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    中国の国家安全法から窺える中国共産党の不安

    岡崎研究所 エコノミスト誌7月4-10日号が、7月1日に成立した中国の国家安全法は、国内統制に向けた法整備の一環だが、そこには中国共産党が不安を抱いていることが窺われる、と指摘しています。 すなわち、新たに全国人民代表大会で採択された国家安全法は、昨年成立した反スパイ法、近く成立の見通しの反テロ法、サイバー安全法、外国非政府組織管理法と共に、国内の統制を強化しようとするものだ。新法で目立つのは、想定する脅威の源がインターネット、文化、教育、宇宙空間と非常に多岐にわたる一方、文言が曖昧で詳細を欠いていることだ。詳細規定は後で補充されるかもしれないが、重要な文言が明確にされることはないだろう。曖昧な表現は習にとって有用な武器になるからだ。 その目的は、第1条に「民主的独裁体制と中国的社会主義体制を守ること」と記されている。党による権力掌握と国家の安全が同義として扱われ、国家安全の重点は国内の治安に置かれ、それを脅かすものとしてテロ等の通常の要因に加え、言論の自由やリベラル・イデオロギーがもたらす脅威が挙げられている。 習は、多くの反体制派を逮捕、ネット規制を強化し、ウイグル人テロを厳しく取り締まるなど、前任の胡錦濤より強い姿勢で治安維持に努めてきた。4月発表の草案と比べ、新法の最終文書は権力独占により重きが置かれている。 また、第15条は、国家権力の行使について抑止と監督の強化を要請している。一見「法の支配」を認めているかのようだが、目的は党の抑制であり、党の権力に枷をはめることではない。 もっとも、習の懸念には根拠がある。中国共産党はとうにイデオロギー的正当性を失い、経済的正当性も弱まりつつある。減速する経済、物価の上昇、増税などに、市民は不満を表明し、各地で抗議運動が起きている。何百万もの個人投資家の参入で加熱していた上海市場の株価暴落も指導層を不安にしている。 そこで、国家安全法は市民が守るべき義務を強調する。他国のこの種の法律は、国家機密の漏洩等、してはならないことを挙げるが、新法は密告も含めてすべきことを義務付けている。既に苦境にある政治活動家はさらに追い詰められるだろう。 外国企業も不安を募らせている。新法は、国家には重要インフラや情報システムの「安全性と制御可能性」を確保する権利があるとしており、外国製品の使用の規制強化につながる可能性がある。企業に情報開示を義務付ける反テロ法や、外国NGOに警察への登録を義務付ける外国非政府組織管理法にも懸念が持たれている。国家安全法は香港にも国家の安全を守ることを義務付けている。当局は、新法は香港には適用されないと釈明したが、免除が永久に続く保証はない。国家安全法が中国の各方面にもたらした恐怖は当分消えないだろう、と指摘しています。出典:‘Everything Xi wants’(Economist, July 4-10, 2015)http://www.economist.com/news/china/21656689-new-national-security-law-hints-communist-partys-fears-everything* * * 本論評が指摘するように、今回の中国の「国家安全法」の制定は、中国共産党が国家の治安維持に対し、不安を抱いている証拠であると言えます。あるいは、それは「不安」というよりは「恐怖」に近いのではないかと思われます。 習近平は党総書記就任以来、党内の国家安全面では「国家安全委員会」を設立し、その委員長になり、党内の基盤を固めてきたと見られています。ただし、党内の権力闘争(「反腐敗キャンペーン」など)はいまだ収束しておらず、さらに共産党の枠を超えた軍、政、地方政府、ウイグル族・チベット族などに関しては、多くの不安定要素を抱えたままです。 通常の国の場合には、本記事の言う通り、国家安全法の類の法律は「機密を漏洩してはいけないこと」などの禁止事項を書き込むのが普通です。しかし今回の中国の「国家安全法」は密告などを含めて多くの面で治安維持のために国民が行うべきことを義務づける形となっている点が特徴です。 この法律は、反体制派の弾圧、ネット規制、ウイグル人テロへの対応などを主たる対象としているように見えますが、内容ははっきりしません。特に最近では、上海市場の異常な株価暴落と政府の下支え介入の失敗から生まれた経済リスクがやがて政治リスクに変わっていくのではないかという恐れが広がりつつあります。上海株の急落はすでに、株価操作の範囲を超えて中国の実態経済を揺り動かしつつあり、それがやがては国内の治安維持に深刻な影響を及ぼす可能性もあります。 この国家安全法は、香港、マカオのみならず、中国の統治下にない台湾をも対象としており、これら地域の市民たちが中国の治安を守るよう義務付けています。このような国内法の制定とその実施は、恐怖が恐怖を呼び起こすきっかけともなり得るものであると言えるでしょう。

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    重要証人処刑前に長老封じにかかった習指導部、抗争の火種に

     「賈慶林(中国・前全国政協主席)が内モンゴルで軍に拘束された!」「曽慶紅(元国家副主席)がクーデター計画に関与して天津で逮捕された!」 7月初旬から中旬にかけ中国版ツイッター「微博」で、中国共産党の元最高指導部メンバー2人の失脚情報が飛び交った。 だが、間もなくして「ガセネタ」であることが確認された。これら長老が公衆の前に姿を見せ、健在ぶりをアピールしたからだ。 インターネット規制が厳しい中国では、政治家失脚に関するニセ情報は最大のタブーとされる。見つかればすぐに削除され、転載しただけで罪に問われる。ネット警察の厳しいチェックをすり抜け、短時間で拡散していった今回の怪情報は「当局に黙認されていた」ともみられている。 背景について、権力闘争に詳しい党関係者は「習近平指導部による両長老への牽制(けんせい)球だ」と解説する。 賈氏と曽氏はいずれも巨額の不正蓄財疑惑を抱えており、自身に飛び火することを避けるため、周永康・前政治局常務委員への調査に反対していた。習国家主席周辺は、彼らの動きを封じ込めるため、ニセ情報をあえて流し、「反対すれば、あなたたちもやるぞ」と脅したというのだ。 しかし、こうした情報操作は両長老の大きな怒りを買ったとされ、党内抗争の火種は残されたままである。□ □ 8月初め、党にとって最も重要な会議の一つの北戴河会議が開かれる予定だ。長老を含む党要人が重要方針や人事を非公式協議し、習指導部の1年間の成果と問題点も総括される。習近平氏(手前)とあいさつを交わす胡錦濤氏 習氏は2012年11月の体制発足当初、長老らと良好な関係を保っていた。が、一連の反腐敗キャンペーンを強引に進めて多くの高官を摘発し、長老らの不興を買ったといわれる。 習指導部が周氏への調査を公表したのは7月29日。つまり、長老らに阻止されないように、北戴河会議の開幕前に先手を打とうという戦術だった。 中国の司法関係者によると、習指導部が周氏への調査をこの時期に明らかにしたのには、もう一つ重要な理由がある。 殺人罪などで死刑判決を受けた四川省の富豪、劉漢氏の死刑執行を延期させる必要があったのだという。 劉氏は周氏の長男のビジネスパートナーで、周氏に便宜を図ってもらい、十数年で400億元(約6800億円)もの資産を築いたとされる。昨年、逮捕され、今年5月の1審で死刑判決を受けた。 ところが、この裁判は周氏を守ろうとする長老の息がかかった勢力が主導したといわれているのだ。法廷では周氏との癒着など経済面の不正には一切触れられず、暴力団組織を率いて犯した殺人などの罪だけが問われた。2審はすでに7月中旬に結審している。 二審制を採用する中国では、この判決が確定すれば劉氏は処刑される。それは習指導部にとって、周氏の経済犯罪を証言する重要証人を失うことを意味する。 北戴河会議の開幕、そして重要証人が口封じされる前に、習指導部は周氏への調査を公表せざるをえなかった。党内で十分な根回しがなされたとはいえない。 今年の北戴河会議は、習指導部と長老らの確執がさらに深まり「紛糾する可能性もある」と予測する党関係者もいる。極めて異例の事態なのだ。(北京 矢板明夫)◇【用語解説】北戴河会議 中国共産党の実力者たちが毎年夏、渤海湾に臨む避暑地の北戴河に集まって開く非公式重要会合。建国の父、毛沢東が夏に同地の海で泳ぐ習慣に合わせ、党、政府、軍の指導者が集まるようになったのが由来といわれる。引退した指導者にも発言権が与えられる。二重権力構造への批判から2003年に廃止されたが、長老らの猛反対で復活した。©2014 The Sankei Shimbun & SANKEI DIGITAL All rights reserved.

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    上海株大暴落 仕掛けた「犯人」は腐敗取締反撃の江沢民一派

     7月の中国の株式市場は、阿鼻叫喚の様相を呈した。6月中旬から7月上旬にかけて、上海・深セン両証券取引所を合計した株式時価総額は、日本円にしておよそ450兆円下落し、中国のGDPのほぼ3分の1が消滅した。7月下旬にもさらなる急落が起きた。 中国政府の金融捜査当局は、先物取引での悪意のある空売りが急落を招いたとみて、公安省は上海のある貿易会社の捜査に着手した。 そこで意外な事実が判明する。その貿易会社に大量の資金を与えて空売りを仕掛けさせたのが、「習近平の反腐敗キャンペーンによる逮捕を恐れて米国に逃走した上海閥重鎮の娘婿だった」(北京の共産党幹部筋)のだ。 その重鎮の名は戴相龍。中国人民銀行(中国の中央銀行)総裁や天津市長などを務めた党の大幹部で、2013年に政界引退した70歳の長老指導者だ。 戴は今年初め、習近平指導部が主導する反腐敗闘争の網にかかり、「『重大な規律違反』の容疑で身柄を拘束、取り調べを受けており、その事実が公表されるのは時間の問題」と華字ニュースサイト「博訊(ボシュン)」などは伝えている。 その戴の親族が“仕手戦”で株価を暴落させ、習政権を窮地に追い込んだ──つまり今回の株価暴落は権力闘争であり、取り締まりへの意趣返しである可能性が高いというのだ。 「次の権力闘争の舞台は7月末から8月初めにかけて開かれる北戴河会議だ。江沢民のほか、習近平ら太子党(高級幹部子弟)グループと対立する中国共産主義青年団(共青団)閥を率いる胡錦濤前主席ら党長老も参加するからだ」(前出の党幹部筋) 北戴河会議は共産党の実力者が毎年夏、避暑と休養を兼ねて北京郊外の北戴河に集まって開く非公式の会議で、その内容はほとんど外部に漏れない。現在進行中の今年の会議の展開を同筋は次のようにみる。 「江沢民や胡錦濤は今回の株価暴落の対応を厳しく追及するとともに、(腐敗取り締まりを逃れるために米国に亡命した北京の政商である)郭文貴の持つ機密文書で習近平指導部に揺さぶりをかけるのは確実だ。それらを脅しの材料にして、反腐敗キャンペーンを止めさせ、今後の政権運営でも、江や胡の発言力を強める狙いがある」 それでも習近平がスタンスを変えない場合、何が起こるのか。 習はこれまで何度も暗殺未遂事件に見舞われている。今年3月の全国人民代表大会(全人代)でも、給仕の女性にお茶を目の前で注がせる姿が話題になった。彼は毒殺を恐れているのだ。 習近平は7月16~18日に中国東北部吉林省を視察したが、華字ニュースサイト「博聞(ボウェン)」は習近平の吉林入り前日の15日深夜から16日未明にかけて、人民解放軍第16集団軍の戦車10数台が、習近平の視察予定地である延辺朝鮮族自治州の市街地を高速で移動する動画を報じた。これは演習ではなく、習の警備のために戦車部隊などの軍が出動したとみられる。 習近平の暗殺は決して絵空事ではなくなっていると考えられ、その足下は大きく揺らいでいる。関連記事■ 「クーデター計画」「愛人村」ほか中国を徹底的に取材した本■ 習近平氏 難しい局面では母に電話する等マザコンぶりが有名■ 北京刑務所 汚職逮捕者急増で手狭になり拡張工事に追われる■ ネットに登場の「中国人クズ番付」など中国の民意に迫った本■ 「習近平副主席の話は本当につまらない」中国共産党幹部ボヤく

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    習近平主席の粛清加速 江沢民や胡錦濤出席の会議を牽制の狙い

     「次の大トラは誰だ!」──いま中国共産党関係者の間では、この話題で持ちきりだという。「トラもハエも叩く」と豪語した習近平・国家主席の反腐敗キャンペーンは、いよいよ「大トラ」と呼ばれる党最高幹部にたどり着いた。 習政権はこの7月20日、令計画・前共産党中央弁公庁主任を「巨額収賄」などの容疑で党籍剥奪・公職追放処分にすることを決定したのだ。近く逮捕される予定だという。昨年12月に元最高指導部メンバー、周永康・元党政治局常務委員を「重要な党規律違反」で党籍剥奪・逮捕したのに続き、「タブー中のタブー」といわれる元最高幹部の追放劇である。 日本ではあまりなじみのない令計画の名だが、中国では胡錦濤・前国家主席の最側近として知らぬ者のない存在だ。 昨年1月に香港で出版され話題となった『北京319政変始末』という本がある。同書によれば、令計画は政権転覆を狙った「クーデター計画」に荷担していたというのだ。 周永康・元党政治局常務委員、薄熙来・元重慶市党書記、徐才厚・前中央軍事委副主席、そして令計画を加えた“新四人組”は、胡錦濤から習近平への政権移行のタイミングに乗じたクーデターのために内通を繰り返していたが、2012年3月19日、解放軍第38集団軍が出動するという不可解な事件を機に、一気に沈静化したという。 それにしても、なぜ習近平はここまでして粛清をエスカレートさせるのか。その背景に「焦り」があると見るのが、『習近平の「反日」作戦』の著者でジャーナリストの相馬勝氏だ。 「毎年夏、江沢民や胡錦濤という両元主席ら長老指導者と現役の党最高幹部が河北省の避暑地、北戴河に集まり、高級幹部人事や重要な政策や政治方針について協議する会議が開かれます。 この北戴河会議は『権力闘争の天王山』とも呼ばれますが、今年は江沢民をはじめ党長老たちから、習近平の独断専行や権力集中に対して強い反発が予想される。それだけに、習近平としては先手を打って、この時期に令計画の処分を公にして機先を制する必要があったのではないか」 習近平への逆風は政治的な要素だけではない。「このところ株価の暴落騒ぎや経済成長の鈍化など、習近平指導部を取り巻く経済環境は厳しさを増しています。外交的にも南シナ海をめぐって、米国を中心とする中国包囲網が形成されている。 また、習近平は9月3日に実施される軍事パレードに50か国以上の首脳を招待していますが、ロシアや中央アジア諸国以外は様子見の状態で、外交的にも孤立化の様相を呈している。つまり、そうした窮状が、習近平を党内の粛清に駆り立てているともいえるのです」(同前)関連記事■ 【ジョーク】資産の海外逃避止めるため「万里の長城」再び?■ SAPIO人気連載・業田良家4コマ「虎退治」■ 「クーデター計画」「愛人村」ほか中国を徹底的に取材した本■ 中国最高指導者の月給判明 胡錦濤氏49万円、習近平氏40万円■ 中国山西省で腐敗摘発強化 習近平氏の共青団潰しの狙いあり

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    中国「南シナ海の万里の長城」建設中 総経費は1兆4000億円

     「北京・中南海ではいま、中国の対外環境を表す言葉として『冷和(冷たい平和)』という単語が飛び交っている」──こう明かすのは北京の外交筋だ。 「冷たい平和」とは冷戦時代のようなあからさまな敵対関係ではないが、さりとて友好関係ではなく、相互不信により冷却化している2国間関係を意味する。ジャーナリストの相馬勝氏が解説する。* * * 中国が「冷たい平和」の端的な例として持ち出してきたのが対日関係だった。中国共産党機関紙「人民日報」海外版のニュースサイト「海外網」は昨年4月22日、「中日関係は単なる『冷たい平和』なのか」と題する記事を発表した。 これは沖縄県尖閣諸島からわずか150kmしか離れていない沖縄県与那国島にレーダー基地を想定した「沿岸監視部隊」基地の起工式が行われたことを受けている。 「中日関係のしこりはなに1つ取り除かれていない。(中略)中日関係は単なる『冷たい平和』なのか?どうすれば正常な軌道に乗ることができるのだろうか?」論文は日本側の非ばかりをあげつらって、中国側の頑なな姿勢にはまったく触れていない。陸上自衛隊沿岸監視部隊の配備予定地を視察する小野寺防衛相(中央、当時)=2014年4月19日、沖縄県与那国町 例えば、中国海警局が尖閣諸島から300kmほどの浙江省温州市に排水量1万t級の大型船など最大6隻が停泊できる基地の建設を計画していることが明らかになった。 飛行機やヘリの格納庫も建設するという。昨年11月と今年4月に日中首脳会談が行われ、ようやく日中関係に緩和の兆しが見えたところでの基地建設で、中国は言っていることと、やっていることは大きく食い違う。「冷たい平和」は中国側の自作自演と言わざるを得ない。 「冷たい平和」は米中関係にも及んでいる。5月1日付の英紙フィナンシャル・タイムズは「米中の行く手に待ち受ける『冷たい平和』台頭する中国」の見出しで、中国が南シナ海の岩礁を埋め立てて、軍事基地を建設しようとしていることに米国が強く反発し、米中が「冷たい平和」の関係に突入していると説く。 カーター米国防長官は6月11日、中国軍制服組トップの範長龍・中央軍事委員会副主席と国防総省で会談し、「南シナ海での人工島建設を永続的に停止し、軍事拠点化を進めることを止めるべきだ」と要求。長官は国際法に従い領有権争いの平和的解決を模索するよう、重ねて強調した。 中国側は人工島建設は「軍事防衛の必要を満たすためだ」と主張しており、双方の主張は平行線をたどった。 中国が南シナ海の南沙海域で埋め立てているサンゴ礁は7つ。サンゴ礁を海面から3mの高さまで埋め立てるには6億1100万立方メートルの土砂を必要とするが、これらの土砂は海底の砂を引き上げるだけでは間に合わず、約800km離れた中国大陸から運んできているという。飛行場完成までに必要な総経費は日本円で約1兆4000億円と莫大な額だ。 習近平に近い呉勝利・海軍司令員がこの模様を視察しており、埋め立ては海軍の作戦であることは明白だ。まさに「南シナ海の万里の長城」と言えよう。かつての長城は歴代の皇帝が指揮したが、「海の長城」建設は現代の皇帝である習近平が命令しているのだ。 すでに7つのサンゴ礁のひとつ、永暑礁の飛行場は長さ500m、幅53mになっているが、これを3000mまで延ばす予定。2000mの滑走路があれば380人乗りのB777・200型機が就航でき、軍用機なら楽に離着陸できるから“不沈空母”が南シナ海の真ん中に出現することになる。米国の軍事専門家は、発電所や兵舎の建設が終われば、防空ミサイル、レーダーを配備するとみている。「そうなれば、中国の次の狙いは南シナ海上空・防空識別圏(ADIZ)設定だろう」と北京の外交筋は明かす。関連記事■ 中国 南シナ海の領土主張と同手法を尖閣に適用する可能性も■ 中国軍 海南島に原潜秘密基地建設で南シナ海での対立激化か■ 中国が最も嫌がるのは日本、インド、ASEAN合同軍事演習■ 中国による他国領支配の常套手段は漁船に偽装した軍艦派遣■ あまりに強引な中華帝国的侵略手法を櫻井よしこ氏が危惧

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    米中蜜月の終わり

    「世界の警官はやめた」。アレレッ!? 米国って“風に立つライオン”じゃなかったの!?

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    次世代に誇りある国を残すために 新たな日本へ脱皮必要

    は、イランの核保有につながるとして、サウジをはじめ、アラブ諸国との間に深刻な溝をつくった。欧州諸国は中国のアジアインフラ投資銀行(AIIB)に加入した。ロシアも中国も力の外交に踏み切り、強硬路線を変える兆しは見られない。 このような中で、いま、アメリカにとっての唯一の選択が日本との緊密な協調関係なのである。アメリカが強い日本を必要とするように、日本もアメリカを必要とする。両国の国益がぴったり合致する中で新しい関係が生じているのだ。 中国も事態を的確に把握している。5月26日発表の国防白書で、中国の安全にとっての「外部からの阻害と挑戦」は、日本の安保政策の転換と、地域外の国、つまりアメリカの南シナ海への介入だと明記した。中国政府が公式文書で仮想敵として日米を具体的に示しているのである。 国際政治の大きな潮流としてこのような構図が生まれているとき、日本はいかにして自国を守り、国際社会の平和構築に貢献できるのか。 5月30日、シンガポールの「アジア安全保障会議」で、アシュトン・カーター米国防長官は中国名指しで、「直ちにかつ永続的に(南シナ海での)土地の埋め立てをやめるべきだ」と批判した。中国人民解放軍の孫建国・副総参謀長は翌日、岩礁埋め立ては「軍事、防衛上の必要性を満たすため」だと反論した。 初めて正式に、南シナ海の埋め立てが軍事目的であることを認め、中止する気はないと言明したわけである。 強気の中国は、アメリカ軍に対する抑止力も着実に向上させつつある。シンクタンク『国家基本問題研究所』企画委員、冨山泰氏の指摘だ。 5月21日、中国空軍の最新鋭爆撃機H6Kが沖縄本島と宮古島間の宮古海峡上空を通過し、西太平洋上で日帰り訓練を行った。同機の巡航ミサイルは核弾頭搭載も可能で米軍のアジア戦略の重要拠点グアムを攻撃する能力を持つ。アメリカが南シナ海に介入するとき、中国はグアムを叩(たた)く能力を手にした。 アメリカにとって深刻な危機であり、アメリカ軍の行動が制約を受ける可能性は否定できない。それでもカーター国防長官は、現在、中国の人工島の12海里外で行っているP8対潜哨戒機による偵察行動を、12海里内で展開する可能性を強調する。海洋の自由と法治を掲げるアメリカには一歩も引く気配はない。 中国とアメリカの主張がまっ向からぶつかり、相互に軍事力を誇示するこの緊張は戦後最大の危機といってよいだろう。 これが日本にどう関わってくるのか。カーター長官は「同盟国およびパートナー」との協力で対中抑止力を構築するとして、中心軸に3カ国による協調、日米豪、日米韓、日米印の協調を挙げた。いずれの場合も日米が基軸となっており、アメリカのみならずアジア全体の日本に対する信頼が窺(うかが)える。 カーター長官はまた、ベトナム、マレーシア、フィリピン、インドネシアとの多層的な軍事協力に触れて、アジア全体で、国際規範を逸脱した中国に抑止力を効かせる意図を強調した。 日本がすべきことは何か。激しく変化する国際情勢と中国の脅威をまず、明確に見据えることだ。そのうえで、アメリカもアジア諸国も自立した強い国としての日本に期待していることに気づきたい。 国会論戦でガイドラインの見直しと安保法制の整備を国民への説明もなくアメリカで約束したのはおかしいと民主党は論難する。だが、ガイドライン見直しは民主党政権のときに始まったのではなかったか。 中国の脅威に国際法と外交で対応できる状況を創り出すためには逆に十分な軍事力が必要である。いま、そのことを学び、現実に根ざした安全保障政策を駆使する日本へと、脱皮するときである。さくらい・よしこ ジャーナリスト、国家基本問題研究所理事長。1945年ベトナム生まれ。米ハワイ大学歴史学部卒。米クリスチャンサイエンスモニター紙東京支局などを経て80年から96年まで日本テレビ『NNNきょうの出来事』メーンキャスター。著書に『気高く、強く、美しくあれ』(小学館)、『中国に立ち向かう覚悟』(同)など。2010年正論大賞受賞。

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    AIIBは国際金融の元寇か

    むしろ金融・経済の覇権争いに傾いて、その分野でも連合国のリーダーたるアメリカ主導で行われてきました。中国が設立をめざすAIIB(アジア・インフラ投資銀行)は、軍事のみならず経済覇権をも狙う中国の挑戦と考えられるのですが、まず初めに、戦後のアメリカ主導の経済システムのお話からうかがいたいと思います。山下 1944年にアメリカのブレトン・ウッズで45カ国が参加して連合国通貨金融会議が開かれ、そこでIMF(国際通貨基金)とIBRD(国際復興開発銀行、世銀)の設立が決議されました。その後の経済体制が、いわゆるブレトン・ウッズ体制です。 固定為替相場制度を核として、IMFが通貨価値と為替相場の安定を守るというブレトン・ウッズ体制は非常に安定したシステムで、戦後のおよそ25年間は経済成長率が最も高く、インフレ率は低い、間違いなく資本主義の黄金時代でした。資本主義は、1602年設立のオランダの東インド会社以来始まったという見方が有力だと思いますが、今日に至るまで、後にも先にも、世界経済がブレトン・ウッズ期を超える経済パフォーマンスを示した時期はありませんでした。ところが、資本主義の黄金時代は、1971年8月15日のニクソン・ショックで残念ながら約四半世紀で終焉を迎えてしまった。 IMFや世銀を、ブレトン・ウッズ機関と呼びます。これは構わないのですが、ブレトン・ウッズ体制というのは、ニクソン・ショックを契機に崩壊しました。したがって、今の国際金融体制をブレトン・ウッズ体制と呼ぶのは間違いです。AIIBに関する議論がいま盛んですが、非常に多くの論者がこの点を間違えています。 ブレトン・ウッズ体制が崩壊した要因は、ひとえにアメリカが国際収支の赤字を出し続けたからです。国際収支が赤字の国は、一国の責任でデフレ政策を採用し、景気を抑えて赤字を減らす、つまり赤字国責任論がブレトン・ウッズ体制の要でありゲームのルールだった。にもかかわらず、アメリカがそれを守らなかったために崩壊してしまったのです。ニクソン大統領がドルと金の兌換一時停止を宣言したことによってニクソン・ショック(ドル・ショック)が起こり、結果として変動相場制に移行した ブレトン・ウッズ体制というのは一種の金本位制でした。金とドルがリンクしていて、金1トロイ・オンス(約31グラム)=35ドルという固定平価をアメリカが保証し、アメリカが外国に負っている債務は、金でもドルでもどちらでも好きなほうで返済する。その際の金とドルとの交換比率は、常に1トロイ・オンス=35ドルであると約束していた。だからドルが信用されたのです。 ところが、アメリカの国際収支の赤字がどんどん膨らんでいく。いずれアメリカはその固定平価(金平価)を守れなくなるにちがいない、つまりドルを切り下げようとするだろう、各国がそう思い始めました。そこで、まずフランス、さらに最後にはイギリスまでもが、ドルではなく金で返せと言い出して、しかたなくアメリカは金で支払い、その結果、アメリカからヨーロッパに向けて金塊がどんどん流出してしまった。 これは大変だというので、当時のニクソン大統領がドルと金の兌換一時停止を宣言した。いわゆる「ニクソン・ショック」です。金に結びついた縄が首に巻きついて苦しいから、縄を切ってしまえばよいだろうという単純な発想で、金とドルのリンクをはずしただけだから、このときは固定相場制から変動相場制に移行するとは誰も思っていなかった。しかし、この金とドルとの兌換の約束がブレトン・ウッズ体制のまさに要でした。そのせいでドルがすっかり信用を失い、結果として変動相場制になってしまった。いわば、資本主義の黄金時代が、アメリカ一国の身勝手な行動のために終わってしまったのです。 ところで、固定相場制なら必ず赤字国責任論になる。赤字を続けると、限りある外貨準備がどんどん減っていきますから、大きな赤字を続けてはいけないという国際収支への節度がかかる。それが固定相場制のいいところです。いまはそういう規律がなくなってしまい、IMFは通貨安定という本来の仕事がなくなってしまったので、しかたなく対外債務危機に陥った国に緊急融資をする仕事に従事するようになった。馬渕 1997年のタイのバーツ下落に始まったアジア通貨危機のとき、大きな打撃を受けたタイ・韓国・インドネシアはIMFの管理下に入りましたが、私がタイで見ていた限りでは、IMFの処方箋、つまり融資条件とは何だったかというと、一言で言えば緊縮財政なんです。もうブレトン・ウッズ体制が崩壊しているのに、IMFは昔の赤字国責任論でとにかく緊縮財政の一点張りだったんですよ。だからタイでは建設途中のビルが全部ストップしたりして、一挙に不況になった。インドネシアもIMFの条件を受け入れて生活必需品の価格を上げたものだから、暴動が起こって当時のスハルト大統領が追い出されてしまった。AIIBの背景山下 変動相場制が諸悪の根源であるというのは、私の持論です。ところで、実は中国はずっと以前からインフラ投資銀行のことは言ってきているのです。非公式にはもっと前からですが、2007年にアフリカ投資ファンドを設立しているし、2008年には、「ASEAN+3」13カ国のアジア地域統合に関する枠組として2003年に発足したNEAT(東アジア・シンクタンク・ネットワーク)会議で、アジア・インフラ投資ファンドの設立を提案しています。NEATの日本側窓口が東アジア共同体評議会(CEAC)で、私も以前はそのメンバー(有識者議員)でした。私は、個人的にはその頃は、日本と中国は一緒に何かやったほうがいいと言っていたんですが、日本政府は常に中国の提案を潰そうとしてきました。 そして、2013年9月に習近平がカザフスタンのナザルバーエフ大学で「シルクロード経済体」(一帯)構想を語り、その翌月にバリ島のAPEC首脳会議で「二十一世紀海上シルクロード」(一路)構想とAIIB構想を打ち出した。「一帯一路」政策といわれるものを、不退転の決意で実現しようと提案しました。 昨年7月には、BRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)5カ国で、NDB(新開発銀行。旧称BRICS銀行)と1千億ドルのCRA(外貨準備資金)の設立で合意しています。まだ実際に設立されてはいませんが、NDBは世界銀行と競合し、国際収支危機に陥った場合に融通するCRAはIMFと競合する。NDBは5カ国がそれぞれ100億ドルずつ出し、CRAは1千億ドルのうち41%を中国が拠出するということになっています。NDBは、インドが発案したもので、総裁はインド人、本部は上海ということで合意しています。習近平 習近平が「一帯一路」構想を正式に打ち出したのは去年の11月。それとは別に12月に400億ドル規模の「シルクロード基金」を立ち上げました。これは中国人民銀行の所管で、一方、AIIBのほうは中国財務部の所管になっています。 中国国内の体制は、AIIBを「一帯一路」戦略小組が担当することになっていて、そのトップである組長が中国共産党のチャイナ・セブン(政治局常務委員)の一人、張高麗。副組長が政治局員の王滬寧と汪洋です。ここが事実上のエグゼクティブ・ボードとしてAIIBを牛耳ろうとしている。それがまず問題です。 要するに常任理事会を設けず、各国から選ばれた理事たちは本部ではなくそれぞれの国に留め置いて、実質的な決定権は張高麗が握っている。ということは、その背後にいる習近平がすべてを決める銀行だということになります。これはいくらなんでもまずいでしょう。 AIIBの背景は、中国国内の過剰生産設備の捌け口という意味が大きい。そういう意味では、これは良くも悪くも「中国版マーシャルプラン」と言えます。ご承知のように、第二次大戦後、アメリカの過剰生産設備の捌け口を求めて、1948年から51年の3年半ぐらいのあいだにヨーロッパ各国に102億ドルから136億ドル、現在の価値にして1千億から1300億ドルの援助を行った。その9割が無償援助だったことは評価できますが、戦後、競争相手がいなくなり、アメリカ製品をヨーロッパにどんどん供給できるようになって、アメリカはこれでようやく1930年代の大恐慌から完全に立ち直ったと言われています。 中国も、大変な過剰生産設備を持っているわけで、国際収支の経常収支が赤字になる気配もある。そうなると先進国入り前に成長が停滞する「中所得国の罠」にはまりやすくなるので、それを回避するためにも輸出を増やさなければいけない。それにはインフラ投資だという国内事情がある。IMFは「米国財務省の国際支店」「米国財務省の国際支店」馬渕 私もAIIBには慎重に対処しなければならないと思います。つまりADB(アジア開発銀行)を中国の思いどおりにできないからAIIBをつくろうとしているわけで、ADBとの協調融資の可能性はおそらく限りなくゼロに近い。協調融資ができるんだったらつくる必要がないし、世界銀行やADBとは違う中国方式でやるというのが、中国の根底にある考え方だと思う。 いま先生が言われたように、背景はひとえに国内要因でしょう。中国としては過剰生産設備を有効に使うことができないので、国際機関の名でカネを借りようということです。しかし、国際開発金融機関というのは国際金融マーケットで起債し、それに利子を上乗せして貸すわけです。これはあくまで融資ですから、無償ということはほとんどない。つまり、起債できないとAIIBはそもそも動き出せない。 中国が熱心に日本の参加を促しているのは、日本が入らないと起債できないからだと思います。国際マーケットでの信用がないわけだから、起債しようと思えば、ハイリスクだから利子が高くなる。そうなると、融資先は途上国なので、中国も含めて借りたほうは返せなくなるわけです。ADBは最も低い利率だと0・75%ぐらいで貸しているはずですが、AIIBにそんなことができるはずはない。 だから日本、あわよくばアメリカにも参加してほしいんでしょうが、最大の問題点はやっぱりガバナンスです。参加国が集まって融資案件を決める理事会はつくらない、中国人の総裁が一人で決めて、あとは事後承諾などというのは国際機関ではない。これから協定をつくって国際機関として発足して初めて起債できるわけですが、そもそも協定がつくれるのか。活動を始めるまでにまだまだいくつものハードルがある。 やはり共産党独裁体制というものは国際機関になじまない。金融機関は出資比率に応じて加重投票制になっていますが、仮にも国際機関である以上、基本的には主権国家は平等です。 もう一つの建前としては国際的な公共の福利のための活動をするのが国際機関ですが、中国共産党というより、そもそも中国人には公共福利という発想がない。彼らの発想はつねに自己中心の華夷秩序に基づいている。理事会がなければ中国のやりたい放題でしょう。 中国が経済的に重要だとか、好きとか嫌いとかの問題ではなく、日本が参加すれば、その起債を日本の証券会社が買って、それを個人投資家にも売るわけですから、その危険性と責任を考えなければならない。AIIB債券というのは実にハイリスクである気がします。山下 他方、現状のアメリカを中心とする国際金融システムに問題がないかというと、そんなことはない。むしろ問題だらけです。そのことを理解したうえで「日本はどうすべきか」を考えるべきでしょう。 結論を先に言ってしまえば、現状のアメリカを中心とするシステムも、中国がやろうとしていることも問題だから、日本としてはそのどちらでもない別の考え方を示すべきだと私は思います。そのためには、国際的な背景や要因をまず押えておかなければいけない。 まず、アジアにおける膨大なインフラ需要に応える必要がある。 ADBの試算では、2010年から2020年までの11年間に8兆ドルの需要があるということです。他方、ADBの年間の融資能力は去年が135億ドル。2017年から200億ドルに拡大するということですが、それでもまったく足りない。だから新たな資金ソースが出てきてもいい。 ただし、現行のアメリカを中心とする国際金融機関には、非常に大きな問題がある。 たとえばIMFは出資額で投票権シェアが決まっているわけですが、アメリカの投票権シェアはいまのところ17・1%です。ところが、IMF理事会における重要議案の決定にはQMV(Qualified Majority Vot-ing)つまり特定多数決で85%以上の賛成が必要なんです。 ということは、アメリカ以外のすべての理事が賛成しても、アメリカがノーと言えばその議案は通らない。つまりIMFにおいてはアメリカが単独拒否権を持っているわけです。このように、アメリカにはあたかも封建領主のような特権が与えられている。国連の安全保障理事会では五大国がそれぞれ拒否権を持っていますが、IMFは、それより遥かにアンフェアです。IMFはいかにも前近代的な国際機関であって、「米国財務省の国際支店」と言われてもしかたがない。 しかも、2010年12月にIMFの総務会で増資が決議されていますが、いまだに発効していない。それはアメリカの議会が批准しないからです。シェアが同じなのに増資すれば、当然拠出金が多くなる。それで米議会が反対して、増資が行き詰まっている。 要するに、アメリカ自身がつねにIMF改革の最大の障壁になっている。アメリカがリーダーシップを取っていること自体が問題なわけで、それに中国が対抗するのはけしからんという論理は成り立たない。両方ともけしからんのだから。米中という二つの厄介な大国馬渕 国際政治的に見れば、アメリカにとってIMFや世界銀行はグローバリズムを追求する機関なんです。だからこそアジア通貨危機を起こした。そして、緊縮財政をやらせたのは外資がその国の企業を買収するためです。つまり、各国独自の文化とか商慣行を全部破壊して、グローバルな、つまりIMF・世銀の基準、ワシントンの基準に統一しようという構造調整融資が最大の問題です。 アジアはもっと発言力を持つべきだと思いますが、ただ、肝心の日本と中国の発想がまったく違う。かつて日本は中国を近代化させようと努力したけれど、失敗に終わった。いまは中国が日本を従わせようとしている。これではうまくいくはずがない。山下 アメリカと中国という二つの厄介な大国があるということです。中国は、世界の現状はマネー・ゲームで、これをインフラという実需をベースにした金融に戻すのだと言っている。これは確かに一理ある。 国際通貨制度の問題点としては、ドルを牽制する有効かつ安定した枠組がなければいけない。その枠組をどうするかについては、私は固定相場制に復帰するしかないと思っているのですが、それには年月がかかります。馬渕 1997年のアジア通貨危機のときに、IMFのアジア版のような形で日本がアジア通貨基金(AMF)をつくろうとした。ところが、この構想はアメリカに潰されてしまいましたね。山下 タイ・バーツ危機を受けて、アジアの枠組が必要だということでタイが日本に相談してきた。それでAMF設立のために当時の大蔵省財務官だった榊原英資さんが努力したんだけれど、「アメリカの主導権に対する挑戦だ」と米政府が怒り出し、ロレンス・サマーズ財務副長官(当時)が榊原さんに脅しをかけてきた。 中国もAMF反対にまわりました。当時、榊原さんは要人と交渉するために北京に行ったんだけれど、断られて会えずに帰ったんです。その頃の中国はまだ国際金融システムの問題がよくわかっていなかった。要するにアメリカに脅かされ、中国に反対されてAMF構想は頓挫した。だけど榊原さん一人にまかせずに、日本政府がどっしり構えて対応していれば実現していたかもしれない。馬渕 アメリカ主導の世界の通貨体制から脱却して、より公平な、より民主的な通貨体制にすることを視野に入れて行動する必要が日本にはある。 ところで、日本が対アジア、あるいは世界に対する場合に、もう少しロシアというファクターを考えたほうがいいと思うんです。というのは、地政学的に考えてロシアと日本の関係が強化されたら、中国に対する大きな牽制になる。だけどいまは残念ながら日本のメディアはすべて反プーチンなんです。それは例のウクライナ危機のせいなんですが、あれはアメリカ主導の人為的なクーデターだったことがだんだん明らかになってきている。 今回のテーマから逸れてしまうのでくわしい話は別の機会に譲りますが、日本封じ込めのためにつくられたアメリカの戦後体制を換骨奪胎していって、少しずつ日本の主権を取り戻すための一つのファクターとなるのがロシアだと思います。別にアメリカと離れてロシアと同盟を結べというつもりはないけれど、日本がロシアとコミュニケーションできる関係にあるということがアメリカ及び中国に対して日本の存在感を高めることになる。日本にこそリーダーの資格がある日本にこそ資格がある山下 AIIBに話を戻すと、本部に理事が常駐するという形でないと、中国共産党の「一帯一路」戦略小組が実質的な理事会として支配することになる。ちなみに、「一帯一路」戦略小組は、今年1月に始動しました。 投票権シェアを決めるには、GDP規模のほかに、本来もう一つの重要な要素があります。それは債権国の地位を表す指標です。つまり、投票権シェアはGDP規模と純対外債権残高の多寡の加重平均とすべきなんです。 そうすると日本と中国の出資シェアの差はかなり小さくなるはずです。現在、日本が純対外債務残高では1位、中国は2位。3位はドイツ、4位がスイスです。本来なら、これら主たる債権国とともに、国際金融・通貨システムを作り直すべきなのに、世界最大の債務国がリーダーシップを握っているのが現状です。これは絶対矛盾なのです。つまりお金の貸し借りをするのに、多額の金を借りている側のロジックが通るシステムになっている。借り手のロジックがまかりとおる銀行システムなんか、アメリカを含めてどこの国にもない。貸し手のロジックが優先するのが当然なのに、いちばん借金している国が金融通貨システムのリーダーシップを握っているから、しょっちゅう危機が起こるのです。 だから、お金を一番多く貸している日本が考えるシステムが最も合理的なのです。この20年間世界最大の債権国であり続けている日本にこそリーダーの資格がある。 それから単独拒否権は中国も含めてどこの国にも持たせない。IMFのアメリカのようにはさせないことが重要です。 本部についても、言論統制が行われている中国のような国に置かれるべきではない。国際金融機関というのはさまざまな情報提供、情報交換の場でもあって、エコノミストをはじめ、政治アナリストや、都市計画・環境・人口問題の専門家など社会科学者の集まりなのです。それで、しょっちゅう様々なレポートを出さなければいけないんですが、経済問題だけでなく、政治的リスクもあるわけだから、政治問題についても書く必要がある。当然、言論統制にひっかかる恐れがあります。また、国際金融機関は、タイミングよく国際シンポジウムなどを開催する必要がありますが、そもそも、中国では、大規模な国際会議は、共産党の許可がなければ開催することすらできないはずです。 中国のような厳しい言論統制が行われている国では、社会科学者という存在自体、ほとんどジョークのようなものです。所在地がもう北京で決まったように言われているけれど、それじゃダメだ、せめて香港にしろということです。 それから、融資基準も信用基準を厳しくする、あるいは環境基準とかも厳しくする必要があります。馬渕 AIIBは、金立群という元ADB副総裁だった人が総裁になるともう決まっているようですが、初めから総裁が決まっている国際機関なんかあり得ませんよ。ADBをつくったときには日本が最大の出資国だから日本から総裁を出すということはあっても、最初から総裁を決めて引っ張って行くというのは相当強引なやり方ですね。山下 先ほど、ADBとAIIBが協調融資を図る可能性はないと馬渕さんはおっしゃいましたけれども、ADBが決めた案件にAIIBが下に入って資金を出すことはあり得ます。ADBとしては大口の資金の出し手が一人増えるということだから、それはあるかもしれない。しかし、融資基準が違うので、逆はあり得ない。馬渕 本部所在地を中国国内に置くべきではないというのは非常に重要なことで、国際機関に中国的発想はなじまないということを別の観点から言えばそういうことになる。要するに国際機関の本部と共産党独裁政権とは相容れないということです。 それから本来、こういうことは根回しの段階から参加国が集まって議論すべきなんですが、中国主導であれこれ決めて、それに対して日本の新聞がああでもない、こうでもないと書き立てているのは国際機関をつくるときのやり方としては異常です。 金融問題から離れて言えば、これはうまくいってもいかなくても、習近平政権にとってはマイナスでしょう。もしもうまくいったら、国際的な民主的な国際秩序に中国も従わざるを得なくなる。うまくいかなかったら、大々的に打ち上げたにもかかわらず失敗したことで責任を問われる。だから習近平としてはもう進むもならず、退くもならずで、なんとか日本に入ってもらって発足にこぎつけたいという気持ちになっているんじゃないか。だから日本がじっくり待っていれば、向こうのほうからどんどん敷居を下げてくる可能性はあります。山下 日本の強みは、この20年間、世界最大の純債権国だという実績があることです。これに「公正性」という理念を加え、公平で、債権者のロジックが貫かれた国際金融システム作りに尽力すべきです。国際通貨・金融システムの再構築に最も資格を有するのはわが国であって、アメリカには、その資格はまったくない。 IMFでも、中東でも、ウクライナでも、アメリカが世界中でやっていることはすべてアンフェアです。だからうまくいかない。アメリカの政策というのはほとんど失敗の連続じゃありませんか。成功したのは、いつまでも完全な独立国にさせないという対日政策だけです。これは、アメリカにとっては成功ですが、日本にとっては失敗です。 だから日本は全面的にフェアネスの理念を打ち出して、いかなる国にも拒否権を与えず、IMFも世銀もADBも、GDP規模と純債権残高のウェイトを反映したシェアにする、そういう新たな体制をつくるべきなのです。そうすれば世界最大の債務国であるアメリカの力はずっと弱まる。ただ、そうすると第一次大戦後のヴェルサイユ講和会議の国際連盟規約検討委員会で日本が人種差別撤廃を提案したときみたいに、アメリカが徹底的に潰しにかかるかもしれないけれど。馬渕 アメリカだけでなく、中国もフェアじゃない。それが大問題なんです。日本はもともと国柄も思想もフェアだったから、覇権主義とは無縁だった。山下 「八紘一宇」も決して覇権をめざしたものではなかったし。対米配慮という“妖怪”山下 返す返すも残念なのは、当時のマレーシア首相のマハティールが1990年に打ち出したEAEG(東アジア経済グループ)構想に日本が乗らなかったことです。これは日本の国家的痛恨事と言っていい。これもアメリカが反対したから、日本が参加できず、成立しなかった。国連で演説するマハティール元マレーシア首相(2003年) しかし、あのときもしマハティールのアジア地域統合構想に乗って、それがある程度うまくいっていたら、こんなことにはなっていなかったのではないか。日本と中国や韓国との関係も相当変わっていたでしょう。中国が単独でAIIB構想を出してついてこいなんていうこともなかっただろうし、日本と中国主導でアジア版IMFもとっくの昔にできていますよ。この時点から、日本がアメリカとの距離を取る方向へ政策変更し、アジアの地域統合にリーダーシップを発揮していたなら、わが国と近隣諸国との関係は、現在とは大きく異なるものとなった可能性がある。 フランスとは積年の敵同士だったドイツが、なぜ近隣諸国とうまくいっているのか。ドイツとフランスは伝統的に中国と日本より遥かに仲が悪くて、戦争ばかりしていたけれど、いまうまくいっているのは、一九七八年頃、ドイツがアメリカ離れを遂げ、自らが犠牲を払ってでも地域統合に身を投じたからです。馬渕 EAEGのときは、当時の米国務長官のジェイムズ・ベイカーに圧力をかけられて、日本はどうしようもなかった。山下 いや、日本はみんなが良いアイデアだと思ったんです。日本から地域統合を言い出すと、また「大東亜共栄圏」だの「八紘一宇」だのと内外から言われるけれど、マレーシアのほうから言ってきてくれたのですから。だけど、アメリカとあんなに敵対するマハティールに対して日本人はアンビバレントな感情を持ってしまっていたのです。しかし、結局アメリカが間違っていたことがはっきりした。マハティールは日本に対して本当に失望したでしょうね。馬渕 マハティールはIMFと喧嘩するぐらいの人でしたからね。でも、マハティールが正しかったことは、いまではIMFも認めている。山下 「マハティール=ソロス論争」というのがありましたね。馬渕 ああ、ありました。97年のIMFと世界銀行の年次総会で、マハティールが「アジア通貨危機は実物取引を伴わない投機的な為替取引が原因だ」と言って、ジョージ・ソロスたち国際投資家を不道徳で非生産的だと非難した。ソロスが反論して、マハティールをさんざんにこきおろしました。あのときは世論もソロスの側についていましたね。だけど、マレーシア経済だけが危機を脱したために見かたが変わった。山下 いまソロスが言っていることは、あのときマハティールが主張していたことと変わらない(笑)。 日本が単独で援助できることが、あの当時はたくさんあった。インドネシアも、韓国も日本に援助を求めてきたんだけれど、アメリカが嫉妬するというのでIMFと協議するということになった。韓国の場合、東京で会議を開き、IMFの人間も含め出席者のほとんどが日本人でした。日本にとっては常にアメリカがネックになっている。ここぞというときに、「対米配慮」という名の“妖怪”が永田町・霞が関・丸の内を徘徊するわけです。そのたびに、わが国はこれまで何回も国を誤っている。馬渕 戦後レジームからの脱却とは、実質的にアメリカに首根っこを押さえつけられている状況を少しずつ改革していくということです。それは軍事・防衛だけではない。経済・金融の問題も大きい。 中国がAIIB設立を提唱したことにメリットがあるとすれば、現行のIMF・世銀体制の問題点を国際世論に訴える一つの契機になることでしょう。日本が新しい国際金融秩序を提唱するチャンスかもしれません。やました・えいじ 1947年東京生まれ。1970年、慶應義塾大学経済学部卒業。東京銀行に入行し、調査部・国際投資部・海外部などに勤務後、1988年、大阪市立大学に移籍。同大学大学院経済学研究科教授を経て、現在、名誉教授。(財)日本国際フォーラム(JFIR)政策委員、東アジア共同体評議会(CEAC)有識者議員、欧州大学研究院(EUI)ロベール・シューマン高等研究所客員教授、対外経済貿易大学(UIBE、中国・北京)アジア経済共同体研究院客員教授。主著に『ヨーロッパ通貨統合─その成り立ちとアジアへのレッスン』(勁草書房)、『国際通貨システムの体制転換─変動相場制批判再論』(東洋経済新報社)、『東アジア共同体を考える─ヨーロッパに学ぶ地域統合の可能性』(編著、ミネルヴァ書房)など。まぶち・むつお 1946年京都府生まれ。京都大学法学部3年在学中に外務公務員採用上級試験に合格し、68年外務省入省。71年研修先のイギリス・ケンブリッジ大学経済学部卒業。2000年駐キューバ大使、05年駐ウクライナ兼モルドバ大使を経て、08年11月外務省退官。同年防衛大学校教授に就任し、11年3月定年退職。現吉備国際大学客員教授。著書に、『いま本当に伝えたい感動的な「日本」の力』『国難の正体』(以上、総和社)、『日本の敵』(渡部昇一氏との共著、飛鳥新社)、『世界を操る支配者の正体』(講談社)などがある。

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    ワシントンで「いかに日本人が理解されていないか」を痛感した

    葛城奈海(キャスター、女優) 「韓国や中国のロビー活動がすごい」という話は、よく耳にする。だが、日本にいる限り、一民間人がそれを体感する機会はなかなかないのではないだろうか。 私は昨年12月、米ジョージタウン大学「日米リーダーシッププログラム」という研修に参加するため、ワシントンDCを訪れた。ブッシュ政権時代にホワイトハウス高官だった面々を講師に迎え、安全保障やリーダーシップについての講義を受けた。連邦議会議事堂特別ツアーや、シンクタンクでのランチミーティングなど、硬軟織り交ぜたプログラムは刺激も充実感もたっぷりだった。 そんな中、特に印象的だったのが、「いかに日本人が理解されていないか」を実感したことだ。 ヘリテージ財団で昼食会が行われたときのこと。われわれが案内されたのは、皮肉にも「韓国ルーム」だった。壁には寄付者とおぼしき韓国人の肖像画が掲げられ、米韓の友好を示す写真もたくさん飾られていた。 そこで、ホスト役の米国人は「何かあったとき、われわれは韓国人が何を考えるかは分かるが、日本人がどう思うかは分からない」と語った。日本人との人材交流も、日本からの寄付も極めて限定的だという。 その言葉を裏付けるかのように、こんな質問を受けた。 「野田佳彦前首相は、愛国心に目覚めて尖閣諸島(沖縄県)を国有化したのではないですか?」 ヘリテージ財団といえば、石原慎太郎元都知事が「日本人が日本の国土を守るため、東京都が尖閣諸島を購入することにした」と宣言した場所である。そこで、このような質問を受けたことに、尖閣への思い入れも強い私としては少なからず衝撃を受け、こう応じた。 「それは違います。野田前首相は、東京都が購入したら中国と大騒ぎになると恐れ、事なかれ主義で国有化を決めたのだと私は理解しています」 米国の知識人にさえ、これほど日本が理解されていないのだと痛感した。一般の米国人に至っては、日本人と中国人、韓国人の区別がつかない人も多いという。 ちょうどDC赴任中の通信社勤務の友人とも会ったが、彼女も「中国人は嫌われているけれど、何を考えているかは理解されている。日本人はニコニコしているだけで何を考えているのか分からないと思われている」と話していた。 白状すれば、私はそれまで米国の覇権主義が鼻につき、積極的に米国と関わろうとはしてこなかった。だが、この訪米でそれを猛省した。交流することと、媚びることは違う。 「ロビー活動」というと、日本人は何かオドロオドロしい印象を抱いてしまいがちだが、そんな大げさものでなくてもいい。一民間人が自分の思いを伝えるだけでも、何も伝えないのとはまったく違うのだ。

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    “苦境”中国株 生かせなかった日本株バブルの教訓

    山崎元(経済評論家) 遠くのギリシャより、近くの中国。上海総合指数が1カ月で約3割も暴落した中国の株価の行方が気になる。そう思っていたら、「中国の証券当局である証券監督管理委員会は4日、大手証券21社に対して、上場投資信託(ETF)への総額1200億元(約2兆4000億円)の投資を実行に移すよう求めた」というニュースが入ってきた。 1年間で約2・5倍に膨れあがってから暴落を始めた中国に対して、たった2・4兆円の買い支えは、多分「焼け石に水」であろうが、どのくらいの規模と勢いのバブル崩壊なのかを見る上で、今後の推移を注目したい。バブル景気真っ只中の東京証券取引所の場立ち=1988年6月10日 上海総合指数の株価推移を眺めると、1989年末に最高値を付けて暴落した日本のバブルの株価推移によく似た格好をしている。日本の場合も、92年の宮沢喜一内閣で公的年金資金を株価の買い支えに使うことを決めた。 今回の中国株バブル(「バブル」と呼んでもいいと思う)は、かつての日本株のバブルと崩壊の流れを早回しで見ているようだ。 株価に対して「即効性」のある対策は、株式を買うことか、又は売ることを制限する「需給対策」だ。需給型の株価対策は株価を一時的に上げるだけ。企業の実態が変わらず株式の価値自体が上がるわけではないので、一過性の効果しか持たないと考えるのが定石。しかし、需給型の株価対策以外にすぐに効く対策が無いので、時の為政者は需給型の対策の誘惑にかられやすい。 そこで焦って買いを入れると、そのこと自体が株価の割高に危機感を抱いている証拠だと足元を見られてしまう。 数年にわたって行われた日本の「公的資金の買い」は、買っている間だけ株価の支えとなり、買い終わると株価が下がることの繰り返しで、目端の利く市場参加者の食い物にされて、年金積立金に高値で買った株を積み上げる散々な結果に終わった。 今や大国を気取る中国政府が、没落した「ジャパン・アズ・ナンバーワン」の国の教訓を生かせないとは情けない話だが、「たまらなかった」のだろう。お気の毒なことだ。 中国の場合、バブル崩壊時の日本ほど市場の国際化が進んでいない。「公的資金の買い」の裏をかいて儲けた「外国人投資家」のような参加者層が薄いことや、経済を力ずくででも管理する意思を有する政府の下にあるので、あるいは、株価対策はかつての日本の場合よりも効果を発揮するかもしれない。 しかし、「需給対策によって上がった株価は信用できない」というのが、株式投資の大原則だ。 日本の教訓をもう一つ。株価下落の後には、少々遅れて不動産価格の下落がやって来るはずだ。中国経済の成長鈍化のペースは案外速いのかもしれない。注意しておこう。

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    中国バブル崩壊はマジでヤバい

    中国株暴落が習近平政権を大きく揺さぶっている。中国の株式市場では、当局のなりふり構わぬ底支え策を尻目に投資家が売りを浴びせ、一時8%以上値を下げるなど時価総額400兆円超が吹き飛んだ。日本市場への影響はさらに広がるのか。中国バブル崩壊はマジでヤバい!

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    習政権がハマった「信用取引」のワナ 外国人投資家が株価暴落の引き金に

    田村秀男(産経新聞特別記者) 中国・上海株の下落に歯止めがかかりそうにない。ギリシャのデフォルト(債務不履行)に伴う世界の市場波乱のせいではない。習近平政権が進めてきた株価引き上げ策が今や裏目に出て、株価を押し下げる罠にはまってしまった。罠とは信用取引である。 信用取引は、投資家が証券会社からカネを借りて株式投資する。人民銀行が利下げすると、証券会社の資金調達コストと投資家の借り入れコストが下がるので、たちまち信用取引が活発になる。証券会社は投資家への貸し出しによる金利収入が大きな収益源になるので、新規株式公開(IPO)や増資で自己資本を拡充し、貸出余力を大きくしてきた。 上海株式市場での信用取引による買い残高は6月中旬時点で29兆円以上、3兆円弱の東京証券取引所の約10倍である。時価総額では上海は東証よりも2割弱大きい程度だから、上海の信用取引の度合いの大きさは、ず抜けているとみていい。昨年11月初めから今年6月初旬までの間に、上海株価は約2倍、信用取引残高は3倍に膨れ上がった。 グラフは上海株価指数と信用取引による1日当たりの信用買いである。信用買いの膨張とともに株価が大きく上に振れ、縮小とともに下落する連動ぶりがよくわかる。中国人民銀行は昨年11月、今年3月、5月、そして先週末に利下げしたが、そのたびに信用取引がぐんと伸び、株価上昇に弾みがついてきた。 人民銀行の利下げは、信用取引を拡大させて株価を引き上げる。人民銀行は日銀のように政府から独立しているわけではなく、党中央の指令下にあるのだから、習国家主席が株高の号令をかけるだけで株価が上がる仕組みなのだ。香港ハンセン指数を示す株価ボード 前回の本コラムで触れたが、上海株価暴落の引き金を引いたのは、党中央によるもう一つの株価引き上げ策である。11月の利下げとほぼ同時期に実施した上海と香港の株式の相互取引による上海市場への外国人投資家の呼び込みだ。 香港市場を経由すれば外国人投資家が初めて中国政府の認可なしに上海株に投資できるようにした。ところが、外国投資ファンドは逃げ足が速く、バブルとみるや、いち早く売り逃げて、巨額の売買益を懐にした。 株価の急落が始まると、信用取引が急激に縮小し、株価の崩落が加速する。株価がピークに達した6月12日以来、6月末までに信用買い残高は3兆円近く減った。株価が暴落すると、値上がり益で借金返済する当てが外れた投資家は期限までに証券会社に返せなくなる。証券会社は投資家への貸付資金を銀行から借り入れているので、最終的には銀行の不良債権となる。 銀行は不動産バブル崩壊に伴う地方政府や不動産開発業者向けに巨額の不良債権を潜在的に抱えている。北京はさらに利下げを連発するしか打つ手はないが、バブル延命策に過ぎず、効能はすぐに切れるだろう。

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    これから中国で地獄が始まる

     いつ弾けるのかと言われていた中国市場でついにバブルが崩壊した。このような場合必ずと言ってよいほど出てくるのは『私の損は誰かの得』という主張であり、これがよくある陰謀論の温床となっている部分がある。実は経済は『非ゼロサム』であり、自分が損をしたからといって誰かが得をしたのではないのだ。では、その金がどこに消えたのか?という疑問に突き当たるわけであるが、バブル(泡)という名の通り、一瞬にして消えてしまうのである。 これを理解するには『信用創造』というものを理解する必要がある。例えば、100万円の土地を持っている人がいるとしよう。この人が土地を担保に銀行から80万円(8掛け担保)を借り入れ、それを証拠金として入れて10倍の信用取引していたとする。 これを計算すると100万円が、100万+800万(80万×10倍)ということになり、100万円のお金が900万円に膨れ上がっていることになる。現金取引も証拠金取引も市場から見れば同じお金なのである。 しかし、これが下落に転じた場合、この逆転現象が起きる。特に信用取引などのレバレッジマネーでは、これが顕著になる。現金取引であれば、損が出たとしてもその投資額だけで済むが、信用取引では、損も信用倍率により増加するのである。 これを先の例に合わせると、10倍の取引では10%株価が落ちれば80万円の証拠金がなくなってしまう。この場合、不足分を『追証』として補うか、精算するしかなくなるわけだ。この場合、市場からは一気に800万円の価値が消えることになる。 そして、この80万円を返せなければ、担保にしていた不動産の売却を迫られることになる。そして、損を出した人が増えれば増えるほど、不動産価格が下落する。買い手がいない市場では、価格は落ちるしかないのである。そして、不動産価格の下落は他の不動産所有者にも影響を与える。例えば、先ほどの100万円の不動産が50万円まで落ちれば、銀行にとっては担保評価割れになり、所有者は売却しても債務の返済ができないことを意味する。また、他の人がお金を借りる場合においても、不動産価格の下落は借入限度額の減少を招くわけである。  そして、これは負の連鎖を起こすのである。このような信用創造の逆転現象を『逆ミンスキー現象』と呼ぶのだ。実はサブプライム問題にはじまるリーマン・ショックの際もこれが起きたのである。当時、債券バブルにより世界の金融市場は真水のお金の60倍程度まで膨れ上がっていた。しかし、サブプライム問題とそれに伴う信用不安によりこれが半分程度まで落ちてしまったわけである。その結果、世界の市場で資金量が急激に縮小し、不動産、債権、株式のトリプル安になってしまったわけである。そして、この資金量不足に対処するために行った政策が量的緩和という通貨増刷政策であったといえる。1(真水のお金)×60(倍率)=60から、倍率が半分になったのであれば真水のお金を2倍にすれば、2(真水のお金)×30=60で市場の資金規模を維持できるという理屈である。 そして、この量的緩和により米国の市場は回復したのであった。  では、今中国で何が起きているのかということになる。中国は成長の鈍化が伝えられる中で、上海総合指数は昨年7月から2.5倍、年初から60%の急上昇をしていた。これは異常な水準であるといえる。では、この資金がどこから生まれたのかということになるわけだが、この原資の多くは不動産や債券市場から離脱した資金であると言われているのだ。  実は、中国都市部の不動産価格は逆ざや状況になっていた。つまり、平均借入金利よりも家賃利回りが低い状況になっていたのだ。つまり、賃貸用に不動産を購入すると保有しているだけで目減りしたり損失が出る構造だったのである。例えば、1000万円の不動産を買ったとする。これが月5万で貸せれば5万×12=60万、つまり表面利回り6%ということになる。同じ不動産の価格が2倍に上がれば金利は3%という計算になる。中国の平均的な調達金利は8%以上、そして都市部の平均利回りは2%前後。これでは投資したくてもできないわけである。 また昨年以降、実体経済の悪化に伴い債券市場やシャドーバンキングにも不透明感が強まっていた。中国の場合、多くの企業に地方政府や政府関係者が関わっているため、政治的に潰れない(潰させない)と思われていた。つまり、このような商品に投資することで安全に高い金利が得られると思われてきたわけである。しかし昨年以降、中国政府は債権のデフォルトを容認したため、債権が安全なものという幻想が失われたわけである。また、中国政府は地方政府が係わる債券等に関しては、低金利での借り換えを促進する政策をとり始めたのである。その結果、債券市場が魅力的な市場ではなくなってきていたのである。 そして、この問題の根底には中国の脆弱な年金社会保障制度と金融システムの問題があるのだ。中国は年金制度がないに等しく脆弱である。その為、個人は老後資金を自ら運用しなくてはいけない。そうしなければ老後が保証されないのである。そして、中国の預貯金はインフレ率から見た場合、常に逆ざや状態にあったのである。例えば、物価上昇率5%の際に、3%の定期預金をしていれば実質2%目減りする計算になる。このマイナス金利を避けるため、多くの国民が高金利の運用商品を探し、一種のファンドである理財商品や不動産、株式市場を渡り歩いていたのであった。中国江西省の証券会社で、株価の動きを見る個人投資家=3日(共同) そのような環境の中で、不動産市場も債券市場も金利を得られない状況になり、だぶついた資金が一極集中的に株式市場に投入されたものと思われる。だからこそ、中国の株式市場の参加者の80%以上が個人投資家という構造なのである。また、その結果、中国株式市場の時価総額は中国のGDP規模と同じレベルの10兆ドルを超える水準まで上がり、売買高も市場規模2倍以上のNY市場を大きく超える状況になったわけである。  しかし、企業業績の悪化が予測され配当の減少が予測される中で、このような状況をいつまでも保持できるわけではなく、この臨界点を超えたのが6月12日から始まる継続した下落であったといえる。中国株式は約3週間で3割以上下落した。額で言えば3兆ドル以上、GDPの3割が一気に失われたことを意味する。ギリシャの危機とこの状況をうけて、7月6日から中国政府の意向を受けた証券会社によって2.6兆円規模のPKO(プライス・キープ・オペレーション)が行われたが、株価下落を抑制することができず、現在のところ失敗に終わったと判断される。7月8日、株価の暴落を抑制するため、上場株式の半数以上を売買停止(売買が停止されている限り、株価が決まらないため損失が出ない)にしたが、これでも株価下落を抑えきれなかった。 また、中国の中央銀行は、株価下落の影響を受ける証券会社に対して、特別融資を行う(中央銀行が証券会社にお金を貸し出す)として、金融不安を抑える政策も同時進行で取りはじめている。この件に関しては、中央銀行による間接的な株価購入ではないかという国際社会からの批判も出ている。そして、上場企業の大口株主などに対して、6ヶ月間の売却禁止を命じた。これも売却量が減れば価格が下がらないという理屈である。 しかし、このような強権的な政策をとっても、市場のひずみを拡大するだけだけという意見もあり、これが外国人投資家の離脱を促進する部分もある。バブル崩壊リスクだけでなく、政治的リスクとして認識されているからなのだ。いつ、自らが保有する株式を売却できなくなるかわからないからなのである。そもそも共産主義の国であり、どこまで権利が守られるかも不透明なのである。 中国ではこれから地獄が始まるのであろう。

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    経済の掟に逆らって高度成長を続けようとした中国共産党

    上念司(経済評論家) まず勘違いしてはいけないことがある。今回の暴落によって中国の実体経済が悪くなるのではない。元々中国の実体経済は悪かった。それなのに、株が上がっていた。みんながおかしいと思ったが、みんなで渡れば怖くない(ハーディング効果)と中国の個人投資家はこぞって株を買った。しかも、借金をして手持ち資金の何倍ものポジションを構築した。株価が右肩上がりであり続けるなら、彼らは巨万の富が得られたであろう。しかし、そうはならなかった。 そもそも、中国の実体経済を表す経済指標を信用できない。かつて李克強はそのように語ったことがウィキリークスに暴露されている。アテにならない数字の中で、多少でも参考になるのは電力消費量、鉄道貨物輸送量、銀行融資残高の3つだ。いま中国の経済政策を仕切る李克強首相さまがそう言っていたのだからきっとそうだろう。 5月の鉄道貨物輸送量は前年比-11.5%で、もう17ヵ月連続で減少が続いている。電力消費量は前年比+1.8%だが、昨年の+3.8%に比べると、伸び率が大幅に鈍化している。そんな中で、年末から銀行融資だけが前年比+14.3%と伸びている。 物流が減って、電力消費も減っているのに、銀行融資が伸びているということは何を意味するだろうか?つまり、実体経済はどんどん停滞しているのに、お金だけが市場に出回っているということだ。 元々、中国の経済的な停滞は日本のようなお金不足(デフレ)によってもたらされたものではない。どの国でも、高度経済成長は余剰農民が都市部に出稼ぎに出てくることで生じた無限の労働力に支えられている。この点では日本も中国も変わらない。しかし、その無限の労働力の供給が途絶えるとき、高度経済成長は終わる。これを「ルイスの転換点」という。 1960年代後半に入ると、日本では余剰農民がいなくなりルイスの転換点を迎えたと言われている。中国においても、リーマンショックが発生した2008年以降、同じようにルイスの転換点を迎えたと見るのが一般的だ。 しかし、中国共産党はこの経済の掟に逆らって、高度経済成長を続けようとした。7%という経済成長率の目標は、低成長社会に向けての通過点だとしても依然として高すぎる。それでも、彼らがこの目標を下げられない理由は、しょうもないメンツの問題だ。 中国共産党は「抗日戦争」など全く戦っていない。旧日本軍と戦ったのは国民党の国民革命軍であり、共産党はゲリラとして山に籠り、仲間同士で殺し合いをしていただけだ。そもそも、大東亜戦争の終結は1945年であり、中華人民共和国の建国は1949年である。一体どうやって日本と戦争したのであろうか? もっと正確に言えば、毛沢東は共産党ゲリラが日本軍と交戦することを禁止し、交戦して戦力を消耗した隊長には懲罰を与えていた。ひたすら戦力を温存し、日本と国民党軍を戦わせて双方を消耗させようとしていたのだ。つまり、抗日戦争などと言うもの自体がファンタジーであり、日本帝国主義者から中国を解放したという話自体が大嘘なのだ。 中国共産党にはあの土地を統治する正当な権限はない。日本軍を武装解除したソ連軍から武器を強奪し、蒋介石を本土から追い出して打ち立てた軍閥政権なのである。 しかし、そんな共産党であっても、経済、軍事で連戦連勝(?)を続ける限り、人民は支持して我慢する。だから、高度経済成長は本来なら永久に続かなければならないし、南シナ海や東シナ海で日米海軍を蹴散らさなければならない。もちろん、そんなことは無理だ。 特に経済に関しては、習近平は「新常態」などという詭弁を使って、高度成長は無理だということを共産党の方針にしようとしている。何のことはない、景気が減速するから人民は我慢しろという話だ。中国海南省博鰲で行われた「博鰲アジアフォーラム」の会合に出席した中国の習近平国家主席=3月(共同) ところが、景気の悪い話はやはり人民のウケが悪かったようだ。新常態よりも、株のフィーバーの方が圧倒的に盛り上がった。相次ぐ利下げと、官製メディアを使った煽りに、個人投資家はすっかり騙されてしまった。「株を買う事はいいことだ!」と気が狂ったように官製メディアが煽れば、中国人民は「この株高は共産党公認か!」と思ったに違いない。誰もがリスクに鈍感になった。そして、できるだけ大きなポジションを張ろうと、借金をしてまで株を購入した。その総額は日本円で42兆円と言われている。さすがにやり過ぎだ。 その兆候は昨年秋ごろからあった。2000ポイントを割っていた上海総合指数が俄かに上昇を開始したとき、私は香港の投資銀行関係者にその理由を尋ねてみた。そのときは「香港と上海の間の資本取引規制が緩和された。同じ会社の株でも上海の方が安い銘柄が多いので資金が上海に流れ込んでいる。」という説明だった。 その後、上海総合指数は急速に上昇し、3700ポイントを超えてきたので、私は再度説明を求めてみた。最初は「年末年始の3回の金融緩和が効いている」と言っていたが、4000ポイントを超える頃に訊きなおすと、「MSCIインデックスに中国株が組み入れられるので…」と説明が変わっていた。しかし、真相は株を買うための借金の総額が増えていたという全く笑えない話だったのだ。 今回起きている暴落は借金をして行った信用取引の解消に伴うバブル崩壊である。信用取引の残高がある程度減るまでは株価の下落は続くだろう。中国人民のうち、株式投資をしている人口は9000万人とも2億人とも言われている。彼らはどちらかというと裕福な人々になるだろう。今回の大暴落で老後の資金が吹き飛んでしまった人や、あるいは全財産をなくしてしまった人もいるだろう。彼らは共産党政権に対して強烈な不満を持つことはまず間違いない。 そんなとき、共産党は何をするだろう。国民の不満を逸らすために反日カードを切る可能性はないだろうか?尖閣諸島周辺で揉め事を起こして、それによって愛国心を喚起したり、「今回の株価暴落の真犯人は日本の機関投資家だ!」といった陰謀論を吹聴したりする可能性はないだろうか?共産党の歴史を紐解けば、彼らが一党独裁を続けるためなら、殺人、拷問など朝飯前であることを忘れてはいけない。 日本への影響について考える際に、輸出が減るとか爆買いが手控えられるとかいった話は枝葉末節だ。経済的な影響はきっとあるだろうが、日銀やFRBが本気になればこの程度の経済危機は難なく乗り越えられる。そんなことよりも、周辺海域における安全保障や中国在住の日本人の安全を心配すべきだと思う。

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    窮地の中国に誰がファイナンスするのか

     現象面から見るいまの中国市場の混乱は、多くの経済メディアが盛んに書き立てている通り大変な状況に陥っており、株式市場を通じての銘柄そのものの売買停止や、報告が義務付けられている上場銘柄の株式の大量保有者に半年間の売却を禁じるなど、市場の混乱を抑えようと当局が躍起になっている姿ばかりが見受けられます。 まがりなりにも90年代から中国経済と係わり合いを持ってきた身としては、いつか中国がこのような問題をやらかすだろうとは思いつつも、中国共産党の懐の深さ、人材の豊富さが中国の金融政策のダイナミズムをうまく制御しているように見えてもいました。いわば「共産党員が資本主義を操縦している」にもかかわらず、そのお手並みは実に見事であって、シャドーバンキングが表面化し始めた2004年や、流行病であったSARS禍、リーマン・ショックといった事変の後の速やかな立ち直りはむしろ驚嘆に値するほど素晴らしい手腕であると感じられました。 私事ながら、私自身は2006年から07年までに、中国上海、深センでの事業の将来性に不安を感じ、大幅に規模を縮小しました。わずかに残した不動産を残余の不動産管理の部門を現地にいる法人との合弁会社に移管し、また英蘭系の金融会社経由でわずかな取引を残すのみの状態です。 中国市場から撤収した動機は単純に他の新興国への投資のほうが利幅が多く稼げるからであって、いまなお中国で頑張っておられる日本系企業ほか中国にとっての外資系企業は中国国内市場の大きさに魅力を感じていたり、中国市場も睨みつつ中間財を扱い、アメリカやオーストラリア、南米、EUといった消費地に輸出する事業に従事されています。我が国の貿易相手国としての中国の役割が大きいという直接の意味のほかに、これらの外-外、つまり日本資本下にある中国現地法人からその他市場への輸出による儲けが日本の経常収支のそれなりの部分を支えているということは良く踏まえておく必要はあるでしょう。つまり、中国経済の変調は、ただちに日本経済の行く末にも大きな悪い影響を及ぼす可能性が高く、また回避不能であるということです。 私達のように、事業性よりも市場の成長性といった相場を見て中国経済を判断している業種からしますと中国本土にある銀行にお金を預けること自体がリスクを孕みます。まず中国の銀行運営は仮に外資系であったとしても信用できない場合があり、中国の政策如何で突然海外送金が禁止されてしまったり、ファンドや法人に対する税制が変更になるリスクを拭い去れません。 日本人の中国経済に関わる知恵として、日本人だけでファンドを組まず、必ずアメリカ人やドイツ人、ロシア人とご一緒するであるとか、投資の元金になる口座は必ず香港に置いておいて、中国投資をする場合にはこれを担保にして中国本土の銀行から金を借り、いつ政策がおかしくなっても香港と本土の銀行間での取引上の問題になるよう仕組みを構築するとかいう技巧が求められます。つまり、理不尽に資金を凍結されたときに、政策上の問題で資産が不当に拘束されたのは中国当局のせいだ、といつでも言える体制にしておくことで資産を保全することができるということです。 逆に言えば、日本の外務省は中国政府なみに信用できません。中国本土で理由なく資本が差し押さえられたので現地の領事館に泣きついたところで日本の役所は何もしてくれない、何もできないことがほとんどです。結局は、現地で中国人弁護士を立て、不利な司法で戦い抜いて、稀にしか勝てない裁判を経るしか方法がありません。それならば、より中国政府や金融当局、地方政府に強硬な態度をとることのできる米独露といったコワモテでちゃんと対応してくれるような人たちをバックにつけない限りいつでも酷い取引を押し付けられることになるからです。 そういう不利でどうしようもない市場である中国に何故投資をするのかといえば、そのリスクを承知で踏み込んでいってもなお儲かる可能性があるからです。国際金融をある程度やっている人には当たり前のことですが、新興国に対する投資は、野蛮な政府、不可解なことをやる当局、無能な現地法人といった幾つもの障害がある以上に利益率が良いと見込んで投資するのです。ベトナムもラオスもミャンマーもカンボジアも、いまでこそそこそこ日本人を見るようになりましたが、参入した当初は見た目のインフラが整わない以上に常識も理屈も通じない現地政府の人たちとの接触を繰り返して、相互理解し、お互いきちんと儲けてしっかり発展しようと握手をし、酒を飲み交わしてようやく前に進む話ばかりです。日本でこんなビジネスをしたら単純に贈賄以外の何者でもないことでも、投資をするからには現地の人たちのやり方を知り、愛されなければならないということです。 これは新興国を笑う話ではなくて、かつての日本だって戦後初期はそうだったということです。田中角栄さんや自民党の55年体制といったいろんな仕組みがありましたが、経済成長というのはどこもだいたい似たような経路を踏むものです。 今回の中国の場合は、そういう途上国、新興国経済特有の、地域のボス、政府の権力者が振り回す経済から、徐々に発展を遂げて、世界貿易体制の一角としての中国、世界金融市場での存在感を大きく示す中国となったわけです。要は、もう新興国のようなボス政治で金を包めば利権を分け合える社会から脱却しなければなりません。しかしながら、いまの習近平国家主席が目指している反腐敗運動は過渡期であり将来の中国に絶対に必要なこととはいえ、豊かになると共に多くの蓄財をした中国共産党の要職にいた先人を見たいまの担当者が「俺だってああいう風に儲けたい」と思うのが人情です。中国は2012年ごろから不動産バブルの崩壊ともいえる地方都市での開発計画の失敗が繰り返され、値上がりする不動産を担保にして金を借りて投資を膨らませていくことでリッチになる道が閉ざされてしまいました。 不動産価格の低迷が実体経済の成長を押し下げる傾向を強めると、証券市場の盛り上がりで代替しようとするのは日本も同じ轍を踏みました。このあたりは、日本も中国もブラジルもあまり変わりません。課題は均衡な発展、富の再分配機能をいかに働かせるかであって、ここに中国はあまり気を払うことはありませんでした。 結果として、中国国民のみに解放されているA株に公的資金が注ぎ込まれますが、国民のみに押し込まれてもインデックス投資は外資系資本が現地法人を作って運用する分には開放されておりますので、結果的には外資系資本が入ってくるうちは値段は上がりますし、直接売買のできるB株やレッドチップ、各種商品先物も連動して価格が上昇することでその実態はともかく収益性は担保できるようになり、中国経済の成長率をやや底上げすることになります。市場参加者がドン引きする当局の泡食った対応市場参加者がドン引きする当局の泡食った対応 相場も循環するものであり、2013年水準からすれば暴落したとされる2015年6月下旬の平均株価でさえインデックス的には三割以上高くなっています。投資家としては、数年上昇水準にあったのだから、高値警戒から大幅な調整が入ることぐらいは普通にある話です。小さいとはいえ鉄鉱石やレアメタル相場もすでに下落リスクに晒されていましたから、中国株が下落したという話を聞いて、私どもとしても「ああ、調整局面に入るのだな」ぐらいにしか思っていませんでした。 しかしながら、中国当局はかなり踏み込んだ対策を始めました。上場している銘柄や商品先物などで取引が停止された銘柄は一説には全体の4割強を占める1,545銘柄にのぼり、売買水準も標準的な売買高から2割程度にまで減少。さらには、大量保有者の売買制限、空売り規制に中国系証券会社に対する2兆元もの買い指令、時間を限定した公的資金での買い取りの示唆など、脊髄反射のように打ち出す施策がすべて公平な市場、換金性の高い相場という観点からすると180度反対のものばかりで市場参加者としてはドン引きです。 確かに焦りはあるのでしょう。アジア通貨危機を中国発で起こしてはならないという危惧もあるでしょうし、かつてはマレーシアのマハティール元首相のように暴力的で投機的なヘッジファンドとの戦いの話もあるかもしれません。ただ、投資家としては仮に今回バブル崩壊的な価格下落を当局が恐れ、社会不安にならないようにしたいと願って行った施策だと性善的に考えたとしても、取引が停止になるようなところに投資家が金を突っ込むことはしません。というのも、価格が下落して損をするのは受け入れることはできても、市場が閉まって価格がつかないのでは引き揚げたくても投入した金額が全損になって新規の投資に資金を振り分けることができなくなるからです。 本当に暴落して80%損を出したとしても、20%を現金化して底値でもっと有望で価格が反転する銘柄を選別して再投資をするファンドはたくさんあります。押し目買いや、成長が期待できる割安銘柄の落ち穂拾いこそ新興国投資の王道であって、現物と信用取引の比率を調整しながら最善のポートフォリオを組もうと考えるまともな投資家ほど公平で安全な市場を求めるのは当然のことなのです。ここでいう安全というのは、下落しない市場という意味ではありません。換金性や流動性のある市場ということです。 こういう政策を中国当局がやるのだ、と分かってしまうと、中国市場に対する信頼は地に堕ちざるを得ません。たとえ、価格統制をしなければ社会不安を呼び中国経済全体に対する不信感を抱かれてしまうのでどうにか回避したいという気持ちであったとしても、です。投資家としては市場がちゃんと開いていてくれて初めて相場なのであって、当局の考えや心理で市場が開いたり閉じたりするのでは怖くて金を突っ込めませんし、信用取引などもっての外です。 中国市場については、テクニカルな部分で言いたいことはたくさんあるのですが、見通しとしては通貨さえも持っていたくない状態じゃないかと思います。少なくとも、中国国内で事業をやっているいないにかかわらず、現金預金は香港やマカオ、シンガポールといった別の国の口座で管理するでしょうし、ファンドはなおのこと中国への直接投資を見送ることになります。なんてったって、怖いですから。そういうリスクをとってでも欲しい銘柄を物色するにしても、それは真の意味で中国国内市場で独占的で、海外に出ても競争力があるようなぴかぴかの銘柄だけ、凄く割安だと思うものを選別して突っ込むことになるでしょう。しかし、そういう銘柄ほど今回は取引停止になってしまっています。それはもう、見事に有望な銘柄や国際競争力のあるところだけが停止になっているので、やはり中国当局は良く分かってるなと感じるところではあるんですが、しかし売買停止になってしまっていると彼ら自身が海外での取引をキャンセルされてしまい、調達面でリスクを抱えることになります。本当の意味で、ギリギリの調整を求められることでしょう。 このような情勢になると、通貨バスケットであるSDRに中国元を加える話も、AIIBのようなアジア全体を利権の対象にするような開発投資の枠組みもペースダウンせざるを得ません。同様に、民間ではアリババ集団その他中国市場とアメリカなどで平行上場している企業は下手をすると懲罰的制裁を受けて上場取り消しになる可能性すらあるかもしれません。企業が悪いわけではないのに。 相場を見る側としては、このぐらいの調整で泡を食ったような対応を中国当局がやった、ということそのものがサプライズでありました。何かするにしても、もっと堅実な打ち手を考えたんじゃないかと思いますし、世界経済に対しても間違いなく大きなマイナスのインパクトを与えます。そして、何より経済再建途上であった日本も大きなブレーキ局面になることは間違いないでしょう。今年の3Q(10月期から12月期)は大幅なマイナスに転じてせっかくアベノミクスで増えた税収も元通り以下に陥ることだって容易に想像できます。 これはもう、どうしようもありません。中国共産党が解体になって中国国内が内戦でも始まってまた軍閥が割拠するような停滞した中国にならないよう願うのみです。そういう危機感を強く持って日本は中国との外交に臨まなければならないでしょうし、中国で大規模な暴動が起きて日本人の生命や財産に危機が生じたときには速やかに対応できるような措置が取れる準備を考えておく必要さえもあるでしょう。 悪いシナリオばかりが頭をよぎりますが、中国国内で収拾のめどが立つことが絶対にない市場の混乱において、最大の味方は本来は投資家の押し目買い、落ち穂拾いです。彼らは善意で突っ込むのではなく、儲かるからお金を出すのです。そういうファイナンスが中国に舞い込むようにするために、一刻も早く信頼回復できる施策を取ってもらうほか方法はないので、日本人としてもパニックになることなく中国とどう向き合うか考えるべきなんじゃないかと強く思う次第です。

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    中国バブルは崩壊したのか

    後、大幅上昇となり、プラスとなったものの、異常な乱高下は、今後も混乱が続くことを示唆している。 この中国株の暴落が、バブル崩壊の第二ステージであるのか、最終章となるかは、今後の動き次第である。しかし、この1年で2倍半になったのだから、バブル崩壊が始まったとすれば、30%の下落で終わるはずがない。 暴落がバブルかどうかは、判断が分かれることが多いが、今回の中国株の上昇はバブルであることは間違いがなく、異論はないだろう。なぜなら、個人の信用取引によって急騰し、また不動産からの逃避資金がなだれ込んだこともあり、明らかな流動性相場、つまり、買いが増えたから上がったことは明らかであり、買うから上がる、上がるから買う、上がるという期待が現実の上昇で裏付けられる、だから、さらに期待が膨らみ、さらに信用を増やして買う。こういう循環であるから、明らかなバブルだ。 問題は、ここで一気に暴落してしまうのか、暴落するとすればどこまで下がるのか、反転する底はどの水準なのか、ということと、このバブル崩壊は、どのような影響を世界に与えるか、ということだ。 暴落の今後については、当局があからさまな株価防衛策を取ってきた、というのは、日本の経験からすると、さらに売り方がバブル崩壊で儲けるチャンスを増やすだけだが、中国の場合は、当局の個人投資家に対する力が圧倒的に強く、国際的な投資家が空売りを仕掛けにくいこともあり、一時的には効果を発揮する可能性がある。実際に、7月9日の動きはそうであり、上海株価指数は、下落の後、大きく反発した。 しかし、動かしがたい真理は、バブルにおいて買った投資家は、永久に持ち続けることはなく、一旦悲観論が相場に広がれば、今売らなくても、次ぎにチャンスが来たら売ろうとすることだ。恐怖にまで昇華した悲観が消えることはない。 したがって、一時的な株価反転があっても、それは次の売りを呼び込むだけであり、結局は、暴騰が始まった水準までは落ちていくことになる。 中国政府があらゆる手段を講じて株価対策を行ったのは、現状では、全く効果を発揮していないように見え、意味がないとか、さらに、むしろ逆効果だから、しない方がいい、などという有識者がいるが、それは大きな間違いだ。暴落においては、株価はオーバーシュートし、必要以上に下がる。政策には、これを止める効果はあり、その政策は、オーバーシュートが始まってからでは遅いので、何があっても、やれることはすぐにやった方がいいからだ。中国安徽省の証券会社で株価の動きを見る個人投資家=7日(共同) ただし、これで止まったと思うのは早計で、結局、個人投資家の売り場を作ることには変わりがなく、現在、取引停止銘柄が多いことから、これらの売りが出てくれば、今後、まだまだ下がる可能性はあると思う。あるいは、見かけ上の上海株価指数が下げ止まっても、市場のセンチメントや実態は、もっと下がっている、ということになるだろう。 一方、このバブル崩壊が、世界にどのような影響を与えるかは、長期にわたって、大きな影響を与えると思う。少なくとも、ギリシャの経済破綻よりは圧倒的に影響が大きいことは確実だが(ギリシャの世界への影響はほぼゼロであるから)、日本株もこれにつれて下落あるいは停滞が続くだろう。7月9日は、上海の戻りを受けて、急反発したが、この乱高下はむしろ、センチメントが過敏になっていることを示しており、今後も、乱高下が続き、不安定となるだろう。 ただし、今後も、中国株バブル崩壊は日本株式には直接は影響を与えない。世界同時株安と言われるような、株価の暴落伝染メカニズムは、今回は働かないはずだ。 なぜなら、中国国内の個人投資家が中心になって作ったバブルは、崩壊しても、中国個人投資家の損失に留まる。この株式バブルが中国不動産バブルから資金の移動により作られたことでも明らかなように、中国国内の問題なのだ。世界同時株安のメカニズムは、世界的な機関投資家が世界中に投資していることによる。つまり、同じ投資家が世界中に投資しているので、その投資家が一つの国で大きな損失を被れば、それをカバーするように他の国の市場でも売りが大量に発生し、下落が始まる。また、同じ投資家だから、そして、その投資家同士は非常に似ているから、センチメントは、全員が悲観に傾く。この悲観が伝染するので、すべての株価が下落するのだ。 しかし、中国の株式市場は、隔離させており、海外投資家が売り浴びせるのは難しく、また、中国の個人投資家は、中国株に集中投資している。だから伝染しないのだ。 それでも、日本株は警戒する必要がある。理由は5つだ。 第一に、ギリシャ経済崩壊とタイミングが重なった。これにより原油も再び大きく下げている。世界全体のリスクテイクセンチメントが低下し、世界全体の株が下がる可能性がある。第二に、日本株は急激に上がりすぎた、ということだ。今年の上昇は、中国株、欧州株が急騰を見せた。そこへ、日本が遅れて、再度上昇した。そして、中国、欧州は崩れた。となると、バブルが崩れるのは日本の番だ、ということになる。米国株は、今年は上がっていない。大きく上がった分、日本株は下落幅が大きくなる可能性が高いということだ。第三には、ギリシャ、上海が長引けば、米国FEDの金利引き上げと重なる可能性が出てくることだ。しかも、このイベントおよび6月の雇用統計で9月利上げが遠のいた、などと願望による楽観ムードがまた出てきたのが危険だ。FEDが淡々と上げたときには、ショックが生じる可能性がある。ただ、FEDもギリシャ問題は考慮することになるが、ギリシャが長引けば、あまり待ち続けることもできないので、年内利上げがなくなることはないと思われるので、どこかでは上がるので、ショックの大きさは、タイミング次第だが、必ずその場面は来る。 第四には、中国は個人投資家は信用で傷つくが、同時に、中国企業も、自社のバランスシートを使って投資していると見込まれ、この影響は大きく、後を引くと思われる。 そして、この事実が、第五の理由の影響を大きくする。つまり、中国の実体経済自体が大きく停滞する可能性が非常に高くなることだ。見かけ上は、7%成長行くかどうか、という議論で、要は5%以上は成長しているのだから、スピードはともかく、成長していることは間違いなく、それほど深刻に受け止めない向きもあるが、これは危険だ。成長ステージにある経済においては、スピードは重要で、成長スピードの原則は、経済を混乱に陥れる可能性がある。なぜなら、企業も経済システムも、政府の制度も、高い成長率を前提に回っているからで、減速しただけで、自転車が転倒するように、持続できなくなる可能性がある。 すでにその危険性が高まっている中で、株価が暴落となれば、個人消費は大ダメージで、企業までもが、財務的に毀損するとなれば、中国実体経済は停滞し、日本への影響も大きいだろう。 したがって、金融的な危機の伝染、バブル崩壊の連鎖自体は、心配することはないが、王道の実体経済原則による、景気停滞のリスクに対して準備する必要がある。 これが、上海株の本当のリスクだ。

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    もがく韓国「中国依存」という病

    韓国(朝鮮)の外交は、その時々の大国との距離感を測る外交スタンスを取り続けてきた。現在は、米中という2つの超大国との距離感が韓国外交にとっての最大のテーマだ。とかく慰安婦などの目立つバズワードばかりに目を奪われがちになるが、韓国の外交・安全保障戦略をリアリスティックに分析すべきだ。

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    尖閣見て中国に震撼する韓国の「連米連中」外交

    る。竹島をめぐる日本への対応と同様、パワーバランスの中で外交方針が揺らぐ韓国の姿が見られる。日本は、中国へ傾斜を強める韓国の現状を認識し、韓国に対して抱いてきた甘い幻想を捨て、彼らの向かう道を改めて問い質す必要がある。北東アジア戦略を立て直すべき時だ。 日本領である長崎県の鳥島から276キロ、韓国最南端の馬羅島から149キロ、そして中国浙江省の海礁島から245キロ沖の東シナ海。この絶海の地に、巨大な構築物が聳え立つ。高さは水面から36メートル、水面下は40メートルにも及ぶ、合計76メートルの高さを誇る巨大構築物だ。中韓の対立の火種「離於島」 この構築物は、韓国において「離於島」と呼称される場所にある。「島」という名がついているものの、実際には水面下4.6メートルにある暗礁だ。韓国は1950年代以来、この暗礁への権利を主張しており、かの「李承晩ライン」にもこの「島」は含まれている。87年には韓国政府が灯台を設置、民族主義の高潮した盧武鉉政権下の2003年に海洋科学基地を設置し、現在に至っている。韓国が中国と管轄権を争う東シナ海の暗礁、離於島(中国名・蘇岩礁)に建設した海洋科学基地がある海域で警戒訓練する韓国海軍=2013年12月2日(韓国取材団=共同) そして、今、韓国はこの「島」が中国との間で対立の火種になることを恐れている。日中韓3カ国の間に存在するこの「島」が自らのEEZ内にあると主張する韓国に対して、中国が自らの大陸棚上に「島」があるとして、韓国の主張に反論を加えているからだ。民族感情を背後に、両者の関係は抜き差しならないものとなっている。 韓国はどうして東シナ海の只中の暗礁に巨大な構築物を建ててしまったのか。そもそも韓国がこの暗礁に対して権利を主張し始めた50年代、中韓間に国交はなく、中国の海軍力も今日ほど大きなものではなかった。当時韓国と国交を有していた台湾の中華民国政府もまた、同じ西側陣営に属する韓国と、国際法上の島でさえない暗礁を巡って対立する余裕を有していなかった。一言で言えば、当時の韓国は、冷戦下特有の国際状況を利用して、国内向けの「火遊び」に勤しんだのである。 その経緯は、52年、講和条約にて主権を回復した直後、未だ自衛隊発足以前の日本を相手に、竹島を占領してみせたのとよく似ている。 しかし、東シナ海での「火遊び」は、韓国にとって困難な状況を作り出し、中国との関係も難しくしている。9月下旬には、中国が無人偵察機の巡視海域に離於島を含めたとの報道があり、韓国内での警戒感が高まった。10月3日には、島根県議会の「竹島の日」に倣う形で「離於島の日」の制定を議論していた済州島議会が、見送りを決めた。 重要なのは、北東アジアのパワーバランスの変化の中で、韓国の外交方針が揺らぎつつある、という事だ。時に領土問題や歴史認識問題における中国との連携が指摘される韓国だが、実際の外交方針は外部から想像されるほど、確固たるものではない。限定された国力の中、政府も世論も周囲を見回しながら、進むべき道を考えている。それが韓国の現状なのだ。日本も、このような韓国の状況をよく理解して、北東アジア戦略を練り直す時期がやってきている。 韓国にとっての問題は、北東アジアのパワーバランスの変化が、中韓の関係を大きく変えようとしている事である。第1に重要なのは、中国海軍力の急速な増強である。北朝鮮の脅威を前提に、陸軍中心の軍備増強を続けてきた韓国の海軍力は、わが国と比べて遥かに貧弱である。加えて、韓国が頼みにするアメリカは、北東アジアにおける領土問題において中立的な立場に終始しており、国際法上の島でさえない暗礁を巡る争いにおいて、韓国の側につくとは思えない。離於島における気楽な「火遊び」は、今や危険なゲームへと変わりつつある。 しかしながら、韓国の中国に対する姿勢をより困難にしているのは経済的な情勢の変化である。韓国経済が中国への依存を深めているのだ。例えば、10年、韓国の貿易に占める中韓貿易の比率は21%を超え、韓国のGDPに対してさえ20%以上に達している。多くの韓国人は、このままではやがて巨大な中国に飲み込まれてしまうのではないか、という不安感を有している。 だが、韓国が中国との関係を断ち切る事ができるのか、といえばその答えはNOになる。例えて言えば、韓国にとって中国との関係は、麻薬のようなものである。長期にわたって依存を続ければ、やがてこの関係を断ち切れなくなる。しかし、いきなりこれを断ち切れば、禁断症状にも似たパニックが待っている。尖閣問題で危機感を強める韓国尖閣問題で危機感を強める韓国 このような中勃発した尖閣諸島を巡る日中の衝突は、韓国をして「次はわが身」という危機感を強めさせた。韓国を震撼させたのは、日本に対する中国の姿勢が、予想よりも遥かに強硬だった事だ。背景には、韓国の中国に対する一方的な期待が存在した。北東アジアを巡る国際関係を、日米同盟と中国との対立を前提に考えがちなわが国とは異なり、近年の韓国は、米中関係を必ずしも対立的なものだとは捉えていない。グローバル化する世界においては、どの国も国際社会との協調が不可欠であり、中国の選択肢も自ずから限られてくる、と考えられていた。 例えば、このような韓国の「期待」が典型的に表れたのは、今年6月に行われた環太平洋合同演習(リムパック)においてだった。この軍事演習に際して、韓国の一部メディアは米軍司令官に、どうして中国の参加を要請しないのだ、と質問した。 この事は、ほぼ同じ時期、韓国政府が、日本との軍事情報保護協定締結を延期する一方で、同じ協定を中国に提案した事と併せて、アメリカ政府の一部をして、韓国に疑念を抱かせる事となった。リムパックが、事実上の対中国共同軍事演習である事は周知の事実であり、また、もし韓国が軍事情報を中国と共有するなら、アメリカは韓国に軍事情報を渡す事が難しくなる。あるアメリカ人外交官の言葉を借りるなら「全く悪い冗談だ」という事になる。 何れにせよ、今日の韓国では米中関係が対立的なものではなく協調的なものになり得る、という「期待」がある。例えば、このような韓国の期待は、「連米和中から連米連中へ」という言葉で表現される。経済的関係を考えれば韓国はもはや中国なしには生きていけず、他方、北朝鮮からの脅威を考えれば、アメリカとの同盟関係も依然、重要だ。 だからこそ韓国の進むべき道は、米韓同盟を維持しつつ、中国との関係を円滑に維持する事であり(連米和中)、進んでは米中双方との高度な協力関係を作り上げる事(連米連中)だ、という主張である。戦略と言うより、北東アジアの情勢がこうあって欲しいという希望的観測といった方が相応しいかもしれない。 だが、尖閣問題を巡る日本に対する中国の強硬な姿勢は、韓国の希望的観測を大きく揺るがした。依然として世界有数の海上警備力を誇る日本でさえ、中国からの強力な圧力の前に懸命な対処を強いられている。万一、離於島が同じ状況に直面した時、韓国にはそれに対処し得る海軍力も、経済的余力も存在しない。韓国にとって離於島は、文字通り、中国から突きつけられた「踏み絵」になろうとしているのである。韓国への幻想と決別する時 では、日本は韓国と今後、どのように付き合っていけば良いのだろうか。重要なのは、日本がこれまで抱いてきた2つの甘い幻想と決別しなければならない事だ。 1つ目の幻想は、主として日本の保守派の人々が抱くものである。それは粘り強く働きかけていけば、冷戦期のような「日本との関係に積極的な韓国」が戻ってくるかもしれないという期待である。このような考え方は、かつての韓国が日本に対して好意的であった背景には、日本の圧倒的な経済的影響力があった、という事を見落としている。例えば、70年代初頭、韓国の全貿易に占める日韓貿易のシェアは40%近くに達していた。現在の韓国が中国に配慮するように、当時の韓国は日本に配慮せざるを得なかったのである。 だが、今日の韓国における日本の経済的影響力は遥かに小さなものになっている。それは必ずしも日本経済の低迷によるものではない。かつての韓国は冷戦下の貧しい分断国家であり、だからこそその国際関係は殆ど日米両国に集約されていた。 しかし冷戦が終わり、韓国が経済発展して国際社会での存在感を増し、グローバル化が進む時代になると、必然的に韓国の国際社会の中での交流の幅は拡大した。日本の経済的影響力の縮小は、このような韓国と韓国を巡る国際情勢の変化の結果である。日本が多少経済力を回復しても、韓国がかつてのように日本に大きな配慮を払ってくれる時代がやってくると期待するのは難しい。 もう1つの幻想は、主として進歩派の人々が抱くものであり、それは活発な交流が進めば、相互の理解が深まり、好ましい日韓関係がやってくるという期待として表れる。 だが実際には、日韓間の交流の量的拡大は、韓国と他国との更なる交流の拡大により、相対化されてしまっている。そもそも今日の日韓間の交流は、既に1年間に500万人以上、つまり1日に1万3000人を超える人が行き来する水準になっている。にも拘わらず、領土問題や歴史認識問題を巡る状況は悪化する一方だ。この事は、単なる交流の量的拡大による関係改善効果は極めて限定されている事を示している。 他方、中国経済の拡大が進む限り、韓国における中国の影響力は拡大する。韓国は自らの生き残りの為に、中国との関係を深めていくだろう。今日の韓国では、保守派の政治家や言論人の中にさえ、中国との関係強化に異を唱える人は少ない。日韓の軍事情報保護協定に止めを刺したのも、保守派の与党から大統領選に立候補している朴槿恵(パククネ)なのだ。拡大する中国の影響力の中、韓国の中国への傾斜は最早止める事のできないものとなっているように見える。 だとすれば我々が行うべきは、「連米連中」路線へと韓国が進む事を前提にして、もう一度戦略を立て直す事だ。韓国が本当に中国への傾斜を強めるなら、日本がやらなければならない事は沢山ある。 例えば、米韓の関係が悪化すれば、盧武鉉政権期同様、アメリカは在韓米軍の見直しを考える事になるかもしれない。韓国にはアメリカの空軍基地もあり、その時、日本が代替の基地を提供する事ができるかが問題になるだろう。中韓の経済的関係が中国主導で進めば、近い将来、中韓貿易が人民元で決済される時が来るだろう。或いは、中国はその実績を生かしてアジア全域での人民元の流通を目論むかもしれない。それに対してわが国はどう対処していくのか。準備すべき事は山ほどある。 我々は韓国に対して、彼らが向かう方向を真剣に問い質すべき時が来るかもしれない。甘い夢を語る時期は過ぎ、現実と真剣に向かい合う時が近づいている。きむら・かん 神戸大学大学院国際協力研究科教授。1966年生まれ。京都大学大学院法学研究科博士前期課修了。ハーバード大学フェアバンク東アジア研究センター客員研究員、神戸大学大学院国際協力研究科助教授などを経て現職。専門は比較政治学、朝鮮半島地域研究。関連記事■ 中国の新・国防白書 2020年までに尖閣奪取行動起こすと示唆か■ 中国が虎視眈々と狙う日本の海と空■ 不可解で危険な中国の言い分 米国による平和は維持できるか   

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    「接近」でも蜜月になれない中韓の事情

    本条約締結から50年の節目の年だが、朝鮮半島ではそれ以上に、「分断70年の年」という意味合いが強い。中国との距離が近いと言われて久しい韓国だが、両者は「統一」に対する認識が決定的に異なっている─。 3月、米韓合同演習の中断を要求する韓国の民族主義者が駐韓米国大使を襲撃した。この衝撃的事件への北朝鮮の対応が、実は中国の南北統一に関する立場と一致していると述べたなら奇異に聞こえようか。父親の朴正煕元大統領と異なり、娘の朴槿恵大統領は日米より中国と緊密になっている─と言われてきたが、対米競争を意識する中国は決して、南北分断を中立姿勢で見ているわけではない。分断から70年を経てもなお、統一問題は韓国の直面する中国との深刻な対立点である。分断70年 韓国と中朝の対立 事件の後、朴槿恵政権が国内の「従北」勢力批判を展開すると北朝鮮はこれを強く非難した。その際の朝鮮中央通信によれば朴槿恵の統一政策「信頼プロセス」は「外勢」(外部勢力)と結託した「反統一政策」なのだという(2015年3月17日)。 他方、中国の習近平主席は前年、北朝鮮より先に韓国を訪問し朴槿恵政権との緊密さを誇示した。ソウル大学での演説を通じ習近平は朝鮮半島での核兵器開発への反対と「自主平和統一」への支持も表明している。これは印象として韓国の「反統一政策」を非難する北朝鮮とほとんど対照的だろう。 しかし習近平の「自主」統一支持と北朝鮮の朴槿恵政権批判には一貫性がある。実は朴槿恵は決して「自主」統一は謳わない。習近平が支持した「自主」統一は「外勢」、つまり米国を排除する概念であり、米国大使襲撃に際して北朝鮮も朴槿恵と「外勢」たる米国の結託を非難した。 米国排除としての「自主」には2つの意味が含まれる。第1に米国のソフト・パワーにより社会主義体制が崩壊して実現したドイツのような統一は否定される。第2に米韓同盟への脅威認識である。体制生存と米軍対処での目標共有が中朝の「自主」原則での一致から強く示唆されている。 分断70年でもあり、南北の指導者がこれを意識する今年は統一に関する認識の違いが生じやすいのかもしれない。双方による「新年の辞」はともに分断70年を強調したが、これを機とする「統一基盤」構築を謳った朴槿恵に対し、金正恩は「自主」統一を主張した。 そして中国は南北双方の「新年の辞」への論評として「自主」平和統一の最終的実現を一貫して支持してきたと表明し、北側に立ったのである(外交部報道官、15年1月6日)。以下、体制と軍事の両面から中韓の対立をみていきたい。 朴槿恵大統領は就任前、米紙ウォール・ストリート・ジャーナルに寄稿し欧州冷戦の終結過程「ヘルシンキ・プロセス」のように日中および南北朝鮮の緊張を緩和すべきと訴えた。現在ウクライナ停戦を進めている欧州安全保障協力機構(OSCE)も40年前のヘルシンキ最終文書採択に始まったこの過程で設置された。ドイツ型とは異なる中朝の目論見 この寄稿の議論を引継ぎ朴槿恵政権は、統一政策としての「信頼プロセス」と域内国家の和解を図る「東北アジア平和協力構想」を掲げている。同地域構想の外交部による説明文書(14年)はヘルシンキ・プロセスの再現を強調しており、これは西側の専門家には説得力があろう。 しかしヘルシンキ・プロセスの再現を謳うことこそ、中朝が構想を「信頼」できない理由となる。これはソ連東欧の一党体制崩壊「プロセス」でもあり、共産党体制の生存を図る中国にとって忌むべき歴史である。その帰結であるドイツ統一も、北朝鮮が回避すべき社会主義体制の資本主義側による吸収に他ならない。中朝は韓国とは対立する視点で冷戦終結の教訓を引き出すことになる。 欧州社会主義圏が崩壊したころ韓国では、北朝鮮も東ドイツのように消滅するとの期待が高まった。当時の盧泰愚政権が掲げた目標たる複数政党制の議会制民主主義の統一国家「韓民族共同体」は、ドイツ統一の再現を強く示唆するが、朴槿恵はその目標追求の継続を重視する(統一部説明資料13年9月)。 朴槿恵大統領に報告された外交部の行動計画「統一時代を開くグローバル信頼外交」も「ドイツ統一過程から引き出せる全般的な教訓と示唆をよく活用していく」と述べた(15年1月)。 これに対し中国が支持する北朝鮮の「自主」統一は一党体制を保全するもので、ドイツ型統一とは明らかに異なる。「外勢」排除の「自主」原則は決して米国の影響を受けた体制による吸収統一を許容しない。同原則に基づく統一国家は北朝鮮の体制が生き残る「連邦制」である。米韓同盟への脅威認識を反映 「自主」を主張することは、一党体制の崩壊「プロセス」を再現しようとする企図への反対を意味しよう。複数政党制の統一国家を目指す朴槿恵政権に対し、むしろ中国は北朝鮮の一党体制を保全する従前からの立場、「自主」統一支持を繰り返し確認してきた。習近平と朴槿恵特使、金武星の会見(13年1月)、楊潔チ篪・国務委員の朴槿恵大統領との会見(同11月)、習近平の朴槿恵との会談(14年3月、7月)において「自主」統一支持を中国側が表明したと新華社は伝える。 ヘルシンキ・プロセス再現の阻止で一致する中朝は何をすべきか。ソフト・パワーの効果的な行使の例としてジョセフ・ナイが挙げているように、米国は軍事力で東側体制を崩壊させたわけではない。ヘルシンキ最終文書で西側陣営はソ連の決めた国境線を受け入れたが、代わりに基本的人権の尊重を合意に書き込んだ。西側体制を正統化する人権を直接的に否定できなくなった結果、ソ連と東欧諸国は内部の反体制派増大という予想外の事態に直面した。 この体制崩壊の教訓に基づけば北朝鮮は、南の体制を正統化する人権を「外勢」の攻勢手段として否定せねばならない。北朝鮮にとって国連北朝鮮人権委員会による問題提起も「反帝自主」の道に進む「我々の制度を転覆」する「米国の人権攻勢」と見なすべきものとなる(朝鮮中央通信、14年3月25日)。 冒頭述べた米大使襲撃に関する北朝鮮の論評は、こうした姿勢を反映している。論評によれば北朝鮮の人権状況の改善を求める朴槿恵政権の政策は「反共和国『人権』謀略騒動」だった。「信頼プロセス」はまさに「米国が社会主義諸国を崩壊に追い込んだヘルシンキ・プロセス」を朝鮮半島に適用したものであり「自由民主主義体制による吸収統一」を実現する手段が「『従北』狩り」なのだという。米韓同盟への脅威認識を反映 韓国との「未来ビジョン」(13年6月)で習近平は「信頼プロセス」を「歓迎」したが、「民族の念願」たる統一との表現で「自主」統一への実質的支持を貫徹した。 そこには「外勢」排除のもう一つの意味、米韓同盟への脅威認識が反映されている。同ビジョンのいう「両者、地域次元のみならず、国際社会」での協力は、類似表現で既に合意されていた米韓共同「ビジョン」(09年)を相殺する。 米韓ビジョンで先に謳われた「二国間、地域、世界」での協力は半島をこえる「地域」同盟の発展を企図していた。これが合意されたとき米国は、東アジア地域で韓国を日本と並ぶ「パートナー」として中国に対処する「ミサイル防衛見直し」を進めていた(翌10年発表)。 米韓ビジョンの「地域」協力が中国の軍事力に対処するためなら、中韓「地域」協力と両立しない。米韓「地域」ミサイル防衛協力の抑制を目指す中国外交の成果が、中韓「地域」協力合意だったのかもしれない。 韓国が中国の批判する戦域高高度地域防衛(THAAD)を導入しない方針を明確にしたのは中韓ビジョンから4カ月後である(国防日報、13年10月16日)。 15年2月の国防長官会談以降、中国は在韓米軍のTHAAD受け入れも拒否するよう韓国を圧迫した。その後米韓合同演習が開始されると北朝鮮は中国との提携に期待を持ってTHAADを批判している。 北朝鮮外務省の声明によれば米国は「我々の強硬対応を誘導」することで中露を制圧する有利な条件たるTHAAD配備を強行し、日米韓によるアジア版北大西洋条約機構(NATO)形成の出発点にしようとしているという(15年3月26日)。 70年の歳月は分断を収束させず、いまも米国の盟邦が一党体制と対峙している─その認識を持たず習近平が朴槿恵の「信頼」に応じて見せたわけではあるまい。中国のソフト・パワー攻勢への効果的対応が、日米韓協力の要件となろう。わたなべ・たけし 防衛省防衛研究所アジア・アフリカ研究室主任研究官。1997年東京都立大学法学部卒業、2000年慶應義塾大学大学院法学部研究科政治学専攻修士課程終了。02年より防衛省防衛研究所。09年アメリカン大学国際サービス大学院修士課程終了。専門は、朝鮮半島の政治と安全保障。関連記事■ 存在しなかった反米感情 中国の台頭で揺らぐ韓国の米国観■ 中国、この腐肉に群がるハイエナ■ 「孤立論」まで飛び出した 韓国歴史外交の敗北   

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    南シナ海で国内から目を逸らさせようとする中国共産党

    長谷川良(ウィーン在住ジャーナリスト) 中国の習近平国家主席は17日、訪中のケリー米国務長官に、「太平洋には米国と中国2カ国を受け入れるのに十分な空間がある」と述べ、南シナ海を含むアジア地域の覇権を米国と分かち合う2大国構想を表明したという。 習近平主席の発言を読んで、「太平洋は確かに広大だが、中国も10億人以上の国民を養うことができる広大な領土を有している」と思い出し、習主席の発言に倣って、「中国には十分な空間がある」というキャッチフレーズが浮かび上ってきた。5月17日、北京の人民大会堂で、中国の習近平国家主席(手前)を見るケリー米国務長官(共同) 中国は多民族国家だが、中国共産党が政権を掌握して以来、独裁政権を維持してきたことは周知の事実だ。その中国が南シナ海の海洋権益をめざし、スプラトリー(南沙)諸島で人工島建設を進め、東南アジア諸国から懸念の声が上がっている。中国の覇権主義に対して、日本や米国は度々警告を発してきたが、中国側は、「南シナ海はわが国の影響下にある」と主張し、その覇権をこれまで繰り返し表明してきた。 中国側の覇権主義に警告するという意味から、ケリー米国務長官が習近平主席に、「太平洋だけではなく、中国にも(米中2カ国を受け入れるのに)十分な空間がありますね」と述べたとすれば、北京政権は、「米国がわが国に戦争宣言した」と受け取り、パニックに陥ったかもしれない。 中国は実際、広大な領土を有している。民族も多彩だ。韓族のほか、ウイグル族、モンゴル族など多数の少数民族を抱えている。ただし、中国の経済発展の恩恵は北京、上海、広州など一部の地域に傾き、まだまだ未開発地が少なくないことも現実だろう。 ここにきて中国共産党にも陰りが見えてきた。共産党から脱退する数が先月14日、ついに2億人を超えたのだ。海外の反体制派メディア「大紀元」は、「中国共産党から『脱党』に署名した中国人は14日までに2億人を超えた。共産党が暴力で政権を奪い、独裁体制を敷いて65年。13億人は自由への抑圧や汚職氾濫、自然環境の悪化に苦しんでいる。脱党は、中国人の精神や道徳を共産党の束縛から解放し、自由を選択する1つの切符となっている」と報じている(「中国で来年『3退』総数が2億人突破」2014年12月5日参考)。 経済分野でも異変が見られてきた。貧富の格差が拡大し、裕福な党幹部たちの海外移住が急増している。もはや、10年前の中国ではない。「大紀元」が4月27日報じたところによると、「中央政府直轄の『中国兵器装備集団』の子会社が21日、8550万元(約16億4000万円)の債券利息のデフォルトを発表、債務不履行に陥った初の中国国営企業となった」という。その前日には、広東省深セン市の大手不動産開発会社「佳兆業集団」が、5160万ドルの米国債利息が支払い不能になったという。一連のデフォルトは中国経済が危機にあることを示しているわけだ。 中国共産党政権が南シナ海の覇権拡大に乗り出してきたのは、資源問題もあるが、それ以上に軍事的緊張を高めることで国内のさまざまな諸問題から目を逸らさせる戦略ではないか。そうであるならば、「中国には十分な空間がある」と警告を発することで、中華思想という「中国の夢」に拘る指導者を現実の世界に引き戻すのも外交の知恵だろう。実際、中国共産党政権は太平洋に目を向ける余裕などないのだ。(ブログ「ウィーン発 『コンフィデンシャル』」より)関連記事■ 南シナ海で暴挙続けば米中開戦の恐れ■ 中国、この腐肉に群がるハイエナ■  「米中冷戦時代」の到来か 対立も辞さない習近平

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    不可解で危険な中国の言い分 米国による平和は維持できるか

    ールで開かれた英国際戦略研究所(IISS)主催の「アジア安全保障会議」(シャングリラ対話)開会直前に中国紙・環球時報は「中米両国が南シナ海で一戦交えることは不可避だ」と題する社説を掲げた。 追いかけるように、中国政府は2年に一度の国防白書を公表し、「海上軍事闘争への準備」が重要だと危機感をあおり立てた。注目されたシャングリラ対話5月31日、シンガポールのアジア安全保障会議で講演する中国人民解放軍の孫建国副総参謀長(英国際戦略研究所提供・共同) 後世の史家は、などとは言わない。10年後に国際問題の分析者は、シャングリラ・ホテルで開催されたあの会議が、パクス・アメリカーナ(米国による平和)維持に成功したか、あるいはパクス・シニカ(中国による平和)への転換点だったかを決める重要な会議だったと公平な評価を下すに違いない。どこの国が何を仕掛けているのか。日本の立場はいずれにあるのか。その見分けもつかずに「米国の戦争に巻き込まれる」など、低次元の議論に熱中している日本の一部国会議員に、鉄槌(てっつい)が下される日も遠くないと確信する。 カーター米国防長官が会議で行ったスピーチの全文を読んでみたが、感情を抑えつつ緻密な対応が網羅された見事な演説だった。長官はまず問題の平和的解決のために、中国を初めとした関係国すべての埋め立てを中止するよう求めた。第二はあらゆる国が持っている航行、飛行の自由の原則を守れとの要求である。第三は中国が南シナ海で進めている行動は国際法と規範に反するとの指摘だ。 2011年秋に打ち出されたアジアに軸足を移すピボット政策、あるいは勢力均衡を調整するリバランス政策はあってないような状況が続いていたが、米国は軍事、外交、経済面でアジア太平洋に長期にわたって関わり続けることを約束した。不可解で危険な中国の言い分 リバランス政策の中心は米軍の存在であり、兵器はバージニア級原子力潜水艦、海軍のP8ポセイドン哨戒機、最新ステルス駆逐艦ズムウォルト、最新空母搭載E2Dホークアイ早期警戒管制機をアジア太平洋地域に配備する。同盟国や友好諸国との関係強化の必要性も強調された。とりわけ安倍晋三首相の名を挙げて日本との同盟関係は重視されている。 ラッセル国務次官補(東アジア・太平洋担当)の2月および5月の議会証言は、中国への姿勢が一層厳しく、同時に日本、フィリピン、豪州重視の姿勢がより鮮明になっている。カーター長官はシンガポールからハノイ、ニューデリーに飛び、ベトナムおよびインドとの軍事協力関係を強化した。同長官は中国が建設しつつある人工島の12カイリ以内に米軍機と艦艇を入れる検討を事務当局に命じた。行動に出るかどうかはオバマ大統領の胸三寸である。 不可解で、それだけに危険なのは中国の言い分だ。シャングリラ対話に中国代表団を率いてきたのは、中国人民解放軍の孫建国副総参謀長だ。孫氏はカーター長官に真っ向から反対し「南シナ海の埋め立ては正当かつ合法だ」と主張した。係争中の地域に中国の主権があるとの態度は、会議に先立ち北京を訪問したケリー米国務長官に対して王毅外相が「主権を守る中国の意思は岩のように固い」と言明したのと軌を一にする。 ただし、挑発を非難している国々が挑発をしているのであって、それは中国ではない、との言い方は通用するだろうか。記者団との質疑応答の際に、南シナ海を包むように示された九段線の根拠として、国連海洋法は漢時代には適用できないと答えた。ローマ時代に遡(さかのぼ)って領有権を主張したら、いまの世界はどうなるのか。英エコノミスト誌は「お粗末な答え」「乱暴な議論」「子供っぽい」と軽蔑の用語を連ねた。改憲こそ日本の生きる術だ 米国防総省が中国の軍事力に関する年次報告の中で「特記-進展する中国の海洋戦略」の題を設け、「黄海、東シナ海、南シナ海を戦略的重要性を持つ海域と見なしてきた」と叙述したのは11年だ。6年前に中国は対海賊活動を行うため艦隊をソマリア沖に派遣し、14年には米主導のリムパックに参加したが、1年半前には南沙諸島の埋め立ては本格的に開始されていた。率直に言って、米国の対中認識は甘い。 米国は不退転の決意を示したのか。訪中したケリー長官に習近平国家主席は改めて新型大国関係を呼びかけ、「広い太平洋は二つの大国を収容できる能力がある」と述べた。5月31日付ウォールストリート・ジャーナル紙は対中政策で米軍部内には硬軟両論があってまとまらないという。「一部分析者たちは、中国が自分の裏庭で大きな影響力をふるうのを認める代わりに、米国が中立的緩衝地帯まで撤兵する大きな取引を考えたらどうかとの議論もなされてきた」そうだ。日本は改憲以外に生き延びる術があるのだろうか。たくぼ・ただえ 国家基本問題研究所副理事長、法学博士、杏林大名誉教授。昭和8年生まれ。早稲田大卒業後、時事通信社でワシントン支局長、外信部長、編集局次長兼解説委員などを歴任。杏林大では社会科学部長などを務めた。第12回正論大賞受賞。産経新聞新憲法起草委員会委員長も務めた。主著は『戦略家ニクソン』など。関連記事■ 「世界の警察官」を放棄 不安抱え続ける同盟国■  「米中冷戦時代」の到来か 対立も辞さない習近平■ 良識ある沖縄の人々に尋ねたい なぜ国際情勢に無頓着なのか

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    海洋に侵出する中国の脅威

    中国が海洋支配を本格化させている。南シナ海で7岩礁を埋め立て人工島をつくり、滑走路まで建設している。東シナ海と南シナ海はいまや「平和の海」とはいえない。ところが、沖縄県の翁長知事は訪米で辺野古移設に反対した。沖縄にとっての脅威が、中国の邪な欲望にあることをわかっているのだろうか。

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    中国が虎視眈々と狙う日本の海と空

    教授)沖縄に眠る海底資源 現在、沖縄県において最も脅威となっている問題は東シナ海支配に乗り出している中国の動向であることに、翁長雄志・県知事をはじめ多くの県民は目を向けようとしていない。6月5日、成田空港に到着した沖縄県の翁長雄志知事 連日、沖縄県石垣市の尖閣諸島周辺には中国の大型警備船が航行し、日本の海域を脅かしているのである。 さらに日本の沿岸警備において、新たな課題が発生している。 近年、沖縄県沖の東シナ海では相次いで海底に鉱物資源が存在することが発見され、その開発動向が注目されている。今年1月、海上保安庁とJOGMEC(独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構)は、沖縄県久米島沖に銅、亜鉛の含有量がきわめて多い海底熱水鉱床が存在することを発表した。海底熱水鉱床とは地底のマグマが海底に湧出し、ある種の海底鉱山を形成するものである。また、一昨年は、沖縄本島の北西沖の伊是名島周辺、昨年は隣接する伊平屋島周辺にも有望な海底熱水鉱床が存在することが公表された。この2カ所の熱水鉱床は、金の含有量が地上の金山に匹敵するほど多く銀や亜鉛の含有率も高く、その開発が期待されているのだ。  沖縄沖の海底鉱物資源に注目しているのは、わが国だけではない。昨年、中国政府は、久米島沖で日本が海底調査を行なっていることを知り、海洋調査船「科学号」により日本の排他的経済水域内において無許可の調査を強行した。排他的経済水域内での海底資源開発は、国連海洋法条約により沿岸国に独占的に認められたものであり、中国の行為は国際法に違反するものだ。このとき、中国の公船は、13日間、同海域に侵入している。 中国は国連海洋法条約で管轄海域の境界の原則としている「中間線」を否定し、それよりはるかに日本側にある沖縄トラフまでを中国の管轄海域であると主張している。中国の主張では、東シナ海のほぼ全域が中国の海だというのだ。このとき、科学号は熱水噴出孔周辺のサンプルを採取し、科学的な分析を行なっていることが中国メディアにより報じられた。1971年に、中国が初めて尖閣諸島の領有権を主張し始めたのは、同諸島周辺に埋蔵量豊富な油田が存在する可能性が高いと公表されてからであることを忘れてはいけない。 南シナ海におけるフィリピン、ベトナムとの紛争も海底資源開発に起因したものであり、中国の邪な欲望は、沿岸民の日常生活を脅かすものだ。沖縄県には尖閣諸島問題に加え、新たな脅威が忍び寄っているのである。 昨年来、中国は、新たな海洋侵出の戦略を打ち出し、島に固執せず海域全体を支配する体制に転換しつつある。まず、東シナ海においては、中国のコーストガードにあたる中国海警局が、洋上基地ともなりうる大型警備船の建造を進めるとともに、尖閣諸島に約300kmの距離にある浙江省の南ジ島に海空一体となった基地造りを進めている。拠点を整備するとともに、ヘリコプターを搭載できる大型警備船を投入し、長期の運航に耐えられる外洋型艦隊の充実を進めているのだ。また、南シナ海においては、サンゴ礁を埋め立て航空機が離着陸できる滑走路を造り、広範囲な海域を監視下に置く戦略を進めている。2013年、中国は、東シナ海上空に防空識別圏を設け空からの海域管理を試みようとした。いずれ南シナ海においても東シナ海と同様に防空識別圏を設置し、島のみならず、広範囲な海洋およびその上空を掌握する動きに出ることは必至である。海上保安庁を凌駕する中国海警局の膨張 中国海警局は、この春、新型の大型巡視船「海警2901」を就航させる予定である。海警2901は、満載排水トン数1万2000tと日本の海上保安庁が保有する最も大きな巡視船「あきつしま」をはるかに凌駕する巨大な警備船だ。この警備船には、中国海警局がドイツのMAN社から40機の購入契約を結んだ9000kWの高出力をもつディーゼルエンジン4機が使用され4万7000馬力をもち、巨艦ながら25ノットの速力で走る。上海郊外にある中船重工江南造船所で進水時に撮影されたこの警備船の写真には、後部に広いヘリコプター甲板と格納庫が設置され、4機のヘリコプターが搭載されると考えられる。また、船首近くには巨大な砲座があり、76mm機関砲が備え付けられるのだろう。いずれにしても既存の警備船、巡視船の概念を超えた装備であり、洋上基地として使われることが予想される。中国海警局の船番の2000番台は東シナ海に配備されるものであり、海警2901はいずれ尖閣諸島沖に姿を現すことになるだろう。 海上保安庁は、中国の侵出から日本の管轄海域を守るため、東シナ海の警備体制の拡充を進めている。2016年3月までに、尖閣諸島を中心に据えた東シナ海の警備に当たる「領海警備専従体制」を発足する予定だ。専従体制は、第11管区海上保安本部石垣海上保安部に拠点を置き、3000t級のPLH型ヘリコプター搭載型巡視船2隻とPL型1500t級巡視船10隻の計12隻で構成され、600人の海上保安官が領海警備の任務に当たる。専従体制に組み入れられる10隻の1500t級の巡視船は、すべて新造される「くにがみ型」と呼ばれる同型のもので、3月20日に就航した「ざんぱ」など、すでに4隻が配備され、残る6隻の建造が進められている。この新造船は、遠隔監視採証装置をもち、離れた場所からでも他船の動向を監視する機能をもつ。また、不測の事態に備え目標追尾能力に優れる20mm機関砲を装備している。その他、尖閣諸島に近づこうとする他国の民間船の行動を制御するために遠隔放水銃、停船命令表示装置も設置されている。 しかし、中国海警局が東シナ海に配備している1000t以上の大型警備船は16隻であり、日本を数的に上回る。この大型警備船が、3隻から4隻で船団を組み毎日のように尖閣諸島周辺の日本の管轄海域を脅かし、海上保安庁の機先を制するように中国海警局の膨張は続いているのである。さらに中国海警局の船団の後方には、海上民兵といわれる大漁船団、そして中国海軍が控え、東シナ海はいまも緊迫した情勢なのである。海上保安庁と海上自衛隊の密な連携により、東シナ海の安全はどうにか守られている情況を沖縄県民をはじめ、多くの国民は知らない。計画的に進められている中国の海洋侵出計画的に進められている中国の海洋侵出 当初の中国の海洋侵出は、国際法を意識してのものであったが、近年の動向は国際法を独自の解釈で歪めたものであり、海を接する周辺国の権益を脅かすものとなっている。 第二次世界大戦後、急速に海洋開発の技術が革新すると、先進国は競うように海に眠る資源の獲得に乗り出した。そこで、海洋開発のルールつくりを求められるようになり、1958年から国連海洋法会議によって、沿岸国が主権をもつ領海の設定をはじめとした海洋権益の分割に関する話し合いが始まった。そして24年にわたり多くの議論が尽くされたのち、1982年に国連海洋法条約が採択され1994年に発効し、海洋が生み出す権益を沿岸国に認めるようになった。 国連海洋法条約により、海洋資源をはじめとした海洋権益が沿岸国に認められるようになると、権益をもつ国ともたない国の差が生まれた。そして、海洋資源をもたない国のなかには、海洋権益を拡大するためになりふり構わない動きを始める国も現れた。その代表が中国である。中国は広大な国土をもち、13億人もの国民が暮らす。しかし、その国土のもつ資源には限りがあり、海洋資源の獲得をめざしたのだ。その資源のなかには、エネルギー資源や鉱物資源のみならず、13億人の胃袋を満たす水産資源も含まれている。 中国は、1982年、国連海洋法条約が採択されるに際し、鄧小平氏の指導下、米国との軍事的境界ラインとして「第一列島線」「第二列島線」という概念を定めた。このラインの中国側の海域を海洋領土と呼び、管理することを目標にした。2013年8月7日、魚釣島周辺で領海侵犯した中国の「海警」(中央)と、警戒に当たる海保の巡視船、ボート(仲間均・石垣市議提供) 第一列島線は、日本の九州から沖縄諸島、台湾、フィリピン、カリマンタン島の島々を結び、南シナ海を包み込むように敷いた線である。この第一列島線の完成目標年次は、2010年だった。この年、中国の密漁漁船が、海上保安庁の巡視船に体当たりをする事件を起こした。この事件を契機として、中国は国際社会に対して尖閣諸島の領有権は中国にあると声高に主張するようになり、本格的に東シナ海の獲得に乗り出したのである。記憶に残る中国漁船の衝突事件は、中国の尖閣諸島略奪計画スタートの号砲だった。 東シナ海が示されている地図を見ると、中国が尖閣諸島の侵略に固執する意味がわかる。 1971年、中国が尖閣諸島の領有権を初めて主張した当初は、海底資源の確保をめざしていたが、現在は、中国が資源輸入国、貿易大国となったため、東シナ海を横断するシーレーンの確保も国家的な課題となっている。 大連、青島、上海など中国の主要な港を出た船舶が太平洋に乗り出そうとすると、必ず、東シナ海を越え、沖縄諸島を横切らなければならない。中国は、世界へ通じる航路・シーレーンを確保するためには東シナ海の制海権を手中に収めることが必用である。尖閣諸島は、その要衝である。残念ながら日本と協調した上で、シーレーンを利用するということを中華思想をもつ中国は考えていないようだ。尖閣諸島のみならず、いずれ中国のシーレーンに横たわる沖縄本島の領有権を主張し始める可能性は否定できない。すでに中国の学者のあいだでは、沖縄の領有権は確定していないとする論が展開されているのだ。 第一列島線が完成したあとのシナリオも中国は用意している。それは、第二列島線と呼ばれ、小笠原諸島からグアム、サイパンを結び、パプアニューギニアに至る島々を結ぶ線を引き、その内側を中国の管轄海域に組み入れようというのだ。この第二列島線の設定に向け、海軍において空母、潜水艦の装備を充実させ、さらに海上警備機関である中国海警局に大型警備船を配備し、外洋型への変革を進めているのである。また、南シナ海につくり上げた人工島に滑走路を造ることで、航空機を使った海洋管理が可能になり、中国の海洋管理能力は飛躍的に増大しているのだ。南シナ海で進められている基地島の造成 南シナ海スプラトリー諸島にあるジョンソン南礁は、2012年から埋め立てが始められ、2014年2月から、サンゴ礁の海を掘削して得た砂を大量に流し込み新しい島が造成され、桟橋とコンクリートで固められた構築物が確認されている。このジョンソン南礁は、1988年ベトナムが管理していた岩礁を中国が武力占領し、岩盤の上に高床式の小屋を建てて軍人を駐留させ、「赤瓜」と呼び、自国の領土であると主張している。ベトナム当局によると、本来、ジョンソン南礁は満潮時に海面下に水没するため、国連海洋法条約による「島」には当たらず、領土や排他的経済水域の基点とはならないという。中国は、強引に管轄海域の拠点をつくり上げているようだ。また、ファイアリークロス礁ではすでに大規模な軍港や滑走路の建設が進められ、軍事要塞のようになっている。ガベン礁では、舗装道路やヘリポートが存在することが確認されている。また、ヒューズ礁では1km四方以上埋め立てが進められ、対空高射砲が設置されるようだ。その他、クアテロン礁においても海面の埋め立て工事が進んでおり、今年中には最低五カ所、南シナ海における中国の海洋拠点が姿を現すことになるだろう。 前述のように国連海洋法条約では、埋め立てでできた島を管轄海域の基点としては認めていない。しかし、中国は笑い話のように暗礁の上に小屋を建てて軍人を常駐させる。世界の国々がばかげた行為だと嘲笑することも気に留めず、粛々と島の造成工事を進め、本格的な軍事拠点をつくり上げてしまうのだ。そして、軍艦や漁船団を周辺海域に投入し、海洋を管理している既成事実をつくり上げ事実上の管轄海域を拡大するのである。 中国の海洋侵出の暴走に対し、ASEAN諸国、とくにベトナムとフィリピンは神経をとがらせている。環境を破壊し、国際法を無視して建設した人工島を拠点として、軍事力を展開し、力でもって海洋における国際秩序を変更しているのである。そして、漁船団や海洋資源開発を推進する民間人が投入され、中国社会を洋上に持ち込み、海域の実効支配を進めているのである。 昨年5月、中国の国営石油企業が、ベトナムが管轄権を主張するパラセル諸島周辺の海域に海底油田掘削のための施設を設置した。この装置の撤去を求めるベトナムの警備船に対し、中国海警局の警備船が意図的に衝突する事件を起こした。この行為は、他国の公船に法執行をしてはならないとする国連海洋法条約の規定に違反している。これは、一歩間違えば武力紛争に発展するきわめて危険な行為だ。いずれ、日本が沖縄周辺で海洋開発を進めた場合、中国による妨害行為も想定しなければならないのだ。翻弄されるASEAN諸国翻弄されるASEAN諸国 2002年、中国とASEAN加盟国は「南シナ海行動宣言」に署名し、海洋安全の方針を定めた。しかし、この宣言には法的な拘束力がないため、中国は強引な海洋開発を続けている。この中国の海洋侵出に対し、ASEAN加盟国は、国際法に基づき法的な拘束力をもつ「行動規範」の策定を強く求め、2014年の首脳会議において、南シナ海における海洋安全確保に向けた共通のルール作りを進めることで合意した。南シナ海のスービ(中国名・渚碧)礁で中国が進める埋め立て作業。停泊している船と比べると、礁の右半分の砂地は、滑走路が建設可能な広さであることが確認できる=4月12日(フィリピン軍提供・共同) また、フィリピンは、2013年、南シナ海における中国との紛争の解決を国際司法裁判所の仲裁に委ねた。しかし、中国は、国際法に基づく解決を拒否している。現在は、中国が参加しないまま、ハーグにある常設仲裁裁判所において審議が進められている。同じように中国の海洋侵出に悩むベトナムは、独自の意見陳述書を常設仲裁裁判所に提出し、フィリピンを支持することを鮮明に打ち出すとともに、ベトナムの主張にも耳を傾けるよう要望している。 ASEAN諸国は、中国と対抗し南シナ海の平和を取り戻すため、多国間の連携による協力するメカニズムをつくろうとしている。日本は、アジアの国々に求められるリーダーとしての自覚をもち、外交力、経済力、防衛力など国家のもつ総合的な力を駆使し、アジアの海洋安全保障づくりに中心的な役割を果たすべきである。海域の安全は、国際法と歴史的に培われてきた秩序により守られなければならないのだ。 日本は、アジアの国々に働きかけ、海洋の安全保障体制をつくり上げた実績がある。2000年ごろ、東南アジア海域に海賊が多発し、船の安全航行が脅かされるようになった。そこで、日本は、アジアの国々の海上警備機関の育成に力を注ぐとともに、国際法に基づいた警備協力体制の枠組みをつくり上げ、アジアの海から海賊を追い出したのだ。海賊対策の実績を踏まえ、南シナ海、東シナ海の紛争を未然に防ぎ、自由通航を維持する枠組みつくりを構築することは可能である。この海洋安全の枠組みつくりに海洋国家日本は、積極的に関与しなければならない。国際的な影響力をもつ日本が動かなければ、アジアの国々は中国に押し切られ、泣き寝入りを続けなければならないのだ。それを救うのも海洋国家日本の使命である。日本の平和と日本人の安定した生活は、世界の海の安全が守られてこそ維持できるのだ。 中国の南シナ海侵出は、フィリピンに在留していた米軍が撤退したあと、すぐに始まっている。1995年、中国海軍は、フィリピンが管轄権を主張するミスチーフ礁を占領した。フィリピン沿岸の防衛力が弱くなった隙に中国は南シナ海への侵出を開始したのだ。また、近年、オバマ政権により米国の安全保障に関するプレゼンスが弱まるのに合わせ、中国は海洋侵出を加速させている。2012年4月、フィリピン・ルソン島の西方沖約180kmにあり、同国が排他的経済水域を主張するスカボロー礁海域において中国とフィリピンの警備船同士が対峙して、一触即発の状況となった。結果的にスカボロー礁も中国の警備船により支配下に置かれた。同年、さらに中国は、フィリピンが実効支配してきたスプラトリー諸島にあるアユンギン礁へも侵出を進めている。 現在も中国は、南シナ海、東シナ海両面において、時には強引に、時には粛々と、その影響力の拡大を図る戦略を展開している。 中国の最高指導者・習近平氏は、2012年11月、中国共産党中央委員会総書記に就任するに当たり「中華民族の偉大なる復興」をめざすと宣言した。さらに翌13年3月、国家主席、国家中央軍事委員会主席の地位を獲得し、名実ともに13億人の中国人の頂点に君臨するに際し、再び「中華民族の偉大なる復興」とは「中国人民の夢」であり、この夢の実現をめざすことを強調した。 中華民族の復興とは、中華思想を実践し、中国が国際社会に対し権勢を揮っていた時代に戻るという意味にほかならないだろう。それは、沖縄が「琉球」として、中国の朝貢国となっていた時代に戻すということでもある。 中国は、中華思想の下、世界で最も力をもつ国であることを疑わなかった時代に戻るつもりなのだ。その手段として習近平政権は、前国家主席の胡錦濤が提唱した「海洋強国」の戦略を踏襲しているのだ。東シナ海は中国の生命線 中国の海洋強国化に対抗し、日本の海域の安全、アジア海域の安全を守るために日本に最も足りなかったのは、国民の領土、領海に対する意識である。そのため、北朝鮮による工作船の侵入、拉致事案、中国人の尖閣諸島への不法上陸、大量の中国密漁船団の侵入など、平和を脅かす行為を未然に防ぐことができなかったことが悔やまれる。 文部科学省は、2016年から中学校で使う社会科の教科書において、竹島(島根県)と尖閣諸島(沖縄県)を取り上げ、「日本固有の領土」などと明記するようになった。これまでの歴史の教科書では、竹島と尖閣諸島に関する記述は少なかったが、今回の改訂から日本の領土となっている経緯が明確に記載されるようになった。 国民が領土、領海について何も知らないのでは、国民生活を守るために誠心誠意働いている海上保安官、海上自衛官の活動についても理解できないだろう。ようやく、日本も自国の安全を守る「普通の国」としての一歩を踏み出したところである。 安倍政権になり、外交上、中国、韓国に一方的に押し切られることがなくなった。主権国家として威厳をもち対処している成果である。中国の習近平国家主席、韓国の朴槿惠大統領は、安倍政権を批判することで国民の反日感情を盛り上げ、国内に抱える問題から国民の目をそらす戦略をとってきた。 しかし、昨年の末ごろから、中国国民、韓国国民の親日意識が高まりはじめている。海外旅行を望む中国国民の40%は日本への渡航を希望している、というデータがある。韓国ソウルでは、日本文化が流行になりつつある。何よりも日中、日韓の結び付きのなかで経済関係は重要であり、中国、韓国ともに、日本の経済なくしては国家が成り立たないことを国民が感じ始めているのである。国家、国民として威厳をもたないかぎり、国家、国民が相互に尊敬し合える関係をつくることはできない。真の友好とは、他国に対する過度の配慮ではなく、自国のアイデンティティを示し接することである。 ただし、ここで注意しなければならないのは、習政権、朴政権ともに、内政に爆弾をたくさん抱えていることだ。国家の抱えた問題の矛先を日本に向け暴発させる危険をつねに考え、備えていなければならない。中国政府は、より強硬に東シナ海戦略を推し進める可能性が高いのだ。とくに中国は、国民に東シナ海に眠る海底資源の獲得を喧伝し、国民感情を煽る可能性がある。親日に傾いた人びとが、共産党の圧力により、侵略の尖兵と変わりうるのが中国なのである。これは、日本とりわけ中国が侵出をもくろむ沖縄県にとって脅威となるだろう。 中国の生命線ともいえる東シナ海航路、沖縄周辺の海底資源、東シナ海に存在する豊富な水産資源、どれをとっても中国が手に入れたいものばかりなのである。それは、日本、とりわけ沖縄にとって子供たちに残すべき貴重な財産であり、必要不可欠なものなのである。沖縄県民をはじめ日本国民は、明るい未来を築くために、何が真の脅威なのかを考え、その抑止のために力を蓄えなければならないのである。やまだ・よしひこ 1962年、千葉県生まれ。学習院大学経済学部卒業。埼玉大学大学院経済科学研究科博士課程修了。日本船舶振興会(現・日本財団)海洋グループ長ほかを経て現職。海洋問題の研究により第15回正論新風賞を受賞。著書に、『侵される日本』(PHP研究所)ほか多数。関連記事■ 沖縄で騒がれ出した「独立論」の正体■ 良識ある沖縄の人々に尋ねたい なぜ国際情勢に無頓着なのか■ 南シナ海で暴挙続けば米中開戦の恐れ

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    新日米防衛ガイドラインで中国の「挑戦」に有効に対処せよ

    求められた結果である。前回の改定では朝鮮半島有事における日米協力が主な課題であったが、今回の再改定は中国が東シナ海と南シナ海で繰り返す現状変更への対応が中心的課題である。  新しいガイドラインのポイントは、自衛隊と米軍の運用の一体化が地理的制約なしに飛躍的に高まり、しかも常設される調整メカニズムによって、情報と情勢認識の共有と部隊運用の調整が平時から有事まで常に行われることである。このガイドラインによって、日米はより効果的に中国の挑戦に対応することができることになる。グレーゾーン事態への効果的な対処 中国は軍拡を続けているが、日米の軍事力に対抗できるだけの力がないことを理解している。このため、武力攻撃に至らないグレーゾーンで自らの政治的目的の達成を目指している。東シナ海や南シナ海などで中国が漁船や政府公船を他国の管轄海域に送り込んでいるのは、軍艦を使えば周辺国の自衛権発動につながるだけでなく、米軍が介入してくることを恐れているからである。 中国のグレーゾーンでの挑戦の特徴は、相手国の管轄権を先に侵害し、相手国が過剰反応したところで、国際社会に向けて挑発してきたのは相手側だと喧伝しながら、さらに強硬なやり方で管轄権を奪う点にある。2012年に中国はこのやり方でフィリピンからスカボロー礁を奪っている。同年9月に日本政府が尖閣諸島を購入した際も、現状変更をしたのは日本政府だと非難し、領海侵入を常態化させている。アメリカはどちらの事例でも、フィリピンと日本が過剰反応しているのではないかと警戒し、同盟国であるフィリピンや日本に十分な外交上の支持を示さなかった。米海軍の原子力空母ジョージ・ワシントン(共同) このため、今回のガイドラインは日米がグレーゾーン事態に効果的に対処できるようにすることが大きな課題であった。グレーゾーン事態への対処には、日米が情報と情勢認識を共有し、事態の拡大を防ぐための適切な措置を取ることが重要である。新設される同盟調整メカニズムは、平時からグレーゾーン、そして有事に至るまでこれらを可能にする。特に、東シナ海のグレーゾーン事態に日々対処しているのは海上保安庁であるため、調整メカニズムに海保の担当者を置けば、より効果的な調整が可能となるであろう。 NATO(北大西洋条約機構)や米韓同盟と異なり、日米には連合司令部がないため、自衛隊と米軍は別々の指揮系統で動いている。だが、この常設される調整メカニズムは連合司令部に近い役割を果たすことになるであろう。今回のガイドラインは、集団的自衛権の限定行使容認を含む日本政府の閣議決定を反映し、日米の部隊運用の一体化を拡大させる。たとえば、自衛隊が収集した情報に基づいて米軍が攻撃作戦を行うことがより制約なしに行えるようになる。自衛隊が米軍の部隊や装備を防護することも一部可能となった。そして、新設される調整メカニズムが、この自衛隊と米軍の運用の一体化を裏づけるのである。 また、この調整メカニズムを通じて、日米は「柔軟抑止選択肢」を共有することができる。これは、危機発生時にその拡大を防ぐために部隊の展開を通じて、相手側に当方の意図と決意を伝えるものである。一例を挙げれば、1996年に中国が台湾初の民主的な総統選挙を妨害するために台湾海峡でミサイル演習を行ったが、これに対してアメリカは空母を2隻台湾海峡近海に派遣し、事態の沈静化に成功した。この時は米海軍のみが展開したが、今後は日米共同で同様の対処が可能となる。南西諸島防衛の鍵と地方自治体の協力 新しいガイドラインでは、島嶼防衛における日米の役割分担も明確になった。これはアメリカ政府の尖閣諸島に対する防衛確約を裏づけるものだが、より広い南西諸島全体の防衛で日米が協力するという強いメッセージになる。中国が西太平洋に出るためには、特に先島諸島の周辺を通過しなければならない。島嶼防衛では、日本が主体的な作戦を行い、中国がこれらの島嶼を奪って対艦・対空ミサイルを配備したり、民間空港・港湾施設を軍事作戦に使ったりすることがないようにしなければならない。米軍は、自衛隊の作戦を補完するため、必要に応じて中国本土のミサイル基地の破壊なども行うことになるであろう。 南西諸島防衛の鍵は、中国の精密誘導兵器の脅威に日米が有効に対処できるかどうかにかかっている。尖閣諸島または台湾をめぐって日米と中国が軍事衝突に至る場合、中国はまず弾道ミサイルで嘉手納基地や普天間飛行場、那覇基地、岩国基地、佐世保基地などを攻撃して無力化することが想定される。これらの基地は緒戦で破壊される可能性が高いのである。 一部にはこのため沖縄の基地をグアムにまで下げるべきという意見もあるが、今回のガイドラインは既存の施設の抗たん性を向上させるため、施設・区域の日米共同使用を強化し、緊急事態に備えるため民間の空港及び港湾などの利用を進めようとしている。つまり、緒戦で既存の軍事施設が破壊されても、自衛隊と米軍は民間施設を含む代替施設を臨時に使用して反撃能力を維持し、一方で破壊された施設の復旧を行うのである。これによって抑止力を維持することが狙いである。 もちろん、このためには、地方自治体の協力が必要で、新石垣空港や下地島空港などの緊急時の軍事使用が担保されなければならない。普天間飛行場の移設をめぐって沖縄で反基地感情が強まる中、地元の理解を得ていくことが今後の課題である。政策と現実のギャップを埋めていく努力を 今度のガイドラインは、中国が強硬姿勢を崩さず、岩礁の埋め立て工事を進める南シナ海における日米協力にも道を開く。中国は長距離核ミサイルを搭載した戦略原子力潜水艦の運用をまもなく南シナ海で開始する見込みである。中国がこの原潜の運用に成功すれば、中国はより残存性の高い第二撃能力を保有することになる。これによってアメリカの核の傘の信頼性が即座に揺らぐことはないが、抑止力を維持するためにはこの中国の原潜の探知が不可欠である。 アメリカは南シナ海で潜水艦の探知を常続的に行っているが、軍事予算の削減により相当負担となっている。世界でも最高の潜水艦探知能力を持つ海上自衛隊がこの任務で協力すれば、日米同盟の抑止力を十分に維持することが可能である。 また、中国が周辺諸国と南シナ海の領有権をめぐって軍事衝突すれば、海上優勢を維持するために機雷を敷設することが考えられる。重要な海上交通路である南シナ海に機雷が敷設されれば、日本の存立を根底から脅かす事態として認定され、集団的自衛権の限定的な行使として、海上自衛隊が米海軍などと機雷掃海に従事することも考えられる。 以上のように、今回のガイドラインの改定によって、日米は有効に中国の挑戦に対処することができるようになる。今回のガイドラインの目的の1つが「切れ目のない対応」であるが、実際には切れ目のない対応は不可能である。様々なシナリオに基づき、同盟調整メカニズムと部隊の訓練を繰り返すことによって、政策と現実のギャップを絶え間なく埋めていく努力が必要である。関連記事■ 南シナ海で暴挙続けば米中開戦の恐れ■  「米中冷戦時代」の到来か 対立も辞さない習近平■ 沖縄で騒がれ出した「独立論」の正体

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    中国の新・国防白書 2020年までに尖閣奪取行動起こすと示唆か

     中国政府が5月26日に『国防白書』を発表した。1998年以降ほぼ2年おきに内容を更新し、今回が9回目となる。その内容が極めて好戦的だったことが専門家を驚かせている。ジャーナリスト・相馬勝氏が解説する。「過去8回の白書にはなかった『戦闘を準備する』といった直接的な表現があり、米国や日本を名指しで批判しているのも異例です。〈国家安全形勢〉と題した第1章では、『米国がアジア太平洋地域において軍事プレゼンスを強化している』『日本が軍事安保政策を大幅に変えて国家発展を図っている』といった主旨の記述があり、日米同盟を警戒していることが読み取れます」 白書では中国人民解放軍の在り方についても方針転換を打ち出した。〈従来の陸軍重視、海軍軽視の伝統的な思考を突破〉と記し、海軍を重視しながら統合作戦能力を向上させることを掲げたのである。 習近平・国家主席は〈海軍は近海防衛型から遠洋護衛を含む複合型に、空軍は領空防護型から攻防兼務型へ転換する〉という文言を入れ込んで、アジア太平洋地域への積極的進出の狙いを隠さなかった。 この白書を受け、南シナ海での活動がより活発になると見られる。中国政府はフィリピンなどが領有権を主張する岩礁を埋め立てて滑走路の建設を進めている。 中国国防省の楊宇軍・報道官は白書発表に合わせた会見で埋め立てについて「中国内地の建設工事と何ら変わりはない。自分の家の庭に新しい小屋を造るようなものだ」「米軍が(岩礁に)近づいて偵察活動をすれば、中国軍はすぐに合法的かつ専業的(軍事的)に対応する」と述べ、軍事的衝突も辞さない構えを見せた。 中国は尖閣諸島にも再び触手を伸ばすのか。相馬氏はこう見る。「白書では尖閣について、日米同盟強化への懸念を示す文脈の中で『海上に存在する個別の隣国』が『強い軍事力を行使して中国の島嶼を不法に占拠している』と述べています。日本を名指しこそしていませんが、尖閣への野心を隠しませんでした。 南シナ海の領土・領海問題が片付けば、次は尖閣問題の軍事的な解決に乗り出す可能性があるということです。中国政府は2020年までに中国と台湾の統合を目標としていますが、それ以前にも“尖閣奪取”のために何らかの形で行動を起こすと考えるべきです」 習主席は自民党の二階俊博・総務会長が率いた3000人訪中団を笑顔で迎えたが、「友好ムード」の裏には今も覇権主義が隠れている。関連記事■ 香港メディアも「武力衝突なら中国は日本に負ける」と認める■ 中国 尖閣諸島まで300キロの場所に新たな軍事拠点を整備中■ 【中国人のジョーク】尖閣でTwitterやFB開かなければ中国領■ 中国による他国領支配の常套手段は漁船に偽装した軍艦派遣■ 中国軍 空軍力で露を抜き世界2位に、海軍力も先進国水準に

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    アジアは中国にのみ込まれるのか

    な島をアジアの金融センターにまで押し上げた開発独裁型統治は完全に終焉を告げた。域内の経済連携が進み、中国も金融覇権への野心を隠さない中、アジアはどう変わっていくのか。

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    中国主導ではアジアが荒れる AIIBへの“甘い幻想”を斬る

    で歓談する。日本型経営が移植、身分差別の厳しいカースト制は一掃、経営は順調、地域経済も潤っていた。 中国も最近はアジアを中心に直接投資を急増させているが、どうなっているのか。 ラオスの中国国境に近い町・ボーテン。ラオス政府は2002年にこの区域をそっくり「経済特区」として、租借期間基本30年、60年間延長条件付きで中国資本に提供した。現地住民はよそに強制移住、特区内の通貨は人民元、言葉も案内板も中国語、時間は北京標準。主体は中国系カジノ・ホテル資本である。 アジア開発銀行の融資を受けて、07年に中国・昆明とタイ・バンコクを結ぶ国道3号線が開通。街道沿いのボーテンには中国から賭博客が殺到、さぞかし繁栄と思いきや、ラオス当局は11年にはカジノを閉鎖した。犯罪激増のためだ。以来、町全体がゴーストタウン(中国語では「鬼城」)と化した。 ボーテンに限らない。人々は中国製品を買うために、人民元を得ようと懸命になる。バンコクに至る3号線沿い各地の青空市場では希少動物が檻(おり)にいれられたまま売られる。ラオス虎の肉や臓器も密売される。漢方薬として高値で取引され中国に運び込まれる。中国資本はラオスの投資事業の4割を占める。熱帯雨林を切り裂いたゴム林の下でむき出しになった赤土は雨期になると洪水に洗われメコンに流れ込む。中国本土並みに自然環境が破壊されている。 ラオスと同じく中国と国境を接するミャンマーもやはりカジノ特区を設置するなど、中国資本を受け入れてきた。しかし、ミャンマー政府は昨年7月、昆明と結ぶ中国資本による鉄道建設プロジェクトを中止した。乱開発を恐れる住民の反対や中国の政治的影響力増大懸念が背景にある。 アジア各国はそれでも、アジアインフラ投資銀行(AIIB)に参加した。多国間共同出資の銀行なら、中国の脅威を薄められるという期待があるからだ。中国が40~50%出資するAIIBがインフラ整備を采配する以上、中国資本主導による乱開発につながりかねないが、とにかく中国の「資力」に惑わされる。 米国の制止を振り切って参加を決めた英国のメディアも「中国が3兆8千億ドルに上る外貨準備高のごく一部をAIIBに投じたいと思っている。中国が強い発言力を持っても、多国間機関で行いたいと言っていることは、良いニュースだ」(3月25日付フィナンシャル・タイムズ紙)と持ち上げるが、何とも中国に甘い。 よその国のために中国が国富の外準を使うつもりはないだろうし、仮にそうでもできるはずはない。3月29日付の本欄拙論では、中国の外準が資本逃避などのために大幅に減少していると指摘した。 中国は世界最大の借り入れ国だ。AIIBは必要な資金を債券発行によって調達することになるが、国際決済銀行(BIS)の最新統計では、中国による債券発行額は2014年年間で米国をしのぐ。途上国全体の発行額の5割近くを占める。国際的な銀行借り入れもずぬけている。 AIIB加盟国の中で、もっとも多くのインフラ資金を必要としているのは中国であり、その規模は他国を圧倒している。その事実を明らかにしたのは他ならぬ習近平党総書記・国家主席である。3月下旬に海南省博鰲(ボアオ)で開かれた国際会合で、習氏は「シルクロード経済圏」構想の詳細を発表した。その付属文書で、「中国国内での建設中または建設予定のインフラ投資規模は1兆400億元(約1673億ドル、約20兆928億円)、中国以外では約524億ドル(約6兆2707億円)に上る」という。 AIIBは同経済圏に必要な資金を提供することになっているが、当面の資金需要の76%は中国発である。習政権は自国単独では限界にきた国際金融市場からの資金調達を多国間機関名義にしようとする。 シルクロード経済圏構想の別名は「一帯一路」、要はすべての道は北京に通じる、という中華思想の産物だ。習氏は野望達成のために、AIIBを設立する。その道沿いには調和のとれた開発どころか、荒廃きわまりない光景が見える。それをどう防ぐか、日本の主導力が試される。関連記事■ 不動産バブル崩壊でも人民元が増長する秘密■ ピケティにご託宣を求める日本メディアの滑稽■ 膨張する中国の国家資本主義

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    シンガポール、中国…一党独裁国家の成功条件

    は、独裁国家は珍しくもなんともない。よく「開発独裁」と言われるように、発展途上国では独裁国家が多い。中国も、指導者こそ代わるものの、共産党による支配が続いている。というより、アメリカ・欧州諸国・日本などの純粋な民主主義の方がむしろ例外と言っていいだろう。 欧米や日本など先進国が民主主義で、中南米・中東・アフリカの発展途上国が独裁国家なので、一般には、民主主義は優れた政治体制、独裁は開発初期段階に限定すべき過渡的な政治体制だとされている。ただ、シンガポールの成功を見ると、民主主義が本当に優れているのか、疑問に思わざるを得ない。 民主主義国家で選挙をすると、大衆に人気のある者が指導者に選ばれ、必ずしも政治家として優れた人物が選ばれるとは限らない。シンガポールのように、強引な手法で指導者の地位を勝ち取った実力者がそのまま独裁政治を続けた方が、良い結果を生む可能性がある。 もちろん、政治的に優れた独裁者が国家運営においても優れた手腕を発揮するとは限らない。独裁政権に対して外部のチェックが働かないので、腐敗・堕落を招きやすい。シンガポールの成功を見て独裁体制を称賛する向きもあるようだが、実態は、民主主義に比べて、うまく行く場合とうまく行かない場合の振れ幅が大きいということだろう。 独裁国家が成功するかどうかは、独裁者の能力が最も大切だが、それだけではない。注目したいのは、官僚の存在だ。よほど小さな国家は別として、発展し、複雑化・大規模化してくると、天才的な独裁者でもすべての決定・指揮を担うのは困難になる。独裁者を支える官僚が優秀で、行政面で機能するかどうかが、独裁体制の成否を左右する。 シンガポールでは、シンガポール大学を中心に計画的に官僚の育成に努めてきた。優秀な人材を政府に引き入れ、実力主義で若い頃から重要ポストを与えた。民間企業を大きく上回る報酬を支払うことによって、不正・腐敗を防いでいる。一方、旧ソビエトで共産党による独裁がうまく行かず、最終的に崩壊したのは、「赤い貴族(ノーメン・クラツーラ)」と呼ばれた共産党幹部や官僚が私利私欲に走り、堕落したためだとされる。 その点、最も注目されるのは中国だ。中国では、習近平主席が腐敗撲滅運動を推進し、党幹部・官僚を次々と粛清している。貧富の格差が拡大する中、赤い貴族たちが庶民の羨望の的になっており、共産主義体制を維持するには、腐敗撲滅が重要ということだろう。一方、江沢民元国家主席の影響力を排除しようという権力闘争の側面も強いとされている。 腐敗撲滅運動によって党幹部・官僚が機能するようになると良いのだが、単なる権力闘争に終われば、習近平派の赤い貴族が権力を掌握するに過ぎない。前者ならシンガポールに近づき、後者ならレーニン時代のソビエトに近づくというところだ。中国の腐敗撲滅運動がどう展開していくのか、しばらく目が離せない。(日沖コンサルティング事務所『経営の視点』より転載)関連記事■ 中華人民共和国は最後の「盗賊王朝」だ■ 存在しなかった反米感情 中国の台頭で揺らぐ韓国の米国観■ 女性政治犯にも暴力、「政権に従え」強要…キューバ刑務所の現実

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    日本の立場を危うくする「アジアの時代」の足音

    参議院議員、シンガポール大学兼任教授)《PHPビジネス新書『アジア・シフトのすすめ』より》デジャヴ 中国人やインド人の中には、自国を「新興国」と呼ばれるのを嫌う人がいる。新興国という言葉には「新参者」「成金」というイメージがあるからだ。そして、自国を新興国と呼ばれることを嫌う中国人やインド人というのは、経済史をよく知っている人たちだ。 過去2000年の世界経済史を研究していた経済史の大家、アンガス・マディソン氏の研究でも、「欧米の時代」とは長い歴史の中で短期間のイレギュラーなもので、今までの世界経済史の中で大半の期間は中国とインドが世界のGDPの過半を占めていたということが明らかになっている。 最も多い時では、中国とインドがお互いに世界GDPの35%近くを占めていて、両国のGDPの凋落は、西欧の台頭と時期を同じくしていることもわかっている。つまり、西欧によるインドや中国からのGDPの略奪によって、西欧は世界経済で台頭してきたのである。 英国博物館に行けば、そのことを目で理解できるだろう。大英帝国が世界中から。“拝借”してきたものが堂々と展示されている。英国人の知人の中には、「あれだけのスケールで他国から宝物や歴史的遺産を“失敬”すれば、もはや窃盗ではなく偉業になる」と自国を皮肉る者もいるが、私たちが世界史で習うほど、西欧の歴史は「産業革命によって発展した」という美しいものではないようだ。 とはいえポイントはそこではなく、現在注目されている中国やインドの台頭は、「新興国の台頭」ではなく、「歴史的経済大国の復活」だと言う中国やインドの人々の言い分は、説得力があるという点だ。「頭数がものを言う時代」の再来 私は、再び「頭数の時代」に戻るのだと思う。度重なる欧州内での戦闘と産業革命によって強力な武器と戦術を手にした欧米諸国に蹂躙されてきた中国・インドであるが、武力で制圧された時代も終わり、何より彼らも生産性を急速に向上させてきている。 そして、これからは世界最高の生産性が、あっという間に国をまたいでシェアされる時代。新しいアイデアや技術イノベーションは先進国の専売特許であったが、今や中国はもちろん、とくにインドでは「破壊的イノベーション」「リバース・イノベーション」などと呼ばれる現象が次々に起こり始めている。 先進国だけが比較的高い生産性優位を保てる時代ではなくなったのだ。日本政府やその御用学者の中には、「日本の人口が減っても1人当たりの生産性を上げていけばいい」という主張をする人もいる。しかし、本当にそうだろうか? 生産性といっても、それはあくまで他国との比較の話であって、常に他国より高い生産性を維持し続けることができるわけではない。先述したとおり、技術もイノベーションもアイデアも一瞬にして世界中にシェアされる、ハイパーコネクテッドな時代である。そしてそれを他国が使いこなせるよう、人材も国家間で移動している。 日本の場合、最近では隣国の同業他社による技術者引き抜きから、技術移転が大きなスケールで発生した。その反省から、大企業は今さら技術者の囲い込みに走っている有り様だが、いかに日本企業が技術者を囲い込んでも、その成果は一定はあるだろうが永続的にその生産性の差を維持することは困難だと思う。 となると、経済力の差はどこでつくか? それが「頭数の差」だ。生産性の大差が固定でないなら、労働者も消費者も多い場所のGDPが大きくなっていく。前述のアンガス・マディソンの研究によれば、100年以上の期間で見ていくとGDPに最も相関がある指数は「人口」である。 私は、これから長期的には「世界各国の1人当たりGDPは“平均”に近づいていく」という仮説を立てている。もちろん格差がなくなるわけでもないし、各国内でも地域によって1人当たりGDPに差は出てくるだろうが、国ごとに大きく差があった1人当たりのGDPの差は、小さくなっていくのではないかと予想している。 2つのチャートでもわかるように、世界の1人当たりGDPの差は縮まっている。中でも日本については興味深い事実がある。日本の1人当たりのGDPを取り出して世界の平均と比較しているチャートを見ると一目瞭然であるように、日本の1人当たりのGDPは世界の平均に接近し始めているのだ。 同時にわかるのが、日本は1950年ごろまで、世界の平均以下の豊かさの国だったことである。つまり、過去2000年の世界経済の歴史の中で、日本は大半の時代、世界平均並みの豊かさしかもちあわせていなかったのだ。 江戸時代末期から急増させた人口で、全体のGDPでは世界6位くらいのサイズを誇っていたが、1人当たり平均となると長らく「並よりやや下」で、世界平均より倍以上豊かになったのはつい最近のことである。 今も1人当たりで世界平均の3倍以上の豊かさを誇るが、その差は縮まっている。これからゆっくりと1人当たりの豊かさで世界との差は縮まっていき、頭数も急速に減り、世界における日本経済のシェアは低下していくとの見方は間違いないのではなかろうか。圧倒する中国圧倒する中国 どんな予測でも、2050年の日本経済は中国の6分の1~9分の1と出ている。英エコノミスト誌や経団連等、日韓経済の比較でも、1人当たりGDPで韓国に抜かれるという予測が少なくない。こうなった場合に、日中・日韓関係に何が起こるだろうか? もちろん、中国は外交安全保障より国家治安維持に予算を多くかけている、不安定で危うい国だ。国外の敵より国内の敵を恐れているのが現状である。 日本人の多くは、巨大化する中国を1つのまとまった存在として警戒する声を疑問視していないが、中国は表向きほど1つのまとまった存在ではない。湾岸部と内陸部の格差は大きく、上海と北京の仲は行政でも個人レベルでも険悪で、共産党・地方政府・軍・民間企業、それぞれの想いはバラバラだといわれている。 習近平主席と安倍総理がなかなか首脳会談できないことで、日本人の多くは「習近平主席の天敵は安倍総理」などと思っているかもしれないが、実際は「敵は内にあり」なのだ。 習氏にとっては「安倍さんよりはるかに嫌いで憎い対象」が国内にいっぱいいるわけだ。そして、彼らを秘密警察やマスコミの告発等、あらゆる手を使って潰しまくっている。 森元首相のように既に引退した党の大先輩にいまだに気を使って人事に介入させる等、先輩への恩義を忘れない安倍さんと違い、大先輩を取り巻きごと排除しにかかっているのが習近平氏だ。中国の権力争いは、まさに血で血を洗うようなところがある。想像もつかないすさまじい闘いがそこには存在する。 マクドナルドが衛生的に問題のある中国産鶏肉を使っていたことで業績を大きく傾けているが、そもそもその鶏肉を取り扱っていた中国企業は江沢民系の企業で、一連の騒ぎは江沢民の影響力を排除するために習氏が行った粛清だったとの見方すらある。 しかし問題は、中国が不安定だということではない。その不安定な内政の激しい権力争いを経て、その闘争に勝った者がトップに来るという図式こそ、われわれ日本人が問題視すべきところだ。「熾烈な戦いに勝利した人間がリーダーになる」ということである。 私は中国の、生命力と交渉力と喧嘩の強いヤツが常にトップに来るという「リーダーシップの強烈さ」を恐れるべきだと思う。強いリーダーに率いられ、巨大な経済を抱える隣国は、さらに手強くなる可能性がある。 私のポリシーは、「物事は悲観的に想定して準備して、楽観的に行動する」である。強大化要素が諸外国に 我々の近辺には、中国の軍門に下りそうな国がたくさんある。最近のニュースでは、ニュージーランドの総選挙の結果がそれを示していた。 以下は2014年9月21日の読売新聞からの抜粋。 「ニュージーランドの総選挙(一院制、基本定数120)は20日、投開票が行われ、キー首相が率いる与党・国民党が単独過半数を獲得し、キー氏の3期目就任が確実となった。 首相は中国との関係強化を掲げており、同国経済の対中依存はさらに進む見通しだ。(略) 国内総生産(GDP)成長率は2013年4月~14年3月に3.3%を記録。けん引役は、中国向け輸出で、国別輸出額では13年にオーストラリアを抜き、初めて1位となった。富裕層が増加する中国では、幼児向け粉ミルクの需要が高まり、輸入の約8割をニュージーランド産が占める。 キー首相は、こうした中国との関係を重視。今年3月の訪中時には、貿易総額を20年までに現在の1.5倍近い300億ニュージーランド・ドル(約2兆6500億円)に引き上げることで合意した。」 また以下は、2014年9月19日の日本経済新聞の記事の抜粋である。 「インドを訪問している中国の習近平国家主席は18日、首都ニューデリーでモディ首相と会談し、中国が今後5年間でインドに200億ドル(約2兆1600億円)を投資することを軸とした経済関係の強化策を表明した。(略)モディ首相は会談後の共同記者会見で『中国は最高に偉大な隣人であり、我々は世界最大の新興経済国だ』と連携の必要性を強調した。習主席も『両国の25億の国民は世界に大きな影響を与えることができる』と応じ、モディ首相が来年の早い時期に訪中することを招請した。 中国は今回、今後5年間でインフラ分野などに200億ドルの対印投資を行うと約束した。インドでは、実際はこれを大幅に上回る1000億ドル(10兆8000億円)規模の投融資が行われるとの見方も広がっており、今月1日に日本が提示した『5年間で3兆5000億円の投融資』を大きく上回る可能性もある。 日印関係へくさびを打ち込みたい中国の思惑は、高速鉄道分野でも見られた。中国は今回、自国システムの導入に向けた事業化調査の実施で合意にこぎ着けた。インドの現有鉄道システムの高速化や、鉄道技術の移転に向け「鉄道大学」の設置も進める。モディ首相は電力不足解消に向け中国との実質的な『民生用原子力協定』の締結に向けた交渉開始で合意したことも明かした。」 日本が期待するように、「インドが日本のために中国と対立」したりはしないと思う。中国に簡単に取り込まれることもないだろうが、中国経済への依存は深まっていくと考えられる。インドは「日中の関係悪化を自国に有利に使っている」と思うのだ。 そして中国は、インドに日本の3倍以上の巨大投資を行うかもしれない。中国の民間企業もインド投資を拡大させる意向で、この日本経済新聞記事によると「習氏の訪印に同行した中国企業幹部も、インド企業との事業協力などで総額34億3000万ドル相当の契約を交わした。格安航空会社(LCC)のインディゴは、中国最大手の中国工商銀行との間で、航空機約30機の購入資金約26億ドル相当の融資に関する覚書を締結した。通信大手リライアンス・コミュニケーションズと中国の通信機器大手、華為(ファーウェイ)との間で2G・3G通信網拡大に向けた覚書も交わされた」という。 日本と中国を競わせてインフラを建設させるインドの賢さが目立つが、中国にとってはこれくらいの金額は屁でもないだろう。なにせ400兆円を超える世界一の外貨準備を抱える国である。中国が設立するアジア・インフラ投資銀行(AIIB)は、日本が唯一トップをとれる国際機関であるアジア開発銀行(ADB)をアジア地域で蹴散らす目的があるといわれる。数年内にADBよりずっと大きくなると見られるAIIBへの、アジア各国の期待は大きい。未熟な自国のインフラを中国に作ってほしいという期待があるのだ。 日本と関係が深いシンガポールもいち早くAIIBに期待を表明し、その設立メンバーに名を連ねている。こうやってインドもASEANも、その軍門に下るかもしれない。 オセアニアのアジア化は進み、アジア全体の中国経済への依存が進む。中国の購買力でオセアニアを抑え、中国の巨大な外貨準備を背景にインフラへの投資でASEANとインドをおさえる――。韓国も1人当たりGDPで日本より豊かになるとの予測が現実になれば、朝鮮半島情勢の変化や巨大な中国経済との連携で、日韓関係もあまりいい方向へいかない可能性もある。 我々の人生の後半や我々の子供たちの世代は、日本経済の10倍近いサイズになった隣国と向き合わないといけなくなる。世界最大の経済に対して、ポピュリズムに振り回されるアメリカがどういう態度をとるか、そこはいわずもがなだろう。もちろんそのころには軍事支出でも、巨大な隣国がアメリカを凌駕している可能性が高い。たむら・こうたろう 日本戦略情報機構(シンガポール法人)CEO。国立シンガポール大学リークアンユー公共政策大学院兼任教授。元参議院議員。内閣府大臣政務官(経済財政・金融・再チャレンジ担当)、参談院国土交通委員長を歴任。早稲田大学、慶應義塾大学大学院(在学中にフランス高等経営大学院へ単位交換留学)、デューク大学法律大学院、イェール大学大学院を卒業。ハーバード大学、ランド研究所でも研究員を務めるなど、国内外で幅広く活躍。2014年夏には家族と共にシンガポールへ居を移し、最新のアジア事情を日本へ伝えながら新たな活動に収り組んでいる。著書に『君は、こんなワクワクする世界を見ずに死ねるか!?』(マガジンハウス)『野蛮人の読書術』(飛鳥新社)『頭に来てもアホとは戦うな!』(朝日新聞出版)など多数。関連記事■ なぜ中国から離れると日本はうまくいくのか/石平■ 日清戦争に込めた日本人の真の願い/童門冬二■ 防衛を忘れた空港

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    いまこそ中国の「歴史」研究と発信を

    櫻井よしこ(ジャーナリスト) 戦後70年、中国が対日世論戦を激化させている。日本をファシスト国家と決めつけ歴史問題で攻勢をかける。 日本の最善の対処は中国の歴史を古代から現代に至るまでしっかりたどり、中国が直接間接に糾弾する「日本の歴史的蛮行」の数々が中国自身の伝統的行動に他ならないことを世界に発信することだ。 慰安婦問題に関して国際社会が日本非難の土台としている文書のひとつに、国連人権委員会特別報告者のクマラスワミ氏の報告書がある。 1996年2月6日に同委員会に提出された報告書には数々の「日本軍の蛮行」が列挙されている。実はそれらこそ中国人の所業であることを中国の歴史書が教えてくれる。 クマラスワミ氏が95年7月に朝鮮半島の慰安婦16人から聞いたという被害証言の中に北朝鮮のチョン・オクスン氏のものもある。チョン氏の証言は北朝鮮側から受け取った記録であり、クマラスワミ氏はチョン氏に会っていない。つまり、伝聞なのだが、その背景に、色濃い中国の影が見てとれる。チョン氏は次のように語っている。 (1)反抗的な態度をとった慰安婦の少女を日本兵が裸にして手足を縛り、くぎの突き出た板の上で転がして血だらけにし、最後に首を切り落とした。その遺体を煮て、泣き叫んでいた他の慰安婦に食べさせると言った。 (2)池を掘って水を張り、蛇でいっぱいにして慰安婦40人を裸にして突き落とし、蛇にかませて死なせ、最後に池を埋めた。こうして部隊にいた少女の半数以上が殺された。 氏は一連の証言を基に慰安婦問題はジェノサイド(大虐殺)と見なすべきだとの見解を打ち出している。 日本人は誰しも、これらは絶対に日本人の行為ではないと即座に断定するだろう。ここに描かれているのは私たちの文明には全くそぐわない。 一方、政敵や民衆に対してこのような苛酷な罰をいつも与えていたのが中国だったことが中国の歴史書、資治通鑑に書かれている。 前述の(1)くぎの板による無残な罰は、五代十国時代の●(びん)の国の軍使、薛文傑が考え出した刑罰から始まっていた。罪人をくぎの突き出た狭い箱に入れて揺らして死にいたらしめる刑である。また人肉食、罪人も幼子も殺して食べる事例は数限りなくといえるほど、資治通鑑に記されている。 (2)の蛇の池の罰も五代十国時代の南漢という国の帝が考案した罰で、「水獄」と呼ばれていた。 慰安婦問題で日本批判の戦略戦術を立てているのは、実は、中国なのである。一方で、中国の実態は、現在習近平主席が挑戦する想像を絶する不正蓄財も、実は何千年来の中国の悪しき伝統であることが、資治通鑑によって明らかである。 国連人権委員会特別報告者のクマラスワミ氏が報告した人間らしからぬ悪魔的所業は日本人の行為ではなく、中国人の伝統的手法だと、国際社会に証明するにはここに引用した資治通鑑をはじめ、中国の歴史書を忠実に英訳し、世界に紹介していくのがよい。敵を知り、その実態を広く知らせることが、私たちが直面させられている歴史戦に対処する基本である。 実は私はこの資治通鑑の内容を麻生川静男氏の『本当に残酷な中国史 大著「資治通鑑」を読み解く』(角川SSC新書)で学んだ。資治通鑑は司馬光が編んだ中国の史書で、紀元前5世紀から紀元1000年までの約1500年間の中国史を、全294巻1万ページで描いた大著である。毛沢東が17回読み返したという同史書の随所にクマラスワミ報告の世界が広がっている。 クマラスワミ報告の中の蛮行は、中国人の伝統であるのみならず、冊封国家として中国に従属し中華文明の影響を受けた朝鮮民族の行動様式でもあろうか。 私たちはさらに中国政府がチベット人、ウイグル人、モンゴル人をどのように痛めつけ虐殺しているかについても、そこから思いを致すことができる。 日本人はクマラスワミ報告をどのようにして読むのだろうか。外務省の和訳は公表されていない。そこで何人かは、村山富市氏が理事長を務めた「女性のためのアジア平和国民基金」の訳を見ているのではないかと思う。 だがその訳から、「蛇の池」の事例がスッポリ抜け落ちている。同基金は、2007年3月に活動を停止しており、省略理由を問うことはできなかった。以下は私自身の推測だが、「蛇の池」は日本人にとってあまりにも荒唐無稽で、こんな話を入れればクマラスワミ報告への信頼が失われてしまいかねないと、彼ら(彼女ら)は恐れたのではないか。アジア女性平和国民基金をはじめ、慰安婦問題で日本を糾弾する人々にとってさえ、報告書はそれほど信頼できないものだということか。 それにしても外務省はなぜ当時反論しなかったのか。雑誌『正論』が昨年の6~7月号で掲載した外務省の反論書は立派にスジが通っている。それを、一旦、人権委員会に配布した後、取り下げた。村山富市首相がその前年に戦後50年の談話を出しており、時の政権の意向が働いたにしても、外交官の誰一人、立ち上がって反論しなかったのは限りなく情けない。 首相も状況も変わったいま、私たちは中国研究を進め、中国文明の巨悪と、その対極にあるに違いない善なる側面も、見ていきたいものだ。中国研究を介して「敵」をよりよく知り、日本の不名誉を晴らす大目的を実現するときである。●=門がまえに虫

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    不動産バブル崩壊でも人民元が増長する秘密

    田村秀男(産経新聞特別記者兼編集委員) 習近平共産党総書記率いる中国が「人民元帝国」建設に向け血眼になっている。中国主導のアジアインフラ投資銀行(AIIB)本部を年内に北京に創立し、日米主導のアジア開発銀行(ADB)に対抗する。米国の裏庭、中南米のニカラグアでは中国資本が第2パナマ運河建設事業に乗り出した。そして、中国の執拗なまでのワシントンでのロビー活動の結果、早ければこの5月には人民元が国際通貨基金(IMF)の仮想通貨「SDR」の構成通貨に認定され、円をしのいで一挙にドル、ユーロに次ぐ世界第3位の国際通貨の座につく公算が出てきたという。  不動産バブルの崩壊で揺れる中国がなぜ、国際金融大国となりうるのか。筆者自身、2010年に『人民元が基軸通貨になる日』(PHP研究所)を上梓してこの方、絶えずこの疑問と格闘してきたが、結論を先に言おう。人民元帝国は虚構の産物であり、いずれ限界に突き当たり、雲散霧消する可能性がある。だが、その膨張プロセスが長引けば長引くほど、横暴によって世界が受ける災厄の度合が高くなるかもしれない。 まずは、人民元の正体、さらに、「人民元帝国」の虚構性を解明し、日本はどう立ち向かうべきか考えてみる。 人民元増長の最大の秘密は、基軸通貨ドルの膨張にある。中国の不動産バブルは、ドルと人民元の密接な関係の産物である。 ドルは、先のリーマン・ショック直後は多くの専門家の間で「凋落」予想が流れたが、実際に危機に陥ったのはドルに挑戦するはずのユーロだった。円は超円高に振れたが、円の国際的地位は低迷し、相変わらずドルの補助通貨にとどまったし、国内経済の落ち込みは米欧よりもひどかった。米国はそれまでの通貨・金融政策の定石を破って、大々的にドル資金を発行する量的緩和政策(QE)によって、屑同然になりかけた住宅ローン抵当証券を買い上げることで、金融市場を落ち着かせた。2段階目のQE2以降からは国債購入に重点を移して、金利を低めに維持し、QEで流された巨額のドル資金を株式市場に誘導して株価を引き上げてきた。そればかりではない。ドルはニューヨーク・ウォール街の手で新興国株式を中心に世界中に配分される形で、ドルによる世界の金融市場支配は強化された。家計が金融資産の大半を株式で運用し、かつ、企業は株式市場からの資金調達によって設備投資する米国の実体経済は株高への反応度が日本よりも数倍も高い。米経済はQEとともに、じわじわと回復し、米連邦準備制度理事会(FRB)は2014年10月にQEを打ち切った。 リーマン・ショック後、人民元とドルの推移を追ったのがグラフ1である。中央銀行のFRBと中国人民銀行が2008年10月以降、どれだけ資金供給(マネタリーベース、MB)を増やしてきたか、その推移を追っている。人民元のMBはその時点ごとの交換レートに基づき、ドル換算した。すると、一目瞭然、人民元の供給はドルのそれと連動し、規模も11年から3年間ほど一致する局面があった。中国はあたかもワシントンと示し合わせたように資金供給しているかのように見える。 人民元は「管理変動相場制」であり、市場介入によって一日当たり2%の範囲内でドルに人民元を連動させている。人民銀行は自らが決める交換レートで貿易、投資などで流入する外貨を原則として金融機関から全面的に買い取り、人民元を発行する、というのが中国特有の通貨・金融制度である。つまり、人民元は「ドル本位制」であり、人民元は円、ユーロなど自由変動する先進国通貨と違って、基軸通貨ドルに対してほぼ固定されている。為替変動リスクがほとんどないので、日米欧などの外資が引き寄せられる。 「リーマン」で輸出部門が大打撃を受けるや、胡錦濤総書記(当時)は大号令を発し、国有商業銀行に融資を一挙に2~3倍に増やさせた。その資金源になったのが、人民銀行であり、もとをただせばワシントンのFRB本部に行き着く。ドル依存の高度成長モデルも終焉か 増発される人民元は地方政府や国有企業に流れて、不動産開発ブームへとつながって行く。何しろ2008年で米国のGDPの3割程度だった中国が米国並みの資金を創出するのだから、国内景気の刺激効果はすさまじい。GDPに占める投資比率が5割の中国は投資が2割増えるだけで経済成長率が1割増える計算だ。こうして不動産開発は高成長をもたらし、GDPのサイズは2010年に日本を抜き去り、世界第2位の経済大国になった。ドルにぴったり張り付く中国というコバンザメの図体は今や米国の55%(2013年)にもなる。 ところが、不動産は過剰投資に陥り、相場は11年後半から翌年にかけて暴落、その後いったん持ち直したものの、13年秋から再び急落し始め、現在にいたる。不動産価格の低迷は中国全土に広がっており、日本などの評論家が「中国バブル崩壊」、さらに「中国の体制危機」だと見立てるが、どうか。 バブル崩壊というのは、最終的には金融破綻となって大災厄になる。金融機関の不良債権が膨れ上がり、それが対外的に明るみに出たとき恐慌となる。90年代初めの日本、そしてリーマン・ショックの米国然りである。ところが、中国の場合、会計制度は極めて不透明だし、当局が不良債権扱いしなければ「健全債権」となる。米欧の金融専門家たちは沈黙しがちだ。不安定な国際金融情勢の中で、自らの不利益を案じてチャイナ・バブルというパンドラの箱のフタを開けようとはしないのだ。 不動産市況下落は投資主導経済を沈ませる。グラフ2は不動産価格と鉄道貨物輸送量の伸びを対比させている。相関関係は明らかだ。同輸送量はほかならぬ首相の李克強氏が最も信用する経済指標である。氏は遼寧省の党書記だった07年当時に「GDPは人為的操作が加えられるが、鉄道貨物輸送量は運賃収入をもとにしているので、ごまかしがきかない」と米国の駐中国大使に打ち明けた。事実、中国経済に占めるモノの生産は全体の5割を占めるので、物流は実体を大きく反映する。その伸びは14年3月以降、前年比マイナスであり、実質GDPの成長率7%台とは大違いだ。 中国の不況はドルに依存する中国の高度成長経済モデルの行き詰まりを暗示している。折しも、米国はQE政策を終了し、巨額のドル資金が中国などに配分される局面は終わった。しかも、流入するドルは米系金融機関に委託して米国債で運用する。ワシントン自体は米国債最大のスポンサー中国に頭が上がらないというわけでもない。リーマン後しばらくドル不安におびえている間は、米政府幹部や議会関係者が「中国が米国債を売りに出たら大変だ」と気にしていたが、金融危機から脱した10年以降は聞かれない。逆に、中国の金融専門家は「われわれのほうが、米国の人質になっているようなものだ」と自嘲する。その意味は、大量の米国債を売ろうにも、ドルや米国債の相場下落を招いてしまうと、中国側が巨額の富を失うので、そうはできないというわけだ。アジアインフラ銀構想は日本の影響力排除工作 米国債を含む中国の外貨準備資産残高は08年9月以降6年間で約1兆2000億ドル増え、14年9月末では3兆9000億ドル近い。2013年は年間で5000億ドル以上も増えた。中国のGDPの年間増加額は1兆ドル強だから、およそその半分相当にも上る。増える外貨を米国債に回さずに、中国の対外国家戦略に使うのが得策に違いない。習近平政権が胡錦濤前政権の対米金融追随路線に決別するのは、当然の成り行きだっただろう。冒頭で紹介したAIIBはその嚆矢である。さらに習近平氏のイニシアティブでBRICS5カ国(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)共同出資による発展途上国向けの新開発銀行の本部を上海に置く準備も進めている。両金融機関とも新興国・途上国の外貨準備合計の約5割のシェアを持つ中国がそれを見せ金にして、仲間を集める。 さらに、習氏は昨年11月、バングラデシュ、タジキスタン、ラオス、モンゴル、ミャンマー、カンボジア、パキスタンの首脳を北京に招き、400億ドルの「シルクロード基金」を創設すると表明した。鉄道やパイプライン、通信網などのインフラ整備を援助するという。 いずれも毛沢東以来の「統一戦線工作」による周辺勢力の取り込み作戦そのものだ。アジアへのインフラ投資ならADBがある。日本政府が最大の資金提供者だ。中国はアジアにおける日本の影響力を消去しようとする意図が明らかだ。 AIIBの資本金は1千億ドル(約11兆8千億円)で中国がその半額を出資する。北京中心部の金融街に本部の建設用地を提供し、総工費約30億ドルはもとより、人件費などの初期費用は中国がすべて負担する。昨年10月に参加を表明したのは21カ国で、ベトナム、シンガポール、カタール、タイ、ミャンマーなど東南アジア諸国連合(ASEAN)の大半とさらにインド、モンゴルなどだったが、今年に入ってニュージーランドやサウジアラビアなど一部の先進国や中東の富裕国が参加を決めて26カ国に拡大した。韓国とインドネシア、豪州は米国が参加しないよう強く要請しているが、中央日報電子版14年7月14日付によれば、韓国のほうは勧誘されたときに、ソウルにAIIB本部設置という条件を提示したほどだ。韓国産業界には参加論がくすぶり続けている。開発銀から資金供与を受けながら「アジアの盟主」とは 不可解なのは、日本側の対応だ。財務省はワシントンの顔色をみて、AIIB参加を見送っているが、同省出身の中尾武彦ADB総裁(元財務官)は一貫して中国側からのAIIBはADBの融資を補完するとの説明に対し、「前向きに検討する」態度をみせていた。 しかも中国はインドに次ぐアジア開銀からの借り手である。新規借り入れ承認ベースで2012年は約18億ドル、13年は20億ドルという具合である。その中国がアジアに長期、低利資金を供与して、『アジアの盟主』になろうとするのに、黙認するとはお人よし過ぎやしないか。 わが日本のメディアも能天気である。以下、ことし1月18日付の日経電子版はその度合がよく出ている。 「『中国版マーシャル・プラン』。ユーラシア大陸に海と陸の二本線を通してインフラ整備を進める『シルクロード』構想を中国メディアはこう呼ぶ。米国は第二次大戦後、西欧の復興を助け、米ドルと米国産品を世界に広めた。中国がそれを再現するとの認識だ」「AIIBを秩序を乱す異端とみなすのか。それとも国際金融の枠組みに組み込むのか。中国が世界に踏み絵を迫っている」という具合だ。 一体、中国が世界に踏み絵を踏ませるほどのパワーがあるのだろうか。仮にそうだとしても、「マーシャル・プラン」並みの諸国復興・開発の実を挙げられるだろうか。 中国が原資としている巨大な外貨準備自体、今後維持できるか怪しいものである。というのは、これまでの外貨の流入源は大きくわけると輸出、外国企業からの直接投資、さらに外からの投機資金(「熱銭」)である。世界景気の低迷で輸出は伸び悩んでいるし、外国からの直接投資も中国の内需不振や人件費の高騰が嫌われて、減る傾向にある。おのずと、熱銭の流入動向が外準を左右する。 熱銭の正体はほとんどが中国系である。中国系資本が香港を足場にバハマ諸島など租税回避地(タックスヘイブン)にペーパーカンパニーをつくって、巨額の資金を持ち出す。外資を装って不動産を中心に本土に投資し、市況をつりあげてぼろもうけする。他にも、国有企業幹部や党官僚がマカオのカジノで巨額の負けを喫したと見せかけたり、輸出入を装って、国内資金を本土外に出したり、入れたりするケースは常態化している。こうした熱銭の規模は半端ではない。多いときには年3000億ドル以上の熱銭が流入するが、逃げ足も速い。不動産市況が悪化したり、国内経済が悪化したりすれば、熱銭が引き揚げる。それが資本逃避であり、12年秋には年ベースで2000億ドルを超えた。習近平氏による大物党幹部の不正摘発で、資本逃避のルートはかなり封鎖したようだが、熱銭の流入も細っている(グラフ3参照)。そこで、習指導部は上海に特区をつくったり、外国投資家の中国株投資規制を緩めたりし、金融市場への外部資金誘い込みに躍起となっている。国際通貨化で出現する「帝国」 この分だと、外貨を大判振る舞いする形での国際金融攻勢には限度があることは、習指導部ももちろんわかっているはずだ。 そこで、北京が推し進めるのが人民元の国際通貨化である。冒頭で挙げたSDRへの人民元組み入れ要請について、IMFは2010年に却下したいきさつがある。人民元が「自由利用可能通貨」の基準を満たしていないと判定したからだ。SDRを構成するドル、ユーロ、円、ポンドのいずれも世界の主要地域での買い物や貿易決済、金融取引で使えるから「国際通貨」と呼ばれる。人民元は受け入れる地域や国が限られていた。ところが、その後人民元は急速に地位を高めているとの見方が英国などから盛んに報じられている。国際銀行間通信協会(SWIFT)の調べでは人民元は14年10月時点で国際銀行間の決済通貨としてのシェアは1・69%(ドルは43・5%でトップ、円は2・91%で第4位)に過ぎないが、13年1月の13位、0・63%から7番目へと順位を上げた。貿易に限ると、人民元建てによる決済額は13年には円建て決済を抜き去り、14年には円の2倍の規模になる見込みだ。 英金融専門家の解説(2014年12月14日付英フィナンシャルタイムズ=FT=紙WEB版)によれば、英銀大手の尺度では11年当初に比べて国際化が20倍になったとか、世界の中央銀行のうち少なくとも60行が人民元を準備通貨に組み入れているし、イングランド銀行は昨秋、海外の中央銀行として初の人民元建て債券を発行した、という具合である。 日経新聞(1月19日付朝刊)によれば、英国は中国のチベット人権抑圧批判を控える一方で、「ロンドンを人民元取引の世界的センターにする」と財務省首脳が公言するほど、人民元関連金融ビジネスに執着する。ドイツ、フランス、ルクセンブルク、カナダ、オーストラリア、カタール、韓国、マレーシア、タイも船に乗り遅れるなとばかり、自国の金融市場での人民元決済を始めた。中国本土外での人民元決済拠点は13年までは香港、マカオ、台湾、シンガポールの4カ所に限られていたのが、14年以降は一挙に10カ所が加わった。 IMFではことし、5年ごとのSDR見直しが行われる。英国金融界などで、人民元はドル、ユーロに次ぐ第3位のSDR構成通貨に選ばれるだろうとの観測が浮上するのも無理はない。IMFに強い影響力を持つ英仏独が賛成に回る公算が大きいからだ。そうなると、人民元は自動的に世界の全中央銀行で準備通貨として採用されるし、国際通貨として世界的に認知されて、貿易決済通貨として普及に加速がかかる(上記FT紙)。SDR通貨に採用されると、一夜にして、「人民元世界帝国」が出現するかもしれないと思わせるが、さながらカボチャが黄金の馬車に変じるだけかもしれない。筆者の目には「虚構」と映る。日本の対抗通貨戦略は 上述したように、人民元はドルの裏付けでここまで膨張できた。熱銭などを通じてドルが流入しなければ、人民元の供給はできない。米量的緩和終了に伴って、世界からはドルが米金融市場にUターンする局面だ。その制約を突破するために人民元国際化のはずだが、国際化を支えるだけの本土の通貨・金融制度が整備されていない。 このまま国際的に人民元の流通量が拡大すれば、何が起きるだろうか。人民元決済額が膨らむにつれて、人民元は勢い本土外の国際金融市場に蓄積されてくる。海外にある人民元マネーが大きく増えると、人民元建ての債券など金融資産取引市場の創設ニーズが高まる。海外投資家の参入を制限している上海市場も国外の投資ファンドなどに株や債券取引の自由化を迫られる。他方で、ロンドン、フランクフルトなどの人民元決済市場では人民元建ての証券市場が出現し、巨額の人民元資金取引が行われることになり、投機が盛んになる。おのずと、国際金融市場の波乱要因になってくる。 もともと国際金融市場での外国為替取引の大半は証券投資、直接投資、融資などの「資本取引」が大半で、貿易決済関連を圧倒している。 人民元関連の資本取引が円滑に行われるためには、人民元の相場を需給関係によって自由に決める、つまり変動相場制に移行させざるをえなくなる。現在の管理変動相場制度は中国系の金融機関に入ってくる外貨を人民銀行が管理する交換レートで全面的に買い上げる仕組みになっているが、資本取引を自由化すれば、外貨買い上げ額が巨大化しすぎて、人民銀行の手に負えなくなるからだ。金融機関同士で自由に外国為替を商いさせる、日米欧などでは当たり前の自由変動相場制が不可避になる。つまり、人民元を無理なく国際化させるためには、自由な資本取引と自由な外為市場が欠かせない。熱銭にしても、資本取引規制のおかげでこの程度の規模に済んでいるが、自由な資本取引が合法化すれば、外国の投機的な投資ファンドも加わって数倍、数十倍には膨れ上がるだろう。 まさに、マルクス主義で言う「量的変化が質的転換を促す」ことになるのだが、中国は人民元の自由変動に耐えられるかどうか。 人民元は1日当たり2%の変動幅の制限枠を飛び出し、大きく変動する。それは円をみてもわかるだろう。大きく買われると、大幅な元高となる半面で、逆に大量に売られると元は急落する。為替変動に対応するためには、金利決定を市場にまかせる金利の自由化が欠かせないから、現在のような硬直的な人民銀行の金融政策を含めた金融システムも抜本的な改革が必要になる。 中国経済はドルに対して人為的に安定させてきた人民元によって成り立ってきた。しかし、急速な元高に遭遇した中国企業は一挙に競争力を失う。農家は安い輸入品に押される。逆に元安が進行すれば、物価が高騰し、市民の不満を高めるだろう。1989年の天安門事件の経済的背景は高インフレだった。もちろん、通貨変動ショックは日本では当たり前だが、政情不安にならないための政治システムがある。民主主義である。無論、中国にはそれがない。人民元の国際通貨化で党による市場コントロールは終焉するばかりか、1党支配体制そのものが民主化へと変革を余儀なくされるだろう。それは中国人民と世界のためになる。 以上見ると、「人民元帝国」に対する日本の戦略はシンプルだ。まず、IMFでのSDR構成通貨見直しに際し、人民元組み入れの条件として、人民元関連資本取引の自由化と人民元の自由変動相場制への移行を義務づけることだ。欧州は難色を示すだろうし、対中関係で譲歩しがちなオバマ現政権はどうかわからないが、議会では民主党の一部と共和党の多数が日本に同調するだろう。 日本の財務官僚は、IMFでひたすら日本の消費税増税支持の根回しするのではなく、まともな通貨戦略に向けた対米工作に奔走すべきだと考える。そのために残された時間はあまりない。関連記事■ 中国との相互依存が進めば尖閣はもっと危うくなる■ 中国との均衡こそ取るべき道だ■ 中国人に狙われる生活保護の実態

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    2015年の世界の株価、鍵握る中国

    資を回収する動きに出たので、7、8月以降の米国以外の株価の下落につながった。 新興国を個別にみると、中国は14年12月は「101」と前年をわずかに上回ったのに対し、ロシアは「60」と40%も下落した。ロシアはウクライナ情勢をめぐる西側からの経済制裁やエネルギー価格の急落のあおりをうけた通貨ルーブルの下落がたたっている。上海・陸家嘴金融地区の工事現場 中国は全国的な不動産相場の下落が続いており、「不動産バブル崩壊」の気配が強いが、習近平国家主席が最も恐れるのは巨額の資本逃避である。党が中央銀行の中国人民銀行、国有商業銀行、国有企業をコントロールする中国式市場経済の場合、党中央が資金の流れを采配することができる。不動産市場に大量に流入していた外部からの投機資金の正体は、海外にペーパー・カンパニーを持つ国有企業の資金であり、利権を持つ党幹部がそれらを操作していた。不動産相場が下落すると、これらの資金の多くが香港経由などで海外に逃避する恐れがある。そうなると、不動産バブル崩壊は不可避だ。 習主席は党幹部の不正行為を厳しく取り締まり、摘発して監視を強化し、資金の対外流出を防ごうとしている。そこで国内の余剰資金の受け皿が必要だ。党中央は上海株式市場に再注目した。国有企業などはカネを株式市場に流し込むようになり、株価が反転、上昇しつつあるようだ。 ウォール街は15年、世界各国・地域をどう位置づけるだろうか。まず米国株価が他国・地域に比べて上がりすぎたとみれば、海外の投資の配分比率を引き上げる。日本のアベノミクスの巻き直しを高評価すれば、日本株は上昇に弾みがつく。欧州も欧州中央銀行がデフレ圧力封じのための金融緩和に出れば、再評価されよう。 不安要素は中国である。前述したような党中央の意図的な株価引き上げ工作の背景には、習指導部と、江沢民派の「上海閥」、胡錦濤前国家主席の共産党青年団派の権力闘争がある。党中央が混乱するようだと、株価や資本移動も揺らぐ。関連記事■ 安倍長期政権で株価3万円へ■ 非正規から置き換えられる移民労働では経済再生は無理■ 「根拠なき熱狂」の再来か、「根拠なき安心感」へのしっぺ返しか

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    上海の寿司屋で働いた日本人 中国人の産地意識の低さに驚く

     なぜ「中国毒食品」はなくならないのか。その根底には、日本人とは相容れない中国人特有の「衛生観念」があるはずだ──そのことを間近で観察するため、上海の寿司屋にバイトとして潜入した上海在住のジャーナリスト・西谷格氏が、驚きの中国外食事情をリポートする。* * * 冷蔵庫の扉や作業台の脚などが黒ずんでいたので暇な時間に拭こうとしたら「これで拭けばいい」とテーブルの上にあった布巾を手渡された。この布巾は、先ほどまで包丁やまな板、濡れた手などを拭いていたものだ。 掃除を終えて茶色く変色した布巾を先輩に返すと、ざっと水洗いをしただけで再びまな板を拭いていた。拙著『中国人は雑巾と布巾の区別ができない』(宝島社新書)でも書いたが、中国の厨房では布巾=手拭き=雑巾なのである。※画像と本文は関係ありません 日本では産地偽装がたびたび問題となったが、ここでは産地に対するこだわりは皆無。看板メニューのサーモン寿司の産地を聞くと、「山東省の大連だ」との返事。だが、大連があるのは遼寧省。「千葉の横浜」といっているようなもので、地理感覚すら適当。しかも梱包されていた発泡スチロールには英語と中国語の表記で「チリ産」と書かれていた。国産だろうが外国産だろうが、特に興味はないらしい。 怪しげな産地表示もあった。「鮭ふりかけ弁当」などに使われる冷凍焼きサーモンの切り身パックは日本輸出用の商品らしく、パッケージには日本語で「デンマーク産」と書いてあった。だが別の箇所に貼られた中国語の表記を見ると「チリ産」とあるのだ。どういうことかと社員に尋ねたが、「俺も分からん」と首をかしげるだけだった。 14時になるとまかない飯の時間。中華風豚バラ煮込みなど、厨房でこしらえた大皿の中華料理を20人近いスタッフ全員でつつき合う。食器は客と同じものを使うが、自分たちが使う際だけ熱湯をかけて消毒していた。客にはしないのかよ、と言いたくなる。 中国人の食事の習慣として、骨などの食べかすはテーブルの上に吐き捨てる。だが、食後のテーブルは紙ナプキンで拭き取るだけ。醤油や食べかす等の汚れがあっても水拭きをしないので、テーブルはひどくベタついている。食後は自由時間となるが、仕事中はほとんど立ちっぱなしで足腰が激しく疲労していたため、ひたすら寝て体力回復に務めた。■ 88才料理研究家 ドラマ女優がエプロンで手を拭くのに違和感■ “美人の産地”出身 中国No.1モデルのFカップ透けドレス■ 中国人観光客 バイキングで空ペットボトルにジュース詰める■ 中国人観光客 食事や宿泊フロアを隔離するホテルも存在する■ 中国人観光客に「ストリップ劇場」が人気 夫婦で鑑賞が定番

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    期限切れ鶏肉 低いモラルの改善なく

     【上海=河崎真澄】中国では2004年の「偽粉ミルク」事件で乳児が多数死亡したほか、08年には冷凍ギョーザへの殺虫剤「メタミドホス」混入で、輸出先の日本で健康被害を引き起こす中毒事件が発覚。12年には中国で抗生物質を投与された危険な鶏肉がケンタッキー・フライド・チキン(KFC)に納入された事件も明るみに出た。 度重なる食品の問題で再発防止が叫ばれてきたが、今回の使用期限切れ鶏肉の供給問題で、中国における安全に対する認識の乏しさや、消費者の健康を顧みない利益優先の姿勢が改めて浮き彫りになった。 今回問題となった「上海福喜食品」が23日までに衛生監督当局に提出した顧客リストには、中国国内のセブン-イレブンやスターバックス、ピザハット、KFCなど約150の社名が記されていた。 中国内の販売先は上海や北京など20以上の省や市に及び、健康被害への懸念が広がっている。 また23日付の上海紙、東方早報は、冷凍設備のない倉庫で他社から納入された鶏肉を、上海福喜食品が自社製品とA見せかけて出荷する工作が行われていたと伝え、組織的関与を強く示唆した。カビが生えた牛肉を再加工した製品も出荷していたとの報道もあり、捜査当局は問題の商品の流通ルート特定を急いでいる。 上海福喜食品は米イリノイ州の食肉大手OSIの子会社で、系列工場が山東省や雲南省などにある。食品業界関係者は、「ファミリーマートなど日本企業は、米国系の工場なら中国製でも品質に問題ないと考えていたのではないか」と話している。 23日付の中国英字紙チャイナ・デーリーは、「外資の危険な行為が見逃されるべきではない」と批判。“外資たたき”による責任転嫁の一面ものぞかせた。

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    検証・繰り返される食品問題/中国食品事故の対応策

    河岸宏和(食品安全教育研究所代表)安全管理の根本にあるべきプロ意識とは 「また中国の工場で……」、食品に関する報道が日夜、テレビで繰り返されています。 今年7月、中国のマクドナルドやケンタッキー・フライド・チキンなど大手ファストフード店に食材を納入していた米食肉大手OSIグループの中国法人「上海福喜食品」(上海市)が、消費期限を過ぎた肉を使うなどの不正を行なっていたことが判明しました。東方衛視台(上海のテレビ局)による工場の潜入取材が事件発覚の引き金です。同番組では、従業員が床に落ちた食肉を拾って生産ラインに戻す姿や、使用期限切れの食肉を新鮮な食肉に混ぜる様子が放映されていました。また、この工場では「麦楽鶏(チキンマックナゲット)」製造の際、消費期限を半月過ぎた18tの冷凍鶏皮と鶏胸肉を混ぜて再び原材料をつくり、その段階で新たな消費期限を刻印していました。つまり元の消費期限を6カ月余り過ぎた原料肉でつくられたハンバーグ、チキンナゲットが出荷され、消費者に届けられていたのです。出荷先には日本のマクドナルドやファミリーマートも含まれていました。潜入記者が工場作業員に尋ねると「消費期限切れでも食べられるし、死ぬわけではない」と答えていた、とのことです。上海市食品薬品監督管理局はこの報道を受けて20日に同工場を閉鎖、同社を立ち入り調査し、生産停止を命じました。 番組で放送された従業員の行動は工場作業者のモラルに反しています。しかし、潜入した記者が確認したことが事実であれば、工場では日常的に不正が行なわれていたことになります。当然、従業員自ら作業内容を決めることは考えられないので、この工場では、組織全体の総意として期限の過ぎた肉などを使用していたと考えられます。 食品工場をめぐるトラブルはほかにも近年、少なくありません。2007年から08年には、千葉、兵庫両県で「天洋食品」(中国河北省石家荘市)が製造した冷凍餃子を食べた計10人が中毒症状を訴えた事件が起きました。同じく2008年には、三鹿集団(同市)によって製造されたメラミン入りの粉ミルクを飲み、乳幼児数名が死亡しています。 なぜ、日本はこうした過去の中国食品事件を「他山の石」にして、今回の不祥事を未然に防ぐことができなかったのでしょうか。いつから日本人は「利益さえ出ればいい」という精神構造に陥ってしまったのでしょうか。今回のような事件が二度と起こらないためにも、本稿で検証を試みたいと思います。 以前、『渡る世間は鬼ばかり』(TBS系列・1990~2011年放送)というドラマが放送されていました。高校を中退した小島五月(泉ピン子)はラーメン屋の「幸楽」でバイトをしながら結婚して、家庭を築くことができました。藤岡琢也(第1~7シリーズ)と宇津井健(第8シリーズ~)が演じる五月の父・岡倉大吉はサラリーマンを辞めて自宅を改築し、割烹「おかくら」を始めます。さらに、高校を中退した森山壮太(長谷川純)を板前の見習いとして雇い、仕入れから調理までの修業を積ませます。 五月も壮太も、いまの時代設定ならば重労働の飲食店ではなく、コンビニ、ファミリーレストランのバイトやパートで働いていたという可能性は高いでしょう。ラーメン屋や割烹で働くのと、コンビニやファミレスなどの外食チェーン店で働くのとでは労働条件はそれほど変わりません。ところが、3年、5年、10年と長く働き続けたときの成長の度合いに、大きな差が生まれます。 仮に、壮太が高校を辞めてファミレスの厨房で働いていたとします。おそらく10年たっても、壮太は独立して自分の店をもつこともできないばかりか、貯金もできず、自分の家庭を築くことさえできなかったでしょう。 外食チェーン店での厨房の調理といえば、せいぜい中国などから輸入されたパン粉が付いた成形肉のトンカツを揚げる作業や、カットされて凍結輸入されたネタを解凍し、寿司ロボットから出てくるシャリ玉の上に載せる程度です。こうした単純な仕事では、板前、職人として成長することは望めません。壮太は自営の「おかくら」で働いていたからこそ、自ら仕入れてきた魚の捌き方を学び、旬の野菜を選定する目も養われて、ごまかしの利かない一人前の職人として成長することができたのです。働いている人たちが仕事を通じて成長を実感できるかどうかは、従業員のモラルやプロ意識を高めるうえで非常に大切な点だと思います。 昨年末、「和食 日本人の伝統的な食文化」がユネスコ無形文化遺産に登録されたように、長い年月を経て和食文化を受け継いできた職人の努力とプロ意識が、食品をめぐる安全管理の根本にあるのではないでしょうか。 中国の工場では「幸楽」の味を再現できない  前述した『渡る世間は~』の最終シリーズ(2010年10月~2011年9月放送)で、「幸楽」が事業拡大のためにインターネット販売事業を始めるエピソードがあります。製品づくりから発送までを工場に一元化し、野菜中心のさっぱりした餃子を全国に販売しようとします。サンプルを送り、試食したユーザーにツイッターやブログで投稿してもらい口コミで評判を広めようとする計画でした。これは見事に、世の中の流れを反映しています。 現代の食品づくりに際して重要なことは、「こだわりの味、特徴のある製品を自分たちの手でつくれる土壌があるかどうか」です。流通する餃子のレシピが同じでも、「幸楽」の味を100パーセント、再現することはできません。長年つくり続けてお客さまに支持されていること、その餃子をつくれる職人がお客さまの目が届く店舗で働いていることに価値があります。ですから、「幸楽」の餃子と称して工場の大きな電動ミキサーで配合し、餃子製造器で包んで販売した製品は、信用される餃子ではなくなるのです。 もしかしたら職人が手で包む餃子と、機械が包む餃子を並べてみても、大きな違いはないかもしれません。むしろ機械で包んだほうが、均質性が保たれ、作業効率は向上するでしょう。しかし、「職人の手で包む餃子」こそがほかに代替できない「幸楽」の味なのです。 仮に、インターネットの口コミの影響で、お客さまが殺到し、お店の厨房では餃子をつくることができなくなったとします(ここからは私の創作です)。「同じ配合でつくればどこでつくっても同じだよ」と食品コンサルタントに指導され、「幸楽」はレシピを中国の工場に渡し、現地で餃子を製造することに決めました。食材の配合工程も、手作業であることに変わりありません。つくる場所が「幸楽」の厨房か、中国の工場かの違いだけです。こうして中国で製造された餃子は、パソコン上で注文を受け、日本にある配送センターから出荷されます。この生産・販売工程によって、お客さまの要望に数多く応えることができ、たくさんの量の餃子を売ることで、「幸楽」は利益を確保できるようになりました。 しかし、ここで大事な落とし物をしていることに皆さんは気が付いたでしょうか。 それは、注文が殺到した繁忙期、寝る間を惜しんで餃子を包んでくれた「幸楽」の従業員の仕事がなくなってしまったことです。せっかく「幸楽」の餃子が売れたにもかかわらず、足元を見ると自分たちの仕事を失ってしまう。ネット販売によって、売り上げアップを見込めたとしても、中国に製造拠点を移すことが必ずしも正解ではない、という例ではないでしょうか。 この物語で描かれる世界は、まさしく日本の飲食業界の縮図だと思いませんか。「安ければ、どこで製造しても同じだろう」という発想で中国に製造を請け負わせた結果、自分たちの働く場所がなくなってしまうのが本当に効率的なのでしょうか。一人前になるまで従業員を教育するという、日本の飲食業の伝統を食品企業はいつの間にか放棄してしまったのではないでしょうか。輸出入時の事前検査は無力 冒頭の報道を受け、日本マクドナルドは7月22日に一部店舗で「チキンマックナゲット」の販売を休止し(国内工場の冷凍庫に保存されていた中国とタイの別会社のナゲットを順次配送し、23日に販売再開)、ファミリーマートも鶏肉加工商品の販売を停止しました。 報道を見るかぎり、使用期限の過ぎた凍結肉、床に落ちた肉や再生品(不良品を再度原料として使用したもの)が混入した製品を食べた消費者に、健康被害が出るわけではありません。しかし、過剰な報道が繰り返し行なわれることで、企業イメージが悪くなることを恐れた結果、各社は製品の販売中止や中国産原料の使用禁止を判断しました。 その際、「輸出時、輸入時の検査を強化すべき」との声を多く聞きますが、そもそも輸入業者や厚生労働省の各検疫所による食品検査は、一部のサンプル検査でしか行なえず、輸入商品すべてを検査することは不可能です。コンテナのなかで試料がサンプリングされそうな場所にあらかじめ正常な商品を配置することで、検査の潜り抜けも許してしまいます。また、非破壊(X線など)による食品の成分検査も行なえません。仮にすべての商品の検査を実施すれば、可食部分はなくなってしまいます。輸出入時の事前検査も必要ですが、検査だけでは食品事故は防ぐことはできないのです。 さらに、事前検査が事実上無力であることを示す事例を紹介しましょう。 前述した中国の粉ミルク事件や、2007年に米国でメラミン入りのペットフードが回収された事件を覚えていますか。粉ミルク事件は、商品の受け入れ検査時点で薄めた牛乳成分の蛋白値が正常値になるように、食品成分ではない尿素から工業的に生成されるメラミンを混入したことが問題でした。メラミンはタンパク質ではありませんが、タンパク質と同じ窒素原子を多量に含むため、乳製品などにメラミンを混ぜて、分析上タンパク質含量を多く見せかける偽装が可能になります。メラミンは本来、食品に含まれる物質ではないため、通常の検査では検出することができません。 この方法は、中国では検査法の原理の裏をかいた手口として、口コミで各地に広まっています。食品成分を分析した結果、正常な値が確かめられれば、受け入れ検査で有害な商品をピックアップすることは困難です。 受け入れ検査を「抜き打ち」で行なうことはそれなりに効果があります。中国のスーパーでは、野菜を仕入れるときに試薬を使用して農薬検査を実施します。検査担当者は「検査を行なわないと、バイヤーが精査せず何でも仕入れてくる危険がある」とコメントしていました。なんと中国人自身が中国人を信頼していないのです。 海外からの輸入食品についても、こうした「抜き打ち」検査は必ず実施すべきです。中国に限らず、海外と日本の倫理観には隔たりがあるにもかかわらず、日本の輸入業者の多くは十分な対応をしていません。鶏肉加工販売会社「比内鶏」が、比内地鶏と偽って別の鶏肉を販売していたケースも、鶏がどこから「比内地鶏」として運ばれてくるのかをチェックしなければ、偽装は発見できません。段ボールに「比内地鶏」と書かれているからといって、それで安心していてはダメです。 ミートホープの偽装挽肉では、納品先の工場が受け入れ検査として細菌検査しか行なっていなかったという報道がありました。もし納入ごとに挽肉の外観検査や理化学検査を行なっていれば、契約どおりの挽肉かどうかを確認できたはずです。仕入れ原料の製造先の点検、監査は形だけになりがちですが、原料から品質まで徹底管理するためにもいっそう細かい点検が必要です。 まさに「農場から食卓」までの品質管理が重要なのです。“自分の大切な人が食べる”と想定してつくる 驚いたことに、報道で事故を起こした中国の工場を見ると、日本の工場よりも綺麗な設備が多く、従業員の服装も問題なく見えます。しかし、だからといって従業員教育が十分に行なわれているとは限りません。 報道をテレビで見ると、「“自分の大切な人が食べる”と想定して製品をつくる」という、食品製造に携わる人であれば当然身に付けておくべき基本的な教育指導が抜け落ちているように映ります。食品工場の従業員に対しては、「使用期限の過ぎた肉は使用しない」「床に落ちた肉は使用しない」といったルールを繰り返し伝え続けることが、一見、地道でいてじつは有効です。先輩社員が床に落ちた肉を平気で使用している現場や指導する社員がいない現場が遍在するかぎり、マニュアル教育をいくら施しても、新人作業者も落ちた肉を拾って再使用するようになるでしょう。 人間同士の関わりのなかで「ルール違反行為を目撃した場合は、その場で笛を吹く」という基本動作を従業員に徹底していれば、今回報道されたようなことは防げたはずです。欧米では、内部告発者を「ホイッスル・ブロワー」と呼びます。本来の意味は、サッカーなどの審判です。サッカーの審判はルール違反をした選手を見つけると試合中であってもその場で笛を吹きます。ルール違反の内容によってはイエローカード、レッドカードが審判から出され、ゲームに参加することができなくなるケースもあります。工場の従業員教育のなかでも、同様に「ルール違反の現場を見たら、たとえ上司であってもその場で笛を吹くこと、それでも改善しなければ○○へ連絡する」という指導を施すことが重要です。 中国に生産拠点を置く日本企業の多くは、2008年に起きた冷凍餃子中毒事件を契機にチェック体制の強化に乗り出しました。直営工場に監視カメラを増設した企業もあります。しかし現場に行って確認すると、録画したビデオの保存期間はせいぜい1カ月程度です。これでは実際にルール違反が起きたときに時間を遡って犯人を特定することはできません。作業員の一挙手一投足を第三者機関によってチェックするシステムの導入や、部外者に警報を鳴らす顔認識機能を備えた防犯カメラの設置でもしないかぎり、完全無欠の事故防止策など存在しません。 事故を防ぐ最大の対策となるのは、工場で働く従業員の人間性とモラルの向上です。ルール違反が横行する現場では、得てして従業員のモラルが低下し、「この工場でつくられた製品は自分が食べないからどうでもいい」という思考に陥りがちです。中国の工場で働いている人たちの多くは、普段は路傍で食事をするような生活環境で暮らしており、日本人のように高価な食品を口にすることはめったにありません。論語に「己所不欲勿施於人(己の欲せざるところは、人に施すことなかれ)」という言葉があります。食品工場は、基本的に自分たちが食べたくないものをつくる場所であってはなりません。つねに、“自分の大切な人が食べる”と想定して食品をつくるように心掛ける教育をすべきでしょう。監査を行なうのは信頼関係を守るため あなたが飲食店やスーパーで鶏肉団子をお客さまに販売しているとします。「この鶏肉団子の原料を教えてくれますか」「使用している添加物は何がありますか」とお客さまから質問されたら、正確に答えることができますか? 販売者は原材料に関する情報をしっかり頭に入れて、お客さまからの問い合わせに対応することが求められます。 とくに添加物は注意が必要です。食品添加物を食品に使用した場合は、原則としてすべて表示する必要がありますが、ここにも抜け穴があります。栄養強化の目的で使用されるもの、加工助剤および「キャリーオーバー(食品加工時に使用されるが、完成前に除かれたり、少量になるもの)」は、表示が免除されているため、最終商品に表示がありません(JAS法に基づく個別の品質表示基準で表示義務のあるものは除く)。「キャリーオーバー」については、添加物を使用していても、最終商品に添加物の効果が認められなければ表示しなくてもよいという考え方です。たとえば、コンビニ弁当のソーセージに保存料を使用していても、ソーセージを入れることによって弁当の賞味期限が引き延ばされるようなことはないので、表示は不要です。とはいえ、ほんの少しの添加物が最終商品に残っている可能性があります。食品販売に携わる人は、表示義務のない添加物を含め使用しているすべての添加物を把握することが必要です。 原料についても同様で、「鶏肉団子は鶏肉でできています」という回答では不十分です。ブロイラーのどの部位にあたるのか、産卵後の親鶏の肉なのか、それとも肉を取ったあとに骨を砕いた肉なのか、製品販売者は第三者に説明できないといけません。鶏肉団子を仕入れる側は、製造者の肉の素性を事前に決めて契約書に配合率を記載させ、製造時に監査を行ない、記録を付けることを要求しなければなりません。併せて、鶏が食べる餌の配合を行なう工場の監査が必要です。蛋白値をごまかすために、メラミンなどの物質が使用されている可能性があるからです。 さらに飲食店、スーパーが定期的に監査を行なっているという事実をネット上で消費者に向けて公表することで、生産・流通工程の透明性を訴えることにもつながります。何より私たち消費者が、自分たちの口に入れる食品の情報をいつでも確認できる透明性のある企業を選ぶ意識をもつべきでしょう。 食品メーカーや販売会社が仕入れ先の工場を監査する際、仕入れる商品を製造する該当の作業場、保管施設しか監査を行なわない場合がほとんどです。しかし、それでは不十分です。給水・排水設備、冷蔵設備から、トイレやロッカールーム、ゴミの保管場所に至るまで工場内にあるすべての設備をチェックする必要があります。消火栓の前に棚が放置されていたり、非常口が施錠されていて開かない状態を見た場合は、監査項目になくても注意しなくてはなりません。原料の保管庫内に、使用期限の切れた原料や本来、使用していない外国産の材料の保管が判明した場合は、入荷伝票まで遡って事実確認すべきでしょう。食品関連の法律以外でも、従業員の労働環境などで法律違反があり、すぐに改善できない場合は、仕入れ先を変更すべきです。 こういった細かい仕入れ先の監査は、一般的には行なわれていません。しかし、産地偽装された原料や使用期限の過ぎた原料を使用した製品をつかまされないためには、仕入れ先全体の監査が必要なのです。皆さんが知り合いから10万円を借りたとして、借りたお札の枚数を数えない人はいないと思います。その作業こそが監査です。日本人には「まぁ、そこまでいわなくても」「長い付き合いじゃないか」という馴れ合いの精神があります。しかし、お互いを尊重し、信頼する関係を守るために、監査をする必要があると私は思います。ミートホープによる偽装挽肉事件も、挽肉の仕入れ先が工場全体の監査を行なっていれば未然に防げた事件かもしれません。食品偽装や産地偽装が発覚したあとで、「騙された」と発言してももはやあとの祭りで、人間関係と同様、企業間の信頼関係は崩れてしまいます。 中国のレストランに行くと、誰もが本当に楽しそうに食事をしています。朝、公園を散歩すると、食事をとりながら、わいわい話している姿も見かけます。また中国人は、粉から製麺した中華そばや、食肉処理されたばかりの豚肉を食べます。これらは中国の立派な文化です。食道楽が多いことで知られる中国から学べる食文化と知恵はまだ存在するはずです。 原料を見極め、食品を製造する職人を日本全体で育て、日本の食品業界が安易に「チャイナ・フリー(中国産を使用しない)」の方向へ舵を切らず、自らの足元を絶えず点検することを願っています。 河岸宏和(かわぎし・ひろかず)食品安全教育研究所代表1958年、北海道生まれ。帯広畜産大学卒業後、大手ハムメーカーや大手流通チェーンなどで、品質管理に携わる。近著に『「外食の裏側」を見抜くプロの全スキル、教えます。』(東洋経済新報社)がある 。ホームページ「食品工場の工場長の仕事とは」を主宰。

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    頻発する中国食品問題 このままで大丈夫か

    いまや中国産食品抜きに日本の食卓は成り立たないのが現実。しかし、食品業界を知り尽くしたプロは、輸入商品すべての検査は不可能と断言する。では、どうするか。現実的な対応策を提案する。

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    依存しすぎでは強大中国に立ち向かえない

     現在の中国は、第一次大戦前の強大なドイツを彷彿とさせる。経済の相互依存関係が進めば、戦争は勝者と敗者の両方にとってマイナスである。誰もがそう考えがちだが、第一次世界大戦は起こってしまった。世界は中国とどう付き合うのか。

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    第一次世界大戦を考える意義 現代まで続く問題

    でその頃からの課題はありますか?井上:国際連盟が出来たのは画期的なことなんですが、アメリカ、ロシア、中国、イギリス、フランスといった主要国が足並みを揃えないと決められないというのは、現在でも変わっていないですよね。――当時の国際連盟での日本の立場はどうだったんですか?井上:日本も形式的に戦勝国として常任理事国の立場を与えられてはいましたが、基本的には欧州の国際機構だったので末席でした。当時のヨーロッパの国々は民族問題を抱えていました。そこで、利害関係のない日本が民族問題の特別会議の議長国となり、解決に尽力したのです。そのことがあったからこそ、満州事変が起こったとき、国際連盟は日本の立場にも配慮しましたし、最後まで連盟にとどまって欲しいのが本音でした。 現在の安倍内閣は、積極的平和主義を掲げています。しかし、集団的自衛権の議論にしても、日本が戦争に参加するのかなどに問題が矮小化されてしまっています。今日の戦争は複雑ですし、日本が国際平和で果たす役割も古典的な戦争のイメージとは別のものが求められています。 ですから、もっと世界平和のためにどう関わっていくのかというビジョンを明確にし、それを実現するために集団的自衛権を合憲化するというのであれば、理解が得られるかもしれません。他方で、アメリカやロシアにもっと積極的に核軍縮を進めたり、それに付随し、核開発をすすめている国へ開発を止めようと、核兵器の全体の保有量を減らすような行動をした方がいいのではないでしょうか。――第1次大戦の戦勝国であるアメリカはその後、民主主義を世界に広める行動を取っているのが、今の状況に似ていますね。井上:アメリカという国にさまざまな問題はあるとは思いますが、アメリカがリードする民主主義の理念は普遍的なものだと思います。民主制にも問題はありますが、これまで人類の考えたさまざまな政治制度の中ではもっともマシな制度なので。日本も、そのアメリカを中心とした世界の民主化の流れの中で遅れてはいけないと考え、アメリカを世界標準とみなし、その後、政友会や民政党による二大政党制や、成人男子のみではあったけれども普通選挙を取り入れました。大日本帝国憲法を読む限り、政党内閣は予定されていなかったことがわかります。それでも、憲法を改正しない範囲で政治の実質的な運用として普通選挙制度のもとで政党内閣ができた。この実現は非常に大きな意義があったのです。ですから、憲法がどうであれ、運用の仕方で民主化が進んだというのは今日的な意味があると思いますね。――他には100年前からどんな教訓が得られますか?井上:先行きが見えないというのはいつの時代も同じだと思います。100年前の人たちは、そうした状況下で格差社会や経済停滞に対して、手探りだけどなんとかしたいと努力をしていました。そこから学ぶことは多いと思います。教訓を学ぶという点では、どの時代でも学ぶべき点はあると思います。先行きが見通せない中で、希望を捨てずにがんばっている人たちの姿を追体験し、良い部分と間違っていた部分を見極めることが大切です。――本書をどんな人に読んで欲しいですか?井上:「歴史は無味乾燥でつまらない」、「100年前と今となんの関係があるのか」と思っている人にこそ読んで欲しいと思っています。そうした人たちが読みやすいようにエピソードの記述を多くしています。100年前も今も変わらず人々は希望と不安を抱きながら毎日を一生懸命生きているんだ、自分たちもがんばろうと思って欲しいですね。そういうことが日本を良くすることに少しでも役立ってくれれば著者冥利に尽きますね。(ライター・本多カツヒロ)