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    むやみに脱プラしたがる欧州の「エゴ」に日本はどう付き合うべきか

    小倉正男(ジャーナリスト) 脱プラスチック、すなわち脱プラの取り組みが加速している。 その背景には、プラスチックごみによる海洋汚染が世界的に注目されたという事情がある。環境問題に敏感な欧州連合(EU)、そして環境について無関心なトランプ政権のアメリカにおいてもカリフォルニア州など各州ベースで脱プラに向けての規制が導入されている。 環境汚染が深刻化する中国は、日本や欧米からプラスチックごみを輸入していたが、2017年に李克強首相が「海外ごみの輸入を厳しく禁じる」と表明。18年1月からプラスチックごみをはじめとする資源ごみを原則輸入禁止とした。 日本は脱プラの取り組みが遅れていると言われてきたが、今年6月に原田義昭環境相(当時)が「レジ袋の無料配布を廃止する」と発表。コンビニなど多くの店舗で無料配布されているプラスチック製レジ袋を一律に有料化する法改正を実施すると宣言した。すでにスーパーなどはプラスチック製レジ袋の有料化に踏み込んでおり、レジ袋を廃止する企業も出てきている。 少し余談となるが、9月末に開催された国連気候行動サミットでは、小泉進次郎新環境相が地球環境問題に関連して「楽しくクールでセクシーに」と発言して国内メディアに揶揄(やゆ)されたりした。アジェンダ(議題)としての本質上、なかなか「クールでセクシー」というわけにもいかない。だが、ともあれ日本の脱プラも後戻りできない状況となっていることは間違いない。 しかし、お国の動向を待つまでもなく、企業は脱プラに動き出している。 アパレルの世界的企業であるH&M(エイチ・アンド・エム=スウェーデン)は、2018年12月にプラスチック製袋を廃止し、手提げ用紙袋に切り替えた。しかも、紙袋は有料化(20円)、結果として客にエコバッグ携帯のショッピングをアピールした。 さらに今年4月に東京・銀座並木通りにオープンした世界旗艦店の「無印良品 銀座」は原則としてプラスチック製包装袋を廃止して、手提げ用紙袋を採用した。寝具のような一部の大型商品にはプラスチック製の袋が用意されるが、有料化(150円)されている。次回来店時に返却すれば、キャッシュバックされるシステムが採られている。 同店はさらに、「マイバック」として、コットンや麻素材の低価格なバッグを並べて購買を促している。さらに、商品をつり下げているフックをプラスチック製から紙製のものに切り替える試みも行っている。無印良品としては、このやり方を銀座店から全店に広げていくと宣言し、エコ・イメージをアピールしている。 4月にリニューアルオープンした「銀座ロフト」もプラスチック製袋を紙袋に全面的に切り替えた。ロフトも脱プラの動きを今後、全店に広げていくと表明している。インドネシアの海岸にたまったプラスチックごみ=2018年4月(ロイター=共同) このように、流行の発信地である銀座から脱プラの動きがスタートしたことは今後の動向にインパクトを持つことになる。「紙袋はエコでクールだ」、という価値観やライフスタイルが広がっていく可能性も高い。日本の場合、動き出せば、一気に浸透していく傾向がある。もはや脱プラの動きは避けて通れない、と判断し、前向きに取り組む企業も増えてくるだろう。 H&M、無印良品などのように、いち早く先手を打って脱プラ、すなわちプラスチック製袋廃止に取り組めば、企業や店舗にとってエコ・イメージをアピールできる。企業としては、脱プラが避けて通れない経営事案であるとすれば、企業・店舗のエコ・イメージを向上させる経営オプションとして躊躇(ちゅうちょ)しないというわけである。紙袋は本当にエコか イオングループは、2007年から一部の店舗でレジ袋の有料化を行っていたが、コンビニのミニストップやドラッグストアのウエルシアホールディングス(HD)もプラスチック製レジ袋の有料化を拡大。化粧品、健康食品メーカーのファンケルは今年3月に紙袋への転換を打ち出した。そして遅ればせだが、今年9月にユニクロのファーストリテイリングも追随した。  脱プラの当面の主役は、プラスチック製レジ袋に代わる、手提げ用の紙袋にほかならない。紙袋で最大手企業であるザ・パックは「色々な企業から紙袋に引き合いが活発化している」(藤井道久常務コーポレート本部長)と表明。紙袋製造企業は百貨店の退店などにより低迷に直面していたが、脱プラによって需要に強い追い風が吹いている。 ただ、紙袋が完全に「エコ」であると言い切れない面もある。紙製品はもちろん自然由来であるが、木材チップからパルプ、パルプから紙に加工する段階で大量の重油を使用する。また森林資源の保全という問題も抱えている。 紙関連業界は、FSC(フォレスト・スチュワードシップ・カウンシル=森林管理協議会)認証を取得して森林保全に配慮する企業姿勢を見せているのだが、自然由来だけに、紙製品を大量に供給・消費すれば森林資源の枯渇につながりかねない。脱プラでプラスチック製袋から紙袋に需要が切り替わるのは確かに悪いことではない。しかし、それはそれで手放しで良いことばかりではないのだ。 脱プラの切り札として、当面は紙袋に需要が大きく回帰するのは間違いない。だが、紙袋の問題は、企業にとってプラスチック製袋に比べるとコスト面でかなり割高である。しかも今後、さらに価格が上昇していく可能性もある。紙袋に入れた商品を手渡すH&Mジャパンの男性従業員=2019年2月、東京都渋谷区 2018年後半には製紙大手企業が紙袋の原材料となるクラフト紙の15%超の値上げを実施した。製紙企業は、原材料である木材チップ、パルプ価格の上昇を値上げの理由としている。製紙企業は人手不足による物流費高、人件費の高騰なども値上げの理由として並べている。 紙袋企業はクラフト紙などの原材料高を受け、製品価格への転嫁を進めているが、脱プラにより紙袋への需要が一極集中するといった事態が起こっており、こうした需給要因からも価格転嫁が浸透しているのだ。日本は「プラ」で勝負を このように、紙袋の最終的な顧客である企業・店舗の需要者側は、紙袋のコスト負担に苦しむことになりかねない。紙袋のコスト負担がさらに増加すれば、外資系アパレル企業のH&Mのように紙袋を有料化して、客に一部を負担させるということに帰結していくことも考えられる。しかし、仮に紙袋を10~20円で有料化を行っても、提供する企業・店舗側はそれでも持ち出しで赤字とみられる。 H&Mが先行して行った紙袋の有料化は、結果的には今後の新しい「世界基準」という見方もできる。同社は苦し紛れに自社の紙袋コスト負担を軽減するために紙袋有料化を行ったわけだが、これは客のエコバッグ携帯を促進するには、理論的にも正当なやり方という見方もできる。ただし、これはまだ決定的なトレンドにはなっていない。 「紙袋が有料化されるのか無料配布となるのか世界的にもまだはっきり見えていない。日本でもアパレル企業、あるいは百貨店、専門店、化粧品企業などでそれぞれ取り組みが異なっている」(紙袋業界筋)。 現状は紙袋を有料化するのか無料なのか、はっきりしたトレンドにはならずカオス状態である。それだけに各企業はプラスチック製レジ袋を紙袋に切り替える段階で「有料化か無料化か」という判断に迫られる。各企業としては、どう判断するか悩ましい状況と言える。 そもそも、日本が脱プラに遅れたのは、プラスチック生産で世界5位、日本人 1 人当たりのプラスチックごみ廃棄量が世界2位に位置していることと無関係ではない。 プラスチックは、安価で造形性に優れ、しかも耐久性があり、ありとあらゆるモノに用途拡大を成し遂げてきたのが現実である。 プラスチックは鉄やセラミックなどの特殊産業分野まで代替してきており、半導体関連などを含めてハイテク製品でもプラスチックが席巻しており、まさに技術革新(イノベーション)のたまものと言える製品ジャンルである。G20エネルギー・環境相会合で環境負荷の少ない素材で作ったコップを手にする世耕経産相(中央)。右は原田環境相※共に当時=2019年6月、長野県軽井沢町 世界的な脱プラの動きは、日本のプラスチック関連業界を直撃するが、過去がそうであったように技術革新で生き残るしかない。取り換えがきかないと思われてきた特殊産業分野などはまだまだあり、プラスチックは他の素材の代替する用途開発が進められることになる。 逆境をテコに環境のサステナビリティーと調和を目指す、分解できるプラスチック製品の提供なども今後の開発の焦点になるとみられる。

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    PayPayを他山の石にできなかった7payの「脆弱性」

    佐野正弘(ITライター) セブン&アイ・ホールディングスが7月より提供を開始したスマートフォン決済サービス「7pay(セブンペイ)」が、サービス開始当初からセキュリティーに大きな問題を抱えていたことで不正利用が相次ぎ、3日間で900人、合計約5500万円の被害に遭ったことが分かり、メディアで大きく報じられている。不正利用による逮捕者も出たことで、非常に深刻な事態を生み出していることが分かる。 だが、問題はそれだけにとどまらない。7月4日に7payの運営会社であるセブン・ペイが実施した記者会見で、同社の小林強社長が、記者から「2段階認証」を導入していない理由について問われた際、2段階認証そのものを知らない様子を見せたことが、大きな驚きをもたらした。 2段階認証とは、要するにインターネットサービスでよく用いられているIDとパスワードによる認証に加え、もう一つ別の手段を用いて認証するというものだ。 IDとパスワードが盗まれても、不正利用されないように、ID・パスワードとは別の方法で認証する仕組みが用いられることが一般的だ。携帯電話のショートメッセージ(SMS)に送信したコードを入力してもらう方法と聞けば、実際に使った人もいるかもしれない。 最近では、7payと同じスマートフォン決済サービスをはじめ、多くのインターネットサービスがセキュリティー向上のため2段階認証を用いているが、7payには導入されていなかった。 つまり、2段階認証を導入していなかったため、犯人側が何らかの手段でIDとパスワードを入手するだけで、容易にサービス利用ができてしまう状態だった。まだ明確には判明していないようだが、不正利用の原因の一つになったのではないかといわれている。 そうしたことから、記者会見で先述の質問が出たのも当然だ。ところが、セキュリティーが強く求められる決済サービスを提供する企業のトップが、そうしたインターネットセキュリティーの基本というべき要素を知らない様子を見せてしまったのである。セブン・ペイ側の認識の甘さを示すとともに、批判が一層高まる要因になったといえるだろう。記者会見するセブン・ペイの小林強社長(中央)ら=2019年7月4日 7payはその後、サービスの新規会員登録や料金のチャージを停止し、セキュリティー向上のためのシステム改善を実施しているとみられる。だが、今回の「7pay問題」は、大きく二つの問題を露呈したといえる。まず、先の会見で示されたように、サービスを提供する事業者側のセキュリティー、ひいてはITやテクノロジーに対する意識の低さや、認識の甘さである。もう一つ浮上した問題 先の会見では、セブン・ペイ側が実施したテストでは、セキュリティーの問題が見つかっていなかったと明らかにしている。だが、仮に現場レベルで2段階認証のような問題に気づいていたとしても、実際にサービスを提供する企業の側が「2段階認証が重要」という意識を持っていなければ、そもそもテストにチェック項目として盛り込まれることはないだろう。むしろ、サービス提供を早めるため、そうした要素をカットするよう要請してくるかもしれない。 7payのシステムも、セブン・ペイ自身で開発している訳ではなく、外部の企業に発注して開発されているものと考えられる。それゆえ、発注するセブン・ペイ側に、テクノロジーに関する十分な知識を持つ人がいなければ、自社のビジネスを優先してそうした判断をすることも十分起こり得る訳だ。 だが、現在では、国内向けのサービスであっても海外から不正利用されるケースも増えており、セキュリティーへの対処が従来よりも高レベルで求められている。実際、今回の7payに関しても、不正利用の大部分が海外からのアクセスであったことが明らかにされている。さらには、一連の問題で中国人が逮捕されたことなどから、中国を拠点とする犯罪組織が関わっている可能性が疑われている状況だ。 スマートフォンやインターネット技術の活用は今後、多くの企業にとって一層欠かせないものになる。それだけに、対応するサービスを開発し、安心・安全を実現する上で、テクノロジーに詳しい知識を持つ人材が一層重要になってくるはずだ。 だが、今回の事件はある意味、日本企業のテクノロジーに対する重要性の認識の乏しさを露呈したともいえる。テクノロジーの重要性を理解し、自ら知識を持たないのであれば、外部から詳しい知識を持つ人間を連れてくるなど、多くの対策を採る必要があるだろう。 そしてもう一つ浮上した問題とは、スマートフォンを活用した決済サービスに対する信頼を大きく損なったことである。「7pay」をPRするセブンーイレブン・ジャパンの永松文彦社長=2019年7月1日 ここ1、2年のうちに、中国で人気となった2次元バーコード「QRコード」を活用したスマートフォン決済サービスに参入する企業が相次いでいる。2019年にも、7payをはじめとして、ゆうちょ銀行の「ゆうちょPay」やKDDIの「au PAY」、メルカリの「メルペイ」など、大手企業がこぞってQRコード決済に参入。連日のように大規模な顧客還元キャンペーンを実施し、大きな話題を振りまいている。 なぜ、これほどまでに、各社がQRコード決済にこぞって参入しているのだろうか。何よりもまず、日本政府がキャッシュレス決済を推進しており、そこに多くの企業がビジネス機会を見いだしたためだろう。そしてもう一つは「データ」活用だ。必死の「囲い込み」 QRコード決済を提供する事業者は、自社の決済を利用してもらうことにより、いつ、どこで、どんな人が、何を買ったのかという情報を取得できるようになる。取得の際には、もちろんプライバシーへの配慮は必須だ。 そうしたデータを多数集積し、人工知能(AI)技術などを活用して分析することで、企業のマーケティング活動に使ってもらったり、個人ローンなどの信用情報に活用したりする。こうした新たなビジネスを開拓することがサービス提供事業者の大きな目的となっている訳だ。 セブン&アイ・ホールディングスは元々電子マネーサービスの「nanaco(ナナコ)」を提供していた。それでも、あえて7payを導入したのには、そうした顧客の購買データを用いた一層密なマーケティングをしたかったがためといえる。 だが、データをビジネスに生かすには、膨大な量のデータを収集する必要がある。それゆえ、各社ともサービス提供開始を急ぎ、開始直後に大規模キャンペーンを打つことで、顧客の囲い込みに必死になっているわけだ。 しかしながら、サービス提供を急ぐあまり、セキュリティー問題が生じて不正利用が多発したケースは、7payだけではない。ソフトバンク系の「PayPay(ペイペイ)」も、2018年末の大規模キャンペーンをきっかけとして、セキュリティー上のいくつかの問題から不正利用が多発し、大きな問題として取り沙汰されるに至っている。 それにもかかわらず、7payで再び大規模な不正利用が起こってしまったのである。このような状況では、やはり自社のビジネスを優先し、サービス提供と顧客獲得を急ぐあまり、「セキュリティーをおろそかにした」と消費者に捉えられてもおかしくない。そして、そうしたトラブルが起きるにつれ、QRコード決済全体への信頼が大きく揺らぐことにもつながってくる。2018年12月からスタートした「ペイペイ(PayPay)」だったが、20%還元キャンペーンの影響で決済が集中してサービスが一時停止したり、不正利用が多発した(早坂洋祐撮影) 日本は現金決済への信頼が非常に強い国であり、それがキャッシュレス決済の普及を阻む大きな要因と言われている。そのキャッシュレス決済を普及するための切り札として注目されたQRコード決済で、こうしたトラブルが相次げばキャッシュレス決済の普及を一層遅らせることにもなりかねない。 キャンペーン競争の過熱が続くQRコード決済だが、むしろ今後は信頼を高めるための取り組みが強く求められることとなりそうだ。■ 「24時間はもう限界」ブラック就労、店主の叫びはセブンに届くか■ 日本式コンビニの未来には絶対に譲れないギリギリの「生命線」■ くら寿司にセブン、バイトテロ「見せしめの法的措置」はむしろ逆効果

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    ジャニーさん亡き後だから、あえて贈る事務所への「忠告」

    藤井靖(明星大心理学部准教授、臨床心理士) SMAP解散、TOKIO山口達也の不祥事によるグループ離脱と退所、滝沢秀明の引退、関ジャニ∞(エイト)渋谷すばるの脱退と退所、そして嵐の活動休止表明。特に、ここ2、3年で、ジャニーズ事務所は幾度も「荒波」にもまれながらも、長年築いてきた芸能界のポジションを守り続けてきた。 しかし、事務所の創業者として大黒柱を担い続け、多くの所属タレントに慕われてきたジャニー喜多川社長の訃報は、事務所の今後の運営と発展という面においては、比較にならないほど大きな衝撃と影響を与えうるものであることは想像に難くない。 ジャニーさんの死去で失われるものは、あまりにも多い。まず、ジャニーさんに見いだされたことを恩義に感じているタレントが非常に多いということだ。ジャニーズ事務所では、自薦他薦による入所志望の可否判断をジャニーさんが一手に引き受けていたことは、よく知られている。 所属タレントとすれば、「ジャニーさんに見いだされた」という思いがあるゆえ、たとえ事務所のマネジメントや会社のあり方に不満があったとしても「ジャニーさんのために耐える」という心理になりやすい。事務所を否定することはジャニーさんを否定することでもあり、ひいては自身の価値、アイデンティティーにかかわるからだ。 その意味で、不平不満のはけ口となりうる「一つの大きな恩義」を失ったといえる。もし今後、新たな退所者が出るとすれば、これは大きな背景にもなるだろう。 二つ目は、事務所としての危機管理能力である。事務所のトップとしての行動として、有事の際に最終的に記者の質問に答えることは、当たり前といえば当たり前に思われるだろう。ただ、一方で撮影や録音はしないという合意が前提ながらも、時に記者の質問にNGなしで取材を受け、混乱を収める姿勢を見せたことは、事態収拾への道筋を作っていたと思われる。米ニューヨークのタイムズスクエア(ゲッティイメージズ) さらに、エンターテイナーとしてのロールモデル(手本)を失った。ジャニーさんは徹底的な現場主義としても知られ、生涯現役を貫いた。戦争を経験した彼は、「平和があってこそ芸能が成り立つ」との理念のもとに、米国のショービジネスへ触れたことをきっかけに事務所を興した。絶大な「ガス抜き能力」 「時代を追う」のではなく、「自分が時代を創る」という姿勢は、芸能に身を置くタレントにとっても、生き残りを図ったり、自己発揮していくための見本であり、道しるべであっただろう。だが、調子がよいときはともかく、問題はタレントが道に迷ったときである。ジャニーさんが亡くなったことで、大きな道筋を示せる存在はもういないからだ。 また、他者の敬服を前提に、「ジャニーズ事務所が地位を維持し続けるためのシンボル」としてジャニーさんは存在していた。ジャニーズの所属タレントのみならず、他事務所のタレントや関係者からも一目置かれ、先人としての敬意を持たれていたことは、訃報を受けた反応を見るに、齟齬(そご)はない。 とはいえ、弱肉強食の芸能界において、シンボルを失ったことによって潮目が変わる可能性がある。これを一つの区切りとして、同業他社がジャニーさんに気兼ねなく新たな事業を展開するという局面もあり得るだろう。 新人の発掘やスターの育成能力は、彼ならではであっただろう。履歴書の写真を見ただけで10年後の少年の姿が見えるとされた逸話があるように、彼がプロデュースしたタレントは例外なく売れた。 もちろん、希代の国民的スターに育ったSMAPには飯島三智マネジャーがいたように、敏腕スタッフが側近にいたことも大きい。しかし、原石を発掘し、「推し」を決めたのはジャニーさんだとされており、その眼力は結果を見れば明らかである。果たして、今後その役を担える人材は存在するのだろうか。※写真はイメージです(ゲッティイメージズ) また、ジャニーさんには上手な気配り、つまり「ガス抜き能力」があったように見受けられる。彼は所属タレントからも社長ではなく「さん付け」では呼ばせたり、タレント同士も「君付け」で呼び合ったりするなど、日本的な上下関係を嫌った。 これは、人間関係の中で生じるネガティブな壁を排除し、集団としての凝集性を高めるためでもあったと思う。また、一部のタレントにタメ口で接することを許していたのは、芸能界という厳しい環境にあって、事務所の社長でありながら家族的存在として支えていたと考えられる。 殊に、人が悩みや不安を抱えた際、一番の助けになるのは、専門家以上に家族の存在が大きい。いざというときに率直に相談できたり、支えられたりする関係性を普段から作っていたことは、年少のタレントをマネジメントしていく上で、目には見えないリスク管理であったと思われる。事務所への「忠告」 その意味でいえば、ジャニーさん亡きあと、事務所が決して行ってはならないのは、タレントとの関係性が極端にビジネスライクになることである。要するに、事務所関係者が所属タレントに「この事務所は大きく変わってしまった」と思わせないようなマネジメントが重要である。 そして一番大きいのは、精神的な支えを失ったことに尽きる。 ジャニーさんが多くの所属タレントにとって、精神的支柱になっていたことは想像に難くない。では、具体的にどのような形で精神面を支えていたかといえば、「人をその気にさせる力」があったということである。 組織内において、特に新人や若手のやる気を高めるには、本人のモチベーションに加えて、他者のエンパワーメント(後押し)が必要である。ジャニーさんはそれをよく理解していた。 ジャニーさんのエンパワーメントは、端的にいえば、所属タレントを愛し、認め、肯定的な評価を伝えることである。 中でも、人を認め、肯定的な評価を本人に伝わる形で発信するという面においては、類いまれなセンスを持っていたことを感じさせる。ジャニーズ事務所=2019年7月9日夜、東京都港区 言い換えれば、「人を褒め、やる気につなげる」ということであるが、心理学的には大きく三つの方法がある。具体的には、「直接的に行動や業績を褒める」「その人の存在自体、ならではの良さを認める」「間接的に褒める」であり、ジャニーさんはこの三つの方法を自然に駆使していた。 「直接的に行動や業績を褒める」ことは、一般にそれほど難しいことではない。やるべき何かをやったら褒め、認めるし、やらなければ認めない、褒めない、という単純な方法だからだ。ただ、これだけで人は育たない。「間接的に褒める」効果 「その人の存在自体、ならではの良さを認める」ことと「間接的に褒める」ことは学校や会社など、一般社会でも組織内マネジメントに活用されているとは言い難い。しかし、実は非常に大きなパワーやモチベーションにつながる方法なのである。 ジャニーさんは、「YOU(ユー)、やっちゃいなよ!」「ユー、来ちゃいなよ!」「出ちゃいなよ!」とたびたびタレントに伝えていたといわれる。しかも、いまだデビューもしていないタレントに対しても、である。これは、言い換えると「君ならできるよ」という、その人そのものを認めるメッセージであり、それを意気に感じない者はいなかったのではないだろうか。 そして、各人のキャラクターを認めた上で、おのおのが得意だったり、できそうな発揮の仕方を教示し、導いているようにも見える。これも、まず対象のタレントそのものの「良さ」を認めていて、その前提があってこそである。 また心理学的に、間接的に褒めることは、時に直接褒める以上の影響力を持つことがある。「あなたのこと、〇〇さんが褒めていたよ」と言われることが、直接褒められるよりも何だかうれしかった経験は、誰にでもあることだろう。 ジャニーさんは主にメディアを通じて、それを行っていた。滝沢秀明が引退、育成・プロデュース業への専念を発表したときに出された「社長メッセージ」は、最たるものだろう。本人以外の人間やメディアに対して、肯定的評価を発信することは、その本人のみならず、集団としてのモチベーションアップにつながることを、彼は知っていたのだと思う。 「社会人でプロならば、自分自身でモチベーションを高めてしかるべし」という見方もあるだろう。しかし、それだけでは、やはり限界がある。本人が持っている能力をさらに高めつつ、実際に発揮するためには、他者の介在が欠かせないのである。※写真はイメージです(ゲッティイメージズ) 一般社会の組織マネジメントにも通じる一つのモデルを、ジャニーさんは生き方を通して世の中に提示していたように感じるのだ。なお、これらのジャニーさんの行動に効果があったかどうかは、倒れた際や訃報に際しての所属タレントの言動を見れば、言わずもがな、である。 ジャニーさんの座右の銘であった「SHOW MUST GO ON(ショーは終わらない)」が貫き通せるかどうかは、彼に育て上げられたタレントが改めて価値を発揮できるかにかかっている。ジャニーさんのご冥福を心よりお祈りしたい。■ 僕だけが知っている「帝王」ジャニーさんの素顔■ 養子縁組も既定路線? ジャニー喜多川が滝沢秀明を溺愛する理由■ SMAPと嵐を失っても「ジャニーズ帝国」が没落しないワケ

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    コンビニがなくなる日

    もはや日常生活に欠かせないといっても過言ではないのがコンビニではないだろうか。だが、人手不足や働き方改革による24時間営業の限界に加え、食品ロスといった課題が追い打ちをかけ、コンビニのビジネスモデルは岐路に立たされている。新たな法規制の必要性も指摘されるコンビニは、この先持続できるのか。

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    日本式コンビニの未来には絶対に譲れないギリギリの「生命線」

    田矢信二(コンビニ研究家) 日本の24時間営業は、高度経済成長に伴う時代変化の中、福島県郡山市のセブン-イレブン虎丸店で、コンビニエンスストア本部の実験によりスタートしました。 その結果、「夜の売り上げだけでなく、昼間の売り上げも伸びる」ことが分かりました。この実験を受けて、コンビニ業界は拡大路線に舵(かじ)を切り、24時間営業が当たり前の「日本式コンビニ」に成長していきました。 今、それとは真逆の動きが、加盟店側である東大阪の店舗から起こりました。人手不足による疲弊や経営難を理由に、本部のアドバイスや契約を無視する形で、時短営業に踏み切ったのです。この加盟店の行動が、本部と加盟店の対立がクローズアップされる起点となり、24時間営業の是非が問われるようになりました。 それでも、コンビニ業界が24時間営業にこだわるのには理由があります。24時間営業こそがビジネスモデルの生命線だからです。ただ、人手不足などを背景に、コンビニが転換期を迎えているのも事実でしょう。 便利さと価値ある商品の追求を通して、日本人の生活に無くてはならないお店となったコンビニは、効率的な物流が最重要です。大手3社だけでも、全国店舗数の平均が約1・7万店という規模を考えれば、効率の良い物流に変化を加えることは、容易なことではありません。 さらには、物流のコスト増による影響で、商品単価の値上げなども予想できます。もし、顧客のニーズにあった価値ある商品を提供できなければ売り上げが減り、今までのような商品提供や便利なサービスの維持は難しくなるでしょう。セブン-イレブンの店舗前に停まるトラック(ゲッティイメージズ) 物流は出店戦略と綿密な関係性を有するため、マーケットが大きい商圏や競合対策を必要とする、どうしても出店せざる得ないエリアに対しては、集中出店がより強化されます。また、顧客争奪戦や売り上げの影響を受けやすくもなります。 そこで、集中的な出店を受けた加盟店経営者に本部が出店説明と個別対応の義務を徹底するなど、明確な基準を高めないといけないと思います。同時に、加盟店経営者のレベルに応じた出店や、複数出店の基準化を進めることも必要になってきます。加盟店改革に踏み切れない「壁」 フランチャイズ(FC)に関する法整備を望む意見もありますが、出店におけるガイドライン(指針)の策定が先ではないでしょうか。特に、店舗の集中するエリアに適用することにより、業界成長のコントロールができる方が自由競争に合っているのではないかと思います。 セブン-イレブンの直近データから算出すると、本部が負担する地代家賃は月平均90万円ほどになります。飲食店などのFCなら多額を要する開業資金も、コンビニなら300万円程度で経営者になれるメリットもあります。 FC契約を結べば、本部と加盟店が利益配分を行います。加盟店側にとっては、本部の「ロイヤルティー(加盟店料)」と呼ばれる経営サポート料やブランド使用料が高いと言われています。 社会構造の変化に合わせた加盟店改革を進めるには、3%前後のロイヤルティー減額が必要ですが、本部側も簡単には決断できないのではないでしょうか。 なぜ、そのように考えるかと言うと、コンビニの創業期と違って、商売経験のない人が加盟店経営者になる、いわゆる「脱サラ経営者」が増えているからです。今まで以上に、本部による加盟店サポートが必要になっています。 最低賃金の上昇に伴い、東京、神奈川、愛知、大阪の4都府県では、人件費が10年前と比べて、月平均で約30万円増えています。それだけでなく、そもそも出店競争がもっとも厳しいエリアでもあります。毎年上昇する人件費に加えて、人手不足によるパート、アルバイトの雇用が安定しない状態での経営は、加盟店経営者が休みなく店舗に出て、長時間労働を強いられる状態になりやすくなります。2019年4月、新社長に決まり、記者会見するセブン-イレブン・ジャパンの永松文彦副社長 その一方で、セブン-イレブン・ジャパンは、店舗数が2万店を超える巨大チェーン組織になりました。そのセブン-イレブンで起こった社長交代劇は、創業期以来トップから発信されてきた、細かい経営に関する情報伝達「機能」が低下したのが理由ではないかと私は考えます。 「たかが情報収集」と思われるかも知れません。しかし、2万店規模の組織の選択ミスが及ぼす影響は、商品の売れ行きだけではありません。加盟店ビジネスである以上、加盟店経営者との信頼関係をつくる上で大切なコミュニケーション不足を引き起こすのです。私が考える「未来型コンビニ」 コンビニ大手各社は、世耕弘成経済産業相から求められた「行動計画」で、店舗運営の省力化などの是正策を公表しました。しかし、この計画を実施しても問題が解決できないまま、先述したロイヤルティーの減額も実施されないのであれば、人件費の一部を本部が負担する加盟店支援を最優先に検討すべきでしょう。 さらに、初期教育なども合わせて本部が負担すれば、加盟店の環境改善が可能となります。ただし、忘れてはいけないのは、本部が加盟店支援をより強化すれば、加盟店側にとっても、本部の経営戦略を深く理解して、コンビニの売り場で実践していくハードルもより高くなることを意味します。これは、利益配分を変えることで本部の経営資源が変われば、企業としての経営体力を落としかねないからです。 私が考える「未来型コンビニ」とは、「21時間営業」や深夜の店舗無人化です。 なぜなら、物流における納品回数を考慮すると、3時間だけ閉めれば最小限の影響に抑えられるからです。また、店が集中している地域であれば、各店舗の閉店時間をスライドさせることにより、エリア全体としての「24時間営業」が可能となるでしょう。 いずれにせよ、エリアや地域の特性に応じて、個別対応もしくは選択制になっていくのではないかと考えます。 セブン-イレブン・ジャパンの創業は、コンビニの育ての親であるセブン&アイ・ホールディングスの鈴木敏文名誉顧問が海外研修で出掛けた米国で、偶然セブン-イレブンというコンビニを見つけ、小型店と結びつける日本式の発想ができた影響が非常に大きいです。セブン&アイ・ホールディングスの鈴木敏文名誉顧問=2019年2月撮影 とりわけ重要だったのが、鈴木氏が「仮説」を立てて挑戦することを全社員に求めたことにあります。まさに、業界の非常識といえる発想により、日本式コンビニの改革を継続して取り組むことができたわけです。 このような発想を持った鈴木氏を超える人が現れるのか、違った視点で革新を起こせるプロ経営者を呼ぶのか。そして、コンビニ業界のどのプレーヤーが「脱コンビニ路線」を掲げ、従来の路線を脱却できるかが、この問題の重要なターニングポイントになってくると私は思います。■「24時間はもう限界」ブラック就労、店主の叫びはセブンに届くか■くら寿司にセブン、バイトテロ「見せしめの法的措置」はむしろ逆効果■労働人口は過去最大なのに「人手不足感」が広がるナゾ

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    24時間営業のコンビニ調査、公取委は「人民裁判」をする気か

    山岸純(弁護士) 今年の2月頃、あるコンビニオーナーが独自の判断で24時間営業をやめ深夜に閉店したところ、本部から多額の違約金や契約の強制解除を要求されたといったニュースが話題になりました。 このニュースがきっかけとなったのかもしれませんが、最近、コンビニ業界に対し公正取引委員会が調査を開始するというウワサがまことしやかに流れています。 もとより公正取引委員会は、毎年さまざまな業界をターゲットに、その所管する法律である独占禁止法に違反する事案について調査を行っているのですが、この「独占禁止法」という法律、なかなか理解が難しい法律であるため、公正取引委員会が果たして何をやろうとしているのかについてもなかなか理解されません。 そこで、まず「例え」を使って、公正取引委員会が独占禁止法のもとで何をやっているのかを説明します。 例えば「日本がオリンピックで金メダルを獲得する方法」を考えてみましょう。2020年には日本で2回目となる夏季オリンピックが開催されますが、開催国としてはどうしても金メダルが欲しいところです。 そこで組織委員会は、①ある競技のある種目に出る選手を、全員日本人にすること②選手全員が打ち合わせをして、同時にゴールすること③日本の経済力を背景に他の国の選手にお金を渡して手加減させたり、脅迫して辞退させることを考えました。 上記三つの「金メダルを獲得する方法」はどう考えても卑怯(ひきょう)、不正、不公平な方法であり、オリンピック憲章に反するトンデモ作戦と言わざるを得ません。そのトンデモナイ方法を経済活動において禁止されるべき行動にあてはめると、それぞれ①私的独占、②価格協定(カルテル)、③不公正な取引ということになります。これらを禁止するのが公正取引委員会が運用する独占禁止法というわけです。 今回、もし、公正取引委員会が24時間営業などについて調査するのであれば、上記③について、すなわち、コンビニオーナーと本部の間に「不公正な取引」関係が存在するのかどうかを中心に行うことになるでしょう。会見する公正取引委員会の山田昭典事務総長= 2019年 4月 17日 、東京都千代田区(大柳聡庸撮影) 特に、コンビニオーナーと本部との間には、コンビニの売り上げ管理や商品管理、ロイヤルティー、ブランド維持、営業時間、キャンペーンなど、ありとあらゆる項目についてガチガチに定められたフランチャイズ契約があり、コンビニオーナーをぎしぎしと縛っているといわれていることから、相当厳しく調査されることでしょう。行政指導で変わらないワケ もともと「フランチャイズ」というシステムは、1850年代にシンガー社というミシンメーカーから始まったといわれています。 その後、日本でも1960年頃からフランチャイズシステムが誕生し、70年代には既に確立した「物販系のビジネスノウハウ」をそのまま丸ごと「貸し出す」ようなフランチャイズシステムが多く誕生しました。マクドナルドやミスタードーナツ、各コンビニチェーンなどです。 これらのフランチャイズシステムは、既に確立された「取り扱う商品・サービスの種類、販売手法、統一されたロゴマーク・店舗の内外装、キャンペーン」などの「ノウハウ」を借りて新たにビジネスを始めたい当事者と、今まで努力して獲得した「ノウハウ」を「貸し出す」ことでその対価としてのロイヤルティーを得たい当事者の思惑が一致した、独立・対等なビジネスモデルのはずでした。 しかしながら実際には、コンビニ業界における「コンビニオーナー」と「本部」との間には、比較にならないほどの資本力の格差もありますし、「本部」が定めた「鉄板のルール」に従わないと、そもそも商品を供給してもらえなくなってしまいそうな厳しい関係にあるため、これまでずっと言われてきたように、決して独立・対等なビジネスではないわけです。 なお、このような「コンビニオーナー」と「本部」の間の不公平感、依存度の高さ、格差、弱者と強者の関係などを改善すべく、これまで数多くの訴訟が起こされ、また、さまざまな行政指導が行われてきました。その際、「コンビニオーナー」側の勝訴率が高いのも事実です。セブンーイレブン本木店で、営業時間短縮の実証実験が行われた=2019年3月22日、東京都足立区(川口良介撮影) ところが、裁判で個々の「コンビニオーナー」が勝訴したところで、その個々の「コンビニオーナー」との関係において幾ばくかの金銭が支払われるだけであり、他の多くの「コンビニオーナー」と「本部」の関係は何も変わりません。 そして、行政指導といっても「コンビニオーナー」と「本部」の関係を総合的・根本的・全体的に変えるようなものではなく、例えば、「本部は、コンビニオーナーが消費期限の近い食品を割引販売することを禁止してはならない」などというように、個別具体的な指導をするだけです。公取委は「人民裁判」をするのか 結局のところ、「コンビニオーナー」と「本部」の関係は、医薬品業界と医者、下請けと元請け、嫁としゅうとめ、檀家(だんか)と寺といったように、良いか悪いか、それが時代に合っているか合っていないか、当か不当かなどは別として「そういう関係にあるもの」として実在するものであり、「外野」が騒いだところで変わることは難しいでしょう。 なぜ、私がこういう「投石」されそうな意見をあえて述べるかについては、以下の通りです。 今回の注目は、24時間営業が半ば強制されるような制度について問題視されたことが端緒となっているようです。 しかし、コンビニというシステムは、その一店舗だけで完結しているのではなく、例えば、商品(特に生鮮食品)の製造のタイミングや配送のタイミングなどの関係において、全国の数多くの店舗・工場・配送車との連携が必須となります。 ある地域における製造・配送計画(これらは、商品の売れ行き、お客さんの購買ピークなどによって緻密に構成されています)が綿密に立てられているのに、例えば、ある一店舗だけが「午前1時から6時の間は営業しません」と宣言し一店舗だけ閉じていたら、この綿密な製造・配送計画も狂ってしまうことでしょう。 また、コンビニはその売れ行きなどを詳細なマスデータとして活用し商品開発などを行っているわけですから、店舗ごとの都合をいちいち聞いていたら支障をきたしてしまうでしょう。「セブン―イレブン東大阪南上小阪店」に張られた時短営業を知らせる紙=2019年2月21日、大阪府東大阪市(共同) コンビニオーナーは、そのビジネスの端緒において、既に確立された「ノウハウ」に乗っかって新たなビジネスを始めるべくコンビニという「歯車」の中に身を置いたわけですから、このような「コンビニというシステム」を成立させるバランスに物申すのはいかがなものかと思います。 もし、公正取引委員会がこの点を、卑怯だ、不正だ、不公平だと言うのであれば、なんだかよくわからない圧力で行われるつるし上げのような「人民裁判」の様相を呈してしまうでしょう。■「24時間はもう限界」ブラック就労、店主の叫びはセブンに届くか■くら寿司にセブン、バイトテロ「見せしめの法的措置」はむしろ逆効果■労働人口は過去最大なのに「人手不足感」が広がるナゾ

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    「FC経営はカツオのえら呼吸」20年放置されたコンビニ地獄の深層

    平野和之(経済評論家) コンビニ業界といえば、成長産業の主戦場としてバブル崩壊後の内需、小売業を突っ走ってきた。今や全国におよそ5万5千店舗、10兆円産業に成長し、スーパー並みの巨大マーケットになった。 そのコンビニがメディアに「フランチャイズ(FC)地獄」とたたかれたのは、今から20年前。既に「失われた20年」以前から、フランチャイズはもうからないオーナーが多いと指摘されていた。ただ、当時はそれ以上のマイナス要素が表面化せず、コンビニはそのまま急成長を遂げたのである。 だが、コンビニのオーナーを続け、思うようにもうかっているという話を私は聞いたことがない。中には、自殺した人もいた。 そもそも通常の小売店は、スクラップアンドビルドで、もうからない店はたたむのが常套だ。「優秀な人材をもうかる店に」のサイクルが基本だが、一度拡大路線が始まると、止まると死んでしまう回遊魚に例え「カツオのえら呼吸」と揶揄される状態になってしまう。 小売店は、大半が借金をして出店するだけに、成長が止まってしまうと自転車操業化が免れない。そして、競争激化などで経営が苦しくなると、スクラップする店の方が増える。過去の負債の返済が逆スパイラルへと回転し、破滅へのカウントダウンとなってしまう。 FCの場合、しくじったら基本はFCオーナーの責任であり、このスクラップのリスクを最小化できるのがFC業界の最大の強みでもある。今から20年ほど前は、FCも売上計画書などを提示し、開業させていたが、判例上は売上が計画通りいかない責任は本部にあるというケースが目立っていた。 そういうこともあってか、今のコンビニは売上の最低保証を1千万円単位で実施している。FCビジネスの中でも、売上保証をしているコンビニはある意味、優れたFCの部類ではある。通常のFCビジネスでは売上が保証されているケースの方が少ないからだ。あるいは、売上を保証されても、その保証先が倒産すれば保証自体が無意味だ。広義のFCといえるアパート35年一括借上保証の「レオパレス」や「かぼちゃの馬車」のような保証元の破たんリスクや保証減額リスクも低い。ローソンの店舗(ゲッティイメージズ) ただ、開業時に、現在の人件費高騰リスクや人材不足リスク、仕入上昇リスクを予測してFCを始めた人は皆無である。コンビニでは、契約の更新があり、その際にいろいろな要望を出されるが、本部が「嫌なら辞めてくれ」と言える関係もあり、制度的には本部側に有利なことだらけだった。 とはいえ、FCビジネスは経営が簡単でブランド力を有効に活用できる。脱サラ、サイドビジネス向きなどいろいろな方法で拡大を続けてきた。ただ、小売業である以上、仕入や人件費のやりくりといった経営センスが問われる。脱サラして、その退職金で小売業に参戦しても、そう簡単にうまくいくものでもない。本部はやりたい放題 FCビジネスとは、本部がもうかる仕組みであることは、経営に携わっている人の共通認識だ。資金リスクは、ほぼ加盟店の自己資金で、本部は、もうかろうがもうかるまいが初期に加盟料で金を抜き、さらに、売上のロイヤルティーとして金を抜いていく。 一方、失敗しても知らん顔で、本部は直営店のスクラップアンドビルドにおけるスクラップコストのリスクも最小で済み、出店の失敗リスクの最小化もできる。要は、FCビジネスとは夢のような本部がもうかるシステムだった。その中ではコンビニ業界は売上を保証しているだけ、リスクは本部も負担しているともいえるが、それでも、自前の出店よりはるかにリスクは小さい。 そもそも、小売業はFCにかかわらず、基本立地がすべてだ。かつて、コンビニが「POS(Point of Sale)で勝った」とうたう書籍が並んだが、とにかく立地がいいところに一番早く出店することが、ブランド力の向上やいい商品を提供できる素地となっている。 小売業は立地がすべてなのに、すでに5万店舗を超え、最近では出店するところがなくなってきている。昔は「2・5キロの商圏」だったが、その後「1キロの商圏」になり、今や歩いて数分の距離に同系列のコンビニがあるのが現状だ。 かつては、いい立地に独壇場で稼いでいた店舗にも、同じ系列の店を乱立させ、保証を下回らない範囲で売り上げが減少するなどのケースもあった。ドミナント(同じ地域への集中出店)によって、本部としてはトータルの売り上げは増えるが、加盟店は話が違うと抗議する。抗議しても、最低保証に近づくまで、本部主導のやりたい放題も契約上は出来てしまう。 FCビジネスでは、他にも問題になった在庫のたたき売り、いわゆる見切り販売(賞味期限直前の商品の値引き)も本部側に有利にできている。今から10年前、この在庫が1割もあると報道されたのは記憶に新しい。見切り販売を本部の指導を無視して行った加盟店には納品時に嫌がらせをするケースもあった。所狭しとおにぎりなどが並ぶコンビニの食品棚。食品ロスの削減も課題となっている(ゲッティイメージズ) これも本部側に明らかに有利な契約であることは社会通念から見ても一般的である。本部は売上保証を下回らない限り、在庫は廃棄でも、本部のロスはゼロ、新規の在庫を押し込むことで損失ゼロだが、加盟店は廃棄分の仕入れ価格の損失に加え、廃棄処分コスト、新規の在庫買い取りコスト、という三重苦を余儀なくされる。 これまでに、私はこうした実態をよく取材したが、この当時の独占禁止法の指導はないに等しかった。そもそも、所管する経済産業省も天下りを受け入れている業界からの反発には規制する側と反対する側で忖度合戦があり、この時点でも、24時間営業の加盟店の苦しさはあったが、クローズアップされなかった。そして、今回である。ブランド力の裏返し 法改正も必要との世論が高まるきっかけになったのは、大阪府東大阪市のセブン-イレブン加盟店による24時間営業の「契約無視」ニュースである。この加盟店は地域の評判やネットの評判を聞く限り、本部の本音は辞めてほしかったのではないかと見えなくもない。 私の知人が本部とトラブルになっていたケースでは、本部側と和解して、加盟店を辞めた。実は、経営センスがない店や言うことを聞かない加盟店については、本部が辞めてほしいと考えていることも多い。一番分かりやすい事例は、店や化粧室が汚いだけでなく、未だ和式トイレであったり、シャワー付きトイレがなかったりする店だ。 経営者のセンスがないから客が増えないのに、経営が苦しくなると本部のせいにしたがるといった加盟店が多いのも事実だ。コンビニの契約形態だからこそ、ずさんな加盟店を排除できるメリットもあったといえなくもない。 24時間営業については、東大阪の問題になった加盟店については深夜の赤字体質が恒常的だったことは否めないだけに、気の毒な点もある。今は会員制交流サイト(SNS)が普及しているがゆえに、加盟店のオーナーが声を上げたことが拡散し、メディアにクローズアップされた。このため、直営店舗で時短実験をするようになったが、実際には24時間営業をやる前提をどう論破していくかのための実験にみえる。 そもそも、時短については、ファミリーマートの地方店舗ではかなり前から24時間営業は減少していた。ローソンも一部店舗で認めている。ただ、業界1位であるセブン-イレブンの平均65万円の日販と比較すれば、ファミリーマートとローソンは50万円台前半で差がある。その分の加盟店が増えにくい課題を回避するインセンティブだったともいえる。セブン-イレブンに関して言えば、「24時間営業を守らないならやらせない」も強いブランド力があるからこそできていた。深夜に営業するセブン-イレブンの店舗(ゲッティイメージズ) このようにコンビニの現状を見てきたが、私自身が24時間営業に賛成か、反対かと聞かれれば賛成である。私的なことで恐縮だが、私の趣味は釣りだ。釣り師は未明の午前3時や4時に、食事の買い付けをする必要があり、毎日コンビニだ。釣り師にとってコンビニがないのは死活問題である。セブン-イレブンだけは絶対に24時間だという信頼に加え、夜中の在庫も充実している。 経営的視点でみれば24時間営業による収益性、顧客の視点からみれば利便性、いずれも賛成なのは当たり前である。 では、24時間営業は働き方改革の視点から賛成かと聞かれたら反対である。そもそも、高齢化社会、地方ほど高齢化が進み、夜間に活動する人口は減り続けていく。まして労働人口も減り続けていく。その中での24時間営業は現実的に無理だ。 ならばどのような折衷案があるだろうか。必要なのは「FCビジネス規制法」 そもそも、赤字店舗での優越的地位の乱用を規制する法律案が検討されているが、これは問題解決にはつながらない。優越的地位の乱用は多々あるが、小売業界でいえば、いまだに小売店は仕入れ先から営業スタッフの応援を無償で出させることなどが常態化しているケースも散見される。優越的地位の乱用がなくならないのは、密告した側にとって、仕入先から報復攻撃を受ける可能性がある限り、乱用を訴える動機が抑制されるからである。 そこで、私が考える優越的地位の乱用を防ぐ法律は「FCビジネス規制法」である。前提として、FC本部と加盟店は、経営者と労働者ではない。また、この優越的地位の乱用が恒常的に行える親会社と下請けの関係に根強く残る格差の本質がある。農協もしかりで、かつて私は著書で世界最大のFCビジネスだと皮肉ったが、農林水産業の生産者も優越的地位の乱用によって、所得が著しく制限されているといえる。 代理店ビジネスなども同様だ。これらをすべてFCと定義し直し、商売においての交渉優位性の強い側の論理をどう規制するかということを、この際しっかり議論すべき時に来ていると思われる。もちろん、自由競争で社会主義を持ち込むのかという課題もあるが、FCは、疑似労働者の富が搾取される産業であることは社会一般的に見て明白である。 FCは売上保証の限りにおいて、これで最低限の生活を営める所得ではない。FCをやる場合の、出店リスクや在庫リスク、人件費リスクを折半するなどしっかり規定を作れば、適当にFC加盟店を増やして地獄に陥ったオーナーを放置する本部をなくすこともできるし、破産するオーナーを防ぐこともできる。 ただ、過剰な規制はマイナスにもなる。前述したレオパレスやかぼちゃの馬車などの問題を受けて、銀行のローン審査が厳格になりすぎて借りたい人がローンを組めないなどの弊害も起きている。 また、FCビジネスを始める際、銀行もローンを安易に組ませるケースが見受けられる。これを厳格にすると銀行の貸し先が減少するリスクがあるが、トータルで規制論を議論すべきだろう。優越的地位の乱用、働き方改革の視点だけでコンビニ24時間営業のピンポイントの規制論を考えるのでなく、代理店、FCビジネス、大企業対中小企業の契約における格差是正にも寄与するような幅広い法規制の議論をすることが重要だろう。人手不足などを背景に、24時間営業の見直しに向けた取り組みが始まっている=2019年3月、東京都足立区のセブン―イレブン本木店(川口良介撮影) すでにコンビニを取り巻く環境は、ほかの流通業同様、安泰ではなくなった。今後は、国の規制の度合いによっては、負け組業種になるリスクをはらんでいる。 FCビジネスという観点と流通業の中のコンビニ経営という観点の二つで将来を考えなければならない難しい業界となってしまった。 かつて私が『コンビニがなくなる日』を執筆した際には、コンビニがコンビニ(便利)でなくなる日の意味合いを書いたのだが、そもそもコンビニは街のホットスポット。行政サービスの窓口として、地域のコミュニティの中核となるだろうと思っていたが、今は本当に、コンビニがなくなっていく日が現実味を帯びる時代になっている。■「24時間はもう限界」ブラック就労、店主の叫びはセブンに届くか■くら寿司にセブン、バイトテロ「見せしめの法的措置」はむしろ逆効果■元旦営業はもはや非常識? 三が日のコンビニは無人店舗が常識になる

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    レジ袋の有料化はコンビニにとって一石三鳥の有難い話

    塚崎公義(久留米大学商学部教授) 海に流れ込むプラスチックが国際的に問題とされています。そこで政府は、レジ袋の有料化を義務付ける方針のようです 。これは、素晴らしい取り組みだと思います。 有料にすれば、マイバッグを持参する客が増えて、レジ袋の発行枚数が減り、海に流れ込むプラスチックが減るのみならず、プラスチックの生産量を絞ることが出来て日本の原油輸入量も減らせるかもしれません。 経済学の理屈っぽい話をすれば、コストがかかっている物を無料で配布すると、経済学が最も望ましいと考える量よりも多くのレジ袋が配布されてしまうことになるので、資源配分の最適化が図れなくなる、といった問題もあるでしょう。 プラスチックを作っている業界は反対するでしょうが、それは当然として、筆者が驚いたのは、コンビニ業界がこれまで反対していたということです。2005年には、日本フランチャイズチェーン協会が「コンビニでは来店客に買い物袋の持参を求めるのは困難だ」として反対したらしいのです。これは不思議なことです。 本件は、「環境を守ろう」という視点から論じる人が多いでしょうが、以下では敢えて、「筆者が環境問題には全く関心を持たず、金儲けのことしか考えていないコンビニの社長だったら」という前提で記します。 これまで「我が社だけがレジ袋を有料化すれば、ライバルに客を奪われてしまうだろう。それは避けたいから、有料化はできない」と思っていました。しかし、法律で有料化が義務付けられると、ライバルのコンビニも有料化することになるので、我が社が有料化しても客は逃げて行きません。※写真はイメージです(ゲッティイメージズ) レジ袋を有料化すると、一部の客はマイバックを持参するようになりますから、無料で配布するレジ袋の枚数が減り、我が社のコストが減ります。まずは一石一鳥です。一部の客はレジ袋を購入するようになりますから、我が社の収入が増えます。無料で配布していたものが収入を生むわけですから、素晴らしいことです。これで一石二鳥です。 さらには、「コンビニ業界も環境問題を真剣に考えています」といった顧客へのアピールをすることができ、イメージ戦略としても十分に機能するでしょう。これで一石三鳥です。気づかない当事者も カルテルは、独占禁止法で禁じられています。売り手が結託して値上げをすると、買い手が酷い目に遭うから、ということです。もっとも、場合によっては官製のカルテルが結成されることがあります。 露骨な官製カルテルではなくても、各種規制が事実上官製カルテルとして機能することもあります。新規参入を規制することで既存業者が競争に晒されにくくなるケースなどが典型的でしょう。 それと比べると、本件はわかりやすい官製カルテルですね。レジ袋の値上げ(ゼロから有料)を全社一斉に行わせるわけですから。それに対してコンビニ業界がこれまで反対してきたというのは、理解に苦しみます。 自分だけが行った場合と皆が一斉に行った場合の影響の違いは、想像力を駆使しないと思いつかない場合が多いので、今回もそうだったのかもしれません。そうだとすれば、残念なことです。 合成の誤謬という言葉があります。皆が正しいことをすると皆が酷い目に遭う、ということです。「株価暴落の噂を聞いて皆が売り注文を出すと、本当に株価が暴落して全員が損をする」といった話ですね。 本件は、その逆ですね。各社にとっては、レジ袋の有料化は一社だけが行なう場合にはライバルに客を奪われかねない愚策かもしれませんが、皆で一斉に行えば皆が豊かになれる、というわけですから、「逆合成の誤謬」とでも呼びたい気分です(笑)。 過去の有名な事例は、米国政府の圧力によって日本車が対米輸出台数の自主規制をした1980年代のケースでしょう。通商産業省(現在の経済産業省)が、自動車各社に対米輸出台数を割り当てたのです。 これに対して、自動車産業は反対しました が、米国からの圧力が強かったため、自主規制は結局実施されました。その結果、日本車は米国で品薄となり、値上がりしましたから、自動車各社は大いに利益を稼いだはずです。※写真はイメージです(ゲッティイメージズ) したがって、結果を見れば、自動車産業が自主規制に反対したのは誤りだったということになりそうですが、自分だけが輸出数量を自主規制する場合と皆が一斉にする場合の影響の違いは、予想しにくかったのでしょうね。 今ひとつ、日本車がそれほど人気だ、ということに当の自動車メーカーが気づいていなかった可能性もあります。「日本車の輸出が減れば、米国の消費者は米国車を買うだろう」と思っていたのでしょう。まさか「日本車は品薄だから値段が上がっているが、それでも買いたい」という消費者が米国に大勢いるなど、想像できなかったのかもしれませんね。過去の「カルテル効果」 その後、自動車各社が米国での現地生産を増やしたため、官製カルテルの効果が剥落してしまいましたが、それまでの間、自動車各社が恩恵を受けていたことは間違いないと思います。 実は、銀行の自己資本比率規制も、銀行にとってはカルテル効果があったのではないかと筆者は考えています。これは複雑な規制ですが、大胆に一言で言えば「銀行は自己資本の12.5倍までしか融資をしてはならない」という規制です。 バブル崩壊後、銀行は赤字決算によって自己資本を減らしてしまいましたから、貸して良い金額が減ってしまいました。銀行は自己資本比率規制によって貸出の抑制を余儀なくされたのです。 そうした時に従来通りの多数の借入申込があっても、無い袖は振れないわけですから、銀行は顧客を選ぶことになります。その結果として「高い金利を払ってくれる客にだけ貸す」といったことが行われていたようです。 もっとも、コンビニのレジ袋や自動車の輸出自主規制と大きく異なっていた点が二つあり、銀行にとっては決して嬉しかったわけではありませんでした。以下は、元銀行員である筆者の愚痴です。 異なっていた点の第一は、「貸し渋り」という批判を多方面から強く受けたため、銀行員は大変肩身の狭い思いをした、ということです。借り手の中小企業や一般の人々は自己資本比率規制という物を知らないので、「銀行に意地悪された」と思われたのですね。 今ひとつは、銀行の貸し渋りによって景気が悪化し、貸し倒れが増えてしまったことです。銀行の貸出金利が多少上がって儲かったとしても、貸出金が大量に焦げ付いて返済されなくなってしまえば、銀行にとっては差し引き大損ですから。 ちなみに、自己資本比率規制がカルテル効果を持ったのは、ほんの一時期でした。その後は、「自己資本比率規制によって銀行が貸しても良い金額」をはるかに下回る金額の借入申込しか来ないので、カルテルとしてのメリットが全くないのです。 まあ、現役銀行員は自己資本比率規制にカルテル効果があったなどとは思ってもいないでしょうし、当時の銀行員でさえも、それに気づいていた人は少ないのかもしれませんが。つかさき・きみよし 久留米大学商学部教授。1981年、東京大学法学部卒業後、日本興業銀行(現みずほ銀行)に入行。主に調査関連部署に勤務した後、2005年に銀行を退行して久留米大学へ。著書に『増補改訂 よくわかる日本経済入門』(朝日新書)、『老後破産しないためのお金の教科書』(東洋経済新報社)、『世界でいちばんやさしくて役立つ経済の教科書』(宝島社)、『なんだ、そうなのか! 経済入門』(日本経済新聞出版社)など多数。

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    ローソン社長が語る コンビニ過渡期時代をどう勝ち抜くか

     24時間営業を巡る議論や人手不足の問題など、平成30年を右肩上がりで成長し続けてきたコンビニのビジネスモデルが重大な岐路に立っている。令和時代に入り、コンビニはこれからどう変化していくのか。親会社の三菱商事から転じ、現在1万4500店舗、6000人の加盟店オーナーがいるローソン社長として4年目を迎えた竹増貞信氏(49)に、大手チェーンとして考える新たなコンビニ戦略を訊いた(聞き手/河野圭祐・ジャーナリスト)。──今期、ローソンは出店数から退店数を引いた純増がゼロの見込みです。現在の過渡期をどう勝ち抜く?竹増:グループに「成城石井」もありますし、健康志向の品揃えの「ナチュラルローソン」や、低価格ゾーンに振った「ローソンストア100」もある。そういうチャレンジを実行に移すスピード感や行動力は、加盟店オーナーにも我々にもあります。時には失敗もありますが、このチャレンジ精神こそ、ローソンのDNAでしょう。──昨年10月には、ローソン銀行を開業しました。竹増:キャッシュレス時代だからこそ、ベースとなる銀行口座を自前で持つことが活きてくるという考えです。 ローソン銀行では、キャッシュレス支払いの手数料負担などに関する新しいサービスを検討中です。まだお話しできる段階ではありませんが、今年中には発表したいと考えています。──他チェーンだけでなく、ドラッグストアなどライバルは増えているが、どう差別化していく?ローソン社長の竹増貞信氏竹増:惣菜やお弁当、おにぎりなど我々が自信を持つ商品群は、それなりの店舗網や物流網、専用工場などがないと提供できませんので、ドラッグストアとは差別化できると考えています。 コンビニの武器は、やはり生活の一番近くにあり、世の中の変化に機動的に対応しやすいということ。コンビニ業界の飽和状態を指摘する方もいますが、女性の社会進出が進み、ご高齢の方が増え、若年層の消費観やライフスタイルも大きく変わってきています。 その中で「生活に一番身近な場所にある」というコンビニ最大の強みを、まだ生かしきれているとは思えない。これからの課題は老若男女様々なニーズをどうやって取り込み、お客様により便利に、より効率的に、今の暮らし方に合ったコンビニの使い方をしていただくかでしょう。 我々の魅力をもっと磨き、激変する世の中にいかに対応するか。ここにチャレンジすることが、コンビニのビジネスモデルをまた大きく変えていくと考えます。【PROFILE】たけます・さだのぶ/1969年大阪府生まれ。1993年大阪大学経済学部卒業後、三菱商事に入社し畜産部に配属。その後グループ企業の米国豚肉処理・加工製造会社勤務、三菱商事社長業務秘書などを経て、2014年ローソン副社長に。2016年6月から現職。●聞き手/河野圭祐(かわの・けいすけ)/1963年、静岡県生まれ。ジャーナリスト。経済誌編集長を経て、2018年4月よりフリーとして活動。流通、食品、ホテル、不動産など幅広く取材。関連記事■ローソン・竹増貞信社長が語る「コンビニ24時間営業問題」■サッポロビール社長語る、大勝ち狙わず若者に支持される経営■コンビニ多様化の時代 ローソンは町ごとに違う店舗目指す■似鳥昭雄会長 「経済予測の達人」が見る令和日本経済の近未来■ニトリが不況を経るにつれ成長した理由、似鳥昭雄会長に聞く

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    フードロス減らない背景に日本の食品業界「3分の1ルール」

     3m四方の鉄製容器に、パン、おにぎり、野菜、果物とあらゆる食材がなだれ込んでいく。グィーンという機械音が鳴り響き、奥底へとのみ込まれ、粉砕される食材の数々。小さく砕かれたそれらは金属探知機を通過し、作業員の手作業でビニールや貝殻などの異物を除去。鋭利な機械でより微細に破砕され、最後はドロドロに液状化する──。 神奈川県相模原市にある日本フードエコロジーセンター。ここには、毎日35tもの食品廃棄物が運ばれてくる。東京と神奈川の大手食品工場、スーパー、百貨店などから出る売れ残りの廃棄食品が主である。 同センター代表取締役の高橋巧一氏が言う。 「コンビニのおにぎりや弁当が多く、廃棄物は米が大きなウエイトを占めます。傷ついたじゃがいもや形の悪いトマトなどの野菜も、店頭に並ぶ前に廃棄されてこちらに届けられます」 液状化した廃棄物は、殺菌処理と乳酸発酵を施して、豚用の飼料になるという。 「日本で発生する食品廃棄物の8割はリサイクルされることなく、自治体の焼却炉で燃やされる。そこに投与される税金は年間2兆円。ほとんどの国民は、まだ食べられる食品が税金で処理されていることを知りません」(高橋氏) これが日本の食料廃棄をめぐる現実である。農水省の発表(2017年)によれば、日本国内で「まだ食べられる」にもかかわらず捨てられている食品は、年間およそ621万t。 1300万人の東京都民が1年間に食べる量に匹敵し、日本人1人当たりに換算すると毎日茶碗1杯分の食品を捨てている計算になる。世界規模で見ても、発展途上国に援助される食料(年間320万t)の2倍近い数字である。まだ食べられるのに廃棄される食品は年間621万t 廃棄された621万tのうち、メーカー、スーパー、レストランといった食品関連事業者から出るものが339万t。残りの282万tは各家庭から出ている。 こうした食料廃棄は「フードロス(食品ロス)」と呼ばれ、世界的な問題となっている。日本でも関心が高まっており、2月2日には都内でフードロス対策を考える国際セミナーが開かれたばかり。日本の業界の「悪循環」 『賞味期限のウソ 食品ロスはなぜ生まれるのか』(幻冬舎新書)の著者で、この問題に詳しい井出留美さんが語る。 「フードロスが発生する要因の1つは、日本の食品業界の商習慣である『3分の1ルール』にあります。賞味期限を均等に3分割して、最初の3分の1を納品期限、次の3分の1を消費者への販売期限とするルールです。 例えば賞味期限6か月のお菓子の場合、メーカーは製造から2か月以内に小売に納品しなければならず、小売は次の2か月で販売しなければならない。それを過ぎると商品は棚から撤去され、返品・廃棄対象になる」 日本は、賞味期限が3分の1残っている商品を平然と捨てているのだ。諸外国の納品期限を見ると、アメリカは賞味期限の2分の1、イギリスは4分の3に設定されており、日本の設定は過度に短いことがわかる。「納品期限が長くなるほどメーカーに余裕が生まれて、過剰な生産を抑えられます。日本でも、企業35社がお菓子や飲料の納品期限を実験的に賞味期限の2分の1に延長したところ、87億円分のフードロスが減少できる計算となりました。しかし、3分の1ルールの緩和は充分ではありません」(井出さん) もう1つの大きな要因が、小売からメーカーへの「欠品ペナルティー」である。 「商品を予定数納品できなかったメーカーに対し、小売が要求する“賠償金”のことです。100個を納品予定だったのに納められなかったというケースが発生した場合、小売は“100個売れるはずの利益を失った”として、メーカーに補償金を求めたり、取引停止にしたりします。メーカーはこうした欠品ペナルティーを避けるため、過剰に製造し、在庫としている現実があります」(井出さん) “もったいない精神”が世界で賞賛される裏で、真逆の実態を持つ日本の食品流通界。今、この悪循環に立ち向かう企業や団体が次々と現れている。関連記事■JT加熱式たばこ 無臭にこだわり続けた開発苦労は報われるか■傍聴が面白い裁判の選び方 新件で小さい事件で理想は1時間■裁判傍聴のハウツー指南 傍聴席のどこに座るかも重要■食品ロスの背景に歳時記と欠品より余る方がマシとの考え方■「コンビーフは賞味期限を過ぎてからが美味い」説もある

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    タバコ休憩が必ずしも「喫煙者の特権」とは言えない理由

    山岸純(弁護士) 「タバコ休憩は不公平だ」と話題になることが増えてきたように感じます。しかし、そもそもつい十数年前までのように、自分のデスクでタバコが吸えるなら、誰も何の文句も言わないのではないでしょうか。 私が司法修習生だった15年ほど前、配属先の法律事務所では、割り当てられたデスクでタバコが吸えましたし(その法律事務所のボスが愛煙家でした)、たまにテレビで見る「あの頃」の画像なんかでも、皆さんデスクでモクモクとタバコを吸っています。  この後、「禁煙ブーム」と「分煙ブーム」が巻き起こり、いつの間にか、タバコ=悪のような図式までもが出来上がっていました。 まぁ、日本でタバコの製造を独占する企業自ら、「分煙」を大々的にアピールし始めたのですから致し方ありません。 いずれにせよ、かつては「タバコを吸いながら仕事ができた」以上、「タバコ休憩」という言葉も出てこなかったわけです。 これに対し、現在は「タバコを吸うためには執務スペースを離れなければならない」ことが原因となり、「タバコ休憩」という言葉が出てきました。 さて、労働基準法という法律は、第34条第1項において「労働時間が6時間を超える場合においては少なくとも45分、8時間を超える場合においては少なくとも1時間の休憩時間を労働時間の途中に与えなければならない」と規定しています。 要するに、ほとんどの企業で採用している「1日8時間」の勤務時間制であれば、1時間は休憩時間をとることができるので、この時間の中で時間を工面してタバコを吸いにいくなら誰も何の文句も言わないことでしょう。 もっとも、かつてタバコを吸っていた私もそうでしたが、実際は昼休憩の1時間以外にも、「仕事が一段落した際」、「仕事が詰まって考え事をする際」、「ちょっと雑談をする際」、「上司に怒られてふてくされた際」など、さまざまなタイミングに「タバコ休憩」をとっています。 とすると、昼休憩の1時間にこれらの「タバコ休憩」を合わせれば、喫煙する社員にだけ法律によって与えられた1時間という休憩時間をはるかに超えた休憩が与えられていることになってしまいます。※写真はイメージです(ゲッティイメージズ) こうなると、当然のことながら、本来、その喫煙する社員に割り振られている業務が滞ってしまいます。 さらに、会社というものは、複数の社員と会社の財産(原材料、製造プラント、商品、営業情報など)が有機的に結合されて利益を生み出す社会的存在ですので、喫煙者1人の業務が滞ってしまうと、会社全体の稼働力もおのずと低下してしまうわけです。 したがって、会社全体の業務効率・稼働力の維持という観点からは、「タバコ休憩」を「悪」と決め付け、禁止することも許容されると考えることもできます。 とはいえ、一律に「タバコ休憩」を禁止してしまう、というのもやや問題が残ります。 例えば、勤務中のスマホ閲覧や、勤務中の私用メールも、業務中に業務外の私的な行動をするという意味では「休憩」みたいなものですが、このような行為を禁止していることを理由に、会社は社員を懲戒処分にできるでしょうか。タバコ休憩批判の本質 かつて、勤務時間中に私用メールを送信していたことなどを理由に懲戒解雇をした会社を相手として、その社員が懲戒解雇の有効性を争った裁判がありました(いわゆるグレイワールドワイド事件。東京地方裁判所平成15年9月22日判決)。 この裁判では「勤務時間中の社員」の義務の内容、程度について議論されたのですが、判決は、まず「労働者は、労働契約上の義務として就業時間中は職務に専念すべき義務を負っている」として、社員には「職務専念義務」が課せられていることを明示しました。 その上で、「職務専念義務」の程度について、下記のように判断しました。労働者といえども、個人として社会生活を送っている以上、就業時間中に外部と連絡をとることが一切許されないわけではなく、就業規則等に特段の定めがない限り、職務遂行の支障とならず、使用者(雇用主)に過度の経済的負担をかけないなど社会通念上相当と認められる限度で使用者のパソコン等を利用して私用メールを送受信しても職務専念義務に違反するものではないと考えられる(要旨) 要するに、勤務時間中であるからといって、1分、1秒たりとも「業務外」の私的な行動をとってはいけないというわけではなく、業務に支障をきたすものではない限り、常識的に考えて許される程度であれば私用メールも許されると判断したわけです(なお、この裁判例によれば、就業規則等に定めることで「私用メールを全面禁止すること」も可能となるようですが)。 このように、法律は不可能までを要求するものではないので、上記の裁判例の趣旨を敷衍(ふえん)すれば、法定の休憩時間以外の「タバコ休憩」を一切とってはいけないというわけではなく、「職務遂行の支障とならず、使用者に過度の経済的負担をかけないなど社会通念上相当と認められる限度」であれば、「タバコ休憩」をとることも許される、ということになるでしょう。※写真はイメージです(ゲッティイメージズ) 実際、タバコを吸わない人も、始業時間から終業時間までの間、昼休憩を除き、1分、1秒たりとも「業務外」の行動をとっていないわけではなく、人によっては息抜きにYAHOO!ニュースも見るでしょうし、コーヒーブレークだってするわけです。 これらと並行して非難覚悟で考えれば、「タバコ休憩」だけを目の敵にして批判するのは、実は「タバコ休憩をとること」への批判ではなく、「タバコ」自体への批判ではないでしょうか。 ところで先述の通り、裁判例は就業規則等に定めることで「私用メールを全面禁止すること」も可能であると判示しているので、就業規則等をもって「タバコ休憩」を全面的に禁止することも可能ということになるでしょう。 とすると、「業務に支障をきたすものではなく常識的に考えて許される程度の『タバコ休憩』」を許容するのか、それとも全面的に禁止するのかは、法律うんぬんというよりも、会社次第ということになりそうですね。経営陣が喫煙しているかどうかにもよりそうです。■肺がん患者の自問自答「喫煙者との対立はなくせないのか」■喫煙者の皆さん、残念ながら「タバコを吸う権利」はありません■「喫煙者は不道徳な人間」極論ヘイトはなぜ先鋭化するのか

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    「24時間はもう限界」ブラック就労、店主の叫びはセブンに届くか

    木下徹郎(弁護士) 2月からフランチャイズ契約に反して24時間営業を止めたコンビニ最大手、セブン-イレブン・ジャパンフランチャイズ加盟者の松本実敏(みとし)さんは、19時間営業となった今も1日13時間、大阪府東大阪市内の店舗で働いている。24時間営業をしていたときは1日16時間も就労していたという。 筆者は中央労働委員会で、コンビニフランチャイズ加盟者を組織した労働組合が、労働組合法の適用を受けるかが争われている事件の組合側代理人として、複数の加盟者の就労実態に触れてきた。その経験から、松本さんが店舗運営上置かれている状況は、彼特有のものではなく、決して珍しくないものであると言える。またセブン-イレブンのみの問題でもなく、他のコンビニフランチャイズの加盟者に共通する問題である。 なぜ松本さんのような就労実態が加盟者の間で多くみられるのか。全国の松本さんたちのような店舗の「運営の仕方」に問題があるせいなのか。確かに複数店舗を運営し、発注、接客、商品の検品、陳列、清掃等店舗実務はスタッフに任せ、自身はこれらに直接は携わらないという加盟者もいる。しかしその数は加盟者全体で見れば少ない。店舗運営の巧拙だけでは片付けられないフランチャイズシステムの構造的な問題に大きな原因があると考える。 コンビニフランチャイズでは、フランチャイザーがコンビニシステムを提供し、加盟者は店舗の粗利益の一定割合をその対価(ロイヤルティー)として支払う。その割合は、フランチャイズの契約タイプによって異なるが、店舗の土地建物や什器(じゅうき)を所有しない加盟者だと、相当高いものである。 他方で、加盟者はロイヤルティーを支払った残りから、人件費をはじめとする店舗運営にかかる営業費用を捻出し、残ったものが自身の収入となる。多くの場合、この収入は加盟者とその家族の生活を支える糧となる。セブンーイレブンのスタッフ(佐久間修志撮影) 営業費用がかさみ、その結果収入が足りない状況に陥った場合、加盟者はその生活を支えることができない。他方、自身やその配偶者が店舗実務にあたることで人件費が抑えられ、結果自身の収入につなげることができる。多くの加盟者が松本さんのように相当長時間店舗で就労をするのは、自身の収入、そして多くの場合生活の糧を確保するためであると考えられる。 加盟者の収入を決める要素は複数ある。店舗の売り上げ、人件費をはじめとする営業費用、商品の廃棄量、ロイヤルティーの割合などである。店舗によって売り上げや営業費用はそれぞれ異なるが、多くの加盟者が松本さんのように店舗運営のために長時間就労していることからすると、そのフランチャイズシステム上の大きな構造的要因は、加盟者間に共通する要素であるロイヤルティーの割合に求められる。24時間営業の悪循環 そして今、一つの構造的な原因が、話題になっている24時間営業である。24時間営業するためには深夜も開店していなければならないが、その分スタッフの深夜割増賃金をはじめとする固定費が加盟者に重くのしかかる。他方深夜帯の日中に比べた売り上げは限定的である。 加盟者にとっては収入につながりにくい一方、専ら自分で負担しなければならない営業費用がかさみ、収入を浸食する。収入と生活の糧を確保するために、深夜帯にシフトに入り、就労する加盟者は多い。いわゆる「ワンオペ」で接客、清掃、商品の検品・陳列を行う加盟者もいる。 これに加えて、近時は人手不足により加盟者がスタッフを確保できず、この穴を埋めるために就労しなければならないようになっているという指摘もある。人手不足の原因も複数あるが、上記の構造的問題と無関係ではない。フランチャイズ契約上、人件費を一手に負担することとなっており、その多寡が自らの収入、そして多くの場合生活の糧に響いてくるような加盟者は、最低賃金またはそれに近い水準でしかスタッフを雇用することができない場合が多い。加えて、社会保険が完備されていない店舗もある。これでは人は集まりにくい。そしてこれが加盟者の就労時間の伸長に拍車をかける。 24時間いつでも開いており、欲しいものが欲しいときに手軽に手に入るコンビニの利便性は疑いようもなく、また地域の安全への貢献も指摘されるところである。しかし、このようないわゆる「社会インフラ」としての価値の代償を、加盟者が不相応に払わされているというべきケースが残念ながら、無視することのできない数の店舗で存在する。これを放置したままではいけない。政府が働き方改革を進め、長時間労働を是正することが政策として掲げられている今日ではなおさらである。 松本さんの問題が広く知られるようになったのと時を同じくして、セブン-イレブンは、直営店舗と加盟店舗とで、時短営業を試行することを発表した。これが全国の松本さんと同じような加盟者の問題を解決する糸口になることを願う。しかしながら、同社は24時間営業の方針を変更したものではないという。セブンーイレブンの店舗(竹村明 撮影) また、長時間就労をもたらす構造的な問題は24時間営業にのみ存在するものではなく、先に述べたようにロイヤルティーの構造やそれがフランチャイザーにより一方的に決められるところにもある。これを機に、24時間営業の是非のみならず、その他の問題になり得る点を洗い出し、コンビニフランチャイズシステム全体の検討がされるべきである。 そしてその検討を充実させ、真に問題に対処できる答えを導くためには、フランチャイザー主導によるトップダウンの検討ではなく、全国に2万以上あるという店舗の加盟者、スタッフ、利用者など各関係者による対話が必要不可欠であろう。セブン-イレブンは松本さんと今後もしっかり話し合うことを表明しているが、より広く対象を広げ、しっかりと話し合う姿勢を取ることを切に期待したい。

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    くら寿司にセブン、バイトテロ「見せしめの法的措置」はむしろ逆効果

    黒葛原歩(弁護士) 「沈黙は金、雄弁は銀」ということわざがある。 雄弁に語ることも大事だが、語るべき時と語らざるべき時との区別をわきまえ、沈黙を守るべき時には沈黙するということは、それにも増して大切である、という意味である。会員制交流サイト(SNS)を利用する時には、ぜひとも心しておくべき言葉だと思う。 SNSの投稿には反応があるので、つい反応する人のことばかりが気になってしまいがちだ。しかし、SNSの投稿はしばしば拡散し、投稿者が予想もしなかったような影響をもたらすこともある。ちょっとでも「これは言わない方がいいかな」と思ったら、何も書かずに黙っておくのがよい。筆者としても、常に心にとどめている教訓の一つである。 さて、「不適切動画」が昨今話題となっている。 次々に事例が出てきており、逐一紹介することはできないが、その内容はおおむね、「アルバイトが仕事中に撮影した動画をSNSに投稿し、その動画の内容が、本来の職務内容からして著しく不適切であった」というものである。 もとより、使用者(雇用主)はアルバイトに対して、プライベートの動画を撮影させるために給料を払っているのではない。仕事中というのは、基本的にはプライベートの発信を差し控えるべき時間帯である。法的見地から見ても、こうした行動は労働契約上の義務に違反し、戒告などの懲戒処分に値するものだと言えるだろう。 ところが、最近では不適切動画投稿の事案において、企業側が懲戒処分というレベルを超え、当該労働者に対して損害賠償まで請求するケースが出てきているという。ここまで来ると「おいおい、ちょっと待ってくれよ」と言いたくなってくる。※写真はイメージです(ゲッティイメージズ) そもそも、こういう場合、使用者から労働者に対する損害賠償請求というのは認められるものなのか。 もともと判例上、使用者の労働者に対する損害賠償請求というのは、かなり厳しく制限されている。使用者は労働者を指揮命令することができ、しかも労働者の労働によって利益を得る立場にあるから、労働という活動に伴うミスから生じる危険も負担するべきだという「報償責任」という考え方が、その背景にある。賠償請求の現実 最高裁の判例(最高裁 昭和51年7月8日・茨城石炭商事事件判決)は、「使用者が、その事業の執行につきなされた被用者の加害行為により、直接損害を被りまたは使用者としての損害賠償責任を負担したことに基づき損害を被った場合には、使用者は、その事業の性格、規模、施設の状況、被用者の業務の内容、労働条件、勤務態度、加害行為の態様、加害行為の予防もしくは損失の分散についての使用者の配慮の程度その他諸般の事情に照らし、損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度において、被用者に対し右損害の賠償または求償の請求をすることができる」としている。 この判例の事案では、使用者は労働者に対して、労働者の過失による車の物損事故によって生じた損害の賠償請求をしていたが、裁判所はこれを損害額の4分の1の範囲でしか認めなかった。 従業員による加害行為が故意によるものである場合には、こうした減額がなされないケースもあるが、最高裁判例の文面上は、加害行為が故意によるか、過失によるかという点は、あくまで「加害行為の態様」の一つとして考慮されているにすぎない。 いわゆる不適切動画の投稿についても、こういった減額がなされる余地はある。アルバイトであって賃金水準が低いことや、正社員である監督者の不在などは、減額要素として考慮される可能性があるだろう。 また、企業側が不適切動画の投稿に伴い発生した会社の売り上げ減少とか、信用回復のために要した費用について賠償請求できるのかというのも、実はかなり微妙な問題である。筆者としては、動画投稿者がこういう損害の賠償義務を負うことは、普通は考えられず、仮にあるとしても、かなりまれなことであろうと考えている。 売り上げ減少とか、信用回復のための費用というのは、不適切動画の拡散により、食品の衛生管理に関する消費者からの信頼を落としたことによる損害と位置付けられる。一言で言えば「信用毀損(きそん)」による損害である。この点については参考になるのは、イオン対文藝春秋事件の高裁判決である(東京高裁 平成29年11月22日判決)。※写真はイメージです(ゲッティイメージズ) これは、『週刊文春』がイオンによる弁当やおにぎりの原料米の産地偽装問題を取り上げるにあたり、雑誌の広告の中で「中国猛毒米」という表現を使用したことが信用毀損に当たるとして起こった裁判だ。イオンから株式会社文藝春秋に対し、売り上げ減少分の補塡(ほてん)や、信用回復のために行った広告の費用など、約1億6000万円の損害賠償請求がなされた。あの週刊文春でさえ… 第一審の東京地裁は、文藝春秋側に約2500万円の賠償義務があると認めた。これに対して第二審の東京高裁は、この広告の「猛毒」という部分が事実に反する信用毀損表現であることを認めたものの、損害の算定においては、わずか110万円の損害賠償しか認めなかった。 この理由は、売り上げの減少や信用回復のための広告費用は、上記の違法な表現行為によってもたらされた損害とはいえない、と判断されたためである。売り上げの減少については、そもそも弁当やおにぎりの販売数量は、天候や休日日数といった要因によっても左右されるなどとして、表現行為によってもたらされた損害とは認められなかった。また、イオンが行った信用回復のための意見広告の費用についても、違法行為によって通常生じる損害とは認められなかった。 この判決は、『週刊文春』という、世間で広く名の知られた雑誌について、それも電車の中づり広告などで多くの人が目にするものについて、その表現行為の違法性が「ある」とされた上での判断である。そのような事件ですら、この程度の賠償額しか認められていない。 まして、本来的には限られた範囲にしか閲覧者がいない、インスタグラムのようなSNSの投稿動画について 、被害に遭った企業の売り上げの減少や、信用回復のための広告費のようなものまで、動画投稿行為と因果関係のある損害と認定されるものだろうか。筆者としては、裁判所において、普通はそういう判断はなされないのではないかと考えている。 今般、不適切動画の話題が広く論じられるようになったきっかけは、アルバイトに対する賠償請求などを実際に行う旨を宣言する企業が実際に出てきているという、従前にはなかった現象がみられたのも一因だろう。 しかし、そもそもこういう賠償請求は、実際に賠償請求を行う企業を利するものなのだろうか。インスタグラムのアプリ(ゲッティイメージズ) 前述したように、不適切動画の投稿に伴う損害賠償請求というのは、法的には決して簡単なものではない。また、この場合に訴えられるのは、めぼしい資産を持たない若年のアルバイトであろうから、仮に裁判で企業側が勝ったとしても、現実の回収は困難である。もちろん、そのアルバイトの親族に、賠償を肩代わりする義務があるわけでもない。 そうすると、この種の訴訟は、費用対効果の見込めない、いわば「見せしめ」のための訴訟とならざるを得ない。賠償請求のデメリット 他方、この種の事件で賠償請求に打って出ることによるデメリットは、決して軽視できないものがある。こういう裁判は誰から見ても「見せしめ」と映るから、現場の労働者、そして求職者を萎縮させる。アルバイトはお金が欲しくて働きにくるのに、逆に会社から訴えられて巨額の賠償請求をされるかもしれないというのでは、面接に向かう足も遠のくというものだろう。 現在、「飲食物調理」や「接客・給仕」といった仕事の有効求人倍率は3倍を超えており、立派な人手不足産業である。こうした中にあって、あえて求職者の足を遠のかせるようなことをするのは、どちらかといえば「悪目立ち」の類いの行動である。 なるほど、確かに不適切動画の投稿はよくないことである。しかし、だからといって、投稿者を法廷に引きずり出して懲らしめるという方法を採ることは、その企業自身を利するものではないように思われる。 筆者自身は、実際のところ、昨今発覚したような事態は、飲食業の現場では他にも多々起きていることなのではないかと思っている。日本で働いているアルバイトの数は1000万人規模なのだから、その中におかしな行動に出る者が一定数いることは、別に不思議なことではない。 こうした中で、イレギュラーの事態に際して、感情任せでない、理に即した対応を行うことこそが肝要である。「あえて法には訴えない」という判断は、決して企業の価値を下げるものではない。むしろ企業価値を高めることである。事実をきちんと確認し、法的な見通しをつけ、企業の損得を冷静に見極める視座こそが求められる。 そうして熟慮した結果が、「事を荒立てない」というところに至ったならば、静かにそれを実践すればよい。冷厳に懲戒処分を実行し、必要な範囲で社会に向けて謝罪し、他の従業員に対しては規律の引き締めを通達する、それで十分ではないだろうか。そして、実際に日本の経営者の多くは、そのように実践してきたのではないだろうか。 もとより若者というのは、人生経験の不足ゆえに、時として「若気の至り」からの失敗もするものである。そのような若者の失敗をいつまでもあげつらい、法廷で多額の賠償金を支払えといきり立てるのが、見識ある経営者の姿であるとは思えない。 近時、不適切動画をめぐっていくつかの企業の名前がクローズアップされたが、むしろ、そこに名前の出てこない企業の対応にこそ、学ぶべきところが多いように思われるのである。くら寿司は「不適切動画」に断固たる姿勢を示した なるほど、このような事態に直面すれば、経営者の方は悔しいと思われるかもしれない。なればこそ、まさしく「沈黙は金なり」と申し上げたい。冷静な判断の結果は決して「泣き寝入り」ではない。 すぐには目に見えず、形にならないかもしれないが、実際には沈黙こそが、法廷において雄弁を振るうよりも、多くのものを会社にもたらしてくれるはずである。■なぜインスタグラムに狂う女子が爆発的に増えたのか■「ネット後発組」が日本社会を後ろ向きに変えている■貧しき人たちの憂さ晴らし「不謹慎狩り」はなぜ起きる?

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    バイトテロを「ただの馬鹿」と思うなかれ

    バイトテロ。最近、こんな言葉が巷をにぎわす。コンビニや飲食店のアルバイト店員らが勤務中に悪ふざけした不適切動画が相次いで投稿され、炎上が続いたためだ。「ただのバカ」「若気の至り」…。さまざまな声も聞こえてくるが、何が問題なのか。この現象の意味を考えたい。

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    「若気の至り」バイトテロを司法が裁くのは当然の報いである

    を行う以上、故意に悪行に及ぶ問題行為であれ、意図せず善意でうっかり問題視される事態に至るものであれ、企業経営を継続している以上は、どれだけ未然の防止策を講じても不祥事リスクはゼロにはならない。 そこで、未然の対策と併せて講じる不祥事対策として、問題が起こった後に①ダメージの最小化②早期の回復(信頼・損失・売上など)③再発防止策、という災害時の事業継続計画(BCP)にも通じる、「事後の危機管理3原則」が重要となる。 この度、某社の不適切投稿の問題で、抑止力としての刑事・民事の法的措置について、告訴や訴訟はやりすぎだという声も少なくない。だが、企業の危機管理3原則においては、③の再発防止策に位置づけられるものとして何ら不思議はない。 筆者は多様な意見や個性を否定するわけではない。本稿は、事前と事後の不祥事対策の観点から、企業経営として法的・社会的に必要とされる重要な点を説明することが狙いだ。※写真はイメージ(ゲッティ・イメージズ) まず、正社員ではない非正規社員(アルバイト・パートなど)の若者の「若気の至り」であるかのように扱われがちな不適切投稿は当然、司法判断に委ねられるべきものである。 勤労学生控除の制度があてはまる学費を稼ぐ学生でも、また部活やサークルの合間に軽いノリで小遣い稼ぎをする学生などであっても、労働の対価を得る仕事は、正規であれ非正規であれ、企業の法に基づく経済活動だからだ。 仮に若気の至りや「若者は間違いを犯しやすいもの」という議論があった場合、そこに年齢差別や多様性尊重の大前提であるコンプライアンス(法令遵守+社会通念)の欠落がないか、「ダイバーシティ(多様性)&インクルージョン(包摂)」の観点でも留意が必要である。欠かせない司法判断 また、若気の至りや学生の事情の勘案、情状酌量、違法性の有無を確定的に識別し断定できるのは、企業の法務部でもなければ市井の一弁護士による意見や評価でもなく、事実に基づく独立客観的な裁判官による司法判断以外にない。 企業の実務面で見れば、信頼性低下リスクが現実化して生じた株価下落や売上減少などについて、株主など利害関係者への説明責任を果たし、損害保険の請求手続きなども確実に処理する上でも、不祥事対策には司法判断が欠かせない。 学校教育における学生への指導的機能に着目し、学生など若者に対して起こす告訴や訴訟はいかがなものかという議論もあるが、その議論や意見などは多様性の観点から当然、さまざまな考えがあってよい。 しかし、警察の協賛企業でもないのなら、会社は犯罪者更生施設でもなく、ましてや学校教育施設でもなく、純然たる経済活動の場である。あえて言えば、司法判断が常につきまとう社会教育の場にはなり得るとは言えよう。 中には、いわゆる「日本的な家族経営」を美化した議論もあろうが、日本においても人員解雇によるリストラや経営陣による現場の軽視などから、既に少なからぬ企業現場の実態として、「日本的な家族経営」は崩壊しているように思われる。 むしろ、「日本的な家族経営」という文言が悪用され、サービス残業という名の違法労働の横行を誘引している。また、不正発見時などに「家族」という名の会社、「親」である経営陣のため、異を唱えず違法状態を黙認させる危険な企業実態すら少なからず見受けられる。 こうした中で、コンプライアンス研修は正規・非正規を問わず全役職員に提供されるべきであるが、これは学校教育としての研修ではない。経済活動で善悪の判断基準を備え、「そもそも」不正を起こしにくくする予防的な不祥事対策としての研修である。 筆者が日本で初めて提唱し各社に指導を行ってきた「ソーシャルメディア・コンプライアンス」では、まず未然に企業が不適切投稿で「そもそも」問題が起きにくいよう講じておくべき点は、主に以下の5つの点である。 まず、一つ目はソーシャルメディアポリシーやガイドラインの策定と不正防止研修の実施だ。内部統制の日本版「COSO」(米国トレッドウェイ委員会組織委員会)モデルで言えば「統制環境」にあたるが、不正を許さぬ風土づくりとして、善悪の判断基準づくりと周知徹底が出発点だ。 経営陣や上司が気まぐれで善悪の基準を変えて、非正規社員にパワハラなどを行っていたなら、それ自体が企業の不祥事だが、お互いに判断基準や何をどうすれば良いかが明確な状態で、公平で安心な業務体制づくりが不祥事対策に必須である。※写真はイメージ(ゲッティ・イメージズ) 二つ目は、採用・入社時の誓約書への署名と不適切投稿などによる損害賠償責任を正式書面で通知することだ。三つ目は、不適切投稿を行った者の末路や仲間以外のネットユーザによる個人情報の晒(さら)しなど、事例考察を交えた指導を実施することである。 さらに、ある不適切投稿では「クビ」になること覚悟で意図的な問題行為があったようだが、四つ目として単に「クビ」かどうかではなく刑事事件・民事訴訟となり得ることを明確化しておくこと、五つ目は懲戒処分を隠して履歴書を提出すれば、経歴詐称であることを認識させておくことだ。 一方で、ソーシャルメディア・コンプライアンスにおける、不適切投稿が起こってしまった際の事後対応としては、主に以下の3つの点が重要となる。いずれも、防災対策などで普及が進んできたBCPに通じる点でもある。重要な導き型指導 まず、不適切投稿を把握した段階で、①ダメージを最小限にするため、社内法務部門や広報部門、顧問弁護士と連携し、企業は加害者側として事実確認と危機管理広報での顧客・関係各位への謝罪、会社としての対応などを早期に発信する。 ②(売上・信頼などの)ダメージの早期回復策として、器物損壊や衛生状態の悪化などに対し、どのような回復措置を講じるかといった初期の情報発信の他、継続的にイメージ回復の広報対応を行う。 ③再発防止策として、どのような不適切行為をどう予防する対応を講じるかについての初期の情報発信とともに、「そもそも」問題が起きにくい措置を採用、入社時点から平素の運営・管理監督に至るまで、継続的に講じる。 顧客や利害関係者などへの広報実務面としては、炎上状態の際は危機管理広報として早期是正の活動の周知に努めることが重要になる。また、炎上沈静化の後は、企業イメージ回復と向上のために、広告・宣伝・PR活動へと移行する組織的対応が必要となる。 ただ、ソーシャルメディア・コンプライアンスは、現場の正規・非正規の役職員を委縮させる目的で行うものではない。また、SNSなどにおける言論や表現の自由を損ねたり、逆にヘイトスピーチ的な問題を放置したりするものでもない。 日本企業が設けるソーシャルメディアポリシーやガイドラインは、とかく禁止事項列挙型で現場を委縮させがちだが、SNSを用いるならどのようにしてお互いに楽しく幸せになる活用の仕方をするかという、導き型の指導が重要である。 また、労働基準法などを無視して、安直に役職員に過剰な罰金を科すことなどは、不適切投稿による不祥事の抑止のつもりでも、その過剰な罰金を科すこと自体が、労働法上の違法行為となり不祥事そのものとなり得ることにも、気をつけなければならない。 さらに、不祥事対策に司法判断が欠かせないが、裁判権の濫用(濫訴)による役職員の人権侵害や恫喝的な法的対応は、仮に不祥事を減らす効果があったとしても、違法性も社会通念上も問題がある不適切な対応となり得るため避けるべきである。※写真はイメージ(ゲッティ・イメージズ) 会社側にも非正規社員側にも、相互に権利の濫用や不適切行為がない状態かどうか、また、入管法改正に伴う職場の多国籍化・多様化に備え、「ダイバーシティ&インクルージョン」による対応が十分浸透しているかといった点も、この機に検証すべきだろう。 以上、筆者の日本企業各社への不祥事対策指導や、元国連の専門官としての経験をベースに不適切投稿についての私見をまとめてみた。 本稿に対する異論反論は歓迎である。だが、事実と評価の混同による曲解コメントや誹謗中傷など違法性阻却事由を満たさない投稿などは、スラップ訴訟(批判的言論への威嚇目的訴訟)に直面した筆者としては、やむなく法的措置を講じざるを得ないこともあるので、ご留意いただきたい。■「歪んだネット社会の正義」不謹慎狩りをなくす3つの処方箋■かまってちゃんをこじらせた「低能先生」のキケンな化学反応■「ネット後発組」が日本社会を後ろ向きに変えている

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    バイトテロ「みんなやってる」古市憲寿の炎上発言にモノ申す

    日沖健(経営コンサルタント) くら寿司やセブン-イレブンなど飲食店・小売店でのアルバイト店員による不適切動画の投稿が問題になっている。 この件について社会学者の古市憲寿氏が2月7日のフジテレビ系『とくダネ!』で、「もともとみんながやってたことを、表に出してしまったから。くら寿司もたぶん昔から、もしかしたらああいうことって従業員同士でお遊びで行われていて、それがたまたま動画になって、ネットに拡散したから、みんなが知ることになっただけだと思う」と発言し、ネットで炎上した。 炎上の一部始終を確認したわけではないが、古市氏の発言そのものは、大いに問題だ。古市氏から「みんながやっていた」と指摘された飲食店や小売店は、どう反論できようか。過去の全店舗と全店員を調査して「うちはやっていない」と否定することは、物理的に不可能だ。古市氏の指摘には、反証可能性がないのである。 哲学者、カール・ポパーの反証主義によると、反証可能性がない仮説、つまりどのような手段によっても間違っていることを示す方法がない仮説は、科学ではない。本業は学者の古市氏が、いくらワイドショーとはいえ、科学哲学の基本中の基本を忘れて奔放に発言しているのは、ちょっと驚きだ。 人が何を考えようと勝手だから、反証可能性のない仮説を思い付くこと自体は何ら問題ない。しかし、まじめに働いている多くの飲食店・小売店やその社員に対し、社会的に影響力のある古市氏がメディアを使って反証可能性がない批判を一方的に浴びせるのは、もはや「言論の暴力」である。古市氏には猛省を促したい。 ただ、そうは言っても古市氏の指摘それ自体は正しいという見方が多い。古市氏が指摘するように、悪ふざけで不適切行為をしている場合はあるだろう。あるいは、嫌になったバイト先を辞める際に腹いせでやったというケースも考えられる。社会学者の古市憲寿氏(伴龍二撮影) しかし、会員制交流サイト(SNS)やユーチューブなど動画サイトは以前から存在したから、この1~2年で不適切動画が急増している状況について、「たまたま動画になって拡散した」という推測は、説得力に欠ける。ケース・バイ・ケースなのだろうが、昔から皆がやっていることを「たまたま」動画化したのではなく、多くの場合、積極的に「ぜひたくさんの人に見てほしい!」と思い立って不適切行為を働いたのではないだろうか。 世は写真共有アプリ、インスタグラム全盛の時代だ。他人から注目され、承認されることが重視される。不適切動画を投稿すれば世間の注目を集めることができる。うまくすれば全国ニュースになるかもしれない、ニュースでは顔も名前も出ないから就職や結婚で困ることもない、厳正な処分といっても「クソなバイト先をクビになるだけ」といった思いもあるかもしれない。厳罰化の効果は? とにかく注目されたいという承認欲求(自己顕示欲)が強い人にとって、不適切動画はメリットがやたら大きく、言わばデメリットがない「完全犯罪」である。個人的には、これくらいの件数で済んでいるのがむしろ不思議だ。この私の推測が正しいかどうか、不適切動画をアップした元店員に動機を確かめてほしいものである。 私の推測が正しいとすれば、正攻法の対策は、不適切動画を投稿することのデメリットを大きくし、店員に「不適切動画は割に合わない」と思わせることだ。具体的には、損害賠償の請求である(氏名や顔写真の公表も効果があるが、未成年には適用できない)。今回、くら寿司は元店員に損害賠償を請求する方針だ。 ただ、損害賠償請求など厳罰化には、反対意見も強く、賛否両論がある。印象としては、ネット掲示板で多くのユーザーが厳罰化を支持し、マスメディアで専門家は「そんなに単純な話ではない」と反対している(例えば、店舗経営コンサルタントの佐藤昌司氏など)。 専門家が厳罰化に反対する理由は、大きく2点ある。①どんなに厳罰化しても、悪事はなくならない。厳罰化の効果は知れている。②それよりも、オペレーションをアルバイト店員任せにした店側の責任もあるのだから、まずはオペレーションを見直すとともに、店員への倫理教育を徹底するべきだ。 まず、①はロジックが稚拙だ。麻薬は常習性が強いが、「常習者はどうせやめられないから、厳罰を科さず放置しよう」とは誰も考えない。全国各地で犯罪が発生しているが、「どうせ犯罪はなくならないんだから、警察なんて不要」とも考えない。※写真はイメージです(ゲッティイメージズ) 死刑制度があっても殺人事件がなくならないように、厳罰が通じない悪人は確かにいる。しかし、悪事を働くかどうか躊躇(ちゅうちょ)する普通の人にとって、厳罰には一定の抑止効果がある。「通用しない人がいるからやめておこう」ではなく、「効果が出るように、きちんと制度設計をしよう」と考えるべきだ。 一方、②のオペレーションの見直しや倫理教育は、それ自体は正論らしく聞こえ、真っ向から反対しにくい。しかし、厳罰化と比べて、はるかに効果が小さいのではないか。オペレーションの見直しとは、ロボット化・機械化してアルバイト店員をゼロにすることだろうか。それとも、アルバイト店員を店内で1人にさせないよう監視役の正社員かロボットを張り付けることだろうか。いずれも、現時点では有効な解決策とは思えない。「人を憎まず」の限界 それよりも悩ましいのが、倫理教育だ。こうした不祥事が起こると、企業は決まって社員への倫理教育を行う。 しかし、倫理教育の効果は極めて小さい。私は経営コンサルタントとしてこの17年間、数々の不祥事企業を間近に見てきたが、倫理教育によって「会社が生まれ変わった!」という事例は皆無である。 考えてみれば当然だろう。不正を働く社員は、不正だと知らなかったわけではない。不正だと知りつつ、「目立ちたい」「収益を上げるため」「上層部から命令されて」「昔からやっているから」といった理由で不正に手を染める。 研修で弁護士とか外部専門家から「これは法律違反です」「社会に迷惑がかかります」と改めて説教されても、社員の心には響かない。かえって、承認欲求が強い人は、法律違反や迷惑行為だと聞いて「よし、もっと派手にやってやろう!」と決意を新たにするのではないか。 企業としては、世間から批判されている状況で「倫理教育なんて必要ない」とは言いにくいだろう。しかし、倫理教育は「ちゃんとやっていますよ」という対外アピール以外に意味がないことを肝に銘じるべきだ。 なお、オペレーションの見直しも、倫理教育も、効果が小さいというだけで「絶対にやるな」という主張ではないので、悪しからず。特にオペレーションについては、飲食店・小売店の現場は人手不足で疲弊しており、不祥事に関係なく改革が急務だ。 では、不祥事には「打つ手なし」だろうか。不祥事を起こした後、生まれ変わった企業はないのだろうか。いや、数こそ少ないが、生まれ変わった企業は確かに存在する。変革のカギは、社員の評価を「信賞必罰(しんしょうひつばつ)」に変えることだ。 日本人は、結果よりも動機を重視するので、不祥事という最悪の結果を招いても「会社のためを思ってやった」といった動機が認められれば、さほど厳しく処分されない。一方、企業を発展させる大きな業績を残しても「みんなで頑張ったチームワークの成果だから」と個人はさほど高く評価されない。 しかし、不祥事から生まれ変わった企業は、信賞必罰を徹底している。利益を増やしたり、社会からの評価を高めるといった結果に報奨を与える。利益を減らしたり、社会からの評価を下げるといった結果を厳しく処罰する。厳罰化オンリー(=減点主義)ではなく、良い結果を高く評価することも忘れてはいけない。※写真はイメージです(ゲッティイメージズ) 「罪を憎んで人を憎まず」という言葉があるように、日本では「罰するよりもまず教育」という主張が支持されやすい。その結果、効果のない倫理教育をして「やれやれ、世間の批判も収まった」と満足しても、実態は何も変わらず、しばらくしてまた不祥事が起こる。 三菱自動車など不祥事企業の多くは、何年かおきに不祥事を起こす「常習犯」である。日本企業は「信賞必罰」の徹底でこの不祥事サイクルから抜け出せるかどうか、重大な岐路に立っている。■なぜインスタグラムに狂う女子が爆発的に増えたのか■「ネット後発組」が日本社会を後ろ向きに変えている■貧しき人たちの憂さ晴らし「不謹慎狩り」はなぜ起きる?

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    「ZOZO離れ」は他人事じゃない

    衣料通販サイト「ゾゾタウン」を運営するZOZOが上場以来初の減益見通しとなった。アパレル大手が同サイトへの出品を取りやめる「ZOZO離れ」の話題も重なり、ブランドイメージは失墜しつつある。とはいえ、我々メディアにとってもプラットホームビジネスの話は他人事じゃない。さて、どうしたものか。

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    「ZOZO離れ」カリスマ社長が挑む過酷で危険なビジネスの本質

    遠藤薫(学習院大教授) 旅をして、知らない町の市場を歩くのが好きだ。 魚市場、古くからある商店街、夜市、門前市などなど。市場はその土地ならではの、生々しい人間たちの生活感があふれている。海外で言葉が通じなくても、身ぶり手ぶりで、比べたり、値切ったり、結局買わなかったり、掘り出し物にほくほくしたりすることができる。 そんな楽しみは生身の人間たちが行き交うリアルな空間に限られはしない。膨大なショップや商品を集めたオンラインサイトもまた人をワクワクさせる。Amazon、アリババ、Yahoo、楽天など、名立たるプラットホームはこのドキドキ感で人々を引き寄せる。ZOZOなどの新規プラットホームはまた新たな戦略で出店社と顧客を集めようとする。その全体もまた、大きな「市」といえるかもしれない。本稿では、そんな「市」の生態系について考えてみる。 1995年、「伽藍(がらん)とバザール」というエッセーが大きな話題を呼んだ。アメリカのプログラマーであるエリック・レイモンドが、オープンソースソフトウエアの開発方式について述べたものだ。伽藍(カテドラル、大聖堂)型の開発は、クローズド(閉鎖的)な組織によってトップダウン的に整然と行われる。他方、バザール(市場)型では、ソースコードをインターネット上に公開し、不特定多数の利用者・開発者がそれを検証し、改良していく。これによって、よりセキュリティーの保証された、しかも変化に即応するソフトウエア開発が可能になる、というのがレイモンドの主張だった。 ここで言う「バザール」とは、いわばユーザーたちが思い思いに働きかけることによって生み出されるソフトウエア開発の「場」を指している。そして、インターネットが、ソフトウエア開発だけでなく、その上にさまざまなユーザーたちの価値創造の「場」を創り出す性質を持つものであることを、このエッセーから人々は感じ取った。 1995年といえば、グラフィカルなユーザーインターフェースやネットワーク機能を強化したWindows95が発売され、AppleのMacintosh(マッキントッシュ)シリーズとともに、一般のユーザーたちの間にインターネット利用が広く浸透し始めた年である。台湾・西門町(2017年、遠藤撮影) この新しい空間は、何よりもまずバーチャルなコミュニケーション(電子メール、チャット、ホームページなど)に使われ、人々が自由に思いを語り合う「広場」のイメージで認知されることになった。 人々が出会うとき、コミュニケーションとともに、モノとモノの交換が始まるのも、人類史の初めから行われてきたことだ。インターネット空間は、「広場」であるだけでなく、「市場」としての広がりもみせることになった。 今や世界トップに名を連ねる巨大企業となったAmazon.comも1995年7月にオンライン書店サービスを開始した。ZOZO離れは典型 初期のオンラインショッピングの例として私が思い出すのは、NTTデータの「まちこ」である。3次元仮想空間を使った会員制バーチャルモールで、1997年4月1日にサービスを開始した(図2)。その時点で、出店企業は52社、商品数は約1千、会員は約7千人で、そのうちの約40%が女性と発表された。図2 まちこ(1998年当時のサイトイメージ) 「まちこ」は3次元の仮想空間を、アバターとなって巡り、買い物をするという先進的なシステムだったが、出店の数も会員の数も、今と比べれば本当にわずかだった。当時は「日本人は通販が嫌い」などとまことしやかに言われたものだ。 しかし、通信技術の向上とともに、オンラインショップの利用者はぐんぐん伸びてきた。筆者らが行ってきたWIP(World Internet Project)調査(無作為抽出、郵送調査、全国)から、その有り様をみたのが図3である。 2000年時点ではオンラインショッピング利用者は全体の1割未満しかいないのに対して、2018年には7割を超えている。2018年にはインターネット利用率も9割を超えているので、ネット空間もリアル空間と変わらない日常的な空間と感じられるようになったのかもしれない。 また、図4には年代別オンラインショッピング利用頻度を示した。これによれば、男女を問わず、30〜40代の利用が最も多いようである。図3、図4 オンラインショッピング利用についてのWIP調査結果 しかし、市場が拡大すれば、さまざまな問題も起こる。 最近のZOZO(旧名:スタートトゥデイ)をめぐる動きはその典型的な例だ。 ZOZOは、2004年にファッション・オンラインショッピングサイトZOZOTOWNを開設した。ZOZONAVIなど斬新なサービスで注目を集め、2007年に東証マザーズへ上場、2012年には第一部に市場変更した。図5に示したように、オンラインショッピングサービスのリーチ(18ー64歳)のトップ3にはまだ届かないものの、18ー24歳の女性層では第3位につけている(図6)。図5、図6 オンラインショッピングサービスの利用 ZOZOは2016年、GMOペイメントサービス株式会社のツケ払いサービス「GMO後払い」を開始し、業績を大きく向上させた。2017年には、採寸用ボディスーツ「ZOZOSUIT」とプライベートブランド(PB)「ZOZO」を発表して、また注目を集めた。 しかし、前者は購買力の低い消費者を過剰な消費に誘導する恐れがある。後者はシステム開発力、商品開発力など、プラットホームビジネスとは別の企業努力が必要とされるが、まだ十分な評価は得られていないようである。PBブランドが出店企業のブランドを損なう、と考えられることもあるだろう。前澤社長の自己顕示 さらに2018年12月には会員制の割引サービス「ZOZOARIGATO」がスタートした。ユーザーは年額3000円もしくは月額500円を支払えば、購入時に10%割引が受けられる。しかし、これに反発したオンワード、ミキハウス、4℃などが次々と撤退し、さらなる「ZOZO離れ」が危惧されている。 一方、ZOZOの前澤友作社長は元ミュージシャンという肩書からも連想されるように、ワイン、高級車、現代アートなどのコレクターとしても知られるなど、自らのカリスマ性を顕示するような行動が多い。 ツイッターで炎上騒ぎを起こしたり、芸能人との交際で雑誌やネットを騒がせたりもしている。2018年9月には月への旅行を予約したことでも話題を呼んだ。2019年1月には、1億円お年玉企画を実施し、ツイッターのリツイート数が530万(1月12日時点)を超えて世界一の記録を更新した。 重ねて2019年1月13日には、「3歳のおうちゃんを救いたい」とツイートして、病気の子供への支援を呼びかけた。こうした行動に、喝采を送る人もいるが、批判もある。 プラットホーム戦略はどうあるべきなのだろう。 プラットホームビジネスでは、個々の出店企業とプラットホームの関係は微妙である。両者の関係は、以下の三つに場合分けできるだろう。 ①出店企業のブランド力と、プラットホームのブランド力がうまく拮抗(きっこう)し、相乗効果で売り上げ上向きのベクトルを生成するならば、プラットホームと出店企業の双方がウィンウィンとなる。(図7) ②プラットホームのブランド力が出店企業を圧倒するならば、出店企業はプラットホームへの依存が強くなり、プラットホーム側から出店企業への要求が強くなる。結果、出店企業の利益は薄くなり、出店企業の撤退が進む。撤退が増えれば、プラットホーム全体が立ち行かなくなる。(図8) ③プラットホームのブランド力が出店企業を下回るならば、出店企業はプラットホームに魅力を感じなくなり、出店企業は撤退する(あるいはそもそも出店しない)。出店が減れば、プラットホーム全体が立ち行かなくなる。(図9)図7、図8、図9 プラットホームと出店企業のバランス つまり、プラットホームビジネスでは、常に①の状態が保たれていなければならない。しかし、ビジネス環境も消費者の嗜好(しこう)も常に変わる。変化に対応するために、プラットホーム側も出店側も常時新たな戦略を繰り出していく必要がある。 それぞれの戦略によって、①の状態は、すぐに②や③に変わる。②や③を①の状態に戻すために、プラットホームも出店も、一瞬も気を抜くことなく、状況に適合する戦略を生み出していかなくてはならない。プラットホームビジネスは、そんな過酷なダイナミズムの中にあるのだ。「一寸先は闇」の世界 この視点からZOZOの戦略を考えると以下のようになるだろう。a. ツケ払いサービスは、一見便利そうだが、焦げ付きが生じたり、消費者を疲弊させたりで、市場自体を衰退させる恐れがある。b. ZOZOSUITはシステムの改善が必要である。c. PB開発は、うまくできれば、プラットホームのイメージアップにつながる。ただし、リスクもあるので、十分に戦略を練る必要がある。d. 会員制値引きサービスは、他のプラットホームでも何らかの形で行われることが多いが、出店企業の(ブランドイメージというより)利益率を下げるために反発が大きい。e. 経営者のカリスマ性をアピールすることは、成長期には認知度や求心力を高めるために有効だが、かなり汎用(はんよう)性が高いカリスマ性でない限り、イメージに合わないと反発を招いたり、ターゲットの幅を狭めたりするリスクがある。 これらの検討から言えることは、プラットホームビジネスは変化と相互性によって繊細に躍動するダイナミックなビジネスであるということだ。「一寸先は闇」の世界であるとも言える。このハイリスク性が、ハイリターンも生み出し、また市場競争の熾烈(しれつ)化によって、消費者に利益をもたらすともいえる。 この危険なゲームを楽しめるか否かは、事業者の資質にもよるのだろう。あいさつするZOZOの前澤友作社長=2018年11月、東京都内(共同) もっとも、プラットホームビジネスは、インターネット社会が初めて生み出したものではない。本稿の冒頭にも述べたように、露天商の世界にも競り市の世界にもバザールや門前市の世界にも常にあった、人類の業ともいえる生業だ。近くは百貨店の盛衰、さかのぼれば香具師(やし)の元締めなど、歴史に学ぶことでビジネスセンスを磨くことができるかもしれない。■ 巨人アマゾンの罠にまんまとハマったヤマト運輸の「豊作貧乏」■ 拝啓、ZOZO前澤友作様「1億円バラマキ、本当に下品です」■ 悪役かヒーローか、アマゾンが変える宅配業界とネット通販

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    「ヤフーニュース一人勝ち」紙メディアよ、死を迎える前に現実を見ろ

    山本一郎(個人投資家、作家) 筆者はポータルサイト「ヤフージャパン(Yahoo! JAPAN)」と取引があるにもかかわらず、産経デジタルiRONNAから「ファッション通販のZOZO離れのように『ニュースメディアのヤフー離れ』はあるのか」とのお題で寄稿を頼まれるという驚天動地の事案が勃発した。 私がこの立場で「ヤフージャパンは今すぐ滅ぶべき」などと書けるわけもないだろう。なぜならば、もう既にヤフーニュースでそういう趣旨の記事を書いたからである。 「ヤフージャパン一人勝ち」と「報道記事の買い叩き」がステマ横行の原因(Yahoo!ニュース 個人 2015.10.1) そして、私は産経新聞にも連載を持っている。都合の悪いことに、日曜に私の記事が掲載されたばかりだ。タイトルからして「新聞に喝!」である。 【新聞に喝!】対露官邸外交、メディアの甘さは疑問(産経新聞 2019.1.27) どうしてくれよう。悩んでも仕方がないので、取引があろうが連載していようがまったく気にすることもなく業界の状況を踏まえて読者に私の見解を書くことにしよう。 端的に言えば、2015年にヤフーニュースで書いた上記の記事の通りだが、2019年の今となっても「ヤフージャパン、ヤフーニュースの一人勝ち」の状況に違いはない。「SmartNews」や「LINE NEWS」、あるいは「dマガジン」などのニュース配信系サイト・アプリが興隆している現在でもなお、一つの記事あたりの読者数、掲載された広告あたりの反響数では、他のニュースサイトやアプリを圧倒的に凌駕(りょうが)しているのがヤフーである。 ヤフーがなぜニュースメディアとして成長したのか? それは駅前で配っているチラシ(広告)に、ちり紙がついているようなものである。すなわち、みんなが知りたいニュースを配信している新聞社や通信社、出版社と契約し、配信・新聞記事や週刊誌誌面の内容をヤフーに載せ、そこに広告を貼って多くの人たちに「ヤフーに行けば、あんたの知りたい内容の記事が読めますよ」と成長したのがヤフーに他ならない。PCのポータルサイトとしての立場を確立したヤフーがニュース事業をきちんとやれば、当然のように勝ってしまうのは必然でもある。 時は下り、今や読売も毎日も朝日も自社サイトで読者を囲い込み、もし記事の全部が読みたければ個人情報を全部入れた上でカネを払え、というモデルにしてしまった。ヤフーが人通りの多いポータルサイトという、駅前で配るチラシにちり紙をつける手法で成功した一方、これまでヤフーの「ちり紙」扱いにされていたことに新聞社もようやく気が付いたようだ。日経新聞に至っては、日経グループ全体で電子版にした上で引きこもってしまった。ヤフーの検索サイト=2016年4月 産経はつい最近まで、まるで慈善事業のように赤字覚悟でいろんなところに新聞記事をバラまき、分野ごとに記事をパック売りをして糊口(ここう)をしのいでいたが、昨年11月からようやく会員サービスをスタートさせた。夕刊(東京本社版)を止めるのは早かった割に、有料会員を集めるのに後れを取るとか、産経グループは正直者すぎて商売が下手にも程があるのではないかと思う。 しかし、アプリだけでも「産経ニュース」「産経新聞HD」「産経電子版」「産経プラス」と4つも乱立している上に、配信元は全部産経デジタルになっている。いったい何をしているのだ。いつの間にかアプリの情報サイト「産経アプリスタ」はしめやかに終了していた。産経がどうしたいのか、正直言ってさっぱり分からない。ヤフーが王者である理由 産経のことはいい。問題はヤフーである。ニュース配信を巡る業界環境は、2013年ごろから激変してきた。それまでは出勤前と就寝頃にアクセスのボリュームのあった牧歌的なPCサイトでのネットサーフィン時代であったが、そのような古き良き時代が終わりを告げると、業界は一気にアプリによるニュース配信、また各メディアによる専用アプリ配信時代の幕開けとなった。 それまでのガラケー(ガラパゴス携帯)に対する情報配信よりも閲覧性が上がり、また通信速度の劇的な改善による画像や動画によるニュース配信が進んだ結果、ここ7年ほどで1人当たりのニュース記事閲覧数(1日に1度はニュースをネットでチェックすると回答するユーザーのページビュー中央値)が、1日平均6・7件(2010年)から11・9件(2017年)へと倍増したのである。 ニュースは求められている。これが市場の答えだ。ただし、ニュース記事を閲覧する時間も場所も大きく変容してきた。ガラパゴス携帯からスマートフォンへの移り変わりの中で、起床から通勤時間、昼休み、午後休憩から帰宅途上、晩飯の最中に至るまで、国民はずっとスマホを見ている。女子テニスの大坂なおみが偉業を達成したと言えばニュースを読み、国民的アイドルグループ「嵐」が活動休止したとなればニュースサイトへ行く。おはようからおやすみまでライオンのように人々はニュースを消費し続けているのである。 これらの環境の激変で、一気にPCサイトでのニュース配信のウエートは減った。だが、PCサイトの雄、ヤフーニュースはその覇権を失うことはなかった。2014年、ヤフーニュースは月間100億PV(ページビュー)のうち半分がスマートフォン経由となるが、実はそれ以前からスマホ時代の到来を見越して「スマホファースト」を宣言。これが見事に功を奏し、PC時代で培ったユーザー層の行動をごっそりアプリ経由でも取り込むことに成功したのである。決算会見でスマートフォン決済事業について説明するヤフーの川辺健太郎社長=2018年7月27日、東京都千代田区  絶え間ないUX(ユーザー体験の設計)、UI(ユーザーインターフェース)の改善もあったであろうし(私が驚いたのは朝に新しいアップデートがあったので更新したら、その日の夜には別のUIにするアップデートがあったりした)、大手であるからこそ既存のニュース配信の入り口とのカニバリゼーション(競合)も懸念されただろう。 しかし、結果としてニュースプラットホームの王者となったヤフーニュースは、新興で成長著しい他アプリや、 解約忘れを狙う「レ点商法」など素敵な拡販策で利用者の上積みを続けてきた通信キャリア系のニュース配信プラットホームの追随を許すことなく、おそらく現在ではニュース配信のPVシェアでは6割以上を有しているとみられる。文字通り、一人勝ちである。緩やかな死を迎える新聞社 グーグルやフェイスブック経由でのニュース配信も脅威とされたが、「ニュースのファーストルックはプラットホーム(またはアプリ)経由で」というユーザーの行動が定着した結果、いちいち検索してニュースを探す手間を惜しむほとんどのユーザーはグーグルをそう多くは使わず、フェイスブックのニュースフィードも出口は結局ヤフーニュースという「しょっぱい結果」となった。 何しろ、読売や毎日、朝日、日経はいずれも記事全文は読めない。ならば、雑誌からニュースサイトまで良質な記事を厳選して配信してくれそうなヤフーに利用者の指示が集まるのは当然とも言える。 新聞社の囲い込み戦略に先駆けて、ヤフーニュースは自社制作の記事に力を入れ始め、質の低い情報配信元は有無を言わさずぶった切り、ニュースを読んで脊髄反射で荒れ狂う質の低いヤフーコメントはボタンを押さない限り、表示されないようになった。さらばサイゾー、そのうち記事がかぶりまくり品質も低いニュースサイトだけでなく、煽動的な見出しが眩しいスポーツ紙も用済みとばかりに配信本数を削られていくであろう。 新聞記事からエログロ、イロモノまで雑多なニュースの玉手箱だった時代のヤフーは自社のエンタメ系ニュースサイト「ネタりか」の縮小を象徴として消え去り、今や良質な記事と速報性を兼ね備える「マジ本格的な」スーパーニュースサイトとしての進化を続けている。というか、「ネタりか」のアクセスランキングの上位を「しらべぇ」が占めてるのやめろ。良質な記事の配信元との連携もどんどん強化された今、ヤフーニュースを軽視することはできず、紀尾井町(きおいちょう)に足を向けて寝ることすらできない状況なのだ。 ヤフーニュースはスマホシフトという激動を潜り抜け無事一人勝ちの状況であり、ニュース配信プラットホームとしては鉄板「単勝1・1倍」であり続ける。おそらくは今後、伸びしろのあるニュース動画やオピニオン系、調査報道といった分野にも進出し、もはや東京電力のようなインフラ事業に近い扱いになっていくのではなかろうか。※写真はイメージです(GettyImages) そして、調査報道を担ってきた新聞社や、でかい通信社のどっちか片方は、そろそろ緩やかな死を迎える。正確に言えば、輪転機を止め、不動産部門だけになる日が来るだろう。それは出版文化を支えてきたと自負する老舗中小出版社や大手取り次ぎがコンビニへのエロ本配本中止を突きつけられ、目を白黒させているのと同様、ある日突然やってくる。ジャーナリスト、佐々木俊尚さんが予言した未来が来てしまう。 まるで死んだ我が子の歳をカウントするようだが、既存メディアとネットとは本来対立的なものではなかった。新聞社や通信社、テレビ局、出版社の生み出す本当の価値は、情報があり、その情報を受け手に伝えることである。ラジオ局は知らん。本来は、そういう価値を生み出すのは記者であり、記事であり、番組であった。しかしながら、速報性ではネットに勝てないという理由で、また収益を支えている根幹は自宅配達や駅・コンビニ売りだったからという理由で「ネットファースト」という千載一遇のチャンスに背を向けることとなった。多くの出版社、新聞社、通信社は、自社の売り上げを守りたいばかりに変革のタイミングを逃し、自らの事業を作り変えることができなかった。ヤフーの波乱要素は? ヤフージャパンの場合も、場合によっては新聞社と同じ凋落(ちょうらく)を味わう可能性があったが、彼ら自身が自らを「PCサイト主体の広告事業でメディアにPVを集め稼ぐ」ことから事業転換を果たし、「スマホファースト」の掛け声のもと、社内事業との競合も恐れず事業を改革することで引き続きニュース配信プラットホームの覇権を手放さず、むしろ不動のものとした。普通は儲かったら海外に出て行きたいところ、英語が微妙に下手なトップマネジメントの気後れもあってか、日本市場に特化した戦いに専念したことで、結果として日本国内というドメスティックなスーパーパワーとなったのである。 もはや、ヤフージャパンの波乱要因はビッグブラザーである孫正義さんの育毛力だけである。あの薄毛はヤフージャパンをソフトバンクグループのサブブランドか、お財布ぐらいにしか思ってねえんじゃないかと思うぐらい、雑に扱っている。ぶっちゃけ孫さんはヤフージャパンをどうするつもりなの? そのソフトバンクのサブブランドとしての「ヤフー」を維持できている、重要なリソースの一つがニュース配信への信頼、アクセスであり、その公平なニュース事業の運営により絶大な支持を得ている。 ここが揺らぐとするならば、孫さんがまた変な提携先を引っ張ってきてヤフージャパンにくっつけようとするような、適当な大仕事の犠牲になる場合である。それは目下、大問題となっている公正取引委員会の対「GAFA」(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン・コム)+MT(マイクロソフト、ツイッター)対策に他ならない。 そもそもフェイスブックとヤフーはかねてから提携していたはずなのだが、カルチャーが違い過ぎるのか、あまりパッとしたシナジーが生まれているようにも見えないのが残念だ。 なぜならば、いかにヤフージャパンと言えども、ユーザーの遺伝子データは持っておらず、これらの海外プラットホーム事業者が仕掛ける競争には絶えず主導権を奪われざるを得ない立場にあるからだ。しかも、うっかりポイントビジネスで連携してしまった先は、カルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)社のTポイントだ。おかげで貴重なヤフーIDを捨ててしまった。奥さん、それ虎の子ですよ。いったいどんな判断だ。 すなわち、ヤフージャパンの敵は国内事業者ではなく、業界ゲームのルール変更であり、見えざる新しいイシュー(課題)そのものである。あと孫さん。ダイエーの末期のような、ホークスの呪いを肌で感じる。それもビンビンにだ。誰かやつの口に貼るガムテープ買って来い。そう思わずにはいられない。※写真はイメージです(GettyImages) どうせヤフージャパンに尻尾を振る新聞社などいなくなった今、ニュース配信のソースを確かにするためにも同社が産経新聞社を買ってしまえばいいのである。BuzzFeedはヤフーと一緒にやっているが、そんなものは古田大輔に肉でも食わせてまた太らせて編集長をやらせれば解決する。 もうどうにもならない紙媒体と心中する前に、本当の価値である記者や編集者と記事を守るため何が必要かを徹底して考えなければならない。それがニュースのネット配信を考える上で、何よりも重要なことであることは間違いない。■ ロンブー淳がまた吠えた!「芸能コピペ記事はヤフーにも責任がある」■ カラパゴスすぎるネットメディア「みんなそろってバカになる?」■ 「倍々ゲーム」経営を可能にする孫正義の恐るべき世界人脈

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    「ZOZO離れ」はコストコで韓国製テレビが並ぶのと似ている

    長内厚(早稲田大大学院経営管理研究科教授) アパレル通販のウェブ・プラットホーム(基盤)である「ZOZOTOWN」から撤退するアパレルブランドが相次いでいる。ZOZOが新たな割引サービスを開始したことがその要因と言われている。 ZOZOに限らず、ウェブ・プラットホームのビジネスは、プラットホーム企業と商品やサービスの提供企業との間に少なからず軋轢(あつれき)が生じていることが多い。アマゾンであれば出版社や配送業者と、ヤフーニュースなどのニュースサイトであれば、配信料の低下に苦しむ配信元メディアとの間で衝突が見られる。 そもそも、プラットホームビジネスとは、サプライチェーン(部品の調達・供給網)の各段階を複数の企業が分業する中で、プラットホームを握った企業がそのサプライチェーン全体を牛耳るというものだ。必然的に、企業間でせめぎ合いの状況になるのは織り込み済みのはずである。 しかし、プラットホームビジネスの中には、プラットホーム企業とプラットホームに製品を提供する企業の双方が「Win-Win」の関係になっている場合もある。米半導体大手のインテルとIT大手のマイクロソフトがハード、ソフト双方のプラットホームを提供し、エレクトロニクス各社がその他のデバイスを開発するパソコン(PC)ビジネスは、まさに代表的な例だろう。プラットホームビジネスだから、常にこのような軋轢(あつれき)が生じているというわけではない。 問題は、プラットホーム企業が顧客と直接向かい合う流通プラットホームを担っていることに起因しているのではないだろうか。売る側は少しでも高く売りたい一方で、買う側は少しでもいい商品を、常に安く、あわよくば無料で手に入れたいと考える。 プラットホーム企業は、プラットホームを牛耳っているからこそ、商品やサービスの提供企業よりも強い立場にいる。そんな強いプラットホームを支えるのは顧客からの支持であり、いつも安く購入したいと考える顧客に対しては下手に出ざるを得ない。アマゾンの宅配用ダンボール箱(ゲッティイメージズ) また、プラットホーム企業は、顧客に高く売る努力をするよりも、商品提供企業にプレッシャーをかけて価格を引き下げる方が容易である。つまり、短期的なビジネスだけを考えれば、商品提供企業を泣かせて安く販売させる方がよいということになる。 価格を引き下げる要因は他にもある。強力な流通プラットホームが構造的に製品差別化しにくいことだ。これらZOZOやアマゾンに共通して言えるのが、大量の商品の中から簡単に最も安い商品を見つけられる、すなわちユーザビリティ(使い勝手)の高いウェブサイトを構築していることだ。 大量の商品の中から簡単に選べるということは、一つひとつの商品情報が「最小化」され、最小限の商品情報と価格だけが分かりやすく比較できることを意味する。ところが、企業は自社製品の優位性を顧客に伝えなければ、高価格でも納得して買ってはもらえない。製品差別化は、企業にとって商品の価格下落に対抗する重要な手段なのである。メーカーは泣き寝入り? そもそも、商品情報が十分に伝えられない販路では、製品差別化など不可能である。価格だけが購買の決定要因になれば、コモディティ(汎用=はんよう=品)化が進み、際限のない価格競争に陥るのは目に見えている。つまり、今日の優れた通販サイトは、そもそもコモディティ化を促進する「メーカー泣かせ」の構造を内在しているのである。 最小限の商品情報と価格比較のせいで、メーカーが泣かされるケースはウェブに限ったことではない。家電量販業界では、2000年ごろからヤマダ電機などの郊外型大規模店舗を持つ量販店が台頭してきた。これらの店舗でも、商品の説明要員を最小限に抑える代わりに、比較の容易な価格表示がなされるようになり、顧客が主に価格のみで購買決定をするようになった。 海外でも同じような流れはあった。米国でも、2000年ごろから、販売員に歩合給を出して丁寧な商品説明を促すような量販店は衰え始め、歩合給のない最小限の販売員と大量展示で安さを強調する「ベスト・バイ」という量販店が勢力を伸ばしていった。 コストコのような会員制ホールセール(大量販売)クラブが、家電の取扱量を増やしたのもこのころである。コストコは、メーカーにとっては「最後の手段」ともいえる販路である。なぜなら、顧客が自分でカートに乗せてレジに持っていく販売形態のために、顧客がテレビなどの家電を食品やトイレットペーパー同様の日用品(コモディティ)感覚で購入するようになり、製品差別化の入り込む余地などないからである。 メーカーもそれを承知しているから、コストコではあまり売りたくない。確かに、パナソニックやシャープのテレビが米国のコストコに大量に並んでいたこともあったが、それは両社の経営がかなり苦しかったころの話だ。現在、日本のコストコに並んでいるテレビは、日本市場に参入しながらなかなかシェアを上げられない韓国メーカーの製品である。 つまり、ウェブであろうと実際の店舗であろうと、「商品説明のない販路に、製品差別化は不可能」ということである。では、メーカーはどうすればよいのか。やはりカギは商品説明にあるのではないか。ヨドバシカメラやビックカメラなどのカメラ系量販店は、現在でも比較的手厚く説明員を配置して製品差別化を行い、家電量販業界で上位のシェアを築いている。ビックカメラ新宿東口駅前店(ゲッティイメージズ) また、テレビショッピングも有効な販路だろう。時には大量仕入れや安価な大量販売を行うため「もろ刃の剣」ではあるが、番組中でじっくり商品を説明してくれる。電子辞書のように、顧客が説明をしっかり聞いて、納得した上で購入するような製品には、非常に良い販路となっている。 当たり前の話だが、対面であろうとなかろうと、しっかり商品の良さを訴求することが、コモディティ(汎用品)化を防ぐ手段であり、ウェブの販路でも今後の課題となるであろう。現在のウェブ・プラットホームでストレスなく大量の商品情報を顧客に提供するのは難しいかもしれない。 それでも、5G(第5世代移動通信方式)の通信インフラが整えば、提供できる情報量が飛躍的に増加する。後はどのように顧客に飽きられずに商品情報をウェブ上で見せるか、知恵を絞ることが求められる。 長期的な視点に立てば、流通プラットホームがメーカーを泣かせてビジネスが成り立っているような状況は、市場として健全ではない。顧客だけでなく、プラットホーム企業、メーカーの三者が「Win-Win」になる状況を作り出すことが、今後の流通プラットホーム企業の課題となるであろう。■ 巨人アマゾンの罠にまんまとハマったヤマト運輸の「豊作貧乏」■ 拝啓、ZOZO前澤友作様「1億円バラマキ、本当に下品です」■ 悪役かヒーローか、アマゾンが変える宅配業界とネット通販

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    アマゾンの成功が教える「ZOZOのしくじり」

    北沢栄(ジャーナリスト)  プラットホームビジネスを考えるとき、まずは世界最強のプラットフォーマーであるグーグル(G)、アップル(A)、フェイスブック(F)、アマゾン(A)の「GAFA」を踏まえなければならない。この四巨人に共通する「強み」とは何かを押さえておく必要があるだろう。 共通するのは、プラットホーム上の顧客やユーザーとの間で「ウィン・ウィン」の関係にあることだ。そもそも、プラットホームは顧客やユーザーと共存共栄していかなければ成り立たない。 最近取り沙汰されている、アパレルオンラインショップを運営する「ZOZO」から大手メーカーの撤退が相次ぐ事態は、このウィン・ウィンの関係が支障をきたしていることを示す。要は、ZOZOは関係構築にしくじったのだ。フェイスブックの経営に陰りが出てきたのも、ユーザーの個人情報が勝手に使われている情報漏洩が発覚したためだ。 このウィン・ウィンの信頼関係の上に、強いプラットフォーマーになるには支配的な地位を築いて、高い市場シェアを握らなければならない。アマゾンの成功ケースを見てみよう。 アマゾンの最大の強みの一つは、圧倒的な扱い商品数だが、これを可能にした仕組みが「マーケットプレイス」といわれる。マーケットプレイスとは、アマゾン以外の外部事業者が「アマゾン市場」に出品できるサービスを指す。そこで扱う商品はアマゾン直販の品数の30倍以上、3億品目を大きく超えるとされる。 これに加えて収益の柱となるクラウドサービス事業も世界最大だ。「アマゾンウェブサービス(AWS)」と呼ばれ、企業向けにサーバーを提供する事業として急成長している。アマゾンの営業利益のほとんどを稼ぎ、通販事業など小売部門を支える。 AWSは、元は自社のネット通販用に構築したサーバーだったが、今では超巨大サーバーに育ち、世界の大手企業、銀行ばかりか米政府機関も利用しているほどだ。本のネット通販から始まり、収益けん引役のAWSに至って、時価総額で世界最大級にのし上がった。※写真はイメージ(ゲッティ・イメージズ) 顧客満足を追求するアマゾンは目下、人工知能(AI)を使った音声認識技術「アレクサ」や自動運転の技術開発に余念がない。この点でグーグルの方向性と一致する。最先端ITテクノロジーの2頭がせめぎあう構図だ。 日本のプラットホームビジネスも、このGAFAとの連携あるいはその隙間を狙ったニッチ(隙間)型事業を考えていく必要がある。 プラットフォーマーが成長を持続させるための基本は、ユニークな企業文化のDNAを持ち、これを保持していくことだ。たとえばグーグル。同社によれば、「スマート・クリエイティブ」と呼ぶ社内のエンジニア集団が成功のカギを握る。重要なカメレオン社員 自分の商売道具を使いこなす高度な専門知識を持つだけではない。アイデアがほとばしり出て他の人とは全く違う視点で見て、状況に応じてカメレオンのように視点を変える知識労働者をいう。 従来型企業だと、知識労働者のほとんどは専門分野には秀でているが、能力に幅がない。しかし、グーグルのスマート・クリエイティブは新種のタイプで、常に問題を見つけて解決しようと嗅ぎ回っているという。 経営学者のピーター・ドラッカーは、成功している企業は時代に適応した「基本と原則」を保持していると指摘した。グーグルの場合、経営の「基本」は、こういう新種のエンジニアを存分に働かせること、「原則」は「ユーザーを中心に考えること(創業者ラリー・ペイジ)」だ。 このような独創性の高い企業文化が優秀な人材を引き寄せ、顧客サービスを日々更新させて企業の成功を持続させる。反対に、社長がユニークでも、基本と原則が欠け、揺らぎ続けるなら、当初の輝かしい成功も線香花火で終わるだろう。 GAFAの圧倒的な市場支配を前に、日本の企業はプラットホームビジネスにどう挑んでいくか。IoT(モノのインターネット)の進展を見据えたフィジカル(実世界)の製造業に大きなチャンスがある、と筆者はみる。 GAFAの事業モデルは、インターネットを駆使してデータを集めて活用し、広告などで儲けるというものである。サイバー上(仮想空間)が活動舞台で、リアルの世界を引き込んで、利用者に有益な活用をしてもらうのだ。(ゲッティ・イメージズ) ところが、このサイバー手法にも限界がある。企業情報にしろ個人情報にしろ、すべてのデータのうちサイバー上で収集できるのは限られている。有力なテクノロジーを持つ企業なら、資金などの基本条件をクリアすれば、フィジカル世界と深く結びついたプラットホーム構築が可能だ。 パナソニックが昨秋発表し、今年から実用化する「ホームX」は、この方向を目指している。各種メーカーの家電や住宅設備をネットにつなぎ、AIを使ったOS(基本ソフト)で機能を統御、アップデートしていく。 たとえば「おはよう」というシーンを設定してこれを押しておくと、朝の起きたい時間に好きな音楽が流れ出し、明かりがついて、気分よく目覚めるといった仕掛けができる。家や職場のリアル空間で「暮らしを向上させる」プラットホームのニューモデルだ。そこではスマートフォンに代わって壁に掛けるディスプレーが、操作のツールとなる。 東芝も企業再建に向け、電力や産業機械・設備分野で稼働状況の見える化や遠隔監視を実現するプラットホーム作りに意欲を見せており、遅れをとっていた日本勢も、IoT活用型を軸にようやく本腰を入れてきた。■ 「ネトウヨ夏のBAN祭り」ヘイト裁きをグーグルに訴える意味■ キュレーションは生き残れるか? グーグルを騙し続けたDeNAの罪■ ファーウェイ阻止、米国の不信感が招く「5G時代」の暗い影

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    ZOZO前澤氏 1億円バラ撒きの裏で株価60%大暴落の正念場

     国内最大のファッション通販サイト「ZOZOTOWN」(以下、ゾゾ)を率いる前澤友作社長(43)が、年初から世間を騒がせた。 〈100名様に100万円【総額1億円のお年玉】を現金でプレゼントします〉 前澤氏が1 月5日にツイッターでそう発表すると応募者が殺到し、応募資格となるリツイート(前澤氏の投稿の引用)数が554万回を超えた。従来のツイッター世界記録(335万回)を大幅に塗り替え、“1億円の私財バラ撒き”と報じられる騒ぎとなった。 しかし、そうした景気のいい話が続く裏には、「ゾゾの業績が苦しいことの裏返し」との指摘がある。 実は“1億円キャンペーン”発表の前日、ゾゾの株価が1843円となり、過去2年で最安値を記録していた。アパレル業界に詳しい店舗経営コンサルタントの佐藤昌司氏が解説する。 「昨年7月に記録した過去の最高値4875円から、半年間で実に60%も株価が急落しています。ゾゾスーツ(着用してスマホで全身を撮影すると、自身の体型を採寸できる特殊なスーツ)の無料配布に伴う費用がかさむなどして、2018年4~6月期の営業利益がマイナス成長(前年同期比)に終わったことなどが原因でした。 前澤氏はこれまでも、ゾゾスーツをはじめ、認知度が上がる効果を見越してあえて目立つ行動をとってきた。認知度アップをメリットと考える株主も少なからずいる一方で、かえってブランド価値を損ねるのではないかと懸念する株主も出てきている」※写真はイメージです(ゲッティイメージズ) 心配の声があがるのは、業績低迷のせいだけではない。 「前澤氏の“話題作り”もそろそろ限界なのではないか、という声が聞こえてきます。前澤氏は7月にプロ野球球団を獲得したいと発表し、9月には民間による月周回旅行計画をぶち上げるなど、次々にニュースを賑わせてきた。年始にもツイッターのプロフィール欄に〈(女優の)剛力彩芽さんが彼女です〉と書くなどしていますが、これ以上“ネタ”があるのかと心配されています」(経済誌記者) そうした声を知ってか知らずか、1億円プレゼントの応募終了後に〈いずれ第2弾もやりたいと思います〉とツイートした前澤氏。第1弾終了翌日(1月8日終値)の株価は2066円。“3日間で223円増”のコストは前澤氏にとって高かった? 低かった?関連記事■ 剛力彩芽、前澤氏と交際でCMに影響? ランチパックに山崎賢人■ 三木谷氏、前澤氏ら、カリスマ経営者の「本当の年収」は?■ 剛力彩芽と前澤友作氏、パリでの密着2ショット写真5枚■ 剛力彩芽のインスタは、キラキラ港区女子そのものである■ 剛力彩芽&ZOZO前澤社長 車中で腕を絡める密着写真

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    再販制度が出版業界の首を絞め、アマゾンを急成長させた

     21世紀のグローバル経済は、アメリカで誕生したIT企業が急成長し、世界を席巻している。その中でも新しいビジネスモデルで日本の国内市場でも巨人となったアマゾンについて、経営コンサルタントの大前研一氏が、その強さの秘密を探る。* * * いち早く日本に上陸したアマゾンは、もはや“無敵”だ。日本経済新聞(6月28日付)がまとめた2016年度の小売業調査によると、アマゾンジャパンの売上高は初めて1兆円を突破した。ヤマト運輸がドライバーの負担を軽減するために基本料金の値上げやアマゾンの当日配送を受け付けない対処をしたため、アマゾンは独自の物流網の構築を進めている。生鮮食品や日用品などを取り扱う「アマゾンフレッシュ」も、東京都と千葉県で対象エリアを拡大している。 さらに書籍販売では、一部の既刊本について出版取次大手の日本出版販売(日販)を介さず、出版社から直接取り寄せる方式に変更した。おそらく今後はアマゾンによる出版業界の構造変革が起きるだろう。 結果的にこれほど日本でアマゾンを強くしたのは、日販やトーハンなどの取次と出版社や新聞社などが守ってきた「再販売価格維持制度(再販制度)」である。本がディスカウントできるアメリカでは、アマゾンは割引販売で爪に火を灯しながらシェアを獲得してきた。一方、再販制度によって本が定価でしか売れない日本では送料をタダにしても儲かるため、最強の物流網を構築できたのである。アマゾンの電子書籍サービス「Kindle」アプリ(ゲッティイメージズ) つまり、アマゾンに“軍資金”を送り込んだのは再販制度なのだ。もともと出版文化を維持する目的で生まれた再販制度が、今は出版業界の首を絞めているわけで、実に皮肉な話である。 今やアマゾンはクラウドコンピューティングサービスの分野でも世界最強になっている。ネット通販では、出品者に対して競合他社と同等以上の扱いを求める契約が独占禁止法違反にあたる可能性があるとして公正取引委員会の審査を受けたが、この問題はアマゾンが自発的に条項を削除したため解決した。今後、アマゾンは穏便にゆっくりと、しかし着実にシェアと収益を拡大していくだろう。関連記事■ 金正男「日本への無防備な親愛」が自らの首を絞めた側面も■ 住宅リフォームが新時代突入 アマゾンやグリーらIT業界参入■ 眞子さま ブラジル・アマゾン河ご視察で見せたサングラス姿■ アマゾン、マイクロソフトのCEOの年俸は約1億円■ バーチャルな投資大会でアマゾンギフト券3万円分が当たる

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    NHK朝ドラ『まんぷく』と重なる大坂なおみ日清CM騒動

    西川りゅうじん(マーケティングコンサルタント) 「物事に動揺する人がいますよね。それはとても人間的なことです。でも、私はそういうことに自分のエネルギーを無駄遣いしたくないと思うことがあります」「今日の第3セットでは、文字通り、自分の感情を消そうとしました」 大坂なおみが、2018年9月の全米オープン優勝に続き、2019年1月、全豪オープン優勝後に発した言葉だ。 21歳にして、何事にも惑わされず、グランドスラム四大大会のうち2大会を連続で制し、世界ランキング1位にまで上り詰めた不屈の精神力には、本当に頭が下がる。彼女が自らの手で勝ち取った実力と実績は、人種、肌の色、民族、国籍、性別、年齢といった社会における区別を超越している。 日清食品による漫画『新テニスの王子様』とコラボした「カップヌードル」の広告動画で、大坂の肌の色が実際より白く描かれていると国内外のメディアやネット上で取り沙汰されたが、それでも彼女が動揺することはなかった。 もとより、日清食品は、大坂の実力がどこまで伸びるか未知数だった2016年11月からスポンサー契約を結んで応援し続けており、意図的にホワイトウォッシュ(非白人を白人のように描くこと)したり、揶揄(やゆ)したりするつもりなどなかったのは明らかだ。 しかし、同社は、国内外からの批判の高まりを受け、全豪オープン開催中の1月23日、動画の公開中止を余儀なくされた。広報担当者は、応援を目的に動画を作成したが「当初の目的とは大きく異なる状況になった」とし、「社会の中でいろいろな議論が起きている状況で、動画の公開を続けることで大坂の選手活動に影響があると判断した」と述べた。日清食品の広告動画で肌を白く表現された大坂なおみ選手(右)。左は錦織圭選手(日清食品グループ公式チャンネルのユーチューブより) また、「日清グループは、基本的人権を尊重し、性別や年齢、人種などに配慮して企業活動を行っており、広告宣伝においても同じポリシーを掲げています。今後はより一層人権や多様性を尊重しながら、慎重に広告宣伝を進めるようにいたします」とコメントした。 日本人の多くは、「大坂には雑音に惑わされず自分のプレーに集中してもらいたい」、そして、「日清食品に悪意はないのだから、そこまで目くじらを立てなくても」という気持ちだったに違いない。ただ、日本は島国で均質性が高い社会のため、欧米に比べて、人種や肌の色について鈍感な点があるのも否めないだろう。 動画は日本の消費者を対象にしたものだったが、大坂の存在感が大きくなり世界的に注目される中、ネットを通じて世界中で同時に見られる時代になったこともあり、そういった感覚や意識の違いに批判が集中してしまったのだ。 今後、日清食品をはじめ日本企業が、大坂がごとく今回のような問題に動揺せず、多様性を超越し、世界で勝利するには、どうすればよいのだろうか。日清の「洗礼」は2度目 今回、日清食品は、人種や肌の色といった多様性に関して同じように無頓着な私たち日本人と多くの日本企業に代わって、アメリカをはじめ国際社会から本格的な洗礼を受けたのだという見方もできよう。 事態が大きくなった経緯をみてみると、全豪オープン期間中の1月19日にジャパンタイムズが掲載した「大坂がホワイトウォッシュされている表現を見た」という記事に続いて、22日に米紙ニューヨーク・タイムズが「肌を白く表現し、ヘアスタイルも変わっているなどと日本で批判を受けている」と報道した。 さらに、イギリスのザ・ガーディアン、BBC、アメリカのCNNといった欧米メディアが次々に取り上げた。それがブーメランとなって日本に戻り、国内のマスメディアでも大きく報じられるに至った。 しかし、日清食品がアメリカン・スタンダード、グローバル・スタンダードの洗礼を受けたのは、これが初めてではない。筆者には、同社の歴史上の危機として、NHKの朝の連続テレビ小説『まんぷく』でも描かれた事件と二重写しに見える。 日清食品の創業者・安藤百福(ももふく)氏は、戦後、アメリカ軍が主導する連合国軍総司令部(GHQ)から、当時の日本ではありがちだったどんぶり勘定を指摘され、脱税の嫌疑で訴追されている。 同氏は、1910年(明治43年)、日本統治時代の台湾に生まれた。22歳の若さでメリヤスを販売する会社を設立し、その後もさまざまな事業を手掛け、成功を収めていた。 しかし、戦後間もない1948年(昭和23年)、日清食品の現社長・安藤宏基氏が生まれて直後のこと。地元の若者を雇い、奨学金として現金を支給していたのだが、「その奨学金は所得であり、源泉徴収して納税すべきなのに怠った」という罪に問われる。百福氏は、4年間の重労働の刑に処され、巣鴨拘置所に収監。個人名義で所有していた不動産はすべて没収された。チキンラーメンを食べる創業者会長の安藤百福氏=2006年8月、大阪市淀川区西中島・日清食品本社(柿平博文撮影) 収監後、GHQは百福氏の名を挙げて「納税義務に違反した者は厳罰に処す」という内容の談話を発表した。後に彼は、この事件について、「みせしめに使われたようだ」と述べている。 その後も泣きっ面に蜂で、新設された信用組合の理事長に就任するも、組合は破綻し、無一文になる。 残った大阪府池田市の借家で、「失ったのは財産だけ。その分、経験が血や肉となって身についた」と考え、自らを奮い立たせた。そして、世界初のインスタントラーメンを発明したのだ。 日清食品には、大坂が生まれた大阪で、安藤百福氏が苦難の末に再起を図ったように、この難局をプラスに転じてもらいたい。行き過ぎた「言葉狩り」 ところで、肌の色についてのみならず、「何でもかんでも、アメリカの基準、欧米の基準が世界の正しい基準なのか?」という議論は、今に始まったことではない。 記憶に新しいところでは、2017年の大みそかに放送された『ダウンタウンのガキの使いやあらへんで!』(日本テレビ)の年末特番で起こった議論だ。ハリウッド映画『ビバリーヒルズ・コップ』で黒人俳優・エディー・マーフィーさんが演じた刑事役をまねて、ダウンタウンの浜田雅功さんが黒塗りメークで登場した。 このメークが「人種差別」という批判があるとニューヨーク・タイムズやBBCなど欧米メディアが報じたのだ。この時も日本国内で賛否両論が巻き起こった。今回の日清食品の動画が議論を呼んだ際にも、「肌を黒くし過ぎることによってブラックフェースの批判を受けることに慎重だった可能性もあり、より安全で明るい方向性を採ったのでは」という声もあった。 肌の色だけではない。半分日本人で半分ハイチ人の人を英語で「ハーフ・ジャパニーズ、ハーフ・ハイチアン」と言うが、日本では両親のどちらかが日本人でない人をすべて「ハーフ」と呼ぶ。また、両親のいずれか一方が「ハーフ」の人を「クオーター」と呼ぶ。 しかし、「ハーフ」だけでは「半分」、「クオーター」だけでは「4分の1」の意味になり、海外では通じない。まるで、人間として半人前か切れ端のようだから、「ハーフ」や「クオーター」という言葉自体を使うべきではないという意見もある。  英語圏では、通常、両親が異なる人種の人を「バイレイシャル」、いくつかの人種の血を引く人を「マルチレイシャル」、あるいは総称して「ミックスト」が一般的だ。しかし、直訳すれば、二重人種、多重人種、混血であり、日本人の一般的な感覚からすれば、その方が直截(ちょくさい)的で失礼な印象を受ける。 今や英語圏では、黒人を表していた「ブラック」という表現は消え、「アフリカン・アメリカン」と呼ぶが、日本でも「アフリカ系アメリカ人」に統一すべきなのか。 1980年代に多民族国家のアメリカで始まった、性別・人種・民族・宗教などに基づく差別・偏見を防ぐ目的で、政治的・社会的に公正・中立な言葉や表現を使用することを指す「ポリティカル・コレクトネス」(PC)を、日本がそのまますべて受け入れ続けてよいはずがない。※写真はイメージです(GettyImages) チェアマンがチェアパーソン、キーマンがキーパーソンならまだしも、ウルトラマンを「ウルトラパーソン」、アンパンマンを「アンパンパーソン」にすればよいのか。行き過ぎた「言葉狩り」「表現狩り」は避けねばならない。 欧米でも「PCにはもうウンザリ!」と思っている人も少なくない。トランプ大統領は「PCは、現在、アメリカが直面する最大の課題だ」と述べたことがあるが、米国民が彼を大統領にしたのは、そういった風潮によるところも大きい。2018年末に、マリスト大学世論研究所が発表した無党派層に関する調査でも、53%が「これ以上のPCには反対」としている。 しかし、思想家や表現者、ジャーナリストや政治家ならいざ知らず、企業人は複雑さを増すばかりの社会の多様化と欧米メディアのPC至上主義に正面から向き合わねばならない。そんな時代状況の中、人種や肌の色について、売り手よし・買い手よし・世間よしの「三方よし」を実現する道はあるのだろうか。「はだ色」が消えたワケ ところで、今回問題となった「肌の色」だが、日本における「はだ色」とは、どんな色だろうか? 私たちが子供の頃、お絵描きで肌の色を描く際に使った、クレヨンや色鉛筆の「はだ色」は、もはや存在しない。 2000年前後から、「はだ色」の呼び方は、「うすだいだい」、または、薄いオレンジを意味する「ペールオレンジ」に変わりだし、2005年頃には、ほぼすべてのクレヨンや色鉛筆から「はだ色」という表記は消え去った。 そもそも、「はだ色」とは、明治維新による開国にともない、異国の人たちと触れ合う機会が増えた結果、日本人が肌の色の違いを意識するようになり、その名が付いたといわれる日本固有の慣用色だ。  今や「はだ色」の捉え方、表現のあり方について考えねばならないのは、日清食品のような世界各国で事業を展開する大企業だけではない。 なぜなら、どんな企業であれ、インターネットによって、自社のサイトや会員制交流サイト(SNS)などで発信した動画や写真やイラストを、世界中の人がリアルタイムに見ることができる時代になっている。また、経済のグローバル化の進展によって、あらゆる業種・業界で、さまざまな肌の色の人と接する機会が出てくる世の中になっているからだ。 そしてさらには、日本国内の消費、および、労働のマーケットを客観的に考えれば、「はだ色」が従来の「はだ色」だけではない時代が到来しているのだ。 厚生労働省の人口動態調査によれば、父母の一方が外国籍の子供の出生数は、総出生数の1・9%。実に新生児の約50人に1人に当たる年間約2万人に上る。 一方、1993(平成5)年の外国人労働者は10万人弱、そのうち、約6万人が中南米出身の日系人だった。ところが、2017年には約128万人に増加。四半世紀で13倍ほどに膨れ上がった計算だ。平成の前半までは、韓国、中国、日系人など、比較的似た肌の色、顔かたちの人が多かったが、近年は人種、肌の色、民族、国籍も多様化の一途をたどっている。 驚くべきことに、NHK特集『外国人“依存”ニッポン』の調査によれば、2017年度に新宿区で新たに成人した人の45・8%、約2人に1人、豊島区でも38・4%、3人に1人以上が既に外国人なのである。 政府は少子高齢社会を支える労働力確保を目的に、2019年4月から新たに創設した在留資格「特定技能」を取得した外国人労働者を、5年間で最大で34万5000人受け入れることを決定した。今後、日本人の多様化はいやが応でも加速していく。 そんな近年、幼稚園や保育園、小学校では、10色や20色以上もの、まさにいろいろな「はだ色」がそろったクレヨンや色鉛筆を児童や生徒に提供する所が増えてきた。※写真はイメージです(GettyImages) 昔から、優れた先生は、太陽も空も肌の色も一つの色だけで塗りつぶすような教育をよしとしなかった。それでは、思考停止に陥り、感受性と自ら考える力を育むことはできないからである。平成に続く新たな時代を迎えつつある今、私たち日本人一人一人が、自分で感じて考え、iRONNA(いろんな)「はだ色」を選ぶ時代が到来しているのだ。■ 日本人らしさって何? 大坂なおみの快挙を「雑音なし」に称えよう■ 「最終セットで負けない」錦織圭の勝負強さを支えた怒りの感情■ 「自然と敵が強く見える」錦織圭が苦しむウィンブルドンの魔物

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    拝啓、ZOZO前澤友作様「1億円バラマキ、本当に下品です」

    ことは過去に行ってきたのである。 そしてその延長線で、前澤社長は「お年玉企画」と称した行為に至った。企業経営者が現金配布をなぜしなければならないのか。過去にそのような愚行に及んだ企業があっただろうか。 私たちはこのような現金による無作為な配布を要求することは一切していない。利益を上げているのであれば、派遣労働者や非正規労働者の賃金を引き上げるべきだと述べてきた。それらはいまだに実現していない。 末端の労働者を重視しない企業であれば、株価にも影響するだろう。実際にZOZOの株価はピーク時(5000円弱)と比較して、直近では2000円程度まで下げている。私たちは企業の敵ではなく、適正な経営を促していきたいと思っているのだが、一向に聞く耳を持たないことは残念である。引き続き現場の労働者の声と共に改善要求をするまでである。 そもそもZOZOはなぜここまで短期間で利潤を追求できて、成長も続いてきたのだろうか。社長の手腕なのだろうか。そんなわけないだろう。低賃金の労働者が大量に役割を担ってきてくれたからではないか。それらの人々への敬意や感謝の念が感じられれば、ここまでわれわれが問題視することもなかったであろう。 要するに、首尾一貫して、ZOZOの急成長や膨大な利益を生んできたのは、派遣労働者や非正規雇用を大量に利用し、労働者を搾取してきた構造ではないか、ということである。月旅行を契約し、記者会見でポーズをとるZOZOの前澤友作社長=2018年10月9日、東京・有楽町の日本外国特派員協会 これに対して、ZOZOは派遣労働者を含む非正規雇用が自社でどれだけあるのか、一貫して開示していない。不都合な真実はあくまで隠したいようだ。 私はブラック企業ユニオン、首都圏青年ユニオン、プレカリアートユニオン、エキタスなどの労働組合や市民団体と共に、「お年玉企画」といった煙幕に巻かれることなく、企業の利益の源泉を追求し、貧困や格差の原因にメスを入れていきたいと思っている。 まともな改善要求を受け入れるのか、それとも批判とともに沈みゆく企業として汚名を残すのか、2019年はその真価がZOZOに問われることとなるだろう。ぜひ消費者、投資家は引き続き厳しい視線でZOZO関係者の言動を注視していただきたいものだ。■剛力彩芽はきっとZOZO前澤友作氏を踏み台にする■2ch創設者ひろゆき提言「キモくて金ないおっさんにウサギを配ろう」■母子家庭の子供は「問題行動を起こす」という言説の欺瞞

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    ゴーンはそんなに悪いのか

    日産自動車会長、カルロス・ゴーン氏の電撃逮捕の余波が収まらない。日本のメディアはゴーン氏の「負の側面」を追うことに躍起だが、一時は経営危機にあった日産を再建した彼の経営手腕を評価する声も根強い。ゴーン氏はそんなに悪いのか。

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    「階級社会フランスへの挑戦」ゴーンの原点はここから始まった

    財部誠一(ジャーナリスト) 「レバノン系ブラジル人であるカルロス・ゴーンは、どうもがいても階級社会のフランスでははじかれる。その受け入れがたい現実を覆すことができるのは経営の結果だけなのです。だから彼はトヨタ自動車やフォルクスワーゲン(VW)を追い越して『世界一』になることに執着したのです」  カルロス・ゴーン氏を熟知する日産自動車幹部が語ったこの短いフレーズに、彼の本質が凝縮されていると思う。 ご存知の通り、1999年に経営破たんに陥った日産に資本注入して窮地を救ったのはフランスのルノーで、当時副社長(COO)だったゴーン氏を兼務のまま日産に送り込んできた。日産をV字回復させ2001年6月には日産の最高経営責任者(CEO)に就任。2005年には親会社であるルノーの社長(CEO)にもなった。その瞬間、親会社-子会社という資本の論理を超越したゴーン流の日産・ルノーアライアンス(連合)経営が始まったのである。 ゴーン氏はどんな思いでこの稀有なビジネスモデルを構築していったのか。日産幹部が興味深い解説をしてくれた。 「ルノーの前CEO、ルイ・シュバイツァー氏はエリート官僚出身で、日産に出資したときも債務保証を引き出すなどフランス政府の協力を得ているし、フランス政府はルノーの大株主です。彼らから見れば、日産などルノーにカネを貢ぐ存在でしかない。事実、ルノーの黒字の大半は日産からの持ち分利益です。しかしゴーン氏はルノーのために経営をしているわけではないし、ましてやフランス政府の意向を汲んで日産のかじ取りをしているわけでもない。日産のためでも、ルノーのためでも、フランス政府のためでもなく、彼は自分自身の名声のためにアライアンス経営を確立しようとしている」2018年11月21日、横浜市の日産自動車グローバル本社に掲げられた日本とフランスの国旗(宮崎瑞穂撮影) 世界で誰もやったことがない「アライアンス経営」のマネジメントで「世界一」の経営者として認められたいと、ゴーン氏は切望していたというのである。そのためには世界最大の自動車メーカーであるトヨタやVWを追い越さなければならない。 普通に考えればトヨタやVWは単一の企業であり、アライアンスで結ばれた日産・ルノー連合が販売台数を競っても、それは次元の違う競争であり、「世界一」を目指すことにどれほどの意味があるのだろうかと思えてしまう。三菱自は「掘り出しもの」 グローバルな自動車メーカーをアライアンスで統合する独自の経営モデルで「世界一」となり「世界一の経営者」の称号を得たいがために、電撃的な三菱自動車への出資にも踏み切ったのだ。 一昨年、軽自動車の共同開発をしていた三菱自が燃費不正問題を起こした当初、ゴーン氏は怒りをあらわにしていたが、同社が経営危機となり、株価が急落するとみるや、一転して出資を決め、記者会見はもちろん、テレビ局各社の出演も自ら進んでこなし、ホワイトナイト(白馬の騎士)に収まった。日産・ルノー・三菱自のアライアンスの成立である。 日産サイドに立てば、この決断は悪くない。当時、三菱自の利益率は6%で、日産のそれと変わらない。三菱自は10年ほど前にも不祥事を起こしていたが、その後事業の集中と選択をかなり推し進めた結果、生産性は上がり、キャッシュフロー(現金収支)も4600億円(2016年当時)もあった。 さらに三菱自は利益の9割を海外で稼いでおり、燃費不正問題を契機に、リソースを東南アジア諸国連合(ASEAN)に集中していかざるをえない状況であった。ASEANは日産の弱点だ。株価暴落で割安になった三菱自はゴーン氏にとって、掘り出しもの以外の何物でもなかったのである。 しかし、その経営判断の速さは尋常ではなかった。そこには、階級社会フランスのマイノリティーが自らの限界を打ち破ろうとした執念を感じる。 それにしても、あれだけの構想力と実行力を併せ持ちながらカネの問題で東京地検に逮捕されたことが、マイノリティーゆえのカネへの執着だったとすれば、悲哀を感じる。三菱自動車の会長に就任することが決まり、緊急会見に臨む日産自動車のカルロス・ゴーン社長(当時)=2016年10月(福島範和撮影) 今回の逮捕劇はゴーン氏個人の問題ではすまない。 日産に与える影響は重大だ。ゴーン氏の存在がフランス政府やルノーから日産の独立性を担保していた。ゴーン氏が完全に日産を去れば、新たな経営陣をルノーが送り込んでくるかもしれない。それは結果として、大株主であるフランス政府の意に沿った経営を日産は強いられることにつながりかねない。また日産・ルノー・三菱のアライアンスはどうなるのか、全く先を見通せない。 いずれにしても、ゴーン氏逮捕の本当の激震はこれから始まる。

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    ゴーン氏の不正を見逃した監査法人は責められるべきか

    日沖健(経営コンサルタント) 日産自動車のカルロス・ゴーン会長(以下、ゴーン容疑者)の逮捕が波紋を広げている。本稿では、今回の事件の背景や動機、われわれに与える示唆、今後の懸念事項について考えてみたい(なお、以下は誤認逮捕ではないという前提で書いている)。 まず、背景については、11月19日夜の記者会見でも問題になったように、西川(さいかわ)広人社長ら日産の日本人経営層が、ルノーと同社の株を保有するフランス政府から経営の主導権を取り戻そうというクーデターの側面がありそうだ。が、これはあくまで憶測であり、現時点で実情は分からない。ゴーン容疑者の退任後、傘下の三菱自動車を含めてどういう体制になるか、今後の展開が注目される。 一方、ゴーン容疑者本人が不正を働いた動機は、かなり単純かつ明白だ。役員報酬の開示制度が始まった2009年度にゴーン容疑者が日産から受け取った報酬は、8億9100万円で上場企業トップだった。その後も毎年10億円前後の報酬を受け取り、2016年度まで8年連続でトップ10に名を連ねた。 年10億円というと、庶民にとっては天文学的な数字だ。日本では高額報酬への反発が強く、一流企業の経営者でも報酬は1億円をようやく超える程度である。ルノー株を保有するフランス政府も、マクロン大統領自らゴーン容疑者の高額報酬を批判したことがある。 しかし、国際的にはゴーン容疑者の報酬は、それほど高額ではない。というより「安すぎる」と言える。 アメリカ大手企業の最高経営責任者(CEO)は、基本給だけで10億円以上、業績連動のインセンティブを含めると20億円以上になるのが一般的だ。100億円を超えるケースもたびたびある。倒産の危機にあった日産を救い、自動車業界で世界2位の巨大グループを築いたゴーン容疑者が「俺の報酬は安すぎる」と考えたことは間違いない。 ネットでは「あんなに儲けてさらに不正を働くって、ちょっと理解できない」という声が多い。しかし、実態は逆で、国際比較や日産での実績から、本人の意識としては、自分自身への「正当な評価」、あるいは一流経営者として「当然の権利」として、ほとんど罪の意識もなく不正を働いていたのだろう。もちろん、「悪気がなかったから許される」という話ではないので誤解なきよう。日産自動車のカルロス・ゴーン社長(左・当時)=2016年10月20日、東京都港区(福島範和撮影) 次に、事件がわれわれに与えてくれた示唆だが、今回の事件で改めてはっきりしたのは、監査法人や社外取締役は不正の防止、発見にまったく無力だということだろう。 日産の会計監査は、EY新日本有限責任監査法人(以下、新日本)が担当している。新日本は、これだけの巨額の不正が長年に渡って続いていながら、見抜くことができなかった。もしくは見逃してきた。新日本は、オリンパスや東芝、スルガ銀行といった近年の不祥事企業で会計監査を担当していたことから、「新日本は不正企業の御用達か」といった批判も噴出している。無能な監査法人 また、日産には独立役員である社外取締役が3人いる。今年6月には、元レースクイーンで元レーサーという異例の肩書を持つ井原慶子氏を社外取締役に迎え、話題を呼んだ。社外取締役は経営を監視、監督する立場だが、日産は社外取締役らが役員報酬を決める「委員会設置会社」の仕組みを導入していなかった。つまり、3人にゴーン容疑者の報酬を決める権限などはなく、むろん経営者を監視・監督するという社外取締役本来の役割を果たせなかったことは間違いない。 今回の不正を阻止、発見できなかった監査法人と社外取締役が厳しく批判されるのは当然である。ただ、新日本の会計士や日産の社外取締役がまったく無能だったかというと、そうとは限らない。 今回の日産もそうだが、近年企業が絡む多くの不正事件が従業員の内部通報によって発覚している。考えてみれば当然だろう。現代の企業は、事業や組織がどんどん複雑化・グローバル化しており、たとえ優秀な会計士や社外取締役であっても、たまに会社を訪問して会社側が作成、提出する書類を眺めるだけでは、不正を見抜くことは困難である。要するに、経営者が本気で隠そうと思えば、何でも隠せるのが実態であり、不正に関与した従業員の内部通報以外に不正を見抜く有効な手立てはない。 2001年に起きた米エンロン社の不正会計事件を受けて、日本企業も会計監査制度を充実し、上場企業に社外取締役の設置が義務付けられるようになった。社外の専門家が経営者を直接監視しようという「コーポレートガバナンス(企業統治)」である。 しかし、会計士や社外取締役がもし本気で不正を発見しようとしたら、四六時中、会社に常駐し経営者を監視しなければならない。これはコスト的に現実的ではないし、そもそも常駐では「社外の専門家が中立的な立場で監視する」という制度の意図と反する。会計士や社外取締役に経営監視を期待すること自体が、そもそも誤りなのである。 つまり監査法人や社外取締役に期待できない以上、従業員の内部通報を中心にした監視に重点を置くべきだろう。また、不正が発覚したら株価が下落し、経営者のクビが飛ぶ、経営者はクビにならないように規律ある経営をする、という「ウォールストリート・ルール」が経営者の不正を阻止する手段としてもっと注目されるべきではないだろうか。 最後に、個人的に最も懸念しているのは、今回の事件を機に日本で経営者という職業の魅力度が低下してしまうことだ。日本の社長とアメリカのCEOの最大の違いは、国民から見て憧れの存在か否か、という点であろう。安倍晋三首相(右)を表敬訪問し握手を交わす、米マイクロソフト創業者のビル・ゲイツ氏=2015年12月16日、東京都港区(代表撮影) アメリカでは、マイクロソフトのビル・ゲイツ、アップルのスティーブ・ジョブズ、フェイスブックのマーク・ザッカーバーグなど、魅力的な起業家が次々と現れている。若くして革新的な事業を起こし、世の中を発展させ、世の中のトレンドを変える。まさにアメリカ経済の主役である。ビジネスだけでなく、政治・文化面の発言も実にカッコ良く、アメリカだけでなく、世界中の人々が憧れる存在だ。経団連は「老人クラブ」 それに対して日本の社長は、とにかくイケていない。日本で最も成功した社長が集まる経団連は、よく「老人クラブ」と揶揄(やゆ)されるように、高齢者の男性(おじいちゃん)ばかりで活力と多様性がない。 つつましく、空気を読み、社会に対し意見を発信しない。半世紀近く組織の中で耐え忍び続けた忍耐力と大組織を運営するマネジメント能力には敬服するが、一般国民にとって尊敬の対象ではない。というより、社会への影響力や一般国民の認知度はほぼゼロだろう。 こうした中でゴーン容疑者は、日本では数少ない「イケてる経営者」だった。強引な経営手法への批判は多いものの、共感する人もまた多かった。多くの海外メディアがゴーン容疑者を「スーパースター」(ロイター通信)と評している。 今回、ゴーン容疑者に対しては「単なるカネの亡者だった」「人としてあり得ない」といった批判がネットで噴出している。スーパースターの地位は完全に失われた。 ゴーン容疑者だけではない。日本人のスーパースター経営者だったライブドアの堀江貴文元社長(ホリエモン)も、ゴーン容疑者と同じ有価証券報告書虚偽記載の罪で服役した過去を持つ。日本では元々、経営者は不人気な職業だったが、これらの事件によるイメージ悪化で、すっかり「胡散(うさん)臭い職業」「罪作りな職業」になってしまった。今後、経営者を目指す若者は、さらに減っていくことだろう。日産自動車のカルロス・ゴーン会長が逮捕されるとの一報を受けて本社前に集まった報道陣ら=2018年11月19日、横浜市西区(松本健吾撮影)  若者がどういう職業選択をするか、もちろん本人の自由だ。しかし、マクロ経済を考えると、優秀な若者がユーチューバーやゲーマーとして1億円稼ぐ日本と、経営者として1兆円のビジネスを作り、100億円稼ぐアメリカ、どちらの経済が発展するか言うまでもないだろう。 今回の事件は、単に日産にダメージを与えるだけでなく、日本経済全体に大きな悪影響を及ぼしかねないと危惧するのである。

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    「カリスマ経営者」ゴーンのルーツに見た野心家の横顔

    佃義夫(佃モビリティ総研代表・元日刊自動車新聞社社長) 日産のカルロス・ゴーン会長が金融商品取引法違反の疑いで逮捕されるという事態は、まさに突然であり衝撃的だった。 カルロス・ゴーンといえば、90年代末に経営破綻状況にあった日産自動車が仏ルノーと資本提携(ルノーの傘下入り)した数カ月後、1999年6月にルノーから日産再建の旗手として送り込まれ、日産をV字回復させたプロ経営者として知られる。 その後も日産のトップとして君臨し、かつ2005年から仏ルノーのトップにも就任し、「ルノー日産連合」という国際連合企業体をリードし続けてきた。さらに、2016年に三菱自動車が燃費不正問題で経営の窮地に陥ると、直ちに日産が資本提携して三菱自動車を日産の傘下に収めることも主導した。 つまり、ゴーン氏の手によって「ルノー・日産・三菱自動車連合」というグローバル3社連合の枠組みは形成されたのである。結果的に、この3社連合体によるグローバル販売台数の合計は、2017年で1060万台とトヨタを抜き、フォルクスワーゲン(VW)に次ぐ世界第2位に押し上げるものとなった。 日産会長・ルノー会長兼CEO・三菱自動車会長にホールディング・カンパニーの「ルノー・日産アライアンス」会長兼最高経営責任者(CEO)と、ゴーン氏は全てのトップを兼ねる形で、3社連合をつかさどる体制を、自ら創り上げてしまったのである。 今春にルノー会長兼CEOの座を2022年まで留任することを確約されたゴーン3社連合トップの野望は、この3社連合による2022年までの中期計画で世界販売を現在の約4割増の1400万台、連携による合理化効果を約2倍の年100億ユーロ(約1兆2800億円)に引き上げる目標を掲げ、世界のトップを奪取するというものだった。日産自動車の販売店とルノーの販売店に掲げられた看板=2018年11月20日、埼玉県川口市(共同) ゴーン氏は3社連合の発足から具体的な連携内容の策定まで一手に担ってきた存在だけに、その影響は大きい。日産は22日に取締役会を開きゴーン氏の解職を決める。三菱自動車もゴーン氏の逮捕を受けて、ゴーン氏の会長及び代表取締役の職を速やかに解くことを取締役会に提案することとしている。 海の向こうのフランスからも、ルノーの筆頭株主である仏政府のマクロン大統領がゴーン氏の日本での逮捕を受けて「ルノー日産連合の安定性を注視していく」とコメントしている。 日本ばかりか、世界で注目されたゴーン氏逮捕という事態がなぜ起きたのかは、驚きとしか言いようがない。あの怜悧(れいり)で不利益なものは見逃さないゴーン流の「上手の手から漏れた」のか。それとも、あまりに長きに渡る長期政権によって独善的支配が私的なものにつながっていった、という受け止め方をするべきか。ゴーン氏に会った意外な印象 カルロス・ゴーン。生まれはブラジルだが幼少期をレバノンで過ごしたレバノン民族である。大学はフランス随一のエリート官僚養成学校である仏国立行政学院(ENA)と並ぶ仏国立高等鉱業学校工学部という最高学府を出て、ミシュランに入社。若くしてブラジルミシュラン社長に就任し、北米ミシュラン社長からルノーにヘッドハンティングされ、日産に送り込まれた時は、弱冠45歳にしてルノー上級副社長だった。 1999年6月に日産最高執行責任者(COO)として日産再建に着手し、「日産リバイバルプラン」によってわずか2年で倒産の危機に瀕(ひん)していた日産を黒字転換させた。ルノーからの持参金5000億円とともに、「コストカッター」の異名から旧日産のしがらみを断ち、「コミットメント(目標必達)」経営がゴーン流の特徴だった。 コミットメント経営へ向けて、旧日産タテ割り、ヨコ割り意識をなくすためクロスファンクショナルチームを各部門に展開し、V字回復による日産再建を果たした。このゴーン流の経営は自動車業界だけでなく、日本経済界全体に大きな影響を与えた。 筆者は、ゴーン氏が日産社長兼CEOに就任した直後の2001年秋に初めてインタビューしたが、その初印象は「テレビで見ているより小柄」だった。日産に赴任して以来、日本のTVにもよく出演しており、自らの経営を語る「ゴーン・パフォーマンス」を見ていると、大きく見えたのだ。 インタビューしてみると、身ぶり手ぶりが大きく、通訳が追いつかないほど早口の英語でまくしたてる。自信満々の語り口は、まさに「自信家であり野心家」であった。だが、一方で何か都合の悪い質問をすると、うまく逃げてやりすごしてしまう巧妙さがあった。 来日当初は、その風貌から「ミスター・ビーン」と呼ばれていたが、その後はレーシック手術をして眼鏡を外すなど、風貌が変わっていった。再生計画について発表する日産自動車のカルロス・ゴーン最高執行責任者=1999年10月、東京都内のホテル(共同) ゴーン氏によって日産が再生したのは事実であるが、ゴーン氏の高額報酬は日産の株主総会の度に質問されていた。日産取締役の全報酬額のうち、ほとんどがゴーン氏に渡っていたわけだが、その約10億円という報酬も「グローバル企業ならこの額は低くても高くはない」としていた。この倍額を受け取り虚偽記載していたのは、日産がグローバル企業なのだから当然という考えだったのか。それにしても日産の他、ルノー、三菱自動車でも報酬があり、総額で20億円にもなるのに、とみるのはやはり庶民根性なのだろうか。 いずれにしても、グローバルで生きざるを得ないレバノン民族の血を持ち、若くして欧米日の大企業のトップとなって「名経営者」と自他ともに認めるほどのカルロス・ゴーン氏の名声が一挙に崩れてしまった。日産トップとして20年もの長きに渡って君臨したゴーン氏。いつから「私」と「公」の境が見えなくなってしまったのだろうか。

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    ゴーン氏逮捕の決め手「内部通報」はどういう制度か

    山岸純(弁護士) 日産自動車の代表取締役会長、カルロス・ゴーン容疑者が金融商品取引法違反容疑で11月19日に逮捕されました。有価証券報告書に役員報酬を過少記載した疑いが持たれています。 本件は内部通報と司法取引によって明らかになったと報道されています。一般的には「内部通報」と言われていますが、正式には「公益通報」なんです。この公益通報制度は簡単に言うと、会社の中の不正行為を現場の従業員が、役員や社長など上層部に対して通報するという、あくまで社内的な制度のことです。 そして公益通報をしたことによって左遷や解雇をしてはいけないというのが、公益通報者保護法によって定められています。 私自身がいくつかの企業から公益通報窓口の依頼を受けているように、公益通報の窓口は外部に設けることが多いですね。内部に通報窓口を設けた場合に、情報が内部に漏れるリスクがあるためです。 それ以上に今回私が注目したいのが、司法取引についてです。アメリカなどではよく行われていますが、国内では2018年6月1日に施行され、三菱日立パワーシステムズ社員の贈賄事件に続き、本件が適用2例目となりました。  今回、捜査機関に対して司法取引に応じた人物も、逮捕される対象だった人物である可能性があります。司法取引に応じ、情報提供をした人物は、逮捕・起訴されず罪を免除されることがありえますからね。 殺人事件や窃盗などと異なり、会社内部の事件は捜査が大変困難です。莫大(ばくだい)な量の資料やメール、データがあり、それを一つ一つ洗う必要がありますし、内部の話はなかなか分かりづらい。捜査がしにくい状況において、内部からのリーク、もしくは協力によって捜査が進むなら、その分恩恵を与えましょう、というのが司法取引です。「大物」を逮捕するために「小物」から情報を聞き出す、という場合もありますね。 国内での司法取引は、適用される法律によって始まった時期が異なります。例えば独占禁止法に対しては、2006年に施行された「リーニエンシー」という制度があります。談合、価格協定をしていたことを自主的に公正取引委員会に申告した場合、課徴金が減免される制度です。 なぜ、最近になって日本で司法取引の制度が施行されたかと言えば、グローバル化が進んでいったからでしょう。これまで日本の国民性を考えると、告げ口をするような司法取引という制度はなじまないのでは、という認識がありましたが、このままでは世界の潮流に置いていかれるという危機感から制定され、今回見事に活用されたわけですね。東京地裁=東京都千代田区霞が関 今回の事件は、数年前から内偵が始まっていたと考えられます。ここ数カ月の話ではないでしょう。なぜなら、先に述べた通り会社内部の捜査は非常に困難だからです。この手の企業犯罪、ホワイトカラー犯罪は、普通の犯罪とは違う特殊性があります。すべての証拠をそろえ、最後の最後に逮捕するわけです。 逃げられたり感づかれたりしたら最後、いくらでも証拠隠滅ができてしまいますから、慎重に内偵を繰り返し、多くの内部協力者と共に捜査をしていたのでしょう。今回のことが事実であれば地検特捜部の大金星ですね。ゴーン容疑者は重罪 さて、今回ゴーン容疑者は金融商品取引法違反の疑いで逮捕されましたが、みなさんが思っている以上の重罪です。  金融商品取引法は、株式や証券などの金融商品の取引を適正に行うルールを定めた法律です。金融商品取引法について、今回の事件に関係のあるところだけ解説すると、まずこの法律は「適正な取引を守る」ということを至上命題としています。これに害する行動に関しては厳しく処罰しています。  例えば田んぼをイメージしてください。農業用水から水が流れてきて、あちこちに引かれていますよね。この田んぼに流れてくる水には限りがあるわけですから、この水の流れを勝手に変えたり、水の目を勝手に変えて自分の田んぼにだけたくさん水が流れるようにしたりすれば、他の人は当然困りますよね。 一人の身勝手な行動で、この水の使い方が混乱してしまうんです。金融取引もこの流れと同じです。この流れに対して細工をする、ということに対しては、非常に重い罪になります。井戸水に毒を入れるのと同じ考え方です。  また、金融商品というのは日本だけではなく、世界中に影響があるわけです。外国の人だって日産の株を買いますから。とすると、日産の株を評価するために参考にする有価証券報告書に虚偽の記載があれば、際限なく悪影響が広まっていきます。 今回は有価証券報告書に役員報酬を過少表記したことが問題になっていますが、そもそもこの有価証券報告書っていうのは、一般に公開されているものです。日産のように株式を公開している企業は四半期に1回、企業の情報を金融庁に報告する義務があります。さらにこの報告書の中に、役員の状況という項目があり、役員の報酬を報告しなければならないわけです。 とすると、投資家たちは一般に公開されている日産の有価証券報告書をみて、日産の株式を買おうか、売ろうかを考えるわけです。 例えば、そう簡単なものではないのですが、役員報酬がずっと増え続けていれば、日産って元気な企業なんだなって投資家は思いますよね。役員の報酬が上がり続けているのに業績が悪い企業なんて普通は考えられないですから。カルロス・ゴーン容疑者の逮捕から一夜明け、報道陣らが集まった日産自動車の本社=2018年11月 ところが今回ゴーン容疑者は役員報酬を減らして記載していた。それを見た人たちは、投資をやめようかな、と思ってしまうかもしれない。この点が、みなさんが思っているよりも大きな問題なんです。 投資家を含め多くの人が有価証券報告書を見て、そして日産の株価が変わるわけです。さっきの話でいうと、水の流れが変わるわけです。なので、役員報酬を虚偽記載したというのは影響がとても大きく、大問題になるわけです。実刑の可能性も 罰則については、役員報酬を過少報告したことが、もし「重要な事項について虚偽の記載をしたと該当」すれば、場合によっては10年以下の懲役、1000万円以下の罰金に処されることがあります。重罪です。 さらに、刑事罰だけではありません。行政上のペナルティー、課徴金というのもあります。これも数億円になるでしょう。行政罰と刑事罰はまた別ですからね。個人に対する刑罰、会社に対する罰金、あとは日産社に対する課徴金が発生する可能性があります。 この後の展開ですが、脱税という可能性も考えられます。有価証券報告書で役員報酬を過少記載しただけではなく、きちんと確定申告をしていないということになれば、過少申告または無申告ということになります。場合によっては再逮捕の可能性もあるでしょう。 さらに、11月19日夜の日産の記者会見で報告されていたような経費の不正流用は、また別の犯罪になります。該当しうる法律でいえば、会社法の特別背任罪が考えられます。本来、企業のために全力を尽くさなければならない役員などの上層部が、会社のためではなく自分のために動き、会社に損害を与えた場合の犯罪です。 人から何かを頼まれて会社を経営している、というのは、信頼関係がもとになるわけです。その信頼を裏切ったということに対する制裁が特別背任罪で、これも10年以下の懲役が科せられる可能性がある重罪です。 実はちょうど昨日、興味深いニュースがありました。「丸源グループ」のオーナー、川本源司郎被告が脱税事件で実刑判決を言い渡されたのです。35億円の所得を隠し、法人税約10億円を免れた罪です。 川本被告には懲役4年、罰金2億4000万円を言い渡されました。これはあくまで刑事罰ですから、そのほかに過少申告加算税や重加算税というペナルティーがあります。大体、所得隠しをした35億円と同額、またはそれ以上の金銭がペナルティーとして持っていかれるでしょう。脱税は割に合わないという見せしめのためです。 今回、もし、ゴーン容疑者が所得50億円分を過少申告もしくは無申告していたとすれば、川本被告と同じく懲役4年の実刑判決は間違いないでしょう。丸源ビルオーナーの実刑判決は、ゴーン容疑者の行く末を示唆するかのようなタイムリーな報道でしたね。記者会見に臨む日産自動車のカルロス・ゴーン社長(当時)=平成28年10月、東京都港区(福島範和撮影) ちなみに、この川本被告が脱税を追及されたのは今回で2回目のようです。1回目の時は、政治家などが絡んでうやむやにしてもらったようですが、今回はダメだったみたいですね。時の権力者にお金を積んで見逃してもらうような、そんな時代は終わったということでしょうか。(聞き手/iRONNA編集部、中田真弥) やまぎし・じゅん 弁護士、弁護士法人ALG&Associates執行役員。昭和53年、福島県生まれ。早稲田大法学部卒。時事問題や芸能ニュースを、法律という観点から分かりやすく解説する弁護士として、テレビやネットニュースなど各種メディアに多数出演。その他、企業向け労務問題、民泊ビジネス、PTA関連問題などのセミナーで講師を務めている。

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    シャープほか 不祥事銘柄が絶好の狙い目になる例も

     ここ数年、日本を代表する企業に不祥事が相次いだ。だが、「安く買って高く売る」投資の大原則に従えば、何らかの理由で叩き売られた企業の株が「絶好の狙い目」になり得る。 そうした“不祥事銘柄”に投資し、2億円以上の資産を築いた「億り人」の吉良吉影氏は言う。「かつて私が大きく儲けたのはオリンパス(東1・7733)です。2011年10月に粉飾決算が発覚し、損失隠しに関与した社長らが次々に解任。発覚前に2482円だった株価が1か月ほどで5分の1となる400円台まで急落し上場廃止も囁かれる中、私はオリンパス株に500万円投資しました。急落から1か月後、1200円超まで回復したところで売って、元手を2倍にしました」 その後、オリンパスは一時5000円台まで上昇した。同社はいま再び内部告発騒動で揺れており、今後の株価動向にも注目だ。 経営不振で暴落した株価が復活した典型的なケースがシャープ(東1・6753)である。主力の液晶事業が傾き、台湾の鴻海グループ傘下となった同社株は2016年8月に東証2部へと降格し、かつて2万円を超えていた株価は一時1000円割れになった。 しかし鴻海の支援で再建が進むと5000円台まで値を戻し、1部復帰を果たした現在も4000円台で推移している。株式アドバイザーの北浜流一郎氏が語る。シャープ本社=堺市「相場格言に『落ちてくるナイフは掴むな』とあるように、株価が急落している最中に手を出せば、衝動売りに巻き込まれるリスクが高い。 ただ、もともと基礎体力のある企業は、市場が冷静さを取り戻すと、反騰するケースが多いのも事実。本来、大企業の大型株は値動きが激しくないのですが、株高基調の現在なら底値圏で仕込めれば大きな上昇が期待できます」関連記事■ 一攫千金も? 東芝、電通、大林組など“不祥事銘柄”の魅力■ シャープ創業者「シャープペン」を考えシャープを大きくした■ 小出恵介不祥事 「作品と不祥事は別物」宣言を制作者はせよ■ 9月10月は白物家電絶好のチャンス 型落ち新品など狙い目■ シャープ25歳茶髪正社員 「2丁目に行ってオカマになるべ」

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    日産の「ゴーンショック」 その余波はどこまで広がるのか

     カリスマ経営者から一転、「容疑者」に堕ちた日産自動車のカルロス・ゴーン会長──。“コストカッター”の異名をとり、瀕死の状態だった日産を見事V字回復させた剛腕ぶりは企業再建の手本とまで称賛されたが、その輝かしい功績も台無しにしてしまった。「一人に権力が集中し、長年実力者として君臨してきた弊害は大きい」「残念という言葉を超えて、強い憤りと落胆を覚えている」 ゴーン容疑者逮捕の報を受け、11月19日の深夜に記者会見した西川広人社長は、こう淡々と話した。 長らくゴーン氏の腹心として日産の経営改革を支え、社長の後継指名を受けた西川氏だけに、ゴーン氏の逮捕容疑となっている報酬額の過少申告(有価証券報告書の虚偽記載による金融商品取引法違反)ほか、噂されている子会社を通じた高級住宅の購入や、その他、経費の私的流用といった「複数の重大な不正行為」も知り得る立場にあったはず。 記者からは西川氏の経営責任を問う声も出たが、「猛省すべきところもあるが、事態を安定化させることが私の責任」と語るにとどめた。2018年11月19日、記者会見でうつむく日産自動車の西川広人社長 ジャーナリストの福田俊之氏は、今回のゴーン追放劇の内幕をこう見る。「もちろん、西川氏もゴーン氏のワンマン経営や公私混同ぶりを黙認してきた一人だと思いますが、社員では到底手に負えないから、司法取引などをしながら東京地検特捜部に任せてつまみ出してもらったということでしょう。このまま不正を見過ごしたままゴーン氏が自ら退任したら、退職金だって何百億円だったでしょうからね。 確かにリーマン・ショック前のゴーン流改革は持て囃されましたが、2005年以降は経営計画のコミットメント(公約)は未達続き。とっくにカリスマ経営者の“賞味期限”は切れていたのに、社内では誰も抗うことができず、トップに君臨し続けていたのです。 そこで、ゴーン氏のことを一番よく知っている西川氏が、最後に社員・株主・取引先のため、ひと肌脱いだというシナリオです」3社連合の「今後」 だが、いくら“裸の王様”を追い出すことに成功しても、世界第2位の販売台数を誇るルノー・日産・三菱自動車連合という巨大グローバル企業のトップが逮捕されるという異常事態のインパクト、そして今後の影響は計り知れない。 まずは、3社連合のパートナーシップの今後を懸念するのは、『経済界』編集局長の関慎夫氏だ。「日産の株式の43%を保有するルノーの株式にはフランス政府も15%出資しており、経営の重要な意思決定には日産トップとルノーだけでなく、フランス政府との交渉も欠かせない。果たしてゴーン氏が去った後の日産でその役目を果たせる人がいるのか疑問です。 また、傘下入りした三菱自動車もゴーン氏がいたから従ってきた面が大きい。三菱はもともとプライドも高いメーカーなので、今後、いくら日産が協業を持ちかけても『冗談じゃない』と反発を強める恐れもあります」 次に株主の動向だ。これまで日産はメーカー随一の配当を出してきたため、株価も安定していたが、事件後に株価は急落。今後も極めて不安定な状況になることが予想される。「投資家の中には、ゴーン氏がいるから経営は安心して任せられると株を持っていた人も多かった。だから、会長や社長の高額報酬についても株主総会で批判が出なかった。しかし、今回の件で今後の経営体制や業績に厳しい見方が出るのは必至」(経済誌記者) もちろん、日産社員や取引先、販売店などから噴出する不安や不満も早急に払拭させなければ、経営の屋台骨は崩れてしまう。「ゴーン氏が高い業績のパフォーマンスをあげていた2000年代に入ってきた日産社員や関係先の従業員は、他企業からヘッドハンティングされてやる気に満ちた優秀な人材も多い。こういう人たちが今後、どれだけ日産を見捨てず、奮起して会社を生まれ変わらせることができるかがカギでしょう」(前出・福田氏) そして、もっともゴーン氏逮捕の影響が見えにくいのが、消費者だろう。西川社長も会見で「日産ファンには申し訳ない」と謝罪したが、今回の事件が新車販売にまでブレーキをかけてしまうのか。「日産ユーザーの中には、ゴーン氏がいなくなっても良いクルマさえ出してくれればという人もいるでしょうが、自分が購入したクルマの利益が不正に流用されていたと聞けば、いい気分はしませんよね」(前出・関氏) こうして多方面に及びかねない「ゴーンショック」の余波。事態が大きすぎるがゆえに、“通常運転”に戻すだけでも、相当な時間がかかりそうだ。関連記事■ 日産連合“カリスマ”退場で打撃必至 ゴーン氏逮捕、3社をまとめる扇の要失う■ 日産社員は複雑「私たちの給料と桁違い。想像つかぬ」■ 「プロ経営者」次々と更迭 なぜ日本で活躍できないのか■ ゴーン氏逮捕に至った責任追及に疑問も 米メディア■ 日産社員と司法取引合意 東京地検、2例目 ゴーン容疑者捜査

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    ゴーン・ショック

    「ゴーン・ショック」が世界を駆け巡った。日産自動車のカルロス・ゴーン会長が自らの報酬50億円を過少申告したとして逮捕された。経営危機にあった日産をV字回復させた世界的カリスマ経営者ゆえに、その衝撃は計り知れない。ゴーン会長に何があったのか。

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    カルロス・ゴーンは「英雄」か、それとも「悪人」か

    片山修(経済ジャーナリスト、経営評論家) カルロス・ゴーンは、日本の自動車業界にとって「英雄」だったのか、あるいは「悪人」だったのか。 日産自動車と三菱自動車の代表取締役会長を兼任し、仏ルノーの会長兼CEO(最高経営責任者)を務めるゴーン氏が、有価証券報告書に自らの報酬を50億円も過少に報告していたとして逮捕された。他にも日産の投資資金の私的流用や経費の不正使用の疑いもあるという。 ゴーン氏が、ルノーから倒産寸前の日産にCOO(最高執行責任者)として送り込まれたのは、1999年だ。ルノーは日産の株式の36・8%を取得し、傘下に収めた。翌00年、日産社長兼CEOに就任後、17年6月まで君臨し、今日まで代表取締役会長の職にある。 ゴーン氏の功績は、数字を見れば顕著である。彼が社長に就任した当時、263万台に過ぎなかった日産の世界販売台数は、17年には581万台まで伸びた。 さらに際立つのは、02年に「ルノー・日産BV」(非公開会社)と呼ばれる統括会社を設立し、ルノー・日産アライアンス(連合)という世界に類を見ないマネジメント体制を確立したことだ。ルノーは日産への出資比率を44・4%に引き上げ、日産もルノーの株式の15%を取得した。14年には、両社の間で「研究・開発」「生産技術・物流」「購買」「人事」の4機能について「一体運営」へと踏み込んだ。これは、いわばゴーン氏の「壮大な実験」だった。 背景には、ゴーン氏の野望がある。米ゼネラル・モーターズ(GM)、独フォルクスワーゲン(VW)、トヨタ自動車の「世界ビッグ3」の一角に食い込み、さらに「世界一」を達成することこそ、彼の悲願だったと言っていい。日産自動車のカルロス・ゴーン氏=2015年12月(寺河内美奈撮影) 16年、日産はゴーン氏主導で三菱自を買収し、ルノー・日産・三菱自の「三社連合」を構築した。買収を発表する会見の席上、ゴーン氏は満面の笑みを浮かべた。いよいよ、世界一が視野に入った瞬間だった。 三社連合の世界販売台数は、17年に初めて1060万台と1千万台の大台に乗り、VWに次ぐ世界2位となった。倒産寸前だった日産がここまでの発展を遂げることができたのは、ゴーン氏のリーダーシップなしには有り得ないことだった。衰え始めた「神通力」 ゴーン氏は、日本経済全体に与えた影響も多大である。彼が日産入り直後に立ち上げた「日産リバイバルプラン」によって、日産はV字回復を達成した。「コミットメント経営」という言葉は、このときゴーン氏によって日本に広まった。 ゴーン氏は終身雇用や年功序列、春闘の横並びなど「日本型」を打破し、「系列重視」の国内自動車産業の慣行に風穴を開けた。日産のV字回復は、バブル崩壊直後の低迷に苦しむ日本企業にとって、いわば「お手本」となったのである。日本企業の経営のグローバル化に寄与したといっても言い過ぎではないだろう。 近年、世界の自動車産業は、トヨタの豊田章男社長と並んでゴーン氏が牽引(けんいん)した。この二人には、米国のトランプ大統領や中国の李克強首相、フランスのマクロン大統領など、世界のリーダーでさえも直接会って言葉を交わす。いわば「トップ外交」だ。それほどの影響力のある日本企業のトップは、彼らの他にはソフトバンクグループの孫正義会長兼社長くらいだろう。 当然、ゴーン氏による日産の立て直しは、痛みを伴う改革だった。彼は、雇用削減や村山工場の閉鎖などリストラを断行し、「コストカッター」と呼ばれた。系列など日本型の商慣行を破る改革は、業界内に軋轢(あつれき)を生み、鉄鋼業界では川崎製鉄とNKK(日本鋼管)の経営統合(現JFEホールディングス)にまで発展し、「ゴーン・ショック」と呼ばれた。 もっとも、私の知る限り、日産内部において、表立ってゴーン氏に逆らう動きはなかった。彼は2005年、COOに志賀俊之氏(現取締役、INCJ会長)を抜擢した。志賀氏の社内外での人望は厚く、この人事によって社内の統率は取れていたという。しかし15年、志賀氏は産業革新機構(現産業革新投資機構)の代表取締役となり、日産の代表取締役を外れた。17年、ゴーン氏は現社長兼CEOの西川(さいかわ)広人氏にトップを譲った。長年トップに居座り続けたゴーン氏の「神通力」が衰え始めたとしたら、このころからだったかもしれない。 11年度から16年度までの中期経営計画「日産パワー88」は、世界シェア8%や営業利益率8%などを掲げたが、そのほとんどが未達に終わった。ゴーン氏の代名詞だった「コミットメント経営」は、もはや力をなくしていたのである。 私はこれまで、ゴーン氏の経営は「情と理」の経営だと評してきた。「理」に沿って、時に冷徹な決断を下し、コストカットを断行する。一方で彼は、工場の現場や地域をリスペクトし、「情」のある経営を行う側面も持ち合わせていた。 ゴーン氏のマネジメント能力、人心掌握術には、彼の出自が大きく影響している。彼はレバノン系の両親を持ち、ブラジルで生まれ育ち、フランスの大学に学んでタイヤメーカーのミシュランに就職し、ルノーに転職。その後、日産に送り込まれる形で日本へやって来た。言うなれば、ダイバーシティ(多様性)を具現化したような人物である。2011年5月、復旧した日産自動車いわき工場を訪れたカルロス・ゴーン社長にヘルメットが贈られた(大坪玲央撮影) ゆえに、彼は各国や地域の文化、人をリスペクトする姿勢を見せる。例えば、日産の株主総会で壇上に上がる際は必ず一礼し、着席の際にも一礼する。自社工場で行われる新型車のラインオフ(完成)式では、作業員と同じナッパ服を来て「エイ、エイ、オー」と声を張り上げる。優れた人心掌握術はこうした側面からも見て取れる。あまりに長かった「君臨」 2011年の東日本大震災当日、パリにいたゴーン氏は、連絡を受けるや「(日産本社の)横浜に帰る」と言って関係者を驚かせた。福島県にあった日産いわき工場は多大な被害を受け、あわや撤退の危機にあった。 しかし、ゴーン氏はいち早くいわき工場に足を運び、「必ず工場を早期再開する」と宣言した。実際に被災から1カ月余りで一部生産再開にこぎつけた。ゴーン氏の訪問とその言葉に、震災と原発事故のダブルパンチを食らった従業員やいわき市民は、強く勇気づけられたという。 それぞれの国や地域、文化をリスペクトし、最大限に配慮する「情」の姿勢である。だからこそ、日産社員は激烈な「ゴーン改革」に必死についていき、現在のような復活を果たすことができた。 とはいえ、ゴーン氏のトップ君臨は、あまりに長かったということだろうか。 11月19日、日産社長の西川氏は会見の席上、今回の事件について「長年のゴーン統治の負の側面といわざるを得ない」とし、ゴーン氏一人に権限が集中したことについても「ガバナンス(企業統治)に関しては猛省する」と述べた。 犯した罪を見る限り、会社のカネで私腹を肥やしたゴーン氏は「悪人」に違いない。しかし、それでもなお、彼が日産、ひいては日本経済に与えた功績を考えれば、一面では「英雄」であったことも、認めざるを得ないだろう。そして、功績が確かだからこそ、従業員や関係者の「落胆」も大きい。2018年10月20日、横浜市の日産自動車グローバル本社前に掲げられた(左から)日本国旗、フランス国旗、日産の旗 三社連合という「壮大な実験」は画期的だった。しかし、この前代未聞の多国籍アライアンスは、ゴーン氏のリーダーシップなしには成立し得ないものだった。結果的に、体制そのものがガバナンスの留め金を外し、ゴーン氏に「やりたい放題」を許すことにつながった。 ゴーン氏は、三社連合の世界販売台数について、22年に1400万台という予測を発表していた。しかし、ゴーン氏の失脚により、三社連合、さらに三社それぞれが多大な影響を受けるのは間違いない。今後、三社連合が崩壊し、日産の経営が傾くような事態になれば、それこそがゴーン氏の残す最大の「負の遺産」になるのかもしれない。

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    東京地検特捜部、ゴーン会長逮捕に「米国の陰謀」はあったか

    斎藤満(エコノミスト) 11月19日夕刻のニュース速報で「日産自動車のゴーン会長逮捕」が流れると、世界に激震が走りました。欧州市場ではルノーの株価が10%以上も急落し、フランスのマクロン大統領も「事態の成り行きを注視する」と述べました。 そして20日の東京市場でも日産自動車、三菱自動車の株価が一時6%以上も下がるなど、カルロス・ゴーン氏が経営にかかわる企業の株は大きく売られました。 しかし、何か不自然なものも感じます。逮捕後に会見した日産自動車の西川(さいかわ)広人社長によると、内部告発を機に数カ月前から内部調査をした結果、ゴーン氏が経営トップにあった時期に「複数の重大な不正行為があった」と言います。逮捕容疑によれば、ゴーン氏は2015年3月期までの5年間に、実際は100億円近い報酬があったのに、有価証券報告書には50億円も過少に報告していたそうです。 さらに、会社の金を私的な投資や消費に使っていたとも指摘されています。これらの疑いについて、東京地検特捜部も捜査をしており、日産自動車は近くゴーン氏に会長職の解任を求める予定だそうです。 5年間で50億円も報酬を過少に報告していた上に、実際には公表額の倍に当たる年20億円もの報酬を受け取り、さらにフランスのルノーからも約9億円、最近では三菱自動車からも2億円以上もらっていたと言います。クビを切られた日産社員から見れば、許し難い行為だったのかもしれません。 確かに米国では年10億円以上の報酬を得ている経営トップはいくらでもいます。しかし、日本の企業社会においては、いくら業績を上げた経営トップといえども、10億、20億の報酬を得ることには批判がつきもので、まして「コスト・カッター」として多くの犠牲を社員に求めた経営トップともなれば、反発も多いと思います。事実、フランスでもゴーン氏の高額報酬についてルノーの株主が反発しています。記者会見に臨む日産自動車のカルロス・ゴーン社長(当時)=2016年10月20日、東京都港区(福島範和撮影) しかし、ゴーン氏が経営に参画する前は、1兆4千億円の債務を抱えて経営が行き詰まっていた日産を、厳しいコスト削減の中で瞬く間に債務をゼロにし、業績をV字回復させた手腕は高く評価されています。そのため、多少の「不正」にも捜査当局は目をつぶってきた経緯があります。 それだけに今回、報酬の過少申告や資金の私的流用を「重大な不正行為」として、東京地検が動いたというのは、従来の慣行からするとやや違和感を感じます。これで懲役10年、ということになれば、同業者や経営トップの中には居心地の悪い思いをしている人も少なくないのではないかと思います。では、なぜ今東京地検が動いたのでしょうか。ゴーン逮捕は米国の陰謀か 一つの推測にすぎませんが、米国の意向が何らかのメッセージを伝えようとしていた可能性があります。東京地検特捜部は、その生い立ちから、米国当局と深いつながりがあり、しばしば米国の事情が捜査に反映されることがあるからです。 東京地検特捜部は、米軍占領下の1947年に旧日本軍が退蔵していた物資を摘発し、GHQの管理下に置くために設置された組織がもともとの姿であり、以来米国との連携が密と言われています。今回の事件についても、ゴーン氏がその米国を刺激するようなことをしてしまった可能性が指摘されています。 例えば、今日のトランプ政権にとって、日本の対米黒字が許容できないほど大きく、その主犯が自動車産業にあるとみています。このため、米国は日本に対して、対米自動車輸出を大幅に削減し、米国での現地生産にシフトするよう求めています。自民党の阿達雅志参議院議員によれば、日本側に最大100万台の削減を求めているらしく、昨年1年間の対米自動車輸出は174万台でしたから、これはとんでもなく大きな数字であり、自動車業界の経営を揺るがしかねない事態です。 このため、日本の自動車業界としても簡単に応諾できるものではなく、日産もこの米国案には抵抗していたと言います。そう考えれば、ゴーン氏の逮捕は、いわば「見せしめ」的な何らかの意図が働き、他の自動車業界に対米輸出の自主規制を促す、との見方もできなくはありません。 また、日産は経営危機に陥った三菱自動車を傘下に収めましたが、三菱自はかつて軍事部門を持つ三菱重工業の一部門でした。日産がゴーン会長の下で軍事部門を支配するようになれば、米国の軍事産業が警戒を強める可能性も指摘されていました。真相は分かりませんが、今回の特捜部の動きは「米国との連携プレー」という側面も否定できません。 こうした経緯で考えると、今後の日本経済、産業界には少なからぬ影響が予想されます。まず日本経済については、自動車業界の対米輸出の大幅削減が、そのまま需要の減少、成長の押し下げとなります。自動車業界だけで対米黒字を4兆円以上生み出していますが、仮にこれをゼロにすると、関連企業、下請け企業の需要減も含めて、日本のGDP(国内総生産)を1%以上減らす可能性があります。 消費税増税と自動車の対米輸出大幅減が重なると、現在検討されている補正予算による景気対策を講じてもカバーできなくなります。かといって、10兆円超の大型景気対策を打ち出しても、人手不足で実施が困難な上、財政赤字の拡大、長期金利の上昇という副作用をもたらします。 仮にこれで日本全体のGDPは落ち込みを回避できたとしても、兆円単位の輸出減に直面する自動車業界の救済にはつながりません。米国での現地生産拡大で穴埋めできる分は限られています。米国でも人手不足が進行しているからです。トランプ米大統領=11月6日(ロイター) さらに、日産自動車は「重大な不正行為」を働いたとはいえ、一度は経営危機に陥った同社を見事に再建し、業績をV字回復させたゴーン氏の「手腕」を失うことになります。これに代わるカリスマ経営者がすぐに現れる保証はなく、輸出の大幅削減の下で世界2位の巨大自動車グループが迷走するリスクがあります。 今回のゴーン会長逮捕は、単なる個人の不正に対する処分では済まない大きな波紋を日本経済に広げることになります。日本経済や金融市場への打撃はもちろん、長年わが国の産業界でリード役を果たしてきた自動車業界全体にとっても、対米輸出の規制を通じた大きな試練に直面し、経営の基盤を揺るがす事態ともなりかねません。これは自動車をはじめとする産業界に支えられる安倍政権にとっても、大きな試練となります。

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    ゴーン会長の高額報酬は本当に適正だったか

    高橋洋一(嘉悦大学教授) 日産自動車のカルロス・ゴーン会長が有価証券報告書に報酬額を過少申告していたとして逮捕された。報道によれば、容疑は有価証券報告書への虚偽記載であり、これは金融商品取引法違反になる。その背後に、社内通報制度を契機に不正が発覚し、検察当局に報告し全面的に協力した上で、内部調査も実施したという事情もあるようだ。 内部通報に関わる制度としては、公益通報者保護法もある。公益通報者保護法による公益通報制度、いわゆる内部告発がある。ここで、公益通報の対象となる「通報対象事実」とは、同法に列挙されている法規制の犯罪行為の事実などを指す。この列挙されている法律の中には、今回の金融商品取引法も含まれているので、通報した労働者も不利益を被(こうむ)ることはない。 ただし、2004年に施行されたこの公益通報制度は、内部告発した会社による公益通報者への報復人事を禁止しているものの、その実効性はないと言われている。もっとも、今回の場合、日産がゴーン氏を追い出すわけなので、これを通報した内部者に対して日産が不当な人事を行わないと思うので、その点は心配ない。 法人としての日産は検察にも報告し、その上で同社関係者が司法取引にも応じている。このため、有価証券報告書の虚偽記載については、法人としての違法行為も問われかねないが、司法取引によって刑事処分を免れ、起訴されない可能性もある。 そもそも、役員報酬の実態はどうなのか。今や、役員報酬の開示制度があるので、賞与やストック・オプション(自社株購入権)などの報酬総額が「1億円以上」の役員について、報酬額は有価証券報告書で個別に開示されている。民主党政権下の2010年3月期決算から義務付けられた制度であるが、民主党らしい政策であると思い、筆者は一定の評価をしている。 この開示制度のために、会社の交際費や将来の役員年金などの「フリンジ・ベネフィット(付加給付)」を縮小する動きになっている。海外の投資家などから「報酬ではないか」と指摘された場合、反論できないので、役員報酬に切り替えているのだ。 また、マスコミでも、毎年のように役員報酬ランキングが作られている。かつては、日本の役員報酬が低いといわれていたが、この開示制度により対外的に説明できればいいとの考え方が広がり、日本人の役員報酬も高額な人がそれなりに増えた。 その上位ランクの常連が、今回逮捕されたゴーン氏だった。今年のランキングで上位を見ると、1位がソニーの平井一夫会長で27・1億円だったが、10億円以上の10人のうち7人は外国人役員だ。ゴーン氏は18位にランクされ、7・35億円となっている。2018年10月19日、厳しい表情で記者の質問を聞く日産自動車の西川広人社長 確かに、日産の2018年3月期の有価証券報告書を見ると、同社で1億円以上の役員報酬を受けているのは、ゴーン氏の7・35億円と、西川(さいかわ)広人社長の4・99億円の2人だけだ。なお、日産の役員は、9人の取締役と4人の監査役である。9人の取締役のうち、今回逮捕されたゴーン氏と、ゴーン氏の不正に関与したとして逮捕された代表取締役のグレゴリー・ケリー氏のほか2人の計4人が外国人、残り5名が日本人である。 役員区分ごとの総報酬は、取締役に対して金銭報酬16・54億円、株価連動型インセンティブ受領(じゅりょう)権0・9億円、監査役1・01億円、社外役員1・02億円と記載されている。合理的な算定は困難 有価証券報告書には、役員報酬の考え方も書かれており、「当社の取締役に対する報酬は、平成15年6月19日開催の第104回定時株主総会において決議されたとおり、確定額金銭報酬と株価連動型インセンティブ受領権から構成されている」となっている。 ゴーン氏と西川氏は、株価連動型インセンティブ受領権はなく、確定額金銭報酬だけだ。この点、報告書では「平成20年6月25日開催の第109回定時株主総会の決議により年額29億9000万円以内とされており、その範囲内で、企業報酬のコンサルタント、タワーズワトソン社による大手の多国籍企業の役員報酬のベンチマーク結果を参考に、個々の役員の会社業績に対する貢献により、それぞれの役員報酬が決定される」と記載されている。 具体的にどのように算定していたかが、気になる。ちなみに、ゴーン氏と西川氏の2人で計12・34億円なので、他の取締役は4・2億円しかもらっていないことになる。一人当たり1億円にも満たない報酬であり、しかもゴーン氏と西川氏との格差は大きい。実際には、ゴーン氏が20億円近くもらっていたと報じられており、格差はさらに拡大する。 率直にいえば、取締役各人の会社業績に対する貢献が分からない以上、合理的な算定は困難だろう。より客観的に行うためには、合理的な業績連動型の方が望ましいのではないか。米国の企業でも、役員の高額報酬が話題になるが、業績連動型であれば説明は容易である。いずれにしても、最終的には株主総会の議決があればいいので、適正なプロセスでクリアすればいい。 もっとも、今回の場合には、虚偽の報酬額ということであるので、弁解の余地はない。その場合には、内部通報が有効なのだろう。もし、ゴーン氏が適正に役員報酬を有価証券報告書に記載していて、株主総会で了承されていれば、何の問題もなかっただろう。 いずれにしても、今回は、ゴーン氏逮捕の後、日産はすぐにプレスリリースを出し、会長解任などの方向性を素早く打ち出し、西川社長による会見も行われた。内部通報を受けてから、数カ月もゴーン氏とケリー氏の内部調査を行い、同時に検察当局への報告もしていたというのだから、当然だろう。 内部通報の時には、マスコミへのタレ込みも行われるものなので、今回も第一報を伝えたのは朝日新聞などであり、一部マスコミには情報も流れていたようだ。横浜市の日産自動車グローバル本社=2018年11月20日(飯田英男撮影) かつてであれば、リークを受けたマスコミは相当なアドバンテージがあっただろう。しかし、ゴーン氏逮捕の2時間後に、西川社長が記者会見するなどして、各マスコミのアドバンテージがほぼ消え去ったと言える。この記者会見は、インターネットでライブ配信されていたからだ。会見の前後、ネットでは夥(おびただ)しい情報が流れてきた。 以前なら、社長の記者会見を報道するのはマスコミだけで、人々はマスコミ経由でものごとの真相を突き止めるしかすべがなかったが、今はネットで当事者の話が直接聞ける時代だ。当事者の直接の情報発信手段がなかった時代には、マスコミの助けがないと、不利になる恐れもあったが今は違う。 今回の事件を見ると、従来のマスコミのポジションがなくなりつつあるように感じられた。少なくとも筆者には日産のプレスリリース、西川社長の記者会見と有価証券報告書があれば、十分な情報である。

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    逮捕容疑は微罪でも思惑動く「ゴーン・ショック」

    日本国内でゴーン氏はいわゆるグローバル・スタンダードの象徴と見なされてきた。ゴーン氏は日本の平均的な企業経営者とは比較にならない水準の高額報酬を受け取っていたが、上場企業の経営者の報酬は高額で当然、という話の引き合いに出されるのは決まってゴーン氏であった。 ゴーン氏の影響なのかは不明だが、その後日本の経営者の役員報酬はうなぎ上りになっており、現在では業績が芳しくない企業であっても億単位の報酬をもらう役員が続出している。 筆者は、国籍にかかわらず有能な人物を高額で雇うことについて、基本的に賛成する立場である。だが、ゴーン氏が高額報酬の妥当性を担保できるグローバル・スタンダードな経営者なのかという点については疑問の余地があると考えている。 情緒や感情ばかりが優先する日本社会では、グローバル企業という言葉の定義すらはっきりしておらず、外資であればグローバルといった単純な理解にとどまる人も多い。 本当の意味でのグローバル企業というのは、明確な国籍がなく、拠点も人材も多国籍になっている企業のことを指す。具体的にはネスレやABBグループ、ユニリーバといった企業である。 米国の著名企業の中にはグローバルに事業を展開しているところも多いが、マイクロソフトもインテルもれっきとした米国企業である。自動車メーカーになると国を代表する企業という側面が強くなり、自動車大手のGM(ゼネラル・モーターズ)はまさに米国を象徴する企業といってよい。 その文脈で考えれば、フランス政府が筆頭株主となっているルノーは、グローバル企業ではなく、れっきとしたフランス企業ということになる。フランスはもともと革命国家であり、ミッテラン政権時代には企業の国有化を強力に推し進めるなど、社会主義的・官僚主義的な風潮が極めて強い。ゴーン氏自身もレバノン系ではあるが、フランスの官吏養成機関である「グランゼコール」を卒業した典型的なフランスのエリートである。ゴーン氏は微罪か 米国企業や多国籍企業の役員報酬が極めて高額なことはよく知られているが、著名企業の多くが国営となっているフランスは事情が異なる。企業トップにはグランゼコールの卒業生が就くケースが多く、米国企業やグローバル企業のような超高額報酬は許容されていない。 ゴーン氏は、日産のトップに就任して以降、常に10億円近くの報酬を受け取ってきた(逮捕容疑によると実際はもっと多かったわけだが…)。ゴーン氏は親会社であるルノーのトップも兼任しているが、ゴーン氏はルノーからはそれほど多くの役員報酬をもらっていない。 最近でこそ、ルノーからの報酬も引き上げているが、フランス政府はゴーン氏の報酬引き上げに反対してきた。ゴーン氏はこうした事情から、報酬の多くをアジアの現地子会社である日産から受け取ってきたというのが現実なのである。 一連の状況を総合的に考えると、ゴーン氏はいわゆるグローバル・スタンダードの経営者ではなく、典型的なフランス企業の経営者であり、買収したアジアの現地子会社から多額の報酬を受け取っていたに過ぎないということになる。 今回、ゴーン氏にかけられた容疑は有価証券報告書の虚偽記載である。投資家にウソの報告をすることは許されることではないが、自らの報酬額を少なく説明していたことが投資家にどれほどの損失を与えるのかというと、現実には大した話ではない。 逮捕容疑について脱税と勘違いしている人が多いが、今のところゴーン氏に脱税の容疑はかかっていない。そもそもゴーン氏は源泉徴収の対象である可能性が高く、もしそうだとすると理論的には脱税のしようがないのだ。 日本では、悪質度合いでは比較にならない「不正会計」が横行しているにもかかわらず、まったく罪に問われない経営者がたくさんいるという現状を考えると、現時点で得られる情報の範囲ではゴーン氏の容疑は「微罪」ということになる。余罪があるのか、場合によっては今回の逮捕に何らかの思惑が存在しているようにも思える。 真相はまだ分からないが、冷徹なリストラを行い、多額の報酬を受け取っていたカリスマ外国人経営者が逮捕されたことで留飲(りゅういん)を下げた人も多いかもしれない。だが、そのような感覚のままでは、再び同じことの繰り返しとなるだろう。 そもそも日産がルノーに買収されたのは、日産を救済する覚悟を持った企業や投資家が日本にいなかったからである。日産が経営危機に陥った際、日本国内のリスクマネーが日産を救済していれば、こうした事態には至らなかったはずだ。三菱自動車を救ったのも、結局はルノーだったという現実を忘れてはならない。日産自動車の社長と三菱自動車の会長を兼務することが決まり、会見に臨んだカルロス・ゴーン氏(当時)=2016年10月、東京都港区(福島範和撮影) 最近ではシャープという事例もある。日本国内では中国資本に対する批判が根強いが、結局シャープを救ったのはチャイナ・マネーであるというのは厳然たる事実だ。鴻海は台湾の企業だが、創業者のテリー・ゴー氏は外省人(中国から台湾に渡った人々と子孫)であり、中国本土で成長した企業なので限りなく中国資本に近い。鴻海は台湾企業であるとして納得するのはナンセンスである。 競争を忌避(きひ)し、自らに甘く、いざという時にリスクを取れない国民は、資本市場において確実に諸外国の餌食(えじき)となる。ゴーン氏の活躍と失墜は、日本人自身に問いかけられた課題と認識すべきだろう。

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    ゴーン会長もついにGOサインで日産が「フランス企業」に?

     このところ政治の話題に占拠された感のある新聞紙面だが、日経新聞の経済スクープが久々に財界を驚かせた。〈資本関係見直し検討 日産・ルノー22年までに〉(4月17日付朝刊) 日産とフランスの自動車大手ルノーは、日産が経営危機に陥った1999年以来、資本提携を続けてきた(ルノーが日産に43%、日産がルノーに15%出資)。一方、ルノーの筆頭株主であるフランス政府は近年、一貫してルノーに圧力をかける形で経営統合を迫ってきた。 これに対して両社の会長を務めるカルロス・ゴーン氏は、「資本関係を変える必要はない」と拒んできた経緯がある。 それがこの記事ではゴーン氏がインタビューに答え、「(合併も含めて)あらゆる選択肢についてオープンに考えている」と明言したのだ。驚きの変わりようである。『経済界』編集局長の関慎夫氏はこう指摘する。「ルノーの筆頭株主であるフランス政府のマクロン大統領は、本気で日産を吸収合併しフランス企業にしようとしている。日産合併案はマクロン大統領が2015年に経済産業デジタル大臣を務めていた時からの持論で、ルノーと日産が経営統合することで、日産をフランス国内の雇用や産業振興に活用したいと考えているのです。日産側はこれまで経営統合に否定的でしたが、トップのゴーン氏はついに容認に舵を切ったということでしょう」 日産は経営危機からルノー資本を受け入れたとはいえ、その後は技術力で日産がルノーをリードし、近年は日産の“独り立ち”が期待されるようになっていた。それが一転、さらなる“仏化”が進むとなれば、日本の産業界に与える影響は大きい。「ゴーン会長は日仏両政府の合意が必要だとしているが、直接の利害関係者である仏政府とそうでない日本政府では、発言力も本気度も全く異なってくる。シャープや東芝を見れば分かりますが、日本政府は昔と違い、国内企業を守るという意識が希薄化しています。こういう流れを見ても、残念ながら日産が事実上のフランス企業になる可能性は高まっているのではないか」(同前) 日産広報部は「報道については承知しているが、当社から言うべきことはない」とのこと。フランスからの“シルブプレ(よろしければ)”にどう向き合っていくかが注目される。関連記事■ ゴーン氏 日産の退職金はゼロも三菱自から高額報酬の見込み■ 日産 社長退任「ゴーンの花道」の評判は■ 日産 新型LEAF発表会に垣間見えた「悲壮な決意」とは■ ゴーン氏 日産CEO退任後に目指すはブラジル大統領か■ 年収95億円の孫氏、83億円の柳井氏 寄付する篤志家の顔も

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    企業内部告発の先駆者「日本は告発者が守ってもらえない国」

     現在、この国で内部告発者を守るためにあるはずの法律が「公益通報者保護法」(2006年4月施行)だ。 告発者に対する解雇や減給などの無効を定めた同法が制定されるきっかけを作った人物といわれるのが、トナミ運輸元社員の串岡弘昭氏(71)である。壮絶な“会社員人生”を送った同氏に、現在の「保護制度」はどう映るのか──。* * * トナミ運輸岐阜営業所に勤めていた1974年、私は業者間の闇カルテルの問題をメディアに告発しました。私が情報提供者だとわかると、会社は富山の研修所への異動を命じ、それから30年以上、草むしりやストーブへの給油、雪下ろしなどの雑用だけが私の仕事になりました。【1974年8月1日の読売新聞で、東海道路線連盟(東京―大阪間に路線を持つ運送会社50社)の加盟社による、違法な闇カルテルの存在が報じられた。同紙に情報提供したのが串岡氏だ。 それ以降、仕事が雑用だけになり、手取り18万円のまま昇給もなくなった串岡氏は2002年、会社を相手取って損害賠償と謝罪を求める訴訟を起こす。2005年、会社側に1356万円の支払いを命じる判決が下され、串岡氏は係長に昇進。2006年、同社を定年退職した】※写真はイメージです(ゲッティイメージ) 不正な割増運賃の是正を上司や役員に何度も直訴したが、無視されたので闇カルテルについては読売新聞と公正取引委員会に告発しました。〈50社ヤミ協定か 東海道路線トラック〉という見出しで記事になった2日後、親しくしていた名古屋支店長に力を貸してもらおうと、自分が情報提供者であることを話した。そこから私の人生は“暗転”します。条件が厳しすぎる 支店長は会社の上層部に報告し、私が人事部に呼び出されたのは1か月後のことです。富山の研修所に異動になり、机だけがぽつんと置かれた3畳ほどの部屋が“仕事場”になった。職場の懇親会や忘年会にも私だけ呼ばれない。辞めさせようとしたんでしょう。 家族からも、もう辞めたらどうかといわれて悩みもしましたが、辞めるべきは自分ではないという信念があったので、いずれ裁判をやろうと決めていた。2人の子供が大学を卒業した55歳の時に、裁判を起こしました。ちょうど雪印食品の牛肉偽装問題とタイミングが重なり、その年の流行語大賞で「内部告発」がベスト10に入り、授賞式にも呼ばれました。 そして2006年4月には、公益通報者保護法が施行されました。法が制定され、告発者に対する世間の目線が「裏切り者」から「勇気を持った人」という印象に変わったとは思います。しかし、法律の中身を見れば、事実上の“内部告発者規制法”でしかない。 現行法では告発者が保護を受けるための条件が厳しすぎるのです。 たとえば外部への通報を行なう場合、「まずは社内で通報し、20日以内に『調査を行なう』といった返事がない」ことなどが保護を受ける条件になります。つまり、会社側が時間稼ぎで「調査する」といえば、メディアなどへの告発はできなくなる。こんな足かせばかりの法律では、不正の告発を困難にするだけ。 しかもこの法律には罰則規定が設けられていない。あくまで民事ルールとして定められたもので、違反した企業に刑罰や行政処分は下されません。内部告発者が不利益を被った場合、裁判を起こして争わないといけないわけです。 米国の公務員を守るホイッスルブロワー法は通報者への一切の報復的人事を禁じていますが、日本でそういった法制度はありません。今でも、日本は「内部告発者が守ってもらえない国」です。告発にあたっては、私のように“人生を奪われるリスク”を覚悟しなければならないのです。関連記事■ 出会いカフェの貧困女子 「お母さんに言えないよ…」と号泣■ 石破茂「献金100万円で加計潰し」報道が示す“総理の意向”■ ヤメ東芝男性 「日本企業が抱える問題のほとんどに触れた」■ 江藤彩也香 HKT48元メンバーが10代ラストで見せた肉感ヒップ

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    「労働生産性はゼロ成長」人手不足、解決のヒントはここにある

    斎藤満(エコノミスト) 中小企業の中には人手不足のために経営が立ち行かなくなるところも増えていると言います。日銀の調査(「日銀短観」など)をみても、中小企業を中心に企業の人手不足感が高まり、バブル期のピークに迫っています。そして、建設現場や介護施設などでは外国人労働力への依存が高まり、政府も産業界の要請を受けて、外国人労働の受け入れに前向きとなり、法整備も進もうとしています。 この間、企業の利益は最高益を更新するほど好調で、厚生労働省の調査では、この夏のボーナスは前年比4・7%増と、27年ぶりの高い伸びとなりました。ところが、その割に労働者の賃金はあまり上がらず、春闘賃上げも、いわゆる定期昇給分を除くと0・3%から0・5%の低い伸びにとどまっています。このため、個人消費は低迷を続け、企業の値上げが通りにくく、インフレ率も1%以下の低い状況が続いています。 これだけ人手不足が言われ、企業収益が好調にもかかわらず、なぜ賃金が増えないのか。人手不足と低賃金の両方をもたらしている意外な原因が「低い労働生産性の伸び」にあると考えられます。  まずは数字を見ていただきましょう。「日本株式会社」の利益総体ともいえる名目国内総生産(GDP)ですが、昨年(2017)度1年間で548・6兆円産み出されました。その年度末にあたる18年3月の就業者数は6694万人でした。つまり、この会社では就業者1人当たり819・5万円を産み出していたことになります。 同様に、2016年度では6502万人の就業者で539・4兆円のGDPを産出し、1人当たりでは829・6万円を稼ぎ出していました。ちなみに、2010年度は6288万人で499・3兆円を、2005年度では6374万人で525・7兆円を、2000年度では6445万人で528・5兆円を産出していました。1人当たりではそれぞれ794万円、824万円、820万円となります。 これらの数字の中に、問題の答えが潜んでいます。中でも最も重要な数字は就業者1人当たりの生産額、つまり労働生産性が上がっていないことです。リーマン危機後の経済の大きな落ち込みを見た直後の2010年から比べても、1人当たりの生産額は7年間で3・2%、年率換算すると年平均0・4%の上昇にとどまっています。2000年からの17年間では生産性はゼロ成長です。※画像は本文と関係ありません(GettyImages) 1人当たりの生産がどんどん増えれば、つまり労働生産性の上昇率が高ければ、売り上げや生産の増加計画の下でも人手を増やす必要はありません。しかし、労働生産性が上がらないとすれば、企業は売り上げや生産を増やそうと思うと、それだけ人を増やさねばならなくなり、生産年齢人口が減少する中でこれが続くと、人手不足をもたらします。 つまり、最近の人手不足をもたらした原因の一つが、労働生産性が上がらないという事実にあります。15歳から64歳の「生産年齢人口」が減っているので、人手不足はやむを得ない問題ととらえがちですが、人為的な面も少なくありません。そればかりか、労働生産性が上がらないことが、同時に賃金上昇を低く抑えざるを得ない原因にもなっています。賃上げはこうして可能になる 従業員の賃金上昇は、原則労働生産性上昇の範囲内で行われます。つまり、労働生産性が2%上昇すれば、2%の賃上げが可能になり、その賃上げは企業のコスト負担にはなりません。賃金上昇率から生産性上昇率を差し引いたものを「単位労働コスト」といい、これが上昇すると、その分を製品価格、サービス価格に転嫁するか、転嫁しなければ企業の収益が減ることになります。 政府の要請に応えて賃上げをしても、それが生産性上昇分を超えてしまうと、価格転嫁するか企業収益の悪化になるかどちらかとなります。昨今の日本の消費市場は低迷が続いていることもあって、値上げをした企業が苦戦を強いられるケースが少なくなく、むしろ流通業界の中にはあえて価格を引き下げて顧客を確保しようとするところも少なくありません。 かといって、賃上げをして企業収益が減れば、株式市場からしっぺ返しを受けます。企業としては、生産性が上がらなければ、賃金も引き上げられないことになり、その生産性がこの20年でほとんど上がっていないので、継続的な賃上げはできないことになります。従って、企業収益が大きく拡大したときには、ボーナスで一時的に労働者に還元するのがせいぜいとなります。 また、産業界は政府に働きかけて、必要な時に必要なだけの雇用を確保できる雇用体制を作り、低賃金でかつ社会保険料負担のない「非正規雇用」を使えるようにしました。2017年にはこの非正規雇用が全体の約4割を占めるに至りました。税務統計によると、2017年の正規雇用の年収493・7万円に対して、非正規雇用は175・1万円と、正規雇用の3分の1強にとどまっています。 社会保険料負担がないことを考えると、企業の人件費負担は、非正規雇用にシフトすると、3分の1以下に抑えられます。これらを活用することで企業は生産性が上がらない中で人件費を抑えることが可能となり、その分値上げをしなくても済み、インフレ率が1%以下の低い水準を維持するとともに、人件費の抑制も利いて企業収益の拡大が可能となっています。※画像は本文と関係ありません(GettyImages) 人件費を抑えている分、労働者側から見れば所得が増えず、しかも一方で税や社会保険料負担が増えているので、実際に消費に回せる購買力(可処分所得)はさらに圧迫され、消費が低迷を続ける原因となっています。これらの原因が、いずれも労働生産性の伸び悩みからきていることになります。 数字でもう一つ注目したいのは、2000年から2010年にかけては、少子高齢化、生産年齢人口の減少に伴って就業者数も減っていたのですが、その後は少しずつですが就業者数は増えています。これは女性や高齢者が就業するようになり、彼らの「労働参加率」が高まったことと、外国人労働者が増えてきたことによると見られます。そしてこうした「限界労働力」の増加が人件費を抑えるとともに、また生産性上昇を抑制している面も否めません。外国人に頼るのは最後の最後 このようにみると、人手不足、低賃金を解消する有力な方法が労働生産性の引き上げで、それを実現するために必要なのは、民間企業の設備投資拡大であり、研究開発投資の拡大となります。産業ロボットや人工知能(AI)などを取り込んだ設備投資の拡大によって、省力化が進み、生産性が上がれば、従業員の給与引き上げも可能になり、人手不足と低賃金解決の「一石二鳥」です。 その点、ただ設備を増やすだけでは、いずれ設備過剰となってストック調整を余儀なくされることがあるので、新技術につながるような研究開発投資が重要です。日本は主要国に比べてこの分野での政府支援が遅れています。官民協力して研究開発を進め、日本のアップル、グーグル誕生のタネをまきたいものです。 このように、人手不足の原因として大きいのは、人口の減少というよりも企業の生産性努力が後退して効率が悪くなっていることが大きく、ここに対策を打つのが先決で、外国人労働力に頼るのは最後の最後で、限界的な対応策としてみる必要があります。 欧米では移民難民問題で国が割れるなど、これが大きな問題になり、ドイツなど、政権を揺るがす状態にある国もあります。米国でも中米からの難民キャラバンに対して、軍隊を用意してまで入国を阻止しようとするトランプ政権のやり方に賛否が分かれています。 日本は地理的な特性もあって、ここまでは移民難民の問題はほとんど経験がなく、難民受け入れも主要国の中では非常に遅れているとの批判もあります。それだけここまでは移民難民問題に慎重に対処してきた日本が、人手不足のために、こうした問題をスキップして外国人労働力の受け入れに急旋回しています。 それも、熟練技能労働者のみならず、上司の指示に従って仕事ができる程度の未熟練労働も受け入れる方向で、最終的にどれくらいの規模になるのか、当局も十分把握していないまま、拙速で話が進んでいます。人件費の安い非正規雇用の次は、やはり人件費の安い外国人の単純労働力を、という安易な動きとも言えなくもありません。その結果として、移民を受け入れる判断をしたのと変わらなくなります。 多民族同居に慣れていない国柄であるため、外国人は新大久保や群馬などに「外国人街」を作りがちで、必ずしも日本社会に十分溶け込んではいません。 そんな中で、労働力として大規模な外国人を受け入れると、それが3年であれ5年であれ、家族も含めると大規模な外国人が日本社会に突然暮らすようになりますが、その社会インフラは整っていません。5年過ぎたら追い返すのか、社会保障は日本人と同様に扱うのか、その負担はどうするのか。まずは日本人が移民難民の受け入れをどう考えているのかも把握する必要があります。※画像は本文と関係ありません(GettyImages) その上で受け入れ態勢が整うまでは、外国人労働力の受け入れは十分慎重に、徐々に進める必要があります。受け入れ態勢が整わないまま外国人を大量に受け入れ、彼らに不自由、不便な思いをさせ、社会と軋轢(あつれき)を起こすようなら、国際社会から日本の姿勢が非難され、国際的な信用を失います。 人手不足問題に対しては、まず企業の研究開発、技術開発、設備投資による生産性向上努力に注力し、その間安心して子育て就労ができる体制を整え、結婚、出産しやすい環境を作るなど少子化に歯止めをかけるのが先で、その間に外国人労働力、移民受け入れ態勢を法体系も含めて整備する必要があります。それでも必要なら外国人労働に助けてもらう、というのが筋ではないでしょうか。

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    携帯料金「4割値下げ」は当たり前?

    日本の携帯電話料金は本当に高いのか。「4割引き下げ」に言及した菅義偉官房長官の発言に波紋が広がっている。今やスマホが必需品になったとはいえ、確かに毎月の通信料の高さに不満を持つ人も多いだろう。利用者にとって値下げは有り難いが、むろんデメリットもある。議論を深読みする。

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    ぼったくり携帯料金「6割値下げ」も当たり前

    中宮崇(サヨクウォッチャー) 私の携帯電話料金は月約800円である。みなさんは月にどれぐらい払っているだろうか。ほとんどの方が安くて7000円というところだろう。 あとで書くように、私は毎月の携帯料金を安く上げているばかりか、なんと稼いでさえいる。これは誰にでもできることなのだ。 私の携帯料金がこれほど安い理由は、ソフトバンクやドコモ、auの主要三大キャリア(MNO)を使っていないからである。それ以外のいわゆる「格安SIM」(MVNO)と契約しているためだ。しかし三大キャリアの料金体系はあまりにも複雑で世界的に見て異常すぎるため、工夫すれば例えばドコモでも、iPhoneを無料で手に入れた上で月料金も毎月ほぼ無料にしてしまうことさえ可能なのである。 先日政府が、携帯電話料金は高すぎるとの見解を示したとの報道が流れた。 菅義偉官房長官は21日、札幌市内で講演し、携帯電話の利用料について「あまりにも不透明で、他国と比較して高すぎるのではという懸念がある。4割程度下げる余地はあると思っている」と述べた。(産経新聞 2018.8.21) 消費者重視の非常に評価できる見解ではあるものの、私に言わせればまだまだ甘い。携帯電話料金は「6割程度下げて当然」である。 冒頭でも述べたとおり、日本の三大キャリアにおける携帯電話料金体系は、世界的にみて異常である。特に民主党政権時代の「癒着」と言うしかない、むちゃくちゃな保護政策がそれを助長し、消費者からの「ぼったくり」を助長してきた。 日本の三大キャリアによるぼったくりは、高価なiPhoneの普及率の異常な高さに見て取れる。 「StatCounter」によると、スマートフォン向けOSの全世界のシェアは、iOSが20.32%に対し、Android 72.74%と、Androidの圧勝となっている。ところが、これを日本に限定してみると、そのシェアはiOS 66.56%に対しAndroid 32.57%とほぼ真逆となってしまう。ちなみに、アメリカのiOSのシェアは54.12%と半分強で、iPhone“発祥の地”よりも日本の人気の高さが伺える(いずれも2017年9月時点)。(dot. 2017.9.25) この記事にもあるように、日本人は「iPhoneが好き」だから普及率が高いのではない。ソフトバンクがアップルからiPhone独占販売権を獲得し、2008年7月に日本で発売開始された際に行われた「ばらまき」が原因である。12年に民主党政権が崩壊するまで続いたコレが、日本における世界にまれに見る歪(ゆが)んだ料金体系を決定づけた。札幌市で講演する菅官房長官=2018年8月21日   現在でもそうだが、日本におけるiPhoneの価格は世界的にみて異常に安く見せかけられている。本来であれば10万円以上する商品が、「実質無料」などと称した紛らわしい「実質ローン」で売られている。その巧妙なカラクリを知らぬ消費者は「iPhoneがタダでもらえるのか」と勘違いさせられて契約し、世界的にも異常に高い料金を何年も支払わされることになる。 実質ローンに過ぎない「実質無料」のカラクリはこうである。例えばここに、世界的には9万6000円でiPhoneが売られているとしよう。これでは金持ちしか買ってくれないので、ソフトバンクは「2年間わが社と契約して毎月基本料金7000円支払い続けてくれるなら、このiPhoneを『実質無料』で差し上げますよ」と甘い声でささやきかける。「実質無料」のワナ 7000円という料金自体がそもそも世界的にみて高すぎるわけだが、「iPhoneがタダで手に入る」と勘違いした消費者はあまり気にしない。そして本体代金9万6000円を2年間、24回分割ローンで月当たり4000円と基本料金7000円の合計1万1000円を支払い続けることになる。ソフトバンクは高い月料金で本体代金を回収しているわけだ。 しかし、このままだとただのローンであり「実質無料」などという言葉を使えばただの詐欺になってしまう。ここからが巧妙なところだ。ソフトバンクはここから毎月本体代金4000円を「割引」する。この割引額は、ばらまいた機種によって異なり、大抵の場合は本体代金の24分の1である。ソフトバンクの場合はこの割引金額を「月月割」と称しているが、ドコモは「月々サポート」、auは「毎月割」と称して各社ほぼ同様の仕掛けを用意している。 毎月この割引が行われるため、月の支払いは差し引き7000円のみとなる。これが日本独自と言って良い「実質無料」のワナだ。「ワナ」と言ったのには理由がある。もともとの7000円という月料金自体が高すぎるが、2年間バカ正直に使い続けるなら確かに本体代金「実質無料」と強弁できないことはない。しかし、本体が壊れたり紛失するなどして「2年縛り」の途中で解約した場合はどうなるか? あるいはもっと安い格安SIMにMNP(携帯電話番号ポータビリティー)で乗り換えたい時はどうなるのか? その場合、残りのローンを全額一括請求されてしまうのだ。先行販売が始まったiPhone3Gを求め、ソフトバンク表参道に入る人たち=2008年7月 11日、東京・表参道 例の場合、1年で解約すると4万8000円が一括請求される。そればかりか、「違約金」として約1万円まで支払わなければならないのだ。繰り返すが、こんな異様な料金体系がのさばっているのは世界でほぼ日本のみと言っていい。民主党政権が崩壊し自民党政権となってから、このような歪んだシステムを是正しようとする動きが見え始めてきているが、まだまだ不十分である。 さて、歪んだ制度のあるところには、必ずそれを出し抜いて儲けるヤツが出てくる。冒頭で「私は毎月の携帯料金を安く上げているばかりか、なんと稼いでさえいる」と書いたが、こんなことは日本以外の諸外国では不可能である。中国人によるスマホの密輸 秋葉原や池袋、新大久保辺りに行くと、中国系や韓国人系の「携帯電話買い取りショップ」が林立している。ソフトバンク等で契約しゲットしたばかりのiPhoneXをそういう店に持っていくと、10万円ほどで即日買い取りしてもらえる。そうやって集められたスマホは中国に流れる。なぜなら中国では日本と違い、iPhone自体が非常に高価であり、しかも共産党による規制等の影響で自由に購入することができないからだ。そのため中国ではいまだにスマホの「密輸」などという事件が後を絶たないのである。 2017年5月26日、騰訊新聞によると、中国広東省深セン市の皇崗税関で23日、児童用の通路を通って香港側から中国へ入ろうとした小学生10人のリュックサックから大量の米アップル社製「iPhone」など高級スマートフォンが見つかった。小学生らは「売ってマクドナルドで食事しようと思った」と話しているという。(Record China 2017.5.27) 日本では三大キャリアが高額な月料金でぼろ儲けしているため、販売促進のために各販売店に対し販売奨励金(インセンティブ)を出している。本来、そのインセンティブは契約を獲得した販売店が自分の懐に入れる性質のものである。しかし、中にはそれを客に「還元」(キャッシュバック)し、それにより契約を獲得しようとする販売店も存在する。例えば、ツイッター等で検索すると、「iPhone一括0円」などとツイートして客を集めている販売店が多数見つかる。 この「一括0円」は前述の「実質0円」と似て非なるものだ。実質ローンに過ぎない「実質0円」に対し「一括0円」は紛れもなくタダなのである。これをうまく使うと月料金を安く(極端な場合無料に)できるばかりか、利益まで出てしまう。  例えば、iPhoneが9万6000円としよう。通常の「実質0円」で販売している店で契約した場合、消費者が月々支払う料金は「基本料金7000円+本体代金ローン4000円-月月割4000円=7000円」となる。 しかしここで、インセンティブが15万円出るとしよう。契約を獲得したい販売店は、この15万円を丸々懐に入れるのではなく、iPhoneの本体代金9万6000円に充てて、客に「一括0円でiPhoneを差し上げますよ」と誘うわけだ。そうすると月々の料金は「基本料金7000円+本体代金ローン0円-月月割4000円=3000円」になる。※この画像はイメージです(GettyImages) 日本では、なんとiPhoneが無料でもらえた上に料金まで安くなってしまうのである! しかも「実質0円」で手に入れた場合には、もし1年で途中解約すると4万8000円のローンが残り、それを一括返済する必要があった。しかし「一括0円」で購入した場合、途中解約してもローンなど残らないのだ。違約金1万円のみ支払うだけで良い。子供も荒稼ぎ さて、この異様な仕組みをうまく利用するとどうなるか。先ほど、「秋葉原等のスマホ買い取り店に行けばiPhoneXは10万円で買い取ってもらえる」と言いましたね。そういうことです。そうやって儲けている輩はたくさんいる。別のところでも書いたことがあるが、月に2、3日「そういうこと」をするだけで、年間100〜200万円が誰にでも稼げるのだ。これは大人だけでなく子供にでもできるのである。つまり4人家族なら、それだけで年間500万円ほどを稼げてしまう計算になる。 実際そうやって稼いで気楽に生きるために、日本に入国する中国人は多いらしい。私はそういう「稼ぎ方」を「MNP携帯乞食」と呼んでいるが、それを支えているのは何も知らずに毎月高額な料金を「実質0円」という餌に釣られ、生真面目に支払い続けている消費者である。 この日本独特の歪んだ携帯電話料金体系のせいで、中国人らの大量入国以上に私が危惧していることがある。これは他のメディア関係者等にも何度も警告してきたことなのだが、取り上げられたのは今回が初めてである。それは「少年犯罪」をはじめとする子供への悪影響だ。 繰り返すように、この「稼ぎ」は外国人や我々大人だけでなく、みなさんのお子さんでも簡単にできてしまうのである。メディアが報じていないだけで、親の知らないうちに子供が何十万、何百万もの出どころのわからない金を貯めこんでいる、などということが日本各地で既に起きているという。※この画像はイメージです(GettyImages) 私は子供のころは小遣いに苦労し大学進学も奨学金と学資ローンに頼らざるを得ない貧乏人だったので、子供が稼ぐことができるようになった状況自体は反対するつもりはないのだが、現状ではその過程において、極端な場合には例えば親の「同意書」を偽造するなど、子供が犯罪に手を染める要因が多すぎる。また、そうした大金を稼ぐためにクラスメートや後輩等を脅して組織し、契約させピンハネするなどという事件も既に起きているだろうし、そこには暴力団等の反社会勢力も食い込んでいることだろう。 以上のことから、菅官房長官による携帯電話料金「4割程度下げる余地ある」発言には賛同せざるを得ない。それは単に携帯電話会社による「ぼったくり」を是正するということ以上の意味が実はあるのだ。民主党政権時代に定着した携帯電話会社の異様な体質が、気付かないところで日本社会を大いに侵食しているのである。

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    携帯料金、国の民事介入「4割値下げ」はデメリットも多い

    佐野正弘(ITライター) 8月21日、菅義偉(よしひで)官房長官が「日本の携帯電話の料金は4割程度引き下げる余地がある」と発言したことが、携帯業界で大きな波紋を呼んでいる。27日に菅氏はその根拠を明らかにした。 発言の背景には、経済協力開発機構(OECD)加盟国の調査で、日本の携帯電話料金が平均の約2倍であることや、2019年の携帯電話事業参入を予定している楽天が、料金を既存事業者の半額程度に設定する計画を公表していることがあるという。 スマートフォンの普及で携帯電話がコミュニケーションだけでなく、日常生活に必要不可欠な存在となった。そうしたことから、家計に占める携帯電話料金の割合は年々上昇してきた。 それが諸外国より高いというのであれば、料金引き下げは当然と思う人は多いことだろう。だが正直な所、今回の菅氏の発言は料金しか目を向けておらず、携帯市場を多角的に評価できていないと感じてしまう。 まず、携帯電話の料金に関して、諸外国と比較する上では、国によって料金設計のあり方自体が大きく異なることを考慮しなければ、公平とはいえないだろう。 実際、日本では、端末と回線をセットで提供し、端末価格を大幅に値引く販売手法が一般的なことから、通信料金が高く、端末価格が安くなりがちだ。だが、海外では端末の値引きが日本ほど大きくないため、通信料金が安く、端末価格が高くなりやすい。だから、あくまで現状の料金を比較するならば、双方の特性を考慮し、通信料だけでなくトータルでの比較が求められるのである。 総務省が公開している「電気通信サービスに係る内外価格差に関する調査」の平成28年度版を見ると、データ通信量が20GBでは東京の料金が8642円と、最も低いロンドン(3684円)と比べ場合以上の料金となる。だが、同じ料金プランで端末(iPhone7(32GB))の割賦料金込みで比較すると、東京の料金は9290円で、ロンドン(8461円)との差は1000円未満と、大きな差があるわけではないことが分かるだろう。iPhone X(左)とiPhone 7(ゲッティイメージズ) ちなみに、端末代の大幅な値引きに関しては、これまでも総務省がいわゆる「実質0円」をガイドラインで事実上禁止するなどの厳しい措置を取っており、その是非については議論を呼ぶところではある。だが日本の携帯電話に係る支出を諸外国と比べるならば、トータルコストを考慮しなければ正しい比較はできないわけだ。「4割引き下げ」で生じる格差 さらに言及しておくと、海外では、日本で一般的なポストペイド(後払い)式よりも、プリペイド(前払い)式のサービスが広く利用され、料金を安く抑えやすくなっている国が多い。一方で、日本では、かつて詐欺行為に多く使われた影響から、プリペイド式携帯の規制が強化され、サービス提供がしづらくなっている。そうした実態を考慮せずに、ポストペイドの料金だけで高い、安いと比較するのはナンセンスなのである。 そしてもう一つ、楽天の料金体系に関しても注目すべきだろう。そもそも、楽天の子会社「楽天モバイルネットワーク」が取得した周波数帯は一つだけで、これからインフラ整備を推し進める必要がある。楽天は全国に充実したインフラを持つNTTドコモ、KDDI、ソフトバンクの3キャリアと、当面まともに競争できる状況にはない。 そこで現在、仮想移動体通信事業者(MVNO)として展開している「楽天モバイル」の路線を踏襲し、戦略的に低価格で勝負に出ようとしているわけであり、既存のキャリアとは立場が大きく異なることを忘れてはならないのである。 それでも、携帯電話料金が高いから安くしてほしい、という人は多いと思う。では仮に、キャリアが4割料金を引き下げなければならなくなったとして、引き下げがどのような事態を引き起こすかという点までは想像できているのだろうか。 キャリアの収入のうち、大きな割合を占めているのは毎月の通信料なので、その通信料が4割下がれば、売り上げや利益も大きく落ち込む。その結果、キャリアは企業として生き残るため、収益性が低く、将来性が見込めないものには投資しなくなる。その代表例となるのが、少子高齢化で成長が見込めない国内、特に地方のネットワークインフラである。マンション屋上に設置された携帯電話会社の基地局 日本の大手キャリアはこれまで、潤沢な資金を費やして最先端のネットワーク機器を導入し、カバーエリアを競い合ってきた。この競争により、都市部だけでなく地方や山間部であっても満遍なく高速通信ができるという、世界で1、2位を争う充実したネットワークインフラをもたらしてきた。だが、キャリアが投資できる余地が少なくなれば、収益性が低い地方のインフラ投資が真っ先に削減されるため、都市部と地方で大きなネットワーク格差が生まれる可能性が出てきてしまう。 そうした格差は、インターネットを通じた高度なサービスが地方で普及しにくくなり、新たなデバイド(格差)を直接生み出すことにもつながってくる。また地方のカバーがおろそかになることで、いざというときの災害対策にも大きな影響が出てくることになるだろう。 とはいえ、携帯電話の料金をもっと安くしたいと思っている人が、必ずしも現状のキャリアの料金プランを使い続ける必要はないということも覚えておくべきだ。実は、毎月の通信料を安くする選択肢は、ここ最近の競争激化で大幅に増えているのである。安いプランを利用しないワケ その一つが、いわゆる「格安スマホ」である。楽天モバイルなどのMVNOが提供するサービスが代表的だが、ソフトバンクの「ワイモバイル」ブランドや、KDDI傘下のUQコミュニケーションズがMVNOとして展開する「UQモバイル」など、俗に大手キャリアの「サブブランド」と呼ばれるサービスも選択肢の一つに挙げられるだろう。 もう一つは最近増えている、より安価に利用できるキャリアの料金プランである。具体的には「auピタットプラン」のように、毎月のデータ通信量に応じて料金が変化するプランや、特定のスマホに乗り換えるだけで毎月1500円の値引きが受けられる「ドコモウィズ」などが挙げられ、キャリアを変えずに料金を抑えたい人にはメリットが大きい。 だが、こうしたサービスを実際に使っている人は意外と少ない。MM総研の「国内MVNO市場規模の推移(2018年3月末)」を見ると、一般的な消費者向けのMVNOを示す「独自サービス型SIM」の回線契約数は1082・8万回線で、ようやく1000万を突破したというところだ。 大手キャリアの場合を見ても、auピタットプランの契約数は、大容量の「auフラットプラン」と合わせて2018年5月末時点で約800万、ドコモウィズは2018年4月末時点で約200万と、いずれも契約数全体の比率からするとまだ高いとはいえない状況だ。 では、なぜ消費者は安価な料金プランやサービスがあっても、なかなか利用しようとしないのか。それは消費者自身が、携帯電話の料金が複雑だからといって、料金や契約の見直しに消極的、あるいは興味を持たないからではないだろうか。 筆者は仕事やプライベートで、時々携帯電話の料金について相談を受けることがある。だが、毎月の料金をチェックしない人、新しい料金プランやサービスの存在を知らない、あるいは聞いたことはあるものの、「難しい」「面倒」などの理由で、古い料金プランをそのまま使い続けている人に出くわすことが多い。 「携帯電話の料金体系が複雑なのが悪い」という人も多いだろう。実は、過去を振り返ると、複雑化した料金プランを整理してシンプルにしたものの、消費者や行政からのさまざまな要望に応えるうちにまた複雑化する、という歴史を繰り返しているのである。ビジネスとして多様な声に対処するには、単にシンプルにすればよいというものではないことから、やはりキャリアの料金体系を変えるよりも、消費者の側が賢くなることが必要ではないかと筆者は感じている。「格安スマホ」コーナーではSIMロックフリー端末が一堂に会している=2016年3月 料金の安いサービスが存在しても、それを消費者が選んでくれなければ意味がない。今、政府が料金引き下げのために取り組むべきは、「民事介入」という筋の悪い手で市場を混乱させるのではなく、携帯電話料金に対する消費者の関心を高め、そのリテラシーを向上させていくための手助けをすることなのではないだろうか。

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    携帯料金4割値下げ「菅ショック」の政治的ウラを読む

    片山修(経済ジャーナリスト、経営評論家) 「今より4割程度下げる余地がある。競争が働いていないといわざるを得ない」。菅義偉(よしひで)官房長官の8月21日の携帯料金をめぐる発言が波紋を呼んでいる。 この発言を受けて、大手通信キャリア3社のNTTドコモ、KDDI、ソフトバンクの株価が下落した。まさに「菅ショック」である。 発言をめぐっては、賛否両論がある。とりわけ「4割」という数字の根拠について、さまざまな指摘がなされている。結構、厄介な問題である。 常識からいって、大手通信キャリアが稼ぎ過ぎているとしても、携帯料金を4割も削れというのは、少々無理があるとする意見が専門家の間にはある。 菅氏は「4割」の根拠として、経済協力開発機構(OECD)の調査を挙げた。国内の携帯料金は、加盟国平均の2倍にも達し、高過ぎるというのだ。仮にそうだとしても、それぞれの国内通信事情があるので、料金の単純比較は難しいという反論には、それなりに説得力があるといえよう。2017年12月、楽天が運営する「楽天モバイル」の銀座店。楽天は携帯電話大手3社に次ぐ第4の携帯電話事業者を目指すことを表明した 実際、日本の通信料金は高い分、他国に比べて、一般的に通信品質も高い。鉄道、電力、通信など公共インフラは、全国津々浦々までネットワークが張り巡らされており、その設備投資と維持費には、大きなコストがかかっている。それゆえ高い料金設定になるのもやむを得ない。 肝心の「4割」の根拠については、次のような背景も斟酌(しんしゃく)されているようだ。2019年に携帯事業参入を計画する楽天が、既存事業者の「半額」程度の料金設定を目指している。だから、「競争をしっかり行えば下げられる余地がある」と菅氏は語るのだ。 もっとも、一部では、仮に大手3社が通信料金を4割下げ、楽天と同程度の価格を実現した場合、楽天にとってはとんでもない参入障壁となる、格安スマートフォン事業者もまた、大打撃は免れないだろうと心配されている。「4割値下げ」で利益ゼロ? 4割引き下げが可能かどうかは別として、わが国の携帯料金は、海外の事業者に比べて複雑で、利用者から「不透明」だとの不満があるのは事実だ。分かりやすい料金体系は顧客ニーズなのは間違いない。通信料金に端末の代金が含まれたり、固定通信とセットにすると割り引かれたりするから、実に分かりにくいのである。 ビジネスの常識として、一気に料金の4割値下げは通常あり得ない。というのは、一般に粗利益は3割というのが相場だ。 だから、一部には、4割も携帯料金を引き下げたら、通信キャリア大手3社の通信事業の営業利益は一挙にゼロになるというアナリストの分析もある。むろん、菅氏は、そんなことは先刻承知のはずだ。 ではなぜ、無理を承知でこのような発言をしたのか。そこには、永田町のさまざまな思惑が秘められているとみていいだろう。 まず、背景には、競争が促進されない通信業界へのいらだちがあるのは間違いない。通信は1985年に自由化された。狙いは競争の促進だった。 その結果、電電公社と国際電信電話(KDD)による市場独占状態は解消され、KDDIの前身の第二電電(DDI)、さらにソフトバンク前身の日本テレコムなどが通信事業に新規参入した。当然、これらにより競争が起こり、料金は下がるはずだった。2018年8月27日、定例会見を行う菅義偉官房長官(春名中撮影) ところが、競争原理は働かなかった。いつの間にやら、大手3社の寡占状態が定着、すなわち横並びが続いたため、競争促進とはほど遠く、料金も思惑通りに下がらなかった。政府は、この状況をかねてから問題視してきた。 安倍内閣は、もともと民間への「口先介入」が多い。賃上げ要求や雇用拡大など、経済界にたびたび要望してきた。 実は、携帯料金についても、15年に安倍晋三首相自らが「携帯料金などの家計負担の軽減は大きな課題」と発言した経緯がある。また、総務省も大手3社に対し、再三にわたって、携帯料金のユーザー負担の軽減、「2年縛り」といった商慣行の是正、自社で販売したスマホを他の通信会社で使えなくする「SIMロック」の解除などを求めてきた。政治的な「ウラ読み」 これに対して、3社がその都度対応した結果、割安プラン新設などにはつながった。しかし、肝心の料金の値下げはおろか、寡占状態も崩れなかった。元総務相の菅氏は、歯がゆさやじれったさを感じてきたはずだ。 政府は今回、通信料金について、景気対策からも考えているフシがあるのだ。というのは、政府には、来年10月の消費税10%への増税を控え、伸び悩む個人消費への焦りがある。通信料金の値下げにより、消費拡大を図ろうとしても不思議はない。 総務省の調査では、昨年の世帯当たりの通信料・通話料は年10万250円と増加傾向で、10年前に比べて2割以上増え、家計消費に占める割合も増えている。消費増税による消費の冷え込みが懸念される中で、携帯料金引き下げによって家計負担を軽減し、別の消費に回してほしいという願望だ。 さらに、政治的な「ウラ読み」もある。発言のタイミングが微妙だからだ。自民党総裁選を前にして、永田町の思惑が大いに絡むという説だ。携帯料金の引き下げは身近な問題として国民の関心が高い。家計負担の軽減で恩を売り、「人気取り」を狙っているとの見方だ。 もっとも、こうした見方に対して逆の見方も成り立つ。ご存じのように、日本銀行は、13年以降年率2%のインフレ目標を打ち出している。「アベノミクス」の一環だ。ところが、17年時点でいまだ上昇率は1%に満たない。その意味で、通信料金の値下げは物価を押し下げることになり、デフレに拍車をかけることにはならないか。 また、政府は日本企業の収益性の低さを指摘し、コーポレートガバナンス(企業統治)の改革による「稼ぐ力」の強化を掲げている。にもかかわらず、大幅な値下げ圧力をかけることは、「稼ぐな」と批判しているのと同じではないか。果たして、その政策と矛盾するのではないか、というわけだ。2018年9月、東京都内のホテルで行われた自民党総裁選の決起集会に臨む安倍首相 そもそも、民間企業の経営マターに、政府が介入することは望ましいことではないという原則的な見方がある。その限りでは正しい。 とはいえ、介入に一理あるのも確かだ。通信は公共の電波を使用しているからだ。菅氏は、大手通信キャリアについて「公共の電波を利用している。過度な利益を上げるべきではない」と指弾したが、これは賛同を得やすい。 大手通信キャリア3社の昨年の営業利益は、ソフトバンク約1兆3000億円、ドコモ約9700億円、KDDI約9600億円と、3社でおよそ3兆円にのぼる。国内上場企業の営業利益ランキングで3、4、5位を占める。営業利益率も、ドコモやKDDIは20%前後と、上場企業の平均約7%を大きく上回る。つまり、「稼ぐ力」は申し分ない。大手通信キャリアは日本を代表する優良企業といっていい。海外を本気で攻める大手キャリア ただ、グローバル基準で見ると、決して国内大手3社が稼ぎ過ぎているわけではない。例えば、米国の通信事業最大手のベライゾン・コミュニケーションズは、営業利益率22%、2位のAT&Tも13%だ。 国内大手3社はむしろ、今後、頭打ちの国内市場を脱し、海外市場に活路を見いださなければならない状況にある。グローバルに事業を展開するためには、足元でしっかりと稼がなければ、勝算はないといわれている。 現に、大手通信キャリアは、いまや海外市場を本気で攻めている。ソフトバンクは、13年に総額2兆円を投じて、米通信4位のスプリントを買収した。そのスプリントは、今年、ドイツに本社を置くTモバイルの米国法人で米通信3位のTモバイルUSとの合併に合意。海外進出を積極的に進めている。 KDDIは、モンゴルで連結子会社の通信事業モビコムが成功しているほか、ミャンマー郵電公社(MPT)と組み、現地の携帯事業を手掛けている。NTTドコモも、インド市場からは撤退したが、国内市場にとどまっていてはならないという危機感は強い。そのためにも、必要なのは潤沢な資金だ。 さらに、20年にも商用化を目指す新たな第5世代(5G)移動通信方式の開発には巨額な投資が必要だ。自動車や家電製品など、あらゆるモノがインターネットにつながる時代を目前に控え、通信キャリアとしては、国際競争力を維持するためには、いくら金があっても足りないということかもしれない。 菅氏の発言を受けて、大手3社はこのほど、料金の見直しに踏み切った。ソフトバンクは、毎月の端末の割引はしないかわりに、通信料金を2割程度安くする方針で、毎月通信料金に加算されていた端末料金を切り離し、料金を透明化する「分離プラン」を採用するとしている。 しかし、毎月の端末の割引がなくなるため、実質的には2割どころか、数%しか安くならないといわれている。これでは菅発言に応えたことにならないし、消費者のニーズに応えたことにもならない。2018年8月、記者会見で決算について説明するソフトバンクグループの孫正義会長兼社長 いくら値下げるかは別として、まずは、料金の透明化に格段の努力が求められる。さすれば、大手通信キャリアに対する消費者からの風当たりは、少しは和らぐに違いない。 携帯電話は、今や国民生活に欠かすことのできない重要なライフインフラだ。3社が利益を上げながら成長しなければ、日本は次世代サービスで他国に後れを取りかねない。値下げの議論だけでなく、収益を含めたバランスの取れた議論が必要なのである。

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    日本の携帯料金「4割値下げ」の余地は本当にあるのか

    Bの場合も、同様にニューヨークが最も高く、日本はソウル、デュッセルドルフに次ぐ4位であった。問われる企業経営の透明性 だが、20GBとなると様相は一変し、東京はデュッセルドルフ(9845円)に次ぐ2位で8642円であった。最低がロンドンの2947円である。ロンドンと比較すれば、東京の料金は93%も高い。しかし、デュッセルドルフとロンドンを比較すれば、その差は3・3倍である。どうして都市によってこれだけの格差が発生するのは定かではないが、特徴的なことは、東京の料金はデータ容量が大きくなるほど高くなっているということである。 このことはMVNO型(回線網を持たない事業者)スマートフォンについてもいえるが、20GBではデュッセルドルフが1万4440円と圧倒的に高く、ニューヨークの6740円、東京の5726円が続く。 この総務省の調査結果を総合的に見れば、2GBでは、平均が3179円で、東京の料金は約19%高い。20GBに関していえば、6都市の平均が4575円で、東京の料金は約89%高い。2GBでは、東京の料金と6都市平均の差はそれほど大きないが、20GBでは菅官房長官の指摘は間違っているとは言えない。 要するに割高なのは、使用データが高容量の場合である。ならば、東京の料金構造が高容量、高料金になっているかを検討する必要がある。考えられるのは、高容量で高料金を徴収し、低用量で料金を引き下げ、初心者を勧誘する狙いがあるのかもしれない。高容量の料金を引き下げれば、低容量の料金が上昇する可能性もある。単純に引き下げを求めるのではなく、こうした料金体系の在り方にもメスを入れる必要があるだろう。 次は、どうしたら料金引き下げを実現できるかである。電話産業は認可産業であるが、政府が直接価格設定に介入することはできない。政府の「介入は害多くして益なし」は、歴史が教えているところだ。 ただ、料金が高止まっているのは、何らかの業界内での暗黙の「談合」が行われていると考えるのは自然であろう。直接談合しなくても、競争相手の企業を見ながら料金やサービス設定を行っているのは間違いない。 そうした事態を是正するためには、菅官房長官と野田総務相が共通に語っているように、当たり前だが、競争を促進する必要がある。簡単に言えば、新規参入を促進することだ。楽天など新規の低料金の携帯電話会社の参入があるが、まだ価格破壊という状況を引き起こしているわけではない。野田聖子総務相 とはいえ、顧客は単に料金だけでなく、サービス全体を評価して判断する。企業間の競争促進と同時に、利用者がもっと自由に契約を変更できるようにしなければ、企業間の競争促進も効果がないだろう。このためにも、企業経営の透明性も問われることになる。 料金を巡る議論で、もう一つ留意する必要がある。携帯大手3社は高収益を上げている。もし、超過利得(レント)があるのなら、当然、利用者に還元すべきである。菅官房長官も講演会で「国民の財産である電波を利用した事業で、携帯電話会社は過度な利益をあげるべきではない」と、利益還元による料金引き下げの必要性を指摘している。 ただ、携帯電話産業は成長産業である。現在、より通信速度の速い次世代(5G)移動通信方式への対応が迫られている。巨額の設備投資も必要となってくるだろう。携帯電話会社は、そうした将来を見据えた投資が必要だ。 料金引き下げとは別に、政府にも政策的対応が必要となる。単に料金を引き下げるべきだと主張するのは片手落ちで、政府は電気通信サービス産業の明確な将来ビジョンを示す必要がある。

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    自動車電話は保証金20万円、基本料3万円 ケータイの変遷

    「今何してる?」「ご飯食べてるよ」“会話”するようにメッセージのやり取りができるSNSは、今や若者だけでなく主婦やビジネスマンの間でも欠かせないコミュニケーションツールになっている。携帯電話がガラケーからスマホに変わり、通信規格も進化するなか、人々の暮らしは大きく変わった。“いつでもどこでも”がもたらしたコミュニケーションの変化を振り返る。 黒山の人だかりの中、遠隔操作で器用に書道をしたり、センサーをつけた人の動きに合わせてダンスを踊る人型ロボット。寸分の狂いのないその動きに、道行く人々は目を丸くして立ち止まる。 2月26日、スペイン・バルセロナで開かれた世界最大のモバイル見本市。ロボットを披露したのは、日本の携帯大手で唯一参加したNTTドコモだ。ドコモがアピールしたのはロボットではなく、ロボットに接続された次世代通信規格「5G」(Gはジェネレーションの頭文字)である。 5Gとは、簡単に言えば、携帯電話で動画などのデータをやり取りする際の最先端の通信技術のこと。現在使われている「4G」の進化版だ。これまでより高速・大容量の通信が可能になることで、さまざまな分野での開発が加速している。──振り返れば、携帯の進化は、これまでも私たちの暮らしを大きく変えてきた。 旧日本電信電話公社(現NTT)が、携帯の“原型”である自動車電話サービスを始めたのは、今から約40年前の1979年。電話機と車載無線機がセットになり、無線機は重さが7kgもあった。電話機は運転席の近くに置くことができたが、無線機は自動車のトランクに積んでエンジンから電源を供給して使用した。 NTTドコモ歴史展示スクエアの西木貞之館長が語る。「自動車電話は、最初の通信規格である『1G』を用いた電話機で、レンタルしかできませんでした。当時自動車電話を利用するには、保証金が20万円、加入料が8万円、基本料金が月々約3万円もかかったため、一般市民にはなじみはなく、主に企業の経営者などが利用していましたね」  1985年には、バッテリー部分を肩から提げて使う「ショルダーホン」が誕生。自動車から離れても電話できるようになった。 保証金は約10万円で、重さも約3kg、バッテリーも1時間しかもたなかったが、バブル全盛期ということもあり、羽振りのいいビジネスマンを中心に少しずつ浸透した。自動車電話で話をするドライバー=1997年10月 その2年後、NTTが日本初となる携帯電話1号機を発表。重さは900gと携帯するには重く、費用も高額なため庶民には手が届かなかったが、トレンディードラマ『抱きしめたい!』(フジテレビ系)で浅野温子が使用したことで、世間の羨望の的となった。 通信規格が「2G」に移行(1993年)すると、重量や機能も向上し、それまでレンタルのみだった端末が買えるようになったこともあり、携帯電話は爆発的に普及していく。 総務省によると、1993年にはわずか1.7%だった携帯電話普及率は、4年後の1998年には38.6%に急増。当時高校生だった都内在住の30代主婦A子さんは、懐かしそうに語る。「当時私たちの間では、電話をかけて1回のコールで切る『ワン切り』が流行っていました。部活が終わって帰宅すると、ほどなくして部活仲間からワン切りがある。『今日もお疲れさま、明日もがんばろうね』という意味なんです。彼と夜電話する時にもよくワン切りをし合いました。コールが1回で切れたら『電話OKだよ』の合図で、そこから長電話が始まって、母親に何度も怒られたものです」関連記事■ 世界最大の自動車大国・中国 国家をあげて電気自動車開発へ■ 電気自動車サミット 太陽光発電で電気自動車を充電する人も■ 電話に出ぬ若者 「電話は時間を拘束する迷惑ツール」と認識■ 固定電話を止めるメリット 迷惑電話はなくなり、料金も節約■ Softbank iPhone4S乗り換えで基本料最大2年無料の理由

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    自宅でWi-Fi設定すれば、スマホ料金勝手に節約される

     スマホは通話にメールに動画の視聴にと、いろいろと便利だけど、料金が高いのがネックですよね。でももし自宅のパソコンにインターネットをひいているのに、Wi-Fi(ワイファイ。無線LANのこと)がないなら、コレを設置するだけでも、今のスマホ料金が大幅に節約できるんです! その辺の詳細を、ITセキュリティーの専門家で、携帯電話事情に詳しい三上洋さん(以下、「」内同)に私、「お~みか。」が教えてもらいました! スマホのデータ通信料は、ドコモなど大手3社はほぼ同じで、通話料とは別に「2ギガで月額35000円」「5ギガで月額5000円」など、1か月の契約容量で支払う仕組み。容量を使い終わると追加で買うか、遅い速度で使うことになるから、どれくらい必要かわからないと、うちの父のように、店に言われるがまま、大容量で契約しがちなのよね。最近では「20ギガで月額6000円」なんて、“モンスター”級の大容量も登場しているみたいだけど、自宅にWi-Fiがあれば、2ギガもあれば充分なんですって。「Wi-Fiとは電波の一種ですが、スマホの携帯電話回線とは別物。Wi-Fiの電波を使うと、携帯電話の回線を使わずに高速通信ができるので、携帯電話会社と契約しているデータ通信量を使わずにすむんです」 つまり、Wi-Fiを使えば、いくらネットを見ても、スマホのデータ通信量が減る心配ナシ。特にうちの両親は、スマホで動画を見るわけでもないし、ゲームを長時間するわけではないので、5ギガから2ギガの契約に変えれば、2人で月額3000円、年間にしたら3万6000円も節約できちゃうワケだから、かなりお得ですよね! とはいえ、「Wi-Fiの設置なんて難しそう」「費用はいくらかかるの」など、心配もあるでしょう。 でも大丈夫! 自宅のパソコンがインターネットにつながっているお宅なら、申し込み1つですむんです。「パソコンをインターネットにつないでいるなら、家に“モデム”があるはず。契約しているプロバイダに連絡してWi-Fiの利用を申し込めば、モデムを親機にして電波を飛ばす“Wi-Fiルーター”という子機をレンタルしてくれます」写真はイメージです(ゲッティイメージズ) ただし、レンタルは月額数百円かかるので、市販のルーターを購入した方が安上がりでおすすめ。「ルーターは1万円前後。家電量販店などで売っています。買ってきたら自宅のモデムにつなぎ、簡単な設定をすませれば設置完了です」 Wi-Fiの設置が終わったら、次はスマホ側の設定。手順はコチラ。1.画面にある「設定」を開く2.「Wi-Fi」を選ぶ3.Wi-Fiリストの中から、ルーターのラベルや取扱説明書に表示してある電波の名前「ネットワークID(SSID)」を選ぶ4.パスワードの入力欄に、「暗号化キー」を入力する5.スマホの画面上部に、「Wi-Fiマーク」が出ればOK!「パスワード(暗号化キー)は一度設定すれば、使うたびに入力する必要はありません。自宅に戻れば、スマホが自動的にWi-Fiの電波を拾い、切り替えてくれます」 つまり、一度設定さえすれば、あとは勝手にスマホ料金を節約できるという仕組み。うちの両親のように、ネット環境が整っているのに、Wi-Fiを設定していない家庭って結構多いんですよね。これってスゴクもったいない。家族でスマホを使う人数が多いほどお得度もアップするからぜひ試してみて!関連記事■ スマホ料金 利用形態別で分かれる新旧プランの得するタイプ■ モテすぎハーフ港区女子、焼き肉を勝手に予約された事件■ タクシー料金 値上げすれば本当に運転手の収入が安定するか■ 森永卓郎氏 格安スマホにすれば通信費年間5万円は節約可能■ 平均200万円の葬儀費用 自宅で葬儀すれば20万円から可能

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    新法の施行で「ヤミ民泊」は確実に淘汰される

    中西享(経済ジャーナリスト)  民泊について新しいルールを定めた住宅宿泊事業法(民泊新法)が来年6月15日から施行されるのを前に、同法の制定を強く働き掛けてきた百戦錬磨の上山康博社長にインタビューした。 「新法の施行により、これまで何万件とあった営業許可なく旅行者を泊めるヤミ民泊撲滅のきっかけになると考えている。現在、旅館業法改正案が国会で継続審議されており、違反者に対する罰金強化と当局による立ち入り検査権限も盛り込まれているので、是非とも成立してほしい」と述べ、安心安全な民泊サービス提供のために早急に無許可、無登録のヤミ民泊の根絶を求める考えを明らかにした。 日本では現時点で、民泊をするためには旅館業法の認可が必要で、大阪や東京で認められている民泊特区では施設が一定の要件を満たせば営業できる。しかし、多くはこれらの認可なく行われているヤミ民泊が横行していることから、旅館業界で反発が強まり、ヤミ民泊をしているマンションの入居者との間でトラブルになるなど社会問題化していた。 これを受けて立法化の動きが強まり、今年の6月に民泊新法が成立した。来年の6月からは、全国的に合法での民泊が解禁され、一定のルールを守れば誰でも民泊事業が行えるようになる。 上山社長は「民泊仲介業者は観光庁長官への登録が必要になる。また、民泊を代行している業者も多くいるが、こうした業者も登録制になる。外資系仲介サイトも法の枠組みに入るため、かなりのヤミ民泊が淘汰されるのではないか」と指摘、今回の民泊新法の実効性が担保されれば、ヤミ民泊仲介業者と同代行業者は日本では事業ができなくなる見方を示した。 その上で「現行の旅館業法では法律に違反した場合の罰金が3万円だが、これが100万円程度にまで引き上げられる。これだけ罰金が厳しくなれば、飲酒運転の罰則を強化して飲酒運転が減ったように、ヤミ民泊をしようとする業者に対して抑止効果が働くだろう」と述べた。 また新法の実効性を担保するために「最初の1年間くらいは『ヤミ民泊バスターズ』のような監視員を置いて、業者にきちんと法律を守らせるようにすべきだ。そうすることで、新しいルールのもとで旅館業を自由競争させ、ビジネスを正常な形で伸ばしたい」と強調、監視員の設置を提案した。(iStock) 京都、軽井沢など有名観光地を抱える自治体で、新法で定められたルールを各自治体の独自判断でより厳しく運用しようという動きがあることに対しては「ルールを守ろうとする人に規制を強化するよりも、ルールを守っていない人に守らせることが先決だ」と述べ、ヤミ民泊撲滅に向けての取り組みを優先すべきだとの考えを示した。  新法の施行を受けての百戦錬磨の方針については、「民泊予約サイト『ステイジャパン』に900件ほど施設を公開しているが、新法施行の来年6月15日以降には急激に増加するだろう。今年7月、大阪の特区民泊を活用した1棟民泊マンションを開業したが、このような自社運営の宿泊施設を今後、東京や京都にも増やしていきたい」と述べ、来年から民泊運営ビジネスの拡大も計画している。ヤミ民泊は6万件 インバウンド客のさらなる増加が見込まれている2020年の東京オリンピックについては「東京五輪の前年の19年のラグビーワールドカップが開催される。これで欧州を中心に40万~50万人の外国人がやって来て長期滞在する。ラグビーの試合は地方での開催もあるので、ラグビーワールドカップは、これまでインバウンド客の訪問先が東京や京都に偏っていたのが地方も訪れることになり『地方の開国』につながる」と指摘、「ラグビー効果」に大きな期待を寄せている。 同社が取り組んでいる農村に泊まって地域の住民と交流したりイベントに参加する「農泊」については「政府が進めようとしているインバウンド客の地方誘導にもつながり、東京や大阪だけでない日本の姿を知ってもらう良い機会を提供できるので、積極的に取り組みたい」と述べた。 新たな取り組みとしては「今年の4月に長崎県平戸市で試験的に行った『お城の天守閣に泊まれる』無料招待プランや、日本の伝統的な酒蔵をホテルにして外国人に泊まってもらうなど、来日した外国人が日本文化や伝統に触れて特別の体験ができるものを提案したい。低価格で宿泊できる民泊もあれば、高級感のある宿泊施設も提供したい」と指摘、新法施行を契機に宿泊、旅行の選択肢を広げたい考えを明らかにした。 ヤミ民泊の物件数は正確な数字はないが6万件程度あると推測されている。新法が施行された後にこのうちどの程度が合法的に登録されるかは未定だが、民泊を提供しようとする住宅宿泊事業者(ホスト)は①都道府県知事への届け出②年間提供日数の上限が180日③宿泊者の衛生確保―などの条件を満たさなくてはならないため、実際に登録する件数はかなり絞り込まれるのではないかとみられている。 このため上山社長は「ラグビーワールドカップ、東京五輪で来日が予想されるインバウンド客の数からみると、ホテルの新規増設に加えて民泊が全国的に解禁されても、19年時点では宿泊施設はまだ不足するのではないか」との見方を示した。百戦錬磨の上山康博社長 政府は今年3月に観光立国日本を実現するため観光立国推進基本計画を閣議決定した。2020年までに①訪日外国人旅行者数を4千万人にする②訪日外国人旅行消費額を8兆円にするなどの目標を掲げており、民泊は訪日外国人が宿泊するための受け皿になるものと位置づけられている。 なかにし・とおる 経済ジャーナリスト。1948年岡山県生まれ。1972年共同通信社に入社、経済分野を取材し編集委員などを経て2010年に退職し、現在は経済ジャーナリスト。

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    民泊新法でエアビーはどうするのか?

     世界最大の民泊サイトを運営する米エアビーアンドビー(エアビー)の日本法人の田邊泰之社長と、エアビー本社のグローバル政策担当最高責任者のクリストファー・レヘイン氏が、都内で記者会見し、住宅宿泊事業法(民泊新法)の6月からの施行に伴う3月15日から始まる住宅宿泊事業者(ホスト)の届け出を前に対応方針などを明らかにした。 田邊社長は民泊新法の施行について「日本でエアビーの民泊を普及させるために一番重要なことは、地域に合った形で事業を進めることだ。民泊を普及させるために協業の輪を広げていきたい」と述べ、地域との調和の必要性を強調した。また、レヘイン氏は「民泊新法と市町村の条例を順守するように努める。コミュニティとのトラブルは、世界各地の都市で多くの経験があるので防げると思う」と指摘した。 また新法施行によるホストへの影響について田邊社長は「(ルールが定められることで)ホストは参加しやすくなる。ホストに対して部屋のクリーニングサービスなどを提供しており、やりやすいようにサポートしている。現在の6万2000件のホストの数は、ほかの国と比べるとまだ少ない。日本では東京、大阪、京都などが多かったが、地方に眠っている観光資源が多くあるので、新法によりこうしたところが紹介されるようになるのではないか」と指摘、ホストの数が増えることに期待を示した。 いわゆるヤミ民泊を防止するための対策として、エアビーは15日にホスト登録のための画面を新しいものに切り替えた。エアビーのサイトに掲載するためには、ホストが自治体に登録した際に取得した民泊の許認可番号の記入が必要となり、この番号がない場合は仲介サイトに掲載しない。これにより、6月14日まではヤミ民泊はエアビーのサイトにアップされるが、新法が施行になる15日以降は許認可を得ていない違法な民泊はサイトから排除されることになる。 今後のグローバル展開についてレヘイン氏は「2028年までに世界中で10億人がエアビーの民泊を利用するようロードマップを描いている。世界の都市では民泊の規制と適合しながら事業を進めている。日本では空き家が多く、日本政府も空き家対策として民泊を活用できないか関心を持っている。エアビーの方式が役立つと確信している」と述べ、日本で受け入れられることに自信を示した。 新しい民泊サービスとして、今年2月から素晴らしいゲストがハイエンドな特別なサービスを提供できる「エアビー・プラス」という、ワンランク上の民泊サービスの提供を始めている。同社としては、他社との違いを出すためゲストの要望に応えられるように民泊のメニューを増やそうとしている。エアビー日本法人の田邊泰之社長(左)と、本社グローバル政策担当最高責任者のクリストファー・レヘイン氏 同社によると、2月1日現在の日本での宿泊登録件数は約6万2千件。内訳は東京都が2万1200件、大阪市が1万4300件、京都市が6200件。昨年2月1日から今年2月1日までの宿泊者総数は580万人だった。東京都が190万人、大阪市が160万人、京都市が66.6万人だった。平均宿泊日数は3.3日。エアビーの宿泊者数は2016年が370万人で、17年の1年間に約200万人も急増、全国にエアビー旋風を起こしたと言える。 しかし、全国の自治体では、民泊の宿泊数や場所などについて、地域住民の住宅環境への配慮などから民泊新法に上乗せした厳しい条例を定めるところが相次いでいる。この難しい環境の中で、エアビーがいままでと同様の多くのホストを獲得できるかどうかが注目される。

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    「引っ越し難民」もアマゾンのせい?

    「何千もの小売業者を倒産に追いやっている」。米インターネット通販最大手、アマゾンについて、トランプ大統領の「口撃」が止まらない。日本でもアマゾンの台頭でさまざまなサービスが打撃を受けて久しいが、この春急増した「引っ越し難民」の背景にもアマゾンの影響があるという。なぜか。