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    原子炉より「超安全」な核のごみ処分場が決まらない理由

    武田邦彦(中部大特任教授) 「核廃棄物の最終処分は安全か?」という答えは「安全」。それもかなり安全で、日本列島に住んでいる一般人が地下に格納した核廃棄物からの放射線で被曝する可能性はほとんどない。まして地上で現実に「動いている=核分裂している」原発と比較するとまったく問題になることではない。 原発が危険なものであることは、2011年に起こった福島第一原子力発電所の爆発事故でよく分かった。爆発によって日本列島や近海に放出された放射性物質の量は日本政府発表で約100京ベクレルで、もしこの放射性物質が日本人の頭の上にそのまま降ってきたら、日本民族が絶滅する量である。 なぜ、原発は危険なのか? それは単に放射性物質を大量に保有しているということだけではなく、「原子炉内に大量に存在する放射性物質が一気に周辺にまき散らされることがある」から危険なのだ。 第一に、原子炉内に存在する放射性物質は「核分裂中」なので、短寿命核種が多く放射線は極めて強く発熱も膨大だ。 第二に、「核分裂反応をしているか、ちょっと前まで核分裂をしていた」から原子炉内には膨大な熱があり、爆発したり、メルトダウンしたり、さらには水蒸気爆発をするからだ。 仮に、原子炉を止めて数10年を経過した原子炉は爆発しない。すでに短寿命核種は崩壊して強い放射線を失っており、分裂せず熱も発生しないからだ。 では「原子炉」と「核廃棄物の最終処分」を比較してみよう。第一に、原子炉は「熱い=核分裂中か直後」であり、処分場は「冷たい」。第二に、原子炉は爆発する力があるが、処分場には無い。第三に、原子炉は地表にあるので地震やテロなどで打撃を受けるが、処分場は地下なので揺れが少ないところに格納できる。そして第四に、事故が起こって放射性物質が漏れると、原子炉はそのまま住民が被曝するが、処分場は地上に住む人には影響がない。 だから、現在は日本列島に30基ほどの運転可能な原子炉があるが、たとえそれが1基でも処分場とは比較にならないほど危険である。仮に「地表にある原発を運転することが日本にとって安全」なら、地下に格納された処分場は「超安全」であり、何の問題も無い。 日本は火山国で地震も多いので地下の埋設に不安を持つ人がいるが、地下の浅いところを除けば地層は安定している。 しかし、日本ではこれまで原発を1963年から動かしてすでに50年以上にもなるのに、まだ原発から出る核廃棄物を格納するところも決まっていないという異常な事態が続いているのは、「技術上の安全の問題」ではなく、「別の社会的要因」による。 一言でこの「社会的要因」を言えば「政府の信頼性がない」と言うことに尽きる。この場合の政府は日本政府自体と原子力の専門家、電力会社などの全体で、失った信頼性は「長年の言質と政策」にある。あまりにも当然の結果だが、当事者はまだ気がついていないか、気がついていてもどうしたら良いか分からないということだ。新潟県中越沖地震の影響で火災が発生、煙が上がる東京電力柏崎刈羽原子力発電所=2007年7月16日(第9管区海上保安本部提供) 新潟の柏崎刈羽原発が地震で破壊され場内で黒煙を上げる火災が発生しているのに地元になにも連絡しないで「安全です」というとか、高速増殖炉「もんじゅ」で燃料棒を引き上げられないという事故が起こったにもかかわらず「事故ではない」と強弁して、結果的に自殺者を2名出したりする。 こんなことが続けば国民が原子力に対する不信感が増大するのは当然なのに、個別の担当者は日本全体の長期的な原子力の信頼性を失うより、目の前の事故をいかにして小さく見せるかに全力を注ぐということをやり続けた。 電力会社は原子力で収益を上げたいと思うので、研究開発費を年間5000億円ほど国庫から応援を受け、電源三法で地元への資金を供給し、政治家、原子力専門家などにいろいろな名目で支払うお金は1000億円にも上ると噂されている。事実がどうかというより日本人の多くがお金の点でも不信感を持っていることが問題である。 2006年には「原子力発電所は安全と言えない(残余のリスクがあるという表現)」という文書が政府部内に回り、同時に国民には「絶対に安全」という説明をした。さらに福島原発事故のあとは法令の被曝限度が1年1ミリシーベルトと決まっているにもかかわらず、政府とメディアでそれを隠すということを行った。 政策やお金のためには国民にウソをつくという体質が固定し、それに乗じて理不尽で非合理的な論拠を掲げる原発反対派の専門家や思想家、政治運動の力が強くなり、どうにもならなくなったというのが実情である。 筆者は「原子力反対派」の執拗で激しく、どうにもならない攻撃に大きな被害を受けた一人であるが、それは反対派側の問題ではなく、推進側のウソが起因していると認識している。 そして、日本国民が原子力政策に不審を抱いていることが、危険な原子炉ではなく、より安全な核廃棄物の処分場にでるのは、「正当化の原理」が働いているからである。 人間社会で行われることは「実利=損害」(正当化の原理)で決まる。原発は電気を安く供給してくれるという実利があるから、危険性は我慢しようということになるが、処分場は損害だけあって実利がない。そして処分場は電気も何も生じないので、実利としては「お金の供与」だけになり、それでは大義名分を失って社会の合意を得られないからである。 まず、核廃棄物処分場の問題は「不誠実」の問題であることを認め、すでにある使用済み核燃料を次世代に引き継がない誠意を示すことだろう。

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    核のごみ、なぜ地下に埋めるのか?

    原発のごみ、日本に埋める場所ありますか?1.なぜ地下に埋めるのか(THE PAGEより転載) 日本科学未来館で2015年1月17日に行われた、サイエンティスト・トーク「原発のごみ、日本に埋める場所ありますか? ― 高レベル放射性廃棄物の地層処分」の全文書き起こしをお届けします。 日本ではこれまで原発を使用してきたことで核のごみである高レベル放射性廃棄物が大量に生まれていますが、その処分の手段を未だ持ち得ていません。本イベントでは地質学者の吉田英一氏を講師にお招きし、日本独自の地質現象を踏まえて、地層処分が可能な場所が日本にあるのかを科学的に見ていきます。 第1部は「なぜ地下に埋めるのか?」です。動画はページ内のプレイヤーでご覧いただけます(0分0秒~32分45秒)岩崎:それではこれより、サイエンティスト・トーク「原発のごみ、日本に埋める場所ありますか? ―高レベル放射性廃棄物の地層処分」を進めてまいります。本日は日本科学未来館、そしてこのイベントにようこそお越しくださいました。それから、ニコニコ生放送の中継をご覧の皆さまも、ご視聴ありがとうございます。今日、これから司会進行を務めます、当館の科学コミュニケーターをしております、岩崎と申します。皆さま、どうぞよろしくお願いいたします。ありがとうございます。 今日、講師としてお招きしている先生をご紹介いたします。名古屋大学教授で、地質学者でいらっしゃる、吉田英一先生でいらっしゃいます。皆さま、拍手でお迎えください。先生、よろしくお願いします。先生、じゃあ自己紹介をお願いいたします。吉田:今、紹介にありました吉田といいます。名古屋大学で地質学を専攻といいますか、専門にしております。ここに書いてあるような状況ですが、もう大学からすでに25年ほどこの地層処分に関連するような研究をずっとやってきています。そのなれそめといいますか、そういったものもこのあとちょっと簡単に紹介できたらと思っておりますが。 今日は、タイトルは非常に堅苦しいことではありますけど、できるだけ皆さんに分かりやすくお話ししたいということと、もう1つは、私は別に推進派でも反対派でもなくてっていいますか、皆さんを今日、説得するために来ているとか、そういうものでもまったくありませんので、できるだけその辺は客観的に皆さんとコミュニケーションできて、で、逆に言うと何が分かって、何が分からないのかが皆さんと共有できれば、皆さんと私のあしたからの研究の題材にも反映できますので、その辺は率直に1時間プラス、議論の時間もありまして1時間半ほどありますが、お付き合いいただければと思っています。よろしくお願いします。岩崎:先生、ありがとうございました。それでは本日の内容をお示しいたします。本日3つのテーマに分かれておりまして、まず最初に「高レベル放射性廃棄物と地層処分」ということで、なぜ地下に埋めるのかというお話をしていただきます。その後、「地下環境とその機能」。地下っていったいどんなところなの、っていうのがありますので、地下の岩石の放射性元素の吸着や保持といった、地下が持つ機能についてお話しいただきます。そして最後に、「日本には、長期的に安定な地下環境はあるのか?」ということで、ご存じのとおり日本は地震が多く、火山も多いという地質学的な状況がある中で処分場の選定をするための条件としては、いったいどんなことが挙がるのかというところをお話しいただきます。 で、お話に入る前なんですが、今、皆さん、お話を聞く前の現時点で率直にどのように思っているのかというのをアンケートでお聞きしたいと思っています。こちらにあります。「原発のごみ、日本の地下に埋めることができると思いますか?」。これに対して、今、どのようにお考えかというのを、これから3択で手を挙げてお答えいただきたいと思います。できると思う。できないと思う。今の時点では分からない。この3つのうちのどれかに手を挙げてください。 お考えはまとまったでしょうか。では、聞いてきますね。できると思う方。ちょっと数えさせていただきます。ありがとうございます。7名、いらっしゃいます。ありがとうございます。では、できないと思う方。ありがとうございます。13。はい。ありがとうございます。今の時点で7名と13名いらっしゃいました。では、分からないという方。一番多いでしょうか。ありがとうございます。12、はい。ありがとうございます。ということで、会場で聞いたところ、あ、ごめんなさい。進んでしまいましたね。はい。 できると思う方が7名、できないと思う方が13名、分からないとお答えになった方が12名いらっしゃいました。ちなみに、同じ質問今、ニコニコ生中継の皆さまにも聞いているんですが、結果って出ていますか。教えていただいてもいいですか。未来館スタッフ:はい、こちらからレポートいたします。思うが24%。岩崎:24%。未来館スタッフ:はい。思わないが47%、分からないが29%と。だいたい3割が分からないと。5割弱、思わないと。思う方は4分の1というぐらいという感じですね。岩崎:はい。ありがとうございます。という結果が出ていましたが、のちほど話を聞いていただいたあとで、また同じ質問を皆さまに聞いてみたいと思います。 それではいよいよお話に入ります。まず、一番初めの「高レベル放射性廃棄物と地層処分 なぜ地下に埋めるのか?」というところで先生にバトンタッチをしてお話をいただきます。先生、よろしくお願いいたします。吉田:はい。では、話のほうに入りたいと思います。私も、大学で大学院生とか学生にその授業をしていますので、話としてはどちらかというと、あちこち飛んだり、横道にそれたりはするんですが、今日は時間も限られていますので、できるだけそういうことのないように努力したいと思います。 あと、ここにタイトルをいただきましたが、「日本に埋める場所ありますか?」ということなんですけど、なぜ私がその地層処分のことを25年もっていうか、大学院のときに、名古屋大学で地質学をやって、それでこちらのほうの研究に移ったかっていうことなんですけど。ちょうど私が大学院のときにあった事件が、チェルノブイリの事故でした。その事故のときに、結局そのチェルノブイリは石棺といいますかふたをして、今はそれが地上にずっと残っているという状態で、結局その周辺、半径30キロぐらいでしょうかね、そこは未だに住めないとか、そういう状況が今も続いているのではあるんですけど。そのときに、やはり、すでに放射性廃棄物っていうのはあって、それをどうするのかっていうような研究、あるいはその議論っていうのはもうすでにされていました。 で、そのときの私の恩師といいますか、先生が、「君、吉田くんね、地質学をやる、なんのためにやるんだろう、よく考えたほうがいいよ」っていうことを、そのときに薫陶をいただいたっていうのを今でも覚えてますが、正直言って私のモチベーションはそこにあります。今、岩崎さんからもちょっとありましたが、日本で地層処分をする。本当にできるんだろうかっていうのを自分で知りたいというのが正直に、そのときから今もこの研究をやっているモチベーションになっています。 で、極端なことを言うと、私はたまたま地質学をやっていましたが、要は自分でやっぱり判断したい、あるいは自分で何が分かればそれが理解できたと言えるのか、あるいは何が分からないことが問題なんだろうかということを、やっぱり知りたい。あるいはそれを研究して、できれば分かっていることは論文とかそういったものを著して、そして皆さんと共有化していきたい。それがもう1つのモチベーションになっているということです。 そういう中で今日、話の中身は、全てをお話しすることはできませんが、これまでの研究の内容とか、日本の地層、地質ってどうなっているのかとか、自分がこの25年間、30年間ぐらいかけて分かってきた部分。あるいは私だけではないですけど、私の同僚や共同研究者ともやってきて、分かってきたことをベースにお話をします。なので、それでもし、分からない部分もあるかもしれませんが、そういった部分は質問の時間とかそういうときにお話、あるいは聞いていただければと思います。岩崎:今日、終了後に10分ほど質疑応答の時間を設けていますので、分からないことがありましたら、ぜひそのときにお聞きください。ではお願いいたします。地層処分はどういう仕組みなのか地層処分はどういう仕組みなのか吉田:はい。ありがとうございます。で、それで早速じゃあ、中身に入りますが、先ほど岩崎さんからもちょっとご紹介ありましたけど、地層処分というのはどういう仕組みなのかということですが、ここにありますように、まずはガラス固化体、これが一番のその、放射性廃棄物に当たるものです。 で、ガラスの中に放射性、いわゆる核燃料ですね。使用済み核燃料の中から、もう使えない放射性物質、元素、例えば、放射性元素は何を今、発熱の原料に使っているかというとウランです。皆さん、ウランっていうのは聞いたことがあると思うんですね。で、ウランをこの原子力発電所で核分裂させたときの熱を使って、水蒸気を作って、それでもってタービンを回して、電気を起こしていくと。 で、核分裂をさせますので、あとでもちょっと話をしますが、ウランが分裂するともう、ウランではなくなるので。で、要は廃棄物になってしまうわけですが、核燃料の中に使われているウランが、全て100%分裂するわけではありません。分裂するウランと、分裂しないウランというのがあります。その辺もあとで、簡単にですが仕組みはお話しします。 その分裂したウランを取り出す。それが実は六カ所村っていう青森県の再処理工場でおこなわれていることですね。そこで再処理して取り出す。取り出すときは核燃料を、硝酸溶液に溶かし込まして、その溶液の中で、要らない、使えない放射性元素をガラス、このホウケイ酸ガラスというものと混ぜ込んで、そしてガラス化します。それが高レベル放射性廃棄物です。 実は今、ここにそのホウケイ酸ガラスを持ってきてます。これはもちろん放射性元素が含まれてないものですね。で、これを溶かします。溶かしたものに先ほどの放射性元素を混ぜ込んで、そして冷やして固めるというものです。非常に固いもので、だいたい数百度で溶けるんですが、皆さんにお回ししますので、どんなものかちょっと見ていただければと思うんですけど。 で、これは、シリカをベースに。ガラスですので、シリカがベースになった物質ですね。ですので、地下にそれをそのまま持っていって、持っていくこともできますし、要するにそれが冷えて固まれば、それがすぐに溶け出すとかいうこともあり得ないっていうか、ないというものですね。 で、それを、このキャニスターという容器の中に入れといて、さらにそれをこの鉄の容器、これ、オーバーパックといいます。で、オーバーパックの中に入れたものを、さらに地下に持っていって、こういう縦穴、今、これ縦穴ですけど、横穴にするか縦穴にするかまたその都度考えないといけないですが、これは一応、縦穴方式といわれるものの中で、ここにガラス固化体、そして金属の、鉄製のオーバーパックがあって、そして周りをさらにベントナイトっていう粘土鉱物なんですが、それで覆ったものが300メートルよりも深い場所に埋設処分されるという、こういう仕組みが地層処分というふうにいわれるものです。 ちなみに、なぜガラスを使うのかとか、なぜ金属、鉄を使うのかとか、なぜ粘土、いわゆるベントナイトを使うのかっていう、これも実は理由があります。ガラスは先ほども言いましたが、まずは地下水っていうか、水に溶けにくいという性質ですね。で、地下水は、皆さん温泉に行ったりすることもあると思いますので分かると思いますけど、ガラスはアルカリ性、pH12とかそれ以上になると非常に溶けやすくなります。ですが、地下の水は、地下水は基本的にはせいぜい高くてもpH10。pHって皆さんご存じですよね。オレンジジュースだとpH3ぐらいとか。酢だとpH、それぐらいですね。3もいかないかな。酢だと3点いくつとか、それぐらいかもしれませんが、そういう、酸、アルカリっていうものですね。 地下水は、だいたいそのpHがだいたい10から4とか、それくらいなので、それで温泉に入って気持ちがいいというのがあるんですけど、そういう状態では基本的にはガラスは溶けない。溶けにくいので、そうするとそこの中に閉じ込められている放射性元素も溶け出さないということですね。 で、あと、金属を使う理由は何かというと、ここから放射線が出ますのでそれを遮蔽するっていう役割もありますが、ここのガラス固化体に入っている放射性元素っていうのは、還元状態だと溶けにくいという性質があります。還元というのはどういう状態かっていうと、酸素がない状態ですね。地下は基本的に酸素がない。ありませんよね。 で、ちょっと、少し分かりにくいかもしれませんが、例えば、金魚鉢で金魚が口を開けて水面にこう、ぷかぷかやっているっていう状態は、水の中の酸素が消費されてしまって、その量が少なくなったので口を開けてぱくぱくしている。そういう状態が還元状態に近い状態になっているということですね。 で、そういう地下水の状態では、ここの中に入っている元素は非常に溶けにくいっていう性質もありますので、で、さらにそれを鉄で覆うっていうことは、鉄は酸素を消費します。つまり酸化するんですよね。「さびる」ということです。さびるという状態の意味は、もし万が一、酸素が入ってきた水がここにやってきても、その地下水の中の酸素を食って自分がさびることによって回りを還元しますので、そういう性質もあって、オーバーパックという鉄を日本では選んでるわけです。 さらに周りをベントナイトっていう粘土鉱物をなぜ使うかというと、粘土鉱物はいろいろな元素を吸着してくれる働きがあります。吸着剤としてよく使われると。そういう仕組みも活用して、それぞれの人工的な素材、もともとは天然の素材を利用しているんですが、そういったものをいくつも組み合わせて、地下に処分するという仕組みを取っていると。 これを、ここに書いている多重のバリアのシステムというふうな、ちょっと専門的なんですけど、なぜ多重のバリアなのかっていうのを、ガラスだけではなくて、オーバーパックもベントナイトも、そして地下は距離的に隔離されていると。で、さらに周辺には岩石、つまり鉱物があると。で、それらがまた、その放射性元素を吸着してくれたりするという役割を持ってくれますので、そういったもので多重バリアシステムというふうにいっているということですね。 こちらのものを人工的に閉じ込めることを、人工バリアというふうによくいいます。で、こっちのものは天然の岩石、鉱物ですので、これを天然のバリアということで天然バリアというような言い方をしているわけなんですが、こういった複合システムで放射性元素を外に漏らさないようにしましょうというのが基本的な考え方です。 それはどうしてかというと、先ほど岩崎さんの話にもありましたが、この放射性元素は、だいたい数万年ぐらい寿命を持っているので、その数万年間、人間界からやっぱり隔離しなきゃいけないというのが基本的なコンセプトになっていますので。 ただ、その数万年後、私たちがいるかどうか分かりませんよね。で、実際後ろを見ると、というか過去を見れば、二万数千年前にネアンデルタール人は、滅びているっていうそういう事実もありますが、将来の世代に対してそういった負担をできるだけ軽減しようというようなこともありで、地下に処分してしまって、もし、もしですよ、地上の社会、環境、国がどうなっているかも分かりませんが、人類がどうなっているかっていうのもありますけど、とか、地表環境が変わっても、地下環境が維持してくれるだろうというのが基本的な考えになっています。 そのときに、私がやっている研究は何かというと、こちらですね。これらはじゃあ、果たして数千年、数万年も持つのかという、こう、考え方がどうしても出てきちゃいますが、そういう情報はなかなか得にくいです。金属が数千年も持つかどうかっていう実験を私たちなかなかできません。そういったものを、あとでちょっと類似現象ってことでお話はしますが、こっちも、こっちは、数千年、数万年あったのか、持っていたのかというのは、実は岩石はそういう調査ができます。 どうしてかというと、岩石鉱物の中に化石が入っているとか、あるいは年代測定をすることによって、この岩石がどれくらい古いものであったのかということを知ることができるので、そういう観点ではこちらはある時間を入れることができるということですね。ただ、これがどれくらいのバリア機能を持っているかっていうのは、これをやっぱり調べないといけない。実際の地下の状態を含めて調べる必要があるので、そちらのほうを私は研究としていろいろやってきているということです。 最初、ちょっとイントロなので長く時間を取りましたが、これをベースにして、基本的には地質環境、地層処分というのは、これらが数十万年、数万年も持つとは今のところ考えにくいので、最終的にはこの地下環境の、いわゆる地質岩石に、隔離機能を持たせる、こういうバリア機能を活用した方法であるというふうに考えればいいと思います。 その際の、もう1つ重要な最初の初期情報とした場合、どれくらいの処分場の広さが必要なのかということですね。今、先ほど1万7,000トンぐらいの廃棄体があって、それをガラス固化体換算にしたときに、2万5,000本相当のガラス固化体が出てきます。それを地下300メートルよりも深いところにもし全て埋設したとした場合にはどれくらいの施設の、広さの施設が要るかというと、だいたい2、3キロ四方の広がりが必要だということになります。ですので、極端に言うと何十キロ掛ける何十キロとか、そういう広さのものが必要ではないと。 で、2、3キロ施設とあと、地上の施設も廃棄物を入れたりするような搬入の施設ということで、だいたい1平方から2平方キロメートル。だから数百キロメートルくらいのあれで、意外と地味なたぶん、施設。なんて言うんでしょうね。原子力発電所でなんて言いますか、原子力の、いわゆる原子炉があるとか、そういったようなものではないということですね。 こういったものを地下坑道だとか、実際、これは300メートルよりも深い場所に埋設されるということですね。ここに線上になっているのが処分坑道というふうに言われるものです。で、実際はこういう縦置き。で、ここがだからさっき言っていたガラス固化体、ベントナイト、そういったものがこういう形で埋設されると。で、周辺には緩衝材が入れられる。粘土鉱物が入れられるということですね。 それで、金属がどれくらい持つかという知見がなんかで得られないかというので、いわゆる考古学的な資料を活用した研究も得られています。これは何かというと、ローマ時代に鉄くぎが、ローマ軍とかが入ってきたときに奪われないように、実は地下に埋設した事例があります。これ、スコットランドで見つかったんですが。そのときに、得られた鉄くぎがどれくらい腐食しているかと。 で、実はこれは2000年前っていう時間も分かっていますので、その2000年前から今までどれくらいが腐食したかっていうのを調べることによって、その腐食速度が分かると。実際に2000年間かけるような実験っていうのは大学でもできないので、こういったものを活用して、さっき言っていたオーバーパックがどれくらいで溶けるのかっていうのが、換算できるというのですね。 これ、実際2000年前のそのローマ、このくぎです。ここで発見されたくぎなんですけど。私も調査に加わって、そして地元の学芸員の人から譲ってもらったんですが。こういったものからどれくらいの腐食量があるかと。ただ、これが1万年も10万年も持つかというと、なかなかそれは厳しいものはあります。なので、そういったものの知見と併せて地層処分のバリア機能というのを把握しようとしているというところです。20億年前から存在していた天然原子炉20億年前から存在していた天然原子炉 そういった中で、地層処分以外の方法ってじゃあ、ないのかということもやっぱり、知識として知っとく必要があると思うんですね。これは1960年代からかなり検討されてきていまして、例えば海洋底に処分する。あるいは南極だとかグリーンランドの氷の中に処分する。あるいは、宇宙に処分する。こういった議論っていうのはされてきています。ただ、宇宙なんかでは、これも私の大学院のときの現象であったんですけど、1986年にこのチャレンジャー号というのが飛んでいる最中にばんと爆発しちゃってもう、飛び散っちゃった。もし、こういったものに廃棄体が入っていると、もう大気圏といいますか、大気中にばらまいてしまうことになりますし、1回上げるのに相当なコストもありますので、そういった意味でかなり厳しいと。 あるいはほかのものについても、基本的には、南極は誰の国の土地でもありませんし、海洋も公海条約、あるいは現在は海洋底の堆積物からいろいろなレアアースだとか、そういう元素なんかも得られています。そういう有用性なんかも含めると、やっぱりある1つの国の廃棄物をそこに処分するというのはちょっと違うだろうということを、その国際原子力機関とかいろんなところで議論された上で、基本的には現在は、自分の国の廃棄物は、自分の国で処分しましょうということになっているということです。 で、そういう中で、地球科学的な取り組みについては、ちょっと英語ですいませんけど、お見せしたかったのは、この「The geology of nuclear waste disposal」。これ、geologyっていうのは地質っていう意味です。nuclearっていうのは放射性廃棄物、の処分っていう意味ですね。これは『Nature』っていう雑誌に1984年、もうだいぶ前ですが、もう30年も前ですね。そのときにいろいろな国際的な地球科学的研究者が集まって議論したのは、海溝、いわゆるプレートが沈み込む海溝に処分すれば、そのまま海溝の、プレートの中に乗っていって、地球の内部に運び込まれるだろうという、そういうアイデアを出したことがあります。 これは、ある意味では非常に地球科学的には真剣に考えていて、一番地球上で安心で、長期に関してもいい方法っていう、当時考えられたわけなんですけど、現在は海溝から、皆さんもまた聞いているかもしれませんが、いろいろな生命体、生命っていうか、生物新種、あるいはさっき出た資源に相当するようなものも出てきているっていうようなこともありで、その辺の有用性とかも考えると、なかなか難しいものもありますし、またここに処分したことを確認する、安全性とかいう意味で確認するって、なかなか難しいものもありで、で、また先ほどの、海溝っていうとだいたい、いわゆる経済海里とか、そういう200海里とかの制限もあり、そういう意味ではなかなか難しいものがあると。 ただ、その中で彼らがもう少し言っているのは、ちょっとここにも「Natural Analogies」って言っていますけど、自然の現象にもっと学ぶべきでしょうと。で、その自然の考え方、そういったものをもう少し地層処分にも応用させるべきではないかということを、きちっと言っています。 で、実は、もともと地層処分っていうもの自体が自然から学んだ方法であるということなんですね。どうしてかっていうとここにありますけど、天然原子炉というのがあります。これは天然の環境下で原子炉反応、つまり臨界反応が起こったということなんですね。 それはどこなのかっていうと、アフリカのガボン共和国にあるウラン鉱床の中、ウラン鉱山の中で発見されたんですけど、どういうことかっていうと、ここに黒い焼け跡のようなものがあります。これは今は地表に出ていますが、ウラン鉱山として開発される前は、地下400メートルぐらいのところに位置していました。で、ここのところにあったウラン鉱床、ウランの濃集部分のところが、今から20億年前に実際の現在の原子炉と同じ核分裂反応を天然の状態で起こしていたんですね。 それを1970年代に、このウラン鉱山とか、そういったものを研究してた国際原子力機関が見つけまして、で、これはここにもしそういう原子炉反応があった場合に、ここから漏れ出た、あるいはここで精製された核分裂、先ほど言っていた放射性廃棄物に相当する元素が、もしここに残っているんであれば、20億年間ずっとここに閉じ込められたっていうことになりますので、もしそういう、ここではガラス固化体もベントライトも何もないですね。ただ、それが残っているっていうんであれば、まさに天然が行った地層処分現象に近いよねっていうことで、天然の類似現象っていうことで「ナチュラル・アナログ」っていう言葉が使われているということです。 これがじゃあ、なんで、天然原子炉っていうか、そういう反応が起こったかっていうふうに分かったかっていうと、ここから実はプルトニウムが見つかったんですね。現在プルトニウムは原子炉の中でしかできません。それはどうしてかっていうと、簡単に言いますが、ウランっていうのは235っていうのと238っていう、この2つの同位体っていう元素の違うものがあります。核分裂に使われるものはこの235っていうものです。これが分裂すると中性子が出て、これがこっちに吸収されます。吸収されるとこれはウランの239ですが、1個足しますので。 で、239っていうのは、これはウランではなくて、これがプルトニウムになるということです。これは今の原子炉の、原子力発電所の中の反応としてわれわれが活用しているものですが、それが実際20億年も前の地下環境で行われたということですね。で、ここで実際プルトニウムも見つかっているし、ほかの、これが、ウラン235が分裂したあとにできたものも、一応ここで確認されているということで、これが天然の類似現象だということですね。それに学んで実際の地層処分というのも可能ではないかということで、1970年代から地下処分っていうものを本気で考え始めたということです。 そういう事例は日本でも、そういうっていうのは天然原子炉っていう意味ではないんですが、日本ではもっと若い地層の中にウラン鉱床っていうのがあるところが分かっています。それは岐阜県の土岐市から瑞浪市にかけてのところなんですが、そこの部分でも、じゃあ、どういう地下の状態の鉱物のところにウランが濃集しているかっていうことを、もし調べられれば、将来、地層処分した場合に、あるいは万が一漏れていた場合にどういう鉱物がそういうバリア機能として働いてくれるかっていうことも分かるだろうという形で研究がされています。そういったものもある種の類似研究なので、ナチュラル・アナログ研究というふうに言っていると。あとでそれがどこに濃集しているかっていうのもお見せしたいと思います。 で、こういう、いわゆる地層処分っていうのは、私は1つの人工鉱床を造るに等しいっていうふうに思っていまして、日本でどういうレベルの、どういう濃度の鉱床が残っているかっていうことがある程度見えれば、その状態をこの地層処分場にも応用して、そして逆に言うと、日本の地下環境の保持能力を超えないような地層処分場(つまり人工鉱床)っていうのを造るっていうことも可能ではないかっていうふうには思っています。もし、そのためにはただし、この天然の鉱床、あるいは実際の状態としてどういうところに放射性元素が濃集しているかとか、そういったことをきちっと調べておく必要があるというふうに考えています。 なので、これは逆に言うと、日本の地下環境には日本の地下環境に合った地層処分の仕方っていうのがあるだろうというふうにも思っています。それは実際の日本の天然鉱床とか、そういう元素が濃集しているような状態から学び取って、こちらに応用してやる必要があるだろうというふうにも考えています。 これまで地層処分について、なぜ地層処分なのかとか、そういったことも含めて今お話をしましたが、次にその地下環境とその機能。実際じゃあ、岩石の中にそういう放射性元素を吸着する力がどれぐらいあるのかということについてお話ししようと思いますが、いいですか。何か。岩崎:今のテーマの1については皆さんお分かりいただけたでしょうか。地下に埋めるっていうのが、臭いものにはふたをしろという発想で、人間界から遠ざけようという、そういう単純な発想ではなくて、地下のその現象について、天然で似たような類似現象があって、それに倣って、それに学んで行うというふうな、まず、発想もとがあるということで今、お話をいただきました。 先ほど地層処分の基礎の話で、還元という言葉が出てきたり、地下水というキーワードが出てきたと思うので、次には地下って、じゃあ、どういうところで、どういう機能を持っているのかっていうのを具体的にお話をいただきたいと思いますが、皆さまよろしいでしょうか。ではお願いいたします。■ 『一番のリスクは地下水』につづく

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    田原総一朗が考える「どうする? ニッポンの核のごみ」

    とは、とにかく核のごみをこれからどうするんだということをまず検討しなきゃ。たとえば、2030年の電力エネルギーの比率をどうするんだって経済産業省が試算したけど、再生可能エネルギーの比率を多くしようと決めたのは結局、経産省でしょ。でも、さっき言った核燃料サイクルの肝心なところは文部科学省の管轄だよね。日本の原子力政策のいま一番の問題はね、繰り返しになるけど、やはり総合戦略がないことなんだ。(聞き手 iRONNA編集長、白岩賢太)

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    これ以上の電力料金アップは避けたい ドイツの脱原発はマジック

    中西享(経済ジャーナリスト)東日本大震災以降、原子力発電所が1基も稼働しなくなるなど、日本のエネルギー事情が厳しくなる中で、2030年に向けての望ましい電源構成案(エネルギーミックス)をまとめた坂根正弘・総合資源エネルギー調査会長期エネルギー需給見通し小委員会委員長(コマツ相談役)にインタビューし、日本の取るべき立場を聞いた。総合資源エネルギー調査会長期エネルギー需給見通し小委員会委員長の坂根正弘・コマツ相談役Q:エネルギーミックスをまとめるに当たっての基本的な考え方はA:3・11の東日本大震災以降、エネルギー情勢が一層窮屈になってきた。電源構成となる原子力発電のランニングコストは低いが、事故が起きた場合には社会的ダメージは大きな費用が発生する。再生エネルギーの風力はまさに風任せ、太陽光は日中しか発電できない。水力や地熱は発電までに10年以上の年月が掛かることもあり、バイオマスは小規模なものは地元で原料を賄えるが、大きくなると燃料を輸入しなければならない。化石燃料はCO2を多く出すなど、それぞれ一長一短がある。結局、これを、安全性(S)と三つのE(安定供給、経済効率性、環境適合)の「S+3E」の視点で、いかにバランスをとることでしか答えが出せない。その前提となる経済成長率は政府目標の年率1.7%にすることにした。エネルギーミックスは3年に1回は検討を加えることになっているから、成長率が変わればその時に見直せばよい。Q:電力コストが上がることが心配されている。コストについてどのような議論があったのかA:電源構成のバランスからみて、原発はどれくらい必要かという中で20~22%という数字になった。いまある原発に原発の寿命が40年という説を踏襲すればよいという考えの人がいるが、そうすると原発比率は15%程度にしかならず、足りない。これを再生エネルギーで埋めようとすると、1%当たり年間2180億円余分にかかるので合計で1兆数千億円の負担増になる。CO2は増やしたくないので、一番の「逃げ道」はコストになる。委員の中には「コストはいくら掛かってもよい」という人がいるが、これ以上、電力コストが上がったら国民の省エネ意欲がそがれる。省エネについてはエネルギーミックスの外数として、70年代の石油危機の後と同じレベルのチャレンジングな目標を前提にしている。最も大事な省エネが進まなくなると、CO2が増えてコストも上がるという最悪のパターンになる恐れがある。【図1】2013年度と30年度の電力コストの比較 (出所)資源エネルギー庁 大震災以降、家庭用電力料金は2割上がり、産業用はドイツと並んで一番高くなり、産業界から悲鳴が上がっている。電力コストが過度に高くなれば、海外に工場を作った方がいいとなって、国内の設備投資意欲をそぐ。そうすると、省エネ技術も進歩しない。電力コストは省エネと密接に絡んでいるので、少なくとも現状以上の電力コストアップは抑えたい。Q:日本は既にかなり省エネをやってきたが、さらなる省エネは可能かA:コマツの石川県にある工場は、電力7割減、生産効率2割向上で、電力購入費を生産量当たり9割減らすことができた。40年以上たった古い工場でも問題ないと考えていたが、東日本大震災の後に見直したら、工場を一から建て直した方がはるかにいいことが分かった。省エネは国全体でもまだまだできる余地がある。そのためには白紙からの省エネ投資をさせる気持ちにさせなければならない。この時に電力コストをこれ以上上げたら省エネの意欲が起こらなくなると私が言ったら、「再生エネルギーもあるし国民は電力コスト上昇を受け入れますよ」という意見があった。ではドイツの例を見てほしい。ドイツ国民は再生エネルギーの利用を促進するために、最初は電力料金の値上げを受け入れたが、料金が高くなりすぎたため、料金値上げに大反対が起きている。日本では一般国民よりも産業界の方が問題で、委員の方に「電力コストは逃げられない問題だ」と理解してもらうのが難儀だった。Q:原発のコストをどうみるかA:福島原発のような事故は二度と起こしてはならないし、もう一度起こると、それこそコスト比較の問題ではなくなる。原発は一度事故が起きるとものすごく大きなお金がかかるので、「原発は安くない」と言う人もいるが、この一時コストを含めて発電する電力量当たりのコストはそれほど大きくはない。心理的には高くつくように思えるが、単純に数字の比較だけなら再生エネルギーを増やす方が高くつく。いま再生エネルギー買い取り制度(FIT)で認められているものだけでも、すべて実行されると1年で3兆円近い出費になる。Q:原発の「安全神話」が蘇ろうとしているがA:原発を再稼働させるときに、「100%安全」でないと地元住民は納得しないという人もいるが、どれだけ安全でも「絶対安全」はあり得ない。「絶対安全」という「安全神話」が蘇ってきているのはおかしい。日本では100%かゼロかという議論が多過ぎる。現時点で最良のものを選択し、より良い技術が出てきたら改良するからリスクをとって稼働する、という考え方がないと、これからも新しい技術や知恵が出ても、今のもので安全といったではないかとなってしまう。Q:ドイツが再生エネルギーで成功したといわれているがA:ドイツは現在9基の原発を動かしているが、2022~23年を脱原発の期限にしている。ドイツは再生エネルギーで成功したといわれているが、マジックがある。北部では風力発電などを盛んにしているが、一方で自動車など電気を多く使う産業は南部に集積している。北部で発電した電気を4つの送電網で南部に送ろうとしたが、送電ルートになる周辺住民の反対でひとつもできてない。このため、どうなっているかといえば、北部で発電した電力を隣国チェコに売り、代わりにチェコがCO2の多く出る石炭火力や原発で発電した安い電気を南部の工業地帯に送っている。ドイツは見た目は再生エネルギーを多く利用してCO2排出量を抑えているように見えるが、実際にはチェコが代わりに排出している面もある。ドイツの再生エネルギー政策は形骸化しているが、なお再生エネルギーを増やそうとするのは、そうしないと選挙に勝てないからだとも言われている。【図2】電力構成(総発電電力量12780億kwh)【図3】電力構成(総発電電力量10650億kwh)(出所)資源エネルギー庁石炭火力の新規計画について環境相が「ノー」を突きつけたが…?Q:石炭火力の新規計画について望月義夫環境大臣が「ノー」を突きつけたがA:原発の停止以降、全国に小規模の石炭火力発電がどんどん作られようとしている。最新技術を使った石炭火力への投資ならCO2排出量が少ないから良いが、一般の人が電力自由化を当て込んで作ろうとしている石炭火力はCO2を増やすことになる。私には個別事例の評価はできないが、全体論として環境大臣の指摘はもっともだと思う。Q:政府は30年度の温暖化ガス排出量を13年比で26%削減する目標を決定し、今年の12月にパリで開かれる国連気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)に提出するがA:26%という数字は、省エネ期待によるものが大きいが、この数字は1次エネルギーでみた場合で、電力でみると35%の削減になる。これは国際的にみても恥ずかしい数字ではない。これまで日本はCOPなどの国際会議の場でも「まず削減率の数字ありき」で目標を出してきたが、同じ過ちを繰り返してはならない。民主党政権下の2009年、鳩山由紀夫元首相は「2020年までに温暖化ガス排出量を1990年比で25%削減」という国際的な公約を掲げた。東日本大震災の前で原発の拡大というカードが残されており、政府は原発比率を50%とするエネルギー基本計画を打ち出したが、今やこの前提は非現実的なものとなった。今回は年末のCOP会議の前に数字を積み上げたことを踏まえて温暖化ガスの削減目標が出せたのはよかった。 年末の会議もこれまでのCOP議論と同じように、悪いのはこれまで成長のために温暖化ガスを排出してきた先進国だから、先進国は途上国に対して環境対策に必要なカネを出せということになるのではないか。国際会議ではCO2削減目標などをめぐって先進国と途上国の間でもめるので、先進国と途上国は断ち切って議論すべきだ。途上国とは、先進国との2国間で排出量の削減を相互にオフセットできるCDM(クリーン開発メカニズム)スキームをより効果的に見直しを進めることで世界のCO2削減ができる。 コマツが2009年にインドネシアの代理店と石炭鉱山のお客と、鉱山の埋め戻しをした跡地にジャトロファを植林し、それを原料にバイオディーゼルを使えるプロジェクトを立ち上げた。鉱山で稼働する100台のダンプにバイオディーゼルを使用しCO2を減らすことが目的だが、これをCDMで認めてくれるように国連に申請しようとしたところ「今回のスキームが経済的に合うというのであれば、通常の営業活動で行えばよい」と言われた。国連の言い分は「経済的に持ち出しになるようなスキームなら、CDMとして認める」というもので、あきらめざるを得なかった。日本の環境技術を使って世界のCO2が削減でき、さらに経済的にも合うのであれば良いこと尽くめではないかと思うのだが、国連の言い分は「経済的に持ち出しになるようなスキームでなければCDMとして認められない」というおかしな理屈だ。仮に、このようなスキームが認められなくても、日本の技術を使って2国間同士でやればいいと、経団連を通じて主張してきた。日本はインドネシアなど既に十数カ国と2国間クレジット制度に関する二国間文書に署名している。日本こそそういった世界のCO2を削減する具体的活動に重点を置くべきである。Q:削減排出量を比較する際の基準となる年を何時にするかによって変わってくるが【図4】温室効果ガス排出実績の国際比較(2012年)(出所)資源エネルギー庁A:基準年の話の前に、日本は欧州連合(EU)と競うようにして削減目標を決めてきたが、これも繰り返してはならない。大小様々な経済規模の28カ国からなるEUと日本1国が同じ土俵で議論するのは間違っている。ベンチマークは国とすべきだ。 基準年については、EUは東西ドイツの統合があった1990年で比較すると有利だから、いまだに90年比較を持ち出したがる。京都議定書の第一約束期間が2012年に終わって13年からは第二期間に入ったのだから、これからは直近の実績データをもとに、13年をベースに削減目標をつくるべきだろう。13年は大震災後で日本の排出量が多くなった時だから、これを発射台(比較年次)にすると日本にとっては有利になる。だが、これは日本が削減数字をごまかそうとしているのではない。GDP当たりや、1人当たりのCO2排出量の少なさでは、原発中心のフランスは別格として、日本のレベルは米国よりは圧倒的に優れており、同じく世界最高水準にあるドイツにも決して劣ってはいないのだから、堂々としていればよい。日本の交渉団には国際会議の舞台でほかの国をギャフンと言わせるくらいの説得力をもって交渉してほしい。さかね・まさひろ 1941年生まれ。島根県出身。63年に小松製作所に入社、01年に社長、07年に会長を経て、13年6月から相談役。10年から14年まで経団連副会長、14年まで経団連の環境安全員会の委員長を務め、エネルギー、環境問題に詳しい。14年から総合資源エネルギー調査会会長。なかにし・とおる 経済ジャーナリスト。1948年岡山県生まれ。1972年共同通信社に入社、経済分野を取材し編集委員などを経て2010年に退職し、現在は経済ジャーナリスト。

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    日本は絶対に原発を放棄するな

    伴う各原発の停止によって、震災前は約6割だった火力発電への依存度は、震災後約9割にまで急増した。資源エネルギー庁の「エネルギー白書2014」によれば、原発分の電力量を火力発電で代替していると仮定した場合、海外に流出する燃料費は2013年度で約3.6兆円になる。2013年度の原油、液化天然ガス(LNG)、石炭などの鉱物性燃料の輸入額は約27兆円で、震災前の2010年と比べ、約10兆円、率にして約6割の増加となる。 原発が停止していることにより、各電力会社は再三にわたって電気料金を値上げし、それが家計や中小企業の懐を圧迫している。また、原発停止の影響によって2011年に貿易収支は31年ぶりの赤字に転落し、2012年にはその赤字幅が拡大、さらに2013年には過去最大となる約11.5兆円の貿易赤字を記録した。震災前の2010年と比べると18.1兆円の貿易収支の悪化となった。石油火力発電所の約8割は運転開始からすでに30年以上経っており、火力発電は現在綱渡りの状態が続いている。老朽化した火力発電所を無理矢理稼働させていることによる大気汚染も深刻な状況だ。 日本は原油の約8割、LNGの約3割を中東地域に依存しており、そのほとんどがホルムズ海峡を通過して日本にやってくる。中東情勢が依然として不安定ななか、もし同海峡で偶発的な衝突が起きたら、日本は生命線を断たれたも同然となる。備蓄が6ヵ月分あるなどと悠長なことを言っている場合ではないだろう。 次に、安全保障の観点から。2014年3月にオランダ・ハーグで核安全保障サミットが開かれた。同サミットでは、日米韓の3ヵ国首脳会談にばかり注目が集まったが、サミットでは日本が数百キロにのぼるプルトニウムと高濃縮ウランをアメリカに返還するという合意もなされた。この返還の背景には、核兵器に転用できるプルトニウムなどの物質がテロリストに盗まれる懸念が世界中で高まっていることが挙げられよう。 だが、私は返還理由はそれだけではないと考える。原発再稼働が遅々として進まない日本が大量のプルトニウムを保有することにより、「日本は核保有を企図しているのではないか」という疑いの目を世界から向けられる可能性がある。現に中国は日本が大量のプルトニウムを保有していることに敏感に反応していた。返還の主な目的には、そういった疑念を振り払う意図があったのではなかろうか。 原子力の平和利用を目指し、「核燃料サイクル」政策を掲げる日本は、核を保有する五大国(国連常任理事国)以外では唯一、核兵器に転用可能なプルトニウムや高濃縮ウランの保有を日米原子力協定によって正式に認められている。日本のプルトニウムや高濃縮ウランの保有は、使用済み核燃料を再処理して利用する「核燃料サイクル」政策の実施が前提となっているため、原発が再稼働されないと保有しているプルトニウムを使用することができず、「日本は核保有を企図しているのではないか」という疑いの目を向けられるだけとなる。そのため、脱原発へ拙速に舵を切ると、日本が五大国以外で唯一認められているプルトニウムや高濃縮ウランの保有を見直される可能性がある。 高純度のプルトニウムが8キロ程度あれば核爆弾がひとつ製造できるとされている。内閣府によれば、日本が2014年末時点で国内外で保有するプルトニウムは47.8トンである。単純計算すると日本が保有するプルトニウムは核爆弾およそ6000発分に匹敵する。 核安全保障サミットで日本のプルトニウムや高濃縮ウランがアメリカに返還されることが発表されると、中国の工業情報化相は早速「歓迎」の声明を出した。このことから、中国が日本のプルトニウム保有を懸念していることは明白である。またそれは、日本の「核武装」を警戒していることからきているだろう。とするならば、日本が原発政策を維持し、プルトニウムや高濃縮ウランを保有し続けることが日本の核抑止力を高めることに直結するのだ。 日米原子力協定の有効期間は30年で、次の満期は2018年に迎える。日本が原発を放棄するという決断をした場合、日米原子力協定で認められているプルトニウム保有という特別な権利と、中国への核抑止力の保持という大きなカードを同時に失うことになる。日本は絶対に原発を放棄してはならない。 既述したように、日本は原油の約8割を中東に頼っており、そのほとんどがホルムズ海峡を通過する。ホルムズ海峡通過後はマラッカ海峡を通って日本にやってくるが、超長期的に見た場合、この輸入ルートもリスクとなり得る。 中国人民解放軍は国防方針として、九州を起点に沖縄、台湾、フィリピン、マレーシアに至るラインを第一列島線とし、伊豆諸島を起点に、小笠原、サイパン、パプアニューギニアに至るラインを第二列島線として、それら地域の制海権確保を目論んでいる。日本の原油輸入は、マラッカ海峡通過後、中国が勝手に指定している第一列島線を通るため、この地域で中国の海上覇権が確立すると、日本の存立を脅かす事態になる。そんな時に、現在と同じように電力の約9割を火力発電で賄っていたら、中国は日本の生殺与奪の権を握ったも同然となる。中国が日本のシーレーンを封鎖し、化石燃料の輸入をストップさせれば、まさに戦前のABCD包囲陣の二の舞といえる状況になる。「備蓄が6ヵ月分ある」などと呑気なことを言っている場合ではないだろう。 2013年4月、共同通信は中国が発表した国防白書に、核兵器を相手より先に使用しないとする“核の先制不使用”が“明記されていない”ことを報じた。これは、中国が場合によっては核の先制使用すら辞さないという態度を暗に示したとも言えるだろう。 中国は1964年の東京オリンピックに参加せず、また、それを隠れ蓑にして五輪開催中に核実験をし、核保有を開始した国である。中国共産党による一党独裁が未だに続き、少数民族への弾圧もやめる気配がない。日本やアメリカと価値観を共有する国ではけっしてない。そういう国が近くにあり、かつその国が核を大量に保有している以上、核武装ができない日本は原発の維持によって核の抑止力を高めていくしかない。 もし万が一、経済面で原発が必要なくなったとしても、安全保障面(特に核抑止力の観点)を考えれば原発は半永久的に日本に必要だ。 加えて、その時の空気によって拙速に「原発ゼロ」へと舵を切ることの恐さや、「原発ゼロ」を決めた場合、原発の廃炉作業にあたる次世代の人材はちゃんと育つのか、大学で若者は原子力を専攻しなくなるのではないか、といった懸念も拭えない。 以上のことから、現実的、合理的に考えて原発を手放すことは得策ではなく、また、核抑止力の観点から見れば、例え1基だけでもいいから日本は原発を半永久的に保持しておくべきである。政府には現実に即した原発政策を期待したい。

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    福島から何を学んだのか 当事者意識欠く再稼働議論を憂う

     8月11日、川内原発が再稼働された。約2年ぶりの再稼働である。 原発のコスト、安全性についてはここでは論じない。専門家でも意見が分かれる問題だ。おそらく、誰も本当のところがわからないのだろう。私のような素人が、したり顔で解説しても意味がない。 再稼働反対派、および多くのメディアは「十分な避難計画と避難訓練がない」ことを問題視している。そして政府に対して、再稼働の中止を求めている。 確かに、もっともらしい意見に聞こえる。ただ、これでいいのだろうか。 政府が十分な避難計画を立て、避難訓練の機会を提供すれば、原発災害への備えは十分なのだろうか。そもそも、十分な避難計画や避難訓練とは何だろうか。 私はこのような議論を聞いていて、当事者意識が欠けていると感じる。それは実際に原発事故が起こった場合、政府が出来ることには限界があるからだ。これこそ福島の教訓だと思う。 例えば、福島では、事故発生後、相当時間が経つまで、誰も正確な状況を掴めなかった。政府はとりあえず、原発から20キロ圏内に避難指示、30キロ圏内に屋内退避指示を出したが、この判断は不適切だった。 もっとも汚染された地区の一つに、原発30キロ圏外の飯舘村が含まれる。汚染は原発からの距離より、事故当時の風向きや天候が影響するからだ。結果論だが、政府の指示に従わず、独自の判断で避難した人が被曝を避けたことになる。結局、誰も被害を予想できなかった。 結果的に政府の対応は不適切だった。ただ、これは政府が意図的にやったわけでも、怠慢だったわけでもない。原発事故後の現地の状況は流動的で、現場から遠く離れた霞ヶ関や県庁の人には原理的に分からないのだ。 私が福島で活動して感じるのは、現地の人はマスコミが報じるほど、政府を信頼していないし、あてにもしていない。誰もが「実力がある人」を頼ろうとし、結果的にはそれが正しいことが多い。相馬市の立谷秀清市長 例えば震災直後、南相馬市の医療機関の経営者の中には、隣町の相馬市の立谷秀清市長にサポートを依頼した人が少なくなかった。 立谷氏は実力がある政治家だが、同時に臨床医・病院経営者でもある。政府や県庁の役人よりも、現場の問題点を把握していた。 例えば、政府からの支援が公立病院や避難所に偏る中、取り残された民間の医療機関・介護機関を重点的にケアした。この中には、立谷氏自身が経営する病院・介護施設も含まれる(そもそも相馬市の大病院は立谷市長が責任者を務める公立病院と、彼が理事長を務める民間病院しかない)。 相馬地方で津波被害を受けた地域は、基本的に国道6号線の海側にある。この地域に住んでいるのは、主に漁業・農業・観光業の関係者だ。行政機関、学校、病院などは、国道6号より山側に位置し、津波被害を受けていない。震災後、国道6号や平行に走る高速道路が津波を食い止める防波堤の役割を果たしたためだ。江戸時代初期にこの地方を襲った慶長・元和の大津波からの復興のとき、ときの当主相馬義胤が山側、つまり現在の国道6号の山側への移転を推奨したと言われている。 このため、震災直後、多くの医療機関や介護施設は通常通り営業した。ところが津波被害などで出勤できない職員がいたため、業務は困難を極めた。立谷氏はこのことを熟知しており、ボランティアでやってきた医師を、このような施設に配置した。現地を知り尽くした立谷氏ならではの対応だ。『相馬市老健施設体験記』岩本修一(都立墨東病院麻酔科後期研修医)http://medg.jp/mt/?p=1326 立谷氏の活躍はこれだけではない。震災当時に立谷氏が下した指示の中には「棺桶と空き部屋の確保」だった。3月12日の朝までには旧知のネットワークを使い、確保出来たという。 立谷氏は「この地域は山と海に囲まれて平地が狭い。空き家も多くない。双葉郡からの避難者、特に看護師などの復興に必要な専門家を受け入れるための住居を確保する必要があった」と言う。 私たちが東日本大震災以降、相馬市内での活動の拠点としている「星槎寮」も、立谷市長が空室となっていたアパートを確保したものだ。東日本大震災以降、坪倉正治医師をはじめ、現地で活動を続けている医師の多くが、ここを住処、あるいは活動の拠点としている。『相馬の星槎寮』細田満和子(星槎大学副学長)http://medg.jp/mt/?p=1978 これが原発災害後の被災地の実情である。結局、原発事故が起こったら、地元の人が頑張るしかない。 物資の補給、自衛隊などの派遣、さらに復興予算措置など、政府の対策が比較的画一的であることと対照的に、現地では「あの寝たきりのお婆さんを避難させるべきか」、「いつ、どこから、どのようなルートで避難させるべきか」など、きめ細かい対応が求められるからだ。それが出来るのは、現地に精通した人々だけだ。 相馬市の場合、それは立谷市長がリードする相馬市役所だった。ではなぜ、このような人材がでてきたのだろう。それは、この地域の歴史と深く関わっている。 立谷という姓は、福島県浜通りと宮城県南部に多い。ルーツは相馬郡立谷村だという。そして、その祖は桓武平氏の流れを汲む千葉氏に仕えたという。千葉氏は、常胤(1118-1201)の時代に躍進する。石橋山の合戦で敗れ、安房に逃れた源頼朝に加勢し、鎌倉幕府の大御家人となったからだ。 その後、常胤(1118-1201年)の次男である師常(1139-1205)は、現在の千葉県松戸から我孫子にかけての相馬御厨(荘園)を相続し、相馬氏と称した。1323年、一族の相続争いに敗れた相馬重胤が一族郎党を引き連れ、源頼朝から領有を許されていた陸奥国行方郡(現在の相馬地方)に入った。これが陸奥相馬氏である。この頃、立谷一族も相馬地方に入っている。そして、約800年かけて相馬の土地に根付いた。 立谷家をルーツとする人々の集まりを紹介する「立谷ファミリー」のホームページによると、「江戸時代、立谷家のご先祖様は、廻船問屋を営んでいました。立谷するが分業して、『材木』『米』『雑貨』『海産物』およびその他の物資を江戸時代初期から、立谷一族が結束して商いをしていました。」という。立谷市長の実家は、相馬市原釜地区で醸造業を営んでおり、典型的な「立谷ファミリー」だ。「立谷ファミリー」http://blog.livedoor.jp/tachiyafamily/ 廻船問屋は物資とともに情報を流通する。上意下達では生き残れず、独自で判断することが尊重される。まさに、震災後の立谷市長の行動と被ってくる。 話が随分と脇道にそれた。では、川内原発の再稼働はどうすればいいのだろうか。政府が再稼働を希望する理由はわかる。多くの知識人が反対するのも理解できる。 このような状況で、私が重視すべきだと思うのは、地元の意向だ。少子高齢化が進む多くの地方都市の将来は暗い。原発を再稼働することで、地元経済を活性化したいと願う人がいるのは自然なことだ。 ただ、福島第一原発の経験から、原発はときに事故を起こすことが明らかだ。最新式の原発でも、その可能性はゼロにはならないだろう。東京電力福島第1原発事故で、福島県浪江町から避難した人らが暮らす仮設住宅=7月6日、福島市 では、一旦、事故が起こったときに、どうやったら被害を最小限にし、いち早く復興できるのだろうか。それは地域力に依存する。つまり、地域の人材に依存する。 その象徴が相馬市だ。原発事故被害にあった浜通り地方の中で、復興は圧倒的に速い。例えば、飯舘村の北に位置する玉野地区は高度に汚染されたが、住民は避難することなく震災前の暮らしを続けている。放射線による健康被害はなく、地元産業も復旧しつつある。政府の意向に従い、一斉に避難した地域とは対照的だ。結局、避難の是非は総合的トレードオフの判断だ。それは、当事者がすべきだし、当事者しかできない。 そのためには、判断力がある人材の存在が不可欠だ。立谷市長は「地元の生き残りは人材育成にかかっている」と言う。 つまり、原発再稼働を認めるか否かは、不慮の事故に対応できる人材を確保できるかにかかっている。そのためには教育に投資せねばならない。実は、人材育成は原発事故対策に有用なだけではない。地域再生にも結びつく。川内原発の再稼働は、このような視点も加えて議論すればどうだろうか。 もう一度、繰り返す。原発再稼働のリスクをどうヘッジするか、さらにそのリスクに対して支払われる補助金を如何に活用するか。それは原発が設置されている地元住民が考えることだ。果たして川内原発の周辺では、どのような議論がなされたのだろう。我々は彼らの議論を待ち、その判断を最優先すべきではなかろうか。

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    原発再稼働、今でしょ!

     結論から言おう。再生可能エネルギーでは電力の安定供給は覚束ない。しかも、再生可能エネルギーと呼ばれる発電方法のうち、少なくとも風力、太陽光は、現在の技術水準からみると決してクリーンエネルギーではない。 同じCO2フリーとされる電源でも、原子力と再エネでは、温暖化ガス削減への貢献度が全く異なる。原子力を減らして、風力・太陽光に置き換えようとすれば、二酸化炭素の排出量は増えていく。もちろん、風力と太陽光を使った発電が直接二酸化炭素を排出するわけではない。しかし、電力ネットワークの中に、風任せ、天気任せの気まぐれな電源が入り込み、その割合が大きくなると必ず火力発電への依存の割合が増えていく。なぜなら、空が曇ったからといって人々が節電をしてくれることはないからだ。川内原子力発電所の案内板=8月10日午後、鹿児島県薩摩川内市 電気は貯められない。だから、人々が電気を沢山使うタイミングに合わせて発電量を調整しなければならない。もし、人々がたくさん電気を使いすぎて、発電量を上回ってしまった場合、その地域全体が停電してしまう。各電力会社は電力需要を予測しながら、使用電力が容量をオーバーしないように発電量をコントロールしている。気温が上がってエアコンの使用が増え、電力消費が急増し始めた時に、中央指令室から各発電所に命令が飛ぶわけだ。 さて、ここで風力と太陽光発電に話を戻そう。中央指令室は風と太陽に命令して今すぐ発電を開始させることは可能だろうか。もちろん、そんなことは無理だ。「風まかせ」、「お天道様まかせ」なら、人間の都合など関係なくなってしまう。必要な時に必要な電力を得られない風力や太陽光による発電所は、電力の安定供給という観点で考えて極めて厄介な存在なのだ。 では、風力と太陽光の「気まぐれ」をバックアップする態勢を整備すれば問題は解決するだろうか。例えば、風が止んだり、空が曇ったりしているとき、火力発電のオン/オフを切り替えることでバックアップすることを考えてみよう。中央指令室は天気予報に従って、火力発電所に発電を指令する。こうすれば確かに風力と太陽光の弱点を補えるはずだ。 しかし、現実は甘くない。このやり方をこそが、風力と太陽光によって温室効果ガスの排出量が増える仕組みである。風力と太陽光を使えば使うほど、バックアップ用の火力発電に対する依存度は上がっていく。発電システム全体で見ると温室効果ガスの排出は減ることはない。風力や太陽光が環境に優しいなどというのは幻想である。イメージでエネルギーを語る人に、こういった「木を見て森を見ず」の人が多いのは嘆かわしいことである。 風力発電によって全電源の15%を賄っているスペインでも問題山積だ。スペインでは天候の変化などにより1時間のうちに再生可能エネルギーによる発電量が最大1万3000MWから150MWまで振れることがあるそうだ。先ほど説明した通り、1万3000MWが150MWに急降下したら、その差の1万2850MWを他の電源で即座に補わなければならない。電気は貯めることができないので、この大きな変動に対してバックアップのための火力発電所の運用が必要となる。無理やりにでも供給と需要の規模を合わせないと電圧変動や停電の恐れがあり、人々の社会生活が危険に晒されることになる。 2013年12月初旬はスペイン上空を高気圧が覆ったために風がほとんど吹かず、風力発電は全く動かなかった。そのため、電気代が高騰し1 MWh当たり112ユーロになった。ところが、クリスマスごろなると急に風が吹いてきたため、電気代は1 MWh当たり5.42~9.18ユーロ前後まで下落した。その価格差には約10倍程度の開きがある。これで安定供給と呼べるだろうか? このように、あらゆる可能性を考慮しても、再生エネルギーの推進とは火力発電への依存とほぼ同義である。「再生エネルギーの推進」と言うと聞こえはいいが、経済効率も悪いし、環境にも良くない。そんなバカげた政策を大真面目に取り組んでいるのが現在の日本のエネルギー政策なのだ。 火力発電に大幅に依存している状況には様々な問題点がある。1つ目はエネルギー安全保障上の問題点だ。 最悪の事態を想定してみよう。日本が石油や天然ガスの供給源として依存している中東地域には様々な地政学リスクが存在している。現在イスラム国の問題、シリア内戦の問題、アルカイダの問題、イランの核開発の問題など数え上げればキリがない。 しかも、石油や天然ガスを運ぶタンカーが通過する南シナ海や東シナ海においては、支那海軍と周辺諸国の紛争リスクが絶えない。中東で紛争が起こらなくても、この地域が緊張状態になればすぐに石油や天然ガスの供給に影響が出てしまう。エネルギー供給がなければ経済成長どころか、日常生活すらまともに送ることはできない。 2つ目の問題は国民負担だ。福島第一原発の事故から1年足らずで日本の原発はほぼ停止した。例外的に稼働していた大飯原発が2013年の9月から定期点検に入り、再稼働できないままである。つい最近まで日本で稼働している原子炉はゼロだった。 再生可能エネルギーによる発電量は極めて小さい。そんな中で原発を止めてしまったということは、必然的に日本は火力発電によって電力を賄わざるを得ない状態に追い込まれている。火力発電の構成比は約65%から約85%に増加している。その結果、LNG、石油、石炭などの燃料代が3.7兆円増加してしまった。しかも、エネルギー価格は乱高下している。最終的にこの増加分は利用者が負担しなければならない。出典:経済産業省原子力小委員会http://www.meti.go.jp/committee/sougouenergy/denkijigyou/genshiryoku/pdf/008_s02_00.pdf 電気代の高騰は消費税の増税と同じく、私たちの財布の中から無理やりお金を奪っていく。そのお金は産油国に届けられる。もし、原発が稼働したとしたら、この3.7兆円は別の目的に支出することができた。これが3つ目の問題だ。 さらに言うなら、原発停止がむしろ再生エネルギーの実用化を妨げている。なぜなら、もし原発が再稼働していれば、3.7兆円分の予算は様々な目的で支出することができた。大半は電気代を下げることに使われたとしても、その一部を再生エネルギーの実用化に向けた研究費として支出するという選択もある。 現在、全く使い物にならない風力や太陽光による発電だが、長期的に研究開発を進めるための資金として浮いた燃料代を使ってみてはどうだろう。電力会社直接出資して、再生エネルギー専門の投資会社を作り、民間で知恵を出す人のスタートアップを支援するといった方法も考えられる。再生エネルギーの推進と産業振興、そして投資リスクの分散や民間から大量のアイデアを集めて絞り込むといった一石三鳥、四鳥の効果が見込めるのではないだろうか。 では、最後に原発の最大のリスクである放射能について触れておきたい。私はこの問題について誰よりも語る権利を持っている。なぜなら、私は「ヒバクシャ」だからである。 まだ私が母の胎内にいた1968年、私の母は大量の死の灰をかぶった。体内に取り込んだセシウム137は約100ベクレル。放射能で汚染された胎内で育った私は、翌1969年に生まれた。もちろん、赤ん坊だった私の周りにも大量の放射性物質が降り注ぎ、それを大量に摂取している。放射性物質のフォールアウトは私が小学校5年生になるまで止むことはなかった。 1963年から1980年まで支那共産党は公式には46回、実際には50回以上にわたる核実験を続けてきた。この時に大量の放射性物質を含む塵が大気中に巻き上げられ、偏西風に乗って日本に振ってきた。当時、この件で反核運動の活動家たちが毛沢東に抗議したという話は聞いたことがない。リンク先のグラフをご覧いただきたい。これは日本国内で観測されたストロンチウム90のフォールアウトを表したグラフだ。 1963年から1980年までに生まれた日本人は例外なく私と同じ「ヒバクシャ」である。ストロンチウム90のフォールアウトだけで比較すれば、その汚染の程度は福島第一原発の事故とは比較にならないぐらい深刻なものだった。もし、「原発事故でガンが増える」という話が正しいなら、それ以上に大量の放射線を浴びた私と同年代の日本人は相当なガン発生リスクに晒されていることになる。ならば祖父の世代にくらべてさぞかしガンによる死亡率が高いはずだ。 しかし、ここに不都合な真実がある。40代日本人のガンによる死亡率は激減している。あれほど放射能が含まれた死の灰を浴びたにも関わらず、10万人当たりの死亡者数は祖父の世代のほぼ3分の1なってしまった。なぜ、そんなことが起こるのか? 実は我々が考えている以上に人間は放射能に強いのだ。 放射線を大量に浴びることによって、人間の細胞の中にあるDNAに傷がつく。もし、この傷が修復されなければその細胞はガンになる。しかし、人間の体にはDNAの傷を修復する能力が備わっている。つまり、放射線によってDNA傷がつくスピードより、その傷を修復するスピードの方が遅ければガンが発生し、その反対の場合はガンが発生しない。私と同世代の日本人が自らの肉体を人体実験に供して証明したことは、今回の原発事故の何倍もの放射線を浴びても、人間の体はそれを十分に修復する能力があるということだ。 これらの事実を総合すると、原発は世間で喧伝されるほど危険なものではなく、あらゆる可能性を想定してもそのコストは限定的だ。しかも、エネルギー源の分散という点で、エネルギー安全保障上のメリットもある。 いま電力会社の発電容量はほぼ限界に達し、老朽化したポンコツの火力発電所を無理やり動かして何とか乗り切っている。しかも、これら老朽火力を止められないため、定期点検を延期して回し続けるという危険な状態が続いているのだ。夏のピーク時に故障が頻発すれば、たちまち停電などの問題が発生する。そうならないための分散投資、それがエネルギーミックスなのだ。 何も原発で100%電力を賄う必要はない。水力、火力、原子力、その他の発電方式も含めてエネルギーのベストミックスを進めていけばいいのだ。そもそも、脱原発を前提としたエネルギー源のポートフォリオは、単に火力発電への依存を強めることに他ならない。しかし、それでは化石燃料への過度の依存を作りだすだけであり、エネルギー安全保障の観点からは大いに問題がある。 そういう意味で今回の川内原発の再稼働の意義は大きい。やっと日本のエネルギー政策の正常化に向けた動きが始まった。今後の展開に期待したい。

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    【今、敢えて言っておきます】原発の正しい「やめさせ方」

    目を向けましょうか。福島原発事故を受け、ドイツが脱原発を決めた、という事実があります。ドイツは「再生エネルギー大国」とも言われています。その一方、お隣のフランスは原発大国です。実はこの2つの国を足すと、電源構成は日本と同様になるのですね。私はこの前ドイツを訪問し、連邦政府5ヶ所、州政府2ヶ所、産業団体1ヶ所、消費者団体1ヶ所、太陽光発電事業者1ヶ所と計10ヶ所を調査してきました。ドイツの公式見解は「原子力ゼロで再エネ80%」となっていますが、これを基に「だから日本も再エネで!」と言うのであれば、フランスにも行って現状を見るべきです。 再エネ大国になろうとするドイツの横には原発大国のフランスがあります。ドイツだって、フランスの原発で作った電気を輸入しています。なんでここまでドイツとフランスが違うかというと、両国人の「不安」に対する考え方の違いがあります。 ドイツ人は「今日は原子力が安全だった。明日も多分安全だ。でも、100年後の今日、事故が起こるかもしれない」と考える。一方、フランス人はそうは思わない。同じヨーロッパ人でも、再エネ・原発に関して考え方が違い過ぎます。アメリカのマサチューセッツ工科大学のリチャード・レスター教授は、私との対談で「まず、かなりの数の原子炉を再稼働させること、それから福島第1原発の除染・廃炉作業の推進、三つ目として原子力を技術的には競争力を持たせよ」と答えています。 その一方、ドイツでは「再エネは素晴らしい」と言う。もうね、考え方は国によって違うんですよ。ドイツがいい、とかフランスがいいとかではなく、日本は、日本のことは「自分で決めろ」ということなんです。日本には日本独自の事情があり、簡単に外国のマネをするワケにもいかない。本当に自分達で考えなくてはいけない。 ドイツに行っても世界のエネルギー事情は分かりません。隣にフランスがあるから。両方を見て、初めて参考になります。その真ん中にいるのがアメリカとイギリスです。日本も、2011年3月10日までは両国と同様に「真ん中」でした。 韓国は原発推進に舵を切りましたが、その理由は日本と同様に韓国内で資源が採れないからです。ただし、日本よりももっと深刻なのは、北朝鮮と地続きなので、安全保障の問題がある点です。とにかく、エネルギーを自給しなくてはまずいのです。日本は資源がないから太平洋戦争突入したわけで、そういったエネルギー重視せざるを得ない事情も忘れてはいけません。あれは70年前という遠い昔のことだと思ってはいけません。 日本には2000年の歴史があるなか、70年というのは、全体から考えれば、ほんのちょっとの話です。そう考えると、70年しか平和が続いていない状態ともいえ、むしろ70年も続いたのは奇跡でしかありません。いつ資源をめぐってバトルが始まるか分からないんですよ……。アメリカみたいな遠いところからシェールガスを買います--みたいなおめでたいことを言っている場合ではありません。「合理的なやめ方」を考えるべき「合理的なやめ方」を考えるべき だからこそ、原発を使うことも仕方ないかな、という議論が生まれるのですね。原発の危険が分かるからこそ、カネをかけて安全対策を作り、より安全性に考慮した高いレベルの新基準を作るべきなんです。でも、原発が稼働していないので、拠出するカネがないのです。廃炉の費用がかかるとはいえ、原発で安い電気を作っておけば、40年くらいで廃炉にしても利益は出るんです。 私は、こういう風に、合理的なやめ方を考えるべきだと思います。進むのも、退くのも合理的でなくてはいけません。闇雲に、原発の比率50%にする、とかいうのもやり過ぎです。震災後の0%もやり過ぎです。 当面は25%~30%くらいが妥当なんじゃないですかね。CO2を出さず、安定したエネルギーを提供できるのは核燃料以外にはないんですよ。いや、身も蓋もないですが、再エネに期待するのは無理ですよ……。原子力の代替になれるのは石炭ですが、CO2が出ます。CO2除去のための技術を作る必要がありますが、それはまだできていない。 そして、再エネを本気でやりたいのなら、蓄電池が必要になります。今も蓄電池はありますが、バカ高いので実用化できない。それが実用化できるぐらいまでの技術開発ができるのであれば、その時こそ原子力も石炭もいらなくなります。22世紀とかまでにはできるかもしれませんが、政治も行政もそこまで考えている余裕はないですよね。今のことに必死ですから。絶対に落ちない飛行機はない 原子力やめるのはいいんですよ。でもね、原子力発電所って停まっていても危ないものですよ。使用済み燃料は冷やさなくてはいけないからです。そして、冷やすためには電気が必要です。処理をするにしても、核のゴミが冷えるまでには30年から50年はかかります。放射能が漏れない強固な容器を用いてもそれだけの時間がかかる。そう考えると、処理するための費用を稼ぐためにも原子力発電所は動かさなくては仕方ない。動いていても動いていなくても、原発を放置するのは危険なこと。再度言いますが、福島の事故はあくまでも「大津波」にやられてしまったものです。今、停止中の原発に大津波が襲っても危ないことに違いはありません。 原発反対にしても、“不自由がない国”だから反対運動が活発化するのですよ。消費税増税反対デモといっても、官邸前に何万人も来るわけではない。数パーセント増税しても、「まっ、そこまで苦しくはならないかな……」と思うからこそ、デモに参加しないのです。 政府は原発に関し、様々な情報を発信してきましたが、目立つものではありませんでした。私は官僚だったので、当然政府が発表した内容は知っていましたが、一般の人は関心がなかったと思います。何かが発生すると関心はようやく高まります。高速バスで事故が発生し、そこで過酷な労働の実態が浮き彫りになり、収益のために運転手が休めないことが明らかになった。でも、その事故が起きるまで、長距離バス業界がブラックだとは誰も思ってなかったんです。 全部が全部きれいにはできないんです。どこか適当なところで収めておこうよ、という考えにはいけないのでしょうかね? 絶対に落ちない飛行機はありませんし、絶対に安全な車も薬もない。パソコンだって、突然データが飛んだりすることがないとは限らない。それは、「しょうがない」とどこかで思っているから許せるところがある。 パソコンやスマホの場合は「多分壊れないんじゃないの」と思いつつ、実際に壊れたらおそらくあたふたするからこそ、その前に機種変更をしておく。“どうにかなる”前の機種変更なんですよ。原発の場合は、その日がいつ来るか分からない。40年なのか? 60年なのか? それはいつなのか分からないので、40年ではなく、せめて10年に1回は入念に点検しておきましょう、ということが重要だと私は思います。「再生エネルギー」は役に立つのか 何ヶ月も停電が続いたら「原発やめろ」なんて誰も言わないか? いや、その前提はおかしいですね。日本の電力会社は、国民に多大な犠牲を払う「停電」の状態を続かせるようなことはメンツにかけてもやらない。絶対に電力を供給させますよ。 その時に再生エネルギーが役に立つかといえば、私は疑問を抱きます。太陽光パネルはいかなる場所に置こうが、夜の発電はできません。風力発電はバカでかいので、置き場所にも困難を伴います。私も風力発電所に何度も行ったことがありますが、それはそれで怖いんですよね……。なんか妙な音波が出ていると言いますか……。近くに行くと二度と近寄りたくなくなるんですよ。風車が強風で倒れてしまったり、ショートして火事を起こしたりもしますし、風力発電は案外恐ろしいですよ。 それなのに、1本あたり、原発、石炭の1千~1万分の1しか発電できないんですよ。しかも不安定なのでアテにならない。国際機関であるIEAが発表しているWorld Energy Outlookを見ると、1973年に再エネの割合は0.1%でした。2012年にはそれが1.1%に増えました。でも、電力の使用量は2倍以上になっているから、絶対量でいえば、それほど増えていない。結局、火力、石炭、天然ガスが圧倒的なんです。脱原発とか再エネを増やそうというのは、費用対効果が悪すぎます。電気代金は安ければ安いほど、産業にも生活にも良い効果をもたらします。 震災前と比べたら、4人家族の場合は1ヶ月2割ぐらい上がっているのでは? 一人暮らしでしたら1.5割ぐらいでしょうか。ガスで風呂を沸かすにしてもガスをつけるには電力が必要。脱原発も重要ですが、それが生活を苦しくするのであれば、もしかしたら再考も必要なのではないでしょうか。関連記事■ 【今、敢えて言っておきます】片山さつき氏が生活保護を語る■ 復興で被災地の子供の心境変化 ゲーセンより道路整備求める■ 朝日「吉田調書報道」真っ先に疑った作家が改めて報道を検証■ 元原子炉設計者の大前研一氏「原発対応組織を官邸に置くべき」■ 自己責任論、原発、雇用 ネットの二項対立の発生背景と帰着点

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    税金ゼロの地方創生 原発正常化で『年間100億円』効果の地域も

    月20日分を転載)いしかわ・かずお 東大工卒、1989年通産省(現経済産業省)入省。各般の経済政策、エネルギー政策、産業政策、消費者政策に携わり、2007年退官。11年9月から現職。他に日本介護ベンチャー協会顧問など。福岡県生まれ。

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    世界の核事情はどう変わったか 核を「保有」しない日本の覚悟

    5カ国に過ぎない。1945年7月、ニューメキシコ州アラモードの砂漠に上がった最初の核爆発の火の玉(米エネルギー省提供) 過去70年、スウェーデン、西ドイツ、日本などは核保有国になろうと思えばなれたかもしれない国々である。それぞれに事情は違うが、潜在的技術はあっても、それを使わないと意思決定したのである。日本は『非核三原則』という建て前を打ち立てた。なかでも“核を保有しない”と決めたのである。この決意は、首の皮一枚ほどのものかも知れない。しかし、それがあるとないとでは大きな違いなのである。 広島・長崎から70年。 その節目の今年、湯川秀樹博士や朝永振一郎博士らも参加して1957年に立ち上げられたパグオッシュ会議が日本で開催される。パグオッシュ会議に止まらず、日本人が世界に向けて、核拡散防止そして核兵器廃絶のための、新たな価値観を創出し発信していくべき節目ではないだろうか。 識者の創造力に政治的実行力を備えたあらたな枠組みが必要だと思う。参考資料1)https://www.whitehouse.gov/issues/foreign-policy/iran-deal2)http://www.gepr.org/ja/contents/20130128-01/3)http://www.gepr.org/ja/contents/20130128-02/

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    もう太陽光には騙されない

    2030(平成42)年の「エネルギーミックス(電源構成比)」の議論が佳境を迎えつつある。ところが、その前提となる電力需要の総量に疑義が示されている。つじつま合わせのために、「深掘り」される太陽光などの再エネと省エネが要注意だ。

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    原子力を国家戦略の柱に据えよ

    澤昭裕(経団連21世紀政策研究所研究主幹) エネルギー政策は国家戦略である。国家共同体の完成形に近い欧州連合(EU)でさえ、エネルギー政策については各国とも権限は移譲していない。再生可能エネルギーに力を入れている面ばかり強調されるが、ガスの市場統合や原発の新設など、エネルギー安全保障の確保に向けた戦略的な投資も続いている。幼稚な議論に陥っていないか ロシアは天然ガスや原子力技術の輸出をテコとして、旧東欧諸国への政治的影響力を行使している。中国は資源開発・調達力を武器に他の途上国の意思を左右してきたうえに、最近ではロシアに倣って原子力産業を国家的に育成し、成長のために電力を必要とする有力途上国にアクセスしようと試みている。米国は、シェールガスの恩恵をフルに活用し、エネルギーの対外依存度を低下させて外交的な自由度を確保する戦略をとっていることは明らかだ。 主要な先進国がエネルギーを国家と国民の生存と繁栄の糧と考えている。そして、軍事、政治、経済の諸側面で自国の影響力と存在感を維持すべく、どのようなエネルギー技術やシステムに投資していくかに知恵を絞っているのだ。 振り返って、日本のエネルギー政策をめぐる議論の実情はどうか。福島第1原発事故によるショックから覚めやらず、太陽光や風力といったいわゆる「クリーン」なエネルギーに夢を託すといっただけの幼稚な議論に陥っていないか。そのような問題意識しかない中では、原発が何パーセントになろうが、再エネが何パーセントになろうが、諸外国から見れば、日本は先進国の仲間からとうとう落ちこぼれてしまったな、という印象しか持たないだろう。国際貢献と技術の温存 今の安倍晋三政権の歴史的使命は、長く続いたデフレの真っ最中に、東日本大震災によって大きな打撃を受けた日本経済の活力を取り戻すとともに、日本の技術力や経済力、国家経営力に国民全体が自信と誇りを取り戻すことにある。なかんずく、原子力は技術自体の複雑性や先端性から戦略的重要性を持っており、原子力をエネルギー戦略にどう組み込み、安倍政権の政治的課題とどう結びつけていくかが問われているのだ。福島県飯舘村の太陽光発電施設。経済産業省は太陽光発電の買い取り価格を3年連続で引き下げた そのための戦略はこうだ。日本は原子力の平和利用の成功国として、原子力技術を軍事から徹底的に切り離した形で開発普及を促進し、それを人類全体の発展と社会的安定に結びつけていくことを大きな政策目標として掲げる。 それを具体的に実践する方策として、福島第1原発の事故の経験を、原子炉の新たな設計や運転技術に反映するという前向きな形で消化し、その新たな技術力に裏付けられた原子力発電システムを世界に普及させることに注力する。これによって、人類共通の危機である気候変動に対して、再エネと手を携えて挑み、電力に恵まれずに困っている十数億の民を抱える国々の経済発展と国民生活の安定に協力することができる。 このように国際貢献の面では胸を張りつつ、他方では原子力技術を温存することによって、日本の宿命的なエネルギー資源の欠如を補うことも実現できる。ドイツが再エネを進めている理由の一つは褐炭資源の温存にあることを見習わなければならない。どの国でも、自国のエネルギー自給率は国力そのものの尺度なのだ。リスクに立ちすくむな もちろん国内戦略にとっても原子力は最重要要素の一つだ。安倍政権で最も重要な政策であるアベノミクスは、経常収支の黒字が縮小している傾向が続けば、財政赤字とあいまって市場の信頼を失いかねない。野田佳彦政権時に大飯原発再稼働を決めた翌日、液化天然ガス(LNG)のスポット輸入価格が急落した。市場も産ガス国も日本のエネルギー政策の動きを注視しているのだ。 化石燃料費増や再エネ賦課金による電気料金の続騰は、中小企業も直撃している。このままでは地方創生も夢で終わってしまうだろう。原発の再稼働はマクロ経済や成長戦略と表裏一体なのである。 また、福島第1原発事故の収束や地域の復興には財源が必要だ。さらに再エネを含む戦略的なエネルギー技術開発投資にも資金が要る。原発再稼働で生まれる経済的価値は、直接的あるいは間接的にこうした財源を生み出すのだ。 これらの戦略を遂行するためには、国内の原子力技術や施設や人材を最大限動員することが必要である。また、将来においても原子力は日本にとって国家戦略としての価値を有する技術だという共通認識も必要だ。再稼働一つできないままでは、技術や人材は腐っていく。安全性の確保はもちろんだが「ゼロリスクはない」ということに立ちすくんではならない。 国家戦略の立案・遂行の責任者である政治家や官僚、そして最高リーダーとしての安倍首相には、現在のエネルギーミックスの議論をエネルギー政策の内部に閉じた議論に矮小(わいしょう)化するのではなく、国の生存と繁栄という観点から適切な結論を導きだしてもらいたい。 さわ・あきひろ 一橋大学経済学部卒。1981年通商産業省(現経済産業省)入省。87年米プリンストン大学で行政学修士取得。経産省産業技術環境局環境政策課長、資源エネルギー庁資源燃料部政策課長、東京大学先端科学技術研究センター教授などを経て現職。NPO法人国際環境経済研究所所長も務める。著書に『精神論ぬきの電力入門』など多数。大阪府出身。57歳。関連記事■ 太陽光買い取り「29円」でも高すぎる■ 報道ステーションが伝えない再エネの不都合な真実■ 再生可能エネルギー接続保留は誰のせい? 国会の責任を問う■ なぜ再エネは接続保留に至ったのか

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    高すぎる「省エネ比率」40% 前提がおかしい再エネ論争

     [エネルギー問題を考える]京都議定書と鳩山目標の失敗の二の舞か杉山大志(IPCC第5次評価第3部会報告書 統括執筆責任者) 政府が検討中のエネルギーミックスに於いて、「原子力比率」や「再エネ比率」の議論の前提となる「省エネ比率」は40%に上り、過大に試算されている。このままでは、再エネを上回る国民負担が新たに発生しかねない。「省エネ比率」を今一度精査し、大幅に見直すべきだ。 政府長期エネルギー需給見通し小委員会(以下、小委)は、3月10日の第四回会合で、2030年の再エネ導入量についての試算を示した。報道によれば、再エネ比率(=電力需要に対する再エネの比率)は21%程度になるとされた。今後、この再エネ比率と、そして原子力比率について、いわゆるエネルギーミックスの検討が本格化する。 だが、この検討の前提となる電力需要の見通しが、過大な省エネを見込んでおり、それが大きな国民負担に帰結するであろうことは、あまり知られていない。 小委では、2月23日の第三回会合で、省エネ対策後の試算として2030年に9360億kWhという電力需要を示している。これは2012年の9670億kWhから、年率△0.2%の減少である。 これは経済成長率を1.7%とするという小委の前提と全く相容れない。なぜなら、電力需要の伸び率は、経済成長率を上回るのが普通だからだ。これはエネルギー経済学の常識でもある。RITE(地球環境産業技術研究機構)・秋元圭吾氏も指摘しているように(リンク先のスライド14参照)日本でも、電力需要の経済成長に対する弾性値は、1990年~2000年の10年間は1.1、2000年~2010年では1.0だった。 小委は、今後、省エネを推進することで、電力需要を年率△0.2%で減らすことが出来るとしている。だがこの想定は安易に過ぎる。なぜなら、過去にも省エネは推進されたが、それにも関わらず、電力需要の伸び率は経済成長率を上回ってきたからだ。 例えば、いまLEDが脚光を浴びている。確かにLEDはよい技術であり、普及を図るべきである。だが、だからといって国全体の電力需要が減ると見るのは早計である。過去にも、エアコンやテレビなどの効率は急激に向上したが、それにも拘わらず、電力需要の伸び率は経済成長率を上回ってきた、というのが実態であった。効率は向上しても、大型化したり、普及台数が増えたり、使用頻度が増えたり、あるいは通信用のサーバーなど、全く新しい機器が登場してきたからだ。(画像:istock) ここ数年でこそ、リーマンショックや大震災後の節電があり、電力需要は停滞気味に推移した。だがそれらが全て終わった2012年を起点として、かつ今後は経済成長をすると想定する以上、徹底した省エネ努力をしたとしても、その結果として、電力需要の経済成長に対する弾性値は1に近くなるはずである(詳しくはこちら)。 だが小委は、これよりも遥かに深掘りをした省エネを想定している。その「深掘りの程度」を、エネルギーミックスでの原子力・再エネ比率と比較して規模感を掴むために、「省エネ比率」と名付けて、計算してみよう(下表、上図)。 電力需要の経済成長に対する弾性値を、1990年~2010年と同じ1.0と措くと、電力需要の伸び率は経済成長率と同じ1.7%となる(「経済成長整合ケース」)。このとき2030年の電力需要は1兆3100億KWhとなる(この電力需要を「ありえない」という意見もあるかもしれないが、それは、暗黙裏に経済成長をしないと前提しているためである。論理的に考えるならば、経済成長するならば電力需要は増える。なお低成長のケースは後で考察する)。これと「小委員会試算ケース」の9360億kWhとの差分は3740億kWhに上る。つまり小委員会試算ケースの「省エネ比率」は40%にも達する*。これは再エネ比率・原子力比率として議論されている数字を凌駕する規模である。 では、このような大規模な省エネの深掘りは、どの程度のコストを招くのだろうか。「省エネは光熱費が浮くので、投資は回収できる。コスト増にはならない」という意見もある。確かにそのような省エネもあるだろう。だがそれは「経済成長整合ケース」で既に多くが織り込まれていると見るべきである。同ケースで用いた1.0という電力需要の弾性値は、多大な省エネ努力があったにも関わらず過去に観察されてきた数値だからだ。もしも40%というような巨大な規模で、更に省エネを深掘りするならば、コストは必ず跳ね上がる。再エネ並みか、それ以上に高くなるとみてよいだろう。 これは、小委の列挙している政策を見ても想像がつく。例えば、住宅の断熱改修は極めて高コストである。これは中上委員が第三回の小委席上で詳しく説明した通りであるし、国立環境研究所の資料(P19を参照)でも、住宅の断熱改修は太陽光発電以上にコストが高いことを明記している。*3740億kWh /9360億kWh=40%として算出した。 40%という省エネ比率を目指して、太陽光発電よりも高価な対策を実施するとなると、そのコストが莫大になることが懸念される。慶応大学野村浩二氏は、電力価格が倍増し、2030年までに累積で100兆円の国民負担になる可能性を示唆している(日経新聞経済教室、3月19日)。そうではなく、もっと安く上がるはずだとするならば、小委は、40%の省エネ比率が、どのようなコストで実現できるのか、分り易く示す責任がある。 このような計算への反論として、「経済成長率が1.7%というのは掛け声に過ぎず、実際には1.0%ぐらいになるのではないか」「経済がサービス化すれば、経済成長率が1.7%でも、電力需要の伸び率は1.0%ぐらいではないか」といった意見もあろう。だが電力需要の伸び率が仮に1.0%であるとしても、2030年の電力需要は1兆1157億kWhとなる。先程と同じ計算をすれば、小委員会試算の省エネ比率は24%となる。数字はやや小さくなるが、問題が巨大であることには変わりがない。経済成長を全くしないとか、産業が空洞化するというなら話は別になるが、それは小委で想定している経済の姿ではないだろう。 さて実際には、巨額なコストが発生する以前に、大規模な省エネは実施段階で頓挫すると思われる。国民の負担が大きいことが明らかになるにつれて、政策への支持がなくなっていくと予想されるからである。 以下、想像を巡らせてシミュレーションをしてみよう。省エネ比率がこのまま見直されなければ、経済が成長するにつれて、電力需要は伸びて、やがてCO2目標が達成できないことが明らかになる。すると、CO2を抑制するために、何等かの政策が導入される。だが何年か経つと、そのコストが膨大なことが判明して見直される。そのようなことが繰り返されるのではないか。 このような予言をするのは、それがまさに再エネのFIT制度で起きているからである。省エネの文脈では、例えば、排出量取引制度が導入されるかもしれない。だが、やがてそれが電力価格高騰を引き起こすことがはっきりしてくると、制度が見直されて、結局のところ、CO2の削減に結びつかないものになるだろう(なお、欧州の排出量取引制度では、排出権価格は暴落して、CO2の削減に繋がっていない)。 あるいは、省エネ補助金が増大するが、これも、先の住宅省エネ改修の例で見たように、負担が大きい割にCO2削減の効果が限られることがやがて明白になり、予算が削減されて、行き詰まるだろう。結局、混乱をもたらした挙げ句、CO2は減らず、予算は無駄遣いされることになる。 では小委は、なぜこのような、無理な省エネ見通しをしようとするのか? それは、CO2の総量を抑え込んだ絵を無理やりに描こうとするためである。実はこれは初めてのことでもない。京都議定書目標達成計画でも、特に家庭・業務部門を中心に、過大な省エネ見通しがあり、失敗した。国として数値目標を達成できたのは、リーマンショックがあったり、CDMで排出権を購入する等で、帳尻が合っただけのことだ(詳しくはこちら)。しかし、今後も同じような帳尻合わせが出来るという保障は全く無い。小委は過去の失敗に学ぶべきだが、そうしないで、また同じことをしようとしている。 これには政治的な意図も絡んでいる。政治は将来のコストと引き替えに目先の得点を増やしたがるものである。だから、仮に長きにわたりエネルギー政策を損なうことになることが分かっていても、CO2目標を無理に深掘りしようという動機は強い。だが、これは単に国内政治的な得点稼ぎであって、国益にも地球環境益にもならない。「野心的な数値目標を言わないと国際的に孤立して国益を損なう」というのは嘘である。 かつて鳩山首相は25%削減を宣言したが、それで良いことは何も無かった。これを石原環境大臣が3.8%削減*という控えめな数字に修正したが、それで日本が国際的に孤立したわけでもない。また「数値目標を深掘りしないと地球環境が破壊される」というのも間違いである: 地球温暖化には一定のリスクはあるが、かなり誇張されている(「温暖化の悪影響は本当か? 危機感煽るIPCCの環境影響評価 不十分な科学的根拠」参照)。 もちろん、CO2は減らしたほうがよいが、それは長期的・世界的に見ての話であって、2030年の日本のCO2に直結はしない。2030年の日本について言えば、新しい技術を生み出すほうが、よほど価値がある。 振り返ってみれば、政治的に膨れあがった過大な再エネ目標が、FIT制度を招き、今日の混乱をもたらした。いま、省エネについても、同じ事が起きようとしている。今後のエネルギーミックスの議論においては、「原子力」「再エネ」に注目するだけではなく、「省エネ比率」についても精査し、抜本的に見直すべきである。*http://www.kantei.go.jp/jp/singi/ondanka/kaisai/dai27/gijiyousi.pdf http://www.nikkei.com/article/DGXNASFS2003D_Q3A121C1PP8000/ など参照参考リンク本稿で使用した政府資料については:長期エネルギー需給見通し小委員会(第三回 2月27日、第四回 3月10日)本稿を裏付けるデータについて詳しくは、下記およびそのリンクを参照されたい:過大な省エネ見通しはこう見直すべし-政府長期エネルギー需給見通し小委員会で提示された省エネ見通しの改善提案 すぎやま・たいし  IPCC第5次評価第3部会報告書 統括執筆責任者 1991年東京大学理学部物理学科卒業。93年東京大学大学院工学研究科物理工学修士了、(一財)電力中央研究所入所。国際応用システム解析研究所(IIASA)研究員、国際学術会議科学執行委員、京都議定書CDM理事会パネル委員、産業構造審議会専門委員、IPCC第四次評価第三部会及び統合報告書主著者を経て、現職。(一財)電力中央研究所上席研究員。関連記事■ 太陽光買い取り「29円」でも高すぎる■ 報道ステーションが伝えない再エネの不都合な真実■ 再生可能エネルギー接続保留は誰のせい? 国会の責任を問う■ なぜ再エネは接続保留に至ったのか   

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    バランスの取れたエネ政策のための4つの視点

    堀 義人(グロービス経営大学院学長) 2011年8月5日に孫正義氏と筆者(堀義人)とが、日本のエネルギー政策に関して「トコトン議論」を実施した。日本は、エネルギー問題が引き金となり第二次世界大戦に参戦した歴史がある。その重要な議題でもあったので、多くの人がインターネットを通して観戦した。 日本のエネルギー自給率は4%(2006年)、原子力エネルギーを国産エネルギーとして換算した場合でも19%と、主要先進国の中では最も低い水準にある。食糧自給率40%と比較しても著しく低い。そのエネルギーを一部の地域に依存する地政学的リスクを、日本は抱えている。 それらのリスクを最小化するエネルギー安全保障の基本は「多様性」である。第二次世界大戦への参戦、そして敗戦の教訓を活かすためにも、資源の輸入元とエネルギー源は、多様化させておく必要がある。 多様性を確保するためには、中長期を見据えた骨太なエネルギー政策が不可欠となる。更にエネルギー自給率を引き上げるためにも、CO2の排出を削減するためにも、再生可能エネルギーとともに原子力エネルギーの比率を増やすことが求められている。 事実、政府は民主党政権時代の2010年6月に、従来の3E(エネルギーの安定供給確保/Energy security、温暖化対策の強化/Environment、効率的な供給/Efficiency)に、エネルギーを基軸とした経済成長の実現と産業構造改革を追加した、『エネルギー基本計画(第2次改定)』を閣議決定した。この計画では2030年に向けた具体的な数値目標として、原子力発電の割合を53%に高めることも示されていた。 しかしながら、2011年3月11日の東日本大震災による福島第1原発の事故以降、民主党政権のエネルギー政策は迷走した。政府内で客観的かつ中長期的視点による政策論議が十分に行われないまま、エネルギー基本計画を白紙に戻したこと、さらに原子力発電所の再稼働におけるストレス・テストを巡る閣内での政策決定が混乱したことはあまりにも短絡的、情緒的であり、政治のあり方として疑問だ。 もちろん、今回の様な原発事故を二度と起こしてはならない。悲しみ、苦しみを乗り越え、猛省し、厳しい現実を直視した上で、感情的に反・脱原発と叫ぶのではなく、冷静に日本のエネルギー政策全体に立ち戻って論じる必要がある。中長期のエネルギー政策は4つの視点で総合的に検討を 2012年12月に、民主党から自由民主党への再政権交代が起こり、第二次安倍内閣が発足した。総理は就任早々に震災後の民主党の掲げた「原発ゼロ政策」を破棄する姿勢を明確にした。このことによって、落ち着いた環境でエネルギー政策を議論できる環境を整えることができたことは、わが国の将来を考える上で非常に重要な決断であったと言える。 2014年4月、震災後初めてとなる「第四次エネルギー基本計画」が閣議決定された。国民の安定した生活と経済・産業を維持するために、無責任な「原発依存度ゼロ」の姿勢から脱却した。とても評価したい。中長期の視野に立ったエネルギー政策が求められている。 エネルギー政策を考える上で重要なのは以下、4つの視点だ。三菱電機が開発した、水素ガスで冷却する大型発電機 1)エネルギー安全保障 資源の輸入元とエネルギー源の多様化、自給率の向上などを考慮に入れ、石油、ガス、石炭などの化石燃料と、原子力、さらには、水力・風力・太陽光・地熱などの再生可能エネルギーのベスト・ミックスを検討する必要がある。 2)環境・命への影響 各種電源の発電量当たりの温室効果ガス排出量、さらには、発電電力量当たりの死亡者数などによる、「環境と人命への優しさ」を考慮に入れる必要がある。これまでの化石燃料に頼ったエネルギー政策ではCO2の排出による地球温暖化の問題や石炭の燃焼時に生じる粉じんの問題などの深刻な課題がある。原子力と再生可能エネルギーがその点では最も優位である。 3)実現性/安定性/経済性 実現性(必要な設置面積)、安定性(気候条件による出力変動)、経済性(電気料金・設備利用率・バックアップ火力発電のコスト、廃炉コスト、廃棄物処理費用)などを考慮に入れる必要がある。太陽光、風力などの再生可能エネルギーは、問題点(コスト、安定性、CO2排出、面積=実現性)が山積していることは事実であり、ドイツの事例を鑑みても原子力発電の代替となるベースロード電源にはなりえない。その点を考慮してエネルギー政策を立案する必要がある。 4)枯渇リスクと持続性(50年・100年先のエネルギーを) 世界人口は2050年には92億人に達すると予測されており、化石燃料枯渇後は、再生可能エネルギーと高速増殖炉・核融合を含めた原子力エネルギーしか残らないことを考慮に入れ、長期的視野に立った技術開発が必要となる。 上記4つの視点を考えると、先ず実現性・代替可能性を十分に確認してから、(原子力を含めた)エネルギー政策を再度冷静になって構築する必要性があろう。多様化・自給率向上・クリーン化の為の技術開発を進めよ 安定したエネルギー供給のためには、資源の輸入元とエネルギー源の多様化、自給率の向上が必要となる。そのためにも、さらなる技術革新を行うことが重要である。 1) メタンハイドレードの開発・石炭火力のクリーン化を 日本近海に埋蔵されているメタンハイドレードの開発技術、クリーンコールテクノロジー開発、コンバインドサイクル火力発電システムなどへの投資。 2)再生可能エネルギーは補助金ではなくて、研究開発促進を 経済性を高めるためのエネルギー転換率の向上、設備利用率の向上などへの研究開発投資。再生可能エネルギーの補助金のうち90%以上が、設置や運営に投下されるのは、技術革新という観点では、疑問が残る。補助金ではなくて、是非研究開発への投資に重点を。 3)次世代の原子力エネルギーの開発を 高レベル放射性廃棄物の処分問題の解決、次世代原子力発電(高速増殖炉などの第4世代原子力システム・進行波炉・核融合炉など)、原子力燃料サイクルの早期実現のために、技術開発とともに政治力の発揮を期待したい。 4)水素や電池への投資 燃料電池への研究開発投資、化石燃料以外から水素や合成燃料を生産する方法(またはプロセス)の確立。大規模定置型を含む蓄電池の普及に向けた技術開発・標準化の推進。 5)スマートグリッドを実現するインフラ整備 スマートグリッドによるピークシフトでの電力設備の有効活用と需要家の省エネルギー促進、家庭部門におけるエネルギー見える化促進のためのスマートメーターの普及、全国で電力融通ができるインフラ整備(送電網の整備と電源周波数の統一化)も期待したい。「エネルギー規制庁」の発足によるバランスのあるエネルギー政策と規制を エネルギーは、基本的に全て地球を汚すものなのだ。太陽光発電は、山を掘削し、農耕可能地を使い、広範な地域から緑を奪う。風力発電は、低周波音を出し、鳥を犠牲にし、山や海の生態系を壊すのだ。火力発電は、CO2を排出し、空気を汚す。原子力発電は放射能の不安を考えねばならないし、核廃棄物の最終処分場が必要になる。それらの良し悪しを基に、地球環境に優しく、安定性が高い循環型のエネルギー政策を選択し、実現する必要がある。 バランスのあるエネルギー政策を実現するためには、「原子力規制庁」というように1つのエネルギーのみを規制するのではなくて、全てのエネルギー利用を安全・地球環境保護の観点から公正・適切な規制を行う「エネルギー規制庁」のような体制が必要であろう。 どんな車であっても安全性を高めるために、アクセルとブレーキを持たせ、排ガスなどを規制し、目的地へと到達させなければならない。1つのエネルギーだけにブレーキを持たせ、他のエネルギーにはアクセルのみがあるのでは、その車は暴走し続けるだろう。その結果、緑が減り、山や海の生態系が壊れ、空気が汚染され続ける可能性があるのだ。 原子力規制に特化しない「エネルギー規制庁」として、地球環境全般に何が良いのかを、総合的に判断し、政策を推し進めつつ、必要な規制をすべきであろう。原発再稼働の審査を迅速化せよ 原子力規制委員会は、鹿児島県川内原発に続き、福井県の高浜原発についても、「新しい規制基準に適合している」とする審査書を決定した(2015年2月)。つまり、規制庁によるOKが出たわけだ。2012年9月の原子力規制委員会の発足から2年以上経過している。審査には数万ページにも及ぶ書類が必要で、現場には相当な負担がかかっているが、本当にそんなに必要なのだろうか?簡素化そしてスピードアップが求められる。九州電力川内原発。左から1号機、2号機=鹿児島県薩摩川内市 しかも、OKが出てからも、再稼働は遅々として進んでいない。厳しい審査基準を超えた原発については速やかな再稼働を進める必要がある。そのためには、反対派が全国から押し寄せようとも、マスコミが意味不明な扇動的な報道を行おうとも、冷静に総合的に判断できる環境を整えることが重要だ。また判断に必要な避難計画の策定などについては、政府による自治体への積極的な支援が必要だ。 原発全停止による国富流出が年間4兆円程度である。消費税2%もの国富が海外に流出しているのだ。電気代の高騰に伴う実態経済への影響も懸念される。当然、その分CO2の排出が増えている。 また、日本には原発技術を有する世界トップ4のうち、3社がある。東芝、日立、三菱重工である。中国が原発をこれから5年間で3倍に増やす計画がある中で、周辺諸国をはじめとする世界の原発の安定を守る役割を果たしていく必要がある。原発を放棄することは、将来的に原子力発電技術や安全管理を担う人材を失うことにつながる懸念がある。 さらに、停止状態にある原発が稼働している原発と比べて安全な状態にあるかといえば、そうではない。そこに燃料がある限り、リスクは同等に存在する。だからこそ、原発の再稼働に必要以上の時間と労力を割いて、再稼働を遅らせる必要はない。原発の再稼働の審査の迅速化を強く求めたい。官民一体となったエネルギー外交の強化を 現状の日本において化石燃料の確保は生命線である。産油国からの輸送についてペルシャ湾ルートの使用が多くを占めるなかでは、ISILなどの過激派の活動領域が仮に拡大してしまうことにより、供給ルートが途絶え、日本のエネルギーが枯渇してしまうようなことがあっては、国家として一大事である。 資源小国である日本は、政府・民間(事業者)が一体となった、正にオールジャパンの体制を構築しながら、戦略的なエネルギー外交を展開することが必要不可欠である。今まさに、新興国・アジア諸国を中心とした旺盛なエネルギー消費により、各国間ではエネルギー確保という国益と国益がぶつかり合う、厳しい権益争いが繰り広げられているのだ。 資源確保の際には、政府開発援助(ODA)や国際協力銀行などの政策スキームと外交ルート(チャネル)を最大限に活用して、エネルギー生産国との二国間関係の強化、エネルギー供給源の多様化、エネルギー輸送路などの安全確保、国際機関との連携の強化による国際協調の促進などを図ることが求められる。 このように、エネルギー政策は環境政策、科学技術政策、安全保障や外交政策のみならず、日本の経済成長戦略とも密接に関連する。また、エネルギー政策は国民生活や経済活動に大きな影響を及ぼすことから、国民の理解と支持が不可欠となる。したがって、政府による積極的な情報公開、政策対話、意見聴取を図ることが求められる。 何よりも重要なことは、僕ら国民の一人ひとりが、エネルギー問題を自分の頭で考えて、理解して、発信することである。そうでないと、世論が「怖いから止めよう」という安易な方向に流れて行ってしまう。日本は、エネルギー問題が引き金となり第二次世界大戦に参戦した歴史がある。それだけ重要な議題でもあるので、国民一人ひとりが真剣に考える必要がある。(「堀義人の100の行動」「GLOBIS知見録」より転載) ほり・よしと グロービス・キャピタル・パートナーズ 代表パートナー。京都大学工学部卒、ハーバード大学経営大学院修士課程修了(MBA)。住友商事株式会社を経て、1992年株式会社グロービス設立。1996年グロービス・キャピタル、1999年 エイパックス・グロービス・パートナーズ(現グロービス・キャピタル・パートナーズ)設立。2006年4月、グロービス経営大学院を開学。学長に就任する。著書に、『創造と変革の志士たちへ』(PHP研究所)、『吾人(ごじん)の任務』 (東洋経済新報社)、『人生の座標軸』(講談社)等がある。関連記事■ 太陽光買い取り「29円」でも高すぎる■ 報道ステーションが伝えない再エネの不都合な真実■ 再生可能エネルギー接続保留は誰のせい? 国会の責任を問う■ なぜ再エネは接続保留に至ったのか

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    問われるエネルギーの「ベストミックス」 火力依存、いびつな電源構成

    。その比率を示す「電源構成」の検討が本格化している。電力は暮らしや産業を支える基盤であり、電源構成はエネルギーの将来像や安全保障も左右する重要な問題だ。とくに東日本大震災前まで電源の約3割を占めていた原発をどのように位置付けるのかが焦点だ。一方で温室効果ガスの排出削減に向け、再生可能エネルギーの導入拡大も欠かせない。現実的な議論を通じ、日本の未来にふさわしい電源の最適構成(ベストミックス)を導き出すことが問われている。焦点の原発、現実的な議論必要に 「日本のエネルギー安全保障をめぐる環境は、依然として非常に厳しい」 電源構成を検討する経済産業省の有識者会議が今年1月末に開いた初会合。出席した委員からは日本を取り巻くエネルギーの現状に対し、強い危機感が相次いで示された。 東日本大震災に伴う福島第1原発事故を受けて全国の原発が相次いで停止し、日本では一昨年9月から稼働する原発がゼロの異常事態が続いている。原発の代替電源として火力がフル稼働しており、石油や天然ガスなどの化石燃料の輸入が急増している。 これら火力が電源全体に占める割合は、震災前の62%から震災後に88%と急上昇した。これは第1次石油危機時を上回る水準だ。シェールガスにも対応させる東京電力の川崎火力発電所(川崎市) イスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」の動きもあり、中東情勢の緊迫度は増している。そして日本の原油輸入の中東依存度は8割超に達する。資源小国の日本は極めて高いリスクを抱え込んでいる。 政府や電力会社は、将来にわたって必要な電力を安定的に供給しなければならない。そのための政府のエネルギー政策や、電力会社の投資計画などを決める際の目安となるのが電源構成だ。火力と原発、再生可能エネルギーの3つの電源を組み合わせて設定する。 最適な電源構成には「S(安全)+3E(経済性・環境性・エネルギー安全保障)」を考える必要がある。これらをバランス良く組み合わせることが求められている。 その観点でみると、現在の日本の電源構成がいかにいびつなものかが浮かび上がる。電力会社は震災後に燃料購入費が急増。増加分は年間3.7兆円にのぼり、相次いで電気料金の値上げに踏み切った。全国平均の料金は震災前に比べて家庭用で2割、産業用では3割も値上がりしている。 原発停止の長期化で北海道電力が昨年、追加値上げしたのに続き、関西電力も再値上げを申請中だ。原発の再稼働が遅れれば、他社も追加値上げを打ち出す恐れがあり、料金引き上げの連鎖は消費の下押し圧力になりかねない。 原発の稼働停止は環境にも影響を与え、火力比率の上昇で温室効果ガスの排出量も増えている。 政府は2030年時点の原発比率を「15~25%」とする方向で検討中だ。原発は「40年運転」が原則とされ、これを厳格に適用すると国内に48基ある原発は、30年時点で18基にまで減少し、原発比率は15%となる。 ただ、これでは30年以降も原発は減り続け、40年代にゼロになる。これを防ぐためには古い原発の運転延長に加え、新増設を含めた電源確保が欠かせない。 安全性を高めた原発を開発し、世界に提供することは原発事故を引き起こした日本の責務でもある。そのためには25%の原発比率を目指すべきだ。 日本エネルギー経済研究所は30年の電源構成を複数想定し、日本経済に対する影響を試算した。それによると「原発0%、再生エネ35%、火力65%」の場合に比べ、「原発30%、再生エネ20%、火力50%」は、国内総生産(GDP)が10兆円多かった。火力向けの燃料輸入が減り、料金上昇が抑えられるためだ。 そして同研究所では、原発と再生エネが25%ずつ、火力が50%の電源構成が「経済や環境への影響などを総合的に考えると、最も望ましい」(柳沢明研究主幹)としている。 原発に対する世論は依然として厳しい。だが、日本の将来にとって、原発の活用を含めたベストミックスの設定は不可欠だ。政府は原発の必要性を国民に説明することから逃げず、正面から議論に取り組まなければならない。再生エネ拡大、制度再設計が急務 政府は電源構成に占める再生エネ比率を2030年に20%以上に高める方針だ。だが、再生エネは発電コストが高く、送電網への接続容量も増強する必要がある。導入拡大には課題も多い。 太陽光などの再生エネを20年間にわたって電力会社が買い取り、電気料金に上乗せする制度は約3年前に導入された。だが、高値での買い取りを決めたことで申請が殺到。九州など5電力は受電調整ができなくなり、大規模停電の恐れがあるとして買い取りを一時保留する事態となった。 このため政府は1月、電力供給が需要を上回る恐れが生じた場合、太陽光の発電業者に対し、出力抑制を強制できる新ルールを制定した。また、政府は送電網の増強工事などの費用について、発電業者が負担する仕組みなども検討中だ。再生エネ導入には制度設計の見直しが急務だ。 さらに太陽光が9割を占める再生エネの普及動向を改善し、地熱などの利用を拡大したい考えだ。ただ、地熱や風力などは太陽光に比べて環境規制や地権者の同意などの問題も残る。どこまで普及が進むかは不透明だ。 環境負荷が小さい再生エネに対する期待は大きい。しかし、出力が安定しない太陽光などは安定電源にはなり得ない。その利用拡大には他の電源を組み合わせて上手な活用を考える必要がある。関連記事■ 太陽光買い取り「29円」でも高すぎる■ 報道ステーションが伝えない再エネの不都合な真実■ 再生可能エネルギー接続保留は誰のせい? 国会の責任を問う■ なぜ再エネは接続保留に至ったのか

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    再エネ・省エネこそ冷静に 混迷のエネルギーミックス

    Wedge編集部 政権が避けてきた将来の「エネルギーミックス」がまもなく提示される。つじつま合わせのために、「深掘り」される再エネと省エネが要注意だ。 1月末、経済産業省の有識者会合で、2030年段階における日本の電源構成(エネルギーミックス)の検討がようやく始まった。舞台は、総合資源エネルギー調査会基本政策分科会に置かれた「長期エネルギー需給見通し小委員会」。分科会の坂根正弘会長(コマツ相談役)が小委の委員長も兼任し、熱心に議論を進めている。 本来、このエネルギーミックスは、14年4月に閣議決定したエネルギー基本計画の段階で明示されるはずだった。ネックになったのはもちろん原子力だ。自民党は、政権奪取時に掲げた「規制委が安全と判断した原発については再稼働」という表現を超えるスタンスを示すことはずっと避けている。選挙に際して「政治的リソースを原発には割かない」という判断があった。 そのため基本計画における原発の書きぶりは、「重要なベースロード電源」だが、その依存度は「可能な限り低減」、ただし「確保していく規模を見極める」と、なんともわかりにくい。しかし、この曖昧戦略もいよいよ終わりにせざるを得ない。今年11月に、2020年以降のCO2削減の国際的枠組みを決めるCOP21(第21回気候変動枠組み条約締約国会合)があり、6月のサミットで、安倍首相が日本のCO2削減目標を示すとみられているからだ。そうすると5月までにはエネルギーミックスを決めなければならない。 「統一地方選後の4月下旬には小委が選択肢の形で示すだろうから、経産省の原案は3月末から4月初めには提示されるのではないか」(関係者) 有識者の間で共有されているエネルギーミックスの相場観は、「原子力が15~25%、再生可能エネルギーが20~30%で、原子力より再エネが多い」というものである。 震災前の原子力依存度は発電ベースで約3割だった。これより低減させるから25%以下。現存する原発に40年運転規制を厳格にあてはめれば、30年段階で全て稼働させても15%。だから15~25%なのだが、20なり25という数字を示せば、それはとりもなおさず原発を新たに造ること=リプレース(新増設)を意味するから、政治家としては世論の反発が怖い。世論を納得させるためには、再エネをそれ以上に充実させている構えが必要というのが、この相場観の意味するところだ。 再エネについては、民主党政権が10年6月に定めたひとつ前の基本計画が発射台になっている。この計画では、鳩山由紀夫首相が09年9月の国連演説で唐突に発表した「90年比25%減」という野心的すぎるCO2削減目標を満たすために、CO2を出さないゼロ・エミッション電源である原発と再エネについて、それぞれ50%、20%と高い目標値を掲げた。このときよりも強い再エネ推進姿勢を示すために、今回「再エネ30%」という数字が取り沙汰されているのである。再エネ30%の非効率性と非現実性 再エネは現在、固定価格買取制度(FIT)という、発電事業者の収益を事前に確定させる超優遇制度で導入が進められている。そのコストはすべて電力消費者に賦課金としてツケ回しされているのだが、FITで再エネ30%を達成しようとすると膨大な賦課金になってしまうのだ。 電力中央研究所の朝野賢司主任研究員の試算によれば、新エネルギー小委で示された現行の導入ペースをずっと継続すると、2030年段階で再エネ比率は約30%となり、年間賦課金は4.1兆円に達するという。震災前の年間電気料金の総額が約15兆円だから、その約3割にあたる。震災後、原発停止などによって電力価格が約3割上昇し、関西電力などの電力会社が強く批判されているが、再エネだけでその域に達してしまうということになる。 実は再エネ20%でもなかなかの負担感である。同じ試算によると、FITを今年度で廃止したとしても、すでに認定された設備がすべて運転開始すればそれだけで再エネ比率は約20%、年間賦課金は2.6兆円にも及ぶ。 では再エネ20%は容易に達成できる目標なのかというとそれも違う。再エネの大半を占める大規模太陽光設備(メガソーラー)を運用の事業者をヒアリングすると、「高い買取価格のときに、認定だけ取ったブローカーなど、事業運営能力のない事業者が多く、現在の認定容量の半分も運転開始には至らないだろう。経産省は悪質事業者を排除し、制約が出てきている電力系統を空けるべき」と口を揃える。 しかも、慶應義塾大学の野村浩二准教授の実証研究によると、FITは競争を阻害し、高い買取価格の設定によって、事業者は世界標準よりも高い太陽光パネルを輸入することに甘んじ、事業に対する習熟効果もほとんど見られていないという。消費者は無駄に高い電気を買わされているのだ。 FITは再エネ推進の立場に立っても有害無益な制度になっている。「焦らずに、パネル価格が下がりきったところで、公共工事として入札で大量に買い上げれば圧倒的に安く導入できる」(野村准教授)。少なくとも、21世紀政策研究所の澤昭裕研究主幹の言う「ドイツなどが行っている、買取価格を卸価格に連動させるプレミアム型への移行や自力直接販売、入札導入など、再エネの市場統合」を急ぐべきだ。 また、再エネは20%を超えてくると導入すること自体が困難になってくることも真剣に検討すべきだ。経産省が小委に3月10日に示した資料によれば、年間でもっとも電力需要が少ない5月の晴れの日を想定した、電力系統への接続可能量を考慮すると再エネは20%程度しか入れられない。これを超えると、系統からの遮断や、系統増強への投資が必要になるため、消費者負担は途端に大きくなる。 また、再エネの大半が太陽光と風力という不安定な電源であることにも注意が必要だ。埋め合わせは、すぐに出力を上げることのできる火力発電が行うのだが、「バックアップ火力の稼働率は低くなるので、事業者にとってみれば投資効率が悪い。日本は20年をメドに電力自由化を進めるとしている。自由化された電力会社はそんな電源への投資は避ける。ドイツでは実際に火力発電の稼働率低下と投資抑制が起きている」(NPO法人・社会保障経済研究所の石川和男代表)。 「大量の余剰電源があったスペインや、連系線で隣国と電力をやりとりできるドイツといった恵まれた国でも、再エネが20%を超えると様々な問題が起きた。日本は今からリスクに対応しておくべき」と澤昭裕氏は言う。「再エネ30%」の非効率性と非現実性を直視すべきである。省エネ「深掘り」の危険性省エネ「深掘り」の危険性 再エネよりさらに問題が大きいと思われるのは省エネだ。 再エネの比率を高く見せるには、分母となる電力需要の総量が小さければよい。最終的な安倍首相の掲げるCO2目標を野心的に見せるためにも、基準となる電力需要は小さければ小さいほど楽だ。こういった思考から、とまでは言わないが、小委においても「まずは省エネをできるだけ深掘りしてからエネルギーミックスを考える」というプロセスが当然のように受け止められている。 地球環境産業技術研究機構の秋元圭吾グループリーダーによると、「そもそも基準になっている30年の電力需要想定が、前提に置かれている年1.7%の経済成長率に比べて低すぎる。GDPが1単位成長したときに電力需要がどれだけ伸びるかを示す弾性値を計算すると0.5。震災直後のような異常事態を除いた、過去の平常時の弾性値は1程度だ」。これは、右のグラフ上の赤の実線の傾きが、非常に小さいことに表れている。資源少国の日本が電力需要を低めに想定するのは、エネルギー安全保障の観点からも危険だ。 さらに慶應大学の野村准教授によると、この基準となる電力需要想定に、省エネ対策を最大限積み上げた「省エネ対策後」と呼ばれる需要想定が、経済への影響が大きすぎるのだという。 「『省エネ対策後』として想定されている省エネを市場経済のなかで実現しようとすると、2~3倍程度では済まない電力価格の高騰を必要とする。これにはイタリアという実例がある。イタリアは99年から13年にかけて電力価格が名目で3倍、実質で2.3倍まで上昇したが、これは、一定の仮定を置いて計算すると、年率0.15%ほどのGDP低下要因になっている。日本経済の将来見通しに適用すると、30年の断面では2.2%ほどのGDP下落となり、それまでに失う所得の総額は100兆円に近いものとなる。これは到底耐えられる水準ではない」 以上の内容をまとめると、エネルギーミックス検討のミソはこうなる。・つじつまを合わせるためにやりたくなる省エネの深掘りは、経済への影響が大きいのでやってはならない・再エネは20%を超えると、電力消費者の負担も電力系統にかかる負荷も途端に大きくなる。30%などという野心的な目標は掲げるべきではない・再エネ20%でも十分再エネ推進であり、その政策手段は、無駄だらけのFITであってはならない(FITは極力早期に廃止すべき) このような「不都合な真実」から逃げた、格好だけのエネルギーミックスで将来に禍根を残してはならない。関連記事■ 太陽光買い取り「29円」でも高すぎる■ 報道ステーションが伝えない再エネの不都合な真実■ 再生可能エネルギー接続保留は誰のせい? 国会の責任を問う■ なぜ再エネは接続保留に至ったのか   

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    まだドイツは原発稼働中 「一国再エネ主義」は不可能だ

    澤昭裕(国際環境経済研究所長) 将来の電源構成(エネルギーミックス)の議論において、再生可能エネルギーの導入量は、水力を含めて20%程度にとどめておくべきである。技術的、経済的に看過し難い問題があるからだ。厄介な余剰電力、不安定性 その理由の第1は、「一国再エネ主義」は不可能だからだ。特に、風力や太陽光といったお天気まかせの発電設備で生まれる電気は、往々にして需要を上回る余剰電力を発生させる。余剰電力は系統運用を乱す厄介者だ。 ドイツでは、自国内の送電線建設計画が住民の反対などで進捗(しんちょく)していないため、北欧や東欧各国に余剰電力を「捨てて」いる。これができるのもドイツが隣国と送電線で連系されているからである。 すでにドイツの国内発電量の4分の1を超える部分が再エネによるものとなっており、これ以上の拡大は難しいということで、ノルウェーとの送電線敷設計画に期待をかけている。しかし、欧州全体の系統運用を司(つかさど)る機関やドイツの隣国の間では、流入する余剰電力に頭を痛めており、ドイツ自国内での処理を促している。 第2に、不安定な再エネを増やすほど、その発電量変動を吸収するための調整電源が必要になってくる。ドイツでは、再エネ発電量が増えるにしたがって、天然ガスや石炭火力の稼働率が落ちて採算性が悪化したため、電力会社が撤退の意向を示し始めている。しかし、本当に撤退されてしまうと、例えば風が吹かないときに風力発電の穴を埋める電源がなくなってしまい、停電の危機が訪れる。 こうした問題を解決するため、ドイツ政府は、大手電力会社に勝手に火力から撤退させないよう法的に規制したり、電源維持で生じる損失を補助金で埋めるといった措置まで取り始めているのだ。 さらに、調整電源で生き残っているのは最も安い褐炭火力だ。しかし、この電源はCO2を大量に出すことから、ドイツでは再エネをこれだけ増やしたにもかかわらず、CO2は増加した年もある。9基の原発が稼働中のドイツ 第3に経済的負担の増加だ。ドイツもスペインも固定価格買取制度を導入して再エネを増やしたが、特に太陽光には高すぎる買取価格を設定したために投資が集中し、電気料金は大きく上昇。今や産業界や消費者からもコスト無視の再エネ導入に厳しい批判が寄せられ、両国とも固定価格買取制度を廃止しており、市場での競争に晒(さら)す仕組みに変更した。 ドイツは「脱原発」を決めたことばかりが強調されるが、実はまだ9基も原発が稼働中だ。これ以上電気料金が上昇すれば、日米との産業競争力格差が広がることを懸念しているからだ。ドイツ企業が払っている再エネ賦課金は、米国企業が払っている電気料金全額に等しいといわれる。メルケル首相が、訪日時に日本も脱原発に転向するよう働きかけたと報道されたが、こうした自国の産業競争力の低下懸念が背景にあるのだ。 欧州の一国は日本で言えば「県」であり、それを国全体のモデルとするのは非合理的だ。 欧州全体を日本のモデルとすればよい。その意味では再エネ導入をドイツやスペインを例に考えるべきではない。欧州全体での発電量割合は震災前の日本とほとんど同じであり、その構成を見習うべきだ。また、エネルギー政策は各国の経済戦略と密接に関係している。日本も、より経済性向上やコスト最小化を意識すべきだ。廃止すべき固定価格買取制度 その観点から次の3つの施策が急がれる。第1に原発再稼働、第2に固定価格買取制度の即刻廃止と再エネの市場統合化だ。特に今の固定価格買取制度のまま再エネ導入を漫然と進めていけば、総費用は80兆円以上にもなる(電力中央研究所試算)とされている。 第3に、固定価格買取制度によってこれまで再エネ事業者に過剰に移転された電力ユーザー(産業、消費者)の富の再移転である。高額の買取価格で想定されていた設備費と実際に調達した設備費の差分は、再エネ事業者の棚ぼた利益であり、この利益に逆賦課金を課して、それを財源に国際競争に晒されている産業界への減免措置を拡大したり、低所得者層への交付金に充てる。 スペインでは、買取価格の低下を遡及(そきゅう)適用して国民負担の増加を抑制しようという荒療治を始めているが、それほど再エネにかかる費用の増加は深刻なのである。 また、再エネ導入がもともと「脱原発」ではなくCO2削減を目的としていることから、固定価格買取制度によるCO2削減費用と省エネ強化などで行うCO2削減費用との差分(前者の方が数十倍以上だと考えられる)の量を、地球温暖化対策税収から産業界に対して補助金を出すか、税そのものの減免を行うことも有力な経済負担軽減案だ。 日本は再エネ導入比率が低いから心配に及ばないという主張もある。しかし私は欧州の有識者から頂いた忠告に学びたい。「再エネ導入は時間をかけて、量的制御を厳しくコスト重視で行うべし」さわ・あきひろ 一橋大経卒。昭和56年通産省(現経産省)入省、環境政策課長、資源エネルギー庁資源 燃料部政策課長などを経て退官。東大先端科学技術研究センター教授などを歴任し、平成23年から国際環境経済研究所長。大阪府出身。澤昭裕詳細ページ関連記事■ 報道ステーションが伝えない再エネの不都合な真実■ シェールガスで原発は不要と煽った反原発団体の“まやかし”■ 固定価格買取制度は最初から破綻が見えていた

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    シェール革命進展の影響とわが国の対応

    、シェールガスに関するアメリカの一人勝ち状態は当分の間続くと予想される。4.アメリカのシェール革命でエネルギー価格体系が変わり、世界のエネルギー供給構造が大きく変化している。アメリカは原油輸入の中東依存度が低下するため、中東への関心を弱めるとみられる。この結果、わが国の中東に過度に依存したエネルギー調達構造は安全保障の観点から見直しが必要となる。わが国のエネルギー調達の多角化、多様化が急務である。5.産業分野にも影響が表れ始めている。アメリカでは製造業における生産額に対するエネルギーコストの比率が2%程度であるため、大きな影響は現時点では観察されない。しかし、天然ガスを燃料および原料として利用する化学産業などでは大きな優位性を獲得する。このため、今後5年程度の間に設備増強投資が計画されており、そのピークを迎える2015年頃から、大きな効果が表れるとみられる。6.自動車産業でも天然ガス自動車が普及する可能性がある。燃費や地球温暖化ガスの点からも優れた天然ガス車が普及するとなれば、日本の自動車メーカーはハイブリッドカーを主体としたこれまでの戦略の見直しが必要となる可能性があろう。1.はじめに アメリカのシェール革命が進展している。従来採掘不可能であった地層から天然ガスを産出することに成功したアメリカでは、天然ガスの生産量が急増し価格が大幅に下落したことはよく知られている。アメリカでの天然ガスの開発機材や輸送インフラ設備の特需によって、わが国企業にもその恩恵が及んでいる。アメリカにおけるエネルギーの自給率と価格の変化は、世界的なエネルギー供給構造に連鎖的な影響を及ぼしている。また、アメリカのシェール革命の成功を認識した他国でも、シェールガス開発に追随する動きが出ている。 産業分野に目を転じれば、化学産業で天然ガスを原料とするプラントの新設計画があり、今後急速にその生産力を高めるとみられている。また、自動車産業では、天然ガス自動車の普及に向けた動きが表れている。 シェールガスの概要やそのマクロ的な影響については、わが国でもすでに多くの議論が紹介されている。そこで、本稿では、シェール革命の最近の進展状況を概観するとともに、世界的なエネルギー供給構造へ与える影響および、産業構造に及ぼす影響、とりわけ新たな動きが観察される化学産業や自動車産業を中心にその影響について論じる。2.シェール革命の進展状況(図表1)アメリカにおける主なシェールガス油田 (資料)EIA 天然ガスが頁岩(シェール)層に豊富に埋蔵されていることはつとに知られていたが、その掘削は技術的に困難であったため、本格的な掘削開始は2006年を待たねばならなかった。北米大陸では多く地域にシェールガス鉱床の分布が確認されているが(図表1)、アメリカが先行して開発している。これは、前年にアメリカでカトリーナ台風が上陸した際に、湾岸州の石油精製設備が大きな被害を受けて石油価格が高騰し、許容できる天然ガスの開発コストが上昇したことが背景となっている。 アメリカでは水平抗井掘削、水圧破砕などの掘削技術の実用化が進み、シェールガスの開発が2010年ごろから急速に進展した。アメリカで開発が急速に進んだのは、ベンチャー企業などが技術開発で先行したことに加えて、法的な問題が少なかったことも大きな要因である。すなわち、アメリカでは天然ガスの所有権は掘削した土地の所有者にある。アメリカでは西部に政府(連邦・州)が所有する土地が比較的多く存在するものの、湾岸州や中西部などシェールガス鉱床が分布している地域では私有地割合が高い。このため、土地の所有者が掘削技術を持つベンチャー企業などに自己の所有する土地のなかで掘削させる例が多く見られた。このような法制度の採用は、世界的にみると決して一般的であるとは言えない。私人に土地の所有権を認めていても、その埋蔵地下資源の所有権は政府に留保されているという国が少なくない。このような法制度では、民間企業のイニシアティブによって天然ガスを掘削する動きは起こらない。掘削しようとする企業が、鉱物資源の所有者である政府と各掘削プロジェクトについて逐一交渉しなければならず、多くの時間と労力を要するからである。ところで、アメリカのなかでも、シェールガス開発への態度は州によってさまざまである。メキシコ湾岸の州(テキサス、ルイジアナ)はエネルギー資源開発の利潤をこれまでも享受していることもあり、開発を歓迎し、積極的な姿勢を示している。一方で、オレゴン州など西海岸の州では、埋蔵量がもともと少ないうえに、環境保護を重視することから慎重な姿勢を見せている。 シェールガス開発で先行したアメリカでは、最近その本格化に伴い、天然ガスの産出量が急増している。天然ガスの輸入量が減少し、2020年にはアメリカは天然ガスの純輸出国へと転じると予想されている。さらに2040年にはシェールガスがアメリカでの天然ガス生産の半分以上を占めるようになると言われている(図表2)。(TCF)   (図表2)アメリカの天然ガス生産量の推移と見通し (資料)EIA(ドル/百万BTU)   (図表3) アメリカにおける石油・天然ガス価格の推移と見通し (資料) EIA シェールガスとともに、シェールオイルと呼ばれる石油(軽質油)も産出される。その産出割合は掘削場所によって異なる。シェールオイルは石油の一種である。シェールガスは供給過剰で価格が大幅に下落したが、シェールオイルの価格は原油価格に連動しているため、大きな価格差が生じている(図表3)。シェールガス開発では採算割れとなるプロジェクトであっても、シェールオイルを採掘することによって採算を確保しているケースも多い。逆に言えば、シェールガスの埋蔵が確認されていても、シェールオイルが出ないところでは開発が進んでいない。最近では掘削する油井の数の増加よりも効率性を高めることで増産が進んでいる。 シェールオイルについても、シェールガスと同様の技術によって頁岩層からの採掘が可能となり、アメリカの原油輸入は減少している。2004年に日量111,000バレルであった原油生産量は2011年には同553,000バレルにまで毎年約26%も増加した。この結果、アメリカの原油輸入量も減少すると予測されている。EIA(アメリカエネルギー情報局)の予測によれば、2035年までに日量120万バレルの生産が見込まれ、これはその時点でのアメリカの原油生産量の12%を占めるという。もっとも、シェールオイルの場合はシェールガスほど長期間にわたる増加が見込めないため、アメリカが原油の純輸出国になる見込みはない。あくまで、現在の輸入が減少し、中東などへのエネルギー資源の依存度を低下させるにとどまるものとみられている。 アメリカのエネルギー生産の(熱量ベース)比率は2012年の実績で天然ガスが25%、石炭が21%、原油が17%であるが、シェールガス(天然ガス)とシェールオイル(原油)生産の増加によって、2035年時点では天然ガスが最も多く37%、石炭が23%、原油が21%を占めると予測されている。すなわち、今後アメリカでは、他のエネルギーに比べて天然ガス需要の伸びが大きいとみられている。3.天然ガス・石油の価格動向(ドル/百万BTU)  (図表4) アメリカの天然ガス(スポット)価格の推移    (資料) EIAデータをもとに日本総合研究所作成 アメリカでの天然ガスの増産を反映して天然ガスのスポット市場価格は大幅に下落した。2008年6月に百万BTU(イギリス熱量単位)当たり12.69ドルであったのが、1年後には3.8ドルと70%以上も下落し、2012年4月には1.95ドルと2ドルを割り込む事態に至った。その後、価格は少し戻して3ドルから4ドル前後で推移していたが、2013年12月より急速に上昇している(図表4)。 一方、シェールオイルについてみると、PWC(プライスウォーターハウスクーパース)の予測によれば、世界のシェールオイルの生産量は2035年までに日量1,400万バレルに達し、世界の原油生産の12%を占めるまでになる。その場合、原油価格も25%から40%程度低下し、1バレル83〜100ドルになると見られている。アメリカEIAの予測では、シェールオイルの生産量が低位の場合には2035年の原油価格は133ドルとされる。                                                                                          (ドル/バレル)  (図表5) 原油価格の推移 (資料) EIAデータをもとに日本総合研究所作成 PWCの予測では、長期的にはアメリカの原油輸入量は35%〜40%減少し、それまでアメリカが輸入していた原油は例えば中国のような他の国が輸入することになると見られている。アメリカの国内石油価格指標であるWTIは近年世界的な原油価格指標(ブレント)と乖離して低下しており(図表5)、シェールオイルの増産が加速すれば、石油価格は現在の予測よりもさらに低下する可能性がある。 将来、天然ガス価格と原油価格がどのように推移するかは、今後の中長期的な展望を描くうえで非常に重要である。とりわけ、天然ガスの価格と原油の価格の比率は、ガソリンや軽油など石油由来の燃料から天然ガス燃料へのシフトがどの程度生じるかを予測するうえでの鍵となる。EIAの予測によれば、一時2ドルを割り込んだ天然ガス価格もやがて上昇傾向をたどり、2040年には7ドル台にまで上昇するとされる。ところが、アメリカ内の石油価格も上昇するため、天然ガスは原油の3分の1程度という状況には大きな変化がないと見込まれている。これは、他に新たなエネルギー資源が発見されない限り、天然ガスが原油に比べて安価であるメリットを保ち続けることを意味している(前掲図表3)。4.エネルギー供給構造への影響(1)エネルギー資源貿易への連鎖的影響左軸(千トン)、右軸(百万立方フィート)   (図表6)アメリカの発電における一次エネルギー使用量 (資料)EIAデータ をもとに日本総合研究所作成(万トン) (図表7) アメリカの石炭(一般炭)輸出の推移 (資料)資源エネルギー庁 [2013] アメリカでシェールガスやシェールオイルの生産が増加することによって、世界のエネルギー供給構造にも大きな影響が連鎖的に表れている。まず、アメリカ内では、天然ガスが低価格のエネルギーとして利用できるようになったため、電力供給の5割以上を占めていた石炭による発電が2012年には37%にまで減少する一方で、天然ガスによる発電が3割以上にまで増加し、石炭と天然ガスの発電向け使用量は大きく変化した(図表6)。石炭よりも天然ガスが利用されるのは、コストの問題のみならず、二酸化炭素の排出量の面からも、天然ガスの方が好ましいからである。この結果、アメリカでは石炭が余剰となり、欧州向けの輸出が急速に増加している(図表7)。また、シェールオイルの増産によって原油輸入量が減少しており、現在80%以上あるアメリカエネルギーの中東への依存度(図表8)が大幅に低下する見込みである。(図表8) EIAデータをもとに日本総合研究所作成 (資料)アメリカの原油輸入先 (2012年)                          (図表9) ドイツにおける発電の一次エネルギー構成比 (資料)IEA(図表10) イギリスにおける発電の一次エネルギー構成比  (資料)IEA 欧州では、アメリカから輸入した石炭を発電に利用している。欧州では石炭が天然ガスより低価格であるため、天然ガス発電を減らして石炭火力発電に置き換える動きがドイツやイギリスで見られる(図表9、10)。また、天然ガスの最大の輸入先であるロシアの比率を下げて中東からの比率を上げることで、ロシアの天然ガスの価格支配権が弱まり、多様なガス価格の決定方式が導入されつつある。 ロシアでは欧州向け天然ガスの輸出が減少していることに加えて、欧州での天然ガス需要減や中東からの輸入増の影響を受けて価格の引き下げを求められた。このため、ロシアは日本や韓国など、新たな天然ガスの輸出先の開拓を模索し始めている。ところが、2014年3月に起きたクリミア併合によって、今後の情勢は不透明となった。日本はロシアからの天然ガス輸入拡大によって調達先の多様化を模索していたが、日本政府がアメリカやEUのロシアへの制裁措置に同調することで、ロシアからの天然ガス輸入拡大への動きが鈍ることも予想される。一方、アメリカは天然ガス輸出にあたって、基本的にFTAを締結している国以外に対しては、個々に審査を行うというやや消極的とも見える姿勢を示していたが、ここにきて、ウクライナなどに天然ガスを供給すべきであるという議論も出ている。 カタールなど中東の国は、アメリカでシェールガス革命が始まる前に、アメリカ向けの輸出増加を見込んで天然ガスの増産に取り掛かっていたところ、アメリカ内での生産量が急速に増加したため、輸出先を原子力発電が停止した日本や、欧州に変更することとなった。東アジアのみならず、今後中長期的に、アジアの成長に伴うエネルギー需要増加が見込まれており、アジア向け輸出を視野に入れた、モザンビークなどアフリカ諸国での天然ガス開発の動きも出ている。(2)シェールガス開発追随の動き(単位:TCF)  (図表11) シェールガスの確認埋蔵量  (資料)EIAデータをもとに日本総合研究所作成(TCF)  (図表12)シェールオイルの確認埋蔵量 (資料)EIAデータをもとに日本総合研究所作成 シェールガスはアメリカのみならず、世界中で埋蔵が確認されている(図表11)。また、シェールオイルについても同様に、世界中で埋蔵が確認されている(図表12)。しかしながら、技術革新、制度的コストの低さ、環境問題への対応等の理由からアメリカが先行し、他国は簡単に追随できない状況が続いていた。ところが、アメリカのシェール革命の恩恵が世界的に認識され、ロシアや中国でもシェールガス開発の動きがここにきて加速しつつある。両国は確認埋蔵量も豊富であり、本格的な生産が可能になれば世界のエネルギー地図を塗り替える可能性がある。(a)ロシア ロシアは上述したように、シェール革命の余波を受けて、欧州向けの天然ガス輸出が減少し価格も低下した。EIAによれば、ロシアのシェールガスの技術的回収可能資源量は8.1兆立法メートル(285TCF)、シェールオイルについては750億バレルで世界一の資源量である。 ロシアは在来型天然ガスの産出量が豊富であり、欧州へ輸出してきた。シェールガスの開発はコスト面から在来ガスよりも不利となることや、欧州向け輸出の縮小や価格低下を受けて新たな輸出先を開拓する必要に迫られており、今ここで追加的にシェールガスを開発するインセンティブは乏しい。天然ガスを輸出しているロシアのガスプロム社は、ここしばらく5年から10年間は、ロシアはシェールガスの開発を行わないだろうと述べていた(注1)。ロシアではシェールガス開発にはこのように消極的な姿勢である一方で、非在来型ガスの一種である炭層ガス(CBM)の開発に注力している。(b)中国 中国は最大のシェールガスの確認埋蔵量を擁する国である。埋蔵量が確認されているのは、四川省、重慶市、貴州省、湖北省、湖南省、陝西省、新疆ウイグル自治区などに広がる盆地で、推定埋蔵量は134.42兆立方米、青海省とチベット自治区を除く地域の確認埋蔵量は25.08兆m3に上る。調査の結果、工業用途の基準に達したシェールガスの埋蔵量は93.01兆m3で、このうち15.95兆m3が採掘可能だという。 2020年の生産量は1,000億m3を超え、国内の重要なエネルギーの柱となる見込みである(注2)。中国のシェールガス開発は2011年から始められている。2011年6月、2012年9月にそれぞれ第1回、第2回の鉱区入札が実施されている。中国の国内企業のほかに、外資系企業(シェル)も参加している。中国政府は、シェールガス開発に外資が参入することを歓迎しており、資金と開発能力以外の条件を求めないとしている。この結果、大手国内企業(シノペック:中国石化)との提携、合弁会社設立の動きも出ている。 中国政府は2012年3月に「シェールガス発展計画(2011─ 2015)」においてシェールガスの生産量目標を2015年に65億立法メートル、2020年には600億〜1,000億m3に拡大する方針を打ち出している。また、国内でのシェールガス開発に生産量1m3当たり0.4元の補助金を出すことも決定している。補助金交付の期間は2012─ 2015年であり、補助金交付制度の目的は、天然ガスの供給を増やすことで、天然ガスの需要と供給の乖離を緩和し、エネルギー構造の合理化を図り、省エネと汚染物質排出削減を促進することとされる(注3)。 実際に中国のシェールガス探査開発は進んでおり、中国石化(シノペック)の重慶モデル区のシェールガス井は1日当たりの生産量が15万立方メートルで、これまでの商品化生産量が7,300万m3に達した(注4)。 このように、中国の開発姿勢は積極化しているものの、課題も少なくない。第1は、アメリカに比べて地質条件が複雑であり、シェール層が深い位置にあることが多いため、大きな投資が必要になることである。第2に、採掘した天然ガスの価格が安価に統制されているため、投資のインセンティブが抑制されることである。第3は、内陸部では降雨量が少なく、シェールガス開発に必要な水資源の確保を考えなければならないことである。第4は、シェールガスの開発地域が既存のパイプライン網と繋がっていないため、パイプラインのインフラ整備が必要なことである。 このように、中国のシェールガス開発はアメリカに比べて、決して条件が恵まれているわけではないが、エネルギーが国家の安全保障に果たす役割の大きさに鑑みれば、相当なコストを掛けても、中長期的に拡大が予想される国内のエネルギー需要を満たすために、シェールガス開発を加速させて行くものと考えられる。(図表13)世界の天然ガス貿易の変化  (資料) EIA(3)天然ガス貿易は大きく変化 シェールガスは、現在はアメリカおよびカナダなど限られた国でしか量産できていないものの、中長期的には埋蔵量が確認されている国も多いため、アメリカ以外でもシェールガスの開発が進む可能性がある。このような国でのシェールガスの生産量見込みは現時点では不明であるが、アメリカのシェールガス生産の増加を前提に、将来、世界の天然ガス貿易の構造が大きく変化することが予測されている(図表13)。アジア経済の成長に伴い、エネルギー資源の需要が強まることが想定されており、世界的に天然ガスの貿易がアジアを中心に拡大する見込みである。わが国としては安定的な調達を確保するために、天然ガスの調達先を多様化することが必要になる。(注1)‘Russia won’t develop shale gas for a decade’ Petroleum Economist, 19 April 2013. Russia won’t develop shale gas for adecade.(注2)中国証券報2012年3月2日。(注3)東方網日本語版2012年11月7日。(注4)新華網日本語2013年12月6日。5.産業構造の変化(セント/kwh)  (図表14) アメリカにおける電気料金の変化 (資料)EIAデータをもとに、日本総合研究所作成 シェール革命は、エネルギーの価格体系を大きく変化させ、それが産業構造の変化をもたらし始めている。本章では、アメリカおよび日本におけるシェール革命がもたらす産業構造の変化の全体像について整理する。(1)アメリカ アメリカでは、まずエネルギー産業において、シェールガス・シェールオイル開発事業者が増加した。また、先述したように、ガス火力発電が増加し、石炭が欧州に輸出されるようになった。アメリカは発電におけるシェールガスの利用比率を高めてはいるものの、直近の電力料金は家庭用、産業用ともに引き下げる動きはほとんどみられず、むしろ全米平均で見ると若干値上がりしている(図表14)。つまり、電力利用者には現在のところ直接のメリットはあまり生じていない模様である。したがって、燃料の石炭から天然ガスへの置き換えによる利益は電力産業にとどまっている。 次に、化学産業についてみると、天然ガスに多く含まれるエタンガスを原料とする石油化学工業に大きな影響が考えられる。詳細は後述するが、エタンから低コストでエチレンを製造することが可能になり価格競争力が高まる。そして、この競争力の優位性は当分の間続くため、エチレン製造においてはアメリカが圧倒的に優位になる。アメリカの大手化学メーカーにはこの安価な天然ガスという有利な条件を確保するために、アメリカのシェールガス輸出に消極的もしくは否定的な態度をとる会社もある。 鉄鋼業でも、シェールガスを活用した直接還元法という方法での製造方法の普及が進むものとみられている。直接還元法とは、高炉によらず、天然ガスを使用して鉄鉱石を還元する方法である。天然ガスの価格が低下することでその普及が加速するとみられ、製鉄業の製造コスト低下に寄与するものと考えられる。 運輸産業についても大きな影響が考えられる。アメリカ内での貨物輸送、旅客輸送などの運輸業、自動車産業などである。ガソリンエンジンやディーゼルエンジンの自動車を、天然ガスで動かすことは技術的に比較的容易であるため、自動車の製造自体は困難ではない。普及の鍵となるのは、燃料補給のインフラ整備である。自動車産業については次章で詳しく説明する。 (ドル/BTU) (図表15)アメリカ製造業におけるエネルギー平均価格 (資料) EIA 製造業一般について見ると、少なくとも電力料金の低下というルートでの恩恵はまだ生じていない模様である。しかし、シェール革命によるアメリカの製造業回帰の可能性が指摘されている。確かに一部の企業には、アメリカ内での投資拡大を進める動きがあるものの、製造業一般にそのような動きが広がっているわけではない。2006年と2010年とを比較したEIAの調査によると、製造業が利用したエネルギーコストは天然ガスで36%も低下したが、電気、石炭、など他のエネルギー価格が上昇したため、全体では11%の低下にとどまった(図表15)。シェール革命の進展でアメリカ製造業のエネルギーコストが今後どれだけ低下するかは正確には予測できないが、製造業の生産額に対するエネルギーコストの比率は1.9%でしかないため(図表16)、仮に天然ガスを活用してエネルギーコストを半分にしたとしても、全体として1%程度のコストを低下させる効果しかない。したがって、一般的にはシェール革命によるエネルギーコストの低下の影響は限定的なものになると考えられる。(図表16) アメリカの製造業・サービス業のコスト構造 (資料)西川[2013]  アメリカの製造業回帰の要因としては、シェール革命のほかに、①新興国リスクの増大、②輸出拠点としてのアメリカの優位性上昇、③ものづくり革命(3Dプリンターなどデジタル化)などが指摘されている。 他方、シェール革命によるマイナスの影響を指摘する議論もある。一つは、エネルギーコストや原料コストが低下することで、アメリカの製造業が競争力を強める一方で、イノベーションを追求する動機が弱まるのではないかという指摘である。しかし、そのような大きな影響が表れる業種は一部であり、エネルギーコストの生産コスト全体に占める割合を勘案すれば、平均的にはイノベーションの手を緩めるほどの余裕は生じないと考えられる。 もう一つは、アメリカの原油や天然ガスの輸入が減少することで経常収支が改善し、ドル高となってアメリカの輸出産業にとって不利となるのではないかという指摘である。確かに限界的な影響は否定できないが、為替相場は様々な要因で変動するものであるため、現実の世界ではその影響を特定することは難しいであろう。(ドル/百万BTU) (図表17) 世界各国の天然ガス価格(2012年平均) (資料)American Chemistrry Council " Shale Gas, Competitiveness, and New US Chemical Industry Investment"(2)日本 わが国の産業には、まずアメリカでのシェールガス掘削に必要なシームレス鋼管や、増設されるパイプラインの関連需要など、シェールガス開発・増産に伴って強まる設備関連需要をわが国の製造業が取り込む動きが生じている。次にエネルギー産業について見ると、アメリカからのシェールガス輸入の承認を得て、2017年頃より実際にアメリカからのLNG輸入が始まる見込みである。アメリカでの天然ガス価格は一時期、2ドル台まで低下したものの、直近では6ドルにまで上昇している。EIAの予想によれば中期的には5ドル台で推移すると見られている。しかしながら、LNGとして日本に輸入した場合には、液化と輸送のコストが5〜6ドル上乗せされ、ユーザー受け渡し価格は10〜11ドル程度になるとみられている。したがって、アメリカのように安価な天然ガスを利用することはできない。実際、世界の天然ガス価格は各国で大きく異なっている(図表17)。しかしながら、現在わが国が中東から調達する天然ガス価格(16ドル)に比べると3割程度下落することになるので相当のメリットが期待される。 化学工業については、アメリカでは大きな直接的な影響があったが、日本ではむしろアメリカの化学工業の動きを受けた間接的な影響を受けると見られている(詳細は第7章で説明)。 製造業についてみると、先述したように、わが国の製造業のなかには、アメリカのシェール開発関連需要の取り込みを行っているところもある。懸念されるのは、シェールガスによってアメリカのエネルギーコストが低下する一方で、わが国は原子力発電が停止しており、中東から天然ガスを輸入して発電しているため、電気料金も大幅に引き上げられている。このような状況では、日米の製造業のエネルギーコストに大きな差が生じるのではないかということである。(図表18)わが国の業種別の工場生産額に占めるエネルギーコスト比率 (資料)環境省 (注) 平成13年石油等消費構造統計表および工業統計調査のデータ使用 わが国の製造業の製品価格に占めるエネルギーコストの占める割合は、同じ製造業でも分野に拠って異なる。窯業、鉄鋼業、繊維、パルプ・紙などは工場の生産額に占めるエネルギーコストが5%〜7%程度と比較的高い。一方、飲料・飼料、革製品、輸送用機械器具、一般機械器具製造などはエネルギーコストの占める割合が低く1%程度である(図表18)。仮に、アメリカでも同様のコスト構造であるとしても、先述したように、エネルギーコストの占める割合が小さな業種では、大きな影響はないと考えられる。6.自動車産業への影響 シェール革命は自動車産業にも大きな影響を与える可能性がある。燃料として低価格の天然ガスを利用する動きが広がれば、天然ガス自動車が普及する可能性が十分にあるからである。(1)天然ガス自動車の普及状況 天然ガスを燃料とする自動車(NGV)には、燃料の種類で分類すると主に2つに分けられる。一つは、圧縮天然ガス(CNG)である。気体のガスを気体のまま高圧(20MPa)で圧縮して容器に貯蔵し、それを燃料として走行する。もう一つは、液化天然ガス(LNG)であり、摂氏マイナス162度で超低温容器に貯蔵して利用するものである。両者を比較すると、圧縮天然ガス自動車(CNGV)は供給設備であるガススタンドを簡便に設置することが可能であるため、初期投資が少なくて済む。しかしながら、1回の燃料補給で走行できる距離は短い。一方、液化天然ガス自動車(LNGV)は燃料の液化設備のコストが大きく、多額の初期投資が必要であるものの、1回の燃料補給で走行できる距離は比較的長い。現在、世界各国で利用されている天然ガス自動車のほとんどは、圧縮天然ガス自動車(CNGV)である。液化天然ガス自動車(LNGV)については、日本でも1996年度から実用化に向けた開発が始まっており、車両やガススタンドの試作が1998年12月に完了し、2001年6月より公道走行試験を行っている。 天然ガス自動車(NGV)の構造は基本的にはガソリンエンジン車やディーゼルエンジン車と大きく変わらない。異なるのは燃料系統だけであるため、燃料タンクに大型のボンベが必要であることと、エンジンの燃料吸気部分に改良を加えて、天然ガスに最適化することで製造が可能である。(図表19)天然ガス自動車の分類 (資料)日本ガス協会ホームページ 圧縮天然ガス自動車(CNGV)には、さらに圧縮天然ガスのみを燃料とする天然ガス専用車、天然ガスとガソリン、もしくは天然ガスとLPGの二つの燃料のどちらでも走行可能なバイフューエル車、天然ガスと軽油を混合して走行するデュアルフューエル車、天然ガスエンジンに電気モーターなどを組み合わせたハイブリッド車がある(図表19)。 天然ガス自動車(専用車)の特徴は、排出ガスがクリーンであることである。地球温暖化の原因となる二酸化炭素(CO2)の排出量は、ガソリン車より2〜3割低減できる。また、光化学スモッグ、酸性雨などの環境汚染を招く窒素酸化物(NOx)、一酸化炭素(CO)、炭化水素(HC)の排出量が少なく、硫黄酸化物(SOx)は全く排出されない。黒煙、粒子状物質はほとんど排出されない。走行性能は、ガソリン車やディーゼル車など従来車と変わらない。天然ガス(メタン)のオクタン価がガソリンよりも高いため、エンジンの圧縮比を上げて効率を高めることが可能であること、ディーゼルエンジンと比べた場合、騒音、振動が大幅に改善され静粛性に優れる、などの利点がある。 1回の燃料補給での走行距離は300km程度であるため、日常の使用では問題は生じない。また、燃料容器の軽量化などの改良により、乗車定員、積載量は従来車とほぼ変わらなくなっている。燃料の充填設備にはガソリンスタンドと同様に、1台当たり数分間で燃料の充填ができる急速充填設備と、自動車1台もしくは2台に対応して設置される小型充填機がある。後者の場合、一般の家庭に引かれているガス管に接続すれば家庭でも使用でき、操作も簡単である。もっとも、充填には数時間を要する。(図表20) わが国の天然ガス自動車台数 わが国の天然ガス自動車台数 (資料)日本ガス協会 日本での天然ガス自動車の普及状況をみると、1997年に普及が始まり、順調に台数を伸ばしてきた(図表20)。2013年3月末時点で約4万2,000台である。トラック、軽自動車、小型貨物(バン)の比率が高い一方で、乗用車の天然ガス自動車の普及は遅れている。日本には急速充填所が314カ所、小型充填機が612カ所存在する。(図表21)天然ガス自動車の国別保有台数  (資料) Natural and bio Gas Vehicle Association 世界の普及状況を見ると、イラン、パキスタン、アルゼンチン、ブラジル、中国、インド、イタリアと続き、アメリカは第13位、日本は第24位となっている。世界全体での普及台数は1,773万台である(図表21)。アメリカでは、天然ガス自動車の普及を補助金や税制優遇で後押ししているものの、現在までに爆発的に増加している状況ではない。(2)運輸部門における天然ガス燃料への転換 アメリカでは自家用の天然ガス自動車の普及はまだ大きく進展していないものの、運輸部門では天然ガス燃料への転換が進みつつある。最も転換が早く進んでいるのは中型トラックと鉄道である。交通燃料としてみれば天然ガスは石油の半分のコストであるため、天然ガスへの置き換えの動きが生じている。 まず、鉄道であるがアメリカでは長距離の貨物輸送に多く利用されている。これらの貨物列車はディーゼル機関車が貨車を牽引するのが一般的であるところ、ディーゼル機関車の天然ガス車への改造が行われている。鉄道は自動車に比べて燃料を多用することから天然ガスへの転換によるコストメリットが大きいことに加え、限られたルートを計画的に走るため、燃料補給設備のインフラ整備が比較的容易であることが普及の進んでいる要因である。 次に、大型トラックについてみよう。アメリカの大型トラックは日本の規格より遥かに大きく、燃料の消費も多いため、天然ガス転換によるメリットも大きなはずであるが、意外に天然ガス燃料への転換は進んでいない。これは、アメリカでは大型トラックの所有者が数年ごとに車両を転売するという慣行があるため、ガス供給インフラがまだ十分整備されていないなかで、天然ガス車化への投資は転売時に有利ではないと判断されているためである。 一方、中型車両等は転換が進んでいる。具体的には、宅配便車両、ローカルバス、ごみ収集車などである。これらの車両は走行区域が一定区域内に限られているため、ガス供給設備の整備も効率的に行うことができる。中型車両の費用対効果の点で優れた投資であるため、各地で天然ガスへの置き換えが進みつつある。 なお、乗用車については、ガスインフラが未整備な段階では、走行距離に限界が生じることから、置き換えのスピードは極めて遅いと考えられる。ちょうど電気自動車の充電設備のインフラが整備されていなければ、電気自動車の普及が進まないのと同様である。(千兆BTU)   (図表22)米国の交通分野で消費されるエネルギー (資料)EIA これらの状況を勘案して、2040年時点での交通分野での天然ガス利用の割合は4%と予測されている(図表22)。(3)再生エネルギー政策への影響 ここで、アメリカの再生エネルギー政策の動向について確認しておこう。確かに、オバマ政権はクリーンエネルギーへの注力を宣言し、実際に多くのプロジェクトに予算が割り当てられたが、それは景気対策にも配慮したものであり、財政の危機が認識された現在で継続的に推進されているようにはみえない。 経済的にも、シェール革命以前には、風力発電、太陽光発電は天然ガスよりも低コストであるともいえたが、シェールガス革命によって、天然ガスによる方が安価となった。したがって、再生エネルギー政策の推進力が非常に弱まっているといえる。もっとも、表向きにクリーンエネルギーの政策を中止することはないであろうが、その動きは緩慢にならざるを得ないであろう。推進の大きな制度的枠組みとしては、連邦政府がプロダクション・タックスクレジットを10年間供与する、29の州が2020年までに再生エネルギーが一定割合を占めるように目標を掲げる、などであったが、経済的な合理性を失えば、これらの措置の効力も限定的なものでしかなくなると考えられる。 一般市民についてみると、地球環境のためにクリーンなエネルギーに切り替えようと考える人は多くない。多数の人は目先の価格や利便性が選択の判断根拠となっている。これらの前提を確認したうえで、次節で天然ガス乗用車がどの程度普及するかについて考えてみたい。(4)天然ガス乗用車普及の見通し かつては、天然ガス車は特殊な車両であり、既存のガソリン車やディーゼル車市場を脅かすものにはならないと考えられていた。燃料費がガソリンと大差ないのであれば、わざわざ車両価格が高く、給油にも不便な天然ガス車両を積極的に購入する人はいなかったからである。天然ガス価格の下落によって、天然ガス自動車は燃費の面で魅力的となったが、燃料補給のインフラが整っていないため、走行距離に制約があると考えられていた。加えて、車両価格の価格差も燃費の差だけで回収するには相当長距離を走らねばならないため、購入のディスインセンティブとなっていた。例えば、アメリカで販売されていみつつある。 なお、乗用車については、ガスインフラが未整備な段階では、走行距離に限界が生じることから、置き換えのスピードは極めて遅いと考えられる。ちょうど電気自動車の充電設備のインフラが整備されていなければ、電気自動車の普及が進まないのと同様である。 これらの状況を勘案して、2040年時点での交通分野での天然ガス利用の割合は4%と予測されている(図表22)。(3)再生エネルギー政策への影響 ここで、アメリカの再生エネルギー政策の動向について確認しておこう。確かに、オバマ政権はクリーンエネルギーへの注力を宣言し、実際に多くのプロジェクトに予算が割り当てられたが、それは景気対策にも配慮したものであり、財政の危機が認識された現在で継続的に推進されているようにはみえない。 経済的にも、シェール革命以前には、風力発電、太陽光発電は天然ガスよりも低コストであるともいえたが、シェールガス革命によって、天然ガスによる方が安価となった。したがって、再生エネルギー政策の推進力が非常に弱まっているといえる。もっとも、表向きにクリーンエネルギーの政策を中止することはないであろうが、その動きは緩慢にならざるを得ないであろう。推進の大きな制度的枠組みとしては、連邦政府がプロダクション・タックスクレジットを10年間供与する、29の州が2020年までに再生エネルギーが一定割合を占めるように目標を掲げる、などであったが、経済的な合理性を失えば、これらの措置の効力も限定的なものでしかなくなると考えられる。 一般市民についてみると、地球環境のためにクリーンなエネルギーに切り替えようと考える人は多くない。多数の人は目先の価格や利便性が選択の判断根拠となっている。これらの前提を確認したうえで、次節で天然ガス乗用車がどの程度普及するかについて考えてみたい。(4)天然ガス乗用車普及の見通し かつては、天然ガス車は特殊な車両であり、既存のガソリン車やディーゼル車市場を脅かすものにはならないと考えられていた。燃料費がガソリンと大差ないのであれば、わざわざ車両価格が高く、給油にも不便な天然ガス車両を積極的に購入する人はいなかったからである。天然ガス価格の下落によって、天然ガス自動車は燃費の面で魅力的となったが、燃料補給のインフラが整っていないため、走行距離に制約があると考えられていた。加えて、車両価格の価格差も燃費の差だけで回収するには相当長距離を走らねばならないため、購入のディスインセンティブとなっていた。例えば、アメリカで販売されているホンダのシビック天然ガス車(26,640ドル)は同通常車(18,390ドル)に比べて1.4倍の価格であり、燃料補給インフラの整備状況もあわせ考えると、購入を躊躇する価格である。 ところが、昨年になって、ガソリンと天然ガスの両方を使い分けられるバイフューエルカーがアメリカで登場し、量産され始めた。バイフューエルカーはガソリン車と電気自動車の長所を組み合わせたハイブリッドカーのように、ガソリン車と天然ガス自動車の長所を組み合わせ、走行距離の制約を克服しつつ、燃料費を節約することができる自動車である。したがって、これまで天然ガス乗用車の普及阻害要因となっていたガス供給設備の問題の重要性が大きく後退する。バイフューエルカー自体の製造技術は新しいものではなく、わが国でも2007年に三菱自動車がミニキャブ・バイフューエルとして製造しているが、通常モデルが100万円前後であったのに対し、バイフューエルモデルは205万円と高価であったため、すぐに商品ラインアップから姿を消している。 もしバイフューエルカーが普及すれば、天然ガスを利用できる車両が先行して増えることによって、天然ガス供給設備の投資採算も改善し、インフラ整備が前進する可能性もある。そうなれば、天然ガス専用車の普及も後追いで加速する可能性もある。 消費者ユーザーにとってみれば、天然ガス車は燃料費の面で経済的であり、さらに二酸化炭素排出の点でもガソリン車やディーゼル車より優れている。あえて電気自動車や電気とガソリンのハイブリッドカーを購入しなくとも、天然ガス車で十分ということになる可能性がある。原理的に考えても、天然ガス車やバイフューエル車は従来のエンジンだけを搭載すればよいのに対し、ガソリンと電気ハイブリッドカーではガソリンエンジンと電気モーターの双方を搭載しなければならず、製造コストにおいて不利だからである。普及の鍵となるのは、バイフューエルカーの価格である。走行距離の何割かガソリンから天然ガスに置き換えて使い、どれだけの期間でその価格差を回収できるかが重要である。日本の前例では試験的なモデルであったため価格差が大きかったが、量産するとなれば、技術的には大きな問題はないため、価格差も圧縮されるものと考えられる。 わが国の自動車メーカーには、北米市場でハイブリッドカーの普及戦略を描いているところがあるが、バイフューエル車の普及により天然ガス補給設備のインフラ整備が進展すれば、消費者の選択も変化する可能性がある。ガソリン価格の高騰や地球温暖化ガス問題を背景としてハイブリッドカーや電気自動車への関心が高まっているが、天然ガス車の燃料補給の問題がクリアできれば、コスト的にはモーターとエンジンの両方を搭載するハイブリッドカーよりエンジンだけを搭載するバイフューエルカーの方が安価になるため、多くの消費者がバイフューエルカーを選択すると考えられるからである。バイフューエル車や天然ガス車の普及の進み具合によっては、わが国の自動車メーカーは戦略を大きく転換しなければならない可能性があろう。7.化学産業への影響(1)アメリカ化学産業への影響 本章では、シェール革命によるアメリカでの天然ガスの価格低下が化学産業にどのような影響を与えるかについて考えてみたい。その影響を及ぼすルートを整理してみると以下の3つがある。 第1は、エネルギーコストの低減である。これはアメリカの製造業一般に妥当するが、化学産業は大量のエネルギーを用いて天然資源を別の有用な物質に変換する産業であるため、エネルギーコストの変動は他の産業に比べて大きな影響を与える。とりわけ、石油化学、無機化学、農業化学の分野ではエネルギーを多用する。原料コストの変動と合わせると、製造コストの85%についてシェール革命の影響を受ける製品もあるという。このため、アメリカの化学産業は他国に比べてコスト競争力で優位になる。 第2は、原料の価格低下である。シェールガスの増産によってエタン価格が急落している。2008年に1ガロン93セントであったエタンの価格は、2013年には20セント台にまで低下した。これにより、アメリカではエタンから生成されるエチレンの製造コストが大幅に引き下げられた。エチレンは石油化学工業の基礎製品であり、さまざまな誘導品、最終製品の材料となる最重要製品の一つである。エチレンはエタンからのほかに、石油由来のナフサからも生成が可能であり、欧州、日本、中国ではエチレンをナフサから製造している。(図表23) 石化原料の構成比較(2012年) (資料)石油化学工業会「シェールガスが我が国石油化学産業に及ぼす影響に関する調査研究結果について」 日米欧の石油化学原料の構成を比較してみると、日本は95%以上が、欧州は7割超がナフサであるのに対し、アメリカはエタンが65%近くを占め、ナフサの割合は1割にも満たない(図表23)。大きく捉えれば、同じ化学工業であっても、アメリカは主に天然ガスを原料としているのに対し、欧日中は石油を原料としているといえる。さらにアメリカのエチレン製造設備はナフサとエタンの両方を原料に使用できるプラントが多く、シェール革命によってエタン原料への転換が加速している。一方、原油価格と連動するナフサの価格は近年上昇している。このように、エタンの原料比率でアメリカと日欧で差があるところに、エタン価格が低下したため、アメリカの石化産業のコスト競争力は圧倒的な優位性を持つことになった。 例えば、アメリカのエチレンの製造コストは、エタン価格の低下によって、欧州の35%程度になったといわれる。このため、わが国の大手化学メーカーにもエチレン製造設備の停止を実施もしくは計画する企業も現れている。さらに最近では、カップリング技術によりシェールガスに多く含まれるメタンから直接エチレンを製造する動きも見られ、エチレンの価格は一段と低下するものと見込まれる。(億ドル) (図表24)アメリカ化学工業におけるシェール関連投資 (資料)American Chemistrry Council " Shale Gas, Competitiveness, and New US Chemical Industry Investment" 第3は、アメリカの化学工業における投資の拡大である。エチレン製造において圧倒的なコスト競争力を獲得したアメリカに、アメリカ企業の能力増強投資はもちろんのこと、ブラジル、カナダ、ドイツ、インドネシア、サウジアラビア、南アフリカ、台湾など海外企業からの直接投資が増加している。アメリカ化学工業会の調査によれば、発表されている投資計画は100近くにものぼり、これら投資によって6,000万トンもの石油化学製品、プラスチック樹脂、無機化学薬品や肥料などの製品の製造が見込まれている。そして、その投資額は2020年までに累計717億ドルに達するという(図表24)。ちなみに、アメリカの化学産業の2012年における投資額は318億ドルであり、このうち32億ドルがシェールガス関連のものである。先に述べたシェールガス関連のアメリカ化学産業の投資のピークは2015年頃と予測されていることから、その能力増強の効果もそれ以降に大きく表れるものと考えられる。(2)わが国化学産業の対応 次に、上述したアメリカにおける化学産業の構造変化にわが国企業がいかに対応すべきかについて考察してみたい。 第1に、石油化学工業における製造コストで大きな差がつくことである。原料コスト、エネルギーコストそれぞれについて日本はアメリカよりも不利となる。エネルギー価格の問題は製造業一般に通じるものであり多くの議論があるので、以下では原料コストの問題について考えてみたい。 アメリカにおけるエタン価格の下落が、アメリカでのエチレン製造コストを大幅に引き下げ、エチレンから製造される誘導品やその最終製品に関しては、アメリカが圧倒的に優位になる。BCG[2013](ボストンコンサルティンググループ)によれば、アメリカ南部の化学産業の生産コストを100とすると、日本は127、ドイツは129、フランスが128、イタリアは127となるという。日米のコストの差の内訳を日本がアメリカの何倍かでみると、人件費が1.22倍、天然ガス価格が3.75倍、電力価格が2.35倍であるという。 日本企業が安価なエチレンをアメリカから輸入して最終製品を日本で製造するにしても、輸送費コストの分だけ不利であるし、そもそもわが国の石油化学産業がナフサの原料を前提として構築されているため短期的な対応は難しい。 さらに、アメリカでは先述したように今後生産能力増強の投資が行われる。ダウ・ケミカルやエクソンモービル、シェブロン、シェルなどによって、大型のエタンクラッカープラントの新規建設が予定され、2017年頃には新たに年680万トン以上(2011年の日本の年間生産量669万トンに匹敵)のエチレン生産能力の増加が期待されている。そうなれば、エチレンの供給は一気に増え、価格が大幅に低下していくことは避けられない。わが国のエチレン製造設備はいずれ余剰能力の削減という課題に直面するであろう。 石油化学に有利な立地条件を備えたアメリカに日本企業が進出することも選択肢として考えられるが、汎用品製造ではアメリカ企業に対して優位性を持つことは極めて難しく、高度な技術が要求される特定分野に特化することが求められるであろう。 ところで、原料が世界的にナフサからエチレンへシフトすることに伴って、プロピレンやブタジエンなどの世界的な生産の減少が見込まれている。これらの基礎製品はクラッカーにおいてナフサを分解する際の副産物として生産されてきたところ、原料の軽質化が加速することで、その生産が減少するからである。ブタジエンは合成ゴムの基礎原料となる重要な製品であるが、これはエチレンからは製造できないので、供給の減少が懸念されている。そこで、このブタジエンを副産物としてではなく、当初からブタジエンの生産を目的とした生産を行うことが考えられる。このような展望を持って、実際、日本企業のなかにはブタジエンの目的生産に乗り出す企業も現れている。 第2は、石油化学製品の安定的な国内価格体系の見直しが迫られることである。わが国のエチレン価格はナフサの価格に連動して決定されている。これは、第2次石油ショックで石油価格が高騰した際に、日本の石化産業が自動車、家電といった日本の製造業を支える産業に対し合成樹脂などの基礎素材を安定提供する立場から、価格も安定化が求められたためである。しかしながら、アメリカのエチレン供給能力が拡大し、価格が大幅に低下すれば、エンドユーザーである製造業がサプライチェーンをグローバルベースで見直す動きが加速し、いずれこのようなグローバルな市場と乖離した価格体系を維持することは困難になるであろう。その結果、わが国の石油化学工業は収益構造を抜本的に見直すことが必要となるだろう。価格が世界市場価格に収斂した製品では、厳しいグローバルな競争にさらされる。どのように差別化を図り、どのようにして付加価値を見出していくのか、今後数年間の対応が重要である。8.おわりに 以上、述べてきたように、シェール革命の進展によって、今後大きく世界が変化することが見込まれている。エネルギーの世界的な供給構造の変化は、わが国のエネルギー安全保障を考えるうえで看過できないものである。とりわけ、アメリカの高い中東依存度を背景とした強い中東政策が今後弱まるとみられるなかで、わが国がこれまでのようなアメリカの中東政策の恩恵を持続的に享受できるとも限らない。中長期的に天然ガスの需要が他のエネルギーに比べて世界的に増大していくことを考えれば、アメリカからの天然ガス輸入にとどまらず、エネルギー資源の調達先を多様化する必要がある。 また、アメリカの産業にも変化が表れ始めている。化学産業では圧倒的にアメリカが優位となる部分が生じるため、わが国は競争条件が不利でない分野にシフトするなど、大きく戦略を見直す必要が生じるであろう。また、石油化学製品の価格体系が市場価格ベースに変化すれば、ビジネスモデルそのものの再検討が必要となろう。 自動車産業では、天然ガス自動車の普及が市場に大きな変化をもたらす。わが国の自動車メーカーは、天然ガス自動車の普及状況を注視しながら、ハイブリッドカーよりもバイフューエルカー、天然ガス自動車が普及するというシナリオにも備えておく必要があろう。参考文献・須藤繁・増田優[2012].「シェールガス革命がもたらしたエネルギー勢力図の再編」『技術革新と社会変革』第5巻、第1号、pp.2─ 14, 2012・伊原賢[2011].「世界の天然ガス埋蔵量の急増」JOGMEC(2011年8月11日)・資源エネルギー庁[2013].「国際エネルギー需給構造の変化を踏まえた中長期的な資源確保戦略について」2013年9月・石油化学工業会[2013].「シェールガスがわが国石油化学産業に及ぼす影響に関する調査研究結果について」2013年5月・西川珠子[2013].「米国産業構造の変化〜マクロ経済統計に見る「製造業復活」の実態〜」みずほ総研論集 2013年Ⅱ号・橋本裕、福岡誠史、岡村雅史、居石裕幸、堀池茂和[2013].「米国・カナダ以外のシェールガス開発状況」日本エネルギー経済研究所 2013年7月・村松秀浩[2014].「米国のシェール開発・生産をめぐる動向」JOGMEC, 2014年1月・ACC[2013]. American Chemistry Council, ‘Shale Gas, Competitiveness, and New US Chemical IndustryInstrument’, May 2013.・BCG[2013].「米国南部の生産コストは、製造業の盛んな主要先進国の中で最低水準に」The BostonConsulting Group 2013年8月・DOE[2009]. ‘Modern Shale Gas Development in the United States : A Primer’ U.S. Department ofEnergy, April 2009・James A. Baker ⅢInstitute[2011].‘Shale Gas and U.S. National Security’ Shale Gas and U.S. NationalSecurity, July 2011.・IEA[2012]. Medium Gas Term Gas Market Report 2012・IEA[2013]. International Energy Agency ‘World Energy Outlook 2013’・PWC[2013].‘Shale oil : the next energy revolution’ February 2013・EIA[2013].‘Technically Recoverable Shale Oil and Gas Resources : An Assessment of 137 ShaleFormations in 41 Countries Outside the United States’, June 2013・日本ガス協会ホームページ:http://www.gas.or.jp/ngvj/text/ngv_type.html

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    シェール革命は失敗なのか

    石油に依存するわが国にとって、原油安は福音だ。だが、そう楽観もしていられない。シェール革命のウソが金融システム崩壊の引き金になるかもしれないからだ。シェール革命が引き起こす危機の本質とは。そして、2015年の世界経済の波乱要因とは。

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    シェールガスで原発は不要と煽った反原発団体の“まやかし”

    然ガス生産量は1991年の5千億立方メートルから、2011年は6500億立方メートルに増加した。 米エネルギー情報局の推計によると、2022年ごろに、米国は天然ガスの輸入国から輸出国へ転換するという。 日本企業も手をこまねいてはいなかった。 2009年~2010年にかけ、住友商事や三井物産が米国内のシェールガス鉱区の権益を相次いで取得した。2010年8月には、三菱商事がカナダ・ブリティッシュコロンビア州の鉱区の権益を取得し、この開発に東京ガスや大阪ガス、中部電力などが出資したことから話題になった。 そして日本を東日本大震災が襲う。東京電力・福島第1原発事故の影響で、国内の全原発が停止する中、シェールガスへの注目はますます高まった。 反原発団体などは、シェールガスを、全ての原発を代替できる“切り札”のようにもてはやした。 シェールガス普及に伴い、ガス調達価格は下落する。従って、天然ガス発電によって全ての原発を代替できるはずだ-。 シェールガスは「脱原発」を成し遂げる救世主に浮上した。先行きに暗雲 だが、2013年2月、科学雑誌ネイチャーにシェールガス・オイルの先行きに疑問を投げかける「シェールガス革命の真偽」と題する論文が載った。 「1つのガス井に注目すると、生産開始からガス産出量は短期間で減少している。減少率は1年でおよそ半分、3年後には掘削開始時のわずか5~20%しか産出できない」「シェールガスは需要の100年分以上有るという推計は、このような急激な生産量の減少を考慮していない」「シェールガス生産量を維持しようと思ったら、次々に新しいガス井を掘り続けていくしかない」 岩盤層に染みこむように存在するガスやオイルを、水圧をかけて取り出す手法だ。大量のガス溜まりに井戸を掘る従来の採取法に比べれば、井戸1本あたりの効率は低く、多くの井戸が必要となる。 この効率が想定よりさらに低ければ、井戸を掘るだけ赤字という事態にも成りかねない。シェール革命でガス生産量が増加しているのは確かだか、ネイチャーの論文が懸念するように、採掘に失敗した企業も出ている。住商もその一つだ。 さらに、日本にとっては、米国で予定通りに掘削できたとしても、シェールガスを、直ちに輸入することはできない。 日本は海外とつながるパイプラインを持たないため、天然ガスは全て液化天然ガス(LNG)にして輸入している。ところがガス輸入国だった米国には、天然ガスを液化する設備がないのだ。 現在、急ピッチで輸出設備の建設が進められているが、日本向けに輸出許可が下りている施設の稼働は2017年ごろまで待たなければならない。 全ての事業が順調に進んだ場合、日本向けLNG輸出は2019年に1690万トンと推測される。これは2013年の日本の年間輸入量の2割近くに相当するが、先の理由によって、この数値を下回る恐れは十分にある。 シェールガスに、脱原発の旗手となるような過度な期待はできない。やはり、資源小国・日本にとって原発は欠かせないのだ。多様性の一手段 ただ、シェールガスは、日本のエネルギー安全保障にとって、役に立たないわけではない。米国からのシェールガス輸入は、他のガス産出国との駆け引きの材料に使える。 11月6日、LNGの生産・消費国の政府関係者や企業の関係者が東京に集い、「LNG産消会議」が開かれた。日本政府主催の会議には、50以上の国や企業から1千人が集まり、経産相の宮沢洋一はじめ、カタールやオーストラリアなどの閣僚5人も顔をそろえた。 日本の目的は価格交渉力の強化だ。 日本は天然ガスの輸入大国だ。世界全体のLNG貿易量の4割近くを輸入している。しかも、世界一高い価格で。BP社によると、100万Btu(英国熱量単位)当たりの天然ガス価格(2012年)は、米国の2・7ドル、ドイツの11ドルに比べ、日本は16・7ドルに上る。 米国はシェールバブルに沸いている。ドイツをはじめ欧州はパイプラインでロシアから輸入している。 これに対し、日本が輸入するLNGは、パイプラインよりコストがかかる。原油の代替燃料だった歴史的背景から、価格が原油価格に連動していることも価格を押し上げている。 さらに、原発が停止する中で、電力会社が「価格はいくらでもいいから急いで買う」という姿勢を取らざるを得ず、価格はつり上がった。 安価で安定したLNG輸入は不可欠だ。経産省の担当者は「受け入れ先を多様化できる意味で、米国産シェールガスに期待している」と語る。 ただ、こうした資源外交の前提には、原発の再稼働が欠かせない。原発が停止したままで、火力発電に頼ってばかりの現状では、資源外交を展開しようにも、足元を見られ続けてしまう。 シンクタンク「日本エネルギー経済研究所」ガスグループ研究主幹の橋本裕は「原発が長期停止していることも、日本向けLNG価格が高止まりしている要因であり、ガス以外の選択肢を持つ事が重要だ。九州電力の川内原発だけでなく、国内各地で原発が動くことが、長期的な天然ガス購入価格の安定につながる」と指摘した。(敬称略)関連記事■ 原発輸出 本質を歪める「5つの論点」■ 原発を推す短・中・長期の合理性■ なぜ環境保護派が原子力を支持するのか

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    サウジが見据える数年後の石油市場

    畑中美樹 (国際開発センター エネルギー・環境室研究顧問) サウジアラビアの石油戦略に注目が集まっている。同国主導で石油輸出国機構(OPEC)が生産抑制をしなかったことで油価が急落しているからだ。ヌアイミ石油鉱物資源相は減産拒否の理由をシェールオイル潰しのためと再三説明している。 筆者はそれだけではないと見る。実は同国のビジネス王族として知られるワリッド・ビン・タラール王子がシェール脅威論を説くなか、ヌアイミ大臣は2013年までシェールオイルの生産増は供給不安を取り除くのでむしろ有益と反論していた。大臣とはいえ平民が国王や皇太子など最有力王族の承認抜きに王子に言い返すことは考えられない。つまり13年時点ではサウジはシェールオイルを脅威と見ていなかったということである。 もちろんサウジ有力王族がこの一年で考えを変えた可能性は残る。そこで紹介したいのが昨年11月に発刊されたOPECの14年版『世界石油見通し』だ。この中でOPECはシェールオイルの生産が20年ないし21年にピークを迎え以降急速に減少すると分析し、大きな脅威とは見ていない。仮にサウジがシェールオイルに脅威を感じていたとすれば、まずは報告書で危険性を訴えていたはずである。 石油は経済財だが政治性を帯びていることも否定できない。石油を政治的に扱うことは認めがたいという米欧だが、例えば対イラン石油制裁は石油を政治目的の達成のために使った「石油武器」そのものである。サウジは有力な輸出商品としても歳入源としても、また最近では政治・社会の安定化手段としても石油に大きく依存している。同国から見れば石油が細く長く使われ、しかも価格や生産量などを規定する国際石油市場での同国の確固たる影響力が維持され続ける状況が望ましい。 サウジにはこれらを達成する上で目障りな存在が二つある。第一は、OPECの市場管理力を脅かす非OPECの生産国、今で言えば米シェールオイルやロシアである。第二は、OPEC内の政治・石油面でのライバル国、具体的にはイラン、イラクである。14年春先の時点では、核交渉合意による制裁解除から3~4年後にはイランの産油量は増加すると見られていたし、イラクも20年には当時の生産量の2倍、30年には3倍になるとの見方が台頭していた。 シェールオイルやロシアの今後の増加を抑制し、OPEC市場のシェアを安定化させた上で、そこに生産能力回復の見込まれるOPEC内のみならず湾岸政治でのライバル国家イラン、イラクの増産部分をはめ込めば「めでたし、めでたし」である。それがサウジアラビアの真の狙いというのは、深読みのしすぎであろうか。はたなか・よしき 国際開発センター エネルギー・環境室研究顧問。富士銀行、中東経済研究所などを経て現職。著書に『オイルマネー』(講談社現代新書)、『中東湾岸ビジネス最新事情』(同友館)ほか。関連記事■ 再生エネ買い取り制度 太陽光に集中、電気代上昇■ 原発を推す短・中・長期の合理性■ 「シェア確保」か「イスラム国」弱体化か

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    シェール革命はサブプライム危機の二の舞か

    所主任研究員) 1960年、愛知県生まれ。早稲田大学法学部卒業。通商産業省(現・経済産業省)入省後、エネルギー・通商・中小企業振興政策など各分野に携わる。2003年に内閣官房に出向(エコノミック・インテリジェンス担当)。11年から現職。著書に、『日露エネルギー同盟』(エネルギーフォーラム新書)、『シェール革命の正体』(PHP研究所)など多数。ジャンク債市場の崩壊 「原油価格急落がなぜ次のサブプライム危機のきっかけとなりうるのか」 2014年12月3日の米ニュースサイトの『ビジネスインサイダー』は、上記表題の記事のなかで「原油価格急落による米国のジャンク債市場の崩壊が、次の金融危機の引き金となる」との警告を発した。 ジャンク債とは、低格付けのデフォルトリスクの高い債券のことであり、その投資の性格はハイリスク・ハイリターンである(「ジャンク」とはがらくたや紙くずという意味)。 1970年代の米国で将来のキャッシュフローに焦点を絞ることにより投資リスク判断の精度を上げる手法が確立されたことから、「ジャンク債」市場は徐々に成長し、30年かけてその規模は1兆ドルになった。1980年代に「ジャンク債の帝王」と呼ばれたマイケル・ミルケン氏は最近再び脚光を浴びているが、「1970年から2000年にかけて『ジャンク』企業は6200万人の雇用増をもたらした」として、ジャンク債のことを「繁栄の方程式」と称賛している。 ジャンク債のデフォルト率は、リーマン・ショック直後10%を超えていたが、ここ数年2%という低いデフォルト率が続いている。 これに目を付けたのがリーマン・ショック後の低金利で運用に苦しむ投資家たちで、高リスクだが利回りの高いジャンク債が飛ぶように売れるようになり、「ジャンク債でも危険はない」との見方が定着しつつある。リスク分散化のためのCBO(注)も開発されたため、ジャンク債市場の規模は直近の7年間で2倍となり、2兆ドルに急膨張したという(注:CBOとはCollateralized Bond Obligationの略称であり、社債担保証券と訳されている。リスクの高い債券を束ね、破綻時に優先返済するものを高い格付けにし、破綻したら返済しないものを低い格付けにするなど格付けごとに輪切りにした債券だが、2014年の年間販売額は史上最多の1000億ドルに達するといわれている。サブプライムローンの場合、CDC=Collateralized Debt Obligation、債務担保証券が多数組成されたことが金融危機の要因となったが、CBOの組成に関与する金融機関は「リーマン・ショック前より担保審査が厳格化したのでバブルではなく問題はない」としている)。 ジャンク債の発行は2014年11月末までに3440億ドルに達し、2013年の3480億ドルを上回り過去最高となる見込みとされていたが、その好調の原因をつくり出しているのがシェール企業なのである。 シェール企業はリーマン・ショック後の金融緩和のもと、ジャンク債市場で多額の資金を調達し、開発を手がけてきた。2014年10月末時点でシェール企業が発行するジャンク債の総額は2972億ドルで、5年前の約3倍の規模となり、10年前は4%にすぎなかった市場全体のシェアは16%にまで急拡大している。 しかし、この活況に水を差しているのが昨年半ばからの原油価格の急落である。 ジャンク債を購入した投資家は原油価格の急落をまったく想定していなかったため投げ売り状態となり、11月下旬には「シェール関連のジャンク債の3分の1がほとんど取引されていない」といわれていた。 その後、12月に入るとシェール関連のジャンク債が約10%のマイナスリターンとなることが明らかになったため、債券投資家サイドに多額の損失(85億ドル)が生じる恐れが現実化してきた。 シェール企業はジャンク債以外に2500億ドル以上のレバレッジド・ローン(ハイリスク・ローン)を借りている(ジャンク債と同様「CLO」というかたちで証券化されている)が、2014年12月17日付『フィナンシャル・タイムズ』は「投資家はパッケージ化された証券化商品(CLO)に警戒を持ち出した」との記事を掲載した。資産のなかにどれだけシェールオイル関連のエクスポージャーがあるかわからない、という不安である。 シェール企業などに重点を置く投資信託と上場投資信託(ETF)への投資額も2014年1月から7月までは前年比約2倍の163億ドルに達し、総資産額は1282億ドルに上っていたが、10月以降資金流出が止まらない状況にある。 2014年のジャンク債のリターンもプラス2.5%と2008年以降で最も悪く、利回りも前年の507%から7%に急上昇している。 信用力の低いシェール企業が減収に見舞われるなか債務返済に苦しみ、銀行から与信枠を制限されるとの懸念が深まっているという観測もあったが、当時の原油価格はまだ1バレル当たり66ドルだった。シェール業界は自転車操業 現在シェール層を採掘している企業の多くは当初、天然ガスの生産を始めた。しかし供給過剰により米国の天然ガス価格が急落したことから、採算割れに陥ってしまい、苦境を脱するため生産を石油に切り替えた。石油部門から上がる収益で糊口を凌ぎ、ジャンク債市場から資金を捻出することで増産を続けてきたが、かなりの数のシェール企業が今後苦境に追い込まれ、2015年は企業再生案件が増えるため「バンカーらが手ぐすねを引いている」との噂が流れはじめた。 ジャーナリストの田中宇氏は「米国のシェール開発はブレーキが付いていないトラックが暴走しているようなものだ。シェール革命は米金融界が立案した詐欺であり、主役は石油業界でなく金融業界だ。原油安で儲からないといって減産すると、シェール革命が失敗したと見なされ、債券が売れなくなり、金融が破綻する。シェール業界は原油安でも増産せねばならない」とその「自転車操業」ぶりを説明し、「今後石油相場がさらに下がると、米国のシェール投資が儲からない投資であることが顕在化し、投資が枯渇して業者の多くが連鎖破綻する」としていたが、その後も原油安が進み、12月11日にはあっけなく1バレル=60ドルを割り込み(2009年7月以来で初めて)、「原油価格は自由落下の状態」になってしまった。 カタールの工業・エネルギー大臣が「世界の原油市場の供給過剰のレベルは日量200万バレルである」と発言したため、モルガン・スタンレーは2014年末に「原油価格は2015年に1バレル=43ドルまで下落する可能性がある」との予測を出した(当時は非現実的な数字と思われていたが……)。 このようにOPECも打つ手がなく原油価格が下落を続ける状況を前に、2014年末時点でジャンク債バブル崩壊の懸念が一気に高まった。 その矢先の2015年1月4日、テキサス州のシェール企業が米連邦破産法11条(日本の民事再生法に相当)の適用を申請し、経営破綻した(負債総額は5000万ドル)。原油安で想定どおりの売上高が計上できず、先物取引などを用いた価格ヘッジも十分でなかったために、資金繰りが悪化したと見られる。小規模な破綻案件だったが、原油価格急落による信用不安が広がるなかでのシェール企業の破綻のニュースであったため、大きな注目を集めた。 シェール企業の多くは中小であり資金力が限られることから、その開発費を借入金や社債に頼るケースがほとんどである。シェールオイル開発は在来型の油田に比べてコスト高だったが、過去数年間でコストダウンが進んだため、「シェールオイルでひと山当てよう」とする企業が殺到、収益が上がるよりも速いペースで資金を借りてきた(シェール企業が抱える負債は2010年から2014年9月にかけて約55%上昇したが、同期間の収入は36%しか増加していない)。 シェール企業の破綻で原油価格が急反発しないかぎり、「中小のシェール企業で同様の破綻事例が出てくる可能性が高い」との懸念が広まり、原油価格が50ドル割れを起こせば、かなりの数のシェール企業がギブアップするのは間違いないとされたため、地方の金融機関が中小のシェール企業に対する融資回収を急ぎはじめた。 しかし一方で「多くの企業がリスクをヘッジしているため、2015年にデフォルトに陥る企業はそう多くない(JPモルガン)」との見方も出てきている。 シェール企業はキャッシュフローを確実なものとするため、通常、6カ月から24カ月先までの生産分をヘッジしているが、シェール企業の多くは原油価格下落局面でこれまでのヘッジポジションが期限切れになるのを待たずに利益を確定させ、これにより生じた原資を元に積極的なヘッジの再構築に乗り出し、当初の想定よりも長く掘削作業を続けられる状況にあるという。 たとえば2014年末に小規模なシェール企業は手元資金を厚くするために、過去に約90ドルでヘッジしていた41.4万バレルの原油を売却して1300万ドルの利益を得たとされるが、この利益を懐に入れる代わりに将来の値下がりに備えるためにいまの価格水準に近いスワップ(あらかじめ決められた条件に基づいて将来の一定期間にわたりキャッシュフローを交換する)とオプション(ある原資産についてあらかじめ決められた将来の一定の日において一定の価格で取引する権利を売買する)を購入する原資に充てる動きが一般的である。 このため体力のある一部の大手シェール企業は引き続き2015年も高水準の投資を実施する公算が大きく、ノースダコタ州バッケン鉱区やテキサス州イーグルフォードなどコスト競争力の高い優良鉱区に権益をもつ企業も強気の増産姿勢を崩しておらず、効率的な掘削法など技術革新が進み、一つの油井当たりの生産量も向上しつづけている。 OPEC諸国はシェール企業のヘッジポジションが満期を迎え、価格急落に対する「盾」がなくなる状況が訪れるのを待ち構えていたが、その思惑は外れてしまったようだ。「米国株式市場は50%下落」 予想外にしぶといシェール企業だが、落とし穴はないのだろうか。シェール企業の多くは原油価格の下落が当面続くと見ており、生産を維持するためにヘッジにより将来の価格を固定することに躍起になっている。しかしこのような自衛手段は原油価格下落の影響を後ずれさせるだけでなく、「合成の誤謬」が生じて原油先物価格が下がりつづけるという悪影響がある(2013年8月、シェール企業のヘッジが集中したため、WTI先物価格が100ドル超から20ドル以上急落したことが、今回の原油価格急落を加速させた一因であり、今回のシェール企業のヘッジ増加は将来のさらなる原油価格急落につながる可能性がある)。 いずれにせよシェール企業の抵抗力は意外なほど高いことがわかってきているし、シェール関連の不良債権は5500億ドルと世界の債券市場の規模(100兆ドル)に比べたら微々たるものである。 しかしサブプライム危機がなぜ起きたかを思い起こせば、背筋が寒くなる。その構図がそっくりだからだ。 サブプライムローンとは信用度の低い借り手に対する住宅ローンのことだが、米国の住宅価格が下落しはじめたために不良債権化した。しかしサブプライムローンの残高は1.3兆ドルと米国のGDP比で10%であり、1980年代後半から90年代前半にかけて問題が発生した「S&L(貯蓄貸付組合)」の不良債権よりも規模が小さいため危機が生じないと金融関係者は見ていた(S&L危機の原因の一つに、1985年からの「逆オイルショック」があったといわれている)。 しかし米国におけるサブプライムローン債権は証券化(CDO)されて世界中に売りさばかれたために、サブプライムローン分野で焦げ付きが発生すると、自らが保有する金融資産のなかにサブプライム関連があるかどうか判明しづらかったため、次々と関連のない健全な資産市場にまで悪影響が及んでしまった。 シェール企業関連の不良債権のジャンク債市場はサブプライムローンの場合よりも小規模であるが、CBOおよびCLOというかたちで世界中にリスクが分散されているという構図は同様である。 次にサブプライム危機の直接の引き金だが、破綻したリーマン・ブラザーズが関係する6000億ドルに上る債務残高のCDS(クレジット・デフォルト・スワップ:信用リスクの移転を目的とするデリバティブ=金融派生商品取引の一種で、一定の事由の発生時に生じる損失額の補填を受ける仕組み)契約をどの金融機関が履行することになるかたいへん不透明だったため、当時4400億ドルの規模でCDOを保証するためのCDSを発行していたAIGに支払い請求が集中した。このため、米国政府は世界の金融システムを守るため「破綻金融機関を救済しない」態度を一転させてAIG救済を行なったのである。 CDS自体はきわめて合理的なデリバティブであり、金融危機にあえぐ日本市場で1999年に最初に本格活用された(当時の想定元本残高は1兆円未満だった)が、その後想定元本残高は急拡大し、2007年末には62兆ドルを超えていた。サブプライム関連のCDSの想定元本残高は1兆ドル強にすぎなかったが、清算機構が未整備だったため、市場がパニックを起こしてしまったのである。 サブプライム危機の本質がCDSというデリバティブだとしたら、シェール革命が引き起こす危機の本質は先物取引というデリバティブではないだろうか。 シェール企業の先物取引は値下がり損を防ぐため、逆の空売りをする保険的な操作をいうが、先物市場はゼロサムゲームの世界であるため、シェール企業が儲かる裏側には当然のことながら損失を被るプレイヤーがいる。 原油デリバティブの市場規模はここ数年で急拡大しており、世界の大手銀行が取り扱う原油デリバティブの想定元本残高は数兆ドルに達しているとする向きもある。 エネルギー業界でデリバティブに大失敗したケースといえば、2001年12月に破綻したエンロンである。破綻時の負債総額は簿外債務を含めると400億ドルを超えていたといわれているが、その原因は1997年からの原油価格の急落等にあるとされる。 シェールオイル関連のデリバティブは他のデリバティブと複雑な方程式に基づいて結び付いているため、シェールオイル関連のデリバティブに関係する一つの銀行の失敗が大規模なドミノ倒しを起こし、金融システムの崩壊を引き起こす可能性がある。 しかもシステムが「複雑系」であるため、そのリスクの実態は事前に把握できないとされている。「1バレル=50ドルを割った影響が5~6月ごろに起きる」とのまことしやかな憶測が出ているが、金融セクターは「予言の自己成就」が起きる世界である。 グローバリゼーションとは、世界のある「市場」で発生した危機が瞬く間に世界中に拡がる環境のことである。直近の原油安の一因ともなっている「ギリシャのユーロ離脱」問題だが、ギリシャのユーロ離脱の影響は「リーマン破綻ショックの二乗の衝撃度がある」と指摘する専門家がいるほどだ。 世界のデリバティブ市場はリーマン・ショック後一時減少したが、現在の想定元本残高は約700兆ドルと過去最高レベルである。 2014年10月以降、米国の著名な専門家たちが「われわれは巨大な金融資産バブルの真っ只中におり、近い将来大爆発が起きる。そうなれば米国株式市場は50%下落する」と恐ろしい予測を出しているが、米国の大企業は、営業利益に加え低金利で社債を発行した資金で自社株を買い戻して自社の株式を高値に誘導することが常態化している。しかし、シェール企業に関するデリバティブ部門での失敗が世界の金融市場に発展すれば、このような錬金術が使えなくなる。 米国株式市場が暴落すれば、好調を取り戻しつつある米国経済にとって大打撃であるばかりでなく、世界経済は再び不況に陥り、原油価格はどこまで暴落するのか想像がつかない。そうなれば中東湾岸諸国の混乱も必至である。 リーマン・ショック直後の各国政府は「決済機能を担う金融機関を救済する」という理由で多額の資金を投入したが、今回も同様の対応ができるのだろうか。関連記事■ シェール革命で、日本は戦後最大のエネルギー危機をむかえる!■ 資源インフレは再来する■ アメリカがアベノミクスに味方する理由〔1〕

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