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    トランプ「貿易戦争」の思惑を読む

    訪米中の安倍首相はトランプ大統領との日米首脳会談に臨んだ。まずは北朝鮮情勢をめぐる結束強化を確認したが、鉄鋼とアルミニウムの追加関税など利害が対立する通商政策の行方にも注目が集まる。米中貿易戦争の火種がくすぶる中で日本はどう動くべきか。過熱する「チキンレース」の先行きを読む。

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    ポチ外交が染み付く安倍首相は「天才老人」トランプの金髪を逆立てよ

    概の話は終わっている。ところが、トランプ政権というのは、この常識が通用しない。 トランプというのは、アメリカ合衆国の歴史に登場したことのない「偉大なる大統領」であり、自分を「(情緒が)すごく安定した天才(a very stable genius)」と思っている男である。しかも、ポルノ女優、ストーミー・ダニエルズと一夜限りの関係を結び、それを口外しないように13万ドルを支払ったという老人である。とてもじゃないが、何を言っても説得などできないだろう。 米中西部の「ラストベルト(さびついた工業地帯)」の街で、朝からダイナーでクアーズのビールを飲み、ステーキをたいらげるプア・ホワイト(白人貧困層)のために「制裁関税(sanction tariff)」を思いつく「錆びついたアタマ」の持ち主に、今さら自由貿易の大切さを熱弁しても、聞く耳を持たないだろう。菅義偉(よしひで)官房長官は「(日本側から)自由貿易の大切さを十分に申し上げることになる」という見通しを述べたことがあるが、そんなことをまともに言ったら、この老人の機嫌を害すだけである。 ここから順次説明していきたいが、この大統領には、論理的な説得は一切通用しない。例えば、「大統領閣下、クオリティーの高いわが国の高規格鉄鋼の値段が上がると困るのは貴国の方ではないですか。自動車の販売価格の上昇を招きます」などと言っても、この人は何のことか分からないだろう。毎朝、オーバルオフィス(大統領執務室)に届けられるレクチャーペーパーの枚数が多いと、即座に怒り出すという「天才老人」なのだから。2017年2月、米フロリダ州でゴルフを楽しみ、ハイタッチする安倍晋三首相(左端)とトランプ米大統領(内閣広報室提供) それでは、トランプタワーに真っ先に駆けつけ、ゴルフを2回もやった「仲の良さ」で、何とかお願いすればいいのだろうか。これもまた違うだろう。なにしろ、この「天才老人」は筋金入りの「白人至上主義者」で「レイシスト」だ。チャイニーズもジャパニーズも、彼にとっては同じだからである。 それに、トランプ氏には安倍首相より仲のいいゴルフ・フレンドが山ほどいる。フロリダ州パームビーチの金ピカ別荘「マールアラーゴ」の近所には、あのグレッグ・ノーマンも豪邸を構えており、トランプ氏とは「ご近所ゴルフ付き合い」をしている。そのため、トランプ氏はノーマンの頼みにイヤとはいえず、オーストラリアが関税適用除外になったと言われている。ロビー活動しない「お人好し」日本 今回適用除外になったのは、このオーストラリアのほかに、カナダ、ブラジル、メキシコ、欧州連合(EU)、アルゼンチン、韓国の7カ国および地域だが、いずれもワシントンに代表団を送り込んでロビー活動をしていた。例えば、ブラジル大使とブラジル鉄鋼協会会長は、上下院議員数十人を回って説得に当たった。また、EUは米国からの輸入品に対抗関税をかけるとちらつかせた。2018年1月、NAFTA再交渉の会合終了後に記者会見する(右から)ライトハイザー米通商代表、カナダのフリーランド外相、メキシコのグアハルド経済相(共同) ところが、日本は「日米同盟は世界一重要な同盟だから、日米の絆は揺るぎない」などという「外交辞令」を信じ込み、ロビー活動をほとんどしなかった。「安全保障上の措置から一部の国を除外する」というワシントンの「お言葉」を信じたままだったというから、お人好しにもほどがあろう。 カナダ、メキシコ2カ国は北米自由貿易協定(NAFTA)加盟国だし、中南米諸国は米国のバックヤード(裏庭)だ。そして、EUは白人が多くを占める「国家連合」である。アジアの国は、これらの国や地域よりも、少なくとも2倍以上のロビー活動をしなければ、ワシントンを動かすことはできないのである。 鉄鋼・アルミ関税発効前日である3月22日、ホワイトハウスでのトランプ発言を報道で知って、世耕弘成経済産業相は青ざめたという。また、安倍首相自身も「財務省文書改ざん問題」との「ダブルパンチ」に頭を抱えたという。では、トランプ氏はなんと言ったのか、ここで振り返ってみよう。《And I will say, the people we're negotiating with ―smilingly, they really agree with us. I really believe they cannot believe they've gotten away with this for so long.》(もう一つ言ってやろうか。われわれの交渉相手はいつもニコニコしながらわれわれと合意する。しかし、ずっとごまかし続けられると信じているとしたら間違いだ)《I'll talk to Prime Minister Abe of Japan and others ―great guy, friend of mine ―and there will be a little smile on their face. And the smile is,“I can't believe we've been able to take advantage of the United States for so long." So those days are over.》(日本の安倍首相とそのほかの人たちに言ってやろう-まあ、彼はグレートでオレの友人だがね。彼らはいつもほほ笑みを浮かべている。そのほほ笑みは「こんなに長くアメリカを出し抜けると思ってなかった」っていうほほ笑みだね。でも、もうそんな日々は終わりだ) ここまでコケにされたら、普通は中国のように報復措置を発動させると息巻くものだが、「ポチ外交」が染み付いてしまった日本にはこれができない。「安倍首相はほほ笑みだけ」発言の謎 トランプ氏が安倍首相を名指しして、「いつもほほ笑みを浮かべて何もしない」という趣旨の発言をした背景には、日米自由貿易協定(FTA)の交渉が一向に進まないことがある。「天才老人」トランプ氏は不動産屋だけに、「相対取引」しかできない。そのため、多国間交渉が苦手で、これまでに環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)からもNAFTAからも離脱してしまった。おまけに、地球温暖化対策の国際枠組みである「パリ協定」からも離脱を表明してしまった。いっぺんにいろいろなことを考えられないのだ。 FTAのような2国間交渉は、TPPのような多国間交渉と比べれば、力関係がそのまま反映する。弱い相手は脅かすことで言うことを聞く。これは、トランプ氏の自尊心をいたくくすぐる。だから、トランプ氏はFTAが大好きなのだ。 2017年11月、トランプ氏は日本にやってきて、安倍首相と3度目の日米首脳会談に臨んだ。このとき、北朝鮮情勢などとともに日米FTA交渉が取り上げられたが、日本側はのらりくらりと交わし、交渉開始時期すら決めることをはぐらかした。トランプ氏の「ほほ笑みだけ」発言は、このときの安倍首相の態度を揶揄(やゆ)しているに違いない。 トランプ氏にレクチャーペーパーを上げている米通商代表部(USTR)や商務省は、1970年代から始まった「日米貿易摩擦」(当時は貿易戦争と言わず貿易摩擦と言った)以来、一貫して強硬に「ジャパンバッシング」(日本たたき)を行ってきた。ロバート・ライトハイザーUSTR代表やウィルバー・ロス商務長官は、自由貿易主義者にもかかわらず、日本の対米貿易黒字、つまり米国の対日貿易赤字を以前から問題視してきた。 日本にFTAを持ちかけているのはひとえに貿易赤字解消のためであり、「FT」(Free Trade=フリー・トレード、自由貿易)などと言ってはいるが、本質は自国産業を保護する「保護主義(Protectionism)」なのである。 米国のFTA圧力に日本がのらりくらりかわせたのは、米国が韓国とのFTA修正協議や中国との貿易交渉を優先していたからだ。ところが、韓国はトランプ氏の圧力に負けてFTA修正に応じたため、鉄鋼・アルミ関税の適用から除外された。2018年3月、鉄鋼とアルミニウムの輸入制限に関する文書に署名後、掲げるトランプ米大統領。周囲にいるのは鉄鋼とアルミの業界関係者(UPI=共同) そのため、鉄鋼・アルミ関税が発効した3月23日、トランプ氏は「韓国との貿易交渉(trade deal with South Korea)がワンダフルだ」と言い、「じきに成果が出る」と自慢しまくった。となると、日本が鉄鋼・アルミ関税から逃れるには、安倍首相が韓国以上の「手土産」、つまり、日米FTA交渉入りを持参するしかないことになる。 一方で、思いつきも人並みではないトランプ氏は突如「TPP復帰を考える」と言い出した。だが、これは日米FTA締結に向けての「まき餌(ground bait)」だという見方もある。「歴史の教訓」を知らないトランプ(iStock) ホワイトハウスは、今回の関税に除外を認めたのは「安全保障上の理由」と表明した。しかし、これは方便にすぎない。なぜなら、世界貿易機関(WTO)のルールでは、安全保障上の理由がない限り貿易制限は認められないからだ。 ただし、これは戦時の場合であって、平時で貿易制限をすることは異例とされている。もしこれが許されるなら、貿易戦争が際限なく続き、世界貿易そのものが成り立たなくなってしまうからである。 保護主義と貿易戦争が何を招くか、歴史の教訓がある。1930年、大恐慌後の米国では、国内産業を保護するために関税を大幅に引き上げる「スムート・ホーリー法」(Smoot-Hawley Tariff Act)が成立した。だが、法律をきっかけに、欧州各国も一斉に関税を引き上げることになり、世界は貿易戦争に突入してしまった。その結果、ブロック経済圏が成立し、最終的に第二次世界大戦を引き起こしてしまったのである。 しかし、トランプ氏はこんなことを全く理解していないから、1962年に成立した「通商拡大法(the 1962 Trade Expansion Act)」に第232条の安全保障条項があると教えられ、これを利用した。そうして、なんでもかんでも「大統領令(Executive Order)」で実行できると誤解しているから、得意がってサインするのである。 この条項は「安全保障上の懸念がある場合」に、米政府が輸入の制限を決定できると定められている。ただし、この条項は、1982年にレーガン政権下でリビア産原油を禁輸して以来、発動されていない。しかも、これはあくまで米国の国内法であり、国際ルールと整合していない。 シンプルヘッド(単純アタマ)のトランプ氏は、ともかく関税をかけて輸入品を減らせばいい。そうすれば貿易赤字が減る。そうすると、かつて世界一だった米国の製造業が復活する。その結果、「MAGA」(Make America Great Again)のロゴ入りブラックTシャツを着たラストベルトのプア・ホワイトたちが職にありつける。そうすれば、オレさまは「偉大な大統領」として、感謝されるに違いない。そんな風に考えているだけだ。 これは完全な時代錯誤である。もちろん、鉄鋼・アルミ関税の発効と同時に、中国製品への関税が発表されたので、今回の措置は明らかな「中国叩き」(中国封じ込め)であるのは明白だ。 しかし、中国を封じ込めたいなら、ほかにも方法がある。関税をふっかけるなどという時代錯誤の方法を採るのは、国境の壁(現代版「万里の長城」)をつくるのと同じくらい愚かではないだろうか。ただし、中国封じ込め自体は、日本にとっては大歓迎である。時代錯誤の「トランプ交渉術」 時代錯誤のトランプ氏のアタマの中には、自分がビジネスマンということもあって、貿易赤字が企業の赤字と同じで「悪」であるという発想がこびりついている。しかし、国家の貿易赤字と企業の営業赤字は本来違うものだ。なぜなら、世界一の経済大国である米国の景気がよくなれば、その分消費が拡大し、世界中からモノとサービスを輸入することで、貿易赤字が拡大することは必然だからである。 しかもこれで世界は潤い、米国の繁栄も持続する。さらに、その輸入代金はすべて自国通貨のドルで決済できるのだから、赤字はむしろ歓迎すべきことなのである。つまり、米国の貿易赤字というのは、米ドルが基軸通貨(キーカレンシー)である限り、痛くもかゆくもないのだ。トランプ氏はこの辺のところを全く分かっていない。 ところで、このような時代錯誤のトランプ氏の交渉術は、これがまたとんでもなくシンプルだ。トランプ氏は政治交渉もビジネス交渉も同じで、「ディール」(取引)の一つだと考えている。米東部の名門、アイビーリーグの「Uペン」(ペンシルベニア大学)ウォートン校の卒業生で、MBAホルダーのトランプ氏に対して、日本の二流大学の学部しか出ていない私がこんなことを書くのはおこがましいが、トランプ氏の交渉術は本当に「バカの一つ覚え」である。 それは「BATNA」(バトナ)と呼ばれるやり方で、どこのビジネススクールでも真っ先に教えているものだ。「BATNA」とは「Best Alternative to a Negotiated Agreement」の略だ。「不調時対策案」と訳されている。簡単に言うと、交渉が不調に終わっても、最低限の妥協できる代替案をあらかじめ決めて交渉するというやり方である。 この交渉術では、まず相手にふっかける。ふっかければふっかけるほどいい。そうすると、その条件、特に数字なら、その数字が相手の頭の中にこびりつく。これは一種の印象操作で、これを「アンカリング(Anchoring)」あるいは「アンカリング効果」と呼んでいる。そうすると、そのふっかけ自体にはなんら根拠がないのに、相手はそこから譲歩を引き出そうとしてくる。 このとき、「RV」(Reservation Value:留保価値)といって、「BATNA」を行使した際に得られる価値をあらかじめ決めておく。例えば、1万円ふっかけても留保価値が5000円なら、最終的に5000円で決着すれば、それで交渉は成功したことになる。もちろん、7000円なら大成功である。(iStock) トランプ氏はいつもこれをやっている。なにしろ、なぜ、鉄鋼の関税が20%でアルミの関税が5%でなければならないのか。その根拠は希薄だ。要するに「ふっかけ」である。 しかも、そもそも、これまでそんな関税など存在しなかったのである。したがって、カナダ、メキシコ、オーストラリア、EUなどが憤慨すると関税対象から外す。そうすると、何も状況は変わっていないのに、相手は何かトクした気分になる。トランプの「罠」から逃れる秘策 トランプ氏には「自伝」とされる著書『トランプ自伝―不動産王にビジネスを学ぶ』(Trump: The Art of the Deal、1987年)がある。もちろんゴーストライターが書いたものだが、この本の中で、自分の交渉スタイルを自慢している。 それはまさに「ふっかけ」で、まず何かとんでもないことを提案する。そして、相手がそれにこだわって、妥協を重ねれば大成功というものだ。また、トランプ氏の「オレさま自慢」は昔からで、ビジネス誌のインタビューでは、不動産取引の成功の秘訣(ひけつ)をこのように言っている。 部下から、建築費用の見積もりが、例えば5000万ドルになると報告を受ける。そこでクライアントには1億ドルかかると伝える。そして、最終的に7500万ドルで建てる。こうすると、クライアントはいい仕事をしてくれたと感謝してくれる。 要するに、これは「ぼったくり」だ。それでは、このような「BATNA」の罠から逃れるにはどうしたらいいのだろうか。 ビジネス書が教えているのは、相手の提案や提示額がとんでもないものだったら、具体的交渉に入らず、いったん席を立つということだ。そうして時間を置いて、改めて交渉を行う。こうすれば、最初の提案や提示額の影響を受けずに済むという。さらに、相手の提案を倍返しにして、こちらもとんでもない提案や提示額を示すという方法もある。 今回の日米首脳会談では、鉄鋼・アルミ関税の適用除外と、米朝会談を見据えて拉致問題の解決を要請するという。しかし、これは要請でも交渉でもなく、単なる「懇願」だから「まあ考えておく」で終わりだろう。 現在、日本は米国産牛肉の大口輸入国だから、鉄鋼・アルミ関税の報復として牛肉に100%関税をかけることを表明したらどうか。米国産牛肉の関税は38・5%で、緊急輸入制限(セーフガード)発令時は50%になる。これ以上、ホルモン剤漬けの米国産牛肉を輸入する必要があるだろうか。よく考えてみてほしい。(iStock) ともかく、安倍首相もたまにはトランプ氏の金髪を逆立てない限り、いくら一緒にゴルフをやっても無駄だ。またバンカーに落ちて、置いてけぼりにされるかもしれない。 それに、トランプ氏が「オレさま」でいられるのは、あと数カ月かもしれない。今年11月の中間選挙で、共和党は地滑り的大敗を喫する可能性がある。事実、先日のペンシルベニア下院補選では負けたではないか。もっとも、その前に安倍退陣という可能性もある。いずれにせよ、日本はもういい加減、トランプ氏と正面から真面目に交渉することを止め、米国の本当の中枢と確固たる外交関係を築いていく必要がある。

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    中国を狙い撃ち「トランプ貿易戦争」の本気度

    現状だ。 トランプ大統領は選挙中、貿易不均衡は国内産業を衰退させ、雇用の喪失を招いていると主張し、「アメリカ・ファースト」を基本とする抜本的な通商政策の見直しを公約に掲げ、保護主義色を強めていた。米ホワイトハウスで発言するトランプ大統領(右)ら=2018年4月 そして大統領就任直後に環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)離脱、北米自由貿易協定(NAFTA)、米韓自由貿易協定の見直しを決めている。さらに、昨年4月、商務省に対して鉄鋼とアルミ製品の輸入が米国の安全保障に与える影響を調査するように命じた。その報告書が今年の1月に提出され、今回の安全保障を理由に鉄鋼とアルミに対する高関税を課す決定に結びついた。 実はこの一連の動きは、鉄鋼やアルミ製品に対する関税引き上げの理由が、反ダンピング課税でもなく、セーフガード条項の発動でもなく、安全保障を根拠にしているところがポイントである。 要は、鉄鋼とアルミ製品の関税引き上げの狙いは中国にあるからだ。現在、鉄鋼は国際的に生産過剰の状況で、その最大の原因は中国にあり、国際的な生産調整をめぐる協議が行われている。知的財産盗む中国への敵意 いかにトランプ大統領とはいえ、最初から中国に限定した鉄鋼、アルミ製品の関税引き上げはできないため、安全保障を理由に掲げたのである。これによってブラジルや韓国、ヨーロッパなどを適用除外にすることが可能になる。 適用除外の輸入分は全輸入の半分以上を占めており、高関税を導入しても国内の鉄鋼産業保護の効果はあまり期待できない。というよりは、それが目的ではなく、中国を狙い撃ちにすることこそが目的なのだ。 中国政府は、安全保障を理由に関税を引き上げるのは違法であると世界貿易機関(WTO)に即座に提訴している。今後、WTOで紛争手続きが行われることになる。 ただ、米国の同盟国である日本は、政府の繰り返しの要請にもかかわらず、適用除外とはならなかった。それどころか、トランプ大統領は第3の貿易赤字国である日本に対して貿易不均衡を是正すべきだと極めて強い口調で迫り、二国間協議の必要性を訴えている。 ちなみに第2の赤字国はメキシコである。韓国が適用除外となったのは、すでに韓国政府が米韓自由貿易協定の見直しに応じ、米国の要求を受け入れることを示唆しているからだ。 だが、日本政府は多角的通商交渉が基本で、二国間の交渉は受け入れられないとの立場を明らかにしている。ゆえに、今回開催される日米首脳会議では、貿易不均衡是正が主要な課題になることは間違いない。 とはいえ、先に記したように、トランプ政権にとって中国こそが問題なのである。そもそも、政権のスタッフには中国強硬派が存在する。その代表格がカリフォルニア大教授で経済学者のピーター・ナバロ通商製造業政策局長だ。同氏は4月4日に行われた「ナショナル・パブリック・ラジオ」のインタビューで次のように述べている。 「17年間にわたって中国はアメリカの知的財産を盗み、不公正な貿易を行ってきた。米国企業が中国に進出する際に、中国は米国企業に技術移転するよう強制している。米国は文字通り、何百万という雇用を喪失し、巨額の貿易赤字を計上している。我々は将来の産業をめぐる戦争で中国に勝利しようと努力している。中国は『中国製造2015年』という目標を掲げ、すべての振興産業を支配する計画を持っている。トランプは米国に有利になるような方法で関係を基本的に変えるというビジョンを持っている」 ナバロ局長は、『中国製造2015年』は中国が新興産業のすべてを支配すると宣言しているのに等しいと攻撃するなど、中国への敵意をあらわにしている。中国の制裁品目には、そうした分野の製品が多く含まれている。トランプ大統領らとともに会見する通商製造業政策局のナバロ局長(中央)=2017年3月、ワシントン だが、中国政府は、米国の知的財産を盗んでいるという指摘に対し、過去にあったが、現在ではそうした事実はないと反駁(はんばく)している。米中経済関係は単に貿易不均衡にとどまらず、次世代の経済的覇権を米中のどちらが握るかの戦いでもある。 ただ、本当に米中貿易不均衡は危機的状況に達しているのだろうか。議会調査局が興味深い調査レポートを発表している。それによると、実は米中経済関係は極めて相互依存性が高いことがわかる。 たしかに、米中貿易不均衡は年々拡大しているが、例えば、米国の対中国赤字は2000年には840億ドルにすぎなかったが、2017年には3710億ドルにまで拡大している。 一方で、日本、中国、台湾などアジア太平洋諸国との貿易全体を見ると、中国との貿易赤字はまったく違った姿になる。アジア太平洋諸国と米国の貿易は1990年と比べても大きく変わっていないのだ。 こうした諸国の米国の輸入全体に占める比率は1990年が47・1%であるのに対し、2016年では46・8%と比率は若干減っている。だが、中国だけを取り出すと3・6%から25・4%に急増している。それが米中貿易不均衡を引き起こしている。 そして、議会調査局のレポートが極めて興味深い事実を指摘している。中国の対米輸出の増加は、日本など他の国の対米輸出の減少に対応しているというのである。それは、アジア諸国は中国での生産を増強し、中国を経由して米国に輸出しているからだ。中国叩きで返り血を浴びる米国 また、経済協力開発機構(OECD)とWTOの調査では、米国に輸出された中国製品を付加価値ベースでみると、中国の付加価値部分は極めて小さい。言い換えれば、中国は他のアジア諸国から材料を購入し、それを組み立てて米国に輸出しているのである。 中国の対米輸出品の付加価値の約33%は他の国の付加価値分だ。電子部品では、その比率は54%に達している。そうした付加価値部分を調整すると、米中貿易不均衡は35%減ると計算されている。 これは中国が世界的なサプライ・チェーンの役割を果たしており、従来のような単純な統計では貿易の実態は理解できなくなっていることを示している。多くの米国企業は、部品を中国の子会社で生産し、それを米国に輸出しており、米中の経済関係の相互依存性は極めて高くなっているのだ。 そもそも、まず相手を威嚇し、妥協を迫るのがトランプ大統領の常套手段だ。中国政府も、米中貿易戦争を仕掛ける気はないと冷静な態度を取っている。その一方で、内需拡大と金融制度改革を実施すると、米国に対する前向きなメッセージも送っている。 同時に両国政府の実務レベルでは貿易問題をめぐって、すでに水面下で協議が始まっている。トランプ大統領が関税引き上げを発表した後、ムニューシン財務長官とライトハイザー通商代表が中国政府宛てに書簡を送り、貿易不均衡是正の協議を行う提案を行い、北京訪問も検討しているのだ。 さらに言えば、トランプ政権の追加的な関税引き上げを発表しているが、実施するまでに至っていない。中国政府も報復関税を発表しているが、実施に関しては具体的な事柄を明らかにしていない。両国政府は報復を応酬しているようにみえるが、極めて慎重な姿勢を取っているのが印象的である。 米中経済関係の相互依存性を考えれば、貿易戦争はお互いが血を流す結果になるのは明らかである。 そして1980年代の日米貿易摩擦と、米中貿易戦争と比べると、その違いは鮮明だ。当時の日米貿易関係を見ると、日本が自動車やカラーテレビなど完成品を一方的に米国に輸出していた。2017年4月、米フロリダ州の別荘で習近平国家主席(右)と歩くトランプ大統領 現在の米中の相互依存的な経済関係とはまったく異なり、日米貿易摩擦は、米国は日本を叩けば叩くほど、利益を得ることができた。また、日本政府も中国政府のように報復措置を講ずることなく、二カ国協議で大幅な譲歩を繰り返していった。 自動車の輸出自主規制や半導体協定などが、その例である。その結果、日本は半導体産業が壊滅的なダメージを受けた。米中関係は、繰り返し述べたように、極めて強い相互依存関係があり、米国が中国を叩けば間違いなく、米国が返り血を浴びることになる。 もう一つ、決定的に違うのは、政府の政策である。中国は過去の例にあるように、確実に報復手段を取っている。今回も間髪入れず、報復関税の導入を発表した。だが、日本政府には、そうした通商交渉の戦術もガッツもないのが実情だ。 そしていまだに、その関係の基本は変わっていない。安倍晋三首相とトランプ大統領の首脳会談では、間違いなく貿易不均衡が話題になるだろう。おそらくトランプ大統領は二国間協議を提案してくるはずだ。 安倍首相は、こうした事態を避けるために、日本企業の対米直接投資などを提案することで、圧力を回避しようとするだろうが、最終的には過去の例と同じように、何らかの譲歩を迫られるであろう。

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    米中貿易戦争、トランプ流は「ニセモノ大国」の市場開放を遅らせる

    速めるよう中国に求めることは必要だが、果たしてトランプ大統領の経済制裁が有効な手段かは疑問が残る。「アメリカファースト」の姿勢はむしろ市場開放とは逆行しており、中国にとっては規制温存の口実を与えかねない。 中国の市場開放を促すならば、まず自らが自由貿易を促進し、多国間の経済協定を推進すべきだ。環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)はまさにそうした目的で進められていた。TPPから脱退し保護主義を打ち出しながらも、中国に市場開放を求めても大きな成果を上げることは難しいだろう。 しかも、大々的な「貿易戦争」のポーズは中国国内の対米感情を悪化させ、習近平政権による外交をも縛りかねないリスクがある。中国は共産党一党独裁の政治体制ではあるが、それは民意を無視した政治、外交が自由に展開できることを意味してはいない。選挙という正当性担保の手順を踏んでいないからこそ、むしろ「民に愛され推戴(すいたい)されている支配者」という装いを保つ必要があるためだ。 これまで中国社会におけるトランプ大統領に対する評価は、どちらかといえば好意的なものが多かった。むしろ大統領選で争ったヒラリー・クリントン元国務長官は「反中派」のイメージが強かった。また、ロシアのプーチン大統領が典型だが「強者」に対する憧憬(しょうけい)といった要因が、トランプ大統領のイメージにプラスに働いていたためだ。2017年11月、北京で共同記者発表に臨むトランプ米大統領(左)と中国の習近平国家主席=北京の人民大会堂(共同) だが、大々的な貿易戦争が始まれば話は別だ。その影響がどれほど広範かつ根強いものかは、過去10年間何度も中国社会の怒りの的となってきた日本人ならば、たやすく理解できるはずだろう。 「中国に強い圧力をかけた」という事実が必要ならばともかく、中国の市場開放促進という実益を求めるならば、米当局には異なる選択肢が必要だろう。

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    米国の「貿易戦争」は意外と合理的かもしれない

    塚崎公義 (久留米大学商学部教授)  米国は、中国が知的財産権を侵害しているとして、対中制裁関税を課することを検討しています。「知的財産権の侵害をやめろ」「米国の対中国貿易赤字を1000億ドル減らせ」「そうしないと、600億ドル相当の対中輸入に高い関税をかけるぞ」と言っているわけです。 それと並行して、鉄鋼とアルミニウムの輸入を制限する措置を発動しています。トランプ大統領が支持者である製造業労働者のご機嫌をとっているが、それは米国や世界の利益にならない、というのが一般的な理解でしょう。経済学の教科書を読めば、誰でもそう考えるでしょう。しかし、本当にそうでしょうか。 上記とは別に、米国は韓国との間でFTA(自由貿易協定)の再交渉を行って、妥結しています。韓国のウォン安誘導を禁じる為替条項を盛り込むなど、米国の圧勝と言えるでしょう。その背景には、トランプ大統領が米軍の韓国からの撤退をほのめかすといった強面の交渉姿勢があったようです。 このあたりは、トランプ大統領が商売人である事による交渉術なのでしょう。本当に米軍を引き上げる用意があったのか否かは筆者にはわかりませんが、「交渉が成立しなければ、俺はお前と喧嘩する。喧嘩になれば、俺の痛みは1、お前の痛みは10だ」と言って脅すことにより、相手が折れれば、「戦わずして勝つ」ことが出来るのですから、極めて有効な戦略と言えるでしょう。 ただし、この戦略が成功するためには、相手が「あいつだったら本当に喧嘩を始めるかもしれない」と怯えることが必要です。米国の大統領が「普通」だったら、「韓国との喧嘩で1でも痛みが生じるなら喧嘩はやめよう」と思うでしょう。韓国からそれを見透かされたら、米国の交渉は失敗したでしょう。でも、米国の大統領がトランプ氏であったため、韓国はビビったのです。共同記者会見するドナルド・トランプ米大統領(左)と韓国の文在寅大統領=2018年11月7日、韓国・ソウルの大統領府(共同) トランプ大統領は、鉄鋼の輸入制限の相手国として、日本を適用除外していません。「日本は同盟国なのに、バカにされている」等々のコメントが聞こえて来ますが、筆者はそうは思いません。 第一に、日本の対米鉄鋼・アルミニウムの輸出額は年間2000億円程度と少額です。したがって、仮に発動されても日本経済への影響は極めて限定的です。それで日米関係が大きく悪化することはなく、トランプ大統領としては「同盟国であっても巨額の対米貿易黒字を稼いでいる日本は課税対象にした」という断固たる措置を支持者にアピールできるわけです。 もちろん、日本が様々なお土産を持って訪米して課税の撤回を願い出るのを待っているだけだ、という可能性も大きいでしょう。その場合でも、「日本から大幅な譲歩を引き出した」と支持者にアピールできるので、大満足でしょう。反米世論は得策ではない 現在の国際情勢を考えても、米中が長期的な視野での軍事的な緊張を強めつつあり、日本の同盟国としての重要性が長期的に増していくことが明らかな時に、本格的に日本との貿易戦争を戦って日本の世論を反米にするのは得策ではありません。したがって、日米は「適度な落とし所」を水面下で探っているということだと思われます。 米中貿易戦争についても、対韓国と本質は同じです。米国は中国に対して「交渉が成立しなければ、俺はお前と喧嘩する。喧嘩になれば、俺の痛みは1、お前の痛みは10だ」と言って脅しているわけです。対韓国では在韓米軍の引き上げが選択肢でしたが、対中国では米中全面貿易戦争が米国の選択肢です。 米国の対中国輸入は中国の対米輸入より遥かに大きいので、米中間の貿易が止まると中国の輸出が激減し、米国より遥かに大きな打撃を受けるでしょう。加えて、米国は中国からの輸入品を国内で作ることができますが、中国は米国からの輸入品を国内で作ることができず、日欧から輸入せざるを得ません。そもそも人件費の高い米国から輸入しているのは、自分で作れないからです。米国が中国から輸入しているものが「自分でも作れるが、中国の方が安いから」というのとは事情が異なるのです。 あとは、米国がどこまで本気なのか、ということですね。どこまでの「お土産」で手を打つつもりなのか。本気で米国が頑張るつもりならば、中国が相当真剣に著作権保護の仕組みを作る必要があるでしょうが、それは容易なことではなさそうです。あるいは、「それができないなら、北朝鮮に核を放棄させろ」という事もありそうです。それも中国にとって容易なことではなさそうですが。 ただ、トランプ大統領の対中強硬姿勢が支持者向けのポーズである可能性も否定できません。その場合には、中国からの「お土産」が包装紙だけになるかもしれません。たとえば「著作権保護法を作る」けれども、国内では法律違反を取り締まらない、といった具合です。北京の故宮で京劇を見るトランプ米大統領(中央左)と中国の習近平国家主席(同右)=2017年11月8日(AP=共同) 対米貿易黒字を減らすのはさらに簡単です。中国がカナダから輸入しているものを、米国にある中国の商社がカナダから輸入して中国に輸出すれば良いのです。米国の貿易赤字も失業も減らないけれども、米国の対中国赤字は確実に減るわけです。 まあ、実際には「包装紙だけ」ということはなく、ある程度の中身は伴ったものになるのでしょうが、いずれにしてもそれで米中貿易戦争が防げるのであれば、世界経済は安泰でしょう。 上記のように考えると、トランプ大統領が「メチャクチャな米国ファーストで世界の自由貿易体制を崩してしまう」といった懸念は、杞憂かもしれないですね。もちろん、上記が誤っていて、本当に貿易戦争が始まってしまう可能性も否定はできませんが。何といっても「相手が屈することを前提として脅してみる」ほど、危険なことはありませんから。つかさき・きみよし 1981年、東京大学法学部卒業後、日本興業銀行(現みずほ銀行)に入行。主に調査関連部署に勤務した後、2005年に銀行を退行して久留米大学へ。著書に『増補改訂 よくわかる日本経済入門』(朝日新書)、『老後破産しないためのお金の教科書』(東洋経済新報社)、『世界でいちばんやさしくて役立つ経済の教科書』(宝島社)、『なんだ、そうなのか! 経済入門』(日本経済新聞出版社)など多数。

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    米国抜きのTPP、復帰示唆でもまずは発効を急ぐべき

    岡崎研究所 3月8日、TPP11協定(環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定:CPTPP)がチリのサンティアゴで署名された。同協定署名についての閣僚声明は以下の通りである。TPP署名式後に会見する茂木敏充経済再生担当相(中央)=2018年3月8日、チリ・サンティアゴ(高木克聡撮影) オーストラリア、ブルネイ・ダルサラーム、カナダ、チリ、日本、マレーシア、メキシコ、ニュージーランド、ペルー、シンガポール及びベトナムを代表する閣僚及び政府高官は、本日、環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(以下「本協定」という。)に署名することを発表することを嬉しく思う。 閣僚は、高い水準で、バランスの取れた成果を達成することにより、本協定が、我々エコノミーの互恵的な結合を強化し、アジア太平洋地域における貿易、投資及び経済成長を促進し、企業、消費者、家族、農業事業者及び労働者に対し新たな機会を創出するという考えを共有した。本協定は、これらの原則を受け入れる意志がある全てのエコノミーに開かれた、効果的で、ルールに基づく、透明性のある通商システムへの我々の共通のコミットメントを示すものである。 本協定の署名により、我々は、次の段階に移行することが可能となる。閣僚は、本協定を迅速に発効させるために国内手続きを完了する決意を表明した。 閣僚は、本協定に加入することを希望する他の多くのエコノミーによって示された関心を歓迎する。この関心は、本協定を通じ、将来の広い経済統合のための高い水準を促進するプラットフォームを創出するという我々の共通の目標を確認するものである。 閣僚は、政府高官が本協定の円滑な実施のために必要な準備を開始することに合意した。出典:「環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定閣僚声明」、TPP等政府対策本部、2018年3月8日) トランプ大統領が昨年1月の就任直後TPPからの離脱を表明したため、残り11か国(シンガポール・チリ・ニュージーランド・ブルネイ・オーストラリア・ベトナム・ペルー・マレーシア・カナダ・メキシコ・日本)の枠組みで協議、昨年11月に大筋合意していたが、3月8日に無事に署名された。TPP11により、人口5億人、世界のGDPの約13%、貿易総額の15%をカバーする自由貿易圏ができる。 TPP11の意義は、上記閣僚声明が端的に指摘している通り、アジア太平洋地域における貿易・投資及・経済成長の促進、新たな機会の創出、そして、効果的で、ルールに基づく、透明性のある通商システムへ共通のコミットメントである。米国がTPP離脱で失ったもの 米国は、TPPからの離脱により、多くを失っている。ピーターソン国際研究所が昨年10月に発表したレポートによれば、米国を含むオリジナルのTPPの下では、米国の所得は毎年GDPの0.5%にあたる1310億ドル増加していたはずである。しかし、TPP11の下では、その増加分が失われるのみならず、米企業がTPP11の市場で不利な競争を強いられることで、年間20億ドルがさらに失われることになる。ホワイトハウスで記者会見するドナルド・トランプ米大統領=2018年3月6日6日(ゲッティ=共同) また、TPPは、投資先の国が投資企業に対し技術移転等を要求することの禁止、ソースコード移転・アクセス要求の禁止、サーバー現地化要求の禁止、非商業的援助により他の締約国の利益に悪影響を及ぼすことの禁止など、中国の悪しき振る舞いに反対するような内容が多く含まれている。米国がTPPに参加し、アジア太平洋における自由貿易のルールとしてより強固なものとなっていれば、対中牽制の上でもさらに効果があったはずであるが、米国の離脱はそうした効果も弱めてしまった。 トランプ政権は、二国間協定の方が交渉上の強い梃子を持つことができるので多国間協定よりも好ましい、と言っているが、相手国はなかなか見つからず、進展していないようである。それは当然であろう。身勝手な理由で二国間協定を選好するような政権とは、信頼感をもって交渉できない。また、トランプは、2国間の貿易赤字を無くすことに固執しているが、それは保護貿易を招き、ウィン・ウィンということにはならない。 米国内でも、農業・畜産業者や経済界からTPP復帰を求める声が増えているようである。そういう声を意識してか、トランプは、時折TPPへの復帰を示唆する発言をしているが、その際にも「TPPがもっとよい協定になるならば」という留保をつけることを忘れていない。 茂木経済産業大臣は、署名の際の記者会見で「TPPは極めてハイスタンダードであると同時に各国の様々な利益を調節したバランスの取れた、いわばガラス細工のような協定であり、そこの中で一部だけを取り出して再交渉をする、更には修正をするということは極めて困難だ」と述べている。その通りであろう。米国が関心を持つことは歓迎するとして、何よりもTPP11の発効を急ぐべきであるし、そうなるであろう。 TPPに関心を持つ重要な国の一つに台湾がある。台湾を中国の圧力から守るため、是非とも早期に加盟できるよう研究、交渉をしていくことが望まれる。 なお、上記閣僚声明は、日本が代表して発表した。困難な交渉を迅速にまとめるための日本の努力が高く評価され、各国の敬意を集めたということであろう。

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    安倍首相の頭の中は北朝鮮でいっぱい 貿易問題はそっちのけ

    はホワイトハウスの会議で、安倍首相を名指しでこう批判した。「日本の安倍首相をはじめ、『こんなに長い間アメリカ合衆国につけ込めるなんて信じられんな』とほくそ笑んでいる偉大な我が友人たる各国首脳たちに言っておきたい。そんな日々はもう終わりだ」 鉄鋼・アルミの制裁関税は安い外国製品が米国にとって「安全保障上の脅威」になっているという理由で決められたが、トランプ政権はEU諸国、韓国、カナダ、メキシコなどへの制裁を猶予し、同盟国では日本だけが中国並みの「安全保障上の脅威」に位置づけられた。 トランプ氏の“偉大な友人”の1人、中国の習近平・国家主席はただちに報復措置を発動し、米中は制裁合戦に突入した。 世界経済の先行き不安から株価が乱高下する中、各国は米国の制裁発動後、最初にトランプ氏と会談する安倍首相の言動を注目している。元外交官の評論家・天木直人氏がいう。「安倍首相は世界の指導者で唯一、トランプ大統領にものが言える親密な関係を築いてきたと自負している。その安倍さんが訪米するのだから、何はともあれ、まず世界経済の大きなリスクになっている今回の鉄鋼・アルミの輸入制限に毅然と抗議するのが外交の筋であり、日本の国益を守ることにもなる」 ところが、安倍首相の頭の中は北朝鮮でいっぱいで、世界が期待する貿易問題の解決など見えていない。 より正確に言えば、北朝鮮の金正恩・朝鮮労働党委員長が中国の習氏を皮切りに、韓国の文在寅・大統領、米国のトランプ氏と相次いで首脳会談を行ない、自分だけが蚊帳の外に置かれて対北朝鮮問題が“安倍抜き”で話し合われることに焦りまくっているのだ。 日米首脳会談への意気込みを語った政府与党連絡会議(4月2日)でも、首相の口から「関税問題」の言葉はなかった。「2日間にわたりじっくり日米首脳会談を行ないたい。最重要課題である拉致問題についても、トランプ大統領に、来る米朝首脳会談において取り上げるよう直接要請します」 拉致問題の交渉相手はあくまで正恩氏のはずだ。トランプ氏に“金正恩に口利きしてほしい”とお願いするために訪米するのでは、足元を見られるのは当たり前である。関連記事■ 昭恵さんに呆れる安倍首相「離婚できるならとっくにしてる」■ 麻生氏が「悪いのは昭恵だろう!」と怒鳴る声が役人に話題■ 安倍首相、昭恵さんにペラペラ喋られるくらいなら総辞職も?■ トランプ×金正恩 いざ会ってみたら意気投合する可能性あり■ 絶体絶命の安倍首相 金正恩にすがる悪あがきも

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    ゲイプライドパレードがニューヨーカーたちにとって特別な理由

    い戦いがあった。 19世紀後半から、ニューヨークにはすでにゲイコミュニティができていたそうだ。 だがアメリカでは、近代まで同性愛行為はfelony(重罪)だったことをご存知だろうか。俗に言う、ソドミー法である。(正確に言うなら、同性間だけではなく、生殖につながらない「不自然」な性行為を禁じる法律) 保守的な田舎から自由な空気を求めてニューヨークに人々が集まってくるのは、昔も今も変わっていない。筆者も20代の頃に、ノースカロライナでしばらく通った高校の上級生にマンハッタンで偶然行き会い、彼女が実はレズビアンで故郷に居場所がなく、ニューヨークに移住したという告白を聞いたことがある。 60年代には、ウェストビレッジにいくつかゲイバーが出現した。だが正式なアルコール類販売ライセンスを持たずに営業していたところもあり、定期的に警察の踏み込み調査を受けて、逮捕者も出していたという。 その一方、1967年にはコロンビア大学が全米の大学で初めて、生徒が結成したゲイ団体を公認するなど、徐々にリベラルな空気が社会に広がっていた時期である。 1969年6月28日、クリストファーストリートにあったゲイバー、ストーンウォールインで、恒例の警察の手入れが行われた。だがこの日は差別されることに飽いていたゲイの人々は怒りを爆発させて警官に立ち向かい、3日間暴動が続いたのだという。 英語でStonewall Riots, 日本語ではストーンウォールの反乱と呼ばれているこの事件。2015年に映画化もされたので、知っている人も多いだろう。 その1年後、ニューヨーク、シカゴ、ロサンジェルスとサンフランシスコの4都市で、ストーンウォール事件の一周年を記念した初のゲイプライドパレードが開催されたのだという。ゲイの人々の市民権「獲得のための」戦い ストーンウォール事件をきっかけとして、同性愛を違法とするのは差別だという世論が徐々に高まり、ゲイの人権を訴える活動団体が次々と結成されていった。 それでもニューヨークでソドミー法が正式に廃止されたのは、なんと1980年とごく最近のことだから、驚いてしまう。(ちなみにアメリカ全体ではまだアラバマ、フロリダなどまだソドミー法が存在している州もあるが、2003年に合衆国最高裁がこの法の取り締まりは現実的には「プライバシーの侵害」であり、違憲とする判決を下した) 1981年にはHIV/AIDSがゲイ社会を中心に広がって人々を脅かし、再びゲイ社会受難の時期がはじまった。著者の知り合いのゲイの男性の中には、未だにHIVウィールスはFBIがゲイ撲滅のために開発し、広めたものだと信じて疑っていない人もいる。 真偽のほどはともかくも、ゲイの人々にとってこの陰謀説が真剣に受け止められるほど、彼らはオーソリティから差別を受け迫害を受けてきたということに違いない。 2002年にようやく、Sexual Orientation Non-Discrimination Act(ゲイ差別撤廃法案)がニューヨーク州議会で可決され、ジョージ・パタキ州知事が署名した。性的指向を理由に、住居、職場など公的な場所で差別を禁じることが、ようやく法として成立されたのである。 そしてストーンウォールの反乱から42年後の2011年6月、アンドリュー・クオモ州知事が同性婚を合法化させた。これまで日陰者扱いされてきたゲイカップルたちが、公然と市庁舎に行って婚姻届を出すことができるようになったのだ。 筆者がニューヨークに移住した1980年、ゲイの人々はすでに社会のあらゆる分野で活躍し、男性の4人に1人はゲイと言われていたほどメジャーな存在だった。だがくったくなく底抜けに明るく振舞うその裏で、彼らは毅然と差別と戦い続けてきたのである。こうして勝ち取った権利を誇り、同時にエイズで亡くなった友人たちを追悼するイベントが、このゲイプライドパレードの真髄なのだ。2016年6月、ニューヨークのLGBTパレードに参加するヒラリー・クリントン元国務長官の支持者ら 現在のアメリカは、トランプ政権が医療保険や公立教育機関など、一般市民の基本的権利をあらゆる角度から崩壊させようと試みている。人種間の対立も表面化し、かつてないほどヘイトクライムも横行するようになった。 そんな世相の中で、今年のゲイパレードは、ニューヨーカーにとってゲイの人々だけではなく、市民全体の自由を守る象徴でもあった。 ゲイではない一般のカップルや家族連れ、スポンサーとなった各種の企業団体、黒人、アジア人、ヒスパニック系など多くのマイノリティグループもパレードに参加して、LGBTQの象徴である虹色の旗を振る姿が通りを埋め尽くした。 その発端の舞台となったストーンウォールインは現在改装されて再営業しており、その前にある小さな公園は、1年前の2016年6月オバマ大統領によって国立モニュメントに指定された。

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    「金正恩の敗北」トランプ電撃会談の舞台裏を読む

    重村智計(早稲田大名誉教授) 米朝首脳会談が開催の方向に動き出した。これは「安倍・トランプ外交」の成功を意味する。実現すれば、朝鮮半島情勢を大きく変える可能性がある。それでも、北朝鮮は核放棄を約束しないだろう。苦境打開を狙った金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長のサプライズ戦略とも言えるが、成功するのはラクダが針の穴を通るより難しい。米朝の指導者はともに行き詰まった国内情勢を打開するため、「同床異夢」ながら首脳会談を急いだとみるのが自然だろう。 サプライズ外交は、金正日(キム・ジョンイル)総書記の得意技だった。予想外の提案や行動に出て、相手を翻弄(ほんろう)して成果を挙げる。過去にも米朝の枠組み合意で、世界は希望を抱かされたが、あっさり覆された。核開発を放棄すると約束して、原子炉の冷却塔を破壊する芝居に、米国はまんまと資金をだまし取られた。 トランプ米大統領との首脳会談提案は、金委員長としては初めてのサプライズ外交である。外国首脳とは初の会談だ。歴代の北朝鮮首脳は、最初に中国首脳と会談した。そして、中朝関係が悪化すると、今度はロシアに傾斜した。いずれも北朝鮮の友好国である。2018年3月9日、米国のトランプ大統領が北朝鮮の要請を受諾し、金正恩朝鮮労働党委員長との首脳会談が実現する方向に動いたことを伝える街頭テレビ(寺河内美奈撮影) その慣例を破る米首脳との会談は、言い換えれば中国へのあてつけである。中国が国連や米国主導の制裁に協力する姿勢に対する不満の表明だ。北朝鮮が米朝首脳会談を呼びかけたのも、中国の気を引くためだったとみていいだろう。中国は水面下で相当の圧力をかけるだろうから、米朝首脳会談がトランプ大統領の思惑通り開催できるかは、なお不透明だ。 米国は、韓国側からの伝達内容が本当かどうか、北朝鮮に確認しないと話に乗れない。北朝鮮の思惑は裏読みしないと見えない。たとえ公式報道で「人民は党に従い、思想の学びを徹底し帝国主義の策動に立ち向かっている」と伝えていても、実際は党に従わない人民の方が多く、むしろ韓国のビデオや音楽が人民の間で流行っているのが実情である。首脳会談提案からは、金委員長が相当な苦境に立たされている事実が読み取れよう。 一方、トランプ大統領もサプライズが好きだ。金委員長の提案を逆手に取り、「5月までにやろう」と逆サプライズを仕掛けた。北朝鮮はまさかそんなに早い実現を予想していなかっただろう。日程と首脳会談の場所が最初の関門になる。実は北朝鮮では首脳会談について一切報じられていない。これはおかしな話だ。北朝鮮の本気度が問われる。 なぜトランプ大統領は「5月までの会談」を提示したのか。一言で言えば、北朝鮮が相当に困り果てている現実をよく理解していたからだ。つまり、北朝鮮への制裁が効果を挙げているのである。首都・平壌では最近、米や食料品の価格が上昇しているという。石油の値上がりも伝えられている。国民生活は圧迫され、軍隊は石油が底をつき、演習や訓練がまともにできない。空軍の飛行時間は極端に減った。 こうした状況は、トランプ大統領に詳細に報告されており、「制裁は効果を挙げている」との大統領発言の裏付けになっている。トランプ大統領が平昌五輪への北朝鮮参加や、南北首脳会談の合意について「俺のおかげだ」と述べたのは理由がある。制裁の成果が確認できたからだ。このため、制裁を続けていれば、金委員長は必ず譲歩すると読んでいたのである。米朝首脳会談は成功するのか トランプ大統領が首脳会談に臨む真の目的は「支持率の上昇」「秋の中間選挙への利用」「次期大統領選挙への野望」の三つだ。 言わずもがな、トランプ外交は内外で批判され続けている。特に欧州各国は彼をまったく尊敬していない。戦後、これほど欧州で不人気の米大統領は初めてだ。教養がなく知性と品格に欠けるとみられている。歴史と文化の教訓に学ぼうとしない態度を欧州はもはや我慢できないのである。 この不人気を打破するために、金委員長との会談を利用しようとしている。「金正恩に最初に会う外国元首」としてメディアに大きく扱わせる。特に、金委員長をワシントンに招待できれば、世界中の話題を独占して、中国やロシアの鼻を明かすこともできる。支持率は上昇し、その勢いで中間選挙も乗り切りたいとの思惑はみえみえである。2018年3月8日、ホワイトハウスで会談する韓国大統領府の鄭義溶国家安保室長(左)とトランプ米大統領(韓国大統領府提供・共同) とはいえ、米朝首脳会談は本当に成功するのか。はっきり言って、乗り越えるべき難問が余りに多すぎる。まず、北朝鮮は絶対に核放棄を約束できない。金委員長は朝鮮人民軍を掌握はしたが、核放棄を宣言すれば軍が反乱を起こしかねない。クーデターに直面するリスクをはらんでいるのである。不満を抱く中国やロシアも、裏でクーデターを画策する可能性もある。 さらに、会談場所をどうするのか。北朝鮮の指導者は海外に出掛けるつもりはない。これに対し、トランプ大統領は是が非でも米国に呼びたい。ただ、金委員長にとっては訪問の隙を突いて、北朝鮮国内でクーデターが起きるかもしれない。もし第三国でやるのであれば、北朝鮮側は中国の顔を立てて、北京を提案するかもしれない。 一方で、トランプ大統領が北朝鮮を訪問すれば、米国内で批判が高まるのは必至だ。かつてのオルブライト国務長官の訪朝時のように、マスゲームを見せられ、人権問題に言及しなければ「失敗」と非難される。 金委員長は、首脳会談を盛り上げて少しでも制裁を緩和させ、今年9月の建国70周年の式典を盛り上げたい。米国に近づき、中国とロシアの気も引き、ひそかに支援を得る戦略だ。韓国も協力するとみている。 この北朝鮮の戦略と作戦に乗せられると、トランプ大統領は必ず失敗する。トランプ大統領は安倍晋三首相と協力し、「成功しなくてもいい」と腹をくくり、これまでの強硬政策を継続しないと足をすくわれる。 トランプ大統領に「石油制裁が最も効果的だ」と伝えたのは他ならぬ安倍首相だった。トランプ大統領も、北朝鮮政策をめぐる安倍首相の判断力を信頼している。「制裁を継続すれば北朝鮮は譲歩する。もう少しだ」との理解を二人は共有している。 だからこそ、トランプ大統領が安倍首相を出し抜いて、米朝正常化に踏み切る恐れはまずないと断言できる。北朝鮮は米韓合同軍事演習に反対し、核実験を続けた。その上、米国とトランプ大統領を激しく罵(ののし)った。これまでの対応を180度転換した金委員長の譲歩は、結果的に「北朝鮮外交の敗北」を意味するのである。 日本は米朝首脳会談で拉致被害者の帰国を強く訴えるだろう。「拉致被害者の帰国なしには、米朝国交正常化はない」との立場を共有しなければならない。拉致被害者の帰国を、日米同盟の基本的な価値として改めて確認すべきだ。

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    「このままでは米や日本は中国の属国になる」とS・バノン氏

    100年単位だ。人民共和国の建国100周年となる2049年を一つの目安に考えている。この100年で、アメリカとの壮絶な競争は終わり、中国が勝利する(と習氏はみなしている)。自民党総裁外交特別補佐の河井衆院議員と会談する、スティーブン・バノン前米大統領首席戦略官=2017年12月18日、東京都(代表撮影) さらに習氏は、将来5~10年の間に、中国が次の課題を達成すれば、やがて真の覇権国となれると考えている。 第一に(次世代技術の開発や情報化と工業化の融合などの)10の重点分野を盛り込んだ成長戦略「Made in China 2025」だ。中国は半導体チップ・AI・ロボティクスなどの分野をコントロールし、新時代の製造業を支配していく。 第二、第三は地政学的なユーラシア戦略である「一帯一路」と、海上戦略の「真珠の首飾り」(*1)だ。これには19世紀以来の地政学すなわちH・マッキンダーのハートランド・アジア戦略、A・マハンのシーパワー理論、そしてN・スパイクマンのリムランド理論(*2)の3つの偉大な地政学的概念が反映されている。【*1いずれも習近平政権下で重視されている、陸海それぞれのユーラシア各国の取り込み戦略。海と陸の新シルクロード戦略とも呼ばれる。*2いずれも、地理的環境が経済・政治・軍事各方面で国家に及ぼす影響を論じる地政学の基礎を築いた理論家】 これらにより、中国は中央アジアやイスラム圏も含めたユーラシア全体を自国の重商主義的な経済システムに取り込んでいくだろう。「中国の民主化」はファンタジー 第四として、中国は人民元をオイルマネーに変換することによって米ドルを外貨準備金から外し、世界的な金融大国となる。さらに第五として、フィンテック(金融とITの融合)によって、中国は日銀及び連邦準備制度の影響を受けない経済を作り出すのだ。これらの目標が達成されれば、アメリカや日本は中国の属国となるだろう。 これにいかに対処するか。まず、「中国の民主化」に期待して支援するのは単なるファンタジーだ。4000年の歴史を有する中国は、近代史においてアヘン戦争から太平天国、義和団の乱、日本との戦争、そして文化大革命を経ても本質的には変わらなかった。中国が世界の普遍的価値観に則った国に変わることは非現実的だろう。近い未来の民主化などはジョークでしかない。 日本を含めた西側諸国ができることは、中国に法の支配(の概念)を植え付けること。そして、南シナ海での拡大や北朝鮮問題に、日米をはじめ各国で対処していくことだ。また、日本はアメリカに行動してもらうことを待つのではなく、自身の問題として立ち上がり動くことが求められる。※画像はイメージです(iStock) アメリカと日本のエスタブリッシュメントは、中国の強大化を40年にわたり座視してきた。ゆえに現在の状況が生まれている。 アメリカの労働者はエスタブリッシュメントたちよりもこの問題をよく理解していたから、トランプを大統領に選んだ。日本人もまた、自身がなすべきことをよく考えてみてほしい。【PROFILE】Stephen K. BANNON/1953年11月、米東部バージニア州南東部のノーフォーク市生まれ。1976年にバージニア工科大学を卒業。海軍入隊。ジョージタウン大学でも修士号を取得。海軍除隊後、ハーバード・ビジネス・スクールでMBAを取得。ゴールドマン・サックス勤務を経て1990年に独立し、メディア向けの投資銀行を設立。その後、ニュース・サイト「ブライトバート・ニュース」の運営会社会長に就任。その手腕を見込まれ、トランプ陣営の選挙キャンペーンの責任者に抜擢。●取材・構成/安田峰俊関連記事■ S・バノン氏「安倍首相は日本人にプライド抱かせる指導者」■ 中国共産党が恐れる郭文貴を直撃 「宿敵・王岐山を絶対潰す」■ 安倍首相はチャーチルやドゴールと並ぶ大指導者になる可能性も■ メラニア氏 昭恵氏に「なぜ韓国の話ばかりするの?」と疑問■ 2018年は米朝和平の動きが本格化か 転機は米大統領中間選挙

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    安倍首相とトランプ大統領の気になる類似点

    海野素央(明治大学教授、心理学博士) 今回のテーマは「安倍首相とトランプ大統領の気になる類似点」です。読者の皆さんは安倍晋三首相とドナルド・トランプ米大統領の類似点は何かと質問されたら、即座にゴルフと回答するかもしれません。安倍首相とトランプ大統領の共通点は、エスタブリッシュメント(既存の支配層)であるとみている読者の方もいるでしょう。  ちなみにゼミ生(3年生)に同様の質問を投げかけてみると、「トランプは移民とマイノリティ、安倍首相は民進党をスケープゴートにしている」「トランプ政権と安倍政権は共に集団思考の罠にはまった多様性の無い組織である」「国民に『強いリーダー』であることを示している」「国民の関心を国内から国外に向けている」及び「政権誕生の経緯が類似している」という回答が返ってきました。それらに加えて、安倍・トランプ両氏の類似点に「効果的なメッセージを発信している」「国民の不満を汲み取って代弁している」「考え方が右寄り」「軍事増強路線である」「メディアを敵視する」も挙がりました。本稿では、政治手法における両氏の類似点を探ってみます(図表)。 安倍首相は日米首脳会談を終えて帰国すると、その足でBSフジ「プライムニュース」及びNHK「ニュースウオッチ9」に生出演しました。前者の番組ではトランプ大統領と第3国について意見交換を行ったことを示唆しながらも、どの国かについては明言しませんでした。ところが、後者では解説委員の質問に対して国名を挙げて一歩踏み込んだ回答をしています。同首相はテレビ局並びに記者を選別し利用していると言われています。 一方、トランプ大統領はテレビ局選別の傾向が顕著に出ています。筆者の観察によれば、同大統領は米テレビ局を「フォックスニュースとその他」に分類しています。フォックスニュースの中でも、政策を正当化しセールスする番組として特に朝の「フォックス&フレンズ」及び夜の「ハニティー」を利用していることは明らかです。今回のジェームズ・コミー米連邦捜査局(FBI)長官解任に関しても、同大統領はフォックスニュース「ジャスティス」という番組に出演して解任理由を説明しました。 安倍首相は読売新聞(2017年5月3日付)のインタビューに応じて憲法改正にかける思いを語り、同首相の核となる支持者にメッセージを発信しています。核となる支持者とは、言い換えれば改憲派の安倍信者ないし固定客です。 同様に、トランプ大統領もトランプ信者ないし固定客をかなり意識した演説や政策を打ち出しています。同大統領の信者の中には白人労働者に加えて、軍人及びキリスト教右派がいます。 5月12日、トランプ大統領はファーストレディのメラニア夫人と一緒に軍人の配偶者並びに母親をホワイトハウスに招待して母の日を祝うイベントを開催しました。翌日13日、同大統領は南部バージニア州にあるキリスト教右派のリバティ大学の卒業式で演説を行っています。リバティ大学を訪問するのは選挙期間中を含めると3回目です。1つの大学を3回も訪問しているのです。演説の中で、同大統領は若き軍人の卒業生及び参加者の1人である98歳の退役軍人を称賛しました。強いリーダーの演出 トランプ大統領のシリアミサイル攻撃及び北朝鮮の核・ミサイル開発は森友問題で追い込まれた安倍首相にとって助け舟になりました。外交・安全保障問題は、安倍政権が抱える内政問題から国民の関心をそらす要素になっていることは看過できません。 トランプ大統領のシリアミサイル攻撃の原因となったのが、アサド政権によるとみられる化学兵器の使用でした。ただ、バラク・オバマ元大統領の医療保険制度改革(オバマケア)に対する代替法案が撤回され内政は八方ふさがりの状況でした。そこで、米国民の目をそらすためにシリアミサイル攻撃を実施したとも解釈できます。仮にそうであれば、コミー長官解任問題及び選挙期間中におけるロシア政府とトランプ陣営の深まる共謀疑惑から国民の関心をそらすために、今後北朝鮮問題を利用する可能性は十分に存在するのです。 安倍首相は海洋進出をする中国、慰安婦問題を継続させる韓国並びに拉致問題を未解決のままで核・ミサイル開発を進める北朝鮮に対して断固たる態度をとり、第1次安倍内閣でできなかった強い政治指導者の演出に成功しています。一方、トランプ大統領も強いリーダーの自己イメージに固執しています。ただ、その「強い」の意味に変化が生じているのです。トランプ米大統領(左)との会談を終え、共同記者会見する安倍首相=2017年11月6日、東京・元赤坂の迎賓館 今回の電撃的なコミー長官解任は、中立的な立場をとる情報機関FBIが行っているロシア政府とトランプ陣営との共謀疑惑に対する捜査妨害と捉えることができます。この解任劇をきっかけに、トランプ大統領がオバマ前大統領と比較して強いないし弱いリーダーかといった議論ではなく、民主主義的か専制主義的リーダーかという議論になっていくでしょう。 米NBCテレビとのインタビューの中で、トランプ大統領は自分がFBIの捜査対象になっているのかコミー前長官から聞き出したと述べました。繰り返しになりますが、FBIは中立性のある情報機関です。大統領であるトランプ氏は、FBIに対してレッドライン(超えてはならない一線)を超えた言動をとってしまったのです。その背景には、ロシア政府との共謀疑惑に対する捜査が同大統領にとってかなり脅威になっていることがあります。 さらに、トランプ大統領はホワイトハウスでの定例記者会見の廃止にも言及しました。この発言は、米国民の知る権利を奪う発言だと指摘されるのは当然です。これらは民主主義的というよりも専制主義的なリーダーの言動であると言わざるを得ません。 オバマ前大統領によって指名されたコミー前長官は、同前大統領からバスケットボールに誘われても、FBIのトップとして大統領と適切な距離を保つために断ったと言われています。トランプ大統領はその長官を解任し、今、専制主義的リーダーシップを発揮しています。政権運営及び政策の実現において安倍首相も同大統領と類似したリーダーシップスタイルをとるのか、注視する必要があります。

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    【矢追純一衝撃手記】僕が40年追い続けたUFO極秘文書のすべて

    に明らかにされているからだ。 1978年、米中央情報局(CIA)が市民団体に訴えられる事件が起こり、アメリカでは大きな話題になった。裁判は、「CIAがUFOに関する極秘文書を隠している」ことをつかんだ市民団体によって起こされた。 被告のCIAは、当初「UFOの存在は認めていない」ので、「極秘文書などはない」と主張していた。しかし、連邦裁判所は最終的に「CIA敗訴」の判決をくだしたのだ。CIAは、しぶしぶながら「ない」といっていたはずのUFO極秘文書を935ページにわたって提出した。※写真はイメージ(iStock) そこには、米軍の最重要軍事基地が次々にUFOに侵入され、手も足も出なかった事件が軍の報告書として多数記録されていたのだ。ミシガン州ワートスミスAFB(空軍基地)をはじめ、メイン州ローリング、モンタナ州マームストロムなど、何州にもわたって、空軍基地がUFOに上空侵犯された事件が数多く報告されていた。 僕が現地調査した中で、最もエキサイティングな事件をご紹介しよう。 ニューメキシコ州カートランド空軍基地の司令官、エドワード少佐が空軍に提出した報告書によると、「1980年8月8日深夜、マンザノ兵器庫エリアを警備中のラス・カーティス警備兵が、兵器庫の裏に強い光を発見、近づいてみると大きな円盤状の物体が着陸していた。応援を呼ぼうとしたが、なぜか無線が通じなかった。カーティス警備兵が、ショットガンを構えて、恐る恐る近づくと、物体は突然飛び上がり、アッという間に消え去ってしまった」とされている。 空軍の報告書にはさらにもう一つの文書が添付されていた。 「事件を詳しく調査するため、特別調査部のリチャード・ドウテイ少佐が、カ-ティス警備兵を厳しく尋問した結果、事実であることが判明した。ほかにも、同物体が上空を飛びまわるのを、3人以上の兵士が目撃していることがわかった。カーティス警備兵および、ドウテイ少佐が宣誓供述書にサインして、事実を認証した…」 カートランド空軍基地は、全米でも最も重要な軍事基地の一つで、基地内には空軍兵器研究所や核兵器研究所など、機密施設が散在している。その重要機密基地が、UFOに着陸までされて、何ら防衛も攻撃もできなかった。これは、アメリカの国家安全保障上、重大な問題であるはずだ。ウソやでっち上げの余地なし だが、相手がテクノロジー的に、あまりにも優れているため、手の施しようがない、というのが現実なのだ。 しかも、これらの文書はすべて、軍の正式報告書で、ウソやでっち上げの余地はない。この事件だけでも、米軍部がUFOの存在と脅威をハッキリと認識している証拠と言える。さらに、CIAは、この裁判で「実は、まだ、57件の極秘文書を隠している。が、公表すると、国家安全保障上、重大な問題が生じるので、差し控えたい…」と申し立てた。 実は、この裁判は「情報自由法」に基づいて起こされた。情報自由法というのは、「政府は、市民からの要請があれば、どのような、秘密文書でも公開しなくてはならない」という法律だった。しかし「もし、文書の内容が国家安全保障上、重大な支障をもたらす場合は、その限りではない」という免責条項がついていた。 CIAは、この条項に基づいて、非公開を主張したのだ。裁判官は、当然、その文書に眼を通したうえで「公開しなくてもよい」という判決を下した。とすると、そこに書かれていた内容とは、どんなものだったのだろうか。UFOに関して、「公表すると、アメリカの国家が揺らぐようなこと」とはいったい何だろうか…。 推測するしかないが、ロズウエルその他の地域で墜落したUFOが回収された後、現在どこに隠されているかと、その分析結果、乗っていた宇宙人の遺体の保管場所と鑑定結果、彼らがどこから来ているか、などに関する記述が考えられる。※写真はイメージ(iStock) 言い換えると、軍部は、それらの情報を握っていながら、隠しているということなのだ。このCIA裁判に触発されて、空軍、海軍、FBI(米連邦調査局)、DIA(国防情報部)、NSA(国家安全保障局)など、いろいろな機関から、UFOに関する報告書が続々と公表されてきた。  その中の一つにFBIの極秘テレタイプがある。FBI長官に宛てた、ワシントンのSAC(戦略空軍司令部)のガイ・ホッテル氏という情報将校からの緊急電報で、1950年3月22日付けになっている。 「現地調査をした、✖✖✖(名前が、墨で黒く塗り潰されている)によると、ニューメキシコ州に3機のUFOが墜落し、回収された。UFOは直径約50フィート(15メートル位)の金属製の円盤で、中央がドーム状に盛り上がっていた。内部には、それぞれ3体ずつの、人間に似た小さな生物の遺体があった。身長およそ3フィート(約90センチ)…キメの細かい金属繊維で出来た優美な服を着ていた。彼らは、テストパイロットが着るような、失神防止用のシートベルトのようなもので固定されていた。UFOが墜落した原因は不明だが、この地域の基地が一斉に、強力な軍用レーダーでUFOを追跡していたため、UFOの推進機関になんらかの故障が発生し、コントロールを失ったせいではないかと推測される。詳細は、後日…」 相手がFBI長官であること、差出人が戦略空軍司令部の情報将校であることなどを考えると、この内容が、単なるウワサ話やでっち上げなどである可能性は低い。とすると、米軍部は少なくとも、3機のUFOと、9人の宇宙人の遺体を確保していて、どこかに隠していることになる。詳細に記録された証言 また、在イラン米大使館付き武官のマッケンジー将軍から、米国防総省情報センター宛てに送られた極秘テレックスも公開された。だが、これも興味深い。「1976年9月20日未明、イランの首都テヘラン上空にUFOが出現。市民の通報により、現地空軍司令官も肉眼で確認、基地のレーダーでも捕捉された。直ちにF4ファントム戦闘機に緊急発進を指令、数分後、テヘランの西方75マイル上空でUFOを確認した旨、報告が入った。 パイロットによれば、UFOはボーイング707型給油機と同じくらいの巨大な円盤で強烈な光を発しているため細部は確認不能。半径25マイル以内に接近しようとするたびに、UFOは猛烈なスピードで遠ざかり、再び我々が接近するのを待って、また逃げるという不可解な行動をとっているとのこと。さらに、銃撃手がM9ミサイルの照準をUFOに合わせ、ロックしたところ、すべての電気系統が停電状態になり、ロックを外すと、元通りになるという奇怪な現象が起きているという。 ある時UFOから小さな光体が飛び出し、急速に接近してきた。攻撃されたと感じた銃撃手は、慌ててミサイルの引き金を引いたが、その途端、再び、すべての電気系統がブラックアウトし、弾丸は発射されなかった。パイロットはパニック状態に陥り、とっさにネガテイヴGダイブ(緊急降下回避措置)をとり、衝突を免れた。機体が下を向き、ミサイルの銃口がUFOから逸れたとたん、電気系統は元通りに復活した。その後、小さな光体はUターンして、もとの巨大なUFOの中に戻ってしまった。F4ファントムの燃料切れが近づいたため、基地へ帰投しようとしたが、パイロットはUFOの強烈な光のため、一時的な失明状態になり、基地の滑走路が肉眼で確認できなかった。 そこで、司令部から、しばらく上空で旋回待機するよう指令が出された。UFOは、このF4ファントムを見守るように、すぐ後ろについて、無事着陸するまで、一緒に旋回飛行を続けた。この間、地上の将兵たちによって、肉眼でUFOが確認され、基地および、機上のレーダーによっても確認された」 非常に長いテレックスだが、UFOの動きと迎撃した戦闘機の乗組員たちの行動が詳細にわかる。電文はさらに続く。 「UFOは、F4ファントムの着陸を見届けると、遠ざかりはじめた。ただちに、別のファントムが発進、追跡したところ、UFOから、再び小さな光体が飛び出し、今度は地上に向かって激突せんばかりのスピードで落下していった。だが、光体は、激闘する代わりにふわりと着陸し、半径1・5マイルに亘って強烈な光を放射した。パイロットは、さらに近づいて状況を確認しようとしたが、接近するたびに機上の全計器が異常を起こし、無線も交信不能になるため、危険を感じて、いったん基地へ帰投することにした。翌朝、その地点へ軍の調査隊がヘリコプターで向かった。その報告によると、現地付近の住民は、昨夜UFOらしい怪しい光と『ビービー』という不気味な音を耳にしたという。着陸地点にもっとも近いところには、一軒の小屋があり、一人の老人がいた。現場付近の放射能検査をしたところ…」 残念ながら、この後の電文が削除されてしまっている。ここには、事件の様子が非常に詳細に述べられている。特にUFOの行動が非常に興味深い。ベールに包まれた真相 我々の最新鋭ジェット戦闘機を子供のように扱い、からかっているかと思えば、基地へ帰ろうとする戦闘機をエスコートするかのように、ついてきて、無事を見守っている。翌日のUFOの行動は謎だが、この後、なにが書かれていたのかも気になる。 僕は、この事件を分析したDIA(国防情報局)の情報分析担当官、ローランド・エヴァンス少佐にインタビューしていた。 少佐は「このテレックスは第一級の、信頼がおけるUFOに関する極秘文書です。まず第一に、軍の最高官である、将軍からのものであること。次に基地の将兵たちが肉眼で確認し、基地と機上のレーダーが同時に確認していることです」と、言っている。 これらの公開された公文書には、トップシークレットなどの記述と、情報自由法にもとづいて「✖✖✖の部署から公表された」と書かれた日付入りの印が押されている。従って、密かに盗み出されたものでも、ニセものでもない。 このように、数多くの事実が、公文書によって明らかにされているにもかかわらず、今さら改めて、「UFOの調査をしている」と公表する意図はどこにあるのか。 これも推測の域を出ないが、トランプ大統領の政権でのゴタゴタを国外、つまり、宇宙のUFOに眼を外らすことでゴマかすという、よくある政治的手法なのか。それとも何十億円もかかったという莫大な費用に対する言い訳の一環なのか、わからない。矢追純一氏 軍事機密というベールに包まれた真相は、通常、我々庶民のところには、絶対と言っていいほど漏れてくることがないのだ。世間では、僕のことをUFO好きとか、宇宙人好きとか言っている人もいる。でも、正直いってそんなことはどうでもよい話。そんなことより、僕はジャーナリストとして、この証言をテレビの「特番」というかたちで何度も暴露しただけなのだが…。

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    UFO研究、矢追純一は正しかった

    矢追純一。この名前にピンと来た人もいるだろう。かつて、お茶の間を席巻したUFO(未確認飛行物体)ブームの火付け役である。先ごろ、米紙ニューヨーク・タイムズが米国防総省によるUFO調査の事実を報じ、にわかに彼のこれまでの研究を見直す人が増えているという。その矢追純一がついに、iRONNAに衝撃手記を寄せた。

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    懐疑論者でさえ興奮した米軍撮影「UFO映像」の衝撃

    年には「プロジェクト・ブルーブック」として再編され、69年まで調査が行われた。 しかし、最終的には「アメリカ合衆国の脅威となる証拠はみつからない」として、プロジェクトは解散することになった。一方ではこのような経緯が「政府が何かを隠している証左」として捉える向きが多かったことも確かである。 UFOが宇宙人と本格的に結び付けられるようになった大きな理由としては、50年代に活躍した作家、ドナルド・キーホーの活躍が挙げられる。彼が1949年に出版した本『空飛ぶ円盤は実在する』では、空飛ぶ円盤=UFOは地球外からやってきた生命体、つまり宇宙人の乗り物であり、政府はそれを隠しているという仮説を提唱した。つまり、今に続くUFO物語のプロットがこの本で完成されていたのである。キーホーはその後も何冊ものUFO関係の本を著し、米国の大衆に「UFO=宇宙人」の構図を植え付けていく。 61年には「ヒル夫妻誘拐事件」が発生する。休暇先のカナダから自宅があるニューハンプシャー州に戻るため車を運転していたベティとバーニーのヒル夫妻は深夜、奇妙なものを目撃する。自分たちの車を追いかけてくる光体である。やがてその物体は車の前に回りこんだと思うと、彼らの記憶は途絶え、気がついたらその地点から60キロも離れた場所にいたのである。彼らが催眠術師によって取り戻した記憶によると、そのとき、彼らはなんと宇宙人に誘拐され、UFOの中で身体検査を受けていたというのである。(iStock) この事件によって、UFOに対する米国人の認識は一変した。それまでは単に空を飛び回る不思議な物体であったものが、そこに登場する宇宙人たちが人間に対して、身体検査であれメッセージの伝達であれ、何らかの働きかけを行う存在へとランクアップしたのである。 米国ではこれ以降「宇宙人に誘拐され、身体検査を受けた」と主張する人々が激増することになる。さらにそれは、米政府がパニックを恐れ、そのような宇宙人の地球への訪問を隠しているという陰謀論へと発展していくのである。ブーム最高潮に起きた「事件」米第34代大統領、ドワイト・アイゼンハワー(Wikimedia Commons) 70年代から80年代にかけては、この陰謀論の完成の時期ともいえる。映画の世界でも取り上げられ、『未知との遭遇』や『E.T.』といった大ヒット映画により、UFOは私たちにとって本当に身近な存在となった。テレビ番組でも盛んに取り上げられるようになり、まさにUFOブームといってもよい状況が訪れる。その最高潮が80年代後半に起きた「マジェスティック・トゥエルブ(MJ-12)事件」であろう。 あるテレビ番組制作者のもとに匿名で届けられた文書に、MJ-12と称するグループについての記述があったことから、この事件は始まる。その文書は52年、次期大統領に選出されたアイゼンハワー氏にUFOに関する情報を申し送りするために書かれたトップシークレットだった。12人からなる最高機密グループ(MJ-12)の存在や、表沙汰にされていない数多くのUFO墜落事件、そしてその際の宇宙人回収などの経緯が書かれていた。米国中をセンセーションに巻き込んだMJ-12文書であったが、最終的にニセ文書と断定され、急速に収束していく。 そして90年代に入り、あれほど世間を賑(にぎ)わせていたUFOブームは次第に、しかし着実に下火になっていくのである。その理由はいくつか考えられる。一つは冷戦の終結だろう。ソ連という敵がいなくなったことで軍事予算も縮小され、UFOと誤認されるような新型航空機の開発も少なくなった。 UFOについての情報があまりにセンセーショナルになりすぎたということもあるだろう。前述のMJ-12の内容があまりに衝撃的だった割に、ニセ文書であることがすぐに明らかになったことで、いってみれば世間が期待する「UFOバブル」があっという間に弾けてしまったということもあると思われる。また、「宇宙人は間もなく姿を現す」「もう少しで米政府はUFOに関する文書を全面公開する」といった噂が飛び交っては結局そうならなかったことも、人々を失望させる元となっていった。 インターネットの普及やコンピューター技術の急激な向上も、UFOブームの沈静化に一役買ってしまったと思われる。ネットにより人々が多くの情報を得るようになると、テレビなどで放映されていた情報の「真の姿」が明らかになり、多くの人が本当のことを知るようになってしまった。衝撃的なUFO写真や映像なども、実はコンピューターで加工したものであるというケースが多数存在し、そのような解析をコンピューターで行う技術も急速に発展した。その中で、多くの人がかつてなら信じたであろうUFO関連の写真や映像も、「またどうせニセモノだろう」と疎んじられるようになっていった。 また、50~70年代に盛んにUFOや宇宙人について喧伝(けんでん)していた人たちが高齢化し、一線から退いていったことも大きいだろう。かくして、21世紀に入ると、あれほど盛り上がっていたUFOや宇宙人についての話はすっかりと下火になってしまったのである。ブームに投げ込まれた今回の報道 そんな中で出てきた今回のUFO文書公開が、なぜ多くの人の関心を集めるようになったのだろうか。一つの理由は、ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)に代表される、ネット世界の関心の多様化ではないだろうか。 筆者の感覚では、2010年くらいから再びUFOへの関心が高まってきているように思える。もちろん往時ほどの高さはないようであるが、それでもUFOが話題に出ることがひところよりは増えてきていることを感じる。そのような話題が出る場所の多くはSNSだ。例えば映像がユーチューブに公開されたり、話題がツイッターで共有されたりしていく。 SNSは、同じような趣向を持っている人たちが話題を共有しあうとともに交流することができる絶好のプラットホームである。そして、そのような人たちとの交流を盛んに続ける一方で、他の話題には振り向かなくなる傾向が強まるにつれ、UFOや宇宙人の訪問などをかたくなに信じる人たちが再び増えてきているのではないだろうか。(iStock) また、SNSもそうだが、ネットニュースメディアの普及により、「大手の新聞社やテレビ局が伝えていない」情報が手に届きやすくなった。そういった情報の中にUFOや宇宙人に関する情報があれば、それがやはりSNSで共有され、信じる人が多くなっていく。さらに、主流メディアが伝えていないことを逆に捉え、実は陰謀論的な圧力が加わっているのではないかという考え方に至るケースもある。 そのような、いってみれば水面下でじわじわと広がっているようなUFO「ブーム」の中に、まるで投げ込むように出てきたのが今回の報道だったわけである。UFO、宇宙人、政府の隠蔽(いんぺい)というプロットにちょうどぴったり当てはまる今回の内容は、そのようなことを信じるコミュニティーにあっという間に受け入れられたというわけである。 では、今回ニューヨーク・タイムズが報じた内容は本当にUFOなのだろうか。その前に、ひとつ整理しておく必要がある。ここまでお読みになった皆さんなら気づいていると思うが、「UFO=宇宙人の乗り物」ではない、という点に注意する必要がある。「陰謀論」の落とし穴 UFOというのはあくまで「未確認」、つまりその正体がわかっていない「飛行物体」である。それが宇宙人の乗り物と正体がわかってしまえば、もはやUFOとは呼べない。宇宙船とでも呼ばなければならなくなるわけである。ニューヨーク・タイムズの報道で出ていた内容はあくまでUFOであり、その正体はいまだ不明である。 ただ、過去のUFO関連の映像や画像とされるものについては、詳細な解析の結果、鳥や飛行機、星などの見間違いなどがほとんどを占めるということがわかっている。残念ながら、宇宙人の乗り物であると断定された目撃例は現在のところ1件もないのである。これまで70年以上私たちが騒いできたにもかかわらず、である。 さらにはニセの画像や映像を作るということも多く起きている。その目的は、注目されたいというものから、企業やグループのプロモーションまで枚挙にいとまがない。もちろん、「これはニセモノです」と最初からうたっているならまだいいのだが、そうではないフェイク画像・映像もネット上に多数存在する。また、当初はちゃんとネタばらしをしているにもかかわらず、それがネット上を伝わっていくうちに情報が変わったりなくなったりすることで、いつの間にか「衝撃のUFO画像(映像)」になってしまうケースも多い。(iStock) 私はUFOや宇宙人についてのテレビ番組や本を読み、その知識にどっぷり漬かって、その存在を信じていた時期があった。しかしあるとき、それが陰謀論という流れにハマっていることに気づいて、もっと大局的な視点から眺めなければいけないと反省したのである。 陰謀論は、わからないものごとへの説明をものすごく簡略化してしまい、人間に安心感を与える。一方で、物事の真の姿を見つめるという姿勢を奪ってしまうものだ。空にみえる不思議な物体を「あれは宇宙人の乗り物だよ」と説明すれば、多くの人はそれで納得して安心してしまうだろうが、それが真実なのかどうかは置き去りにされてしまう。そのような姿勢を続けていけば、ものごとの真の姿を見るよりも、わからないがゆえに不安な自分に安心感を与えることを優先してしまいがちになる。そのような姿勢の先には、真実に基づく議論ではなく、信じたいものを信じてそれ以外をかたくなに拒否する、不幸な道が待っているだけである。 今回話題になったUFOが本当に宇宙人のものなのかどうかと問われれば、私としては「調査はしなければならないとは思うが、おそらく(またもや)違うだろう」と答えるだろう。現在も公開されたビデオを元にいろいろな人が解析を行っているので、遠からずその結果が出てくることだろう。 しかし、短いビデオだけでは解析にも限界がある。結局はウヤムヤなまま、長いUFOの歴史に「解明不能」というファイルがまた一つ増えるだけかもしれない。それでも私自身は、いつかある日、本物の「UFO」と出会えることを心待ちにしている。私が世の中のUFO情報を懐疑的にみているのは、そのいつの日かのためである。

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    超低予算の極秘調査でアメリカが見せたUFO解明への本気度

    やって来られるという時点で、本当は地球人になすすべがない。映画では宇宙人と地球人の関係をコロンブスとアメリカ先住民の関係に例えていたが、発達した宇宙文明が未開の地球文明をどう扱うかも、実際のところ、皆目見当がつかない。撤去を免れることが決まった米ニューヨーク市にある探検家コロンブスの像(UPI=共同) だから、もしかしたら彼らはすでに地球を訪れているかもしれない。しかも、巧みに「超ステルス技術」を駆使し、人類の観測網に引っかからない可能性は否定できない。来ているのは軍人ではなく、科学者だったり、場合によっては観光客かもしれないが。 そんな中、2017年10月19日に「オウムアムア」という小天体を天文学者たちが発見した。ハワイ語で「遠方からの最初の使者」という意味の小惑星は、長さ400メートルの「ロケット」のような形をしていたため、世界中のUFOファンが狂喜乱舞した。通常の小天体は多かれ少なかれ楕円(だえん)軌道を描いている。その楕円が細長くなることはあっても、楕円は楕円なので、太陽系内にとどまっている。20億円という「調査費」の意味 ところが、オウムアムアの軌道を計算してみたところ、そもそも太陽系の脱出速度を超えていて、開いた双曲軌道になるらしい。それはつまり、太陽系の「外」から飛来したことを意味する。オウムアムアは、太陽系外の「上」から飛来し、太陽系の「レコード盤」の少し下まで行ってから、太陽の重力に引き戻され、「し」の字の軌道を描いて、再び太陽系の上へと飛び去っていった。まるで、NASAやJAXA(宇宙航空研究開発機構)の宇宙探査船が天体の重力を利用して軌道を変える「スイングバイ」ではないか。UFOファンでなくとも、どこかの宇宙人が飛ばした探査船ではないかと疑いたくなる。太陽系の外から飛んできた小惑星「オウムアムア」の想像図(欧州南天天文台提供・共同) 天文学者たちは、オウムアムアの周囲が金属ではなく30センチほどの炭素の膜で覆われているから宇宙船ではないと考えているようだ。確かに地球の宇宙船は金属で覆われているが、はるかに文明の発達した宇宙人が、宇宙船の外壁に金属ではなく炭素を使っていても不思議ではない。カムフラージュの可能性だって否定できないだろう。などと、いつのまにか私もUFOファンみたいな発言をしかけているが、未確認飛行物体という意味では、オウムアムアだって立派なUFOなのかもしれない。 話を元に戻そう。私は、AATIPが極めて合理的な計画だと考えている。宇宙から観光客やロケット型の探査船がやってきているだけなら調査の必要もない。だからこそ、映画『バトルシップ』の冒頭シーンに出てくる「コロンブスとアメリカ先住民」というせりふは、実に意味深長だ。地球人が科学技術(=軍事力)で劣るのは明らかだから、その脅威がどれくらいかを調査しておくに越したことはない。全面戦争になったら地球は壊滅するだろうが、彼らとて何十光年も旅してくるにはコストが半端なく、おいそれと大軍団を送りこむことはできないはず。だとしたら、UFO情報をじっくり調査して、その脅威を同定し、局地戦で勝ち抜くための作戦を立てておいたほうが良いに決まっている。 備えあれば憂い無し、取りあえずやっておこう…という思惑。おそらく、それが60兆円のうちの20億円という「調査費」の意味なのだ。 個人的に、私はUFOが地球にまだやってきていないと考えてはいる。でも、オウムアムアが宇宙船の可能性は十分にあると思うし、宇宙に無数にあるゴルディロックスゾーンには、われわれみたいな知的生命体がゴロゴロしていると信じている。 米国は合理的な予算で未知なる脅威を調査していたわけだが、日本はどうだろう。内閣調査室が実際にUFOや宇宙人の脅威に国家予算を注ぎ込んで準備しているだろうか。おそらくないだろう。 『バトルシップ』では、米国と日本の軍人が協力して敵対的宇宙人の脅威に立ち向かったが、万が一のときは米国だけが戦うことになるのかもしれない。

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    人類はなぜUFOの正体を解明できないのか

    武田邦彦(中部大学特任教授) 米国防総省がUFOの調査をしていた事実が明らかになり、話題になっているが、これは「現代科学の低迷」を示す典型的なニュースである。 もともと、人間の五感には「触覚(圧力)、臭覚(化学反応=科学ポテンシャル)、視覚(電磁波)、聴覚(音波、粗密波)、味覚(化学反応)の五つがあって、私たちが「ある」と認めるのはこの五つの情報しかない。このうち、電磁波を除く他の物理的影響や化学反応は古くから発見されているが、電磁波は19世紀に見つかったもので、まだ150年ほどしかたっていない。 だが、人類というのは「地球上」に、しかも「温度、気圧などある特定の条件下」で発生した生物であり、その生物が感知できる情報手段しかこの宇宙に存在しない、とするのは根拠もないし、あまりに飛躍がある。つまり、人間の五感という伝達手段以外の観測方法が宇宙のどこかに必ずあると考える方が科学的である。 また、別の視点から整理すると、UFO以外にも、多細胞生物の細胞間伝達、生物同士のテレパシー、現代科学で説明が困難な飛行物体という超自然現象や、人間が山に入ったときに感じる森林浴と呼ばれる心理的緩和効果、集団的生物に顕著にみられる「集団の中の個の存在」の認識など、比較的観測が容易な分野でさえ、作用と効果の関係が明らかになっていないものは多くある。iStock これらは「現代の科学で解明されていない」ということで「超自然現象」と言われているが、「超自然」という言葉は「すでに人間はすべての自然現象を解明した」という傲慢(ごうまん)な前提がある。 一方、1950年以後の科学は原理的発見が少なく、情報技術、遺伝子技術にみられるように「改良型科学の発展」が主たるものになっている。ダイオードやトランジスタ、DNAなどの画期的原理発明はいずれも1950年代までに行われていて、それ以後すでに60年がたつのに科学的に新しい原理の発見はほとんど見られない。 材料分野のような実学的領域においても、金属材料では20世紀初頭のアルミニウムの時効硬化の発見、プラスチック材料では1970年代の液晶プラスチックが新材料発見としては最終的なものとされている。 このような基礎科学の停滞が、経済や社会の進歩を遅らせていることは間違いない。人間は科学の恩恵を受けすぎた キュリー夫人の原子核の発見、アインシュタイン、ポーリングなどが活躍した20世紀の初頭、電磁波、量子力学、原子力、通信などの大規模な発見が続き、それが後に自動車、航空機、重工業、家電製品、情報産業へと発展したことを考えると、現代社会の停滞は「基礎科学の巨人」が出現しないことと密接に関係することもまた事実である。 では、このような状況をどう考えるか。 一つは人間はすでに科学の原理をすべて発見して、もう発見するものがないという判断、もう一つは、科学の基礎的研究が少なくなり、お金に関係する技術の方に優れた研究者が集中しているという二つの解釈がある。 どちらが本当であるかは、今後の科学の進歩が示すことであり、ここで判断できることではない。しかし、UFOの研究を米国防総省の調査として行うこと自体が、基礎科学の進歩を阻害するものであることは間違いない。 なぜなら「新しい知覚手段、未知の通信手段」は、すでに観測されている「不思議な現象」から、その存在は間違いないにもかかわらず、「国防の観点ですぐ役に立たないから」という理由で、細胞間伝達にもUFO(通常の手段では科学的原理に反すると考えられる)の存在の研究にも、研究費が支出されないからである。iStock 今から100年ほど前、オランダに「極低温にすると電気抵抗がなくなるのではないか」という奇想天外なことを考えたオンネスという学者がいた。その学者に膨大な研究費を付けたからこそ、実験によって「超電導現象」という新しい現象が発見された。それまでの電気伝導度に関するキャベンディッシュの発見、オームの法則を覆すまったく意外な結果だったが、今では多くの産業で活用されている。 この超電導現象の着想に比べれば、人類の知らない飛行物体が存在する可能性は、はるかに高い。ただ、この100年間に人間は科学の恩恵を受けすぎて、科学の可能性や夢を失ってしまった。スマホから家電製品に至るまで、私たちの人生は科学の成果で覆われ、それに圧倒され、新しい科学に期待しなくなった。「どこでもドア」の可能性 もし、UFOの調査が米国防総省でなく、世界で飛行物体に興味がある学者が行ったら、その成果は単に政治的なものではなく、広く人類の福利に貢献することになるだろう。 今回のニュースは、日本で猛威を振るい、日本の衰退の原因を作っている「役に立つ科学」「お金のもうかる研究」の延長線上にあり、UFOの存在以前の大きな問題を孕(はら)んでいる。 ところで、人間の知覚し得る情報伝達手段(電波、音波、重力波、引力、逐次化学反応など)の範囲内でもUFOが存在する可能性はある。現在の宇宙は138億年前にできたとされているが、宇宙は私たちが知覚し得るもの一つ(ユニバース)ではなく、多数(マルチバース)存在するのはすでに物理学でも有力である。ただ、すでに述べたように現在の人間の知覚手段では感知できない。しかし、同一空間に、異なった宇宙の異なる空間が同居できるというマルチバースの特徴から、知覚手段を研究することによって、UFOもあるいはドラえもんの漫画に出てくる「どこでもドア」も発見される可能性がある。iStock もし異なる宇宙の観測手段が分かれば、旅行に行くときに「どこでもドア」を開けてそこに荷物を預けて手ぶらで旅行をし、必要な時に「どこでもドア」を開けて必要なものを取り出すことができるようになるだろう。「超自然現象」の基礎的研究は、やがてかつての超電導現象の発見と同様の大きな新しい事実を私たちの目の前に示し、それが次の時代を開くことになると考えられる。 1000年以上前に「源氏物語」を書いた紫式部にスマホを見せて、「これで光源氏に電話したら」と言ったら、彼女は「あなたは鬼?」といぶかるだろう。私たちが今、当然と思っているこの世界はまだまだ狭く、本当の世界のごく一部であると知ることが、今回のニュースの意義ではないかと思う。

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    トランプの石油制裁で一層高まる「第2次朝鮮戦争」の危機

    CBMの発射なら「30%」と述べている。2017年11月、北朝鮮をテロ支援国家に再指定すると表明したアメリカのトランプ大統領(右)=ワシントン(UPI=共同) 米紙ニューヨーク・タイムズは12月1日、著名なニコラス・クリストフ記者の「第2次朝鮮戦争の危機」と題した記事を大きく報じ、戦争の危険性を警告した。クリストフ記者は「大統領と補佐官が戦争に言及するときは、真剣に受け止めるべきだ」と歴史の教訓を引き合いに、軍事攻撃の可能性が高いと分析した。この記事の背景には、米国の大統領や高官、報道官は決して「ウソをつかない」という文化がある。「国民をミスリードしない」モラルが生き続けているからだ。むしろ、トランプ氏のようにウソをつく大統領は珍しい。 だが、米軍の軍事攻撃は国際法上簡単でない。国際法に違反した軍事攻撃はもちろんできない。北朝鮮が「ニューヨーク、ワシントンを攻撃できる」と言い続ければ、自衛のための攻撃との理由づけは可能だが、苦しい説明だ。とすると、北朝鮮の暴発だけが軍事攻撃を可能にする。トランプ大統領は、そのために北朝鮮を追い詰め、挑発している。脳裏には石油供給削減を続ければ、北朝鮮は何らかの軍事行動に出るとの計算があるのである。

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    2018年は米朝和平の動きが本格化か 転機は米大統領中間選挙

    「我々は決して北朝鮮の核保有を受け入れない。北朝鮮に責任を負わせる」──12月15日、国連安全保障理事会の閣僚級会合で米ティラーソン国務長官は北朝鮮の慈成男・国連大使に激しく詰め寄り、互いに非難の応酬が繰り広げられた。 北朝鮮が核実験を強行した2017年9月以降、米朝の緊張感は日に日に高まっている。米国主導の経済制裁で締め上げられた北朝鮮の金正恩・朝鮮労働党委員長は、いつ“暴発”してもおかしくない状況で、日本にとっても気が気でない状態となっている。2017年12月、国連安保理の閣僚級会合に出席した北朝鮮の慈成男国連大使=ニューヨーク(共同) その一方で米朝は水面下で秘密交渉を続けながら和平の糸口を探っているという情報もある。トランプ政権高官とのパイプを持つ国際政治評論家の板垣英憲氏が語る。「2017年5月にノルウェーで米朝の高官が集まった秘密会合が開かれ、これまで計8回の会合が行なわれたと聞いています。現在も水面下で話し合いは続けられており、2018年中に米朝和平に向けた動きが、今までにないほど本格化する可能性が出てきています」 その転機となり得るのが、2018年11月に行なわれる米中間選挙だという。「今のところ、トランプの支持率が低迷していることもあり、野党・民主党の優勢が伝えられています。大統領再選を狙うトランプにとって、この中間選挙での勝利は絶対に譲れません。 形勢逆転のため、これまで誰も成し遂げられなかった米朝和平の実現に向け“アクション”を起こす可能性は高い。具体的には、7月4日の米国独立記念日前後に訪朝、米朝トップ会談──との情報が浮上しています。実現すれば世界中が驚くビッグイベントになるでしょう」(板垣氏) 世界が注目する“独裁者”の2人が手を取り合うのか、さらなる敵対へと突き進むのか。トランプ氏の“決断”が大きく状況を分ける。関連記事■ 【ジョーク】金正男から金正恩にメール「TDL破壊しないで」■ 北朝鮮と韓国との全面戦争はあるか? 専門家はないと説明■ 一見デタラメな北朝鮮外交にも明確な方針あると佐藤優氏■ SAPIO人気連載・業田良家4コマ漫画「愛国烈士」■ 金正恩氏がキューバ議長に親書 米朝首脳会談依頼か

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    「エルサレムが首都」トランプの論理

    中東は再び「世界の火薬庫」に逆戻りするのか。トランプ米大統領がエルサレムをイスラエルの首都と宣言し、波紋が広がっている。「世界の常識」を覆す決定に各国は反発を強めるが、なぜこのタイミングだったのか。今後起こり得る中東情勢への影響も踏まえ、トランプの真意を読み解く。

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    「エルサレムの現実」を変えたトランプの論理

    川上泰徳(中東ジャーナリスト) トランプ大統領がエルサレムをイスラエルの首都と認定し、米国大使館をエルサレムに移転させることを発表した。パレスチナとアラブ諸国、さらにイスラム世界で反発が広がり、国際的な批判が上がっている。この決定は1995年に米議会が採択したが、歴代の大統領が半年ごとに延期してきたものを、トランプ大統領が23年目にして実施を発表した。トランプ氏の決定はこれまで国連安保理が「平和の障害」として非難し、「無効」としてきたイスラエルの行動を是認するもので、その決定自体が安保理決議違反の可能性が強い。エルサレムをイスラエルの首都だと認め、大使館を移すと発表する トランプ米大統領=2017年12月6日、米ワシントンのホワイトハウス まず、トランプ大統領の発表の論理を考えてみよう。演説の中で「私の発表はイスラエルとパレスチナの間の紛争に対する新たなアプローチの始まりとなる」と語った。1995年に米議会は「エルサレム大使館法」を採択し、エルサレムを首都と認定して、米国大使館を移転させること決めた。トランプ氏は「歴代の大統領は20年以上にわたって、エルサレムの認知を遅らせることが平和につながると信じて、法律の実施を拒否してきた。しかし、イスラエルとパレスチナの間の恒久的な和平の実現につながっていない」という認識を示した。 その上で、「イスラエルが自国の首都を決定することを含む権利を持つ主権国家であり、この事実を認めることは和平の実現にとって必要な条件である」とし、「それは現実を認めることでしかない」とした。 トランプ大統領は「この決定は、われわれが恒久的な和平合意を仲介する強い役割から離脱するということではない。私たちはイスラエルとパレスチナの間の偉大な合意を求めている」と主張する。さらに「米国は、エルサレムでのイスラエルの主権が及ぶ範囲や論争がある境界など、和平の最終地位に関することにはいかなる立場もとらない。それらの問題は当事者にゆだねられる」とする。 トランプ大統領の決定が何を意味するかは、エルサレムをめぐるこれまでの議論を振り返ることで、自(おの)ずと見えてくる。 エルサレムは1947年の国連パレスチナ分割決議では国連管理となっていたが、48年の第1次中東戦争で、エルサレム旧市街を含む東エルサレムはヨルダンが支配し、西エルサレムはイスラエルが支配し、東西に分断された。その後、1967年の第3次中東戦争でイスラエルが旧市街を含む東エルサレムを、ヨルダン川西岸ともども占領した。1980年にイスラエル議会は東エルサレムを含む「統一エルサレム」はイスラエルの首都とするエルサレム基本法を可決した。今回のトランプ大統領の決定は、このイスラエル議会・政府のエルサレム首都化を認定するものである。 しかし、このイスラエルの動きに対して、国連安全保障理事会は決議478号を賛成14、棄権1(米国)で採択し、「イスラエルの基本法を認定せず、基本法に基づくイスラエル行動はエルサレムの性格と地位を変更しようとするものとして認定しないことを決定する」とした。決議では「武力による領土の獲得は容認できないということを再確認する」として、「占領者であるイスラエルが基本法によって聖地エルサレムの性格と地位を変更することに法的効果はなく、無効であり、直ちに撤廃されなければならない」としている。トランプが和平の実現を語る矛盾 さらに決議では「この(イスラエルの)行動は中東での包括的で、公正で、恒久的な和平の達成に対する深刻な障害となる」としている。決議ではすべての加盟国に対して、「安保理の決定の受け入れ」を求め、さらに「エルサレムに外交使節を置く解明国に聖地からの撤退」を求めた。 この安保理決議を受けて、米国や日本を含むほとんどの国連加盟国はイスラエルが首都宣言をしているエルサレムではなく、テルアビブに大使館を置いてきたのである。トランプ大統領がイスラエルによる東西エルサレムの首都化を「現実」として認定すると発表しても、それを「法的効果はなく、無効」という安保理による決定が変わるわけではない。イスラエルによる東エルサレムの占領から、50年が経過したが、それが「武力による領土の獲得」だという「事実」は変わるわけではなく、トランプ大統領の発表は安保理決議に違反し、米国大使館がエルサレムに移転されれば、それも決議違反ということになる。 安保理決議がイスラエルによる統一エルサレムの首都宣言を「恒久的な和平の達成に対する深刻な障害」と認定したことは、イスラエルが東エルサレムを占領した1967年の第3次中東戦争後に採択された安保理決議242号とつながってくる。 それは中東和平の原則を定めるもので、「国連憲章の原則は公正で恒久的な中東での平和の確立を求めており、次の二つの原則の実施が含まれるべきだ」としている。その二つの原則とは、①イスラエル軍が今般の紛争によって占領した領土からの撤退、②すべての要求または交戦状態を終わらせ、地域のすべての国家の主権と領土の一体性を認め、平和のうちに生存する権利を尊重する。 決議242号は、イスラエルに占領地からの撤退を求め、代わりにアラブ諸国にイスラエルの承認と生存権を認めることとを求めていることから、「土地と平和の交換」として、現在まで米国が仲介者を自任する中東和平の原則として認識されている。占領から13年たっていようとも、占領地の東エルサレムを含む「統一エルサレム」を首都と宣言することが、安保理決議242号が提起する中東和平の原則に反することは明らかである。記念撮影するクシュナー米大統領上級顧問(左)と 河野太郎外相=2017年11月5日、東京都港区 トランプ大統領がエルサレムをイスラエルの首都として認定したことは、「武力による領土の獲得」を認めないとする前提に反するものであり、それを認めれば、決議242号が提起する「土地と平和の交換」の原則は困難にする。トランプ氏が「和平の実現」を語るのは全く矛盾する話なのである。 トランプ大統領の決定に欧州各国も批判し、懸念を表明しているのは、その立場がこれまでの中東和平の枠組みと矛盾し、それを否定するものだからである。その中で、河野太郎外相が「(トランプ氏が)恒久的な和平合意の促進への強固なコミットメントと二国家解決への支持を表明したことは評価する」と語ったのは、全く筋違いの話である。 トランプ大統領はエルサレムがイスラエルの首都だと認定することを「現実を認めることにすぎない」とし、その上で、「エルサレムでのイスラエルの主権が及ぶ範囲や論争がある境界など、和平の最終地位に関することにはいかなる立場もとらない。それらの問題は当事者にゆだねられる」と語る。そのことは、イスラエルが武力によって東エルサレムにユダヤ人入植地を建設し、さらにエルサレムの境界をはるかに超えてヨルダン川西岸に建設した大規模入植地をも「現実」として認めることにつながるだろう。第3次インティファーダは起こるか イスラエルはこの50年間、国連安保理が「紛争によって取得した領土」と認定している東エルサレムとヨルダン岸西岸でユダヤ人入植地を建設し、東エルサレムで20万人、ヨルダン川西岸に40万人の入植者が住んでいる。占領から50年が過ぎ、多くのイスラエル人は東エルサレムの入植地はもちろん、エルサレムの周辺にあるユダヤ人入植地が、占領地であることを忘れている状態である。 さらにイスラエルは今世紀に入って、ヨルダン川西岸とイスラエル本土の間に分離壁を建設した。ただし、ヨルダン川西岸にあるユダヤ人入植地は分離壁の内側に入れられ、東エルサレムにあるパレスチナ人が住んでいる地域は分離壁の外に置かれて、エルサレムから切り離され、パレスチナ人をエルサレムから排除しようとしている場所も多い。 このようにイスラエルが武力にものを言わせて、次々と「エルサレムの現実」を変えていることが、「土地と和平の交換」の原則に基づく和平の実現をますます困難にしている。その上で、トランプ大統領が決議478号に反してエルサレムをイスラエルの「永遠の首都」と宣言したイスラエル基本法を認めて、米国大使館をエルサレムへの移転を命じたことは、力による違法を是認し、和平の終わりを意味するのは自明のことである。イスラエル治安部隊の催涙ガスなどの被害を受け、運ばれるパレスチナ人 =2017年12月9日、パレスチナ自治区ベツレヘム エルサレムをめぐる今回のトランプ大統領の決定は、中東に何をもたらすだろうか。 パレスチナ側の反発による第3次インティファーダ(民衆蜂起)の懸念を危惧する声が盛んに出ている。しかし、2002年3月にイスラエルによるヨルダン川西岸への大規模侵攻の時、新聞社のエルサレム特派員として現地にいた私の経験から考えれば、パレスチナ人による第3次インティファーダが起こるとは考えにくい。第2次インティファーダでは、イスラエルの圧倒的な軍事力に対抗するために、ファタハとハマスの武装部門は、イスラエルの民衆を標的にするというテロ戦術をとったが、その結果、イスラエルの大規模な武力行使を許し、パレスチナ社会に決定的な敗北と挫折を残した。 ヨルダン川西岸や東エルサレムの入植者や兵士に対する単発的なテロは起こるかもしれないが、第2次インティファーダのようにファタハとハマスの武装部門が前面にでてテロ戦術をとるとは考えにくい。さらに民衆の怒りが爆発するだけでは「民衆蜂起」にはならない。かといって、1887年12月に始まった第1次インティファーダのような住民による不服従運動のような市民中心の組織的な動きも、現在のファタハとハマスによるそれぞれの強権支配の元で起こるとは考えにくい。トランプとイスラエル右派の親密さ トランプ大統領の決定を受けて危惧される危機は、パレスチナ側の動きから起こるのではなく、むしろイスラエル側から起こると考えるべきであろう。トランプ氏はイスラエルが力で「現実」を変更していくことを認定した。「和平と土地の交換」の原則が崩れた後、トランプ大統領が仲介する「和平」は、イスラエルが力で生み出した「現実」をパレスチナ側に押し付ける形しかないだろう。米国の後ろ盾を得て、イスラエルが大規模な軍事行動に出て、さらにパレスチナの土地を奪うか、パレスチナ人を排除するか、どちらかの可能性を心配すべきだろう。エルサレム旧市街の壁に映し出された米国とイスラエルの国旗 =2017年12月6日 イスラエルでの次の議会選挙は2019年11月までに行われるが、これまでは期限より前に行われてきた。一方、2008年12月以来、イスラエルによる大規模なガザ攻撃が3回あったが、3回ともイスラエル議会選挙の前の1年間に起こっている。イスラエルによる最後の大規模軍事行動は2014年夏のガザ攻撃だった。パレスチナまたはレバノンのヒズボラとの“戦争”を演出して、国内の支持を集めるのはイスラエル政府の常とう手段であり、次の議会選挙に向けて、ネタニヤフ政権がいつ大規模な戦争オプションをとる可能性を考えていなければならない。  特に現ネタニヤフ政権の国防相は、イスラエルで2割を占めるアラブ系市民の排除を唱える発言を繰り返してきた極右政党「わが家イスラエル」のリーバーマン党首である。トランプ氏の人種差別的な主張や政策は、イスラエルの極右政党の主張とも通じるものがある。トランプ大統領は就任前から、イスラエルのネタニヤフ政権と一体化するような言動を繰り返してきた。歴代の米政権はイスラエル支持を表明してきたが、ネタニヤフ氏が率いる右派リクードよりも、和平推進を掲げる労働党政権との親和性が強かった。トランプ大統領のようにイスラエルの右派や極右との親密な姿勢は、これまでの米大統領にはなかった。 トランプ大統領の決定に対して、アラブ世界では反米デモなどはかなり抑制的である。ほとんどのアラブ諸国は若者たちが反乱を起こした2011年の「アラブの春」の後、強権化が進み、民衆による自発的なデモができなくなっている。サウジアラビアの王宮府はトランプ氏の決定を「無責任で正当化できない動き」と批判する声明を出したが、国内メディアに対してはこの問題の扱いを抑制するように指示したという報道も出ている。民衆の抗議デモが抑えられれば代わりに出てくるのは過激派によるテロである。 世界中からシリアやイラクに入って戦闘経験を積んだ「イスラム国」(IS)やアルカイダ系組織の戦闘員は、いま、軍事的に追い詰められて出身国への帰還や第3国へ移動しようとしている。しかし、受け入れ先での市民、住民の協力がなければ、戦士も動くことができない。今回のトランプ氏の決定によってイスラム教徒の間に広がる怒りを追い風として、イラク、シリアからのイスラム過激派の欧米、アラブ世界への帰還や拡散が進むことになり、いずれはテロという形で米国に向かうことになるだろう。

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    トランプ政権内の確執が生んだ唐突な「エルサレム首都」宣言

    ーナリスト) トランプ大統領は12月6日、ホワイトハウスのローズルームで行った演説の中でエルサレムにアメリカ大使館を移すことを決定したと発表した。言い換えれば、エルサレムをイスラエルの首都として承認したのである。 イスラエルは現在、政府と議会、最高裁をエルサレムに置き、実質的にイスラエルの首都として機能を果たしているが、大使館を置いている国は一カ国もない。アメリカは公使館を2カ所置いているが、大使館は他の国と同様にテルアビブに置いている。エルサレム問題はイスラエルとパレスチナの対立の核心の問題の一つであり、エルサレムをイスラエルの首都として承認することは、和平交渉を阻害することになると考えられていた。だが、トランプ大統領は、そうした世界の「常識」を大きく変える決定を行ったのである。 トランプ大統領は大使館移転の決定の理由として、1995年に米議会が可決した「エルサレム大使館移転法」によって、政府は大使館を移し、エルサレムをイスラエルの首都として承認することを求められている点を挙げた。同法はクリントン大統領によって署名されたが、これまで実行に移されることはなかった。2017年5月、エルサレムで演説するトランプ米大統領(左)に拍手を送るイスラエルのネタニヤフ首相(AP=共同) 歴代大統領が大使館移転を延長してきたのは、イスラエルとパレスチナの和平交渉を成功させるために必要だと判断したからである。トランプ大統領は、大使館移転延長にもかかわらず和平交渉は前進を見なかったと批判し、「まったく同じ方式を繰り返すことで異なった結果、あるいは良い結果が出てくると考えるのは愚かなことである」と指摘。そして「この行動(大使館移転)がアメリカの利益とイスラエルとパレスチナの間の和平追求に最も叶うと判断した」と、エルサレムをイスラエルの首都として正式に承認する狙いを説明した。 それにしても、「なぜ」という疑問は残る。そもそもアメリカ大使館をエルサレムに移すというのはトランプ大統領の選挙公約であった。だが、「エルサレム大使館移転法」には移転を猶予するウェイバー条項が含まれており、歴代大統領は6カ月ごとに同条項に基づき移転を猶予する決定を行ってきた。 実はトランプ大統領も6月に移転猶予を認める決定を行っている。テクニカルに考えれば、12月に再度、大使館移転猶予の決定を行うかどうか決めなければならなかった。トランプ大統領にとって、問題はアメリカ大使館をエルサレムに移転するかどうかではなく、いつ移転するかだった。そしてトランプ大統領は移転猶予が切れる12月に移転を決断した。 だが、大使館移転が決定されたのは、発表の直前であった。トランプ大統領の女婿で、トランプ政権で中東政策の責任者に任命されているジャレッド・クシュナー大統領上級顧問は12月3日にブルッキングス研究所で開かれたセミナーで、「大使館をエルサレムに移転するかどうか決まっていない」と語っている。それから3日後、トランプ大統領は大使館移転を決定したことになる。急ぐ必要がなかったエルサレム「首都移転」 要は、決定は緊急性を必要とする問題ではなかったのだ。トランプ大統領は6月に一度移転先送りを決定しており、12月に同様な措置を取っても事態は変わるわけではなかった。一部のメディアは、トランプ大統領の支持基盤であるユダヤ系アメリカ人とエヴァンジェリカル(キリスト教原理主義者)に対する配慮があったと説明している。エヴァンジェリカルは聖書に基づき、神はエルサレムをユダヤ人に与えると考えており、エルサレムをイスラエルの首都として承認することを求めていたからだ。 だが、トランプ大統領の支持基盤にアピールするためという理由だけでは、敢えて今、世界中の反発が予想される決定を行ったのか十分には説明はできない。さらにトランプ大統領はクシュナー氏に「最終的な交渉」の道を探るように指示し、4人で構成される中東チームが結成され、年明けに中東和平の青写真を発表する手はずになっていたという。 この4人とは、クシュナー氏と弁護士のブリーンバルト氏、デビッド・フリードマン駐イスラエル大使、ディナ・パウエル大統領副補佐官である。パウエル氏以外は皆ユダヤ系アメリカ人で、イスラエル支持派である。パウエル氏はエジプト出身で、キリスト教徒だ。4人は精力的に中東の指導者と面談を繰り返し、和平交渉の道筋を探っていた。こうした状況からすれば、中東チームが包括的な和平案を出してから大使館をエルサレムに移す決定を行っても遅くはなかったはずである。エジプトのシシ大統領(右)とクシュナー米大統領上級顧問=2017年8月、カイロ(中東通信提供、AP=共同) トランプ大統領の決定を、いつもの「気まぐれ」と判断するのは単純過ぎるだろう。決断するには、何らかの根拠があったに違いない。トランプ大統領は6月にイスラエルを訪問している。さらに、これまでイスラエルのベンヤミン・ネタニセフ首相とパレスチナ自治政府のマフムード・アッバス大統領とそれぞれ3回にわたって会談。また、大使館移転発表の数日前にネタニセフ首相と電話会談を行っている。これらを踏まえれば、トランプ大統領の決定を促す何らかの要因があったと考える方が自然である。 トランプ大統領が声明の中で触れているように中東和平交渉は行き詰まっていた。従来のやり方では打開策は見つからない状況にある。そうした状況に一種のショック療法を行ったとの見方もある。ただ、ショック療法は大きなリスクを伴う。中東和平交渉でアメリカは中立的な役割を果たし、「正直な仲介者」と見られてきた。 だが、トランプ大統領の決定は、アメリカはイスラエル側に立つことを意味する。そうしたリスクを敢えて犯してもよいという判断があったのかもしれない。単にトランプ大統領が親イスラエルであるだけでは説明できない。そのカギを握るのが、中東情勢の変化である。パウエル氏辞任表明の衝撃 現在、中東諸国にとって最大の脅威となっているのは、イスラエルではなくイランである。アメリカの雑誌『Commentary』の上席編集者のソーラブ・アーマリ氏は「中東の多くの国はイランに対抗する潜在的な同盟国としてイスラエルに期待している」と、中東情勢の変化を指摘している(同誌、12月6日、「Trump has a capital idea on Jerusalem」)。 中東諸国の中にはイスラエルとの関係を強化する動きが見られる。その代表格がサウジアラビアである。『ニューヨーク・タイムズ』によれば、11月にアバス大統領はサウジアラビアを訪問し、ムハンマド・ビン・サルマン皇太子と会談を行っている。その際、皇太子は和平案を提案している。その中に東エルサレムはパレスチナに返還しないとの項目が含まれていた。 さらにパレスチナ難民の帰国を認めないなど、パレスチナにとって厳しい内容も含まれていた。サウジはこうした厳しい条件をパレスチナに示す見返りに潤沢な経済援助を行う提案をしている。ただ、両国とも、そうした報道を否定している。だが、アーマリ氏は「アラブの主要国にとってイスラエル・パレスチナ和平交渉よりも反イラン同盟の方が重要になっている」と指摘している。 またアッバス大統領は高齢化し、パレスチナ内における影響力も低下している。先の見えない和平交渉をどこかで打開したいとの気持ちもうかがえる。またアメリカ国内でも、パレスチナに対する援助打ち切りの法案が提出されている。アバス大統領は、トランプ大統領の決定に対して「エルサレムをイスラエルの首都として認めるようなアメリカの政策、あるいはアメリカ大使館をエルサレムに移す政策は、平和交渉にとって脅威であり、パレスチナにとっても、アラブにとっても、国際的にも受け入れることはできない」と厳しい口調で批判している。 だが、膠着状況の和平交渉を打開し、前進させるためには、従来のやり方では通用しなくなっていることは明らかである。トランプ大統領の決定が交渉を新しい段階に導くのか、あるいはパレスチナやイスラム教徒から強烈な反発を招き、新たな流血事態につながるのか、まだ判断できない。そもそも、外交政策の動きは表面的には見えないものである。トランプ米大統領(右)とパウエル大統領副補佐官=2017年9月、ホワイトハウス(ロイター=共同) ただ、ひとつだけ気になる事柄を指摘しておく。それは中東チームの唯一の非ユダヤ人であるパウエル氏が辞任を発表していることだ。表面上は、パウエル氏は当初から1年の予定で補佐官の職務に就くと決めていたと報道されているが、トランプ大統領の政策や中東チーム内の政策を巡る確執があったのかもしれない。とすれば、トランプ大統領の行動は熟慮を重ね、中東情勢の微妙な変化を読み取ったものとは言えなくなるかもしれない。

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    「エルサレムが首都」パレスチナを裏切ったトランプの真意

    前嶋和弘(上智大総合グローバル学部教授) いったい何が起こったのか、と私も感じた。それくらい、今回のトランプ米大統領の発言には唐突感があった。新たな和平の枠組みがない中で、エルサレムをイスラエルの首都と承認し、大使館移転を行うことは、和平プロセスを根本的に破壊し、中東にもう一つ紛争の種をまくことになるのは必至だ。 しかし、トランプ氏の頭の中を想像するに、それなりの論理があるようだ。本稿ではそれを想像してみたい。 まず、比較的想像しやすいのが、昨年の大統領選挙で自分に投票してくれた人への「利益還元」である。具体的には強固な支持層である共和党のキリスト教保守派向けへの「感謝」のメッセージである。 米調査会社ピュー・リサーチ・センターによると、有権者の全体の26%を占めるキリスト教保守派(福音派、ボーンアゲイン)のうち、2016年にトランプ氏に投票したのは81%と圧倒的である。この数字は12年の78%、08年の74%よりも一段と大きくなっている。 このキリスト教保守層を固めるために、昨年の選挙戦でトランプ氏は副大統領に過去の米国の政治家の中で最も宗教保守的といえるペンス氏を任命した。さらにそれだけでなく、選挙公約として「イスラエルの永遠の首都はエルサレムとする」と何度も強調した。 それではなぜ、キリスト教保守派はイスラエルを大切にするのか。それは、ユダヤ教とキリスト教は同根(「ユダヤ・キリスト教」)であるという意識が強いためだ。「イスラム教に比べれば…」という意識もある。 ここで注意しないといけないのは、ユダヤ教徒ではなく、キリスト教保守層向けという点である。全米の人口の3%程度を占めるといわれるユダヤ系は、16年の大統領選でもそうだったが、常に7割程度が民主党に投票するように、一枚岩ではない。ホロコーストの歴史を経験したユダヤ系は多様性や人権を重視する民主党の方に親和性があるという構造である。だから、穏健派は今回のトランプ発言に一斉に反発している。 日本でもよく引用される米国のユダヤ教の有力利益団体に、米国イスラエル公共問題委員会(AIPAC)のようなイスラエル寄りの強硬派団体がある。トランプ氏の娘婿、クシュナー大統領上級顧問はこのAIPACと強い関係にある。トランプ米大統領(右)と娘のイバンカ大統領補佐官(中央)、娘婿のジャレッド・クシュナー大統領上級顧問=2016年6月、ニューヨーク(ロイター=共同) しかし、強硬派の団体がある一方で、「Jストリート」というリベラル寄りの団体もある。Jストリートはトランプ発言直後に「大きな間違い」という声明を出した。特にリベラル派のユダヤ人にはイスラエルと距離を置こうとする人たちもおり、筆者が数年前に米国の学会に参加した際、急に「全体集会で反イスラエル決議をまとめる」という極めて政治的な動きに直面し、やや面食らった。この決議の中心にあったのが、リベラル派のユダヤ系の大学研究者だった。宣言後に残ったトランプの「矛盾」 そのような中で不思議なのが、今回の発言でイスラエルとパレスチナが共存する「二国家解決」をトランプ氏は崩していない点である。さらに注目したいのが、大使館移転繰り延べ命令に、結局トランプ氏が署名した点である。1995年に議会を通過したエルサレムへの大使館建設法案を延期してきた歴代の大統領を散々批判した後で、トランプ氏は過去の大統領と同じよう対応を選んだ。 この矛盾するトランプ氏の言動をさらに想像してみる。過去25年ほどの間、イスラエルが常に優勢である中、そもそもパレスチナ和平が全く進む可能性が見えない。乱暴だが逆にエルサレムをイスラエルのものと認めて、和平の中立的な仲介役としての米国の立場を捨てようと思ったのではないか。米国が和平から抜ける一方で、パレスチナ和平をイスラエルとパレスチナの間で進めさせた方が現実的な和平になるという「ショック療法」だったかもかもしれない。 「首都承認」発言後、イスラエルのネタニヤフ首相に「あまり公に喜びすぎるな」とトランプ氏が伝えたと言われており、それを見るとショック療法である可能性も確かに見える。ただ、そんな破天荒な治療がどれだけうまくいくかわからない。2017年12月、パレスチナ人の抗議デモで燃やされるトランプ米大統領やイスラエルのネタニヤフ首相の写真=パレスチナ自治区ガザ(ロイター=共同) ただ、今回のトランプ氏の発言は国際社会からの反発は必至であり、すでに多くの混乱が起こりつつある。イスラム国との戦争で力をつけたレバノンのシーア派組織ヒズボラなどがイスラエルへの攻撃に踏み切る可能性もあろう。最近米国との関係が悪化しているトルコの反発なども考えられるだろう。 ここ数年の中東情勢の変化の中で、何と言ってもイランの台頭が大きい。「アラブの春」でアラブ諸国が大いに動揺し、そこにイランが進出している形だ。トランプ氏が今年5月、最初の外遊先としてサウジアラビアを選んだのは偶然ではない。この外遊でイランを敵視することでつながるサウジアラビア、エジプト、イスラエル、米国で「対イラン包囲網」を作ろうという狙いが明確にしている。 サウジアラビア、エジプトはイスラム世界から非難され、トランプ氏の発言を取りあえず強く批判した。トランプ政権に近い両国が「はしごを外された」として、非難の姿勢をどう取るかは難しいところだが、本音の部分では対イランで米国と組む方が得策という考えもあるのかもしれない。 これまでの秩序をぶっ潰す「壊し屋」トランプ氏。この難しい「怪物」とわれわれはうまく付き合っていかなければならないことを今回の発言を通じてさらに痛感した。

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    「米国の手先」日本も標的? エルサレム問題でイスラム国が復活する

    和田大樹(外交・安全保障研究者、清和大講師) 米国のトランプ大統領が12月6日、エルサレムをイスラエルの首都と容認し、数年以内に最大都市テルアビブから米国大使館を移転させるという前代未聞の方針を明らかにした。トランプ氏は大統領選の時から、エルサレムに移動させることを公約としてきたが、今回の決定の背景には、国内のキリスト教福音派など自らの支持層の期待に応える狙いがあるとみられる。 当然のことながら、この決定に対してはパレスチナをはじめ、サウジアラビアやヨルダン、エジプト、マレーシアなどイスラム圏諸国に加え、欧州や国連などから既に非難や懸念の声が続出しており、今後の中東情勢の先行きが不安視されている。特に、今年10月中旬にはパレスチナ自治政府の主流派ファタハとガザ地区を実効支配するイスラム原理主義組織ハマスが、10年に及ぶ分裂に終止符を打つための和解案に署名するなど、中東和平へ明るい兆しが見え始めていた時期だけに、両者からは怒りとともに悲嘆の声さえも聞こえる。2017年12月6日、米ホワイトハウスでエルサレムをイスラエルの首都と認定すると発表したトランプ大統領(UPI=共同) しかし、今回の決定が与える影響は、米国とアラブ諸国を中心とする国家間関係だけで収まる気配はなく、国際的なテロ情勢にも一定の影響を与える可能性がある。ここでは、米国によるエルサレム首都容認が今日の国際テロ情勢に与える影響と、それによる日本権益へのリスクについて危機管理の視点から考えてみたい。 米国によるエルサレム首都容認に各国から懸念の声が高まる今日、2014年以降猛威を振るってきた過激派組織「イスラム国」(IS)は、シリアとイラクで領域支配をほぼ完全に喪失した。一般世論では、9・11以降のアルカーイダに続き、ISの時代も終わったとの風潮が流れている感があるが、現実はそう易しいものではない。 まず、多くのIS戦闘員は殺害、もしくは拘束されたものの、依然として逃亡を続ける戦闘員がいる。こういった戦闘員は支配領域を失ったとしても、内戦や戦闘が続くシリアやイラクでテロ組織としての活動をひそかに継続し、組織として復活できる機会を狙うことになるだろう。 また、既に母国や第三国に移動した戦闘員もいるが、帰還者による母国でのテロの脅威に加え、ISとしての信念を持ち続ける戦闘員らが周辺諸国や他地域に移動し、再度、模擬国家構築を目的とする戦闘を開始することが懸念される。既にフィリピン南部のミンダナオ島マラウィやリビア中部のシルトはそれに近い状況にあったといえるが、第三国へ移動した戦闘員たちはその機会をうかがいながら、ひそかに活動を続けることになるだろう。動き出すIS残党とアルカーイダ さらに、ISによる領域支配の時代が終わったとしても、そのイデオロギーやブランドの影響を受けた個々人による、いわゆるローンウルフ(一匹狼)型のようなテロが終わる気配は全く見えない。近年、ISによるプロパガンダ活動は衰退の一途をたどっているが、ISの戦闘員や支持者らは、ISの求心力を保つためにも短期的にはその活動を継続するだろう。イラク北部モスル南方にある監獄で座る過激派組織「イスラム国」(IS)のメンバーとみられる男ら=2017年7月(AP=共同) 一方、1988年にウサマ・ビンラーディン(2011年5月に死亡)が創設した国際テロ組織アルカーイダは、9・11以降米軍主導の対テロ掃討作戦で多くの幹部を失い、組織として弱体化したことは事実であるが、内部における権力闘争など紆余(うよ)曲折はあるものの、今日においても、アラビア半島のアルカーイダ(AQAP)やアルシャバーブ(ソマリア)、インド亜大陸のアルカーイダ(AQIS)、イスラム・マグレブ諸国のアルカーイダ(AQIM)など、アルカーイダ指導者のアイマン・ザワヒリ容疑者に忠誠を誓う組織が中東・アフリカ、南アジアなどで活動している。 ISの前身組織がイラクのアルカーイダ組織(AQI)で、ISとアルカーイダは手段・方法などで違いは見られるものの、初期のイスラム時代への回帰という目標をグローバルなレベルで掲げるサラフィスト(イスラム厳格派)グループで、今日でも依然としてその意思を強く持っている以上、彼らのグローバル・ジハード運動は今後も続くと判断せざるを得ない。そして、その攻撃能力は諸国家の軍事力に及ばないことは言うまでもないが、米国を中心とする欧米諸国やその同盟国、中東の権威主義的・世俗的な政府を攻撃する意思に変化は見られないことから、われわれは安全保障・危機管理の観点からそれにどう対処していくかを継続して考える必要があろう。 トランプ氏による決定後、早速ISやアルカーイダなどジハーディスト(聖戦主義者)グループは強く非難する声明を出している。それらをまとめると、まず、アルカーイダ系ではその本体であるアルカーイダ・セントラル(AQC)が、イスラム教徒に対して「米国とその同盟国の権益を攻撃せよ」と呼び掛け、その系統グループであるAQIMやAQAPもトランプ氏の決定を非難し、全世界のイスラム教徒に対して、資金的・軍事的支援をするなどしてパレスチナ解放のために連帯するよう訴えた。 また、アルカーイダ系とされるハヤート・タハリール・シャーム(HTS)、インド北部カシミール地方やガザ地区を拠点とするジハーディストグループからも同様の声明が発信された。一方、アルカーイダと対立関係にあるISの支持団体(支持者)からも、米国の決定を非難する声明が次々に出ており、中には欧米諸国での単独的な攻撃を呼び掛けたりするものもある。さらには、エジプトを拠点とするムスリム同胞団系のハサム運動やアフガニスタンの反政府勢力タリバンからも同様の声明が出ている。「声明」からわかる三つのポイント 本稿執筆時点でトランプ氏の宣言から3日が過ぎるが、上記からも世界各地のジハーディストたちが強く反発していることが分かる。そしてそれらの声明から、現時点で分かることが三つある。 まず一つ目は、アルカーイダ関連の組織による非難声明が多いということだ。AQCやAQIM、AQAP、HTS、アルシャバーブなど、中枢とその関連組織の非難声明が2日間という短い期間に一斉に発信されたことは、今まで見られなかった現象だ。なぜアルカーイダ系グループの発信が目立つかというと、それは簡単に説明すれば、アルカーイダはISよりエルサレムを重要視するということに尽きるが、領域支配を継続してきたISが崩壊したというタイミングも戦略的にはあったのかもしれない。特に、近年何か大きな出来事があっても、AQCがここまで早く明確な声明を出すのは珍しい。 二つ目は、ISのプロパガンダ活動の顕著な衰退である。今回のトランプ氏による決定は、ジハーディストたちにとっては自らの主義・主張の正当性をアピールするチャンスであるはずだが、IS関連の声明は以前に比べると目立たない。特に、支持者でなくISの公式メディアからの発信が執筆時点で見られないことからは、ISの顕著な衰退というものを想像させる。 しかし、上でも触れたように、ISが弱体化したからといって、ジハーディストによるテロの脅威が衰退するわけではない。それは別問題と考えるべきで、それが三つ目である。2017年12月11日、ニューヨークで起きた爆発で、現場付近を封鎖する警察と消防(ロイター=共同) 昨今、テロ対策研究の世界では、ISの弱体化に伴い、ISとアルカーイダの関係の行方を模索する動きが顕著にみられる。その中では、ISとアルカーイダの対立の継続の他に、両者の共闘、接近、もしくは合併などの議論が行われており、今後のテロ情勢の動向を不安視する声が聞かれる。その行方を予想することは難しい。しかし、今回のトランプ氏の決定は、少なくとも「米国・イスラエルvsアラブ」という図式を明らかに緊張化させることとなった。個人的にもトランプ氏の判断には反対の姿勢であるが、今回の決定による中東の不安定化は、繰り返しになるが、アルカーイダやISにとっては自らの存在をアピールするチャンスになっており、ひいては両者を共闘、もしくは接近というものを助長する要因にならないかが懸念される。 では、今後の情勢はわれわれ日本人にどのような影響を与えるのだろうか。遠い中東地域の出来事であるから、日本人が直接の影響を受けることはないのだろうか。答えは「NO!」だ。「日本標的」の口実を与えるな 表1(筆者作成)は、過去20年間で日本人がジハーディストによるテロの被害を受けた事件をまとめたものである。これを見るだけで日本人が断続的にテロの被害に遭っていることが分かる。そしてその多くは、「巻き込まれた」テロ事件であるが、「日本人だから殺害対象となった」事件もあることを忘れてはならない。この年表の中では、2004年10月のイラク日本人青年殺害事件と15年1月のシリア日本人男性殺害事件がそれに当てはまる。周知の通り、これらの事件で被害に遭われたのは、香田証生さん(当時24)、後藤健二さん(当時47)、湯川遥菜さん(当時42)であるが、現在でも同様のリスクは存在し、今後も日本人が殺害対象として狙われる可能性も決して排除できない。 04年10月と15年1月の事件で共通しているのは、テロリストが米国と協調関係にある日本を非難していること、そして何よりテロリストは国際政治の流れをよくウォッチングしているということだ。日本は歴史的に中東諸国と戦争をしたことがなく、中東における日本のイメージは一般的には非常に良い。しかし、このようなジハーディストたちは、国際情勢、国際政治の流れを独自に解釈し、「日本は米国の同盟国であり、欧米の手先だ」と判断することはよくあり、日本も決して彼らの標的の外ではないのである。 われわれは過去の教訓を決して忘れてはいけない。過去の事例からは、以上のようなリスクがあることを十分に認識する必要がある。現在のところ、今回のトランプ氏の決定に対して多くの国や国際機関から非難の声が集まっているが、日本政府は明確な非難を避けている。最も、日本の国益を考えるとそうならざるを得ないだろうが、それはISやアルカーイダなどのジハーディストグループに、日本を標的とするという口実を与えることになる恐れがある。2017年9月、会談を前に握手する安倍首相(左)とイスラエルのネタニヤフ首相=米ニューヨークの国連本部(代表撮影・共同) 今回のトランプ氏の決定は、特にアルカーイダにとっては最もセンシティブな問題で、彼らの怒りを最も買う出来事といえるだろう。2015年以降、故ビンラーディン容疑者の息子であるハムザ・ビンラーディンの存在が顕著になっている。昨今もハムザは、イスラエルと米国を攻撃せよというメッセージを発信しており、今後の国際テロ情勢の先行きが不安視される。現在のところ、ジハーディスト情勢で何か大きな動きがあるわけではない、しかし、われわれ日本は過去の教訓から以上のようなリスクがあることを十分に認識し、今後の情勢を危機管理的な視点から注視していく必要がある。

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    三大宗教の聖地 エルサレムで触れたイスラエル人の日常生活

     イスラエル軍がパレスチナ・ガザ地区への侵攻を行う昨今。ニュースでは多数の死者が出ていることが報道されており、この国への注目は日に日に高まっている。日本人には物騒な印象のイスラエルだが、実際に訪れてみると、人々は働き、物を買い、食べて飲んで祈り、世界の街で見てきたものと変わらない人々の生活があった。 筆者が滞在した街は、ユダヤ、イスラム、キリスト教徒の聖地があるエルサレムだ。観光地としても人気があり、各宗教の巡礼者をはじめ、多くの旅行者がこの街を訪れている。?城壁に囲まれた旧市街には、石造りの細い路地が続き、数多くの史跡が立ち並んでいた。建物は石造りで、中世の町並みをそのままに保存している。 高低差の激しい土地に建設されたからか、街を歩く時は常に、坂道や階段を登ったり降りたりする必要がある。この町並みの中をイスラエル料理のファラフェル(ひよこ豆のコロッケ)でもつまみながら散歩したりすると、別の時代に迷い込んだようで楽しい。イスラエル、エルサレムのバザール(iStock) 街はユダヤ教徒、イスラム教徒、キリスト教徒ごとに居住区が決められており、ユダヤ・キリスト教徒の居住区は比較的きれいに保たれている。イスラム教徒の居住区はゴミがまばらに落ちている印象があるが、賑やかで雑多な商店が立ち並んでおり、他の居住区に比べると人々も活気に満ちている。 旧市街の城壁を出て新市街に出ると、国立のイスラエル博物館周辺の広い公園では、家族連れがBBQをしており和やかな空気が流れていた。新市街の目抜き通りでは、軍服姿の若者の姿が目立つ。イスラエルでは一部の例外を除き、男女共に18歳から兵役が義務づけられている。 街で見かけた兵士の一人は、警備任務の休憩中か、サボり中なのかは分からなかったが、サブマシンガンを肩にかけたままアイスクリームを口にしていたり、ブティックの買い物袋を下げた兵隊も見かけた。初めて見たサブマシンガンは重く冷たく感じたが、地元の人は気にするそぶりもなかったので、エルサレムでは日常的な風景なのだろう。 国民の安全な生活を守るため、イスラエルでは徹底した治安管理が行われている。まず、大きなショッピングモールに入るには、荷物のチェックが必要だ。空港のセキュリティチェックと同様、ゲートをくぐり、荷物はX線で中身を確認される。出国するときも、バッグの底まで荷物を調べられ、パンツ一丁になるまでボディチェックを行われた。 厳しい治安管理のためか夜間の一人歩きも、地区によっては問題ない。新市街にはデートに使いたくなるような洒落たレストランもあるし、クラブや、酒場だって当然ある。若い人がそのような場所で笑い、楽しんでいるのは、他の世界の大都市と変わらぬ風景だ。 筆者がエルサレムで滞在した宿は、迫害を逃れたキリストがローマ軍に捕まったとされる“オリーブの丘”を登った先にあった。イブラヒムというおじいさんが自宅を開放している宿で、食事付きで料金も安いため、日本人のバックパッカーから人気のある宿だ。この宿がある地区はイスラム教徒が多く、住んでいるのは主にアラブ人だ。路上で遊ぶ子供がいきなり… 宿に滞在して数日が経った時、事件が起こった。路上で遊んでいる子供の前を通りがかった時「ハーイ!」と挨拶をされたのだが、続けざまにツバを吐きかけられたのだ。ツバはこちらに届くことはなく、筆者は自転車に乗っていたため、その場は走りすぎたが、一瞬、何が起きたのか分からなくなった。こちらはただ通り過ぎただけなのだ、何も悪いことはしていない。 夜、宿に帰って、ボランティアで長期滞在しているタイ人の女性に話をしたところ、彼女も石入りの雪玉を投げつけられたと聞いた。この時も特に理由はなかったそうだ。その雪玉は彼女の額に当たり、流血したそうだが、周辺住民との衝突を避け、泣き寝入りしたと聞いた。 言葉が通じない中ではお互いのバックグラウンドが分からず、相手をアイコン化して捉えてしまいがちで、誤解が生まれやすい。イスラエルは経済協力開発機構(OECD)の調査で、相対的貧困率(大多数よりも貧しい「相対的貧困者」の全人口に占める比率)が高いとされた国のひとつだ。 見た目が彼らとは違い、イスラエルでは目立ちがちな私たちアジア人は、海外に旅行できる裕福な人種として、子供たちの嫉妬を買ったのかもしれない。この出来事を通して、少しやるせない気分になったが、もちろん、エルサレムのアラブ人の子供が、そのようなことをする子供だらけなわけではないことを追記しておく。 ストリートアートのスター、バンクシーのウォールアートを見にパレスチナ自治区に足を踏み入れた時も、そこには変わらない人々の暮らしがあった。パンを作る人、タクシーの運転手をする人、お土産を売る人、カフェでコーヒーを飲む人。小銃を持った警備兵がいる以外は物騒な気配は微塵もないと感じた。イスラエルは旅行者にとって大変魅力的な土地である。かの国の人々に平和が戻り、また訪問できる日が来ることを、筆者は願ってやまない。(文・鈴木雅矩)関連記事■ モサドの強みは世界を敵に回してでも生き残る国是と佐藤優氏■ 落合信彦氏 イランのミサイル2万発がイスラエルの射程圏内■ 「不倫」表す隠語 オランダでは「こっそり猫を盗む旅に出た」■ 落合信彦 イランの核開発はイスラム世界の覇権握るためと指摘■ タスキ掛けした鞄の紐で胸が強調 「パイスラ」を下から撮影

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    エルサレムを首都に「選挙公約守る男」を誇示するトランプ

    佐々木伸 (星槎大学客員教授) トランプ米大統領は6日、パレスチナ人とユダヤ人の係争の聖地エルサレムをイスラエルの首都と認め、米大使館を同地に移転させる方針を発表した。パレスチナなどアラブ各国はもとより欧州からも一斉に反発する声が上がっており、イスラム世界で反米デモの嵐が起きる懸念が強い。 トランプ大統領は発表で、この決定が「現実を認める以外の何ものでもない。これがやるべき正しいことであり、実施されなければならない」と言明した。しかし、70年も続いてきた米国の政策転換は衝撃的だ。まずはこれがどれほど重大で深刻なことなのかを確認する必要があるだろう。 エルサレムの旧市街地には、ユダヤ教、キリスト教、イスラム教の聖地が集中する。ユダヤ教では、古代エルサレム神殿の外壁である「嘆きの壁」、イスラム教徒では預言者ムハンマドが昇天したという「岩のドーム」とアルアクサ・モスクがある。(iStock) イスラエルは1967年の第3次中東戦争で占領・併合した東エルサレムを含め、エルサレムを「不可分の永遠の首都」と主張してきた。しかしパレスチナ側は東エルサレムを将来の独立国家の首都と位置付け、エルサレムがどちらに帰属するかは中東和平交渉の中で、最も困難かつ微妙な問題とされてきた。 このため、各国はエルサレムではなく、商都テルアビブに大使館を置き、エルサレム問題との関わりをあえて回避してきた。これは米国も同様だが、ユダヤ系米国人の影響力が強い米議会は95年、エルサレムをイスラエルの首都とし、大使館移転を政府に求める法律を可決した。 しかし、中東和平の中立的な調停者を演出してきた歴代大統領は外交・安全保障上の理由からとして、半年ごとにこの移転の実施を延期してきた。トランプ氏は昨年の選挙の公約の1つとして、大使館のエルサレム移転を掲げたが、今年6月に一度移転を延期し、12月4日が2度目の延期期限だった。 米メディアなどによると、トランプ氏が6月に延期したのは、中東和平交渉への影響や、反米感情の高まりなどを懸念する政権内部の意見を考慮したからだ。しかし、大統領は延期せざるを得なかったことに我慢がならなかったようで、ホワイトハウスではこの数ヶ月間、移転決定に向けて集中的な検討が行われてきた、という。 つまるところ、トランプ氏は「選挙公約を守る男」であることを断固示したかったということだろう。同氏は既存のエスタブリッシュメントやエリートの意見を嫌い、「米第一主義」に見られるように、“外交的な常識”にとらわれないことを実証してきたが、今回もそうしたトランプ流のやり方で、「歴代大統領とは違う」というところを誇示する意図があるのは間違いない。 トランプ大統領の側近らによると、大統領はエルサレムが単に、歴史的にイスラエルの首都であるという現実を認めているにすぎず、中東和平交渉への関与など他の政策は今後もなんら変わるところがない、という。しかも、実際に移転するまでには、3年から4年必要で、テルアビブに大使館を置いている現状には当面変化がない、としている。大統領は娘婿のクシュナー上級顧問を和平交渉の中心に据えている。イスラム教徒のレッドライン しかし、こうした理屈は大統領の決定を正当化しているだけで、長年続く歴史的な紛争の実態を無視した無謀な論理と言わざるをえない。オバマ政権下で中央情報局(CIA)長官を務めたジョン・ブレナン氏は米紙に対し「無謀かつ外交政策の大失敗」と批判し、中東における米国の権益を向こう何年にも渡って損ない、地域を不安定なものにするだろう、と警告した。 トランプ大統領がどのような理屈づけをしようが、米国がイスラエル寄りに大きく踏み出し、中東和平の中立的な調停者としての立場を放棄したというのは確かなことだ。トルコのエルドアン大統領が「エルサレムをイスラエルの首都と認めるのはイスラム教徒にとってのレッドライン」と言明しているように、中東和平交渉が破綻する恐れが強い。 トランプ大統領の決定が伝えられると、世界各国から非難の声が上がった。パレスチナ自治政府は無論のこと、アラブ各国はじめ英仏独など欧州諸国からも米国に対する批判が集中した。2017年12月、ヨルダン川西岸ラマラでトランプ米大統領の写真を手に抗議するパレスチナ人ら(AP=共同) ただし、アラブの大国であるサウジアラビアやエジプトは表面的には米国の方針に懸念を表明しても、パレスチナを支援する行動は取らない公算が強い。特にサウジのサルマン国王体制はトランプ政権との関係を一段と深めており、最大の関心はパレスチナ問題ではなく、イランの影響力拡大阻止にあるからだ。 とは言っても、「反米行動に火が付けば、パレスチナだけではなく、イスラム諸国全体に反米デモの嵐が吹き荒れるかもしれない。米国は1人の大統領の自己満足のために、退っ引きならない窮地に立たされかねない」(ベイルート筋)という指摘もある。 過去にも、2012年には預言者ムハンマドを侮辱した映像が米国で制作されたことにイスラム教徒が反発して反米デモが各地に波及。また米軍兵士が聖典コーランを焼却したことが明るみに出て、その時にも反米デモが起きた。パレスチナでは、6日から3日間を「怒りの日」と名付け、すでに不穏な空気が渦巻いている。暴力の連鎖が起きる懸念がある。 イスラエルの米大使館には1000人を超える外交官がいるが、国務省はテロなどに巻き込まれないよう、エルサレム旧市街地やヨルダン川西岸への立ち入りを禁じた。また中東各国の大使館などに対しても過激派の攻撃などに備え厳戒するよう指示を出した。 米国の決定で中東情勢が悪化する恐れから6日の日経平均も大きく下がった。エルサレム問題は世界に暗雲を投げ掛けようとしている。ささき・しん星槎大学客員教授。共同通信社客員論説委員。ベイルートやカイロ支局長を経て外信部副部長、ニュースセンター長、編集局長などを歴任。

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    窮地トランプ大統領を「応援団」は救えるのか?

    びつけて注視していく必要があるということです。うんの・もとお 明治大学政治経済学部教授、心理学博士。アメリカン大学(ワシントンDC)異文化マネジメント客員研究員(08~10年、12~13年)。専門は異文化間コミュニケーション論、異文化マネジメント論。08年及び12年の米大統領選挙においてオバマ陣営にボランティアの草の根運動員として参加。16年米大統領選挙ではクリントン陣営に入る。著書に「オバマ再選の内幕―オバマ陣営を支えた日本人が語る選挙戦略」(同友館)など多数。

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    なぜトランプは金正恩を「ロケットマン」と呼び続けるのか

    の一般討論演説を行うトランプ米大統領=2017年9月19日(ロイター) さて、2017年9月19日にアメリカ大統領であるドナルド・トランプは、就任後初めての国連総会での演説で、北朝鮮の最高指導者である金正恩を「ロケットマン」と呼び、「アメリカと同盟国を守ることを迫られれば北朝鮮を完全に破壊する以外の選択肢はない」と恫喝した。 それに対して、北朝鮮の最高指導者である金正恩は21日に声明を発表し、トランプの演説を批判して「トランプが何を考えていたとしても、それ以上の結果を目の当たりにすることになるだろう。アメリカの老いぼれ狂人を必ず、必ず、火で制するだろう」と応酬。北朝鮮の外務大臣である李容浩も、23日に国連総会でトランプを「誇大妄想と自画自賛を重ねる精神異常者」と呼び、「アメリカ全土への我が国によるロケット攻撃が避けられなくなる」と恫喝した。 フルシチョフに比べれば穏やかとはいえ、国連総会を舞台に米朝がお互いに口汚く相手を罵って恫喝したことで、実際に戦争になるのではないかと危惧した向きも多かろう。もちろん、その可能性がゼロとは言わない。しかし、まず、北朝鮮はなぜアメリカを恫喝しているのかを理解する必要があろう。 北朝鮮がアメリカを口汚く罵って恫喝することは今までも珍しくなかった。なぜ北朝鮮がアメリカに恫喝のメッセージを送るのかは抑止論のゲームによって説明できる。北朝鮮の核兵器とミサイル開発の目的が、アメリカに対する抑止力を持つためであったことは、もはや議論の余地はないだろう。援助やそのための対話を求める瀬戸際外交であるならば、アメリカを攻撃するぞと恫喝する行動を説明できないからである。恫喝されれば援助を送るアメリカではないだろう。では、抑止論のゲームから北朝鮮がなぜアメリカに対して恫喝するのかを説明しよう。北の米に対する抑止ゲーム 抑止論のゲームは、展開型ゲームによって説明される。視覚的にはゲームツリーが最も分かりやすいであろう。北朝鮮のアメリカに対する「抑止ゲーム」を描いたゲームツリーの図を見てもらいたい。この「抑止ゲーム」の結果は、北朝鮮とっての「現状維持」、「宥和(ゆうわ)・降伏」、「戦争」の3つがあり得る。アメリカが「攻撃の自制」を選択すれば、「現状維持」になる。アメリカが「攻撃の実行」を選択し、北朝鮮が「反撃の放棄」を選択すれば、北朝鮮の「宥和・降伏」になる。アメリカが「攻撃の実行」を選択し、北朝鮮が「反撃の実行」を選択すれば、「戦争」になる。北朝鮮にとって、「現状維持」が最も平和な状態であり、最良の結果である。そして、アメリカからの攻撃に対して「宥和・降伏」することは国家が消滅する可能性もあり、最悪の結果である。「戦争」は、その中間の結果である。北朝鮮のアメリカに対する「抑止ゲーム」を描いたゲームツリー アメリカにとっては、北朝鮮が「宥和・降伏」することが最良の結果であり、北朝鮮と「戦争」になることが最悪の結果である。「現状維持」は、その中間の結果である。となると、北朝鮮とアメリカの両者にとって、「現状維持」が最良の結果であることになる。そのために、北朝鮮は、アメリカに「攻撃の自制」を選択させて、「現状維持」の結果をもたらすようにしようとする。それは、アメリカが「攻撃の実行」を選択すれば、北朝鮮が必ず「反撃の実行」を選択して「戦争」になることをアメリカに認知させることである。もしアメリカが「攻撃の実行」を選択しても、もしかしたら北朝鮮が「反撃の放棄」を選択するかも知れないとアメリカが認知すれば、アメリカが「攻撃の実行」を選択する可能性が出てくるからである。 そのために、多くの人々の直感とは異なるであろうが、「抑止ゲーム」で分かることは、北朝鮮は「やられたら必ずやりかえす」とアメリカに恫喝のメッセージを送り、実際にやりかえせる能力を持っていることを核実験やミサイル実験で示しておくほうが、最も平和な状態を維持できるということになる。反対に、北朝鮮が平和で友好的なメッセージをアメリカに送れば、アメリカが「攻撃の実行」を選択する可能性が高まり、「宥和・降伏」や「戦争」といった「現状維持」よりも悪い結果を北朝鮮にもたらすことになる。だから、「抑止ゲーム」では、北朝鮮は、最善の選択として、核実験やミサイル実験を繰り返し、恫喝のメッセージをアメリカに送り続けるはずである。 実際の北朝鮮も、そのために恫喝のメッセージをアメリカに送っているのである。同じことが、アメリカにも言えるであろう。奇妙な話であるが、「抑止ゲーム」では、米朝がお互いに口汚く罵って恫喝している方が、戦争が起こる可能性が低くなることになるのである。(文中敬称略)

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    トランプの外交予定からわかること

    岡崎研究所 9月28日付のワシントンポスト紙に、同紙コラムニストのイグネイシャスが「トランプの政策への手がかりが欲しい?彼の予定を見よ」と題する論説を寄せています。論説の要旨は、次の通りです。 トランプ大統領が中国他アジア諸国を訪問する予定であることは、地域で何が起こるかを、ツイートや噂話などよりもよく示してくれる。 北朝鮮との戦争の可能性は恐ろしい。しかし、習近平との会談に赴く大統領が核攻撃の雲の中を飛んでいくことはない。習近平は北朝鮮に圧力をかけるとの約束を訪問前に実施するだろうか。習近平がそうする可能性は大きい。 解任の噂の絶えないティラーソン国務長官についてはどうか。彼は、トランプ訪中の準備をしている。その彼が今、首になることは考え難い。 混乱した大統領府をフォローするうえで、難しい問題は大統領周辺の蔭口から実際の政策を分別することである。トランプは、「気まぐれ」で動いているようだ。司法長官セッションズを公に侮辱したが、引き続き一緒に働いている。上院院内総務マコーネルに腹を立て、民主党のシューマーとの良い関係をみせたが、数週間後には共和党の機嫌を取っている。 このホワイトハウス・ハリケーンの中心にいるのがティラーソンとマティス国防長官である。二人の同盟は安定しているように見える。ヘイリー国連大使をティラーソンの後任にするとの噂は絶えないし、それは今後ありうるが、ティラーソンが中国訪問と北朝鮮への外交戦略を指揮している今はない。会談を前に握手するティラーソン米国務長官(左)と河野外相=2017年11月5日、東京都 外遊が外交政策を説明する。トランプは最初の外遊でサウジを訪問し、壮麗な歓迎を好んだ。ムハンマド・ビン・サルマン皇太子を改革者として評価し、サウジとUAEがカタールに圧力をかけた時には、サウジ側に立った。ティラーソンはこの紛争は調停されるべきだと主張し、トランプをイライラさせた。しかし今月、トランプはティラーソンの見方に近づき、サルマン国王とカタールの首長に電話し、紛争を解決する時だと述べた。努力は失敗に終わったが、さらなる努力がありうる。トランプはまだサウジ支持であるが、ティラーソンとマティスがこの問題で共同戦線を取っている。 ただティラーソンは最近、国務省の伝統的政策分野、難民政策を大統領府のステファン・ミラーに譲り、ミラーは受け入れ上限を4万5千人という最近の最低に定めた。 我々はトランプの扇動的なツイートより、彼が何をするか、彼がどこに行くかを見て、わかることがある。北朝鮮を攻撃しようとしている大統領は中国への11月の訪問を予定はしない。出典:David Ignatius ‘Want a clue to Trump’s policy? Look at his schedule’ (Washington Post, September 28, 2017)トランプが訪中して達成すべきこととは イグネイシャスはワシントンの内部状況に詳しい人であり、いつも傾聴に値する論説を書いています。 この論説は、トランプ大統領が11月に北京、東京などを訪問予定であることから、米国と北朝鮮との戦争はしばらくないと推定しています。これは正しいでしょう。ただ、平和的な関係を作るのには、2か国の合意がいりますが、戦争は1か国だけで始められます。したがって、この論説は、北朝鮮から攻撃を仕掛けることはないとの前提で書かれています。これも正しいでしょう。専用機に乗り込むトランプ米大統領=2017年11月3日、米メリーランド州(ロイター=共同) 米国と北朝鮮の戦力は、巨人と小人の違いがあり、米国が本気で攻撃すれば北朝鮮はひとたまりもありません。金正恩は、米国の攻撃を抑止するために核とミサイルを開発しているのであって、北朝鮮から仕掛けることはあり得ないと思われます。北朝鮮の暴発を言う人もいますが、そんなことは考え難いです。 問題は、米国が北朝鮮の挑発的行動をどれほど我慢できるかです。北朝鮮は米国の攻撃を招くことはない範囲内で、挑発行為を引き続き行うと思われますが、米国の反応を読み間違える危険があります。国内事情があるのかと思われますが、危険な火遊びはしない方がよいでしょう。 第2次朝鮮戦争になると、ソウルは火の海になり、日本にも戦火が及ぶ危険があります。米韓の軍事的オプションのあり方については、全面戦争に至らない諸段階があり得ます。注意深く考えていく必要があります。 トランプ大統領は訪中に際し、北朝鮮問題について深く突っ込んだ話をし、米中間で何らかの合意を達成することを目指すべきでしょう。米韓軍は38度線を越えて北朝鮮には行かないとか、将来の朝鮮半島をどうするか、統一するかまたは二国家継続にするか、中国軍が北朝鮮北部に進駐することを難民対策上認めるかなど、米中間で話し合うべき問題はたくさんあります。 この問題は外交的に解決すべく努力すべきです。米中間での了解を作る外交が最も重要です。外交の重点は、無意味になることが明らかな米朝対話に置かれるべきではありません。 ロシアについては、プーチンは問題があるところに絡み、ロシアの影響力を強めることを狙う性向があり、ロシアを本件に絡ませることには注意深くあるべきと考えます。北朝鮮の米局長がロシア外務省で何を話したのかわかりませんが、ロシアは北朝鮮の立場に理解を示したように報じられています。

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    米が北の核容認で「圧力」主張の安倍首相ハシゴ外されるか

    〈この国を、守り抜く。〉──安倍晋三・首相はそんな勇ましい選挙スローガンを掲げ、テレビCMを流し続けた。 北朝鮮の核開発と弾道ミサイル危機が深まる中、こと安全保障の面では安倍政権の下で米国は日本を守ってくれるはずだと期待している人が多いはずだ。 安倍首相は世界の指導者のなかでもとくにドナルド・トランプ米大統領と「ケミストリーが合う」と宣伝されており、日米同盟をバックに国連総会で強硬姿勢で北朝鮮の核ミサイル開発を中止に追い込むべきだと訴えた。トランプ大統領も、「北朝鮮はこれまで世界が見たこともないような炎と怒りを見ることになる」と警告し、米軍は「斬首作戦」を用意するなど、日米が結束して北に備えているように見える。安倍晋三首相(左)との会談を前に栄誉礼を受けるトランプ米大統領=2017年11月6日午前、東京・元赤坂の迎賓館(松本健吾撮影) だが、1年以内にその軍事同盟が幻になるかも知れない。米紙ワシントン・ポストは、米国の国防情報局(DIA)が〈北朝鮮がICBMに搭載可能な小型核弾頭の生産に成功した〉との機密分析報告書をまとめ、北は米本土に到達するICBMの実戦配備に必要な大気圏再突入技術を2018年末までに獲得する可能性があると報じている(今年8月8日付電子版)。 外務省国際情報局の主任分析官を務めた作家・外交評論家の佐藤優氏は、実戦配備の前に米朝が日本の頭越しに妥協をはかると指摘する。「トランプ大統領は武力攻撃に言及しているが、米軍が北を空爆しても核施設を全部破壊することは難しい。北の反撃で事実上の第2次朝鮮戦争が始まれば100万人規模の死者が予想され、韓国にいる20万人と推定される米国人にも多くの犠牲者が出る。従ってその前に米朝の交渉が行なわれるはずです。 しかし、北朝鮮は核廃棄や弾道ミサイルの放棄には絶対に応じないでしょう。そこで、米国は北朝鮮に自国の生命線である米本土に到達するICBMを持たせないかわりに、核弾頭と日本全土が射程に入る中距離弾道ミサイルの保有までは容認する可能性が高い」 米朝が核保有容認で合意すれば、国連で「必要なのは対話ではない。圧力なのです」と言い切った安倍首相は、米国から完全にハシゴを外されることになる。 もちろん、日本は米国の「核の傘」で守られ、日米安保条約では、北が日本を攻撃した場合、米国は反撃することになっている。ただし、佐藤氏は「それもどこまで実行されるかクエスチョンが残る」と見ている。 安倍政権は憲法解釈を変更して集団的自衛権を行使する安保法制を成立させ、自衛隊が「米艦防護」の任務を実施している。そこまで米国に尽くしても、米国が日本を見捨てる日が近づいているのだ。関連記事■ 自民党幹部「最大の功労者は小池・前原、自民に迎えたい」■ 路チュー議員・門博文氏 選挙戦中に後援会幹部逮捕の騒動■ 小池百合子都知事 「弱者イメージ」崩れ、アンチ増やす■ 金正恩の妹と横田めぐみさんの娘「学校も職場も同じ」説の真偽■ 北朝鮮を牽制する米軍の訓練 使い古された手法で効果はない

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    アメリカの銃社会は腐っている

    アメリカは腐っている」。米ラスベガスで起きた銃乱射事件について、ビートたけしがテレビ番組で米国の銃社会をこう揶揄した。日本人的な感覚で言えば、たけしのコメントは納得できるが、これほどの惨劇が起きてもトランプ大統領はいまだ銃規制について言及していない。なぜ銃規制論議は進まないのか。

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    「究極の自由国家」アメリカが抜け出せない銃社会の病理

    中岡望(東洋英和女学院大客員教授、ジャーナリスト) アメリカは銃社会である。アメリカ全体での銃保有数は2億6500万丁に達しており、その結果、銃による犯罪が多発している。銃犯罪の統計を取っている団体「ガン・バイオレンス」の調査によれば、今年1月から10月4日までに銃による事件の発生は4万6828件となっている。 その中で4人以上が負傷あるいは殺害された銃乱射件数は273件に及ぶ。その中には10月1日に起こったラスベガスの乱射事件も含まれている。死亡者数は1万1720人。この数字には、毎年2万件を超える銃による自殺者の数は含まれていない。 ラスベガスの乱射事件はアメリカ史上最悪の事件であった。死者の数は58人と推定され、その数は過去最多である。過去において2番目に多い犠牲者を出したのは2016年6月12日に起きたフロリダ州オーランドでの乱射事件で、犠牲者の数は49人であった。3番目が2007年4月16日のヴァージニア州ブラックスバーグの乱射事件で、死者は32人。これに次ぐのが2012年12月14日のコネチカット州ニュータウンの乱射事件で、死者の数は27人にのぼっている。 銃乱射事件は近年増える傾向にあり、上記の大量殺戮事件以外にも、2016年7月7日のテキサス州ダラスで起こった乱射事件で5人の警察官が殺害されるなど、アメリカでは日常的に起きているといっても過言ではない。米西部ラスベガスで、銃乱射事件の犠牲者を悼む女性ら=3日(共同) そして銃乱射事件が起こるたびに、アメリカでは銃規制を巡る議論が起こっている。だが、銃保有を禁止するという議論はほとんど出てこないのが現状だ。リベラル派は銃規制強化を主張し、保守派が規制強化に反対する。ただ、リベラル派も銃の全面規制を主張するわけではないのだ。 もちろん、ラスベガスの乱射事件後にも議論が起こった。民主党といったリベラル派は銃規制の強化を求める声を挙げた。だが、保守派や共和党、トランプ政権の反応は極めて鈍い。事件後、トランプ大統領は犠牲者に哀悼の意を表したが、銃規制に関して一言も言及しなかった。 ホワイトハウスのサンダース報道官も「銃政策に関する議論が起こると思うが、現在、議論を行う時ではない」と、銃規制強化の議論を始めることさえ「時期尚早」であると消極的な姿勢を示した。また、共和党のマコーネル上院院内総務も「今は国民が喪に服し祈る時だ」と、銃規制強化に言及することはなかった。 それどころか、共和党のジョン・コーンイン上院議員は「ラスベガスの銃乱射事件を政治化するのは胸糞が悪い」と、銃規制強化を主張するリベラル派を批判している。左派でも銃保有の禁止は主張しない 一方、民主党のクリス・マーフィー上院議員は議会が銃規制強化に関する法案成立を怠っていると批判する声明を発表。議会は早急に対応すべきだと訴え、自らは銃購入者の経歴調査を強化する法案を提出すると語っている。民主党の指導者であるナンシー・ペロシ下院議員もポール・ライアン下院議長に対して経歴調査を強化する法案の採決を行い、同時に銃に関連する犯罪を抑制するために特別委員会を設置するように要求した。米ラスベガス銃乱射事件の犠牲者を悼み、ホワイトハウスで黙とうするトランプ大統領夫妻(手前左)とペンス副大統領夫妻=2日、ワシントン(ロイター=共同) ところが、アメリカ議会では現在、まったく逆の法案が審議されている。それはサイレンサー(銃の消音装置)購入の規制緩和を求める法案である。同法案は民主党が反対し、共和党が賛成している。 銃保有が禁止されている日本から見れば、アメリカで行われている議論は理解しにくい。先に指摘したように、リベラル派は銃規制強化を求めることはあっても、銃保有を禁止すべきだとは主張していないことだ。その背景を理解するには、アメリカ人の銃に対する意識を理解する必要がある。 世論調査機関「ピュー・リサーチ・センター」が実施したアメリカ国民の銃に対する意識調査結果(2017年6月)の結果によると、何らかの形で銃を保有していると答えた比率は42%に達している。また、今まで一度も銃を持ったことはないという回答は55%であった。そして銃保有者の66%が複数の銃を保有していると回答。29%が5丁以上の銃を保有している。 さらに注目されるのは、銃保有の理由である。銃保有者の74%が「自由を守る」ために必要だと答えている。中でも特徴的なのは、白人男性の48%が銃を保有していると答えているのに対して、非白人男性では24%に過ぎないということだ。非白人女性ではわずか16%に過ぎない。地域で見れば、南部での銃保有比率は高い。南部では、父親が息子に銃の撃ち方を教えるのは日常的なことだという。 銃保有の理由では、自己防御が67%で最も多く、狩りが38%、スポーツ射撃が30%、銃収集が13%。要は、銃保有者の大多数は自分を守るために銃が必要だと考えているのである。さらに銃保有者の38%が自宅で常に銃弾を装填し、すぐに取り出せる場所に置いていると答えている。銃保有権利は憲法で保障されている さらに興味深い事実は、銃保有者の19%が、銃規制に反対する全米ライフル協会のメンバーであることだ。同協会の会員数は500万人に達している。同協会は潤沢な資金を背景に、銃規制強化を阻止するために強力な議会工作をしている団体である。同時に共和党やトランプ大統領の最大の政治献金団体でもある。共和党が銃規制に消極的な態度を取る理由の一つが、同協会とのつながりにある。 そもそも、アメリカ人にとって銃保有は歴史的にも特別な意味を持っている。1791年に成立した憲法修正条項(1条から10条)は「権利章典」と呼ばれ、アメリカ民主主義の基本になっている。修正第1条では信教・言論・出版・集会の自由と国民の請願権を規定している。 実は修正第2条は「武器保有権利」について規定している。そこには「規律ある民兵団は自由な国家の安全にとって必要であるから、国民が武器を保有し、携帯する権利は侵してはならない」(米大使館訳)と書かれている。要するに民間人が銃を携帯する権利を保障しているのである。もしリベラル派が銃保有の禁止を求めるならば、この条項を修正する必要がある。 今まで数多くの銃規制法が成立しているが、その多くはテクニカルな規制にとどまっているのも、修正第2条が存在するからである。1993年にレーガン大統領暗殺未遂の際、ブレイデフィ報道官が銃弾を浴びて半身不随になった事件が起こった。それを契機に「ブレイデフィ法」が成立した。 同法で規制されたのは銃を販売する際の身元調査の実施と重犯罪者、精神病者、麻薬中毒者、未成年に対する銃販売だけであり、銃保有そのものの規制ではなかった。また憲法による規定以外に、各州は独自の銃規制を行っている。 たとえば、マサチューセッツ州では銃を保有するためには許可書が必要であり、ニューヨーク市やワシントンDCでは銃保有を禁止する動きもみられる。ただ、最高裁は2008年に無許可で銃保有、携帯を禁止す法律の合法性を巡る係争であるワシントンDC対ヘラー裁判で、修正第2条は有効であり、ワシントンDCの法律は憲法違反であるとの判断を下している。トーマス・ジェファーソン像(iStock) そして、アメリカの銃保有問題を理解するには、修正第2条の持つ意味をよく知る必要がある。独立宣言を書いたトーマス・ジェファーソンは「自由人は武器の使用を制限されるべきではない」と主張している。自由を守る=銃保有 また、独立戦争当時、各州はそれぞれ法律で個人の銃所有の権利を認めていた。建国の父たちは、「政治的な自由(liberty)」を守るために銃所有の権利を認めるべきだと考えていた。最初に憲法を批准したニューハンプシャー州は、批准の条件として「議会は市民が実際に反乱を起こさない限り、武装解除してはならない」と主張している。建国当初、国民に「自由を守る=個人の銃保有」という概念が刷り込まれたのである。 修正第2条が制定されたのは、アメリカがまだ国家として十分に確立していない時代であり、西部劇にみられるように領土を拡大する過程で武器保有は不可欠であった。だが、近代国家になった後も、修正第2条の見直しは行われなかった。むしろ各州で様々な規制の試みが行われたが、上述のように最高裁は修正第2条の有効性を認める判決を出している。 そしてその後、銃規制の問題は一種のイデオロギー問題へと変わっていく。銃規制に反対する保守的な団体や共和党は、銃規制は修正第2条に反する個人の権利を侵害するもので、眼前の銃による犠牲者の姿よりも、修正第2条を守り、個人の自由を擁護すべきだと主張するようになる。ホワイトハウスで声明を発表するトランプ米大統領=2日(ロイター=共同) 保守派は銃規制問題を憲法問題にすり替えるようになり、銃規制の強化を主張するリベラル派も修正第2条に踏み込んだ議論を避ける傾向がある。その結果、銃規制といっても銃保有の際の購入者のチェックなどテクニカルな議論で終わってしまっているのが現状だ。だが、銃購入者の身元調査さえ十分に実現していない。2013年に広範な身元調査を義務付ける法案が議会に提出されたが、成立しなかった。 2014年にオバマ大統領は「世論が議会に銃政策の変更を求めない限り、何も変わらないだろう」と語っている。銃乱射事件が起こると銃規制を求める声は強くなるが、やがて忘れられる。そうしたことが繰り返されているだけで、抜本的な問題解決は進まないのが現実である。アメリカでは銃問題は単に犯罪の問題ではなく、政治問題であり、憲法問題であり、自由の問題なのである。

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    アメリカには銃規制を阻む最強の「ラスボス」がいた

    前嶋和弘(上智大総合グローバル学部教授) ラスベガスでアメリカ史上最悪の銃撃事件が起こった。極めて凄惨な事件であり、ホテルから連射する犯人の残忍なシーンは正視に耐えない。この事件の背景には何があるのだろうか。改めてアメリカ社会における銃の意味を考えてみたい。 アメリカで現在利用が可能な銃の数は、アルコール・たばこ・火器爆発物取締局(ATF)の推計によると、2009年のデータで推定3億1000万丁以上となっている。しかし、アメリカ国内での銃の生産数は特にこの10年間で伸びているため、銃火器の数は3億2000万人の人口以上とみられている。 このように銃の生産量は驚きの伸びを記録している。ピストル(自動拳銃)、リボルバー(回転式拳銃)、ショットガン(散弾銃)、ライフル(小銃)、その他を合わせた数は2007年ごろまでは400万丁を超えることは多くなかったが、その後、右肩上がりで伸びており、2013年には1000万丁を超えた。2014、15両年はやや減ったものの、900万丁以上で高止まりしている。 そしてこれだけ生産されるということは需要があるからだ。すでに銃が多くあるアメリカ社会の中では規制を待つよりも自分で自衛する方が得策と考えるためだ。それもあって、2012年1月のコネチカット州のサンデーフック小学校や2016年6月のフロリダ州オーランドなどでの乱射事件の後は銃の販売は一気に増える。 おそらく今回のラスベガス事件を受けて、銃販売数は急伸していくであろう。銃は比較的小さめの銃火器店で販売されることもあるが、近年では総合型の大型小売チェーンでの販売も目立っている。最大手であるウォルマートはアメリカ、そして世界最大の銃火器小売店となっている。クリスマスプレゼントを購入する感覚で、ウォルマートでライフルを買うというケースも数多い。銃乱射事件の現場に供えられた花束の前で祈る女性ら=10月3日、米ネバダ州ラスベガス ウォルマートは対面販売しか基本的には行っていないが、ウォルマートの通販サイト上で銃の価格をみることができる。安いものなら30ドル程度のライフルがあり、旧モデルの割引価格なども確認できる。 日本社会では一般では狩猟用を持った人たちが特別に銃火器使用の免許を与えられているくらいである。これだけを比較しても、日本とは大きく異なるのは言うまでもない。 では、なぜ銃が増え続けるのか。日本では「全米ライフル協会が強いから」と指摘されることが多いが、それだけが原因ではない。その理由は、大きく分けて三つ考えられる。背景にある「自衛」の意識 まず、第一の理由が、「どうしても銃を持たないといけない」と感じる必然性がある地域がアメリカには存在することである。そもそもアメリカは日本の25倍である。人口は1億2000万人の日本の2・6倍と考えると、極めて広い。想像すればわかるように、都市部を除けば、警備会社や警察などを呼んですぐ来てくれるようなことはなかなか難しい。 そのため、どうしても自衛しなくてはならないという意識が開拓の時代から続いてきた。協力して自衛する「ネイバーフッドウォッチ」といったものを含めて、銃は欠かせない。 この自衛については合理的である部分は確かにある。しかし、私がどうしても「ゆがんでいる」と感じてしまうのは、長年作り上げられてきた銃をめぐる文化である。これが二つ目の銃が増え続ける理由である。(iStock) 少し訓練させた後、父親が息子を野生動物の狩りに連れ出す「男の生き方を教える」といったマッチョ的な文化が、南部や中西部など保守的な地域では根付いている。女性も行うケースもあるが、父と子や、男同士が連れだってワイルドに野生動物を仕留めるのがこの文化のしきたりである。 また、保守的な地域の政治文化とリベラルな政治文化とは大きく異なるのがアメリカである。リベラルな地区の人々の間では銃を規制する声が強く、そもそもそんな銃文化が根付いていない。 筆者はかつてワシントンやその郊外に8年弱住んでいた。都市部であるため、そもそも野生動物がいない。また、全米でも最もリベラルな地域であるため、このマッチョな銃文化は映画と小説の世界のものであった。 ただ、最後に住んだ郊外のアパートで、その文化の一端を知ることになった。アパートはちょっとした小さな森と隣接していた。森にはとても愛らしい瞳の小鹿がたまに現れた。その姿をみるために、毎朝、妻と森を散歩するのが楽しみだった。鹿は臆病なのでこちらが近づくと逃げてしまう。そのため、双眼鏡をいつも持参していた。 だが、ある日、アパートの玄関先で、管理人たちの3人組(男だった)が「鹿がいるらしいぜ」と笑っていたのを耳にした。「仕留めよう」「あした俺はライフルを持ってくる」「俺は弓」と喜びながら話しているのを聞き、背筋が凍る気がするのと怒りがこみ上げた。「そんなことするんじゃない」と強い口調で話しかけたが、両手の掌を上に向けて興ざめのポーズをとった。 次の日以来、小さな森に小鹿は出なくなってしまった。楽しかった散歩も耐えられなくなり、翌月に引っ越しを決めた。 マッチョ的文化には格好をつけるような部分も含まれる。日本の高校生が突っ張るのと同じ感覚で、自分を大きくさせるのに必要な小道具が銃である。そんな文化は個人的には耐えられない。ただ、それが拡大再生産的に大きくなっているのも事実だ。お墨付きを与える米憲法 その銃文化にお墨付きを与えているのが、銃が増えている第3でかつ最大の理由といえる合衆国憲法である。日本でもよく知られるようになったが、銃の保有の法的権利は憲法修正第2条の「武装権」に由来する。 修正第2条は具体的には「規律ある民兵は自由な国家の安全保障にとって必要であるため、国民が武器を保持する権利は侵してはならない」と示しており、個人が「規律ある民兵(a well-regulated militia)」にあたるかどうかはアメリカ国内で様々な議論がある。しかし、この条項が、銃所有の普及を提唱する人々の法的根拠となっているのは間違いない。 そもそも憲法修正第1条から10条は「権利の章典」として「表現の自由」などとともに人々の市民的自由、つまり基本的な人権を守るために最初の議会がスタート時に入れたものである。 なぜそれが「銃を持って立ち上がる権利」が基本的人権なのか。法解釈にもよるが、独裁政権からの革命権であるためだ。イギリスから血を流して独立した自分たちの歴史を踏まえて、「隷属からの自由」を徹底的に守ろうとする建国当時の政治文化を象徴している。 ただ、現代の私たちの目には、「革命を認める権利」はあまりにもアナクロ(時代錯誤)だ。「銃を持って立ち上がる権利」は「銃社会アメリカ」を象徴する権利として映ってしまう。(iStock) 一方で、銃規制反対派にとっては憲法上、保護されているという自由を行使する権利そのものである。この修正第2条があるため、アメリカの銃が抜本的に減るような気配は全く見えない。 また、本格的な規制は「人権侵害」ということになってしまうため、この条項の修正という大きな労力が必要であるが、上述の1の自衛権もあって、憲法改正はまず不可能に近い。それもあってリベラル派が主張してきた規制も、殺傷能力が高いマシンガンの性能を弱めることや、銃購入希望者の病歴を確認するようなものに限られる。 修正第2条という「ラスボス」は、今後もさらに大きな銃犯罪を生んでしまうのかもしれない、といったら、リベラル寄りすぎるだろうか。

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    オバマでも屈したアメリカ銃規制の高すぎる壁

    図があるかないかによる。拙著『メディアとテロリズム』(新潮新書)と『テロとインテリジェンス~覇権国家アメリカのジレンマ』(慶応義塾大学出版会)でも示したように、国際的なテロリズム研究や、テロ対策の文脈において、「テロリズムとは政治的目的・意図をもって爆破や銃撃事件を起こしたり、人質事件を起こしたりすることによって、世界から注目を集め、メディア報道を通じて自分たちの政治的な主張やメッセージを世界に宣伝することで、一国の政策を変更させたり、社会に不安や混乱を発生させることを目的とした暴力行為である」と定義することができる。 この事件が「テロリズム」とされるためには、イスラム過激派、白人至上主義、反グローバリズム、民族解放、極左ゲリラ、環境問題や動物愛護といったシングル・イシュー型など、この犯行には政治的目的・意図が必要となる。容疑者が自殺した以上、容疑者に対して直接的にその犯行の目的や意図を聴取することはできない。捜査によって容疑者の中にこうした政治的目的があることを示す証拠が出てこなければ、「テロリズム」とはみなされない。(iStock) 現在の報道で明らかになっている情報には、容疑者はカジノ、ギャンブルが好きで多額の賭けを繰り返していたこと、多額の借金を抱えていたギャンブル依存症の人物であったことが挙げられる。また、ホテルの一室には23丁のライフルなどの銃器のほか、自宅にも他に19丁の銃、爆発物、大量の弾薬を所持していたことが明らかになっている。また容疑者の父親は、有名な銀行強盗事件の実行犯であり服役していたことも判明している。 こうした情報から分析できることは、容疑者はこのような事件を起こすほどの心神喪失状態にあったか、または多額の借金の返済に困り、自暴自棄になって自殺するのに大量の人を道連れにしようとした、ということである。現在、こうした高齢者による自暴自棄犯罪や、自暴自棄型の自殺が目立つようになったが、そこにあるのは社会への恨みを晴らすために他者を巻き込む心情と自己顕示欲である。犯罪対策や危機管理のためには、今後、こうした容疑者のプロファイリングが重要となる。本格的な銃規制にはつながらない もうひとつの論点となるのが、米国における銃規制の問題である。米国は州によって多少の制度面の差があるものの、銃を持つ権利、自由が認められている銃社会である。イデオロギー的には、銃を持つ自由や権利を主張することはリバタリアン(自由主義者)の特徴であり、銃を持つ権利を規制する銃規制の立場はコミュニタリアン(共同体主義者)の特徴である。こうしたイデオロギー上の問題だけでなく、米国内で繰り返される銃犯罪に対する被害を目にして心情的に銃規制に賛成する国民も多い。 オバマ前大統領は繰り返される悲劇に対して、銃規制を政策化するための動きを見せたが、全米ライフル協会などの反対もあり実現しなかった。今回も、細かい銃の種類や性能について、その購入や保持に関する規制の議論は発生するものの、本格的な銃規制に向けた制度改革には結びつかない可能性が高い。米国には、銃を持つ権利・自由を保持しながら、銃犯罪が発生しないような社会をつくる犯罪対策、危機管理の構築が求められている。銃保有者の登録に関するデータベース管理や行動監視の強化など、具体的な施策の強化が必要である。 今回の銃乱射事件は「テロリズム」ではなかったが、この大量殺傷をもたらした手法は、十分にテロリズムに応用可能なものである。実際に現在のテロ対策の警備では、スポーツ競技の会場や、コンサート会場では手荷物検査が強化されているが、ホテルなどの宿泊施設では手荷物検査は実施されていない。これは米国でも、日本でも状況は同じである。野外コンサート会場で手荷物検査が実施されていても、今回の事件のように隣接するホテルの32階から銃を乱射されれば、大量の死傷者が発生することは警備の専門家から見れば自明の理であったが、これまでその対策は実施されなかった。 日本においても、例えば東京の迎賓館に外国の要人が来賓として滞在しているときには、その迎賓館をライフル等で射撃が可能な近辺の高層ビルには警備のために警察による規制が入る。こうした迎賓館のようなハードターゲットだけではなく、今後は、こうしたコンサート会場やスポーツ施設など屋根のない野外会場などソフトターゲットにも、近辺のビルなどに警備が必要となる可能性がある。米西部ラスベガスの銃乱射事件で、スティーブン・パドック容疑者が割ったとみられるホテル「マンダレイベイ」の窓=10月3日(共同) 2020年の東京五輪・パラリンピックに向けて、日本のテロ対策に新しい課題が突き付けられたといえるだろう。

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    史上最悪の銃撃犯は“ギャンブラー”謎の素顔

    佐々木伸(星槎大学客員教授) 米西部ネバダ州ラスベガスで59人が死亡、約530人が負傷する米史上最悪の銃撃事件が発生した。容疑者は白人のスティーブン・パドック(64)で、犯行後に自殺しているのが見つかった。過激派組織「イスラム国」(IS)が犯行声明を出したが、連邦捜査局(FBI)は関連を否定、動機は不明だ。犯人の素顔に迫った。 犯行現場になったのは、ギャンブル都市ラスベガスの目抜き通り「ストリップ」に近接したコンサート会場だ。パドックは1日午後10時過ぎ、会場を見下ろす高級ホテル「マンダレイ・ベイ・リゾート・アンド・カジノ」32階の宿泊部屋からコンサート会場で行われていたカントリーミュージックの音楽祭にライフルを乱射した。 会場には当時、2万人を超える観客がいたが、次々に凶弾に倒れていった。警察がパドックの潜んでいた部屋に突入した午前零時前には、すでにパドックは自殺していた。部屋からは銃火器17丁が見つかった。パドックは部屋の窓ガラスをハンマーで割り、ここから銃撃した。使用した銃はAK47自動ライフル。 捜査当局は当初、共犯者として同居していたと見られる62歳のガールフレンドM・Dの行方を追っていた。しかし、その後、彼女は国外に出国していたことが分かり、事件とは直接関係ないとされている。地元警察によると、M・Dは現在、東京に滞在しているようだ、という。米ラスベガスでともされた銃乱射事件の犠牲者を追悼するキャンドル=10月2日(ゲッティ=共同) 犯行後、間もなくIS系の「マナーク通信」が「ISの戦士が実行した。戦士は数ヶ月前にイスラム教に改宗した」との犯行声明を出した。ISはその後も新たな声明を出し、戦士が指導者バグダディの「十字軍の連合国を狙えという呼び掛けに応じた」と再び主張した。 ISはテロ事件と関わりがなくても、自分たちの犯行とするケースもあるが、今回は短時間のうちに執拗に犯行を主張しており、犯人との関係に相当自信を持っているのかもしれない。フィリピンで6月、カジノでの乱射、放火で、37人が死亡した事件が発生した時も、ISは犯人をISの戦士として犯行声明を出している。この事件はギャンブルの借金が犯行の動機だった。 ラスベガスの事件の前、米国で最大の銃撃事件は昨年6月、フロリダ州オーランドのナイトクラブで起きた49人殺害事件だった。この時はISの過激思想が引き金になった「一匹オオカミ型テロ」だったが、今回の事件の被害者はそれをはるかに上回る史上最悪のテロとなった。犯人は「引きこもり男」? 問題は動機だ。その解明は今後の捜査に任せなければならないが、ギャンブルによる借金やトラブルが原因なのか、それともISの過激思想に共鳴した犯行なのか、全く不明だ。ワシントン・ポストなど米メディアの報道からは、引退して余生を「ギャンブラー」として過ごす「引きこもり男」の素顔が浮かび上がってくる。 パドックはここ数年、ラスベガスから北東約130キロのところにある町メスキートにM・Dと一緒に住んでいた。子供はいない。住んでいた地区は引退した人々のコミュニティーだが、近所づきあいはほとんどなく、静かで、よそよそしく、引きこもりの印象だった、という。 パドックは2013年にこの住宅を購入したが、州内の他の場所にも住宅を所有していた。M・Dはパドックのことを「プロのギャンブラー」として近所に紹介しており、ラスベガスを訪れてはポーカーなどのギャンブルをし、時にはカントリーミュージックのコンサートに行くなど引退生活を楽しんでいるかのようだった。 フロリダに住んでいるパドックの弟の話として伝えられるところによると、パドックは金持ちで、ギャンブルにはたびたび、数万ドルを賭けていた。「25万ドル儲けた」と言ってきたこともあった、という。5日前には、パドックはフロリダを襲ったハリケーンの被害を心配してメールしてきた。 パドックはフロリダで会計士や不動産屋として稼ぎ、1985年から3年間、軍事産業のロッキード・マーティンに勤務したこともある。その後、テキサスやカリフォルニアなどを転々とし、ネバダ州に移った。弟によると、精神疾患もなく、また宗教や政治団体とも関わりがなかった。なぜこんな事件を起こしたのか全く理解できない、としている。米ラスベガス銃乱射事件のパドック容疑者が銃を乱射後、自殺したホテルの部屋の様子(UPI=共同) パドックは航空機のパイロットの免許も持っており、自家用機2機を保有、アラスカでの狩猟免許を取得している、と報じられている。ただ、父親はパドックが小さい頃、銀行強盗容疑でFBIから指名手配を受けていた。 パドックは少々変人のような面も持っていたが、史上最悪の銃撃テロを起こすような人物像とはかけ離れている。何が彼をテロに駆り立てたのか、米国の銃社会故の犯行なのか。東京に滞在しているとされるM・Dが何らかのカギを握っている可能性もある。何よりも早急な動機の解明が求められるところだ。ささき・しん 星槎大学客員教授、共同通信社客員論説委員。ベイルートやカイロ支局長を経て外信部副部長、ニュースセンター長、編集局長などを歴任。

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    テロという暴力に対抗するにはエロスの力が必要

     多発するテロなど、昨今は暴力があふれている時代になってしまった。これに対応しうる手段はないのか。諏訪中央病院名誉院長の鎌田實氏が指摘する。* * * 世界中でテロ事件が勃発している。ここ数か月間に発生したものだけでも、その件数と死傷者の多さに驚く。 米国フロリダ州オーランドのナイトクラブで、男が銃を乱射。50人が犠牲となった。イラクの首都バグダッドでは、少なくとも2か所の自爆攻撃により200人以上が亡くなった。 トルコのイスタンブールでは空港で銃撃と3件の自爆テロが同日発生した。アフガニスタンでも自爆テロがあり、少なくとも80人が死亡した。 フランスのニースでは、男がトラックを暴走させ、パリ祭を祝う人々を次々とはねた。84人が亡くなったが、うち10人が子どもだったという。 バングラデシュのダッカでは、武装グループがレストランを襲撃し、日本人7人を含む20人の命を奪った。犠牲になった7人の日本人は、バングラデシュ発展のため国際貢献に尽力していた。許せない! あまりにも悲しい。ダッカ市内のテロ現場近くで、市民が供えた多くの花束の前で犠牲者の冥福を祈る政党関係者ら=2016年7月7日(岩田智雄撮影) 犯行グループには、政治家の子弟や外国に留学経験もある恵まれた若者たちがいることがわかった。日本の大学で教えていた男もいた。 貧しさから生まれた犯行というのとはちょっと違う。豊かであり、高等教育を受けている者たちがなぜ、このような暴力に突き進むのだろうか。20世紀の精神医学の巨匠フロイトは、こんなふうに言っている。「人間がすぐに戦火を交えてしまうのが、破壊衝動のなせる業だとしたら、その反対の衝動、つまりエロスを呼び覚ませばいいことになります。だから、人と人の間の感情と心の絆をつくりあげるものは、すべて戦争を阻むはず」(『ヒトはなぜ戦争をするのか』花風社)。愛と絆がキーポイント。愛する相手にむき出しの性的な欲望を向けるような愛も大切だ。もう一つの感情の絆は一体感や帰属意識によって生み出される。 人間のなかには、死へと向かう破壊欲求と、生きようとする生存欲求が内在する。タナトス(死への欲求)とエロス(生への欲求)の二つといわれる。 この相反する欲求は、互いに絡み合って、人間をより複雑な生きものにしている。長い歴史のなかでぼくたち人間は、破壊衝動や暴力に偏り過ぎないように、スポーツやゲーム、法律や風習、文化など、さまざまな仕掛けで自分たちを守ってきた。 だが、今世紀、資本主義の行き詰まりによって均衡が崩れ、またもや人間の暴力性が暴れだしているように感じる。フロイトのいうように、暴力に対抗していくには、人間の基本の部分にあるエロスの力が必要なのだろう。●かまた・みのる/1948年生まれ。東京医科歯科大学医学部卒業後、長野県の諏訪中央病院に赴任。現在同名誉院長。チェルノブイリの子供たちや福島原発事故被災者たちへの医療支援などにも取り組んでいる。近著に『「イスラム国」よ』『死を受けとめる練習』。関連記事■ 消費や海外旅行せぬ「さとり世代」の61名と本音で語った本■ 子供の頃の虐待経験が寿命を短くする デューク大研究で判明■ 暴力団組員にとって「法の下の平等」は絵空事と溝口敦氏分析■ 日本で初めて公安捜査官の戦いを実名で描くノンフィクション■ 戦争を経験した老人が社会に不満を持ち立ち上がる村上龍新作

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    「北朝鮮核施設への先制攻撃」トランプはどこまで本気なのか

    前嶋和弘(上智大学総合グローバル学部教授) 9月3日の北朝鮮の水爆実験に対して、米国が受けた衝撃は極めて大きい。言うまでもなく、米本土への北朝鮮の直接攻撃がかなりの現実味を帯びてきたためだ。大陸間弾道ミサイル(ICBM)に続き、核弾頭に積む水爆まで完成に近づいており、これまで東アジア政策でしかなかった北朝鮮政策は一気に米国自身の安全保障に直結する状況になっている。「核保有国」として北朝鮮を認めるのかどうか、米国としては何らかの大きな対応を一気に迫られる状況になっている。8月11日、ソウル駅でトランプ米大統領と北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長が映し出されたニュースの画面を見る男性(AP=共同) トランプ政権の北朝鮮政策のゴールは「北朝鮮の非核化」に他ならない。核を放棄させるため、オバマ前政権の「戦略的忍耐」ではなく、軍事的オプションを常にちらつかせてきた。いわゆる「4月危機」のときに注目された、米韓軍事演習に呼応した空母カール・ビンソンなどの周辺への派遣がこれに当たる。ただ、実際には貿易・経済問題を「取引」材料に北朝鮮に最も影響力がある中国に対して圧力をかけ、北朝鮮を最大限に動かしていくというのが、トランプ流の対中、そして対北朝鮮政策の根本にある。 しかし、4月の米中首脳会談で、トランプ政権から北朝鮮への圧力強化の要請を受けた中国は、北朝鮮に核をあきらめさせるのが難しいことを熟知している。そもそも韓国、日本、そしてその背後にいる米国の緩衝地帯として、北朝鮮は中国にとって地政学的に重要な存在でもある。習近平国家主席にとっては、秋の中国共産党大会を前にできるだけ国内のパワーゲームに集中したいのが本音であり、北朝鮮については抜本的な制裁まで至っていない。むろん、トランプ政権のいらだちも募っている。 また、北朝鮮の核とミサイル開発のペースは速く、ここ半年だけでも米国は北朝鮮側に常に出し抜かれてきた。北朝鮮としては、ミサイルも核弾頭に搭載する水爆もほぼ完成したため、怖いものはない。米国に対して、交渉の席につかせ、何らかの条件と引き換えに無条件に核保有国として認めさせたいというのが北朝鮮の狙いだろう。限定攻撃なら日韓への報復は必至 トランプ政権としては北朝鮮の非核化どころか、核開発の凍結もなかなか難しくなっており、かなりの手詰まり感がある。いま議論されている産業や工業の「血液」となる石油の禁輸がどれだけ可能なのかさえ分からない。他の経済制裁を進めても、どれだけ効果があるのか未知数である。そうしているうちに、既に米本土に到達する核弾頭付きのミサイルも完成してしまうかもしれない。トランプ政権に残された時間は実のところ多くはない。 この手詰まり感の中、外交的な選択肢ではなく、強硬策を主張する声も米国内では目立ちつつある。報復の可能性が極めて低くなるようなことが想定されれば、先制攻撃を決断し、北朝鮮の核施設をたたいていく選択肢もあり得ないわけではない。最高司令官であるトランプ大統領が外交・安全保障政策について全くの素人である分、何らかの思い切った強硬策に出てくる可能性もゼロではない。 ただ、もし限定的な攻撃を行ったならば、北朝鮮から韓国、日本という同盟国への報復はやはり避けられないだろう。戦闘には必ず不確定要素がある。いわゆる「戦場の霧(フォッグ・オブ・ウォー)」である。北朝鮮の報復攻撃を100%抑えることができるかどうかは分からない。もし戦争になれば「米国史上最悪の戦争になる」という指摘もある。記者団に話すマティス米国防長官(左)とダンフォード統合参謀本部議長=9月3日、ワシントン(AP=共同) トランプ政権の安全保障政策は、マティス国防長官やマクマスター国家安全保障担当補佐官、ケリー首席補佐官らの軍人出身者がプロとして支えてきた。上述のようにトランプ氏は外交・安全保障政策の経験はないが、本人もそれを自覚しており、高官たちの意見を比較的そのまま採用してきた。戦闘の現場をよく知っている「外交・安全保障のプロ」たちにとって、報復が考えられる不確実な先制攻撃に踏み込むだけの米国の諜報(ちょうほう)活動がどれだけ整っているかが、今後の大きなポイントとなるであろう。 先制攻撃とともに考えられる米国の対応は、おそらく二つある。一つは何らかの条件を付けた上で北朝鮮の核保有を容認するか黙認するかという選択肢である。そして、もう一つが核保有という現実に即して、同盟国である日本や韓国の核武装を推進し、米国と協力することで北朝鮮の核に対する徹底した抑止を図るという選択肢である。「核容認」で大きく揺らぐ日米安保北朝鮮による6回目の核実験を受け、「0」にリセットされた地球平和監視時計の「最後の核実験からの日数」=9月3日午後、広島市の原爆資料館 北朝鮮の核保有を容認、または黙認するという選択肢については、オバマ前政権で国家安全保障担当補佐官だったスーザン・ライス氏のニューヨーク・タイムズへの寄稿(8月10日)が大きな波紋を広げている。北朝鮮に対する強硬策を取った場合、全面的な戦争が不可避であるため、それよりも北朝鮮の核保有を認めることも視野に入れた方がいいという議論である。同じくオバマ前政権で国家情報長官だったジェームズ・クラッパー氏も同様の指摘をしている。 北朝鮮の核を容認、もしくは黙認する代わりに、日本などの同盟国、あるいは米国に向けた挑発行為の停止、テロリストへの核拡散の徹底した防止などを条件に米国は切り出すのかもしれない。 とはいえ、もし北朝鮮の核を黙認すれば、日本にとっては米国の「核の傘」が極めて弱体化する。「有事にどれだけ日本を助けてくれるのか」という戦後何十年も続いてきた日米安保体制の、そもそもの議論が再び沸騰するのは必至である。それもあって、トランプ政権はライス氏の指摘をことあるごとに否定した。 一方で、「日本や韓国に核を持たせるなどの対抗措置を取った方が賢明」という主張も米国内で安全保障のリアリストらから指摘されるようになっている。核武装やさらなる迎撃システムの強化を通じ、日米韓で北朝鮮の核に対する徹底した抑止を図るというのがその狙いである。 しかし、唯一の被爆国である日本が核を持つという、国論を二分するような選択が本当にできるのかどうか、筆者にはまだ判断がつかない。 9月3日に行われた北朝鮮の「水爆実験」の第一報を筆者は学会報告と調査のために訪れたサンフランシスコで聞いた。この際、筆者が現地の専門家に聞いた限り、北朝鮮の核容認論と日本、韓国の核武装推進論のいずれもあったが、限定攻撃に対する肯定的な意見はほとんどなかった。これをみても、現時点では北朝鮮に核放棄を求めるのは、かなり難しくなっているのが分かる。 北朝鮮の「国家生存の柱」と位置付けられてきた核開発。それがまさに北朝鮮の国家を温存することにもなる。その意味では、北朝鮮の思惑通りに事が進んでいると言えなくもない。

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    トランプでも金正恩は止められない

    北朝鮮が9日の建国記念日に合わせ、新たな大陸間弾道ミサイル(ICBM)を発射する可能性が高まっている。トランプ米大統領は、北朝鮮に対する制裁圧力の強化を国際社会に呼び掛けるが、中露両国の同意を得るのは困難な情勢だ。国際社会はなぜ「狂気の独裁者」を止められないのか。

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    トランプが金正恩「斬首作戦」を決断する準備は整った

    が核実験をするからと? 「次の日になって聞きました」(中国東北部の警察官) 中国は通告があったことをアメリカに伝えるとともに、北朝鮮に対し、「核実験を強行すれば中朝国境を長期間にわたって封鎖する」と警告したということです。 「中国は『北朝鮮に核実験を自制するよう求めた』と伝えてきました。さらに『核実験を行った場合には独自制裁に乗り出す』と北朝鮮に通告したとも中国は伝えてきました」(ティラーソン米国務長官、先月27日) 核実験の通告についてはアメリカから日本にも伝えられ、警戒態勢が取られましたが、結局、20日に核実験は行われませんでした。 中国の言う封鎖の対象は陸の国境だけでなく海も含まれていて、食料や生活物資なども含む中国から北朝鮮への物流が全て止まる。最後の賭けだった核実験演説する中国の習近平国家主席=9月3日、中国福建省(共同) 今回の実験の威力は日本防衛省の推計で70キロトンだというから、5月に私が入手した情報と符合する。中国は石油禁輸や国境封鎖など超強硬措置をとるだろう。北朝鮮経済は中国の影響下にある。生活物資の大部分が中国製品だ。それが全面的に遮断されれば餓死者が大量発生することもありうる。また、北朝鮮軍人の軍服、軍靴などもみな中国製だ。中国が国境を封鎖すれば軍も維持が困難になる。なによりも北朝鮮で使われている石油の大部分が中国から輸入したものだ。一部ロシア産もあるが、国連安保理で禁輸が決議されればすべて止まる。それを分かっていながら金正恩は最後の賭けとして核実験を強行した。 9月2日、東京新聞の北京特派員、城内康伸氏が書いた記事は、金正恩が石油禁輸制裁実施を織り込み済みで、それに備えて100万トンの石油備蓄を命じていたことを伝えた。 北朝鮮が今年4月ごろ、原油や石油製品の年間輸入量の半分から3分の2に相当する石油100万トンを備蓄する目標を、金正恩(朝鮮労働党委員長がトップを務める国務委員会で決定した、と北朝鮮関係者が明らかにした。核やミサイル開発に対する国際社会の制裁強化で、石油禁輸や輸入制限が拡大する事態に備えたとみられる。 この関係者によると、政府機関の閣僚専用車など公用車に対し、一カ月当たりのガソリン供給量が制限されているという。関係者は「幹部級の公用車が通勤に使うだけで精いっぱいの状況も起きている」と指摘。不足分は民間業者から調達するという。首都・平壌では4月、給油所の営業停止が突然広がり、深刻なガソリン不足が発生し、価格が急騰。価格上昇はいったん沈静化したが、別の北朝鮮消息筋によると、最近は再び値上がりしているとされ、北朝鮮当局が市場への供給を制限している可能性がある。金正日だったら訪中していた金正恩朝鮮労働党委員長 金正恩は焦っている。彼が優秀な戦略家だと評する向きもいるが、私はそうは思わない。金正日が生きていれば、トランプに軍事挑発をかける前に訪中して中国共産党と表面上の和解をするだろう。金正日は死ぬ直前の2010年から11年にかけて3回も訪中して後継体制への支援を懇願している。米国と中国の両方を敵に回す外交は戦略家がすることではない。 彼の足元も不安定だ。韓国情報関係者によると、労働党中央の幹部や国家保衛省の幹部が頻繁に連絡してきて、自分が韓国に亡命した場合の待遇について真剣に質問するという。夏の水不足のためこの秋を米とトウモロコシの収穫はかなり悪いと予想され、来年春には餓死者が出るのではないかという声が北朝鮮内部から聞こえてくる。 核ミサイル開発と独裁体制維持に必要な外貨を管理している労働党39号室の秘密資金が相当枯渇している。7月の国連制裁で鉱物資源と水産物の輸出が禁止されたため、年間10億ドル程度外貨収入が減少する。このままでは外貨不足により独裁統治が揺らぐかもしれない。そこまで追い詰められたので、金正恩が大陸間弾道ミサイル(ICBM)と核実験という持ち札を全部切って、トランプとの談判を持とうとしてきたと私は見ている。 トランプ大統領は米国本土まで届く核ミサイルを持たせた大統領として歴史に名を残すことは絶対に避けたいはずだ。徹底した対北経済封鎖、それに同調しない中国とロシア企業には2次制裁で国際金融秩序から追放する措置を取るだろう。それでも金正恩は核ミサイルを放棄しないだろうから、軍事行動、すなわち金正恩を除去する「斬首作戦」の準備を進めるはずだ。 米国の軍事圧力は戦争直前まで高まるだろう。金正恩は自分の命を守るため、対米譲歩をする可能性が高い。わが国は米国に対して経済制裁、軍事攻撃準備に全面的に協力しつつ、金正恩が命乞いをしてきたとき、核ミサイル放棄だけでなくすべての拉致被害者の帰国なしには対北圧力を緩めてはならないと全力で働きかけるべきだ。金正恩からすれば核ミサイルは国家戦略問題だが、拉致問題は戦術問題だから、2002年9月のように米国の軍事圧力を交わすために日本のカードを使うこともあり得る。 日本は米国と足並みをそろえて対北圧迫に全力を尽くしながら、最後の交渉で拉致被害者全員帰国を対北要求のデッドラインとして死守しなければならない。いよいよ正念場だ。

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    なぜトランプは「白人至上主義」を政治利用するのか

    中岡望(東洋英和女学院大客員教授、ジャーナリスト) 人権と平等を主張する民主国家のアメリカで、なぜ今さら「白人至上主義」なのかと疑問に思っている日本の読者は多いのではないかと思う。しかし、白人至上主義や人種差別はアメリカ社会に深く根差した意識である。 これも日本人には信じられないことだが、南北戦争後の1865年に設立された暴力的な白人至上主義者の秘密結社「クー・クラックス・クラン」(KKK)が依然として存在し、活動を行っている。KKKは「反黒人」に留まらず「反ユダヤ人」、「反カトリック」を主張しており、今でもこうした白人至上主義者が活動するアメリカ社会の深層に何があるのだろうか。1月16日、米国の公民権運動指導者、故キング牧師の長男キング3世(右)と面会し、握手したトランプ次期米大統領=米ニューヨーク(ゲッティ=共同) 1960年代の公民権運動以降、様々な差別用語は「封印」された。黒人や少数派の権利を擁護し、差別を排除するために、公民権法や投票法が成立し、法的に少数派の人々の権利が擁護されるようになった。それと同時に社会意識を変えるために様々な対応策が講じられてきた。 その一つに「ポリティカル・コレクトネス」という考え方がある。日本語に訳せば「政治的に正しい言葉使い」という意味になる。政治や社会で差別用語を使うと、ポリティカル・コレクトネスに反すると社会的に厳しく糾弾された。 だが、言葉を使わないからと言って差別意識が払拭されるわけではない。あくまで心に思っていること、本音を直接口に出さないということに過ぎない。そうした社会的雰囲気の中で人種的な差別意識や白人至上主義的な意識を持っている人は、長い間、息苦しさを感じていたのだ。 こうした中で、社会的タブーを破ったのが、昨年の大統領選で勝利したドナルド・トランプだった。選挙運動中、トランプは平気でポリティカル・コレクトネスに反する言葉を使った。演説の中で差別用語を意図的に使い、そして「ああ、これはポリティカル・コレクトネスに反する言葉だね」と笑って見せた。 差別用語禁止に不満を抱いていた保守派の人々は喝采した。トランプは社会的タブーを破ることで、一部の保守派の人々の間で人気を博したのである。 さらに今回の大統領選挙で重要な役割を演じたのが「オルト・ライト」と言われる白人至上主義者である。彼らは公然と白人至上主義を主張し、反ユダヤ主義を唱え、ネオ・ナチの極右グループと一体化するグループだ。その代表的論者がスティーブン・バノンで、彼は大統領選でトランプ陣営の選挙責任者に就き、政権発足後は首席戦略官としてホワイトハウス入りしている。根が深い米国の白人至上主義8月11日、米バージニア州シャーロッツビルの大学構内をたいまつを持って行進する白人至上主義者ら(ゲッティ=共同) バノンは、貧しい白人の利益を代弁して排外主義を主張し、ワシントンのエスタブリッシュメントを批判する右派ポピュリズムの論陣を張っていた。共和党主流派に対抗するトランプにとって、バノンの右派ポピュリズムは共和党の大統領候補の地位を獲得するための有力な理論的主柱を与えた。 しかし、シャーロッツビル事件で、事態は大きく転換し、改めて白人至上主義が大きな政治問題となった。南北戦争における南軍のリー将軍の銅像撤去をめぐって、奴隷制度を支持し、南軍の敗北を認めない白人至上主義者と反対派が激突、死者が出る事態となった。 白人至上主義者は反ユダヤ主義者でもあり「ユダヤ人が自分たちにとって代わることは許さない」と叫びながら行進した。そうした状況の中で、トランプは「ネオ・ナチも反ネオ・ナチも両方とも悪い」と発言、それが白人至上主義者やネオ・ナチと反ユダヤ主義を容認するものだと厳しい批判が浴びせられた。 だが、白人至上主義の根はもっと深い。アメリカ社会は矛盾に満ちた社会である。トーマス・ジェファーソン(第3代大統領)は独立宣言で「すべての人には奪うことができない権利がある」と高邁な理念を主張した。だが、建国当初から投票権を認められたのは財産を持つ白人男性だけだった。 女性もネイティブ・アメリカンも、当然ながら奴隷にも市民権は与えられなかった。建国に際してアメリカ経済を支えていた奴隷制を正当化する根拠が必要であった。その根拠になったのは、黒人は「劣等民族」であるという考え方である。その考え方は独立戦争のプロセスでアメリカ国民に広く受け入れられるようになる。また、多くの学者が、科学的に黒人の劣等性を証明する研究成果を発表したほどだ。 それをさらに強化したのが社会的ダーウィン主義である。特に社会学者、ハーバート・スペンサーの影響を受け、適者生存の原理は人種にも適用できると主張された。それが、黒人の隔離政策に具体的に適用された。 さらに南北戦争で奴隷制度は廃止されたが、それに代わって登場したのが人種差別の強化であった。南部は一時政府軍の支配下に置かれたが、南部復興が終わり、政府軍が撤退すると、南部連合の指導者が相次いで復権し、憲法修正で市民権を得た黒人の差別が始まった。 これは南部復古と呼ばれ、南部は南北戦争以前の状況に戻っていく。KKKもそうした流れの中で結成される。南部の白人は、奴隷解放は間違いだったと主張した。それは現在でも色濃く残っている。試金石でつまずいたトランプ トランプ支持者のうち20%以上の人々は「奴隷解放宣言は間違いであった」と答えている。少数であるが、そうした考えを持つ人々が存在するのが、アメリカのもう一つの現実である。 もう一つ付け加えておく必要がある。それは欧米社会における反ユダヤ主義である。その差別意識は、アメリカにおける黒人に対する差別意識とは根が違うが、今でもアメリカ社会に根強く残っている。アメリカ人の私的な場において反ユダヤ的な会話が出てくることは珍しくない。筆者もそうした状況を直接経験している。 そして今回のもう一つの特徴は、白人貧困層のいら立ちと焦燥感がピークに達していたことである。アメリカは「白人社会」である。実際、人口の大半を白人が占めている。だが、白人が最大多数の地位を失うのは時間の問題だ。 たとえば、テキサス州では10代で見れば、すでに白人は少数派に転落している。増え続ける非白人の数に、多くの白人は危機感を抱いている。それに白人貧困層の経済的な没落が非白人に対する反発に拍車をかけ、今回の大統領選挙で一気に表面化した。8月22日、米フェニックスの支持者集会に参加したトランプ大統領(AP=共同) 排外的な「アメリカ・ファースト」のスローガンは、彼らを魅了した。白人貧困層は長い間、政治的に忘れられた存在であったが、その声を拾い上げ、不満を吸収したのがオルト・ライトとトランプであった。 トランプは選挙運動で白人至上主義を利用することができたが、大統領に就任したことで状況は変わった。シャーロッツビル事件でのネオ・ナチを容認するかのごとき発言は、トランプにとって致命的なダメージを与えかねない。 本音と建前は別にして、アメリカの大統領には高い道徳性が求められる。その試金石が人種差別や性差別に対する考え方である。トランプ大統領は、その試金石で大きく躓(つまず)いたことは間違いない。

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    「ようやく本音を言える」トランプで勢いづく米国の白人至上主義

    佐藤美玲(ジャーナリスト) 「バージニアほど美しい場所は、ほかにない」  そう言うアメリカ人に、ときどき出会う。何度か旅をして、確かにそうかもしれない、と私も思う。 ワシントンDC方面からシャーロッツビルへ抜けるルート15沿いには、ワイナリーや果樹園が多く、まさしく「ローリングヒル(緩やかな丘陵)」と呼ぶのがぴったりな風景が続く。花が咲き、馬が駆け、さざめくような美しさだ。 そんな景色に見とれつつ、私は「桜の木の下には死体が眠っている」というフレーズを思い出す。アメリカの南部には、独特の優美さと豊かさがある。その美しさの下に、ドロドロと暗く醜い歴史が横たわる。そして、断固としてその闇を見まいとする空気が、土地と人を覆っている。バージニアに限らず南部を旅すると、いつも私はその激しい対比に胸が重くなる。 8月10日夜、シャーロッツビルにあるバージニア大学のキャンパスに、白人至上主義者が集結。たいまつを掲げ、ナチスのスローガンを連呼して練り歩いた。翌日、抗議に集まった群衆に向かって白人男性の運転する車が激突し、白人女性のヘザー・ハイヤーさんが死亡、多くが重傷を負った。トランプ大統領は、白人至上主義者らを即座に非難せず、抗議に集まった側にも責任があると強調。生中継のカメラの前で激高し、ネオナチにも善人がいる、などの擁護発言を繰り返した。8月15日、米ニューヨークのトランプタワーで記者団に語るトランプ大統領(AP=共同) すべてが異常で異様だった。「起きるべくして起きた」とは言いたくない。ただ、「驚いた」と言うのはナイーブすぎる。特に、トランプの対応は「想定内」だった。 アメリカの選挙では「怠け者で危険な黒人」「不法移民のメキシコ人犯罪者」といったマイノリティーのステレオタイプを悪用して、恐怖をあおって票を集めるのは常套手段である。「アメリカの価値観、自由と富を享受するのに値しない人々がいる」というメッセージは、保守派と白人の共感を呼びやすいからだ。 トランプは「オバマ後」の白人の不安を巧みに操り、偏見に満ちたデマを流し続けた。女性やマイノリティーへの暴言も相次いだが、白人有権者の大半は「それにもかかわらず」もしくは「それだからこそ」と、織り込み済みでトランプに投票したのである。白人至上主義者たちも、「本音を言える」とタブーを排除してくれたトランプを支援した。白人エリートの社会的病巣 彼らは、過去数十年間で最大規模となった集会の場所に、なぜシャーロッツビルを選んだのか? そもそもの目的は、南北戦争で南軍を率いたロバート・E・リー将軍の騎馬像が、人種差別の象徴であることを理由に市の公園から撤去されるという決定に抗議するためだった。トランプの大統領就任で勢いづき、白人の存在感を示したいという思惑もあっただろう。しかし、それ以上にシンボリックな意図があったのではないか、と私は思う。米バージニア州シャーロッツビルの解放公園にあるロバート・E・リー将軍の像 冒頭で「死体が眠っている」と書いたのは、あながち間違いではない。この辺りには、南北戦争の古戦場が無数にあるからだ。 バージニアは南部連合の本拠地で、首都がリッチモンドにあった。今はワシントンDCのベッドタウンとして、ペンタゴンをはじめ重要な国家機能の多くを抱えているから、バージニアを北東部だと勘違いしている人は多いかもしれない。当時は、いわゆる深南部などよりはるかに白人優越意識が強く、奴隷制を堅守する南部の心臓だった。 今も戦闘を再現するイベントが各地で開かれる。私は4年前、シャーロッツビル近くの古戦場で取材したが、軍服など完璧な「コスプレ」姿で野営をし、3日かけて大砲を撃ち合う壮大なイベントだった。南部連合国旗があちこちに翻り、最後は南軍の勝利を祝って解散となった。 また、バージニアはどの州よりも多い、8人の大統領を輩出している。初代ワシントンから5代目まで、アダムズを除いて全員がバージニア出身だ。シャーロッツビルの近くには「建国の父」と呼ばれるジェファーソンと、マディソンの大邸宅がある。2人とも大勢の奴隷を所有していた。 白人至上主義者がたいまつを手に行進したバージニア大学は、ジェファーソンが創立した。公立校ではあるが、裕福な白人家庭の子供が通うステータス・シンボルで、エリートの社交場だ。最近は、非白人の学生や留学生が増えてきた。 バージニア州の人口構成も変わった。特に州北部で、都会志向のリベラルな若者や移民が増えた。2008年の大統領選挙で、1964年以来、民主党候補として初めて、それも黒人のオバマがバージニア州で勝利したことは、激しい差別を体験してきた黒人たちにとりわけ感慨深く受け止められた。 シャーロッツビルも、55歳以上では白人が7割以上を占めるが、18歳未満だと白人と非白人の構成率はほぼ半々になり、一変する。建国以来の「レイシャル・オーダー」(人種の秩序)の崩壊が、実感できる。 ダウンタウンには、古い建物を改装したしゃれたレストランやカフェが並び、夜遅くまでにぎわう。その繁華街が、今回の「車両テロ」の現場となった。 事件後、前述のリー将軍の騎馬像には、急いでカバーがかけられた。愛国心が覆い隠したもの 南部連合の栄光をたたえる記念碑や指導者の像は、全米各地に1000以上あると言われる。バージニアは最多で200を超える。 碑のほとんどは、南北戦争終結から何十年も経過した1910〜1920年代と、1950〜1960年代につくられた。南部でジム・クロウと呼ばれる人種隔離政策が本格化し、黒人に対する投票権の剥奪やリンチがピークに達した時期、そして公民権運動が盛んになった時期だ。白人至上主義の「クー・クラックス・クラン(KKK)」が台頭し、活発化した時期とも重なる。 こういった記念碑などの南部のレガシーは郷土愛や愛国心にすり変えられ、軍人や政治家は美化された。奴隷制、南部の繁栄を支えた黒人の存在は、そこには描かれない。そのせいで、南北戦争は奴隷制と関係がなかった、と信じ込んでいる人は少なくない。だから「人種差別でも暴力でもない、自分たちのヘリテージ(遺産)を守って何が悪い、破壊や撤去は祖先への侮辱だ」という主張になる。 一方、黒人は長年、抑圧のシンボルである記念碑や、州庁舎にはためく南部連合国旗の撤去を訴えてきた。自治体側のかたくなであった態度が変わり始めたのは、2年前だ。 サウスカロライナ州チャールストンで、白人至上主義に傾倒する男が、黒人教会で乱射し、9人を殺害した。容疑者が南部連合国旗と一緒にうつる写真が公開され、激しい抗議を受けて、各地で撤去や見直しが検討された。前述のシャーロッツビルのリー将軍の騎馬像も、その一例だ。 チャールストンでの追悼式、オバマはスピーチの途中で、黒人解放運動の代名詞とも言える賛美歌「アメイジング・グレイス」を口ずさみ、参列者全員が手を携えての唱和へと導いた。理不尽な暴力と厳しい抵抗の歴史の中で培われてきた黒人の魂と、希望に触れた瞬間だった。8月12日、米バージニア州シャーロッツビルで、ヘルメット姿の白人至上主義者ら(手前)と衝突する反対派(上塚真由撮影) トランプは、まだシャーロッツビルを訪れていない。「われわれの美しい像や記念碑が撤去され、すばらしい歴史と文化から切り離されてしまうのは悲しい」というツイートはした。「Our」という単語を使ったが、それは誰のアメリカなのか? 今の大統領には、人種分断の「癒やし」の役割を担う意思はなく、その資格もない。 白人至上主義者たちは「成功」に勢いづいているようにも見える。保守系ニュースサイトでは、事件後、いつ禁止されて買えなくなってしまうかわからないという不安から南部連合国旗の注文が殺到しているという報道もあった。差別を許さない、という対抗デモも、一層激しくなるはずだ。 暗く醜い「闇」から目をそらしてはいけない。そのことにより多くの人が気づいて行動しない限り、悲劇は何度も起きる。

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    トランプは「差別主義者」か

    米南部バージニア州で起きた白人至上主義者と反対派の衝突をめぐり、トランプ大統領の差別容認とも受け取れる対応に混乱が広がっている。当の本人は「私の発言をきちんと伝えなかった」とメディアに責任転嫁したが、差別の意図は本当になかったのか。米国を揺るがすトランプ発言の真意を読み解く。

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    白人至上主義者たちにハメられたトランプの「限界」

    前嶋和弘(上智大学総合グローバル学部教授) アメリカ南部バージニア州シャーロッツビルで8月11日から12日にかけて白人至上主義者のデモと反対派の衝突が起こした波紋は、これに対するトランプ大統領の対応の拙さもあって、一向に収束する気配がない。19日にはボストンで「言論の自由」を主張する若者らによる大規模な集会が開かれ、差別主義者との関連が指摘されたため、数千人規模の反対派が抗議するなど、対立はさらに拡大していく可能性もある。8月14日、米ニューヨークのトランプタワー付近で、トランプ大統領を批判するプラカードを掲げ抗議する人(ゲッティ=共同) 白人至上主義者のグループであるクー・クラックス・クラン(KKK)やネオナチはアメリカ社会の暗黒部を象徴するようなグループである。KKKは有色人種を夜に襲い、数々のリンチを繰り返してきた。ネオナチもユダヤ人虐殺を行った「ナチス」から名付けられているのは言うまでもない。 KKKやネオナチというアメリカ社会の中で蛇蝎(だかつ)のように嫌われてきた白人至上主義者グループに対し、その主張に反対する人たちを同列に扱うトランプ大統領の「喧嘩両成敗」という主張は、アメリカ社会では受け入れがたいことである。 トランプ氏もそのことは十分理解しているはずであろう。昨年の選挙戦中、白人至上主義団体のKKKのデューク元最高幹部との関係をきっぱりと否定していた。これは「白人至上主義者」のレッテルを張られたくないために他ならない。 今回の事件については、トランプ大統領の言葉が二転三転した。事件直後の12日の記者会見でトランプ大統領は「憎悪や偏見、暴力を可能な限り強い言葉で非難する」などとあいまいな形で言葉を濁した。白人至上主義者を名指しで非難しなかったという批判が大きくなったため、14日には「人種差別は悪だ」とした上で、KKKやネオナチという名前を挙げ、白人至上主義者などを名指しで非難した。 しかし、翌15日の会見では一転して「白人至上主義者らと反対派の双方に非がある」と「喧嘩両成敗」に至っている。「双方に非がある」と3回目の記者会見で発言は、原稿を読み上げた前日の会見とは異なり、アドリブであった。ただこの発言はあまりにも想定外でケリー首席補佐官ら近くの政権関係者がうつむいてしまった。理解に苦しむ「肩入れ」はなぜ起きたのか ではなぜ、そもそもなぜトランプ氏が白人至上主義者に肩入れしてしまったのだろうか。はっきり言って理解に苦しむところだが、誤解を恐れずに言えば、おそらく「自分がドナルド・トランプであり続ける」ことにこだわったように見えて仕方がない。米ホワイトハウスで、遮光眼鏡などを着用せずに日食を眺めるトランプ大統領=8月21日(ロイター=共同) 「自分がドナルド・トランプであり続ける」とは何か。それは、没落していく白人ブルーカラー層の見えない怒りをすくい上げ、それを体現することに他ならない。政治のアウトサイダーであり続け、既存のエスタブリッシュメントの破壊者でありつづけることだ。昨年の選挙戦でレトリックそのものである。 よく知られているように、執務室に飾ってあるアンドリュー・ジャクソンがトランプ大統領のロールモデルである。農民出身のジャクソンは1829年、貴族出身でない最初の大統領に就任し、大衆の意見を代弁した。腐敗した中央銀行を停止させ、官僚を追い出すために、自分が省庁の主要職を任命する、今の政治任命につながる猟官制度を導入した。大衆に支えられた大胆な改革者ではあったが、その一方でインディアンには徹底的に迫害を加えた。 「敵と味方」という二元論的な見方もトランプ氏そっくりだ。「ジャクソニアン・デモクラシー」は大衆民主主義という脅威に支えられていた。トランプ氏は現在の大衆民主主義を代弁し、「トランピアン・デモクラシー」を実現させるというのが自分の使命と考えているのかもしれない。それが、南北戦争の南軍司令官ロバート・リー将軍の銅像の撤去計画に反対することを名目で集まった人々の声に反応し、これを擁護する発言に出たのかもしれない。 しかし、もしそう考えたのなら、白人至上主義者がトランプ氏をうまくはめてしまった、といったら言い過ぎだろうか。というのも、リー将軍の銅像の撤去計画に反対することを名目で集まったといっても、歴史問題にすり替えた武装集団運動であった側面が強いためである。全米から銃や盾を持って、小さな街に集結すればそれは大きな騒ぎになるのは当たり前である。集まった人たちの中には純粋に南部の歴史を守ろうと考えた人もいたかもしれないし、武装しなかった人もいただろう。しかし、激しい乱闘の多数派の中で目立たず、最初から騒ぎを起こそうと思った連中にとって、格好のPRの機会となってしまった。限界を露呈した「アメリカの理念」 今回のデモをめぐる騒動を一体、誰が喜ぶのだろう。そもそもトランプ氏にとってもどう考えてもマイナスである。詳しくは今後の世論調査の結果を待たないといけないが、今回の白人至上主義者のデモもそれに反対するデモの「双方に非がある」という今回のトランプ氏の発言は今後の支持層の変化を生んでしまうかもしれない。 トランプ政権は政治的分極化(2つのアメリカ化)を象徴するように、リベラル派からは蛇蝎のように嫌われ、保守層からは極めて高い人気を集めている。就任して200日(8月7日)前後の各種世論調査では、トランプ氏の支持率は全体では4割を切ってしまうほど非常に低いが、共和党支持者内のトランプ氏への支持は7割を超えており、その数字は就任直後からほとんど落ちていなかった。ロシアゲート疑惑でもびくともしていない。 しかし、保守層の中の大きな部分を占める「小さな政府」層からも「宗教保守」層からもKKKやネオナチのグループに対する嫌悪感はすさまじく、奇妙なまでに強固だった支持基盤も崩れていく可能性もある。特に、「小さな政府」層については反応が素早く、白人至上主義者擁護ともとれるトランプ氏の発言で、産業界のメンバーなどからなる助言組織のいくつかがすでに廃止に追い込まれており、経済界との溝ができてしまった。米南部バージニア州シャーロッツビルで起きた白人優位主義のグループ(左)と反対派の衝突=8月12日 さらに大きいのが、「差別的な白人至上主義は絶対に容認してはいけない」という反差別や平等主義といったアメリカの理想が今回の事件で大きな曲がり角を迎えてしまっている点である。「反差別」が「白人至上主義」と同列に扱われてしまうきっかけになってしまった。 騒動の渦中に辞任した首席戦略官・上級顧問のバノン氏は、今回の騒動について「(人種などを政治的争点にする)アイデンティティー・ポリティクスには飽き飽きした」と叫んだ。アメリカの理想そのものを相対化する口実を見事に与えてしまったように思える。一方で、バノン氏は、自分が選挙で動員したはずの、デモに参加した白人至上主義者たちを「道化師」とさげすんでいる。何とも冷徹な戦略家である。 いずれにしろ、今回の騒動はトランプ氏の足を引っ張るだけでなく、アメリカの理念の限界も露呈させている。8月22日夜、アリゾナ州フェニックスで行われたトランプ氏の昨年の選挙運動を思わせる形式の支持者だけを前にした演説会では、 「メディアが真意をきちんと伝えなかった」という、いつものメディア批判とともに、 支持者を意識してさらなる分裂をあおるような言葉を連発した。いつもながらのトランプ節にあきれて言葉も出ない。 その意味で今回の「白人至上主義」事件については、今後のアメリカ社会を大きく変えていくようなものになるかもしれない。

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    トランプが人種差別で「どっちもどっち論」を繰り返したのはなぜか

    トンやジェファソンなど奴隷所有者であった歴代大統領をも断罪すべきなのかと問題提起を行っているのです。アメリカの歴史にとって、建国の父である人物と、国の解体を目論んだ将軍を同列に比較することは暴論でしょう。ただ、安易な歴史糾弾論に違和感がある有権者は多いし、これはより幅広い穏健な保守層までを取り込める論点ではあります。 少々乱暴であることは承知の上で、日本の歴史に置き換えてみると分かりやすいかもしれません。例えば、維新の元勲の筆頭であった西郷隆盛は、現在の価値観で捉えれば征韓論を唱えた植民地主義者であり、西南戦争で政府への反乱を主導しました。自害せずに、時の政府に捕らえられたならば、当然、国家反逆の罪に問われたであろう、罪人です。けれど、日本人の大半は上野の西郷さんの銅像を引き倒そうとは夢にも思わないでしょう。西郷さんの存在に多面性があるように、歴史には多面性があるのが普通だから。それを現代の一つの価値観に基づいて裁くことはいつだって論争的なのです。 混同された論点の第三は、法と秩序を維持することの責任という点。行政府の最高責任者として、大統領が法と秩序の守り手であるのは事実です。しかも、トランプ氏は保守層の支持を得るために、不法移民対策にせよ、テロ対策にせよ、法と秩序を前面に出した選挙戦を戦って大統領職を得ました。それは、ニクソンやレーガンなどの歴代の共和党出身の大統領が共通して採用してきた戦略でもあります。 特に、ニクソン大統領はベトナム反戦運動が激しくなり、一部で暴徒化していた60年代後半にあって、(多くは左派の)デモ隊と、サイレント・マジョリティー(≒穏健で物静かな多数派)を区分けすることに成功しました。ニクソン大統領については、ウォーターゲート事件を受けて辞任した不人気な大統領というイメージが強いですが、少なくとも法と秩序を前面に出す政治戦略は大成功し、同氏は圧倒的な人気で再選されたことを忘れてはいけません。 ただ、シャーロッツビルの事件において、法と秩序をめぐる同様の構造が成立しないのは、法と秩序を壊している側が極右の差別主義者であったということです。法に反して暴力を振るっている側に同情して、法と秩序論を主張しても全く説得力がありません。トランプ氏は、反差別のカウンター・デモ隊の側にも暴力があったことを強調してその構造を作ろうと試みましたが、無理筋だったというべきでしょう。今後の米政治の流れ今後の米政治の流れ トランプ政権への批判がこれまでになく高まっている中で、今後の政治の流れを予想することは困難です。上述したように、共和党内の支持が底堅いことを考えると、直ちに政権基盤がグラつくことはないと思います。バノン氏の解任を受けて、トランプ政権の基本方針が変わるともあまり思えません。現政権は、バノン氏のような特定の人物によって左右されてきたというよりは、大統領個人のキャラクターとその信ずるところによって規定されている部分が大きいからです。また、トランプ政権のような「アウトサイダー」政権において、政権発足後しばらくの期間、陣取り合戦的な政権内の権力闘争が激しく、政権運営が安定しないということも、過去なかったことではありません。 もちろん、トランプ政権における幹部人事の遅滞や、政権内部の勢力争いが極端にひどいという点で大方の識者は一致をみています。また、諸政策を実現する上では、政権のコア支持層を超えたより幅広い支持を獲得する必要があります。医療保険改革法案の失敗を受けて夏休みに突入した政権が、休暇明けにいったいどのような戦略をもって政策推進に臨むのか。米ニューヨークのトランプタワーのロビーで、トランプ大統領が語る姿を見るケリー大統領首席補佐官(左)=8月15日(AP=共同) 大方の予想は、減税法案を早期に出してくるというものです。共和党の諸派が合意でき、国民に対して訴求力がある政策だからです。ただ、医療保険政策と同様に減税政策の肝も細部に宿るもの。新たにトランプ政権の司令塔となったケリー首席補佐官の手腕が問われるところです。 とはいえ、今般の人種差別をめぐる論点がなくなるわけではありません。トランプ氏が意図された混同論を続ける限り、事態は改善しないでしょう。現在の差別主義者に対しては絶対的な論調で非難するべきです。それは、大統領の道義的リーダーシップの一環であり、曖昧さを紛れ込ませる必要のないものです。 シャーロッツビルを離れ、一部の反差別団体によって南軍関連の公共物を、法的手続きを経ずに引き倒す動きも広がっています。法的には器物損壊と言わざるを得ない行動が「反差別無罪」の雰囲気の中で正当化されている現実があります。白人至上主義のデモの参加者を、ソーシャルメディアを通じて特定し、個人情報を公共空間に晒したり、所属先の責任を追及したりする動きも広がっています。集会への参加を指摘された者が職場をクビになった事案もあれば、差別主義者を指弾する人民裁判的な動きの中で、単なる人違いの事案も発生しています。 トランプ氏がどっちもどっち論を採用した根底には、このような動きに対する感情的な反発があるのでしょう。それは、正義や進歩と同時に秩序を重んじる保守層に典型的な反応であり、一概に批判されるべきものではありません。ただし、差別主義者に対する拒絶を明確にして初めて、国民の大層は聞く耳を持つというもの。歴史認識や、法と秩序の論点を提起したいのであれば、現在の問題としての差別の問題をゆるがせにすることは許されないのです。(ブログ「山猫日記」より2017年8月22日分を転載)

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    解任されたバノンがトランプの敵になる可能性

    問=ワシントン(ロイター=共同) 確かにバノン氏の言動には多々問題点がありました。リベラル派の雑誌「アメリカン・プロスペクト」とのインタビュー記事もその一つです。同誌に自らアプローチをしたバノン氏は、記事の中で北朝鮮の核・ミサイル開発問題に触れ、「軍事的解決はない」と断言したのです。この発言は、トランプ大統領の例の「北朝鮮は米国に対して脅迫を止めなければ、世界がこれまでに見たこともないような炎と激怒に直面するだろう」というメッセージと相反するものです。しかも、その効果を弱めてしまいます。 北朝鮮問題に対する軍事攻撃を全面否定するバノン氏のこの発言は、トランプ政権の本音を金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長に送ってしまった点で致命的であるかもしれません。米メディアは、政権内でレックス・ティラーソン国務長官とジェームズ・マティス国防長官が「いい警察官と悪い警察官」の役割分担を行い、北朝鮮に対して「ソフトとハード」ないし「同情と脅迫」の混合したメッセージを発信していると分析しています。仮にそうであるならば、バノン氏の発言は両長官の役割分担の戦略の効果を下げ、北朝鮮に対して予測可能な状態にしてしまったのです。トランプ氏が関係を維持したい一族 それに加えて、ホワイトハウスが情報漏洩に神経質になっている時に、国家安全保障問題の担当でないバノン氏がメディアにリークしたとも解釈ができます。この点においても、同氏の発言はかなり問題があります。 対中国強硬派のバノン氏には、リベラル派のメディアを利用してホワイトハウスのクシュナー氏及びコーン氏等の穏健派に圧力をかける狙いがあったのでしょう。ただ、北朝鮮問題に関してあたかも自分が米軍最高司令官のような発言をして、トランプ大統領の逆鱗に触れたことは容易に想像できます。 バノン氏は解任されると、早速会長を務めていた極右サイト「ブライトバート・ニュース」に戻りました。「トランプのパトロンの正体」で紹介しましたが、同氏はヘッジファンドで財をなしたロバート・マーサー氏と娘のレベッカ氏と関係を密にしています。マーサー一族はブライトバート・ニュースに1000万ドル(約10億9000万円)、トランプ陣営には1350万ドル(約14億7000万円)の資金提供を行っています。当然ですが、トランプ大統領はマーサー一族との関係を切りたくないでしょう。大統領首席戦略官を解任されたバノン氏 そこで、トランプ大統領はマーサー一族からの支持を維持するために政策の取引を行う可能性が高いです。例えば、すべての政策を穏健化路線に切り替えるのではなく、地球温暖化対策の国際的枠組み「パリ協定離脱」は反グローバリズムのシンボルとして残します。 バノン氏には、行政国家の解体、反移民政策の遂行及び保護主義の実現等のやり残した仕事があります。ホワイトハウスを出てアウトサイダーになっても、穏健派路線に舵を切るホワイトハウスの幹部にとって、同氏が政策遂行の上で障害になることは変わりません。トランプ大統領は、同氏の敵意と憎悪をホワイトハウスの穏健派ではなく、「フェイク(偽)ニュース」に向かわせるために何らかの策を講じるでしょう。うんの・もとお 明治大学政治経済学部教授。心理学博士。アメリカン大学(ワシントンDC)異文化マネジメント客員研究員(08~10年、12~13年)。専門は異文化間コミュニケーション論、異文化マネジメント論。著書に「オバマ再選の内幕―オバマ陣営を支えた日本人が語る選挙戦略」(同友館)など多数。

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    差別を拡大するトランプ、差別を嫌悪したケネディ

    況は極めて深刻に映るようである。作家の落合信彦氏は米国の先行きについて警戒感を隠さない。* * * アメリカの大統領は、世界の未来を見据え、自由や民主主義の精神を守る覚悟が必要だ。それがアメリカのリーダーの「器」というものである。「雇用を守る」とばかり繰り返すトランプは、アフリカのどこかの独裁国家の大統領くらいの器しかない。 その小さな器では、アメリカ国内をもまとめることができない。トランプは、アメリカを真っ二つにしてしまった。「富裕層vs貧困層」「白人vsヒスパニック・黒人」……。とくに差別を煽ったことは罪深い。「メキシコ移民はレイプ犯」発言に代表される人種差別。さらに女性たちや、障害を持つ人々への差別。 この偏狭な男の発言は、アメリカ全体の空気も偏狭にしてしまった。日本ではあまり報じられていないが、トランプが大統領選に勝利してから、アメリカ各地で差別的な行動が激化しているのだ。ボストン郊外の大学では、「TRUMP」と書かれた旗を掲げたピックアップトラックに乗った2人の男が侵入して、黒人学生が住んでいる寮に向かって罵声を飛ばし、さらに唾を吐きかけた。 ユタ州では、ヒスパニック系の高校生が白人生徒から「不法入国者!」「メキシコに帰れ!」「メキシコにタダで帰れるから喜べ!」などと嫌がらせを受けた。さらに、アメリカのあちこちのトイレでは、「Whites Only(白人専用)」などという落書きが増えた。 トランプの存在が、アメリカ社会を分断したのだ。 実は、ジョン・F・ケネディが大統領に就任した当時も、アメリカは2つに割れていた。「I Have a Dream.」で有名なキング牧師のリンカーン記念館演説の3年前にあたる1960年。黒人差別は酷い状況であり、アメリカ社会は「白人vs黒人」で一触即発の状態だった。 そんな中、キング牧師が座り込んで解放運動をしていたことを機に逮捕される。選挙中でニクソンと戦っていたケネディは、二者択一を迫られた。 良心に従い、キング牧師の逮捕を不当だとして介入し白人票を失うリスクを負うか。それとも何もせずに票を固めるか。 ニクソンはこの問題についてノー・コメントを貫いたが、ケネディは迷わなかった。まず遊説先のシカゴからキング牧師の妻コレッタ・キングに電話し、できる限りのことをすると約束した。そして翌日、弟のロバート(ボビー)・ケネディに、キング牧師を有罪にした判事に電話させ、すぐ釈放するよう説得したのだ。キング牧師は、即日釈放された。このことは、黒人たちの心を大いに動かした。 ボビーもまた、黒人差別をなくそうと強く主張した。1968年の大統領予備選の間、ボビーが各地を回ると、多くの黒人支持者が彼と握手しようと殺到した。ケネディ兄弟は、白人はもちろん、黒人たちから愛され、慕われていた。 ケネディ兄弟は、アメリカを1つにしようとしたのだ。彼らは、それまでアメリカを暗く覆っていた「差別」という厚い雲を、吹き飛ばしつつあった。 しかし、1963年と1968年の2つの悲劇的な暗殺事件が、彼らの理想を道半ばで終わらせてしまったのだ。 翻ってトランプは、差別をなくすどころか再生産し、アメリカ社会の亀裂をどんどん広げようとしている。2017年は「この年から、憎しみと差別の歴史が再び始まった」と記憶されることになるかもしれない。関連記事■ ジョン・F・ケネディ 核戦争危機から世界救った水面下交渉■ 暗殺から50年 ケネディ大統領の関連本が続々と新刊ラッシュ■ 落合信彦氏「JFK暗殺なければ弟ロバートは今も生きていた」■ 米の低レベル高校生、殺人事件が日常の街等をリポートした本■ 落合信彦氏 米大統領選で最高の名勝負はケネディvsニクソン

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    トランプは北朝鮮のグアム攻撃が「絶対にない」ことを知っている

    重村智計(早稲田大学名誉教授) ドナルド・トランプ米大統領は、なかなかの役者だ。北朝鮮の扱い方を知っている。北朝鮮を、米国と国際政治の最優先課題にしたからだ。追い詰められた金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長は8月14日に、「米国の動向をもう少し見守る」と言わざるを得なくなった。これを受け、トランプ氏は16日に「金正恩は賢明な判断をした」と述べ、事態が収束した。脅しと落としどころを心得た“不動産業者”トランプ氏の勝利だ。米朝の指導者は戦争するつもりはなかった。北朝鮮の石油保有量は世界最少の50万トン。これでは戦争できないとわかっている。国家予算も国内総生産(GDP)も世界最少だ。トランプ大統領がツイッターで北朝鮮に警告を発するニュースを伝える街頭ビジョン=8月12日、東京都千代田区(宮川浩和撮影) トランプ氏は、北朝鮮がグアム攻撃できないと知りながら「(攻撃すれば)北朝鮮に惨事が起きる」と口撃した。世界のメディアが彼の発言を報じ、偶発衝突を危惧した。マスコミ操作は大成功だ。北朝鮮の指導者はなぜか発言を控えた。首脳同士の「舌戦」から手を引いたのだ。世界最大国家の指導者が小国の国家指導者をからかい、ニュースを独占している。 北朝鮮の言語文化は最初に「かます」。開口一番相手を「どつく」。優位に立つために威圧表現を使う。これはトランプ氏が使う手法でもある。 日本人は初対面や交渉の相手に「お手柔らかに」と、へりくだった姿勢を示す。北朝鮮の日常生活ではダメだ。「俺が誰だかわかっているのか」と言わないと甘く見られる。 北朝鮮の発言にだまされまい。朝鮮半島には言いたいことを120%表現する言語文化がある。それに対抗するには、同じ「激震」のメッセージを送るしかない。日本は腹の中を60%しか言わない文化だから北朝鮮に負ける。トランプ氏は、自制を求める声に「まだ激しさが足りなかったかも」と述べたが、正しい表現だ。 北朝鮮は「ソウルを火の海に」という言葉を何度も使った。それに対抗した米指導者はトランプ氏が初めてだ。北朝鮮の過激表現には「米国が挑発すれば」との前提条件がつく。だから「火の海」にならない。国連安保理「制裁決議」の抜け穴 金委員長も「わが国に手出しすれば」と述べた上で、「米国も無事ではない」と断言した。それはそうだろう。前提条件を読めば当たり前の発言だ。北朝鮮外務省は「米国がわれわれへの軍事的冒険に手をつけるなら」と前置きした上で、「正義の行動で応じる」と語った。朝鮮人民軍戦略軍司令官も「グアム島包囲射撃計画案を慎重に検討」と発言した。あくまで「案を慎重に検討」と言うだけで、「攻撃を検討」とは言わない。北朝鮮の弾道ミサイル発射を報じる街頭テレビに映った、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長=7月4日、東京・有楽町 北朝鮮の「米国への恐怖」がこの表現からよくわかる。ならば、なぜ過激表現を繰り返すのか。金正恩体制維持のためであって、米国と対話するためではない。対話を望むなら、もっと柔軟な表現をするからだ。 トランプ氏は、金委員長を「米国への最大の脅威」と印象付け、支持率引き上げに利用した。反トランプの米紙ニューヨーク・タイムズも「若く気まぐれな核付き独裁者」と、金委員長批判の見出しを一面に掲げた。「トランプ作戦」の勝利だ。 トランプ氏は8月10日に、国連安全保障理事会での北朝鮮制裁決議について「(効果は)それほど期待できない」と冷めた理解を述べた。安保理は8月5日に「北朝鮮の石炭、鉄鉱石など輸出の全面禁止」を決議した。これを受けて、メディアでは「北の石炭、鉄全面禁輸」と報じられた。だが、この見出しでは「輸入全面禁止」と誤解される。 「輸出」と「輸入」では何が違うのか。「輸出」は北朝鮮だけが責任を負うもので、中国とロシアは全く責任を問われない。禁止されているのは北朝鮮の「輸出」であって、各国の「輸入」ではない。中国とロシアには「輸入」してもいいと解釈できる余地を残した。 交渉関係者によると、米国は制裁決議に「輸入全面禁止」と「石油禁輸」を盛り込みたかったが、中ロは応じない。仕方なく「輸出全面禁止」で折り合いをつけた。今回の安保理決議には、次回は「輸入全面禁止」を盛り込む、との米国の意向が強くにじみ出ている。15日から中国政府は、北朝鮮産石炭や水産物の輸入全面禁止に踏み切った。ロシアとの立場の違いを示したとされるが、なお「抜け道」が憂慮されている。それでも金正恩のメンツは丸つぶれ たとえ、北朝鮮の石炭や鉄鉱石が中国とロシア国内に存在しても、「輸入全面禁止」ではないから安保理決議違反ではない。解釈次第では、前回の決議が容認した「北朝鮮の国民が生活必需品」を購入するための輸入なら、認められるかもしれないのだ。 北朝鮮は安保理決議を無視しているので、いまさら「輸出全面禁止」決議に従わないだろう。支援国の中国とロシアに迷惑はかからない。北朝鮮の国連外交官は「中国とロシアの輸入は全面禁止になりませんでした。われわれの勝利です」と本国に報告したことだろう。 中国とロシアは北朝鮮のために単独で「拒否権」を使うつもりはない。中国とロシアは共に拒否権を行使すると、国際社会から「北朝鮮の味方」と非難され孤立する。安保理が決議違反に対して弱い声明しか出せないなら、安保理の権威と信用は崩壊する。その責任は、中国とロシアが負わされることになる。米国は、中ロ両国のこの微妙な立場を巧みに批判し、説得したといわれる。 ただ、今回の「輸出全面禁止」決議は、金委員長のメンツと軍部の権威を相当に傷つけた。北朝鮮指導部は、ミサイル発射しても米国や国連は手が出せない、と豪語していた。それが「輸出全面禁止」の上、トランプ氏にまでボロクソに言われ、もはやメンツ丸つぶれだ。クウェートは制裁決議に従い、北朝鮮労働者の入国を禁止した。クウェートは北朝鮮の中東工作の拠点だ。5月18日に撮影された、北朝鮮・豊渓里にある核実験場の衛星写真。丸で囲った部分に、新たに建設が始まったとみられる建物が写っている(デジタルグローブ/38ノース提供・ゲッティ=共同) 北朝鮮の鉱物資源の輸出が減少し、労働輸出にストップがかかれば指導者のメンツは確実に損なわれる。儒教文化の北朝鮮では「体面(メンツ)」の喪失は指導者に痛手だ。軍部はこのトランプ戦略に対抗するために、地下核実験を強く求めている。

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    北朝鮮ICBM技術「流出の黒幕」はウクライナではなく中国だった?

    米国? 先日のNHKニュースで大同大学の澤岡昭名誉学長がこう述べている。「これは非常に古いエンジンでアメリカのアポロ計画の時代1960年代に開発が始まって、アメリカが月へ行った頃に完成したと言われています」 澤岡氏の言を俟(ま)たずとも、旧ソ連が米国の科学技術を盗み取っていたのは軍事技術者の間では有名な話で、米国が1970年代、戦闘機F15イーグルを開発すると、それに対抗してソ連はミグ29とスホイ27を開発したが、形状はF15にそっくりである。 つまり、ソ連が米国のエンジン技術を盗み、ウクライナに製造させていたのがRD250系であって、技術の提供元をしつこく探れば、結局米国という事にもなる。一歩間違えばブーメランにもなりかねないリスクを米国は冒しているわけである。 ウクライナから闇の市場を通って北朝鮮にたどり着いたと言われているが、このエンジンの製造をウクライナは2000年代初頭に停止しており、10年以上も闇の市場を漂っていたとは考えられない。 しかもウクライナは、製品をすべてロシアに納入しているから、ロシアから北朝鮮に流出したと言うが、現在の両国の経済状況から見てロシアに、無料で技術供与をする余裕はなく、また北朝鮮に金を払う余裕もないであろう。 むしろ、ここで関与が疑われるのは中国であろう。中国にはまだ北朝鮮を支援するだけの経済的余裕がある。しかも1998年に中国はウクライナから空母を購入して、後に「遼寧」として就航させている。 2000年前後において、ロシアの軍縮によってウクライナの兵器産業はひっ迫しており、経済成長を始めた中国は新しい顧客として優遇されていた。ウクライナが中国にRD250系を二束三文で売り払ったとしても不思議はない。 もちろんウクライナの主張のようにすべてがロシアに納入されているとすれば、ロシアから中国が買った可能性もある。いずれにしてもRD250系は旧式であるから欧米としても特に問題視しなかったであろう。エンジン流出源について記者会見に臨んだウクライナ宇宙庁のラドチェンコ長官代行=2017年8月15日、キエフ 中国としては当初、非軍事の宇宙ロケットの開発に転用する計画だったであろうが、やがて北朝鮮が核実験に成功するに及び、新しい利用法を発案した。つまり北朝鮮のミサイル開発の支援に利用するのである。 北朝鮮が核ミサイルを独自開発してしまえば、そのミサイルが中国に向かう可能性をはらんでいる。中国が全面的に支援して北朝鮮のミサイル開発自体をコントロールすれば、中国製のGPSを組み込むことにより、その可能性を排除できるのである。 今回、米国がブーメランのリスクを冒してまで、同盟国ウクライナを苦境に追い込んだのは興味深い。トランプ政権はロシアとの接近を図っているが、その最大の障害はロシアとウクライナの対立であり、ウクライナの譲歩があれば、米露接近は可能になる。 一方、米露接近を最も警戒しているのが中国であり、ロシアを中国側に引き込み中朝露と日米韓の対立の構図を演出している。だが、この対立の構図は安定したものではなく、むしろ不安定で危険である。なぜならそれは世界大戦を指向しているからである。

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    米露を呑み込む中国の「一帯一路」 巨大利権に潜む習近平の大戦略

    富坂聰(ジャーナリスト、拓殖大学海外事情研究所教授) 5月14日と15日、中国は初となる「シルクロード経済圏構想」(一帯一路)首脳会議(以下、首脳会議)を北京で開催した。「一帯一路」をテーマに北京で開かれた国際会議の記念撮影で手を振る各国首脳。前列中央右は中国の習近平国家主席、同左はロシアのプーチン大統領=5月15日(共同) 現状、そこには青写真があるだけで「一帯一路」の全体を把握することは難しい。ましてや成功か失敗かなどを議論する段階ではないのは言うまでもない。ただ、この会議ではっきり伝わってきたのは、中国が次の発展のためにも「一帯一路」の成功を不可欠と位置付けていることだ。同時に中国は、この構想を軌道に乗せるためにも国際社会との関わり方を変えていかなければならないという考えに至ったことも感じさせた。 例えば、「一帯一路」首脳会議で基調演説に立った習近平国家主席は「(シルクロードの)開拓事業に使われたものは、戦馬と長槍ではなく、ラクダのキャラバンと善意であり、頼りにしていたのは艦艇と大砲ではなく、宝船と友情だったのである」と平和の重要性を前面に出した。 会議には南シナ海の領有権をめぐって対立するベトナムやフィリピンからもトップが参加し、習氏の憂いを一つ晴らす材料となったのだが、習氏もそれにこたえるように、「他国の内政には干渉せず、社会制度と発展モデルの輸出もしなければ、それを他国に強要することもしない。中国は地政学ゲームのような古いやり方を繰り返すようなことはせず、安定を打ち破る小さなグループを作ることもせず、平和共存の大家族を築き上げる」と懸念の払拭に努めた。 こうした中国の姿勢は随所に見受けられ、首脳会議の前には「独断で進めるつもりはない」と耿爽報道官(5月5日の中国外交部の会見)が言及している。 この首脳会議には、直前になって米国が代表団を送ることが決まり、実際に代表団が参加したのだが、中国の準備は実に4月上旬の「マール・ア・ラーゴ」(トランプ大統領のフロリダ州にある別荘)における米中首脳会談にまでさかのぼる。 この米中首脳会談は、トランプ氏と習氏の個人間のつながりが生まれた会談として位置づけられているが、一方で中国側からの通商面での強い働きかけがあったことでも知られている。 事実、米中両国の合意の中には「双方は今後、一定期間の重点協力分野と努力目標を確定した。そして、二国間投資協定交渉を引き続き推進し、インフラ建設やエネルギーなどの分野での実務協力を模索し展開していく」(『人民網日本語版2017年4月8日』〈中米首脳会談 積極的シグナルを発信〉)とある。しかも、会談後には習氏が「中米貿易が協力を強化するということの前途には、大きな広がりがある。双方はこのチャンスを逃してはならない。中国は米国が『一帯一路』という枠組みに参加することを歓迎する」と語っている。米経済構想との親和性 この「一帯一路」構想が、実は米国にとってそれほど大きなストレスではないことは、この地域において米国が主導して進めてきた経済構想と「一帯一路」が一体化する方向で話し合いが進んできたことからも推測できる。 それがヒラリー・クリントン元国務長官の下で進められてきた「新シルクロード戦略」である。この「新シルクロード戦略」は、そもそもイランとロシアを分断し牽制(けんせい)する意味から生まれたもので、これに対するロシアの構想が「ユーラシア経済連合」である。 興味深いのは、この「ユーラシア経済連合」も「一帯一路」との一体化を進めていることだ。要するに国際政治の視点からみれば、米露の対立の場であったシルクロードが、比較的中間色の強い中国の「一帯一路」に吸収されるという構図が見て取れるということだ。 一帯一路は、従来モデルの経済発展に限界を感じた中国が、外にその活路を見いだしたことにあるが、考えてみれば次の「成長エンジン」として期待される国が集中している地域でもある。 中国がそこに旗を立てれば、行き場を失っているマネーが流れ込むことは予測できる。そして、一旦そうした流れができれば、この一帯の経済発展は中国だけで手当てできる規模ではないことは明らかだろう。 中国がこのところの見せる対外宥和(ゆうわ)に「ウィンウィン(win-win)」が強調されているのは、こうした背景があるからだ。 こうして政治的な壁を取り払いながら、今後は実を取る作業へと向かうことになるのだが、その先頭を走るのは貨物列車と各地のインフラの整備である。 2011年に中国は貨物鉄道の建設を完成させた。現在、浙江省の義烏から11の国29の都市を通ってスペインのマドリードまで、約18日で結んでいる。この貨物鉄道の開通で、いま中国-欧州間には百億ドルに相当する貨物が行き来するまでになっている。 具体的には、中国から工業製品が運ばれ、帰りにマドリードからオリーブオイルとワインを積んで戻る貨物列車だ。小ロットの運搬が可能な貨物列車の運行により、従来は中国との貿易には無縁であった各国の中小業者が貿易に参入するという効果を生んでいる。それにつれ、互いの利益のために税金や通関制度などでの共通化が劇的に進んでいる。 現状はそうした効果が、本線である義烏とマドリード間だけでなく、北はバルト三国のラトビアの首都リガからロンドン、イタリアのミラノ、西はイランのテヘラン、アフガニスタンのマザーリシャリフなどにも広がっていく可能性が指摘されている。カザフスタン・ホルゴスの〝陸の港〟。右は中国用の線路、左はカザフスタン用の線路=6月12日(共同) まだ始まったばかりの一帯一路を評価することは難しい。ただ、これを「失敗する」と決めつけてしまうのはあまりに早計だ。この構想の背後には、多くの利害共有者がいるという事実も見落としてはならないからである。

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    北朝鮮ICBM、それでもトランプには最後の「制裁カード」がある

    西岡力(麗澤大学客員教授、「救う会」全国協議会会長) 北朝鮮がついに大陸間弾道ミサイル(ICBM)の発射実験を強行した。今年の新年の辞で金正恩がその準備ができていると豪語したとき、トランプ米大統領(当時は当選人)は「そんなことは起きない」とSNSに書いたが、起きてしまった。金正恩は米国の独立記念日への「贈り物」だったとうそぶき、米国連大使は武力攻撃もありうると発言するなど米朝の緊張は高まっている。 トランプ大統領はオバマ政権の対北政策である「戦略的忍耐」は間違っている、と繰り返し表明している。「戦略的忍耐」とは、北朝鮮は経済的困窮と国際的孤立で困難に直面しているから、核開発放棄を宣言するまで放っておけば、必ず助けを求めてくるという楽観的見通しに立つ、問題先送り政策だった。ところが、オバマ政権の10年間で、北朝鮮の核ミサイル開発は格段の進歩を見せ、数年以内に米国本土に届く核ミサイルを保有するところまできてしまった。 トランプ政権はすべての手段をテーブルの上に置き、まず北朝鮮の9割の貿易相手国である中国に経済制裁を強めさせて、圧力を加えるという政策をとっている。中国は本当に北朝鮮に圧力を加えているのか。トランプ大統領は7月5日、「中国と北朝鮮との間の貿易は第1四半期に約40%増加した。米国は中国と手を組んできたが、こんなものか。でもわれわれは試してみるしかなかった」とSNSに投稿した。別荘の中庭で中国の習近平国家主席(右)と歩くトランプ米大統領=4月7日、米フロリダ州 私はここで「試してみるしかなかった」という部分に注目する。今年4月、米韓軍事演習の実施、米国空母が2隻、朝鮮近海に出動するなどを受けて、米国が北朝鮮への爆撃を行うのではないかという予測が、日本の一部専門家やマスコミの中で沸騰した。そのとき、私は「まだ早い、米国はまだ試していないことがある、それを試してみてダメだったら軍事攻撃が浮上する」とコメントしていた。 それでは何を「試す」のか。中国と国際社会に対して強度の経済制裁を実施させる。具体的には北朝鮮の統治資金を徹底的に締め付けることと、石油の対北輸出を止めさせることだと考えていたが、7月になっても北朝鮮は音を上げず、ついにICBMの発射を行った。 しかし、トランプにはまだ、試してみるべきカードが残っている。それは北朝鮮と取引をしている第3国企業と銀行に対して、ドル取引を停止するといういわゆる「セカンダリー・サンクション(2次制裁)」だ。ICBMの発射の直前にその一部はすでに発動されていた。水面下の中朝取引 米政府は6月29日、北朝鮮の核、ミサイル開発を支援した中国企業「Dalian Global Unity Shipping Co」と2人の中国人および、北朝鮮のマネーロンダリング(資金洗浄)に関与した中国の銀行1行、丹東銀行(Bank of Dandong)に対して米国との取引停止、ドル取引停止という制裁をかけた。丹東銀行は北朝鮮が米金融システムにアクセスするための入り口の役割を果たしてきたと米財務省は指摘している。同行顧客のドル口座は取引の17%が北朝鮮に関連したものだったという。ムニューシン財務長官は調査を続けており、追加制裁を行う可能性もあるとした。 私は5月に米国軍に近い情報関係者から、中国と北朝鮮の関係について次の話を聞いていた。 「これまで25年間の中朝関係はやらせ詐欺であり、①北朝鮮が軍事挑発を行う②中国も加わって国際制裁が決議される③中国がわれわれも対北制裁していると明言する④北朝鮮が中国を批判⑤中国が国際社会に対北制裁をよくやっているとアピールする、という循環が繰り返された。しかし、水面下での中朝取引は続き、事実上、中国は北朝鮮の核ミサイル開発を助けてきた。われわれは、もはやそれにはだまされない。数年前から北朝鮮と取引をしている中国企業を徹底的に調査してきた。その調査結果の一部が、C4ADSという米国のシンクタンクが昨年8月に公表した報告書(※注1)に載っている。アルミニウムパイプを風呂桶として対北輸出している企業などがある。まず、ここまで分かっているということを教えるために代表的な10社を選んでリストを作った。その10社のリストをあなたにもあげますよ」 6月21日にワシントンDCで開かれた米中安保対話では、そのことが議題になったという。米紙「ウォールストリート・ジャーナル」によると、米政府は中国に2次制裁候補として調査が終わっている代表的な10社のリストを渡したという。中国銀行、ニューヨーク支店の外観=2011年10月 私が5月に上記関係者からもらった10社のリストと、安保対話で中国に渡されたリストが同じものかどうか確認できていない。 すでに、ウォールストリート・ジャーナルは4月25日付の社説で中国4大商業銀行の一つ、中国銀行(Bank of China)への二次制裁をかけよと主張した。「国連の専門家パネルによれば、昨年、中国銀行のシンガポール支店が北朝鮮の事業体の決済に605回関与している。中国政府はこの国連リポートの発表を阻止したが、内容はメディアにリークされた」「(中国銀行への二次制裁は)トランプ氏の真剣さに関する最小限のテスト」だと書いている。 中国銀行は、資産規模2・5兆ドルで世界4位だ。米シティバンクの2倍、三菱東京UFJ銀行の1・5倍の超巨大銀行であり、昔の東京銀行のように国際金融市場で中国を代表する銀行だ。その銀行が、ドル取引ができなくなることは国際金融秩序と米中経済関係に多大な影響を与えるだろう。しかし、軍事行動に比べれば少なくとも人命被害は出ない。これすらできなければトランプも結局、戦略的忍耐と同じことをしていると批判されるだろう。(※注1)報告書名は「In China’s Shadow Exposing North Korean Overseas Networks」。

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    「核とミサイルの罠」金正恩を追い詰める父の亡霊と内なる敵

    求めていると伝えられているだけに、金委員長は大きなジレンマに直面している。核実験に踏み切れば、中国とアメリカから大きな制裁を受ける。核実験ができなければ、米中を恐れる弱気の指導者と国内で陰口をたたかれ、権威が失墜する。 それを避けるために、「核兵器の完成」「ミサイルの完成」を宣言し、「核とミサイルの実験をしない」交渉に乗り出すとの戦略が、平壌から流されたこともあった。戦略への期待が急速に失われている。