ、実現するためには数年、場合によっては10年かかる可能性があるという。ちなみに、北朝鮮は現在、20~80個の核弾頭を保有しているとみられ、非核化費用の総額はさらに拡大する可能性もある。2018年6月、米ワシントンへ出発する安倍首相と昭恵夫人=羽田空港 こうした動きに対して、安倍晋三首相は早々と国際原子力機関(IAEA)による非核化の査察を条件に、日本が費用を負担する準備があることを明らかにした。まだ何も具体的に決まっていない段階での発言としては理解に苦しむ人もいるだろう。 安倍首相の意向については、解釈によっては、米朝首脳会談の過程で日本は埒外(らちがい)に置かれていたため、非核化費用を分担する準備があると発言することで、日本が当事者としての立場を主張することができると考えたのかもしれない。目先の感情で論ずるな また、安倍首相は北朝鮮に対してメッセージを送り、日朝首脳会談開催への手がかりを求めたのかもしれない。さらに言えば、拉致問題の解決を優先する政治的立場からの発言かもしれない。いずれにせよ具体的な状況が分からない中、費用負担問題で先走るのは賢明な策とは言えないだろう。 ただ、北朝鮮の非核化が実現できるのであれば、日本は応分の費用を負担すべきであることは論を俟たない。なぜなら、朝鮮半島の非核化は日本外交の最優先課題の一つであり、朝鮮半島から軍事的脅威がなくなることは、日本に大きな恩恵をもたらすからだ。 ゆえに、この問題は、目先の感情論ではなく、日本の安全保障という長期的な視点に立って議論すべきものである。日本が朝鮮半島の安全保障問題に当事国の一つとして積極的に関わっていくためには、応分の費用負担は避けられないだろう。 その意味でも、状況が整えば、日本は積極的に関係国に働きかけ、国際的な協議の場を設定する必要がある。トランプ大統領は、アメリカは負担しない意向を示しているようだが、当然、アメリカに対しても負担を求めていくべきだ。 先に触れたように、非核化のために必要な額は2兆円を超えるとされるだけに、日本の負担額は決して少なくはない。日本は巨額の財政赤字を抱えており、さらなる財政負担が加わるとなると、国民が納得のいく額を模索する必要があるだろう。 そして単に北朝鮮の非核化だけでなく、北朝鮮の民主化に結び付くものでなければならない。非核化の費用負担が最終的に両国の関係改善と国交回復に結び付くのが理想だが、果たして北朝鮮が前向きに応じるかどうかわからない。2017年11月、横田早紀江さん(前列右から3人目)ら北朝鮮による拉致被害者家族のメンバーと面会し、発言するトランプ米大統領(同左から2人目)。左端は安倍晋三首相(ロイター=共同) 費用負担の前に明確な北朝鮮政策を立てる必要があるだろう。また、将来、戦後賠償や経済援助の問題も必ず浮上してくるはずだ。 いずれにせよ、どのような形で北朝鮮の非核化が進むか、現時点では見通せない。米朝事務レベル協議は続くとみられ、今後出てくる具体策によって、日本は柔軟に対応していかなければならない。

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    米朝の相互不信 演出された首脳合意や協定では解消できない

     史上初の米朝首脳会談がシンガポールで開かれた。トランプ大統領は会談の成果を自画自賛しているが、会談の時間は短く、共同声明への署名を前提とした、すべてが演出されたものだった。 会談の冒頭で二人は笑顔で固い握手を交わし、昼食後は通訳なしで二人だけで笑みを浮かべながら会談場のホテルの敷地を歩き、トランプ氏は自分の専用車の車内を金正恩氏に見せるというサービスまでした。 トランプ氏は首脳会談前に1分で相手を見極めると公言していたが、金正恩氏と会ってみて、交渉の相手としてふさわしいことは確かめることは出来たようだ。しかし、初の首脳会談を通じて構築された信頼関係は、トランプ氏にとっては個人的、金正恩氏にとっては表向きのものに過ぎない。 それにしても、共同声明は原則論ばかりで具体的に何かを約束するものではなかった。実現のための交渉をこれから行うというものであり、実現可能かどうかは今後の交渉に委ねられるため、場合によっては交渉決裂もあり得る。 共同声明の内容は次の4項目。(1)新たな米朝関係の確立に取り組む(2)朝鮮半島の持続的で安定した平和体制の構築(3)朝鮮半島の完全な非核化(4)朝鮮半島の戦争捕虜/行方不明兵の遺骨回収──。これらの項目のうち(4)は過去に行われていたものであるため、北朝鮮側へ多額の費用を支払えば、すぐにでも実現できるため、トランプ氏は自分の宣伝に使うことができる。 首脳会談後に行われた、この共同声明に関する記者会見でのトランプ氏の発言は、残念ながら言い訳と自己弁護にしか聞こえなかった。記者会見を見ていて、首脳会談前に板門店で行われた米朝実務協議の難航ぶりが想像できた。ワーキングランチを前にカペラホテル内を並んで歩くトランプ米大統領(左)と金正恩朝鮮労働党委員長=2018年6月12日、シンガポール南部セントーサ島(ロイター)「戦争ムード」だった1年前 終始笑顔の二人だったが、1年前(2017年6月12日)を振り返ってみると、マティス米国防長官が議会で、北朝鮮を「平和と安全に対する最も緊急かつ危険な脅威だ」としたうえで、もし外交交渉が失敗し、軍事力を行使することになれば深刻な戦争になるだろうとして強い懸念を示していた。 今回の首脳会談が、このような懸念を払拭する第一歩となったのは確かだ。1年前は「米朝開戦説」を専門家やジャーナリストがまことしやかに流布していた時期だったこともあり、トランプ氏と金正恩氏が笑顔で握手することになるとは、誰も想像していなかっただろう。 しかし、今年11月の中間選挙を考えると、トランプ氏が「予測不能」な決断をすることは予想できた。これからも北朝鮮との「予測不能」な「政治ショー」が続くのだろう。 共同宣言には、当初の予想に反して「朝鮮戦争の終結」は含まれていなかった。しかし、避けては通れない問題であるため、本稿では「終戦」の難しさについて触れておきたい。空文化している休戦協定空文化している休戦協定 朝鮮戦争の休戦協定は、締結(1953年7月27日)から2か月も経っていない9月18日に北朝鮮兵が韓国へ侵入して以降、戦闘機やヘリコプターの撃墜、銃撃戦などが続いたことで、空文化した。 非武装地帯の中央を走る軍事境界線を挟んで、時には越境して小規模な武力衝突が繰り返されてきた。これは長きにわたる低強度紛争といえる。その結果、休戦後からこれまでに、米軍は80人、韓国軍は405人以上が北朝鮮軍との「戦闘」により死亡している。北朝鮮軍も857人以上が死亡している。 今日も韓国軍・在韓米軍と北朝鮮軍の、軍事境界線を挟んでの対峙は続いており、その緊張状態は「休戦」とは程遠い状態にある。毎日24時間態勢で米軍の偵察機が北朝鮮軍の動向を監視しているだけでなく、今夜も夜通しで韓国陸軍の偵察部隊が非武装地帯のなかをパトロールしているはずだ。 これまで、実態として「休戦」が存在していなかったので、「休戦」もできていない状態なのに「終戦」を宣言されても、どのような状態になるのか想像がつかない。「終戦」となっても軍事境界線を含む非武装地帯は解消されず緩衝地帯として残るだろうし、韓国軍と在韓米軍による偵察活動も継続されると思われるからだ。 また、「終戦」とするのであれば、北朝鮮軍は非武装地帯付近に大量に配備している長射程砲を削減する必要があるし、韓国軍・北朝鮮軍双方が戦略兵器を削減する必要もある。しかしこれは、非核化が完了するまで実現することはないだろう。板門店で抱き合う北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長(左)と韓国の文在寅大統領=2018年5月26日(韓国大統領府提供、AP) 一般にいう「朝鮮戦争の終結」が具体的にどのような状態を意味しているのか分からないが、休戦協定を平和協定に転換し、韓国軍と北朝鮮軍を削減し、非武装地帯を解消するなど、全面戦争に備えるものを完全に撤去することは不可能に近い。 朝鮮半島の非核化と朝鮮戦争の終戦が実現できないのは、米国への不信感が根底にあるためなので、切り離して考えることはできない。 つまり、米国と北朝鮮の敵対関係は、首脳同士の個人的な信頼関係や合意や協定で解消できるものではなく、軍備の削減など物理的な側面からも、相互不信が完全に解消されるまで終わらないのだ。●文/宮田敦司(朝鮮半島問題研究家)関連記事■ 北朝鮮の高校生に金正恩氏をどう呼ぶか? と聞いてみたら…■ 米朝首脳会談報道に見る各局キャスターの悲喜こもごも■ 拉致解決ないなら安倍氏は米と決別しようが北への支援拒否を■ 撮影場所は平壌 街頭で見つけた北朝鮮の美女たち■ 北朝鮮大学生 「金正恩を陰では『子豚野郎』と呼んでいる」

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    どうなる? 米朝首脳会談

    2018年6月12日、史上初めてアメリカと北朝鮮の首脳が対面した。会談の目的は朝鮮半島の非核化だが、トランプ大統領と金正恩委員長はギリギリまで駆け引きを繰り広げた。会談の成否は、東アジアの秩序に多大な影響を与える。世界が注目する両首脳の思惑を読む。

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    トランプは金正恩に「日本の100億ドル拠出」を約束する

    西岡力(麗澤大学客員教授、モラロジー研究所教授) ついに米朝首脳会談が実現する。主要議題は北朝鮮の核・生物化学兵器・弾道ミサイルの廃棄だが、日本にとって絶対に譲れない拉致問題もトランプ大統領は取り上げると約束した。どのような結果となるか、痺(しび)れる思いで見つめている。 私はこの間、米朝首脳会談の結果は次の三つの可能性があると主張してきた。 ①米国が中途半端な譲歩をしてしまう可能性だ。大陸間弾道ミサイル(ICBM)の即時廃棄など目の前の成果に固執し、核などの廃棄については原則的に口約束だけでよしとしてしまうことなどが考えられる。これまで北朝鮮は1992年に南北非核化宣言、94年に米朝ジュネーブ合意、2005年に6カ国協議共同声明などで核の完全廃棄を約束したが、見返りを先に受け取った後、その約束を破棄してきた。同じことが繰り返される危険がある。 ②北朝鮮が核・生物化学兵器・弾道ミサイルのCVID(完全で検証可能かつ不可逆的な核廃棄)を受け入れる可能性だ。金正恩がそれを行う声明を出し、米国の情報機関と軍が北朝鮮に入って、核爆発物質(濃縮ウランとプルトニウム)、起爆装置、ウラン濃縮施設の核心部品、ミサイルの推進装置などを米国に持ち出すという作業が始まる可能性だ。 リビアのムアンマル・カダフィ大佐は2003年12月に核廃棄を宣言し、翌年1月に米軍輸送機がリビアから核物質、ウラン濃縮施設の核心部品、ミサイルの推進装置を米国に搬出し、3月に米軍輸送船がウラン濃縮装置、ミサイルなどを持ち出した。まさに短期間でのCVIDが実行された。 ③交渉が決裂する可能性だ。トランプ大統領は金正恩と会って彼がCVIDをする気がないと分かればすぐ席を立って帰るという意味のことを繰り返し話している。そうなれば昨年9月下旬から11月まで米軍が自衛隊のサポートを受けつつ最高度に高めた軍事緊張が再びやってくるだろう。シンガポールに到着した金正恩・朝鮮労働党委員長=2018年6月10日(ロイター) 昨年10月、金正恩は米軍が本当に「斬首作戦」、すなわち金正恩暗殺作戦を実行する危険が高まったと恐怖にかられた。秘密にしている自分の所在情報が米軍に漏れているのではないかという強い危機感を持ち、米軍が斬首作戦を実行する場合、自分の側近をスパイにするはずだと側近らに対する疑心暗鬼にとらわれたという。 それで2017年10月7日に労働党中央委員会総会を開き、唯一信頼できる肉親である妹の金与正(キム・ヨジョン)を新設した当部署の責任者に抜てきして、金正恩の全ての日程と行事の安全管理、党、軍、政府全ての幹部人事を任せたという。 与正は同総会で政治局員候補になったが、これは表向きのことで実際は事実上の権力ナンバー2になった。与正は金正日(キム・ジョンイル)時代に最強の権力をふるった組織指導部の老幹部らを含む金正日時代の幹部を全て取り換えて、若い世代で金正恩、与正に忠誠心を持つ人材に交代させる作業を昨年秋以降精力的に進めてきた。100億ドルは「見せ金」 2017年2月に党組織指導部検閲によって金元弘(キム・ウォンホン)国家保衛部長が解任されて以降、金正恩政権は党組織指導部が支えていた。ところが金正恩は組織指導部さえも信頼できなくなり、同部出身で序列2位だった黄炳瑞(ファン・ビョンソ)軍総政治局長を11月に解任した。 また組織指導部第1副部長として張成沢(チャン・ソンテク)の粛清などを主導した趙然俊(チョ・ヨンジュン)を同部から左遷して党中央検閲委員長という閑職に追いやった。10月7日の中央委員会総会で崔龍海(チェ・リョンヘ)が序列2位に上がり組織指導部長に就任した。しかし、崔は形式的な部長であって、幹部人事など重要案件は崔ではなく与正が仕切っているという。 与正はトランプ政権が斬首作戦を実行する意思と能力を確実に持っていることを知っている。したがって、上記三つの可能性のうち③の決裂だけは徹底的に避けようとするはずだ。 そうなると①と②のせめぎ合いになる。日本の最大の関心事である拉致問題は、トランプ大統領が訪米した安倍晋三首相に約束した通り、議題となるだろう。そこでトランプ大統領は金正恩に②を迫るに当たり、それを本当に実行すれば斬首作戦は放棄するし多額の経済支援を行うという鞭(むち)の放棄と飴(あめ)の提供を提案するだろう。 トランプ大統領は「金正恩がCVIDを実行すれば、豊かな朝鮮が実現する」と話しながらも、米国は金銭的支援を行わないと釘(くぎ)を刺し、日韓中が支援すると言っている。安倍首相は6月8日、日米首脳会談後の記者会見で、拉致問題について次のように語った。 「最終的には私と金氏で直接協議し、解決していく決意だ。問題解決に資する形で日朝首脳会談が実現すればよい。日朝平壌宣言に基づき不幸な過去を清算し、国交を正常化し、経済協力を行う用意がある。できる限りの役割を果たしていく」 安倍首相は拉致問題の解決とは全被害者の即時帰国だと繰り返し表明してきた。つまり、②が実現した場合、日朝首脳会談を開いて全被害者の即時帰国を迫り、それが実現すれば「日朝平壌宣言に基づき不幸な過去を清算し、国交を正常化し、経済協力を行う」と明言している。 2002年9月に平壌にいて、現在は韓国に亡命している党や政府の複数の元高官は私に「当時、小泉政権は早期に国交正常化をして100億ドル規模の経済協力を行うと約束した。ただし、現金で払うのではなくプロジェクトへの出資という形をとるのが条件だとされたので、党と政府の経済部署にプロジェクト案を作れという指令は下った」と証言している。 金正恩は父の死後に後継者になってから、父ができなかったこの100億ドルを日本から取ることで、父の権威を乗り越えたいと考えていたという。金正恩政権は100億ドルが取れなかった一番大きな原因は核開発を問題にして日朝国交に反対した米国の干渉だと総括し、金正恩は核ミサイル開発を続けながら米国の反対をかわしてどうしたら日本から100億ドル取れるか、「この難しい詰将棋を俺が解いてみせる」と数年前から話していた。ホワイトハウスでトランプ米大統領の出迎えを受ける安倍首相=2018年6月7日、ワシントン(ロイター=共同) 金正恩の狙いを安倍首相とトランプ大統領は十分承知し、CVIDを飲め、飲んだら平壌宣言に戻って100億ドルもらえる可能性が開けるというメッセージを送っているのだ。トランプ大統領の立場では、自分が金正恩と行う取引(ディール)の中に日本が出す100億ドルを見せ金として組み込んでいるのだ。トランプ大統領が拉致問題を取り上げると約束したのは、安倍首相の熱意や人道主義の立場だけではない。自国第一主義の立場から米国の財布は開かず、かわりに日本のカネをディールに使おうと考えているのだ。 しかし、米朝首脳のディールに拉致問題が組み込まれたこと自体、日本から見ると大きな外交成果だ。米国の軍事圧力を拉致解決の後ろ盾に使うことができる構造を作り上げたことになるからだ。 いよいよトランプ、金正恩会談が開かれる。私は痺れる思いでシンガポールを見つめている。

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    習近平よりトランプ、金正恩「屈辱の選択」が意味するもの

    重村智計(東京通信大教授) ドナルド・トランプ米大統領と北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長は12日、歴史的な米朝首脳会談に臨む。朝鮮戦争が終結し、歴史から最後の冷戦対立地域が消える。日朝首脳会談も実現するだろう。 ただ、北朝鮮の核放棄の終着点は、なお見えない。核の完全廃棄には、5年以上の時間と膨大な資金がいるからだ。  北朝鮮は、トランプ大統領が2年後に任期を終え再選はないと読む。大統領が変われば、核再開発の可能性が出てくることを期待しているのである。それを踏まえても、シンガポールでの首脳会談は「トランプ大統領の勝利」に変わりはないのである。 指導者の政治力は、サプライズの力で判断される。日本なら、小泉純一郎元首相がサプライズの天才だった。指導者の決断による、世界をあっと驚かせる提案や合意といったサプライズがないと、会談は失敗に終わる。トランプ大統領と金委員長は、相手の出方に合わせたサプライズを準備していたのである。 金委員長が、全てのミサイル発射台を破壊し核兵器の全面廃棄を約束して、核弾頭と科学者の海外移転に合意、日本人拉致被害者全員の帰国を応じれば、歴史的なサプライズだ。 トランプ大統領も、在韓米軍撤退と平和協定締結、米朝国交正常化を表明し、首脳の相互訪問に合意すれば、世界に大きな衝撃を与えることができる。米国の平壌連絡事務所設立や、大使館の相互設置もサプライズになるだろう。 米朝の指導者がシンガポール入りするまで、実務交渉は最終合意に達していなかった。北朝鮮は全てを指導者が握り、外務省高官に決定権がないからだ。しかし、指導者の指示を受けて交渉し、再び平壌に指示を仰ぐやり方では、時間がかかってしまう。2018年6月11日、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長が宿泊しているシンガポールのセントレジスホテル前に集まった報道陣(松本健吾撮影) そのため、トランプ大統領と金委員長は会談の2日前にシンガポール入りすることを選んだ。2人の首脳が近くにいる環境で、最後の交渉に首脳が決断を下したのである。歴史の行方を決める「最後の1日」 だから、首脳会談は事実上11日で終わっていた。2人は示し合わせたように、10日にシンガポール入りし、11日に最後の決断を下していたのである。金委員長側近の金英哲(キム・ヨンチョル)党副委員長が、この構想をトランプ大統領のもとに運んでいた。指導者が同じ場所にいれば、決定は早い。歴史の行方を決める「最後の1日」となった。 北朝鮮が南北首脳会談と米朝首脳会談を「提案」した時点までは、金委員長のサプライズがリードしていた。その後、トランプ大統領が首脳会談に応じ、シンガポールの開催を認めさせる反撃で、トランプ氏が逆転した。ところが、米朝双方は後に「北朝鮮が首脳会談を提案しなかった」という事実を認めた。韓国が仕掛けたのだろうか、謎は残る。 金委員長は形勢を立て直すため、中朝首脳会談と南北首脳会談を相次いで行った。中韓の指導者を味方につけて、「朝鮮半島の非核化」と、譲歩のたびに見返りを得る「段階的解決」を公言し始めたのである。だが、トランプ氏は朝鮮半島ではなく、あくまで「北朝鮮の完全非核化」と「非核化後の見返り」の方針を変えず、米中と米韓の関係は悪化した。 トランプ大統領は、なかなかの役者だ。交渉が行き詰まる中、北朝鮮がペンス副大統領とボルトン大統領補佐官を「人間のクズ」などの激しい言葉で非難すると、すかさず「会談中止」の書簡を金委員長に送った。 この交渉術は見事としか言いようがない。北朝鮮との交渉は、会談中止か中断を覚悟しないと譲歩を勝ち取れないからだ。一方「大統領書簡」で、トランプ大統領は金委員長を非難せず、「感謝」の言葉を3回も使う巧みな配慮も忘れなかった。 慌てた北朝鮮は「会談再開」を伝え、金副委員長をワシントンに送り、金委員長の親書を渡した。奇妙なことだが、この親書の内容は公表されていない。北朝鮮国内で公表されると困る内容だったのだろう。 金副委員長は、北朝鮮で「人の心を引きつける話術の天才」と評される。彼はトランプ大統領の心をつかみ、いくつかの願いを受け入れてもらうことに成功した。トランプ大統領は「最大限の圧力」の言葉は使わない、と明言し、親書の非公開にも応じた。2018年6月、米ホワイトハウスで北朝鮮の金英哲朝鮮労働党副委員長(左)と会談を終え、言葉を交わすトランプ米大統領(AP=共同) トランプ大統領の姿勢後退が報じられたが、あくまで北朝鮮軍部の反発を理解し、金委員長がシンガポールに来やすいように配慮したのである。 首脳会談のシンガポール開催は、ボルトン補佐官の提案だ。米国は、開催決定までの間、金委員長の軍部への指導力と北朝鮮内部の状況が情報機関の報告通りか確認しようとした。屈辱でも「会談」北朝鮮の苦境 実は、北朝鮮の指導者は、中国やロシアなど友好国しか訪問していない。もし、金委員長が遠く離れた場所に向かい、国を空ければクーデターが起きる可能性がある。また、北朝鮮軍部には米国が留守を狙って軍事攻撃する、との疑心暗鬼も生じる。北朝鮮がこうした不安を克服できるかを、見極めようとしたのである。 米国は、金委員長がシンガポール会談を受け入れたことで、北朝鮮の軍部を抑えることに成功したと受け止めた。朝鮮人民軍は、米国との核交渉と譲歩に強く反対していた。米国は、それでもシンガポールに来ざるをえないのは、国連制裁が効果を挙げている証拠だと理解した。 北朝鮮には途中給油なしにシンガポールへ移動できる飛行機はなく、中国が提供した。ホテルの宿泊代金の支払いにも問題が生じた。誇り高い北朝鮮にとって屈辱のはずだが、それでもシンガポールまで行かざるをえない状況が、北朝鮮の苦境を物語る。 朝鮮半島の国家は、李朝時代まで中国への「朝貢国家」であった。外交権と軍事権を中国に握られてきたのである。北朝鮮は、朝貢国家から脱却するために「主体(チュチェ)思想」を主張するようになる。 再び中国の影響下に組み込まれるのか、米国の影響力を取り入れるのか。北朝鮮はこの「歴史的選択」に直面し、米朝首脳会談に応じた。朝鮮半島全域に米国の影響力を呼び込み、中国の影響力を弱体化させる戦略を選んだのである。 一方、中国は、トランプ大統領の「反中政策」を緩和させるために、北朝鮮を利用しようと画策する。金委員長にシンガポール行きを促し、対米協力の姿勢を見せながら、北朝鮮が求める「非核化の段階的解決」を支援し、米国に対抗させようとしている。要するに、北朝鮮を「対米カード」に利用しているのである。 北朝鮮は、中国の影響力と支配から独立するためには、米国の影響力が必要だ。中国に完全に従わないためには、米国の支援も必要だ。中国国営通信新華社が2018年5月8日に配信した、中国遼寧省大連で会談する中国の習近平国家主席(右)と北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長の写真(新華社=共同) 「核保有国」のインドやパキスタンのケースを考えると、米国の友好国にならなければ、北朝鮮は「核保有国」とも認めてもらえない。だが、北朝鮮が米国と友好関係を築いて西側世界に近づくと、中国は当然反発する。微妙な駆け引きが、これから展開されるのである。 米朝首脳会談で、朝鮮半島全土に米国の影響力が及ぶ国際関係が初めて生まれる。朝鮮半島の国際関係は、新たな時代に入る。そして、日朝首脳会談が実現することで、拉致問題も解決に向かうであろう。

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    「親米国家」北朝鮮の誕生で日本の安全保障はこんなに変わる

    長との「世紀の対決」の注目ポイントは何か、考えてみたい。 今回の米朝首脳会談の結果次第では、北朝鮮とアメリカという「不俱戴天(ふぐたいてん)の敵」が「友好国」に一変する可能性を秘めている。実際、おそらく米朝首脳会談が始まる段階で「北朝鮮の非核化」とその見返りとなる「体制保証」という大きな「取引」の枠組みは決まっていると推測される。 ただ、枠組みをより具体的にさせ、友好国同士になるためには「敵」である米朝のどちらも相手に大きく譲歩する必要性がある。もし、譲歩が十分でなければ、米国側の経済制裁や軍事的圧力、北朝鮮の核・ミサイル開発の再開という昨年までの流れに戻ってしまうだろう。では、実際に何を米朝が譲ることになるのか。 米国側の「誘い水」ともいえる妥協のポイントは、すでに少しずつ明らかになっている。中でも、トランプ氏が日米首脳会談直後の記者会見で伝えたように、「朝鮮戦争終結宣言」は米国の考えるスタートラインのようである。北朝鮮に対する「敵視政策」を止めるという意思表示であり、あくまでも「協定」とかではなく、「宣言」ならしやすいという見方であろう。 また、米国の一部メディアがすでに指摘しているような米国の領事館や大使館を平壌に設立することで、人的交流を図り、米国が簡単に攻撃しにくいという状況を作り出すのが米国側の次の手でもある。人的交流の中には、同時に今後のトランプ氏の北朝鮮訪問や金正恩氏の米国訪問なども含まれるだろう。  ただ、こんなことはあくまでも序の口であろう。北朝鮮の体制保証はまず、非核化のペースと経済支援をめぐっての大きな攻防になるとみられる。 あくまでも、北朝鮮がもし、米国が望んでいる「完全で検証可能かつ不可逆的な廃棄(CVID)」に近い形で積極的で期限を切った非核化に取り組んだ場合、米国はかなり包括的な経済支援を行っていくのではないだろうか。2018年6月、シンガポールに到着し、バラクリシュナン外相(中央)と握手する北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長(バラクリシュナン氏のツイッターより、共同) 例えば、米国内に届くとされている大陸間弾道ミサイル(ICBM)だけでなく、日本や韓国に届く短・中距離のミサイルについても廃棄を決めた場合などは、経済制裁解除から始め、米国だけでなく、日本や韓国、中国と組んだ直接投資を広範に行っていくとみられている。北朝鮮の安い労働力を利用した工場進出だけでなく、豊かな鉱物資源の国際共同開発なども予想される。 利益相反になるかもしれないため、トランプ氏の家族が経営するホテルの建設は難しいかもしれない。それでも、韓国メディアが報じているように、トランプ氏の盟友である「カジノ王」シェルドン・アデルソン氏と協力した元山(ウォンサン)地域へのカジノ誘致なども有り得るかもしれない。日本には複雑な展開も この辺りの振興策はビジネスマンであるトランプ氏の本領発揮が期待される。だが、このような信じられない展開は、北朝鮮がどれだけ譲歩するかにかかっている。 一方で、日本にとっては複雑な状況もある。すでにトランプ氏は「経済支援の主体は日本や韓国、中国から」と公言している。 だが、言うまでもなく、日本にとっては「拉致問題が進展しなければ、経済支援はしない」という原則は崩したくない。安倍晋三首相が強調するように「拉致、核、ミサイル」の三つで北朝鮮が動かなければ、経済制裁解除や直接投資も動きたくないのが日本の立場だ。米朝関係が進展することで、日本は拉致問題解決のために、日朝首脳会談を急がないといけなくなる。 問題は経済関係だけではない。本格的に米朝の雪解けが進めば、日本の安全保障環境が劇的に変化するのは確実だ。「朝鮮戦争終結宣言」が「宣言」でなく「協定」となった場合、一気に国交正常化の動きが出る。 そうなれば、米朝には議会も関与する不可侵条約が締結されていくというのがシナリオとなる。当然、東アジアに残されていた「冷戦構造」も消えることになるが、必要がないはずの北朝鮮と戦うために配置している在韓米軍が縮小するという論理になっていくであろう。 実際のところ、在韓米軍は対中国の目的にも当然ながら利用されている。もし、在韓米軍が縮小される場合、縮小分だけ在日米軍の負担を大きくせざるを得ない。そのまま、日本の負担増につながってしまうのである。さらに、在韓米軍が大幅に縮小された場合、日本としては「前線」となってしまう対馬の防衛を自らが強化せざるを得ない状況になるのである。2018年6月7日、ホワイトハウスで行われた共同記者会見で握手する安倍首相とトランプ米大統領(共同) ただ、北朝鮮の狙いも複雑だ。北朝鮮が求める「朝鮮半島の非核化」には在韓米軍の撤退も含まれるという解釈が一般的である。だが、一部には別の解釈もある。例えば、北朝鮮が今後「親米国家」に生まれ変わった際には、中国を牽制したいという狙いのために、むしろ北朝鮮が在韓米軍の容認を望むという見方もあるのである。 このあたりをどう読み解くのか。日本としては注視し、状況に応じて機敏に対応すべきなのは言うまでもない。 いずれにしろ、「世紀の対決」の幕は今、まさに開こうとしている。その向こうに見えるのは、これまでとは全く別の風景かもしれない。

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    「同情するならカネをくれ」金正恩がプーチンを見限った理由

    名越健郎(拓殖大学海外事情研究所教授) 昨年まで一度も外遊したことがなく、世界の「のけ者」だった北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長が一躍国際舞台の主役となり、各国首脳がこぞって面会に動いている。朝鮮半島外交で出遅れたロシアのプーチン大統領も9月にウラジオストクで開かれる「東方経済フォーラム」に金委員長を招待しており、巻き返しに必死だ。 プーチン大統領は9月11~13日の東方経済フォーラムに、安倍晋三首相、韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領、中国の習近平国家主席を招待しており、金委員長が出席すれば、5カ国首脳が一同に会することになる。 シンガポールの米朝首脳会談で米朝関係に進展があれば、トランプ米大統領も飛び入りする可能性があり、その場合、歴史的な「6カ国首脳会談」の開催となる。そこでは日朝首脳会談も実現し、日本人拉致問題が一気に解決に向かうかもしれない。 米朝首脳会談に続く焦点は、ウラジオストクの「5カ国(または6カ国)首脳会談」となり、外交によるかけ引きが続きそうだ。こうした中で、プーチン大統領は朝鮮半島の緊張緩和、核問題解決で主導権を握ろうとしているかにみえる。 ロシアのラブロフ外相も最近、「北朝鮮非核化の最終段階で、すべての国が参加する多国間協議の開催は避けられない」と述べ、6カ国プロセスの主導に意欲を見せている。 ロシアは2014年のウクライナ危機後、欧米の経済制裁を受けて孤立が続くが、先のG7(主要7カ国)サミットでは貿易通商問題で欧米の亀裂が露呈。5月にはメルケル独首相、マクロン仏大統領、安倍首相が訪露した。今月14日からのサッカーW杯ロシア大会の主催もあり、一気に国際的孤立の脱却を狙っているようだ。プーチン大統領 積極的な朝鮮半島外交も孤立脱却戦略の一環だろう。朝露間では、5月末にラブロフ外相が9年ぶりに訪朝し、金委員長と会談。段階的な非核化の方向性で一致した。 ロシアでの報道によれば、W杯開会式には北朝鮮の序列ナンバー2、金永南(キム・ヨンナム)最高人民会議常任委員長が出席する。9月初めには、マトビエンコ上院議長が訪朝し、10月にロシア議会代表団が訪朝するなど、両国の交流が一気に活発化する。 ただ、金委員長が9月にウラジオストクを訪問するかどうかは微妙だ。金委員長は15年5月にもロシアの対独戦勝70周年式典に出席を計画していたが、10日前にドタキャンした経緯がある。 この時は、当時の玄永哲(ヒョン・ヨンチョル)人民武力部長(国防相)が金委員長の訪露準備で同年4月に訪露したが、帰国後公開処刑され、ロシア側が不快感を表明。その後、朝露関係は停滞していた。「脇役」にすぎないプーチン 外交経験に乏しい34歳の金委員長が、国際会議デビューを果たすのか、プーチン大統領や安倍首相ら首脳外交のベテランと渡り合えるのか。北朝鮮の改革開放を探る上で重要な試金石となる。 ロシアは北朝鮮核問題では、米国の強硬論をけん制し、対話による解決、段階的非核化を支持してきた。 プーチン大統領は6月8日、北京で習主席と会談し、北朝鮮の非核化に歩調を合わせて対応することで一致。北朝鮮が求める体制保証を中国とともに後押しする考えを示した。ウラジオストクに関係国首脳を集め、朝鮮半島外交で一気に主導権を握る野望がにじむ。 しかし、ロシアの朝鮮半島政策には「実力不足」も目に付く。第一に、中国はロシアが主導権を握ることを望んでおらず、中露は半島外交で一枚岩とはいえない。6カ国協議を主催してきた中国は、自らイニシアチブを取ろうとするだろう。 第二に、ロシアには北朝鮮に経済援助を行う能力がない。2015年の朝露貿易は往復8400万ドルにすぎず、57億ドルの中朝貿易の1・4%にすぎなかった。中国が石油や食糧の一部を無償供与するのに対し、ロシアは市場価格での決済に固執しており、援助能力はない。国連安保理決議を受けて、武器輸出も禁止している。 第三に、ロシアはソ連時代と違って、北朝鮮と利害を共有する同盟関係ではなく、後ろ盾でもない。シンクタンク「国際危機グループ」(ICG)が指摘したように、露朝関係は「実利に基づく制限された友好関係」と位置づけられよう。APEC首脳会議の写真撮影に向かうトランプ大統領(手前右)とプーチン大統領=2017年11月、ベトナム中部ダナン(共同) 日本は半島外交で出遅れたといっても、拉致問題が解決して関係が正常化した場合、大型援助を行うことが小泉純一郎首相訪朝時の日朝平壌宣言に明記されており、いずれ日本の出番が必ずくる。 しかし、ロシアには支援能力がなく、北朝鮮はそれを熟知していよう。北朝鮮からすれば、「同情するなら、カネをくれ」ということだ。 ロシアは半島外交で、反米外交を進め、日米韓の連携を阻止し、存在感を高めて孤立脱却を図ろうとするだろうが、しょせん影響力は限られ、「脇役」にすぎない。とはいえ、キーパーソンとなった金委員長の対応次第で、9月にロシアが関係国首脳会議を主催する可能性もあり、見逃せない展開となってきた。

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    北朝鮮の「体制保証」と「人権改善」は両立できない

    崔碩栄(ジャーナリスト) 6月12日、米国と北朝鮮のシンガポール首脳会談が近づいている。一度はトランプ米国大統領の中止発表で無くなった思われた会談だが、北朝鮮側が積極的に開催の意志を示したことで会談の実施が決定、両国の実務陣が慌ただしく動いている。 5月27日からは板門店で米国側のソン・キム代表と北朝鮮側代表が事前調整を行い、北朝鮮の金英哲労働党副委員長が、米国を訪問し、トランプ大統領と面談をするなど、6月12にシンガポールで開催が予定されている日米朝首脳会談のための下準備が着々と進められている。 両国の要求は実に明確だ。米国が求めているのは、北朝鮮の完全な非核化であり、北朝鮮が求めているのは、金正恩の体制保証である。他にも、経済制裁解除、経済支援、北朝鮮の開放と人権問題、米軍駐留問題などの多くの事案が山積みだが、両国が最も重視している問題は「完全な非核化」と「金正恩体制維持」である。 会談において最も重要な話題はやはり「非核化」であろう。米国が迅速な「完全かつ検証可能、不可逆的な非核化(CVID)」を希望するのに対し、北朝鮮は時間をかけて少しずつ進めていく「段階的非核化」を主張。各国の専門家たちからはこの対立こそ会談の最大の障害物だと言われてきた。 しかし、トランプ米国大統領が6月1日米国で開かれた金委員長の最側近、金英哲党副委員長との面談で「時間をかけても構わない。速くやることも、ゆっくりやることもできる」と「段階的非核化」の引用する可能性を示唆したことで楽観論が広がっている。 もし米国が北朝鮮の段階的非核化を容認し、それに対する見返りとして、北朝鮮の体制を保証して、経済制裁を解除すればどうなるだろうか? 朝鮮半島から核と戦争の脅威がなくなり、南北が経済・文化交流を通じて繁栄を成し遂げる平和の時代が訪れるだろうか?ホワイトハウスで北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長の親書を金英哲党副委員長(左)から受け取るトランプ米大統領=6月1日(ホワイトハウス提供・共同) 少なくとも、文在寅政権をはじめとする北朝鮮に信頼と支持を送る人々にはそのように見えているようだ。しかし、北朝鮮の非核化と体制維持が実現されることはあっても、その結果として平和の時代が訪れることは不可能である。少なくとも北朝鮮という「国家」においては。なぜなら、北朝鮮の体制維持と北朝鮮の人権の改善は同時達成が不可能だからだ。 国際社会はこれまで北朝鮮の人権弾圧状況を批判し、改善を求めてきた。北朝鮮にある複数の政治犯収容所には8万人から12万人の政治犯とその家族が収監されていると推定されている。そして収容所内では、飢餓と強制労働、処刑、拷問、性的暴行、乳幼児殺害が頻繁に起きていることが、脱北者たちの証言によって明らかになっているのだ。 国連は、2006年以来、2017年まで毎年、北朝鮮人権決議案を採択し、北朝鮮の組織的な人権蹂躙を批判し、加害者処罰を促しており、米国国務省報告書は、「北朝鮮の住民は、政府を変える能力がなく、北朝鮮当局は、メディアと集会、結社、宗教、移動、労働の自由を否定するなど、住民の生活をさまざまな側面から厳しく統治している」と指摘している。自国民への過酷な弾圧こそ、金正恩体制維持の「必須条件」なのだ。金正恩がトランプより怖いもの 金正恩は執権してから無慈悲な粛清を続けてきた。自分の叔父の張成沢を始め、人民武力部長、内閣副総理、総参謀部作戦局長など執権6年間処刑と粛清された軍と党の幹部が数百人に上る。 一般国民についても同様である。脱北を試みて捕えられた人や国境地帯での密輸が見つかり逮捕された人はもちろん、韓国の歌、ドラマを所持したり、楽しんだという理由だけでも強制労働収容所に送られ、時には公開処刑が行われるなど、それは正に恐怖政治である。現在の金正恩体制を維持するためには、人権弾圧は続けるしかない。そうしなければ、体制の維持は不可能だからである。 徹底的に閉鎖された社会で生きてきた北朝鮮住民に開放と交流という経験は動揺をもたらし、それは自然に統治体制への不満と反発という連鎖を起こすだろう。金正恩にとってこれほどの脅威はない。もし米国が非核化の見返りに、金正恩体制の維持を保証したならば彼は依然として国民に閉じられた世界での生活を強いるに違いない。それすれば内部の動揺が広がることはない。しかし、北朝鮮内では何一つ変われず地獄のような状況が続くだろう。 もしかすると、金正恩にとって非核化より受け入れがたいのは、政治犯収容所の閉鎖と政治犯釈放などの人権問題かもしれない。核兵器が外部からの体制を守る「盾」だとすれば、恐怖政治と人権弾圧は、内部(自国民)の反発から体制を守る「武器」だからだ。 外部からの軍事的脅威より怖いのが、内部の反発から始まる体制の崩壊である。それは過去のソ連をはじめ東欧の共産国家が外部からの力の圧力ではなく、内部の反発と抵抗から崩壊した歴史がよく証明している。北朝鮮の立場からすれば、非核化より受け入れがたいのが自国内の人権問題への干渉かもしれない。 米国は人権にうるさい国だ。特に2016年に北朝鮮を訪問中に逮捕された後、脳死状態で釈放された直後に死亡した米国の大学生オットー・ワームビアの事件は、北朝鮮の凄惨な状況を世界に知らせ、米国民を怒らせするきっかけとなった。これを鑑みれば、米国が非核化の見返りに金正恩体制を保証することはまた新しいの非難を招くことになるかもしれない。会見に臨む北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長=2018年4月27日、板門店(韓国共同写真記者団撮影) 6月12日の会談で「非核化」の他に北朝鮮が米国に提示できるカードはない。一方、米国は「段階的非核化」という譲歩のカードだけでなく、経済制裁解除、経済支援など多くの魅力的なカードを持っている。 米国は果たして米本土攻撃の脅威を除去することに満足して、国際社会から非難される北朝鮮の人権弾圧を黙認するだろうか。それとも、非核化以外の厳しい条件を付けて、北朝鮮をさらに窮地に追い込むのか。米国の交渉術に注目する。チェ・ソギョン ジャーナリスト。1972年韓国ソウル生まれ。韓国の大学で日本学を専攻し、1999年渡日。関東地方の国立大学で教育学修士号を取得。日本のミュージカル劇団、IT会社などで日韓の橋渡しをする業務に従事する。現在、フリーライターとして活動、日本に関する紹介記事を中心に雑誌などに寄稿。著書に『韓国人が書いた 韓国で行われている「反日教育」の実態』(彩図社刊)、『「反日モンスター」はこうして作られた-狂暴化する韓国人の心の中の怪物〈ケムル〉』(講談社刊)がある。

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    米朝首脳会談 安倍首相は舞台に立てぬまま外交的敗北

     米朝首脳会談では、安倍晋三首相は自ら檜舞台に立てないまま“外交的敗北”を味わうことになりそうだ。それほど、トランプ大統領のあの言葉は首相に大きなダメージを与えた。「『最大限の圧力』という言葉はもう使いたくない」。金正恩氏の書簡を携えてきた“北のスパイの親玉”金英哲・朝鮮労働党副委員長との会談後、記者団に上機嫌でそう語ったときだ。 よりショックな内容はその前段の発言にあった。トランプ氏は金正恩氏の密使との2時間にわたる会談で非核化から経済制裁の解除、朝鮮戦争の終結まで「我々はほぼ全てのことについて話した」と語りながら、日本が強く望んでいる拉致など人権問題については「今日は話していない」と断言。そのうえで「北朝鮮への経済協力は韓国、中国、日本がすると思う。米国が多額の資金支援をすることはない」と踏み込んだ。 商売人のトランプ氏は「拉致被害者が全員帰国するまでビタ一文出せない」という方針をとってきた安倍首相に、聞こえよがしに“NO”のメッセージを送ったのだ。 首相は急いで米国に飛んでトランプ氏と会談したが、外交専門家の間では安倍外交の孤立がはっきりしたと受け止められている。武藤正敏・元駐韓大使が語る。「安倍総理は拉致問題をなんとか米朝首脳会談の中に組み込んでもらおうとトランプ大統領に働きかけてきた。しかし、当事者双方の事情を見ると、それは叶いそうにないと考えられる。北朝鮮側は金正恩自身の命と国家の存亡を賭けた交渉で、一方のトランプ大統領は今秋に中間選挙を控えている。米朝ともに自分のことで精一杯で、日本の事情を考える余裕はない」安倍晋三首相=2018年5月14日、首相官邸(春名中撮影) 外交のプロから見てもトランプ発言は決定的だった。「トランプ氏が核・ミサイル開発と並んで拉致問題を重視しているなら、金英哲氏との会談で自ら拉致に言及し、本番の首脳会談で前向きな回答を用意しておくように求めてもおかしくなかったが、人権問題には言及さえしなかった。つまり、日本の方針とは逆に、拉致問題は棚上げで、制裁強化は先送りの方向に進んでいるということ。まさに安倍外交は孤立する形になっている」(同前) 北朝鮮は日米の離間に成功したと見るや、「拉致問題はすでに解決された」「過去にわが民族に与えた前代未聞の罪をまず謝罪し、賠償すべきだ」と外交的宣伝攻勢を掛けてきた。関連記事■ 北朝鮮外交に巻き込まれるな 安倍首相は「高みの見物」を■ 金正恩氏の「執事」の正体、五輪参加など北朝鮮外交影の主役■ 米朝首脳会談 壮大で愚かな「政治ショー」で終わる可能性■ 高須院長 米朝会談で指摘「韓国は相当空気が読めてない」■ 安倍昭恵さん、ロシア行きをめぐりけっこう批判出た

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    「米朝首脳会談中止」トランプの揺さぶりは正しい交渉術である

    重村智計(東京通信大教授) 米国のトランプ大統領は5月24日、米朝首脳会談の中止を表明し、北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長に書簡を送った。これに驚愕(きょうがく)した北朝鮮は「どんな方法であれ、対座して問題を解決する用意がある」との立場を表明し、米国に会談の再考を求めた。さらに、26日に急遽行われた2度目の南北首脳会談で、金委員長は「朝鮮半島の完全な非核化」の意思を韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領に伝えていたことが明らかになった。これで「トランプ大統領の勝利、金委員長の敗北」であることがはっきりした。 北朝鮮との交渉には一つだけ秘訣(ひけつ)がある。それは、交渉する側に「決裂してもいい」という覚悟がないと、北朝鮮に外交敗北を喫してしまうことだ。北朝鮮は、「成果を挙げたい」と焦る交渉相手のスキを突いて揺さぶりをかけ、譲歩を引き出すのである。 かつて1990年代に米朝核交渉で、北朝鮮の金桂寛(キム・ゲグァン)第一外務次官が、内容のない米国非難の「演説」を2日続けて行ったことがある。それを聞いていた米国のガルーチ元朝鮮半島担当大使は「交渉を打ち切る。大統領府と相談する」と述べ、席を立った。すると、金次官は出口の扉の前まで追いかけ、ガルーチ氏に「譲歩するから、もう1日交渉してほしい」と哀願し、翌日合意に至ったのである。 この経験から、北朝鮮との外交交渉は「会談を打ち切る」と断言できれば、北朝鮮は譲歩するという教訓が残った。だから、トランプ氏の「首脳会談中止」は正しい交渉術といえる。 「米朝首脳会談中止」の第一の原因は、北朝鮮がトランプ政権を甘く見て、からかい過ぎてしまったことにある。もう一つの原因は北朝鮮軍部の反発にある。軍の反発がなぜ中止につながったのか、北朝鮮の国内事情が分からないと謎は解けない。 トランプ大統領はこれまで「非核化に同意しなければ会談を中止するし、途中で席を立つ」と何度も明言してきた。北朝鮮は、このトランプ発言を「駆け引きにすぎない」と軽んじてしまったのである。実際、トランプ大統領は会談中止を決めた直接の理由について「(北朝鮮の)直近の声明で示された怒りとむき出しの敵意」であると、金委員長への書簡で明らかにしている。2018年5月25日、米朝首脳会談の中止に関するニュースを伝えるソウル駅の街頭テレビ(共同) 「直近の声明」とは、朝鮮中央通信が報じた、北朝鮮外務省の崔善姫(チェ・ソニ)外務次官による24日の「談話」を意味する。崔次官は、ペンス米副大統領が21日に「北朝鮮への軍事攻撃の選択を排除しない」と述べたことを非難し、「われわれは米国に対話を哀願しない」と表明した。 また、朝鮮中央通信は16日、金第一次官がボルトン大統領補佐官を名指しで非難し、北朝鮮の核施設やミサイルなどの解体が終了した後に制裁を解除する「リビア方式」の放棄を求め、「核、ミサイル、化学兵器の完全廃棄要求」に応じられないとの談話を報じた。相次ぐ強気の「談話」のウラ 相次ぐ強気の談話の背後には、平壌(ピョンヤン)で軍部が反発していた事実がある。その軍部を納得させるために「リビア方式」と「軍事攻撃」を非難する必要があったのである。 一方、米国の指導者は「やると言ったら実行する」人の集まりだ。だから、「非核化に応じなければ、首脳会談を中止する」「軍事攻撃も辞さない」という発言は、彼らの本音なのだ。米国の指導者や政治家は、嘘をついて国民をミスリードすると、責任を問われる文化がある。米国の政治文化を北朝鮮は理解できなかったのである。 さらに、「北朝鮮の外務次官風情が格上のペンス副大統領とボルトン補佐官を非難し、暗に更迭を画策するのは失礼にもほどがある」とトランプ大統領は怒ったのだ。こうして、北朝鮮の外交宣伝と工作戦術は自爆してしまったのである。 一連の「談話」問題の背景には、北朝鮮外務省の誤算があった。北朝鮮の2人の外務次官は、外務省の次官として「公式声明」を出したわけではない。権限も持たない「宣伝工作機関」の朝鮮中央通信が、2人の「談話」として報道しただけだ。 北朝鮮において「談話」とは、私的な主張や取材への回答を意味する。そこで、北朝鮮外務省は公式なものではないと言い訳できる余地を残していたのである。だから、まさか米国が談話を「公式声明」として対応するとは考えていなかった。 交渉相手が韓国や日本ならば「談話」でも動揺するが、北朝鮮は、トランプ政権がそんなヤワな相手ではないと思ってもみなかったのだ。つまり、「トランプ政権という異文化」への理解不足である。2018年5月24日、トランプ米大統領が北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長に宛てた、米朝首脳会談中止を通告する書簡(ロイター=共同) ところで、トランプ大統領の書簡に気になる表現があった。各紙の日本語訳が異なるので、どれが正しい訳かはわからない。「私たちは会談は北朝鮮が求めたものだと伝えられたが、それが見当違いだったということが分かった」(共同通信5月24日配信)。「我々は、会談は北朝鮮からの要求だと知らされていたが、それは全く関係ないことだ」(読売新聞5月25日) この2つの翻訳を比べると、共同通信の方が日本語になっている。読売は、意味がよくわからない。共同の翻訳通りなら、間に立った韓国が「首脳会談」に関して、何らかの嘘を伝えたのではないか、との意味になる。トランプ大統領「書簡」のナゾ つまり、金委員長が「首脳会談したいとトランプ大統領に伝えてほしい」と言ったのではなく、韓国側が「米朝首脳会談をしたらいかがですか」と持ちかけ、「それもいいね」と答えた可能性がある。その返事を、韓国側が「金正恩委員長がトランプ大統領と会談を望んでいます」と伝えたのかもしれない。 では、米朝首脳会談は今後どうなるのか。近い将来、開催されるのは間違いない。実際にトランプ大統領も、当初の予定通り、6月12日に行う可能性に言及している。 何よりも、首脳会談が開催されなければ、金委員長は苦境に立たされてしまう。ただでさえ、首脳会談開催のために核廃棄で譲歩しても、朝鮮人民軍は反発する。首脳会談が実現しないのに、核実験場を廃棄したのか説明がつかないため、軍が激しく反発するのは確実だからだ。 実は、こうした事情を考慮して、トランプ大統領は金委員長を全く批判していない。それどころか「時間を割き、忍耐と努力を示してくれたことに感謝している」と感謝を表明したのである。 さらに「拘束されていた人々を釈放してくれたことには、お礼を言いたい。感謝している」と北朝鮮で拘束された米国人3人の解放に謝意を述べている。そして「遠慮なく私に電話するか、書簡を送ってほしい」と、最大限の敬意を示している。 つまり、今回のトランプ大統領の書簡は、金委員長の体面を傷つけないように配慮し、称賛する内容になっている。あくまで、北朝鮮の指導者を決して非難せず、部下の外務次官を批判しているにすぎないのである。外交テクニックを駆使したトランプ大統領はなかなかの交渉上手といえる。2018年4月27日、板門店宣言に署名後、共同発表に臨む韓国の文在寅大統領(左)と北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長(韓国共同写真記者団・共同) 今回の「会談中止」の決断は、実は中国に向けられたメッセージでもある。トランプ大統領は、北朝鮮の態度が5月8日の中朝首脳会談後に硬化したと述べている。だから、中国に北朝鮮の非核化に協力しないと、米中貿易戦争で譲歩しないとの意向も表明している。 一方で、トランプ大統領は安倍晋三首相と韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領に対し、北朝鮮が非核化に応じない場合には軍事攻撃する方針を明らかにしたと述べている。北朝鮮と関係諸国は今、「戦争」か「首脳会談」かの別れ道に立たされている。

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    トランプ「貿易戦争」の思惑を読む

    訪米中の安倍首相はトランプ大統領との日米首脳会談に臨んだ。まずは北朝鮮情勢をめぐる結束強化を確認したが、鉄鋼とアルミニウムの追加関税など利害が対立する通商政策の行方にも注目が集まる。米中貿易戦争の火種がくすぶる中で日本はどう動くべきか。過熱する「チキンレース」の先行きを読む。

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    ポチ外交が染み付く安倍首相は「天才老人」トランプの金髪を逆立てよ

    概の話は終わっている。ところが、トランプ政権というのは、この常識が通用しない。 トランプというのは、アメリカ合衆国の歴史に登場したことのない「偉大なる大統領」であり、自分を「(情緒が)すごく安定した天才(a very stable genius)」と思っている男である。しかも、ポルノ女優、ストーミー・ダニエルズと一夜限りの関係を結び、それを口外しないように13万ドルを支払ったという老人である。とてもじゃないが、何を言っても説得などできないだろう。 米中西部の「ラストベルト(さびついた工業地帯)」の街で、朝からダイナーでクアーズのビールを飲み、ステーキをたいらげるプア・ホワイト(白人貧困層)のために「制裁関税(sanction tariff)」を思いつく「錆びついたアタマ」の持ち主に、今さら自由貿易の大切さを熱弁しても、聞く耳を持たないだろう。菅義偉(よしひで)官房長官は「(日本側から)自由貿易の大切さを十分に申し上げることになる」という見通しを述べたことがあるが、そんなことをまともに言ったら、この老人の機嫌を害すだけである。 ここから順次説明していきたいが、この大統領には、論理的な説得は一切通用しない。例えば、「大統領閣下、クオリティーの高いわが国の高規格鉄鋼の値段が上がると困るのは貴国の方ではないですか。自動車の販売価格の上昇を招きます」などと言っても、この人は何のことか分からないだろう。毎朝、オーバルオフィス(大統領執務室)に届けられるレクチャーペーパーの枚数が多いと、即座に怒り出すという「天才老人」なのだから。2017年2月、米フロリダ州でゴルフを楽しみ、ハイタッチする安倍晋三首相(左端)とトランプ米大統領(内閣広報室提供) それでは、トランプタワーに真っ先に駆けつけ、ゴルフを2回もやった「仲の良さ」で、何とかお願いすればいいのだろうか。これもまた違うだろう。なにしろ、この「天才老人」は筋金入りの「白人至上主義者」で「レイシスト」だ。チャイニーズもジャパニーズも、彼にとっては同じだからである。 それに、トランプ氏には安倍首相より仲のいいゴルフ・フレンドが山ほどいる。フロリダ州パームビーチの金ピカ別荘「マールアラーゴ」の近所には、あのグレッグ・ノーマンも豪邸を構えており、トランプ氏とは「ご近所ゴルフ付き合い」をしている。そのため、トランプ氏はノーマンの頼みにイヤとはいえず、オーストラリアが関税適用除外になったと言われている。ロビー活動しない「お人好し」日本 今回適用除外になったのは、このオーストラリアのほかに、カナダ、ブラジル、メキシコ、欧州連合(EU)、アルゼンチン、韓国の7カ国および地域だが、いずれもワシントンに代表団を送り込んでロビー活動をしていた。例えば、ブラジル大使とブラジル鉄鋼協会会長は、上下院議員数十人を回って説得に当たった。また、EUは米国からの輸入品に対抗関税をかけるとちらつかせた。2018年1月、NAFTA再交渉の会合終了後に記者会見する(右から)ライトハイザー米通商代表、カナダのフリーランド外相、メキシコのグアハルド経済相(共同) ところが、日本は「日米同盟は世界一重要な同盟だから、日米の絆は揺るぎない」などという「外交辞令」を信じ込み、ロビー活動をほとんどしなかった。「安全保障上の措置から一部の国を除外する」というワシントンの「お言葉」を信じたままだったというから、お人好しにもほどがあろう。 カナダ、メキシコ2カ国は北米自由貿易協定(NAFTA)加盟国だし、中南米諸国は米国のバックヤード(裏庭)だ。そして、EUは白人が多くを占める「国家連合」である。アジアの国は、これらの国や地域よりも、少なくとも2倍以上のロビー活動をしなければ、ワシントンを動かすことはできないのである。 鉄鋼・アルミ関税発効前日である3月22日、ホワイトハウスでのトランプ発言を報道で知って、世耕弘成経済産業相は青ざめたという。また、安倍首相自身も「財務省文書改ざん問題」との「ダブルパンチ」に頭を抱えたという。では、トランプ氏はなんと言ったのか、ここで振り返ってみよう。《And I will say, the people we're negotiating with ―smilingly, they really agree with us. I really believe they cannot believe they've gotten away with this for so long.》(もう一つ言ってやろうか。われわれの交渉相手はいつもニコニコしながらわれわれと合意する。しかし、ずっとごまかし続けられると信じているとしたら間違いだ)《I'll talk to Prime Minister Abe of Japan and others ―great guy, friend of mine ―and there will be a little smile on their face. And the smile is,“I can't believe we've been able to take advantage of the United States for so long." So those days are over.》(日本の安倍首相とそのほかの人たちに言ってやろう-まあ、彼はグレートでオレの友人だがね。彼らはいつもほほ笑みを浮かべている。そのほほ笑みは「こんなに長くアメリカを出し抜けると思ってなかった」っていうほほ笑みだね。でも、もうそんな日々は終わりだ) ここまでコケにされたら、普通は中国のように報復措置を発動させると息巻くものだが、「ポチ外交」が染み付いてしまった日本にはこれができない。「安倍首相はほほ笑みだけ」発言の謎 トランプ氏が安倍首相を名指しして、「いつもほほ笑みを浮かべて何もしない」という趣旨の発言をした背景には、日米自由貿易協定(FTA)の交渉が一向に進まないことがある。「天才老人」トランプ氏は不動産屋だけに、「相対取引」しかできない。そのため、多国間交渉が苦手で、これまでに環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)からもNAFTAからも離脱してしまった。おまけに、地球温暖化対策の国際枠組みである「パリ協定」からも離脱を表明してしまった。いっぺんにいろいろなことを考えられないのだ。 FTAのような2国間交渉は、TPPのような多国間交渉と比べれば、力関係がそのまま反映する。弱い相手は脅かすことで言うことを聞く。これは、トランプ氏の自尊心をいたくくすぐる。だから、トランプ氏はFTAが大好きなのだ。 2017年11月、トランプ氏は日本にやってきて、安倍首相と3度目の日米首脳会談に臨んだ。このとき、北朝鮮情勢などとともに日米FTA交渉が取り上げられたが、日本側はのらりくらりと交わし、交渉開始時期すら決めることをはぐらかした。トランプ氏の「ほほ笑みだけ」発言は、このときの安倍首相の態度を揶揄(やゆ)しているに違いない。 トランプ氏にレクチャーペーパーを上げている米通商代表部(USTR)や商務省は、1970年代から始まった「日米貿易摩擦」(当時は貿易戦争と言わず貿易摩擦と言った)以来、一貫して強硬に「ジャパンバッシング」(日本たたき)を行ってきた。ロバート・ライトハイザーUSTR代表やウィルバー・ロス商務長官は、自由貿易主義者にもかかわらず、日本の対米貿易黒字、つまり米国の対日貿易赤字を以前から問題視してきた。 日本にFTAを持ちかけているのはひとえに貿易赤字解消のためであり、「FT」(Free Trade=フリー・トレード、自由貿易)などと言ってはいるが、本質は自国産業を保護する「保護主義(Protectionism)」なのである。 米国のFTA圧力に日本がのらりくらりかわせたのは、米国が韓国とのFTA修正協議や中国との貿易交渉を優先していたからだ。ところが、韓国はトランプ氏の圧力に負けてFTA修正に応じたため、鉄鋼・アルミ関税の適用から除外された。2018年3月、鉄鋼とアルミニウムの輸入制限に関する文書に署名後、掲げるトランプ米大統領。周囲にいるのは鉄鋼とアルミの業界関係者(UPI=共同) そのため、鉄鋼・アルミ関税が発効した3月23日、トランプ氏は「韓国との貿易交渉(trade deal with South Korea)がワンダフルだ」と言い、「じきに成果が出る」と自慢しまくった。となると、日本が鉄鋼・アルミ関税から逃れるには、安倍首相が韓国以上の「手土産」、つまり、日米FTA交渉入りを持参するしかないことになる。 一方で、思いつきも人並みではないトランプ氏は突如「TPP復帰を考える」と言い出した。だが、これは日米FTA締結に向けての「まき餌(ground bait)」だという見方もある。「歴史の教訓」を知らないトランプ(iStock) ホワイトハウスは、今回の関税に除外を認めたのは「安全保障上の理由」と表明した。しかし、これは方便にすぎない。なぜなら、世界貿易機関(WTO)のルールでは、安全保障上の理由がない限り貿易制限は認められないからだ。 ただし、これは戦時の場合であって、平時で貿易制限をすることは異例とされている。もしこれが許されるなら、貿易戦争が際限なく続き、世界貿易そのものが成り立たなくなってしまうからである。 保護主義と貿易戦争が何を招くか、歴史の教訓がある。1930年、大恐慌後の米国では、国内産業を保護するために関税を大幅に引き上げる「スムート・ホーリー法」(Smoot-Hawley Tariff Act)が成立した。だが、法律をきっかけに、欧州各国も一斉に関税を引き上げることになり、世界は貿易戦争に突入してしまった。その結果、ブロック経済圏が成立し、最終的に第二次世界大戦を引き起こしてしまったのである。 しかし、トランプ氏はこんなことを全く理解していないから、1962年に成立した「通商拡大法(the 1962 Trade Expansion Act)」に第232条の安全保障条項があると教えられ、これを利用した。そうして、なんでもかんでも「大統領令(Executive Order)」で実行できると誤解しているから、得意がってサインするのである。 この条項は「安全保障上の懸念がある場合」に、米政府が輸入の制限を決定できると定められている。ただし、この条項は、1982年にレーガン政権下でリビア産原油を禁輸して以来、発動されていない。しかも、これはあくまで米国の国内法であり、国際ルールと整合していない。 シンプルヘッド(単純アタマ)のトランプ氏は、ともかく関税をかけて輸入品を減らせばいい。そうすれば貿易赤字が減る。そうすると、かつて世界一だった米国の製造業が復活する。その結果、「MAGA」(Make America Great Again)のロゴ入りブラックTシャツを着たラストベルトのプア・ホワイトたちが職にありつける。そうすれば、オレさまは「偉大な大統領」として、感謝されるに違いない。そんな風に考えているだけだ。 これは完全な時代錯誤である。もちろん、鉄鋼・アルミ関税の発効と同時に、中国製品への関税が発表されたので、今回の措置は明らかな「中国叩き」(中国封じ込め)であるのは明白だ。 しかし、中国を封じ込めたいなら、ほかにも方法がある。関税をふっかけるなどという時代錯誤の方法を採るのは、国境の壁(現代版「万里の長城」)をつくるのと同じくらい愚かではないだろうか。ただし、中国封じ込め自体は、日本にとっては大歓迎である。時代錯誤の「トランプ交渉術」 時代錯誤のトランプ氏のアタマの中には、自分がビジネスマンということもあって、貿易赤字が企業の赤字と同じで「悪」であるという発想がこびりついている。しかし、国家の貿易赤字と企業の営業赤字は本来違うものだ。なぜなら、世界一の経済大国である米国の景気がよくなれば、その分消費が拡大し、世界中からモノとサービスを輸入することで、貿易赤字が拡大することは必然だからである。 しかもこれで世界は潤い、米国の繁栄も持続する。さらに、その輸入代金はすべて自国通貨のドルで決済できるのだから、赤字はむしろ歓迎すべきことなのである。つまり、米国の貿易赤字というのは、米ドルが基軸通貨(キーカレンシー)である限り、痛くもかゆくもないのだ。トランプ氏はこの辺のところを全く分かっていない。 ところで、このような時代錯誤のトランプ氏の交渉術は、これがまたとんでもなくシンプルだ。トランプ氏は政治交渉もビジネス交渉も同じで、「ディール」(取引)の一つだと考えている。米東部の名門、アイビーリーグの「Uペン」(ペンシルベニア大学)ウォートン校の卒業生で、MBAホルダーのトランプ氏に対して、日本の二流大学の学部しか出ていない私がこんなことを書くのはおこがましいが、トランプ氏の交渉術は本当に「バカの一つ覚え」である。 それは「BATNA」(バトナ)と呼ばれるやり方で、どこのビジネススクールでも真っ先に教えているものだ。「BATNA」とは「Best Alternative to a Negotiated Agreement」の略だ。「不調時対策案」と訳されている。簡単に言うと、交渉が不調に終わっても、最低限の妥協できる代替案をあらかじめ決めて交渉するというやり方である。 この交渉術では、まず相手にふっかける。ふっかければふっかけるほどいい。そうすると、その条件、特に数字なら、その数字が相手の頭の中にこびりつく。これは一種の印象操作で、これを「アンカリング(Anchoring)」あるいは「アンカリング効果」と呼んでいる。そうすると、そのふっかけ自体にはなんら根拠がないのに、相手はそこから譲歩を引き出そうとしてくる。 このとき、「RV」(Reservation Value:留保価値)といって、「BATNA」を行使した際に得られる価値をあらかじめ決めておく。例えば、1万円ふっかけても留保価値が5000円なら、最終的に5000円で決着すれば、それで交渉は成功したことになる。もちろん、7000円なら大成功である。(iStock) トランプ氏はいつもこれをやっている。なにしろ、なぜ、鉄鋼の関税が20%でアルミの関税が5%でなければならないのか。その根拠は希薄だ。要するに「ふっかけ」である。 しかも、そもそも、これまでそんな関税など存在しなかったのである。したがって、カナダ、メキシコ、オーストラリア、EUなどが憤慨すると関税対象から外す。そうすると、何も状況は変わっていないのに、相手は何かトクした気分になる。トランプの「罠」から逃れる秘策 トランプ氏には「自伝」とされる著書『トランプ自伝―不動産王にビジネスを学ぶ』(Trump: The Art of the Deal、1987年)がある。もちろんゴーストライターが書いたものだが、この本の中で、自分の交渉スタイルを自慢している。 それはまさに「ふっかけ」で、まず何かとんでもないことを提案する。そして、相手がそれにこだわって、妥協を重ねれば大成功というものだ。また、トランプ氏の「オレさま自慢」は昔からで、ビジネス誌のインタビューでは、不動産取引の成功の秘訣(ひけつ)をこのように言っている。 部下から、建築費用の見積もりが、例えば5000万ドルになると報告を受ける。そこでクライアントには1億ドルかかると伝える。そして、最終的に7500万ドルで建てる。こうすると、クライアントはいい仕事をしてくれたと感謝してくれる。 要するに、これは「ぼったくり」だ。それでは、このような「BATNA」の罠から逃れるにはどうしたらいいのだろうか。 ビジネス書が教えているのは、相手の提案や提示額がとんでもないものだったら、具体的交渉に入らず、いったん席を立つということだ。そうして時間を置いて、改めて交渉を行う。こうすれば、最初の提案や提示額の影響を受けずに済むという。さらに、相手の提案を倍返しにして、こちらもとんでもない提案や提示額を示すという方法もある。 今回の日米首脳会談では、鉄鋼・アルミ関税の適用除外と、米朝会談を見据えて拉致問題の解決を要請するという。しかし、これは要請でも交渉でもなく、単なる「懇願」だから「まあ考えておく」で終わりだろう。 現在、日本は米国産牛肉の大口輸入国だから、鉄鋼・アルミ関税の報復として牛肉に100%関税をかけることを表明したらどうか。米国産牛肉の関税は38・5%で、緊急輸入制限(セーフガード)発令時は50%になる。これ以上、ホルモン剤漬けの米国産牛肉を輸入する必要があるだろうか。よく考えてみてほしい。(iStock) ともかく、安倍首相もたまにはトランプ氏の金髪を逆立てない限り、いくら一緒にゴルフをやっても無駄だ。またバンカーに落ちて、置いてけぼりにされるかもしれない。 それに、トランプ氏が「オレさま」でいられるのは、あと数カ月かもしれない。今年11月の中間選挙で、共和党は地滑り的大敗を喫する可能性がある。事実、先日のペンシルベニア下院補選では負けたではないか。もっとも、その前に安倍退陣という可能性もある。いずれにせよ、日本はもういい加減、トランプ氏と正面から真面目に交渉することを止め、米国の本当の中枢と確固たる外交関係を築いていく必要がある。

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    中国を狙い撃ち「トランプ貿易戦争」の本気度

    現状だ。 トランプ大統領は選挙中、貿易不均衡は国内産業を衰退させ、雇用の喪失を招いていると主張し、「アメリカ・ファースト」を基本とする抜本的な通商政策の見直しを公約に掲げ、保護主義色を強めていた。米ホワイトハウスで発言するトランプ大統領(右)ら=2018年4月 そして大統領就任直後に環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)離脱、北米自由貿易協定(NAFTA)、米韓自由貿易協定の見直しを決めている。さらに、昨年4月、商務省に対して鉄鋼とアルミ製品の輸入が米国の安全保障に与える影響を調査するように命じた。その報告書が今年の1月に提出され、今回の安全保障を理由に鉄鋼とアルミに対する高関税を課す決定に結びついた。 実はこの一連の動きは、鉄鋼やアルミ製品に対する関税引き上げの理由が、反ダンピング課税でもなく、セーフガード条項の発動でもなく、安全保障を根拠にしているところがポイントである。 要は、鉄鋼とアルミ製品の関税引き上げの狙いは中国にあるからだ。現在、鉄鋼は国際的に生産過剰の状況で、その最大の原因は中国にあり、国際的な生産調整をめぐる協議が行われている。知的財産盗む中国への敵意 いかにトランプ大統領とはいえ、最初から中国に限定した鉄鋼、アルミ製品の関税引き上げはできないため、安全保障を理由に掲げたのである。これによってブラジルや韓国、ヨーロッパなどを適用除外にすることが可能になる。 適用除外の輸入分は全輸入の半分以上を占めており、高関税を導入しても国内の鉄鋼産業保護の効果はあまり期待できない。というよりは、それが目的ではなく、中国を狙い撃ちにすることこそが目的なのだ。 中国政府は、安全保障を理由に関税を引き上げるのは違法であると世界貿易機関(WTO)に即座に提訴している。今後、WTOで紛争手続きが行われることになる。 ただ、米国の同盟国である日本は、政府の繰り返しの要請にもかかわらず、適用除外とはならなかった。それどころか、トランプ大統領は第3の貿易赤字国である日本に対して貿易不均衡を是正すべきだと極めて強い口調で迫り、二国間協議の必要性を訴えている。 ちなみに第2の赤字国はメキシコである。韓国が適用除外となったのは、すでに韓国政府が米韓自由貿易協定の見直しに応じ、米国の要求を受け入れることを示唆しているからだ。 だが、日本政府は多角的通商交渉が基本で、二国間の交渉は受け入れられないとの立場を明らかにしている。ゆえに、今回開催される日米首脳会議では、貿易不均衡是正が主要な課題になることは間違いない。 とはいえ、先に記したように、トランプ政権にとって中国こそが問題なのである。そもそも、政権のスタッフには中国強硬派が存在する。その代表格がカリフォルニア大教授で経済学者のピーター・ナバロ通商製造業政策局長だ。同氏は4月4日に行われた「ナショナル・パブリック・ラジオ」のインタビューで次のように述べている。 「17年間にわたって中国はアメリカの知的財産を盗み、不公正な貿易を行ってきた。米国企業が中国に進出する際に、中国は米国企業に技術移転するよう強制している。米国は文字通り、何百万という雇用を喪失し、巨額の貿易赤字を計上している。我々は将来の産業をめぐる戦争で中国に勝利しようと努力している。中国は『中国製造2015年』という目標を掲げ、すべての振興産業を支配する計画を持っている。トランプは米国に有利になるような方法で関係を基本的に変えるというビジョンを持っている」 ナバロ局長は、『中国製造2015年』は中国が新興産業のすべてを支配すると宣言しているのに等しいと攻撃するなど、中国への敵意をあらわにしている。中国の制裁品目には、そうした分野の製品が多く含まれている。トランプ大統領らとともに会見する通商製造業政策局のナバロ局長(中央)=2017年3月、ワシントン だが、中国政府は、米国の知的財産を盗んでいるという指摘に対し、過去にあったが、現在ではそうした事実はないと反駁(はんばく)している。米中経済関係は単に貿易不均衡にとどまらず、次世代の経済的覇権を米中のどちらが握るかの戦いでもある。 ただ、本当に米中貿易不均衡は危機的状況に達しているのだろうか。議会調査局が興味深い調査レポートを発表している。それによると、実は米中経済関係は極めて相互依存性が高いことがわかる。 たしかに、米中貿易不均衡は年々拡大しているが、例えば、米国の対中国赤字は2000年には840億ドルにすぎなかったが、2017年には3710億ドルにまで拡大している。 一方で、日本、中国、台湾などアジア太平洋諸国との貿易全体を見ると、中国との貿易赤字はまったく違った姿になる。アジア太平洋諸国と米国の貿易は1990年と比べても大きく変わっていないのだ。 こうした諸国の米国の輸入全体に占める比率は1990年が47・1%であるのに対し、2016年では46・8%と比率は若干減っている。だが、中国だけを取り出すと3・6%から25・4%に急増している。それが米中貿易不均衡を引き起こしている。 そして、議会調査局のレポートが極めて興味深い事実を指摘している。中国の対米輸出の増加は、日本など他の国の対米輸出の減少に対応しているというのである。それは、アジア諸国は中国での生産を増強し、中国を経由して米国に輸出しているからだ。中国叩きで返り血を浴びる米国 また、経済協力開発機構(OECD)とWTOの調査では、米国に輸出された中国製品を付加価値ベースでみると、中国の付加価値部分は極めて小さい。言い換えれば、中国は他のアジア諸国から材料を購入し、それを組み立てて米国に輸出しているのである。 中国の対米輸出品の付加価値の約33%は他の国の付加価値分だ。電子部品では、その比率は54%に達している。そうした付加価値部分を調整すると、米中貿易不均衡は35%減ると計算されている。 これは中国が世界的なサプライ・チェーンの役割を果たしており、従来のような単純な統計では貿易の実態は理解できなくなっていることを示している。多くの米国企業は、部品を中国の子会社で生産し、それを米国に輸出しており、米中の経済関係の相互依存性は極めて高くなっているのだ。 そもそも、まず相手を威嚇し、妥協を迫るのがトランプ大統領の常套手段だ。中国政府も、米中貿易戦争を仕掛ける気はないと冷静な態度を取っている。その一方で、内需拡大と金融制度改革を実施すると、米国に対する前向きなメッセージも送っている。 同時に両国政府の実務レベルでは貿易問題をめぐって、すでに水面下で協議が始まっている。トランプ大統領が関税引き上げを発表した後、ムニューシン財務長官とライトハイザー通商代表が中国政府宛てに書簡を送り、貿易不均衡是正の協議を行う提案を行い、北京訪問も検討しているのだ。 さらに言えば、トランプ政権の追加的な関税引き上げを発表しているが、実施するまでに至っていない。中国政府も報復関税を発表しているが、実施に関しては具体的な事柄を明らかにしていない。両国政府は報復を応酬しているようにみえるが、極めて慎重な姿勢を取っているのが印象的である。 米中経済関係の相互依存性を考えれば、貿易戦争はお互いが血を流す結果になるのは明らかである。 そして1980年代の日米貿易摩擦と、米中貿易戦争と比べると、その違いは鮮明だ。当時の日米貿易関係を見ると、日本が自動車やカラーテレビなど完成品を一方的に米国に輸出していた。2017年4月、米フロリダ州の別荘で習近平国家主席(右)と歩くトランプ大統領 現在の米中の相互依存的な経済関係とはまったく異なり、日米貿易摩擦は、米国は日本を叩けば叩くほど、利益を得ることができた。また、日本政府も中国政府のように報復措置を講ずることなく、二カ国協議で大幅な譲歩を繰り返していった。 自動車の輸出自主規制や半導体協定などが、その例である。その結果、日本は半導体産業が壊滅的なダメージを受けた。米中関係は、繰り返し述べたように、極めて強い相互依存関係があり、米国が中国を叩けば間違いなく、米国が返り血を浴びることになる。 もう一つ、決定的に違うのは、政府の政策である。中国は過去の例にあるように、確実に報復手段を取っている。今回も間髪入れず、報復関税の導入を発表した。だが、日本政府には、そうした通商交渉の戦術もガッツもないのが実情だ。 そしていまだに、その関係の基本は変わっていない。安倍晋三首相とトランプ大統領の首脳会談では、間違いなく貿易不均衡が話題になるだろう。おそらくトランプ大統領は二国間協議を提案してくるはずだ。 安倍首相は、こうした事態を避けるために、日本企業の対米直接投資などを提案することで、圧力を回避しようとするだろうが、最終的には過去の例と同じように、何らかの譲歩を迫られるであろう。

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    米中貿易戦争、トランプ流は「ニセモノ大国」の市場開放を遅らせる

    速めるよう中国に求めることは必要だが、果たしてトランプ大統領の経済制裁が有効な手段かは疑問が残る。「アメリカファースト」の姿勢はむしろ市場開放とは逆行しており、中国にとっては規制温存の口実を与えかねない。 中国の市場開放を促すならば、まず自らが自由貿易を促進し、多国間の経済協定を推進すべきだ。環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)はまさにそうした目的で進められていた。TPPから脱退し保護主義を打ち出しながらも、中国に市場開放を求めても大きな成果を上げることは難しいだろう。 しかも、大々的な「貿易戦争」のポーズは中国国内の対米感情を悪化させ、習近平政権による外交をも縛りかねないリスクがある。中国は共産党一党独裁の政治体制ではあるが、それは民意を無視した政治、外交が自由に展開できることを意味してはいない。選挙という正当性担保の手順を踏んでいないからこそ、むしろ「民に愛され推戴(すいたい)されている支配者」という装いを保つ必要があるためだ。 これまで中国社会におけるトランプ大統領に対する評価は、どちらかといえば好意的なものが多かった。むしろ大統領選で争ったヒラリー・クリントン元国務長官は「反中派」のイメージが強かった。また、ロシアのプーチン大統領が典型だが「強者」に対する憧憬(しょうけい)といった要因が、トランプ大統領のイメージにプラスに働いていたためだ。2017年11月、北京で共同記者発表に臨むトランプ米大統領(左)と中国の習近平国家主席=北京の人民大会堂(共同) だが、大々的な貿易戦争が始まれば話は別だ。その影響がどれほど広範かつ根強いものかは、過去10年間何度も中国社会の怒りの的となってきた日本人ならば、たやすく理解できるはずだろう。 「中国に強い圧力をかけた」という事実が必要ならばともかく、中国の市場開放促進という実益を求めるならば、米当局には異なる選択肢が必要だろう。

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    米国の「貿易戦争」は意外と合理的かもしれない

    塚崎公義 (久留米大学商学部教授)  米国は、中国が知的財産権を侵害しているとして、対中制裁関税を課することを検討しています。「知的財産権の侵害をやめろ」「米国の対中国貿易赤字を1000億ドル減らせ」「そうしないと、600億ドル相当の対中輸入に高い関税をかけるぞ」と言っているわけです。 それと並行して、鉄鋼とアルミニウムの輸入を制限する措置を発動しています。トランプ大統領が支持者である製造業労働者のご機嫌をとっているが、それは米国や世界の利益にならない、というのが一般的な理解でしょう。経済学の教科書を読めば、誰でもそう考えるでしょう。しかし、本当にそうでしょうか。 上記とは別に、米国は韓国との間でFTA(自由貿易協定)の再交渉を行って、妥結しています。韓国のウォン安誘導を禁じる為替条項を盛り込むなど、米国の圧勝と言えるでしょう。その背景には、トランプ大統領が米軍の韓国からの撤退をほのめかすといった強面の交渉姿勢があったようです。 このあたりは、トランプ大統領が商売人である事による交渉術なのでしょう。本当に米軍を引き上げる用意があったのか否かは筆者にはわかりませんが、「交渉が成立しなければ、俺はお前と喧嘩する。喧嘩になれば、俺の痛みは1、お前の痛みは10だ」と言って脅すことにより、相手が折れれば、「戦わずして勝つ」ことが出来るのですから、極めて有効な戦略と言えるでしょう。 ただし、この戦略が成功するためには、相手が「あいつだったら本当に喧嘩を始めるかもしれない」と怯えることが必要です。米国の大統領が「普通」だったら、「韓国との喧嘩で1でも痛みが生じるなら喧嘩はやめよう」と思うでしょう。韓国からそれを見透かされたら、米国の交渉は失敗したでしょう。でも、米国の大統領がトランプ氏であったため、韓国はビビったのです。共同記者会見するドナルド・トランプ米大統領(左)と韓国の文在寅大統領=2018年11月7日、韓国・ソウルの大統領府(共同) トランプ大統領は、鉄鋼の輸入制限の相手国として、日本を適用除外していません。「日本は同盟国なのに、バカにされている」等々のコメントが聞こえて来ますが、筆者はそうは思いません。 第一に、日本の対米鉄鋼・アルミニウムの輸出額は年間2000億円程度と少額です。したがって、仮に発動されても日本経済への影響は極めて限定的です。それで日米関係が大きく悪化することはなく、トランプ大統領としては「同盟国であっても巨額の対米貿易黒字を稼いでいる日本は課税対象にした」という断固たる措置を支持者にアピールできるわけです。 もちろん、日本が様々なお土産を持って訪米して課税の撤回を願い出るのを待っているだけだ、という可能性も大きいでしょう。その場合でも、「日本から大幅な譲歩を引き出した」と支持者にアピールできるので、大満足でしょう。反米世論は得策ではない 現在の国際情勢を考えても、米中が長期的な視野での軍事的な緊張を強めつつあり、日本の同盟国としての重要性が長期的に増していくことが明らかな時に、本格的に日本との貿易戦争を戦って日本の世論を反米にするのは得策ではありません。したがって、日米は「適度な落とし所」を水面下で探っているということだと思われます。 米中貿易戦争についても、対韓国と本質は同じです。米国は中国に対して「交渉が成立しなければ、俺はお前と喧嘩する。喧嘩になれば、俺の痛みは1、お前の痛みは10だ」と言って脅しているわけです。対韓国では在韓米軍の引き上げが選択肢でしたが、対中国では米中全面貿易戦争が米国の選択肢です。 米国の対中国輸入は中国の対米輸入より遥かに大きいので、米中間の貿易が止まると中国の輸出が激減し、米国より遥かに大きな打撃を受けるでしょう。加えて、米国は中国からの輸入品を国内で作ることができますが、中国は米国からの輸入品を国内で作ることができず、日欧から輸入せざるを得ません。そもそも人件費の高い米国から輸入しているのは、自分で作れないからです。米国が中国から輸入しているものが「自分でも作れるが、中国の方が安いから」というのとは事情が異なるのです。 あとは、米国がどこまで本気なのか、ということですね。どこまでの「お土産」で手を打つつもりなのか。本気で米国が頑張るつもりならば、中国が相当真剣に著作権保護の仕組みを作る必要があるでしょうが、それは容易なことではなさそうです。あるいは、「それができないなら、北朝鮮に核を放棄させろ」という事もありそうです。それも中国にとって容易なことではなさそうですが。 ただ、トランプ大統領の対中強硬姿勢が支持者向けのポーズである可能性も否定できません。その場合には、中国からの「お土産」が包装紙だけになるかもしれません。たとえば「著作権保護法を作る」けれども、国内では法律違反を取り締まらない、といった具合です。北京の故宮で京劇を見るトランプ米大統領(中央左)と中国の習近平国家主席(同右)=2017年11月8日(AP=共同) 対米貿易黒字を減らすのはさらに簡単です。中国がカナダから輸入しているものを、米国にある中国の商社がカナダから輸入して中国に輸出すれば良いのです。米国の貿易赤字も失業も減らないけれども、米国の対中国赤字は確実に減るわけです。 まあ、実際には「包装紙だけ」ということはなく、ある程度の中身は伴ったものになるのでしょうが、いずれにしてもそれで米中貿易戦争が防げるのであれば、世界経済は安泰でしょう。 上記のように考えると、トランプ大統領が「メチャクチャな米国ファーストで世界の自由貿易体制を崩してしまう」といった懸念は、杞憂かもしれないですね。もちろん、上記が誤っていて、本当に貿易戦争が始まってしまう可能性も否定はできませんが。何といっても「相手が屈することを前提として脅してみる」ほど、危険なことはありませんから。つかさき・きみよし 1981年、東京大学法学部卒業後、日本興業銀行(現みずほ銀行)に入行。主に調査関連部署に勤務した後、2005年に銀行を退行して久留米大学へ。著書に『増補改訂 よくわかる日本経済入門』(朝日新書)、『老後破産しないためのお金の教科書』(東洋経済新報社)、『世界でいちばんやさしくて役立つ経済の教科書』(宝島社)、『なんだ、そうなのか! 経済入門』(日本経済新聞出版社)など多数。

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    米国抜きのTPP、復帰示唆でもまずは発効を急ぐべき

    岡崎研究所 3月8日、TPP11協定(環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定:CPTPP)がチリのサンティアゴで署名された。同協定署名についての閣僚声明は以下の通りである。TPP署名式後に会見する茂木敏充経済再生担当相(中央)=2018年3月8日、チリ・サンティアゴ(高木克聡撮影) オーストラリア、ブルネイ・ダルサラーム、カナダ、チリ、日本、マレーシア、メキシコ、ニュージーランド、ペルー、シンガポール及びベトナムを代表する閣僚及び政府高官は、本日、環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(以下「本協定」という。)に署名することを発表することを嬉しく思う。 閣僚は、高い水準で、バランスの取れた成果を達成することにより、本協定が、我々エコノミーの互恵的な結合を強化し、アジア太平洋地域における貿易、投資及び経済成長を促進し、企業、消費者、家族、農業事業者及び労働者に対し新たな機会を創出するという考えを共有した。本協定は、これらの原則を受け入れる意志がある全てのエコノミーに開かれた、効果的で、ルールに基づく、透明性のある通商システムへの我々の共通のコミットメントを示すものである。 本協定の署名により、我々は、次の段階に移行することが可能となる。閣僚は、本協定を迅速に発効させるために国内手続きを完了する決意を表明した。 閣僚は、本協定に加入することを希望する他の多くのエコノミーによって示された関心を歓迎する。この関心は、本協定を通じ、将来の広い経済統合のための高い水準を促進するプラットフォームを創出するという我々の共通の目標を確認するものである。 閣僚は、政府高官が本協定の円滑な実施のために必要な準備を開始することに合意した。出典:「環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定閣僚声明」、TPP等政府対策本部、2018年3月8日) トランプ大統領が昨年1月の就任直後TPPからの離脱を表明したため、残り11か国(シンガポール・チリ・ニュージーランド・ブルネイ・オーストラリア・ベトナム・ペルー・マレーシア・カナダ・メキシコ・日本)の枠組みで協議、昨年11月に大筋合意していたが、3月8日に無事に署名された。TPP11により、人口5億人、世界のGDPの約13%、貿易総額の15%をカバーする自由貿易圏ができる。 TPP11の意義は、上記閣僚声明が端的に指摘している通り、アジア太平洋地域における貿易・投資及・経済成長の促進、新たな機会の創出、そして、効果的で、ルールに基づく、透明性のある通商システムへ共通のコミットメントである。米国がTPP離脱で失ったもの 米国は、TPPからの離脱により、多くを失っている。ピーターソン国際研究所が昨年10月に発表したレポートによれば、米国を含むオリジナルのTPPの下では、米国の所得は毎年GDPの0.5%にあたる1310億ドル増加していたはずである。しかし、TPP11の下では、その増加分が失われるのみならず、米企業がTPP11の市場で不利な競争を強いられることで、年間20億ドルがさらに失われることになる。ホワイトハウスで記者会見するドナルド・トランプ米大統領=2018年3月6日6日(ゲッティ=共同) また、TPPは、投資先の国が投資企業に対し技術移転等を要求することの禁止、ソースコード移転・アクセス要求の禁止、サーバー現地化要求の禁止、非商業的援助により他の締約国の利益に悪影響を及ぼすことの禁止など、中国の悪しき振る舞いに反対するような内容が多く含まれている。米国がTPPに参加し、アジア太平洋における自由貿易のルールとしてより強固なものとなっていれば、対中牽制の上でもさらに効果があったはずであるが、米国の離脱はそうした効果も弱めてしまった。 トランプ政権は、二国間協定の方が交渉上の強い梃子を持つことができるので多国間協定よりも好ましい、と言っているが、相手国はなかなか見つからず、進展していないようである。それは当然であろう。身勝手な理由で二国間協定を選好するような政権とは、信頼感をもって交渉できない。また、トランプは、2国間の貿易赤字を無くすことに固執しているが、それは保護貿易を招き、ウィン・ウィンということにはならない。 米国内でも、農業・畜産業者や経済界からTPP復帰を求める声が増えているようである。そういう声を意識してか、トランプは、時折TPPへの復帰を示唆する発言をしているが、その際にも「TPPがもっとよい協定になるならば」という留保をつけることを忘れていない。 茂木経済産業大臣は、署名の際の記者会見で「TPPは極めてハイスタンダードであると同時に各国の様々な利益を調節したバランスの取れた、いわばガラス細工のような協定であり、そこの中で一部だけを取り出して再交渉をする、更には修正をするということは極めて困難だ」と述べている。その通りであろう。米国が関心を持つことは歓迎するとして、何よりもTPP11の発効を急ぐべきであるし、そうなるであろう。 TPPに関心を持つ重要な国の一つに台湾がある。台湾を中国の圧力から守るため、是非とも早期に加盟できるよう研究、交渉をしていくことが望まれる。 なお、上記閣僚声明は、日本が代表して発表した。困難な交渉を迅速にまとめるための日本の努力が高く評価され、各国の敬意を集めたということであろう。

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    安倍首相の頭の中は北朝鮮でいっぱい 貿易問題はそっちのけ

    はホワイトハウスの会議で、安倍首相を名指しでこう批判した。「日本の安倍首相をはじめ、『こんなに長い間アメリカ合衆国につけ込めるなんて信じられんな』とほくそ笑んでいる偉大な我が友人たる各国首脳たちに言っておきたい。そんな日々はもう終わりだ」 鉄鋼・アルミの制裁関税は安い外国製品が米国にとって「安全保障上の脅威」になっているという理由で決められたが、トランプ政権はEU諸国、韓国、カナダ、メキシコなどへの制裁を猶予し、同盟国では日本だけが中国並みの「安全保障上の脅威」に位置づけられた。 トランプ氏の“偉大な友人”の1人、中国の習近平・国家主席はただちに報復措置を発動し、米中は制裁合戦に突入した。 世界経済の先行き不安から株価が乱高下する中、各国は米国の制裁発動後、最初にトランプ氏と会談する安倍首相の言動を注目している。元外交官の評論家・天木直人氏がいう。「安倍首相は世界の指導者で唯一、トランプ大統領にものが言える親密な関係を築いてきたと自負している。その安倍さんが訪米するのだから、何はともあれ、まず世界経済の大きなリスクになっている今回の鉄鋼・アルミの輸入制限に毅然と抗議するのが外交の筋であり、日本の国益を守ることにもなる」 ところが、安倍首相の頭の中は北朝鮮でいっぱいで、世界が期待する貿易問題の解決など見えていない。 より正確に言えば、北朝鮮の金正恩・朝鮮労働党委員長が中国の習氏を皮切りに、韓国の文在寅・大統領、米国のトランプ氏と相次いで首脳会談を行ない、自分だけが蚊帳の外に置かれて対北朝鮮問題が“安倍抜き”で話し合われることに焦りまくっているのだ。 日米首脳会談への意気込みを語った政府与党連絡会議(4月2日)でも、首相の口から「関税問題」の言葉はなかった。「2日間にわたりじっくり日米首脳会談を行ないたい。最重要課題である拉致問題についても、トランプ大統領に、来る米朝首脳会談において取り上げるよう直接要請します」 拉致問題の交渉相手はあくまで正恩氏のはずだ。トランプ氏に“金正恩に口利きしてほしい”とお願いするために訪米するのでは、足元を見られるのは当たり前である。関連記事■ 昭恵さんに呆れる安倍首相「離婚できるならとっくにしてる」■ 麻生氏が「悪いのは昭恵だろう!」と怒鳴る声が役人に話題■ 安倍首相、昭恵さんにペラペラ喋られるくらいなら総辞職も?■ トランプ×金正恩 いざ会ってみたら意気投合する可能性あり■ 絶体絶命の安倍首相 金正恩にすがる悪あがきも

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    ゲイプライドパレードがニューヨーカーたちにとって特別な理由

    い戦いがあった。 19世紀後半から、ニューヨークにはすでにゲイコミュニティができていたそうだ。 だがアメリカでは、近代まで同性愛行為はfelony(重罪)だったことをご存知だろうか。俗に言う、ソドミー法である。(正確に言うなら、同性間だけではなく、生殖につながらない「不自然」な性行為を禁じる法律) 保守的な田舎から自由な空気を求めてニューヨークに人々が集まってくるのは、昔も今も変わっていない。筆者も20代の頃に、ノースカロライナでしばらく通った高校の上級生にマンハッタンで偶然行き会い、彼女が実はレズビアンで故郷に居場所がなく、ニューヨークに移住したという告白を聞いたことがある。 60年代には、ウェストビレッジにいくつかゲイバーが出現した。だが正式なアルコール類販売ライセンスを持たずに営業していたところもあり、定期的に警察の踏み込み調査を受けて、逮捕者も出していたという。 その一方、1967年にはコロンビア大学が全米の大学で初めて、生徒が結成したゲイ団体を公認するなど、徐々にリベラルな空気が社会に広がっていた時期である。 1969年6月28日、クリストファーストリートにあったゲイバー、ストーンウォールインで、恒例の警察の手入れが行われた。だがこの日は差別されることに飽いていたゲイの人々は怒りを爆発させて警官に立ち向かい、3日間暴動が続いたのだという。 英語でStonewall Riots, 日本語ではストーンウォールの反乱と呼ばれているこの事件。2015年に映画化もされたので、知っている人も多いだろう。 その1年後、ニューヨーク、シカゴ、ロサンジェルスとサンフランシスコの4都市で、ストーンウォール事件の一周年を記念した初のゲイプライドパレードが開催されたのだという。ゲイの人々の市民権「獲得のための」戦い ストーンウォール事件をきっかけとして、同性愛を違法とするのは差別だという世論が徐々に高まり、ゲイの人権を訴える活動団体が次々と結成されていった。 それでもニューヨークでソドミー法が正式に廃止されたのは、なんと1980年とごく最近のことだから、驚いてしまう。(ちなみにアメリカ全体ではまだアラバマ、フロリダなどまだソドミー法が存在している州もあるが、2003年に合衆国最高裁がこの法の取り締まりは現実的には「プライバシーの侵害」であり、違憲とする判決を下した) 1981年にはHIV/AIDSがゲイ社会を中心に広がって人々を脅かし、再びゲイ社会受難の時期がはじまった。著者の知り合いのゲイの男性の中には、未だにHIVウィールスはFBIがゲイ撲滅のために開発し、広めたものだと信じて疑っていない人もいる。 真偽のほどはともかくも、ゲイの人々にとってこの陰謀説が真剣に受け止められるほど、彼らはオーソリティから差別を受け迫害を受けてきたということに違いない。 2002年にようやく、Sexual Orientation Non-Discrimination Act(ゲイ差別撤廃法案)がニューヨーク州議会で可決され、ジョージ・パタキ州知事が署名した。性的指向を理由に、住居、職場など公的な場所で差別を禁じることが、ようやく法として成立されたのである。 そしてストーンウォールの反乱から42年後の2011年6月、アンドリュー・クオモ州知事が同性婚を合法化させた。これまで日陰者扱いされてきたゲイカップルたちが、公然と市庁舎に行って婚姻届を出すことができるようになったのだ。 筆者がニューヨークに移住した1980年、ゲイの人々はすでに社会のあらゆる分野で活躍し、男性の4人に1人はゲイと言われていたほどメジャーな存在だった。だがくったくなく底抜けに明るく振舞うその裏で、彼らは毅然と差別と戦い続けてきたのである。こうして勝ち取った権利を誇り、同時にエイズで亡くなった友人たちを追悼するイベントが、このゲイプライドパレードの真髄なのだ。2016年6月、ニューヨークのLGBTパレードに参加するヒラリー・クリントン元国務長官の支持者ら 現在のアメリカは、トランプ政権が医療保険や公立教育機関など、一般市民の基本的権利をあらゆる角度から崩壊させようと試みている。人種間の対立も表面化し、かつてないほどヘイトクライムも横行するようになった。 そんな世相の中で、今年のゲイパレードは、ニューヨーカーにとってゲイの人々だけではなく、市民全体の自由を守る象徴でもあった。 ゲイではない一般のカップルや家族連れ、スポンサーとなった各種の企業団体、黒人、アジア人、ヒスパニック系など多くのマイノリティグループもパレードに参加して、LGBTQの象徴である虹色の旗を振る姿が通りを埋め尽くした。 その発端の舞台となったストーンウォールインは現在改装されて再営業しており、その前にある小さな公園は、1年前の2016年6月オバマ大統領によって国立モニュメントに指定された。

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    「金正恩の敗北」トランプ電撃会談の舞台裏を読む

    重村智計(早稲田大名誉教授) 米朝首脳会談が開催の方向に動き出した。これは「安倍・トランプ外交」の成功を意味する。実現すれば、朝鮮半島情勢を大きく変える可能性がある。それでも、北朝鮮は核放棄を約束しないだろう。苦境打開を狙った金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長のサプライズ戦略とも言えるが、成功するのはラクダが針の穴を通るより難しい。米朝の指導者はともに行き詰まった国内情勢を打開するため、「同床異夢」ながら首脳会談を急いだとみるのが自然だろう。 サプライズ外交は、金正日(キム・ジョンイル)総書記の得意技だった。予想外の提案や行動に出て、相手を翻弄(ほんろう)して成果を挙げる。過去にも米朝の枠組み合意で、世界は希望を抱かされたが、あっさり覆された。核開発を放棄すると約束して、原子炉の冷却塔を破壊する芝居に、米国はまんまと資金をだまし取られた。 トランプ米大統領との首脳会談提案は、金委員長としては初めてのサプライズ外交である。外国首脳とは初の会談だ。歴代の北朝鮮首脳は、最初に中国首脳と会談した。そして、中朝関係が悪化すると、今度はロシアに傾斜した。いずれも北朝鮮の友好国である。2018年3月9日、米国のトランプ大統領が北朝鮮の要請を受諾し、金正恩朝鮮労働党委員長との首脳会談が実現する方向に動いたことを伝える街頭テレビ(寺河内美奈撮影) その慣例を破る米首脳との会談は、言い換えれば中国へのあてつけである。中国が国連や米国主導の制裁に協力する姿勢に対する不満の表明だ。北朝鮮が米朝首脳会談を呼びかけたのも、中国の気を引くためだったとみていいだろう。中国は水面下で相当の圧力をかけるだろうから、米朝首脳会談がトランプ大統領の思惑通り開催できるかは、なお不透明だ。 米国は、韓国側からの伝達内容が本当かどうか、北朝鮮に確認しないと話に乗れない。北朝鮮の思惑は裏読みしないと見えない。たとえ公式報道で「人民は党に従い、思想の学びを徹底し帝国主義の策動に立ち向かっている」と伝えていても、実際は党に従わない人民の方が多く、むしろ韓国のビデオや音楽が人民の間で流行っているのが実情である。首脳会談提案からは、金委員長が相当な苦境に立たされている事実が読み取れよう。 一方、トランプ大統領もサプライズが好きだ。金委員長の提案を逆手に取り、「5月までにやろう」と逆サプライズを仕掛けた。北朝鮮はまさかそんなに早い実現を予想していなかっただろう。日程と首脳会談の場所が最初の関門になる。実は北朝鮮では首脳会談について一切報じられていない。これはおかしな話だ。北朝鮮の本気度が問われる。 なぜトランプ大統領は「5月までの会談」を提示したのか。一言で言えば、北朝鮮が相当に困り果てている現実をよく理解していたからだ。つまり、北朝鮮への制裁が効果を挙げているのである。首都・平壌では最近、米や食料品の価格が上昇しているという。石油の値上がりも伝えられている。国民生活は圧迫され、軍隊は石油が底をつき、演習や訓練がまともにできない。空軍の飛行時間は極端に減った。 こうした状況は、トランプ大統領に詳細に報告されており、「制裁は効果を挙げている」との大統領発言の裏付けになっている。トランプ大統領が平昌五輪への北朝鮮参加や、南北首脳会談の合意について「俺のおかげだ」と述べたのは理由がある。制裁の成果が確認できたからだ。このため、制裁を続けていれば、金委員長は必ず譲歩すると読んでいたのである。米朝首脳会談は成功するのか トランプ大統領が首脳会談に臨む真の目的は「支持率の上昇」「秋の中間選挙への利用」「次期大統領選挙への野望」の三つだ。 言わずもがな、トランプ外交は内外で批判され続けている。特に欧州各国は彼をまったく尊敬していない。戦後、これほど欧州で不人気の米大統領は初めてだ。教養がなく知性と品格に欠けるとみられている。歴史と文化の教訓に学ぼうとしない態度を欧州はもはや我慢できないのである。 この不人気を打破するために、金委員長との会談を利用しようとしている。「金正恩に最初に会う外国元首」としてメディアに大きく扱わせる。特に、金委員長をワシントンに招待できれば、世界中の話題を独占して、中国やロシアの鼻を明かすこともできる。支持率は上昇し、その勢いで中間選挙も乗り切りたいとの思惑はみえみえである。2018年3月8日、ホワイトハウスで会談する韓国大統領府の鄭義溶国家安保室長(左)とトランプ米大統領(韓国大統領府提供・共同) とはいえ、米朝首脳会談は本当に成功するのか。はっきり言って、乗り越えるべき難問が余りに多すぎる。まず、北朝鮮は絶対に核放棄を約束できない。金委員長は朝鮮人民軍を掌握はしたが、核放棄を宣言すれば軍が反乱を起こしかねない。クーデターに直面するリスクをはらんでいるのである。不満を抱く中国やロシアも、裏でクーデターを画策する可能性もある。 さらに、会談場所をどうするのか。北朝鮮の指導者は海外に出掛けるつもりはない。これに対し、トランプ大統領は是が非でも米国に呼びたい。ただ、金委員長にとっては訪問の隙を突いて、北朝鮮国内でクーデターが起きるかもしれない。もし第三国でやるのであれば、北朝鮮側は中国の顔を立てて、北京を提案するかもしれない。 一方で、トランプ大統領が北朝鮮を訪問すれば、米国内で批判が高まるのは必至だ。かつてのオルブライト国務長官の訪朝時のように、マスゲームを見せられ、人権問題に言及しなければ「失敗」と非難される。 金委員長は、首脳会談を盛り上げて少しでも制裁を緩和させ、今年9月の建国70周年の式典を盛り上げたい。米国に近づき、中国とロシアの気も引き、ひそかに支援を得る戦略だ。韓国も協力するとみている。 この北朝鮮の戦略と作戦に乗せられると、トランプ大統領は必ず失敗する。トランプ大統領は安倍晋三首相と協力し、「成功しなくてもいい」と腹をくくり、これまでの強硬政策を継続しないと足をすくわれる。 トランプ大統領に「石油制裁が最も効果的だ」と伝えたのは他ならぬ安倍首相だった。トランプ大統領も、北朝鮮政策をめぐる安倍首相の判断力を信頼している。「制裁を継続すれば北朝鮮は譲歩する。もう少しだ」との理解を二人は共有している。 だからこそ、トランプ大統領が安倍首相を出し抜いて、米朝正常化に踏み切る恐れはまずないと断言できる。北朝鮮は米韓合同軍事演習に反対し、核実験を続けた。その上、米国とトランプ大統領を激しく罵(ののし)った。これまでの対応を180度転換した金委員長の譲歩は、結果的に「北朝鮮外交の敗北」を意味するのである。 日本は米朝首脳会談で拉致被害者の帰国を強く訴えるだろう。「拉致被害者の帰国なしには、米朝国交正常化はない」との立場を共有しなければならない。拉致被害者の帰国を、日米同盟の基本的な価値として改めて確認すべきだ。

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    「このままでは米や日本は中国の属国になる」とS・バノン氏

    100年単位だ。人民共和国の建国100周年となる2049年を一つの目安に考えている。この100年で、アメリカとの壮絶な競争は終わり、中国が勝利する(と習氏はみなしている)。自民党総裁外交特別補佐の河井衆院議員と会談する、スティーブン・バノン前米大統領首席戦略官=2017年12月18日、東京都(代表撮影) さらに習氏は、将来5~10年の間に、中国が次の課題を達成すれば、やがて真の覇権国となれると考えている。 第一に(次世代技術の開発や情報化と工業化の融合などの)10の重点分野を盛り込んだ成長戦略「Made in China 2025」だ。中国は半導体チップ・AI・ロボティクスなどの分野をコントロールし、新時代の製造業を支配していく。 第二、第三は地政学的なユーラシア戦略である「一帯一路」と、海上戦略の「真珠の首飾り」(*1)だ。これには19世紀以来の地政学すなわちH・マッキンダーのハートランド・アジア戦略、A・マハンのシーパワー理論、そしてN・スパイクマンのリムランド理論(*2)の3つの偉大な地政学的概念が反映されている。【*1いずれも習近平政権下で重視されている、陸海それぞれのユーラシア各国の取り込み戦略。海と陸の新シルクロード戦略とも呼ばれる。*2いずれも、地理的環境が経済・政治・軍事各方面で国家に及ぼす影響を論じる地政学の基礎を築いた理論家】 これらにより、中国は中央アジアやイスラム圏も含めたユーラシア全体を自国の重商主義的な経済システムに取り込んでいくだろう。「中国の民主化」はファンタジー 第四として、中国は人民元をオイルマネーに変換することによって米ドルを外貨準備金から外し、世界的な金融大国となる。さらに第五として、フィンテック(金融とITの融合)によって、中国は日銀及び連邦準備制度の影響を受けない経済を作り出すのだ。これらの目標が達成されれば、アメリカや日本は中国の属国となるだろう。 これにいかに対処するか。まず、「中国の民主化」に期待して支援するのは単なるファンタジーだ。4000年の歴史を有する中国は、近代史においてアヘン戦争から太平天国、義和団の乱、日本との戦争、そして文化大革命を経ても本質的には変わらなかった。中国が世界の普遍的価値観に則った国に変わることは非現実的だろう。近い未来の民主化などはジョークでしかない。 日本を含めた西側諸国ができることは、中国に法の支配(の概念)を植え付けること。そして、南シナ海での拡大や北朝鮮問題に、日米をはじめ各国で対処していくことだ。また、日本はアメリカに行動してもらうことを待つのではなく、自身の問題として立ち上がり動くことが求められる。※画像はイメージです(iStock) アメリカと日本のエスタブリッシュメントは、中国の強大化を40年にわたり座視してきた。ゆえに現在の状況が生まれている。 アメリカの労働者はエスタブリッシュメントたちよりもこの問題をよく理解していたから、トランプを大統領に選んだ。日本人もまた、自身がなすべきことをよく考えてみてほしい。【PROFILE】Stephen K. BANNON/1953年11月、米東部バージニア州南東部のノーフォーク市生まれ。1976年にバージニア工科大学を卒業。海軍入隊。ジョージタウン大学でも修士号を取得。海軍除隊後、ハーバード・ビジネス・スクールでMBAを取得。ゴールドマン・サックス勤務を経て1990年に独立し、メディア向けの投資銀行を設立。その後、ニュース・サイト「ブライトバート・ニュース」の運営会社会長に就任。その手腕を見込まれ、トランプ陣営の選挙キャンペーンの責任者に抜擢。●取材・構成/安田峰俊関連記事■ S・バノン氏「安倍首相は日本人にプライド抱かせる指導者」■ 中国共産党が恐れる郭文貴を直撃 「宿敵・王岐山を絶対潰す」■ 安倍首相はチャーチルやドゴールと並ぶ大指導者になる可能性も■ メラニア氏 昭恵氏に「なぜ韓国の話ばかりするの?」と疑問■ 2018年は米朝和平の動きが本格化か 転機は米大統領中間選挙

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    安倍首相とトランプ大統領の気になる類似点

    海野素央(明治大学教授、心理学博士) 今回のテーマは「安倍首相とトランプ大統領の気になる類似点」です。読者の皆さんは安倍晋三首相とドナルド・トランプ米大統領の類似点は何かと質問されたら、即座にゴルフと回答するかもしれません。安倍首相とトランプ大統領の共通点は、エスタブリッシュメント(既存の支配層)であるとみている読者の方もいるでしょう。  ちなみにゼミ生(3年生)に同様の質問を投げかけてみると、「トランプは移民とマイノリティ、安倍首相は民進党をスケープゴートにしている」「トランプ政権と安倍政権は共に集団思考の罠にはまった多様性の無い組織である」「国民に『強いリーダー』であることを示している」「国民の関心を国内から国外に向けている」及び「政権誕生の経緯が類似している」という回答が返ってきました。それらに加えて、安倍・トランプ両氏の類似点に「効果的なメッセージを発信している」「国民の不満を汲み取って代弁している」「考え方が右寄り」「軍事増強路線である」「メディアを敵視する」も挙がりました。本稿では、政治手法における両氏の類似点を探ってみます(図表)。 安倍首相は日米首脳会談を終えて帰国すると、その足でBSフジ「プライムニュース」及びNHK「ニュースウオッチ9」に生出演しました。前者の番組ではトランプ大統領と第3国について意見交換を行ったことを示唆しながらも、どの国かについては明言しませんでした。ところが、後者では解説委員の質問に対して国名を挙げて一歩踏み込んだ回答をしています。同首相はテレビ局並びに記者を選別し利用していると言われています。 一方、トランプ大統領はテレビ局選別の傾向が顕著に出ています。筆者の観察によれば、同大統領は米テレビ局を「フォックスニュースとその他」に分類しています。フォックスニュースの中でも、政策を正当化しセールスする番組として特に朝の「フォックス&フレンズ」及び夜の「ハニティー」を利用していることは明らかです。今回のジェームズ・コミー米連邦捜査局(FBI)長官解任に関しても、同大統領はフォックスニュース「ジャスティス」という番組に出演して解任理由を説明しました。 安倍首相は読売新聞(2017年5月3日付)のインタビューに応じて憲法改正にかける思いを語り、同首相の核となる支持者にメッセージを発信しています。核となる支持者とは、言い換えれば改憲派の安倍信者ないし固定客です。 同様に、トランプ大統領もトランプ信者ないし固定客をかなり意識した演説や政策を打ち出しています。同大統領の信者の中には白人労働者に加えて、軍人及びキリスト教右派がいます。 5月12日、トランプ大統領はファーストレディのメラニア夫人と一緒に軍人の配偶者並びに母親をホワイトハウスに招待して母の日を祝うイベントを開催しました。翌日13日、同大統領は南部バージニア州にあるキリスト教右派のリバティ大学の卒業式で演説を行っています。リバティ大学を訪問するのは選挙期間中を含めると3回目です。1つの大学を3回も訪問しているのです。演説の中で、同大統領は若き軍人の卒業生及び参加者の1人である98歳の退役軍人を称賛しました。強いリーダーの演出 トランプ大統領のシリアミサイル攻撃及び北朝鮮の核・ミサイル開発は森友問題で追い込まれた安倍首相にとって助け舟になりました。外交・安全保障問題は、安倍政権が抱える内政問題から国民の関心をそらす要素になっていることは看過できません。 トランプ大統領のシリアミサイル攻撃の原因となったのが、アサド政権によるとみられる化学兵器の使用でした。ただ、バラク・オバマ元大統領の医療保険制度改革(オバマケア)に対する代替法案が撤回され内政は八方ふさがりの状況でした。そこで、米国民の目をそらすためにシリアミサイル攻撃を実施したとも解釈できます。仮にそうであれば、コミー長官解任問題及び選挙期間中におけるロシア政府とトランプ陣営の深まる共謀疑惑から国民の関心をそらすために、今後北朝鮮問題を利用する可能性は十分に存在するのです。 安倍首相は海洋進出をする中国、慰安婦問題を継続させる韓国並びに拉致問題を未解決のままで核・ミサイル開発を進める北朝鮮に対して断固たる態度をとり、第1次安倍内閣でできなかった強い政治指導者の演出に成功しています。一方、トランプ大統領も強いリーダーの自己イメージに固執しています。ただ、その「強い」の意味に変化が生じているのです。トランプ米大統領(左)との会談を終え、共同記者会見する安倍首相=2017年11月6日、東京・元赤坂の迎賓館 今回の電撃的なコミー長官解任は、中立的な立場をとる情報機関FBIが行っているロシア政府とトランプ陣営との共謀疑惑に対する捜査妨害と捉えることができます。この解任劇をきっかけに、トランプ大統領がオバマ前大統領と比較して強いないし弱いリーダーかといった議論ではなく、民主主義的か専制主義的リーダーかという議論になっていくでしょう。 米NBCテレビとのインタビューの中で、トランプ大統領は自分がFBIの捜査対象になっているのかコミー前長官から聞き出したと述べました。繰り返しになりますが、FBIは中立性のある情報機関です。大統領であるトランプ氏は、FBIに対してレッドライン(超えてはならない一線)を超えた言動をとってしまったのです。その背景には、ロシア政府との共謀疑惑に対する捜査が同大統領にとってかなり脅威になっていることがあります。 さらに、トランプ大統領はホワイトハウスでの定例記者会見の廃止にも言及しました。この発言は、米国民の知る権利を奪う発言だと指摘されるのは当然です。これらは民主主義的というよりも専制主義的なリーダーの言動であると言わざるを得ません。 オバマ前大統領によって指名されたコミー前長官は、同前大統領からバスケットボールに誘われても、FBIのトップとして大統領と適切な距離を保つために断ったと言われています。トランプ大統領はその長官を解任し、今、専制主義的リーダーシップを発揮しています。政権運営及び政策の実現において安倍首相も同大統領と類似したリーダーシップスタイルをとるのか、注視する必要があります。

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    【矢追純一衝撃手記】僕が40年追い続けたUFO極秘文書のすべて

    に明らかにされているからだ。 1978年、米中央情報局(CIA)が市民団体に訴えられる事件が起こり、アメリカでは大きな話題になった。裁判は、「CIAがUFOに関する極秘文書を隠している」ことをつかんだ市民団体によって起こされた。 被告のCIAは、当初「UFOの存在は認めていない」ので、「極秘文書などはない」と主張していた。しかし、連邦裁判所は最終的に「CIA敗訴」の判決をくだしたのだ。CIAは、しぶしぶながら「ない」といっていたはずのUFO極秘文書を935ページにわたって提出した。※写真はイメージ(iStock) そこには、米軍の最重要軍事基地が次々にUFOに侵入され、手も足も出なかった事件が軍の報告書として多数記録されていたのだ。ミシガン州ワートスミスAFB(空軍基地)をはじめ、メイン州ローリング、モンタナ州マームストロムなど、何州にもわたって、空軍基地がUFOに上空侵犯された事件が数多く報告されていた。 僕が現地調査した中で、最もエキサイティングな事件をご紹介しよう。 ニューメキシコ州カートランド空軍基地の司令官、エドワード少佐が空軍に提出した報告書によると、「1980年8月8日深夜、マンザノ兵器庫エリアを警備中のラス・カーティス警備兵が、兵器庫の裏に強い光を発見、近づいてみると大きな円盤状の物体が着陸していた。応援を呼ぼうとしたが、なぜか無線が通じなかった。カーティス警備兵が、ショットガンを構えて、恐る恐る近づくと、物体は突然飛び上がり、アッという間に消え去ってしまった」とされている。 空軍の報告書にはさらにもう一つの文書が添付されていた。 「事件を詳しく調査するため、特別調査部のリチャード・ドウテイ少佐が、カ-ティス警備兵を厳しく尋問した結果、事実であることが判明した。ほかにも、同物体が上空を飛びまわるのを、3人以上の兵士が目撃していることがわかった。カーティス警備兵および、ドウテイ少佐が宣誓供述書にサインして、事実を認証した…」 カートランド空軍基地は、全米でも最も重要な軍事基地の一つで、基地内には空軍兵器研究所や核兵器研究所など、機密施設が散在している。その重要機密基地が、UFOに着陸までされて、何ら防衛も攻撃もできなかった。これは、アメリカの国家安全保障上、重大な問題であるはずだ。ウソやでっち上げの余地なし だが、相手がテクノロジー的に、あまりにも優れているため、手の施しようがない、というのが現実なのだ。 しかも、これらの文書はすべて、軍の正式報告書で、ウソやでっち上げの余地はない。この事件だけでも、米軍部がUFOの存在と脅威をハッキリと認識している証拠と言える。さらに、CIAは、この裁判で「実は、まだ、57件の極秘文書を隠している。が、公表すると、国家安全保障上、重大な問題が生じるので、差し控えたい…」と申し立てた。 実は、この裁判は「情報自由法」に基づいて起こされた。情報自由法というのは、「政府は、市民からの要請があれば、どのような、秘密文書でも公開しなくてはならない」という法律だった。しかし「もし、文書の内容が国家安全保障上、重大な支障をもたらす場合は、その限りではない」という免責条項がついていた。 CIAは、この条項に基づいて、非公開を主張したのだ。裁判官は、当然、その文書に眼を通したうえで「公開しなくてもよい」という判決を下した。とすると、そこに書かれていた内容とは、どんなものだったのだろうか。UFOに関して、「公表すると、アメリカの国家が揺らぐようなこと」とはいったい何だろうか…。 推測するしかないが、ロズウエルその他の地域で墜落したUFOが回収された後、現在どこに隠されているかと、その分析結果、乗っていた宇宙人の遺体の保管場所と鑑定結果、彼らがどこから来ているか、などに関する記述が考えられる。※写真はイメージ(iStock) 言い換えると、軍部は、それらの情報を握っていながら、隠しているということなのだ。このCIA裁判に触発されて、空軍、海軍、FBI(米連邦調査局)、DIA(国防情報部)、NSA(国家安全保障局)など、いろいろな機関から、UFOに関する報告書が続々と公表されてきた。  その中の一つにFBIの極秘テレタイプがある。FBI長官に宛てた、ワシントンのSAC(戦略空軍司令部)のガイ・ホッテル氏という情報将校からの緊急電報で、1950年3月22日付けになっている。 「現地調査をした、✖✖✖(名前が、墨で黒く塗り潰されている)によると、ニューメキシコ州に3機のUFOが墜落し、回収された。UFOは直径約50フィート(15メートル位)の金属製の円盤で、中央がドーム状に盛り上がっていた。内部には、それぞれ3体ずつの、人間に似た小さな生物の遺体があった。身長およそ3フィート(約90センチ)…キメの細かい金属繊維で出来た優美な服を着ていた。彼らは、テストパイロットが着るような、失神防止用のシートベルトのようなもので固定されていた。UFOが墜落した原因は不明だが、この地域の基地が一斉に、強力な軍用レーダーでUFOを追跡していたため、UFOの推進機関になんらかの故障が発生し、コントロールを失ったせいではないかと推測される。詳細は、後日…」 相手がFBI長官であること、差出人が戦略空軍司令部の情報将校であることなどを考えると、この内容が、単なるウワサ話やでっち上げなどである可能性は低い。とすると、米軍部は少なくとも、3機のUFOと、9人の宇宙人の遺体を確保していて、どこかに隠していることになる。詳細に記録された証言 また、在イラン米大使館付き武官のマッケンジー将軍から、米国防総省情報センター宛てに送られた極秘テレックスも公開された。だが、これも興味深い。「1976年9月20日未明、イランの首都テヘラン上空にUFOが出現。市民の通報により、現地空軍司令官も肉眼で確認、基地のレーダーでも捕捉された。直ちにF4ファントム戦闘機に緊急発進を指令、数分後、テヘランの西方75マイル上空でUFOを確認した旨、報告が入った。 パイロットによれば、UFOはボーイング707型給油機と同じくらいの巨大な円盤で強烈な光を発しているため細部は確認不能。半径25マイル以内に接近しようとするたびに、UFOは猛烈なスピードで遠ざかり、再び我々が接近するのを待って、また逃げるという不可解な行動をとっているとのこと。さらに、銃撃手がM9ミサイルの照準をUFOに合わせ、ロックしたところ、すべての電気系統が停電状態になり、ロックを外すと、元通りになるという奇怪な現象が起きているという。 ある時UFOから小さな光体が飛び出し、急速に接近してきた。攻撃されたと感じた銃撃手は、慌ててミサイルの引き金を引いたが、その途端、再び、すべての電気系統がブラックアウトし、弾丸は発射されなかった。パイロットはパニック状態に陥り、とっさにネガテイヴGダイブ(緊急降下回避措置)をとり、衝突を免れた。機体が下を向き、ミサイルの銃口がUFOから逸れたとたん、電気系統は元通りに復活した。その後、小さな光体はUターンして、もとの巨大なUFOの中に戻ってしまった。F4ファントムの燃料切れが近づいたため、基地へ帰投しようとしたが、パイロットはUFOの強烈な光のため、一時的な失明状態になり、基地の滑走路が肉眼で確認できなかった。 そこで、司令部から、しばらく上空で旋回待機するよう指令が出された。UFOは、このF4ファントムを見守るように、すぐ後ろについて、無事着陸するまで、一緒に旋回飛行を続けた。この間、地上の将兵たちによって、肉眼でUFOが確認され、基地および、機上のレーダーによっても確認された」 非常に長いテレックスだが、UFOの動きと迎撃した戦闘機の乗組員たちの行動が詳細にわかる。電文はさらに続く。 「UFOは、F4ファントムの着陸を見届けると、遠ざかりはじめた。ただちに、別のファントムが発進、追跡したところ、UFOから、再び小さな光体が飛び出し、今度は地上に向かって激突せんばかりのスピードで落下していった。だが、光体は、激闘する代わりにふわりと着陸し、半径1・5マイルに亘って強烈な光を放射した。パイロットは、さらに近づいて状況を確認しようとしたが、接近するたびに機上の全計器が異常を起こし、無線も交信不能になるため、危険を感じて、いったん基地へ帰投することにした。翌朝、その地点へ軍の調査隊がヘリコプターで向かった。その報告によると、現地付近の住民は、昨夜UFOらしい怪しい光と『ビービー』という不気味な音を耳にしたという。着陸地点にもっとも近いところには、一軒の小屋があり、一人の老人がいた。現場付近の放射能検査をしたところ…」 残念ながら、この後の電文が削除されてしまっている。ここには、事件の様子が非常に詳細に述べられている。特にUFOの行動が非常に興味深い。ベールに包まれた真相 我々の最新鋭ジェット戦闘機を子供のように扱い、からかっているかと思えば、基地へ帰ろうとする戦闘機をエスコートするかのように、ついてきて、無事を見守っている。翌日のUFOの行動は謎だが、この後、なにが書かれていたのかも気になる。 僕は、この事件を分析したDIA(国防情報局)の情報分析担当官、ローランド・エヴァンス少佐にインタビューしていた。 少佐は「このテレックスは第一級の、信頼がおけるUFOに関する極秘文書です。まず第一に、軍の最高官である、将軍からのものであること。次に基地の将兵たちが肉眼で確認し、基地と機上のレーダーが同時に確認していることです」と、言っている。 これらの公開された公文書には、トップシークレットなどの記述と、情報自由法にもとづいて「✖✖✖の部署から公表された」と書かれた日付入りの印が押されている。従って、密かに盗み出されたものでも、ニセものでもない。 このように、数多くの事実が、公文書によって明らかにされているにもかかわらず、今さら改めて、「UFOの調査をしている」と公表する意図はどこにあるのか。 これも推測の域を出ないが、トランプ大統領の政権でのゴタゴタを国外、つまり、宇宙のUFOに眼を外らすことでゴマかすという、よくある政治的手法なのか。それとも何十億円もかかったという莫大な費用に対する言い訳の一環なのか、わからない。矢追純一氏 軍事機密というベールに包まれた真相は、通常、我々庶民のところには、絶対と言っていいほど漏れてくることがないのだ。世間では、僕のことをUFO好きとか、宇宙人好きとか言っている人もいる。でも、正直いってそんなことはどうでもよい話。そんなことより、僕はジャーナリストとして、この証言をテレビの「特番」というかたちで何度も暴露しただけなのだが…。

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    UFO研究、矢追純一は正しかった

    矢追純一。この名前にピンと来た人もいるだろう。かつて、お茶の間を席巻したUFO(未確認飛行物体)ブームの火付け役である。先ごろ、米紙ニューヨーク・タイムズが米国防総省によるUFO調査の事実を報じ、にわかに彼のこれまでの研究を見直す人が増えているという。その矢追純一がついに、iRONNAに衝撃手記を寄せた。

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    懐疑論者でさえ興奮した米軍撮影「UFO映像」の衝撃

    年には「プロジェクト・ブルーブック」として再編され、69年まで調査が行われた。 しかし、最終的には「アメリカ合衆国の脅威となる証拠はみつからない」として、プロジェクトは解散することになった。一方ではこのような経緯が「政府が何かを隠している証左」として捉える向きが多かったことも確かである。 UFOが宇宙人と本格的に結び付けられるようになった大きな理由としては、50年代に活躍した作家、ドナルド・キーホーの活躍が挙げられる。彼が1949年に出版した本『空飛ぶ円盤は実在する』では、空飛ぶ円盤=UFOは地球外からやってきた生命体、つまり宇宙人の乗り物であり、政府はそれを隠しているという仮説を提唱した。つまり、今に続くUFO物語のプロットがこの本で完成されていたのである。キーホーはその後も何冊ものUFO関係の本を著し、米国の大衆に「UFO=宇宙人」の構図を植え付けていく。 61年には「ヒル夫妻誘拐事件」が発生する。休暇先のカナダから自宅があるニューハンプシャー州に戻るため車を運転していたベティとバーニーのヒル夫妻は深夜、奇妙なものを目撃する。自分たちの車を追いかけてくる光体である。やがてその物体は車の前に回りこんだと思うと、彼らの記憶は途絶え、気がついたらその地点から60キロも離れた場所にいたのである。彼らが催眠術師によって取り戻した記憶によると、そのとき、彼らはなんと宇宙人に誘拐され、UFOの中で身体検査を受けていたというのである。(iStock) この事件によって、UFOに対する米国人の認識は一変した。それまでは単に空を飛び回る不思議な物体であったものが、そこに登場する宇宙人たちが人間に対して、身体検査であれメッセージの伝達であれ、何らかの働きかけを行う存在へとランクアップしたのである。 米国ではこれ以降「宇宙人に誘拐され、身体検査を受けた」と主張する人々が激増することになる。さらにそれは、米政府がパニックを恐れ、そのような宇宙人の地球への訪問を隠しているという陰謀論へと発展していくのである。ブーム最高潮に起きた「事件」米第34代大統領、ドワイト・アイゼンハワー(Wikimedia Commons) 70年代から80年代にかけては、この陰謀論の完成の時期ともいえる。映画の世界でも取り上げられ、『未知との遭遇』や『E.T.』といった大ヒット映画により、UFOは私たちにとって本当に身近な存在となった。テレビ番組でも盛んに取り上げられるようになり、まさにUFOブームといってもよい状況が訪れる。その最高潮が80年代後半に起きた「マジェスティック・トゥエルブ(MJ-12)事件」であろう。 あるテレビ番組制作者のもとに匿名で届けられた文書に、MJ-12と称するグループについての記述があったことから、この事件は始まる。その文書は52年、次期大統領に選出されたアイゼンハワー氏にUFOに関する情報を申し送りするために書かれたトップシークレットだった。12人からなる最高機密グループ(MJ-12)の存在や、表沙汰にされていない数多くのUFO墜落事件、そしてその際の宇宙人回収などの経緯が書かれていた。米国中をセンセーションに巻き込んだMJ-12文書であったが、最終的にニセ文書と断定され、急速に収束していく。 そして90年代に入り、あれほど世間を賑(にぎ)わせていたUFOブームは次第に、しかし着実に下火になっていくのである。その理由はいくつか考えられる。一つは冷戦の終結だろう。ソ連という敵がいなくなったことで軍事予算も縮小され、UFOと誤認されるような新型航空機の開発も少なくなった。 UFOについての情報があまりにセンセーショナルになりすぎたということもあるだろう。前述のMJ-12の内容があまりに衝撃的だった割に、ニセ文書であることがすぐに明らかになったことで、いってみれば世間が期待する「UFOバブル」があっという間に弾けてしまったということもあると思われる。また、「宇宙人は間もなく姿を現す」「もう少しで米政府はUFOに関する文書を全面公開する」といった噂が飛び交っては結局そうならなかったことも、人々を失望させる元となっていった。 インターネットの普及やコンピューター技術の急激な向上も、UFOブームの沈静化に一役買ってしまったと思われる。ネットにより人々が多くの情報を得るようになると、テレビなどで放映されていた情報の「真の姿」が明らかになり、多くの人が本当のことを知るようになってしまった。衝撃的なUFO写真や映像なども、実はコンピューターで加工したものであるというケースが多数存在し、そのような解析をコンピューターで行う技術も急速に発展した。その中で、多くの人がかつてなら信じたであろうUFO関連の写真や映像も、「またどうせニセモノだろう」と疎んじられるようになっていった。 また、50~70年代に盛んにUFOや宇宙人について喧伝(けんでん)していた人たちが高齢化し、一線から退いていったことも大きいだろう。かくして、21世紀に入ると、あれほど盛り上がっていたUFOや宇宙人についての話はすっかりと下火になってしまったのである。ブームに投げ込まれた今回の報道 そんな中で出てきた今回のUFO文書公開が、なぜ多くの人の関心を集めるようになったのだろうか。一つの理由は、ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)に代表される、ネット世界の関心の多様化ではないだろうか。 筆者の感覚では、2010年くらいから再びUFOへの関心が高まってきているように思える。もちろん往時ほどの高さはないようであるが、それでもUFOが話題に出ることがひところよりは増えてきていることを感じる。そのような話題が出る場所の多くはSNSだ。例えば映像がユーチューブに公開されたり、話題がツイッターで共有されたりしていく。 SNSは、同じような趣向を持っている人たちが話題を共有しあうとともに交流することができる絶好のプラットホームである。そして、そのような人たちとの交流を盛んに続ける一方で、他の話題には振り向かなくなる傾向が強まるにつれ、UFOや宇宙人の訪問などをかたくなに信じる人たちが再び増えてきているのではないだろうか。(iStock) また、SNSもそうだが、ネットニュースメディアの普及により、「大手の新聞社やテレビ局が伝えていない」情報が手に届きやすくなった。そういった情報の中にUFOや宇宙人に関する情報があれば、それがやはりSNSで共有され、信じる人が多くなっていく。さらに、主流メディアが伝えていないことを逆に捉え、実は陰謀論的な圧力が加わっているのではないかという考え方に至るケースもある。 そのような、いってみれば水面下でじわじわと広がっているようなUFO「ブーム」の中に、まるで投げ込むように出てきたのが今回の報道だったわけである。UFO、宇宙人、政府の隠蔽(いんぺい)というプロットにちょうどぴったり当てはまる今回の内容は、そのようなことを信じるコミュニティーにあっという間に受け入れられたというわけである。 では、今回ニューヨーク・タイムズが報じた内容は本当にUFOなのだろうか。その前に、ひとつ整理しておく必要がある。ここまでお読みになった皆さんなら気づいていると思うが、「UFO=宇宙人の乗り物」ではない、という点に注意する必要がある。「陰謀論」の落とし穴 UFOというのはあくまで「未確認」、つまりその正体がわかっていない「飛行物体」である。それが宇宙人の乗り物と正体がわかってしまえば、もはやUFOとは呼べない。宇宙船とでも呼ばなければならなくなるわけである。ニューヨーク・タイムズの報道で出ていた内容はあくまでUFOであり、その正体はいまだ不明である。 ただ、過去のUFO関連の映像や画像とされるものについては、詳細な解析の結果、鳥や飛行機、星などの見間違いなどがほとんどを占めるということがわかっている。残念ながら、宇宙人の乗り物であると断定された目撃例は現在のところ1件もないのである。これまで70年以上私たちが騒いできたにもかかわらず、である。 さらにはニセの画像や映像を作るということも多く起きている。その目的は、注目されたいというものから、企業やグループのプロモーションまで枚挙にいとまがない。もちろん、「これはニセモノです」と最初からうたっているならまだいいのだが、そうではないフェイク画像・映像もネット上に多数存在する。また、当初はちゃんとネタばらしをしているにもかかわらず、それがネット上を伝わっていくうちに情報が変わったりなくなったりすることで、いつの間にか「衝撃のUFO画像(映像)」になってしまうケースも多い。(iStock) 私はUFOや宇宙人についてのテレビ番組や本を読み、その知識にどっぷり漬かって、その存在を信じていた時期があった。しかしあるとき、それが陰謀論という流れにハマっていることに気づいて、もっと大局的な視点から眺めなければいけないと反省したのである。 陰謀論は、わからないものごとへの説明をものすごく簡略化してしまい、人間に安心感を与える。一方で、物事の真の姿を見つめるという姿勢を奪ってしまうものだ。空にみえる不思議な物体を「あれは宇宙人の乗り物だよ」と説明すれば、多くの人はそれで納得して安心してしまうだろうが、それが真実なのかどうかは置き去りにされてしまう。そのような姿勢を続けていけば、ものごとの真の姿を見るよりも、わからないがゆえに不安な自分に安心感を与えることを優先してしまいがちになる。そのような姿勢の先には、真実に基づく議論ではなく、信じたいものを信じてそれ以外をかたくなに拒否する、不幸な道が待っているだけである。 今回話題になったUFOが本当に宇宙人のものなのかどうかと問われれば、私としては「調査はしなければならないとは思うが、おそらく(またもや)違うだろう」と答えるだろう。現在も公開されたビデオを元にいろいろな人が解析を行っているので、遠からずその結果が出てくることだろう。 しかし、短いビデオだけでは解析にも限界がある。結局はウヤムヤなまま、長いUFOの歴史に「解明不能」というファイルがまた一つ増えるだけかもしれない。それでも私自身は、いつかある日、本物の「UFO」と出会えることを心待ちにしている。私が世の中のUFO情報を懐疑的にみているのは、そのいつの日かのためである。

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    超低予算の極秘調査でアメリカが見せたUFO解明への本気度

    やって来られるという時点で、本当は地球人になすすべがない。映画では宇宙人と地球人の関係をコロンブスとアメリカ先住民の関係に例えていたが、発達した宇宙文明が未開の地球文明をどう扱うかも、実際のところ、皆目見当がつかない。撤去を免れることが決まった米ニューヨーク市にある探検家コロンブスの像(UPI=共同) だから、もしかしたら彼らはすでに地球を訪れているかもしれない。しかも、巧みに「超ステルス技術」を駆使し、人類の観測網に引っかからない可能性は否定できない。来ているのは軍人ではなく、科学者だったり、場合によっては観光客かもしれないが。 そんな中、2017年10月19日に「オウムアムア」という小天体を天文学者たちが発見した。ハワイ語で「遠方からの最初の使者」という意味の小惑星は、長さ400メートルの「ロケット」のような形をしていたため、世界中のUFOファンが狂喜乱舞した。通常の小天体は多かれ少なかれ楕円(だえん)軌道を描いている。その楕円が細長くなることはあっても、楕円は楕円なので、太陽系内にとどまっている。20億円という「調査費」の意味 ところが、オウムアムアの軌道を計算してみたところ、そもそも太陽系の脱出速度を超えていて、開いた双曲軌道になるらしい。それはつまり、太陽系の「外」から飛来したことを意味する。オウムアムアは、太陽系外の「上」から飛来し、太陽系の「レコード盤」の少し下まで行ってから、太陽の重力に引き戻され、「し」の字の軌道を描いて、再び太陽系の上へと飛び去っていった。まるで、NASAやJAXA(宇宙航空研究開発機構)の宇宙探査船が天体の重力を利用して軌道を変える「スイングバイ」ではないか。UFOファンでなくとも、どこかの宇宙人が飛ばした探査船ではないかと疑いたくなる。太陽系の外から飛んできた小惑星「オウムアムア」の想像図(欧州南天天文台提供・共同) 天文学者たちは、オウムアムアの周囲が金属ではなく30センチほどの炭素の膜で覆われているから宇宙船ではないと考えているようだ。確かに地球の宇宙船は金属で覆われているが、はるかに文明の発達した宇宙人が、宇宙船の外壁に金属ではなく炭素を使っていても不思議ではない。カムフラージュの可能性だって否定できないだろう。などと、いつのまにか私もUFOファンみたいな発言をしかけているが、未確認飛行物体という意味では、オウムアムアだって立派なUFOなのかもしれない。 話を元に戻そう。私は、AATIPが極めて合理的な計画だと考えている。宇宙から観光客やロケット型の探査船がやってきているだけなら調査の必要もない。だからこそ、映画『バトルシップ』の冒頭シーンに出てくる「コロンブスとアメリカ先住民」というせりふは、実に意味深長だ。地球人が科学技術(=軍事力)で劣るのは明らかだから、その脅威がどれくらいかを調査しておくに越したことはない。全面戦争になったら地球は壊滅するだろうが、彼らとて何十光年も旅してくるにはコストが半端なく、おいそれと大軍団を送りこむことはできないはず。だとしたら、UFO情報をじっくり調査して、その脅威を同定し、局地戦で勝ち抜くための作戦を立てておいたほうが良いに決まっている。 備えあれば憂い無し、取りあえずやっておこう…という思惑。おそらく、それが60兆円のうちの20億円という「調査費」の意味なのだ。 個人的に、私はUFOが地球にまだやってきていないと考えてはいる。でも、オウムアムアが宇宙船の可能性は十分にあると思うし、宇宙に無数にあるゴルディロックスゾーンには、われわれみたいな知的生命体がゴロゴロしていると信じている。 米国は合理的な予算で未知なる脅威を調査していたわけだが、日本はどうだろう。内閣調査室が実際にUFOや宇宙人の脅威に国家予算を注ぎ込んで準備しているだろうか。おそらくないだろう。 『バトルシップ』では、米国と日本の軍人が協力して敵対的宇宙人の脅威に立ち向かったが、万が一のときは米国だけが戦うことになるのかもしれない。

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    人類はなぜUFOの正体を解明できないのか

    武田邦彦(中部大学特任教授) 米国防総省がUFOの調査をしていた事実が明らかになり、話題になっているが、これは「現代科学の低迷」を示す典型的なニュースである。 もともと、人間の五感には「触覚(圧力)、臭覚(化学反応=科学ポテンシャル)、視覚(電磁波)、聴覚(音波、粗密波)、味覚(化学反応)の五つがあって、私たちが「ある」と認めるのはこの五つの情報しかない。このうち、電磁波を除く他の物理的影響や化学反応は古くから発見されているが、電磁波は19世紀に見つかったもので、まだ150年ほどしかたっていない。 だが、人類というのは「地球上」に、しかも「温度、気圧などある特定の条件下」で発生した生物であり、その生物が感知できる情報手段しかこの宇宙に存在しない、とするのは根拠もないし、あまりに飛躍がある。つまり、人間の五感という伝達手段以外の観測方法が宇宙のどこかに必ずあると考える方が科学的である。 また、別の視点から整理すると、UFO以外にも、多細胞生物の細胞間伝達、生物同士のテレパシー、現代科学で説明が困難な飛行物体という超自然現象や、人間が山に入ったときに感じる森林浴と呼ばれる心理的緩和効果、集団的生物に顕著にみられる「集団の中の個の存在」の認識など、比較的観測が容易な分野でさえ、作用と効果の関係が明らかになっていないものは多くある。iStock これらは「現代の科学で解明されていない」ということで「超自然現象」と言われているが、「超自然」という言葉は「すでに人間はすべての自然現象を解明した」という傲慢(ごうまん)な前提がある。 一方、1950年以後の科学は原理的発見が少なく、情報技術、遺伝子技術にみられるように「改良型科学の発展」が主たるものになっている。ダイオードやトランジスタ、DNAなどの画期的原理発明はいずれも1950年代までに行われていて、それ以後すでに60年がたつのに科学的に新しい原理の発見はほとんど見られない。 材料分野のような実学的領域においても、金属材料では20世紀初頭のアルミニウムの時効硬化の発見、プラスチック材料では1970年代の液晶プラスチックが新材料発見としては最終的なものとされている。 このような基礎科学の停滞が、経済や社会の進歩を遅らせていることは間違いない。人間は科学の恩恵を受けすぎた キュリー夫人の原子核の発見、アインシュタイン、ポーリングなどが活躍した20世紀の初頭、電磁波、量子力学、原子力、通信などの大規模な発見が続き、それが後に自動車、航空機、重工業、家電製品、情報産業へと発展したことを考えると、現代社会の停滞は「基礎科学の巨人」が出現しないことと密接に関係することもまた事実である。 では、このような状況をどう考えるか。 一つは人間はすでに科学の原理をすべて発見して、もう発見するものがないという判断、もう一つは、科学の基礎的研究が少なくなり、お金に関係する技術の方に優れた研究者が集中しているという二つの解釈がある。 どちらが本当であるかは、今後の科学の進歩が示すことであり、ここで判断できることではない。しかし、UFOの研究を米国防総省の調査として行うこと自体が、基礎科学の進歩を阻害するものであることは間違いない。 なぜなら「新しい知覚手段、未知の通信手段」は、すでに観測されている「不思議な現象」から、その存在は間違いないにもかかわらず、「国防の観点ですぐ役に立たないから」という理由で、細胞間伝達にもUFO(通常の手段では科学的原理に反すると考えられる)の存在の研究にも、研究費が支出されないからである。iStock 今から100年ほど前、オランダに「極低温にすると電気抵抗がなくなるのではないか」という奇想天外なことを考えたオンネスという学者がいた。その学者に膨大な研究費を付けたからこそ、実験によって「超電導現象」という新しい現象が発見された。それまでの電気伝導度に関するキャベンディッシュの発見、オームの法則を覆すまったく意外な結果だったが、今では多くの産業で活用されている。 この超電導現象の着想に比べれば、人類の知らない飛行物体が存在する可能性は、はるかに高い。ただ、この100年間に人間は科学の恩恵を受けすぎて、科学の可能性や夢を失ってしまった。スマホから家電製品に至るまで、私たちの人生は科学の成果で覆われ、それに圧倒され、新しい科学に期待しなくなった。「どこでもドア」の可能性 もし、UFOの調査が米国防総省でなく、世界で飛行物体に興味がある学者が行ったら、その成果は単に政治的なものではなく、広く人類の福利に貢献することになるだろう。 今回のニュースは、日本で猛威を振るい、日本の衰退の原因を作っている「役に立つ科学」「お金のもうかる研究」の延長線上にあり、UFOの存在以前の大きな問題を孕(はら)んでいる。 ところで、人間の知覚し得る情報伝達手段(電波、音波、重力波、引力、逐次化学反応など)の範囲内でもUFOが存在する可能性はある。現在の宇宙は138億年前にできたとされているが、宇宙は私たちが知覚し得るもの一つ(ユニバース)ではなく、多数(マルチバース)存在するのはすでに物理学でも有力である。ただ、すでに述べたように現在の人間の知覚手段では感知できない。しかし、同一空間に、異なった宇宙の異なる空間が同居できるというマルチバースの特徴から、知覚手段を研究することによって、UFOもあるいはドラえもんの漫画に出てくる「どこでもドア」も発見される可能性がある。iStock もし異なる宇宙の観測手段が分かれば、旅行に行くときに「どこでもドア」を開けてそこに荷物を預けて手ぶらで旅行をし、必要な時に「どこでもドア」を開けて必要なものを取り出すことができるようになるだろう。「超自然現象」の基礎的研究は、やがてかつての超電導現象の発見と同様の大きな新しい事実を私たちの目の前に示し、それが次の時代を開くことになると考えられる。 1000年以上前に「源氏物語」を書いた紫式部にスマホを見せて、「これで光源氏に電話したら」と言ったら、彼女は「あなたは鬼?」といぶかるだろう。私たちが今、当然と思っているこの世界はまだまだ狭く、本当の世界のごく一部であると知ることが、今回のニュースの意義ではないかと思う。

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    トランプの石油制裁で一層高まる「第2次朝鮮戦争」の危機

    CBMの発射なら「30%」と述べている。2017年11月、北朝鮮をテロ支援国家に再指定すると表明したアメリカのトランプ大統領(右)=ワシントン(UPI=共同) 米紙ニューヨーク・タイムズは12月1日、著名なニコラス・クリストフ記者の「第2次朝鮮戦争の危機」と題した記事を大きく報じ、戦争の危険性を警告した。クリストフ記者は「大統領と補佐官が戦争に言及するときは、真剣に受け止めるべきだ」と歴史の教訓を引き合いに、軍事攻撃の可能性が高いと分析した。この記事の背景には、米国の大統領や高官、報道官は決して「ウソをつかない」という文化がある。「国民をミスリードしない」モラルが生き続けているからだ。むしろ、トランプ氏のようにウソをつく大統領は珍しい。 だが、米軍の軍事攻撃は国際法上簡単でない。国際法に違反した軍事攻撃はもちろんできない。北朝鮮が「ニューヨーク、ワシントンを攻撃できる」と言い続ければ、自衛のための攻撃との理由づけは可能だが、苦しい説明だ。とすると、北朝鮮の暴発だけが軍事攻撃を可能にする。トランプ大統領は、そのために北朝鮮を追い詰め、挑発している。脳裏には石油供給削減を続ければ、北朝鮮は何らかの軍事行動に出るとの計算があるのである。

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    2018年は米朝和平の動きが本格化か 転機は米大統領中間選挙

    「我々は決して北朝鮮の核保有を受け入れない。北朝鮮に責任を負わせる」──12月15日、国連安全保障理事会の閣僚級会合で米ティラーソン国務長官は北朝鮮の慈成男・国連大使に激しく詰め寄り、互いに非難の応酬が繰り広げられた。 北朝鮮が核実験を強行した2017年9月以降、米朝の緊張感は日に日に高まっている。米国主導の経済制裁で締め上げられた北朝鮮の金正恩・朝鮮労働党委員長は、いつ“暴発”してもおかしくない状況で、日本にとっても気が気でない状態となっている。2017年12月、国連安保理の閣僚級会合に出席した北朝鮮の慈成男国連大使=ニューヨーク(共同) その一方で米朝は水面下で秘密交渉を続けながら和平の糸口を探っているという情報もある。トランプ政権高官とのパイプを持つ国際政治評論家の板垣英憲氏が語る。「2017年5月にノルウェーで米朝の高官が集まった秘密会合が開かれ、これまで計8回の会合が行なわれたと聞いています。現在も水面下で話し合いは続けられており、2018年中に米朝和平に向けた動きが、今までにないほど本格化する可能性が出てきています」 その転機となり得るのが、2018年11月に行なわれる米中間選挙だという。「今のところ、トランプの支持率が低迷していることもあり、野党・民主党の優勢が伝えられています。大統領再選を狙うトランプにとって、この中間選挙での勝利は絶対に譲れません。 形勢逆転のため、これまで誰も成し遂げられなかった米朝和平の実現に向け“アクション”を起こす可能性は高い。具体的には、7月4日の米国独立記念日前後に訪朝、米朝トップ会談──との情報が浮上しています。実現すれば世界中が驚くビッグイベントになるでしょう」(板垣氏) 世界が注目する“独裁者”の2人が手を取り合うのか、さらなる敵対へと突き進むのか。トランプ氏の“決断”が大きく状況を分ける。関連記事■ 【ジョーク】金正男から金正恩にメール「TDL破壊しないで」■ 北朝鮮と韓国との全面戦争はあるか? 専門家はないと説明■ 一見デタラメな北朝鮮外交にも明確な方針あると佐藤優氏■ SAPIO人気連載・業田良家4コマ漫画「愛国烈士」■ 金正恩氏がキューバ議長に親書 米朝首脳会談依頼か

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    「エルサレムが首都」トランプの論理

    中東は再び「世界の火薬庫」に逆戻りするのか。トランプ米大統領がエルサレムをイスラエルの首都と宣言し、波紋が広がっている。「世界の常識」を覆す決定に各国は反発を強めるが、なぜこのタイミングだったのか。今後起こり得る中東情勢への影響も踏まえ、トランプの真意を読み解く。

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    「エルサレムの現実」を変えたトランプの論理

    川上泰徳(中東ジャーナリスト) トランプ大統領がエルサレムをイスラエルの首都と認定し、米国大使館をエルサレムに移転させることを発表した。パレスチナとアラブ諸国、さらにイスラム世界で反発が広がり、国際的な批判が上がっている。この決定は1995年に米議会が採択したが、歴代の大統領が半年ごとに延期してきたものを、トランプ大統領が23年目にして実施を発表した。トランプ氏の決定はこれまで国連安保理が「平和の障害」として非難し、「無効」としてきたイスラエルの行動を是認するもので、その決定自体が安保理決議違反の可能性が強い。エルサレムをイスラエルの首都だと認め、大使館を移すと発表する トランプ米大統領=2017年12月6日、米ワシントンのホワイトハウス まず、トランプ大統領の発表の論理を考えてみよう。演説の中で「私の発表はイスラエルとパレスチナの間の紛争に対する新たなアプローチの始まりとなる」と語った。1995年に米議会は「エルサレム大使館法」を採択し、エルサレムを首都と認定して、米国大使館を移転させること決めた。トランプ氏は「歴代の大統領は20年以上にわたって、エルサレムの認知を遅らせることが平和につながると信じて、法律の実施を拒否してきた。しかし、イスラエルとパレスチナの間の恒久的な和平の実現につながっていない」という認識を示した。 その上で、「イスラエルが自国の首都を決定することを含む権利を持つ主権国家であり、この事実を認めることは和平の実現にとって必要な条件である」とし、「それは現実を認めることでしかない」とした。 トランプ大統領は「この決定は、われわれが恒久的な和平合意を仲介する強い役割から離脱するということではない。私たちはイスラエルとパレスチナの間の偉大な合意を求めている」と主張する。さらに「米国は、エルサレムでのイスラエルの主権が及ぶ範囲や論争がある境界など、和平の最終地位に関することにはいかなる立場もとらない。それらの問題は当事者にゆだねられる」とする。 トランプ大統領の決定が何を意味するかは、エルサレムをめぐるこれまでの議論を振り返ることで、自(おの)ずと見えてくる。 エルサレムは1947年の国連パレスチナ分割決議では国連管理となっていたが、48年の第1次中東戦争で、エルサレム旧市街を含む東エルサレムはヨルダンが支配し、西エルサレムはイスラエルが支配し、東西に分断された。その後、1967年の第3次中東戦争でイスラエルが旧市街を含む東エルサレムを、ヨルダン川西岸ともども占領した。1980年にイスラエル議会は東エルサレムを含む「統一エルサレム」はイスラエルの首都とするエルサレム基本法を可決した。今回のトランプ大統領の決定は、このイスラエル議会・政府のエルサレム首都化を認定するものである。 しかし、このイスラエルの動きに対して、国連安全保障理事会は決議478号を賛成14、棄権1(米国)で採択し、「イスラエルの基本法を認定せず、基本法に基づくイスラエル行動はエルサレムの性格と地位を変更しようとするものとして認定しないことを決定する」とした。決議では「武力による領土の獲得は容認できないということを再確認する」として、「占領者であるイスラエルが基本法によって聖地エルサレムの性格と地位を変更することに法的効果はなく、無効であり、直ちに撤廃されなければならない」としている。トランプが和平の実現を語る矛盾 さらに決議では「この(イスラエルの)行動は中東での包括的で、公正で、恒久的な和平の達成に対する深刻な障害となる」としている。決議ではすべての加盟国に対して、「安保理の決定の受け入れ」を求め、さらに「エルサレムに外交使節を置く解明国に聖地からの撤退」を求めた。 この安保理決議を受けて、米国や日本を含むほとんどの国連加盟国はイスラエルが首都宣言をしているエルサレムではなく、テルアビブに大使館を置いてきたのである。トランプ大統領がイスラエルによる東西エルサレムの首都化を「現実」として認定すると発表しても、それを「法的効果はなく、無効」という安保理による決定が変わるわけではない。イスラエルによる東エルサレムの占領から、50年が経過したが、それが「武力による領土の獲得」だという「事実」は変わるわけではなく、トランプ大統領の発表は安保理決議に違反し、米国大使館がエルサレムに移転されれば、それも決議違反ということになる。 安保理決議がイスラエルによる統一エルサレムの首都宣言を「恒久的な和平の達成に対する深刻な障害」と認定したことは、イスラエルが東エルサレムを占領した1967年の第3次中東戦争後に採択された安保理決議242号とつながってくる。 それは中東和平の原則を定めるもので、「国連憲章の原則は公正で恒久的な中東での平和の確立を求めており、次の二つの原則の実施が含まれるべきだ」としている。その二つの原則とは、①イスラエル軍が今般の紛争によって占領した領土からの撤退、②すべての要求または交戦状態を終わらせ、地域のすべての国家の主権と領土の一体性を認め、平和のうちに生存する権利を尊重する。 決議242号は、イスラエルに占領地からの撤退を求め、代わりにアラブ諸国にイスラエルの承認と生存権を認めることとを求めていることから、「土地と平和の交換」として、現在まで米国が仲介者を自任する中東和平の原則として認識されている。占領から13年たっていようとも、占領地の東エルサレムを含む「統一エルサレム」を首都と宣言することが、安保理決議242号が提起する中東和平の原則に反することは明らかである。記念撮影するクシュナー米大統領上級顧問(左)と 河野太郎外相=2017年11月5日、東京都港区 トランプ大統領がエルサレムをイスラエルの首都として認定したことは、「武力による領土の獲得」を認めないとする前提に反するものであり、それを認めれば、決議242号が提起する「土地と平和の交換」の原則は困難にする。トランプ氏が「和平の実現」を語るのは全く矛盾する話なのである。 トランプ大統領の決定に欧州各国も批判し、懸念を表明しているのは、その立場がこれまでの中東和平の枠組みと矛盾し、それを否定するものだからである。その中で、河野太郎外相が「(トランプ氏が)恒久的な和平合意の促進への強固なコミットメントと二国家解決への支持を表明したことは評価する」と語ったのは、全く筋違いの話である。 トランプ大統領はエルサレムがイスラエルの首都だと認定することを「現実を認めることにすぎない」とし、その上で、「エルサレムでのイスラエルの主権が及ぶ範囲や論争がある境界など、和平の最終地位に関することにはいかなる立場もとらない。それらの問題は当事者にゆだねられる」と語る。そのことは、イスラエルが武力によって東エルサレムにユダヤ人入植地を建設し、さらにエルサレムの境界をはるかに超えてヨルダン川西岸に建設した大規模入植地をも「現実」として認めることにつながるだろう。第3次インティファーダは起こるか イスラエルはこの50年間、国連安保理が「紛争によって取得した領土」と認定している東エルサレムとヨルダン岸西岸でユダヤ人入植地を建設し、東エルサレムで20万人、ヨルダン川西岸に40万人の入植者が住んでいる。占領から50年が過ぎ、多くのイスラエル人は東エルサレムの入植地はもちろん、エルサレムの周辺にあるユダヤ人入植地が、占領地であることを忘れている状態である。 さらにイスラエルは今世紀に入って、ヨルダン川西岸とイスラエル本土の間に分離壁を建設した。ただし、ヨルダン川西岸にあるユダヤ人入植地は分離壁の内側に入れられ、東エルサレムにあるパレスチナ人が住んでいる地域は分離壁の外に置かれて、エルサレムから切り離され、パレスチナ人をエルサレムから排除しようとしている場所も多い。 このようにイスラエルが武力にものを言わせて、次々と「エルサレムの現実」を変えていることが、「土地と和平の交換」の原則に基づく和平の実現をますます困難にしている。その上で、トランプ大統領が決議478号に反してエルサレムをイスラエルの「永遠の首都」と宣言したイスラエル基本法を認めて、米国大使館をエルサレムへの移転を命じたことは、力による違法を是認し、和平の終わりを意味するのは自明のことである。イスラエル治安部隊の催涙ガスなどの被害を受け、運ばれるパレスチナ人 =2017年12月9日、パレスチナ自治区ベツレヘム エルサレムをめぐる今回のトランプ大統領の決定は、中東に何をもたらすだろうか。 パレスチナ側の反発による第3次インティファーダ(民衆蜂起)の懸念を危惧する声が盛んに出ている。しかし、2002年3月にイスラエルによるヨルダン川西岸への大規模侵攻の時、新聞社のエルサレム特派員として現地にいた私の経験から考えれば、パレスチナ人による第3次インティファーダが起こるとは考えにくい。第2次インティファーダでは、イスラエルの圧倒的な軍事力に対抗するために、ファタハとハマスの武装部門は、イスラエルの民衆を標的にするというテロ戦術をとったが、その結果、イスラエルの大規模な武力行使を許し、パレスチナ社会に決定的な敗北と挫折を残した。 ヨルダン川西岸や東エルサレムの入植者や兵士に対する単発的なテロは起こるかもしれないが、第2次インティファーダのようにファタハとハマスの武装部門が前面にでてテロ戦術をとるとは考えにくい。さらに民衆の怒りが爆発するだけでは「民衆蜂起」にはならない。かといって、1887年12月に始まった第1次インティファーダのような住民による不服従運動のような市民中心の組織的な動きも、現在のファタハとハマスによるそれぞれの強権支配の元で起こるとは考えにくい。トランプとイスラエル右派の親密さ トランプ大統領の決定を受けて危惧される危機は、パレスチナ側の動きから起こるのではなく、むしろイスラエル側から起こると考えるべきであろう。トランプ氏はイスラエルが力で「現実」を変更していくことを認定した。「和平と土地の交換」の原則が崩れた後、トランプ大統領が仲介する「和平」は、イスラエルが力で生み出した「現実」をパレスチナ側に押し付ける形しかないだろう。米国の後ろ盾を得て、イスラエルが大規模な軍事行動に出て、さらにパレスチナの土地を奪うか、パレスチナ人を排除するか、どちらかの可能性を心配すべきだろう。エルサレム旧市街の壁に映し出された米国とイスラエルの国旗 =2017年12月6日 イスラエルでの次の議会選挙は2019年11月までに行われるが、これまでは期限より前に行われてきた。一方、2008年12月以来、イスラエルによる大規模なガザ攻撃が3回あったが、3回ともイスラエル議会選挙の前の1年間に起こっている。イスラエルによる最後の大規模軍事行動は2014年夏のガザ攻撃だった。パレスチナまたはレバノンのヒズボラとの“戦争”を演出して、国内の支持を集めるのはイスラエル政府の常とう手段であり、次の議会選挙に向けて、ネタニヤフ政権がいつ大規模な戦争オプションをとる可能性を考えていなければならない。  特に現ネタニヤフ政権の国防相は、イスラエルで2割を占めるアラブ系市民の排除を唱える発言を繰り返してきた極右政党「わが家イスラエル」のリーバーマン党首である。トランプ氏の人種差別的な主張や政策は、イスラエルの極右政党の主張とも通じるものがある。トランプ大統領は就任前から、イスラエルのネタニヤフ政権と一体化するような言動を繰り返してきた。歴代の米政権はイスラエル支持を表明してきたが、ネタニヤフ氏が率いる右派リクードよりも、和平推進を掲げる労働党政権との親和性が強かった。トランプ大統領のようにイスラエルの右派や極右との親密な姿勢は、これまでの米大統領にはなかった。 トランプ大統領の決定に対して、アラブ世界では反米デモなどはかなり抑制的である。ほとんどのアラブ諸国は若者たちが反乱を起こした2011年の「アラブの春」の後、強権化が進み、民衆による自発的なデモができなくなっている。サウジアラビアの王宮府はトランプ氏の決定を「無責任で正当化できない動き」と批判する声明を出したが、国内メディアに対してはこの問題の扱いを抑制するように指示したという報道も出ている。民衆の抗議デモが抑えられれば代わりに出てくるのは過激派によるテロである。 世界中からシリアやイラクに入って戦闘経験を積んだ「イスラム国」(IS)やアルカイダ系組織の戦闘員は、いま、軍事的に追い詰められて出身国への帰還や第3国へ移動しようとしている。しかし、受け入れ先での市民、住民の協力がなければ、戦士も動くことができない。今回のトランプ氏の決定によってイスラム教徒の間に広がる怒りを追い風として、イラク、シリアからのイスラム過激派の欧米、アラブ世界への帰還や拡散が進むことになり、いずれはテロという形で米国に向かうことになるだろう。

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    トランプ政権内の確執が生んだ唐突な「エルサレム首都」宣言

    ーナリスト) トランプ大統領は12月6日、ホワイトハウスのローズルームで行った演説の中でエルサレムにアメリカ大使館を移すことを決定したと発表した。言い換えれば、エルサレムをイスラエルの首都として承認したのである。 イスラエルは現在、政府と議会、最高裁をエルサレムに置き、実質的にイスラエルの首都として機能を果たしているが、大使館を置いている国は一カ国もない。アメリカは公使館を2カ所置いているが、大使館は他の国と同様にテルアビブに置いている。エルサレム問題はイスラエルとパレスチナの対立の核心の問題の一つであり、エルサレムをイスラエルの首都として承認することは、和平交渉を阻害することになると考えられていた。だが、トランプ大統領は、そうした世界の「常識」を大きく変える決定を行ったのである。 トランプ大統領は大使館移転の決定の理由として、1995年に米議会が可決した「エルサレム大使館移転法」によって、政府は大使館を移し、エルサレムをイスラエルの首都として承認することを求められている点を挙げた。同法はクリントン大統領によって署名されたが、これまで実行に移されることはなかった。2017年5月、エルサレムで演説するトランプ米大統領(左)に拍手を送るイスラエルのネタニヤフ首相(AP=共同) 歴代大統領が大使館移転を延長してきたのは、イスラエルとパレスチナの和平交渉を成功させるために必要だと判断したからである。トランプ大統領は、大使館移転延長にもかかわらず和平交渉は前進を見なかったと批判し、「まったく同じ方式を繰り返すことで異なった結果、あるいは良い結果が出てくると考えるのは愚かなことである」と指摘。そして「この行動(大使館移転)がアメリカの利益とイスラエルとパレスチナの間の和平追求に最も叶うと判断した」と、エルサレムをイスラエルの首都として正式に承認する狙いを説明した。 それにしても、「なぜ」という疑問は残る。そもそもアメリカ大使館をエルサレムに移すというのはトランプ大統領の選挙公約であった。だが、「エルサレム大使館移転法」には移転を猶予するウェイバー条項が含まれており、歴代大統領は6カ月ごとに同条項に基づき移転を猶予する決定を行ってきた。 実はトランプ大統領も6月に移転猶予を認める決定を行っている。テクニカルに考えれば、12月に再度、大使館移転猶予の決定を行うかどうか決めなければならなかった。トランプ大統領にとって、問題はアメリカ大使館をエルサレムに移転するかどうかではなく、いつ移転するかだった。そしてトランプ大統領は移転猶予が切れる12月に移転を決断した。 だが、大使館移転が決定されたのは、発表の直前であった。トランプ大統領の女婿で、トランプ政権で中東政策の責任者に任命されているジャレッド・クシュナー大統領上級顧問は12月3日にブルッキングス研究所で開かれたセミナーで、「大使館をエルサレムに移転するかどうか決まっていない」と語っている。それから3日後、トランプ大統領は大使館移転を決定したことになる。急ぐ必要がなかったエルサレム「首都移転」 要は、決定は緊急性を必要とする問題ではなかったのだ。トランプ大統領は6月に一度移転先送りを決定しており、12月に同様な措置を取っても事態は変わるわけではなかった。一部のメディアは、トランプ大統領の支持基盤であるユダヤ系アメリカ人とエヴァンジェリカル(キリスト教原理主義者)に対する配慮があったと説明している。エヴァンジェリカルは聖書に基づき、神はエルサレムをユダヤ人に与えると考えており、エルサレムをイスラエルの首都として承認することを求めていたからだ。 だが、トランプ大統領の支持基盤にアピールするためという理由だけでは、敢えて今、世界中の反発が予想される決定を行ったのか十分には説明はできない。さらにトランプ大統領はクシュナー氏に「最終的な交渉」の道を探るように指示し、4人で構成される中東チームが結成され、年明けに中東和平の青写真を発表する手はずになっていたという。 この4人とは、クシュナー氏と弁護士のブリーンバルト氏、デビッド・フリードマン駐イスラエル大使、ディナ・パウエル大統領副補佐官である。パウエル氏以外は皆ユダヤ系アメリカ人で、イスラエル支持派である。パウエル氏はエジプト出身で、キリスト教徒だ。4人は精力的に中東の指導者と面談を繰り返し、和平交渉の道筋を探っていた。こうした状況からすれば、中東チームが包括的な和平案を出してから大使館をエルサレムに移す決定を行っても遅くはなかったはずである。エジプトのシシ大統領(右)とクシュナー米大統領上級顧問=2017年8月、カイロ(中東通信提供、AP=共同) トランプ大統領の決定を、いつもの「気まぐれ」と判断するのは単純過ぎるだろう。決断するには、何らかの根拠があったに違いない。トランプ大統領は6月にイスラエルを訪問している。さらに、これまでイスラエルのベンヤミン・ネタニセフ首相とパレスチナ自治政府のマフムード・アッバス大統領とそれぞれ3回にわたって会談。また、大使館移転発表の数日前にネタニセフ首相と電話会談を行っている。これらを踏まえれば、トランプ大統領の決定を促す何らかの要因があったと考える方が自然である。 トランプ大統領が声明の中で触れているように中東和平交渉は行き詰まっていた。従来のやり方では打開策は見つからない状況にある。そうした状況に一種のショック療法を行ったとの見方もある。ただ、ショック療法は大きなリスクを伴う。中東和平交渉でアメリカは中立的な役割を果たし、「正直な仲介者」と見られてきた。 だが、トランプ大統領の決定は、アメリカはイスラエル側に立つことを意味する。そうしたリスクを敢えて犯してもよいという判断があったのかもしれない。単にトランプ大統領が親イスラエルであるだけでは説明できない。そのカギを握るのが、中東情勢の変化である。パウエル氏辞任表明の衝撃 現在、中東諸国にとって最大の脅威となっているのは、イスラエルではなくイランである。アメリカの雑誌『Commentary』の上席編集者のソーラブ・アーマリ氏は「中東の多くの国はイランに対抗する潜在的な同盟国としてイスラエルに期待している」と、中東情勢の変化を指摘している(同誌、12月6日、「Trump has a capital idea on Jerusalem」)。 中東諸国の中にはイスラエルとの関係を強化する動きが見られる。その代表格がサウジアラビアである。『ニューヨーク・タイムズ』によれば、11月にアバス大統領はサウジアラビアを訪問し、ムハンマド・ビン・サルマン皇太子と会談を行っている。その際、皇太子は和平案を提案している。その中に東エルサレムはパレスチナに返還しないとの項目が含まれていた。 さらにパレスチナ難民の帰国を認めないなど、パレスチナにとって厳しい内容も含まれていた。サウジはこうした厳しい条件をパレスチナに示す見返りに潤沢な経済援助を行う提案をしている。ただ、両国とも、そうした報道を否定している。だが、アーマリ氏は「アラブの主要国にとってイスラエル・パレスチナ和平交渉よりも反イラン同盟の方が重要になっている」と指摘している。 またアッバス大統領は高齢化し、パレスチナ内における影響力も低下している。先の見えない和平交渉をどこかで打開したいとの気持ちもうかがえる。またアメリカ国内でも、パレスチナに対する援助打ち切りの法案が提出されている。アバス大統領は、トランプ大統領の決定に対して「エルサレムをイスラエルの首都として認めるようなアメリカの政策、あるいはアメリカ大使館をエルサレムに移す政策は、平和交渉にとって脅威であり、パレスチナにとっても、アラブにとっても、国際的にも受け入れることはできない」と厳しい口調で批判している。 だが、膠着状況の和平交渉を打開し、前進させるためには、従来のやり方では通用しなくなっていることは明らかである。トランプ大統領の決定が交渉を新しい段階に導くのか、あるいはパレスチナやイスラム教徒から強烈な反発を招き、新たな流血事態につながるのか、まだ判断できない。そもそも、外交政策の動きは表面的には見えないものである。トランプ米大統領(右)とパウエル大統領副補佐官=2017年9月、ホワイトハウス(ロイター=共同) ただ、ひとつだけ気になる事柄を指摘しておく。それは中東チームの唯一の非ユダヤ人であるパウエル氏が辞任を発表していることだ。表面上は、パウエル氏は当初から1年の予定で補佐官の職務に就くと決めていたと報道されているが、トランプ大統領の政策や中東チーム内の政策を巡る確執があったのかもしれない。とすれば、トランプ大統領の行動は熟慮を重ね、中東情勢の微妙な変化を読み取ったものとは言えなくなるかもしれない。

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    「エルサレムが首都」パレスチナを裏切ったトランプの真意

    前嶋和弘(上智大総合グローバル学部教授) いったい何が起こったのか、と私も感じた。それくらい、今回のトランプ米大統領の発言には唐突感があった。新たな和平の枠組みがない中で、エルサレムをイスラエルの首都と承認し、大使館移転を行うことは、和平プロセスを根本的に破壊し、中東にもう一つ紛争の種をまくことになるのは必至だ。 しかし、トランプ氏の頭の中を想像するに、それなりの論理があるようだ。本稿ではそれを想像してみたい。 まず、比較的想像しやすいのが、昨年の大統領選挙で自分に投票してくれた人への「利益還元」である。具体的には強固な支持層である共和党のキリスト教保守派向けへの「感謝」のメッセージである。 米調査会社ピュー・リサーチ・センターによると、有権者の全体の26%を占めるキリスト教保守派(福音派、ボーンアゲイン)のうち、2016年にトランプ氏に投票したのは81%と圧倒的である。この数字は12年の78%、08年の74%よりも一段と大きくなっている。 このキリスト教保守層を固めるために、昨年の選挙戦でトランプ氏は副大統領に過去の米国の政治家の中で最も宗教保守的といえるペンス氏を任命した。さらにそれだけでなく、選挙公約として「イスラエルの永遠の首都はエルサレムとする」と何度も強調した。 それではなぜ、キリスト教保守派はイスラエルを大切にするのか。それは、ユダヤ教とキリスト教は同根(「ユダヤ・キリスト教」)であるという意識が強いためだ。「イスラム教に比べれば…」という意識もある。 ここで注意しないといけないのは、ユダヤ教徒ではなく、キリスト教保守層向けという点である。全米の人口の3%程度を占めるといわれるユダヤ系は、16年の大統領選でもそうだったが、常に7割程度が民主党に投票するように、一枚岩ではない。ホロコーストの歴史を経験したユダヤ系は多様性や人権を重視する民主党の方に親和性があるという構造である。だから、穏健派は今回のトランプ発言に一斉に反発している。 日本でもよく引用される米国のユダヤ教の有力利益団体に、米国イスラエル公共問題委員会(AIPAC)のようなイスラエル寄りの強硬派団体がある。トランプ氏の娘婿、クシュナー大統領上級顧問はこのAIPACと強い関係にある。トランプ米大統領(右)と娘のイバンカ大統領補佐官(中央)、娘婿のジャレッド・クシュナー大統領上級顧問=2016年6月、ニューヨーク(ロイター=共同) しかし、強硬派の団体がある一方で、「Jストリート」というリベラル寄りの団体もある。Jストリートはトランプ発言直後に「大きな間違い」という声明を出した。特にリベラル派のユダヤ人にはイスラエルと距離を置こうとする人たちもおり、筆者が数年前に米国の学会に参加した際、急に「全体集会で反イスラエル決議をまとめる」という極めて政治的な動きに直面し、やや面食らった。この決議の中心にあったのが、リベラル派のユダヤ系の大学研究者だった。宣言後に残ったトランプの「矛盾」 そのような中で不思議なのが、今回の発言でイスラエルとパレスチナが共存する「二国家解決」をトランプ氏は崩していない点である。さらに注目したいのが、大使館移転繰り延べ命令に、結局トランプ氏が署名した点である。1995年に議会を通過したエルサレムへの大使館建設法案を延期してきた歴代の大統領を散々批判した後で、トランプ氏は過去の大統領と同じよう対応を選んだ。 この矛盾するトランプ氏の言動をさらに想像してみる。過去25年ほどの間、イスラエルが常に優勢である中、そもそもパレスチナ和平が全く進む可能性が見えない。乱暴だが逆にエルサレムをイスラエルのものと認めて、和平の中立的な仲介役としての米国の立場を捨てようと思ったのではないか。米国が和平から抜ける一方で、パレスチナ和平をイスラエルとパレスチナの間で進めさせた方が現実的な和平になるという「ショック療法」だったかもかもしれない。 「首都承認」発言後、イスラエルのネタニヤフ首相に「あまり公に喜びすぎるな」とトランプ氏が伝えたと言われており、それを見るとショック療法である可能性も確かに見える。ただ、そんな破天荒な治療がどれだけうまくいくかわからない。2017年12月、パレスチナ人の抗議デモで燃やされるトランプ米大統領やイスラエルのネタニヤフ首相の写真=パレスチナ自治区ガザ(ロイター=共同) ただ、今回のトランプ氏の発言は国際社会からの反発は必至であり、すでに多くの混乱が起こりつつある。イスラム国との戦争で力をつけたレバノンのシーア派組織ヒズボラなどがイスラエルへの攻撃に踏み切る可能性もあろう。最近米国との関係が悪化しているトルコの反発なども考えられるだろう。 ここ数年の中東情勢の変化の中で、何と言ってもイランの台頭が大きい。「アラブの春」でアラブ諸国が大いに動揺し、そこにイランが進出している形だ。トランプ氏が今年5月、最初の外遊先としてサウジアラビアを選んだのは偶然ではない。この外遊でイランを敵視することでつながるサウジアラビア、エジプト、イスラエル、米国で「対イラン包囲網」を作ろうという狙いが明確にしている。 サウジアラビア、エジプトはイスラム世界から非難され、トランプ氏の発言を取りあえず強く批判した。トランプ政権に近い両国が「はしごを外された」として、非難の姿勢をどう取るかは難しいところだが、本音の部分では対イランで米国と組む方が得策という考えもあるのかもしれない。 これまでの秩序をぶっ潰す「壊し屋」トランプ氏。この難しい「怪物」とわれわれはうまく付き合っていかなければならないことを今回の発言を通じてさらに痛感した。

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    「米国の手先」日本も標的? エルサレム問題でイスラム国が復活する

    和田大樹(外交・安全保障研究者、清和大講師) 米国のトランプ大統領が12月6日、エルサレムをイスラエルの首都と容認し、数年以内に最大都市テルアビブから米国大使館を移転させるという前代未聞の方針を明らかにした。トランプ氏は大統領選の時から、エルサレムに移動させることを公約としてきたが、今回の決定の背景には、国内のキリスト教福音派など自らの支持層の期待に応える狙いがあるとみられる。 当然のことながら、この決定に対してはパレスチナをはじめ、サウジアラビアやヨルダン、エジプト、マレーシアなどイスラム圏諸国に加え、欧州や国連などから既に非難や懸念の声が続出しており、今後の中東情勢の先行きが不安視されている。特に、今年10月中旬にはパレスチナ自治政府の主流派ファタハとガザ地区を実効支配するイスラム原理主義組織ハマスが、10年に及ぶ分裂に終止符を打つための和解案に署名するなど、中東和平へ明るい兆しが見え始めていた時期だけに、両者からは怒りとともに悲嘆の声さえも聞こえる。2017年12月6日、米ホワイトハウスでエルサレムをイスラエルの首都と認定すると発表したトランプ大統領(UPI=共同) しかし、今回の決定が与える影響は、米国とアラブ諸国を中心とする国家間関係だけで収まる気配はなく、国際的なテロ情勢にも一定の影響を与える可能性がある。ここでは、米国によるエルサレム首都容認が今日の国際テロ情勢に与える影響と、それによる日本権益へのリスクについて危機管理の視点から考えてみたい。 米国によるエルサレム首都容認に各国から懸念の声が高まる今日、2014年以降猛威を振るってきた過激派組織「イスラム国」(IS)は、シリアとイラクで領域支配をほぼ完全に喪失した。一般世論では、9・11以降のアルカーイダに続き、ISの時代も終わったとの風潮が流れている感があるが、現実はそう易しいものではない。 まず、多くのIS戦闘員は殺害、もしくは拘束されたものの、依然として逃亡を続ける戦闘員がいる。こういった戦闘員は支配領域を失ったとしても、内戦や戦闘が続くシリアやイラクでテロ組織としての活動をひそかに継続し、組織として復活できる機会を狙うことになるだろう。 また、既に母国や第三国に移動した戦闘員もいるが、帰還者による母国でのテロの脅威に加え、ISとしての信念を持ち続ける戦闘員らが周辺諸国や他地域に移動し、再度、模擬国家構築を目的とする戦闘を開始することが懸念される。既にフィリピン南部のミンダナオ島マラウィやリビア中部のシルトはそれに近い状況にあったといえるが、第三国へ移動した戦闘員たちはその機会をうかがいながら、ひそかに活動を続けることになるだろう。動き出すIS残党とアルカーイダ さらに、ISによる領域支配の時代が終わったとしても、そのイデオロギーやブランドの影響を受けた個々人による、いわゆるローンウルフ(一匹狼)型のようなテロが終わる気配は全く見えない。近年、ISによるプロパガンダ活動は衰退の一途をたどっているが、ISの戦闘員や支持者らは、ISの求心力を保つためにも短期的にはその活動を継続するだろう。イラク北部モスル南方にある監獄で座る過激派組織「イスラム国」(IS)のメンバーとみられる男ら=2017年7月(AP=共同) 一方、1988年にウサマ・ビンラーディン(2011年5月に死亡)が創設した国際テロ組織アルカーイダは、9・11以降米軍主導の対テロ掃討作戦で多くの幹部を失い、組織として弱体化したことは事実であるが、内部における権力闘争など紆余(うよ)曲折はあるものの、今日においても、アラビア半島のアルカーイダ(AQAP)やアルシャバーブ(ソマリア)、インド亜大陸のアルカーイダ(AQIS)、イスラム・マグレブ諸国のアルカーイダ(AQIM)など、アルカーイダ指導者のアイマン・ザワヒリ容疑者に忠誠を誓う組織が中東・アフリカ、南アジアなどで活動している。 ISの前身組織がイラクのアルカーイダ組織(AQI)で、ISとアルカーイダは手段・方法などで違いは見られるものの、初期のイスラム時代への回帰という目標をグローバルなレベルで掲げるサラフィスト(イスラム厳格派)グループで、今日でも依然としてその意思を強く持っている以上、彼らのグローバル・ジハード運動は今後も続くと判断せざるを得ない。そして、その攻撃能力は諸国家の軍事力に及ばないことは言うまでもないが、米国を中心とする欧米諸国やその同盟国、中東の権威主義的・世俗的な政府を攻撃する意思に変化は見られないことから、われわれは安全保障・危機管理の観点からそれにどう対処していくかを継続して考える必要があろう。 トランプ氏による決定後、早速ISやアルカーイダなどジハーディスト(聖戦主義者)グループは強く非難する声明を出している。それらをまとめると、まず、アルカーイダ系ではその本体であるアルカーイダ・セントラル(AQC)が、イスラム教徒に対して「米国とその同盟国の権益を攻撃せよ」と呼び掛け、その系統グループであるAQIMやAQAPもトランプ氏の決定を非難し、全世界のイスラム教徒に対して、資金的・軍事的支援をするなどしてパレスチナ解放のために連帯するよう訴えた。 また、アルカーイダ系とされるハヤート・タハリール・シャーム(HTS)、インド北部カシミール地方やガザ地区を拠点とするジハーディストグループからも同様の声明が発信された。一方、アルカーイダと対立関係にあるISの支持団体(支持者)からも、米国の決定を非難する声明が次々に出ており、中には欧米諸国での単独的な攻撃を呼び掛けたりするものもある。さらには、エジプトを拠点とするムスリム同胞団系のハサム運動やアフガニスタンの反政府勢力タリバンからも同様の声明が出ている。「声明」からわかる三つのポイント 本稿執筆時点でトランプ氏の宣言から3日が過ぎるが、上記からも世界各地のジハーディストたちが強く反発していることが分かる。そしてそれらの声明から、現時点で分かることが三つある。 まず一つ目は、アルカーイダ関連の組織による非難声明が多いということだ。AQCやAQIM、AQAP、HTS、アルシャバーブなど、中枢とその関連組織の非難声明が2日間という短い期間に一斉に発信されたことは、今まで見られなかった現象だ。なぜアルカーイダ系グループの発信が目立つかというと、それは簡単に説明すれば、アルカーイダはISよりエルサレムを重要視するということに尽きるが、領域支配を継続してきたISが崩壊したというタイミングも戦略的にはあったのかもしれない。特に、近年何か大きな出来事があっても、AQCがここまで早く明確な声明を出すのは珍しい。 二つ目は、ISのプロパガンダ活動の顕著な衰退である。今回のトランプ氏による決定は、ジハーディストたちにとっては自らの主義・主張の正当性をアピールするチャンスであるはずだが、IS関連の声明は以前に比べると目立たない。特に、支持者でなくISの公式メディアからの発信が執筆時点で見られないことからは、ISの顕著な衰退というものを想像させる。 しかし、上でも触れたように、ISが弱体化したからといって、ジハーディストによるテロの脅威が衰退するわけではない。それは別問題と考えるべきで、それが三つ目である。2017年12月11日、ニューヨークで起きた爆発で、現場付近を封鎖する警察と消防(ロイター=共同) 昨今、テロ対策研究の世界では、ISの弱体化に伴い、ISとアルカーイダの関係の行方を模索する動きが顕著にみられる。その中では、ISとアルカーイダの対立の継続の他に、両者の共闘、接近、もしくは合併などの議論が行われており、今後のテロ情勢の動向を不安視する声が聞かれる。その行方を予想することは難しい。しかし、今回のトランプ氏の決定は、少なくとも「米国・イスラエルvsアラブ」という図式を明らかに緊張化させることとなった。個人的にもトランプ氏の判断には反対の姿勢であるが、今回の決定による中東の不安定化は、繰り返しになるが、アルカーイダやISにとっては自らの存在をアピールするチャンスになっており、ひいては両者を共闘、もしくは接近というものを助長する要因にならないかが懸念される。 では、今後の情勢はわれわれ日本人にどのような影響を与えるのだろうか。遠い中東地域の出来事であるから、日本人が直接の影響を受けることはないのだろうか。答えは「NO!」だ。「日本標的」の口実を与えるな 表1(筆者作成)は、過去20年間で日本人がジハーディストによるテロの被害を受けた事件をまとめたものである。これを見るだけで日本人が断続的にテロの被害に遭っていることが分かる。そしてその多くは、「巻き込まれた」テロ事件であるが、「日本人だから殺害対象となった」事件もあることを忘れてはならない。この年表の中では、2004年10月のイラク日本人青年殺害事件と15年1月のシリア日本人男性殺害事件がそれに当てはまる。周知の通り、これらの事件で被害に遭われたのは、香田証生さん(当時24)、後藤健二さん(当時47)、湯川遥菜さん(当時42)であるが、現在でも同様のリスクは存在し、今後も日本人が殺害対象として狙われる可能性も決して排除できない。 04年10月と15年1月の事件で共通しているのは、テロリストが米国と協調関係にある日本を非難していること、そして何よりテロリストは国際政治の流れをよくウォッチングしているということだ。日本は歴史的に中東諸国と戦争をしたことがなく、中東における日本のイメージは一般的には非常に良い。しかし、このようなジハーディストたちは、国際情勢、国際政治の流れを独自に解釈し、「日本は米国の同盟国であり、欧米の手先だ」と判断することはよくあり、日本も決して彼らの標的の外ではないのである。 われわれは過去の教訓を決して忘れてはいけない。過去の事例からは、以上のようなリスクがあることを十分に認識する必要がある。現在のところ、今回のトランプ氏の決定に対して多くの国や国際機関から非難の声が集まっているが、日本政府は明確な非難を避けている。最も、日本の国益を考えるとそうならざるを得ないだろうが、それはISやアルカーイダなどのジハーディストグループに、日本を標的とするという口実を与えることになる恐れがある。2017年9月、会談を前に握手する安倍首相(左)とイスラエルのネタニヤフ首相=米ニューヨークの国連本部(代表撮影・共同) 今回のトランプ氏の決定は、特にアルカーイダにとっては最もセンシティブな問題で、彼らの怒りを最も買う出来事といえるだろう。2015年以降、故ビンラーディン容疑者の息子であるハムザ・ビンラーディンの存在が顕著になっている。昨今もハムザは、イスラエルと米国を攻撃せよというメッセージを発信しており、今後の国際テロ情勢の先行きが不安視される。現在のところ、ジハーディスト情勢で何か大きな動きがあるわけではない、しかし、われわれ日本は過去の教訓から以上のようなリスクがあることを十分に認識し、今後の情勢を危機管理的な視点から注視していく必要がある。

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    三大宗教の聖地 エルサレムで触れたイスラエル人の日常生活

     イスラエル軍がパレスチナ・ガザ地区への侵攻を行う昨今。ニュースでは多数の死者が出ていることが報道されており、この国への注目は日に日に高まっている。日本人には物騒な印象のイスラエルだが、実際に訪れてみると、人々は働き、物を買い、食べて飲んで祈り、世界の街で見てきたものと変わらない人々の生活があった。 筆者が滞在した街は、ユダヤ、イスラム、キリスト教徒の聖地があるエルサレムだ。観光地としても人気があり、各宗教の巡礼者をはじめ、多くの旅行者がこの街を訪れている。?城壁に囲まれた旧市街には、石造りの細い路地が続き、数多くの史跡が立ち並んでいた。建物は石造りで、中世の町並みをそのままに保存している。 高低差の激しい土地に建設されたからか、街を歩く時は常に、坂道や階段を登ったり降りたりする必要がある。この町並みの中をイスラエル料理のファラフェル(ひよこ豆のコロッケ)でもつまみながら散歩したりすると、別の時代に迷い込んだようで楽しい。イスラエル、エルサレムのバザール(iStock) 街はユダヤ教徒、イスラム教徒、キリスト教徒ごとに居住区が決められており、ユダヤ・キリスト教徒の居住区は比較的きれいに保たれている。イスラム教徒の居住区はゴミがまばらに落ちている印象があるが、賑やかで雑多な商店が立ち並んでおり、他の居住区に比べると人々も活気に満ちている。 旧市街の城壁を出て新市街に出ると、国立のイスラエル博物館周辺の広い公園では、家族連れがBBQをしており和やかな空気が流れていた。新市街の目抜き通りでは、軍服姿の若者の姿が目立つ。イスラエルでは一部の例外を除き、男女共に18歳から兵役が義務づけられている。 街で見かけた兵士の一人は、警備任務の休憩中か、サボり中なのかは分からなかったが、サブマシンガンを肩にかけたままアイスクリームを口にしていたり、ブティックの買い物袋を下げた兵隊も見かけた。初めて見たサブマシンガンは重く冷たく感じたが、地元の人は気にするそぶりもなかったので、エルサレムでは日常的な風景なのだろう。 国民の安全な生活を守るため、イスラエルでは徹底した治安管理が行われている。まず、大きなショッピングモールに入るには、荷物のチェックが必要だ。空港のセキュリティチェックと同様、ゲートをくぐり、荷物はX線で中身を確認される。出国するときも、バッグの底まで荷物を調べられ、パンツ一丁になるまでボディチェックを行われた。 厳しい治安管理のためか夜間の一人歩きも、地区によっては問題ない。新市街にはデートに使いたくなるような洒落たレストランもあるし、クラブや、酒場だって当然ある。若い人がそのような場所で笑い、楽しんでいるのは、他の世界の大都市と変わらぬ風景だ。 筆者がエルサレムで滞在した宿は、迫害を逃れたキリストがローマ軍に捕まったとされる“オリーブの丘”を登った先にあった。イブラヒムというおじいさんが自宅を開放している宿で、食事付きで料金も安いため、日本人のバックパッカーから人気のある宿だ。この宿がある地区はイスラム教徒が多く、住んでいるのは主にアラブ人だ。路上で遊ぶ子供がいきなり… 宿に滞在して数日が経った時、事件が起こった。路上で遊んでいる子供の前を通りがかった時「ハーイ!」と挨拶をされたのだが、続けざまにツバを吐きかけられたのだ。ツバはこちらに届くことはなく、筆者は自転車に乗っていたため、その場は走りすぎたが、一瞬、何が起きたのか分からなくなった。こちらはただ通り過ぎただけなのだ、何も悪いことはしていない。 夜、宿に帰って、ボランティアで長期滞在しているタイ人の女性に話をしたところ、彼女も石入りの雪玉を投げつけられたと聞いた。この時も特に理由はなかったそうだ。その雪玉は彼女の額に当たり、流血したそうだが、周辺住民との衝突を避け、泣き寝入りしたと聞いた。 言葉が通じない中ではお互いのバックグラウンドが分からず、相手をアイコン化して捉えてしまいがちで、誤解が生まれやすい。イスラエルは経済協力開発機構(OECD)の調査で、相対的貧困率(大多数よりも貧しい「相対的貧困者」の全人口に占める比率)が高いとされた国のひとつだ。 見た目が彼らとは違い、イスラエルでは目立ちがちな私たちアジア人は、海外に旅行できる裕福な人種として、子供たちの嫉妬を買ったのかもしれない。この出来事を通して、少しやるせない気分になったが、もちろん、エルサレムのアラブ人の子供が、そのようなことをする子供だらけなわけではないことを追記しておく。 ストリートアートのスター、バンクシーのウォールアートを見にパレスチナ自治区に足を踏み入れた時も、そこには変わらない人々の暮らしがあった。パンを作る人、タクシーの運転手をする人、お土産を売る人、カフェでコーヒーを飲む人。小銃を持った警備兵がいる以外は物騒な気配は微塵もないと感じた。イスラエルは旅行者にとって大変魅力的な土地である。かの国の人々に平和が戻り、また訪問できる日が来ることを、筆者は願ってやまない。(文・鈴木雅矩)関連記事■ モサドの強みは世界を敵に回してでも生き残る国是と佐藤優氏■ 落合信彦氏 イランのミサイル2万発がイスラエルの射程圏内■ 「不倫」表す隠語 オランダでは「こっそり猫を盗む旅に出た」■ 落合信彦 イランの核開発はイスラム世界の覇権握るためと指摘■ タスキ掛けした鞄の紐で胸が強調 「パイスラ」を下から撮影

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    エルサレムを首都に「選挙公約守る男」を誇示するトランプ

    佐々木伸 (星槎大学客員教授) トランプ米大統領は6日、パレスチナ人とユダヤ人の係争の聖地エルサレムをイスラエルの首都と認め、米大使館を同地に移転させる方針を発表した。パレスチナなどアラブ各国はもとより欧州からも一斉に反発する声が上がっており、イスラム世界で反米デモの嵐が起きる懸念が強い。 トランプ大統領は発表で、この決定が「現実を認める以外の何ものでもない。これがやるべき正しいことであり、実施されなければならない」と言明した。しかし、70年も続いてきた米国の政策転換は衝撃的だ。まずはこれがどれほど重大で深刻なことなのかを確認する必要があるだろう。 エルサレムの旧市街地には、ユダヤ教、キリスト教、イスラム教の聖地が集中する。ユダヤ教では、古代エルサレム神殿の外壁である「嘆きの壁」、イスラム教徒では預言者ムハンマドが昇天したという「岩のドーム」とアルアクサ・モスクがある。(iStock) イスラエルは1967年の第3次中東戦争で占領・併合した東エルサレムを含め、エルサレムを「不可分の永遠の首都」と主張してきた。しかしパレスチナ側は東エルサレムを将来の独立国家の首都と位置付け、エルサレムがどちらに帰属するかは中東和平交渉の中で、最も困難かつ微妙な問題とされてきた。 このため、各国はエルサレムではなく、商都テルアビブに大使館を置き、エルサレム問題との関わりをあえて回避してきた。これは米国も同様だが、ユダヤ系米国人の影響力が強い米議会は95年、エルサレムをイスラエルの首都とし、大使館移転を政府に求める法律を可決した。 しかし、中東和平の中立的な調停者を演出してきた歴代大統領は外交・安全保障上の理由からとして、半年ごとにこの移転の実施を延期してきた。トランプ氏は昨年の選挙の公約の1つとして、大使館のエルサレム移転を掲げたが、今年6月に一度移転を延期し、12月4日が2度目の延期期限だった。 米メディアなどによると、トランプ氏が6月に延期したのは、中東和平交渉への影響や、反米感情の高まりなどを懸念する政権内部の意見を考慮したからだ。しかし、大統領は延期せざるを得なかったことに我慢がならなかったようで、ホワイトハウスではこの数ヶ月間、移転決定に向けて集中的な検討が行われてきた、という。 つまるところ、トランプ氏は「選挙公約を守る男」であることを断固示したかったということだろう。同氏は既存のエスタブリッシュメントやエリートの意見を嫌い、「米第一主義」に見られるように、“外交的な常識”にとらわれないことを実証してきたが、今回もそうしたトランプ流のやり方で、「歴代大統領とは違う」というところを誇示する意図があるのは間違いない。 トランプ大統領の側近らによると、大統領はエルサレムが単に、歴史的にイスラエルの首都であるという現実を認めているにすぎず、中東和平交渉への関与など他の政策は今後もなんら変わるところがない、という。しかも、実際に移転するまでには、3年から4年必要で、テルアビブに大使館を置いている現状には当面変化がない、としている。大統領は娘婿のクシュナー上級顧問を和平交渉の中心に据えている。イスラム教徒のレッドライン しかし、こうした理屈は大統領の決定を正当化しているだけで、長年続く歴史的な紛争の実態を無視した無謀な論理と言わざるをえない。オバマ政権下で中央情報局(CIA)長官を務めたジョン・ブレナン氏は米紙に対し「無謀かつ外交政策の大失敗」と批判し、中東における米国の権益を向こう何年にも渡って損ない、地域を不安定なものにするだろう、と警告した。 トランプ大統領がどのような理屈づけをしようが、米国がイスラエル寄りに大きく踏み出し、中東和平の中立的な調停者としての立場を放棄したというのは確かなことだ。トルコのエルドアン大統領が「エルサレムをイスラエルの首都と認めるのはイスラム教徒にとってのレッドライン」と言明しているように、中東和平交渉が破綻する恐れが強い。 トランプ大統領の決定が伝えられると、世界各国から非難の声が上がった。パレスチナ自治政府は無論のこと、アラブ各国はじめ英仏独など欧州諸国からも米国に対する批判が集中した。2017年12月、ヨルダン川西岸ラマラでトランプ米大統領の写真を手に抗議するパレスチナ人ら(AP=共同) ただし、アラブの大国であるサウジアラビアやエジプトは表面的には米国の方針に懸念を表明しても、パレスチナを支援する行動は取らない公算が強い。特にサウジのサルマン国王体制はトランプ政権との関係を一段と深めており、最大の関心はパレスチナ問題ではなく、イランの影響力拡大阻止にあるからだ。 とは言っても、「反米行動に火が付けば、パレスチナだけではなく、イスラム諸国全体に反米デモの嵐が吹き荒れるかもしれない。米国は1人の大統領の自己満足のために、退っ引きならない窮地に立たされかねない」(ベイルート筋)という指摘もある。 過去にも、2012年には預言者ムハンマドを侮辱した映像が米国で制作されたことにイスラム教徒が反発して反米デモが各地に波及。また米軍兵士が聖典コーランを焼却したことが明るみに出て、その時にも反米デモが起きた。パレスチナでは、6日から3日間を「怒りの日」と名付け、すでに不穏な空気が渦巻いている。暴力の連鎖が起きる懸念がある。 イスラエルの米大使館には1000人を超える外交官がいるが、国務省はテロなどに巻き込まれないよう、エルサレム旧市街地やヨルダン川西岸への立ち入りを禁じた。また中東各国の大使館などに対しても過激派の攻撃などに備え厳戒するよう指示を出した。 米国の決定で中東情勢が悪化する恐れから6日の日経平均も大きく下がった。エルサレム問題は世界に暗雲を投げ掛けようとしている。ささき・しん星槎大学客員教授。共同通信社客員論説委員。ベイルートやカイロ支局長を経て外信部副部長、ニュースセンター長、編集局長などを歴任。

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    窮地トランプ大統領を「応援団」は救えるのか?

    びつけて注視していく必要があるということです。うんの・もとお 明治大学政治経済学部教授、心理学博士。アメリカン大学(ワシントンDC)異文化マネジメント客員研究員(08~10年、12~13年)。専門は異文化間コミュニケーション論、異文化マネジメント論。08年及び12年の米大統領選挙においてオバマ陣営にボランティアの草の根運動員として参加。16年米大統領選挙ではクリントン陣営に入る。著書に「オバマ再選の内幕―オバマ陣営を支えた日本人が語る選挙戦略」(同友館)など多数。

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    なぜトランプは金正恩を「ロケットマン」と呼び続けるのか

    の一般討論演説を行うトランプ米大統領=2017年9月19日(ロイター) さて、2017年9月19日にアメリカ大統領であるドナルド・トランプは、就任後初めての国連総会での演説で、北朝鮮の最高指導者である金正恩を「ロケットマン」と呼び、「アメリカと同盟国を守ることを迫られれば北朝鮮を完全に破壊する以外の選択肢はない」と恫喝した。 それに対して、北朝鮮の最高指導者である金正恩は21日に声明を発表し、トランプの演説を批判して「トランプが何を考えていたとしても、それ以上の結果を目の当たりにすることになるだろう。アメリカの老いぼれ狂人を必ず、必ず、火で制するだろう」と応酬。北朝鮮の外務大臣である李容浩も、23日に国連総会でトランプを「誇大妄想と自画自賛を重ねる精神異常者」と呼び、「アメリカ全土への我が国によるロケット攻撃が避けられなくなる」と恫喝した。 フルシチョフに比べれば穏やかとはいえ、国連総会を舞台に米朝がお互いに口汚く相手を罵って恫喝したことで、実際に戦争になるのではないかと危惧した向きも多かろう。もちろん、その可能性がゼロとは言わない。しかし、まず、北朝鮮はなぜアメリカを恫喝しているのかを理解する必要があろう。 北朝鮮がアメリカを口汚く罵って恫喝することは今までも珍しくなかった。なぜ北朝鮮がアメリカに恫喝のメッセージを送るのかは抑止論のゲームによって説明できる。北朝鮮の核兵器とミサイル開発の目的が、アメリカに対する抑止力を持つためであったことは、もはや議論の余地はないだろう。援助やそのための対話を求める瀬戸際外交であるならば、アメリカを攻撃するぞと恫喝する行動を説明できないからである。恫喝されれば援助を送るアメリカではないだろう。では、抑止論のゲームから北朝鮮がなぜアメリカに対して恫喝するのかを説明しよう。北の米に対する抑止ゲーム 抑止論のゲームは、展開型ゲームによって説明される。視覚的にはゲームツリーが最も分かりやすいであろう。北朝鮮のアメリカに対する「抑止ゲーム」を描いたゲームツリーの図を見てもらいたい。この「抑止ゲーム」の結果は、北朝鮮とっての「現状維持」、「宥和(ゆうわ)・降伏」、「戦争」の3つがあり得る。アメリカが「攻撃の自制」を選択すれば、「現状維持」になる。アメリカが「攻撃の実行」を選択し、北朝鮮が「反撃の放棄」を選択すれば、北朝鮮の「宥和・降伏」になる。アメリカが「攻撃の実行」を選択し、北朝鮮が「反撃の実行」を選択すれば、「戦争」になる。北朝鮮にとって、「現状維持」が最も平和な状態であり、最良の結果である。そして、アメリカからの攻撃に対して「宥和・降伏」することは国家が消滅する可能性もあり、最悪の結果である。「戦争」は、その中間の結果である。北朝鮮のアメリカに対する「抑止ゲーム」を描いたゲームツリー アメリカにとっては、北朝鮮が「宥和・降伏」することが最良の結果であり、北朝鮮と「戦争」になることが最悪の結果である。「現状維持」は、その中間の結果である。となると、北朝鮮とアメリカの両者にとって、「現状維持」が最良の結果であることになる。そのために、北朝鮮は、アメリカに「攻撃の自制」を選択させて、「現状維持」の結果をもたらすようにしようとする。それは、アメリカが「攻撃の実行」を選択すれば、北朝鮮が必ず「反撃の実行」を選択して「戦争」になることをアメリカに認知させることである。もしアメリカが「攻撃の実行」を選択しても、もしかしたら北朝鮮が「反撃の放棄」を選択するかも知れないとアメリカが認知すれば、アメリカが「攻撃の実行」を選択する可能性が出てくるからである。 そのために、多くの人々の直感とは異なるであろうが、「抑止ゲーム」で分かることは、北朝鮮は「やられたら必ずやりかえす」とアメリカに恫喝のメッセージを送り、実際にやりかえせる能力を持っていることを核実験やミサイル実験で示しておくほうが、最も平和な状態を維持できるということになる。反対に、北朝鮮が平和で友好的なメッセージをアメリカに送れば、アメリカが「攻撃の実行」を選択する可能性が高まり、「宥和・降伏」や「戦争」といった「現状維持」よりも悪い結果を北朝鮮にもたらすことになる。だから、「抑止ゲーム」では、北朝鮮は、最善の選択として、核実験やミサイル実験を繰り返し、恫喝のメッセージをアメリカに送り続けるはずである。 実際の北朝鮮も、そのために恫喝のメッセージをアメリカに送っているのである。同じことが、アメリカにも言えるであろう。奇妙な話であるが、「抑止ゲーム」では、米朝がお互いに口汚く罵って恫喝している方が、戦争が起こる可能性が低くなることになるのである。(文中敬称略)

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    トランプの外交予定からわかること

    岡崎研究所 9月28日付のワシントンポスト紙に、同紙コラムニストのイグネイシャスが「トランプの政策への手がかりが欲しい?彼の予定を見よ」と題する論説を寄せています。論説の要旨は、次の通りです。 トランプ大統領が中国他アジア諸国を訪問する予定であることは、地域で何が起こるかを、ツイートや噂話などよりもよく示してくれる。 北朝鮮との戦争の可能性は恐ろしい。しかし、習近平との会談に赴く大統領が核攻撃の雲の中を飛んでいくことはない。習近平は北朝鮮に圧力をかけるとの約束を訪問前に実施するだろうか。習近平がそうする可能性は大きい。 解任の噂の絶えないティラーソン国務長官についてはどうか。彼は、トランプ訪中の準備をしている。その彼が今、首になることは考え難い。 混乱した大統領府をフォローするうえで、難しい問題は大統領周辺の蔭口から実際の政策を分別することである。トランプは、「気まぐれ」で動いているようだ。司法長官セッションズを公に侮辱したが、引き続き一緒に働いている。上院院内総務マコーネルに腹を立て、民主党のシューマーとの良い関係をみせたが、数週間後には共和党の機嫌を取っている。 このホワイトハウス・ハリケーンの中心にいるのがティラーソンとマティス国防長官である。二人の同盟は安定しているように見える。ヘイリー国連大使をティラーソンの後任にするとの噂は絶えないし、それは今後ありうるが、ティラーソンが中国訪問と北朝鮮への外交戦略を指揮している今はない。会談を前に握手するティラーソン米国務長官(左)と河野外相=2017年11月5日、東京都 外遊が外交政策を説明する。トランプは最初の外遊でサウジを訪問し、壮麗な歓迎を好んだ。ムハンマド・ビン・サルマン皇太子を改革者として評価し、サウジとUAEがカタールに圧力をかけた時には、サウジ側に立った。ティラーソンはこの紛争は調停されるべきだと主張し、トランプをイライラさせた。しかし今月、トランプはティラーソンの見方に近づき、サルマン国王とカタールの首長に電話し、紛争を解決する時だと述べた。努力は失敗に終わったが、さらなる努力がありうる。トランプはまだサウジ支持であるが、ティラーソンとマティスがこの問題で共同戦線を取っている。 ただティラーソンは最近、国務省の伝統的政策分野、難民政策を大統領府のステファン・ミラーに譲り、ミラーは受け入れ上限を4万5千人という最近の最低に定めた。 我々はトランプの扇動的なツイートより、彼が何をするか、彼がどこに行くかを見て、わかることがある。北朝鮮を攻撃しようとしている大統領は中国への11月の訪問を予定はしない。出典:David Ignatius ‘Want a clue to Trump’s policy? Look at his schedule’ (Washington Post, September 28, 2017)トランプが訪中して達成すべきこととは イグネイシャスはワシントンの内部状況に詳しい人であり、いつも傾聴に値する論説を書いています。 この論説は、トランプ大統領が11月に北京、東京などを訪問予定であることから、米国と北朝鮮との戦争はしばらくないと推定しています。これは正しいでしょう。ただ、平和的な関係を作るのには、2か国の合意がいりますが、戦争は1か国だけで始められます。したがって、この論説は、北朝鮮から攻撃を仕掛けることはないとの前提で書かれています。これも正しいでしょう。専用機に乗り込むトランプ米大統領=2017年11月3日、米メリーランド州(ロイター=共同) 米国と北朝鮮の戦力は、巨人と小人の違いがあり、米国が本気で攻撃すれば北朝鮮はひとたまりもありません。金正恩は、米国の攻撃を抑止するために核とミサイルを開発しているのであって、北朝鮮から仕掛けることはあり得ないと思われます。北朝鮮の暴発を言う人もいますが、そんなことは考え難いです。 問題は、米国が北朝鮮の挑発的行動をどれほど我慢できるかです。北朝鮮は米国の攻撃を招くことはない範囲内で、挑発行為を引き続き行うと思われますが、米国の反応を読み間違える危険があります。国内事情があるのかと思われますが、危険な火遊びはしない方がよいでしょう。 第2次朝鮮戦争になると、ソウルは火の海になり、日本にも戦火が及ぶ危険があります。米韓の軍事的オプションのあり方については、全面戦争に至らない諸段階があり得ます。注意深く考えていく必要があります。 トランプ大統領は訪中に際し、北朝鮮問題について深く突っ込んだ話をし、米中間で何らかの合意を達成することを目指すべきでしょう。米韓軍は38度線を越えて北朝鮮には行かないとか、将来の朝鮮半島をどうするか、統一するかまたは二国家継続にするか、中国軍が北朝鮮北部に進駐することを難民対策上認めるかなど、米中間で話し合うべき問題はたくさんあります。 この問題は外交的に解決すべく努力すべきです。米中間での了解を作る外交が最も重要です。外交の重点は、無意味になることが明らかな米朝対話に置かれるべきではありません。 ロシアについては、プーチンは問題があるところに絡み、ロシアの影響力を強めることを狙う性向があり、ロシアを本件に絡ませることには注意深くあるべきと考えます。北朝鮮の米局長がロシア外務省で何を話したのかわかりませんが、ロシアは北朝鮮の立場に理解を示したように報じられています。

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    米が北の核容認で「圧力」主張の安倍首相ハシゴ外されるか

    〈この国を、守り抜く。〉──安倍晋三・首相はそんな勇ましい選挙スローガンを掲げ、テレビCMを流し続けた。 北朝鮮の核開発と弾道ミサイル危機が深まる中、こと安全保障の面では安倍政権の下で米国は日本を守ってくれるはずだと期待している人が多いはずだ。 安倍首相は世界の指導者のなかでもとくにドナルド・トランプ米大統領と「ケミストリーが合う」と宣伝されており、日米同盟をバックに国連総会で強硬姿勢で北朝鮮の核ミサイル開発を中止に追い込むべきだと訴えた。トランプ大統領も、「北朝鮮はこれまで世界が見たこともないような炎と怒りを見ることになる」と警告し、米軍は「斬首作戦」を用意するなど、日米が結束して北に備えているように見える。安倍晋三首相(左)との会談を前に栄誉礼を受けるトランプ米大統領=2017年11月6日午前、東京・元赤坂の迎賓館(松本健吾撮影) だが、1年以内にその軍事同盟が幻になるかも知れない。米紙ワシントン・ポストは、米国の国防情報局(DIA)が〈北朝鮮がICBMに搭載可能な小型核弾頭の生産に成功した〉との機密分析報告書をまとめ、北は米本土に到達するICBMの実戦配備に必要な大気圏再突入技術を2018年末までに獲得する可能性があると報じている(今年8月8日付電子版)。 外務省国際情報局の主任分析官を務めた作家・外交評論家の佐藤優氏は、実戦配備の前に米朝が日本の頭越しに妥協をはかると指摘する。「トランプ大統領は武力攻撃に言及しているが、米軍が北を空爆しても核施設を全部破壊することは難しい。北の反撃で事実上の第2次朝鮮戦争が始まれば100万人規模の死者が予想され、韓国にいる20万人と推定される米国人にも多くの犠牲者が出る。従ってその前に米朝の交渉が行なわれるはずです。 しかし、北朝鮮は核廃棄や弾道ミサイルの放棄には絶対に応じないでしょう。そこで、米国は北朝鮮に自国の生命線である米本土に到達するICBMを持たせないかわりに、核弾頭と日本全土が射程に入る中距離弾道ミサイルの保有までは容認する可能性が高い」 米朝が核保有容認で合意すれば、国連で「必要なのは対話ではない。圧力なのです」と言い切った安倍首相は、米国から完全にハシゴを外されることになる。 もちろん、日本は米国の「核の傘」で守られ、日米安保条約では、北が日本を攻撃した場合、米国は反撃することになっている。ただし、佐藤氏は「それもどこまで実行されるかクエスチョンが残る」と見ている。 安倍政権は憲法解釈を変更して集団的自衛権を行使する安保法制を成立させ、自衛隊が「米艦防護」の任務を実施している。そこまで米国に尽くしても、米国が日本を見捨てる日が近づいているのだ。関連記事■ 自民党幹部「最大の功労者は小池・前原、自民に迎えたい」■ 路チュー議員・門博文氏 選挙戦中に後援会幹部逮捕の騒動■ 小池百合子都知事 「弱者イメージ」崩れ、アンチ増やす■ 金正恩の妹と横田めぐみさんの娘「学校も職場も同じ」説の真偽■ 北朝鮮を牽制する米軍の訓練 使い古された手法で効果はない

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    アメリカの銃社会は腐っている

    アメリカは腐っている」。米ラスベガスで起きた銃乱射事件について、ビートたけしがテレビ番組で米国の銃社会をこう揶揄した。日本人的な感覚で言えば、たけしのコメントは納得できるが、これほどの惨劇が起きてもトランプ大統領はいまだ銃規制について言及していない。なぜ銃規制論議は進まないのか。