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    金正恩へのメッセージ「パワーワード」に滲む中国の憂鬱

    重村智計(東京通信大教授) 中国が、北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長の健康状態を相当危惧しているようだ。それを強く印象づける中朝首脳の「やり取り」があった。 5月8日、金委員長が中国の習近平主席に「口頭親書」を送ったとの報道があり、その2日後には習主席の「口頭親書」が金委員長に届いたと報じられた。 ともに朝鮮中央通信によるものだが、日本の新聞やテレビもこの報道をそのまま受け、比較的大きく報じる一方、内容に疑問を示すことはなかった。ところが、中国は「口頭親書」とは違う言葉を使っていたのである。言葉の裏から中朝の激しい駆け引きが見えてくる。 朝鮮中央通信は国営の報道機関である。当然のことだが、政府の宣伝媒体だと思わなければ、確実に北朝鮮の術中にはまる。「通信」といっても、日本の共同通信や時事通信と同じではないし、批判記事や暴露報道もしない。 だから、朝鮮中央通信の報道は、裏読みしなければ真相がつかめない。でも、なぜか日本メディアのソウル特派員は裏読みを避けがちだ。 話を戻すが、上述の中朝のやり取りには大きな疑問がある。そもそも「口頭親書」とは何かということだ。 親書とは、元首の直筆による手紙を意味するため、署名なき「口頭親書」などあり得ない。そうした工作や虚報を行う工作国家が北朝鮮の正体なのである。平壌駅前を行き交うマスク姿の市民=2020年5月8日(共同) では、なぜ「口頭親書」としたのか。まず、本人が文書を書けないか、自筆署名ができない可能性が疑われる。しかも、口頭なのに誰が誰に伝えたのか、明らかにされなかったのも疑問だ。 5月1日、金委員長が20日ぶりに姿を見せたことで、多くのメディアで「健康」と報じられた。それなら、自筆の親書を送るのが当然のはずが、なぜできなかったのか。それでは、中国がどう報じたかを考察してみよう。北と中国の「騙し合い」 北京の特派員は、国営新華社通信の報道を確認したうえで原稿を送る。新華社通信は9日に習主席が「口信(メッセージ)」を送った事実を報じた。中国語で親書は「亲署函」と書く。北京特派員は新華社の記事を受けて、習主席が金委員長に「メッセージを送った」と書いたのである。 ソウル特派員は「口頭親書」と書いたにもかかわらず、北京特派員は「メッセージ」としか書いていない。この差から、中国が親書と認めていないことがうかがえる。 中国語の「口信」は親書というより、明らかにメッセージだ。それでも、朝鮮中央通信は「習近平主席の口頭親書が届いた」と報じたのである。 中国が北朝鮮の要望に合わせるなら、口頭親書が来たので口頭親書の返事を出した、と報道すれば問題ない。わざわざ「メッセージ」と表現させたのには、何らかの意図があるのは当然だ。なぜ北朝鮮は「口頭親書」の表現にこだわり、中国は「親書」表現を拒否したのか。 北朝鮮は5月1日に「健康な金正恩」を出現させた。そうなると、公務で姿を見せるなど頻繁な活動を誇示しなければおかしい。 それをごまかすために「口頭親書」を送ったと報道し、健全な状態を演出しようとしたのではないか。この策略に、韓国メディアとソウル特派員がまんまと乗せられたといったら、言い過ぎだろうか。 となると、朝鮮中央通信を裏読みすれば、金委員長の「必ずしも健全ではない」事実が浮き彫りになる。この視点から、習主席の「メッセージ」を読めば面白い。親書は、首脳に直接手渡されるから「親書」であって、習主席に誰も会っていないのに「口頭親書」とするのは、外交慣例上非礼にあたる。 北朝鮮は、習主席の「口頭親書」返信を期待したはずだ。過去の北朝鮮のやり口からすれば、「口頭親書」を使うように要請したのは間違いない。それなのに、中国政府はメッセージを意味する「口信」を使った。2020年5月1日、北朝鮮・順川で完工した肥料工場を見て回る金正恩朝鮮労働党委員長(朝鮮中央通信=共同) 北朝鮮のメンツは丸つぶれだが、中国側の不快感も強いことが分かる。中国は、北朝鮮が金委員長の「健全」を宣伝するために、習主席を利用したと受け止めたからだ。 後で健全でなかったと分かったら、いい面の皮だ。失礼にもほどがある。「正恩氏健在」中国の見立て この中国の怒りと不快感が「口信=メッセージ」には含まれている。「口頭親書」の使用を懇願する北朝鮮に対し、中国側は「信」の言葉に親書の意味を含んでいる前例があると、平気な顔で返事したことだろう。そうする一方で、新華社通信の日本語訳には「メッセージ」と訳させており、かなり意図的だ。 どうも中国は、金委員長の健康がなお危うい事実をつかんでいるのではないか。それを裏付ける事実がある。 ロイター通信は4月下旬に、中国共産党中央対外連絡部(中連部)の高官らが、北朝鮮を訪問したと報じた。この高官は宋濤部長とみられている。 ロイターの報道に対して、中国外務省の報道官は否定も肯定もしなかった。それどころか、報道官は質問に「私たちには材料がない。ロイターに取材源を聞きたい」と、とんでもない返事をした。 宋部長は中国で、北朝鮮担当の最高幹部である。2011年12月、金正日(キム・ジョンイル)総書記が死去する2日前に宋部長が密かに平壌に入り、後継者問題や中国の安全保障に関する約束、そして経済支援について話し合っていたことは以前の論考で指摘した通りだ。だからこそ、今回も宋涛部長が金委員長の健康状態を詳細に確認したのである。 習主席が送った「メッセージ」の中にも奇妙な表現があった。「新たな時代の中朝関係」「双方の重要な共通認識を実行」という言葉だ。 金委員長が権力を継承してからもう10年近くになるというのに、いったい「新たな時代」はいつを指すのか。実は、中国が金総書記以降の時代を「新たな時代」と示唆することで、何が起きても北朝鮮を支持し、支援するという立場を強調したという噂が、北朝鮮の首都平壌(ピョンヤン)では広がっているという。朝鮮人民軍のサッカー競技を観戦する金正日総書記。2008年11月、朝鮮中央通信が公開した(共同) さらに「双方の重要な共通認識を実行」という表現には、いまだに実行されていないとの意味が含まれる。中国は金委員長の健康を「健全」とは考えていない、というメッセージだと分かる。 何より金日成(キム・イルソン)主席の生誕記念日「太陽節」に、金主席を安置する錦繍山(クムスサン)太陽宮殿に参拝しなかった理由がいまだに不明だ。それに、前回の寄稿でも指摘した謎が残されている。金委員長が自筆の「親書」を送り、次の登場の際に肉声が聞こえるまでは、疑念が消えることはない。

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    日本企業の支社長ネット炎上が象徴する「香港民主化デモ」の矛盾

    清義明(フリーライター) 5月22日に開幕した、中国の全国人民代表大会(全人代=国会)で、香港を対象とした「国家安全法」が制定される見込みだ。このあと常務委員会に諮られ、施行となる見込みだ。 中国の国家安全法は2015年に、国家分裂を志向する反政府活動、外国による干渉や、テロ行為などを禁じることを目的として施行された。香港のものも、これとほぼ同種になるだろう。 香港の「一国二制度」は、立法や行政、司法の三権が中国から自律することを保証し、両者ともに繁栄を目指していくというコンセプトだ。そのため、15年に制定された国家安全法は、香港に適用されなかった。 香港の民主化運動は昨年からエスカレートして、全く収拾のつかないアナーキー(無秩序)な情勢となっている。昨年6月9日の100万人が参加したとされる大規模デモから、1年がたとうとしている。 香港のこの1年は、騒乱と破壊と暴力が吹き荒れた。 昨秋の地方選で民主派の地滑り的勝利があり、さらに新型コロナウイルス騒動で、民主化運動はいったんサスペンデッドとなっていたものの、いつまた暴発し始めるかは分からない。この事態に対して、やはり中国は手を打ってきたということだ。 この民主化運動が国家主権の侵害にあたる分裂運動につながり、さらに米国をはじめとする国際社会の連携は外患誘致にあたるものとして、中国はこれを国防問題の一つとみなす法解釈をとる模様だ。そうすれば、香港での法的手続きなしで国家安全法の香港導入が可能となる。 恐らく、これまでの香港における集会や言論の自由などに形式上は手をつけず、テロ行為とみなされる破壊活動や、国家分裂などを誘引するとされる言論活動は、今以上に厳しく取り扱うことになるだろう。ただし、これを現行の一国二制度を担保する「香港特別行政区基本法」とどのように整合性を持たせるのかは不明だ。 この香港の民主化運動の1年は、香港市民の勝利と挫折、そして光と影が強烈なコントラストで互いに交差して一筋縄ではいかない事態となっている。 民主化運動を主導した若者たちの反乱はアナーキーなものだった。彼らは自分たちの運動を「Be water (水になれ) 」と定義した。深淵(しんえん)ともいえるし衒学(げんがく)的ともいえる、ブルース・リーの有名な言葉から引用している彼らの大衆反乱の定義は、もちろん強大な敵に立ち向かうためには強みともなるし、また同時に弱点ともなる。2020年1月1日、「香港独立」の旗を掲げてデモをする香港の若者たち(藤本欣也撮影) 現在の香港は日本の1968年の大衆反乱に似ている。あの運動は、一般には左翼セクトによる学生運動とみなされることが多いが、実際のところは中心を持たないアナーキーな大衆反乱だった。その巨大なエネルギーを制御する術(すべ)を、当時の学生運動はほとんど何も持ちえなかった。 香港の民主化運動も中心を持たない。驚くべきことにインターネットの匿名アカウントたちの議論が、今の民主化運動を支えているといっても過言ではない。そして、それは時として暴走することもある。 日本のとある洋菓子メーカーが、香港をめぐって先日ネットで炎上した。だが炎上したのは、日本国内ではなく、香港だ。 事の始まりは、洋菓子メーカーに勤める香港在住の日本人が、ツイッター上で香港の民主化運動に批判的な書き込みをしたことがきっかけだ。批判的といっても、ちょっと皮肉めいた書き込みをしただけである。暴徒化するデモ隊 日本では、昨年から始まった香港の民主化を求めるデモや運動を支持するような記事ばかりが見られる。しかし、実際に香港へ行って話を聞いてみると事情はやや異なる。 実際の香港は、日々の生活をないがしろにし、香港経済を人質にするような「死なばもろとも」の抗議活動に対する批判は少なくない。 特に香港在住の日本のビジネスマンなどからは民主派に同情的な意見が出つつも、「取材ということでなければ」ということで、こっそりとデモに批判的な意見を話してくれる人も多い。ただ「その人の立場や正体が明らかになる」ということならば、事情は別である。 上記の件は、匿名で書かれた日本人のアカウントが何者か、民主派のシンパが探り当てた。どのように特定したのかは分からない。いわゆる「身バレ」である。しかも、アカウントが洋菓子メーカーの香港支社長のものであったから大変である。 その洋菓子メーカーは日本資本の百貨店を中心に、数多くの直営店をアジアに出店している。香港有数の繁華街である銅鑼湾(コーズウェイベイ)の香港そごうに出店している他、有名なショッピングモールにもいくつか店舗を構えていて、それなりに知名度もある。 特定された日本人支社長を糾弾するために、香港の民主化運動の牙城となっているネットの匿名掲示板「LIHKG」ではさっそくスレッドが立ち上げられた。「この支社長の書き込みは、香港の民主運動を冒涜(ぼうとく)するもので、悪意があり攻撃的である。この男のやることは理性を超えている」というような非難が書き連ねてある。 ここまでの話だと、日本であればよくあることだ。ここから先はせいぜい電凸(でんとつ)といわれるクレーム電話があったり、不買運動めいたことがあるだろうが、それは抗議者が次のターゲットを見つけるまでの間だけだ。 しかし、香港の場合は事情が違う。 昨年6月に逃亡犯条例の改正案をめぐるデモが始まってから、香港の民主化運動は先鋭化し、制御が効かない暴力的なものとなってきている。それは日本で報道されているような「警察の弾圧に非暴力で立ち向かい不条理な弾圧を受けている」というストーリーでつづられるものとはかなり違う光景である。 私が現地の最前線で見たのは、警察を挑発してレンガや鉄パイプで攻撃し、政府施設を破壊して突入しようとする民主運動の若者たちだった。 日本の有名な中国問題のジャーナリストや香港民主運動のシンパたちは、最初のうちは「破壊行為をしているのは中国共産党に雇われたヤクザがやったこと」と書いた。あるジャーナリストは「若者が暴力的なことはやるはずがない」と断言していたが、そのうち暴力や破壊行為が大っぴらになってくると、ヤクザがやったという「陰謀論」をいつの間にか口にしなくなり、彼はやがて暴力行使を仕方ないものとして肯定することになった。 次に見たものは、私の目の前で黒ずくめのデモ隊が何の罪もない運転手を集団リンチしている光景だった。クルマから引きずりだされてリンチされた運転手(筆者撮影) 駐車場に仕事のクルマを止めていた運転手が、後でデモ隊に周囲の路上を封鎖されてしまったらしい。それでクルマを通せ通さないと口論になったのだが、そのうちにお互い激高し、運転手はクルマから引きずり出され、人数で勝るデモ隊に気絶するまで殴り続けられていた。 クルマはデモ隊によって徹底的に破壊され、割れたフロントガラスが散乱する路上には失神した運転手が転がっていた。自由と民主の理念はどこに 香港の民主派の多くは「このようなリンチが各所で行われているのは仕方ない」「警察の方がもっと悪いので、私たちが代わって政府支持者を攻撃している」と言う。けれども、私にはその理屈が全く理解できなかった。これが香港の人たちが求める民主主義なのかと、納得がいかない思いに何度させられたか分からない。 このようなリンチは、今や香港で日常茶飯事になっている。デモ隊がいるところで、香港市民が広東語ではなく、北京語をしゃべっているだけで危険なことになる。 デモ隊に文句を言ったために、何人もの保守派の市民がこれまでリンチに遭ってきたか、その数は相当なものになるはずだ。ある女性は水やペンキをかけられただけでなく、集団に囲まれ、侮辱されて追い回されたそうだ。ある男性は何人もの若者に民主化運動の象徴ともいわれた傘でめった打ちにされ、足蹴(あしげ)にされて路上に放置されたと訴える。 また、暴行や暴力の現場を撮影する者はカメラを取り上げられることもあった。事情を知らない日本人が、デモの様子をカメラで撮っているところを襲われた事件もあった。その後、民主化運動の情報が飛び交う会員制交流サイト(SNS)上では「日本人のフリをするスパイがいるから写真を撮らせないように気をつけろ」という書き込みが回っていた。 正当化された暴力はエスカレートし、デモ隊に抗議していた老人がガソリンをかけられ、燃やされたこともあった。このショッキングな映像は、日本でもテレビなどで報道された。衝撃を受けた日本の芸能人が、SNSで「どんな事情があろうとこんなことは許されるべきではない」とコメントとすると、日本の香港民主運動シンパのアカウントから大量の批判コメントがついた。どれも暴力を肯定するものばかりだった。 香港の反政府運動で、一方的に若者が弾圧されて死者が出ているというのも誇張である。5月24日現在まで、デモ隊側に確実な死者が出たというのは1人だけだ。これも警察に直接やられたものではなく、警察に追われるうちに起きた転落事故である。 あとはうわさに尾ひれがついたものとしか言いようがないものばかりだ。私が話を聞いた香港の民主派議員は、自身が弁護士でもあると断った上で「死者が出た噂に確証はない」と言った。 そして、香港民主化運動における「悲劇」の象徴の一つは、片目を失明したといわれる女性だ。警察に発砲された制圧用のプラスチック弾が目に直撃したとされている。香港民主化運動の悲劇のヒロインとして、片目を手のひらで覆い隠すジェスチャーが、香港民主化運動の連帯のシンボルとなって世界中に広まった。 だが彼女は自らの診断書の提出を拒否し、捜査のためにそれを入手しようとしている香港警察と裁判になっている。痛ましい事件であるが、彼女が本当に失明したかは今のところ闇の中だ。日本でもこの事件は大きく取り上げられたが、実は誰もこの情報の真偽を確認していない。 悲劇のヒロインといえば、自殺したとされる女性が、実は警察に逮捕されて収監中に謀殺されたという話もある。これはさらに確認できない情報で、香港警察はもちろん否定し、母親も否定した。商業施設で警備に当たるマスク姿の警官隊=2020年4月25日、香港(ゲッティ=共同) けれどもネットでは、母親も警察のグルで、しかも実の母親ではなく役者であると、あたかも事実のように語られている。 これも事実かどうかは闇の中だ。しかし一つだけ言えるのは、この謀殺されたとする女性があたかも民主化運動の殉教者のように扱われていることだ。噂の域を出ないのにもかかわらず、香港の街中には彼女の写真が飾られ、花が献花されている。 昨年の8月31日には、香港の地下鉄駅構内で警察とデモ隊の大きな衝突があった。その際にデモ隊側に複数人の死者が発生し、警察と地下鉄運営者側がその情報を隠蔽(いんぺい)しているというのも、香港では広く信じられている。 だがその死者の正体は分からず、その病院で遺体を目撃したと情報をネットに上げた人物も匿名で、いまだに名乗りを上げていない。香港の警察監察機関(IPCC)はさまざまな証拠を挙げて、これがネットを中心に広がったデマと断定している。日本企業も被害に 一方で、デモ隊側と一般市民のトラブルでは死者が出ている。デモ隊が親中派とみられる一般市民とトラブルになり、レンガを投げ合う展開になった。 すると、たまたまそこに居合わせてしまった70歳の清掃員の頭部にそのレンガが直撃した。この清掃員は後に死亡し、デモ隊の15~18歳の男女5人がレンガを投げたとして逮捕されている。 親中派とされて破壊や暴力による攻撃を受けるのは一般市民だけではない。そこには、日本でおなじみの企業の名前もある。 徹底的に攻撃を受けたのは、牛丼チェーンで有名な吉野家である。香港のスタッフが香港公式SNSアカウントで民主化デモに賛同し、警察を揶揄(やゆ)するようなコメントを書き込んだ。 この書き込みは政治的なものであるとして、経営側により削除された。だが、これに民主派の若者は言論弾圧だとかみついた。 加えて、吉野家のフランチャイズ(FC)店を展開する合興集団(ホップ・ヒン・グループ)の経営者が親中派とみなされていたことも拍車をかけ、香港吉野家は徹底的な攻撃対象となり、破壊された。 他にもデモ隊に批判的だということで攻撃されたのは美心集団(マキシム・グループ)だ。この企業が香港でFC展開する日本の元気寿司や、東海堂(アローム・ベーカリー)も破壊されつくした。 スターバックスコーヒーも、香港でのFC展開を美心集団が行っているために攻撃対象となった。暴徒と化したデモ隊が、親中派なら何をやってもいいとばかりに、店内を破壊し火をつける映像が、香港のテレビで多数流された。経営が親中派や大陸資本とみなされるとこのように破壊されてしまう(筆者撮影) 洋菓子メーカーの一件は、こうした情勢の中で生まれたものだった。香港で親中派とみなされれば、法治が及ばない破壊と暴力に晒(さら)されることを、現地に進出している企業ならば皆知っていることだ。当然洋菓子メーカーの経営陣も知っていただろう。それゆえに対応は早かった。 支社長が香港の民主派シンパに身バレしてしまったことで、洋菓子メーカーの日本本社はすぐにフェイスブックページで謝罪文を掲載し、支社長の更迭と帰国を命じたことを告知した。この対応は致し方ないだろう。このままでは、デモ隊の暴力の刃が向くことは間違いないからだ。 香港のネット上では「この日本人支社長はデモ隊のことを『ゴキブリ』と言った」と炎上しながら広められている。ただし、支社長はこの発言をしていないと述べている。香港の民主派シンパが「これが証拠だ」とするツイートもあるが、どうやら日本語が分からないのだろう、そんなことはどこにも書いていない。しかも、真偽を誰も確認していない。今の香港ではよくある話である。 だが、そもそもこの洋菓子メーカーの騒動は匿名で書いたものだ。このようなちょっとした書き込みがここまでのことになるというのは、いったいどういうことか。 書いた本人は、せいぜい茶化しただけであるし、それ自体は言論の自由の範囲である。差別的な発言であったり、名誉を毀損(きそん)したり、犯罪を示唆するものでもない。 実を言うと、私自身も同様の体験を既に受けている。二つの真実の闘い 私は昨年に香港デモの取材を行い、どうにもこの「民主化運動」がおかしなことになっていると、デモが始まった初期の段階からメディアで指摘してきた。デモ隊が非暴力というのはウソであるし、彼らの政治志向の中には、大陸人に対する危険な差別主義が宿っている。 このことは私などよりも広東語に通じ、デモの情勢に触れている香港の日本人やジャーナリストなら知っているはずだ。しかしごく少数の人を除いて、誰も触れようとはしなかった。 すると、指摘が日本人シンパを通じて香港の民主派の若者に伝えられたらしい。今回の洋菓子メーカーの支社長と同じく、香港の匿名掲示板で私の顔写真が貼られて「親中派の工作員である」と非難された。 「こいつを見つけたら捕まえろ」と、掲示板には絵文字で私の殺害をほのめかすような書き込みまであった。私はそれ以降、香港でのデモ取材はリスクが極めて高いものとならざるをえなかった。 日本の香港デモシンパたちによる一種の密告のような行為は、私のみならず、他のジャーナリストや著述家にも向けられている。 しかしデモ隊に批判的な者は、そもそも見た事実をそのまま書いているだけである。それが脅迫されるならば、彼らが求めているという「自由」や「民主主義」とは一体何なのだろう。 決して親中派ともいえないし、むしろ香港の人たちの民主化運動を理解しつつも、暴力と破壊行為、そして香港では少数派である中国人への差別的な抗議運動には批判的な人も少なくない。 だが取材活動を通じて、そのような過激なデモに「批判的なはずの人たち」から取材を断られた。いわく「今は取材に答えるリスクが高すぎる」とのことだ。 「抗議活動に都合の悪いことをネットに書いただけで、あそこまで攻撃されるというのは大変ショックでした」という声は少なくない。デモ隊の民主化運動を支持していても、そのやりすぎを批判することは今の香港では危険な行為なのだ。これが現在の彼らの「自由」と「民主」なのである。 もちろん、私は香港の民主化運動を支持する立場である。しかしこのようなことが続いていく香港に、私は暗い予感を募らせている。どこかで「これはおかしい」ということに気づいてほしいのだが、その声は届かない。 そして中国政府は、この民主化運動を一国二制度の枠を乗り越えたものとして大きなものにならないよう画策する。 彼らは言う。見てみなさい、ご覧の通りでしょう。民主主義の運動などこのように秩序がないものであって、彼らは暴徒にすぎない。米国からお金をもらっている人に操られるか、洗脳されているだけなのだ、と。 ネットが発達した現在、このような考え方は中国政府のプロパガンダ(政治宣伝)ではなく、素朴な正義感に浸った中国の人たちに広く共有されてしまっている。 中国側のネットでは、香港の民主化運動の活動家やシンパの情報が顔写真とともに晒され、「やつらを許すな」というようなコメントが多数ぶら下がる。香港のSNSとは全く真逆で、こちらでは暴力行為や破壊行為の映像だけがアップされている。まさにパラレルワールドのような話である。2019年10月27日午後、香港中心部の尖沙咀で、デモ隊に警告する警官隊(三塚聖平撮影) モンスターがもう一つのモンスターを生み出し、そこには決して共有されない二つの「真実」が並列されている。この二つの「真実」は、どこかで折り合いをつけるのか、それとも破滅が待っているだけなのか、私には分からない。 ただただ、香港の未来に不安だけがある。

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    アフターコロナ「中国の野望」はトランプの自滅で動き出す

    富坂聰(ジャーナリスト、拓殖大学海外事情研究所教授) 新型コロナウイルス禍の終息後、中国はどこに向かうのか―。日本の一部には、武漢の封鎖解除にこぎ着けた中国が「世界の覇権に動き出す」との観測もあるようだ。 でも、そんな話題を論じるのは時期尚早だ。新型コロナウイルスにはまだ分からないことも多く、秋以降の感染再拡大も含め、第2波が起こる懸念も残る。 ただ、習近平指導部が生産再開を急いだのは間違いない。22日から全国人民代表大会を開くことも決めた。 ウイルスを完封できなくてもコントロールは可能と踏んだからだが、理由はそれだけではない。背後には極めて政治的な思惑も絡む。 「二つの100年」目標の達成だ。「二つの100年」とは2021年、中国共産党が結党100周年を迎えるに際し、「全面的小康社会」(ややゆとりのある社会)を実現させる。そして、建国100周年の2049年には、中国を「復興」、つまり米国をしのぐ先進国にさせるという二つの公約だ。 小康社会といっても分かりにくいが、習政権下でこの目標は「国内総生産(GDP)と平均収入を2010年の2倍にし、貧困を撲滅する」と具体化された。 平時でもハードルの高い目標だが、新型コロナの影響で、今年1~3月期のGDPは既報通り、マイナス6・8%(実質)と大きく落ち込んでしまった。今年、2010年のGDPの2倍を達成するためには年間5・7%の成長率を実現しなくてはならず、絶望的な状況だ。 しかしもう一つの目標、「貧困撲滅」はまだ間に合うと考えたのだろう。俄然、ニュースの頻度も高まっている。G20首脳のテレビ電話会議に臨む中国の習近平国家主席=2020年3月、北京(新華社=共同) 新型肺炎の感染が落ち着き始めた当初、中国が経済再生の頼みとしたのは貿易だった。政策にも外資優遇が目立った。 依然として貿易依存度が高い中国ならではの動きだが、国務院は新型コロナでダメージを受けた企業への補助金や減免税の内外格差の是正、新たなネガティブリストの作成など、環境整備に躍起だった。貿易のチャネルを一気に広げ回復の起爆剤にしようと目論んだが、周知のように今度は欧米で感染が爆発、貿易どころではなくなってしまった。「中国責任論」吹き荒れるか 自然、中国の経済政策の重心は、内需喚起へとシフトせざるを得なくなった。2003年の重症急性呼吸器症候群(SARS)流行と同じく、「新型コロナ禍を乗り越え、高い経済発展を実現した」と胸を張りたかった習政権の目算が狂った。 今「脱貧困」は「二つの100年」の公約以上に、新型コロナに対する勝利宣言の意味が深まってきている。これが中国外交に影響を与えないはずはない。 「脱貧困」に全力投球したい習政権には静かな外交環境が不可欠だが、世界の風は読みにくい。中でも、米国のトランプ政権がたびたび言及する「中国責任論」に、世界が同調する動きには神経質にならせざるを得ない。 感染症との戦いは歴史上、人類が避けられない共通の課題だが、感染源の中国への風当たりは強まっていく。筆頭は、大統領選を控えたトランプ政権だ。米国経済が疲弊すれば、国民も対中強硬を後押しするだろう。 そして、中国は当面、この問題と向き合うことでエネルギーを消耗することだろう。 4月29日、ロイター通信は「中国、米大統領選で私を敗北させたい=トランプ氏」と題した記事を配信した。先立って4月24日には、米政治サイト「ポリティコ」が、共和党全国上院委員会が各候補者のために作成した57ページの「選挙運動メモ」を入手したと報じた。メモには、共和党のトップ・ストラテジストが「中国を積極的に攻撃することで新型コロナ危機に対処するよう」アドバイスし、民主党候補者をいかに中国政府と結びつけるか、もしくは近い存在だと印象付けるか、その方法まで指南したという。 既視感のある話だが、改めて中国叩きが米政界でインスタントに人気を得られる手段であることは理解できる。米世論調査の対中感情も、新型コロナの感染拡大後には史上最悪レベルにまで下落した。 トランプ政権の「中国責任論」が何を指したものかは判然としない。だが既にメディアでは、賠償請求をはじめに、米国内の中国系企業の資産凍結、金融制裁や債務放棄、制裁関税から世界のサプライチェーン(供給網)から中国を排除する案まで取り沙汰されている。2020年5月13日、米ホワイトハウスでの会議で、マスクを着用せず発言するトランプ大統領(ゲッティ=共同) 賠償請求に関しては、現行の国際法と国際保健規則(IHR)には、感染症の世界的大流行(パンデミック)に対する国家の引責の根拠となる条項はない。実際、2009年に米国発でパンデミック宣言が出された新型インフルエンザやエイズ、狂牛病、そして病原性大腸菌O157など国境を越えた被害が及んでも、賠償が発生したケースはない。なぜ中国だけが賠償の責を負うのか、過去との整合性は見つからない。 ただ、トランプ政権が本気になれば、制裁関税や金融制裁を科したり、影響力を行使して中国をサプライチェーンからの排除するなど独自の方法で代償を求めることは可能だ。中国も対処を余儀なくされるだろう。「脱米」本当の意味 この構造は米中貿易戦争と酷似している。米中貿易戦争が激化した折、私は中国が「緩やかな『脱米』」に動くと指摘したが、それは新型コロナ禍の後にこそ顕著となる。 ただし「脱米」といっても現実的な選択ではない。米国は依然、切っても切れない貿易パートナーで自国経済を発展させるためにも不可欠な技術の宝庫だ。 ゆえに、ここで言う「脱米」は、最悪に備えるという意味でしかない。ただ、中国は確実に、米国の持つ愚かさと付き合うデメリットと、経済的なメリットを天秤にかけ始めている。 「愚かさ」などと言えば語弊があるが、それは新型コロナ禍後にトランプ政権が中国に制裁を発動するその行為に集約されている。 米国には中国に打撃を与える力はあるが、制裁で傷つくのは中国ばかりではない。中国が一方的にやられるはずもなく、待っているのは「ルーズ・ルーズ」だ。 米中ともに新型コロナ禍のダメージから回復を急がなければならないときに、こんな泥仕合をすれば、経済回復はさらに遅れる。トランプ政権が、それを分かっていながら目先の人気取りに走るのならば、それは愚かさ以外の何ものでもない。 中国にはもともと、米国に対抗するという「選択肢」はなかった。しかし、中国が新型コロナの感染拡大に苦しむ中、トランプ政権から「中国ウイルス」「武漢ウイルス」と次々に繰り出される「口撃」に、それまで曲がりなりにも保ってきた融和的姿勢は消え始めた。 露骨な変化の象徴がポンペオ国務長官に対するあからさまな個人攻撃である。国営中央テレビ(CCTV)は、4月27日から4日連続でポンペオ批判を展開した。 兆候は既に3月16日にあった。ポンペオ長官と電話会談した楊潔篪(よう・けつち)国務委員が、「武漢ウイルス」などと発言する政治家に対し、「一部の政治屋(政客)」という言葉を使い噛み付いたのだ。 中国がこうした攻勢に出た背景には、国際社会における米国の存在感が薄れたことがある。習指導部は今、敏感にその変化を感じ取っている。新型コロナウイルスについて中国の専門家と共同記者会見するWHOのエイルワード氏=2020年2月、北京(共同) 今回の新型コロナ禍では、世界保健機関(WHO)の対応が象徴的だ。トランプ大統領はWHOが中国寄りだと批判し、資金拠出を停止するとプレッシャーをかけたが、同調する動きは広がっていない。また、WHOが圧力に反応して、大きく方向転換したという事実もない。欧州に広がる「米国離れ」 そもそも、なぜ最大スポンサーの米国がWHOを自在に操れないのかも疑問だ。 新型インフルエンザの感染拡大時、当時のマーガレット・チャン事務局長がパンデミック宣言を出すタイミングが早過ぎたとして、米国の逆鱗に触れた。それがWHOのトラウマになり、今回、パンデミック宣言が遅れた遠因にもなったとされる。 4月28日、WHO元法律顧問のジャンルカ・ブルチ氏は時事通信の取材に応じ、「米国は2009年の新型インフルエンザ流行時には情報提供を遅らせた」と語っている。当時のWHOはそんな米国に文句の一つも言えなかったのである。 変化の理由には、「アメリカ・ファースト」を前面に押し出すトランプ政権の4年間で、パクスアメリカーナや米国のソフトパワーの減衰を、世界の多くの国や国際機関が感じ始めたことが挙げられる。 昨年トランプ政権が仕掛けた「華為(ファーウェイ)包囲網」も、中国に対する為替操作国認定も、以前だったら西側先進国が米国と歩調を合わせ、中国も大きな打撃を被ったはずだ。 注目は欧州の米国離れだ。新型コロナ問題で中国への逆風が強まる中、独通信大手ドイツテレコムは第5世代(5G)移動通信網を構築する上でファーウェイの技術が必要だと有力紙「フランクフルター・アルゲマイネ・ツァイトゥング」に答えたという。 中国の視線もこの点に向けられている。武漢の封鎖解除がまだ解かれない中、イタリアやドイツ、フランス、スペインなどに医療物資やスタッフを送り込み、支援に動いたのは象徴的だ。2020年3月、ブリュッセルで記者会見するフォンデアライエン欧州委員長(AP=共同) さらに4月29日には、欧州連合(EU)欧州委員会のウルズラ・フォンデアライエン委員長と電話会談した李克強首相が、「中国は欧州とともにワクチンや新薬の開発を行いたい」と語った。新型コロナ後の争奪戦が予測される分野での協力を持ちかけた形だ。 米中の対立が激化する中、「西進」へと邁進する中国の選択は結実するのか。今後の世界の趨勢を決める大きな要素だ。 米国にはそれを阻止する力は十分あるが、トランプ政権が「新型コロナの武漢研究所発生説」や「台湾のWHO加盟」を持ち出す嫌がらせや、「中国と戦っている」というパフォーマンスに終始するなら、中国に吹く新型コロナの逆風はいずれ追い風に変わるだろう。それは米国の政治家の利益にはなっても、国益のための行いではないからである。

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    対コロナでどうなる?アフリカを覆い尽くす中国の「アメ」と「ムチ」

    下村靖樹(フリージャーナリスト) 4月半ば、中国・広州で新型コロナウイルスに関連して、アフリカ人差別が広がっていると、世界各国のメディアで取り上げられた。 ことの発端は、アフリカ系であることを理由にレストランなどへの入店を拒否されたり、アパートを追い出され、路上生活を強いられているという、アフリカ系住民や留学生が助けを求める動画だった。中国メディアによれば、ナイジェリア人1人が新型コロナウイルスの検査から逃れるため、地元病院の看護師にけがを負わせたうえ、逃亡した事件が引き金になったそうだ。 ウイルス鎮圧に力を入れている広州では、外国から持ち込まれるウイルスが第2波の引き金となることを警戒しており、外国人に対する検査を強化している。特に、アフリカ諸国を母国とする人は国外渡航の有無にかかわらず、約4500人全員が検査を強要されていたという。 動画は多くのメディアでセンセーショナルに取り上げられたり、会員制交流サイト(SNS)経由で広く拡散し、アフリカの著名人が「救出に向かう」と声明を出すなど、世界的に大きな問題となった。その結果、店頭に「アフリカ系お断り」の張り紙をしていたマクドナルドが謝罪したり、中国政府の駐アフリカ連合(AU)大使の謝罪がAUに掲出される事態になった。 一方のアフリカでも、アフリカ大陸で感染者が報告された直後から、東洋人への差別行為が伝えられた。アジア人女性が現地の人々に侮蔑される動画が投稿されたり、東洋人に対してタクシーから乗車拒否を受けた。日本人を含む多くの東洋人が、街中で「コロナ、コロナ」と罵声を浴びせられたようだ。 現在は都市封鎖(ロックダウン)中の国が多く、トラブルはあまり発生していないようだが、アジア人に対する偏見に留意するよう注意喚起を出している在外公館もある。 迫害に関わっていた人物が逮捕されるなどして、公的な非難こそ止んでいる。ただ、市民レベルでは、コンゴ人の父と中国人の母を持つ中国在住の有名ブロガーのウェブサイトに「アフリカに帰れ」というような誹謗中傷が殺到するなど、未だ沈静化したとはいえない状況だ。中国広東省広州市で、マスクをして地下鉄に乗る乗客=2020年2月(共同) アフリカで初めて新型コロナウイルス感染者が確認されたのはエジプトで、2月14日のことだった。以降、他の地域よりは緩やかであるものの、感染者数は増え続け、4月19日時点で、全54カ国の感染者は2万1317人、死者1080人、回復者5203人となっている(レソトとコモロでは感染者ゼロ)。 医療システムや社会基盤が脆弱(ぜいじゃく)なアフリカ諸国の反応は素早かった。感染拡大が懸念され始めた3月下旬には、多くの国が物資の運搬を除き国境を閉鎖し、軍や警察の管理の下、ロックダウンや夜間外出禁止令を出すなど、人の移動を制限した。 他方で、医療物資の不足は深刻で、世界各国に支援を求めることとなった。その声に応えたのが、中国の電子商取引(EC)最大手、アリババグループ創業者の馬雲(ジャック・マー)氏で、エチオピア経由でアフリカ54カ国に送付すると表明した。エチオピアとの「蜜月」 早速3月22日には、エチオピアのアビー首相がツイッターで、検査キット110万セット、マスク600万枚、防護服6万枚が届いたことを明らかにした。4月6日にも、呼吸器500台、防護服20万枚、フェイスシールド20万個、非接触型体温計2千個、検査キット100万セット、手袋50万枚がアリババグループから送られたことが馬氏のツイッターで報告され、4月20日には第3弾の送付も発表された。 エチオピアは、米国のトランプ大統領をはじめ、中国に忖度(そんたく)したことで初期対応を誤ったと非難されている世界保健機関(WHO)のテドロス事務局長の母国でもある。 エチオピアの正式国名はエチオピア連邦民主共和国といい、前身は1270年から約700年続いたエチオピア帝国だ。政変によりその後、社会主義エチオピア、エチオピア人民民主共和国、エチオピアと変遷し、1995年に現在の国名となった。 厳密に言えば、1936~41年はイタリア統治下にあったが、アフリカで唯一植民地化されたことがない国とも言われ、国民も非常にそれを誇りにしている。 中国との関係は1970年、エチオピア帝国時代の国交樹立に始まった。その後、中ソ対立の影響を受けて、一時疎遠になることもあったが、国内の道路や発電所、ダムなどさまざまなインフラや、約2億米ドルの総工費を中国が全額負担し、首都アジスアベバにAU本部を建設するなど、幅広い分野で中国からの支援を受け続けている。 2000年に北京で始まったアフリカ各国の首脳級が参加する「中国・アフリカ協力フォーラム」(FOCAC)でも、2003年に行われた第2回開催地として選ばれた。このように、中国のアフリカ政策におけるエチオピアの重要性が明確になった。 資源確保の面でも、エチオピアの地理的重要性は非常に高い。同国が国境を接しているのは、スーダン、南スーダン、ケニア、ジブチ、ソマリア、エリトリアに、国際的にはソマリアの一部であるものの、実質的には独立国家状態のソマリランドを加えた7カ国だ。 このうち、比較的政情が安定しているのはケニアとジブチだけであり、内陸国であるスーダンや南スーダンから港まで資源を運ぶためにはエチオピアの安定と発展が不可欠なのだ。エチオピアの首都アジスアベバにあるアフリカ連合(AU)本部(ゲッティイメージズ) その一方で、国の借金である対外債務の17%を中国が占め、中国からの輸入25億3800万米ドルに対し、輸出は3億450万米ドルにとどまり、21億9300万米ドル(約2412億円)の輸入超過となっている。今回の新型コロナウイルスへの対応においても、経済協力開発機構(OECD)の開発援助委員会(DAC)に160万米ドルの支援を要求している。 先日、国連食糧農業機関(FAO)は、1カ月ほど前に東アフリカ一帯に大被害を与えたサバクトビバッタによる蝗害(こうがい)の第2波発生が予測されると警告した。被害地域では、約2千万人が既に深刻な食糧危機の状況にあるが、専門家によると、第1波の20倍の規模に達する可能性があるという。伸び悩む日本のプレゼンス 新型コロナウイルスによる経済活動の停滞に加え、国間の移動が制限されている現状では、大規模な飢饉(ききん)が発生すると、エチオピアを含む東アフリカ地域の安定が大きく崩れてしまうかもしれない。 アフリカにおける中国の影響力を顕著に現しているのは貿易額だろう。国連統計部のデータによると、1992年から中国におけるアフリカ諸国との輸出入額は以下の通りになる。輸入1992年 4億9千万ドル(617億円)2018年 803億4千万ドル(8兆3300億円)輸出1992年 12億6千万ドル(1587億6千万円)2018年 1049億5千万ドル(11兆5445億円)※1992年は1ドル=126円、2018年は1ドル=110円で算出 データが残っている1992年からの26年間で、輸入は約164倍、輸出も約83倍にまで激増した。当然、輸入決済通貨を徐々に米ドルから人民元に切り替えつつあるという。 日本は中国に先んじて、1993年にアフリカ諸国との間で初のアフリカ開発会議(TICAD)を開始した。アフリカにおける日本のプレゼンスを高めたものの、貿易面では完全に伸び悩んでいる。輸入1992年 8578億円2018年 9913億円(約1・2倍)輸出1992年 4616億円2018年 9001億円(約1・9倍) 影響力の拡大は経済面だけでなく、多岐にわたる。 ソマリア沖海賊の脅威に対応するため自衛隊も拠点を置いている東アフリカのジブチに、2017年、中国が初の海外軍事基地を置いたことは記憶に新しい。その背景には、国連平和維持活動(PKO)として常時2千人以上の要員を配置するなど、国連安全保障理事会の常任理事国で最大の兵力拠出国であり、「アフリカの平和と安定を守る」と公言していることも大義名分になっている。第7回アフリカ開発会議(TICAD)昼食会を兼ねて開かれた「西インド洋における協力特別会合」であいさつする河野太郎外相(奥右から2人目)=2019年8月、横浜市内のホテル(代表撮影) 他方、武器貿易においても、中国の存在感は増している。米戦略国際問題研究所(CSIS)によると、2008年以降のアフリカへの武器輸出額はロシアと米国に次ぐ3位で、約32億米ドル(3520億円)となっている。 ソフト面においても、軍関係者からの支持を得るための根回しは広く行き渡っている。将校以上の軍人を自国に招き、数カ月にわたり研修の場を提供するなど、その影響力を強めている。デジタルでも進む中国の「道」 政情不安な国が多いアフリカにおいて、政治家はクーデターなどで退場するが、クーデターを起こすのは軍人であり、その中心にいるのは必ず将校以上の軍人だ。つまり、軍内部に広いパイプがあれば、たとえ政権が変わっても引き続き影響を持ち続ける事ができるのだ。 中国による、アフリカ各国を鉄道網や高速道路で繋ぐ計画も進行中だが、インフラ面で現在最も進んでいるのは「海上のシルクロード」の要となる港湾への影響拡大だろう。CSISによると、既にケニア、タンザニア、モザンビーク、アンゴラ、ナイジェリアなど20カ国以上の46の港湾で、資金提供・建設・運営などの影響力を持ち、米国は現状に危機感を募らせているという。 また、発展途上国に光ファイバーネットワークを確立する「デジタル・シルクロード」構想も進んでいる。 先鋒を担っているのは、中国通信機器大手の華為技術(ファーウェイ)だ。海底光ファイバーの敷設だけでなく、第4世代(4G)移動通信システムネットワークの設置や「スマートシティー」への取り組み、今年に入ってからは南アフリカなどで5Gの運用も始めている。 年平均10%以上と大きく伸びるアフリカのスマートフォン市場でも、中国の存在は大きい。ローエンド(低価格帯)のスマホを充実させることで支持を得て、シェア1位のテクノ(伝音控股、トランシオン)(20%)と4位ファーウェイ(9%)だけで、市場の29%を占めている。 コンテンツの分野でも、大手メディアの四達時代(スタータイムス)がアフリカ30カ国以上に展開し、月額2千円程度で、地上デジタルと衛星のテレビサービスを2600万人のユーザーに提供している。放送されている番組は他のケーブルテレビ同様、欧州サッカーなどの人気コンテンツだ。もちろん、中国で制作されたドラマやニュースもある。 スタータイムスはハード面でも、アナログテレビからデジタルテレビに切り替える国や放送局に技術を提供するとともに、貧困層の多い農村部からも衛星放送にアクセスさせるプロジェクト「Access to satellite TV for 10,000 African villages」を行っている。その目的は農村地域における情報格差(デジタル・デバイド)を減らすことだ。 一方で、自由と民主主義を監視する国際非政府組織(NGO)フリーダムハウスからは、体制側による言論統制やインターネットへの接続制限などネット上の自由を脅かすノウハウを、中国がアフリカ諸国に提供していると非難されている。会談前に握手する中国の習近平国家主席(右)とWHOのテドロス事務局長=2020年1月、北京の人民大会堂(共同) サイバーセキュリティーとネットのガバナンスを監視するNGO、ネットブロックスによると、体制側によると思われるネットへの接続制限・遮断が行われたという。昨年はアルジェリア、エジプト、スーダン、エチオピアなど10カ国で、今年に入ってからもトーゴとギニアの選挙前に実施されたと報告されている。 これらの事件に対する関与の有無は不明だが、アフリカで流れるデジタル情報の根幹を、中国が担っていることは間違いない。中国関与で分かれる「三層」 中国とアフリカの関係性が深まるとともに、アフリカに移住する中国人も増え続け、現在は100万人に達したともいわれている。中国製品と中国人がアフリカの人々の生活に関わる度合いが増すことで、そのイメージが大きく三つに分かれてきたように感じる。 一つは政治家や富裕層、高級軍人のように、さまざまなメリットを享受できる「高支持層」。続いて、生活インフラの充実や日常生活で「メイド・イン・チャイナ」の恩恵を被る「中庸層」。そして、中国人労働者に仕事を奪われたことで反感を持つ「反発層」だ。 私が体感的にその変化を感じたのは、街中で見知らぬ人から投げかけられる、あいさつともからかいともとれる言葉だ。東洋人といえばカンフー映画、のイメージが強かった1990年代では、どの国でも決まって「ジャッキー(ジャッキー・チェン)」と声をかけられた。 2000年ぐらいからは「ナカタ」「ナカムラ」、2010年代になると「カガワ」「ホンダ」と、欧州のビッグクラブでプレーする日本人サッカー選手の名前が続いた。 ところが、2000年代半ばころから「チャイナ」と声をかけられることも増えてきた。そして、2010年を過ぎたころから「チーノ」という言葉を聞くようになった。 チーノという言葉には、中国人を含む東洋人を侮蔑する意味合いが含まれる。特に、大人が使う際には悪意が込められているケースが多い。 私の友人にも2000年代は中国を絶賛していたが、その後政府要人と癒着した中国企業に仕事を奪われ、さらに中国本土に発注した商品が代金を振り込んでも届かず、「反中国」に変わった者がいる。そんな反発層の不満が一気に爆発し、アフリカ人の声として世界に届けられることになったのが、今回のアフリカ人差別問題だろう。 新型コロナウイルス発生前まで、2020年のアフリカの経済成長率は4%を越えると予想されていたが、国境閉鎖や経済活動の停止などで大きく下回る可能性が高い。終息するタイミングによっては、数年間停滞が続くかもしれない。 それでもなお、人口中位年齢19・7歳、2050年には人口25億人に達するといわれるアフリカは、中国にとって今後も成長が見込めるマーケットでもあり、安定した資源の確保先としても重要視され続けるだろう。そして、そのためには、反発層を始めとする反中感情をいかにコントロールするのかが、ポイントになってくる。南アフリカのケープタウンで、食事の配給に並ぶ子どもたち=2020年4月21日(AP=共同) 新型コロナウイルスの影響で、大きな痛手を被ると予想されるアフリカ諸国。既に、多くの国は政治、経済、物流、情報、軍事、あらゆる分野に中国の影響を色濃く受けている。 もしも、中国が、今回のアフリカ人差別で露呈した反中の声をかき消すほどの支援を行うのであれば、「アフターコロナ」の世界において、アフリカは中国の独壇場になるだろう。アフリカに向けて打たれる次の一手が、アメかムチか、その対応が注目される。

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    新型コロナ対中「情報戦」 懲りずに敗北を繰り返す気か

    てれば軽蔑と嘲笑の対象となる。そして、五輪を失う大失態にもつながりかねない。 最大の失敗はもちろん、中国からの入国を迅速かつ全面的にストップさせなかったことだ。求められる「政治家の仕事」 この点について、「入国制限は感染症対策としては効果がない。むしろ、ビジネスを損なうデメリットの方が大きくなる」という議論があった。ではなぜ、諸外国は早々に全面的入国禁止に踏み切ったのか。それは、この問題を「未知のウイルスに対する国家的危機管理の問題」と捉えたからだ。 初期段階での情報は限られている。従来のものとは根本的に異なる可能性が常にあり、過去の研究が直接役に立つとは限らない。 権威に弱い日本人は世界保健機関(WHO)や英医学誌「ランセット」などの論文を引き合いに出したがる。ただ、いくら真面目に分析されていても、その段階で入手できる限られたサンプルで最大限分かることを書いているにすぎない。 後から全く予期しなかった発見があって、前提が崩れるのはよくあることだ。現に、新型コロナウイルスにはいまだによく分からないことも多い。 したがって、初期段階の分析をベースに楽観論で応じたのは、危機管理として失策だった。まして今回のウイルスは渡り鳥が運んでくるのではなく、人から人への感染が明らかで、かつ発生源が明確だった。 さらに、潜伏期間でも感染力があるため、水際作戦が無力なのも早くから分かっていた。早期の全面入国制限が有効であり、不可欠であると判断するのは合理的だった。 ここで重要なポイントなのだが、私は専門家の意見を軽視してもよいと言っているのではない。専門家の意見も多様だ。悲観論も楽観論もあれば、それぞれの根拠もある。経済活動とのバランスももちろんある。 そうしたさまざまな情報を素早く吟味して、総合的に政治判断を下すことが国家として極めて重要である。それはまさしく政治家の仕事であり、その最高責任者は総理大臣だ。総合的な政治判断をせずして官僚に任せるのは無責任であり、政治家を養う意味がない。記者会見するWHOのテドロス事務局長=2020年2月24日、ジュネーブ(ロイター=共同) 例えば、専門家がこうアドバイスしたとしよう。 入国制限は初期段階なら効果が見込めるのですが、中国政府が1カ月以上も情報を隠蔽(いんぺい)しているうちに、日本に武漢からだけでも100万人近くが入国してしまいました。日本国内も既に相当汚染されていると推測されます。今から制限してもさしたる効果が望めません。つまり、汚れてしまった水に汚水を加えても大差ないということです。むしろ、入国制限することで経済的損失の方が大きくなってしまう可能性が高いといえるでしょう。 このアドバイスは、それ単体で見れば間違っているとは言えない。しかし、私なら2月25日に安倍首相に送った手紙にしたためたように、あえて全面入国禁止に踏み切る。「唐突」でもやむを得ず 米国、オーストラリア、シンガポールなどの主要国は中国人の入国全面禁止を決定している。日本だけ中途半端な制限にとどめてしまえば、日本は五輪開催国にもかかわらず、危機管理に真剣ではないという印象を与えることになる。その上で、感染者数が急速に増加する事態にでもなれば、完全に信頼を失ってしまう。 既に中国が団体旅行を禁止したことで、日本に入国する中国人の数は減少していたが、そのビジネスを守るために他国のビジネスを全て失い、五輪開催まで危うくなる可能性がある。目先の利得のために中長期的な大損害を被(こうむ)ることは避けなければならない。 たとえ結果として同じ状況に陥っても、全力を尽くす決意を示したか、中途半端な姿勢に終始したかでは世界に与える印象が全く違ってしまう。したがって、中国の全地域からの入国を禁ずるという総合的政治判断を迅速に下すべきだった。 この観点からは、「実際に入国している中国人の人数は少ない、感染者の数はさらに少ないと推測されるから問題ない」といった議論は意味を成さない。世界はそんなことに関心を払わないからだ。「日本はいつまでも中国に国を開いて、感染拡大を許している国だ」としか思われないのである。 そういう国に遊びに行きたい外国人はいない。理屈ではない。印象なのだ。海外では、日本人が中国人だと思われて差別されるケースが出ていたが、日本への渡航を禁止したり、日本人の入国を制限する国が増えるにつれて、最近では日本人であることで差別されるケースが出てきた。簡単にレイシズム(人種差別主義)に結びついてしまうほど感覚的、感情的なものなのだ。もちろん、そのような国に虎の子の「オリンピックアスリート」を送りたい国はない。 果たして、日本はどのような経緯をたどったか。2月26日、安倍晋三首相は人が大勢集まるイベントの自粛や延期を、27日にも全国の公立小中高学校の休校などを含む感染拡大阻止行動を国民に要請した。 現在の日本はアウトブレイク(流行)直前の武漢そっくりであり、このままでは武漢と同様の状況に陥る可能性もあるという。それを阻止する最後のチャンスが2週間程度の全国的な活動停止というわけだ。新型コロナウイルス感染症対策本部会合で発言する安倍首相。中国、韓国からの入国者に指定場所での2週間待機を要請すると表明した=2020年3月5日 当然ながら、「唐突過ぎる」という批判を呼んでいるが、私はやむを得ないと思う。ここまできたら、それぐらいやるしかない。武漢と同じ状況に陥ったら完全にジ・エンドだ。 だが、強い違和感はある。初期段階の楽観論は何だったのだろう。インフルエンザと同じように対処すれば十分だという話は何だったのだろうか。手洗いとうがいで対処できるはずではなかったのか。気が付けば「尻に火」 楽観論を広めて国民に「慌てるな」と言い、目先の中国人観光ビジネスを守っておいて、今になって1億総開店休業しろと言うのか。まるで下手な戦闘を重ねた揚げ句に「本土決戦」「一億玉砕」を迫った旧軍部のようではないか。 今ごろになって、ウイルスの本当の危険性を悟ったのか。危機管理としては「下策」のそしりは免れない。初期段階で全力を尽くしていれば、このような事態は避けられたかもしれない。 予想される経済的損失は中国インバウンド(外国人訪日客)どころの話ではない。あの中国がだてに1千万都市を完全封鎖するわけがないではないか。備蓄のマスクや防護服を送っている間に、気が付けば自分の尻に火が付いてしまった。 そして驚くべきことに、全国民に自己犠牲を強いながら、中国からの入国を全面禁止しなかった。これは人数の多寡の問題ではなく、道義的な問題だ。こんな理不尽な仕打ちを受けてもメディアも野党も攻撃せず、暴動も起きない国は日本ぐらいのものだろう。 さらに驚くべきは中国の態度だ。日本と韓国が「中国忖度」を続けるうちに、山東省威海市と北京市が逆に日韓からの入国者全員を14日間隔離するという措置を打ち出した。今や危険なホットスポット(高感染地域)は日韓に移り、他国に感染を拡大させるリスクも中国より高いと言わんばかりだ。 それでいて、中国は日韓への支援を惜しまないという。中国の電子商取引(EC)最大手、アリババグループ創業者の馬雲(ジャック・マー)氏は、日本に100万枚のマスクを送ると表明した。もちろん、巧妙に計算された情報戦だ。今や、世界に迷惑をかける「厄介者」は、日本、韓国、イタリア、イランなどで、中国は慈愛の精神で助ける側に回った「正義の国」というわけだ。 日本の経済的凋落(ちょうらく)は周知の事実だったが、それでも日本は勤勉で、危機管理能力が高い国だと信じられていた。しかし、今回の一件で、実は危機管理能力が極めて低く、中国の属国化した国だとの印象を広げてしまった。国民の命よりも中国の意向を優先したのだ。 この情報戦大敗の構造は、南京大虐殺や慰安婦性奴隷、朝鮮人労働者強制連行の諸問題と全く同じだ。世界がどう受け止めるか、どのような印象を持つか、自国に有利に導くにはどうするべきかを常に考慮して総合的政治判断を下し、即時実行する能力が欠落しているのだ。そして、そんなことには頓着せず、中国にとことん媚びる人間が政権の中枢や霞が関に侵入している。新型コロナウイルス感染拡大の影響で閑散とする成田空港の出発ロビー=2020年3月6日 今から少しでも挽回するためには、中国と韓国からの入国者に2週間の待機を要請するだけではなく、中韓からの入国を全面的に制限すべきだ。 そして、GDP(国内総生産)を大幅に落としてでも日本列島を「開店休業」状態にするからには、たとえ世界がパンデミックに陥っても感染者数と死亡者数を低く抑え、時期をずらしてでも五輪開催を実現することだ。世界の目にはっきりと見えるアクションで結果を出す、それしかないと断言する。

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    新型ウイルスでもビクともしない習近平「盤石」政権にはワケがある

    加藤隆則(中国・汕頭大学長江新聞輿伝播学院教授) 春節(旧正月)休暇で1月上旬、勤務地の広東省・汕頭(スワトウ)大から日本に一時帰国した後、新型コロナウイルス(COVID-19)感染の拡大で新学期の授業が3週間遅れ、休暇が大幅に延長された。3月からオンラインによる在宅授業が始まり、取りあえず大学に戻ろうと思ったが、今度は日本の感染例が増えたことで、逆に出国を足止めされた。教室はまだ空っぽのままだ。 この間、自宅待機で気の滅入っている学生たちを励まし、マスクの足りない学生には郵送し、わずかながらの支援をしてきたが、今は逆に「先生、気を付けてください」と心配をされている。日本では「習近平政権が動揺している」「一党独裁にひびが入った」などの話も聞かされたが、隣人が苦しみ、奮闘しているときに、ためにする政治談議は避けてきた。 ところが、中国での感染拡大に一定のコントロールが効き始め、片や日本でトイレットペーパーやティッシュペーパーが店頭から消える騒ぎが起きた。日本政府の対応には疑問も多い。感染症は国境を越えたリスクだが、隣国の事例を他人事だと思っていたツケではなかろうか。 「しょせんは共産党独裁の弊害」だと決めつけていた思い込みはなかったか。ここで冷静に事態を振り返ることも、隣国を理解し、さらに自分たちを再認識するうえで貴重なことだと思う。 実は大学の指示により、2月16日から毎日午前、携帯のアプリを通じ、その日午前と前日午後の体温、咳(せき)やだるさの有無など、詳細な健康状態の報告を命じられている。1万人以上いる全教師学生が対象だ。各地方、各組織によりバラツキはあるだろうが、全国で似たような施策が行われているとすれば、自主申告であるにせよ、14億人の健康状態が逐一集約されるシステムができ上がっていることになる。 中国の都市部では、外出も家族で1日か2日に1回、しかも3時間だけと限られているエリアも少なくない。外出時には警備員から時間を記入したチケットを渡され、それを持たなければ再帰宅はできない徹底ぶりだ。その後緩和されたようだが、「在宅」が常態化していることに変わりはない。インターネットを通じて自宅で学習する北京の中学生=2020年2月17日(新華社=共同) 一方、日本では感染例が増加しているにもかかわらず、つい最近まで通勤時間の地下鉄はすし詰め状態で、マスクをしていない乗客も目立った。横浜に寄港したクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」の感染問題では議論が沸騰したが、官民を含め自分たちの日常生活に対する危機感は極めて薄い。 政府は2月末になってようやく緊急対応を呼びかけ始めたが、国民の健康に対する考慮というよりも、政治的な思惑が色濃く感じられるのは残念である。中国の危機感と徹底した管理は盛んに報道されていたはずだが、奇異な目で他人事の騒動を見物しているだけで、教訓として切実に学ぼうとする姿勢は感じられなかった。「高をくくっていた」と言われても仕方ない。 福岡市の地下鉄では走行中、乗客がマスクをせずに咳をしている他の乗客を見て、非常通報ボタンを押す騒ぎが起きた。やや過剰な反応ではあるが、緊張感のなさに対するいら立ちが爆発した一つの事例だとは言えまいか。短絡的な日本メディア 危機感の薄さ、緊張感のなさに加え、日本では個人の人権やプライバシーの尊重、個人情報の保護が優先されるので、中国のような集権的、強権的な対策は採りづらい。憲法によって個人の広範な自由が認められている日本の社会では、一方で、自己責任の原則により、自主性に頼った施策に頼らざるを得ない。とはいえ、プライバシー保護を理由に不十分な情報しか開示されない中、自分たちを守る手だてさえないのが実情である。 両者をバランスよく取り入れるのが理想なのだろうが、どちらのスタンスを取るかは、社会的合意の比重をどこに置くかによる。一方の価値観を持ち出してもう一方を批判しても意味はない。 中国では、言論の自由や個人の人権を犠牲にしても、生活の保障、健康や生命の安全を第一に考える人たちの方が多数派である。肝心なのはその違いを認識し、相手の立場に立ってものを考える視点である。 中国でなにか問題が起きるたび、すぐに共産党政権の動揺、崩壊や一党独裁の危機と結び付けた発想をするのが日本メディア、そして日本世論にしばしば見られるステレオタイプだが、あまりにも短絡的である。そうあってほしいという願望や、そうでなければならないという先入観が生んだ偏見でしかない。 中国の新型肺炎による死亡例は2月末で約2800人だ。一方、米国のインフルエンザによる死者は今年既に1万2千人に達しているが、これをもってトランプ政権の危機を論じるのを見聞きしたことはない。 同じことは日本にも言えるだろう。中国で情報隠しがあると「一党独裁の弊害」と断罪するが、情報隠しはどの国の政治権力でも起きている。権力そのものが持っている体質である。 今回の事例で明らかになったように、こうした偏見や先入見が、隣国の教訓から学ぶ目を曇らせているとしたら、世界の潮流からも取り残されることは肝に銘じておいた方がよい。 バイアスを排し、目を凝らせば、全く違った真相が見えてくる。今回の対応を通じて政治的な側面を観察すれば、習近平政権の盤石ぶりが見て取れる。むしろ基盤が再強化された側面さえ指摘できる。真相は政権の動揺や危機とは裏腹である。2019年3月に開かれた中国全人代の開幕式で、大型画面に映し出された習近平国家主席=北京の人民大会堂(共同) 徹底した健康状態の把握、管理については既に触れたが、それを隅々にまで拡大できたのは2012年末に発足した習近平政権7年間の実績にほかならない。徹底した反腐敗キャンペーン、不正幹部の摘発、イデオロギー統制によって、緩んだ官僚機構の綱紀が粛正され、末端にまで習氏の指示、意向が浸透する体制ができ上がった。権力集中の「功」 権力集中に功罪があることは言うまでもない。だがその前に、独裁の強化を批判する人たちはまず、胡錦濤時代、権力の分散によって腐敗が深刻化し、党指導部内のクーデターさえ計画されていたことに思いを致す必要がある。 当時、領土問題で日中関係が極度に悪化した背景にも、こうした熾烈(しれつ)な政治闘争があったことは衆目が一致している。前政権に対する反省から、習氏による権力の掌握、集中がスタートしている。 また、習氏のバックには、共産党政権の正統を担う革命二世代、いわゆる「紅二代」の支持があることも重要だ。両親たちの世代が築いた共産党政権が、内部の腐敗によって分裂、崩壊の窮地に追い込まれた、との危機感が共有されている。 個々の政策について立場の違いはあるが、党の支配を堅持するという原則論では一致している。中国社会においては最も発言力のあるグループだ。 中国の憲法改正によって、国家主席について任期2期10年の上限が取り払われたことは記憶に新しい。西側メディアには悪評高いが、権威の強化にとっては極めて大きな意味を持つ。 「あと数年で引退」が自明となった途端、権力が空洞化し、綱紀が緩み始めることは、過去の反腐敗キャンペーンが示している。「独裁=悪」という単純な図式だけでは、中国政治の真相を正しく理解することはできない。 もし、習近平政権が脆弱(ぜいじゃく)だったら、と想像してみるのも頭の体操にはよいだろう。あらゆる問題が政権内の政治闘争とリンクし、例えば、米中貿易摩擦は取り返しのつかない泥沼に入り込んでいたかもしれない。2008年5月、共同文書に署名交換後、握手をする中国の胡錦濤国家主席(左)と福田首相=首相官邸 新型コロナウイルス感染の対策でもより大きな混乱が起きていた可能性がある。今回、日本からの支援が美談としてもてはやされたが、それもかき消され、公式訪日の相談をするどころではなかったに違いない。巨大な隣国の政情が不安定であれば、日本が大きな影響を受けるのは必至である。  習近平政権の一連の対策や対応の中で、注目すべき点は2月13日、湖北省と武漢市のトップが同時に更迭された人事である。同日の党中央発表によれば、蒋超良・湖北省党委員会書記に代えて応勇・上海市長を、馬国強・武漢市党委書記の後任に王忠林・山東省済南市党委書記が就くことになった。応勇氏、王忠林氏ともに公安部門の経験が長い。「適材適所」断行の意味 危機管理に際し、公安部門出身の指導者を投入するのは時宜にかなった人事である。とはいえ、世界が注視する騒動のただ中で、省市トップ2人の責任を明確にし、更迭するのはかなりの荒療治だ。 だが、習氏は適材適所の人事を断行し、公安人脈を完全にコントロールしていることを示した。軍と並んで権力基盤の源泉である公安部門の掌握は、政権の安定に大きな意味を持っている。 さらに重要なのは、今回の人事が前指導者に対する懲罰として、民意の圧倒的な支持を得た点、つまり世論を読み込んでの臨機応変な宣伝工作である側面だ。この人事には前段がある。 6日前の2月7日、いち早く新型ウイルス拡散の危険を警告していた武漢の医師、李文亮氏が感染で死亡した。自分の命を犠牲にしてまで治療に力を注いだが、武漢市公安当局はそれまで李氏ら8人を「デマを流した」と犯罪者扱いし、反省文への署名まで求めていた。 訃報はインターネットでのトップニュースとなり、「英雄」に対する哀悼、さらにそれを上回る市当局への「罵倒」であふれた。私の教え子たちもそれぞれの会員制交流サイト(SNS)を通じ、一斉に哀悼と抗議を表明した。情報を操作し、初期対応で失態を演じた政府の対応に、庶民の怒りが爆発したのだ。 だが、中央の反応は早かった。共産党機関紙、人民日報が哀悼の記事を発表し、国家監察委員会も同日、武漢市の対応を調査するチームを派遣した。新型肺炎で死去した中国・武漢の医師、李文亮さんを悼み、雪の上に書かれた名前=2020年2月、北京(共同) 1週間を待たずに発表された両トップの更迭は、その調査を受けた最高レベルの処分である。庶民の怒りに応える、一応の決着にはなった。 きちんと民意をくんで責任者を処分したのだから、さらに事態を拡大させ、社会不安をあおるような言論は許さない。これが党による情報統制である。自由な言論そのものに価値を置く一部知識人は反発するが、抵抗することの損得をはかりにかける多くの庶民は受け入れている。 ただ、今回の感染についていえば、独立性の高いメディアの的確な調査報道に加え、おびただしい数のSNSによる情報発信があり、デマや誹謗(ひぼう)中傷を含め、日々あふれるほどの情報が流れたという印象だ。画一的な宣伝だけで皆が納得しているわけではない。個人情報の壁が大きく立ちはだかっている日本とは大きく異なる。習政権の「アキレス腱」 庶民は、自信を持ってリーダーシップを発揮する強い指導者を求める。組織を重視する日本社会とは違って、個人の力に頼って問題を解決していこうとする発想がある。緊急事態であればなおさらだ。 感染に関する中国の報道の中で、しばしば登場する人物が国家衛生健康委員会ハイレベル専門家グループ長で、国家呼吸器系統疾病臨床医学研究センター主任の鐘南山氏だ。2002年から03年にかけての重症急性呼吸器症候群(SARS)事件では、感染が拡大した広東省で、広州市呼吸器疾病研究所所長として手腕を発揮し、その名を世界に知らしめた。 鐘氏は、2月27日には広州医科大で感染の予防やコントロール状況について記者会見し、「4月末には感染がほぼ抑制されると信じている」との重要なメッセージを発した。鐘氏の発言は非常に説得力を持つ。個人の権威によって、情報を伝えようとする政権の意向が感じられる。日本では許されない個人的見解だろうが、これがあくまで強い指導者の権威に重きを置く中国社会の一端である。 最後に、習近平政権のアキレス腱(けん)について触れておきたい。民主主義のシステムでは、政治家への評価は選挙によって下される。失策をしても、再選されれば、禊(みそぎ)を済ませたことになる。 だが、官僚機構と人脈を通じた複雑な選抜システムを生き抜いてきた中国の指導者は、失策はすなわち失脚に直結する。敗者復活がないからこそ、政治生命をかけた激しい政治闘争が起きる。 2020年、習氏が確約していることがある。16年からの第13次5カ年計画で国民の1人当たり可処分所得を10年比で倍増させ、なお数百万人いる貧困人口を解消することだ。 これは、いわゆる「二つの100年」目標―2021年の中国共産党創立100年までに小康(ややゆとりのある)社会を全面的に築き、49年の建国100年までに近代的社会主義強国となる―を実現させるためのステップとなる最重要課題である。カギを握るのは春の全国人民代表大会で、延期されたものの、何としても責任ある態度を明確に示さなければならない。新型肺炎関連の研究を視察する中国の習近平国家主席(中央)=2020年3月2日、北京(新華社=共同) 分かりやすく言えば、共産党政権の誕生を担った農民が今や社会の最下層に追いやられ、格差社会の中で不当、不公正な扱いを受けている現状を改め、腐りきった党幹部にかつての初心を思い出させ、党支配の正統性を再び取り戻す任務である。習氏が過去の指導者には見られないほど、足しげく農村を視察して回っているのはそのためだ。紅二代から授かった使命でもある。 感染問題が長引き、十分な医療を受けられない貧困層の生活や健康、生命が脅かされる状態になれば、そのときこそ政権の是非が問われる。だからこそ多少の荒療治をしてでも、それを食い止めなければならない。習氏はそこを見ているし、心ある中国ウオッチャーもやはりそこに目を向けなければならない。

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    中国離れ」を左右するコロナショックと忖度リスク

    田中秀臣(上武大学ビジネス情報学部教授) 春節(旧正月)明けの中国株式市場は予想通りの暴落で始まった。新型コロナウイルスの中国本土での感染拡大を受け、市場取引の連休期間を延長していた。 代表的な指数である上海総合指数は売り注文が殺到し、連休前だった1月23日の終値から、一時最大で8・7%、結局4年5カ月ぶりの大きさとなる7・7%の大幅下落を記録した。もっとも、中国の政策当局も手をこまねいていたわけではなく、株価安定のための対策を準備していた。 中国人民銀行(中央銀行)は、資本市場の資金不足を防ぐために、1・2兆元(1740億米ドル、19兆円強)もの流動性資金の供給をアナウンスしていた。また、ロイター通信によれば、中国当局は各証券会社に対し、3日の空売り注文を規制するように要請したという。 特に中国人民銀行の動きは重要である。なぜなら、中央銀行の重要な役目として、金融システムの安定性を維持する「最後の貸し手」としての機能があるからだ。 「新型コロナウイルスショック」は今のところ、人やモノの取引といった実物面だけにほぼ限定されている。影響が及んでいるのは、国内外の物流への影響、国内外の観光客やビジネスでの移動制限などだ。 だが、これに留まらず、株価の予期しない下落から金融機関、企業などに「おカネの取引」の面で影響を及ぼせば、経済的な被害ははるかに甚大なものになる。資金ショート(不足)を防止するために、中央銀行は潤沢な資金供給をもって応える必然性が出てくる。 この対応は中国だけではなく、金融システムの不安定性が懸念されれば、どの国であっても採用する政策だ。市場関係者では、現状の7~8%台の株価下落は予想の範囲内だとの見方が強い。その意味では、現時点では中国の政策当局の「必死の攻め」が効果を挙げているのだろう。もちろん、これで話が終わりというわけでは全くない。 米中貿易戦争の影響で、既に中国経済は大きく減速していた。昨年10月に2019年第3四半期(7~9月)の実質国内総生産(GDP)成長率が前年比プラス6%と発表されたが、通年で6%を下回る予測が既に出ていた。 この率は、1992年の四半期データ公表開始以来最も低い数値となった。ただし、中国の習近平指導部はこの公表値にも強気の姿勢であり、いわば政治的には「織り込み済み」であった。WHOのテドロス事務局長と会談する中国の習近平国家主席=2020年1月31日、北京の人民大会堂(共同) トランプ大統領自身の再選がかかる「政治の年」では、米政府が大胆な中国への経済的圧力を現状以上には出せないという見方もあったのだろう。だが、今回の「新型コロナウイルスショック」は、中国指導部の楽観シナリオを狂わせたのではないか。SARSとコロナ、経済的ショックは? そこで、2003年の重症急性呼吸器症候群(SARS)の流行による中国や世界経済の影響と比べてみよう。今回は02年よりも国内景気が悪い中国の経済状況下で、「世界の工場」だけでなく世界の物流や消費の一中心地になったことで、世界経済における位置も変化している。この状況を勘案すれば、SARSのときの国内外に与える影響を各段に上回るものと予想できる。 03年のSARSの経済的な影響については、高麗(こうらい)大の李鍾和(イ・ジョンファ)教授とオーストラリア国立大のワーウィック・マッキビン教授の論文「SARSからの教訓:次なるアウトブレイクに備えて」が有益である。両氏の論文では、SARSショックは、中国経済の成長率を1・1%引き下げ、香港に至っては約2・5%も引き下げた。 ただし、世界経済への影響は軽微であり、米国は0・1%ほどの引き下げ効果しかなかった。両氏の論文には特に日本への言及はないが、03年の日本経済は、世界経済ともSARSショックとも無縁な形とはいえ、デフレ不況の中で「格闘」中であった。 2月1日の夕刊フジでもコメントしたように、「現在の中国は世界の生産の主体であると同時に、世界の消費者としての地位を築き、ビジネスでも多数の人が動くようになった」。そもそも03年、中国の経済規模は世界第6位程度であり、GDPでは日本より小さかった。 だが、今日では、世界第2位の経済規模であり、貿易関係一つとっても各段に異なる。03年当時の中国の貿易総額は1兆ドルに満たなかったが、2018年には、約4兆6千億ドル超にも達している。 中国からの落ち込みによる外国人観光客(インバウンド)消費の減少に加え、貿易を通じた悪影響が、日本を含め世界各国で懸念されるだろう。観光立国であるタイでは、既に、深刻な観光不況がささやかれ始めている。 さらに、中国の国内消費や生産の落ち込みが早くも出ているところがある。典型例として、中国の石油需要が消費全体の20%に相当する日量300万バレル程度減少したと報じられている。複数の市場関係者の推測では、やはり新型コロナウイルスのよる影響だという。 この報道を受けて、原油先物価格が一時低下した。仮に中国の石油などのエネルギー需要低下が持続すれば、原油価格に依存している新興国経済にとっては極めて重要なリスク要因だろう。重症急性呼吸器症候群(SARS)の集団感染が発生し、封鎖された北京市内の工事現場。中に民工が隔離されたままで、昼どきには大量の弁当が運びこまれていた=2003年5月 このような中国発の経済リスクを嫌って、「中国離れ」も加速化するかもしれない。米国のロス商務長官はテレビのインタビューで、中国に依存した世界の供給網(サプライチェーン)の見直しが行われる機会になるかもしれないと発言した。 実際に、SARSショックから十数年で、同規模かそれ以上の経済・安全保障上のリスクが中国から発生しているわけである。これは各国の対中長期投資に関して、少なくとも再考を促す機会になることは間違いない。「中国離れ」できないワケ しかし、「中国離れ」、あるいは中国との距離の見直しが加速化できないところもある。国際機関に染み込んだ中国依存体質だ。 今回の新型コロナウイルス問題では、SARSでの情報公開の遅れとそれに伴う世界的大流行(パンデミック)の出現と比較して、中国の政治体制に根付くより深刻なリスクが顕在化している。それが今書いた国際機関を中心とする中国依存体質、あるいは中国の指導部の顔色を忖度(そんたく)する国際的なリスクだ。これを「中国忖度リスク」と表現しよう。これには、国連への分担金が日本を抜き去り、世界第2位になった背景もあるだろう。 フランスのル・モンド紙が、先月22、23日に開催された世界保健機関(WHO)の緊急委員会で、中国政府が新型コロナウイルスについて「緊急事態宣言」を出さないように政治的圧力を行使していた疑いを報じた。この圧力のためか、31日の緊急委後に出された「緊急事態宣言」は、渡航・貿易制限などに触れられていない抑制されたものになっている。 だが各国政府は、この「緊急事態宣言」より踏み込んだ渡航や入国制限を実施している国が目立ってきている。WHOの「中国忖度リスク」に備えたかのようだ。 この「中国忖度リスク」は、意外なところで日本にも迷惑を与えている。日本経済新聞の滝田洋一編集委員のツイッターで知ったのだが、WHOが「緊急事態宣言」を掲載したホームページでは、なぜか発生源の中国ではなく、成田空港の写真が現在でも使われている。 実に奇怪な印象操作と言わざるを得ない。もし「操作」ではないとするならば、このような悪影響を諸外国に与えるイメージは即刻撤回すべきであろう。日本政府の対応が求められる。 ところで、新型コロナウイルスの医学的な判断をこの論説で行うことはできない。筆者が参照にしたのは、感染専門医の忽那賢志(くつな・さとし)氏や、医師でジャーナリストの村中璃子氏の論考だ。特に村中氏は、日本政府がWHOや中国政府の発表を当初鵜呑みにした対応を問題視していた。 評論家、石平氏の中国問題に対する見識も、筆者は常々参考にしている。最近のインタビューでは、「上海、深圳(シンセン)などハイテク産業が盛んな地域に広がる可能性もある。このまま主要都市の生産活動が3カ月もできなければ、GDPは数割減に落ち込む可能性もある」という極めて厳しい予測をコメントしている。大幅に下落する上海総合指数のボード=2020年2月3日(萩原悠久人撮影) 実際のGDPの落ち込み予測はともかくとして、確かに上海や深圳にまで武漢同様の影響が波及すれば、中国経済の落ち込みは深刻なものになるだろう。いくつかの経済シナリオを頭の中に置きながら、今の世界経済、そして日本経済を読み解いていかなければならない。 新型コロナウイルスの感染波及が全く見通せない中では、経済的には不確実性に備えた体制を採用するのが望ましい。日本であれば、政府と日本銀行が協調した経済拡大スタンスの採用を強くアナウンスすること、それに尽きるだろう。

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    「一国二制度」台湾は逃れられるか

    先の台湾総統選は、中国との対決姿勢を訴えた現職の蔡英文氏が圧勝した。香港やマカオに続き「一国二制度」による台湾統一を狙う中国にどう立ち向かうのか、蔡総統は難しいかじ取りを迫られている。一方、軍事的脅威や経済的影響は他人事ではない日本も、中国にどう対峙すべきなのか。(写真は共同)

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    台湾新世代の「天然独」が拒絶した習近平の求愛

    年前にも、さらにその前の総統選も観察していた。あの頃は今回と完全に違っていた。独立志向の強い民進党と中国との融和を優先する国民党、その双方の支持者たちが強烈な闘いを繰り広げていた。 爆竹を鳴らしたり、派手な旗を振りかざしたりして、狼煙(のろし)を上げていたからだ。そして、どちらの候補も自身の政治的な主張を述べるよりも、相手を攻撃する言葉を多用した。そうした過去と比べると、今回の静かな様子には隔絶の感すら覚える。 このような平和で穏やかな静けさは、台湾国民の成熟と民主主義制度の定着を物語っている。というのも、以前の選挙の際に、私のような観察者も容赦なく某候補の地元にある祠堂(しどう)に連れて行かれた。祠堂には一族の祖先が祭られている。総統候補の誕生は一族にとってこのうえない名誉だから、親族という血縁的紐帯を基本とした選挙戦が堂々と展開されていた。選挙は確かに民主主義制度の現れだが、祠堂に集まった人々を中心に票集めしていた事実はまぎれもなく前近代的だ、と私は内心酷評していたものである。 当然、今回の選挙でも祠堂の役割は変わらないが、それ以上に若い世代の動向が注目されたのである。 「台湾の学生たちが投票に帰った」、と知人の大学教員から聞いた。熱心な若者もいるもんだなあ、と思いながら台北に着くと、世界中から続々と帰国していると報道されていた。既に選挙戦最終日の10日には各国に留学ないし勤めている若者たちが帰り、候補者たちの最後の訴えに耳を傾けていたという。そして、その最後の訴えを聞き、一斉に帰郷の途についた。投票権は故郷にあったからだ。台湾各地へと、深夜バスと電車は世界中から集まってきた若者たちを乗せて走った。 喫茶店で私は、以前に教えていた学生や知人らと再会した。午後8時過ぎに民進党候補で、現職の蔡英文氏の当確が宣言されると、知人たちは静かに勝利を噛みしめた。予想通りに、蔡氏は終始リードし、最終的には817万票を獲得した。2位の国民党候補、韓国瑜氏は552万票と、大きく引き離す結果となった。台湾総統選の選挙活動中、選挙カーから支持を訴える民進党の蔡英文総統(右)=2020年1月、台南市(共同) 言うまでもなく、若者たちの動向が蔡氏の再選を促した。若者たちのほとんどが「天然独」(てんねんどく)、すなわち「生まれながらの独立派」だからだ。この覚醒した若者たちが台湾のホープであり、台湾の未来を決定しているのである。 では、中国は今後、いかなる対台湾政策を打ち出してくるのだろうか。そのポイントを理解するためには、北京の対台湾政策の変遷を振り返ってみる必要がある。「92年コンセンサス」 「92年コンセンサス」(中国や台湾では「九二共識」と表記)というものがあり、こちらは1992年に当時の政権与党だった国民党と共産党が交わしたとされる秘密の合意文書だ。「一つの中国の原則」を守るという趣旨である。ただし、その「一つの中国」は台湾の中華民国を指すか、大陸の中華人民共和国を指すかは定めていない。 民進党はそもそも「92年コンセンサス」の存在を否定するか、あっても、民意を反映した公文書ではないと批判してきた。あるいは「一つの中国」という原則を標榜しても、実際は二つの国家が存在してきたので「台湾は事実上の独立国家だ」という解釈を貫いてきた。 北京当局は蔡氏の当選を厳しく批判すると同時に、国際社会に対しても「一つの中国」原則を守るよう強要している。しかし、選挙の後、当の国民党の少壮派から「92年コンセンサス」を見直すべきだとの声が上がっている。言い換えれば、国民党はあまりにも「92年コンセンサス」の枠組みに束縛されたことから大敗に繋がったと、彼らは認識している。 台湾と中華人民共和国が「一つの中国」かどうかはともかく「92年コンセンサスは時代遅れになった」との見方は国民党内の主流になりつつあるのは事実である。これに対し、北京の習近平当局がどのように対応するかが注目されるだろう。 蔡氏が大差で国民党の候補を打ち破った要素はいくつもあるが、最大の要因の一つは香港情勢であろう。中国は香港で「一国二制度」を実施し、「成功」したあかつきには台湾にも踏襲させるという壮大なビジョンを描いてきた。 しかし、民主主義制度は大幅に後退し、市民と学生が容赦なく弾圧されてきた2019年後半の歴史を見れば、いわゆる「一国二制度」は完全に破綻した事実が示された。「今日の香港は明日の台湾」、つまり中国共産党の標榜する「一国二制度」を受け入れれば、台湾も早晩、香港の轍(てつ)を踏む命運をたどる、と台湾国民、それも若者たちは悟った。そうした覚醒が彼らの投票を大きく左右した。換言すれば、習近平総書記が蔡氏の「最強の選挙応援者」だったのである。 ただ、「蔡英文総統の応援者」習氏が「一国二制度」の旗を降ろすとは考えられない。そもそも現在の香港に大陸と異なる制度がどれほど残っているかすらも怪しい。それでも、半死状態の香港の「一国二制度下の繁栄」を謳歌しながら、武力による台湾侵攻の可能性を強めてくる危険性がある。 2隻の空母を擁する人民解放軍は今まで以上に頻繁に台湾海峡を遊弋(ゆうよく)し、威嚇行動に出てくるだろう。そして、南シナ海の軍事要塞化を容認しない米海軍との一進一退劇も繰り広げられるだろう。太平洋に向け航行する中国海軍の空母「遼寧」=2019年6月(共同、防衛省提供) 台湾海峡は日本にとってのシーレーン上に位置し、中東から運ばれる資源はすべてこの要衝を通過する。日本がいかに自らの生命線の安全を確保すべきかも今まで以上に問われるに違いない。悪夢でしかない「一国二制度」 では、台湾には習氏の「一国二制度」による「求愛」を受け入れる素地はあるのだろうか。答えは否だ。中国と周辺民族との近現代史が台湾国民に中国共産党の欺瞞性を教えたからだ。 例えば、内モンゴルの歴史を回顧してみよう。中国共産党は結党直後の1922年7月に「モンゴルとチベット、それにウイグルとは連邦を形成する」と宣言していた。その後、27年にも「内モンゴル民族には自決権がある」と同党の綱領で書いていた。 言うまでもなく、自決権とは分離独立権を指す。そして、共産党の軍隊(紅軍)が毛沢東に率いられて南中国から北部中国の延安に逃亡してきた35年12月には宣言書を公布し、「モンゴル民族にはトルコやウクライナ、それにコーカサス諸民族のような分離独立権がある。また、他の民族と連邦を形成する権利を有する」と強調していた。このように、中国共産党は結党当初から日中戦争が終結するまでずっと開明的な民族政策、それも完全な分離独立権(自決権)を認める政策だった。少数民族には少なくとも漢民族の中国人とは連邦制に基づく国家を建立する権利がある、との政策を打ち出していた。 しかし、いざ日中戦争が終わり、国民党政権が台湾に移行すると、ただちに民族自決権を与えるとの約束を反故にした。約束を否定したうえで現れたのが「民族区域自治」だ。今日、内モンゴル自治区と新疆ウイグル自治区、それにチベット自治区などすべてが限られた地域で、文化的自治を実施する、という有名無実の制度である。 では、この区域自治制度が守られているかというと、こちらも答えは否だ。内モンゴルでは遊牧していたモンゴル人が強制的に定住を命じられ、エリートたちは文化大革命中(1966~76)に数万人単位で粛清された(拙著『墓標なき草原』岩波現代文庫参照)。 当時、人口約150万人弱のモンゴル人に対し、中国は34万人を逮捕し、12万人を傷つけて身体障害者とし、2万7900人を殺害した。今日、人口約800万人のウイグル人に対し、約100万人を強制収容所に閉じ込めている。こうしたジェノサイド(民族を滅ぼしかねない大量殺害)の規模と過酷さはどれもナチスドイツを彷彿とさせるし、台湾国民にとって、まさに「一国二制度」がもたらす悪夢に見える。新疆ウイグル自治区の区都ウルムチのモスク(イスラム教礼拝所)周辺で警戒に当たる治安要員ら=2018年9月 台湾と香港、そして内モンゴルと新疆。中国共産党の少数民族政策も「一国二制度」も、当事者にはすべて悲劇をもたらしている。こうした悲劇は今日、中国の対外膨張に伴って世界各国にも悲劇を与えつつある。その中国の「独裁者」習氏が今春に国賓として日本にやってくる。日本国民は現代史から何を学び、どう行動すべきかということも真剣に考えなければならない。

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    大逆転劇を演出した台湾人の選択、「反中」では片付けられない

    では」とまでささやかれていた土壇場からの大逆転劇はどのようにして生まれたのか。 風向きを変えたのは、中国と香港の動きだ。19年1月、中国の習近平(シーチンピン)国家主席が演説で、武力行使の可能性にも触れて統一への強い意欲を打ち出した。香港では6月、逃亡犯条例の改正問題を機に政府への抗議デモが本格化。市民の声に耳を傾けず、弾圧を強める香港政府と、その背後にいる中国政府の姿を台湾市民は注視し続けた。一国二制度、台湾「ノー」 総統選で史上最多得票、若者に危機感(朝日新聞デジタル、2019.01.12) こうしたストーリーはほとんどのメディアに共通している。中国の締め付け、圧力に対して台湾市民はノーを突きつけた。中国にすり寄って経済的繁栄を得るか、それとも独立した民主主義を守るかという選択肢が突きつけられる中、台湾は後者を選んだのだ、と。台湾総統選の開票速報を見ながら小旗を振る民進党の蔡英文総統の支持者=2020年1月、台北市(共同) もちろん、このストーリーそのものは間違いではない。香港デモの問題が台湾に与えた影響も大きいだろう。 だが、その前提として抑えておくべき「ファクト」がある。それは中国による台湾「制裁」が極めて限定的な効果しかもたらさなかったこと、蔡英文政権が安定的な経済運営に成功したという点だ。台湾経済の「ファクト」は?出典:台湾経済部統計処(筆者作成) 上図は台湾の経済成長率を示したものだ。2008年5月から16年5月までが国民党の馬英九政権、それ以降が蔡英文政権の担当する期間である。 リーマン・ショックによる落ち込み、反動からの急成長と、ジェットコースターのような推移を見せる馬政権期と比べ、蔡政権期は安定している。便宜的に2008年から15年を馬政権、16年から19年を蔡政権の期間とするが、平均を取ると馬政権期が3%、蔡政権期が2・9%とほとんど差はない状況だ。出典:台湾経済部統計処(筆者作成) 失業率を見ると、安定傾向はさらに明確で、馬政権から始まっている失業率のなだらかな低下が続いている。「経済か、独立か」という問いは4年前の総統選でも共通のテーマだ。台湾市民は経済の損失を覚悟して独立を選んだはずだが、あにはからんや、実はマクロ的には経済にもダメージは出ていないのである。少なくともグラフを見る限り、経済も独立も両方ゲットだぜ、ということになるわけだ。 本当にそうなのだろうか。中国共産党がもっともシャカリキになった制裁ツールと呼ばれる訪台観光客数を見てみよう。出典:台湾経済部統計処(筆者作成) 大陸観光客数は2015年ののべ418万4千人をピークに、18年には269万6千人にまで減少している。観光客数の面では中国共産党は有言実行(?)というべきか、きっちり数を絞ってきたわけだ。 だが、その他の国を合わせた観光客総数では実は一度もマイナス成長することなく、最多数を更新し続けている。中国本土から人を呼べなくなった分、他の国からの招致に力を注いだ結果だ。 もう一つの「制裁」ポイントである輸出はどうなっているのだろうか。出典:台湾経済部統計処(筆者作成) 輸出全体という大枠で見る限り、「制裁」の影響は現れていない。特に注目すべきは、全体の輸出成長率と中国・香港向けのトレンドがほぼ合致している点だ。台湾の全輸出に占める中国・香港の比率は40%前後で最多だが、その全体的なトレンドは、「制裁」といった政治的な意志で大きな変化はなく、世界経済の変動とほぼ同一であることを意味している。政治はワンイシューで決まらない これらの経済統計から何が読み取れるのだろうか。第一に中国の経済制裁がもたらす効果は極めて限定的という点だ。中国人観光客の数が激減すれば、それをメインで商売していた旅行会社や免税店は致命的な打撃を受ける。彼らの怨嗟(えんさ)の声はあちらこちらのメディアを賑(にぎ)わし、台湾全土が「制裁」で七転八倒しているかのような印象を受けるであろう。 輸出にしてもそうだ。一部農作物など中国向けで食べていた人たちにとっては死活問題となる。 ただ、こうした「制裁」はごく一部の人々に重大な打撃を与えるものであっても、国家経済を揺るがすものではなかった。中国が本気で経済的打撃を与えようとするならば、主力輸出産業である半導体産業との関係を切るのが一番だが、それは中国企業にとっても耐えがたい痛みとなるだけに、容易にとれる選択肢ではない。 第二に蔡政権が安定的な経済運営に成功した、すなわち台湾が成熟した政権交代に成功したという点だ。経験のない政党が与党になると混乱が起きやすいのは、日本人ならば多くの人が同意するところだろうが、2回目の与党となる民進党は大きな混乱がなく、見事な経済運営を実現したと評価できるのではないか。 イノベーション促進、ベンチャー育成、バイオや軍需産業育成といった、2016年総統選時の蔡総統の公約が成功したとは現時点では評価できないが、少なくともやらかしてはいない。現職および与党に対する最大の評価項目は政治運営能力であり、最も重要な部分で合格点を出しているわけだ。2019年1月2日、「台湾同胞に告げる書」発表から40周年を記念する式典で演説する中国の習近平国家主席(共同) 「経済か、独立か」という二択で台湾市民は後者を選んだ…。このストーリーはなんとも美しいが、政治はワンイシューでは決まらない。なにより「衣食足りて礼節を知る」ではないが、経済的基盤が守られなければその先の思想を考える余裕すらなくなる。こうした原則的な面も踏まえておくべきだろう。 また、今年は習主席の国賓訪問が予定されるなど日中関係は改善に向かっているが、尖閣諸島問題や歴史問題などの懸案が残っている以上、5年、10年というスパンでみれば、関係が再び悪化する可能性は高い。その意味でも、台湾で何が起きたかは、日本にとって重要な参考事例だといえる。

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    蔡英文圧勝でも気楽に「台湾独立論」にハマるなかれ

    叫んだ日本人は少なくなかったはずだ。2020年の台湾総統選は、争点が「大陸との距離」になったことで、中国の経済的影響力の拡大に抗して民主主義や人権といった価値観を守ることができるのか否かが大きな焦点になったからだ。 もちろん総統選の全てが、単なる外交政策をめぐる二択の国民投票の視点から説明できるはずはない。だが、日本人の目には明らかに「反中」と「親中」の戦いだった。 結果、中国に対する明確な「ノー」が突き付けられ、香港の区議会(地方議会)選に続き、共産党政権が一敗地にまみれた。 大いに留飲の下がる思いだと日本人が受け止めたのも無理はない。こちらも日々、巨大化する中国の圧力にさらされているのだ。 だが、それにしても、うっかりそんなことを口に出したり、表現することには明確な一線が敷かれているべきだろう。 驚いたのは、インターネットの反応だ。台湾総統選で蔡英文氏が再選されたことを報じる2020年1月12日付の台湾各紙(共同) 蔡英文総統の再選に関し、中国が「独立に断固反対」と報じたヤフーニュースのコメント欄には、「元々台湾は中国じゃないだろう」という書き込みが最初に見つかる。書き込みへの「賛同」も7400を超え、「反対」の約250票を大きく上回っている。つまり、このニュースに関心を示したネット民の反応は共有されているということだ。 2番目のコメントも「もともと違う国なんだから、独立反対はおかしいと思うんですが。香港変換(ママ)時の約束を一年も守らなかったので、一国二制度を餌にしても誰も信じません」と同じトーンだ。やはり「賛同」が約6800で、200程度の「反対」の約30倍だ。日中の「一丁目一番地」 一読して素人と分かるコメントなので目くじらを立てる必要もないのだが、賛否を見れば日本の空気がそれと変わらないことが理解できるので心配だ。やはり日本という国は、好き嫌いを価値観という糖衣で包んだ外交しかできない国だとよく分かるからだ。 いくら腹の立つ相手でも口には出さず、ニコニコしながら自らの利害を冷徹に計算するロシアや中国と「陸続きでなくてよかった」と思う瞬間である。 日本がまず考えなければならないのは「中国ざまあみろ」ではない。この変化をどのように日本の追い風として利用できるか、である。しかも、中台双方と良好な関係を保ちつつ、一番得をする道を探ることだ。こんな当たり前のことがなぜ普通にできないのか。 国際政治のリアリティーを知らない国民の悲しさだが、基本的な素養がないという意味では、ほとんどの人が日中関係の基本を理解していないことも分かる。 国と国との関係は誤解を招きやすく、隣国となればあっという間にナショナリズムに引っ張られ、危機を招く。だからこそ外交が重要なのだ。二つの国はコミュニケ(声明文)や、それに基づく条約などで関係を深めてゆく。日中関係も例外ではない。 今春予定されている習近平国家主席の訪日にともない「第五の文書」の発出の有無が話題になるのも同じ文脈だ。 戦後、長らく外交関係を持たなかった日中が国交正常化に踏み切ったのは1972年のことである。ここで出されたのが日中共同声明である。1972年9月29日、北京の人民大会堂で日中共同声明の文書を交換する田中角栄首相(左)と中国の周恩来首相(代表撮影) 声明は簡潔にいえば、「お互い仲良くしたいけど、これだけは守ってね」という条件だ。具体的には、日本側が過去において戦争を通じて中国国民に重大な損害を与えたことに「責任を痛感し、深く反省する」ことなどが記されてある。この声明で最初に触れられているのが、中華人民共和国政府を「中国の唯一の合法政府である」と承認するということだ。 そして、中国が台湾を領土の不可分の一部であると表明したことに対して、日本国政府が「(中国の)立場を十分理解し、尊重し、ポツダム宣言第八項に基づく立場を堅持する」と応じている。「理解」と「尊重」という表現でぼかしてはいるが、日本はこれを受けて中華民国(台湾)と断交したのだ。つまり、日中関係の「一丁目一番地」は台湾問題であり、その意向を無視することは共同声明に違反することにもなるのである。眠っていた記憶が蘇る? 日本人は台湾人に親近感を覚えるので、心情的に「台湾独立」を応援することは理解できる。しかし国としての約束は守らなければならない。これが原則だ。 ついでだから「親日・台湾」についても書いておけば、私は1980年に台湾で中国語の学習を始めた。そのとき使った教科書には田中角栄首相に対する恨みつらみが満ちていて、南京大虐殺について「謝れ」と責められることは日常茶飯事だった。その記憶があるから日本人が今気軽に「台湾は親日」と言うのを聞くとヒヤリとする。 日本軍が中国大陸で最も激しく戦った相手は国民党軍だ。その蒋介石は戦後、戦争に負けた日本に対し「賠償放棄をして、さらに日本の国際社会への復帰を後押しした」―実際はアメリカの要求が大きかったのだが―にもかかわらず、中国が大きくなったら日本はそっちと国交を結び、台湾を捨てた。 少なくとも45歳くらいまでの台湾人は、そんな記述のある教科書で育っているのだ。眠っている記憶がよみがえらないと誰が言えるのだろうか。 台湾が世代交代し、今の日本への親近感は確かだとしても、過去に好き放題やった日本が、自ら「親日」などと口にするは少し慎重であるべきだろう。2020年1月12日、台湾の総統府で握手する蔡英文総統(右)と日本台湾交流協会の大橋光夫会長=台北市(中央通信社=共同) 少し話がズレたが、日中関係において中国が最も神経質になるのが、この台湾問題なのだ。 中国への宣戦布告とまで評された2018年秋の「ペンス演説」にあっても、実は台湾問題では「従来の政策を維持する」とわざわざ触れている。そのことには理由があるというわけだ。 外野席から「元々台湾は中国じゃない」などと、モノを知らない人が言うのは勝手だ。だが、これが大きな空気となり、影響を受けた政治家が人気取りで同じことを口にすれば外交問題に発展する。それは当然のこと共同声明にも反する行為だ。 昨年から日本は「国家間の約束を守れ」と韓国に対して繰り返し主張してきたが、ほとんど同じ構図で、日本が責められても文句は言えまい。「反中」フィーバーから覚めるとき 加えて将来、中国がこのままの勢いで大きくなり、相手が日本との共同声明を平気で踏みにじることが常態化したとき、日本はどう反論するのだろうか。 ちなみに、蔡英文政権に対し「大陸がプレッシャーをかけたことが裏目に出た」と今回の総統選を振り返る記事が日本のメディアで目立ったが、習政権も理由もなく圧力を使ったわけではない。蔡政権が「一つの中国」を両岸で確認した「1992年コンセンサス(合意)」を認めないとの立場を取ったからである。 「1992年コンセンサス」は国民党政権時の約束だが、そうだとしても台湾政府の選択に違いはない。馬英九政権下ではこれを基礎にさまざまな協定も結ばれた。それを政権交代した蔡政権が「存在しない」とやれば、リアクションが大陸から起きるのは無理のない話だ。 その上で蔡総統の再選をどうとらえるのかについて少し書いておきたいのだが、これも実は「台湾の親日」と同じく、恒久的なものと考えるのは間違いである。「今日の親日は明日の反日」というのが国際政治のリアリティーだ。どちらに転んでも備えられる状況を確保することこそ、真の外交である。 その意味で、一つの命題を日本は持つべきだろう。それは、もし韓国瑜(かん・こくゆ)高雄市長が真に台湾の人々の期待に応えられる人材であったとしたら、蔡総統再選は同じようにかなったのだろうか、という疑問だ。これは「韓国瑜フィーバー」の絶頂期の勢いから香港問題の影響を引く計算になると思うが、ひょっとしたら多少の減速があっても国民党が勝ち切ったかもしれない。 香港のデモがいまだ勢いを失っていないことを考慮すれば、蔡総統への追い風も続くと思われる。だがいったん、反中というフィーバーから覚めたとき、台湾に戻ってくるのは経済政策で迷走を続け、統一地方選で大敗した当時の空気だ。2020年1月、台湾北部・新北市の集会で演説する最大野党、国民党の総統候補、韓国瑜氏(共同) そうでなくても打つ手に乏しい経済政策に加え、中国からの有形無形の嫌がらせに直面する政権の行く手は平らな道ではない。 地域の経営に行き詰まったとき、蔡政権が中国の脅威を強調して求心力を高める方向に舵(かじ)を切ることは十分に考えられる。2019年度の防衛予算を対前年比で5・6%増やし、米国から兵器を買い入れているのは、そんな未来を示す一つの兆候だ。本来、経済対策につぎ込むべき予算をそちらに投入してしまえば、悪循環は止まらない。 もし、台湾周辺に人工的な緊張が高められたとき、巻き込まれるのは一に米国であり、二に日本だ。日本はそうした事態にも備えなくてはならないはずだ。

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    経済優遇とフェイクニュースで台湾侵食を図る中国

    岡崎研究所 中国の対台湾政策の手段は、アメとムチ、つまり経済的利益の約束と軍事的威圧の両方を使い分けることにある。1月11日の台湾における総統選挙と立法委員選挙(台湾の国会は一院制)を控え、中国は硬軟両様の手段を使い分けようとしている。この半年間の香港情勢は、世界に対し、中国の言う「一国二制度」の実態が如何なるものかを暴露した。台湾では、蔡英文総統下の民進党政権はもともと「一国二制度」なるものを中台関係を律するものとして受け入れたことはない。 しかし、中国の側では、香港統治に適用されている「一国二制度」は、将来、台湾を「統一」する際のモデルになるもの、と位置付けてきた。2019年に入ってからの習近平主席の1月の発言(台湾を「一国二制度」によって統一したいとの趣旨の発言)、さらには2019年6月以来続いている香港の大規模デモによる混乱ぶりは、皮肉にも、2018年11月の統一地方選挙で大敗した蔡英文の支持率を大きく押し上げる結果となった。蔡の支持率は国民党候補の韓国瑜に大差をつける状況となっているが、それは中国側の意図が一般の台湾選挙民の警戒感や危機意識を高めたことを示している。今日の状況は、中国との距離がより近いと見られている国民党にとって不利に働いているということである。 このような中台関係全体の状況の中においても、中国としては、対台湾工作を硬軟両様の種々の手段を通じて行っている。 中国が経済的梃を使って、台湾人を引き付けようとしていることは、咋年11月に中国政府が台湾の企業と台湾人を対象にして表明した「26項目の優遇措置」がよく示している。たとえば、台湾人が中国で就職したり、就業したりするときに、便宜を与えるというような点は若い台湾人にとっては、依然として一つの魅力になっているといわれている。蔡英文は、「26項目の優遇措置は台湾に一国二制度を強いるためのより大きな企ての一環」と言っているが、その通りであろう。 また、フェイクニュース、偽情報を台湾内部に広く拡散し、台湾社会を分断させようとの意図も明確である。昨年4月、人民日報系の「環球時報」は、「台湾問題を解決するのに我々は本当の戦争を必要としない。中国は民進党政権下の台湾を、台湾独立勢力にとって意味のない、レバノンのような状況にすることが出来る」と述べている。これは単なる虚勢といえるだろうか。 台湾の地方政治が深く関係する立法委員選挙においては、中国が各地の後援者のネットワークを利用し、旧来からのコミュニティーの指導者、農民団体などの票を買うことも考えられる。さらに台湾の特定メディアを引き込むため、中国政府の代理人が台湾の通信社にカネを払い、親中国の記事を書かせる、ということは一般によく知られている。 2018年には、大阪駐在の台湾代表所の代表が、台風第21号による関西空港の閉鎖への対処をめぐる問題で非難を浴び自殺するという事件があった。実態は必ずしも明白ではないが、中国からのサイバー攻撃やフェイクニュースの流布が基になっている、と言われたことがある。習近平国家主席が登場し、陽気なポップ音楽に乗って「第13次5カ年計画」を紹介する動画をネット上で見る上海の若者=2016年1月撮影 これらのケースを見れば、今日、台湾は香港に並び、中国からの種々の浸透工作の最前線に立たされている、といっても間違いではないだろう。最近、米国と台湾がサイバー防衛強化のための安全保障訓練を主催したと報じられた。この演習には日本からも参加があったが、今後、このような機会を増やしていくことが強く望まれる。

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    中国で拘束された台湾人 149人中48人がいまだ消息不明

    16年5月、台湾で独立色が強い民主進歩党(民進党)の蔡英文政権が誕生してからこれまでの3年半の間で、中国訪問中に消息が分からなくなっている台湾人が48人にも上っていることが明らかになった。その大半は反スパイ法に抵触して身柄を拘束されたり、すでに裁判で有罪判決を下されて服役しているとみられる。 台湾の対中窓口機関、海峡交流基金会(海基会)は「3年半の間に大陸訪問中に失踪したとの連絡を受けた台湾人は全部で149人に上るが、101人は無事が確認されている。しかし、残りの48人については、中国側から明確な説明がなく、非人道的な扱いを受けていると言わざるを得ない。このような状況はただちに改善されなければならない」などと中国側に抗議している。 台湾メディアによると、中国を訪問中の台湾人が消息を絶ったケースは2016年5月以前では年に数えるほどしかなかったが、蔡政権発足後は急激に増加している。中国政府は蔡台湾総統が台湾独立を進めようとしていると警戒しており、台湾のスパイに神経をとがらせていることが、消息不明の台湾人急増の背景になっているようだ。 最近も中国当局によって身柄を拘束されている台湾人3人の名前が明らかになっている。そのうちの1人は昨年8月に中国を訪問中に消息が不明になっていた元台湾師範大学助教授の施正屏氏。中国の対台湾政策を担当する国務院台湾事務弁公室の馬暁光報道官はこのほど、施氏について「中国の国家安全に危害を加えようとしたため、法律に基づく取り調べを行っている」と発言。反スパイ法に抵触した容疑で身柄を拘束していることを明らかにした。 2人目は中台関係発展推進のために活動している団体「南台湾両岸関係協会聯合会」主席の蔡金樹氏。馬報道官は記者会見で、蔡氏が「国家に危害を与える活動に従事した」疑いで昨年7月から拘束していることを初めて明らかにした。 3人目は台湾南部・屏東県枋寮郷の郷政顧問で望遠鏡メーカーの「信達光電科技」代表の李孟居氏。馬報道官は李氏について「中国の国家安全に危害をもたらす犯罪活動に従事した疑い」で身柄を拘束していることを明らかにした。 李氏は今年8月18日、香港を訪問。李氏は同20日午前、台湾の知人との電話で「中国と境界を接する香港の新界地区にいる」と話していたという。その直後、李氏は知人に中国人民解放軍が集結する様子を収めた写真を電子メールで送ってきたが、その後、消息を絶ったという。※写真はイメージです(ゲッティイメージズ) これら3つのケースについて、台湾行政院(政府)は「海基会など関係部門が中国と積極的に交渉を進めているが、中国にはほぼ政治しかなく、法治はない」と非難。 また、台湾行政院における中国問題担当機関である大陸委員会は中国に対し、「(3人の)拘束地点と違反の疑いがある法令、身柄の自由を制限した時間などについて即座に完全な説明をするべきだ。また、両岸(台湾と中国)間の取り決めに基づき、台湾政府と家族に詳しい状況を知らせるべきだ」と主張している。 日本人関連では反スパイ法に抵触したとして身柄を拘束された北海道大教授が最近、解放された。しかし、いまだに拘束されて取り調べを受けていたり、裁判で有罪判決を下されて服役している日本人は9人も残っており、日本政府は中国側に詳しい説明を求めている。関連記事■NHKが林鄭月娥氏の名を「蛾」に誤植、香港人に大ウケ■FedExのパイロットが中国で拘束 ファーウェイ事件の報復か■中国富豪男の夢「蒼井そらを1晩300万円でセッティングしろ」■中国人が接待で「女体盛り」を要求、要した費用は32万円■中国でワニ料理が人気に、レストランからワニ脱走相次ぐ

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    中国の禁書扱い拉致された香港書店店主 台湾で書店開業へ

     2015年、中国共産党政権にとって有害な禁書を中国に持ち込んで利益を得ていたなどとして、中国当局によって拉致された香港の書店の店主、林榮基氏に新たな動きが見られた。2020年5月、台湾の台北市内で、かつて経営していた「銅羅湾書店」をオープンする計画であることが明らかになったのだ。 台湾の独立を目指しているなどとして、中国は民進党政権を強く警戒しているが、台北市内での銅羅湾書店の開店が中台関係を一段と悪化させ、習近平指導部の蔡英文・総統批判が強まることが予想される。 林氏は2015年に拉致されたあと、中国福建省泉州市内の中国の情報機関、国家安全省管理下の施設に閉じ込められ、外出も許されず、3か月間取り調べを受けていた。その後、香港内にある書店の書類などを証拠品として提出することを口実として、香港に戻った際、香港の知人らと記者会見。中国当局によって不当に拉致された事実を暴露し、中国当局の手を逃れ自由の身となった。 しかし、林氏は今年4月に香港政府が逃亡犯引き渡し条例の立法化手続きを始めたことで、再び中国当局に身柄を拘束されることを警戒し、香港から台湾に避難。台湾には政治亡命者を受け入れる法律がないため、観光ビザで台湾に入り、以後3か月ごとにビザを更新しているが、台湾当局は林氏が商用で台湾に滞在可能との特例措置を認めたため、禁書を扱う書店を台湾で再開することになったという。 林氏が新たに書店を開くのは、文化発信地として若者に人気がある台北市万華区にある商業地区で、「台北の原宿」などと呼ばれる西門町。 林氏がこのようなファッションやサブカルチャーの発信源ともいえる西門町今度は台湾で書店を開業に店を構えようと思ったのは、「多くの若者や観光客が集う場所であり、中国の実態を伝えるには好立地だからだ」と話しているという。 問題は資金をどうやって捻出するかだったが、今年9月と11月に「台湾に銅羅湾書店を。『自由の魂よ。開け』」との大規模な募金活動を行った結果、約3000人から総額で597万台湾ドル(約2140万円)の資金を集めることができたという。 この裏には、台湾当局の有形無形の支援があったと見られている。台湾側は香港で6月以降の激しいデモが行われて以来、香港警察の逮捕を逃れるために台湾に避難してきた民主化指導者や活動家を受け入れている。さらに、蔡総統も「私たちから遠くない香港は、『一国二制度』の失敗によって、秩序を失った辺境となってしまった。台湾政府に保護を求める香港市民に対して、個別に人道的な援助を提供する」と表明している。 これに対して、中国の対台政策を所管する国務院台湾事務弁公室の馬暁光報道官は民進党に「香港事務の介入を止めるよう」要求し、「(台湾政府が)香港に危害を加える一部の急進分子の勢いを助長しようとしている」と猛烈に非難している。関連記事■香港の書店関係者5人失踪 「発禁本」の中身とは■中国で禁書指定「習近平暴露本」が米で出版へ その衝撃内容■中国でワニ料理が人気に、レストランからワニ脱走相次ぐ■中国空軍で事故が多発 今年既に10人死亡、100人負傷か■中国人が接待で「女体盛り」を要求、要した費用は32万円

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    この先も相次ぐ「中国発」新型コロナウイルスの潜在的な脅威

    上昌広(医療ガバナンス研究所理事長) 中国の武漢市で新型コロナウイルスの感染が確認された。この記事を書いている1月19日現在、判明していることは以下だ。 中国国内の患者数の合計は62人。このうち、8人が重症と判断され、2人が亡くなっている。1人は進行した肝疾患を抱えた61歳の男性。ウイルス感染が基礎疾患を悪化させた可能性が高い。もう1人は69歳の男性で、基礎疾患の有無は明らかではない。 中国国外で診断されたのは2人だ。1人は1月12日にタイで診断された61歳の男性。武漢からの旅行者で、5日に発症していた。もう1人は30代の日本人だ。16日に報告された。6日に武漢から帰国し、同日に医療機関を受診した。10日に入院し、15日に軽快、退院している。 では、このウイルスの毒性は、どの程度だろうか。2003年3月に中国広東省から広まった重症急性呼吸器症候群(SARS)の致死率は9・6%、13年5月にサウジアラビアで発生した中東呼吸器症候群(MERS)は34・4%だった。いずれも今回と同じコロナウイルスだが、現時点では、このようなウイルスよりは毒性は低いと考えられている。 ただ、これはなんとも言えないと思う。もし、69歳の死亡例が健常人であれば、楽観視できない。重症と言われている8人の全てが亡くなれば、致死率はSARSを上回る。 次の問題は感染力だ。注目すべきは、中国国内で診断された62人の多くが武漢の海鮮市場で働いていたことだ。この中に妻も感染したケースが含まれる。この妻は海鮮市場に出入りしていないから、職場と家族内で一気に拡散したという見方もできるし、感染している動物と接触すると容易に感染するが、家族内での感染が少ないことを考慮すれば、人から人への感染リスクは高くないのかもしれない。新型コロナウイルスが原因とみられる肺炎患者が多く出た中国湖北省武漢市内の海鮮市場(共同) ちなみに、タイと日本の患者は、この市場との接触はない。感染経路は不明だが、彼らが普通の会社員であれば、感染動物と接触し、うつった可能性は低いだろう。以上の事実は、ヒト・ヒト感染を起こす可能性を示唆している。 現在、厚生労働省や有識者の多くが「過剰に心配する必要はない」と主張している。そして、国民の多くが、毒性も感染力も低いと考えている。私は、このような希望的な観測には賛同できない。 そもそも計64人の感染者のうち、8人が重症化したのだから、毒性はそれなりに強いだろう。彼らの多くは市場で働いていた現役世代だ。介護施設に入っているような高齢者ではない。免疫を持っていない状態で罹患すれば、かなりの確率で重症化しそうだ。現状は「患者が置き去り」 ただ、私は現時点では危険とも安全とも言えないと考えている。このまま収束する可能性もあれば、将来的に大流行する可能性も否定できない。現時点で「過剰に心配する必要がない」のは、発症から時間が経っていないため、まだ拡散されていないからだ。感染者と接触する可能性は低いため、その意味でインフルエンザの方がはるかに「危険」だが、このことが新型ウイルスについて何も心配しないでいいと保証するものではない。 現に英インペリアル・カレッジ・ロンドンの研究者たちは、武漢市内の感染者は推計で既に1723人にのぼると報告した。上海や深圳でも疑い例の存在が報じられている。 では、どうすればいいのか。私は正確な情報を世界でシェアすることだと思う。まずは遺伝子配列のデータを一刻も早く公開することだ。世界中の専門家が様々な意見を学術論文という形で述べるだろう。また、医療現場でやるべきは、正確に診断することだ。そのためには医療現場、特に最初に受診する開業医に診断手段を提供しなければならない。 具体的には、彼らが普段使っている検査会社に普通にオーダーずれば、結果がすぐに返ってくるようにすることだ。国立感染症研究所に申し込み、サンプルを自分で送るようでは、多忙な医師は対応できない。 専門家の中には、後日、保存された血清などを用いて、疫学的な調査をすればいいという人もいるだろうが、これでは患者が置き去りだ。医療機関を受診する患者の中には「新型ウイルスにかかっているのではないか」と悩む人もいるだろう。彼らの不安に全く対応していない。政府や専門家がやるべきことは、国民と医療現場を統制することでなく、彼らを支援することだ。 これは2009年の新型インフルエンザ流行の反省だ。このときもそして現在も、厚労省は新型ウイルスの流入を水際で食い止めるといい、メディアもこの方針に疑問を呈さない。 数カ月間かけて世界を旅する大航海時代ならいざ知らず、現在、こんなことは不可能だ。日本と中国は飛行機でわずか数時間の距離で、潜伏期間の患者はどんな方法を使っても食い止められないからだ。新型のウイルス性肺炎患者が国内で初めて確認されたことについて記者会見する厚労省の担当者=2020年1月 09年の新型インフルエンザ流行の際には、最初に診断された症例は神戸の住民で、海外渡航歴はなかった。地元の医師が感染を疑い、特別に検査したところ感染が判明した。当時、厚労省は検査する患者の基準を定めており、この患者は厚労省の基準を満たしていなかった。熱意ある医師が何とか関係機関と調整して、検査をしてもらったのだ。 その後、新型インフルエンザが国内で大流行したのは、ご存じの通りだ。今回、この教訓は活かされるのだろうか。ここまでは、その兆候はない。 なぜ、やらないのだろうか。もし、財源が必要なら、加藤勝信厚労相や安倍晋三総理に正確な状況と費用を説明して、リーダーシップを発揮してもらうことだ。せっかく、検査体制を整備しても、もし流行しなかった場合は、カネは無駄になる。それはそれでいいではないか。国民の命がかかっているのだから。必要なのは「患者目線」の対応 この問題は今回の流行だけに限らない。新型ウイルスに対する危機管理体制を確立するのは、日本にとって喫緊の課題だ。なぜなら、今後も中国発の新型ウイルスが出現し続けるからだ。この問題は、今こそ議論すべきだ。 新しいウイルスは突然なにもないところから生まれてくるわけではない。多くは動物に感染するウイルスで、何らかの突然変異が生じ、動物からヒトに感染するようになる。そして、さらに変異が生じ、ヒトからヒトに感染するようになる。 例えば「はしか」は、元はウシやイヌの感染症だ。家畜化の過程でヒトの感染症へと変異した。ヒトのみに感染する天然痘は、元は齧歯(げっし)類のポックスウイルスから進化したと考えられている。人類社会が発展し、ネズミと「共生」するようになったため、ヒトに感染する変異体が生まれた。 現在、新型ウイルスが最も生まれやすいのは中国だ。二つの理由がある。一つは中国には大量の家畜が存在することだ。2017年に世界で9億6700万頭のブタが飼育されていたが、このうちの45%は中国だ。2位のアメリカの7・6%を大きく引き離して断トツのトップだ。 ニワトリは全世界で228億羽飼育されているが、21・3%が中国だ。これも2位のインドネシアの9・5%を大きく引き離す。もう一つの問題は飼育場所が人間の生活圏と近接し、家畜を生きたまま販売する習慣があることだ。 この点は以前から危険性が指摘されてきた。『サイエンティフィック・アメリカン』誌の編集長を務めたフレッド・グテル氏は著書『人類が絶滅する6つのシナリオ』の中で、「食肉用の動物を生きたまま販売する」伝統を紹介している。新型のウイルス性肺炎について注意喚起するポスターが掲示された成田空港検疫所を通過する中国湖北省武漢市からの到着客=2020年1月16日 例えば、「広東省の市場では、ニワトリが一羽ずつ入ったかごがいくつも積み上げられているのが普通」という感じだ。このような家畜は狭いところで、密集して生活しており、一旦感染症が流行すると、容易に伝搬する。そして、消費者や労働者にもうつる。これが中国から新型ウイルスが生まれ続ける理由だ。今後も状況は変わらないだろう。 中国は日本の隣国だ。われわれは、今回のような事態を繰り返し経験し続ける。今こそ、患者目線で現実的な対応を議論すべきだ。

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    習近平の逆ギレで始まる「中国の暴走」

    建国70年を迎え、中国の習近平政権は過去最大規模の軍事パレードで軍拡路線をアピールした。一方で、経済大国に成長しながら、共産党一党独裁という政権の異質さは変わっていない。覇権主義を突き進み、悪しき原点と評される「毛沢東時代」に立ち戻ろうとする中国は、暴走の果てにどこへ向かうのか。(写真は共同)

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    なぜ習近平は毛沢東の「暗黒時代」に戻そうとするのか

    を考えるためには、中華人民共和国の生い立ちと歴史を一度振り返ってみる必要があろう。 今から70年前の中国の建国はそもそも、毛沢東(もうたくとう)共産党が中華民国という合法政府に対して軍事反乱を起こして内戦に勝ち抜いたことの結果である。だから建国当時からこの国は軍事力を基盤にした共産党独裁の軍事政権であり、今でもこの体質は全く変わっていない。近代政治文明の視点からすれば、中国はまさに異質な国であり、「民主と自由」の普遍的価値観とは正反対の政治理念の持ち主である。 建国してから1976年までの毛沢東時代、中国は共産党の一党独裁によって支配されていたのと同時に、希代の暴君である毛沢東の個人独裁の支配下にもあった。 その時代、国民全員は人権と自由のすべてを奪われて完璧な密告制度によって監視されていて常に政治的恐怖におびえていた。その一方、国民の経済生活はいわば社会主義計画経済によって完全に統制されていた。民間企業が消滅させられ競争の論理も放棄された中では経済が活力を失って成長が止まり、中国はアジアの中でも最貧困国家の一つに成り下がっていた。 その一方、毛沢東の共産党政権は対外的には覇権主義的拡張戦略を積極的に進めた。建国の直後にチベット人やウイグル人の住む地域に人民解放軍を派遣してそれを占領して中国の一部にした。朝鮮半島にも出兵して連合国軍と戦い、ベトナム戦争にも参戦してベトナムの共産党勢力を支援した。そして国境を挟んでインドや旧ソ連とも局部的な戦争をした。 まさしく軍事政権よろしく、毛沢東の中国は軍事力を使って周辺民族に対する侵略を繰り返し、周辺国との無謀な戦争にも明け暮れていた。しかし結果的には中国は国際社会からますます孤立してしまい、一時は米ソ両大国を敵に回して世界と断絶するような鎖国政策をとった。 やがて毛沢東晩年の文革期になると、嵐のような紅衛兵運動の中で1億人単位の人々が何らかのかたちで政治的迫害を受け、知識人を中心にして数千万人の人々が殺されたり自殺に追い込まれたりした。中国全体はまさに阿鼻(あび)叫喚の生き地獄となった。おそらく中国四千年の歴史の中では、文革の十年こそは最も悲惨なる暗黒期だったのであろう。 そして1976年に毛沢東が死去すると、中国の現代史に大きな転機が訪れた。毛沢東死後の一連の政治闘争を経て党と国家の最高権力を手に入れたのは実務派幹部の鄧小平(とうしょうへい)であるが、彼は政治の実権を握ると、毛沢東の政治路線とは正反対の改革・開放路線を進め始めた。中国建国70年を迎え、北京の天安門の楼上に並ぶ習近平国家主席ら要人(上)と毛沢東の肖像画=2019年10月1日(共同) 「改革」とは要するに、硬直した社会主義計画経済に競争の論理を導入すると同時に民間企業の復活を認めて経済に活力を与えることだ。一方の「開放」とは要するに、毛沢東時代の鎖国政策に終止符を打ち、中国の「国門」を外部世界、特に西側先進国にオープンしていくことによって、諸先進国から経済成長のために必要な資金と技術を導入することである。 そのためには、鄧小平は毛沢東時代の拡張戦略にも一定の軌道修正を加えた。いわば「韜光養晦」(とうこうようかい)戦略の下で、覇権主義的野望を一時的に覆い隠してソフトな外交路線を進めることで西側諸国の警戒心を和らげ、外国資本と技術が中国に入りやすくなるための環境整備を行った。全て共産党体制強化のため 結果的にはこのような鄧小平路線と戦略は大いなる成功を収めた。1980年代からの数十年間、アメリカや日本、そしてEU諸国を含めた西側先進国は皆、「中国はそのまま開放を拡大して成長が続けば、いずれか西側の価値観と民主主義制度を受け入れて穏やかな国になるだろう」との期待感を膨らませて、さまざまなかたちで中国の近代化と経済成長を支援した。 西側先進国の企業も「巨大な中国市場」に魅了されてわれが先にと中国進出を果たして資金と技術の両方を中国に持ち込んだ。その結果、中国は数十年間にわたって高度成長を続け、今や経済規模において経済大国の日本を抜いて世界第二の経済大国となった。そしてそれに伴って、中国という国の全体的国力は、毛沢東時代のそれとは比べにならないほど強大化した。 しかし中国は果たして、西側の期待する通りに普遍的な価値観を受け入れて穏やかな民主主義国家となっていくのだろうか。答えはもちろん「NO」である。 鄧小平は国力増大のために経済システムの改革と諸外国に対する開放政策を進めたが、それはあくまでも共産党一党独裁体制を強化するための手段であって戦略であり、西側の価値観を受け入れて中国を民主主義国家にしていくつもりは毛頭ない。1989年6月、それこそ西側の普遍的価値観に共鳴して中国の民主化を求める学生運動に対し、鄧小平政権が断固として血の鎮圧を敢行したのはまさにそのことの証拠だ。共産党政権の異常なる本質はこれでよく分かったはずである。  だが、残念ながら天安門の血の鎮圧の後でも、アメリカや日本などの先進国は依然として中国への幻想を捨てきれず中国への支援を続けた。特に2001年に中国が世界貿易機関(WTO)に加盟した後には、アメリカなどの先進国は技術と資金だけでなく、国内市場をも中国に提供することとなって中国の産業育成・雇用確保・外貨の獲得に大きく貢献した。 このため中国の経済規模の拡大は勢いを増したが、それに伴って中国の全体的国力と軍事力が飛躍的に上昇して、中国は西洋諸国をしのぐ世界第二の経済大国になっただけでなく、世界有数の軍事大国になって世界全体に大いなる脅威になっているのである。 この流れの中で、2012年に今の習近平政権が成立してから、中国は鄧小平時代の築き上げた強大な経済力と軍事力をバックにして再び世界制覇・アジア支配の覇権主義的野望をむき出しにして、そのための本格的戦略を推し進め始めた。 習近平主席は就任したときから、いわば「民族の偉大なる復興」を政権の基本的政策理念として全面的に持ち出した。その意味するところはすなわち、中華民族が近代になってから失った世界ナンバーワンの大国地位を取り戻して、かつての「華夷秩序」の再建を果たしてアジアを再びその支配下に置くことである。中国建国70年の記念式典で、人民解放軍を閲兵する習近平国家主席=2019年10月1日、北京(新華社=共同) そのためには習主席と彼の政権は、鄧小平以来の「韜光養晦」戦略と決別し「平和的台頭」の仮面をかなぐり捨て、赤裸々な覇権主義戦略の推進を始めた。 巨額な外貨準備高を武器にアジア諸国やアフリカ諸国を借金漬けにして「一帯一路」による「中華経済圏」、すなわち経済版の「華夷秩序」の構築をたくらむ一方、南シナ海の軍事支配戦略の推進によってアジアと環太平洋諸国にとっての生命線である南シナ海のシーレーンを抑え、中国を頂点とした支配的な政治秩序の樹立を狙っているのである。毛沢東時代に逆戻り それと同時に、習政権は国内的には毛沢東時代以来、最も厳しい思想統制・言論弾圧・人権弾圧・少数民族弾圧を行い、人工知能(AI)技術による完璧な国民監視システムの構築を進めた。その一方、習政権はいわゆる「国進民退」政策を推進して、国有企業のさらなる強大化を図って民間企業を圧迫し、毛沢東時代の計画経済に戻ろうとする傾向さえを強めてきている。 つまり、外交と内政の両面において今の習近平政権は鄧小平以来の「穏健路線」を放棄して、毛沢東時代の強硬政治と過激路線に逆戻りしている。そして、政権運営の仕方に関しても、習主席は鄧小平時代以来の集団的指導体制を破壊して、彼自身を頂点に立つ独裁者とする、毛沢東流の個人独裁体制を作り上げている。そのために彼は憲法まで改正し、国家主席の任期に対する制限を撤廃して自らが終身独裁者となる道を開いた。 しかし、ここまで来たら、鄧小平の改革時代以来、西側先進国の中国に対する甘い期待が完全に裏切られることとなった。中国が成長して繁栄すれば、西側の期待する通りの穏やかな民主主義国家になるというわけでは全くない。 中国が成長して強大化すればするほど、極端な独裁体制になって人民の自由と人権を抑圧し、国際的にはますます横暴になって覇権主義的・帝国主義的拡張戦略を推し進め、アジアと世界全体にとっての脅威となっているのである。 だが、結果的にはそれはまた、西側諸国の中国に対する甘い幻想を粉々にうち壊して、中国共産党政権の変わらぬ本質と中国の危険性を人々に再認識させ、国際社会の警戒心を呼び起こした。 その中で特に重要なのは、習政権の危険なる行いはやがて、数十年間にわたって「中国幻想」を抱くアメリカという国を目覚めさせ、「敵は北京にあり」との認識をアメリカに広げたことである。 今のアメリカでは、民主党、共和党問わず、「中国敵視」こそが政界とエリート層の共通したコンセンサスとなってしまった。習政権は愚かにも、アメリカという世界最強の技術大国・軍事大国を眠りから起こして敵に回した。 こうした中で、2017年に誕生したトランプ政権は成立当時からまさに中国からの脅威への対処を最も重要な政策課題にした。「航行の自由作戦」を展開して中国の南シナ海支配戦略を強くけん制する一方、日本との同盟関係強化や台湾との関係強化を図って中国のアジア支配に「NO」を突きつけてきた。 握手するトランプ米大統領(左)と中国の習近平国家主席=2018年12月1日、ブエノスアイレス(新華社=共同) 2018年になると、トランプ政権はさらに、中国に対する本格的な貿易戦争を発動した。それは実は、今の中国の最も痛いところを直撃するような高度なる戦略である。前述のように、強大化した中華帝国の土台を支えているのはあくまでも今までの経済成長だが、中国経済のアキレス腱(けん)は実は、内需が徹底的に不足している中で、経済の成長は国内の投資拡大と対外輸出の拡大に大きく依存している点である。そして中国の対外輸出の最大の得意様はまさにアメリカであり、中国の貿易黒字の6割は実はアメリカ市場から稼いでいる。 つまり、広大なアメリカ市場こそが中国の経済成長の命綱の一つであるが、トランプ政権が貿易戦争を発動して中国製品に高い関税をかけると、中国の輸出品はアメリカ市場から徐々に締め出されていくことになる。実際、今年の上半期においては、中国の対米輸出は前年同期比で8%以上も減ってしまい、輸出全体もマイナス成長に陥っているのである。 中国経済は沈没の一途 対米輸出と輸出全体が減ってしまうと、当然の結果、国内の輸出向け企業が軒並みに倒産して失業が拡大し、景気の悪化が加速する。その一方、輸出減がそのまま中国の手持ちの外貨の減少にもつながるから、一帯一路推進のための財源も枯渇していく。言ってみれば、トランプ政権が発動した貿易戦争は、中国経済に大きな打撃を与えているのと同時に、習政権の覇権主義的国際戦略の推進に対する「兵糧攻め」にもなるから、まさに一石二鳥である。 貿易戦争の発動と拡大が一因となって、中国経済全体は今や毎月のように減速して沈没への一途をたどっている。政府の公表した数字にしても、中国の成長率はすでに最盛期の10%台から直近では6・2%に陥っているが、中国国内の専門家が明らかにしたところでは、2018年の実際の成長率が1・67%であって、高度成長はほぼ終焉(しゅうえん)しているのである。それ以外には、中国経済はまた、巨額な国内負債問題や史上最大の不動産バブルの膨張などの「時限爆弾」的な大問題を抱えているが、その中の一つでも「爆発」すれば中国経済は一気に崩壊の末日を迎える可能性は十分にあろう。 その一方、国際戦略の推進に関しては、習政権肝いりの一帯一路構想は今や「闇金融」であるとの「名声」を世界的に広げて、欧米諸国から厳しく批判される一方、アジア諸国からの離反も相次いでいる。一帯一路は今、風前のともしびとなっているのである。 こうした中で、中国国内でも習政権にとっては頭の痛い政治的大混乱が起きている。中国の特別区である香港で起きた抗議運動の長期化である。 いわゆる「逃亡犯条例修正案」の提出をきっかけに今年6月に巻き起こった香港の市民運動であるが、香港当局が「条例修正案」の撤回を正式に表明した後でも、運動は静まる気配を一切見せていない。今ではそれは完全に、香港市民の中国共産党政権に対するボイコット運動となっていて、長期化していく様相を呈している。 そして、香港の抗議運動が数カ月にわたって展開していても、中国政府と香港政府はそれを収拾することもできなければ沈静化することもできない。 10月1日、習政権は北京で国威発揚のための建国70周年記念式典・軍事パレードを盛大に行ったその当日、香港市民が黒い服を身につけて大規模な抗議活動を展開していた。習政権のメンツはこれで丸つぶれとなって「国威発揚」はただの笑い話となっているのである。中国・香港で「逃亡犯条例」改正案を発端とした抗議活動をするデモ隊(奥)に、警官隊が催涙弾を撃ち込み現場に立ち込める煙=2019年10月1日(共同) こうしてみると、中国の習近平政権は四面楚歌(そか)・内憂外患の中で建国70周年を迎えたことになっているが、考えてみればそれはまさに、70年前に成立した中国共産党政権の歪(いびつ)な体質をさらに拡大化して独裁と覇権主義を強めた習政権の政治・外交路線のもたらした必然な結果であろう。アメリカも香港市民も、この共産独裁帝国の危険性、そして習政権の危険に気が付いて中華帝国に対する逆襲を始めたわけである。毛主席記念堂参拝の意味 こうした中で、習政権は今後一体どうやって、国内外の難局を乗り越えて活路を見いだしていくのだろうか。それを占うのに示唆の富んだ動きの一つがあった。9月30日、建国70周年記念日の前日、習主席はなんと、最高指導部の面々を率いて、天安門広場にある「毛主席記念堂」を参拝したのである。 鄧小平の時代以来、共産党最高指導部の人々が毛沢東の遺体を安置しているこの記念堂を参拝するのは普通、毛沢東誕辰(誕生日)100周年や110周年などの節目の記念日に限ったことであって、建国記念日に合わせて参拝した前例はない。 習近平指導部による、上述のような前例破りの行動には当然、特別な政治的な意味合いが込められているはずだ。要するに習主席はこの行動をとることによって、自分と自分の政権は今後、まさに毛沢東路線へ回帰することによって内憂外患の難局を打破していく意志であることを内外に向かって宣言したわけである。 人間が窮地に立たされた時には退嬰(たいえい)的な行動をとるのはよくあることだが、それと同様、今になって窮途(きゅうと)末路の習主席と習政権はどうやら、毛沢東時代への先祖返りで政権の自己防衛を図り、生きていく道を切り開こうとしているのである。 こうしてみると、建国して70年がたっても、共産党政権は一向に変わることなく毛沢東時代以来の独裁軍事政権のままであることがよく分かるし、70年間にわたる中国共産党政権の歴史は結局、70年前の悪しき原点に立ち戻ることを最終の帰結としている。 もちろん、毛沢東時代への回帰は中国自身と周辺国にとって何を意味するのかは明々白々である。習政権の下では中国という国は今後、国内的には思想統制と言論弾圧・民族弾圧がますます厳しくなって、経済が再び社会主義計画経済の統制下におかれて活力を失っていくのであろう。そして対外的には、今後の中国は武力と恫喝による台湾併合を進めていくだけでなく、周辺諸国に対してますます覇権主義的強硬外交を展開していき、習政権の中国はこれまで以上に、アジアと世界全体にとっての脅威になっていくのであろう。会談に臨む中国の習近平国家主席と安倍首相=2018年9月12日、ウラジオストク(代表撮影) 毛沢東時代に先祖返りしていく、この凶暴にして退嬰的な巨大帝国の脅威にどう対処していくのか。それこそが今後、日本を含めたアジア諸国が直面していく最大の安全保障上の難題であろう。

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    渡邉哲也×吉川圭一対談 覇権争いで剥がれ始めた中国の「仮面」

    な話題になっていますが、この根底には世界の大きな覇権争いが存在するわけです。どういうことかと言えば、中国はアメリカに対して太平洋の分割を迫り、覇権国家であるアメリカの体制を壊そうとした。それに対してアメリカ側は安全保障上の問題も含めて現代戦に持ち込みました。大量破壊兵器が生まれた現代としてはかつてのようないわゆる武力だけの紛争ではなく、経済も大きな戦争の要因になっている。だからよく米中貿易戦争という言葉がありますが、正しくは「米中戦争貿易版」と考えた方がよいでしょう。 そしてアメリカとソ連の冷戦終結後、グローバリズムが世界に広まっていきましたが、これは、モノ、カネの移動の自由ということです。グローバリズムとは、一つのルールで世界が動くことを意味しますが、中国はその自由側社会、つまり西側社会に入ってくるとき、西側社会のルールのもとで活動すると言っていたのに、実際は資本移動の自由どころか、国有企業の改革もしなかった。結局、開発独裁型の経済をそのまま維持し、しかもそれが軍事と連動しているので、アメリカは圧倒的に不利なわけですね。あくまで中国は自分たちのルールでやっていますからね。 例えば日本やアメリカの企業が完全な民間資金でビジネスをやっている一方で、中国企業はバックに国がついていていくらでも資金が調達できる。これを同じ土俵で戦えるかというのがアメリカ側の言い分なわけです。中国は世界貿易機関(WTO)に入るとき、完全な資本の自由化と、国有企業をなくして民営化していくと言った。でも、それを守っていない。また、国際通貨基金(IMF)からの特別引出権(SDR)についても為替の自由化を約束しておきながら、これもやっていない。人民元は管理変動相場制で管理するかたちで、いわゆる人民元レートを自由に移動できる、自由に調整できるから好きなようにビジネスができる。こういうような状況なわけですね。 これに対して改善しろと言っているのがアメリカですが、それをすると崩壊に面している中国のバブルがもうもたないという中で、さてどうするかというのがこの米中貿易戦争の始まりだと思いますね。 吉川 まさに渡邉さんのおっしゃる通りで、やはりトランプ大統領の登場を見ていると、冷戦時代に当時のキッシンジャー国務長官が中国と協力してソ連の包囲網をつくったように、今の状況ではロシアと協力して中国を封じ込めないといけないという視点が生まれました。ただ、既存のワシントンの政治家や官僚が、冷戦思考から抜けきれず、特にウクライナのクリミア問題以来、反ロシアで固まってしまっている中で、「ならばトランプさん、君やらないかね」というような空気になったことも、トランプが大統領になるきっかけだったと、私は思いますね。 渡邉 そうですね。いわゆる新たな冷戦の始まりを米中の間において言えば、南シナ海における「航行の自由作戦」の本格化ですから、2010年あたりからですよね。それでいわゆる米露に関してはウクライナ問題が2014年の2月、ソチオリンピックの直後です。この二つによって世界の分断が始まったと言えますね。そして、それが「鉄のカーテン」なのか、いわゆる「竹のカーテン」なのかと、最近よく言われますが、もちろんかつての冷戦は「鉄のカーテン」で、これはアメリカとソ連。今、言われているのが「竹のカーテン」でアメリカと中国ですが、ロシアは今、どちらかというとフリーハンドの状況ですね。中国経済の現状や先行きなどについて対談する渡邉哲也氏(右)と吉川圭一氏=2019年9月、東京都千代田区(飯田英男撮影) 吉川 この前、尖閣諸島の上空を中国とロシアの爆撃機が飛行した際、中国側が飛ばしたのは最新鋭のものでしたが、ロシアが飛ばしたのは冷戦時の中古とは言わないけれども、それぐらい古い年式のものでした。私はこれを見て、やはり、ロシアとしては半身の構えなんだなと、使った爆撃機の性能からそう思いましたね。イスラムのテロ対策と称してロシアに相談もなくカザフに中国軍を送ったことも、ロシアの対中不信感の原因になっている。一方で、中国もプーチン大統領を取り巻く財閥などを信用していないので、ロシアに本気で投資をしていない。 渡邉 中国とロシアは、そもそも国境に面して互いに敵対していますが、敵対していることを表に出さないという空気があります。今の北朝鮮情勢もそうですが、中国とロシア、どちらもどっちつかずで動いているじゃないですか。 吉川 私はどちらかというと、北朝鮮は、今はもうロシアに近く、金正恩朝鮮労働党委員長は習近平国家主席が叔父や兄を使って自分を排除しそうになったから、叔父や兄を殺したと聞いています。北朝鮮のミサイルの技術などは明らかにロシア製ですからね。狙われるグリーンランド 渡邉 いずれにせよ、中国とロシアは核心的な利益の部分で確実に対立するものがあります。それは「水」です。ロシアの水を中国は水源として狙っていると言われていて、ここに関してロシアと中国は絶対的に敵対することになります。 吉川 私もワシントンにいたとき、ロシア大使館の関係者と話をすると、公の席ではなく、酒席では、中国からの不法移民がシベリアには多すぎると聞きましたね。このままだとシベリアを取られてしまいそうだと、相当警戒していますね。 渡邉 そうですね。今は、習近平が打ち出した経済圏構想「一帯一路」がよく言われますが、新たな軍事的対立点になろうとしているのは、北極海です。北極海においてはロシアと中国は完全に対立しているわけです。中国がかなり北極に進出しており、これに対してアメリカもロシアも、中国は北極隣接国ではなく、開発権限はないと主張していますからね。 吉川 北海道の土地も中国資本がかなり買い漁っています。中国の船が年中北極に行く海路を抑えるためではないかと聞いていますが、実際どうしようとしているのでしょうか。 渡邉 それについては、ロシアと中国、アメリカの三つ巴(どもえ)の中でトランプはグリーンランドを買いたいと言っています。 吉川 その通りです。私もそれを申し上げようと思っていたのです。 渡邉 メキシコとアメリカの国境の壁の話もそうですが、グローバリズムというものは、カネの移動の自由化なのでしょうが、トランプが壁を作ると言って大統領選で勝利しましたが、これらはカネの間に壁を作っていくということだと思います。その壁の意味というのは、象徴的な意味合いの方が強いと思います。難民対策という面もありますが、例えばモノで言えば、中国に対する関税、すなわちそれが壁です。今、中国人にビザ規制をしていますが、これも壁と言えます。 吉川 ですが、アメリカは中国を為替操作国指定はしたし、そろそろカネに関する壁作りも始めるということではないでしょうか。 渡邉 為替操作国指定をして、そろそろ始めるというより、すでに始まっていますね。結局、トランプのビジネス、いわゆる口先介入というかツイッター介入というのはすごく分かりやすくて、規制のかけ方も分かりやすい。株価が最高値をつけたところで中国に対する再規制をツイッターで宣告することで、株価が下落する。そしてまた戻ると、再規制をかけるという具合です。それで足りない場合は、米連邦準備制度理事会(FRB)による利下げなどで、さらに金融支援をさせるかたちで株価をうまくコントロールしながら、中国に制裁をかけているのです。要するに、株価連動政治ということです。経済評論家の渡邉哲也氏=2019年9月、東京都千代田区(飯田英男撮影) 吉川 トランプの減税で一度よくなったアメリカの景気が今年の第1四半期に3%成長だったのが、第2四半期には2%成長になり、来年には1%台になるかもしれません。失業率は下げ止まりしていますが、トランプを当選させた自動車工場などで働いている人の失業が実は30万人ぐらい出てしまっており、その辺がトランプの大統領再選に関して気にしているところです。 ただ、トランプの政策をもってしても、なかなか中国に進出したアメリカ企業の工場などが、アメリカに戻ってこないので、そのためかもしれません。中国に進出したアメリカ企業の8割以上が「トランプ関税」の影響を感じていますが、今ある工場などを中国から撤退させることを予定している企業は1割ほどです。中国のまやかし 渡邉 ところで、米中貿易戦争の中で進んでいる協議の中に、資本移動の自由があります。中国の場合、中国で出た利益を国外に持ち出せないので、結果的に撤退できないという事態になっています。中国に資本移動の自由を認めさせることができれば、いわゆる利益を持ち出すかたちで海外に移すことができる。でも、これができないので、企業の中にはその中国からの撤退ができない企業がたくさんあります、実際「チャイナプラスワン」(中国でのリスクを避けるため他国にも拠点を設ける)というかたちで中国工場を最小限にとどめつつ、別の国に工場をどんどん移している。もう7割以上の企業が今年に入って、中国拠点の規模縮小や中国以外の国で始めています。 吉川 実はそのトレンドは、トランプの関税政策が始まる前から、東南アジアの方が、労働賃金が安くなってきたので、もう始まっていた流れを加速させたということでしょうね。 渡邉 そうですね。だいたい2012年あたりからチャイナプラスワンを始めていて、ベトナムやミャンマーなどが低賃金の国と言われ、こうした中で2015年8月に中国株式のバブル崩壊がありましたよね。あの辺りから中国の景気がかなりおかしいと、気がついているわけですよ。ただ、中国共産党の目もあるので、表立って中国からの離脱は言わないですが、もうすでにTシャツなどの縫製の移転はかなり進んでいました。 それから、中国の一番のまやかしというか誤解は、14億人いる人口に関するとらえ方ですね。そもそも、中国の社会構造は一種の「カースト」で、実際日本人と同等レベルの生活ができる人は5千万人しかいない。そしてこの5千万人を含んだ1億5千万人が経済協力開発機構(OECD)加盟国レベルとされています。また、この1億5千万人を含んだ3億人が都市住民と言われ、残りは地方住民。さらに、地方住民の中の3億人だけが将来的に都市住民なれるわけです。要するに、14億人のうち8億人は農工民を中心とした貧困層という構造なのです。 吉川 なるほど、経済が都市部に集中しているアメリカの方が14億人いる中国よりも、本気で大規模な核戦争になったときに脆弱だと言う人はいますが、中国も都市部への極端な集中はしていますね。 渡邉 集中はしていますが、中国とアメリカの違は人権のあるなしですよね。中国はかつての偉大なる毛沢東が中国人は半分死んでも大丈夫というような話をしていました。 吉川 そう。だから習近平もそういう意味のことを言っていますよ。アメリカに「やれるものならやってみろ」と言っていますよ。 渡邉 ただそれはもう結局、最終的というか、最悪な手段という選択で、互いに核を保有して抑止する「相互確証破壊」の世界に入ってくるわけですね。 吉川 でも最近は人権問題などでアメリカのリベラル派も対中国強硬路線になってきました。保守派は安全保障問題などで反中。要するに、今はもうアメリカは国をあげて反中国で、実はトランプが来年の再選のために対中関税などで経済を悪化させたくないため、最も中国と特に経済問題でディール(取引)したがっているといった不思議な話になってきています。グローバル・イッシューズ総合研究所代表の吉川圭一氏=2019年9月、東京都千代田区(飯田英男撮影) 渡邉 先にも述べましたが、中国は開発独裁国家ですからね。だから一番みなさんが勘違いしているのは、中国共産党というだけに、共産主義国家だと思っている人が多いでしょうが、巨大な開発独裁国家であって決して公平分配は目指していません。むしろ世界で一番格差の大きい共産主義を名乗る国家です。 吉川 そうですね。習近平の娘は香港に何百万ドルもする不動産を持っていると言われているぐらいですからね。 渡邉 中国の本当の現状を知るには、日本のバブル崩壊期に何が起きたかを考えれば非常に分かりやすいですね。日本がアメリカの不動産を買い漁っていたとき、日本の銀行の自己資本がおかしいと言われて「ジャパンプレミアム」と呼ばれていましたが、日本の銀行がアメリカ市場でお金を借りる際に、アメリカの銀行に比べて2%前後高い金利にされていました。今はもう「チャイナプレミアム」がつき始めているわけですよ。例えばその典型なのは、中国の通販大手「アリババ」などは、ニューヨークのマーケットで株式公開ができない。だから今香港にマーケットを移して、資金調達をしようと思った矢先に、大規模デモが起きて香港でも資金調達ができなくなったわけです。 吉川 それから、中国の国内総生産(GDP)が、世界のGDPで占める割合が15%だとされていますが、人民元ベースでカウントすればそうなるというだけですよね。その人民元による貿易決済は、世界の貿易決済の1、2%程度。このギャップが非常な問題だと思います。 渡邉 そうですね。だから結果的には、中国の人民元というのはしょせん中国人、中国企業が借りているのも中国人が稼いでいるのも人民元なので、潰れるときは一番に潰れていくわけです。現在の日本円と、日本のバブルが弾けたときの円はまったく違うわけです。なぜかといえば、バブルが弾けたときの円は金融ビッグバン以前だったので為替が自由化されてない国内通貨だったからです。ですから、中国の人民元も今は国内通貨で、日本のバブル崩壊のときと同じような位置付けと言えます。「戦わずして勝つ」 吉川 為替操作国としてIMFに認められれば、中国大陸にある1200億ドルを引き上げてしまうこともできます。香港情勢が悪化すれば、1992年の特例法によって、香港にある800億ドルも引き上げることも可能です。すると中国は人民元をドルで買い支えることができなくなるので、人民元は40%前後大暴落するでしょう。いずれにしても80年代に日本に対してアメリカがやった同じことを中国に対してやっているということですね。 渡邉 成功体験を持つ人がやっていますからね。日本のバブル崩壊のプロセスを追っかけていけば、どうやって内側に倒していくことができるかを知っている人たちがやっている。 吉川 だからそういう意味で、全面核戦争にならないために、「戦わずして勝つ」というかたちで中国を弱めていければ一番ありがたいですがね。 渡邉 こうした中で、さて日本はということになりますが、日本企業も必然的にアメリカか中国か、いずれかを選ばなければいけないのですが、当然、安全保障の問題もあって中国を選べない。特に親米でも何でもないけれど、アメリカを選択した上で、日本市場や世界中のマーケットに中国がシェアをとってきた商品があり、それが追い出されていくので、結果的にそこに枠ができるわけですよね。 この枠は、よくよく考えればかつて日本企業が持っていたもの。ならば、取り返せばいいということですよ。14億人という中国の巨大市場がなくなる恐怖を語る人はいますが、先に述べたように、中国は14億人ではなく、実質的には1億5千万人ですから。しょせん日本と同じ規模しかないことを認識すれば、それほど怖いことでもないでしょう。 吉川 たしかに自由貿易協定(FTA)の問題も含めて、日本企業は、トランプ政権の恩恵を受けることが期待できるわけで、5G(第5世代移動通信システム)もそうですが、アメリカと中国が全面戦争になるときのために宇宙軍を創設して新スターウォーズ構想もあって、こうした中から日本企業に商機があるではないかと思います。 渡邉 そうですね。中国通信大手の華為技術(ファーウェイ)が象徴的ですが、5年以内にアメリカ国内から中国製通信機を全面排除するということで、そのために協力業者を探して育成していくというアメリカの方針が出ましたから。それに合わせて日本の通信企業も今動いていています。コストの面でも、これまで中国で生産していたものを生産地移転などで対応できると言っていますからね。 いずれは日米のFTAが結ばれると思いますが、アメリカはバイオ分野にしても最先端の技術を持っていますが、作る技術がない。でも、日本は作る技術と材料を持っています。だから日米がきちんと組めばウィンウィンで、非常によい関係が生まれ、今までとは違う経済効果をもたらすはずです。要は中国やヨーロッパがなくても、日米両国が手を組むことによって大きな変革を生み出すことができますよと、一連の日米協議で口説いたという話を聞いています。ファーウェイ製品を扱う北京の店舗(UPI=共同) 吉川 とにかく日米で5Gの先にある5・1Gや6Gを構築していけば、日米が世界を支配できるということですね。今アメリカは挙国一致で中国との対決姿勢に入っているわけですから、ここで日本はアメリカとのスクラムを崩すわけにはいきませんね。渡邊さんが先ほどおっしゃったように、変に中国の市場が巨大だとか、そういう幻想に惑わされはいけないということですね。 わたなべ・てつや 経済評論家。昭和44年生まれ。日大法学部卒。貿易会社に勤務した後、独立。複数の企業運営などに携わる。著書に『本当にヤバイ!欧州経済』(彩図社)など多数。近著に『「中国大崩壊」入門 何が起きているのか? これからどうなるか? どう対応すべきか?』(徳間書店)。 よしかわ・けいいち 政策コンサルティング事務所「グローバル・イッシューズ総合研究所」代表。2016年まで米国ワシントンDCにも拠点を持ち、 東日本大震災を契機に一般社団法人日本安全保障・危機管理学会防災(JSSC)ワシントン事務所長として、日本に米国と同様の危機管理専門省庁の立ち上げを目指す政策提言活動に取り組む。2017年以降は日本国内をベースに、テロ対策や米国政治に関する政策提言活動を続ける。著書に『救世主トランプ—“世界の終末”は起こるか?』(近代消防社)、『東京オリンピック・パラリンピックは、テロ対策のレガシーになるか?』(同)など多数。

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    習近平は「米中経済戦争」にむしろ救われた

    富坂聰(ジャーナリスト、拓殖大学海外事情研究所教授) 中国経済に関する評価は、常に好悪の両極端に振れてきた。この現象は、インターネットを主な情報源として、現地を見ることもなく、また現地の人々と話すこともなく発信されるレポートがあふれて以降、さらに顕著となっている。 中国経済の盛衰は常に変化してきた。当然のこと、日本の書店でよく見かける大混乱や大失速はもちろん、大崩壊といったことが予測されるような話題ではない。 ここ数年、日本の新聞は四半期ごとの中国経済統計が発表されるたびに、「中国経済、減速が鮮明」との見出しをつけて報じてきた。 確かに、中国自身が認めているように、「高速発展」の時代は2012年の時点で終わっている。その後は、「ニューノーマル(新常態)」という言葉が使われるようになったように、中国経済は量から質への転換のプロセスに入った。 つまり、数字が下がることを織り込んだ上で「変革のプロセス」に入ったのである。ゆえに、その数字が良くないと批判するのは不思議な話だ。 本来、中国経済の未来を判断するのであれば、まず「質的転換」の進捗(しんちょく)状況を分析すべきである。具体的には、第2次産業依存の体質から第3次産業中心へのシフトの状況であったり、製造業における高付加価値化の進展具合である。株式市場「科創板」の取引開始を記念し、中国・上海で行われた式典=2019年7月22日(共同) 経済発展の牽引車から、いまや成長の足かせとなった重厚長大型産業を中心とした「オールドエコノミー」の体質改善が進んでいるか否かの見極めも必要だ。換言すれば、中国経済のダメージは、個人消費の不振やニューエコノミーの育成不良、はたまたオールドエコノミーのリストラが進まないといった状況から評価されるべきなのだ。「不景気」は出口なしか 財政面では、主に2008年の世界金融危機に際して出動した4兆元の投資が重くのしかかり、足を引っ張っている。景気刺激策として財政出動をしなければならない状況に追い込まれれば、それは宿題の先延ばしになる分だけ、経済にはダメージとなるだろう。 現状、北京などで取材すると、誰もが「中国の景気は良くない」と答える。 だが、日本をはじめとする休日の海外旅行の勢いは衰えず、電子商取引(EC)も隆盛を続けるように、深刻な影響とはいえないだろう。問題の深浅をどう判断してゆくべきかは、「中国大崩壊が始まった」「中国が世界経済の覇者となる」といった漫画チックな話ではなく、精緻に分析していかなければならないことだ。 景気は明らかに陰っていて、かつては大行列だった高級レストランに閑古鳥が鳴いている様子は、北京に行けば目にすることができる。それは狂乱の好景気が終わったことを意味しているが、いわゆるニューノーマルへの変化という範囲に収まる低速化なのか、それ以上のことなのか。 中国は今年、預金準備率を用いてマネーの供給量を増やそうとしたが、昨今の米連邦準備制度理事会(FRB)と欧州中央銀行(ECB)がともに金融緩和を決めたような動きの中で、中国人民銀行は緩和に追随しないことを表明している。まだ、そこまでは必要ないとの判断だと理解された。 中国経済は前述のような高速発展期を過ぎて、減速を余儀なくされている。だが、この停滞は出口の見えない落ち込みかと問われれば、そうではない要素も多くみつかる。少なくとも政治的な影響は小さい。 本来、習近平政権は経済発展の落ち込みとサプライサイド(供給側)改革という名の大リストラで大きな逆風にさらされるはずだった。2017年11月、北京で開かれた歓迎式典に臨むトランプ米大統領(左)と中国の習近平国家主席(共同) しかし、ここに米中経済戦争という要素が持ち込まれたおかげで、政治的にはむしろ救われている。というのも、人々の不満を一身に受け止めるはずだった景気の問題は、全て「米国の圧力のせいだ」と居直れることとなり、国民も落ち込みに耐える心構えを持てたからである。緩やかな「脱米」 一方、米国の圧力に晒されることで被る物質的なダメージはどうかといえば、現状を見る限り、乗り越えられないレベルではなさそうだ。カギとなるのは最先端産業と国内の大市場、加えて貿易の中身の転換が、そのダメージを緩和できると考えられるからだ。 例えば、スマートフォン市場である。安全保障上の脅威を理由にトランプ政権は華為技術(ファーウェイ)排除に動いたが、2019年4~6月のスマートフォンの出荷台数からは、同社が窮地に陥っている状況は見えてこない。むしろ、中国国内での出荷台数を伸ばし、米アップルを抑えて2四半期連続で世界シェア2位をキープしているほどだ。 スマートフォンを含め、多くの高付加価値製品は中国市場で旺盛な伸びが期待されている。今やスマートフォンに関しては、世界のおよそ3分の1が中国で売れていて、今後の伸びも期待されている。自ら成長市場を持つ強みは明らかだ。 また中国のスマートフォンメーカーは、飽和市場である西側先進国では苦戦しているものの、今後の伸びが期待されるインド市場ではシェア1位の小米科技(シャオミ)を筆頭に3位の維沃移動通信(ビーボ)、4位の広東欧珀移動通信(オッポ)、5位の伝音控股(トランシオン)と上位にひしめいている。この趨勢(すうせい)は今後、多くの新興国・発展途上国で、一つのモデルになるといえよう。 というのも、中国は米中経済戦争が激化して以降、緩やかな「脱米」に舵(かじ)を切っている。これは米国との対決姿勢を鮮明にするという意味ではなく、保険の一つとしての「米国離れ」だと考えられる。 貿易面では、少しずつ対米輸出への依存の割合を減らし、「一帯一路」沿線国とアフリカへのボリュームを高めていくというものだ。5Gスマホの販売を始めた北京のファーウェイ販売店=2019年8月16日(共同) 世界金融危機のなかで、先進7カ国(G7)の役割に限界が指摘され、20カ国・地域(G20)へと主導権が移行されていったように、今後の経済発展は、先進国から新興国や発展途上国へとシフトしていくことが考えられる。 このトレンドと、中国の「脱米」がシンクロする可能性は決して低くない。

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    米中貿易戦争、なぜ中国は自らが勝てると考えるのか

    る折り返し地点を経過したのである。その折り返し地点は8月だった。 まず、8月までの経過を見てみると、中国は基本的に「引き伸ばし戦術」だった。米側との通商交渉は一進一退しながらも、正面衝突を避けてきた。その目的は来年(2020年)の米大統領選でトランプ氏が落選すれば、次の新大統領との再交渉に持ち込み、対中政策の緩和を引き出すというものだった。 いわゆる「他力本願」の戦術でもあった。しかし、この「引き伸ばし戦術」が決定的な破綻を迎えたのは、中国が5月に合意内容を反故にしたときだった。 昨年から交渉が始まって合意されたほとんどの内容を一旦白紙撤回した中国を前面に、トランプ氏は怒りを抑えきれず、交渉テーブルを蹴った。そこからトランプ氏は制裁の度合いを一気に高め、中国が望んでいた「再交渉」はついに実現できなかった。 つまり「他力本願」ということで依存してきたトランプ氏は中国が望んでいた通りの行動を取らなかった。それは中国の企みが見破られてしまったからだ。バイデン氏が次期米大統領になれば、トランプ氏路線の撤回も可能になるという中国の企みがとっくにばれていた。 ここまでくると、もう受身的な他力本願では無理だと中国は判断し、戦術の変更に踏み切る。能動的な出撃に姿勢が一変した。 8月23日中国は、合計750億ドル相当の米国製品に追加関税を課すと発表した。大方の報道は、これがトランプ米大統領が発動を計画する対中関税第4弾に対する報復措置としていたが、それは間違った捉え方である。 出撃ではあるが、報復ではない。逆に米国の報復を引き出すための出撃であった。案の定、中国の読みが当たった。 トランプ氏はすぐに反応し、わずか数時間後に、すでに発動済みの2500億ドル分の追加税率を10月1日に25%から30%に、9月以降に発動する対中制裁関税「第4弾」の追加税率を10%から15%に引き上げると発表した。 貿易戦争がこれで一気にエスカレートした。中国はもはや「引き伸ばし戦術」に固執しなくなった。いや、一転して攻撃型戦術に転じたのだった。なぜそうしたかというと、貿易戦争の激化という結果を引き出そうとしたのではないだろうか。非常に逆説的ではあるけれど。※写真はイメージです(ゲッティイメージズ) 貿易戦争が激化すれば、米中の両方が傷付く。それは百も承知だ。それでも戦いをエスカレートさせようとするのはなぜか。答えは1つしかない。戦いの末、中国よりも米国のほうがより深刻な致命傷を負うだろうという読みがあったからだ。あるいはそうした「賭け」に出ざるを得なかったということではないだろうか。「我慢比べ」と「傷比べ」 まず、米国が負い得る「傷」を見てみよう。何よりも米経済がダメージを受け、景気が後退する。 特に対中農産品の輸出が大幅に縮小することで、米農民の不満が募る。それが来年(2020年)の大統領選にも影響が及びかねない。トランプ氏は大票田の農民票を失うことで、当選が危うくなることである。むしろこれは中国がもっとも切望していたシナリオではないだろうか。 「引き伸ばし戦術」でじわじわ攻めても、そのシナリオが実現せず、トランプ大統領が続投することになった場合、まさに中国にとっての地獄になる。あと4年(任期)などとてももたないからだ。そこで一気にトランプ氏を追い込む必要が生じたのである。中国の力で倒せないトランプ氏を、米国民の票で倒すしかない。ここまでくると、逆説的に米国の民主主義制度が中国に武器として利用されかねない。 次に、中国の「傷」はどんなものだろうか。すでに低迷していた中国経済の衰退が加速化し、対米関税の引き上げによって特に大豆やトウモロコシ等の供給が大問題になり、食用油や飼料価格が急騰すれば、肉類や食品価格も押し上げられ、インフレが進む。 物価上昇が庶民の生活に深刻な影響を与え、民意の基盤を揺るがしかねない。ただ、中国の場合、1人1票の民主主義制度ではないゆえに、トランプ氏のようにトップが政権の座から引き摺り下ろされることはないのである。 庶民の生活苦は一般に政治に反映されにくい、あるいは反映されない。そこは逆説的に中国の強みとなる。つまり民意による政治の毀損、その影響が他の形で致命的に至りさえしなければ、中国は我慢比べの結果で米国に勝つ可能性があるわけだ。 これに対して米国は逆だ。たとえ長期的に国益になるといえども、短期的な「民意への耐性」面をみると、民主主義国家の脆弱性が浮き彫りになる。 この局面の下では、トランプ大統領にとって取り得る政策の選択肢はあまり残されていない。それはつまり、中国の「傷」をより深いものにし、より短期的に致命的なものにする、それしかない。関税の引き上げはもちろんのこと、何よりも外資の中国撤退、サプライチェーンの中国からの移出が最大かつ最強の武器になる。 これからの1年が勝負だ。トランプ氏は米国企業の中国撤退を命じると言ったが、それは単なる冗談ではない。直接命令の代わりに法や政策の動員が可能であろうし、実際に中国国内のコスト高がすでに外資の撤退を動機付けているわけだから、それをプッシュする力を如何に加えるかである。 そうした意味で、中国は危険な「賭け」に乗り出しているといっても過言ではない。その賭けに負けた場合、中国にとって通商や経済の問題だけでは済まされない。深刻な政治問題、統治基盤の動揺にもつながりかねない。 昨年(2018年)12月18日、習近平主席が改革開放40周年大会で、中国の未来について「想像し難い荒波に遭遇するだろう」と述べた。さすが偉人だけにその予言は当たっている。

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    清王朝の国債、米国人債権者が中国に108兆円分返済要求の詳細

     中国の清王朝(1644~1912年)が発行した当時の「国債」を保有している米国人債権者らは米政府に対して、中国政府が債務の返済に応じるよう交渉してほしいと要請していることが明らかになった。債務額は現在の1兆ドル(約108兆円)以上だという。 すでに、債権者らは昨年8月、トランプ大統領とムニューシン財務長官と面会しており、「米中貿易摩擦解消のための材料として使ってほしい」と訴えたという。トランプ大統領らの反応について、米財務省と商務省は「ノーコメント」としている。米誌「ブルームバーグ・ビジネスウィーク」が伝えた。 問題となっている清朝の国債は王朝崩壊前年の1911年、中国沿岸部の浙江省杭州市と内陸部の四川省間の2000キロを鉄道で結ぶ建設プロジェクトを実施する目的で、米、英、仏、独の4カ国から資金を募るため発行された。発行額は当時の金額で600万ポンド。 各国は銀行などを通じてこの国債を販売したが、翌年に清朝崩壊の原因となった辛亥革命が成功したことで、返済の望みが途絶え、価値がなくなったという。 しかし、米テネシー州の牧場経営者、ジョナ・ビアンコ氏は祖父から受け継いだ国債について、「祖父や父母は清朝が滅亡してしまったことや、その後アメリカと中国の国交の途絶えた時期があったことから、誰にも訴えられず、泣き寝入りするしかないとこぼしていたが、『アメリカ・ファースト』を叫ぶトランプ氏が大統領になったことで、大きなチャンスが転がり込んできた」と期待しているという。 ビアンコ氏は米国内で国債を保有している他の債権者を集めて、債務の返済を求める団体を結成し、自らその代表に就任し、トランプ大統領らともホワイトハウスで会見し、中国に債務返済の圧力をかけるよう要請している。 同誌によると、デューク大学の法学者は「法的にみれば、清王朝が残した債務は完全に合法だ。現在の中国政府はこれらの債務について、1949年より前の中華民国政府が責任を負うと主張しているが、中国共産党政権が自らを『中国の主権の唯一の継承者』だと主張している点と矛盾する」と指摘しているという。清王朝の国旗(ゲッティイメージズ) すでに、米国内の債権者は米中関係が改善していた1979年、中国当局に債務返済を求める訴訟を起こし、裁判所は当時の中国外相だった黄華氏を証人として召喚した。しかし、この年に米中国交正常化が実現しており、米政府は対中交渉を優先して司法省に圧力をかけたことから、同省が両者の和解を求めた結果、裁判所は1987年、原告側の訴えを退けている。 ビアンコ氏は「時代は変わった。いままでの大統領とは違うトランプ氏は大統領に就任したことで、アメリカは米中貿易戦争で新たなボールを手にした。我々の100年来の願いは必ず叶うはずだ」と語っているという。関連記事■習近平氏がごみの分別を指示、「もっと重要問題に注力を」の声■中国のモンスター乗客たち、バス運転手への暴力相次ぐ実態■韓国・中国・北朝鮮以外は「世界中ほぼ親日国家」である理由■中国富豪男の夢「蒼井そらを1晩300万円でセッティングしろ」■中国人が接待で「女体盛り」を要求、要した費用は32万円

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    中国のネット規制強化に苦言呈した編集長への称賛と心配

     中国では10月1日に建国70周年記念日(国慶節)を迎えたが、この前後の大型連休期間中はとくにインターネットの規制が強まっており、中国内のネットユーザーの不満とストレスが高まっている。 とりわけ、中国共産党機関紙『人民日報』傘下の国際問題専門紙『環球時報』の胡錫進編集長が中国版ツイッター「微博(ウェイボ)」上に書いた率直な意見がネット上で話題になっている。同氏は、「国慶節が近づくと、海外のネットの接続がますます難しくなり、これでは環球時報の編集作業にも影響が出てしまう」と書いた。あまりにも多くの読者が拡散したためか、張氏のつぶやきは2時間後に削除されてしまっており、むしろ、中国のネット規制の厳しさを物語る結果となった。 米政府系報道機関「ラヂオ・フリー・アジア(RFA)」によると、張氏は当局によるネット規制について、「(当局は)大衆を信じることが重要だ。中国社会に海外のネット空間を多く残してほしい。これは国益にも有益だ」と書き込み、当局のネット規制緩和と情報や表現の自由の重要性を強調した。 こうした規制に職務上深刻な被害を受けているのが、中国国内で米国を中心とする外資系企業に勤める中国人従業員だ。RFAは「中国内では米国の政府機関のほかにも、企業のホームページにすらアクセスできないようにされている場合もあり、米国企業に勤める中国人従業員は本社のメールを読むことができず、仕事に支障が出ている」との実態を明かしている。 また、RFAによると、張氏はネットだけでなく、国慶節前後の地下鉄などの公共交通機関や公園や観光名所、公的な場所でのセキュリティチェックについても苦言を呈したという。微博では「検査の範囲がとても広い。軍や党、政府の施設などを除いて、特殊でない場所でも検査がやり過ぎており、大きな疑問を抱いてしまう。これでは、多くの労力を浪費している。このような労力を社会に不満がある人々を慰めることに使えば効率的だ」とも指摘している。 これについて、RFAは環球時報で働いたことがあるジャーナリストの発言として、「環球時報は、張編集長に限らず、敏感な問題についても、ずけずけと意見を述べる雰囲気がある。とくに、張編集長は開明的だ」と伝えている。※写真はイメージです(ゲッティイメージズ) しかし、張氏は今後、職務を遂行できない事態に陥ることも予想される。中国では10月上旬、北京で働く中央メディアの記者と編集者約万人を対象に、習近平国家主席の思想やマルクス主義に対する理解度を測るテストを初めて実施するからだ。 これは報道機関などを管轄する中国共産党中央宣伝部が実施するだけに、ネット上では「重要監視対象になっている張編集長が合格するかどうかで、今後の中国の報道規制がさらに強化されるのか、あるいは緩和されるかの判断が下せそうだ」などの見方が書き込まれている。関連記事■清王朝の国債、米国人債権者が中国に108兆円分返済要求の詳細■中国人が接待で「女体盛り」を要求、要した費用は32万円■「中国臓器狩り」戦慄の手口 亡命ウイグル人の元医師が激白■中国富豪男の夢「蒼井そらを1晩300万円でセッティングしろ」■日米同盟破棄したら中国は尖閣強奪、韓国は謝罪と賠償要求

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    2020年「世界の終末」米中南シナ海戦争の現実味

    and-Building”によれば、米国は8月に成立した新国防権限法(NDAA)の1262節の中で、中国の南シナ海情勢に対して重大な懸念を表明している。 同記事によれば中国は2014年に人工島を建設すると、直ぐにレーダー、滑走路、ミサイル収納庫を建設。2018年5月に南沙諸島に対艦ミサイルと対空ミサイルを配備。同時に長距離爆撃機の離発着を行った。そこで米国はリムパックに中国を招待することを停止。これをNDAAでは“First Response”と記述している。そして米海軍はNDAA1262節に基づいて世論喚起のために、メディア関係者の潜水艦同乗を許したり、異常接近等の状況の様子を、YouTubeで流したりしている。 またワシントン・タイムズが11月14日に配信した“Trump demands China remove missiles in the South China Sea”によれば、11月8日に行われた米中戦略対話で、マティス国防長官とポンペオ国務長官は、中国に対し南シナ海に配備した対空、対艦ミサイルを全て撤去するように要求したという。 米国も南シナ海情勢に関しては、次第に本気になって来ている。私は繰り返し中国が南シナ海に拘っているのは、東シナ海等に比べれば相対的に水深の深い南シナ海を内海化し、そこに潜ませた潜水艦からの水中発射の核ミサイルで、米国本土を脅かすことで、米国との核戦争になった場合、有効な第二撃を確保することによって、米国に対し対等に近い立場を確立し、世界の支配権を奪取することこそが、真の目的であると述べて来た。それを米国が許すだろうか? もちろん南シナ海を抑えれば西太平洋のシーレーンを抑えることもできる。これも“海を支配しているからこそ世界の支配者である”という意識が非常に強い米国が許すことではない。南シナ海に展開する米空母ロナルド・レーガン(米海軍提供) 中国の潜水艦発射核ミサイルが技術的に可能になるのは、2020年と2024年の間くらい。つまりトランプ政権が2期続くとしたら、2期目くらいになることは確かなようだ。 だが、それから中国の南シナ海進出に対応するのでは、米国は間に合うだろうか? それ以前に何とかしようとするのではないか? それが米国のINF全廃条約離脱の原因ではないか? そもそもINF全廃条約は、冷戦後期に当時のソ連がSS20という中距離核ミサイルを配備して、西ヨーロッパが危険に晒されたため、米国も西ヨーロッパにパーシング2という中距離核ミサイルを配備した。それはソ連本土に米国から発射されるICBMの数倍の速さで到達する。つまりソ連の報復攻撃の余地が激減する。そうして高まった緊張を背景に、ソ連も折れて来て、当時の米ソが、お互に中距離核ミサイルの全廃を誓ったのが、INF全廃条約だった。 それが米ソ冷戦終結の、端緒になったことは否定できない。しかし時代は変わった。米中が抱える「脆弱性」 National Interestが10月22日に配信した“Why America Leaving the INF Treaty is Chinas' New Nightmare”によれば、2008年にプーチン大統領は、この条約に中国が入っていないため、中国が中距離核を配備し始めたとして、この条約に違反する中距離核ミサイルを配備し始めた。 そのことは遅くとも2014年に、米国オバマ政権も確認している。にも関わらずオバマ政権は、例により世界のインテリ向けのポーズで、2013年に潜水艦発射核ミサイルを、INF全廃条約と無関係にも関わらず、大幅削減してしまった。確かに潜水艦発射核ミサイルは、射程距離の関係で地上発射INFに近い。そのため潜水艦発射核ミサイルを大量に持っていた米国は、既にINF全廃条約に縛られていなかったという意見もある。 しかし潜水艦発射核ミサイルは、命中精度等の問題で、地上発射のINFより劣る。その理由と、さらに敵の先制攻撃に対し、地上発射核ミサイルより安全なことから、潜水艦発射核ミサイルは、地上発射核ミサイルによる攻撃で相互に甚大な被害を被った後に、第二次攻撃を行うことが目的である。 そのため潜水艦発射核ミサイルは、先制攻撃の脅威で相手に戦争を起こさせない効果は、十分とは言えない。あくまで第二撃を確保することで、自衛的に(?)核の対等性を確立するのみである。また攻撃を行えば、位置を特定され敵国の海空軍に撃沈される。そのような“脆弱性”も、潜水艦発射核ミサイルにはある。 これは米中共に同じである。先制攻撃の脅威で相手に戦争を起こさせない効果が高いのは、安定した地上発射核ミサイルなのである。そこで米国は、INF全廃条約から離脱したのではないか?南シナ海での中国の人工島等を米国が攻撃したら、中国のICBMで米国の大都市等が攻撃される。中国の保有するICBMは公称で100発程であるが、1,000発以上保有しているという情報もある。 何れにしても米国の大都市が幾つか中国のICBMで破壊されて、数千万人の死者が出ただけで、米国は経済的に破綻する。それに対して中国は、米国の報復攻撃で1億人が死亡しても、過剰人口の整理になり望ましいという考え方もある。 また、いま米中経済は、サプライ・チェーンで密接に関係している。大規模な戦争を行えば、相互に被害が大きい。特にハイテク関係製品の組み立て等を中国大陸で行っている米国にとっては…。そこで軍事専門家の間では、“米中戦争は起こらない”というのが多数意見ではある。しかし今まで述べてきたように、南シナ海での緊張は明らかに高まってもいる。太平洋に展開する米第7艦隊の空母打撃群=2016年6月(米海軍提供) 例えばサプライ・チェーンの問題にしても、トランプ政権の関税政策のために、米国企業も中国からの撤退を検討し始めている。例えばFinancial Timesが12月3日に配信した“Trump's trade war:which of China's neighbours are set to profit?”では、南部中国アメリカ商工会が調査したところ、米国の中国からの輸入関税が高過ぎるため、219社の内70%が、生産拠点を中国外に移転させることを検討している。米国の関税政策も中国との戦争が可能な状況を作ろうとしているとも見られる。 逆に南シナ海を射程に入れる中国南部にも、中国は中距離ミサイルを、やはり500発以上、保有している。それも南シナ海周辺での局地戦の形ででも、米国に勝てる体制を作っていると考えられる。INF保有の「意味」 そこで米国がINFを保有する意味が出て来る。南シナ海を射程に入れる中距離ミサイルが配備された中国南部を狙うことが出来る場所に米国のINFが配備されれば、もし南シナ海の人工島等を米国が攻撃したりしたとしても、中国は報復核攻撃が難しい。そこにある中距離ミサイルが破壊されるだけではない。 そのような位置にある米国のINFは、中国の重要地帯にも届くのである! その到達時間は短く、中国が米国をICBMで脅かしたとしても、このINFの方が早く到達するため、米国を中国は核で脅かすことは難しくなる。前述のように潜水艦発射の核ミサイルは、報復攻撃には使えるものの、安定性等の点で十分ではない。また前述のように攻撃を行えば、位置を特定されて撃沈される。 INFが中国を射程内に入れて展開されれば、米国に対する中国の優位は成り立たなくなる。そこでボルトンNSC担当大統領補佐官はロシア側に、中国の中距離核戦力はロシアにも脅威となっていると、ロシアが米国と共に、中国の中距離核戦力の脅威封じ込めのため、軍備管理交渉に中国を加えるようロシア側に呼びかけている。それが上手く行かなければ、中国南部を射程に入れる地域への米国のINF配備という結果になる。具体的には台湾やインドの東岸沖の島等が有力な候補地だろう。 またNational Interestが10月22日に配信した前掲記事では、まず巡航ミサイルその後に弾道ミサイルを配備する方式で、北日本、グアム、南フィリピン、北オーストラリアも重要な候補地だという。これにより、いわゆる“第一列島線”の内側の海を、中国に自由にさせないことが出来ると同記事は主張している。(注:2019年2月、米国が日本を含む、これらの地域に、まず核を搭載しない中距離弾道ミサイルの配備を始めるという情報が、流れ始めた)このようなシステムが一部でも配備されたとしたら、それは南シナ海戦争――少なくとも人工島の破壊と、それに対抗する中国による米艦船への攻撃等が、近い可能性が低くない。中国も重要地帯への先制核攻撃の恐怖から、地上発射の核ミサイルは使えない。 あるいは人工島解体と中距離ミサイルの撤廃ないし配備中止を巡って、米国と中国が交渉に入るかも知れない。1980年代の米ソが、核兵器等の軍縮に入って行ったように…。あるいはキューバ危機の時のように…。偶発的に大規模な核戦争に発展しないと、今度は断言できないかもしれないが…。特に中国が潜水艦発射核ミサイルを完成させる2020年代以前に、何らかの意味での西太平洋地域へのINF配備が実現したら、それが要注意のタイミングだろう。 National Interestが10月14日に配信した“How to Goad China into a War in the South China Sea”によれば、2020年に米国は、今までにない大規模なリムパックを、南シナ海で行う予定である。それに米国は中国を参加させない方針である。そこで中国を敵に回すのが怖い東南アジア諸国の中には、そのリムパックに参加しない国も出て来ると思う。しかし“中国封じ込め”のために参加する国もあるに違いない。G20に出席するため来日した習近平国家主席=2019年6月、大阪空港(代表撮影) このタイミングで前述のような場所に米国のINFないし中距離弾道ミサイルが配備されるとしたら…。そして2020年の大統領選挙で、トランプ氏が劣勢に立たされたとしたら…。そして、その時に中東大戦が起きる状況でなかったとしたら…。その時が南シナ海戦争が、最も起こり易いタイミングだろう。われわれ日本人も、準備をして置かなければいけない。 例えば水中発射ミサイルを発射可能な潜水艦を保有しておくとか…。実は日本は、それを実現できる技術力はあるのである。更にNewsweekが11月15日に配信した“U.S.‘COULDLOSE' ITS NEXT WAR:REPORT SHOWS MILITARY WOULD‘STRUGGLE TO WIN' AGAINST RUSSIA AND CHINA”によれば、米国の軍事力は相対的に落ちて来ていて、少なくとも中露両国を相手にした“二正面作戦”に勝つ可能性は、極めて低いという。特にハイテク兵器分野での開発競争の遅れが深刻であるという。 その分野でも日本は、米国を助けられる力は、まだまだある。例えば日本の自動車会社の電気自動車のシステムは、敵のハイテク・システムを麻痺させる電磁波の発生装置としても、米国製のものより優れているという説もある。また前にも書いたように米国は、このような劣勢を挽回するため、宇宙軍を創設しようとしているが、これもロケットや衛星の誘導システムの一部では、日本が米国より良い技術を持っているという。米国宇宙軍創設にも日本は、可能な限り積極的に協力すべきだと思う。そして米国が宇宙軍を創設するタイム・リミットも、やはり2020年であることは要注意である。「中国中国!」と絶叫 更にFOXが2019年1月17日に配信した“Trump announces new missile defense plan with focus on sensors in space”によれば、トランプ大統領は国防省で新ミサイル防衛構想と言うべきものを発表。宇宙にセンサーを張り巡らして、敵のミサイルが発射される前に探知して迎撃するシステムを確立すると言う。これは同記事の中でも、これから実現のための研究を始める段階であり、費用や効果の点で疑問も多いと述べられている。 だが同時に、ロシアや中国が開発した極超音速ミサイルに対抗するには、必要であるとも書かれている。この記事によれば、トランプ氏は、イラン、北朝鮮、ロシア、中国といった具体名は言わなかった。しかし同席したシャナハン国防長官代行は、それらの国々の名前を上げた。彼は宇宙軍構想も、最初から任されていた。 ロイターが1月3日に配信した“For Shanahan, a very public debut in Trump's cabinet”によれば、シャナハンは2019年の年明けに、事実上の国防長官として国防省高官達に対して演説した時、“今後の米国は、アフガンやシリアではなく、中国に焦点を集中するべきだ”と「中国中国中国!」と絶叫した。 この新ミサイル防衛構想が2020年までに実用化されるとは思えないが、特に対中国関係のものが部分的にでも2020年までに何らかの目処が付くようであれば、それも要注意の信号だろう。何れにしてもシャナハンの“就任演説?”を見ても、ロシアと中国との二正面作戦を、米国が避けたがっていることは間違いない。そうなれば安倍総理のトランプとプーチン双方との信頼関係は、米国と中露の“二正面作戦”を回避し、日米露(そしてインドやオーストラリア等)が協力して中国を封じ込める上で、非常に意義あるものになる可能性がある。 2018年12月初旬のG20で、トランプ大統領は、プーチン大統領との会談をキャンセルした。しかし安倍総理は、両方と会談している。更に中国を刺激しないため米国との首脳会談に慎重だったインドとの間に立ち日米印首脳会談を実現したのも安倍総理である。トランプ大統領がプーチン大統領との会談をキャンセルしたのは、表面上はロシアがウクライナの艦船を拿捕した事件である。 だが例えばFOXが11月29日に配信した“Ian Bremmer: I'd Be‘Very Surprised' If Trump and Putin Don't Meet Informally at G20”によれば、実際には国内の“ロシア疑惑”が進展しているためではないかと考えられている。7月に米露会談が延期されたのと同じで明らかに、理性主義者によるトランプ氏の“脱理性主義的外交”に対する妨害である。何れにしても安倍総理とトランプ、プーチン両氏との関係で、日米露首脳会談を実現させ、ウクライナ問題等にも一定の解決を付けたとしたら、それは日米露による中国包囲網に繋がる。 そもそもロシアがINF全廃条約を破ったのは、中国の脅威に晒されたからだ。Newsweek前掲記事でも最近の中露接近に強い懸念が表明されている。そこに楔を打ち込むことは不可能ではない。そのNewsweek前掲記事でも、北朝鮮の脅威にも言及されているが、日本人が気にかけている北朝鮮情勢は、以上のようなプロセスの一部として処理されるのではないかと思う。 トランプ氏は2019年3月に入って2020年度軍事予算増額の方向になっている。彼は本気なのだ。何れにしても、われわれ日本人は、南シナ海戦争に備えて準備をして置かなければいけないのではないか? 2020年までに…。南シナ海を航行中の護衛艦「いずも」=2017年6月、南シナ海(自衛隊ヘリから、松本健吾撮影)   そして、それは中東戦争以上に、日本を巻き込む核戦争つまり“世界の終末”になる可能性が高い。INF等の使用により…。やはり、それへの覚悟を決めておくことこそ、最重要なことかもしれない。(起筆:2018年11月19日) よしかわ・けいいち 政策コンサルティング事務所「グローバル・イッシューズ総合研究所」代表。2016年まで米国ワシントンDCにも拠点を持ち、東日本大震災を契機に一般社団法人日本安全保障・危機管理学会防災(JSSC)ワシントン事務所長として、日本に米国と同様の危機管理専門省庁の立ち上げを目指す政策提言活動に取り組む。2017年以降は日本国内をベースに、テロ対策や米国政治に関する政策提言活動を続ける。著書に『911から311へ—日本版国土安全保障省設立の提言』『東京オリンピック・パラリンピックは、テロ対策のレガシーになるか?』(近代消防新書)など多数。

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    「弱肉強食」新冷戦で喰われるニッポン

    東西冷戦終結から30年。今や米国と中国の対立が激化し、「米中新冷戦」時代に突入したと言われる。米中の覇権争いと、その裏でうごめくロシア。国際秩序は崩壊状態といっても過言ではなく、国家間のパワーバランスの変化も目まぐるしい。この混迷を読み解けば、日本が乗り越えるべき試練は自ずと見えてくるのではないか。

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    「結果的に得する」中国を叩きのめしたいのはトランプだけじゃない

    こう側にあるものは、もちろん「壊し屋」的なトランプ氏の手法だろう。ただ、国際関係を見ていくと、やはり中国の台頭がアメリカの変質を促進しているのは言うまでもない。 つまり、G20という多国間の国際秩序が揺らいだ背景には、米中対立の中で、「やり方を変えないといけない」という米国側の焦りがあったといっても言い過ぎではないだろう。 過去の米国の対中政策は「ヘッジ(強硬論)」と「エンゲージメント(関与論)」のいずれかを使い分けるというバランスが基本だった。特に、1989年の天安門事件以降は、中国に対する米国の姿勢は非常に厳しかった。 だが、貿易パートナーとしての中国の存在が大きくなってくる中、基本的には自由貿易の枠組みに入れて「関与」し続ければ、中国の国家資本主義的な体制が減るという見方が米国の中で大きくなっていった。その象徴的なものが2000年に立法化された「対中恒久正常通商関係(PNTR)」法であり、中国に恒常的に最恵国待遇を与えることになった。その結果として、中国の世界貿易機関(WTO)加盟が認められることになる。2019年6月28日、G20大阪サミットで首脳の特別行事を終え、トランプ米大統領(左)と握手する安倍首相。右は中国の習近平国家主席 ただ、この見方が「間違い」であるということが、トランプ政権発足前後から米国内ではコンセンサスになっている。中国はWTOの仕組みの中で、中国側が逆に他の国を「自由でない」と主張ができるようになってしまったためである。 中国の場合、知的財産権も守らない。米国の貿易赤字は増えていく。「中国だけが結果的に得をする」状況に対するいら立ちが極めて大きくなっているわけだ。緩まない「矛先」 2018年10月4日、ペンス副大統領がハドソン研究所で行った演説は、中国に対する米国の生ぬるい態度を自己批判するものだった。「米国は、中国に自国の市場へのオープンなアクセスを与え、WTOに招いた。これまでの政権は中国があらゆる形の自由を尊重するようになると期待し、こうした選択をしたが(中略)その期待は裏切られた」とペンス氏は指摘した。 トランプ氏は2016年大統領選で「貿易赤字は是正せねばならない。対中国はその筆頭」「政権発足初日に中国を為替操作国と認定する」と公約した。「貿易赤字がその国にとって有害である」という見方は、学術的には支持されていない。だが、トランプ氏の支持層には「グローバル化は中国に米国の雇用が流れた」というわかりやすいメッセージに支持者は歓迎した。 トランプ氏は「貿易赤字こそが問題」と提唱する経済学者のピーター・ナバロ氏を選挙戦からのアドバイザーとしてだけでなく、政権発足後は貿易戦略のブレーンとして登用した。為替操作国の方はまだ行われていないが、貿易赤字解消の政策は、実際にメキシコ、カナダとの北米自由貿易協定(NAFTA)見直し、米韓自由貿易協定(FTA)の見直しなどとともに、中国に厳しく迫っている。 対中強硬の動きが本格的に明らかになったのは第1回米朝首脳会談の直後の2018年6月15日である。自動車や情報技術製品など、中国からの輸入品計1102品目に対し、500億ドル規模の追加関税措置を行うと発表した。ここから米国側の「どんどん中国を締め上げていく」という動きが明確化した。 トランプ政権は2018年中に各種中国製品に対して3度の制裁関税を課している。先述の500億ドルのうち、7月に自動車など340億ドル(25%)分、8月に半導体など160億ドル(25%)分を課し、9月には日用品など2000億ドル(10%。2019年5月10日に25%)分に適用した結果、制裁関税は計2500億ドルに達している。 これに対して、中国もそれぞれの制裁のタイミングに合わせて、大豆など340億ドル(7月、25%)、医療器具など160億ドル(8月、25%)、家電など600億ドル(9月、5から10%。2019年6月1日に最大25%)の報復関税を課している。米国も2019年5月に第4弾として、これまでに対象外だった3250億ドルに25%関税をちらつかせた。 結局、冒頭で述べたG20に合わせて行われた米中首脳会談で、関税の先延ばしを決めている。ただし、あくまでも延ばしただけであって、まだ中国への矛先は全く緩んでいない。米ハドソン研究所で演説するペンス副大統領=2018年10月4日、ワシントン(AP=共同) 中国に対する圧力は貿易だけではない。トランプ政権の対中政策で特筆されるのが、貿易戦争と安全保障政策の密接な関連である。トランプ氏やナバロ氏が重視していた対中貿易問題に対して、官僚や利益団体、シンクタンク研究員など、政権周辺の安全保障に関心のあるグループが乗っかっていった。 トランプ政権は2017年末に国家安全保障戦略(National Security Strategy)、2018年1月に国家防衛戦略(National Defense Strategy)、2019年6月にはインド太平洋戦略(Indo-Pacific Strategy)を掲げてきた。いずれも主なターゲットは中露だが、その中でも中国を強く意識している。根底にある「不信感」 その根底にあるのが、中国の国家資本主義に対する不信感である。技術なり、あるいは盗んだ情報なりを吸い上げて、国や軍に渡してしまう可能性を危惧している。 「いかなる組織及び個人も、国の情報活動に協力する義務を有する」という中国の「国家情報法」(2017年6月)の第7条や、中国のハイテク発展ロードマップである「中国製造2025」などが、トランプ政権の危惧をより大きくさせている。それもあって、第5世代移動通信システム(5G)を基盤とするハイテク武器への影響が問題となり、最大手の華為技術(ファーウェイ)に代表される中国通信系企業の製品の利用に対して、大きな制限をかけようという動きがあるのは言うまでもない。 トランプ政権の動きも急だ。2019年度国防権限法(2018年8月)では米政府の情報システムの調達企業からファーウェイと中興通訊(ZTE)、海能達通信(ハイテラ・コミュニケーションズ)、杭州海康威視数字技術(ハイクビジョン)、浙江大華技術(ダーファ・テクノロジー)という中国企業5社を排除した。 その他、大統領令13873(サイバー空間などで国家安全保障にリスクがあるとする企業の通信機器をアメリカ国内の企業が使うことを禁止)、商務省のエンティティリスト(米連邦政府の許可を得ることなく、外国企業が米企業から部品などを購入することを禁止)などでの規制強化を進めている。 G20という多国間の国際秩序が、中国という「異分子」をうまく飼いならせなかった現実にあって、多国間秩序を引っ張ってきた米国そのものも大きく変貌しつつある。 ただ、2020年の大統領選に向けて、トランプ氏にとっての最大の懸念は景気後退である。トランプ氏としても支持者への影響を考えながら、貿易の面では少しずつ取引や妥協をしていく可能性もないわけではない。 貿易問題では、ある程度合意できるかもれない。しかし、安全保障上の脅威としての中国の問題は、既にトランプ政権だけでなく民主党を含む、ワシントンのコンセンサスとして広く認識されるようになっている。 米国の対中世論全体を見ても、中国に対する一般の見方も厳しくなっているほか、安保では民主党側も相乗りしている。これまでには机上の空論とみられていた中国を米企業のサプライチェーン(部品調達網)から外す「デカップリング」論も正面から議論されるようになっている。中国・北京にあるファーウェイのショールーム=2019年5月20日(UPI=共同) 安保の面での「中国叩き」はだいぶ続くとみられる。米国とソ連の「冷戦」は代理戦争を含めて、実際にかなりの軍事衝突があった。今回の米中の場合は、当面の軍事衝突こそないものの、軍拡が続く中国をけん制しながら静かに展開する「冷たい戦争」が長く続くものとみられる。 形骸化するG20の向こう側には、米中の激しい2国間対立の世界が広がっている。■ 米中貿易戦争「日本が得する」逆転シナリオが一つだけある■ 「安保は不平等」トランプの持論蒸し返しで鮮明になる日米の主戦場■ 習近平はなぜ金正恩に6年間の「借り」を返す気になったのか

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    宮崎正弘×吉川圭一対談 米国が描く中国崩壊シナリオはこれしかない

    正弘(評論家)吉川圭一(グローバル・イッシューズ総合研究所代表) 宮崎 日本のメディアは、アメリカと中国の貿易摩擦を「米中貿易戦争」と報じています。もちろん貿易戦争には間違いないですが、そもそも米中は基本的に長い間衝突の構造にあります。今は単に関税のかけ合いのレベルなので、これはいずれ終わります。お互いにものすごく傷ついていますからね。むしろ決定的なのは、関税をかけたことによって中国の経済構造がガラッと変わったことでしょう。中国で生産できないものはすべてベトナム、カンボジアに移しています。つまり、中国の「産業の空洞化」をもたらす構造変化が起きたということです。これが一番大きい問題です。 二番目に大きいのは、アメリカが為替操作国として認定すると脅しをかけていますが、逆に今、人民元はものすごく弱いということです。弱い通貨を強くするために、一番稼いできたドルをすべて人民元の買い支えに使っているわけです。こうしたことで、中国の経済力が弱まっています。これはおそらくトランプではなく財務長官あたりのアイデアだと思いますが。 そして米中対立というのは、貿易戦争の関税かけ合いレベルから、第5世代移動通信システム(5G)のテクノロジー覇権争奪戦に完全に移っているわけです。で、この流れから、私はまもなく金融戦争が始まるだろうという見立てをしています。 吉川 なるほど。先の20カ国・地域(G20)首脳会議(サミット)でトランプがアメリカのマイクロチップを中国通信機器大手のファーウェイに売っていいよ、中国人のハイテク技術者へのビザ優遇もしますよということは言いましたが、だからといってファーウェイ製品をアメリカが買うわけではないのです。国内の規制を緩めるつもりはないでしょう。 中国人技術者のビザの件も、アメリカのメディアをこまめに見ていると、アメリカのどのハイテク企業も、理系の大学も、中国人の専門家にビザを申請するときには米連邦捜査局(FBI)がうるさく調べにくるので、できるだけもう取りたくない、という実際の現場の温度感が分かります。 宮崎先生がおっしゃっているようなアイデアで中国を徐々に弱めつつ、5Gの問題ではアメリカが中国に先んじるよういろいろな手を打っていくのではないでしょうか。米中新冷戦について対談する宮崎正弘氏(右)と吉川圭一氏=2019年7月、東京都千代田区(三尾郁恵撮影) 宮崎 中国はすでに相当先んじていますからね。いろんな側面から考えられますが、まずは特許の問題でしょう。4Gのときはことごくアメリカが特許を押さえていて、ファーウェイでさえOS(基本ソフト)は「アンドロイド」です。それをひっくり返すのはファーウェイもできない。 もう一つできないことは、半導体を中国が作ること。今の時点で半導体を20%作ったなんて豪語していますが、それはどの程度の半導体か分からない。さらにアメリカは「半導体製造設備は売らない」と言っている。これが決定的で、中国は半導体を作れないということなのです。 アメリカがここまで焦っているのは、将来のマーケットの取り合い程度ではないということ。例えば、米国の最新鋭ステルス戦闘機「F35」の部品は中国製が相当入ってきていましたが、それによってF35の性能が落ちる、ということが起こっているわけです。逆に中国はミサイルの性能が上がっています。コンピューターの精度やドローン技術、航空産業、宇宙産業の技術、すべてアメリカから盗んだものによって成り立っている。アメリカはうかうかしていたら、圧倒的な軍事的優位という立場が脅かされると、アメリカ人の心底に恐怖感がある。だからあんな強い態度で臨んでいるわけで、ちょっとやそっとではこの対立は終わりません。中国が白旗を上げるか、共産党がつぶれるまで続くか、そこまでは分かりませんが。もし、トランプが次の選挙で敗れることになれば、また別の展開になるかもしれません。トランプは再選する! 吉川 私はトランプが苦戦しそうなのは、ハリスという民主党上院議員ぐらいだと思っています。ハリスは黒人で女性ですが、それ以上にトランプと同じように2016年までワシントンにいなかった。冷戦終結以来のワシントン政治は、ローテーションで同じ顔ぶれが政治を行ってきました。政治家も、官僚も。彼らの理性一辺倒でマニュアルにはまった政治では、もうアメリカの国家も国民生活も保てなくなっています。そこで今までワシントンにいたことのないトランプが出てきたと、私は考えています。今年3月に出版した『救世主トランプ-“世界の終末”は起こるか?』(近代消防社)でも、そのように書かせて頂きました。 それを考えるとハリスならトランプと良い勝負ができそうに思いますが、2000年や2016年のような状況になっても、地方の保守的な票の力でトランプが勝つでしょう。そもそもハリスは新人議員で思想的にも穏健派とは言えない。民主党の候補者になるのも簡単ではないと思います。 ハリス以外は左翼メディアに応援されていてもアメリカ国民の多数からも嫌われている極左か、あるいは2016年以前のワシントン政治にどっぷり浸かってきた、それも親中派的な候補が多い。今アメリカでは左翼メディアまでが反中です。それを考えるとトランプと似たような3人目の独立候補が出て票が割れない限り、トランプは再選されると私は今の段階では思っています。 その反中国テクノロジー競争の話に戻すと、5Gでアメリカが中国を上回れば、サイバー攻撃で中国に対抗できるという算段もあるでしょう。 今年の春ぐらいにワシントンでずいぶん評判になった、ブルッキングス研究所のオハンロン氏の著書の中で、「もし尖閣が中国に占領されたらどうするか」ということが書かれていました。日本の海上自衛隊と米海軍で取り囲んで、あとは中国に経済制裁をした上で、サイバー攻撃みたいな形でやんわりと出て行ってもらうというのが主旨です。これがアメリカでずいぶん評判になったのですが、裏を返せばアメリカとしては日本のために本気の戦争はやりたくない、自国の若者の血を日本のために流したくない、という空気になっているということですね。 イラン攻撃も、トランプは実際の攻撃を思いとどまった後、サイバー攻撃を考えたとされていますが、そのサイバー攻撃をイランは撃退したと主張しています。イランも北朝鮮もロシアの技術が入っており、米中だけではなくロシアも入って、イラン、北朝鮮、ベネズエラが駒として動いています。北朝鮮とイランの間には、おそらくロシアの仲介により、ミサイルや核の協力関係があるとされています。アメリカの裏庭のベネズエラに、イランの支援する国際テロ組織の支部ができて、ロシアも軍事顧問団的なものを送っているようです。 非常に複雑な立体地図の中で、トランプとプーチンと習近平がどう動くのか、それに対して日本も先読みして安倍晋三首相がどう動くか。それによって日本がこれからの生き残れるのか決まってくると思います。G20首脳会議のデジタル経済に関する特別イベントであいさつする安倍晋三首相(中央)。左はトランプ米大統領、右は中国の習近平国家主席=2019年6月、大阪市住之江区(代表撮影) 宮崎 もう一つ、昨年の10月4日に、ペンス米副大統領が演説で「われわれは今までハッカー戦争で受け身だったけれども、これからは攻撃型に変える」と言っています。それと宇宙軍を作ることも明言しています。 これがどういうことかと言えば、例えば5Gで中国が先んじた場合、通信速度は現状の100倍ぐらいになる。今0・001秒差ぐらいなのが、0・00001秒ぐらいの差で中国のハッカーが米国防総省(ペンタゴン)の中枢に入り込んで命令系統をズタズタにしたら、アメリカは戦えない。だから宇宙軍を作って、アメリカが先に中国の指揮系統を叩く、そういう戦争になっていくと思いますね。ソ連型と異なる「中国崩壊」 吉川 そういうことも今までのワシントン政治では既成勢力の予算獲得競争などで上手くいっていなかったのが、トランプが大統領になってから軌道に乗り始めた。そのようなサイバー攻撃や宇宙軍がしっかりしていれば、超音速で飛ぶミサイルも、事前に宇宙から索敵しておいて撃墜することなどもしやすくなります。そういう新スターウォーズ構想のようなものをトランプは中間選挙の後に明らかにしました。 最初のスターウォーズ構想は、レーガン大統領が言い出したものです。まったく同じことは当時のソ連には技術的にできなかったから、ソ連は降参して冷戦は終結したわけですが、それと同じような形にもっていこうとしているのではないかと考えています。 宮崎 ソ連の場合、経済制裁を受けていましたが、ソ連には全く輸出するものがなかった。原油とウォッカとマトリョシカくらいじゃないでしょうか。でも、中国は山のように輸出するものがあって、外貨が入ってくる。だから、経済的に中国を干すというのはなかなか難しい。つまり、ソビエト型の崩壊というシナリオは考えにくいでしょう。 吉川 そうでしょうね。ただ国際政治の理論で、「軍事競争というものは量的な競争であり、量的な競争をやっていれば接戦になるので熱い戦争になるけれども、質的な競争は一方が急激に伸びて圧倒的に勝つ可能性があるので、もう片一方が何らかの形で降りざるを得なくなる」という考え方もあります。米ソ冷戦はそういう形になったわけですが、今回の米中の5Gやサイバーというのも、質的競争で決着がついてくれればいいなと思います。 宮崎 先ほど米中対立は、次に金融戦争になると言いましたが、アメリカにはもう一つ癪(しゃく)に障っていることがあるからです。それは「ドル体制」という戦後のブレトン・ウッズ体制を中国がひっくり返そうとしていることです。 中国が進めているのは、まず人民元の勢力圏を作ること。アジアインフラ投資銀行(AIIB)なる奇怪な銀行をつくって、それから国際通貨基金(IMF)に人民元が入ってきた。そして通貨スワップ、もしくは人民元決裁権を方々に広げています。例えばタイでは食堂に入っても人民元が使えるぐらいです。ロシアとの貿易決済も一部人民元にしています。 これをどうやってアメリカが食い止めるかなのです。つまり、通貨覇権を絶対に死守するということですが、これから使うであろう手というのは、中国の外貨を払底させるというのが一番でしょう。そうすると人民元という価値がぐっと下がりますから。二番目に実行するのは、中国の銀行の信用力を崩壊させることです。こういうわれわれには全く見えない手を打っているのだろうと思います。完全に機密になっているので、今は想像でしか言えませんが。 ただ、こうした状況を見ていると、中国は自壊が始まっているようです。何しろ、中国の負債総額が日本円で6千兆円ぐらい、一説によれば9900兆円という見方もあります。ただ、中国の国内総生産(GDP)は1千兆円ぐらいあるでしょう。このGDPの飛躍をどこで止めるかですが、そもそも大半が不動産投資です。だから簡単で、金融を閉めたら不動産投資にいかない、いかないばかりかこれまで不動産のローンを組んだ人たちは相当哀れな結末になるのではないかと思います。要するに、アメリカが金融面における攻撃を始める前に、中国が自滅していくのではないでしょうか。すでに包商銀行が危うくなって、中国政府が救済しました。徐々にアメリカで起きたサブプライムによる破綻で起きたリーマン・ショックと似た状況になっている。中国政府もまだ小さな銀行は助けますが、次に大手がひっくり返ったときは危ないですよ。評論家の宮崎正弘氏=2019年7月、東京都千代田区(三尾郁恵撮影) 吉川 アメリカの新聞を見ているだけでも、25%の関税のおかげで輸出ができなくなって困った中小企業を助けるために、そういう中国の大手銀行が積極的に貸出するように中国政府が命令して貸し出した。しかし、お金をもらった中小企業は何をやっているかというと、どうせ新しい工場を建てても輸出はできないから、不動産投資をやっている。どんどん中国経済の実態がなくなってきているわけで、関税政策が中国の金融崩壊を速めているのは確かですね。親中派も多い自民党 宮崎 ではこの状況に日本はどうすればいいのかと言っても、74年間憲法を変えられない国が主体的にどうしようと言っても無駄な気がしますし、基本的なことを言うしかない。自分が正しく判断したことを、主権を行使してやりなさい、という。これはどの国でも基本でしょう。リーマン・ショックのときには、三菱UFJ銀行が銀行を買わされて、野村証券が、中東かどこかのリーマンブラザーズを強制的に買わされたじゃないですか。ということは、中国が悲鳴を上げて日本に助けを求めたときに、お人好しな自民党政権はやっぱり助けると思います。 吉川 そうですね。自民党は親中派も多いですからね。 宮崎 そうそう、そこが危ない。特に伊藤忠商事はまだ、中国に投資していますから。中国と心中するつもりなのでしょうか。 もう一つ留意すべきは、大々的に生産しているトヨタ、日産、ホンダが結局どうするかでしょう。最悪のシナリオはかつての満洲と同じように財産を全部おいて逃げ帰ってくることですね。中間的なシナリオとしては、トランプが仕掛けた今の貿易規制がますます強化されるでしょうから、日本企業のハイテク部門やケミカル関係など、すべて影響を受けることになります。 吉川 すでに昨年末の段階で、南部中国アメリカ商工会の調査によると、会員企業の約7割が中国からの撤退の準備をしているそうです。別の統計ですが、オバマ政権末期には456億ドルもの対中投資を米国企業はしていたのに、2018年は20億ドル。サプライチェーンは切断され始めています。そうなれば、経済・金融・技術面での覇権争いで、アメリカが優位になれるだけではありません。軍事的な「熱い戦争」をしてもアメリカは困らなくなる。 私は南シナ海問題がこれからもっと深刻になってくると思いますね。南シナ海はほかに比べて水深が深いので、水中発射でアメリカまで届く核ミサイルを装備した潜水艦を沈めておけます。ですから、アメリカは南シナ海で行われる中国の軍事訓練に非常にナーバスになっていて、人工島やミサイル発射台を撤去してほしいと強硬に言っていますし、南シナ海では部分的に「熱い戦争」になる可能性もあるのではないでしょうか。 第一列島線である沖縄、台湾、フィリピンあたりに、核は積まないにしても中距離弾道ミサイルを置いておけば中国をつぶせるという戦略が、ワシントンのシンクタンクからも正式に出ています。そのために米国は中距離核戦力全廃条約(INF)から撤退しました。結局80年代の欧州と同じで、そういうものを一度配置して、中国側が南シナ海から撤退するならアメリカもそれを撤去し、かつ関税も下げるというような取り引きが、トランプと習近平の間で来年の選挙後ぐらいにあるのではないかと予想しています。 宮崎 G20前後に言っていたトランプの日米安保条約破棄というのは冗談ではなく、かなり本気の部分があると言えます。でも、それは大いに歓迎すべきことではないかと思います。わが国が主権国家であるならば、自分で防衛するのは当然ですからね。それをトランプは早くやれと言っているわけです。 吉川 米ソ冷戦が終結したときにアメリカが一方的に日本を守らなければいけない理由がなくなったので、日米安保の見直し、日本の憲法問題、核武装など何から何まで考えなければならなくなることを、冷戦終結当時に何人かの先生と話した記憶があります。 ところが、そこへいわゆる「瓶の蓋(ふた)」論が出てきた。「もし米軍が撤退したら、日本はすでに相当な能力を持つ軍事力を、さらに強化するだろう。誰も日本の再軍備を望んでいない。だから、われわれ(米軍)は(軍国主義化を防ぐ)瓶の蓋なのだ」という考え方です。そしてクリントン政権というものができてしまった。彼は非常に理性的な学歴エリートで、その彼と体質を同じくするワシントンの役人も、日本が軍事大国になるのは脅威ではないかという考え方だったわけです。その考え方をする官僚らが25年もワシントン政治を仕切ってしまった。本来、私の認識では25年前に出るべき「日米安保の見直し」論が、クリントン政権以来、延び延びになっていたのが、今になって出てきたのではないかと思います。吉川圭一氏=2019年7月、東京都千代田区(三尾郁恵撮影) 宮崎 その前に、1980年に日米安保改定20周年のシンポジウムを開催しており、これはフォード前大統領と岸信介元首相が共催したものです。そのときにアメリカから「もう改定して20年も経っているのだから、中身が不均衡なものをより対等なものに改定する必要がある」と提案がありました。日本の新聞も報道はしましたが、それで終わってしまう。誰も重視していなかった。日米安保の改定というのは本来なら日本が言い出すべきですが、そのままずるずると時間だけが過ぎていったのが事実です。 だからトランプは「非常にアメリカだけ負担が大きい、それからアメリカだけが犠牲になる」と認識している。戦争でもし闘っても、日本はそれをソニーのテレビで見ているだけだと、不満がマグマのように噴出しているのが分かります。障害は日本の現行憲法 吉川 トランプは大統領選挙、特に予備選挙の最中からそういうことを言っていました。今回トランプから日米安保の見直し論が出てきたのは、イランのことがあるからだと思います。 イランがアメリカの無人機を攻撃したので、それに対する報復攻撃をやろうとしたが、直前で思いとどまった。そのときに、日本は消費する石油の6~7割をペルシャ湾から買っているにもかかわらず、日本がペルシャ湾の防衛をやらないのはおかしいのではないかとツイッターでつぶやいて、G20後の記者会見でもそのことは言っていました。こういう一連の流れからすると、トランプは本気なのではないかと私は思いますね。 宮崎 本気であることが分かる一方で、トランプは日本に関する勉強をほとんどしてないから、理解度は低いですね。北朝鮮危機のときも、日本に協力しろ、と言ったら日米安保条約、日米地位協定、それから日本の憲法があってできないということを初めて知ったようで、本当にびっくりしたという話もあった。日本は戦争に巻き込まれるようなものではなく、後方支援や終わった後の地雷処理とか、そういう協力しかできないことを今はだんだん分かってきたのではないでしょうか。 だから次にその不満をどこにぶつけるかというと、結局日本の障害になっている憲法だと。だから、憲法改正を迫るのは内政干渉になるけれども、形を変えて言ってくるのではないかと思いますね。 吉川 「在日米軍基地駐留経費の日本側負担を何倍かに値上げしろ!」などですね。それくらい言われたらさすがの日本人も、そんなお金を払うなら憲法を改正して強力な自前の軍隊を持った方がよいと目覚めるかもしれません。米国製の兵器と今まで引き取ってきた米国債を交換してもよい。その代わりに、むしろ在日米軍基地駐留経費を今までは7割負担していたのを5割にしてくれと交渉する。最初から5割と言えば6割にされてしまうので、3割と言っておいて5割で手を打つ。それくらいのことを日本がしてもよいと思います。 そうなれば、在日米軍基地の見直し問題も出てきます。マティス国防長官が退任後、しばらく国防省のトップが不在でしたが、今年6月にボーイング社の理系重役だったシャナハン国防長官代行が国防長官への指名を断ったのです。彼はボルトン大統領補佐官に影響されてイランとの早期開戦論者だった部分があるので、イランとの流血の大惨事を少なくとも来年の選挙まではしたくないというトランプの意向が、もしかしたら少しあったのかもしれない。そしてポンペオ国務長官の陸軍士官学校時代からの友人で、マティスと同様に元制服軍人だからこそ部下を戦死させるようなことは避けたいエスパーが国防長官に就任しました。 ただ、本当に日米安保を見直すということになった場合、「この基地とこの基地は日本の領土上になくてよい」などとコンピューターで計算して交渉をするなら、シャナハンが最適だったと思います。エスパーのような制服軍人はどちらかというと、日本の軍事基地は守りたい方が多いのです。 日米安保を大きく見直す、日本側も憲法を大きく見直さざるを得ないという話が出てくるとしたら、エスパーから民間出身の人に再び国防長官が代わったときではないか、と今の段階では思っています。米ホワイトハウスで、エスパー国防長官(左)を見やるトランプ大統領=2019年7月(AP=共同) 宮崎 いずれにしても、すべてまた劇的に変わり始めるのは選挙の後でしょう。その前に中国の自滅が金融面で始まると思いますがね。 吉川 それと中国国内の知的財産権保護と産業補助金制度撤廃という米国の主張が関税などの圧力で実現するか?そうすれば5Gでもアメリカが中国に巻き返しできるかもしれない。 これは、われわれ日本人には既視感があります。80年代に日本がアメリカにされたこととよく似ています。あのときは、そういう日本国内の構造改革そしてドル安誘導や国際決済銀行の規制がバブル崩壊へと繋がりました。そういう意味でも宮崎先生の考えは間違っていないと思います。 みやざき・まさひろ 昭和21年、金沢市生まれ。早稲田大中退。「日本学生新聞」編集長、雑誌『浪曼』企画室長を経て、貿易会社を経営。58年『もうひとつの資源戦争』(講談社)で論壇へ。著書に『拉致』(徳間文庫)『中国大分裂』(文藝春秋)『出身地で分かる中国人』(PHP新書)『中国権力闘争 共産党三大派閥のいま』(文芸社)など多数。 よしかわ・けいいち 政策コンサルティング事務所「グローバル・イッシューズ総合研究所」代表。2016年まで米国ワシントンDCにも拠点を持ち、 東日本大震災を契機に一般社団法人日本安全保障・危機管理学会防災(JSSC)ワシントン事務所長として、日本に米国と同様の危機管理専門省庁の立ち上げを目指す政策提言活動に取り組む。2017年以降は日本国内をベースに、テロ対策や米国政治に関する政策提言活動を続ける。著書に『911から311へ—日本版国土安全保障省設立の提言』『東京オリンピック・パラリンピックは、テロ対策のレガシーになるか?』(近代消防新書)など多数。■「米国はもう崖っぷち」5G戦争、ファーウェイ排除のウラ側■「宇宙軍創設」トランプの真意は中国への宣戦布告に他ならない■日本の円圏構想をパクった中国の「一帯一路」はどうせ失敗する

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    新冷戦から生まれた中露印の新勢力「3G」から恐怖は始まる

    と目論んでいるように私には思える。 先の友人の例え話には続きがあり、悪魔を追って左折したロシア人を、中国をはじめとしてトルコ、イラン、そしてインド、北朝鮮の各指導者が追随するのだ。私は、まるでロシアが先導する「悪魔の館」に彼らが結集し、暗闇のなかでコソコソと悪巧みするような不穏な気配を感じる。露モスクワで会談後、合意文書の署名式に出席したウラジーミル・プーチン露大統領(右)と中国の習近平国家主席=2019年6月5日(AP=共同) 2019年7月23日、衝撃的なニュースが報じられた。ロシアと中国の爆撃機が約11時間にわたって編隊を組み、日本海と東シナ海の上空で初めての共同警戒監視活動を展開したと言うのだ。極東アジアでの中露による軍事的な存在感を強烈にアピールするもので、日米軍事協力体制の最前線に中露の軍事的脅威が迫っているに等しい。中露訓練に北朝鮮が参加の意思? 実は両国の軍事協力はかつて、大規模に実施されたことがある。2018年9月11日から1週間、ロシア極東やシベリアで繰り広げられた軍事演習「ボストーク(東方)2018」に、中国軍とモンゴル軍が参加していた。その規模は1981年以降、最大規模だったと言われている。 そもそも中露の軍事協力が本格化したのは、2017年6月7日のことだ。カザフスタンで両国の国防相が会談し、ロシアのショイグ国防相は中国の常万全国防相(当時)に「2020年までの防衛軍事協力」を約束した。両国軍による軍事演習を初めて実施し、軍事機密の共有、さらには軍事ドクトリンの整合性を盛り込んだ。 中露の共同訓練が確認された翌々日の7月25日、北朝鮮が動いた。G20の閉幕直後にトランプ大統領と文在寅大統領とそろって首脳会談した金正恩委員長だったのに、北朝鮮はロシア製の「イスカンデル」にきわめて似た弾道ミサイルを2発打ち上げた。おそらく、シリアでロシア軍が使用しているミサイルが転用されたのだろう。 北朝鮮がミサイルを発射したのは、中露による共同訓練に参加する意思を示したのではないだろうか。中露と北朝鮮が警戒しているのは、8月に予定されている米韓合同軍事演習であり、韓国大統領府は「計画通りに実施される」と表明している。今年の夏は「中露+北朝鮮」対「米韓」の対立が激化する危険性が高まっている。まさに「新冷戦」の始まりだ。 プーチン政権は、中露関係の強化だけでは飽き足らないようだ。反米同盟の拡大を画策し、インドに触手を伸ばしている。2018年12月以降、アメリカはインドの市場開放が不十分だと非難し、関税優遇措置を停止すると宣言。アメリカへの不信感を募らせるモディ首相は、ロシアに急接近している。 インドは、ロシア製の最新型地対空ミサイルシステムのS400を購入する契約を結んだ。総額は50億ドルに達し、インドとアメリカの関係にきしみが出ている。トランプ政権の発足以降、両国は中国を牽制するための信頼関係を醸成してきたが、一気に亀裂が走っている。 ロシアの思惑は、どこにあるのだろうか。2014年以降に拡大した欧米諸国の経済制裁でロシア経済は衰退したために、東方外交に舵を切り、中国との関係改善に乗り出した。しかし、中国の経済成長も超高齢化社会を迎えて、将来は先細りになると予想されている。経済統計によれば、2024年にはインドは中国を抜いて世界一の人口を擁し、2030年にはインド経済は飛躍的に台頭する。プーチン氏はいつまでも中国に依存すれば、共倒れになると危惧している。インドとアメリカの摩擦につけこんで、将来を見据えてインドを取り込む戦略にプーチン氏は打って出た。 プーチン氏は、インドと中国が放つアメリカへの不満に勢いづいて、こう息巻いた。 「ロシア、インド、中国の3カ国の枠組みは保護主義や単独行動主義、不法な制裁を否定する。3カ国の協力関係は著しく発展しており、安全保障と財政の各分野での協議が発展している」左からインドのモディ首相、ロシアのプーチン大統領、中国の習近平国家主席 反米を軸にまさに「3G(グル)」の巨大な勢力圏が誕生しようとしている。3カ国とも核保有国であり、日本海から西太平洋、東シナ海、インド洋に及ぶ軍事的な影響力は絶大である。3カ国の総人口が世界で占める割合は38%、世界の陸面積の20%に達する。「日本は祈る」は通用せず プーチン氏は今年6月に大阪で開催されたG20の直前、フィナンシャル・タイムズのインタビューで、欧米諸国を厳しく批判した。 「現代の自由主義といわれる思想は結果的に、時代遅れになっています。その思想のいくつかの要素は、単に現実とマッチしていません。多文化を認めることが大切です。移民問題が発生すると、自由主義思想は機能不全を起こし、自国の住民の利益を優先するハメに陥っているのです」 プーチン氏の発言は、移民と難民への対応で苦慮するアメリカとヨーロッパ諸国にはびこる民族排外主義を念頭に置いている。自由主義を掲げてきた諸国の自己欺瞞を非難しているかのようだ。ただ注意しなければならないのは、プーチン氏は自由主義に代わる新しい思想を打ち立てているわけでも、まして移民問題を解決する施策を提案しているわけでもない。 ロシアにも中央アジア諸国からの出稼ぎ労働者の問題が生起しているが、プーチン政権は武力で弾圧しているだけである。国際政治は一般的な理念よりも国益を優先に、ときには陰謀や策略も辞さないリアルポリティックスの時代に逆戻りしているかのように映る。まさに弱肉強食の権力政治家が跋扈するのである。 日本は、北方領土交渉でプーチン政権にすっかり揺さぶられてしまった。平和条約の締結さえも、困難な状況にある。プーチン氏は2019年6月22日、ロシアの国営テレビ局のインタビューで北方領土を日本に返還する「計画はない」と言明した。 そして、8月2日にはメドベージェフ首相が択捉島を訪問する。実は択捉島、国後島、色丹島には2011年以降、中国の水産関連企業が進出し、新しい工場が続々と建設されている。 2018年9月には中国の通信機器大手「ファーウェイ」が、サハリンと北方3島を結ぶ光ファイバー回線の海底敷設工事を完了した。北方領土はいまや、中露蜜月関係のシンボルのように見える。最悪の場合には中露首脳会談が択捉島や国後島で開催されたり、中露軍事演習が北方領土で実施されたりする事態も想定しておかねばならない。 日本を取り巻く国際状況をざっくり描くと「日米+α(EU)」と「3G+α(北朝鮮、トルコ、イラン、シリア)」の対立構図が浮き彫りになる。ただトランプ大統領は自国ファーストを掲げており、必ずしもEU諸国と友好的とは言えない点があり、日本への反発を強める韓国は「3G+α」に寝返るかもしれない。そうなれば、3Gの最前線と立たされる日本の防衛政策は緊急に再検討を迫られる。 米ソ冷戦は両国が直接的に衝突しなかったという点では、日本では「祈りの平和」で済んだ。でも現状は、緊迫度がまったく違う。日本に近い朝鮮半島、日本が天然資源を依存する中東、さらにはベネズエラ内戦(「アメリカ」と「ロシア、中国、北朝鮮、イラン、トルコ」の勢力に分断)など地雷はいくつも点在している。ちょっとした事件や小競り合いを契機に、アメリカと中露が軍事的に全面衝突する危険性は十分にある。G20大阪サミットが閉幕し、トランプ米大統領(右)と握手を交わす安倍首相=2019年6月29日、大阪市 だからこそ、日本の防衛政策を根本的に考え直す時期にきている。明治維新もそうであったように、日本は外圧があってこそ、自国を変革できる。集団自衛権を含む憲法改正の必要性を、皮肉にも「新冷戦」が迫っている。■北方領土は返さない! ロシア「反日アイヌ民族」の正体■「プーチンは一島も返さない」最悪シナリオは中国への北方領土売却だ■安倍外交85点の理由は「欧米と仲良く、中国と喧嘩せず」

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    中国からの投資が9割減、問われるトランプの経済政策

    土方細秩子 (ジャーナリスト) ピーク時の2016年には年間460億ドルもあった中国から米国への直接投資が2018年には48億ドルにまで落ち込んだーー。リサーチ会社ローディアムが発表した数字が波紋を呼んでいる。もちろん理由の一つは中国が貨幣流出を防ぐために国外投資に規制をかけたことだが、2016年はトランプ大統領就任の年。そこから現在までの間に貿易摩擦などもあり、投資額が激しく落ち込んだ、と指摘されている。 中国による米国企業への投資内容を見ると、トップはエネルギー関連、次いで不動産関連となる。企業への直接投資、買収などが含まれるが、昨年1年間で中国の投資家は総額130億ドルにも及ぶ米国内の資産を売却したという。 この傾向は今年も続き、アンバンは米国内の高級ホテルを、HNAグループも米国内数十億ドル規模の不動産を、フォーサム・インターナショナルはニューヨークの不動産を、ダリアン・ワンダ・グループは映画会社レジェンダリー・エンタテイメントの株式売却を試みている。 この中には米政府が主導した売却もある。例えばHNAが今年に入り売却したマンハッタンのビルは、「トランプタワーに近い高層ビルである」という保安上の理由から米政府が売却を迫ったもので、HNAはこれにより多額の損失を出したと報道された。逆に中国企業が買収しようとした米企業に対し、「個人の情報保護や国家安全の見地から」米政府が売却を阻止したケースもある。 とかく批判されながらも、中国マネーが米経済を活性化させてきた、というのは事実だ。特にミシガン、ミズーリ、サウスカロライナ、テキサスなどでは中国マネーが雇用促進の原動力にもなり、カリフォルニア、ニューヨークでさえ都市開発の要の部分を中国マネーが請け負っていた面が大きい。 エンターテイメントの部分も然りだ。中国は今や世界最大の映画市場であり、ゲーム市場でもある。ハリウッドは中国との共同制作という形で中国からの投資を引き出し、中国市場に受ける映画を作ることで採算を取ってきた経緯がある。ゲームに至っては世界の市場の5割強が中国であり、ソフトからハードまでこの巨大市場を目指しての競争が続いている。(出所)リサーチ会社ローディアム 1980年代を思い起こしてみれば、米国の困惑がよく分かる。当時バブル期の日本は米国の不動産を買い漁っていた。ロサンゼルスのボナベンチャーホテル、ニューヨークのロックフェラービルなど、ランドマークとも言える建物を日本企業が買収し、米国では激しい日本叩きが巻き起こった。しかしバブル崩壊によりこうした建物や日本による投資が冷え込んだことが米国経済にも影響した。 今回の中国投資の減速でも同じことが言える。米国では黄禍論などと言われ、あまりにもアジアパワーが強すぎることへの警戒が巻き起こるが、いざその影響が米国経済の停滞に及ぶと、今度は待望論が巻き起こる。いわく、中国からの投資が減少したことにより特にラストベルトと呼ばれる地域への影響が大きい、トランプ支持基盤でもあるこの地域の経済をトランプ自身が苦しめている、などである。原因は中国かトランプか この問題、表面的な部分よりも根が深い点がある。それは「どちらが“先”の原因であるのか」という部分だ。先にも述べた通り、中国からの投資が減少したのはトランプ政権による関税圧力などの貿易摩擦も一因ではあるが、それ以前に中国政府による外国投資規制が行われていた。つまりトランプ大統領が政権についた時にはすでに中国マネーの後退は始まっていた。 トランプ大統領による中国への不信感、批判はここに端を発するものかもしれない。このまま中国がラストベルト地帯への投資を減少させれば地域経済はより疲弊し、それが「Make America Great Again」という自身のスローガンに反することになり、支持率が減少する。それゆえに中国を批判し、関税圧力などの政策を実施した。 関税圧力というのはある意味自国への企業誘致の方法でもある。日本の自動車メーカーが現地生産率を上げ、「米国産の日本車」を前面に打ち出すようになったのも元はと言えばこうした日本叩きや圧力に対抗する策でもある。 ただし中国の場合、米国に進出して現地生産するような企業がまだ少ない、というのがネックとなる。現在に至っても中国メーカーの車は一部のEVバスなどを除いては米国で販売されていない。また今のところはまだ価格面で競争せざるを得ない中国製品にとって、米国での生産はコストがかかり競争力を失う原因にもなりかねない。 しかし米国の経済学者などからは「米中双方が不信感を抱き合い、貿易摩擦の解消のきっかけすらつかめない現状は行く行く米経済に悪影響を及ぼす」という警戒感をあらわにしている。※写真はイメージです(ゲッティイメージズ) 一方で米国にとっての明るいニュースは、直接投資が減少する一方で中国によるベンチャーキャピタルは増加している、という点だ。特にシリコンバレー周辺で、中国による投資は31億ドルを記録した。ただしこれも技術移転や機密保持の観点から規制がかけられる可能性が無きにしも非ず。 もし中国企業や個人が米国内の資産売却を急激に進めれば、特に不動産のバブル崩壊のような現象が起こる可能性もあるし、企業の倒産、失業率の増加にも中国投資の減退が関わってくるかもしれない。二選目を目指すトランプ大統領にとって、中国マネーの扱いは難しいものになりそうだ。ひじかた・さちこ ジャーナリスト。ボストン大学コミュニケーション学部修士課程終了、パリ、ロサンゼルスでテレビ番組製作に携わり、1993年より米国でフリーランスのジャーナリスト活動を行う。

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    櫻井よしこ氏「米中対立はどちらかが倒れるまで続いていく」

    らず憲法9条に縛られたまま、自力で自国を守ることすらできない。櫻井よしこ氏は、日本がすがるアメリカと中国との対立は長期化すると言い、憲法改正の必要性を訴える。* * * 日本を取り巻く国際情勢はかつてないほど厳しさを増しています。 米中対立は基本的に中長期的にわたって続き、さらに深刻化していくことが予想されます。トランプ政権の一連の動きを見れば、米国が問題視しているのが貿易赤字だけではないことがわかります。知的財産の不正入手、企業の最先端技術を提供させるなどの不公正な取引、発展途上国に対する「債務の罠」、そしてチベットやウイグルへの弾圧をはじめとする人権問題。これらはすなわち共産党による一党独裁体制、中国のあり方そのものです。 中国の経済成長の基盤は知的財産を盗むことで成り立っており、これをやめるわけにはいきません。また、中国の国防費は表向きで約15兆円、実際にはその1.5倍から2 倍と見られていますが、それと同等かそれ以上の予算を割いているのが武装警察やサイバーポリスといった国内治安対策です。これほどのお金を投入して、激しい弾圧を加えることによって中国共産党はようやく国内の不満を押さえ込んでいるのです。 人権問題の改善は共産党の一党支配の崩壊につながりますから、根本のところで中国が米国と妥協することは絶対にあり得ません。2019年5月3日、第21回公開憲法フォーラムで基調提言を行う櫻井よしこ氏(桐原正道撮影) 2018年12月、トランプ大統領と習近平主席がG20で会談し、貿易摩擦の「一時休戦」をアピールしましたが、その一方で米国はカナダに要請し、中国の通信機器大手「華為技術(ファーウェイ)」の創業者の娘で最高財務責任者(CFO)の孟晩舟氏を逮捕しました。 一時的に対立を回避するようなポーズを見せながらも、米中対立はどちらかが倒れるまで続いていくでしょう。「我慢する時」の習近平 中国側はトランプ政権はあと2年、再選されても6年で終わることを見越していますし、景気の悪化などで米国内での国民の不満が高まれば、トランプ政権は政策を変えると読んでいます。一党独裁体制の中国とは違い、民主主義国家は弾圧で国民を押さえ込むことはできないからです。 習近平は「今はじっと我慢する時」と考え、日本に対して盛んに秋波を送っていますが、やっていることはまったく変わっていません。それは尖閣諸島への領海侵犯を続け、東シナ海の日中中間線付近で新たなガス田の掘削を始めたことからも明らかです。 2017年10月の共産党大会で、習近平は3時間20分にわたる大演説を行い、中国は2035年までに世界一の経済大国になり、建国100年に当たる2049年までには軍事力でも米国を追い抜いて、「国際社会の諸民族の中に中華民族がそびえ立つ」と言いました。 中国共産党の価値観を世界に浸透させて、その教えの下で人類運命共同体を築き上げる。逆らう者は徹底的に弾圧する。このような中国の野望、中国が描く世界秩序を決して実現させてはなりません。 米中対立において、日本が米国側に立つのは当然のことです。さらに長い歴史の中で育んできた人間重視の穏やかな価値観をもとに、独自の旗を立てて国際社会の中で大きな役割を果たしていくべきだと思います。 そのためにも、日本は節度と責任ある民主主義国家として、憲法改正を実現し、国の基盤である経済力と国防力を整えていかなければならないのです。●さくらい・よしこ/新潟県長岡市出身。ハワイ州立大学卒業。元日本テレビ「きょうの出来事」キャスター。1995年、『エイズ犯罪 血友病患者の悲劇』で大宅賞受賞。執筆・講演活動を続ける一方、インターネット放送「言論テレビ」を運営中。最新刊は『韓国壊乱』(PHP新書、共著)。関連記事■櫻井よしこ氏、世界で一つの変な憲法の改正は今が最後の好機■朴前大統領の弾劾訴追を見れば韓国立法・司法の歪み分かる■櫻井よしこ氏「韓国とは悪い関係でなければ幸せ、程度でOK」■ケント氏「議論すら許さない日本のリベラル派は全体主義者」■ケント氏「憲法によって危険に」櫻井氏「日本は商人の集合体」

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    日米同盟破棄したら中国は尖閣強奪、韓国は謝罪と賠償要求

    、日本は隣国の脅威に一気に晒されることになる。産経新聞ワシントン駐在客員特派員の古森義久氏が言う。「中国はこのところ沖縄・尖閣諸島周辺の日本領海への公船の侵入を活発化させている。もし東アジアにおけるアメリカの最前線部隊である在日米軍がいなくなれば、中国人民解放軍は即座に尖閣諸島強奪作戦を開始する可能性がある。場合によっては沖縄まで標的になるかもしれない。 それに乗じて北朝鮮やロシアも一気に動き出す。中国を敵に回せば国連の安全保障理事会は機能しない。自衛隊の戦力だけで侵略行為をしのぎきるのは不可能です。アメリカを頼ろうにも、同盟破棄してしまえば積極的な介入は期待できません。2014年にロシアがクリミアに侵攻した時のように、中国に対して軍事力は投入せず、抗議や経済制裁をするのみではないか」 そのような事態に備えるためには、現在5兆3000億円に膨れ上がっている防衛予算を、さらに上積みしなければならない状況も考えられる。元駐韓大使で外交評論家の武藤正敏氏は、韓国の動きも注視すべきと指摘する。「トランプ発言はブラフだと見ておくべきだが、片務性を正したいという意思があるのは間違いない。仮に日米同盟が破棄されるならば、より重要度が低い米韓同盟も破棄され、在韓米軍も撤退する可能性が高い。すると、韓国は中国と北朝鮮の影響下に入ることが、自国の安全保障につながると考える。 米軍撤退によって野心を再燃させた北朝鮮の金正恩・朝鮮労働党委員長が核・ミサイル開発に邁進しても韓国の文在寅・大統領では対応しきれず、日本は核の脅威に晒されることになる。日米会談を前に、トランプ米大統領と共に長女イバンカ大統領補佐官(手前左)と娘婿クシュナー大統領上級顧問(同右)を迎える安倍首相=2019年6月28日、大阪市(代表撮影) 一方で韓国は慰安婦問題や徴用工訴訟などでの反日姿勢をさらに強め、これまで以上の謝罪や賠償を日本に突き付けるでしょう。G20での日韓首脳会談が見送られるなど戦後最悪とされる日韓関係のもとでは、そうしたリスクもゼロではありません」 これまでの経緯を考えれば、トランプ大統領と金正恩委員長の「友好的演出」は一時的なものにすぎない可能性は十分にある。再び北朝鮮が強硬路線に走り、韓国も反日姿勢を強めれば、まさに四面楚歌状態──その中で求められるのは高度な外交手腕だが、60年の長きにわたって日米同盟に依存するばかりだった日本の政治家や外交官に、各国と立ち回る能力があるかは疑わしいのが現実だ。 トランプ大統領の「日米同盟破棄」にどれだけ現実味があるかは今のところ全くわからない。だがトランプ発言は、日本外交が「主体的な安全保障体制とは何か」を真剣に考える契機となったのは間違いない。関連記事■日米同盟破棄で日本は繁栄か沈没か 外交論客3人が分析■中国富豪男の夢「蒼井そらを1晩300万円でセッティングしろ」■ケント氏「韓国には嘘が恥ずかしいという概念がないのか」■もし日韓戦わば… 軍事力の差は歴然だった■韓国で女児の胸が大きくなる「性早熟症」、囁かれる原因

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    香港「200万人」デモは中国の脅威となるか

    たが、「一国二制度」形骸化への不安は続く。G20の首脳会議で問題提起される可能性もあり、今回の動乱が中国の香港政策を動かす力になるか。

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    「非暴力はウソ」香港の反政府デモ、私が見た真実を明かそう

    フリージャーナリスト) 香港の九龍半島の繁華街、油麻地(ヤウマティ)の観光客向けの料理店に入る。拙い中国語の普通話(マンダリン)で注文をして、まずはビール、そしてエビの揚げ物と豚の小腸のつまみを頼む。隣の団体客はビールと料理の皿でいっぱいになったテーブルで談笑している。タバコを吸っているが、これは外のテーブルだから許されている。足元には吸い殻がいくつも転がっていた。 行き交うのは中国本土から来ている観光客と一目でわかるグループばかりだ。それは服装と髪型ですぐにわかる。日本の銀座でも京都でも函館でもよく見る光景だ。 昨日のデモのことがまるで嘘のような話だ。香港行政府と中国政府の方針もあり、中国からの観光客が非常に多い。年間に香港を訪れる中国人観光客は5103万人。香港の人口は約700万人だから、その人口の約7倍の中国人が香港にやってきていることになる。ほとんど、繁華街は中国人で席巻されているというわけだ。 巨大な存在となった彼らに飲み込まれるというのは、香港市民にとってどの程度の脅威なのだろうか。英語と普通話が飛び交う、この街路にいてはわからないことなのだろう。ここは広東語の世界だ。もちろん、これはもっと遠い日本にいればなおさらのことだ。  香港が激動である。 おおよその日本の人たちはテレビやネットなどで流れる情報をチェックしながら、香港の民主主義の現状や、その背後にある中国の脅威とそれに抗する人たちの姿などを知ることになっただろう。 筆者はこのうち6月12日の抗議運動の現場に立ち会った。立法会を取り囲む抗議運動の数万人の人たちの最前線で、催涙ガスを浴び、完全装備の機動隊にだいぶ小突き回された。しかし、さまざまな人たちの話を聞き、さらにそこで起こっていたことを目撃できた。 だが、同時に不思議な体験もした。日本や欧米系のメディアが発する情報や、ネットで香港市民が発する情報に大変な違和感を抱くことになったのだ。それは違和感というには、少し表現がおとなしいかもしれない。筆者はフィリップ・K・ディックのSF小説を思い出した。つい先ほどまで、目の前で大規模に繰り広げられたし、メディアにも流れていて、それを皆が見ているはずの光景が、なかったことになっているのである。 端的にいうと、6月12日のデモで「非暴力で無抵抗な市民にむけて警察が一方的な暴力をふるった」というのはウソである。 この話を進めるために、先に今回の「逃亡犯条例」改定反対運動の流れを、まずはざっと見ていこう。 国外での裁判に犯罪者を引き渡すための法律改正、いわゆる「逃亡犯条例」の改正が今回のデモの発端だ。中国の司法で市民が裁かれてしまうのではないかという恐れと疑心暗鬼から、6月9日に民主派が企画したデモからこの話は始まる。主催者の予想は30万人のところ、なんと100万人(主催者発表)を動員した。これは香港で過去最大のデモであった天安門事件の抗議と同じ数である。これは「民間人権陣線」という民主派の団体が行ったもので全くのトラブルもなく行われた。 続いて、12日には香港の議会である立法会での審議に抗議するため、こちらはネットで自然発生的に呼びかけが始まり、その情報が拡散した。 フェイスブックには「一個人野餐(ひとりピクニック)」というイベントページができた。これは立法会前の公園にピクニックに行こうという呼びかけで、そこには政治的な意図は全く書かれていない。 イベントの説明ページには「参加者は何をやってもいいです。もちろんポケモンGOをしてもOK」と書かれている。イベントページの主催者はほとんど無名の人物で何者なのかわからない。そして、ここに参加予定者はなんと1万人超。参加に興味があるとした人が3万人だ。これに類する「ピクニックに行こう」という香港のアカウントからの呼びかけがツイッターでは多数見られた。わかる人にはわかるだろう。1989年にベルリンの壁が崩壊するきっかけとなった東ドイツとハンガリーの非合法デモは「ピクニック」の名前のもとに行われた。それ以来、世界各国で非合法のデモや政治集会を呼びかける時「ピクニックに行く」は、呼びかけ人が違法行為に問われないための隠語なのである。後述する「ブラックブロック」の抵抗運動でもこれは頻繁に使われる。フェイスブックの「一個人野餐(ひとりピクニック)」の「イベント」の呼びかけを伝える6月11日付のサウスチャイナモーニングポスト紙(筆者撮影) この日の抗議活動は職能団体による呼びかけはあったものの、実際はこの「ピクニックに行こう」というのが合言葉に拡散され、そして数万人の参加者が動員されたものだ。そして、この主催者が事実上いないと言える「ピクニック」は香港警察と抗議の集団が衝突。警官隊に20人以上、デモ隊には80人以上の負傷者が出たと報じられている。「非暴力で無抵抗」のウソ さらに、16日には逃亡条例改定の反対に加えて、この警官隊の無抵抗の市民に対する暴力に抗議するという呼びかけや、香港行政長官の林鄭月娥(りんてい・げつが)氏の退陣を求めて、再びデモが民主派を中心に呼びかけられ、こちらはなんと200万人(主催者発表)が集まったという。こちらは9日と同じく民間人権陣線が主催し、大きな混乱はなかった。 これを受けて、香港行政府はこの逃亡犯条例改定の審議を無期限延期することを表明。事実上の廃案となる結果となった。現在、これに加えて、抗議者側は林鄭氏の行政長官の辞任などを求めて、さらに直接行動を示唆している。この勢いはしばらく鎮火する様子は見られない。 さて、そのさらなる要求として「暴動」という表現を撤回し、警察の暴力についての調査を進めるよう求めている。無抵抗の市民に対して、警察が催涙ガスや暴徒鎮圧用のゴム弾を使用して、抗議者側に多数の負傷者が出たことをこれは指している。 これまで警察は、「暴徒」から、立法会などの政府施設を守るために、催涙ガスなどを使ったが、これらは海外の暴徒鎮圧用に使われるもので、問題はなかったとの見解を示していた。そして、暴徒はレンガや鉄の棒やフェンスなどを投げていたので、警官たちも自己防衛のために仕方なかったと説明していた。これに抗議運動側は強く反発し、無抵抗な市民への暴挙を追及するとの構えである。 しかし、「非暴力で無抵抗な市民」が一方的に攻撃されたというのはかなり事情が違う。事実はこうである。 抗議者側は立法会に実力行使で突入をはかり、その現場では、石や鉄パイプなどが警察に向けて投げつけられていた。そこでは、これまで非暴力の象徴だった雨傘が警察に向けて乱れ飛んだ。筆者自身もいたるところで目撃したし、このことは最前線にいたメディアも当然知っているはずである。鎮圧され後退したデモ隊の後に残された石の礫。路上に袋入りで残されていた(筆者撮影) そればかりか、香港のテレビではこの模様が連日ニュースで映し出されていた。筆者は投石用に袋詰めにされて用意された石が、抗議者たちが警察に追われていなくなった道路に放置されているのも見ている。何かのはずみに孤立した警察官は若者たちに囲まれた末に引きずり倒されて、数人に囲まれて蹴りつけていた映像は、香港の反体制側といえる報道姿勢で有名な「蘋果日報」のニュースサイトでも見ることかできた。(現在はなぜか削除されている) 香港の新しい民主化運動は学生によって組織された2014年の雨傘デモから始まった新しいスタイルである。当初、大学の教職者などによって呼びかけられた道路占拠運動のスタイルは非暴力であり、違法な示威行動ゆえに、もし警察に逮捕されるとしても、それには粛々と従うとされていた。ところが、これがどこかで変わった。 法的な枠組みをギリギリで維持しつつ、体制側とあくまでも対話と交渉を通じながら平和裏に解決を図ろうという雨傘デモ当初の手法から、急進的な学生たちは強硬手段を用いても徹底的に戦うという流れになりつつある。これはすでに、2014年の雨傘デモの終盤でも見られていた。この変化はどこから来たのか。今度はこの背景について見てみよう。 現在の香港の政治勢力はおおよそ2つに分けることができる。一つは香港の既得権益層からつくられる親中の親政府派。もう一つは民主派。ところが、この雨傘デモ以来、民主派が分裂しつつあり、もう一つの政治傾向が生じてきている。これが「本土派」という、強硬ともいえる香港の政治的独立性を主張するグループだ。ともすれば妥協を重ねて遅々として進まない状況を、ある程度手段を選ばずに強行突破して変えていこうというのがこのグループだ。だからむしろ香港の穏健的な民主勢力(「汎民主派」という)とは対立することも多い。  現在日本で、香港のデモのスポークスマンのように発言し続けている周庭(しゅう・てい)女史はその中心的人物の一人である。したがって、彼女を民主派というのは少し誤解が生じる。その中でも最右派のグループとして理解しておいた方がいい。つまりこれが本土派である。 この最右派の中でも、さらに強硬的なグループは、圧倒的な体制との闘いの中では、暴力的な闘争さえも選択すると公言するものもいる。雨傘デモの終盤から、この傾向は学生たちの一部に徐々に共有されていき、そのために2014年の雨傘デモ終盤から暴力的な傾向が見受けられ、これが2016年になると旺角(モンコック)という繁華街での暴動に発展し、参加者と警察双方あわせて100人近くの負傷者が出る争乱に発展している。放火が繰り返された街路では、この時もレンガが投石に使われていた。 彼らは欧米などで反体制運動や極右との抗争を繰り返す、アナーキストの過激な政治運動スタイルである「ブラックブロック」の影響を隠していない。その特徴であるカラーの黒、そしてネットを通じたプロテスターの扇動と動員、非合法活動のための中心を持たないネットワークなどの特徴は、まさにブラックブロックである。なぜ若者は過激化したのか 6月12日の騒乱では、あたかも警察が非暴力な市民を一方的に武器を使って排除したと言われていて、参加者の間でもそのように言われている。だが、これは数万人も詰めかけた抗議者のうちの大半は、警察と対峙(たいじ)した最前線のことはおおよそ知らない。また、日本のネットなど見ると、中国の工作員が紛れ込んでいて、これが暴動を誘発するような暴力行為をしていたなどという推測まで飛び交っている。だが、ここ数年の香港の本土派の先鋭化を見ているならば、これは程度の低い陰謀論にすぎないと簡単にわかるだろう。今後も主催者がいないまま、ネットなどで動員された抗議運動はきっと荒れることになるだろう。 それでは、なぜこのように若者は過激化していったのか。これは現在の香港の成り立ちと世代間の考え方の違いが背景にある。 現在の繁栄を築いた香港の人たちで、第二次世界大戦前からいたという人たちは少数派である。香港の人口は現在約800万人だが、終戦直後には60万人程度しかいなかった。これが爆発的に増えたのは、1949年に中国共産党が大陸を制圧したからで、さらに文化大革命に至るまでの共産主義が引き起こした飢えや恐怖政治の混乱から逃げてきた人たちを香港が受け入れてきたからだ。 彼らはいわば亡命者なわけで、故国である中国本土に複雑な感情を抱いていた。イギリスの植民地の香港では彼らの政治参画は許されていなかった。普通選挙権はアリバイのように香港返還の2年前に与えられた。考えて見れば香港はアヘン戦争から150年もの間、中国以上に非民主的だったのだ。だが、イギリス政府は政治には参画させなくとも、植民地政府に直接の反抗をなすものでなければ彼らの自由も認めた。それが世界に多数の植民地をもって異民族を統治してきたイギリスの植民地統治技術であった。その自由を亡命者は貴重なものと受け取った。 かたや同時に大陸に侵攻してきた日本軍の戦火と暴政も経験してきたこともあり、日本に対しての感情は非常に厳しい。日本の右派的志向を持つ人が、香港の民主化を支援するのにあたり、反中国の文脈でシンパシーを抱いている人も多いだろうが、これらの人たちは民族国家としての中国そのものに背を向けているわけではない。尖閣諸島の領有権を1970年代初頭からいち早く主張してきたのは香港の人たちである。そして、これらの人たちはもちろん反共でもある。香港の尖閣諸島問題の運動家たちは、天安門事件の中国政府の対応にもいち早く批判をしている。そのため、この運動の指導者は中国政府から入境をいまだ許されていない。香港駅の近くのコンコースには尖閣諸島の領有権を主張し、南京事件を批判するプラカードがならび、ここに近年は慰安婦像も加わっている。  1980年代までは「反日」といえば、フィリピンやタイやインドネシアやシンガポール、さらにこの香港のことだった。当時は戦争の記憶が生々しく、日本軍の暴政を体験してきた人が存命だったのに加えて、韓国も中国も言論の自由がなかったため、民衆の日本に対する表立った批判は目立つものではなかったからだ。 韓国や中国といえば、旭日旗をめぐる騒動がある。けれどこの香港では80年代に日本代表が試合に行けば、旭日旗どころか日の丸ですら罵声を浴びる対象だった。まだ数が少なかった日本代表のサポーターは、日本国旗を揚げただけで次々と物が投げつけられるスタジアムに生きた心地がしなかったという。 日本のことはいったん置いておこう。一概には言えないだろうが、中国に民族的な帰属意識を持ち、巨大な存在となった中国共産党に、現実主義で対応し、時には受動的ながら批判を加え、譲れない線では強く抵抗していくというのが、香港の汎民主派のおおよそのイメージとしてよいかと思う。この辺りは台湾の国民党の現在の考え方と似ているともいえる。「逃亡犯条例」改正案の撤回を求め、立法会前で傘や鉄柵でバリケードをつくる若者ら=2019年6月12日、香港(共同) これが2000年代になると様相が変わってくる。現在の雨傘運動や今回のデモに参加する若者たちは、おおよそ90年代の生まれである。すでに香港に定着した二世や三世の世代であり、生まれた時から香港に住み、さらには返還の時に中国共産党を恐れて海外移住したような上層の階級でもない。何かがあればここをすぐにでも捨てていく仮住まいで香港にいるわけでもない。香港に生まれ、香港に育った人たちは独自のアイデンティティーを持ちはじめたのだ。 植民地への移民が本国とは違う経済と文化を持ち、新しい価値観と自分たちにふさわしい自治を求めて戦いだすのは珍しいことではない。さらにアメリカ大陸の各国のように、これが独立して新しい国をつくることすらも。彼らを「本土派」と呼ぶのは、中国が私たちの本土ではなく香港がわれわれの本土(故郷)であるという意味である。香港で独立の議論はタブー 香港で中国の体制批判や、ましてや独立の議論を直接持ち出すことはタブーである。それはイギリスと中国がつくった香港基本法の23条に定められている条文「反逆、国を分裂する、反乱を扇動する、中央人民政府を覆すおよび国家機密を盗む行為を禁ずる(法を独自に香港は制定すべし)」に抵触するからである。中国共産党は、香港のいわゆる「高度な自治」を実現されたものとして内外に誇る。だが、首長や立法議会の直接選挙すら許されていないばかりか、反体制派に対する露骨な弾圧が続いている今、それがフェイクにすぎないことは明らかである。ましてや、そのさらに先を行く、香港の独立などもってのほかのことである。 ところが、若い本土派はこれに反抗した。雨傘運動の後、議会進出を狙った本土派は当選すると、議場で行うべき中国政府への忠誠を誓う儀礼を無視したり、わざと茶化して宣誓文を読み上げたりして、抗議の意思を示した。完全な反逆である。これに激怒した中国共産党は、わざわざ全国人民代表大会の常務委員会に諮り、この議員の資格を抹消した。 勇気あるとも言える反抗には一部で同情が集まったが、一国二制度での緩やかな変革を目指す汎民主派からすれば、冒険主義的であった。もちろんこうした汎民主派の態度を本土派の若者は弱腰として断罪する。 しかし感心できないこともある。彼らの一種のクレオール主義(植民地などの遠隔地で本国から隔絶した環境でいる間に育まれた自立性のこと)は、香港民族主義となり、今度は中国に対する排外的な運動や、社会からの反発を生むような抗議活動につながるケースが見られてきているのだ。 冒頭でつづった中国人観光客であふれる繁華街などで中国人排斥運動もどきのことを行ってみたり、中国人蔑視と受け取られかねない発言も多々見られる。抗議運動も先鋭化し、暴力的になるにつれ一般市民からの非難も集まっている。今回の逃亡条例改正の一連の抗議でも、出勤時間帯の電車に乗り込み、わざとドアに挟まれたりして遅延させるなどの幼稚ともいえる妨害運動も見られている。 前述の周庭氏は、その本土派の中では比較的穏健とも言えるグループ「香港衆志(デモシスト)」の幹部であり、香港では議員へ立候補を図ったものの、立候補資格を認められなかった。香港衆志自体は、香港独立の主張はせずにあくまでも現行の一国二制度の中で民主的な自治を獲得するという立場だが、それでも香港行政府への批判の矛先は鋭い。そしてそれを通じて、あからさまではないが中国共産党への批判もときおり噴出する。 その周庭氏のツイッターのアカウントには、現在鼻血を流して横たわるデモ参加者の動画がトップに掲載されている。個人的には残念ながらこれは趣味が悪いと思わざるをえなかった。もちろん無抵抗な市民がこのように警察に「銃で撃たれた」ということをアピールするためなのだろうが。負傷者が出たデモの翌々日6月14日付の蘋果日報紙の一面。見出しは「これが『低殺傷能力の武器?』警察トップは恥を知れ」(筆者撮影) 蘋果日報が香港でも際立って反体制的な論調で知られるのは先ほど書いたが、このメディアは一部で本土派などに資金提供をしていると囁(ささや)かれてもいる。この新聞の事件が明けた翌々日の14日のトップページは周庭氏のツイッターページと同じく、負傷した市民の傷口や流血した写真がこれでもかと掲載されている。蘋果日報は数日前まで立法会に詰め寄せた抗議者が警察官を袋だたきにして警察官が負傷する動画を、同社のウェブサイトに掲載していたはずである。ところが、これが抗議者側に負傷者が出るとして消去している。 香港では、容疑者の身柄を中国本土にも引き渡せるようにする条例の改正に反対して、数万人の若者が抗議活動を続けています。このうちの一部が12日午後、議会にあたる立法会の敷地内になだれ込んで警官隊と衝突し、けが人が出ています。https://t.co/OTQiXmzhEE#nhk_news #nhk_video pic.twitter.com/FyhLlCMmrf— NHKニュース (@nhk_news) 2019年6月12日  もしアメリカであれば,警察は必ず発砲しますよ。 pic.twitter.com/TJUNLdaTPy— 靖次 (@AriksWong) 2019年6月12日 香港本土派の最右翼 もちろん警察もその後にやりすぎたのは間違いない。ゴム弾を水平射撃するのはいくらなんでもやりすぎだろう。香港警察が言うように「低殺傷能力の武器」だったとしても、当たりどころが悪ければ死に至ることもある。だが、そもそもこの暴力行為のきっかけをつくったのは、デモ参加者の方であるのはすでに書いた通りである。 レンガや石に殺傷能力があるのは言わずもがなだろう。傘の切っ先を雨あられのように警察に投げつけるのも同様である。ほとんどリンチまがいに警察官を袋だたきにするのも全くいただけない。なお、参考までに付け加えておくと、ガス弾やゴム弾は暴徒鎮圧用に欧米のみならず世界中の警察で使われているもので、筆者がなじみがあるのはフーリガン対策用にイギリスをはじめとする世界の警察が日常的に使用している光景である。もちろん日本の警察も学生運動が華やかだった過去に催涙弾を散々使ってきている。筆者は総じて香港警察に同情的ですらある。 警察によるガス弾やゴム弾の使用の原因には、今回の匿名で集まった急進的な学生側のやりすぎがあるのは明白である。最初から平和的な抗議運動ならあのようにはならなかっただろう。これは、穏健な民主勢力の主催者による9日の100万人デモと16日の200万人デモが平和的に行われたことが証左である。このやりすぎがエスカレートするとより高い暴力装置を警察は動員する。それは果たしてクレーバーなものなのだろうか。そして民意はついてくるのだろうか。 香港本土派の最右翼といえるグループの一つが「本土民主前線」であるが、このグループは雨傘デモに続く2016年の「旺角争乱」でブラックブロック的な闘争を繰り返してきた。彼らの主張は「弾圧に対抗するにはあらゆる手段が必要」「極悪な政府と戦うには、(非暴力という)限界をもうけてはいけない」というものである。もちろん、今回の負傷者が出たデモで、このような参加者が全てであったとは言わないが、最前線でこれらの右派やそれに影響を受けているものが活動していただろうことは、容易に想像がつくだろう。 もちろん、権威的な体制に抵抗するものが全て非暴力で、遵法的でなければならないなどというナイーブなことを言っているわけではない。ただ、ほとんどプロパガンダと言えるような情報に見事に乗せられてしまっている日本の人たちを見ると、もう少し慎重であれと思うのである。そして、大義名分があればメディアはいともたやすくウソをつくということが、中国のような全体主義国家でなくとも、自然に行われているということを改めて確認したということである。 これをさらに違う角度から考えれば、香港の本土派がよりしたたかになってきているとも言える。周庭氏もそういう意図で日本に残っているのだろう。香港の苦闘には外部の力を借りるしかない。ボスニア紛争の際に、ボスニア・ヘルツェゴビナが広告代理店を使ってメディア対策を行い、セルビアを悪者として国際世論にアピールするために「民族浄化」や「強制収容所」というわかりやすい言葉でセルビアの悪行をフレームアップしていったように、小さなものが戦うには、このようなしたたかさが必要であることは理解できる。弱者の生き残りをかけた戦いということだ。 そしてさらに情勢は変化する。デモの翌日に香港警察は「暴動の鎮圧のためには武器使用は仕方なかった」という見解を翻した。実は暴れていたのは数人にすぎないということだ。筆者は唖然(あぜん)とした。狐(きつね)につままれるとはこのことだ。筆者の見てきたものはなんだったのか。SFの世界のように、筆者の記憶は誰かに埋め込まれたものなのか。そんなバカげたことも頭に浮かぶ。 しかし、そのカラクリだけは容易に理解できる。香港行政府も反体制派やデモ参加者、そしてさらには中国共産党も、これが「暴動」ではなかったとするのが良いと三者三様に考えたということだろう。 反体制派は暴動とされることにより、逮捕者が増えたり重罪化することを恐れた。一方、中国共産党はこれが大きな出来事になれば今月末に迫っているG20で欧米諸国から非難を浴びる可能性を恐れ事態の収拾をはかった。香港行政府はこれ以上の混乱を続くことを望まなかったから、中国共産党がそのような考えであれば、学生側の「暴動」認定の取り下げ要求をのもうとしている。そして、さらに言うならば、メディアは美しく感動的な若者の政治闘争を善悪二元論で伝えたかった。こんなところだろう。中国共産党の虎の尾を踏まないか 天安門事件では、学生の天安門前の占拠運動を「動乱」と表現するところがターニングポイントとなり、この言葉を使った保守派に批判された改革派の趙紫陽(ちょう・しよう)総書記が失脚し、学生たちへの暴力的な排除で死者が出る未曽有の事態となっていった。今回は逆のパターンである。「暴動」という表現を取り下げて、その事実をなかったことにすることで事態を収拾しようとしているわけである。 こうして香港の若者が体制の横暴に立ち上がったという美しい物語に彩られてそれでよしとしていいのか筆者はわからないままだ。だが、それでも懸念はある。一時期は旺角争乱から世論の支持を失いつつあった本土派の極右の若者がこれを成功体験として、より一層ブラックブロック化して、中国共産党の虎の尾を踏まないかということだ。 また、その本土派の民族主義的な独立志向や急進的な自治の主張に対しても、どこまで支持していいのかわからない。本土派最右翼の香港民族党や香港独立党の若者は、その名の通り、香港人が一つの民族であると主張して、民族自決を求めている。だが、この主張は一筋縄で行かないだろう。さらに彼らは、対中国という共通点で日本との連携の可能性を模索しているに違いない。これに日本人としてどう判断していいのか、判断は非常に難しい。もちろん、日本政府はこれを中国との関係から危険なものとみなすだろう。 かつて、植民地からの解放や民族自決を志した、フィリピンやベトナムなどのアジアの運動家は日本に頼った時代があった。だが、イギリスやアメリカとの摩擦を恐れて、当時の日本政府はこれを黙殺した。 「日本はアジアの解放に貢献した」とアジアの民族独立運動にコミットしはじめたのは、戦争直前でドイツの進撃でイギリスが風前のともしびとなった1940年ぐらいからである。それまでは日本はアジアの独立運動には興味を全く示さなかった。中国もそうである。清朝からの民族独立運動の志士ともいえる若者は日本留学生がその中核となっている。 思想家の北一輝は、辛亥革命のさなかの上海で中国国民党の活動家が皆揃って日本の詰め襟の学生服を着ていたことを記している。周恩来はお茶の水(おちゃのみず)で学生生活を送り、中国共産党の初代総書記の陳独秀は新宿の成城高校出身だ。 蒋介石は牛込(うしごめ)の学生から日本陸軍に入隊している。孫文は言うまでもないだろう。のちの中華民国の国旗となる青天白日満地紅旗のデザインは、孫文が日本の横浜に亡命していた時に中華街で決められたものだ。孫文はそうしてアジアの団結を日本に呼び掛けていた。これらの若者を、すべて日本は後に敵に回してしまうことになる。 時代は変わった。香港から日本に訪れる観光客は年間約200万人。これは人口の4分の1が日本に毎年来ているということである。日本のアニメに子供の頃から親しみ、過去の日本への記憶がなく、それよりも現在の日本の文化にシンパシーを抱いている香港の若者からなる本土派を、かつての日本留学生の二の舞にしていいのか。そういう思いはどうしても捨てきれない。それが危うさと表裏一体のものだとしても。一国二制度の期限となっている2047年まで、彼らの綱渡りは続いていくだろう。傘などが散乱した路上=2019年6月12日、香港(筆者撮影)  油麻地の料理屋でそんなことを考えながら、一人でビールを呑み、すっかり酔っぱらってしまった。 行き交う大陸からの中国人観光客の波は途切れない。複雑すぎる香港の事情と若者たちのしたたかな戦いを思いながら、ふと気づく。香港の自由を求める人たちが本当に連帯しなければならないのは、日本でもイギリスでもアメリカでもなく、目の前にこれだけ押し寄せている彼らなのではないか。しかし、それはきっと難しいことなのだろう。街角の喧騒の向こうには、中国人観光客向けの宝石店のギラギラとした照明が、鈍くまぶしく黄金色に点滅していた。■ 石平が警告、玉城デニー「中国一帯一路に沖縄活用」提案の危険度■ 習近平はなぜ金正恩に6年間の「借り」を返す気になったのか■ ファーウェイ敵視にも動じない中国「祖流我放」の冷めた感覚

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    香港に与えた「一国二制度」英国の意趣返しを中国は決して許さない

    富坂聰(ジャーナリスト、拓殖大学海外事情研究所教授) 香港では、中国本土への容疑者引き渡しを可能にする「逃亡犯条例」改正に反対する市民の怒りが爆発した。 6月16日に行われたデモでは、主催者発表でとうとう200万人を突破したという。本当なら香港市民4人に1人が参加した計算だ。香港政府側も、条例改正の審議を無期限に延期せざるを得ない事態に追いやられ、トップの林鄭月娥(りんてい・げつが)行政長官も謝罪に追い込まれた。 これをもって民意の勝利とする声も聞こえてくる。しかし、その判断は時期尚早と言わざるを得ない。 なぜなら、香港の人々の不満は、単に逃亡犯条例にのみ向けられたものではなかったからだ。実は、この問題は、どこに着地しても双方にわだかまりの残る構造を抱えていたのである。 では、その根本の構造とは何なのか。逃亡犯条例問題の背後にある「一国二制度」という制度の不安定さについて、できるだけ多くの視点から掘り下げてみたい。日本記者クラブで会見する香港学生団体の元リーダー、周庭さん=2019年6月10日 そもそも「一国二制度」とは、中国共産党が対台湾政策の中で生み出した政策である。鄧小平が実権を握った1979年、従来の武力解放から平和統一への政策転換が行われる過程で生まれた考え方だ。 ゆえに、中国から見たとき、それはあくまでも中国自身の「軟化」の結果であり、「与えた」制度なのである。一方、香港の人々にとって同制度は、自らが獲得した「不可侵」な権利として認識されていて、彼我の認識は出発点からズレている。 かつて鄧小平は、英国と香港返還交渉に臨んだ際、返還の条件を提示しようとしたサッチャー首相を制し「われわれは明日にでも力で取ることもできる」とすごんだことがあったが、これは中国の本音である。国家間の攻防が住民を置き去りにするのは国際政治の「あるある」だが、このときの英国と中国の交渉も香港の人々の意思とは無関係に進められた。枯れた「金のなる木」 誤解を恐れずに書けば、英国は香港返還後も大きな権益を確保したかったがかなわず、ちょっとした意趣返しのように選挙という制度を「置き土産」としたのである。自らの統治下で香港人に投票権など与えたことのなかった英国に、中国は「偽善」と反発。彼らの残した選挙制度を中国への挑発ととらえ、返還後の攻撃目標と定めたのである。 一方の中国は、台湾の人々に統一後の平穏を演出する具体的なモデルケースとして、また中国経済をけん引する役割を期待して、香港の現状維持、すなわち「一国二制度」に利用価値を認めたのだった。1997年の返還を経て、香港の人々には生活する上での大きな支障はなく、「一国二制度」をはさんだ大陸と香港の関係に荒波が立つことはなかった。 だが、変化は確実に起きていた。 一つは、中国から見た香港の地位低下である。露骨な表現をすれば、香港はもはや「金のなる木」ではなくなったということだ。 鄧小平が始めた改革・開放政策の初期、ほとんどの日本企業は香港を拠点に対中ビジネスを展開していた。それが、今や直接大陸と取引しているし、金融センターとしての地位も上海などに奪われる運命が見えてきている。 長い将来を見据えれば、金のなる木どころか、「重たい一地方」になる可能性が出てきているのだ。そのことを意識し始めた香港人が、実は意外に少なくない。 こうした変化に伴って、香港の人々の生活が大陸からのマネーで圧迫されるようになったのである。象徴的なのが不動産である。記者会見する中国外務省の耿爽副報道局長=2019年6月14日(共同) チャイナ・マネーが値を釣り上げたことで、香港の人が手の届くマンションが郊外へと追いやられたのである。このほか、教育現場でも有名な学校から地元の子供たちが押し出されてしまう現象も起きてしまった。 不満を高める一方で、香港経済は大陸からの観光客への依存を強めるという矛盾も、香港の人々のストレスとなった。問題は、大陸からの観光客が金満ぶりを発揮する一方で、お行儀が悪いことにある。ほどなく彼らは軽蔑の対象となり、両者にギスギスした雰囲気が生まれた。「雨傘」から何が変わった? こうして、香港で歓迎されていないことを察した大陸の観光客は潮が引くように香港から離れた。そして、いよいよ香港の大陸への不満は高まっていった。 2014年に民主的な行政長官選の実現を目指したものの失敗に終わった「雨傘運動」では、大陸の観光客を大口としたビジネス界の人々が民主化運動の「抵抗勢力」となった。だが、今回は目立った動きがなかったのは、そうした変化のためなのだろう。 さらに今回の政治運動では、質的変化がもう一つ起きた。雨傘運動の半年前、中国との「サービス貿易協定」の承認に反対した台湾の学生らが立法院(国会に相当)の議場を約3週間占拠した「ヒマワリ学生運動」(太陽花学運)との連携が見られたことだ。この雨傘運動の後で、香港独立を意味する「港独」の言葉が、香港の立法会(議会)などでも飛び交うようになったのも特徴だ。 前述したように、「一国二制度」は中国共産党にとって、ある種の軟化の産物であり、「与えている」という意識が伴う政策である。ゆえに、中国が「一国二制度」を維持するためには越えてはならない一線がある。「港独」は完全に「レッドライン」を越える行為だ。 その意味で、今回の逃亡犯条例に反対する政治運動は、どこまでを目標とするかが、極めて重要な視点となる。 そもそも、飲み水と電力を丸ごと大陸に依存する香港が「独立」を口にすること自体が現実的ではない。それでも、もし安易に一線を踏み越えれば、逆に中国が大きな力を使い、一気に「大陸化」を進める事態になることも予測される。2019年6月12日、香港立法会周辺でデモ隊(手前)と衝突する警官隊(共同) それは単に警察の力を使うという意味ではない。観光客の大幅制限に始まり、輸出入管理のちょっとした厳格化や送金制度の見直しなど、両者の強い結びつきを前提とした見えにくいやり方で香港を干上がらせる方法はいくらでもある。 だからこそ、漠然とした「中国化」にノーを突きつければいいというものではない。言論の自由を取り決めとしていかに担保するかなど、具体的な何かを獲得してゆくことが大切なのだろう。■ 石平が警告、玉城デニー「中国一帯一路に沖縄活用」提案の危険度■ 習近平はなぜ金正恩に6年間の「借り」を返す気になったのか■ ファーウェイ敵視にも動じない中国「祖流我放」の冷めた感覚

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    「辞めるに辞められない」香港行政長官を悩ます習近平の叱責

    プルなワンイシューに絞り、潜在的な市民の不安に訴えたことである。「普通選挙がなくとも香港は香港だが、中国へ連れて行かれるようになったらもう香港ではない」というのが香港人の本音なのである。 一方の政府側は、親中派議員が多数を占める立法会(議会)の構成から、数で押し通すことも可能であり、躊躇(ちゅうちょ)なく強行突破の道を選んだが、これが裏目に出た。この結果をどう考えるべきだろうか。  そもそも今回の逃亡犯条例改正(中立的には「修正」と表現すべき)には中国政府の強い意向がある。容疑者の引き渡しに関する現行の条例は返還前の1992年に制定されたもので、対象は英米など20カ国に限定されていた。これは当時の香港政庁(英国)が天安門事件後の中国の法治、人権状況などを考慮して意図的に中国本土を除外し、返還後の香港に遺(のこ)した一種の「安全装置」だった。 香港政府は「現行条例の不備を補うための改正案」と説明しているが、これまでの経緯を考えれば苦しい主張である。中国政府からすれば、植民地政府が定めた「不平等条約」の改正なのである。催涙弾の白煙が上がる中、立法会周辺の道路でデモ隊(奥)と対峙する警官隊=6月12日、香港(共同) こうした中、高級官僚出身の「能吏」である林鄭行政長官はこの厄介な課題にも懸命に応じようとする。中国への忠誠を誓って2017年7月に就任した林鄭行政長官は、事前の「中国の言いなり」「期待できない」という低評価に反して当初の評判はそれほど悪くなかった。 それは中国政府が要求する国家安全条例(政権転覆等を取り締まる法律)の制定を急がず、雨傘運動で生じた社会の亀裂、分断の修復を優先し、まずは住宅問題など民生改善に注力しようとする姿勢を示したからである。  しかし、就任後、雨傘運動に参加した活動家の処罰、本土派立法会議員の議員資格剝奪、周庭(しゅう・てい)氏など批判的勢力の補選立候補資格の無効措置、独立を主張する政治団体「香港民族党」の活動禁止、英紙編集者の査証(ビザ)更新拒否、中国職員による高速鉄道香港西九竜駅での出入境審査を認める「一地両検」実施、中国国歌法に呼応した法案制定に向けた審議など中国の求める要求に一つ一つ確実に応えていった。 だが、優先して取り組もうとした民生問題に特効薬はなく、亀裂は残されたまま閉塞(へいそく)感だけが強まっていった。今回のデモは中国の言いなりになる香港政府への抗議であり、このような林鄭行政長官の退任要求に発展するのは自然なことである。林鄭長官の「伏線」 林鄭行政長官が今回も中国の指示に忠実に従おうとしたことには一つの伏線がある。昨年11月に林鄭行政長官を代表とする香港マカオ各界代表団が北京を訪問した際、習近平主席が「急不得、慢不得」「明日復明日、明日何其多」と述べたという。「何事もすぐにはできないが、その気にならなければいつまでたってもできはしない」という意味らしいが、同席した団員は「23条立法」が進まないことへの叱責(しっせき)だとピンときた。 23条立法とは、返還後に香港政府が制定するよう基本法(香港の憲法に相当)23条に定められた、政権転覆や国家分裂の反体制行為を禁じる「国家安全条例」のことである。2003年に当時の董建華(とう・けんか)行政長官がやはり強引に成立を図ろうとしたが、50万人デモに遭い、撤回を迫られ廃案となった。これで「死に体」となった董長官は体面を保つ形で05年、体調悪化を理由に辞任した。 これ以来、23条立法はどの長官も手が付けられず、林鄭行政長官も前述のように社会の亀裂修復を優先させ世論を二分する条例制定は後回しにしていたが、締め付けを強める習主席は2015年7月、国内で国家安全法を成立させ、香港にも同条例の制定を強く迫っていた。主席の不興を買った林鄭行政長官の心中は想像に余りある。こうした状況の中で課された逃亡犯条例の処理は速やかに終えなければならないのである。 今回の逃亡犯条例「改正」の直接のきっかけとなった台湾での殺人事件については、容疑者の身柄引き渡しを求める被害者遺族の声や、このままでは香港が犯罪者の逃亡先となって治安悪化を引き起こすという大義名分があり、中国政府も強行して大きな問題はないと甘く見ていた節がある。多少は紛糾しても最後は数で押し切れると思ったのだろう。 5月21日には香港を担当する中国の韓正副首相(政治局常務委員序列7位)が、北京を訪問した香港からの代表団にわざわざ同条例改正を支持すると明言、共産党の香港出先機関(中聯弁)は現地財界や親中派議員に踏み絵を踏ませ、引き締めに躍起となる。 しかし、経済界はそもそも香港の閉塞感を強めるような同条例には乗り気ではなく、親中派議員も今年秋には区議会議員選挙、来年秋は立法会議員選挙を控え、これだけ市民の反対の強い案件で目立ちたくはない(2003年秋の区議会選では、国家安全条例に賛成した親中派が歴史的大敗を喫した)。表面上は支持せざるをえないが、心の中では政府が撤回してくれないかと期待しているのである。体を張って長官を守るべき側近はその答弁能力を見ても何とも頼りない。香港の政府本部庁舎で記者会見を終え、退出する林鄭月娥行政長官=6月18日(共同) こうした戦意の乏しい兵を率いながら林鄭行政長官は9日のデモ後も強気な発言に終始した。月末の20カ国・地域首脳会合(G20)前に決着をつけておくことが必要とされたのだろう。予定通りに審議強行を表明していたが、行政会議(行政長官の諮問機関)トップや政府OBが再考を進言するなど情勢判断の誤りが誰の目から見ても明らかになった。 任期を3年残して完全に求心力を失った長官に対し、勢いづく批判勢力はその首に狙いを定める。しかし、中国も行政長官の執政能力に疑いを抱きながらもここでやすやすと首を差し出すわけにはいかない。国家安全条例を成立させるまでは退くことも許されないのである。■習近平はなぜ金正恩に6年間の「借り」を返す気になったのか■習近平独裁に痛撃、中国経済「大失速」が意味するもの■習近平「終身独裁」で中国の自滅は確実になった

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    火炎瓶投げ込まれた香港デモ 警察はマフィアの関与示唆

    囲気で行われていたが、このところデモ隊側が暴力的になっているとの指摘もある。2014年の雨傘運動では中国側が香港マフィアを雇って、わざと暴力事件を起こすように仕向けるなど、民主派勢力のイメージを悪化させる戦術も使われていた。米国政府関連の報道機関「ラジオ・フリー・アジア(RFA)」が報じた。 香港では6月4日の天安門事件30周年の犠牲者追悼キャンドル集会には15万人が参加。その後の9日の改正案反対デモには100万人以上の市民が集まった。デモ参加者が100万人以上になるのは、1997年の香港返還反対デモ以来、初めて。 このデモのさなかの9日午後3時ごろ、香港中心部のパオマティ警察署に、午後4時にはワンチャイ地区の香港警察本部にも火炎瓶が投げ込まれた。消火活動が早く、被害は軽微だった。 さらに、デモ終了後の10日未明、民主派グループの一部が立法会周辺に集結し、幹線道路を封鎖しようとして警官隊と衝突した。前出の通り、警察は数百人の身柄を拘束し、そのうち19人を逮捕した。他のメンバーは釈放されたが、衝突現場周辺で火炎瓶や刃物など数十点が押収された。 香港警察本部は11日、緊急記者会見を開いて、「このような物騒なものが押収されるのは初めてだ。これでは平和的なデモや集会でない。マフィア組織が関与しているとしか思えない。我々はマフィア専門の特殊部隊の出動も辞さない」と指摘した。不安定な状態は続く 香港情勢に詳しいジャーナリストの相馬勝氏は「平和的なデモのさなかに、警察署や警察本部に火炎瓶が投げ込まれるというのは、これまで聞いたことがない。長刀などの刃物の押収は2014年9月から12月までの雨傘運動で、民主派が占拠していた香港の下町、九龍地区のモンコックで見つかったことがある。モンコックは香港マフィアのアジトがあり、当時、中国政府がマフィアを雇って、騒動を煽動していたのではないかとうわさが流れたこともあるが、真相はいまだに藪の中だ」と指摘している。関連記事■韓国で女児の胸が大きくなる「性早熟症」、囁かれる原因■中国富豪男の夢「蒼井そらを1晩300万円でセッティングしろ」■中国人が接待で「女体盛り」を要求、要した費用は32万円■もし日韓戦わば… 軍事力の差は歴然だった■中国でケシの殻使った料理店が野放し、客は陽性反応&常連化

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    香港「雨傘運動の女神」が語る「200万人デモ、そして未来」

     6月12日、刑事事件の容疑者を中国本土に引き渡すことを可能にする「逃亡犯条例」に反対する市民が、立法会(議会)を取り囲んで幹線道路を占拠した。警察当局は市民に対し、催涙弾や鎮圧用の「ビーンバック弾」を使用し、香港政府によると72人の負傷者が出た。5年前の「雨傘運動」の際に「民主の女神」として有名になった香港バプテスト大学4年生の周庭(アグネス・チョウ)さん(22)に、大規模デモについて聞いた。「故郷のことを思うと、私も早く香港に戻って運動に加わりたい」──香港の市街地が再び“雨傘”で埋め尽くされた日、本誌・週刊ポストの取材に、周さんはそう口にした。 周さんは、2014年の「雨傘運動」を主導した1人。マイクを握って演説する愛らしいルックスの17歳は、「雨傘運動のアイドル」、「民主の女神」として一躍世界的に有名になった。今回、広報活動のために緊急来日した彼女が率直な思いを語った。──今日(取材当日の12日)も、香港では立法会(議会)を取り囲む大規模なデモが行われています。「普段は土日にデモを開催します。今日は平日なのに、日中から人が集まり続けているというのは驚くべきことです。 実は、今日は1000以上のお店が反対運動を応援するために休業しています。企業のストライキもありました。香港の人は日本人と似ていて仕事が大好きな人が多いので、ストライキはめったにないんです。しかも、労働者の権利を求めるためのストライキではなく、政治的なストライキというのは珍しい。 だから、今日の香港を自分の目で見たいんです。“香港にとって歴史的な日なのに、私は日本にいる”ということが、本当にもどかしいです」日本のアニメやアイドル好きの顔を持つ周さん──今回の改正案の危険性は、どんな点にあるのでしょうか?「可決されたら、中国共産党に批判的な香港人が中国に引き渡されるかもしれません。中国は公平透明なシステムもないし人権も命の保証もないので、みんなはそれを心配しています。中国では民主化を求める弁護士や運動家が、ある日突然、重い身体障害が一生残る状態になったり、亡くなってしまうことが少なからずありますから。 香港に来た外国人の安全にも大きく影響します。もともと香港は多くの海外企業が拠点を置く国際金融都市ということもあり、自由も人権の保障も公平な法律制度もありました。だけど、今後はそれが脅かされることになります。 日本人が当たり前に持っている権利を、私たちはどんどん失っていくことが悲しいですし、可決されたら香港はもう香港じゃなくなってしまう……」残るのは「絶望感」だけ残るのは「絶望感」だけ──5年前、あなたは「雨傘運動」のシンボル的な存在になった。「雨傘運動は、香港に今までなかった『普通選挙』という“新しいもの”を求める運動でした。デモ参加者の間でも“普通選挙って一体どういうものなのかわからない”という状態だったので、考え方には、それぞれ少しずつ違いがあったようにも思います」──79日間に及ぶデモは、具体的な成果を残せなかった。「でも今回は、何か新しいものを求めるわけではなく、“すでに存在している自由”が奪われようとしていることに対して立ち上がった。逃亡犯条例案を撤回させ、反対するという目標がはっきりしている。みんなが同じ目標を見ている分、熱気も団結力も違います」──もし改正案が可決されたら、その後には何が残りますか。「……絶望感です。もう誰もデモに参加しないという空気になるかもしれません。参加するだけで、中国に引き渡されるかもしれないわけですから」──周さんは2014年の雨傘運動の際に逮捕された経験がありますが、改正後に再び逮捕されるようなことがあったら?「収監されるだけならまだしも、中国に引き渡されたら……想像できないです。生きて出られるかすらも、わかりません。怖いですね」 香港政府は15日、逃亡犯条例の改正審議の「延期」を発表した。しかし、条例の「完全撤回」を求めて、16日には香港返還以来最大となる200万人近い市民が集まった。周さんは、激化する運動の先の未来を案じていた。関連記事■火炎瓶投げ込まれた香港デモ 警察はマフィアの関与示唆■香港と台湾 学生たちが戦っている真の相手は中国の権力者達■中国富豪男の夢「蒼井そらを1晩300万円でセッティングしろ」■中国でケシの殻使った料理店が野放し、客は陽性反応&常連化■中国人が接待で「女体盛り」を要求、要した費用は32万円

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    習近平はなぜ金正恩に6年間の「借り」を返す気になったのか

    美根慶樹(元日朝国交正常化交渉日本政府代表) 中国の習近平国家主席が6月20日から2日間、北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長の招きに応じて、同国を公式訪問することが発表された。習氏は13、14日の両日、キルギスの首都ビシケクで開催された、中国とロシア、インド、パキスタンと中央アジア4カ国で構成する上海協力機構(SCO)の首脳会議に出席した。 その際にインドのモディ首相や、オブザーバーであるイランのロウハニ大統領などと個別に会談したばかりである。また、習氏は28日から大阪で開催される20カ国・地域(G20)首脳会議(サミット)に出席する。 なぜ、習氏はこの多忙な時期に訪朝することになったのか。大胆に言えば、習氏の訪朝は、金氏に対する二つの「借り」を返すためである。 習氏は2012年11月に中国共産党の総書記に、13年3月には中国の国家主席に就任した。以来6年余りの時間が経過しているが、一度も北朝鮮に行っていなかった。 中国と北朝鮮は、1950年6月に始まった朝鮮戦争でともに戦ってから、「血で固められた同盟」だと言われるほど緊密な関係であった。そうであれば、習氏は就任後真っ先に訪朝してもよさそうだが、実際にはそうしなかった。 それどころか2014年7月、習氏はこともあろうに韓国を訪問した。朝鮮戦争の「戦友」であった北朝鮮よりも、敵方であった韓国を先に訪れたのである。これが習氏の一つ目の「借り」である。 二つ目の「借り」は、18年から続く東アジアの情勢変化から生まれた。特に、金氏と米国のトランプ大統領の首脳会談に象徴される米朝関係の変化に伴い、金氏が既に4回も中国を訪問したにもかかわらず、習氏は一度も訪朝していなかったことである。2018年5月、中国の習近平国家主席(右)と海岸を散歩しながら話し合う北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長=遼寧省大連(朝鮮通信=共同) 金氏は、トランプ氏との首脳会談と非核化交渉を控え、中国との関係を改善しようと考えた。こうして、対米交渉に経験の深い習氏からアドバイスを受け、支援も受けるために訪中を4回重ねたわけである。 最初は、米朝首脳会談の開催が煮詰まりつつあった同年3月、電撃的に訪中した。その後も5月、シンガポールの初会談後の6月と立て続けに訪中した。さらに、今年に入ってからも、ベトナム・ハノイでの2回目の首脳会談を見越してであろう、1月に訪中した。迫る「タイムリミット」 一方、習氏は中国を訪れた金氏を毎回大歓迎しながらも、自身が訪朝することはしなかった。このことについて、中朝の力関係を考えれば不思議ではないという見方もあるようだが、私はそう思わない。4回も一方が訪問しながら、他方が一度も訪問しないことは、主権国家間の関係において通常ありえないからだ。 習氏訪朝のタイミングについて、北朝鮮側ではやはり米国との関係が大きな要因だと思われる。2月の米朝会談が物別れに終わり、金氏は、米国との交渉は「段階的非核化」を基本方針とすることを党(労働党)と国家(最高人民会議)の最重要会議を開いて再確認したが、その後も米国との交渉は停滞したままである。 しかし、北朝鮮は米国に対して、今年末を非核化交渉の期限としており、あと半年しか残っていない。金氏がこの時点で習氏を迎えたいと希望したのは、対米交渉について再度協議すること、つまり5回目の協議が主要な目的の一つであったと思われる。 一方、習氏は「米中貿易戦争」の渦中で、トランプ氏から強い圧力を受けており、状況いかんでは決定的な対立に発展する危険もある。来るG20で行われることが決まった首脳会談が、この難問の帰趨を左右する重要な機会となる。 中国にとって、北朝鮮は米国との貿易問題で直接役立つわけではない。それでも、米国を悩ませている北朝鮮を味方につけておくことは何かと役に立つ。米朝首脳会談に臨む(左から)米国のボルトン大統領補佐官、ポンペオ国務長官、トランプ大統領と北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長(右端)=2019年2月28日、ハノイ(朝鮮中央通信=共同) 要するに、対米交渉の「カード」の一枚として使えると判断したのであろう。だからこそ、忙しい日程の中にありながら、あえてG20前に訪朝することにしたのであろう。 それに、習氏はG20において、香港で起きた「逃亡犯条例」改正案に抗議するデモ隊と警官隊の大規模な衝突に関し、各国から批判的に見られる恐れがある。事実、ポンペオ米国務長官が首脳会議の場で、この問題を習氏に問題提起すると明らかにしたばかりだ。そのため、あらゆる方法で防御を固めているものとみられる。訪朝で何を話し合う? 北朝鮮では、習氏と金氏が対米関係に加え、中朝関係をさらに進めていくことを確認し合うと見られる。中朝両国の関係は、冷戦の終了後、複雑な経緯があっただけに、二国間で話し合うべきことは少なくない。 北朝鮮の経済発展のために中国はどのような協力をできるかがその一つである。金氏は北朝鮮の経済を発展させようと国内各地で叱咤激励しており、訪中するたびに中国の経済改革関連施設を見学している。 中国共産党と朝鮮労働党の関係強化も重要な課題である。今回の習氏の訪朝発表は、中国側では共産党中央対外連絡部が行った。 日本にとって、習氏の北朝鮮訪問は第三国間の問題ではあるが、決して関係がないわけではない。冷戦終結とともに、朝鮮半島問題における南北両陣営の関係が複雑になったが、北朝鮮は中国、ロシア両国との関係を改善し、北側の陣営は再度強化されつつある。北側陣営の再強化は、すなわち冷戦状態に戻る危険性を秘めており、日本にとっても大きな問題である。 中国とロシアは西側諸国に対抗する勢力の「核」になっている。冒頭で述べたSCOはその表れである。2018年9月の東方経済フォーラムで握手する安倍首相(左)と中国の習近平国家主席 これら諸国は概して西側諸国と価値を共有せず、国連でも保守的なスタンスで動くことが多い。北側陣営強化の背景にはこのような事情もある。 一方、北朝鮮と米国は「恒久的平和」の確立と「新しい米朝関係」の樹立を目指すことに昨年行われたシンガポールの首脳会談で合意した。これが進めば、南北対立はさらに緩和される可能性もある。 米朝関係の進展により、南北両陣営の対立が緩和されるか。それとも、中朝関係の緊密化によって、南北対立が激化するか。現在の朝鮮半島においては、二つの可能性が併存していると見るべきであろう。■ 金正恩最愛の妹、将軍様の料理人も狙われた平壌「暗闘の季節」■ 習近平独裁に痛撃、中国経済「大失速」が意味するもの■ ファーウェイ敵視にも動じない中国「祖流我放」の冷めた感覚

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    米中貿易戦争「日本が得する」逆転シナリオが一つだけある

    熊野英生(第一生命経済研究所首席エコノミスト) トランプ米大統領が用意している中国への制裁関税第4弾が、日本経済を本格的不況に陥れるのではないかと恐れられている。これまでの制裁で、意識的に除外されてきたiPhoneや日用品に関税率が上乗せされることは、米国の消費者と中国の生産者、そして中国企業に部品や設備を供給している日本企業がダメージを受ける。 この対立を巡って、「トランプ大統領が理不尽だ」という側面をクローズアップすると、日本には何のメリットもないように感じられる。筆者も、自由貿易の考え方に基づいて、トランプ大統領のことは何一つ支持したくない。 しかし、今回、改めて米中対立の構図を吟味して、米中貿易戦争は日本企業にも何かメリットがあるのではないかという別の視点を考えてみた。その結果、日本にとってメリットのある展開は、中国にも中長期的なメリットがあると考え方を進めた。 すなわち、日本企業が長く悩まされてきたのが、数多くの中国の構造問題である。それは、欧米企業でも共通している。最も代表的なのは、巨大な産業補助金の問題である。日本では、経営が悪化した一部の電機メーカーは、経営の失敗と指弾され、メディアからバッシングされる。その一方で、背後に隠れた中国企業の補助金問題はほとんど語られることがない。補助金で支えられた企業と競争すると、日本企業は価格競争でも勝つことができないのだ。 これまで、中国の成長に期待して進出した多くの日本企業もまた苦労してきた。現地で合弁企業をつくると、そこでは思うように活動ができなかった。行政上の手続きはやや恣意(しい)的であり、海外製品が不利に扱われることもあった。G20首脳会合に合わせ、中国の習近平国家主席(左端)との会談に臨むトランプ米大統領(右端)=2018年12月1日、アルゼンチン・ブエノスアイレス(AP=共同) 最近は人件費の高騰によって、低コストのメリットも失われてきている。当初の期待が思うようにならなくなってきているのが実情である。従業員の離職率の高さや、労務管理の難しさもある。さらに、現地で人民元で稼いだ利益を外貨に戻して持ち出すことが制限されたり、債権回収が困難であるということもある。これらの課題は、日本とは違う国だから仕方がないという一言で片付けるわけにはいかないだろう。 今回、トランプ大統領は、特に技術移転の強要と、知的財産権の保護を求めている。米中協議の中で、これら中国特有の不公正なルールの是正が持ち出されていることは、日本企業がこれまで求めてきた問題の是正とも共通している。実は、中国でもこれらの構造問題が是正されることを望んでいる良識派は少なくない。例えば、中国でも知財に絡んだ訴訟は多く、今や中国は米国以上の訴訟大国とされる。こうした課題の解決は、中国企業にとってもメリットになるはずだ。習近平の「新しい秩序」 貿易戦争の緊張感が高まっていく中で、根拠のない楽観論があることも事実である。トランプ大統領は、強烈な圧力を中国にかけているが、楽観論者はそれは自作自演のアピールであり、それほど困った状態にはなるはずがないという。水面下で米国と中国は握っていて、時間がたつと、どこかで昔よりも良好な関係に戻るというのだ。 筆者はそうならないだろうし、それが望ましいことだとも思わない。対立がなくなる→経済の火種はなくなる→万事まるく収まる、という発想は正しくはない。中国ビジネスの抱える矛盾をそのまま看過することになるからだ。 中国の構造問題には、北朝鮮問題にも同じようなところがある。トランプ大統領は、北朝鮮に圧力をかけて金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長を対話の場に引きずり出した。今も交渉が決裂しないか、筆者はハラハラしてみている。この交渉の目的は北朝鮮の非核化である。米朝の緊張関係はなくなった方がよいと思うが、最終的な目標が達成されなくては意味がない。 おそらく習近平体制は歴代中国の政権の中で、厳しい改革を成し遂げる実力を持っている数少ない政権だろう。習主席が、これまで腐敗防止と綱紀粛正によって、国民から支持を得てきたことは周知の事実だろう。その対象を不公正な取引慣行やルールに向けて、新しい秩序をつくることは可能だと考えられる。 逆に、なぜ習主席はそれを行わずにいるのか。それは、公正なルールづくりよりも、中国企業が他国の技術を盗用することを見逃しながらでも、経済発展を優先したいと考えているからだろう。そのことは、先進国では許される行為ではないが、急速に大国化する中国にとっては必要悪と考えているのだろう。 多くの人は、トランプ大統領があまりに性急な貿易不均衡の是正を求めていることの間違いには気が付いていると思う。その一方で、中国もまた性急な経済発展を求めていて、それが公正なルールの順守を軽視する素地(そじ)を作っていることは見逃されやすくなってしまう。中国は、経済強国という夢を捨てて、もっと穏健な「普通の経済大国」を追求することを目指した方がよい。 時間をかけてでも、米国が訴える公正なルールづくりに大枠で賛同する方が、中国は日本や欧州の良識派を味方につけやすい。会談を前に握手する安倍晋三首相(左)と中国の習近平国家主席=2018年10月26日、中国・北京の釣魚台迎賓館(代表撮影・共同) 最後にもう一つ。中国経済は、現在、大きな曲がり角に来ている。これまでの人件費高騰に加えて、貿易戦争のようなリスクに直面して、以前よりも日本企業にとって魅力が感じられなくなっている。日本企業の中には、ベトナムやタイに生産拠点を移す動きもある。これまで問題を抱えながらも、中国への進出をしてきた日本企業が行動を変化させつつあるのだ。 おそらく、中国が公正な企業活動を目指して自己改革をすることは、再び日本企業にとって中国市場の魅力を高めることにつながるだろう。それを遅らせることは、日本や欧米企業の中国離れを加速させる。自己改革こそが中国のためにもなることを肝に銘じるべきだろう。■安倍外交85点の理由は「欧米と仲良く、中国と喧嘩せず」■「米国はもう崖っぷち」5G戦争、ファーウェイ排除のウラ側■米中貿易戦争の渦中で激化する韓国「謝罪ゲーム」のツケ

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    石平が警告、玉城デニー「中国一帯一路に沖縄活用」提案の危険度

    石平(評論家) 沖縄県の玉城デニー知事は4月26日の定例記者会見で、中国を訪問した際に行った胡春華(こ・しゅんか)副首相との会談内容を明らかにしたが、これはとんでもない問題発言である。 玉城知事は、河野洋平元外相が会長を務める日本国際貿易促進協会の訪中団の一員として同月16~19日に訪中し、会談した胡副首相に対し「中国政府の提唱する広域経済圏構想『一帯一路』に関する日本の出入り口として沖縄を活用してほしい」と提案したというのだ。そしてそれに対し、胡副首相は「沖縄を活用することに賛同する」と述べたという。 この玉城知事と胡副首相のやり取りを新聞報道で知ったとき、筆者はまず大きな違和感を覚えた。なぜなら玉城知事は言うまでもなく、沖縄という日本の一地方自治体の長である。 一方の胡副首相は当然、中国の副首相であり国を代表して日本の訪中団と会談している。このような席で、日本の一自治体の長が中国の副首相に対して何かを提案すること自体、すでに一般的な外交儀礼あるいは外交ルールから大きく逸脱している感じもする。そこでさらに問題となっているのは、玉城知事が胡副首相に対して「提案」した中身だ。日本の一地方である沖縄の「活用」を、外国政府に提案したからである。 このような「提案」はどう考えても、憲法に定められた地方自治権から大きく逸脱したものであろう。沖縄県は一自治体ではあるが、そもそも日本国の領土であり、日本国の一部である。沖縄県知事が日本の領土である沖縄の「活用」を外国政府に提案したり、相談したりするようなことは尋常ではない。それは軽く言えば悪質な越権行為だが、重く言えば自国の一部を外国に売り飛ばすような「売国行為」そのものではないか。中国の胡春華副首相(右)と会談する日本国際貿易促進協会会長の河野洋平元衆院議長(中央)、沖縄県の玉城デニー知事=2019年4月18日、北京の人民大会堂(共同) そして、よりによって玉城知事が提案したのは、中国の「一帯一路構想」における沖縄の「活用」だが、それはなおさら、危険な「売国行為」なのである。 悪名高い「一帯一路」は今、国際社会から「新植民地主義」あるいは「中国版植民地主義」として厳しく批判されている。欧米諸国の大半にそっぽを向かれ、アジア諸国の強い反発をも受けている。「玉城提案」の危険度 習近平政権肝いりのこの壮大な構想の一貫した手法と戦略的目標は、要するに、アジア地域などの発展途上国において中国政府主導の投資プロジェクトを展開し、これによって広範な地域を中国が頂点に立つ「中華経済圏」に取り込むことだ。 その一方、投資を受ける国々を借金漬けにした上で債権をチャラにするのと引き換えに、それらの国々の持つ戦略的拠点や一部の国家的主権を奪い取って我がものにしていくのである。 5月2日に米国防省が議会に提出した年次報告書で、中国が大経済圏構想「一帯一路」への投資を保護するため、世界各地に新たな軍事拠点を建設していくとの見通しを示したことからも分かるように、「一帯一路構想」の推進は中国の軍事戦略とも連携しており、「一帯一路」による「新植民地支配」は、中国による世界各地の軍事支配の確立にもつながるのだ。 このような覇権主義的な「一帯一路構想」を進めている中国政府に対して、沖縄の玉城知事が構想への「沖縄の活用」を申し出たことがどれほど危険な行為か、よく分かるであろう。 また、沖縄の特別な地政学的な位置と安全保障における重要性を鑑みれば、いわば「玉城提案」の危険度は深刻さを増すのだ。 地図を開けば分かるが、沖縄は台湾と並んで中国が完全突破しようとする第一列島線の中核をなす島である。そして沖縄には、中国の軍事的膨張と海洋侵略に対する最大の防波堤である米軍基地がある。 中国からすれば、沖縄から米軍基地さえ追い出すことができれば、自国のアジア支配戦略の最大の邪魔はこれで取り除かれる。その上で、沖縄を自国の海洋進出の拠点として「活用」できるのならば、それに越したことはないのであろう。巨大経済圏構想「一帯一路」をテーマにした国際会議の開幕式を終え、笑顔を見せながら引き揚げる中国の習近平国家主席(中央右)=2019年4月26日、北京(共同) こうして見ると、「沖縄を一帯一路に活用してほしい」という玉城知事からの提案ないし申し出は、本人はどういう意図であるかは関係なく、客観的に見れば中国政府の戦略的意図と全く合致しており、まさに沖縄知事の、沖縄知事による、中国のための「提案」でしかない。 もし、この危うい「提案」が現実なものとなれば、玉城知事と沖縄は確実に、中国の覇権主義的海洋戦略の推進に大いに貢献することになるだろう。そしてその結果、日本の安全保障とアジア太平洋地域の平和秩序が大きく損なわれることは間違いない。そんなことを許して良いのかと、私は一日本国民としては大いなる疑問を感じ、大きな危機感を覚えているのである。■米露を呑み込む中国の「一帯一路」 巨大利権に潜む習近平の大戦略■2049年「習近平の夢」は96歳で完成する■稲嶺恵一独白「『反対』だけでは沖縄の声は届かない」

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    新たなパートナーを探す英との接近、安倍首相の「戦略外交」

    」を含む違法な海上活動を警戒監視するためである。同時に、海洋進出、海洋での軍事行動を活発化させている中国を牽制するためでもあろう。 「質の高いインフラ」というのも暗に、中国の進めている「一帯一路」を批判しているとも考えられるし、「通信インフラ」での協力というのも、ファーウェイやZTE等中国の通信会社を政府の通信ネットから排除した米国にいち早く呼応した英国とそれに続いた日本との連携とも言えよう。2019年1月、ロンドンでの共同記者会見で、笑顔を見せる安倍首相と英国のメイ首相(共同) 今回発出された日英共同声明の第7項目には、次のような一文がある。「インド太平洋地域及び欧州において自衛隊及び英国軍の共同演習を増加する。我々は、将来のあり得べき交渉を見据え、日本国自衛隊と英国軍の共同運用・演習を円滑にするための行政上、政策上及び法律上の手続を改善する枠組みに引き続き取り組む」「日英準同盟」の発展も すなわち、日英共同演習は、インド太平洋地域のみならず、欧州でも行う可能性がある。また、日英防衛協力を深化させるために、必要な立法や政策立案を両国が行うことを努力することを明記した。 第7項目の末尾には、次のような記述もある。「将来の戦闘機及び空対空ミサイルに関する協力を探求する可能性を含め、将来の能力のため、防衛産業パートナーシップ及び政府間協働プロジェクトを進展させる」 日本は、新防衛装備移転3原則が制定されてからも特に具体的な案件が取り決められることはほぼなかったが、次世代戦闘機を含め、日英間の共同開発等、両国の防衛装備品協力への道が開かれた。太平洋を結ぶ日米同盟と、大西洋間の米英同盟を、さらに連携させるユーラシア大陸をまたぐ日英準同盟が形成されて行くのかもしれない。 英国は、EUからの離脱・Brexitを控え、新たなパートナーを探していることは間違いない。特に、普遍的価値や利益を共有し、経済力等国力も近い相手が望ましい。 日本も、厳しい北東アジアの環境の中で、日米同盟を基軸にしつつも、豪州、インド、英国、フランス等、新たな地平を広げたいと思っている。巨大化する中国や、核武装した北朝鮮、難しい交渉相手ロシア等に対処するには、自由民主主義、法の支配と人権等の共通の価値観を有する仲間を増やすことが、何よりの戦略外交と言えよう。

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    日本を狙う中国系「偽装難民」はこうして生まれる

    坂東忠信(外国人犯罪対策講師、作家)(青林堂『移民戦争』より) みなさんご存じの通り、アメリカは中国製品に関税をかけて自国内で売れないよう、実質的な中国製品の不買とも言える状態を作り出すという「経済戦争」に踏み込んでいます。これは既にマスコミも伝えている文字通りの「戦争」です。 そして、この戦争を小休止するとした昨年(2018年) 12 月1日のうちに、今度はファーウェイ創業者の娘で次期トップと目されていた孟晩舟氏が逮捕されました。その当事者であるトランプ大統領は、周辺諸国を巻き込みながら、どのレベルまでやると思いますか? そして習近平はどこら辺で降参すると思いますか? トランプさんはもちろん、習近平がきっちり謝罪して、アメリカが持つ国際的著作権の侵害をやめるだけでなく、その補償を勝ち取るまでやるでしょう。というより、二度と中国が台頭しないよう、アメリカ製品を買うだけの国にしたいはずです。日本に原爆を投下して70年以上も戦争しない国、というより「戦争できない国」にしたようにです。 しかし、国家主席の地位にある習近平が自分自身の実生活で、その締め上げの苦しさに気付くにはかなりの時間がかかるはずです。アメリカが求める経済的「完全降伏」を決断するまでには、相当な時間がかかります(そもそも中国人は謝罪しません。国交においては国民性を見るべきです)。当然ながら、経済混乱の末のさらなる治安悪化や、地方政府の崩壊、これに伴う少数民族の蜂起、人民の広範囲における暴力的なデモや暴動が発生する段階に至るでしょう。 当然、その状況が日本に報じられれば、日本滞在中の中国人たちはそんな自国に帰国できないことを理由に難民申請をします。在留する中長期滞在者(実質的には移民)75万人ほどと、旅行客などの短期滞在者を含めた100万〜150万人の中国人たちが、自国を帰国に値しない、もしくは帰国できない国であると判断したその時、彼らは一斉に難民申請を始めます。 日本には中国大混乱の報道から数日のうちに10万人前後の難民が発生し、その数は増え続けます。渡航するより先に国内から大量の難民が湧き出るのです。 日本が警戒すべきは2〜3万程度の海を渡ってくる難民ではなく、報道で湧き出す100万以上の国内難民なのです。日本の保守派の多くがトランプの政策に溜飲を下げ「もっとやれ〜!」と楽しそうに声援を送っていますが、政治家も政府も追従するばかりで、ほとんどの人が気付いていません。 この状況を、その時潰れかけた中国共産党が放置すると思いますか? しかも後から黒潮に乗って、福建省や上海から中華「ボートピープル」がやって来て上陸し、てんてこ舞いの警察や拡張しても追いつかない入管の手を易々とすり抜け、ツテを頼って潜伏して働き始め、その結果、海外での難民問題同様に、苦しくなれば善悪ではなく生死をかけて暴れる「暴徒ピープル」となるのは目に見えています。※画像はイメージ(ゲッティ・イメージズ) 私が中国大使なら、もう既にその時の準備を終わらせていますよ。具体的には各領事館を使って、日本に滞在し続けるための人権デモを画策し、同時にメディアが中国に不利益となる報道をさせないために、党中央に対し日本進出中の企業がメディア広告をふんだんに打てるよう援助を要請し、中国人留学生組織である中国人留学生学友会の幹部と頻繁に連絡を取って、即扇動可能なレベルにあることを日々点検・確認しつつ、日本人が容易に越えることができない言葉の壁をネットでも実生活でもフルに使い、混乱極まるであろう大陸ではなく、この日本に民族生存の権利や特権を確立します。スパイ防止法のない日本 もっともこの報道対策は既に確立しています。テレビ番組を支えるCMスポンサーのほぼ100%が東アジアに進出している大手企業であり、ちょっと考えただけでも、テレビ局がこうした企業を中国国内で危うい立場にさらすような番組を放映できないことくらいは、皆さんもお分かりのはずです。 電通によれば、平成29年の日本の広告費総額は6年連続でプラス成長して6兆3907億円に達しています。特に広告掲載度の高い上位10社は、どの企業も中国と関わりが深いのです。 普段接することの多い新聞・雑誌・テレビ・ラジオの四部門に費やされる広告費は全体の約半分、迂闊(うかつ)に中国現地関連企業の利益や安全を脅かす中国記事を放送・掲載すれば、中国政府の横暴や中国人民の暴力に恐れをなす企業が一斉に広告を引き上げ、メディア企業は広告収入がなくなる恐れがあるという社会経済の仕組みがあることを今一度考えてください。テレビで見たニュースを新聞で裏付けても、全く意味をなさないのです。 難民一つとってもこの状態です。そして我が国にはスパイ防止法がありません。それを良いことに、外国人が外患を作り出すため接近し、あるいは潜伏して活動し、日本人が内憂を助長して「犯罪」的な要素を含む「反日」活動を目の当たりにしながら何もすることができません。 各国に派遣されている大使は、その接受国の元首に対して派遣されており、外交交渉、全権代表としての条約の調印・署名、滞在する自国民の保護などを任務としているのですから、その国で自国民を守る義務があり、その権利は接受国(日本)政府でさえ不可侵です。 これと対立する日本の治安組織や、今後発生するかもしれない民間防衛実力団体が自国民に害を加えた場合、自国民保護を名目に有形力的な抵抗を合法化するため、全権を委任された国家政府の代表として「国防動員法」の部分動員発令を母国政府に促し、暴動による破壊活動に関しても法を裏付けとして合法化することを(いかにもそれができるかのように)宣伝・扇動し、最も組織化しやすい留学生の実力組織を中心に、民族のための一大勢力を作りたい……と私が大使ならそれくらいのことは普通に考えますよ。当たり前ですよ。私ならやります。 先進国G7のうちスパイ防止法に類する法を持たないのは日本だけで、これでよくG7に入っているものだと感心します。日本は明らかに「情報後進国」。先進国が後進国にODAなどの資金を援助するのはよくあることですが、情報後進国たる日本の一部勢力は「特定」先進諸国からODAとは違う「別の援助」を受けて我が国を後進国のままにし続けているのです。G7首脳会議に臨む各国首脳。手前右は安倍首相=2018年6月、カナダ・シャルルボワ(代表撮影・共同) そして日本人は、着々と進む反日工作に気づかないまま、最終的には難民化した100万人を超える中国系移民による武装蜂起さえ無防備のまま迎えてしまうかもしれません。 それはまさにアメリカが経済的に中国に仕掛けた「経済戦争」のような移民で仕掛ける「移民戦争」。その時が目前に迫りながら全くと言っていいほどそれに気づいていない情況にあるということをご理解いただければと思います。ばんどう・ただのぶ 宮城県出身。警視庁で交番勤務員、機動隊員を経て北京語通訳捜査官を歴任し、警視庁本部、新宿、池袋署などで中国人犯罪者や参考人を扱う。平成15年に退職後、地方司法通訳、作家として活動し、外国人犯罪の実態をわかりやすくタブーに切り込みながら、さまざまな角度で分析、問題提起している。著書に『寄生難民』(青林堂)。

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    尖閣 自衛隊が動けば中国は即座に人民解放軍を投入する準備

     尖閣国有化から5年。いまも頻発する中国海警の領海侵犯に日本は「いつものこと」とばかりに麻痺しているが、事態は深刻だ。2016年までは尖閣周辺の日本領海やそのすぐ外側で日本の主権の及ぶ接続水域に侵入してくる中国海警の武装艦艇はいつも2隻だった。だが2017年の今は必ず4隻の行動をともにする艦隊となっているのだ。産経新聞ワシントン駐在客員特派員の古森義久氏が警鐘を鳴らす。* * * 中国の軍事研究を専門とするワシントンの民間研究機関「国際評価戦略センター」のリチャード・フィッシャー研究員は語った。「いまの中国海警の尖閣攻勢はすぐ背後に控えた海軍と一体の尖閣奪取の軍事能力向上の演習であるとともに、日本側の防衛能力や意思を探っている。中国軍は大型ヘリ、潜水艦、新型ホバークラフトを使っての尖閣奇襲占拠作戦も立てている。長期には尖閣占拠により沖縄を含む琉球諸島の制覇から東シナ海全体の覇権をももくろんでいる」 中国の海洋戦略研究では米国有数の権威とされるトシ・ヨシハラ氏に中国側の当面の狙いについてまず聞いた。日系米人の同氏は米海軍大学教授を長年務め、今年はじめからワシントンの主要防衛問題シンクタンク「戦略予算評価センター」の上級研究員である。「中国はトランプ政権が尖閣防衛の意思を明確にした以後も4隻の艦隊で毎月3、4回、尖閣の日本領海や接続水域に侵入しているが、日本側の尖閣の施政権を無効にみせることが当面の目標だろう。中国が自国の“水域”や“領土”としてこれだけ自由に出入りするのだから、日本側には主権はもちろん施政権もないというイメージを国際的に誇示することだ。施政権は中国にあるという公式宣言を間もなくするかもしれない」「中国は当面は侵入を繰り返し、日本側の海上保安庁を消耗させることに力を入れている。日中の消耗戦なのだ。中国側はいまは沿岸警備隊レベルの海警を使って侵入しているが、日本側がもし自衛隊を動員すれば、ただちに『日本の挑発』を口実に人民解放軍を投入する準備もしているはずだ」 だから日本は尖閣のために中国との本格的な軍事衝突を覚悟していない限りは、中国側の挑発に乗らないことが賢明だという。では日本はどうすればよいのか。ヨシハラ氏は語った。「アメリカの抑止力も重要だが、当面は日本が中国側の尖閣への侵入や攻撃に自力で対応し、撃退できる能力と意思を示すことが中国の実際の軍事作戦を抑える最大の効果があるだろう」※写真はイメージです(ゲッティイメージズ) 尖閣周辺を警戒している海上保安庁の能力増強はもちろん、実際に投入することはなくとも海上自衛隊をはじめとする防衛力の強化、そしてその覚悟が必要だというのだ。 尖閣問題こそが、「国難」と呼ぶにふさわしい国家の危機を私たちに突きつけているのである。【PROFILE】古森義久●慶應義塾大学経済学部卒業。毎日新聞を経て、産経新聞に入社。ロンドン支局長、ワシントン支局長、中国総局長などを経て、2013年からワシントン駐在客員特派員。2015年より麗澤大学特別教授を兼務。近著に『戦争がイヤなら憲法を変えなさい』(飛鳥新社)。関連記事■ 中国尖閣攻勢は米にとって「日本の国難」との深刻な懸念■ 中国の対日工作機関 河野外相と翁長知事に伸ばした魔の手■ 中国工作機関が尖閣触手で宮古島観光協会「恐ろしくなった」■ 日中友好謳う謎の一行が翁長・沖縄知事訪問 日本分断画策か■ 性善説に基づく出産一時金42万円等 健康保険を外国人が乱用

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    中国「ゲノム編集」ベビーは許されるか

    中国広東省の南方科技大の賀建奎・元副教授がゲノム編集で遺伝子を改変した受精卵を使い、世界で初めて双子の女児を誕生させた。倫理面や安全性への懸念が広がる中、研究者の功名心や利益目的との報道も出て、まさに批判一辺倒である。負の側面ばかりが注目されるゲノム研究。本当に議論の余地もないのか。

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    中国「ゲノム編集」ベビーを悪行と決めつけていいのか?

    された第2回国際ヒトゲノム編集サミットで世界を驚愕(きょうがく)させた臨床研究報告に聞き入っていた。中国の賀建奎(が・けんけい)南方科技大学副教授がゲノム編集を使い、体外でヒト受精卵(胚)の、ある遺伝子を意図して「変異」させ、双子の女児、ルルとナナが無事誕生したと報告したからである。 後の報道によれば、中国当局は遺伝子改変で双子が誕生した事実を認定した。賀副教授は国外研究者を含む研究チームを作り、倫理審査書類をねつ造し、自ら研究資金を調達することで監査をすり抜けて、安全性が疑われるヒト遺伝子改変を実行したと糾弾された。すなわち、この事件は研究倫理と生命倫理の問題がある。 賀副教授は意図してCCR5遺伝子を変異させたが、その目的は生まれた子にエイズウイルス(HIV)感染抵抗性を付与することと主張した。双子の父マークはエイズ患者で、母グレースと相談し、わが子が先々遭遇しうるHIV感染に抵抗できるようにゲノム編集に同意したという。 しかし、ゲノム編集を使って生前にエイズ予防をしなくても、ルルとナナに無防備なセックスなどを控えるように教育すれば、大方のリスクは回避できる。医学的に切実なニーズもないのに実験的な生殖技術を使って「デザイナーベビー」を作出したと指弾する報道が出たゆえんである。 ヒト胚ゲノム編集の論文はこれまで10報あり、その内9論文に中国の研究者が関与し、多くは中国政府の研究助成を受けている。9報はどれも、将来、遺伝子改変で子における疾患発症を目指す基礎研究の論文である。中国では遺伝子改変人間の作出は禁止されていたが、その罰則条項がない生殖医療指針による規制にも懐疑の目が向けられた。※写真はイメージです(GettyImages) よって、ほとんどの国内外の報道は賀副教授の資質を、「デザイナーベビー」の作出を、ひいては中国における科学振興と規制を批判した。 しかし、冷静に事態を見つめると、ルルとナナを「デザイナーベビー」と烙印(らくいん)を押すのは、行き過ぎである。欧米に先天的にCCR5変異を持つ人は実在し、HIV抵抗性を除けば、一般の人々とかけ離れた外見や特性を持つわけではない。過熱報道で見失う「本質」 また、賀副教授の主張によれば、双子は「健康」に生まれたという。1978年、英国で初の体外受精児、ルイーズ・ジョイ・ブラウンが誕生したときも同様の騒動があった。科学界から先天異常が深刻に懸念されたが、誕生したルイーズはごく普通の女の赤ちゃんだった。母親のレスリーは卵管閉塞(へいそく)で胎内受精が起こらず、不妊であった。体外受精がなければ、今は2児の母であるルイーズはこの世に存在しなかった。 日本社会は不妊治療として体外受精や顕微授精を受け入れてきた。2015年の総治療回数は42万4151回とおそらく世界トップクラスだ。一方、ルイーズに懸念された先天異常があったとしたら、今日のような生殖医療の隆盛は起きなかったかもしれない。 日本から中国の道徳観や規制を直截(ちょくさい)に批判することは実は難しい。まず、日本の道徳の概念は中国の儒教や老荘思想と西洋のモラルと二つの起源を有する事実がある。 また、中国と同様、日本でも遺伝子改変児の作出の規制は強制力のある法規制ではなく、行政指針をとる現状がある。具体的には「遺伝子治療等臨床研究に関する指針第七 生殖細胞等の遺伝的改変の禁止」であるが、これは遺伝子導入のみが対象であり、賀副教授のようにゲノム編集の酵素をタンパク質やmRNAの形態で胚に注入する場合は対象とはならない。 ヒトゲノムは細胞の中で核以外にミトコンドリアにもあるが、厚生労働省は近年大阪で実施されたミトコンドリアゲノムを改変する不妊治療の臨床研究を擁護した経緯がある。さらに、サミット後の12月6日、参議院厚生労働委員会で、薬師寺道代参院議員(無所属)がゲノム編集の生殖利用を法的禁止にすることを求めたが、「法の改正は困難であり、進展が早い医療分野は指針が妥当」と厚生労働省は抗弁した。国際会議で質問に答える中国の南方科技大の賀建奎副教授=2018年11月、香港(共同) 今はヒトゲノム編集を禁止とするが、生殖のイノベーションが見通せる時がいずれ到来することを予期し、当面は国会審議を経ずに速やかに解禁できる行政指針で様子をみていく意向なのかもしれない。 過熱気味の報道に気を取られすぎると、ヒト生殖、家族形成と医療の関係の本質を見失う。賀副教授のゲノム編集の生殖利用が不適切であったなら、他にどのような利用が考えられるだろうか。生殖イノベーションの前に 配偶子提供制度が未確立の日本では、多くの場合、夫婦間で不妊治療を繰り返している。体外受精を受けて出産に至った女性の割合はわずか11・7%だった(2015年)。その主な理由として染色体異常などを特徴とする卵子老化が指摘されるが、遺伝子変異による不妊もありそうだ。 賀副教授はサミットに先立つ11月25日、YouTubeで双子誕生を世にアピールし始めた。翌26日、私はその動画を見たというある男性からEメールで相談を受けた。彼の妻はTUBB8遺伝子の変異が原因で体外受精を3回受けても胚が育たないため、夫婦でゲノム編集を伴う生殖医療研究に参加したいがどう思うか、という内容であった。難治不妊を克服するためのゲノム編集の臨床利用、これは日本に現在存在する切実な生殖ニーズを満たすかもしれない。 しかし、この生殖イノベーションに進む前に、合わせて検討すべきアジェンダ(課題)がある。それは生殖医療と「両親と子の遺伝的つながり」のバランスの問題だ。第三者からの配偶子の提供を受ければ、難治不妊は解消できるが、片方の親と子で遺伝的つながりがない。しかし、特別養子縁組制度があることを考えると遺伝的つながりがない親子に問題があるとは言えまい。 一方、配偶子提供自体、問題が多い。 目下、法務省で親子関係を明確にすべく検討が進んでいるが、配偶子提供者の個人情報保護、ヒト配偶子の道具化、女性から数限られた卵子の搾取、子の出自を知る権利などの問題は残置されたままだ。欧州などの国々では配偶子提供の法制度を既に整えているが、日本は本件について完全解決をみないままゲノム編集を伴う生殖医療に進むべきだろうか。 私たちは誰一人として自ら同意して誕生していない。私たちの誕生は全て親たちが決めたのだ。ゆえに夫婦で同意書にサインすれば生殖医療を受けることができる。 では、急速に技術進展し、リスクが低減しつつあるゲノム編集を生殖医療として使う場合、どのような目的なら夫婦の同意で実施が許容されるのだろうか。その利用目的は現在の日本社会の道徳観にかない、また切実なものだろうか。 そもそも、このような受精卵の遺伝子を操作する生殖医療を解禁した場合、生まれる子の健康や福祉を損なうリスクは低いと言えるのか。一人でも先天異常の子が生まれたら、どうすればいいのか。一方、配偶子提供制度の確立に本腰を入れなくていいのか。メディアのヘッドラインで思考停止に陥らず、深く考えたいものである。■「日本人ノーベル賞でお祭り騒ぎ」メディアの思考停止が目に余る■28歳の女医があえて「Dr.コトー」を目指したワケ■麻生さん、病気に「自己責任論」を持ち出すのはやっぱり酷です

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    ゲノム双子「カリスマ研究者」を潰せない中国当局の戸惑い

    富坂聰(ジャーナリスト、拓殖大学海外事情研究所教授) さすがは中国、そんなことまでやっちゃうのか! 第一報に接した日本の読者のほとんどは、そんな感想を抱いたに違いない。 2018年11月26日、世界を駆け巡った「エイズウイルス(HIV)の免疫を持つ双子誕生」のニュースは衝撃だった。中国の研究者で、南方科技大学の賀建奎(が・けんけい)副教授は、生物の細胞が持つ全遺伝情報(ゲノム)の中で、狙った遺伝子を自由自在に改変する「ゲノム編集」技術を使うことで父親のHIVが細胞に入らないようにした双子の女児、ルルとナナを誕生させたと発表した。 ゲノム編集を人間に施すことは、技術的には可能であっても、安全性に加えて倫理の点からも課題は多く、「越えてはならない一線」と広く認識されてきた。その倫理の壁をやすやすと飛び越えてしまった中国の研究者に対して、世界から非難が集中した。 早い段階で、当事者である賀氏にインタビューし、記事を配信したAP通信は、各国の主要な研究者がそろって否定的な見解を示したことを紹介した。日本の反応も同様で、12月4日には「日本ゲノム編集学会」が「倫理規範上も大きな問題で国際的な指針にも違反した行為に強い懸念を表明する」という声明を出した。 こうした反応は、むしろ織り込み済みだったようにも思えるのだが、興味深かったのは、発表当初から中国のメディアまでが否定的なニュアンスで扱ったことだ。 AP通信の記事を受けた『環球時報』などは「中国人による驚愕(きょうがく)の実験に 外国メディアもショック!」(ウェブ版、11月26日付)の記事の中で、世界各国からさまざまな問題が指摘されていることを紹介した。それだけでなく、わざわざ広東省衛生健康委員会と深圳(しんせん)市医学倫理専門家委員会が、それぞれ組織を挙げてこの問題を調査し、後日その結果を公表すると宣した公告を載せたのである。中央政府が賀氏に対する調査を省政府に指示したとされる。中国深圳にある南方科技大=2018年11月(共同) 賀氏の所属する南方科技大も「(研究は)大学外で報告なく行われたことで、倫理と学問的規範に違反している」との声明を発表。中国を代表する科学者122人も連名で賀氏を批判した。当局「戸惑い」のワケ 『環球時報』は、いわゆる「左派系」(日本でいう「右派」)に分類されるメディアで、外国に対する厳しい論調が持ち味の国際情報紙だ。もし、賀氏の研究が誇るべき成果であれば、外国の反応や他の国内メディアの反応がどうであれ、その功績を称揚する論陣を張ったはずだ。賀氏の研究成果は、まさに四面楚歌(そか)という展開になったのである。 あるメディア関係者は「こうした場合、次に考えられるのは賀氏が公表した研究が虚偽であったと発表されることや、何らかのトラブルで彼が逮捕される展開です」と話す。 ニュースが拡散した直後には「実際に誕生した嬰児(えいじ)が公開されていない」といった批判も多く、どの研究者も「もし本当なら…」という断りを入れていたことが印象的であった。また、騒動から約1週間後に報じた香港紙は、賀氏が大学当局から軟禁されているというショッキングな記事を掲載した。世界から脚光を浴びた賀氏の周りに、暗雲が立ち込めるようであった。 本来であれば、中国でお決まりの「消息不明」から「逮捕」という流れに向かっていくことになる。だが、発覚当初、当局はそのつもりではなかったらしい。 「実は、今回の騒動で戸惑っているのは当局の方だったのです。研究者や専門機関からの反応は確かにネガティブなものが目立つのですが、国民の賀氏への支持は極めて高いのです。海外の反応は気にしつつも、何が何でも彼を処分するといった雰囲気ではありませんでした」 困惑ぶりをこう振り返った党機関紙の記者がさらに続ける。「そもそも賀氏は、この騒動が起きる前から有名な研究者です。米国でも実績を残したことから、中国の未来を担う一人と目されています。特に中国が国として力を入れていこうとしている最先端の分野を担い、同時に会社も8社ほど立ち上げている『若者のカリスマ』ですから。最初から、彼に対して『潰し』ありきの選択はできなかったのでしょう」 AP通信のインタビューの中で、賀氏は「私の責任は重大だと感じている。単に、初めてのケースというだけでなく、彼女を一つの成功例としていかなければならい」と語り、「もし予想外の副作用が出た場合は、その痛みを共有して全責任を負う」と語っていた。折しも、同じ11月末に中国のエイズ感染者が85万人に達したと報じられたのは、何かの因縁だろうか。2018年11月、香港で開かれた国際会議で講演する中国・南方科技大の賀建奎副教授(共同) 2019年に入って、広東省当局の調査結果が公表され、双子誕生のみならず、別の女性1人も妊娠中であることを確認した。賀氏の行為も「自らの名誉と利益のため」と断罪され、立件に向けて公安機関に送致されると、国営新華社通信が報じた。当局の認定により、お決まりの方向に進むことは避けられなくなったのである。■ ファーウェイ敵視にも動じない中国「祖流我放」の冷めた感覚■ 「習近平独裁」を中国人はなぜ歓迎するのか■ ファン・ビンビン巨額脱税、中国当局が狙い撃つ人気女優の利用価値

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    「ゲノム双子誕生」中国を批判、周回遅れの日本が言える立場か

    (医療ガバナンス研究所理事長)  ゲノム編集の在り方が世間の関心を集めている。きっかけは昨年11月、中国南方科技大学の賀建奎(が・けんけい)副教授が、世界で初めてゲノム編集で遺伝子を改変した双子の赤ちゃんを作り出したと発表したことだった。 この行為の妥当性については、既に多くの意見が寄せられている。日本でも報道され、ご存じの方も多いだろう。だが、多くの日本のメディアは、中国の研究者を倫理的側面から批判した。一方で西側先進国の科学研究に一刻も早く追いつこうとした中国の焦りを指摘した報道もある。 私は、一連の報道は妥当だと考える。ただ、今回の件では、中国を批判するだけでいいのだろうかと疑問に思う。私は今こそ、ゲノム編集技術の基礎となる「ゲノム研究」の在り方について議論すべきだと考えるが、そのような指摘は残念ながら皆無である。 ゲノム研究を推し進める原動力は、個別化医療の推進だ。個別化医療とは、主にがんの診療分野で、がんのゲノム情報に基づき治療法を変更することである。この診断・治療法が普及すれば、多くのがん患者が正確に診断され、適切な治療を受けられるようになる。副作用を減らし、より高い治療効果も期待できる。 近年、個別化医療が急速に進歩した理由はゲノムシーケンス(DNAの配列決定)技術の急速な発達にある。1990年に米国が主導して始まったヒトゲノム計画の完遂には、13年の歳月と30億ドルの予算を要したが、最近では数時間、1千ドル程度で解読することが可能になった。 近年は中国企業なども積極的に参入し、競争が激しい。コストは半額以下になるとも言われる。今回、問題となったゲノム修復技術は、その背景を知れば見方が変わってくる。 このような技術革新は、医療業界のパワー・ポリティクス(力の政治)に影響を与えた。具体的には製薬企業や検査メーカーが仕切る領域にIT企業が参入するようになった。最初の標的は遺伝子ビジネスだった。米国では「23andMe」をはじめとした複数の遺伝子検査会社が、DTC(消費者への直接販売)による遺伝子検査を始めた。ちなみに、同社の株主はグーグル創業者の妻である。 また、わが国でもDeNA社が、2014年8月から同様のサービスを開始した。このサービスを利用すれば、唾液を採取して検査会社に送るだけで、がんや糖尿病などにかかるリスクや、肥満や薄毛の体質などが解析できる。費用は検査項目によって異なるが、おおよそ1~3万円だ。 このような成果は当然ながら、がん医療にも応用できる。※写真はイメージ(ゲッティ・イメージズ) 2014年には米国で「マイ・パスウェイ試験」という多施設共同臨床研究が始まった。この臨床研究では、手術や細胞の一部を切り取って調べる「生検」などで患者から採取したがん組織を用いて、「HER2」「EGFR」「BRAF」「ヘッジホッグシグナル伝達系遺伝子」という4種類の遺伝子の変異を調べた。そして、遺伝子の変異の状況に併せて、分子標的治療薬「トラスツズマブ」や「ベムラフェニブ」などの投与を決めた。難病治癒に貢献 個別化医療の進歩は、これだけではない。特定の遺伝子だけでなく、すべてのゲノム配列を分析し、難病の診断や治療に役立てようという動きも始まっている。 例えば、米国のニコラス・ヴォルカー君という4歳児のケースだ。がんではないが、診断・治療の過程が興味深いのでご紹介したい。ヴォルカー君は、出生時より下痢、血便などの腸炎を繰り返していた。さまざまな病院を受診したが、「原因不明の難病」として対症的に治療されただけだった。 2009年、米ウィスコンシン医科大学の研究者たちは、ヴォルカー君の全エクソーム解析(全遺伝子解析)を行い、腸を細菌の攻撃から守る働きに関係していると考えられている「XIAP遺伝子」の変異であることを突き止めた。腸炎の原因は先天性の免疫異常だったのである。 ヴォルカー君は臍帯血(さいたいけつ)移植を受け、その後病気は治癒した。全遺伝子解析を受けていなければ、「原因不明の難病」として、遅かれ早かれ命を落としていただろう。 ヴォルカー君は全遺伝子解析が救命した世界初の症例として注目を集めた。米紙「ミルウォーキー・ジャーナル・センティネル」の取材班は2010年12月にこのニュースを報じ、翌年ピューリッツァー賞を受賞した。 では、日本の状況はどうだろうか。昨年12月、厚生労働省の薬事・食品衛生審議会医療機器・体外診断薬部会は、シスメックス社が承認申請していた遺伝子変異解析キット「オンコガイドNCCオンコパネルシステム」の承認を了承した。 これは、同社が国立がん研究センターと共同で、がんに関する複数の遺伝子を一括で調べる「パネル検査」(パネルシーケンス)だ。※写真はイメージ(ゲッティ・イメージズ) もう一つ、中外製薬が米ファウンデーション・メディシン社から導入した「FoundationOneCDxがんゲノムプロファイル」という同様の検査も承認が了承された。パネル検査が保険適用になれば、多くのがん患者が遺伝子検査を受け、その結果に基づいた効果の高い抗がん剤治療を受けられるようになる。 しかしながら、今回の承認では、使用は一部の施設に限定され、受診のハードルは高い。対象患者が原発不明がん、標準治療のない希少がん、標準治療が終了または終了が見込まれる「固形がん」で全身状態が日常生活に支障のないレベルの元気な患者という条件がつく。全ての患者が遺伝子パネル検査を受けられるわけではない。 以上の通り、わが国はパネル検査がようやく始まったところだが、果たしてパネル検査だけで十分と言えるだろうか。周回遅れの日本 前出の米ウィスコンシン医大の研究チームで、全遺伝子シーケンスにより発見された約5千の変異を半年間かけて、XIAP遺伝子の変異が原因であることを突き止めたのは、リズ・ワーシー氏だ。 同氏は2017年3月に東大医科学研究所を訪れ、講演している。彼の講演に参加した井元清哉・東大医科研教授は「(冒頭に紹介したパネルシークエンスも全ゲノムシークエンスも)両方をやっている彼らが、全ゲノムシーケンスを推奨していたのは示唆に富みました」という。 実は、パネルシーケンスは、半分以上の関連遺伝子を見逃してしまうことが分かっている。全ての遺伝子を解析できる全ゲノムシーケンスや全遺伝子シーケンスと、特定の遺伝子だけを解析するパネルシーケンスのポテンシャルの差は明らかである。 世界では、ゲノムにとどまらず、全クリプトーム(全転写産物、RNAのこと)解析の臨床応用が始まっている。昨年12月、米ニューヨークゲノムセンターは、全ゲノム解析と全トランスクリプトーム解析を組み合わせたサービスを開始すると発表した。 一方で、パネルシーケンスがようやく承認される見通しとなったわが国は、世界の最先端から「周回遅れ」と言っていい。遺伝子修復ベビーが批判を浴びた中国は、この分野で最先端を走っている。今後、この差はますます広がるだろう。その理由は二つある。 まずは、個別化医療の推進に必須な「情報工学者」の不足である。今や世界のゲノム研究を推し進めるのは、医師ではなく情報工学者だ。 既に知られた遺伝子変異に対しては、それに対する治療法も決まっており、どの医師でも判断できる。しかし、それ以外の遺伝子変異が見つかった場合にどう対処するのか、医師だけでは判断できない。その遺伝子の役割、変異によって引き起こされる病態について、あらゆる論文データを検討しなければならないからだ。 わが国のゲノム研究の中心は、理化学研究所と東大医科学研究所のチームだ。現在のリーダーは情報工学者である宮野悟・東大医科研ヒトゲノム解析センター長だが、2013年には従来の治療が効かない白血病患者の全遺伝子を解読し、IBMの人工知能ワトソン(質問応答システム)を用いて、患者に最適な治療法を提案した。※写真はイメージ(ゲッティ・イメージズ) この患者の治療は劇的に反応した。これは「人工知能が救命した最初の患者」として報じられたが、このプロジェクトをリードしたのが宮野教授である。前出の井元教授の上司でもある。宮野教授は九州大を卒業した数学者であり、井元教授も九大を卒業した統計家だ。 2人とも医師ではない。今後、個別化医療の研究を進めるには、情報工学の専門家と医師が協同しなければならない。ところが、医学部や医学系研究所における情報工学者のポストは圧倒的に少ない。財政難の国立大学で、医学部に情報工学者のポストを新設するのは難しい。医学部と情報系の学部の交流を加速させるしかないが、昨今の不祥事をみても明らかなように医学部は閉鎖的だ。現状では難しいと言わざるを得ない。変わるがん治療のパラダイム むろん、政治リーダーの見識も不可欠である。米国でがんの個別化医療を推進したのは、バラク・オバマ前大統領だ。彼は自らが主導した2016年度予算で、約2億1500万ドルを「プレシジョンメディスン(精密医療)」に投資した。これはがんの撲滅を目指す「ムーンショット計画」の一環だ。 「プレシジョンメディスン」とは、ゲノム情報などに基づき、最適な治療方法を最適なタイミングで提供することだ。個別化医療の発展形である。特定のがんに対して、特定の抗がん剤をパッケージで投与する従来型の「標準療法」とは対極の考え方である。 個別化医療にとって重要なのは、患者の状況を正確に把握することに尽きる。その一つががんのゲノム情報だが、もう一つは病状及び治療効果の判定だ。この点で注目すべきは「リキッドバイオプシー」という新規技術である。 リキッドバイオプシーとは、血液などの体液のサンプルを用いて、診断や治療効果の判定を行う手法である。ゲノム解析を行うことも可能だ。従来の生検と比べて、はるかに低い侵襲で大きなデータを入手できる。また、患者の状態によっては手術や生検ができないケースも多々あるが、血液検査であれば誰でも簡単にできる。 ただ、この方法には高度な技術を要する。血液中を循環する腫瘍細胞及び腫瘍細胞由来のDNAなどの物質は、ごくわずかだからだ。腫瘍細胞の場合、通常1ミリリットルの血液中に10細胞以下しか存在しない。 とはいえ、世界中の企業が現在、技術開発にしのぎを削っている。既にいくつかの興味深い研究成果も報告されている。 米ジョンズ・ホプキンス大の研究者たちは、昨年1月に米科学誌『サイエンス』に自らが開発した「CancerSEEK」と呼ばれるリキッドバイオプシーの研究成果を公表した。この研究では、一般的な8つのがんを対象に検査を行ったところ、卵巣がんでの診断率は98%だった。臨床応用は近いかもしれない。ただ一方で、乳がんでは40%を下回ったという。 この技術は開発途上だが、企業側の鼻息は荒い。技術開発の筆頭を走るのは、米シリコンバレーのグレイル社だ。ゲノムシークエンス最大手、イルミナ社から2016年に独立した。同社は「2019年までに最初のリキッドバイオプシーを実現する」と宣言している。 この見解に懐疑的な関係者も多いが、遅くとも数年の間に、この技術は臨床応用されるだろう。そうなれば、ゲノム情報に基づく個別化医療だけでなく、がん治療後の再発のスクリーニング(選別)や、がん検診にも応用が期待できる。現在のがん治療のパラダイム(認識の枠組み)が大きく変わることになる。※写真はイメージ(ゲッティ・イメージズ) がんは多くの先進国で死因の首位を占め、関心を集めている。がんの診断・治療法の開発は、ゲノム研究の進歩とともに日進月歩だ。中国での遺伝子修復ベビーの誕生も、このような流れの一環として理解すべきだろう。この領域では米中がヘゲモニー(主導的地位)を握りつつある。 一方、わが国は米中と比べ「周回遅れ」になりつつある。遺伝子修復ベビーの誕生に関しては、中国を批判するだけでなく、その背景にあるゲノム研究の進歩を理解し、前向きに議論しなければならない。■夢のがん治療薬は国を滅ぼす? ボロ儲け製薬企業の「暴走」を阻止せよ■がんはいずれ「理想の死に方」になる■カネではタフな研究者は育たない 日本人がノーベル賞を取れる理由

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    中国の科学者がヒト受精卵に遺伝子操作 欧米で激しい論争に

     中国の科学者がヒト受精卵に世界初の遺伝子操作──タブーを冒したこの実験について、欧米では学術誌からマスメディアまで、その是非をめぐり大論争となっている。 世界を驚愕させたその実験は今年4月に生物学・生物医学の学術誌「プロテイン&セル」に掲載された論文で明らかになった。中国広東省にある中山大学の黄軍就副教授らの研究チームがヒト受精卵の「ゲノム編集」を行ったというのだ。ゲノム編集とは何か。サイエンスライターの島田祥輔氏が解説する。「ゲノムはあらゆる生物がもつ、いわば設計図です。生物の身体を料理に例えるとゲノムはレシピにあたり、そこに書かれた情報を基に生物のかたちができあがる。ゲノム編集とは、人為的にこのレシピを書き換えることで生物のかたちを変える技術の一種です。従来の遺伝子組み換えより簡単で、成功率の高い優れた技術です」 ゲノム編集の有益性は高く、農作物の品種改良や新薬の開発、遺伝子治療など様々な分野に応用できる。米国ではHIVに感染したヒトの体細胞からウイルスを取り除く臨床研究が始まっている。 今回の実験が問題視されたのは、世界で初めてヒト受精卵にゲノム編集を施したからだ。欧米ではタブー視される行為であり、激しい論争を巻き起こした。 なぜ、ヒト受精卵のゲノム編集は問題なのか。目や髪の色、筋肉の質や量などの遺伝的特質を人為的に操作して「設計」された「デザイナーベビー」の誕生につながるからだ。個人のさまざまな特質や能力の元となるゲノム情報を「書き換える」ことで、「ヒト作り替え」が可能になる。 さらに問題なのは、ゲノム編集した受精卵から生まれた子供の遺伝子が永遠に受け継がれる点。これにより、現時点でわかっていない副作用などが将来世代に及ぶリスクがある。※写真はイメージです(ゲッティイメージズ)「ゲノム編集技術を用いれば、目の色や体質だけでなく、運動能力や体格、IQ(知能指数)すら思い通りに操作できるようになります。SF世界のような“強化人間”も技術的には可能です。しかし、どこまで人間のレシピを書き換えていいのか、そもそも書き換えていいのかという”境界”の議論は世界的に進んでいません。線引きが曖昧な状態のまま中国の論文が発表され、科学界に大きな衝撃が走りました」(島田氏) 今回、中国の研究チームは胎児に成長する能力のない受精卵を使っており、科学的・倫理的な問題点はクリアしたと主張するが、この研究が「ヒト作り替え」の最初の一歩となりうることは間違いない。欧米の科学者は中国の「暴挙」に激しく反発した。黄副教授に電話インタビューを行った英「ネイチャー」誌のデービッド・シラノスキー記者が言う。「黄副教授はとてもオープンで意思疎通のできる研究者でした。しかし、欧米の人々はこの実験を好意的に見ていない。反対派は将来的に生殖目的でゲノム編集が行われることに危惧を抱いています」関連記事■ 長寿遺伝子と呼ばれるサーチュイン遺伝子は腹が減れば活性化■ 遺伝子検査で分かる 85歳までに80%の確率でボケる遺伝子■ 大黒摩季、46才の不妊治療 受精卵凍結してチャンスに備える■ ハキーム、宮部藍梨らアフリカ系選手が活躍の背景に遺伝子説■ 元内閣官房参与の科学者が初めて明かす「人智を超える何か」

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    中国でブタの臓器のヒトへの移植が秒読み 2年後に実現か

     中国で人間にブタの臓器を移植する手術が2年後の2019年までに、中国政府によって許可される見通しであることが医療関係者の証言で分かった。ブタの臓器は人間のそれと機能や大きさがほとんど同じであることが分かっているそうで、これまでもブタの臓器をサルやヒヒに移植し、成功した実験例が報告されているという。 ただ、ブタの体内には人間に対して毒性があるウイルスが存在することが分かっており、中国の医療関係機関では、そのウイルスを持たないクローンブタの増殖実験を繰り返しているという。中国青年報などが報じた。 ブタの臓器移植について、医療関係者の間では世界的に関心が高い。なぜならば、心臓や肺、肝臓などの臓器に深刻な疾患を持つ患者は多く、米国では今年8月現在、11万7000人の移植待機者がおり、ドナー不足から毎日22人の命が奪われているという。 とくに、中国の場合、2010年から2016年までの7年間で10万人以上の患者に人間の臓器が移植されてきたが、移植待機者は毎年、150万人にも上っているという。 中国では2015年まで、死亡した服役囚の臓器が摘出され、移植されてきたが、同年以降、服役囚の臓器の移植は基本的に禁止されており、近年、中国の医療関係者の間で、ブタなどの臓器移植研究への関心が高まりを見せている。すでに、陝西省の第4軍病院や上海、北京、広東省の病院が合同で、国家プロジェクトとして研究を進めている。※写真はイメージです(ゲッティイメージズ) ブタの臓器の人間への移植については、日本やアメリカ、欧州各国でも研究されており、これまで動物実験が繰り返されてきた。そのなかでも、中国では研究が進んでおり、ブタの角膜の人間への移植手術が行われており、成功例が報告されている。 ただ、角膜の場合、血液がごく少量で、ブタの体内にあるウイルスが人間に感染する危険性が少ないことから、ほとんど問題はないが、心臓などの臓器には血液を介在して人間に毒性を持つウイルスが侵入することも考えられるだけに、現段階では、各国もブタの臓器の移植手術には慎重な姿勢を示している。 中国や米国では手術の実現を目指し、遺伝子操作でウイルスを無毒化したブタを誕生させ、そのブタのクローンブタを生産する実験に成功している。同紙は第4軍病院の関係者の話として、「ブタの臓器の移植は秒読みで、2年後の2019年には政府から許可がおりる見通しだ」と報じている。また、同紙は米国の研究者の話も紹介し、「ブタの心臓や肺などが人間に移植可能となれば、多くの命を救うことができるようになり、動物の組織を人体で利用するという、異種間移植への道が開かれることになる」との見通しを伝えている。関連記事■ 米での臓器移植金額、高騰させ日本人の渡航移植避ける思惑も■ 中国渡航の臓器移植500~1500万円 後ろめたかった人は2割■ キューバ 臓器移植技術高い上脳死状態の移植を大多数が承諾■ 6才未満の子供からの臓器移植 難しかった理由を医師解説■ 6才未満の子供の臓器移植について賛成派と反対派の意見紹介

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    米中5G戦争、ファーウェイの脅威

    中国通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)を排除する動きが米国主導で進んでいる。日本でも4月以降、政府機関や自衛隊が使用する情報通信機器から、同社と中興通訊(ZTE)の2社の製品を事実上排除する。背景にあるのは次世代通信規格「5G」をめぐる米中の覇権争いだが、今後どうなるのか。

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    「米国はもう崖っぷち」5G戦争、ファーウェイ排除のウラ側

    山田敏弘(国際ジャーナリスト) 米国の対イラン制裁に違反したとしてカナダ司法省が中国通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)の最高財務責任者(CFO)兼副会長である孟晩舟(モウ・バンシュウ)氏を逮捕してから2カ月がたった。 孟氏は昨年12月11日に1000万カナダ・ドル(約8億5000万円)の保釈金で釈放された後、現在もバンクーバーにある邸宅で、GPS(衛星利用測位システム)ブレスレットを足首につけた状態で監視下にある。自宅周辺に張り付いていたマスコミに孟氏がピザのデリバリーを振る舞い話題になったこともあった。 米国は1月末までに孟氏の身柄引き渡し要請を行う方針を明らかにしており、対立する米中、カナダの間で緊張が高まっている。今回は事件の背景を振り返りつつ、今後のファーウェイなどが絡む米中の覇権争いがどこに向かうのか、探ってみたい。 まず最初に、この件について知っておくべきことがある。今回騒がれた米中のサイバー空間における覇権争いは、今に始まった事ではないという事実だ。ファーウェイが米国などへ進出を始めた2000年代初頭から長年にわたって、同社と米国のせめぎ合いは続いてきた。今回、イラン制裁に絡む話が浮上したことで、米国がファーウェイを締め出す好機を得たということにすぎない。 そもそも米国が見据えているのは、ファーウェイや中国通信機器大手、中興通訊(ZTE)ではない。むろん、その背後にいる中国政府だ。 米国に言わせれば、中国共産党と人民解放軍、民間企業は一蓮托生(いちれんたくしょう)である。軍のハッカーなどが世界から知的財産や機密情報を盗み、それを民間企業に漏洩するという流れがあるとの見方もある。 米国家安全保障局(NSA)の元幹部、ジョエル・ブレナー氏は筆者の取材に、グーグルの検索エンジン技術の「ソースコードが、中国に盗まれてしまっている」と語っている。また、米ニューヨーク・タイムズ紙のデービッド・サンガー記者も、中国は盗んだグーグルのソースコードで「今は世界で2番目に人気となっている中国の検索エンジンである百度(バイドゥ)を手助けした」と指摘している。 つまり、こうした政府系ハッカーらによるサイバー攻撃が、中国系企業を下支えしてきたともみられている。いや、それだけではない。軍事機密も盗んでおり、戦闘機や潜水艦の設計図なども盗み出すことに成功しているのである。モスクワでのフォーラムでプーチン大統領(左)と同席する華為技術(ファーウェイ)の孟晩舟副会長兼最高財務責任者(CFO)=2004年10月(ロイター=共同) 中国ではもともと、民間企業であっても政府の命令には従う必要があった。米高官や外交官らが中国を訪問し、民間のホテルに泊まれば当たり前のように盗聴器が仕掛けられているという類いのエピソードは、何度も米政府機関関係者などから聞いたことがある。しかも中国は最近、それを明文化した法律も制定している。2017年に施行された「国家情報法」がそれであり、民間企業も個人もすべて政府が行う情報活動に協力しなければならない、という決まりを徹底している。 こうしたことから、米国は長年ファーウェイなどが米企業などの知的財産を盗んでいると批判し、政府のために機密情報などをスパイする可能性を指摘してきた。そして最近になって、米国が本気で中国製品を排除しなければならない事情も浮上してきた。5G(第5世代移動通信システム)のインフラ機器やスマホの分野における中国企業の台頭である。情報の掌握を狙う中国 5Gは、現在の100倍とも言われる超高速のシステムであり、それが普及すれば、世界は一変すると言っていい。全てがIoT(モノのインターネット)などでつながり、ほぼすべての情報がデジタル化され、ネットワーク化される。すなわち、個人情報から軍事機密まで莫大(ばくだい)な多種多様のデータを運ぶ通信インフラを支配できれば、情報を思いのまま手に入れることができるというわけだ。 中国はファーウェイを介して、その5Gインフラを世界中に安価で提供し、シェアを広げようとしている。つまり、データが行き来するサイバー空間の覇権、ひいては世界における情報の掌握を狙っている。中国は80年代後半の段階から「情報を制するものは世界を制する」と考え、インターネットの検閲といった支配権なども「情報戦争」の一環と捉えてきた。最近、国家戦略としている「製造業2025」の核として中国製の5G機器などを世界で広めようとしているのは、そうした背景からだ。 一方の米国を中心とする欧米側は、世界を一変させる5Gインフラ市場で劣勢にある。少し前に筆者が米政府関係者から手に入れた60ページほどの米政府公式文書によれば、「ファーウェイは(通信の基地局などの世界的シェアを高めていることから)インフラそのものになりつつある。シェアの拡大に成功し、特に途上国ではそれが顕著である。ただ、米国のような先進国はそれを許してはいけない。ファーウェイがインフラになれば、中国のインテリジェンス(スパイ)活動につながっていくからだ」とした上で、こう警戒する。「米国は今、崖っぷちにある。情報化時代の未来を率いるか、もしくは、サイバー攻撃の渦から抜け出せなくなる」 こうしたせめぎ合いから、米国は実際に中国企業であるファーウェイなどの排除に乗り出し、同盟国にもファーウェイ製品の禁止措置を取るよう促してきた。事実、オーストラリアやニュージーランドはすでに5Gのインフラからファーウェイ製品を締め出す措置を決めているし、英国の電気通信社も同社製品を禁止にした。カナダはファーウェイの社員がスパイ工作に関与している可能性があるとして、ビザの発給を拒否したこともある。 その一方で、中国を目の敵にしている当の米国も、これまでサイバー空間でスパイ工作を繰り広げてきた国の一つである。中国・深圳市でメディアの取材に応じるファーウェイ創業者の任正非氏=1月15日(AP=共同)  米国家安全保障局(NSA)はファーウェイを脅威と警戒し、創業者である任正非(レン・ジェンフェイ)CEOを2009年頃からハッキングによって監視。その作戦は「ショット・ジャイアント」と呼ばれ、NSAは内部情報や同社製品のソースコードまで入手していた。さらにスパイ工作という意味で言えば、米国は例えば「エックスキースコア」という監視システムなどで世界中の人々のネット上での活動を、日本も含む世界150カ所の収集拠点で集めて監視してきたし、中国メディアは中国を狙うサイバー攻撃は米国からのものが最大であると指摘している。 このように、サイバー工作をめぐる対立は水面下で続いてきた。では5Gの登場で今後、この攻防はどう展開していくだろうか。米国政府のプレッシャー まず、日本が排除を発表するに至ったように、今後も米国と同じ価値観を共有する国々の間で、ファーウェイ排除の流れが続く可能性は避けられないだろう。 現時点では、ファーウェイの禁止に乗り出した日本(各省庁や自衛隊)を含む国々では、排除対象は基地局やルーターなどに使われるファーウェイ製品であり、スマートフォンやタブレットまでは対象になっていない。ただ今後、これらの国では、政府関連の事業やプロジェクトに関与する際には、民間企業であってもファーウェイの機器は使えないようになっていく可能性があるし、関係者もスマホやタブロイドを使うわけにはいかなくなるだろう。 例えば日本では排除の対象をインフラ事業者まで広げるとの話も出ているが、そうなればさらにインフラ事業にも携わる多くの人たちがファーウェイのスマホなどを使っていられなくなるだろう。こういう形で、結果的にすべてのファーウェイ製品が使われなくなっていく可能性は高い。 さらに言えば、米国のイラン経済制裁を破った容疑という「威力」は大きい。世界的に見ても、制裁違反をするファーウェイとのビジネスを控えなければ、米国企業とは取引ができないという現実に直面しかねない。世界中でファーウェイとの取引を控える動きが起きるかもしれない。例えば、世界的な大手銀行は既にこの動きを見せている。イラン制裁違反に絡んで、英金融大手HSBC銀行やスタンダードチャータード銀行などは米国政府からのプレッシャーなどもあってファーウェイとのビジネスを制限してきた。それが最近では、シティバンクなども今後の対応を検討していると言われている。 むろん、こうした動きに中国政府もファーウェイも、黙ってはいない。 中国政府は孟氏の逮捕以降、中国国内でカナダ人を13人拘束し、そのうち5人ほどは今も釈放されていないとみられている。いずれも取ってつけたような容疑であり、ピーター・ナバロ米大統領補佐官(通商担当)が「中国らしいやり方だ」と言及したように、報復措置であることは明らかだ。また今後、中国政府が米通信機器メーカーを中国市場から締め出す報復措置を取る可能性を指摘する声もある。中国広東省深圳にあるファーウェイの本社 (GettyImages) また、米国内で米政府と対峙(たいじ)するための法務チームの強化も行っているし、同社は「われわれは世界をリードしている」「他国の安全保障に対して脅威になっているという証拠はない」と強気を崩さない。さらに任CEOが珍しくメディアの取材に応じ、中国当局にデータを提供することはないと主張している。 日本でも、ファーウェイ側は疑惑を否定する声明を発表して対抗している。「(ファーウェイ製品を)分解したら余計なものが入っていた」「スパイウェアのような動きをする」という日本のメディア報道が事実誤認であると指摘し、法的措置に乗り出すとも発表している。いち早くファーウェイ離れ ところで、実際に同社の製品が何らかの「怪しい動き」をすることは考えられるのだろうか。先日、筆者はネットテレビ「Abema Prime」に出演し、そこで実際に解体されたファーウェイのスマホを目にする機会があった。というのも、「スマホ分解のプロ」という専門家が番組の始まる前に実際に解体してファーウェイのスマホに「おかしなもの」が入っていないかを確認したのである。その結論は「余計なものは見つからなかった」というものだった。 とはいえ、筆者は以前、ある欧米諸国の情報機関関係者から、政府系通信会社が市民に提供する機器にチップを埋め込む工作を担当していたという話を直接聞いたことがある。また、米政府も国外の要人に対して同様の工作を仕掛けていたことが明らかになっているし、中国が数年前に米IT企業が使うサーバーに製造過程でチップを埋め込んでいたという疑惑も、米メディアで大々的に報じられて物議を醸したばかりだ。 もっとも、今はチップをわざわざ仕込むような時代ではない。「チップを使う」というやり方はいかにも古い工作という印象で、今もやっているとは考えづらい。今なら、電子機器のプログラムに後でアクセスできるような、いわゆるバックドア(裏口)を埋め込んでいたり、何らかのマルウェア(不正プログラム)を入れておいた方が手っ取り早いだろう。 いずれにしても「ファーウェイ製品が怪しい」と見られてきたことは紛れもない事実だ。最近話を聞いた国際的大手企業の元サイバー担当者は、こんな発言をしていた。「2014年にオーストラリアの大手企業が会社のネットワークからファーウェイ製品を介して不正にデータが中国に送られていることに気がついたんです。それ以降、オーストラリアは政府関係機関や大手企業にファーウェイ機器を使わないよう非公式に通達していた」 2018年8月にファーウェイとZTEを5Gインフラから排除したオーストラリアでは、2014年の時点で既に非公式にファーウェイ排除の方向に舵を切っていたという。※写真はイメージです(GettyImages) いずれにせよ、これまで各地で続いてきた動きからも分かる通り、ファーウェイをめぐる話はハイテク産業における中国のビジネス的な台頭を米国が押さえつけようとしている、という単純な話ではない。次世代の覇権と安全保障に深く関わる話である。それゆえに、米中両国は一歩も譲歩できない。少なくとも米国は今後も、引く構えをみせることはないだろう。 今、欧州や南アジアなど世界中の国々がファーウェイとどう付き合っていくのか検討が行われている。5Gをめぐる米国vs中国の攻防は引き続き、世界を巻き込んで激化していくはずだ。■習近平「終身独裁」で中国の自滅は確実になった■「習近平の独裁に黙っていない」中国ネットユーザーのあくなき闘い■米露を呑み込む中国の「一帯一路」 巨大利権に潜む習近平の大戦略