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    結婚できない「剰男剰女」 二人っ子政策でも解決しない現代中国の悩み

    遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士) 今年1月1日を以て中国の「一人っ子政策(独生子女政策)」は終わり、二人目の子供を産んでよいことになった。昨年12月27日、全国人民代表大会常務委員会で最終的に決議された。ただし無制限に生んでいいというわけではなく、二人までは産んでもいいという「二人っ子政策」が始まったということになる。福建省福州市で幼児を連れて歩く女性  一人目を産む場合も、また二人目を産む場合も、今までどおり産休やその他の優遇(奨励)を享受できる。また一人っ子政策に沿って一人しか子供を持っていなかった家庭の子供が他界した場合の「失独(独生子女を失った)」家庭も従来の法律どおり扶助を受けることができると、この委員会で決議された。会議は同時に、「晩婚晩育(遅く結婚して遅く子供を産む)」という「できるだけ子供を産む年齢を遅くする」ことに対するこれまでの優遇策は撤廃したと伝えている。 1月13日になると、また新しいニュースが入ってきた。 「二番目の子供に関する産休を延長するか否か」ということに関する民意調査を政治協商会議の代表(議員)らが始めたという情報だ。「二番目の子供を産むときは年齢が高くなっているし、二人も育てなければならないので育児負担が大きくなるから延長すべきだ」という意見と、「いや、そうでなくとも女性は職場で有給産休を取るために性差別を受けている。延長などしたら、差別の目がもっとひどくなる」などの意見もあり、働く女性たちの話題をさらっている。3月初旬に開かれる政治協商会議(代表:3000名)で論議あるいは決議され、立法機関である全国人民代表大会に建議されるかもしれない。一人っ子政策はなぜ始まったのか? 一人っ子政策というのは、正確には1980年9月に開催された人民代表大会第三次会議で20世紀末に中国の人口を12億人内に抑えるために打ち出された政策だ。同年、新華社が「このママの出生率を続けていると、2000年には中国の人口は14億人に、2050年には40億人になる」という学者等による「百年人口予測報告」を公布したことがきっかけだった。文化大革命で壊滅的打撃を受けた中国経済を成長させるためには、国家全体のGDPだけでなく一人当たりGDPの成長も重要であるとして、当時の指導層は何としても人口抑制を図ろうと考えた。そこで出てきたのが一人っ子政策である。 最初は「提唱」程度だったのだが、やがて「強制」になり、たとえば山東省の農村で実施が十分でないことが分かると、その村の全ての妊婦に強制堕胎をさせるという残酷なものとなっていく。以来、どれだけ多くの懐妊した女性が泣いて来たかしれない。 90年代に筆者が訪れた西安のバイオテクノロジー関係の某研究所では、中国人民解放軍の医院と提携して、堕胎した胎児の臍の緒を用いたES細胞(胚性幹細胞)の研究をしていた。その病院の廊下には大きなバケツが置いてあり、バケツの中には強制堕胎された胎児の亡骸(なきがら)が無造作に投げ込まれている。その現場を見てしまった筆者にとっては、「一人っ子政策」というのは他人事(ひとごと)ではない。 一人っ子政策が、わがままな小皇帝や小皇女を生み出したりしたといった表面的現象に関しては、日本人も馴染みがあるかもしれないが、そこにはもっと深刻な問題が潜んでいる。高齢者の扶養比率は50%一人っ子政策はなぜ終焉したのか? 一人っ子政策にピリオドを打たなければならなくなった最も大きな理由は、「高齢化問題と労働人口の減少」という、非常に深刻な中国の社会問題である。 まず論じやすい高齢化問題から見てみよう。 2015年2月26日、国家統計局は「2014年の国民経済と社会発展に関する統計公報」を発布した。それによれば、60歳以上の人口は2.12億人(21242万人)に達しており、総人口の15.5%を占めている。65歳以上の人口は1.4億人(13755万人)で全人口の10.1%を占める。この統計分類によれば、「60歳以上の人口」は「60歳から65歳未満」を指しているものと解釈できる。1950年代に45歳だった平均寿命は、今や74歳にまで延びた。 一人っ子政策で若者の人口が激減し、年齢構成を危うくしているため、高齢者の扶養比率は50%。一人っ子政策を打ち切らなかったら、2065年には100%に達すると試算されている。ところで、2014年末における中国大陸の総人口は13.7億人(136782万人)だ。中国全土の「人戸分離人口」(戸籍があった場所には住んでいない人口)が2.98億人で、そのうち流動人口(定住地がない人口)は2.53億人である。 これは何を意味しているかというと、養老年金の積み立てができない人口が少なく見ても2.5億人はいるということである。一方、中国の年金は2048年には枯渇する。そのため習近平政権では農民工が都会に飛び出してきたときの元の農村を都市化して、そこで就職先を創出し、定住先や戸籍を登録した上で年金や医療保険などの積み立てを行なってもらい、養老年金や福利厚生を確保しようという国家戦略を2014年から始めた。これを「国家新型城鎮化(都市化)計画」と称するが、そのようなことをしても若者がいないことには労働力の補填さえできない。 では次に労働人口に関して考察してみよう。  ここ3年間、中国の労働人口は連続して減少している。先述した国家統計局は、同時に労働人口の減少に関して具体的数値を公布した。それによれば、労働可能な人口分布が「2012年(15歳~59歳):9.37億人」「2013年(16歳~60歳):9.19億人」「2014年(16歳~60歳):9.16億人」で、減少傾向にある。 興味深いのは、そのうち2014年末における全国の就職者人口(実際の労働人口)は7.7億人(77253万人)だということで、これは22歳くらいまでは勉学している者が多いことを示唆しているのである。一人っ子政策が生み出した「剰男剰女」これからの課題 今になって一人っ子政策をやめ「二人っ子政策」に切り替えても、実は時代はすでに変わってしまっている。低学歴のブルーカラーが「世界の工場」としての中国経済発展を支える時代は過ぎ去っているのである。世界がいま中国に求めているのはマーケットしての「消費してくれる中国」だ。となればホワイトカラーが重んじられる。しかし自分の子供に高学歴を求める家庭は、あまりに嵩(かさ)む教育費のために、一人を大事に育てようという方向に動き始めた。強制堕胎に泣いた女性たちはもういない。いや、一人っ子どころか、結婚さえしようとしない世代が生まれつつある。中国上海市の公園で、過去最大規模の約6000人の男女が参加して開かれたお見合いパーティー 中国には「剰男剰女(センナンセンニュイ)」という言葉がある。一人っ子政策が生んだ「結婚できない男と結婚できない女」を表す言葉だ。日本語的には「剰余」の「剰」を連想して頂ければ理解しやすく、「売れ残った男女」ということになる。 農村には「男の子ばかりの村」がある。女の子だったら生まれる前に(あるいは生まれた直後に)殺してしまうか、売り飛ばしてしまう。男子こそが畑を耕してくれる重要な労働力なので、男の子ばかりになってしまった。これでは結婚相手が見つかるはずもないから、農村には「剰男」が満ちている。 都会では高学歴の女性たちがひたすら働き、ホワイトカラーの高収入女性として独り生きているケースが増えてきた。筆者はかつて何年にもわたって彼女たちを取材し「中国A女の悲劇」というネット記事を連載したことがある(『拝金社会主義 中国』に所収)。人間をランク付けするのは良くないが、女性を学歴や収入、ホワイトカラー度により「A、B、C、D」と分けて、この女性群像を「A女」と命名したのである。 このA女たちは結婚できない者が多い。男性が一般に自分より学歴や収入の低い者を選びたがるからだ。特に「ふん、私すごいでしょ?」といった、一部のA女の特性を嫌う。女性はA男しか選ばないから、結果、A女は結婚できないで「剰女」の隊列に入っていくのである。こうなると開き直って、「自ら結婚しない道」を選ぶ男女も出てくる。もっとも最近では年下の若い男性がA女と結ばれる場合もあるが、経済構造だけでなく、精神性においても、世相はすっかり変わってしまったのだ。 中国政府としては、「二人っ子政策」に切り替えても、1年以内に出生率の改善が見られない場合は、「二人っ子」ではなく、「二人以上」という開放型にすべきではないかと考えている。 いずれにしても、人口ボーナス(労働人口増加による経済成長)の時期は過ぎている。国策が後手に回ってしまったことは否定できないだろう。 なお、1月14日に国務院が新しい情報を発信した。それによれば「無戸籍人員の戸籍登記問題」に関して、一人を越えて産んだ子供、未婚出産で産んだ子供および出生届を提出していない「黒戸口(ヘイフーコウ)」者の戸籍問題に関して、合法的な権益を与えることにしたとのことである。つまり戸籍を与えて、教育や医療保険などの福利厚生享受権を与えるという意味である。この後しばらくは、二人っ子政策に切り替えたことに対する行政改善が発信されていくことと思われる。

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    一人っ子政策廃止と日本の少子化、憂うべきは生産力の低下だ

    増えるということになれば、その子にとっても不幸です。 あくまで子育て環境を充実させるべきものです。 中国では、一人っ子政策が廃止され、2人までは許容されることになりました。労働人口の減少と急激な高齢化社会を危惧してのことのようです。 しかし、中国の場合、露骨な男子偏重の思想がありますから、最初に生まれた子が女の子であれば必ず2人目は生まれます。 中国ではもともと共稼ぎが当たり前、また祖父母が育児に関与することが当然の前提となっていますので、その意味では産休さえ取れれば仕事に支障がなく、子どもをもつことができるわけです。 もっとも祖父母の関与は別の意味での社会問題にもなっていますから、このような子育てのあり方がそのまま参考になるわけではありません。日本は悲壮感漂う「一人っ子政策」 少子化にあえぐ日本もある意味では「一人っ子政策」です。中国とは異なり、「せめて夫婦1組1人の子をもうけてくれ」という悲壮感漂う「一人っ子政策」です。 日本では、今はやりの「育児休暇」ですが、これを取ってもそのまま戻るところがあるような特権層の人は別ですが、普通は取れません。特に夫が「育児休暇」を取れば、いくら給与所得者としての所得保障があるとはいえ、元の場所には戻ることはかなわず、一線からは外れていくことになります。中小企業であれば居場所はなくなります。 それがいいかどうかは別にしても現実はそのような社会であるし、他方で全での夫が当たり前のように育児休暇を取るなど現状では想定し得ないことです。 妻が専業主婦であるにも関わらず、夫が育児休暇を取得することが当然ということが想定されているとも思えず、あくまで女性(妻)も職を持っているからこそです。それぞれ交代で取るなりして分担することが想定されているわけです。 他方で、専業主婦という型であれば、子が増えるかというと、そもそも専業主婦願望が子育てをしたいからというよりは、楽だからという発想を強く感じざるをえません。それは日本も中国も変わらないでしょう。中国でも北京を中心とした都市部では専業主婦願望の強い女性が増えているようですが、そこには勤労意欲は全く感じないわけです。 日本において以前、専業主婦が当たり前だった時代は、まさに分業そのものであり、家電製品(冷蔵庫、洗濯機、電子レンジなど)が当たり前に家庭に普及するまでは、それこそ主婦が多忙だったわけです。これでは到底、女性の社会進出など困難な状態でした。それが電化製品の普及によって一変したわけです。 それにも関わらず若い層の業主婦願望というのは、単に社会に出たくないことの裏返しに過ぎず、このような発想の中で子育てに励みたいという発想があるとは思えないわけです。 このような状況は何も女性に限ったことでもなく、男性でもきつい職場と言われているところが露骨に敬遠されていく状況とも付合するわけです。「介護だけじゃない トラック運転手が不足 日本はあらゆる分野で劣化している」 中国でも都市部の重労働は地方からの出稼ぎ労働者によって担われており、都市部の住民はやりたがりません。 この問題は、中国だけでなく、日本でも根本的な価値観の変化が訪れているようにも思います。子育てをしたいのにできない、ではなくそもそも子育てをしたくないという価値観への変化もあるのではないかということこそが最大の問題です。 豊かになればなるほど、生まれながらにして豊かであればそれだけ自分からは何もしないという状態です。「今時の若者は~ は間違い?」「現代の若者像 今も昔も変わりない?」 何よりも結婚そのものへの否定的価値観が漂う時代です。勤労に対する意義、そしてその喜びを享受できるような社会でない限り、この劣化は止まりません。また少子化も止まりません。 私自身は人口減少自体は、決して悲観されるべきものではなく、地球規模でみれば人口過剰状態と思われますし、今後も地球規模で人口が増え続けていかなければ経済が発展しないなどと考えているようでは、経済発展の前に地球環境が破滅します。 人口増に頼るような経済発展の発想は危うく、早晩、破綻を来すのは必至です。「人口増に依存する政策はマルチ商法と同じ!」 人口減少を憂うよりも、全体の労働力、生産力の低下こそ、私は憂うべき状況と思います。 (「弁護士 猪野 亨のブログ」より2016年1月1日分を転載)

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    「一人っ子政策」廃止の中国 戸籍ない「闇っ子」対策強化へ

     中国では夫婦が一人の子供しか生めない「一人っ子政策」が廃止され、二人まで生むことができる「二人っ子政策」が実施されることが決まっているが、これまでの一人っ子政策の弊害で、戸籍に登録していない、戸籍なし児童である「黒孩子(ヘイハイズ)」という、いわゆる「闇っ子」の存在が大きな問題になっている。 中国全土では認定されている闇っ子は人口の1%を占める1300万人とされているが、実態は数千万人ともいわれており、中国公安省では近く全国的な会議を開き、抜本的な対策に乗り出すことになった。 中国では農村を中心に後継ぎとして男の子を欲しがる傾向が強い。最初に生まれた女の子の出生届は出さず、違法と知りつつも子供をほしがっている人に売るか、あるいは拾ってもらうか、こっそり育てるかを選び、その後生まれた男の子を「第1子」として届けるケースがある。豊かとはいえない農村が広がる崇明島の地元食堂で働く「黒孩子(ブラックチルドレン)」の一人 中国各紙によると、中国政府は2010年の国勢調査で、「闇っ子」が約1300万人いることを把握している。これらの闇っ子は戸籍がなく市民証をもらえないため、学校にも行けず、病院にも行けないという理不尽な人生を送らざるを得ない。 裕福な家庭ならば、「違法な子供」として届け出て、罰金を支払えれば、戸籍はもらえるため、社会的な不利益はこうむらない。だが、農村部でぎりぎりの生活をしている家庭では、罰金を払うこともできず、そのまま闇っ子になってしまうケースが多い。 現在のところ、これらの闇っ子の救済策はほとんどない。ただ、福建省では2008年から、特例措置として、「闇っ子」にも戸籍を与えることにしており、約50万人が戸籍に登録されている。 中国公安省では今回、一人っ子政策が廃止されたことをきっかけに、闇っ子の対策に乗り出すことになった。 まずは、その実態を掌握することが重要で、闇っ子の実際の数の把握を手始めに行う予定だ。その後、夫婦で二人までという前提で、戸籍を整備して、3人目以上の子供については、「福建省方式」を採用するかどうかを決めることになる。 公安省では「いずれにしても、実態の把握が先決だが、これが最も難しいことであり、地方の末端組織まで動員して、問題の解決につなげていけるような対策をとっていきたい」などとしている。関連記事■ 一人っ子政策廃止の中国 年間出生人口は最大2000万人予測も■ 中国 一人っ子政策の影響で無戸籍者が700万人以上存在か■ 中国の「一人っ子政策」廃止で日本の産業界が受ける影響は?■ 韓国英字紙 尖閣巡る日中戦争で一人っ子率高い中国不利予測■ 中国大都市圏で同性愛エイズ患者拡大 一人っ子政策の影響も

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    中国大都市圏で同性愛エイズ患者拡大 一人っ子政策の影響も

     中国では男性の同性愛者が年々増加しており、それにともないエイズ感染者も急増していることが明らかになった。特に北京ではエイズ病患者が前年比20%以上も増加。その大半が男性の同性愛者だという。「北京晨報(しんぽう)」が報じた。 中国の同性愛者は全国で3000万人以上といわれ、その大半が男性とみられている。この背景には、中国政府が1980年から実施している一人っ子政策がある。男女の比率は男性が130に対し女性は100で、圧倒的に女性が少ないことも影響しているといわれている。 中国では最近まで同性愛は精神的な疾患とされていた。ところが、中国社会科学院の調査結果によると、「同性愛者であることが職業選択にあたって不利な条件になるか」との問いに「ならない」と答えた人が米国の86%を超えて、中国では90%にも達したという。中国社会が同性愛により一層寛容になったことも、同性愛者が増えている大きな原因の一つとみられる。 今年12月1日の世界エイズデーを前に、北京市が調査した結果では10月末現在、北京市のエイズ病患者は1万5183人で、男性患者の場合、その96.7%が同性愛者で、男性同士の性行為によってエイズに感染していることが分かった。しかも、同性愛関係になって5年以内に発病しており、潜在的なエイズ感染者を含めて、今後とも増加することが予想されるという。 日本の国立感染症研究所によると、男性の同性愛者間のエイズ病感染者数の拡大は全世界的傾向であり、なかでも中国においては、新規感染者報告に占める男性の同性愛者の割合は1985~2005年の間では0.3%だったものが、2007年には12.2%に増加。2009年には一気に32.5%へと急増している。 中国の男性同士の同性愛は大都市圏を中心として拡大しており、その有病率は中国全体で約6%で、北京や内陸部の四川省重慶市や成都市などの大都市圏では10%を超える水準に達している。 しかも、中国の特異な傾向として、同性愛者の男性の70~90%が既婚あるいは結婚する予定であるということだ。米国では、この割合はわずか15~20%にとどまっている。中国で同性愛者の男性と結婚した女性は2500万人に上ると指摘する専門家もおり、夫との性行為によって、エイズに感染する女性も少なくない。 これも一人っ子政策の影響が色濃く、一人っ子の男性は親を喜ばせるため、同性愛者であることを隠して結婚し、子どもをもうけようとするためだ。まさに、一人っ子政策による悲劇的な結末というほかはない。

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    李登輝氏「馬英九は習近平と握手しにのこのこ出掛けただけ」

     2015年は中国の習近平国家主席と台湾の馬英九総統が会談するなど、中国と台湾が接近しているようにも見える状況にある。しかし、1月に行われる総統選後の台湾について、李登輝元総統は、「中国と距離を置くことが重要」と指摘する。李登輝氏は台中関係についてどう分析しているのか。* * * 昨年11月7日、66年ぶりに台中首脳会談が行われた。しかし、馬英九総統は何もわからず、自分の功績のために習近平主席と握手しにのこのこと出掛けていったにすぎない。習主席はかなり手強い相手だ。ゆえに馬総統は事前に彼がどういう人物かきちんと研究していくべきだった。 1分半もの間、握手していたことが報じられたが、台湾の総統として言うべきことも言わずに帰ってきた。自分のことを「台湾の総統」とさえ言わなかった。一国の指導者であるならば勇気を持って言うべきことを言わなければならない。結果的に海外メディアからは「過去の人」と書かれる始末だ。 馬総統が首脳会談でとったやり方は、非民主的かつ台湾をないがしろにするものだ。誰が自分を総統に選んだかを分かっていない(有権者の存在を忘れている)。昨年5月、総統就任7周年の記者会見で馬総統は「毎日よく眠れている」と答えていたが、私は総統在任中の12年間、毎日が闘争で一日たりとも安眠したことなどない。この8年、庶民の生活は困窮し、台湾が直面する問題もますます増えた。馬総統はそれらを検証し、対応していかなければならないのに、国家の指導者としての責任を何ら果たしていない。日本外国特派員協会で講演する台湾の李登輝元総統=2015年7月23日、東京都千代田区(寺河内美奈撮影) 国民党は、1月16日に行われる総統選挙でも立法委員(国会議員)選挙でも、これまでにない大敗を喫する可能性がある。一昨年11月の統一地方選挙に続く大敗となれば、党勢の凋落が加速度的に進むだろう。それを立て直すためには、国民党本土派のリーダー格である王金平・立法院長が率先して、台湾の主体性を重視する本土派を中心とした「台湾国民党」に生まれ変わらせるべきだ。 民進党の蔡英文主席は、台中関係について「現状維持」と主張しているが、民進党内からも「曖昧だ」との批判が出た。しかし、私は「現状維持」という主張が曖昧とは思わない。 そもそも現状を維持するとはどういうことか。台湾は台湾であり、中国中国であって、それぞれ中華民国と中華人民共和国を維持する、それこそが現状維持である。中国と距離を置いて台湾の主体性を維持し、発展し続けることが重要だ。【PROFILE】 1923年台湾生まれ。旧制台北高校、京都帝国大学農学部で学び、戦中は志願兵として高射砲部隊に配属された。終戦後台湾大学に編入し卒業。台北市長、台湾省主席、副総統を経て1988年に総統就任。1996年、台湾初の総統直接選挙で当選し、2000年まで務める。著書に『指導者とは何か』(PHP研究所)ほか多数。関連記事■ 金美齢氏 馬英九政権続けば台湾は中国に吸収との危惧広まる■ 香港で中台首脳会談計画浮上 習主席、馬総統双方の思惑一致か■ 李登輝氏「安保法制は台湾、東アジア安定に寄与する」と指摘■ 李登輝氏 橋下氏の竹島・尖閣「共同管理」提案は極めて危険■ 李登輝氏 続けても恥かくだけだから馬英九総統は辞任すべし

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    公式統計では分からない中国経済の実態が分かる「ザーサイ指数」

     中国メディアで最近、よく出てくる言葉として「ザーサイ指数」というのがある。中国を代表する漬け物、ザーサイ(搾菜)の各地の消費量から、その地域の出稼ぎ労働者を推測し、景気状況を判断するときの指標である。背景には、中国各地政府が発表する経済数値にはねつ造されたものが多く、公式データだけでは正しい経済状況を判断できない事情がある。 いまの中国には計2億6000万人の農民工と呼ばれる出稼ぎ労働者がおり、そのほとんどは建設業か製造業に従事しているといわれている。仕事があれば同じ地域に出稼ぎ労働者が一気に集中するが、仕事が減ればすぐに別の場所に移る。単身赴任の男性が多い農民工が最も好む食べ物の一つがザーサイだ。 各地のスーパーで70グラムの袋入りのザーサイは約1元(約19円)で売られている。一袋があれば、昼と夜の2回のご飯のおかずにもなるので、収入の少ない農民工にとって有り難い存在となっている。ある都市でのザーサイの消費量が急増すれば、その地域に農民工が殺到し、景気が良くなっていることを意味する。 直接選挙のない中国では、各地域の経済成長が同地域の指導者の能力を評価する重要な指標になるため、景気が減速すれば、指導者は数字を水増しして報告することが一般的とされ、中央政府は報告された数字が正しいかどうかはなかなか判断できない。 しかし、各漬け物メーカーが発表している各地のザーサイの売り上げと一緒にみれば、その地域の本当の景気がみえてくるという。数字を大きく発表すると税金が高くなるので漬け物メーカーは数字を水増しして発表することは考えにくいからだ。重慶市にある大手漬け物メーカーの数字では、2011年の広東省のザーサイの売り上げが劇減し、湖南省で大幅に伸びたため、農民工たちは沿海部から内陸部に移動しているという景気動向を判断できるというわけだ。 中国メディアによれば、中国共産党の指導者も「ザーサイ指数」を重要な参考指標にしているという。実は地方政府だけではなく、中国の中央政府も同じように統計数字がねつ造している。具体例としてよく挙げられるのは失業率の統計だ。 胡錦濤政権がスタートした2002年は4・0%だったが、それ以降10年以上にわたり、4・0%から4・3%の間で極めて狭い幅のなかで上下している。国内の経済学者の間で、「永久不滅な4%前半」と揶揄されている。この間、中国ではSARS(新型肝炎)の危機があったほか、北京五輪前の好景気と米国発金融危機後の製造業倒産ラッシュを経験している。上海証券取引所のA株(国内株)の指数は約1000点(2005年12月)から6100点以上(2008年1月)に暴騰したあと、また2200点前後(2013年9月)に戻るなど乱高下している。 失業率を適正に統計していたら、株価と同じように激しく上下する結果が出るのが自然だが、そうならなかった。中国の政府関係者は「失業率の高い数字が社会不安につながり、低い数字は地方に『景気が良い』という誤ったメッセージを与えてしまうため、4%前半にしている」と説明し、数字を人為的にいじっていることを認めた。 中国で経済指標のねつ造は毛沢東時代に遡ることができる。1950年代末から60年代初めにかけて最も顕著である。元新華社記者、楊継縄氏の著書『毛沢東 大躍進秘録』(文芸春秋)によれば、河南省のある県の生産大隊は、農地1ムー(中国の土地面積の単位。6・667アール)当たりの作物が1000キロあると報告した途端、翌日に隣の大隊は1700キロと報告し、さらにその翌日、別の大隊は3600キロだと報告した。数字がロケットのように吊り上げられ、その年の中国全国の農村の生産業を合計すると、世界の全農業生産量まで超えてしまったという事態になった。 周恩来首相(当時)も、各地から報告された数字を信用していなかった。独自の方法でチェックしていたという。当時の北京には水洗トイレがなく、市内のすべてのトイレから回収され糞尿は、馬車やトラックで肥料として農村部に運び出される。周首相は毎日、必ず市外に出る糞尿の量をチェックし、その数字から北京市民が十分に食えているかどうかを判断していたという。 ザーサイ指数が重要視されているいまの中国は、50年前とあまり進歩していないようだ。

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    中国発「世界恐慌」の兆しが見えた

    中国が世界の株式市場に暗い影を落としている。7日の上海市場は前日比7%安と急落し、相場の急変時に取引を停止する「サーキットブレーカー」が4日に続き2度目の発動となり、取引開始からわずか30分で売買が全面停止する事態となった。チャイナリスクが「世界恐慌」の悪夢の引き金となる日は来るのか。

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    中国経済崩壊で「韓国のデフレ不況突入は確実」と三橋貴明氏

     不動産バブルに加えて、株式バブルも崩壊した中国経済。GDP世界2位の大国が揺れている。習近平政権はなりふり構わぬ株価維持政策に出たが、それも再び暴落するのは時間の問題だ。その時には経済だけでなく社会も大混乱に陥るのは必至だろう。 起死回生を狙ったアジアインフラ銀行(AIIB)も、実は中国が抱える悩みを解決するためだけに作られたもの。資金提供したヨーロッパ諸国は痛い思いをすることになる羽目となる。中国経済崩壊により、世界はどうなってしまうのか。日本はどうすればいいのか。このほど中国での現地取材と詳細なデータを読み解いた『中国崩壊後の世界』(小学館新書)を上梓した気鋭のエコノミスト・三橋貴明氏に話を聞いた。* * *──世界中が注目する中国の現状はどうなのか。三橋:2015年の9月に中国に向かい、大連、オルドス、北京と周り、様々な人々に取材した。特に驚いたのはやはりオルドス。高速道路や高層ビルなど見た目のインフラは異様なほど充実している。空気も中国とは思えないほどきれい。ところが、人間がいない。現地に住む中国人に聞いたところ、10万人程度が住めるマンション群に暮らしているのは100人程度とか。しかも、住んでいるというよりも、オルドス市が補助金を出して、薄給の清掃員やタクシー運転手などに「住んでもらっている」状態とのことだ。 ゴーストタウンというと廃墟をイメージするが、オルドスはインフラが整っているだけに逆に不気味な感じを受けた。2010年までオルドスは中国で1人当たり国民総生産が中国全土で1位だったのに、主要産業だった石炭価格の暴落に加え、習近平の“大気汚染政策”が追い打ちをかけて、この有り様だ。5年後、この街はとんでもないことになっているだろう。さらに、詳しくは『中国崩壊後の世界』を読んでいただきたいが、オルドスには驚くべき地区が存在するのだ。これはまさに中国の歪みの象徴といえるだろう。──それでも中国が発表する経済成長率は7%近くと高いままだ。三橋:そもそも、中国が発表する数字そのものが嘘だらけ。何といっても、地方政府が発表するGDPを全部足すと、中国国家統計局による全国GDPを日本円にして54兆円も超えてしまう。地方政府はGDPを上げなければ共産党における出世の道が閉ざされるから、そんなことを平気でする。直近の鉄道貨物輸送量が10%以上落ち込んでいるのに、経済成長率はびくともせずに7%などあり得ない。はじめから、7%という数字ありきなのだ。──中国の産業構造に問題がある。三橋:中国は過剰投資しすぎた。鉄鋼を例にとれば、中国の粗鋼生産量は年間8億トンにも関わらず、生産能力は12億5000万トン。設備稼働率は65.8%。明らかに供給過剰だ。日本の鉄鋼の生産規模は1億1000万トン。中国は余剰供給能力だけで日本の生産規模の4倍にも達している。中国国内の鉄鋼需要は50~60%が建設や不動産、インフラ部門が占めていた。不動産バブルが継続するという前提だ。しかし、不動産バブルは崩壊している。 鉄鋼の供給過剰を国内で吸収することができない、ということを考えれば、AIIBの設立に躍起になるのも説明がつく。逆にいえば、AIIBを強引に設立し、世界中から資金調達した上で、アジア各地にインフラ投資を実施していく以外に、国内の鉄鋼等の供給過剰を昇華する道は残されていないというわけだ。供給過剰問題は鉄鋼だけでなく、自動車産業にも当てはまる。100社以上がある2015年の各自動車メーカーの稼働率は5割前後だ。すでに日米をはじめとした主要国の投資は大幅に激減している状態だ。──中国が供給過剰状態となると、中国に資源を輸出していた資源国はたまったものではない。三橋:現に、豪州やブラジルといった鉄鉱石を輸出してきた国々は深刻な状況に追い込まれている。ブラジルなど政治的要因も重なって、国債の格付けは下がる一方だ。石油輸出国であるロシアや中東諸国も大きな打撃を受けている。──影響を受けるのは資源国だけではない。三橋:最悪なのは韓国だ。韓国のインフレ率は約50年ぶりの低水準0.7%と1999年のアジア通貨危機の時よりも悪い。内需が低迷し、インフレ率が上がらない状況で、外需まで失速する。まさに内憂外患の状況だ。しかも、韓国の場合、「製品輸出国」といて中国に依存してきた。その中国にしても同じような仕組みで発展してきた。つまり、補完関係ではなくライバル関係なのだ。 中国企業は急速に韓国企業にキャッチアップしてきている。すでにサムスンに代表されるスマホなど6分野ですでに中国企業に追い抜かれてしまっている。このままだと韓国は深刻なデフレ不況に突入するのは確実だ。通貨危機の再来の可能性もゼロではない。──日本はどうなるのか。三橋:もちろん、中国経済崩壊によって、まったくダメージがないわけではない。中国に多額の投資をしてきた企業は頭を抱えているし、爆買いも終われば旅行産業や小売業界も打撃は受けるだろう。しかし、日本の対中輸出対GDP比率は2.5%に過ぎない。仮に中国への輸出がゼロになったとしても、日本のGDPは2.5%マイナスになるに過ぎない。 しかも、中国の日本からの輸入は「資本財」が中心だ。日本から資本財を輸入しない場合、中国は自らも生産が不可能になってしまう。そんなことは、中国共産党が崩壊するなど革命的かつ歴史的大事件が起きない限り、絶対にあり得ない。関連記事中国のネットで「南鳥島も古来より中国領土」との意見出る中国不動産バブル崩壊の影響はドバイ・ショックの1000倍説投資家に愛された中国経済 “思春期”過ぎて深刻な“老化”進むバブル崩壊で中国政府がさらに反日工作の可能性と大前氏指摘【中国人のジョーク】尖閣でTwitterやFB開かなければ中国

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    中東の断裂が中国の希望を砕く

     [チャイナ・ウォッチャーの視点]小原凡司(東京財団研究員・元駐中国防衛駐在官) 2016年は物騒なニュースとともに明けた。1月3日、「サウジアラビアのジュベイル外相が、イランとの外交関係を断絶すると表明した」と、サウジ国営通信が伝えたのだ。日本にも衝撃が走ったのは、サウジとイランの国交断絶が、第5次中東戦争の危険さえ孕んでいるからだ。 イスラム教スンニ派が国民の85%を占めるサウジアラビアとイスラム教シーア派が91%を占めるイスラム大国イランの間の対話のチャンネルが切れたということは、スンニ派とシーア派の間の問題解決の手段は戦争しか残されていないという意味でもある。 サウジアラビアに続いて、サウジアラビアと同じスンニ派の王族が支配しているバーレーンと、スンニ派が国民の多数派を占めるスーダンも、イランとの外交関係を断絶すると発表した。まさに、中東で、スンニ派とシーア派の断裂が起こっているのだ。サウジの影響力低下は織り込み済みの米国海軍を増強してきた中国だが……(Getty Images) 中東の断裂は、米国や欧州各国が心配する事態であるが、サウジアラビアに対する米国のグリップが効かなくなっていることを示すものでもある。欧米及びロシアは、核兵器開発に関してイランと合意に至っているが、米国のイランに対する融和的姿勢はサウジアラビアにとって許容できないものだ。イランの核問題を解決に向かわせる代わりに、米国はサウジアラビアに対する影響力を失ったのだと言える。 サウジアラビアに対する影響力の低下は、米国にとっては織り込み済みだという分析もある。米国は、イランの核兵器開発の中止を優先させたのだ。一方で、米国のメディアは、オバマ政権は、同盟国であるサウジアラビアとの関係を再構築しなければならないという圧力に晒されていると報じている。 米ロ両国は、サウジアラビア及びイラン双方に自制を求めている。すでに、ケリー米国務長官が事態の緊張緩和に向けて動いている。ロシアも、「イランとサウジアラビア間の関係改善のため仲裁する用意がある」としている。米ロともに、中東での大規模な衝突を避ける努力を見せるのは、中東で、スンニ派とシーア派が衝突すれば、米ロも巻き込まれる可能性があるからだ。 中東で大きな影響力を持つ、サウジアラビアとイランの対立は、中東を二分した軍事衝突に発展しかねない。現に、バーレーンもスーダンもサウジアラビアに追随している。シーア派の盟主の地位を回復したいイランは、イラク及びシリアとの連携を深め、いわゆる「シーア派ベルト」を構築しようとするだろう。米国は、同盟国たるサウジアラビアが戦闘状態になれば、無視することはできない。シリアを支援し、イランとも良好な関係を持つロシアも、黙っていられなくなる。中国は中東情勢をどう見ているのか? 米ロが、軍事衝突を避けるようにサウジアラビア及びイラン双方に自制を求めているのに対して、中東や地中海沿岸国に影響力を強めつつある中国は、情勢をどのように見ているのだろうか。米国や国際社会の関心が中東に向かえば、南シナ海における中国の自由度が高まると考えられることから、現在の状況を歓迎しているのか。いや、問題はそのように単純なものではない。 中国にとって、中東の断裂は、「中華民族の偉大な復興」という中国の夢を砕く可能性を持つ深刻な事態である。そもそも、中国が南シナ海をコントロールしたいのは、米国の対中武力行使を抑止しつつ、インド洋から地中海にかけての米海軍のプレゼンスを少しでも低下させるために、南シナ海を航行する米海軍艦隊にコストを強要したいからだ。 米国海軍のプレゼンスを低下させることができれば、地中海等における中国海軍のプレゼンスも活きてくる。そのために、中国は空母や大型駆逐艦を建造し、海軍を増強しているのだ。地域に対して、中国の影響力を行使できることが重要なのである。影響力を行使して中国が実現したいのは、「一帯一路」イニシアティブによる、中国が主導する巨大経済圏の創出である。 「一帯一路」が中央で破壊される「一帯一路」が中央で破壊される 中国の「一帯一路」の終点は、地中海沿岸国であり大西洋東岸である、とされる。もし、中東の断裂が深刻になり、軍事衝突を起こすことになれば、中国の「一帯一路」は、その中央から破壊されることになる。さらに、「21世紀の海上シルクロード」構築の重要な目的の一つであるエネルギー資源の海上輸送の出発地が衝突のただ中に置かれ、海上シルクロードの意義さえ失ってしまう。 中国にとって、「一帯一路」は、米国のアジア回帰によって生じる米中対立を避け、西へ向かうものである。そして、中国の継続的な発展をかけた経済活動の海外への展開でもある。もし、中国の経済発展が停滞したら、国内の経済格差は解消できず、社会は安定を失う。共産党の統治が危うくなるという意味だ。 中東の断裂は、中国の経済発展戦略を根底から覆すかもしれないのである。中国は、米国やロシアと異なり、イランかサウジアラビアのいずれかの側に立つことなく、双方とも良好な関係を築こうとしてきた。海外にニュースを発信する中国メディアは、「サウジとイランの断交は、中国に大きな難題をもたらした」と報じている。 中国は「黙って見ている訳にはいかない」としつつも、その立場は複雑である。今さら、サウジアラビアかイランかの、どちらかの側に立つことができないからだ。中国は、イランにもサウジアラビアにも、巨額の投資をし、安全保障面での協力も強化している。 中国国内の報道は、事実を伝えるに止まっている。現段階では、それ以上に踏み込むことが難しいのだ。中国は中立の立場を崩していない。中国が見ているのは、サウジアラビアとイランだけではない。米国とロシアの動きが問題である。 中国は、中東等の地域において、米国と影響力行使の競争をするために、海軍の増強に努めてきた。しかし、中国にとってみれば、中東の断裂は、早く起こり過ぎた。現在の中国の軍事力では、米国とのプレゼンス競争に勝てないばかりか、地域に影響力を行使することも難しい。中国は、サウジアラビア及びイランに対する自らの影響力が十分でない以上、米ロがプレイする大国のゲームの中で行動せざるを得ない。中東の情勢を安定させるにも、米ロの影響力次第ということである。 中国は、サウジアラビアとイランの緊張を緩和するための、米国とロシアの取り組みに、どのように関わるかを模索している。サウジアラビアとイランのバランスをとり、緊張を緩和するためには、中国は米国とも協調的な姿勢をとるだろう。海軍力増強の必要性を思い知る中国 しかし、問題は、サウジアラビアとイランの間で軍事衝突が起こってしまった場合である。中国は、中東において、米国の影響力が強くなりすぎることを警戒している。米国がサウジアラビアを強力に支援して、地域のパワーバランスが崩れそうになったと認識したら、中国は、南シナ海において、米海軍に対する圧力を高めるかもしれない。中東に展開する米海軍艦艇の航行を妨害するのである。 中東で軍事衝突が生起すれば、中国は石油の輸入にも窮することになる。せっかく、ロシアからの天然ガスの購入等によって、ウクライナ危機で経済的窮地に陥ったロシアを助ける形になっているものが、今度は中国がロシアに助けてもらうことになりかねない。これも中国にとっては避けたい状況である。いずれにしても、中東における軍事衝突は、中国にさらに難しい問題を突きつけることになるのだ。 しかし、中東の断裂という状況は、中国に軍事力、特に海軍力増強の必要性を思い知らせるものになっただろう。中国人民解放軍の改革は始まったばかりであるが、中国が改革を加速し、空母打撃群を、早期に、インド洋から地中海に展開しようとすることは間違いない。中国は、大国として地域情勢に影響を与えてこそ、自らが生き残れると考えているのだ。

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    中国経済はどこへ向かうのか? 発展と貧困併存

    [チャイナ・ウォッチャーの視点]富坂 聰(ジャーナリスト) 2015年の幕が閉じようとする中国社会では、二つの相反するニュースが人々の話題をさらった。上海市長寧区の貧困地区。古くからの個人店が立ち並ぶ(iStock)格差社会の相反する現実に揺れる中国 1つ目は12月上旬のことだ。四川省欅枝花市の25歳のタクシー運転手が借金を苦に川に身を投げるという事件が起きた。こうした事件は中国では決して珍しくないが、このニュースが全国区となるきっかけがあったからだ。それは、水死体となった息子の遺体が見つかったものの、貧しい農民である両親がそれを引き上げる費用をねん出することができず、ずっと遺体を放置したまま岸部で泣き続けるという問題が起きたからだった。 当初、付近の漁民たちが提示した金額は1万8000元(約36万円)だったが、事情をかんがみ交渉の末に8000元にまで値は下げられたというが、それでも両親は払うことができなかったという話だ。 地元の『華西都市報』などが大きく伝え、貧困の現実に多くの中国人が震えた。 そして2つ目は12月14日、『経済参考報』が伝えた記事で、タイトルは〈(著名な経済学者)林毅夫が予測 2020年には中国人1人当たりのGDPは1万2615ドルに達する〉だった。 高速成長の時代を過ぎ経済の停滞期を迎えたとされる中国だが、“中所得国の罠(1人当たりのGDPで3000ドルから1万ドルの間の国が急速に落ち込むことを指す)”を脱し、先進国の仲間入りをするとの予測を紹介した記事である。予測したのは北京大学国家発展研究院の教授である。中国の現在(2014年)の1人当たりのGDPが8280ドルであるから、単純に5年後に1・5倍となる計算だ。 前者の視点で材料を集めれば、明日にでも中国が崩壊に向かうという記事を書くことは簡単であり、その逆もまた真なりである。その意味では来年もまた無責任な崩壊論と礼賛論が中国の周りではかまびすしくなることだけは確かなようだ。 そうした雑音はさておき、2つのニュースが示しているように2つの相反する事実に中国が揺れていることは間違いない。そして大きな難題を抱えた習近平指導部が、いったいどのように問題と向き合おうとしているのかをみることは、中国の未来を占う上での基本的な態度ということになるのだろう。危機感強まる指導部危機感強まる指導部 打ち出した経済の方向性とは 私自身、胡錦濤指導部の時代には、中国が抱える問題の大きさに対して指導部の示した危機感が薄すぎると中国の未来を悲観していたが、習近平の時代になり1日500人以上というペースで党員を処分する取り組みなどに接すると、いまの指導部が強い危機感を抱いていることが理解できた。またそれは国民にも伝わり、社会の空気を変える作用もある程度は果たしている。 指導部の危機感は、秋に行われた中国共産党中央委員会第5回全体会議(5中全会)で発表された「13次5か年計画(=13・5)」にもくっきりと刻まれている。 今後5年間の中国経済の方向を決めた「13・5」の特徴は、以下の5つのキーワードで理解することができるとされる。 ①創新(イノベーション) ②緑色(エコ・環境) ③協調 ④開放 ⑤「共享」(利益の平等分配) なかでも焦点は⑤の「共享」とされるが、そのターゲットは貧困である。より具体的には中国になお残る7000万人ともいわれる極貧層(1日1ドル以下で暮らしている人々)があるとされるが、これを5年後に撲滅するというものだ。 実は、習近平は「13・5」の前から脱貧困については積極的に言及してきていた。現状、貧困の実態に関するニュースがメディアに多く見られるのは、それが一つのトレンドになっているからなのだ。 目下のところ指導部の意図がどこにあるのか――「貧困層のかさ上げによって新たな発展の余地としようとしているのか」、それとも「社会の安定のためには避けられない優先事項」と考えられたのか――判然とはしない。しかし、少なくとも分配を見直すという方向には向かうことが予測されるのだ。 この「13・5」を受けて、12月14日に召集された党中央政治局会議では、より具体的に2016年の経済運営のための“10大任務”が確定された(新華社)という。 ここでそのすべてを記すことはできないので要約を並べて見たいが、特徴は①に個々人のイノベーションを推進し新たな発展につなげることを掲げ、②に企業の淘汰を促しつつ、③社会保障や税金、電力といったコストを低減してゆくとしている。また、④として不動産に関しては在庫処理に注力しながら出稼ぎ労働者の都市への定着を推進し不動産の取得を促すことを打ち出し、金融では⑤として効率の良い資金供給のためのインターネットの活用を掲げ、同時に不良債権処理でのハードランディングを避ける⑥としている。さらに、⑦で国有企業改革、⑧で国民生活、⑨で一帯一路構想の推進、⑩で外資との協力と知的財産権の保護を打ち出しているのだ。 これらが中国が今後取り組む優先課題だということだ。逆から見れば、中国がいまどんな問題を抱えているのかが良く伝わってくる内容でもある。上海のパノラマ(iStock)米国との摩擦の懸念 1点だけ、このなかに挙げられていないが重要だと思われるのが高付加価値化に向かわざるを得ない中国の道標である。かつて太陽光発電を次の成長エンジンの一つにしようと目標を掲げたときのようにITを重視するかと思われたが、それはどうなったのだろうか。 実は、この点において懸念されるのは次の発展の場所を中国がITと定めたとき、どうしてもアメリカとの間で深刻な摩擦が起きてしまうとされていることだ。これは太陽光パネルをめぐって、いまは蜜月の欧州との間で深刻な摩擦が発生したことにもつながる問題だ。 一説には、このところ急速にアメリカ国内で中国警戒論が広がった背景には、シリコンバレーが本気で中国を警戒し始めたことと無関係ではないとも言われる。 そういった意味で中国は、アメリカとの調整が本格化する1年だということができるのではないだろうか。国際社会における中国の立場を考えてもアメリカとの関係は重要だ。しかもアメリカは大統領選挙の年である。毎回、中国に対する攻撃が最も強まる1年でもある。つまり2016年を位置づけるのであれば、米中関係の調整から目が離せない1年ということが言えるのではないだろうか。

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    阿鼻叫喚の中国株式市場「サーキットブレーカー」発動の裏側

    渡邉哲也(経済評論家) 新年1月4日、中国の株式市場は日本の国家予算規模である70兆円もの資金が失われる大混乱となった。上海証券取引所と深セン証券取引所で構成されるA株(人民元建て)上位300銘柄で構成されるCSI300指数が大暴落し、サーキットブレーカー(緊急取引停止措置)が発動され、全銘柄の売買が終日停止される事態になったのだ。サーキットブレーカーとは、株価が一時的に急落した際などに発動される仕組みであり、語源は電源回路のブレーカーである。つまり、急激な変化が起きた時に、電気(売買)を遮断することで電気回路(株式市場)を守る仕組みである。中国では今年1月から導入されたわけであるが、開始早々発動することになったわけである。中国の場合、5%下落した場合で15分間、7%下落した場合は終日取引が停止されることになっている。  これは市場参加者の動揺などによる狼狽売りや投げ売りを抑制するとともに、プログラム売買などの暴走を防ぐためにある仕組みなのだ。実は現在、市場に参加しているのは人間だけではない。コンピューターも市場参加者であり、これが大暴落の大きな要因になっている。上海株価の値動きを示す北京の証券会社の電光掲示板。株価下落を示す黄緑色の表示が並んだ=1月7日(共同) 代表格が高頻度取引と言われるものであり、人間とコンピューターの反応時間の差を利用して、売買を繰り返す仕組みである。人間の場合、目で数字を認識しそれを判断し売買を行うのに早くても数秒はかかる。これをコンピューターに即時に判断させ、時間差を利用して数円単位で利益を確定させてゆく仕組みである。しかし、これは市場の大変動時に暴走することが多く、大量の売り注文の発生で株式市場を不安定化させてしまうわけである。サーキットブレーカーはこのような問題への対処として生まれた側面が強い。 では、1月4日の中国株の場合、どうだったのかということになるわけだが、コンピューターの暴走が主要因ではなく、市場に対する失望売りが暴落を促進した側面が強いといえる。その最大の要因といえるのが、大株主や役員などに対する売買停止処置が切れることに対する対応であったと言われている。昨年7月8日、中国当局は株価の暴落を受けて、5%以上保有する大株主と会社役員などに対して、半年間の売買禁止処置を決めた。この期限が来るのが1月8日であり、期限到来を待って売られるという予測で他の投資家が一気に株を売りに出したためと考えられている。 市場原理というのは単純であり、売りが増えれば価格は下落し、買いが増えれば価格は上昇する。そして、市場は売りと買いが自由にできることで適正な価格が導き出される仕組みなのだが、中国の場合、株価を維持するために「売り」を強く規制してきたわけである。このため、大きく歪んだ市場が形成されていたのである。今回の暴落はこの反動の側面が強い。 また、政治的リスクも暴落を後押ししたと言われている。1月2日、中国は南シナ海の人工島への試験飛行を開始した。それに対して、周辺国や米国は猛反発しており、これが戦争リスクを高く引き上げたのであった。ご存知のように米国は昨年10月27日から航行の自由作戦を開始し、中国とは軍事的対立下にある。このような情況で中国が軍事拡大を続けたことで、周辺国との衝突や金融制裁などのリスクが高まったのだ。特に外国人や在外投資家はこのようなリスクに敏感であり、中国市場からの離脱が進んだ側面もあるのだろう。不安定化する中国の為替市場 これを立証する一つのデータとして、中国の為替市場の不安定化が存在する。人民元の市場にはオフショア(外国人が自由に参加できる海外)とオンショア(主に国内)が存在する。実は昨年から、オフショアとオンショアの価格差の拡大が進んでおり、人民元の下落が進んでいたわけである。これは外国人や在外投資家による継続するキャピタルフライトが原因と言われている。外国人や在外投資家が中国の国内資産を売却した場合、その資金を人民元からドルに替え持ち帰ることになる。今年1月4日は、株だけでなく為替も暴落しており、キャピタルフライトが一段階進んだものと考えられるわけである。取引が全面停止され、北京の証券会社で仮眠を取る個人投資家=1月7日(共同) そして、1月5日、中国当局はこれに対処するため、政府系資金を株式市場に投入し、為替市場に対しても大規模な介入を行った。また、大株主に対する売買停止処置を半年間伸ばす事を発表し、売り圧力を弱める方策を採ったわけである。また、為替に関しても、外資系銀行に対して為替業務停止を命じ、外国投資家が売りにくい環境を作ったのであった。 しかし、このような方策をとっても現状維持が限界であり、市場の売り圧力に勝てない情況が続いていた。そして、このような情況を見た外国人投資家は、さらにキャピタルフライトを進めていたものと思われる。そして、今日1月7日、市場開始直後からの売り圧力に耐えられなくなり再びサーキットブレーカーが発動され、終日の売買停止が決定したわけである。 人民元や市場の自由化を進めるとしてきた中国であるが、実際にはその言動とは裏腹の政策を採り、規制や介入により数字をごまかしてきたのが現実である。そして、それは歪みを生み出すだけで解決手段には成り得ないものである。そして、その歪みの反動が今中国に訪れているのだろう。 中国当局が規制を強めれば強めるほど、リスクを嫌う外国人投資家や在外投資家は中国からの資金の引き上げを進め、公的資金などで株価を維持しようと必死になればなるほど、それを利用して高値で売り抜ける。結果的に国内の資産とドルが失われてゆくことになるのだろう。そして、ドルが失われれば国家と通貨の信用も一気に低下することになるのである。

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    「宗主国なき植民地経済」の米中 世界同時株安は没落の契機となる

     まずは、次のグラフをご覧いただきたい(図1)。世界中に多大な悪影響を及ぼした株価暴落の震源地である中国の株式市場の存在感を如実に示しているといえないだろうか。 左側は、上海・深せん株式取引所上場銘柄のなかから、とくに流動性の高い大型株300種を選りすぐったCSI300の値動きを、今年の年初から8月24日までにわたって描いたグラフだ。8月初旬から24日までの下げもきつかったが、じつは6月中旬に天井を打ってから7月初旬までの下げのほうが、もっときつかった。そして、この中国株の下げに触発されて、8月初めから24日にかけての世界同時株安が勃発したわけだ。 さらに、右側のグラフは、世界の株価大暴落のワースト7を年代順に列挙したものだ。さらっと眺め渡しただけでも、金融市場の大混乱に米中両国が及ぼす影響力の大きさがわかる。「第2の」あるいは「21世紀のブラックマンデー」と呼ばれる8月24日に至る株安には、もう「万里の長城」ならぬ「万里の長落」という魅力的なあだ名がついている。株価の実勢としていえばいまはまだ中間集計の段階なのだが、それでも42〜43%の暴落となっている。 世界同時株安を招いた事例のなかで、今回の中国発大暴落を上回る下落率を記録したのは、大恐慌から大不況へと転落していった1929〜33年のニューヨーク市場の82〜83%と、第1次オイルショックが勃発した1973〜74年のロンドン市場の63〜64%、そして、国際金融危機に見舞われた2008年のニューヨーク市場の57〜58%だけなのだ。 妙な国威発揚意識、あるいは自虐史観から「1989〜2003年までの14年間で80%強の大暴落となった日本の株価・不動産バブル同時崩壊が収録されていないのはけしからん」と息巻く向きもおありかもしれない。だが、14年もの長期にわたる山あり谷ありの展開を通算して80%安というのは、投資家にとって逃げたり隠れたりする場所のある下げ方だった。それ以上に重要なのは、当時の日本株大暴落は国際的にはまったく無視できるほどの孤立した現象であって、世界中の株式市場で日本株に連れ安した市場は皆無といえるほど少なかったことだ。 ここでもまた、あれほど急騰していた日本株を世界に売り歩いたり、逆に日本株のカラ売りというアイデアを世界に売り歩いたりする企業家精神あふれる金融業者の不在をお嘆きの向きもあるかもしれない。だが、世界中があまりにも極端な拝金主義の誤りに冒されているときに、そんな時流に乗りきれず孤立していたのは、日本の醇風美俗の表れとしてむしろ高く評価すべきことではないだろうか。それは、世界中の金融市場に及ぼす影響がとくに顕著な米中2カ国の共通点は何かと考えたとき、はっきりしてくる。米中は「宗主国なき植民地経済」米中は「宗主国なき植民地経済」 表面的には、米中2カ国は水と油といえるほど、かけ離れた思想信条・価値観をもった国々に見える。だが、その根底には両国とも「宗主国なき植民地経済」を経営しているという大きな共通点があるのだ。ホワイトハウスで開いた共同記者会見後、握手するオバマ大統領(右)と中国の習近平国家主席=2015年9月25日(UPI=共同) もともとその土地に住みついていた人たちのあいだでの売り買い交渉の積み重ねのなかで成長してきた経済は、基本的に売り手も買い手も多少なりとも妥協しながら、お互いに極端な不満の残らないところで妥協する市場経済を体現している。当然、国家、政府、官僚がこの自由な交渉を統制し、操作しようとすることには自然な反発が生ずる。 ところが、植民地経済はまったく違う。そもそもの始まりからして、宗主国の王侯貴族や、官僚や、軍人や、本国ではうだつの上がらない一旗組や、本国での長い収監生活よりは、年季奉公以後の自由の獲得を夢見た重罪人が、本国ではとうてい得られないような収入を確保するために設計された統制経済として出発したのが、植民地経済なのだ。「大英帝国の王冠のどまん中に光り輝くダイヤモンド」と称賛されたインドに赴任した下級貴族、下級官僚は任地では本国で稼げる収入の10〜20倍の年収があったという。 つまり、植民地はもともと特定の利権集団が思う存分荒稼ぎをするために設計された社会なのだ。ふつうの国民経済は市場参加者が平和に「棲み分ける経済」であるのに対して、植民地経済は利権集団が住民たちを「棲ませ分ける経済」だと表現してもいいだろう。この点の認識が、長い歴史のなかでただの1度も植民地として宗主国に徹底的に富をしぼり取られる運命を甘受させられたことのなかった日本人には、とくに欠如している。 ただ、特定の宗主国が植民地を支配していることが明白な状態では、植民地にやってきた宗主国の貴族、官僚、一旗組としてもあまりでたらめなことはできない。統治責任を負っているからだ。しかし、たまたま早めに宗主国は追い払ったが、利権集団が甘い汁を吸いやすい社会構造を温存してしまった国や、植民地支配の構造そのものが隠微だった国では、建前としては統治権を国民全体が共有しているが、実態としては小さな利権集団がやりたい放題という最悪の事態が生ずる。 アメリカは前者の典型だろう。大英帝国という宗主国は早々と撤退に追いこんだが、南部の大綿花プランテーション農園主や、北部産業資本家の切り取り勝手の企業の合併・吸収による価格支配力奪取を野放しにしていた。そのため、宗主国の撤退がつくり出した真空状態に、非常に早くから形成されていた大統領府と連邦議会の政治家・官僚、産業資本家、金融資本家、大農園主の利権集団が居座ってしまった。 それ以来、南北戦争で農園主が追放されたり、産業資本家より金融資本家のほうが強くなったり、いつのまにか経済学者や弁護士やロビイストが忍びこんだりといった紆余曲折はあった。だが、ひとにぎりの利権集団が統治責任を取らない影の宗主国として君臨する構造は一貫して続いている。 植民地経済という構造が隠蔽されている典型が中国だろう。いまだに政治の中心都市は北京だ。北京は大元帝国時代にはモンゴル族という少数民族が、そして大清帝国時代には満洲族という少数民族が、圧倒的に人口の大きな漢民族を支配するために設置した人工都市だ。また、現代中国の経済中心地は上海だが、これは田舎の小さな城塞都市のそのまた郊外の小さな村が、フランスの租借地となってから急激に発展した都市だった。「中国共産党が宗主国として君臨しているじゃないか」との反論もあるだろう。だが、13億人の人口に対して約8600万人いる中国共産党員の99・98%は、「善良で健全な思想の持ち主である」というお墨付きをいただくために毎年党費を払っているだけの存在なのだ。労働組合や前衛党の用語でいう専従、つまり共産党活動で飯を食っている人たちはわずか3000人にすぎない。13億人の人口に対するわずか3000人という党専従者の人数は、たしかに特権はすさまじいものがあるだろうが、とうてい階級や階層を形成しているといえる規模ではない。砂上の楼閣のように危うい権力構造なのだ。アメリカが頭脳労働、中国が肉体労働を担うアメリカが頭脳労働、中国が肉体労働を担う さて、しかしながらというべきか、だからこそというべきか、宗主国なき植民地経済では、どんなに悪辣な手段を弄しても巨額報酬を獲得した人間こそ立派な人物だという評価、つまりは臆面もない拝金主義がまかり通る。アメリカと中国は、表面的な思想信条を見ているかぎりほぼ両極端の国々だ。にもかかわらず、アメリカが頭脳労働を担い、中国が肉体労働を担うというかたちでの製造業の国際分業をあれほど親密にやっていけるのも、この拝金主義という裏の思想信条においてはぴったり息が合っているからだ。 しかし、その結果はどうだろうか。アメリカにおける製造業就業人口の慢性的な減少と生活水準の低下であり、中国では工場やオフィスビルの周辺に文字どおりの物理的なセーフティネットを張り巡らさないと飛び込み自殺が絶えないという悲惨な労働環境の両立なのだ。 ここでアメリカの名誉のために、独立直後からほぼ一貫してひとにぎりの利権集団だけがボロ儲けをするが、庶民は悲惨な暮らしに甘んずる国でなかったことだけは、はっきりさせておく必要があるだろう。下のグラフをご覧いただきたい(図2)。 さて、1940〜60年代は庶民の所得ばかりが増え、大富豪の所得が伸びない時期であり、1980年代以降は大富豪の所得ばかりが伸びる時代になってしまった最大の理由は何だろうか。1940年代にはすでにアメリカが世界経済の覇権国家であったし、いまなお覇権国家でありつづけているという大情況に変化はない。だが、それに続く第2の経済大国の座には、様変わり的な激変が起きていた。 1940〜60年代は、ともに植民地として支配されたことのないドイツと日本が第2位の座を争い、結局日本が第2の経済大国となる過程だった。そこでは、典型的なガリバー型寡占業界だったアメリカの自動車産業でさえ、最初はドイツ車、そして最終的には日本車の侵攻によって、GMの圧倒的な優位が掘り崩され、さまざまな業種でのガリバー型寡占の地位が揺らぐという健全な変化があった。その結果、アメリカ国内でも平均的な勤労者の給与・賃金が上がり、大富豪の所得は横ばいという時期が続いていたわけだ。 1980年代以降は、日本の高度成長が減速に転ずる一方、中国の経済的地位が高まり、ついには中国が世界で第2位の経済大国にのし上がる過程だった。こうして、世界の経済大国2カ国が双方とも宗主国なき植民地経済だという異常事態が成立してしまったわけだ。そして、製造業におけるアメリカの頭脳労働、中国の肉体労働という役割分担が定着するとともに、過剰な国内投資のために中国が買いあさる資源を売った資源国の収益をアメリカでの投融資に還流させることによって、アメリカの金融業が高収益産業に変身し、ますますアメリカ国内の貧富の格差も拡大した。 今般の山口組分裂騒動でもわかるとおり、大親分と代貸しが同じ系統、しかもかなり偏向のある系統出身者で占められてしまうのは、やはりまずい状況なのだ。その結果、米中2カ国のみならず、世界中に刹那的拝金主義が蔓延してしまった。第2次世界大戦の敗戦国は所得分配が下に手厚い こういう主張をすると、必ずといっていいほど「あまり能力も高くない人間を優遇していたら、経済成長の妨げになる」といった反論をする人が出てくる。だが、実証研究の結果は、むしろ正反対だということを示している。それがわかるのが、G7と呼ばれる先進諸国の所得水準で下から90%の人たちの所得が、第2次世界大戦後どのくらい伸びていたかを示す、下のグラフだ(図3)。 このグラフは、基本的に第2次世界大戦の敗戦国は、戦後ほぼ例外なく下に手厚い所得分配をするようになったことを示している。これは、政策的に下に手厚く分配をしたというよりも、敗戦国では自国を戦争に導いた知的エリートたちの権威が失墜し、平凡な庶民が自分たちの思いどおりに働くことができるようになった結果、経済成長率も高まり、国民経済を構成する人びとのほとんどに、その成果が行き渡ったという要因が大きかったのではないだろうか。 1990年代以降の日本経済は低成長からゼロ成長へ、そしてときにはマイナス成長へと転落していった。これはまた、日本経済における下から90%の人びとの所得分配率がどんどん低下していった時期でもあった。経済効率についてまちがった観念をもった政策担当者たちが、「経済が減速している時期には、下に厚い所得分配などというぜいたくはできない」という理屈で、賃金給与を抑制させつづけたからではないだろうか。 なお、このグラフをご覧になって、「戦勝国であったフランスも下に手厚い分配をしているじゃないか」とおっしゃる方もいるかもしれない。だが、選挙で選ばれたフランスの正当な政権担当者たちは、開戦直後にナチス・ドイツに降伏し、枢軸国側で戦っていたのだ。フランス人で連合国側についたのは、共和国軍から脱退して自由フランス軍を名乗ったドゴール将軍率いる将兵と、勇敢にレジスタンスを展開したごく少数の人びとにすぎなかった。だから、戦後はフランスでもとくに正統政府を支持しつづけた知的エリートの権威の失墜は激しかった。 ところが、アングロサクソン系の戦勝国は、ほぼ一貫して上に厚く下に薄い所得分配を続けていた。そして、この所得分配の差は、ほぼそのまま年率平均でのGDP成長率の差となっている。つまり、敗戦の結果として社会の上層にいた人たちの権威が失墜し、所得分配が平等化した国ほど成長率は高まり、上層にいた人たちの権威が失墜せず所得分配が不平等性の高いままだった国ほど成長率は低かったのだ。とんでもない連邦ロビイング規制法とんでもない連邦ロビイング規制法 なかでも、宗主国なき植民地経済として、実態を見るとひとにぎりの利権集団の権益が非常に強かったアメリカは、勝者のおごりとしか言いようのない悪法を終戦直後の1946年に制定してしまった。それが、連邦ロビイング規制法だ。 名前こそ規制法となっている。だが、実際にはほかの国なら当然贈収賄という犯罪を構成する特定の利益集団から政治家への「献金」も、連邦議会に登録し、四半期ごとに財務諸表を公開しているロビイスト団体を通じて行なえば、正当で合法的な政治活動として認められるという、とんでもない法律なのだ。こういう法律が議会を通過してしまうこと自体が、アメリカという国は利権集団が統治責任を取らずにボロ儲けを続ける宗主国なき植民地経済であることを証明している。 そして、製造業において中国とのあいだで頭脳労働と肉体労働の分業体制を確立したアメリカは、金融業と国家との関係においては、連邦準備制度と日銀との緊密な協力を通じて、完成された官製相場による永遠の金融ブームを創出しかけていた。つまり、中央銀行が国債を買い入れて金融機関に現金をばら撒くことによって、国債価格の上昇=金利の低下と株価の上昇を未来永劫にわたって維持するという状態が出現しかけていたのだ。 これは、国や大地方自治体や一流企業や大手金融機関や大金持ちにとっては、際限なく借金や起債を続ければ、「穏やかなインフレ」と低金利の相乗効果で、黙っていても儲かるおいしい経済環境だ。だが、自宅を担保に入れなければ大きな借金のできない庶民にとっては、何ひとついいことのない経済環境なのだ。しかも、国が既発債の償還財源に窮したとしても、借り換え債を発行させて不換紙幣を増刷して買い取ってやれば、形式論理上はいつまでも破綻することなく国家債務を増大させつづけることができる。 しかし、この考え抜かれた利権集団の、利権集団による、利権集団のための経済環境もついに破綻するときが来たようだ。中国で行ないつづけてきた過剰投資で、工場の新増設、都市開発、不動産開発、インフラ整備、どれをとっても収益を生むどころか、投下資金さえ回収できない案件が続出しているからだ。「影の宗主国」は撤退する アメリカ国内ではどんなに工夫を凝らして、国と一流企業と大手金融機関の繁栄が永遠に続くような仕組みをつくり上げたとしても、その基盤を支えているのは製造業における米中間の頭脳労働と肉体労働の分業と、中国にエネルギー資源や金属資源を輸出して儲けている資源国の稼いだ外貨をアメリカ国内への投融資に還流させることの2本柱なのだ。この2本柱は、どちらも中国経済ができることなら順調な成長を続け、最低でも現状維持をしてくれなくなったら、崩壊するしかない。 現に、資源国からアメリカへの投融資は、今回の金融市場の大波乱の前から急激に減少していた。直接的には原油価格の低下が原因だ。だが、その原油価格暴落も、これまで毎年激増してきた中国の原油消費量が、2012年末からは横ばい、そして2014年春からは減少に転じたことに端を発している。 さらに深刻なことに、いまなお貿易・経常収支では巨額の黒字を出しつづけている中国が、外貨準備を見ると激減に転じている。「誤差・脱漏」という統計上の不整合の金額が莫大な経常黒字を上回るほど大きな純流出となっているのだ。どうやら宗主国なき植民地経済の一方の旗頭である中国の「影の宗主国」は、中国から撤退する際にもきちんと統計資料に姿を現さずに、統計上の誤差というかたちでひそかに撤退する道を選んだようだ。 というわけで、今般の世界同時株安は、手段を選ばず荒稼ぎしたものが勝ちというあさましい植民地経済を世界に押し付けてきた米中両国が没落するきっかけである可能性が非常に高い。この同時株安を私は心の底から歓迎する。関連記事■ どん底の中国経済―バブル崩壊は止まらない■ 消費税率10%を既成事実化する財務省の「見せ球」に騙されるな■ アベノミクスの本当の目的は「国債の買いオペ」? ハイパーインフレは起こるのか?■ 死期の中国経済、共倒れの韓国経済■ なぜ中国から離れると日本はうまくいくのか

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    中国は今も昔も「パンツ製造所」

    石平(評論家)中国経済、失速の連鎖 私が本誌で「中国経済はいずれ崩壊する」と主張し始めたのは、いまからおよそ五、六年前のことである。そしていま、それは目の前の現実となりつつある。 今年八月と九月に公表された中国経済関連のさまざまな統計数字を一度に並べてみれば、この国の実体経済が一体どこまで沈没しているかがよく分かる。 たとえば中国自動車工業協会が八月十一日に公表した数字によると、七月における全国の自動車生産台数は百五十一・八万台で、前年同期比では一一・七六%の減少となり、前月比では何と一七・九九%も減った。僅か一月で自動車の生産台数が約一八%も激減したとは、自動車産業にとってまさに地滑り的な凋落であろう。 生産台数が激減した最大の理由は当然、販売台数の減少にある。同じ七月の中国全国の自動車販売台数は前年同期比では七・一二%減で、前月比では一六・六四%の減少となった。このような数字はまた、中国全体における個人消費の急速な冷え込みを示している。 そして今年四月から七月まで、中国の自動車生産台数と販売台数の両方はすでに連続四カ月間、減り続けていたから、消費の激減が生産の激減をもたらすという、典型的な経済失速の連鎖がすでに始まっている。米西部シアトルのボーイング社を訪れた中国の習近平国家主席(左)=9月23日(新華社=共同) 消費が減っているのは、何も自動車市場だけではない。八月二十日に米調査会社が発表した今年四~六月期の中国市場スマートフォン販売台数は前年同期比で四%減少、四半期ベースで初めて前年を下回ったという。そして国家工業と情報化部(省)が九月七日に公表した数字によると、中国全国の移動電話(携帯電話)の通話量は、今年七月までに連続七カ月間のマイナス成長となった。 同じ九月七日の国家統計局の発表では、今年上半期における中国全国のビール消費量は前年同期比で六・一七%減で、この二十年来、初めてのマイナス成長。「世界最大」と言われる中国のビール市場の繁栄もこれで終わるのである。あらゆる業種が大不況に このように、ビールの消費量からスマートフォンや自動車の販売台数まで、中国の消費市場は急速に縮まっている。そして、自動車販売台数の激減が直ちに生産台数の激減に繋がったのと同じように、消費の冷え込みは当然、製造業全体の不況をもたらしている。 英調査会社マークイットが、八月二十一日に発表した今年八月の中国製造業購買担当者景気指数(PMI)速報値は四七・一。PMIというのは好不況の分かれ目の数値で、五〇以下であれば不況となる。中国のPMIはこれで六カ月連続で五〇を割り、八月の四七・一はリーマン・ショック後の二〇〇九年三月以来、約六年半ぶりの低水準、まさに大不況の到来を示す数値である。 中国国家統計局が九月十日に発表した産業界の取引動向を示す八月の卸売物価指数も、前年同月比五・九%の下落となった。同指数の下落はすでに四十二カ月(三年六カ月)連続しており、八月の下落幅は七月の五・四%からさらに広がった。中国の産業全体は沈没している最中であることがよく分かる。 産業が沈没すれば、それと一蓮托生の金融業も大変な苦境に立たされる。八月三十一日に中国国内メディアが伝えたところによると、不良債権の増大・業績不振などが原因で、中国工商銀行などの「中国四大銀行」を「賃下げラッシュ」が襲っているという。五〇%程度の賃下げを断行した銀行もあるから、金融業の苦しさがよく分かる。 こうしたなかで、いままでは「中国経済の支柱」の一つとして高度成長を支えてきた不動産開発業も深刻な不況に陥っている。今年上半期、中国全国の「不動産開発用地」の供給面積が前年同期比で三八・二%も激減したことは、現在の「不動産不況」の深刻さを如実に示している。 莫大な在庫を抱える多くの業者が不動産をそれ以上開発せず、開発用地の供給が大幅に減ったわけである。実際、二〇一四年から今年の八月まで、中国全土の不動産投資の伸び率は連続二十カ月、下落している。 また、詳しいことは後述するが、今年六月中旬からこの原稿を書いている九月まで、上海株が連続的な大暴落を続けていることは周知のとおりである。 以上のように、いまの中国では消費・生産・金融、あるいは不動産や株市場、経済のありとあらゆる領域で大不況の冷たい風が吹き荒れ、中国経済を支えてきた「支柱」の一つひとつが傾いたり崩れかけたりするような無惨な光景が見られている。中国経済は現在ただいま、壮大なる崩壊へ向かっている。「李克強指数」の誕生「李克強指数」の誕生 しかしこうしたなかでも、中国政府が公表した二〇一五年第1四半期(一~三月)と第2四半期(四~六月)の経済成長率は、両方とも七%となっている。前述のような実体経済の沈没ぶりを見ていると、成長率だけが七%の高い水準にあるのは果たして本当なのか、との疑問が当然出てくる。 実はいまの中国で、政府が発表したこの七%の成長率を額面どおりに信じている者はほとんどいない。二〇一五年三月に開催された全国人民代表大会で、李克強首相は今年の経済成長率目標を七%程度と定めたが、両四半期ともまるで合わせたかのような数字だったということが、まずもって怪しい。 そもそもこの李克強首相自身が、遼寧省の党委書記だった二〇〇七年に「中国のGDP統計は人為的で信頼できない」と「自白」している。中国の李克強首相=北京(共同、撮影日9月30日) そして、実際の経済状況を知るうえでは、自分はもっぱら「電力消費量」「鉄道貨物輸送量」「銀行融資量」の三つの指標に注目していると述べている。それはのちに、「李克強指数」と呼ばれるようになる。 実体経済を正確に見るための三つの指数だが、二〇〇八年以後、温家宝政府の下で過度な金融緩和政策を行って銀行の融資を人為的に増やしたことから、「銀行融資量」はあまり信用できなくなったので、いまは「李克強指数」は「電力消費量」と「鉄道貨物輸送量」の二つを指している。 生産活動に電力は必要不可欠だから、電力の消費量が伸びていれば生産活動が盛んであることの証拠、要するに実体経済が伸びているということになる。 また、中国の場合は生産財や原材料、あるいは石炭などのエネルギー資源の大半は列車で運ぶわけだから、鉄道貨物輸送量が伸びているということは物が動いている、つまり生産活動が盛んに行われているということになる。中国経済成長神話は崩壊している では、「李克強指数」を用いて二〇一五年上半期(一~六月)の中国経済の実態を見たらどうなるのか。 まずは、全国電力消費量を見てみよう。中国国家能原局の発表では、今年上半期の電力消費量は一応伸びることは伸びているが、伸び率は前年同期比の一・三%増でしかない。 これでどうして経済全体の伸び率が七%もあるのか、と疑問を感じざるをえない。たとえば、二〇一三年の中国の経済成長率は七・七五%であったが、これに対して同年の全国電力消費量の伸び率は七・五%。七・七五%対七・七%で、一応は釣り合いが取れていた。 だから、二〇一五年上半期の電力消費量の伸び率が一・三%増ならば、理論的にいえば、成長率は一%前後でなければならない計算になる。 鉄道貨物のほうはどうか。中国発展改革委員会によれば、二〇一五年上半期の鉄道貨物輸送量は前年同期比で一〇・一%という大幅減だった。つまり、モノが動いていないのである。一方、道路貨物輸送量は六・二%増だったので、鉄道の代わりにトラック輸送が増えたと見ることもできるが、しかしトラックによる輸送は中短距離が主で一回の輸送量も小さいから、工業生産やエネルギー資源などの大型輸送が減ったことは確実であろう。 以上のように、いわゆる「李克強指数」から見ると、二〇一五年上半期の成長率は、〇%かあるいはマイナス成長に陥っている可能性すらある。 もう一つ、衝撃的な数字がある。中国税関総署が発表した二〇一五年一~七月の貿易統計によれば、輸入が前年同期比の一四・六%減だった。中国の場合、輸入は消費財よりも生産財のほうが多い。要するに、海外から部品などを調達してそれで生産活動を行っているわけである。 つまり、輸入がそれほど減ったということは消費が落ち込んでいるだけではなく、生産自体も大幅に落ち込んでいることを意味している。 このように、電力消費量と鉄道貨物運送量の激減と輸入の大幅減とを合わせてみれば、今年上半期の中国経済は〇%成長、あるいはマイナス成長であったことは明々白々である。鳴り物入りの「中国高度成長」の神話は、これで完全に崩れているのである。「パンツ経済」から脱却できなかった中国「パンツ経済」から脱却できなかった中国 中国経済は一体どうして、これほどの凋落ぶりを見せているのか。ここでは、中国経済が駄目になったいくつかの理由、あるいは中国経済が駄目にならざるを得ないいくつかの理由について、簡潔に解説しておこう。 世界の経済成長史を見れば、日本にしても欧米にしても、企業がこつこつと技術開発をして常に技術革新を起こし、製品の付加価値を高めることによって高度成長を支えてきた、という歴史がある。 たとえば日本の場合、高度成長の最初の段階では、輸出品はせいぜいおもちゃぐらいであった。しかしその後、あっという間に日本の自動車が世界中を席巻し、一九七〇年代には日本車の輸出台数は世界一となった。こうしたなかで、日本は継続的な高度成長を成し遂げることができたのである。 一方、中国はどうか。一応は輸出大国である。だからこそ、世界一の外貨準備高を持っている。しかし、この二十~三十年間で中国の輸出品が大きく変わったかというと、ほとんど変わっていないのである。 一九八〇年代、中国の主要輸出品は安物の靴下やパンツであったが、現在でも我々は中国製の靴下やパンツを履いている。数十年間で中国の輸出がパンツから自動車に変わったかといえば、全く変わっていない。外国では、誰も中国製の自動車などを買おうとはしない。要するに、中国は今も昔も世界一の「パンツ製造所」というわけである。 中国製品というのは安い労働力が唯一の武器だったわけで、農村には労働力が余っているからいくらでもかき集めて、安い賃金で働かせてパンツを作れば中国企業は潤い、経済が成長できた。そういう意味では、中国の経済成長は、要するに「パンツ経済」の成長である。 このような労働集約型の産業だから、技術開発をする必要もなかった。それで中国は、一向に「パンツ経済」から脱出できなかった。国内消費が伸びない一因 しかし、労働者に安い賃金しか与えず、儲けは経営者に集中するという貧富の格差が拡大することで、長期的には国内消費が落ち込む。 結果的に、中国自身が安価な製品を作りながらも、国内の慢性的な内需不足に悩まされるようになった。二〇〇〇年くらいまで、中国でのGDPの個人消費が占める割合は四五%近くあったが、ここ数年は三五%前後にまで落ち込んでいる(日本は六〇%程度)。経済が成長するにしたがって、中国経済のなかで国民の消費する割合はむしろ減っている。 それではどうやって経済成長させてきたかといえば、結局、輸出頼りとなるが、輸出を伸ばすためにはさらに賃金を安く抑える必要がある。それがまた国内の消費不足を招くという悪循環となる。 もう一つ、中国が高度成長を支えてきたやり方とは、要するに過剰投資である。国民が消費しないなら政府が投資すればいいとばかり、公共投資によって道路や橋をつくって需要を創出してきた。それに伴い、セメントや鉄鋼など、いろいろな需要も増えてくる。 そこで、中国は全土で投資中毒になってしまった。中央政府も地方政府も、公共投資や土地開発をバンバン行った。その資金のためにお札を刷り、さらに投資を増やして経済成長を加速させていった。 そんな政策を長くやってきたことで、過剰生産が深刻化してしまった。人の住まないゴーストタウン「鬼城」が大量にできあがり、生産設備も全部が余るようになった。 健全な経済なら、民間の給料が上がって国内消費が拡大することで、そうした過剰生産も吸収されていくわけだが、前述のように国内消費の割合はむしろ落ち込む一方である。また、中国では高付加価値を生む産業も育成されていないから、相変わらずパンツしか作れない。だから給料も低水準のままになる。その点も、国内消費が伸びない一因である。 しかも、大量にお札を刷ったために流動性過剰が発生して、インフレになってしまった。国内消費が伸びないのにインフレになるという最悪の状態である。それにより人件費が上がって安いパンツが作れなくなり、輸出が大幅に減ってしまった。中国のパンツが日本のパンツより高くなったら、誰も中国のパンツなどは買わないだろう。中国が抱える時限爆弾中国が抱える時限爆弾 二〇一〇年までは中国の対外輸出の毎年の伸び率は驚異的な二五%前後であったが、二〇一五年に入って一~七月で〇・八%減と、ついにマイナス成長へと転落した。 GDPに占める輸出の割合(輸出依存度)は二〇〇六年に三六・六%だったものが、二〇一四年には二二・六%に落ち込んでいる。その分、内需が増えたのかといえば、前述のように国内消費の割合は低下の一途を辿っている。 では、何が穴埋めしたのかといえば、やはり過剰投資ということになる。しかし、その過剰投資がもはや持続できない状態になっている。GDP速報値を発表する中国国家統計局の盛来運報道官=2015年10月19日、北京(共同) 一方で、貿易依存度は二〇%以上。日本が一〇%程度だから日本よりも倍以上も外需に左右されやすいということだ。 しかしはっきりいって、中国という人口十三億人の国が輸出で経済を支えるというのは、最初から無理がある。 いまの中国では、衣料品をつくる工場をフル稼働すれば、世界の需要の二~三倍くらいの衣料品を生産できるから、中国経済が永遠に成長するには月で新しい市場を開発するしかない、といった冗談が囁かれている。もっとも、残念ながら宇宙人はパンツを履かないから「月市場」は夢のまた夢である。 中国がこれ以上、対外輸出の拡大を続けるには、たとえばドイツや日本のように、高い技術力で付加価値の高いものを作るしかない。日本では下町の町工場でも世界中で誰も作れない高い技術があるから、輸出経済は常に維持できる。 しかし、中国にそんなものはない。パンツは誰でもつくれるし、東南アジアなら中国よりもっと安くつくれる。だから日本や欧米も、工場を東南アジアに移す動きが加速しているし、中国の安い労働力による価格競争力がどんどん奪われている。 こうして中国の経済成長モデルは、完全に行き詰まってきた。だから〇%成長、あるいはマイナス成長に陥るのはむしろ当然のことであろう。そして今後、〇%成長かマイナス成長が続くなかで、失業の拡大による内需のさらなる低減と景気のより一層の悪化は必至だろう。 同時に、いまの中国経済は「不動産バブル崩壊」と「シャドーバンキングの破綻」、そして「地方財政の破綻」などのいくつかの「時限爆弾」を抱えているが、〇%成長かマイナス成長の状況下でそれらの「爆弾」が一つでも爆発すれば、あるいは同時に爆発すれば、中国経済は確実に死期を迎える。株価バブルは一発逆転の花火 最後に、上海株暴落の経緯とその理由について触れておこう。 上海総合株価指数が五一六六ポイントという七年ぶりの高値をつけたのは今年六月十二日のことだが、その直後から暴落が始まり、七月三日までの三営業日で約三〇%近い暴落が起こった。 これに慌てた中国政府は、六月二十七日には四回目の追加利下げを行い、七月三日には中国証券監督管理委員会(証監会)が新規株式公開(IPO)の抑制を発表。さらに七月八日には、持ち株が五%以上の株主を対象に向こう六カ月、株式売却を禁止する措置を打ち出すなど、およそ「自由市場」と呼ぶには程遠い無茶苦茶な施策を打ち出した。 これでようやく暴落が収まり、反転したかに見えた株式市場だったが、七月二十七日には一日で約八・五%の下落という二〇〇七年以来、最悪の大暴落となった。 六月末から七月初旬の暴落時に異常だったのは、過半数の一千四百銘柄が売買停止となったことである。要するに、一千四百社もの上場企業が、自社株の暴落を防ぐために自ら売買停止にしたわけで、世界の経済史上では前代未聞の話である。 その時点で、上海の株式市場は半ば死んだも同然である。 もともと、六月中旬までの株価の上昇はまったく異常な株バブル状態であった。実体経済が凋落しているなかで、二〇一四年十一月末に二五〇〇ポイントだった株価は、僅か半年で五〇〇〇ポイントを超え、二倍以上になってしまった。どう考えても、実体経済の下支えのないバブルだったのである。 ちょうど土地バブルの崩壊が顕在化して経済の減速が見え始めてきたため、中国政府は去年十一月に利下げを行い、さらに今年二月、五月と相次いで利下げした。金利が下がったことで、銀行に預けるよりも株取引したほうが儲かるということになる。資金はどんどん株式市場に流れ込んだ。 さらなる金融緩和の期待、政府が信用取引を推奨したことも、株高を後押しした。信用取り引きを推奨した結果、中国株の信用取引の規模は一年間で五倍にも膨らんだと報じられている(日経新聞二〇一五年五月二十一日付)。 要するに、中国の実体経済が絶望的な状況になっているからこそ、中国政府は最後の一発逆転の花火として株価バブルを仕掛けたわけである。打ち出した延命策がかえって命取りに しかし、このような官製相場としての株バブルは当然、いずれ弾けることとなる。 そもそも信用取引は借金で株投資をやっているような状態だから、信用取引をやっている投資家は株価が下がることにすごく敏感である。だから、何か動きがあればすぐに売ってしまう。 しかも政府が株式投資を煽ったせいで、この半年で株式市場に新規参入者がどっと増えた。二〇一四年末に一億八千万だった個人の証券口座数は、二〇一五年六月には二億二千五百万と実に半年で四千五百万件、割合にして二〇%も増加している(三菱東京UFJ銀行「経済レビュー」二〇一五年七月二十四日)。 こういった新規参入者が信用取引に手を染めると、どうせ借金して買ったものだから、儲かったところで一斉に売る動きに出るようになる。そして、ひとたび株価が下がるとそれを見てさらに売りが加速するという、パニック売りが起こりやすくなる。 さらにもうひとつの要因としては、中国株を外国人投資家に解禁したことがある。中国には上海と深セン、二つの株式市場があるが、以前まではそれぞれの市場において、中国人だけが売買できるA株と海外の投資家も買えるB株とに分かれており、完全に開かれたマーケットではなかった。 そこで中国政府は二〇一四年十一月から、海外の投資家も香港経由で上海A株を買えるようにした。 しかし、外国投資家は中国経済の実態をよくわかっているから、利益を確保したところで売る。 そうなると、中国国内の信用取引をしている投資家も慌てて一斉に持ち株を処分し、恐慌売りが始まる。そうした仕組みによって、大暴落が起こりやすくなっていたわけである。 六~七月の暴落以降、政府はさまざまな株価維持政策を乱発したが、一旦は上がるもののその数日後には再び暴落が起こるといったように、乱高下が止まらなくなってしまった。こうしたことが繰り返されることで、株市場も崩壊していく。 同時に、株が暴落していくことによって損失を抱えた投資家は、手持ちの不動産を売却してそれを補填しようとするから、不動産価格の下落に拍車がかかる。そうしたことが国民の消費マインドにも大きな影響を与えて内需がさらに落ち込み、実体経済に悪影響を与える。 そうした負のスパイラルが起ころうとしているし、すでに一部では起きている。 このように見てくると、習近平政権は株バブルを煽って中国経済の延命を図ったが、結果的にそれが中国経済の命を縮めることになった。 そして、実体経済がすでに沈没しているなかで、「株バブル」という最後の延命策が失敗に終われば、今後の中国経済を待っているのは崩壊という結末しかない。われわれはいま、今世紀最大の経済崩壊劇を目撃している最中なのである。   

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    中国の自壊が始まった!

    6月に起こった上海株暴落は実体経済の下支えがなかったことに起因している。李克強指数を見れば、中国経済の凋落ぶりがよくわかる。われわれはいま、今世紀最大の経済崩壊を目にしているのだ。

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    エコノミスト誌元編集長「中国の懸念は経済ではなく政治である」

     [世界潮流を読む 岡崎研究所論評集]岡崎研究所 エコノミスト誌元編集長のビル・エモットが、中国の株式市場の崩壊に関して、真の問題は経済的なことではなく政治的なことである、との論説を8月28日付フィナンシャル・タイムズ紙に書いています。 すなわち、中国の株式市場のバブル崩壊に関心を持ち、懸念を抱くべき真の理由は、経済ではなく政治にある。本件は、3つの大きな政治的問題を提起している。 第一に、長年、中国の大きな強みの一つは、その権威主義的な政府は、民主主義政府よりも、うまく意思決定、遂行、経済改革の舵取りが出来ることだ、と言われてきたが、それに疑問符がついている。温家宝前首相(画像:Getty Images News) 温家宝首相(当時)が全人代で、中国の成長は不安定、不均衡、不調和、持続不可能である、と言ったのは8年前である。これは、投資集約的で汚染に満ちた経済成長から、よりクリーン、ハイテク重視、消費者主導の多様性への移行という新たな改革の宣告だったのだろうが、殆ど実現していない。中国の大気と水は今までになく汚染されている。投資が成長の駆動力としては大きく弱まり消費が重要性を増したように見えるが、単に統計上そう見えるだけである。 2007年に温家宝が求めたような変革では、政治指導者は、大衆の信頼と社会的調和を維持しながら、利害関係者間の調停をする必要がある。そのために中国共産党は、過去2年間、政治的支配を強化しようとしているが、これまでのところ、これらの経済改革を上手く実行できていない。 第二に、株式市場の崩壊から何らかの真の国内的な結果があるとすれば、損失を被った投資家の怒りが、失業率の増大等と相俟って、共産党指導者に対する大衆の反発につながる可能性である。問題は、そのような反発がどれくらい大きくなるか、それが深刻になった時に党がどのように応えるか、である。温家宝が言った「四不」への対応の失敗は、共産党が大衆の騒乱を如何なる犠牲を払っても回避したがっていることによるところが大きい。 第三の大きな政治的問題は、経済的緊張が東アジア、東南アジアの近隣国への中国の行動にどう影響するか、である。これが懸念すべき最大のものである。最悪なのは、経済的緊張への対応として、中国政府あるいは軍がナショナリズムを煽り、東シナ海・南シナ海において、日本、ベトナム、フィリピンその他の国々との領域紛争をエスカレートさせることである。そういうことが起きれば、株式市場の崩壊など空騒ぎにしか見えなくなるだろう、と述べています。出典:Bill Emmott,‘We should worry about China’s politics not the economics’(Financial Times, August 28, 2015)http://www.ft.com/intl/cms/s/0/b14c5de2-4bd0-11e5-b558-8a9722977189.html?siteedition=intl#axzz3k80BQ...* * * エモットは、最近の中国の株式市場のバブル崩壊が提起する政治的問題として、1)これまでの投資主導の経済からの移行がうまくいっていない、2)株の暴落で損失を被った投資家の怒りに、失業率の増大等が加わって、指導者の恐れる大衆の反発が起きる可能性がある、3)国内の経済的不安への対応として、中国政府、あるいは軍が東、南シナ海での紛争をエスカレートさせる恐れがある、ことの3つを挙げています。 1)は以前から指摘されていることであり、国有企業等既得権益者の抵抗、汚職追放運動で、多くがイニシアチブを取ることを恐れていることなどのため、改革が進まないと言われています。経済の基本的構造改革は、いつどの国にとっても容易ではありませんが、この改革は中国経済の持続的発展に不可欠であり、中国政府は多くの難問を抱えつつも、今後ともその実現に努力していくでしょう。 2)について、中国政府が大衆の反発を恐れているのは、その通りです。一時期から反日デモが行われなくなったのは、反日デモが反政府デモに転嫁することを恐れた中国政府が押さえたためです。ただ今回の株価の暴落に際して、これまで損失を被った個人株主が大挙抗議したとの報道はありません。中国では株主の8割は個人で、昨年の株価の急騰に際して、金を借りてまで株を買った者が多数いるといいます。今回の暴落で被った痛手は少なくないと考えられますが、今のところそれが大衆の怒りにまでは発展していません。ただ、大きな損失を被った個人投資家の今後の動向から目を離せないというのは事実でしょう。 3)の国内の問題から目をそらせるために対外的緊張を作り出すというのは、古典的対応であり、中国が内政で行き詰まった時、攻撃的な対外政策を推進するのではないかとの恐れはこれまでも論じられてきました。その恐れは常にありますが、今回の株価の暴落を契機として、中国が東、南シナ海での紛争をエスカレートするというのは言い過ぎでしょう。上記2)にいう大衆の反発が大規模に起きるようであればエスカレートの可能性は考えられますが、そのような反発は起こりそうにありません。 攻撃的な対外政策の推進は当然のことながらリスクを伴います。よほど国内的に行き詰まらない限り、そのような行動は起こさないでしょう。ただ南シナ海、東シナ海の緊張は、中国当局の意図とは別に、何らかのきっかけでエスカレートする危険があります。中国と日本、その他の関係国はそのような危険の防止のための、平時の意思疎通の手段などを講じるよう努めるべきでしょう。

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    中国の経済的パワーを封じ込めるのは得策ではない

    丸川知雄(東京大学社会科学研究所教授)減速の様相 先ごろ中国の国家統計局は2015年7~9月の中国の経済成長率が6.9%だったと発表した。この数字を額面どおり受け取れば、ほぼ2015年の成長率の目標(7.0%)どおりに進んでいると評価できるはずである。だが、このデータが発表された直後の10月24日に中国の中央銀行は2014年11月以来6回めとなる基準金利の引き下げを行った。各四半期のGDP成長率を見ると、10%から7%程度の「新常態」へ緩やかにランディングしているようにみえ、かなり大きく上下動している日本のGDP成長率とは好対照を見せている。それなのに、なぜ金融緩和がせわしなく繰り返されるのだろうか。 それは中国政府が経済の実態が6.9%という数字から示唆されるよりももう少し悪いとみているからだと思われる。だが、本当のところどれぐらい悪いのか、そしてこの悪い状態はどれぐらい続くのかがきわめてわかりにくい。おそらく中国政府当局にも経済の実態に関する相矛盾するデータが入ってきてなかなか判断がつきにくい状況にあるのだと思う。 例えば、鉱工業は明らかに不況といっていい状況にある。主要な鉱工業製品27品目の2015年上半期における生産実績を見ると、粗鋼生産量はマイナス1.3%、自動車生産台数は2%増、発電量は0.6%増と軒並み低い数字が並んでいる。経済全体の成長率(7.0%)を超える伸びを示したのは化学繊維、非鉄金属、ICのみにすぎない。鉱工業全体の成長率は主要鉱工業製品の生産量のデータから推計されていると見られるが、各製品の生産量の数字と、2015年上半期の鉱工業成長率(6.0%)を比べてみると強い違和感を禁じ得ない。私はこの6.0%という数字は過大評価である疑いが強いと考えており、鉱工業の成長率は実際には1%台だったとみている。 一方、第3次産業を構成する各産業についていえば、金融業が上半期に17.4%も成長するなどおおむね好調である。鉱工業がかりに1%台しか成長していなかったとしても、第3次産業がもし当局発表どおりに伸びたのだとすれば、中国経済全体としては上半期には5%台の成長をしたと推計できる。いや第3次産業の数字だって怪しいと疑問を投げかけることもできるが、こちらの方はクロスチェックするのに使えるデータがきわめて乏しい。公式発表の数字を疑おうにも、その拠り所になるような数字が見つからないのである。 一部には中国の輸入額が減少しているから本当はマイナス成長している、という人もいるようだが、その議論には無理がある。たしかに2015年1~9月の輸入額は前年同期に比べて15%も減少している。何が減少したのかを見ると、原油の輸入額がマイナス41%、精製油の輸入額がマイナス36%、鉄鉱石の輸入額がマイナス42%と下落幅がきわめて大きく、これら3品目だけで中国の輸入額減少に対する寄与率は50%にもなる。ところが輸入の数量をみると、これら3品目とも若干増えているのである。つまり、これら3品目の輸入額が減少したのは中国の輸入需要が減ったからではなく、もっぱら国際的な一次産品価格の下落の影響なのである。たしかに輸入統計のなかには自動車の輸入台数が106万台から82万台に減少するなど、内需の弱さを示唆する部分もある。しかし、輸入減少の最大の原因は一次産品価格の下落にあるため、輸入額の推移から中国の国内経済の状況を占おうというのは無理がある。減速の理由 減速の理由 中国経済が減速し、とりわけ鉱工業が不況の状態に陥ったのは、2008年のリーマンショック以来続けてきた投資主導の成長路線に限界が来たことによる。リーマンショックによる輸出減少という事態を打開するために中国政府は4兆元の公共投資によって景気浮揚を試みた。これに呼応して地方政府も積極的にインフラや住宅の投資を進めたため、中国全体で建設ラッシュが続いた。2008年に北京・天津間で第1号の路線が開業したばかりの高速鉄道は、2014年末には総延長が1万6000㎞にも達した。1964年の開業から50年かけて2600㎞あまりのネットワークを作った日本の新幹線網の6倍以上の長さをわずか6年ほどどで築き上げてしまったのである。また、全国の都市で高層マンションがすさまじい勢いで建設されている。石炭産業の不振によって失業問題に苦しんでいる東北部の地方都市を去年訪れたが、そこでも不況を振り払おうとするかのような住宅建設ラッシュが見られた。日本のテレビで「ゴーストタウン」が建設されていると紹介された内蒙古自治区のオルドス市では、都市部人口130万人ほどの都市で、2014年9月時点で住宅の売れ残りが3万8000戸にもなるという。年間に売れる住宅の数は1万数千戸程度なので、3年分の売れ残りがあることになる。中国四川省で人民元紙幣を数える銀行員(共同) こうした建設ラッシュによって鉄鋼、セメント、建設機械などの需要が高まり、高い成長率が続いてきた。しかし、インフラがある程度整備されれば投資を減速せざるをえないし、住宅は買い手がつかなければ不動産開発会社の経営が行き詰まるだろう。国民一人当たりの高速道路と高速鉄道の長さを日本と中国で比べてみると、高速道路では中国はすでに日本の1.2倍、高速鉄道では日本の6割の水準にある。中国の交通インフラはすでに相当充実しており、その分今後建設する余地は大きくないと言えよう。 住宅については、2014年3月頃まではほとんどの都市で新築住宅の値上がりが続いていたので、投資過熱ではないのかという不安感をよそに投資が続いていた。しかし、2014年の5月の連休を境に多くの都市で住宅の値下がりが始まり、夏から秋にかけてはほぼ全国で価格が下落し、バブル崩壊の様相を呈した。2015年3月になって政府が住宅購入に対する規制を緩めたこともあり、値上がりに転じる都市が次第に増え、2015年9月の時点では住宅価格の調査が行われている70都市のうち39都市では前月に比べて値上がりしている。だが、バブル崩壊前の2014年3月と比べてみると、バブル前の価格水準を上回っている都市は深圳、上海、北京、アモイ、広州、鄭州の6都市のみで後は下落している。そうした地域の不動産開発業者は売れ残りと値下がりのなかで厳しい状況にあると見られる。 中国経済の減速には国際的な側面があることも注目すべきである。中国はすでに世界最大の貿易大国であり、世界には輸出のうち中国向けの占める比率が高い国が少なくない。アジアで言えば、フィリピンは輸出のうち中国向けが34%、韓国は31%、台湾は27%、マレーシアは26%などとなっているし、中南米ではコスタリカが47%、チリが26%、ブラジルが22%、アフリカではガンビアが57%、南アフリカが51%、スーダンとアンゴラが46%、またオーストラリアは30%など、中国向け輸出への依存度が高い国が世界に散らばっている。 中国が原油や鉄鉱石や銅などの一次産品を盛んに輸入し、一次産品価格が高かった頃は、一次産品輸出国は活況を呈し、そのために中国からこれらへの輸出も活発化するという好循環が成り立っていた。ところが2013年から中国経済が減速すると一次産品価格も下がりはじめた。一次産品輸出で好調だった国々の成長率は下落傾向にあり、例えばブラジルは2013年の2.7%から今年はマイナス3%になると見込まれているし、南アフリカは2013年の2.2%から今年は1.4%へ、インドネシアも2013年の5.6%から今年は4.7%に下がると予想されている。注意したいのは、これらの国々の成長率の下落幅が中国の成長率の下落幅よりも大きいことだ。つまり、「中国がくしゃみをしたら、熱を出して寝込んでしまう」国が世界には少なくないのである。いまや一次産品価格下落→一次産品輸出国の経済低迷→中国からの輸出も低迷、という負のスパイラルに入ってしまっている。 今後の中国の景気回復へのシナリオにおいても中国と新興国の連関を念頭におく必要がある。2009年の時のように国内での公共投資によって景気回復を目指すのは当面控えられるだろう。なにしろ前の投資ラッシュで形成された在庫がまだ売りさばけていないような状況なのである。それよりもむしろ新興国で先に需要が回復し、中国からの輸出増加が刺激されて、国内での設備投資も活発化するという国際的な連関を利用した景気回復のシナリオの方が現実性がある。 そのように考えれば、中国が昨年来、アジアインフラ投資銀行(AIIB)、新開発銀行(BRICS銀行)、シルクロード基金、一帯一路構想など、海外でのインフラ投資への資金提供にがぜん力を入れ始めたのは、景気回復の戦略としては理解できる。そうした動きが、国際政治のなかでの影響力増大という政治的インプリケーションを持つとき、これまで新興国への資金の流れをコントロールしてきた先進国との間で一定の摩擦が起きるのは避けられない。ただ、中国の軍事的なパワーが外に溢れ出てくるのは歓迎できないとしても、中国の経済的パワーを中国国内に封じ込めておくのは決して合理的なことではない。中国主導の国際金融機関から資金を借りて、中国製の相対的に安価な資機材を買ってインフラ建設を行うという選択肢ができつつあることは新興国にとっては歓迎すべきことであろう。

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    どん底の中国経済―バブル崩壊は止まらない

    渡辺哲也(経済評論家)ミンスキーの金融不安定仮説と  中国のいま  中国経済の瓦解が進んでいる。6月中旬から始まった中国の株式バブル崩壊、ギリシャ問題深刻化を受けた7月8日にはついに最高値から30%を超える水準まで暴落した。中国政府はこれを食い止めるため、プライス・キープ・オペレーション(PKO)等さまざまな強行策を取ってきた。これにより一時的に立ち直ったかのように見えた株価であるが7月28日に再び暴落を起こし、セカンド・ショックが発生してしまった。その後の天津大爆発という実体経済に大きな負の影響を与える出来事を挟み、お盆明けの8月18日から再び下落を始めた。実体経済の悪化予測が深まるなかで8月24日には株価が年初来水準を割り込み、政府が取ったさまざまな政策は無に帰したといえる。  中国のバブル崩壊は、中国のみならず世界の金融市場にも大きな影響を与えている。中国発の株価崩壊は米国や欧州にも波及し、それがアジア市場にも大きな影響を与えてしまった。日本も例外ではなく、日本の株価も一時1万8000円を割り込む展開になっている。  これにより世界で失われた時価総額は7兆ドルを超える水準になっているといわれており、市場からの大量の退場者を生み出している。世界の投資家はリスクオフに動き、これが市場全体の資金量を一気に消失させている。また、これに連動する形で為替も大きく動く展開になっている。これは手仕舞いに伴う資金の巻き戻しが発生しているためであり、「世界のリスクが高くなる=円高に動く」というサブプライムの際からの流れは変わらない。  これは日本経済の信頼性が高いことの裏返しであり、決して悪いことではないのであるが、円高は企業の業績を大きく悪化させる要因であり、「円高=株安」という形で市場に大きな影響を与えてしまうのである。そして、この繰り返し来る波により震源地である中国以外の市場では織り込みが進むとともに変動リスクは緩やかなものになっていく。  しかし、震源地でありバブルに踊った中国にとって、これは非常に大きなダメージになる。のちに述べるが中国の株式バブルは他の市場のバブルが臨界に達したためであり、最後の砦的な意味合いがあった。この中国の大変動を受けて、外国人投資家たちの離脱が進むことになる。同時に張り子の虎といわれてきた中国経済の真の姿が国際社会に知れ渡り、中国を儲けの対象にしてきた人や国に態度変化を生むのである。  ところで昔から、経済は生き物であるといわれているが、現在の世界をそのような観点から見てみよう。経済学においても、経済を生態系に例えたり、社会学的に捉える動きが強まっている。いわゆるシカゴ学派を代表とする新自由主義の台頭により忘れられていた「ハイマン・ミンスキー」の再評価がその典型例であるといえよう。ミンスキーの理論は、サブプライム問題時、世界最大級の債券ファンドであるPIMCOのポール・マカリーにより取り上げられ、再び脚光を浴びることになったのである。ミンスキーの金融不安定仮説とは以下のようなものである。 (1) 経済が好調なとき、投資家はリスクを取る (2) リスクに見合ったリターンが取れなくなる水準まで、リスクを取る (3) 何かのショックでリスクが拡大する (4) 慌てた投資家が資産を売却する (5) 資産価格暴落 (6) 投資家が債務超過に陥り、破産する (7) 投資家に融資していた銀行が破綻する (8) 中央銀行が銀行を救済する(“Minsky Moment”)  そして、最初に戻るというものである。  彼は金融を「通常金融」「ヘッジ金融」「投機的金融」「ポンツィ金融」という4種類に分類し、ポンツィ金融の割合が高まれば高まるほど金融全体が不安定化するという理論である。では、ポンツィ(Ponzi)とは何かという話になるのだが、ポンツィというのは出資金詐欺やねずみ講で有名になった詐欺師の名前であり、詐欺的金融をポンツィ金融やポンツィスキームと呼ぶのである。  では、いま中国はどの過程にあるのかということになるのだが、現在、中国は(3)と(4)の過程にあるといえる。そして、バブル崩壊の本格化は(5)のプロセスが発生したときに明確化する。  日本でもそうであったように、バブルは弾けてからわかるものといわれるが、株価暴落のような象徴的出来事と小康状態を繰り返しながら、被害が経済全体を蝕んでいくのだ。そして、それは短期的なものから長期的なものに波及し、金融システムそのものを壊していくのである。バブルの崩壊は連鎖するのだ。  この連鎖には商品の時間的性格から時間差が生じる。短期的商品の代表格が市場で容易に売却できる株式であり、中長期的な商品の代表格が換金に時間がかかる不動産や掛ける期間が長い保険になる。現在は、さまざまなデリバティブやリートのような債券化商品の登場により、この商品間の連動性は高まり、連鎖するまでの時間が短くなり、影響も大きくなる傾向にある。株価下落を示す証券会社のボード前で、顔を覆う個人投資家=8月25日、中国海南省海口市(共同)  再び中国に戻ろう。中国の株式バブル発生過程と前提条件を見ていこう。中国の株式は、6月中旬の最高値をつけるまでの1年間に約2・5倍程度、年初から60%近く上昇していた。この原因にはさまざまなものがあるが、最大の理由は他の商品の利回りがリスクに見合わなくなったためであり、魅力的な投資先がなくなったことが原因だと考えられている。 第2のサブプライム問題か  まずは、不動産から見ていこう。不動産は価格と家賃から利回りが算定できる。たとえば、月5万円の家賃が得られる物件があったとしよう。この場合、年間に得られる家賃は5万×12で60万円ということになる。この物件の価格が1000万円ならば年利回りは6%ということになる。これが2000万円まで値上がりすれば年利3%、3000万円まで値上がりすれば年利2%という計算になる。じつはすでに中国の都市部の不動産利回りは2%以下まで低下しており、1年物の定期預金金利以下の状態になっていたわけである。すでに不動産は投資対象にならない状態だったのである。  日本でも中国人の日本国内の不動産購入が話題になっているが、これは中国の国内不動産では運用利回りが稼げないためであり、日本の不動産利回りが中国を大きく上回るからにほかならない。日本でもバブル末期、日本人の海外不動産購入が話題になったが、これも同様の理由からであった。  次に債券を見ていこう。中国の債券市場の市場規模はシャドーバンキング(銀行システム以外の融資)などを含めると600兆円以上といわれている。そのうち、比較的安全な社債だけでも150兆円程度といわれているわけであるが、この社債市場にも暗雲が広がり始めたのである。中国の社債発行企業の多くは大企業であり、中央政府や地方政府、そして、その親族などが関係する企業である。このため、中国人の多くが、政府が救済に入るため倒産することはないと見ており、安全な商品として取り扱われてきた。これを「暗黙の保証」と呼ぶ。しかし、中国政府は他国政府からの強い批判とその額の拡大から、破綻を容認する方針に切り替え始めた。これにより、中国の社債市場の政府による暗黙の保証は崩れ去った。当然、暗黙の保証がないとなれば、リスクが強く認識され、社債の価格は下落し、投資する人は大幅に減少する。  じつはサブプライム問題の本質もここにあり、フレディマックやファニーメイなど米国政府機関債に対する暗黙の保証が失われたことで、債券価格が暴落した影響が大きい。債券には政府保証がないと明記されていたが、民間企業ではあるが政府機関債である以上、最終的には政府が保証すると投資家が勝手に信じていたのである。しかし、これが否定されたことで、債券の価格が暴落し、銀行などに膨大な損失をもたらしたのであった。  比較的安心とされる社債市場がこの状況になったわけであり、それより危険度が高いシャドーバンキングは、それ以上のリスクが認識される結果になっていた。中国のシャドーバンキングには、大きく信託会社などが販売する「信託商品(ファンド)」と銀行などが販売する主に個人向けの「理財商品」というものがある。信託商品というのは、銀行などを介さず、資金を必要とする先に信託会社が直接融資を行ない、それを販売しているものである。理財商品というのは「融資平台」を用いて、融資を行ない、それを小分けして銀行などが販売している金融商品である。  この「融資平台」が最も活用されたのが不動産関連融資である。中国の中央政府は地方政府による債券発行を禁じていた。また、中央政府が地方政府の財源の多くを奪ってしまったために、地方政府としては独自の財源確保をせざるをえなかった。そして、地方政府の財源確保に利用されたのが先ほどの「融資平台」というものである。簡単にいえば、地方政府が別会社をつくり、不動産を担保に金を借りて、不動産開発を行ない、それを分譲することで利益を得ていたのである。銀行などがこの債権を小分けして顧客に小売りしていたわけである。この仕組みは不動産価格が上昇を続け不動産開発が成功するという条件のもとでしか成立しない。不動産価格が下落に転じるなどで原価割れしたり、不動産開発が途中で止まってしまった場合、破綻してしまうのである。  じつは、この構図は、サブプライム問題での銀行の簿外債務やバブル崩壊で大きなダメージを負ったドバイとほとんど同じものであり、先述の不動産利回りなどから多くのものが借入金利よりも利益が少ない逆ざや状態に陥っている、または陥るものと思われる。この場合「資本蚕食(利払いなどで資本が食われる)」が発生し、最終的に資本を食い尽くしたときに破綻が表面化することになる。中国の各所で発生している「鬼城(開発途中で止まってゴーストタウン化した街)」の金融部分はこれが支えているわけである。当然、このような状態であれば、債券市場は不活性化し、債券市場からのキャピタルフライト(資金逃避)が発生する。この資金の流れた先が株式市場であったとも考えられるのである。  そこで、中国の株式市場の市場規模は1年で4兆ドルから、中国のGDPと同レベルの10兆ドル程度まで拡大した。この拡大資金は、不採算に陥った不動産や債券市場から流れ込んだお金と「信用取引」などにより膨れ上がった「フェイクマネー」であったと考えられる。これが一気に失われたのが6月中旬からの株価下落(400兆円以上)であったといえる。この事態を受けて中国側は大胆かつ強行的な政策を取ったわけである。  それは、IPO(新規上場)の停止、大口投資家や経営陣などに対する1年間の株式売却禁止、「悪質な空売り」の禁止、下落株の売買停止など規制措置と証券会社などによる株式買い上げPKO、信用取引向け融資を行なう国営中国証券金融による証券会社に対する資金供給、中国人民銀行による証券会社向け特別融資(特融)などである。  市場は市場原理で動く。価格は売り手と買い手の需給バランスで決まり、買いよりも売りが少なければ上がり、売りよりも買いが少なければ下がる。意図的に売りが出ないようにして、買いを増やし価格の操作を行なったのである。そして、その規模も非常に大胆なものであった。1番の急落を示した7月8日の売買停止銘柄は全株式の49%に及び、ストップ安を含めると74%にも達したのである。つまり、市場の4分の3が売りたくても売れない状態に置かれたわけである。  このような一連の政策により一時的な回復を見せた中国の株式市場であるが、これは安定した流れにはならなかった。7月28日に約8・5%下落するセカンド・ショックが訪れたのである。この原因はさまざまだが、国際社会からの強行的な政策への批判から株価対策が打ち切られるという噂や「中国の実体経済を示す指数などが悪かったこと」が大きな要因といわれている。いくら株価を釣り上げたところで、実体経済が悪く企業業績が改善されなければ、配当は減少し、破綻リスクも高まるわけである。現在 中国本土の予想配当利回り(PER)は20倍程度であるが、非金融分野だけでみれば40倍以上であり、高すぎる水準にあったし、いまもあるといえる。これが改善されるためには景気が改善され、実体経済がプラスに転じる必要があるが、現在のところこれは厳しいといわざるをえない。 中国を苦しめる構造問題  次の段階で問題になるのは株価下落と追証による破綻問題ということになる。中国では信用取引の割合が高い。中国の信用取引であるが、証券会社によるものは4倍程度と日本と大きくは変わらないのであるが、中国には全土で1万社以上の「外部配市」という証券専門の金融会社が存在し、株式を担保に資金を貸し出しているのである。そして、そのレバレッジは平均で10倍以上になっている。外部配市は株式が担保であるため、空売りができず買いしかできなかったわけである。  株価の急落はこのような信用取引を行なっていた人を大変な事態に追い込むのである。10倍のレバレッジで取引していた場合、買った価格よりも1割株価が下落すると全損扱いになってしまう。今回の急落では大きな値動きがあったため、これに該当する人が多数出ていると考えられる。今年に入り、中国の証券口座の数は昨年末の1億8000万口座から2億2500万口座に4500万増加した。この多くの人たちは膨大な損失を抱える結果になっているだろう。中国の旺盛な消費は、このような新興富裕層に支えられていたことは間違いなく、株価下落によりこれが抑制されるのは間違いのないところであろう。このような人たちの損失補てんのための資産売りもこれから始まるものと思われる。  なぜ、中国人が資産運用に熱心かといえば、これには歪んだ急速な発展に伴う社会保障制度の未整備が指摘できる。中国では公的年金制度が整備されておらず、自己の老後の資金を自ら用意しておく必要がある。また、1979年から始まった一人っ子政策により、老後の扶養を子供たちに容易に頼れない構造にもある。一人っ子政策開始から30年以上が経過し、1人の子供に両親とその祖父母がのしかかる構造になっている。今回の暴落は、資産を維持しなくてはいけない高齢者にも被害が及んでいる可能性が高く、これはデフォルトが増加傾向にある理財商品とともに大きな社会問題化する可能性も高い。  すでに、中国は重大な構造的問題に直面している。  1つは先ほど述べた少子化による人口ボーナスから人口オーナスへの変化であり、低賃金の若年層労働者が多く発展しやすい社会から、中高齢の高所得労働者が増加し効率の低下する社会への変化である。もう1つは「中進国の罠」と呼ばれる賃金上昇に伴う国際競争力低下である。年間の平均賃金が1万ドルを超えると、国際企業はさらに低賃金の地域に活動拠点を移し、国内企業は賃金コスト上昇により国際競争に勝てなくなるというものである。この問題を解決するためには、知的所有権やオンリーワンなどそこでしか作れないものを多数保有する必要があるが、中国の場合、いまだ組み立てなど「人口集約型産業」が中心であり、このプロセスに移れている企業はほとんどない状況なのである。  挙げればきりがないのだが、何よりの問題は中国の国家的粉飾ということになる。中国政府が出す数字は信用できない。鉄道貨物の輸送量を示すデータが10%以上のマイナスであり、電力消費量も低下するなかでGDPのみが7%成長を維持する。地方政府のGDP合計と中央政府のGDPで4兆円以上の誤差があるなど、中国の公表数字は何1つ信頼に値しない。英国の独立系調査会社ファゾム・コンサルティングによると、同社の試算では実際の成長率は公式統計の半分以下だったとされているのである。  これは国だけの問題ではない。国以上に企業の中身もわからないところがある。日本が関係するものとして、LIXILが買収した中国子会社の粉飾発覚と破産、江守グループホールディングスの中国子会社の粉飾による破綻がその典型といえるのだが、中国企業の決算とその内容には不透明な側面が強い。このような粉飾の多くは手元資金の枯渇により発覚する。企業は赤字でもつぶれない。企業の倒産原因は手元資金のショートであり、融資でも何でも手元資金さえ確保できれば倒産しないわけである。そして、企業が破綻した場合、売掛金の回収不能などの形でその関係企業にも影響が及ぶ。企業の倒産は連鎖するのである。  また、今回の株式バブル崩壊は、「財テク」で手元資金の流動性を確保してきた企業の粉飾を表面化させる可能性が高いといえる。日本でもバブル崩壊期、企業の投資失敗による破綻が大きな問題になったが、中国でも同様の事態を迎えるケースが増加すると思われる。そして、これは銀行や保険会社など貸し手側にも波及する。  企業同様、中国の銀行のバランスシートや資産内容には不透明な部分が多い。中国の4大銀行はすべて事実上の国営であり、共産党の意思でいかようにも動く部分があり、その実態もよくわからない部分が大きいのである。じつは遡ること2年前、2013年6月、中国の銀行間市場に大きな異変が起きていた。一部銀行の信用不安と銀行の手元資金の枯渇から銀行間金利が高騰し、オーバーナイト(翌日返却)の金利が一時30%以上まで上がっていたのである。中央銀行による銀行への特別融資によりこれは解消されたわけであるが、本質的な体質改善が行なわれている形跡はなく、今年に入っても特別融資が行なわれている実態がある。 企業の命運を決めるとき  最後に、バブル崩壊による日本経済への影響だが、これが株式市場に限定されているかぎり軽微であるといえる。なぜならば、今回崩壊した中国の株式市場は主に中国人向けのものであり、中国国内の貸し出しのほとんどが人民元建て取引であるからである。ある意味、自由化されていなかったことが他国への波及を抑制する形になっているわけである。  しかし、バブル崩壊は連鎖し、消費の減退と不良債権処理などを通じて、日本にも大きな影響を与える可能性が高い。都心の不動産価格上昇は、中国人の積極的な投資が大きな要因になっており、都心部の百貨店などの消費も中国人観光客が支えているのも事実。また、日本企業のなかでも中国関連の事業の割合が高い企業があるのも事実で、中国の経済悪化がそのような企業の業績を悪化させる可能性も高い。しかし、中国関連企業といってもさまざまなものがあり、すべてを同列に語るのは間違いであろう。中国のバブル崩壊で最も影響を受けやすいのは、中国で生産し輸出している企業ではなく、中国の内需向け割合が高い企業ということになる。  すでにこれは日本の株価にも反映されつつある。中国関連株は中国の指標や株価に連動するのである。投資家は企業の業績予測を基に株式の売買を行なっている。株価が一種の未来指標といわれるゆえんでもある。当然、これは当事者である企業側も意識しており、まともな経営者ならば適切なリスクマネジメント体制を敷くことになる。そして、結果的に企業業績へのリスクが軽減されていくことになるのである。  しかし、深入りしすぎてしまった企業や依存度が高すぎる企業にはこれは容易ではないだろう。中国の場合、計画経済的側面と政府による大胆な強行策が取れるため、一般論で語るのは難しい部分もあるが、一般的にバブルの崩壊が始まってから、それが実体経済に反映され、影響が顕著化するまで半年程度かかるといわれている。この残された時間にどのような経営判断をするかが、今後の企業の命運を決めるかもしれない。   

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    中国バブル崩壊 経済難民発生で日本に中国人自治地区誕生も

     中国バブル崩壊のもたらす影響は、経済的な側面にとどまらない。かつて警視庁で北京語通訳捜査官を務め、中国人犯罪に詳しい坂東忠信氏は、「経済難になると、日本に不法に押し寄せる中国人が激増する懸念がある」と指摘。他人の身分証明書を用いて中国の公的機関に旅券申請して日本に入国する「なりすまし」も横行しているという。本来は日本に入国できない人物がそこらへんを歩いているのだ。坂東氏が解説する。 * * *「日本は難民に厳しい」というのはあくまで机上の話だ。日本の難民申請は厳格とされ、2014年中の日本への難民認定申請者5000人のうち認定者はわずか11人だが、実は大きな抜け穴がある。 日本の難民認定システムは一旦却下されても、異議を申し立て再申請すれば改めて審査する間、滞在を認められる。しかも難民申請の審査には通常、半年~1年ほどかかるが、申請から6か月で就労が可能になり、堂々と働けるのだ。 その「裏ワザ」が知られたのか、現在、難民申請件数、異議申し立て件数とも急増している。2014年に初回申請で難民認定が却下され、異議申し立てをした者は2533人で1972年以降、最多となった。 大量の経済難民が発生すれば、人権派団体が騒ぎ立て、日本は審査待ちの難民であふれだす。そんな「なりすまし」や経済難民が増えたらどうなるか。 彼らは親族や近親者を拠点とし、家賃を安くするため単身者用のアパートに数人が一緒になって住み着く傾向にある。他の日本人が居づらくて退居すると、その空き室に他の中国人がこぞって入居し、たちまち中国人コミュニティができあがる。 すでに、一部の中国人コミュニティではゴミの分別などで近隣トラブルが起き、そのエリアは拡大しつつある。経済難民が大挙して訪れるようになれば、住宅や店舗でトラブルがあっても不法滞在者が絡むので警察を呼ばず、地域の中国人有力者が問題を解決するようになるだろう。そうして、日本に中国の自治エリアが誕生するという恐ろしい事態につながりかねない。 地方はさらに深刻だ。都市と違い警察官の数が少なく、犯罪の端緒をつかめない。また、車を中国人同士でシェアして乗り回すため、所有者と運転者が違うケースが発生している。交通事故を起こしても保険に加入していないために、被害者は「轢かれ損」だ。 日本政府は犯罪検挙数が多い国からの入国を制限するなど、法的措置を真剣に検討すべきではないか。中国が崩壊し、経済難民や「なりすまし」に日本を乗っ取られてからでは遅すぎるだろう。関連記事■ ネットに登場の「中国人クズ番付」など中国の民意に迫った本■ アジアで8割超が日本に好印象 中韓だけ日本嫌いの現実あり■ 中国人 日本のティッシュ・黒烏龍茶・ベビースターが好き■ 経済難で不法入国中国人激増 「なりすまし」が国内で横行中■ 中国の反日是非論争で「ホンダのバイクはすごい」の冷静意見

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    既に何度も自壊してきた中共の想像を絶する「凄み」

    平野聡(東京大学大学院法学政治学研究科教授) 中国共産党の「自壊」と一口に論じ、それがあたかも中国という国家の消滅と同義であるかのように語り喜ぶ風潮があるらしい。しかし筆者は、このような傾向は日本にとって危険であると考える。 むしろ筆者の見るところ、中共は既に何度も「自壊」している。そして中共は自壊しているなりに、生き残りや立て直しのため、想像を絶する権力闘争や国内の締め付けを繰り返してきた、そのような中共の「凄み」を、最近まで日本人の多くは深く認識して来なかったことこそ、最大の問題とはいえまいか。 戦後長らく、とりわけ日本と中華人民共和国のあいだに国交が樹立されたのち、多くの日本人は中共が支配する中国に一方的に期待し、「我々日本が過去を反省し援助すれば必ず発展する中国もそれに応え、日中友好が実現する」「中国に投資し飛躍的に発展すれば、市民社会がやがて成熟し始め、共通の市場や地域圏が出来上がる」といった思い込みをしてきた。 しかし中共の側では一度たりとも、「反省した日本との真の和解を実現し、共通の意識で結ばれた東アジアをつくろう」といった類の言説は生まれなかった。中共これまで発してきたのは、ソ連との対立や貧困・体制の危機からの生き残りのため、日本から引き出せるものは引き出すという限りにおいての対日ポーズであった。ソ連の崩壊や中国の一定程度の台頭によって、日本と戦略的に共有する利益がなくなってしまえば、ドライな競争的関係にならざるを得ないというのが中国側の認識である(林暁光「中日関係与中米日三角関係---?戦略利益的構造分析」王勇主編『中日戦略互信与合作』浙江工商大学出版社)。一応、馬立誠・時殷弘氏のように、中国の長期的な国益やイメージを考えれば対日融和が好ましいと説く議論も生まれたものの、その大きな戦略的意図として日本人を米国・台湾から引き離し、台湾問題を有利に解決するという目的があることは否めない。 要するに中共からみて、日本との関係はそれ自体が独立したテーマではなく、他の問題と連動して戦略的に判断されるべきものである。そして、他の問題が大きくなればなるほど、その問題から目をそらせるため、あるいは中共の生き残りの余地を増やすため、日本という存在から利益を引き出すかと思えば、日本を犠牲にすることも厭わない、という対応を重ねてきた。そうでなければどうして、最大の貿易相手国である日本との全面衝突を全く厭わず、しかも平和愛好的な日本人の多くを憤激させた尖閣事件を引き起こしたのだろうか? そして中共は、日本人は長期的戦略がなく、平和主義に忠実であろうとするあまり、短期的な問題で相手の不興を買わないようにしようと右往左往する傾向があるため、中共が主張を強く押し出せば通ると解釈し、その通りにして来たのであろう。 日本国内での常識の延長で、外国も広く共通の規範に則って行動するだろうと期待し、それが平和の基礎であると見なす立場と (勿論、それが一番良いに決まっている)、だからこそ論争はなるべく避けて「こちらが配慮すればあちらも配慮し応えてくれる」という立場、そして、その期待が外国の思いがけない行動に裏切られた結果、「最早理解不能。我々は関与しないので自壊を望む」と思考停止する立場は、どこか連続性がある。昔の中国文明は、騎馬民族の「夷狄=野蛮人」に対して散々な目に遭わされてきた結果、いつの間にか夷狄の内実に対して真剣に向き合おうとしなくなり、ひいては近代史においてかつての夷狄との関係で大失敗を被った。中国の「自壊」を云々するとき、日本人がいつの間にかかつての中国文明と同じような発想、すなわち「発展した文明人たる日本が、理解不能なチャイナの自壊を喜ぶ」余り、中共・中国の凄まじい内実や思惑に対して底の浅い理解しか出来なくなってしまうことを、筆者は深く恐れるものである。北京の中国人民銀行。景気減速への危機感から利下げに踏み切った(共同)中共「自壊」の歴史 それはさておき、冒頭で中共が既に「自壊」していると述べたが、その具体的な歴史的展開は以下の通りである。 中共の本来の存在目的は、中国を帝国主義者と立ち後れた社会(彼らの表現を借りれば「停滞した封建社会」)から救い出し、人類の進歩を担う生産活動の主役である労働者と農民を解放し、万人が「欲求に応じて分配を受け、如何なる国家体制にも拘束されない」共産主義社会をつくるためであった。しかし、そのための計画経済を握った党官僚は特権階級(赤い貴族=ノーメンクラトゥーラ)となり、平等社会の理想を壊した (自壊その1)。 そのことに気づいた毛沢東は、特権党官僚を抹殺するべく文革を起こし、極限の恐怖政治を展開した。その結果、中国共産党の名誉そのものだけでなく、中国社会における相互信頼を著しく壊した (自壊その2)。 中国の現実は理想と真逆にして、他のアジア諸国にも遥かに水をあけられた、暗黒な世界最貧国に過ぎなくなった。この実態に気づいた人々は、外国や華僑・華人から技術と資金を素早く吸い取り、後発国の利益を享受しようとした。これが「改革・開放」である。一旦門戸を自ら開け放ち、経済文化的な多様化を認めるならば、当然「思想の開放」もなければならない。しかし中共は六四天安門事件を引き起こし、中国がバランスある社会として発展するために最も必要なタブー無き議論の空間を戦車で押しつぶした(自壊その3)。 最早、イデオロギー的には自ら説明できなくなった中共は、社会主義を純粋に生産力=金儲けと読み替え、帝国主義国家顔負けのナショナリズムと国家資本主義に邁進した。中国の国益を自己中心的に極大化することで、「世界文明の中心と原動力は古今中国にあり、たまたま約二世紀にわたって欧米日にその重心が移ったのは、何かの間違いであったこと」を全世界(とりわけ日米)に認めさせることが、習近平氏の「中国夢」である。しかしここまで来れば中共は、建党当時の中共が最も唾棄すべき存在に自らを貶めたともいえる。また、国際社会における道義・信頼という、近代国際政治史が曲折の中で造りあげてきた価値観すらどうでも良いと言わんばかりの行動(彼らも舌先ではそう述べるのを忘れないが、ここは実際の行動で判断されるべきであろう)は、中共だけでなく中国という国家の名誉までも道連れにしようとしている(自壊その4)。 生産力=金儲けこそ全て、という党の方針は、公正な経済・社会活動のために必要な制度・規範の整備を欠いたまま、実権を握る党官僚の恣意的判断=人治を野放しにした。また、金儲けに最も必要なのは、汗水垂らす労働者ではなく、経営の才覚がある商売人やエリートである。そこで中共は党規約を改正し(「三つの代表論」……中共は中国の先進性を代表する、という議論)、単なるナショナリズムの顔をした巨大な利益シンジケートと化した。 こうして上からの政策的意図で生み出された利益集団が、自らの富を誇示して派手にばらまくことにより、互いに面子を立て合うようになるのは当然である。彼らは土地の公有制を悪用して農地や宅地を二束三文で収用し、そこに開発区を展開して莫大なリベートを受け取り、天文学的な贅沢が蔓延した。一晩の最低消費が貧困地域の民衆の年収を軽く上回るような「夜総会(ナイトクラブ)」での酒池肉林、あるいは沿海部の地方政府の公用4WD車が数千km離れたチベットや新疆まで現れ、観光地にズラリと並んでいるという凄まじい公私混同など、如何なる資本主義帝国(どこも総じて国内では福祉国家化していった)と比べても凄まじい格差と権力の専横が氾濫したのである (自壊その5)。 先日、共産党員が当然服するべき規定として、贅沢な飲食やゴルフが禁止されるなど、習近平氏がありとあらゆる形で反腐敗の大鉈を振るっていることが伝えられている。これは、最早国内景気の冷え込みを気にしてはいられないほど、共産党の正当性が既に崩壊しているためなのであろう。そして民衆に対しては、腐敗官僚の密告とつるし上げという点において「自由」を許すものの、中共の政治の大方針に対する発言、あるいは過去の中共の歴史に関する発言は決して許されなくなった。(こうして、自国の歴史を全く議論できない国家が、他国の歴史を批判するなどというナンセンスが起こっている) ではそのような中共が、リーマンショック以後の「大躍進」的な公共投資の失敗、あるいは株価大暴落などによる経済的な行き詰まりもあって、完全に崩壊するのだろうか。そこで筆者が強く主張したいのは、これまで中共が幾度も自壊しながら何度でも「復活」してきたというある種のしぶとさを決して低く見るべきではない、ということである。 少なくとも、所謂「中国史」における王朝交替は、食べるものが全くなくなった、あるいは回る利益が回らなくなったときに起こる。しかし、中共が支配する中国は、今のところそうなっていない。 中国経済の実態をヨリ正確に反映しているといわれる所謂「李克強指数」の鉄道貨物輸送量と発電量は、ここ2~3年来減少の一途をたどっているようだが、もともと鉄道貨物のかなりの量は発電用・工業用の石炭であり、エネルギー構造の転換は輸送量と発電量の両方を減らしうる。また、高速道路網の整備やネット通販の隆盛による宅配便などの発達なども、鉄道貨物輸送の減少に大きく関わるであろう(今から約30~40年前の日本と同じ)。「世界の工場」であることを止めた中国が、一定程度サービス産業に重点を移したことにより、辛うじて何とかなっているようにも見える。 そんな中、習近平氏が重点を置いているのは、特定の国有戦略産業への資源集中と冗員の整理である。たとえ反腐敗運動によって従来のような贅沢三昧が出来なくなり、巨大なカネとコネの利益集団としての中共を壊す効果が生じるとしても、一部の士気が高い(さほどの収入を得られなくとも党と国家に極めて強い忠誠を持つ)エリート集団が権力と戦略部門を独占し続ければ、むしろ党の永続に好都合である、と考えているように見える。抗日戦争勝利70周年軍事パレードの際に発表した「人民解放軍30万人削減」にしても、これは決して「軍縮平和」のメッセージではなく、戦略ミサイル戦とサイバー戦の時代に適合しない膨大な歩兵集団を整理するという意図に過ぎない。 こうしてみると、中共の歴史はそれ自体、彼らの世界認識や現状認識・政策の誤りによる自壊の繰り返しであり、今もなおその過程が進んでいることが分かる。それにもかかわらず中共が生き延びているのは、「中国の大義を理解したエリートの絶対的指導」という原則を決して捨て去ることなく、この枠の中で生まれた同志的意識やコネを維持しながら、新たな政治課題に即して、マルクスもレーニンも想定外な戦略を盛って行く(その最たるものが市場経済、そして覇権戦略=「中国夢」)という変わり身の早さであろう。したがって、中共が完全に崩壊するのかどうかは、経済社会的な揺らぎ以上に、このようなエリート主義の支配が崩れるかどうかによるところが大きいと考える。 そして、中共は本能的にこの問題に気づいているからこそ、多様な意見を持ちうる中間層をなるべく中共のコネのネットワークに取り込んで口封じをしようとしてきたし、民主化・公民権を訴える人々に凄惨な打撃を与え、森厳たるネット管理を強化している。アジアの他の国々で起こった民主化の道程が中国でなかなか生じないのはこのためである。 したがって、中共が本当に崩壊するとすれば、経済が完全破綻し、かつエリート主義支配の言説が誰からも信じられなくなる瞬間が重なったときである。ただ、そのとき日本が受ける影響は、経済面、そして「忘れ得ぬ他者」日本を道連れにしようという極端なナショナリズム言説の噴出可能性(そして実力行使)の両面において甚大なものになりうる。その覚悟を決めずして、安易に「自壊」を喜ぶべきではないだろう。中共が彼らなりに日中関係を「管理」している状況は、最悪の事態よりもましである、という解釈も出来るのである。

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    外国人観光客の爆買いに踊ってはいけない

    人の為に日本の中だけでやっていればそれはそれで結構ですが、外国人相手のビジネスは要注意すべきです。 中国人の爆買いにデパートは売り場を広げ、中国語やその他言語を扱える人を増やしています。成田空港近くには新たなアウトレットモールが出来、多くの外国人が立ち寄ってくれることがそのビジネス計画に盛り込まれています。ホテルは中国人ツアー客を取り込むために必死で営業、優勝劣敗が明白に出ています。その為に朝食、夕食にビュッフェを取り込むため、ホテルのテイストが外国人ツーリスト用に変貌しているところも多く見受けられます。 中国だけではなく、東南アジアから北米、欧州まであらゆる人が日本に注目して、人が押し寄せており、日本政府としては訪日外国人客2000万人の前倒し達成が確実となりほくほくしているものと思われます。 この外国人訪日客ですが、いつまでどこまで期待できるのか、これが今日のお題です。 政府の目標はパリのように観光立国を目指している点です。その点は日本も楽しいところが多く、食文化も発達しているため飽きさせることはないでしょう。ただ、ブームは必ず沈静化するものです。その時ビジネスをシフトしすぎてしっぺ返しが来ないようにする対策も必要でしょう。 例えば中国人の爆買い。いつまで続くか、といえば私は長くて1-2年。オリンピックまでは持たないとみています。理由は中国がそれを放置しないとみています。例えば中国政府は一部輸入品の関税率を半分程度に引き下げ、中国人の日本などでの爆買いの沈静化対策を始めました。また、中国人は物珍しさが手伝うときは一気に来ますが、目線がほかに向くとブームが急速に冷める傾向があります。猛暑の中、電気街で〝爆買い〟する外国人観光客=東京都千代田区 二点目に為替。円安は外国人観光客にプラスでした。今回の急激なブームは日本政府が外国人ビザ発給を緩和したこと、バズーカ黒田が呼び込んだ円安、それに政府民間をあげてのウェルカムムードだったと思います。 しかし、買い物目的を主とするとなかなかリピーター確保に続きません。なぜパリやロンドン、ローマにニューヨークに行くかといえばそこには文化的遺産や博物館、美術館のコレクションがあり、世界共通のスタンダードで価値を共有できることは見逃せません。(日本にもありますが、コレクションのレベルが違いすぎます。) あるいはミュージカルや舞台といった芸能もあります。その点、日本文化は一部を除き、歴史建造物や伝統品が珍しいから見るというレベルから抜けていない可能性はあります。また、劇、音楽会、コンサートの類は日本ではチケットを相当事前に申し込まないと取れません。ラスベガスでもブロードウェイでもこだわらなければ当日券が取れるのとは大きな違いでしょう。外国人が歌舞伎に当日入れて、エンジョイできるかといえばハードルは高そうです。 日本は爆買いに踊ってはいけないと考えています。アウトレットにビュッフェではなくて毎日、誰でも簡単に入って楽しめる音楽ショー、歌舞伎公演、能や雅楽、リゾートで日本的おもてなしといったサービスではないでしょうか?ちなみに英語でバケーションとは平常時からかけ離れ、基本的に何もしないことを言います。遊び疲れるところに行くことはバケーションに行くとは言いませんが日本旅行はどうも疲れる、と印象を持たれてはいないか心配です。(ブログ『外から見る日本、見られる日本人』より2015年6月25日分を転載)

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    訪日中国人、観光と爆買いが育む「日本愛」

    感情のひだを描く『なぜ中国人は日本のトイレの虜になるのか?』中村宏之(読売新聞東京本社調査研究本部 主任研究員) すっかり定着した感のある中国人訪日客の「爆買い」という言葉だが、爆買いの背後にある中国の社会や中国人の事情を深く掘り下げた本である。 日本経済にとっては、日本を訪れる多くの中国人が大量の買い物をしてくれるのは、決して悪い話ではない。消費を下支えしてくれる貴重な存在だからだ。ただ、彼らが爆買いするのは、中国人が自国で売られているものには全く信頼を置いていないから、という指摘には複雑な思いがする。 「日本製は安全、安心」という根強い信頼感があるためだが、現実にはこれらの大半は「メード・イン・チャイナ」である。それでも中国で売られているものが信頼できないということから、日本の店で売っているモノを求めるのだという。『なぜ中国人は日本のトイレの虜になるのか?』 (中島恵、中央公論新社) 〈パッケージに日本語が書いてあって、日本のちゃんとした店で販売されているということに中国人は安心するのですよ。逆にいえば、もしメイド・イン・ジャパンと書いてあって日本語の表示があっても中国国内で売られているものは信用できない〉 これほどまでに自分の国で売られているのを信用できない、最初からニセモノかもしれないと思いこんでいる感覚には正直、驚かされるが、最近の食品偽装などの問題を考えると、多くの中国人がそう考えても仕方がない、ということもある程度は理解できる。日本の「普通の生活」に感動する中国人空気、水、トイレ、レストランの店員… さらに、日本にきて初めて日本に良い印象を抱く中国人は多くおり、何気ない普通の生活に感動する人が多いという指摘は印象的だ。きれいな青空、おいしい水、清潔なトイレ、レストランの親切な店員の接客態度などだ。 それまでの偏ったイメージからは想像できない日本の様子をみて、日本観が180度変わる人も多いという。本書は日本が大好きな中国の人が実名で多く登場する。彼らの「日本愛」に正直、ありがたさを感じる一方、同時に「へえ、そんなことに感動するの?」という驚きもあり、日本がいかに恵まれているかを彼らの反応からあらためて知ることができる。青空やおいしい水に純粋に感動する中国の人から逆に学ぶことは多い。 冷静に考えてみれば、これは注目すべきポイントなのだろう。草の根レベルの人々が抱く互いの国へのイメージは重要で、それが結局、国と国との関係を規定することにつながるからである。戸籍次第で、人生が変わる 中国人のタブーにも肉薄 もう一つ気付かされるのは、中国の社会ではいかに戸籍が大事かということである。中国に戸籍の問題があることは多少知ってはいたが、これほどまでに人々の生活を縛るものなのかという現実に、驚かされた。戸籍の内容によって、大げさにいえば一人一人の人生が変わるのである。子弟に都会で良い教育を受けさせたいと思う親にとっては切実な問題だ。中国の人々があまり語りたがらない問題についてもタブー視せず、問題を浮き彫りにした著者の取材姿勢に敬服する。 本書は中国人の家族観や精神構造を知る参考書としても読むことができる。濃密な人間関係の中で社会が成り立っていることの良し悪しや、人と人が1回だけ会うという関係を「縁がなかった」と考える中国人と、「一期一会」を大事にする日本人との感覚は全く違うことなど、異文化理解の「勘所」を教えてくれる。同じアジアで、漢字を使う文化でありながら、日本とはかなり異質な社会であることを強烈に知らしめてくれる。こうした違いを頭に入れておかないと、国家レベルの政治や経済の交渉にも少なからず影響するだろう。東京・秋葉原では国慶節の連休期間、多くの中国人観光客が家電販売店などを訪れ、買い物を楽しんだ。温水洗浄便座のブームは収まりつつあるという(中国新聞社) 訪日客の増加とともに、中国人のマナーの問題などが指摘されるが、著者の「社会を支えるインフラの質に大きく影響される」という指摘はうなずかされる。 〈水道の水が出ないから手も洗わないし、いつもテーブルが汚れているから、自分も汚く使っていいと思ってしまう〉 かつての日本も欧米からみればそうだったのかもしれない。インフラが整備されることで人々の行動様式も変化するという著者の見方はその通りだと思う。 本書は数ある中国関連本の中でも、手軽に最近の中国の様子を知ることができる力作だ。欲を言えば、日本で大量に買い込んで中国に持ち帰った日本の製品が、実際にはどのように使われているのか、という点を詳しく知りたかった。多くの中国人旅行客を相手にする東京都心のホテル関係者は、「温水便座の正しい操作方法がわからないのか、トイレや部屋を水浸しにしてしまう人が多く、後始末に忙殺される」とぼやいていた。山のように買い込んだ日本の製品を、持ち帰った先できちんと使えているのだろうか。余計なことかもしれないが、そのあたりの事情も知りたいと思った。

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    不振のヤマダ電機が「爆買い」狙いに活路?

    ソフトバンクに資本提携の救いを求めたヤマダ電機ですが、郊外型の不採算店を中心に46店を閉鎖し、新店は中国人の「爆買い」を期待したと思わせる都心型に絞る方針を発表しています。全国でおよそ1000店の直営店、地域密着のフランチャイズ店舗と合わせて国内外に4,000店を超えるネットワークを築いてきた家電時代の寵児も厳しい試練の風に晒され、思い切った路線の転換を迫られています。 確かに、業績が酷い状態です。 消費財増税による駆け込み需要の反動の影響があったとしても、それは他の家電チェーンも同じことです。2015年3月期決算を比べると、確かにケイズホールディングスも売上を落としていますが、売上が2.6倍もあるヤマダ電機の純利益が93.4億円で、ケーズホールディングスの150.3億円という結果は、いかにヤマダ電機が稼ぐ力を失ったかを象徴するようです。  2014年4月以降は月次売上の前年比でマイナスが続き、ようやく2015年4月に前年を10.5%上回ったとはいえ、それは前年が駆け込み需要の反動減で15.2%も売上が落ちていたからで決して回復の糸口を得たという感じではありません。都内のヤマダ電機店舗。40店超の店舗閉鎖を決め、業績回復を目指す 圧倒的な購買力を背景に、家電メーカーの営業担当を呼びつけ価格を下げろとバイヤーが迫るスタイルは往年のダイエーを感じさせますが、なぜこんなに急激にヤマダ電機が窮地に陥ってしまったのでしょうか。結構大きな時代変化の狭間で複雑骨折してしまったのじゃないかと感じます。 まず家電そのもので大型の売り物がなくなりました。PCも液晶テレビも市場そのものが飽和してしまいました。スマホで一時は売り場が賑わいましたがそれも二年連続で出荷数量が落ち成熟してしまいました。  しかし、それよりも大きな流れ、店舗で商品を確かめ、購入はネットという購買行動の変化、いわゆるショールーミングの影響が大きくヤマダ電機を襲ったのだと思います。 昨年クロスマーケティングが行った調査では、ショールーミングの経験者は昨年ですでに16%に達していて、そのうち83%がショールーミングを継続しているといいます。ショールーミングに関する調査 いやいやショールーミングどころか、そもそも家電の売り場に行くことが億劫なので、よほど急ぎで消耗品を買い求める以外はいきなりネットで購入することが定着してしまった人も結構少なくないと思います。実際、エアコンですらネットで購入し、取り付けもネットの取り付け専門サイトで依頼したことがありますが、価格はもちろんのこと、サービスの品質もよかったので、 家電量販店の生きる道も大変だなあと感じました。 ただ価格の安さを訴えても、ネットとの競争は際限がありません。アフターサービスや購入時に相談にのってもらえるなどのサービスの質が問われくるのでしょうが、日経ビジネスの行っているアフターサービス評価では、家電量販店ワースト1の汚名を8年連続でとり、しかも2014年度版でアマゾンの再利用意向率が92.2%に比べ、ヤマダ電機65.7%と劣ったのは、厳しい結果です。 ヤマダ電機が怒りの訴訟を連発 日経BP社のランキングめぐり - ライブドアニュース しかもサービスの質を追求しようとすると従業員の人たちの満足度や士気が重要ですが、ブラック企業実行委員会が主催する「ブラック企業大賞2014」も受賞とあってはどうなんだろうと思ってしまいます。 「爆買い」需要を積極的に取り込むのもいいのですが、メーカーと流通の力関係の優位性で成長してきた、つまり売り手側の事情で伸びてきたヤマダ電機がほんとうに向き合わなければならないのは消費者の購買行動の変化ではないでしょうか。売り手主導から買い手が主導する時代に大きく時代が変化し、家電メーカーも家電量販店も買い手とのどのような関係を築くかに焦点が移ってきたはずなのですから。(「大西宏のマーケティング・エッセンス」より2015年5月25日分を転載)

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    甦る「脱亜論」 「反日」ばかりの中韓とは離れたほうがうまくいく

    で行なった演説は、日米間のゆるぎない同盟関係を築き直し、アジア諸国の不安を拭う効果をもたらした。また中国が企む覇権をもくじいたのではないか。 安倍政権誕生の時点では、米国の政界や行政府内における安倍氏の評判はあまりよくなかった。初訪米は1泊2日という扱いで、両首脳の共同記者会見はステイトメントだけで終わった。オバマ氏の初来日は夫人を伴わず、訪日のあと一週間もかけて訪中する差の付け方だった。 米政界で安倍氏の評判が必ずしも良くなかった原因は、日本が近隣の中国、韓国と揉(も)め事ばかり起こしている。それも戦争中の慰安婦をめぐって、謝らず、補償もしない。一方で戦後秩序を否定するために憲法を改正しようとしている右翼政治家だというものだった。 オバマ氏の対日感情もそれを基礎としたものだった。太平洋のバランスは日米対中国でとれるはずだったが、日本が中国と揉め事ばかり起こすのでは、米国が直接中国と仲良くしたほうが良いとでも考えるようになったのだろう。 中国も「新大陸関係」(新しい米中関係)という造語で米国を誘ったが、実態は太平洋を半分ずつ“管理”しようというものだった。そうなると日本は中華圏に入るのか。 中国という国の本質、日中両国の二千年近くにもわたる関係は当事者以外にはわからないだろう。韓国の朴槿惠大統領は米国をはじめ、欧州主要国を歴訪して、ひたすら、日本の悪口をいって廻った。この告げ口外交は「いまから思うとひどかった」と各国共に感じているようだが、当初は日本の外交にダメージを与えた。しかしセウォル号の沈没や軍内部の利権のつながり、政治家の汚職などが表面化してきて韓国が丸裸になると、日本の主張のまともさが際立ってきた。 軍が強制して慰安婦をかき集めてきたという醜聞も、それを書き立ててきた『朝日新聞』が昨年、32年間にわたる記事を取り消したため、韓国政府の立場が、一挙に怪しくなった。そもそも韓国はありもしない〝慰安婦〟事件で騒いで日本から何をとろうとしていたのか。 韓国は「慰安婦は性奴隷だ」と主張したが、その根拠は国連人権委員会のクマラスワミ報告書だけだ。同報告書で20万人の性奴隷と証言しているのは日本の左翼学者だけで他に正当な根拠はなにもない。従って日本政府はクマラスワミ氏に正式に訂正を申し入れた。一方、慰安婦達が戦中であっても“商行為”として正当な支払いを受けていたことは、米国の裁判所でも行政府でも認められている。 安倍訪米を控えて米国では韓国の言い分が成り立たないことが徐々に判明しつつあった。 片や、友好を深めようとした中国が箸にも棒にもかからない国であることを、オバマ氏は理解してきた。南シナ海の強盗のような岩礁地の埋め立てや基地造りを見れば、中国には力で抑止力を発揮するしかないと悟ったろう。日本の尖閣諸島についてオバマ氏は「日米安保条約の適用範囲だ」とわざわざ述べた。このことは米国ははっきりと日本の側に立つことを明らかにしたことにほかならない。中国とは力で対決する以外に身を護る方法はない。こういうと、所詮、暴力を使うのかと護憲論者はいうのだが、土俵上で四つに組んで横綱同士が動かないのはなぜか。両者が必死の力を込めているからだ。力を込められる自衛隊にしようというのが、国会で審議中の安保関連法案なのである。理解を深める騎士道と武士道 オバマ氏は中国を知るにつれ、日本ほど律義で頼りになる友好国はいないと悟っただろう。 安倍首相の米議会での演説は秀逸だった。 抜きんでていたのは第二次大戦について「痛切な反省」(deep remorse)を表明したことだろう。それまで中、韓両国に加えて米政府内にも河野、村山談話で述べられた同じ文言を使うべきだとの主張が強かった。しかし安倍氏は「アジア諸国に苦しみを与えた」と述べたうえで「痛切な反省」を述べた。「お詫び」とか「侵略」を入れろという周囲の声が一気に軽くなった。会談を前に握手するオバマ米大統領と安倍首相=2015年4月28日、ワシントンのホワイトハウス(共同) 首相は議場に硫黄島で生き残った米軍の老司令官と玉砕した日本側守備隊長の孫を紹介し、二人が固く握手する場面を演出した。「痛切な反省」と敵味方の握手があれば、騎士道と武士道では理解し合えるだろう。もう一つ良かったのは首相が前夜の夜会で、ナンバー2が手練手管を使ってナンバー1を追い出す米国のハウス・オブ・カードというドラマを紹介し、「このドラマをナンバー2の麻生副総理には見せないことにしたい」と述べて爆笑させた。米国人はこの手のユーモアをこよなく好み、安倍晋三という人物の印象を心に刻んだことだろう。 『読売新聞』の世論調査(5月11日)では安倍首相とオバマ大統領との間で、新たな日米防衛協力の指針(ガイドライン)を通じて日米同盟の強化を確認したことを「評価する」と答えた人は70%に達した。「評価しない」はわずか19%だった。 下院本会議場は500人を超える両院議員で埋め尽くされ、2階の傍聴席もほぼ満員だった。議員は頻繁に立ち上がって拍手も含めてスタンディングオベーションは35回重ねられたという。安倍氏の演説は40分の予定だったが、拍手によって5分間延びた。 安倍氏は日米同盟は、「法の支配、人権、自由を尊ぶという価値観を共同している」ことで成り立っていると定義し、自ら「希望の同盟」と名付けた。 同盟というのは力の均衡や戦力補充といった権謀術数を狙って行なわれるのが常だ。しかし単なる軍事的利害損得による離合集散は、事件が終われば疎遠になって解消する。米英ソは日独の軍国主義、全体主義を潰すといって同盟したが、日独が破滅したあとは中ソの共産主義と米国を中心とする西側の対立となった。米ソの冷戦が終わると、世界は米国一極となって米国は世界の警察官といわれた。 その米国一極体制が相対的に弱体化し、米国は三つの戦争ができなくなった。欧州、中東、アジアの三つの戦争を同時にできなくなって、欧州はNATO欧州諸国にまかせている。中東では戦争への介入失敗を続け、完全撤退はいまのところ無理だ。この時点でアジアが不安定になれば、米国一国では対中抑止力が効かなくなるだろう。中国への抑止力の一部として日本の軍事支援体制が不可欠になった。日本の側だけからみても、オバマ体制の初期に中国が「新大陸関係」と称して米中の“直接対話”を持ち出してきた時に、米国が乗り気になった時がある。米国が頼りにならなければ、日本独自で中国と対立せねばならなくなる。だからこそ米国との同盟関係を一段と強化しなければならないというのが安倍氏の考え方だ。同盟の動機、目的は自由、民主主義、基本的人権といった「希望」である限り、目的が陳腐化して同盟が崩れることはない。 世界情勢の変化に合わせて日米の軍事ガイドラインを仕切り直す必要がある。 安倍氏はとりあえず、軍事面での不備を補強、補正する必要があった。歴代内閣がことごとく避けてきたものを洗いざらい取り上げた。豪州との軍事協力体制は着々と進んでおり、潜水艦技術の供与も可能になった。これまで武器輸出三原則によって武器の輸出や共同製作ができなくなっていたのが昨年、防衛装備移転三原則に改められた。 訪米に当たって安倍内閣は国家安全保障会議(NSC)の設置、防衛計画大綱の改定、集団的自衛権の限定的容認を決めた。集団的自衛権をめぐる法律は恒久法にまとめられて国会に提出された。 野党は国会承認の前に安倍首相が米国で「夏にはまとめる」と約束したことをとらえて非難しているが、民主主義国の同盟というのは、内容を世界に発信することも必要なのだ。中国の「力の外交」に屈するな中国の「力の外交」に屈するな 戦後70年の日本の節目にふさわしいのは「集団的自衛権」を容認する安全保障関連法を成立させることだろう。国会審議は5月下旬から始まる予定だが、当分、国政選挙も地方選挙もない。国会で何十時間でも実のある審議ができる。この際、日本人は“軍事”について聡明になってもらいたい。 軍備は要らないという人達は憲法九条があったからこそ70年の平和が保てたという。あるいは9条を掲げるが故に軍備は持つべきではないという。この無手勝流の論理を掲げた旧社会党は最盛期の166議席から名を変えて存続する社民党2名(衆院)にまで転落した。九条の思想は実態的には消滅した。もはや宗教といっていいのではないか。 圧倒的に強かった米国の保護国並みの頃は、「戦さ」は米国まかせの気風が強かった。そのオバマ米国が頼りない感じを漂わせる一方、隣国、中国が力の外交をやるようになった。南シナ海の岩礁に飛行場やら軍事基地を造り出すやり方はまさに中国式だ。2014年の世界の軍事費は米国が前年比6・5%減らすなか、中国は9・7%増。第3位のロシアも8・1%増となった。 10年前に比べると米国が0・4%減らしたのに対し、中国が167%と伸びて世界最高を示している。日本はインド、ドイツを下廻り9位である。日米の軍事費に比べて中国の増加率はけたたましい。日米の側がこれに対抗するには日本の自衛力を動員できるようにするか、軍事費を注ぎ込むしかない。 9条派は以上のような国際情勢の変化を一顧だにせず、「解釈改憲」「戦争法案」反対だと切り捨てようとしている。民主党の岡田克也代表は憲法改正について「安倍さんの時代には議論しない」という。安倍首相の改憲論は厳しいだろうから「議論したくない」という論法である。相手がどのような思想であれ、議会というものは、議論を戦わせて勝負をつけるのがしきたりだ。岡田氏がいっているのは「あいつは人相が悪いから議論したくない」といっているのに等しい。それも国家にとって最重要な問題についてだ。 日本の憲法はもともと自衛権を否定してはいない。国連憲章には自衛権には「個別的」と「集団的」と両面あると規定してある。日本が勝手に「集団的自衛の権利はあるが行使はできない」と解釈してきた。これは内閣法制局の明白な誤りである。そもそも内閣法制局があらゆる法律について〝絶対的〟な解釈権をもっているのはおかしい。憲法四一条には国権の最高機関は国会であると規定してある。あらゆる法律が国会でつくられるのに、その解釈権を内閣法制局がなぜもつのか。内閣法制局は官僚内閣制を創るに当たって、法解釈の最高機関として設置された。国会を最高権力と決めた新憲法を制定するに当たって、内閣法制局は消滅した。これは当然の措置だが、それでは官僚内閣制が不備になるといって、数年後に復活誕生させたのである。安倍晋三氏は内閣の最高決議は閣議であるべきだとの考え方で、安保関連法は国会提出に当たって閣議で決定された。これが真っ当な形だ。 安保法制の具体像は簡略化していえば次の通りだ。(1)日本防衛活動をしている米軍や他国軍の支援(グレーゾーン事態への対応)(2)日本に重要な影響を与える事態への対応(周辺事態法の改正)(3)国際的な平和協力活動(PKO法改正)(4)集団的自衛権の行使(自衛隊法、武力攻撃事態法の改正)(5)相手国が同意した場合の邦人救出(自衛隊法改正)日米同盟は中東と中国で共通認識をもて 日米同盟は世界政策をも共有するほど重いものだ。共通の認識をもつに当たって、重要な点が2点ある。 中東と中国政策である。まず中東について米国はアラブ諸国に民主主義体制を植えつけるのを最善と考えているようだが、少なくともアラブ圏に先進国並みの民主主義体制を導入するのは無理だ。 私もイランのホメイニ革命の頃、アラブ諸国に入り浸っていたが、正直いって殺し合うほどの宗派の差は外部の人間には理解できない。現在、シリアでスンニ派と「イスラム国」という過激派が強烈に争う形になっている。そのシリアは強権的とはいえアサド大統領によって少なくとも治安は維持されていた。それが崩れたのはチュニジアでジャスミン革命と呼ばれる“民主化”革命がきっかけだった。その動きを世界中がほめそやして全アラブに広まった。エジプトでは過激派のイスラム同胞団が担いだモルシ氏が新大統領に当選した。モルシ氏が憲法改正案を準備したところで、軍部がクーデターを起こし、実質的にムバラク体制を復活させた。イランでホメイニ革命が成功したのはホメイニ師が政権をとってすぐに軍を掌握し宗教独裁の憲法制定に成功したからだ。 エジプトでムバラク大統領に仕えていた軍部はモルシ氏がホメイニ革命の二の舞いを演じ始めたのを悟って直ちに反革命を起こした。アラブ内で治まっている国の体制は軍部独裁、宗教独裁、王制、酋長(しゅうちょう)制など“独裁国家”に限られる。理論が1、2ミリ食い違っただけで殺し合いに発展する社会では、力で押えている政治体制のほうが安定的だと認識すべきだ。キリスト教の世界では宗派の違いを越えて共存するのに2千年かかった。アラブ世界に民主主義を導入するにはあと700年かかる勘定になる。イスラエルとの関係を抱えて、日本のように傍観するわけにはいかないが、米国が内戦を助長しているように見える。 第二点は中国の扱いである。 中国が突如、持ち出してきたAIIB(アジアインフラ投資銀行)構想は、中国が米国と太平洋を分割しようという“新大陸関係”の延長線上の戦略だろう。太平洋を分けるという軍事上の狙いに加えて、国際金融の面でもアジア・太平洋地域における覇権を強める狙いだ。 そこで中国がひねり出した手がAIIBという新手だ。国際金融機関としてはIMF(国際通貨基金)とADB(アジア開発銀行)がある。共に米国と日本が仕切っている銀行で、中国の思うような投資ができない。そこで資本金の50%を出資し、総裁も中国、本部も北京、理事会は設けないという中国国営銀行のようなものを編み出したのである。 中国はシルクロードの復活を目指して周辺国に“一帯一路”を呼びかけている。近隣各国に巨大な公共投資を行なわせれば、景気浮揚にもなるとあおっている。 中国はAIIBをテコに人民元を国際通貨の座に押し上げることに懸命になっている。 中国の李克強首相はIMFの特別引出し権(SDR)の構成要素に人民元を採用するようラガルド専務理事に申し入れた。人民元の資本取引を活発化させ、人民元が国際通貨に採用されることで、金融の維持や人民元の国際化により国際社会のなかで中国が大きな役割を担うことになると力説したという。 しかし中国のAIIB設立もSDRの構成要素に入れろというのも、別の意図が透けてみえる。中国は2008年のリーマンショックの際、莫大な公共投資を行なって中国や世界の窮地を救った。その後遺症で中国は国民総生産4、5%の域に落ちているという見方もある。本来の中国流なら莫大な国費を注ぎ込んで、同様の対策を試みるはずだが、実は中国には金がない。 中国の債券証券発行額は増加する一方で、これ以上の借金ができない。そこでAIIBを設立して、そこから金を出して周辺国に公共投資をやらせる腹なのではないか。下手をすると国内投資の不足分をAIIBの名でかき集めて、自国の公共投資に当てる算段かもしれない。 欧州諸国が参加したのはIMF、ADBでは物品の輸出入には便利でも、大規模なインフラ投資に不利だったということがあるだろう。安倍首相は「ガバナンスをみてみる」と述べたが、妥当な判断だろう。忘れてならないのはAIIBが正真正銘の中国共産党の銀行だということだ。三権分立もなく、不公正を訴える場もない銀行は国際社会の信を得られない。その本質を直視しつつ矛盾点を指摘し続ければ、不正な銀行は破綻する。 日本では教養人で漢詩をたしなむ者が多く、中国コンプレックスが強い。中国人を“大人”と見なし、話し合えば争いの片がつくと思っている官僚、政治家が多い。完全に中国人を買いかぶっているのだ。 戦後、中国に対して贖罪意識を抱いていた政治家は日米同盟があるのに、中国やソ連とも等距離で付き合おうという首相(三木武夫氏)まで出た。中国と付き合うこと自体が自民党内のステータスにもなった。 これは官僚も同じで、与党の外交方針が固まっていないため、外務省の各局が独自の方針で相手国に臨んだ。その典型が中国を専門とする「チャイナスクール」の誕生だ。チャイナスクールは中国や韓国の機嫌を損ねてはいけないというのが、第一義の任務で、その典型が慰安婦問題だ。つい何年か前まで日本の中学校教科書には「従軍慰安婦強制連行」という単語があった。しかし「従軍慰安婦」という単語自体存在しなかったというので「慰安婦」だけが残された。さらに「強制連行」した事実もない。そこで「従軍」と「強制連行」を削除すると「慰安婦」だけになる。とすればこういう“商売”があるということを中学校段階の教科書に使うことはない。当然、教科書から記述が落ちたのだが、これを落とすと「歴史認識」で中国、韓国両国は日本を攻めることができない。「慰安婦」問題で攻められたら、政治家はもちろん、外交官はそれが誤りだったことを説明しなければならない。 ところがファクトを勉強していない外交官はこの問題を持ち出されると、「河野談話で詫びたし、もう補償も済んでいます」と答えるのだ。米国大使だった加藤良三氏は韓国の謝罪申し入れに強烈に反論すべき立場なのに「いまからではもう遅すぎますよ」とうそぶいていたものだ。『朝日新聞』が32年経って「事実は確認できない」といって取り消したのが立派に見えるほどだ。中世も近代も経験しなかった中韓中世も近代も経験しなかった中韓 官僚、政治家、教養人がどうしても一目置くのは5千年という中国の古さである。5千年の間に国家は財や知識を積み上げているはずだと錯覚する。2300年も前の孔子や孟子の教えを日本では江戸時代の寺子屋で農民の婦女子にまで教えていた。寺子屋時代は250年続き、その後百年孔子の論語は生命を得た。日本人の知識に「古い国」という意識を植え込んだのは司馬遷の『史記』だと中国史の泰斗・岡田英弘氏はいう。 実際の中国は洛陽のそばの「華山」という山の近くで栄えた商業都市で、紀元前221年に始皇帝が「秦」を起こして、そのあと「漢」「唐」「元」「明」「清」の五つの異種族王朝が興亡した。秦以前の「夏」「殷」「周」は神話の世界である。 五つの大国があったのは確かだが、五つとも人種も言語も違い、共通するのは商売のやり方ぐらいのものだった。韓国銀行の調べでは200年以上続いた老舗企業は世界41カ国で5586社が確認されているが、日本は3146社(全体の56%)と断トツ。2位はドイツ837社で、中国は第6位だが、9社しかない。商売が長続きするには社会が安定しなければならない。長期、安定してこそ技術も芸術も栄える。 中国は大地の上に入れ替わり立ち替わり、支配民族が交代したにすぎない。しかし商売するためには共通の符帳や共通の文字が必要だ。そこで使われたのが漢字で、7世紀頃から科挙の制度を創設して、商売や行政命令書を漢字で書かせた。国が交代しても科挙(役人)が必要なわけで、科挙の給料は自分で決めた。現在でも、市長が交代したら税金が5割上がるなどは当たり前だが、これは清の時代に廃止されたはずの科挙の伝統なのだ。 「中国」とは洛陽を中心にした「マーケット」で近所に華山があったから中華と呼ばれたが、中国とか中華という国が2千年続いたわけではない。中国という土地に国を建てたのは漢族、満州族、蒙古族、回(ウィグル)族、チベット族の五族だ。朝鮮民族が中国の主になったことはなく、日本併合までの500年間、中国の属国だった。彼等は漢字を操るのが最高の価値だと考えて、職人を卑しんだ。 帝国主義の時代、西欧列強は中国を侵食しはじめ、中国は朝鮮を併呑しようとした。日本はこれを食い止めるため日清戦争を起こして勝った。日清戦争の講和条件を決めた下関条約の第一条をみると、日本の戦争目的がよくわかる。普通、第一条は戦勝国に対する賠償金や分捕った領土が書いてあるが、下関条約の第一条には、これにて「朝鮮の独立を確認する」旨が書いてある。朝鮮がこれに従って独立を確保すれば、東アジアの安定につながったはずだが、属国根性の抜けない朝鮮はロシアの支配下に入ろうとしたのである。 朝鮮戦争のあと韓国は米韓条約を結んで“西側陣営”に自らをつなぎとめたが、朴槿惠大統領をはじめ韓国全体は元の中華圏に入って中国の属国に復帰したいようだ。 韓国にとって致命的なのは、中国の属国になって儒教を信奉したことだ。儒教というのは宗教ではなく社会や家庭の秩序を保つために、長幼の序を決めることだ。その社会で最も大切なのは漢字で、支配階級は漢字を書く以外のことを蔑んだ。したがって技術者は育たず、国民の30%が奴隷となった。日清戦争の結果、朝鮮の奴隷は解放された。中、韓とも中世も近代も経験せず、日本にいきなり現代に引きずり込まれたようなものだ。当時、敗れた清から孫文や魯迅ら2万人前後が日本に留学し、日本語に訳された西洋文化や科学を学んだ。 哲学、主義、科学といった単語はみな日本語で、現在、中国で使われている単語の6割か7割は日本語であるという。中華人民共和国などは日本語表記だと岡田英弘先生はいう。「東亜の悪友」と離れるとき 西欧と日本に共通しているのは長い中世の時代、封建時代を経て、社会に共通のモラルが醸成されたことだ。騎士道と武士道は似ているが、永い戦いが続いて、戦さの作法ができ上がったことがわかる。日本では最後は大将同士が戦って勝敗を決めた。戦争の簡素化が続くうちに戦国時代が終わって、文明の時代が築かれた。 明治時代、孫文や岡倉天心は「アジアは一つ」とか「黄色人種の団結」を叫んでいたが、これに断固、異を唱えたのは福沢諭吉で、中、韓を「東亜の悪友」と断じ、日本は西欧と交わるべしと「脱亜論」を書いた。 福沢は中国や韓国と組んでいると、西欧諸国から同類とみられるぞと戒めている。日本と中国、韓国との違いはいまも明らかだ。嘘をつくとか偽物を造るなどを、中・韓両国では「悪徳」と思っていないのではないか。あらゆる製品の偽物は瞬時にできる。中・韓両国では知的財産権などまったく認められていない。 ある大会社の社長にこの偽物をどうすれば成敗できるのかと聞いたところ、偽物が出たら、向こうがしこたま在庫が出たところで、こちらが新製品を出す。向こうは在庫を抱えて日本に「爆買い」に来るしかないと呵々大笑したのには驚いた。 中・韓の致命傷は新製品を造り出せないという発想と技術の粗末さにある。この欠点は中世と近代を経なかった彼等の歴史上の欠陥にある。「歴史認識」とはこういうことをいうのだと自戒せよ。 ややま・たろう 1932年、福岡県生まれ。東北大学文学部仏文科卒。時事通信社に入社後、政治部記者、ローマ特派員、官邸クラブキャップ、ジュネーブ特派員、編集委員兼解説委員を歴任。81年より第二次臨時行政調査会(土光臨調)に参画し、国鉄の分割・民営化を推進した。87年に退社。2001年に正論大賞を受賞。著書に『それでも日本を救うのは安倍政権しかない』(PHP研究所)ほか多数。関連記事■ 日米vs中韓~歴史修正主義批判を問う■ 日韓基本条約50年目の真実~韓国に助け舟は出してはならない!■ 呉善花<緊急寄稿>さよなら、幻想の国・韓国■ [歴史に背く韓国]第二の安重根が生まれる日■ [日韓「歴史戦争」]日本がサンドバッグ状態を脱するとき

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    習近平と朴槿惠、ワニとワニチドリ

    巨漢習近平に寄り添う朴槿惠をみて連想したのは、ワニとワニチドリの関係です。生物世界でいう「共生」ですね。ほかにアリとアブラムシも、よく引合いに出されます。

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    中国AIIB対TPP「綱引き合戦」の鍵を握る日本

    た。  ところが今では、米国経済の相対的な地位は低下している。日本も含めて、今や「最大の貿易相手国は中国」という国が100か国を超えている。これでは米国を特別扱いする理由は乏しい。今週のThe Economist誌では、カバーストーリー”Dominant and dangerous”おいて、「米国の経済力が相対的に小さくなっているのに、依然としてドルが圧倒的な支配力を有している」ことによるコスト、という問題を提起している(本号のP7-8を参照)。まったく同じことが通商交渉の世界にも当てはまる。  米国が少々頼りない中で、他の交渉参加国の間を取り持った日本の存在は小さくなかったことだろう。米国主導と言われてきたTPPは、最終局面では「日米を主軸とする」FTAになったと言えるのではないだろうか。  それというのも、米国内ではかつてほど自由貿易が支持を集めなくなっている。6月に可決したTPA法案も、下院を218対200、上院を60対38という際どい差で通っている(上院は6割の賛成が必要)。 象徴的なことに、ヒラリー・クリントン前国務長官が今週7日、「TPPを支持しない」と明言している。第1期オバマ政権下で「リバランス(アジア重視)政策」を推進したご本人がそれでは困ってしまうが、民主党予備選を勝ち抜くためにはそう言わざるを得ないのであろう。ついでに言えば、共和党のドナルド・トランプ氏も反TPPである。米国は景気回復途上で、失業率も5%前後に下がっているとはいえ、「貿易は米国から雇用を奪い、賃金を下げる」といった見方が広範な支持を得ているのである。  今後のTPP発効に向けては、交渉参加12か国の批准が必要になる。一部の国の手続きが進まない場合は、署名日から2年が経過した後で「GDPの合計が85%を占める6か国以上」の手続き終了をもって、その60日後に発効することになっている。TPP域内において米国は62%、日本は17%のシェアを占めるので、日米のどちらかが欠けると85%の基準は達成されないことになる。  つまり今後の条約批准プロセスにおいても、日米のいずれが欠けても発効は難しい。来年の米国は大統領選挙、日本は参議院選挙を控えているが、どうやって批准にこぎつけるのか。まだまだ先は長いのである。TPPに対抗する中国TPPに対抗する中国 TPPは世界経済の4割、貿易量の3分の1を占めるメガFTAである。WTOのドーハラウンドは長らく停滞しているが、世界の成長センターたるアジア太平洋地域でこれだけの規模のFTAが誕生するのは、貿易自由化にとって久々のブレークスルーと言える。  こうした中で、TPPに参加していない6割の国には一種の焦燥感が生じているだろう。韓国やタイはTPPへの参加を望むだろうし、台湾なども参加を検討しているはずである。実際にタイは、自動車産業などで日本企業のバリューチェーンの中核をなしている。それがTPPに入らないのでは、せっかくの関税削減のメリットを生かせないことになる。  あるいは欧州諸国は、アジアとの貿易で不利になることを懸念するのではないか。結果として、現在進行中の「日・EU」間のFTA交渉が加速することが考えられる。いわゆるFTAの「ドミノ現象」であって、ひとつの通商交渉の成果が他の交渉を加速するメカニズムである。今回のTPP合意が、世界全体の貿易自由化の誘い水となることを期待したい。  問題なのは中国の出方である。一時はTPP参加に関心を示していたし、2013年秋には上海自由貿易試験区を作って、国内の自由化に備える様子もあった。かつて朱鎔基首相が、WTO加盟をテコに国内改革を進めた時と同様の機運である。  しかるに最近の中国では、TPPを「西側が仕掛ける新たな経済冷戦時代の幕開け」と懐疑的に受け止める向きが多くなっている。あるいは、「自らを国際ルールに合わせることの難しさ」を自覚したのかもしれない。今はむしろ「一帯一路」計画などを通して、独自の経済圏をユーラシア大陸に広げようとしている。日米がTPPを使って「海のアジア」を統合するのなら、こちらは「陸のアジア」で経済圏を広げてしまおう、といった対抗意識があるのだろう。AIIBやシルクロード基金は、そのためのツールということになる。  ちなみに今月22~28日にかけて、安倍首相は中央アジア5か国を歴訪する予定である。中国側は、「こちらの勢力圏に、余計なちょっかいを入れに来たな」と陰謀論的に受け止めることだろう。  思うにインドネシア向けの高速鉄道を、中国がタダ同然で受注してしまったのも、アジアへの勢力拡大策の一環なのであろう。少しでも多くの国を味方につけるための「先行投資」(大盤振る舞い?)なのかもしれないが、その分のコストは将来、確実にプロジェクトの採算にのしかかる。かかる政治主導型のインフラ投資は、将来的に不良債権化するのではないか。これは「一帯一路」全体に通じる疑問点である。  TPP合意後のオバマ大統領は、「中国のような国にはルールは作らせない」と踏み込んだ発言をしている。何もそこまで中国を刺激しなくても、とは思うが、より多くの国が共有できる秩序は海のアジア(日米)と陸のアジア(中国)のどちらか。当面、アジアの多くの国は、両方にチップを張って天秤にかけるだろう。しかし「自由で民主的」で「法の支配に基づく」TPPには、本質的な比較優位があるはずである。 米国議会はいつ批准できるのか さて、今後のTPP批准プロセスはどうなるのか。  TPA法案のお陰で、米国議会における議決はイエスかノーの二者択一となる。共和党が多数を占めているので、さすがに「ノー」とはならないだろうが、かといって早い時期に「イエス」という答えが出るほど生易しい情勢でもない。  TPAが定める「90日ルール」により、オバマ大統領がTPP協定にサインするのは合意から3か月後となる。つまり早くても年明け後になってしまう。オバマ大統領は、1月末に行われる任期中最後の一般教書演説において、議会に早期の批准を求めるだろう。が、2月になればアイオワ州、ニューハンプシャー州を皮切りに、予備選挙シーズンが始まってしまう。そうなったらTPP批准どころではなくなる。どうかすると、通商問題が選挙戦のテーマとして浮上するかもしれない。早目に両党の候補者が決まってくれれば、7月の党大会前後に議決のチャンスがあるだろう。が、もちろん保証の限りではない。  ちなみに現在の米議会は、「債務上限問題」「2016年度予算」「高速道路信託基金の財源」などの難題を抱えている。特に債務上限問題により、11月5日前後に連邦政府の資金はショートするかもしれない。「財政の崖」に予算案がからむ、という毎度お馴染みのパターンである。  ただしこの問題については、10月末の引退を宣言したジョン・ベイナー下院議長が、「置き土産」として妥協案を何とか通してくれる、という淡い期待がある。同時に下院議員も引退してしまうので、共和党内の強硬派も含めてもう怖いものは何もないからだ。  この秋の米議会がどういう結果に終わるにせよ、年明けの与野党は対決モードであろう。オバマ大統領と共和党の関係が、大きく改善していることは考えにくい。TPA法案を通した時点では、共和党はここだけは大統領に花を持たせるつもりであった。しかし、得てしてこういうときに相手を怒らせてしまうのが、オバマ大統領が以前から得意としてきたところである。  こうして考えてみると、TPP法案の審議に入るのは来年11月の大統領選挙後のレイムダック議会になってから、という公算が高そうだ。そうだとすると、それまでに米国に対していかに外からプレッシャーをかけるかが課題となろう。  ひとつは今年の暮れに中国主導のAIIBが動き出し、「アジアにおけるルール作りの競争」で米国が出遅れてしまう場合。以前から何度も書いている通り、「AIIB対TPP」は、経済の世界においては全く別物であって、本質的に競合する存在ではないのだけれども、政治の世界においては、一種の綱引き状態となっている。  この場合、日本の役割が重要になってくる。早期にTPP批准を済ませておき、5月のG7伊勢志摩サミットなどの場で米国に圧力をかける、というシナリオが考えられる。ところが日本も7月に参議院選挙を控えていて、簡単ではないだろう。 日本も悩ましい批准プロセス もともと安倍内閣は、「TPPは7月のハワイ閣僚会議でまとまる」と思い込んでいた気配がある。それであれば、90日ルールがあってもこの秋には署名が済むので、臨時国会をTPP国会にする、という段取りが可能であった。同時に補正予算で農業対策費を打ち出せば、年内に問題を片づけられる、という読み筋である。  ところが批准は、年明けの通常国会にずれ込むことになった。最初は2016年度予算を審議することになり、3月末までに予算が仕上がった後にTPP法案を、ということになる。それでは7月の参議院選挙の直前に、微妙な話をしなければならなくなる。さて、どうしたらいいのか。「年初からTPPの審議に入り、予算案の前に仕上げてしまう」という離れ業も考えられるが、いささかトリッキー過ぎよう。  それ以前に気になるのは、足元の景気である。このところ8月の鉱工業生産、機械受注、9月の景気ウォッチャー調査など、景気の悪化を示す指標が相次いでいる。7-9月期の成長率は、2四半期連続のマイナス成長となるかもしれない。どうやら中国経済の減速が、予想以上に効いている感じである。  先日発表されたIMFの「世界経済見通し」(WEO)10月版は、3か月前に比べて以下のように見通しを下方修正している2。 ○World Economic Outlook*()内の数字は前回7月発表分との差異        2014年          2015年         2016年世界経済   3.4%            3.1% (-0.2)     3.6% (-0.2)日本経済   -0.1%           0.6% (-0.2%)   1.0% (-0.2)貿易量     3.3%           3.2% (-0.9)      4.1%(-0.3)石油価格  -7.5%           -46.6% (-7.6)     -2.4% (-11.5) 「世界経済も貿易量も前年比3%の伸び」とは前代未聞の低水準であって、まさしく「スロー・トレード」が問題の根幹にある。  前号でも触れた通り、安倍首相はこの秋に「安保モードから経済モード」への再転換を図っている。ただし景気後退局面に入ってしまうと、その後の政策運営は一気に難しくなるだろう。昨年は解散・総選挙で一気に雰囲気が変わったが、同じ手はもう使えない。  そうした中で、TPPの批准をどう進めるか。経済と安保の両面にまたがる問題であるだけに、扱いが悩ましいところである。 2 http://www.imf.org/external/pubs/ft/weo/2015/02/(公式ホームページ『溜池通信』より2015年10月9日のReportを転載)

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    ルールより「実需」でTPPに対抗する中国

    遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士) TPP大筋合意に対して、中国はAIIBや一帯一路という「実需」および二国間の自由貿易協定FTA等で対抗しようとしている。「あれは部長級の合意に過ぎないと」と、TPPの最終的実現性にも疑問を呈している。中国は「TPPは対中国の経済包囲網」と認識している 中国はTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)を中国に対する経済包囲網だと位置づけ、早くからAIIB(アジアインフラ投資銀行)や一帯一路(21世紀の陸と海の新シルクロード経済ベルトと経済ロード)を用意して、日米などによる経済包囲網形成を阻止しようとした。 このたびのTPP参加12カ国による大筋合意を、中国の商務部(部:中央行政省庁。日本の「省」に当たる)関係者は、「あれは、たかだか部長級の合意に過ぎず、それぞれの参加国が自国に持ち帰って国の決議機関で賛同を取り付けなければならない」と言い放った。 その例として、アメリカでは来年、大統領選挙があり、共和党としてはオバマ叩きと民主党下しにTPPの難点を強調して攻撃を始めるだろうから、米議会を通らない可能性があるとしている。 またカナダでも10月19日に総選挙が行われることになっており、現政権のハーパー首相(親米保守党)が落選した場合、野党の新民主党が乳製品の市場開放に反対していることから、議会での賛同は得られないだろうと見ている。 いずれも、TPP交渉が長引き大統領選まで持ち込んでしまったことが、痛手になるだろうと踏んでいるのだ。 またTPP参加国のうち、オーストラリアとニュージーランドとは、二国間のFTA(自由貿易協定)をすでに結んでいるので、あとは少しずつFTAを増やしていこうと、TPPの完全成立までに切り崩していこうという考えも持っている。 AIIBに関しては、今さら言うまでもなく西側諸国(特にG7)の切り崩しに成功しているので、習近平国家主席は10月20日にエリザベス女王の招聘を受けて訪英することを決めている。イギリスは2015年3月18日の本コラムでも詳述したように、中国に弱みを握られていて、少なくとも経済に関してはほぼ中国の言いなりだ。 ヨーロッパを押さえておけば、「陸のシルクロード」と一帯一路に関しては、アメリカに圧力を与えることができると考えている。北京の人民大会堂で歓迎式典に出席する中国の習近平国家主席(左)とインドネシアのジョコ・ウィドド大統領=2015年3月26日(共同) 海のシルクロードの拠点としては、10月5日の本コラム「インドネシア高速鉄道、中国の計算」で考察したように、何としてもインドネシアを押さえておけば、南シナ海からインド洋へ抜けていく海路を掌握することができる。 日本は、たかだか一つの新幹線プロジェクトを逃しただけだと思っているかもしれないが、中国が高速鉄道事業を通してインドネシアに楔(くさび)を打ったことは、TPPに対抗するための「AIIBと一帯一路」構想としては、欠かせないコアだったのである。これを見逃してはいけない。 ギリシャのピレウス港運営権に関しても、7月2日の本コラム「ギリシャ危機と一帯一路」で書いたように、TPPにより形成される経済包囲網に対して、きちんと碇(いかり)を下ろしてある。「実需」戦略により勝負する中国 オバマ大統領は「中国のような国に、世界経済のルールを書かせない」と言っているようだが、中国は「ルールの統一」を図るTPPに対して、「実需」を取る政策を動かしている。 AIIBに対して、融資の基準の低さや不透明性を理由として参加しなかったアメリカだが、中国は「自分たちは発展途上国のニーズを緊急に満たす」という「実需」を優先して関係国を助けていくのだとしている(中国の言い分)。 それがインドネシアの高速鉄道に象徴されている。 TPP12カ国のうち、AIIBにも参加している国は「オーストラリア、ニュージーランド、シンガポール、ブルネイ、マレーシア、ベトナム」の6カ国だ。このうちオーストラリアとニュージーランドとは、すでにFTAを結んでいる。残りの4カ国と結べば、TPP参加国の半数を落せる。これらは「実需」によって動く可能性のある国だ。(なお、シンガポールとはすでに交渉が煮詰まっている。) さらにAIIBには参加してないが、中国の「実需」戦略に乗り得るTPP参加国としては、「チリ、メキシコ、ペルー」などがある。この3カ国は一帯一路の線上にはないが、しかしFTAの対象にはなる可能性を持っている。(このうち、チリとは交渉が煮詰まっている。)中国は「普遍的価値観」を共有する気はない 日本の一部のメディアや研究者の間には、中国をTPP的価値観の中に入れていくことが望ましいと期待する向きもあるが、それは考えない方がいいだろう。 中国には巨大な独占企業のような国有企業がある。 この国有企業を民営化の方向に持っていって、何とか構造改革をしようとしてはいるが、大きな困難を伴うだろう。WTOに加盟して「国際ルール」に沿うのが精いっぱいで、オバマ大統領が主張するような「統一的ルール」には乗らない「国情」があるのである。 それに、中国が最も嫌うのは「普遍的価値観」だ。 西側諸国の価値観を中国内に持ち込めば、たちまち「民主化」が起こり、中国共産党による一党支配は崩壊する。だから、絶対に西側の価値観を持ち込ませないために、あらゆる手段を考えては言論統制をしているのである。 中国は普遍的価値観の代わりに「特色ある社会主義の核心的価値観」を必死になって植え付けようとしている。これがうまく行くはずもないのだが、ともかくこの「価値観」というファクターを、日本は頭に入れておいた方がいいだろう。 中韓のFTAは締結され、今は日中韓のFTAに関する交渉を日本は進めているようだが、TPP的精神で進める限り、妥協点を見い出すのは困難なのではないだろうか。東アジア地域包括的経済連携の展望 もっとも、日中韓とASEAN(東南アジア諸国連合)諸国およびインド、オーストラリア、ニュージーランドなどの16カ国の自由貿易をめざす東アジア地域包括的経済連携(RCEP、アールセップ)というのがあるが、ここにTPP的ルールを導入する限り、やはりうまくはいかないだろう。(中国とASEANのサービス貿易協定や投資協定などは締結されている。) 国際社会に二重三重のオーバーラップした連携を形成するより、中国は「社会主義的価値観」を崩さずにAIIBや一帯一路で「実需」を中心として動き、TPP参加国とも二国間FTAをできるだけ多く結んで中国の構想を推し進めていくだろう。 特に90年代半ばから陸の新シルクロードのコアとなっている中央アジア諸国の政治情勢は安定しているのに対し、アメリカがチョッカイを出し始めた中東は混乱を極めている。その間に中国はロシアを含めた中央アジア諸国との上海協力機構の枠組みで「陸」を安定させておき、「海路」にシフトしながら、「実需」に向けてまい進するものと推測される。 以上、特に「価値観」というファクターが横たわっていることを肝に命じつつ、中国の「実需」戦略が、どこまでTPPを食い止めることができるか、あるいは「共存」することができるか、注目したいところである。追記: その後(10月8日)、次期アメリカ大統領選の有力候補の一人であるヒラリー・クリントン氏がこれまでの主張を急に転換し、TPPに疑義を唱える発言をした。民主党内でも意見が割れそうだ。(『Yahoo!ニュース個人』より2015年10月7日分を転載)えんどう・ほまれ 1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会科学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』『チャイナ・ジャッジ 毛沢東になれなかった男』『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国人が選んだワースト中国人番付 やはり紅い中国は腐敗で滅ぶ』『完全解読 中国外交戦略の狙い』等。11月に『毛沢東 日本軍と共謀した男』(新潮新書)出版予定。

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    日本人ノーベル賞にいちゃもんをつける国

    日本人のノーベル賞ラッシュに列島は沸きましたが、隣国は複雑な思いで見ていたようです。「百済の子孫だからね」「日本人が受賞しても安倍がイメージを悪くしている」…。心ないネットユーザーもいたようですが、日本のやることなすことにいちゃもんをつける病気はもう治しようがないのでしょうか?

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    習近平氏にノーベル平和賞報道 単なる憶測が引用で誤解生む

     中国共産党の最高指導者に就任した習近平・党総書記にノーベル平和賞が授与される可能性があるとの情報が飛び交った。その理由は習氏が昨年12月、北京で開かれた党の法制部門の会議で、主に思想犯の再教育を図る労働改造所の廃止について触れたからだというが、その発信源を探ってみると、意外なメディアが震源地だったことが分かった。 習氏にノーベル平和賞かという情報を日本語でいち早く伝えたのは、日本語の中国情報サイト「Record China」。2月22日付で、香港の中国系紙「大公報」の記事を引用する形で、「中国の新指導者・習近平氏、ノーベル平和賞の可能性――米メディア」との見出しを掲げ、「2013年2月21日、香港の大公報によると、中国の最高指導者・習近平(シー・ジンピン)氏にノーベル平和賞が授与される可能性があることを米インターナショナル・ビジネス・タイムズ中国版が報じている」との書き出しで伝えた。 そこで、2月21日付の大公報の記事を探してみると「習近平、労働改造所改革でノーベル平和賞受賞も」との見出しを掲げた記事が掲載されていた。この見出しだけをみれば、習氏のノーベル平和賞受賞がほぼ決まったかのような印象だ。 さらに、インターナショナル・ビジネス・タイムズという主に中国経済情報を発信しているウェブサイトの中国語版から元の記事を探してみると、大公報の記事は、20日付の同タイムズ中国語版をほとんど丸写しで報じていることが分かった。 また、タイムズの記事を読んでみると、実はタイムズが初めて習近平ノーベル平和賞受賞説を報じたのではなく、経済専門誌として名高い米「フォーブス」誌の電子版が報じていた。 同誌電子版から、その記事を探してみると、2月18日付で「How China’s President Is Earning A Nobel Peace Prize」という見出しの記事があった。直訳すると「中国の国家主席は、どのようにしてノーベル平和賞を得るのか?」という意味になる。筆者はラルフ・ベンコ氏という同誌の寄稿者で、経済専門家。 本当に習氏がノーベル平和賞を受賞する可能性があるのか。実はこの記事も中国の最近の法政改革について報じている米ニューヨーク・タイムズやロイター通信の記事の引用が主なのだが、その内容も、これまた中国国営の新華社通信の引用で、「司法部管轄下の労働改造所350か所に16万人が収監されている。2012年10月、強制的な労働による再教育が行われている実態について批判が高まり、最高人民法院(最高裁判所に相当)は制度を続けるとしても法を無視すべきではないとの見解を示した」というもの。 フォーブスの記事は「これについて習近平氏はいまだ態度を表明していないが、違法拘留と公開裁判権について談話を発表しており、『権力に対する規制と管理を強め、権力を制度の枠に入れる必要がある』と語った」としたうえで、ロイター通信を引用して「1月に、中国共産党新指導者による労働再教育制度の見直しが行なわれる可能性がある」と報じたことが根拠にして、「(そうなれば)ノーベル平和賞委員会も注目せざるを得ない。もし、習近平がこのような人道主義的な行為を続けていけば、同委員会もノーベル平和賞受賞を中国に授与することを正当化できる」などと仮定のうえに仮定を重ねて論じている記事だった。 しかも、3月5日からの年に1回の全国人民代表大会(全人代=国会)では「法制度改革は議題に入っていない」ことが明らかになっているので、中国政府による労働改造所改革は当面あり得ないことになる。 引用が重なるうちに、習氏がすぐにでもノーベル平和賞を受賞するような報道につながってしまったのだろう。関連記事■ 習近平氏に大きな爆弾 中国共産党元幹部23人が民主化を要求■ アラファト議長他 ノーベル平和賞の受賞者は平和を導いたか■ ノーベル平和賞・劉氏の妻 夫の投獄は「むしろホッとした」■ 櫻井氏「日本は中国の人権活動家に賞を創設して授与すべき」■ 中国人作家のノーベル文学賞 国家ぐるみでの買収疑惑が浮上

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    臭い物には蓋をしろ! 中国トンデモ列伝

    中国・天津で起きた爆発事故から1カ月余り。真相はいまだ明らかにならず、現地では流出した汚染物質による環境汚染や健康被害への懸念も広がる。「臭い物には蓋をしろ」と言わんばかりに徹底した情報統制を敷く中国。蓋を開ければ、ほんとにトンデモない事だらけだったりして…。

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    経済構造はもはや限界 臭いものに蓋をする中国共産党

     上海総合指数は昨年の6月から今年の6月までの間に、約2.5倍の5000ポイント台まで上昇した。しかし、その時点をピークに、6月、8月と立て続けに大暴落して、現在は3000ポイント台前半にある。 大暴落の原因について、空売り規制だとか、人民元の切り下げだとか、あるいは江沢民率いる上海閥による空売り陰謀論だとか、いろいろなことが言われている。確かにそうかもしれない。とはいえ、これらはすべて本当かもしれないが、原因の一部でしかない。 本当の問題は支那の経済構造がもはや限界にぶち当たっていることにある。いや、もうとっくの昔に、リーマンショックあたりから限界にはぶち当たり始めていた。しかし、そのことを隠蔽し、高度成長を演出するために、支那共産党は文字通りありとあらゆる「臭いもの」に蓋をしてきた。 例えば、温州市で不動産バブルが弾けたのは2011年である。8月までは上海に匹敵する高値をつけていた温州のマンション価格は、10月に入り急降下した。このとき、支那共産党は金利減免や緊急融資などで臭いものに蓋をした。 例えば、2013年6月に上海の銀行間取引金利(SHIBOR)が突如として9%まで急騰した。通常銀行間の取引金利は市中金利の中でも最も安いはずだが、それが9%という異常値を示した。支那ではこういう信じられないことがたびたび起こる。あの時、銀行のATMから引き出しボタンが消えるなど、すわ金融危機発生かと思われた。しかし、この時も支那人民銀行が流動性を供給したことで当面の危機は去った。またしても臭いものに蓋をしたのだ。 例えば、2014年1月に中誠信託が販売した30億元(約600億円)の理財商品が償還できなくなるという事態に陥った。この理財商品の投資先である非上場の石炭会社「山西振富能源集団」の経営が思わしくなくなったのがその原因だ。しかし、この時も謎の投資家が突如として現れた。謎の投資家は山西振富能源に巨額の資金を出資し、約700人の信託委託者が手にする株式を買い取ることで臭いものに蓋をした(おそらく謎の投資家の中の人は共産党の密命を帯びていたのであろうと言われている)。 例えば、上海超日太陽能科技(太陽光電池・パネルメーカー)が、2014年3月7日に償還期限を迎える社債について、利息支払い分の4%程度しか資金調達ができていないことを発表した。この時は謎の投資家は現れず、そのまま社債のデフォルトをやらかしてしまった。そして、3カ月後の6月27日、上海超日太陽能科技は破産手続きに入ると発表した。ついにこのとき、支那共産党には臭いものに蓋をしている余裕がなくなったようだ。 このとき、支那共産党は思っただろう。「これ以上社債のデフォルトが続くと、企業が資金調達に困難を極め、倒産が相次ぐかもしれない」。そんなことになれば、株式市場までもがメルトダウンしてしまう。 そこで、支那共産党は考えた。無理やり株価を上げて、企業の資金繰りを楽にしなければならないと。そこから始まったのがプロパガンダによって株価を上げるという毛沢東も真っ青の「大衆運動」である。共産党が株高を公認し、官製メディアを使って「株を買うことはいいことだ」という運動を繰り広げたのである。 プロパガンダの効果はてきめんだった。株価の高騰によって、新興企業の株価は特に急上昇した。中でも株式を新規に公開するIPO市場は活況を極めた。子会社が運よく上場すれば、親会社の資金繰りの悪化は解決する。しかも、個人投資家はIPO銘柄で一攫千金を狙う。両者の利害が一致した。 もちろん、こんなねずみ講は長続きしない。ファンダメンタルズを大きくかい離した株価はいつか調整される。6月から続く大幅な株安はまさにそれだ。しかし、ここでも支那共産党は臭いものに蓋をしようと悪あがきをした。公安警察を使って、株を売ろうとする人を取り締まるという荒業に出たのだ。デマを流したという理由だけで一般人の投資家も多数拘束されたという。しかし、今回もそれは通用しなかった。 しかも、そんなことをやっているうちに、足元が危うくなる。人民元の為替レートを維持できなくなってしまったのだ。今年に入ってからの支那経済の弱さを確認した投資家は、今後は為替レートを維持するのは不可能と見抜いていた。だから、今年の8月上旬まで、実勢レートでは5%程度元安が進行していたのだ。 そこで、支那人民銀行は実勢レートと公定レートの乖離を縮めるという大義名分の下、8月11日から3日連続で約5%の人民元切り下げを行った。ところが、誰もこの大義名分を信じなかった。支那経済は我々が想像している以上に悪化しているに違いないと多くの人が考えた。 景気が悪化しているということは政府により財政、金融政策によるサポートが必要だ。ところが、為替レートを高めに維持するためには元の量を少なめに誘導しなければならない。為替レートはその通貨の希少性を示すものだからだ。しかし、元の量を減らせば経済はデフレ化する。まして、現在の支那は過剰な投資によって作られた設備が、想像を超える過剰生産によって在庫の山を築いている。モノはあふれるがお金が足らない状態、これがまさにデフレなのだ。デフレを脱却せずして景気の回復はあり得ない。だとすれば、高すぎる為替レートは早晩維持できなくなる。世界中の投資家はこう考えていたのだ。 今回の人民元切り下げは、実勢レートと公定レートの乖離がある程度の大きさになると、公定レートが実勢レートを後追いする形で切り下げが行われるという悪い習慣を作ってしまった。投資家は高い公定レートで人民元を売り浴びせることで、実勢レートとの乖離を大きくする。結果としてそれは人民元の切り下げを促す。 支那人民銀行がたまらず人民元を切り下げたら買い戻して大儲けできる。そして再び乖離が小さくなったら、即座に人民元を大量に売りを浴びせる。そうすると、またもや乖離が大きくなる。そして再び乖離がある程度の幅まで広がると、支那人民銀行が再び人民元の公定レートを切り下げる…。 この悪魔のサイクルに入った国は例外なく通貨危機に陥る。イギリスのポンド危機も、アジア通貨危機もすべてこのパターンである。そう考えると、人民元の切り下げで臭いものに蓋をしたつもりが、逆効果になってしまった可能性がある。利に聡い投資家たちは、人民元の売買を大きなビジネスチャンスとして参入してきている。いわゆる投機家による売り崩しによって人民元は大暴落するかもしれない。 ただ、ここで間違えてはいけないのは、支那における人民元大暴落は、日本における超円高の終焉と大幅な円安とは似て非なるものだということだ。日本はもともと変動相場制であり、日本銀行が望ましい為替レートを発表したり、管理したりはしない。日本銀行が明示するのは望ましいインフレ率の目標(インフレターゲット)である。現在、日本は日銀が掲げる2%というインフレ率をまったく達成できていない。ということは、2%を達成するまで円の増刷は止まらないだろうと投資家は考えている。円がたくさん刷られるなら円安が起こって当然だ。とはいえ、インフレ率が目標に達する段階になったら円の増刷は止まる。その時に円売りを仕掛ければ投資家は非常に痛い目にあうだろう。 人民元の大暴落は経済の掟に反して為替をコントロールしたいと熱望する支那共産党に対する制裁である。日本でやっているリフレ政策とは全く次元が異なる。 支那が本来やるべきは、投資を中心とした歪な経済構造の改革である。ところが、その構造の隅々に支那共産党の利権が染みついているのが問題なのだ。一党独裁を続けながら、その利権だけ排除することができるのか?もちろんそんなことは不可能だろう。だとすると、経済の不調は必ず政治問題に発展する。日本のような民主主義の国でないからこそ、そのリスクは重く見なければならない。この点について見通しの甘い人が多すぎる。

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    高速鉄道だけじゃない! 世界を危険にさらす中国トンデモ技術力

    宮崎正弘(評論家)「かたち」だけ日本に追いつけ、追い越せ 昇り龍の鼻っ柱がボキッと折れた。 中国新幹線事故の大惨事は早くから予測されていた。手抜き工事、汚職、速度だけにこだわり、運営管理がずさん…。おそらく遠因のひとつは中国人がチームワークを取れないことに起因するのではないか。諺に言う。「中国人はひとり一人は優秀だが、三人寄れば豚になる」。日本人は「三人寄れば文殊の知恵」だが…。 新幹線は高度の信号システムと管制が必要、しかし中国が拙速に開通させた高速鉄道は外国からのハイテクの寄せ集め、つまり使いこなせないのである。局所的には優秀なエンジニアがいても全体の整合性がないのである。 中国の輸出力が世界一なのは労働の安価で成立しているのであり、高性能の技術を期待して世界の消費者が中国製を買っているのではない。そもそも中国人はあれだけの電化製品を生産しながらなぜ秋葉原へ日本製品を買い物に来るのか? 軍事も外交も経済と同様に背伸びしすぎているが、通貨=人民元の躍進にしてもいつまで続くだろうか? げんに共産党幹部はなべて子弟を欧米日に留学させ、賄賂のカネをせっせと海外へ運び、人民元を信用せずに金(ゴールド)をため込んでいるではないか。 新幹線事故が近未来の頓挫と経済的挫折を暗示しており、中国の今後を予測すると明るいことが皆無に近いことに愕然となる。 振り返れば一九七八年、鄧小平が日本にやってきて新幹線に試乗し、「速い。速い。まるで後ろからムチで追い立てられているようだ。まさにわれわれに必要なものはこれだ」と感動し、新幹線プロジェクトを実現させる決意をした。 以来、世界一のスピードを誇る北京―上海新幹線を中国の高度成長の象徴としてGDP成長率に重ねて見せたり、背伸びの連続だった。 日本が東京―新青森間の「はやぶさ」にグランクラスを導入したと聞けば、中国も豪華車両を作らなければいけないという強迫観念があった。すべてが「かたち」だけ日本に追いつけ、追い越せだった。中国初の高速鉄道の死傷事故となった中国温州市の現場=2011月7月24日 浙江省温州南駅付近での大惨事がもたらした「想定外」は近未来の新幹線設計図がずたずたになったことだ。 六年前から開始された全土新幹線計画の中枢は鉄道大臣だった劉志軍が強気のラッパを吹き鳴らし、やり過ぎが祟って今年二月に更迭された。この劉の失脚は新幹線工事にまつわる汚職もあぶり出した。彼のファミリー企業と怪しげな友人らの企業による応札、賄賂につきものの現金、豪邸、美女の愛人が十八人もいるとか、そんな精力絶倫男でもあった。その分が手抜き工事となりトンネル工事の鉄筋やセメントなどのごまかしにつながった。一番怖いのは高架橋、河川にかける橋梁の地盤工事の手抜きである。 劉志軍失脚により、二〇二〇年までに総延長一万六千キロの新幹線拡大プロジェクトを実現する見込みはほぼなくなったため、予算が半分以下に削られた。ついで時速三百五十キロの区間は最高速度が三百キロに制限され、おなじく三百キロ新幹線は二百五十キロとされた。スピードの魅力は一気に色あせる。 実は劉志軍は江沢民派であり、上海派を追い詰める絶好の機会を胡錦濤たちは得た。その上に降りかかってきたのが今回の新幹線大事故だ。国家の威信を失った表の政治の舞台裏で、胡錦濤ら団派が上海派をコーナーへ追い込める最大のチャンスが到来したのである。現場に飛ばされた副首相の張徳江(前広東省書記)も上海派である。上海派に上海派の追い詰めをやらせ、うまく行けば一気に次期皇帝=習近平の政治力を剥ぎ取る荒技が可能となる。 このように事故ひとつをとっても裏面では権力闘争の熾烈さと直截に連結している。ある日、ドカンと借金体質のツケが… 事故直後から飛び出したのはネット世論の当局批判。「くそったれ」とか凄まじい非難が沸き上がり、新華社発表のニュースを信じる人がいなくなった。ネット世論を制御できなくなると中国が決まって用いるのが問題のすり替えである。 中東ジャスミン革命の時は、その影響を恐れた中国共産党が一月から「ジャスミン」「チュニジア」「エジプト」などのキーワードを監視し、ネット世論を封殺した。フェイスブックやツイッターなどで呼びかけられた集会を各地で完全に押さえ込み、言論を弾圧した。しかし人災による新幹線事故ではネット世論を完全に封じ込めることが出来なくなって立ち往生した。革命以後、おそらく初めての異様な事態である。 新幹線事故と事後処理のでたらめぶりが中国で次に何が起きるかをある程度まで予測させる。未曾有の混乱が不動産、金融、産業、社会、軍事など各方面で起こるだろう。 その起爆剤となる事例は枚挙にいとまがない。中国の設備投資や住宅投資の行き過ぎ、インフラ整備のちぐはぐ、利権にまつわる破天荒な汚職、不動産バブル、地下鉄の滅茶苦茶な拡大。辺境にさえ乱立する摩天楼…。 すべてが身の丈に合っていないのだ。必要のないところにも飛行場を造成し、はては自動車を千七百万台も生産して在庫が山となりつつある。原発を四百基体制にすると豪語しているが、事故が起きると偏西風で放射能が運ばれ甚大な被害を受けるのは日本だ。 電化製品は補助金をつけて売り払った。それでも液晶テレビの在庫は一千万台。電気メーターの回っていない住宅が一説によると六千五百万戸。米国のサブプライム危機発生直前の空き家は一千万戸だったから、中国にサブプライム危機が発生すると仮定すれば米国の二倍以上の惨状となる。 ところが中国はやることなすことあべこべで、たまりに貯まった外貨準備を駆使して日本企業の買収に乗り出した。この巨大な借金体質のツケは、ある日、ドカンと回ってくるだろう。 高速道路の総延長キロ数はカナダを抜き去って米国に迫り、鉄道の高速化にも着手した。中国版新幹線は「縦四線、横四線」が目標で、二〇二〇年までに一万六千キロの開業を目指すとされた。目玉の北京―上海・千三百二十キロが開通したが、あけて吃驚(びっくり)、乗車率が二割しかない。 空港を中国全土に百七十五カ所も建設し、次の五年で二百二十カ所にするという。北の果て、漠河(内蒙古自治区)や撫遠(黒竜江省、いずれも対岸はロシア)にも飛行場が建設される。 大都市は競うように地下鉄を導入し、すでに北京は五輪直後に十四路線。ロンドンを超える営業キロ数である。上海も凄まじい勢いで地下鉄網を張り巡らせた。この地下鉄建設ブームは広州、深セン、南京、杭州、天津、武漢、成都、瀋陽、ハルビン、福州、重慶へと飛び火して止まるところがない。ところが庶民の不満のインフレを抑制するために地下鉄代金を安く据え置いたまま(たとえば北京は何処まで乗っても二元)だから、投資回収どころか赤字が膨らみ続ける。 おまけに北京では地下鉄のラッシュ時に各駅で乗客の積み残しが常態化、上海では進行方向を間違えるというトラブル、南京は駅舎が水浸し、武漢は工事中に泥水で駅舎が冠水…と、あちこちでボロを出している。風力発電も太陽光も張子のトラの世界一風力発電も太陽光も張子のトラの世界一 中国は経済発展に並行して発電所も猛烈に増やしている。 水力によるダムは全土に二十二万カ所。このうち二万数千のダムは決壊しているが、そんなことはお構いなしに方々に新ダムをつくっている。 とくに警戒すべきは世界最大の三峡ダムが決壊する可能性である。二〇一〇年七月の豪雨で毎秒七万九千トンの放水をした時は水しぶきが百五十メートルの高さに達した。下流域の住民は恐れおののいたが秘かに練られている計画は下流域住民八十万人の立ち退きである。現に重慶の党委員会は当該報告書にそう明記している。世界最大の水力発電ダム、三峡ダム 火力発電は石炭不足と原油高を招いたが、中国は電気代を据え置いている。停電で悲鳴を上げるのは外国企業だ。というのも日本のような「計画停電」ではなく突然ぷっつんと電力がとまる。生産現場は計画も成り立たず、これを「無計画停電」と揶揄する。 ソフトエネルギーが良いと聞けば風力発電、たちまちにして四万基。太陽パネル発電も補助金漬けで設置建設だけは賑わうが、送電線が不足している。 黒竜江省各地を歩いて驚倒したのは、あちこちに風力発電設備がにょきにょきと林立していたことだ。山の上にも風車が林立、声を上げるほどに驚いた。山ばかりか、ちょっとした高台にも風力発電の設備が騒音をたてて回転していた。いつの間に中国は、世界一の風力発電大国となっていたのだ。 二〇〇八年の統計で一万千六百基が設置され、以後も倍々ゲームで増設された。二〇一〇年の推計で中国における風力発電設備は四万基を軽く超えたことになる。 風力発電メーカーの嚆矢は欧米勢だった。デンマークのヴェスタコ、米国のGEなど。後発の日本も三菱重工、富士重工、日本製鋼所などが参入した。中国の風力発電メーカーは最後発だった。欧米から技術を導入し、さらには欧米のメーカーを買収し、独自の風力発電機械、設備をつくれるようになった。その後、想像を絶する迅速さで事態は進捗した。このプロセスは新幹線プロジェクトの技術盗用過程に酷似している。 風力発電が国家あげてのプロジェクトと決まるや、それまで発電の知識もなかった中国人が儲け話に群がって、あちこちにメーカーが乱立。いまや中国だけで風力発電の設備メーカーは七十社(国有企業二十九社、民間二十三社、合弁十社、外資八社)。しかも中国のメーカーが世界ランキング上位十社のうちの四社を占める。GEを抜いて世界二位となった「華鋭風電」(シノベル)、三位の「金風科学技術」(独社を買収し急成長)、そして原発、火力、水力発電の大手「東方電気」も参入した。 風力発電の費用対効果は火力や原子力発電と比較しても非能率、非効率、非経済的と言われた。なぜなら風がなければ発電が出来ず、設備投資のコストに比べて売電コストがあまりにも安いからである。投資としては成立しないビジネスだ。まして豪雨、台風、強風の際には倒壊のおそれがあるので発電をとめる。現実に倒壊事故、鳥の巻き込み事故、ブレードの損壊など米国だけでも七十五件の事故が記録されている。 WTOで米中が争った問題は、中国政府が風力発電一設備あたりにつき六百七十万ドルから二千七百五十万ドルの「補助金」をつけてきたことだ。明らかに自由競争を阻害すると米国がWTOに訴え、中国はようやく今年六月になって補助金が各所に行き渡ったと判断するや補助金停止を打ち出しワシントンと妥協した。 太陽パネル発電も国家をあげて推進中だ。 中国の目標は五年後に太陽光発電を一千万キロワットにすると標榜している。 すでに世界一の太陽光発電パネルのメーカーも、これまた中国なのである。 江蘇省無錫にあるサンテックパワー(尚徳電力)は過去十年で売り上げを十倍とした。シャープ、京セラ、三洋電機といった世界有数のメーカーを軽々と抜いたのである。しかもサンテックパワーは日本の太陽光発電メーカーMSKを買収し、日本市場への進出も果たした。 発電効率を効果的に高め、一方でコストダウンに成功し、発電コストを十年で三分の一にしたという。世界全体の太陽光発電の導入実績シェアは中国が三%、これを二〇一二年に八%にすると鼻息が荒い。これまではドイツの独走が続いてきた分野だが、オバマ政権になって米国も太陽発電に力点を移し、世界のマーケットは二〇一二年までに三倍に膨らむと業界は強気の読みをしている。かくして難民の反乱、暴動が… 中国最大の湖である洞庭湖は北海道の三分の一ほどの湖面面積があった。「あった」と過去形で書く理由は年々歳々、工業化によって土砂が流入し、湖面が汚染され縮小してきたからだ。ついに水涸れ。洞庭湖は地域によって一滴の水もなく湖底は地割れを示すに至った(六月二日、多維新聞網)。 二〇〇八年は華南に大雪、〇九年は四川、重慶地区に百年ぶりの洪水被害、一〇年には西南地区五省に干ばつ、今年は六月まで長江流域の干ばつ、そして六月からは豪雨。この間、〇八年五月には三峡ダムを遠因とする四川省大地震が起きた。 今年四月から六月まで一滴の雨も降らず湖北・湖南の両省と安徽省、江西省、江蘇省と上海市は水飢饉に襲われた。干ばつ被害による農地の荒廃は七百万ヘクタールにも及んだ。農地の被災という文脈では東日本大震災の十数倍の規模である。 世界一の発電量を誇る三峡ダムの貯水は二割程度(今年六月現在)、下流域は川底が地割れを示した。あの長江が水涸れという異常事態は半世紀ぶりとなる。 そんな中、「南水北調」という世紀のプロジェクトは総額六百三十億ドル、「随の煬帝」級の運河を三本同時に開墾し長江の水を華北へ送ろうという無謀なプロジェクトだが、工事は十年前に開始されており、すでに一部の運河は開通している。 ところが問題が随所に発生し、先行きに暗雲が漂う。すなわち黄河の十七倍の水量を誇る長江の水を北京・天津地区に輸送する水飢饉対策が目的だったのに、水質汚染、環境汚染、あげくにせっかく運ばれてきた水が雑菌だらけで飲めないと判明して元の木阿弥になるかも知れないのだ。 三本の運河ルートのうち西線はおそらく実現困難だろう。なぜなら通天河から大渡河に巨大ダムの建設が必要な上、海抜四千メートルのバヤンハルム山脈に全長百キロのトンネルが必要とされるからだ。もし水流が山脈をぶち抜くという事態が発生すれば山崩れ、崖崩れ、土石流どころか地震が頻発し、山脈崩壊など想定外の災禍が予測される。ゆえに西線は「構想」段階で踏みとどまっている。 さらに付随的な障害がぞろぞろと出てきた。 まずは上海西部から天津までの区間の水路が開設されたが、水質汚染が激しく新たに四百二十六の浄水装置が必要に。追加予算が膨大に膨らんで、中央政府対地方政府の予算配分をめぐる政争は収拾がつかない。 最大の難問は開墾工事に伴う大量の立ち退き難民の発生だ。 年間二百三十億立方メートルの水が南から北へ輸送されるとなると、自然環境や気象条件その他の状況変化により、一部地方には洪水が、あるいは水没が予測される。三十七万もの村落が廃村となり、十七万人の農民が故郷を離れた。新移住区には当然ながら職がなく、補償金は微々たるものなので不満が爆発した。 かくして立ち退き難民の反乱、暴動が起こる。反政府感情は頂点を極める。都市部に住む四億四千万人の水を確保するために、三十七万の村々が犠牲になるわけだから。中国における水問題はまさに死活的である。だからこそ一部の中国企業は日本のきれいな水をねらい、森林資源の買い占めに走るのだ。バブル国家破裂はいまや時間の問題 そして中国経済の根幹を支えてきた不動産バブルの瓦解が始まった。 共産党独裁というシステムには構造的欠陥がある。猛烈インフレを前に庶民は暮らしていけないと政府に不満を漏らす。新幹線事故における鉄道部批判は、じつは政府批判のはけ口である。 博訊新聞網(八月二日付)によれば浙江省杭州で突如勃発したタクシーのストライキがある。理由は、「食料品が一一・四%、とくに豚肉が五七・一%も上がり、これでは食べていけない」とするインフレへの不満だった。 しかし政府はインフレ抑制の目玉としてガソリン料金を抑制し(だから売り惜しみがおこる)、主要都市では地下鉄、バスを低料金のまま据え置き、このため公共運輸機関の赤字は鰻登りになっている。 北京である日、まったくタクシーがつかまらず、「景気は良いだろう」とたまさか拾えた若い運転手に訊くと、「冗談でしょ。景気は最悪ですよ」と答えた。「えっ。最悪? タクシーはまったく掴まらないじゃないか」と筆者。すると、「物価があがって、こんくらいの稼ぎじゃ(生活が)追いつけない」と溜息だった。 不動産の根本問題は次に発生する不良債権の爆発である。 これまでに地方政府が土地を売って開発を促し、中国全土におよそ一万社ある「開発公社」に国有銀行が巨額のカネを貸し続けた。 総額は二百五十兆円、このうち百七十兆円が不良債権化すると欧米の経済誌は予測している。こうなると建設ブームは突如、心筋梗塞のような破滅的終末を迎えるのは必定だ。それはいまや時間の問題のように見える。 GDP世界第二位、外貨準備世界第一位の経済大国を誇示する中国で、実は経済失速、バブル経済破裂が秒読みとなっている。みやざき・まさひろ 昭和21(1946)年、金沢生まれ。早稲田大学英文科中退。日本学生新聞編集長などを経て、昭和57年、『もう一つの資源戦争』(講談社)で論壇へ。中国ウオッチャーとして活躍。著書に『中国がたくらむ台湾・沖縄侵攻と日本支配』(KKベストセラーズ)『ウィキリークスでここまで分かった世界の裏情勢』(並木書房)『オレ様国家・中国の常識』(新潮社)など多数。(※iRONNA編集部注:肩書き等は『月刊正論』掲載当時のものです)

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    野放図に賄賂を取る官僚たち 汚職が蔓延する中国経済の深刻度

    手のある「書簡」にはウソは少なく、資料価値は高いとみなされるのと似ている。 ではその貿易統計は近年の中国経済について何を語っているのだろうか。5年前の輸出の対前年成長率は3割を超えていたにもかかわらず、昨年は対前年比6%にすぎない。この輸出の不振が人民元切り下げの最大理由であったことは言うまでもない。 中国の通貨当局は、人民元の為替レートを、対ドルレートを基準に管理してきた。したがって近年のドル高は、おのずと人民元の実質実効為替レートを実力以上に高め、輸出競争力を大きく低下させた。それに対処できるのが「強力に管理された変動相場制」という制度なのだ。 注目したいのは輸入の成長率の激しい低下だ。同じ時期の年成長率が約40%から、ほとんど0%に低下している。輸入は基本的に国内所得に依存することを考えると、中国の国内総生産がいかに大きく減退しているのかが推測できよう。 経済史上、国民所得の2桁成長を四半世紀以上経験した国家はない。すべての経済変量が比例的に膨張し続けることはできない。成長には必ず壁があり、成長それ自体の中に成長にとってボトルネックとなる限定要因が必ず伏在する。人間の成長が、乳児のすべての身体的・精神的要素を比例的に拡大した形態で進行しないのと同じだ。賄賂を独占化したスハルト一族中国全人代で活動報告を終え、握手する最高人民検察院の曹建明検察長(左)と最高人民法院の周強院長。曹検察長は過去1年間で汚職官僚を5万5千人立件したことを報告した=2015年3月12日(共同) 中国の場合、その重要な限定要因のひとつが官僚機構の腐敗である。習近平政権の「反腐敗キャンペーン」は多くの職位・職階の官僚の怠業を生み、公共事業の深刻な遅れが発生しているところに中国の深刻なジレンマがある。 一般に汚職は経済活動のリスクを増大させ、国民経済にとって投資抑制効果を持つため経済成長を阻害する。ただその汚職も、2つのタイプを区別する必要がある。ひとつは、汚職(収賄)が独裁者とその一族によって「独占化」されているケースである。よく知られているのはスハルト政権下のインドネシアである。 スハルト時代には官僚への規律と統制が行き渡り、スハルトは汚職を無くすのではなく汚職を集中管理することに専念した。実際、スハルト一族は汚職を独占化して市場を機能させ、インドネシアを安心して投資できる国とした。その間スハルト一族が巨万の富を築いたことはよく知られている。 このタイプの汚職は、「不確実性」によって投資活動のレベルを低下させることはない。汚職がそれほど市場経済にとって弊害とはならないのだ。事実、インドネシア経済はスハルト政権下で着実な成長を遂げた。 しかしロシア同様、中国の汚職は、インドネシアの場合と基本的に性格を異にする。すべての職位・職階の官僚が野放図に賄賂を取りたがっていたと習近平主席自身が指摘している。この種の汚職は、市場取引や投資行動にとって致命的な負の影響を及ぼす。あらゆる経済主体が賄賂取得に狂奔し、経済取引の不信と不確実性を格段に高めるからだ。「不況」は一過性ではない このタイプの汚職が蔓延(まんえん)する中国では、取り締まりを厳格化すればするほど、官僚機構のあらゆるレベルでのサボタージュが起こり、経済そのものが停滞する。 官僚のサボタージュの発生は中国の公共事業にとっても深刻な阻害要因となる。特に9月以降、公共事業をカンフル剤とする景気対策を展開しようとする習政権にとっては致命傷となる恐れがある。 それに、たとえ公共投資に進捗(しんちょく)が見られたとしても、政府債務の増大は避けられない。これまで中国経済は有効需要のうち投資の占める割合が異様に高く、「過剰投資」が行われてきた。資本設備の稼働率の低さはこのことを示している。こうした状況で、資産価格や新規投資の期待収益率が低下していけば、企業はますます困難な状況に陥ることは避け難い。 この「前門の虎、後門の狼」のような状況からすると、現在の中国の「不況」は決して一過性のものではあるまい。いま中国が取りうる唯一確かな政策はドル・リンクで割高に動いた人民元を大幅に切り下げること、少しでも輸出を増やし体制の立て直しを図ることであり、中国が自らをコントロールできる方策は、それしか見当たらないのが現状のようだ。いのき・たけのり 青山学院大学国際政治経済学研究科特任教授。昭和20年、滋賀県生まれ。京都大学経済学部卒。米国マサチューセッツ工科大学大学院博士課程修了。大阪大学経済学部教授、同学部長、国際日本文化研究センター所長などを経て現職。専門は労働経済学、経済思想。「自由と秩序」「経済成長の果実」「学校と工場」など著書多数。日経・経済図書文化賞、サントリー学芸賞、読売・吉野作造賞などを受賞している。

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    99%の民間企業が商業賄賂に関与する中国 日系企業は同じ轍を踏むな

    児玉克哉(三重大学副学長)民間企業間でも抵触する贈収賄 今年に入ってから中国のニュースでは毎日のように「重大な規律違反と違法行為」で様々な役人の摘発の報道が続いています。腐敗防止を政策の重要課題として取り組んでいる習近平政権ですが、その勢いは止まるどころか勢いを増してきています。 中国では役人が関与する贈収賄だけが刑法に抵触するのではなく、民間企業間でも贈収賄は「商業賄賂」と言う刑法に抵触する犯罪となっています。 今後も腐敗防止政策を推進していく場合、まずは役人や国営企業の不正を重点的に取締って行いますが、次には民間企業へ推移していくと思われます。その場合には外資企業がまっ先に目標とされるでしょうが、特に日系企業はその中でも最優先でターゲットとされる事は現地事情に詳しい人であれば想像が付く話です。 先日も中国最大手弁護士事務所に勤務されている日本人弁護士の方と会食した時に、「中国では99%の企業が商業賄賂問題を抱えている」とお話をされていました。 最近では日本企業もコンプライアンス重視の傾向があり色々な相談があるそうですが、「購買担当が不正を行っているようだが、どのように対処したら良いのか?」と言うような事後処理的な相談が多いようです。 しかし、贈収賄に関しては起きてしまった後の処理は立証する事が非常に難しく、また多くの関係者の聞き取り作業なども行わなければいけないので社内にネガティブな空気が漂い、更に悪い方向にも進みがちとの事。如何に事前に防止するかが今後重要な課題だと弁護士さんも言われてました。「各事業所に任せているので…」という無責任 皆さんの記憶にも新しい江守グループホールディングスの破たん事件ですが、これは中国子会社による不正取引、不正会計が原因でした。 実に2005年より10年以上も不正を続けていた訳ですが、なぜここまで放置されてしまったのでしょうか? この事件の原因は、現地総経理を信頼して任せっぱなしにしてしまった事にありますが、現地トップも関与できない正しい監査制度が本社側として構築されていなかった事が最大の問題点でしょう。 弁護士さんのお話では、大手企業の現地統括会社トップとお話しする機会に、「購買の不正対策など、何らか特別な制度をとっておられますか?」と質問されると、現地統括会社のトップは概ね「各事業所に任せているので…」と言う回答をされるそうです。 しかし、各事業所が不正防止などの対策を考えさせたとしても、江守グループホールディングスと同様に、統括会社や日本本社側はその闇を知る事無く過ぎてしまうことでしょう。 よってこの問題をしっかり解決するには、本社側もしくは現地統括会社が不正防止の仕組みを新たに構築し、各事業所へは新たなルールとして導入させる事が必要です。ではどうしたら良いのか ここで分かりやすくするために、各事業所の責任者の立場になって考えてみましょう。 仮に疑わしき行為が事業所内にあったとしましょう。それを発見し問題にする事は、彼ら自らが今まで何もしてこなかった事を証明する事にもなってしまうため、消極的な対応になってしまいます。 また、本社側もしくは統括会社側より各事業所に「コンプライアンス重視で不正を防止しなさい」と発しても、駐在期間が短い彼ら各事業所のトップは、実はその為に何をどうするのかすら考え付かない人も多くいるのも現実なのです。 一般的に本社側は現地統括会社に「省エネしなさい」と指示を出し、現地統括会社はそれを受け各事業所に「省エネしなさい」と指示を出す事が多い。しかし現実には、何のツールも与えずに具体的な取り組み方法などの指示もなく「省エネしなさい」と指示する行為は無責任の連鎖でしかありません。 良くある出来事として設備の省エネに詳しくない各事業所トップが、工場に昔から長く勤務する設備担当者などを集めて省エネしなさいと言う。ところが、担当者が進めるという省エネ方策が正しいのかどうかの判断すら、実際には事業所トップは判断できません。そんなところに大きな予算が使われるのです。 これは正常ではありませんね。 「掃除をしなさい」と言うのであれば掃除道具を買い与え、「整理をしなさい」と言うのであれば棚を作ってあげる事が必要であるのと同じで、コスト削減や省エネにも何らかのツールを与えてあげる必要があるのです。 ある日系の省エネ専門会社の社長に話を聞きたところ、既にその会社では300社以上の日系現地事業所を訪問されておられるとの事でしたが、90%以上の事業所は省エネを正しく行えていないと言われてました。 「省エネしなさい」と言うのであれば、ツールとなる省エネの専門家(中国では節能服務公司)に委託し、その指導に則って省エネを進めるべきだというのが正論でしょう。 東芝の不正会計問題が発覚しましたが、本社経営管理部は「何とかしろ」と命令するだけで、具体的な指示を出していませんでした。その結果として、命令を受けた方は不正行為を行ってしまいました。 「何とかしろ」と言うのであれば、何とかできる仕組みを構築し、その仕組みの上で部下に行動をさせるべきだったのでしょう。 東芝問題も、まさに無責任の連鎖が生んだ重大なコンプライアンス違反行為だったと言えるのです。内部体制の変革だけでは無理内部体制の変革だけでは無理 贈収賄などの不正行為に話を戻しますが、世界的に有名な危機(リスク)管理会社のKROLL社が外資の大手企業に対して行ったアンケートがあります。そこで中国事業に関して「自社の不正発生リスクが高まっているか?」との問いを行ったのですが、2012年に69%だった数字が2013年-2014年には80%まで上昇しています。 更に、SMBCコンサルティングのレポート(2014年11月4日配信)によりますと、中国における不正の典型的パターンとして次のようなものが挙げられています。 ・経費水増し 外部業者と結託して実態と異なる契約や発票(領収書)を作成・取得し、実際よりも経費を水増し支出して、その差額を着服。 ・バックリベート 商品販売にあたり不当な優遇を行い、販売先から謝礼を得る。 ・親族会社取引 親族会社にある会社を通じた取引により、社内関係者が利益を得る。 ・現預金等流出 各種社内書類の偽造や、小金庫と呼ばれる裏金を利用して現金を着服。 また、このレポートでは「不正を防ぐための表面的な監査は逆効果だ」と書かれています。表面的に定められた項目をなぞるだけの監査では「監査があったが発見されない」と言う安心感を不正行為者に与えてしまい、かえって不正行為を助長してしまうとも書かれています。 レポートの最後には、不正行為は、いったん行われればその発見・責任追及には証拠の確保など様々な困難を伴い、責任を追及しきれない場合も非常に多いと結んでいます。したがって、対策はあくまでも「事前抑制」を主とし、究極的には不正行為者が「発見されるかもしれない」と自ら不正行為を思いとどまる「仕組み」を充実させていくことに重きを置かれるべきでしょうと書かれているのです。 コンプライアンス重視の経営方針を貫くのであれば、中国事業では「新常態」に則した不正を事前に抑制する新たな仕組みを早急に取り入れるべきでしょう。 年間に膨大な経費が支出される設備関連の経費についてだけでも、専門家の第三者による見積もりチェックを行う事で不正はすぐに防止できますが、ただその場合には日本・中国の両国事情に精通した専門家による監査(チェック)が必須です。 日系企業でも90%以上の企業が省エネを正しく行えていないとの事ですので、その原因の多くが「設備担当者や購買担当者による不正」にあるのでしょう。 自らの利益を優先し、企業として行わなければならない正しい設備の導入などを妨げている訳です。 専門家がどれだけ優れた提案をしても、それを選択するかどうかを決定するのが素人だとしたらどうでしょうか?本末転倒としか言いようがありません。日本と同じ事で解決しようとするな ことわざにも非常に機知に富んだ言葉があります。 郷に入っては郷に従え 餅屋は餅屋 安かろう悪かろう これらこそいま必要とされている言葉でしょう。これらの言葉の意味するところを是非皆さん認識して下さい。これだけ急速に発展してきた中国に於いて、日本と全く同じ事を求める、日本と同じ事で解決しようとする事は危険すぎます。 中国という賄賂が蔓延する「郷」に入ったならば、相見積もりなどと言う日本風の対策で対応しようとするのではなく「郷」に従って、「餅屋」である専門家にまかせて正しい判断が出来る体制を作ることが何よりも重要なのです。 そうしてこそ、今後の新常態に於いて失敗しない経営が可能となります。これまでと同じ轍を踏まないよう警告を発したいというのが今の私の正直な気持ちです。(「児玉克哉のブログ『希望開発』」より2015年8月28日分を転載)

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    「空気と水」の汚染が止まらない中国

    富坂聰(ジャーナリスト) 《『Voice』2014年1月号[総力特集]中国の余命 より》PM2.5と発がん性の関係が明らかに 中国東北部で暖房が解禁された10月下旬、各家庭で一斉に石炭が燃やされたことで東北三省の大気の状況は一気に悪化した。 国営新華社通信は、現地からの報道として昼間だというのに真っ暗になった街の写真を〈『ママ、今日は世界の終わりの日なの?』と子供が訊ねた〉という大きな見出しを付けて伝えたほどだった。 ハルビン市では、一時PM2.5の濃度が1立方メートル当たり595マイクログラムにも達し、「散歩で自分が連れている犬の姿が見えなかった」などといったジョークまで飛び交ったという。大気汚染の深刻な状況が伝わる話には枚挙にいとまがない。 PM2.5に代表される中国の大気汚染の問題は、『Voice』(2013年5月号)でもすでに報告したとおりだ。だが、今冬には例年にないほど濃度も規模も深刻な汚染になるのではないかと心配されるようになっているのだ。 通常、PM2.5の問題は気象条件などの影響で真冬から春先にかけて深刻化するものだが、2013年にはこれが秋の時点ですでに中国各地で高い濃度を観測するようになっていたからだった。 この事情は、上海に次いで日本人が多く暮らす北京で顕著だった。 「北京に暮らす日本人のあいだでは、あいさつ代わりにPM2.5の話をします」 と教えてくれたのは全国紙の北京特派員である。北京中心部の喫茶店でおもむろにポケットからスマートフォンを取り出すと、濃度測定のアプリを開いて画面を見せながら話を続けた。 「いまの数値は、266(2013年11月13日)です。悪いでしょう。まだ統計には表れていないようですが、日本人の中国離れが大気汚染によって一気に加速していると思います。とくに家族だけを日本に帰す動きが目立っている、と引っ越し業者が話していました。2012年の反日デモの影響で下火だった中国人の日本旅行は、国慶節のころには元に戻ったようですが、日本人の中国観光はまったく戻ってこないと業者は嘆いています。対前年比でマイナス60%、ひどいケースではマイナス90%にも落ち込んだといいますからね。これもPM2.5の影響でしょう。どうやら日本人が中国を敬遠する最後の引き金を引いてしまったようです」深刻な大気汚染の影響が続いた上海。対岸の外灘地区も全く見えない=2013年12月 影響は日本人にとどまらない。欧米のビジネスマンも中国への投資を手控える動きを見せ始めているという。2013年10月にWHO(世界保健機関)が、PM2.5と発がん性の関係について初めて正式に認めたことが大きかったとされる。 加えて中国疾病予防コントロールセンターも、2013年に中国で発生したPM2.5による大気汚染によって健康に影響を受けた人口が全国で約6億人に達し、国土にして全17省(直轄市と自治区を含む)の4分の1にも及んだとの数字を公表し人びとに衝撃を与えたのである。 経済への損失が顕在化するなか、中国政府もいよいよ本格的な対策を発表した。 各地が発表した「空気清浄行動計画」のなかで北京の計画は、2017年までに、PM2.5の濃度を現在(2012年)の基準から25%削減し、1日の平均値を1立方メートル中60マイクログラムまで抑えるというものだ。 ちなみに日本の環境基本法では1立方メートル中35マイクログラムというのが健康を維持できる基準とされ、北京の現状は11月までの時点の1日平均で90マイクログラムとなっている。 これを60マイクログラムまで下げるために、問題の16.7%を占めるとされる石炭の使用を抑制するというのだが、具体的には北京市の第六環状線の内側にあるセメント、石油化学、酒造、機械などの石炭を多く使用する企業――中国全体では鉄鋼、有色金属、化学工業、建材がエネルギーを最も消費する産業として全体の4割以上を占めているとされる――をターゲットに、2016年までに計200万tの石炭使用を削減することを義務付けるというものだ。 しかし、あらためていうまでもなくPM2.5の原因となっているのは工業使用の石炭だけではない。空気中のホコリ(20%)のほか、暖房用に使用される石炭が約18%、そして最も大きな原因とされるのが自動車の排気ガス(20%)なのだ。その自動車はモータリゼーションの深化にともなって肥大化し続けている。現状、新しく市場に投入される自動車の数は毎年約2000万台にも上るとされ、この新車販売台数の伸びは石油の消費量を年2%から3%の勢いで押し上げていくというのだから悩みは深いといわざるをえない。 汚染物質を空気中に出すことを抑制するためには脱硫装置などの対策が有効であることはいうまでもないが、これは大きな規模の工場のような施設であれば大きな効果が望めるのだが、対象が小さくなれば効果も期待できない。コストが合わないという問題に加えて対策が限られるからだ。 2013年には夏から秋にかけて、悪い日中関係にもかかわらず、中国は川崎市と東京都に環境問題のミッションを派遣してきているのだが、個別の家庭で暖房や炊事のために焚かれる石炭の対策は日本にもないのが実情なのだ。 この状況を改善していくためには、個々の家庭で燃やしている石炭や練炭に代えてエネルギーを提供することが大切だ。たとえば暖房用には1カ所で温めた熱湯をまとまった町に提供する方法が有効であるし、また料理にまで石炭を使う家庭にはガスを引くような対策もある。 だが、それらは金銭面からも障害が大きいのに加えて、石炭を常用する低所得者の塊のような集落に対しては、たいてい都市開発の観点からも彼らの住環境を充実させて居座られては大変だという行政サイドの思惑も働いているから複雑なのだ。 また再び産業界に目を向ければ、そこには国家のエネルギー政策の壁も如実に表れてくるのだ。 現在、石炭を多用する企業があふれている中国で、それらを少しずつ石油に代えてゆくだけでも環境には寄与するはずだが、ここで障害となってくるのがエネルギーの対外依存度の問題なのだ。「お腹がすいているのに環境どころではない」 エネルギーを過度に外国に依存することはエネルギー安全保障という観点から見て歓迎すべきことではないのは当然だ。なかでも中国が神経を尖らせているのは、石油の対外依存度が(第12期5カ年計画において)政府の定めたデッドラインの61%に近づいていることだ。 国家エネルギー局の元局長・張国宝によれば、2012年に中国国内で消費された石油は36億2000万tで輸入量は2億7000万t。それが2013年には3億tにまで膨らむと予測されているのだ。 IEA(国際エネルギー機関)によれば、中国は2035年には石油の対外依存度は80%を超えるとの予測もあるだけに単純に脱石炭への道を進めばよいという話でもないというわけだ。 ついでに触れておけば、自然エネルギーもきわめて頼りない状況だ。たとえば風力発電の発電量はいま中国が世界で最も大きな規模とされているが、それとて全電力のわずか2%を賄っているにすぎないのだ。もとより、現在急ピッチで建設が進められている原子力発電が短期的に中国の問題を改善してくれるはずもないのである。 つまり「現状で北京の空気を劇的に改善できるのは雨と風だけ」(北京のテレビ関係者)という重い現実が横たわっているのだ。 実際11月中旬、266にまで高まっていたPM2.5の数値を劇的に下げる役割を果たしたのは、北から吹き降ろしてくる強烈な風であったと現地の天気予報も報じている。 興味深いことは、これまで日本で大きく報じられるのとは裏腹に大気の汚染に比較的無頓着だった中国人もさすがに深刻に受け止め始めたのか、街でもマスク姿で歩く人が増えているのだ。 話題の人物でもある陳光標率いる江蘇黄埔再生資源利用有限公司による、大気汚染が深刻な北京と上海で新鮮な空気を缶詰にして売り出すという珍事業が真面目に展開された――その後これはネットで叩かれたことにより消滅したようだが――ほどの深刻な状況が続いているのである。 この問題の解決が簡単ではないのは、第一に、企業が環境基準違反を指摘されても罰金で済まされるならば、それによって儲けられる額に比べ罰金のほうがはるかに安いことから、企業が環境保護のほうにインセンティブを働かせることがないといった実情が挙げられるだろう。 また、その次の問題として、もし厳しい罰則を適用すれば経営が成り立たなくなる企業が続出し、一気に環境よりも政府が恐れる失業が社会にのしかかってきてしまうということがあるのだ。 かつての日本の状況を考えても、「お腹がすいているのに環境どころではない」といった考え方が広がっていることは、とくに大都市以外では想像に難くないのだから、環境対策で工場を潰すことに理解が得られないすさんだ荒野が広がっていることもわかるというものだ。いずれ飲み水がなくなるいずれ飲み水がなくなる 環境破壊と産業の関係は、大気よりもさらに深刻だと位置付けられる中国の水質汚染の問題で顕著になっている。水質汚染の問題は、そもそも国民一人当たりの水資源量が圧倒的に不足している(世界平均の約3分の1で、日本の約3分の2)ことを誰もが意識している中国の人びとにとって空気以上に敏感な問題として捉えられる傾向をもつ。 そのことが如実に反映されたのが、2013年9月7日午前、浙江省金華市の副市長と蘭溪市党委員会書記を筆頭に省内各市の環境保護局の正副局長約15人がなぜかそろって蘭江(河)に飛び込むというパフォーマンスが行なわれたことである。 これは2013年1月、ネット上に出現した「請游泳!(では、泳いでいただきましょう!)」という1つの呼びかけを、行政が無視できなくなったことで行なわれたパフォーマンスだった。 市民パワーを意識させる出来事だが、ここに至るまでには、自分たちの身近にあった河が悪臭を発するようになって生活環境を破壊された市民の声がずっと無視され続けてきた事実があるのだ。 同省では2013年5月にも河川の汚染で大きな問題が起きているのだ。舞台となったのは、温州市の蒼南県を流れる河だった。その河で14歳の少女が入水自殺を図るという事件が起き、このとき勇敢に河に飛び込み少女を救った51歳の地元警察官(張光聰)がいたのだが、その後、病院に運ばれた警官が自殺未遂の少女よりも重体に陥ったことで全国的な話題となったのだった。 警官が危篤状態に陥った理由は河の水を飲んだこととされ、診察した医師は「消化器系から呼吸器系に至る問題で、一時は死に至る可能性もあった」と公表。病名に困ったのか、「汚水游泳後遺症」という信じ難い病名が告げられて人びとの失笑を買ったのである。 地元の温州では、同様のドブ河が市内だけで680本もあるとされ、以前から水質汚染が問題になっていたために市民の怒りが爆発し、ネットのなかでは、「環境保護総局長をそのドブ河に投げ込んでしまえ!」という過激な書き込みがあふれたというのだ。 すでに前回の原稿でも書いているとおり、中国では毎年約500億立方メートルの水が不足している(中国水利部が2013年3月に発表した統計による)という。 また前述のように世界平均の3分の1しかない水が北部ではさらに逼迫しているのだが、その北部地域において重要な水源である4本の川(黄河、淮河、海河、遼河)の水資源は、この数年で約17%も失われてしまったという状況なのだ。 簡単にいえば、もともと水資源が乏しい河をさらに生活用水や工業用水、工場からの排水によって汚しているというのが中国の水問題なのだ。 水不足に頭を痛めた中国は、かつてロシアとのあいだで水の提供をめぐる協議を行なったこともあるが、やはりエネルギー同様に国家の安全保障に深く関わるとの意味からも断念した経緯がある。 その後中国は、比較的水資源に恵まれた南の長江の水を北に運ぶ大事業「南水北調」によって急場をしのいでいるが、それが根本的解決になっていないことは誰の目にも明らかだろう。 問題は、そうまでして運んだ水をゴルフ場の乱立というかたちで消費していることなのだ。そしてもう1つの問題がいうまでもなく汚染である。 前述のような「お腹がすいているのに環境どころではない」といった感覚があるなか、一部の企業のあいだでは“盗排”という現象まで広がっている。盗排は言葉のとおり汚染水をこっそり捨てることだが、企業自ら汚染水を捨てるのではなく、それを有料で引き取る非合法の企業が仲介し、その非合法の企業が夜中にこっそり河に捨てるというシステムだ。そのため自らの手を汚さないことでさらに良心のハードルが下がり、問題を助長していると考えられている。 地表を流れる河川がどのような状況にあるのか、北京を例に見てみることにしよう。 2013年4月から5月にかけて、環境保護部華北督査センターが北京を流れる河川の調査を行なっている。対象となったのは50の河川だが、すでに水が枯れている9本の河に加え、サンプリングに適さないと判断された4本は除かれた。結果、37本の河川はすべて環境保護部の定めた水質基準を下回ったというから驚きである。 モラルハザードが蔓延する中国社会においては、問題はすでに中国にとって最後の砦ともいうべき地下水にまで広がりつつあるようなのだ。 水不足が深刻な北京市では、現在、消費する水資源の約40%を地下水に頼っているのが実態である。4割を依存するとなれば大変なことだが、その地下水にもいまや汚染の波が及び始めているという。 2013年10月、『時代週報』が伝えた記事には、北京の地下水が直面するその問題が詳しく記されている。 同誌によれば、中国農業科学院の研究者が2009年に北京市平原区の322の観測地点で行なった調査で、「比較的汚れている」および「きわめて汚れている」に分類された箇所が41%にも及んだというのだ。 この結果は、北京から少し範囲を広げて行なった調査でも当てはまるようだ。 同じ時期、中国地質科学院水文環境地質環境研究所が公表した華北平原における地下水の汚染状況の調査によれば、いまだ汚染されていない地下水は全体のわずか55.87%でしかなく、44.13%の地下水はすでに何らかの汚染の影響を受けていたことが判明したというのである。 中国では、もう何年も前から「いずれ飲み水がなくなる」という懸念が語られてきているが、公表されるデータのどれもがそのことを裏付けるような内容なのだ。 水の問題は単純に水資源としての視点も重要だが、それだけではない。 水の汚染は土壌の汚染とも直結する問題であり、農作物にも大きな影響が及ぶと考えられている。 食の安全は、ここ10年ほど中国に暮らす人びとにとって切っても切れない関心事となっている。とくに北京オリンピック前後からは大きな事件も頻発し市民を悩ませている。 2013年にも、病死した豚の肉が流通していた問題から成長ホルモン剤漬けの養鶏場の摘発、カドミウム汚染米、さらにもはや定番にもなっている地溝油の問題が再燃した。そして現在はインスタントラーメンのスープに重金属が含まれていた問題が騒がれている。 現在、中国で携帯電話を所持していると、そこにはひっきりなしに広告メールが送られてくるが、そこで不動産、融資、不正経理と並んで頻度の高いのが、いまや安心な農産物の宅配であるのも世相を反映しているということだろう。とみさか・さとし ジャーナリスト。1964年生まれ。北京大学中文系に留学したのち、週刊誌記者を経てフリーに。1994年、『龍の伝人たち』(小学館)で21世紀国際ノンフィクション大賞(現・小学館ノンフィクション大賞)優秀賞を受賞。他に『習近平と中国の終焉』(角川SSC新書)など著書多数。関連記事■ 中国は本気で「核戦争」を考えている/日高義樹■ 「性都」東莞の大摘発で露呈した中国人の本音/富坂 聰■ これからの日中外交・「徹底的な対日工作」に備えよ/中西輝政■ なぜ、21世紀には感染症が大流行するのか/岡田晴恵■ メルケル独首相、強力なリーダーシップの源泉とは?

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    中国「股間に手りゅう弾隠し攻撃」の反日劇 通信社もキレた

     爆買い、爆買いと聞くと、中国人の対日感情も変化しているのかと思いたくなるが、そうではないようだ。中国の情勢に詳しい拓殖大学教授の富坂聰氏が指摘する。 * * * 習近平政権下の外交戦略の見直しによって日中間には宥和のムードが広がり始めた。だが中国の変化は日本人が受け止めるようなものではない。爆買いに来るからといって歴史問題を含めた日本のすべてを肯定するということではないからだ。 中国人の心のなかには「過去の日本」と「いまの日本」という肯定と否定が並立している。どちらかの感情を入れ替え全肯定と全否定を繰り返す日本人とはそこが明らかに違い、互いに誤解する点でもある。(本文と写真は関係ありません) これは国内の問題にもいえることで、例えば都会人と田舎の人々では明らかに対日感情は異なる。その意味でもいま、対日宥和のムードが広がっているのは都会の一定以上の生活をしている人々で、いまだ田舎では反日が基本である。 それはエンターテイメントの世界に如実に表れている。 そんななか6月16日には新華ネット上に新華社が批判した反日映画・ドラマに関する記事を掲載して話題となった。タイトルは〈総局(中国電波映画テレビ総局)が取り調べ 女性の股間に手りゅう弾を隠して攻撃する反日劇 新華社が連続して3つの文書を発して批判〉である。 中身はタイトルの通りで、トンデモ映画や劇、ドラマが量産され続けられている“反日もの”に、ついに女性器のなかに手りゅう弾を入れて攻撃するとの内容のものが登場し、国営通信社がキレたというわけだ。 その言葉がまた激烈で「人としての倫理にも史実にも符合せず、ただ公共の理性に挑戦する」作品だというのだ。 こうしたくだらない作品については拙著『中国人は日本が怖い! 「反日」の潜在意識』(飛鳥新社刊)に詳しく書いたが、武術の達人が日本兵を素手で真っ二つに割いてしまうなど、本当にとんでもない。むしろ逆にカルト的な人気を呼ぶのではと思えるほど思い切っていてバカバカしいのだが、こうしテイストはいまだ健在ということなのだろう。 この記事で思い出すのは、4月15日に中国吉林ネットが掲載した『法政晩報』の記事である。これもタイトルだけ見れば十分という記事なので、それを紹介したい。曰く、〈日本鬼子役を演じた端役の役者は4年間で6000回死んだ〉 ご苦労様!関連記事■ 中国のネットで「南鳥島も古来より中国領土」との意見出る■ 中国の反日是非論争で「ホンダのバイクはすごい」の冷静意見■ 中国で各種日用品に「反日」をプリントしたグッズがブームに■ 中国の祭り 捕らえられた日本兵の提灯を笑顔で小突く地元民■ SMAP上海公演中止 中国政府に対し中国人ファン激怒

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    中国がひた隠す天津爆発現場 日本人ジャーナリストが初潜入

     8月に中国・天津で起きた大爆発事故。習近平政権は厳しい報道管制を敷き、現場で何が起きたのかはほとんど伝わってこない。『習近平の「反日」作戦』(小学館刊)などの著書があるジャーナリスト・相馬勝氏が、中国が国内外にひた隠す「爆心地」への潜入に成功した。相馬氏が現場の生々しい様子をレポートする。 * * * ひしゃげて折れ曲がり、長方体の原形を留めていないコンテナが散乱し、鉄筋の枠組みだけを残して穴だらけになった5階建てのビルの残骸が無残な姿を晒す。あたりには焼け爛れた倒木が転がる──。 死者162人、行方不明者11人、さらに700人以上が負傷した中国・天津での爆発事故の現場中心部の様子だ。北京で抗日戦争勝利70年を記念した軍事パレードがあった翌日の9月4日、筆者は天津を訪れた。 化学薬品倉庫のあった爆心地への出入り口には鉄製の柵が設けられ、道の両側に4~5人ずつ武装警察部隊の兵士が立っていた。瓦礫撤去にあたる工事車両が頻繁に行き来するなか、筆者が乗ったセダンは運良く工事関係車両とみなされたようで、現場の中心部に入ることができた。 事故は8月12日深夜、天津港に隣接する濱海新区内の危険物倉庫で起きた。消防隊の放水によって貯蔵物質が化学反応を起こし、次々と爆発を誘発したとみられている。事故後、倉庫会社社長や市政府幹部ら20人以上が拘束されたが、原因ははっきりしていない。 これまで、『人民日報』など官製メディアのほかに現場に入った取材者はいない。中に入ろうとして身柄を拘束され、カメラの画像をすべて消去された外国人ジャーナリストも少なくないという。8月20日、中国天津市浜海新区の川で見つかった、大量死した魚(共同) その事故現場では、工事関係者らが防毒マスクを装着。筆者も強い異臭を感じた。工事車両は現場の出口付近で、浄化剤入りの水を車体にかけるよう指示されていた。近くの川で無数の魚の死体が浮かび上がったことからも、かなりの量の化学薬品が残留しているのは明らかだ。 爆心地に隣接し、立ち入り禁止になっていたマンションの敷地内にも入った。避難した住民向けの保険会社による説明会のため、一時的に立ち入り禁止が解除されていたのだ。 数十棟もあるマンションのほとんどの部屋は、爆風で窓ガラスが吹き飛び、暗く黒い空洞がぽっかり浮き彫りになっていた。 内部はガラスやドアなどの破片が飛び散り、住民らは「もうここには住めない」と口々に叫び、「事故の責任を取れ」「数百万元も出したマンションなのに、二束三文の賠償金では絶対に納得しない」などと政府の対応に不満を爆発させていた。 会場では住民の“暴動”を抑えるための武装警察数十人が警備につき、険悪な雰囲気に包まれていた。マンションの敷地内にも武警によってテントが張られ、住民の引っ越しのため、室内の荷物を運び出すのを手伝う隊員を振り分けていた。高さ2メートルほどある結婚式の写真パネルを、武警隊員が大切そうに運ぶ姿もあった。 天津市当局は9月5日、この爆発跡地に、犠牲になった消防士らを悼む英雄記念碑などを建て、「生態公園(エコパーク)」とする計画を表明。11月にも着工し来年7月に完成予定だというが、化学薬品の残留をはじめ問題は何も解決していない。 中国国民は何より原因究明を望んでいる。北京でも上海でも、同じような不法な危険物の大量貯蔵があるとされるからだ。事故原因を隠蔽すれば、政権への不満を募らせるのはマンション住民に留まらない。関連記事■ 中国では今年18件の工場爆発 天津大爆発は氷山の一角の指摘■ 中国で警戒レベル一気に上昇 経済失速と天津大爆発が背景に■ 原発事故現場・大熊町民の複雑な心境と声を丹念に拾ったルポ■ 天津爆発事故 工員が「ライターで火つけた」と書き込み逮捕■ 中国で屎尿転売もくろむバキュームカーが爆発 臭気立ち上がる

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    天津爆破事件 大衆が望む「正しいお裁き」 幕引き急ぐ当局

    富坂 聰(ジャーナリスト) 8月末から9月にかけて北京を訪れた。中国の友人たちと日中それぞれの国での最近のトピックを話題とするなかで、意外にも中国人に大うけしたのが天津港の爆発事故に関連する日本での報道についてだった。 「江沢民派が仕掛けた攻撃?」日本の報道を笑う中国の人々天津の爆発事故現場(Getty Images) 「あれは日本では江沢民派が仕掛けた攻撃だといわれているよ」 こう告げると中国の友人たちは、みな腹を抱えて笑うのだ。日本に留学した経験があり、日本びいきの元官僚は、 「東京オリンピックのエンブレムのパクリ問題といい日本社会が劣化してるんじゃないか」 と心配顔になった。日本と関係の薄い中国人は、 「それなら中国にも負けないくらい馬鹿げた話があるよ」 といってこんな話をするのだった。 「天津での事故が報じられた直後、湖南省の一人の失業中の青年が、『天津の爆発は、私の犯した間違いだった。でも、私は後悔していない』とネット上に書き込んで身柄を押さえられるっていう騒動があったんだ。湖南省公安庁の下に設けられたネット安全保衛技術偵察総隊がウィチャット上で発信した捜査情報で明らかにしたことだ。 ご丁寧に『工場の社長が自分を薄給で酷使したことだ』と動機まで綴っていたんだけど、犯行については、『燃料の入ったドラム缶の近くにあった固形の揮発性物質に自らライターで火をつけて逃げた』というんだ。 当局も青年の犯行声明をまともに受けてはおらず、当初からネット警察が動いて、彼を〈虚偽情報を故意に流布し社会秩序をかく乱した〉として『5日間の行政拘留』したことでも明らかだけどね」 中国天津市の港・濱海新区で起きた爆発事故、いわゆる〝8・12〟の爆発の原因はいまだにはっきりしない。陰謀説と親和性を持ってしまうのは、こうした当局の対応にも関係しているのだろう。 それにしても死者159人を超える(9月3日時点)悲惨な事故を政治的陰謀として仕掛けるリスクとはどんなものなのだろうか。しかも習近平政権にはほとんどダメージのない陰謀を。数え上げればきりがない工場爆発事故 そもそも企業がしでかす事故や問題は、濱海新区に限らず頻発している。そうした事故と違い天津港の事故だけが政治的背景を持つ意味はどこにあるのか。それともどの事故も同じように裏に政治が動いているのだろうか。 かつて上海で食品加工会社が期限切れ肉を使用していた問題では、日本では「共産党の外資潰しだ」という説が流れたのと近似している。 私は当時、このページでマスコミが潜入取材で問題を明らかにするケースは毎週起きていることで、この問題だけを取り上げて傾向を分析することは間違いだと事例を挙げて書いたことがある。 同じように工場の爆発事故も挙げればきりがない。そしてたいていのケースが、上級機関が下級機関を叱り飛ばすショーによって幕が引かれることは、毎日中国のテレビを観ていれば理解できるはずだ。 いわんや党中央が出てくるのであれば大衆が望むのは「正しいお裁き」であり、地方の腐って威張っている官僚に鉄槌を下してくれる姿を見ることだ。天津事故で習政権が傷つくことはありえないし、実際に現状を見てもそれは明らかだろう。 上海の期限切れ肉の問題が「外資潰し」でなかったとしても、日本のメディア界では誰も責任も問われない。無責任極まりない言論空間が横たわっているのだ。後に検証されることもないため、派手なことを言えば言うほどメディアにもてはやされるという悪循環が絶たれることもない。 事実、9月3日の「抗日戦争勝利70周年」の式典には、江沢民も胡錦濤も登場し、丁重に迎えられていたが、江沢民黒幕説が日本で検証されることはないのだろう。 これも日本人がいかに真剣に国際情報に向き合っていないかの証左なのだろう。 さて、では真相は何なのだろうか。 もちろん当局から正式な原因が示されていないのだから想像するしかないのだが、私はこの問題の核心は、爆発から4日後に現場に入った李克強首相と、その李首相の眼前にスマホのカメラを突き付けながら質問を発した香港の記者とのやり取りではないかと考えている。消防隊員の犠牲精神は英雄に価する一方で、杜撰な薬品管理 当日の現場では、「編外消防隊員の問題をどう考えているのか?」と唐突に訊ねる記者に対して李首相はこう答えている。 「消火活動に参加した消防隊員は現役、非現役にかかわらず訓練を受けていた。火災現場の危険性はよく知っていたが、危険な場所に自ら身を置いた。その彼らの犠牲の精神に心が痛む。彼らは英雄であり、英雄に“編外”もなにもない」 中国語の編外は日本語では「編成外」と訳すべきだが、この場合は非正規の消防隊員を指している。背景にあるのは消防隊員遺族の抗議活動であり、非正規消防隊員の家族たちは補償面で公務員と大きな差が出ることに憤っていたのであった。このことは犠牲者の多くが非正規消防隊員であることも意味していた。 事故後に公表された情報では、火災現場に投入された消防隊は、天津市公安局の下に置かれた消防隊員約1200人を中心に、河北省滄州、廊坊、唐山の消防隊から駆け付けた増援部隊が加わったとされている。消防隊員たちに化学薬品を消火する十分な知識が備わっていたのかを会見で問われた天津市は、「あった」と答えている。しかし、これは間違いではないが誤魔化しであった。 実は、最も早く現場に到着したのは天津港公安局が独自に組織した消防隊で、隊員はみな組織上、公安組織の所属ではなかったからである。天津市が「あった」と語ったのは正規の消防隊員のことなのだ。正確には天津港公安局消防支隊第4大隊であるが、天津港公安は天津港という公の組織ではない。天津港集団という企業に近い存在だ。これはかつて企業の中に警察組織や刑務所が備わっていたことの名残だが、要するに警備員の下の消防隊なのだ。 そして現場で二次災害的に起きた大爆発と最大の被害者と目されるのが、初期段階で消火活動を行った消防隊員だという2つの事実を突き合わせたとき、加害者と被害者が同じであるという政府としては受け入れがたい可能性が浮上してくることが避けられない。 後には意図的にテレビには映さなくなったのだが、当初、遺族が掲げた消防隊員の写真がみな高校生のように若くて違和感を覚えたが、それだけに余計いたたまれない事故だといえるのだろう。いずれにせよ政府は、不満が出ない程度に情報を更新しながら時間を稼ぎ、本当の利害関係者だけと向き合うことのできる環境を待って問題を解決しようとするのだろう。 天津爆発の約2カ月前に起きた長江の遊覧船転覆事故への関心がもはやすっかり失われているように、この事故に人々が興味を失うのも時間の問題だと思われたからだ。 それにしても驚かされたのは、火災発生現場の倉庫に何が置かれていたのか、誰も正確に把握されていなかったという中国の杜撰さである。爆発の翌日から事故調査担当当局は現場にあった薬品の特定を始めたのだが、それは「税関書類と現場採集した物質の分析結果との突合せ」(天津市の会見)という方法で行われるというのだ。つまり、企業が提出した書類だけではどうにもならないのだ。 当局の迷走は、日々更新される倉庫に置かれた薬品の種類が、たった2日間で20種類も増えたことでも明らかだろう。

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    中国の経済成長は終焉するのか 日本への影響は?

    釣雅雄(岡山大学経済学部准教授)(THE PAGEより転載) 中国上海市場の株価急落につられて世界同時株安が誘発され、日本でも株価が乱高下しています。世界同時株安はいったん沈静化したようにみえますが、中国経済の問題は解決したとはいえず、株価維持政策はそれらを先送りしただけかもしれません。中国経済が今後どう進んでいくのかを知るには、中期的な視点が必要です。日本の高度成長の経験からひもとき、その後、日本経済への影響を考えてみます。中国経済の高すぎる「投資」依存度[図](出所)中国の表:中国人民共和国国家統計局編、China Statistical Yearbook、日本の表:内閣府、国民経済計算、拙著(2014)『入門日本経済論』122頁 中国の経済成長には、投資の役割が大きいという特徴があります。中国の経済成長のおよそ半分が投資によるものです(このことは、投資と消費がGDP成長にどれくらい寄与したのか《寄与度》をみることで確認できます)。さらに、図で日本の高度成長期と比較してみても投資の占める割合が大きく、同じ高成長でも中国と日本とではずいぶんと異なることが分かります。 このような投資が大きいという特徴から、中国の抱える問題が見えてきます。・中国国内の経済格差が拡大してきた・過剰な投資は経済の成熟化に伴いいずれ縮小し、成長率も低くなる 投資の中身では、不動産が非常に大きな割合を占めています。2013年の中国の産業別投資割合(中国人民共和国国家統計局編「China Statistical Yearbook」)は、全体の投資に占める割合が一番大きいのは製造業の33%ですが、その次が不動産の27%です。中国証券監督管理委員会の前に集まった個人投資家ら(奥)=北京(共同) 通常は所得の増加に伴い消費が増えるはずです。中国では住宅が重要で、結婚の条件にもなるようなので日本とは異なると思いますが、それでも、所得が増えたから不動産投資をしようという人は、高い所得水準の人に限られます。そのため、国民と一部の富裕層、あるいは企業とに所得格差が生じていて、それぞれが異なる経済行動をしていると考えられます。 日本でも高度成長期に不動産投資は伸びていました。しかしながら、床面積でみると(建設省「建築物着工統計調査」)、1973年ころがピークでその後は居住用は1980年ころまで横ばいののち減少、鉱工業用は半減するような急速な縮小という状況になりました。これは、石油ショックの影響も大きいですが、基本的には、高度成長期の終焉によるものです。 人口移動(総務省統計局「住民基本台帳人口移動報告」)でみても、東京圏への超過転入は1962年がピークの38.8万人で、1970年代に入るとそれが急速に縮小しました。また、東京圏に限らず日本全体での都道府県間移動の総数をみると、1970年の424万人がピークとなっています。 すなわち、日本でも高度成長期に人々が移動している間は、不動産投資が拡大していたのですが、それを過ぎると急速に(たとえば5年程度の間で)縮小するという現象が見られました。移動先での住宅需要が縮小したり、製造業への産業構造の転換が終わったためです。 中国でもおそらく同じようなことが起こると思います。問題は、中国経済がかつての日本に比べて投資への依存度が高すぎる点、経済格差のために国民の消費需要への転換が進みにくいかもしれない点です。中期的には問題がある追加金融緩和[図](出所)中国人民共和国国家統計局、Yahoo! Finance さて、上海株の下落への対応として、中国の中央銀行である中国人民銀行が8月25日に追加金融緩和を決定しました。中国は2014年の終わりから現在まで断続的に金融緩和を行っており、そのため、今回も「追加」金融緩和となっています。背景には不動産の価格下落があり、直近でも6月27日に金利を引き下げています。株式市場においてこの追加緩和は好感される政策かもしれませんが、これには中期的に問題があります。 上海株のバブル的な上昇は、不動産から株式への資金移動が原因だと思われます。次の図は北京と上海の新築住宅販売価格の推移と、上海総合株価指数の推移を重ねて示したもので、昨年の夏ごろからそれぞれが反対方向に動く様子がみられます。不動産価格が下落していたため、投機的な資金が株式市場に流れ込んだのでしょう。そのため、今年の3月ごろを境に不動産価格が回復し始めると、逆に株価が下落しています。 金融緩和は株式のみならず、不動産にも影響を与えます。中国の中央銀行が直面する問題は、株価を支えるための追加金融緩和により、住宅など不動産のバブル的な価格上昇を加速させてしまうことです。もし、今回の混乱が収まるとしたら、これまでと異なり、今後は不動産も株式も、どちらも価格が上昇するかもしれません。 しかしながら、金融緩和は需要の「先食い」に過ぎず、日本の経験から考えても永久に不動産投資が伸び続けることはありません。この需要の先食いが強すぎる場合、将来、急速な不動産価格下落という経済ショックをもたらしてしまいます。日本のバブル崩壊もそうですが、米国のリーマンショックも同じ動きでした。日本でも1990年ごろのバブル崩壊から、不良債権問題、貸し渋り、投資の低迷などが不動産価格下落により生じました。さらに、中国では不動産投資が減少してしまうと、現在のような経済成長を維持できません。そのため、もし不動産価格にショックが生じた場合は、厳しい景気後退が発生してしまうでしょう。日本経済への影響は限定的か[図](出所)財務省、貿易統計 もし将来、中国経済が失速するとなれば、企業によっては大きな影響を受けると考えられます。それでも日本経済全体への影響は限定的でしょう。図で日本から中国、米国への輸出額の推移と内訳を示してみました。 中国への輸出品の構成は、米国への輸出とは異なります。一般機械や電気機器(主に電子半導体)など中間財と呼ばれるものが多く、それらの多くは間接的にはEUや米国への輸出につながっています。図で分かるように、リーマンショック後、2010年でも米国への輸出は回復していませんが、それは主に輸送機器(自動車)の輸出減が響いたためです。ところが、中国への輸出は元に戻っています。 もし中国経済が悪化すれば、日本経済が影響を受けるのは間違いありませんが、リーマンショックのような欧米での発生に比べると小さいものにとどまるはずです。ただ、隣国でもあり、単純に貿易だけを考えればよいわけでもないでしょう。 中国政府と中央銀行がどのような政策を採用するかによって、今後どうなるかはずいぶん異なります。そもそもの発端は、中国が経済成長を維持するための手段として金融政策を用いていることや、株式市場などで介入を強めたことです。中国は共産主義国でありながら、自由な経済活動を導入することで発展してきましたが、ここにきて、政府は経済成長維持のための介入を強め過ぎているようにみえます。日本の経験からもいずれ行き詰まることがあり得ますので、今回の混乱が落ち着いたとしても、日本の企業は中国経済の変動に対応できるようにしておいたほうがよいでしょう。

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    中国の金融緩和策が効かない最大の理由

    小笠原誠治(経済コラムニスト) 株価の急落に耐えかねて中国政府がまた動きました。先週からの急激な株価の下落に中国当局はただ黙って見ているだけなのかと思っていた矢先の出来事です。 その効果と言うべきか欧州市場では株価が反発したのです。 では、中国は今回どんな対策を打ち出したのかと言えば…0.25%の利下げと預金準備率の引き下げです。 つまり金融を一層緩和したということなのですが、別に目新しい内容ではありません。 案の定、米国のマーケットはそれほど反応を示さず、NYダウはまた下げているのです。 では、ここで皆さんに問いたいと思います。 金利の引き下げや預金準備率の引き下げといった金融緩和策は今の中国の経済にとって恵の雨になるのでしょうか? 如何でしょうか? 金利を引き下げると、何故景気を刺激するかと言えば… そうですよね、お金を借りて投資をする立場にある企業としては、金利が安くなるので投資をしやすくなるのです。そして、企業の設備投資が増えれば、GDPも引き上げられる、と。 では、今の中国経済にとって金利の引き下げは有効な手段と言えるのでしょうか? しかし、中国経済を少しでも理解している人からすれば、それは殆ど意味のないことだと分かるのです。 何故か? それは中国経済のより本質的な問題は、設備投資が盛り上がらないことではなく、逆に設備が過剰であることにあるからです。中国安徽省の証券会社で、株価の動きを見つめる個人投資家(共同) 例えば鉄鋼の生産設備ですが…世界の鉄鋼の年間の生産能力は23億トンに及ぶとされていますが、そのうち中国の能力は11.6億トンを占めています。 凄いですね。世界で毎年生産される鉄鋼のうち半分は中国で生産されているのです。 では、実際中国は最近どのくらいの鉄鋼を生産しているかといえば、約8億トン程度。因みに日本は、長い間約1億トン程度で推移しているので、日本の8倍ほどの鉄鋼を生産していることになるのです。 但し、中国の生産能力は11.6億トンもあるので、3.6億トン分は余剰生産能力ということになります。 そんなに生産設備が余っているのですから、金利を下げてやるから設備投資をしろと言っても、それがおかしな話であるのは自明のこと。 鉄鋼以外にも、例えば自動車の生産に関しては、2015年の中国の自動車生産能力は約5000万台に迫る見込みとされている一方で、実際の売り上げ見込みは2500万台にとどまると見られているので、稼働率は5割程度にとどまるのです。 これら以外にも、板ガラス、電解アルミ、太陽電池、エチレン、石炭、コンクリート、船舶、それに風力発電など、どれもこれも生産設備が過剰であることがむしろ中国経済の大きな問題になっているのです。 こんな中国なのに、投資を刺激するための金利の引き下げに何の意味があるのか、と。 そうでしょう? 確かに景気の悪化を防ぐべきだという意見も分からないではありませんが、しかし、景気の悪化を恐れるあまり、これまで投資を増やし続けてきた結果が、この過剰設備を生み出してしまったのです。 要するに問題を先送りしてきたツケが、今中国に回ってきているのです。 ここで金融を緩和したり、或いは財政出動をしても、それはまたしても問題を先送りするだけの話に過ぎないのです。 本当は、設備投資を促進するよりも、過剰設備の問題にもっと積極的に取り組む必要があるのに、それがなかなか実行できずに今日に到ったと言うべきなのです。  大体一人っ子政策をとっている中国なのですから、人口が増えない一方で、GDPがいつまでも伸び続けるなんてことはあり得ないのです。他国にない優れた技術力を保有しているという訳でもない訳ですから。それに賃金だって上がり続けている訳ですから、安い労働力を武器とした輸出に頼るのも限度があるのです。 ということで、中国の経済は調整期に突入したと言えるのです。そして、その調整のためには相当の時間を要すると考えた方がいいでしょう。(オフィシャルブログ『経済ニュースゼミ』より8月26日分を転載)おがさわら・せいじ 1976年3月九州大学法学部卒。1976年4月北九州財務局(大蔵省)入局。大蔵省国際金融局開発金融課課長補佐、財務総合政策研究所研修部長、中国財務局理財部長などを歴任し、2004年6月退官。以降、経済コラムニストとして活躍。メールマガジン「経済ニュースゼミ」(無料版・有料版)を配信中。著書に『マクロ経済学がよーくわかる本』(秀和システム)、『ミクロ経済学がよーくわかる本―市場経済の仕組み・動きが見えてくる』(秀和システム)、『経済指標の読み解き方がよーくわかる本』(秀和システム)がある。

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    人民元切り下げと天津大爆発事故で習近平氏は今や崖っぷちか

     中国情勢が大揺れだ。中国人民銀行が8月11日から3日連続で人民元の対ドルレートを切り下げたと思ったら、12日には天津で爆発事故が起きて大惨事になった。 先の上海株価暴落と合わせて、背景に習近平政権首脳部と江沢民派(上海閥)、および胡錦濤派(共産主義青年団)との熾烈な権力闘争があるのか、ないのか。 真相はともかく、習政権による反腐敗運動で痛めつけられてきた反体制派にとって、一連の事態が反転攻勢をかける絶好の機会になったのは間違いない。いまや習政権は完全に足元が揺らいでいる。 全体情勢を整理しよう。まず7月8日から始まった株価暴落だ。これは「江沢民派が仕掛けた空売りが発端だった」という見方が定説になりつつある。暴落に慌てた政権が、本来は市場と無関係の公安省を動員して捜査に乗り出した事実がそれを如実に裏書きしている。 政権は「空売りを仕掛けた側には政権を揺さぶる意図がある」と見ているのだ。 人民銀が突如として人民元の切り下げに踏み切ったのも、なんとかして景気の落ち込みを防がないと反体制派につけいるスキを与えてしまう、と焦ったからだろう。 株価暴落そのものは1年前から始まっていた不動産バブル崩壊を後追いしたにすぎない。シャドーバンキングで溢れたマネーがバブルを起こしたものの、実需を無視した投資は結局、全国にゴーストタウンを作っただけだった。 肝心なのは、むしろ実体経済のほうだ。公式発表はいまだに7%成長をうたっているが、そんな数字を鵜呑みにして伝えているのは、いまや中国お抱えのエコノミストと日本のおめでたいマスコミくらいである。本当にそんなに調子がいいなら、そもそも元切り下げで輸出にドライブをかける必要はない。 政権が心配しているのは株価暴落もさることながら、景気悪化で不満が高まった国民の暴発である。中国ウォッチャーの石平氏によれば、中国ではフランス革命を分析した歴史家、トクヴィルの書物『旧体制と大革命』(和訳本は、ちくま学芸文庫)が大人気になっているという。指導部も国民も体制崩壊の先例を学んでいるのだ。 元切り下げは米国が要求してきた切り上げに逆行する。人為的な元安政策で輸出を拡大するのは不当というのが米国の言い分だ。9月に習主席訪米を控えたタイミングで、あえて米国の神経を逆なでするような行為に出たのは、それだけ政権が追い込まれた証拠である。なりふりかまっていられなかったのだ。 そこへタイミングを合わせたかのように大爆発事故が起きた。事故原因は不明だが、安全保安基準の扱いや事故対応をめぐって政権批判の口実を与えるのは必至だ。事故そのものが反体制派の仕業という見方も消えていない。8月16日、中国天津市で起きた大規模爆発で大破した消防車。犠牲者の多くは消防関係者とみられる(共同) 一連の事態をみると、習近平政権は国内で苦しい立場にあると分かる。となると、対外関係はどうなるのか。 選択肢は2つある。強硬路線か、当面は頭を低くした時間稼ぎかだ。どちらもありうるが、米国は南シナ海の埋め立て問題で妥協しないだろう。軍事基地化阻止と航行の自由維持は米国にとって生命線だ。 日本は毅然としながらも、中国を無用に刺激しないことが肝心である。ここで対日批判の口実を与えてしまえば、中国は国内の苦境を対日批判に転嫁する得意の作戦に出るだろう。安倍晋三首相が終戦70年談話におわびの言葉などを盛り込んで、穏便に事を済ませたのは正解である。■文・長谷川幸洋(はせがわ・ゆきひろ):東京新聞・中日新聞論説副主幹。1953年生まれ。ジョンズ・ホプキンス大学大学院卒。規制改革会議委員。近著に『2020年新聞は生き残れるか』(講談社)関連記事■ 人類滅亡――マヤ暦の予言とは異なる「2012年問題」の正体■ 中国鉄道車両メーカー 事故車両掘り起こしで株価下げ止まる■ ネットに登場の「中国人クズ番付」など中国の民意に迫った本■ 「人民元切り上げ」で日本にとばっちりの円高来ると専門家■ 米国製軍用ジープを丸パクリした中国製軍用ジープの写真公開

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    軍事パレード、習近平の真意はどこに?

    誉(東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士) 抗日戦争勝利記念日の軍事パレードは中国建国以来初めてだ。狙いの一つは台湾総統選挙への威嚇だが、もう一つは国内統治問題にある。西側諸国のリーダーに参加させて威信を高めようという習近平の狙いは失敗した。某中国政府関係者に対する取材を通して分析する。最初は中露会談から始まった 2014年2月6日、ロシアのソチで開催されていた冬季五輪開会式に参加した習近平国家主席はプーチン大統領と会談し、2015年の抗日戦争勝利70周年記念式典に関して話しあった。会談後習近平国家主席は「私とプーチン大統領は、2015年に世界反ファシズム戦争ならびに中国人民抗日戦争勝利70周年記念行事を共同で開催することを決定した」と述べた。 一方、プーチン大統領は「欧州のナチス勢力によるソ連など欧州諸国への侵略および日本軍国主義が中国などアジア被害国の人々に対して犯した重大な罪が忘れ去られてはならない。中国側とともに努力して世界反ファシズム戦争ならびに中国人民抗日戦争勝利70周年記念表示の成功させたい」と表明した。 筆者が取材した某中国政府関係者によれば、このとき北京における70周年記念日で軍事パレードを催す方針が確認され、2015年5月8日にモスクワの赤の広場で催される反ファシスト戦勝70周年記念に行われる軍事パレードを是非とも参考にしてほしいということが話されたという。 習近平国家主席とプーチン大統領は2014年だけでも10回以上会談している。ウクライナ問題で窮地に立たされたプーチン大統領としては軍事パレードに関して徹底的に習近平国家主席を支援することによって、中国をしっかりロシア側に引き寄せておきたい思惑があっただろう。習近平国家主席の野望と狙い しかし習近平国家主席としては、ロシアもさることながら、日本を含めた西側先進諸国のリーダーたちが9月3日の北京における軍事パレードに参加してほしいという強い渇望があった。「抗日戦争と世界反ファシズム戦争勝利70周年」の記念行事で、演説する習近平国家主席=9月3日、北京の天安門(共同) そこで先ずは経済で西側諸国を中国側になびかせようとして、AIIBアジアインフラ投資銀行や一帯一路(陸と海のシルクロード)などを全世界に呼びかけて、イギリスをはじめとしたヨーロッパ先進諸国の取り込みを成功させた。 日本とアメリカは参加しなかったので、大きな狙いは叶えられなかったものの、それでもヨーロッパ先進国を含めた世界の数十カ国もの国が、中国の経済力に魅せられて友好関係を保とうとしていることは、習近平国家主席にとっては、非常に心強い踏み台となった。 2015年6月23日、国務院新聞弁公室は記者会見を開き、9月3日の「中国人民抗日戦争と世界反ファシスト戦争勝利70周年記念行事」に関する詳細を説明するとともに、当日、軍事パレードを行うことを発表した。 「抗日戦争」の前に「中国人民」を付けたことはいくらか評価できるとしても、それでも「抗日戦争は国民党軍が主として戦い」、「新中国は、その国民党軍を倒して誕生した国」である。 だから抗日戦勝記念日に、「中国共産党政権」が軍事パレードを行うのは適切でない。 この点に関して筆者は「おかしいだろう!」と先述の某中国政府関係者に咬みついた。すると意外にも某氏は「わかっている」と回答したのだ。これには驚いた。 人生最後の賭けに出て、筆者は真実をすべて明らかにしようと命がけだ。某氏の「わかっている」という言葉に、ある種の感慨を覚えた。 彼らは「わかって」、やっているというのか――? 「それならなぜ、抗日戦勝記念日に軍事パレードなどやるのか?」筆者は引き下がらなかった。 某氏は声を落しながら、「中国は長いこと欧米列強の植民地だった。だから、今、いかに強大になったかを示したいのだ」と言う。 「それならば、国慶節(建国記念日)にやればいいではないか。抗日戦争中、主戦場で戦っていなかった中国共産党軍が、その戦勝記念日に軍事パレードを強行するのは、何としても適切ではない」と筆者も譲らない。 結果、某氏は、中国の本音を漏らした。 「実は、中国としては、この軍事パレードに日本とかアメリカをはじめとした西側諸国のリーダーに参加してほしかった。そうすれば、中国人民に中国共産党の統治能力の高さを示すことができる。世界一流の国のリーダーたちが中国人民解放軍の軍事パレードに参加してくれれば、軍を管轄する中国共産党の権威も高まるではないか……」 以下は筆者と某氏と筆者の会話である。筆者:では、人民に対する中国共産党の統治能力が低いと人民が思っているだろうと、中国政府が思っていることになるのだろうか?某氏:いや、そういうわけではないが、しかし、やはり腐敗問題とかいろいろあって、共産党政権が権威を落しているのは確かだ。だから習近平は必死で腐敗撲滅をしている。でも……。筆者:でも、求心力? 中国共産党の求心力がすでに落ちているということですね?某氏:いや、そういうわけではないが、人民が不満を持っているのは確かだ。逆に、中華民族の夢と誇らしさを人民に与えてあげないと……。人民はそれを欲しがっている。筆者:そのような目的のために、抗日戦争を利用してほしくない! 日本国民の気持ちを考えたことはあるのか? こういうことをすれば、日本人は反感を持つだけだ。それに、結局、日本もアメリカもヨーロッパの先進諸国も軍事パレードどころか記念行事そのものに参加しないのだから、結局、習近平はメンツを無くしただけではないか? 軍事パレードの提案など、しない方が良かったとは思わないか?某氏:それは否定できない面も、ないではない……。筆者:だったら、抗日戦争記念日に軍事パレードをやったりしないで、国慶節にやれば良かったのではないのか?某氏:いやいや、国慶節の閲兵式は10年ごとだから、2019年まで待たなければならない(中国語では軍事パレードと言わずに閲兵式と言う)。筆者:それまで待つと、台湾総統選挙問題に間に合わないということではないんですか?もう一つの本音は来年の台湾総統選挙某氏:えっ?! まるで政府内部のようなことを言うんだね。筆者:それくらい分からなくてどうしますか? 来年の総統選挙で民進党が勝ちそうだから、台湾独立を主張したときには、中国は反分裂国家法により武力を行使するという威嚇をしているんでしょう?そのために、台湾に大陸の軍事力を見せつけて、「独立を主張したりするなよ。そんなことをしたら、遠慮しないぞ」と威嚇している。そうではないんですか?某氏:そこまで分かっているのなら、もう、何も言うことはない。日本を対象としているのではないことだけは本当だ。 以上が、某中国政府関係者との実際の会話だ。 台湾に関しては8月13日のコラム「中国の軍事パレードは台湾への威嚇」で分析した。 今般の取材を通して、その時には見えてこなかった中国の内心が見えてきた。欧米諸国は、よくぞ参加しない選択を選んだものである。その見識に敬意を表する。 わが日本国の安倍首相は、一時、軍事パレード以外の抗日戦争勝利70周年行事に参加する可能性があることを中国側に伝えていたようだ。途中から国会日程のために「行かない」と表明したが、危ないところだった。 安倍内閣は、もっと中国の真意を研究しなければならないのではないだろうか。(『Yahoo!ニュース個人』より2015年8月27日分を転載)えんどう・ほまれ 東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士。1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会科学研究所客員研究員・教授などを歴任。単著に『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』『チャイナ・ナイン 完全版』『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』『チャイナ・ジャッジ 毛沢東になれなかった男』『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国人が選んだワースト中国人番付 やはり紅い中国は腐敗で滅ぶ』『完全解読 「中国外交戦略」の狙い』など多数。共著に『香港バリケード 若者はなぜ立ち上がったのか』。

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    結局どうなる 中国経済

    失速する中国経済が最大の焦点だった主要20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議は、空虚なメッセージに終始した。6月に発生した中国株バブル崩壊は、マクロ経済の綻びを示す1つの事象にすぎない。習近平政権は、共産党体制を維持するための政治政策と、経済政策の間で揺れている。

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    迷走する中国経済の行方―資産バブル崩壊の悪夢

    柯隆(富士通総研経済研究所・主席研究員)(「nippon.com」より転載)失速する中国経済への懸念が高まる中、中国政府は人民元切り下げに踏み切った。しかし国有セクターの改革などの本質的な構造改革が進まない中国経済の行く末には暗雲が立ち込める。ついに「資産バブル崩壊」へ 中国では、政治改革と国有セクターの改革が遅れているため、マーケットはその影響を受けて右往左往している。1年前までは、不動産価格が高騰したバブルだった。25年前の日本の轍(てつ)を踏まないために、中国政府は不動産投資のコントロールに乗り出した。行き場が失われた流動性(資金)は株式市場に流れ、株価の急騰をもたらした。中国政府にとって株価の高騰は都合の悪い話ではない。なによりも、隣国の日本では、アベノミクスで異次元の金融緩和を実施し、株価を上昇させ、「失われた20年」という景気の負のスパイラルを脱出できた。株高の資産効果は中国政府に大いなるヒントを与えたはずである。 しかし、金融緩和だけで株価を一時的に上げることはできるが、実体経済の改善がなければ、株価はいずれ下落してしまう。その悪夢をみたのは、今年の6月に入ってからだった。上海株価総合指数が5100ポイントを超えたところで、急落した。アベノミクスは株価を高位に維持しようとして第二、第三の矢(成長戦略)を放ち、実体経済の改善に取り組んでいる。それに対して、李克強首相は2年半前に首相に就任した当時に公約した構造転換が遅々として進んでいない。 中国経済のファンダメンタルズを考察すれば、景気が減速し、上場企業の業績も改善されていない中、株価の急落は当たり前のことといえる。国際通貨基金(IMF)の幹部は中国の資産バブルが崩壊したと明言している。大量の不良債権が生じているとの指摘も 今の中国経済は1990年代初期の日本経済によく似ている。資産バブルの崩壊とともに、景気も減速している。一つ異なる点は、今の中国の経済成長率(実質GDP伸び率)は公式統計では7%成長が続いているといわれていることだ(下表参照)。この7%成長の信憑性に問題があり、多くの研究者は実際の成長率が5%前後ではないかとみている。百歩譲って、成長率が確かに7%であっても、問題が残る。すなわち、今まで、8%成長以上続いていたものが7%に減速しているのだ。中国経済主要指標(2009~2015年1-6月)(注)①都市部住民の実質収入は一人当たり可処分所得、農村住民の収入は一人当たり純収入である。②都市部失業率は、2012年までは、登録失業率であるのに対して、13年以降は調査ベースの失業率である。③李克強指数=(鉄道貨物輸送量伸び率×25%)+(電力消費量伸び率×40%)+(銀行融資残高伸び率×35%)④都市部失業率は、各年の% (資料)中国国家統計局、中国商務部、中国人民銀行、中国人力資源社会保障部 多くの企業は、8%以上の成長を前提に、投資プランと資金調達プランを立ててビジネスを展開してきた。しかし、景気が急に減速して、多くの企業にとって資金返済が難しくなっている。確かな統計がまだ公表されていないが、多くの研究者は、中国の国有銀行に大量の不良債権が現れていると指摘している。仮に、経済成長率が2-3%から7%に上昇していれば、企業の経営は飛躍的に楽になる。したがって、7%成長という絶対値が問題ではなく、景気変動のトレンドが問題なのである。 中国政府は7%程度の成長を「新常態」(ニューノーマル)と定義して、それを受け入れる姿勢を示している。しかし、本心はそれ以上の成長を実現しようとしているはずである。なによりも、経済成長は共産党の正統性を立証する唯一の証左だからである。だからこそ中国政府はなりふり構わず急落する株価を力づくで押し上げた。国有セクターの改革も停滞 トータルしてみれば、中国経済は歴史的なターニングポイントに差し掛かっているといえる。世界第二の規模にまで発展している中国経済はこれまでの、もっぱら資源や労働力を投入する「要素投入型」の経済モデルを続けることができない。そして、輸出に依存する「外向型発展モデル」も限界に来ている。20年前から中国の指導者は内需依存の経済に転換すると明言した。これは正しい認識である。残念ながら、こうした構造転換は未だに実現していない。 もう一つのネックは国有セクター改革の遅れである。中国経済にとって肥大化している国有セクターは経済成長を妨げる障害になっている。国有セクターの何が問題なのだろうか。まず、国有企業は主要産業を独占しているため、独占利益を享受している結果、イノベーションに取り組む姿勢が弱い。そして、国有企業はもっぱら規模の拡大を追求するため、マクロ経済の非効率性をもたらしている。さらに、国有銀行は国有企業に巨額の流動性を供給しているため、毎年一定割合の融資が不良債権になっている。 国有セクターの弊害は明々白々だが、中国政府は本気で国有銀行と国有企業の改革に取り組まない。なぜならば、中国政府にとり国有セクターは第二の国家財政のような存在であり、巨額の流動性を供給してくれる都合のいい存在であるからだ。市場メカニズムを無視した人民元切り下げ 景気が減速する中で、中国政府はオーソドックスな金融政策(金利と預金準備率操作)を繰り返し実施したが、効果は現れていない。ここで、またもアベノミクスは中国政府にヒントを与えた。アベノミクスは金融緩和を進めた結果、行き過ぎた円高が是正され、大幅に円安が進んだ。為替レートの切り下げは間違いなく輸出製造業の価格競争力の強化に寄与する。 中国では、2005年7月から人民元が切り上がり、15年8月現在、累計35%も切り上がった。同時期に、中国の主要都市の最低賃金がほぼ毎年10%ずつ引き上げられた。このトレンドは間違いなく輸出製造業の価格競争力を低減させている。そこで、中国政府は為替レジームの改革を理由に、人民元の対ドルレートの切り下げに踏み切った。 そもそも為替レートは国際貿易の交易条件を定義するためのものである。中国の景気後退を考えれば、元安はやむを得ないことと判断される。問題は元の切り下げではなく、政府が切り下げを直接実施したことにある。先進国の為替レジームは市場メカニズムによるものであり、行き過ぎた変動があった場合、政府は市場プレーヤーの立場から市場に介入するが、市場の管理者として為替レートを直接決めることはできない。 それに対して、中国の為替レジームは、「中央銀行が前日の通貨バスケットの動きを参考に、当日の中間値(基準値)を決める」ことになっている。その基準値を決めるのは恣意的になりがちであり、市場の均衡レートと大きくかい離する可能性が高いため、市場に強い影響を与える。中国経済、ハードランディングの懸念も 元の切り下げについてもう一つの問題を指摘しておきたい。民主主義の国では、経済政策の変更はいきなり実施するのではなく、政策当局は繰り返し市場と対話しながら、市場と投資家の動向を見極めたうえで、最後に政策を実施する。その典型例は米国の利上げである。米連邦準備制度理事会(FRB)のイエレン議長は9月に利上げを実施するかどうかを判断するために、繰り返して市場にメッセージを送っている。 しかし、社会主義の政治指導者は選挙を経験していないため、記者会見について苦手意識を持っており、市場との対話も粗末である。中国の景気がこんなに減速しているにもかかわらず、李克強首相は一度も記者会見を開いていない。政策当局は市場と対話せずに、唐突に政策を実施するから、市場に大きなショックを与えてしまう。 中国経済のファンダメンタルズを考えれば、緩やかに減速していくことは自然の姿と思われる。政策の実施が下手だったため、景気変動、すなわち、ボラティリティは大きくなっている。共産党第18回党大会で採決された文章には、「市場メカニズムが正常に機能するように市場環境を整備する」という重要な一文が盛り込まれている。とても正しい問題意識といえるが、残念ながら、実際の政策運営をみると、政府は常に市場を凌駕しようとしている。 株価の暴落は市場からの警鐘と受け止めるべきである。元の切り下げは必要だが、政府の役割ではない。政府は市場取引が公正に行われているかどうかをモニタリングする監督者であるが、市場の管理者であってはならない。最後に、中国の資産バブルはすでに崩壊しているが、中国経済がハードランディングするかどうかは中国政府の政策次第であることを強調しておきたい。か・りゅう 富士通総研経済研究所・主席研究員。1963年中国南京市生まれ、1986年南京金陵科技大学日本語学科卒業、1988年来日。 1992年愛知大学法経学部卒業 。1994年名古屋大学大学院経済学修士 。長銀総合研究所国際調査部研究員を経て、1998年に富士通総研経済研究所主任研究員。2007年より現職。財務省外国為替審議会委員(2000-09年)、財務政策総合研究所中国研究会委員(2001-02年)。主著に『暴走する中国経済 』(ビジネス社, 2014年)、『中国が普通の大国になる日』(日本実業出版社, 2012年)等。

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    9・3天安門発のブラックジョーク 党指令型不況に気付かぬ首脳たち

    田村秀男(産経新聞編集委員) 9月3日、「抗日戦勝記念日」の北京・天安門。習近平中国共産党総書記・国家主席と並んで立つ、ロシアのプーチン大統領や韓国の朴槿恵(パク・クネ)大統領の顔が青空のもとで映えた。まるでブラックジョークだ。青天は8月下旬から北京とその周辺の工場、2万社近くに操業停止させた党中央の強権の成果だが、党指令による経済・金融政策はまさに支離滅裂。韓国、ロシアを含む世界のマーケットに巨大な嵐を送り込んでいるのだから。 中国当局の政策はことごとく逆効果、あるいは裏目に出ている。中国人民銀行は8月下旬に預金金利を追加利下げした。「金融緩和策」と全メディアが報道したが、精査してみると真逆の「金融引き締め」である。短期金融市場では銀行間融通金利上昇が止まらず、6月初めに1%強だった金利は9月2日、2%を超え、預金金利より高くなった。銀行は低い金利で集めた預金を短期金融市場で回せばもうかることになるので、景気てこ入れに必要な貸し出しは増えないだろう。 量のほうはどうか。中国人民銀行は一貫して発行する資金量(マネタリーベース)を増やす量的緩和を続けてきたが、この3月以降は減らし続けている。つまり、量的引き締め策をとっている。建前は金融緩和なのだが、内実は金融収縮策であり、デフレ圧力をもたらす。 政策効果を台無しにする主因は資本の対外逃避である。資本流出は2012年から13年の不動産バブル崩壊以降、起こり始めたが、昨年秋から加速している。中国当局は厳しい資本規制を敷いているはずだが、抜け穴だらけだ。党の特権層を中心に香港経由などで巨額の資金が持ち出される。預金金利が下がれば、あるいは人民元安になりそうだと、多くの富裕層が元を外貨に替えて持ち出す。 資本流出が怖い当局は金融緩和を表看板にしながら、実際には引き締めざるをえない。8月中旬、元相場を切り下げたが、その後は元相場の押し上げにきゅうきゅうとしている。どうみてもめちゃくちゃだ。 資本が逃げ出す最大の背景は実体経済の不振にあり、上海株価下落は資本流出と同時進行する。不動産バブル崩壊が景気悪化を招いたのだが、もとをたどると、党がカネ、モノ、ヒト、土地の配分や利用を仕切る党指令型経済モデルに行き着く。 08年9月のリーマンショックを受けて、党中央は資金を不動産開発部門に集中させた。国内総生産(GDP)の5割前後を固定資産投資が占め、いったんは2桁台の経済成長を実現したが、バブル崩壊とともに成長路線が行き詰まった。国有企業などの過剰投資、過剰生産があらわになり、国内では廃棄物や汚染物質をまき散らし、国外には輸出攻勢をかける。 過剰生産能力はすさまじい規模だ。自動車生産台数はリーマン前の3倍の年産2400万台、国内需要はその半分である。粗鋼生産の過剰能力は日本の4年分の生産量に相当する。北京の中国人民銀行(中央銀行) 過剰投資がたたって国有企業などの債務は急増している。習政権は株式ブームを作り上げ、増資や新規上場で調達した資金で企業の債務を減らそうとしたが、株式バブル崩壊とともにもくろみは外れた。不動産開発の失敗で地方政府の債務も膨れ上がっている。党中央は危機を切り抜けようと、円換算で70兆円に達するともみられる資金を株価てこ入れ用に投入したが、不発だ。株価が下落を続けた分、不良債務が増える。 リーマン後に膨れ上がった中国の生産規模は巨大すぎて調整は進みそうにない。党の強権で1週間程度は生産停止した北京近郊の不採算鉄鋼メーカーも、週明けからは操業を再開するだろう。大手国有企業は党幹部に直結しているのだから、大掛かりな整理淘汰(とうた)は無理だろう。 グラフは、中国の実体景気を比較的正直に反映するとされる鉄道貨物量と、主要な国際商品相場の推移である。一目瞭然、中国景気の下降とともに、商品市況が崩れていく。エネルギー価格下落はロシアを直撃している。一次産品市況の下落は軍事パレードに招かれた一部のアジアやアフリカなどの産出国の首脳たちを苦しめているだろう。天安門で満面の笑みを浮かべた朴大統領は中国市場依存の危うさを感じないのだろうか。 原油や原材料の消費国日本は商品市況下落の恩恵を受け、いっそうの金融緩和、円安の余地が生まれる。政府は中国景気に振り回されないよう、内需拡大策をとればよい。中国危機は日本にとってチャンスなのだ。

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    デフレ不況に近づく中国 必要なのは中国版リフレ

    梶谷懐(神戸大学大学院経済学研究科教授) 6月に急落した上海株式市場は、中国政府の露骨ともいえる「救市」(市場介入)にもかかわらず続落を続け、ついに8月下旬、「世界同時株安」をもたらすこととなった。日経平均株価が一時、937円も急落し、ニューヨークのダウ平均株価も一時、過去最大の1089ドルの値下がり幅を記録した8月24日は「ブラックマンデー」とすら呼ばれている。 中国経済にいったい何が起きているのか。重要なのは、株価下落そのものより、それをもたらす原因となったマクロ経済状況の変化である。現在中国が陥っているのは「デット・デフレーション」である(これは日本がバブル崩壊後に陥った「デフレ・スパイラル」とほぼ同義)。日本の高度経済成長期も超える過剰投資画像:iStock 中国では株式市場の高騰が昨年から続いてきた。だが、実体経済の指標とは全く連動しておらず、株高は不動産市場から流入した資金によって一時的に実現したものに過ぎない、というのが大方の見方だった。 2008年のリーマンショックによる世界金融危機以降、中国は地方政府による公共事業を中心とした投資をもって潜在的な消費不足を補ってきた。13年の公式統計によれば、GDPのうち国内投資(在庫投資含む)が占める比率(粗投資率)は47・8%に達している。日本の高度経済成長期でも粗投資率は35%程度だったことを考えると、この中国全体の数字だけでも投資が過剰な状態にあることは明らかだ。 しかしより深刻なのは、特に内陸部における投資依存度の高さである。例えば同じく13年に粗投資率が80%を超えている省・自治区は、全国で雲南、青海、チベット、内蒙古、寧夏、新疆の6つもある。このうちチベットと青海は投資率が100%を超えている。これは、投資の大部分が中央からの補助金で外の省から資本を購入することに充てられているためである。 これらの国内投資の多くはもともとフローの投資収益率は低く、キャピタルゲインが発生することを前提に行われてきた。しかし、14年の中ごろから全国の不動産市場が下落に転じ、資産価値の期待上昇率がしぼむことにより、それらは収益性が低いだけではなく、キャピタルロスをもたらす可能性の高い「無駄な投資」となってしまった。まさにデット・デフレーションが視野に入る状態となっていた。債務の拡大と不可分な投資の拡大 デット・デフレーションとは、企業などが抱える過剰な債務が原因となって経済が目詰まりを起こし、不況が拡がっていく現象を指したものである。消費や輸出と異なり、投資の拡大は債務の拡大と不可分である。特に中国のような投資への依存度が高い経済では、資産価格の下落などによって債務の返済が焦げ付いてしまうリスクを常に抱えているといってよい。 デット・デフレーションに陥ると、まず、物価の下落などによって資産価値や投資プロジェクトの収益性が徐々に下落し、企業の債務返済が次第に困難になるため、新規の投資を控えたり、従業員をリストラしたりするようになる。この状態が長引くと「デフレの罠」、つまり企業や金融機関の連鎖的な倒産が生じ、さらに不況が深刻化する状況に陥る。 現況においては中国の消費者物価水準はまだプラスだが、不動産価格と投資プロジェクトの収益性の下落は続いており、デット・デフレーションに近い状態にある、と考えられる。 デット・デフレーションを打開する一つの方法が「清算主義」である。これは低収益、高債務の企業を倒産させてでも債務を整理し、原因を根本からなくしてしまおうというものである。 もう一つの処方箋は、政府が積極的な金融緩和を行って物価水準を上昇させるという「リフレ政策」を採り、企業の実質的な債務負担を減少させるべきだ、というもので、米連邦準備理事会(FRB)のバーナンキ前議長らが唱えたものである。 清算主義的な主張にも一理はある。改革の「痛み」を和らげるために金融緩和を行えばまたしても投資が刺激されてしまうからだ。 しかしこのような清算主義は、適切な政策割り当ての観点からみると問題が多い。今後の持続的な成長を考えれば、同時に、投資の抑制を含め、供給面の生産性を引き上げるための改革を行うことは必須である。 加えて需要面でのショックを抑えるために、消費や輸出を刺激する政策と組み合わされる必要がある。急激に成長率が低下してしまうと、本来高い成長率を見込める民間企業から先に倒産に追い込まれ、人的資源が有効に活用されないため、かえって生産性が低下してしまうからだ。 以上を踏まえれば、不況に陥った中国経済にとって望ましい政策とは以下のようなものであるはずだ。 まず、高すぎる投資率を抑制し、資源配分の効率性を高めるための金融市場や社会保障制度などの改革を行う。その一方で、需要のショックを和らげるため一定のインフレ率をターゲットにした金融緩和を行い、為替レートを低めに誘導するというリフレ政策を行うのである。 景気を下支えするための金融緩和を持続的に行ってきた中国当局の政策スタンスは、一見このような望ましい方向を目指しているように見える。 確かに、中国人民銀行は預貸比率規制の撤廃や預貸基準金利と預金準備率の引き下げなど、6月下旬から継続的に金融緩和を行い、大都市の不動産指標も次第に上向きつつある。中国当局による不可解な元買い介入 中国人民銀行は8月11日から13日にかけての3日間、人民元レートの基準値を4.5%も切り下げた。 当局はこの1年ほど、一貫して元買い介入を行い、人民元の対ドルレートは1ドル=6.1元から6.2元台で推移してきた。しかし、対ドルの先物レートが14年末から大きく下落し1ドル=6.3元台の後半から6.4元台で推移するなど、市場に強い元安圧力が存在していた。 しかし、デット・デフレーションの発生により、国内需要の落ち込みが生じている状況のもとでは、このような介入は本来望ましくないものであった。元の下落を食い止めるために元買い介入を行うことは、市中から元を引き上げる引き締め効果を持ってしまい、デフレ脱却のための金融緩和を相殺する効果を持つからだ。 AIIBの設立やシルクロード基金を通じた資本輸出によってアジアにおけるインフラ建設を進めると同時に人民元の国際化を目指す中国政府としては、大幅な元の減価は避けたかった。しかし、なかなか反転しない株価を目にした当局は、国内経済が「デフレの罠」に陥っては本末転倒と考え、切り下げに踏み込んだのだろう。 また、資源配分の効率性という観点からは、金融緩和によって増加する銀行融資が、どのような貸出先に行われるかが問題となる。特に内陸部の省に関しては、過剰な投資を一定期間抑制し、その結果ある程度低成長が持続することになってもやむを得ない、という政治的な決断が必要になるかもしれない。 中国政府は7%という具体的な成長目標にこだわってきた。7月15日に中国政府は、4~6月期のGDP成長率が前年比7%に達したことも公表している。しかし、それにこだわることは決して得策ではない。内陸部を中心に効率性の低い投資が過剰に行われ、成長率を何とか下支えしてきた結果、不動産や株式市場のバブルを誘発してきた「投資過剰経済」の体質が温存されてしまうからだ。 いずれにせよ、現在の中国政府は、いくつもの異なる課題を同時に解決せねばならず、深刻なジレンマに陥っているようにもみえる。その中で、景気を下支えするための一連の経済政策が、生産性上昇のための改革と一体となって行われるのか、それとも非効率な投資を続け、問題を先送りさせる結果に終わるのか。そこに今後における中国経済の持続的な成長の可否がかかっていると言っても過言ではない。かじたに・かい 神戸大学大学院経済学研究科教授。専門は現代中国の財政・金融。2001年、神戸大学大学院経済学研究科博士課程修了。博士(経済学)。神戸学院大学経済学部准教授などを経て、14年より現職。主な著書に『現代中国の財政金融システム:グローバル化と中央―地方関係の経済学』(名古屋大学出版会、11年)、『「壁と卵」の現代中国論』(人文書院、11年)、『日本と中国、「脱近代」の誘惑』(大田出版、15年)などがある。

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    鎮火できぬ中国、延焼する韓国 中国発ブラックマンデーはどこまで

    水谷幸資 (経済ジャーナリスト) 中国株バブルが崩壊した。株安が共産党の支配体制を揺さぶりかねないと、当局は株式相場の下支えに必死だが、市場の流れには抗しきれない。今や中国経済の失速がグローバルに及ぼす衝撃波に身構える段階に来ている。 「これは上海市場の天安門事件なのだろうか」。市場関係者がヒソヒソ声でささやき合っている。証券監督管理委員会(証監会)など当局が連日、「悪意ある空売り」を取り締まっているからだ。対象となった米ヘッジファンドのシタデルは、米連邦準備理事会(FRB)のバーナンキ前議長が顧問を務める、米国の有力ヘッジファンドだ。 「悪意」があるかどうかを認定するのは、中国当局にほかならない。当初は効果を挙げ、株式市場が小康を取り戻したかに見えたが、7月27日の月曜日、上海市場は前営業日比8.48%の下落幅を記録。「上海版ブラックマンデー」というべき売りの奔流に押し流された。中国人民銀行は8月11日に人民元切り下げを抜き打ちで始めたが、8月24日に再び8.49%下落。翌25日も7.63%下げた。24日は月曜日で、世界主要市場の株安に波及したことから、「中国版ブラックマンデー」に格上げ形容されている。6月12日に5100ポイント台を記録していた上海総合指数は3000ポイント付近をうろついている。2カ月半で4割下落した格好だ。 中国株の売り圧力がなぜ衰えないのか。理由はハッキリしている。割高だからだ。香港と中国本土に二重上場している企業の株価を見ても、中国本土はピークで5割、足元でも3割程度割高となっている。ではなぜ割高なのかというと、当の共産党自身が今年春先にかけて、株高を煽っていたからだ。6月12日の高値5100台は、1年前に比べれば約2.5倍の水準である。 今回の中国株バブルが深刻なのは、習近平政権が進めようとしていた「新常態(ニューノーマル)」政策が、根っこから揺らいでいることにある。投資と外需を原動力にした10%の二桁成長は、環境破壊や格差拡大という副作用を考えると、もう継続できない。消費と内需主導の7%程度の安定成長に、中国経済を軟着陸させる必要がある。その政策指針は決して間違ってはいない。 問題は習政権が「新常態」に向けて舵を切ったとたん、中国経済が予想以上のピッチで失速してしまったことだろう。背景には、習政権が鳴り物入りで進めた「反腐敗キャンペーン」が、消費を萎縮させてしまったことがある。 例えばマカオのカジノの営業収入は、今年上期には前年同期比で4割近く落ち込んだ。自動車販売も、日本車に比べて売れていたフォルクスワーゲンや現代自動車の現地販売が急減。余りの惨状から、現代自は7月から月次の現地販売実績の公表を取りやめたほどだ。事態はどんどん悪化しているというのが、現地の実感といってよい。 そもそも、春先に当局が株高を煽ったのも、景気失速を懸念していたからにほかならない。株高による資産効果で消費を刺激して、経済を軟着陸させようとしたのだ。ところが、肝心の株バブルが崩壊したことにより、保有株の値下がり損で自己破産する投資家が相次いでいる。皮肉にも株安による逆資産効果が、消費にブレーキをかけつつあるのだ。 日米欧の中央銀行が行ったように、中国人民銀行(中央銀行)も政策金利を下げてマネーサプライ(通貨供給量)を増加させようとしている。一時はブレーキをかけた公共事業の執行も、急いでいる。ところが、現実には空回りしている。背景には、すでに借金の山が積み上がっていることがある。膨れ上がった債務の主体は 国有企業や政府系金融機関だ (出所)マッキンゼー・グローバル・インスティチュート 「Debt and (not much) deleveraging 」(2015年2月) 2008年のリーマン・ショックを中国は見事に乗り切ったとされた。4兆元にのぼる景気対策によって、大々的なインフラ投資や設備増強を行って、10年には国内総生産(GDP)で日本を抜き、世界第二位の経済大国の座を手にしたのだ。しかしその引き換えに、中国全体の債務がそれまでの約4倍に膨れ上がってしまったのだ。 米コンサルティング会社のマッキンゼーによれば、債務の主体は企業や金融機関である。中国の場合、純粋な民間部門ではなく、国有企業や政府系金融機関が大きなウエートを占めている。4兆元対策の投資先は採算の覚束ないインフラ事業や過剰設備である。公共事業のメインプレーヤーである国有企業、金融機関はこの期に及んで、さらに債務を積み上げてまで利益の上がらない投資を行うことには、二の足を踏むだろう。輸入の回復が輸出に比べて鈍い中国 (出所)GLOBAL TRADE ATLAS資料でJETROが作成した資料をもとにウェッジ作成 既視感を覚えないだろうか。そう、90年にバブルが崩壊した後の日本である。成長モデルを見いだせないまま、採算度外視で公共投資による一時しのぎの経済対策を続けた結果、今日のような借金の山を積み上げてしまった。 中国の場合も、「国進民退」と呼ばれる国有企業優位の構造にメスを入れて、民間主導の経済に舵を切らなければいけないのに、実際には株価対策でみられるような当局による強権的な介入がまかり通っている。後から振り返れば、今年6月に始まった中国株バブルの崩壊は、そうした中国経済変調の屈折点として記憶されるに違いない。 もっとも、中国を見る世界の眼差しは、そうした根っこにある問題からはほど遠い。中国がこのタイミングでこけたら、世界経済も巻き添えを食ってしまう。そんな懸念から、国際通貨基金(IMF)のラガルド専務理事ら、国際金融界の大立者(おおだてもの)は、当局による市場介入に対し大目に見ている。まずは火事を止めてほしい、というわけだ。 中国が今すぐ頼れるのは外需だ。実際、輸出は対前年比プラスに回復しつつある。が、注目すべきは輸入だ。昨年11月から対前年比マイナスが続いており、いかに中国の内需と産業活動が不活発かを示している。 隣家延焼の恐れに、お隣の韓国はすでにパニック状態となっている。韓国のGDPの輸出依存度は5割を超え、しかも輸出の25%強は中国向けで、その比率は米国の2倍。日本や米国がブレーキを踏むのを尻目に、ここ数年は企業の対中直接投資を目いっぱい増やしてきた。その中国シフトが今や完全に裏目に出たのだ。韓国政府が9月1日に発表した8月の貿易統計によると、輸出は前年同月比14.7%減で、09年以来で最大の下げ幅となった。 もし中国株バブルの崩壊が不動産やシャドーバンキング(銀行を経由しない金融機能)に及べば、韓国経済はもたない。韓国のメディアは連日、そんな金切り声を上げる。日本としてはすでに変調を来している韓国経済が失速した場合の、とばっちりには十分備えておく必要があるだろう。 韓国ほどではないが、影響が大きそうなのは、自動車を中心に中国シフトのアクセルを踏んでいたドイツである。日本がバッシングを被っているのを尻目に、ドイツ企業はメルケル首相のトップセールスもあり、中国市場で着実に地歩を固めてきた。ドイツが巧みなのはブランド力を売り物に、伸び盛りで付加価値の高い分野でシェアを高めてきたことだ。 トヨタ自動車を抜いて今年上期に全世界の販売台数が世界トップになった、フォルクスワーゲンはその典型である。同社の販売高の実に4割は中国市場。皮肉にも、その路線は今まさに逆風に見舞われようとしている。 日本企業は尖閣摩擦以降、中国市場で韓国やドイツ企業のようにふるまうことができなかった。それが、結果として傷口の拡大を防いだと言える。とはいえ中国が世界同時不況を誘発してしまうような事態は、日本にとっても大きな打撃となる。しばらくは、中国株と中国経済から、目が離せない。

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    傲慢なるメディアの「良心」と「戦勝国」気取りの中韓

    5)アメリカ合衆国への批判(6)ロシア(ソ連邦)への批判(7)英国への批判(8)朝鮮人への批判(9)中国への批判(10)その他連合国への批判(11)連合国一般への批判(国を特定しなくても)(12)満洲における日本人の取り扱いについての批判(13)連合国の戦前の政策に対する批判(14)第三次世界大戦への言及(15)冷戦に関する言及(16)戦争擁護の宣伝(17)神国日本の宣伝(18)軍国主義の宣伝(19)ナショナリズムの宣伝(20)大東亜共栄圏の宣伝(21)その他の宣伝(22)戦争犯罪人の正当化および擁護(23)占領軍兵士と日本女性との交渉(24)闇市の状況(25)占領軍軍隊に対する批判(26)飢餓の誇張(27)暴力と不穏の行動の扇動(28)虚偽の報道(29)GHQまたは地方軍政部に対する不適切な言及(30)解禁されていない報道の公表 これは当時、こうした内容を取り扱ってはいけないと、報道機関に規制対象を命じたリストです。GHQはWGIPを進めるに当たって、自分は表に出ないで日本のメディアを使いました。30項目を見ると「今も全く変わらないじゃないか」と言いたくなります。今のメディアの意識と寸分違わないことに驚きました。 先日、安倍首相が訪米され米議会で演説をしました。日米を「希望の同盟」と位置づけるよう呼びかけた意義ある内容でしたが、日本のメディアの関心はもっぱら日本が大東亜戦争を反省するか、お詫びの文言が盛り込まれているか、という点に向けられていました。日本の「反省度」こそが問われるべき点である、謝罪を明示的に表明することが正しい、という前提に立った報道が多かったと思います。 かつて森喜朗元首相が「日本は神の国」と発言したときもそうでした。マスコミは大騒ぎしましたが、果たして何がいけないのか、さっぱりわからない。プレスコードには神国日本の宣伝が禁止されています。そこに正面から抵触するからでしょう。日本を褒めることなど絶対許されませんし、まして日本を「神の国」と称するなんてとんでもないという理屈でしょうか。未だに日本のメディアのメンタリティーは、GHQの洗脳と命令を唯々諾々と受け継いでいると言わざるを得ないのです。 ナショナリズムの宣伝もダメです。今でも国旗国歌に対して多くの教職員が斜に構えた態度を取っています。メディアも愛国心の養成が、軍国主義思想に直結するかのような報道ぶりです。「愛国心の重要性には決して触れられない」「いや触れてはならない」という心構えが正しいと、彼らは今も本気で考えているのです。 大東亜共栄圏の宣伝も禁止されました。日本人は大東亜戦争という戦争の正式名称を奪われ、太平洋戦争と呼ぶよう強制されたのです。今では先の戦争を学校もメディアも「太平洋戦争」と当たり前に呼んでいます。経緯を何も知らないから、そのことに疑問すら抱いていません。 しかし、これはアメリカが名付けた戦争の名称です。日本の先人は太平洋戦争を戦ったのではありません。大東亜戦争を戦ったのです。今でも大東亜戦争という本来の名称を持ち出せばメディアから「軍国主義につながる、けしからん」と袋だたきにあうでしょう。過ちを肯定することになるから、賛美することにつながるから、あるいはそう批判されるからと、大東亜戦争という呼称を使うことに躊躇する人は大勢いるでしょう。自己検閲が入るのです。韓国よ、君達は戦勝国ではないよメディアに深く浸透する反射的意識 TBSのワシントン支局長だった山口敬之氏をめぐる問題も同じ思いです。彼はベトナム戦争中、韓国軍が慰安所を開設していたことを週刊文春でスクープしました。 山口氏はアメリカ赴任直前の2013年、外交関係者から、韓国軍の慰安所について米政府の資料で裏付けられるかもしれないと耳打ちされます。そこから山口氏の公文書探しの取材が始まります。 そして、14年7月、米軍司令部が「韓国軍による韓国兵専用慰安所」と断定する書簡を発見。米海兵隊の歩兵部隊長の男性から決定的な証言を得ます。慰安所の実態をついにつかみました。 ところが、山口氏の取材はTBSでは放送されませんでした。山口氏は取材結果を文春で明らかにします。ところがそれが問題になり、TBSから15日間の出勤停止処分と営業局のローカルタイム営業部への異動を命ぜられた―というのです。 山口氏はフェイスブックで、異動と懲戒処分の事実を明らかにしました。処分理由を「週刊文春への寄稿内容ではなく、寄稿に至る手続きが問題とされました」。外部メディアに書く場合、事前に届け出―許可ではない―を書面でしなければならないそうですが、そこでの落ち度を咎められたというわけです。「見解の相違はありますが、今回の懲戒処分がTBSの報道姿勢に直接リンクするものではない」とも説明しています。 しかし、なぜTBSは山口氏の取材内容を報じなかったのか、という疑問は残ります。山口氏は「会社が私の取材成果を報道しなかった真意は、私にはわからない」として「事実は揺るぎなく、世に知らしむべきニュースと考えて公表に踏み切りました」と説明しています。 要するに韓国に不利な報道には抑制的になった。それがTBSに限らず、全てのメディアに染みついた反射的意識なのです。これがWGIPの残滓でなければ何だというのですか。考えさせられる出来事でした。 もうひとつ挙げましょう。安倍晋三首相がご自身の公式ホームページで、日本国憲法の成立過程をこう書いています。 《まず、憲法の成立過程に大きな問題があります。日本が占領下にあった時、GHQ司令部から「憲法草案を作るように」と指示が出て、松本烝治国務大臣のもと、起草委員会が草案作りに取り組んでいました。その憲法原案が昭和21年2月1日に新聞にスクープされ、その記事、内容にマッカーサー司令官が激怒して「日本人には任すことはできない」とホイットニー民生局長にGHQが憲法草案を作るように命令したのです。これは歴史的な事実です。その際、ホイットニーは部下に「2月12日までに憲法草案を作るよう」に命令し、「なぜ12日までか」と尋ねた部下にホイットニーは「2月12日はリンカーンの誕生日だから」と答えています。これも、その後の関係者の証言などで明らかになっています。 草案作りには憲法学者も入っておらず、国際法に通じた専門家も加わっていない中で、タイムリミットが設定されました。日本の憲法策定とリンカーンの誕生日は何ら関係ないにもかかわらず、2月13日にGHQから日本側に急ごしらえの草案が提示され、そして、それが日本国憲法草案となったのです》 これは紛れもない事実です。ところがこれを言うと怒り狂ってかみつく日本人が現れ、安倍首相は今、彼らの批判を浴びています。 しかし、国の根本法である憲法の成立過程に関する歴史的事実を詳らかにして、疑問を提起することは、本来なら何も問題ないはずです。野党の国会議員は怒りを露わにして「それを口にすることなど許されない」といわんがばかりの剣幕です。私には歴史的事実の否定や隠蔽を図り感情的に反応する人たちが、最後の悪あがきをする光景にしか見えません。このように洗脳はメディアだけとは限らず、WGIPで見事に洗脳された人(もしくはWGIPによる洗脳効果を持続させたい人)は、他にも大勢いるのです。韓国よ、君達は戦勝国ではないよ夕食会で乾杯する韓国の朴槿恵大統領(左)と中国の習近平国家主席。右はロシアのプーチン大統領=2015年9月2日、北京の釣魚台迎賓館(共同) WGIPは当初、米国のための政策でしたが、韓国とPRC(中華人民共和国)、北朝鮮も大いに恩恵を受けました。北朝鮮は国際社会で最初から相手にされておらず、ここでは触れませんが、韓国とPRCは看過できません。今も彼らは国連はじめ国際社会やアメリカ国内でロビー活動を展開し、日本を狙い撃ちにする「ディスカウント・ジャパン」運動を執拗に続けているからです。 韓国は戦後一貫して、自分達を「戦勝国の一員」と主張しています。しかし、昭和20年(1945)の大東亜戦争終結まで、朝鮮半島はすべて「日本領土」でした。日本は韓国と戦争などしていないのです。これは歴史的事実です。敗戦後になって韓国が建国されましたが、そもそも、終戦時に存在しなかった国なのにどうして「戦勝国」のような振る舞いができるのか。私はとても理解に苦しみます。あまりにも恥知らずです。 子供たちが集まってAチームとBチームで野球をしたとします。試合はAチームが勝ちました。するとBチームにいたK君がAチームにやってきて「ボクも最初からAチームの一員として戦い、勝ったんだ」と言い出すようなものです。今の韓国がやっていることはこれと同じです。日本をはじめとする他の先進国では、あり得ない振る舞いだと思います。戦勝国気どるPRCにレッドカード 「中華人民共和国」にも同じ思いがあります。彼らもまた第二次世界大戦中は存在していませんでした。私は「戦勝国」を自称したがる彼らに大きな違和感を覚えています。 日本が相手にしていたのは最初から最後まで蒋介石の「中華民国」、つまり国民党政府とその軍でした。日本人は「中国」と何気なく言いますが、現政府は中華人民共和国の英語の正式名称の頭文字を取った「PRC」と呼ぶなりして区別すべきです。 毛沢東率いる中国共産党の八路軍が日本軍と戦った事実は確かにあります。が、それは断じて「戦争」ではありません。あくまで彼らは非合法ゲリラ組織に過ぎなかったのです。 ボクシングに喩えましょう。彼らは「日本軍対国民党軍」という公式戦の最中、リングの外から日本軍に空き缶を投げつけるライセンスのない輩のような存在です。公式戦は常に日本軍の圧倒的優勢でしたが、結果は国民党軍の判定勝ちでした。しかし試合でボロボロになった勝者(戦勝国)を今度は先程の輩がボコボコにして追い出してしまう。 彼らは後にライセンスを取得し、ジムの会長になる。そして国際舞台で一定の地位を得て代替わりを重ねるうちに急に「昔、私達が公式試合で日本に勝ったのだ」「自分がチャンピオン(戦勝国)だ」と言い出します。このあたりの感覚は韓国とほとんど同じだと思いますが、PRCの振る舞いはざっとこんな感じです。 先の戦争で日本に勝ったのは米国だけです。「連合国が勝った」と言う人がいますが、オランダ軍やイギリス軍、フランス軍もアジアの植民地から日本軍によってあっさり追い出されました。米軍もフィリピンから一度は追い出されましたが、戻ってきて日本と徹底的に戦って、最終的に勝ったのです。ちなみに米国は対日戦で明らかな戦時国際法違反を数多く犯しました。日本はそれほど強かった。米国はなり振り構わず、死に物狂いで勝利をつかんだのです。 そういうわけで私は韓国やPRCの戦勝国を気どった振る舞いをみるたびに「ふざけるな」と一喝したくなります。ただ、彼らに反論できずにいる日本人にも「もっとしっかりしろよ」と言いたい。70歳にもなるプロパガンダに縛られる必要はありません。世界中で日本ほど他国に昔の戦争で謝罪を繰り返す国はありません。今年は戦争終結70周年の節目の年です。自国を取り巻く外交の現状や史実が正しく理解され、周辺国の執拗な言い掛かりに屈せず、主張すべきことを堂々と主張する。日本の主張がより世界へ広まるよう心から願っています。ケント・ギルバート氏 米カリフォルニア州弁護士、タレント。1952年、米アイダホ州生まれ。71年に初来日。80年、国際法律事務所に就職して東京に赴任。83年、TBS系列「世界まるごとHOWマッチ」に出演し、一躍人気タレントへ。最新刊は「不死鳥の国・ニッポン」(日新報道)。公式ブログ「ケント・ギルバートの知ってるつもり?」では辛口の意見を発信中。  

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    どんな戦いで誰が戦った?中国が突如祝い出した抗日戦勝記念

    坂東太郎(早稲田塾講師)(THE PAGEより転載) 9月3日に中国が「抗日戦争勝利70年」を記念する式典を開催します。天安門広場で行われる大掛かりな軍事パレードなど大掛かりなもので、習近平政権が並々ならぬ力を入れています。そこで、中国が喧伝する「抗日戦争」について、どんな戦いで「誰が戦ったのか」について考えてみました。9月3日に大規模な軍事パレードが行なわれる中国・天安門広場(ロイター/アフロ)「抗日戦争」は誰が戦った? 1937年7月7日、北京にある盧溝橋という橋の近くで演習中の日本軍が何ものかによって射撃されました。なぜ中国の首都に日本軍がいたかというと1900年に起きた北清事変を収めた北京議定書に駐留の根拠があります。当初は小さないさかいという認識が大半だったのが結果的に長期間続く戦争のきっかけになってしまいました。1945年の日本の降伏まで続いたこの大陸での戦争を日本は「日中戦争」、中国は「抗日戦争」と呼んでいます。 当時、日本軍が戦った相手は中国の正統政権とされた国民党による国民政府で、トップは蒋介石でした。国号は「中華民国」。戦後、国民党と共産党とが内戦に陥って共産党が勝利し、1949年に中華人民共和国を建国します。蒋介石らは台湾に逃れました。 1941年の日米開戦後、米英ソなどによる連合国共同宣言に蒋介石が署名しました。これが中国を先の大戦における戦勝国とする有力な根拠となっています。 では、戦中の共産党の位置づけはどうだったのでしょうか。蒋介石とはむしろ敵対関係が続いていたところに発生した日中戦争で、国民政府主導による「抗日民族統一戦線」が構築されました。紅軍と呼ばれていた共産党軍のうち華北の部隊は八路軍、華中は新四軍と改められて国民政府軍に編入され日本と戦いました。毛沢東は祝ってこなかった 要するに「抗日戦争」における共産党の役割はせいぜい脇役で、主役はあくまでも蒋介石の国民政府軍でした。しかし毛沢東をリーダーとする中華人民共和国が建国されてから「抗日戦争の主役は共産党だった」と位置づけています。盧溝橋事件以来、一貫して抗日のスタンスを鮮明にしていたのは確かとしても共産党が「主役」は明らかに言い過ぎです。 建国の父である毛沢東もそれはよく分かっていたようです。対日戦争勝利記念日は日本がポツダム宣言を受諾したと昭和天皇がラジオで国民に告げた8月15日か、降伏文書に調印した9月2日ないし3日とする諸国が多いなか、毛沢東は一貫して何らの祝賀行事もしていません。自身が命がけで戦った対日戦争の実態がどうであったのか身にしみて知っていたからでしょう。 毛沢東にとって生涯の敵と呼べるのは蒋介石です。それは蒋介石側も同じはずです。「抗日民族統一戦線」を結んでいても「一丸になって」と表現するにはほど遠い関係で、蒋介石は開戦後も対日戦争より共産党駆逐を狙っていたふしさえあり、米英からも大丈夫かと疑われていました。したがって毛沢東にとっての「戦勝」は蒋介石を追いやって中華人民共和国を成立させた10月1日だったでしょう。変に対日勝利をうたい上げたら、結局は宿敵の蒋介石を賛美せざるを得ないし、それだけは嫌だったのだと思われます。突如祝い出した抗日戦勝記念 風向きが変わったのは2005年あたり。当時の胡錦濤国家主席が3日の「抗日戦争勝利60周年記念」で「国民党と共産党が指導する抗日軍隊」が「それぞれ『正面戦場』と『敵後方戦場』の作戦任務を分担した」と大転換したのです。冷戦の終結や中国が国力を増して自信をつけ「中華民国」こと台湾政権は国連からも追い出され、蒋後継の国民党は「台湾独立」を胸に秘す民主進歩党を牽制するのに好都合の存在にすらみえてきたというのが大きな理由です とはいえ史実である「国民政府軍主体の戦争だった」というところまでは認めていません。習近平政権に変わった2014年は9月3日を「中国人民抗日戦争勝利記念日」としました。合わせて「世界反ファシズム戦争勝利」との概念も示し始めます。共産党は米英などの連合国軍とともに戦ったという点を強調し、70周年の今年は人民解放軍(中国共産党の軍)が持つ戦車部隊などで天安門広場を横切っていく「記念軍事パレード」まで予定しています。「反ファシズム」をキーワードに国際連帯と国威発揚を狙っての行事でしょう。しかし日本はもとより欧米各国首脳は参加しません。1989年に起きた天安門事件が起きた場での軍事パレードなどに出席したら、自由と民主主義という価値観までも疑われてしまいます。歴史の“ねつ造”? 映画「カイロ宣言」 この日にあわせて公開される記念映画が「カイロ宣言」。人民解放軍系の制作会社によって作られました。その宣伝用ポスターに「歴史のねつ造ではないか」と批判が起きています。 カイロ宣言とは1943年にアメリカ大統領ルーズヴェルト、イギリス首相チャーチルと蒋介石が終戦後の中国領のあり方などを取り決めた会談で、米英首脳が直後のテヘラン会談でソ連のスターリンとも共有し、宣言として発表されたものです。1895年の日清戦争の結果として日本が得た台湾と澎湖諸島、さらに満州などを中国に返還するという内容で、ポツダム宣言にも「『カイロ』宣言ノ条項ハ履行セラルヘク」とあり、これを日本が受諾して終戦となった重要な声明です。 ポスターのうち、とりわけ注目されたのが米英中ソの首脳を演じた役者の写真で中国首脳が毛沢東であるかのように紹介された点でした。 映画そのものの内容は分かりません。確かにカイロ会談に毛沢東が国の代表として送られていたら抗日の主役は共産党という中国だけにしか通用しない物語の信用性は高まります。しかし事実として毛沢東はカイロには出向いておらず、蒋介石でした。 先に述べたように毛沢東は蒋介石中心に戦ったゆえに対日勝利の祝祭を行っていません。宿敵であったがためです。それが没後39年目に後輩によってすり替えられるとは。「あいつとだけは一緒にするな。何を考えているんだ」と怒っているのは案外、泉下の毛沢東その人ではないでしょうか。ばんどう・たろう 毎日新聞記者などを経て現在、早稲田塾論文科講師、日本ニュース時事能力検定協会監事、十文字学園女子大学非常勤講師を務める。著書に『マスコミの秘密』『時事問題の裏技』『ニュースの歴史学』など。【早稲田塾公式サイト】

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    ついにきた中国バブル崩壊「第三波」が告げるもの

     中国発の世界的な株価下落が大きな社会問題になっている。6月中旬から始まった中国の株式バブル崩壊、これはギリシャ危機の影響を受ける形で7月8日9日の暴落によりそれが決定づけられたといえる。この事態を受けて中国政府はPKO(プライスキープオペレーション)買いや売却防止処置など積極的な株価対策を行い必死に株価を維持する努力をしていたわけであるが、これは虚しい努力であったといえよう。7月28日の二度目の暴落(セカンドショック)とお盆明けから始まったゆるやかな下落と先週末からの暴落により買い支え分が消滅し、回復の目処が立たない状況なのである。 実はバブル崩壊というのは、暴落などの急性期と一種の小康状態である慢性期を繰り返しながら、徐々に他の市場を侵食し、被害を拡大してゆくわけである。中国で起きている3つの波はこの典型であり、第一波が株式市場に限定されていたのに対して、第二波は商品市場などにも影響が拡大しており、今回の第三波はついに実体経済に辿り着いた形になる。そして、今回の暴落は単なる価格調整ではなく、実体経済の悪化予測を受けてのものであるため、企業の倒産や雇用の悪化に直接結びつくものになるわけだ。株価が下落し、北京の証券会社でうつむく個人投資家=8月24日(共同) とかく不幸は重なるものである。今回の場合、中国にとってさらに不幸だったのは天津大爆発が起きてしまったことであり、これによりチャイナリスクが再認識されワールドサプライチェーンから切り離される可能性が高まったことにある。今回事故が起きた天津は世界第4位の国際港湾であると同時に中国の首都北京の海運の窓口であり、中国北部の重要な産業拠点の一つである。特に今回の爆心地のあるTEDA(天津経済技術開発区)はその中核地点であり、日本などの海外企業の進出拠点であるとともに中国における技術開発拠点であったのである。 ただでさえ、バブル崩壊の影響により内需が冷え込むことが予測される中で、輸出や開発そして物流の拠点で事故が起きてしまった意味は大きく、さらにいえば、23億人の致死量に相当するシアン化ナトリウムを含む膨大な量の危険物質を大量拡散させてしまった意味は大きいといえる。また、発がん性など中長期的影響の懸念があるものが多数存在するとともに、それが交じり合い合成物になると同時に雨などで地中に浸透してしまっている現状を考えると将来的にも厳しいと言わざるを得ないだろう。 特に爆心地周辺はトヨタとその関連企業を中心に日系のグローバル企業が多く、日本や欧米などの環境基準に合わせた企業運営がなされているわけであり、汚染リスクが高い状態を放置したままで操業を再開するのは難しいと思われる。そして、現在のところトヨタのTEDA工場のある3km圏内は立ち入ることもできないため、被害と汚染の状況把握もできない状況にあると思われる。 今回の天津の大爆発は単なる爆発事故ではなく、1.港湾機能の低下とサプライチェーンからの切り離なされるリスク 2.中長期的な技術開発拠点の消失 3.企業運営のリスク上昇と貿易保険等の料率上昇 という大きなリスクをはらんだものであるのだ。そして、報道を通じて爆発のシーンと株価暴落が繰り返し流されたことにより、中国の壊滅という刷り込みが発生してしまっていることも大きな意味を持つ、これにより世界の共通認識になってしまったのである。当然、これも外国人の中国からのキャピタルフライト(資金逃避)の大きな要因になっているものと思われる。 この実体経済の悪化予測に対して中国政府は無策であったわけではない。中国政府は賃金上昇などにより失われた競争力回復のために人民元の切り下げを行ったわけである。これまで中国の人民元は通貨バスケットを基準値にして2%以内の変動を認める『管理フロート制』と言われる固定相場に近い制度を使用していた。通貨バスケットとはその名の通りいろいろな通貨を一つのバスケットに入れて基準値を決める仕組みなのであるが、バスケットの中身の米ドル比率が高いために事実上のドルペッグ状態になっていたわけである。  そして、8月11日の切り下げ後に新たに導入された仕組みは、前日の取引価格を参考に毎日変動の基準値を変更するという仕組みである。中国当局は、前日の価格が下がれば基準値も下がり、同水準であれば基準値は同じ水準、逆に上がれば引き上げられるという仕組みで『事実上の変動相場』であるとしている。 しかし、この変更にはいくつかの見方が存在する。 ひとつは国際社会から求められている完全変動相場移行のための段階処置と見る見方である。中国はIMF(国際通貨基金)に対して、5年毎に行われるクオータ(出資比率)改革にあわせ、出資の拡大と人民元のSDR(特別引出権)への組み込みを求めていた。IMFというのは世界各国が通貨危機などに陥った場合、ドルなど外貨を貸し出す国際機関であり、重要な決定を行う場合は出資比率の85%の賛成が必要となっている。中国の出資比率の拡大とSDRへの組み込みは、中国と人民元の国際的な地位の拡大に大きな意味を持つからである。 これに対して、5月末、G7は人民元のSDRへの年内組み込みの基本合意をしたわけであるが、それに対して、日本と米国は人民元の変動相場への移行という条件をつけたわけである。人民元を管理フロート制のままSDRに組み込んでも、管理フロート制は事実上ドル比率が高い仕組みなので人民元を組み込んだところでドルの比率があがるだけという理由であるが、これはIMFに最大の影響力を持つ米国の事実上の拒絶であると言われていた。そして、8月19日 中国が事実上の変動相場への移行を発表したにも関わらずIMFはSDRの来年10月までの凍結を決めた。 そして、もうひとつの見方は、変動相場への移行を理由とした単なる通貨切り下げではないかという見方である。中国の場合、バブル崩壊や実体経済の悪化などリスク要因が多く、必然的に通貨が下がる傾向にあるため、中国政府が後付的に市場を利用したという見方である。基本的に実体経済にとって、通貨高よりも通貨安のほうが望ましい。通貨が安ければ、輸出企業の国際競争力が上がり、内需にとっても国産品が安い海外商品との競争にさらされず、国内産業保護につながるからである。だからこそ、通貨安方向への為替操作は国際社会からの批判対象なのである。単なる通貨切り下げとした場合、国際社会から『為替操作』との批判を浴び、米国の為替操作国指定などペナルティを受ける可能性が高い。しかし、変動相場への移行処置というのではれば批判の対象になりえないからである。 そして、この人民元切り下げにはもうひとつの理由もある。中国では株式バブル崩壊により大規模なキャピタルフライトが起きていた。外国人投資家や中国人が人民元を売り、ドルなどに替えて海外に資産を移す動きである。それに対して、中国政府は人民元価格を守るために大規模な為替介入を行っていたわけである。これはドルを売り人民元を買うというものであり、これが継続すると保有する外貨準備が大量に失われることになる。しかし、人民元を切り下げ変動相場に近い状態にすれば失われる額が減少するわけである。 世界最大の外貨準備を持つと言われている中国であるが、これが大幅な減少傾向にあるのである。中国の2015年7月末時点の外貨準備は3兆6500億ドル、最大であった2014年6月末の3兆9900億と比較すると3400億ドルが失われていることになる。そして、今年の第二四半期だけで2000億ドル近くが失われたわけである。また、中国の場合、外貨準備の中身にも疑問符が付けられている。中国の外貨準備のうち、確実に換金できる米国債は1兆2700億ドル程度しかなく、他の資産がどうなっているのかよくわからないのである。このため、今回の事実上の変動相場の導入は、中国がこれまでのようなドル売り介入しきれなくなったという見方もあるわけである。  今回の事実上の変動相場への移行は、これまで上げてきた理由のどれか一つが原因ではなく、このような理由を総合判断した結果といえるわけであるが、どちらにしても、これまでの『強い経済と保有する外貨を利用した強気の外交』ができなくなりつつある現状を確認するものであり、中国弱体化の始まりを意味するものになるのだと思われる。そして、米国は9月の首脳会談で人民元の切り下げ問題などを議題とするとしており、中国の弱体化を前提とした国際社会の中国への圧力は今後も高まるものと思われるのである。

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    天津爆発は習近平政権を揺るがすか

    の根幹を成しているからだ。国家新型城鎮化計画と「京津冀一体化計画」とは何か? 2014年3月16日、中国政府は「国家新型城鎮化計画(2014年~2020年)」なるものを発表した。これは都市にいる3億に近い農民工(農村から都市への出稼ぎ労働者)の人権に配慮し暴動発生率を減少させるため、都市にいる農民工の都市市民化や農民工を出身地に戻し、内陸の都市化を進め、都市で戸籍のない農民工に新たな戸籍(住民票)を与えて郷鎮程度の小都市に定住させ、そのための就職先を創出させる、といった構想に基づくものだ。2013年11月に開催された三中全会で決定した「中央全面深化改革」の一環で、「中央全面深化改革領導小組」(全面的に改革を深化させる中央指導グループ)を中共中央の下に新設した(組長は習近平国家主席)。 「城鎮化」の中の「城」は「都市」の意味で、「鎮」は「地方農村部の市街地」あるいは「町」という意味だ。日本的にイメージする都会の都市ではなく、都市の近郊(郊外)や内陸部の中小都市などを指す。したがって「城鎮化計画」は概念的には「都市化計画」と理解してもいいのだが、中国の広大な内陸部のことを考えると、日本の多摩ニュータウン的なイメージとまた少し異なる。 さらに東沿海地区に集中している大都市の中に存在している都市住民と出稼ぎ農民工との間の二極化も深刻な問題なので、その問題解決も含んでいるという意味で、日本人が描く「都市化計画」とは必ずしも一致しない。 ところで、都市にいる全農民工の数は2.69億人と、ほぼ3億に近い。 経済が最も繁栄している中国の大都市圏である「京津冀(ジン・ジン・ジー)(3J)」(北京、天津、河北省の一部)、長三角(上海市、江蘇省、浙江省を含む長江三角州地帯)および「珠三角」(広東省、香港、澳門一帯)に流動人口が集中し、全国2.8%の面積に中国総人口の18%が居住し、このわずか2.8%の地域が中国全土の36%のGDPを生み出している。 中でも「京津冀(きょう・しん・き)」は首都・北京と直轄市・天津を含んでいるだけに「ジン・ジン・ジー(3J)」と呼ばれて注目され、習近平政権における新しい形の国内経済を牽引していく国家新型城鎮化計画の花形を成すものであった。河北省を意味する「冀」は秦皇島や北戴河をはじめ、保定や張家口、承徳など、河北省の一部を含む。 2014年3月5日、李克強国務院総理は全人代における政府活動報告で「環渤海および京津冀地区経済協力体制」を発表したが、その一週間前に習近平国家主席は「京津冀一体化計画」を「中国の重大な国家戦略」と位置付け貫徹実行を強調している。 中共中央政治局は2015年4月30日に政治局会議を開いて、「京津冀共同発展計画綱要」を批准した。それにより交通・物流・関税などを簡便化するためにインフラ建設を加速させ、輸出入に関しても、「京津冀区域」であるならば、一回だけ税関を通せばよいことにして業務の能率を高めるよう指示している。2016年までに北京を中心とした外環道路をさらに拡張する計画が進んでいた。天津市濱海新区大規模爆発が起きた現場周辺で、依然として立ち上る黒煙=2015年8月13日、中国天津市(共同) 天津において「京津冀一体化」の中心をなしているのが、今般爆発事故を起こした濱海新区である。 天津市は中華人民共和国(現在の中国、新中国)が誕生した1949年から直轄市として行政区分されていたが、1958年2月に一時的に河北省天津市に区分され、1967年にまた中央行政の直轄市に戻っている。つまり、天津市は新中国誕生時には、北京市、上海市と並んで「三大直轄市」としての地位を確保していた。 ところが改革開放が進むにつれて、天津市は首都北京と改革開放の花形のような上海の華やかな飛躍に置いてきぼりにされ、90年代半ばには、見るも憐れな、名ばかりの直轄市となった。 そんなときに現れたのが「重慶市」の直轄市案である。1997年、重慶市が4番目の直轄市として中央に認められた。あわてたのは天津市だ。 1994年3月の全人代で、天津市はすでに「天津経済技術開発区」を新設して10年の年月をかけて濱海新区を建設することを国家戦略とすることを提案していたが、2005年3月、全人代は第11次五カ年計画として「濱海新区(Binhai New Area)」設立を決定したのである。  現在までに1.5兆元(約30兆円)の投資をつぎ込んで「十大戦役」戦略を遂行してきた。 習近平政権は、「京津冀一体化」計画に沿って、2014年12月12日,天津市濱海新区を「中国自由貿易試験区」として批准した。 「自由貿易区(Free Trade Zone)」は、アメリカを中心としたTPPに対抗して、中国を中心に関係国と特定地区を指定して結んでいるものだが、すでに決定して進めている地区と試験的にこれから決定する地区の二つに分かれる。 2013年10月26日に上海自由貿易区を正式に決定し、アジアインフラ投資銀行(AIIB)構想の旗頭にしようとした。 2015年3月24日の中共中央政治局会議は広州南沙、深セン蛇口および珠海横琴に自由貿易区を設置することを決議。次いで天津、福建を自由貿易試験区として決定した。天津の焦りが事故を生んだ――許認可制の腐敗構造 これらの経緯から分かるように、天津はまず改革開放で後れを取ったことに焦り、重慶が直轄市に選ばれたことに焦り、そして何よりも濱海新区により、これらの後れを挽回しようと焦った。 開発区が建設されるときには、大量の許認可が必要となってくる。 1994年から2005年の約10年間の開発時期は、まさに「腐敗真っ盛り」の時代であった。許認可の窓口には各分野各レベルにおける党幹部がいて、そこは腐敗の温床になっていた。そこに「一刻も早く発展させなければ」という焦りがあれば、腐敗もいきおい、正当化されていく。 全国にあまねく蔓延した腐敗に厳しく手をつけたのは習近平政権になってからだ。許認可制度も多くが撤廃されたり簡略化されて、腐敗の温床を崩し始めてはいるが、2005年から10年も経っている。計画が提案されたころから数えれば20年だ。その間に、どれだけの不正が蓄積されてきたかしれない。 2007年から2013年まで天津市の書記を務めていた、現在のチャイナ・セブン(中共中央政治局常務委員会委員7名)の一人である張高麗は、この不正に対して責任を追及されてしかるべき立場にある。 今般の事故の原因となっている猛毒のシアン化ナトリウムは、700屯保管されていたとされ、その取扱いに関する許認可の多くは、闇で取引されていたと考えていい。 そのために消防関係者がシアン化ナトリウムであることを把握しておらず、また水を掛けると爆発することなどの危険物取扱に関する情報も共有されていなかった。その結果、放水による消火中に二次爆発を招いたため、現在行方不明中のほとんどが消防隊員となっている。 飛散したシアン化物が土壌に染み込み、下水道を通して海に流れ、一方では大気を汚染させている。 8月16日夕方6時、最高検察院が瑞海公司の危険物倉庫の管理状況に関して現場検証に入ったと、中国の中央テレビ局CCTVは臨時ニュースを報道した。防毒マスクをつけた調査員の姿は、習近平政権の危なさを連想させる。 習近平政権にとって腐敗撲滅は中国共産党一党支配が続くか否かの分岐点である。 日本の中国研究者および一部のメディアは、今もなお腐敗撲滅運動を権力闘争などと評する者がいる。あまりに中国の実情を分かっていない証拠で、胡錦濤時代と習近平時代では、状況はまったく異なっていることに気がついていない。 中国を読み解く日本の目を、ミスリードする危険な行為だ。 いま習近平政権が闘っているのは、「一党支配体制が継続できるか否か」であって、権力闘争ではない。権力闘争が真っ盛りだった胡錦濤政権の「チャイナ・ナイン体制」と習近平政権の「チャイナ・セブン体制」はまったく異なる。習近平政権には権力闘争をするゆとりなど、すでにないのである。 習近平政権は対外的には膨張によってしか体制を安定させることができず、国内的には、まさにこのたびの天津濱海新区を含む「京津冀一体化」を中心とした国家新型城鎮化計画に国家の命運を賭けているのである。 その意味で天津の爆発事故は、習近平政権を揺るがしかねない要素を持っている。(『Yahoo!ニュース個人』より2015年8月17日分を転載)えんどう・ほまれ 東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士。1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会科学研究所客員研究員・教授などを歴任。単著に『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』『チャイナ・ナイン 完全版』『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』『チャイナ・ジャッジ 毛沢東になれなかった男』『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国人が選んだワースト中国人番付 やはり紅い中国は腐敗で滅ぶ』『完全解読 「中国外交戦略」の狙い』など多数。共著に『香港バリケード 若者はなぜ立ち上がったのか』。