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    中国五千年のウソ政治」石平氏の視点は実にユニークである

    田中秀臣(上武大学ビジネス情報学部教授) 評論家、石平氏の最新作『中国五千年の虚言史』(徳間書店)は、現代中国の政治状況に対する痛烈な批判の書になっている。何より、本書の題名からして一つの「ウソ」が込められている。 そもそも、中華の地は歴代さまざまな異民族支配を受けてきた歴史があり、また王朝や支配者の交代を繰り返してきたわけで、一貫した体制が維持されてきたわけではないのである。つまり、しばしば呼称される「中国五千年」自体が一つの大きなウソなのである。これを書名にした石平氏と出版社の、皮肉というか批判精神は本書を最初から最後まで通底している。 本書は「永久独裁」を目指している習近平国家主席とその政権に常に批判的である。それは中国だけではなく、「中国的なもの」が次第にまん延してきている、日本を含む世界の状況への批判にもなっているのである。 本書では中国最初の統一王朝となった秦(しん)から現代までの、権力者たちの何度となく繰り返されるウソと大ウソ、それによる権力の簒奪と堕落、そして交代というワンパターンが鮮烈な筆致で描かれている。 例えば、数千万人が飢え死にしたといわれる毛沢東による「大躍進政策」のエピソードを見てみよう。当時の地方政府の役人たちによるウソのつきぶりは全く笑えない。 毛沢東の独裁者ならではの無謀な要求を、自分たちの評価を高めようと実際よりもコメの収穫量をけた外れに申告する。そして法外な収穫量が明らかに疑わしいにもかかわらず、政治的な保身や打算により、当時の専門家やメディアはこぞって、このウソを全国民に喧伝(けんでん)していった。 こうして、コメは過大な収穫量に応じて、中央政府に税として徴収され、その結果、猛烈な飢餓が実現してしまったのである。これは自然災害ではなく、まさに政治のウソが招いた人災である。 アジア人で初めてノーベル経済学賞を受賞したインドのアマルティア・センは、このような飢饉(ききん)を「権原」によるものであると指摘した。つまり、実際には豊富な食糧があるにもかかわらず、国民の大多数はその食糧を得る権利が、政治的にも経済的にもないのである。評論家で拓殖大学客員教授の石平氏(春名中撮影) このような状況は、300万人の餓死者を出した1940年代のベンガル大飢饉、そして数百万人の餓死者を出した90年代の北朝鮮の大飢饉などと、全く同じ構図である。その構図とは真実、この場合では「食料が実は豊かにあること」を知らせず、ウソを流布することで国民の大多数を死に至らしめる政治の在り方である。 しかも、このウソによる民衆の苦境や、権力の醜い交代劇は、中国の歴史の中に何度も何度も反復して現れるのである。それはなぜだろうか。「人治」こそ中国の常識 ここに石平氏の実にユニークな視点がある。このウソに基づく中国政治の在り方には、その根本に政治制度自体の改革を目指すのではなく、あくまでも時の権力者の人格に「徳」を求める儒教主義的な政治観があるということである。 この儒教にのっとった「人治主義」的な見方は権力者たちだけではなく、広く中華に住まう人たちに共通して抱かれている。極めて強い「常識」となっているのである。 時の権力者たちは、本当のことはさておき、自らが儒教的精神のかなった徳のある統治者であると「偽装」する必要性が生じる。ウソでも何でも民衆を信じ込ませないと、自分の権力者としての地位が危ないからだ。 特にウソがばれたり、徳がないとみなされると、新しい権力者に取って代わられることもやむを得ない。むしろ、それが必然であることが、中国社会の「常識」になっている。このような権力者の交代劇を「易姓革命」という。 「革命」を避けるためには、ともかくウソでも偽善でもいいから、歴代の支配者たちは自分が高潔な人格であることや、腐敗を退治することを家臣や民衆にアピールしてきたのである。ただし、実際には政治的ライバルを粛清するだけであった。もちろん、石平氏がこのような欺瞞(ぎまん)に満ちた政治の交代劇に、極めて批判的なのは言うまでもない。 例えば、習主席は、政治家や官僚たちの腐敗追及キャンペーンで自分の業績を顕示してきた。その「徳」によって、彼は無期限の国家主席の座を得ようとしてきた。 だが、この腐敗追及キャンペーンがそのような独裁体制の強化の手段であり、極めて偽善的なものであることを、石平氏が本書でも痛烈に批判している。いわゆる「パナマ文書」で習主席のファミリーが海外で膨大な蓄財をしていると指摘されると、中国は「パナマ文書」に関する国内での報道や言及を厳しく規制した。つまり、政治的な徳を満たすことができるのか疑いの目を向けられることを、習主席と中国政府は極端に恐れているのである。 もちろん、このような政治的構図自体は、まだ従来の人物の「徳」が本当にあるかないか、なければ「革命」で政治権力を交代させるという、従来の「中国政治劇」の再演でしかない。問題は権力者の性格ではなく、むしろ政治や経済制度の改革にある。北京市内に掲げられた中国共産党の習近平総書記を「核心」として結束を呼びかけるスローガン(共同) この視座について、ノーベル平和賞を受賞した中国の民主活動家、劉暁波氏と石平氏の視点は大きく交差している。劉暁波氏は現在の中国政治を「ポスト全体主義体制」として批判した。だが、あくまで人治主義的な観点での批判ではなく、政治体制の漸進的で民主的な改革を唱えたのである。しかし、このまっとうな批判は、中国「ウソ政治」の伝統の信奉者から猛烈な反発と弾圧を招いたことは多くの人が知ることだろう。 石平氏の著作は、しばしば日本のリベラル派から大きな誤解で見られている。だが、彼の著作や発言に通底している「人々をウソにまみれた政治から自由にしたい」という情熱は、より正当な評価を受けるべきではないだろうか。

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    「トランプに2期目はない」中朝蜜月で変わる非核化ゲームの行方

    重村智計(東京通信大教授) トランプ米大統領は8月1日、中国製品への経済制裁「第3弾」の発動を指示した。北朝鮮はこの「米中貿易戦争」泥沼化を歓迎している。米中首脳による「戦争ゲーム」が北朝鮮への制裁を減圧し、米中朝の「非核化ゲーム」を大きく変質させたのである。 金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長は、朝鮮戦争休戦65周年(7月27日)を記念し、中国人民志願軍烈士陵園に参拝した。金委員長の訪問は2013年以来5年ぶりだ。中朝関係が好転すると、北朝鮮の指導者は地方にあるこの墓苑を訪問し、平壌の記念碑も整備する。反対に、関係が悪化すると放置した。実にわかりやすい。 北朝鮮は「中ソ・イデオロギー戦争」時代に、中国と旧ソ連の間を行き来して支援を得る「振り子外交」を得意とした。この戦略を「米中貿易戦争」でも展開しようとしている。 米朝関係は、3月末の中朝首脳会談までは、トランプ大統領が主導権を握り、「北朝鮮の『完全な非核化』」への期待が高まった。ところが、中朝首脳会談後に北朝鮮の姿勢が急変した。トランプ大統領は「中朝首脳会談後に北の姿勢が変化した」と批判し、一度は米朝首脳会談の中止に踏み切った。 最近の中国は、北朝鮮の石油密輸の「瀬取り」への制裁に反対するなど、それまでの米中協力の姿勢を変えた。米朝関係と米中関係が明らかに変わったのである。トランプ大統領は、中国が「米中貿易戦争ゲーム」で北朝鮮を利用している証拠を握ったという。そこで中国は、貿易戦争を緩和すれば、北朝鮮への追加制裁にも協力するとの駆け引きを見せたのである。中国の習近平国家主席(左)と握手する金正恩朝鮮労働党委員長=北京・釣魚台国賓館(朝鮮中央通信=朝鮮通信) 中国は「瀬取り」を明らかに放置している。その背後に何があったのか。米国務省の高官は、3回にわたる中朝首脳会談で、習近平主席は「トランプへの非協力」に姿勢を変えたという。その証拠に、米国は中朝首脳会談の内容を入手しているというのである。 それによると、習主席は「金正恩体制の維持は保証する。そのため、10年間に1千億ドル(約11兆円)の支援を実施する」と約束した。韓国政府によると、北朝鮮の国内総生産(GDP)は約3兆円であり、中国は毎年その3分の1の支援をすることになる。 裏にあるのは、日米が制裁を強化しても心配するなとの中国の「保証」だ。つまり、「瀬取り」密輸こそが支援の始まりだったのである。さらに、中朝国境の人の往来や北朝鮮労働者の移動も黙認された。 また、中朝首脳がすでに合意した「朝鮮半島の非核化」について、「確実に実現してほしい」と伝えた上で、「10年の時間をかけてもいい」と述べた。要するに、習主席が退任するまでに非核化すればいいという意向だろうか。 習主席は「北朝鮮が数年で非核化できない事情はわかる」と語り、「数年内の非核化には、北朝鮮軍が納得せず、クーデターの危険がある」との理解を示した。また「中国は決してクーデターを支持しない」とも伝えていた。 米メディアは7月末に、北朝鮮が大陸間弾道ミサイル(ICBM)の製造を継続しているとし、「北朝鮮に非核化の動きはない」と報じた。これは「非核化」に反発する北朝鮮軍部の「不満」を抑えるための「製造継続」の妥協策だろう。「トランプの2期目はない」 習近平発言は、金委員長と朝鮮人民軍の関係について、「完全非核化」をめぐり緊張関係にある事実は知っている、との脅しだ。知った上で、金委員長を支持するとの立場を表明したのである。 また、中朝の首脳は「トランプ大統領の2期目はない」との見通しで一致し、「あと2年半時間稼ぎすればいい」との判断を確認したという。金委員長は中国の巨額支援と体制保証で安心したのか、対米姿勢を変えたわけである。 6月12日、トランプ大統領は金委員長との首脳会談後の記者会見で、ポンペオ国務長官が直ちに平壌に向かい、非核化の具体的な交渉を始めると明らかにした。 ところが、国務長官の訪朝までおよそ1カ月の時間がかかった上、金委員長と会見できなかった。さらに悲惨だったのは、北朝鮮外務省の報道官は国務長官訪朝直後に談話を発表し「ポンペオ長官の態度は強盗的だった」と非難した。なんとも失礼な対応である。 北朝鮮の姿勢変化を受け、トランプ大統領は「非核化交渉に期限は設けない」と述べ、ポンペオ長官も「交渉には時間がかかる」と議会で証言した。これは、習主席の「非核化を急がなくていい」との発言を、米首脳が入手していた事実を示唆するものである。 そして習主席は、金委員長が9月の国連総会に出席し、世界に向けて演説すれば「制裁解除」の空気が生まれるとアドバイスした。その際に第2回米朝首脳会談を行うように勧め、米朝関係改善も支持したという。理由として「北朝鮮は、中国の属国にはなりたくないだろう。そのために、米国との関係改善を必要とするのは理解できる」と述べ、金委員長を感激させた。中国の習近平国家主席(右)と談笑する北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長=5月、遼寧省大連(朝鮮通信=共同) 中朝蜜月化と「非核化交渉」の停滞は、日朝関係と拉致問題解決にも影響を与えそうだ。北朝鮮が日朝関係改善を必要とするのは、1兆円とみられる経済協力資金が狙いだ。ところが、中国が毎年1兆円以上の支援をすると、日本の資金への期待が失われてしまう。 北朝鮮の朝鮮労働党機関紙、労働新聞は最近「拉致問題は解決した」との論評を掲載した。拉致問題の解決よりも日朝国交正常化を優先させようとの戦略だ。これに呼応するように、日本でも超党派の「日朝国交正常化推進議員連盟」が活動を活発化している。北朝鮮からの工作に呼応している、とみられても仕方がないだろう。 北朝鮮が中国から多額の資金を導入すれば、現代版シルクロード経済圏構想「一帯一路」のようにいずれ膨大な借金となり、中国に従属せざるをえなくなる。それを避けるためにも、日朝国交正常化が必要だからこそ、「拉致問題は解決した」と主張しているのである。北朝鮮の手口に決して騙されてはいけない。「拉致より国交正常化」と主張する政治家や日本人は北朝鮮の手先で、「売国奴的」と非難されても当然なのである。

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    中国の政治工作にイチコロ」こんな生ぬるい沖縄知事選は嫌だ!

    に保守政治家にあったということがわかる。 だからこそ、現在の沖縄では私心のない謙虚な人物でなければ、中国の政治工作にイチコロで、とても知事は務まらないというのが現実だ。知事選前の沖縄は、そのような状況下にあるということを前提に「保守分断」を分析する必要がある。最悪の場合、保守系候補だと思って心血を注いで応援していた候補が当選後に豹変(ひょうへん)し、オール沖縄のコントロールを受ける政治家になる可能性もあるということだ。 さて、沖縄は安全保障の要であると同時に、日米同盟の最重要拠点である。米国のトランプ大統領が中国と貿易戦争を始めた今、米国の構築する包囲網を突破して、中国が生き残るためには、「日中友好」のパイプを使って日米を離間させるしかない。その場合、最重要拠点の沖縄が日米分断工作のターゲットになり、知事選が最大の政治工作の場となのである。 では、自民党政権の中国の対日政治工作に対する「防衛体制」はどうなっているのか。日中友好というスローガンを能天気に唱え続けてきたことでもわかるように、全くの無防備だったのである。 その間、中国は有事の際、日本が身動きを取れなくなるような仕掛けを着々と進めてきた。その仕掛けこそ、2010年の「国防動員法」だ。日本国内にいる中国人観光客、学生も徴用対象になるこの法律で、尖閣有事が起きた場合に彼らがテロリストや工作員と化す仕組みが出来上がったのである。 法律施行の約半年後に、尖閣諸島沖での中国漁船衝突事件が起きた。また、中国による尖閣諸島海域の実効支配が強化され、中国軍機に対するスクランブル発進も急増していることは無関係ではないだろう。 本来なら日本政府が中国の「間接侵略」に備えるところだが、外務省は2011年に中国人観光客向けの「沖縄数次査証」という渡航ビザの発給を開始してしまう。こうして、2010年にわずか2万4000人だった中国人沖縄観光客が2017年には54万6000人と約23倍に急増し、沖縄県の中国への経済依存度を急速に高めたのである。 また、ここ数年、沖縄県と福建省の経済交流は加速度的に動いており、行政レベルだけではなく、企業・団体間でもさまざまな覚書が交わされている。その動向はすでにiRONNAでも寄稿したが、その後もさまざまな「経済籠絡(ろうらく)」が進められている。2017年8月、オール沖縄会議が主催した集会で、米軍普天間飛行場の沖縄県名護市辺野古移設に反対するメッセージを掲げる参加者=那覇市 実際、昨年6月には中国の『一帯一路』構想の沖縄展開に関するフォーラムが開催され、「中国との関係が深い沖縄が先駆けて一帯一路政策を取り込むことで、日本経済を牽引(けんいん)できる」という趣旨の講演も行われた。一帯一路とは経済交流の仮面をかぶっているが、その実態は中国による軍事拠点の獲得であり、制海権の獲得である。 つまり、沖縄で一帯一路を展開するということは、いずれ沖縄に中国人民解放軍の軍事基地が建設されることになる。このような沖縄の中国との経済交流は、沖縄県主導で進められているのではなく、日中友好という日本政府の基本姿勢に基づき、河野洋平元衆院議長が会長を務める日本国際貿易促進協会(国貿促)が推進しているのである。 そもそも、中国共産党の「日中友好の歴史」とは「対日工作の歴史」である。彼らの目的は日本国民への自虐史観の浸透に始まって、日米安保破棄を目的とする反米と非戦主義の浸透にあるのである。前述した対中スクランブル発進が急増しているにも関わらず、沖縄への中国人観光客も急増するというこの異常な状況に、誰も問題意識を持たないことこそ、工作の大成果といえるだろう。本当の「日中友好の歴史」 さて、これまで述べてきたように、沖縄知事選は中国政府にとって、トランプ大統領の中国包囲網を突破する最大のチャンスである。そして、現在そのターゲットは保守政治家にある。一方、日本政府は政治工作の基盤となる経済交流や文化交流を推進し、多くのチャイナマネーを沖縄に招き入れ、中国の沖縄政治工作に加担している。 次の知事選は自民もオール沖縄陣営も内部に課題を抱えており、選挙戦の行方を読み解くのは困難である。だが、仮に自民が県政を奪還したとしても、現在の自公政権では中国の沖縄乗っ取りの動きを止められないだろう。それは、返り血も覚悟の上で中国と貿易戦争を始め、本気で中国を封じ込めようとするトランプ大統領に対する背信行為ではないだろうか。 米シンクタンク、「プロジェクト2049研究所」が4月に発表した報告書によれば、中国軍による尖閣諸島への軍事侵攻が2020年からの10年間に行われるという。つまり、自民党政権が中国の沖縄乗っ取り工作への加担を続けることで環境が早く整い、侵攻が時間の問題であることがわかるだろう。 では、このような中、今すぐ日本政府が着手すべきことを考えてみたい。まず、日中友好の見直しが必要である。日中の友好や経済交流推進を目的に、日本には日中友好協会と国貿促が、中国には中日友好協会や中国国際貿易促進委員会が、カウンターパートとして存在する。だが、中国側は民間交流をうたっているが、事実上の政府機関であることは誰もが知っており、政府の意向が当然反映される。 一方、日本側は民間活動である以上、政府の管轄外であり、国益に反しても法律に反しない限り政府のコントロールがきかない。何よりも「けんかをするより仲良くしたほうが良い」という漠然とした考えしかなく、国益実現へのビジョンも戦略もない。結局、日中友好、日中経済交流とは、中国政府の意思を日本国内に反映できても、日本の意思を中国国内に反映するルートとして全く機能していないのである。 前述のように、中国政府は対日工作として、軍事力のみならず、経済、文化、歴史、マスコミなど全てを含めた総力戦で攻撃を続けてきた。ところが、日本政府の対中防衛といえば、自衛隊と海上保安庁の武力レベルばかりで、それ以外は無防備のままで過ごしてきた。これが、中華人民共和国が成立した1950年以降の「日中友好の歴史」なのである。しかも、中国の軍事力が米国を脅かすレベルに達した現在、中国による「日本強奪」は最後の仕上げ段階に入っているとみても過言ではない。2017年10月、中国共産党の第19期中央委員会第1回総会を終え、記者団に手を振る習近平総書記(左から3人目)ら新指導部=中国・北京の人民大会堂(共同) そうであるならば、まずは1950年以降の日中友好の歴史でどのような国益を失ったか、分析と評価が必要だ。そのうえで、失敗を繰り返さないための防衛体制の構築を急がなければならない。 これには、有事での連携の在り方や具体的な対処方針を定めた「国民保護計画」というモデルがある。すでに、全省庁と都道府県、ほとんどの市区町村で策定済みである。これになぞらえて考えてみよう。 中国の経済侵略に対しては、経済産業省による「経済防衛計画」を立案する必要がある。また、中国系企業の土地買収という間接侵略から日本の国土を守るために、国土交通省には「国土資源防衛計画」の策定が求められる。従軍慰安婦や南京大虐殺に関しても、文部科学省の計画立案が必要となる。つまり、間接侵略を含む国家防衛についても、国民保護計画と同じように、全省庁と関係機関、自治体が国防計画を事前に用意すべきだということである。 一見、突拍子もない考えのように思えるかもしれない。だが、国民の生命と財産を守る責務は政府と自治体にあり、本気でその任務を果たすのであれば、どうしても必要なことである。事が起きてから後悔しないためにも、今すぐ着手しなければ間に合わない。

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    中国が水陸両用航空機の初飛行に成功 尖閣に新たな脅威

     中国が初めての世界最大の水陸両用航空機「クン龍(クンロン=AG600)」の初飛行に成功したことが明らかになった。陸上と水面の両方から離着陸が可能なAG600は中国が南シナ海で造成などを進めている人工島の全てをその航続距離内に収めており、中国内の基地から尖閣諸島を急襲することが可能となる。 すでに、中国人民解放軍は一昨年、海軍陸戦隊(海兵隊)を創設しており、AG600による尖閣諸島への兵員輸送も現実味を帯びており、中国人民解放軍が沖縄県尖閣諸島を攻撃、占領する動きを強めている。 中国国営新華社通信によると、AG600は昨年12月24日、中国南部広東省珠海の解放軍基地を離陸し、約1時間飛行した。製造元の中航通用飛行機公司の黄領才・設計主任は新華社通信に対し「初飛行の成功で、中国は大型水陸両用機を開発可能な世界有数の国となった」と述べている。 AG600は翼幅38.8メートルで、ターボプロップエンジンを4基搭載、定員50人。航続距離は4500kmで2m以上の波に対応した着水能力を有し、最大滞空時間は12時間。 米国防総省が昨年6月に発表した中国の軍事情勢に関する年次報告書によれば、中国人民解放軍は台湾侵攻や南シナ海や東シナ海での島嶼防衛のため、水陸両用部隊による上陸作戦の遂行能力の向上を急いでいる。 とりわけ海軍陸戦隊は昨年、広東省で水陸両用車や小型船舶を運用し、ヘリコプターで特殊部隊を投入する実戦的な強襲揚陸作戦の訓練を実施した、と報告書は明らかにしている。 中国人民解放軍が昨年創設した海軍陸戦隊(海兵隊)は、沖縄県・尖閣諸島への急襲作戦も念頭に部隊の育成を進めていることで知られており、AG600の実戦配備が可能になったことで、水陸両用部隊による尖閣諸島への上陸作戦の遂行能力が格段に高まったことは明らか。尖閣諸島占領に大きな戦闘力が加わったことになる。初飛行に成功した、中国が自主開発している水陸両用機「AG600」=中国広東省珠海(新華社=共同) 一方、中国の国産空母については、2020年までに初期的な作戦能力を確保すると予測。潜水艦も同年までに現在の63隻から69~78隻に増強される見通しで、従来の「近海防御」に加えて「遠海防衛」も行う「混合戦略」の実現に向け、海軍力を強化していると指摘しているほどだ。 日本は平時、海上保安庁と航空自衛隊による警察権の行使により、尖閣周辺の海空域を守っているが、中国人民解放軍の尖閣急襲などに対応するため、陸上自衛隊も年内に初の水陸両用部隊「水陸機動団」を創設。この部隊は離島に他国が侵攻した場合、迅速に機動展開して奪還作戦に取り組む。 本部は陸上自衛隊相浦駐屯地(長崎県佐世保市)で、隊員約3000人規模の予定。水陸両用車「AAV7」も配備する。すでに米海兵隊との訓練を続けており、創設に加わる隊員らの練度向上を図っている。関連記事■ 175億円横領の重慶トップ 女子大生含む愛人4人に隠し子3人■ 中国5つ星ホテル 便所掃除用具を食器に使い歯ブラシ使い回し■ 中韓の「日本買収」が止まらない これは武器を持たない戦争■ 韓国製兵器の無惨「沈む水陸両用車」「ミサイルが自国民に」■ 日米合同訓練に登場の水陸両用装甲車 442億円の価値あるか

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    中国人の沖縄像 文化の50%が中国、40%が日本、10%が米国

     スーツケースを引きずり街を闊歩する大勢の中国人観光客──その姿が、とりわけ目立つのが、地理的にも歴史的にも大陸と距離の近い沖縄だ。中国人観光客にとって沖縄はどのような存在なのか。その実態を探るべく、フリーライターの西谷格氏が、中国人観光客の沖縄バスツアーに潜入した。* * * バスツアーの集合時間は、午前8時20分。出発前日の夜には、ウィーチャット(中国版LINE)で参加者向けのグループチャットが作られ、中国人の女性ガイドから当日の注意事項が送られてきた。「バスは定刻通りに発車します。乗り遅れた人はタクシーで次の集合場所まで自費で移動してください。日本人の運転手は時間に非常に厳格です」「重要なことなので3回言います。遅刻禁止、遅刻禁止、遅刻禁止。集合場所が心配な人は、下見をしておきましょう」 遅刻をさせないための注意喚起が、日本人の常識の範囲を少々超えている。ここまで徹底しないと、遅刻やトラブルが起きてしまうのか。 ツアー当日、発車時間10分前になるとグループチャットから「急いでください。バスは8時20分に出発します」「来ていないのはあと3人!」とのメッセージが送られ、私の名前もさらされてしまった。 「沖縄は かわいそうなんです」 駆け足でバスに乗り込むと、定刻通りに発車。乗客は約50人で、ほぼ満席だった。まず目に飛び込んできたのは、参加者たちの独特な中華ファッションだ。子供服のようなゴチャゴチャした柄物や、原色中心の派手な色使いが目立ち、尻が見えそうなほどのホットパンツを履いている女性もいる。眩しいのが苦手なのか、サングラス率も高い。年代は30~40代が中心。女性が6割ほどで、カップルや家族連れも多い。話しかけてみると、北京や上海、南京といった都市部出身者、日本留学経験者などが目立ち、裕福そうな人ばかりだった。那覇市の国際通り(iStock) 車両が動き始めると、アラフォーの女性ツアーガイドがマイクを握り、中国語で話し始めた。「本日のバスは公共バスと同じです。人間がバスを待つことはできますが、バスが人間を待つことはできません!」 と繰り返し強調。続いて、日本と中国の基本的な違いから説明を始めた。「釣魚島も見えますかー」「時差は1時間。交通ルールは日本は自動車が左側通行。水道水は飲むことができ、トイレットペーパーは便器にそのまま流せます」 しばらくすると、バスは鉄条網で囲われた嘉手納基地の前を通過した。「ここは東アジア最大の空軍基地で、北京の故宮76個分の広さがあります」 ガイドがそう告げると、車内からは驚きのため息が漏れた。「この道路は両脇が米軍基地に囲まれています。沖縄は島じゅう基地だらけで、かわいそうなんです」 言い方はどこか冷淡で、少し見下したようにも聞こえる。「釣魚島も見えますかー」 那覇の中心から出発したバスは、1時間ほどで最初の目的地「万座毛」に到着した。断崖絶壁に広がる草原の上から、真っ青な海を望むことのできる景勝地だ。歩いていると中国語と韓国語しか聞こえてこず、日本人観光客の姿はゼロ。これで良いのだろうか、と思っていたら「10時35分出発です」との“警告”がグループチャットに届き、急いでバスに戻った。再びガイドの解説が始まった。沖縄県の観光スポット、万座毛(iStock)「東京から沖縄は非常に離れていますが、台湾からは600km。与那国島から台湾はわずか160kmで、晴れた日には台湾が見えるんですよ」 すると、前方に座っていた中年男性がすかさず質問した。強調される「沖縄」と「本土」「釣魚島も見えますかー?」 ガイドは苦笑いして「釣魚島は見えません。あと、こういう話は話題にしたくありません」と言い、会話を断ち切った。即座に釣魚島(尖閣諸島の中国側呼称)を連想する発想がすごい。 ガイドの説明が続く。「沖縄は1879年まで琉球王国という国家が存在しましたが、日本政府によって滅亡させられました。琉球という名前は、もともと中国が名付けたものです」 説明を聞いていると、沖縄と日本本土の違いを強調する話が多いことに気づく。「沖縄の人は日本人とは人種が異なります。大和民族は顔が真っ平らで鼻が低く、目が細いのが特徴ですが、沖縄の人はそうではありません。目鼻立ちがはっきりしていて、台湾の原住民とよく似ています」沖縄の世界遺産・今帰仁城跡「漢字は唐の時代に日本に伝わりましたが、日本人は舌が短いので中国語の発音ができない。そのため日本語の音を当てたのです」 舌が短いとか顔が真っ平らとか、日本人が聞いてないと思って言いたい放題である。そして、最後はこう断言した。「沖縄の文化は50%が中国、40%が日本、10%がアメリカです」 文化的には、沖縄は日本よりも中国に近いというのだ。事実かどうかはともかく、これが中国人の頭のなかにある沖縄像ということだろう。●にしたに ただす/1981年、神奈川県生まれ。早稲田大学卒。地方紙記者を経てフリー。著書に『ルポ 中国「潜入バイト」日記』(小学館新書)、『この手紙、とどけ!』(小学館)、『中国人は雑巾と布巾の区別ができない』(宝島社新書)などがある。関連記事■ 中国人バスツアーのガイドが告白「観光客は洗脳すればいい」■ 中国「ヘビ料理店」にバイト潜入 さばくのはけっこう難しい■ 中国人留学生の部屋探し方法「“東大志望”で信用勝ち取る」■ 6月新法施行の「民泊」で中国人若者観光客を泊めてみたら…■ 2割の医療機関で訪日外国人患者の医療費未払い、回収は困難

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    日本で横行する中国人「民泊ビジネス」衝撃の実態

    は、まだその言葉さえなかった。しかし、私がまだ北京語通訳捜査官だった20世紀末ごろから、密航者の多い中国人や不法滞在者の多い韓国人により「ヤミ民泊」が行われていたのである。 新宿や池袋での交番取り扱い経験や、警視庁本部通訳センター職員としての通訳捜査経験からいうと、当時、来日中国人の半数は20万元、当時のレートで日本円にして250万円ほどの密航費用を親が知人から集め、立て替えていた。そうして、福建省から大型貨物船のバラストタンクや漁船の船底に隠れて集団密航してきた。家族の期待を背負って、来日していたのである。 残りの4割は、正規手続きで来日した末に、査証の期限が切れてオーバーステイした上海人だった。中国といっても広大だから、地域によって違うかもしれないが、合法に入国・滞在し続けていられた中国人は、体感として1割程度にすぎなかったのである。 特に福建人は莫大(ばくだい)な借金を背負って来日するため、強制送還されてもお気楽な上海の不法滞在者より切羽詰まった生活をしていた。 そのような環境の中、彼らは人脈を頼りにすみかを探し、職を探すのだが、その人脈は中国の実家に近い仲間ほどつながりが強い。借金を含む頼まれごとを「面倒」と敬遠しがちな日本人とは違って、頼りにされたら他人から借金をしてでも実力を見せつけるチャンスと捉えるからである。逆に異国の地で知り合いに頼りにされながらむげに断れば、密航費用を肩代わりしている実家の両親が「村八分」になりかねないので、これを断ることができないのである。 そんな不法滞在者や密航者などがまず困るのが、どこに行っても身分確認を迫られるアパート探しと職探しだ。犯罪者や参考人を含む中国人約1400人の話では、それでも、友人や知人を3人ぐらい介すれば、目的の手助けが得られるという。 特にアパートの場合は、1人で住むより2、3人で住み、家賃を分担したほうが1人当たりの負担も軽い。大家も月々の支払いを延滞させる日本人苦学生を相手にするより、確実な収入につながるため、契約外である複数の出入りも見て見ぬふりをしてしまう。画像はイメージです(iStock) だが、彼らは集合住宅の決まりを守らない。私が見つけた集団居住場所の中には、3人契約のはずが、16人ほどが生活しているアパートがあった。北京語を話す警察官を珍しく味方と勘違いしたのか、中まで見せてもらうことができたが、その部屋には、ベニヤ合板をうまく利用した5列3段の「簡易カプセルホテル」ができていたのである。 15人が一度に休むことができるだけでなく、2人は畳で横になれるようになっていた。しかも、昼と夜に働く人を上手に交代させていたようで、実際の利用者はその倍近くいたようだ。中国人の「経営ノウハウ」 こうして、部屋の名義人はすでにマンションを購入し、身分確認を必要としない日雇い労働者中心の利用客から1泊2000円を徴収して、「ヤミ民泊ビジネス」を進めていたのである。たまらないのは同じマンションに住む普通の日本人世帯だ。頻繁に発生する同居人どうしの口論やケンカ、それに時間帯に関係なく仕事で出入りする騒音、生ゴミを捨てずにため込むことで発生する異臭や恐怖感から、転居を余儀なくされる。 こうして日本人が出ていった部屋に、知人から頼られた中国人が大家にまた「ヤミ民泊」を持ちかけ、大勢を住まわせながら、在日中国人社会の中にメンツを立ててきた。こうした中国人密航者の「定着システム」は、20年ほど前から新宿や池袋で確認していた。「民泊」という言葉が生まれる前から、多数の中国人が都心の集合住宅に入居や購入しながら、すでに「経営ノウハウ」を蓄積していたのである。 政府は今、こうした外国人を含め、誰が泊まるか分からない宿泊場所を民泊として合法化し、観光客を誘致・収容して、経済活性化を目指している。特に、オリンピックを2年後に控えた東京都心でアパートやマンションを民泊化した場合、当然ながら人の出入りから近所に不安を与えたり、迷惑をかけることになる。一方で、逆に経営側に回れば、危険性も高いが利益も膨らむ可能性も生まれる。 とりわけ、都市部では警察による施設把握が難しい上に、施設の多くでは宿泊者の明確な身分を確認できないし、またすることもない。不法滞在の増加に伴い、警察に協力すると「客」が減る可能性さえあるからだ。 現在、民泊仲介大手の米Airbnb(エアビーアンドビー)では、インターネット上で個人住宅や空室を持つ貸主と宿泊先を求める旅行者との間のマッチングを行うため、利用者はネットで登録が必要となる。だが、安い宿では身分確認のための登録を必要としていないところが多い。 中にはマッサージ店など違法な風俗営業を伴う個室のベッドを時間限定で民泊化しているものもあり、当然ながらオプションで風俗サービスが付いたりもする民泊型売春宿もあるようだ。そもそも宿泊客と経営者の接点がない宿もある。あまりにも性善説をアテにしたシステムだが、このようなお気楽さは、かえって犯罪に好都合だといえる。 3月には1階を民泊として貸し出していた東京・世田谷区の民家で、外国人男性の遺体が発見された。世田谷といえば、今でも高級住宅地のイメージがあるが、このような地域に民泊経営者が増えれば、隣近所の顔が見える地域の安心感や、安定した収入を確保している層の住民が構成する地域のステータスを損ない、住宅価値も確実に下がるだろう。画像はイメージです(iStock) 実際に、今では中国人が戸建て住宅を購入して部屋ごとに貸し出す、1棟丸ごと民泊ビジネスを展開している。近所の住人は中国人家族が越してきたのかと勘違いするが、「家族構成」がいつも違っている上に話が通じず、地域活動にも参加しないなど接点をつくるどころか、問題発生の際の解決のめどもつかないありさまになるのだ。 さて、来日外国人の中でも多数を占める中国人の不法来日で、メーンの手段となっているのは、今や密航ではなく「なりすまし」だ。通常、中国では「公安局」と呼ばれる警察署で戸籍が管理され、旅券が発行されているため、必要な書類を警察署に提出し旅券の発行を受けて来日する。テロリストの「隠れ家」 「なりすまし」は他人の身分証明書類を、渡航に必要な書類とセットで売買するブローカーから買い取って、利用するのである。言うまでもなく、旅券自体は本物であり、使用する本人の写真もプリントされているが、記載されている個人情報が全くのニセモノというわけである。 彼らは「真正の偽造旅券」で来日するが、密航同様ブローカーに支払った大きな借金を抱えていることに変わりはない。しかし、本物の旅券で本人の顔写真が入っているため、合法滞在中に職務質問を受けても、警察官に逮捕されることはない。結局、不法滞在の末に職質を受け、旅券の記載内容を忘れた本人の供述により、入国該当者がいないことから判明するのである。 日本では、国際空港全てには顔認証システムがいまだ導入されていない上に、過去に逮捕歴や把握のあるテロリスト以外は各国のデータバンクと連携されていない。だから、最初の来日では顔認証システムさえ機能せず、「なりすまし入国」は初来日でテロデビューを狙う外国人過激派や工作員の渡航としてほぼ完璧な手段になる。 そうした人間が好む「隠れ家」こそ、なりすましの身分さえ確認しない安い民泊なのである。2013年の米ボストンマラソンで起きたテロ事件など、世界各地で実行されたテロリストの多くは民泊に身を潜めつつ、他の支援を得ながら準備を進め、犯行を実行し多数の殺害を成功させているのである。 こうした事実を現在の国際情勢に合わせて考えてみよう。軍拡を突き進む中国では、一党独裁国家の国家主席の任期を撤廃し、事実上の「完全独裁制」を確立した。もし、中国共産党が「有事」と判断すれば、日本を含む在外中国人にまで、彼らの実家を「人質」としながら法的拘束力が及ぶ「国防動員法」が発動される。その指示や命令が日本の法に触れようとも、治外法権を確保する中国公館に逃げ込めば、中国の国内法で保護されることになる。 先進7カ国(G7)で、スパイを取り締まる法律のない国は日本だけだ。日本で破壊工作を準備・実行するなら、他の工作員の協力を他国よりも得やすく、摘発される危険性も低い。その上、外見では日本人と見分けがつきにくい。そのアジトが民泊としてあなたの隣の部屋に構築される可能性も排除できないのだ。 実際、私が中国人強盗団の潜むアパートのアジトに踏み込んだとき、隣には小さい子供を育てる普通の家族が住んでいた。家宅捜索を行いながら子供の笑い声が聞こえるアンバランスさがとても印象的だったのを覚えている。画像はイメージです(iStock) これが民泊となれば、複数の国からの宿泊客が隣接した空間に壁を隔てて寝起きをともにすることになる。本来なら避難できる状況であっても、外国人には慣れない日本家屋の構造や居室、廊下の狭さが緊急避難を阻害するため、被害を最小限に抑えることは困難だ。しかも、安い民泊ほど住宅密集地にあることから、二次災害発生の危険が増大する。 だが、個人オーナーには危険を予防し、被害の責任を負う能力もない。こうした場所で爆弾の製造が行われ、万が一誤爆でもすれば、巻き添えを食らった外国人客の出身国と日本の信頼関係の喪失にまでつながりかねない。そうして、日本の無策に世界はあきれ、怒りの声が巻き起こるだろう。

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    「寛容の国」チベットはなぜ中国に滅ぼされてしまったのか

    ペマ・ギャルポ(拓殖大客員教授)(ハート出版『チベット人が語る 侵略に気づいていない日本人』より) 中国のチベット侵略は、1949年10月、中華人民共和国成立後すぐに計画され、1950年1月には「人民解放軍の基本的課題は、本年中にチベットを帝国主義者の手から“解放”することである」と宣言することで、明確にその意志を示している。 「帝国主義者」どころか、当時チベットには外国人はほとんどいなかった。チベット政府はこの宣言に抗議し、国境の防備を固めようとしたが、時すでに遅く、この年の10月には中国の人民解放軍が、侵略軍として東チベット(アムド、カム地方)に押し寄せてきた。その数は数万人、僅か数千の、しかも武器も乏しかったチベット軍は彼らを防ぐことはできなかった。 当時は朝鮮戦争開戦の年でもあり、世界の目はそちらに集中していて、この侵略は世界の注目を集めず、国際的な支援もなかった。これは、中国が常に行うある種、火事場泥棒的な侵略であって、今現在(2017年秋)でも、中国は北朝鮮危機のさなか、インドとの国境線上で圧力をかけている。 チベット側も何とか事態を解決しようと北京に代表団を派遣するが、1951年5月、中国はあらかじめ用意していた「17カ条協定」をチベット側に突きつけ、拒否すればラサまで進軍を続けると脅迫しつつ、しかも派遣団の本国政府との連絡・相談も許さない状態で、偽の国璽まで持ち出して無理やりに調印させた。 このとき、チベット側の代表団団長だったアボ・アワン・ジグメは、この後、徹底的に中国側に立つ行動を取るようになる。同じ民族の中に、中国に内通する人間を作り出していくのも、中国の得意なパターンである。ラプラン寺へ向かう道路沿いに掲げられた中国国旗=2018年2月、中国甘粛省甘南チベット族自治州夏河(共同) しかし、この経過が、17カ条協定の前文では、次のように、全く中国側に都合の良いように変えられてしまっている。「1949年、中国人民解放戦争は全国的範囲で基本的勝利を勝ちとり、各民族共同の内部の敵、国民党反動政府を打倒し、各民族共同の外部の敵──帝国主義侵略勢力を駆逐した」「この基礎の上に、中華人民共和国と中央人民政府が成立を宣言した」「(人民政府は)中華人民共和国領土内の各民族が一律に平等であり、団結して相互援助を行い、帝国主義と各民族内部の人民の共同の敵に反対し、中華人民共和国を各民族が友愛によって合作する大家庭とすることを宣言した」「これ以後、国内各民族は、チベット及び台湾区域をのぞいていずれもすでに解放を勝ちとった。中央人民政府の統一的指導のもと、各少数民族はいずれもすでに民族平等の権利を充分に享受し、かつすでに民族の地方的自治を実行し、あるいはまさに実行しつつある」「帝国主義侵略勢力のチベットにおける影響を順調に一掃して、中華人民共和国の領土と主権の統一を完成し、国防を維持し、チベット民族とチベット人民に解放を勝ちとらせ、中華人民共和国の大家庭に戻らせて、国内のその他の各民族と同じく、民族平等の権利を享受させ、その政治・経済・文化教育の事業を発展させるため、中央人民政府は人民解放軍にチベット進軍を命令した際、チベット地方政府に、代表を中央に派遣して交渉を行い、チベット平和解放の方法に関する協約の締結を便利ならしめるようにと通知した」 これこそが歴史の偽造に他ならないのだが、中国はチベット側にこれほどの嘘を押し付け、侵略を解放とし、これまでの独立国チベットを「中華人民共和国の大家庭」に編入した。代表団は本来チベットの立場を交渉するためにチベット政府から派遣されたのに、「平和解放」を承認し条約を締結するためにやってきたものであると規定され、すでに用意していた17カ条協定に調印させられたのである。条約など破るためにあった中国 そしてこの17カ条協定の内容は、後にことごとく破られていくようになった。以下、重要な部分だけを紹介する。第3条 中国人民政治協商会議共同綱領の民族政策に基づき、中央人民政府の統一的指導のもと、チベット人民は民族区域自治を実行する権利を有する。第4条 チベットの現行政治制度に対しては、中央は変更を加えない。ダライ・ラマの固有の地位及び職権にも中央は変更を加えない。各級官吏は従来どおりの職に就く。第7条 中国人民政治協商会議共同綱領が規定する宗教信仰自由の政策を実行し、チベット人民の宗教信仰と風俗習慣を尊重し、ラマ寺廟を保護する。寺廟の収入には中央は変更を加えない。第9条 チベットの実際状況に基づき、チベット民族の言語、文字及び学校教育を逐次発展させる。第10条 チベットの実際状況に基づき、チベットの農・牧畜・商工業を逐次発展させ、人民の生活を改善する。第11条 チベットに関する各種の改革は、中央は強制しない。チベット地方政府は自ら進んで改革を進め、人民が改革の要求を提出した場合、チベットの指導者と協議する方法によってこれを解決する。第12条 過去において帝国主義と親しかった官吏及び国民党と親しかった官吏は、帝国主義及び国民党との関係を断固離脱し、破壊と反抗を行わない限り、そのまま職にあってよく、過去は問わない。第13条 チベットに進駐する人民解放軍は、前記各項の政策を遵守する。同時に取引は公正にし、人民の針一本、糸一本といえども取らない。 17条のうち、上に挙げた項目はことごとく破られるばかりか、全く逆の政策がとられ、本質的には現在もそのまま継続中であることは言うまでもあるまい。チベット「自治区」においては民族の自治は認められず、ダライ・ラマ法王はチベットを追われ、信仰の自由どころか、国内で貴重な仏教寺院は破壊され、多くの僧侶や尼僧が迫害、時には残酷な拷問の末、処刑された。 しかし、ここで日本の方々も決して忘れないでほしいのは、中国政府は、この17カ条協定のみならず、その他の各民族自治区、また、香港返還の際に結ばれた全ての条約も、守る意志は全くなく、それは外国との各条約においても同様であることだ。日本人にとって、国家間の条約は原則守るためにあるとしても、中国にとっては全く異なる。条約を破ることなど、彼らは全く何とも思わないし、むしろ破るためにあったことは、このチベットの例を見ても明らかだ。 少し私個人の想い出を記しておくが、私はちょうど中国軍が侵略してきた時期、1953年にチベットのカム地方のニャロンという村で生まれている。今、この地域は中国によって「四川省」に組み込まれてしまったが、当時は私の父がその一帯を治める領主で、私自身はその後継として育てられることになっていた。当時のチベットは一夫多妻の家も多く、我が家も、「上の母」「下の母」の2人の姉妹が嫁いでいた。 私が生まれた時点ですでに17カ条協定は結ばれ、中国人の入植者も、軍隊も入っていたが、当初は私は彼らに対し特に悪感情はなかった。実際、中国軍も最初のうちは「チベットに進駐する人民解放軍は(中略)人民の針一本、糸一本といえども取らない」という姿勢を見せた時期もあったし、現実に入ってきた中国人入植者も、例えば私の家の近くでは砂金が取れる川があったので、領主である父の許可を得て砂金をとり、代わりに魚を献上したりするようなこともあった。(iStock) ただ、ここで付け加えておくと、チベット人は魚を食べる習慣が当時はなく、ある種の食のタブーだった(これは仏教信仰に要因がある)。でも、父親は中国の重慶に留学体験があって、魚が実はおいしい食べ物であることを知っていたので、皆に隠れてこっそりと料理していた。私も、子供というものは禁じられるとそれをやってみたくなるものだから、魚をひそかに食べるのが楽しみでもあった。 あくまで私の想い出だが、こういう中国人との交流もなかったわけではない。そして、チベットを開発する、というのも全くの嘘だったのではなく、当初は中国人も、畑に入って手伝ったり、道を切り開いたりもしていた。中国の暴虐に総決起する村人 しかし、結局それは、中国が第2次世界大戦と、その後の国共内戦による疲弊からまだ完全に回復していない間の偽装に過ぎなかった。しだいに、東チベット各地で、人民解放軍とチベット人との間で衝突が繰り返される。 結局、軍隊は食糧を生産する存在ではなく消費していくだけだし、中国軍への食糧供給は十分ではないため、軍は民衆から食料を強奪し始める。そして、道路建設(これは結局中国軍がさらにチベットを侵略、軍事制圧するために利用された)にチベット人を強制動員する。 遊牧民が多く、耕作はその土地に合った大麦を栽培していたのに、強引に牧草地を畑に代え、チベットでは実らない小麦を強制する(おかげでチベットでは歴史上初めてと言ってもいい飢餓が訪れた)。遊牧民にとって誇りでもあり、遊牧生活にとっても必要な銃を取り上げるなど、チベット人にとって許しがたい事態が続いた。 我が家でも、絶対に許せない事件が起きたのが1956年秋のことだった。中国軍の将校が、私の下の母に司令部まで同行するよう求め(当時、父と上の母は中国政府に「招待」という名のもと、成都にて「思想教育」を受けていた)、なんと母にとって最も貴重な時間である祈祷中に、ずかずかと聖なる祈りの部屋にあがり込んできた。 しかし、母にとって、祈祷よりも重要な仕事はなく、将校が何を言っても無視したままだったので、馬鹿にされたと思ったのか、将校が腰のピストルに手をかけた。それを見た、我が家に仕えていた力自慢の家臣が、将校めがけて斧を振り上げ、あわや殺し合いになるところだったが、母が一言「やめなさい!」と一喝し、将校に、こんなことをしていたら中国軍に対するチベット人の心証が悪化するだけではないですか、と説いた。将校は不機嫌そうに出ていった。 このときから、私の村でも、チベット人の怒りに火が付いたようだ。実はそれまでも、チベットの若い女性が中国軍に乱暴されるというトラブルも起きていたが、軍将校が領主の妻を侮辱し、しかも祈りを邪魔するだけではなく殺そうとしたというのは、我慢の限界を超えることだった。夕方から夜遅くまで、銃撃戦が村中で生じた。私も子供ながらわけも分からず興奮したことを覚えている。インド・ダラムサラの街角に張られた、中国当局に拘束され行方不明になったチベット人を捜すポスター(共同) 駐屯していた中国軍の数が少なかったこともあり、最初の衝突はチベット側の勝利に終わった。しかし、中国軍の発砲する銃声は「タタタタターン」と連発するのに、古い猟銃で戦うチベット側の銃声は「ターン」「ターン」と一発ずつしか鳴らなかったことを、私は今もはっきり覚えている。 勇気だけでは勝てない、人民解放軍が再び大挙して出動すれば、持ちこたえられなくなることは確実だった。私たち一家はその夜のうちに村を脱出する。勇敢な母は、銃を腰に下げて、村の近辺でゲリラ組織を作り抵抗運動を続けようとした。 やがて、父と上の母も、中国側から、下の母を説得するという約束で合流し、そのままゲリラ戦に参加する。しかし、数も少なく装備も乏しい私たちが戦い続けるのは難しく、首都ラサに行って救援を求めようということになった。 このように、チベット人の抵抗運動は、最初は東チベットのあちこちで、偶発的に始まったものだった。これが統一された指揮系統を持つ国民的なゲリラ戦に発展したのは、1958年のことである。侵略を許したチベットの過ち しかし、残念なことに、私たち一家が、苦難な逃亡生活ののち、やっとチベットの首都ラサにたどり着いたとき、チベットの中央貴族たちは、私たちに対し全く冷淡だった。その途上でも、まるで私たち東チベットが中国に抵抗するからこそ、平和が損なわれ、中国を怒らせているのだと言わんばかりの雰囲気をしばしば感じたことがある。 正直、チベット中央政府は、東チベットの私たちを田舎の領主としか見ておらず、その戦いを十分支援する姿勢はほとんど見られなかった。ラサも安住の地ではなく、私たちは居場所を転々とする生活を続けなければならなかったが、1959年、ダライ・ラマ法王が、ついにインドに亡命したことを知ったとき、私たちもまたインド国境を目指した。それは法王がたどったルートとほぼ同じだった。 ところが、雪のヒマラヤを越え、あと少しでインドにたどり着けるというときに、頭上に中国軍の飛行機が見えた。飛行機はまるで私たちを探すかのようにしばらく旋回していたが、やがて、雲が厚くなって視界が遮られたのか、あるいは別の理由があったのか、飛び去って行った。 私たちはチベットの守護神「パンテン・ラモ」のおかげだと感激し、感謝の祈りをささげたのだった。私たちはこうしてインドに逃れることができた。しかし、わが祖国は、完全に失われてしまったのである。 私たちが脱出する前、知らないうちに、首都ラサは悲劇が訪れていた。先述したように1958年には統一されたゲリラ部隊が東チベットを中心に活動し、各地で中国軍とチベット人の激突が続いた。中国はチベット人の抵抗を封じるために、チベット人の最高指導者であり、統合の象徴でもあるダライ・ラマ法王を自らの手中に収めようとした。 3月、中国側は法王を観劇に招待すると告げ、かつ、護衛は必要ないと付け加えた。人民解放軍が法王を拉致しようとしているのは明らかで、ラサ中の市民はついに総決起した。3月10日、群衆はダライ・ラマ法王の夏の離宮であるノルブリンカ宮殿を取り巻き、法王を守るとともに、「チベット独立」「中国軍はチベットから出て行け」というシュプレヒコールが怒涛のように挙がった。 実はこの日、ダライ・ラマ法王は、ひそかに脱出、インドを目指した。19日には、中国軍は大砲で一気に宮殿を攻撃。このとき、セラ、ガンデン、デブンというチベットの三大寺院もまた破壊された。ラサ市民は必死で戦ったが、武器らしい武器も持たない彼らは、中国軍の前に屍をさらすばかりだった。3日間の戦闘で、1万から1万5千人が虐殺されたと伝えられる。 実はダライ・ラマ法王の一行も、インド亡命の際、同じく、中国空軍の飛行機に見つかり、パイロットは毛沢東に指令を仰いだという説がある。そのとき毛沢東は「そのまま逃がしてやれ。どうせ、インドについてもそのまま路頭に迷うだけだ。もしここでダライを殺してしまったら、逆に、永遠にチベット人はそのことを記憶に残してしまうだろう」と答えたという。インド・ダラムサラで売られるダライ・ラマ14世の写真(左)(共同) 中国の行ったことは確実に侵略であり、暴力で17カ条協定を強制してチベットを支配下におさめ、しかもそれを自ら破って、最低限の自治さえ許さず、最後には軍隊の力で民衆を虐殺するという、絶対に許してはならない行為だ。しかし、チベット側にも、この侵略を許してしまった多くの過ちがあったことも認めなければならない。ペマ・ギャルポ 拓殖大客員教授。1953年、チベット生まれ。65年に来日し、80年にダライ・ラマ法王アジア・太平洋地区担当初代代表などを経て現職。チベット文化研究所所長やアジア自由民主連帯協議会会長も務める。著書に『最終目標は天皇の処刑』(飛鳥新社)『中国が隠し続けるチベットの真実』(扶桑社)など。

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    中国の属国になってもいいのか」ペマ・ギャルポ、日本人への警告

    ば些末な、今の日本が正面から取り組むべき問題とは、とても思えないものが多い。今、北朝鮮情勢が緊迫し、中国が覇権主義を強め、かつアメリカがやや内向きになりつつある中、果たして、今マスコミをにぎわす多くの記事が、まず第一に日本国民に知らせるべきものなのだろうか。2017年5月、「一帯一路」をテーマに北京で開かれた国際会議で記念撮影に応じる中国の習近平国家主席(前列中央)とロシアのプーチン大統領(同左)ら(共同) そして、国際社会についての報道内容にも疑問がある。多くの報道によれば、日本政府は中国が現在主導している「一帯一路」政策を支持する方向だという。祖国チベットを中国に奪われた私から見れば、この政策は、中国の世界制覇、中華思想の野望を如実に示したものであって、単なる経済政策ではない。 現在の安倍政権を批判し、時には非民主的だとすら決めつけている新聞社までが、なぜ、中国という巨大な独裁体制に追従しかねない日本の姿勢を何ら批判しないのか、私には理解しかねる。これまでも日本は「日中友好」の美名のもとに、経済支援によって独裁国家・中国を強大にしてしまった。私は、ふたたび同じ過ちをこの日本に犯してほしくはないのだ。日本が失ってきたものを取り返せ また、かつて、富の再分配による実質的な福祉国家を実現していたはずの日本社会は、今は声の大きな、組織に属する人たちの権利のみが守られ、声なき社会的弱者たちには冷淡な社会になりつつある。聞くところによれば、高齢者はたとえ一定の資力があっても単独ではアパートを借りることも難しくなり、まるで社会のお荷物や、ひどい場合は貯金を抱えた特権者のように語られることすらあるという。 この本で私は、来日した1960年代に私を温かく迎え、育ててくださった日本の方々に深い感謝と御礼を記している。彼らの世代が今、社会のお荷物のように扱われていることは、私にはどうしても納得がいかない。 1960年代の日本では、戦争を体験していた大人たちに、大東亜戦争の敗戦から立ち直り、日本をもう一度立て直そうという気概があった。私はこの人たちの温かい支援を受け、日本の歴史への誇りや、アジアの歴史への公正な歴史観を学んだ。そして、学生や若い人たちの中には、当時の時代の影響を受けて、ベトナム反戦や、共産主義革命の情熱に燃えた人たちもいた。 私は、実際の中国共産党支配を知っている人間として、彼らの、特に共産主義に対する現実認識の甘さには批判的だった。しかし同時に、世の中について、政治について、彼らなりの理想を持ち真摯に行動しようとする姿勢は、決して理解できなかったわけではない。そこには、それぞれの理想も正義もあった。 私は今こそ、ここ数十年で日本が失ってきた道徳、倫理、伝統、そして正義と価値観を取り戻すべきときに来ていると信じている。本書は何よりも、その私の思いと、私を支えてくれた人たちと時代への感謝の念によって書かれたものだ。 そして今、中国や北朝鮮の脅威を通じて、国際社会の厳しい現実に気づくとともに、アジアにこのような事態をもたらした、戦後の歴史観全体をもう一度見直す中で、近現代史における日本の役割を再認識し、さらに未来につなげていこうとする動きが、特に若い世代を中心に起きてきていることに期待している。昭和30年の銀座(東京都提供) 日本は本来、国際社会において、正しい立場で、平和の実現と、それぞれの地域の伝統に沿った形での秩序ある民主化、そして各民族の自決権の確立に向けて、貢献できるだけの国力を持つ国である。それは、過去の日本の歴史が証明していることであり、未来の日本も再びこの役割を果たすことができるはずだ。 それは同時に、日本国内において、全ての国民が、衣食住、そして医療における恩恵を十分に受けるような社会の実現にもつながっていく。それが、高度な倫理観を持った日本社会の確立と、伝統に根差した日本国の復興である。私はチベットに生まれ、今は日本の国籍を持つ人間として、そのことを心から祈っている。ペマ・ギャルポ 拓殖大客員教授。1953年、チベット生まれ。65年に来日し、80年にダライ・ラマ法王アジア・太平洋地区担当初代代表などを経て現職。チベット文化研究所所長やアジア自由民主連帯協議会会長も務める。著書に『最終目標は天皇の処刑』(飛鳥新社)『中国が隠し続けるチベットの真実』(扶桑社)など。

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    中国でキャッシュレス化が爆発的に進んだワケ

    高口康太 (ライター・翻訳家) 最近、中国のキャッシュレス社会化が話題となっている。・中国人の眼に映る今の日本は「20世紀」のままだった…|現代ビジネス(2017年6月13日)・中国「超キャッシュレス社会」の衝撃、日本はもはや追う側だ|ダイヤモンド・オンライン(2017年7月10日)・スマホ大国・中国、日本のはるか先を行くワケ|読売新聞(2017年8月16日) 中国の先進的なキャッシュレス社会、スマートフォン活用に驚き、日本社会に警鐘を鳴らす報道も少なくない。メディアだけではない。実際に中国を訪問した人の多くがその利便性に衝撃を受けている。 一方で中国を訪問したことがない人からは、報道を見てもぴんと来ないという声を聞く。「Suicaやおサイフケータイとは何が違うのか?」「QRコードだと何がそんなに便利なのか?」「スマートフォンのバッテリーが切れたら支払いができなくなるのって不便じゃないの?」「現金と比べて何が便利なの?小銭が不要になるから?」「中国は偽札が多いからモバイル決済が流行ったそうだけど、日本はそんな心配はないから不要なのでは?」などなど、根本的な疑問を聞かれることが多い。 中国のキャッシュレス革命を褒めたたえる記事はあっても、こうした根本的な疑問に答えたものは少ないように思う。そこで本稿では今、中国で何が起きつつあるのか、その全体像をお伝えしたい。 「一口にモバイル決済と言っても、中国と日本では状況が異なります。中国ではパソコンが先進国ほど普及しませんでした。いわばパソコンとインターネットの時代を跳び越えて、スマートフォンとモバイルインターネットの時代が到来したのです。日本ではパソコン向けのサービスがいろいろあるでしょうが、中国ではすべてがスマートフォンに集中している状況です」 筆者は7月、中国IT大手アリババ集団の関連会社で、モバイル決済アプリ「支付宝(アリペイ)」を展開するアントフィナンシャル(浙江省杭州市)を訪問した。上記の説明は同社広報担当である楊昕韻さんの発言だ。2017年7月10日、第2回世界女性創業者大会に登場したアリババの創業者ジャック・マー(馬雲)氏 最初に用語について説明しておこう。キャッシュレスとはクレジットカードや電子マネーを含む、現金以外の手法による決済を指す。一方、モバイル決済とはスマートフォンを使った決済を意味する。近年、中国で急成長を遂げているのはモバイル決済だ。モバイル決済は便利なスマホ利用の入り口 2012年以後、中国では爆発的にスマートフォンが普及した。モバイルインターネットユーザーは今年6月末の時点で7億2400万人に達している(『第40回中国インターネット発展状況統計報告』、2017年7月)。 モバイルインターネットの成長に伴い、すべてのサービスがスマホファーストを目指すようになった。日本では専用スマホアプリがないネットサービスも多いが、中国ではまずスマホアプリが第一だ。その結果としてスマートフォンの利便性は他国にないほどのレベルに達している。 モバイルインターネット活用のハード的インフラがスマートフォンならば、モバイル決済はソフト的インフラである。モバイル決済を利用することで、さまざまなサービスを平易に利用することができるわけだ。 各種アプリを利用するたびに信頼できる会社なのかと不安に思いながらクレジットカード番号を打ち込む日本とは手間が違う。モバイル決済は便利なスマホ利用の入り口だ。これが「日本と比べて何が便利なのか?」との問いの回答となる。 モバイルインターネットで便利になったジャンルは無数にあるが、我々外国人旅行者にとってもっとも印象的なのは鉄道切符の購入ではないか。かつては鉄道切符を買うのにも半日がかりだった中国だが、今では数分間、スマホを操作するだけで予約から決済まで終了してしまう。さらに先日から駅弁のスマホ予約も始まるなど、サービスは充実する一方だ。 中国ではなぜパソコンの時代をスキップして、モバイルインターネットの時代が到来したのか。 リープフロッグ(カエル跳び)という言葉がある。アフリカで固定電話が普及する前に携帯電話が普及したという事例が代表的だが、先進国の技術導入ステップと比較して一足飛びに新たな技術が導入される現象を意味する。中国においてはパソコン=インターネット時代が成熟する前にスマートフォン=モバイルインターネット時代が到来したというわけだ。杭州地下鉄の切符販売機 ちなみに中国のモバイル決済(携帯電話端末を用いた決済)利用者数は5億185万人。13億7900万人の国民のうち、38%が使っている計算となる(2017年6月時点、『CNNIC報告書』を参照)。日本や米国など先進国をはるかに上回っているが、ケニアでは全国民の70%超とさらに高い数字を示している(報告書『2017智慧生活指数報告』を参照)。 中国国内でもむしろ経済的に遅れた地域のほうがモバイルインターネットの成長率が高いという。 「中国でもモバイル決済の成長率が最も高いのはチベットです。パソコンの普及率がきわめて低かったので。スマートフォンならば様々な価格帯がありますし、すべてのサービスが集中するようになって利便性は大きく高まっています。中国のモバイル決済は現金を使わなくなったという意味ではなく、日常生活に伴うすべてがスマートフォンに集中することで、生活が便利になる、日常生活に伴うコストが下がることを意味しています」と楊さんは言う。中国でモバイル決済が普及した背景 モバイルインターネットの入り口として普及したモバイル決済だが、2014年からオフラインでの利用、すなわち店舗での決済が始まった。それからわずか3年で大都市では現金を持ち歩かなくとも生活できるレベルにまで普及している。 この爆発的な普及の背景について、楊さんは次のように説明する。 「中国の若者は新しいサービスを受け入れる能力がきわめて高かったのです。オフラインでのモバイル決済はちょうどスマートフォンの普及と同じタイミングだったので取り入れやすかったという側面もあります。中国だけではなく、インドもスマートフォンの普及期にQR決済が普及したので、爆発的な成長を見せました。アントフィナンシャルが提携するPaytmはすでに500万の加盟店を擁しています。一方で先進国ほど新しいQR決済の受け入れは難しいというのが実感です」 上述のリープフロッグ現象に加えタイミングがよかったとの分析だが、私見を付け加えるならば、莫大なマーケティング費用が投下されたことも大きい。「アリペイ払いで代金をキャッシュバック」といったキャンペーンが大々的に展開されたのだ。今年8月1日から8日まで行われた「無現金週間」のキャンペーンでは、毎日88万人に抽選で純金がプレゼントされた。 また決済手数料の安さも拡大の要因だ。代理店経由の契約では業種ごとに違うものの平均で0.6%未満だ。小店舗や屋台などで使われるユーザースキャン型では、決済手数料は無料である。(銀行口座振り込み時に0.1%の手数料)。 上述したとおり、日本では「中国は偽札が多いからモバイル決済が流行った」との説が広がっているようだ。偽札リスクがないのはもちろんメリットだが、それ以上に利便性の高さが普及を牽引したことをおわかりいただけただろうか。 ここまでモバイルインターネット、モバイル決済がなぜ爆発的に普及したのか、利用者にはどのような利便性があるのかを見てきた。では運営会社にとっては莫大なマーケティング費用を投じた価値はどこにあるのだろうか。杭州市のレストランにある音声式アリペイ決済機能を備えたレジ その答えは『ビッグデータ」にある。もはやバズワードとして聞き飽きた感のあるビッグデータだが、中国IT業界ではスマートフォンを通じて収集された大量のデータによって次々と革新的サービスが生み出されつつある。次回はその実情をリポートする。(※写真はすべて筆者撮影)たかぐち・こうた ライター・翻訳家。1976年生まれ。千葉大学人文社会科学研究科(博士課程)単位取得退学。中国・南開大学に留学後、ライター、翻訳者として活動。著書に『なぜ、習近平は激怒したのか 人気漫画家が亡命した理由』(祥伝社)。

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    「38度線が対馬まで下りる」南北会談後に起き得る地政学リスク

    になってしまうかもしれない。今は38度線で対峙(たいじ)しているが、それが対馬まで下りてきてしまう。中国の影響力が強まらざるを得ない。もっとも韓国内部にも、自由統一を指向する保守勢力があるので、そうした状況になるのを許さないかもしれないが、予断を許さない。 また、米朝首脳会談が不調に終われば(そもそも開催されない可能性もある)トランプ政権は軍事攻撃を検討するだろう。ただし、攻撃をして核ミサイルを取り上げた後、すぐ軍を引く限定攻撃だ。北朝鮮地域の平定と軍政を米軍が担う意思はない。文在寅政権の韓国がそれを担うならば、中国は半島全体が自由化することに強く反対して軍を出し、北朝鮮地域が分割占領されるかもしれない。   または、文在寅政権が米国との共同作戦参加を拒否し、米韓同盟が破綻して、米軍は北朝鮮地域だけでなく韓国からも撤収し、北朝鮮地域の平定と軍政は中国軍が担うかもしれない。文在寅政権は中国の傀儡(かいらい)となった次期北朝鮮政権と連邦制で統一するか、あるいは韓国単独で中国と軍事同盟を結ぶこともあり得る。韓国内の反共自由民主主義勢力が韓米同盟を守るため、文在寅政権を倒す可能性も残っている。 さまざまなシナリオを考えても、アジアの覇権を狙う中国が半島全体を事実上支配し、38度線が対馬まで下りてくることになる。これが、金正恩の核危機の後ろにあるわが国の「地政学的危機」だ。 もはや米国は同盟国を守るため、あるいは自由という理念を世界に広げるため、陸上部隊を投入しない。これからの米軍は、空軍と海軍だけを使った、米国軍人の命を犠牲にしない「安全な戦争」しかしない。 中国の習近平政権は米国に並ぶ軍事大国を目指し、東アジアでの覇権を握ろうとしている。彼らは「力の空白」があればすぐに軍を出す。北京の人民大会堂で歓迎式典に向かう北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長(左)と中国の習近平国家主席=2018年3月29日(朝鮮中央通信撮影・共同) 日本は自分の国の軍隊で中国軍と対峙しなければ誰も代わりに戦ってはくれない。朝鮮半島でこれから起きることと同じことが、尖閣でも台湾でも、そして沖縄でさえ起きるかもしれない。 日本の独立が脅かされる日露戦争直前と同じ危機が、すぐ近くに来ている。大多数の国民がそれに気がついていないことが、実は重層危機の深層にある一番恐ろしい危機だ。

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    米中貿易戦争、トランプ流は「ニセモノ大国」の市場開放を遅らせる

    リスト、翻訳家) 経済をめぐる米中の対立が激化している。発端となったのは米国の対中制裁だ。米当局は「中国の知的財産権侵害に対するもの」との声明を発表している。 中国といえば、悪名高き「ニセモノ大国」として広く知られている。知的財産権侵害で怒りを買うのも当然という印象を持たれるかもしれないが、その理解には落とし穴がある。一般的に「ニセモノ大国」としてイメージされるのは、海賊版やニセモノ・ブランド品の横行だろう。これらは民間企業の問題だが、この数年で急速に状況が変化しつつある。 例えば音楽、漫画、映画やドラマ、アニメ、スポーツといったエンターテインメント・コンテンツだが、近年では正規配信が急増している。中国エンタメ業界の巨人である騰訊(テンセント)は動画配信、音楽、漫画、小説などのジャンルで有料配信への導入を続けている。2017年の財務報告では動画配信の有料視聴権は延べ5600万件に達したと発表した。 筆者は先日、広東省深圳市にあるテンセントが入居するオフィスを訪問したが、トイレに貼られていた社内誌『微報』の漫画が興味深かった。「ゲーム権益の保護-特許申請」というタイトルだ。「ライバル社にパクられまくりでつらい!」と訴える青年に、テンセントのマスコットであるペンギンがふんした裁判官が「特許で守りなさい! 特許が認められればパクリを抑止できるし、ボーナスや昇進につながるよ!」とアドバイスする内容である。 テンセントといえば、かつては他社とそっくりのプロダクトを出すことで知られていた。同社の主力製品であるメッセージソフト「QQ」はもともと「QICQ」という名称で、世界的なメッセージソフト「ICQ」とそっくりのデザインや機能を持っていた。ICQから警告を受けて「QQ」と改称した経緯があるほどだ。そのテンセントが今や正規配信の「擁護者」なのだから、中国の変化はすさまじい。中国のIT大手、騰訊(テンセント)の社内誌「微報」の漫画の一コマ 急激な変化の背景にあるのは中国政府の方針転換だ。2010年代に入り、政府は国内コンテンツホルダーの育成、権利擁護にかじを切った。以前ならば、大手動画配信サイトが海賊版を公開していても「ユーザーがアップロードしたものならば、配信サイトの責任は問われない」との判例が定着していたが、近年では海賊版削除の義務を怠ったとして敗訴する事例もある。 もちろん、いまだに海賊版は少なからず存在しているが、環境が急激に変化しているのは間違いない。ある中国アニメスタジオの経営者は「5年以内にはネットの海賊版は壊滅するのでは」との見通しを示した。逆にまだ問題が多いのが商品のニセモノだという。ネットサービスは監視しやすいが、小商店までは監視の目が行き届かないというのがその理由だ。日本社会の常識では、ネットこそ「海賊版の温床」というイメージだが、中国ではむしろ逆だという。 米当局の声明を見ても、問題視されているのは「ニセモノ大国」という民間企業パートではなく、規制という国家の問題だ。外資規制による技術移転の強要や不公正な技術移転契約が取り沙汰されている。米国ファーストが規制温存の口実に 例えば自動車だ。外資系企業が中国で製造、販売するためには、中国企業と合弁企業を作り、かつ過半数の出資比率は中国企業が握るという規制を飲まなければならない。中国には「市場換技術」(マーケットを技術と交換する)という言葉がある。巨大市場・中国への進出という果実を代価として、海外の技術を得るという意味である。 こうした国策は何も中国だけのものではなく、途上国の多くが導入している規制だ。バカ正直にマーケットを開放すれば、国内企業は育たない。国家経済の段階に応じて市場を開放していくのはありがちな戦略だ。中国も規制緩和を進めているが、世界第二の経済大国になった現状と、市場開放のペースが見合ったものではないとの不満があるわけだ。 国際社会が緩和のペースを速めるよう中国に求めることは必要だが、果たしてトランプ大統領の経済制裁が有効な手段かは疑問が残る。「アメリカファースト」の姿勢はむしろ市場開放とは逆行しており、中国にとっては規制温存の口実を与えかねない。 中国の市場開放を促すならば、まず自らが自由貿易を促進し、多国間の経済協定を推進すべきだ。環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)はまさにそうした目的で進められていた。TPPから脱退し保護主義を打ち出しながらも、中国に市場開放を求めても大きな成果を上げることは難しいだろう。 しかも、大々的な「貿易戦争」のポーズは中国国内の対米感情を悪化させ、習近平政権による外交をも縛りかねないリスクがある。中国は共産党一党独裁の政治体制ではあるが、それは民意を無視した政治、外交が自由に展開できることを意味してはいない。選挙という正当性担保の手順を踏んでいないからこそ、むしろ「民に愛され推戴(すいたい)されている支配者」という装いを保つ必要があるためだ。 これまで中国社会におけるトランプ大統領に対する評価は、どちらかといえば好意的なものが多かった。むしろ大統領選で争ったヒラリー・クリントン元国務長官は「反中派」のイメージが強かった。また、ロシアのプーチン大統領が典型だが「強者」に対する憧憬(しょうけい)といった要因が、トランプ大統領のイメージにプラスに働いていたためだ。2017年11月、北京で共同記者発表に臨むトランプ米大統領(左)と中国の習近平国家主席=北京の人民大会堂(共同) だが、大々的な貿易戦争が始まれば話は別だ。その影響がどれほど広範かつ根強いものかは、過去10年間何度も中国社会の怒りの的となってきた日本人ならば、たやすく理解できるはずだろう。 「中国に強い圧力をかけた」という事実が必要ならばともかく、中国の市場開放促進という実益を求めるならば、米当局には異なる選択肢が必要だろう。

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    習近平先生の怒りを買った「悪ガキ」金正恩の大チョンボ

    重村智計(早稲田大名誉教授) 北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長が突然、中国を訪問した。メディアは電撃訪問に驚き、「中朝関係改善」「(米朝首脳会談へ)中国の支援確保」といった北朝鮮の「外交勝利」とみるコメントや報道を並べた。だが、外交問題は双方の立場を確認しないと危険だ。同じ報道や解説を掲げるのは、ただの「大本営発表」である。他とは違う報道や解説をしないと専門家の意味はない。 中朝双方の報道機関は、28日午前に「中朝首脳会談」を報道した。中国国営新華社通信は「(金委員長は)非核化への努力を約束した」と報じた。一方で北朝鮮は「非核化の約束」を報じなかった。それどころか、政府の公式発表もない「冷たい中朝首脳会談」だった。 中国側の報道映像は、習近平国家主席が余裕を持って対応し、金委員長がメモを取る姿を映し出した。この映像は「先生」のように指示する習主席の言葉に、「生徒」のような北朝鮮指導者が聞き入る姿を強調していた。 日本の新聞、テレビは28日の朝刊で「金正恩訪中」を確認できなかった。産経新聞だけが「電撃訪中」の見出しを掲げた。「正恩氏? 突然の訪中」(朝日)「訪中の情報」(日経)「訪中の要人 金正恩氏か」(毎日)「初の訪中か」(読売)と、いずれも曖昧な見出しだった。別の言い方をすれば、産経以外は「特オチ」である。日本メディアの確認取材の能力が欠如しているというしかない。 最近の日本メディアは、韓国の報道や韓国政府発表に頼りすぎている。独自の取材源を持っていないようだ。かたや、中国の報道関係者や当局者は知っていた。中国の対応からは、誰が見ても「金正恩訪中」しかないと判断できたはずである。北京駅(奥)に入る北朝鮮の要人を乗せたとみられる車列=2018年3月27日(共同) 電撃訪中の焦点は「中国に呼びつけられた」のか、「中国がお願いして来てもらったのか」である。朝鮮問題の専門家や記者は「中国が頭を下げた」との見方が大勢を占めるが、これまたおかしな話だ。最近の北朝鮮に対する中国の怒りや、中朝関係の過去の経緯を知らないはずもあるまい。北朝鮮は、南北首脳会談や米朝首脳会談について、事前に中国に説明してこなかった。中国はメンツを傷つけられ、怒っていたのである。 最近の中朝関係は最悪の状態だった。中国は、北朝鮮による昨年の核実験に失望し、国連制裁に同調して多量の石油禁輸を実行していた。北朝鮮の報道機関は、あからさまに中国を非難していた。 中国は東アジアの超大国であり、北朝鮮は小国だ。中国が北朝鮮に頭を下げたのではなく、北朝鮮が中国に呼びつけられたと考える方が真実に近いだろう。この判断をテレビで示したのは、元外交官の宮家邦彦氏ぐらいであり、さすがは中国外交を知り尽くす専門家である。 今回の電撃訪中でまず考えるべきは、それが公式訪中か非公式訪中か、という判断だが、今回は明らかに非公式だった。仮に公式訪中であれば、中国は歓迎式典を行うだろうし、メディア向けに報道文も発表し、中国メディアも大きく報道していたはずである。そして、最後に中国は「お土産」を準備し、北朝鮮側はそれを誇示する。しかし、今回の場合、金委員長の訪問は秘密裡に行われ、北京を出発した後も公式発表は行われていない。 中国と北朝鮮は、ともにメンツを重んじる国である。習主席と会談したのに、石油などの経済支援を獲得できなければ、指導者は大義名分とメンツを失う。首脳会談を前に、日米韓三国への中国による牽制(けんせい)と北朝鮮への支援確保が目的、との解説もあった。仮にそうならば、大々的に公表して報道しなければ意味がない。「非核化に努力する」の意味 また、メディアは「北朝鮮の指導者が中国を電撃訪問したのは2000年以来18年ぶり」と歴史的意義を強調した。実は2000年以降にも、電撃訪中を繰り返している。例えば、2005年の米国による金融制裁を受けて、北朝鮮はマカオの銀行の秘密口座から資金を引き出せなくなった。それに慌てた金正日(キム・ジョンイル)総書記が電撃訪中し、マカオ近くまで長時間列車で移動した。このときは、中国当局と交渉したが失敗したと報じられた。要するに、北朝鮮は困り果てたから電撃訪中したのである。 中国は、金委員長の訪中を北朝鮮に帰国するまで発表しなかった。指導者が国を空けてといると分かると、クーデターの危険があったからだ。また、列車の往来で爆破テロの恐れもあった。これは北朝鮮内部が決して安定していない事実を示唆している。 北朝鮮は南北首脳会談の合意と米朝首脳会談の提案を事前に中国に説明していなかった、と中国政府筋は明らかにしていた。国際関係が大きく変化する際には、事前に説明するのが外交上の礼儀である。中国は当然、説明のための特使派遣を求めた。一方で、北朝鮮筋によると、平壌では「中国側から特使を派遣したいとの申し入れがあった」との噂が意図的に流されたという。事実はまったく逆であったようだ。 普通に考えれば、南北首脳会談と米朝首脳会談の発表直後に、中朝首脳会談が実現するのが理想である。それが発表から1カ月もかかったというのは、中朝の調整がうまくいかなかった証左であろう。では、なぜ金委員長は電撃訪中をせざる得なくなったのか。中国政府筋によると、中国は北朝鮮に「送油施設の故障で、半年ほど原油を送れない」と通告したという。石油供給を中断したのである。 さらに、北朝鮮は米朝首脳会談の事前接触がうまくいっていない事実にも困り果てていたという。トランプ米大統領は、軍事攻撃を主張していたボルトン元国連大使を国家安全保障担当の大統領補佐官に任命するなど、その後も軍事攻撃を示唆する言動を続けていたからである。 北朝鮮の歴代指導者は、就任前と就任後には必ず訪中していた。ところが、金委員長は就任以来一度も訪中できなかった。習主席が金委員長を快く思っていなかったことが原因らしい。北京の人民大会堂で握手する北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長(左)と中国の習近平国家主席(新華社=共同) そのため、中国は国連制裁に従い、石油供給を減少させた。その上で、北朝鮮に「非核化」を約束しないと首脳会談は難しいと伝えていた、と中国政府高官は述べている。 中国メディアは会談で「朝鮮半島の非核化に努力する」と約束したと報じた。しかし、かつて金日成(キム・イルソン)主席も金総書記も用いたこの表現は、韓国の非核化も意味する。だが、韓国に核兵器はないので実効性を伴わない。実は、会談の中で金委員長が一歩踏み込んで「朝鮮半島」の言葉を外し、単に「非核化に努力する」と言及したのではないだろうか。これは北朝鮮の非核化を約束したに等しい。つまり、北朝鮮指導者の「最大限の譲歩」を意味しているのである。

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    中国に7000万人 LGBT向けビジネスが活発化

     中国で「LGBT」と呼ばれる性的少数者=L(レズビアン)、G(ゲイ)、B(バイセクシュアル)、T(トランスジェンダー)が7000万人に達していることが明らかになった。 これはイギリスの人口を上回る規模で、その年間消費額も4700億ドル(約53兆円)と推計されているが、中国ではLGBTを蔑視する傾向が強いことから、海外での挙式に関心を示しており、潜在的に大きな市場として海外の旅行業界などが開拓に乗り出している。米タイム誌などが報じた。 中国の同性愛者向け出会い系アプリ「Blued」の最高経営責任者(CEO)・耿楽氏によると、Bluedは世界で最大級の同性愛者向けアプリでユーザー数は1500万人にのぼる。 彼ら(彼女ら)は社会的なステータスが高い層が多く、平均月収は約1万元(約16万円)と全国の労働者の平均月収の5倍にも達しており、可処分所得が高くブランドモノを好む傾向が強いという。 これは大半のLGBTに子供がいないことが大きな原因だとみられる。 欧州や米国に次いで世界3位のLGBT人口を抱える中国が大きな市場として観光業者の関心を集めている。これは日本のみならず、欧米諸国も同じで、中国のLGBTを自国に取り込もうと躍起になっているというほどだ。 これは、中国内でのLGBTにはまだ市民権が与えられていないことも大きな原因だ。 「同性愛に治療は必要ない」と書かれたプラカードを掲げ、LGBTの人権擁護を訴える人々=北京(AP) 中国では同性愛行為者が罪に問われた時代が長く続いていた。それが、違法ではなくなったのは1997年で、LGBTがタブー視されていない香港が同年7月、中国に返還されたためだとみられる。 その後、2001年からLGBTは精神疾患リストからも外されたが、一般的にはまだまだ認められていない。 ネット上では、同性愛者が「ハワイで結婚式を挙げた」などという書き込みに対して嫌悪感を表明する意見も少なくない。 日本でも同じような傾向はみられるが、中国の場合はこれまで一人っ子政策が適用されていたことから、「子供がいないのは罪悪」という感情がより強く、「一人っ子の男性の場合は『偽装結婚』をして、子供を作ってから、安心して同性愛にのめり込むという傾向が中国では強い」(香港紙「リンゴ日報」)とも報じられている。関連記事■ 同性愛者がなぜ必ずクラスに1人いるのかという謎に迫った本■ 米の性調査 同性愛者比率は60年前からほぼ変わっていない■ 中国大都市圏で同性愛エイズ患者拡大 一人っ子政策の影響も■ 聖火リレーに同性愛者象徴旗持つ男が乱入しプーチン怒り心頭■ 中国・周恩来元首相に同性愛説広まるも国内では反発の声

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    「現代の始皇帝」習近平の野望

    中国の春秋戦国時代、秦王政が史上初の中華全土を成し遂げたのは紀元前221年のことである。それから2千年余り。現在の最高指導者、習近平氏が国家主席の任期制限を撤廃する憲法改正案をぶち上げた。「終身独裁」の始まりである。なぜ強権化を急ぐのか。「現代の始皇帝」習近平の野望を読み解く。

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    2049年「習近平の夢」は96歳で完成する

    加藤隆則(汕頭大学長江新聞與伝播学院教授) 中国の憲法改正問題をどうみるか。ちょっと「寄り道」をしなければ、核心には迫ることができない。『サピエンス全史』の著者、イスラエル人の歴史家ユヴァル・ノア・ハラリ氏=2016年9月(荻窪佳撮影) イスラエルの歴史学者、ユヴァル・ノア・ハラリ著の『サピエンス全史(Sapiens)』は世界的なベストセラーになった。だが、中国を代表とするアジアについては十分な理解があると思えない。特に、「歴史上の戦争や革命の大半を引き起こしたのは食糧不足ではない」(柴田裕之訳)と断言し、フランス革命を率いた「豊かな法律家」や、古代ローマ共和国の崩壊、1991年からのユーゴスラビア紛争を挙げている点だ。中国の王朝興亡史にこの定理は当てはまらない。 中国大陸では、土地を失い、食糧を奪われ、何一つ失うもののない「無一物」の農民たちが決起し、王朝を転覆させてきた歴史がある。毛沢東は、工業先進国で生まれた社会主義思想を農村に適用した。そして、腹を空かした農民を組織し、都市部のブルジョア資本を代弁する蔣介石政権を打破できたのは、独自の歴史に学んだ結果である。 過酷な自然環境の中、食について飽くなき追求をしてきた民族は、あくまで胃袋で感じ、行動する。思考を支える言語には、食に関する表現があふれ、古代からの詩は常に「飢え」と背中合わせだった。 最低限の衣食が足りたとしても、人として並の待遇を受けられない飢餓感は、腹の中に抱え込まれる。抽象的な観念に振り回されるのではなく、体を使って、人生にとって何が大切で、どんな楽しみがあるかを考える。中国ではこうやって人々が暮らしてきた。 そして現在、習近平総書記(国家主席)が最も恐れているのは皮肉にも、人間の尊厳を踏みにじられ、幸福な生活が脅かされている農民たちの不満である。毛沢東が、みなを国の主人公にすると約束したのは嘘だったのか。「最初の話と違うじゃないか!」。農村からの悲痛な叫びに耳を澄まし、納得のいく答えを出さなければ、中国共産党はその歴史的正統性を失って崩壊する。 これがなぜ憲法改正とつながるのか。もう少し、回り道にお付き合いいただきたい。 忘れてならないのは、約100年前に中国共産党を結成し、最後には天下を取った指導者たちや同志たちもまた、土地に縛り付けられた農民だったということだ。党が腐敗し、本来、最も多く成長の果実を分け与えられるべき農民たちが、逆に社会の底辺に追いやられ、汚染された土地と水の中で、成長の犠牲になっている。 まともな生活の保障がないまま都市で暮らす出稼ぎ農民、そして農村に取り残され、孤立した老人や婦女、子どもたちは、貧しさと不正義への不満をつのらせ、党幹部の腐敗に対して腹に据えかねている。持たざる者たちの怒りはもはや爆発寸前で、すでに小さな火種はあちこちに表出している。習氏自身が「このままでは党も国も滅ぶ」と強い危機感を公言せざるを得ない状況なのだ。 ここでようやく本題に結びつく。現政権にとって最大の眼目である「党の存続」―これが憲法改正のキーワードだ。憲法の核心は各論を述べた本文ではなく、「共産党の指導」こそが人民が主人公となる国家を打ち建て、民族を団結させたのだとする前文である。憲法の順守は、党に対する忠誠の誓約にほかならない。「親の遺産」を受け継ぐ使命 以下に述べるように、当面、その党を率い、党の腐敗に敢然と立ち向かえる人物は、習氏をおいてほかには見つからない。不文律を破って、最高指導部の周永康元常務委員や軍の元制服組トップ2人を相次ぎ摘発した腕力は、暗殺にさらされるリスクをはねのけ、熾烈(しれつ)な政治闘争を貫徹した。 だとすれば、任期を縛る杓子(しゃくし)定規な憲法条文は足かせでしかない。合理主義の精神は、目的と手段を混同しない。法は統治のための手段であって、あくまで目的が優先されるべきだと考える。 党の存続は、中華民族の偉大な復興、いわゆる「中国の夢」のスローガンによってコーティングされている。その偉大な目標の前で、憲法は動員される舞台装置の一つでしかない。 習氏が「中国の夢」として掲げる「二つの100年」目標は明確だ。共産党創設100年(2021年)にゆとりある社会(小康社会)を全面的に築き、建国100年(2049年)には富強で、民主的で、文明を備え、調和のとれた社会主義近代化国家を建設する。つまり、半植民地化からの独立を願った孫文以来、歴代の指導者が夢見てきた念願の先進国入りを果たす。 具体的には、2020年に国内総生産(GDP)と1人当たりの収入を2010年の倍に増やす所得倍増計画があり、2020年までに7000万人いる年間収入が2800元以下の貧困人口を解消する。いずれも習近平政権2期目の課題で、2年後に決算が迫っている。 後者の目標を達成すべき2045年、習氏は92歳である。民族復興の事業を完遂させた元老として天安門の楼城に立ち、党の事業を継承した功績に身を震わせる姿を想像しているのだ。中国の習近平主席の父、習仲勲氏。2013年には生誕百周年の記念切手が発売された 建国を率いた毛沢東ら革命世代の2代目「紅二代」のリーダーとして、習氏は親たちの残した遺産を受け継ぐ使命を帯びている。党の存続は、紅二代の総意に基づく至高の家訓だ。血統を重んじる中国人社会において、紅二代は最も高い権威を持つ。次世代の指導者たちは足元にも及ばない。 彼の父で副首相まで務めた習仲勲は「おれは農民の子」が口癖だった。習仲勲の祖父は、河南省から戦乱と飢饉(ききん)のため陝西省に流れ着いた農民である。習氏もまた文化大革命期、陝西省の寒村で農作業に従事した経験を通じ、「自分は黄土の子だ」との一文を残している。 習氏が僻地(へきち)の農村を訪れ、農民と談笑する姿には、これまでの指導者が持っていた官僚臭さがまったく感じられない。背景に溶け込み、ごく自然に接していることが伝わってくる。土地の臭いを身体に帯び、彼らの胃袋を体感しているからだ。身体性のコミュニケーションは、地に足のついた、確かなつながりを生む。 地球の外からのぞくように見ていては、土地が生む歴史の現実をつかむことはできない。習氏について、時代錯誤の社会主義理論を振りかざす教条主義者のイメージを抱く多くの報道や論評は、目が曇っている。農民と頻繁に直接対話を続ける理由 『サピエンス全史』は、仮想の国家を維持するため、神話やイデオロギー、宗教など「想像上の秩序」が必要であると指摘する。それは確かに一面の真理であろうが、中国の農民たちを結び付けているものは、もっと差し迫った、体臭が伝わるように泥臭い、村のおきてのようなもの、身体で感じ取るものだ。決して憲法という「想像上の秩序」ではない。 習氏が頻繁に農村に足を運び、直接対話を続けているのは、「人民日報」の論評欄では役に立たないからだ。それは大衆路線と呼ばれる党の伝統を体現している。善悪や特定の価値観をもって一国を眺めても、現実の姿は視界に入らない。 農民たちは、腐敗高官をなぎ倒し、強い指導者を演じる習氏を強く支持している。農村は2月に春節を迎えたが、各家には習夫妻のカレンダーが飾られた。習氏が強力に進めた綱紀粛正策によって、今では地方の末端に至るまで、厳格な公費管理が浸透してきている。かつてあり得なかった大きな変化だ。この力は過小評価できない。だれもまねのできない荒療治であることは、みなが認めている。 農民の気持ちを理解できなければ、中国の指導者が何を考えているのか、中国がどこへ向かおうとしているかはさっぱりわからない。中国の多くの知識人は農民を見下している。だから農民もインテリを信じていない。知識人と大衆との遊離は、別の深刻な問題ではある。 党を存続させるため、長期政権を実現させる憲法改正案には、農民からの広範な支持があることを見過ごしてはならない。民主的な選挙のない国で、支持という能動的な表現に違和感があれば、彼らは現在の指導者を信頼し、農具を手に蜂起することは考えていない、と言い換えてもよい。 2017年10月の第19回党大会で、習氏は常務委員に後継者を抜擢(ばってき)しなかった。また、軍の最高機関である中央軍事委員会にも制服組以外を登用しなかったことで、習近平政権の長期化は既定路線となった。 党への絶対服従を誓う中央軍事委は、党総書記兼同委主席である習氏一人に権限が集約されている。党権力の源泉は軍の掌握にある。党・国家のトップになるためには、軍の経験を積むことが不可欠であることを考えれば、現時点で後継の有資格者はいない。第19回中国共産党大会の閉幕式で拍手する、(左から)胡錦濤前国家主席、習近平国家主席、江沢民元国家主席=2017年10月、北京の人民大会堂(共同) 憲法を改正せずとも、実質的な権力者として君臨することはできる。かつて江沢民元総書記は、15年にわたって中央軍事委主席を務め、軍内に大きな影響力を温存した。総書記と国家主席の座を胡錦濤氏に譲った後も、2年近く同委主席の椅子に座り続けた。2004年9月、完全引退に際しては、胡氏に対し「重要事項は江沢民に相談する」との密約まで結ばせた。 もっと言えば、鄧小平時代は党や国家の正式な肩書を持たないまま長老支配を貫き、形式上トップの総書記を自由自在にすげ替える離れ業までやってのけた。軍の掌握と革命世代の威厳こそが権力の源泉だったのだ。「主席」毛沢東の再来か だが、習氏は憲法改正を選択した。つまり、習氏は2期目終了後、肩書を失ったまま、実質的な権力者として居座る道を選ばなかったことを意味する。形の上であるにせよ、法と制度によるレールを敷くことにこだわった。反腐敗キャンペーンを通じ、法制化、制度化は彼が繰り返し強調していることだ。 文革後に制定され、現憲法のもとになっている1982年憲法は、父親の習仲勲が全国人民代表大会の副委員長兼司法委員会主任として、可決を宣言したものである。法的手続きの重視は、紅二代として親に対する敬意を表したとも受け止められる。 では、海外メディアがしばしば指摘するように、「主席」であり続けた毛沢東の再来なのか。 まず、断っておかなければならないのは、多くの若者が、ファイアーウォールを越えるソフトを駆使してインターネット規制をかいくぐり、年間1億人以上の中国人が海外旅行をする時代に、完全な封鎖体制を敷いた毛沢東時代との比較を持ち出すのはナンセンスだということだ。 党のイデオロギー統制や独裁体制に賛同できない金持ちや知識人は次々と海外に移民している。習氏はそんなことはお構いなしだと思っている。彼の目には、ネットともつながっていない「持たざる農民」たちの姿が映っている。中国河北省保定市安新県を視察する習近平国家主席(中央)=2017年2月(新華社=共同) すでに一定の財を築いた都市部の中産階級は、今ある生活を守ることに必死で、大幅な現状変更は望んでいない。都市住民が、ようやく自由に海外旅行でできるようになった現在の繁栄を犠牲にし、参政権や言論の自由を求めて立ち上がるとは思えない。都市から党が崩壊するシナリオは考えにくい。やはり要は、胃袋と直結した農村なのだ。 また、多くの中国ウオッチャーがすっかり忘れていることがある。強権体制による長期政権を選択したのは、胡錦濤時代の深刻な反省に基づいているという点だ。 幹部養成の共産主義青年団(共青団)で権力の階段を一歩一歩進んだ胡氏は、企業で言えばサラリーマン社長だ。江沢民勢力に阻まれて権力基盤が脆弱(ぜいじゃく)で、そのために格差是正の改革は置き去りにされ、「不作為の十年」との酷評を浴びた。 指導部内でのチェック機能がマヒし、公私混同の腐敗が深刻化した。周永康元常務委員、薄熙来元重慶市党委書記、令計劃元中央弁公庁主任による政権奪取のための謀略や暗殺までが横行し、名実ともに危機的状況を迎えていた。尖閣諸島の領有権をめぐる対立を口実に、全国的で広がったいわゆる「反日デモ」も、こうした権力内部の混乱が背景となっている。 党が迎えた危機的状況は、総書記の脆弱な権力基盤、そして最高指導部の権力分散によって生じた。だとすれば、それを救う唯一の方策は、総書記への権力集中でしかない。権力集中は目的ではなく、手段として始まったことに留意すべきだ。 胡錦濤時代、散々指導者のふがいなさを嘆いた人々が、強力な習近平政権が誕生すると、今度は権力集中を批判している。時流にこびる言説に惑わされては、真相を見誤り、的確な情勢判断に基づく決定ができなくなる。 習氏が権力欲のために政敵を排除して独裁化を進め、傍若無人に毛沢東と並ぶ権威を確立しようとしている―。しばしばメディアで目にするこうした見解は、現場の状況を踏まえない、特定の政治的立場、価値観の表明でしかなく、政治の実態をとらえていない。時代背景や国際環境の違いを無視した、ステレオタイプにすぎない。安易な二分論を持ち出し、人の耳に入りやすい言葉で大衆に迎合しているだけで、時代に対する責任感を欠いている。 ネットのアクセス数を増やすため、事実が軽視され、刺激的な言葉がはびこる「ポスト事実時代」の弊害は、いくら強調してもし過ぎることはない。最後に不利益を受けるのは、権力や利益と無縁な、支配され、奪われる側の力なき者たちなのだ。

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    習近平「終身独裁」で中国の自滅は確実になった

    上念司(経済評論家) 今から5年前に出版されたエドワード・ルトワックの『自滅する中国』(芙蓉書房出版)はまさに予言の書だった。 ルトワックいわく、中国は外交も戦争も「孫子の兵法」を重視するあまり、現代におけるヨーロッパ的な価値観外交に適応できない。「孫子の兵法」の本質は「兵は詭道なり」である。簡単に言えば、「だまされた奴が悪い」ということだ。勝つためにはどんな嘘もペテンもまかり通る。だから、国際法は自分の都合のいいように解釈するか、正面切って破るかのいずれかだ。文句を言ってくる国に対しては、経済や軍事、あらゆる手段を使って恫喝する。記者会見でマクロン仏大統領(左)と握手する中国の習近平国家主席=2018年1月 そんな世界観が欧米的な価値観と相いれるはずはない。そもそも、中国大陸においてヨーロッパのような分裂国家の集合体であった時代は短い。中国大陸において対等の力を持った国が競い合っていたのは春秋戦国時代ぐらいのもので、それ以降は統一王朝という名の独裁政権が支配している。しかも、その政権の多くが異民族の侵略によって成立した王朝であり、漢民族は被支配民として歴史の大半を過ごしていた。 だから、歴史的に中国は同等な付き合い方を知らない。いまでも、南モンゴル、ウイグル、チベットに対しても、粛清と民族浄化という形でしか接することができない。世界には皇帝と奴隷しか存在しないとでも言うのだろうか。ハッキリ言って迷惑な話だ。 しかし、そんな乱暴者は嫌われる。ルトワックは5年前の段階で、中国の孤立を予想していた。中国が暴れまわることで、かえって周辺諸国が結束するからだ。具体的に言えば、東南アジア諸国連合(ASEAN)諸国が結束し、台湾の独立派が勢いづき、日本とインド、オーストラリアには事実上の軍事同盟が成立するといった反応が考えられる。もちろん、そこにアメリカも加わるだろう。これらの国々に包囲されたらさすがの中国もひとたまりもない。 そこで、中国共産党は自分たちがいくら暴走しても各国が連携しないよう、世界中にパンダハガー(親中派)を育ててきた。彼らは「中国は経済成長すればいつか必ず民主主義になる」という不思議な理論を唱え、とにかく中国を儲けさせてやることが大切だと言わされた。いや、自ら進んで言ったのかもしれない。弱みを握られたのか、利権で釣られたのか理由は不明だ。経済成長しても民主化しない中国 いずれにしても、パンダハガーたちの活躍で中国は巨額の援助と技術協力を得た。タダ同然の人件費と緩すぎる労働規制に便乗し、多くの企業がチャイナビジネスで儲けた。その結果、中国経済は大きく成長し、国民は前よりは豊かになった(はずだ)。  ところが、中国が民主化する兆しは一向に表れなかった。共産党の一党独裁すら終わらない。それどころか、最近では一党独裁どころか終身国家主席まで誕生した。まさに文字通りの独裁国家の誕生だ。「経済成長すると民主化する」などという話はデタラメだったのだ。テレビ放送で演説を行う習近平国家主席=2017年1月 困ったのは世界中のパンダハガーたちだ。これでは中国を表立って擁護できない。そんなとき、ちょうどアメリカで厳しい制裁関税が決まった。鉄鋼製品に25%、アルミニウム製品には10%という効率の関税を課すターゲットは間違いなく中国だ。日経新聞は次のように報じている。  ウィルバー・ロス商務長官やピーター・ナバロ国家通商会議委員長ら、通商問題の強硬派が今回の措置では主導権をとった。ゲーリー・コーン国家経済会議委員長ら、中国との経済関係への悪影響を懸念する人たちは、押し切られた格好である。 今回の制裁関税の適用が、米国の安全保障への脅威を理由にしているのは、注目に値する。普段は注目されていないが、米国の通商法には戦時措置として導入され、その後も続いているものが多い。その発動は外部からみれば、かなり恣意的にみえる。 トランプ政権は昨年12月の国家安全保障戦略などで、中国について、米国の国益や国際秩序に挑む「修正主義勢力」との位置づけをはっきりさせた。中国はロシアと並んで現状変更をもくろむ勢力。米国はその挑戦を阻まなければならないというわけだ。(日本経済新聞 2018.3.6) これだけではない。3月5日に、中国勢が率いる投資家グループによる米シカゴ証券取引所(CHX)の買収案が白紙展開された。この案件は2月半ばの段階で、米証券取引委員会(SEC)が問題視していたのだが、件の投資グループはこの逆風の強さに諦めざるを得なかったようだ。 これらはほぼ中国を名指して問題視した結果だが、アメリカ国内のパンダハガーからは何の声も上がらなかった。アメリカの左派も一応はリベラルを標榜(ひょうぼう)している。自由と民主主義を建前とする以上、文字通り独裁国家となった中国を表立って擁護できるわけがない。カール・ビンソンがベトナムに寄港したワケ そういえば、トランプ政権が誕生した直後のあるテレビ討論で、「トランプ政権下で米中は接近する」と豪語した学者がいた。また、北朝鮮を巡って「アメリカは中国頼みだ」などと、米中が接近しているかのような記事もあった。今起こっていることのどこが米中接近なのだろうか? 完全にハズレだ。 評論家の江崎道朗氏によれば、中国によるオーストラリアのダーウィン港の租借でそこを拠点としていたアメリカ海兵隊は激怒したそうだ。また、イギリスは中国によるオマーンのドゥクム港工業団地整備やアラブ首長国連邦のハリファ港の港湾利権獲得を問題視し、再びスエズを越えてロイヤルネイビーを展開しようとしている。昨年8月にメイ首相が日本を訪問。今年に入ってTPPに参加する検討を始めた。日本とは準同盟国の関係にあり、日英同盟復活は近いのではないかという人もいる。 3月2日、ニュージーランドのピータース外相は、中国の「一帯一路」構想への協力を見直すと述べた。ピータース氏は「前政権が拙速に署名したことが強く悔やまれる」と述べた。ちなみに、昨年9月ニュージーランドのジャン・ヤン氏という中国出身の議員が中国のエリートスパイ学校とのつながりから、情報機関の捜査対象となったと報じられている。 中国が周辺諸国のみならず、欧米先進国の神経をも逆なでし続けている。それはまるで自分を包囲してくださいと言わんばかりだ。そして、習近平が今回「終身独裁者」となったことは中国の外交に決定的なダメージを与えた。まさにルトワックが予言した通りの展開である。これが、いわゆる国際政治における「バランシング効果」だ。突出しすぎる国は周辺諸国に警戒され、包囲されて潰される。戦前の日本はまさにこの罠に嵌った。どうも今度は中国の番らしい。ベトナム・ダナンの港にいかりを下ろした米原子力空母カール・ビンソン(中央)=2018年3月5日 3月5日、アメリカ海軍の原子力空母「カール・ビンソン」がベトナムのダナン港に到着した。ベトナム戦争終結後、実に約40年ぶりのベトナム寄港だ。これは何を意味するのか? そして、これだけ重要なニュースを日本のマスコミがちっとも大きく報道していない。まさか内部に時代遅れのパンダハガーを抱えているのでなければよいが・・・。 

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    「習近平独裁」を中国人はなぜ歓迎するのか

    高口康太(ジャーナリスト、翻訳家) 2018年2月25日、中国国営新華社通信は中華人民共和国憲法改定案を発表した。3月5日から約2週間にわたり開催される全国人民代表大会(全人代)で最終的に決まるとはいえ、既に党上層部のコンセンサスが取れているため、提案通りに改定されることは間違いない。 中心は国家主席の任期を連続2期までとする制限の廃止だ。中国の最高指導者には共産党総書記、国家主席、軍事委員会主席の三つの肩書きがあるが、そのうち任期規定があるのは国家主席のみ。この制限を廃止したことで、論理的には習近平による終身政権も可能となる。 毛沢東の死後、中国は大きく転換した。定期的なトップ交代を実現し安定的な政治環境を作り上げ、市場経済を導入し高度成長を実現してきた。約40年間にわたり続いてきた中国の大方針が今大きく転換しようとしているのではないか。世界は大きな驚きで「習近平の中国」の変化を見つめている。中華民国大総統、中華帝国皇帝の袁世凱 一方、実際に中国に住む市井の人々は改憲を、そして習近平の統治をどう考えているのだろう。日本をはじめ各国の報道では、中国のインターネット上で批判があふれていることが取り上げられた。まとめると以下のような話になるだろうか。 よく知られているとおり、中国のネットは厳しい検閲が敷かれているため、直接的な批判は難しい。そこで「車をバックさせる動画」で改憲は時代の逆行だと揶揄(やゆ)する。あるいは中華民国期に皇帝として即位した袁世凱の名前を出したり、袁が定めた元号「洪憲」や袁が作った銀貨「袁大頭」などの語句を使って、習近平が皇帝に即位しようとしていると風刺した。こうした婉曲(えんきょく)的なキーワードもすべて検閲対象となったが、今度は「移民」というキーワードの検索数が急上昇。ネットユーザーは書き込みではなく、検索という行動で不満を表明したわけだ。その結果、検閲トレンドでは「移民」がホットキーワードに。検索トレンド表示サイトまでも検閲対象になる異例の事態となった… と、こうした報道を見ると、習近平の改憲に中国人は大きな不満を抱いていると感じてしまうが、そうした理解には落とし穴がある。日本もそうだが、ネットのブームと現実のブームはまったく別物だ。政治に関してもネット世論と一般の世論は完全に異なる。 日本ならばソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)のホットトレンドや人気と世論調査の隔たりを比べれば、違いが一目瞭然だ。でも、世論調査が禁じられている中国では、一般市民の意見を知るためのツールはネットしかない。そのため、ネットの流行やムードが過剰に注目されるという側面が強い。毛沢東時代を知らない子どもたち こうした状況で中国人の「総意」を知ることは極めて困難だが、第一に抑えておくべきは、大多数が政治に無関心という点だろう。自分とは関係ない政治の話よりも、仕事に関する情報や娯楽に関する話のほうが気になるのは、中国人のみならず全世界の人々に共通ではないだろうか。政治の話に興味を持つ人の中でも、小難しい政策論よりも、「**という政治家が愛人を作っていて…」というゴシップを楽しんでいる人のほうが多数だ。 その上で政治に関心を持つ一部の人々にとって、改憲はどのように受け止められているかという話を考えてみよう。2000年代、ネット掲示板、ブログ、SNSと新たな発信ツールが次々登場する中で、政府批判はネットユーザーにとっては一種のトレンドであった。大学生を含め、教養ある者にとっては政府の問題を批判し揶揄するのが当然という風潮があった。中国共産党の習近平総書記(右)と毛沢東の肖像が描かれた乗用車内に飾るお守り。北京市内の公園で販売されている(共同) 現在ではこうした風潮はすっかり消え去ってしまった。一つには習近平政権になってからというもの、検閲や摘発の範囲を拡大したことがあげられる。以前ならばデモやストライキの呼びかけや最高指導者への侮辱などの取り締まりに限定されていた検閲や摘発を拡大した。 もう一つは、中国の高度成長を生み出した中国共産党の支配に対して理解を示す人が増えてきたためだ。以前ならば、政府批判は教養ある者にとっては当然のふるまいだったのだが、最近では逆に批判者を揚げ足取りだとたたくようなムードもある。こうした新たなトレンドの中でも、私が注目しているのが仕事や留学で海外の民主主義国での生活経験を持つ中国人による共産党支持だ。 海外在住の中国人ですらも洗脳が解けないほど中国共産党による統治が高度化した…という話ではない。 「憧れの先進国、民主主義国」だったはずが、実際に住んでみると社会問題は山積みだ。汚職もあるし格差もある。民主主義によって英明な指導者が生まれるかと思いきや、どちらかという衆愚の側面が目立ってしまう。「人権はないかもしれないが、強引に人民生活を向上させている中国のほうがまだましではなかろうか。少なくとも欧米メディアに書かれているほど悪い支配ではない」との思いを抱く人が生まれているのだ。 洗脳の結果ではなく、世界を知った上で独裁を支持する新たな世代の誕生だ。彼らからみれば、習近平がより大きな権力を握り、経済改革や汚職対策を進めることは歓迎すべき事態なのだ。 新たな世代が改憲に対する抵抗感が薄いのは毛沢東時代を知らないことも大きいだろう。毛沢東への権力集中がどのような悲劇をもたらしたのかは歴史が示すとおり。文化大革命以後の中国の体制はそうした混乱を繰り返さないように作り上げられたものだ。習近平への権力集中が政治的混乱につながることは十分に考えられる事態と思われるが、このリスクを軽視するのは「毛沢東時代を知らない子どもたち」がゆえなのだろう。(文中敬称略)

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    「巨竜退治」トランプは習近平の野望を砕けるか

    江崎道朗(評論家) 中国共産党の習近平総書記(国家主席)は、ついに長期独裁の野望を隠すことをやめたようだ。 なにしろ3月5日に始まった全国人民代表大会(全人代)において、国家主席の任期制限をなくす憲法改正に踏み切るというのだ。そうなれば、習氏は2期目が終わる2023年以降も国家主席にとどまることが可能になる。 習氏率いる中国共産党政府による横暴は近年、目に余る。尖閣諸島を含む東シナ海での挑発行動だけでなく、南シナ海のスプラトリー群島による基地建設、ミャンマーやスリランカなどの港湾使用権の奪取と、軍事力と経済力を使った強引な拡張主義は、アジア太平洋諸国の反発を買っている。 そして、この中国の拡張主義が、トランプ政権を誕生させたという側面があるのだ。 2013年、中国人民解放軍は「ショート・シャープ・ウォー」(短期激烈戦争)といって、ミサイルと海上民兵によって沖縄・南西諸島を攻撃し、米軍が助けに来る前に日本を屈服させるという軍事侵攻計画を作り、その訓練を実施した。 この「ショート・シャープ・ウォー」の情報をアメリカ太平洋艦隊の情報部門の責任者であるジェームズ・ファネル大佐がつかみ、この情報を同盟国日本に伝えるべきだと提案したのだが、オバマ民主党政権は否定的だったという。 そこでファネル大佐は、あるシンポジウムでこの情報を漏らした。当然のことながらアメリカでは大騒ぎになり、「ショート・シャープ・ウォー」は米国防総省の2014年版の『中国に関する年次報告書』にも明記された。が、ファネル大佐は、この情報を漏らしたことが原因で米軍を辞めざるを得なくなったと聞いている。南シナ海での中国による軍事基地建設を阻止する活動も、米軍はさせてもらえなかった。 このようにオバマ前大統領の下で米軍は、中国の脅威に立ち向かう活動をさせてもらえなかった。加えて国防予算も削られたため、米軍幹部の中には、オバマ民主党政権の安全保障政策を自嘲的に「アメリカ封じ込め政策」と呼んでいる人もいたほどだ。2016年9月、中国浙江省杭州で開かれた米中首脳会談に臨むオバマ米大統領(左、当時)と中国の習近平国家主席 そのため2016年の大統領選挙では、米軍再建を主張するトランプ候補(当時)を、米軍関係者は死にもの狂いで応援した。この応援がなければ、アメリカはヒラリー民主党政権になっていたはずだ。 そもそもアメリカは一枚岩ではない。オバマ大統領のように中国びいきの人たちをパンダ・ハガー(パンダに抱きつく人)という。一方、中国の台頭に警戒心を抱いている人たちもいて、ドラゴン・スレイヤー(竜を退治する人)と呼ばれる。このドラゴン・スレイヤーの筆頭格が、尖閣危機の情報をリークしたファネル大佐だ。 では、中国はなぜこんな軍事大国になったのか。それは経済的な発展を遂げているからだ。言い換えれば、中国の経済発展をスローダウンさせれば中国軍の力は落ちる。そこで通商、金融、軍事、外交を組み合わせて中国の軍事的台頭を抑制しようという対中政策を提唱しているのが、『米中もし戦わば』(文藝春秋)という本を書いたピーター・ナヴァロという経済学者だ。核ミサイルを大量に保有している中国と戦争するのはもう無理だから、通商・金融政策で中国の経済力を奪い、軍事能力を奪っていく方策をとろうというわけだ。力を増す「ドラゴン・スレイヤー」 トランプ大統領は就任当初、アメリカの通商政策の司令塔として新設した「国家通商会議」のトップに、このピーター・ナヴァロ氏を据えた。そして、このナヴァロ氏が「私が中国の軍事問題に対して適切な判断ができるようになったのはこの人のおかげである」と言って著書の冒頭に記した名前が、先ほどのファネル大佐なのだ。 ナヴァロ氏の影響を受けたトランプ大統領は一昨年の大統領選挙の最中から、アメリカの国内産業が空洞化し、中産階級が没落したのは、中国によるダンピング輸出が一因だと訴えてきた。 奴隷労働や環境コストを無視することによって不当に安い値段で電化製品や衣料などを輸出し、世界中の市場を支配し、アメリカのモノづくり産業を破壊してきた。よって中国の不公平な貿易慣行を是正し、中国からアジア太平洋地域での経済的権益を取り戻すことがアメリカ経済を復活させるために重要だと考えているのだ。対中強硬派というのが、トランプ政権の基本的な性格であった。 ところが、大統領に当選した直後に、北朝鮮による弾道ミサイルと核開発問題が浮上した。 実はオバマ政権の間に軍事費が大幅に削られたため米軍が弱体化してきており、すぐ北朝鮮に対して軍事行動を起こせる状況ではなかった。そこで時間稼ぎの必要もあったのでトランプ政権としては中国の習近平と組んで北朝鮮に圧力を加える方策を採用し、対中強硬策を控えてきたが、はかばかしい成果は見られなかった。 昨年11月にはわざわざ訪中して北朝鮮問題への協力を改めて依頼したが、成果がなかった。 そこでトランプ大統領は昨年12月18日、アメリカの安全保障政策の基本方針を示す「国家安全保障戦略」の中で、中国とロシアを力による「現状変更勢力」、すなわち「米国の価値や利益とは正反対の世界への転換を図る勢力」として名指しで非難した。 このトランプ政権の「反中」戦略に真っ向から批判したのが、アメリカ内部のパンダ・ハガーたちであった。彼らは「中国は経済発展とともに民主化を目指していくはずなので、あくまで中国との友好関係を重視すべきだ」と主張していた。 だが今回、中国共産党自らが「長期独裁を目指す」と主張したのだ。トランプ政権を支えるドラゴン・スレイヤーとすれば、「ほらみろ、中国共産党は長期独裁を目指すと自ら言っているではないか。トランプ政権の反中戦略は正しい」となる。長期独裁を目指す習氏のおかげでアメリカでは、ドラゴン・スレイヤーの力がますます増していくだろう。中国・北京の故宮で京劇を見るトランプ米大統領(左)と習近平国家主席 そして、このトランプ政権のドラゴン・スレイヤーが期待しているのが、日本なのだ。「インド太平洋戦略」と称してASEAN、台湾、インド、オーストラリアなどと経済、安全保障、外交の三つの分野で関係を強化しようとしている安倍外交を、高く評価している。 期待が高いだけに実際に軍事紛争が勃発した際に、日本が軍事的に大したことができないとなると、日米同盟は致命的な傷を負いかねない。何よりもさらに独裁体制を強化した習近平政権はますます日本に対して牙を剥(む)くことになるだろう。特に尖閣諸島は極めて危険な状態だ。 この危機に対応するためには、日本自身の防衛体制の強化、つまり防衛大綱の全面見直しと防衛費の増額、そして憲法改正を進めるべきなのだ。

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    「このままでは米や日本は中国の属国になる」とS・バノン氏

    か、日本はどう生き残ればいいのか。2017年12月中旬、来日中だったバノン氏に訊ねた。 * * * 中国について語ろう。習近平氏は今世紀における最も重要な政治家だ。彼は2016年10月の第19回党大会で(中国の台頭を強調する)演説をおこなった。真の21世紀は、もしかするとこの演説から始まったと言えるかもしれない。 彼の思考は100年単位だ。人民共和国の建国100周年となる2049年を一つの目安に考えている。この100年で、アメリカとの壮絶な競争は終わり、中国が勝利する(と習氏はみなしている)。自民党総裁外交特別補佐の河井衆院議員と会談する、スティーブン・バノン前米大統領首席戦略官=2017年12月18日、東京都(代表撮影) さらに習氏は、将来5~10年の間に、中国が次の課題を達成すれば、やがて真の覇権国となれると考えている。 第一に(次世代技術の開発や情報化と工業化の融合などの)10の重点分野を盛り込んだ成長戦略「Made in China 2025」だ。中国は半導体チップ・AI・ロボティクスなどの分野をコントロールし、新時代の製造業を支配していく。 第二、第三は地政学的なユーラシア戦略である「一帯一路」と、海上戦略の「真珠の首飾り」(*1)だ。これには19世紀以来の地政学すなわちH・マッキンダーのハートランド・アジア戦略、A・マハンのシーパワー理論、そしてN・スパイクマンのリムランド理論(*2)の3つの偉大な地政学的概念が反映されている。【*1いずれも習近平政権下で重視されている、陸海それぞれのユーラシア各国の取り込み戦略。海と陸の新シルクロード戦略とも呼ばれる。*2いずれも、地理的環境が経済・政治・軍事各方面で国家に及ぼす影響を論じる地政学の基礎を築いた理論家】 これらにより、中国は中央アジアやイスラム圏も含めたユーラシア全体を自国の重商主義的な経済システムに取り込んでいくだろう。「中国の民主化」はファンタジー 第四として、中国は人民元をオイルマネーに変換することによって米ドルを外貨準備金から外し、世界的な金融大国となる。さらに第五として、フィンテック(金融とITの融合)によって、中国は日銀及び連邦準備制度の影響を受けない経済を作り出すのだ。これらの目標が達成されれば、アメリカや日本は中国の属国となるだろう。 これにいかに対処するか。まず、「中国の民主化」に期待して支援するのは単なるファンタジーだ。4000年の歴史を有する中国は、近代史においてアヘン戦争から太平天国、義和団の乱、日本との戦争、そして文化大革命を経ても本質的には変わらなかった。中国が世界の普遍的価値観に則った国に変わることは非現実的だろう。近い未来の民主化などはジョークでしかない。 日本を含めた西側諸国ができることは、中国に法の支配(の概念)を植え付けること。そして、南シナ海での拡大や北朝鮮問題に、日米をはじめ各国で対処していくことだ。また、日本はアメリカに行動してもらうことを待つのではなく、自身の問題として立ち上がり動くことが求められる。※画像はイメージです(iStock) アメリカと日本のエスタブリッシュメントは、中国の強大化を40年にわたり座視してきた。ゆえに現在の状況が生まれている。 アメリカの労働者はエスタブリッシュメントたちよりもこの問題をよく理解していたから、トランプを大統領に選んだ。日本人もまた、自身がなすべきことをよく考えてみてほしい。【PROFILE】Stephen K. BANNON/1953年11月、米東部バージニア州南東部のノーフォーク市生まれ。1976年にバージニア工科大学を卒業。海軍入隊。ジョージタウン大学でも修士号を取得。海軍除隊後、ハーバード・ビジネス・スクールでMBAを取得。ゴールドマン・サックス勤務を経て1990年に独立し、メディア向けの投資銀行を設立。その後、ニュース・サイト「ブライトバート・ニュース」の運営会社会長に就任。その手腕を見込まれ、トランプ陣営の選挙キャンペーンの責任者に抜擢。●取材・構成/安田峰俊関連記事■ S・バノン氏「安倍首相は日本人にプライド抱かせる指導者」■ 中国共産党が恐れる郭文貴を直撃 「宿敵・王岐山を絶対潰す」■ 安倍首相はチャーチルやドゴールと並ぶ大指導者になる可能性も■ メラニア氏 昭恵氏に「なぜ韓国の話ばかりするの?」と疑問■ 2018年は米朝和平の動きが本格化か 転機は米大統領中間選挙

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    王岐山は引退してもなお習近平の近くに留まるのか

    岡崎研究所 中国共産党大会が終わると普通、政局は安定しますが、今回は少し事情を異にしているようです。その“台風の目”の一つが王岐山の動向です。習近平、王岐山に好意的すぎる嫌いはあるが、香港のサウス・チャイナ・モーニング・ポスト紙の王向偉・元編集長が12月2日付けの論説で、それについての分析を書いています。要旨は次の通りです。中国全人代に臨む習近平国家主席(左)と王岐山・前共産党中央規律検査委員会書記=2018年3月5日、北京の人民大会堂(共同) 第19回党大会とそれに続く一連の人事において、王岐山の処遇が注目を集めた。習近平の権力強化は一層進んだにも関わらず、王岐山は政治局常務委員に留任せず、王の引退は海外に驚きをもって受け止められた。 しかし、SCMP紙が報じたところによると、王岐山は依然として政治局常務委員会の重要会議に参加し続けている。この処遇は異例であり依然として王が政治的影響力を有していることを示唆している。王は来年3月の全国人民代表大会で国家副主席に就任するとも言われているが、これは形式に過ぎず、政治局常務委員会の会議への実質関与こそ、既存の定年や任期に関する不文律を犯すことなく、習と王との今後5年間の協力関係を可能とする上手なやり方だ。 2012年以降、王岐山は習近平の権力確立に大きく貢献した。王は、党の非公式な定年ルールに従えば引退ということになる。習近平に対し、そのルールを破って王を留任させる働きかけがかなり前からあったが、結果として、習は他の派閥からの反感を避けるためにそれに同意しなかった。 習近平はそれでも王岐山を残しておくため、政治的な工夫と前例を踏まえた慎重な考慮を経て、王の新しい役職を用意した。過去に、国家副主席が政治局委員でなかった例は80年代の王震と90年代の栄毅仁の2件がある。また、1980年代後半に国家主席だった楊尚昆は政治局委員でありながら、政治局常務委員会に参加できる特権を与えられていた。 後知恵的に考えると、王岐山の新しい役職を予期させる出来事は党大会前の9月の2つの会談であった。シンガポール首相リー・シェンロンとの公式会談とスティーブン・バノン(前トランプ大統領首席戦略官)との私的会談である。リーと会ったとき、王は会談の許可を求めたと話した。おそらく習近平の許可であろう。バノンとの会談についても同様であろう。国家副主席は基本的に形式的な役職だが、王にとり各国の指導者と会うために必要な公的な肩書きを与えるものである。習近平改革はまだまだ続く 王岐山の政治局常務委員会の会議への参加は、王が反腐敗に限らず、より広範な戦略的課題に関わる権限を与えられることを意味する。王の反腐敗における成功は、王の問題解決能力を見せつけるものであり、習近平にとって、王がこのまま政治の場から退場するのはあまりに惜しい。王を残しておくことは、反腐敗キャンペーンの推進は変わらないという強いメッセージになり、中央政府と習近平の権威、そして中国の全体的な政治的安定を促進することになるだろう。出典:王向偉, ‘Despite retirement, Xi’s right-hand man Wang Qishan is still within arm’s reach’(South China Morning Post, December 2, 2017) 王岐山の国家副主席への就任と対外関係の担当は、党大会直後から流れている説です。今回の党大会は、これまでと大きく異なる点が少なくありませんが、その一つに党大会後も政局が安定しない点があります。つまり、通常は党大会において党の人事が固まれば実質すべてが決まったことを意味し、翌年3月の全国人民代表大会における諸決定(国家主席に始まる諸人事等)は事前に予測できたのですが、今回は事情が異なるようです。その一つが王岐山の今後にあります。 本論評は、習・王の立場に立ったものになっています。王岐山がジェフ・ベイダー元国家安全保障会議アジア上級部長と会うなど、間違いなく対米関係は始動しています。また広東省時代から王の側近を務めてきた周亮が、中央規律検査委員会の組織部長から中国銀行業監督管理委員会の副主席に栄転していることが確認されています。「日中ハイレベル経済対話」の全体会合に臨む、中国の王岐山・副首相(中央)ら =2009年6月7日午前9時53分、東京都港区の外務省飯倉公館(代表撮影)  何らかの形で王を救うという話までは党内で了解が成立した可能性は高いです。しかし、それを超えて、何をどこまでやらせるかについての決着は、全人代までずれ込むという見方もあります。 事態をさらに複雑にしているのが、王岐山と並ぶ側近である栗戦書を序列3位の政治局常務委員会委員としたことです。前任は張徳江であり全人代の委員長でした。そこで栗も全人代を束ねることが想定されており、何か仕掛けてくるのではないかと思われています。単に「法治の改革と強化」の故に立法機関である全人代が重要だというわけではありません。同時に行政、司法、監察等に対する監督機関でもあるのです。習近平改革はまだまだ続くということであり、王と栗は、その重要プレーヤーなのです。

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    中国共産党が恐れる郭文貴を直撃 「宿敵・王岐山を絶対潰す」

    だが、初対面では礼儀正しい印象の人物だ。 だが彼の素顔は、かつて北京五輪がらみの公共事業に食い込み、中国の情報機関である国家安全部(国安部)や公安部とも協力してきた筋金入りの政商である。2014年、親交のある国安部元副部長・馬建の失脚を前に海外へ逃亡した。動画投稿サイト「ユーチューブ」で中国の王岐山・党中央規律検査委書記の腐敗疑惑を暴露する郭文貴氏の映像(共同) やがて昨年春、自身が中国政府に国際指名手配を受けた前後から、郭文貴は様々なメディアや自身名義のYouTubeなどで多数の党高官のスキャンダルの「爆料」(暴露)を開始。中国政界に激震をもたらしはじめた。 特に苛烈な攻撃を加えたのは、習近平政権第1期に党中央紀律検査委員会(中紀委)を率いて汚職摘発の辣腕を振るった王岐山(おうきざん)と、公安・司法部門のトップだった孟建柱(もうけんちゅう)だ。 郭は王岐山について、大手エアライン海南航空との一族ぐるみの癒着、隠し子の存在や女優との醜聞を暴露。また孟建柱についても、愛人と隠し子問題、江沢民派による権力奪取目的の秘密会合「南普陀会議(※注1)」への出席などを明らかにした。【※注1/習政権の成立前、江沢民派が開いたと郭が主張する秘密会議。胡錦濤の腹心・令計画の息子の暗殺が決定されたという(公的には事故死とされる)】 内容の信憑性に疑問の声も上がるが、稀代の梟雄・郭文貴の弁才がフルに発揮されたネット動画には独特の魅力もあり、国内外の多数の中国人を惹きつけている。 中国共産党が最も恐れる男・郭文貴。2018年、彼が採る次の一手は何か? ニューヨークで2時間にわたり本人に直撃した。──一連の暴露で、王岐山と孟建柱への攻撃が特に激しい理由は何でしょうか?「3点ある。第一は法治に反した王岐山らへの反抗だ。中紀委を握った王の権力は肥大し、反腐敗を口実にやりたい放題だった。孟建柱も警察機構・検察院・裁判所を押さえていた。連中は強大な権力を背景に国家を盗み取った「盗国賊」だ。こうした悪人どもに打撃を与えるには、秘密の暴露こそ最強の攻撃なのだ。 第二は、私自身や大事な人たちへの迫害だ。王岐山らは私の帰国を要求し、家族と200人余りの従業員を脅迫した。彼らを守らなくてはならない。また、私の中国国内の資産の差し押さえも不当で、断固抗議する。 第三に、私は中国の情報機関に長年協力してきたので、王岐山や孟建柱の過去を知っている。2000年代後半、馬建と当時の中紀委はすでに王や孟の乱倫や汚職を調査していたのだ」次のターゲットは?──仮に弱みを握られていたなら、壮絶な逆襲を受けるのは明らかなのに、王岐山らはなぜ郭さんの摘発を考えたのでしょう?「ここまでの逆襲は予想外だったのだろう。普通、中紀委や公安に逆らう中国人は皆無だからな。 しかも、私は2006年の劉志華(※注2)の失脚の際も、当時の北京市長だった王岐山とやり合っている(笑)。まさか2度も逆らうとは思わなかったに違いない」【※注2/北京市元副市長。五輪インフラ整備に携わったが失脚。郭が籠絡していたとの説がある】──習政権第2期、王岐山は常務委員(党最高幹部)に残留せず、孟建柱も中央委員を外れました。暴露の影響はあると思いますか?「当然だ。なかでも王岐山は海南航空との癒着問題、孟建柱は彼の隠し女児と南普陀会議への参加が決定的なダメージになった」──他にも様々な党幹部の醜聞を公開しています。次のターゲットは?「それは言えない(笑)。大事なのは、私の家族や従業員や資産に害を与えているのは誰かということだ」──習近平の一族にも汚職疑惑があります。従来、習を直接批判していないのはなぜでしょうか?「習主席に善悪の評価を下すのはまだ早い。仮に彼がヒトラー式の独裁をしたり、世界の平和を乱すなら問題だが、そうではないから。私は習主席が中国の法治・民主・自由にどのような姿勢を示すか注目している」中国全人代で政府活動報告に向かう李克強首相(右)と拍手する習近平国家主席=2018年3月5日、北京の人民大会堂(共同)──一連の暴露行為の情報ソースは何ですか?「多くのチャンネルがある。王岐山の海南航空癒着問題を例にすれば、国安部の馬建が以前から調べ上げていた。また富豪ゆえの人脈もある。 私は海航の幹部何人かと親しく、また日米を含めた各国に、同社の関係者と私の共通の友人が何人もいる。王ではつかみ切れない世界だろう(笑)。ただ、最も重要なソースは国安部経由で得ている」──党幹部が政敵の失脚を目的に情報提供する例は?「無数にある。習主席のスキャンダルが最も多いが、他にも様々だ。党高官の99%は問題を抱えているからな(笑)。ただ、私は他人の政争の道具にされるのはゴメンだから、それらはほぼ使わない。 なにより、連中のリークは正義が目的ではないので嘘が交じる。私は過去の暴露において嘘を言ったことはなく、不確かな情報は使っていないのだ」パンドラの箱を開けるのか──あなたが暴露した情報に、嘘は一切ないと?「ない。(昨年5月)中国の国安部の連中が私に「これ以上暴露をするな」と交渉に来たのが何よりの証拠だ。仮に私の話が嘘なら、彼らはそんなことを言わない」──郭さんは昨年7月、王岐山が有名女優でハリウッドにも進出した范冰冰(ファン・ビンビン)の性接待を受けたことを匂わせ、ツイッターに「ハメ撮り現場」の写真を投稿しましたが、それは彼女の映画の一場面を切り取ったものでした。あれは嘘ではありませんか。中国全人代の開幕式を終え、笑顔で引き揚げる王岐山・前共産党中央規律検査委員会書記=2018年3月5日、北京の人民大会堂(共同)「一種の「釣り」だ。画像には彼女の特徴が写っており、見る者が見れば意味がわかる。私はその証拠動画を持っている」──ならば、なぜ動画を公開しないのですか?「流せばアメリカでは犯罪になる。これはポルノの流出だ。范冰冰は(権力者の毒牙にかかった)被害者であり、加害者ではない。彼女を傷つけるに忍びない」──そうなのでしょうか?「多くの人が虚々実々の印象を受けることは理解する。だが、私が動画を持っていることは事実。それ以上に、王岐山が強大な権力を有し、傍若無人に好色にふけったことは事実なのだ。私の主張は、結論から見ればなんら間違ってはいない」──暴露を9か月間も続けていると、ネタ切れをしたり情報の質が下がる恐れはありませんか?「いくらでも語るべき情報はある。なにより、党の上層部には真の『パンドラの箱』が存在するのだが、私は現時点でそれを開けていない。彼らが最も恐れる情報はまだ公開していない」──公開する予定は?「各国の政府がそれを知りたいと言うならば、協力して答える気はある」■取材・文/山久辺参一(ジャーナリスト)関連記事■ 米元首席戦略官 亡命中国人大富豪と親密関係で憶測も■ 米亡命の中国大富豪 共産党とスキャンダル合戦■ 逃亡の中国人実業家 ブレア元英首相を利用し巨額詐欺■ 引退の王岐山が常務委員会に出席 来春には副主席就任か■ 習近平が鋭意浄化中の中国 それでも起きる男と女の事件簿

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    中国のネット検閲はどこまで進んだか

    中国のインターネット統制の中心的役割を果たし、「ネット皇帝」と呼ばれた魯煒氏が失脚した。民主化を訴える人々からは歓喜の声も聞かれたが、こうした雑音はどこ吹く風と習近平国家主席はネット言論の規制強化に突き進む。近い将来、ネット言論が中国の民主化を導く可能性はあるのか。

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    「習近平の独裁に黙っていない」中国ネットユーザーのあくなき闘い

    加藤隆則(汕頭大学長江新聞與伝播学院教授) 中国eコマース(電子商取引)が米国と肩を並べる成長を遂げていることはよく知られているが、情報の領域でもまた、中国のネット化は日本をはるかにしのいでいる。全国の新聞はほぼ無料で電子版を閲覧できるし、テレビのニュース番組も随時、視聴が可能だ。映像・画像を中心にした新進のネットメディアが、時に「削除」の横やりを受けながらも、新奇なニュース発信にしのぎを削っている。 都市部ではみながスマートフォンを手にし、露店の焼き芋屋まで携帯での代金決済が浸透している。私が教える中国南方の大学でも、学生はもはや財布を手にせず、主要な生活用品はすべて宅配で済ませている。中国は最もインターネットの恩恵を受けている国の一つである。 モノや情報のほか、国境をまたぐ人の移動も拡大している。公式統計によると、2016年の1年間で、海外を訪れた中国人は延べ1億3千万人を超え、中国を訪問した外国人は7630万人に達した。 世界各地の観光地ばかりでなく、大学にも中国人留学生があふれ、米ハーバード大学では国別最多の921人、留学生全体の2割近くを占める(同大公式サイト)。海外にいる中国人が携帯で現地の情報を発信し、世界の情勢はたちどころに流れ込んでくる。 列強の侵略によって半植民地化した近代以降、中国人が現在、少なくとも物質面において、過去にない豊かな生活を享受していることは紛れもない事実だ。まずはこの状況を頭に入れたうえで、言論統制を行っている巨大な隣国をとらえる必要がある。 習近平国家主席は共産党と軍の権力集中を進め、「一強」体制ができあがりつつある。毛沢東時代への逆戻りだと報じる日本メディアを見かけるが、東西冷戦下で鎖国体制を築いていた時代と今を単純に比較するのは、国際情勢や中国の経済発展、情報通信技術の発展を無視した荒唐無稽な暴論だ。中国共産党大会の習近平総書記=2017年11月、北京の人民大会堂 中国がネットを規制し、言論を統制しようとしていることは、同国を含む世界中が知っている。逆に言えば、そのことを最も切実に、身近に感じているのが中国の人々である。そのうえで、不便を感じながらも、生活に大きな支障がないために忍従している。だから、日本メディアが中国における言論弾圧の事例を繰り返し報じても、中国人の胸には響かない。 もっと言えば、日本メディアは他国を批判できるほど、言論の自由を堅持し、守っていると胸を張れるのだろうか。上司に意見も言えない記者が増えている。社内で言論の自由はほとんど保障されていない。世界における日本の報道自由度ランキングが年々悪化していることに対し、日本人はあまりにも鈍感に思える。 では、中国の言論統制をいかに把握すべきか。 第4回世界インターネット大会が12月3日から5日まで、浙江省烏鎮で開かれ、米アップル社のティム・クック最高経営責任者(CEO)、米シスコシステムズのチャック・ロビンス最高経営責任者(CEO)らの出席が注目を集めた。中国の巨大なネット空間は、たとえ規制があっても、無視できない市場なのだ。露骨なそろばん勘定が透けて見える。 政経分離が進んでいるのかと早合点しがちだが、習近平は開幕に寄せた書簡の中で、持論の「ネット主権」を強調し、「共同して発展を推進し、安全を保護し、ガバナンスに参画し、成果をシェアする」と述べた。相互の主権尊重にクギを刺したのだ。中国の言論の主戦場はネット すでに指摘したように、中国で言論の主戦場は、新聞でもテレビでもなく、世界の潮流に合わせてネットに移行している。米主導で進むネットでのルール作りに対抗して、自分たちの陣地を築かなければ、主権を飲み込まれてしまうとの危機感がある。政治とビジネスには明確な一線が引かれている。 だからグーグルを追い出して検索エンジンの「百度(baidu)」を育て、フェイスブックを遮断して「微信(ウィー・チャット)」が成長を遂げた。それを巨大な国内市場が国家ブランドをバックアップしている。国内企業の育成とともに、国家主権がかかわる以上、台湾や領土問題と同様、譲ることのできない「核心的利益」となる。 ネット規制の大義はまずこの一点、国内ではなく国外に向かっている。 次は政治闘争の側面だ。習近平は、旧勢力を打破するために反腐敗キャンペーンを利用した。周永康・元党中央政治局常務委員や中央軍事委員会の元制服組トップ2人をバタバタと摘発し、最高指導部には法が及ばないとする不文律を破った。 かなりの荒療治だけに返り血も浴びた。周永康が問われた国家機密漏洩罪には、習近平ファミリーの個人資産を米国メディアに流した事案も含まれ、また、周永康一派による習近平暗殺計画まで発覚した。 打倒された利益集団は、メディアやネットを使い、国内の不満に乗じて党内分裂を図ろうとする。それでなくても貧富の格差や民族、宗教など、不和の要因はいくらでも転がっている。習近平を過剰に称え、崇めることで、逆に反発を引き起こそうとする動きもみられる。内実は非常に複雑だ。 このため敵対勢力に寸分の隙をも許さないよう、メディアやネット全体への締め付けが強まる。政治と無縁の庶民にはいい迷惑だが、「ペン=言論」、「剣=軍」は権力を支える車の両輪なのだ。今のところ手綱を緩める余地は小さい。 三つ目は、国民全体への宣伝効果がある。習近平政権は今年に入り、ネット規制強化に乗り出し、中国と海外とを結ぶ仮想プライベートネットワーク(VPN)を遮断している。10月の第19回党大会を境にして一気に加速され、学生や教師も「海外の研究ができない」と悲鳴を上げた。香港中心部で行われた穏健民主派のデモ行進。左は中国共産党に反対する旗=2016年7月 だが、学生たちはいつの間にかいろいろな知恵を絞って、ファイヤー・ウォール(ネット攻撃などを防ぐソフト)を乗り越えるすべを探し出した。逆に束縛を受けている分、海外の事象に関する知的好奇心は、日本の学生よりも強いように感じられる。政権にとっても、一般庶民が自分の興味や研究のために情報を収集したところで、ムキになる必要はない。 むしろ目に見えるネット規制は、政権の思想イデオロギー統制を担う一種の宣伝工作として働いている。「ここまではOK、これを超えるとアウト」と、言論の自由に網をかけるシグナルを発しているのだ。 ネットユーザーはそのデッドラインを手探りしながら、時には隠語を用い、器用に泳ぎ続ける。庶民と権力が際限のない化かし合いをしている姿を想像してみればよい。いくら政権が政治標語を繰り返しても、多様な価値観に触れた若者たちはもはや振り向きもしない。内心うんざりしながら、現実的な選択をしているに過ぎない。投獄を覚悟した闘い 習近平がひと声かければ、全国民が震え上がって命令に従っているなどと考えてはならない。そうしたステレオタイプの一党独裁国家観では、実像からかけ離れるばかりだ。規制の裏には、それができていない危機感や焦燥感があることもあわせて考える必要がある。自信を過剰にアピールするのは、自信がないからなのだ。 あともう一つ、付け加えなければならない。 奇想天外なニュースがあふれる中国には、「ニュースの天国、記者の地獄」とのブラックジョークがある。 広大な国土と膨大な人口を乗せた高速鉄道が経済成長路線をひた走る一方、政治制度の不備や社会建設の立ち遅れから想像もできないような事件が頻発する。56の民族からなる14億人が多層の社会構造を生み出し、複雑な表情を見せる。5000年の歴史が不動の座を占め、針の先にも満たない微少な個人をのみこんでしまう。一つの国の概念では収まらない世界、それが中国だ。北京の天安門広場で警備する武装警察隊員。後ろは党大会が開かれる人民大会堂=2017年10月 ニュースの素材には事欠かないが、メディアは統制され、一党独裁体制を否定する言論や思想は、政権転覆扇動や国家機密漏洩罪のレッテルによって弾圧される。こうしたリスクを踏み越え、脇目も振らず真実を追求しようとする者は投獄の危険さえ覚悟しなければならない。 中国の主要大学には決まって置かれている記者養成の新聞学院(ジャーナリズム学部)も、メディア自体の凋落で求人が減り、職業の魅力が薄れたため、カリキュラムの大幅な見直しが進む。私が授業で取り上げているのは人工知能(AI)と人間との共存だ。 学部の学生たちは給料の高いネット関連や、その他、企業の広報、PR部門へと殺到している。この点は日本の若者と同様、政治への関心は薄れ、生活重視の価値観へと急速に転換している。党大会のニュースに関心を持つ学生はほとんどいない。 だが、弾圧があるということは、それに立ち向かう人物がいることを意味する。勇気を出して声を上げ、大きな犠牲を払って真実と正義を追求する人たちがいる。7月12日、61歳で亡くなったノーベル平和賞受賞者、劉暁波はその代表だ。簡単に「ペン」をゆがめる日本 私が直接会った人物の中で、忘れられないのは北京の法学者、許志永(1973年生まれ)だ。彼は大学で教べんを取っていたが、それに飽きたらず自ら社会の中に入り、憲法による権利擁護の実践を呼びかけた。度重なる弾圧にも屈せず、出稼ぎ労働者ら社会的弱者を救済する運動に身を投じたが、群衆を集めた「違法集会」を理由に刑事訴追され、2014年4月、懲役4年の刑を受けた。芯の強さとは裏腹に、物静かに国の将来を憂える姿は、私の記憶から消えたことがない。 情報統制による直接的なコントロールを受けない外国人記者は、「ニュースの天国」のみを享受できる特権的な立場にある。取材対象者に対する圧力や記者ビザ発給の制限で取材活動が妨げられることはあるが、中国人に対する締め付けとは比べものにならない。北京の中国外務省で記者会見する華春瑩副報道局長 私もかつて外国人記者の一人として「天国」の恩恵に浴したが、困難を乗り越え自由を勝ち取ろうとする中国人を間近に見ながら、常に自問してきたことがある。投獄の危険がない日本社会の中で、我々記者は真実を追求する気概と責任を忘れてはいないか。唯々諾々として会社や上司の指示に従い、人の批判を恐れてやすやすと妥協し、簡単にペンをゆがめてはいないだろうか。 新聞社の仲間から聞かされる話は、失敗を恐れる事なかれ主義が幅を利かせ、だれも責任を取ろうとせず、みなが押し黙って大勢に流されている姿だ。草を食みながら黙々と歩く羊の群れを思わずにはいられない。 北宋の詩人、蘇東坡は「人生、字を識るは憂患の始まり(文字を覚えて学べば思い煩うことが増える)」と説いた。字をなりわいとする者は生来、思考し、苦悩することから離れることはできない。雑踏の中から拾うべき事実を書きとどめ、歴史を記録する仕事への誇りを失えば、我々は時の記憶さえ失うことになる。明治の反骨ジャーナリストで『福岡日日新聞』編集局長を務めた菊竹六鼓は自伝に「憂患に生きて安楽に死ぬる」の境地を記した。 『旧唐書』に次の言葉がある。 「銅を鏡と為せば、衣冠を正すことができる。古を鏡と為せば、興亡を知ることができる。人を鏡と為せば、得失を明らかにすることができる」 人は外部環境からの反射によって自己認識を深める。環境を自分から切り離してながめても、外野で野次を飛ばしているようなもので、ストレスの発散にしかならない。隣国をいかに知るかという作業を通じ、我々は多くのことを学ぶことができる。内省を欠き、優越感とコンプレックスの矛盾が生む中国脅威論や中国崩壊論は、百害あって一利なしである(敬称略)。

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    ネット検閲に1千万人動員 「ノミの心臓」習近平の世論操作

    高口康太(ジャーナリスト、翻訳家) 「自由微博」(フリー・ウェイボー)というウェブサイトがある。中国の大手ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)「微博」の検閲状況を明らかにするために匿名のネットユーザーによって創設された。微博で発表された書き込みをすばやく収集し、その後閲覧不能になったものを表示するシステムだ。 「劉暁波」や「RIP」と入力しても検索ができない 短文投稿サイト「微博」の画面=2017年7月19日 このサイトを見ると、検閲対象が一目瞭然だ。習近平総書記など中国共産党高官に対する批判から、話題の社会事件、さらにはノーベル平和賞受賞者の劉暁波氏などの(政府に抗議する)異見分子、人権派弁護士に関連する書き込みなどが対象となっている。原稿執筆時には、北京市の富裕層の子供が通う紅黄藍幼稚園の幼児虐待事件と、北京市の「低レベル人口」追い出し事件が特に注目の話題であった。 インターネットの普及からおよそ20年、中国政府は検閲制度とシステムの発展を続けてきた。特に習近平体制発足後の発展ぶりがすさまじい。現在ではSNSやネット掲示板、ウェブメディア企業による自主検閲、大学生など共産主義青年団(共青団)を中心としたボランティア、政府部局に雇われたサクラなど多層的な検閲システムが用意されている。サクラはいわゆる「五毛党」と呼ばれ、かつて一書き込みあたり5毛=約0・9円の報酬で求人が出ていたことに由来する。 また、いわゆるネット炎上事件をいち早く察知し対応するためのソフトウエアも開発されており、このネット世論監視ソフトを扱うための「ネット世論管理士」なる国家資格まであるほどだ。検閲・世論操作に従事する労働者は一説では1000万人を超えるという。ネット検閲を回避する手段を俗に「壁越え」という。最近では仮想プライベートネットワーク(VPN)を使う手法が一般的だが、やはり規制強化が進み、つながりづらくなっている。 これほどのリソースを費やしてまで検閲を行うのは中国共産党の危機感のあらわれだ。2002年から12年まで続いた胡錦濤体制の中国は「維権運動の10年」だったと言ってもいい。「維権」とは権利擁護を意味する中国語だ。土地収用、環境破壊、官僚の汚職、不当解雇、賃上げ要求、露天商に対する横暴な取り締まり…さまざまな分野で、政府批判の声が上がった。 司法の独立が担保されていない中国において、かつては「維権」の手段として活用されてきたのが陳情だ。中国の中央政府、地方政府には陳情担当の部局があり、正当なる異議申し立てのルートとされている。ただし、陳情を受け入れるかどうかは政府担当者の胸一つであり、まさに「いちるの望み」という言葉がぴったりの、極めて成功率の低い賭けであった。 2000年代中盤以降、陳情に変わりネット経由の告発が「維権」の新たな武器となった。ネット掲示板やSNSを活用して問題を告発し自らの窮状を訴える。その訴えが一定以上の注目を集めれば、政府とて無視できず救いの手を差し伸べざるを得ない。ネットの告発とて成功率は決して高いものではないが、少なくとも注目を集めるための手段を工夫する余地がある。 当時、「囲観」という言葉が流行していた。やじ馬を意味する中国語だが、ある社会事件について注目する、あるいは言及するようなやじ馬を集めることこそが政府に圧力を与え、譲歩を引き出す手段として認識されていた。何も全身全霊で支持する必要はなく、その問題について一言二言何の気なしにつぶやくようなネットユーザーが相当数存在すること。その事実が政府をおびえさせるというわけだ。書き込みを工夫してネット炎上に持っていくことができれば、勝算はある。陳情という相手頼みの手段とは異なり、主体的な取り組みができる異議申し立ての手法だった。ロウソクの絵文字まで禁止 ネットを活用した「維権運動」の最大の成功例として知られるのが烏坎(うかん)村の事例だろう。広東省陸豊市の烏坎村では村役人による横領が問題となった。村民らは汚職した村役人を追放し、自ら新たな村役人を選出し問題解決にあたることを求めて、抗議デモや陳情を繰り返して抗議したが、警察に逮捕された抗議運動のリーダーが取り調べ中に死亡したことをきっかけに抗議活動は激化。村民がバリケードを築いて村に立てこもり、その周りを武装警官隊が包囲する事件にまで発展した。 この間、村民らはインターネットを通じて積極的に情報を発信した。「武装警官隊に包囲された村」「民主選挙を求める村人たち」とはなんとも気を引く話題ではないか。多くの中国ネットユーザーがこの事件を「囲観」し、英BBCなど海外メディアも大々的に報じた。こうしてついに中国政府側は譲歩し、村民による独自選挙で新しい村役人を選出することに合意した。 胡錦濤体制末期にはこうしたネット炎上が政府の譲歩につながる社会事件が続出していた。習近平政権はネットを活用した抗議活動を統治の危機と考え、検閲体制を大幅に強化している。異見分子や人権派弁護士などネット炎上を演出し政府に圧力をかけるノウハウを持った人々に対しては逮捕、弾圧といった強行策をとったほか、前述した共青団による監視ボランティアの拡充、ネットサービスの実名化推進や自主検閲の強化などの体制づくりが進んだ。 2017年現在の中国ネット世論は5年前と一変している。ネット炎上事件がゼロになったわけではないが、検閲のスピードアップにより鎮火のペースは以前よりもはるかに速くなった。またネットユーザーの増加に伴い大衆化が進み、政治よりも娯楽に関心を寄せる人の比率が高まった。今、中国のネットを眺めてもかつてのような社会批判があふれかえっている光景はない。香港にある中国政府の出先機関「香港連絡弁公室」前で 劉暁波氏を悼み記帳する人たち=2017年7月14日 もっともネットから政府批判が一掃されたわけではない。例えば今年7月、劉暁波氏が死去したとき、政府はこの話題に関する検閲を断行、ロウソクの絵文字まで禁止するほどの徹底ぶりを見せた。それでも一部の人々は「先生がお亡くなりになった」「惜しい人をなくした」などの表現で自らの心情を表現した。 また近年流行しているのが、音声による情報拡散だ。「アジアのノーベル賞」と呼ばれるマグサイサイ賞を受賞した人権活動家の陳光誠氏は2012年から米国に在住している。陳氏に関する情報は検閲対象だが、その講演録は音声ファイルという形で中国のネットに流通しているという。検索可能な文字情報は検閲がしやすい。動画情報は厳格に規制されておりやはり流通が困難だ。政府が察知しづらく、またファイルサイズも小さいため、気軽に送れる音声ファイルでの情報流通が広がっているという。陳氏は「ユーチューブで動画を公開した15分後には音声ファイルが出回っていた」と話す。陳氏以外でも、多くの講演が音声ファイルとして広く出回っているという。 胡錦濤体制当時のような表だった盛り上がりはないが、水面下では当局がひた隠しにする情報が流通している。中国政府は検閲技術の向上や人海戦術によってさらに規制を強化していくだろうが、この流れを完全に絶つことはできないだろう。この水面下での情報流通が何を生み出すのか、見過ごしてはならない動きだろう。

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    中国民主化闘士のアイコン、劉暁波「血の代償」の意義

    三船恵美(駒澤大法学部教授) 基本的な人権を求めること、それが中国では「罪」にみなされてしまうのだ。 勇気をもって中国にとどまり言論活動を続け、非暴力で平和的な民主を勝ち取ろうと訴え続けた劉暁波氏の人生は、投獄や強制労働収容にも折れることなく、民主と自由の理想を追い続けるものだった。世界中で多くの人々が、劉氏の死に哀悼の意を表している。 中国の権威主義的な統治や専制制度の腐敗を批判して、自由や民主の尊重を求めてきた劉暁波氏が、2017年7月13日午後5時35分、「病死」した。まだ61歳だった。当局監視下で〝獄中死〟を遂げるまで、妻の劉霞さん(左)の解放を求め続けた劉暁波さん。劉霞さんは法的根拠もなく、今も軟禁下に置かれている(劉氏の家族提供・ロイター=共同) 「肝臓がんが全身に転移している」と中国当局が6月末に発表してから半月ほどで亡くなった。末期がんと診断されて刑務所から病院へ移送されたということは、中国当局が「中国における民主化闘士のアイコン」である劉暁波氏に、「刑務所での獄死」や「アメリカやドイツの病院でようやく治療されてからの絶命」ではなく、「中国内の病院での病死」で息絶えてほしかったのだろう。 最期の痩せ細った劉暁波氏の映像は、中国の人権問題に関心を抱く世界の人々に大きな衝撃を与えた。劉氏の耐えた苦しみやつらさを察して有り余るほどだった。劉暁波氏は、1989年の第2次天安門事件以来、威厳のある態度で、中国の自由や民主を訴え続けてきた。自らの良心に基づいて、専制体制の改革や批判を主張して亡くなった人物として、その背景は違うものの、ロシア人女性ジャーナリストのアンナ・ポリトコフスカヤ氏や、ロシアの元情報将校であったアレクサンドル・リトビネンコ氏を思い浮かべた人も少なくなかっただろう。 劉暁波氏は、中国における民主化闘士の象徴的存在として、服役中の2010年にノーベル平和賞を受賞した人物だ。劉氏は、世界人権宣言の公布から60周年目の世界人権デーにあたる08年12月10日に、「08憲章」を公表しようとしていた。しかし、その直前の12月8日、警察に連行されてしまった。劉氏は、09年12月25日の北京市第一中級人民法院(地裁に相当)における判決公判で、国家政権転覆扇動罪で懲役11年、政治権利剥奪2年の実刑判決を言い渡された。翌年2月に上訴が棄却され、判定が確定した。まさに、その年に劉氏は中国民主化運動のアイコンとしてノーベル平和賞を受賞したのである。 劉氏が出席できなかった授賞式では、受賞者席が空席のままという異例の形で行われた。ネットの規制が厳しい中国で、劉氏の死を悼む人々が椅子の写真を投稿していたのは、このためである。授賞式をめぐっては、式への招待を希望している著名学者や弁護士、人権活動家ら140人以上の出国を中国当局が禁止したことでも話題になった。「反体制の知識人」という表現は最適か 日本の多くのメディアは、劉氏を「反体制の知識人」と紹介する。果たして、その表現は最適なのだろうか。中国の社会構造は「一枚岩」ではない。また「体制派」と「反体制派」の勢力闘争をしてきたわけではない。劉氏は、「自治」と「共生」によって平和的に民主を勝ち取ろうと、ひどい受難に遭いながらも、希望を持ち続けてきたのだ。 「私に、敵はいない」。そう語った劉暁波氏を「反体制の知識人」として呼ぶならば、劉氏の人生や活動を矮小(わいしょう)なイメージに押し込めてしまうことにならないだろうか。 筆者に与えられたテーマは、劉暁波氏の人生や活動が中国や世界に及ぼした外交面・政治面での影響について語ることだ。そこで、若い読者には「08憲章」を知らない方がいるかもしれないので、まず、なぜ劉氏が「罪人」とされ、劉氏が起草した「08憲章」が何を主張していたかを概説することから始めよう。 劉暁波氏の名を世界が知るようになったのは、89年の第2次天安門事件であった。天安門事件から28年、香港で開かれた事件の犠牲者追悼集会でろうそくをともす人たち=2017年6月4日(共同) 北京師範大講師として、コロンビア大学で客員研究員であった劉氏は、第2次天安門事件が起こると帰国した。ニューヨークから北京へ向かう飛行機が東京で乗り継ぎだったため、帰国途中で、4月26日付『人民日報』の「動乱社説」を知った。「動乱社説」とは、胡耀邦元共産党総書記の死去を契機にデモを行っていた学生たちの行動を、鄧小平の指示によって「動乱」と決定付けた「旗幟(きし)鮮明に動乱に反対せよ」という社説だ。劉氏には、その時に東京からニューヨークに戻って、アメリカから中国の政治改革の主張を発信することもできたはずであった。しかし、劉氏は北京へ向かった。 天安門では、劉氏は「絶食4君子」の1人として、ハンガーストライキを指揮した。人民解放軍が学生らを武力で弾圧すると、劉氏は学生らの安全な撤退を解放軍と交渉した。事件後、劉氏は「反革命宣伝扇動罪」で投獄された。91年に出所すると、劉氏は国外へ亡命せず、中国国内に踏みとどまって人権と民主の尊重を訴え続けたのである。最後に発信した「08憲章」という主張 劉氏は、96年に政府批判の書簡を公表して、3年間の「労働改造所」送りの処分を受けた。08年暮れには、インターネット上で発表された「08憲章」の起草の中心的役割を果たした。劉氏は中国当局に逮捕され、「国家政権転覆扇動罪」で懲役11年の刑に服することになったのだ。獄中にあった劉氏は、中国当局から罪を認めれば釈放してやるといわれ続けても、応じてこなかった。結局「08憲章」は、劉氏が中国国内と国際社会へ発信した最後の主張となった。 「08憲章」は、以下を主な基本理念としていた。・権利としての自由(言論、出版、集会、結社、移動、ストライキ、デモ行進などの自由)・人権(国家が賜与する人権ではなく、人間が生まれながら享有している権利としての人権)・公民の社会的・経済的・文化的・政治的平等の原則・分権とチェック・アンド・バランス・主権在民と民選政府・憲政(憲法が公民の基本的自由と権利を保障する原則のもと、政府の権力を法が抑制する制度的措置として機能するしくみ) 「08憲章」の基本的主張の主な点は、以下についての提起である。・主権在民を原則とする憲法改正・三権分権の保証とチェック・アンド・バランスの確立・立法機関の直接選挙、公正正義な立法機関・民主的で平等な選挙の実施・司法の独立、公正な司法の保証、憲法裁判所の設立・軍の国軍化(※筆者注:人民解放軍は「党軍」)と党組織の軍隊からの退出・人権の保障(公権乱用による人権侵害の防止、人間としての尊厳や身体の自由の保障、不法な逮捕や拘禁や処罰をしないこと、労働矯正の廃止)・警察を含む公務員の政治的中立性・人の移動の自由(都市と農村の戸籍による差別の撤廃)・結社、集会、言論、宗教の自由・私有財産の保護・権限と責任が明確な財政の確立・すべての人民を対象とする社会保障制度の確立・教育・医療・養老・就業における基本的な保障・一党統治に奉仕するための政治教育と政治試験の廃止、普遍的な価値と権利を基本とする公民教育・党派によらない平等な就業機会・政治的迫害を受けた人々の名誉の回復・香港・マカオにおけるリベラルな制度の維持 「08憲章」が提起した内容は、欧米先進国であれば、生まれながらのあたりまえの権利として享有しているものだ。ただし、「08憲章」は中台和解と民主的憲政の枠組みにおける連邦共和国樹立についても提起しており、その点が中国特有の「例外」であることは指摘しておく。ベルリンの壁崩壊につなげた劉氏の勇気 劉暁波氏らの勇気ある活動や人生は、中国や世界の政治に影響を与えてきた。その主な点として、紙幅の都合で以下3点を挙げる。 その最も大きなものは、「ヨーロッパ・ピクニック計画」から始まった89年の東欧革命への影響だ。第2次天安門事件は、当時「天安門の虐殺事件」と世界で呼ばれていた。「人民解放」を冠とする軍の戦車が武器を持たずに抵抗していない学生や市民を踏みつぶして通り過ぎる映像を目にした東欧の指導者らは、「ブランデンブルク門を天安門にしてはならない」と口にした。中国の天安門事件を世界中が批判した教訓から、非暴力のデモに対して、東欧諸国の政府は武力で露骨に押さえつけられなくなったのだ。ゴルバチョフもソ連軍介入の要請を認めなかった。それが、同年末の「ベルリンの壁」崩壊へとつながったのだ。劉暁波氏らが指導した非暴力の民主化要求とそれによる「血の代償」は、国際政治史の中で意義あるものとして指摘される点だ。ベルリンの壁の前で遊ぶ子供たち=1990年3月 その一方で、劉暁波氏の悲痛な最期は、中国における民主化の動きを下火に向かわせるだろう。天安門事件を知らない若い世代は、劉氏の名さえ知らない。劉氏の人生と活動を知っている人たちであっても、中国当局が妻の劉霞氏や劉氏の支持者らを次々と厳しい監視下に置いている。また、劉氏の死をめぐる世界中からの批判を気にした中国当局は、劉氏やその周辺人物の名前のみならず、亡くなった直後に「くまのプーさん」までもが、インターネットで検索不能になるほどであった。一時的に「くまのプーさん」が検閲対象になったのは、入院中の劉暁波氏が劉霞氏と色違いでおそろいの「くまのプーさん」のマグカップで乾杯している写真がネットで拡散していたからだとみられている。 劉氏の人生や活動、そしてその悲しい最期は、中国で自由や民主を求めれば、つまりは中国共産党にあらがえば、いかに重い「代償」を払わされるかを、中国内で民主化の希望を抱いてきた人々や世界に知らしめることになったのだ。 最後に、「経済大国になった中国」が強権的な姿勢を見せても、世界の政治指導者らは中国の言うことを受け入れる、と中国が再確認してしまったということだ。劉氏の死をめぐり、中国への批判声明を公表した英国などの一部の例外を除けば、人権や民主や自由や法の支配といった「普遍的価値」を口にしている諸国の政治指導者らは、「経済大国になった中国」を前に、批判を避けた。ドイツのメルケル首相は、ドイツを訪問していた習近平主席に対して劉氏の受け入れを複数回表明していたと、報道されている。しかし、共同記者会見で劉暁波氏について触れることはなかった。米国のトランプ政権は、「米国の価値観を外国に押しつけない」と公言している。 「価値観外交」を唱えてきた日本政府の高官らは、劉氏の死を悼む言葉を口にしても、中国の人権政策について直ちに批判することはなかった。劉暁波氏の人生と死をめぐる一連の出来事は、中国の人権のみならず、安倍政権の価値観外交についても、日本人と国際社会に考えさせたのである。

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    ネットから見る中国社会 「スモッグ」が生み出した新たな政治参加

    古畑康雄(共同通信社記者) 「中国では、インターネットが出現する前には『世論』が存在しなかった」北京大学のネット研究者、胡泳教授は筆者にこう語っている。人民日報や中国中央テレビ、新華社に代表される中国の伝統メディアはあくまでも共産党や政府の指導方針を知らせるため、つまりプロパガンダの手段であって、民意を表出できる場ではない。ネットが登場する以前、人々が民意を表明できる場は口コミなどに限られていた。北京でスマホを閲覧する男性 ネットが登場し、特に「ウェブ2.0」という双方向型ソーシャルメディアが2000年代後半に相次ぎ出現したことで、人々はネットを使って身の回りの問題や政治、社会への意見を表明できる場を手にした。そうした網民(ネット市民)の相互交流から民間世論が形成され、政策決定にも影響するようになった。 中国の民衆が何を考え、政治、社会、外交などの問題についてどのような見方をしているかを知る上で、ネットは今や欠くことのできない手段である。特に日中関係において、日本の対中認識は共産党政権の強硬な姿勢や、それを受けた『環球時報』などのタカ派メディアの論調に影響されているが、ネットにはより多様な意見も存在する。 ただこうしたネット世論の急速な成長に脅威を抱いた中国政府は、オピニオンリーダーを逮捕、あるいは微博(短文投稿サイト)アカウントの強制削除などネット言論にも厳しい規制を加えている。このような中国ネット社会の情勢を拙著で紹介したが、本稿ではその後の状況を含め、掘り下げていきたい。 中国のネット社会ではしばしば新語が登場し、時代を象徴するキーワードとして人々の間に広がる。最近よく目にする言葉の一つに「為人民服霧」というものがある。中国各地を覆う「霧霾(スモッグ)」の別名なのだという。 無理に訳せば「人民に霧を服用させる」だが、中国に対する知識があれば、これは天安門広場にも掲げられたスローガン「為人民服務(人民に奉仕する)」のパロディであると分かる。 このようなスモッグに関する笑い話をネットで検索すると、北京の交通情報ラジオにある男性から電話があった。 「スモッグで信号がよく見えず、赤信号を4、5個も無視してしまった。どうしたらいいか?」ラジオ局のアナウンサーはこう答えた。 「大丈夫、スモッグが濃いからナンバープレートも見えない」1. 個人の対処法:マスクを着ける2. 家族全員の対処法:保険に入る3. 金と時間がある人の対処法:国外旅行に出る4. 土豪(成金的特権階層)の対処法:移民する5. 国家の対処法:風が吹くのを待つ6. 全人民の対処法:全部吸ってしまう など、枚挙にいとまがない。 こうしたジョークは、いずれも政府がスモッグ問題に対して無策であることを批判したものだ。当局が厳しい言論統制を続ける中、ストレートな批判をすると取り締まりの対象になってしまうため、人々はジョークだけでなく、様々な方法を用いてスモッグ問題で声を上げ始めている。その中心となっているのが、「90後」(1990年代生まれ)の若者や、都市部の中産階級である。ラジオ・フリー・アジア(RFA)などの報道によると、四川省成都市では次のような抗議活動がネットで広がったという。ネットを介した抗議の呼び掛け 成都では12月5日から大規模なスモッグが発生、ネットではもはや「成都」ではなく発音の似た「塵都」だと言われていた。こうした中、網民は「我愛成都、請譲我呼吸(私は成都を愛しています。私に呼吸をさせてください)」とネットで人々に市中心部の天府広場に集まって抗議することを呼び掛けたのだ。 この呼び掛けに対し、「成都の90後は自らの主張を始めた。彼らはもはや我慢できず、街へと出た。子どもたちにこんな生活をさせた、こんな世界を与えたことで、われわれはみな同罪だ」と、このような書き込みで応じたという。 さらに網民による「一人一図反霧霾」(1人1枚(写真)でスモッグ反対)というマスクを着け、スモッグの中で標語を掲げた写真を投稿するように呼び掛けるキャンペーンも行われた。 しかしこうした呼び掛けは、当然のことながら当局も警戒しており、10日に予定していた活動は事前に当局によって阻止された。微博での呼び掛けはたちまち削除され、管理者は「書き込みはデマだ」と声明を発表。同日の天府広場の入り口には大量の警官が配備され、人や車の進入が禁止となった。春熙路にはマスクをした若者が集団で地面に座ったが、警察に職務質問を受けたという。 「一人一図」の写真もたちまち削除され、スモッグを題材に作品を発表した成都のカメラマンも後日警察に呼び出されたようだ。RFAによるとこのカメラマンはネットに「スモッグ写真をネットで発表したため、カメラマンと助手が警察に連行された。このような写真は撮影も発表もできない」と書き込み、スモッグの中で立つ人やかすんで見えないビルなどの7枚の写真を掲載。さらに「次のような写真は多く発表すべきだ。カメラマンとしてわれわれはより多くの『正能量』を大衆に発表すべきだ」として、青空と白い雲の2枚の写真も載せたと報じている。 ここで言う「正能量(プラスのエネルギー)」とは、中国共産党や政府を賞賛するような内容のことで、多くは「五毛党」と呼ばれる御用ネットユーザーらによる書き込みや文章である。 このカメラマンの「正能量」の書き込みと青空写真の投稿に、多くの網民は「高級黒」だと指摘している。高級黒とは、表向きは当局の政策を支持しているように見えて、裏で批判や皮肉を込めた中国ネット独自の言い回しだ。 また、この書き込みをネットで転載した人はRFAに対し、中国政府は「問題を解決するのではなく、問題を提起した人を処分する」という一貫した考え方をしていると指摘し、続けて次のように述べた。 「当局が一番恐れているのは、カメラマンがスモッグの実情を人々に伝えることだ。人々がもはや身を隠す場所がないと理解し、行動を開始した時、この体制は崩壊する。それゆえ当局は神経過敏になり、カメラマンがスモッグを吸い込んで死のうとも、こうした事情を撮影し発表することを許さないのだ」 四川省成都市在住のネット作家劉爾目は、スモッグの根源は偽りの発展を追求する共産党政権にある、という趣旨の文章をネットで発表したため、警察に連行された。後にVOA(ボイス・オブ・アメリカ)の取材で、「スモッグは成都の民衆にこの問題を意識させ、議論に参加して訴えるように覚醒させた」と述べた。「子供のために一時的にスモッグから逃れることはできる、だが後の世代のために共産党への批判や、環境問題への関心は放棄しない。今後も抗争を堅持し、人々に目覚めるよう呼び掛け、権利を守ることを支持する」と続けた。 このように政府の民衆のあらゆる意見表明を封じるやり方は、政府と民衆の対立関係を強めるだけである。中国人民大学の周孝正教授はRFAの取材に、スモッグ問題の本質は「政治霧霾(政治的なスモッグ)」だと述べている。そして共産党政権の利益集団が長年行ってきた経済発展モデルが、資源浪費や環境汚染を生み、既得利益層は海外へと大規模な移住で難を逃れているが、逃れられない一般大衆に問題を押し付けていると批判した。スモッグ警報が出された北京の天安門広場前で使い込まれたマスクを着けた男性 =2017年1月15日 スモッグ問題は、こうして環境問題から政治問題へと発展し、若者や中産階級が積極的に政治参加する「霧霾政治(スモッグ政治)」とも言うべき状況になっている。 中産階級について、社会運動の研究者で作家の呉強は、スモッグ政治における中心的役割を担っていると指摘。その背景として、中産階級の資産が拡大し、中国で最も発言権を持つ階層になったことを挙げている。そして、この中国で最も活発な集団は、政治や環境問題への関心が高く、地域的なスモッグ問題を全国的な関心事へと展開することができる。スモッグ政治は過去のGDP中心の経済モデルを徐々に消滅させ、政府や官僚の地位に直接影響を与える、これが中国の中産階級が運動に及ぼす役割だと述べている。 また、呉は香港のネットメディア端伝媒でも「意外性のある、生き生きとした新中産階級が、スモッグの中で急速に形成された。『早く蓄財して急いで移民しよう』という移民志向の他に、SNSによる結社化や非公式の場での大量の不満表明、そして予想もつかない小規模な抗議行動を取るようになった」「当局が人権派弁護士を弾圧、学校での政治思想統制を強化、そして都市化が急速に進んだことで、スモッグ政治に代表される中産階級による政治が、それまでの権利擁護運動に代わり、密かに拡散している」と指摘し、その例として成都の抗議活動を挙げた。 現在、中国当局は「維穏」(治安維持)の技術やノウハウを高め、あらゆる反対表明の動きの芽をもつもうとしている。だが環境問題、さらにはその根源にある体制そのものが持つ欠陥が解決されない限り、人々の不満は従来の市民運動とは違った形で表出する可能性が高い。新たな形での意思表明や政治参加は、スモッグのように拡散し、当局のコントロールはますます困難になるだろう。こうした動きにネット社会がどのように関与するのか、今後も注目していきたい。

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    「世界共通のインターネット」時代は終わりを迎えるのか

    塚越健司 (拓殖大学非常勤講師) 前回は中国のシェアリングサービスを論じることで、制度設計が人々の行動習慣にどのような影響をもたらし得るかを論じた。本連載でも最近中国について論じる機会が増えてきたが、それほどまでに特殊なIT事情を有する中国は、やはり注目に値する。 とはいえ中国は、世界をつなげてひとつにする「世界共通のインターネット」から離脱しようという意図がみえる。またグーグル検索においてもこの「世界共通」は複雑な問題を抱えている。 そもそもインターネットは当初こそ軍事利用的な発想で生まれたが、一般的な普及にあっては世界中の人々がひとつにつながることで、対立から融和への道を示そうという思想的な側面が存在していた。この思想は現在に至り、多くの問題を抱えている。そこで今回は、インターネットが1つであることの困難やその問題について考察したい。 中国の積極的な「世界共通のインターネット」から離脱せんとする動きが問題となっている。以前本連載でも述べた通り、中国は海外のIT製品を締め出し、国内だけでまわるインターネット経済圏を構築しようとしている。また2017年6月に施行した「サイバーセキュリティ法」は、海外企業が中国国内で業務を行う際に当局の求めに応じた協力が要請されており(具体的な指定がないが故に、範囲はいくらでも拡張可能だ)、場合によっては個人情報の提出などが考えられる。このように海外企業への一層の取り締まりの一方、国内の統制も強化されている。 よく知られている通り、独裁国家や抑圧的な国家は特定の情報などへのアクセスが禁止されたり、時に国民の通信回線を遮断することもある。中国はインターネットに関する有名な検閲システムがあり(いわゆる「Great Firewall」)、TwitterやFacebookといったSNSをはじめ、Googleのサービスや「ニューヨーク・タイムズ」といったメディアへのアクセスも不可能なばかりか、天安門事件などについては検索に表示されず、政府批判の発言は削除されてきた。iStock 中国は最近になって、VPNを2018年2月1日までに大手キャリアに禁止させる予定であると報道されている。VPNとは「Virtual Private Network(仮想プライベートネットワーク)」を意味するもの。技術的な詳細を省きごく簡単に概要だけ説明すれば、セキュリティレベルを上げることで他者からの攻撃を阻止するとともに、設定によっては中国にいながら他国からアクセスしたようにみせかけることを可能とする技術だ。これにより、中国の人々も欧米からアクセスしたようにみせかけることで、欧米のSNSなどを利用することが可能であった。中国は他国のインターネットにも介入? しかし先の報道によれば、来年からは中国の3大キャリア計13億のユーザーはVPNの利用ができなくなるという。その他のプロバイダーにも禁止措置が適応されるかどうかはわからないが、いずれにせよ大規模な禁止が実行されると、ますます中国はインターネットから孤立することになる。その結果、中国国内の研究者やビジネスマンへの影響もさることながら、仕事で中国に滞在する日本人を含む海外の人々にとっても大きな障害となるだろう。iStock こうして中国が世界共通のインターネットから離れていく一方、中国が海外に圧力をかけていることも判明している。16世紀から続く最古の出版社であるケンブリッジ大学出版局は2017年8月、中国政府の要請に応じて、ケンブリッジ大学出版局が発行する中国研究の学術雑誌における論文300本あまりを、中国国内からアクセス禁止にすることを決定した。 この雑誌は中国研究の世界的権威でもあり、300本の論文の多くは台湾やチベット、天安門など中国にとって好ましくない内容であるが、決定には多くの批判が生じた。内部のメールがネットに流出したこと等から判明しているのは、中国政府から政治的、経済的な圧力がかけられており、この300本の条件を飲まなければ最悪の場合すべての研究業績が中国の人々の目に触れることができなくなると、ケンブリッジ側が判断したということだ。しかしこの決定は中国政府の介入がその後増すこと、そして最終的に編集権を中国政府に握られることを意味しており、多くの批判の後でケンブリッジ大学出版局はこの決定を撤回した。 中国はインターネットは国ごとに主権があるという考えをもっており、一国のインターネットに関する(アクセス制限などの)政策は国家が指導すべきとの立場を示している。だがこのケースから明らかになったのは、中国の政治的・経済的な権力によって他国のインターネットに介入しようとする態度であろう。 こうした動きは中国だけではなく、ロシアにも見られる。ロシアも中国同様に国内のインターネットに関する取り締まりが厳しく、特にテロ対策や違法サイトの取り締まりの名目で、言論弾圧や盗聴の合法化などが行われている。また企業活動に際して、データはロシア国内にサーバーを設置しなければならず、当局の求めに応じて個人情報を提出しなければならないことも法律で決まっている。そのため2017年5月から、これを拒否したLINEや中国のWe chatなどはロシア国内では使用できない状態となっている。全世界のグーグルの検索結果を削除できるか さらに7月にはVPNを禁止する法案が上院下院でともに満場一致で採択。はやければ11月にも施行されるという。すでにVPNを利用しなければLINEも利用できないロシアにおいて、VPNの禁止はやはり大きな痛手となる。またこの法案に関しては、反対するデモが行われ逮捕者も出ているが、テレビなどでこの事実が報道されることはなかったという。  中国については日本においても多くの報道がなされているが、ロシアもまたインターネットの主権を国家ごとに認めるべきとの立場であり、結果的に欧米のサービスではなく自前のSNSなどをつくっている。中国もロシアも、世界から自国に都合の悪い情報をシャットアウトしようという意思がうかがえる。iStock しかし、「世界共通」であることが一般の人々の利害に反していることもある。グーグルは多くの訴訟問題を抱えているが、カナダで生じた事件は好例だ。事件を簡単に概観すれば、まずカナダの「Equustek」という企業が、自社のソフトウェア技術が盗まれ、同じ内容のものをパッケージを入れ替えただけで別の業者が違法に販売している事実を知り、この業者を訴えた。訴えられたのは「データリンクゲートウェイ」というEquustekの販売代理店で、当初は否定したものの国外に逃亡し訴訟を放棄。その後この違法行為を働いた張本人には逮捕状が出ているが、居場所がわからず海外で活動している状態だ。 そこでEquustekはグーグルにデータリンクゲートウェイの情報を検索結果から削除してほしいと依頼し、グーグルは受け入れる。しかしグーグルが削除に応じたのは「Google.ca」、つまりカナダ版のグーグルのみだった。Equustekはこれを全世界に適応するよう訴え、2017年6月にカナダ最高裁でEquustekは勝利した。 Equustekは何の罪もない被害者であり、訴えは最もだと思う読者もいるだろう。だがグーグルは7月にカリフォルニア州の裁判所に差し止め請求を行っている。検索結果の削除を全世界に適応するのはアメリカ憲法修正第1条(言論または報道の自由)に反しており、カナダ国内の判決が全世界的に影響が及ぶのはおかしい、という理由だ(事件について詳しくはこちらの記事やこちらを参照してほしい)。「忘れられる権利」の難しさ グーグルもデータリンクの活動を許容しているわけではない。しかし、一度全世界に削除を適応すれば前例をつくることになり、他の判断が難しい削除要求もまた全世界に適応されかねないという問題がある。例えば日本のアニメや二次創作コンテンツは、しばしば欧米においてポルノとみなされることがある。その際、特定の国家においてコンテンツに関する検索結果が削除されたとしても、それを日本や世界中に適応すると問題が生じる。なぜなら文化や地域によって性や暴力、あるいは政治をめぐる解釈は異なる場合があり、特定の国の基準で削除が全世界に適応されてしまえば、他国では問題ないコンテンツへの検索表示もできなくなる恐れがあるからだ。 また一度全世界への適応を認めれば、ある国では検索結果を残すべしと逆に訴えられることにもなりかねない。ましてや世界全体共通の削除基準をつくることは、明らかな暴力など了解されやすいものでない限り難しいことは、上述のとおりだ。世界共通の削除基準は、逆にインターネット空間の縮小を招くことにもなるために、現状ではグーグルはなんとか個別の削除範囲に抑えようとしている(これに関してはアメリカの市民団体(EFF)などもグーグルを支持している)。 この問題は、現在とは異なる過去の情報について削除を行う「忘れられる権利」についてグーグルが直面していることでもある。忘れられる権利については本連載でも議論したが、これもまた削除範囲をどのように決定するかは困難だ。削除が全世界に適応すればビジネスにも影響が出る他、これまで以上に削除依頼が殺到し、インターネットに恣意的な操作が可能になってしまうことが予想される。とはいえグーグルこそがインターネットを恣意的に牛耳っている、という指摘も他方で存在しており、Equustekの訴えが間違っているわけでもなく、ここでは困難なバランスが要求されている。iStock 最終的には経営的な判断からグーグルは諸国家の判断に従うことが予想されるが、特に忘れられる権利を巡ってはEUが削除範囲をEU以外の範囲に拡張することを目指しており、これもグーグルにとって深刻な問題だ。中国・ロシアがインターネットから離脱しかけているが、グーグルは逆に「世界共通」で情報が削除される恐れに直面している。インターネットはもはや「世界共通」ではない? グーグルにせよ中国・ロシア問題にせよ、結局のところ我々はもはやインターネットがひとつの共通空間であるという認識を持ち難くなっている。最後に、世界共通であることに何の意義があるかについて言及しておきたい。iStock 昨今は国家間対立だけでなく、国家内部の市民同士の対立はアメリカや日本においても激化している。特にアメリカの人種や政治をめぐる対立は、もはや市民同士が敵対する市民の個人情報をネットに晒し合う戦いにまで発展してしまっている。これらdoxingと呼ばれる晒し行為は最近、クラウドファンディングによって特定者に報奨金が払われるまでに至っている(これについては筆者が他媒体で論じている)。こうして共通の基盤をもって対立する両者が議論することがますます困難な時代となり、インターネットの「世界共通」という理念もまた維持が困難であることがわかる。 こうした問題は日本や日本人にとっても他人事ではない。中国やロシアの人々との交流が難しくなれば、いたずらに対立感情を煽るような言説に接近したとき、人は対話への意思が挫かれてしまうおそれがある。また海外の判例によって日本人が必要とする情報が検索結果から消去されてしまえば、同じく歴史認識や政治的・文化的な共通意識を世界全体で構築していくことが困難となる。 世界共通のインターネットには問題が多くあるのも事実だ。しかし、それでも共通基盤のもとで(時に大きな)対立と対話を行い続けるか、さもなければこの基盤から離脱し、対立を回避して棲み分けを行うかのいずれかの選択が要求されることになる。リベラルな思想が要求する理想的な対話環境として想定されたインターネットは、今や岐路に立たされている。つかごし・けんじ 拓殖大学非常勤講師。1984年生。専攻は情報社会学、社会哲学。著書に『ハクティビズムとは何か』(ソフトバンク新書)、共編著に『「統治」を創造する』(春秋社)、など。TBSラジオ『荒川強啓デイ・キャッチ!』火曜ニュースクリップ担当としてレギュラー出演中(http://www.tbsradio.jp/dc/)。

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    やはり中国に人権はない! それを許すトランプの情けなさ

    樫山幸夫 (産經新聞前論説委員長) アメリカはもう「人権の国」ではなくなってしまったのか。 中国の著名な民主活動家で、ノーベル平和賞受賞者、劉暁波氏が7月13日に亡くなった。各国首脳が相次いで哀悼の意を表明する中、トランプ米大統領は同じ日、マクロン仏大統領との首脳会談後の共同記者会見で、劉氏死去には一切触れず、あろうことか、中国の習近平主席を「偉大な指導者で才能あふれる人物」と絶賛してみせた。 ネット空間などで批判含みの反響が続出したため、ホワイトハウスは、あわてて5時間後に追悼の声明を発表した。しかし「大統領は深く悲しんでいる」というわずか5行の素っ気ないものだった。 驚くべき冷淡さだが、筆者は、こういう反応を予想していた。というのも、その5日前の7月8日、ドイツのハンブルクでの20カ国・地域(G20)首脳会議の機会に開かれた米中首脳会談で、トランプ大統領の口から、劉暁波氏に関する懸念表明、注文が一切聞かれなかったからだ。 ハンブルクでの首脳会談が開かれたのは、時あたかも、劉氏が重篤に陥り、診察を許可された米独両国の医師団も手の施しようがない状況の中だった。しかも中国は、劉氏を国外の病院に移して適切な治療を施すべきだという各国からの強い要請を、無視し続けていた。  こうした事情があったのだから、本来なら、トランプ氏は、劉氏の問題を会談の主要議題に据え、習主席に対して、非人道的な対応を厳しく批判し、国外での治療を認めるよう迫るべきだった。ホワイトハウスで記者団に話すドナルド・トランプ米大統領=2017年12月2日、ワシントン(ロイター=共同) しかし、この会談を報じた内外メディアの記事を読む限り、トランプ大統領は、そのことに一切言及していない。また、人権問題そのものも、会談全体を通して取りあげられた形跡はない。北朝鮮の核開発、貿易不均衡といった緊急の課題があったとしても、不可解、驚きというしかない。 会談後、ホワイトハウスが公表した記者団向けのメモを確認してみたが「人権」の文字はなかった。念のため、ワシントンに戻る大統領専用機内で行われたホワイトハウス当局者による大統領の欧州歴訪を総括するブリーフィングをチェックしてみたけれど、やはり、結果は同じだった。 記者団からそれに関する質問もなかったというのも実に不可解な話だ。  それにつけても、思い出すのは、1997年10月の江沢民主席(当時)とクリントン米大統領(同)との共同記者会見だ。国賓として訪米した江沢民主席が、最初の訪問地としてハワイを選び、日本にあてつけるかのようにパールハーバーで献花した、あの時の外遊だ。日本でも記憶している人は少なくないだろう。筆者もこの江沢民訪米を取材した。  米中のすさまじい応酬 晩秋の一日、ワシントンでの首脳会談を終えた両首脳は、ホワイトハウスに隣接する荘重なオールド・エグゼクティブ・ビルの講堂に並んで立った。 1989年の天安門事件について聞かれた江沢民主席は、「国家の安全を脅かし、社会的安定を損なう政治的争乱に対して政府が必要な措置を執ったということだ。党と政府はこの判断が正しかったと確信している」と流血の弾圧を正当化した。北京の人民大会堂で開催された人民解放軍創設80年を祝う式典に出席した江沢民前国家主席=2017年8月1日(共同) こういうとき、ホストは、国賓であるゲストの言い分を一応聞き置くという態度をとるものだが、クリントン大統領は違った。自ら発言を求め、「われわれは考えが違う。この事件、それに続く活動家への容赦ない措置によって、中国は国際社会の支持を失った」と賓客を面罵した。  江沢民主席は憤然として、「民主主義、自由、人権というものは、それぞれの国家の状況に従って、他国から干渉されずに検討されるべきものだ。温かい歓迎には感謝しているが、時に雑音が耳に入ってくる」と激しく反発、人権活動家が宿舎やホワイトハウス前でデモや集会を行っていることをもあてこすった。 これで終わるかと思ったところ、クリントン大統領は主席の発言を制するように、「中国はさまざまな問題で正しい決定をしているが、この問題に限ってみれば誤った結論だ」と重ねて中国を非難し、「私や家族に対しても様々なことがいわれてきたが、それでも今私はこの場所にいる」と、批判を受け入れるのが政府の姿勢だと迫った。 すさまじい応酬だった。これまで、各国首脳の記者会見を取材したが、あれだけの丁々発止はみたことがない。 本来、国賓を迎えての記者会見は、美辞麗句、友好ムードにあふれるのが相場だが、このときはそんな雰囲気とはほど遠いものだった。記者会見の場で、こうだったのだから、非公開の会談ではどんなとげとげしいやりとりがあったことだろう。20年たった今でも両首脳の激しい言葉のやりとりが目に浮かぶ。 実はこのとき、会談の翌月、中国が国家転覆陰謀罪で収監、服役させていた著名な民主活動家の魏京生氏を釈放した。原子力協定の履行などという取引材料はあったものの、米政府が魏氏の釈放を首脳会談で強く働きかけた結果だった。人権問題が、「言い放し」だけでなく、実質的な外交交渉の対象になった典型的な例だろう。 そもそも“人権外交”は、1977年に就任したジミー・カーター大統領(民主党)が声高に掲げ、その後の歴代政権においても米国の外交政策の最重要、中心課題のひとつであり続けてきた。カーター政権以前も、自由と民主主義という米国の価値観、さらにはキリスト教の倫理観もあって、米国の外交政策で大きな比重を占めてきていた。トランプ大統領の異様な行動 冷戦時代に、米国は旧ソ連に対して、ノーベル平和賞受賞者のアンドレイ・サハロフ博士の流刑などを強く批判するなど、人権抑圧に懸念を表明し続けてきた。 冷戦終了後、中国が新しいスーパーパワーとして米国と対峙するようになると、その矛先が中国に向けられたのは自然の成り行きだった。 台湾問題、貿易不均衡などとならんで、首脳会談の主要な議題としてとりあげられ、魏京生氏の釈放のように、人権問題が、首脳会談の正否を左右することも少なくなかった。  米国務省は毎年、「世界の人権に関する年次報告」をとりまとめ、各国の状況を批判的に分析している。中国については毎年、チベット、新疆ウィグル自治区での人権抑圧、民主活動家への弾圧などをやり玉にあげている。  1990年からは「米中人権対話」という枠組みが設けられ、米側の懸念が高官レベルによる協議を通じて、中国に直接伝えられた。この対話は、中国側が「米国にも人権問題はあるだろう」と強く反発したことから、「それならお互いの人権問題について話し合おう」という趣旨で設けられたが、実態は、米側が一方的に中国を糾弾することに終始した。最近は、「人権対話」のニュースを聞かないから、休眠状態になっているのかもしれないが。 オバマ前政権末期の昨年6月、北京で開かれた米中戦略・経済対話で、ケリー国務長官(当時)が、人権派弁護士らが多数拘束されていることや、チベットでの人権の弾圧を強く非難した。任期切れが近づいても追及を緩めることのない態度からは、「人権」に対する執念すらうかがえる。米バージニア州知事選、民主党候補ラルフ・ノーサム氏(右)の応援演説に立つオバマ前米大統領=2017年10月19日、米バージニア州(加納宏幸撮影) こうした人権をめぐる過去の米国の一貫した強い姿勢に比べてみたとき、弾圧された民主活動家が亡くなったその日に、中国の最高指導者を絶賛してみせるトランプ大統領の行動はまことに異様に映る。 もっとも、女性に対する数々の蔑視発言、移民に対する血も涙もないコメントを聞く限り。トランプ氏にまっとうな反応を求める方が無理というものだろう。「死の床」にある劉氏の写真に驚いた 加えて、米中間には、北朝鮮の核開発、貿易不均衡、為替、台湾、南シナ海問題など多岐にわたる問題が目白押しだ。 だが、人権ばかりにかかわっているわけにはいかないという認識があるのであれば、それこそ中国の思うつぼ、米外交にとっても取り返しのつかない失策になろう。 いままで繰り返してきた主張を一度でも引っ込めてしまえば、相手は「われわれに屈した」と思ってしまうだろう。 中国の人権問題については、もとより、米国だけでなく、各国が声を合わせて中国に改善を迫っていかなければならない。しかし、対中関係の悪化を恐れてか、歯切れの良さを欠くケースが少なくないようだ。 わが国にしても、中国が劉氏の国外治療を認めなかったことについて、「日本の考え方は中国に伝えてはいるが、詳細は控えたい」(岸田文雄外相)など、関係改善へのマイナスになることを恐れ、腰が引けているようだ。  本来なら、ここは安倍晋三首相の登場を期待したい。首相は昨年の大統領選で、トランプ氏が当選した後、外国首脳としては真っ先にお祝いにかけつけた。就任後も、フロリダの大統領の別荘で二晩も過ごし、ゴルフ三昧で、世界の耳目を集めた。それほど親密な関係なら、大統領と率直な意見交換ができるはずだ。それができるかどうかによって、「個人的な信頼関係」がホンモノかどうかの尺度になるはずだ。日米首脳がゴルフ会談 出迎えたゴルフ場で握手する安倍晋三首相(右)とトランプ米大統領=2017年11月5日、埼玉県(代表撮影・時事通信) それにしてもだ。今回の劉氏の死去で何よりも驚いたのは、“死の床”にある劉氏の写真を中国当局が公表したことだ。医師団に囲まれ、適切な治療が施されているということをアピールしたかったのだろうが、患者の人権、プライバシーはどうなっているのだろう。やせ衰えた瀕死の姿をさらしたいと思う患者などいるはずがない。 人権に配慮しているふりをして、人権を侵害する。やはりこの国に“人権”はない。かしやま・ゆきお 産經新聞前論説委員長。政治部で中曽根首相番、竹下幹事長番、霞クラブ(外務省)詰め、ワシントン特派員、同支局長、外信部次長、編集局次長、正論調査室長兼論説委員などを経て、2015年6月から産経新聞社監査役。2度のワシントン勤務時代は、ホワイトハウス、国務省などを担当、米国の内政、外交など幅広く取材した。

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    中国のSNS 警官を侮辱したりテロ組織に勧誘すると逮捕される

     豊かになったのは間違いが、暮らしやすい社会かと言われればそうとは言いにくいのが実情のようだ。中国の情勢に詳しい拓殖大学海外事情研究所教授の富坂聰氏が指摘する。* * * 中国版LINEとも呼ばれる「ウィチャット=ウェイシン(微信)」。中国のテンセント(騰訊)が提供するスマートフォンユーザー向けメッセージングアプリである。一説には12億人が利用しているともされ、中国ではスマホユーザーの実に9割がインストールしているともいわれる。 先行していた新浪の提供する「中国版ツイッター」、微博(ウェイボー)と合わせて中国では人々に欠かせないコミュニケーションツールとなっている。微信(ウィー・チャット)のアプリ(iStock) だが、かねてから指摘されるように習近平政権下のメディアに対する締め付けは厳しく、この波がいよいよ伝統メディアの枠を超えて個人間のコミュニケーションにまで及んでいることを思わせる事象が連続して起きた。 まずは中国ネット管理部門が国内でSNSや掲示板サービスを提供する代表的企業・テンセントや百度(バイドゥ)など3社に対し、「情報管理が不徹底」だとして罰金処分にしたことだ。8月25日のことだが、当局は続く流れの中で「グループチャット内での監視の強化」も視野に入れていた。 そして30日、『人民日報』は、〈「グループチャット」内で三文字を発信! 女性はそれで行政勾留 たとえ仲間内の会話でも注意が必要〉という記事を配信した。 中身は、一人の女性ドライバーが駐車違反をして罰金を科されたことに怒り、警官を侮辱する「三文字」をグループチャット内で発信し、それを見た交通民警が地元公安分局に通報。最終的に女性ドライバーが罰に処せられたというものだ。中国には「中華人民共和国治安管理処罰法」というのがあり、法律で警察を侮辱し悪辣な影響を与える行為を禁じている。その第26条に違反に相当するというのだ。 また同じように9月4日には北京の張強という若い男性が友達とも会話の中で、ふざけて「オレと一緒にISISに入ろう」と書き込んだところ逮捕され、最終的に9カ月の刑を言い渡されたことも紹介されている。 まあ、経済発展している一方で息苦しい空間も広がっている中国の実情がよく伝わってくる話だ。関連記事■ 中国の大学生 約半数が「在学中に恋愛なし」のデータも■ 男尊女卑が根強い中国 妊婦が無謀な産み分けに走る悲劇も■ 九州でエイズ急増 中国若年層の患者激増との符号■ 中国でラブドールのレンタル開始を発表したら…■ もはや技術大国、中国で時速4000km高速飛行列車の研究開始

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    劉暁波氏 幻と消えた「日本でがん治療計画」スクープ証言

     獄中でノーベル平和賞を受賞し、7月13日にがんで死去した中国の民主活動家、劉暁波氏は、死してなお弾圧を受けている。 まず中国では、彼の死そのものを知ることができない。NHKが死亡のニュースを配信すると、中国では映像が突然黒塗りになった。インターネットで追悼の意を表わそうにも、ことごとく書き込みが削除され、ロウソクの絵文字すら消されてしまう。さらには墓が反政府活動のシンボルにならないよう、“遺族の意向”との名目で海に散骨され、遺骨すら遺すことを許されなかった。香港返還から20年を迎えた1日、民主化を求めてデモ行進する人たち。ノーベル平和賞受賞者の民主活動家、劉暁波氏の似顔絵が掲げられた=2017年7月1(共同) こうした対応は、中国がいかに劉氏を恐れていたかの表われでもある。劉氏は末期がんの治療を海外で受けることを望んだが、中国当局は最後まで出国許可を出さなかった。実は治療先の候補として挙がっていたのが日本だった。『習近平VSトランプ』などの著書がある遠藤誉・筑波大学名誉教授が明かす。「私が連絡を取り合っている在米華人の人権団体『公民力量』のメンバーである弁護士から、7月2日に『飛行機の移動時間も短く、医療も進んでいる日本で、劉氏に治療を受けさせるか、日本から専門医を派遣するなど、日本で呼びかけてもらえないか』という中国語のメールが届いていたのです」 ワシントンなどに拠点を置く公民力量は、劉氏の人権活動を長く支援してきた団体だ。彼らから連絡を受けた遠藤氏は、日本で専門医探しや、政府に働きかける道を模索していたが、劉氏は帰らぬ人となってしまった。遠藤氏は、劉氏を救えなかった悔しさをにじませる。「ドイツのメルケル首相が『劉氏をドイツで治療させたい』と直接習近平国家首席に伝えたのに対し、安倍首相はドイツでの日中首脳会談で劉氏の問題に触れもしなかった。日本は中国の顔色ばかり見ていてはいけない」 安倍首相が「主張する外交」でノーベル平和賞を受賞することはないだろう。関連記事■ ノーベル賞の劉暁波氏の治療映像 8年前に撮影された疑い■ 天安門「戦車男」釈放か だが中国の政治犯に過酷な状況続く■ 110mハードル五輪金の劉翔氏が300日で離婚 収入減も原因か■ 腐敗摘発の徐才厚・元中央軍事委副主席 末期がんで危篤状態■ 習近平氏に大きな爆弾 中国共産党元幹部23人が民主化を要求

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    中国内に「韓国による朝鮮半島の統一」を求める声

    「北朝鮮は米国に次ぐ、第2の仮想敵だ」「韓国が朝鮮半島を統一した方が中国に有益」──。中国は激しい北朝鮮批判を続けている。もはや「血で塗り固められた友誼」は存在せず、国境をはさんで両軍が対峙。このままでは、米朝より先に、中朝戦争が勃発する可能性も指摘されている。ジャーナリストの相馬勝氏がレポートする。* * *「北朝鮮=仮想敵」論をいち早く発表してきたのが、上海の華東師範大学国際冷戦史研究センター主任の沈志華教授だ。沈教授はソ連邦崩壊でロシアが混乱していた1994年、個人資産を投じて、ロシア政府から朝鮮戦争時のスターリンや毛沢東、金日成主席が交わした公電やその後の中朝ソ3か国が取り交わした秘密文書などのコピー数万部を入手し、翻訳や解読を行った。 その研究成果の一部が同大のホームページ上で公開されている。それは今年3月、大連外国語大学で行った講演録で、約2万3000字に及ぶ長大な論文だ。そこには中朝関係の秘話が満載されている。 たとえば、朝鮮戦争後の1958年、中国の義勇軍が北朝鮮から撤退する際、毛沢東は金日成と会談し、「もし、再度戦争するようなことがあれば、中国の東北部を北朝鮮に譲っても良い」と発言した。毛の真意は「戦争で北朝鮮が窮地に陥った際、北朝鮮軍は東北地方を拠点にして戦ってもよい」ということだと教授は語る。(iStock) この言葉を言質として、2001年に訪中した金正日総書記が中国側に「東北部を『視察』したい」と申し出た。中国側は「外国首脳が(東北部に)行くなら、『訪問』であって、『視察』ではない」と異議を唱えたが、金総書記は「父親の金日成が生前『毛沢東主席は東北部を北朝鮮に譲った』と話していた」と反論した。 江沢民指導部はすぐに、中国共産党中央対外連絡部の朱良部長(当時)に調べさせた。「たしかに金親子が毛沢東発言について自分たちに都合の良い部分だけを取ったのだが、事実だったことは間違いない」と教授は明かした。「このような解釈を行う北朝鮮こそ、中国の潜在的な敵だ。北朝鮮は中国の広大な領土を求めるという野心を持ち続けているのだ」と教授は憤る。 また、北朝鮮が中国に敵対的な態度をとるようになったのは1992年8月、中国の最高実力者、トウ小平が金日成の反対を押し切って、中韓の外交関係を樹立してからで、この後、金日成は核兵器開発に着手し、金正日から、いまの金正恩指導部に引き継がれている。なぜ「北朝鮮=潜在敵」なのか「中国の核心的利益の一つは『東北アジア域内の平和的環境であり、中国の経済発展の持続』だが、北朝鮮は核開発に突き進み、域内の平和的環境を崩そうとしているのは明らかだ。もはや、この時点で北朝鮮は『潜在敵』であり、逆に韓国は『潜在的な友人』で、この結果、中朝友好協力相互援助条約は一片の紙屑でしかなくなった」と教授は指摘する。 さらに、教授は「朝鮮半島の統一は中国にとって脅威だろうか」との疑問を呈し、「一般的に中国は米韓による朝鮮半島の統一よりは、北朝鮮が存続し続け、南北朝鮮が対立している現状の維持を望んでいる」との説に反論。韓国は潜在的な友好国なのだから、「韓国が朝鮮半島を統一した方が、中国にとって有益だ」と力説する。「なぜならば、韓国による朝鮮半島の統一によって、韓国と国境を接することになる中国東北部に韓国資本が流入し、東北部の経済発展を促進することになるからだ」と分析している。 このような教授の「北朝鮮=潜在敵」論は、米国の朝鮮半島問題専門家で、ブッシュ政権当時の国家安全保障会議(NSC)アジア部長を務めたビクター・チャ米戦略国際問題研究所(CSIS)担当部長にも支持されている。チャ氏は今年4月25日、米上院アジア太平洋の政策と戦略に関する軍事問題公聴会で次のように証言した。「北朝鮮は1994年から2008年の間に16回のミサイル発射実験および1回の核実験を行った。09年1月からこれ(今年4月25日現在)まで71回のミサイル実験および4回の核実験を実施した」と語り、核開発は近年、急ピッチで進められていると強調。とくに09年以降、北朝鮮は中国などとの話し合いにも応じておらず、「核開発中止に関して話し合いをする気がないことを示している」と断定する。チャ氏は「13年には中国側の窓口役を務めた張成沢氏を処刑して、中国とのパイプを絶った。これは金正恩委員長が中国を敵視している証拠だ」と鋭く指摘している。(iStock) 沈教授も米紙「ニューヨーク・タイムズ」の取材に対して、「もし、北朝鮮が核開発を完了すれば、世界は北朝鮮の独裁者の足下にひれ伏さなければならなくなるだろう。膠着状態が続けば続くほど、北朝鮮に有利になる」と分析。そのうえで、教授は「もし、北京とワシントンの政治的な協力が失敗し、北朝鮮の核開発の野望を封じ込められなければ、米中両国政府は対北朝鮮軍事オプションを前提とした協力体制を敷くべきだ」と強調している。●そうま・まさる/1956年生まれ。東京外国語大学中国語学科卒業。産経新聞外信部記者、香港支局長、米ハーバード大学でニーマン特別ジャーナリズム研究員等を経て、2010年に退社し、フリーに。『中国共産党に消された人々』、「茅沢勤」のペンネームで『習近平の正体』(いずれも小学館刊)など著書多数。近著に『習近平の「反日」作戦』(小学館刊)。関連記事■ 麻央さん娘・麗禾ちゃん 明るく振る舞う姿に周囲が心痛める■ 小泉孝太郎、気遣い上手な女性と交際 本人は直撃に認める■ 熱愛発覚の小泉孝太郎 本人直撃時の一問一答を全文掲載■ 旭日旗批判は韓国人にとって先祖の行いを批判・侮辱する行為■ 恋愛、結婚、そして就職も諦め 韓国「七放世代」の悲鳴

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    なぜ中国は「北朝鮮の非核化」に消極的なのか

    して認めろ」という北朝鮮の主張が、現実味を帯びてきた。BRICS首脳会議が閉幕し、記者会見で手を振る中国の習近平国家主席=9月5日、中国福建省アモイ市(共同) 残念なことに、北朝鮮の核・ミサイル開発問題をめぐり、行き詰まりをみせる国際社会がいくら中国に期待を寄せても、中国が「平和的な方法と全関係者による直接対話を通じてのみ解決されるべき」という姿勢を崩すことはない。核実験翌日の9月4日に採択された新興5カ国(BRICS)首脳会議の共同宣言「アモイ宣言」にも、それが示されていた。 中国は、北朝鮮の核・ミサイル問題を米日欧の経済制裁や国際的な圧力では解決できない、と考えている。2016年1月に4回目の核実験を行った直後、北朝鮮の朝鮮中央通信は、イラクとリビアを「国際社会の圧力で自ら核を放棄したために、破滅の運命を避けることができなかった」と批判していた。イラクのフセイン元大統領やリビアのカダフィ大佐の「なれの果て」を知っている北朝鮮の金正恩政権と軍が、米日欧の要求通りに核を放棄したりはしない、ということを中国は承知している。中国はCVID(完全かつ検証可能で後戻りできない核放棄)が「非現実的な目標」であるとみている。 中国は北朝鮮をコントロールできていない。しかし、中国ほど北朝鮮に影響力を及ぼすことができる国がないことも事実である。そのことが、国際社会における中国の外交プレゼンスを高めてきた。したがって、中朝間の対立につながる国連制裁決議など、国際社会による対北朝鮮制裁の枠組みに中国が真摯(しんし)に取り組むはずがない。中国が北朝鮮へ及ぼせる影響力を制限することになれば、また、中国と北朝鮮の「軋轢(あつれき)」が「対立」へ発展すれば、それは中国の国益にならない。 これまで通り、国連などによる多国間アプローチには、中国とロシアによって「抜け道」が作られていくことになるであろう。 とはいえ、「習近平体制下の中国」と「金正恩体制下の北朝鮮」の関係がうまくいっているわけではない(「習近平体制下の中国」と「金正恩体制下の北朝鮮」の2国間関係だけでなく、江沢民系の故徐才厚が牙城としていた旧七大軍区時代の北朝鮮と隣接する旧「瀋陽軍区」・現在の五大戦区に編成された「北部戦区」と、習近平勢力との中国内の利権に絡む政治対立構図が、「習近平体制下の中国」に従わない「金正恩体制下の北朝鮮」の関係構図の根底の一部にあることは、言うまでもない)。中国のメンツをつぶす 北朝鮮の6回目の核実験を受けて、中国政府は、9月4日、北京に駐在する北朝鮮の池在竜(チ・ジェリョン)大使を中国外交部へ呼びつけ、厳重に抗議した。大陸間弾道ミサイル(ICBM)発射時には、中国外交部は北朝鮮大使を呼びつけていない。9月3日に北朝鮮が強行した核実験は中国の習近平国家主席のメンツを北朝鮮がつぶした、と世界中で報道させることになり、中国を以前よりも怒らせることになった。 北朝鮮による核実験の一報が世界を駆け巡ったのは、9月3日に中国福建省の厦門(アモイ)で開催されたBRICSビジネスフォーラムの開幕式で、習主席が基調演説を行う3時間ほど前のことであった。BRICSとは、ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカの新興5カ国のことである。今年で9回目を迎えたBRICS首脳会議(9月4~5日)は、2009年以降、加盟国の持ち回りで開催されている。BRICSの枠組みは、域外へ実質的な影響力を及ぼすことができていないものの、「国際関係の民主化の推進」「覇権主義および強権政治への反対」「持続可能な安全保障観」を共に唱える中露協力を中国が米日欧諸国へアピールする舞台となってきた。 しかも、BRICS首脳会議直前、ヒマラヤ山脈の国境地帯ドクラム高原における中国軍の道路建設で長らく対峙(たいじ)していた中印両軍の撤退が合意され、インドのモディ首相のBRICS首脳会議参加が実現したことにより、ホスト国として中国の面目が保たれたばかりであった。BRICS首脳会議に合わせた会談で、握手するインドのモディ首相(左)と中国の習近平国家主席=9月5日、中国福建省アモイ市(新華社=共同) 習主席は、10月18日から開催される中国共産党の第19回党大会を控え、大国外交の成果と自身の権威をアモイから国内外へ向かって発信するはずであった。アモイは、習主席が1985~88年に市党委員会常務委員や副市長を務めた地方市である。2002年に浙江省へ党委員会副書記・省長代行として異動するまで、習主席は福建省で17年も務めた。そのような福建省アモイへゲストを含めて9カ国の首脳を招いていたBRICS国際会議の当日に、金正恩朝鮮労働党委員長は核実験を行ったのである。レッドラインを越えたのか 昨年9月に杭州で開かれた20カ国・地域(G20)首脳会議と今年5月の「一帯一路」国際フォーラムの開催日にミサイルを発射したのに続き、中国がホスト国を務めた重要なBRICS会議開催日に、北朝鮮は核実験をぶつけ、習主席のメンツをまたもやつぶしたのである。  米政府は8月上旬、北朝鮮が核・ミサイル開発を放棄した場合に「4つのノー(ない)」を約束すると説明していた。「4つのノー(ない)」とは、(1)北朝鮮の体制転換は求めない、(2)金正恩政権の崩壊を目指さない、(3)朝鮮半島を南北に分けている北緯38度線を越えて北へ侵攻しない、(4)朝鮮半島の再統一を急がない、という4つの行為をしないという内容であった。それでも北朝鮮が核実験を強行したということは、「金体制の維持」を約束するだけでは北朝鮮が満足しないということを、また、米国の「レッドライン(越えてはならない一線)」を北朝鮮が越えたことを意味する。G20首脳会合に臨む中国の習近平国家主席(左)とトランプ米大統領=2017年7月7日、ドイツ・ハンブルク(代表撮影・共同) しかし、米高官が「あらゆる選択肢がテーブルの上にある」と繰り返すものの、米政府の選択肢が限られていることを中国はわかっている。米国とその同盟国の財政状況を見れば、日英独加などが戦費を出したことで戦争が可能であったイラク戦争のようにはいかない。北朝鮮と全面戦争をしても戦費と復興再建費を積極的に出そうとする国がないのは明らかである。米国の同盟国である日本と韓国は、自国への被害を考え、米朝の軍事衝突に否定的である。米トランプ政権では、アジア政策の実務担当の高官ポストがいまだに埋まっていない。トランプ政権の北朝鮮政策は袋小路に陥っている。 一方、9月3、4日の中露の対応を見る限り、核実験は中国のレッドラインをまだ越えていない。3日の吉林省延辺の朝鮮自治州では、北朝鮮による核実験の激震で建物に亀裂が入るほどの被害があった。中国の環境保護部(「部」は日本の「省」に相当)は、3日の核実験を受けて、北朝鮮に隣接する吉林省などで放射性物質のモニタリングを始めた。翌4日には、環境保護部は、放射性物質による異常が見つかっていないと発表した。北朝鮮による中国国境付近への放射性物質の侵犯、そのレベルこそが、中国のレッドラインではないかとみられている。中国の狙いはココだ 中国は、北朝鮮の核・ミサイル問題を制裁や圧力では解決できないと考えている。また、トランプ政権には北朝鮮問題を処理できないとみている。中国は北朝鮮のミサイル発射の目的を「金体制の存続」と「米日韓からの経済援助を引き出すための恫喝(どうかつ)」にあると見ており、対米攻撃を北朝鮮の核・ミサイル開発の目的とは考えていない。 さらに、北朝鮮問題は、「アジア安全保障の最大関心事」を南シナ海から朝鮮半島に移してくれている。「北朝鮮が米国にとってコントロール困難な問題国」である間、米国にとっての中国は「南シナ海や東シナ海への姿勢を変えさせる対象国」である前に、「北朝鮮情勢をめぐって協力を引き出させる協力国」として位置づけられる。また、「尖閣奪取へのろしを上げた中国」にとって、日本の防衛力が北朝鮮に分散することは悪くない話である。 したがって、中国が北朝鮮を追い詰めることはしないであろう。中国が北朝鮮を追い詰めれば、北朝鮮に対するロシアの影響力だけが強まり、そこに中国のメリットはない。 また、中国が金委員長の首をすげ替えようとすることは当分ないであろう。「ポスト金体制の北朝鮮」が不安定化したり多元化したり米韓の傀儡(かいらい)政権に北朝鮮を握られるよりは、ましてや「反中国体制」が北に誕生するよりは、「金正恩体制の現状維持」のほうが中国にとってはマシだからである。 北朝鮮が7月28日に発射したICBMの移動発車台は中国が「民生用」として提供した「中国産の新型」を北朝鮮が改造した可能性があるとの専門家の指摘が報じられている。北朝鮮の強気な態度の根底には、中国とロシアの影響力があると見るべきではなかろうか。BRICS首脳会議で、記念写真に納まるロシアのプーチン大統領(左)と中国の習近平国家主席=9月4日、中国福建省アモイ市(共同) 「カリスマでもなければ、カリスマが指名した指導者でもない」習主席にとって、安定した米中関係の構築は、中国最高指導者としての威信の確立に必至である。中国は、「北朝鮮をめぐる米中協議」を「アフガン・パキスタン・メカニズム」(4カ国調整グループ)への再開とともに、米中協調外交の政治的ツールとして組み込んでいきたいところであろう。名ばかりの経済制裁 国連安全保障理事会の新たな制裁決議に基づき、中国が8月15日から実施した対北朝鮮禁輸を受けて、中国メディアは、中朝国境に架かる橋の上で海産物を載せて中国側に入ろうとするトラックを拒否した中国側通関の報道を「宣伝」した。しかし、国連などの統計によれば、北朝鮮の約9割強の貿易相手国は中国であり、そのうち約1割が海産物である。その海産物の禁輸を「パフォーマンス以上のレベル」で中国が実際に行っているのであれば、北朝鮮の中国に対する反発はもっと激しいものになっているはずではなかろうか。 9月1日に中国吉林省の長春で開幕された国際展示会では、日本や韓国など110以上の国と地域の企業とともに、北朝鮮からも30社以上が出展していた。そこでは、国連制裁決議で輸出が禁止されているはずの海産物の乾燥ナマコも売られていた。 中国は、「国連や米国に対する協調のパフォーマンス」を内外へ、特に米国へ「宣伝」している。しかし、それが厳密に実施されているかは、疑わしい。 「トランプ米大統領が明確な対北朝鮮外交・安全保障政策をもたないままに、北朝鮮を挑発している」と中国は見ている。米朝両国が「偶発的な衝突」に突入しないように、中国とロシアは、米朝両国を抑制するような中露協調外交を強化していくことを明らかにしている。 ただし、中国はロシアの動きにも注視している。中国の「一帯一路」構想の港湾戦略を据えたベンガル湾沿岸国でロシアが軍事外交を積極的に展開する近年(この点は拙著『米中露パワーシフトと日本』〔勁草書房、2017年〕を参照されたい)、中露の北朝鮮政策は海洋戦略も含んでいる。ロシアとの「競合と協調」のバランスを図りながら、中国は北朝鮮の地政学を「氷のシルクロード(北極海航路)」構想においても位置づけて、「北朝鮮をめぐる対話・協議による大国外交」を主張していくであろう。このままでは、アジア太平洋の秩序形成におけるパワーシフトが、ますます中国優位へと加速してしまうことになる。米国が中国頼みの北朝鮮政策を転換すべき時期にきていると、日本はもっと声を高めていくべきではなかろうか。

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    北の核実験で習近平の怒りも頂点に 血で固めた友誼どうなる

    ンプ大統領の堪忍袋の緒が切れるのだろうか。しかし、堪忍袋の緒が切れるのはトランプ大統領だけではない。中国の習近平主席も同じ思いかもしれない。朝鮮半島問題研究家の宮田敦司氏が、友好関係に亀裂が入りかねない中朝関係についてレポートする。* * * トランプ大統領は9月3日、ツイッターに「北朝鮮の言動は引き続き、米国に対し非常に敵対的で危険だ」と非難した。一方、中国外務省も同日、「断固たる反対と強い非難」という声明を発表している。 このように、今回の核実験をめぐり、米朝関係だけでなく、中朝関係、すなわち習近平と金正恩の関係も悪化した。中国による金正恩排除 これまで北朝鮮を擁護してきた中国でも、なりふり構わない北朝鮮の行動や言動に対しては我慢の限界というものがある。金正恩はいまだに中国を訪問していないばかりか、中国を名指ししての批判まで行った。このような指導者を中国はいつまでも放置しないだろう。中国の習近平国家主席=2016年11月19日、リマ(AP=共同) 習近平主席が「現状維持よりも金正恩を排除したほうが得策」と判断した場合、北朝鮮への経済支援を完全に停止するなどして圧力をかけ、金正恩を亡命させて政権を崩壊させるかもしれない。 中国が金正恩排除を実行する可能性があるのは、中国にとって米軍との緩衝地帯としての「朝鮮半島北半分」の地域が必要となるためなのだが、そのためには中国に従順な政権である必要がある。 そもそも中国にとっては、緩衝地帯となる地域の指導者が金正恩である必要はなく、その地域が「朝鮮民主主義人民共和国」である必要もない。中国のコントロール下に置くことができればいいのだ。従って、中国に反発するような政権は必要ない。 ただ、中国にとっての金正恩排除後のリスクは、北朝鮮からの難民の流入である。この問題は非常に厄介だが、金正恩排除後に直ちに中国軍が北朝鮮北部を占領し、中国へ北朝鮮難民が押し寄せるのを防ぐための安全地帯を設ける可能性もある。悪化を続ける中朝関係 中朝関係は「血で固めた友誼」で結ばれていると言われている。これは、朝鮮戦争を通じて血で固められた友情を意味する。この関係を明文化したものが、1961 年 7 月 11 日に締結された「中朝友好協力相互援助条約」といえる。 この条約の第2条では、「いかなる国家からの侵略であってもこれを防止するため、全ての措置を共同でとる」「締約国の一方が戦争状態に陥った場合に、締約相手は全力をあげて、遅滞なく軍事的およびその他の援助を提供する」と規定している。 しかし、このような規定があっても、中国は自動的に軍事支援を行うことはないだろう。中朝はもはや同盟関係とはいえないからだ。また、この条約は20年ごとの自動更新で、前回は2001年に更新されたのだが、2021年に更新されるかどうかは微妙なところだろう。 中朝関係が微妙になっているのは、中国国防省は公式には認めていないものの、今年4月以降に次のような報道があったことからも垣間見える。【中国軍が臨戦態勢に次ぐレベルの「2級戦備態勢」に入り、中朝国境地帯に10万~15万人規模の兵力を展開した】【中国空軍の爆撃機が「高度な警戒態勢」に入った】【中国が国境付近で軍を改編・増強し、核・化学兵器の攻撃に備えて地下壕を整備している】【北朝鮮へ派遣される可能性がある特殊部隊などの訓練や、武装ヘリコプターによる実弾演習を行った】 軍の動向以外にも、中国共産党機関紙「人民日報」系の国際情報紙「環球時報」が今年4月以降、頻繁に北朝鮮への警告と受け取れる内容の記事を掲載している。 しかし、北朝鮮の中国に対する態度は、既に2013年に変化していた。軍や秘密警察の幹部に対し、「中国に幻想を持つな」「有事には中国を敵とみなせ」とする思想教育を進めていたというのだ。(「産経新聞」2013年12月29日) 北朝鮮が友好国である中国を露骨に批判した文書が明らかになるのは異例だが、2015年にも、朝鮮労働党が国連安全保障理事会の制裁に同調する中国の動きを「敵対視策動」と見なして猛反発し、党中央が地方組織の下級幹部向けの講習会で、米国に対抗するための闘争を党員らに指示している。(「時事通信」2016年3月28日)非現実的な南北統一非現実的な南北統一 こうした中国の動きに対して、韓国の文在寅大統領は韓国主導による南北統一を強く主張するだろう。しかし、現在の韓国には統一に必要な費用を捻出する余力がないうえ、南北統一のロードマップすら策定できていない。 これは、朴槿恵大統領が2015年2月16日、大統領府で大統領直属の統一準備委員会を開催して、南北統一のロードマップを策定するよう述べていることからも裏付けられる。 ロードマップを策定するにあたっての障害は、南北統一に必要な費用、すなわち統一コストの問題だろう。統一コストには2400億ドル(約26兆円)という数字もあれば、2兆ドル(約220兆円)という数字もありバラつきが激しい。 これは、北朝鮮が経済統計を発表していないため、韓国銀行(中央銀行)などが北朝鮮の経済指標を推定せざるを得ないことと、インフラの整備や工場の再建などに、どの程度の費用が必要なのか分からないためであろう。 とはいえ、南北統一にはさまざまなシナリオが考えられるが、どのような形にせよ、大量の難民の発生が最大の問題となる。難民の流入を防止するため、韓国では1990年代に、北朝鮮の国民1人ずつに生活補助金を与える場合とそうでない場合を想定したシミュレーションを行ったことがある。 このシミュレーションの結果、生活補助金を与えない場合の年間流入者は140万人、月額10万ウォン(現在のレートで約9800円)で102万人、20万ウォンで80万人となった。 韓国が受け入れ可能な単純労働者は67万人であることから、20万ウォンを援助しても1年で限度を超えることになり、難民の受け入れができないことが改めて証明される結果となった。 一方、韓国政府は1997年7月に詳細な難民対策案を作成している。これは「30日計画」と呼ばれるもので、同計画よると難民流出は1か月間で韓国に10万人、国境を接する中露などに20万人の計30万人を想定し、「国際会議」の構成や日本からの食糧・財政支援などを含めた具体的な対応策を構想している。 いずれにしても、韓国の負担はあまりにも重い。筆者は南北統一に関する事項を管掌する統一部のレポート類を読んでいるが、読めば読むほど南北統一の難しさを感じる。北朝鮮の命運を握る中国 これまで述べてきたように、韓国主導による南北統一は非現実的であるため、金正恩排除後の北朝鮮の命運を握るのは中国ということになる。 米国が武力行使する可能性については、現在の米国はイラクやシリア、アフガニスタンでの戦争で手一杯であるため、トランプ政権は現に戦闘が行われている地域を重視せざるを得ないため現実的ではない。 しかも、米国防総省は、2012年2月1日に公表した「4年ごとの国防政策の見直し」(QDR)で、「同時に発生した2つの地域戦争に対応する二正面作戦の実行を可能にする」という方針を改め、対武装勢力、対テロ作戦を重視した柔軟な国防体制に転換する方針を明らかにしている。 現在は北朝鮮への圧力として、グアムのB-1B戦略爆撃機を韓国上空へ派遣することしか出来ていない。朝鮮半島近海に空母を派遣していないことについては、空母の維持費は年間600億円とも言われており、1隻だけで毎日億単位の予算を消費することになる。このため、朝鮮半島近海だけに配備するわけにはいかないのだ。 結局、米国は北朝鮮に手を出すことができず、中国の動きを黙認せざるを得ない。つまり、金正恩政権の将来は米国ではなく中国に握られているのだ。 そろそろ金正恩は自分の命運を習近平が握っていることを自覚し、中国の意向を考慮した行動を取る必要があろう。これ以上、中国を怒らせることは、長期的に朝鮮半島の不安定化を招くことになる。 金正恩が排除された場合は難民の流入など、日本も他人事ではなくなる。中国や韓国だけでなく、日本も「その時」に備えておく必要があろう。関連記事■ 使える時間は4分のみ 現実に見えた「Jアラートの実力」■ 金日成の健康法は少女からの輸血や少女との入浴など■ インフラ破壊し1年後に9割死亡 「電磁パルス攻撃」の恐怖■ 「日本の刑務所すら夢のような世界」北朝鮮の難民リスクは■ 大谷翔平「風俗店に直筆サイン」騒動で球団が火消しに奔走

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    中国が切った「中朝軍事同盟カード」を読み切れなかった日米の失敗

    名誉教授、理学博士) 北朝鮮が核実験を強行した。習近平は再び顔に泥を塗られた。それ以上に重要なのは、中国が切った「中朝軍事同盟」カードの重要性を、日米が読み切れなかったことだ。最後のチャンスを逃してしまった事実は大きい。習近平は再び顔に泥 5月14日付けのコラム「習近平の顔に泥!――北朝鮮ミサイル、どの国への挑戦なのか?」に書いたように、中国が建国以来最大のイベントと位置付けていた一帯一路(陸と海の新シルクロード)国際サミット初日の朝、北朝鮮は弾道ミサイルを発射して習近平国家主席の顔に泥を塗った。世界を中国に惹きつけるための晴れの舞台で開会の挨拶をする直前だった。 今回もまた、9月3日から習近平の政治業績地の一つ、福建省のアモイでBRICS(新興5ヵ国)会議を開催する、まさにそのタイミングに合わせて核実験をしたのである。又しても習近平が晴れの舞台として開会の挨拶を準備万端整えていた最中のことだ。 なぜ北朝鮮は必ず習近平の晴れの舞台を狙うのか? それは金正恩委員長が習近平を嫌い、「敵」と位置付けているからである。 習近平の方も朝鮮半島の非核化に逆行する金正恩の核・ミサイル開発に関する暴走を実に苦々しく思っている。二人はおそらく「世界で最も仲が悪い首脳」だろう。金正恩にとって最大の敵がアメリカなら、2番目の、あるいはそれと同等程度の敵は中国なのである。日米2プラス2会合を前に握手する(左から)小野寺防衛相、河野外相、米国のティラーソン国務長官とマティス国防長官=8月17日、ワシントン(ゲッティ=共同) その中国に北朝鮮を説得する力などないが、唯一、中国は強烈なカードを持っていた。 それは「中朝軍事同盟」というカードだ。中国が切っていた「中朝軍事同盟カード」を読み切れなかった日米 8月15日付のコラム「北の譲歩は中国の中朝軍事同盟に関する威嚇が原因」に書いたように、8月14日、金正恩は「アメリカの動向をしばらく見守る」と述べ、グアム沖への弾道ミサイル発射を一時見送る考えを示した。 その原因は8月10日に中国が北朝鮮に発した警告にある。 くり返しになるが8月10日、中国共産党機関紙「人民日報」の姉妹版「環球時報」は社説として以下の警告を米朝両国に対して表明した。(1)北朝鮮に対する警告:もし北朝鮮がアメリカ領を先制攻撃し、アメリカが報復として北朝鮮を武力攻撃した場合、中国は中立を保つ。(筆者注:中朝軍事同盟は無視する。)(2)アメリカに対する警告:もしアメリカが米韓同盟の下、北朝鮮を先制攻撃すれば、中国は絶対にそれを阻止する。中国は決してその結果描かれる「政治的版図」を座視しない。(3)中国は朝鮮半島の核化には絶対に反対するが、しかし朝鮮半島で戦争が起きることにも同時に反対する。(米韓、朝)どちら側の武力的挑戦にも反対する。この立場において、中国はロシアとの協力を強化する。 この内の(1)と(3)は、北朝鮮にとっては存亡の危機に関わる脅威である。もし北朝鮮がグアムなどのアメリカ領を先制攻撃してアメリカから報復攻撃を受けた場合、中国は北朝鮮側に立たないということであり、その際、ロシアもまた中国と同じ立場を取るということを意味する。 北朝鮮にとって中国は世界で唯一の軍事同盟を結んでいる国なので、中国が「中朝軍事同盟を無視する」と宣言したとなれば、北朝鮮は孤立無援となる。北朝鮮の軍事力など「核とミサイルと暴走」以外は脆弱なものだ。韓国や日本には大きな犠牲を招くだろうが、アメリカと一国で戦えば全滅する。したがって14日、グアム沖合攻撃は延期(実際上放棄)することを表明した。 北朝鮮がミサイル発射を自制するなどという好機は二度とない。しかも核・ミサイル技術がここまで発展した今となっては絶好のチャンスだった。 だから習近平は8月17日、訪中した米軍制服組トップのダンフォード統合参謀本部議長と人民大会堂で会談した時に異例の厚遇でもてなした。それはアメリカに米韓合同軍事演習を「暫時」やめてほしかったからだ。 中国の主張は「双暫停」(米朝双方が暫定的に軍事的行動を停止する)。 この前提の下で北朝鮮が一時的にミサイル発射を見送ったのだから、アメリカも同様に8月21日から始まる米韓合同軍事演習を一時的に停止してほしかった。そうすれば話し合いのテーブルに着ける。 金正恩が言っていた「アメリカの動向をしばらく見守る」とは、この8月21日から始まる米韓合同軍事演習を指している。もし演習を行なえば、それ相応の報復を覚悟しておけという趣旨のことを金正恩は言っていた。 しかし8月17日にワシントンで開催された日米の「2+2」外交防衛会議後の共同記者会見で日米の外務防衛代表は日米韓の安保協力強化と北朝鮮に対する圧力をかけ続けることで一致したと述べ、その流れの中でダンフォードは「米韓合同軍事演習の実施は、いかなるレベルでも交渉対象になっていない」と述べたのである。 この時点で北朝鮮問題の動向は決まった。 一回だけ米韓合同軍事演習を中止することは出来なかったのか。その後の北朝鮮の爆発的な暴走と日本に与える脅威を考えたら、どちらが賢明な選択であったか、考えてみる必要があるだろう。圧力をかけることは北朝鮮に技術向上の時間的ゆとりを与えるに等しい 9月3日のNHK日曜討論で、「(8月14日に)北朝鮮がグアムへのミサイル発射を抑制したのはなぜだと思うか」という趣旨の質問に対して、河野外務大臣は(正確には記憶していないが)おおむね「おそらくアメリカが強く出たことを気にしたのではないか」という見方を示していて、少なくとも「中国が中朝軍事同盟を持ち出して北朝鮮を威嚇したから」という話は出なかった。 日本は、北朝鮮にとって唯一の軍事同盟国である中国が最後のカードを切ったことを認識していないし、またそれによって北朝鮮が一時、自己抑制的になったのだということも全く読めていない。 日米は高らかに「圧力をかけ続けることが肝要」と言うが、そうだろうか? これまで国連安保理決議による制裁をやり続け、米韓合同軍事演習もやり続けてきたが、北朝鮮は一向にひるんでいない。 ひるんだのは唯一、中国が中朝軍事同盟カードを切った時だけだった。それも、結局米韓合同軍事演習を始めてしまったので、北朝鮮は今後も上記(1)の条件に抵触しない範囲内で「北朝鮮が言うところの報復」に出るだけだろう。その間に北朝鮮が言うところの「訓練」を積み重ねていくだけだ。中国はもう動かないだろう 中国としては10月18日に党大会を控えているので、まず今は何も動かないだろう。来年3月5日に全人代(全国人民代表大会)が始まり、最終日の14日に選挙を行なって「国家主席」と「国務院総理」が選ばれる。その時から二期目の習近平政権に入るわけだが、それまでは大きな行動をしないだろうと推測される。 もちろん中国にはまだ石油の輸出を断つ「断油」というカードがあるが、一部の航空機燃料としての「断油」は早くからしているが、民間生活も含めた「断油」カードを単独で使うことはないものと思う。なぜなら北朝鮮のミサイルの矛先が北京に向くからだ。国連安保理による決議なら、一定程度は国連のせいにすることもできるが、単独では行なわない。アメリカの軍事行動 トランプ大統領の気まぐれツイートは一応無視することとして、マティス国防長官は「軍事行動を排除しない」と述べているようだ。 「排除しない」とか「すべての選択肢はテーブルの上に載っている」と言いながら、結局「犠牲があまりに大きすぎるから…」と言って実行しないのは、北朝鮮をこの上なく勇気づけるだけだ。「どうせ、できないんだ」と舐められてしまう。 言ったからには、そして本当にアメリカの軍事技術が高いなら、核・ミサイル施設のピンポイント攻撃や「斬首作戦」などを実行するしかないだろう。言っておきながら実行しないことほどまずいものはない。北朝鮮を利するばかりだ。休戦協定に違反しているのはアメリカと韓国 忘れてならないのは、アメリカと韓国が朝鮮戦争(1950年~53年)の休戦協定に違反した行動をとっているということだ。このまま続ければ第三次世界大戦になることを恐れたアメリカが休戦すべきと提案したのに、韓国の李承晩大統領が聞き入れず「休戦したくない。韓国一国でも戦いたい」と駄々をこねたので、アメリカはやむを得ず米韓相互防衛条約(米韓軍事同盟)を結んだ。休戦後3ヵ月以内に全ての他国の軍隊は朝鮮半島から撤退するという休戦協定に署名しながら、一方では米軍は永久に韓国から撤退しないという米韓軍事同盟にサインした(詳細は『習近平vs.トランプ 世界を制するのは誰か』第3章「北朝鮮問題と中朝関係の真相」)。 スタートからダブルスタンダードを取ってきたツケが、いま日本を巻き込んだ関係国に襲い掛かっている。 それを正視せず、圧力を強化していくと宣言するアメリカに同調するばかりの日本。それによって日本国民を守れるのか。本当に日本国民の生命安全を優先していると言えるのだろうか? 政治経験の長い安倍首相は、政治経験のないトランプに、事実を正視し、知恵を絞るようアドバイスするくらいの関係でいてほしいと望む。(『Yahoo!ニュース個人』より2017年9月4日分を転載)

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    カネと欲望の習近平「一帯一路」

    「中華民族の復興」を旗印に掲げる中国の習近平国家主席にとって、ユーラシア大陸に広域経済圏をつくる「一帯一路」構想は己の野望を具現化する最大のチャンスだ。反面、カネと欲望にまみれた巨大プロジェクトは、さながら「中華思想の遺伝子」である。懸念材料が尽きないとはいえ、日本はどう立ち向かうべきか。

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    米露を呑み込む中国の「一帯一路」 巨大利権に潜む習近平の大戦略

    富坂聰(ジャーナリスト、拓殖大学海外事情研究所教授) 5月14日と15日、中国は初となる「シルクロード経済圏構想」(一帯一路)首脳会議(以下、首脳会議)を北京で開催した。「一帯一路」をテーマに北京で開かれた国際会議の記念撮影で手を振る各国首脳。前列中央右は中国の習近平国家主席、同左はロシアのプーチン大統領=5月15日(共同) 現状、そこには青写真があるだけで「一帯一路」の全体を把握することは難しい。ましてや成功か失敗かなどを議論する段階ではないのは言うまでもない。ただ、この会議ではっきり伝わってきたのは、中国が次の発展のためにも「一帯一路」の成功を不可欠と位置付けていることだ。同時に中国は、この構想を軌道に乗せるためにも国際社会との関わり方を変えていかなければならないという考えに至ったことも感じさせた。 例えば、「一帯一路」首脳会議で基調演説に立った習近平国家主席は「(シルクロードの)開拓事業に使われたものは、戦馬と長槍ではなく、ラクダのキャラバンと善意であり、頼りにしていたのは艦艇と大砲ではなく、宝船と友情だったのである」と平和の重要性を前面に出した。 会議には南シナ海の領有権をめぐって対立するベトナムやフィリピンからもトップが参加し、習氏の憂いを一つ晴らす材料となったのだが、習氏もそれにこたえるように、「他国の内政には干渉せず、社会制度と発展モデルの輸出もしなければ、それを他国に強要することもしない。中国は地政学ゲームのような古いやり方を繰り返すようなことはせず、安定を打ち破る小さなグループを作ることもせず、平和共存の大家族を築き上げる」と懸念の払拭に努めた。 こうした中国の姿勢は随所に見受けられ、首脳会議の前には「独断で進めるつもりはない」と耿爽報道官(5月5日の中国外交部の会見)が言及している。 この首脳会議には、直前になって米国が代表団を送ることが決まり、実際に代表団が参加したのだが、中国の準備は実に4月上旬の「マール・ア・ラーゴ」(トランプ大統領のフロリダ州にある別荘)における米中首脳会談にまでさかのぼる。 この米中首脳会談は、トランプ氏と習氏の個人間のつながりが生まれた会談として位置づけられているが、一方で中国側からの通商面での強い働きかけがあったことでも知られている。 事実、米中両国の合意の中には「双方は今後、一定期間の重点協力分野と努力目標を確定した。そして、二国間投資協定交渉を引き続き推進し、インフラ建設やエネルギーなどの分野での実務協力を模索し展開していく」(『人民網日本語版2017年4月8日』〈中米首脳会談 積極的シグナルを発信〉)とある。しかも、会談後には習氏が「中米貿易が協力を強化するということの前途には、大きな広がりがある。双方はこのチャンスを逃してはならない。中国は米国が『一帯一路』という枠組みに参加することを歓迎する」と語っている。米経済構想との親和性 この「一帯一路」構想が、実は米国にとってそれほど大きなストレスではないことは、この地域において米国が主導して進めてきた経済構想と「一帯一路」が一体化する方向で話し合いが進んできたことからも推測できる。 それがヒラリー・クリントン元国務長官の下で進められてきた「新シルクロード戦略」である。この「新シルクロード戦略」は、そもそもイランとロシアを分断し牽制(けんせい)する意味から生まれたもので、これに対するロシアの構想が「ユーラシア経済連合」である。 興味深いのは、この「ユーラシア経済連合」も「一帯一路」との一体化を進めていることだ。要するに国際政治の視点からみれば、米露の対立の場であったシルクロードが、比較的中間色の強い中国の「一帯一路」に吸収されるという構図が見て取れるということだ。 一帯一路は、従来モデルの経済発展に限界を感じた中国が、外にその活路を見いだしたことにあるが、考えてみれば次の「成長エンジン」として期待される国が集中している地域でもある。 中国がそこに旗を立てれば、行き場を失っているマネーが流れ込むことは予測できる。そして、一旦そうした流れができれば、この一帯の経済発展は中国だけで手当てできる規模ではないことは明らかだろう。 中国がこのところの見せる対外宥和(ゆうわ)に「ウィンウィン(win-win)」が強調されているのは、こうした背景があるからだ。 こうして政治的な壁を取り払いながら、今後は実を取る作業へと向かうことになるのだが、その先頭を走るのは貨物列車と各地のインフラの整備である。 2011年に中国は貨物鉄道の建設を完成させた。現在、浙江省の義烏から11の国29の都市を通ってスペインのマドリードまで、約18日で結んでいる。この貨物鉄道の開通で、いま中国-欧州間には百億ドルに相当する貨物が行き来するまでになっている。 具体的には、中国から工業製品が運ばれ、帰りにマドリードからオリーブオイルとワインを積んで戻る貨物列車だ。小ロットの運搬が可能な貨物列車の運行により、従来は中国との貿易には無縁であった各国の中小業者が貿易に参入するという効果を生んでいる。それにつれ、互いの利益のために税金や通関制度などでの共通化が劇的に進んでいる。 現状はそうした効果が、本線である義烏とマドリード間だけでなく、北はバルト三国のラトビアの首都リガからロンドン、イタリアのミラノ、西はイランのテヘラン、アフガニスタンのマザーリシャリフなどにも広がっていく可能性が指摘されている。カザフスタン・ホルゴスの〝陸の港〟。右は中国用の線路、左はカザフスタン用の線路=6月12日(共同) まだ始まったばかりの一帯一路を評価することは難しい。ただ、これを「失敗する」と決めつけてしまうのはあまりに早計だ。この構想の背後には、多くの利害共有者がいるという事実も見落としてはならないからである。

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    日本の円圏構想をパクった中国の「一帯一路」はどうせ失敗する

    上念司(経済評論家) 中国が主導する一帯一路構想を一言で表現するなら「リスキーな投資」である。中国共産党が口で言うほど簡単ではない。なぜなら、投資した瞬間に不良債権の山になるような政情不安定な国への投資だからである。当然、それがうまくいくかどうか全く保証はない。そもそも、中国の債権問題は最近再びクローズアップされている。なぜなら、上海市場の金利がここのところ急騰しているからだ。 金利の急騰は社債の借り換えにダイレクトに影響する。すでに社債の発行が全体的に低調になり始めている。ロイターは先月次のように報じた。 中国企業は今年1300億ドル、来年には2480億ドルの借り換えが必要になる。しかしトムソン・ロイターの推計によると、今年1─4月の国内の債券発行額は約1320億ドルと、前年同期の7960億ドルに比べ5分の1未満に減った。ドイツ銀行の推計では、中国の債券市場は昨年、前年比32%拡大して9兆3000億ドルに達していたが、情勢が一変。このペースが続けば来年の借り換え分を賄えなくなる。(ロイター 2017.5.9) 金利の急騰は為替操作の副作用である。現在、中国は人民元の暴落を防ぐために巨額の為替介入と厳しい資本取引規制を実施している。人民元を買い支えるためには市場から人民元を吸い上げなければならない。これはすなわち市場の資金不足を意味する。資本取引が自由であれば、不足した国内市場に海外から資金が流入するが、中国の場合はこれを厳しく規制しているため資金は流入しない。むしろ、中国共産党は国内経済がボロボロであることを嫌気した国内資金が海外に逃避することを恐れているのだ。香港島の観光名所に展示されている中国の習近平国家主席のろう人形=6月5日(共同) しかし、国内が資金不足に陥れば、国内のビッグプロジェクトは借り換え困難に陥る。資金難が深刻化すればその事業は頓挫するだろう。しかし、こうしたプロジェクトの多くは政府や地方政府が主導した公共事業である。どの事業が救済され、どの事業が見捨てられるのか。共産党内部の激しい権力闘争が始まりそうな予感だ。 こんな状態にある中国に「一帯一路」を進める余力はあるのだろうか。むしろ、国内経済の問題からエネルギー切れになる可能性の方が高いように思える。実際に、各種プロジェクトの遅れはそれを象徴しているのではないだろうか。新聞報道によれば、インドネシアの高速鉄道が先月ようやく融資に合意したそうだ。 このプロジェクトは2015年に合意したものの、2016年1月の起工式以降まったく進捗(しんちょく)がない状態が続いていた。おそらく当初の約束だった2019年完成という目標は達成されないだろう。一帯一路の重要なプロジェクトであるはずなのに、なぜこれほど遅れたのか。やはり中国国内が「金欠病」に陥っており、進めたくても進められなかったのかもしれない。※注1一帯一路は日本のパクリ そもそも、一帯一路構想とはかつて日本がやっていた「円圏構想」のパクリだ。「円圏構想」とは、「東アジア共同体構想の目的として、アジア共通通貨単位の導入による為替レート安定」を目指すものである。主に大蔵省を中心として1980年代の後半に本気で検討されていたようだ。しかし、この構想には大きな問題がある。早稲田大学教授の若田部昌純氏は次のように指摘している。 これが経済学的にいかに問題かは、通貨バスケット制やドルペッグ制のような広い意味での固定相場制の問題点を考えてみればよい。国際経済学には、安定的な為替相場、国際間の資本移動の自由、および金融政策の自立的な運営の三つが確立しないという「不整合な三角形」と呼ばれる関係がある。この関係のもつ政策的な意味はきわめて大きい。すなわち、固定相場制(安定的な為替相場)を維持しようとすれば、資本移動を規制するか、金融政策の自立性を放棄するしかない。そして、固定相場制というのは投機攻撃にさらされやすいのである。(若田部昌澄『経済学者たちの闘い』東洋経済新報社)会談の席に向かう安倍首相(左)と中国の習近平国家主席=7月8日、ドイツ・ハンブルク 産経新聞の北京支局に9年勤務し、昨年末に帰国した矢板明夫記者によると、中国共産党幹部は総じて元高を歓迎しているという。なぜなら人民元の価値が高い方が外国企業を買収するのに都合が良いと考えているからだそうだ。まさに円圏構想的な発想にとらわれていると言っていいだろう。 私に言わせれば、彼らは基軸通貨というものの本質が全く分かっていない。為替レートを高く維持することと、その通貨の利便性が高いことは必ずしも一致しないからだ。実際に、彼らが頭でっかちに考えているほど、プロジェクトは進んでいない。フィナンシャル・タイムズは次のように報じている。中国商務省のデータによると、一帯一路の沿線国家に対する中国からの直接投資は昨年、前年比で2%減少し、今年は現時点で18%減となっている。沿線53カ国に対する昨年の金融を除く直接投資は総額145億ドルで、対外投資全体のわずか9%だった。しかもこの投資の減少は、中国の対外直接投資が前年と比べて40%も増え、過去最高を更新する状況の中で起きた。中国当局が資本流出を止めるために対外取引の制限に動いたほどだ。(日本経済新聞 2017.5.12) やはり、一帯一路は巨大な不良資産の山を積み上げて終わるかもしれない。かつて、日本が円圏構想でバブル崩壊を迎え、その後長期停滞に陥った歴史が被って見えるのは気のせいだろうか。注1:「インドネシア高速鉄道建設、中国ようやく融資に合意」(朝日新聞デジタル 2017年5月15日)

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    安倍首相の「一帯一路に協力」は早計だったかもしれない

    加谷珪一(経済評論家) 中国が提唱する現代版シルクロード構想「一帯一路」が徐々に動き始めている。5月に北京で初の国際会議が開催され、中国はインフラ投資基金の増額を表明した。安倍政権は一帯一路について、二階俊博幹事長を会議に派遣するなど積極姿勢を見せているが、同じく中国が提唱するアジアインフラ投資銀行(AIIB)に関しては様子見の姿勢を続けている。一帯一路はまだその全体像が見えていないが、現時点における位置付けについて考察してみた。会談を前に握手する自民党の二階幹事長(左)と中国の習近平国家主席=北京の釣魚台迎賓館(共同) まずは、一帯一路とはどのような構想なのか再整理してみよう。一帯一路は、中国の習近平国家主席が2013年に提唱した中国と欧州を結ぶ巨大経済圏構想である。中国から欧州に至る経路は主に2つが想定されており、ひとつは陸路を使って中欧アジアを経由し、欧州に続くルートで、中国ではこれを「一帯」と称している。 もう一つは海路で南シナ海からインド洋を通り、欧州に向かうルートで、こちらは「一路」とよばれている。両者を合わせて一帯一路ということなのだが、当然のことながら、一連の構想は、かつて東洋と西洋を結ぶ重要な交易路であったシルクロードをイメージしたものとなっている。 沿線の国は70カ国に及び、中国は一帯一路に沿って、インフラ投資や貿易を活発化することによって自国経済圏を拡大しようとしている。 中国は似たような構想としてAIIBも提唱している。AIIBは、中国主導の地域開発金融機関で、米国主導で作られたアジア太平洋地域における開発金融機関であるアジア開発銀行に対抗して作られた。アジア各国や欧州各国が参加しているが、日本と米国はガバナンスが不十分といった理由から参加を保留している。 中国がどのように説明しようが、両構想とも中国の覇権を強化するための枠組みであることは間違いないのだが、安倍政権はAIIBに対しては慎重姿勢を示す一方、一帯一路については積極的だ。このスタンスの違いは一帯一路とAIIBの質的な違いをそのまま表しているといってよい。 安倍政権が一帯一路に対して積極的なのは、一帯一路は、インフラ投資の活性化による景気対策という面が大きく、日本企業にとってうま味があるというのが最大の理由と考えられる。 確かにシルクロードという誰もが知る歴史的テーマを前面に押し出した一帯一路構想は、大きな政治的インパクトをもたらすかもしれない。だが、地政学的なリアリズムに徹した場合、一帯一路構想の重要度はAIIBよりも低い。その理由は、海上交通網が整備された現代においては、陸路の輸送力は経済的に見てあまりにも貧弱だからである。 大航海時代以前であれば、ユーラシア大陸における物資の移動は陸路に頼るしかなく、シルクロードはまさに交易の拠点であった。だが近代以降は貿易の中心は海上交通路となり、その図式は今も変わっていない。 中国は現在、世界の工場としてあらゆる工業製品を米国や日本、欧州に輸出しているが、これらの大半はコンテナ船など使って海上輸送される。電子部品など軽量で即納が必要なものは空路で輸送されるケースもあるが割合は少ない。その理由は、船の経済性が突出していることによる。 条件によって輸送コストは異なるので単純な比較は難しいが、筆者が各種データから試算したところでは、1トンの荷物を1000キロ輸送するコストは、船が約1万円 鉄道は1万2千円、トラックは2万5千円、航空機は15万円になる。船は港があればすぐに運用が可能であり、鉄道や道路という長大なインフラを建設する必要がない。トータルすると船による輸送は圧倒的な経済力を持つことになる。アジアの地域開発に変形させた中国 地政学という学問は英国で発達したものだが、そのベースとなっているのは地理学である。地政学の世界では、ユーラシア大陸の中央部には西と東を断絶するエリア(ハートランド)があり、これが各国のパワーバランスを決める大きな要因になっていると考える。このハートランドこそが、中央アジアであり、まさにシルクロードの中枢部ということになる。 中国は西部に行くと高い山や砂漠が連なり環境が厳しくなる。中央アジアも基本的に山岳地帯が多く、ここに道路や鉄道を建設するコストは極めて高い。仮に建設できたとしても、その輸送能力には限界がある。ハートランドが世界のパワーバランスに大きく影響するのは、このエリアを境に東西の移動が極端に難しくなるという根源的な要因が関係しているのだ。 2105年度における中国の貿易総額は4・3兆ドル(約480兆円)と日本のGDPに匹敵する金額だが、このうち18%が欧州向け、14%が北米向け、7%が日本向け、15%が豪州、アフリカ、中南米向けとなっている。これらの貿易の多くは海上輸送となっており、ロシアやインドといった内陸部の国との貿易はごくわずかしない。上海の港に並べられたコンテナ=上海(ロイター) 中国にとっては海洋覇権の方が圧倒的に重要度が高く、そうであるがゆえに、南シナ海や東シナ海における制海権にこだわっている。 一帯一路における海上ルートは、現時点においては、米軍が制海権を握っており、中国は手も足も出ない。陸路の開拓は、経済的にはある程度の効果はあるものの、地政学的な状況を劇的に変化させるほどの力を持つとは考えにくい。結果として一帯一路は、道路や鉄道といったインフラ建設による景気対策という側面が強くなる。 中国経済は、何とか6%台の経済成長を維持しているが、国内のインフラ建設は完全に飽和状態にある。景気対策としてのインフラ投資を、アジアの地域開発という形に変形させたものが、今回の一帯一路ということになる。 案件を受注する日本企業にとってはうま味がある話かもしれないが、基本的には中国企業が潤うためのプロジェクトであることに変わりはない。AIIBに対して慎重であるにもかかわらず、一帯一路については積極的ということでは、中国側に足元を見透かされる可能性がある。中国に対して距離を置くのか、積極的にコミットするのか、もっと包括的な判断が必要だろう。

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    習近平の「一帯一路」に吹く逆風

    通りです。海峡の町、マレーシアマラッカのマラッカ橋 4月10日、ロンドンを発った貨物列車が3週間後に中国の義烏に到着した。海路に比べて約1カ月の時間短縮だった。また4月11日には、ミャンマーのチャウピュー港と昆明を結ぶパイプラインで石油輸送が始まった。同パイプラインを使えば、マラッカ海峡を迂回できる。 二つの出来事は、習近平の「一帯一路」構想が事実を確立しつつあることを示すものだ。習は、東南アジアや中央アジアで年間1500億ドルのインフラ支出を行い、中国のための新たな市場と影響圏を創ることを期待している。5月14日、15日にプーチンやスーチー等、28カ国の首脳を迎えて開催する同構想の祝賀会では、自国のグローバル・リーダーとしての自信を誇示するだろう。 しかし、外見とは裏腹に、習は一帯一路で逆風に直面している。問題の第一は、同構想の優先事項や責任主体に関してだ。各省に加えて数百もの国営企業が同構想について独自の投資計画を持っている上に、政府の支援を受けて多数のプロジェクトが異例の速さで立ち上げられた。しかし、日常的に統括する者がいない。その結果、数千の財政的に覚束ない計画が一帯一路のプロジェクトとして認可されてしまった。 第二に、ユーラシア通商ブロックの創設というその壮大な目的に見合う、十分な数の利益になるプロジェクトは容易に見つからない。例えば、ロンドン=義烏鉄道は、船舶の倍以上の輸送コストがかかり、どの程度成功するかわからない。また、中国は高速鉄道の建設技術の輸出を考えているが、中国が短期間に何千キロもの鉄道を建設できたのは、安い労働力と住民の強制立ち退きが可能だったからで、これは外国では再現できないかもしれない。 既に破綻しかけているプロジェクトもある。カザフスタンの製油所では、稼働能力の6%以上の原油は買えないことが判明した。中国はパキスタンでは投入資金の80%、ミャンマーでは50%、中央アジアでは30%を失うとの試算もある。 第三に、中国の高圧的なやり方や、不穏当な政権にすり寄る手口に対して各地で批判や反対運動が起きている。2011年には、ミャンマーが中国出資の大規模ダムの建設工事を中断し、住民の喝采を受けた。スリランカでも中国資本による港湾建設を巡って論争が続いており、パキスタンでは、中国は「他国の内政不干渉」の金看板を捨て、グワダルと新疆を結ぶ中パ経済回廊の建設を妨害しないよう反対派の政治家たちに訴えた。 諸国は巨大な中国に圧倒されることを恐れている。例えば、中国輸出入銀行の融資だけでキルギスタンの対外債務の3分の1を占める。中国の中では貧しい雲南でさえ経済規模はミャンマーの4倍だ。諸国はこうした中国からの投資を切望すると同時に恐れてもいる。 中国もやり方を変えようとはしている。東南アジアのNGOは、中国企業が現地の批判に耳を傾け始めたと言う。中国の銀行も、より高度な基準の確保を願って、外国の政府系投資ファンドや年金基金等に一帯一路プロジェクトへの融資を呼び掛けている。北京の集まりでは、中国は一帯一路が脅威ではないことを示そうと、他のインフラ・プロジェクトと一帯一路との関連性を強調するだろう。一帯一路の列車は既に発車したが、中国は単に車内サービスの向上に努めているに過ぎない。 「出 典:Economist ‘China faces resistance to a cherished theme of its foreign policy’ (May 4, 2017)」あまりに粗雑すぎる構想 上記解説記事は、「一帯一路」構想の現実をかなり正確に描写していると言って良いでしょう。中国のやり方は、大体こういうものだからです。日本スタンダードからすれば、あまりに粗雑すぎ失敗は避けがたいということとなるでしょう。中国でも、この構想を「10年後には誰も覚えていないでしょう」と冷たく突き放す学者もいます。「中国の対外借款はほぼすべて不良債権となる。これ以上借款を供与すべきではない」と主張する学者もいます。しかし習近平が、自分のイニシアチブで打ち出した構想が失敗するのを座視することも考えられません。習近平時代は少なくともあと5年続きます。 習近平がこの構想を打ち出した最大の狙いは、「中国の特色ある大国外交」を内外、特に国内に示すためでしょう。習近平の新外交は、「鄧小平外交-韜光養晦+中国の特色ある大国外交」で収まってきたと見ることができます。そのためにも新たに付け加わった大国外交を成功させる、少なくとも国内的にそう見られる必要があります。5月14日から開催された「一帯一路」首脳会議は、この意味で重要です。今後も、この方面の努力は続けられるでしょう。 この構想の中国にとって考え得る実際上の経済的効果は、欧州経済との関係を強めることにあると考えられます。ただ、鉄道による陸路の輸送が、経済的に見合うことを早く証明しないと、このプロジェクト自体が、赤字が積み上がり何の意味もないことになります。

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    世界の超大国になりきれない中国

    究所 ワシントン・ポスト紙の5月15日付け社説が、習近平の一帯一路構想は成功するかどうか分からない、中国の勢力圏構築が成功するとすればそれはTPP離脱により米国が自ら譲ったからだ、と述べています。社説の要旨は次の通りです。 一帯一路構想は中国版マーシャル・プランだと言われてきた。5月15日に閉幕した一帯一路国際会議は地政学的効果を狙うものだ。中国はユーラシアにまたがる勢力圏を築き、場合によっては米国を凌駕するような超大国になろうとしている。 この構想により習近平は「中国の夢」を実現するかもしれない。少なくとも既に建設が進行中のパキスタン、ラオス、ミャンマー、インドネシア等途上国で鉄道網や港湾、発電所が建設されていくだろう。しかし、トップダウンで専制的、そして、中国の利益になるプロジェクトばかりを集めるようなやり方では構想の狙いを達成できないだろう。 習近平の構想は、欧州の民主主義国家の復興のために米国が支援したマーシャル・プランとは相違するという点で、失敗する可能性が高い。中国の構想には民主主義や透明性は全くない。中国企業によるインフラ投資により、中国は自国製品の輸出を増大させ、パキスタンのグワダル港などを中国海軍の補給基地にし、また、その過程で中国の一部「エリート」は私腹を肥やすことになるかもしれない。スリランカでは港湾建設等を巡り政治的反発が起きている。 5月14日に習近平が約束した1240億ドルの投資は過剰設備を抱える中国の製鉄、セメント産業の助けになるだろう。建設業界は活性化し、何万という中国人労働者は海外に渡り働くだろう。ほとんどの資金は中国の銀行からの借り入れとなる。鉄道建設が進められているラオスやケニアなどの貧しい国々は将来債務の返済に悩まされるだろう。 周辺国の利益にならないと言っているのではない。電力不足のパキスタンは発電所を必要としている。東南アジアや東アフリカで建設される鉄道網は対中輸出を可能にするだろうが同時に対中輸入の手段にもなる。西側企業も分け前を得たいと考えている。トランプ政権や欧州の代表者は会議で公開入札(コスト削減や汚職防止にもなる)の必要性を説いて回った。 習近平は、自由貿易・投資の旗手のように振舞っている。中国のプロパガンダ機関は一帯一路を「グローバリゼーション2.0」と称している。周辺諸国や西側企業はそれが事実でないことを知っている。しかし、トランプは米国と11の太平洋の国々を結びつけるはずだったTPPから離脱した。そのことは、米国が中国の構想に対する対案を欠いていることを意味する。もし習近平が勢力圏構築に成功すれば、それは米国が自ら譲ったからだということになる。出典:‘China has a plan to become a global superpower. It probably won’t work.’(Washington Post, May 15, 2017)  社説は、「一帯一路(OBOR)」という超大国構想には民主主義や透明性はなく、インフラ建設プロジェクトは旨く行っているとは言えず、構想が成功するかどうかは分からない、としています。現実的な分析でしょう。会議は巨大な外交ショー 中国主催の「一帯一路」国際会議(BRF)は5月14、15日、北京で開催されました。会議にはプーチン、エルドアン、シャリフ、ドゥテルテ等30の政府首脳や国連事務総長、世銀総裁、IMF専務理事等が出席、100カ国以上が参加しました。米国からは、NSCのポッティンガー東アジア部長、それに、ポールソン元財務長官が参加しました。インドは会議をボイコットしましたが、これは、カシミール地方が「中パ経済回廊」と呼ばれる「一帯一路」関連事業の対象地域となっているためと言われています。 習近平は基調講演で中国は関連プロジェクトに1240億ドルを追加融資すると述べる(国営通信によると既に1兆ドルが投資されているという)とともに、構想推進に当たって中国は「古い地政学的な策を弄することはしない」と述べました。各首脳が署名した共同声明は「開放された経済を築き、自由で包含的な貿易を確保し、あらゆる形態の保護主義に反対する」と述べています。また、協力原則として、①平等な立場での協議、②相互利益、③調和と包含、④市場重視、⑤均衡と持続可能性を挙げています。そして、習近平は2019年に第2回会議を開催することを会議閉幕後明らかにしました。 会議は巨大な外交ショーでした。具体的な議論は乏しかったようです。それにもかかわらず増大する中国の国力を世界に印象付けることになりました。この会議は、習近平による秋の党大会への布石の一つとも言われます。共同声明は素晴らしいレトリックを述べていますが、中国中心主義的な思考は一向に変わっていません。協議重視が共同声明の協力原則に掲げられているものの、AIIB(アジアインフラ投資銀行)を含め、多国間主義の手法は十分に取られていません。 一帯一路構想が今後どうなるかは、まだ注意深く見ていく必要があります。関係国の間では債務拡大の懸念も広まっています。尤もな心配です。さらに習近平はジャカルタ・バンドン高速鉄道、中国・ラオス鉄道、アジスアベバ・ジブチ鉄道、ハンガリー・セルビア鉄道の建設を加速化し、グワダル港(パキスタン)、ピレウス港(ギリシャ)を改修した、と述べましたが、プロジェクトの実施は遅れ、スリランカのハンバントタ港については債務の膨張や中国の影響力の増大などで住民の反対運動が起きていると言います。 中国がこの構想を推進する背景には、習近平の国内基盤強化や超大国としての勢力圏の構築という大きな野望があります。しかし、同時に、貯まるカネを国際的にリサイクルしていかねば経済が回らないという経済的必要性も大きいのではないでしょうか。野望と必要性の双方があります。 西側は中国に見合う対応をしていかねばなりません。トランプによるTPP離脱決定は近視眼的な米国第一主義による間違った決定でした。社説が米国は自ら中国に譲ったのも同然である旨述べるのは、全くその通りです。米国抜きの「TPP11」の進展などが強く期待されます。

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    中国版プラザ合意実現したら投機に走り中国製造業崩壊の危機

     中国政府は、景気を下支えするために新たな減税策を決定した。減税規模は約6兆円に達し、これに伴い財政赤字が3兆円も拡大するとされる。中国経済の実態はかなり怪しくなっていると見られるが、悲劇的な「チャイナショック」はあり得るのか? 大前研一氏は独自の視点から「中国経済インプロージョン(圧壊=内側に向かっての爆発)の激震に備えるべき」と警鐘を鳴らす。* * * FBI(連邦捜査局)のジェームズ・コミー長官の首を切ったことをきっかけに、ドナルド・トランプ大統領の首もにわかに怪しくなってきた。したがって世界経済もまた乱気流に放り込まれる危険性があるが、それとは切り離した事象として、このところ中国経済の行く手に暗雲が垂れ込めている。 たとえば、中国の景気の先行指標とされる製造業の購買担当者景況指数(PMI)が4月に2016年9月以来7か月ぶりの低水準(50.3)となり、中国経済が下降トレンドに入るという見方が広がった。財務省の浅川雅嗣財務官は「中国経済の減速がグローバル経済にとって引き続き大きなリスクだ」と警戒を強めている。 だが、今後の中国経済はマクロ経済指標の動きとは異なる観点から、大きな影響を受ける可能性が高い。それはアメリカのトランプ大統領が中国の習近平国家主席に4月の首脳会談で突き付けた「三つの要求」だ。 一つ目は、アメリカの対中貿易赤字是正に向けた「100日計画」の取り組みである。これについては中国がアメリカ産牛肉の輸入を解禁したり、アメリカ企業の完全子会社による中国での電子決済サービスを認可したりすることなどで5月に一部合意した。 二つ目は、「為替操作国」(為替相場を不当操作している国)に認定されたくなければ中国元をフロート制(為替レートの決定をマーケットに委ねる制度=変動相場制)にしろ、ということだ。もし、為替操作国に認定されたり、フロート制への移行を強いられたりしたら、中国にとってはパニック以外の何物でもない。だから習主席は貿易問題と後述する北朝鮮問題でアメリカに譲歩し、それを受けてトランプ大統領は中国を為替操作国に認定しないと表明したのである。 そして三つ目は、北朝鮮の核開発をやめさせろ、ということだ。中国は北朝鮮の対外貿易の9割を占めているが、これまでは国連安全保障理事会が全会一致で採択した制裁決議に頬かむりしてきた。だから首脳会談でトランプ大統領は習主席に北朝鮮への影響力を行使して協力するよう要請したのである。実際、中国は北朝鮮が輸出した石炭を送り返したとされる。さらに中国は北朝鮮に対し、核開発をやめなければ原油の供給を止めると通告したと言われる。北朝鮮は原油の9割を中国に依存しているからだ。「中国版プラザ合意」の破壊力 アメリカのメディアによれば、中国は金正恩を殺害して体制を崩壊させる「斬首作戦」は容認できないが、朝鮮半島近海に空母カール・ビンソンとロナルド・レーガンを展開して脅しをかけることや、北朝鮮の核施設をピンポイントで破壊することについては反応しない(中国軍は動かない)とアメリカに告げたという。したがって、アメリカは北朝鮮問題で中国と軍事衝突することはないと判断したようだ。 この三つの要求をトランプ大統領に突き付けられた首脳会談直後の習主席は、まるで「電気ショック」を受けたかのように呆然としていた。しかし、その後、トランプ大統領が議会やメディアに追い込まれ、支持率が低下していく中で、中国が一部の約束を履行している点が数少ない成果になるとして、むしろトランプ大統領のほうが中国になびいてきているように見える。“中国版プラザ合意”の破壊力 トランプ大統領はツイッターで「北朝鮮問題で我々に協力している中国を為替操作国とどうして呼べようか」とコメントした。対中強硬派のピーター・ナバロ国家通商会議(NTC)委員長の影響を受けていた当初の立ち位置から見れば、大幅な後退だ。 それでも米中経済交渉の行方は、中国に大きな影響をもたらす。 かつて日本は日米貿易摩擦でアメリカから、1960年代後半の繊維製品を皮切りに、合板、鉄鋼、カラーテレビをはじめとする家電製品、自動車、半導体などで輸出の自主規制や数量規制および超過関税、農産物(コメ、牛肉、オレンジ、サクランボ)で市場開放を求められた。もし、中国が北朝鮮問題でサボタージュしたら、アメリカはそれと同じやり方で中国に圧力をかけるだろう。二国間協議では、トランプのようなワイルドな大統領でなくてもアメリカの攻撃は執拗だ。日米貿易戦争に匹敵する米中交渉となれば中国経済が大打撃を受けることは間違いない。 一方、為替操作をやめろという要求に中国が応じれば“中国版プラザ合意”となる。 日本は1985年のプラザ合意によって、為替のドル/円レートは1ドル=240円から急激にドル安・円高が進み、1987年末には121円台になってドルの価値は半減した。その後もドル安・円高の流れは止まらず、1994年に100円を突破し、1995年4月には瞬間的に79円台を記録した。固定相場制時代の1ドル=360円から見れば、円の価値は4.5倍になったのである。中国の人民元は2005年までの固定相場制時代は1ドル=8.28元だったので、4.5倍になったら1ドル=2元になってしまう。 日本企業はプラザ合意後の急激なドル安・円高を、イノベーション、生産性向上、コストダウンの努力と生産の海外移転によって乗り越え、「為替耐性」をつけた。たとえば、日本の自動車メーカーは品質とブランド力の向上によって1万3000ドルで売っていた車種を5万ドルで売れるようになったし、今や海外で1800万台を生産するまでになっている。 しかし、中国企業に日本と同じことはできないだろう。もし“中国版プラザ合意”が起きて1ドル=2元(その半分の4元でも)になったら、中国企業の経営者は誰もモノを作る気がなくなり、日本企業のように地道な努力はしないで全員が不動産投機に走ると思う。つまり、製造業が崩壊し、その一方でかつての日本のように国内で不動産バブルが膨らむわけだ。世界的なコスト・プッシュ・インフレ プラザ合意後の日本では不動産が暴騰し、東京都の山手線内側の土地価格でアメリカ全土が買えるという試算も出たほどだった。日本企業は強くなった円でニューヨーク、ロサンゼルス、ハワイなど世界中で不動産を買いまくった。それと同じことが中国発で起きるのだ。世界的なコスト・プッシュ・インフレ しかし、周知の通り、日本のバブルは4年余りであえなくはじけて地価が暴落し、銀行が次々とつぶれて日本経済は「失われた20年」に突入した。中国も同じ轍を踏み、(日本は何とか持ちこたえた)製造業が崩壊しているとなれば、かつての日本以上の惨憺たる状況になるだろう。すなわち中国経済の「インプロージョン」だ。 また、中国の製造業が崩壊したら、世界が困る。なぜなら「世界の工場」と呼ばれている中国に代わる製造基地はどこにもないからだ。 たとえば、広東省だけでも人口は1億人以上で、ベトナムの約9300万人よりも多い。ベトナムやタイの人口では中国全体の製造を代替することは到底できないし、人口約1億6000万人のバングラデシュは輸出する港湾などのインフラが整っていないので、ジャスト・イン・タイムで製造しなければならない商品には対応できない。ミャンマーもインフラが整っていない上、まだ政府の役人に賄賂を渡さないと輸出枠をもらえないというような状況だ。 したがって、中国の製造業が崩壊した場合、中国製品を輸入している国々で物価が高騰し、世界的な「コスト・プッシュ・インフレ」が起きるだろう。とくにアメリカは様々な物を中国から輸入しているので、ウォルマートやコストコなどの棚は空っぽになると思う。 トランプ大統領はアメリカ国内に産業を戻して2500万人の新規雇用を創出するという公約を掲げているが、それは無理だ。アメリカの失業率は5%を下回って完全雇用に近く、人口動態から見ても、メキシコなどから移民を大量に入れない限り不可能なのだ。となると、アメリカは中国に代わる輸入先を見つけるしかないわけだが、前述したように、それもまた不可能だ。 その結果、世界のお金の流れが止まってしまうだろう。そこから先はどうなるのか予想し難いが、世界恐慌を引き起こす可能性も否定できない。 そうした事態を回避する最も簡単な方法は、中国がトランプ大統領の三つ目の要求に応え、何としても北朝鮮の核開発をやめさせることだ。そうすればトランプ大統領は満足して、一つ目と二つ目の要求を取り下げるのではないか。 いずれにしても、日本は米中の動きを注視しながら、中国経済のインプロージョンという激震に備えなければならない。 米中が喧嘩して中国元がフロート制になっても、北朝鮮制裁を徹底して米中が仲良くなって北朝鮮が暴発しても、世界には激震が走る。米中問題はドナルド・トランプと習近平という2人のマッドマンに任せておくわけにはいかないくらい、世界経済に甚大な影響を与えるのだ。関連記事■ 北朝鮮と韓国との全面戦争はあるか? 専門家はないと説明■ 中国が「北朝鮮は自国領」と伏線張っていると櫻井よしこ氏■ 政治・経済で存在感の薄れる日本 「AXJ」と揶揄される■ 北朝鮮が保有する特殊作戦専用ヘリは日本はまったく保有せず■ 櫻井よしこ氏 豊かな鉱物資源持つ北朝鮮を中国が狙うと指摘

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    中国・習近平が鳴り物入りで喧伝する「一帯一路」の末路

     中国の習近平国家主席が、香港返還20周年記念式典のため、就任後初めて香港を訪れた。「一帯一路」構想を進めるための行動のひとつと見られているが、この構想は、中国の思惑通りに進むのだろうか。経営コンサルタントの大前研一氏が、中国版の新帝国主義ともいえるこの構想について論じる。* * * 中国が主導する国際金融機関「アジアインフラ投資銀行(AIIB)」の年次総会が6月中旬、韓国で開かれた。AIIBは中国政府の現代版シルクロード経済圏構想「一帯一路」を金融面で支える組織だが、日本政府は代表を派遣しなかった。 5月に北京で開催された「一帯一路」に関する初の国際フォーラムには「首脳級」として親中派の実力者である自民党の二階俊博幹事長らを派遣していたが、依然として日本側は慎重な姿勢を崩していない。北京で開かれた「一帯一路」をテーマにした初の国際会議で、プレスセンターのモニターに映し出された演説する中国の習近平国家主席の映像(共同) 同フォーラムには120か国以上から29か国の首脳を含む約1500人が参加した。「一帯一路」構想は、中国西部から中央アジアを経由してヨーロッパにつながる陸路の「シルクロード経済ベルト」(一帯)と、中国沿岸部から東南アジア、スリランカ、アラビア半島沿岸部、アフリカ東岸を結ぶ海路の「21世紀海上シルクロード」(一路)でインフラ整備や貿易促進、資金の往来などを促進して巨大な経済圏の構築を目指すもので、中国の習近平国家主席が2013年に自ら提唱した鳴り物入りの壮大なプロジェクトだ。 だが、この構想は習主席があたかも現代のアレキサンダー大王かチンギス・ハンを目指すようなものであり、遅れてきた中国版“新帝国主義”にほかならない。 実際、すでに中国は海外の港湾施設などを次々に買収している。たとえば、ギリシャ最大の港でアジア・中東地域から欧州への玄関口にあたる地中海の海運の要衝・ピレウス港は、中国の国営企業で海運最大手の中国遠洋運輸集団(コスコ・グループ)が買収した。 あるいは、パキスタン南西部のグワダル港は、中国が2015年から43年間租借することになり、「中国・パキスタン経済回廊」の重要拠点として中国に陸路でつながる道路や鉄道、電力設備、石油パイプラインなどを整備している。同港は、中国にとってインド洋とアラビア海への“玄関”であり、「一帯一路」構想における一帯(陸)と一路(海)の合流・結節点となる。 また、モルディブでは首都マーレの島と国際空港がある隣の島を結ぶ橋を中国が無償で建設。他の島でも空港や港湾などを無償で造っている。ただし、中国の航空機や艦船が必要な時には使えるという条件付きだ。つまり、ピレウス港やグワダル港、モルディブは中国の“今様植民地”なのだ。習近平はチンギス・ハンになれる? かつて西欧列強は、資源や安価な労働力、市場、軍事的・戦略的要地の獲得などを目的にアフリカやアジアを植民地にしていった。一方、今の中国は、国内の高速道路や高速鉄道、空港、港湾、大都市インフラなどの建設があらかた終わり、鉄鋼・機械メーカーや鉄道車両メーカー、セメント会社、建設会社、デベロッパーなどの“巨大マシン”が破綻しかかっている。 このため、それらの企業を“人馬一体”で海外に持っていくと同時に軍事的・戦略的要地を獲得して勢力範囲を拡大しようとしているのだ。つまり「一帯一路」構想は自国の企業救済と影響力拡大のための新・植民地政策、というのが本質なのである。それは今に始まったことではなく、2015年末に発足したAIIBも同様だ。 では、これから習近平主席はチンギス・ハンほどの権勢を振るうのか? 実際には過去の中国の海外インフラ・プロジェクトでやりきったものはほとんどない。アメリカのラスベガスとロサンゼルスを結ぶ高速鉄道計画ではアメリカのエクスプレスウエスト社が中国鉄道総公司との合弁を解消したし、中国が受注したベネズエラ、メキシコ、インドネシアの高速鉄道計画も軒並み頓挫している。 中国国内の高速鉄道用地は、共産党が人民に貸している土地を取り上げればよいだけなので建設が簡単だ。しかし、海外ではそうはいかない。民間から用地を買収しなければならないので時間がかかるし、そのためにコストも嵩むから黒字化するのは至難の業である。 もともと海外インフラ・プロジェクトはリスクが高く、過去に日本企業が手がけたプロジェクトも、大半が赤字になっている。経験もノウハウもない中国が成功する可能性は非常に低いだろう。 しかも、AIIBに至っては、ようやく5月に初めてインドへの融資を承認したというお粗末な状況だ。報道によれば、世界銀行とともに1億6000万ドルを融資し、アーンドラ・プラデーシュ州の送電・配電システムをグレードアップする無停電電源装置プロジェクトをサポートするそうだが、100兆円の出資金を集めたAIIBの第1号案件としては実にしょぼい。第2回年次総会で開幕を宣言したアジアインフラ投資銀行(AIIB)の金立群総裁=韓国・済州島(河崎真澄撮影) かたや「一帯一路」構想のシルクロード基金は1兆5000億円積み増した上でやっと4兆5000億円だ。AIIBの100兆円に比べれば“誤差”のようなものである。前述した国際フォーラムでも、公正さや透明性に問題があるとして、欧州各国が共同声明への署名を拒否したという体たらくなのである。関連記事■ 松居一代、船越と親しい女性を追いハワイ当局から接近禁止令■ 小林麻央さん 左胸に腫瘤発見時に“生検”を受けなかった■ 習近平構想の新独裁都市 行ってみたらこんなトコだった■ 田村英里子 伝説の「半裸カレンダー」写真リバイバル公開■ 相次ぐ日本人の拘束事件 中国側の言い分とは

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    侵略と人権弾圧の歴史、中国「パンダビジネス」はこんなにエゲつない

    上念司(経済評論家) 1972年のニクソン、田中角栄の電撃訪問でこの国が少しまともになる前まで、中国のやっていたことは今の北朝鮮と変わらない。チベット、ウイグル、南モンゴルを侵略し、国内で度重なる人権弾圧を行い、外国の政治に干渉して核開発までやっていたのだ。 そして1982年までの「パンダ外交」とは、世界中から孤立していた中国が、パンダという希少動物をネタにして、何とか世界に振り向いてもらおうとする外交政策だった。だからこそ、パンダは友好の証として無償譲渡され、文字通り外交的な貸しを作ることで政治利用されていた。 ところが、81年に中国がワシントン条約に加盟したことを契機に、無償譲渡は終わった。現在、中国がやっているのは世界中の動物園に共同研究や繁殖などを目的として有料で貸し出すビジネスだ。報道などにある通り、パンダのレンタル価格は2頭で年に約1億円である。 しかし、それでもパンダ外交そのものは終わっていない。今までは中国が自分のカネでやっていた外交的プロパガンダを、相手のカネでやるように変わっただけである。あえてこれを「新パンダ外交」というなら、中国にとってより都合の良いビジネスであると言えるだろう。 例えば、上野動物園のリーリーとシンシンも貸与された東京都が中国野生動物保護協会と「共同研究」目的で協定を結び、10年間の有料貸し出しを受けているにすぎない。先日赤ちゃんが生まれたことで話題にもなったが、この協定により、パンダの赤ちゃんは「満24カ月」で中国側に返還することになっている。パンダのかわいさに目がくらみ、尖閣諸島に押し寄せる中国公船への対応が甘くなったりはしていないと思いたい。上野動物園のジャイアントパンダのシンシン(公益財団法人東京動物園協会提供) また、2008年には「団団」と「円円」が台湾に貸与されている。翌年1月にこれら2頭が公開されると3日で6万人もの観客が押し寄せる大人気となった。もちろん、中国の隠れたる意図は、台湾統一に向けて、台湾国内の共産党に対する敵対的な世論を緩和させることだ。 当時の台湾メディアはこの件について警戒する論調も見られた。しかし、昨年8月に「団団」と「円円」は12歳の誕生日を迎え、飼育員がデザインした特製ケーキが与えられたと伝えられている。微笑ましいニュースに台湾侵略を企図する中国の悪辣なる意思はカモフラージュされてしまったのだろうか。 マスコミはかわいらしいパンダの赤ちゃんをネタとして扱うだけで、こういうドロドロした背景については何も語らない。パンダも卓球も京劇も雑技団も、共産党が利用するものにはすべて警戒が必要だ。パンダ外交が新パンダ外交に変わり、それがビジネスライクになっても、絶対に警戒の手を緩めてはいけない理由がある。中国の意図を隠蔽するマスコミ マスコミはすぐに「報道しない自由」を発動し、中国の意図を隠蔽してしまう。そもそも、パンダビジネスとは侵略と人権弾圧の歴史の象徴だ。この点を抜きして、パンダを語ることなかれなのだ。 まず、重大な事実を確認しておこう。そもそも、パンダは中国の動物ではない。チベットの動物である。それがいつのまにか中国を象徴する動物にすり替えられてしまった。そのテクニックはこうだ。 かつて、パンダの生息域は現在よりもずっと広かった。しかし、辛亥革命以降、中華民国軍が東チベットを侵略し、多くの中国人が入植してきたことでパンダは乱獲されるようになった。パンダは毛皮を取られたり、食用にされたりしてその数を激減させた。 チベットの支配地域に残ったパンダは虐殺を免れた。なぜならチベット人は仏教徒であり、無益な殺生をしなかったからだ。パンダが生き残った地域は、現在の青海省のほぼ全てと四川省の西半分にあたるエリアにある。パンダの食料である笹はチベット高原の東斜面に多く生息するためだ。そしてこの地域こそが、中華民国の侵略を免れチベットに残った領土だったのだ。中国・四川省成都の施設で、餌を食べる5頭の子パンダ ところが、1950年に悲劇が訪れる。今度は中共軍がやってきた。東チベットのチャムドが侵略され、翌年にはチベットの首都ラサが占領された。そして、1955年にチベットの東半分は青海省と四川省に組み込まれてしまったのだ。中国はチベットから領土を盗み、その地域に生息していたパンダまでも盗んでいったのだ。 現在、世界中で育てられているパンダを見るたびに、人々はそのことを思い出すべきだ。中国による激しい人権弾圧が繰り返されるチベットでは、抗議の焼身自殺が相次いでいる。国際社会はチベットを無視してはならない。 次に、中国が行っているパンダの有料レンタルビジネスの正当性がすでに失われていることについて指摘したい。これは私が勝手に言っているのではなく2016年9月の、世界自然保護基金(WWF)の公式な見解だ。 この見解の中で、WWFはパンダの格付けが「絶滅危惧種(endangered)から危急種(vulnerable)に引き下げられた」ことを朗報として伝えている。国際自然保護連合(IUCN)によれば、2014年までの10年間で中国国内の野生のパンダの頭数は17%増加し1864頭になったそうだ。私が子供のころ、パンダは千頭しかいないと言われてていたが、いつのまにこんなに増えたのだろうか。IUCNの「レッドリスト」にも「Current Population Trend(最近の頭数の傾向) : Increasing(増加中)」との表記があった。 パンダがもはや絶滅危惧種ではなくなった以上、有料でレンタルして共同研究を進める正当性もかなりグラついていると思える。しかし、中国にこのビジネスをやめる気配はない。元々、チベットから盗んできた動物なのに、なんと図々しいことだろう。 元々パンダに罪はない。罪深いのは中国だ。私たちはパンダを見るたびに、その背後にあるドロドロしたものから目を背けてはならないのだ。

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    台湾統一から世界覇権まで「パンダ外交」で膨らむ中国の夢

    や経済利益や広報活動を担っている動物は、なかなかいない。丸くてふわふわ、モコモコ、愛らしいパンダは、中国のソフトパワーの象徴である。 ジャイアントパンダのメンメン(夢夢)とチアオチン(嬌慶)が6月24日、ドイツの首都ベルリン近郊のシェーネフェルト国際空港に、ルフトハンザ航空の特別貨物機で到着した。ベルリン動物園で15年間飼育されることになった2頭のパンダに、毎年約92万ユーロ(約1億1000万円)がドイツ側から中国側に支払われる。空港から動物園まで信号ノンストップで移動したメンメンとチアオチンは、盛大なセレモニーで歓迎され、敷地面積約5500平方メートルの「新居」を準備された。 7月5〜7日にドイツを公式訪問した中国の習近平主席は、ドイツのメルケル首相とともに、ベルリン動物園でのパンダ館開館式に出席した。中独国交樹立45周年を迎えた2017年の「パンダ外交」は、ハンブルクでの20カ国・地域(G20)首脳会合に出席のために習主席が訪れたドイツで、友好ムードの演出を大いに盛り上げるものとなった。6月24日、ベルリンの空港に到着し、輸送用コンテナの中から外を見るパンダ(DPA=共同) 国交正常化45周年を迎えた日本でも、上野動物園でリーリー(力力)とシンシン(真真)の間にメスのパンダが誕生し、祝福ムードが続いている。自民党が東京都議会選挙で大敗した7月2日に、中国海軍の情報収集艦1隻が津軽海峡で日本の領海を侵犯するなど、中国の挑発的なニュースが絶えない。しかし、上野のパンダ誕生については、日本の多くのメディアが和やかに祝意を示している。中国艦船による領海侵入をあまり報道しなかったメディアでも、パンダ誕生については時間や紙面を割いて伝えている。パンダの「威力」は大きい。 パンダ外交の歴史は古い。太平洋戦争の最中、国民党政権が日中戦争にアメリカから協力を得ようと、プロパガンダ(宣伝)の手段としてパンダを贈呈したことに遡(さかのぼ)る。蒋介石夫人の宋美齢がアメリカに贈ったパンダは、1941年12月、日米開戦における負傷兵の第1便とともに、サンフランシスコに到着している。 ただ、中国が「パンダ(と信じられている動物)」を外交に登場させたのは、658年に唐の則天武后(在位690-705年)が日本の斉明天皇に国礼としてつがいのパンダを贈ったことに始まる、という説を報道した中国メディアもある。しかし、これは歴史的に証明されていない。 中華人民共和国建国後、中国がパンダを贈与したり貸与したりすることの意義や狙いは、何だろうか。パンダ外交は大きく3つの時期に分類できる。その変遷によって、パンダ外交の意義や効果は広がってきている。政治家にはできない「親善大使」の影響力 最初の時期(1957-1983年)のパンダは、「友好国としてアピールしたい国」に「親善大使」として贈与された。1957年にピンピン(平平)を贈られたのは、中ソ論争がまだ対立へ発展していなかった時期のソ連であった。65年には北朝鮮にも贈られた。中ソ対立が激化して中国と米国が接近すると、72年以降は、贈与対象国が米日英仏などの西側主要国にも広げられていった。 日中が国交正常化した72年、戦闘機で護衛された旅客機に乗ったランラン(蘭蘭)とカンカン(康康)が、日本への親善大使として贈られてきた。国交を回復したばかりの中国は、「竹のカーテン」で覆われていた。しかし、その不透明な中国のイメージを、愛くるしいランランとカンカンが爆発的なパンダ・フィーバーを日本に巻き起こし、払拭した。パンダは、中国との友好のシンボルとしてアイコン化していった。政治家ではできない影響力と効果であった。 第2の時期(84-2008年)は、パンダ外交が「無料で贈与」から「期間限定で貸与」に切り替えられていったことで、「外貨獲得」と「シンボル」の意味が高められていった。世界自然保護基金(WWF)のロゴ。シンボルにパンダが使われている パンダは、米中接近以前の61年に、世界野生生物基金(WWF)のシンボルマークになっていた。創設メンバーのピーター・スコット卿がデザインしたものだ。86年にWWFは世界自然保護基金に名称を変更するが、パンダは今に至るまで、そのシンボルマークになっている。70年代に生育環境の保護も含めた活動が広がっていった中、中国は81年に野生動物の国際取引を規制するワシントン条約に加盟した。加盟時点では、パンダは比較的規制の緩い「附属書III」に分類されていた。 しかし、84年には、パンダが条約の中で最も規制が厳しい「附属書I」に分類されることになった。パンダが絶滅危機にあることなどを理由に国際間の移動が制限されると、中国は香港や台湾などをのぞき、外国への贈呈をやめて「貸与」することにした。そのため、パンダの贈呈は、82年にやってきたフェイフェイ(飛飛)が最後となった。 貸与に伴い、借用国が支払う「レンタル料」は、パンダの繁殖生態研究費に充てられている。ワシントン条約で保護されているパンダを、政治的に贈呈したり無料で貸したりすることには厳しい制約がある。そこで、中国はパンダ繁殖研究基金を払わせる代わりに、研究のために貸し出しているのである。高額なレンタル料は、パンダの希少性への価値を高めることになり、高額な外貨獲得のみならず、外交交渉での優勢性や機会などの付加価値を中国側にもたらすことになった。パンダの貸与継続交渉を通じて、外交交渉における中国の姿勢を知らしめる機会を中国側に提供することになる。中台統一工作に利用されるパンダ また、中国はワシントン条約が「国際取引の規制」を趣旨としていることを利用して、中国国内だと誇示したい地域に、パンダの贈呈を政治利用している。中国政府は80年代後半から台湾へのパンダ贈呈を何度か試みたものの、台湾側が受け入れを拒み続けていた。2005年に台湾国民党の連戦主席が訪中して60年ぶりの国共トップ会談を実現させたとき、中国が台湾にパンダの贈与を表明した。当時は民進党の陳水扁政権であったため、ワシントン条約を問題視し、パンダの贈呈はすぐにはかなわなかった。しかし、中国に対して積極的な政策を進めた国民党の馬英九政権が08年5月に誕生したことで、同年8月、台湾はパンダの受け入れを決定し、12月には中国が台北市立動物園につがいのパンダを「貸与」した。中国から台湾に贈られたパンダのつがい(共同) このケースでは、中国では「国内移動」の手続きを取り、台湾での手続きでは「国際移動」と解釈できるようにした。また、中国で一般公募されたとする台湾へ貸与したパンダの名前がトアントアン(団団)とユエンユエン(円円)であり、「団円」という中国語が「離れていた家族の再会」を意味することから、中国がパンダ外交を中台の統一工作に利用していることがうかがえよう。この中国のパンダ工作を、06年4月3日付の米紙ウォールストリート・ジャーナルは、「トロイの木馬」をもじって「トロイのパンダ」と指摘している。 第3の時期(09年以降-現在)は、リーマン・ショックによる世界金融危機後に、中国がグローバルな経済パワーとしてのプレゼンスを強めた時期でもある。この時期のパンダ外交は、世界中で愛されているパンダのイメージを活用し、国連開発計画(UNDP)などの活動において、中国のプレゼンスを高めている。例えば、16年にUNDPは、世界五大陸の14カ国から17人の「パンダ大使」を選出し、国連の持続可能な17の発展目標を宣伝している。それは、UNDPの活動への理解を深めるだけでなく、中国のイメージアップにも貢献している。 以上、概観してきたように、中国にとってパンダ外交の意義や狙いは、友好のアピールから外貨獲得、台湾統一、イメージ操作まで幅広い戦略や戦術がある。 中国のパンダ外交をめぐり、そのレンタル料が高いという議論が交わされている。しかし、商業的な議論は、経済的効果が黒字であるならば、それをあえて否定することもないだろう。問題は、中国のソフトパワーのアイコンとしての「丸くてふわふわ、モコモコ、愛らしいパンダ」が、中国の膨張主義や地球的課題への対応で、ネガティブな側面をこれからも覆い隠していくのかどうかである。そのことをクリティカルに議論していく必要が、日本国民と日本のジャーナリズムに求められているということだろう。

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    中国のパンダ外交よりもひどい日本の歪んだ「動物格差」

    ライツセンター代表理事) 野生のパンダの数は少し増加し、絶滅危惧種から危急種に引き下げられています。中国はかわいいパンダを保全することのメリットを十分に把握しており、飼育下での繁殖だけでなく、より重要なパンダの生息域の保全も行っています。キーとなる動物の生息域を保全することは他の動物種にとっても恩恵があり、パンダに害を及ぼさない限りにおいて、その生息域では人為的脅威からは守られます。パンダの保護はパンダ自体が増えることが意義深いのではなく、生息域での自然保護が進むという点でこそ意義深いものです。パンダの野生での個体数を増やすことに成功した実績は、中国のイメージを向上させ、評価されるでしょう。 しかし、パンダ外交としてパンダを外交交渉の手段にすることや、海外の動物園に有償レンタルすることは、保全の意味を損なっています。 まず、中国はパンダをレンタルやプレゼントするにあたっては「若い・きれい・健康・活気がある・かわいい」という5つの基準を重視しているそうです。この人間にとって優性な遺伝子選択をしていくことは、パンダの多様性を奪い、種の本来の姿をゆがめていく可能性があります。 パンダの保全に日本の動物園が協力しているのだとする意見も聞かれますが、中国での繁殖技術や飼育環境は日本より優れていますので、遠く離れ生息地とも環境が異なる東京都での生息域外保全は、現状パンダにとって特に必要はなく、純粋に中国は外交カードや商売として、東京都は娯楽の対象や集客集金ツールとして利用しているにすぎません。上野動物園のジャイアントパンダの雌シンシン =5月19日、東京・上野 さらに、国にメリットをもたらす動物種だけを守るという姿勢は、生態系保全とはいえません。自然保護のためにキーとなる動物としては、パンダよりも行動範囲が広いトラのほうが重要だと考えられますが、中国では野生のトラは絶滅に瀕(ひん)しています。一方で中国のトラ牧場には数千~数万頭のトラが、毛皮や骨のためにひどい福祉状態で監禁され飼育されていますが、野生への再導入は行われていません。中国の姿勢は明快です。外交カードとして「使える」動物はその保護の重要性を説きながら保全をし、外交カードにしては「使えない」が死体でお金をもうけられる動物は、保全するのではなく養殖して殺して利用します。 守りたい動物だけ守り、利用したい動物は守らずに利用し尽くすというのは、誤った生態系保全ですし、あからさまな差別の肯定であるといえます。  中国だけを非難するつもりは特にありません。なぜならこれらのゆがんだ動物利用や保全は日本でも一般的であるからです。 かつてほど話題にならないとしても、東京都はかわいくて人寄せに利用できるパンダには多額のお金と労力をつぎ込み続けます。お金を費やすことについては採算がとれる限りにおいては批判されないかもしれません。しかし、パンダのようにお金を稼げる動物の福祉は向上し、そうではない動物の福祉が低下するという動物格差が生じているという点は、大いに問題であるといえます。動物たちの「格差」 上野動物園の飼育環境は国内動物園の中では良い方であると思いますが、それでも一部動物の環境は非常に乏しく、また動物園での飼育に限界のあるホッキョクグマなどの動物は常同行動(異常行動)をし続けています。その他、同じく東京都が養っている動物の多くも、低い福祉環境の中、監禁生活を強いられています。上野動物園のホッキョクグマ=2011年10月 叩く蹴るなど能動的な行為だけが虐待なのではなく、動物がその動物らしい行動を発現できず、動物福祉の5つの自由(飢餓と渇きからの自由。苦痛や傷害または疾病からの自由、恐怖および苦悩からの自由、不快さからの自由、正常な行動ができる自由)が守られていないことも虐待的な飼育です。欧米や南米で批判を受けたり閉鎖したりする動物園の環境を見ると、日本ではトップクラスといえるような環境であったりします。それほど日本の動物園のレベルは大変低く、私たちアニマルライツセンターも海外観光客から日本の動物園がひどすぎるという相談を度々受けています。動物の自由を奪い飼養管理することの責任を重く捉え、動物の福祉改善に必要なお金と労力を費やしてほしいと思います。 また、子どもたちに、本来の行動を取れない環境下に置かれた動物を見せ、あれがクマだよ、ゾウだよ、と教えることは誤った認識を植え付ける行為です。比較的優遇された動物と冷遇された動物が混在していることも精神的悪影響を与えます。パンダや犬や猫のようなかわいい動物は守り、畜産や実験に使われる動物や好みに合わない動物は守らず、ひどい状態のままでよいとすることが、当たり前と感じてはいないでしょうか。明らかな差別行動ですが、その差別に人々は気が付くこともなくなってしまっています。 犬猫の保護以外、日本の動物保護は他国から後れを取っていますが、その理由の一つは幼少期に虐待状態の動物と動物格差を見慣れてしまっているということにあると私たちは分析しています。動物園の役割の中に「教育」を入れるのであれば、動物の生態や行動が観察できる広い環境と本来の行動を発現させるケアを、飼育するすべての動物に等しくとり入れなくてはなりません。人気のある動物以外、動物福祉の5つの自由を担保したケアが保証できないということであれば、動物種、動物の数を思い切って減らしていくべきではないでしょうか。  パンダの赤ちゃんが産まれた上野動物園で、今後パンダたちはまさに「人寄せパンダ」としての見せ物になるという仕事を囲いの中でこなさなくてはなりません。パンダに限らず、人気のある動物の赤ちゃんの出産があれば、動物園はそれを使って集客し、そして一部の人々は週末の娯楽に動物園を選択します。動物の赤ちゃんが生まれるかどうかは、動物園にとっては死活問題なのかもしれません。しかし、一生自由を奪われ狭い囲いの中に閉じ込められ続けることは、それが希少種であろうと、かわいかろうと、個々の動物にとっては悲劇でしかないということに変わりはないということも、認識してほしいと思います。

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    日本人の目をくらます中国の「パンダ外交」

    京・上野動物園のジャイアントパンダが5年ぶりに赤ちゃんを出産し、パンダブームに日本中が沸いた。ただ、中国にとっては、その愛くるしい姿とは裏腹のしたたかな外交ツールでもある。G20首脳会議を前にドイツにも貸与したことが話題になった。中国の「パンダ外交」に隠された思惑とは。

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    なぜ「パンダフィーバー」は上野動物園でしか起きないのか

    代表する老舗ブランドであることは間違いありません。 だからこそ、「パンダ外交」として日本に贈られた日中国交正常化のシンボル、ランランとカンカンは日本の首都・東京に位置し、日本一有名な老舗動物園「上野」に来たのです。1972年10月28日、上野動物園に到着したカンカン(康康・左)とランラン(蘭蘭) それにしても、当時、ジャイアントパンダ2頭が初来日したときの熱狂ぶりはすさまじく、フィーバー(熱狂的大流行)という言葉はまさに当たっていました。当時10歳だった私の記憶の中にも、45年も前の興奮がいまだに残っています。その背景には、時代というものが多分にあったと思います。 今のように、インターネットがないあの頃は、情報が一極集中する傾向にありました。テレビひとつ取ってみても、BSもCSもネットチャンネルもオンデマンドもなければ、ビデオも普及していないわけです。情報の発信源が少なかったため、みんなが同じ情報を共有し、学校や会社でその情報をお互いに確認し、反復するかのように伝達しあいました。「熱狂」が決定づけたブランドイメージ 当時の情報の一極集中ぶりがよく現れていたのが歌謡曲です。ランラン、カンカンが来日した1972年のレコード売り上げ1位は宮史郎とぴんからトリオの「女のみち」、2位は小柳ルミ子の「瀬戸の花嫁」ですが、当時物心ついていた人なら、どちらの曲も、すぐさまそのメロディーが出てくるのではないでしょうか。 一方、去年のオリコンの年間CD売り上げランキング1位は、AKB48の「翼はいらない」、2位もAKB48で「君はメロディー」ですが、果たして口ずさめる人はどれぐらいいるでしょう。SNSやYoutubeの登場で、国民全員が情報の発信源となりうる今は、情報がありとあらゆる分野で蔓延(まんえん)し、人々は自分の好みの情報をえりすぐっているため、一極集中にはなり得ないのです。 そのような背景も手伝って、日本人特有ともいえる「皆がしていることは自分もしなければならない」的な性質が、パンダフィーバーをさらに加熱させました。日本人は流行を追うのがとても好きなようで、ミシュランガイドの星が1つでも付けば、その店はたちまち大行列ができるのです。 おそらく、今以上に流行に敏感だった高度成長期末期の日本人は、当然のことながら上野に殺到しました。ランラン、カンカンの公開当日、1キロもの行列ができ、約5万6千人がパンダを一目見ようと押しかけました。実際にパンダを見られた人は、わずか3割程度だといわれています。3時間待ちの長蛇の列に断念せざるを得なかったのです。中国から来日したパンダのランラン、カンカンが上野動物園で初公開され、観客が殺到した=1972年11月5日 幸運にもパンダを見ることができた約1万8千人は、パンダの前で立ち止まることは許されず、見られる時間はたった30秒程度でした。その30秒の間、パンダは背を向けていたり、あるいは微動だにしなかったことはザラで、たまたま観客のほうを向いていたり、何かを食べていたりしたら大ラッキーで自慢の種になったのです。 当時は良くも悪くも、世の中に「忖度(そんたく)」がゴロゴロ転がっていた時代で、私は上野動物園の関係者だった父の友人の忖度で閉園後にパンダ舎のバックヤードにこっそりと入れてもらいました。子供心に、もう十分だと思われる程の時間、ランランとカンカンを妹と2人だけで見させてもらったという、今では考えられないような思い出があります。その光景は、セピアカラーながらも、今でも鮮烈に記憶に残っています。その後数日間は、ずっとその話を友達に自慢し、友人たちもその都度、大きなリアクションをしていたのを覚えています。 このような、一般にはなかなか見られないという希少性やチラリズムが、上野のパンダをさらに貴重な存在へと押し上げていきました。パンダ来日決定から公開の間に、「パンダ」と「上野」が合体した強烈なブランドイメージが出来上がってしまったのです。当時小学生だった私の世代、つまり今の50代から上の世代は、今でもそれをずっと引きずり、その思考が自分たちの子供の世代へと受け継がれたのではないでしょうか。フィーバーが植え付けた意外な「言葉」 上野動物園のブランドイメージ同様に、この時期に人々の意識を固定させてしまったのが、「パンダ」という呼び方です。本来、ただパンダと言った場合は先に発見されたレッサーパンダを指していました。そこで、後から発見された白黒の大きな、いわゆるパンダの方はジャイアントパンダという名前にしたわけで、日本では正式和名はあくまでジャイアントパンダです。京都市動物園の特任園長に任命されたレッサーパンダのジャスミン ところが、今、パンダと言ってレッサーパンダを想像する人はまずいないでしょう。実はこれも、当時のマスメディアによる影響が大きいのです。実際、羽田空港に日本航空の特別機でジャイアントパンダが到着した時点では、そのコンテナに「大パンダ」という文字が大きく記されていました。ところが、待ち受ける上野動物園では、横断幕や看板に「パンダ」としか書かれていなかったのです。 既に上野動物園にはレッサーパンダがいたのですが、その元祖パンダをそっちのけにして、ジャイアントパンダをマスコミもこぞって「パンダ」と言い放ちました。その方が、響きもよく覚えやすくインパクトがあったからでしょう。爆発的ブームの中、人々は何のためらいもなく、ジャイアントパンダ=パンダという認識を固定化させ、現在に至っているのです。 1972年のあの熱狂が、「パンダは上野」「ジャイアントパンダはパンダ」という固定観念のようなものを植え付け、今もそれが続いているわけです。 上野に遅れること22年、94年からは和歌山県のアドベンチャーワールドでジャイアントパンダの飼育が始まり、2000、01、03、05、06、08、10、12、14、16年と恐ろしいほどコンスタントに子供が生まれています。パンダ外交は日本のみに行われているわけではなく、旧ソ連、フランス、イギリス、メキシコ、スペイン、ドイツ、アメリカ、韓国、オーストラリアといった国々にもパンダは貸し出されましたが、アドベンチャーワールドの繁殖実績は、中国本土を除けば文句なしに世界一なのです。 もちろん、生まれるたびに報道はされているのですが、誕生したその日限りの報道が多く、上野のような経過報道はほとんどされず、人々の記憶にはあまり残らないというのが現状です。たとえ実績が1位になっても、老舗ブランドには勝てなかったわけです。「2位じゃダメなんでしょうか?」どころの騒ぎではなく、ことパンダに関しては、上野以外は1位になってもダメだったのです。上野のパンダの系譜は、高度成長期末期のあの熱狂を、宿命的に今も引き継いでいるのでしょう。日本に「パンダ」は何頭いる? そして、その上野のパンダでさえも、盛んに報道されているお母さんパンダのシンシンとその赤ちゃんだけが話題に上がり、ニュース映像に映し出されないお父さんパンダの方は、ほとんどの人がその名前さえ知らないのです。よくよく考えてみれば、とても不思議な話ですが、これもマスメディアの影響なのです。 今回、上野のパンダが誕生して以来、2週間以上もの間、赤ちゃんの成育状況は欠かすことなく毎日、テレビのニュースなどで報道されています。でも、少なくとも私の知る限り、雄のリーリーの名前は赤ちゃん誕生のその日しか出てきていません。 また、上野動物園には、ジャイアントパンダよりも生息数が少なく、絶滅の危機にひんしている希少動物がたくさんいますが、それらがメディアで取り上げられることはまれです。たとえ取り上げられても和歌山のジャイアントパンダと同様で、単発的にちょっと報じられる程度にすぎません。 例えば、上野動物園の正門を入ってすぐ右手には、アカガシラカラスバトという鳥がいますが、ほとんどの入場客は、その前を通過せず、まっすぐに行ってしまいます。しかし、この鳥は小笠原諸島だけに生息し、野生個体数は約40羽しかいない日本の天然記念物です。上野動物園では、このアカガシラカラスバトの飼育繁殖に取り組み、成果をあげてきましたが、それを知る人は皆無に近いでしょう。 この差は、あのジャイアントパンダの容姿やしぐさといったパンダ独特のアイドル性も大きな要因だと思いますが、やはり最初のパンダ外交とその報道の強烈なインパクトがいまだに尾を引いているからではないでしょうか。 ところで、今日現在、日本には何頭のジャイアントパンダがいるかご存じでしょうか。正解は9頭ですが、内訳は、上野に赤ちゃんパンダを含めて3頭。和歌山に5頭。神戸の王子動物園に1頭です。ところが1カ月程前までは、12頭もいたということを知る人はほとんどいないでしょう。 2017年6月12日に、上野のパンダ、シンシンが1頭のパンダを産んだことで、日本国内のジャイアントパンダは1頭増えた計算ですが、実はそのちょうど1週間前の6月5日、日本のジャイアントパンダが3頭も減ったのです。和歌山のアドベンチャーワールドで生まれ育ったジャイアントパンダの海浜、陽浜、優浜の3頭が中国・四川省の研究施設へ返還されました。繁殖のため中国に行くジャイアントパンダの「優浜」(左)と「海浜」=4月7日、和歌山県白浜町のアドベンチャーワールド 実は、現在日本にいるジャイアントパンダは全てレンタル扱いで、たとえ日本の飼育下で子供が生まれても、基本的には性成熟する4歳ぐらいまでに中国に引き渡されることになっているのです。上野のシンシンが産んだ今の赤ちゃんパンダも2年をメドに中国に返されるようです。それを知ると、このパンダフィーバーもなんだか切ない気がします。 田中角栄、周恩来両首相による日中国交正常化の外交として湧き上がったパンダフィーバーは、マスコミによってさらに大きな熱を帯び、今もときどき、その炎を燃え上がらせては切なく消えていくのです。

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    双子パンダがすくすく成長、飼育のカギは蜂蜜ペロペロ?

     東京・上野動物園のジャイアントパンダの雄・リーリーと雌・シンシンが2月に交尾をしていたことが判明、5年ぶりの赤ちゃん誕生が期待されている。とはいえ、ジャイアントパンダの繁殖期は短く、雌の受胎が可能な期間がわずか数日しかないこともあり、繁殖は簡単なものではない。実際、この2頭の間には2012年にも赤ちゃんが誕生したが6日後に死んでしまったなどの悲しい過去もある。 そうしたパンダの生態にもかかわらず、約2年に一度のペースでパンダの繁殖に成功しているのが、和歌山県にある「アドベンチャーワールド」だ。こちらでは、昨年2016年9月に産まれたメスの結浜(ユイヒン)を含め、3月現在でなんと8頭ものパンダを飼育している。結浜は、すでに体重も10kgを超え、ふわふわ、ぽてぽてとした仕草が、一般公開でも大人気となっている。父の日の日付入りの氷を贈られた雄のジャイアントパンダ「永明」=6月18日、和歌山県白浜町のアドベンチャーワールド しかも同施設では、従来難しいとされていた双子の赤ちゃんパンダ、桜浜(オウヒン)・桃浜(トウヒン)を育てることにも成功している(2014年に誕生)。いったいどうやって、双子のパンダをうまく育て上げているのだろうか。キーワードとなるのが「母乳育児」だ。 通常、パンダの母親は一度に1頭の赤ちゃんにしか授乳しない。そのため、双子の場合は、残りの1頭には人工哺乳することになる。しかし、母乳には免疫物質が含まれているため、両方の赤ちゃんに飲んでもらいたいのが飼育員さんの本音。 そこで登場するワザが「赤ちゃんのこっそり入れ替え」。パンダの大好物中の大好物「ハチミツ」を母パンダに与え、母親がそれにペロペロと夢中になっているすきに、授乳中の赤ちゃんを入れ替えてしまうというものだ。なんともおおらかな話だ。 ちなみに、人工哺乳で与えるパンダミルクは、母乳に近い成分を再現したすぐれもの。1歳までは母乳とパンダミルクで育て、その後リンゴとタケノコを離乳食として与え、1歳半で完全に乳離れするそうだ。 ここで掲載したアドベンチャーワールドでのパンダの食事シーンの画像は、動物写真集『動物mg(モグ)図鑑』(松原卓二/写真・文)に収録されているもの。同書を参考に、パンダの知られざる生態に迫ってみてはいかがだろうか。関連記事■ 死亡したパンダの赤ちゃん 学術的資料として冷凍保存になる■ 11頭のパンダ育てた和歌山の動物園 成功の秘密に民間経営も■ パンダ交尾写真を袋とじにすべきか『週刊ポスト』編集部悩む■ 札幌の動物園だけで見られるホッキョクグマ赤ちゃんが公開■ 未だ根強い「母乳信仰」 途上国向けのガイドラインが背景に

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    二階俊博氏と中国との蜜月ぶりで和歌山にパンダが7頭も存在

    氏(76)にとっては関わりのない事情のようだ。5月22日からは観光業界関係者ら約3000人を同行して中国を訪問すると発表し、そのときに「他の政治家ではありえないVIP待遇だろう。習近平・国家主席がホスト役としてでてくるかも」(日中関係筋)と言われるほどだ。そんな二階氏を中国側も万全の態勢で招き入れる予定だという。先の日中関係筋の話だ。会談を前に握手する自民党の二階俊博幹事長(左)と中国の習近平国家主席=5月16日、北京の釣魚台迎賓館(共同)「二階氏はかつて江沢民・元国家主席の石碑を地元・和歌山を皮切りに日本全国に作ろうとしたほどの親中派。上野動物園に2頭しかいないパンダが、和歌山・白浜町のアドベンチャーワールドには7頭いることからも二階氏と中国との蜜月ぶりがわかる。中国は二階氏を自民党だけでなく、日本の“陰の権力者”と見ている」 なぜ、この人物がそれほどの力を持ったのか。 二階氏は和歌山県議を経て1983年に初当選。当時の竹下派に所属していたが、1993年の政変で小沢氏とともに自民党を離れる。その後、小沢氏と袂を分かち、保守党を経て2003年に自民党に復党。小泉内閣で経産大臣、安倍政権の総務会長、麻生内閣では再び経産大臣と常に中枢に座り続けている。自民党中堅議員が語る。「出戻り議員としては非常に珍しいパターンで、率いている二階派は2009年総選挙で本人以外全員落選したが、それでもちゃっかり旧伊吹派の会長に収まっていまも勢力を拡大している。資金力がケタ違いで若手議員の面倒見は抜群にいい」 先の総選挙ではその辣腕ぶりを発揮した。無所属で出馬して自民党議員に勝利した元民主党の山口壮・代議士を“特別会員”として自派閥に入れ、ついには周囲の反対を押し切って入党させるという荒業をやってのけた。 いまだ安倍首相の訪中が実現していない中で、大訪中団を引き連れて習近平氏と握手することになれば、党内に敵なしと思い込んでいる安倍首相の心中も穏やかではないだろう。ただし、それが中国の狙いであることを二階氏はよくご存知のはずだ。関連記事■ 二階俊博氏 3000人同行で中国を訪問発表、15年前は5200人■ 対中外交 強気な安倍氏も本気で構えたら大変との指摘出る■ 外務省分析員が新指導体制下の中国が抱える問題を解説した本■ 細川氏出馬宣言に自民党色の緑ネクタイで臨んだ小泉氏の真意■ 小渕氏ら親中派を結束させ安倍氏の対抗勢力に 中国が画策か

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    中国の「沖縄包囲網」は最終段階に入った

    一見すると、そのような期待感も漂っているが、手放しで喜べる状況にはない。沖縄の現状をつぶさに見ると、中国による沖縄工作が既に始まっているからだ。4月10日、北京の人民大会堂で中国の李克強首相(右)と握手する沖縄県の翁長雄志知事(共同) 昨年12月28日、東京都内のホテルで沖縄県と中国・福建省が「経済交流促進に係る覚書」(MOU)を締結し、福建の自由貿易試験区での規制緩和や手続きの簡素化に向けた協議を進めることなど6項目の取り組みを約束した。締結式には翁長氏や中国の高燕商務次官のほかに、日本国際貿易促進協会(国貿促)の会長、河野洋平元衆院議長も出席した。沖縄県は、県産品や沖縄を中継した国産品の輸出拡大を図る絶好の機会とみている。 さて、辞任した安慶田氏の後任として副知事に就任したのが、沖縄国際大学元学長の経済学者で、県政策参与を務めていた富川盛武氏である。富川氏は、参与時代からさまざまな沖縄経済の発展構想を県のホームページで発信しており、その構想に期待を示す県民も少なくないだろう。 実は、富川氏が示しているプランは、沖縄県が福建省と締結した覚書と同じ路線にある。それが「福建-台湾-沖縄トライアングル経済圏」構想である。沖縄県の経済特区、福建省の自由貿易試験区、台湾の経済特区のトライアングルをつないだ経済圏を構築するものだ。それは、沖縄県産品のみならず、那覇空港をハブと位置付けて日本全国の特産品を福建省に送る「沖縄国際物流ハブ」構想だ。 確かに沖縄は「アジアの玄関口」として物流の中継点に好立地である、という発想は正しい。 しかし、少し立ち止まって考えていただきたい。経済的視点から、沖縄が「アジアの玄関口」であることは、軍事的に見れば「日本侵略の要所」「日本防衛の最前線」でもあるということだ。現に、昨年度の航空自衛隊のスクランブル発進は1168回(前年比295回)と過去最高であり、そのうち、中国機に対する発進が851回(前年比280回)で7割超を占めている。前年比から増加したのはほぼ中国機である。沖縄自民党にすりより始めた中国 そして、ここで忘れてはならない重要なことは、中国は尖閣諸島を福建省の一部と位置付け、天気予報まで行っているということだ。つまり、沖縄県はあろうことか、海と空から尖閣実効支配の既成事実を作ろうとしている中国の、一地域と主張する福建省の経済圏に自ら入り込もうとしているのだ。 中国との経済交流を進める動きは行政だけではない。今年2月3日、那覇市内のホテルで、「沖縄県日中友好協会」の設立を記念した祝賀会が開催され、中国の程永華駐日大使の講演会も行われた。駐日大使の講演があったということは、この組織が中国共産党、中国政府の肝いりということがうかがえる。 この祝賀会には、日中友好協会の丹羽宇一郎会長も参加し、乾杯の音頭をとっている。だが、参加した政治家は翁長氏を応援する「オール沖縄」系ではなく、自民党などの保守系がほとんどだった。中国の一部メディアは、沖縄県日中友好協会が「沖縄県議会議員の提唱によって、官民ともに設立した一般社団」と報じている。その県議会議員とは特別参与に就任した県議会議員を指していると推測されるが、彼もやはり自民党所属議員だ。 沖縄県と福建省の経済的な動きは既に加速度的に進み始めている。県内企業の中国貿易を支援する琉球経済戦略研究会(琉経会、方徳輝会長)は2月23日、中国国際貿易促進委員会の福建省委員会と貿易や投資促進を目指す覚書を交わした。会長の方氏は貿易業のダイレクトチャイナ社長であり、中国現地の会社と連携して県産品を中国に送り込むビジネスを展開している人物である。県と福建省が昨年12月から規制緩和や手続きの簡素化に取り組む中、企業間交流を加速させ、具体的な取引を始めさせる算段だ。中国・福建省の中心都市、廈門(アモイ)の海岸 3月には新たな福建省に進出が決まった企業のニュースも報じられた。沖縄本島南部にある与那原町の合同会社「くに企画」が7月から県産化粧品7商品を福建省のドラッグストアで販売することが決まったというのだ。この実現には県と中国政府の手厚い支援がある。中国では化粧品を輸入する会社は、政府の国家食品薬品監督管理局の許可を得ることが必要である。「くに企画」の商品を輸入するケースでは、「上海尚肌(しょうき)貿易有限公司」が許可を取得し、福建省内のドラッグストア十数店と契約を締結した。 一方、沖縄県のほうでも、くに企画に政府系金融機関の「沖縄振興開発金融公庫」から1000万円の融資が行われたという。くに企画を調べると、2015年10月設立された法人の存在は確認できるが、会社のホームページすら存在しない。その実態は、くに企画によるビジネスというより、中国の会社が沖縄からの仕入れを計画し、くに企画にたまたま白羽の矢が立って、沖縄振興開発金融公庫が融資を行ったようにしか見えないのだ。人民解放軍の軍人が潜伏? 日本では日中国交正常化以来、中国に進出した企業の多くは、人件費の高騰や政策変更などリスクがつきまとい、撤退を始めている。しかし、現在の沖縄では、福建省に進出するといえば誰でももうけさせてもらえるような、上げ膳据え膳のサポート態勢が整いつつある。沖縄では20年以上遅れて、中国と福建省の合作で人為的な中国進出ブームが起きようとしているのだ。 一方、観光客のみならず、さまざまな切り口で沖縄に中国人を呼び込むプロジェクトも進められている。昨年3月、中国で高齢者福祉などを支援する中国老齢事業発展基金会(李宝庫理事長)が、中国への介護技術の普及に向けた「沖縄国際介護先端技術訓練センター」建設のために、本島南部の南城市にある約4300平方メートルの土地を買収したのだ。 沖縄をモデル地域に位置付け、中国からの研修生が日本の介護技術を習得し、中国国内約300都市に設置予定の訓練センターで介護技術普及を図るという。この案件を進めたのも、前述した河野洋平氏が会長を務める国貿促だ。国貿促の担当者は沖縄を選んだ理由に、アジアの中心に位置し国家戦略特区であることを挙げたという。 その訓練センターの事業体として、昨年9月13日、東京都赤坂のアジア開発キャピタル(網屋信介社長)と中国和禾(わか)投資(周嶸、しゅうえい代表)が共同出資を行い、新会社「アジア和禾投資」を設立した。新会社はアジアキャピタルの連結子会社となり、所在地もアジアキャピタルと同じビルとなっている。新会社への出資比率はアジアキャピタルが55%と多いが、社長は中国に多くの人脈を持つ中国和禾投資の周代表が就いている。沖縄に中国人が社長を務める巨大な介護訓練センターが出現するのだ。 もう一つ、気になるプロジェクトがある。航空パイロットの育成を手がけるFSO(玉那覇尚也社長)が中国の海南航空学校と業務提携の覚書を締結し、今年から70人程度の訓練生を受け入れるというのだ。FSOは沖縄県にフライトシミュレーターと実際のフライトを組み合わせた訓練場を、宮古諸島にある下地島空港の活用策として提案しており、県から空港利活用の候補事業者としても選定されている。中国人訓練生の中には人民解放軍の軍人が潜り込んでいる可能性もあり、かなり危険なビジネスである。有事の際、下地島空港で破壊活動や工作活動をされるリスクを招くのではないだろうか。翁長敗北で起こる「最悪のシナリオ」 沖縄は既に、多くの中国人観光客が訪れ、街も変貌してきたが、これら2つの事業が本格化しただけで沖縄のビジネス界も様変わりしてしまう。沖縄は既に中国経済に飲み込まれるレールが敷かれているのだ。米軍普天間飛行場の辺野古移設に反対する集会で演説する沖縄県の翁長雄志知事=3月25日午前、沖縄県名護市 以上、中国による官民一体となった沖縄経済の取り込み工作の実態を確認してきた。このままいけば、沖縄では中国人観光客があふれるだけではなく、「社員が中国人」という会社が多くなり、「私の会社の社長は中国人」というケースも増えていくことになるだろう。そんな中、来年の県知事選で辺野古移設阻止に失敗した翁長氏を自民党系候補が破り、県政奪還に成功しても、新知事も福建省との経済交流推進者にならざるを得ない「最悪のシナリオ」が起こる可能性は大きい。自民党にターゲットを定めたかのような沖縄県日中友好協会の設立はそのための伏線ではないだろうか。そうなれば、沖縄が後戻りすることはもはや不可能になってしまう。 また、尖閣諸島で紛争が起きたとき、中国政府は中国進出企業との取引を停止する制裁を科すだろう。「中国依存度」の高い会社からは、政府や沖縄県に取引再開の交渉を求める声が当然上がってくる。会社が倒産したら、社員の明日の生計が立たなくなるからだ。琉球新報や沖縄タイムスには「政府は無人の尖閣諸島より県民の生活を守れ!」という趣旨の見出しが掲載されるだろう。そこで、中国は紛争の解決策として「尖閣諸島の共同管理」を提案してくることは間違いない。そのとき「沖縄は中国と経済交流してここまで豊かになってきた。中国と戦争して貧しくなるより、尖閣諸島を共同管理、共同開発して豊かな生活をしたほうが良い」という声が上がったら否定するのは極めて困難になってくる。 現代の戦争は軍事衝突だけではない。平時においても戦争は行われている。それは外交戦、経済戦、歴史戦、国際法律戦など、ありとあらゆる手段を使った戦争が行われているのだ。武力戦が始まるときにはほぼ勝負は決まっている。今、東シナ海の真ん中にある沖縄は、その総力戦のまっただ中にある。 沖縄をハブ空港として発展させるビジョンは正しいが、その背後に経済・防衛政策がなければならない。なによりも、沖縄を日本の経済圏の中に断固として組み込み、中国にコントロールされるような隙をつくらないことが必要だ。沖縄防衛は自衛隊だけでは不可能な時代である。手遅れにならないためにも、日本政府は経済や歴史、文化侵略など、あらゆる側面から沖縄防衛計画の策定を急がなければならない。