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    習近平の逆ギレで始まる「中国の暴走」

    建国70年を迎え、中国の習近平政権は過去最大規模の軍事パレードで軍拡路線をアピールした。一方で、経済大国に成長しながら、共産党一党独裁という政権の異質さは変わっていない。覇権主義を突き進み、悪しき原点と評される「毛沢東時代」に立ち戻ろうとする中国は、暴走の果てにどこへ向かうのか。(写真は共同)

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    なぜ習近平は毛沢東の「暗黒時代」に戻そうとするのか

    を考えるためには、中華人民共和国の生い立ちと歴史を一度振り返ってみる必要があろう。 今から70年前の中国の建国はそもそも、毛沢東(もうたくとう)共産党が中華民国という合法政府に対して軍事反乱を起こして内戦に勝ち抜いたことの結果である。だから建国当時からこの国は軍事力を基盤にした共産党独裁の軍事政権であり、今でもこの体質は全く変わっていない。近代政治文明の視点からすれば、中国はまさに異質な国であり、「民主と自由」の普遍的価値観とは正反対の政治理念の持ち主である。 建国してから1976年までの毛沢東時代、中国は共産党の一党独裁によって支配されていたのと同時に、希代の暴君である毛沢東の個人独裁の支配下にもあった。 その時代、国民全員は人権と自由のすべてを奪われて完璧な密告制度によって監視されていて常に政治的恐怖におびえていた。その一方、国民の経済生活はいわば社会主義計画経済によって完全に統制されていた。民間企業が消滅させられ競争の論理も放棄された中では経済が活力を失って成長が止まり、中国はアジアの中でも最貧困国家の一つに成り下がっていた。 その一方、毛沢東の共産党政権は対外的には覇権主義的拡張戦略を積極的に進めた。建国の直後にチベット人やウイグル人の住む地域に人民解放軍を派遣してそれを占領して中国の一部にした。朝鮮半島にも出兵して連合国軍と戦い、ベトナム戦争にも参戦してベトナムの共産党勢力を支援した。そして国境を挟んでインドや旧ソ連とも局部的な戦争をした。 まさしく軍事政権よろしく、毛沢東の中国は軍事力を使って周辺民族に対する侵略を繰り返し、周辺国との無謀な戦争にも明け暮れていた。しかし結果的には中国は国際社会からますます孤立してしまい、一時は米ソ両大国を敵に回して世界と断絶するような鎖国政策をとった。 やがて毛沢東晩年の文革期になると、嵐のような紅衛兵運動の中で1億人単位の人々が何らかのかたちで政治的迫害を受け、知識人を中心にして数千万人の人々が殺されたり自殺に追い込まれたりした。中国全体はまさに阿鼻(あび)叫喚の生き地獄となった。おそらく中国四千年の歴史の中では、文革の十年こそは最も悲惨なる暗黒期だったのであろう。 そして1976年に毛沢東が死去すると、中国の現代史に大きな転機が訪れた。毛沢東死後の一連の政治闘争を経て党と国家の最高権力を手に入れたのは実務派幹部の鄧小平(とうしょうへい)であるが、彼は政治の実権を握ると、毛沢東の政治路線とは正反対の改革・開放路線を進め始めた。中国建国70年を迎え、北京の天安門の楼上に並ぶ習近平国家主席ら要人(上)と毛沢東の肖像画=2019年10月1日(共同) 「改革」とは要するに、硬直した社会主義計画経済に競争の論理を導入すると同時に民間企業の復活を認めて経済に活力を与えることだ。一方の「開放」とは要するに、毛沢東時代の鎖国政策に終止符を打ち、中国の「国門」を外部世界、特に西側先進国にオープンしていくことによって、諸先進国から経済成長のために必要な資金と技術を導入することである。 そのためには、鄧小平は毛沢東時代の拡張戦略にも一定の軌道修正を加えた。いわば「韜光養晦」(とうこうようかい)戦略の下で、覇権主義的野望を一時的に覆い隠してソフトな外交路線を進めることで西側諸国の警戒心を和らげ、外国資本と技術が中国に入りやすくなるための環境整備を行った。全て共産党体制強化のため 結果的にはこのような鄧小平路線と戦略は大いなる成功を収めた。1980年代からの数十年間、アメリカや日本、そしてEU諸国を含めた西側先進国は皆、「中国はそのまま開放を拡大して成長が続けば、いずれか西側の価値観と民主主義制度を受け入れて穏やかな国になるだろう」との期待感を膨らませて、さまざまなかたちで中国の近代化と経済成長を支援した。 西側先進国の企業も「巨大な中国市場」に魅了されてわれが先にと中国進出を果たして資金と技術の両方を中国に持ち込んだ。その結果、中国は数十年間にわたって高度成長を続け、今や経済規模において経済大国の日本を抜いて世界第二の経済大国となった。そしてそれに伴って、中国という国の全体的国力は、毛沢東時代のそれとは比べにならないほど強大化した。 しかし中国は果たして、西側の期待する通りに普遍的な価値観を受け入れて穏やかな民主主義国家となっていくのだろうか。答えはもちろん「NO」である。 鄧小平は国力増大のために経済システムの改革と諸外国に対する開放政策を進めたが、それはあくまでも共産党一党独裁体制を強化するための手段であって戦略であり、西側の価値観を受け入れて中国を民主主義国家にしていくつもりは毛頭ない。1989年6月、それこそ西側の普遍的価値観に共鳴して中国の民主化を求める学生運動に対し、鄧小平政権が断固として血の鎮圧を敢行したのはまさにそのことの証拠だ。共産党政権の異常なる本質はこれでよく分かったはずである。  だが、残念ながら天安門の血の鎮圧の後でも、アメリカや日本などの先進国は依然として中国への幻想を捨てきれず中国への支援を続けた。特に2001年に中国が世界貿易機関(WTO)に加盟した後には、アメリカなどの先進国は技術と資金だけでなく、国内市場をも中国に提供することとなって中国の産業育成・雇用確保・外貨の獲得に大きく貢献した。 このため中国の経済規模の拡大は勢いを増したが、それに伴って中国の全体的国力と軍事力が飛躍的に上昇して、中国は西洋諸国をしのぐ世界第二の経済大国になっただけでなく、世界有数の軍事大国になって世界全体に大いなる脅威になっているのである。 この流れの中で、2012年に今の習近平政権が成立してから、中国は鄧小平時代の築き上げた強大な経済力と軍事力をバックにして再び世界制覇・アジア支配の覇権主義的野望をむき出しにして、そのための本格的戦略を推し進め始めた。 習近平主席は就任したときから、いわば「民族の偉大なる復興」を政権の基本的政策理念として全面的に持ち出した。その意味するところはすなわち、中華民族が近代になってから失った世界ナンバーワンの大国地位を取り戻して、かつての「華夷秩序」の再建を果たしてアジアを再びその支配下に置くことである。中国建国70年の記念式典で、人民解放軍を閲兵する習近平国家主席=2019年10月1日、北京(新華社=共同) そのためには習主席と彼の政権は、鄧小平以来の「韜光養晦」戦略と決別し「平和的台頭」の仮面をかなぐり捨て、赤裸々な覇権主義戦略の推進を始めた。 巨額な外貨準備高を武器にアジア諸国やアフリカ諸国を借金漬けにして「一帯一路」による「中華経済圏」、すなわち経済版の「華夷秩序」の構築をたくらむ一方、南シナ海の軍事支配戦略の推進によってアジアと環太平洋諸国にとっての生命線である南シナ海のシーレーンを抑え、中国を頂点とした支配的な政治秩序の樹立を狙っているのである。毛沢東時代に逆戻り それと同時に、習政権は国内的には毛沢東時代以来、最も厳しい思想統制・言論弾圧・人権弾圧・少数民族弾圧を行い、人工知能(AI)技術による完璧な国民監視システムの構築を進めた。その一方、習政権はいわゆる「国進民退」政策を推進して、国有企業のさらなる強大化を図って民間企業を圧迫し、毛沢東時代の計画経済に戻ろうとする傾向さえを強めてきている。 つまり、外交と内政の両面において今の習近平政権は鄧小平以来の「穏健路線」を放棄して、毛沢東時代の強硬政治と過激路線に逆戻りしている。そして、政権運営の仕方に関しても、習主席は鄧小平時代以来の集団的指導体制を破壊して、彼自身を頂点に立つ独裁者とする、毛沢東流の個人独裁体制を作り上げている。そのために彼は憲法まで改正し、国家主席の任期に対する制限を撤廃して自らが終身独裁者となる道を開いた。 しかし、ここまで来たら、鄧小平の改革時代以来、西側先進国の中国に対する甘い期待が完全に裏切られることとなった。中国が成長して繁栄すれば、西側の期待する通りの穏やかな民主主義国家になるというわけでは全くない。 中国が成長して強大化すればするほど、極端な独裁体制になって人民の自由と人権を抑圧し、国際的にはますます横暴になって覇権主義的・帝国主義的拡張戦略を推し進め、アジアと世界全体にとっての脅威となっているのである。 だが、結果的にはそれはまた、西側諸国の中国に対する甘い幻想を粉々にうち壊して、中国共産党政権の変わらぬ本質と中国の危険性を人々に再認識させ、国際社会の警戒心を呼び起こした。 その中で特に重要なのは、習政権の危険なる行いはやがて、数十年間にわたって「中国幻想」を抱くアメリカという国を目覚めさせ、「敵は北京にあり」との認識をアメリカに広げたことである。 今のアメリカでは、民主党、共和党問わず、「中国敵視」こそが政界とエリート層の共通したコンセンサスとなってしまった。習政権は愚かにも、アメリカという世界最強の技術大国・軍事大国を眠りから起こして敵に回した。 こうした中で、2017年に誕生したトランプ政権は成立当時からまさに中国からの脅威への対処を最も重要な政策課題にした。「航行の自由作戦」を展開して中国の南シナ海支配戦略を強くけん制する一方、日本との同盟関係強化や台湾との関係強化を図って中国のアジア支配に「NO」を突きつけてきた。 握手するトランプ米大統領(左)と中国の習近平国家主席=2018年12月1日、ブエノスアイレス(新華社=共同) 2018年になると、トランプ政権はさらに、中国に対する本格的な貿易戦争を発動した。それは実は、今の中国の最も痛いところを直撃するような高度なる戦略である。前述のように、強大化した中華帝国の土台を支えているのはあくまでも今までの経済成長だが、中国経済のアキレス腱(けん)は実は、内需が徹底的に不足している中で、経済の成長は国内の投資拡大と対外輸出の拡大に大きく依存している点である。そして中国の対外輸出の最大の得意様はまさにアメリカであり、中国の貿易黒字の6割は実はアメリカ市場から稼いでいる。 つまり、広大なアメリカ市場こそが中国の経済成長の命綱の一つであるが、トランプ政権が貿易戦争を発動して中国製品に高い関税をかけると、中国の輸出品はアメリカ市場から徐々に締め出されていくことになる。実際、今年の上半期においては、中国の対米輸出は前年同期比で8%以上も減ってしまい、輸出全体もマイナス成長に陥っているのである。 中国経済は沈没の一途 対米輸出と輸出全体が減ってしまうと、当然の結果、国内の輸出向け企業が軒並みに倒産して失業が拡大し、景気の悪化が加速する。その一方、輸出減がそのまま中国の手持ちの外貨の減少にもつながるから、一帯一路推進のための財源も枯渇していく。言ってみれば、トランプ政権が発動した貿易戦争は、中国経済に大きな打撃を与えているのと同時に、習政権の覇権主義的国際戦略の推進に対する「兵糧攻め」にもなるから、まさに一石二鳥である。 貿易戦争の発動と拡大が一因となって、中国経済全体は今や毎月のように減速して沈没への一途をたどっている。政府の公表した数字にしても、中国の成長率はすでに最盛期の10%台から直近では6・2%に陥っているが、中国国内の専門家が明らかにしたところでは、2018年の実際の成長率が1・67%であって、高度成長はほぼ終焉(しゅうえん)しているのである。それ以外には、中国経済はまた、巨額な国内負債問題や史上最大の不動産バブルの膨張などの「時限爆弾」的な大問題を抱えているが、その中の一つでも「爆発」すれば中国経済は一気に崩壊の末日を迎える可能性は十分にあろう。 その一方、国際戦略の推進に関しては、習政権肝いりの一帯一路構想は今や「闇金融」であるとの「名声」を世界的に広げて、欧米諸国から厳しく批判される一方、アジア諸国からの離反も相次いでいる。一帯一路は今、風前のともしびとなっているのである。 こうした中で、中国国内でも習政権にとっては頭の痛い政治的大混乱が起きている。中国の特別区である香港で起きた抗議運動の長期化である。 いわゆる「逃亡犯条例修正案」の提出をきっかけに今年6月に巻き起こった香港の市民運動であるが、香港当局が「条例修正案」の撤回を正式に表明した後でも、運動は静まる気配を一切見せていない。今ではそれは完全に、香港市民の中国共産党政権に対するボイコット運動となっていて、長期化していく様相を呈している。 そして、香港の抗議運動が数カ月にわたって展開していても、中国政府と香港政府はそれを収拾することもできなければ沈静化することもできない。 10月1日、習政権は北京で国威発揚のための建国70周年記念式典・軍事パレードを盛大に行ったその当日、香港市民が黒い服を身につけて大規模な抗議活動を展開していた。習政権のメンツはこれで丸つぶれとなって「国威発揚」はただの笑い話となっているのである。中国・香港で「逃亡犯条例」改正案を発端とした抗議活動をするデモ隊(奥)に、警官隊が催涙弾を撃ち込み現場に立ち込める煙=2019年10月1日(共同) こうしてみると、中国の習近平政権は四面楚歌(そか)・内憂外患の中で建国70周年を迎えたことになっているが、考えてみればそれはまさに、70年前に成立した中国共産党政権の歪(いびつ)な体質をさらに拡大化して独裁と覇権主義を強めた習政権の政治・外交路線のもたらした必然な結果であろう。アメリカも香港市民も、この共産独裁帝国の危険性、そして習政権の危険に気が付いて中華帝国に対する逆襲を始めたわけである。毛主席記念堂参拝の意味 こうした中で、習政権は今後一体どうやって、国内外の難局を乗り越えて活路を見いだしていくのだろうか。それを占うのに示唆の富んだ動きの一つがあった。9月30日、建国70周年記念日の前日、習主席はなんと、最高指導部の面々を率いて、天安門広場にある「毛主席記念堂」を参拝したのである。 鄧小平の時代以来、共産党最高指導部の人々が毛沢東の遺体を安置しているこの記念堂を参拝するのは普通、毛沢東誕辰(誕生日)100周年や110周年などの節目の記念日に限ったことであって、建国記念日に合わせて参拝した前例はない。 習近平指導部による、上述のような前例破りの行動には当然、特別な政治的な意味合いが込められているはずだ。要するに習主席はこの行動をとることによって、自分と自分の政権は今後、まさに毛沢東路線へ回帰することによって内憂外患の難局を打破していく意志であることを内外に向かって宣言したわけである。 人間が窮地に立たされた時には退嬰(たいえい)的な行動をとるのはよくあることだが、それと同様、今になって窮途(きゅうと)末路の習主席と習政権はどうやら、毛沢東時代への先祖返りで政権の自己防衛を図り、生きていく道を切り開こうとしているのである。 こうしてみると、建国して70年がたっても、共産党政権は一向に変わることなく毛沢東時代以来の独裁軍事政権のままであることがよく分かるし、70年間にわたる中国共産党政権の歴史は結局、70年前の悪しき原点に立ち戻ることを最終の帰結としている。 もちろん、毛沢東時代への回帰は中国自身と周辺国にとって何を意味するのかは明々白々である。習政権の下では中国という国は今後、国内的には思想統制と言論弾圧・民族弾圧がますます厳しくなって、経済が再び社会主義計画経済の統制下におかれて活力を失っていくのであろう。そして対外的には、今後の中国は武力と恫喝による台湾併合を進めていくだけでなく、周辺諸国に対してますます覇権主義的強硬外交を展開していき、習政権の中国はこれまで以上に、アジアと世界全体にとっての脅威になっていくのであろう。会談に臨む中国の習近平国家主席と安倍首相=2018年9月12日、ウラジオストク(代表撮影) 毛沢東時代に先祖返りしていく、この凶暴にして退嬰的な巨大帝国の脅威にどう対処していくのか。それこそが今後、日本を含めたアジア諸国が直面していく最大の安全保障上の難題であろう。

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    渡邉哲也×吉川圭一対談 覇権争いで剥がれ始めた中国の「仮面」

    な話題になっていますが、この根底には世界の大きな覇権争いが存在するわけです。どういうことかと言えば、中国はアメリカに対して太平洋の分割を迫り、覇権国家であるアメリカの体制を壊そうとした。それに対してアメリカ側は安全保障上の問題も含めて現代戦に持ち込みました。大量破壊兵器が生まれた現代としてはかつてのようないわゆる武力だけの紛争ではなく、経済も大きな戦争の要因になっている。だからよく米中貿易戦争という言葉がありますが、正しくは「米中戦争貿易版」と考えた方がよいでしょう。 そしてアメリカとソ連の冷戦終結後、グローバリズムが世界に広まっていきましたが、これは、モノ、カネの移動の自由ということです。グローバリズムとは、一つのルールで世界が動くことを意味しますが、中国はその自由側社会、つまり西側社会に入ってくるとき、西側社会のルールのもとで活動すると言っていたのに、実際は資本移動の自由どころか、国有企業の改革もしなかった。結局、開発独裁型の経済をそのまま維持し、しかもそれが軍事と連動しているので、アメリカは圧倒的に不利なわけですね。あくまで中国は自分たちのルールでやっていますからね。 例えば日本やアメリカの企業が完全な民間資金でビジネスをやっている一方で、中国企業はバックに国がついていていくらでも資金が調達できる。これを同じ土俵で戦えるかというのがアメリカ側の言い分なわけです。中国は世界貿易機関(WTO)に入るとき、完全な資本の自由化と、国有企業をなくして民営化していくと言った。でも、それを守っていない。また、国際通貨基金(IMF)からの特別引出権(SDR)についても為替の自由化を約束しておきながら、これもやっていない。人民元は管理変動相場制で管理するかたちで、いわゆる人民元レートを自由に移動できる、自由に調整できるから好きなようにビジネスができる。こういうような状況なわけですね。 これに対して改善しろと言っているのがアメリカですが、それをすると崩壊に面している中国のバブルがもうもたないという中で、さてどうするかというのがこの米中貿易戦争の始まりだと思いますね。 吉川 まさに渡邉さんのおっしゃる通りで、やはりトランプ大統領の登場を見ていると、冷戦時代に当時のキッシンジャー国務長官が中国と協力してソ連の包囲網をつくったように、今の状況ではロシアと協力して中国を封じ込めないといけないという視点が生まれました。ただ、既存のワシントンの政治家や官僚が、冷戦思考から抜けきれず、特にウクライナのクリミア問題以来、反ロシアで固まってしまっている中で、「ならばトランプさん、君やらないかね」というような空気になったことも、トランプが大統領になるきっかけだったと、私は思いますね。 渡邉 そうですね。いわゆる新たな冷戦の始まりを米中の間において言えば、南シナ海における「航行の自由作戦」の本格化ですから、2010年あたりからですよね。それでいわゆる米露に関してはウクライナ問題が2014年の2月、ソチオリンピックの直後です。この二つによって世界の分断が始まったと言えますね。そして、それが「鉄のカーテン」なのか、いわゆる「竹のカーテン」なのかと、最近よく言われますが、もちろんかつての冷戦は「鉄のカーテン」で、これはアメリカとソ連。今、言われているのが「竹のカーテン」でアメリカと中国ですが、ロシアは今、どちらかというとフリーハンドの状況ですね。中国経済の現状や先行きなどについて対談する渡邉哲也氏(右)と吉川圭一氏=2019年9月、東京都千代田区(飯田英男撮影) 吉川 この前、尖閣諸島の上空を中国とロシアの爆撃機が飛行した際、中国側が飛ばしたのは最新鋭のものでしたが、ロシアが飛ばしたのは冷戦時の中古とは言わないけれども、それぐらい古い年式のものでした。私はこれを見て、やはり、ロシアとしては半身の構えなんだなと、使った爆撃機の性能からそう思いましたね。イスラムのテロ対策と称してロシアに相談もなくカザフに中国軍を送ったことも、ロシアの対中不信感の原因になっている。一方で、中国もプーチン大統領を取り巻く財閥などを信用していないので、ロシアに本気で投資をしていない。 渡邉 中国とロシアは、そもそも国境に面して互いに敵対していますが、敵対していることを表に出さないという空気があります。今の北朝鮮情勢もそうですが、中国とロシア、どちらもどっちつかずで動いているじゃないですか。 吉川 私はどちらかというと、北朝鮮は、今はもうロシアに近く、金正恩朝鮮労働党委員長は習近平国家主席が叔父や兄を使って自分を排除しそうになったから、叔父や兄を殺したと聞いています。北朝鮮のミサイルの技術などは明らかにロシア製ですからね。狙われるグリーンランド 渡邉 いずれにせよ、中国とロシアは核心的な利益の部分で確実に対立するものがあります。それは「水」です。ロシアの水を中国は水源として狙っていると言われていて、ここに関してロシアと中国は絶対的に敵対することになります。 吉川 私もワシントンにいたとき、ロシア大使館の関係者と話をすると、公の席ではなく、酒席では、中国からの不法移民がシベリアには多すぎると聞きましたね。このままだとシベリアを取られてしまいそうだと、相当警戒していますね。 渡邉 そうですね。今は、習近平が打ち出した経済圏構想「一帯一路」がよく言われますが、新たな軍事的対立点になろうとしているのは、北極海です。北極海においてはロシアと中国は完全に対立しているわけです。中国がかなり北極に進出しており、これに対してアメリカもロシアも、中国は北極隣接国ではなく、開発権限はないと主張していますからね。 吉川 北海道の土地も中国資本がかなり買い漁っています。中国の船が年中北極に行く海路を抑えるためではないかと聞いていますが、実際どうしようとしているのでしょうか。 渡邉 それについては、ロシアと中国、アメリカの三つ巴(どもえ)の中でトランプはグリーンランドを買いたいと言っています。 吉川 その通りです。私もそれを申し上げようと思っていたのです。 渡邉 メキシコとアメリカの国境の壁の話もそうですが、グローバリズムというものは、カネの移動の自由化なのでしょうが、トランプが壁を作ると言って大統領選で勝利しましたが、これらはカネの間に壁を作っていくということだと思います。その壁の意味というのは、象徴的な意味合いの方が強いと思います。難民対策という面もありますが、例えばモノで言えば、中国に対する関税、すなわちそれが壁です。今、中国人にビザ規制をしていますが、これも壁と言えます。 吉川 ですが、アメリカは中国を為替操作国指定はしたし、そろそろカネに関する壁作りも始めるということではないでしょうか。 渡邉 為替操作国指定をして、そろそろ始めるというより、すでに始まっていますね。結局、トランプのビジネス、いわゆる口先介入というかツイッター介入というのはすごく分かりやすくて、規制のかけ方も分かりやすい。株価が最高値をつけたところで中国に対する再規制をツイッターで宣告することで、株価が下落する。そしてまた戻ると、再規制をかけるという具合です。それで足りない場合は、米連邦準備制度理事会(FRB)による利下げなどで、さらに金融支援をさせるかたちで株価をうまくコントロールしながら、中国に制裁をかけているのです。要するに、株価連動政治ということです。経済評論家の渡邉哲也氏=2019年9月、東京都千代田区(飯田英男撮影) 吉川 トランプの減税で一度よくなったアメリカの景気が今年の第1四半期に3%成長だったのが、第2四半期には2%成長になり、来年には1%台になるかもしれません。失業率は下げ止まりしていますが、トランプを当選させた自動車工場などで働いている人の失業が実は30万人ぐらい出てしまっており、その辺がトランプの大統領再選に関して気にしているところです。 ただ、トランプの政策をもってしても、なかなか中国に進出したアメリカ企業の工場などが、アメリカに戻ってこないので、そのためかもしれません。中国に進出したアメリカ企業の8割以上が「トランプ関税」の影響を感じていますが、今ある工場などを中国から撤退させることを予定している企業は1割ほどです。中国のまやかし 渡邉 ところで、米中貿易戦争の中で進んでいる協議の中に、資本移動の自由があります。中国の場合、中国で出た利益を国外に持ち出せないので、結果的に撤退できないという事態になっています。中国に資本移動の自由を認めさせることができれば、いわゆる利益を持ち出すかたちで海外に移すことができる。でも、これができないので、企業の中にはその中国からの撤退ができない企業がたくさんあります、実際「チャイナプラスワン」(中国でのリスクを避けるため他国にも拠点を設ける)というかたちで中国工場を最小限にとどめつつ、別の国に工場をどんどん移している。もう7割以上の企業が今年に入って、中国拠点の規模縮小や中国以外の国で始めています。 吉川 実はそのトレンドは、トランプの関税政策が始まる前から、東南アジアの方が、労働賃金が安くなってきたので、もう始まっていた流れを加速させたということでしょうね。 渡邉 そうですね。だいたい2012年あたりからチャイナプラスワンを始めていて、ベトナムやミャンマーなどが低賃金の国と言われ、こうした中で2015年8月に中国株式のバブル崩壊がありましたよね。あの辺りから中国の景気がかなりおかしいと、気がついているわけですよ。ただ、中国共産党の目もあるので、表立って中国からの離脱は言わないですが、もうすでにTシャツなどの縫製の移転はかなり進んでいました。 それから、中国の一番のまやかしというか誤解は、14億人いる人口に関するとらえ方ですね。そもそも、中国の社会構造は一種の「カースト」で、実際日本人と同等レベルの生活ができる人は5千万人しかいない。そしてこの5千万人を含んだ1億5千万人が経済協力開発機構(OECD)加盟国レベルとされています。また、この1億5千万人を含んだ3億人が都市住民と言われ、残りは地方住民。さらに、地方住民の中の3億人だけが将来的に都市住民なれるわけです。要するに、14億人のうち8億人は農工民を中心とした貧困層という構造なのです。 吉川 なるほど、経済が都市部に集中しているアメリカの方が14億人いる中国よりも、本気で大規模な核戦争になったときに脆弱だと言う人はいますが、中国も都市部への極端な集中はしていますね。 渡邉 集中はしていますが、中国とアメリカの違は人権のあるなしですよね。中国はかつての偉大なる毛沢東が中国人は半分死んでも大丈夫というような話をしていました。 吉川 そう。だから習近平もそういう意味のことを言っていますよ。アメリカに「やれるものならやってみろ」と言っていますよ。 渡邉 ただそれはもう結局、最終的というか、最悪な手段という選択で、互いに核を保有して抑止する「相互確証破壊」の世界に入ってくるわけですね。 吉川 でも最近は人権問題などでアメリカのリベラル派も対中国強硬路線になってきました。保守派は安全保障問題などで反中。要するに、今はもうアメリカは国をあげて反中国で、実はトランプが来年の再選のために対中関税などで経済を悪化させたくないため、最も中国と特に経済問題でディール(取引)したがっているといった不思議な話になってきています。グローバル・イッシューズ総合研究所代表の吉川圭一氏=2019年9月、東京都千代田区(飯田英男撮影) 渡邉 先にも述べましたが、中国は開発独裁国家ですからね。だから一番みなさんが勘違いしているのは、中国共産党というだけに、共産主義国家だと思っている人が多いでしょうが、巨大な開発独裁国家であって決して公平分配は目指していません。むしろ世界で一番格差の大きい共産主義を名乗る国家です。 吉川 そうですね。習近平の娘は香港に何百万ドルもする不動産を持っていると言われているぐらいですからね。 渡邉 中国の本当の現状を知るには、日本のバブル崩壊期に何が起きたかを考えれば非常に分かりやすいですね。日本がアメリカの不動産を買い漁っていたとき、日本の銀行の自己資本がおかしいと言われて「ジャパンプレミアム」と呼ばれていましたが、日本の銀行がアメリカ市場でお金を借りる際に、アメリカの銀行に比べて2%前後高い金利にされていました。今はもう「チャイナプレミアム」がつき始めているわけですよ。例えばその典型なのは、中国の通販大手「アリババ」などは、ニューヨークのマーケットで株式公開ができない。だから今香港にマーケットを移して、資金調達をしようと思った矢先に、大規模デモが起きて香港でも資金調達ができなくなったわけです。 吉川 それから、中国の国内総生産(GDP)が、世界のGDPで占める割合が15%だとされていますが、人民元ベースでカウントすればそうなるというだけですよね。その人民元による貿易決済は、世界の貿易決済の1、2%程度。このギャップが非常な問題だと思います。 渡邉 そうですね。だから結果的には、中国の人民元というのはしょせん中国人、中国企業が借りているのも中国人が稼いでいるのも人民元なので、潰れるときは一番に潰れていくわけです。現在の日本円と、日本のバブルが弾けたときの円はまったく違うわけです。なぜかといえば、バブルが弾けたときの円は金融ビッグバン以前だったので為替が自由化されてない国内通貨だったからです。ですから、中国の人民元も今は国内通貨で、日本のバブル崩壊のときと同じような位置付けと言えます。「戦わずして勝つ」 吉川 為替操作国としてIMFに認められれば、中国大陸にある1200億ドルを引き上げてしまうこともできます。香港情勢が悪化すれば、1992年の特例法によって、香港にある800億ドルも引き上げることも可能です。すると中国は人民元をドルで買い支えることができなくなるので、人民元は40%前後大暴落するでしょう。いずれにしても80年代に日本に対してアメリカがやった同じことを中国に対してやっているということですね。 渡邉 成功体験を持つ人がやっていますからね。日本のバブル崩壊のプロセスを追っかけていけば、どうやって内側に倒していくことができるかを知っている人たちがやっている。 吉川 だからそういう意味で、全面核戦争にならないために、「戦わずして勝つ」というかたちで中国を弱めていければ一番ありがたいですがね。 渡邉 こうした中で、さて日本はということになりますが、日本企業も必然的にアメリカか中国か、いずれかを選ばなければいけないのですが、当然、安全保障の問題もあって中国を選べない。特に親米でも何でもないけれど、アメリカを選択した上で、日本市場や世界中のマーケットに中国がシェアをとってきた商品があり、それが追い出されていくので、結果的にそこに枠ができるわけですよね。 この枠は、よくよく考えればかつて日本企業が持っていたもの。ならば、取り返せばいいということですよ。14億人という中国の巨大市場がなくなる恐怖を語る人はいますが、先に述べたように、中国は14億人ではなく、実質的には1億5千万人ですから。しょせん日本と同じ規模しかないことを認識すれば、それほど怖いことでもないでしょう。 吉川 たしかに自由貿易協定(FTA)の問題も含めて、日本企業は、トランプ政権の恩恵を受けることが期待できるわけで、5G(第5世代移動通信システム)もそうですが、アメリカと中国が全面戦争になるときのために宇宙軍を創設して新スターウォーズ構想もあって、こうした中から日本企業に商機があるではないかと思います。 渡邉 そうですね。中国通信大手の華為技術(ファーウェイ)が象徴的ですが、5年以内にアメリカ国内から中国製通信機を全面排除するということで、そのために協力業者を探して育成していくというアメリカの方針が出ましたから。それに合わせて日本の通信企業も今動いていています。コストの面でも、これまで中国で生産していたものを生産地移転などで対応できると言っていますからね。 いずれは日米のFTAが結ばれると思いますが、アメリカはバイオ分野にしても最先端の技術を持っていますが、作る技術がない。でも、日本は作る技術と材料を持っています。だから日米がきちんと組めばウィンウィンで、非常によい関係が生まれ、今までとは違う経済効果をもたらすはずです。要は中国やヨーロッパがなくても、日米両国が手を組むことによって大きな変革を生み出すことができますよと、一連の日米協議で口説いたという話を聞いています。ファーウェイ製品を扱う北京の店舗(UPI=共同) 吉川 とにかく日米で5Gの先にある5・1Gや6Gを構築していけば、日米が世界を支配できるということですね。今アメリカは挙国一致で中国との対決姿勢に入っているわけですから、ここで日本はアメリカとのスクラムを崩すわけにはいきませんね。渡邊さんが先ほどおっしゃったように、変に中国の市場が巨大だとか、そういう幻想に惑わされはいけないということですね。 わたなべ・てつや 経済評論家。昭和44年生まれ。日大法学部卒。貿易会社に勤務した後、独立。複数の企業運営などに携わる。著書に『本当にヤバイ!欧州経済』(彩図社)など多数。近著に『「中国大崩壊」入門 何が起きているのか? これからどうなるか? どう対応すべきか?』(徳間書店)。 よしかわ・けいいち 政策コンサルティング事務所「グローバル・イッシューズ総合研究所」代表。2016年まで米国ワシントンDCにも拠点を持ち、 東日本大震災を契機に一般社団法人日本安全保障・危機管理学会防災(JSSC)ワシントン事務所長として、日本に米国と同様の危機管理専門省庁の立ち上げを目指す政策提言活動に取り組む。2017年以降は日本国内をベースに、テロ対策や米国政治に関する政策提言活動を続ける。著書に『救世主トランプ—“世界の終末”は起こるか?』(近代消防社)、『東京オリンピック・パラリンピックは、テロ対策のレガシーになるか?』(同)など多数。

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    習近平は「米中経済戦争」にむしろ救われた

    富坂聰(ジャーナリスト、拓殖大学海外事情研究所教授) 中国経済に関する評価は、常に好悪の両極端に振れてきた。この現象は、インターネットを主な情報源として、現地を見ることもなく、また現地の人々と話すこともなく発信されるレポートがあふれて以降、さらに顕著となっている。 中国経済の盛衰は常に変化してきた。当然のこと、日本の書店でよく見かける大混乱や大失速はもちろん、大崩壊といったことが予測されるような話題ではない。 ここ数年、日本の新聞は四半期ごとの中国経済統計が発表されるたびに、「中国経済、減速が鮮明」との見出しをつけて報じてきた。 確かに、中国自身が認めているように、「高速発展」の時代は2012年の時点で終わっている。その後は、「ニューノーマル(新常態)」という言葉が使われるようになったように、中国経済は量から質への転換のプロセスに入った。 つまり、数字が下がることを織り込んだ上で「変革のプロセス」に入ったのである。ゆえに、その数字が良くないと批判するのは不思議な話だ。 本来、中国経済の未来を判断するのであれば、まず「質的転換」の進捗(しんちょく)状況を分析すべきである。具体的には、第2次産業依存の体質から第3次産業中心へのシフトの状況であったり、製造業における高付加価値化の進展具合である。株式市場「科創板」の取引開始を記念し、中国・上海で行われた式典=2019年7月22日(共同) 経済発展の牽引車から、いまや成長の足かせとなった重厚長大型産業を中心とした「オールドエコノミー」の体質改善が進んでいるか否かの見極めも必要だ。換言すれば、中国経済のダメージは、個人消費の不振やニューエコノミーの育成不良、はたまたオールドエコノミーのリストラが進まないといった状況から評価されるべきなのだ。「不景気」は出口なしか 財政面では、主に2008年の世界金融危機に際して出動した4兆元の投資が重くのしかかり、足を引っ張っている。景気刺激策として財政出動をしなければならない状況に追い込まれれば、それは宿題の先延ばしになる分だけ、経済にはダメージとなるだろう。 現状、北京などで取材すると、誰もが「中国の景気は良くない」と答える。 だが、日本をはじめとする休日の海外旅行の勢いは衰えず、電子商取引(EC)も隆盛を続けるように、深刻な影響とはいえないだろう。問題の深浅をどう判断してゆくべきかは、「中国大崩壊が始まった」「中国が世界経済の覇者となる」といった漫画チックな話ではなく、精緻に分析していかなければならないことだ。 景気は明らかに陰っていて、かつては大行列だった高級レストランに閑古鳥が鳴いている様子は、北京に行けば目にすることができる。それは狂乱の好景気が終わったことを意味しているが、いわゆるニューノーマルへの変化という範囲に収まる低速化なのか、それ以上のことなのか。 中国は今年、預金準備率を用いてマネーの供給量を増やそうとしたが、昨今の米連邦準備制度理事会(FRB)と欧州中央銀行(ECB)がともに金融緩和を決めたような動きの中で、中国人民銀行は緩和に追随しないことを表明している。まだ、そこまでは必要ないとの判断だと理解された。 中国経済は前述のような高速発展期を過ぎて、減速を余儀なくされている。だが、この停滞は出口の見えない落ち込みかと問われれば、そうではない要素も多くみつかる。少なくとも政治的な影響は小さい。 本来、習近平政権は経済発展の落ち込みとサプライサイド(供給側)改革という名の大リストラで大きな逆風にさらされるはずだった。2017年11月、北京で開かれた歓迎式典に臨むトランプ米大統領(左)と中国の習近平国家主席(共同) しかし、ここに米中経済戦争という要素が持ち込まれたおかげで、政治的にはむしろ救われている。というのも、人々の不満を一身に受け止めるはずだった景気の問題は、全て「米国の圧力のせいだ」と居直れることとなり、国民も落ち込みに耐える心構えを持てたからである。緩やかな「脱米」 一方、米国の圧力に晒されることで被る物質的なダメージはどうかといえば、現状を見る限り、乗り越えられないレベルではなさそうだ。カギとなるのは最先端産業と国内の大市場、加えて貿易の中身の転換が、そのダメージを緩和できると考えられるからだ。 例えば、スマートフォン市場である。安全保障上の脅威を理由にトランプ政権は華為技術(ファーウェイ)排除に動いたが、2019年4~6月のスマートフォンの出荷台数からは、同社が窮地に陥っている状況は見えてこない。むしろ、中国国内での出荷台数を伸ばし、米アップルを抑えて2四半期連続で世界シェア2位をキープしているほどだ。 スマートフォンを含め、多くの高付加価値製品は中国市場で旺盛な伸びが期待されている。今やスマートフォンに関しては、世界のおよそ3分の1が中国で売れていて、今後の伸びも期待されている。自ら成長市場を持つ強みは明らかだ。 また中国のスマートフォンメーカーは、飽和市場である西側先進国では苦戦しているものの、今後の伸びが期待されるインド市場ではシェア1位の小米科技(シャオミ)を筆頭に3位の維沃移動通信(ビーボ)、4位の広東欧珀移動通信(オッポ)、5位の伝音控股(トランシオン)と上位にひしめいている。この趨勢(すうせい)は今後、多くの新興国・発展途上国で、一つのモデルになるといえよう。 というのも、中国は米中経済戦争が激化して以降、緩やかな「脱米」に舵(かじ)を切っている。これは米国との対決姿勢を鮮明にするという意味ではなく、保険の一つとしての「米国離れ」だと考えられる。 貿易面では、少しずつ対米輸出への依存の割合を減らし、「一帯一路」沿線国とアフリカへのボリュームを高めていくというものだ。5Gスマホの販売を始めた北京のファーウェイ販売店=2019年8月16日(共同) 世界金融危機のなかで、先進7カ国(G7)の役割に限界が指摘され、20カ国・地域(G20)へと主導権が移行されていったように、今後の経済発展は、先進国から新興国や発展途上国へとシフトしていくことが考えられる。 このトレンドと、中国の「脱米」がシンクロする可能性は決して低くない。

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    米中貿易戦争、なぜ中国は自らが勝てると考えるのか

    る折り返し地点を経過したのである。その折り返し地点は8月だった。 まず、8月までの経過を見てみると、中国は基本的に「引き伸ばし戦術」だった。米側との通商交渉は一進一退しながらも、正面衝突を避けてきた。その目的は来年(2020年)の米大統領選でトランプ氏が落選すれば、次の新大統領との再交渉に持ち込み、対中政策の緩和を引き出すというものだった。 いわゆる「他力本願」の戦術でもあった。しかし、この「引き伸ばし戦術」が決定的な破綻を迎えたのは、中国が5月に合意内容を反故にしたときだった。 昨年から交渉が始まって合意されたほとんどの内容を一旦白紙撤回した中国を前面に、トランプ氏は怒りを抑えきれず、交渉テーブルを蹴った。そこからトランプ氏は制裁の度合いを一気に高め、中国が望んでいた「再交渉」はついに実現できなかった。 つまり「他力本願」ということで依存してきたトランプ氏は中国が望んでいた通りの行動を取らなかった。それは中国の企みが見破られてしまったからだ。バイデン氏が次期米大統領になれば、トランプ氏路線の撤回も可能になるという中国の企みがとっくにばれていた。 ここまでくると、もう受身的な他力本願では無理だと中国は判断し、戦術の変更に踏み切る。能動的な出撃に姿勢が一変した。 8月23日中国は、合計750億ドル相当の米国製品に追加関税を課すと発表した。大方の報道は、これがトランプ米大統領が発動を計画する対中関税第4弾に対する報復措置としていたが、それは間違った捉え方である。 出撃ではあるが、報復ではない。逆に米国の報復を引き出すための出撃であった。案の定、中国の読みが当たった。 トランプ氏はすぐに反応し、わずか数時間後に、すでに発動済みの2500億ドル分の追加税率を10月1日に25%から30%に、9月以降に発動する対中制裁関税「第4弾」の追加税率を10%から15%に引き上げると発表した。 貿易戦争がこれで一気にエスカレートした。中国はもはや「引き伸ばし戦術」に固執しなくなった。いや、一転して攻撃型戦術に転じたのだった。なぜそうしたかというと、貿易戦争の激化という結果を引き出そうとしたのではないだろうか。非常に逆説的ではあるけれど。※写真はイメージです(ゲッティイメージズ) 貿易戦争が激化すれば、米中の両方が傷付く。それは百も承知だ。それでも戦いをエスカレートさせようとするのはなぜか。答えは1つしかない。戦いの末、中国よりも米国のほうがより深刻な致命傷を負うだろうという読みがあったからだ。あるいはそうした「賭け」に出ざるを得なかったということではないだろうか。「我慢比べ」と「傷比べ」 まず、米国が負い得る「傷」を見てみよう。何よりも米経済がダメージを受け、景気が後退する。 特に対中農産品の輸出が大幅に縮小することで、米農民の不満が募る。それが来年(2020年)の大統領選にも影響が及びかねない。トランプ氏は大票田の農民票を失うことで、当選が危うくなることである。むしろこれは中国がもっとも切望していたシナリオではないだろうか。 「引き伸ばし戦術」でじわじわ攻めても、そのシナリオが実現せず、トランプ大統領が続投することになった場合、まさに中国にとっての地獄になる。あと4年(任期)などとてももたないからだ。そこで一気にトランプ氏を追い込む必要が生じたのである。中国の力で倒せないトランプ氏を、米国民の票で倒すしかない。ここまでくると、逆説的に米国の民主主義制度が中国に武器として利用されかねない。 次に、中国の「傷」はどんなものだろうか。すでに低迷していた中国経済の衰退が加速化し、対米関税の引き上げによって特に大豆やトウモロコシ等の供給が大問題になり、食用油や飼料価格が急騰すれば、肉類や食品価格も押し上げられ、インフレが進む。 物価上昇が庶民の生活に深刻な影響を与え、民意の基盤を揺るがしかねない。ただ、中国の場合、1人1票の民主主義制度ではないゆえに、トランプ氏のようにトップが政権の座から引き摺り下ろされることはないのである。 庶民の生活苦は一般に政治に反映されにくい、あるいは反映されない。そこは逆説的に中国の強みとなる。つまり民意による政治の毀損、その影響が他の形で致命的に至りさえしなければ、中国は我慢比べの結果で米国に勝つ可能性があるわけだ。 これに対して米国は逆だ。たとえ長期的に国益になるといえども、短期的な「民意への耐性」面をみると、民主主義国家の脆弱性が浮き彫りになる。 この局面の下では、トランプ大統領にとって取り得る政策の選択肢はあまり残されていない。それはつまり、中国の「傷」をより深いものにし、より短期的に致命的なものにする、それしかない。関税の引き上げはもちろんのこと、何よりも外資の中国撤退、サプライチェーンの中国からの移出が最大かつ最強の武器になる。 これからの1年が勝負だ。トランプ氏は米国企業の中国撤退を命じると言ったが、それは単なる冗談ではない。直接命令の代わりに法や政策の動員が可能であろうし、実際に中国国内のコスト高がすでに外資の撤退を動機付けているわけだから、それをプッシュする力を如何に加えるかである。 そうした意味で、中国は危険な「賭け」に乗り出しているといっても過言ではない。その賭けに負けた場合、中国にとって通商や経済の問題だけでは済まされない。深刻な政治問題、統治基盤の動揺にもつながりかねない。 昨年(2018年)12月18日、習近平主席が改革開放40周年大会で、中国の未来について「想像し難い荒波に遭遇するだろう」と述べた。さすが偉人だけにその予言は当たっている。

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    清王朝の国債、米国人債権者が中国に108兆円分返済要求の詳細

     中国の清王朝(1644~1912年)が発行した当時の「国債」を保有している米国人債権者らは米政府に対して、中国政府が債務の返済に応じるよう交渉してほしいと要請していることが明らかになった。債務額は現在の1兆ドル(約108兆円)以上だという。 すでに、債権者らは昨年8月、トランプ大統領とムニューシン財務長官と面会しており、「米中貿易摩擦解消のための材料として使ってほしい」と訴えたという。トランプ大統領らの反応について、米財務省と商務省は「ノーコメント」としている。米誌「ブルームバーグ・ビジネスウィーク」が伝えた。 問題となっている清朝の国債は王朝崩壊前年の1911年、中国沿岸部の浙江省杭州市と内陸部の四川省間の2000キロを鉄道で結ぶ建設プロジェクトを実施する目的で、米、英、仏、独の4カ国から資金を募るため発行された。発行額は当時の金額で600万ポンド。 各国は銀行などを通じてこの国債を販売したが、翌年に清朝崩壊の原因となった辛亥革命が成功したことで、返済の望みが途絶え、価値がなくなったという。 しかし、米テネシー州の牧場経営者、ジョナ・ビアンコ氏は祖父から受け継いだ国債について、「祖父や父母は清朝が滅亡してしまったことや、その後アメリカと中国の国交の途絶えた時期があったことから、誰にも訴えられず、泣き寝入りするしかないとこぼしていたが、『アメリカ・ファースト』を叫ぶトランプ氏が大統領になったことで、大きなチャンスが転がり込んできた」と期待しているという。 ビアンコ氏は米国内で国債を保有している他の債権者を集めて、債務の返済を求める団体を結成し、自らその代表に就任し、トランプ大統領らともホワイトハウスで会見し、中国に債務返済の圧力をかけるよう要請している。 同誌によると、デューク大学の法学者は「法的にみれば、清王朝が残した債務は完全に合法だ。現在の中国政府はこれらの債務について、1949年より前の中華民国政府が責任を負うと主張しているが、中国共産党政権が自らを『中国の主権の唯一の継承者』だと主張している点と矛盾する」と指摘しているという。清王朝の国旗(ゲッティイメージズ) すでに、米国内の債権者は米中関係が改善していた1979年、中国当局に債務返済を求める訴訟を起こし、裁判所は当時の中国外相だった黄華氏を証人として召喚した。しかし、この年に米中国交正常化が実現しており、米政府は対中交渉を優先して司法省に圧力をかけたことから、同省が両者の和解を求めた結果、裁判所は1987年、原告側の訴えを退けている。 ビアンコ氏は「時代は変わった。いままでの大統領とは違うトランプ氏は大統領に就任したことで、アメリカは米中貿易戦争で新たなボールを手にした。我々の100年来の願いは必ず叶うはずだ」と語っているという。関連記事■習近平氏がごみの分別を指示、「もっと重要問題に注力を」の声■中国のモンスター乗客たち、バス運転手への暴力相次ぐ実態■韓国・中国・北朝鮮以外は「世界中ほぼ親日国家」である理由■中国富豪男の夢「蒼井そらを1晩300万円でセッティングしろ」■中国人が接待で「女体盛り」を要求、要した費用は32万円

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    中国のネット規制強化に苦言呈した編集長への称賛と心配

     中国では10月1日に建国70周年記念日(国慶節)を迎えたが、この前後の大型連休期間中はとくにインターネットの規制が強まっており、中国内のネットユーザーの不満とストレスが高まっている。 とりわけ、中国共産党機関紙『人民日報』傘下の国際問題専門紙『環球時報』の胡錫進編集長が中国版ツイッター「微博(ウェイボ)」上に書いた率直な意見がネット上で話題になっている。同氏は、「国慶節が近づくと、海外のネットの接続がますます難しくなり、これでは環球時報の編集作業にも影響が出てしまう」と書いた。あまりにも多くの読者が拡散したためか、張氏のつぶやきは2時間後に削除されてしまっており、むしろ、中国のネット規制の厳しさを物語る結果となった。 米政府系報道機関「ラヂオ・フリー・アジア(RFA)」によると、張氏は当局によるネット規制について、「(当局は)大衆を信じることが重要だ。中国社会に海外のネット空間を多く残してほしい。これは国益にも有益だ」と書き込み、当局のネット規制緩和と情報や表現の自由の重要性を強調した。 こうした規制に職務上深刻な被害を受けているのが、中国国内で米国を中心とする外資系企業に勤める中国人従業員だ。RFAは「中国内では米国の政府機関のほかにも、企業のホームページにすらアクセスできないようにされている場合もあり、米国企業に勤める中国人従業員は本社のメールを読むことができず、仕事に支障が出ている」との実態を明かしている。 また、RFAによると、張氏はネットだけでなく、国慶節前後の地下鉄などの公共交通機関や公園や観光名所、公的な場所でのセキュリティチェックについても苦言を呈したという。微博では「検査の範囲がとても広い。軍や党、政府の施設などを除いて、特殊でない場所でも検査がやり過ぎており、大きな疑問を抱いてしまう。これでは、多くの労力を浪費している。このような労力を社会に不満がある人々を慰めることに使えば効率的だ」とも指摘している。 これについて、RFAは環球時報で働いたことがあるジャーナリストの発言として、「環球時報は、張編集長に限らず、敏感な問題についても、ずけずけと意見を述べる雰囲気がある。とくに、張編集長は開明的だ」と伝えている。※写真はイメージです(ゲッティイメージズ) しかし、張氏は今後、職務を遂行できない事態に陥ることも予想される。中国では10月上旬、北京で働く中央メディアの記者と編集者約万人を対象に、習近平国家主席の思想やマルクス主義に対する理解度を測るテストを初めて実施するからだ。 これは報道機関などを管轄する中国共産党中央宣伝部が実施するだけに、ネット上では「重要監視対象になっている張編集長が合格するかどうかで、今後の中国の報道規制がさらに強化されるのか、あるいは緩和されるかの判断が下せそうだ」などの見方が書き込まれている。関連記事■清王朝の国債、米国人債権者が中国に108兆円分返済要求の詳細■中国人が接待で「女体盛り」を要求、要した費用は32万円■「中国臓器狩り」戦慄の手口 亡命ウイグル人の元医師が激白■中国富豪男の夢「蒼井そらを1晩300万円でセッティングしろ」■日米同盟破棄したら中国は尖閣強奪、韓国は謝罪と賠償要求

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    2020年「世界の終末」米中南シナ海戦争の現実味

    and-Building”によれば、米国は8月に成立した新国防権限法(NDAA)の1262節の中で、中国の南シナ海情勢に対して重大な懸念を表明している。 同記事によれば中国は2014年に人工島を建設すると、直ぐにレーダー、滑走路、ミサイル収納庫を建設。2018年5月に南沙諸島に対艦ミサイルと対空ミサイルを配備。同時に長距離爆撃機の離発着を行った。そこで米国はリムパックに中国を招待することを停止。これをNDAAでは“First Response”と記述している。そして米海軍はNDAA1262節に基づいて世論喚起のために、メディア関係者の潜水艦同乗を許したり、異常接近等の状況の様子を、YouTubeで流したりしている。 またワシントン・タイムズが11月14日に配信した“Trump demands China remove missiles in the South China Sea”によれば、11月8日に行われた米中戦略対話で、マティス国防長官とポンペオ国務長官は、中国に対し南シナ海に配備した対空、対艦ミサイルを全て撤去するように要求したという。 米国も南シナ海情勢に関しては、次第に本気になって来ている。私は繰り返し中国が南シナ海に拘っているのは、東シナ海等に比べれば相対的に水深の深い南シナ海を内海化し、そこに潜ませた潜水艦からの水中発射の核ミサイルで、米国本土を脅かすことで、米国との核戦争になった場合、有効な第二撃を確保することによって、米国に対し対等に近い立場を確立し、世界の支配権を奪取することこそが、真の目的であると述べて来た。それを米国が許すだろうか? もちろん南シナ海を抑えれば西太平洋のシーレーンを抑えることもできる。これも“海を支配しているからこそ世界の支配者である”という意識が非常に強い米国が許すことではない。南シナ海に展開する米空母ロナルド・レーガン(米海軍提供) 中国の潜水艦発射核ミサイルが技術的に可能になるのは、2020年と2024年の間くらい。つまりトランプ政権が2期続くとしたら、2期目くらいになることは確かなようだ。 だが、それから中国の南シナ海進出に対応するのでは、米国は間に合うだろうか? それ以前に何とかしようとするのではないか? それが米国のINF全廃条約離脱の原因ではないか? そもそもINF全廃条約は、冷戦後期に当時のソ連がSS20という中距離核ミサイルを配備して、西ヨーロッパが危険に晒されたため、米国も西ヨーロッパにパーシング2という中距離核ミサイルを配備した。それはソ連本土に米国から発射されるICBMの数倍の速さで到達する。つまりソ連の報復攻撃の余地が激減する。そうして高まった緊張を背景に、ソ連も折れて来て、当時の米ソが、お互に中距離核ミサイルの全廃を誓ったのが、INF全廃条約だった。 それが米ソ冷戦終結の、端緒になったことは否定できない。しかし時代は変わった。米中が抱える「脆弱性」 National Interestが10月22日に配信した“Why America Leaving the INF Treaty is Chinas' New Nightmare”によれば、2008年にプーチン大統領は、この条約に中国が入っていないため、中国が中距離核を配備し始めたとして、この条約に違反する中距離核ミサイルを配備し始めた。 そのことは遅くとも2014年に、米国オバマ政権も確認している。にも関わらずオバマ政権は、例により世界のインテリ向けのポーズで、2013年に潜水艦発射核ミサイルを、INF全廃条約と無関係にも関わらず、大幅削減してしまった。確かに潜水艦発射核ミサイルは、射程距離の関係で地上発射INFに近い。そのため潜水艦発射核ミサイルを大量に持っていた米国は、既にINF全廃条約に縛られていなかったという意見もある。 しかし潜水艦発射核ミサイルは、命中精度等の問題で、地上発射のINFより劣る。その理由と、さらに敵の先制攻撃に対し、地上発射核ミサイルより安全なことから、潜水艦発射核ミサイルは、地上発射核ミサイルによる攻撃で相互に甚大な被害を被った後に、第二次攻撃を行うことが目的である。 そのため潜水艦発射核ミサイルは、先制攻撃の脅威で相手に戦争を起こさせない効果は、十分とは言えない。あくまで第二撃を確保することで、自衛的に(?)核の対等性を確立するのみである。また攻撃を行えば、位置を特定され敵国の海空軍に撃沈される。そのような“脆弱性”も、潜水艦発射核ミサイルにはある。 これは米中共に同じである。先制攻撃の脅威で相手に戦争を起こさせない効果が高いのは、安定した地上発射核ミサイルなのである。そこで米国は、INF全廃条約から離脱したのではないか?南シナ海での中国の人工島等を米国が攻撃したら、中国のICBMで米国の大都市等が攻撃される。中国の保有するICBMは公称で100発程であるが、1,000発以上保有しているという情報もある。 何れにしても米国の大都市が幾つか中国のICBMで破壊されて、数千万人の死者が出ただけで、米国は経済的に破綻する。それに対して中国は、米国の報復攻撃で1億人が死亡しても、過剰人口の整理になり望ましいという考え方もある。 また、いま米中経済は、サプライ・チェーンで密接に関係している。大規模な戦争を行えば、相互に被害が大きい。特にハイテク関係製品の組み立て等を中国大陸で行っている米国にとっては…。そこで軍事専門家の間では、“米中戦争は起こらない”というのが多数意見ではある。しかし今まで述べてきたように、南シナ海での緊張は明らかに高まってもいる。太平洋に展開する米第7艦隊の空母打撃群=2016年6月(米海軍提供) 例えばサプライ・チェーンの問題にしても、トランプ政権の関税政策のために、米国企業も中国からの撤退を検討し始めている。例えばFinancial Timesが12月3日に配信した“Trump's trade war:which of China's neighbours are set to profit?”では、南部中国アメリカ商工会が調査したところ、米国の中国からの輸入関税が高過ぎるため、219社の内70%が、生産拠点を中国外に移転させることを検討している。米国の関税政策も中国との戦争が可能な状況を作ろうとしているとも見られる。 逆に南シナ海を射程に入れる中国南部にも、中国は中距離ミサイルを、やはり500発以上、保有している。それも南シナ海周辺での局地戦の形ででも、米国に勝てる体制を作っていると考えられる。INF保有の「意味」 そこで米国がINFを保有する意味が出て来る。南シナ海を射程に入れる中距離ミサイルが配備された中国南部を狙うことが出来る場所に米国のINFが配備されれば、もし南シナ海の人工島等を米国が攻撃したりしたとしても、中国は報復核攻撃が難しい。そこにある中距離ミサイルが破壊されるだけではない。 そのような位置にある米国のINFは、中国の重要地帯にも届くのである! その到達時間は短く、中国が米国をICBMで脅かしたとしても、このINFの方が早く到達するため、米国を中国は核で脅かすことは難しくなる。前述のように潜水艦発射の核ミサイルは、報復攻撃には使えるものの、安定性等の点で十分ではない。また前述のように攻撃を行えば、位置を特定されて撃沈される。 INFが中国を射程内に入れて展開されれば、米国に対する中国の優位は成り立たなくなる。そこでボルトンNSC担当大統領補佐官はロシア側に、中国の中距離核戦力はロシアにも脅威となっていると、ロシアが米国と共に、中国の中距離核戦力の脅威封じ込めのため、軍備管理交渉に中国を加えるようロシア側に呼びかけている。それが上手く行かなければ、中国南部を射程に入れる地域への米国のINF配備という結果になる。具体的には台湾やインドの東岸沖の島等が有力な候補地だろう。 またNational Interestが10月22日に配信した前掲記事では、まず巡航ミサイルその後に弾道ミサイルを配備する方式で、北日本、グアム、南フィリピン、北オーストラリアも重要な候補地だという。これにより、いわゆる“第一列島線”の内側の海を、中国に自由にさせないことが出来ると同記事は主張している。(注:2019年2月、米国が日本を含む、これらの地域に、まず核を搭載しない中距離弾道ミサイルの配備を始めるという情報が、流れ始めた)このようなシステムが一部でも配備されたとしたら、それは南シナ海戦争――少なくとも人工島の破壊と、それに対抗する中国による米艦船への攻撃等が、近い可能性が低くない。中国も重要地帯への先制核攻撃の恐怖から、地上発射の核ミサイルは使えない。 あるいは人工島解体と中距離ミサイルの撤廃ないし配備中止を巡って、米国と中国が交渉に入るかも知れない。1980年代の米ソが、核兵器等の軍縮に入って行ったように…。あるいはキューバ危機の時のように…。偶発的に大規模な核戦争に発展しないと、今度は断言できないかもしれないが…。特に中国が潜水艦発射核ミサイルを完成させる2020年代以前に、何らかの意味での西太平洋地域へのINF配備が実現したら、それが要注意のタイミングだろう。 National Interestが10月14日に配信した“How to Goad China into a War in the South China Sea”によれば、2020年に米国は、今までにない大規模なリムパックを、南シナ海で行う予定である。それに米国は中国を参加させない方針である。そこで中国を敵に回すのが怖い東南アジア諸国の中には、そのリムパックに参加しない国も出て来ると思う。しかし“中国封じ込め”のために参加する国もあるに違いない。G20に出席するため来日した習近平国家主席=2019年6月、大阪空港(代表撮影) このタイミングで前述のような場所に米国のINFないし中距離弾道ミサイルが配備されるとしたら…。そして2020年の大統領選挙で、トランプ氏が劣勢に立たされたとしたら…。そして、その時に中東大戦が起きる状況でなかったとしたら…。その時が南シナ海戦争が、最も起こり易いタイミングだろう。われわれ日本人も、準備をして置かなければいけない。 例えば水中発射ミサイルを発射可能な潜水艦を保有しておくとか…。実は日本は、それを実現できる技術力はあるのである。更にNewsweekが11月15日に配信した“U.S.‘COULDLOSE' ITS NEXT WAR:REPORT SHOWS MILITARY WOULD‘STRUGGLE TO WIN' AGAINST RUSSIA AND CHINA”によれば、米国の軍事力は相対的に落ちて来ていて、少なくとも中露両国を相手にした“二正面作戦”に勝つ可能性は、極めて低いという。特にハイテク兵器分野での開発競争の遅れが深刻であるという。 その分野でも日本は、米国を助けられる力は、まだまだある。例えば日本の自動車会社の電気自動車のシステムは、敵のハイテク・システムを麻痺させる電磁波の発生装置としても、米国製のものより優れているという説もある。また前にも書いたように米国は、このような劣勢を挽回するため、宇宙軍を創設しようとしているが、これもロケットや衛星の誘導システムの一部では、日本が米国より良い技術を持っているという。米国宇宙軍創設にも日本は、可能な限り積極的に協力すべきだと思う。そして米国が宇宙軍を創設するタイム・リミットも、やはり2020年であることは要注意である。「中国中国!」と絶叫 更にFOXが2019年1月17日に配信した“Trump announces new missile defense plan with focus on sensors in space”によれば、トランプ大統領は国防省で新ミサイル防衛構想と言うべきものを発表。宇宙にセンサーを張り巡らして、敵のミサイルが発射される前に探知して迎撃するシステムを確立すると言う。これは同記事の中でも、これから実現のための研究を始める段階であり、費用や効果の点で疑問も多いと述べられている。 だが同時に、ロシアや中国が開発した極超音速ミサイルに対抗するには、必要であるとも書かれている。この記事によれば、トランプ氏は、イラン、北朝鮮、ロシア、中国といった具体名は言わなかった。しかし同席したシャナハン国防長官代行は、それらの国々の名前を上げた。彼は宇宙軍構想も、最初から任されていた。 ロイターが1月3日に配信した“For Shanahan, a very public debut in Trump's cabinet”によれば、シャナハンは2019年の年明けに、事実上の国防長官として国防省高官達に対して演説した時、“今後の米国は、アフガンやシリアではなく、中国に焦点を集中するべきだ”と「中国中国中国!」と絶叫した。 この新ミサイル防衛構想が2020年までに実用化されるとは思えないが、特に対中国関係のものが部分的にでも2020年までに何らかの目処が付くようであれば、それも要注意の信号だろう。何れにしてもシャナハンの“就任演説?”を見ても、ロシアと中国との二正面作戦を、米国が避けたがっていることは間違いない。そうなれば安倍総理のトランプとプーチン双方との信頼関係は、米国と中露の“二正面作戦”を回避し、日米露(そしてインドやオーストラリア等)が協力して中国を封じ込める上で、非常に意義あるものになる可能性がある。 2018年12月初旬のG20で、トランプ大統領は、プーチン大統領との会談をキャンセルした。しかし安倍総理は、両方と会談している。更に中国を刺激しないため米国との首脳会談に慎重だったインドとの間に立ち日米印首脳会談を実現したのも安倍総理である。トランプ大統領がプーチン大統領との会談をキャンセルしたのは、表面上はロシアがウクライナの艦船を拿捕した事件である。 だが例えばFOXが11月29日に配信した“Ian Bremmer: I'd Be‘Very Surprised' If Trump and Putin Don't Meet Informally at G20”によれば、実際には国内の“ロシア疑惑”が進展しているためではないかと考えられている。7月に米露会談が延期されたのと同じで明らかに、理性主義者によるトランプ氏の“脱理性主義的外交”に対する妨害である。何れにしても安倍総理とトランプ、プーチン両氏との関係で、日米露首脳会談を実現させ、ウクライナ問題等にも一定の解決を付けたとしたら、それは日米露による中国包囲網に繋がる。 そもそもロシアがINF全廃条約を破ったのは、中国の脅威に晒されたからだ。Newsweek前掲記事でも最近の中露接近に強い懸念が表明されている。そこに楔を打ち込むことは不可能ではない。そのNewsweek前掲記事でも、北朝鮮の脅威にも言及されているが、日本人が気にかけている北朝鮮情勢は、以上のようなプロセスの一部として処理されるのではないかと思う。 トランプ氏は2019年3月に入って2020年度軍事予算増額の方向になっている。彼は本気なのだ。何れにしても、われわれ日本人は、南シナ海戦争に備えて準備をして置かなければいけないのではないか? 2020年までに…。南シナ海を航行中の護衛艦「いずも」=2017年6月、南シナ海(自衛隊ヘリから、松本健吾撮影)   そして、それは中東戦争以上に、日本を巻き込む核戦争つまり“世界の終末”になる可能性が高い。INF等の使用により…。やはり、それへの覚悟を決めておくことこそ、最重要なことかもしれない。(起筆:2018年11月19日) よしかわ・けいいち 政策コンサルティング事務所「グローバル・イッシューズ総合研究所」代表。2016年まで米国ワシントンDCにも拠点を持ち、東日本大震災を契機に一般社団法人日本安全保障・危機管理学会防災(JSSC)ワシントン事務所長として、日本に米国と同様の危機管理専門省庁の立ち上げを目指す政策提言活動に取り組む。2017年以降は日本国内をベースに、テロ対策や米国政治に関する政策提言活動を続ける。著書に『911から311へ—日本版国土安全保障省設立の提言』『東京オリンピック・パラリンピックは、テロ対策のレガシーになるか?』(近代消防新書)など多数。

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    「弱肉強食」新冷戦で喰われるニッポン

    東西冷戦終結から30年。今や米国と中国の対立が激化し、「米中新冷戦」時代に突入したと言われる。米中の覇権争いと、その裏でうごめくロシア。国際秩序は崩壊状態といっても過言ではなく、国家間のパワーバランスの変化も目まぐるしい。この混迷を読み解けば、日本が乗り越えるべき試練は自ずと見えてくるのではないか。

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    「結果的に得する」中国を叩きのめしたいのはトランプだけじゃない

    こう側にあるものは、もちろん「壊し屋」的なトランプ氏の手法だろう。ただ、国際関係を見ていくと、やはり中国の台頭がアメリカの変質を促進しているのは言うまでもない。 つまり、G20という多国間の国際秩序が揺らいだ背景には、米中対立の中で、「やり方を変えないといけない」という米国側の焦りがあったといっても言い過ぎではないだろう。 過去の米国の対中政策は「ヘッジ(強硬論)」と「エンゲージメント(関与論)」のいずれかを使い分けるというバランスが基本だった。特に、1989年の天安門事件以降は、中国に対する米国の姿勢は非常に厳しかった。 だが、貿易パートナーとしての中国の存在が大きくなってくる中、基本的には自由貿易の枠組みに入れて「関与」し続ければ、中国の国家資本主義的な体制が減るという見方が米国の中で大きくなっていった。その象徴的なものが2000年に立法化された「対中恒久正常通商関係(PNTR)」法であり、中国に恒常的に最恵国待遇を与えることになった。その結果として、中国の世界貿易機関(WTO)加盟が認められることになる。2019年6月28日、G20大阪サミットで首脳の特別行事を終え、トランプ米大統領(左)と握手する安倍首相。右は中国の習近平国家主席 ただ、この見方が「間違い」であるということが、トランプ政権発足前後から米国内ではコンセンサスになっている。中国はWTOの仕組みの中で、中国側が逆に他の国を「自由でない」と主張ができるようになってしまったためである。 中国の場合、知的財産権も守らない。米国の貿易赤字は増えていく。「中国だけが結果的に得をする」状況に対するいら立ちが極めて大きくなっているわけだ。緩まない「矛先」 2018年10月4日、ペンス副大統領がハドソン研究所で行った演説は、中国に対する米国の生ぬるい態度を自己批判するものだった。「米国は、中国に自国の市場へのオープンなアクセスを与え、WTOに招いた。これまでの政権は中国があらゆる形の自由を尊重するようになると期待し、こうした選択をしたが(中略)その期待は裏切られた」とペンス氏は指摘した。 トランプ氏は2016年大統領選で「貿易赤字は是正せねばならない。対中国はその筆頭」「政権発足初日に中国を為替操作国と認定する」と公約した。「貿易赤字がその国にとって有害である」という見方は、学術的には支持されていない。だが、トランプ氏の支持層には「グローバル化は中国に米国の雇用が流れた」というわかりやすいメッセージに支持者は歓迎した。 トランプ氏は「貿易赤字こそが問題」と提唱する経済学者のピーター・ナバロ氏を選挙戦からのアドバイザーとしてだけでなく、政権発足後は貿易戦略のブレーンとして登用した。為替操作国の方はまだ行われていないが、貿易赤字解消の政策は、実際にメキシコ、カナダとの北米自由貿易協定(NAFTA)見直し、米韓自由貿易協定(FTA)の見直しなどとともに、中国に厳しく迫っている。 対中強硬の動きが本格的に明らかになったのは第1回米朝首脳会談の直後の2018年6月15日である。自動車や情報技術製品など、中国からの輸入品計1102品目に対し、500億ドル規模の追加関税措置を行うと発表した。ここから米国側の「どんどん中国を締め上げていく」という動きが明確化した。 トランプ政権は2018年中に各種中国製品に対して3度の制裁関税を課している。先述の500億ドルのうち、7月に自動車など340億ドル(25%)分、8月に半導体など160億ドル(25%)分を課し、9月には日用品など2000億ドル(10%。2019年5月10日に25%)分に適用した結果、制裁関税は計2500億ドルに達している。 これに対して、中国もそれぞれの制裁のタイミングに合わせて、大豆など340億ドル(7月、25%)、医療器具など160億ドル(8月、25%)、家電など600億ドル(9月、5から10%。2019年6月1日に最大25%)の報復関税を課している。米国も2019年5月に第4弾として、これまでに対象外だった3250億ドルに25%関税をちらつかせた。 結局、冒頭で述べたG20に合わせて行われた米中首脳会談で、関税の先延ばしを決めている。ただし、あくまでも延ばしただけであって、まだ中国への矛先は全く緩んでいない。米ハドソン研究所で演説するペンス副大統領=2018年10月4日、ワシントン(AP=共同) 中国に対する圧力は貿易だけではない。トランプ政権の対中政策で特筆されるのが、貿易戦争と安全保障政策の密接な関連である。トランプ氏やナバロ氏が重視していた対中貿易問題に対して、官僚や利益団体、シンクタンク研究員など、政権周辺の安全保障に関心のあるグループが乗っかっていった。 トランプ政権は2017年末に国家安全保障戦略(National Security Strategy)、2018年1月に国家防衛戦略(National Defense Strategy)、2019年6月にはインド太平洋戦略(Indo-Pacific Strategy)を掲げてきた。いずれも主なターゲットは中露だが、その中でも中国を強く意識している。根底にある「不信感」 その根底にあるのが、中国の国家資本主義に対する不信感である。技術なり、あるいは盗んだ情報なりを吸い上げて、国や軍に渡してしまう可能性を危惧している。 「いかなる組織及び個人も、国の情報活動に協力する義務を有する」という中国の「国家情報法」(2017年6月)の第7条や、中国のハイテク発展ロードマップである「中国製造2025」などが、トランプ政権の危惧をより大きくさせている。それもあって、第5世代移動通信システム(5G)を基盤とするハイテク武器への影響が問題となり、最大手の華為技術(ファーウェイ)に代表される中国通信系企業の製品の利用に対して、大きな制限をかけようという動きがあるのは言うまでもない。 トランプ政権の動きも急だ。2019年度国防権限法(2018年8月)では米政府の情報システムの調達企業からファーウェイと中興通訊(ZTE)、海能達通信(ハイテラ・コミュニケーションズ)、杭州海康威視数字技術(ハイクビジョン)、浙江大華技術(ダーファ・テクノロジー)という中国企業5社を排除した。 その他、大統領令13873(サイバー空間などで国家安全保障にリスクがあるとする企業の通信機器をアメリカ国内の企業が使うことを禁止)、商務省のエンティティリスト(米連邦政府の許可を得ることなく、外国企業が米企業から部品などを購入することを禁止)などでの規制強化を進めている。 G20という多国間の国際秩序が、中国という「異分子」をうまく飼いならせなかった現実にあって、多国間秩序を引っ張ってきた米国そのものも大きく変貌しつつある。 ただ、2020年の大統領選に向けて、トランプ氏にとっての最大の懸念は景気後退である。トランプ氏としても支持者への影響を考えながら、貿易の面では少しずつ取引や妥協をしていく可能性もないわけではない。 貿易問題では、ある程度合意できるかもれない。しかし、安全保障上の脅威としての中国の問題は、既にトランプ政権だけでなく民主党を含む、ワシントンのコンセンサスとして広く認識されるようになっている。 米国の対中世論全体を見ても、中国に対する一般の見方も厳しくなっているほか、安保では民主党側も相乗りしている。これまでには机上の空論とみられていた中国を米企業のサプライチェーン(部品調達網)から外す「デカップリング」論も正面から議論されるようになっている。中国・北京にあるファーウェイのショールーム=2019年5月20日(UPI=共同) 安保の面での「中国叩き」はだいぶ続くとみられる。米国とソ連の「冷戦」は代理戦争を含めて、実際にかなりの軍事衝突があった。今回の米中の場合は、当面の軍事衝突こそないものの、軍拡が続く中国をけん制しながら静かに展開する「冷たい戦争」が長く続くものとみられる。 形骸化するG20の向こう側には、米中の激しい2国間対立の世界が広がっている。■ 米中貿易戦争「日本が得する」逆転シナリオが一つだけある■ 「安保は不平等」トランプの持論蒸し返しで鮮明になる日米の主戦場■ 習近平はなぜ金正恩に6年間の「借り」を返す気になったのか

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    宮崎正弘×吉川圭一対談 米国が描く中国崩壊シナリオはこれしかない

    正弘(評論家)吉川圭一(グローバル・イッシューズ総合研究所代表) 宮崎 日本のメディアは、アメリカと中国の貿易摩擦を「米中貿易戦争」と報じています。もちろん貿易戦争には間違いないですが、そもそも米中は基本的に長い間衝突の構造にあります。今は単に関税のかけ合いのレベルなので、これはいずれ終わります。お互いにものすごく傷ついていますからね。むしろ決定的なのは、関税をかけたことによって中国の経済構造がガラッと変わったことでしょう。中国で生産できないものはすべてベトナム、カンボジアに移しています。つまり、中国の「産業の空洞化」をもたらす構造変化が起きたということです。これが一番大きい問題です。 二番目に大きいのは、アメリカが為替操作国として認定すると脅しをかけていますが、逆に今、人民元はものすごく弱いということです。弱い通貨を強くするために、一番稼いできたドルをすべて人民元の買い支えに使っているわけです。こうしたことで、中国の経済力が弱まっています。これはおそらくトランプではなく財務長官あたりのアイデアだと思いますが。 そして米中対立というのは、貿易戦争の関税かけ合いレベルから、第5世代移動通信システム(5G)のテクノロジー覇権争奪戦に完全に移っているわけです。で、この流れから、私はまもなく金融戦争が始まるだろうという見立てをしています。 吉川 なるほど。先の20カ国・地域(G20)首脳会議(サミット)でトランプがアメリカのマイクロチップを中国通信機器大手のファーウェイに売っていいよ、中国人のハイテク技術者へのビザ優遇もしますよということは言いましたが、だからといってファーウェイ製品をアメリカが買うわけではないのです。国内の規制を緩めるつもりはないでしょう。 中国人技術者のビザの件も、アメリカのメディアをこまめに見ていると、アメリカのどのハイテク企業も、理系の大学も、中国人の専門家にビザを申請するときには米連邦捜査局(FBI)がうるさく調べにくるので、できるだけもう取りたくない、という実際の現場の温度感が分かります。 宮崎先生がおっしゃっているようなアイデアで中国を徐々に弱めつつ、5Gの問題ではアメリカが中国に先んじるよういろいろな手を打っていくのではないでしょうか。米中新冷戦について対談する宮崎正弘氏(右)と吉川圭一氏=2019年7月、東京都千代田区(三尾郁恵撮影) 宮崎 中国はすでに相当先んじていますからね。いろんな側面から考えられますが、まずは特許の問題でしょう。4Gのときはことごくアメリカが特許を押さえていて、ファーウェイでさえOS(基本ソフト)は「アンドロイド」です。それをひっくり返すのはファーウェイもできない。 もう一つできないことは、半導体を中国が作ること。今の時点で半導体を20%作ったなんて豪語していますが、それはどの程度の半導体か分からない。さらにアメリカは「半導体製造設備は売らない」と言っている。これが決定的で、中国は半導体を作れないということなのです。 アメリカがここまで焦っているのは、将来のマーケットの取り合い程度ではないということ。例えば、米国の最新鋭ステルス戦闘機「F35」の部品は中国製が相当入ってきていましたが、それによってF35の性能が落ちる、ということが起こっているわけです。逆に中国はミサイルの性能が上がっています。コンピューターの精度やドローン技術、航空産業、宇宙産業の技術、すべてアメリカから盗んだものによって成り立っている。アメリカはうかうかしていたら、圧倒的な軍事的優位という立場が脅かされると、アメリカ人の心底に恐怖感がある。だからあんな強い態度で臨んでいるわけで、ちょっとやそっとではこの対立は終わりません。中国が白旗を上げるか、共産党がつぶれるまで続くか、そこまでは分かりませんが。もし、トランプが次の選挙で敗れることになれば、また別の展開になるかもしれません。トランプは再選する! 吉川 私はトランプが苦戦しそうなのは、ハリスという民主党上院議員ぐらいだと思っています。ハリスは黒人で女性ですが、それ以上にトランプと同じように2016年までワシントンにいなかった。冷戦終結以来のワシントン政治は、ローテーションで同じ顔ぶれが政治を行ってきました。政治家も、官僚も。彼らの理性一辺倒でマニュアルにはまった政治では、もうアメリカの国家も国民生活も保てなくなっています。そこで今までワシントンにいたことのないトランプが出てきたと、私は考えています。今年3月に出版した『救世主トランプ-“世界の終末”は起こるか?』(近代消防社)でも、そのように書かせて頂きました。 それを考えるとハリスならトランプと良い勝負ができそうに思いますが、2000年や2016年のような状況になっても、地方の保守的な票の力でトランプが勝つでしょう。そもそもハリスは新人議員で思想的にも穏健派とは言えない。民主党の候補者になるのも簡単ではないと思います。 ハリス以外は左翼メディアに応援されていてもアメリカ国民の多数からも嫌われている極左か、あるいは2016年以前のワシントン政治にどっぷり浸かってきた、それも親中派的な候補が多い。今アメリカでは左翼メディアまでが反中です。それを考えるとトランプと似たような3人目の独立候補が出て票が割れない限り、トランプは再選されると私は今の段階では思っています。 その反中国テクノロジー競争の話に戻すと、5Gでアメリカが中国を上回れば、サイバー攻撃で中国に対抗できるという算段もあるでしょう。 今年の春ぐらいにワシントンでずいぶん評判になった、ブルッキングス研究所のオハンロン氏の著書の中で、「もし尖閣が中国に占領されたらどうするか」ということが書かれていました。日本の海上自衛隊と米海軍で取り囲んで、あとは中国に経済制裁をした上で、サイバー攻撃みたいな形でやんわりと出て行ってもらうというのが主旨です。これがアメリカでずいぶん評判になったのですが、裏を返せばアメリカとしては日本のために本気の戦争はやりたくない、自国の若者の血を日本のために流したくない、という空気になっているということですね。 イラン攻撃も、トランプは実際の攻撃を思いとどまった後、サイバー攻撃を考えたとされていますが、そのサイバー攻撃をイランは撃退したと主張しています。イランも北朝鮮もロシアの技術が入っており、米中だけではなくロシアも入って、イラン、北朝鮮、ベネズエラが駒として動いています。北朝鮮とイランの間には、おそらくロシアの仲介により、ミサイルや核の協力関係があるとされています。アメリカの裏庭のベネズエラに、イランの支援する国際テロ組織の支部ができて、ロシアも軍事顧問団的なものを送っているようです。 非常に複雑な立体地図の中で、トランプとプーチンと習近平がどう動くのか、それに対して日本も先読みして安倍晋三首相がどう動くか。それによって日本がこれからの生き残れるのか決まってくると思います。G20首脳会議のデジタル経済に関する特別イベントであいさつする安倍晋三首相(中央)。左はトランプ米大統領、右は中国の習近平国家主席=2019年6月、大阪市住之江区(代表撮影) 宮崎 もう一つ、昨年の10月4日に、ペンス米副大統領が演説で「われわれは今までハッカー戦争で受け身だったけれども、これからは攻撃型に変える」と言っています。それと宇宙軍を作ることも明言しています。 これがどういうことかと言えば、例えば5Gで中国が先んじた場合、通信速度は現状の100倍ぐらいになる。今0・001秒差ぐらいなのが、0・00001秒ぐらいの差で中国のハッカーが米国防総省(ペンタゴン)の中枢に入り込んで命令系統をズタズタにしたら、アメリカは戦えない。だから宇宙軍を作って、アメリカが先に中国の指揮系統を叩く、そういう戦争になっていくと思いますね。ソ連型と異なる「中国崩壊」 吉川 そういうことも今までのワシントン政治では既成勢力の予算獲得競争などで上手くいっていなかったのが、トランプが大統領になってから軌道に乗り始めた。そのようなサイバー攻撃や宇宙軍がしっかりしていれば、超音速で飛ぶミサイルも、事前に宇宙から索敵しておいて撃墜することなどもしやすくなります。そういう新スターウォーズ構想のようなものをトランプは中間選挙の後に明らかにしました。 最初のスターウォーズ構想は、レーガン大統領が言い出したものです。まったく同じことは当時のソ連には技術的にできなかったから、ソ連は降参して冷戦は終結したわけですが、それと同じような形にもっていこうとしているのではないかと考えています。 宮崎 ソ連の場合、経済制裁を受けていましたが、ソ連には全く輸出するものがなかった。原油とウォッカとマトリョシカくらいじゃないでしょうか。でも、中国は山のように輸出するものがあって、外貨が入ってくる。だから、経済的に中国を干すというのはなかなか難しい。つまり、ソビエト型の崩壊というシナリオは考えにくいでしょう。 吉川 そうでしょうね。ただ国際政治の理論で、「軍事競争というものは量的な競争であり、量的な競争をやっていれば接戦になるので熱い戦争になるけれども、質的な競争は一方が急激に伸びて圧倒的に勝つ可能性があるので、もう片一方が何らかの形で降りざるを得なくなる」という考え方もあります。米ソ冷戦はそういう形になったわけですが、今回の米中の5Gやサイバーというのも、質的競争で決着がついてくれればいいなと思います。 宮崎 先ほど米中対立は、次に金融戦争になると言いましたが、アメリカにはもう一つ癪(しゃく)に障っていることがあるからです。それは「ドル体制」という戦後のブレトン・ウッズ体制を中国がひっくり返そうとしていることです。 中国が進めているのは、まず人民元の勢力圏を作ること。アジアインフラ投資銀行(AIIB)なる奇怪な銀行をつくって、それから国際通貨基金(IMF)に人民元が入ってきた。そして通貨スワップ、もしくは人民元決裁権を方々に広げています。例えばタイでは食堂に入っても人民元が使えるぐらいです。ロシアとの貿易決済も一部人民元にしています。 これをどうやってアメリカが食い止めるかなのです。つまり、通貨覇権を絶対に死守するということですが、これから使うであろう手というのは、中国の外貨を払底させるというのが一番でしょう。そうすると人民元という価値がぐっと下がりますから。二番目に実行するのは、中国の銀行の信用力を崩壊させることです。こういうわれわれには全く見えない手を打っているのだろうと思います。完全に機密になっているので、今は想像でしか言えませんが。 ただ、こうした状況を見ていると、中国は自壊が始まっているようです。何しろ、中国の負債総額が日本円で6千兆円ぐらい、一説によれば9900兆円という見方もあります。ただ、中国の国内総生産(GDP)は1千兆円ぐらいあるでしょう。このGDPの飛躍をどこで止めるかですが、そもそも大半が不動産投資です。だから簡単で、金融を閉めたら不動産投資にいかない、いかないばかりかこれまで不動産のローンを組んだ人たちは相当哀れな結末になるのではないかと思います。要するに、アメリカが金融面における攻撃を始める前に、中国が自滅していくのではないでしょうか。すでに包商銀行が危うくなって、中国政府が救済しました。徐々にアメリカで起きたサブプライムによる破綻で起きたリーマン・ショックと似た状況になっている。中国政府もまだ小さな銀行は助けますが、次に大手がひっくり返ったときは危ないですよ。評論家の宮崎正弘氏=2019年7月、東京都千代田区(三尾郁恵撮影) 吉川 アメリカの新聞を見ているだけでも、25%の関税のおかげで輸出ができなくなって困った中小企業を助けるために、そういう中国の大手銀行が積極的に貸出するように中国政府が命令して貸し出した。しかし、お金をもらった中小企業は何をやっているかというと、どうせ新しい工場を建てても輸出はできないから、不動産投資をやっている。どんどん中国経済の実態がなくなってきているわけで、関税政策が中国の金融崩壊を速めているのは確かですね。親中派も多い自民党 宮崎 ではこの状況に日本はどうすればいいのかと言っても、74年間憲法を変えられない国が主体的にどうしようと言っても無駄な気がしますし、基本的なことを言うしかない。自分が正しく判断したことを、主権を行使してやりなさい、という。これはどの国でも基本でしょう。リーマン・ショックのときには、三菱UFJ銀行が銀行を買わされて、野村証券が、中東かどこかのリーマンブラザーズを強制的に買わされたじゃないですか。ということは、中国が悲鳴を上げて日本に助けを求めたときに、お人好しな自民党政権はやっぱり助けると思います。 吉川 そうですね。自民党は親中派も多いですからね。 宮崎 そうそう、そこが危ない。特に伊藤忠商事はまだ、中国に投資していますから。中国と心中するつもりなのでしょうか。 もう一つ留意すべきは、大々的に生産しているトヨタ、日産、ホンダが結局どうするかでしょう。最悪のシナリオはかつての満洲と同じように財産を全部おいて逃げ帰ってくることですね。中間的なシナリオとしては、トランプが仕掛けた今の貿易規制がますます強化されるでしょうから、日本企業のハイテク部門やケミカル関係など、すべて影響を受けることになります。 吉川 すでに昨年末の段階で、南部中国アメリカ商工会の調査によると、会員企業の約7割が中国からの撤退の準備をしているそうです。別の統計ですが、オバマ政権末期には456億ドルもの対中投資を米国企業はしていたのに、2018年は20億ドル。サプライチェーンは切断され始めています。そうなれば、経済・金融・技術面での覇権争いで、アメリカが優位になれるだけではありません。軍事的な「熱い戦争」をしてもアメリカは困らなくなる。 私は南シナ海問題がこれからもっと深刻になってくると思いますね。南シナ海はほかに比べて水深が深いので、水中発射でアメリカまで届く核ミサイルを装備した潜水艦を沈めておけます。ですから、アメリカは南シナ海で行われる中国の軍事訓練に非常にナーバスになっていて、人工島やミサイル発射台を撤去してほしいと強硬に言っていますし、南シナ海では部分的に「熱い戦争」になる可能性もあるのではないでしょうか。 第一列島線である沖縄、台湾、フィリピンあたりに、核は積まないにしても中距離弾道ミサイルを置いておけば中国をつぶせるという戦略が、ワシントンのシンクタンクからも正式に出ています。そのために米国は中距離核戦力全廃条約(INF)から撤退しました。結局80年代の欧州と同じで、そういうものを一度配置して、中国側が南シナ海から撤退するならアメリカもそれを撤去し、かつ関税も下げるというような取り引きが、トランプと習近平の間で来年の選挙後ぐらいにあるのではないかと予想しています。 宮崎 G20前後に言っていたトランプの日米安保条約破棄というのは冗談ではなく、かなり本気の部分があると言えます。でも、それは大いに歓迎すべきことではないかと思います。わが国が主権国家であるならば、自分で防衛するのは当然ですからね。それをトランプは早くやれと言っているわけです。 吉川 米ソ冷戦が終結したときにアメリカが一方的に日本を守らなければいけない理由がなくなったので、日米安保の見直し、日本の憲法問題、核武装など何から何まで考えなければならなくなることを、冷戦終結当時に何人かの先生と話した記憶があります。 ところが、そこへいわゆる「瓶の蓋(ふた)」論が出てきた。「もし米軍が撤退したら、日本はすでに相当な能力を持つ軍事力を、さらに強化するだろう。誰も日本の再軍備を望んでいない。だから、われわれ(米軍)は(軍国主義化を防ぐ)瓶の蓋なのだ」という考え方です。そしてクリントン政権というものができてしまった。彼は非常に理性的な学歴エリートで、その彼と体質を同じくするワシントンの役人も、日本が軍事大国になるのは脅威ではないかという考え方だったわけです。その考え方をする官僚らが25年もワシントン政治を仕切ってしまった。本来、私の認識では25年前に出るべき「日米安保の見直し」論が、クリントン政権以来、延び延びになっていたのが、今になって出てきたのではないかと思います。吉川圭一氏=2019年7月、東京都千代田区(三尾郁恵撮影) 宮崎 その前に、1980年に日米安保改定20周年のシンポジウムを開催しており、これはフォード前大統領と岸信介元首相が共催したものです。そのときにアメリカから「もう改定して20年も経っているのだから、中身が不均衡なものをより対等なものに改定する必要がある」と提案がありました。日本の新聞も報道はしましたが、それで終わってしまう。誰も重視していなかった。日米安保の改定というのは本来なら日本が言い出すべきですが、そのままずるずると時間だけが過ぎていったのが事実です。 だからトランプは「非常にアメリカだけ負担が大きい、それからアメリカだけが犠牲になる」と認識している。戦争でもし闘っても、日本はそれをソニーのテレビで見ているだけだと、不満がマグマのように噴出しているのが分かります。障害は日本の現行憲法 吉川 トランプは大統領選挙、特に予備選挙の最中からそういうことを言っていました。今回トランプから日米安保の見直し論が出てきたのは、イランのことがあるからだと思います。 イランがアメリカの無人機を攻撃したので、それに対する報復攻撃をやろうとしたが、直前で思いとどまった。そのときに、日本は消費する石油の6~7割をペルシャ湾から買っているにもかかわらず、日本がペルシャ湾の防衛をやらないのはおかしいのではないかとツイッターでつぶやいて、G20後の記者会見でもそのことは言っていました。こういう一連の流れからすると、トランプは本気なのではないかと私は思いますね。 宮崎 本気であることが分かる一方で、トランプは日本に関する勉強をほとんどしてないから、理解度は低いですね。北朝鮮危機のときも、日本に協力しろ、と言ったら日米安保条約、日米地位協定、それから日本の憲法があってできないということを初めて知ったようで、本当にびっくりしたという話もあった。日本は戦争に巻き込まれるようなものではなく、後方支援や終わった後の地雷処理とか、そういう協力しかできないことを今はだんだん分かってきたのではないでしょうか。 だから次にその不満をどこにぶつけるかというと、結局日本の障害になっている憲法だと。だから、憲法改正を迫るのは内政干渉になるけれども、形を変えて言ってくるのではないかと思いますね。 吉川 「在日米軍基地駐留経費の日本側負担を何倍かに値上げしろ!」などですね。それくらい言われたらさすがの日本人も、そんなお金を払うなら憲法を改正して強力な自前の軍隊を持った方がよいと目覚めるかもしれません。米国製の兵器と今まで引き取ってきた米国債を交換してもよい。その代わりに、むしろ在日米軍基地駐留経費を今までは7割負担していたのを5割にしてくれと交渉する。最初から5割と言えば6割にされてしまうので、3割と言っておいて5割で手を打つ。それくらいのことを日本がしてもよいと思います。 そうなれば、在日米軍基地の見直し問題も出てきます。マティス国防長官が退任後、しばらく国防省のトップが不在でしたが、今年6月にボーイング社の理系重役だったシャナハン国防長官代行が国防長官への指名を断ったのです。彼はボルトン大統領補佐官に影響されてイランとの早期開戦論者だった部分があるので、イランとの流血の大惨事を少なくとも来年の選挙まではしたくないというトランプの意向が、もしかしたら少しあったのかもしれない。そしてポンペオ国務長官の陸軍士官学校時代からの友人で、マティスと同様に元制服軍人だからこそ部下を戦死させるようなことは避けたいエスパーが国防長官に就任しました。 ただ、本当に日米安保を見直すということになった場合、「この基地とこの基地は日本の領土上になくてよい」などとコンピューターで計算して交渉をするなら、シャナハンが最適だったと思います。エスパーのような制服軍人はどちらかというと、日本の軍事基地は守りたい方が多いのです。 日米安保を大きく見直す、日本側も憲法を大きく見直さざるを得ないという話が出てくるとしたら、エスパーから民間出身の人に再び国防長官が代わったときではないか、と今の段階では思っています。米ホワイトハウスで、エスパー国防長官(左)を見やるトランプ大統領=2019年7月(AP=共同) 宮崎 いずれにしても、すべてまた劇的に変わり始めるのは選挙の後でしょう。その前に中国の自滅が金融面で始まると思いますがね。 吉川 それと中国国内の知的財産権保護と産業補助金制度撤廃という米国の主張が関税などの圧力で実現するか?そうすれば5Gでもアメリカが中国に巻き返しできるかもしれない。 これは、われわれ日本人には既視感があります。80年代に日本がアメリカにされたこととよく似ています。あのときは、そういう日本国内の構造改革そしてドル安誘導や国際決済銀行の規制がバブル崩壊へと繋がりました。そういう意味でも宮崎先生の考えは間違っていないと思います。 みやざき・まさひろ 昭和21年、金沢市生まれ。早稲田大中退。「日本学生新聞」編集長、雑誌『浪曼』企画室長を経て、貿易会社を経営。58年『もうひとつの資源戦争』(講談社)で論壇へ。著書に『拉致』(徳間文庫)『中国大分裂』(文藝春秋)『出身地で分かる中国人』(PHP新書)『中国権力闘争 共産党三大派閥のいま』(文芸社)など多数。 よしかわ・けいいち 政策コンサルティング事務所「グローバル・イッシューズ総合研究所」代表。2016年まで米国ワシントンDCにも拠点を持ち、 東日本大震災を契機に一般社団法人日本安全保障・危機管理学会防災(JSSC)ワシントン事務所長として、日本に米国と同様の危機管理専門省庁の立ち上げを目指す政策提言活動に取り組む。2017年以降は日本国内をベースに、テロ対策や米国政治に関する政策提言活動を続ける。著書に『911から311へ—日本版国土安全保障省設立の提言』『東京オリンピック・パラリンピックは、テロ対策のレガシーになるか?』(近代消防新書)など多数。■「米国はもう崖っぷち」5G戦争、ファーウェイ排除のウラ側■「宇宙軍創設」トランプの真意は中国への宣戦布告に他ならない■日本の円圏構想をパクった中国の「一帯一路」はどうせ失敗する

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    新冷戦から生まれた中露印の新勢力「3G」から恐怖は始まる

    と目論んでいるように私には思える。 先の友人の例え話には続きがあり、悪魔を追って左折したロシア人を、中国をはじめとしてトルコ、イラン、そしてインド、北朝鮮の各指導者が追随するのだ。私は、まるでロシアが先導する「悪魔の館」に彼らが結集し、暗闇のなかでコソコソと悪巧みするような不穏な気配を感じる。露モスクワで会談後、合意文書の署名式に出席したウラジーミル・プーチン露大統領(右)と中国の習近平国家主席=2019年6月5日(AP=共同) 2019年7月23日、衝撃的なニュースが報じられた。ロシアと中国の爆撃機が約11時間にわたって編隊を組み、日本海と東シナ海の上空で初めての共同警戒監視活動を展開したと言うのだ。極東アジアでの中露による軍事的な存在感を強烈にアピールするもので、日米軍事協力体制の最前線に中露の軍事的脅威が迫っているに等しい。中露訓練に北朝鮮が参加の意思? 実は両国の軍事協力はかつて、大規模に実施されたことがある。2018年9月11日から1週間、ロシア極東やシベリアで繰り広げられた軍事演習「ボストーク(東方)2018」に、中国軍とモンゴル軍が参加していた。その規模は1981年以降、最大規模だったと言われている。 そもそも中露の軍事協力が本格化したのは、2017年6月7日のことだ。カザフスタンで両国の国防相が会談し、ロシアのショイグ国防相は中国の常万全国防相(当時)に「2020年までの防衛軍事協力」を約束した。両国軍による軍事演習を初めて実施し、軍事機密の共有、さらには軍事ドクトリンの整合性を盛り込んだ。 中露の共同訓練が確認された翌々日の7月25日、北朝鮮が動いた。G20の閉幕直後にトランプ大統領と文在寅大統領とそろって首脳会談した金正恩委員長だったのに、北朝鮮はロシア製の「イスカンデル」にきわめて似た弾道ミサイルを2発打ち上げた。おそらく、シリアでロシア軍が使用しているミサイルが転用されたのだろう。 北朝鮮がミサイルを発射したのは、中露による共同訓練に参加する意思を示したのではないだろうか。中露と北朝鮮が警戒しているのは、8月に予定されている米韓合同軍事演習であり、韓国大統領府は「計画通りに実施される」と表明している。今年の夏は「中露+北朝鮮」対「米韓」の対立が激化する危険性が高まっている。まさに「新冷戦」の始まりだ。 プーチン政権は、中露関係の強化だけでは飽き足らないようだ。反米同盟の拡大を画策し、インドに触手を伸ばしている。2018年12月以降、アメリカはインドの市場開放が不十分だと非難し、関税優遇措置を停止すると宣言。アメリカへの不信感を募らせるモディ首相は、ロシアに急接近している。 インドは、ロシア製の最新型地対空ミサイルシステムのS400を購入する契約を結んだ。総額は50億ドルに達し、インドとアメリカの関係にきしみが出ている。トランプ政権の発足以降、両国は中国を牽制するための信頼関係を醸成してきたが、一気に亀裂が走っている。 ロシアの思惑は、どこにあるのだろうか。2014年以降に拡大した欧米諸国の経済制裁でロシア経済は衰退したために、東方外交に舵を切り、中国との関係改善に乗り出した。しかし、中国の経済成長も超高齢化社会を迎えて、将来は先細りになると予想されている。経済統計によれば、2024年にはインドは中国を抜いて世界一の人口を擁し、2030年にはインド経済は飛躍的に台頭する。プーチン氏はいつまでも中国に依存すれば、共倒れになると危惧している。インドとアメリカの摩擦につけこんで、将来を見据えてインドを取り込む戦略にプーチン氏は打って出た。 プーチン氏は、インドと中国が放つアメリカへの不満に勢いづいて、こう息巻いた。 「ロシア、インド、中国の3カ国の枠組みは保護主義や単独行動主義、不法な制裁を否定する。3カ国の協力関係は著しく発展しており、安全保障と財政の各分野での協議が発展している」左からインドのモディ首相、ロシアのプーチン大統領、中国の習近平国家主席 反米を軸にまさに「3G(グル)」の巨大な勢力圏が誕生しようとしている。3カ国とも核保有国であり、日本海から西太平洋、東シナ海、インド洋に及ぶ軍事的な影響力は絶大である。3カ国の総人口が世界で占める割合は38%、世界の陸面積の20%に達する。「日本は祈る」は通用せず プーチン氏は今年6月に大阪で開催されたG20の直前、フィナンシャル・タイムズのインタビューで、欧米諸国を厳しく批判した。 「現代の自由主義といわれる思想は結果的に、時代遅れになっています。その思想のいくつかの要素は、単に現実とマッチしていません。多文化を認めることが大切です。移民問題が発生すると、自由主義思想は機能不全を起こし、自国の住民の利益を優先するハメに陥っているのです」 プーチン氏の発言は、移民と難民への対応で苦慮するアメリカとヨーロッパ諸国にはびこる民族排外主義を念頭に置いている。自由主義を掲げてきた諸国の自己欺瞞を非難しているかのようだ。ただ注意しなければならないのは、プーチン氏は自由主義に代わる新しい思想を打ち立てているわけでも、まして移民問題を解決する施策を提案しているわけでもない。 ロシアにも中央アジア諸国からの出稼ぎ労働者の問題が生起しているが、プーチン政権は武力で弾圧しているだけである。国際政治は一般的な理念よりも国益を優先に、ときには陰謀や策略も辞さないリアルポリティックスの時代に逆戻りしているかのように映る。まさに弱肉強食の権力政治家が跋扈するのである。 日本は、北方領土交渉でプーチン政権にすっかり揺さぶられてしまった。平和条約の締結さえも、困難な状況にある。プーチン氏は2019年6月22日、ロシアの国営テレビ局のインタビューで北方領土を日本に返還する「計画はない」と言明した。 そして、8月2日にはメドベージェフ首相が択捉島を訪問する。実は択捉島、国後島、色丹島には2011年以降、中国の水産関連企業が進出し、新しい工場が続々と建設されている。 2018年9月には中国の通信機器大手「ファーウェイ」が、サハリンと北方3島を結ぶ光ファイバー回線の海底敷設工事を完了した。北方領土はいまや、中露蜜月関係のシンボルのように見える。最悪の場合には中露首脳会談が択捉島や国後島で開催されたり、中露軍事演習が北方領土で実施されたりする事態も想定しておかねばならない。 日本を取り巻く国際状況をざっくり描くと「日米+α(EU)」と「3G+α(北朝鮮、トルコ、イラン、シリア)」の対立構図が浮き彫りになる。ただトランプ大統領は自国ファーストを掲げており、必ずしもEU諸国と友好的とは言えない点があり、日本への反発を強める韓国は「3G+α」に寝返るかもしれない。そうなれば、3Gの最前線と立たされる日本の防衛政策は緊急に再検討を迫られる。 米ソ冷戦は両国が直接的に衝突しなかったという点では、日本では「祈りの平和」で済んだ。でも現状は、緊迫度がまったく違う。日本に近い朝鮮半島、日本が天然資源を依存する中東、さらにはベネズエラ内戦(「アメリカ」と「ロシア、中国、北朝鮮、イラン、トルコ」の勢力に分断)など地雷はいくつも点在している。ちょっとした事件や小競り合いを契機に、アメリカと中露が軍事的に全面衝突する危険性は十分にある。G20大阪サミットが閉幕し、トランプ米大統領(右)と握手を交わす安倍首相=2019年6月29日、大阪市 だからこそ、日本の防衛政策を根本的に考え直す時期にきている。明治維新もそうであったように、日本は外圧があってこそ、自国を変革できる。集団自衛権を含む憲法改正の必要性を、皮肉にも「新冷戦」が迫っている。■北方領土は返さない! ロシア「反日アイヌ民族」の正体■「プーチンは一島も返さない」最悪シナリオは中国への北方領土売却だ■安倍外交85点の理由は「欧米と仲良く、中国と喧嘩せず」

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    中国からの投資が9割減、問われるトランプの経済政策

    土方細秩子 (ジャーナリスト) ピーク時の2016年には年間460億ドルもあった中国から米国への直接投資が2018年には48億ドルにまで落ち込んだーー。リサーチ会社ローディアムが発表した数字が波紋を呼んでいる。もちろん理由の一つは中国が貨幣流出を防ぐために国外投資に規制をかけたことだが、2016年はトランプ大統領就任の年。そこから現在までの間に貿易摩擦などもあり、投資額が激しく落ち込んだ、と指摘されている。 中国による米国企業への投資内容を見ると、トップはエネルギー関連、次いで不動産関連となる。企業への直接投資、買収などが含まれるが、昨年1年間で中国の投資家は総額130億ドルにも及ぶ米国内の資産を売却したという。 この傾向は今年も続き、アンバンは米国内の高級ホテルを、HNAグループも米国内数十億ドル規模の不動産を、フォーサム・インターナショナルはニューヨークの不動産を、ダリアン・ワンダ・グループは映画会社レジェンダリー・エンタテイメントの株式売却を試みている。 この中には米政府が主導した売却もある。例えばHNAが今年に入り売却したマンハッタンのビルは、「トランプタワーに近い高層ビルである」という保安上の理由から米政府が売却を迫ったもので、HNAはこれにより多額の損失を出したと報道された。逆に中国企業が買収しようとした米企業に対し、「個人の情報保護や国家安全の見地から」米政府が売却を阻止したケースもある。 とかく批判されながらも、中国マネーが米経済を活性化させてきた、というのは事実だ。特にミシガン、ミズーリ、サウスカロライナ、テキサスなどでは中国マネーが雇用促進の原動力にもなり、カリフォルニア、ニューヨークでさえ都市開発の要の部分を中国マネーが請け負っていた面が大きい。 エンターテイメントの部分も然りだ。中国は今や世界最大の映画市場であり、ゲーム市場でもある。ハリウッドは中国との共同制作という形で中国からの投資を引き出し、中国市場に受ける映画を作ることで採算を取ってきた経緯がある。ゲームに至っては世界の市場の5割強が中国であり、ソフトからハードまでこの巨大市場を目指しての競争が続いている。(出所)リサーチ会社ローディアム 1980年代を思い起こしてみれば、米国の困惑がよく分かる。当時バブル期の日本は米国の不動産を買い漁っていた。ロサンゼルスのボナベンチャーホテル、ニューヨークのロックフェラービルなど、ランドマークとも言える建物を日本企業が買収し、米国では激しい日本叩きが巻き起こった。しかしバブル崩壊によりこうした建物や日本による投資が冷え込んだことが米国経済にも影響した。 今回の中国投資の減速でも同じことが言える。米国では黄禍論などと言われ、あまりにもアジアパワーが強すぎることへの警戒が巻き起こるが、いざその影響が米国経済の停滞に及ぶと、今度は待望論が巻き起こる。いわく、中国からの投資が減少したことにより特にラストベルトと呼ばれる地域への影響が大きい、トランプ支持基盤でもあるこの地域の経済をトランプ自身が苦しめている、などである。原因は中国かトランプか この問題、表面的な部分よりも根が深い点がある。それは「どちらが“先”の原因であるのか」という部分だ。先にも述べた通り、中国からの投資が減少したのはトランプ政権による関税圧力などの貿易摩擦も一因ではあるが、それ以前に中国政府による外国投資規制が行われていた。つまりトランプ大統領が政権についた時にはすでに中国マネーの後退は始まっていた。 トランプ大統領による中国への不信感、批判はここに端を発するものかもしれない。このまま中国がラストベルト地帯への投資を減少させれば地域経済はより疲弊し、それが「Make America Great Again」という自身のスローガンに反することになり、支持率が減少する。それゆえに中国を批判し、関税圧力などの政策を実施した。 関税圧力というのはある意味自国への企業誘致の方法でもある。日本の自動車メーカーが現地生産率を上げ、「米国産の日本車」を前面に打ち出すようになったのも元はと言えばこうした日本叩きや圧力に対抗する策でもある。 ただし中国の場合、米国に進出して現地生産するような企業がまだ少ない、というのがネックとなる。現在に至っても中国メーカーの車は一部のEVバスなどを除いては米国で販売されていない。また今のところはまだ価格面で競争せざるを得ない中国製品にとって、米国での生産はコストがかかり競争力を失う原因にもなりかねない。 しかし米国の経済学者などからは「米中双方が不信感を抱き合い、貿易摩擦の解消のきっかけすらつかめない現状は行く行く米経済に悪影響を及ぼす」という警戒感をあらわにしている。※写真はイメージです(ゲッティイメージズ) 一方で米国にとっての明るいニュースは、直接投資が減少する一方で中国によるベンチャーキャピタルは増加している、という点だ。特にシリコンバレー周辺で、中国による投資は31億ドルを記録した。ただしこれも技術移転や機密保持の観点から規制がかけられる可能性が無きにしも非ず。 もし中国企業や個人が米国内の資産売却を急激に進めれば、特に不動産のバブル崩壊のような現象が起こる可能性もあるし、企業の倒産、失業率の増加にも中国投資の減退が関わってくるかもしれない。二選目を目指すトランプ大統領にとって、中国マネーの扱いは難しいものになりそうだ。ひじかた・さちこ ジャーナリスト。ボストン大学コミュニケーション学部修士課程終了、パリ、ロサンゼルスでテレビ番組製作に携わり、1993年より米国でフリーランスのジャーナリスト活動を行う。

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    櫻井よしこ氏「米中対立はどちらかが倒れるまで続いていく」

    らず憲法9条に縛られたまま、自力で自国を守ることすらできない。櫻井よしこ氏は、日本がすがるアメリカと中国との対立は長期化すると言い、憲法改正の必要性を訴える。* * * 日本を取り巻く国際情勢はかつてないほど厳しさを増しています。 米中対立は基本的に中長期的にわたって続き、さらに深刻化していくことが予想されます。トランプ政権の一連の動きを見れば、米国が問題視しているのが貿易赤字だけではないことがわかります。知的財産の不正入手、企業の最先端技術を提供させるなどの不公正な取引、発展途上国に対する「債務の罠」、そしてチベットやウイグルへの弾圧をはじめとする人権問題。これらはすなわち共産党による一党独裁体制、中国のあり方そのものです。 中国の経済成長の基盤は知的財産を盗むことで成り立っており、これをやめるわけにはいきません。また、中国の国防費は表向きで約15兆円、実際にはその1.5倍から2 倍と見られていますが、それと同等かそれ以上の予算を割いているのが武装警察やサイバーポリスといった国内治安対策です。これほどのお金を投入して、激しい弾圧を加えることによって中国共産党はようやく国内の不満を押さえ込んでいるのです。 人権問題の改善は共産党の一党支配の崩壊につながりますから、根本のところで中国が米国と妥協することは絶対にあり得ません。2019年5月3日、第21回公開憲法フォーラムで基調提言を行う櫻井よしこ氏(桐原正道撮影) 2018年12月、トランプ大統領と習近平主席がG20で会談し、貿易摩擦の「一時休戦」をアピールしましたが、その一方で米国はカナダに要請し、中国の通信機器大手「華為技術(ファーウェイ)」の創業者の娘で最高財務責任者(CFO)の孟晩舟氏を逮捕しました。 一時的に対立を回避するようなポーズを見せながらも、米中対立はどちらかが倒れるまで続いていくでしょう。「我慢する時」の習近平 中国側はトランプ政権はあと2年、再選されても6年で終わることを見越していますし、景気の悪化などで米国内での国民の不満が高まれば、トランプ政権は政策を変えると読んでいます。一党独裁体制の中国とは違い、民主主義国家は弾圧で国民を押さえ込むことはできないからです。 習近平は「今はじっと我慢する時」と考え、日本に対して盛んに秋波を送っていますが、やっていることはまったく変わっていません。それは尖閣諸島への領海侵犯を続け、東シナ海の日中中間線付近で新たなガス田の掘削を始めたことからも明らかです。 2017年10月の共産党大会で、習近平は3時間20分にわたる大演説を行い、中国は2035年までに世界一の経済大国になり、建国100年に当たる2049年までには軍事力でも米国を追い抜いて、「国際社会の諸民族の中に中華民族がそびえ立つ」と言いました。 中国共産党の価値観を世界に浸透させて、その教えの下で人類運命共同体を築き上げる。逆らう者は徹底的に弾圧する。このような中国の野望、中国が描く世界秩序を決して実現させてはなりません。 米中対立において、日本が米国側に立つのは当然のことです。さらに長い歴史の中で育んできた人間重視の穏やかな価値観をもとに、独自の旗を立てて国際社会の中で大きな役割を果たしていくべきだと思います。 そのためにも、日本は節度と責任ある民主主義国家として、憲法改正を実現し、国の基盤である経済力と国防力を整えていかなければならないのです。●さくらい・よしこ/新潟県長岡市出身。ハワイ州立大学卒業。元日本テレビ「きょうの出来事」キャスター。1995年、『エイズ犯罪 血友病患者の悲劇』で大宅賞受賞。執筆・講演活動を続ける一方、インターネット放送「言論テレビ」を運営中。最新刊は『韓国壊乱』(PHP新書、共著)。関連記事■櫻井よしこ氏、世界で一つの変な憲法の改正は今が最後の好機■朴前大統領の弾劾訴追を見れば韓国立法・司法の歪み分かる■櫻井よしこ氏「韓国とは悪い関係でなければ幸せ、程度でOK」■ケント氏「議論すら許さない日本のリベラル派は全体主義者」■ケント氏「憲法によって危険に」櫻井氏「日本は商人の集合体」

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    日米同盟破棄したら中国は尖閣強奪、韓国は謝罪と賠償要求

    、日本は隣国の脅威に一気に晒されることになる。産経新聞ワシントン駐在客員特派員の古森義久氏が言う。「中国はこのところ沖縄・尖閣諸島周辺の日本領海への公船の侵入を活発化させている。もし東アジアにおけるアメリカの最前線部隊である在日米軍がいなくなれば、中国人民解放軍は即座に尖閣諸島強奪作戦を開始する可能性がある。場合によっては沖縄まで標的になるかもしれない。 それに乗じて北朝鮮やロシアも一気に動き出す。中国を敵に回せば国連の安全保障理事会は機能しない。自衛隊の戦力だけで侵略行為をしのぎきるのは不可能です。アメリカを頼ろうにも、同盟破棄してしまえば積極的な介入は期待できません。2014年にロシアがクリミアに侵攻した時のように、中国に対して軍事力は投入せず、抗議や経済制裁をするのみではないか」 そのような事態に備えるためには、現在5兆3000億円に膨れ上がっている防衛予算を、さらに上積みしなければならない状況も考えられる。元駐韓大使で外交評論家の武藤正敏氏は、韓国の動きも注視すべきと指摘する。「トランプ発言はブラフだと見ておくべきだが、片務性を正したいという意思があるのは間違いない。仮に日米同盟が破棄されるならば、より重要度が低い米韓同盟も破棄され、在韓米軍も撤退する可能性が高い。すると、韓国は中国と北朝鮮の影響下に入ることが、自国の安全保障につながると考える。 米軍撤退によって野心を再燃させた北朝鮮の金正恩・朝鮮労働党委員長が核・ミサイル開発に邁進しても韓国の文在寅・大統領では対応しきれず、日本は核の脅威に晒されることになる。日米会談を前に、トランプ米大統領と共に長女イバンカ大統領補佐官(手前左)と娘婿クシュナー大統領上級顧問(同右)を迎える安倍首相=2019年6月28日、大阪市(代表撮影) 一方で韓国は慰安婦問題や徴用工訴訟などでの反日姿勢をさらに強め、これまで以上の謝罪や賠償を日本に突き付けるでしょう。G20での日韓首脳会談が見送られるなど戦後最悪とされる日韓関係のもとでは、そうしたリスクもゼロではありません」 これまでの経緯を考えれば、トランプ大統領と金正恩委員長の「友好的演出」は一時的なものにすぎない可能性は十分にある。再び北朝鮮が強硬路線に走り、韓国も反日姿勢を強めれば、まさに四面楚歌状態──その中で求められるのは高度な外交手腕だが、60年の長きにわたって日米同盟に依存するばかりだった日本の政治家や外交官に、各国と立ち回る能力があるかは疑わしいのが現実だ。 トランプ大統領の「日米同盟破棄」にどれだけ現実味があるかは今のところ全くわからない。だがトランプ発言は、日本外交が「主体的な安全保障体制とは何か」を真剣に考える契機となったのは間違いない。関連記事■日米同盟破棄で日本は繁栄か沈没か 外交論客3人が分析■中国富豪男の夢「蒼井そらを1晩300万円でセッティングしろ」■ケント氏「韓国には嘘が恥ずかしいという概念がないのか」■もし日韓戦わば… 軍事力の差は歴然だった■韓国で女児の胸が大きくなる「性早熟症」、囁かれる原因

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    香港「200万人」デモは中国の脅威となるか

    たが、「一国二制度」形骸化への不安は続く。G20の首脳会議で問題提起される可能性もあり、今回の動乱が中国の香港政策を動かす力になるか。

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    「非暴力はウソ」香港の反政府デモ、私が見た真実を明かそう

    フリージャーナリスト) 香港の九龍半島の繁華街、油麻地(ヤウマティ)の観光客向けの料理店に入る。拙い中国語の普通話(マンダリン)で注文をして、まずはビール、そしてエビの揚げ物と豚の小腸のつまみを頼む。隣の団体客はビールと料理の皿でいっぱいになったテーブルで談笑している。タバコを吸っているが、これは外のテーブルだから許されている。足元には吸い殻がいくつも転がっていた。 行き交うのは中国本土から来ている観光客と一目でわかるグループばかりだ。それは服装と髪型ですぐにわかる。日本の銀座でも京都でも函館でもよく見る光景だ。 昨日のデモのことがまるで嘘のような話だ。香港行政府と中国政府の方針もあり、中国からの観光客が非常に多い。年間に香港を訪れる中国人観光客は5103万人。香港の人口は約700万人だから、その人口の約7倍の中国人が香港にやってきていることになる。ほとんど、繁華街は中国人で席巻されているというわけだ。 巨大な存在となった彼らに飲み込まれるというのは、香港市民にとってどの程度の脅威なのだろうか。英語と普通話が飛び交う、この街路にいてはわからないことなのだろう。ここは広東語の世界だ。もちろん、これはもっと遠い日本にいればなおさらのことだ。  香港が激動である。 おおよその日本の人たちはテレビやネットなどで流れる情報をチェックしながら、香港の民主主義の現状や、その背後にある中国の脅威とそれに抗する人たちの姿などを知ることになっただろう。 筆者はこのうち6月12日の抗議運動の現場に立ち会った。立法会を取り囲む抗議運動の数万人の人たちの最前線で、催涙ガスを浴び、完全装備の機動隊にだいぶ小突き回された。しかし、さまざまな人たちの話を聞き、さらにそこで起こっていたことを目撃できた。 だが、同時に不思議な体験もした。日本や欧米系のメディアが発する情報や、ネットで香港市民が発する情報に大変な違和感を抱くことになったのだ。それは違和感というには、少し表現がおとなしいかもしれない。筆者はフィリップ・K・ディックのSF小説を思い出した。つい先ほどまで、目の前で大規模に繰り広げられたし、メディアにも流れていて、それを皆が見ているはずの光景が、なかったことになっているのである。 端的にいうと、6月12日のデモで「非暴力で無抵抗な市民にむけて警察が一方的な暴力をふるった」というのはウソである。 この話を進めるために、先に今回の「逃亡犯条例」改定反対運動の流れを、まずはざっと見ていこう。 国外での裁判に犯罪者を引き渡すための法律改正、いわゆる「逃亡犯条例」の改正が今回のデモの発端だ。中国の司法で市民が裁かれてしまうのではないかという恐れと疑心暗鬼から、6月9日に民主派が企画したデモからこの話は始まる。主催者の予想は30万人のところ、なんと100万人(主催者発表)を動員した。これは香港で過去最大のデモであった天安門事件の抗議と同じ数である。これは「民間人権陣線」という民主派の団体が行ったもので全くのトラブルもなく行われた。 続いて、12日には香港の議会である立法会での審議に抗議するため、こちらはネットで自然発生的に呼びかけが始まり、その情報が拡散した。 フェイスブックには「一個人野餐(ひとりピクニック)」というイベントページができた。これは立法会前の公園にピクニックに行こうという呼びかけで、そこには政治的な意図は全く書かれていない。 イベントの説明ページには「参加者は何をやってもいいです。もちろんポケモンGOをしてもOK」と書かれている。イベントページの主催者はほとんど無名の人物で何者なのかわからない。そして、ここに参加予定者はなんと1万人超。参加に興味があるとした人が3万人だ。これに類する「ピクニックに行こう」という香港のアカウントからの呼びかけがツイッターでは多数見られた。わかる人にはわかるだろう。1989年にベルリンの壁が崩壊するきっかけとなった東ドイツとハンガリーの非合法デモは「ピクニック」の名前のもとに行われた。それ以来、世界各国で非合法のデモや政治集会を呼びかける時「ピクニックに行く」は、呼びかけ人が違法行為に問われないための隠語なのである。後述する「ブラックブロック」の抵抗運動でもこれは頻繁に使われる。フェイスブックの「一個人野餐(ひとりピクニック)」の「イベント」の呼びかけを伝える6月11日付のサウスチャイナモーニングポスト紙(筆者撮影) この日の抗議活動は職能団体による呼びかけはあったものの、実際はこの「ピクニックに行こう」というのが合言葉に拡散され、そして数万人の参加者が動員されたものだ。そして、この主催者が事実上いないと言える「ピクニック」は香港警察と抗議の集団が衝突。警官隊に20人以上、デモ隊には80人以上の負傷者が出たと報じられている。「非暴力で無抵抗」のウソ さらに、16日には逃亡条例改定の反対に加えて、この警官隊の無抵抗の市民に対する暴力に抗議するという呼びかけや、香港行政長官の林鄭月娥(りんてい・げつが)氏の退陣を求めて、再びデモが民主派を中心に呼びかけられ、こちらはなんと200万人(主催者発表)が集まったという。こちらは9日と同じく民間人権陣線が主催し、大きな混乱はなかった。 これを受けて、香港行政府はこの逃亡犯条例改定の審議を無期限延期することを表明。事実上の廃案となる結果となった。現在、これに加えて、抗議者側は林鄭氏の行政長官の辞任などを求めて、さらに直接行動を示唆している。この勢いはしばらく鎮火する様子は見られない。 さて、そのさらなる要求として「暴動」という表現を撤回し、警察の暴力についての調査を進めるよう求めている。無抵抗の市民に対して、警察が催涙ガスや暴徒鎮圧用のゴム弾を使用して、抗議者側に多数の負傷者が出たことをこれは指している。 これまで警察は、「暴徒」から、立法会などの政府施設を守るために、催涙ガスなどを使ったが、これらは海外の暴徒鎮圧用に使われるもので、問題はなかったとの見解を示していた。そして、暴徒はレンガや鉄の棒やフェンスなどを投げていたので、警官たちも自己防衛のために仕方なかったと説明していた。これに抗議運動側は強く反発し、無抵抗な市民への暴挙を追及するとの構えである。 しかし、「非暴力で無抵抗な市民」が一方的に攻撃されたというのはかなり事情が違う。事実はこうである。 抗議者側は立法会に実力行使で突入をはかり、その現場では、石や鉄パイプなどが警察に向けて投げつけられていた。そこでは、これまで非暴力の象徴だった雨傘が警察に向けて乱れ飛んだ。筆者自身もいたるところで目撃したし、このことは最前線にいたメディアも当然知っているはずである。鎮圧され後退したデモ隊の後に残された石の礫。路上に袋入りで残されていた(筆者撮影) そればかりか、香港のテレビではこの模様が連日ニュースで映し出されていた。筆者は投石用に袋詰めにされて用意された石が、抗議者たちが警察に追われていなくなった道路に放置されているのも見ている。何かのはずみに孤立した警察官は若者たちに囲まれた末に引きずり倒されて、数人に囲まれて蹴りつけていた映像は、香港の反体制側といえる報道姿勢で有名な「蘋果日報」のニュースサイトでも見ることかできた。(現在はなぜか削除されている) 香港の新しい民主化運動は学生によって組織された2014年の雨傘デモから始まった新しいスタイルである。当初、大学の教職者などによって呼びかけられた道路占拠運動のスタイルは非暴力であり、違法な示威行動ゆえに、もし警察に逮捕されるとしても、それには粛々と従うとされていた。ところが、これがどこかで変わった。 法的な枠組みをギリギリで維持しつつ、体制側とあくまでも対話と交渉を通じながら平和裏に解決を図ろうという雨傘デモ当初の手法から、急進的な学生たちは強硬手段を用いても徹底的に戦うという流れになりつつある。これはすでに、2014年の雨傘デモの終盤でも見られていた。この変化はどこから来たのか。今度はこの背景について見てみよう。 現在の香港の政治勢力はおおよそ2つに分けることができる。一つは香港の既得権益層からつくられる親中の親政府派。もう一つは民主派。ところが、この雨傘デモ以来、民主派が分裂しつつあり、もう一つの政治傾向が生じてきている。これが「本土派」という、強硬ともいえる香港の政治的独立性を主張するグループだ。ともすれば妥協を重ねて遅々として進まない状況を、ある程度手段を選ばずに強行突破して変えていこうというのがこのグループだ。だからむしろ香港の穏健的な民主勢力(「汎民主派」という)とは対立することも多い。  現在日本で、香港のデモのスポークスマンのように発言し続けている周庭(しゅう・てい)女史はその中心的人物の一人である。したがって、彼女を民主派というのは少し誤解が生じる。その中でも最右派のグループとして理解しておいた方がいい。つまりこれが本土派である。 この最右派の中でも、さらに強硬的なグループは、圧倒的な体制との闘いの中では、暴力的な闘争さえも選択すると公言するものもいる。雨傘デモの終盤から、この傾向は学生たちの一部に徐々に共有されていき、そのために2014年の雨傘デモ終盤から暴力的な傾向が見受けられ、これが2016年になると旺角(モンコック)という繁華街での暴動に発展し、参加者と警察双方あわせて100人近くの負傷者が出る争乱に発展している。放火が繰り返された街路では、この時もレンガが投石に使われていた。 彼らは欧米などで反体制運動や極右との抗争を繰り返す、アナーキストの過激な政治運動スタイルである「ブラックブロック」の影響を隠していない。その特徴であるカラーの黒、そしてネットを通じたプロテスターの扇動と動員、非合法活動のための中心を持たないネットワークなどの特徴は、まさにブラックブロックである。なぜ若者は過激化したのか 6月12日の騒乱では、あたかも警察が非暴力な市民を一方的に武器を使って排除したと言われていて、参加者の間でもそのように言われている。だが、これは数万人も詰めかけた抗議者のうちの大半は、警察と対峙(たいじ)した最前線のことはおおよそ知らない。また、日本のネットなど見ると、中国の工作員が紛れ込んでいて、これが暴動を誘発するような暴力行為をしていたなどという推測まで飛び交っている。だが、ここ数年の香港の本土派の先鋭化を見ているならば、これは程度の低い陰謀論にすぎないと簡単にわかるだろう。今後も主催者がいないまま、ネットなどで動員された抗議運動はきっと荒れることになるだろう。 それでは、なぜこのように若者は過激化していったのか。これは現在の香港の成り立ちと世代間の考え方の違いが背景にある。 現在の繁栄を築いた香港の人たちで、第二次世界大戦前からいたという人たちは少数派である。香港の人口は現在約800万人だが、終戦直後には60万人程度しかいなかった。これが爆発的に増えたのは、1949年に中国共産党が大陸を制圧したからで、さらに文化大革命に至るまでの共産主義が引き起こした飢えや恐怖政治の混乱から逃げてきた人たちを香港が受け入れてきたからだ。 彼らはいわば亡命者なわけで、故国である中国本土に複雑な感情を抱いていた。イギリスの植民地の香港では彼らの政治参画は許されていなかった。普通選挙権はアリバイのように香港返還の2年前に与えられた。考えて見れば香港はアヘン戦争から150年もの間、中国以上に非民主的だったのだ。だが、イギリス政府は政治には参画させなくとも、植民地政府に直接の反抗をなすものでなければ彼らの自由も認めた。それが世界に多数の植民地をもって異民族を統治してきたイギリスの植民地統治技術であった。その自由を亡命者は貴重なものと受け取った。 かたや同時に大陸に侵攻してきた日本軍の戦火と暴政も経験してきたこともあり、日本に対しての感情は非常に厳しい。日本の右派的志向を持つ人が、香港の民主化を支援するのにあたり、反中国の文脈でシンパシーを抱いている人も多いだろうが、これらの人たちは民族国家としての中国そのものに背を向けているわけではない。尖閣諸島の領有権を1970年代初頭からいち早く主張してきたのは香港の人たちである。そして、これらの人たちはもちろん反共でもある。香港の尖閣諸島問題の運動家たちは、天安門事件の中国政府の対応にもいち早く批判をしている。そのため、この運動の指導者は中国政府から入境をいまだ許されていない。香港駅の近くのコンコースには尖閣諸島の領有権を主張し、南京事件を批判するプラカードがならび、ここに近年は慰安婦像も加わっている。  1980年代までは「反日」といえば、フィリピンやタイやインドネシアやシンガポール、さらにこの香港のことだった。当時は戦争の記憶が生々しく、日本軍の暴政を体験してきた人が存命だったのに加えて、韓国も中国も言論の自由がなかったため、民衆の日本に対する表立った批判は目立つものではなかったからだ。 韓国や中国といえば、旭日旗をめぐる騒動がある。けれどこの香港では80年代に日本代表が試合に行けば、旭日旗どころか日の丸ですら罵声を浴びる対象だった。まだ数が少なかった日本代表のサポーターは、日本国旗を揚げただけで次々と物が投げつけられるスタジアムに生きた心地がしなかったという。 日本のことはいったん置いておこう。一概には言えないだろうが、中国に民族的な帰属意識を持ち、巨大な存在となった中国共産党に、現実主義で対応し、時には受動的ながら批判を加え、譲れない線では強く抵抗していくというのが、香港の汎民主派のおおよそのイメージとしてよいかと思う。この辺りは台湾の国民党の現在の考え方と似ているともいえる。「逃亡犯条例」改正案の撤回を求め、立法会前で傘や鉄柵でバリケードをつくる若者ら=2019年6月12日、香港(共同) これが2000年代になると様相が変わってくる。現在の雨傘運動や今回のデモに参加する若者たちは、おおよそ90年代の生まれである。すでに香港に定着した二世や三世の世代であり、生まれた時から香港に住み、さらには返還の時に中国共産党を恐れて海外移住したような上層の階級でもない。何かがあればここをすぐにでも捨てていく仮住まいで香港にいるわけでもない。香港に生まれ、香港に育った人たちは独自のアイデンティティーを持ちはじめたのだ。 植民地への移民が本国とは違う経済と文化を持ち、新しい価値観と自分たちにふさわしい自治を求めて戦いだすのは珍しいことではない。さらにアメリカ大陸の各国のように、これが独立して新しい国をつくることすらも。彼らを「本土派」と呼ぶのは、中国が私たちの本土ではなく香港がわれわれの本土(故郷)であるという意味である。香港で独立の議論はタブー 香港で中国の体制批判や、ましてや独立の議論を直接持ち出すことはタブーである。それはイギリスと中国がつくった香港基本法の23条に定められている条文「反逆、国を分裂する、反乱を扇動する、中央人民政府を覆すおよび国家機密を盗む行為を禁ずる(法を独自に香港は制定すべし)」に抵触するからである。中国共産党は、香港のいわゆる「高度な自治」を実現されたものとして内外に誇る。だが、首長や立法議会の直接選挙すら許されていないばかりか、反体制派に対する露骨な弾圧が続いている今、それがフェイクにすぎないことは明らかである。ましてや、そのさらに先を行く、香港の独立などもってのほかのことである。 ところが、若い本土派はこれに反抗した。雨傘運動の後、議会進出を狙った本土派は当選すると、議場で行うべき中国政府への忠誠を誓う儀礼を無視したり、わざと茶化して宣誓文を読み上げたりして、抗議の意思を示した。完全な反逆である。これに激怒した中国共産党は、わざわざ全国人民代表大会の常務委員会に諮り、この議員の資格を抹消した。 勇気あるとも言える反抗には一部で同情が集まったが、一国二制度での緩やかな変革を目指す汎民主派からすれば、冒険主義的であった。もちろんこうした汎民主派の態度を本土派の若者は弱腰として断罪する。 しかし感心できないこともある。彼らの一種のクレオール主義(植民地などの遠隔地で本国から隔絶した環境でいる間に育まれた自立性のこと)は、香港民族主義となり、今度は中国に対する排外的な運動や、社会からの反発を生むような抗議活動につながるケースが見られてきているのだ。 冒頭でつづった中国人観光客であふれる繁華街などで中国人排斥運動もどきのことを行ってみたり、中国人蔑視と受け取られかねない発言も多々見られる。抗議運動も先鋭化し、暴力的になるにつれ一般市民からの非難も集まっている。今回の逃亡条例改正の一連の抗議でも、出勤時間帯の電車に乗り込み、わざとドアに挟まれたりして遅延させるなどの幼稚ともいえる妨害運動も見られている。 前述の周庭氏は、その本土派の中では比較的穏健とも言えるグループ「香港衆志(デモシスト)」の幹部であり、香港では議員へ立候補を図ったものの、立候補資格を認められなかった。香港衆志自体は、香港独立の主張はせずにあくまでも現行の一国二制度の中で民主的な自治を獲得するという立場だが、それでも香港行政府への批判の矛先は鋭い。そしてそれを通じて、あからさまではないが中国共産党への批判もときおり噴出する。 その周庭氏のツイッターのアカウントには、現在鼻血を流して横たわるデモ参加者の動画がトップに掲載されている。個人的には残念ながらこれは趣味が悪いと思わざるをえなかった。もちろん無抵抗な市民がこのように警察に「銃で撃たれた」ということをアピールするためなのだろうが。負傷者が出たデモの翌々日6月14日付の蘋果日報紙の一面。見出しは「これが『低殺傷能力の武器?』警察トップは恥を知れ」(筆者撮影) 蘋果日報が香港でも際立って反体制的な論調で知られるのは先ほど書いたが、このメディアは一部で本土派などに資金提供をしていると囁(ささや)かれてもいる。この新聞の事件が明けた翌々日の14日のトップページは周庭氏のツイッターページと同じく、負傷した市民の傷口や流血した写真がこれでもかと掲載されている。蘋果日報は数日前まで立法会に詰め寄せた抗議者が警察官を袋だたきにして警察官が負傷する動画を、同社のウェブサイトに掲載していたはずである。ところが、これが抗議者側に負傷者が出るとして消去している。 香港では、容疑者の身柄を中国本土にも引き渡せるようにする条例の改正に反対して、数万人の若者が抗議活動を続けています。このうちの一部が12日午後、議会にあたる立法会の敷地内になだれ込んで警官隊と衝突し、けが人が出ています。https://t.co/OTQiXmzhEE#nhk_news #nhk_video pic.twitter.com/FyhLlCMmrf— NHKニュース (@nhk_news) 2019年6月12日  もしアメリカであれば,警察は必ず発砲しますよ。 pic.twitter.com/TJUNLdaTPy— 靖次 (@AriksWong) 2019年6月12日 香港本土派の最右翼 もちろん警察もその後にやりすぎたのは間違いない。ゴム弾を水平射撃するのはいくらなんでもやりすぎだろう。香港警察が言うように「低殺傷能力の武器」だったとしても、当たりどころが悪ければ死に至ることもある。だが、そもそもこの暴力行為のきっかけをつくったのは、デモ参加者の方であるのはすでに書いた通りである。 レンガや石に殺傷能力があるのは言わずもがなだろう。傘の切っ先を雨あられのように警察に投げつけるのも同様である。ほとんどリンチまがいに警察官を袋だたきにするのも全くいただけない。なお、参考までに付け加えておくと、ガス弾やゴム弾は暴徒鎮圧用に欧米のみならず世界中の警察で使われているもので、筆者がなじみがあるのはフーリガン対策用にイギリスをはじめとする世界の警察が日常的に使用している光景である。もちろん日本の警察も学生運動が華やかだった過去に催涙弾を散々使ってきている。筆者は総じて香港警察に同情的ですらある。 警察によるガス弾やゴム弾の使用の原因には、今回の匿名で集まった急進的な学生側のやりすぎがあるのは明白である。最初から平和的な抗議運動ならあのようにはならなかっただろう。これは、穏健な民主勢力の主催者による9日の100万人デモと16日の200万人デモが平和的に行われたことが証左である。このやりすぎがエスカレートするとより高い暴力装置を警察は動員する。それは果たしてクレーバーなものなのだろうか。そして民意はついてくるのだろうか。 香港本土派の最右翼といえるグループの一つが「本土民主前線」であるが、このグループは雨傘デモに続く2016年の「旺角争乱」でブラックブロック的な闘争を繰り返してきた。彼らの主張は「弾圧に対抗するにはあらゆる手段が必要」「極悪な政府と戦うには、(非暴力という)限界をもうけてはいけない」というものである。もちろん、今回の負傷者が出たデモで、このような参加者が全てであったとは言わないが、最前線でこれらの右派やそれに影響を受けているものが活動していただろうことは、容易に想像がつくだろう。 もちろん、権威的な体制に抵抗するものが全て非暴力で、遵法的でなければならないなどというナイーブなことを言っているわけではない。ただ、ほとんどプロパガンダと言えるような情報に見事に乗せられてしまっている日本の人たちを見ると、もう少し慎重であれと思うのである。そして、大義名分があればメディアはいともたやすくウソをつくということが、中国のような全体主義国家でなくとも、自然に行われているということを改めて確認したということである。 これをさらに違う角度から考えれば、香港の本土派がよりしたたかになってきているとも言える。周庭氏もそういう意図で日本に残っているのだろう。香港の苦闘には外部の力を借りるしかない。ボスニア紛争の際に、ボスニア・ヘルツェゴビナが広告代理店を使ってメディア対策を行い、セルビアを悪者として国際世論にアピールするために「民族浄化」や「強制収容所」というわかりやすい言葉でセルビアの悪行をフレームアップしていったように、小さなものが戦うには、このようなしたたかさが必要であることは理解できる。弱者の生き残りをかけた戦いということだ。 そしてさらに情勢は変化する。デモの翌日に香港警察は「暴動の鎮圧のためには武器使用は仕方なかった」という見解を翻した。実は暴れていたのは数人にすぎないということだ。筆者は唖然(あぜん)とした。狐(きつね)につままれるとはこのことだ。筆者の見てきたものはなんだったのか。SFの世界のように、筆者の記憶は誰かに埋め込まれたものなのか。そんなバカげたことも頭に浮かぶ。 しかし、そのカラクリだけは容易に理解できる。香港行政府も反体制派やデモ参加者、そしてさらには中国共産党も、これが「暴動」ではなかったとするのが良いと三者三様に考えたということだろう。 反体制派は暴動とされることにより、逮捕者が増えたり重罪化することを恐れた。一方、中国共産党はこれが大きな出来事になれば今月末に迫っているG20で欧米諸国から非難を浴びる可能性を恐れ事態の収拾をはかった。香港行政府はこれ以上の混乱を続くことを望まなかったから、中国共産党がそのような考えであれば、学生側の「暴動」認定の取り下げ要求をのもうとしている。そして、さらに言うならば、メディアは美しく感動的な若者の政治闘争を善悪二元論で伝えたかった。こんなところだろう。中国共産党の虎の尾を踏まないか 天安門事件では、学生の天安門前の占拠運動を「動乱」と表現するところがターニングポイントとなり、この言葉を使った保守派に批判された改革派の趙紫陽(ちょう・しよう)総書記が失脚し、学生たちへの暴力的な排除で死者が出る未曽有の事態となっていった。今回は逆のパターンである。「暴動」という表現を取り下げて、その事実をなかったことにすることで事態を収拾しようとしているわけである。 こうして香港の若者が体制の横暴に立ち上がったという美しい物語に彩られてそれでよしとしていいのか筆者はわからないままだ。だが、それでも懸念はある。一時期は旺角争乱から世論の支持を失いつつあった本土派の極右の若者がこれを成功体験として、より一層ブラックブロック化して、中国共産党の虎の尾を踏まないかということだ。 また、その本土派の民族主義的な独立志向や急進的な自治の主張に対しても、どこまで支持していいのかわからない。本土派最右翼の香港民族党や香港独立党の若者は、その名の通り、香港人が一つの民族であると主張して、民族自決を求めている。だが、この主張は一筋縄で行かないだろう。さらに彼らは、対中国という共通点で日本との連携の可能性を模索しているに違いない。これに日本人としてどう判断していいのか、判断は非常に難しい。もちろん、日本政府はこれを中国との関係から危険なものとみなすだろう。 かつて、植民地からの解放や民族自決を志した、フィリピンやベトナムなどのアジアの運動家は日本に頼った時代があった。だが、イギリスやアメリカとの摩擦を恐れて、当時の日本政府はこれを黙殺した。 「日本はアジアの解放に貢献した」とアジアの民族独立運動にコミットしはじめたのは、戦争直前でドイツの進撃でイギリスが風前のともしびとなった1940年ぐらいからである。それまでは日本はアジアの独立運動には興味を全く示さなかった。中国もそうである。清朝からの民族独立運動の志士ともいえる若者は日本留学生がその中核となっている。 思想家の北一輝は、辛亥革命のさなかの上海で中国国民党の活動家が皆揃って日本の詰め襟の学生服を着ていたことを記している。周恩来はお茶の水(おちゃのみず)で学生生活を送り、中国共産党の初代総書記の陳独秀は新宿の成城高校出身だ。 蒋介石は牛込(うしごめ)の学生から日本陸軍に入隊している。孫文は言うまでもないだろう。のちの中華民国の国旗となる青天白日満地紅旗のデザインは、孫文が日本の横浜に亡命していた時に中華街で決められたものだ。孫文はそうしてアジアの団結を日本に呼び掛けていた。これらの若者を、すべて日本は後に敵に回してしまうことになる。 時代は変わった。香港から日本に訪れる観光客は年間約200万人。これは人口の4分の1が日本に毎年来ているということである。日本のアニメに子供の頃から親しみ、過去の日本への記憶がなく、それよりも現在の日本の文化にシンパシーを抱いている香港の若者からなる本土派を、かつての日本留学生の二の舞にしていいのか。そういう思いはどうしても捨てきれない。それが危うさと表裏一体のものだとしても。一国二制度の期限となっている2047年まで、彼らの綱渡りは続いていくだろう。傘などが散乱した路上=2019年6月12日、香港(筆者撮影)  油麻地の料理屋でそんなことを考えながら、一人でビールを呑み、すっかり酔っぱらってしまった。 行き交う大陸からの中国人観光客の波は途切れない。複雑すぎる香港の事情と若者たちのしたたかな戦いを思いながら、ふと気づく。香港の自由を求める人たちが本当に連帯しなければならないのは、日本でもイギリスでもアメリカでもなく、目の前にこれだけ押し寄せている彼らなのではないか。しかし、それはきっと難しいことなのだろう。街角の喧騒の向こうには、中国人観光客向けの宝石店のギラギラとした照明が、鈍くまぶしく黄金色に点滅していた。■ 石平が警告、玉城デニー「中国一帯一路に沖縄活用」提案の危険度■ 習近平はなぜ金正恩に6年間の「借り」を返す気になったのか■ ファーウェイ敵視にも動じない中国「祖流我放」の冷めた感覚

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    香港に与えた「一国二制度」英国の意趣返しを中国は決して許さない

    富坂聰(ジャーナリスト、拓殖大学海外事情研究所教授) 香港では、中国本土への容疑者引き渡しを可能にする「逃亡犯条例」改正に反対する市民の怒りが爆発した。 6月16日に行われたデモでは、主催者発表でとうとう200万人を突破したという。本当なら香港市民4人に1人が参加した計算だ。香港政府側も、条例改正の審議を無期限に延期せざるを得ない事態に追いやられ、トップの林鄭月娥(りんてい・げつが)行政長官も謝罪に追い込まれた。 これをもって民意の勝利とする声も聞こえてくる。しかし、その判断は時期尚早と言わざるを得ない。 なぜなら、香港の人々の不満は、単に逃亡犯条例にのみ向けられたものではなかったからだ。実は、この問題は、どこに着地しても双方にわだかまりの残る構造を抱えていたのである。 では、その根本の構造とは何なのか。逃亡犯条例問題の背後にある「一国二制度」という制度の不安定さについて、できるだけ多くの視点から掘り下げてみたい。日本記者クラブで会見する香港学生団体の元リーダー、周庭さん=2019年6月10日 そもそも「一国二制度」とは、中国共産党が対台湾政策の中で生み出した政策である。鄧小平が実権を握った1979年、従来の武力解放から平和統一への政策転換が行われる過程で生まれた考え方だ。 ゆえに、中国から見たとき、それはあくまでも中国自身の「軟化」の結果であり、「与えた」制度なのである。一方、香港の人々にとって同制度は、自らが獲得した「不可侵」な権利として認識されていて、彼我の認識は出発点からズレている。 かつて鄧小平は、英国と香港返還交渉に臨んだ際、返還の条件を提示しようとしたサッチャー首相を制し「われわれは明日にでも力で取ることもできる」とすごんだことがあったが、これは中国の本音である。国家間の攻防が住民を置き去りにするのは国際政治の「あるある」だが、このときの英国と中国の交渉も香港の人々の意思とは無関係に進められた。枯れた「金のなる木」 誤解を恐れずに書けば、英国は香港返還後も大きな権益を確保したかったがかなわず、ちょっとした意趣返しのように選挙という制度を「置き土産」としたのである。自らの統治下で香港人に投票権など与えたことのなかった英国に、中国は「偽善」と反発。彼らの残した選挙制度を中国への挑発ととらえ、返還後の攻撃目標と定めたのである。 一方の中国は、台湾の人々に統一後の平穏を演出する具体的なモデルケースとして、また中国経済をけん引する役割を期待して、香港の現状維持、すなわち「一国二制度」に利用価値を認めたのだった。1997年の返還を経て、香港の人々には生活する上での大きな支障はなく、「一国二制度」をはさんだ大陸と香港の関係に荒波が立つことはなかった。 だが、変化は確実に起きていた。 一つは、中国から見た香港の地位低下である。露骨な表現をすれば、香港はもはや「金のなる木」ではなくなったということだ。 鄧小平が始めた改革・開放政策の初期、ほとんどの日本企業は香港を拠点に対中ビジネスを展開していた。それが、今や直接大陸と取引しているし、金融センターとしての地位も上海などに奪われる運命が見えてきている。 長い将来を見据えれば、金のなる木どころか、「重たい一地方」になる可能性が出てきているのだ。そのことを意識し始めた香港人が、実は意外に少なくない。 こうした変化に伴って、香港の人々の生活が大陸からのマネーで圧迫されるようになったのである。象徴的なのが不動産である。記者会見する中国外務省の耿爽副報道局長=2019年6月14日(共同) チャイナ・マネーが値を釣り上げたことで、香港の人が手の届くマンションが郊外へと追いやられたのである。このほか、教育現場でも有名な学校から地元の子供たちが押し出されてしまう現象も起きてしまった。 不満を高める一方で、香港経済は大陸からの観光客への依存を強めるという矛盾も、香港の人々のストレスとなった。問題は、大陸からの観光客が金満ぶりを発揮する一方で、お行儀が悪いことにある。ほどなく彼らは軽蔑の対象となり、両者にギスギスした雰囲気が生まれた。「雨傘」から何が変わった? こうして、香港で歓迎されていないことを察した大陸の観光客は潮が引くように香港から離れた。そして、いよいよ香港の大陸への不満は高まっていった。 2014年に民主的な行政長官選の実現を目指したものの失敗に終わった「雨傘運動」では、大陸の観光客を大口としたビジネス界の人々が民主化運動の「抵抗勢力」となった。だが、今回は目立った動きがなかったのは、そうした変化のためなのだろう。 さらに今回の政治運動では、質的変化がもう一つ起きた。雨傘運動の半年前、中国との「サービス貿易協定」の承認に反対した台湾の学生らが立法院(国会に相当)の議場を約3週間占拠した「ヒマワリ学生運動」(太陽花学運)との連携が見られたことだ。この雨傘運動の後で、香港独立を意味する「港独」の言葉が、香港の立法会(議会)などでも飛び交うようになったのも特徴だ。 前述したように、「一国二制度」は中国共産党にとって、ある種の軟化の産物であり、「与えている」という意識が伴う政策である。ゆえに、中国が「一国二制度」を維持するためには越えてはならない一線がある。「港独」は完全に「レッドライン」を越える行為だ。 その意味で、今回の逃亡犯条例に反対する政治運動は、どこまでを目標とするかが、極めて重要な視点となる。 そもそも、飲み水と電力を丸ごと大陸に依存する香港が「独立」を口にすること自体が現実的ではない。それでも、もし安易に一線を踏み越えれば、逆に中国が大きな力を使い、一気に「大陸化」を進める事態になることも予測される。2019年6月12日、香港立法会周辺でデモ隊(手前)と衝突する警官隊(共同) それは単に警察の力を使うという意味ではない。観光客の大幅制限に始まり、輸出入管理のちょっとした厳格化や送金制度の見直しなど、両者の強い結びつきを前提とした見えにくいやり方で香港を干上がらせる方法はいくらでもある。 だからこそ、漠然とした「中国化」にノーを突きつければいいというものではない。言論の自由を取り決めとしていかに担保するかなど、具体的な何かを獲得してゆくことが大切なのだろう。■ 石平が警告、玉城デニー「中国一帯一路に沖縄活用」提案の危険度■ 習近平はなぜ金正恩に6年間の「借り」を返す気になったのか■ ファーウェイ敵視にも動じない中国「祖流我放」の冷めた感覚

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    「辞めるに辞められない」香港行政長官を悩ます習近平の叱責

    プルなワンイシューに絞り、潜在的な市民の不安に訴えたことである。「普通選挙がなくとも香港は香港だが、中国へ連れて行かれるようになったらもう香港ではない」というのが香港人の本音なのである。 一方の政府側は、親中派議員が多数を占める立法会(議会)の構成から、数で押し通すことも可能であり、躊躇(ちゅうちょ)なく強行突破の道を選んだが、これが裏目に出た。この結果をどう考えるべきだろうか。  そもそも今回の逃亡犯条例改正(中立的には「修正」と表現すべき)には中国政府の強い意向がある。容疑者の引き渡しに関する現行の条例は返還前の1992年に制定されたもので、対象は英米など20カ国に限定されていた。これは当時の香港政庁(英国)が天安門事件後の中国の法治、人権状況などを考慮して意図的に中国本土を除外し、返還後の香港に遺(のこ)した一種の「安全装置」だった。 香港政府は「現行条例の不備を補うための改正案」と説明しているが、これまでの経緯を考えれば苦しい主張である。中国政府からすれば、植民地政府が定めた「不平等条約」の改正なのである。催涙弾の白煙が上がる中、立法会周辺の道路でデモ隊(奥)と対峙する警官隊=6月12日、香港(共同) こうした中、高級官僚出身の「能吏」である林鄭行政長官はこの厄介な課題にも懸命に応じようとする。中国への忠誠を誓って2017年7月に就任した林鄭行政長官は、事前の「中国の言いなり」「期待できない」という低評価に反して当初の評判はそれほど悪くなかった。 それは中国政府が要求する国家安全条例(政権転覆等を取り締まる法律)の制定を急がず、雨傘運動で生じた社会の亀裂、分断の修復を優先し、まずは住宅問題など民生改善に注力しようとする姿勢を示したからである。  しかし、就任後、雨傘運動に参加した活動家の処罰、本土派立法会議員の議員資格剝奪、周庭(しゅう・てい)氏など批判的勢力の補選立候補資格の無効措置、独立を主張する政治団体「香港民族党」の活動禁止、英紙編集者の査証(ビザ)更新拒否、中国職員による高速鉄道香港西九竜駅での出入境審査を認める「一地両検」実施、中国国歌法に呼応した法案制定に向けた審議など中国の求める要求に一つ一つ確実に応えていった。 だが、優先して取り組もうとした民生問題に特効薬はなく、亀裂は残されたまま閉塞(へいそく)感だけが強まっていった。今回のデモは中国の言いなりになる香港政府への抗議であり、このような林鄭行政長官の退任要求に発展するのは自然なことである。林鄭長官の「伏線」 林鄭行政長官が今回も中国の指示に忠実に従おうとしたことには一つの伏線がある。昨年11月に林鄭行政長官を代表とする香港マカオ各界代表団が北京を訪問した際、習近平主席が「急不得、慢不得」「明日復明日、明日何其多」と述べたという。「何事もすぐにはできないが、その気にならなければいつまでたってもできはしない」という意味らしいが、同席した団員は「23条立法」が進まないことへの叱責(しっせき)だとピンときた。 23条立法とは、返還後に香港政府が制定するよう基本法(香港の憲法に相当)23条に定められた、政権転覆や国家分裂の反体制行為を禁じる「国家安全条例」のことである。2003年に当時の董建華(とう・けんか)行政長官がやはり強引に成立を図ろうとしたが、50万人デモに遭い、撤回を迫られ廃案となった。これで「死に体」となった董長官は体面を保つ形で05年、体調悪化を理由に辞任した。 これ以来、23条立法はどの長官も手が付けられず、林鄭行政長官も前述のように社会の亀裂修復を優先させ世論を二分する条例制定は後回しにしていたが、締め付けを強める習主席は2015年7月、国内で国家安全法を成立させ、香港にも同条例の制定を強く迫っていた。主席の不興を買った林鄭行政長官の心中は想像に余りある。こうした状況の中で課された逃亡犯条例の処理は速やかに終えなければならないのである。 今回の逃亡犯条例「改正」の直接のきっかけとなった台湾での殺人事件については、容疑者の身柄引き渡しを求める被害者遺族の声や、このままでは香港が犯罪者の逃亡先となって治安悪化を引き起こすという大義名分があり、中国政府も強行して大きな問題はないと甘く見ていた節がある。多少は紛糾しても最後は数で押し切れると思ったのだろう。 5月21日には香港を担当する中国の韓正副首相(政治局常務委員序列7位)が、北京を訪問した香港からの代表団にわざわざ同条例改正を支持すると明言、共産党の香港出先機関(中聯弁)は現地財界や親中派議員に踏み絵を踏ませ、引き締めに躍起となる。 しかし、経済界はそもそも香港の閉塞感を強めるような同条例には乗り気ではなく、親中派議員も今年秋には区議会議員選挙、来年秋は立法会議員選挙を控え、これだけ市民の反対の強い案件で目立ちたくはない(2003年秋の区議会選では、国家安全条例に賛成した親中派が歴史的大敗を喫した)。表面上は支持せざるをえないが、心の中では政府が撤回してくれないかと期待しているのである。体を張って長官を守るべき側近はその答弁能力を見ても何とも頼りない。香港の政府本部庁舎で記者会見を終え、退出する林鄭月娥行政長官=6月18日(共同) こうした戦意の乏しい兵を率いながら林鄭行政長官は9日のデモ後も強気な発言に終始した。月末の20カ国・地域首脳会合(G20)前に決着をつけておくことが必要とされたのだろう。予定通りに審議強行を表明していたが、行政会議(行政長官の諮問機関)トップや政府OBが再考を進言するなど情勢判断の誤りが誰の目から見ても明らかになった。 任期を3年残して完全に求心力を失った長官に対し、勢いづく批判勢力はその首に狙いを定める。しかし、中国も行政長官の執政能力に疑いを抱きながらもここでやすやすと首を差し出すわけにはいかない。国家安全条例を成立させるまでは退くことも許されないのである。■習近平はなぜ金正恩に6年間の「借り」を返す気になったのか■習近平独裁に痛撃、中国経済「大失速」が意味するもの■習近平「終身独裁」で中国の自滅は確実になった

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    火炎瓶投げ込まれた香港デモ 警察はマフィアの関与示唆

    囲気で行われていたが、このところデモ隊側が暴力的になっているとの指摘もある。2014年の雨傘運動では中国側が香港マフィアを雇って、わざと暴力事件を起こすように仕向けるなど、民主派勢力のイメージを悪化させる戦術も使われていた。米国政府関連の報道機関「ラジオ・フリー・アジア(RFA)」が報じた。 香港では6月4日の天安門事件30周年の犠牲者追悼キャンドル集会には15万人が参加。その後の9日の改正案反対デモには100万人以上の市民が集まった。デモ参加者が100万人以上になるのは、1997年の香港返還反対デモ以来、初めて。 このデモのさなかの9日午後3時ごろ、香港中心部のパオマティ警察署に、午後4時にはワンチャイ地区の香港警察本部にも火炎瓶が投げ込まれた。消火活動が早く、被害は軽微だった。 さらに、デモ終了後の10日未明、民主派グループの一部が立法会周辺に集結し、幹線道路を封鎖しようとして警官隊と衝突した。前出の通り、警察は数百人の身柄を拘束し、そのうち19人を逮捕した。他のメンバーは釈放されたが、衝突現場周辺で火炎瓶や刃物など数十点が押収された。 香港警察本部は11日、緊急記者会見を開いて、「このような物騒なものが押収されるのは初めてだ。これでは平和的なデモや集会でない。マフィア組織が関与しているとしか思えない。我々はマフィア専門の特殊部隊の出動も辞さない」と指摘した。不安定な状態は続く 香港情勢に詳しいジャーナリストの相馬勝氏は「平和的なデモのさなかに、警察署や警察本部に火炎瓶が投げ込まれるというのは、これまで聞いたことがない。長刀などの刃物の押収は2014年9月から12月までの雨傘運動で、民主派が占拠していた香港の下町、九龍地区のモンコックで見つかったことがある。モンコックは香港マフィアのアジトがあり、当時、中国政府がマフィアを雇って、騒動を煽動していたのではないかとうわさが流れたこともあるが、真相はいまだに藪の中だ」と指摘している。関連記事■韓国で女児の胸が大きくなる「性早熟症」、囁かれる原因■中国富豪男の夢「蒼井そらを1晩300万円でセッティングしろ」■中国人が接待で「女体盛り」を要求、要した費用は32万円■もし日韓戦わば… 軍事力の差は歴然だった■中国でケシの殻使った料理店が野放し、客は陽性反応&常連化

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    香港「雨傘運動の女神」が語る「200万人デモ、そして未来」

     6月12日、刑事事件の容疑者を中国本土に引き渡すことを可能にする「逃亡犯条例」に反対する市民が、立法会(議会)を取り囲んで幹線道路を占拠した。警察当局は市民に対し、催涙弾や鎮圧用の「ビーンバック弾」を使用し、香港政府によると72人の負傷者が出た。5年前の「雨傘運動」の際に「民主の女神」として有名になった香港バプテスト大学4年生の周庭(アグネス・チョウ)さん(22)に、大規模デモについて聞いた。「故郷のことを思うと、私も早く香港に戻って運動に加わりたい」──香港の市街地が再び“雨傘”で埋め尽くされた日、本誌・週刊ポストの取材に、周さんはそう口にした。 周さんは、2014年の「雨傘運動」を主導した1人。マイクを握って演説する愛らしいルックスの17歳は、「雨傘運動のアイドル」、「民主の女神」として一躍世界的に有名になった。今回、広報活動のために緊急来日した彼女が率直な思いを語った。──今日(取材当日の12日)も、香港では立法会(議会)を取り囲む大規模なデモが行われています。「普段は土日にデモを開催します。今日は平日なのに、日中から人が集まり続けているというのは驚くべきことです。 実は、今日は1000以上のお店が反対運動を応援するために休業しています。企業のストライキもありました。香港の人は日本人と似ていて仕事が大好きな人が多いので、ストライキはめったにないんです。しかも、労働者の権利を求めるためのストライキではなく、政治的なストライキというのは珍しい。 だから、今日の香港を自分の目で見たいんです。“香港にとって歴史的な日なのに、私は日本にいる”ということが、本当にもどかしいです」日本のアニメやアイドル好きの顔を持つ周さん──今回の改正案の危険性は、どんな点にあるのでしょうか?「可決されたら、中国共産党に批判的な香港人が中国に引き渡されるかもしれません。中国は公平透明なシステムもないし人権も命の保証もないので、みんなはそれを心配しています。中国では民主化を求める弁護士や運動家が、ある日突然、重い身体障害が一生残る状態になったり、亡くなってしまうことが少なからずありますから。 香港に来た外国人の安全にも大きく影響します。もともと香港は多くの海外企業が拠点を置く国際金融都市ということもあり、自由も人権の保障も公平な法律制度もありました。だけど、今後はそれが脅かされることになります。 日本人が当たり前に持っている権利を、私たちはどんどん失っていくことが悲しいですし、可決されたら香港はもう香港じゃなくなってしまう……」残るのは「絶望感」だけ残るのは「絶望感」だけ──5年前、あなたは「雨傘運動」のシンボル的な存在になった。「雨傘運動は、香港に今までなかった『普通選挙』という“新しいもの”を求める運動でした。デモ参加者の間でも“普通選挙って一体どういうものなのかわからない”という状態だったので、考え方には、それぞれ少しずつ違いがあったようにも思います」──79日間に及ぶデモは、具体的な成果を残せなかった。「でも今回は、何か新しいものを求めるわけではなく、“すでに存在している自由”が奪われようとしていることに対して立ち上がった。逃亡犯条例案を撤回させ、反対するという目標がはっきりしている。みんなが同じ目標を見ている分、熱気も団結力も違います」──もし改正案が可決されたら、その後には何が残りますか。「……絶望感です。もう誰もデモに参加しないという空気になるかもしれません。参加するだけで、中国に引き渡されるかもしれないわけですから」──周さんは2014年の雨傘運動の際に逮捕された経験がありますが、改正後に再び逮捕されるようなことがあったら?「収監されるだけならまだしも、中国に引き渡されたら……想像できないです。生きて出られるかすらも、わかりません。怖いですね」 香港政府は15日、逃亡犯条例の改正審議の「延期」を発表した。しかし、条例の「完全撤回」を求めて、16日には香港返還以来最大となる200万人近い市民が集まった。周さんは、激化する運動の先の未来を案じていた。関連記事■火炎瓶投げ込まれた香港デモ 警察はマフィアの関与示唆■香港と台湾 学生たちが戦っている真の相手は中国の権力者達■中国富豪男の夢「蒼井そらを1晩300万円でセッティングしろ」■中国でケシの殻使った料理店が野放し、客は陽性反応&常連化■中国人が接待で「女体盛り」を要求、要した費用は32万円

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    習近平はなぜ金正恩に6年間の「借り」を返す気になったのか

    美根慶樹(元日朝国交正常化交渉日本政府代表) 中国の習近平国家主席が6月20日から2日間、北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長の招きに応じて、同国を公式訪問することが発表された。習氏は13、14日の両日、キルギスの首都ビシケクで開催された、中国とロシア、インド、パキスタンと中央アジア4カ国で構成する上海協力機構(SCO)の首脳会議に出席した。 その際にインドのモディ首相や、オブザーバーであるイランのロウハニ大統領などと個別に会談したばかりである。また、習氏は28日から大阪で開催される20カ国・地域(G20)首脳会議(サミット)に出席する。 なぜ、習氏はこの多忙な時期に訪朝することになったのか。大胆に言えば、習氏の訪朝は、金氏に対する二つの「借り」を返すためである。 習氏は2012年11月に中国共産党の総書記に、13年3月には中国の国家主席に就任した。以来6年余りの時間が経過しているが、一度も北朝鮮に行っていなかった。 中国と北朝鮮は、1950年6月に始まった朝鮮戦争でともに戦ってから、「血で固められた同盟」だと言われるほど緊密な関係であった。そうであれば、習氏は就任後真っ先に訪朝してもよさそうだが、実際にはそうしなかった。 それどころか2014年7月、習氏はこともあろうに韓国を訪問した。朝鮮戦争の「戦友」であった北朝鮮よりも、敵方であった韓国を先に訪れたのである。これが習氏の一つ目の「借り」である。 二つ目の「借り」は、18年から続く東アジアの情勢変化から生まれた。特に、金氏と米国のトランプ大統領の首脳会談に象徴される米朝関係の変化に伴い、金氏が既に4回も中国を訪問したにもかかわらず、習氏は一度も訪朝していなかったことである。2018年5月、中国の習近平国家主席(右)と海岸を散歩しながら話し合う北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長=遼寧省大連(朝鮮通信=共同) 金氏は、トランプ氏との首脳会談と非核化交渉を控え、中国との関係を改善しようと考えた。こうして、対米交渉に経験の深い習氏からアドバイスを受け、支援も受けるために訪中を4回重ねたわけである。 最初は、米朝首脳会談の開催が煮詰まりつつあった同年3月、電撃的に訪中した。その後も5月、シンガポールの初会談後の6月と立て続けに訪中した。さらに、今年に入ってからも、ベトナム・ハノイでの2回目の首脳会談を見越してであろう、1月に訪中した。迫る「タイムリミット」 一方、習氏は中国を訪れた金氏を毎回大歓迎しながらも、自身が訪朝することはしなかった。このことについて、中朝の力関係を考えれば不思議ではないという見方もあるようだが、私はそう思わない。4回も一方が訪問しながら、他方が一度も訪問しないことは、主権国家間の関係において通常ありえないからだ。 習氏訪朝のタイミングについて、北朝鮮側ではやはり米国との関係が大きな要因だと思われる。2月の米朝会談が物別れに終わり、金氏は、米国との交渉は「段階的非核化」を基本方針とすることを党(労働党)と国家(最高人民会議)の最重要会議を開いて再確認したが、その後も米国との交渉は停滞したままである。 しかし、北朝鮮は米国に対して、今年末を非核化交渉の期限としており、あと半年しか残っていない。金氏がこの時点で習氏を迎えたいと希望したのは、対米交渉について再度協議すること、つまり5回目の協議が主要な目的の一つであったと思われる。 一方、習氏は「米中貿易戦争」の渦中で、トランプ氏から強い圧力を受けており、状況いかんでは決定的な対立に発展する危険もある。来るG20で行われることが決まった首脳会談が、この難問の帰趨を左右する重要な機会となる。 中国にとって、北朝鮮は米国との貿易問題で直接役立つわけではない。それでも、米国を悩ませている北朝鮮を味方につけておくことは何かと役に立つ。米朝首脳会談に臨む(左から)米国のボルトン大統領補佐官、ポンペオ国務長官、トランプ大統領と北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長(右端)=2019年2月28日、ハノイ(朝鮮中央通信=共同) 要するに、対米交渉の「カード」の一枚として使えると判断したのであろう。だからこそ、忙しい日程の中にありながら、あえてG20前に訪朝することにしたのであろう。 それに、習氏はG20において、香港で起きた「逃亡犯条例」改正案に抗議するデモ隊と警官隊の大規模な衝突に関し、各国から批判的に見られる恐れがある。事実、ポンペオ米国務長官が首脳会議の場で、この問題を習氏に問題提起すると明らかにしたばかりだ。そのため、あらゆる方法で防御を固めているものとみられる。訪朝で何を話し合う? 北朝鮮では、習氏と金氏が対米関係に加え、中朝関係をさらに進めていくことを確認し合うと見られる。中朝両国の関係は、冷戦の終了後、複雑な経緯があっただけに、二国間で話し合うべきことは少なくない。 北朝鮮の経済発展のために中国はどのような協力をできるかがその一つである。金氏は北朝鮮の経済を発展させようと国内各地で叱咤激励しており、訪中するたびに中国の経済改革関連施設を見学している。 中国共産党と朝鮮労働党の関係強化も重要な課題である。今回の習氏の訪朝発表は、中国側では共産党中央対外連絡部が行った。 日本にとって、習氏の北朝鮮訪問は第三国間の問題ではあるが、決して関係がないわけではない。冷戦終結とともに、朝鮮半島問題における南北両陣営の関係が複雑になったが、北朝鮮は中国、ロシア両国との関係を改善し、北側の陣営は再度強化されつつある。北側陣営の再強化は、すなわち冷戦状態に戻る危険性を秘めており、日本にとっても大きな問題である。 中国とロシアは西側諸国に対抗する勢力の「核」になっている。冒頭で述べたSCOはその表れである。2018年9月の東方経済フォーラムで握手する安倍首相(左)と中国の習近平国家主席 これら諸国は概して西側諸国と価値を共有せず、国連でも保守的なスタンスで動くことが多い。北側陣営強化の背景にはこのような事情もある。 一方、北朝鮮と米国は「恒久的平和」の確立と「新しい米朝関係」の樹立を目指すことに昨年行われたシンガポールの首脳会談で合意した。これが進めば、南北対立はさらに緩和される可能性もある。 米朝関係の進展により、南北両陣営の対立が緩和されるか。それとも、中朝関係の緊密化によって、南北対立が激化するか。現在の朝鮮半島においては、二つの可能性が併存していると見るべきであろう。■ 金正恩最愛の妹、将軍様の料理人も狙われた平壌「暗闘の季節」■ 習近平独裁に痛撃、中国経済「大失速」が意味するもの■ ファーウェイ敵視にも動じない中国「祖流我放」の冷めた感覚

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    米中貿易戦争「日本が得する」逆転シナリオが一つだけある

    熊野英生(第一生命経済研究所首席エコノミスト) トランプ米大統領が用意している中国への制裁関税第4弾が、日本経済を本格的不況に陥れるのではないかと恐れられている。これまでの制裁で、意識的に除外されてきたiPhoneや日用品に関税率が上乗せされることは、米国の消費者と中国の生産者、そして中国企業に部品や設備を供給している日本企業がダメージを受ける。 この対立を巡って、「トランプ大統領が理不尽だ」という側面をクローズアップすると、日本には何のメリットもないように感じられる。筆者も、自由貿易の考え方に基づいて、トランプ大統領のことは何一つ支持したくない。 しかし、今回、改めて米中対立の構図を吟味して、米中貿易戦争は日本企業にも何かメリットがあるのではないかという別の視点を考えてみた。その結果、日本にとってメリットのある展開は、中国にも中長期的なメリットがあると考え方を進めた。 すなわち、日本企業が長く悩まされてきたのが、数多くの中国の構造問題である。それは、欧米企業でも共通している。最も代表的なのは、巨大な産業補助金の問題である。日本では、経営が悪化した一部の電機メーカーは、経営の失敗と指弾され、メディアからバッシングされる。その一方で、背後に隠れた中国企業の補助金問題はほとんど語られることがない。補助金で支えられた企業と競争すると、日本企業は価格競争でも勝つことができないのだ。 これまで、中国の成長に期待して進出した多くの日本企業もまた苦労してきた。現地で合弁企業をつくると、そこでは思うように活動ができなかった。行政上の手続きはやや恣意(しい)的であり、海外製品が不利に扱われることもあった。G20首脳会合に合わせ、中国の習近平国家主席(左端)との会談に臨むトランプ米大統領(右端)=2018年12月1日、アルゼンチン・ブエノスアイレス(AP=共同) 最近は人件費の高騰によって、低コストのメリットも失われてきている。当初の期待が思うようにならなくなってきているのが実情である。従業員の離職率の高さや、労務管理の難しさもある。さらに、現地で人民元で稼いだ利益を外貨に戻して持ち出すことが制限されたり、債権回収が困難であるということもある。これらの課題は、日本とは違う国だから仕方がないという一言で片付けるわけにはいかないだろう。 今回、トランプ大統領は、特に技術移転の強要と、知的財産権の保護を求めている。米中協議の中で、これら中国特有の不公正なルールの是正が持ち出されていることは、日本企業がこれまで求めてきた問題の是正とも共通している。実は、中国でもこれらの構造問題が是正されることを望んでいる良識派は少なくない。例えば、中国でも知財に絡んだ訴訟は多く、今や中国は米国以上の訴訟大国とされる。こうした課題の解決は、中国企業にとってもメリットになるはずだ。習近平の「新しい秩序」 貿易戦争の緊張感が高まっていく中で、根拠のない楽観論があることも事実である。トランプ大統領は、強烈な圧力を中国にかけているが、楽観論者はそれは自作自演のアピールであり、それほど困った状態にはなるはずがないという。水面下で米国と中国は握っていて、時間がたつと、どこかで昔よりも良好な関係に戻るというのだ。 筆者はそうならないだろうし、それが望ましいことだとも思わない。対立がなくなる→経済の火種はなくなる→万事まるく収まる、という発想は正しくはない。中国ビジネスの抱える矛盾をそのまま看過することになるからだ。 中国の構造問題には、北朝鮮問題にも同じようなところがある。トランプ大統領は、北朝鮮に圧力をかけて金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長を対話の場に引きずり出した。今も交渉が決裂しないか、筆者はハラハラしてみている。この交渉の目的は北朝鮮の非核化である。米朝の緊張関係はなくなった方がよいと思うが、最終的な目標が達成されなくては意味がない。 おそらく習近平体制は歴代中国の政権の中で、厳しい改革を成し遂げる実力を持っている数少ない政権だろう。習主席が、これまで腐敗防止と綱紀粛正によって、国民から支持を得てきたことは周知の事実だろう。その対象を不公正な取引慣行やルールに向けて、新しい秩序をつくることは可能だと考えられる。 逆に、なぜ習主席はそれを行わずにいるのか。それは、公正なルールづくりよりも、中国企業が他国の技術を盗用することを見逃しながらでも、経済発展を優先したいと考えているからだろう。そのことは、先進国では許される行為ではないが、急速に大国化する中国にとっては必要悪と考えているのだろう。 多くの人は、トランプ大統領があまりに性急な貿易不均衡の是正を求めていることの間違いには気が付いていると思う。その一方で、中国もまた性急な経済発展を求めていて、それが公正なルールの順守を軽視する素地(そじ)を作っていることは見逃されやすくなってしまう。中国は、経済強国という夢を捨てて、もっと穏健な「普通の経済大国」を追求することを目指した方がよい。 時間をかけてでも、米国が訴える公正なルールづくりに大枠で賛同する方が、中国は日本や欧州の良識派を味方につけやすい。会談を前に握手する安倍晋三首相(左)と中国の習近平国家主席=2018年10月26日、中国・北京の釣魚台迎賓館(代表撮影・共同) 最後にもう一つ。中国経済は、現在、大きな曲がり角に来ている。これまでの人件費高騰に加えて、貿易戦争のようなリスクに直面して、以前よりも日本企業にとって魅力が感じられなくなっている。日本企業の中には、ベトナムやタイに生産拠点を移す動きもある。これまで問題を抱えながらも、中国への進出をしてきた日本企業が行動を変化させつつあるのだ。 おそらく、中国が公正な企業活動を目指して自己改革をすることは、再び日本企業にとって中国市場の魅力を高めることにつながるだろう。それを遅らせることは、日本や欧米企業の中国離れを加速させる。自己改革こそが中国のためにもなることを肝に銘じるべきだろう。■安倍外交85点の理由は「欧米と仲良く、中国と喧嘩せず」■「米国はもう崖っぷち」5G戦争、ファーウェイ排除のウラ側■米中貿易戦争の渦中で激化する韓国「謝罪ゲーム」のツケ

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    石平が警告、玉城デニー「中国一帯一路に沖縄活用」提案の危険度

    石平(評論家) 沖縄県の玉城デニー知事は4月26日の定例記者会見で、中国を訪問した際に行った胡春華(こ・しゅんか)副首相との会談内容を明らかにしたが、これはとんでもない問題発言である。 玉城知事は、河野洋平元外相が会長を務める日本国際貿易促進協会の訪中団の一員として同月16~19日に訪中し、会談した胡副首相に対し「中国政府の提唱する広域経済圏構想『一帯一路』に関する日本の出入り口として沖縄を活用してほしい」と提案したというのだ。そしてそれに対し、胡副首相は「沖縄を活用することに賛同する」と述べたという。 この玉城知事と胡副首相のやり取りを新聞報道で知ったとき、筆者はまず大きな違和感を覚えた。なぜなら玉城知事は言うまでもなく、沖縄という日本の一地方自治体の長である。 一方の胡副首相は当然、中国の副首相であり国を代表して日本の訪中団と会談している。このような席で、日本の一自治体の長が中国の副首相に対して何かを提案すること自体、すでに一般的な外交儀礼あるいは外交ルールから大きく逸脱している感じもする。そこでさらに問題となっているのは、玉城知事が胡副首相に対して「提案」した中身だ。日本の一地方である沖縄の「活用」を、外国政府に提案したからである。 このような「提案」はどう考えても、憲法に定められた地方自治権から大きく逸脱したものであろう。沖縄県は一自治体ではあるが、そもそも日本国の領土であり、日本国の一部である。沖縄県知事が日本の領土である沖縄の「活用」を外国政府に提案したり、相談したりするようなことは尋常ではない。それは軽く言えば悪質な越権行為だが、重く言えば自国の一部を外国に売り飛ばすような「売国行為」そのものではないか。中国の胡春華副首相(右)と会談する日本国際貿易促進協会会長の河野洋平元衆院議長(中央)、沖縄県の玉城デニー知事=2019年4月18日、北京の人民大会堂(共同) そして、よりによって玉城知事が提案したのは、中国の「一帯一路構想」における沖縄の「活用」だが、それはなおさら、危険な「売国行為」なのである。 悪名高い「一帯一路」は今、国際社会から「新植民地主義」あるいは「中国版植民地主義」として厳しく批判されている。欧米諸国の大半にそっぽを向かれ、アジア諸国の強い反発をも受けている。「玉城提案」の危険度 習近平政権肝いりのこの壮大な構想の一貫した手法と戦略的目標は、要するに、アジア地域などの発展途上国において中国政府主導の投資プロジェクトを展開し、これによって広範な地域を中国が頂点に立つ「中華経済圏」に取り込むことだ。 その一方、投資を受ける国々を借金漬けにした上で債権をチャラにするのと引き換えに、それらの国々の持つ戦略的拠点や一部の国家的主権を奪い取って我がものにしていくのである。 5月2日に米国防省が議会に提出した年次報告書で、中国が大経済圏構想「一帯一路」への投資を保護するため、世界各地に新たな軍事拠点を建設していくとの見通しを示したことからも分かるように、「一帯一路構想」の推進は中国の軍事戦略とも連携しており、「一帯一路」による「新植民地支配」は、中国による世界各地の軍事支配の確立にもつながるのだ。 このような覇権主義的な「一帯一路構想」を進めている中国政府に対して、沖縄の玉城知事が構想への「沖縄の活用」を申し出たことがどれほど危険な行為か、よく分かるであろう。 また、沖縄の特別な地政学的な位置と安全保障における重要性を鑑みれば、いわば「玉城提案」の危険度は深刻さを増すのだ。 地図を開けば分かるが、沖縄は台湾と並んで中国が完全突破しようとする第一列島線の中核をなす島である。そして沖縄には、中国の軍事的膨張と海洋侵略に対する最大の防波堤である米軍基地がある。 中国からすれば、沖縄から米軍基地さえ追い出すことができれば、自国のアジア支配戦略の最大の邪魔はこれで取り除かれる。その上で、沖縄を自国の海洋進出の拠点として「活用」できるのならば、それに越したことはないのであろう。巨大経済圏構想「一帯一路」をテーマにした国際会議の開幕式を終え、笑顔を見せながら引き揚げる中国の習近平国家主席(中央右)=2019年4月26日、北京(共同) こうして見ると、「沖縄を一帯一路に活用してほしい」という玉城知事からの提案ないし申し出は、本人はどういう意図であるかは関係なく、客観的に見れば中国政府の戦略的意図と全く合致しており、まさに沖縄知事の、沖縄知事による、中国のための「提案」でしかない。 もし、この危うい「提案」が現実なものとなれば、玉城知事と沖縄は確実に、中国の覇権主義的海洋戦略の推進に大いに貢献することになるだろう。そしてその結果、日本の安全保障とアジア太平洋地域の平和秩序が大きく損なわれることは間違いない。そんなことを許して良いのかと、私は一日本国民としては大いなる疑問を感じ、大きな危機感を覚えているのである。■米露を呑み込む中国の「一帯一路」 巨大利権に潜む習近平の大戦略■2049年「習近平の夢」は96歳で完成する■稲嶺恵一独白「『反対』だけでは沖縄の声は届かない」

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    新たなパートナーを探す英との接近、安倍首相の「戦略外交」

    」を含む違法な海上活動を警戒監視するためである。同時に、海洋進出、海洋での軍事行動を活発化させている中国を牽制するためでもあろう。 「質の高いインフラ」というのも暗に、中国の進めている「一帯一路」を批判しているとも考えられるし、「通信インフラ」での協力というのも、ファーウェイやZTE等中国の通信会社を政府の通信ネットから排除した米国にいち早く呼応した英国とそれに続いた日本との連携とも言えよう。2019年1月、ロンドンでの共同記者会見で、笑顔を見せる安倍首相と英国のメイ首相(共同) 今回発出された日英共同声明の第7項目には、次のような一文がある。「インド太平洋地域及び欧州において自衛隊及び英国軍の共同演習を増加する。我々は、将来のあり得べき交渉を見据え、日本国自衛隊と英国軍の共同運用・演習を円滑にするための行政上、政策上及び法律上の手続を改善する枠組みに引き続き取り組む」「日英準同盟」の発展も すなわち、日英共同演習は、インド太平洋地域のみならず、欧州でも行う可能性がある。また、日英防衛協力を深化させるために、必要な立法や政策立案を両国が行うことを努力することを明記した。 第7項目の末尾には、次のような記述もある。「将来の戦闘機及び空対空ミサイルに関する協力を探求する可能性を含め、将来の能力のため、防衛産業パートナーシップ及び政府間協働プロジェクトを進展させる」 日本は、新防衛装備移転3原則が制定されてからも特に具体的な案件が取り決められることはほぼなかったが、次世代戦闘機を含め、日英間の共同開発等、両国の防衛装備品協力への道が開かれた。太平洋を結ぶ日米同盟と、大西洋間の米英同盟を、さらに連携させるユーラシア大陸をまたぐ日英準同盟が形成されて行くのかもしれない。 英国は、EUからの離脱・Brexitを控え、新たなパートナーを探していることは間違いない。特に、普遍的価値や利益を共有し、経済力等国力も近い相手が望ましい。 日本も、厳しい北東アジアの環境の中で、日米同盟を基軸にしつつも、豪州、インド、英国、フランス等、新たな地平を広げたいと思っている。巨大化する中国や、核武装した北朝鮮、難しい交渉相手ロシア等に対処するには、自由民主主義、法の支配と人権等の共通の価値観を有する仲間を増やすことが、何よりの戦略外交と言えよう。

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    日本を狙う中国系「偽装難民」はこうして生まれる

    坂東忠信(外国人犯罪対策講師、作家)(青林堂『移民戦争』より) みなさんご存じの通り、アメリカは中国製品に関税をかけて自国内で売れないよう、実質的な中国製品の不買とも言える状態を作り出すという「経済戦争」に踏み込んでいます。これは既にマスコミも伝えている文字通りの「戦争」です。 そして、この戦争を小休止するとした昨年(2018年) 12 月1日のうちに、今度はファーウェイ創業者の娘で次期トップと目されていた孟晩舟氏が逮捕されました。その当事者であるトランプ大統領は、周辺諸国を巻き込みながら、どのレベルまでやると思いますか? そして習近平はどこら辺で降参すると思いますか? トランプさんはもちろん、習近平がきっちり謝罪して、アメリカが持つ国際的著作権の侵害をやめるだけでなく、その補償を勝ち取るまでやるでしょう。というより、二度と中国が台頭しないよう、アメリカ製品を買うだけの国にしたいはずです。日本に原爆を投下して70年以上も戦争しない国、というより「戦争できない国」にしたようにです。 しかし、国家主席の地位にある習近平が自分自身の実生活で、その締め上げの苦しさに気付くにはかなりの時間がかかるはずです。アメリカが求める経済的「完全降伏」を決断するまでには、相当な時間がかかります(そもそも中国人は謝罪しません。国交においては国民性を見るべきです)。当然ながら、経済混乱の末のさらなる治安悪化や、地方政府の崩壊、これに伴う少数民族の蜂起、人民の広範囲における暴力的なデモや暴動が発生する段階に至るでしょう。 当然、その状況が日本に報じられれば、日本滞在中の中国人たちはそんな自国に帰国できないことを理由に難民申請をします。在留する中長期滞在者(実質的には移民)75万人ほどと、旅行客などの短期滞在者を含めた100万〜150万人の中国人たちが、自国を帰国に値しない、もしくは帰国できない国であると判断したその時、彼らは一斉に難民申請を始めます。 日本には中国大混乱の報道から数日のうちに10万人前後の難民が発生し、その数は増え続けます。渡航するより先に国内から大量の難民が湧き出るのです。 日本が警戒すべきは2〜3万程度の海を渡ってくる難民ではなく、報道で湧き出す100万以上の国内難民なのです。日本の保守派の多くがトランプの政策に溜飲を下げ「もっとやれ〜!」と楽しそうに声援を送っていますが、政治家も政府も追従するばかりで、ほとんどの人が気付いていません。 この状況を、その時潰れかけた中国共産党が放置すると思いますか? しかも後から黒潮に乗って、福建省や上海から中華「ボートピープル」がやって来て上陸し、てんてこ舞いの警察や拡張しても追いつかない入管の手を易々とすり抜け、ツテを頼って潜伏して働き始め、その結果、海外での難民問題同様に、苦しくなれば善悪ではなく生死をかけて暴れる「暴徒ピープル」となるのは目に見えています。※画像はイメージ(ゲッティ・イメージズ) 私が中国大使なら、もう既にその時の準備を終わらせていますよ。具体的には各領事館を使って、日本に滞在し続けるための人権デモを画策し、同時にメディアが中国に不利益となる報道をさせないために、党中央に対し日本進出中の企業がメディア広告をふんだんに打てるよう援助を要請し、中国人留学生組織である中国人留学生学友会の幹部と頻繁に連絡を取って、即扇動可能なレベルにあることを日々点検・確認しつつ、日本人が容易に越えることができない言葉の壁をネットでも実生活でもフルに使い、混乱極まるであろう大陸ではなく、この日本に民族生存の権利や特権を確立します。スパイ防止法のない日本 もっともこの報道対策は既に確立しています。テレビ番組を支えるCMスポンサーのほぼ100%が東アジアに進出している大手企業であり、ちょっと考えただけでも、テレビ局がこうした企業を中国国内で危うい立場にさらすような番組を放映できないことくらいは、皆さんもお分かりのはずです。 電通によれば、平成29年の日本の広告費総額は6年連続でプラス成長して6兆3907億円に達しています。特に広告掲載度の高い上位10社は、どの企業も中国と関わりが深いのです。 普段接することの多い新聞・雑誌・テレビ・ラジオの四部門に費やされる広告費は全体の約半分、迂闊(うかつ)に中国現地関連企業の利益や安全を脅かす中国記事を放送・掲載すれば、中国政府の横暴や中国人民の暴力に恐れをなす企業が一斉に広告を引き上げ、メディア企業は広告収入がなくなる恐れがあるという社会経済の仕組みがあることを今一度考えてください。テレビで見たニュースを新聞で裏付けても、全く意味をなさないのです。 難民一つとってもこの状態です。そして我が国にはスパイ防止法がありません。それを良いことに、外国人が外患を作り出すため接近し、あるいは潜伏して活動し、日本人が内憂を助長して「犯罪」的な要素を含む「反日」活動を目の当たりにしながら何もすることができません。 各国に派遣されている大使は、その接受国の元首に対して派遣されており、外交交渉、全権代表としての条約の調印・署名、滞在する自国民の保護などを任務としているのですから、その国で自国民を守る義務があり、その権利は接受国(日本)政府でさえ不可侵です。 これと対立する日本の治安組織や、今後発生するかもしれない民間防衛実力団体が自国民に害を加えた場合、自国民保護を名目に有形力的な抵抗を合法化するため、全権を委任された国家政府の代表として「国防動員法」の部分動員発令を母国政府に促し、暴動による破壊活動に関しても法を裏付けとして合法化することを(いかにもそれができるかのように)宣伝・扇動し、最も組織化しやすい留学生の実力組織を中心に、民族のための一大勢力を作りたい……と私が大使ならそれくらいのことは普通に考えますよ。当たり前ですよ。私ならやります。 先進国G7のうちスパイ防止法に類する法を持たないのは日本だけで、これでよくG7に入っているものだと感心します。日本は明らかに「情報後進国」。先進国が後進国にODAなどの資金を援助するのはよくあることですが、情報後進国たる日本の一部勢力は「特定」先進諸国からODAとは違う「別の援助」を受けて我が国を後進国のままにし続けているのです。G7首脳会議に臨む各国首脳。手前右は安倍首相=2018年6月、カナダ・シャルルボワ(代表撮影・共同) そして日本人は、着々と進む反日工作に気づかないまま、最終的には難民化した100万人を超える中国系移民による武装蜂起さえ無防備のまま迎えてしまうかもしれません。 それはまさにアメリカが経済的に中国に仕掛けた「経済戦争」のような移民で仕掛ける「移民戦争」。その時が目前に迫りながら全くと言っていいほどそれに気づいていない情況にあるということをご理解いただければと思います。ばんどう・ただのぶ 宮城県出身。警視庁で交番勤務員、機動隊員を経て北京語通訳捜査官を歴任し、警視庁本部、新宿、池袋署などで中国人犯罪者や参考人を扱う。平成15年に退職後、地方司法通訳、作家として活動し、外国人犯罪の実態をわかりやすくタブーに切り込みながら、さまざまな角度で分析、問題提起している。著書に『寄生難民』(青林堂)。

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    尖閣 自衛隊が動けば中国は即座に人民解放軍を投入する準備

     尖閣国有化から5年。いまも頻発する中国海警の領海侵犯に日本は「いつものこと」とばかりに麻痺しているが、事態は深刻だ。2016年までは尖閣周辺の日本領海やそのすぐ外側で日本の主権の及ぶ接続水域に侵入してくる中国海警の武装艦艇はいつも2隻だった。だが2017年の今は必ず4隻の行動をともにする艦隊となっているのだ。産経新聞ワシントン駐在客員特派員の古森義久氏が警鐘を鳴らす。* * * 中国の軍事研究を専門とするワシントンの民間研究機関「国際評価戦略センター」のリチャード・フィッシャー研究員は語った。「いまの中国海警の尖閣攻勢はすぐ背後に控えた海軍と一体の尖閣奪取の軍事能力向上の演習であるとともに、日本側の防衛能力や意思を探っている。中国軍は大型ヘリ、潜水艦、新型ホバークラフトを使っての尖閣奇襲占拠作戦も立てている。長期には尖閣占拠により沖縄を含む琉球諸島の制覇から東シナ海全体の覇権をももくろんでいる」 中国の海洋戦略研究では米国有数の権威とされるトシ・ヨシハラ氏に中国側の当面の狙いについてまず聞いた。日系米人の同氏は米海軍大学教授を長年務め、今年はじめからワシントンの主要防衛問題シンクタンク「戦略予算評価センター」の上級研究員である。「中国はトランプ政権が尖閣防衛の意思を明確にした以後も4隻の艦隊で毎月3、4回、尖閣の日本領海や接続水域に侵入しているが、日本側の尖閣の施政権を無効にみせることが当面の目標だろう。中国が自国の“水域”や“領土”としてこれだけ自由に出入りするのだから、日本側には主権はもちろん施政権もないというイメージを国際的に誇示することだ。施政権は中国にあるという公式宣言を間もなくするかもしれない」「中国は当面は侵入を繰り返し、日本側の海上保安庁を消耗させることに力を入れている。日中の消耗戦なのだ。中国側はいまは沿岸警備隊レベルの海警を使って侵入しているが、日本側がもし自衛隊を動員すれば、ただちに『日本の挑発』を口実に人民解放軍を投入する準備もしているはずだ」 だから日本は尖閣のために中国との本格的な軍事衝突を覚悟していない限りは、中国側の挑発に乗らないことが賢明だという。では日本はどうすればよいのか。ヨシハラ氏は語った。「アメリカの抑止力も重要だが、当面は日本が中国側の尖閣への侵入や攻撃に自力で対応し、撃退できる能力と意思を示すことが中国の実際の軍事作戦を抑える最大の効果があるだろう」※写真はイメージです(ゲッティイメージズ) 尖閣周辺を警戒している海上保安庁の能力増強はもちろん、実際に投入することはなくとも海上自衛隊をはじめとする防衛力の強化、そしてその覚悟が必要だというのだ。 尖閣問題こそが、「国難」と呼ぶにふさわしい国家の危機を私たちに突きつけているのである。【PROFILE】古森義久●慶應義塾大学経済学部卒業。毎日新聞を経て、産経新聞に入社。ロンドン支局長、ワシントン支局長、中国総局長などを経て、2013年からワシントン駐在客員特派員。2015年より麗澤大学特別教授を兼務。近著に『戦争がイヤなら憲法を変えなさい』(飛鳥新社)。関連記事■ 中国尖閣攻勢は米にとって「日本の国難」との深刻な懸念■ 中国の対日工作機関 河野外相と翁長知事に伸ばした魔の手■ 中国工作機関が尖閣触手で宮古島観光協会「恐ろしくなった」■ 日中友好謳う謎の一行が翁長・沖縄知事訪問 日本分断画策か■ 性善説に基づく出産一時金42万円等 健康保険を外国人が乱用

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    中国「ゲノム編集」ベビーは許されるか

    中国広東省の南方科技大の賀建奎・元副教授がゲノム編集で遺伝子を改変した受精卵を使い、世界で初めて双子の女児を誕生させた。倫理面や安全性への懸念が広がる中、研究者の功名心や利益目的との報道も出て、まさに批判一辺倒である。負の側面ばかりが注目されるゲノム研究。本当に議論の余地もないのか。

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    中国「ゲノム編集」ベビーを悪行と決めつけていいのか?

    された第2回国際ヒトゲノム編集サミットで世界を驚愕(きょうがく)させた臨床研究報告に聞き入っていた。中国の賀建奎(が・けんけい)南方科技大学副教授がゲノム編集を使い、体外でヒト受精卵(胚)の、ある遺伝子を意図して「変異」させ、双子の女児、ルルとナナが無事誕生したと報告したからである。 後の報道によれば、中国当局は遺伝子改変で双子が誕生した事実を認定した。賀副教授は国外研究者を含む研究チームを作り、倫理審査書類をねつ造し、自ら研究資金を調達することで監査をすり抜けて、安全性が疑われるヒト遺伝子改変を実行したと糾弾された。すなわち、この事件は研究倫理と生命倫理の問題がある。 賀副教授は意図してCCR5遺伝子を変異させたが、その目的は生まれた子にエイズウイルス(HIV)感染抵抗性を付与することと主張した。双子の父マークはエイズ患者で、母グレースと相談し、わが子が先々遭遇しうるHIV感染に抵抗できるようにゲノム編集に同意したという。 しかし、ゲノム編集を使って生前にエイズ予防をしなくても、ルルとナナに無防備なセックスなどを控えるように教育すれば、大方のリスクは回避できる。医学的に切実なニーズもないのに実験的な生殖技術を使って「デザイナーベビー」を作出したと指弾する報道が出たゆえんである。 ヒト胚ゲノム編集の論文はこれまで10報あり、その内9論文に中国の研究者が関与し、多くは中国政府の研究助成を受けている。9報はどれも、将来、遺伝子改変で子における疾患発症を目指す基礎研究の論文である。中国では遺伝子改変人間の作出は禁止されていたが、その罰則条項がない生殖医療指針による規制にも懐疑の目が向けられた。※写真はイメージです(GettyImages) よって、ほとんどの国内外の報道は賀副教授の資質を、「デザイナーベビー」の作出を、ひいては中国における科学振興と規制を批判した。 しかし、冷静に事態を見つめると、ルルとナナを「デザイナーベビー」と烙印(らくいん)を押すのは、行き過ぎである。欧米に先天的にCCR5変異を持つ人は実在し、HIV抵抗性を除けば、一般の人々とかけ離れた外見や特性を持つわけではない。過熱報道で見失う「本質」 また、賀副教授の主張によれば、双子は「健康」に生まれたという。1978年、英国で初の体外受精児、ルイーズ・ジョイ・ブラウンが誕生したときも同様の騒動があった。科学界から先天異常が深刻に懸念されたが、誕生したルイーズはごく普通の女の赤ちゃんだった。母親のレスリーは卵管閉塞(へいそく)で胎内受精が起こらず、不妊であった。体外受精がなければ、今は2児の母であるルイーズはこの世に存在しなかった。 日本社会は不妊治療として体外受精や顕微授精を受け入れてきた。2015年の総治療回数は42万4151回とおそらく世界トップクラスだ。一方、ルイーズに懸念された先天異常があったとしたら、今日のような生殖医療の隆盛は起きなかったかもしれない。 日本から中国の道徳観や規制を直截(ちょくさい)に批判することは実は難しい。まず、日本の道徳の概念は中国の儒教や老荘思想と西洋のモラルと二つの起源を有する事実がある。 また、中国と同様、日本でも遺伝子改変児の作出の規制は強制力のある法規制ではなく、行政指針をとる現状がある。具体的には「遺伝子治療等臨床研究に関する指針第七 生殖細胞等の遺伝的改変の禁止」であるが、これは遺伝子導入のみが対象であり、賀副教授のようにゲノム編集の酵素をタンパク質やmRNAの形態で胚に注入する場合は対象とはならない。 ヒトゲノムは細胞の中で核以外にミトコンドリアにもあるが、厚生労働省は近年大阪で実施されたミトコンドリアゲノムを改変する不妊治療の臨床研究を擁護した経緯がある。さらに、サミット後の12月6日、参議院厚生労働委員会で、薬師寺道代参院議員(無所属)がゲノム編集の生殖利用を法的禁止にすることを求めたが、「法の改正は困難であり、進展が早い医療分野は指針が妥当」と厚生労働省は抗弁した。国際会議で質問に答える中国の南方科技大の賀建奎副教授=2018年11月、香港(共同) 今はヒトゲノム編集を禁止とするが、生殖のイノベーションが見通せる時がいずれ到来することを予期し、当面は国会審議を経ずに速やかに解禁できる行政指針で様子をみていく意向なのかもしれない。 過熱気味の報道に気を取られすぎると、ヒト生殖、家族形成と医療の関係の本質を見失う。賀副教授のゲノム編集の生殖利用が不適切であったなら、他にどのような利用が考えられるだろうか。生殖イノベーションの前に 配偶子提供制度が未確立の日本では、多くの場合、夫婦間で不妊治療を繰り返している。体外受精を受けて出産に至った女性の割合はわずか11・7%だった(2015年)。その主な理由として染色体異常などを特徴とする卵子老化が指摘されるが、遺伝子変異による不妊もありそうだ。 賀副教授はサミットに先立つ11月25日、YouTubeで双子誕生を世にアピールし始めた。翌26日、私はその動画を見たというある男性からEメールで相談を受けた。彼の妻はTUBB8遺伝子の変異が原因で体外受精を3回受けても胚が育たないため、夫婦でゲノム編集を伴う生殖医療研究に参加したいがどう思うか、という内容であった。難治不妊を克服するためのゲノム編集の臨床利用、これは日本に現在存在する切実な生殖ニーズを満たすかもしれない。 しかし、この生殖イノベーションに進む前に、合わせて検討すべきアジェンダ(課題)がある。それは生殖医療と「両親と子の遺伝的つながり」のバランスの問題だ。第三者からの配偶子の提供を受ければ、難治不妊は解消できるが、片方の親と子で遺伝的つながりがない。しかし、特別養子縁組制度があることを考えると遺伝的つながりがない親子に問題があるとは言えまい。 一方、配偶子提供自体、問題が多い。 目下、法務省で親子関係を明確にすべく検討が進んでいるが、配偶子提供者の個人情報保護、ヒト配偶子の道具化、女性から数限られた卵子の搾取、子の出自を知る権利などの問題は残置されたままだ。欧州などの国々では配偶子提供の法制度を既に整えているが、日本は本件について完全解決をみないままゲノム編集を伴う生殖医療に進むべきだろうか。 私たちは誰一人として自ら同意して誕生していない。私たちの誕生は全て親たちが決めたのだ。ゆえに夫婦で同意書にサインすれば生殖医療を受けることができる。 では、急速に技術進展し、リスクが低減しつつあるゲノム編集を生殖医療として使う場合、どのような目的なら夫婦の同意で実施が許容されるのだろうか。その利用目的は現在の日本社会の道徳観にかない、また切実なものだろうか。 そもそも、このような受精卵の遺伝子を操作する生殖医療を解禁した場合、生まれる子の健康や福祉を損なうリスクは低いと言えるのか。一人でも先天異常の子が生まれたら、どうすればいいのか。一方、配偶子提供制度の確立に本腰を入れなくていいのか。メディアのヘッドラインで思考停止に陥らず、深く考えたいものである。■「日本人ノーベル賞でお祭り騒ぎ」メディアの思考停止が目に余る■28歳の女医があえて「Dr.コトー」を目指したワケ■麻生さん、病気に「自己責任論」を持ち出すのはやっぱり酷です

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    ゲノム双子「カリスマ研究者」を潰せない中国当局の戸惑い

    富坂聰(ジャーナリスト、拓殖大学海外事情研究所教授) さすがは中国、そんなことまでやっちゃうのか! 第一報に接した日本の読者のほとんどは、そんな感想を抱いたに違いない。 2018年11月26日、世界を駆け巡った「エイズウイルス(HIV)の免疫を持つ双子誕生」のニュースは衝撃だった。中国の研究者で、南方科技大学の賀建奎(が・けんけい)副教授は、生物の細胞が持つ全遺伝情報(ゲノム)の中で、狙った遺伝子を自由自在に改変する「ゲノム編集」技術を使うことで父親のHIVが細胞に入らないようにした双子の女児、ルルとナナを誕生させたと発表した。 ゲノム編集を人間に施すことは、技術的には可能であっても、安全性に加えて倫理の点からも課題は多く、「越えてはならない一線」と広く認識されてきた。その倫理の壁をやすやすと飛び越えてしまった中国の研究者に対して、世界から非難が集中した。 早い段階で、当事者である賀氏にインタビューし、記事を配信したAP通信は、各国の主要な研究者がそろって否定的な見解を示したことを紹介した。日本の反応も同様で、12月4日には「日本ゲノム編集学会」が「倫理規範上も大きな問題で国際的な指針にも違反した行為に強い懸念を表明する」という声明を出した。 こうした反応は、むしろ織り込み済みだったようにも思えるのだが、興味深かったのは、発表当初から中国のメディアまでが否定的なニュアンスで扱ったことだ。 AP通信の記事を受けた『環球時報』などは「中国人による驚愕(きょうがく)の実験に 外国メディアもショック!」(ウェブ版、11月26日付)の記事の中で、世界各国からさまざまな問題が指摘されていることを紹介した。それだけでなく、わざわざ広東省衛生健康委員会と深圳(しんせん)市医学倫理専門家委員会が、それぞれ組織を挙げてこの問題を調査し、後日その結果を公表すると宣した公告を載せたのである。中央政府が賀氏に対する調査を省政府に指示したとされる。中国深圳にある南方科技大=2018年11月(共同) 賀氏の所属する南方科技大も「(研究は)大学外で報告なく行われたことで、倫理と学問的規範に違反している」との声明を発表。中国を代表する科学者122人も連名で賀氏を批判した。当局「戸惑い」のワケ 『環球時報』は、いわゆる「左派系」(日本でいう「右派」)に分類されるメディアで、外国に対する厳しい論調が持ち味の国際情報紙だ。もし、賀氏の研究が誇るべき成果であれば、外国の反応や他の国内メディアの反応がどうであれ、その功績を称揚する論陣を張ったはずだ。賀氏の研究成果は、まさに四面楚歌(そか)という展開になったのである。 あるメディア関係者は「こうした場合、次に考えられるのは賀氏が公表した研究が虚偽であったと発表されることや、何らかのトラブルで彼が逮捕される展開です」と話す。 ニュースが拡散した直後には「実際に誕生した嬰児(えいじ)が公開されていない」といった批判も多く、どの研究者も「もし本当なら…」という断りを入れていたことが印象的であった。また、騒動から約1週間後に報じた香港紙は、賀氏が大学当局から軟禁されているというショッキングな記事を掲載した。世界から脚光を浴びた賀氏の周りに、暗雲が立ち込めるようであった。 本来であれば、中国でお決まりの「消息不明」から「逮捕」という流れに向かっていくことになる。だが、発覚当初、当局はそのつもりではなかったらしい。 「実は、今回の騒動で戸惑っているのは当局の方だったのです。研究者や専門機関からの反応は確かにネガティブなものが目立つのですが、国民の賀氏への支持は極めて高いのです。海外の反応は気にしつつも、何が何でも彼を処分するといった雰囲気ではありませんでした」 困惑ぶりをこう振り返った党機関紙の記者がさらに続ける。「そもそも賀氏は、この騒動が起きる前から有名な研究者です。米国でも実績を残したことから、中国の未来を担う一人と目されています。特に中国が国として力を入れていこうとしている最先端の分野を担い、同時に会社も8社ほど立ち上げている『若者のカリスマ』ですから。最初から、彼に対して『潰し』ありきの選択はできなかったのでしょう」 AP通信のインタビューの中で、賀氏は「私の責任は重大だと感じている。単に、初めてのケースというだけでなく、彼女を一つの成功例としていかなければならい」と語り、「もし予想外の副作用が出た場合は、その痛みを共有して全責任を負う」と語っていた。折しも、同じ11月末に中国のエイズ感染者が85万人に達したと報じられたのは、何かの因縁だろうか。2018年11月、香港で開かれた国際会議で講演する中国・南方科技大の賀建奎副教授(共同) 2019年に入って、広東省当局の調査結果が公表され、双子誕生のみならず、別の女性1人も妊娠中であることを確認した。賀氏の行為も「自らの名誉と利益のため」と断罪され、立件に向けて公安機関に送致されると、国営新華社通信が報じた。当局の認定により、お決まりの方向に進むことは避けられなくなったのである。■ ファーウェイ敵視にも動じない中国「祖流我放」の冷めた感覚■ 「習近平独裁」を中国人はなぜ歓迎するのか■ ファン・ビンビン巨額脱税、中国当局が狙い撃つ人気女優の利用価値

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    「ゲノム双子誕生」中国を批判、周回遅れの日本が言える立場か

    (医療ガバナンス研究所理事長)  ゲノム編集の在り方が世間の関心を集めている。きっかけは昨年11月、中国南方科技大学の賀建奎(が・けんけい)副教授が、世界で初めてゲノム編集で遺伝子を改変した双子の赤ちゃんを作り出したと発表したことだった。 この行為の妥当性については、既に多くの意見が寄せられている。日本でも報道され、ご存じの方も多いだろう。だが、多くの日本のメディアは、中国の研究者を倫理的側面から批判した。一方で西側先進国の科学研究に一刻も早く追いつこうとした中国の焦りを指摘した報道もある。 私は、一連の報道は妥当だと考える。ただ、今回の件では、中国を批判するだけでいいのだろうかと疑問に思う。私は今こそ、ゲノム編集技術の基礎となる「ゲノム研究」の在り方について議論すべきだと考えるが、そのような指摘は残念ながら皆無である。 ゲノム研究を推し進める原動力は、個別化医療の推進だ。個別化医療とは、主にがんの診療分野で、がんのゲノム情報に基づき治療法を変更することである。この診断・治療法が普及すれば、多くのがん患者が正確に診断され、適切な治療を受けられるようになる。副作用を減らし、より高い治療効果も期待できる。 近年、個別化医療が急速に進歩した理由はゲノムシーケンス(DNAの配列決定)技術の急速な発達にある。1990年に米国が主導して始まったヒトゲノム計画の完遂には、13年の歳月と30億ドルの予算を要したが、最近では数時間、1千ドル程度で解読することが可能になった。 近年は中国企業なども積極的に参入し、競争が激しい。コストは半額以下になるとも言われる。今回、問題となったゲノム修復技術は、その背景を知れば見方が変わってくる。 このような技術革新は、医療業界のパワー・ポリティクス(力の政治)に影響を与えた。具体的には製薬企業や検査メーカーが仕切る領域にIT企業が参入するようになった。最初の標的は遺伝子ビジネスだった。米国では「23andMe」をはじめとした複数の遺伝子検査会社が、DTC(消費者への直接販売)による遺伝子検査を始めた。ちなみに、同社の株主はグーグル創業者の妻である。 また、わが国でもDeNA社が、2014年8月から同様のサービスを開始した。このサービスを利用すれば、唾液を採取して検査会社に送るだけで、がんや糖尿病などにかかるリスクや、肥満や薄毛の体質などが解析できる。費用は検査項目によって異なるが、おおよそ1~3万円だ。 このような成果は当然ながら、がん医療にも応用できる。※写真はイメージ(ゲッティ・イメージズ) 2014年には米国で「マイ・パスウェイ試験」という多施設共同臨床研究が始まった。この臨床研究では、手術や細胞の一部を切り取って調べる「生検」などで患者から採取したがん組織を用いて、「HER2」「EGFR」「BRAF」「ヘッジホッグシグナル伝達系遺伝子」という4種類の遺伝子の変異を調べた。そして、遺伝子の変異の状況に併せて、分子標的治療薬「トラスツズマブ」や「ベムラフェニブ」などの投与を決めた。難病治癒に貢献 個別化医療の進歩は、これだけではない。特定の遺伝子だけでなく、すべてのゲノム配列を分析し、難病の診断や治療に役立てようという動きも始まっている。 例えば、米国のニコラス・ヴォルカー君という4歳児のケースだ。がんではないが、診断・治療の過程が興味深いのでご紹介したい。ヴォルカー君は、出生時より下痢、血便などの腸炎を繰り返していた。さまざまな病院を受診したが、「原因不明の難病」として対症的に治療されただけだった。 2009年、米ウィスコンシン医科大学の研究者たちは、ヴォルカー君の全エクソーム解析(全遺伝子解析)を行い、腸を細菌の攻撃から守る働きに関係していると考えられている「XIAP遺伝子」の変異であることを突き止めた。腸炎の原因は先天性の免疫異常だったのである。 ヴォルカー君は臍帯血(さいたいけつ)移植を受け、その後病気は治癒した。全遺伝子解析を受けていなければ、「原因不明の難病」として、遅かれ早かれ命を落としていただろう。 ヴォルカー君は全遺伝子解析が救命した世界初の症例として注目を集めた。米紙「ミルウォーキー・ジャーナル・センティネル」の取材班は2010年12月にこのニュースを報じ、翌年ピューリッツァー賞を受賞した。 では、日本の状況はどうだろうか。昨年12月、厚生労働省の薬事・食品衛生審議会医療機器・体外診断薬部会は、シスメックス社が承認申請していた遺伝子変異解析キット「オンコガイドNCCオンコパネルシステム」の承認を了承した。 これは、同社が国立がん研究センターと共同で、がんに関する複数の遺伝子を一括で調べる「パネル検査」(パネルシーケンス)だ。※写真はイメージ(ゲッティ・イメージズ) もう一つ、中外製薬が米ファウンデーション・メディシン社から導入した「FoundationOneCDxがんゲノムプロファイル」という同様の検査も承認が了承された。パネル検査が保険適用になれば、多くのがん患者が遺伝子検査を受け、その結果に基づいた効果の高い抗がん剤治療を受けられるようになる。 しかしながら、今回の承認では、使用は一部の施設に限定され、受診のハードルは高い。対象患者が原発不明がん、標準治療のない希少がん、標準治療が終了または終了が見込まれる「固形がん」で全身状態が日常生活に支障のないレベルの元気な患者という条件がつく。全ての患者が遺伝子パネル検査を受けられるわけではない。 以上の通り、わが国はパネル検査がようやく始まったところだが、果たしてパネル検査だけで十分と言えるだろうか。周回遅れの日本 前出の米ウィスコンシン医大の研究チームで、全遺伝子シーケンスにより発見された約5千の変異を半年間かけて、XIAP遺伝子の変異が原因であることを突き止めたのは、リズ・ワーシー氏だ。 同氏は2017年3月に東大医科学研究所を訪れ、講演している。彼の講演に参加した井元清哉・東大医科研教授は「(冒頭に紹介したパネルシークエンスも全ゲノムシークエンスも)両方をやっている彼らが、全ゲノムシーケンスを推奨していたのは示唆に富みました」という。 実は、パネルシーケンスは、半分以上の関連遺伝子を見逃してしまうことが分かっている。全ての遺伝子を解析できる全ゲノムシーケンスや全遺伝子シーケンスと、特定の遺伝子だけを解析するパネルシーケンスのポテンシャルの差は明らかである。 世界では、ゲノムにとどまらず、全クリプトーム(全転写産物、RNAのこと)解析の臨床応用が始まっている。昨年12月、米ニューヨークゲノムセンターは、全ゲノム解析と全トランスクリプトーム解析を組み合わせたサービスを開始すると発表した。 一方で、パネルシーケンスがようやく承認される見通しとなったわが国は、世界の最先端から「周回遅れ」と言っていい。遺伝子修復ベビーが批判を浴びた中国は、この分野で最先端を走っている。今後、この差はますます広がるだろう。その理由は二つある。 まずは、個別化医療の推進に必須な「情報工学者」の不足である。今や世界のゲノム研究を推し進めるのは、医師ではなく情報工学者だ。 既に知られた遺伝子変異に対しては、それに対する治療法も決まっており、どの医師でも判断できる。しかし、それ以外の遺伝子変異が見つかった場合にどう対処するのか、医師だけでは判断できない。その遺伝子の役割、変異によって引き起こされる病態について、あらゆる論文データを検討しなければならないからだ。 わが国のゲノム研究の中心は、理化学研究所と東大医科学研究所のチームだ。現在のリーダーは情報工学者である宮野悟・東大医科研ヒトゲノム解析センター長だが、2013年には従来の治療が効かない白血病患者の全遺伝子を解読し、IBMの人工知能ワトソン(質問応答システム)を用いて、患者に最適な治療法を提案した。※写真はイメージ(ゲッティ・イメージズ) この患者の治療は劇的に反応した。これは「人工知能が救命した最初の患者」として報じられたが、このプロジェクトをリードしたのが宮野教授である。前出の井元教授の上司でもある。宮野教授は九州大を卒業した数学者であり、井元教授も九大を卒業した統計家だ。 2人とも医師ではない。今後、個別化医療の研究を進めるには、情報工学の専門家と医師が協同しなければならない。ところが、医学部や医学系研究所における情報工学者のポストは圧倒的に少ない。財政難の国立大学で、医学部に情報工学者のポストを新設するのは難しい。医学部と情報系の学部の交流を加速させるしかないが、昨今の不祥事をみても明らかなように医学部は閉鎖的だ。現状では難しいと言わざるを得ない。変わるがん治療のパラダイム むろん、政治リーダーの見識も不可欠である。米国でがんの個別化医療を推進したのは、バラク・オバマ前大統領だ。彼は自らが主導した2016年度予算で、約2億1500万ドルを「プレシジョンメディスン(精密医療)」に投資した。これはがんの撲滅を目指す「ムーンショット計画」の一環だ。 「プレシジョンメディスン」とは、ゲノム情報などに基づき、最適な治療方法を最適なタイミングで提供することだ。個別化医療の発展形である。特定のがんに対して、特定の抗がん剤をパッケージで投与する従来型の「標準療法」とは対極の考え方である。 個別化医療にとって重要なのは、患者の状況を正確に把握することに尽きる。その一つががんのゲノム情報だが、もう一つは病状及び治療効果の判定だ。この点で注目すべきは「リキッドバイオプシー」という新規技術である。 リキッドバイオプシーとは、血液などの体液のサンプルを用いて、診断や治療効果の判定を行う手法である。ゲノム解析を行うことも可能だ。従来の生検と比べて、はるかに低い侵襲で大きなデータを入手できる。また、患者の状態によっては手術や生検ができないケースも多々あるが、血液検査であれば誰でも簡単にできる。 ただ、この方法には高度な技術を要する。血液中を循環する腫瘍細胞及び腫瘍細胞由来のDNAなどの物質は、ごくわずかだからだ。腫瘍細胞の場合、通常1ミリリットルの血液中に10細胞以下しか存在しない。 とはいえ、世界中の企業が現在、技術開発にしのぎを削っている。既にいくつかの興味深い研究成果も報告されている。 米ジョンズ・ホプキンス大の研究者たちは、昨年1月に米科学誌『サイエンス』に自らが開発した「CancerSEEK」と呼ばれるリキッドバイオプシーの研究成果を公表した。この研究では、一般的な8つのがんを対象に検査を行ったところ、卵巣がんでの診断率は98%だった。臨床応用は近いかもしれない。ただ一方で、乳がんでは40%を下回ったという。 この技術は開発途上だが、企業側の鼻息は荒い。技術開発の筆頭を走るのは、米シリコンバレーのグレイル社だ。ゲノムシークエンス最大手、イルミナ社から2016年に独立した。同社は「2019年までに最初のリキッドバイオプシーを実現する」と宣言している。 この見解に懐疑的な関係者も多いが、遅くとも数年の間に、この技術は臨床応用されるだろう。そうなれば、ゲノム情報に基づく個別化医療だけでなく、がん治療後の再発のスクリーニング(選別)や、がん検診にも応用が期待できる。現在のがん治療のパラダイム(認識の枠組み)が大きく変わることになる。※写真はイメージ(ゲッティ・イメージズ) がんは多くの先進国で死因の首位を占め、関心を集めている。がんの診断・治療法の開発は、ゲノム研究の進歩とともに日進月歩だ。中国での遺伝子修復ベビーの誕生も、このような流れの一環として理解すべきだろう。この領域では米中がヘゲモニー(主導的地位)を握りつつある。 一方、わが国は米中と比べ「周回遅れ」になりつつある。遺伝子修復ベビーの誕生に関しては、中国を批判するだけでなく、その背景にあるゲノム研究の進歩を理解し、前向きに議論しなければならない。■夢のがん治療薬は国を滅ぼす? ボロ儲け製薬企業の「暴走」を阻止せよ■がんはいずれ「理想の死に方」になる■カネではタフな研究者は育たない 日本人がノーベル賞を取れる理由

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    中国の科学者がヒト受精卵に遺伝子操作 欧米で激しい論争に

     中国の科学者がヒト受精卵に世界初の遺伝子操作──タブーを冒したこの実験について、欧米では学術誌からマスメディアまで、その是非をめぐり大論争となっている。 世界を驚愕させたその実験は今年4月に生物学・生物医学の学術誌「プロテイン&セル」に掲載された論文で明らかになった。中国広東省にある中山大学の黄軍就副教授らの研究チームがヒト受精卵の「ゲノム編集」を行ったというのだ。ゲノム編集とは何か。サイエンスライターの島田祥輔氏が解説する。「ゲノムはあらゆる生物がもつ、いわば設計図です。生物の身体を料理に例えるとゲノムはレシピにあたり、そこに書かれた情報を基に生物のかたちができあがる。ゲノム編集とは、人為的にこのレシピを書き換えることで生物のかたちを変える技術の一種です。従来の遺伝子組み換えより簡単で、成功率の高い優れた技術です」 ゲノム編集の有益性は高く、農作物の品種改良や新薬の開発、遺伝子治療など様々な分野に応用できる。米国ではHIVに感染したヒトの体細胞からウイルスを取り除く臨床研究が始まっている。 今回の実験が問題視されたのは、世界で初めてヒト受精卵にゲノム編集を施したからだ。欧米ではタブー視される行為であり、激しい論争を巻き起こした。 なぜ、ヒト受精卵のゲノム編集は問題なのか。目や髪の色、筋肉の質や量などの遺伝的特質を人為的に操作して「設計」された「デザイナーベビー」の誕生につながるからだ。個人のさまざまな特質や能力の元となるゲノム情報を「書き換える」ことで、「ヒト作り替え」が可能になる。 さらに問題なのは、ゲノム編集した受精卵から生まれた子供の遺伝子が永遠に受け継がれる点。これにより、現時点でわかっていない副作用などが将来世代に及ぶリスクがある。※写真はイメージです(ゲッティイメージズ)「ゲノム編集技術を用いれば、目の色や体質だけでなく、運動能力や体格、IQ(知能指数)すら思い通りに操作できるようになります。SF世界のような“強化人間”も技術的には可能です。しかし、どこまで人間のレシピを書き換えていいのか、そもそも書き換えていいのかという”境界”の議論は世界的に進んでいません。線引きが曖昧な状態のまま中国の論文が発表され、科学界に大きな衝撃が走りました」(島田氏) 今回、中国の研究チームは胎児に成長する能力のない受精卵を使っており、科学的・倫理的な問題点はクリアしたと主張するが、この研究が「ヒト作り替え」の最初の一歩となりうることは間違いない。欧米の科学者は中国の「暴挙」に激しく反発した。黄副教授に電話インタビューを行った英「ネイチャー」誌のデービッド・シラノスキー記者が言う。「黄副教授はとてもオープンで意思疎通のできる研究者でした。しかし、欧米の人々はこの実験を好意的に見ていない。反対派は将来的に生殖目的でゲノム編集が行われることに危惧を抱いています」関連記事■ 長寿遺伝子と呼ばれるサーチュイン遺伝子は腹が減れば活性化■ 遺伝子検査で分かる 85歳までに80%の確率でボケる遺伝子■ 大黒摩季、46才の不妊治療 受精卵凍結してチャンスに備える■ ハキーム、宮部藍梨らアフリカ系選手が活躍の背景に遺伝子説■ 元内閣官房参与の科学者が初めて明かす「人智を超える何か」

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    中国でブタの臓器のヒトへの移植が秒読み 2年後に実現か

     中国で人間にブタの臓器を移植する手術が2年後の2019年までに、中国政府によって許可される見通しであることが医療関係者の証言で分かった。ブタの臓器は人間のそれと機能や大きさがほとんど同じであることが分かっているそうで、これまでもブタの臓器をサルやヒヒに移植し、成功した実験例が報告されているという。 ただ、ブタの体内には人間に対して毒性があるウイルスが存在することが分かっており、中国の医療関係機関では、そのウイルスを持たないクローンブタの増殖実験を繰り返しているという。中国青年報などが報じた。 ブタの臓器移植について、医療関係者の間では世界的に関心が高い。なぜならば、心臓や肺、肝臓などの臓器に深刻な疾患を持つ患者は多く、米国では今年8月現在、11万7000人の移植待機者がおり、ドナー不足から毎日22人の命が奪われているという。 とくに、中国の場合、2010年から2016年までの7年間で10万人以上の患者に人間の臓器が移植されてきたが、移植待機者は毎年、150万人にも上っているという。 中国では2015年まで、死亡した服役囚の臓器が摘出され、移植されてきたが、同年以降、服役囚の臓器の移植は基本的に禁止されており、近年、中国の医療関係者の間で、ブタなどの臓器移植研究への関心が高まりを見せている。すでに、陝西省の第4軍病院や上海、北京、広東省の病院が合同で、国家プロジェクトとして研究を進めている。※写真はイメージです(ゲッティイメージズ) ブタの臓器の人間への移植については、日本やアメリカ、欧州各国でも研究されており、これまで動物実験が繰り返されてきた。そのなかでも、中国では研究が進んでおり、ブタの角膜の人間への移植手術が行われており、成功例が報告されている。 ただ、角膜の場合、血液がごく少量で、ブタの体内にあるウイルスが人間に感染する危険性が少ないことから、ほとんど問題はないが、心臓などの臓器には血液を介在して人間に毒性を持つウイルスが侵入することも考えられるだけに、現段階では、各国もブタの臓器の移植手術には慎重な姿勢を示している。 中国や米国では手術の実現を目指し、遺伝子操作でウイルスを無毒化したブタを誕生させ、そのブタのクローンブタを生産する実験に成功している。同紙は第4軍病院の関係者の話として、「ブタの臓器の移植は秒読みで、2年後の2019年には政府から許可がおりる見通しだ」と報じている。また、同紙は米国の研究者の話も紹介し、「ブタの心臓や肺などが人間に移植可能となれば、多くの命を救うことができるようになり、動物の組織を人体で利用するという、異種間移植への道が開かれることになる」との見通しを伝えている。関連記事■ 米での臓器移植金額、高騰させ日本人の渡航移植避ける思惑も■ 中国渡航の臓器移植500~1500万円 後ろめたかった人は2割■ キューバ 臓器移植技術高い上脳死状態の移植を大多数が承諾■ 6才未満の子供からの臓器移植 難しかった理由を医師解説■ 6才未満の子供の臓器移植について賛成派と反対派の意見紹介

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    米中5G戦争、ファーウェイの脅威

    中国通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)を排除する動きが米国主導で進んでいる。日本でも4月以降、政府機関や自衛隊が使用する情報通信機器から、同社と中興通訊(ZTE)の2社の製品を事実上排除する。背景にあるのは次世代通信規格「5G」をめぐる米中の覇権争いだが、今後どうなるのか。

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    「米国はもう崖っぷち」5G戦争、ファーウェイ排除のウラ側

    山田敏弘(国際ジャーナリスト) 米国の対イラン制裁に違反したとしてカナダ司法省が中国通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)の最高財務責任者(CFO)兼副会長である孟晩舟(モウ・バンシュウ)氏を逮捕してから2カ月がたった。 孟氏は昨年12月11日に1000万カナダ・ドル(約8億5000万円)の保釈金で釈放された後、現在もバンクーバーにある邸宅で、GPS(衛星利用測位システム)ブレスレットを足首につけた状態で監視下にある。自宅周辺に張り付いていたマスコミに孟氏がピザのデリバリーを振る舞い話題になったこともあった。 米国は1月末までに孟氏の身柄引き渡し要請を行う方針を明らかにしており、対立する米中、カナダの間で緊張が高まっている。今回は事件の背景を振り返りつつ、今後のファーウェイなどが絡む米中の覇権争いがどこに向かうのか、探ってみたい。 まず最初に、この件について知っておくべきことがある。今回騒がれた米中のサイバー空間における覇権争いは、今に始まった事ではないという事実だ。ファーウェイが米国などへ進出を始めた2000年代初頭から長年にわたって、同社と米国のせめぎ合いは続いてきた。今回、イラン制裁に絡む話が浮上したことで、米国がファーウェイを締め出す好機を得たということにすぎない。 そもそも米国が見据えているのは、ファーウェイや中国通信機器大手、中興通訊(ZTE)ではない。むろん、その背後にいる中国政府だ。 米国に言わせれば、中国共産党と人民解放軍、民間企業は一蓮托生(いちれんたくしょう)である。軍のハッカーなどが世界から知的財産や機密情報を盗み、それを民間企業に漏洩するという流れがあるとの見方もある。 米国家安全保障局(NSA)の元幹部、ジョエル・ブレナー氏は筆者の取材に、グーグルの検索エンジン技術の「ソースコードが、中国に盗まれてしまっている」と語っている。また、米ニューヨーク・タイムズ紙のデービッド・サンガー記者も、中国は盗んだグーグルのソースコードで「今は世界で2番目に人気となっている中国の検索エンジンである百度(バイドゥ)を手助けした」と指摘している。 つまり、こうした政府系ハッカーらによるサイバー攻撃が、中国系企業を下支えしてきたともみられている。いや、それだけではない。軍事機密も盗んでおり、戦闘機や潜水艦の設計図なども盗み出すことに成功しているのである。モスクワでのフォーラムでプーチン大統領(左)と同席する華為技術(ファーウェイ)の孟晩舟副会長兼最高財務責任者(CFO)=2004年10月(ロイター=共同) 中国ではもともと、民間企業であっても政府の命令には従う必要があった。米高官や外交官らが中国を訪問し、民間のホテルに泊まれば当たり前のように盗聴器が仕掛けられているという類いのエピソードは、何度も米政府機関関係者などから聞いたことがある。しかも中国は最近、それを明文化した法律も制定している。2017年に施行された「国家情報法」がそれであり、民間企業も個人もすべて政府が行う情報活動に協力しなければならない、という決まりを徹底している。 こうしたことから、米国は長年ファーウェイなどが米企業などの知的財産を盗んでいると批判し、政府のために機密情報などをスパイする可能性を指摘してきた。そして最近になって、米国が本気で中国製品を排除しなければならない事情も浮上してきた。5G(第5世代移動通信システム)のインフラ機器やスマホの分野における中国企業の台頭である。情報の掌握を狙う中国 5Gは、現在の100倍とも言われる超高速のシステムであり、それが普及すれば、世界は一変すると言っていい。全てがIoT(モノのインターネット)などでつながり、ほぼすべての情報がデジタル化され、ネットワーク化される。すなわち、個人情報から軍事機密まで莫大(ばくだい)な多種多様のデータを運ぶ通信インフラを支配できれば、情報を思いのまま手に入れることができるというわけだ。 中国はファーウェイを介して、その5Gインフラを世界中に安価で提供し、シェアを広げようとしている。つまり、データが行き来するサイバー空間の覇権、ひいては世界における情報の掌握を狙っている。中国は80年代後半の段階から「情報を制するものは世界を制する」と考え、インターネットの検閲といった支配権なども「情報戦争」の一環と捉えてきた。最近、国家戦略としている「製造業2025」の核として中国製の5G機器などを世界で広めようとしているのは、そうした背景からだ。 一方の米国を中心とする欧米側は、世界を一変させる5Gインフラ市場で劣勢にある。少し前に筆者が米政府関係者から手に入れた60ページほどの米政府公式文書によれば、「ファーウェイは(通信の基地局などの世界的シェアを高めていることから)インフラそのものになりつつある。シェアの拡大に成功し、特に途上国ではそれが顕著である。ただ、米国のような先進国はそれを許してはいけない。ファーウェイがインフラになれば、中国のインテリジェンス(スパイ)活動につながっていくからだ」とした上で、こう警戒する。「米国は今、崖っぷちにある。情報化時代の未来を率いるか、もしくは、サイバー攻撃の渦から抜け出せなくなる」 こうしたせめぎ合いから、米国は実際に中国企業であるファーウェイなどの排除に乗り出し、同盟国にもファーウェイ製品の禁止措置を取るよう促してきた。事実、オーストラリアやニュージーランドはすでに5Gのインフラからファーウェイ製品を締め出す措置を決めているし、英国の電気通信社も同社製品を禁止にした。カナダはファーウェイの社員がスパイ工作に関与している可能性があるとして、ビザの発給を拒否したこともある。 その一方で、中国を目の敵にしている当の米国も、これまでサイバー空間でスパイ工作を繰り広げてきた国の一つである。中国・深圳市でメディアの取材に応じるファーウェイ創業者の任正非氏=1月15日(AP=共同)  米国家安全保障局(NSA)はファーウェイを脅威と警戒し、創業者である任正非(レン・ジェンフェイ)CEOを2009年頃からハッキングによって監視。その作戦は「ショット・ジャイアント」と呼ばれ、NSAは内部情報や同社製品のソースコードまで入手していた。さらにスパイ工作という意味で言えば、米国は例えば「エックスキースコア」という監視システムなどで世界中の人々のネット上での活動を、日本も含む世界150カ所の収集拠点で集めて監視してきたし、中国メディアは中国を狙うサイバー攻撃は米国からのものが最大であると指摘している。 このように、サイバー工作をめぐる対立は水面下で続いてきた。では5Gの登場で今後、この攻防はどう展開していくだろうか。米国政府のプレッシャー まず、日本が排除を発表するに至ったように、今後も米国と同じ価値観を共有する国々の間で、ファーウェイ排除の流れが続く可能性は避けられないだろう。 現時点では、ファーウェイの禁止に乗り出した日本(各省庁や自衛隊)を含む国々では、排除対象は基地局やルーターなどに使われるファーウェイ製品であり、スマートフォンやタブレットまでは対象になっていない。ただ今後、これらの国では、政府関連の事業やプロジェクトに関与する際には、民間企業であってもファーウェイの機器は使えないようになっていく可能性があるし、関係者もスマホやタブロイドを使うわけにはいかなくなるだろう。 例えば日本では排除の対象をインフラ事業者まで広げるとの話も出ているが、そうなればさらにインフラ事業にも携わる多くの人たちがファーウェイのスマホなどを使っていられなくなるだろう。こういう形で、結果的にすべてのファーウェイ製品が使われなくなっていく可能性は高い。 さらに言えば、米国のイラン経済制裁を破った容疑という「威力」は大きい。世界的に見ても、制裁違反をするファーウェイとのビジネスを控えなければ、米国企業とは取引ができないという現実に直面しかねない。世界中でファーウェイとの取引を控える動きが起きるかもしれない。例えば、世界的な大手銀行は既にこの動きを見せている。イラン制裁違反に絡んで、英金融大手HSBC銀行やスタンダードチャータード銀行などは米国政府からのプレッシャーなどもあってファーウェイとのビジネスを制限してきた。それが最近では、シティバンクなども今後の対応を検討していると言われている。 むろん、こうした動きに中国政府もファーウェイも、黙ってはいない。 中国政府は孟氏の逮捕以降、中国国内でカナダ人を13人拘束し、そのうち5人ほどは今も釈放されていないとみられている。いずれも取ってつけたような容疑であり、ピーター・ナバロ米大統領補佐官(通商担当)が「中国らしいやり方だ」と言及したように、報復措置であることは明らかだ。また今後、中国政府が米通信機器メーカーを中国市場から締め出す報復措置を取る可能性を指摘する声もある。中国広東省深圳にあるファーウェイの本社 (GettyImages) また、米国内で米政府と対峙(たいじ)するための法務チームの強化も行っているし、同社は「われわれは世界をリードしている」「他国の安全保障に対して脅威になっているという証拠はない」と強気を崩さない。さらに任CEOが珍しくメディアの取材に応じ、中国当局にデータを提供することはないと主張している。 日本でも、ファーウェイ側は疑惑を否定する声明を発表して対抗している。「(ファーウェイ製品を)分解したら余計なものが入っていた」「スパイウェアのような動きをする」という日本のメディア報道が事実誤認であると指摘し、法的措置に乗り出すとも発表している。いち早くファーウェイ離れ ところで、実際に同社の製品が何らかの「怪しい動き」をすることは考えられるのだろうか。先日、筆者はネットテレビ「Abema Prime」に出演し、そこで実際に解体されたファーウェイのスマホを目にする機会があった。というのも、「スマホ分解のプロ」という専門家が番組の始まる前に実際に解体してファーウェイのスマホに「おかしなもの」が入っていないかを確認したのである。その結論は「余計なものは見つからなかった」というものだった。 とはいえ、筆者は以前、ある欧米諸国の情報機関関係者から、政府系通信会社が市民に提供する機器にチップを埋め込む工作を担当していたという話を直接聞いたことがある。また、米政府も国外の要人に対して同様の工作を仕掛けていたことが明らかになっているし、中国が数年前に米IT企業が使うサーバーに製造過程でチップを埋め込んでいたという疑惑も、米メディアで大々的に報じられて物議を醸したばかりだ。 もっとも、今はチップをわざわざ仕込むような時代ではない。「チップを使う」というやり方はいかにも古い工作という印象で、今もやっているとは考えづらい。今なら、電子機器のプログラムに後でアクセスできるような、いわゆるバックドア(裏口)を埋め込んでいたり、何らかのマルウェア(不正プログラム)を入れておいた方が手っ取り早いだろう。 いずれにしても「ファーウェイ製品が怪しい」と見られてきたことは紛れもない事実だ。最近話を聞いた国際的大手企業の元サイバー担当者は、こんな発言をしていた。「2014年にオーストラリアの大手企業が会社のネットワークからファーウェイ製品を介して不正にデータが中国に送られていることに気がついたんです。それ以降、オーストラリアは政府関係機関や大手企業にファーウェイ機器を使わないよう非公式に通達していた」 2018年8月にファーウェイとZTEを5Gインフラから排除したオーストラリアでは、2014年の時点で既に非公式にファーウェイ排除の方向に舵を切っていたという。※写真はイメージです(GettyImages) いずれにせよ、これまで各地で続いてきた動きからも分かる通り、ファーウェイをめぐる話はハイテク産業における中国のビジネス的な台頭を米国が押さえつけようとしている、という単純な話ではない。次世代の覇権と安全保障に深く関わる話である。それゆえに、米中両国は一歩も譲歩できない。少なくとも米国は今後も、引く構えをみせることはないだろう。 今、欧州や南アジアなど世界中の国々がファーウェイとどう付き合っていくのか検討が行われている。5Gをめぐる米国vs中国の攻防は引き続き、世界を巻き込んで激化していくはずだ。■習近平「終身独裁」で中国の自滅は確実になった■「習近平の独裁に黙っていない」中国ネットユーザーのあくなき闘い■米露を呑み込む中国の「一帯一路」 巨大利権に潜む習近平の大戦略

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    ファーウェイ敵視にも動じない中国「祖流我放」の冷めた感覚

    している、と素朴に信じている点で、日本人は最も楽天的な国民かもしれない。だから、「米国の法が正義で、中国は法治国家ではない」と考えているとしたら、大きな勘違いだ。 中国の通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)の孟晩舟(モウ・バンシュウ)副会長兼最高財務責任者(CFO)がカナダで逮捕されたのに続き、今度は中国で元外交官、マイケル・コブリグ氏らカナダ人3人が中国で拘束された。さらには遼寧省の大連市中級人民法院(地裁)が、薬物密輸罪に問われたカナダ人男性の差し戻し審で、死刑判決を言い渡した。2010年、日本の海上保安庁が尖閣諸島付近で操業中だった中国漁船の船長を逮捕し、その報復として、中国側が準大手ゼネコンのフジタの社員4人を「軍事管理区域の違法撮影」で拘束した事件が思い起こされる。 当時、奥歯に物の挟まったような日本司法当局の「超法規的措置」によって、釈然としないまま船長が釈放され、福建省に送還された。同じように今回、カナダ政府を巻き込んだ米中の「場外乱闘」について、法と証拠を持ち出して解説しても大きな意味はない。ハイテクと経済の覇権をめぐる「パワー・ゲーム」なのだから、最後はハード、ソフトの力関係と体面の保持、そして損得に基づく駆け引きで落としどころを見つけるしかない。2018年12月、カナダ・バンクーバーで、警備員に付き添われ司法関連施設に着いたファーウェイ副会長兼CFOの孟晩舟容疑者(Darryl Dyck/The Canadian Press提供・AP=共同) この点で中国のインターネット言論はたくましい。米国からの奇襲に対する中国政府の報復を受け、たちまち広まった言葉は「祖流我放」だ。「祖国も流氓(ヤクザ者)なので我(私)は放心(安心)だ」との意を四字熟語で表したものだ。 いくら中国の外務省や共産党機関紙『人民日報』が法や人権、道義や文明を説いて舌戦を交わそうと、内実は「仁義なき戦い」でしかない。そんなことはとうにお見通しなのだ。ここ数年で何かが変わった 国家が責任逃れのために持ち出す「自己責任」のルールの前に、皆が目隠しをして、微小な個人の存在を顧みもしない冷酷非情な国とはわけが違う。同じことがもし日本で起きたら、政府もメディアも含め、まずは重箱の隅を突くように違法性を詮索(せんさく)するに違いない。わずかでも個人に落ち度が見つかれば、たちどころに自己責任論が登場する。フジタ社員が拘束されたあのときと同じように。 中国ではこうした物言いを「法匪(ほうひ)」と言って蔑(さげす)む。秦(しん)の始皇帝が法家を重用したことで敷かれた非情な圧政しかり、「革命」という名の裁きが人権を蹂躙(じゅうりん)した文化大革命もまたしかり。中国にあって、法は統治の手段でしかなかった。だからこそ、儒教の説く「情」が尊ばれ、「合情合理(情理にかなう)」こそが人の道とされる。「祖流我放」はそんな正直な感情を伝えている。 中国人は、漢字を巧みに操ることにかけて数千年の実績があるので、感心させられる表現にしばしば出会う。だが、冗談交じりに「祖流我放」とささやき合う人たちを見るにつけ、どこか、かつてとは違った印象を感じてしまう。 つい数年前まではこうだった。まずはネットで、傷つけられた民族感情を煽る刺激的な言論が沸騰する。糸に操られたように、怒れる愛国青年たちが外資の店舗や工場、外国大使館に結集する。「出ていけ」とヤジを合唱しているうちに、誰かが石を投げつけ始め、しまいには襲撃や強奪に発展する。だが昨今、そんな姿はすっかり影を潜めた。 中国社会で暮らしながら、ここ数年で何かが変わったと肌で感じる。 日中間においては、かつて首相の靖国神社参拝や尖閣諸島の領有権問題で大規模なデモが起きた。だが、物見遊山の群衆が、戦時中を彷彿(ほうふつ)させる「日本製品ボイコット」のスローガンを叫びながらも、キヤノンやニコンを手に記念写真を撮っている姿が揶揄(やゆ)された。しかも、大けがを負ったのは日本車を運転していた中国人で、破壊された日系スーパーの従業員も顧客もしょせんは中国人だ。 怒りと不満をぶちまけたものの、どこか消化しきれないものが彼らの胃の中に残っていた。事態が収束した後になって、決まって理性的な愛国を訴える声が後から追いかけたものの、過剰な熱情の前では焼け石に水だった。まるで言い訳のようにしか聞こえない知識人の発言も聞こえてきた。 ところが今回は違う。iPhoneをファーウェイの携帯に買い替えるように呼びかける動きが起きたものの、iPhoneを使っている若者が嫌がらせを受けたという話は聞かれない。私の周辺でも、学生が平気でiPhoneを使っているし、既にファーウェイの携帯を使っている学生にしても「こっちの方が使いやすいから」とあっけらかんとしている。2018年3月、中国深圳にある華為技術(ファーウェイ)の本社(AP=共同) つまりは、愛国主義ではなく、あくまで個人に重きを置く実利主義者なのである。直情的な愛国の表現は「酷(クール)」ではなく、斜に構えた方がイケているといった感じだ。流行り言葉でも、現代中国の若者は「仏系」と形容される。「まあね」「別に」「どちらでも」を連発し、自己主張が乏しく、冷めた感覚の世代である。「D&G叩き」にみる変化 マクドナルドやケンタッキー、スターバックスに群がり、ハリウッド映画を何より好む彼ら、彼女らに向かって、「アップルやマイクロソフトの製品を使うのは愛国主義に欠ける」などと言おうものなら、皆しかめっ面をするに違いない。愛国心は人一倍あったとしても、かつての激情タイプの人間は既に廃れ、どこかに余裕が生まれている。ここ数年の間に、少しずつそんな変化が生じているのである。 昨年11月末の出来事だが、イタリアの高級ファッションブランド「ドルチェ&ガッバーナ(D&G)」が、上海で予定していたイベントのPR動画を流した。ところが、到底高級ブランドとは思えない、中国の箸文化を茶化すだけの出来の悪い内容だった。中国のネット世論が非難を浴びせると、今度は同ブランドのデザイナー、ガッバーナ氏がインスタグラムで中国人を蔑(さげす)む下品な差別発言を重ねた。 D&Gの低俗さが露見し、さすがにブランド好きの中国人セレブたちも愛想を尽かした。中国人タレントが相次ぎD&Gとの決別を宣言し、ネットショッピングでも同ブランドは姿を消した。 さらに、本国ミラノのD&G店舗で中国人によるデモが起きたとのニュースが流れたことで、私は、中国でもショーウインドーのガラスが割られるぐらいの事件は起きるだろうと予想した。なにしろ、株が暴落しただけで、証券会社が投石を受けるお国柄なのだ。 だが結局、D&G叩きはネットの土俵に留まり、破壊活動など「場外乱闘」には発展しなかった。 中国の台頭や海外進出に伴い、各国との摩擦もしばしば起きている。9月にはスウェーデンの首都ストックホルムで、警官にホテルから排除された中国人観光客が過剰に反応し、国内の民族感情を刺激して外交問題に発展したばかりだ。中国人に対する偏見や差別的行為は全て「辱華事件」とレッテルを貼られ、たちどころに炎上するほど、中国のネット世論はデリケートになっている。 だが、よくよく考えれば、かつてのような過激な行動が見られないことに気づく。むしろ、現地のルールを守らない、中国人観光客の身勝手な振る舞いを反省する声が少なくない。悪意に満ちた一部の中国メディアがいくら民族感情を刺激しようと、それをストップさせる冷めた目が育っている。2018年11月、中国上海市の商業施設内にある「ドルチェ&ガッバーナ」の店舗(共同) 背景として指摘できるのは、中国が名実ともに米国に伍(ご)すことのできる唯一の大国として成長した自信である。国内に深刻な難題を抱えながらも、国内総生産(GDP)だけを比較すれば、中国はすでに日本の約3倍に達している。日本はもはや対抗や抵抗すべき羨望(せんぼう)の先進国ではなく、すでに対等の、あるいは乗り越えた周辺国の一つにすぎなくなった。たとえそれが幻想であっても、心理的効果は十分だ。 侵略を受けて半植民地となった弱小国から抜け出し、ようやく自力で世界と渡り合えるようになった。国家指導者がしばしば口にし、ネットの流行語にまでノミネートされたのは、国際戦略のキャッチフレーズ「運命共同体」である。簡単に言えば、「金持ちケンカせず」の域に達したということになる。途絶えた「反日デモ」 米中摩擦のさなか、南京事件記念日の前日にあたる12月12日、中国人民大政治学部の任剣濤教授の「報復心理によって形成された、中国の独善的な世界観は徹底して抑制しなければならない」と題する一文がネット上で流布した。被害者感情から他国を敵視するのではなく、理性的な世界観や、平等な契約に基づく国際関係の感覚を身につけなければならないと呼びかけた内容だ。これもまた大国としての自信に裏打ちされたものとみることができる。 もう一つ、忘れてはならないことがある。日本のメディアでは、反腐敗の政治闘争で実権を掌握した習近平国家主席を独裁者として伝える報道が圧倒的だろう。だが、習政権下で、それまで散々メディアを賑(にぎ)わせた、いわゆる「反日デモ」がパタリと途絶えたことはほとんど注目されていない。 国内をしっかり掌握した指導者の登壇は、中国でビジネスをする日系を含めた外資系企業にとっても、非常に歓迎すべきことのはずだ。だが、そろばん勘定をはじく人々はそんな恩恵に対して沈黙を守っている。 過去の大規模な「反日デモ」は、日本の国連安全保障理事会入りに反対した2005年、漁船船長の逮捕に端を発した10年、尖閣諸島の国有化に抗議した12年と、政権基盤の弱い胡錦濤前国家主席時代に集中している。 歴史的にみれば、抗日運動は1919年5月4日、山東省の権益を求めた日本の対華21カ条要求に抗議した「五・四運動」が始まりだが、当時も軟弱な中国政府を非難する側面が強かった。 特に日系のスーパーや工場が甚大な被害を受けた2012年のデモでは、共産党中央の規律調査を受けた元治安トップの周永康元党中央政法委員会書記(元党中央政治局常務委員)が、抵抗を示すため背後で糸を引いたとの見方が強い。デモの先頭に「便衣」(私服警官)がいたとの指摘もある。周氏は習氏を暗殺し、政権を転覆させるクーデターまで企図していた。 習氏はその後、周氏一派を反腐敗キャンペーンで根こそぎ摘発し、治安部門の実権を手中に収めた。最高指導部である常務委の定数を9から7に減らしたうえ、常務委に席のあった政法委書記を政治局員に格下げし、総書記自らが政法委を統括する体制を整えた。周氏の後ろ盾として、胡錦濤時代も院政を敷いた江沢民元国家主席の影響力は一掃された。 「反日デモ」を含め、民族感情を刺激する排外運動は動員力が強く、政権の抵抗勢力による反政府運動や政治闘争を誘発しがちだ。政権基盤が弱ければ綱渡りの内外政策を強いられる。裏を返せば、毛沢東時代がそうであったように、強力な指導者の下で、不規則な「現代版義和団事件」は起きない、というのが中国の政治力学だ。 指導者が毅然(きぜん)とした態度を取っている以上、メンツを立てて口出ししないのが中国人の発想である。だからこその「祖流我放」なのである。 国営新華社通信は「米中貿易戦争」の報道に際し、盛んに新造語の「共克時艱(きょうこくじかん)」をスローガンとして呼びかけている。「国家の艱難(かんなん)な時局に際し、民族が皆一つに団結して克服していこう」との趣旨だ。トランプ米政権の高圧的な態度に刺激されて、国内で急速に拡散し、国家政策だけでなく、一般企業でも「共克時艱」と愛社精神を呼びかけているのを耳にする。 つまり、ファーウェイ事件はタイミングよく「共克時艱」の契機をさらに提供したことになる。米国のスタンドプレーは、第三者の目にもフェアには映らない。敵に塩を送ったようなものだ。 興味深いのは、上からの「共克時艱」と、下からの「祖流我放」が絶妙なバランスを取っていることである。無秩序に見える中国のネット世論だが、数々の教訓を繰り返しながら、言論空間として少しずつ成熟しているようにみえる。習氏が旗を振って「国家の自信」を呼びかけているのは、まだ自信に欠けている証拠である。だが、いつの日か、本当の自信を身につけ、もはや「自信」を口にしなくなる日が来るだろう。握手するトランプ米大統領(左)と中国の習近平国家主席=2018年12月1日、ブエノスアイレス(新華社=共同) 「中国の言論は全て政府や党がコントロールしている」と思っている日本人がいるとしたら、相当、自国の「官製メディア」に毒されていると反省した方がいい。隣国の変わりつつある姿から目をそらし、旧体制の中に閉じ籠もっていては、いずれ自分たちの道を誤ることになる。今や、ファーウェイへの敵視を煽るトランプ大統領の「腹の底」を見透かし、中国側の対応をじっくり観察する態度が求められている。■ ファーウェイ通信網で「世界征服」狂気に満ちた中国の妄想■ 米中貿易戦争、トランプ流は「ニセモノ大国」の市場開放を遅らせる■ 中国を狙い撃ち「トランプ貿易戦争」の本気度

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    ファーウェイ阻止、米国の不信感が招く「5G時代」の暗い影

    佐野正弘(ITライター) 中国通信機器大手の華為技術(ファーウェイ)に関する動向が、日本でも大きな注目を集めている。発端となったのは、昨年12月にファーウェイの副会長兼最高財務責任者(CFO)である孟晩舟(モウ・バンシュウ)氏がカナダで拘束されたことだ。報道によると、米国が制裁を科しているイランとの取引に、孟氏が関与したというのがその理由とされており、拘束は米国の要請によるものだという。今年に入って、米国がカナダ政府に対し、孟氏の身柄引き渡しを正式に要請する方針を伝えたと報じられている。 その影響は米国の同盟国である日本にも飛び火したようで、米国の要請を受ける形でファーウェイなど中国企業の製品を政府調達から排除する方針を固めたと報じられている。2018年12月10日、政府は「IT調達に係る国の物品等又は役務の調達方針及び調達手続に関する申合せ」を打ち出した。その中に具体的な企業名は記されていないものの、これがファーウェイや中興通訊(ZTE)など中国の通信機器メーカーに対するセキュリティー上の懸念を念頭に置いた内容とみられている。 さらに、携帯電話大手3社も携帯基地局などのネットワーク設備から今後、中国製品を除外する方針を固めたと報じられた。こちらに関しても各社は直接的な言及を避けているが、「政府の方針に準拠する」(ソフトバンク)などと方針を示している。また、今年の携帯電話事業参入を予定している楽天の三木谷浩史会長兼社長は、12月7日に中国メーカーの通信機器を「現在のところ使っていない」と述べている。 これから莫大(ばくだい)なコストを掛けて全国に通信網を整備する新規参入事業者にとって、本来であれば低価格ながら高い性能を持つ中国メーカーの通信機器は非常に魅力的なはずだ。実際、日本でも比較的規模が小さい事業者を中心に、中国メーカーの通信機器を多く採用してきた時期がある。 2007年の新規参入事業者であるイー・アクセスは、携帯電話サービスへ参入する際にファーウェイの通信機器を採用していた。また、2010年に経営破たんしたPHS(簡易型携帯電話)事業者のウィルコムも、「次世代PHS」の導入に向けてZTEと提携し、同社の通信機器の採用を進めていた。ちなみに、両社はいずれも現在のソフトバンクへと吸収されており、それがソフトバンクと中国メーカーとの関係が強まった要因の一つとなっている。 にもかかわらず、楽天は新規参入にあたって中国メーカーではなく、フィンランドのノキア製の通信機器を採用している。そうした現状を見ても、中国メーカーが今、日本の携帯電話事業者に入り込みにくくなっていることをうかがい知ることができる。 では、実際のところ、今のファーウェイ製品にセキュリティー上の何らかの問題が起きているのか、というと実はそうではない。2018年12月、東京都内に掲示されているファーウェイのスマートフォンの看板(早坂洋祐撮影) 携帯電話のセキュリティーに関する問題例の一つとして「バックドア」が挙げられる。これは、特定の人だけが通信できる「裏口」を、製品にあらかじめ組み込んでおくという仕組みだ。例えば、携帯電話のネットワークを構成している機器にバックドアが仕込まれていれば、バックドアを仕込んだ人物が通信内容を容易に傍受できてしまうため、セキュリティー上大きな問題となるわけだ。 確かに、過去中国で製造されたスマートフォンのソフトウエアに、バックドアが仕込まれていたという事例が報告されていることから、懸念を抱く人もいるだろう。だが、これまで少なくとも日本国内においては、ファーウェイ製のスマホや通信機器からバックドアが見つかったという確固たる事例はない。ファーウェイ側も海外進出にあたっては、顧客からの信頼性を重視して、セキュリティーや安全性に関して相当の配慮をしていると、過去に筆者が取材した関係者も話している。トランプの「強い危機感」 裏を返せば、そうした具体的なセキュリティーの問題が見つけられないからこそ、米国側はファーウェイの機器が広まることを阻止するため、政治的な手法に出ざるを得なかったとみることもできよう。では、なぜそこまで強固な姿勢を打ち出し、米国がファーウェイ製品の普及を阻止しようとしているのか。一言で表すならば、やはり「5G(第5世代移動通信方式)」ということになるだろう。 なぜ5Gが重要かと言えば、携帯電話のネットワークが従来通りコミュニケーションを支える存在としてだけでなく、社会基盤を支えるネットワークインフラとして活用される可能性が高いからだ。 5Gは通信速度がより高速になるだけでなく、ネットワーク遅延が非常に小さく通信による「ズレ」が発生しないこと、そして一つの基地局に多くのデバイス(機器)を同時に接続できることの三つが、大きな特徴となっている。それらの特長を生かすことで、遠隔医療や自動運転、さらにはIT技術を活用して街全体を効率化するスマートシティー(環境配慮型都市)の実現など、幅広い用途に5Gネットワークが用いられると考えられている。 そうなると、携帯電話ネットワークのセキュリティーも大きく変わってくる。4Gまでのネットワークであれば、スマホの中に保存された情報や、通話やメールのやり取りが盗まれるなど、あくまで個々の利用者に対するセキュリティーにさえ配慮していればよかった。だが、5G時代に入り、社会を支える基盤にまで携帯電話のネットワークが入ってきたとなれば、そこに障害が起きたり、セキュリティー上の問題が発生したりした場合は社会全体に影響を及ぼすことになる。 ファーウェイ事件が浮上したのと時を同じくして、ソフトバンクが約4時間にわたってネットワーク障害を発生させたことが、多くの人々の生活や企業活動に影響を与える問題となった。現在でも、これほどの大きな混乱が起きているのだから、「5G時代」になればネットワーク障害の引き起こす混乱の規模が、より大きくなることは想像に難くない。 しかも中国は今、多くの企業が世界的に躍進していることもあって、携帯電話産業に非常に力を入れている状況だ。中でも、ファーウェイは通信機器メーカーとして首位を獲得しているし、スマホ販売でも、昨年米アップルを抜いて出荷台数シェア2位に躍り出るなど非常に勢いがある。 一方で米国には、スマホの基本ソフト(OS)を司るアップルやグーグル、そして携帯電話向けのチップセットを開発しているクアルコムなどがあるものの、通信設備に関しては大きな存在感を発揮できていない。それだけに5Gによって携帯電話のネットワークがより大きな存在になろうとしている中、ネットワークインフラ面で強みを持たず、他国の企業に頼る必要がある米国は、強い危機感を抱くようになったのではないだろうか。 ゆえに、今後も技術的に明確な根拠がないまま、ファーウェイに対する米国の不信感が続く可能性が高い。残念ながら、その影響が携帯電話市場全体に暗い影を落とす可能性は否定できないだろう。2018年11月、中国浙江省で開催された世界インターネット大会で、AIやビッグデータを利用した都市管理システムについて説明を受ける来場者(左、共同) ファーウェイはスマホや通信機器を開発する上で、米国企業から多くの部品を調達しているし、ファーウェイ製スマホが採用しているOSも米国製のアンドロイドをベースにしたものだ。それゆえ、もし米国が、2018年4月にZTEに米国企業との取引禁止を命じた制裁を、ファーウェイにも科したとなれば大きな打撃を受けるのは必至だろう。 だが、その打撃はそのまま部品やソフトウエアの販売が滞るなどして、米国経済にも大きな影響を与えることとなる。また、それに対して中国側が何らかの対抗措置を取った場合、米国企業の多くが中国で製造しているiPhoneなど多くのデバイス供給にも大きな影響が出る可能性がある。実質的に依存関係にある二つの大国が、対決姿勢を強めるほど市場全体が停滞するだけに、速やかに何らかの形で折り合いをつけてくれることを望みたいところである。■ ファーウェイ通信網で「世界征服」狂気に満ちた中国の妄想■ 米中貿易戦争、トランプ流は「ニセモノ大国」の市場開放を遅らせる■ 中国を狙い撃ち「トランプ貿易戦争」の本気度

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    トランプがファーウェイ幹部を捕らえた本当の理由

    (明治大学教授、心理学博士) 今回のテーマは、「ファーウェイ事件とトランプ流ディールパターン」です。中国の通信機器大手「華為技術(ファーウェイ)」の孟晩舟副会長兼最高財務責任者(CFO)が12月1日、米国の要請によりカナダのバンクーバーの空港で逮捕されました。孟副会長は同月12日に釈放されましたが、イランとの違法取引を行うため、米金融機関に虚偽説明をした疑いがもたれています。 ところが、米国の孟氏逮捕の本当の理由は別のところにあるようです。本稿ではファーウェイ事件における同国の思惑と、ドナルド・トランプ米大統領のディールパターンを中心に述べます。 ハイテク通信機器の分野で大躍進を遂げているファーウェイは、中国政府及び軍と連携をしており、純粋な民間企業ではありません。この分野で覇権を握る野望を抱いている習近平中国国家主席にとって、ファーウェイは中国企業の中で最重要企業の位置づけといえます。 少々乱暴な言い方ですが、米国はその企業の孟副会長を無理やり逮捕したのです。というのは、米国にとって種々のメリットがあるからです。 例えば、ファーウェイの企業イメージが低下します。さらに、米国はファーウェイの通信機器を使用すると、基地局を通じて機密情報が抜き取られる、大量のデータが盗まれるといった恐れがあると、世界に向かって警告を発することができます。 確かに、2017年の基地局市場におけるファーウェイのシェアは第1で、27.9%を占めています。従って、ファーウェイは米国の安全保障上のリスクを高める存在になり得ます。 そこで、米国はファーウェイは危険な企業であるというレッテルを貼り、同社に対する人々の警戒心を高め、不安を煽っています。ハイテク通信機器の分野で台頭するファーウェイを叩くためのストーリーを仕立てたわけです。米中首脳会談を行ったドナルド・トランプ米大統領=2018年12月1日、アルゼンチン・ブエノスアイレス(新華社=共同) つまり、制裁が科されているイランとの不正取引は表向きの理由であって、本当の理由はファーウェイ進出の阻止にあるのです。 トランプ大統領にもメリットが存在します。中国との通商協議において、孟氏を交渉材料として利用し、多くの譲歩を引き出すことが可能になりました。トランプ氏の視点に立てば、孟氏は中国に対して非常に価値の高い交渉カードです。トランプの筋書 これまでトランプ大統領は、欧州連合(EU)及び日本に対して、安全保障問題と通商協議をリンクさせて交渉を有利に進めてきました。日本に対する米国製武器購入の圧力は、正に安全保障と対米貿易不均衡の是正の双方を狙ったものです。 今回、トランプ大統領は新しい交渉の組み合わせによって、中国に対して貿易交渉で有利な立場に立とうとしています。ロイター通信とのインタビューで、孟副会長逮捕に対する介入を示唆しました。その裏側には、中国に対して刑事事件と通商協議を結びつけて、貿易交渉で中国から譲歩を引き出す意図があります。 因みに、米中貿易協議において対中強硬派のロバート・ライトハイザー米通商代表部(USTR)代表は、米CBSテレビのインタビューの中でファーウェイ事件に関して、「刑事司法上の問題と通商協議は別物である」と述べ、トランプ大統領とは異なったアプローチを望んでいます。 では、トランプ大統領は具体的にどのようにして刑事事件と通商協議をリンクさせるのでしょうか。トランプ氏が描いている可能性がある筋書を1つ紹介してみましょう。 トランプ大統領はカナダ政府に対し孟副会長の身柄引き渡しを強く求めます。最終的には、カナダの裁判所が身柄引き渡しを審査し、決定するわけですが、仮に実現すれば舞台はニューヨーク連邦地裁に移ります。米国で、孟副会長は有罪になり、禁固刑が言い渡されます。 もしそうなれば、この時点で米中関係はかなり悪化しているでしょう。そこでトランプ大統領は、習主席のメンツを保ち、貸しを作るために、孟副会長に恩赦を与えます。そうすることで、通商協議で中国から最大限の譲歩を引き出せます。これがトランプ流のディールパターンです。※写真はイメージです(ゲッティイメージズ) 以下で、トランプ流パターンについて詳細に説明しましょう。 トランプ大統領には、ディールパターンが存在します。まず、自ら交渉相手に仕掛けていきます。米中貿易戦争では、トランプ氏から中国製品に対して追加関税をかけました。 次に、対決姿勢をとり、事態をエスカレートさせ、意図的に危機的状況を作ります。問題解決の糸口が見えないため、交渉相手を含めたステークホルダー(利害関係者)は不安に駆られます。日本には好都合 ところが、緊張が高まりピークに達すると、トランプ大統領は対決姿勢を弱めて、一旦引きます。例の中国に対する90日の猶予が、これに当たります。アルゼンチンの首都ブエノスアイレスで12月1日、米中首脳会談を開催した際、中国製品に対する新たな追加関税の延期及び90日の通商協議の開始に合意しました。 トランプ氏との全面対決の回避を探っている交渉相手は、ほっと安堵の胸をなでおろします。このタイミングを狙って、トランプ氏は相手から多くの譲歩を引き出すわけです。 最後にトランプ大統領は「勝利宣言」を行います。バラク・オバマ前大統領、ジョージ・W・ブッシュ元大統領、ビル・クリントン元大統領など歴代の米大統領が成し得なかった偉業を自分は達成したと豪語するのです。 では、トランプ大統領は中国に与えた90日の猶予が終了する19年3月1日に、米中貿易戦争の勝利宣言を行うのでしょうか。率直に言って、その可能性は低いといえます。 知的財産権侵害、強制的技術移転、中国政府による企業への巨額の補助金、米軍へのサイバー攻撃など課題が山積しており、これらを90日間の通商協議で、すべて解決することは極めて困難だからです。しかも、中国側がこれらの諸問題に対して、トランプ大統領が満足できる提案を出せるかは、まったく不透明です。 加えて、20年米大統領選挙も絡んできます。米中貿易戦争に勝利して、次の大統領選挙に立候補する民主党候補及び共和党候補にはない業績作りをしたいトランプ大統領ですが、19年3月1日に勝利宣言を行うのはあまりにも早すぎます。というのは、再選を狙った大統領選挙は20年11月3日だからです。米中首脳会談の成果を伝える3日付の中国紙・人民日報と環球時報(西見由章撮影) 米中貿易戦争は、大統領選挙の期間、トランプ大統領にとって支持基盤にアピールできる好材料です。そこで、トランプ氏は中国に対する対決姿勢の強弱を巧みに使い分けながら、米中間に横たわる諸問題の解決を引き延ばしていく可能性が高いでしょう。 それは中国にとって非常に厄介な問題ですが、逆に日本にとっては好都合なことです。仮に来年の3月1日に米中貿易戦争における勝利宣言を行ってしまえば、トランプ大統領は20年大統領選挙に向けて日米自由貿易協定を業績の一つに掲げようと、日本に対して同協定の締結を本格的に迫ってくるからです。 結局、孟副会長逮捕と米中貿易戦争の行方は、日米貿易問題に影響を及ぼすということです。たとえ日本が次の標的になっても、トランプ流ディールパターンを見抜けば、同大統領の言動に対して不必要な過剰反応を示す必要はないでしょう。うんの・もとお 明治大学政治経済学部教授。心理学博士。アメリカン大学(ワシントンDC)異文化マネジメント客員研究員(08~10年、12~13年)。専門は異文化間コミュニケーション論、異文化マネジメント論。08年及び12年の米大統領選挙においてオバマ陣営にボランティアの草の根運動員として参加。16年米大統領選挙ではクリントン陣営に入る。著書に「オバマ再選の内幕―オバマ陣営を支えた日本人が語る選挙戦略」(同友館)など多数。

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    「日本人に感謝」の裏に潜むファーウェイ副会長の本音

    an Press、AP=共同) 今回はファーウェイに関連して、私はふとある古い報道記事を思い出した。中国の大手経済紙「第一財経日報」に掲載された1本の論説、「『情・理・法』と『法・理・情』」。その一節を訳出する――。「中国大陸で20年以上も事業を経営してきたある香港人企業家が中国と香港の比較をする際にこう語った。中国大陸と香港は、どちらも法律、人情と道理を重視するが、ただしその順序と比重がまったく異なる。中国は『情・理・法』 香港の順序は、『法・理・情』。まず法律を重視する。企業は法律の保障を得ながらも、これらをすべて使い切ることはしない。法律を見渡して(契約の)合理性があるかないか、さらに人情があるかないかを検討し、相手方がより納得して受け入れられるように工夫するのである。 しかし、中国大陸の順序は、『情・理・法』。まずは情。親戚や知人、元上司がいるかどうかを見る。いると、理を語る番になる。理に適っていればいいのだが、理がない場合はどうするかというと、情さえあれば、無理して理を作り出し、理を積み上げ、『無理』を『有理』に変えていくのである。情があって、理があって、そこでやっと法の順番が回ってくる。法は重要だ。適法なら問題なし、みんながハッピー。違法の場合はどうするか。それでも大丈夫、法律ギリギリすれすれのグレーゾーンで何とかする。それでも難しいようであれば、みんなでリスクを冒して一緒に違法する。法は衆を責めず、法律は、みんなで破れば怖くない。(中国大陸には)数え切れない『情』があって、説明し切れない『理』がある。これらが法の均一的な実施を妨害し、法体系を弱体化させ、規則の整合性を破壊する。法の実施は人治に依存し、人の主観によって規則も変わる。法治の躯体に人治の魂が吹き込まれ、法の形骸化に至らしめる。中国の社会や経済の矛盾は、法の意志を無視し、法治を基本ルートや最終的解決法としないところから生まれる。いわゆる人情や調和に価値を追求すればするほど、適正な目的に背馳し、縦横無尽な悪果を嘗め尽くすことになる」(以上引用・抄訳) 孟氏の日記は、「日本でこんなに良いことをやったのだから、私は犯罪に及ぶ悪人ではない。人情のある善人だ。信用されてもいいはずだ」と言わんばかりのニュアンスである。しかし、既述した通り、文脈における主体である会社と個人、その所為の無関連性が明らかであって、論理がすでに破たんしていた。 つまり、「情」に訴えようとしたところで、「理」が破たんしたのである。裏返せば、理がそもそも破たんしていたのだから、情に訴えざるを得なかった。そういう状況だったかもしれない。2018年12月、中国・北京の華為技術(ファーウェイ)の店舗でパソコンを見る客(AP=共同) 気がつけば、孟氏のカナダでの逮捕は法律案件であって、「法」次元の話ではないか。さらに言ってしまえば、量刑にあたっての情状酌量の段階でもないのに、「情」や「理」を差し挟む余地はないだろう。たちばな・さとし エリス・コンサルティング代表・法学博士。1964年生まれ。早稲田大学理工学部卒。LIXIL(当時トステム)東京本社勤務を経て、英ロイター通信社に入社。1994年から6年間、ロイター中国・東アジア日系市場統括マネージャーとして、上海と香港に駐在。2000年ロイター退職後、エリス・コンサルティングを創設、代表兼首席コンサルタントを務め、現在に至る。法学博士、経営学修士(MBA)。早稲田大学トランスナショナルHRM研究所招聘研究員。

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    ファーウェイCFO逮捕の日に中国物理学の権威はなぜ急死した

     カナダ当局による中国の通信機器メーカー、華為(ファーウェイ)技術の孟晩舟(もうばんしゅう)CFO逮捕を機に、中国企業と中国共産党及び人民解放軍の関係性に改めて注目が集まっている。中国の闇を“知りすぎた男”郭文貴(かくぶんき)氏は、何を話すか。* * * 日本の友人たちよ、ご機嫌はいかがだろうか? 私が郭文貴だ。本日はバカンス先のフロリダ州パームビーチから失礼する。 まずは近況からお伝えしよう。2018年12月20日、私はトランプ政権の元首席戦略官で友人であるスティーブン・バノン氏と、大規模な記者会見を開いた。 その内容はまず、『SAPIO』誌の連載でも言及してきた、中国大手航空グループ・海南航空集団の王健会長がフランスで不審死した件についてだ。本件について私は米国をはじめ各国に情報を提供しており、真相はすべて明らかとなるであろう。 また、私は会見において中国共産党の世界的拡張政策、すなわち軍拡や経済侵略・スパイ活動といった任務を担う、10社近い中国企業について実名を挙げて告発させていただいた。  すなわち、通信機器大手のファーウェイ、IT大手のテンセントやアリババ、総合企業グループの保利集団、前出の海南航空集団、保険や金融大手の平安保険グループ、軍事企業の中国兵器工業集団などの面々だ。 彼らはみな、企業の名を隠れ蓑に中国共産党に奉仕し、その海外活動において人民解放軍や中国外交部の手厚い保護を受け、また中国国家の金融政策のもとで庇護されている連中である。目下、世間の注目を集めているファーウェイCFO・孟晩舟のカナダでの逮捕事件も、そうした陰謀のなかに位置付けられている。 ファーウェイをはじめとした中国ハイテク産業の大手企業の性質を知る上で、注目するべきは、中国の核物理学の権威で米国スタンフォード大学教授であった張首晟(ヂャンショウチェン)の急死事件だ。 彼はファーウェイの孟晩舟の逮捕と同日(12月1日)に不審な「自殺」を遂げた。張首晟は単なる学者ではなく、中国国家や党内の一部派閥、軍との距離が極めて近い人物であった。※写真はイメージです(ゲッティイメージズ) 中国は世界中のハイレベル人材を自国内に招聘する「千人計画」を2008年から実施している。巨額の報酬と引き換えに、国際的な影響力を持つ科学者らを中国共産党に仕えさせる計画であるとご理解いただければよい。これはもともと「百人計画」といい、江沢民政権下の1994年に端を発する。張首晟は千人計画の事実上の創始者であった。 千人計画は習政権が2015年に掲げた中国の産業政策「中国製造2025」も下支えしている。中国製造2025、すなわち中国共産党による科学分野での野心的な世界征服計画の中心人物の一人が張首晟だったのだ。彼や一部の在米中国人科学者たちは、海外名門校の研究者としての社会的信用を隠れ蓑とし、党の科学スパイ政策の担い手となっていたのである。 張首晟と党との距離の近さを示す事例を紹介しよう。彼は少し前に、中国国家への貢献が極めて大きな人物に与えられる国家一等貢献賞を受賞している(訳者注/2012年ごろ受賞。アリババ会長〔当時〕のジャック・マーやファーウェイCEOの任正非(レンデェンフェイ)らも受賞したとされる)。仕組まれた「自殺」◆自殺をするとは信じがたい なお余談だが、実は私も過去に2回ほど、(中国政府と)ダライ・ラマとのパイプを作ったり中英関係を修復したりした功績で国家一等貢献賞にノミネートされたが、受賞は拒否させていただいた(笑)。だが、中国政府との距離感の近さを客観的に証明するようなこの賞を、張首晟は辞退しなかったのだ。 なぜなら彼は千人計画の中心人物で、多くは党員でなければなれない中国科学院のメンバーだ。中国の国家的プロジェクトを担う、体制内にどっぷり浸かった人物だったからである。 張首晟の「自殺」は中国共産党により仕組まれたものだ。〈郭文貴氏の口ぶりは、ファーウェイの全貌を知る張氏が、米当局から捜査を受けて情報提供することを恐れ、「口封じ」のために殺されたと言わんばかりである。> 彼は敬虔なキリスト教徒で、明るい性格の人物であり、自殺をするとは信じがたい。もっとも張首晟が「自殺」させられたからといって、彼を党の被害者だと考えるのは間違っている。彼自身が党の陰謀の内部の人間だったのだから。 上海の名門校・復旦(ふくたん)大学の出身でもある張首晟は、特に党内の上海閥との関係が強かった。上海閥が中国の政府・軍・インテリジェンス・経済などの各領域において巨大な影響力を持つことは言うまでもない。 生前の張首晟の非常に親しい友人に、江綿恒という男がいる。彼は江沢民の長男で、張首晟が特任教授でもあった上海科学技術大学のトップだ。この大学は現在の「中国製造2025」の青写真を描く上で中心となっている大学である。 昨今話題のファーウェイもまた、こうした上海閥のハイテク分野の支配の一端を担う存在だ。ファーウェイの企業拡大の背景には、やはり江綿恒がいる。私も過去、ファーウェイと関係する会議に何度も出席したからよく知っているが、同社のCEOの任正非も、今回逮捕されたCFOの孟晩舟(任の娘)も、単なる企業家ではなく人民解放軍の軍人としての身分を現在も維持していると思われる。これは彼らのファミリーの背景や、株式の保有者といったさまざまな要素からも明白だ。※写真はイメージです(ゲッティイメージズ) ファーウェイについて、海外では「軍と関係があるのではないか?」などという指摘があるが、私に言わせればそれは間違いだ。彼らは「軍と関係がある」のではなく、軍の企業そのものなのである。江沢民以下、上海閥の周辺人脈らが有する利権は巨大だ。周永康(前司法・警察トップ)も曽慶紅(元国家副主席)も王岐山(現国家副主席)もこれらに連なっている。 ファーウェイの任正非や孟晩舟は、この高官たちの利権構造の運用者・管理者として、自身も巨大な利権を手にしてきた。公権力と結合したことが、ファーウェイの桁外れの発展を支えてきた。その構造は白日の下に晒されねばなるまい。●かく・ぶんき/山東省出身。国有企業職員を経て、不動産会社オーナーに。政府とのコネを利用して大成功。個人資産は最大時で約180億元(約3000億円)とも。2014年から米国に滞在。2015年1月、親交の深い馬建・国家安全部副部長(当時)の失脚後、中国には戻れなくなった。以後、中国高官のスキャンダルを告発。聞き手/山久辺参一関連記事■ ファーウェイ・ショック 日本の消費者離れが進む可能性も■ 中国で倒産500万件、失業1000万人 米中貿易戦争影響か■ 中国人が再び日本のタワマンを爆買いか 米中貿易戦争の余波■ ファン・ビンビンとアリババのジャック・マーに差し迫る危険■ 中国を激震させる男「日本の皆さんこんにちは。私が郭文貴だ」

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    習近平独裁に痛撃、中国経済「大失速」が意味するもの

    田中秀臣(上武大学ビジネス情報学部教授) 中国経済の大失速の可能性が高まっている。もちろん、その背後にあるのは「米中貿易戦争」だ。昨年12月の輸出は前年同月比で4・4%減、輸入は7・6%も減少した。中国の貿易のボリュームが金額面で大幅に減少したことは、現実の経済成長率の失速を予想させるものであった。 実際に、中国政府が21日に発表した2018年の国内総生産(GDP)の実質成長率は6・6%(17年は6・8%)となり、天安門事件翌年の1990年(3・9%増)以来28年ぶりの低水準となった。内容を見ても、昨年後半からの消費低迷が影響しているのは明らかで、輸入の減少とも整合的だろう。 高度成長から「低成長の時代」に移行することにより、中国の国民や企業の期待成長率もまた引き下げられていく。米中貿易戦争が、この期待成長率の押し下げをさらに加速させるだろう。 個々の事例を見ても、中国の新車販売が28年ぶりに前年を下回ったことが象徴的だろう。ただ、これは自動車取得税の減税措置が17年末で終了したことを受けた反動減という見方が通説だ。 いずれにせよ、消費者のマインドが冷え込んでいるところに、今後、米中貿易戦争の影響が到来する可能性が大きい。輸出も携帯電話の出荷数は前年比15・6%の大幅減少だった。華為技術(ファーウェイ)など中国の通信・携帯事業への国際的な制裁や規制が強まる中で、海外での中国ブランドを敬遠する動きも今後進展する可能性がある。 貿易面での不振や期待成長率の押し下げは、中国企業の在庫調整や、生産ラインの拠点見直し、そして雇用面のリストラなどを伴っていく。リストラは、消費や投資の低下をもたらし、それはまた一段と経済成長と雇用を悪化してしまうだろう。ただし、このような悪循環は、可能性を高めつつも、実際にはまだ始まっていない。2018年1月21日、配布された中国のGDP速報値の資料を受け取る報道陣(共同) 中国政府も「防戦」に必死なのだ。まず、中国人民銀行は預金準備率をこの1年で5回も引き下げるなど、金融緩和姿勢を強めている。 財政政策においても、個人所得税の減税を強め、さらに日本の消費税に相当する増値税の引き下げ予定も伝えられている。増値税は、日本の現行のものとは違う複雑な税制になっているので単純比較はできない。それでも、消費税率の引き下げを実施する姿勢だけは、日本政府も率先して真似をすべき政策だと思う。もちろん、他の政策で習うものはないことは言うまでもない。 中国政府のこの必死さの背景には、中国共産党の一党独裁制、さらには習近平主席の「永久」独裁制を死守するという動機がある。政治体制を死守するために、経済体制をまず防衛しなければいけないわけだ。資本移動の自由に消極的なワケ 米中貿易戦争は、経済面での「戦争」だけではなく、その中核は世界政治の覇権を巡るものだといっていい。もちろん、ノーベル経済学賞受賞者のポール・クルーグマン氏が指摘するように、米中貿易戦争の行方は、トランプ大統領の「個性」に大きく依存している。トランプ大統領の「壊れた家具がごちゃまぜに詰まった屋根裏部屋」(クルーグマン氏)のような頭脳の動き次第では、米中貿易戦争の不確実性が大きく高まるというのだ。 ただ、クルーグマン氏の評価は、トランプ大統領に厳しすぎる気がしている。今のところ、米中貿易戦争に関して、トランプ大統領がツイッター上で習主席にリップサービスを行う以外で、対中交渉で妥協しているシグナルは乏しい。 むしろ、中国側が最近提案したといわれる「2024年までに対米貿易赤字ゼロ」という数値目標も、米政権を満足させるものではないだろう。トランプ政権の中長期的な狙いは、国際的な資本移動の自由化や中国国内の大幅な規制緩和、欧米や日本企業からの技術のパクリを厳しく制限するための法整備とその実効性の担保であろう。これらはいずれも経済体制の変化だけではなく、中国の一党独裁制を痛撃する可能性を持つものだ。 この点を理解するためには、国際的な資本移動を今の中国が制限している理由を考察した方が分かりやすい。その見方が「マンデルの三角形」もしくは「国際金融のトリレンマ」というものだ。「国際間のおカネ(資本)の移動が自由であること」「為替レートの変化が激しくなく、一定の水準で安定化していること」「金融政策が経済成長や雇用の安定のために利用されること」、この三つのうち、同時には二つしか選択することができないことをいう。 現在の中国は為替レートの安定化(基本的に対ドル連動)と金融政策の自律性を採用し、資本移動の自由を制限している。ただし、完全な固定為替レート制ではない。中国が海外との取引を拡大すればするほど、中国の企業も海外企業も、物やサービスだけではなく、「おカネ」の取引の自由化を求めるようになる。それが先進国経済の基本的な進路でもある。 資本移動の自由が段階的に行われるようになると、対ドルに完全に連動することは困難になる。そのため、現在では、基準レートの上下である変動を許す「準固定為替レート制」になっている。 ただし、為替レートを中国政府がコントロールしたい動機は健在である。その背景には、習近平体制の権益があると以前から指摘されている。輸出企業やそれによって潤う人たちが、彼の体制を維持しているわけだ。 そのため、中国通貨である元が安い方が輸出には有利だ。つまり変動為替レート制への移行は、現在の政治体制を不安定化させかねない、という解釈だ。G20首脳会合の記念撮影に臨む中国の習近平国家主席(左)と米国のトランプ大統領=2018年11月30日、ブエノスアイレス(共同) また、国際的な資本移動の自由化に消極的な姿勢も、似た理屈で説明できそうだ。つまり、海外へのおカネの移動は制限されているが、人脈など既得権階級のコネに頼れば、海外へ資産を移動できるし、投資も可能になる。このような特権階級の「旨味」が、資本移動を自由化してしまうと消滅する。これもまた今の政治体制を不安定化してしまうだろう。 米国は今後、これらの中国政治と深く結ばれた経済的な既得権を破壊するところまで、貿易戦争を進めるだろうか。その鍵は、中国がどう変化していくかにある。■米中貿易戦争、トランプ流は「ニセモノ大国」の市場開放を遅らせる■中国を狙い撃ち「トランプ貿易戦争」の本気度■2049年「習近平の夢」は96歳で完成する

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    ファーウェイ通信網で「世界征服」狂気に満ちた中国の妄想

    田中秀臣(上武大学ビジネス情報学部教授) 中国通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)の孟晩舟副会長兼最高財務責任者(CFO)が、米当局の要請によってカナダで逮捕された。それ以来、米中貿易戦争の激化を懸念して、事件発覚後から週明けまでの東京株式市場は大きく株価を下げた。 米中貿易戦争の核心は単なる経済問題ではなく、両国の安全保障にかかわる問題であることが明瞭になっている。もちろん、安全保障の問題になれば、同盟国である日本やカナダ、欧州、オーストラリアといった国々にも、その影響は波及する。 ファーウェイは年間の売上高が10兆円に迫る巨大企業で、スマートフォンや携帯などの通信インフラでは世界でダントツのシェアを誇る。また、スマホ単体でも、出荷台数で米アップルを抜き、世界一の韓国サムスン電子に迫る勢いである。 筆者も渋谷の繁華街を歩いたときに、「HUAWEI」と大きく打ち出されたスマホのポスターを頻繁に目にした。それだけ勢いのある企業である。だが同時に、以前から中国人民解放軍や中国共産党との密接な関係を疑われていた。 それは、同社の通信機器に「余計なもの」、つまり中国政府や軍などに情報を抜かれる恐れのある何らかのチップが入っていると懸念されていることが原因である。本当だとしたら、あまりに露骨なやり口ともいえる。米国ではいち早く、これらの懸念があるファーウェイや中興通訊(ZTE)の製品を、政府機関や関連企業が利用することを禁止する法案が可決された。これは米国の国防予算やその権限を定める国防権限法の一環であった。 米国が始めた流れに、オーストラリア、ニュージーランド、カナダ、英国などが追随、日本もそれに倣う方針を固めた。日本でも、実質的にはファーウェイなど中国通信企業の締め出しが既に行われていたようだが、政府調達から締め出す構えを公式に認めた。2018年12月6日、北京にある華為技術(ファーウェイ)の店舗で、同社のコンピューターに映し出された最高財務責任者、孟晩舟容疑者の画像(AP=共同) 中国政府は、日本に対して強烈な抗議を行ったという。また、米国とカナダに対し、拘束されている孟氏の釈放も要求している。孟氏が逮捕された理由は、取引を禁止されているイランとの交易や詐欺などの理由だという。 通常、政府が個々の経済犯罪について、身柄を釈放するように抗議することはしない。例えば、ルノーの大株主であるフランス政府でさえも、日本に対して、同社会長のカルロス・ゴーン容疑者の釈放を訴えるようなバカなことはしていない。言い換えると、それだけこのファーウェイ関連の問題が、中国政府ぐるみのものであることを明らかにしているといえよう。中国がもたらす「負の外部性」 中国政府のやり口は、米国に代わって世界的な覇権を目指し、その政治的・経済的な権力を中国共産党のもとに統一するという「一大妄想」に基づいている。経済的な権力の手段としては、次世代の通信インフラの支配や、巨大経済圏構想「一帯一路」などがあるだろう。両方とも、アジアやアフリカ諸国を中心にして、その成果はかなり上がっていた。 通信インフラも一帯一路によるインフラ整備も、ともに国際的な公共財のネットワークを構築することにある。通常、この種の国際的公共財のネットワークは、各国の国民に恩恵をもたらすものなのだが、中国中心の国際公共財供給は、もっぱら「ネットワークの負の外部性」をもたらすと断言していい。簡単に言うと、自由で民主的な社会が中国によって危機に直面してしまうのだ。 「ネットワークの外部性」とは、ある財やサービスを利用するときに得る個人の利益が、他の人たちも利用すればするほど増えるというものだ。一例として、英語の国際的利用が挙げられる。 英語を使う人が増えれば増えるほど、一人ひとりが英語を使う効用が増加していく。英語さえ学べば、いろんな国でビジネスや観光がしやすくなるという効果だ。これは特に個々人にもたらす便益を社会全体の便益が上回っているので「正の外部性」という。 ところが、通信インフラのようにこの種のネットワークの外部性が大きいと、特定の企業だけが市場のシェアを奪うことが頻繁に起きやすくなる。ファーウェイもその教科書通りの展開で、このネットワークの外部性に伴う独占力の奪取を実現してきた。 しかし、ここで大きな問題が出てくる。経済学者の早稲田大の藪下史郎名誉教授は、以下のように指摘している。 情報通信技術におけるネットワーク外部性が、参加するすべての人に便益をもたらす反面、その市場に独占的地位を生み出す可能性があると論じたが、同様にネットワーク外部性はある思想や理論が支配的になると同時に、それらに独占的地位を与えてしまう可能性もある。『スティグリッツの経済学 「見えざる手」など存在しない』東洋経済新報社 今回のケースでいえば、ファーウェイなどによる通信インフラ構築を通じて、「中国の覇権」というイデオロギーを世界に流布することだろう。中国政府が国内で行っている「監視社会化」や、ウイグル自治区などで進める「集団的な洗脳」を見れば、それがいかに自由で民主的な社会の脅威であるかは明らかである。2018年12月、北京にある華為技術(ファーウェイ)の店舗で、スマートフォンを操作する客(共同) しかも、詳細は明らかではないが、ファーウェイの通信機器にある「余計なもの」を通じて、われわれの私的情報が効率的に集められてしまう可能性もある。そうなれば、中国共産党による世界市民の支配につながってしまう。「世界征服」など妄想にすぎないと思うが、それを真顔で進めていく国の狂気は、いつの時代も世界の脅威となるのである。■ 「孤絶化による洗脳」人権圧殺国家、無視できないメディア規制■ 「中国五千年のウソ政治」石平氏の視点は実にユニークである■ ノーベル賞候補の日本人研究者はなぜ中国と韓国を目指すのか

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    「孤絶化による洗脳」人権圧殺国家、無視できないメディア規制

    臣(上武大学ビジネス情報学部教授) 安倍晋三首相は、25日から3日間の日程で訪中し、習近平国家主席ら中国首脳と会談を行う予定である。日中友好平和条約が発効して今年で40年の節目を記念したもので、日本の首相としては約7年ぶりの訪中となる。前回は民主党政権の野田佳彦前首相の時代だったので、もちろん第2次安倍政権では初となる。 安倍首相の訪中としては、第1次安倍内閣のときの2006年10月における「電撃訪問」が思い出される。当時の胡錦濤国家主席と対談し、そこで「戦略的互恵関係」や、共同プレス発表という形で「日本の戦後の平和国家としての歩み」を評価したことで知られる。 後者の「平和国家としての日本の歩み」を評価したのは、中国側からすれば最大限のリップサービスだったのだろう。その後、中国側の尖閣諸島周辺への侵入が常態化していくことを想起すると、中国側の「譲歩」の後には「ごり押し」や無法行為が待っているようにも思える。 今回の訪中は、トランプ政権との「米中貿易戦争」の真っただ中で行われるために、国内的な関心も高く、国際的にも注目されているだろう。しばしば、米中貿易戦争では、日本が漁夫の利を得ると報道される場合がある。今回の訪中もそのような文脈でとらえる論調もある。だが、それは大きな誤りだろう。 最近の中国が明らかにしているのは、自由で民主的な社会の価値観とは全く異なる国家権力の膨張である。つまり、中国的ルールをもとにした監視社会、尖閣諸島や南アジア、インド洋、アフリカなどで展開されている大国主義的活動、不透明な経済体制である。「異質」という表現よりも、日本や欧米主要国と対立し、むしろ抗争的な価値観を実行している国家といっていいだろう。 一言で表現すれば「人権圧殺国家」だろう。新疆ウイグル自治区では、イスラム系住民を中心に約100万人が拘束され、「行方不明」になり、収容所で「再教育」を受けている。 彼らは「洗脳施設」に収容され、自分たちのアイデンティティーである民族的誇りや宗教的信条を奪われ、常に監視状態に置かれるという。まさにディストピア(反理想郷)である。2018年9月、「東方経済フォーラム」全体会合で、中国の習近平国家主席(左)と並んで入場する安倍晋三首相(代表撮影) 日本のメディアでは、ウイグルでの人権弾圧をあたかも「右派」や「保守」の専売特許のように認定し、単なる「中国嫌い」とでもいうべき言論として扱うおかしな識者もいる。まったく見下げた論評だ。「監視社会」三つの要素 例えば、反トランプ的な言論を展開している米国の主要メディアも、ウイグルでの人権弾圧を厳しく批判し、米国世論の形成に寄与している。先のペンス副大統領による中国政府への批判スピーチにもこのウイグル問題などが含まれているのは、その成果の一つでもあったろう。 中国政府の人権抑圧的な監視社会は、実に巧妙に運営されている。もちろん、欧米や日本でも監視社会の危険性は今までも議論されてきた。日本では、繁華街での監視カメラの設置をめぐって論争が起きたこともある。 だが、中国の監視社会は、質的にも量的にも同列には論じられないのは自明だ。それは、主に三つの要素から成立している。表面的に「自由」なコミュニケーション、長期間の孤絶化、プロパガンダ(宣伝)を伴った「謝罪」や「幸福感」の表明である。 経済学者で香港大のベイ・チン准教授、ストックホルム大のダーヴィド・ストロンベルグ教授、南カリフォルニア大のヤンフイ・ウー准教授らの研究によれば、中国政府はソーシャル・ネットワーキング・システム(SNS)を厳しく事前検閲するよりも、むしろかなりの程度「自由」に泳がせていると考えている。 これは日本での常識とは、かなり異なる印象を受ける。SNSではないが、最近では国際刑事警察機構(ICPO)の孟宏偉総裁が長期間失踪したニュースを伝えるNHK海外放送がブラックアウト(画面がまっ黒になる)し、放映が一時中断したような中国政府の事前検閲をしばしば目撃しているからだ。 だが、ストロンベルグ教授らは、中国政府は厳しい事前検閲をするとSNSで利用すべき情報が取れないと考えているようだと指摘している。むしろ、厳しい事前検閲よりも、SNSの情報を利用して、デモや地方政府の汚職の情報を収集し、事後的にそれらを処罰した方が効率的だと考えているようだと、中国政府のやり口を解明している。 つまり、表向きは「自由」にSNS上でコミュニケーションさせるのだ。ストロンベルグ教授らによると、この表向き「自由」なSNSの活用により、デモや反体制集会をほぼ開催前日に政府が感知できるとしている。2018年7月、ウイグル族が集住するカシュガルの「旧市街」で、警察に促され記者の前で民族の踊りを披露する女性=中国新疆ウイグル自治区(共同) さらに、国際的女優、ファン・ビンビン(范冰冰)や前述した孟宏偉氏のケースでも明らかなように、その社会的地位を問わず、中国政府は拘束し拉致・監禁して尋問を展開する。それは、まさに周囲の人間から見れば「失踪」に等しい。この「失踪」の手法により、その人を社会的な関係から遮断し、情報を閉ざす中で、孤独を深め、ついには、自分が何者からも見捨てられた状態であると絶望を植えつけていく手法を、中国政府は自国民に強要しているわけである。 この手法を、政治哲学者のハンナ・アーレントは主著『全体主義の起源』で、全体主義国家の常套(じょうとう)手段である「孤絶化」であるとしている。ウイグルの強制収容所は、その大規模かつ徹底的なこの孤絶化の実行と考えられる。まさに人権のジェノサイド(集団殺害)である。しかも、精神への暴力だけでなく、身体への暴力の可能性も否定できない。「人権圧殺」押し付けの兆候 この個人を社会関係から見捨てられた状態にする「孤絶化」は、同時に全体主義的な国家にとって、洗脳とプロパガンダの機会としても利用されている。何とも逆説的だが、人々から見捨てられ、そこに救いを求めることができなければ、弾圧している政府そのものを「救世主」として見なしてしまうのである。 米CNNの報道では、ウイグルの強制収容所で「再教育」を受けている人たちが「幸福感を増した」とする収容所の当局者の発言を伝えている。まさに欺瞞(ぎまん)そのものなのだが、おそらくこの収容された人たちの「幸福感」は本当かもしれないところに、精神の地獄を感じる。そこまで精神的に追い込まれているのだろう。洗脳の恐ろしさが顕著に分かる事例だ。 先のストロンベルグ教授らは、SNSが政府のプロパガンダを流す手段として有効利用されていると指摘していた。もちろん、テレビや新聞などの旧来型メディアも政府のプロパガンダに巧妙に利用されている。ファン・ビンビンが巨額の脱税を「懺悔(ざんげ)」したのは代表的な事例である。汚職摘発キャンペーンも、もちろん習近平体制を支える重要なメディア戦略である。 このような「人権圧殺国家」との外交は、用心するに越したことはない。この人権圧殺が中国国内だけではなく、各国の国民にも及ぶ可能性があるからだ。 事実、その兆候はある。中国高官が自民党などの国会議員の前でメディア規制を唱えたことは無視すべきではない兆候だ。海外の大学出版局に対して、事実上の言論統制を試みたこともあった。 それらはまだ小さい可能性だが、中国政府のやり口は、まずは小出しにして、力を得れば一気に強権を実行している。つまり、これらのシグナルは無視すべきではないのだ。 評論家の石平氏は、中国の政治体制の危険性に注意を向けた上で、訪中した安倍首相が中国の策略に乗らないように警告を発している。マレーシアやモルディブなどでは反中国的な政権が誕生し、現代版シルクロード経済圏構想「一帯一路」の頓挫が伝えられている。2018年10月、日中与党交流協議会の閉幕式に出席する自民党の二階幹事長(左)と中国共産党の宋濤中央対外連絡部長 そのような情勢の中で、中国政府が安倍首相にこの一帯一路への支援を求める危険性と、さらにトランプ政権と日本との離反を仕向ける罠があると指摘している。石平氏の論説には、全くうなずける。 もちろん、外交はケンカをする場所ではないし、最初から口ケンカをしに訪中すると考えるのは単純な思考でしかない。要するに、中国の「人権圧殺国家」としての性格、そして大国主義的な振る舞いに十分に気を付けて、余計な言質を与えないことが今回の外交の必要最小限の前提である。その上で、中国の「人権圧殺国家」、大国主義の振る舞いに国際的警鐘を鳴らすことも、日本政府にとっては重要な課題なのである。

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    中国軍が月に軍事宇宙基地建設しサイバーテロを行う懸念が出る

     昨年12月中旬、中国初の無人月探査機「嫦娥3号」が月面軟着陸に成功した。 月にはウランやチタン、核融合に利用できると期待される「ヘリウム3」などの資源が豊富に埋蔵されている。特にヘリウム3は2万~60万tあり、すべて採取できれば世界で使われる電力の数千年分のエネルギーをまかなえるといわれる。月の資源開発に成功すれば、米国やロシア以上の成果である。ただし、多くの専門家は、この計画はコストがかかり過ぎて採算がとれないと否定的だ。 むしろ習近平指導部が重視しているのは科学技術の軍事転用である。月探査プロジェクトを担当する姜傑・総設計士は、宇宙開発の技術がミサイルの遠隔操作や地球上の定点監視システムに応用できると指摘する。また、中国の軍事専門家、李大光氏は中国紙「環球時報」に、「月探査プロジェクトは中国軍のミサイルシステムの精度向上に大きく貢献する」とコメントしている。 北京の夕刊紙「北京晩報」は昨年12月初旬、宇宙問題の専門家の話として、中国軍は建国100周年に当たる2049年までに月に軍事基地を建設する計画を立てていると報じた。また、宇宙ステーションの建設や、宇宙基地からのサイバーテロなども研究されているといい、宇宙を舞台に世界一の軍事大国の座を目指しているともいわれる。 習近平が月面着陸を祝って宇宙飛行制御センターを訪れた際、李克強らのほか、軍から許其亮、範長龍の両中央軍事委副主席、さらに習近平の腹心で軍事開発や兵站部門を担当する張又侠・中央軍事委員の3人が同行していたことからも、軍と宇宙開発が表裏一体なのは明らかだ。中国初の無人宇宙実験室「天宮1号」のイメージ(中国有人宇宙プロジェクト弁公室提供・共同) 中国の場合、日本や米国などの民主主義国家と違い、これらの軍関連予算は国会(中国では全国人民代表大会)の承認を受ける必要がない。実際の軍事予算は全人代で承認される3倍から5倍ともいわれており、その実態は明らかにされていない。 近い将来、気が付いたら中国軍が月に軍事宇宙基地を持ち、世界中のコンピューターを自由に操っているという事態が現実になっている可能性もある。■文/ウィリー・ラム 翻訳・構成/相馬勝関連記事■ 【キャラビズム】中国は宇宙基地と宇宙船・神舟9号で宇宙戦争へ■ 中国軍 海南島に原潜秘密基地建設で南シナ海での対立激化か■ 中国 2049年の「月面軍事基地建設」と資源獲得意志を表明■ 中国軍が2万人規模の軍事演習実施 北朝鮮意識かとの指摘も■ 北朝鮮の韓国主要公共機関への大規模サイバーテロを識者予測

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    ファン・ビンビン巨額脱税、中国当局が狙い撃つ人気女優の利用価値

    たのか、それとも軍の陰謀に利用されているのか―。杳(よう)として行方が分からなくなった女優をめぐり、中国のソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)では8月ごろから盛んに怪情報が飛び交った。 もっとも、ファン・ビンビンという名前を聞いても多くの日本人にはピンとこないかもしれない。だが、ハリウッド映画『X-Men:フューチャー&パスト』や『アイアンマン3』に出ていたアジア系の女優といえば、何となく顔が思い浮かぶのではないだろうか。 その国際派女優、ファンの問題が、今では日本のお茶の間でも身近な話題となった。失踪の理由が脱税であること、欧米メディアが先行して報じ始めたからである。 ファンの年収が50億円近いということも衝撃を与えたに違いないが、中国のメディア関係者によれば、「本当はその3倍、4倍であっても不思議ではない」という。 いったい何が起きたのか。「今年6月2日を最後に彼女の微博(ウェイボー)が更新されなくなり、8月から騒ぎになり始めました。同じころ彼女のパートナーでやはり有名男優のリー・チェンのアカウントまで更新されなくなったのです。犯罪絡みであれば警察が放置するはずはなく、やはり当局の何かしらの捜査対象となったと見るのが自然でしょう」(同前) 結局10月に入り、当局がファンと関連会社による約1億4千万元(約23億円)の脱税を認定、追徴金など約8億8千万元(146億円)の支払いを命じたと、国営新華社通信が報じた。ファンも微博で「法律を尊重すべきだった」と6000万人のフォロワーに向けて謝罪した。 では、なぜこの時期に彼女がピンポイントで狙われたのか。まず飛び交ったのが政争への巻き込まれや軍の関与だった。だが、そんな大げさな話ではなかったのである。中国の人気女優、ファン・ビンビン(范冰冰) というのも、彼女を名指しこそしていないが、実名で脱税を告発した人物が存在し、その影響がファンに及ぶことは早くからSNSで話題となっていたからだ。 前出のメディア関係者が語る。「元CCTV(中国中央テレビ)の人気キャスター、崔永元氏の告発です。彼はCCTVに在籍中から、メディアの中で芸能界に横行する不正なお金の流れを告発するための資料を大量に保管していて、今回、その一部を暴露したといわれています。告発の動機は芸能界への恨みです」習近平が意識した「相手」 また、関係者はこうも語った。「崔氏は、もともと『国民的』とも称される人気キャスターだったのですが、キャスターをスキャンダラスに描いた映画『手機』のモデルにされたことで精神をやられ、最終的には職を辞すことになってしまった。それだけでも恨み骨髄なのに、そのグループが新たに続編の『手機2』を制作する予定だと知り、怒りが爆発したようです。攻撃の本命は映画監督の馮小剛(フォン・シャオガン)と、エンターテインメントビジネス界の雄、華誼兄弟伝媒(フアイー・ブラザーズ・メディア)グループの王兄弟ですが、彼女も一味と見なされたのでしよう」 SNSでは、告発直後の6月にファンが崔氏に「あなたがそんなに傷ついていたとは知らなかった」と泣いて電話があり、それに対し崔氏が「知らないはずないだろう」と冷たく突き放したという話も流れている。いずれにせよ、これほど堂々と不正が告発されれば、ただで済むはずはなかった。 しかも崔氏の告発は、後付けながら当局にとって実に利用価値のあるものとなったという。別のメディア関係者が語る。 「中国はちょうど各地の税務局を国税局と一体化させる組織改革方案を7月20日付で発出したばかりで、新組織の船出に勢いをつける材料を探していた。そこに降って湧いたのがファンの事件ということです。組織改革の目的は、中央のコントロールの強化ですから、北京は勢いづくことでしょう」 また、高額所得者の象徴である芸能界のスターからきっちり税金を取り立てたことは、中国がさらに力を入れる所得の再分配にも追い風となる。 中国は今後の社会と経済の安定のために中小企業への手厚い保護と中間所得層の拡大を目標として定めている。前者の目的のため、8月20日には第1回となる中小企業発展促進会議を行っていて、また後者については低所得者のために大幅な減税に着手している。 中国の納税者を可処分所得に従って5分割して、下から3段階を対象に減税を行っているのだ。「中国を過去に逆戻りさせた」と表現される習近平国家主席の政策は、常に「持たざる者」を意識して進められてきたが、その大きな流れから見た通り、ファンの脱税にも厳しい裁きが下されたわけである。中国の人気女優、ファン・ビンビン(范冰冰) ただ、問題はファン一人が断罪されても収まらないという。 「告発は芸能界の裏の体質を白日の下にさらしてしまった。当然類は他のスターたちにも及ぶでしょう。芸能界をはじめすべてのエンターテインメントビジネスにかかわる人々は、今やもう戦々恐々です。飛ぶ鳥を落とす勢いだった華誼兄弟も、当初こそ崔さんに反論していましたが、もうすっかり静かです」 中国では映画の興行収入が日本の4倍を超え、数年で米国をも追い抜くと騒がれてきたが、その絶好調の映画界では、これから非常に冷たい風が吹き荒れることになるのだろう。

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    中国五千年のウソ政治」石平氏の視点は実にユニークである

    田中秀臣(上武大学ビジネス情報学部教授) 評論家、石平氏の最新作『中国五千年の虚言史』(徳間書店)は、現代中国の政治状況に対する痛烈な批判の書になっている。何より、本書の題名からして一つの「ウソ」が込められている。 そもそも、中華の地は歴代さまざまな異民族支配を受けてきた歴史があり、また王朝や支配者の交代を繰り返してきたわけで、一貫した体制が維持されてきたわけではないのである。つまり、しばしば呼称される「中国五千年」自体が一つの大きなウソなのである。これを書名にした石平氏と出版社の、皮肉というか批判精神は本書を最初から最後まで通底している。 本書は「永久独裁」を目指している習近平国家主席とその政権に常に批判的である。それは中国だけではなく、「中国的なもの」が次第にまん延してきている、日本を含む世界の状況への批判にもなっているのである。 本書では中国最初の統一王朝となった秦(しん)から現代までの、権力者たちの何度となく繰り返されるウソと大ウソ、それによる権力の簒奪と堕落、そして交代というワンパターンが鮮烈な筆致で描かれている。 例えば、数千万人が飢え死にしたといわれる毛沢東による「大躍進政策」のエピソードを見てみよう。当時の地方政府の役人たちによるウソのつきぶりは全く笑えない。 毛沢東の独裁者ならではの無謀な要求を、自分たちの評価を高めようと実際よりもコメの収穫量をけた外れに申告する。そして法外な収穫量が明らかに疑わしいにもかかわらず、政治的な保身や打算により、当時の専門家やメディアはこぞって、このウソを全国民に喧伝(けんでん)していった。 こうして、コメは過大な収穫量に応じて、中央政府に税として徴収され、その結果、猛烈な飢餓が実現してしまったのである。これは自然災害ではなく、まさに政治のウソが招いた人災である。 アジア人で初めてノーベル経済学賞を受賞したインドのアマルティア・センは、このような飢饉(ききん)を「権原」によるものであると指摘した。つまり、実際には豊富な食糧があるにもかかわらず、国民の大多数はその食糧を得る権利が、政治的にも経済的にもないのである。評論家で拓殖大学客員教授の石平氏(春名中撮影) このような状況は、300万人の餓死者を出した1940年代のベンガル大飢饉、そして数百万人の餓死者を出した90年代の北朝鮮の大飢饉などと、全く同じ構図である。その構図とは真実、この場合では「食料が実は豊かにあること」を知らせず、ウソを流布することで国民の大多数を死に至らしめる政治の在り方である。 しかも、このウソによる民衆の苦境や、権力の醜い交代劇は、中国の歴史の中に何度も何度も反復して現れるのである。それはなぜだろうか。「人治」こそ中国の常識 ここに石平氏の実にユニークな視点がある。このウソに基づく中国政治の在り方には、その根本に政治制度自体の改革を目指すのではなく、あくまでも時の権力者の人格に「徳」を求める儒教主義的な政治観があるということである。 この儒教にのっとった「人治主義」的な見方は権力者たちだけではなく、広く中華に住まう人たちに共通して抱かれている。極めて強い「常識」となっているのである。 時の権力者たちは、本当のことはさておき、自らが儒教的精神のかなった徳のある統治者であると「偽装」する必要性が生じる。ウソでも何でも民衆を信じ込ませないと、自分の権力者としての地位が危ないからだ。 特にウソがばれたり、徳がないとみなされると、新しい権力者に取って代わられることもやむを得ない。むしろ、それが必然であることが、中国社会の「常識」になっている。このような権力者の交代劇を「易姓革命」という。 「革命」を避けるためには、ともかくウソでも偽善でもいいから、歴代の支配者たちは自分が高潔な人格であることや、腐敗を退治することを家臣や民衆にアピールしてきたのである。ただし、実際には政治的ライバルを粛清するだけであった。もちろん、石平氏がこのような欺瞞(ぎまん)に満ちた政治の交代劇に、極めて批判的なのは言うまでもない。 例えば、習主席は、政治家や官僚たちの腐敗追及キャンペーンで自分の業績を顕示してきた。その「徳」によって、彼は無期限の国家主席の座を得ようとしてきた。 だが、この腐敗追及キャンペーンがそのような独裁体制の強化の手段であり、極めて偽善的なものであることを、石平氏が本書でも痛烈に批判している。いわゆる「パナマ文書」で習主席のファミリーが海外で膨大な蓄財をしていると指摘されると、中国は「パナマ文書」に関する国内での報道や言及を厳しく規制した。つまり、政治的な徳を満たすことができるのか疑いの目を向けられることを、習主席と中国政府は極端に恐れているのである。 もちろん、このような政治的構図自体は、まだ従来の人物の「徳」が本当にあるかないか、なければ「革命」で政治権力を交代させるという、従来の「中国政治劇」の再演でしかない。問題は権力者の性格ではなく、むしろ政治や経済制度の改革にある。北京市内に掲げられた中国共産党の習近平総書記を「核心」として結束を呼びかけるスローガン(共同) この視座について、ノーベル平和賞を受賞した中国の民主活動家、劉暁波氏と石平氏の視点は大きく交差している。劉暁波氏は現在の中国政治を「ポスト全体主義体制」として批判した。だが、あくまで人治主義的な観点での批判ではなく、政治体制の漸進的で民主的な改革を唱えたのである。しかし、このまっとうな批判は、中国「ウソ政治」の伝統の信奉者から猛烈な反発と弾圧を招いたことは多くの人が知ることだろう。 石平氏の著作は、しばしば日本のリベラル派から大きな誤解で見られている。だが、彼の著作や発言に通底している「人々をウソにまみれた政治から自由にしたい」という情熱は、より正当な評価を受けるべきではないだろうか。

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    「トランプに2期目はない」中朝蜜月で変わる非核化ゲームの行方

    重村智計(東京通信大教授) トランプ米大統領は8月1日、中国製品への経済制裁「第3弾」の発動を指示した。北朝鮮はこの「米中貿易戦争」泥沼化を歓迎している。米中首脳による「戦争ゲーム」が北朝鮮への制裁を減圧し、米中朝の「非核化ゲーム」を大きく変質させたのである。 金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長は、朝鮮戦争休戦65周年(7月27日)を記念し、中国人民志願軍烈士陵園に参拝した。金委員長の訪問は2013年以来5年ぶりだ。中朝関係が好転すると、北朝鮮の指導者は地方にあるこの墓苑を訪問し、平壌の記念碑も整備する。反対に、関係が悪化すると放置した。実にわかりやすい。 北朝鮮は「中ソ・イデオロギー戦争」時代に、中国と旧ソ連の間を行き来して支援を得る「振り子外交」を得意とした。この戦略を「米中貿易戦争」でも展開しようとしている。 米朝関係は、3月末の中朝首脳会談までは、トランプ大統領が主導権を握り、「北朝鮮の『完全な非核化』」への期待が高まった。ところが、中朝首脳会談後に北朝鮮の姿勢が急変した。トランプ大統領は「中朝首脳会談後に北の姿勢が変化した」と批判し、一度は米朝首脳会談の中止に踏み切った。 最近の中国は、北朝鮮の石油密輸の「瀬取り」への制裁に反対するなど、それまでの米中協力の姿勢を変えた。米朝関係と米中関係が明らかに変わったのである。トランプ大統領は、中国が「米中貿易戦争ゲーム」で北朝鮮を利用している証拠を握ったという。そこで中国は、貿易戦争を緩和すれば、北朝鮮への追加制裁にも協力するとの駆け引きを見せたのである。中国の習近平国家主席(左)と握手する金正恩朝鮮労働党委員長=北京・釣魚台国賓館(朝鮮中央通信=朝鮮通信) 中国は「瀬取り」を明らかに放置している。その背後に何があったのか。米国務省の高官は、3回にわたる中朝首脳会談で、習近平主席は「トランプへの非協力」に姿勢を変えたという。その証拠に、米国は中朝首脳会談の内容を入手しているというのである。 それによると、習主席は「金正恩体制の維持は保証する。そのため、10年間に1千億ドル(約11兆円)の支援を実施する」と約束した。韓国政府によると、北朝鮮の国内総生産(GDP)は約3兆円であり、中国は毎年その3分の1の支援をすることになる。 裏にあるのは、日米が制裁を強化しても心配するなとの中国の「保証」だ。つまり、「瀬取り」密輸こそが支援の始まりだったのである。さらに、中朝国境の人の往来や北朝鮮労働者の移動も黙認された。 また、中朝首脳がすでに合意した「朝鮮半島の非核化」について、「確実に実現してほしい」と伝えた上で、「10年の時間をかけてもいい」と述べた。要するに、習主席が退任するまでに非核化すればいいという意向だろうか。 習主席は「北朝鮮が数年で非核化できない事情はわかる」と語り、「数年内の非核化には、北朝鮮軍が納得せず、クーデターの危険がある」との理解を示した。また「中国は決してクーデターを支持しない」とも伝えていた。 米メディアは7月末に、北朝鮮が大陸間弾道ミサイル(ICBM)の製造を継続しているとし、「北朝鮮に非核化の動きはない」と報じた。これは「非核化」に反発する北朝鮮軍部の「不満」を抑えるための「製造継続」の妥協策だろう。「トランプの2期目はない」 習近平発言は、金委員長と朝鮮人民軍の関係について、「完全非核化」をめぐり緊張関係にある事実は知っている、との脅しだ。知った上で、金委員長を支持するとの立場を表明したのである。 また、中朝の首脳は「トランプ大統領の2期目はない」との見通しで一致し、「あと2年半時間稼ぎすればいい」との判断を確認したという。金委員長は中国の巨額支援と体制保証で安心したのか、対米姿勢を変えたわけである。 6月12日、トランプ大統領は金委員長との首脳会談後の記者会見で、ポンペオ国務長官が直ちに平壌に向かい、非核化の具体的な交渉を始めると明らかにした。 ところが、国務長官の訪朝までおよそ1カ月の時間がかかった上、金委員長と会見できなかった。さらに悲惨だったのは、北朝鮮外務省の報道官は国務長官訪朝直後に談話を発表し「ポンペオ長官の態度は強盗的だった」と非難した。なんとも失礼な対応である。 北朝鮮の姿勢変化を受け、トランプ大統領は「非核化交渉に期限は設けない」と述べ、ポンペオ長官も「交渉には時間がかかる」と議会で証言した。これは、習主席の「非核化を急がなくていい」との発言を、米首脳が入手していた事実を示唆するものである。 そして習主席は、金委員長が9月の国連総会に出席し、世界に向けて演説すれば「制裁解除」の空気が生まれるとアドバイスした。その際に第2回米朝首脳会談を行うように勧め、米朝関係改善も支持したという。理由として「北朝鮮は、中国の属国にはなりたくないだろう。そのために、米国との関係改善を必要とするのは理解できる」と述べ、金委員長を感激させた。中国の習近平国家主席(右)と談笑する北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長=5月、遼寧省大連(朝鮮通信=共同) 中朝蜜月化と「非核化交渉」の停滞は、日朝関係と拉致問題解決にも影響を与えそうだ。北朝鮮が日朝関係改善を必要とするのは、1兆円とみられる経済協力資金が狙いだ。ところが、中国が毎年1兆円以上の支援をすると、日本の資金への期待が失われてしまう。 北朝鮮の朝鮮労働党機関紙、労働新聞は最近「拉致問題は解決した」との論評を掲載した。拉致問題の解決よりも日朝国交正常化を優先させようとの戦略だ。これに呼応するように、日本でも超党派の「日朝国交正常化推進議員連盟」が活動を活発化している。北朝鮮からの工作に呼応している、とみられても仕方がないだろう。 北朝鮮が中国から多額の資金を導入すれば、現代版シルクロード経済圏構想「一帯一路」のようにいずれ膨大な借金となり、中国に従属せざるをえなくなる。それを避けるためにも、日朝国交正常化が必要だからこそ、「拉致問題は解決した」と主張しているのである。北朝鮮の手口に決して騙されてはいけない。「拉致より国交正常化」と主張する政治家や日本人は北朝鮮の手先で、「売国奴的」と非難されても当然なのである。

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    中国の政治工作にイチコロ」こんな生ぬるい沖縄知事選は嫌だ!

    に保守政治家にあったということがわかる。 だからこそ、現在の沖縄では私心のない謙虚な人物でなければ、中国の政治工作にイチコロで、とても知事は務まらないというのが現実だ。知事選前の沖縄は、そのような状況下にあるということを前提に「保守分断」を分析する必要がある。最悪の場合、保守系候補だと思って心血を注いで応援していた候補が当選後に豹変(ひょうへん)し、オール沖縄のコントロールを受ける政治家になる可能性もあるということだ。 さて、沖縄は安全保障の要であると同時に、日米同盟の最重要拠点である。米国のトランプ大統領が中国と貿易戦争を始めた今、米国の構築する包囲網を突破して、中国が生き残るためには、「日中友好」のパイプを使って日米を離間させるしかない。その場合、最重要拠点の沖縄が日米分断工作のターゲットになり、知事選が最大の政治工作の場となのである。 では、自民党政権の中国の対日政治工作に対する「防衛体制」はどうなっているのか。日中友好というスローガンを能天気に唱え続けてきたことでもわかるように、全くの無防備だったのである。 その間、中国は有事の際、日本が身動きを取れなくなるような仕掛けを着々と進めてきた。その仕掛けこそ、2010年の「国防動員法」だ。日本国内にいる中国人観光客、学生も徴用対象になるこの法律で、尖閣有事が起きた場合に彼らがテロリストや工作員と化す仕組みが出来上がったのである。 法律施行の約半年後に、尖閣諸島沖での中国漁船衝突事件が起きた。また、中国による尖閣諸島海域の実効支配が強化され、中国軍機に対するスクランブル発進も急増していることは無関係ではないだろう。 本来なら日本政府が中国の「間接侵略」に備えるところだが、外務省は2011年に中国人観光客向けの「沖縄数次査証」という渡航ビザの発給を開始してしまう。こうして、2010年にわずか2万4000人だった中国人沖縄観光客が2017年には54万6000人と約23倍に急増し、沖縄県の中国への経済依存度を急速に高めたのである。 また、ここ数年、沖縄県と福建省の経済交流は加速度的に動いており、行政レベルだけではなく、企業・団体間でもさまざまな覚書が交わされている。その動向はすでにiRONNAでも寄稿したが、その後もさまざまな「経済籠絡(ろうらく)」が進められている。2017年8月、オール沖縄会議が主催した集会で、米軍普天間飛行場の沖縄県名護市辺野古移設に反対するメッセージを掲げる参加者=那覇市 実際、昨年6月には中国の『一帯一路』構想の沖縄展開に関するフォーラムが開催され、「中国との関係が深い沖縄が先駆けて一帯一路政策を取り込むことで、日本経済を牽引(けんいん)できる」という趣旨の講演も行われた。一帯一路とは経済交流の仮面をかぶっているが、その実態は中国による軍事拠点の獲得であり、制海権の獲得である。 つまり、沖縄で一帯一路を展開するということは、いずれ沖縄に中国人民解放軍の軍事基地が建設されることになる。このような沖縄の中国との経済交流は、沖縄県主導で進められているのではなく、日中友好という日本政府の基本姿勢に基づき、河野洋平元衆院議長が会長を務める日本国際貿易促進協会(国貿促)が推進しているのである。 そもそも、中国共産党の「日中友好の歴史」とは「対日工作の歴史」である。彼らの目的は日本国民への自虐史観の浸透に始まって、日米安保破棄を目的とする反米と非戦主義の浸透にあるのである。前述した対中スクランブル発進が急増しているにも関わらず、沖縄への中国人観光客も急増するというこの異常な状況に、誰も問題意識を持たないことこそ、工作の大成果といえるだろう。本当の「日中友好の歴史」 さて、これまで述べてきたように、沖縄知事選は中国政府にとって、トランプ大統領の中国包囲網を突破する最大のチャンスである。そして、現在そのターゲットは保守政治家にある。一方、日本政府は政治工作の基盤となる経済交流や文化交流を推進し、多くのチャイナマネーを沖縄に招き入れ、中国の沖縄政治工作に加担している。 次の知事選は自民もオール沖縄陣営も内部に課題を抱えており、選挙戦の行方を読み解くのは困難である。だが、仮に自民が県政を奪還したとしても、現在の自公政権では中国の沖縄乗っ取りの動きを止められないだろう。それは、返り血も覚悟の上で中国と貿易戦争を始め、本気で中国を封じ込めようとするトランプ大統領に対する背信行為ではないだろうか。 米シンクタンク、「プロジェクト2049研究所」が4月に発表した報告書によれば、中国軍による尖閣諸島への軍事侵攻が2020年からの10年間に行われるという。つまり、自民党政権が中国の沖縄乗っ取り工作への加担を続けることで環境が早く整い、侵攻が時間の問題であることがわかるだろう。 では、このような中、今すぐ日本政府が着手すべきことを考えてみたい。まず、日中友好の見直しが必要である。日中の友好や経済交流推進を目的に、日本には日中友好協会と国貿促が、中国には中日友好協会や中国国際貿易促進委員会が、カウンターパートとして存在する。だが、中国側は民間交流をうたっているが、事実上の政府機関であることは誰もが知っており、政府の意向が当然反映される。 一方、日本側は民間活動である以上、政府の管轄外であり、国益に反しても法律に反しない限り政府のコントロールがきかない。何よりも「けんかをするより仲良くしたほうが良い」という漠然とした考えしかなく、国益実現へのビジョンも戦略もない。結局、日中友好、日中経済交流とは、中国政府の意思を日本国内に反映できても、日本の意思を中国国内に反映するルートとして全く機能していないのである。 前述のように、中国政府は対日工作として、軍事力のみならず、経済、文化、歴史、マスコミなど全てを含めた総力戦で攻撃を続けてきた。ところが、日本政府の対中防衛といえば、自衛隊と海上保安庁の武力レベルばかりで、それ以外は無防備のままで過ごしてきた。これが、中華人民共和国が成立した1950年以降の「日中友好の歴史」なのである。しかも、中国の軍事力が米国を脅かすレベルに達した現在、中国による「日本強奪」は最後の仕上げ段階に入っているとみても過言ではない。2017年10月、中国共産党の第19期中央委員会第1回総会を終え、記者団に手を振る習近平総書記(左から3人目)ら新指導部=中国・北京の人民大会堂(共同) そうであるならば、まずは1950年以降の日中友好の歴史でどのような国益を失ったか、分析と評価が必要だ。そのうえで、失敗を繰り返さないための防衛体制の構築を急がなければならない。 これには、有事での連携の在り方や具体的な対処方針を定めた「国民保護計画」というモデルがある。すでに、全省庁と都道府県、ほとんどの市区町村で策定済みである。これになぞらえて考えてみよう。 中国の経済侵略に対しては、経済産業省による「経済防衛計画」を立案する必要がある。また、中国系企業の土地買収という間接侵略から日本の国土を守るために、国土交通省には「国土資源防衛計画」の策定が求められる。従軍慰安婦や南京大虐殺に関しても、文部科学省の計画立案が必要となる。つまり、間接侵略を含む国家防衛についても、国民保護計画と同じように、全省庁と関係機関、自治体が国防計画を事前に用意すべきだということである。 一見、突拍子もない考えのように思えるかもしれない。だが、国民の生命と財産を守る責務は政府と自治体にあり、本気でその任務を果たすのであれば、どうしても必要なことである。事が起きてから後悔しないためにも、今すぐ着手しなければ間に合わない。

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    中国人の沖縄像 文化の50%が中国、40%が日本、10%が米国

     スーツケースを引きずり街を闊歩する大勢の中国人観光客──その姿が、とりわけ目立つのが、地理的にも歴史的にも大陸と距離の近い沖縄だ。中国人観光客にとって沖縄はどのような存在なのか。その実態を探るべく、フリーライターの西谷格氏が、中国人観光客の沖縄バスツアーに潜入した。* * * バスツアーの集合時間は、午前8時20分。出発前日の夜には、ウィーチャット(中国版LINE)で参加者向けのグループチャットが作られ、中国人の女性ガイドから当日の注意事項が送られてきた。「バスは定刻通りに発車します。乗り遅れた人はタクシーで次の集合場所まで自費で移動してください。日本人の運転手は時間に非常に厳格です」「重要なことなので3回言います。遅刻禁止、遅刻禁止、遅刻禁止。集合場所が心配な人は、下見をしておきましょう」 遅刻をさせないための注意喚起が、日本人の常識の範囲を少々超えている。ここまで徹底しないと、遅刻やトラブルが起きてしまうのか。 ツアー当日、発車時間10分前になるとグループチャットから「急いでください。バスは8時20分に出発します」「来ていないのはあと3人!」とのメッセージが送られ、私の名前もさらされてしまった。 「沖縄は かわいそうなんです」 駆け足でバスに乗り込むと、定刻通りに発車。乗客は約50人で、ほぼ満席だった。まず目に飛び込んできたのは、参加者たちの独特な中華ファッションだ。子供服のようなゴチャゴチャした柄物や、原色中心の派手な色使いが目立ち、尻が見えそうなほどのホットパンツを履いている女性もいる。眩しいのが苦手なのか、サングラス率も高い。年代は30~40代が中心。女性が6割ほどで、カップルや家族連れも多い。話しかけてみると、北京や上海、南京といった都市部出身者、日本留学経験者などが目立ち、裕福そうな人ばかりだった。那覇市の国際通り(iStock) 車両が動き始めると、アラフォーの女性ツアーガイドがマイクを握り、中国語で話し始めた。「本日のバスは公共バスと同じです。人間がバスを待つことはできますが、バスが人間を待つことはできません!」 と繰り返し強調。続いて、日本と中国の基本的な違いから説明を始めた。「釣魚島も見えますかー」「時差は1時間。交通ルールは日本は自動車が左側通行。水道水は飲むことができ、トイレットペーパーは便器にそのまま流せます」 しばらくすると、バスは鉄条網で囲われた嘉手納基地の前を通過した。「ここは東アジア最大の空軍基地で、北京の故宮76個分の広さがあります」 ガイドがそう告げると、車内からは驚きのため息が漏れた。「この道路は両脇が米軍基地に囲まれています。沖縄は島じゅう基地だらけで、かわいそうなんです」 言い方はどこか冷淡で、少し見下したようにも聞こえる。「釣魚島も見えますかー」 那覇の中心から出発したバスは、1時間ほどで最初の目的地「万座毛」に到着した。断崖絶壁に広がる草原の上から、真っ青な海を望むことのできる景勝地だ。歩いていると中国語と韓国語しか聞こえてこず、日本人観光客の姿はゼロ。これで良いのだろうか、と思っていたら「10時35分出発です」との“警告”がグループチャットに届き、急いでバスに戻った。再びガイドの解説が始まった。沖縄県の観光スポット、万座毛(iStock)「東京から沖縄は非常に離れていますが、台湾からは600km。与那国島から台湾はわずか160kmで、晴れた日には台湾が見えるんですよ」 すると、前方に座っていた中年男性がすかさず質問した。強調される「沖縄」と「本土」「釣魚島も見えますかー?」 ガイドは苦笑いして「釣魚島は見えません。あと、こういう話は話題にしたくありません」と言い、会話を断ち切った。即座に釣魚島(尖閣諸島の中国側呼称)を連想する発想がすごい。 ガイドの説明が続く。「沖縄は1879年まで琉球王国という国家が存在しましたが、日本政府によって滅亡させられました。琉球という名前は、もともと中国が名付けたものです」 説明を聞いていると、沖縄と日本本土の違いを強調する話が多いことに気づく。「沖縄の人は日本人とは人種が異なります。大和民族は顔が真っ平らで鼻が低く、目が細いのが特徴ですが、沖縄の人はそうではありません。目鼻立ちがはっきりしていて、台湾の原住民とよく似ています」沖縄の世界遺産・今帰仁城跡「漢字は唐の時代に日本に伝わりましたが、日本人は舌が短いので中国語の発音ができない。そのため日本語の音を当てたのです」 舌が短いとか顔が真っ平らとか、日本人が聞いてないと思って言いたい放題である。そして、最後はこう断言した。「沖縄の文化は50%が中国、40%が日本、10%がアメリカです」 文化的には、沖縄は日本よりも中国に近いというのだ。事実かどうかはともかく、これが中国人の頭のなかにある沖縄像ということだろう。●にしたに ただす/1981年、神奈川県生まれ。早稲田大学卒。地方紙記者を経てフリー。著書に『ルポ 中国「潜入バイト」日記』(小学館新書)、『この手紙、とどけ!』(小学館)、『中国人は雑巾と布巾の区別ができない』(宝島社新書)などがある。関連記事■ 中国人バスツアーのガイドが告白「観光客は洗脳すればいい」■ 中国「ヘビ料理店」にバイト潜入 さばくのはけっこう難しい■ 中国人留学生の部屋探し方法「“東大志望”で信用勝ち取る」■ 6月新法施行の「民泊」で中国人若者観光客を泊めてみたら…■ 2割の医療機関で訪日外国人患者の医療費未払い、回収は困難

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    中国が水陸両用航空機の初飛行に成功 尖閣に新たな脅威

     中国が初めての世界最大の水陸両用航空機「クン龍(クンロン=AG600)」の初飛行に成功したことが明らかになった。陸上と水面の両方から離着陸が可能なAG600は中国が南シナ海で造成などを進めている人工島の全てをその航続距離内に収めており、中国内の基地から尖閣諸島を急襲することが可能となる。 すでに、中国人民解放軍は一昨年、海軍陸戦隊(海兵隊)を創設しており、AG600による尖閣諸島への兵員輸送も現実味を帯びており、中国人民解放軍が沖縄県尖閣諸島を攻撃、占領する動きを強めている。 中国国営新華社通信によると、AG600は昨年12月24日、中国南部広東省珠海の解放軍基地を離陸し、約1時間飛行した。製造元の中航通用飛行機公司の黄領才・設計主任は新華社通信に対し「初飛行の成功で、中国は大型水陸両用機を開発可能な世界有数の国となった」と述べている。 AG600は翼幅38.8メートルで、ターボプロップエンジンを4基搭載、定員50人。航続距離は4500kmで2m以上の波に対応した着水能力を有し、最大滞空時間は12時間。 米国防総省が昨年6月に発表した中国の軍事情勢に関する年次報告書によれば、中国人民解放軍は台湾侵攻や南シナ海や東シナ海での島嶼防衛のため、水陸両用部隊による上陸作戦の遂行能力の向上を急いでいる。 とりわけ海軍陸戦隊は昨年、広東省で水陸両用車や小型船舶を運用し、ヘリコプターで特殊部隊を投入する実戦的な強襲揚陸作戦の訓練を実施した、と報告書は明らかにしている。 中国人民解放軍が昨年創設した海軍陸戦隊(海兵隊)は、沖縄県・尖閣諸島への急襲作戦も念頭に部隊の育成を進めていることで知られており、AG600の実戦配備が可能になったことで、水陸両用部隊による尖閣諸島への上陸作戦の遂行能力が格段に高まったことは明らか。尖閣諸島占領に大きな戦闘力が加わったことになる。初飛行に成功した、中国が自主開発している水陸両用機「AG600」=中国広東省珠海(新華社=共同) 一方、中国の国産空母については、2020年までに初期的な作戦能力を確保すると予測。潜水艦も同年までに現在の63隻から69~78隻に増強される見通しで、従来の「近海防御」に加えて「遠海防衛」も行う「混合戦略」の実現に向け、海軍力を強化していると指摘しているほどだ。 日本は平時、海上保安庁と航空自衛隊による警察権の行使により、尖閣周辺の海空域を守っているが、中国人民解放軍の尖閣急襲などに対応するため、陸上自衛隊も年内に初の水陸両用部隊「水陸機動団」を創設。この部隊は離島に他国が侵攻した場合、迅速に機動展開して奪還作戦に取り組む。 本部は陸上自衛隊相浦駐屯地(長崎県佐世保市)で、隊員約3000人規模の予定。水陸両用車「AAV7」も配備する。すでに米海兵隊との訓練を続けており、創設に加わる隊員らの練度向上を図っている。関連記事■ 175億円横領の重慶トップ 女子大生含む愛人4人に隠し子3人■ 中国5つ星ホテル 便所掃除用具を食器に使い歯ブラシ使い回し■ 中韓の「日本買収」が止まらない これは武器を持たない戦争■ 韓国製兵器の無惨「沈む水陸両用車」「ミサイルが自国民に」■ 日米合同訓練に登場の水陸両用装甲車 442億円の価値あるか