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    携帯料金「4割値下げ」は当たり前?

    日本の携帯電話料金は本当に高いのか。「4割引き下げ」に言及した菅義偉官房長官の発言に波紋が広がっている。今やスマホが必需品になったとはいえ、確かに毎月の通信料の高さに不満を持つ人も多いだろう。利用者にとって値下げは有り難いが、むろんデメリットもある。議論を深読みする。

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    ぼったくり携帯料金「6割値下げ」も当たり前

    中宮崇(サヨクウォッチャー) 私の携帯電話料金は月約800円である。みなさんは月にどれぐらい払っているだろうか。ほとんどの方が安くて7000円というところだろう。 あとで書くように、私は毎月の携帯料金を安く上げているばかりか、なんと稼いでさえいる。これは誰にでもできることなのだ。 私の携帯料金がこれほど安い理由は、ソフトバンクやドコモ、auの主要三大キャリア(MNO)を使っていないからである。それ以外のいわゆる「格安SIM」(MVNO)と契約しているためだ。しかし三大キャリアの料金体系はあまりにも複雑で世界的に見て異常すぎるため、工夫すれば例えばドコモでも、iPhoneを無料で手に入れた上で月料金も毎月ほぼ無料にしてしまうことさえ可能なのである。 先日政府が、携帯電話料金は高すぎるとの見解を示したとの報道が流れた。 菅義偉官房長官は21日、札幌市内で講演し、携帯電話の利用料について「あまりにも不透明で、他国と比較して高すぎるのではという懸念がある。4割程度下げる余地はあると思っている」と述べた。(産経新聞 2018.8.21) 消費者重視の非常に評価できる見解ではあるものの、私に言わせればまだまだ甘い。携帯電話料金は「6割程度下げて当然」である。 冒頭でも述べたとおり、日本の三大キャリアにおける携帯電話料金体系は、世界的にみて異常である。特に民主党政権時代の「癒着」と言うしかない、むちゃくちゃな保護政策がそれを助長し、消費者からの「ぼったくり」を助長してきた。 日本の三大キャリアによるぼったくりは、高価なiPhoneの普及率の異常な高さに見て取れる。 「StatCounter」によると、スマートフォン向けOSの全世界のシェアは、iOSが20.32%に対し、Android 72.74%と、Androidの圧勝となっている。ところが、これを日本に限定してみると、そのシェアはiOS 66.56%に対しAndroid 32.57%とほぼ真逆となってしまう。ちなみに、アメリカのiOSのシェアは54.12%と半分強で、iPhone“発祥の地”よりも日本の人気の高さが伺える(いずれも2017年9月時点)。(dot. 2017.9.25) この記事にもあるように、日本人は「iPhoneが好き」だから普及率が高いのではない。ソフトバンクがアップルからiPhone独占販売権を獲得し、2008年7月に日本で発売開始された際に行われた「ばらまき」が原因である。12年に民主党政権が崩壊するまで続いたコレが、日本における世界にまれに見る歪(ゆが)んだ料金体系を決定づけた。札幌市で講演する菅官房長官=2018年8月21日   現在でもそうだが、日本におけるiPhoneの価格は世界的にみて異常に安く見せかけられている。本来であれば10万円以上する商品が、「実質無料」などと称した紛らわしい「実質ローン」で売られている。その巧妙なカラクリを知らぬ消費者は「iPhoneがタダでもらえるのか」と勘違いさせられて契約し、世界的にも異常に高い料金を何年も支払わされることになる。 実質ローンに過ぎない「実質無料」のカラクリはこうである。例えばここに、世界的には9万6000円でiPhoneが売られているとしよう。これでは金持ちしか買ってくれないので、ソフトバンクは「2年間わが社と契約して毎月基本料金7000円支払い続けてくれるなら、このiPhoneを『実質無料』で差し上げますよ」と甘い声でささやきかける。「実質無料」のワナ 7000円という料金自体がそもそも世界的にみて高すぎるわけだが、「iPhoneがタダで手に入る」と勘違いした消費者はあまり気にしない。そして本体代金9万6000円を2年間、24回分割ローンで月当たり4000円と基本料金7000円の合計1万1000円を支払い続けることになる。ソフトバンクは高い月料金で本体代金を回収しているわけだ。 しかし、このままだとただのローンであり「実質無料」などという言葉を使えばただの詐欺になってしまう。ここからが巧妙なところだ。ソフトバンクはここから毎月本体代金4000円を「割引」する。この割引額は、ばらまいた機種によって異なり、大抵の場合は本体代金の24分の1である。ソフトバンクの場合はこの割引金額を「月月割」と称しているが、ドコモは「月々サポート」、auは「毎月割」と称して各社ほぼ同様の仕掛けを用意している。 毎月この割引が行われるため、月の支払いは差し引き7000円のみとなる。これが日本独自と言って良い「実質無料」のワナだ。「ワナ」と言ったのには理由がある。もともとの7000円という月料金自体が高すぎるが、2年間バカ正直に使い続けるなら確かに本体代金「実質無料」と強弁できないことはない。しかし、本体が壊れたり紛失するなどして「2年縛り」の途中で解約した場合はどうなるか? あるいはもっと安い格安SIMにMNP(携帯電話番号ポータビリティー)で乗り換えたい時はどうなるのか? その場合、残りのローンを全額一括請求されてしまうのだ。先行販売が始まったiPhone3Gを求め、ソフトバンク表参道に入る人たち=2008年7月 11日、東京・表参道 例の場合、1年で解約すると4万8000円が一括請求される。そればかりか、「違約金」として約1万円まで支払わなければならないのだ。繰り返すが、こんな異様な料金体系がのさばっているのは世界でほぼ日本のみと言っていい。民主党政権が崩壊し自民党政権となってから、このような歪んだシステムを是正しようとする動きが見え始めてきているが、まだまだ不十分である。 さて、歪んだ制度のあるところには、必ずそれを出し抜いて儲けるヤツが出てくる。冒頭で「私は毎月の携帯料金を安く上げているばかりか、なんと稼いでさえいる」と書いたが、こんなことは日本以外の諸外国では不可能である。中国人によるスマホの密輸 秋葉原や池袋、新大久保辺りに行くと、中国系や韓国人系の「携帯電話買い取りショップ」が林立している。ソフトバンク等で契約しゲットしたばかりのiPhoneXをそういう店に持っていくと、10万円ほどで即日買い取りしてもらえる。そうやって集められたスマホは中国に流れる。なぜなら中国では日本と違い、iPhone自体が非常に高価であり、しかも共産党による規制等の影響で自由に購入することができないからだ。そのため中国ではいまだにスマホの「密輸」などという事件が後を絶たないのである。 2017年5月26日、騰訊新聞によると、中国広東省深セン市の皇崗税関で23日、児童用の通路を通って香港側から中国へ入ろうとした小学生10人のリュックサックから大量の米アップル社製「iPhone」など高級スマートフォンが見つかった。小学生らは「売ってマクドナルドで食事しようと思った」と話しているという。(Record China 2017.5.27) 日本では三大キャリアが高額な月料金でぼろ儲けしているため、販売促進のために各販売店に対し販売奨励金(インセンティブ)を出している。本来、そのインセンティブは契約を獲得した販売店が自分の懐に入れる性質のものである。しかし、中にはそれを客に「還元」(キャッシュバック)し、それにより契約を獲得しようとする販売店も存在する。例えば、ツイッター等で検索すると、「iPhone一括0円」などとツイートして客を集めている販売店が多数見つかる。 この「一括0円」は前述の「実質0円」と似て非なるものだ。実質ローンに過ぎない「実質0円」に対し「一括0円」は紛れもなくタダなのである。これをうまく使うと月料金を安く(極端な場合無料に)できるばかりか、利益まで出てしまう。  例えば、iPhoneが9万6000円としよう。通常の「実質0円」で販売している店で契約した場合、消費者が月々支払う料金は「基本料金7000円+本体代金ローン4000円-月月割4000円=7000円」となる。 しかしここで、インセンティブが15万円出るとしよう。契約を獲得したい販売店は、この15万円を丸々懐に入れるのではなく、iPhoneの本体代金9万6000円に充てて、客に「一括0円でiPhoneを差し上げますよ」と誘うわけだ。そうすると月々の料金は「基本料金7000円+本体代金ローン0円-月月割4000円=3000円」になる。※この画像はイメージです(GettyImages) 日本では、なんとiPhoneが無料でもらえた上に料金まで安くなってしまうのである! しかも「実質0円」で手に入れた場合には、もし1年で途中解約すると4万8000円のローンが残り、それを一括返済する必要があった。しかし「一括0円」で購入した場合、途中解約してもローンなど残らないのだ。違約金1万円のみ支払うだけで良い。子供も荒稼ぎ さて、この異様な仕組みをうまく利用するとどうなるか。先ほど、「秋葉原等のスマホ買い取り店に行けばiPhoneXは10万円で買い取ってもらえる」と言いましたね。そういうことです。そうやって儲けている輩はたくさんいる。別のところでも書いたことがあるが、月に2、3日「そういうこと」をするだけで、年間100〜200万円が誰にでも稼げるのだ。これは大人だけでなく子供にでもできるのである。つまり4人家族なら、それだけで年間500万円ほどを稼げてしまう計算になる。 実際そうやって稼いで気楽に生きるために、日本に入国する中国人は多いらしい。私はそういう「稼ぎ方」を「MNP携帯乞食」と呼んでいるが、それを支えているのは何も知らずに毎月高額な料金を「実質0円」という餌に釣られ、生真面目に支払い続けている消費者である。 この日本独特の歪んだ携帯電話料金体系のせいで、中国人らの大量入国以上に私が危惧していることがある。これは他のメディア関係者等にも何度も警告してきたことなのだが、取り上げられたのは今回が初めてである。それは「少年犯罪」をはじめとする子供への悪影響だ。 繰り返すように、この「稼ぎ」は外国人や我々大人だけでなく、みなさんのお子さんでも簡単にできてしまうのである。メディアが報じていないだけで、親の知らないうちに子供が何十万、何百万もの出どころのわからない金を貯めこんでいる、などということが日本各地で既に起きているという。※この画像はイメージです(GettyImages) 私は子供のころは小遣いに苦労し大学進学も奨学金と学資ローンに頼らざるを得ない貧乏人だったので、子供が稼ぐことができるようになった状況自体は反対するつもりはないのだが、現状ではその過程において、極端な場合には例えば親の「同意書」を偽造するなど、子供が犯罪に手を染める要因が多すぎる。また、そうした大金を稼ぐためにクラスメートや後輩等を脅して組織し、契約させピンハネするなどという事件も既に起きているだろうし、そこには暴力団等の反社会勢力も食い込んでいることだろう。 以上のことから、菅官房長官による携帯電話料金「4割程度下げる余地ある」発言には賛同せざるを得ない。それは単に携帯電話会社による「ぼったくり」を是正するということ以上の意味が実はあるのだ。民主党政権時代に定着した携帯電話会社の異様な体質が、気付かないところで日本社会を大いに侵食しているのである。

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    携帯料金4割値下げ「菅ショック」の政治的ウラを読む

    片山修(経済ジャーナリスト、経営評論家) 「今より4割程度下げる余地がある。競争が働いていないといわざるを得ない」。菅義偉(よしひで)官房長官の8月21日の携帯料金をめぐる発言が波紋を呼んでいる。 この発言を受けて、大手通信キャリア3社のNTTドコモ、KDDI、ソフトバンクの株価が下落した。まさに「菅ショック」である。 発言をめぐっては、賛否両論がある。とりわけ「4割」という数字の根拠について、さまざまな指摘がなされている。結構、厄介な問題である。 常識からいって、大手通信キャリアが稼ぎ過ぎているとしても、携帯料金を4割も削れというのは、少々無理があるとする意見が専門家の間にはある。 菅氏は「4割」の根拠として、経済協力開発機構(OECD)の調査を挙げた。国内の携帯料金は、加盟国平均の2倍にも達し、高過ぎるというのだ。仮にそうだとしても、それぞれの国内通信事情があるので、料金の単純比較は難しいという反論には、それなりに説得力があるといえよう。2017年12月、楽天が運営する「楽天モバイル」の銀座店。楽天は携帯電話大手3社に次ぐ第4の携帯電話事業者を目指すことを表明した 実際、日本の通信料金は高い分、他国に比べて、一般的に通信品質も高い。鉄道、電力、通信など公共インフラは、全国津々浦々までネットワークが張り巡らされており、その設備投資と維持費には、大きなコストがかかっている。それゆえ高い料金設定になるのもやむを得ない。 肝心の「4割」の根拠については、次のような背景も斟酌(しんしゃく)されているようだ。2019年に携帯事業参入を計画する楽天が、既存事業者の「半額」程度の料金設定を目指している。だから、「競争をしっかり行えば下げられる余地がある」と菅氏は語るのだ。 もっとも、一部では、仮に大手3社が通信料金を4割下げ、楽天と同程度の価格を実現した場合、楽天にとってはとんでもない参入障壁となる、格安スマートフォン事業者もまた、大打撃は免れないだろうと心配されている。「4割値下げ」で利益ゼロ? 4割引き下げが可能かどうかは別として、わが国の携帯料金は、海外の事業者に比べて複雑で、利用者から「不透明」だとの不満があるのは事実だ。分かりやすい料金体系は顧客ニーズなのは間違いない。通信料金に端末の代金が含まれたり、固定通信とセットにすると割り引かれたりするから、実に分かりにくいのである。 ビジネスの常識として、一気に料金の4割値下げは通常あり得ない。というのは、一般に粗利益は3割というのが相場だ。 だから、一部には、4割も携帯料金を引き下げたら、通信キャリア大手3社の通信事業の営業利益は一挙にゼロになるというアナリストの分析もある。むろん、菅氏は、そんなことは先刻承知のはずだ。 ではなぜ、無理を承知でこのような発言をしたのか。そこには、永田町のさまざまな思惑が秘められているとみていいだろう。 まず、背景には、競争が促進されない通信業界へのいらだちがあるのは間違いない。通信は1985年に自由化された。狙いは競争の促進だった。 その結果、電電公社と国際電信電話(KDD)による市場独占状態は解消され、KDDIの前身の第二電電(DDI)、さらにソフトバンク前身の日本テレコムなどが通信事業に新規参入した。当然、これらにより競争が起こり、料金は下がるはずだった。2018年8月27日、定例会見を行う菅義偉官房長官(春名中撮影) ところが、競争原理は働かなかった。いつの間にやら、大手3社の寡占状態が定着、すなわち横並びが続いたため、競争促進とはほど遠く、料金も思惑通りに下がらなかった。政府は、この状況をかねてから問題視してきた。 安倍内閣は、もともと民間への「口先介入」が多い。賃上げ要求や雇用拡大など、経済界にたびたび要望してきた。 実は、携帯料金についても、15年に安倍晋三首相自らが「携帯料金などの家計負担の軽減は大きな課題」と発言した経緯がある。また、総務省も大手3社に対し、再三にわたって、携帯料金のユーザー負担の軽減、「2年縛り」といった商慣行の是正、自社で販売したスマホを他の通信会社で使えなくする「SIMロック」の解除などを求めてきた。政治的な「ウラ読み」 これに対して、3社がその都度対応した結果、割安プラン新設などにはつながった。しかし、肝心の料金の値下げはおろか、寡占状態も崩れなかった。元総務相の菅氏は、歯がゆさやじれったさを感じてきたはずだ。 政府は今回、通信料金について、景気対策からも考えているフシがあるのだ。というのは、政府には、来年10月の消費税10%への増税を控え、伸び悩む個人消費への焦りがある。通信料金の値下げにより、消費拡大を図ろうとしても不思議はない。 総務省の調査では、昨年の世帯当たりの通信料・通話料は年10万250円と増加傾向で、10年前に比べて2割以上増え、家計消費に占める割合も増えている。消費増税による消費の冷え込みが懸念される中で、携帯料金引き下げによって家計負担を軽減し、別の消費に回してほしいという願望だ。 さらに、政治的な「ウラ読み」もある。発言のタイミングが微妙だからだ。自民党総裁選を前にして、永田町の思惑が大いに絡むという説だ。携帯料金の引き下げは身近な問題として国民の関心が高い。家計負担の軽減で恩を売り、「人気取り」を狙っているとの見方だ。 もっとも、こうした見方に対して逆の見方も成り立つ。ご存じのように、日本銀行は、13年以降年率2%のインフレ目標を打ち出している。「アベノミクス」の一環だ。ところが、17年時点でいまだ上昇率は1%に満たない。その意味で、通信料金の値下げは物価を押し下げることになり、デフレに拍車をかけることにはならないか。 また、政府は日本企業の収益性の低さを指摘し、コーポレートガバナンス(企業統治)の改革による「稼ぐ力」の強化を掲げている。にもかかわらず、大幅な値下げ圧力をかけることは、「稼ぐな」と批判しているのと同じではないか。果たして、その政策と矛盾するのではないか、というわけだ。2018年9月、東京都内のホテルで行われた自民党総裁選の決起集会に臨む安倍首相 そもそも、民間企業の経営マターに、政府が介入することは望ましいことではないという原則的な見方がある。その限りでは正しい。 とはいえ、介入に一理あるのも確かだ。通信は公共の電波を使用しているからだ。菅氏は、大手通信キャリアについて「公共の電波を利用している。過度な利益を上げるべきではない」と指弾したが、これは賛同を得やすい。 大手通信キャリア3社の昨年の営業利益は、ソフトバンク約1兆3000億円、ドコモ約9700億円、KDDI約9600億円と、3社でおよそ3兆円にのぼる。国内上場企業の営業利益ランキングで3、4、5位を占める。営業利益率も、ドコモやKDDIは20%前後と、上場企業の平均約7%を大きく上回る。つまり、「稼ぐ力」は申し分ない。大手通信キャリアは日本を代表する優良企業といっていい。海外を本気で攻める大手キャリア ただ、グローバル基準で見ると、決して国内大手3社が稼ぎ過ぎているわけではない。例えば、米国の通信事業最大手のベライゾン・コミュニケーションズは、営業利益率22%、2位のAT&Tも13%だ。 国内大手3社はむしろ、今後、頭打ちの国内市場を脱し、海外市場に活路を見いださなければならない状況にある。グローバルに事業を展開するためには、足元でしっかりと稼がなければ、勝算はないといわれている。 現に、大手通信キャリアは、いまや海外市場を本気で攻めている。ソフトバンクは、13年に総額2兆円を投じて、米通信4位のスプリントを買収した。そのスプリントは、今年、ドイツに本社を置くTモバイルの米国法人で米通信3位のTモバイルUSとの合併に合意。海外進出を積極的に進めている。 KDDIは、モンゴルで連結子会社の通信事業モビコムが成功しているほか、ミャンマー郵電公社(MPT)と組み、現地の携帯事業を手掛けている。NTTドコモも、インド市場からは撤退したが、国内市場にとどまっていてはならないという危機感は強い。そのためにも、必要なのは潤沢な資金だ。 さらに、20年にも商用化を目指す新たな第5世代(5G)移動通信方式の開発には巨額な投資が必要だ。自動車や家電製品など、あらゆるモノがインターネットにつながる時代を目前に控え、通信キャリアとしては、国際競争力を維持するためには、いくら金があっても足りないということかもしれない。 菅氏の発言を受けて、大手3社はこのほど、料金の見直しに踏み切った。ソフトバンクは、毎月の端末の割引はしないかわりに、通信料金を2割程度安くする方針で、毎月通信料金に加算されていた端末料金を切り離し、料金を透明化する「分離プラン」を採用するとしている。 しかし、毎月の端末の割引がなくなるため、実質的には2割どころか、数%しか安くならないといわれている。これでは菅発言に応えたことにならないし、消費者のニーズに応えたことにもならない。2018年8月、記者会見で決算について説明するソフトバンクグループの孫正義会長兼社長 いくら値下げるかは別として、まずは、料金の透明化に格段の努力が求められる。さすれば、大手通信キャリアに対する消費者からの風当たりは、少しは和らぐに違いない。 携帯電話は、今や国民生活に欠かすことのできない重要なライフインフラだ。3社が利益を上げながら成長しなければ、日本は次世代サービスで他国に後れを取りかねない。値下げの議論だけでなく、収益を含めたバランスの取れた議論が必要なのである。

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    携帯料金、国の民事介入「4割値下げ」はデメリットも多い

    佐野正弘(ITライター) 8月21日、菅義偉(よしひで)官房長官が「日本の携帯電話の料金は4割程度引き下げる余地がある」と発言したことが、携帯業界で大きな波紋を呼んでいる。27日に菅氏はその根拠を明らかにした。 発言の背景には、経済協力開発機構(OECD)加盟国の調査で、日本の携帯電話料金が平均の約2倍であることや、2019年の携帯電話事業参入を予定している楽天が、料金を既存事業者の半額程度に設定する計画を公表していることがあるという。 スマートフォンの普及で携帯電話がコミュニケーションだけでなく、日常生活に必要不可欠な存在となった。そうしたことから、家計に占める携帯電話料金の割合は年々上昇してきた。 それが諸外国より高いというのであれば、料金引き下げは当然と思う人は多いことだろう。だが正直な所、今回の菅氏の発言は料金しか目を向けておらず、携帯市場を多角的に評価できていないと感じてしまう。 まず、携帯電話の料金に関して、諸外国と比較する上では、国によって料金設計のあり方自体が大きく異なることを考慮しなければ、公平とはいえないだろう。 実際、日本では、端末と回線をセットで提供し、端末価格を大幅に値引く販売手法が一般的なことから、通信料金が高く、端末価格が安くなりがちだ。だが、海外では端末の値引きが日本ほど大きくないため、通信料金が安く、端末価格が高くなりやすい。だから、あくまで現状の料金を比較するならば、双方の特性を考慮し、通信料だけでなくトータルでの比較が求められるのである。 総務省が公開している「電気通信サービスに係る内外価格差に関する調査」の平成28年度版を見ると、データ通信量が20GBでは東京の料金が8642円と、最も低いロンドン(3684円)と比べ場合以上の料金となる。だが、同じ料金プランで端末(iPhone7(32GB))の割賦料金込みで比較すると、東京の料金は9290円で、ロンドン(8461円)との差は1000円未満と、大きな差があるわけではないことが分かるだろう。iPhone X(左)とiPhone 7(ゲッティイメージズ) ちなみに、端末代の大幅な値引きに関しては、これまでも総務省がいわゆる「実質0円」をガイドラインで事実上禁止するなどの厳しい措置を取っており、その是非については議論を呼ぶところではある。だが日本の携帯電話に係る支出を諸外国と比べるならば、トータルコストを考慮しなければ正しい比較はできないわけだ。「4割引き下げ」で生じる格差 さらに言及しておくと、海外では、日本で一般的なポストペイド(後払い)式よりも、プリペイド(前払い)式のサービスが広く利用され、料金を安く抑えやすくなっている国が多い。一方で、日本では、かつて詐欺行為に多く使われた影響から、プリペイド式携帯の規制が強化され、サービス提供がしづらくなっている。そうした実態を考慮せずに、ポストペイドの料金だけで高い、安いと比較するのはナンセンスなのである。 そしてもう一つ、楽天の料金体系に関しても注目すべきだろう。そもそも、楽天の子会社「楽天モバイルネットワーク」が取得した周波数帯は一つだけで、これからインフラ整備を推し進める必要がある。楽天は全国に充実したインフラを持つNTTドコモ、KDDI、ソフトバンクの3キャリアと、当面まともに競争できる状況にはない。 そこで現在、仮想移動体通信事業者(MVNO)として展開している「楽天モバイル」の路線を踏襲し、戦略的に低価格で勝負に出ようとしているわけであり、既存のキャリアとは立場が大きく異なることを忘れてはならないのである。 それでも、携帯電話料金が高いから安くしてほしい、という人は多いと思う。では仮に、キャリアが4割料金を引き下げなければならなくなったとして、引き下げがどのような事態を引き起こすかという点までは想像できているのだろうか。 キャリアの収入のうち、大きな割合を占めているのは毎月の通信料なので、その通信料が4割下がれば、売り上げや利益も大きく落ち込む。その結果、キャリアは企業として生き残るため、収益性が低く、将来性が見込めないものには投資しなくなる。その代表例となるのが、少子高齢化で成長が見込めない国内、特に地方のネットワークインフラである。マンション屋上に設置された携帯電話会社の基地局 日本の大手キャリアはこれまで、潤沢な資金を費やして最先端のネットワーク機器を導入し、カバーエリアを競い合ってきた。この競争により、都市部だけでなく地方や山間部であっても満遍なく高速通信ができるという、世界で1、2位を争う充実したネットワークインフラをもたらしてきた。だが、キャリアが投資できる余地が少なくなれば、収益性が低い地方のインフラ投資が真っ先に削減されるため、都市部と地方で大きなネットワーク格差が生まれる可能性が出てきてしまう。 そうした格差は、インターネットを通じた高度なサービスが地方で普及しにくくなり、新たなデバイド(格差)を直接生み出すことにもつながってくる。また地方のカバーがおろそかになることで、いざというときの災害対策にも大きな影響が出てくることになるだろう。 とはいえ、携帯電話の料金をもっと安くしたいと思っている人が、必ずしも現状のキャリアの料金プランを使い続ける必要はないということも覚えておくべきだ。実は、毎月の通信料を安くする選択肢は、ここ最近の競争激化で大幅に増えているのである。安いプランを利用しないワケ その一つが、いわゆる「格安スマホ」である。楽天モバイルなどのMVNOが提供するサービスが代表的だが、ソフトバンクの「ワイモバイル」ブランドや、KDDI傘下のUQコミュニケーションズがMVNOとして展開する「UQモバイル」など、俗に大手キャリアの「サブブランド」と呼ばれるサービスも選択肢の一つに挙げられるだろう。 もう一つは最近増えている、より安価に利用できるキャリアの料金プランである。具体的には「auピタットプラン」のように、毎月のデータ通信量に応じて料金が変化するプランや、特定のスマホに乗り換えるだけで毎月1500円の値引きが受けられる「ドコモウィズ」などが挙げられ、キャリアを変えずに料金を抑えたい人にはメリットが大きい。 だが、こうしたサービスを実際に使っている人は意外と少ない。MM総研の「国内MVNO市場規模の推移(2018年3月末)」を見ると、一般的な消費者向けのMVNOを示す「独自サービス型SIM」の回線契約数は1082・8万回線で、ようやく1000万を突破したというところだ。 大手キャリアの場合を見ても、auピタットプランの契約数は、大容量の「auフラットプラン」と合わせて2018年5月末時点で約800万、ドコモウィズは2018年4月末時点で約200万と、いずれも契約数全体の比率からするとまだ高いとはいえない状況だ。 では、なぜ消費者は安価な料金プランやサービスがあっても、なかなか利用しようとしないのか。それは消費者自身が、携帯電話の料金が複雑だからといって、料金や契約の見直しに消極的、あるいは興味を持たないからではないだろうか。 筆者は仕事やプライベートで、時々携帯電話の料金について相談を受けることがある。だが、毎月の料金をチェックしない人、新しい料金プランやサービスの存在を知らない、あるいは聞いたことはあるものの、「難しい」「面倒」などの理由で、古い料金プランをそのまま使い続けている人に出くわすことが多い。 「携帯電話の料金体系が複雑なのが悪い」という人も多いだろう。実は、過去を振り返ると、複雑化した料金プランを整理してシンプルにしたものの、消費者や行政からのさまざまな要望に応えるうちにまた複雑化する、という歴史を繰り返しているのである。ビジネスとして多様な声に対処するには、単にシンプルにすればよいというものではないことから、やはりキャリアの料金体系を変えるよりも、消費者の側が賢くなることが必要ではないかと筆者は感じている。「格安スマホ」コーナーではSIMロックフリー端末が一堂に会している=2016年3月 料金の安いサービスが存在しても、それを消費者が選んでくれなければ意味がない。今、政府が料金引き下げのために取り組むべきは、「民事介入」という筋の悪い手で市場を混乱させるのではなく、携帯電話料金に対する消費者の関心を高め、そのリテラシーを向上させていくための手助けをすることなのではないだろうか。

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    日本の携帯料金「4割値下げ」の余地は本当にあるのか

    Bの場合も、同様にニューヨークが最も高く、日本はソウル、デュッセルドルフに次ぐ4位であった。問われる企業経営の透明性 だが、20GBとなると様相は一変し、東京はデュッセルドルフ(9845円)に次ぐ2位で8642円であった。最低がロンドンの2947円である。ロンドンと比較すれば、東京の料金は93%も高い。しかし、デュッセルドルフとロンドンを比較すれば、その差は3・3倍である。どうして都市によってこれだけの格差が発生するのは定かではないが、特徴的なことは、東京の料金はデータ容量が大きくなるほど高くなっているということである。 このことはMVNO型(回線網を持たない事業者)スマートフォンについてもいえるが、20GBではデュッセルドルフが1万4440円と圧倒的に高く、ニューヨークの6740円、東京の5726円が続く。 この総務省の調査結果を総合的に見れば、2GBでは、平均が3179円で、東京の料金は約19%高い。20GBに関していえば、6都市の平均が4575円で、東京の料金は約89%高い。2GBでは、東京の料金と6都市平均の差はそれほど大きないが、20GBでは菅官房長官の指摘は間違っているとは言えない。 要するに割高なのは、使用データが高容量の場合である。ならば、東京の料金構造が高容量、高料金になっているかを検討する必要がある。考えられるのは、高容量で高料金を徴収し、低用量で料金を引き下げ、初心者を勧誘する狙いがあるのかもしれない。高容量の料金を引き下げれば、低容量の料金が上昇する可能性もある。単純に引き下げを求めるのではなく、こうした料金体系の在り方にもメスを入れる必要があるだろう。 次は、どうしたら料金引き下げを実現できるかである。電話産業は認可産業であるが、政府が直接価格設定に介入することはできない。政府の「介入は害多くして益なし」は、歴史が教えているところだ。 ただ、料金が高止まっているのは、何らかの業界内での暗黙の「談合」が行われていると考えるのは自然であろう。直接談合しなくても、競争相手の企業を見ながら料金やサービス設定を行っているのは間違いない。 そうした事態を是正するためには、菅官房長官と野田総務相が共通に語っているように、当たり前だが、競争を促進する必要がある。簡単に言えば、新規参入を促進することだ。楽天など新規の低料金の携帯電話会社の参入があるが、まだ価格破壊という状況を引き起こしているわけではない。野田聖子総務相 とはいえ、顧客は単に料金だけでなく、サービス全体を評価して判断する。企業間の競争促進と同時に、利用者がもっと自由に契約を変更できるようにしなければ、企業間の競争促進も効果がないだろう。このためにも、企業経営の透明性も問われることになる。 料金を巡る議論で、もう一つ留意する必要がある。携帯大手3社は高収益を上げている。もし、超過利得(レント)があるのなら、当然、利用者に還元すべきである。菅官房長官も講演会で「国民の財産である電波を利用した事業で、携帯電話会社は過度な利益をあげるべきではない」と、利益還元による料金引き下げの必要性を指摘している。 ただ、携帯電話産業は成長産業である。現在、より通信速度の速い次世代(5G)移動通信方式への対応が迫られている。巨額の設備投資も必要となってくるだろう。携帯電話会社は、そうした将来を見据えた投資が必要だ。 料金引き下げとは別に、政府にも政策的対応が必要となる。単に料金を引き下げるべきだと主張するのは片手落ちで、政府は電気通信サービス産業の明確な将来ビジョンを示す必要がある。

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    自動車電話は保証金20万円、基本料3万円 ケータイの変遷

    「今何してる?」「ご飯食べてるよ」“会話”するようにメッセージのやり取りができるSNSは、今や若者だけでなく主婦やビジネスマンの間でも欠かせないコミュニケーションツールになっている。携帯電話がガラケーからスマホに変わり、通信規格も進化するなか、人々の暮らしは大きく変わった。“いつでもどこでも”がもたらしたコミュニケーションの変化を振り返る。 黒山の人だかりの中、遠隔操作で器用に書道をしたり、センサーをつけた人の動きに合わせてダンスを踊る人型ロボット。寸分の狂いのないその動きに、道行く人々は目を丸くして立ち止まる。 2月26日、スペイン・バルセロナで開かれた世界最大のモバイル見本市。ロボットを披露したのは、日本の携帯大手で唯一参加したNTTドコモだ。ドコモがアピールしたのはロボットではなく、ロボットに接続された次世代通信規格「5G」(Gはジェネレーションの頭文字)である。 5Gとは、簡単に言えば、携帯電話で動画などのデータをやり取りする際の最先端の通信技術のこと。現在使われている「4G」の進化版だ。これまでより高速・大容量の通信が可能になることで、さまざまな分野での開発が加速している。──振り返れば、携帯の進化は、これまでも私たちの暮らしを大きく変えてきた。 旧日本電信電話公社(現NTT)が、携帯の“原型”である自動車電話サービスを始めたのは、今から約40年前の1979年。電話機と車載無線機がセットになり、無線機は重さが7kgもあった。電話機は運転席の近くに置くことができたが、無線機は自動車のトランクに積んでエンジンから電源を供給して使用した。 NTTドコモ歴史展示スクエアの西木貞之館長が語る。「自動車電話は、最初の通信規格である『1G』を用いた電話機で、レンタルしかできませんでした。当時自動車電話を利用するには、保証金が20万円、加入料が8万円、基本料金が月々約3万円もかかったため、一般市民にはなじみはなく、主に企業の経営者などが利用していましたね」  1985年には、バッテリー部分を肩から提げて使う「ショルダーホン」が誕生。自動車から離れても電話できるようになった。 保証金は約10万円で、重さも約3kg、バッテリーも1時間しかもたなかったが、バブル全盛期ということもあり、羽振りのいいビジネスマンを中心に少しずつ浸透した。自動車電話で話をするドライバー=1997年10月 その2年後、NTTが日本初となる携帯電話1号機を発表。重さは900gと携帯するには重く、費用も高額なため庶民には手が届かなかったが、トレンディードラマ『抱きしめたい!』(フジテレビ系)で浅野温子が使用したことで、世間の羨望の的となった。 通信規格が「2G」に移行(1993年)すると、重量や機能も向上し、それまでレンタルのみだった端末が買えるようになったこともあり、携帯電話は爆発的に普及していく。 総務省によると、1993年にはわずか1.7%だった携帯電話普及率は、4年後の1998年には38.6%に急増。当時高校生だった都内在住の30代主婦A子さんは、懐かしそうに語る。「当時私たちの間では、電話をかけて1回のコールで切る『ワン切り』が流行っていました。部活が終わって帰宅すると、ほどなくして部活仲間からワン切りがある。『今日もお疲れさま、明日もがんばろうね』という意味なんです。彼と夜電話する時にもよくワン切りをし合いました。コールが1回で切れたら『電話OKだよ』の合図で、そこから長電話が始まって、母親に何度も怒られたものです」関連記事■ 世界最大の自動車大国・中国 国家をあげて電気自動車開発へ■ 電気自動車サミット 太陽光発電で電気自動車を充電する人も■ 電話に出ぬ若者 「電話は時間を拘束する迷惑ツール」と認識■ 固定電話を止めるメリット 迷惑電話はなくなり、料金も節約■ Softbank iPhone4S乗り換えで基本料最大2年無料の理由

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    自宅でWi-Fi設定すれば、スマホ料金勝手に節約される

     スマホは通話にメールに動画の視聴にと、いろいろと便利だけど、料金が高いのがネックですよね。でももし自宅のパソコンにインターネットをひいているのに、Wi-Fi(ワイファイ。無線LANのこと)がないなら、コレを設置するだけでも、今のスマホ料金が大幅に節約できるんです! その辺の詳細を、ITセキュリティーの専門家で、携帯電話事情に詳しい三上洋さん(以下、「」内同)に私、「お~みか。」が教えてもらいました! スマホのデータ通信料は、ドコモなど大手3社はほぼ同じで、通話料とは別に「2ギガで月額35000円」「5ギガで月額5000円」など、1か月の契約容量で支払う仕組み。容量を使い終わると追加で買うか、遅い速度で使うことになるから、どれくらい必要かわからないと、うちの父のように、店に言われるがまま、大容量で契約しがちなのよね。最近では「20ギガで月額6000円」なんて、“モンスター”級の大容量も登場しているみたいだけど、自宅にWi-Fiがあれば、2ギガもあれば充分なんですって。「Wi-Fiとは電波の一種ですが、スマホの携帯電話回線とは別物。Wi-Fiの電波を使うと、携帯電話の回線を使わずに高速通信ができるので、携帯電話会社と契約しているデータ通信量を使わずにすむんです」 つまり、Wi-Fiを使えば、いくらネットを見ても、スマホのデータ通信量が減る心配ナシ。特にうちの両親は、スマホで動画を見るわけでもないし、ゲームを長時間するわけではないので、5ギガから2ギガの契約に変えれば、2人で月額3000円、年間にしたら3万6000円も節約できちゃうワケだから、かなりお得ですよね! とはいえ、「Wi-Fiの設置なんて難しそう」「費用はいくらかかるの」など、心配もあるでしょう。 でも大丈夫! 自宅のパソコンがインターネットにつながっているお宅なら、申し込み1つですむんです。「パソコンをインターネットにつないでいるなら、家に“モデム”があるはず。契約しているプロバイダに連絡してWi-Fiの利用を申し込めば、モデムを親機にして電波を飛ばす“Wi-Fiルーター”という子機をレンタルしてくれます」写真はイメージです(ゲッティイメージズ) ただし、レンタルは月額数百円かかるので、市販のルーターを購入した方が安上がりでおすすめ。「ルーターは1万円前後。家電量販店などで売っています。買ってきたら自宅のモデムにつなぎ、簡単な設定をすませれば設置完了です」 Wi-Fiの設置が終わったら、次はスマホ側の設定。手順はコチラ。1.画面にある「設定」を開く2.「Wi-Fi」を選ぶ3.Wi-Fiリストの中から、ルーターのラベルや取扱説明書に表示してある電波の名前「ネットワークID(SSID)」を選ぶ4.パスワードの入力欄に、「暗号化キー」を入力する5.スマホの画面上部に、「Wi-Fiマーク」が出ればOK!「パスワード(暗号化キー)は一度設定すれば、使うたびに入力する必要はありません。自宅に戻れば、スマホが自動的にWi-Fiの電波を拾い、切り替えてくれます」 つまり、一度設定さえすれば、あとは勝手にスマホ料金を節約できるという仕組み。うちの両親のように、ネット環境が整っているのに、Wi-Fiを設定していない家庭って結構多いんですよね。これってスゴクもったいない。家族でスマホを使う人数が多いほどお得度もアップするからぜひ試してみて!関連記事■ スマホ料金 利用形態別で分かれる新旧プランの得するタイプ■ モテすぎハーフ港区女子、焼き肉を勝手に予約された事件■ タクシー料金 値上げすれば本当に運転手の収入が安定するか■ 森永卓郎氏 格安スマホにすれば通信費年間5万円は節約可能■ 平均200万円の葬儀費用 自宅で葬儀すれば20万円から可能

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    新法の施行で「ヤミ民泊」は確実に淘汰される

    中西享(経済ジャーナリスト)  民泊について新しいルールを定めた住宅宿泊事業法(民泊新法)が来年6月15日から施行されるのを前に、同法の制定を強く働き掛けてきた百戦錬磨の上山康博社長にインタビューした。 「新法の施行により、これまで何万件とあった営業許可なく旅行者を泊めるヤミ民泊撲滅のきっかけになると考えている。現在、旅館業法改正案が国会で継続審議されており、違反者に対する罰金強化と当局による立ち入り検査権限も盛り込まれているので、是非とも成立してほしい」と述べ、安心安全な民泊サービス提供のために早急に無許可、無登録のヤミ民泊の根絶を求める考えを明らかにした。 日本では現時点で、民泊をするためには旅館業法の認可が必要で、大阪や東京で認められている民泊特区では施設が一定の要件を満たせば営業できる。しかし、多くはこれらの認可なく行われているヤミ民泊が横行していることから、旅館業界で反発が強まり、ヤミ民泊をしているマンションの入居者との間でトラブルになるなど社会問題化していた。 これを受けて立法化の動きが強まり、今年の6月に民泊新法が成立した。来年の6月からは、全国的に合法での民泊が解禁され、一定のルールを守れば誰でも民泊事業が行えるようになる。 上山社長は「民泊仲介業者は観光庁長官への登録が必要になる。また、民泊を代行している業者も多くいるが、こうした業者も登録制になる。外資系仲介サイトも法の枠組みに入るため、かなりのヤミ民泊が淘汰されるのではないか」と指摘、今回の民泊新法の実効性が担保されれば、ヤミ民泊仲介業者と同代行業者は日本では事業ができなくなる見方を示した。 その上で「現行の旅館業法では法律に違反した場合の罰金が3万円だが、これが100万円程度にまで引き上げられる。これだけ罰金が厳しくなれば、飲酒運転の罰則を強化して飲酒運転が減ったように、ヤミ民泊をしようとする業者に対して抑止効果が働くだろう」と述べた。 また新法の実効性を担保するために「最初の1年間くらいは『ヤミ民泊バスターズ』のような監視員を置いて、業者にきちんと法律を守らせるようにすべきだ。そうすることで、新しいルールのもとで旅館業を自由競争させ、ビジネスを正常な形で伸ばしたい」と強調、監視員の設置を提案した。(iStock) 京都、軽井沢など有名観光地を抱える自治体で、新法で定められたルールを各自治体の独自判断でより厳しく運用しようという動きがあることに対しては「ルールを守ろうとする人に規制を強化するよりも、ルールを守っていない人に守らせることが先決だ」と述べ、ヤミ民泊撲滅に向けての取り組みを優先すべきだとの考えを示した。  新法の施行を受けての百戦錬磨の方針については、「民泊予約サイト『ステイジャパン』に900件ほど施設を公開しているが、新法施行の来年6月15日以降には急激に増加するだろう。今年7月、大阪の特区民泊を活用した1棟民泊マンションを開業したが、このような自社運営の宿泊施設を今後、東京や京都にも増やしていきたい」と述べ、来年から民泊運営ビジネスの拡大も計画している。ヤミ民泊は6万件 インバウンド客のさらなる増加が見込まれている2020年の東京オリンピックについては「東京五輪の前年の19年のラグビーワールドカップが開催される。これで欧州を中心に40万~50万人の外国人がやって来て長期滞在する。ラグビーの試合は地方での開催もあるので、ラグビーワールドカップは、これまでインバウンド客の訪問先が東京や京都に偏っていたのが地方も訪れることになり『地方の開国』につながる」と指摘、「ラグビー効果」に大きな期待を寄せている。 同社が取り組んでいる農村に泊まって地域の住民と交流したりイベントに参加する「農泊」については「政府が進めようとしているインバウンド客の地方誘導にもつながり、東京や大阪だけでない日本の姿を知ってもらう良い機会を提供できるので、積極的に取り組みたい」と述べた。 新たな取り組みとしては「今年の4月に長崎県平戸市で試験的に行った『お城の天守閣に泊まれる』無料招待プランや、日本の伝統的な酒蔵をホテルにして外国人に泊まってもらうなど、来日した外国人が日本文化や伝統に触れて特別の体験ができるものを提案したい。低価格で宿泊できる民泊もあれば、高級感のある宿泊施設も提供したい」と指摘、新法施行を契機に宿泊、旅行の選択肢を広げたい考えを明らかにした。 ヤミ民泊の物件数は正確な数字はないが6万件程度あると推測されている。新法が施行された後にこのうちどの程度が合法的に登録されるかは未定だが、民泊を提供しようとする住宅宿泊事業者(ホスト)は①都道府県知事への届け出②年間提供日数の上限が180日③宿泊者の衛生確保―などの条件を満たさなくてはならないため、実際に登録する件数はかなり絞り込まれるのではないかとみられている。 このため上山社長は「ラグビーワールドカップ、東京五輪で来日が予想されるインバウンド客の数からみると、ホテルの新規増設に加えて民泊が全国的に解禁されても、19年時点では宿泊施設はまだ不足するのではないか」との見方を示した。百戦錬磨の上山康博社長 政府は今年3月に観光立国日本を実現するため観光立国推進基本計画を閣議決定した。2020年までに①訪日外国人旅行者数を4千万人にする②訪日外国人旅行消費額を8兆円にするなどの目標を掲げており、民泊は訪日外国人が宿泊するための受け皿になるものと位置づけられている。 なかにし・とおる 経済ジャーナリスト。1948年岡山県生まれ。1972年共同通信社に入社、経済分野を取材し編集委員などを経て2010年に退職し、現在は経済ジャーナリスト。

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    民泊新法でエアビーはどうするのか?

     世界最大の民泊サイトを運営する米エアビーアンドビー(エアビー)の日本法人の田邊泰之社長と、エアビー本社のグローバル政策担当最高責任者のクリストファー・レヘイン氏が、都内で記者会見し、住宅宿泊事業法(民泊新法)の6月からの施行に伴う3月15日から始まる住宅宿泊事業者(ホスト)の届け出を前に対応方針などを明らかにした。 田邊社長は民泊新法の施行について「日本でエアビーの民泊を普及させるために一番重要なことは、地域に合った形で事業を進めることだ。民泊を普及させるために協業の輪を広げていきたい」と述べ、地域との調和の必要性を強調した。また、レヘイン氏は「民泊新法と市町村の条例を順守するように努める。コミュニティとのトラブルは、世界各地の都市で多くの経験があるので防げると思う」と指摘した。 また新法施行によるホストへの影響について田邊社長は「(ルールが定められることで)ホストは参加しやすくなる。ホストに対して部屋のクリーニングサービスなどを提供しており、やりやすいようにサポートしている。現在の6万2000件のホストの数は、ほかの国と比べるとまだ少ない。日本では東京、大阪、京都などが多かったが、地方に眠っている観光資源が多くあるので、新法によりこうしたところが紹介されるようになるのではないか」と指摘、ホストの数が増えることに期待を示した。 いわゆるヤミ民泊を防止するための対策として、エアビーは15日にホスト登録のための画面を新しいものに切り替えた。エアビーのサイトに掲載するためには、ホストが自治体に登録した際に取得した民泊の許認可番号の記入が必要となり、この番号がない場合は仲介サイトに掲載しない。これにより、6月14日まではヤミ民泊はエアビーのサイトにアップされるが、新法が施行になる15日以降は許認可を得ていない違法な民泊はサイトから排除されることになる。 今後のグローバル展開についてレヘイン氏は「2028年までに世界中で10億人がエアビーの民泊を利用するようロードマップを描いている。世界の都市では民泊の規制と適合しながら事業を進めている。日本では空き家が多く、日本政府も空き家対策として民泊を活用できないか関心を持っている。エアビーの方式が役立つと確信している」と述べ、日本で受け入れられることに自信を示した。 新しい民泊サービスとして、今年2月から素晴らしいゲストがハイエンドな特別なサービスを提供できる「エアビー・プラス」という、ワンランク上の民泊サービスの提供を始めている。同社としては、他社との違いを出すためゲストの要望に応えられるように民泊のメニューを増やそうとしている。エアビー日本法人の田邊泰之社長(左)と、本社グローバル政策担当最高責任者のクリストファー・レヘイン氏 同社によると、2月1日現在の日本での宿泊登録件数は約6万2千件。内訳は東京都が2万1200件、大阪市が1万4300件、京都市が6200件。昨年2月1日から今年2月1日までの宿泊者総数は580万人だった。東京都が190万人、大阪市が160万人、京都市が66.6万人だった。平均宿泊日数は3.3日。エアビーの宿泊者数は2016年が370万人で、17年の1年間に約200万人も急増、全国にエアビー旋風を起こしたと言える。 しかし、全国の自治体では、民泊の宿泊数や場所などについて、地域住民の住宅環境への配慮などから民泊新法に上乗せした厳しい条例を定めるところが相次いでいる。この難しい環境の中で、エアビーがいままでと同様の多くのホストを獲得できるかどうかが注目される。

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    「引っ越し難民」もアマゾンのせい?

    「何千もの小売業者を倒産に追いやっている」。米インターネット通販最大手、アマゾンについて、トランプ大統領の「口撃」が止まらない。日本でもアマゾンの台頭でさまざまなサービスが打撃を受けて久しいが、この春急増した「引っ越し難民」の背景にもアマゾンの影響があるという。なぜか。

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    空前の「引っ越し難民」はなぜ社会問題化したのか

    野尻俊明(流通経済大学学長) 最近、引っ越しをめぐる問題がにわかにクローズアップされている。今年は3月末、4月初旬に引っ越しを業者に依頼しても応じてもらえず、希望の時期に予定していた引っ越しができない「引っ越し難民」が発生するのではないか、との懸念が高まった。 各種マスコミでも、利用者や引っ越し事業者を取材して警鐘を鳴らしており、ますます危機感が強まりつつある。実際、2月27日の石井啓一国交相の定例会見で「引っ越し難民」を取り上げ、引っ越し事業者に適切な対応を求める、という異例の表明をしている。  ところで、昨年は「宅配便クライシス」という言葉が生み出され、ネット通販の急激な普及に伴う宅配貨物の急増に宅配便のシステムが追いつかず、「物流の危機」として大きな社会問題となった。今日では、物流は社会的インフラの一つとして認知され、市民生活に不可欠のサービスとなっているが、国民一般の物流に対する認識は多くが旧態依然と言える。  このおよそ50年間、わが国ではトラック運送事業の発展で常に物流の供給過多の状況が続き、必要な時にいつでも低価格(運賃)で高質なサービスが入手できるという時代が続いてきた。しかしながら、現在のわが国の物流の実情は従来と状況が一変している。 実は、これまで3月に物流ニーズの急激な高まりで物流の供給がタイトになり、混乱を来したことは経験済みであった。2014年3月に翌月からの消費増税を控えて「駆け込み需要」の発生により、物流が混乱し引っ越しサービスにまで大きな影響を及ぼす事態が生じていた。 これを機に、企業の中には人事異動の時期をずらしたり、計画を事前に作り引っ越し事業者と打ち合わせをするなど、分散化の対応を取ってきている。しかしながら、今年はかつてないほどの危機が叫ばれている。この背景にはさまざまな事情があるが、大きな理由は引っ越し需要の「繁閑の極端な格差」と「人手不足」の問題であるといえる。(画像:istock) この両者は切っても切り離せない関係にあるが、まず前者については、例年3月には通常月の約2・5倍の引っ越し需要があるという極端な波動の存在である。4月に新年度、新学年が一斉にスタートするという社会慣行の中で、引っ越し事業者は経営的に苦しみ抜いてきた。 特に、今日の引っ越しは主として「引っ越し専業者」がサービスを提供しており、かつてのように一般的なトラック運送事業者が繁忙期だけ引っ越しサービスを提供するというケースは少なくなっている。利用者が引っ越し運送に付随する各種サービス(エアコンの取り付け、各種手続きの代行等)を求めるという傾向があり、引っ越し作業には多くのノウハウと熟練を保有する作業員が必要とされることも要因の一つと言える。利便性を追求する時代は終わり 次に後者については、周知の通りである。わが国においては少子高齢化の影響もあり、ほとんどの産業分野で人手不足が顕著になっているが、物流分野は依然、労働集約的な部分が多く、人手不足の深刻度が極めて高くなっている。ちなみに、直近のトラックドライバーの有効求人倍率は2・74倍となっている。物流産業においては労働条件の改善が急務とされているが、労働者の労働時間は一般産業の2割増し、賃金は2割減といわれている。 現在、働き方改革、生産性向上を目指す動きを官民挙げて取り組んでいるが、その成果はまだ未知数といえる。人手不足対策としての外国人労働力の活用についても、宅配、引っ越しは高質のサービスレベルを要求されること、また個人宅への配達等があるため容易に進んではいない。 また、政府においては、物流分野の長時間労働問題にメスを入れ実態調査を行うとともに、総労働時間規制の強化を打ち出している。具体的には、物流事業者においては時間外労働(残業)時間の厳格化の徹底を図りつつあり、この結果サービスの時間的柔軟性は限定的となり、一層ひっ迫の度合いを深めている。残念ながら、これらの二つの大きな課題に対しては、即効的に効果を出すことのできる解決策は見いだせていない。 さらにもう一つ、近年の新たな事情を付け加えるとすれば、ネット社会の出現ということがある。今やインターネット経由がすべてに当たり前の時代となったが、引っ越しサービスにおいても同様であり、ネット上での申し込みが多数利用されている。引っ越しサービスの比較サイトはあまた存在し、利用者はワンクリックで申し込みができるという利便を享受している。 事業者サイドにおいても、直接現地へ赴いての見積もりの手間が省ける等のメリットが出ている。しかし、利用者の中には手軽にネット上で複数の引っ越し事業者へ申し込みをしたものの、解約を忘れる(しない)という事態がしばしば生じるなど、各種の混乱が続いている。 こうした事態を受け、国土交通省では今年6月から現行の標準引っ越し運送約款を改正して、当日、前日、前々日のキャンセル料金を高くすることにより、解決を図ろうとしている。一方、引っ越し事業者については全日本トラック協会が「引っ越し優良事業者認定制度」を創設している。(画像:istock) これは一定の条件をクリアした事業者を優良事業者として認定、「引越安心マーク」を付与して、利用者に安心して引っ越しサービスを提供できる事業者の情報を提供しようというものである。 最後に、繰り返しになるが引っ越しなどの物流サービスがいつでも容易に手に入る時代は過ぎ去った。このことを認識した上で、物流への関心と情報の収集に一層努めてほしいと願っている。

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    「引っ越し難民クライシス」は逆にチャンスである

    片山修(経済ジャーナリスト、経営評論家) 「物流危機」は昨年、ヤマト運輸の労働組合が荷受量の抑制を訴えたのを機に一気に浮上した。危機は、いまや宅配業者だけでなく、日本郵便や引っ越し業者にまで波及、拡大している。宅配業者は宅配ドライバー不足が決定的なうえ、宅配時の不在問題もあって、長時間労働が常態化するなど疲弊が深刻だ。このままでは宅配ビジネスが成り立たないという苦境の中で、業者は一斉値上げに踏み切った。 例えば、ヤマト運輸は、個人向け宅配料金の値上げに加え、法人向けの値上げを交渉した結果、6割の大口顧客が値上げに応じた。平均値上げ幅は15%以上に及んだ。宅配便急増の最大要因といわれたアマゾンも4割超の値上げを受け入れたとされる。日本郵便も3月、宅配便「ゆうパック」の個人向け料金を平均12%引き上げた。 その余波というべきか、宅配業者の宅配ドライバーの労働条件や賃金改善に伴って、一部の引っ越し業者のドライバーが宅配業者に移籍した。その結果、引っ越し業者は人手不足に拍車がかかったといわれている。なにしろ、3~4月の異動期は年間引っ越し件数の約3割が集中する。ドライバーや作業員不足から、希望時期に引っ越しがかなわない「引っ越し難民」続出が懸念されているのだ。 その対策の一環として、日本通運やヤマトホールディングスなど引っ越し大手は、単身者向け引っ越し料金の値上げに踏み切った。それとともにアルバイトの人件費をアップする計画だ。でないと人手が集まらないからだ。 しかし、いくら宅配業者や引っ越し業者が値上げなど対策に乗り出しても、物流危機の抜本的な問題解決にはつながらない。というのは、今後もEC(電子商取引)市場の拡大は確実なことに加え、引っ越し時期の分散には限界がある。加えて、人口減少社会のなかでドライバー不足はますます深刻化する。果たして、問題解決の糸口はあるのだろうか。 求められるのは最先端技術を使った新時代型物流網の構築だ。スマート物流の実現である。つまり、衛星利用測位システム(GPS)やインターネット、モノのインターネット(IoT)、ビッグデータ、人工知能(AI)など、最先端技術を活用した物流革命の推進である。物流危機の解消はこれしかない。2018年3月、東京都目黒区にあるアマゾンジャパン本社が入るビル(奥) 具体例を見てみよう。例えば、ドローン(小型無人機)や無人運転車の利用によって配送の無人化が模索されている。日本郵便は2016年からドローンを使った郵便物輸送の実証実験に取り組んでいる。今年3月には都心公道において、将来の無人走行を想定して自動運転車による輸送の実証実験を行った。 ヤマト運輸はDeNAと組み、自動運転の実用化に向けて、神奈川県で「ロボネコヤマト」プロジェクトの実証実験を行っている。顧客が場所と時間を指定すると、自動運転車で配送する仕組みだ。現在はドライバーが乗車するが、将来的には自動運転を取り入れるという。また、国土交通省は18年度中に高速道路の長距離輸送の効率化を目指し、後続隊列無人走行の実証実験を開始する予定だ。引っ越し業界も「危機こそチャンス」 物流業者だけでなく、荷主側のアマゾンなどの通販業者も知恵を絞っている。サイバー空間で、いくら大量の注文を受け付けても、モノを届けられなければ事業は成立しない。アマゾンやヨドバシカメラなど、EC事業者は自社配送網構築に取り組んでいる。現に、アマゾンは、米国などでドローンによる配達の実証実験を行うなど、自社配送網の構築に余念がない。楽天もこの1月、2年以内に自社配送網を構築する方針を明らかにした。 その点、オフィス用品通販大手のアスクルは、すでに配送全体の約6割を自前配送網で賄っている。「業界でもっとも物流システムが進んでいるのは、間違いなくわが社だと思います」と、アスクルの岩田彰一郎社長は自負する。効率的な配送網のカギはAIだ。 例えば、アスクルの個人向け通販「ロハコ」では、「ハッピーオンタイム」というサービスを提供中だが、AIを活用して、消費者が1時間ごとに配送時間を指定できるシステムを構築しているのである。通常、配送業者のドライバーは、決められた担当地域の地図を記憶し、荷札と比較して効率的な荷物の積み込み順や配送ルートを考える。しかし、「ハッピーオンタイム」では、システムが配送ルートと時間を計算し、消費者の希望する時間をさらに30分間に絞り込んでメールで伝える。 到着時間は、システム上では秒単位で予測されており、前後15分の余裕をもって消費者に知らせる仕組みだ。コンピューターによるルート設定やAIによる予定と実績の差分分析を行い、到着時間の予測精度は従来比25%改善。通常約2割といわれる不在率を約2%に抑えている。 同社は、ドライバーの動きをリストセンサーで分析し、研究に生かす取り組みも行っている。ベテランと新人では、ドライバーの動きは大きく異なる。配送車を停めてから荷物を届けるまでに時間がかかる場合もある。配送ルートの気象情報、従業員の経験、荷物の重量、配送地域など、すべてをデータとして取り込み、AIで分析する。今後、BtoB(企業間取引)にも応用する考えだ。 さらに、物流センターでは、EC世界初となるピッキングロボットをはじめ、多くのロボットを導入している。最終的には、荷物を持ち上げてトラックの中に運び、積み込みまで行うロボットを視野に入れる。「いろんなロボットを検討している段階なんです。われわれの最終的な目的は、AIやロボットを物流センターや配送網に実装して、お客さま価値を上げることです」と、岩田氏はいう。ニトリのグループ会社「ホームロジスティクス」が運営する西日本通販発送センター。倉庫内を無人搬送ロボット「バトラー」が走り回る=2017年12月(沢野貴信撮影)「危機こそチャンス」とは、よくいわれることだが、物流危機は従来式のアナログな物流を、最先端技術を活用したスマート物流へと進化させる大きなチャンスと見るべきだろう。引っ越し業界でも、引っ越し需要の予測精度向上に、AIのアルゴリズムを活用するなど、最先端技術を活用した業務改善の動きがある。 今後、スマート物流網が急速に進んでいくのは間違いない。近い将来、AIの活用が業界の競争力を左右することになるだろう。

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    新幹線チケット下落も招いた「引っ越し難民」急増のウラ事情

    加谷珪一(経済評論家) 今年の春は、引っ越しに大きな異変が起こっている。希望通りの日程で引っ越しができないという、いわゆる「引っ越し難民」の問題である。例年、この時期は転勤や入学などで引っ越しが集中する。だが、日程を調整しても、引っ越しができないというほどの事態になったのは今年が初めてだと考えられる。 全日本トラック協会が発表した引っ越し混雑予想カレンダーによると、3月24日から4月8日にかけてが混雑のピークとなっており、この期間については、見積もりを依頼しても事業者から断られるケースが続出している。仮に引っ越しが出来ても、例年の数倍という高額料金が請求されることもあるようだ。 引っ越し事業者が予約を断ったり、高額の料金を請求しているのは、配送に携わるドライバーを十分に確保できないからである。1月時点における「自動車運転の職業」の有効求人倍率は3倍を超えており、ドライバーの確保が極めて難しくなっている。 ドライバーの求人には特別な事情もある。サービス残業の横行で批判を浴びた宅配事業者が、長時間残業対策としてドライバーを大量に採用。短期ではなく長期の契約や正社員への登用も進めたことから、期間限定で引っ越し事業に従事するドライバーの数が減少しているのだ。これが引っ越し事業者の人手不足に拍車をかけた。 だが、足りないのはドライバーだけではない。梱包などを行う作業要員の確保にも苦労している。以前なら、皆が長時間労働をこなして何とか乗り切っていたはずだが、労働時間管理の厳格化からそれも難しくなった。結果として、もっとも注文が多い時期であるにもかかわらず、引っ越し事業者は顧客の注文を断る状況となっている。 この影響は、別の業界にも及んでいる。引っ越し集中期間での転居をあきらめ、時期をシフトする人が増加したことから、新幹線の乗客数が減少。金券ショップにおける新幹線のチケット価格が下落している。人の移動が同じ時期に集中していたことがよく分かる話だ。※写真はイメージ(iStock) 整理すると、これほどの状況に陥った直接的な原因は、宅配再配達問題をきっかけとしたドライバー不足や、働き方改革に伴う残業時間規制ということになるだろう。だが、この問題にはもっと根源的な理由が存在している。それは、若年層労働力の絶対的な不足である。 日本における15歳以上、35歳未満の人口は過去20年間で3割近くも減少した。引っ越しに限らず、サービス業の現場では常に人が足りず、若年層労働者をつなぎとめておくことが難しくなっている。待遇が良くない業種や仕事がきつい業種はその傾向がさらに顕著である。解決策はマッチング・サービス こうした年齢層の偏りは、高齢化に伴って発生しているものだが、困ったことに、この状況は一時的なものではない。今後、日本は本格的な人口減少時代を迎えるが、今後、20~30年にわたって中核労働者の減少が続くと予想されている。このまま何もしなければ、同じような状況が長期にわたって継続することになるだろう。 では、こうした事態に対して社会はどのように対応すればよいのだろうか。これは需給のアンバランスが原因なので、問題を根本的に解決するには、需要を減らすか、供給を増やすしかない。 まず需要の面では、年度末に集中する人事異動を分散化させる必要がある。 諸外国でもカレンダーイヤーに合わせて人が動くという部分は大きいが、日本よりも四半期決算が重視されており、事業転換が必ずしも年度単位とは限らない。四半期ごとの事業見直しがもっと一般的になれば、経営もスピーディになり、引っ越しの分散化も実現できる。 もうひとつは採用の分散化である。大学の卒業時期を分散化させる取り組みは以前から行われてきたが、企業の4月一斉入社がなくならない限り、大学や学生にできることは限られている。一定期間内ならいつ入社してもよいという柔軟な採用条件を示す企業も増えているが、まだまだ少数派だろう。 この二つの話は相互に関係している。事業サイクルの見直しが進めば、採用も柔軟になってくるはずであり、結果として異動の時期も分散化することが可能だ。 一方、供給面における改革をすぐに実施するのは難しい。長期的には自動運転化といった解決策があり得るが、実施までにはかなりの時間がかかる。 短期間で実現可能な方策としては、引っ越しをしたい個人と、自営業のトラック・ドライバーをマッチングするサービスが有力である。つまり自動車配車アプリ「ウーバー」などに代表されるシェアリング・サービスの引っ越し版である。※写真はイメージ(iStock) すでにいくつかの事業者が、アプリを使ったマッチング・サービスを開始している。場合によっては、企業の人事部が各種サービスを調査し、社員に利用を促していくといった措置も必要となるだろう。 引っ越し難民の問題は人口減少を背景としており、この業界だけにとどまる話ではない。いずれ他の業界でも同じようなトラブルが発生する可能性が高い。 供給不足でサービスの実施が阻害されるような状況が続くと、経済成長にもマイナスの影響が出る。人手不足によって業務に支障が出るリスクについて、社会全体としてもっと認識を共有していく必要があるだろう。

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    ドローンで東電とゼンリンが組んだワケ

    多賀一晃(生活家電.com主宰) 「空の産業革命」という仰々しいうたい文句で、紹介されたドローン。だが、本格ビジネスはまだまだと言ったところ。そんな中、ドローン用途の中で最大のビジネス規模と目される「流通用途」に、東京電力とゼンリンが「『ドローン・ハイウェイ構想』に基づく提携発表」で名乗りを上げた。そんなドローンの現状をレポートする。 ドローンハイウェイ構想を出したのは、Amazon。2015年に飛行機、ヘリコプターが飛ぶことが認められていない低空域を区分けした提案をしたことにはじまる。200フィート(約61m)以下を、空撮、測量など、現在すでに実用化されているドローンで使い、200〜400フィート(約122m)を流通用のドローンが使うとしたもの。このドローンの速度を60ノット(時速111km)としたために、ハイウェイと呼称されている。同じハイウェイでも、トラックによる高速道路輸送とはニュアンスが異なる。 クロネコヤマトが悲鳴を上げているAmazonの流通サービス。これを「無人」で動くドローンに肩代わりさせ、現在のサービスを維持することを考えてのことだ。流通と書いたのは、個人宅への配送だけでなく、長距離トラック輸送も考慮してのことである。 今回の、ゼンリンと東電の「ドローン・ハイウェイ構想」のために業務提携の発表を聞いた瞬間、「上手い着眼点だ」と思った。ドローンの利点、欠点は多々あるが、一番の欠点は、「墜落の可能性」があることだ。となると、空を自由に飛ぶのではなく、空の道を作った方がいい。自由度は制限されるが、その分、安全も高くなる。その空の道が「ドローン・ハイウェイ」だ。「ドローン・ハイウェイ」が満たすべき要素は幾つもあるが、大きくは3つだ。 ①全国にネットワーク化されること。 ➁ドローン・ハイウェイの下は空き地が多く、できる限り人の出入りが少なく入り込めないようなところ。 ③そして、万が一墜落した場合、回収が容易であること。バッテリーチャージ、もしくは雨、強風時の避難ができる様なスペース、施設が適度な間隔であることだ。高速道路で言うと、基本200m間隔で非常電話と共に設置さている非常駐車路側避難帯、もしくはパーキングエリア(基本15km毎の設置)、サービスエリア(基本50km毎)に似たモノと思えばいい。ちなみに鉄塔の間隔は、600m以下が基本だ。 全国的に張り巡らした送電線を、このドローン・ハイウェイに活かそうというのが今回のゼンリンと東電の考えだ。最終的に、どのようになるのかは不明だが、今回の提携での話は大枠は高圧電線。街中の電信柱&配電線ではなく、鉄塔&送電線である。東京で言うと区部のような密集住宅地ではなく、郊外の町を考えてもらった方がいい。 送電線、鉄塔の下は、立ち入り禁止になっている場合が多く、ドローンにとっては、絶好のエスケープゾーンと言える。鉄塔の間はそれなりにあるが、航空機と同じように、トラブル=即墜落と言うわけではなし、墜落しか手がない場合でも、操縦者は軟着陸するように、あらゆる手段を講じるはずだ。そう考えると、飛行場よりはるかに数が多い上、航路の真下の鉄塔の存在が、どれ程有利かは、ご理解頂けると思う。(iStock) 要するに、送電線に沿いドローンを飛ばすと、万が一下に落ちた場合でも被害は最小限に抑えられるはずだというのが、今回の構想だ。また鉄塔以外に、送電線ネットワークには変電所がある。ここが高速でいうパーキングエリア、つまり中継基地にと考えられている。整備、電気の補給などに使える。そして鉄塔の下などのスペースは非常駐車帯というわけで緊急避難場所にすることも可能だ。 さらに付け加えると、送電線に沿うということは、ハッキリとした目標物があるため、非常に操縦しやすい。これは人間が操縦する場合でも、AIの自動操縦、いずれの場合でも有利に進む。そう考えると、細部、市街地の対応は未定未完ながら、ドローン・ハイウェイとしてはかなりリーズナブルなイメージとなる。 東電では、この構想の後、都市部の配電線でドローンで使うことを考えているという。やはり都市部での墜落は、緑地での墜落よりはるかにこわい。が、逆に都市部はビルが多いことも事実。使われていないビルの屋上、コンビニの屋根を使うなど、平屋根とのコンビネーションで対応できる気もする。またエスケープゾーンだけでなく、ドローンの機体もなるべく軽くし、重い荷物ではなく荷物を小分けにするなど、墜ちにくいルールを作ることも必要である。課題が多く送電線での成功を受けた形で行われると思われる。 東電が設備なら、ゼンリンは空路等の空の3Dマップ航路地図を作るのが役目だ。どこをどう飛行すると最もいいのかを3Dマップ化するのだ。ただ3Dマップは、座標の組み合わせはもとより、鉄塔等の電力インフラ情報で書かれており、現在のような地図帳という形ではなく、座標データーとしての供給になるという。 天候の変化は仕方がないとしても、地形的な特長のために発生する風の癖風や降雨などの気象情報は極力盛り込みたいという。書くと簡単そうだが、軽いドローンへの風の影響は大きいため、ゼンリンは、人間でいうと「経験と予想」といった、非常に重要な役割を担当することになる。即日配送サービスは維持できるのか? このところ、ヤマト運輸の配送問題が大きく取り上げられているが、もしドローンが使用可能になるとどこが変わるのだろうか。現状と変わるところはいくつもあると思うが、その内の代表的なものを以下に書く。 まずは、長距離の自動輸送だ。最終的にはAI付きドローンに託されることになると思うが、宅急便の営業所から営業所、もしくはユーザーの所へダイレクトに運ぶことになるだろう。集積センターなどは不要で、このトラックを逃すと、翌日出発、なんてこともなくなる。音の問題がクリアできれば、24時間配達となる時代となるかもしれない。 次は、主には都会での話し。都会の配達時間でロスがで多いのは、上下移動だ。エレベーター設置の法強制はないが、建設省(当時)長寿社会対応住宅設計指針には、「6階以上の高層住宅にはエレベーターを設置するとともに、できる限り3~5階の中層住宅等にもエレベーターを設ける」とある。 ただ低層階のマンション、アパートなどでは、設けていない所もまだ多くある。昇り降りの繰り返しは疲れるし、時間も掛かる。しかも、配送先の住人が不在の場合、完全な時間ロスとなる。ドローンは上下に強いので、ビルからビルへ、マンション密集エリアの配送、特に古いアパートが多いエリアなどはかなり楽になると思う。 ただし問題もある。ルールの確定だ。郵便ポストのような、配送ポストが全家庭に行き渡るのは、まだまだだろうし、ドローン配送が実施可能になった時、どのような形で受け取るのかが大きなポイントとなる。案外、ユーザーからの電話でドローンが発進。この時、何らかの形でユーザー認証されるので、その場での受取印はなし。荷物につけられた固有の8桁コードなど入れれば受け取り終了など、簡略にルール化できる可能性もある。ドローンの特性を活かし、皆が気持ちよく使えるルールができることを願う。 近未来の世界を描いたSF映画には、多くエアカーが出てくる。どんなに便利になっても都市部には人口が集中する。となると地上の移動では渋滞が避けられない。地下は設備を作るのに莫大な投資が必要。そうなると空を飛ばすのが一番というわけだ。高度5mと10mでは交差しないので、地上だけに比べ、何倍もの人をさばくことができる。 現在の空を飛んでいるのは、ロケット、ミサイル、飛行機、ヘリコプター、そして鳥だが、ロケット、ミサイルは毎日は飛ばないので置いておく。次に鳥は体が小さいので、群れでない限り、人間本位の言い方をさせてもらうと、人間への影響はほぼ少ない。2018年3月、ドローンを使い運ばれた荷物を受け取る大分県佐伯市の住民 飛行機、ヘリコプター、飛行船に関しては、航空法が適用されている。同法施行規則第174条で、「飛行中動力装置のみが停止した場合に地上又は水上の人又は物件に危険を及ぼすことなく着陸できる高度」か、市街地上空では「水平距離600m範囲内のもっとも高い障害物の上端から300m」、その他では「地上又は水上の人又は物件から150m」のうち、いずれか高いものとされている。こうなると高層ビルが乱立する東京は大変。例えば634mの東京スカイツリーのある押上にスカイツリーのような見上げる、そんな高いビルはないが、この近辺では934m以上でないとダメということになる。 そんな中、ドローンが注目されたのは、今使われていない低空域を使うからだ。どこからどこまでかは、飛行機と異なり国をまたぐことがないため、各国の法律に従うことになる。人が乗ることはできないが、この高さだといろいろなことができる。ドローンが「空の産業革命」と呼ばれるのは、その利便性の故だ。 ただ現在の所、すごいと思うレベルには達していないため、「産業革命」と言われても感覚的にずれているとお思いの人も多いと思うが、ドローンハイウェイなどができてくると変わったなぁと思われるはずだ。 ドローンの長所はいくつもあるが、一番大きな点は、ホバリング(空中静止)ができる点だ。そしてノビシロが大きい点も挙げられる。どんな所でも荷物の受け渡しができるし、写真撮影などもしやすい。 ホバリングほどではないが、小回りが利くことも長所として上げられる。インフラ点検などで、人だと入っていけないような所、入るにはいろいろな装備を用意しなければならない所でも入っていけるのも大きなメリットで、効率的にインフラの点検ができるのも、小回りが利いてこの性能があってこそである。物理ネットワークを持つということ またノビシロが大きいため、今後もドローンはどんどん進化して行くと考えられる。バッテリーの進化で航続距離をのばし、プロペラの改良、モーターの改良で、飛行効率ももっとよくなるとされている。またAIによる完全無人飛行の可能性もある。今、挙げたのはよく言われている可能性だが、ノビシロの幅はすごくが大きくいため、いろいろなことができる様になると考えられている。 次に短所だが、一番の短所は墜落の可能性があることだ。地球には重力があるので、この可能性は回避できない。その他、突風に弱い、雨に弱いなどの欠点があるが、いずれの場合も最悪の事態は墜落となる。 また、本格的に使われるようになると、騒音も問題になると思われる。「ドローン」という名前は「雄バチの羽音がドローンのプロペラが回転する風切り音に似ている」ことから来ていると言われているが、まあ静かとは言えない。赤ちゃんなら起きてしまうだろう。近くで数台飛行していたら、クレームになるのではと思われる。 今、ドローンが使われているのは、「写真撮影」「測量」「建物、インフラの点検」「農薬散布などの農業サポート」が主だ。しかし、これらはドローンに期待されている分野の一部でしかない。「配送」「救急医療」「災害対応」「警備」等々。今以上に大きな分野での使用が期待されているのがドローンだ。2020年にはオリンピックで「警備」がクローズアップされるだろう。私などは、自分のちょい後ろを付いて廻るドローンが欲しい。手ブラで歩けるし、買い物だってラクラクだ。 最近、どっと増えているのが「ドローン学校」だ。クルマで言うと、第二種大型免許(業務用の大型トラック)の教習所のようなもの。ただし国家免許はないので、あくまでも学校で学びましたということだが、操縦は経験がモノを言う分野であり、業界ニーズは高いと聞く。 さらに視点を拡げると、国際規格競争もある。経産省が宇宙航空研究開発機構と協力して衝突防止技術や自動管制システムを開発し、2025年を目標に国際規格を策定しに行くと報道されたのは、2017年2月。その実用化テストに、今回の提携は大きな役割を担うのではないかと思われる。ただ、ドローンは軍事技術の側面を持つため、この話がそのまま進むのかは疑問符が付く様に思う。 いろいろ書いたが、一度、ドローンハイウェイが整備されてしまうと、日本は手放せなくなってしまうだろう。特に災害が多い日本ではそうだ。よく被災地には復興のために、善意の救援物資が集まるが、上手く使われていないという報道は枚挙に暇がない状態だ。ドローンは荷物を少量ずつ、運ぶのが鉄則。つまり現場のニーズにより、少量ずつモノを配送することが可能なため、現場毎に必要なモノを的確に送付できる。 その上、災害にも強い。電力は、東日本大震災の時でも、3日後には通電していたという。また鉄塔は高層ビルより軽く、地震にも強い。地震に強く、倒壊したという話はないということだ。つまり台風のような悪天候を伴う災害でなければ、ドローン配送は災害時でも使えるということだ。これは災害が多い日本としては、是非欲しいシステムの一つだ。 ちょっと話は変わるが、私はこの話を聞きながら東芝のことを思い浮かべてしまった。東芝は現在、いろいろな事業を切り出し、売りに出している。正直、復活は厳しいと思う。理由は、弱体化した、古いと言われながら日本の総合家電メーカーが生き残ってきたのは、いろいろな事業を合わせて総合することにより、強みを見い出してきたからだ。 ところが、東電は、倒産しなければならない状態になりながらも、ほぼそのままの状態で残っている。電力会社としての頭から尾までのビジネスを傘下に収めている上、物理的な電力ネットワークも残っている。それが新しいビジネスを起こす時に大きな強みとなっている。今回は、この物理的な電力ネットワークをベースにしたビジネスプランでだが、これはビジネスを切り売りしなかったため、できたことだ。2016年3月31日、持ち株会社「東京電力ホールディングス」への移行のため、東京電力HD本社に取り付けられる「TEPCO(テプコ)」の看板(代表撮影) 東電は、福島の復興を先頭に立って支える義務がある。また事故を起こした福島の原子力発電所を、後日に憂いなきように確実に廃炉にする必要がある。補償金も膨大に上がるし、廃炉費用も膨大になる。ドローン・ハイウェイが実用化されると、かなりの金額が入って来て、それを福島のために使えるはずだ。 この構想を聞いた時、物理ネットワークを持っている者は強いと感じると同時に、切り出さなかったからこそ、お金を払える可能性が残ったとも思った。たが・かずあき 生活家電.com主宰。スマート家電グランプリ審査員。主催する『生活家電.com』を通じ、家電の新製品情報、使いこなし情報他を発信中。過去、某メーカーでAVメディアの商品企画を担当、オーディオ、光ディスクにも精通。また米・食味鑑定士の資格を有する。水、米、パン、珈琲、お茶の味に厳しい。

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    JR貨物が24年ぶり黒字化 トラック輸送からの切り替え加速

     日本貨物鉄道(JR貨物)の鉄道事業が、24年ぶりに黒字化を達成した。人手不足やモーダルシフトなど、黒字化には様々な理由が考えられるJR貨物が黒字化を果たした経緯と理由について、ライターの小川裕夫さんがリポートする。 今年、JRは発足から30周年を迎える。7社に分割された国鉄は、経営危機に瀕する北海道、民営化の成功モデルと謳われる東日本、絶好調の東海道新幹線を抱えリニアの建設にも意欲的な東海など、各社の明暗は分かれている。 7社のなかでも旅客営業をしない貨物は異色な存在として知られる。分割民営化時の議論がなされていたとき、すでに物流業界はトラック配送が主流になっていた。そのため、JR貨物は産まれる前から無用の存在になると目されていた。 JR貨物が発足した1987(昭和62)年度、JR貨物の年間輸送量は5627万トンもあった。それらは年を経るごとに減少し、2014(平成26)年度には3031万トンにまで落ち込んでいる。 苦境に立たされたJR貨物だったが、物流を取り巻く環境が変化したことによって経営状態は改善する兆しを見せている。今般、ネットショッピングの隆盛によって貨物輸送の需要が増加する一方、それらを各家庭に配達するトラックドライバーは不足している。 トラックに依存した物流体制は、すでに崩壊寸前。物流が機能不全に陥れば、その影響は小売店にも及ぶ。そうした事情から、メーカーや流通大手はトラックから鉄道へと切り替え始めている。 トラック輸送を貨物列車に切り替える潮流は、今年に入ってからも加速している。従来、トヨタ自動車は自動車部品を愛知県から岩手県まで輸送する貨物列車「TOYOTA LONG PASS EXPRESS」を運行してきた。今年3月のダイヤ改正で、「TOYOTA LONG PASS EXPRESS」は一日2往復に増便。流通大手のイオングループもメーカー各社と協力し、東京-大阪間の商品配送に貨物列車の活用を模索している。青函トンネル専用の電気機関車(右)への付け替え作業=2018年3月6日、北海道函館市のJR五稜郭駅 今年1月には、ビール業界1位のアサヒと2位のキリンが鉄道貨物で北陸地方への共同配送を開始。両社のビールは大阪の吹田貨物ターミナルから同じコンテナに積載されて、石川県の金沢貨物ターミナルへと運ばれる。さまざまな業界がトラック輸送から鉄道貨物へシフトしたことで、JR貨物は24年ぶりに黒字化を達成した。 社会環境の変化が貨物列車の需要を拡大させたことは間違いない。だからと言ってJR貨物が手をこまねいていたわけではない。JR貨物も赤字に苦しみながら、どうにか売上を伸ばそうと地道に努力をつづけてきた。 例えば、1992(平成4)年前後から輸送力を増強するために一編成の長大化を進めている。一編成が長大化すれば、一度に運べる荷物の量は増え、より効率的になる。関連記事■ 京福電鉄が走らせる宅急便電車は物流革命の先駆けとなるか■ 引っ越しのプロが解説 料金は「距離と荷物の量がポイント」■ クロネコ 被災地での自主的な救援物資配送も「業務」と認定■ JR境線鬼太郎列車 目玉の親父・ねずみ男等6種類の列車運行■ 被災地定点観測【4】津波で散乱 塩釜港の大型コンテナは今

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    佐川急便も導入の週休3日制 ビジネス上の損失が大きい現実

     ドライバーの人手不足に悩む運輸業界を中心に広がりつつある「週休3日制」。労働日数・時間にメリハリをつけて人材確保をしやすくする狙いや、常態化する長時間労働を是正する目的もあるとみられる。だが、果たして日本企業に定着する仕組みなのだろうか?人事ジャーナリストの溝上憲文氏が、週休3日制のメリット、デメリットを解説する。 「週休3日」の働き方が話題になっている。直接のきっかけは佐川急便の週休3日でのドライバーの募集だ(東京都と山梨県)。転職サイトに掲載された同社の募集広告のキャッチコピーは〈「週休3日」で、家族との余暇も収入アップも実現可能〉。その下には、〈水曜お休み。朝から趣味の釣りに出かけて、ゆっくり過ごす。土曜お休み。家族みんなで、日帰り温泉を満喫! 日曜お休み。今日は子どもと一緒に近隣の公園へ。〉という文字が躍っている。 「週休3日」募集の最大の狙いはドライバー不足による人材の確保だ。だが、週休3日といっても労働時間が減るわけではない。普通は1日の所定労働時間が変わらずに休みが1日増えることをイメージするが、そうではない。 同社の週休2日のドライバーの実働時間は1日8時間、5日勤務で週40時間。週休3日の場合は、1日8時間の法定労働時間の例外を認める「変形労働時間制」を使って1日の労働時間を10時間にして同じ40時間にするものだ。 もちろん1日の労働時間が8時間を超えても残業代がつくことはなく、週の労働時間を4日に固めただけの話だ。働き方の選択肢が増えることは結構なことだが、この仕組みでドライバーが集まるかどうかは微妙だろう。 そもそも運送業界は残業を前提として成り立っている。社員も残業代を当てにして生活設計をしている人も多い。 同社のドライバーの基本月給は、週休2日も3日もほぼ同じ「18万~26万円」(関東地区)。募集広告には週休3日の月収例として「26万5924円~35万5057円」(東京、残業手当20時間)と、わざわざ残業代込みの給与を紹介している。 週休3日の月の勤務日は17日。1日1時間ちょっとの残業時間になる。実働10時間といっても間に1時間の休憩時間があるから通常の拘束時間は11時間。残業込みの月収をもらうには1日計12時間拘束される。仮に9時始業の会社であれば21時に帰宅することになる。しかもシフト制なので週の真ん中に休めるとは限らない。 週4日連続で働き、3日の休みがあるといっても、労働実態を考えると1日は家でぐっすりと寝ていたい気分になるかもしれない。冒頭の募集広告にあるような“優雅な3日間”を過ごすことができるのか疑問ではある。 週休3日制は佐川急便以外に、すでにユニクロを運営するファーストリテイリングが転勤のない「地域正社員」を対象に導入している。同社も変形労働時間を活用し、1日10時間、週4日勤務と佐川急便と同じ仕組みだ。佐川急便から委託された荷物を配送する旭川中央ハイヤーのワゴン型タクシー=北海道旭川市 ただし小売業なので休みは平日に取得することになっている。こちらも「『仕事と家庭を両立させたい』『オンもオフも充実させたい』そんな声にお応えして導入した」同社HP)という触れ込みだ。だが、日々子育てしている社員にとっては1日の労働時間が長くなる分、休みが1日増えることのメリットはあるのだろうか。 ヤフーは今年4月から家族の育児・介護をしている社員を対象に導入している。週休3日制で危惧される長時間労働 同社の1日の労働時間は変わらず、休みが1日増える分、2割程度給与が減額される。こちらは1日5~6時間働く育児・介護の短時間勤務の週休版ともいえるもので、単純に短時間勤務か週休3日かという選択肢を増やしたにすぎないともいえる。果たして今後どれだけの数の社員が選択するのか興味深いところである。 ではこの週休3日制の仕組みが他の業種・職種にまで広がるかといえば難しいだろう。たとえば製造業。すでに24時間フル稼働の工場では休息時間に配慮しながら昼夜3交代のシフトを組んでいる。そこで丸々1日休みを増やすとしたら、さらに休息時間を切りつめるか、増員は避けられないだろう。 営業職も難しい。法人や個人の顧客対応の社員は相手の都合によって残業が日常茶飯事の世界だ。しかも個人ごとに担当顧客を抱えていると、定時を過ぎても対応せざるをえない場合も多い。じつは月末金曜日の午後3時の早帰りを奨励するプレミアムフライデーでは多くの企業が実施を見送った。最大の理由は顧客への対応だ。 ある医療機器メーカーの人事部長は、「土日は病院が休みになるので金曜日は検査機器類の納入で忙しくなる。営業職の社員が午後3時に帰れば、顧客対応ができないためにビジネスの損失が大きい。普通の日でもライバル社としのぎを削っており、定時以降は対応できませんとなると顧客を奪われてしまう」と指摘する。 仮に週休3日制になり、顧客に「明日は休みなので来られません」と言おうものなら「あっ、そう。じゃうちに来なくてもいいよ」と言われかねない。もちろん顧客やライバル企業も週休3日ならいいが、自社だけ導入してもビジネス上の損失は免れないだろう。ビジネス上の損失以外に、週休3日制で危惧されるのが長時間労働だ。 前述したように今の週休3日制は、週40時間の労働時間を4日に固めただけで、完全週休3日制ではない。その結果、1日の拘束時間は11時間(休憩1時間)になる。現在の日本の労働実態からすれば残業なしではすまされない。それこそ休みを1日増やしたことでやるべき仕事を片付けるために、毎日深夜近くまで働かざるをえなくなるかもしれない。 下手をすれば、終わらない仕事のために今と同じように休日労働する人も出てくるだろう。今と仕事量が変わらないのに、後顧の憂いなしに3日の休日を満喫できる会社や社員はどれだけあるだろうか。 本来の完全週休3日にしようとすれば1日8時間×4日にして、従来と同じ給与を払うべきだろう。つまり、1週間の会社の所定労働時間を32時間にすれば可能だ。これはフランスの週35時間の法定労働時間に近い。 週8時間も労働時間を減らす経営者は少ないかもしれないが、企業の中には実現可能な企業もある。たとえば日本生命、東京海上日動をはじめとする生・損保会社では1日の所定労働時間が7時間という会社が多い。1週間の所定労働時間は35時間とフランスと同じだ。 だが、どの会社も週休3日に踏み込むことはできないだろう。社員を1日休ませることによるビジネス上の損失が大きいからだ。また、残業を前提としている職場風土の問題もある。ちなみに電通も1日の所定労働時間は7時間だ。にもかかわらず長時間労働体質が世間から指弾された。 結局、この国の商習慣・業界慣行や長時間労働体質を変えていかない限り、完全週休3日制は夢のまた夢なのである。関連記事■ ヤフーも検討する週休3日制 かえって過重労働招くケースも■ 「休日に自宅で仕事しても残業代・通信費請求可能」と弁護士■ 介護休業法が改正 休みが取りやすくなり、残業免除も可能に■ 導入検討の残業代ゼロ法案 欧米とは似て非なるただ働き制度■ エステ業界 サービス残業常態化し手取り20万未満、体重激減

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    「ヤンキー実業家」三木谷浩史

    楽天が携帯電話事業への新規参入を決めた。「無謀な6千億円投資」などと業界関係者やメディアの論評は相変わらず手厳しい。なぜ楽天は大博打に打って出たのか。その理由を読み解くには、やはり創業者である三木谷浩史氏を深く知る必要があろう。日本を代表する実業家、三木谷浩史を徹底解剖する。

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    「ほんの気まぐれですよ」元右腕、國重惇史が綴る三木谷浩史秘話

    國重惇史(元楽天副会長) そのとき、私は住銀(住友銀行)の取締役日本橋支店長。三木谷浩史は、天下の興銀(日本興業銀行)のどこかの部のM&A(企業の合併・買収)アドバイザーだった。 私たちの仲を取り持った形になったのは、TSUTAYAを運営する「CCC(カルチュア・コンビニエンス・クラブ)」社長、増田宗昭(当時)。当時の興銀は、CCCのメーンバンクであり、東京支店が担当していた。支店長は後にみずほコーポレート銀行の頭取になった斎藤宏だ。私は当時、CCCを新規貸金先候補として、勧誘していた。その過程でCCCがディレクTVに肩入れしていることを知った。ディレクTVはその頃、衛星放送としては世界一であり、増田はそれを極東島国の本屋の親爺が行うことに暗い情念を持っていたのだ。記者会見に臨む三木谷浩史・楽天社長(左)と国重惇史・楽天副社長※当時=2005年10月13日、 東京・港区赤坂 CCCはそれでも頑張った。日本には、ディレクTVとJスカイBという欧米の二大勢力があったのだが、サービス開始からわずか2年後の2000年に両社は統合する。そして現在の「スカパー!」になるわけだが、チャンネルもコンテンツも、さらには業者も一緒なので、やむを得なかった。三木谷はその中で着々と力をつけていく。1998年当時、まだ30歳。その時の縁を元に三木谷は、増田を頼るようになっていった。それが、今や楽天スーパーポイントとTポイント陣営に分かれて、血で血を洗う抗争をしている。私は、もったいないと思う。もし両社のカードが一本化できれば、日本で唯一のポイントカードが誕生したからだ。全国統一、統合するなら、今でもこれが一番いい方法だと思っている。 2003年7月14日、CCC社長の増田が呼びかけ人になって、人材派遣会社「ザ・アール」社長、奥谷禮子の出版記念パーティーが東京・浜松町のインターコンチネンタルホテルで開かれた。当時、DLJディレクトSFG証券社長だった私にも招待状が来た。さて、パーティーの当日、会場へ向かう途中に読んだ雑誌『エコノミスト』の巻頭言に三木谷が載っていた。髭(ひげ)を生やした三木谷の写真とポイントプログラムを導入することにしたという記事だった。パーティーには、三木谷もいた。やはり髭を生やしている。 私が「どうしたの? 三木谷さん、髭なんて生やしちゃって」と言ったら、彼は言った。 「いや、ほんの気まぐれですよ」。 「エコノミストによるとポイントを入れるらしいじゃない。DLJディレクト証券もシャビーだけどポイントプログラムを持っているんだよ。DLJポイントと楽天スーパーポイントの交換しようよ」と提案すると、三木谷は「良いですね」と答えた。 「じゃあ、近いうちにお邪魔して、その辺を打ち合わせしよう」ということで、その場は終わった。 翌朝、私の秘書に「三木谷さんのアポを申し込んでくれる?」と言ったが、なかなかアポが入らない。ちょうど、楽天が東京・中目黒から六本木ヒルズに引っ越したばかりだった。それもあって、当初は「忙しいのかな?」と私も思っていたが、時間がたつにつれ、いい加減な話だが、すっかり忘れていた。「どうしても買いたい」 10月に入ったとき、私の秘書が「三木谷さんのアポが取れました」と言ってきた。 「なにそれ? 何のアポ?」と聞き返したくらいだった。案件は、それほど重要でもなかったのである。 DLJポイントというのは、あるにはあったが、それこそシャビー(みすぼらしい)なポイントで、活用している人はほとんどいなかった。一方の楽天スーパーポイントは、まだ始まったばかりだったが、将来日本のポイント制度を代表する可能性も秘めていた。プロ野球「臨時オーナー会議」でオリックス・宮内義彦オーナーと談笑する 楽天・三木谷浩史オーナー(右)=2004年12月、新高輪プリンスホテル 後に聞いた話によると、三木谷はこのポイントプログラムを入れるべきかどうかでハーバード大学院の恩師にまで相談したそうである。それくらい気合を入れたプログラムだった。 「会わなくてもいいか」と思ったのだが、それでも三木谷に会いに行った。一つには、出来上がったばかりの六本木ヒルズを見たいというのもあった。当時のDLJ証券のオフィスのあった神保町から楽天のある六本木までは少し遠かった。わざわざ会ってポイント交換の案件を話したけれど、三木谷は全く関心を示さなかった。途中から、あくびを連発する始末である。 私が社長をしていたDLJディレクト証券は当時、売りに出ていた。株の100%をどこかに売却するという計画である。 「ところで、三木谷さん、うちの会社買わない?」と言ってみた。あまりに手持ち無沙汰なので、もちろん冗談のつもりだった。 ところが、それまでは眠そうにしていた三木谷がガバッと起き上がって、 「えっ、売るんですか?」と聞いてきた。 「そうなんですよ。ビッド(入札)のプロセスが走っていて、今月末が期限なんですよ」 「買いたい。どうしても買いたい。西川(善文)さんに会わせてほしい」 三木谷が言う。ビッドの期限は10月末で、決済が11月末だった。時間がなかった。 当時、DLJディレクト証券の株主は、アメリカのDLJが50%、日本の住友金融グループが50%となっていた。アメリカの投資銀行のDLJは出資後、身売りをして同じ投資銀行のCSFBと一緒になっていた。その結果、親会社のDLJdirect証券も、CSFBdirect証券と名前を変えていた。そのCSFBがリテール部門から撤退するという。リテール証券部門は、次々と売られていった。親会社のCSFBdirect証券もカナダのネット証券に買われ、「Harris direct証券」と名前を変えた。 一方の住友金融グループは、三井住友銀行、住友信託銀行、住友生命、住友商事、三井住友海上、大和証券、それに仲人役としてインターネットイニシアティブ(IIJ)が入っていた。各社5%の出資で、三井住友銀行だけが約20%持っていた。今でも覚えているのは、住友信託銀行に行った時の話である。もう相手が誰かも忘れてしまったが、帰りにエレベーターまで送ってもらったとき、住友信託銀行の人が「後であれが住友金融グループの最初の仕事だったね、と言われることがあるかも知れませんね」と言った。 住友銀行と住友信託銀行は、昔から仲が悪いのだが、この時は三井住友銀行頭取の西川善文と住友信託銀行頭取の高橋温が個人的に親しく、ひょっとしたら両行は同じグループ会社として同じ夢を見ることができるのではないかと思われていた。爺キラーの三木谷氏 最初は、CSFBサイドだけが売却し、住友グループは引き続き50%保有して、新しい株主と合弁にするという話だったのだが、買い手の候補に消費者金融の名前が挙がっていた。まさか、住友金融グループが「サラ金」と合弁会社を作るわけにはいかない。 今は堂々と「サラ金」をグループの一員にして恥じない形にはなっているが、当時は「サラ金なんて」という時代だった。しかし、アメリカ側の「売る」と言う意見は変わらない。それなら日本側も売ろうということになった。100%売れば、売り先に関しても意見が言えるし、決定のプロセスにも口が挟める。おまけに、コントロール・プレミアム(企業を支配する株主が保有する支配権に相当する価値)がつくので、高く売れるのではないかという思惑もあった。 当時から、ビッドには数社応募して競り合いになることが多かった。日本のDLJディレクト証券も例外ではなく、当時2、3社のビッドになっていた。ビッドの日は10月末。それは、絶妙のタイミングだった。もし、三木谷とポイントの件で面会するのが7月か8月中だったら、身売り話はまだ出ていなかっただろう。仮に10月でなく、もっと後だったらビッドは終わっていた。これしかないというタイミングだったのである。そういう意味では、三木谷とのアポがなかなか入らなかったのは、良かったのではないかと思う 当時の三井住友銀行は西川頭取体制下で、さくら銀行との合併を推進した西川は絶大なる力を持っていた。私はまず西川の意向を確認しようと思った。当時の本店は大手町ではなく、三井銀行本店のあった日比谷公園の前である。10月9日に、その頭取室に行き、西川に面会した。 「楽天が買いたいと言っている」と言うと、 「そうか。楽天という手があったか!」 文字通り、膝をたたいたのである。 「楽天以外には、売らない」 「しかし、頭取、これはビッドです。一番高い値段を提示したところに行くんですよ。この点は、いいですね」DLJディレクトSFG証券から「楽天証券」への社名変更で会見する三木谷浩史会長(左)と国重惇史社長※ともに当時=2004年7月、大阪市 私は念を押したが、西川はほとんど私の話を聞いていなかった。10月24日に、三木谷―西川会談をセットした。そこで三木谷は、爺(じじい)キラーの面目躍如ぶりを発揮して、西川の心をつかんだ。三木谷が出店店舗の勧誘に行く時、直前に腕立て伏せをして、いかにも走って来たかのように振る舞うという逸話があるが、お辞儀の角度をどうするか、何度も練習する姿を見て感心した。――私にはとてもできないな、と。 DD(売り手の事業の価値やリスクの精査)もそこそこに10月末に入札した。当時はマネックス、松井証券、SBI証券は上場していた。そこから割り出すと、310億円が攻防ラインと思われていた。 三木谷は「DDなんか、どうでもいいんですよ。取締役会はあるけど私の意向通りになりますよ」 その言葉通り、取締役会も了解し、DLJ証券は晴れて楽天グループの一員になった。これが、楽天証券(DLJ証券から楽天証券に名称変更)取得の一部始終である。あれから14年。楽天金融事業の柱として、大きく育ったなとつくづく思う。(文中敬称略)

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    三木谷浩史は「ケータイ三国志」の一角になれないと断言する

    嶋聡(多摩大学客員教授) 2011年6月28日。東京ドームで東北楽天イーグルス対福岡ソフトバンクホークスの「IT決戦」が行われた。三木谷浩史、孫正義の両オーナーが、そろって応援に駆けつけることが話題の試合だった。 「同じ実力の選手なら『イケメン』を取る。それが球団経営のコツだよね」 孫氏がVIPルームにあいさつに訪れた三木谷氏に豪放磊落(ごうほうらいらく)に話しかけた。聡明才弁(そうめいさいべん)の誉れ高い三木谷氏は軽く笑って応じただけであった。 三木谷氏は、楽天創業前の日本興業銀行(現みずほ銀行)時代、上場したばかりのソフトバンクのアドバイザーだった。1993年、ハーバード大学でMBAを取得後、帰国して大型のM&A(企業の合併・買収)などをアドバイスする本店企業金融開発部に配属されたのだ。 当時の孫氏は、94年7月に店頭登録を果たすとすぐに、米ジフ・デイビス社の展示会部門「インターロップ」、米インターフェースグループ社の展示会部門「コムデックス」、ジフ・デイビス社の出版部門と、大型M&Aを立て続けに行い、今も変わらぬM&Aによる飛躍の経営戦略で、事業を拡大させている真っただ中であった。その孫氏の戦略ブレーンとして、一連のプロジェクトを支えたのが三木谷氏だった。「当時は私のことを(孫氏)は『先生』と呼んでいましたね」と親しい記者に語ったこともある。 「楽天の嶋基宏捕手の実家は岐阜県で、実は私の実家の隣なんですよ」。当時、社長室長として孫氏を支えていた私が場をとりなすように三木谷氏に話しかけた。嶋捕手の祖母と私の母が親しい仲だったこともあり、嶋捕手は幼いころ、背負われて私の実家によく来ていた。母は嶋捕手のことを「モックン」と呼んでいた。三木谷氏もさすがに驚いたようで「そうなのですか」と答えた。楽天対ソフトバンクの試合を観戦する楽天・三木谷浩史オーナー=2011年6月28日、東京ドーム(撮影、斎藤浩一) 2011年3月11日、東日本大震災が襲った。4月2日、復興慈善試合で楽天イーグルスの会長だった嶋捕手は「見せましょう、野球の底力を」と復興へのエールを送った。 東京電力福島第一原発も大きな被害に遭い、日本のエネルギー政策をめぐり国論は二分した。6月23日、三木谷氏率いる楽天は、日本経団連に脱退届を提出した。三木谷氏はツイッターに「そろそろ経団連を脱退しようかと思いますが、皆さんどう思いますか?」と書き込み、その理由を問う読者に対して「電力業界を保護しようとする態度がゆるせない」とツイートしたのである。 この経緯を知っていた孫氏が「経団連、私たちは中で暴れますから」と言った。三木谷氏は「本来は逆のような気がします」と応じ、部屋を出て行った。孫正義の携帯事業参入の舞台裏 ゲームは2対1で楽天が1点リードという展開。孫氏はテレビで試合をちらちら見ながら、VIPルームで打ち合わせをしていた。6回、無死二塁、三塁。バッターは主将の小久保裕紀。私が孫氏に「チャンスですよ」と声をかけると部屋から外のVIP席に出て行き、身を乗り出した。社員が孫氏を見つけてざわつき、歓声が沸き起こった。 そして、歓声は歓喜に変わった。小久保が激励に応え、高めスライダーをすくい上げた。バットを高々と放り投げるフィニッシュが、劇的弾を確信させた。逆転6号3ラン。孫氏はこぶしを突き上げた。IT決戦は、6対2でソフトバンクが制した。 その後、孫氏は三木谷氏に言ったように、2011年11月の経団連理事会で当時の米倉弘昌会長とエネルギー政策に関して大バトルを演じた。 孫氏の意見は無視された。理事会で隣席に座っていた私に、憤懣(ふんまん)やるかたないと「会場を出よう」と経団連脱退を示唆した。だが、「辞めてしまってはそれで終わりです。議論はこれからです」との私の諌(いさ)める言葉に思いとどまった。 徳川家康、北条政子が座右の書とした「貞観政要(じょうがんせいよう)」に「主、過ちを知らんと欲すれば、必ず忠臣による」とある。 トップが自らの過ちを知ろうとすれば必ず忠臣の諫言(かんげん)を大切にしなければならないという意味である。孫氏は「ワンマン」のように思われがちだが、実は人の意見によく耳を傾ける経営者である。  孫氏は定款も変更し、エネルギー事業に参入。風力発電、太陽光発電をモンゴル、ゴビ砂漠で行い、日本、アジアに送電する「アジア・スーパーグリッド構想」をロシア、中国、韓国などと進めている。 構想を通じて、ロシアのプーチン大統領との関係も深くなった。2016年12月、プーチン大統領が経団連を訪問したとき、肩を抱き合って二人で話したことが話題になった。現在もソフトバンクは経団連に加盟したままである。 明末の学者、呂新吾が著した人間錬磨の書『呻吟語』に「深沈重厚(しんちんこうじゅう)は是れ第一等の資質。磊落豪雄(らいらくごうゆう)は是れ第二等の資質。聡明才弁は是れ第三等の資質」とある。 見た目には深く沈潜して静かに見えるのだが、厚み重みがあるというのは人間として第一等の資質である。 石がごろごろしているように、線が太く「ちょっとした違いは誤差」と言って、物事にこだわらず器量があるというのが第二等の資質。頭が良くて才があり、弁が立つというのは第三等の資質であるという意味である。 30年前に、松下政経塾で直接教えていただいた松下幸之助氏はまさに、この第一等の深沈重厚の魅力を持っておられたように思う。ソフトバンクグループの3月期決算説明会で説明する孫正義社長=2017年5月10日、東京都中央区 孫氏は磊落豪雄の魅力である。2006年3月、携帯電話事業にボーダフォンを買収することによって参入した。売上高1・1兆円の企業が1・75兆円の買収をレバレッジド・バイアウト(株式と借入金を戦略的に組み合わせた企業買収)で行うというまさに社運をかけた買収であった。 今から考えると想像しにくいが、当時は「携帯電話はすでに飽和状態」「今からでは遅すぎる」と言われた。 会議上、不安を隠しきれないソフトバンク幹部に孫氏が口を開いた。 「携帯電話事業に参入する限り、ナンバー1を狙う。大変な戦いだが、10年もかければ戦えない戦いではない」 そういった後、一呼吸をおいて言った。 「だいたい、考えても見ろ。何万軒もある蕎麦屋と三社しかない携帯電話でトップになるのはどちらが難しいと思う。三社しかない方に決まっているじゃないか」 会議室に集まった幹部に笑みが漏れた。理論的にきちんと考えるとどこかおかしいと思うのだが、そんなことは誤差と笑い飛ばしてしまう豪放磊落(らいらく)なところが孫氏にはある。銃撃に続いて大砲発射 ハーバード大学でMBAを取得し、孫氏に「先生」と呼ばせた三木谷氏はまさに「聡明才弁(そうめいさいべん)」の魅力である。すばらしい経営者であるが、聡明才弁のもつ弱点も持ってしまっている。その弱点の第一は自信がありすぎて、周囲の諫言を聞かないことである。希代の経営者、孫氏の戦略アドバイザーだったと自負している人間が素直に人の意見を聞くのは難しいだろう。 「貞観政要」には「主もし自ら賢とせば、臣は矯正せず。危敗せざらんと欲すれども、あに得べけんや」とある。もし、君主がさも賢明であるように振舞えば、臣下は誰も諌めようとしなくなる。そうなると国を滅亡させたくないと思っても不可能だという意味である。新経済連盟関西支部発足記念パーティーであいさつをする 三木谷浩史氏=2017年2月10日、大阪市北区 12月18日、三木谷氏はツイッターで、携帯電話事業参入について「カード事業参入の時も、いろいろと言われたが、10年がたち、取扱高、利益水準も業界トップ(クラス)になった。MVNO(仮想移動体通信事業者)の好調さ、9000万人を超える会員ベースを考えても、参入は自然な流れだと思う。もし認められれば、より快適で安価なサービスが提供できるように頑張ります」と述べた。 カード事業参入の時も、先見性のない人々はいろいろ言った。今回も同じことだ。「だから心配するな」ということであろう。 スタンフォード大学の教授、ジェームズ・C・コリンズは「ビジョナリー・カンパニー」をビジョンを持った企業、未来志向の企業とした。さらに、時代を超え、際立った存在であり続ける企業もその条件とし、GE、IBM、ウォルトディズニーなどをあげた。日本ではソニーだけが取り上げられている。 三木谷氏、孫氏ともビジョンを持ち、未来志向であることは疑いない。ただ、永続性ということで、コリンズはビジョナリー・カンパニーの定義を1950年以前に設立された企業としたので、楽天もソフトバンクも入っていない。だが、時がたてば、世界を代表するビジョナリー・カンパニーとなる候補だと思う。 コリンズは、経営基盤が脆弱(ぜいじゃく)な中でスタートしながら、飛躍的に成長した企業を「10X(十倍)型企業」とした。ソフトバンクは2006年の携帯電話事業参入の時は売上高1・1兆円、現在は約90兆円と10X型企業に近い。 10X型成功のカギは「銃撃に続いて大砲発射手法」だとコリンズは言うが、孫正義の経営手法はまさにこれである。10X型企業は標的に命中しない銃弾を大量に撃つ。どの銃弾があたり、成功するか分からないからだ。最初の銃弾は30度外れた。次は10度。3弾目で命中すると大砲の出番となる。 孫氏は、情報革命を起こそうとまず2001年、ADSL(非対称デジタル加入者線)事業を始めた。次に2004年、固定電話の日本テレコムを3400億円で買収する。企業買収は銃撃と考えればよい。だが、これだけではライフスタイルを変え、戦略目標である情報革命を引き起こさなかった。 そして2006年、モバイルインターネット、スマホ革命を引き起こす携帯電話事業に参入し、ボーダフォンを買収。買収額1・75兆円。だんだん、焦点を絞った後の「大砲発射」であった。この頃、孫氏はよく「ADSL、日本テレコム買収とずいぶん高い授業料を払って、ずいぶん勉強した」とぼやいていた。孫氏は携帯電話事業を日本国内では既に「成熟産業」と考え、ソフトバンク10兆円ファンドに軸足を移そうとしているように見えた。M&Aによる銃撃開始である。これから徐々にIoT(モノのインターネット)時代のメーン事業に絞ってゆくであろう。私なら「やめたほうがいい」と諫言する 三木谷氏も多くのM&Aをして「銃撃」をしている。だが、あまりに多岐にわたっており、徐々に焦点を絞って携帯電話事業になったとは思いにくい。 孫氏のADSL、固定電話、携帯電話事業参入には「自然な流れ」があった。だが、三木谷氏の言う「カード事業の成功」と携帯電話事業参入に「自然流れ」があるとは思えない。 コリンズは、一時期成功した企業は「衰退の5段階」を経て転落してゆくという。 5段階とは①成功から生まれる傲慢(ごうまん)があり、②規律なき拡大路線をとってゆく。社内では③リスクと問題の否認の議論が多くなる。また、トップの決めたことに誰も異を唱えなくなる。その後、焦りからか④一発逆転の追及を経て、⑤凡庸な企業への転落してしまうという。 第4段階では「ゲームを変える」買収、新戦略への一貫性のない飛躍、劇的で大きな動きによってすばやく突破口を開こうとする傾向が出てくるという。三木谷氏の携帯電話事業参入は衰退の第4段階の動きのように見える。 楽天はamazonに脅かされている。その焦りからからか多くの買収や新規事業を始めている。これが「ゲームを変えようとする買収」であり、「新戦略への一貫性のない飛躍」を求める傾向に似ている。今回の携帯電話事業参入は、キャッシュフローの獲得と「楽天経済圏」を構築するためとのことだが、私には第4段階の「一発逆転策の追求」のように思える。 ソフトバンクが携帯電話事業に参入し、成長戦略の一翼を担ったということで「孫正義の参謀」と言われるようになった私が、三木谷社長の参謀だったらどうするか考えてみた。まちがいなく、「第4の携帯電話事業参入」はやめたほうがいいと諫言すると思う。「撤退」の決断はトップしかできないからだ。 携帯電話事業の本質は電力や鉄道と同じ、基地局というネットワークを膨大な投資と時間かけてつくるというインフラ事業である。今回の楽天も6000億円以上の投資がかかるという。だから、孫氏はイチからケータイ事業を始めず、「時間を買う」ためにリスクはあったが、ボーダフォンを買収した。楽天はイチから始めるようだが、それは危うい選択である。 携帯電話事業は「エブリシング・イズ・スケール」であり、規模がすべてである。私は「携帯電話事業は日本に3社しか残らない。だから、ボーダフォンを買えるなら買ったほうがいい」と進言した。これが諸葛孔明の「天下三分の計」にならって「ケータイ三分の計」などと言われた。対談する楽天の三木谷浩史社長(右)とソフトバンクの孫正義社長=2010年4月23日、東京都港区 ソフトバンクは4番目の事業者でなく、「3番目に取って代わった」のである。ニュースでは、楽天が「4番目の携帯事業者になる」と言われている。だが、日本で4番目の携帯事業者が残る確率は極めて低いと考えたほうがいい。 今、三木谷氏に必要なことは「クールヘッド」になることではないだろうか。「一発逆転策」は成功の確率が低いことは、ハーバード大学でMBAを取得した三木谷氏なら、よくご存じのことと思う。  だが、私がソフトバンク社長室長時代、孫氏は三木谷氏が携帯電話事業に参入してきたら、誰よりも手ごわいと思っていたように思う。その三木谷氏が携帯電話事業に参入の決断をしたのだから、私など思いもつかない戦略を持っておられるのだろうし、それを期待する。 三木谷氏の楽天、孫氏のソフトバンクの二つとも、世界の企業家から尊敬されるビジョナリー・カンパニーになることを願うものである。

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    三木谷浩史が捨て切れない「エリート興銀マン」のDNA

    加谷珪一(経済評論家) 楽天が携帯電話事業への参入を表明した。このところ楽天に関して目立った話題がなかっただけに、久々に世間の注目を浴びることになった。 携帯電話は大手3社による寡占市場であり、楽天の参入はこうした状況に風穴を開ける可能性がある。同社の三木谷浩史会長兼社長は、政府に対して規制緩和や自由競争を強く働きかけてきた起業家であり、今回の決断は三木谷氏の本領発揮といったところかもしれない。 一方で、同氏についてはベンチャー起業家としてのアグレッシブさが薄れてきたと見る向きもある。ライバルであるアマゾンが次々と野心的なサービスを打ち出しているのに対して、楽天にはそうした動きがほとんど見られず、保守的な傾向を強めているからだ。 果たして三木谷氏は、社会を変えるイノベーターなのか、それとも保守的で堅実な事業家なのか、同氏の立ち位置について探った。 説明するまでもなく三木谷氏は、日本を代表するベンチャー起業家の一人である。だが三木谷氏にはイノベーティブな起業家という顔だけでなく、エリート銀行マンとしての顔、さらには典型的なMBA(経営学修士号)ホルダーとしての顔もある。一種、相容れない三つの顔を併せ持っていることは、同氏を理解する重要なカギとなるはずだ。楽天の三木谷浩史会長兼社長 三木谷氏は一橋大学卒業後、日本興業銀行(興銀)に入行し、エリート銀行マンとしてビジネスのキャリアをスタートさせた。 興銀は後に、みずほフィナンシャル・グループ入りしたことで、その名が消えてしまったが、日本の金融システムの中核となる銀行であった。日本開発銀行(現日本政策投資銀行)と共に、戦後復興や高度成長を支えた一種の国策銀行であり、よい意味でも悪い意味でも、護送船団方式と呼ばれた日本型金融行政の象徴といってよい。 三木谷氏が入行したのは1988年だが、当時は、同行の元頭取で財界の鞍馬天狗と呼ばれた中山素平氏が存命だった。若い読者の方はピンとこないかもしれないが、中山氏は戦後を通じてカリスマ銀行家と畏怖された人物であり、バブル崩壊で大きな痛手を被ったとはいえ「興銀神話」がまだ健在だった。 あくまで一般論だが、こうした背景から興銀マンというのは総じて特別なエリート意識を持っていることが多い(その是非は別として)。三木谷氏も例外ではないはずで、興銀マンとしての経験は確実に氏の言動に影響を与えているはずだ。 同氏はその後、ハーバード大学経営大学院でMBA(経営学修士号)を取得したが、その時の体験が起業を志すきっかけになったといわれている。起業家を形成したハーバード時代 三木谷氏はハーバード大学に対してかなりの思い入れがあるようだ。楽天の前身であり、現在は三木谷氏の資産管理を行っているクリムゾングループという会社があるが、クリムゾンは深い赤色のことであり、この色はハーバード大学のシンボルカラーとなっている。起業の原点となった会社に三木谷氏はハーバード大学にちなんだ名前を冠している。 楽天がオーナーになっている楽天イーグルスやヴィッセル神戸のイメージカラーもクリムゾンだし、二子玉川にある楽天の新本社の名称もクリムゾンハウスである。新社屋の床にはあちこちに赤色の絨毯(じゅうたん)が使われているほか、16階にある巨大なレクチャーホールはハーバード大学経営大学院の教室を再現したものだという。 三木谷氏がハーバード時代の体験を何度もメディアに語っていることなどを考え合わせると、ハーバード留学時代が起業家としての三木谷氏を形成したとみてよいだろう。 では、こうした三木谷氏の人物像は楽天の経営にどのような影響を与えているのだろうか。三木谷氏は楽天の経営を軌道に乗せた後、新世代経営者の代表として、規制緩和や自由競争の徹底を政府に訴えかけてきた。2016年通期連結決算を発表する楽天の三木谷浩史会長兼社長=2017年2月、東京都世田谷区 三木谷氏はトヨタ自動車元会長の奥田碩氏に誘われる形で経団連に入ったものの、保守的な体質に嫌気が差し2011年に経団連を脱退。2012年には「eビジネス推進連合会」を母体とする新しい経済団体「新経連」を立ち上げ、薬のネット販売やネット選挙の実現などを訴えてきた。 一連の動きを見ると、自由でフェアな競争を強く望む実業家というイメージが強い。ビジネス・スクールで学ぶ経営論は基本的には自由市場をベースにした合理主義的なものである。その点において、三木谷氏は非常に優秀なMBAホルダーといってよいだろう。 楽天の経営も同じである。楽天は上場で豊富なキャッシュを得たが、日本の従来型企業のようにキャッシュを貯め込むことはせず、果敢に海外企業のM&A(合併・買収)を行ってきた。今回の携帯電話参入についても6000億円の資金調達を見込んでおり、楽天の有利子負債は大きく増えることになる。  だがMBA流の合理的な経営論においては、過剰なキャッシュの保有は是とされない。財務体質の悪化を上回る成長が見込めるのであれば、負債の増大を厭(いと)わず決断する必要がある。三木谷氏はまさにこうした経営を実行しているわけだ。 一般的に起業家も自由でフェアな競争を求めるものだが、それは起業家だけに見られる特徴ではない。起業家にもっとも特徴的なのは、イノベーションを活用して社会の問題を合理的に解決しようという頑(かたく)なまでの姿勢である。 アマゾン創業者のジェフ・ベゾス氏やグーグル創業者のラリー・ペイジ氏などが代表例だが、テクノロジーをベースにした革新的な製品やサービスを投入し、市場のルールを自ら変えていこうとする。あまりにも先鋭的なので、彼らはたびたび世間から批判されるが、たいていの場合、こうした批判にはほとんど耳を貸さない。世界に先駆けて採寸スーツの無料配布に踏み切ったZOZOTOWN創業者の前澤友作氏などはこのタイプの起業家である。「三木谷さんは遅れている」 だが、三木谷氏からはこうした雰囲気はほとんど感じられない。 実際、楽天とアマゾンは、同じEC(電子商取引)サイトでありながら、その性質はまったく違ったものになりつつある。アマゾンは徹底したAI化で最先端を行く「尖った」サービスを目指しているが、楽天は高齢者の利用も多く、基本的な機能もほとんど変わっていない。 ホリエモンこと堀江貴文氏はこうした三木谷氏の姿勢について「ネット通販ビジネスに興味がなくなっているのかも」と突き放したような発言をしている。堀江氏は三木谷氏について「いつも思うけど、三木谷さんて遅れてるよね」と辛辣(しんらつ)なコメントも残している。堀江貴文氏 堀江氏の発言は適切とはいえないかもしれないが、核心を突いているのも事実である。三木谷氏は、挑発的なテクノロジーで社会を変えるという強い意思はおそらく持ち合わせていない。この部分において三木谷氏から感じ取ることができるのは銀行マンとしての手堅さである。 今回の携帯電話参入は、楽天にとって大きな賭けとなる決断だが、楽天にはアマゾンに対抗すべくAI開発に数千億円を投じるという選択肢もあったはずだ。こうした重大局面における投資が、テクノロジーに対してではなく、財務テクニックを駆使した上での、従来型事業への投資だったという点は興味深い。 三木谷氏には三つの顔があると述べたが、もっとも大きいのはMBA流の合理主義的な経営者としての顔、続いて数字を駆使できる堅実なエリート銀行マンとしての顔、最後に来るのがイノベーションで社会を変えるという起業家としての顔ということになる。そして三つ目の顔は三木谷氏からは消滅しつつある。 楽天は今回の決断によって、よい意味でも悪い意味でも、ベンチャー企業ではなくなったといえるかもしれない。驚異的な成長率やイノベーションを期待する人には残念な結果かもしれないが、現在の楽天の経営方針と三木谷氏本来のキャラクターはよくマッチしているはずだ。

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    孫氏や三木谷氏 「大ホラ」で若手に慕われジジ転がしも得意

     舛添要一・前東京都知事(1948年生まれ)の辞任騒動をはじめ、その前任の猪瀬直樹氏(1946年)、首相の座にまでのぼりつめた菅直人氏(1946年)、経営者では東芝元社長の佐々木則夫氏(1949年)など、ここ数年の間に「団塊エリート」たちの失脚が相次いでいる。印象的なのは彼らが落ち目になるや、誰も助けようとしないことだ。 一方で内紛の末に会長の座を追われたセブン&アイ・ホールディングスの鈴木敏文・名誉顧問(1932年)、燃費データ不正問題への対応に追われるスズキの鈴木修・会長(1930年)など、「プレ団塊世代」の経営者たちも苦汁をなめたが、彼らはいまなお尊敬を集めている。石原慎太郎氏(1932年)、森喜朗氏(1937年)らのような元政治家も「ご意見番」として君臨し続けている。 また、団塊世代よりひと回り若い「ポスト団塊世代」を見渡すと、政界では安倍首相(1954年)、財界ではソフトバンクの孫正義・会長(1957年)、サントリーの新浪剛史・社長(1959年)、楽天の三木谷浩史・会長兼社長(1965年)らが代表格といえよう。2005年3月、プロ野球オーナー会議に出席した(右から)楽天の三木谷浩史オーナー、ソフトバンクの孫正義オーナー(佐藤雄彦撮影)「団塊世代は信念なんかなく、権力だけが大好き。菅さんが財務省を味方につけるためマニフェストを反故にして消費増税を掲げたように権力のためには簡単に筋を曲げてしまうところがある。しかし、安倍さんは信念を曲げないから、支えてくれる人が現われる。 また、舛添さんや猪瀬さんは人を信頼せず、手柄はみんな自分のものだと考えている。だからなんでも自分が関わらないと気が済まないため、ボロが出たときに言い訳ができない。でも安倍さんは人使いがうまい。いま、菅義偉・官房長官をはじめ、他の閣僚にも権力を委譲している。これが長期政権の秘訣なのかもしれません」(政治評論家・屋山太郎氏) 孫氏や三木谷氏が持つ言葉の求心力は、団塊経営者とは大いに異なる。岡山商科大学教授の長田貴仁氏が語る。「三木谷さんは『会社の中での会話はすべて英語にします』と社外に向けて宣言し、孫さんは『男として生まれたからには世界一になりたい』と発言しています。野心を隠さず、いい意味で“大ホラ”とも感じられる壮大なビジョンを明確に示し、実現する。それがメディアで取り上げられ話題を呼ぶ。その結果、下の世代は、『ただ者ではない』と思い、頼りがいのある兄貴分として慕うようになる」 後継と見られていたニケシュ・アローラ副社長(48)の退任を発表するという「心変わり」をしても社内から不平不満は聞こえてこない。周囲や下から尊敬の念を集めている証左だろう。「それでいて、孫さんや三木谷さんは上からの覚えもめでたかった。『ジジころがし』ですね。年が離れている目上の人に話を合わせるだけでなく、堂々と議論できるコミュニケーション能力に長けていた」(長田氏) 新浪氏は「かわいくない部下の典型」といわれながらも、いいたいことは上司にはっきりいう姿勢でローソンの社長にのぼりつめ、サントリーの佐治信忠会長によって後任に指名された。目上の人にかわいがられるのもポスト団塊世代のリーダーの特徴なのだろう。 1974年公開の『青春の蹉跌』は、70年安保終焉後の若者の情熱と孤独、焦燥を描いた映画だ。いま、トップから追いやられつつある団塊世代は、再び挫折と蹉跌を味わおうとしているのか。関連記事■ 団塊世代の引退で年金を支える側と支えられる側の人口比逆転■ 団塊世代反論「年金制度崩壊は次世代が子供を生まないから」■ 金融資産約200兆円保有する団塊世代を狙い企業の争奪戦激化■ フィットネス業界が団塊世代に着目 女性専用店で急成長例も■ 団塊世代の“勝ち逃げ”は嘘 年金は彼らの積立金が支える

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    「英語を使える=グローバル人間」ではない!

    本多カツヒロ (ライター)『「グローバル人材育成」の英語教育を問う』 大津由紀雄教授インタビュー 昨年8月、中央教育審議会は学習指導要領改訂のまとめ案を公表し、12月には審議結果をまとめた答申を文部科学相に提出した。その中には、これまで小学校5,6年生で行われていた「外国語活動」を教科に「格上げ」することが盛り込まれている。グローバル化や世間で広まる英語の早期教育を反映した格好だ。 しかし、そもそもグローバルな人間とはどのような人間で、英語の早期教育は有効なのか? こうした根本的な議論が少ないように思う。そこで『「グローバル人材育成」の英語教育を問う』(ひつじ英語教育ブックレット)の執筆者の一人で、言語の認知科学が専門の大津由紀雄明海大学副学長・外国語学部教授に、先の2つの話題に加え、教科化までの経緯などについて話を聞いた。(編集部注:インタビュー中の「言葉」はwordの意味で、「ことば」はlanguageの意味で使っています)――まず、本のタイトルにもなっている”グローバル人材”という言葉について、大津先生はどう考えていますか?『「グローバル人材育成」の英語教育を問う』(斎藤兆史、鳥飼玖美子、大津由紀雄、江利川春雄、野村昌司、ひつじ書房)大津 :一般的にはグローバル化が進む現代社会において活躍できる人たちを指し、その際に英語を使うことができれば社会で活躍できる可能性が、さらに広まるという含みで使われているのでしょう。しかしながら、そうした人たちが「グローバル精神を持っているのか?」と問われれば疑問です。 本来、グローバル精神を持つ人たちの最低条件は「言語と文化の相対性」をきちんと理解した上で、行動できることです。「相対性」とは、言語間または文化間には違いがあるけれども、優劣はない、ということです。例えば原始的な言語や文化というものは本来有り得ません。そういうことを実感としてきちんと感じ取り、行動できることが最低限の条件ですね。 しかし、世間では「グローバル化=英語化」だと多くの人たちが考え、本来のグローバル精神とは別のベクトルになってしまっている。それ故に、世界には様々な言語があるにもかかわらず、英語という特定の言語や、英語に支えられた特定の文化が肯定的に評価されているのが現状です。このような、本来あるべきグローバル化の姿とは違うベクトルで、「グローバル化=英語化」であると煽り立てるような英語教育では、これからの社会の中で、真に活躍する子どもたちを育てられないと思いますね。外国語活動は3、4年生に前倒し――まさにグローバル化=英語化を示すかのように2020年から小学校5,6年生で英語が教科化されます。大津先生は文科省の「英語教育の在り方に関する有識者会議」の委員を務めていましたし、言語のプロフェッショナルとして様々な場で発言されてきました。この教科化について、思っていたより早かったという印象でしょうか?大津 :もう少し先になるかなと思いましたが、いずれにしろ次の学習指導要領の改訂では、教科化を持ち出してくるだろうとは予想していました。言ってみれば、既定路線だったのですから。 それよりも私が関心を持っていたのは、教科化の決定に対し、文科省の直山木綿子教科調査官がどう対応するかだったのです。 現在、小学校5,6年生で外国語活動の時間が設けられています。これは「コミュニケーション能力の素地」を養うことを目的とした活動で、教科ではありません。ですから、教科書もありませんし、数値による評価もないんです。(iStock) 小学校英語が正式に導入されようとした当時はさまざまな議論がありましたが、なんとか教科化を防ぎたかった文科省の一部の関係者――その代表とでも言うべきなのが当時の菅正隆教科調査官です――が落とし所と考えたのが外国語活動(現実的には、英語活動)なんです。当初は混乱もありましたが、英語を専門としない小学校の先生方の涙ぐましい努力で、「英語活動文化」とでもいうものが次第に形成されていったのです。その先導役となったのが菅さんの後を継いだ直山さんです。既定路線とはいえ、英語活動とは異質な、教科としての英語教育の導入が実質的に決定した今、直山教科調査官はどう考えているのか。どうしようとしているのか。ハッキリとした見解は聞こえてきません。まあ、立場というものがありますから、やむを得ないのでしょうが、これからが直山さんの正念場と言えるでしょうね。 今回の学習指導要領の改訂では、これまで5,6年生で行われていた外国語活動を教科化し、3,4年生に外国語活動を前倒しします。文科省とすれば、これまで高学年で培ってきた外国語活動のノウハウを中学年で活かす狙いのようですが、中学年と高学年では同じ小学生でも成長の度合いがかなり違いますので単なる平行移動では上手く行くとは思えません。――今回の教科化について文科省内部ではどんな反応なのでしょうか?大津 :文科省内の小学校教育に関わっている人たちの中には、本音の部分で外国語活動で留めておくべきだという人が多いのではないかと思います。 事実、2013年に教育再生実行会議が教科化を提言した際には、文科省の初等中等教育局にはすくなからぬ動揺があったように感じました。 そうした状況の中で、私はさきほど話題になった有識者会議で、母語と外国語を一体化し、「ことば」という視点での活動を行うべきであると提言しました。しかし、文科省やその関係者でその意味をきちんと理解している人があまりいないこともあり、審議の議事録には残されているのですが、具体的イメージがわかないとかという意見が聞こえてきます。要請があれば、いつでもお手伝いできるのですがねぇ。外国語は入門期の指導がとても重要――教科化をこれほどまでに急いでいるのはどうしてなのでしょうか?大津 :要因としては2つあります。1つ目は、よく言われているように経済界からの要請です。彼らには素朴な言語観しかなく、赤ん坊が母語を習得するのと同じように幼い頃から外国語に晒されることによって身につけるのが一番効果的にかつ効率的に学べると考えているからです。 そうした考え方を、私は何度も否定してきました。小学生は赤ん坊ではなく、すでに母語や自我も存在していますし、授業以外で外国語に接する時間は短く、母語である日本語で生活していますから、赤ん坊が置かれている状況とはまったく異なります。 教科化を急ぐ、もう一つの要因は世間の声です。世間では、早期英語教育が当然視され、そのための英語教室もたくさんあります。そういった状況の中で、公立小学校でも英語教育をしてくれれば、英語教室に通わせなくても済みますし、平等だという考え方です。 こうした要因を背景に官邸主導で教科化が推し進められたのです。2012年6月、社内英語公用語化を前に、記者会見に臨む楽天の三木谷浩史社長(宮川浩和撮影)――教科化には他にも楽天で社内英語公用化を進めた葛城崇氏が文科省に出向して果たした役割は大きかったのでしょうか?大津 :大きかったでしょうね。楽天の三木谷浩史氏は「英語教育の在り方に関する有識者会議」には2回ほどしか出席しませんでしたが、英語に関しては三木谷氏の右腕といった印象の葛城崇氏は、会議には毎回出席していましたし、文科省の初等中等教育局国際教育課に出向し英語教育プロジェクトオフィサーという役割を担っていました。 官と民の交流自体は悪いことだとは思いませんが、一私企業の社員である葛城氏が文科省内でこれほど大きな役割を担ったのはおかしなことだと思いますよ。――教科化されると、これまで公立中学校の1年生で行われていた英語の授業を前倒しで行うのでしょうか?大津 :中学校で習う内容を前倒しする、ただし、教え方は変えるというのが1つ、同じ教え方で前倒しするという方法がもう1つです。2つ目について文科省は否定しています。 しかし、どちらにせよ、英語の基本を前倒しして小学校で教えるとなると、いくつか問題が生じます。 まず、これまでの外国語活動では「読む・書く」については指導してこなかったのですが、教科になると文字の指導、書き方、綴りもきちんと教えなければなりません。外国語は入門期の指導がとても重要です。それには知識や技術、経験が必要とされます。しかし、英語を教えたことのない小学校の教員にそういった指導ができるとは思えません。あ、もちろん、同じことが「聞く・話す」についても言えます。 文科省は小学校の教員に英語教育推進リーダーを増やし、さらにこのリーダーから研修を受けた中核教員を全校に配置する方針のようですが、そんなねずみ講のようなやり方では誰が考えてもうまくいきません。 他にもALTや地域で英語が得意な人を活用する案を出していますが、そういった方法も機能しないことは外国語活動の時点で現場はよくわかっているはずです。思考を支えられなければ…――先ほど英語の教科化を急いでいる要因の1つとして早期教育の話が出ました。早期教育について悩んでいる保護者の方も多いと思いますが問題点はないのでしょうか?大津 :母語の発達に影響するのではないかと懸念する人もいますが、週に1~2時間の授業だけで母語がぐらつくことはないので、それは心配する必要ありません。 問題なのは、母語としての日本語が確立する前に、幼い頃から英語での子育てや、英語だけを使用する幼稚園など、長い時間英語だけに触れる環境で育てると、言語的に根無し草になってしまう心配があるということです。 世間では「セミリンガル」と言われていますが、こうしたケースでは、日本語も英語も母語として定着しない場合があります。しかも、厄介なことに傍目にはなかなか見抜けません。それこそ茶飲み話程度ならば英語でも日本語でもできるのですが、きちんと論理的な構造を持った文章を書く、読む、聞く、話すことが出来ないんです。一言でいえば、きちんと考えることができないということになります。(iStock) ことばはコミュニケーションの手段としても機能しますが、何と言っても、思考を支える働きが重要です。いくらペラペラに話せても、思考を支えられないとなると、人としての尊厳にかかわる問題になります。――また13年から高等学校では原則として英語の授業を英語で教えることとなりましたが、こうした授業形態は有効なのでしょうか?大津 :外国語を学ぶ際に、全てを外国語だけで学ぶのと、母語での説明を交えながら学ぶのではどちらが効果的かという調査や研究は多数行われています。その結果、様々な条件下で、母語での説明を活用したほうが効果的だと明らかになっています。 つまり、学ぼうとする外国語を支える原理は学習者の母語を使って説明し、理解させるのが効率的で、効果的であるということです。 例を挙げましょう。文などの言語表現には構造があります。構造には、必要な部分がありそれを組み合わせることでまとまりができます。そうした1つ1つのまとまりを組み合わせることでさらに大きな全体ができる。 例えば、自動車の構造を思い浮かべてください。エンジンはいろいろな部品(部分)から成り立っています。つまり、そうした部品を組み合わせることでエンジンというまとまりができるのです。そのまとまりに、たとえば、ハンドルとか、ドアとか、他のまとまりを組み合わせて、自動車という全体ができる。 文を作る時も同じです。「あの」と「人」という語(部分)を組み合わせて、「あの人」というまとまりを作ります。文の場合、このまとまりは「句」と呼ばれます。その句を「笑っている」という他のまとまりと組み合わせて、「あの人が笑っている」という文(全体)ができる。この仕組みはどの言語でも同じです。一旦、この仕組みがあることを母語で実感しておくと、外国語を学ぶ時にもその実感を利用できる。だからこそ、本来ならば小学校で母語を使った、こうした教育をきちんとやっておくべきなのです。母語がきちんと使えてこそ――前回のインタビュー時に、中学校に入り初めて英語の文法などを習うと、途端に英語が嫌いになってしまう子どもがいると聞きました。では楽しくことばを学んでもらうにはどうしたら良いのでしょうか?大津 :遠回りのように聞こえるかもしれませんが、やはり母語の力をしっかりと定着させることが重要です。いま言いましたように、それが外国語学習の基盤になるのです。その為には、ことばはおもしろいということを子どもたちに実感させるのが大切です。身近なところでは、絵本の読み聞かせも効果のある方法のひとつです。ただし、保護者が子どもの知的能力を伸ばそうといったいやらしい魂胆を持って読み聞かせなどをしないことが大切です(笑)。子どもは敏感ですから、そういうことを感じると楽しくなくなってしまいます。 また誤解してほしくないのは、私は小学生が英語をはじめとする外国語に触れることがよくないとは言っていません。そういう機会はあったほうがよいと思います。しかし何も英語に限らず、日本には中国語や韓国語を話す人たちが多く住んでいます。地域によっては、他の言語を母語とする人たちがたくさん住んでいるところもある。近所に住む人たちとまずは触れ合ってみるのが自然だと思いますね。(iStock)――確かに場所にもよるとは思いますが、今の小学校には様々な国の出身者がいるとも聞きます。大津 :そうなんです。確実に多言語化、多文化化は進んでいますから、それを利用しない手はないと思うんです。ただ、学校の先生方も文科省も日本語以外の言語を母語とする児童・生徒の日本語教育については考え始めていますが、その子どもたちの母語と母文化の保持についてはまだ対策が不十分です。 私は現在、明海大学複言語・複文化教育センター長も務めています。この「複言語・複文化」という捉え方は「ヨーロッパ言語共通参照枠」(CEFR)の基本概念です。「複言語」と聞くと、「多言語」を連想するかもしれませんが、両者には重要な違いがあります。多言語社会や多言語共同体といった言い方からわかるように、「多言語」は社会や共同体の属性を表します。それに対し、「複言語」は、社会を構成するひとり一人の成員が複数の言語を知っていることを表します。例えば、母語に加え2つ以上の外国語を知っている。そして、さらに大切なのは、それらの言語がその個人の中で関連づけられているということです。言語には個性の違いはありますが、すべて同質です。母語と2つの外国語という3つの言語の視点からことばを立体的に捉えることで、ことばの力を最大限に引き出せるような人間を育てることが可能になります。 明海大学のセンターでは、さらに踏み込んで、最終的には母語をきちんと使える学生を育てることを目指しています。そうしてはじめて、きちんと外国語を使えるようになる。  近年、大学は、とかく就職率やTOEICの点数を上げることで評価を高めようとしますが、複言語・複文化教育センターの活動をとおして、ことばの力をフルに活用できる卒業生を育てることが私に課せられた使命だと考えています。

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    三木谷氏が立ち上げた新経連 原発問題で経団連と正面衝突も

     財界の真ん中にいる経団連に対し挑戦状を叩きつけたのが楽天の三木谷浩史氏が立ち上げた新経連だ。争点は「原発」と「政権との関係」である。経済ジャーナリストの永井隆氏が解説する。* * *「電力ビジネスに革命を起こす」 そう繰り返す三木谷氏にとって、今年4月からスタートした電力小売り自由化は“革命実現”への第一歩となった。それは、同氏が率いて「脱原発」「エネルギー分野の規制緩和」を主張する新興の経済団体・新経済連盟(新経連)にとっても重要な政治的果実だった。 対する日本経済団体連合会(経団連)の榊原定征会長は「原発が止まっているのは国として損失だ」と発言し、原発再稼働を強く働きかけている。2013年9月、東京都内で会見する新経連の三木谷浩史代表幹事 これまで日本の経済団体は、経団連、個人の資格で加盟する経済同友会、日本商工会議所の3団体が中核を成してきた。特に、経団連は“財界総本山”であり、経団連会長は時の政権にも影響力を持つため「財界総理」とも呼ばれた。 しかし、東日本大震災後の電力行政や原発政策をめぐり、2011年に経団連を脱退した三木谷浩史・楽天会長が旗揚げした新経連が財界の構図に一石を投じた。経団連を飛び出した三木谷氏は当時、「経団連は日本企業の護送船団方式を擁護」「経団連に入っている意味はない」など痛烈に批判。“オールドエコノミー”とバトルを繰り広げた。 現在、経団連と新経連は別の観点でも争っている。いかに政権への距離を縮めるかだ。 経団連前会長の米倉弘昌氏(住友化学相談役)と安倍首相との間には確執があった。米倉経団連は民主党政権時に野党だった自民党とは距離を取り、政権復帰した自民党への献金もしなかったのだ。 そのため本来、経済財政諮問会議メンバーの最重要候補であるはずの経団連会長が選ばれない異例の事態に発展。その間、産業競争力会議の民間議員には三木谷氏が就いた。「新経連は経団連の敵失に助けられた」との見方もあるが、2014年6月に東レの榊原氏が会長に就任して以降、経団連は政治献金を再開。安倍政権への再接近を図っている。双方は互いをどう捉えているのか。「新経連を軽視はしないし、経団連にもメンバーとして入ってもらいたい」(経団連・正木義久総務本部長/管理本部長)「経団連とはひと味違う角度から、政府与党への提言を重ねていく」(新経連・関聡司事務局長)“大人”な言い回しながら、両者はいつまた原発問題などで正面衝突してもおかしくない。関連記事■ 楽天・三木谷氏率いる経済団体 経済サミット参加費は7万円■ 経団連決別宣言の三木谷氏にホリエモン「私の次の攻撃対象」■ 経団連 次期会長に安倍氏に近い東レ会長抜擢で三木谷氏牽制■ 経団連の政治献金再開 自民と不離一体の集金マシーンの側面■ 経団連の献金「自民党の政治資金二重取りはおかしい」と識者

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    「ハレとケ」日本の文化をぶち壊す正月営業なんかいらない

    荻原博子(経済ジャーナリスト) 正月を休業したり、店の営業時間を短くしようというところが、徐々にですが出てきています。私は、こうした流れには賛成です。 なぜなら、「正月くらいは家族と過ごしたい」とか、「早く仕事を済ませて家族との時間を大切にしたい」と思う人も増えているのではないかと感じるからです。 ヨーロッパに行って感じるのは、多くの人が、家族とともに過ごす生活を楽しんでいるということです。 イタリアのフィレンツェ郊外の農家に泊まった時に、一緒の建物だったイタリア人家族と話したのですが、その家族は夏の1カ月のバカンスを、その農園でゆっくり過ごすのだそうです。小さなプールはあるけれど、他にあるものといえば一面のオリーブ畑とぶどう畑。そこを散歩したり、犬と遊んだり、寝転がって本を読んだり、バーベキューをしたり…そうやって1カ月もゆったり過ごすというのは、日本人にとっては考えられないことでしょう。なぜ、そんなにゆっくりできるのかと言えば、夏休みが2カ月もあるからなのだそうです。 そこで、「日本にはブラック企業が多い」という話をしたら、「ブラック企業って何? 黒人だけしかいない企業のことかい?」と聞かれました。「そうではなく、規定の勤務時間外にも過酷に働かせる企業のことだ」と言うと、「そうか。だったら私か勤めている企業も、時々残業させるから、ブラック企業だな」と言うのです。彼は、先週3時間も残業させられたのだそうです。それを聞いて、「いやいやそんな程度の残業ではなく、朝から晩まで休みなく働かせて、そのために体を壊したり自殺する人もいる」と話すと、「そんな企業があるなんて、とても信じられない!」と驚いていました。 日本人は勤勉だから、よく働く。それが、日本人の美徳とも言われてきました。 確かに日本人は、朝から晩までよく働いています。けれど、よく働くからといって、必ずしも生産性が上がっているわけではありません。 経済協力開発機構(OECD)加盟諸国の時間あたりの労働生産性を見ると、日本人に比べてあまり働かないように見えるヨーロッパの人たちの方が、はるかに生産性は高い。表を見るとわかりますが、35カ国中なんと20位。しかも、平均以下です。 ちなみに、2017年に国連で「世界で最も幸せな国」とされたのはノルウェーですが、労働生産性を見ると日本の約2倍。つまり、ノルウェーの人が7時間働くなら、日本人は14時間働かないと同じような生産性を上げられないという計算です。9時〜17時で仕事を済ませて帰宅して家族で夕食をとるノルウェー人に比べて、日本人は、夜の22時、23時まで働いても、生産性では追いつかないということです。 日本の「幸福度ランキング」は51位。ちなみに、若者が「恋愛」「結婚」「出産」「人間関係」「マイホーム」「夢」「就職」の7つを放棄している「七放世代」が多いと言われ、若者自身が自国を「ヘル朝鮮」と呼ぶ韓国ですら、「幸福度ランキング」では日本とそう変わらない55位でした。コンビニ店主の給料が安すぎる 残業する割には生産性が低い日本人ですが、実はサービス業全体が従業員の長時間営業の割に儲かっていません。 日本のスーパーマーケットは、年中無休。コンビニエンスストアは、年中無休どころか24時間ずっと営業しています。こんなに営業しているのだから、さぞかし儲かるだろうと思いきや、それほど儲かっていない。なぜなら、東京などの都心部でもない限り、深夜に買い物に来る客というのはそう多くはないからです。そのため収益が上がらず、深夜営業には人件費がかけられない。そこで、深夜に店に出ているのは、ほとんどが店主なのだそうです。そうなると、コンビニの店主は、友人と夜に酒を飲むということもできないし、家族団欒も中途半端になってしまう。 あるコンビニ経営者に聞いたら、それだけ働いてもコンビニの店主の平均的な給料は500万円前後。600万円あればいい方なのだそうです。 ちなみに、ヨーロッバでは24時間365日営業という店は、ほとんどありません。最近は、一部あるようですが、基本的には、夜は休む、日曜日は休むというのが社会のコンセンサスになっています。ですから、客も開いている時間内に効率的に買い物を済まします。福袋などを求める客でにぎわう日本橋三越本店=東京都中央区(福島範和撮影) 家電メーカーなどは、正月三が日の福袋の販売実績が大きく、かき入れ時なので休めないという店がほとんどですが、こうした状況も、早晩変わって来るのではないかと思います。なぜなら、給料が伸びない中で、最低限必要なものしか買わないという人が増えているからです。しかも、買うならリアル店舗よりもネットという人も増えています。 日本ショッピングセンター協会の年末年始販売統計調査報告では、福袋を販売する店は年々減っていて、販売個数も減少傾向にあるのだそうです。特に婦人衣類関係の不振で売れ残り店舗も出ている状況のようです。さらに、同じ福袋でもウェブ販売の福袋などは伸びているようで、リアル店舗の福袋がECでの福袋にマーケットを侵食されている状況も報告されています。 正月の三が日に店が全部閉まっていたら、初詣の帰りに寂しいという人もいることでしょう。 けれど、個人的なことを言えば、自分がほろ酔い気分で休んでいる三が日に、誰かが休むことなく働いているというのは、ちょっと気が引けます。働き者の日本人が一番楽しみにしていた 実際に、正月三が日を休みにしたことで客から、「元旦から営業しないなんて、どういうことだ」というクレームが来た企業がありました。これに対しての店側の回答がネットでも話題となりました。 店側の回答のポイントは2つあって、(1)三が日以外は毎日営業しているので、せめて三が日くらいは全従業員を家族の元でゆっくりと休ませ、エネルギーを充電して新しい年に向けて全力で頑張ってもらいたいから。(2)自分たちが元旦営業をしていると、メーカーや商品を納入する物流会社の人たちも休めないから。 客を大切には思っているが、同じように、従業員やメーカーなど共に働いている人たちも休ませてあげたいという思いやりの心が伝わる文面であり、確かにその通りだと思いました。 もともと日本では、お盆と正月には、商家で住み込みで働いている丁稚(でっち)や女中も休みをもらい、実家に帰り、家族とゆっくりするという習わしがあります。普段は粗食でも、正月には美味しいものをお腹いっぱい食べられるので、子供たちも正月を心待ちにしていました。また、正月の三が日に食べる「おせち料理」は、いつも忙しく働いている主婦が三が日だけは台所に立たなくてもいいように、保存の利く食材が中心になっています。鳥居に注連飾りを取り付け、迎春の準備をする神職 =2016年12月25日、鳥取市の長田神社 働き者の日本人にとって、正月三が日は唯一、誰もが大手を振って休める休日であり、一年で最も楽しみで幸せな日だったのです。普段着ない晴れ着を着たり、神聖な食べ物である餅や赤飯を食べ、24時間お酒を飲んで酔っ払っていても誰にも文句を言われない。その風習は、日本の文化でもあります。 日本人には、「ハレ(晴れ)」と「ケ(褻)」という伝統的な考え方があります。正月は、この「ハレ」にあたり、普段の生活は「ケ」にあたります。「ハレ」の日は、休んだり楽しんだり遊んだりして、「ケ」の日はしっかりと働く。それは、日本人が生活の中で編み出したメリハリでもあります。 けれど、正月でも休みなく働く人がたくさんいて、おせち料理なども作り置きしなくても元旦でもスーパーで買えるとなれば、こうしたメリハリはどんどんなくなっていくことでしょう。 「1つのスーパーが三が日営業するためには、そこで働く人以外に、多くのメーカー、納入業者が働かなくてはならない。それは、ちょっと気の毒だ」。ひと昔前の日本人は、こうしたことを想像する力を持っていたような気がします。 元旦に店が開いていないからとクレームをつける人には、こうした相手に対する思いやりと想像力が欠如している気がしてならないのは筆者だけでしょうか。

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    「正月営業」は日本人に必要ない

    正月三が日でもコンビニの24時間営業や百貨店の初売りは今や当たり前の時代である。ところが、一部の飲食チェーンや携帯ショップでは年末年始の営業を止める動きが広がっている。ハレとケを重んじる日本人にそもそも「正月営業」など必要なのか。この意味を考えたい。

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    正月営業の見直しを「働き方改革」と称賛するメディアの罪

    常見陽平(千葉商科大学国際教養学部専任講師) デパートなど小売業や外食業で、年末年始営業の見直しが話題になっている。いち早く三越伊勢丹ホールディングス(HD)などが取り組みを始めている。ファミリーレストランや、コンビニエンスストアでもこのような取り組みが散見される。さらには、24時間営業の見直しも行われている。 これらの取り組みは「働き方改革」文脈でメディアに露出する。しかし、これをいかにも従業員に優しい取り組みとして紹介するメディアは罪であり、ミスリードである。その真因にこそ、日本の消費と労働の絶望がある。 特に百貨店の年末年始営業は「働き方改革」文脈だけでは説明できない。ネット通販の台頭、ショッピングモールのアパレル領域の強化、ブランドの路面店拡大などの外部環境の変化もあり、百貨店は、業界そのものの存在意義が問われている。 消費喚起策にしても、年末年始の前からハロウィーン、クリスマスと続いている上、ブラックフライデー、サイバーマンデーなど新手のイベントも現れている。ネット通販会社も年に何度もセールをやっている。さらには、ファミリーセールだってある。ブランドによっては、早期型のプライベートセールを実施するところもある。わざわざ正月にデパートに出掛ける必要はないのである。ブラックフライデーにちなんだセールが始まり、混雑するイオンスタイル品川シーサイド店の野菜売り場=2017年11月23日未明、東京都品川区 人手不足も深刻だ。百貨店ではお歳暮シーズンも含め、アルバイトの確保が困難である。別にこれは労働者に優しい施策であるとは限らず、労働者を採れないという話なのである。もちろん、この手の取り組みは、業態や地域による違いも出ることだろう。ただ、購買手段も、消費喚起策も多様化する中、また、かつて百貨店を利用していた層の高齢化も進む中、年末年始の営業自体の意義が問われているのではないか。 ただ、これを「働き方改革」の先進的な取り組みとして取り上げるのは、やや違和感がある。これは「サービスレベルを見直そう」という意味では正しい。ただ、従業員のためを思った施策というよりは環境の変化による、やむを得ない対応という側面が強いのではないか。 メディアで「働き方改革」の報道を見かけるたびに、脱力してしまうことがある。「それは、働き方改革と呼べるのか?」という疑問である。 始まったばかりの取り組みをあたかも成果が出ているかのように取り上げているものも散見される。社内で賛否両論を呼んでいるがゆえに、メディアにリークをすることにより、世論を味方につけて流れを変えようとした取り組みもある。IT企業や、人材ビジネス企業では、取り組みを事例化し、自社の営業ツールに使っている例も散見される。流行語大賞の場で感じた百貨店の意義 もちろん、それでも働き方改革が進むなら良いのではないかという声もある。しかし、これは改革の目的化だ。働き方改革は、仕事の絶対量や任せ方、クオリティーを見直さずやりくりしているという普遍的・根本的矛盾を孕(はら)んでいる。かえってこの取り組みが、「働き方改革疲れ」を起こさないか、サービス残業を誘発しないかという視点を持っておくべきである。 働き方改革を進める上で、うまく進むパターンについて考えた1年だった。身も蓋もない例の一つが「困っていること」である。売り手市場である上、若者が減っていくという「採用氷河期」である。さらに企業によっては「ブラック企業」イメージがついており、求職者が応募してこないというケースもある。業界、地域、企業規模、職種などの条件によっても、採用は困難となる。地方の中堅・中小企業は常に採用に困っている。IT企業においては、エンジニアの獲得は困難であり続けている。 このように、決定的に困っている場合に人材マネジメントは変化する。なんとしても、人材を獲得し定着させるための試行錯誤が促されるのである。年末年始営業に関連して、今考えるべきことは、サービス業全般で人手不足をどう解決していくかということだろう。困っているがゆえの改革案を期待したい。 話を百貨店の年末年始営業に戻そう。そういえば、筆者は先日、「ユーキャン新語・流行語大賞」の授賞式とパーティーに出席した。『現代用語の基礎知識』の執筆者として招待された。私が担当したページから「プレミアムフライデー」がベストテン入りした。もっとも、好意的な文脈ではなく、バブル期の「ハナモク」のように定着するのかというような、ネガティブな文脈だった。 受賞者は経団連副会長の三越伊勢丹HD特別顧問の石塚邦雄氏だった。いわば、ほめ殺し的、つるし上げ的な受賞にもかかわらず、授賞式にやってきた点はあっぱれである。そう、流行語大賞は否定的なトーンで取り上げる言葉もあり、必ずしも受賞者が会場に現れないのだ。2017年12月、「ユーキャン新語・流行語大賞」表彰式の記念撮影におさまる受賞者ら。前列右端は「プレミアムフライデー」で受賞した三越伊勢丹HDの石塚邦雄特別顧問(松本健吾撮影) もっとも、その場でもプレミアムフライデーについて今後、盛り上げていくというコメントをしていたものの、具体策は乏しかった。いまだに三越伊勢丹HDの特別顧問をしているのなら、自社の宣伝をかねてどさくさに紛れて、こんなことをやっているとアピールすればよかったのではないか。やや論理の飛躍のようだが、ここでも百貨店の存在意義を考えてしまった。手詰まり感があるのだ。インバウンド観光客による需要などもあるものの、逆にこれがなかったらと思うとゾッとする。 年末年始営業の件を「働き方改革万歳」的なトーンで総括してはならない。これは消費喚起策と、人手不足の解決がうまく進んでいないことの証拠なのではないか。

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    元旦営業はもはや非常識? 三が日のコンビニは無人店舗が常識になる

    片山修(経済ジャーナリスト、経営評論家) 30年ほど前、正月といえば「元日休業」が普通だった。銀行にしろ、商店にしろ、大みそかのギリギリまで開いていた。だからというか、元日は休むのが普通だった。そう、「正月休み」である。ところが、流通業では、1990年代のコンビニエンスストアの普及以後「元日開業」が常識で、「元日休業」は非常識のような時代の空気があった。しかし近年逆転した。「元日休業」が常識で「元日開業」が非常識化しつつあるように思われる。では、なぜいま再び元日休業なのか。そこからは日本社会の構造の変化を読み取ることができる。 実際、元日休業を掲げる企業は、増えている。元来、都内の百貨店で元日に営業するのは、そごう・西武やグランデュオなどに過ぎない。高島屋や松屋、松坂屋、東武などの多くの百貨店は2日から営業。三越伊勢丹の店舗の多くは3日開業だ。2017年1月1日、西武池袋本店の初売りで福袋を買い求める人たち。百貨店大手4社は、平成29年の初売りがおおむね好調だったと発表した 家電量販業界でも、とっくに元日休業が広がっている。2008年、ヤマダ電機が業界に先駆けて元日休業を掲げると、ケーズデンキも続いた。この動きは今年、一部のコンビニや外食産業でも広がった。北海道を中心に約1190店舗を展開する「セイコーマート」の運営会社セコマは昨年、元日に42店舗で休業したのに続き、今年は全体の半数以上の約640店舗で休業した。 ロイヤルホールディングス(HD)は、ニーズの高い立地条件の店舗は除いたものの、展開する「ロイヤルホスト」「天丼てんや」「カウボーイ家族」の約9割で元日休業した。大戸屋HDもまた、「大戸屋ごはん処」の直営店の約半数にあたる80店舗で、昨年の大みそかと今年の元日を休業した。テンアライドでも「旬鮮酒場天狗(てんぐ)」などの全店舗で昨年の大みそかを休業した。 元日休業が広がった背景には、二つの理由がある。一つは深刻な人手不足だ。少子高齢化社会、労働人口減少社会を迎え、人手不足が深刻化する現代において、従来の方法で24時間年中無休のサービスを競うのは、もはや時代遅れだ。社会の変化に合った、賢い外食や流通の在り方を考えるべき時に来ているのではないか。 だからといって消費者にしてみれば、コンビニや外食店は24時間365日営業しているに越したことはない。しかし、都市部はともかく、セイコーマートのような地方のコンビニや外食店は、もともと深夜の時間帯は需要が少ない。しかも、深夜や祝日などには従業員の時給が上乗せされる。消費者のニーズが少なく、稼げない時間帯に、高い人件費を支払って営業したのでは割に合わない。ヤマダ電機創業者が語る「元日休業」のワケ 「あいててよかった…」のコマーシャルでおなじみのコンビニにならって、スーパーやファミリーレストランもまた、24時間営業や深夜営業、年中無休を行うようになった。しかし、今や平日の昼間でさえ、パートやアルバイトの人手確保に苦労している。 元日休業が広がった背景の二つ目は、「従業員満足度」すなわち「働き方改革」である。実は、三越伊勢丹HDの大西洋前社長は16年、多くの百貨店が2日に初売りを行う中で、首都圏店舗を中心に初売りを3日とした。そして18年の正月は3が日を休業とし、4日からの営業を検討していた。休日が増加すれば、従業員の意欲向上、引いては顧客へのサービス向上につながると考えたためだ。しかし、実現しなかった。2017年5月、新製品発表会で船井電機の船越秀明社長(右)と握手するヤマダ電機の山田昇会長(左) かつて、ヤマダ電機創業者の山田昇会長にインタビューした際、次のように語っていたのが印象的だった。「元日を休みにできるのは、うちにそれだけの体力があるからです。全店舗が1日休めば、150億円の減収、その利益分は社員2万人分のボーナス分に相当する。それでも休みにしたんです。流通業は、会社への帰属意識が低いといわれます。対策として、従業員満足度を高めることが重要です。『勤めてよかった、自分の子どもにも勤めさせてあげたい』と思われるような会社にするためには、職場環境づくりが大事なんです」 元日休業は、従業員満足度を高め、帰属意識を強めて離職率を下げるための、一つの旗印にはなる。しかし、実現するためには、機会損失を許容できる体力、もしくは補填(ほてん)するための策が求められるわけだ。 ただでさえ、日本のサービス産業の生産性は低い。日本生産性本部の調べによると、わが国の労働生産性は製造業で米国の7割であるのに対して、サービス産業では5割に過ぎず、むしろ格差が年々拡大しているのが現状だ。それだけに、サービス産業の従業員のモチベーションの向上は急務である。 では、どうすればいいのか。人手不足を解消するロボット、モノのインターネット(IoT)、人工知能(AI)などの先進技術を活用したサービスが開発され、実証実験が進んでいる。 例えば、JR東日本は昨年11月、大宮駅で無人店舗の実証実験を行った。客は、入り口に設置されたゲートに「Suica」などICカードをかざして入店する。店内には約130種類の商品が並んでおり、欲しい商品を棚から取るだけでよい。出口に設置されたディスプレーに商品名と合計金額が表示されるので、それを確認し、「Suica」で決済する。AIがカメラを通じて商品を手に取った人を特定し、金額を計算する仕組みだ。「元日休業」に追い込むネット通販の力 このほか、パナソニックはローソンと提携して「レジロボ」を開発し、実証実験を行っている。実験店舗では、商品一つ一つに電子タグがとりつけられている。客が商品を専用のカゴに入れてレジに置くと、「レジロボ」がカゴの中の商品を自動で清算し、袋詰めする。また、ローソンは今年春、深夜から早朝の時間帯のレジ業務をなくす実験店舗を設置する計画だ。来店者はスマートフォンのアプリを使い、自分で商品のバーコードを読み取って決済する。2017年12月、ローソンの実験施設「ローソンイノベーションラボ」を報道陣に公開する竹増貞信社長 これらは、棚卸し作業などがあるために、まだ完全無人化は実現していない。しかし、人手不足解消の手段として今後、有望であることに変わりない。近い将来、正月3が日にコンビニが無人になる日がくるかもしれない。 外食店でも、ロイヤルHDは支払いをクレジットカードと電子マネーに限る実験店舗を設けた。レジ締めの作業短縮など人の負担を軽減するためである。 百貨店や家電量販店においても、カギを握るのは、EC(Eコマース、電子商取引)サイト経由の注文を増やすなど、やはりIT化だろう。アマゾンや楽天、ゾゾタウンといったネット通販が急速に台頭する中、厳しい戦いを強いられている。Eコマースを拡大しているが、まだネット通販大手に対しては劣勢だ。店舗を持つ強みを生かしたマーケティングにより、ネット通販大手に負けない価値を提供すると同時に、店舗や倉庫、物流のIT化やロボティクス(ロボット工学)活用によって、さらなる効率化を図ることが求められる。 近年、インターネットやスマホの普及にともなって、消費行動の構造変化や流通ルートの変化が起きている。総務省の調査によると、2人以上の世帯においてネットショッピングを利用する世帯の割合は、02年にわずか5・3%だったが、その後、年々増え続けて16年には27・8%に達した。つまり、消費行動はリアル店舗での購買からネットショッピングに確実に移っている。したがって、「元日開業」の必要性は明らかに落ちているのだ。 百貨店や家電量販店などに求められるのは、消費者に、より便利により楽しい買い物体験を提供することだ。例えば、それがECサイトで実現するならば、必ずしも正月3が日に営業せずとも、消費者を満足させることが可能なのである。 人手不足や「働き方改革」の流れを、ネガティブにとらえるのではなく、より効率的で便利なサービスを生み出す力へと転換することが求められている。元日休業の是非を問うことは、企業や消費者が、どこまで賢くなれるかを問うことでもある。

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    コンビニは24時間営業をやめても成立するのか

    福谷恭治(商売力養成コンサルタント) コンビニ大手のファミリーマートが、人手不足を理由に24時間営業の見直しを検討し始めました。競合他社店舗が乱立する現在のコンビニエンスストアというビジネスモデルは、営業時間を短縮しても成立するのでしょうか。 人手不足に伴う人件費の高騰によって加盟店の経営が厳しさを増しており、営業時間の見直しを検討するために一部店舗で深夜など来店客の少ない時間帯に限り、一定時間店を閉める実験を進めている。人手不足の深刻化を受けて、外食産業などでは既に営業時間を短縮する動きが広がっている。しかし、コンビニは夜間の商品の配送など、24時間営業を前提とした経営モデルとなっており、ライバル店との競争で不利になる恐れもあることから、営業時間を短縮する大手は出ていない。ローソンも過去に一部店舗でファミマと同様の実験をしたことがあるが、「売り上げが落ち込んだ」といい、営業時間の見直しを見送った。「24時間営業見直し ファミマが実証実験」毎日新聞 2017/10/31 今回の実証実験でどのような結果が出て、最終的にどのような判断が下されるのか興味深いところですが、その鍵を握るのは、やはり「売り上げがどこまで落ちるのか」という一点だと推測できます。東京都内のファミリーマート そもそも、営業時間を短縮すれば単純に売り上げは下がります。ひと気のない深夜でも、1時間に数名の来客があったものが無くなるわけですから至極当然の話です。深夜に閉店することで来店できなくなった顧客が運んできてくれていた売り上げや利益と、深夜アルバイトスタッフの人件費や募集費、それでも集まらなかった場合に行われるオーナー自身の深夜勤務という負担を天秤にかければ判断できます。何なら実証実験などしなくても、過去の時間帯別売り上げデータを見ればシミュレーションは可能です。 しかし、それでも実証実験を行わなければならない理由は、顧客にとって深夜営業を行わないコンビニがどれだけ魅力を失うか、という問題を数値化する必要があるからでしょう。深夜のコンビニ客が他店に流出するだけではなく、深夜以外の時間帯での顧客流出につながるリスクを検証することが、今回の実証実験の目的だと推察できます。単純に深夜分の目減りした売り上げ云々の話ではすまない可能性があるということです。 いわゆるコンビニ、コンビニエンスストアは、その言葉通り利便性の追求で事業規模を拡大してきました。セブンイレブンという名前の由来が「朝7時から夜11時まで開いている」であるように、当時の小売店が夜間や早朝に営業していなかった実情を踏まえ、いつ行ってもお店が開いているという便利さをウリにしたのが始まりです。深夜以外の売り上げも下がるリスク 今では公共料金の支払いやチケット販売などによる利便性の拡大はもちろん、コンビニ限定スイーツやファストフードの販売など、ありとあらゆる来店動機を携えたビジネスモデルとなっています。ですので、こうした便利さの多様化に伴い、「深夜に営業していること」が占める来店動機比率は相対的に減少しているはずです。 それでも今回実証実験に踏み切るのは、同じような商品やサービスがあるAコンビニと、同じような商品やサービスがあるけど深夜営業はしないBコンビニでは、Aコンビニの方が使い勝手の良い「いいコンビニ」という格付けがなされ、深夜の利用でなくても、Aコンビニを利用する顧客が増えることを懸念しているからだと考えられます。そしてそれは実際に充分起こり得る現象なのです。 コンビニはそもそも専門性を売るビジネスモデルではありません。あくまでも基本は利便性を売るビジネスモデルですので、どれだけ自分にとって便利かがお店の印象をある程度決定付けます。たとえば月に一度しか深夜のBコンビニを利用しなかった人が、Bコンビニの深夜営業終了に伴い、最初は月に一度の深夜利用だけAコンビニに行っていたのが、やがて習慣化し日中もAコンビニを利用するようになる、というケースは少なくないでしょう。どのコンビニでも手に入る商品やサービスなら、その都度行くお店を決めるという作業を省略して、とりあえずコンビニに行く時はまずAコンビニ、というルーティンで行動する人は一定数存在すると考えられるからです。京都市内の夜のコンビニ=2008年7月(柿平博文撮影) 人手不足は現実のものですので、深夜の人材確保がままならな現状があるのなら、営業時間の短縮は実証実験の結果を問わず前向きに検討すべき課題でしょう。利益ならまだしも、本社が売り上げを偏重するあまり24時間営業を無理強いし、コンビニオーナーが不眠不休で働くような状況は、間違ってもあってはなりません。その為には利便性の追求だけではなく、新たな来店動機となるものを模索することがコンビニには求められます。 具体的には、前述したコンビニ限定スイーツなど、そこにしか置いてない商品の開発強化や、店舗スタッフによるソフトサービスの強化などが来店動機の創出になります。特に人材教育については、既存スタッフという、既に保有している原資を元に行える投資である上に、スタッフの定着や求人の反応向上にも直結する為、人手不足解消の一助にもなります。どちらにせよ「近所の他のコンビニではなく、このコンビニに来る理由」を増やす以外に方法はありません。【参考文献】■マニュアルを超える接客サービスを行うお店を創りたいなら、まずはスタッフがお客様に関心をよせる風土を作ろう(福谷恭治 商売力養成コンサルタント)■お客様を守るのは売り手の仕事です!(福谷恭治 商売力養成コンサルタント)■人手不足の悪循環はどこで断ち切るのか(福谷恭治 商売力養成コンサルタント)■働き方改革で人手不足倒産は防げない(福谷恭治 商売力養成コンサルタント)■経験者を優遇採用する企業に、良い人材が集まらない理由(福谷恭治 商売力養成コンサルタント)

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    日本人にコンビニの24時間営業は本当に必要か

    平野和之(経済評論家) 政府の働き方改革、人づくり革命か。はたまた、高齢化、労働人口減少の人件費高騰の負のスパイラルか。サービス業が元日営業や24時間営業の見直しを余儀なくされている。(iStock) また、24時間営業をコンビニエンスストアでも一部見直す動きがあり、これは是か非かという議論も少なからずある。とはいえ、やはりコンビニの24時間営業も徐々に減っていくだろう。その一方で、国では夜間市場拡大などを目指す「ナイトタイムエコノミー」議連が発足し、インバウンド(訪日旅行客)向けの夜間の経済効果5兆円を狙う政策論など、矛盾と期待がはらんでいる。今回はそれらをまとめて考察してみたい。 外食産業などを含めて、元日営業や24時間営業を見直さざるを得なくなったのは、労働人口減少もさることながら、発端はブラック労働問題の方が大きい。特に、ゼンショーが運営する外食チェーン店で起きたワンオペ問題は記憶に新しい。 サービス業は「サービス残業」で成り立つ産業、ブラック労働で労働者の賃金を会社の利益として搾取していたからこそ、成り立っていたなんて皮肉がささやかれるほどであった。今やネット時代、不正は即社会問題に発展するケースも多くなったが、この流れは昨年相次いで発覚した製造業のデータ偽装問題に通じるものがあろう。 かくいう私も残業100時間、200時間も年俸制、成果報酬という大義になれば、自然とブラック労働化させられていた記憶も今は昔である。それが、かっこいい時代もあったが、今はストレス社会、世界の潮流とは逆行している。 ただし、アジアという地域に限れば、それが、文化でもあり、日本がアジアで最初の働き方改革に挑戦しているという見方にならないと、欧米並みの労働生産性は実現しないだろう。 高齢化による労働力不足をカバーし、アベノミクスを成功させる唯一の方法は、労働生産性を引き上げるほかない。その中から出てきた政策が働き方改革であり、人づくり革命である。日本のサービス産業はアメリカのサービス産業の労働生産性の半分程度であり、引き上げる余力が大きいからである。24時間営業のメリットは薄れていく? 大規模チェーン店などの場合、サービス産業で労働者を雇用する場合、8割は非正規労働者である。外食は24時間営業をやめるケースも増え始めた。コンビニなどでは、深夜、早朝に清掃や陳列などを行っているが、夜間の人件費高騰とその業務オペレーティングコストをてんびんにかけた場合、外食は来店者数が明らかにコンビニよりも少ない分、24時間営業を廃止する流れが加速している。 また、人々の生活習慣の変化も、24時間運営のメリットを享受できなくなった要因の一つであり、今後もそのメリットが経営サイドから薄れていくのは間違いない。 労働人口は減り続け、採用コスト、人件費は上がり続ける。内需においては、少子高齢化、高齢者ほど人との交流も減り、夜間の生活習慣は減っていく。むしろ、早朝などライフスタイルの変化が24時間営業の見直しの主犯といえるのかもしれない。 では、元日営業はどうかといえば、これは、2つの側面でのメリットがあると考える。たとえば新年売り出し、1月と2月は長い個人消費の低迷月であり、新年初売りは数少ない稼げる日である。ただ、初売りが早くなり続けたのは、各社がフライングし続けてきた商習慣の結果ともいえるだろう。新春の初売りが行われ、お目当ての福袋を買い求める客=2017年1月2日、東京都中央区の三越日本橋本店(黄金崎元撮影) 消費者が希望したというよりは、サービス業のサバイバル戦術のなれの果てといえるかもしれない。早ければ早いほど、客が集客できたのもまた事実である。その理由は生活スタイルの変化であろう。 おせちは、通販などで購入する時代になり、自分では作らない。昔のようにおせちをつくり、初詣に行くのが当たり前ではなく、今や年末はゆっくり過ごし、正月にはイベントに出掛ける。最近では大みそかまで仕事という人も増えたが、人件費が高騰し、働き方改革が叫ばれる中で、冷静に考えればそこまでやる労力とリターンが見合うのかどうか甚だ疑問である。インバウンドを狙う政府の矛盾 小売店などでは福袋以外は特に売れないわけで、工夫の仕方では、通販による福袋の予約は元旦以外でもできるだろう。しかし、みんながそろってやめれば、元日営業店は残存利益が出る可能性もある。このいたちごっこをどう判断すべきか。ここに働き方改革の方向性が集約されるだろう。 さて、本当に元旦にゆとりをもたせるのであれば、サービス業向けに元日休暇減税など、まじめに議論すべき時代なのかもしれない。 さらに、サービス業の一部では元日インバウンドの恩恵などもある。インバウンドの元日消費といえば、政府も社会も働き方改革を、24時間営業の見直しをという風潮がある中で、ナイトエコノミー議連が発足した。これは、インバウンドの外国人観光客は夜の消費額が大きく、この政策を推進し、経済効果を5兆円引き上げようとする動きである。イギリスでは週末の地下鉄は24時間運転であったり、海外のショーは深夜帯が人気だったりする事例があるとはいえ、日本ではさすがに唐突感が否めない。量販店で自撮り棒の使い勝手を試す外国人観光客=2017年10月3日、大阪市中央区(織田淳嗣撮影) これが成功するかどうかは、IR(統合型リゾート)推進法制定後の動向を見極めるほかない。地方の観光都市では、労働者が高齢者ばかりで、深夜に働き手が集まるとは思えない。都市部でも夜間の労働力をどうするのか、課題は多い。今後、地域の実情に合わせた規制緩和論、財政出動論などが出てくるだろう。 これからの傾向として、24時間営業も元日営業も確実に減っていく。コンビニのFC(フランチャイズ)、ショップの代理店制度など、人件費高騰のリスクを親元が負担する制度を法制化すれば、即座に激減するだろう。 その場合、人の行き来、夜間でいえば光がなくなることでの社会問題、治安などのリスクが高まる。働き方改革と夜間の経済成長力、社会の存続と相反する矛盾をいかに解決できるかに注意していく必要がある。

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    労働力不足で過当競争が沈静化することを祈る

    マイナスの影響を与えてしまったはずです。 しかも、各社とも利益を削っての安売り競争でしたから、各社の企業経営は楽ではなかった筈です。デフレで世の中のムードが暗かったのも、納得ですね。価格競争からサービス競争へ アベノミクスにより一時的に物価が上がったこともあり、世の中にデフレ脱却のムードが広がると、今度はサービス競争が激化しました。同じ物を安く売る代わりに、アマゾンが即日配達を始める等、労働力を必要とするサービスが増加したのです。 アベノミクス以降の経済成長率が決して高くないのに労働力不足が急激に深刻化した一因が、このサービス競争だと思われます。もちろん、底流の大きな流れとしては少子高齢化があるわけですが。 しかし、サービス競争も限界に近づきつつあります。ヤマト運輸が値上げに踏み切るとともに、配達希望時間としてランチタイムの時間帯を指定できなくしました。従業員の休憩時間を確保するためだそうです。深夜営業を取りやめる外食チェーンや元日営業を取りやめる小売なども出始めました。東京・銀座で荷物を運ぶヤマト運輸の従業員=2017年3月 本来、こうしたサービス縮小は、ライバルに客を奪われるので、企業としては避けたいのでしょうが、「背に腹は代えられない」ということで踏み切ったのでしょう。幸いだったのは、ライバルたちも同じように苦しいので、客を奪いに来るよりは、自分たちも追随してサービスのレベルを落とし始めていることです。 値引き競争の場合、片方が値引きをやめるとライバルに顧客を奪われてしまう可能性が高いのですが、サービス競争の場合、今回のようにライバルも自分と同様に労働力不足に悩まされている場合には、追随してくる可能性が高いのです。そして実際、ライバルが追随している事例が相次いでいます。 そうなると、次々と過剰サービスからの撤退が始まるかもしれません。「我が社は深夜労働はさせません。ライバル企業の従業員の皆さん、我が社に移って来ませんか?」といった宣伝をする企業が出てくるかもしれないからです。 深夜労働からの撤退は、客を奪われるリスクよりも従業員をライバルから引き抜けるチャンスとなり得るのです。反対に、ライバルにとっては深夜営業の継続は、客を奪うチャンスよりも従業員を奪われるリスクとなりかねないのです。 過剰サービスは、「皆でやめれば怖くない」のです。業界全体の売上高が減るわけではなく、業界全体のコストが抑制され、業界各社が潤い、業界で働く人々の環境が改善するならば、それは素晴らしいことです。大いに期待しましょう。つかさき・きみよし 久留米大学商学部教授。1981年、東京大学法学部卒業後、日本興業銀行(現みずほ銀行)に入行。主に調査関連部署に勤務した後、2005年に銀行を退行して久留米大学へ。著書に『増補改訂 よくわかる日本経済入門』(朝日新書)、『老後破産しないためのお金の教科書』(東洋経済新報社)、『世界でいちばんやさしくて役立つ経済の教科書』(宝島社)、『なんだ、そうなのか! 経済入門』(日本経済新聞出版社)など多数。

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    電通より長時間労働もある医療界 患者の感謝が心の支え

     過重労働が社会問題としてたびたび取り上げられているが、政府が唱える「働き方改革」が、働く人にとって有益なものとなっている気配はない。それどころか、経済界からの意見に押されて、強く規制することをためらう内容になっている。諏訪中央病院名誉院長の鎌田實医師が、これから、どんな働き方を目指すべきなのかについて考察する。* * * 2015年のクリスマス、電通の新入社員だった高橋まつりさん(当時24歳)が女子寮4階から飛び降り自殺した。彼女は、月100時間以上の残業を日常的に行なっていたことが問題となった。 生前のツイッターから過酷な働きぶりがうかがえる。自殺の2か月前には「体が震えるよ……しぬ」、1か月前には「がんばれると思ってたのに予想外に早くつぶれてしまって自己嫌悪だな」などと投稿していた。 東京大学卒の頑張り屋。深夜帰宅が続き、「睡眠時間2時間」という日もあった。高橋さんの自殺は過重労働のためだったと労災認定された。電通は夜10時に消灯し、深夜の残業を防止。しかし、カフェで仕事をしたり、早朝出勤したりするなど長時間労働の実態は変わっていないという指摘もある。 それにしても、1か月100時間以上の残業時間というのは尋常ではない。医療界はもっとひどい。20代の勤務医の労働時間は、平均週55時間。これに、当直や待機の時間が週12時間加わる。これを1か月に換算すると120時間を超える時間外労働をしていることになる。こんな「ブラック」な状況下で、日本の医師は患者さんの命を預かっている。それでも、何とか続けられているのは、医師としての使命感や、自分が成長するプロセスを実感できるからだろう。患者さんが元気になり、「ありがとう」と感謝されることも、心の支えになっている。 諏訪中央病院に医師が集まるのは、地方の中小病院なのに100名の医師がいて、他院より余裕が少しあるためかもしれない。高橋まつりさんのツイッターで長時間労働以上に気になるのは、上司から言われた言葉の数々だ。「君の残業時間の20時間は、会社にとって無駄」「今の業務量でつらいのはキャパがなさ過ぎる」働きすぎるとどうなるか? 新入社員の彼女の仕事ぶりは未熟なことが多かったのかもしれないが、もっと長い目で彼女を見て、仕事の一部でも評価してあげていたら、こんなことにはならなかったのではないだろうか。 いや、すでにそのレベルは超えてしまっているのかもしれない。どんなに優秀な人でも、やる気のある人でも、十分に眠れない、休めない、自分の仕事に意味を見出せないという状況下では、遅かれ早かれ擦り切れてしまう。 イギリスの医学雑誌「ランセット」に一昨年、興味深い研究論文が発表された。脳卒中になったことがない約52万9000人を、平均7.2年経過を追った結果、働く時間が長いほど脳卒中の危険性が高くなることがわかった。週55時間以上働く人は、週35~40時間働く人に比べて、脳卒中のリスクは1.33倍に増える。高血圧や糖尿病、食習慣だけではなく、労働時間も脳卒中を引き起こす要因になっているということだ。 日本の法定労働時間は、原則1日8時間、週40時間と決められている。法定労働時間を超える場合は、36協定で残業時間の上限を「月45時間、年360時間以内」と規定されているが、罰則付きのぎりぎりの特例として「月平均60時間、年720時間」という規定も設けられた。 長時間働くことは、脳卒中やうつ病、過労死など、健康に害を及ぼすリスクがあることを、もっと重く受け止める必要がある。 国をあげて働き方改革が議論されているが、雇用者側に立った「働かせ改革」ではなく、働く人の健康や生き方を大切にするような「生き方改革」を進めていってもらいたい。●かまた・みのる/1948年生まれ。東京医科歯科大学医学部卒業後、長野県の諏訪中央病院に赴任。現在同名誉院長。チェルノブイリの子供たちや福島原発事故被災者たちへの医療支援などにも取り組んでいる。近著に、『遊行を生きる』『検査なんか嫌いだ』関連記事■ 音楽家が原発労働者を訪ね歩いて知られざる現実を記したルポ■ 福島原発作業員 平均約12時間拘束で日当は2~4万円■ 高齢化が進み生活保護受給者が増えたドヤ街の現状を描いた本■ 戦時徴用は強制労働は嘘 1000名の募集に7000人殺到していた■ 44の職業に就く女性の給与明細・残業時間・長短を紹介した書

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    「電通ブラック批判」急先鋒の朝日新聞がブーメランで沈黙

     大手広告代理店・電通の女性新入社員が過重労働で自殺した問題は、2016年9月に労災が認定され、11月には厚生労働省が家宅捜索に入るという事態となった。これまで広告代理店の不祥事には及び腰と言われた大手メディアも一斉にこれを取り上げたが、中でも急先鋒となったのが朝日新聞だった。 「朝日は労働問題には定評がある。とくに今回は亡くなった女性が学生時代に『週刊朝日』でアルバイトをしていたこともあり、深く追及した」(朝日関係者) 10月12日付の「社説」では〈形式的で不十分な労働時間の把握、残業は当然という職場の空気……。企業体質の抜本的な改善が必要だろう〉と厳しく指摘。家宅捜索のあった翌日の11月8日朝刊は、1面トップ、天声人語、さらに2面でも図表入りで解説する力の入れようだった。 ところが、である。その1か月後の12月6日、朝日新聞東京本社が社員に長時間労働をさせていたとして、中央労働基準監督署(労基署)から是正勧告を受けたのである。 財務部門の20代男性社員が2016年3月、法で定められた残業時間を4時間20分超過していたと労基署は指摘。編集部門の管理職が部下の申告した出退勤時間を短く改ざんしていたことも判明した。さらに12月15日、社内調査の結果、他にも5人の社員が労使協定の上限を超える残業をしていたことが分かったと発表した。 紙面で労働問題を意欲的に取り上げている最中という“ブーメラン”だが、この最も身近な労働問題に関する報道は切れ味が鈍かった。朝日がまさかの「特オチ」 是正勧告についてはインターネットメディア『バズフィードジャパン』を始め、毎日、産経、日経などが相次いで報じたが、真っ先に情報を入手していたはずの朝日新聞はまさかの“特オチ”。各メディアの報道が出た翌日になってから「労基署、本社に是正勧告」とわずか240文字の小さなベタ記事を載せただけだった。 その後も、電通事件については14日に「過労死の四半世紀」と題した記事をオピニオン欄を全面使って展開している一方で、その翌日に発表した追加の社内調査結果については、またしても小さなベタ記事なのである。 この落差には朝日社内でも疑問の声があがった。本誌が入手した朝日労組が実施した組合員アンケートの回答には、〈電通以上のブラック企業だ〉〈電通問題を胸を張って追及できなくなった〉〈本来であれば会社が率先して外部公表する内容の事案だ〉といった辛辣な言葉が並んでいる。 朝日は報道が遅れたことについて、「是正勧告について社内で検討し、10日付朝刊の掲載に至りました」(広報部)とした上で、「弊社は現在、ワーク・ライフ・バランスの推進を重要な経営課題として掲げ、時短に取り組んでおり、今回、長時間労働について是正勧告を受けたことを重く受け止めています。再発防止に努めるとともに、引き続き、時短を一層推進していきます」(同前)と回答した。 これを“天ツバ”と言う。関連記事■ ABCマートを送検した労働Gメン ブラック企業の摘発は進むか■ AIの発達によって日本でもBIが必要になるのか■ ヤマト運輸役員「サービス残業の黙認は会社にとってリスク」■ ブラック企業、非正規雇用等 労働問題をエヴァから語る本■ “派遣の規制” 審議したのは現場の声代弁せぬ経営者や学者ら

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    積水ハウスが63億円騙し取られた“地面師”男女の仰天手口

     東京五輪バブルを前にして活況を呈する不動産売買の“間隙”に潜り込んで、巨額のカネを騙し取る。そうした詐欺師は「地面師」と呼ばれる。裏社会で暗躍する彼らの存在が明るみに出た。その被害者は、大手住宅メーカー「積水ハウス」だった。【取材・文/伊藤博敏(ジャーナリスト)と本誌取材班】* * * 大手住宅メーカー「積水ハウス」が8月2日に公表した「分譲マンション用地の購入に関する取引事故につきまして」と題したプレスリリースが、不動産業界に衝撃を与えた。(iStock)〈当社が分譲マンション用地として購入した東京都内の不動産について、購入代金を支払ったにもかかわらず、所有権移転登記を受けることができない事態が発生いたしました。顧問弁護士と協議のうえ、民事・刑事の両面において鋭意対応しております〉 土地の価格は70億円、そのうち63億円をすでに支払っているとある。つまり積水ハウスは63億円の資金を投じた土地を取得することができなかった。“何者か”に騙し取られたのである。 五反田駅から徒歩3分の一等地にあり、600坪がまとまって存在したこの土地は、長く不動産業界では有名な注目物件だった。 坪単価は1000万円以上、東京五輪を見越した都心一等地の値上がりで100億円にも達すると見込まれる“金のなる土地”──70億円で買えるなら積水ハウスとしては出色の物件だったはずだ。積水ハウスは仲介の不動産会社を通じて“土地所有者”から購入する形を取った。4月の売買契約時に手付金として15億円、6月1日に所有権移転の登記申請を行なう際に48億円が支払われた。残りの7億円は申請完了後に支払う予定だったという。ところが、ここで予想だにしない事態が起こる。申請から8日後の6月9日、「所有者側の提出書類に真正ではないものが含まれていた」との理由で申請が却下されてしまったのだ。事態を告げられた積水ハウスの関係者は青ざめたという。その日以降、“土地所有者”とは完全に連絡が途絶えた。 いったい何が起きたのか。積水ハウス側との取引の場に現われた土地所有者は、赤の他人がなりすました「偽者」で、提出された印鑑登録証明書もパスポートも、なにもかも「偽物」だったのである。そしてその赤の他人は、63億円とともに消えた──。不動産のプロを騙した「手口」〈他人の所有地を利用して詐欺を働く者〉 大辞泉でこう定義される「地面師」と呼ばれるグループに、不動産のプロである積水ハウスがまんまと騙されてしまったのである。彼らは、どんな手口を使ったのだろうか。「池袋のK」と呼ばれる女 JR五反田駅を降り、目黒川の方向に少し歩くと、鬱蒼とした樹木に囲まれた古びた日本家屋がある。 近づくとそこが旅館だったことがわかる。外周は古びた薄茶色のモルタルで一部は崩壊。玄関には「日本観光旅館連盟 冷暖房バス付旅館 海喜館」という看板がかかっているが、何年も営業していない。朽ちた印象から地元では「怪奇館」とも呼ばれている。土地の所有者はこの「海喜館」の3代目女将・Sさん。地元住民はこう言う。「女優の池内淳子さんに似た美人女将だった。以前からいろんな不動産屋が買いに来たけど、親の代からの土地ということもあり、Sさんは全て断わっていた」 不動産に詳しい司法書士の長田修和氏は、以前からこの土地のことを知っていたという。「価値の高さはもちろんですが、一方で現在に至るまで、大手不動産会社などが手を出しては諦めてきた、曰く付きの土地です」 その土地を積水ハウスは“Sさん”から手に入れる好機を得た。正確には、“Sさんになりすました別人”から、だったのだが。 事件の一端をうかがい知ることができる証拠品を入手した。“Sさん”が積水ハウス側へ身分証明書として提出したパスポートだ。名前や生年月日こそSさんのものだが、写真に写っている中年女性はお世辞にも往年の大女優には似ても似つかない。複数の近隣住民に確認してもらったが「別人だ」と口を揃える。 その女性はSさんになりすまして、積水ハウスと売買交渉に臨んだ。そのために用意したのがこの偽造パスポートだったのである。印鑑登録証明書も、同じく偽造のものだったという。 この間、本物のSさんは、拉致されていたという情報もあり、本人不在のうえでなりすましの準備を整えていたのである。この「なりすまし女」は誰なのか。取材を進めると、以前、この女性から土地担保融資を持ちかけられたという不動産業者にたどり着いた。「土地を担保に30億円の融資をしてほしい」という内容で、この時もパスポートを身分証として提出してきたという。“主演兼脚本家”は誰か「念のため、銀行通帳のコピーを要求したんだけど、用意できなかったのか、話は流れた。その後、彼女が不動産関係者の間で『池袋のK』と呼ばれる有名な地面師であることが発覚した」(不動産業者) 地面師とは、本来の所有者のあずかり知らないところで所有者になりすまし、土地の売り手となって購入代金を騙し取る不動産詐欺師である。 今回の事件では、なりすまし実行犯のKだけでなく、計画全体をとりまとめたもう一人の地面師が背後にいたと見られている。積水ハウスとの交渉の場にも同席していたという不動産ブローカーだ。「不動産会社に顔がきき、金融犯罪で逮捕されたこともある。近頃は金に困り、親しい人間に無心しながらサウナ暮らしを続けていたが、なぜか最近、数千万円にものぼる借金を完済し、都内に高級マンションを3軒も購入したと聞いている。鞄にはユーロ、ドル紙幣、キャリーバッグには日本紙幣をぎっちり詰め込んでいるそうだ」(前出・不動産業者) おそらくこの男女が、事件の“主演兼脚本家”と目されているのである。 4月24日に交わされた契約には、偽造書類を携えた「池袋のK」と“相棒”と思われる不動産ブローカーのカップル、そして彼らの委任弁護士が同席していた。一方、積水ハウス側には司法書士と弁護士、仲介業者の代表が同席した。(iStock) 巧妙な手口とはいえ、なぜ積水ハウスは見抜けなかったのか。「詳細についてはコメントできません。開示した資料の通りです」(広報部)と口は重く、詳しい経緯はいまだに謎である。 一方、所在不明だったSさんはその後、亡くなったようで、事件発覚後の6月24日に、弟とされる大田区の男性2人に所有権が相続移転されている。売買契約を結ぶはずだった所有者とは別の人物に所有権が移転したため、積水ハウスがこの土地を手に入れられる可能性は極めて低くなった。今後はいかに損害金を回収できるかが焦点となる。 前述の通り、地面師事件の難しさは、なりすまし犯以外はどこまでがグループに加担しているかが分からない点にある。「私も騙された」と被害者を装う関係者の中に、実際には地面師側に付いている人間がいる可能性は大いにあるのだ。 担当する警視庁捜査2課は、なりすまし犯の「池袋のK」の所在すら、いまだ掴めていない。全容解明までの道程は長い。関連記事■ タイで逮捕の「62才聖子ちゃん」 肌見せミニで近づく手口■ 中国の結婚詐欺 14歳の娘に「三重婚」させる手口まで発覚■ 年齢詐称62才山辺容疑者 「38才か39才」は絶妙すぎる■ 広陵・中村奨成が語る「僕が考える究極のキャッチャー」■ 豊田議員政策秘書の事務所への出勤撮 仕事時間は40分

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    サウジ国王との会談を実現した孫正義の本当の狙い

    嶋聡(多摩大学客員教授、ソフトバンク前社長室長) 人型ロボット、ペッパーがアラビア語で「来日を歓迎します」と挨拶した。3月14日、東京パレスホテル。孫正義ソフトバンクグループ社長が来日中のサウジアラビア、サルマン国王と会談したときのことだ。サルマン国王は「すばらしい!」と応じた。ソフトバンクの人型ロボット「ペッパー」(AP) 織田信長が、ポルトガル人宣教師、ルイス・フロイスから地球儀を送られ、「地球は丸い」ということを理解し、南蛮貿易を推進した。ポルトガル人は理解力に優れた日本のリーダーに取り入るのは新技術を見せるのが一番いいということを知っていたのだ。 「織田信長は私の心のヒーローです」と孫社長はいう。この故事にならったわけでもあるまいが、孫社長はペッパーにアラビア語で挨拶させた。賢明なサルマン国王はロボット、AI、IoTが飛躍的に成長する「次代」を感じ取ったに違いない。孫氏は25分の会談の中で、新設予定の11兆円(1000億ドル)規模のファンドを通じたIT投資で、同国の石油依存からの脱却に貢献すると伝えた。 「サウジを投資を通じて繁栄させていく」と表明する孫社長に対し、国王は「すばらしい夜だった。大いに期待している」と答えた。ファンドの具体的な詰めはこれからだが、実現への大きな布石になった。 2016年7月、アームを買収する際には、イギリス首相メイ氏に会った。12月7日、ニューヨーク、トランプタワーでアメリカ大統領、トランプ氏に会い、12月16日エネルギー事業推進の前に日露ビジネス対話でプーチン氏と肩を抱き合い談笑する。そして、今回のサルマン国王である。 事業推進という遠くの的を見ながら、布石として政治トップに会い、戦略環境を整備する。これは私がソフトバンク社長室長の八年三千日で行ってきたことだが、賢明な孫社長はこの手法を自家薬籠中の物としたようである。 経団連会館でプーチン大統領と「立ち話」をしたのは、政府筋からの急な連絡だったようだが、今回はペッパーのアラビア語での挨拶にも見られるように、準備して臨んでいる。孫正義とサウジ副皇太子の出会い サルマン国王との会談の萌芽は、昨年9月、13機の飛行機、500名の派遣団とともに現れたムハンマド・ビン・サルマン・アル・サウド副皇太子と孫社長が日本で会談したことにある。サウジアラビアの経済改革と軍事、外交を握る副皇太子は。イニシャルから、「MBS」と呼ばれる。MBS副皇太子は、「我が国は石油中毒に陥っている」と述べ、2030年までに脱石油、投資立国を柱とする「ビジョン2030」を掲げる改革派として知られる。 3ヶ月前の、2016年6月。当時のオバマ大統領と会談し、IS=イスラミックステートへ軍事作戦での協力を語ったMBS副皇太子は、シリコンバレーでフェイスブック、グーグルなどの経営陣と会った。IT投資に長けたパートナーを探しているMBS副皇太子に、シリコンバレーのCEOたちは孫社長の名を挙げ、推薦したのである。 日本での会談の6週間後、2人はサウジの首都リヤドで会うことになった。総額約11兆円(1000億ドル)という、この種のものとしては史上最大のプライベート・ファンドの設立計画をスタートさせるためだ。シリコンバレー並みのスピードである。3月14日、会談したサウジアラビアのサルマン国王(左)とソフトバンクグループの孫正義社長 10月14日、ソフトバンクグループは、サウジアラビアの政府系投資ファンド「PIF」と共同で、最大11兆円規模のファンドを設立すると発表した。ソフトバンクは5年間で250億ドル(約2・6兆円)以上を、PIFは最大で450億ドル(4・7兆円)を出資するという計画である。 米国ではグーグルやインテルなどシリコンバレーのIT企業が新興企業への積極投資を続けている。だが、米国に中国、日本、欧州を加えた主要4カ国・地域の2015年のベンチャー投資額でも約10兆円である。サウジアラビア、MBS副皇太子とともにぶちあげた構想は、世界一が好きな孫社長らしくまさに世界最大級のプライベート・ファンドである。 計画が実現すれば、孫社長が考える、IoTの未来に投資できるようになり、サウジはその果実を得て、「ビジョン2030」が目指す「投資立国」実現へ一歩を進めることになる。 2014年、「デジタル・インディア」を掲げたモディ首相と会談。インドへ10年で1兆円の投資を約束した。大きな改革ビジョンを掲げた国家リーダーと意気投合し、そのビジョン実現をサポートするというのはいまや孫社長の得意技になりつつある。 モディ首相のときは互いの携帯電話番号を教えあった。サルマン国王はともかく、シリコンバレーの経営者とも親交のあるMBS副皇太子なら携帯電話で直接話せる仲であるように思える。11兆円規模のファンドは、MBS副皇太子の「ビジョン2030」にちなんだのか「ソフトバンク・ビジョンファンド」と名づけられた。サウジアラビアの財政危機 孫社長の実質パートナーである、MBS副皇太子には不安もある。MBS副皇太子は王位継承権で第2位とはいえ、権力基盤はまだ盤石ではないのだ。ソフトバンク・ビジョンファンド設立も経済対策での実績作りを急いだ面もあるとの情報もある。 「ジャック・ウェルチ(アメリカ、GEの前CEO)に『次は誰が良いか』と聞かれたので、イメルト(GEの現CEO)がいいと推薦した。それをイメルトに話したら『私がCEOになれたのはマサのおかげか』と喜んでいたよ」と私に語ったことがある。孫社長の推薦がどこまで効果があったかはわからないが、率直に話したことは間違いない。孫社長のことだから、MBS副皇太子のすばらしさをサルマン国王に話したかもしれない。 サウジアラビアの財政状況はかなり深刻である。歳入の七割を原油輸出に頼っているが、このところの原油安で2年連続歳入を歳出が上回っている。蓄積したオイルマネーを取り崩し、欧米の金融機関からの融資で賄っている。IMFは今の水準の原油安が続けば、「後五年でオイルマネーの蓄えは底をつく」と指摘している。羽田空港に到着したサウジアラビアのサルマン国王(左)=3月12日夜(代表撮影) そこで、MBS副皇太子が起死回生の策として考えているのが、国営石油会社サウジアラコムの株式上場である。サウジアラコムは時価総額200兆円(約2兆ドル)の会社になると予想され、2019年の上場をめざして準備中である。 上場はニューヨーク、ロンドン、アジアでは香港を考えられており、残念ながら日本の東京市場は出遅れている。MBS副皇太子来日の際に政府関係者が東京証券取引所の上場を依頼したり、2016年10月に経済産業省のミッションがサウジアラビアを訪れたが、結果は芳しくなかったようだ。 孫社長とサルマン国王、MBS副皇太子の関係がより密となれば、サウジアラコムが東京証券取引所で上場する可能性も高くなるだろう。これは日本の株式市場の活性化と、中東最大の石油供給国と日本の関係が強化されることになる。サウジアラコムの東京証券取引所での上場が実現すれば、今回の孫社長とサルマン国王の会談は大いなる戦略的意味を持つことになるだろう。

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    カリスマか狂人か「買収王」孫正義の正体

    いったい、あの御仁は何を考えているのか。ソフトバンクグループ社長、孫正義氏のことである。米次期大統領、トランプ氏と電撃会談したかと思えば、来日したロシアのプーチン大統領とも意気投合する様子が伝えられた。電光石火のごとく動き回り、強烈な存在感を放つ「買収王」。その真意やいかに。

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    元ソフトバンク社長室長が明かす孫正義「世界企業帝国」の野望

    嶋聡(多摩大学客員教授、ソフトバンク前社長室長) 「イノベーション」で有名な経済学者シュンペーターは、企業家は「自己の王朝」を創るために動くと述べた。マイクロソフト帝国、アップル帝国など、アメリカには世界企業帝国が数多くある。日本には「世界企業帝国」は今までない。孫正義は、日本で初めて「世界企業帝国」を本気で目指している。 孫正義の得意とするところは、パラダイムシフトの入り口で先手必勝、行動することである。大統領選の確執により、アップルをはじめ、シリコンバレーのIT企業とトランプ大統領との間に隙間風が吹いている今こそ、日本発の「世界企業帝国」をつくるチャンスである。ソフトバンクグループの孫正義社長(右)との会談内容を説明するトランプ次期米大統領=12月6日、ニューヨークのトランプタワー(共同) 2016年11月6日、孫正義はアメリカ次期大統領トランプ氏と約45分間にわたって会談。アメリカに500億ドルの投資と5万人の雇用をつくることを約束した。 トランプ氏は、孫氏をファーストネームで呼び、「マサはわれわれが選挙で勝たなかったら、この投資を決してしなかっただろうと言ってくれた」とツイートした。政治家でも経済界の代表でもない日本の民間人がアメリカ次期大統領と会談する。これは日本の歴史上、初めてのことであろう。 会談後、両氏はそろってトランプ・タワーのロビーに登場し、トランプ氏が孫氏を見送った。「トランプ氏は積極的に規制緩和を推進すると話していた。私はすばらしいことだと思っており、もう一度ビジネスをする国として米国にチャンスがやってくると考えている。米国は再び偉大になる」と述べた。 「規制」は経済活動を制限し、社会的公正さを維持するために創られる。規制緩和とは経済活動を解き放つことを意味する。トランプ大統領によって時代は「ビジネス化」する。市場対国家の戦いは「市場優先」の時代になるのだ。このパラダイムシフトの入り口で、孫正義はトランプ次期大統領に会った意味は限りなく大きい。IoTバブルが起きる トランプ・孫会談について、スプリント、Tモバイルの合併の話をしたのだとか、フォックス・コンを入れてアップル救済の話をしたのだとかいろいろ喧伝されているが、私はそんな小さな具体論にはとどまっていないと思う。 孫正義は、来るべき第4次産業革命=IoT革命について話したに違いない。なぜなら、IoT革命は2018年をクロスポイントに一挙に具体化し、進むからである。そして、IoT革命推進のために、孫正義はアーム社を三・三兆円で買収したのである。 人間の脳は二進法で、ニューロン(神経細胞)の接触の有無によって「ゼロ」と「1」の関係を表す。コンピューターのチップも同じである。そして、トランジスタの数が人間の脳のニューロン数300億個を超える物理的なクロスポイントが2018年なのである。政治と経営 シリコンバレーは沸き立っていることであろう。500億ドル=約5兆7千億円をスタートアップ企業に投資するというのだ。日本のGDPはアメリカの約四分の一である。渋谷のビットバレーに、4分の一の約1兆4千億円も投資されるとなったら、日本のベンチャー企業は大いに沸き立つ。 今回の孫氏の投資は世界にIoTバブルを引き起こすであろう。「バブル」というと悪い印象がある。しかし、将来の期待がなければバブルは起きない。孫氏はITバブルの大波に乗って軍資金を手に入れ、世界に雄飛した。バブルは、次代を拓く経営者に軍資金を与えるのである。ビル・ゲイツはITバブル真っ最中の1999年、記者団の「今はバブルではないか」というしつこい質問にこう答えた。 「ああ、もちろんバブルだよ。でもあなた方は肝心な点が見えていない。このバブルは、今まさに新たな資本を大量にこのインターネット産業に吸い寄せ、イノベーションをどんどん加速させているんだよ」  残念ながら渋谷のビットバレーに投資しても世界は動かない。シリコンバレーが動いてこそ世界は動く。2017年はIoT革命、IoTバブルのスタートの年になるに違いない。そして、世界の資本をIoT産業に吸い寄せ、イノベーションをどんどん加速させるのである。政治と経営 「孫社長のことだから(トランプ大統領の)携帯電話番号くらいは聞いているのではないか」とフジテレビの取材に答えた。インドのモディ首相など孫氏がさりげなく携帯電話番号を聞くのは氏の常套手段だからだ。 その10日後の16日、孫正義社長が日ロ首脳会談に合わせて東京で開かれた財界人らによる「日露ビジネス対話」の全体会合に現れた。孫氏はプーチン大統領の近くに指定席を用意された。ロシアのプーチン大統領と肩を抱いて親しげに話し合った。孫氏は記者団に「トランプ米次期大統領と電話で話す予定があり、プーチン大統領からも『ぜひよろしく伝えてくれ』と頼まれた。今度、我々は米国に投資するが、『ぜひロシアにも』と頼まれた」と記者団に話した。アメリカ大統領と一民間人である孫正義がホットラインでつながっているとは驚きである。 孫氏とプーチン大統領のつき合いは二十一世紀初め、大統領就任前の政権準備期間から始まる。当時、IT長者だった孫氏を、ウルフォウィッツ世界銀行総裁(当時)が紹介したという。当時、ロシア経済は疲弊しており、「日本人で初めてプーチンに会ったのですよ。そのとき、会った若者たちが、皆、プーチン政権の閣僚になっていきました」と私に話していた。 今回、政権交代準備期間中のトランプ次期大統領に会ったのもこの成功体験があったからであろう。残念ながら、このときは会談すぐにITバブルが弾け、ロシアへの投資はならなかった。それから十五年、満を持して孫氏はロシアに投資することになる。高転びに転ぶことの危険性 現在は企業が国家の後押しを受けて世界に進出する国家資本主義の時代である。私が社長室長だった時代、ビジネスの大きな企てを始める前に、政治トップを押さえる事を常としていた。 そんなこともあって、「政商」と呼ばれることもあり、孫氏はそれを嫌っていた。だが、孫氏は素直な人である。なんといっても、先に政治を押さえるほうがものごとは上手く進むことを学んだ。ARM社買収時には、イギリスのメイ首相と電話会談にて国内雇用支援の継続を約束。インドでもモディ首相と面談。韓国では朴大統領。そして、中東ではムハンマド副皇太子と10兆円ファンド。そして極め付きが今回のトランプ次期大統領とプーチン大統領である。 松下幸之助氏は「政治家でも経営がわからないものはダメである。経営者でも政治がわからないものはダメである」と言った。孫正義は政治と経営の二つを見事に使いこなしているといえる。高転びに転ぶことの危険性 絶好調に見える孫正義であるが、元社長室長、参謀としてはいささか気がかりなことがある。孫正義は基本的に政治が苦手である。さらにネバー・セイ・ネバーの国際政治は全くといっていいほど苦手である。 政治は華やかな舞台があり、自らの虚栄心を満たすことができる。だが、満たされた虚栄心と同じ数だけの「嫉妬」が渦巻く。今回、プーチン大統領との親しげさを見せつければ見せつけるほど、政府関係者は憮然としていたという。最も憮然としていたのは、最高権力者である安倍総理だったとのことである。このあたりの深刻さが孫正義は理解できないところがある。日露ビジネス対話に出席した安倍晋三首相とロシアのプーチン大統領=12月16日、東京都千代田区の経団連会館(桐山弘太撮影) 心配して、ソフトバンク関係者に連絡したところ、今回のプーチン、孫正義会談は突然に押しかけたのでなく、政府から呼ばれて行ったということらしいので少し安心した。 どうも「プーチンサイドが会いたい」と言ったとのことのようだが、単純に旧友に会いたいというだけの理由で呼ぶはずがない。プーチン側から見れば孫正義に何らかの利用価値があったと見るのが国際政治の常識である。それは単純に投資を呼び込むことかもしれないし、安倍総理を牽制することだったのかもしれない。 戦国時代に、織田信長に面会した安国寺恵瓊は、主君の毛利元就に送った書簡で、信長は五年、三年は持つだろう。しかし、その後に「高ころびに、あおのけに、ころばれ候ずると、見え申候」と述べた。 世界企業帝国をめざす孫正義が「高ころび」に転ぶことがないことを願うものである。

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    孫正義の「手土産外交」の狙いはどこにあるのか

    片山修(経済ジャーナリスト) 世界の舞台で、もっとも影響力がある日本の経営者として、真っ先にソフトバンクグループ社長の孫正義氏の名前をあげることに異論はないだろう。7月、ロンドンでアーム・ホールディングス買収について記者会見するソフトバンクグループの孫正義社長(ロイター=共同) その大物ぶりを証明したのが、12月6日に行われた次期米大統領ドナルド・トランプ氏との電撃会談だ。会談後、トランプ氏は孫氏とともにトランプタワーのロビーに現れ、二人そろって笑顔で写真撮影に応じた。あのシーンは、強烈なインパクトがあった。 それから、わずか10日後の16日、今度は東京でロシアのプーチン大統領と親しげに肩を組むシーンがテレビ画面に流れた。 なぜ、孫氏は世界の大物と堂々と渡り合えるのか。答えは、ズバリ、ケタはずれの“手土産”だ。それは、大風呂敷に近い。いや、だからこそ、世界の指導者を惹きつけることができる。 ソフトバンクグループは13年7月、米国の携帯電話事業3位のスプリントを約1兆8000億円で買収した。続いて、業界4位のTモバイルUSを買収し、顧客規模の拡大を狙っていたが、オバマ政権下、米連邦通信委員会(FCC)の反対で目論見がはずれた。現在、スプリントは収益があがっていない。 ところが、「米国ファースト」を打ち出すトランプ氏の勝利で、一転、風向きが変わった。Tモバイル買収の絶好の機会がめぐってきたのだ。 機を見るに敏なる孫氏はさっそく、動いた。米国への約5兆7000億円の投資話の“手土産”を携えて、トランプ氏を電撃訪問したのだ。トランプ氏は自身のツイッターで「マサは総額500億ドルを米国に投資し、5万人の新規雇用に合意した」と発信した。 孫氏は、プーチン大統領には何度か会っており、“手土産”は、ロシアの電力網構想といわれている。ロシアにとって喉から手が出るほど魅力的なビジネスといえる。 孫氏の“手土産ビジネス外交”は、米露にとどまらない。7月25日には、英国のメイ首相と会談した。日本企業による海外企業の買収額としては過去最大規模の3兆3000億円で買収した英半導体設計大手アーム社に関して、英国における同社の雇用拡大などを伝えたのだ。9月30日には、韓国の朴槿恵大統領を表敬訪問し、IoTや人工知能(AI)などの分野で、今後10年間に約4600億円を目標に対韓投資を進めることを明らかにした。 極めつけは、サウジアラビアの政府系ファンドと共同で設立する「10兆円ファンド」だろう。孫氏は9月、来日したサウジアラビアのムハンマド副皇太子と会談し、わずか1か月で10兆円ファンドの立ち上げ合意にこぎつけた。 サウジアラビアの国家財政は、歳入の約7割を原油輸出が占めるが、ここ2年余りの原油安の影響から厳しい状況が続いている。ムハンマド副皇太子は、「脱石油」を強く打ち出しており、国家の安定に向けて「投資立国」への転換を進める。そこに、孫氏は10兆円ファンド話をもちかけたのである。世界の首脳たちが飛びつく「手土産」を差し出せる理由 では、なぜ、孫氏は、各国の首脳たちに、これほどタイミングよく食指を誘う“手土産”を差し出すことができるのか。 その主要な要因は、孫氏がオーナー経営者であり、即断即決が可能なことのほか、稀に見る行動力の持ち主だからだ。私は、ビジネスのスタートラインに立ち、頭角を現した頃の孫氏にインタビューした経験がある。もう、その当時からオーラがあった。話は、テキパキしているし、質問に対する、よどみない受け答えは、決断力を感じさせた。加えて、その後の孫氏を見ていると、世界のビジネストレンドに対する鋭い嗅覚に目を見張るばかりだ。1997年3月、テレビ朝日株問題で会見する(左から)ソフトバンクの孫正義社長、朝日新聞社の松下宗之社長、豪ニューズ社のルパート・マードック会長 孫氏のビジネスセンスのルーツは、シリコンバレーにある。もともと、孫氏は米西海岸と縁が深い。16歳で渡米し、サンフランシスコの高校を卒業、カリフォルニア大バークリー校に学んだ。やがて、シリコンバレーに強い関心を寄せる。そして、ソフトバンク設立後、インターネット関連企業への投資に成長の軸足を置くようになる。彼は、まさにITの申し子といっていい。 指摘するまでもなく、いまや、ITを抜きにして、国家の成長はありえない。彼は、そのことを百も承知だ。実際、だからこそ、IT企業への投資話に世界の首脳たちは飛びつくのだ。その投資話には、資金的裏付けがある。何兆円であろうが、ヤフーやアリババの株を売却すれば用意できる。 だから、トランプ氏にしても、プーチン氏にしても、孫氏のために多忙な時間を割く。むろん、孫氏にも、見返りがある。そのへんのところは、抜け目なく計算ずみだ。 実際、6日のトランプ氏と孫氏の会談を受けて、7日の東京株式市場のソフトバンクの株価は、前日の終値6956円から7387円へと大きく上げ、その後も上昇基調にある。孫氏は、十分に目的を達成したのだ。 孫氏が代表を務めるソフトバンクは通信会社である。しかし、狙うのは、通信インフラに関する事業にとどまらない。嗅覚バツグンの孫氏の関心事は、いまやAIやIoTなど、IT関連の最先端分野だ。つまり、通信事業を軸にして、小売りやエネルギー、金融など、さまざまなコンテンツで稼ぐビジネスモデルを構築しようとしている。 ヤフー、アリババ、ガンホーなど、過去の投資実績をみても明らかだ。 ただし、孫氏のこれまでの“手土産”が必ずしもすべて実現、あるいは成功しているわけではない。例えば、米スプリントや英アーム社の買収は、まだ評価するには早い。孫氏が超大物ぶりを発揮するかどうかは、むしろこれからといえるのではないだろうか。

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    「倍々ゲーム」経営を可能にする孫正義の恐るべき世界人脈

    加谷珪一(経済評論家) ソフトバンクの孫正義社長が、また世間を驚かせた。ニューヨークのトランプ・タワーでトランプ次期大統領と会談し、米国への巨額投資と雇用の確保を約束したのである。トランプ氏が掲げるアメリカ・ファーストにいち早く呼応したわけだが、孫氏の狙いはどこにあるのだろうか。またソフトバンクはこれからどのような事業展開を考えているのだろうか。 今回の会談には様々な思惑があり、何かひとつのことを目的としたものではないだろう。だがあえてひとことで言うならば、ソフトバンクの米国における基盤強化と将来の案件獲得の布石ということになるかもしれない。 ソフトバンクは日本の通信会社だが、事業の軸足はすでに米国にシフトしつつある。同社は2013年7月、216億ドル(当時のレートで約2兆2000億円)を投じて、米国第3位の携帯電話会社スプリントを買収している。同社は続いて米国4位の通信会社であるTモバイルUSの買収を試みたが、市場の寡占化を懸念した司法省などの反対で実現しなかった。記者会見するソフトバンクの孫正義社長(左)と、スプリント社のダン・ヘッセCEO(当時)=2012年10月 米国の移動体通信市場は、AT&T、ベライゾン、スプリント、TモバイルUSの4社で激しいシェア争いが行われているが、AT&Tとベライゾンは2強となっており、それぞれ1億人の顧客を持つ。ソフトバンクがスプリントとTモバイルUSを傘下に収めれば、ソフトバンクはトップ2社と互角となり、米国という世界最大の通信インフラの一部を担うことができる。 ソフトバンクは、創業直後の米ヤフーに出資しており、同社の大株主であると同時に、中国の電子商取引サイト最大手アリババの大株主でもある(アリババは米国市場で上場している)。さらに2016年7月には、英国の半導体設計大手アーム・ホールディングスを240億ポンド(約3.3兆円)もの金額で買収している。 ARMは、スマホ向けCPU(中央演算処理装置)の設計では圧倒的なシェアを持つ超優良企業として知られる。今後、あらゆる機器類がインターネットにつながるIoT(モノのインターネット)市場が拡大すると予想されており、こうした機器類に搭載される半導体の多くがARM社の設計になる可能性が高い。 ソフトバンクは通信インフラを中核に、関連企業を囲い込む一種のコングロマリット形成を目論んでいると考えられる。同社は2016年8月にサウジアラビア王室と組み、10兆円という巨額投資ファンドの組成を発表した。このファンドの目的は、AI(人工知能)、シェアリング・エコノミーなど次世代のテクノロジーに投資することだが、すべては通信事業と相互補完関係にある。トランプ氏との会談で確約した500億ドル(約5兆7000億円)の投資と5万人の雇用の一部についても、この10兆円ファンドから拠出される可能性が高いとみてよいだろう。世界各国の企業が無視できない孫氏 孫氏は常に、次世代において主役となる企業を先んじて取り込み、業界での地位を確保することによって、さらに大きな事業を得るという、一種の倍々ゲームでビジネスを進めてきた。今回の動きもその延長線上にある。記者会見するソフトバンクの孫正義社長 ソフトバンクが最初に手を付けた会社はコムデックスなど米国の展示会運営企業であった。ただの展示会に1000億円も投じるなど狂気の沙汰と言われたが、著名展示会のオーナーとして米国IT業界へのフリーパスを手にした孫氏は、米ヤフーの発掘に成功。ヤフーが上場したことで巨額の含み益が転がり込み、これが後の買収戦略の原資となった。 ARMの買収も同じである。同社はIoTの分野では主役となる企業のひとつであり、ARMのオーナーともなれば、IoT分野の巨人である米GE(ゼネラルエレクトリック)や独シーメンスといった企業も、孫氏を無視することはできないはずだ。 今回、IT業界関係者としてはいち早くトランプ氏との関係を強化した孫氏のプレゼンスは今後、さらに高まる可能性が高い。しかも今回、孫氏はトランプ氏と対立している米アップルとの間を仲介するような動きも見せている。 一連の動きがうまく結びつけば、ソフトバンクは、再びTモバイルUSの買収を実現し、さらにそれ以上の大きな買収案件を獲得できるかもしれない(ちなみにソフトバンクによる買収について反対してきた米連邦通信委員会のウィーラー委員長は1月15日に辞任する)。IT業界は変化が早く、誰も10年後を予測することはできない。 10年後に重要な立ち位置にさえいれば、案件が自動的に転がり込んでくるという考え方は、計画性がないように見えて実は合理的なのだ。ハイリスクと引き換えの経営戦略 孫氏のこうしたやり方に対しては、スタンドプレー型でリスクが大きいと指摘する声もある。確かに孫氏の戦略は大きなリスクと引き換えであり、財務的には常に綱渡りが続く。だが、孫氏は、話題になった企業に脈絡もなく食らい付いているわけではなく、緻密な情報収集を常に行っている。大胆不敵な買収はこうした行為の先に存在している。 筆者はこの話を想像だけで書いているわけではない。筆者がまだ駆け出しの記者だった時代、ソフトバンクが取り扱う、ある小さな製品について同社に取材を申し込んだことがある。てっきり若手の社員が担当なのかと思いきや、広報担当者が言うには孫社長自身が担当者だという。孫氏は米国の展示会などを小まめに回り、面白い製品やサービスがあると、自分で交渉してその場で契約を結んでくるのだという。 すでにソフトバンクは株式を上場(店頭公開)して、一連の巨額買収をスタートさせており、孫氏は多忙を極めていた。そのような中でも、こうした小さな案件にも孫氏は目を光らせ、自身の手でハンドリングしていた。 おそらく孫氏にとっては、当時の小さな案件と3兆円の大型案件には大きな違いがないのかもしれない。自らの手でデューディリジェンス(投資などにおいて案件を吟味すること)を行い、自身の戦略に添って投資をするというポリシーは規模とは無関係だ。 もっとも、この話は同社における後継者問題とトレードオフになる。社長含みで招聘した元グーグルのニケシュ・アローラ氏は、結果的に孫氏の後継者になることはできなかった。幸い孫氏は59歳と若く、あと10年は問題なく世界を飛び回れるだろう。その間に、どこまでコングロマリットを拡大し、集団経営体制を構築できるかがカギとなる。

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    孫正義はなぜ「未来」を予測できるのか?

    三木雄信(ジャパン・フラッグシップ・プロジェクト社長)元社長室長が語る「先読みの極意」「日本を代表する経営者は?」という質問に、孫正義・ソフトバンク社長の名前を挙げる人は多いだろう。数々の新規事業を成功させ、国内外の有望な企業を発掘しいち早く提携するその眼力の秘密を、ぜひ知りたいと思っている人も多いはずだ。ではなぜ、孫正義氏は未来を見通すことができるのか。ソフトバンク元社長室長として、孫氏を間近で見てきた三木雄信氏。著書『ソフトバンクで孫社長に学んだ 夢を「10倍速」で実現する方法』を発刊した三木氏に、その「極意」をうかがった。 孫正義は「タイムマシーン」を持っている!? 孫正義社長の経営は「タイムマシーン経営」と言われることがよくあります。まるで未来を見てきたかのように、のちに大きく成長する事業や企業を見抜いて、早い段階で先物買いをしているからです。米国次期大統領ドナルド・トランプとの会談の後、取材に応じるソフトバンクCEO孫正義氏=2016年12月6日 たとえば、アメリカのYahoo!に200万ドル(当時の為替レートで2億円)の出資をしたのは1995年11月のこと。アメリカのYahoo!が会社として事業を開始したのは、1995年3月です。つまり設立から間もない段階で、孫社長はこの会社に価値を見出し、思い切った投資をしたことになります。 そして結果は、ご存知の通り。Yahoo! は世界最大級の検索エンジンに成長し、Yahoo! JAPANもポータルサイトとして日本で圧倒的なポジションを占めています。 最近では、中国のインターネット通販企業アリババ。ソフトバンクは、アリババが創業した翌年の2000年に20億円を出資し、その後、同社は急成長を遂げます。そして2014年にニューヨーク証券取引所に上場したことで、株主のソフトバンクは8兆円の含み益を得ました。投資から14年間で、4000倍のリターンを得たわけです。これらの事例を見れば、タイムマシーン経営と言われる理由も納得がいくはずです。 「未来を読む」ことは誰にもできない では果たして、孫社長は本当に「未来を読む達人」なのかというと、実は、そんなことはありません。 もちろん、私を含む一般の人たちよりは、はるかに先を見通す力を持っていることは確かです。しかし、長年そばで見ていてわかったのは、孫社長の予測も外れることがあるという事実です。考えてみれば、孫社長も人間なのだから、百発百中で未来を言い当てることなど不可能なのは当たり前です。 そもそも孫社長自身も、「未来は読むことができない」という前提で物事を考えています。とくにITの世界の不確実性は、他の業界に比べて非常に高いものです。 では、なぜ孫社長は、まるで未来を見てきたかのように、次々と成功を引き寄せているのか。その秘密こそが「くじ箱戦略」です。ソフトバンクがここまで成長を遂げた最大の理由は、ここにあると言っていいでしょう。ソフトバンクを成長させた「くじ箱戦略」とは?ソフトバンクを成長させた「くじ箱戦略」とは? 「くじ箱戦略」は、いたってシンプル。「当たりが出るまで、箱からくじを引き続ける」、これだけです。 お祭りに、1回100円で引けるくじ箱があったとします。あなたは100円を払って、くじを引きましたが、はずれでした。手持ちのお金はそれしかなかったので、もうくじを引くことはできません。ボーダフォン日本法人の買収会見後に握手するソフトバンクの孫正義社長(中央)とボーダフォン日本法人のビル・モロー社長(当時、左)=2006年3月17日(飯田英男撮影) ところが、たまたま気前のよい親戚のおじさんが通りかかり、「当たりが出るまで引いていいよ」と言ってくれたとしましょう。あなたは10回、20回と、何度でもくじを引くことができます。そのくじがインチキではない限り、いつか必ず当たりを引くことができるわけです。「そんなのずるい!」と思うかもしれませんね。でも、周囲から「運がよい」と思われている人は、これと同じことをやっているのです。「くじが当たるまで引き続ける」――実はこの原則は「リアル・オプション」という経営理論にもとづいています。 ちゃんと理解しようとすると、なかなか難しいのでここでは詳細を割愛しますが、孫社長と私はこの理論についてしばらく研究していた時期があります。この理論の専門家である大学教授にレクチャーを受けに行ったこともありました。 おそらく孫社長は、それ以前から直感的に「くじ箱戦略」の原則に従って行動してきたのでしょう。そして理論的にも、「くじ箱戦略」は間違っていないことがわかった。それからは確信を持ってくじをどんどん引き続け、ソフトバンクを大企業へと成長させていったのです。 1回のコストを下げれば、よりたくさんの失敗ができる<当たりの確率を高めるための3つのポイント> この「くじ箱戦略」には、ポイントが3つあります。1 当たりが多そうなくじ箱を選ぶ2 くじを引くコストを下げる3 くじを引き続ける 孫社長が創業期のYahoo! を発掘できたのも、まさにこの三つのポイントを押さえたからです。 実は1990年代のソフトバンクは、アメリカで成功している企業や事業と組んで、ジョイントベンチャーを次々に作っていました。Yahoo! JAPANも、その一つです。「アメリカで成功しているビジネスは、日本でも成功する確率が高い。つまり当たりが多そうなくじ箱だから、どんどん引いていこう」孫社長はそう考えたわけです。当時の孫社長は「条件に合う企業すべてとジョイントベンチャーを作れ!」と指示を出していたほどです。 ジョイントベンチャーという形を選んだのにも理由があります。それは「安く作れるから」。ジョイントベンチャーへの出資比率は交渉次第なので、2割や3割といった低い割合で済むこともあります。つまり、2番目のポイントである「くじを引くコストを下げる」もしっかり押さえたことになります。 それに、1回あたりのコストが下がれば、たとえ外れてもダメージは最小限で済みます。孫社長も大胆なように見えて、実は「失敗しても会社が潰れることはない」という範囲でしかチャレンジしません。「勝率は7割でいい。あとの3割が失敗しても、すぐに撤退すれば問題ない」 これが孫社長のモットーです。だからこそ、3割は失敗しても大丈夫なように、1回あたりのくじのコストをできるだけ下げる努力を惜しまないのです。 ただし、いくら当たりの多い箱を選び、くじを引くコストを下げても、1回や2回引いただけで当たりが出るとは限りません。 最初の9回がはずれでも、10回目に当たりが出るかもしれない。だから、3番目のポイントである「くじを引き続ける」が大事なのです。 当然、孫社長もたくさんの外れを引いています。それでもしつこく、あきらめずにくじを引き続けました。「もうこの辺でいいかな」などと妥協しなかったから、多くの大当たりを引くことができたのです。そもそもなぜ、孫社長はIT業界を選んだのか?そもそもなぜ、孫社長はIT業界を選んだのか? この3つのポイントは、聞いてしまうと「なんだ、そんなことか」と思うかもしれません。しかし実際は、多くの人がこの点についてまったく考えずに物事を決めています。 とくに「当たりの多そうなくじ箱を選ぶ」というのは、成功するための基本ルールとも言っていいものですが、それを意識している人はとても少ないと感じます。 そもそも孫社長がITの分野で起業したのは、「これから発展するのが確実な業界だ」と考えたからでした。 その裏づけとなったのが「ムーアの法則」です。これは簡単に言えば、「コンピュータの性能は18カ月から24カ月ごとに倍になる」というものです。インテルの共同創業者であるゴードン・ムーアが1965年に唱えた経験則で、現在に至るまでこの法則が破られたことはありません。 当時からムーアの法則を知っていた孫社長は、いつかコンピュータが人間の脳を超える処理能力を持つ日が来ることを想定し、IT業界は今後も永続的に発展すると考えました。つまりIT業界で起業することは、「上りのエスカレーター」に乗るようなものだと確信したのです。 孫社長は決して「未来を予測」しているわけではありません。ただ、「上りのエスカレーター」を見つけ、それに乗ってきた。だからこそより多くの「当たり」を手にすることができ、周りの人からは孫社長が「未来が読める」ように見えるのです。 もちろんこの考え方は、仕事はもちろん、「結婚相手を探す」などというプライベートなことまで、あらゆるものに応用できます。 ぜひ、皆さんも意識してみていただければと思います。 みき・たけのぶ 1972年、福岡県生まれ。東京大学経済学部卒業。三菱地所〔株〕を経て。ソフトバンク〔株〕入社。27歳で社長室長に就任。孫正義氏の側で、「ナスダック・ジャパン市場創設」「Υahoo!BBプロジェクト」をはじめ、取多くのプロジェクトを担当。現在は自社経営のかたわら、東証一部上場企業など複数の取締役・監査役を兼任。内閣府の原子力災容対策本部で廃炉・汚染水対策チームプロジェクトマネジメント・アドバイザーを務める。近著に「海外経験ゼロでも仕事が忙しくても「英語は1年」でマスターできる」(PHP研究所)がある。

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    ぶっちゃけて言うと、孫正義が羨ましい

    やまもといちろう(ブロガー・投資家) 久しぶりに友達と気兼ねなく酒を飲んで帰ってきて、酔っ払ったので書きたいことを書く。 いや、孫正義はすげえわ。基地外だわ。どうしても仕事をしていると資金尻というか帳尻を考える。借金をしたら、まあどう返そうかなという算段がつかない限り、次の勝負には出られんが普通だ。 でもあの禿は違う。抜け毛を増やしてでも次の勝負に出る。そして、大人はだんだんついてこなくなる、それでも次はこれその次はあれってんで、どうにか支援してくれる連中をかき集めて、何とかしてしまう。そして、5個うって3つか4つは外れる。メガソーラーなんたらとか、筋が悪い連中囲っちまって、にっちもさっちもいかなくなるとパッと諦めて別の大きい仕掛けに夢中になる。もちろん、担ぎ上げられた馬鹿な自然エネルギーの連中は置いてけぼりだ。奴らは孫正義の財布がなければ糸の切れた凧っていうか、ただのタコだから。記者会見でヒト型ロボット「ペッパー」を見つめるソフトバンクの孫正義社長=2015年6月18日、千葉県浦安市(寺河内美奈撮影) エネルギーとか国策とかまったく興味がないんだろうね、孫正義。ビジネス的な直感というか、感性だけで生きてる。だから、大人は誰も信頼しない。でも、そこに薄くとも勝算がある奴をいくつも蛸足で並べて、とりあえずいっちょ噛みだけしてみて、上手くいきそうなものだけ手を出してそこそこの実績を出す。それ以外のところは死屍累々でも全然気にしない。 願わくばそういう無責任だけど資本の論理の権化みたいな仕事をしてみたい。だっていままで築き上げた事業や資産や将来利益をフルレバレッジかけて海外事業を買収にかかったりするんだよ。ギャンブラーだろ。ストレスで薄くなるわ。もう孫正義は薄くなってるけど。っていうか無いけど。毛が。もう完全に騙しだし、ペテンなのは数字が読める奴なら誰もが分かってる。でも孫正義はやる。なぜなら、放っておいたら自分の帝国が潰れるのを知ってるから。泳ぐのを辞めたら死ぬ鮫同様に、いつも何か仕掛けて常に騙されるカモが市場にいないと孫正義は孫正義ではなくただの在日ハゲでしかないんだよ。個人投資家だろうが大銀行だろうが次の冒険つーかフルレバレッジの具になりそうなものは常に動員する。ロマンだよねえ。ハゲの癖にロマンなんだよねえ。そんで、周辺にいるのはモノを知ったる人々の屍骸だ。本当に、孫正義に協力した奴は死ぬか死ぬまで協力するかのどちらかなんだよ。 たぶん、ソフトバンクは孫正義一代で終わる。彼が良い死に方をするかどうかは知らないが、彼の後に彼なみの人間が出るとは思えない。というか、孫正義のあとを継げるような男は自分で事業をすでにやっている。なんで才能ある奴があんなハゲの散らかした事業の後始末をしなければならないのだ。そして、孫正義はそれを知っていて、アカデミーとかやってる。自分のあとを継げる男なんて出てこないのを知っててやってる。ハゲはいっぱいいるだろうが、学んで孫正義になろうとする馬鹿はソフトバンクの番頭にはなっても経営者にはならないだろう。 そして、みずほやらその辺の投資家に、膨大な不良債権だけが残る。孫正義は失敗しなくとも、いずれ彼の膨張戦略はどこかで終わりを告げる。彼の挑戦の結果、ケツを拭くのは日本国民だ。だって、ペテンなんだもの。スプリント買収にしたって詐欺だろあんなもの。誰も引き取り手が無かったゴミのような全米負け組3位キャリアだぞ。孫正義に全力で育毛したって業績の劇的回復は無理だ。 そんで、企業努力を払って何年かして少しでも上向く加減のイベントフラグでも立ったら、また別の事業を買収しようと孫正義は目論む。いまのSBMにしたってスプリントにしたって、そう何年ももたないからだ。それは誰よりも孫正義が分かってんだろ。 あらゆる意味で、あのハゲは偉大だよ。やかんをひっくり返したような見事なつるっぱげだが偉大なものは偉大だ。あれだけネタを巻き起こして、投資家や銀行家を煽るだけ煽って、引き出せる金は全部引き出したところで駄目になったら次の勝負にすでに出ている。これは確固たる才能であって、羨ましがらずに何ができる。私もそれなりに金はあっても倍倍チャンスに賭け続ける度量はねえよ。どっかで守りに入るよ。これ以上薄くなりたくねえよ。だが孫正義は違う。盛大にハゲ散らかしやがって。この国の金融システムをどうしてくれるんだってぐらいにでっかい借金をこしらえたまま、次の勝負に負けるか、どっかでひっくり返る、そのときは日本の金融システム不安の引き金を引くことになるんだよハゲの癖に。 こうなったら意地でも植毛してやりたくなる。リーブでもアデランスでも孫正義の両手両足を掴んで診察台の上に乗せて強制植毛の刑に処すべきだ。あの薄毛がいかんのだ。もしくは異常な幸運がいけない。しかも本人に豪運の自覚が無い。 っていうかハゲちくしょう。ちくしょう。(2012年10月19日 やまもといちろうオフィシャルブログより転載)

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    孫正義のジャパニーズドリーム実現 韓国での受け止め方は

     佐賀県・鳥栖の朝鮮部落に生まれた孫正義は、裸一貫で時価総額8兆円の巨大帝国を作り上げた。在日が実現した「ジャパニーズドリーム」は、祖国・韓国ではどう受け止められているのか。『あんぽん 孫正義伝』著者の佐野眞一氏がレポートする。* * * 経営者・孫正義の真髄は、米でヤフー、中国でアリババを発掘した投資眼に尽きる。孫が世界各国の人材やベンチャー企業を発見する様は、未掘の金鉱探しのようにも映る。1999年6月、インターネットでおもちゃを売るビジネス「イー・ショッピング・トイズ」を発表したソフトバンクの孫正義社長。バンダイ、トミー、タカラ、エポックの玩具メーカーなどと合弁会社を設立することを発表(後藤徹二撮影) だが、孫の関心が母国・韓国に向いたことは少ない。財閥中心の閉鎖的な韓国経済に、孫の心をくすぐる宝は埋まっていないのか。それとも、祖国に対する複雑な感情が投資意欲を鈍らせるのか。 一方、韓国人は孫をどう見ているのか。5年前、『あんぽん』取材の途次に訪れたソウルで、孫の評判を聞いてみた。皆、成功者として認識してはいるものの、彼らの口ぶりから熱気を感じることはなかった。ある韓国の企業人は孫が「在日」だから誇らしいのではなく、世界的成功を収めた孫が「韓国にルーツを持っていること」が誇らしい、と言った。この言葉を聞いた時、やれやれ、歴史観を消失してしまったのは日本人だけではなかったんだな、と私は胸の内でつぶやいた。 私が初めてソウルを訪れた40数年前、今でこそ韓国の銀座といわれる明洞(ミョンドン)は、ひどく薄暗かった。街はマニラやバンコクなどと共通するアジア特有の不気味な埋蔵量を感じさせたが、外観はおよそ垢抜けていなかった。金浦空港を出るなり、突然声をかけてきた少年が今でも印象深い。「日本の新聞、十円だよ」 思わず買うと1か月前の新聞だった。顔をあげるともう少年は、風のように消えていた。当時、韓国はまだ貧しかったが、「在日」にまとわりつく悲哀を、国民全員が共有していた。日米韓の悲しい歴史の狭間で産み落とされた男 私が生まれた東京・下町の在日韓国人が言った言葉が忘れられない。「美空ひばりは韓国人だ。あんなに歌のうまい日本人がいるはずない」。この話が真実かどうかに興味はないし、詮索してもあまり意味はない。ただ、在日という宿命を背負った人間の「都市伝説」信仰の根深さに圧倒された。 だが、漢江(ハンガン)の奇跡といわれた1960年代の驚異的高度経済成長や1988年のソウル五輪の開催に伴い、この種の話をする者はほとんどいなくなった。とりわけ、1990年代末の通貨危機を乗り越え、今や日本に対等に物を言うようになったこの国では、対馬海峡を命からがら渡った末に、炭鉱夫や土方といった重労働に就いた在日の物語は、完全に忘却されてしまった感がある。 そのくせ従軍慰安婦問題はいつまでもトラウマとして突き刺さっている。こうした矛盾した現実に異様なものを感じながら、私は孫の父方の祖父の生まれ故郷の大邱(テグ)に足を運んだ。「金くれちゅうこっちゃろが」 大邱に到着して、まず向かったのは、市の中心部に近い雑居ビル群の中にある「一直孫子会館」だった。ここは、朝鮮半島南東部に位置する慶尚北道(キョンサンプクト)・道庁所在地の安東市をルーツに持つ「孫一族」の氏子集団の親睦を目的として作られた。事務所を訪ねると、10人ほどの老人が一斉に立ち上がり握手を求めてきた。全員、「孫氏」である。「孫正義は一族の誇りです」 事務局長の孫在出(ソンジェチュル)が顔を紅潮させながら言う。応接室の書棚に眼をやると、孫正義関連の本がズラリと並んでいた。孫在出は、自慢げに簡易製本された「一直孫氏」の家系図を広げた。大邱一帯には、孫一族が約3万人おり、孫正義は、25代目にあたるという。「直接手渡そうと思って作ったが、どうやら彼は忙しいらしい。日本に帰ったら正義に渡してほしい」 そこを辞去して大邱の郊外ののどかな農村を訪ねた。ここは正義の祖父の孫鍾慶(ソンジョンギョン)が住んでいたところである。孫の遠縁にあたる男に話を聞くことができた。「孫鍾慶の家は代々、米を作っていましたが、近くに日本軍の飛行場ができたため、農民が土地を奪われた。そこで鍾慶は仕方なく日本に出稼ぎに行ったんです」 日本で鍾慶は正義の祖母・李元照(イウォンゾ)と出逢い、その後、正義の父・三憲(みつのり)を含めた4男3女をなした。鍾慶は戦後、子供を連れて一時大邱に戻ってきたという。「だが祖国は荒廃し、仕事はなかった。鍾慶一家は一年滞在しただけで、日本に戻りました。そのとき彼らが住んでいた家はもうない。朝鮮戦争が始まると、今度は米軍が日本軍から接収した飛行場を拡張するために、この一帯の家を取り壊した」 田畑は日本に、家は米に接収された。孫正義は日米韓の悲しい歴史の狭間で産み落とされた男だった。これだから朝鮮民族にはかなわない 最後に孫家の墓所に行ってみた。墓所では地元職員や記者らしき人間が待ち構えていた。私も様々な取材をしてきたが、こんな“VIP扱い”されたのは初めてである。しばらくすると黒塗りのハイヤーまで到着し、ますます芝居じみてきた。車から下りてきた男は、ハンナラ党(現セヌリ党) の地元区長だという。「私は孫社長の故郷が大邱と知って以来、地域の人と孫家の墓所の草むしりをしている。彼は世界的人物だが、どんな有名人でも故郷は大切だ。ぜひ彼の故郷訪問を実現させてくれないか」 これほど露骨な有名人へのすり寄りは、いっそ微笑ましかった。だが、翌日の大邱の新聞に、「孫正義会長取材陣、大邱到着」という仰々しい見出しが付けられたのには絶句した。 記事には、「大邱市では、孫会長が故郷を訪問する場合、曾祖父の墓から大邱空港までの道路を『正義路』と名付け、盛大に歓迎する」といった孫の遠縁の言葉まで紹介されていた。 田舎政治家らしいパフォーマンスといい、「正義路」という臆面のないネーミングといい、冷淡なソウルの反応と対照的な熱の入れようである。これだけのラブコールがあれば、孫の故郷訪問も近いのではないか。そのときは一瞬そう思った。 帰国後に孫正義の父・三憲にこの話をすると、「どうせ金くれちゅうこっちゃろが」とニベもなかった。三憲が、パチンコ業で財をなしたとき、故郷から数千万円の無心があったという。三憲の口ぶりからは、韓国人に在日がどんな辛い思いをして金を稼いできたかわかるか、という口惜しさがストレートに伝わってきた。孫正義の故郷訪問に対しても、大邱の地元企業への投資を期待していた可能性が高い。 これだから朝鮮民族にはかなわない。別に悪口でいっているわけではない。孫のことをあるときはクールに、あるときは故郷の英雄のように祭り上げ、その裏でこっそり金をせびる。会談を前に握手するソフトバンクグループの孫正義社長(左)と韓国の朴槿恵大統領=9月30日、ソウルの青瓦台(聯合=共同) これが中国大陸にへばりつき、海のすぐ向こうに日本という経済大国を望むという地政学的な悪条件の下で、数多の試練を乗り越えてきた彼らの強さの原動力となっているのだろう。 ただ、一点気になるのは、彼らが僑胞(キョッポ、*)の歩んだ苦難に無関心な点である。アジア一の経営者となった孫正義の光の部分ばかり注目し、その影を見ようとしないのは、虫が良すぎる。歴史を忘れた民族は、いつかしっぺ返しにあうことを肝に銘じなければならない。 この教訓は、無論、日本と日本人も例外ではない。(*在外韓国人の韓国側の呼び方)関連記事■ 編集者は見た! 孫正義が故郷・韓国に暮らす親戚写真見て涙■ 孫正義氏 「社員は私がツイッターすると緊張するようだ」■ 差別を体験してきた孫正義氏 福島放射能差別について意見■ 孫正義氏 この世に生まれなかったかもしれぬ2つの危機あった■ 孫正義氏 同郷のブリヂストンを抜ける根拠のない自信あった

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    孫正義氏 空前のプロジェクト描き北方領土のキーマンに

    首相がロシアを訪問する際には日本の財界をあげて、大規模な経済ミッションを組んで同行した。しかし現在、企業経営者の多くは、ロシアへの投資に尻込みしている現実がある。「ロシアへの投資には米国が目を光らせており、経済制裁破りと見られて厳しいペナルティを科せられる危険が大きい。日本の企業も銀行も恐くて事業参加に踏み切れない」(メガバンク関係者)からだ。 また安倍政権の原発再稼働政策を財界も支持している手前、ロシアの自然エネルギーに投資することにも躊躇がある。そうした中、孫氏は米国の大統領選挙で“監視”が緩んだ間隙を縫って、経済制裁下にあるロシアに単身乗り込み、独裁的な権力を握るプーチン大統領に“直談判”した。空前の国際プロジェクトの絵を描いてみせ、いまや北方領土返還のキーマンになった。 その行動は「海賊」と呼ばれたあの人物を思わせる。60有余年前、出光石油の創立者・出光佐三氏は、英国の経済制裁で石油メジャーさえ手を出せずにいたイランにひそかにタンカーを送り、原油を買い付けて日本に運ぶという荒技で世界をあっと言わせた。「地球のどこかで太陽は輝き、風は吹き、水は流れる。2020年の東京五輪のとき、(4か国の)ゴールデンリングの電力で電気のトーチがつながればいいと思っています」 孫氏は、今年9月に開かれた日本の自然エネルギー財団の記念シンポジウムで、満を持して東京五輪までの構想実現をぶち上げた。関連記事■ ロシア通記者が露大統領再登板のプーチンの実像を記した本■ 池上彰氏 メドベージェフ氏の国後島訪問に隠れた意図を解説■ 訪露の森喜朗元首相 銅像に献花しプーチン氏の琴線に触れた■ 大前研一氏 「北方領土問題は面積等分方式で交渉せよ」

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    自動運転の覇権狙うグーグルに待った! トヨタの「仁義なき逆襲」

    片山修(経済ジャーナリスト) 自動運転車の実用化に向けた動きが加速している。背景には、AI(人工知能)、IoT、ビッグデータなどの急速な進展がある。 日産は今年8月、高速道路の同一車線自動運転技術「プロパイロット」を搭載したミニバン「セレナ」を発売した。加速、操舵、制動の複数の操作を一度に行う「レベル2」だ。 日産は、20年までに一般道を走れる自動運転車を発売する計画だ。トヨタとホンダも、20年頃までに高速道路での自動運転の実用化を目ざしている。加速、操舵、制動をすべてシステムが行い、システムが要請したときのみドライバーが対応する「レベル3」だ。 その先にあるのは、「レベル4」のドライバー不要の完全自動運転車だ。 米フォードは、完全自動運転車の量産を2021年までに始めると発表した。独BMWや、スウェーデンのボルボもまた、2021年頃、完全自動運転車の商用化を目ざすと表明している。 完全自動運転車は、原則としてハンドルもブレーキもない。したがって、車内での過ごし方も違ってくる。走行中に映画の鑑賞もできる。車内が“移動リビング”になるのは、もはやSFの話ではない。 自動車メーカーは、自動運転の実現に向けて、実証実験を重ねながら、一歩一歩、着実にレベルアップしてきた。 これに対して、一気にジャンプし、完全自動運転の実現を目指すのが、IT企業だ。米グーグルやアップル、テスラなど、ITの巨人である。 例えば、グーグルは、09年から自動運転の開発をスタートさせた。12年にネバダ州で公道運転免許が交付され、15年には地元カリフォルニア州での公道実験の認証を取得。現在、55台の自動運転車を毎日、シリコンバレーなどの公道で走らせている。12月13日、米サンフランシスコで開かれたイベントで披露された米アルファベット傘下の新事業子会社「ウェイモ」の自動運転車(AP) グーグルはまた、16年5月、フィアット・クライスラー・オートモービルズ(FCA)と自動運転車の開発で提携すると発表した。 完全自動運転車に必須とされるAI、ソフトウエアの無線による更新、セキュリティ技術などは、IT企業が得意の分野で、自動車メーカーに比べて一日の長がある。グーグルは、車載OS(基本ソフト)の主導権を握る構えだ。 また、コネクテッドカー(インターネットに常時接続された車)のプラットフォームについても、リードしているのが現状だ。グーグルをはじめIT企業は、ここぞとばかりに、既存の自動車のビジネスモデルを破壊し、新たなビジネスチャンスをつかみとろうと狙っているのだ。ITの巨人からの巻き返しに懸命なトヨタ 実際、このままいけば、スマホのOSがグーグルのアンドロイドとアップルのiOSに支配されているように、自動運転に関するOSは、IT企業に握られる日が現実になるかもしれない。それは、自動車産業の構造変化を巻き起こすことになる。つまり、彼らが自動車ビジネスの“主役の座”に躍り出れば、自動車メーカーは単なるアセンブリメーカーになりかねない。 当然、自動車メーカーの危機感は強い。巻き返しに懸命である。 トヨタは、AI研究に力を入れている。16年1月、米シリコンバレーに元DARPA(国防高等研究計画局)でプログラムマネージャーを務めたギル・プラット氏を代表とする研究開発部門「トヨタ・リサーチ・インスティテュート」を設立した。グーグルのロボット開発部門の責任者ジェームズ・カフナー氏を引き抜くなど、人材獲得にも力を入れ、“AI=ドライバー”の実現へと一気にアクセルを踏み込んだ。 また、トヨタのコネクティッドカンパニー社長で、トヨタの専務役員を務める友山茂樹氏は11月1日に開かれた事業戦略説明会の席上、次のように語った。「トヨタは今後、モビリティサービス・プラットフォーマーとして、新たなる成長戦略を描いていきます」 トヨタは、2020年までに日米で販売する、ほぼすべてのクルマにデータ・コミュニケーション・モジュール(DCM)と呼ぶ通信端末を標準搭載して、インターネットにつなぐという。G7交通相会合でトヨタ自動車の自動運転車に乗り込む米フォックス運輸長官。日本政府関係者が固唾をのんで見守る=9月24日、長野県軽井沢町 このほか、トヨタは16年5月に提携したライドシェア大手の米ウーバーテクノロジーズとともに、個人間のカーシェアリング事業にも力を入れる方針だ。 アップルやグーグルが自動車産業を牛耳る日はやってくるのか。あるいは、既成の自動車メーカーが今後とも覇権を握るのか。次世代車のプラットフォームの構築をめぐる競争には、自動車メーカーの生き残りがかかっているのは間違いない。

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    自動車メーカーは置き去り  Googleが目指す完全自動運転

    【WEDGE REPORT】自動車業界関係者 計150万マイル(約240万km)の公道実走試験を行うなど、米Googleは米国で積極的な自動運転開発を行っている。しかし自動車業界の関係者からよく耳にするのは、「Googleは恐るるに足らず」という声だ。それは本質を捉えているのだろうか? Googleはなぜ凄いのか、自動車業界関係者が徹底解説する。公道を走るGoogleの自動運転車(撮影:生津勝隆) 自動運転車の開発で、Googleが他社を凌駕している技術がある。それが、一般道まで含めた完全自動運転のソフトウェア(走行アルゴリズム)だ。いわゆるレベル4と呼ばれるドライバー不要の自動運転車が走る時代には、このソフトウェアの良し悪しが、クルマの重要な競争要因になる。 Googleが他を凌駕している根拠となるのが、AI(人工知能)におけるディープラーニング(深層学習)という技術だ。 ドライバー不要の自動運転を、米国の報道ではしばしば「Drive by themselves=クルマが自ら運転する」と表現する。そのためには、走行中、人間が脳で認識、判断している作業を、コンピューターが代替することになり、信号のない交差点で他のクルマとの発進順を判断するといった、走行に必要なソフトウェアをそのコンピューターに搭載する。人間ではほぼ不可能な自動運転用のソフトウェア開発撮影:生津勝隆人間ではほぼ不可能な自動運転用のソフトウェア開発 このソフトウェアに入る走行アルゴリズムの開発は人力ではほぼ不可能なゴールの無い作業だ。自動車の運転環境は、高速道路、一般道路、生活道路等によって大きく異なる。一般道路や生活道路では高速道路と異なり、交差点があり、信号があり、多様な道路標識があり、歩行者がいて、実はコンピューターではバイクと見分けがつきにくい自転車もある。一般道は各国で交通ルールも若干異なり、地域の暗黙の了解といったものもある。クルマに搭載されたコンピューターが状況判断に窮することは容易に想定される。 そこでディープラーニングの有効性が注目されている。ディープラーニングによって学習した画像認識は、2015年には人間のエラー率より低くなったといわれる。米国を競争の場として世界中でこうした研究開発が急激に進んでいる。今年3月、Googleの囲碁AI「アルファ碁」が韓国の世界トップレベルのプロ棋士・李セドル九段に勝つなど、この分野におけるGoogleの技術力は圧倒的だ。 ディープラーニングでは周りの人間や自動車の動きに対して、こうした状況ではこのように走り抜けるのが「最も正しい」といったことを、環境データや走行データから、自ら状況把握して学習する。人間よりも早く走行方法を最適化して、そのソフトウェアを逐次クルマのコンピューターにダウンロードする。それを販売後のクルマに対しても行うようになる。複数の対象物を同時に早く正確に認識するなど、人間には困難なこともやってのけ、結果的には、さも人間が運転しているかのごとく自動運転車が走るようになる。 とりわけ自動運転の開発は、「人間の運転」を置き換える部分に集約され、人工知能の一つの初期的適用分野として最適である。クルマは2足走行ロボットや工事現場や荒地を走行するロボットとは異なり、まず人間が運転できる道であることを前提としている。日常生活の全てをこなすことを求めているわけではなく、交通ルールを守るという前提や、道路上で想定し得る全ての事象を認識・分析・判断対象として網羅することも課題を限定しており、十分限定的な条件設定が可能だ。 ディープラーニングを行う際は、大量の「生データ」が必要になる。Googleはカリフォルニア州マウンテンビューに行けば誰の目にもとまる物量で公道実走試験を行い、せっせとデータを溜めこみ分析している。 Googleが毎月公開している報告書によれば16年4月30日時点で、特徴的な形をしたSelf-Driving Carのプロトタイプ計34台がカリフォルニア州マウンテンビュー、テキサス州オースチン、ワシントン州カークランド、アリゾナ州フェニックスで走行しており、これまでの総走行距離数は約150万マイル(約240万キロメートル)に及ぶ。1週間で1万〜1.5万マイルも、「ソフトウェアがクルマを運転しておりテストドライバーは手動(足を含む)の操作レバーにタッチしていない」クルマが走行データを積み重ねている。Googleに依存せざるを得ない自動車メーカーGoogleに依存せざるを得ない自動車メーカー 更に、昨年3月のTEDカンファレンスでは、Googleの自動運転開発責任者であるクリス・アームソンが毎日300万マイル(約480万キロメートル)もの距離を自動運転車がコンピューター上でシミュレーション走行しているとコメントしている。 クルマにディープラーニングを適用させるには、個人情報的な観点からはもちろんの事、競合上の観点からもデータを他社に出すことはできない。Googleのように自社の実走試験から得た「生データ(一次データ)」をいかに確保できるかがポイントになる。自動運転車が走れば走るほど、学習するデータが増え、ソフトウェアの運転は更に上手くなる。 ただ、データさえあれば誰でもディープラーニングを行えるのかというと、そうではない。ディープラーニングには複雑な計算を解く極めて高度な数学的知識やネットワークを介した分散処理、計算機としてのコンピューターの特性に対する高度な理解が必要だ。SAE(米自動車技術会)の年次総会にて、自動運転のカンファレンスに登壇したGoogle自動運転部門幹部のロン・メッドフォード氏(撮影:生津勝隆) 今後は、ディープラーニングを利用するためのいろいろな支援ツールが出てきて、現状よりは広く扱えるようになる可能性はある。しかし、究極的な問題解決には常に先駆的な人間の卓越した能力が必要だ。今後は更に広範なAI全体に対する知識や、脳神経科学、分子生物、遺伝学、倫理、法学といった学際的知識も必要となる。このような高レベルの人材を一番抱えているのはGoogleだろう。Googleが送った50項目以上の質問状 13年5月30日に、NHTSA(米国運輸省道路交通安全局)が「クルマの自動化」に関する提言(Preliminary Statement of Policy Concerning Automated Vehicles)を発行した。その冒頭でNHTSAは、過去100年間で構築されてきた人とクルマの関係が、今後10〜20年でこれまで以上の変化を遂げると指摘した。 更に、レベル4の完全自動運転に対して、「それを実現する技術やクルマと人間とのかかわりに関する多くの課題は、今後レベル3の開発と公道試験を通して解決されるものと確信する」とし、それを実現する社会的メリットを含め必要性を強調している。これが3年前の話であり、提言中に示した研究期間を4年としているので、17年にはレベル4の定義が明確に提示されることが期待されている。 このNHTSAとの間でGoogleは、「コンピューターがドライバーとして認められるか否か」について、50以上の項目に対して詳細な議論や具体的な解釈、事実のやりとりを行っている。「クルマが自ら運転する」レベル4の自動運転開発がGoogle内部で具体的に進んでいることを示している。 昨年開催されたTED カンファレンスではGoogleの自動運転開発責任者、クリス・アームソン氏が登壇。TEDのHP上ではこの際の映像が確認でき、Googleの自動運転開発の状況が一目でわかる。日本語版も閲覧可能(http://www.ted.com/)ソフトウェアは競争領域 ようやく認識した日本ソフトウェアは競争領域ようやく認識した日本 トヨタは1月、AIの研究開発を行うTRI(トヨタ・リサーチ・インスティテュート)を設立した。 方向性としては正しいが、製造業のど真ん中を走ってきた日本の自動車メーカーが、これからいかにソフトウェア技術においてGoogleをキャッチアップし追い越し得るのか。高い壁であることは間違いない。 自動車メーカーだからこそ、膨大な実験のデータは得られるだろう。車載センサー、地図、走行用ソフトウェアの開発を全て自らやろうとする発想を否定はできない。しかし、これから世界中で独自の地図を作成しメンテナンスすることなど、経済性から見てもコストが合わない。大きく先行するGoogleよりも効果的なディープラーニングが行えるかも疑問だ。撮影:生津勝隆 Googleは走行アルゴリズムを開発するために、「三次元地図」と呼ぶ詳細な地図情報を自ら開発して利用している。三次元地図は車載センサーが得た情報を照らし合わせるため、道路の勾配やカーブの角度などをデータとして持つ。しかし、IT的な発想からすれば、Googleは今後どんな第三者から新たな三次元地図が出てきても、ソフトウェア自体に手を加えずに例えばデータ形式の変換のみで、自動運転が行えるよう開発を進めているはずだ。 彼らの作るソフトウェアは自分自身の地図や相手のハードに縛られることなく利用できる形式になっているだろう。つまり、コンピューターが言った通り正確に走れるクルマを自動車メーカーが造れば、そこにGoogleのソフトウェアを載せて一足飛びに自動運転領域で名を上げる可能性がある。  フォードが1月に公開した雪道での自動運転の実験動画は、Googleに近い自動運転技術を使ったものだった。 自前技術に固執している時間はない。協調すべき領域は積極的に協調し「クルマが自ら運転する」、自動運転時代にふさわしい自動車開発に向けて、自社の優位性が発揮できる競争領域に集中し進んでいかなければ、自動運転領域で日本の自動車メーカーは国際競争力を失いかねない。

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    タクシーの日本交通とトヨタが組んだワケ

    【WEDGE REPORT】中西 享 (経済ジャーナリスト) 自動運転やライドシェア(相乗り)といった新しい移動手段が登場する「移動革命」が起きつつある中で、タクシー・ハイヤー業界最大手の日本交通の川鍋一朗会長は、このほど日本記者クラブで講演、「配車アプリなどITを活用して世界最高のタクシーサービスを提供できるようにしたい。これからのタクシー業界はスマートフォンを使って呼べる時代に、さらには自動運転の時代になっていくだろう。今後10年、15年かけてこの変化を乗り越えていかなくてはならない」と述べた。 「ウーバー追撃」iStock 日本交通はタクシー業界の規制緩和が進む中で、国際的にも高いとされる東京都23区(武蔵野市、三鷹市を含む)のタクシー初乗り運賃を現在の730円を410円に引き下げる申請をするなど、タクシー業界を新しい方向にリードしてきた。来年10月にはタブレット型パソコン端末を積んだ「ジャパンタクシー」が東京に登場するそうで、このタクシーは外国語の自動翻訳が可能で、利用者がタブレット上で行き先を指定すれば目的地まで行ってくれて、クレジット決済ができる。川鍋会長は「タクシー専用にトヨタ自動車が開発した。車内のスペースは広く、お客様に送風する風を調整でき、座席暖房もできるなど細かいサービスが行き届き、しかも初乗りが410円で、間違いなく世界一のタクシーサービスが提供できる。 ロンドンの『ブラックキャブ』やニューヨークの『イエローキャブ』と比較しても価格競争力がある。(この車の開発には)東京都からも予算をもらっており、東京オリンピックまでには東京で走っているタクシーの3台に1台はこの車に変えたい」と抱負を語った。配車アプリの現状については「日本交通はボディーに『アプリで呼べる』と書いたタクシーを走らせている。すでに日本のタクシーのうち4万台がアプリ配車のできるタクシーだ。来年の2、3月にはこれに東京無線のタクシー4千台が加わるし、個人タクシーも入ってくる。配車アプリでいまはウーバーが先行しているが、どんどん追いついている」と指摘、「ウーバー追撃」の動きが強まっている。 このほか、規制緩和とアプリ配車の実現により、来年以降には乗車前に運賃を事前に決める「前決め運賃」や、急に雨が降ってタクシーが捕まらないときに少し割増料金を払うことにより捕まりやすくなる「ダイナミックプライシング」、相乗りなどのタクシーの新しいスタイルが登場してくるという。東京五輪までに自動運転タクシー東京五輪までに自動運転タクシー 自動運転車については「自動運転の車が出て来ると、タクシーは要らなくなるのではと思われるが、お客を運べるのは旅客運送事業の免許をもらっている我々しかできないので、タクシー会社が自動運転をやれば勝てそうと思った。そこで、自動車メーカーで最も強くてタクシーの8割の比率があるトヨタと全国ハイヤー・タクシー連合会が今年8月に自動運転車の開発に関して覚書を交わした。20年の東京五輪までにトヨタが開発した自動運転タクシーのデモを行う。 自動運転に必要なデータは毎日4千台のタクシーを走らせている日本交通が最も蓄積しているので、トヨタのデータリサーチ会社に送って分析してもらう。これを使って再来年までに東京の3D地図を作成する」と述べ、自動運転タクシーの実現に向けて準備を進めていることを明らかにした。 自動運転のタクシーは、今年9月に米国のベンチャー企業がシンガポールで試験走行を開始、ウーバーも同月に米ピッツバーグの路上で試験走行を開始している。 AI(人工知能)の活用については「渋滞した際にどの道を走るかはこれまではドライバーの経験に頼っていたが、AIを使えば簡単に最適のルートを選択することができ、テスト段階の現在、AIを活用することで売上が10%上がってきている。タクシーのコストの73%が人件費なので、AIを使って効率的に管理すれば、圧倒的な人件費比率を下げられる余地がある。その意味でタクシー業界はローマージンではあるが、新しいテクノロジーを使えば利益が拡大するチャンスがある。これを生かせるかどうかは経営者の私の才覚にかかっている」と述べた。アプリを武器に業界を再編 日本全体で24万台あるタクシー会社はオーナー企業が多く、その多くは先代の経営者が残っているため、アプリについての理解が乏しく、なかなか新しい時代に対応して動いてくれないという。川鍋会長は「その中で戦いたい人にはアプリという武器を渡して、業界再編をしていく中でタクシー業界をもう少し強くしたい。市場規模は年間1兆6千億円あるが、業界トップの日本交通の売り上げは5百数十億円でシェアは3%しかない。トップ企業のシェアがこれほど低い業界はほかにはない」と述べ、最新のテクノロジーを積極的に導入することで新しい時代を生き抜きたい方向を示した。 配車アプリサービスでウーバーとの違いは「日本交通はタクシーなので、ウーバーよりも圧倒的に捕まえやすい。ウーバーはハイヤー車両なので素敵ではあるが、料金はわが社の方が安い」と話し、競争力は十分あることを強調した。リスク許容度に違い ライドシェアが日本の都市部で認められない点には「ウーバーはタクシー事業者ではあるが、事故が起きた時などの事業者責任は負わないと言っている。このため、政治家や国土交通省は事業責任をだれが負うのかについて非常にリスクを感じている。国交省は今年1月に軽井沢で起きたスキーツアーバス事故以来、安全面などの規制を強化してきている。インターネットの世界なら、事業者責任を取らなくてもいいのかもしれないが、事故が起きたらだれが責任を負ってくれるのかということになるので、東京ではなかなか難しい。これが認可されない最大のハードルになっている。米国は車検もないし、国によって交通に関しての抜本的なリスク許容度が異なる。ウーバーのアプリは素晴らしいので良い面は吸収したい。しかし、素晴らしくないのは事業責任を認めないことだ」と述べた。 今年5月に京都府京丹後市でスタートした自家用車を使ったライドシェアについては「京丹後市か京丹後市が委託したNPO法人が事業責任を負うということで事業責任が担保されたので認可されている」と説明、ライドシェアが認可されるためには事業責任の明確化が求められるとの見方を示した。 自動運転車の登場によりタクシードライバーが必要なくなることに関しては「ドライバーは1年間に10%は入れ替わるので、10年間採用しないと、2、3割しか残らない。自動運転車はいきなり出てこないが、自動運転になってもヘルパー、ベビーシッター、観光案内など人間が関与する部分は残るので、若い新卒のドライバーにはキッズ(子供)、介護、観光のうちのどれかのプロになるように指導している」と述べた。川鍋一朗(かわなべ・いちろう) 1970年生まれ。慶応大学卒業後、米国の大学でMBAを取得、マッキンゼー日本支社を経て2000年に日本交通入社、05年に社長、昨年10月から会長。東京最大のタクシー会社の創業家3代目で、「タクシー王子」と呼ばれる。東京タクシー協会の会長も務める

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    世界の誰よりも早いロボットタクシーの事業化を目指す

    谷口恒(ZMP社長)【連載 経営トップの挑戦】第3回〔株〕ZMP代表取締役社長 谷口恒 2020年の東京オリンピック・パラリンピックまでに、ドライバーのいない自動運転タクシーを実現させる。そんな大きな夢に向かって、政府のあと押しも受けながら突き進んでいるのが、ロボットタクシー社だ。同社はZMPとDeNAの合弁会社。カギとなる自動運転技術を担うのがZMPである。自動運転といえば、日米欧の自動車メーカーが開発にしのぎを削っている技術。その中で、ベンチャーであるZMPはどのような戦略を取っているのか。勝算はあるのか。ZMPの創業社長であり、ロボットタクシー社の会長も務める谷口恒氏にうかがった。ヒト型ロボットでやれることはやり切ったZMP・谷口恒社長 ――まず、ZMPを起業された経緯をお教えください。谷口 私は、メーカーと商社を経て、1999年にインターネットの会社を創業したのですが、翌年にITバブルが崩壊しました。会社への影響はほとんどなかったものの、「これからどうしようか」と思っているときに出会ったのがロボットでした。 取引先の方が文部科学省所管の科学技術振興機構の技術参与になられたので、そこでロボットを研究しているのを見に行ったんです。2足歩行をするものの、まだ頼りない感じではあったのですが、「ロボットには可能性があるな」と思いました。 2000年はロボットが世の中に出始めた頃で、人びとがその未来に心をときめかせていました。大きな夢があったのです。ソニーがAIBOを発売したり、ヒト型ロボットを開発したりしていて、ホンダもASIMOを開発していた。自分も、そんな大手企業がやっている事業に参加したい、という想いもありました。そこで、ロボット開発会社のZMPを設立したのです。 ――具体的に、ロボットでどういうビジネスをしようと思われていたのですか?谷口 初めの頃はあまり考えていませんでした。『PINO』(右写真)という高さ70cmの2足歩行ロボットを作ったのですが、そういうロボットは珍しいということで、イベントへの出演依頼が来たんですね。そこへキャスティングして、出演料をいただいていました。芸能事務所みたいな仕事ですね(笑)。アルバイトに手伝ってもらいながら1人でやっていたので、出演料の金額設定も自分で考えて決めていました。テレビCMに出演することもありましたし、宇多田ヒカルさんの『Can you keep a secret?』のミュージックビデオに出演したこともあります。 そうしているうちに、だんだんお金が入るようになって、人も採用できるようになりました。そこで、技術者を採用して、自分たちでロボットを開発することにしました。それまでの、技術移転を受けて製品化していたロボットは、すぐに壊れてしまっていたんです。 ――科学技術振興機構からの技術移転ですか?谷口 そうです。移転を受けたのは研究段階の技術だったので、それを自分たちで高めていくことにしたわけです。目指したのは、家庭用のヒト型ロボットで一番乗りをすること。家庭用ロボットとしては、それまでにもAIBOがありましたが、ヒト型はありませんでしたから。 ――家庭用というのは何をするのでしょうか? 家事とか?谷口 いやいや。今でも家事ができるロボットはないですよね。ヒト型ロボットを量産する、というだけです。やったのは、家庭で買える値段にすること。当時、高いノートパソコンが30万円くらいでしたから、それくらいに抑えることを目標にしました。コストを下げるために、モーターの数を減らしました。モーターの数を減らすと、大きなものは作れないので、小さくなります。小さくなりすぎるとまた高くなるので、40㎝くらいの大きさに落ち着きました。また、量産するにはお金がかかるので、ベンチャーキャピタルからの出資を受け入れました。そうして2004年に発売したのが『nuvo』(左写真)です。結局、58万8,000円になってしまいましたが。 高くなった要因は、ほぼすべての部品が世の中になく、自ら特注品を作ったからです。また、目がカメラになっていて、携帯電話でアクセスをすると、その映像を見ながら遠隔操作できるようにもしました。この技術はNTTドコモさんと共同開発したもので、特許も持っています。 発売すると、最初は勢いよく売れました。でも、どんどん鈍化していく。値段が高いですからね。では、頑張って40万円にしたら売れるかといえば、そんなことはないだろうと思いました。というのは、ヒト型ロボットには、機能が「面白さ」以外にないからです。 ――言ってしまえば、おもちゃにすぎない、ということですか。谷口 おもちゃとしても、乱暴に扱うと壊れてしまうし、高価ですから、どうかな、と。 発売することによって、ユーザーの要望を聞けるのではないかという期待もありました。それを機能として製品に搭載することを考えていたのです。しかし、出てくる要望は、それこそ「家事をしてほしい」といったものばかりで、現実的ではない。ユーザーの期待と実際にできることとのギャップがあまりに大きすぎました。そこで、在庫は売り切って、次の量産はしないことにしたのです。 ヒト型ロボットに対する期待と実際にできることのギャップは、今でも当時とほとんど変わっていません。多少変わったのは、音声認識の性能や画像認識がよくなったくらい。でも、それは入力インターフェイスの1つにすぎなくて、ヒト型ロボットとして、歩行する、手で何か仕事をする、などの技術ではないですよね。家庭用の歩くヒト型ロボットは、ZMPが出して以来、どこも出していません。音楽ロボットの開発から「自律移動」の技術が始まった ――ヒト型ロボットの開発に区切りをつけたあとは、どうされたのですか?谷口 ヒト型ロボットには、値段が高いということの他に、歩くことが飽きられるという問題もあります。最初は、歩いたり、自分で起き上がったりするのが面白がられていたのですが、次第に、歩くことが欠点に変わってきたのです。遅くて移動に時間がかかるし、倒れやすいわけですから。しかも、モーターをたくさん使うので、電池が持ちません。 そこで、次に開発した『miuro』(上写真)というロボットは、モーターを2つだけ使って車輪で移動するものにしました。そのほうが速いし、自由に動けるうえに、電池も長く持ちます。 機能については、私はエンターテインメントが好きなので、音楽を運んでくれるロボットにしました。自分の好きなときに、好きな場所で音楽が聞ける、新しいミュージックライフを作ろうと考えたのです。たとえば、夜の10時くらいにウイスキーを飲んでくつろいでいるところに来てジャズを流してくれる。朝、寝室に来て、ロックで目を覚まさせてくれる。そんなロボットです。 そのためには、自律移動の技術が必要でした。『miuro』は、世界で初めての、自律移動する家庭用ロボットです。この技術はSLAM(Simultaneous Localization and Mapping)と呼ばれるもので、今、話題になっている自動車の自動運転にも使われています。 たとえば、miuroに玄関からソファまで来てほしいとすると、まずは、リモコンで玄関からソファまで操作します。するとmiuroは、移動しながら、車輪についた距離計で距離を測り、障害物センサーで周囲のモノとの距離を測って、自分が通るべき道の地図を作ります。同時に、カメラでところどころの写真を撮って、目印にします。そうすることで、作った地図の中での自分の位置を特定することができるわけです。 ――高度な技術だと思いますが、自社で開発されたのですか?谷口 そうです。miuroは飛ぶように売れたのですが、さらに量産しようとしたところでリーマンショックが起きて、資金調達ができなくなってしまいました。そこで、自律移動技術を4輪に応用して、2008年からRoboCarの開発を始めました。量産するものではなく、研究開発用に自動車メーカーなどに販売するものです。私はもともと自動車関連のメーカーにいたことがあり、自動車については明るかったので、「これから自動車もロボットになる時代が来るだろう」と考えたのです。翌年、まずは、miuroと同じくらいの、乗用車の10分の1サイズ(429×195×212.2mm)のRoboCarを発売したところ、よく売れて、そこからだんだんサイズを大きくしていきました。 ――この技術は、他の企業は開発していなかったのですか?谷口 していませんでした。今は自動車の自動運転で注目されている技術ですが、いきなり自動車のような大きなもので実現しようとすると、かなり難しいのです。私たちは、miuroという小さなもので開発したから、実現できたのだと思います。それから、小さな4輪で実現して、1人乗りの電気自動車で実現して、プリウスで実現して、と、段階的に、継続して開発してきました。 ――今、世界中の自動車メーカーが自動運転技術の開発を競っています。その中で、先行者としての強みがあるということでしょうか?谷口 全部、イチから自分たちでやっているという強みはありますね。 自動運転に必要なのは、目と頭、つまり、ステレオカメラとしてRoboVision、人工知能として膨大なデータを計算するコンピュータIZACだけです。今の自動車は電子制御になっていて、電気信号を出せば動きますから、運転をするための身体は必要ありません。カメラと人工知能はロボットの開発でフォーカスしてきた技術ですから、その点でも強みがあると思います。 また、RoboCarを販売した自動車メーカーからのフィードバックが得られるのも、当社の強みです。 ただ、技術ということだけで言うと、すでに自動運転に必要なものは論文などで世の中に出回っています。今は、いかに精度を上げるか、高価なセンサーをいかにコストダウンするか、といった実用化のフェーズに移っています。このフェーズで最も重要なことは、その技術を何に使うか。この点で、自動車メーカーと私たちは決定的に違っています。 自動車メーカーの顧客はドライバーです。ドライバーが、好きな自動車を買って、運転する。それが安心、安全にできるように支援するために、自動運転の技術を使うわけです。つまり、これまでのビジネスの延長上に自動運転がある。 一方、私たちが顧客として決めているのは、高齢者や子供、障害者、外国人観光客など、運転免許を持っていない人や自分で運転できない人、あるいは自分で運転したくない人です。そういう人たちのためのロボットタクシーに、自動運転技術を使います。要するに、私たちは旅客業をやるのです。 ですから、自動車メーカーと競合するわけではありませんし、グーグルとも競合しません。自動運転タクシーというものは、ZMPとDeNAさんの合弁会社であるロボットタクシー社が世界で初めて謳ったものです。最近、ウーバーが自動運転車を開発すると発表していますから、それは競合になり得るでしょうが、自動運転タクシーという市場に誰よりも早く参入して、広く使われるようになれば、それが最大の強みになります。これはもう技術の問題ではありません。 ――今はプリウスなどを改造して自動運転の実証実験をされていますが、将来的には完成車メーカーになろうというお考えはありますか?谷口 「完成車」というとわかりにくいのですが、自分たちでイチから自動車を作るかといえば、ノーです。やはり、今から自動車生産を始めるのは利口ではない。一般のタクシーは市販の自動車を改造して使っていますよね。同様に、ZMPが自動車メーカーから車両を購入して自動運転車に改造し、それをロボットタクシー社に販売する、という形を取ります。 ――ロボットタクシー社は、あくまでタクシー会社なのですね。谷口 そうです。車両はフランチャイズすることも考えられますね。配車はインターネットを使って行ないます。たとえば、1週間後に日本に来る外国人旅行者が、羽田空港から浅草まで乗りたいと思えば、インターネットで予約しておける。言葉の通じないドライバーを相手に苦労をしなくても、快適に観光ができるわけです。 ――タクシー事業に参入することになると、タクシー業界から反発があるのではないでしょうか?谷口 タクシー業界からは歓迎されるのではないかと思います。というのは、人手不足の業界で、人件費がかさんで採算が悪化しているからです。しかも、ドライバーには高齢の方が多く、今後ますます人手不足が深刻化していくと見られています。体力的にきつく、事故を起こしてしまうと人生を棒に振る可能性もある大変な仕事ですから、若者が就職したがるわけでもありません。ロボットタクシーが参入して、人手不足の問題が解消することは、業界にとっても、利用者にとっても、良いことではないでしょうか。 ――それでは、タクシー業界におけるロボットタクシーの強みはどこにあるのでしょうか?谷口 1つは、ドライバーがいないので人件費がかからず、運賃を抑えられることです。とはいえ、極端に安くするつもりはありません。原価が低い電子書籍の値づけが紙の本を基準にしているように、ある程度、他社と足並みをそろえるつもりです。 もう1つは、完全な個室になること。ドライバーの目を気にする必要がありません。他人に聞かれたくない話もできます。実は、タクシーのクレームで多いのはドライバーの加齢臭や体臭なのですが、ロボットタクシーなら、そんな心配もありません。すべての道をロボットタクシーが走る必要はない  ――実際のところ、実用化できるところまで技術の精度は上がっているのでしょうか?谷口 私は、まずは、極力、一般のドライバーが運転する自動車と混在させないようにしようと思っています。2020年の東京オリンピック・パラリンピックのときにはタクシー専用のレーンができるでしょうから、職業ドライバーしか走らない、そのレーンを走らせることを考えています。 また、全国あまねく、すべての道路を走れるようにしようとは思っていません。たとえば、センターラインが引かれていない道路や歩道と車道が分離されていない道路は危険ですから、走らせるつもりはありません。 ――走れるところを走ればいい、と?谷口 そうです。国道と都道府県道くらいの幹線道路だけ走れれば、実用的には十分です。実際、皆さんがタクシーを拾うときは、幹線道路まで出てきているのではないでしょうか。 ――なるほど。ロボットタクシーの事業について、よくわかりました。他に、御社が注力されている事業には、どのようなものがあるのでしょうか?谷口 ロボットタクシーの次に皆さんの関心が高いのが、物流ロボットの『CarriRo』(右写真)です。 メーカーなどの物流の現場も、タクシー業界と同じで、人手不足が深刻です。倉庫の中はほとんど自動化されておらず、人の手で荷物が運ばれているので、作業者の身体への負担が大きい。それなのに、働いているのは65歳以上の方が多いのです。 CarriRoは台車の形をしたロボットで、経路をインプットしておけば、自動で荷物を運んでくれますから、作業者の身体への負荷を大きく減らせます。また、カルガモのように、1台のCarriRoのあとを複数台のCarriRoがついていくので、作業効率も上がります。 2016年に量産を始める予定で、すでに130社以上から引き合いがあります。その半数以上が東証1部上場の大手です。 ソニーモバイルコミュニケーションズさんとエアロセンスという合弁会社を設立して、一般的な4枚羽根のドローンや固定翼のVTOL(垂直離着陸型)も作っています。ドローンといっても趣味用ではありません。土木工事や建築の現場で、工事の進捗の過程を空撮して記録するためのものです。デベロッパーなどに、すでに一部、サービスをご利用いただいています。ちゃんと図面どおりに工事が進んでいるかが確認でき、品質保証になるわけです。 ――ロボットが日々の仕事の中で活躍しているイメージが浮かんできました。本日はありがとうございました。革新的なサービスを、日本から 2015年10月1日、ロボットタクシー社と内閣府は、2016年から神奈川県藤沢市で自動運転タクシーの公道での実証実験を始めると発表した。谷口氏にとって、待ちに待った実験だ。 谷口氏が政府にロボットタクシーの構想を伝えたのは3年ほど前のこと。しかし、法的な問題もあり、なかなか話が進まなかった。そこで谷口氏は、さまざまなメディアの取材を積極的に受け、ロボットタクシーの構想と必要性を説き、講演でも紹介を行なってきた。そしてようやく世論も動き始め、小泉進次郎氏のあと押しも得ることができ、政府が動くに至ったのだ。 可能な限り早く事業を始めるため、谷口氏はさまざまな手段を取っている。ロボットタクシー社を設立するに当たって合弁相手にDeNAを選んだのも、スピードを重視したからだ。複数のIT企業が関心を示していただが、最も決断が速かったのがDeNAだったのだ。加えて、ロボットタクシー社の社長に就任した中島宏氏(現在、DeNA執行役員オートモーティブ事業部長を兼任)の情熱が決め手だったと谷口氏は言う。 ZMPで働く技術者は、国内外を問わず募集し、優秀な人材を集めている。採用要件に日本語ができることは入れていない。社内では英語での会話が飛び交っているそうだ。これも、技術開発のスピードを速めるためだ。 世界に先駆けて、日本でロボットタクシーが実用化されれば、日本の先進性を世界にアピールすることにもなる。その日が来るのが、今から楽しみだ。《写真撮影:まるやゆういち》《製品写真提供:〔株〕ZMP》たにぐち・ひさし 〔株〕ZMP代表取締役社長。兵庫県生まれ。大学卒業後、エンジニアとして制御機器メーカーで商業車のアンチロックブレーキシステムの開発に携わる。その後、商社の技術営業、ネットコンテンツ会社の起業を経て、2001年、〔株〕ZMPを設立。01年に研究開発用2足歩行ロボット『PINO』、04年に家庭向け2足歩行ロボット『nuvo』、07年に自律移動する音楽ロボット『miuro』を発売。08年から自動車分野へ進出し、09年、自動運転技術開発プラットフォーム『RoboCarシリーズ』を発売。15年、〔株〕ディー・エヌ・エーとの合弁会社ロボットタクシー〔株〕を設立。同年、ソニーモバイルコミュニケーションズ〔株〕との合弁会社エアロセンス〔株〕を設立。

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    日産の自動運転 他社の技術者はどう見ているか

     日産自動車は7月13日、自動運転技術「プロパイロット」を発表した。8月にフルモデルチェンジ予定のミニバン「セレナ」に搭載するという。いよいよ日本でも本格的な自動運転時代が訪れるのだろうか。自動車ジャーナリストの井元康一郎氏がレポートする。* * * 自動運転は今日の世界の自動車業界において、開発競争がもっともホットな技術のひとつだ。その自動運転というキーワードを入れた技術をライバルに先駆けて投入することは、国内市場で劣勢に立たされている日産としては勝負手とも言える策。また、自動車業界全体を見ても自動運転の商品化が今後どういう形で進むのかを占う試金石でもある。高速道路の同一車線で自動運転する新型ミニバン「セレナ」 果たしてそのプロパイロットとはどのようなものなのか、中身を見ていこう。日産は技術発表において、高速道路の単一レーンを自動走行するためのものと説明している。具体的には長時間の高速巡航や渋滞時に前車を自動的に追尾する機能を持たせている。 システム図を見るかぎり、単眼カメラ、ミリ波レーダー、外部情報を解析するコンピュータ、電動パワーステアリングやバイワイヤブレーキなどの技術パッケージは、今どきのステアリング制御つきクルーズコントロールと大きくかわるところはない。 しかし、運転操作の多くをクルマ側に預けるには、それなりに多くのハードルがある。実際にどれだけ有効であるかは公道で試してみないと何とも言えないが、既存の支援システムに比べ、挑戦的な領域に明らかに一歩踏み込んできているのは事実だろう。 日産の説明によれば、日本の高速道路によくある車線の白線が二重になっているところでも迷わされずに車線を認識できるようにするなど画像処理・解析レベルを大きく引き上げ、また高速道路のアンジュレーション(うねり)や段差のきついところを通過しても車両の安定を保ちつつ車線を守れるようなステアリング制御を持たせたとのこと。 特定の環境下でしか機能しないシステムではなく、路面パターンが多様で、また割り込みや追い越しをする他車もたくさんいるような環境でも使えることを狙っている。 このように、さまざまな技術進化が盛り込まれたプロパイロットだが、重要なのは、現時点では自動運転装置ではなく、あくまで運転支援システムの範囲にとどまるということだ。 日産の言い回しも絶妙で、プレスリリースに自動運転技術とは書いてあるが、これはあくまで技術であって、システムとして自動運転をうたっているわけではない。発表会でも終始、運転支援システムであるという姿勢を崩さなかった。多くのマスメディアはこれを自動運転機能と報じたが、これは明らかに視聴者、読者ウケを狙ったものだ。ライバルメーカーはどう見ているのか さて、プロパイロットについて、ライバルメーカーはどう見ているのだろうか。技術者の一人は言う。「日産さんはまだ実物が出てきていないので何とも言えませんが、技術的には今までの運転支援システムをブラッシュアップさせたもので、革命的な何かがあるようには思えない。 ただ、挑戦的だなとは思いますね。いくら責任は全面的にシステムを使う側であるドライバーにあるとしても、今日の技術レベルで自動運転という感覚をユーザーに持たせるだけの度胸と覚悟はまだウチにはない。その点、ゴーン(日産社長)さんはやっぱり肉食系なんだなと」 ともあれ、部分的とはいえ自動運転機能を公道で使えるようになることは、モビリティの変化の第一歩であることは確かだ。日産は今後、2018年には高速道路の複数車線を使えるように、さらに2020年には市街地で走行できるように、プロパイロットを進化させていくというコミットメントを発表している。 この先、自動運転はどのくらいのスピードで社会に普及していくのだろうか。 現状の運転支援システムの延長線上にあるセミ自動運転でも、運転の負担を軽減するのにはそれなりに役立つ。少なくとも渋滞を自動的に走ってくれるだけでも御の字だ。将来的に複数車線を走れるようになれば、車線変更時に後方から思わぬ高速で接近するクルマを見落としていてヒヤッとするようなことも少なくなるに違いない。 だが、その一方で、運転に新たな苦痛が生まれる可能性があるのも否めない事実だ。その最たる敵は眠気である。 筆者は一昨年、スバルの「アイサイト」という運転支援システムがついたステーションワゴン「レヴォーグ」で、どこまでアイサイト任せで走れるかということを試したことがある。富士重工業の販売店の実演コーナーで「アイサイト2」により前方への衝突を回避した乗用車=2012年3月、東京都三鷹市 東京を出発し、東名、新名神、山陽道と進んだ。アイサイトの最新版はプロパイロットほどではないが、ステアリング修正機能も備わっており、ステアリングに手を添えているだけで緩いカーブはクルマのほうでかってに曲がってくれる。それでも白線認識レベルが信頼に足らないため、進路保持は運転者が主体だが、スロットル、ブレーキ操作はほとんど必要なかった。 ところが、東名を過ぎ、新名神に入ったあたりで猛然と眠気が襲ってきた。コーヒーを飲もうがガムを噛もうが耐えられなくなり、途中でドロップアウトすることも視野に入れてアイサイトを切り、自分で走った。すると不思議なことに眠気は消え、普通に走れるようになった。アイサイトクルーズを使うと、ほどなくしてまた眠気に襲われる。それはちょうど、助手席に乗ってクルマに揺られていると眠くなるのと同じような感覚だった。 プロパイロットはあくまで運転支援システムであり、システムがその場の交通状況や道路環境に対処できなくなったときにはシステムがキャンセルされ、ドライバーが即座に主体的な運転をすることが求められる。が、アイサイト以上に自律走行機能が強化されているとしたら、運転への注意力を保持することもより難しくなる。「完全自動運転」実現への理想と現実 日産は発表会のプレゼンにおいて、帰りの運転を心配することなく目一杯遊べるとメリットを説明していたが、プロパイロットはクルマの中で寝ていていもいいことを保証するものではない。日産だけでなくどのメーカーも同じことだが、ドライバーが運転への専念義務から解放されないかぎり、この問題は自動運転技術が進化するにつれて、むしろ深刻になっていくものと考えられる。 では、クルマに乗る人が運転への注意を払わなくてもよい、言い換えれば免許がなくても、酒を飲んでいても、あるいは車内でスマホに興じていても大丈夫なようになる時はいつやってくるのだろうか。これについては自動車業界だけでなく、人工知能開発の最前線ですら懐疑的な見方のほうが圧倒的に多い。「囲碁のプロがコンピュータに敗れたといったことで機械学習が万能視され、中には人間がコンピュータに支配される、コンピュータに滅ぼされるといった話まで飛び出していますが、荒唐無稽な話だと思います。そんなことができるなら、現時点でコンピュータのプログラムのバグフィクスなど、たちどころにすべて完璧にこなせてしまうはず。 でも、現実にはそうなっていない。人間と機械では考えるという行為の目的が違うことを知らなければならない。完全自動運転を実現するには、人間が走らせるということが前提の道路づくりを全部変えるところから始めなければ不可能だと思います。 自動運転はまずアメリカで飛び出し、欧州、日本と追従しているものです。これまでも米国や欧州はいろいろなバラ色のロードマップを描くことがありましたが、必ずしも世の中がそうなるとは限らないことも頭に入れておくべき」(ロボット開発者) 自動運転のニーズは多い。過疎地に住む高齢者をはじめとするモビリティ弱者や長距離トラックなどは、自動運転時代が来ればその恩恵を大きく受けられることだろう。 しかし、その実現は現在の正常な技術進化の延長線上にはない。もちろん技術開発競争に負けてはいけないが、プロパイロットの意味合いを誤解して世の中が間違った期待をかけると、技術の方向性やインフラ整備の方向を誤らせる原因にもなりかねない。 あくまでクルマを使ったモビリティは人が主体という時代が続くという現実を踏まえながら、それから脱するにはどうしたらいいかということを考えていく必要がある。関連記事■ 乳がんの小林麻央 全摘出しなかったのはなぜなのか?■ 眞子さまがエコノミーで渡英 秋篠宮家の質素倹約と台所事情■ 浴衣の新人レースクイーン「ずっと私のことを応援し続けて」■ 鳥越俊太郎氏 ネットとテレビでなぜ評価が異なるのか■ 写真集が話題・深田恭子の体の仕上がりを撮影した写真家語る

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    トヨタ、日産は大丈夫か? トランプショックはこうやれば乗り切れる

    片山修(経済ジャーナリスト) 米大統領選でのドナルド・トランプ氏の勝利は、日本の経済界に衝撃を与えた。最大の懸念は、環太平洋経済連携協定(TPP)からの離脱など、トランプ氏の保護貿易主義の姿勢だ。 オバマ米政権は11日、任期中のTPPの議会承認を見送る考えを明らかにした。トランプ氏との対立を防ぐためだ。これにより、世界の国内総生産(GDP)の4割を占める巨大経済圏確立の道筋はほぼ閉ざされた。 さらに気がかりなのは、米国がカナダ、メキシコと結んでいる北米自由貿易協定(NAFTA)の行方だ。 かりに、米国がNAFTAから離脱するとなれば、カナダやメキシコから無関税で米国に製品を輸出することはできなくなる。米国内からメキシコに生産拠点を移管してきた日本の自動車メーカーは、北米戦略そのものを大幅に見直さざるをえない。窮地に陥るわけだ。 トヨタ自動車は、メキシコでピックアップトラック「タコマ」を年8万2000台生産している。19年の稼働に向けて、メキシコ・グアナフアト州に生産能力20万台の新工場の建設も進行中だ。 日産自動車は、メキシコに2つの工場をもつ。生産台数は、55万5000台と31万6000台だ。16年までにメキシコの生産能力を年100万台に引き上げる計画である。 ホンダは、メキシコに2つの工場をもち、米国向け「フィット」など、合計28万台を生産している。 また、マツダは、メキシコ・グアナフアト州の工場で米国向け「Mazda3」(日本名マツダアクセラ)など、28万台を生産している。 加えて、日本の自動車メーカーの完成車工場の周辺には、デンソー、日本精工、リケンなど、多数の自動車部品メーカーが進出している。その中には、中小企業も少なくない。 では、日本の自動車メーカーにとって、「トランプ・ショック」は文字通り危機そのものなのか。北米戦略は見直さざるを得ないのか。80年代の日米貿易摩擦のように日本車はやり玉にあげられるのだろうか。“いいクルマづくり”に磨きをかけよ いや、必ずしもそうはならないだろう。なぜならば、いまや経済はグローバル化し、相互依存関係が緊密化しており、日米の二国間で通商問題を解決することなどできなくなっているからだ。 第一、メキシコには、米国のGMや独のBMWの工場のほか、フォードの工場進出の話も出ている。部品調達に関しても、サプライチェーンが世界中に張り巡らされており、米国産の部品だけでクルマを生産するのは到底不可能だ。ましてや、自動車メーカーに限らず、日系企業による雇用創出は70万人を超える。日本企業を排除する保護貿易主義のシナリオは考えられない。 そもそも、世界首位の経済大国アメリカが、かりにも保護主義に傾斜すれば、貿易停滞により、世界経済は足元から揺らぐことになる。それは、米国の利益にならないばかりか、他国からの猛反発を受ける。根っからのビジネスマンのトランプ氏は、安易に国益を最優先する「米国第一主義」を押し通すことは考えられないというのが、まずは常識的な見方だろう。 だからといって、楽観視することもできないのは確かだ。トランプ氏の選挙中の言動などからして、少なくともゴタゴタは避けられない。覚悟しておいたほうがいい。 対策として大事なことは、これを機に経営トップに現地人を積極的に登用するなど、一層の現地化すなわち土着化の道を突き進むことである。 それからトヨタの豊田章男氏が日ごろからいっているように、“いいクルマづくり”に磨きをかけることに尽きる。トヨタは1997年、世界初の量産ハイブリッド車両「プリウス」を発売し、世界をあっといわせた。残念ながら、FCV「ミライ」は先進性が評価されても、ヒット車とはいえない。 自動車はいま、AI、ロボット、ビッグデータなどのほか、衝突安全、自動運転などを取り込みながら大きく様変わりしようとしている。日本の自動車メーカーが競争力を高めるには絶好のチャンスだ。トランプ次期政権の経済政策がどのようなものになろうとも、日本の自動車メーカーは従来通り、技術やブランド価値を上げ続けることができれば、変革の時代を乗りこえることができるのではないだろうか。

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    SOSは届かない 電通女性社員を死に追いやった「職場の常識」

    常見陽平(千葉商科大学 国際教養学部専任講師) 過労死はいつになると、死語になるのだろう。思えば、私が労働問題に興味を持ったのは、10代の頃に見た「過労死」に関するドキュメンタリーだった。「“俺がいないと職場が回らない”とAさんは言っていた。倒れたその日も、会社は普通に動いていた」そんな内容のナレーションを今でも覚えている。人が会社で死ぬという事実に衝撃を受けた。この「過労死」という言葉は1980年代に生まれた言葉だ。それ以前は「突然死」と呼ばれていた。高橋まつりさんの遺影と母親の幸美さん=10月7日、東京・霞が関 あれから数十年経ったが、「過労死」は死語になっていない。今でも日本人は職場で死んでいる。この10月にはこの「過労死」をめぐって、大きな出来事があった。厚生労働省が『平成28年版過労死等防止対策白書』を公表したこと、そして昨年、大手広告代理店電通で起きた過労自殺の問題である。 特に後者については、過去にも過労自殺事件が起きていること、新入社員の女性が何度もSNSでパワハラを受けていることや、過重労働で病んでいる状態にあるなどの危険信号を発信していたのにも関わらず悲しい結果になったことなどが問題視されている。 まずは、今一度、『平成28年版過労死等防止対策白書』を今一度、噛み締めたい。もともと、この白書を発表することは数年前から決まってはいた。ただ改めて、いま、国が大規模な調査を行い、発表する意味を噛み締めたい。概要版だけでもかまわない。これは過労死で亡くなった人、その遺族、職場で過労が原因で体調不良になった者の悲痛な叫びの塊である。我が国の労働社会を理解する上でも、極めて有益である。改めて、働きすぎ社会であることを再確認するとともに、対策を考える機会としたい。 後者の電通過労死事件に関しては、「電通」「東大卒」「女性」「新人」「母子家庭出身」などのキーワードが注目されたり、先日あったネット広告の不正請求と絡めて叩く意見も散見される。私も同社や、その経営陣、管理職の責任は重いと感じるが、彼女の死を無駄にしないためにも、怒り、憤りをこらえつつ、もちろん下世話な勘ぐりも捨てた、冷静な議論が必要だと考える。 電通には、労基署の抜き打ちの立入検査も行われたのだが、遺族への償いをするとともに、再発防止に向けての対策が必要だ。社内調査もそうだが、第三者委員会を設置した上で、状況を社外に開示するなどの取り組みを行うべきだ。同社はコミュニケーションのプロであるはずだ。社会がどうすれば納得するのかは理解しているはずである。単なるごまかしではなく、どこまでの対策をすれば十分かをよく考えて欲しい。「精神論」に答えを求めるな ここで気をつけるべきは、大手広告代理店や、電通という企業の「特殊性」にとらわれた議論にしないことである。同社は「電通鬼十則」といわれるものが伝承されていると言われる。これは電通だけでなく、他社の社員にも信奉者がいる。私も新人時代に先輩から渡された。仕事はここまでやるのだという厳しさが語られている。美談とされるが、この手の「体育会的」いや「軍隊的」な体質が今回のような悲劇を生んだという批判もある。あるいは、大手広告代理店にありがちな「クライアントファースト」的な考え方である。たしかに、金曜日の夕方にクライアントから「資料よろしく」と言われれば断れることのできない業界ではある。 ただ、この手の問題は「精神論」に答えを求めてはいけないと私は考える。もう一歩踏み込んで、「なぜ、そんな精神が強要されてしまうのか」ということを考えなくてはならない。電通や大手広告代理店は既得権ビジネスであるはずなのだが、それ「だけ」では決定的な差別化にならず、「人間力」なる曖昧なものが求められてしまう。電通ですら(電通だからという声もあるかとは思うが)ここまでやらないといけないのだ。 これは、電通のこの案件「だけ」を攻撃するのではなく、自分事として捉えるべきではないだろうか。商品・サービスの決定的な独自性、優位性がない状態で、成長が鈍化した市場で戦わされ、誰もが昇進・昇格を目指して(あるいは少なくとも評価が下がらないことを目指して)競争させられる、任される仕事の範囲も明確ではない労働社会を私たちは生きている。不安を煽るわけではないが、明日は我が身なのだ。 我が国は「働き方改革」が大きなテーマとなっている。取り組み項目の中には、長時間労働の是正があげられている。今回の事件だけではなく、我が国は、職場で人が死ぬ社会なのだ。過労死、そしてその予備軍をいかに減らすかを考えることは急務だと言えよう。 この「働き方改革」をめぐる議論自体、労と使の利害関係が一致しないことが早くも可視化されているし、中堅・中小企業や、非正規雇用や個人請負などの人たちの視点がどれだけ取り入れられているのかは大変に不安な要素ではあるが、どうか、人が職場で死なない世の中をつくるために議論を深めて頂きたい。 「働き方改革」と言いつつ、それは良くも悪くも「働かせ方改革」でもある。さらには「働き方改悪」になってしまってはいけない。労働者を救うことを装って、より搾取に向かう改革にならないか、私たちは監視する必要がある。どんな労働社会をつくりたいのか、何日、何時間、どんなふうに働く社会をつくるのか。全体像がぼやけている。あえてぼかしているのか、実は具体像などないのか。これも我々が見極める必要があると言えるだろう。 何より、まず同じ職場や家庭で、仕事に疲れている人、働きすぎの人、嫌な想いをしている人がいないか、ケアをしよう。人に優しくすることから始めよう。過労死をいつか死語にするための取り組みが必要だ。

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    理不尽さを受け入れる「美徳」が招いた電通女性社員の悲劇

    大内裕和(中京大学教授) 広告大手電通に勤務していた高橋まつりさん(当時24歳)が、2015年12月24日に過労自殺し、今年9月に労災認定されました。東京労働局が10月14日、実態解明のため東京本社を立ち入り調査しました。まずは、亡くなられた高橋さんに心から哀悼の意を表したいと思います。このようなことが二度と起こらないよう、大学で教鞭をとっている研究者として、微力を尽くしたいと考えています。この文章もその一つとなることを願っています。 電通では1991年にも入社2年目の男性社員が過労自殺し、損害賠償請求で最高裁までもつれ、2012年に「会社は社員の心身の健康に注意義務を負う」と判断されました。過労自殺が繰り返されたということは、それを生み出す会社の体質が変わっていないということを意味します。今回の電通をはじめ、日本では過労死事件は繰り返し起こっています。アメリカやヨーロッパ諸国では、同様の過労死事件は起きていません。なぜ、このような過労死事件が日本社会からなくならないのでしょうか? 第一に長時間労働の蔓延と労働時間規制の弱さがあります。2016年に出された『過労死等防止対策白書』によれば、日本において、週49時間以上の労働をしている労働者の割合は男女合わせて21.3%です。韓国の32.4%には及びませんが、アメリカ、イギリス、フランス、ドイツなど、アメリカやヨーロッパ諸国のどの国よりも高くなっています。 白書によれば、過労死ラインとされる「月80時間超」の残業をした社員がいる企業が23%もあり、業種によっては4割を超えています。長時間労働が蔓延していることが分かります。どうして長時間労働がなくならないのかというと、労働時間規制が余りにも弱いからです。労働基準法第32条では下記のようになっています。第32条 1 使用者は、労働者に、休憩時間を除き1週間について40時間を超えて、労働させてはならない。 2 使用者は、1週間の各日については、労働者に、休憩時間を除き1日について8時間を超えて、労働させてはならない。 1日8時間、週40時間以上労働させてはならないという法律は存在しています。しかし、労働基準法第36条に使用者が労働時間を延長できる規定があります。この条文に基づくいわゆる「36(サブロク)協定」で決めれば、労働時間を延長して残業させてもよいことになっています。しかも、36協定で定められる上限の労働時間について規制がありません。厚労省は協定を結ぶ際に、月45時間、年360時間の限度基準を示していますが、拘束力がありません。さらに特別の事情があればさらに延長できる「特別条項」がありますから、残業時間は事実上、青天井ということになります。学校教育に「働き過ぎ」を容認する根幹 また、労働基準監督官の人員不足という問題もあります。労働基準監督署で監督指導するのは、国家公務員である労働基準監督官です。全国に配置されている労働基準監督官は、2010年5月のデータで2941人(本省23人、労働局444人、労働基準監督署2474人)です。雇用者1万人あたりの監督官の数はドイツの3分の1にとどまっています。世界的に見ても労働基準監督官が人員不足の現状で、違法企業全てを取締まることは困難でしょう。 第二に、過労死を生み出すような「働き過ぎ」を容認する意識が、社会全体に根強く存在していることです。その意識は、社会の様々な要素によって構成されています。特に子どもの頃から受けている学校教育は、重大な役割を果たしていると見ることができます。 中学校や高校における部活動は、その参加のあり方や活動の仕方が、個々の生徒よりも部という集団を優先する傾向が強くあります。部活動はその活動の主旨からいって自主的な参加が原則であるはずですが、部活動に加入することを生徒全員に強制する学校もあります。また、部活動におけるさまざまなルールは、それが理不尽なものであったとしても「受け入れる」ことがメンバーに強制される慣習が色濃く残っています。そこでは一人ひとりの個人の意見よりも、集団の秩序を維持することが優先されることがしばしばあります。 それに加えて、教員の部活顧問までが強制となっています。部活動は自主活動であって、教員の本来業務ではありません。ですから、部活の顧問を引き受けるかどうかは本来、教員の自主的な判断にゆだねられるべきです。しかし、実際には部活動の顧問を引き受けることが強制されており、このことが現在、大きな社会問題となっています。こうした理不尽なルールを受け入れることが強制されている学校の部活動を、私は「ブラック部活」と呼んでいます。ブラック部活での長時間の活動や集団主義への同調圧力は、過労死を生み出す企業の構造と実に良く似ています。 ブラック部活に加えて、高校生や大学生時のアルバイトのあり方も長時間労働と深く関わっていると考えられます。近年、高校生や大学のアルバイトは大きく変化しました。かつてのアルバイトが比較的責任の軽い労働をしていたのに対して、近年は低賃金であるにもかかわらず、責任の重い労働を強制するアルバイトが急増しています。 私はこのような「学生であることを尊重しないアルバイト」を、2013年6月~7月に「ブラックバイト」と名づけました。ブラックバイトが高校生や大学生の間に蔓延していることは、ブラック企業対策プロジェクトや厚生労働省の調査で確認されています(詳しくは大内裕和『ブラックバイトに騙されるな!』、集英社クリエイティブを参照)。ブラックバイトは、かつては正規雇用労働の「補助」労働であったアルバイトが、職場の「基幹」労働となったことを意味しています。会社に「気に入られる」人材づくりも問題 アルバイトであるにもかかわらず、厳しいノルマやシフト設定、自爆営業、他店舗へのヘルプや新人育成、店舗の営業成績への貢献など、とても高いレベルの労働が求められるようになっています。こうした働き方に慣れている学生たちは、卒業後の職場での長時間労働やブラック企業に直面しても、それに疑問を感じることすら困難です。むしろ、アルバイトの時よりも大抵の場合は賃金が上がるのですから、過酷な労働を当然のように考える傾向が強いと思います。 高校や大学に広がったキャリア教育も、長時間労働に疑問を持たない構造を助長しています。近年のキャリア教育は、就職難の時期に導入・拡大したこともあって、各高校・大学の卒業後就職率引き上げの手段としての意味を、強く持たされることとなりました。そのことから、キャリア教育の多くが企業に「気に入られる」内容を中心とするものになっています。高校生や大学生の時から、企業に適応することを刷り込まれているのです。これでは長時間労働に疑問を感じたり、批判を行うことは困難でしょう。 過労死事件をなくしていくためには、どうしたらよいでしょうか? 対策は大きく分けて二つあります。第一に労働時間の規制強化や公契約法・公契約条例の活用です。労働時間の規制強化のためには、労働時間の上限を決めて規制すること、それから就業から始業までの時間の規制(インターバル規制)を実現することが大切です。また、近年増加しつつある公契約法・公契約条例を活用することも効果があります。 国や地方自治体レベルで、「過労死を起こした企業とは、一定期間公契約の締結が許されない」「一定の労働基準法違反を繰り返した使用者とは、一定期間公契約の締結を結ばない」などの法律や条例を制定することです。国や自治体との取引が停止されることは、ほとんどの企業に大きな打撃を与えますから、効果は大きいと思います。労働法を順守し、まともな労働条件の企業が生き残る点で、公正な企業間競争を促進する意味もあります。理不尽なルールの受け入れを「美徳」とする風潮 第二に、学校教育における労働法(ワークルール)教育の充実・必修化です。未払い賃金や罰金、自爆営業、辞めたくても辞めさせてもらえないなど、高校生や大学生の多くが、アルバイトの労働現場で違法状況にさらされています。この点で最も責任が重いのは、使用者側であることは明らかです。違法行為を行っている使用者に対しては、適切な指導や罰則の強化が早急に行われなければなりません。 それに加えて、高校生や大学生に労働法についての基礎的な知識が欠けていることも、違法で過酷な労働が蔓延する一つの要因となっています。これを是正するためには、高校や大学において労働法(ワークルール)教育の充実さらには必修化を行い、すべての生徒・学生が基本的な知識を習得することが重要だと考えます。 労働法教育の充実・必修化の効果はブラックバイトの改善だけではありません。ブラック部活や「企業に気に入られる」内容のキャリア教育にも、変化を及ぼすこととなるでしょう。労働法教育の充実・必修化によって、子ども一人ひとりの尊厳よりも集団秩序への適応を重視し、理不尽なルールを我慢して受け入れることを「美徳」とする日本の学校文化を変革することが、とても重要な課題であると私は考えます。