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    無意味な反日活動を蒸し返す韓国「共に民主党」の正体

    り方に陰りが出始めた。 南北間の政治的なイベントを利用して高い支持率を維持してきた文大統領だったが、北朝鮮の度重なる約束違反で、韓国の一般国民も宥和政策に懐疑的になり、支持率低下が止まらなくなった。 金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長は、昨年の時点で年内にソウルを訪問すると約束したが、それは守られていない。非核化においても何ら進展がなく、南北交流は実質を伴わないイベントばかりであることに韓国の一般国民も気づいたからだ。 そこで持ち出したのが「親日派」との戦争だ。文大統領は「三・一運動」記念日に行った演説で「アカ(共産主義者)という表現は清算しなければならない親日の残滓だ」と話した。2019年3月1日、ソウル市内で開かれた「三・一独立運動」100年の式典に出席した韓国の文在寅大統領(共同) 韓国では左派の中でも、北朝鮮に同調し、金委員長を追随する勢力を「アカ」と呼ぶ場合もあるが、文大統領はこの表現は、親日勢力がつくった言葉のため「親日残滓(残された親日勢力)」と一緒になくすべきだと語ったのだ。 言い換えれば、左派の中の一部を「アカ」と呼ぶ保守勢力に対する警告でもあった。すなわち、左派政権に批判的な保守勢力は「親日勢力」と決めつけ、その主張に同調すべきでないと言ったのだ。同じ日に文大統領は、「親日残滓を清算する(残された親日勢力をなくすこと)は、後回しできない課題だ」として、唐突にも「親日清算」を当面に優先課題として提示した。 京畿道議会が日本製品に戦犯ステッカーを貼る条例を作ろうとしたのは、このような文政権の支持率低下を阻止し、反日をもって保守層を牽制し、支持者を結集するための政治的計算によるものだ。始まった文在寅批判 三つ目として指摘すべきことは、官主導の反日の闇だ。文政権誕生以来、日韓関係は最悪の状態に陥っている。日韓基本条約で解決したはずの「徴用工問題」、日韓両政府の間で決着をつけたはずの「慰安婦問題」を持ち出したのは韓国政府だ。 レーダー照射問題では、韓国政府が意図的に日韓関係を悪化させるつもりだったのではないか、との声すら聞こえる。その背景には文政権が進める北朝鮮との宥和政策、北朝鮮との連携を強めようとする国政運営の方針がある。 文政権が北朝鮮と共有できる価値観といえば「反日」だからだ。京畿道議会が政治主導で「日本の戦犯企業」ステッカー条例を作ろうとしたのは、このような文政権の「官主導反日」に倣(なら)ったものと言っていい。 このような反日活動で一部の政治家は得をするかもしれないが、一方でこのような時代錯誤的なことで国家のイメージは失墜し、経済に影響が出るのも必至だ。京畿道議会が戦犯企業に指名した日本企業にはパナソニックやニコンのような企業も含まれるが、韓国からこのような企業の製品をなくしたらどうなるだろうか。韓国のテレビ局、新聞社の人たちはこれから日本の放送機器やカメラを持って堂々と世界を歩くことができるだろうか。 文政権誕生以来、韓国では1894年までさかのぼり、日本の朝鮮進出のきっかけとなった東学党の乱の再調査が進められている。それだけでなく、1950年に勃発した朝鮮戦争をめぐって、金日成(キム・イルソン)国家主席の韓国占領を阻止すべく敢行された「仁川上陸作戦」によって被害を受けた民間人に賠償金を支払う条例案も話題になっている。 韓国では一連の反日活動に象徴されるように、こうした過去の無意味な蒸し返しが繰り返されており、このままでは韓国は国際社会から真に孤立しかねない。2019年4月3日夜、韓国の政権与党「共に民主党」と候補者を一本化し国会議員補欠選挙で辛勝した革新系野党「正義党」の候補者(中央左)ら(聯合=共同) ただ、ステッカーの条例案については、保守系学生団体の韓国大学生フォーラムは「過去と現在、感情と外交を区別できない共に民主党は扇動政治をやめるべきだ」との声明を発表している。 学生を中心とした若者は「反日活動」に扇動されやすいが、韓国メディアや学生の一部から非難の声が上がり始めており、これらは日韓関係の改善に向けた一縷(いちる)の望みかもしれない。■ 米朝に「田舎芝居」を打つ文在寅の安倍コンプレックス■ 「何をしても許される」天皇謝罪発言、韓国政治の根底にあるもの■ 「日本を奴隷扱い」文在寅の外交ゲームを攻略するベスト戦術

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    朝鮮半島における「礼儀・礼節」 日本とは意味が違う

     正しいこと、称賛されることはその時代や社会、国や地方によって少しずつ異なるものだ。似たような言葉で指している内容が、根本的に意味が異なることもある。評論家の呉智英氏が、隣国・韓国における「礼節・礼儀」の意味は、どのように日本と異なるのかについて、解説する。* * * 保守系の月刊オピニオン誌「WiLL」四月号の特集は「さすが『礼節』の国 韓国!!」。一読してみたが、どうも予想とちがう。朝鮮(南も北も)は昔から礼節・礼儀の国と呼ばれる。昨今の韓国の暴走ぶりを皮肉って逆説的に「さすが」としたらしい。 こういう皮肉表現はよくある。性犯罪で逮捕された宗教家を「さすが聖職者」とするように。しかし、この特集名は少し変なのだ。九人の執筆者の主張自体は特にまちがってはいない。とすると、この特集名は編集部がつけたものか。 そこで思い出したのが、二〇〇〇年五月三十日付朝日新聞の論説委員コラム「窓」欄である。少し古い記事だが、私は某大学の比較文化論の講義資料として十年以上使っていた。この日のタイトルは「礼節の国」、筆者は一字署名で〈黄〉となっている。 当時、森喜朗首相は「日本は天皇を中心とする神の国」と発言し、国内からも韓国からも批判を浴びた。しかし、五月二十九日に森首相と会談した金大中大統領はこれに触れなかった。それは「言いたい気持ちをじっと抑えて、静かに笑って」いる「『礼節の国』と言われる韓国の本来の姿」であり「そうした隣人の気持ちに思いを致」す配慮が森首相に欲しい、というのだ。 私は講義でこの「窓」欄のプリントを配り、学生に聞く。韓国に行ったことがある人はいるか。五、六人の手が挙がる。韓国の人たちって、言いたい気持ちを抑えて静かに笑っている「礼節」ある人たちだったか。学生たちはちょっと困ったように首を横に振る。 じゃあ、朝日の記事にこんなことが書いてあるのは何故だ。朝日は革新系だから韓国をほめるなんていう答えは駄目だぞ。 学生たちは考え込む。やがて、ピンと来た一人が答える。文化のちがいですか。礼節の意味がちがっているとか。 正解である。 我々が今「礼儀」という時、それは基本的に西洋由来のもので、交際術のことだ。その要点は、お互いに害意を持っていないことの確認である。礼儀を英語でマナーというのはマニュアル(手引き書)と同原である。交通ルールを交通マナーというのも同じで、車が相互に左側通行するのは、お互いに「被害」に遇わないためだ。 一方、朝鮮における「礼儀」は世界観の象徴化である。宗教儀礼に近い。礼を「のり(規範)」「あや(文化)」と読むのはそのためだ。お辞儀にも細かな意味づけがある。単なる交際術ではない。※写真はイメージです(ゲッティイメージズ) 朝日新聞の論説委員も「WiLL」の編集者も、保革逆だが、ともに文化のちがいが分かっていない。「WiLL」特集で執筆者の一人大野敏明は、韓国滞在中、返事をしなかった警官を怒鳴った話を書いている。「韓国は儒教の国」なので「高齢者である私」に返事をしないのは失礼になる。怒鳴ったら「直立不動」で返事をしたという。これが朝鮮の礼節である。大野は産経新聞元記者で韓国文化に詳しい。この一節だけが特集名にふさわしい。●くれ・ともふさ/1946年生まれ。日本マンガ学会前会長。近著に本連載をまとめた『日本衆愚社会』(小学館新書)。関連記事■もし日韓戦わば… 軍事力の差は歴然だった■韓国人はなぜ今「日本叩き」に躍起になっているのか■ソウル 日本製品不買条例案に日本好き韓国人「恥ずかしい」■100年前のロシヤ革命、革命と反革命どちらなのか論じるべき■福澤諭吉「天は人の上に…」と聖徳太子「和を以て…」への誤解

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    新たなパートナーを探す英との接近、安倍首相の「戦略外交」

    る予定である。今年前半には、英海軍艦艇「HMS モントローズ」の日本寄港が計画されている。 これは、北朝鮮に関連する国際連合安全保障理事会決議の履行を支援するため、「瀬取り」を含む違法な海上活動を警戒監視するためである。同時に、海洋進出、海洋での軍事行動を活発化させている中国を牽制するためでもあろう。 「質の高いインフラ」というのも暗に、中国の進めている「一帯一路」を批判しているとも考えられるし、「通信インフラ」での協力というのも、ファーウェイやZTE等中国の通信会社を政府の通信ネットから排除した米国にいち早く呼応した英国とそれに続いた日本との連携とも言えよう。2019年1月、ロンドンでの共同記者会見で、笑顔を見せる安倍首相と英国のメイ首相(共同) 今回発出された日英共同声明の第7項目には、次のような一文がある。「インド太平洋地域及び欧州において自衛隊及び英国軍の共同演習を増加する。我々は、将来のあり得べき交渉を見据え、日本国自衛隊と英国軍の共同運用・演習を円滑にするための行政上、政策上及び法律上の手続を改善する枠組みに引き続き取り組む」「日英準同盟」の発展も すなわち、日英共同演習は、インド太平洋地域のみならず、欧州でも行う可能性がある。また、日英防衛協力を深化させるために、必要な立法や政策立案を両国が行うことを努力することを明記した。 第7項目の末尾には、次のような記述もある。「将来の戦闘機及び空対空ミサイルに関する協力を探求する可能性を含め、将来の能力のため、防衛産業パートナーシップ及び政府間協働プロジェクトを進展させる」 日本は、新防衛装備移転3原則が制定されてからも特に具体的な案件が取り決められることはほぼなかったが、次世代戦闘機を含め、日英間の共同開発等、両国の防衛装備品協力への道が開かれた。太平洋を結ぶ日米同盟と、大西洋間の米英同盟を、さらに連携させるユーラシア大陸をまたぐ日英準同盟が形成されて行くのかもしれない。 英国は、EUからの離脱・Brexitを控え、新たなパートナーを探していることは間違いない。特に、普遍的価値や利益を共有し、経済力等国力も近い相手が望ましい。 日本も、厳しい北東アジアの環境の中で、日米同盟を基軸にしつつも、豪州、インド、英国、フランス等、新たな地平を広げたいと思っている。巨大化する中国や、核武装した北朝鮮、難しい交渉相手ロシア等に対処するには、自由民主主義、法の支配と人権等の共通の価値観を有する仲間を増やすことが、何よりの戦略外交と言えよう。

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    金正恩「クーデター失脚」発言はなぜ黙殺されたか

    の謎を解くカギが明らかになった。実は会談後に、米情報機関が次のような情報を入手していたのである。 「北朝鮮軍は核とミサイル実験の中止、非核化に反対している。北朝鮮の指導者は軍をコントロールできていない。クーデターの可能性がある」 3月15日、この情報を北朝鮮の外務次官が公式に認めた。各国の情報関係者に衝撃が走り、「金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長と軍部は緊張関係にある」との分析が広がった。 問題の発言は、15日に行われた北朝鮮の崔善姫(チェ・ソンヒ)外務次官の記者会見で明らかにされた。この記者会見は、米AP通信が「米朝非核化交渉中断」「近く指導者が重大声明」などの見出しで世界に報じたが、取材記者や専門家に見過ごされた「重大発言」があった。 崔次官は首都、平壌(ピョンヤン)での会見で、次のように述べていた。ちなみに、北朝鮮の外務次官は数人おり、崔氏は筆頭次官ではない。 「人民と軍、軍需工業の当局者数千人が決して核開発を放棄しないように、との請願を金正恩委員長に送った。それにもかかわらず、金正恩委員長は米朝首脳が合意した約束に互いに取り組み、信頼を築き、(非核化を)一歩一歩、段階的に推進するつもりだった」(AP通信) ここで言う「人民」とは、核開発に携わる科学者などの軍事関係者を意味する。「軍需工業」は、党の軍需工業部を中心とした組織を指し、ミサイルや核兵器を製造している。これらの人々が個別に請願書を送ったか、連名で伝えたかは明らかにされていないが、恐らく「連名」での請願書であろう。2019年3月15日、平壌で記者会見する北朝鮮の崔善姫外務次官(中央)(AP=共同) 崔次官の発言は、独自で勝手に行ったものではない。あくまでも金委員長の指示で行われたこの声明は、北朝鮮の現状と金委員長を取り巻く平壌の空気を、かなり正直にかつ雄弁に物語っている。平壌で広がる「会談決裂」 指導者と軍の「緊張関係」が、ここまで明らかにされたのは初めてだ。軍に関する情報は常に秘匿されてきたからだ。 北朝鮮を知る専門家の中には、数千人の軍関係者が指導者に「非核化反対」の意思を表明した事実に疑問を感じ、この発言を「黙殺」したようだ。反対する軍幹部を次々処刑した独裁者に、軍人が「反対」を表明できるはずがない、と受け止めたのかもしれない。 だが、「数千人の軍人の請願」はまず事実であるという。昨年、韓国に亡命した脱北軍人たちは「軍が非核化に反対し、金正恩を批判している」と証言していた。平壌でもそうした噂が流れていた。 それに、公式声明で「数千人が請願」と記録しておきながら、後で嘘だと分かると、指導者の信頼は失われる。だから、各国の情報関係者は嘘ではないと判断したのである。 崔次官の声明は外国人に向けられたもので、国内では報道されていない。しかし、既に平壌では噂が広がっているという。最近では、こうした情報が中国から携帯電話を通じ、瞬時に平壌に広がる。 北朝鮮の報道機関は「米朝首脳会談成功」を大々的に報じたにもかかわらず、「会談決裂」の噂が平壌で広がっているという。しかも、話に尾ひれがついて、「ハノイから帰国の列車内は、お通夜のようだった」との流言まで飛び交っているらしい。2019年3月5日、平壌駅で出迎えを受ける北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長(朝鮮中央通信=共同)金正恩氏が帰国 北朝鮮は公式には、指導者が軍を掌握し、軍も完全に従っている、と説明してきた。また、軍の反乱やクーデター計画の報道もはっきり否定してきた。 それなのに、なぜこのタイミングで「非核化反対請願」を明らかにしたのか。軍が指導者の決断に反対を表明すれば、やがてはクーデターにも発展しかねない。 崔次官の記者会見は、民主主義国で行われる普通の会見ではない。一方的な「声明発表」であり、参加者の質問を受け付けなかった。それに、平壌駐在の外交官や報道機関は北朝鮮側の要請で集められている。つまり、どうしてもこの時期に声明を発表する必要に迫られたということが分かる。会談5日前の襲撃事件 ところが、「会見」は最悪のタイミングで行われた。中国は、全国人民代表大会(全人代=国会)の最終日であり、当日は李克強首相の会見が予定されていた。当然、中国は「北は失礼だ」と怒る。また、米ワシントンでは、議会がトランプ大統領の緊急事態宣言を否決した直後だった。 結局、米国も中国も大きな関心を示すことはなかった。韓国の報道機関でさえ「軍関係者数千人の請願」を全く伝えなかったのである。 実は、金委員長は昨年、シンガポールでの米朝首脳会談の冒頭で「ここまで来るのは大変だった、多くの困難や妨害を克服した」と述べていた。当時から、軍部の強い反対に直面していたわけだ。 さらに「軍の反対を抑えながら非核化を進めるには、段階的な交渉と解決しかない」と、金委員長は第1回首脳会談で繰り返し強調していたという。トランプ大統領も一時は「非核化は時間をかけてもいい」と発言し、北朝鮮の指導者の立場を理解する様子も見せていた。それなのに、第2回首脳会談でトランプ大統領が突然態度を変えた、というのが北朝鮮の「責任回避」の理屈のようだ。 この記者会見に関連して、各国の情報機関が注目する事件があった。米朝首脳会談5日前の2月22日、スペインの北朝鮮大使館が何者かに襲撃され、コンピューターや携帯電話が持ち去られた事件である。 ところが、北朝鮮大使館は被害届を出さず、スペイン警察の捜査は進んでない。不思議なことに、北朝鮮政府も公式の抗議声明を今も出していない。2019年2月、ソフィテル・レジェンド・メトロポール・ハノイでの夕食会で談笑する北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長(左)とトランプ米大統領(ホワイトハウス提供・ゲッティ=共同) このため、盗まれたコンピューターや携帯電話の中に、核開発に関する秘密情報があったのではないか、との推測が広がっている。この秘密情報に怒ったポンペオ国務長官とボルトン大統領補佐官が、これまでの方針を変更し「全面的な核放棄が、制裁解除の条件」と強硬策に転じたのではないかというのだ。 米国との交渉を担当した国務委員会の金革哲(キム・ヒョクチョル)対米特別代表が、ハノイ首脳会談前までスペイン大使を務めていたこともあり、さらなる謎を呼んでいる。■ 米朝決裂もアベガー 「日本軽視」韓国より重視すべき隣人■ 米朝再会談、非核化の先にある金正恩独裁「崩壊へのカウントダウン」■ 金正恩が「完全な非核化」に初めて言及した意味

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    誰がための米朝首脳再会談

    朝鮮半島の非核化プロセスは本当に描けるのか。昨年6月以来、2度目となる米朝首脳会談がベトナムの首都、ハノイできょう始まる。初会談はただの「政治ショー」に終わったが、目先の成果を急ぐ余り、両首脳が演出と妥協で交渉を進展させる可能性もある。誰がための会談か、その意味を改めて考えたい。(写真は共同)

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    北朝鮮非核化の主導権を虎視眈々と狙う文在寅「逆転シナリオ」

    示された基本コンセプトが第二次首脳会談でも提示されることになる。①新たな米朝関係②朝鮮半島平和体制③北朝鮮の安全保障④朝鮮半島の非核化である。 しかし、今回の第二次首脳会談では、これに加えて⑤制裁の緩和⑥(長距離)弾道ミサイル問題が新たに付け加えられる可能性がある。ただ、第二次首脳会談までの限られた時間の中で、北朝鮮の非核化の具体的な道筋とそれに対して、北朝鮮が満足するだけの米国の見返りについて、双方の妥協がどの程度実現するのか、依然として不透明であることには違いない。 まず米国であるが、第一次首脳会談の直後は③北朝鮮の安全保障の提供として朝鮮戦争の終戦宣言や米韓合同軍事演習の中止などに言及していたが、演習中止は実現するが、終戦宣言に関しては米国内からの慎重論もあり、実現に至っていない。 そこで、北朝鮮は代わりに制裁緩和を要求するが、これについては非核化が実現されなければ制裁の緩和はないという姿勢で臨む。ただし、トランプ大統領もそうだし、特に米国務省のビーガン北朝鮮担当特別代表は、寧辺(ニョンビョン)核施設の廃棄などに対する見返りとして、人道支援の拡大、終戦宣言、米朝相互の連絡事務所の開所を示唆している。 寧辺以外の核施設の申告、その廃棄などをめぐる行程表の提示などが、どの程度達成されるのかが未来の核、核の凍結だけではなく、過去から現在に至る核の廃棄をも含められるのかどうかの試金石になるだろう。 興味深いのは、首脳会談の直前25日になって、韓国発で興味深い発言が二つ出てきたことである。 一つは、大統領府の首席補佐官会議で、米朝首脳会談への期待を表明する中で文在寅(ムン・ジェイン)大統領自身が「歴史の周辺ではない中心に立ち、戦争と対立から平和・共存に、陣営とイデオロギーから経済と繁栄に向かう新韓半島体制」を主導的に準備しなければならないという立場を表明したことである。2019年1月、ソウルの韓国大統領府での年頭記者会見で、報道陣の質問に応じる文在寅大統領(共同) もう一つは、大統領府のスポークスマンによる「米朝2国間の終戦宣言」に対する肯定的発言である。北朝鮮の非核化の具体的な措置に関する米国の提示する見返りが何であるのかについて注目されていたが、「米朝2国間の終戦宣言」が急に注目されてきた。本来であれば、韓国もこれに加わるべきであったのだが、韓国は既に2018年9月の平壌宣言で実質的な終戦宣言、不戦宣言、不可侵宣言を行っているということで、北朝鮮の非核化が進むという条件付きではあるが、韓国は歓迎の意思をあらかじめ示している。「悲観論」渦巻く日本 また、これは従来から言われてきたことではあるが、米国にとっての最大の問題は核兵器それ自体ではなく、米本土を射程に入れる核弾頭搭載可能なミサイル、大陸間弾道ミサイル(ICBM)であり、たとえ同盟国である日韓などが短距離および中距離ミサイルも削減、もしくは廃棄対象に含めるべきだと主張しても「米国第一主義」の立場からは、まずはICBMの削減・廃棄の方を優先させる可能性が高いと言える。 一方で、これが短距離・中距離ミサイルの削減や廃棄と切り離されてしまい、短距離・中距離ミサイルの削減・廃棄につながらないと日本の利益は無視されたことになり非常に困った結果になってしまう。したがって、米国に対して日本の利益も重視するように働きかけることは重要だろう。しかし、長距離ミサイルの削減・廃棄が短距離・中距離ミサイルの削減・廃棄につながるのであれば、それをむしろ支援することが有効だろう。 ただし、米国政府内部でも北朝鮮が「核兵器を完全に放棄する可能性は低い」(コーツ国家情報長官)、北朝鮮は「米国に直接的な脅威を及ぼす長距離核弾頭ミサイルの開発に注力している」(ハスペル中央情報局=CIA=長官)という慎重な見方も依然として根強い。従って、北朝鮮の非核化に対する見返りとして、今回の首脳会談で「制裁緩和」という言葉を米国が明示的に約束することはないだろう。 北朝鮮としては、もちろん寧辺の核施設の廃棄の見返りとして上記の三つ、すなわち人道支援の拡大、終戦宣言、米朝連絡事務所の開所は最低限確保しておきたいと考えるだろう。そして、可能であれば、ある意味では制裁緩和の突破口として、韓国との南北経済協力に関する米国の姿勢の緩和を求めるということも考えているのではないか。 金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長の2019年の新年辞でも、開城(ケソン)工業団地と金剛山(クムガンサン)観光という南北の二大経済協力事業の再開に明示的に言及したことにも現れる。北朝鮮にとって、とりあえず経済発展のためには南北の経済協力事業を再開させることが最も近道ではあるのだが、それが国際制裁によって行き詰まっており、韓国だけの判断では再開が難しいということになると、それを突破するためには、米国の了解が必要になるということだろう。 元来、北朝鮮が非核化を実施することによって米国から制裁緩和による経済発展と体制保証を求めるというプロジェクトは、ある意味では南北の共同プロジェクトとでも言うべき性格を持っているので、米国さえ、それを許諾すれば可能になるという暗黙の合意が南北にも存在する。 日本では、ともかく北朝鮮の非核化に対する懐疑論、悲観論が依然として根強い。もちろん、せっかく開発したものを容易に手放すはずはないということは理解し得る。他国を欺いて核ミサイルを保有することが北朝鮮の目的であるとすれば、それは実現されたと言える。2019年2月26日、米朝首脳会談のためベトナム・ドンダン駅に到着し、出迎えの人に手を振る北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長(共同) しかし、それが北朝鮮の現在から将来にわたる安全を保証することにならなかったことも北朝鮮は十分に自覚している。だからこそ、2018年に入って、それまで蓄積してきた核ミサイル能力を使って、自体制の安全保障を最大の脅威である米国から獲得しようとしてきた。米朝間の不信という条件の下で、そうした自体制の安全保障を獲得するという確信がないために、可視的な非核化に踏み切るのは容易ではないのかもしれない。 しかし、いったん指導者自ら下した決断の意味は過小評価されるべきではない。そうした決断をどの程度持続することができるのか、できないのか、それは一義的には北朝鮮の指導者自身の選択にかかっているが、それ以外、特に米国をはじめとする国際社会の対応が、そうした決断を活かして持続させるのか、それとも、そうした決断自体不確かなものであり、信頼に値しないと考えるのか、さらに北朝鮮をより一層追い込むことによって、北朝鮮の非核化以上、例えば、北朝鮮の体制転覆のようなものまで獲得しようとするのか、という選択にかかっている。「前のめり」になる韓国 ただ、米国は「制裁緩和」という見返りは、もっと可視的な非核化が進まない限りは提供しない意志が固いだけに、「制裁緩和」ではない南北経済協力の再開をどのように論理づけるのか、もしこの問題が議論の俎上(そじょう)に上がるのであれば注目されることになる。 韓国としては、過去においても、北朝鮮の核ミサイル開発が行われていた時も開城工業団地や金剛山観光という経済協力事業は行っていたという実績がある。したがって、文在寅政権としては、この事業を再開することによって、北朝鮮に対する韓国の影響力の回復を狙いたいと考える。前述した「新韓半島体制」における「韓国の主導権」云々は、そうしたコンテクストの中で理解される。 しかし、北朝鮮の核ミサイル開発に対する対抗措置として、この経済協力事業を中断したという経緯があるため、やはり相応の可視的な非核化の進展がないと、そして何よりもそれに対する見返りとして米国がそれを寛大に見るということがないと、韓国独自の判断で再開するということは難しく、予定されている金正恩のソウル訪問も難しい、ということになる。 実際に、文在寅大統領は若干奇妙な論理ではあるが、北朝鮮の非核化に対する米国の見返りに関して韓国がその費用の一部を南北経済協力という形で負担する用意があるという論理を提示する。米国トランプ政権さえ許容すれば、南北経済協力を復活させる意欲は強いように思う。 また、今回の米朝首脳会談で、開城工業団地はともかく金剛山観光事業程度は復活する条件が準備できるのではという期待が大きいように思う。 確かに、北朝鮮の非核化が不確かな状況で韓国が「前のめり」になっているという印象を拭えないことは確かであるが、それを「韓国は北朝鮮にだまされているだけだ」「トランプ大統領もそれに乗せられているだけだ」と悲観的に見る必要もない。韓国としては南北関係を改善することが北朝鮮に対する韓国の影響力を復活させて、それが主導権の掌握につながると考えていることは確かであるからだ。 最後に、日本の取るべき対応については以下のように考えられる。北朝鮮の非核化はあり得ないことであると頭から決めつけるのではなく、むしろ、北朝鮮を非核化に追い込むために外堀を埋めていく作業に日本も積極的に関与するという基本姿勢が必要ではないかと考える。2019年1月、北朝鮮の金英哲朝鮮労働党副委員長(右)から金正恩党委員長の親書を手渡されるトランプ米大統領(ホワイトハウスのダン・スカビーノ氏のツイッターから・共同) もちろん、その確実な保証があるわけではなく、北朝鮮はまた核実験やミサイル発射をすることで、約束を裏切るのかもしれない。しかし、その時はまた従来の制裁局面に戻るようになるし、それを主導すればいいだけの話である。米韓も、そうなればいつまでも融和局面にしがみつくということにはならないはずだ。 現状では、一方で北朝鮮の非核化を既成事実にするように慎重にかつ着実に見返りを提供することに関与する、その点での日米韓の協力を行っていくという姿勢が必要ではないか。しかし他方で、北朝鮮の非核化の不透明さが高まる時にも備えて、いつでも制裁局面に戻ることができるような態勢を準備しておくことが必要だし、そのための日米韓さらには中露を含めた協力を準備しておくことが必要だ。そうした二面作戦を採用するべきであって、今の時点から、どちらか一方に決め打ちをするというリスクを冒す必要はない。■ 金正恩が「完全な非核化」に初めて言及した意味■ 「反トランプ」のうねりはなぜ起こらなかったのか■ 崖っぷちの金正恩、万策尽きた文在寅「南北首脳の叫び」

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    「金正恩と恋に落ちた」トランプの口説き文句に隠された意味

    前嶋和弘(上智大総合グローバル学部教授) 「北朝鮮政策はうまくいっている。そして、今後もうまくいかせないといけない」。2月27、28日の米朝首脳会談を前にして、トランプ大統領の「胸の内」はこんな一言で表されるのではないだろうか。 トランプ氏の本質はポピュリスト(大衆迎合政治家)である。常に自分を支持する人々を意識し、それを2016年大統領選挙における当選の原動力にした。 もちろん政権発足後も、規制緩和や大型減税、環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)と「パリ協定」離脱、エルサレムへのイスラエル首都移転など、利益還元に勤しんだ。そして、大統領選再選のために何を訴えたらよいのかに腐心し、最近では対中貿易戦争や、メキシコ「国境の壁」建設のための非常事態宣言など、さまざまな言動に拡大させている。 では、トランプ氏の過去2年間の政策において、最大の「レガシー(遺産)」とは何か。国内政策では、何といっても経済発展であり、外交では対中強硬策などもあるが、何よりも目立つのが北朝鮮政策である。 規制緩和と大型減税が「トランプ景気」を支えてきたが、景気循環のサイクルにより今後の景気が頭打ちとなる可能性を考えれば、今後訴えたいのは北朝鮮問題での成果である。北朝鮮政策がうまく進むことを支持者にアピールし続けることで、トランプ氏の2020年大統領選の再選に直結するとみているはずである。 2019年2月5日に行われた一般教書演説では、北朝鮮政策について述べたのは、わずか1分弱である。しかも、具体的な非核化への言及や北に対する否定的な言葉は一切なかった。 それでも実際の時間よりも、北朝鮮政策の存在感は非常に大きかった。第2回会談の日程を公表したのがこの演説であるほか、「私が大統領でなければ北朝鮮との戦争だった」というのは、この演説の最大の決め台詞(ぜりふ)だったからだ。2019年2月15日、米ホワイトハウスで記者会見するトランプ大統領。国家非常事態を宣言した(ロイター=共同) 「金正恩とは恋に落ちた」「北朝鮮政策はうまくいっている」「北朝鮮は経済のロケット(のように急成長)となる」といった「前のめり」発言が続いているように、トランプ氏の北朝鮮政策に関する見立ては肯定的なものばかりだ。ポンペオ国務長官や国務省のビーガン北朝鮮担当特別代表といった実務担当者は、トランプ氏の「思惑」に慎重ながらも言葉を合わせているようにもみえる。 ただ、そもそも昨年6月の第1回米中首脳会談前に米国が望んでいたのは「まず北朝鮮が先に非核化する」ことだったはずである。それを端的に示す「完全で検証可能かつ不可逆的な核廃棄(CVID)」という言葉は今や完全に消えてしまってしまったようにみえる。昨年夏ごろから、ポンペオ氏の北朝鮮の非核化目標は「最終的かつ全面的で検証可能な非核化(FFVD)」という言葉に変わっていった。政敵のようにこき下ろす さらに、今年1月末のスタンフォード大での講演で、ビーガン氏は北朝鮮の非核化に対して、シンガポールの合意事項は「同時的かつ並行的に進展させる」と述べた。米国側の北朝鮮に対する「アメ」を段階的に与えていくという政策変更が明言されたのである。 ビーガン氏のこの日の言葉には、米国側が「戦争を終わらせる準備ができている」や「北朝鮮政権の転覆を追求しない」などといったものもあった。CVIDを全面的にうたい、「相応の措置をするなら、まず北から」と言及した半年ほど前と比べ、かなり「前のめり」になっているようにみえる。 この「前のめり」のトランプ氏や担当者に対して、北朝鮮の核放棄の意図に関するインテリジェンス・コミュニティーはかなり懐疑的だ。1月29日の上院情報特別委員会の公聴会は、このトランプ氏とは180度異なる見方が政権内に強く存在するという意味で衝撃的だった。 この公聴会で、コーツ国家情報長官は「北朝鮮の政治指導者は体制存続のために核兵器が極めて重要だとみている」「同国が核兵器を完全に放棄する公算は小さい」と明言。ハスペル中央情報局(CIA)長官も「北朝鮮指導部は、米国への直接脅威となる長距離弾道ミサイル開発の意志を持ち続けている」と指摘した。 両者の発言を聴くと、トランプ氏や実務担当者の発言はまるで「はったり」のようにすら思えてくる。これらの発言に対して、トランプ氏はツイッターで「ナイーブだ」「学校教育からやり直せ」と綴り、まるで政敵をこき下ろすように手厳しい。 同じ政権内部からのメッセージがこれほど大きく異なるのは、一種の攪乱(かくらん)作戦なのかもしれないと勘繰ってしまう。あるいは、「北の核放棄の意志はかなり怪しいが、それでも米朝交渉の順調さをアピールしないといけないための演出」としたら、これは茶番劇なのか。2019年2月、ハノイのホテルに到着した米国のビーガン北朝鮮担当特別代表(左、AP=共同) それでも、トランプ氏や実務担当者たちの言葉を信じ、北朝鮮に積極的な核放棄の意図があるとするなら、今度の第2回米朝首脳会談は歴史的なものになる可能性がある。そのシナリオを考えてみたい。 北朝鮮が何を提供したら、積極的な核放棄といえるだろうか。核実験場の廃棄を表明し、坑道などを爆破した豊渓里(プンゲリ)の抜き打ち査察を認めるようなことが大前提である。「誘い水」のツイート これに加えて、弾道ミサイル発射基地がある東倉里(トンチャンリ)の基地解体、核開発施設が集中する寧辺(ニョンビョン)などでの施設の解体とその抜き打ち査察ぐらいまでは期待できるのかもしれない。あるいは、もし北朝鮮が地下などに核保有すると言われる核兵器リストの提出と米国側のインテリジェンスのつかんだ情報との照合、さらには核廃絶のロードマップ提出などが行われた場合、北朝鮮の核放棄の姿勢を否定するのは難しくなる。 北の態度次第で、トランプ政権からの「アメ」は、ビーガン氏の言葉を借りれば「同時的かつ並行的に」豪華になっていく。まずは人道支援から始めて、南北間の経済交流の容認、朝鮮戦争終結宣言、将来の大使館となる連絡事務所建設といった人的交流が考えられる。 トランプ政権後のことを考えて、連邦議会を巻き込んだ平和条約や不可侵条約の締結なども米国側が用意するかもしれない。もし、さらに北朝鮮から核兵器リストの提出までの対応があった場合、経済制裁から180度転換し、経済支援の方に少しずつ舵(かじ)をとりながら、場合によっては直接投資まで行く可能性すらある。 2回目の米朝首脳会談を前にした2月24日の「北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長は、核兵器をなくせば経済大国になれると誰よりも認識している」というトランプ氏のツイートは、北朝鮮に核を放棄させるための「誘い水」である。 朝鮮戦争終結宣言は休戦協定に繋がり、いずれは在韓米軍の縮小の可能性も出てくる。ただ、在韓米軍は対中用でもあるため、今のところ、トランプ氏は強く否定している。 見えない最大の「アクター」が中国である。北朝鮮の後ろにいるのが中国であり、中国が北朝鮮という国を支えているというのがトランプ政権の見方である。中国としても、親米国家が近くにできるのは心良しとしないはずであり、現状維持を願っているはずであろう。2018年12月、ブエノスアイレスでの首脳会談で握手するトランプ米大統領(左)と中国の習近平国家主席(新華社=共同) もし核廃棄が進めば、日本と韓国、中国などの北朝鮮の近隣諸国に非核化の資金を出させるのがトランプ政権の立場であるため、日本としては資金提供とともに、拉致問題を進める必要性がある。そして、北との交渉を一気に本格化させなければならない。 「前のめり」のトランプ氏の思惑通りとなり、大きな節目となるのか。全世界が注目している。「朝鮮戦争を終わらせた歴史的な大統領」という形容詞がトランプ氏に与えられる日は来るのだろうか。■ 金正恩が「完全な非核化」に初めて言及した意味■ 「反トランプ」のうねりはなぜ起こらなかったのか■ 崖っぷちの金正恩、万策尽きた文在寅「南北首脳の叫び」

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    米朝再会談、非核化の先にある金正恩独裁「崩壊へのカウントダウン」

    日からベトナムのハノイで開催される。開催に先立って事務レベルでの協議が会談直前まで続けられているが、北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長が本当に「完全な非核化」に応じるのかどうか、これに対してトランプ大統領がどのような条件を提示するのかが焦点となっている。 注目度が高いだけに、さまざまな憶測が飛び交っている。たとえば、北朝鮮の非核化に対応して、トランプ大統領は朝鮮戦争の終結宣言を行い、制裁解除とあらゆる経済支援を約束するのではないかとの報道もある。だが、現時点では極めて困難な交渉になることは間違いないだろう。 そもそも、なぜトランプ大統領は、この段階で2回目の首脳会談を開催すると決定したのだろうか。事務レベルでどのような交渉が行われているか知る由はないが、ある程度の成算がなければ首脳会談を行うことはないはずだ。 ホワイトハウスは2月21日、トランプ大統領の対北朝鮮交渉に対する基本的な考え方をウエブサイトに掲載している。そこには、交渉の目的について「今回の首脳会談はシンガポールで行われた会談で両首脳が交わした約束をさらに前進させることを目標としている。すなわち継続的かつ安定した平和の達成と朝鮮半島の完全な非核化の実現」とした上で、「大統領は、もし北朝鮮が完全な非核化を実現するなら、われわれは(北朝鮮にとって)経済発展の選択肢を提供するように努める」と書かれている。 2018年6月に開催されたシンガポールでの第1回首脳会談で非核化に関する共同宣言が出されたが、非核化に向けたロードマップでは合意は見られず、具体策については会談後の事務レベルでの交渉に委ねられた。 多くの論者は、この会談は失敗だったとみている。実際、この1年、両国政府の間でどのような具体的な話し合いが行われたかほとんど明らかになっておらず、実質的な前進があったとは思われない。にもかかわらず、トランプ大統領は2回目の首脳会談を開く決断をしたのはなぜだろうか。 その根拠として、ホワイトハウスは「北朝鮮は400日以上、核兵器実験あるいはミサイル発射実験を行っておらず、プルトニウムとウラニウム濃縮施設の廃棄を約束している」と、北朝鮮が非核化に向け努力を行っていると説明している。2018年6月、シンガポールでの首脳会談の会場で、連れだって歩くトランプ米大統領(左)と北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長(ロイター=共同) さらに「合衆国とその同盟国は、どのようにして北朝鮮への投資を促進し、インフラを改善し、食糧安定などを高めることができるか検討を行う準備がある」と、非核化の見返りに、制裁解除は言うまでもなく、さまざまな経済支援を行う可能性を示唆している。トランプ大統領は、異常なほど北朝鮮の「誠意」を強調している。 そうしたトランプ大統領の驚くほど楽観的で前のめりの姿勢の背景には、大統領の焦りがあるとの指摘もある。政権が発足して2年が経過するが、トランプ政権は目立った実績を上げていないからだ。「連絡事務所」設置も? 中東政策やメキシコ国境での壁の建設などをめぐっては、共和党内からもトランプ批判の声も出始めており、支持率の低迷も続いている。こうした状況の下で、朝鮮半島の完全な非核化に成功すれば、歴史的な成果として評価される可能性がある。 ただ、会談の日程が近づき、交渉が具体的な内容に及ぶに従って、トランプ大統領は「決着を急ぐ必要はない」と慎重な姿勢も見せ始めている。そうした変化は、非核化に向けた妥協が容易ではないとの判断があるからに他ならない。 では、金委員長はなぜ首脳会談開催に合意したのだろうか。北朝鮮は核保有国になることこそが体制維持の必須条件であると主張してきた。その立場を放棄しなければならない状況が生じたのだろうか。北朝鮮から伝わってくる情報は皆無である。 ただ、金委員長が首脳会談に積極的なのは、厳しい経済制裁のために北朝鮮の経済情勢が悪化し、背に腹は変えられぬ状況に陥っているからだとの指摘もある。 たとえば、韓国の中央銀行である韓国銀行は2017年の北朝鮮の経済成長率はマイナス3・5%に陥り、2018年も経済制裁の影響と90%を占める中国向けの輸出の減少でさらに経済情勢は悪化していると分析している。北朝鮮としては、何としても経済制裁の解除を勝ち取る必要があるわけだ。 だが、それ以上に北朝鮮にとって重要なのは、アメリカとの関係正常化だ。今回の交渉で相互にリエゾン・オフィス(連絡事務所)を置くことで合意するとの報道もある。北朝鮮の非核化が急速に展開するとは思えないが、そうした中で米朝関係の国交正常化に向けた成果を上げることができれば、首脳会談の具体的な実績となるだろう。金委員長は、おそらくトランプ大統領から合意を引き出せるとみているのではないか。 第2回目の首脳会談は、北朝鮮の非核化が先か、制裁解除や経済援助が先かをめぐって展開されると予想される。また、非核化の具体的な内容も焦点となるだろう。2019年2月5日、米国の上下両院合同会議で一般教書演説をするトランプ大統領=ワシントン(AP=共同) すなわち非核化の対象となるのは核兵器や大陸間弾道ミサイル(ICBM)、生物化学兵器の開発の中止にとどまるのか、既存の核兵器や中短距離ミサイルの放棄まで及ぶのかが議論の対象となるだろう。 さらに非核化の検証をめぐる問題もある。2日間の首脳会議で、そうした点まで詰められるとは思えない。前回同様に抽象的な声明の発表に終わり、具体的な議論は先送りされる可能性が強い。非核化は「武装解除」 首脳会談の内容は注目されているとはいえ、それ以上に重要なのは、北朝鮮の核兵器に対する考え方が根本的に変わったのかどうかである。北朝鮮は、金体制の維持を「最優先課題」とし、核保有国になることが体制維持にとって必須であると考えてきた。 かつてリビアが核兵器開発を断念することで、結果的に体制転換を迫られた例がある。リビアの二の舞を踏みたくないというのが、北朝鮮の本音であろう。とすると、単に経済制裁解除と引き換えに核保有国の立場を放棄するとは思えない。非核化は北朝鮮にとって武装解除に等しい。事実、金委員長は核兵器を「すべて」放棄するという発言は一度も行っていない。 アメリカ政府の中にも北朝鮮に対する根強い懐疑論が存在している。たとえば、1月に上院諜報委員会で行われた公聴会でダン・コーツ国家情報長官は「北朝鮮が核兵器と核兵器製造施設を完全に放棄するとは思われない」と証言している。非核化のためには、北朝鮮はさらにハードルを上げてくる可能性もある。 昨年12月、朝鮮中央通信は「われわれが朝鮮半島の非核化というとき、それは北朝鮮と韓国だけでなく、すべての隣国からの核の脅威を取り除くことを意味する」と書いている。 さらに、仮に朝鮮戦争終結宣言で合意すれば、北朝鮮は間違いなく韓国からの米軍撤退の要求を突き付けてくるだろう。そうなればアメリカは東アジア戦略全体の見直しを迫られることになる。 もう一つ忘れてはならない重要な問題は、北朝鮮の非核化が実現した場合、それでも北朝鮮の独裁体制が存続するのか、あるいは民主的な体制に変わっていくのかどうかである。今回の首脳会談の開催場所としてハノイが選ばれた理由に、ベトナムの民主化と経済発展モデルを北朝鮮に示すためだと言われている。2019年2月23日、平壌駅で(左2人目から)北朝鮮の崔竜海朝鮮労働党副委員長、朴奉珠首相らに見送られる金正恩朝鮮労働党委員長(朝鮮中央通信=共同)  だが、北朝鮮のベトナム化はおそらく最終的には金体制の崩壊につながるだろう。もし金体制が生き残った場合、世界はこの非民主的な独裁国家と共存していかなければならない。 北朝鮮の非核化は、単に核兵器の問題にとどまるものではない。北朝鮮の体制問題、アメリカの安全保障政策、外交政策の基本がかかわってくるのである。非核化問題は、単に核兵器や大量破壊兵器の廃棄問題にとどまらないことを正確に認識しておく必要がある。■ トランプ「下院敗北」が持つ本当の意味■ 「反トランプ」のうねりはなぜ起こらなかったのか■ 金正恩が「完全な非核化」に初めて言及した意味

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    「トランプが金正恩の落とし穴にはまる」北亡命外交官が断言した理由

    の様々な予測が出ている。国際社会の視線がハノイに集中している微妙な時期に、2016年、韓国に亡命した北朝鮮の太永浩・元駐英公使の記者会見が19日、ソウル外信記者クラブで開かれた。 太元公使は、北朝鮮の亡命外交官としては一番地位が高い。亡命前に北朝鮮の駐英国大使館ではナンバーツーだった。昨年、北朝鮮の金正恩政権の内部実相を暴露した『 太永浩証言―3階書記室の暗号』という著書が発刊された。 北朝鮮の核保有戦略について、自分が北朝鮮の外交官だった時、「金正恩が望んだのは、(国際社会に)"戦争危機論"を訴えて核保有国に行く」という戦略だったと述べた。これを通じて「金正恩は米国と北朝鮮の間で核戦争が起きかねないという懸念を全世界に拡散させるのに成功した」と解釈した。 こうした北朝鮮の戦略に「17年11月、トランプ米大統領が落とし穴にはまった」とし、トランプ大統領が国連総会で「北朝鮮を完全に破壊できる」と演説したのは、米国としては非常に大きな戦略的失敗だったと、分析した。 当時国際社会は、「金正恩という核列車と、トランプという核列車、あたかも両核の列車が向かい合って駆けつけるという国際的錯視現象が起きた」とし、北朝鮮と米国の間に戦争の危機はまったく存在しなかったと述べた。 ところが、米国が金正恩のレトリックによる戦争の可能性に浸り、北朝鮮と米国の間で核戦争が起こる恐れもあるという憂慮を抱かせた」と、これが金正恩が望んだ戦略だったと述べた。 太氏は、米国はベトナムでの2回目の米朝首脳会談を前に、「非核化交渉にするか、それとも核軍縮交渉にするか」というジレンマに陥っている、との見方を示した。また、北朝鮮は自分たちが持っている核について誰にも放棄するという約束も宣言していないとし、「いまだに米国がベトナム第2回目の首脳会談(実務会談)で、北朝鮮にIAEAとNPTに復帰するように要求しないことが最も憂慮される事案」と、トランプ大統領の対北交渉の姿勢に不満を示した。ソウルで記者会見する北朝鮮の元駐英公使、太永浩氏=2019年2月19日(共同) また、「もし今回の会談で北朝鮮の寧辺核施設+aに対する相応措置として、米国が何かを与えてディールをするなら、それは非核化会談ではなく、核軍縮会談に突入することを意味する」とし、結局それは、"トランプ・ドクトリン"に向かっている証拠だと述べた。トランプへの適合型外交政策 トランプ・ドクトリンとは、「北朝鮮の米国に対する核脅威は米国がなくしてしまう。ところが、韓国に対する北朝鮮の核の脅威は、韓国と北朝鮮が自ら解決するというのがトランプ・ドクトリンの中核だ」と定義した。 「(北朝鮮は)トランプ任期内には寧辺核施設を検証し、廃棄できないことは承知している」と述べた。また、北朝鮮はすでに核兵器を製造できる核物質を十分に生産していたため、過去の核である寧辺の核施設を廃棄するという話は、すでに廃棄された自動車をペンキ塗りして、米国に売り飛ばすものと相違ない。いま、北朝鮮の外交は、トランプ大統領に照準を合わせ、トランプ大統領に対する"適合型(テーラーメード)外交政策"に進んでいる、と説明した。 北朝鮮が果たして核を放棄するかどうかについて「北朝鮮にとって核兵器は北朝鮮が持っているすべてのものの集約体だと言える。核兵器は、体制を結束させる求心の役割、韓国との体制対決で、北朝鮮が劣勢に置かれている状況を正当化できる説得力のある論拠になるだろう」と、述べた。また「北朝鮮は数兆ドルを与えられても、金正恩体制が存在する限り核兵器を絶対にあきらめない」と見通した。 さらに、金正恩がハノイで実際に狙うのは、中国からの制裁解除だ。金正恩は、開城工業団地と金鋼山観光再開を突破口として、数十億ドルの中国との貿易関係を正常化させようとしている。 (国連など国際社会が)石炭のような主要輸出物資を塞いでいるため、北朝鮮の基幹企業と軍隊、大きな企業が危機状況に追い込まれている。制裁が続けば北朝鮮の基幹企業(公企業)は死んでいき、逆に個人が運営する私企業と資本主義的な要素はさらに活性化する現象が生じるだろう、とし、北朝鮮に対する経済制裁は続けるべき必要性を強調した。 太氏は、米国が北朝鮮の完全な非核化よりは、米国まで飛ばされる大陸間弾道ミサイル(ICBM)を廃棄するのにとどまるのではないかという懸念を意識したのか、「米国は北朝鮮がICBMをどれだけ持っているのか正確な情報がない。北朝鮮はICBMの一部を廃棄する振りを見せるだろう。北朝鮮はICBMをすべて廃棄し、米国に対する北朝鮮の危険がなくなるというショーをしようというロードマップを用意した」とし、ICBMの廃棄についても懐疑的に展望した。 金正恩委員長が、今回のベトナム米朝首脳会談で、望むことが得られなかった時、その次の手は何か、という問いに太氏は、「それは核の伝播」(核技術の移転だ)と断言した。「核技術を買うという購入者がいるのに、この道に進むしかないと米国に脅迫するだろう」と言った。 北朝鮮はすでにこのような脅迫を数十回も使った。以前、自分がスウェーデンでの会談に参加した際、イスラエルが北朝鮮に10億ドルを与えなければ、北朝鮮の核技術を中東国家に輸出できると米国に脅迫した事実があると証言した。拉致問題の解決は? 北朝鮮の内部情勢について「2月8日、北朝鮮では空軍節(記念日)の行事があったが、北朝鮮軍3人の首長、総政治局長と人民武力部長、総参謀長がいずれも新しい人に変わった」。1年間に北朝鮮軍の中枢の首長がすべて変わったといい、金正恩が、「周囲でかなり不安を感じていることを意味する」と解釈した。 太氏は、日本人拉致被害者問題に対する質問に、「拉致問題の解決において、北朝鮮は現金のような経済的な補償がなくては、拉致問題の解決に積極的に乗り出さないだろう。以前は、国交正常化の代価(賠償)として100億ドル程度を考えたが、金正恩時代には100億ドル以上の経済援助を受けてこそ、国交正常化まで進むと思う」と、見通した。 文在寅大統領の「トランプ大統領は十分にノーベル平和賞を受賞する資格がある」ということについて、太氏は、「 ノーベル平和賞についての話は北朝鮮の核の脅威が完全に消えた時、論議されなければならないと思う。核がある状態でノーベル平和賞の受賞は、ノーベル賞の真の平和の原則に合わないと思う」と否定的な考えを示した。 北朝鮮の駐イタリアチョ・ソンギル元大使代理の亡命の件について、太氏は、チョ大使代理が脱北の過程で娘を連れて脱出できず、北朝鮮はその子どもを直ちに北朝鮮に(強制)送還した。平壌にいる友人から、チョ・ソンギルの娘が北朝鮮に送還され、現在、北朝鮮当局が管理しているという事実を確認した。 このような状況の中、チョ・ソンギルは娘の身辺安全のため、自分の居所を公開したり、公開的な活動ができない状況に置かれている、同じ大学出身で、外務省の同僚だったチョ大使代理の消息を伝えた。 このような状況を知る前は、チョ・ソンギルに「韓国入りしろ」と要請し続けたが。いまは、そのような要請はできない。なぜなら、脱北した外交官が韓国に亡命するのと、米国や欧州に亡命するのとは、北朝鮮に残っている子どもやその家族に対する処罰のレベルが全く異なるためだと、いままでと違った、静かなトーンで語った。チョ大使代理の娘は17歳の高校生で障害者と知られ、大使館員が脱出を防いだという。2019年1月2日、ホワイトハウスで、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長から届いたという書簡を手にするトランプ米大統領(AP=共同) 最後に金正恩は、開城工業団地と金剛山観光が再開されれば、板門店宣言(南北会談)1周年になる4月27日を期して、韓国を訪問する可能性が高いと見通した。太氏は記者会見中、終始一貫して北朝鮮の故・金日成主席や金正日総書記、金正恩委員長に対する呼称はすべて呼び捨てにした。パク・スンミン 在韓ジャーナリスト。在ソウルジャーナリスト。時事通信ソウル支局記者を経て、「文藝春秋」「週刊文春」のソウル特派員。長年、北朝鮮問題をウオッチ。平壌や開城工業団地、板門店、金剛山など7回以上北朝鮮入りして取材。日韓メディアに寄稿している。

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    米朝首脳会談で日本は「核軍拡競争の暴風圏」に放り込まれる

    なし崩しに前進すると、その先には朝鮮戦争の終戦協定がある。ハノイ会談でこれに踏み込む懸念があります。北朝鮮は終戦を強く望んでいる。終戦協定を結べば、アメリカから先制攻撃を受けるリスクがぐんと少なくなるからです。 米朝の融和や朝鮮戦争の終結を韓国も望んでいます。今の(韓国の)文在寅政権は民族統一を掲げて北に傾いています。 1989年にベルリンの壁が崩壊し、冷戦は終結した。だが、それはあくまで欧州の情勢であり、北東アジアではまだ「冷戦構造」は残っているのです。その北東アジアでのベルリンの壁に相当するのが38度線です。西側陣営と東側陣営の分断の象徴“38度線の壁”は、現時点ではぐんと低くなりました。 韓国の「力ベクトル」が北朝鮮に向かっている分、日本には遠心力が働き、日韓関係はひどく悪化しているのが実情です。昨年の徴用工の問題、レーダー照射問題、さらにここへきて韓国国会議長の発言(米通信社のインタビューで、「天皇が元慰安婦に直接謝罪すれば慰安婦問題は解決できる」と述べたこと)で日韓の溝は広がっています。 一方で、米朝の首脳同士は間合いを縮めています。トランプ大統領と金正恩委員長が朝鮮戦争の終戦宣言に踏み込めば、北東アジアの冷戦構造は終結に向かい、ベルリンの壁崩壊と同じく、38度線も事実上溶けてしまうでしょう。それによって、在韓米軍の撤退が現実味を帯びてきます。アメリカの「防衛ライン」から朝鮮半島が外れてしまえば、38度線という防衛線は対馬(長崎県)まで迫ってきます。2018年11月、トランプ米大統領(右)と握手する安倍首相=ブエノスアイレス(代表撮影・共同) そうした事態になれば日本は否応なく、背後に中国が控える朝鮮半島と角突き合わせる「西の端」に置かれることになります。恐るべき「米国第一主義」 トランプ・金正恩の基調は「雪解け」の方向に向かっている。その結果、日本が「北朝鮮よりはるかに強大な相手」と直に対峙する事態を想定すべき時に来ているのです。ロイターの記事も「東アジアにおける米国の防衛線が後退し、日本が中国やロシアと直接向き合う『最前線国家』になる恐れがある」(2018年6月5日)と指摘しています。 そんな中で出てきたのがトランプ大統領による中距離核戦力(INF)廃棄条約の破棄です。これによってロシアもINF条約から離脱。今後、米ロ両国は核軍拡競争に再突入していきます。INFに加盟していない中国も中距離核の開発競争に巻き込まれていくはずです。そのターゲットは在日米軍基地やグアム島です。いまや核軍拡競争の主戦場は東アジアです。その台風の暴風圏に日本は放り込まれることになります。 米朝、南北の融和が進むにつれ、日本が防衛ラインの最前線となってしまう。日米同盟という前提に立てば、米国は在日米軍の強化に動くはずですが、「異形の大統領」は果たしてそう判断するでしょうか。ここが「アメリカ第一主義」の恐ろしいところなのです。 彼の本音は大統領選の発言によく出ています。安全保障政策では「NATOなど時代遅れ」「日本も韓国も、アメリカに頼らず自分で防衛すべき」。日本については「自動車などの輸出によってアメリカで多くの失業を引き起こしながら、アメリカに防衛を担ってもらっている」と非難している。 今やトランプ大統領が、アメリカの安全保障をリスクにさらしてまで、ヨーロッパや東アジアの同盟国のために進んで一肌脱ぐと心から信じる人はいないでしょう。だからこそ、日本は多国間の安全保障システムの構築という新しいゲームに参加し、外交力を鍛えるべきなのです。日米安保で事足れり、という時代は終わったのです。 ハノイ会談はその始まりになるかもしれない。戦略のかけらもない超大国のリーダーが今、日本にとって極めて危ういディールに手を染めようとしています。【プロフィール】てしま・りゅういち/外交ジャーナリスト・作家。NHKワシントン支局長時代に9.11テロに遭遇。ハーバード大学国際問題研究所フェローを経て2005年にNHKから独立。インテリジェンス小説『ウルトラ・ダラー』を発表。近著に佐藤優氏との共著『米中衝突 危機の日米同盟と朝鮮半島』がある。関連記事■ 米朝首脳会談 日本は北朝鮮非核化の「資金援助役」か■ 38度線は対馬まで下がる 南北統一朝鮮は金正恩の思うがまま■ 文在寅政権よりも日本のほうが対北朝鮮制裁に消極的■ 韓国で女児の胸が大きくなる「性早熟症」、囁かれる原因■ ケント氏「韓国には嘘が恥ずかしいという概念がないのか」

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    ベトナムでの米朝会談は再び「政治ショー」に終わる理由

    レポートする。 * * * トランプ米大統領は金正恩朝鮮労働党委員長との首脳会談にこだわっているが、北朝鮮の非核化を進めるためには、まず中国と協議を行わなければならない。中国は北朝鮮の事実上の「宗主国」であり、中国の習近平国家主席が金正恩氏をコントロールしていると考えられるからだ。中国の後ろ盾 歴史を振り返ると、北朝鮮と中国の関係は常に友好的といえるものではなかったが、少なくとも現在の中国は、政治的にも経済的にも北朝鮮の後ろ盾となっている。中国にとって北朝鮮は中国軍と米軍が直接対峙することを避けるための「緩衝国」となっているからだ。 北朝鮮は強力な経済制裁を受けているにもかかわらず、メディアに公開された平壌の街や人々の様子を見る限りでは、経済が上向いているように見える。これは、経済制裁にもかかわらず、中国との貿易が行われているだけでなく経済支援を受けているためだろう。 米国は偵察衛星の画像から、中朝国境の橋を物資を積んだトラックが往来していることを把握していてもおかしくはないのだが、中国を非難しない。また、米国は北朝鮮船と外国船による瀬取りを把握していても、監視を行うだけで阻止することはしない。 中国は、中朝国境と北朝鮮の周辺海域を封鎖できるだけの軍事力を保持している。つまり、中国が米国と共同歩調をとって経済制裁を行えば、北朝鮮はたちまちのうちに干上がるのだが、そうした動きもない。「成果」を焦るトランプ米大統領 安倍首相からノーベル平和賞の推薦を受けたことを公表するほど「困窮」しているトランプ大統領は、今回、2度目の米朝首脳会談で何らかの成果をあげなければならない。 2度目の米朝首脳会談が1度目と同様に、非核化に向けて何の進展もなかったとしても、トランプ大統領が自画自賛できる程度の成果があればいいわけだが、本当に何の進展もなかった場合は、議会ではトランプ大統領の外交能力について疑問が提起されるだろうし、ノーベル平和賞が授与される可能性も当然ゼロとなる。 北朝鮮としては、経済制裁の部分的な緩和などの何らかの実利を得るために表面的には譲歩するだろう。しかし、最近の米中関係の悪化ぶりを考慮すると、習近平氏の意を受けた金正恩氏が米国に譲歩する可能性は低い。弾道ミサイル発射で揺さぶり 北朝鮮は2017年11月以降、弾道ミサイルを発射していない。北朝鮮はトランプ政権から実利を獲得できると考えているうちは弾道ミサイルを発射することはない。しかし、何も得られないと判断した場合は、トランプ政権に揺さぶりをかけるために弾道ミサイルの「発射実験」を行う可能性がある。 弾道ミサイルの発射は、長距離弾道ミサイルを日本海で落下させるなど、トランプ大統領のメンツを完全に潰さない程度にとどめるだろう。発射の時期は、過去の例から考えると、米国の独立記念日である7月4日になる可能性がある。2019年2月、店頭に並ぶトランプ米大統領と北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長の顔をデザインしたTシャツ=ハノイ(共同) 中国の後ろ盾があるかぎり、北朝鮮が弾道ミサイルを発射して再び緊張状態を作り出しても何らおかしくはない。過去の米朝間の緊張状態だけでなく、2017年の「米朝開戦説」の際にも、米国が北朝鮮を攻撃できないことが明確になったからだ。朝鮮戦争は「終戦」にできない 米朝間で将来的に「平和条約」や「相互不可侵条約」を締結する以前に、休戦状態にある朝鮮戦争を終戦とする必要がある。しかし、中国も朝鮮戦争の休戦協定の当事者であるため、休戦から終戦へと移行するためには、中国の意向を無視することはできない。 たとえ2度目の米朝首脳会談で何らかの「合意」や「宣言」が発表されたとしても、それを履行することは困難だ。例えば「終戦宣言」の場合、朝鮮半島を南北に分断する約248kmの軍事境界線と非武装地帯を撤去する必要がある。習近平のコントロール下 さらに「終戦」とするにあたっては、北朝鮮は在韓米軍の撤退を求めてくるはずだ。つまり、「宣言」や「合意」を実際に履行することは一朝一夕で行うことは不可能であり、米朝間(場合によっては、中国などの関係国を含む)の実務レベルの協議を何十回も繰り返す必要があるのだ。 実際に1990年代以降、北朝鮮の核問題をめぐる米朝2国間協議や6か国協議(米国、中国、ロシア、北朝鮮、韓国、日本で構成)が何度も開かれたが、結局、北朝鮮が核開発を続けていることが判明して中断した。朝鮮戦争を終戦にするということは、非核化と同じように多くの困難をともなう。終戦を「宣言」するだけなら簡単だが、名実ともに終戦とするためには多くの課題をクリアしなければならない。 朝鮮半島の現状の大幅な変更、すなわち完全なる平和をもたらすことは、米国の対中戦略と中国の対米戦略が大きく変わらないかぎり極めて困難なのだ。これは、日本を標的とする弾道ミサイルの問題を解決する際にも同じことがいえる。日朝の2国間協議では解決できない。習近平のコントロール下にある金正恩 繰り返しになるが、北朝鮮を非核化するにあたり協議すべき相手は中国も含まれる。習近平氏の承認なしに、金正恩氏は「勝手に」動くことはできない。だからこそ、金正恩氏は2018年3月以降に4度も中国を訪問したのだ。 習近平氏にしてみれば、最高指導者としての経験も能力もなく、恐怖政治に依存しなければ国を統治することが出来ないような金正恩氏を信用していないだろうから、中国が北朝鮮をコントロール下に置く必要がある。 北朝鮮の非核化は、米国と北朝鮮による2国間協議だけでは極めて困難なのだ。少なくとも米国は中国と協議を行い、北朝鮮の非核化への下地を作っておかなければ、北朝鮮に米国の要求を飲ませることは難しい。 しかし、中国を説得する時間は限られている。何も進展しない協議を続けているうちに、トランプ政権がレームダック化し、譲歩に譲歩を重ねたような「合意」や「宣言」は覆されることになるかもしれない。最悪の場合は、これまでと同様に、北朝鮮が経済支援を獲得して終わる可能性も十分に考えられる。2019年2月、トランプ米大統領と北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長が握手を交わした場所に設置されたプレート=シンガポール(共同) 報道によると、トランプ大統領は2月19日、ホワイトハウスで記者団に北朝鮮の非核化について「核実験がない限り、急がない」と明言した。自ら逃げ道を作って自己満足と自画自賛のハードルを下げたようだが、そもそも2度目の首脳会談は開催する意味があるのだろうか──。 事前に実務レベルの協議がかなり用意周到に行われていなかったとしたら、1度目と同じように政治ショーで終わってしまうことになるだろう。関連記事■ もし日韓戦わば… 軍事力の差は歴然だった■ 韓国で女児の胸が大きくなる「性早熟症」、囁かれる原因■ 櫻井よしこ氏「米中対立はどちらかが倒れるまで続いていく」■ 米朝首脳会談 日本は北朝鮮非核化の「資金援助役」か■ 米朝首脳会談で日本は「核軍拡競争の暴風圏」に放り込まれる

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    安倍首相 北や中国には毅然と対応も露には柔軟姿勢目立つ

    が4島占領を合法と平和条約に盛り込むよう要求するなら、安易にそれを受け入れてはならない。 安倍首相は北朝鮮や中国には毅然と対応しながら、ロシアには揉み手の柔軟姿勢が目立つ。国家主権のかかわる交渉では毅然とした姿勢を貫くべきだ。ロシアとの交渉では、強硬姿勢が相手方の譲歩につながるケースがしばしばある。2018年9月、会談で握手する中国の習近平国家主席(右)と安倍首相(共同) 交渉の前途は厳しく、難航し、決裂する可能性もある。その場合日本は、北方領土問題をハーグの国際司法裁判所に提訴し、判断を委ねてもいいかもしれない。「交渉打ち切りカード」と「国際司法裁判カード」が、ロシアにはプレッシャーとなろう。【PROFILE】なごし・けんろう/1953年岡山県生まれ。東京外国語大学ロシア語学科を卒業。時事通信社ワシントン支局長、モスクワ支局長、外信部長、仙台支社長などを歴任後、2011年退社。2012年より現職。著書に『北方領土の謎』(海竜社)などがある。関連記事■ プーチン大統領が不当要求なら安倍首相は「4島返還」に戻れ■ ラブロフ露外相の北方領土呼称発言 交渉まとめるシグナルか■ 羽生結弦や田中圭を抑えて売上1位 プーチンカレンダーの謎■ 「北方領土は2島で」 安倍首相は歴史に名を残したいだけか■ 北方領土に留まらない、拉致・改憲の目標下方修正する首相

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    金正恩が「完全な非核化」に初めて言及した意味

    李相哲(龍谷大教授) 北朝鮮の「非核化」をめぐり、金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長とトランプ大統領の2回目の首脳会談が2月下旬に行われる見通しとなった。だが、金委員長の「新年の辞」を読み解けば「対内的には自立経済を強調、対外的には既存の核を保有した状態でアメリカとの関係改善を図る」ことを宣言したようなものだ。 対内的には「自力更生の社会主義建設の新たな進撃路を拓(ひら)いていこう」と呼びかけ、当面は国際社会の制裁が緩和されることはなく、厳しい状況が続くことへの予防線を張ったとみるべきだ。 金委員長にとって2018年は大変な年だったのだろう。中国税関の統計を基にすれば、昨年1年間の北朝鮮の対外向け輸出総額は2億ドルに満たなかった。猛暑や集中豪雨などで農作物の作況もよくなく、この先2~5月をどう凌(しの)ぐかを心配しなければならない状況だ。 ソファに座り、新年の辞を読み上げるという「余裕」を見せたのは、困窮した国内状況を隠し、焦りを見せまいとの演出だったのかもしれないが、金委員長は今、対内的にも対外的にも難しい状況に直面している。 関係者の間では、200万人に上る餓死者を出した90年代後半の「苦難の行軍」と似た第二の「苦難の行軍」が始まるのではないかとささやかれているという。このような難局を打開し、一気に国内外の問題を解決するには、対外関係で突破口を開く必要がある。 金委員長は、対外関係では三つの目標を挙げた。それは、①事実上の核保有国としての地位を国際社会に認めさせること②制裁の緩和③外来勢力の干渉を排除し韓国との経済交流の実現、である。 では、この三つの目標を金委員長はどう実現するつもりだろうか。まず、核保有国としての地位について、金委員長は「完全な非核化へ向かっていくのは、わが党と共和国政府の不変の立場であり私の確固たる意思だ」と述べた。世界が注目した金委員長のメッセージの中で最も重要な部分と言っていい。 金委員長が初めて肉声で「完全な非核化」に言及したとして、本当に非核化へ向けて動き出そうとしているのではないかと見る向きもあるが、このメッセージを誤って受け取ってはならない。 実は、金委員長の非核化に対する姿勢は全く変わっていないのだ。金委員長は「われわれはもうこれ以上、核の武器をつくることも実験もせず、使用も伝播(拡散)もしないことを内外に宣布」したと述べている。だが、過去に製造したとみられる核の武器をどうするかについては触れていない。むしろ、過去の核については、使用しないこと、拡散しないことを約束しておらず、廃棄についても言及していない。 北朝鮮の核は、既に保有しているとみられる「過去の核」と、現在なお能力の向上を目指して核物質を増やし、高度化を図っている最中の「現在の核」(国際原子力機関=IAEAやアメリカの研究機関の報告によれば、北朝鮮は核活動をやめていない)、核施設やミサイルエンジンの実験台など核能力を増強できる「未来の核」に分けられるが、金委員長が新年の辞でやめることにしたと言及したのはあくまで「未来の核」である。 金委員長は、このような「複雑に絡んだ問題」を解決するために、トランプ大統領と2回目の会談に臨む意思を示したが、未来の核をなくすことについても、既に前提条件をつけている。つまり、アメリカが先に核の脅威をなくすべきだと主張しているのだ。実際、金委員長は新年の辞で「アメリカが(トランプ大統領が)世界の前でした約束を守るべきだ」と述べている。 そもそも、昨年6月のシンガポールにおける米朝首脳会談で、トランプ大統領が金委員長に約束した事項は二つあった。「北朝鮮の体制の安全を保障すること」と「朝鮮半島の完全な非核化」だ。「これ以上の譲歩なし」 ただ、今まで「非核化」について、米・朝・韓・国際社会では各自が異なる解釈をしてきた。特に米朝の間では決定的に違う解釈をしている。非核化とは、当然ながら「北朝鮮の非核化」だ。しかし、最近になって金委員長が約束したのは「朝鮮半島の非核化」であり、アメリカが言う「北朝鮮の非核化」は誤りだと主張する(2018年12月20日付、朝鮮中央通信の論評)。 北朝鮮は米軍の「朝鮮半島を狙っている周辺からの全ての核の威嚇の要因を除去すること」を前提にしている。朝鮮半島周辺に米軍が原子力空母や核潜水艦、核弾頭を搭載可能な爆撃機など戦略武器を展開することをやめなければならない。 また、金委員長は「韓国は外勢(アメリカを指す)との合同軍事演習をこれ以上許容してはならず、外部からの戦略資産をはじめとする戦争装備の搬入も完全に中止されなければならない」と新年の辞で主張した。 そして、昨年から北朝鮮が講じてきた非核化の措置にアメリカが応える番との認識を示した。北朝鮮が非核化のための一環として豊渓里(プンゲリ)の核実験場を爆破し、ミサイル発射台、実験場の解体に動いた「誠意ある先導的な措置」に対し、アメリカがそれ相応の措置を講じなければならないと述べた。 さらに、金委員長は、アメリカに「何かを強要し、依然共和国に対し制裁と圧迫を続けるのであれば、新しい道を模索する」としながら、「正しい姿勢で対話に臨むべきである」と、一方的な制裁には屈しない姿勢をみせた。要するに、これ以上の譲歩がないことを表明したのだ。 北朝鮮はこれから、最高指導者の言葉を実現すべく、アメリカが先に相応の措置を講じない限り、一歩も引き下がらないだろう。アメリカが北朝鮮の要求に応じない限り、非核化交渉は進展しないとみるべきだ。 そしてその次は、制裁緩和を狙って硬軟両面戦術を駆使するだろう。「朝鮮半島と地域の情勢安定は決してたやすくつくられたものではない。周辺の国と国際社会は朝鮮半島の肯定的な情勢発展を推進しようとする北朝鮮の誠意のある立場と努力を支持すべきだ」とし、まずは国際社会が北朝鮮を評価し、「制裁緩和」に踏み切るべきだとする。 韓国との関係については、アメリカや国際社会の干渉や圧迫を排除し、北南関係を発展させるべきだと強調する。具体的に、開城(ケソン)工業団地の事業、金剛山観光事業再開を促している。ただ、これらの事業では「代価を求めない」「条件をつけない」と言ったが、制裁突破のための手段として、なんとしても2019年にはこの二つの事業は再開させたいのではないか。 狙いは、国際社会の制裁を無力化し、韓国との経済交流で突破口をつくり、平和と協力の雰囲気を維持しながら、国際社会の圧迫をはねつけるためとみられる。 非核化交渉において北朝鮮の本音は以下の三つだ。①核施設の無力化、例えば寧辺(ミョンビョン)の核施設の凍結については、査察の段階でアメリカ、日本、韓国などが独自で科している制裁の解除を求める②核能力の廃棄、すなわち核物質の廃棄、施設の廃棄を引き換えに国連制裁を解く③保有している核については、アメリカに核保有(国)を認めさせた上で、駆け引きを続けつつ、段階を踏みながら軍縮会談に持ち込む。ドナルド・トランプ米大統領(左)と北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長=2018年6月、シンガポール(AP=共同) この三つのうち、トランプ大統領は①だけについては、応じる可能性はあるかもしれない。なぜなら、トランプ大統領は金委員長との2回目の会談に意欲を示し、完全な非核化の意思を一応は歓迎する意向を表明しているからだ。 ただ、金委員長は今まで、2018年4月20日の労働党中央全体会議で採択した決定(核実験場は使命を終え、ミサイル発射実験はもはや必要ない)内容を超える非核化の措置を講じていない。それ以上の行動に踏み切るのは北朝鮮内部でのコンセンサスが必要で、形式だけでも党内の手続きを踏む必要があるが、今のところそのような気配はない。迫られる二者択一 非核化交渉で進展を見るためには、トランプ大統領がまず一定の譲歩をするしかないが、トランプ大統領の立場がそれを許すか否かが問題だ。アメリカ議会の動向が影響するからだ。 2回目の米朝首脳会談は、トランプ大統領の政治的計算によって、妥結できるか否かが決まると思うが、トランプ大統領も容易に金委員長に譲歩できないだろう。 結果的に、非核化の交渉は困難を極めることが予想され、結果的には北朝鮮を「核保有国」として認めるか、決裂するかの二者選択に帰結されるのではないか。それを占う試金石が2回目の米朝首脳会談だが、スムーズにいくとは思えない。 では、日本との関係はどうなるだろうか。金委員長は、周辺国家との関係を再構築する突破口として、まずは休戦協定を終戦協定とし、ひいては平和協定を結ぶことだが、実現するには南北だけでは無理なことは分かっている。そのためには中国の協力が必要だが、既に中国は北朝鮮にその際の立場を伝えているのではないかと思われる。 新年の辞で金委員長は、韓国に対し、米韓合同軍事演習の中止のほか、戦略資産および高高度ミサイル防衛システム「THAAD」(サード)のような戦争装備に関する武器の持ち込み中止を求めたが、それは中国の立場を一部代弁しているものとみられる。 さらに、休戦協定締結当事国との間で終戦協定を結ぶべきだという要求も突き付けているが、これも中国の意向を反映しているものとみるべきだ。 要するに、金委員長は中国という後ろ盾との関係が最も大事だという認識を持っているのだろう。新年早々に中国を訪問したが、今年は中国との関係、特に経済面での関係改善に全力を挙げるはずだ。北京の人民大会堂で歓迎式典に参加する金正恩委員長(右)と習近平国家主席=2019年1月8日(新華社=共同) ただ、中国はアメリカと北朝鮮との間で二者択一を迫られており、中国の動きによっては北朝鮮問題で大きな転換(北朝鮮がやむを得ず中国の圧迫でアメリカの要求の一部を受容)をする可能性も否定できない。 日本との関係は、非核化交渉、米朝関係の改善、南北経済交流の次に考慮すべき問題で優先順位から外れている。 ただ、アメリカとの交渉が思う通り進まなかったり、決定的に破局を迎えそうになったりした際は日本との関係改善に動くのではないか。また、拉致問題や日朝国交問題を持ち出す可能性もある。いずれにせよ、日本との関係では、米朝の結果が見え始めたタイミングで動きを見せるはずだ。■北朝鮮非核化「トランプの財布」に日本が甘んじてどうする■感情論を捨てれば見えてくる、日本「北非核化」負担のメリット■金丸信「1兆円の約束」 日本が北朝鮮を支援する道理はない

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    崖っぷちの金正恩、万策尽きた文在寅「南北首脳の叫び」

    重村智計(東京通信大教授) 北朝鮮の報道や声明をそのまま信じると騙される。真実は常に隠されており、裏読みが大切だ。筆者が繰り返し唱えるこの真理を、日本のメディアや専門家はなかなか理解しない。東京都美術館では、ノルウェーの画家ムンクの作品展が開催されている。彼の代表作『叫び』は、南北首脳の現在の心境を表現しているように思える。 北朝鮮は12月17日、金正日(キム・ジョンイル)総書記の死去から7年を迎えた。金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長は幹部を従え、父親の遺体安置廟(びょう)を訪問し「(父親の)路線を固守した」と述べた。前日には、北朝鮮外務省の米国研究所が「非核化への道が閉ざされる」との談話を出した。 これらの発言は、事態が好転しないことへの痛々しい悲鳴だ。一方で、韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領の支持率も40%台に突入し、なおも下降を続けている。 今、北朝鮮の指導部で何かかが起きている。ここ数カ月、日米韓の情報機関は2人の高官の動静を注目していた。1人は、統一戦線部長を兼ねる金英哲(キム・ヨンチョル)党副委員長。米朝交渉の責任者だが、2カ月以上姿を見せなかった。米国のポンペオ国務長官は交渉相手の「金英哲」と連絡がつかない、と更迭の可能性に言及していた。 もう1人は、朴光浩(パク・クァンホ)党副委員長だ。金委員長の妹の与正(ヨジョン)女史の側近とされ、大出世した。さらには、党の宣伝扇動部長を兼ね「実力者」と言われていた。それが、金総書記「七回忌」の写真に姿が見られなかった。 朝鮮中央通信は12月17日、幹部を従えた金委員長が父親の遺体が安置される錦繍山(クムスサン)太陽宮殿に参拝する写真を公開した。早速、各国の情報機関はこの写真を徹底して分析した。2018年12月17日、錦繡山太陽宮殿を訪れた金正恩朝鮮労働党委員長(奥の前列左から6人目)ら=平壌(朝鮮通信=共同) ところが、金副委員長の名前と顔は確認されたが、朴副委員長の名前と顔は発見できなかった。朴副委員長は12月10日に、北朝鮮の人権侵害や言論封殺に関与したとして、米国の制裁対象に指定されたばかりだった。核実験再開「脅し」のウラ この事実を踏まえ、金委員長の言葉や北朝鮮外務省研究所の声明を読み解くと、金委員長の苦境と「叫び」が理解できる。 金委員長は、金総書記「七回忌」に「党は7年間、将軍の思想と路線を固守し、遺訓を貫徹するために闘争してきた」と述べた。だが、この指摘は事実ではない。父親が掲げた「先軍政治」を「使命を果たし、勝利した」との理由で廃止したからだ。 その代わり、「核開発と経済建設」の「並進路線」を宣言した。軍部を納得させるために「核開発」のスローガンは降ろせなかったのである。ところが、昨年末には「核武力完成」を理由に並進路線をやめ、「経済優先」に変更した。確かに、北朝鮮が直面する「経済停滞」を打開するには正しい政策転換だが、軍部エリートの反発は強い。 その反発を意識して「金正日総書記の指示通り実行してきた」と強調し、自身の責任を回避しようとする意図がありありだ。つまり、経済開発がうまくいっていない現実を雄弁に物語っているのだ。 昨年11月末、北朝鮮は「核武力を完成させた」と宣言し、核とミサイルの実験中止を宣言した。これを受け、米国のトランプ大統領は米朝首脳会談に応じた。ところが、北朝鮮への制裁は全く緩和されず、経済も停滞したままだ。この状況に、軍エリートの間では「実験中止は早すぎた」との批判の声が聞かれるという。 そのような中で、北朝鮮外務省の米国研究所は12月16日に「制裁圧迫と人権騒動で核を放棄させられると計算したのなら、大きな間違いだ。非核化への道が永遠に閉ざされる」との声明で、核実験を再開すると「脅し」をかけた。この声明は「北朝鮮軍部の批判」を意識したもので、軍をなだめるためのものだ。2018年12月17日、北朝鮮の金正日総書記死去から7年を迎え、平壌の同氏の銅像(右)が立つ「万寿台の丘」を訪れた市民ら(共同) 北朝鮮が、米国を刺激しないように神経を使っている様子がよくわかる。もし、外務省が自ら声明を出せば、米国が反発する。それを避けるために「米国研究所政策研究室長」という低いクラスの肩書を使った。だいたい「米国研究所」が実在するかどうかも疑わしい。看板だけの存在だろう。 北朝鮮経済は、韓国の経済学者によると「17年の経済はマイナス5%成長で、18年もマイナス成長」という。経済は良くなっていない。米国の経済制裁が効果を上げているのである。金正恩「ソウル訪問」の実現度 それに加え、日米中露との外交関係も打開できていない。平壌では、金委員長が18年10月にロシアを訪問して朝露首脳会談を行い、中国の習近平主席の北朝鮮年内訪問で中朝首脳会談が実現し、その後に米朝首脳会談だとの見通しが語られていた。ところが、三つの首脳会談は全て実現しなかった。どの首脳も金委員長を相手にしてくれないのだ。 トランプ大統領は、既に北朝鮮への関心を無くしている。2019年、米国の関心は一気に次期大統領選挙へと向かう。非核化に応じない北朝鮮を相手にする余裕はない。 一方、韓国では年末に入って「金委員長の韓国訪問」の噂が意図的に流された。支持率低下が止まらない文陣営が、支持率アップを狙った「世論操作」だろう。韓国の歴代政権で、50%以下の支持率に低下した後に回復した例はない。1年後の2019年末には30%台まで落ち込むと、ソウルの政界ではもっぱらの噂だ。 文大統領は、金委員長の訪韓に期待をかけているようだが、来るわけがない。訪韓のためには、南北鉄道の開通や開城(ケソン)工業団地の再開など、国連の経済制裁解除や緩和が必要だが、米国は決して認めないだろう。 また、仮に訪韓が発表されても、韓国内で大反対運動が起こり、金委員長の写真や北朝鮮国旗が焼かれるのは避けられない。金日成(キム・イルソン)主席や金総書記の写真も踏みつけられるだろう。そうなれば、金委員長の訪韓は中止される。北朝鮮国内でも、側近が「訪韓すれば暗殺されます」と忠義顔をして反対する。 文大統領が期待する支持率回復の夢は幻でしかない。2019年からは与党や左翼勢力の中で、次期大統領候補を巡る政争がさらに激化するからだ。2018年9月、白頭山(ペクトゥサン)のカルデラ湖「天池」で、つないだ手を上げる北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長(中央左)と韓国の文在寅大統領(同右、平壌写真共同取材団) 既にソウルの政界では、朴元淳(パク・ウォンスン)ソウル市長のスキャンダルの噂や逮捕の見通しが語られている。次の大統領を狙う任鍾晳(イム・ジョンソク)大統領秘書室長と朴市長の対立はソウルでは常識だ。 2019年の韓国では、左翼政権内の政争やスキャンダルが噴出し、文政権の支持率も低下、左翼政権への失望が高まるだろう。南北朝鮮ともに激動の年になるのは間違いない。■ 「同情するならカネをくれ」金正恩がプーチンを見限った理由■ 漂流する日韓関係 「ニッポン軽視」文在寅が抱えた政治リスク■ 習近平先生の怒りを買った「悪ガキ」金正恩の大チョンボ

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    文在寅外交は「金正恩のパシリ」と批判されても仕方ない

    )朝鮮労働党書記長との南北首脳会談後に「ローマ法王の訪朝要請」「対北制裁緩和を欧州各国に提案」など、北朝鮮「パシリ」外交に懸命だ。この背景には、金委員長のソウル訪問実現でノーベル平和賞を目指し、大統領再選を狙う野心がある。 現行の韓国憲法で、大統領の任期は1期5年。つまり、文大統領は2022年までの任期となる。文政権は今年3月に、大統領任期を4年とする代わりに、2期まで再選可能な憲法改正案を発表した。ただし、文大統領には適用されないという。 だが、この改憲案には反対も多く、関連法案が成立しないため、国民投票にかかっていない。なお、成立した場合、文大統領にも再選の可能性は残されている。文大統領がノーベル平和賞を受賞すれば、「再選可能にすべき」の声が世論から上がる、と期待しているからだ。 文大統領は、そのためにも「ローマ法王訪朝」を実現したいと考えた。9月の南北首脳会談で、文大統領はローマ法王の平壌訪問を提案し、金委員長も同意した。これは、対北経済制裁の緩和のための環境作りで、そうなれば、金委員長のソウル訪問も可能になると期待している。 文大統領は10月18日にバチカンでローマ法王フランシスコと会見し、金委員長の「訪朝招請」を伝えた。韓国の報道機関は「法王 訪朝に前向き」と一斉に報じた。しかし、ローマ法王庁の公式声明は必ずしも「前向き」ではなかったのである。 日本のメディアも韓国の報道をそのまま引用し、「ローマ法王 訪朝に前向き」(毎日新聞)と報じた。だが、この取材と報道姿勢には、首をかしげざるを得ない。韓国の報道機関は、大統領府や政府の意向を受けた記事を報じがちだ。それに乗せられてはいけない。 日本のメディアは、ローマ法王庁に取材するか、法王庁の公式見解とイタリアでの受け止め方を報道すべきだった。明らかな取材不足だ。それでも、産経新聞だけが「北朝鮮 宗教弾圧続く」と報じた。報道の背景には、日本の特派員が北朝鮮の宗教事情を知らなかった事実がある。2018年10月、バチカンでローマ法王フランシスコ(左)と会談する韓国の文在寅大統領(聯合=共同) 北朝鮮は、憲法で「宗教的信念の自由」を明記しているが、「宗教活動の自由」は認めていない。平壌には、カトリック系の長忠大聖堂とプロテスタント系のチルゴル教会、ボンス教会がある。長忠大聖堂には、司祭はいないという。プロテスタント系の教会には「自称」牧師が存在するが、本格的な神学校を卒業したわけではない。 北朝鮮のキリスト教会幹部と信者は、ほとんどが工作機関の統一戦線部の職員である。1988年ごろ、統一工作のために、西欧と日韓のキリスト教界への浸透を目的に設立された。こうして、日本や韓国の教会は、工作員を韓国や日本に侵入させるルートとして利用されていった。文在寅が気づかない教訓 9月の南北首脳会談には、韓国カトリック教会の金喜中(キム・ヒジュン)大主教が同行し、「ローマ法王庁に南北和解と平和を伝える」と金委員長に述べた。だが、カトリック教会の大幹部なら、北朝鮮に人権弾圧と政治犯収容所の解放を求めるべきだろう。宗教活動の自由も要求してほしかった。北朝鮮では、聖書の所持は逮捕され、布教も禁止されているからだ。 北朝鮮では、多くのキリスト教指導者と信徒が処刑された。また、朝鮮戦争の際には、韓国のキリスト教指導者が北朝鮮軍に虐殺された。その責任追及と被害者への関心を、韓国のキリスト教会は忘れている。なぜか。 ところが、北朝鮮に同情する韓国のカトリック神父が少なくない。かつて当局に追われた左翼の学生や活動家の多くが「隠れみの」としてカトリック教会に入信し神父になった。 文大統領は、10月下旬にベルギーで行われたアジア欧州会議(ASEM)の席上、英仏首脳に「対北経済制裁の緩和」を呼びかけた。これはイギリスとフランスが国連安全保障委員会の常任理事国で、「国連制裁」緩和の権限を握っているからだ。北朝鮮は23日に中国とロシアを通じて、「対北朝鮮制裁緩和」の動議を安保理に提出したが、文大統領はこの動きを知り、協力したわけである。 こうした一連の動きは、文大統領が北朝鮮と連携している事実を確認させることになり、日米は不信感を深めた。これでは、文在寅外交が「金正恩のパシリ」と批判されてもしかたがない。 文大統領の「努力」にもかかわらず、ASEM議長声明では北朝鮮に「完全非核化」を求めた。また、英仏独の首脳は文大統領の要請に応じず、安倍首相の求めに応じ「対北国連制裁維持強化」を表明したのだった。この事態に、韓国の新聞も「文在寅外交失敗」と報じた。2018年9月、平壌での南北首脳会談を前にソウル中心部に展示された、4月の会談で抱き合う韓国の文在寅大統領(右)と北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長の写真(共同) 文大統領は、なぜ「北朝鮮の代理人」にこだわるのか。支持率が低下し、大統領の求心力を失っているからだ。 憲法改正が実現しなければ、大統領任期は2022年で終わる。次の大統領を狙う与党の政治家たちにとって、文大統領再選への道を完全に断つには、現憲法の規定に従い、任期を終える方がいい。たとえ憲法改正しても、万が一にも再選の可能性を残したくない。それには次期大統領選直前に憲法改正し、文大統領には適用されない方が安全だ。 権力者は、自分が退任する時期を明らかにすると、死に体になる。この教訓を文大統領は実感していなかったようだ。 与党内では、すでに次期大統領候補を巡る思惑と駆け引きが展開されている。ローマ法王訪朝と国連制裁緩和により「金正恩ソウル訪問」を実現し、憲法改正が実現すれば「統一が近いから、大統領を変えるべきでない」と世論を操作でき、大統領再選も可能になる。文大統領の野望と「パシリ」が、北朝鮮の非核化と経済制裁の足並みを乱しているのである。

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    「日朝極秘接触」元テレ朝記者の筋読みは甚だ的外れ

    重村智計(東京通信大教授) 北村滋内閣情報官と北朝鮮の金聖恵(キム・ソンヘ)氏が7月に秘密会談していた。日本のテレビでは、事実関係を確認していないのに、とんでもない分析や解説が流される。しかも、北朝鮮の基礎知識を無視して勝手な「妄想」が語られる。 外務省に忖度(そんたく)してか、「二元外交」などと根拠もなく批判し、日朝交渉時のアジア大洋州局長を弁護する主張まであった。本稿では日本のメディアで横行する、国民をミスリードする解説を正しておきたい。 始まりは「特オチ」だった。メディアと取材記者が、米ワシントン・ポスト紙に抜かれた。同紙は8月28日に「北村情報官、北朝鮮の金聖恵氏と秘密会談、米政府不快」と報じた。 実はこの記事、日朝秘密接触を報じたのではなかった。見出しは「トランプ、パールハーバー(真珠湾)を忘れないと発言。安倍首相との(冷めた)関係」で、あくまでトランプ米大統領に対する批判記事だ。日朝秘密接触には数行しか触れていない。 米国の新聞と読者は、日朝の秘密接触には関心がない。あくまでトランプ大統領と安倍晋三首相の関係が悪化した、と強調するために使った事実に過ぎない。「米国は日本に米朝接触の内容を教えているのに、日本は日朝接触を教えなかった」との当局者の不満を強調して、日米関係悪化の「証拠」に使ったのだが、記事は間違いだった。 実は、北村氏と安倍首相は、米政府高官に日朝接触の事実を伝えていたのである。というのも、「北村と接触すべき」と北朝鮮に推薦したのは、ポンペオ米国務長官だったからだ。2018年7月、訪日したポンペオ米国務長官(左)と握手する安倍晋三首相(宮崎瑞穂撮影) ポンペオ長官は米中央情報局(CIA)長官時代の3月末に訪朝した際に、北朝鮮側から「日本政府で安倍首相に直接繋がる人、信用できる者は誰か」と聞かれた。長官は「北村情報官しかいない。安倍首相が最も信頼している」と教えた。ポンペオ長官は、北村氏にこの事実を伝えた。思わず吹き出したコメント 北朝鮮は、長官の「推薦」で5月ごろから北村氏に関する身元調査をひそかに始めた。北村氏は2002年、小泉純一郎首相の日朝首脳会談の際に、先遣隊として平壌に乗り込み国家保衛部の幹部と打ち合わせしていたのである。当時の打ち合わせ記録と名刺も出てきたという。 ところで、北村氏と会談した金聖恵氏は「統一戦線部戦略室長」と報じられた。まず、この肩書がおかしい。取材記者は金氏本人に確認したのか、あるいは北村氏に聞いたのだろうか。金氏の所属と役職がおかしい、と気がつかなければ北朝鮮問題を語る資格はない。 特に、元テレビ朝日記者の川村晃司氏のテレビ発言には、思わず吹き出してしまった。官僚や外務省関係者の話を疑いなく信じる人の良さがうかがえる。旧知の仲なので、名指しの指摘をお許しいただきたい。 いったい何が問題なのか。統一戦線部は工作機関であり、日本の政治家や学者、新聞記者を「包摂」するのが仕事だ。また、朝鮮総連の監督機関でもある。 名前の通り、南北関係の工作と交渉を担当している。だから、日本政府と交渉する権限は与えられていないのである。韓国との交渉も、今は祖国平和統一委員会が担当している。この委員会は統一戦線部所属だったが、2年前に政府組織に格上げされた。 では、日本との交渉権限は、誰が持っているのか。昔も今も秘密警察の「国家保衛省」である。2002年の日朝首脳会談の秘密交渉で活躍した「ミスターX」は所属も本名も明らかにせず、偽名を使い「金正日(キム・ジョンイル)総書記の側近」と名乗った。のちに処刑されたが、本名は「柳京(リュ・ギョン)」で国家安全保衛部(当時)の第一副部長だった。2002年9月、日朝首脳会談を前に、北朝鮮の金正日総書記(右)に握手を求め歩み寄る小泉純一郎首相(代表撮影) この基礎知識があれば、金聖恵氏の所属と肩書に疑問を持つはずだ。取材は、官僚や政治家の発言への疑いから始まる。「韓国情報機関が入手した名前は偽名かもしれない」「韓国情報機関の情報を信用するのは危ない」と考えるのが朝鮮問題を担当する記者の初歩だ。南北の情報工作機関は、日本人記者をだましかねないとの疑いを持ってほしい。 それでは、金聖恵氏はどこの所属なのか。本属は「国家保衛省」の可能性が高い。おそらく偽名を使っていたのだろう。北朝鮮代表団の中には、国家保衛省第一副部長などの幹部がいたはずだが、彼らも偽名を使い所属は明らかにしなかっただろう。「金正恩(キム・ジョンウン)委員長の指示で来た」と述べたはずだ。北朝鮮の外交交渉団には、必ず国家保衛部の要人が加わっているのである。指導者に報告するためだ。日米同盟「本当の危機」 金委員長が、最近まで「安倍とは会わない」と側近に語っていた事実を取材していれば、日朝秘密接触が重大な「対日外交の変化」と理解できる。金委員長が日朝秘密接触を許可したのは、事情が変わったからだ。明らかに日朝首脳会談を模索している。 中国の習近平主席は、金委員長に毎年1兆円を超える支援を約束した。ところが、国連の対北制裁が解除されなければ、この支援は実行されない。国連の制裁解除に強く反対しているのは安倍首相であるため、直接の話し合いが必要になったのである。 また、日朝が秘密接触すれば、トランプ政権が慌てて北朝鮮に譲歩するだろうと考えるのが、北朝鮮外交だ。日米の協力関係を揺さぶり、対立させようとのいつもの手口だ。 かつて、日米同盟が危機に直面したことがあった。2002年に「ミスターX」と秘密交渉した田中均アジア大洋州局長(当時)は、日朝首脳会談合意を事前に米政府に通知しなかった。パウエル国務長官らは、「日米同盟を危うくする行為」と激怒したが、ジョージ・W・ブッシュ大統領が「小泉首相にも事情があるだろう、行くだけならいい。資金供与と正常化はだめだ」と、パウエル長官をなだめた。 この事実を、私は『外交敗北』(講談社)で詳しく書いた。産経新聞の古森義久記者も繰り返し報じ、阿比留瑠比記者は「秘密交渉記録を田中氏が意図的に消失した」と何度となく指摘しているのに、川村氏らはテレビ番組で田中氏の「名誉回復」と受け取られる、事実と違う説明を述べた。よく取材してほしい。東京・港区のテレビ朝日社屋=2018年1月(大橋純人撮影) 北村氏の日朝秘密接触に「二元外交」という批判もあるが、これも間違いだ。政府高官の接触は安倍首相の指示に基づくもので、あくまで安倍政権による「一元外交」である。 二元外交とは、外交権限もない政治家や政府以外の人間が、勝手に北朝鮮と交渉し、約束することだ。かつては、自民党の実力者が勝手に北朝鮮と合意した。これこそ非難されるべき「二元外交」である。 米国では、この行為は厳しく規制される。それは、トランプ政権関係者が、大統領当選前のロシア疑惑で「二元外交」を罪に問われたことでも明らかである。

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    「トランプに2期目はない」中朝蜜月で変わる非核化ゲームの行方

    智計(東京通信大教授) トランプ米大統領は8月1日、中国製品への経済制裁「第3弾」の発動を指示した。北朝鮮はこの「米中貿易戦争」泥沼化を歓迎している。米中首脳による「戦争ゲーム」が北朝鮮への制裁を減圧し、米中朝の「非核化ゲーム」を大きく変質させたのである。 金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長は、朝鮮戦争休戦65周年(7月27日)を記念し、中国人民志願軍烈士陵園に参拝した。金委員長の訪問は2013年以来5年ぶりだ。中朝関係が好転すると、北朝鮮の指導者は地方にあるこの墓苑を訪問し、平壌の記念碑も整備する。反対に、関係が悪化すると放置した。実にわかりやすい。 北朝鮮は「中ソ・イデオロギー戦争」時代に、中国と旧ソ連の間を行き来して支援を得る「振り子外交」を得意とした。この戦略を「米中貿易戦争」でも展開しようとしている。 米朝関係は、3月末の中朝首脳会談までは、トランプ大統領が主導権を握り、「北朝鮮の『完全な非核化』」への期待が高まった。ところが、中朝首脳会談後に北朝鮮の姿勢が急変した。トランプ大統領は「中朝首脳会談後に北の姿勢が変化した」と批判し、一度は米朝首脳会談の中止に踏み切った。 最近の中国は、北朝鮮の石油密輸の「瀬取り」への制裁に反対するなど、それまでの米中協力の姿勢を変えた。米朝関係と米中関係が明らかに変わったのである。トランプ大統領は、中国が「米中貿易戦争ゲーム」で北朝鮮を利用している証拠を握ったという。そこで中国は、貿易戦争を緩和すれば、北朝鮮への追加制裁にも協力するとの駆け引きを見せたのである。中国の習近平国家主席(左)と握手する金正恩朝鮮労働党委員長=北京・釣魚台国賓館(朝鮮中央通信=朝鮮通信) 中国は「瀬取り」を明らかに放置している。その背後に何があったのか。米国務省の高官は、3回にわたる中朝首脳会談で、習近平主席は「トランプへの非協力」に姿勢を変えたという。その証拠に、米国は中朝首脳会談の内容を入手しているというのである。 それによると、習主席は「金正恩体制の維持は保証する。そのため、10年間に1千億ドル(約11兆円)の支援を実施する」と約束した。韓国政府によると、北朝鮮の国内総生産(GDP)は約3兆円であり、中国は毎年その3分の1の支援をすることになる。 裏にあるのは、日米が制裁を強化しても心配するなとの中国の「保証」だ。つまり、「瀬取り」密輸こそが支援の始まりだったのである。さらに、中朝国境の人の往来や北朝鮮労働者の移動も黙認された。 また、中朝首脳がすでに合意した「朝鮮半島の非核化」について、「確実に実現してほしい」と伝えた上で、「10年の時間をかけてもいい」と述べた。要するに、習主席が退任するまでに非核化すればいいという意向だろうか。 習主席は「北朝鮮が数年で非核化できない事情はわかる」と語り、「数年内の非核化には、北朝鮮軍が納得せず、クーデターの危険がある」との理解を示した。また「中国は決してクーデターを支持しない」とも伝えていた。 米メディアは7月末に、北朝鮮が大陸間弾道ミサイル(ICBM)の製造を継続しているとし、「北朝鮮に非核化の動きはない」と報じた。これは「非核化」に反発する北朝鮮軍部の「不満」を抑えるための「製造継続」の妥協策だろう。「トランプの2期目はない」 習近平発言は、金委員長と朝鮮人民軍の関係について、「完全非核化」をめぐり緊張関係にある事実は知っている、との脅しだ。知った上で、金委員長を支持するとの立場を表明したのである。 また、中朝の首脳は「トランプ大統領の2期目はない」との見通しで一致し、「あと2年半時間稼ぎすればいい」との判断を確認したという。金委員長は中国の巨額支援と体制保証で安心したのか、対米姿勢を変えたわけである。 6月12日、トランプ大統領は金委員長との首脳会談後の記者会見で、ポンペオ国務長官が直ちに平壌に向かい、非核化の具体的な交渉を始めると明らかにした。 ところが、国務長官の訪朝までおよそ1カ月の時間がかかった上、金委員長と会見できなかった。さらに悲惨だったのは、北朝鮮外務省の報道官は国務長官訪朝直後に談話を発表し「ポンペオ長官の態度は強盗的だった」と非難した。なんとも失礼な対応である。 北朝鮮の姿勢変化を受け、トランプ大統領は「非核化交渉に期限は設けない」と述べ、ポンペオ長官も「交渉には時間がかかる」と議会で証言した。これは、習主席の「非核化を急がなくていい」との発言を、米首脳が入手していた事実を示唆するものである。 そして習主席は、金委員長が9月の国連総会に出席し、世界に向けて演説すれば「制裁解除」の空気が生まれるとアドバイスした。その際に第2回米朝首脳会談を行うように勧め、米朝関係改善も支持したという。理由として「北朝鮮は、中国の属国にはなりたくないだろう。そのために、米国との関係改善を必要とするのは理解できる」と述べ、金委員長を感激させた。中国の習近平国家主席(右)と談笑する北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長=5月、遼寧省大連(朝鮮通信=共同) 中朝蜜月化と「非核化交渉」の停滞は、日朝関係と拉致問題解決にも影響を与えそうだ。北朝鮮が日朝関係改善を必要とするのは、1兆円とみられる経済協力資金が狙いだ。ところが、中国が毎年1兆円以上の支援をすると、日本の資金への期待が失われてしまう。 北朝鮮の朝鮮労働党機関紙、労働新聞は最近「拉致問題は解決した」との論評を掲載した。拉致問題の解決よりも日朝国交正常化を優先させようとの戦略だ。これに呼応するように、日本でも超党派の「日朝国交正常化推進議員連盟」が活動を活発化している。北朝鮮からの工作に呼応している、とみられても仕方がないだろう。 北朝鮮が中国から多額の資金を導入すれば、現代版シルクロード経済圏構想「一帯一路」のようにいずれ膨大な借金となり、中国に従属せざるをえなくなる。それを避けるためにも、日朝国交正常化が必要だからこそ、「拉致問題は解決した」と主張しているのである。北朝鮮の手口に決して騙されてはいけない。「拉致より国交正常化」と主張する政治家や日本人は北朝鮮の手先で、「売国奴的」と非難されても当然なのである。

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    北朝鮮非核化、日本はそれでも負担すべきか

    「払うのは日本と韓国」。先の米朝会談後、トランプ大統領は北朝鮮の非核化費用負担についてこう言い放った。安倍首相も早々と負担を受け入れる意向を示したが、拉致問題の進展が見えない中で日本がなぜ負担しなければならないのか。多くの日本人が疑問に思う非核化負担の是非を考える。

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    北朝鮮非核化「トランプの財布」に日本が甘んじてどうする

    である。「朝鮮半島の非核化」プロセスもその視点から見ればいいだろう。 トランプ大統領が語ったように、北朝鮮の非核化の費用について、日本は韓国とともにその負担をすべきかどうか。安倍晋三首相は6月16日のテレビ番組で「日本の立場は明確」「かかる費用については、核の脅威がなくなることによって平和の恩恵をかぶる日本などが負担するのは当然」と語っている。 私の結論を先に述べておけば「総論反対」である。トランプ大統領が「米国は朝鮮半島から遠く離れているから負担しない」と主張するのは全く理由になっていない。英投資顧問会社、ユライゾンSLJ・キャピタルの試算では「北朝鮮の非核化」には10年間で約2兆ドル(約220兆円)かかるという。 北朝鮮の非核化をめぐる歴史を振り返ってみれば、その論理は破綻する。2002年9月17日に行われた日朝首脳会談で「日朝平壌宣言」が合意される。その内容を具体化したのが米、中、露、韓国、北朝鮮、日本の枠組みから成る「6カ国協議」であった。 2007年2月8日から北京で開催されていた六者会合(第5回会合第3セッション)は、同月13日に「共同声明履行のための初期段階の措置」を採択する。北朝鮮が「60日以内に実施する『初期段階の措置』」として、次の合意がなされた。(1)寧辺(ニョンビョン)にある再処理施設を含む核施設を、最終的に放棄することを目的として活動停止(shut down)および封印(seal)する(2)全ての必要な監視および検証を行うために、国際原子力機関(IAEA)要員の復帰を求める(3)使用済み燃料棒から抽出したプルトニウムを含む、全ての核計画の一覧表作りについて、5カ国と協議する この計画が実現しなかったことは、すでに歴史が証明している。 問題は、今回の米朝合意で確認された「段階別、同時行動原則を順守する」ことである。今後の米朝実務者協議では「朝鮮半島の非核化」プロセスが具体化されていく。共同声明に署名する北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長(左)とトランプ米大統領=2018年6月12日、シンガポール(朝鮮中央通信=朝鮮通信) 07年2月の合意では、さらに課題が示されていた。非核化への「初期段階の措置」とセットで合意されたのが「緊急エネルギー支援」である。具体的には「重油5万トンに相当する緊急エネルギー支援の開始」だ。これに米、中、韓、露が実施したが、日本は「拉致問題を含む日朝関係の現状を踏まえて」参加しなかった。 そして同時に、日本と北朝鮮は「日朝平壌宣言に従って、不幸な過去を清算し懸案事項を解決することを基礎として、国交を正常化するための協議を開始する」ことも合意された。この「懸案事項」には拉致問題も含まれている。さらに「朝鮮半島の非核化」のための作業部会も設置され、「初期段階の次の段階における措置」では、北朝鮮が「全ての核計画の完全な申告の提出および全ての既存核施設の無能力化などを行う」ことまで合意されていたのである。トランプの財布から脱せよ 米朝首脳会談を受けて、「朝鮮半島の非核化」プロセスは、これから具体的に詰められていく。その枠組みが何カ国になるかはこれからの交渉にかかっているが、かつてのように複数になることは避けられないだろう。 このように過去の合意を踏まえると、「段階的、同時行動の原則」においては、非核化のために負担だけではなく、何らかの経済支援も求められることになる。私が「朝鮮半島の非核化」費用負担に「総論反対」というのは、「過去の清算」も行った上での日朝国交正常化がどんどん曖昧になる恐れがあるからである。 トランプ大統領が語ったように、北朝鮮を含めた「朝鮮半島の非核化」には10年単位の時間が必要だろう。拉致被害者家族にそんな時間はない。北朝鮮に残された残留日本人もわずか1人(北朝鮮当局によると荒井琉璃子さん)だけになってしまった。いわゆる日本人妻も生存者はわずかだ。 日本政府はまず生きている人間の課題を人道的に迅速に解決しなければならないのだ。もちろん2万柱を超える日本人遺骨の収容についても早急な検討が必要である。 「北朝鮮の非核化」、朝鮮戦争の終結と平和協定の締結、そして米朝国交回復は、北東アジアの平和を実現し、安定させる歴史的事業である。その課題を進めるのは南北朝鮮の当事国だけでなく、日本はもちろん、中国や米国も深く関与していかなければならないのである。「地理的に近いから、韓国と日本が費用を負担せよ」とするトランプ大統領の発言は、「ゼニの論理」だけで外交をとらえる大国主義による暴論以外のものではない。 もう一度言おう。日本政府は平壌宣言とストックホルム合意に基づき、一刻も早く生存している拉致被害者、残留日本人、いわゆる日本人妻問題などを解決しなければならない。その上で日朝国交正常化交渉に本腰を入れ、同時に短期、中期、長期的視野に立って、国際社会と共同して実効性ある「朝鮮半島の非核化」を実現していく責務があるのである。会談する安倍首相とトランプ米大統領=2018年4月17日、ワシントン  「対米従属」から「対米自主」へ。米国がいつでも自由にできる「財布」のような役割を演じ続ける実体を脱しなければ、日本は「真の独立国家」とは言えない。何が非核化プロセスか、全く明らかではない現状にあって、日本政府が「100%米国とともにある」として、非核化費用の負担に応じるのは、外交でも何でもないのである。 米朝枠組み合意により設立された朝鮮半島エネルギー開発機構(KEDO)の歴史を振り返っても、日本は600億円ほどの負担をしたが、非核化にはつながらなかった。私が「総論反対」と主張するのは、スローガン先行による安倍「やってる感」政治の米国追随外交では、複雑な現実に対応できないからなのである。

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    金丸信「1兆円の約束」 日本が北朝鮮を支援する道理はない

    ンプ米大統領は6月12日、金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長との米朝首脳会談後の記者会見で「北朝鮮の『非核化』費用は日韓が負担する」と述べた。さらに、トランプ大統領は拉致問題解決後の北朝鮮への経済支援にも言及した。 そんな中で、北朝鮮への経済支援をめぐり、日朝の秘密交渉による「1兆円超」という支援額が一人歩きしている。だが、日本政府が把握していない拉致被害者全員について、北朝鮮が明らかにしない限り、経済協力資金を拠出すべきではない。 いったい「1兆円」という数字は、誰が北に伝えたのか。私の取材によると、最初は金丸信元副総理である。 自民党の実力者であった金丸氏は1990年9月に訪朝し、金日成(キム・イルソン)主席と2人だけの極秘会談を行っている。この会談で、金丸氏は日本側の通訳を同席させない大失敗を犯しており、日本の「大政治家」の外交感覚のなさに驚く。秘密会談に同席した北朝鮮側通訳と、会談を準備した関係者によると、話し合いは次のようであった。金日成「日朝が国交正常化したら、どのくらいの経済協力資金をいただけますか?」金丸 「大蔵省が50億ドルというだろうが、北朝鮮は100億ドルを要求してください。私が間をとって、75億ドルにするからどうですか」 これは外交ではなく、「国会対策」の手法だ。しかも、金丸氏は拉致問題に言及することなく、経済協力を約したのである。支援額の75億ドルは、当時の為替レートで約1兆円であり、これが「1兆円の約束」の始まりだ。金主席は、中国側から「50億ドルだろう」と伝えられていたので、事実上の増額の申し出に喜んだ。 2回目の「1兆円の約束」は、2002年の日朝首脳会談だ。このとき、北朝鮮の「ミスターX」と秘密交渉を行った田中均アジア大洋州局長は交渉記録を残していなかった。この事実は、官房副長官として会談に同席していた安倍晋三首相が後に明らかにし、田中氏を非難した。この際に「1兆円覚書」が渡されたのではないかと私は見る。 なぜなら、金正日(キム・ジョンイル)総書記は平壌で、外国の要人と「無料」で会見したことはないからだ。事実、2000年6月に南北首脳会談で会談を行った金大中(キム・デジュン)元大統領も5億ドル(約500億円)に上る「面会料」の支払いを認めた。対北の経済支援に関する権利を得たい韓国の財閥、現代グループの鄭周永(チョン・ジュヨン)オーナーも3億ドルを支払っている。2002年9月、日朝首脳会談を前に、北朝鮮の金正日総書記(右)に握手を求め歩み寄る小泉純一郎首相(当時)。その右は官房副長官時代の安倍晋三首相(代表撮影) 「金正日は小泉純一郎首相にタダで会ったのか」。私の問いかけに、北朝鮮側の当局者は「将軍様がタダで会うわけはない」と答えた。その上、ミスターXが「国交正常化と100億ドルの経済協力資金を出すとの覚書をもらっている」と話してくれた、と明かしたのである。 もしそうならば、日本政府はこの「覚書」を出すように北朝鮮に要求すべきだ。経済支援算出については、過去の不透明な約束を公開し、支援額の透明性ある根拠を示さなければならない。 実は、日朝の実務者協議で、北朝鮮の交渉者は私的な会話の際に、日本外務省の課長に対し「1兆円の約束はいつ実行してくれるのか?」と聞いてきた。日本側にはその意味が分からなかった。文書も証拠も残っていないからである。 また、歴代の米大統領、ジョージ・W・ブッシュ氏とオバマ氏は拉致問題解決の経済協力資金について、「核開発に使われるから出さないでほしい」と日本に要請してきた。しかし、トランプ大統領は資金の拠出に関して、金委員長に「拉致問題を解決しないと、日本は経済協力資金を出さない」と伝えている。裏を返せば、米国が拉致問題による日本の資金拠出を認めたことを意味する。米朝会談「40分間の真実」 では、なぜトランプ大統領は金委員長を追い詰めなかったのか。事実、あいまいな非核化合意に対し、批判や疑問の声が巻き起こっている。米朝共同声明は、当初期待された「完全で検証可能かつ不可逆的な核廃棄(CVID)」に全く触れなかったからだ。トランプ氏は、今秋行われる米中間選挙のために、どうしても「成功」を演出する必要があったのである。それでも、「北朝鮮の非核化」という約束を取り付けたのだから、最初の首脳会談としては成功だろう。 米朝首脳会談の共同声明には、隠された重大な真実があった。北朝鮮の非核化をめぐる交渉で、北朝鮮と中韓は「朝鮮半島の非核化」で合意している。だが現実には、韓国に核兵器はない。 にもかかわらず、なぜ北朝鮮と中国は「朝鮮半島の非核化」をうたうのか。北朝鮮だけでなく米韓の非核化を狙い、「米国の核の傘」の撤去を求めるからである。具体的には「グアムの米軍基地」からの核兵器撤去だ。 共同声明には「金正恩委員長が『朝鮮半島の完全な非核化』を再確認した」と記述されている。その上で「北朝鮮は、朝鮮半島の完全非核化に向けて努力すると約束した」と明記した。この表現だと、「朝鮮半島の非核化は北朝鮮が行う」ということになる。米国の義務は明記されていないからである。 つまり、共同声明では「トランプ大統領と金正恩委員長が、朝鮮半島の非核化を約束した」と表現していないのである。あくまで、「非核化約束」の主語は「金正恩委員長」と「北朝鮮」だ。すなわち「朝鮮半島の非核化」は「北朝鮮の非核化である」の意味となり、「米国の核の傘」問題は消えてしまった。トランプの勝利である。 一方で、金委員長はどのようにしてトランプ大統領との信頼を築き、心をつかんだのだろうのか。首脳会談の「真実」は、冒頭40分間の2人だけの会談に隠されていた。2人は互いの国内懸案解消のために、「ライブ中継」での「歴史的」会談という演出を必要としたのである。2018年6月12日、会談場所のホテルで笑顔で手を振る北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長(左)とトランプ米大統領(ロイター=共同) 2人は何を話したのか。金委員長は緊張した表情で、他の閣僚や高官に聞かせたくない本音をトランプ大統領に打ち明けた。 「ここまで来るのは、それほど容易な道のりではありませんでした。私たちには、私たちの足を引っ張る過去があり、誤った偏見と慣行が、時には私たちの目と耳をふさいでいましたが、わたしは全てを乗り越えてここまで来ました」 さらに金委員長は会談終了時に、再び「ここまで来るのは容易ではなかった」と、もう一度ほっとした表情で語った。 「私たちの過去」とは、北朝鮮の国内事情を説明したものだ。国民に対し「反米」と「米帝との戦争」を信じ込ませた反米思想のため、朝鮮人民軍の幹部や労働党の元老が首脳会談に反対していた。「さまざまな障害」とは、軍部を中心とした「非核化抵抗勢力」の存在を意味する。中国の「北朝鮮カード」 老幹部の妨害も激しかったのだろう。首脳会談直前に軍首脳3人を入れ替えた事実が、闘争の激しさを物語っている。金委員長は、北朝鮮軍部の「抵抗」を抑えて、シンガポールまで来た国内事情をトランプ大統領に「理解してほしい」と訴えたのだった。 そこで、トランプ大統領は中央情報局(CIA)が入手した情報から、クーデターや暗殺の危機に直面する金委員長に「米国がいつでも一家を受け入れる」と伝え、万一の「亡命」にOKサインを出した。だから「完全な非核化実現を心配なく実現してほしい」と訴えたのだろう。 トランプ大統領も公言通りに8月の米韓合同軍事演習の中止で韓国側と合意し、金委員長への配慮を示した。ところが、「可能な限り早い日程」で行なわれるはずだったポンペオ米国務長官と北朝鮮高官との交渉は、7月に入ってポンペオ氏が平壌を訪問し、ようやく進展したかにみえた。しかし、ポンペオ氏が進展を強調する一方で、北朝鮮外務省は会談に関する詳細な声明を出して、進展について否定した。 そもそも、ポンペオ氏もCVIDをめぐる交渉について「期限は設けない」との立場を明らかにし、トランプ大統領も同様の発言を行い、交渉の長期化を念頭に入れている。一方で、中国の習近平国家主席も金委員長の3度目の訪中を受け入れ、首脳会談を行うなど米朝中の駆け引きが続いている。 北朝鮮高官によると、金委員長は今年9月の国連総会で演説し、ホワイトハウスでの米朝首脳会談を行う計画だという。だが、中国首脳は米朝首脳の頻繁な交流に不満を示している。 中国は、首脳会談直後から新たな危険に気がついたからである。米朝首脳が電話会談を頻繁に行い、金委員長がワシントンを訪れるようなことになれば、中国の影響力は低下してしまう。しかも、トランプ大統領は米朝会談を説明する特使を中国に派遣せず、習近平主席と電話首脳会談も行わず、習主席の顔を潰した。金委員長も米朝会談直後の訪中を行わなかった。 米朝の指導者にメンツを潰された習主席は会談1週間後の6月19日、ついに金委員長を北京に呼びつけた。結局、今年3度目の中朝首脳会談以降、米朝の高官交渉は行われず、ポンペオ長官も「北朝鮮との交渉に期限を設けない」と発言した。米国は、中国が進展を妨害していると受け止めている。朝鮮半島での早期の冷戦構造崩壊を、中国は望んでいないようだ。北京の人民大会堂で歓迎式典に臨む中国の習近平国家主席(左)と北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長=2018年6月19日(新華社=共同) 金委員長が米朝会談で「北朝鮮の非核化」を受け入れたのも、中国にとっては気に入らない。当然、グアムからの核兵器撤去を意味する「朝鮮半島の非核化」を放棄したのも納得できない。 習主席は、中国抜きでの「朝鮮戦争終結宣言はさせない」と金委員長に伝え、クギを刺した。中国は、米中貿易戦争に勝つために、北朝鮮を「外交カード」として手にしておく必要があるからだ。米朝は中国に、北の核問題の早期解決に思い切りブレーキを踏まれてしまったのである。

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    感情論を捨てれば見えてくる、日本「北非核化」負担のメリット

    れている。その中でも多くの専門家が、会談の最大の「勝者」は金委員長であると考えているようだ。なぜなら北朝鮮は、アメリカの歴代政権が拒んできた米朝2カ国会談を実現させたからだ。 そして両首脳が調印した共同声明には、北朝鮮の非核化と引き換えに北朝鮮の安全を保障する文言が盛り込まれていた。北朝鮮にとって最大の目的は、アメリカによる「体制保証」である。一方で、北朝鮮の人権抑圧に触れられることはなかった。 逆にトランプ大統領は、金委員長の独裁政治を容認しているかのような発言を行っている。要は、金委員長は労せずして、いくつかの目的を達成したのだ。帰国した金委員長は、自らがトランプ大統領と対等な立場であることを国民に示し、自らの権威を高めることに成功したといえよう。 また、共同声明に盛り込まれた北朝鮮の非核化については、具体的なスケジュールや査定方法に関する言及はなかった。アメリカの多くのメディアは、「具体的な内容がない」とこぞって批判を加えた。 会談後の記者会見で、この点について質問されたトランプ大統領は、時間がなく詳細な議論ができなかったことを認めた。その上で、ポンぺオ国務長官とボルトン安全保障担当大統領補佐官を平壌に派遣し、北朝鮮当局と非核化に関する具体策について協議することで補う意向を示した。実際、7月6日にポンペオ氏は平壌を訪問したが、目立った成果は出ていない。 また、トランプ大統領は共同声明のほかに、重要な発言をいくつか行っている。一つは、米韓軍事演習の中止だ。これは北朝鮮が常にアメリカに要求してきたものである。また、中国政府は、金委員長に対してトランプ大統領に米韓共同軍事演習の中止を求めるように要求したことを認めている。2018年4月、ホワイトハウスでブリーフィングを受けるトランプ米大統領(左)とボルトン大統領補佐官(ロイター=共同) そもそもアメリカの歴代大統領は北朝鮮のあらゆる要求を拒否してきた。それが一転して、トランプ大統領は米韓共同軍事演習中止も受け入れたのである。トランプ大統領は、中止の理由としてコストがかかりすぎることを挙げている。安倍首相「費用準備」発言の謎 そしてこの決定をめぐっては、マティス国防長官が国防総省と事前協議をしていたことを明らかにしており、トランプ大統領のスタンドプレーではないことは明白だ。だが、この中止は安全保障関係の専門家は一様に北朝鮮に対する抑止力の低下につながると批判的な評価をしている。 また、多くの人を驚かせたのは、トランプ大統領が韓国から米軍の撤退もあり得ることを示唆したことだ。これも、多くの安全保障問題の専門家が米韓軍事同盟の根本が揺らぐとして、批判的なコメントを加えている。 さらに、北朝鮮の非核化は合意したが、共同声明でも、記者会見の中でも北朝鮮が保有する短距離、中距離のミサイル処理に関する言及がなかったことも重視すべきだ。北朝鮮はミサイルとエンジン実験用地を閉鎖することに合意しているが、中短距離ミサイル問題は放置されたままだ。仮に北朝鮮が非核化されても、武装解除されるわけではない。 そして、非核化が「完全かつ不可逆的、証明可能な方法」で査察をどう行うのかに関しても何の合意もない。期待された朝鮮戦争終結宣言も行われず、重要な問題はすべて今後行われる両国政府の事務協議に委ねられている。 さらに、記者会見では、日本に関わる重要な発言もあった。それは非核化に伴う費用負担問題である。トランプ大統領は、非核化を実現するために必要な経費については日本や韓国などの隣国が負担すべきだと明言した。 軍縮問題の専門家によれば、非核化に伴う費用は少なくとも200億ドル(日本円で2兆円を超える)とされ、実現するためには数年、場合によっては10年かかる可能性があるという。ちなみに、北朝鮮は現在、20~80個の核弾頭を保有しているとみられ、非核化費用の総額はさらに拡大する可能性もある。2018年6月、米ワシントンへ出発する安倍首相と昭恵夫人=羽田空港 こうした動きに対して、安倍晋三首相は早々と国際原子力機関(IAEA)による非核化の査察を条件に、日本が費用を負担する準備があることを明らかにした。まだ何も具体的に決まっていない段階での発言としては理解に苦しむ人もいるだろう。 安倍首相の意向については、解釈によっては、米朝首脳会談の過程で日本は埒外(らちがい)に置かれていたため、非核化費用を分担する準備があると発言することで、日本が当事者としての立場を主張することができると考えたのかもしれない。目先の感情で論ずるな また、安倍首相は北朝鮮に対してメッセージを送り、日朝首脳会談開催への手がかりを求めたのかもしれない。さらに言えば、拉致問題の解決を優先する政治的立場からの発言かもしれない。いずれにせよ具体的な状況が分からない中、費用負担問題で先走るのは賢明な策とは言えないだろう。 ただ、北朝鮮の非核化が実現できるのであれば、日本は応分の費用を負担すべきであることは論を俟たない。なぜなら、朝鮮半島の非核化は日本外交の最優先課題の一つであり、朝鮮半島から軍事的脅威がなくなることは、日本に大きな恩恵をもたらすからだ。 ゆえに、この問題は、目先の感情論ではなく、日本の安全保障という長期的な視点に立って議論すべきものである。日本が朝鮮半島の安全保障問題に当事国の一つとして積極的に関わっていくためには、応分の費用負担は避けられないだろう。 その意味でも、状況が整えば、日本は積極的に関係国に働きかけ、国際的な協議の場を設定する必要がある。トランプ大統領は、アメリカは負担しない意向を示しているようだが、当然、アメリカに対しても負担を求めていくべきだ。 先に触れたように、非核化のために必要な額は2兆円を超えるとされるだけに、日本の負担額は決して少なくはない。日本は巨額の財政赤字を抱えており、さらなる財政負担が加わるとなると、国民が納得のいく額を模索する必要があるだろう。 そして単に北朝鮮の非核化だけでなく、北朝鮮の民主化に結び付くものでなければならない。非核化の費用負担が最終的に両国の関係改善と国交回復に結び付くのが理想だが、果たして北朝鮮が前向きに応じるかどうかわからない。2017年11月、横田早紀江さん(前列右から3人目)ら北朝鮮による拉致被害者家族のメンバーと面会し、発言するトランプ米大統領(同左から2人目)。左端は安倍晋三首相(ロイター=共同) 費用負担の前に明確な北朝鮮政策を立てる必要があるだろう。また、将来、戦後賠償や経済援助の問題も必ず浮上してくるはずだ。 いずれにせよ、どのような形で北朝鮮の非核化が進むか、現時点では見通せない。米朝事務レベル協議は続くとみられ、今後出てくる具体策によって、日本は柔軟に対応していかなければならない。

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    金正恩にいいとこ取りされたことに気づかないトランプ

    「金氏の新たな後ろ盾」です。史上初となった米朝首脳会談は12日、シンガポールで開催されました。米国が北朝鮮に大きく譲歩したというのが大方の見方です。 本稿ではまず、会談におけるドナルド・トランプ米大統領の非言語コミュニケーションに焦点を当てながら演出力を分析します。次に、トランプ氏の支持者を意識した共同声明と記者会見について述べます。そのうえで、金正恩北朝鮮労働党委員長が本当に得たものは何かを探ってみます。 米朝首脳会談は第三国で行われたのにもかかわらず、トランプ大統領は金委員長に対してまるでホストのように振舞っていました。米朝の国旗が合計12本交互に並んだホールで、約13秒間握手を交わすと、トランプ氏は「どうぞ」という動作をして、金氏の背中に手を添えながら部屋に入っていきました。 トランプ大統領は金委員長との握手の感触により、同委員長の自尊心の強さを測り、交渉をするに足る人物か否かを見極めていたのです。トランプ氏は、金氏を「価値ある交渉相手」と判断したのでしょう。加えて、金氏を利用して会談で素晴らしい演出ができると確信したのでしょう。トランプ氏は、金氏に向かって親指を立てて「グッド」のサインを出しました。握手は単なる挨拶ではなく、交渉の入り口と捉えているトランプ氏は、ゲームの最初から主導権を握るつもりだったのです。 今回の米朝首脳会談でトランプ氏は、明らかに非核化よりも演出を強く意識した行動をとっていました。以下で、どのようにして演出力を発揮したのかについて説明しましょう。 第1に、会談成功の演出です。トランプ大統領は会談に出発する直前まで、「合意文書に署名することはないだろう」と述べていました。明らかに、会談に対する期待値を下げました。 ところが金氏との散策の最中、メディアに向かって「合意文書に署名する」と語ったのです。会談前は期待値を下げて置き、会談後は米朝が合意文書に署名ができたとアピールすることによって、会談の「成功」を演出したのです。 第2に、金委員長との関係づくりの演出です。トランプ大統領は、大統領専用車「ビースト(野獣)」の中を金氏に見せました。同氏は「ビースト」をのぞき込んでいました。 シンガポールに向かう直前まで、トランプ氏は会談の目的は、「互いを知り、人間関係を構築することになるだろう」と記者団の質問に答えていました。トランプ氏は、ビーストを使ってこれほどまで金氏と信頼関係が構築できたという演出を行ったのです。トランプ支持者を意識した共同声明と記者会見 第3に、金委員長に非核化の実行を促す目的で作成された4分間のプロモーションビデオです。非核化を受け入れた場合、北朝鮮がどのような経済繁栄をするのかを連想させる内容のビデオです。 ビデオの中で、非核化によってもたらされる経済的メリットを強調しています。電気インフラ、鉄道の整備、技術革新、医療の発達、リゾート地の開発などを挙げ、経済発展を成し遂げた北朝鮮の姿を魅力的に描いています。それらをインセンティブ(刺激・誘因)にして、非核化を実現させようという米国の意図が透けてみえます。 ビデオは「たった一つの瞬間」「一回の選択」と訴えて、機会損失をしないように金委員長に警告を発しています。5月24日の会談中止を告げた例の書簡においても、トランプ大統領は金氏に「あなたはチャンスを逸した」という一文で締めくくりました。ビデオの中で、金氏が大好きなバスケットボールの選手がダンクシュートを決める場面があります。同氏に対して、即座に大胆な決断を下すように強く働きかけているわけです。 第4に、タッチングと発言量です。握手と同様、タッチングは非言語コミュニケーションの中の動作に分類されます。一般に、目上の人が目下にタッチングを行います。 トランプ大統領は握手とタッチングを組み合わせて、自分が会談をコントロールしているという演出をしました。共同声明に著名を行った金委員長がトランプ大統領の背中に手を添えると、今度はトランプ氏が透かさずやり返す姿は、まるでタッチングの競争のようでした。さらに、発言量においてもトランプ氏が金氏を圧倒し、会談の主導権を握っている印象を与えたのです。共同声明の署名を終え、トランプ米大統領(右)の背中に手をやる北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長=2018年6月12日、シンガポール(ロイター) 第5に、米朝共同声明の署名後に12本の国旗の前で交わしたトランプ大統領の強引な握手です。トランプ氏は、金委員長の体が動くほど、強く同委員長の手を引っ張ったのです。会談の最後にトランプ流の握手を見せて、「強いリーダー」を世界に見せつけました。 トランプ大統領は、米朝共同声明で支持者を強く意識した声明を入れました。 「米国と北朝鮮はすでに身元が特定されている遺骨の本国への即時送還を含め、捕虜及び行方不明兵士の遺骨の回収を約束する」 トランプ氏はこの声明を発表できたことにより支持基盤の一角を成す退役軍人から高い評価を受けることは間違いありません。金氏の最大の収穫 記者会見では韓国に相談せず、コストを理由に「非核化交渉の間は米韓合同演習を中止する」と発表しました。在韓米軍は核保有の北朝鮮のみならず中国も視野に入れているので、北東アジアの安全保障にとって極めて重要であるというのが、外交・安全保障問題の専門家の見解です。 ところがトランプ大統領は、彼らとはまったく異なったパラダイム(ものの見方・考え方)に基づいて議論しています。率直に言ってしまえば、在韓米軍にかかるコストに反対するトランプ支持者を意識して発言したのです。史上初の米朝会談においても、トランプ氏は「支持基盤第一主義」を貫いたということです。 米朝共同声明には、「検証可能」「不可逆的」という文言は入りませんでした。非核化に関する期限及び具体的な検証の仕方に関しても一切触れていません。結局、今回の米朝会談で非核化についてトランプ大統領の本気度に疑問符が付きました。これまでは、北朝鮮の非核化のコミットメント(関与)に懐疑的でしたが、会談の「ショー化」にエネルギーを注ぐトランプ氏を見ると、同氏の本気度を疑うのは当然です。 マンマス大学(米東部ニュージャージー州)が実施した最新の世論調査(18年6月12-13日実施)によれば、「米朝首脳会談でどちらの国がより多くの利益を得たと思うか」という質問に対して、有権者のわすか12%が米国と回答したのに対して、38%が北朝鮮と答えました。 しかも、同世論調査では米朝会談でトランプ氏が「強く見えた」と回答した有権者は46%、一方金氏は45%で拮抗しています。演技力と発言力の双方でトランプ大統領が金氏を上回っていたのにもかかわらず、米国の有権者は同大統領に厳しい評価を下しています。 確かにトランプ大統領の米韓合同演習中止の発表は、金氏にとって収穫でした。だたそれのみではありません。トランプ米大統領(右)と北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長=12日、シンガポール(ロイター) トランプ大統領は、米朝首脳会談後の記者会見で日本及び韓国に経済支援の費用を期待していると述べました。帰国後、米FOXニュースとのインタビューの中で、金氏について「我々はケメストリー(相性)がとてもいい」と4回も語り、両首脳の良好な関係を強調しました。 金氏はすでに外交・安全保障において、習近平国家主席を後ろ盾にてしています。加えて今回の会談で、同氏はトランプ氏を経済支援の後ろ盾に得ることに成功しました。これが、同氏にとって最大限の収穫であったわけです。うんの・もとお 明治大学教授、心理学博士。明治大学政治経済学部教授。心理学博士。アメリカン大学(ワシントンDC)異文化マネジメント客員研究員(08~10年、12~13年)。専門は異文化間コミュニケーション論、異文化マネジメント論。08年及び12年の米大統領選挙においてオバマ陣営にボランティアの草の根運動員として参加。16年米大統領選挙ではクリントン陣営に入る。著書に「オバマ再選の内幕―オバマ陣営を支えた日本人が語る選挙戦略」(同友館)など多数。

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    拉致解決ないなら安倍氏は米と決別しようが北への支援拒否を

    き、2012年に再登板すると、「拉致被害者は私の内閣で最後の1人まで救出する」「拉致の解決がなければ北朝鮮との国交正常化はありえない」、そう国民に誓った。 拉致解決は安倍氏の政治家としてのレゾンデートルであり、だからこそ、米朝会談が日程にのぼると自ら拉致被害者家族に何度も面会して解決への努力を約束した。 しかし、トランプ大統領が金正恩氏と和解すれば、首相は重大な決断を迫られる。保守派の国際政治学者・藤井厳喜氏が日本にとっても、安倍首相にとっても「最悪のシナリオ」をこう予告する。「トランプがもし米朝首脳会談で拉致問題に言及しても、金正恩が応じるとは思えない。それでも、核ミサイル交渉が進展すれば、米国は拉致問題が解決していなくても日本に経済支援の実行を求める可能性が高い。『拉致の解決がなければ北朝鮮との国交正常化はありえない』と誓った安倍首相は、拉致問題の解決をいったん棚上げして日本外交の基本である米国との協調を選ぶか、あくまで政治信条を貫いてトランプに『北への支援はできない』とNOを突きつけるかの板挟みになる」 保守派は安倍氏の決断を期待を持って注視している。藤井氏はこう見る。「ここで安倍首相が弱腰を見せれば、金正恩氏に舐められて拉致被害者の全員帰国など望めない。それ以上に、拉致問題を政治的に利用してきたという批判にさらされ、被害者家族も失望する。拉致の安倍が本物であることを国民に示すためにも、安倍首相はトランプと決別することになろうと、『これだけは米国の頼みでも譲れない。日本は北が拉致被害者全員を返すまで、1か国でも経済制裁を続けて経済支援は一切行なわない』と必ず言ってくれるはずです」ホワイトハウスでトランプ米大統領の出迎えを受ける安倍晋三首相=2018年6月8日、(ロイター) 戦前、列強による日本包囲網の中で国際連盟に乗り込んだ松岡洋右外相は、有名な脱退演説を残して席を立った。「アメリカ人には、たとえ脅かされても、自分の立場が正しい場合には道を譲ったりしてはならない。対等な立場を欲するものは、対等な立場で望まなければならない」 しかし、いまや対米協調は国益と深く結びついている。安倍首相がどう決断するか。その答えは間もなく国民の前に明らかになる。関連記事■ 安倍首相への進言 「米朝和解なら6か国協議を脱退せよ」■ 米朝首脳会談 安倍首相は舞台に立てぬまま外交的敗北■ 高須院長 米朝会談で指摘「韓国は相当空気が読めてない」■ 北朝鮮の非核化による融和ムード 数年後に自ら壊す可能性も■ 昭恵夫人 安倍家の親族会議で「離婚しない!」と叫ぶ

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    米朝の相互不信 演出された首脳合意や協定では解消できない

    島の戦争捕虜/行方不明兵の遺骨回収──。これらの項目のうち(4)は過去に行われていたものであるため、北朝鮮側へ多額の費用を支払えば、すぐにでも実現できるため、トランプ氏は自分の宣伝に使うことができる。 首脳会談後に行われた、この共同声明に関する記者会見でのトランプ氏の発言は、残念ながら言い訳と自己弁護にしか聞こえなかった。記者会見を見ていて、首脳会談前に板門店で行われた米朝実務協議の難航ぶりが想像できた。ワーキングランチを前にカペラホテル内を並んで歩くトランプ米大統領(左)と金正恩朝鮮労働党委員長=2018年6月12日、シンガポール南部セントーサ島(ロイター)「戦争ムード」だった1年前 終始笑顔の二人だったが、1年前(2017年6月12日)を振り返ってみると、マティス米国防長官が議会で、北朝鮮を「平和と安全に対する最も緊急かつ危険な脅威だ」としたうえで、もし外交交渉が失敗し、軍事力を行使することになれば深刻な戦争になるだろうとして強い懸念を示していた。 今回の首脳会談が、このような懸念を払拭する第一歩となったのは確かだ。1年前は「米朝開戦説」を専門家やジャーナリストがまことしやかに流布していた時期だったこともあり、トランプ氏と金正恩氏が笑顔で握手することになるとは、誰も想像していなかっただろう。 しかし、今年11月の中間選挙を考えると、トランプ氏が「予測不能」な決断をすることは予想できた。これからも北朝鮮との「予測不能」な「政治ショー」が続くのだろう。 共同宣言には、当初の予想に反して「朝鮮戦争の終結」は含まれていなかった。しかし、避けては通れない問題であるため、本稿では「終戦」の難しさについて触れておきたい。空文化している休戦協定空文化している休戦協定 朝鮮戦争の休戦協定は、締結(1953年7月27日)から2か月も経っていない9月18日に北朝鮮兵が韓国へ侵入して以降、戦闘機やヘリコプターの撃墜、銃撃戦などが続いたことで、空文化した。 非武装地帯の中央を走る軍事境界線を挟んで、時には越境して小規模な武力衝突が繰り返されてきた。これは長きにわたる低強度紛争といえる。その結果、休戦後からこれまでに、米軍は80人、韓国軍は405人以上が北朝鮮軍との「戦闘」により死亡している。北朝鮮軍も857人以上が死亡している。 今日も韓国軍・在韓米軍と北朝鮮軍の、軍事境界線を挟んでの対峙は続いており、その緊張状態は「休戦」とは程遠い状態にある。毎日24時間態勢で米軍の偵察機が北朝鮮軍の動向を監視しているだけでなく、今夜も夜通しで韓国陸軍の偵察部隊が非武装地帯のなかをパトロールしているはずだ。 これまで、実態として「休戦」が存在していなかったので、「休戦」もできていない状態なのに「終戦」を宣言されても、どのような状態になるのか想像がつかない。「終戦」となっても軍事境界線を含む非武装地帯は解消されず緩衝地帯として残るだろうし、韓国軍と在韓米軍による偵察活動も継続されると思われるからだ。 また、「終戦」とするのであれば、北朝鮮軍は非武装地帯付近に大量に配備している長射程砲を削減する必要があるし、韓国軍・北朝鮮軍双方が戦略兵器を削減する必要もある。しかしこれは、非核化が完了するまで実現することはないだろう。板門店で抱き合う北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長(左)と韓国の文在寅大統領=2018年5月26日(韓国大統領府提供、AP) 一般にいう「朝鮮戦争の終結」が具体的にどのような状態を意味しているのか分からないが、休戦協定を平和協定に転換し、韓国軍と北朝鮮軍を削減し、非武装地帯を解消するなど、全面戦争に備えるものを完全に撤去することは不可能に近い。 朝鮮半島の非核化と朝鮮戦争の終戦が実現できないのは、米国への不信感が根底にあるためなので、切り離して考えることはできない。 つまり、米国と北朝鮮の敵対関係は、首脳同士の個人的な信頼関係や合意や協定で解消できるものではなく、軍備の削減など物理的な側面からも、相互不信が完全に解消されるまで終わらないのだ。●文/宮田敦司(朝鮮半島問題研究家)関連記事■ 北朝鮮の高校生に金正恩氏をどう呼ぶか? と聞いてみたら…■ 米朝首脳会談報道に見る各局キャスターの悲喜こもごも■ 拉致解決ないなら安倍氏は米と決別しようが北への支援拒否を■ 撮影場所は平壌 街頭で見つけた北朝鮮の美女たち■ 北朝鮮大学生 「金正恩を陰では『子豚野郎』と呼んでいる」

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    どうなる? 米朝首脳会談

    2018年6月12日、史上初めてアメリカと北朝鮮の首脳が対面した。会談の目的は朝鮮半島の非核化だが、トランプ大統領と金正恩委員長はギリギリまで駆け引きを繰り広げた。会談の成否は、東アジアの秩序に多大な影響を与える。世界が注目する両首脳の思惑を読む。

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    トランプは金正恩に「日本の100億ドル拠出」を約束する

    西岡力(麗澤大学客員教授、モラロジー研究所教授) ついに米朝首脳会談が実現する。主要議題は北朝鮮の核・生物化学兵器・弾道ミサイルの廃棄だが、日本にとって絶対に譲れない拉致問題もトランプ大統領は取り上げると約束した。どのような結果となるか、痺(しび)れる思いで見つめている。 私はこの間、米朝首脳会談の結果は次の三つの可能性があると主張してきた。 ①米国が中途半端な譲歩をしてしまう可能性だ。大陸間弾道ミサイル(ICBM)の即時廃棄など目の前の成果に固執し、核などの廃棄については原則的に口約束だけでよしとしてしまうことなどが考えられる。これまで北朝鮮は1992年に南北非核化宣言、94年に米朝ジュネーブ合意、2005年に6カ国協議共同声明などで核の完全廃棄を約束したが、見返りを先に受け取った後、その約束を破棄してきた。同じことが繰り返される危険がある。 ②北朝鮮が核・生物化学兵器・弾道ミサイルのCVID(完全で検証可能かつ不可逆的な核廃棄)を受け入れる可能性だ。金正恩がそれを行う声明を出し、米国の情報機関と軍が北朝鮮に入って、核爆発物質(濃縮ウランとプルトニウム)、起爆装置、ウラン濃縮施設の核心部品、ミサイルの推進装置などを米国に持ち出すという作業が始まる可能性だ。 リビアのムアンマル・カダフィ大佐は2003年12月に核廃棄を宣言し、翌年1月に米軍輸送機がリビアから核物質、ウラン濃縮施設の核心部品、ミサイルの推進装置を米国に搬出し、3月に米軍輸送船がウラン濃縮装置、ミサイルなどを持ち出した。まさに短期間でのCVIDが実行された。 ③交渉が決裂する可能性だ。トランプ大統領は金正恩と会って彼がCVIDをする気がないと分かればすぐ席を立って帰るという意味のことを繰り返し話している。そうなれば昨年9月下旬から11月まで米軍が自衛隊のサポートを受けつつ最高度に高めた軍事緊張が再びやってくるだろう。シンガポールに到着した金正恩・朝鮮労働党委員長=2018年6月10日(ロイター) 昨年10月、金正恩は米軍が本当に「斬首作戦」、すなわち金正恩暗殺作戦を実行する危険が高まったと恐怖にかられた。秘密にしている自分の所在情報が米軍に漏れているのではないかという強い危機感を持ち、米軍が斬首作戦を実行する場合、自分の側近をスパイにするはずだと側近らに対する疑心暗鬼にとらわれたという。 それで2017年10月7日に労働党中央委員会総会を開き、唯一信頼できる肉親である妹の金与正(キム・ヨジョン)を新設した当部署の責任者に抜てきして、金正恩の全ての日程と行事の安全管理、党、軍、政府全ての幹部人事を任せたという。 与正は同総会で政治局員候補になったが、これは表向きのことで実際は事実上の権力ナンバー2になった。与正は金正日(キム・ジョンイル)時代に最強の権力をふるった組織指導部の老幹部らを含む金正日時代の幹部を全て取り換えて、若い世代で金正恩、与正に忠誠心を持つ人材に交代させる作業を昨年秋以降精力的に進めてきた。100億ドルは「見せ金」 2017年2月に党組織指導部検閲によって金元弘(キム・ウォンホン)国家保衛部長が解任されて以降、金正恩政権は党組織指導部が支えていた。ところが金正恩は組織指導部さえも信頼できなくなり、同部出身で序列2位だった黄炳瑞(ファン・ビョンソ)軍総政治局長を11月に解任した。 また組織指導部第1副部長として張成沢(チャン・ソンテク)の粛清などを主導した趙然俊(チョ・ヨンジュン)を同部から左遷して党中央検閲委員長という閑職に追いやった。10月7日の中央委員会総会で崔龍海(チェ・リョンヘ)が序列2位に上がり組織指導部長に就任した。しかし、崔は形式的な部長であって、幹部人事など重要案件は崔ではなく与正が仕切っているという。 与正はトランプ政権が斬首作戦を実行する意思と能力を確実に持っていることを知っている。したがって、上記三つの可能性のうち③の決裂だけは徹底的に避けようとするはずだ。 そうなると①と②のせめぎ合いになる。日本の最大の関心事である拉致問題は、トランプ大統領が訪米した安倍晋三首相に約束した通り、議題となるだろう。そこでトランプ大統領は金正恩に②を迫るに当たり、それを本当に実行すれば斬首作戦は放棄するし多額の経済支援を行うという鞭(むち)の放棄と飴(あめ)の提供を提案するだろう。 トランプ大統領は「金正恩がCVIDを実行すれば、豊かな朝鮮が実現する」と話しながらも、米国は金銭的支援を行わないと釘(くぎ)を刺し、日韓中が支援すると言っている。安倍首相は6月8日、日米首脳会談後の記者会見で、拉致問題について次のように語った。 「最終的には私と金氏で直接協議し、解決していく決意だ。問題解決に資する形で日朝首脳会談が実現すればよい。日朝平壌宣言に基づき不幸な過去を清算し、国交を正常化し、経済協力を行う用意がある。できる限りの役割を果たしていく」 安倍首相は拉致問題の解決とは全被害者の即時帰国だと繰り返し表明してきた。つまり、②が実現した場合、日朝首脳会談を開いて全被害者の即時帰国を迫り、それが実現すれば「日朝平壌宣言に基づき不幸な過去を清算し、国交を正常化し、経済協力を行う」と明言している。 2002年9月に平壌にいて、現在は韓国に亡命している党や政府の複数の元高官は私に「当時、小泉政権は早期に国交正常化をして100億ドル規模の経済協力を行うと約束した。ただし、現金で払うのではなくプロジェクトへの出資という形をとるのが条件だとされたので、党と政府の経済部署にプロジェクト案を作れという指令は下った」と証言している。 金正恩は父の死後に後継者になってから、父ができなかったこの100億ドルを日本から取ることで、父の権威を乗り越えたいと考えていたという。金正恩政権は100億ドルが取れなかった一番大きな原因は核開発を問題にして日朝国交に反対した米国の干渉だと総括し、金正恩は核ミサイル開発を続けながら米国の反対をかわしてどうしたら日本から100億ドル取れるか、「この難しい詰将棋を俺が解いてみせる」と数年前から話していた。ホワイトハウスでトランプ米大統領の出迎えを受ける安倍首相=2018年6月7日、ワシントン(ロイター=共同) 金正恩の狙いを安倍首相とトランプ大統領は十分承知し、CVIDを飲め、飲んだら平壌宣言に戻って100億ドルもらえる可能性が開けるというメッセージを送っているのだ。トランプ大統領の立場では、自分が金正恩と行う取引(ディール)の中に日本が出す100億ドルを見せ金として組み込んでいるのだ。トランプ大統領が拉致問題を取り上げると約束したのは、安倍首相の熱意や人道主義の立場だけではない。自国第一主義の立場から米国の財布は開かず、かわりに日本のカネをディールに使おうと考えているのだ。 しかし、米朝首脳のディールに拉致問題が組み込まれたこと自体、日本から見ると大きな外交成果だ。米国の軍事圧力を拉致解決の後ろ盾に使うことができる構造を作り上げたことになるからだ。 いよいよトランプ、金正恩会談が開かれる。私は痺れる思いでシンガポールを見つめている。

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    習近平よりトランプ、金正恩「屈辱の選択」が意味するもの

    重村智計(東京通信大教授) ドナルド・トランプ米大統領と北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長は12日、歴史的な米朝首脳会談に臨む。朝鮮戦争が終結し、歴史から最後の冷戦対立地域が消える。日朝首脳会談も実現するだろう。 ただ、北朝鮮の核放棄の終着点は、なお見えない。核の完全廃棄には、5年以上の時間と膨大な資金がいるからだ。  北朝鮮は、トランプ大統領が2年後に任期を終え再選はないと読む。大統領が変われば、核再開発の可能性が出てくることを期待しているのである。それを踏まえても、シンガポールでの首脳会談は「トランプ大統領の勝利」に変わりはないのである。 指導者の政治力は、サプライズの力で判断される。日本なら、小泉純一郎元首相がサプライズの天才だった。指導者の決断による、世界をあっと驚かせる提案や合意といったサプライズがないと、会談は失敗に終わる。トランプ大統領と金委員長は、相手の出方に合わせたサプライズを準備していたのである。 金委員長が、全てのミサイル発射台を破壊し核兵器の全面廃棄を約束して、核弾頭と科学者の海外移転に合意、日本人拉致被害者全員の帰国を応じれば、歴史的なサプライズだ。 トランプ大統領も、在韓米軍撤退と平和協定締結、米朝国交正常化を表明し、首脳の相互訪問に合意すれば、世界に大きな衝撃を与えることができる。米国の平壌連絡事務所設立や、大使館の相互設置もサプライズになるだろう。 米朝の指導者がシンガポール入りするまで、実務交渉は最終合意に達していなかった。北朝鮮は全てを指導者が握り、外務省高官に決定権がないからだ。しかし、指導者の指示を受けて交渉し、再び平壌に指示を仰ぐやり方では、時間がかかってしまう。2018年6月11日、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長が宿泊しているシンガポールのセントレジスホテル前に集まった報道陣(松本健吾撮影) そのため、トランプ大統領と金委員長は会談の2日前にシンガポール入りすることを選んだ。2人の首脳が近くにいる環境で、最後の交渉に首脳が決断を下したのである。歴史の行方を決める「最後の1日」 だから、首脳会談は事実上11日で終わっていた。2人は示し合わせたように、10日にシンガポール入りし、11日に最後の決断を下していたのである。金委員長側近の金英哲(キム・ヨンチョル)党副委員長が、この構想をトランプ大統領のもとに運んでいた。指導者が同じ場所にいれば、決定は早い。歴史の行方を決める「最後の1日」となった。 北朝鮮が南北首脳会談と米朝首脳会談を「提案」した時点までは、金委員長のサプライズがリードしていた。その後、トランプ大統領が首脳会談に応じ、シンガポールの開催を認めさせる反撃で、トランプ氏が逆転した。ところが、米朝双方は後に「北朝鮮が首脳会談を提案しなかった」という事実を認めた。韓国が仕掛けたのだろうか、謎は残る。 金委員長は形勢を立て直すため、中朝首脳会談と南北首脳会談を相次いで行った。中韓の指導者を味方につけて、「朝鮮半島の非核化」と、譲歩のたびに見返りを得る「段階的解決」を公言し始めたのである。だが、トランプ氏は朝鮮半島ではなく、あくまで「北朝鮮の完全非核化」と「非核化後の見返り」の方針を変えず、米中と米韓の関係は悪化した。 トランプ大統領は、なかなかの役者だ。交渉が行き詰まる中、北朝鮮がペンス副大統領とボルトン大統領補佐官を「人間のクズ」などの激しい言葉で非難すると、すかさず「会談中止」の書簡を金委員長に送った。 この交渉術は見事としか言いようがない。北朝鮮との交渉は、会談中止か中断を覚悟しないと譲歩を勝ち取れないからだ。一方「大統領書簡」で、トランプ大統領は金委員長を非難せず、「感謝」の言葉を3回も使う巧みな配慮も忘れなかった。 慌てた北朝鮮は「会談再開」を伝え、金副委員長をワシントンに送り、金委員長の親書を渡した。奇妙なことだが、この親書の内容は公表されていない。北朝鮮国内で公表されると困る内容だったのだろう。 金副委員長は、北朝鮮で「人の心を引きつける話術の天才」と評される。彼はトランプ大統領の心をつかみ、いくつかの願いを受け入れてもらうことに成功した。トランプ大統領は「最大限の圧力」の言葉は使わない、と明言し、親書の非公開にも応じた。2018年6月、米ホワイトハウスで北朝鮮の金英哲朝鮮労働党副委員長(左)と会談を終え、言葉を交わすトランプ米大統領(AP=共同) トランプ大統領の姿勢後退が報じられたが、あくまで北朝鮮軍部の反発を理解し、金委員長がシンガポールに来やすいように配慮したのである。 首脳会談のシンガポール開催は、ボルトン補佐官の提案だ。米国は、開催決定までの間、金委員長の軍部への指導力と北朝鮮内部の状況が情報機関の報告通りか確認しようとした。屈辱でも「会談」北朝鮮の苦境 実は、北朝鮮の指導者は、中国やロシアなど友好国しか訪問していない。もし、金委員長が遠く離れた場所に向かい、国を空ければクーデターが起きる可能性がある。また、北朝鮮軍部には米国が留守を狙って軍事攻撃する、との疑心暗鬼も生じる。北朝鮮がこうした不安を克服できるかを、見極めようとしたのである。 米国は、金委員長がシンガポール会談を受け入れたことで、北朝鮮の軍部を抑えることに成功したと受け止めた。朝鮮人民軍は、米国との核交渉と譲歩に強く反対していた。米国は、それでもシンガポールに来ざるをえないのは、国連制裁が効果を挙げている証拠だと理解した。 北朝鮮には途中給油なしにシンガポールへ移動できる飛行機はなく、中国が提供した。ホテルの宿泊代金の支払いにも問題が生じた。誇り高い北朝鮮にとって屈辱のはずだが、それでもシンガポールまで行かざるをえない状況が、北朝鮮の苦境を物語る。 朝鮮半島の国家は、李朝時代まで中国への「朝貢国家」であった。外交権と軍事権を中国に握られてきたのである。北朝鮮は、朝貢国家から脱却するために「主体(チュチェ)思想」を主張するようになる。 再び中国の影響下に組み込まれるのか、米国の影響力を取り入れるのか。北朝鮮はこの「歴史的選択」に直面し、米朝首脳会談に応じた。朝鮮半島全域に米国の影響力を呼び込み、中国の影響力を弱体化させる戦略を選んだのである。 一方、中国は、トランプ大統領の「反中政策」を緩和させるために、北朝鮮を利用しようと画策する。金委員長にシンガポール行きを促し、対米協力の姿勢を見せながら、北朝鮮が求める「非核化の段階的解決」を支援し、米国に対抗させようとしている。要するに、北朝鮮を「対米カード」に利用しているのである。 北朝鮮は、中国の影響力と支配から独立するためには、米国の影響力が必要だ。中国に完全に従わないためには、米国の支援も必要だ。中国国営通信新華社が2018年5月8日に配信した、中国遼寧省大連で会談する中国の習近平国家主席(右)と北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長の写真(新華社=共同) 「核保有国」のインドやパキスタンのケースを考えると、米国の友好国にならなければ、北朝鮮は「核保有国」とも認めてもらえない。だが、北朝鮮が米国と友好関係を築いて西側世界に近づくと、中国は当然反発する。微妙な駆け引きが、これから展開されるのである。 米朝首脳会談で、朝鮮半島全土に米国の影響力が及ぶ国際関係が初めて生まれる。朝鮮半島の国際関係は、新たな時代に入る。そして、日朝首脳会談が実現することで、拉致問題も解決に向かうであろう。

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    「親米国家」北朝鮮の誕生で日本の安全保障はこんなに変わる

    働党委員長との「世紀の対決」の注目ポイントは何か、考えてみたい。 今回の米朝首脳会談の結果次第では、北朝鮮とアメリカという「不俱戴天(ふぐたいてん)の敵」が「友好国」に一変する可能性を秘めている。実際、おそらく米朝首脳会談が始まる段階で「北朝鮮の非核化」とその見返りとなる「体制保証」という大きな「取引」の枠組みは決まっていると推測される。 ただ、枠組みをより具体的にさせ、友好国同士になるためには「敵」である米朝のどちらも相手に大きく譲歩する必要性がある。もし、譲歩が十分でなければ、米国側の経済制裁や軍事的圧力、北朝鮮の核・ミサイル開発の再開という昨年までの流れに戻ってしまうだろう。では、実際に何を米朝が譲ることになるのか。 米国側の「誘い水」ともいえる妥協のポイントは、すでに少しずつ明らかになっている。中でも、トランプ氏が日米首脳会談直後の記者会見で伝えたように、「朝鮮戦争終結宣言」は米国の考えるスタートラインのようである。北朝鮮に対する「敵視政策」を止めるという意思表示であり、あくまでも「協定」とかではなく、「宣言」ならしやすいという見方であろう。 また、米国の一部メディアがすでに指摘しているような米国の領事館や大使館を平壌に設立することで、人的交流を図り、米国が簡単に攻撃しにくいという状況を作り出すのが米国側の次の手でもある。人的交流の中には、同時に今後のトランプ氏の北朝鮮訪問や金正恩氏の米国訪問なども含まれるだろう。  ただ、こんなことはあくまでも序の口であろう。北朝鮮の体制保証はまず、非核化のペースと経済支援をめぐっての大きな攻防になるとみられる。 あくまでも、北朝鮮がもし、米国が望んでいる「完全で検証可能かつ不可逆的な廃棄(CVID)」に近い形で積極的で期限を切った非核化に取り組んだ場合、米国はかなり包括的な経済支援を行っていくのではないだろうか。2018年6月、シンガポールに到着し、バラクリシュナン外相(中央)と握手する北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長(バラクリシュナン氏のツイッターより、共同) 例えば、米国内に届くとされている大陸間弾道ミサイル(ICBM)だけでなく、日本や韓国に届く短・中距離のミサイルについても廃棄を決めた場合などは、経済制裁解除から始め、米国だけでなく、日本や韓国、中国と組んだ直接投資を広範に行っていくとみられている。北朝鮮の安い労働力を利用した工場進出だけでなく、豊かな鉱物資源の国際共同開発なども予想される。 利益相反になるかもしれないため、トランプ氏の家族が経営するホテルの建設は難しいかもしれない。それでも、韓国メディアが報じているように、トランプ氏の盟友である「カジノ王」シェルドン・アデルソン氏と協力した元山(ウォンサン)地域へのカジノ誘致なども有り得るかもしれない。日本には複雑な展開も この辺りの振興策はビジネスマンであるトランプ氏の本領発揮が期待される。だが、このような信じられない展開は、北朝鮮がどれだけ譲歩するかにかかっている。 一方で、日本にとっては複雑な状況もある。すでにトランプ氏は「経済支援の主体は日本や韓国、中国から」と公言している。 だが、言うまでもなく、日本にとっては「拉致問題が進展しなければ、経済支援はしない」という原則は崩したくない。安倍晋三首相が強調するように「拉致、核、ミサイル」の三つで北朝鮮が動かなければ、経済制裁解除や直接投資も動きたくないのが日本の立場だ。米朝関係が進展することで、日本は拉致問題解決のために、日朝首脳会談を急がないといけなくなる。 問題は経済関係だけではない。本格的に米朝の雪解けが進めば、日本の安全保障環境が劇的に変化するのは確実だ。「朝鮮戦争終結宣言」が「宣言」でなく「協定」となった場合、一気に国交正常化の動きが出る。 そうなれば、米朝には議会も関与する不可侵条約が締結されていくというのがシナリオとなる。当然、東アジアに残されていた「冷戦構造」も消えることになるが、必要がないはずの北朝鮮と戦うために配置している在韓米軍が縮小するという論理になっていくであろう。 実際のところ、在韓米軍は対中国の目的にも当然ながら利用されている。もし、在韓米軍が縮小される場合、縮小分だけ在日米軍の負担を大きくせざるを得ない。そのまま、日本の負担増につながってしまうのである。さらに、在韓米軍が大幅に縮小された場合、日本としては「前線」となってしまう対馬の防衛を自らが強化せざるを得ない状況になるのである。2018年6月7日、ホワイトハウスで行われた共同記者会見で握手する安倍首相とトランプ米大統領(共同) ただ、北朝鮮の狙いも複雑だ。北朝鮮が求める「朝鮮半島の非核化」には在韓米軍の撤退も含まれるという解釈が一般的である。だが、一部には別の解釈もある。例えば、北朝鮮が今後「親米国家」に生まれ変わった際には、中国を牽制したいという狙いのために、むしろ北朝鮮が在韓米軍の容認を望むという見方もあるのである。 このあたりをどう読み解くのか。日本としては注視し、状況に応じて機敏に対応すべきなのは言うまでもない。 いずれにしろ、「世紀の対決」の幕は今、まさに開こうとしている。その向こうに見えるのは、これまでとは全く別の風景かもしれない。

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    「同情するならカネをくれ」金正恩がプーチンを見限った理由

    名越健郎(拓殖大学海外事情研究所教授) 昨年まで一度も外遊したことがなく、世界の「のけ者」だった北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長が一躍国際舞台の主役となり、各国首脳がこぞって面会に動いている。朝鮮半島外交で出遅れたロシアのプーチン大統領も9月にウラジオストクで開かれる「東方経済フォーラム」に金委員長を招待しており、巻き返しに必死だ。 プーチン大統領は9月11~13日の東方経済フォーラムに、安倍晋三首相、韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領、中国の習近平国家主席を招待しており、金委員長が出席すれば、5カ国首脳が一同に会することになる。 シンガポールの米朝首脳会談で米朝関係に進展があれば、トランプ米大統領も飛び入りする可能性があり、その場合、歴史的な「6カ国首脳会談」の開催となる。そこでは日朝首脳会談も実現し、日本人拉致問題が一気に解決に向かうかもしれない。 米朝首脳会談に続く焦点は、ウラジオストクの「5カ国(または6カ国)首脳会談」となり、外交によるかけ引きが続きそうだ。こうした中で、プーチン大統領は朝鮮半島の緊張緩和、核問題解決で主導権を握ろうとしているかにみえる。 ロシアのラブロフ外相も最近、「北朝鮮非核化の最終段階で、すべての国が参加する多国間協議の開催は避けられない」と述べ、6カ国プロセスの主導に意欲を見せている。 ロシアは2014年のウクライナ危機後、欧米の経済制裁を受けて孤立が続くが、先のG7(主要7カ国)サミットでは貿易通商問題で欧米の亀裂が露呈。5月にはメルケル独首相、マクロン仏大統領、安倍首相が訪露した。今月14日からのサッカーW杯ロシア大会の主催もあり、一気に国際的孤立の脱却を狙っているようだ。プーチン大統領 積極的な朝鮮半島外交も孤立脱却戦略の一環だろう。朝露間では、5月末にラブロフ外相が9年ぶりに訪朝し、金委員長と会談。段階的な非核化の方向性で一致した。 ロシアでの報道によれば、W杯開会式には北朝鮮の序列ナンバー2、金永南(キム・ヨンナム)最高人民会議常任委員長が出席する。9月初めには、マトビエンコ上院議長が訪朝し、10月にロシア議会代表団が訪朝するなど、両国の交流が一気に活発化する。 ただ、金委員長が9月にウラジオストクを訪問するかどうかは微妙だ。金委員長は15年5月にもロシアの対独戦勝70周年式典に出席を計画していたが、10日前にドタキャンした経緯がある。 この時は、当時の玄永哲(ヒョン・ヨンチョル)人民武力部長(国防相)が金委員長の訪露準備で同年4月に訪露したが、帰国後公開処刑され、ロシア側が不快感を表明。その後、朝露関係は停滞していた。「脇役」にすぎないプーチン 外交経験に乏しい34歳の金委員長が、国際会議デビューを果たすのか、プーチン大統領や安倍首相ら首脳外交のベテランと渡り合えるのか。北朝鮮の改革開放を探る上で重要な試金石となる。 ロシアは北朝鮮核問題では、米国の強硬論をけん制し、対話による解決、段階的非核化を支持してきた。 プーチン大統領は6月8日、北京で習主席と会談し、北朝鮮の非核化に歩調を合わせて対応することで一致。北朝鮮が求める体制保証を中国とともに後押しする考えを示した。ウラジオストクに関係国首脳を集め、朝鮮半島外交で一気に主導権を握る野望がにじむ。 しかし、ロシアの朝鮮半島政策には「実力不足」も目に付く。第一に、中国はロシアが主導権を握ることを望んでおらず、中露は半島外交で一枚岩とはいえない。6カ国協議を主催してきた中国は、自らイニシアチブを取ろうとするだろう。 第二に、ロシアには北朝鮮に経済援助を行う能力がない。2015年の朝露貿易は往復8400万ドルにすぎず、57億ドルの中朝貿易の1・4%にすぎなかった。中国が石油や食糧の一部を無償供与するのに対し、ロシアは市場価格での決済に固執しており、援助能力はない。国連安保理決議を受けて、武器輸出も禁止している。 第三に、ロシアはソ連時代と違って、北朝鮮と利害を共有する同盟関係ではなく、後ろ盾でもない。シンクタンク「国際危機グループ」(ICG)が指摘したように、露朝関係は「実利に基づく制限された友好関係」と位置づけられよう。APEC首脳会議の写真撮影に向かうトランプ大統領(手前右)とプーチン大統領=2017年11月、ベトナム中部ダナン(共同) 日本は半島外交で出遅れたといっても、拉致問題が解決して関係が正常化した場合、大型援助を行うことが小泉純一郎首相訪朝時の日朝平壌宣言に明記されており、いずれ日本の出番が必ずくる。 しかし、ロシアには支援能力がなく、北朝鮮はそれを熟知していよう。北朝鮮からすれば、「同情するなら、カネをくれ」ということだ。 ロシアは半島外交で、反米外交を進め、日米韓の連携を阻止し、存在感を高めて孤立脱却を図ろうとするだろうが、しょせん影響力は限られ、「脇役」にすぎない。とはいえ、キーパーソンとなった金委員長の対応次第で、9月にロシアが関係国首脳会議を主催する可能性もあり、見逃せない展開となってきた。

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    北朝鮮の「体制保証」と「人権改善」は両立できない

    崔碩栄(ジャーナリスト) 6月12日、米国と北朝鮮のシンガポール首脳会談が近づいている。一度はトランプ米国大統領の中止発表で無くなった思われた会談だが、北朝鮮側が積極的に開催の意志を示したことで会談の実施が決定、両国の実務陣が慌ただしく動いている。 5月27日からは板門店で米国側のソン・キム代表と北朝鮮側代表が事前調整を行い、北朝鮮の金英哲労働党副委員長が、米国を訪問し、トランプ大統領と面談をするなど、6月12にシンガポールで開催が予定されている日米朝首脳会談のための下準備が着々と進められている。 両国の要求は実に明確だ。米国が求めているのは、北朝鮮の完全な非核化であり、北朝鮮が求めているのは、金正恩の体制保証である。他にも、経済制裁解除、経済支援、北朝鮮の開放と人権問題、米軍駐留問題などの多くの事案が山積みだが、両国が最も重視している問題は「完全な非核化」と「金正恩体制維持」である。 会談において最も重要な話題はやはり「非核化」であろう。米国が迅速な「完全かつ検証可能、不可逆的な非核化(CVID)」を希望するのに対し、北朝鮮は時間をかけて少しずつ進めていく「段階的非核化」を主張。各国の専門家たちからはこの対立こそ会談の最大の障害物だと言われてきた。 しかし、トランプ米国大統領が6月1日米国で開かれた金委員長の最側近、金英哲党副委員長との面談で「時間をかけても構わない。速くやることも、ゆっくりやることもできる」と「段階的非核化」の引用する可能性を示唆したことで楽観論が広がっている。 もし米国が北朝鮮の段階的非核化を容認し、それに対する見返りとして、北朝鮮の体制を保証して、経済制裁を解除すればどうなるだろうか? 朝鮮半島から核と戦争の脅威がなくなり、南北が経済・文化交流を通じて繁栄を成し遂げる平和の時代が訪れるだろうか?ホワイトハウスで北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長の親書を金英哲党副委員長(左)から受け取るトランプ米大統領=6月1日(ホワイトハウス提供・共同) 少なくとも、文在寅政権をはじめとする北朝鮮に信頼と支持を送る人々にはそのように見えているようだ。しかし、北朝鮮の非核化と体制維持が実現されることはあっても、その結果として平和の時代が訪れることは不可能である。少なくとも北朝鮮という「国家」においては。なぜなら、北朝鮮の体制維持と北朝鮮の人権の改善は同時達成が不可能だからだ。 国際社会はこれまで北朝鮮の人権弾圧状況を批判し、改善を求めてきた。北朝鮮にある複数の政治犯収容所には8万人から12万人の政治犯とその家族が収監されていると推定されている。そして収容所内では、飢餓と強制労働、処刑、拷問、性的暴行、乳幼児殺害が頻繁に起きていることが、脱北者たちの証言によって明らかになっているのだ。 国連は、2006年以来、2017年まで毎年、北朝鮮人権決議案を採択し、北朝鮮の組織的な人権蹂躙を批判し、加害者処罰を促しており、米国国務省報告書は、「北朝鮮の住民は、政府を変える能力がなく、北朝鮮当局は、メディアと集会、結社、宗教、移動、労働の自由を否定するなど、住民の生活をさまざまな側面から厳しく統治している」と指摘している。自国民への過酷な弾圧こそ、金正恩体制維持の「必須条件」なのだ。金正恩がトランプより怖いもの 金正恩は執権してから無慈悲な粛清を続けてきた。自分の叔父の張成沢を始め、人民武力部長、内閣副総理、総参謀部作戦局長など執権6年間処刑と粛清された軍と党の幹部が数百人に上る。 一般国民についても同様である。脱北を試みて捕えられた人や国境地帯での密輸が見つかり逮捕された人はもちろん、韓国の歌、ドラマを所持したり、楽しんだという理由だけでも強制労働収容所に送られ、時には公開処刑が行われるなど、それは正に恐怖政治である。現在の金正恩体制を維持するためには、人権弾圧は続けるしかない。そうしなければ、体制の維持は不可能だからである。 徹底的に閉鎖された社会で生きてきた北朝鮮住民に開放と交流という経験は動揺をもたらし、それは自然に統治体制への不満と反発という連鎖を起こすだろう。金正恩にとってこれほどの脅威はない。もし米国が非核化の見返りに、金正恩体制の維持を保証したならば彼は依然として国民に閉じられた世界での生活を強いるに違いない。それすれば内部の動揺が広がることはない。しかし、北朝鮮内では何一つ変われず地獄のような状況が続くだろう。 もしかすると、金正恩にとって非核化より受け入れがたいのは、政治犯収容所の閉鎖と政治犯釈放などの人権問題かもしれない。核兵器が外部からの体制を守る「盾」だとすれば、恐怖政治と人権弾圧は、内部(自国民)の反発から体制を守る「武器」だからだ。 外部からの軍事的脅威より怖いのが、内部の反発から始まる体制の崩壊である。それは過去のソ連をはじめ東欧の共産国家が外部からの力の圧力ではなく、内部の反発と抵抗から崩壊した歴史がよく証明している。北朝鮮の立場からすれば、非核化より受け入れがたいのが自国内の人権問題への干渉かもしれない。 米国は人権にうるさい国だ。特に2016年に北朝鮮を訪問中に逮捕された後、脳死状態で釈放された直後に死亡した米国の大学生オットー・ワームビアの事件は、北朝鮮の凄惨な状況を世界に知らせ、米国民を怒らせするきっかけとなった。これを鑑みれば、米国が非核化の見返りに金正恩体制を保証することはまた新しいの非難を招くことになるかもしれない。会見に臨む北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長=2018年4月27日、板門店(韓国共同写真記者団撮影) 6月12日の会談で「非核化」の他に北朝鮮が米国に提示できるカードはない。一方、米国は「段階的非核化」という譲歩のカードだけでなく、経済制裁解除、経済支援など多くの魅力的なカードを持っている。 米国は果たして米本土攻撃の脅威を除去することに満足して、国際社会から非難される北朝鮮の人権弾圧を黙認するだろうか。それとも、非核化以外の厳しい条件を付けて、北朝鮮をさらに窮地に追い込むのか。米国の交渉術に注目する。チェ・ソギョン ジャーナリスト。1972年韓国ソウル生まれ。韓国の大学で日本学を専攻し、1999年渡日。関東地方の国立大学で教育学修士号を取得。日本のミュージカル劇団、IT会社などで日韓の橋渡しをする業務に従事する。現在、フリーライターとして活動、日本に関する紹介記事を中心に雑誌などに寄稿。著書に『韓国人が書いた 韓国で行われている「反日教育」の実態』(彩図社刊)、『「反日モンスター」はこうして作られた-狂暴化する韓国人の心の中の怪物〈ケムル〉』(講談社刊)がある。

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    米朝首脳会談 安倍首相は舞台に立てぬまま外交的敗北

    語りながら、日本が強く望んでいる拉致など人権問題については「今日は話していない」と断言。そのうえで「北朝鮮への経済協力は韓国、中国、日本がすると思う。米国が多額の資金支援をすることはない」と踏み込んだ。 商売人のトランプ氏は「拉致被害者が全員帰国するまでビタ一文出せない」という方針をとってきた安倍首相に、聞こえよがしに“NO”のメッセージを送ったのだ。 首相は急いで米国に飛んでトランプ氏と会談したが、外交専門家の間では安倍外交の孤立がはっきりしたと受け止められている。武藤正敏・元駐韓大使が語る。「安倍総理は拉致問題をなんとか米朝首脳会談の中に組み込んでもらおうとトランプ大統領に働きかけてきた。しかし、当事者双方の事情を見ると、それは叶いそうにないと考えられる。北朝鮮側は金正恩自身の命と国家の存亡を賭けた交渉で、一方のトランプ大統領は今秋に中間選挙を控えている。米朝ともに自分のことで精一杯で、日本の事情を考える余裕はない」安倍晋三首相=2018年5月14日、首相官邸(春名中撮影) 外交のプロから見てもトランプ発言は決定的だった。「トランプ氏が核・ミサイル開発と並んで拉致問題を重視しているなら、金英哲氏との会談で自ら拉致に言及し、本番の首脳会談で前向きな回答を用意しておくように求めてもおかしくなかったが、人権問題には言及さえしなかった。つまり、日本の方針とは逆に、拉致問題は棚上げで、制裁強化は先送りの方向に進んでいるということ。まさに安倍外交は孤立する形になっている」(同前) 北朝鮮は日米の離間に成功したと見るや、「拉致問題はすでに解決された」「過去にわが民族に与えた前代未聞の罪をまず謝罪し、賠償すべきだ」と外交的宣伝攻勢を掛けてきた。関連記事■ 北朝鮮外交に巻き込まれるな 安倍首相は「高みの見物」を■ 金正恩氏の「執事」の正体、五輪参加など北朝鮮外交影の主役■ 米朝首脳会談 壮大で愚かな「政治ショー」で終わる可能性■ 高須院長 米朝会談で指摘「韓国は相当空気が読めてない」■ 安倍昭恵さん、ロシア行きをめぐりけっこう批判出た

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    「報道しない自由」が北朝鮮をつけ上がらせた

    米朝首脳会談を前に一冊の本が衝撃を与えている。『メディアは死んでいた-検証北朝鮮拉致報道』(元産経新聞記者・阿部雅美著、産経新聞出版)。40年前、拉致事件を発掘し、21年前に横田めぐみさん拉致疑惑を初報した記者が、取材の経過とメディアが拉致をどう報じたか、赤裸々に綴ったのである。

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    1988年3月26日、メディアが死んだ日

    阿部雅美(元産経新聞社会部記者)(産経新聞出版『メディアは死んでいた-検証 北朝鮮拉致報道』より抜粋、再構成) 本書『メディアは死んでいた-検証 北朝鮮拉致報道』(元産経新聞社会部記者・阿部雅美著、産経新聞出版)は産経新聞に連載された《私の拉致取材 40年目の検証》に加筆したものである。連載中、読者からの反響で最も多かったのは、本書で繰り返し触れた《メディアが死んだ日》についての質問だった。 1988年3月26日。北朝鮮による拉致の疑いが十分濃厚――政府が8年前に産経が報じた一連のアベック蒸発に言及し、初めて北朝鮮の国名を挙げて国会答弁したにもかかわらず、この答弁を含む歴史的な質疑をメディアがこぞって無視、黙殺したのだ。 そんなことが本当にあったのか、という驚きの反応もあり、この事実が意外に知られていないことを知った。書籍化にあたりタイトルを『メディアは死んでいた』とした理由の一つだ。 当時、国会・参院予算委員会の記者席にいた各社の記者に取材して《メディアが死んだ日》の真相を明らかにしてほしいという要望も、「あなたは何もしなかったのか」という叱責とほぼ同数寄せられた。実は20年前にも、15年前にも、それを試みかけたことがあった。 しかし、報じなかったことについての他社への取材は至難だ。私の力には余る。《メディアが死んだ日》があったこと、この日の答弁内容を書き残すことで勘弁願いたい。 朝日新聞や共同通信のOBから提案、アドバイスもいただいたが、「北朝鮮はそんなこと(日本人拉致)はしない、と言い続けた(当時の社内の)○○らに筆誅を加えてほしい」という無理な注文もあった。 では、88年3月26日に何があったのか。 この日の参院予算委員会質疑で答弁した警察庁の城内康光警備局長は、共産党の橋本敦議員の質問に対し、78年7月、8月のわずか2カ月間に4組の若い男女のカップルが突然姿を消したことについて、明確に「事件」と認定。続けてこう述べたのだ。80年の産経報道から8年、アベック拉致疑惑が初めて国会の場で取り上げられた瞬間だった。《諸般の状況から考えますと、拉致された疑いがあるのではないかというふうに考えております》 続いて答弁に立った梶山静六国家公安委員長(自治相)は、それまでの質疑をくくるように答えた。梶山静六元官房長官。答弁当時は国家公安委員長兼自治相だった=1998年6月撮影《昭和53年以来の一連のアベック行方不明事犯、恐らくは北朝鮮による拉致の疑いが十分濃厚でございます。解明が大変困難ではございますけれども、事態の重大性に鑑み、今後とも真相究明のために全力を尽くしていかなければならないと考えておりますし、本人はもちろんでございますが、ご家族の皆さん方に深いご同情を申し上げる次第であります》報じられなかった歴史的答弁 これを通称「梶山答弁」という。拉致について一度も公式に言及していなかった政府、警察が初めて北朝鮮による日本人拉致疑惑の存在を認めた。それまで拉致については、言ってみればゼロ回答だったのだから、一歩踏み込んだというレベルの話ではなかった。 すでに拉致が周知のこととなっている「今」の視点からは、ごく当たり前の答弁に感じられるだろう。しかし「今」ではない。88年のことだ。 小泉純一郎首相の電撃訪朝で北朝鮮側が日本人拉致を正式に認める10年以上も前である。だが、この歴史的な答弁はこぞって報じられなかったのだ。 そもそも、私が書いた《アベック3組ナゾの蒸発 外国情報機関が関与?》の記事が、まだカタカナ題字だったサンケイ新聞一面に掲載されたのは80年1月7日。38年前だった。 横田めぐみさん拉致事件の初報となった《「20年前 13歳少女拉致」 北朝鮮亡命工作員証言》の記事が漢字題字の産経新聞一面に掲載されたのは、それから17年後、97年2月3日のことだった。 浜辺で楽しく語らう若い男女、下校途中の少女、買い物に出かけた母娘らが次々に襲われ、工作船に乗せられ、海の向こう1000キロ近くも離れた北朝鮮へと連れ去られる―「ありえない事件」だった。しかし、拉致事件の特異さを際立たせているのは、そうした犯罪の形だけではない。1997年2月3日、産経新聞は北朝鮮による横田めぐみさん拉致事件を実名報道。この後、拉致被害者家族会が結成されるなど救出への機運は高まっていくことになる もう一つ、ある。繰り返された理不尽極まりない蛮行を日本社会とメディアが長く放置してきたことだ。 産経新聞の第一報は「虚報」とされ、この重大な人権侵害、主権侵害の国家犯罪への関心が広がることはなかった。大半の国民が、拉致は事実、という共通の認識を持つまでに、なんという長い年月を要したのか、思いもよらぬ曲折を経ねばならなかったのか。 人により拉致事件の存在を知った時期に10〜20年もの隔たりがあるのは、なぜなのか―。責の過半は新聞、テレビなどマスメディアの不報(報じないこと)が負うべきである、と自戒を込めて思う。 歴史に「もし」「たら」はないが、もし、あの時、メディアが一斉に報じていたら、今とは違う、今よりずっと良い結果に至っていたのではないか、との思いがぬぐえない。一度ならずあった契機に目をつぶり、拉致疑惑の存在を否定、黙殺し続けた事実を消すことはできない。 この間、産経新聞の一連の拉致報道に対する誹謗を幾度も見聞した。インターネット上にも事実と異なる情報が散見される。反論もせず、訂正を求めることもしてこなかった。通常、事件取材の経緯は明かさないのが原則だ。 しかし、拉致事件に限れば、どう取材したか、しなかったか、どう報道したか、しなかったか、が正しく記憶されるべきだと思うようになった。それらをも全て含めて拉致事件と考えるからだ。あべ・まさみ 1948(昭和23)年、東京生まれ。72年、産経新聞社入社。80年1月、「アベック3組ナゾの蒸発」「外国情報機関が関与?」の記事で拉致事件をスクープ、97年、「20年前、13歳少女拉致」で横田めぐみさん拉致を報じ、17年を隔てた2件のスクープで新聞協会賞受賞。

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    誰も目にしたことがない国会映像

    阿部雅美(元産経新聞社会部記者)(産経新聞出版『メディアは死んでいた-検証 北朝鮮拉致報道』より抜粋、再構成) なぜ、私は『メディアは死んでいた-検証 北朝鮮拉致報道』(元産経新聞社会部記者・阿部雅美著、産経新聞出版)を書いたのか。 日本海側で起きていた一連のアベック行方不明について「北朝鮮による拉致の疑いが十分濃厚」と述べた1988年3月26日の梶山静六国家公安委員長の答弁(梶山答弁)。雑談やオフレコの場ではない。無責任な噂話ではない。国会の予算委員会で政府が北朝鮮の国名をはっきりと挙げて、人権・主権侵害の国家犯罪が「十分濃厚」と答えたのである。 これは尋常なことではない。だれでもトップニュースと思うだろう。しかし、この答弁がテレビニュースに流れることは、ついになかった。 新聞は産経がわずか29行、日経が12行、それぞれ夕刊の中面などに見落としそうになる小さいベタ(1段)記事を載せただけだった。朝日、読売、毎日には一行もなかった。 マスメディアの拉致事件への無関心は、ここに極まった。まるで申し合わせでもしたかのように、足並みをそろえて無視したのだった。記事の扱いが小さいとか、遅い、というのではない。報じなかったのだ。 「メディアが死んだ日」という意味合いが、お分かりいただけるだろうか。 関係者によると、あの日、予算委員会の記者席では、いつも通り報道各社の記者たちが何人も傍聴していたそうだが、このときの答弁映像はニュース映像の宝庫であるはずのNHKにも残っていないと聞く。誰も一度も目にしたことがないはずだ。 歴史的な国会答弁の映像が日本のどこにも存在しない。不思議なことだ。 現在、NHKは拉致報道に相当熱心だが、長い間、拉致を無視し続けたように思う。個々の記者がそろって無関心だったわけではなかったことは、後年、NHKの研修会に招かれてプロデューサーや記者たちと話す機会があって知ったが、世紀が変わるまでの20年間、まともな拉致疑惑報道を視聴した記憶がない。2004年9月、衆院総務委員会を収録するNHKのカメラクルー(奈須稔撮影) NHKだけを責める気は毛頭ない。民放各社も同じだった。 「梶山答弁」自体は数行だが、この日の拉致関連の政府答弁全体が実は画期的なものだった。ただし、自分たち身内のことが国会で取り上げられたにもかかわらず、アベック3組の家族たちさえ、こうした質疑があったこと自体を、ずっと知らずにいた。取り返しつかぬ9年の「空白」 産経も詳報をしてきていないので、この機会に改めて紹介させていただいた。本書を書き始めた理由の一つでもあるからだ。 「梶山答弁」の無視―。長くメディアの世界の隅で働いてきたが、これほどまでに異様な経験は、この一度きりだ。 一体何があったのか。各社の記者が、なぜ原稿にしなかったのか、あるいは原稿は書いたが、本社サイドでボツにしたのか。 いや、突然、あの質疑を聞いても、拉致についての相当な予備知識、関心がなければ一体何のことなのか訳が分からず、原稿にしようがなかったのではないか。答弁の重大さに気づかなかったのではないか。そんな冷めた見方もあるが、「メディアが死んだ日」の真相は今もって分からない。 報道しなかったという事実が報じられるはずもなく、「梶山答弁」は事実上、幻、つまり存在しなかったことになってしまった。この間、9年。取り返しのつかない空白が生じた。 本書は私や産経の手柄話の場ではない。恥もさらす。 私自身、「梶山答弁」を報じた88年3月26日付産経夕刊掲載のベタ記事に気づかなかった。出稿部署を離れて整理部で仕事をしていた時期ではあったが、それは言い訳にならない。 翌日だったか、翌々日だったか、同僚記者に教えられて知った時点で、大きく紙面展開することを社内で強く主張すべきだった。政府が国会で北朝鮮による日本人拉致疑惑の存在を初めて認めた、となれば、他紙もテレビも、それなりの報道をせざるを得ないはずだった。2018年3月、拉致問題の解決に向け、安倍晋三首相(右)に決議文を手渡す家族会代表の飯塚繁雄さん(右から2人目)ら。中央左は横田早紀江さん(斎藤良雄撮影) 記者の常識からすれば、政府・警察にそれなりの確証がなければ「梶山答弁」にはならない。どんな確証なのか。これを契機に拉致取材合戦が始まる。新事実が次々に明らかになる―。世論が盛り上がる―。政府が動く―。北朝鮮が動く―。 そうはならなかったかもしれないが、いずれにせよ、意気地のない記者だったことを恥じ入る。 誤報、虚報とマスメディアに黙殺され、自分が取材したと親しい人にさえ言えずにきた、あの記事を政府、警察が国会の場で丸ごと追認したというのに、何もできなかった。しなかった。情けない話だ。 産経に限らず、1社だけが報じても世論にはならない。80年の産経記事の後追い報道はともかくとして、「梶山答弁」はマスメディアが拉致疑惑をそろって取り上げるべき最初の機会だった。この機を逃した意味の大きさは計り知れない、と今も思い続けている。あべ・まさみ 1948(昭和23)年、東京生まれ。72年、産経新聞社入社。80年1月、「アベック3組ナゾの蒸発」「外国情報機関が関与?」の記事で拉致事件をスクープ、97年、「20年前、13歳少女拉致」で横田めぐみさん拉致を報じ、17年を隔てた2件のスクープで新聞協会賞受賞。

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    人権問題に産経も共産党も朝日もない

    阿部雅美(元産経新聞社会部記者)(産経新聞出版『メディアは死んでいた-検証 北朝鮮拉致報道』より抜粋、再構成) 『メディアは死んでいた-検証 北朝鮮拉致報道』(元産経新聞社会部記者・阿部雅美著、産経新聞出版)では、拉致問題の解決に向けて奔走した人々も描いている。その一人が、元日本共産党議員秘書、兵本達吉氏だ。 「国会の共産党の人からですよ」。取り次がれた電話が、いつ、かかったのか。正確には覚えていない。 間違いだと思った。産経新聞社と日本共産党間の自民党意見広告掲載をめぐる訴訟は産経側の全面勝訴で決着していたとはいえ、仲直りしたわけではない。いわば犬猿の仲。電話などかかるはずがなかった。 「あんたが昔書いたアベック蒸発の記事、読んだよ。(松本)清張の小説より面白いな。わしも新潟、福井、鹿児島、みんな行って、家族に会ってきた。北朝鮮による拉致に間違いないんだよ」 いきなり、大きな声で、そう切り出す。自分のことを「わし」と言う思わぬ“同志”の出現に戸惑った。 それが橋本敦参議院議員(共産)の秘書、兵本氏との出会いだった。橋本議員は88年3月26日の「メディアが死んだ日」に、政府が初めて北朝鮮による日本人拉致疑惑の存在を国会で明言した梶山答弁を引き出したが、アベック拉致関連質問は秘書の兵本氏が現地調査を基に練ったことに疑いの余地はない。被害者家族の心痛描写など、実際に会って話を聞いた人にしか書けない。拉致疑惑を掘り起こした元共産党参院議員秘書の兵本達吉さん=2002年9月撮影 「『李恩恵』という日本から拉致された日本人女性から(日本人化)教育を受けました」 大韓航空機爆破事件で逮捕された金賢姫・元北朝鮮工作員の88年1月15日の記者会見での一言に刺激されて拉致事件に興味関心を抱いたという兵本氏。アベック連続蒸発を知り、新潟、福井、鹿児島へ出向いたのだった。 私に電話したのは、いつだったか、本書を書くにあたって兵本氏に確認した。 「梶山答弁からだいぶたってからだったよ」 もうすぐ80歳、私も70歳に手が届く。お互い記憶があいまいになる。それにしても京都大学生時代からの筋金入りの共産党員が、よく産経へ電話したものだ、と今でも思う。 《昭和53年以来の一連のアベック行方不明事犯、恐らくは北朝鮮による拉致の疑いが十分濃厚でございます》「メディアは、なぜ報道しないんだ」 せっかく画期的な梶山答弁を引き出しながらマスメディアに無視されたのだから、常人なら相当な打撃を受けたはずだが、それしきのことでめげる人ではなかった。 「そりゃ、ショックだったさ。なにしろ産経もベタ(1段記事)だからな。まあ、共産党の質問だから仕方ないけどね」 情報交換のため、時々顔を合わせるようになった。私は拉致事件の事実解明を続けてきたつもりだったが、兵本氏の関心は、その先、拉致された被害者たちを、どうやって日本に取り戻すか、にあった。当時、そんなことを考えていた人は、私の知る限り、兵本氏一人だけだ。 議員会館の部屋では共産党の職員が働いている。訪ねるたびに彼、彼女らの産経記者への視線が気になったが、兵本氏は、まるで意に介さなかった。 「拉致は主権侵害、人権侵害の重大犯罪だ。産経も共産党も朝日もない。メディアは、なぜ報道しないんだ」 同感だった。この迫力と情熱がやがて被害者家族を動かして家族会を結成することになる。 その一方で、日本共産党は、北朝鮮との関係を突然修復、兵本氏は党を除名されながらも、拉致被害者支援の活動を続けていったのだ。 少し脇道へ回る。だいぶ後の話だが、何人かの産経読者から「これは本当か」「ケシカラン」と問い合わせ、お叱りの電話を受けた。 関西の読者が郵送してくれた「知りたい 聞きたい 北朝鮮問題と日本共産党」という、共産党系の組織が配布したビラが1枚、今も手元にある。東京・渋谷区にある日本共産党本部=2017年10月(桐山弘太撮影)「拉致問題を早くから取材してきた阿部雅美産経新聞編集局次長(当時)」と私の名があり、「拉致疑惑をもっとも熱心に国会で取り上げてきたのは共産党の議員です。共産党と産経新聞は昔から仲が良くないのですが、これはそういう問題ではありません」という、どこかの場での私の発言が載っている。 梶山答弁を引き出した橋本質問を念頭に、そのような発言をしたことは事実だが、私にとって拉致疑惑に関しては兵本氏=共産党だった。兵本氏以外の共産党員と言葉を交わしたり、取材したりしたことは一度もない。 遅きに失したが、ビラの中の「共産党の議員」は「共産党の議員秘書、兵本氏」の誤りなので、この機会におわびして訂正しておく。あべ・まさみ 1948(昭和23)年、東京生まれ。72年、産経新聞社入社。80年1月、「アベック3組ナゾの蒸発」「外国情報機関が関与?」の記事で拉致事件をスクープ、97年、「20年前、13歳少女拉致」で横田めぐみさん拉致を報じ、17年を隔てた2件のスクープで新聞協会賞受賞。

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    横田早紀江さん「あの子が帰ってくる姿を見れば、それで十分です」

     産経新聞長期連載「私の拉致取材 40年目の検証」を大幅に加筆した『メディアは死んでいた-検証 北朝鮮拉致報道』(産経新聞出版)の著者、阿部雅美元産経新聞社会部記者が今年3月、拉致被害者、横田めぐみさん(53)=拉致当時(13)=の両親、横田滋さん(85)、早紀江さん(82)に取材した。 《取材は3月4日、川崎市で行われた。滋さんは杖(つえ)をつきながら、早紀江さんに支えられて姿をみせた》 阿部雅美氏(以下、阿部)「本当に懐かしい。ここに最初にうかがったのは1997(平成9)年1月でした」 《訪問は新潟市の自宅周辺で77(昭和52)年11月15日に行方不明になった横田さん夫妻の長女、めぐみさんについて取材するためだった》 阿部「自宅には滋さんが一人でいらして、現場の地図を描いて説明してくださった。行方不明になったときの地元紙の記事など資料も全部出していただいた。今でもよく覚えています」 《当時、「北朝鮮に拉致された13歳の少女」の情報があり、めぐみさんの可能性が高まると、元共産党議員秘書の兵本(ひょうもと)達吉氏が横田夫妻の自宅を探しだし、拉致の疑いを電話で一報していた》 横田早紀江さん(以下、早紀江)「阿部さんは当時からまったくお変わりなくて」 阿部「髪が真っ白になって年を取りました。今回は私の『最後の拉致取材』。そういう思いでおじゃましました」 早紀江「そんなことおっしゃらず、元気でいていただかないと。年を取ったのはお互いです。私たちなんて、本物の老人になってしまいました」 《集会などで顔を合わせることはあったが、じっくり話をするのは十数年ぶりのことだ》元産経新聞記者の阿部雅美さん(右)と対談する横田滋さん(中央)、早紀江さん夫妻(宮崎瑞穂撮影) 阿部「それで、兵本さんから連絡が来たとき、滋さんが『今日、なんだか変なことがあったよ』と早紀江さんに話す。『何なの』と聞くけど『うーん』と考え込んでいる。滋さんの柔らかく木訥(ぼくとつ)な人柄が出ている。そして、早紀江さんはすぐ『めぐみちゃんのこと?』と察した」 早紀江「実際に、めぐみちゃんのことだったから、余計にびっくりしたんですよ」 阿部「だいぶ前になりますが、80年に『アベック連続失踪』を産経が書いたとき、近所の方が『こんなのがある』と新聞を持ってきた。そのときも早紀江さんは『ひょっとしてめぐみちゃんもこれではないか』と思い、産経の新潟支局に足を運ばれた」 早紀江「すぐに、めぐみちゃんのことだ、と思いました。何も分からない中で、ピンとくるものがありました」 阿部「当時、アベックにこだわりすぎました。めぐみちゃん失踪のことは、まったく知らなかったし、たとえ知ったとしても、拉致と関連づけることはできなかったと思う」 《アベック連続失踪に外国情報機関(北朝鮮工作機関)が関与している疑いをスクープした記事は他のメディアから黙殺された。めぐみさん拉致疑惑が報道されるのは97年。約20年間、拉致問題は「氷河期」が続いていた》 阿部「アベック失踪や、めぐみちゃん拉致を記事にしたが結局、何も変わらなかった悔しさがある。もっと早く、しっかり拉致のことを書いていれば時計の針は早く進んだ。メディアがちゃんとしていれば、結果は違ったのではないか。報道しなかったことの責任も忘れてはいけない。日本社会全体もこの異様な歴史を忘れてはいけない」 早紀江「まさに、その通りだと思います。忘れてはいけないですね。拉致問題はなかなか動きませんが、当時、あれだけ動かなかったことが、一つの報道を通して動き始めた」 阿部「忘れてはいけないことは、まだあります。日本の海の守りの貧弱さも、その一つです」 《日本各地の沖合にたびたび出現していた不審船。海上保安庁法が改正されるなど、厳格な取り締まりに向けて舵が切られた2001年には、奄美大島沖で北朝鮮の工作船が海上保安庁の船と激しい銃撃戦となり、工作船が自沈する事件も発生した》 阿部「九州(奄美大島)沖の時にしっかり対応して以降、不審船事件はありません。日本がきっちりと対応すれば工作船なんて来られなかったし、拉致など起きえなかった」 早紀江「分かっている部分がありながら、そのままにしていたところもあるんでしょう。のんびりしていた、ということなんでしょうね」怒りが大きな力になった 《十数年ぶりに滋さん、早紀江さん夫妻に取材する機会を得た阿部氏。早紀江さんは、わが子を思う親の気持ちを吐露した》 阿部「拉致問題の記事について、事実じゃないことを言われることもある。見たこと、聞いたこと、実際にあった真実を、書き残したくて」 早紀江「私たちも同じです。あること、ないことを言われて悲しくなることもあります。夫(滋さん)は、だんだん危なくなってきてしまって。足腰に力が入らないから、ひっくり返っちゃう。立ち上がるのを手伝うのも結構、力がいる。うまく言葉が出ないのが本人は一番、辛いと思いますが…」 阿部「アベック連続失踪の記事を見て、産経新潟支局に行かれた時のことをもう少し聞かせてください」 《阿部氏が1980(昭和55)年1月に書いた記事は、アベック3組の失踪に外国情報機関が関与している疑いを指摘。記事の存在を知った早紀江さんは、めぐみさんの失踪と関係があるかもしれないと、すぐに産経新潟支局を訪ねたのだった》 早紀江「こんな変なことが起きているのか、と。失踪した方たちの写真まで残っていた。でも、支局の方は『13歳ですからね、そうじゃないと思いますよ』とおっしゃる。アベックと13歳の女の子では年の頃も状況も違うと。警察にも寄りましたが、『違うのでは』と、同じ答えでした」 阿部「当時は支局も警察も、そう答えざるを得なかったと思いますよ」 早紀江「めぐみはよく友達と自転車に乗って海岸に行っていたし、誰かに狙われていたのかもしれないとか、余計なことを考えて。この産経の記事のことを聞かなきゃだめだ。絶対これじゃないですか、となった」 《国家犯罪の気配を感じ取っていた早紀江さん。めぐみさん失踪から20年を経て直感は正しかったことが証明される》大韓航空機爆破事件、金浦空港に着いた金賢姫元死刑囚=1987年12月15日 阿部「97年1月に(元共産党議員秘書の)兵本(ひょうもと)(達吉)さんから電話が来た。その時点では、北朝鮮による拉致なんて思いもよらなかったんですね」 早紀江「まったく思っていなかったです。大韓航空機爆破事件が起きて、金賢姫(キム・ヒョンヒ)さんが連行されるのをテレビで見て、言わずにきましたが、実は、あの瞬間、まさか、もしかしてだけど、めぐみちゃんじゃないのかと。それぐらいに思ったんですよ」 阿部「96年に石高君(健次・元朝日放送プロデューサー)が初めて、めぐみちゃんのことを書いた。それが兵本さんに伝わり、具体的に消息になった」 《石高氏は韓国情報機関から「13歳の少女拉致」の情報を入手。雑誌「現代コリア」に情報を掲載した》 早紀江「それまでは、全くといってよいほど、何も分からなくて…」 阿部「情報の中にあった『拉致された少女は双子』という文言。実際はめぐみちゃんは双子の弟さんがいた。滋さんは双子と聞き、すぐ『めぐみに間違いがない』と思ったそうですね」 早紀江「半々でしたよ。夫も私も、確信めいたものがありつつも、本当に、そんなとんでもないことがあるものだろうかと、深く悩みました」 阿部「97年2月3日にめぐみちゃんのことが報道されるが、その前に、拉致されたとの情報は日本に来ていて、政府も知っている、となったわけです」 早紀江「警察にも情報が来ていたという話ですよね」 阿部「最初にお会いした頃、普通のやさしいお父さん、お母さんだと思った。いろいろご一緒しているうち『こんなに強く、子供のことを思って、親は身を削れるものなのだろうか』と感じ入った」 早紀江「親はだれでもそうなると思います。やりますよ。気が狂うほど。絶対に。振り返るとなぜ、がんばりすぎるくらいやれたのか、自分でもよく分からないことがあります。かわいそうなだけじゃなく、『こんなことが、この平和の中で、パッとやられてしまうのか』という現実への悔しさがあったように感じます。たくさんの人が次から次へと北朝鮮に連れて行かれ、何も分からないままにされている。そんな人生を歩まされている。それで本当にいいんですか、という怒りが大きな力になりました」できる限りを尽くした家族 《滋さん、早紀江さん夫妻への、阿部氏の取材は、被害者家族らの活動、思い、現状へと移っていった》 阿部「めぐみさんが北朝鮮にいると分かった後の方が、つらいという話もされています」 横田「正直、最初の20年以上に苦しかったですね。何も分からないより、分かっているのに何もできない方がつらいんです。別のつらさです」 阿部「何もできない政府、国家でいいのか。本当に悔しく思う。(ジャーナリストの)櫻井よしこさんもよく、そうおっしゃっていますね」 早紀江「櫻井さんには、本当に最初からご尽力いただいて」 阿部「1997(平成9)年11月にめぐみちゃん救出に向けて新潟集会をやりましたよね。私も壇上に登らせていただきました。あのころはまだ、評論家は拉致問題に触れなかった。拉致問題について、誰も相手にしてくれないときから、あの方はしっかり向き合ってくださった」 早紀江「櫻井さんやいろいろな方のお力添えがあったから、ここまで来られたと思います」 阿部「先日、私は強く衝撃を受けたんですが、『家族はやり尽くした』とおっしゃった」 早紀江「はい。もう、普通のおじさん、おばさん、一般庶民としては、よくここまでがんばれたな、と。自分でも不思議に思います。たくさんの人の前で話すなんて絶対に好きじゃないし。こんな人生、思ってもみなかったですよ。なんで、こんな力が出たんだろう、というか。でも、そういう時になったら力が与えられるし、言葉が与えられるし、やっぱり、神様はいるんだなと思いますよね」 阿部「だいたいの日本人は、早紀江さんを普通のおばさんとは思っていませんよ」 早紀江「だから、困ってしまう。私なんて、いつも周りを頼りにしているような人間だった。(生まれ育った)京都の地元の人たちは一番よく知っているから『あなたは何をやっているのよ』って(笑)」 阿部「拉致は終わったわけではなく、現在進行形です。そのときに、もう家族はやることはすべてやったと思われている」 早紀江「そうですね。私はいつも言っています。『まだアメリカに行かなきゃならないんですか』とか、『もういいんじゃないんですか』とかね…」 《家族は米国をはじめ各国の政府や国際機関などをたびたび訪れ、一刻も早い問題解決を訴えてきた。滋さんや早紀江さんら家族会の結成当初から救出運動に参加してきた親の世代が年老いた今、その役割はめぐみさんの双子の弟、拓也さん、哲也さんら若い世代に引き継がれつつある》2006年4月、ブッシュ米大統領(当時)とホワイトハウスで会談する横田早紀江さんと拓也さん 早紀江「私はいつも、はっきりお伝えしています。『後は政府がなさることではありませんか』と。でも『行っていただくのと、いただけないのとでは、違うんです』とおっしゃる。そう言われると大事なのかな、と思ったり。でも多くの家族の皆さんは年をめして、亡くなった方もいる。『苦労してきたんだから、もう、いいんじゃないんですか』とも申し上げています」 《救出運動に当初から参加してきた親世代は横田さん夫妻と有本恵子さん(58)=同(23)=の両親の明弘さん(89)、嘉代子さん(92)夫妻だけとなった》 阿部「40年過ぎました。なんでこんなにひどい国家犯罪を日本は許し、解決できないのか」 早紀江「本当に、いまだに分かりません。みんな、街の人たちも私に聞いてきます。『横田さん、なんでまだだめなの。何をやっているの』と。私が聞きたいくらいです。でも、国は何も教えてくださらない」 阿部「家族の方たちはやることはやった。相手がどんな国であろうが、さらわれた日本人を取り戻さないといけない。それが、政府、政治家の仕事です」 早紀江「私も最近、国会に呼んでいただくと、そればかり言っています。怒り狂って…。もう、つい、厳しいことを言ってしまいます。『皆さん、数年で(救出を)あきらめられるんですか』と。あきらめられないでしょう。拉致問題を乗り越えないと、日本は良くならないですよ」涙がかれるほど泣いた母 《阿部氏の横田滋さん、早紀江さんへの取材は、日本社会や政治の対応に移っていった》 阿部「日本社会は拉致に教訓を学び取らないと、被害に遭った方たちに申し訳が立たない」 横田「向こうの生活はとてつもなく辛いと思いますよ…」 阿部「先にも触れましたが、工作船に対して貧弱だった海の守り。拉致も含めて、防げたはずなのに、できなかった」 早紀江「新潟の海岸はすごくきれいなんです。あのことがある前は『早く海を見に行こう』なんて言って、みんな海が気に入っていました。家族で行った後は、『よかったね。きれいだね』とか言ってね。そこが、そんなことになっていた。このショックはたまらないですよ」 阿部「私も2回ばかり新潟の海に行きました。いい浜です」 早紀江「本当にきれいでした」 阿部「早紀江さんは政府や政治家をあまり批判されない」 早紀江「いえいえ。私も結構言ってしまっていて…。この間、(参議院議員で、元拉致問題担当大臣の)中山恭子さんにも言ってしまったんですけれど。『なぜこれほど一生懸命、お金をかけて、時間をかけて、人を集めて、政治家をなさっている方が、なんで皆さん、こんなにのんきなんですかね』と。『申し訳ありません』と中山さんがおっしゃって、『すいません、中山さんのことじゃないんですけれど』と。でも、本当にそう思いますよね…」 《全国の拉致被害者の家族が集まり、家族会が結成された当時(1997〈平成9〉年)の思いも振り返った》 阿部「東京を中心に政治家に働きかけるということで、半ば押しつけたみたいに(夫の)滋さんに家族会代表になっていただいた」2000年9月、森喜朗首相に北朝鮮日本人拉致被害者の救出署名簿を手渡すため首相官邸に入る被害者家族会代表で横田めぐみさんの父・滋さんと母・早紀江さん(小松洋撮影) 早紀江「夫は経理とかは上手なんです。銀行員だから。『でも、本当に代表なんてできません。経理はできますけれど、代表は勘弁してください』と。でも、そうなってしまって。それからも、本当にいろいろなことがありました。必死でしたね」 阿部「見事に、全身全霊で救出運動を引っ張ってこられた。最近、連載もあって、いろいろなところで講演します。若い人で拉致を知らない人が相当増えている。国民に今、言いたいことをお聞かせください」 早紀江「一番は、なぜ、解決しないのか。何をやっているのか、という思いが強いです。私たちも、本当のところがよく分からない。長い年月がたちますが、さほど変わらないじゃないですか。なぜこんなことを、ずっとやっているのか…。でも、阿部さんも含め、マスコミの方たちも、拉致問題のことをよく書いてくれました」 阿部「昔は本当に無視され続けた。でも、積み重ねてこられたことは決して無駄ではない。救出運動や報道が相乗効果を生んで人から人に伝わり、メディアも変わった。家族会が何をやっても報道されないときもあった。何もないところからここまできた。でも、今も各社の記者と話すと、みんな一生懸命にやっているのに、だんだん上に行くとおかしくなる。消えてしまう。そういう心配はあります」 早紀江「相当変わりましたよね。講演にお招きいただくと、いろいろと感じることがあります。『お母さんは強いですね』『本当に涙が出ます』と言われて。中学校で講演すると、生徒さんは純粋ですからね。涙を流して聞いてくれるんです。私はもう新潟でさんざん、泣いてきたから、最近は涙も出ません」 阿部「全国に解決を願う方たちがいらっしゃる。国民は拉致のことを理解している。だからなんで解決しないのか、と」 早紀江「だから、きつい言葉が出てしまうんです。『なんでこんな仕事(政治家)に就こうと思われるんですかね』と」 阿部「極端にいえば、裏取引でもかまわないです。相手はとんでもない国だと分かっている。こちらも、やるべきところをやって挑まないといけない」 早紀江「日本には賢い方がたくさんいらっしゃる。弁論の立つ人、こわもての人、知恵がある人、やさしく語りかけられる方。安倍(晋三)首相に選んでいただき、水面下でも、何でも、やっていただきたい。(事態が)動かないから余計に訳が分からなくなってきます」次の世代に積み残さないように 《阿部氏と早紀江さんは、拉致問題が長年、解決しない現状について、「異常だ」「絶対におかしい」などと語り合った》 阿部「昭和のかなり早い時期、朝鮮半島が分断したころから日本社会全体が北朝鮮に対して極めて甘かった。工作員が日本国内でたくさん捕まっているが、すぐに帰してしまう。工作船と同じように、日本がきっちり対応するのが分かれば、北朝鮮も考え方を変えたでしょう」 横田「日本は本当に不思議な国だなと、情けないくらいに思います。日本という思いがなくなっちゃって。悲しいですよ。その犠牲になっているわけですから」 阿部「僕はメディアの人間。とんでもない社説や記事が書かれたことも見てきました。そして政府も…。最初は『拉致なんてない。でっちあげだ』と。ところが、それがどうもあった、となると『10人ぐらいの(拉致被害者の)ことで』となる」 《「たった10人で日朝国交正常化交渉が止まっていいのか。拉致にこだわり正常化がうまくいかないのは国益に反する」。かつて、ある外務官僚が言い放った「見解」だが、いかに日朝国交正常化に前のめりになっていたかが分かる発言だ》 阿部「国民、ましてや13歳の少女が外国の犯罪集団ではなく、国家の意思として拉致された。これに対して、何もできない、しないというのは異常です」 早紀江「うちにも、いろいろな物が届きます。政権を批判するたくさんの手紙もきます。拉致問題をこんなに長い間、放置している国。このままだと、もっと嫌なことが起こるかもしれません。北朝鮮の問題だけではなくて、われわれの経験したような戦争…。何かは分かりませんが、ひどい災厄が訪れる気がしてなりません。拉致問題は次の世代に積み残さないようにしないと。阿部さんは小泉純一郎さんが日朝首脳会談をされた時、どう思われましたか」 阿部「そうですね…。下交渉の経緯や平壌宣言の中身などについて、まったく知りませんでしたから、北朝鮮があんなにあっさり拉致を認めて謝罪するとは思ってもいませんでした。驚きでしたね。ただし、小泉首相が意を決して敵陣に乗り込むわけですから、何も進展がないなどということが、あるはずはない。あってはならない。拉致について包括的な解決への道筋が開かれているのでは、という漠然とした期待感はありました。国民の多くも、同じだったでしょう。それがいきなり『8人死亡』ですから。期待感との落差の大きさに愕然(がくぜん)とした、というのが正直なところです」 阿部「実は、私は、帰国した方(拉致被害者)にお会いしたことがないんです。蓮池薫さんのお父さんの秀量(ひでかず)さんからは、今も達筆な年賀状をいただきます。1979(昭和54)年に最初に私が(取材に)行ったものですから、『恩人だ』と言っていただいて。でも、まだ(薫さんとは)会っていない。これはお願いなんですが、めぐみちゃんが帰ってきたら、ぜひ会わせてくださいね」2018年4月、安倍首相と面会した(右端から)横田めぐみさんの母早紀江さん、拉致被害者家族会代表の飯塚繁雄さん 早紀江「これからどうなっていくのか。なかなか、難しいですね。帰国できたら、大変なことだな、と思いますよ」 阿部「めぐみちゃんももう少しで帰ってくる気がしてるんです。どうかご夫妻も長生きされてください。拉致問題はいろいろな偶然が重なってここまできた。もう一回、日本のみんなが大喜びするような偶然が起こる。それをやっぱり、期待しますよね」 早紀江「そういうことが起きれば、日本中が幸せになりますよね。私は今、めぐみちゃんのことだけではなくて、拉致問題がしっかり解決されなければ、もっと良くない方向に行く気がしてなりません。拉致が解決されない日本って本当に、絶対におかしいですよ。それで、私もいろいろ言ってしまって…」 《滋さんは85歳。このインタビューの後の4月初旬、体調を崩して入院した。早紀江さんも82歳。集会や講演などで思いを語る機会はここ数年、激減している》ほほえみながら聞き入る滋さん《阿部氏による横田滋さん、早紀江さん夫妻への取材もいよいよ最終盤にさしかかった。1964年の東京オリンピックの年に生まれためぐみさん。どうして、「めぐみ」という名をつけたのか。2020年には再び東京にオリンピックがやってくる。家族は一日千秋の思いで肉親の帰りを待っている》 阿部「ご夫妻は、親子の絆とか、子供を思う気持ちとか、非常に濃い足跡を日本社会に刻まれてきました」 横田「一生懸命に産んで、育ててきたものをもぎ取られた。ただただ、それに対する怒りなんです。ものすごく悔しい。何もしてあげられなかったことが腹が立って仕方なくて。あんなに自由が好きだった子がこんなことになって本当に無念だと」 阿部「めぐみちゃんは自由奔放な感じがしますものね」 早紀江「だから、めぐみちゃんが死んでいるなんて、絶対にないと思えるんです」 阿部「めぐみちゃんが生まれたのは1964(昭和39)年の東京オリンピックの年。今回の連載は産経の社会部記者がチェックしたのですが、『めぐみちゃん』と書くと、『めぐみさん』に直されるんです。『ちゃん』はまずいです、と。でも、私には、やっぱり『めぐみちゃん』なんです。ところで、なぜ、『めぐみ』と名付けたのですか」 早紀江「男の子が生まれると思っていたんです。お医者さんにぜったい男の子と言われていて、『拓也』という名前にしようと思っていたら女の子。それで、名前をまったく考えていなくて夫と二人で、『早紀江という名前は字がややこしいから、平仮名がいいね』と話し合って。名前をたくさん並べて、最後に選んだのが、『めぐみ』でした。めぐみちゃんの次は男の子1人だと思っていたら、双子で、さあ大変。私たち夫婦は、いいかげんなものですよ」 阿部「僕はやっぱり、家族会が結成され、救出運動が動き始めたころが印象深い。ご夫妻と僕と、若かった安倍晋三さんが講演することがあった。ご夫妻が帰られる後ろ姿を見たとき、すごい親だな、と強く感じた。うまく言葉にできないんですが後ろ姿に、執念、思いのようなものを感じたんです」 早紀江「私は、家族会ができたときが心に残っています。阿部さんも含め皆さん、東京のホテルに集まって。立派な方たちがやってくださるんだな、と。結成直前に初めて顔をあわせたとき、これで、すぐにでも解決するだろうと思いました」 阿部「何もできず、本当に申し訳ないと思っています」 早紀江「そんなことはありません。ところで、安倍総理の取り組みをどうお考えですか」元産経新聞記者の阿部雅美さん(右)と対談した横田滋さん(左)、早紀江さん夫妻=川崎市川崎区(宮崎瑞穂撮影) 阿部「有本明弘さん、嘉代子さん夫妻が、娘の恵子さんの救出で駆け回っていた最初のときから拉致問題を知っている政治家ですから、期待も大きいのですが…。水面下の交渉でもいい。ただ、本当にやっているのかどうかも分からない。小泉(純一郎)さんはああいう結果で批判は浴びましたが、いろんな手を使って、動いたともいえる。とにかく取り戻す。それが最優先。ものすごいお金をふっかけてくるかもしれない。でも、そういう形でも話をつければ国民は喝采しますよ。知恵者もいて先の大戦の廃虚から復興した国なのにそれができないのかな、と不思議に思う」 早紀江「拉致問題に熱心な政治家もいるのに、前に進まないと、いらだつ思いもあります」 阿部「ご夫妻の救出運動は、めぐみちゃんにもしっかり伝わっていると思うのですが…」 早紀江「そこは分からない。めぐみちゃんが、どこにいるのか、本当のことは分からないでしょう。実際はどうなのか…」 《取材が終わりかけると、ほほえみながら聞き入っていた滋さんは、阿部氏と固く手を握り合った》 阿部「滋さんもうれしそうに笑われていた。どうかお元気で」 早紀江「頭では話を理解しているんですけれど、なかなか言葉が出ない。かわいそうです」 阿部「もうすぐ2回目の東京オリンピック。それまでに必ずめぐみちゃんに会いたいです」 早紀江「何があっても、もう、思い残すことはありません。できる限りのことはやりました。あの子が帰ってくる姿を見れば、それで十分です。また必ず、お会いしましょうね」

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    北朝鮮問題めぐる日中韓の駆け引き

    ある。 前者は、主に経済や人的交流を含む様々な分野に関する三国間協力について記述したものだが、若干、北朝鮮問題にも触れている。これら二つの文書を紹介しながら、日中韓首脳会談を前後して大きく朝鮮半島情勢が動いている状況を見ておきたい。 「我々は,朝鮮半島の完全な非核化にコミットしている。我々は朝鮮半島及び北東アジアの平和と安定の維持は,我々の共通の利益かつ責任であることを再確認する。我々は関係国の諸懸念に関する,関連国連安保理決議に従った国際的な協力及び包括的な解決によってのみ,北朝鮮にとって明るい未来への道が拓けることを強調する。中華人民共和国及び大韓民国の首脳は,日本と北朝鮮との間の拉致問題が対話を通じて可能な限り早期に解決されることを希望する。」(「第7回日中韓サミット共同宣言」より、出典:外務省ホーム・ページ) 「我々,日本,中華人民共和国及び大韓民国の首脳は,北朝鮮をめぐる現在の前向きな動きについてのこれまでの国際社会による全ての努力を評価する。日本及び中華人民共和国の首脳は,2018年4月27日の歴史的な南北首脳会談において,文在寅大統領と金正恩委員長の間で合意され,朝鮮半島の完全な非核化及び朝鮮半島における恒久的な平和体制の構築という共通の目標を確認した『朝鮮半島の平和と繁栄,統一のための板門店宣言文』を特に評価し,歓迎する。」 「我々,日本,中華人民共和国及び大韓民国の首脳は,南北首脳会談の結果を踏まえ,特に,来る米朝首脳会談を通じ,関係国による更なる努力が,地域の平和及び安定に向けた関係国の懸念の包括的な解決に貢献することを強く希望する。」2018年5月、日中韓首脳会談を前に記念撮影に臨む、(左から)安倍晋三首相、韓国の文在寅大統領、中国の李克強首相=東京・元赤坂の迎賓館(代表撮影) 「我々は,朝鮮半島及び北東アジアの平和と安定の維持は,我々の共通の利益,かつ,責任であることを再確認する。我々は,この目標に向かい,共同の努力を強化していく。」(「2018年の南北首脳会談に関する日本、中華人民共和国及び大韓民国の首脳による共同声明」より、出典:外務省ホーム・ページ) このように、一度の首脳会談(5月9日午前10時から11時15分)において、同時に二つの文書、「共同宣言」と「共同声明」が発出されたことは、注目に値する。いかに現在、朝鮮半島情勢が急速に動いていて、日本、中国、韓国、それぞれが関わって行くことが重要かを物語っている。とにかく動きは早い 今後の朝鮮半島情勢が、今以上に自国の国益に不利になっては困る、より自国の利益が増進されるように状況を持って行きたいと、様々な駆け引きが行われているのが現状であろう。 「共同声明」文では、4月27日の南北首脳会談を評価しつつ、「来る米朝首脳会談」に「強く希望する」旨が述べられた。その来る日が6月12日で、開催地がシンガポールであることが、日中韓首脳会談の翌日、5月10日、トランプ大統領のツイッターで最初に公表された。 この開催地と日時を決めてきたのが、トランプ政権のポンペオ新国務長官で、5月9日に、4月に続き金正恩との会談を行い、北朝鮮で拘束されていた3人の朝鮮半島出身米国人を解放させ、彼らと共に帰国した。 トランプ大統領が午前2時に空港に出迎える等、英雄扱いの3人はとても元気だった。かつて北朝鮮で拘束され解放、帰国後に脳の障害で亡くなったオットー・ワームビアさんとは、随分違う状況だった。 日中韓首脳会談が行われる直前の5月7-8日、金正恩労働党委員長は急遽訪中した。習近平中国共産党総書記と第1回の首脳会談を3月25-28日に行ってから、1か月余りでの、第2回目の中朝首脳会談である。 この焦り様は、兄貴分の中国の習近平総書記に何かを相談にしに行った気配だった。相談とお願いが終わるなり平壌で待っていたのは、前述したポンペオ長官との会談だった。 北朝鮮にお願いをされた習近平総書記は、ポンペオ長官が北朝鮮に着く前に、トランプ大統領と電話会談をしている。様々な取引、交渉が行われ、次々と朝鮮半島をめぐり物事が進んで行く。2018年5月24日、北朝鮮豊渓里の核実験場が廃棄される様子(朝鮮中央通信=共同) その過程での、日中韓の首脳会談だった。北朝鮮が、5月23-25日に核実験場を廃棄する際に、日本のメディアを入れないとしたり、日本との拉致問題には全く触れずにいたり、日本を無視するような態度を取っている中、日中韓首脳で朝鮮半島問題に協力して対処するとの共同文書が出来た意義は大きい。 6月12日の前後にも日米首脳会談は開催される予定だ。これらを通じて、日本の立場が今後の朝鮮半島情勢に反映されると良いのだろう。とにかく朝鮮半島をめぐる動きは早い。非核化のみならず、平和条約の締結もあり得るだろう。

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    金正恩の妹と横田めぐみさんの娘「学校も職場も同じ」説の真偽

    本のアニメキャラの絵を描いて学友に見せていたそうです。与正氏が党幹部であることが分かったのは3年前、北朝鮮国内のアニメ映画撮影所を兄とともに視察した際のこと。メモを片手に笑う姿が写真に残っており、アニメには強い関心があるようです」 もう一つ日本に関わる話がある。かつて、横田めぐみさんの娘のキム・ウンギョンさんと「同じ大学に通い、同じ政府機関の部署で働いていた」との情報が流れ、日本でも読売新聞(2014年3月18日付)が報じた。事実とすればめぐみさん救出のキーパーソンにもなり得るが、「拉致被害者家族と金一族を引き合わせることはあり得ない」(前出・辺氏)と否定的な見方が強い。「問題は、この話を流しているのが韓国の拉致家族会だということ。情報は金正恩政権の中枢から提供されており、めぐみさんの名前が出れば日本メディアが飛びつき、拉致問題の世論を動かせると考えたのではないか」(前出・五味氏)2018年5月26日、板門店で南北首脳会談に臨んだ韓国の文在寅大統領(左)と握手する北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長の妹、金与正党第1副部長(韓国大統領府提供・共同) この“情報工作”に与正氏自身が関与していたかは不明だが、宣伝と煽動に長けたロケットガールは、なかなか癖が強そうだ。関連記事■ 北朝鮮、ミサイルのカギ握る金正恩の美人異母姉の正体■ もし米朝戦わば 北朝鮮軍には実際どれだけ攻撃力があるのか■ 朝鮮総連“いわくつき京都の土地”が110億円で売却された■ 安倍首相 11月のトランプ会談後に“禅譲”の可能性も■ 北朝鮮のミサイル発射兆候 信頼できるのは“Aアラート”?

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    「米朝首脳会談中止」トランプの揺さぶりは正しい交渉術である

    重村智計(東京通信大教授) 米国のトランプ大統領は5月24日、米朝首脳会談の中止を表明し、北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長に書簡を送った。これに驚愕(きょうがく)した北朝鮮は「どんな方法であれ、対座して問題を解決する用意がある」との立場を表明し、米国に会談の再考を求めた。さらに、26日に急遽行われた2度目の南北首脳会談で、金委員長は「朝鮮半島の完全な非核化」の意思を韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領に伝えていたことが明らかになった。これで「トランプ大統領の勝利、金委員長の敗北」であることがはっきりした。 北朝鮮との交渉には一つだけ秘訣(ひけつ)がある。それは、交渉する側に「決裂してもいい」という覚悟がないと、北朝鮮に外交敗北を喫してしまうことだ。北朝鮮は、「成果を挙げたい」と焦る交渉相手のスキを突いて揺さぶりをかけ、譲歩を引き出すのである。 かつて1990年代に米朝核交渉で、北朝鮮の金桂寛(キム・ゲグァン)第一外務次官が、内容のない米国非難の「演説」を2日続けて行ったことがある。それを聞いていた米国のガルーチ元朝鮮半島担当大使は「交渉を打ち切る。大統領府と相談する」と述べ、席を立った。すると、金次官は出口の扉の前まで追いかけ、ガルーチ氏に「譲歩するから、もう1日交渉してほしい」と哀願し、翌日合意に至ったのである。 この経験から、北朝鮮との外交交渉は「会談を打ち切る」と断言できれば、北朝鮮は譲歩するという教訓が残った。だから、トランプ氏の「首脳会談中止」は正しい交渉術といえる。 「米朝首脳会談中止」の第一の原因は、北朝鮮がトランプ政権を甘く見て、からかい過ぎてしまったことにある。もう一つの原因は北朝鮮軍部の反発にある。軍の反発がなぜ中止につながったのか、北朝鮮の国内事情が分からないと謎は解けない。 トランプ大統領はこれまで「非核化に同意しなければ会談を中止するし、途中で席を立つ」と何度も明言してきた。北朝鮮は、このトランプ発言を「駆け引きにすぎない」と軽んじてしまったのである。実際、トランプ大統領は会談中止を決めた直接の理由について「(北朝鮮の)直近の声明で示された怒りとむき出しの敵意」であると、金委員長への書簡で明らかにしている。2018年5月25日、米朝首脳会談の中止に関するニュースを伝えるソウル駅の街頭テレビ(共同) 「直近の声明」とは、朝鮮中央通信が報じた、北朝鮮外務省の崔善姫(チェ・ソニ)外務次官による24日の「談話」を意味する。崔次官は、ペンス米副大統領が21日に「北朝鮮への軍事攻撃の選択を排除しない」と述べたことを非難し、「われわれは米国に対話を哀願しない」と表明した。 また、朝鮮中央通信は16日、金第一次官がボルトン大統領補佐官を名指しで非難し、北朝鮮の核施設やミサイルなどの解体が終了した後に制裁を解除する「リビア方式」の放棄を求め、「核、ミサイル、化学兵器の完全廃棄要求」に応じられないとの談話を報じた。相次ぐ強気の「談話」のウラ 相次ぐ強気の談話の背後には、平壌(ピョンヤン)で軍部が反発していた事実がある。その軍部を納得させるために「リビア方式」と「軍事攻撃」を非難する必要があったのである。 一方、米国の指導者は「やると言ったら実行する」人の集まりだ。だから、「非核化に応じなければ、首脳会談を中止する」「軍事攻撃も辞さない」という発言は、彼らの本音なのだ。米国の指導者や政治家は、嘘をついて国民をミスリードすると、責任を問われる文化がある。米国の政治文化を北朝鮮は理解できなかったのである。 さらに、「北朝鮮の外務次官風情が格上のペンス副大統領とボルトン補佐官を非難し、暗に更迭を画策するのは失礼にもほどがある」とトランプ大統領は怒ったのだ。こうして、北朝鮮の外交宣伝と工作戦術は自爆してしまったのである。 一連の「談話」問題の背景には、北朝鮮外務省の誤算があった。北朝鮮の2人の外務次官は、外務省の次官として「公式声明」を出したわけではない。権限も持たない「宣伝工作機関」の朝鮮中央通信が、2人の「談話」として報道しただけだ。 北朝鮮において「談話」とは、私的な主張や取材への回答を意味する。そこで、北朝鮮外務省は公式なものではないと言い訳できる余地を残していたのである。だから、まさか米国が談話を「公式声明」として対応するとは考えていなかった。 交渉相手が韓国や日本ならば「談話」でも動揺するが、北朝鮮は、トランプ政権がそんなヤワな相手ではないと思ってもみなかったのだ。つまり、「トランプ政権という異文化」への理解不足である。2018年5月24日、トランプ米大統領が北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長に宛てた、米朝首脳会談中止を通告する書簡(ロイター=共同) ところで、トランプ大統領の書簡に気になる表現があった。各紙の日本語訳が異なるので、どれが正しい訳かはわからない。「私たちは会談は北朝鮮が求めたものだと伝えられたが、それが見当違いだったということが分かった」(共同通信5月24日配信)。「我々は、会談は北朝鮮からの要求だと知らされていたが、それは全く関係ないことだ」(読売新聞5月25日) この2つの翻訳を比べると、共同通信の方が日本語になっている。読売は、意味がよくわからない。共同の翻訳通りなら、間に立った韓国が「首脳会談」に関して、何らかの嘘を伝えたのではないか、との意味になる。トランプ大統領「書簡」のナゾ つまり、金委員長が「首脳会談したいとトランプ大統領に伝えてほしい」と言ったのではなく、韓国側が「米朝首脳会談をしたらいかがですか」と持ちかけ、「それもいいね」と答えた可能性がある。その返事を、韓国側が「金正恩委員長がトランプ大統領と会談を望んでいます」と伝えたのかもしれない。 では、米朝首脳会談は今後どうなるのか。近い将来、開催されるのは間違いない。実際にトランプ大統領も、当初の予定通り、6月12日に行う可能性に言及している。 何よりも、首脳会談が開催されなければ、金委員長は苦境に立たされてしまう。ただでさえ、首脳会談開催のために核廃棄で譲歩しても、朝鮮人民軍は反発する。首脳会談が実現しないのに、核実験場を廃棄したのか説明がつかないため、軍が激しく反発するのは確実だからだ。 実は、こうした事情を考慮して、トランプ大統領は金委員長を全く批判していない。それどころか「時間を割き、忍耐と努力を示してくれたことに感謝している」と感謝を表明したのである。 さらに「拘束されていた人々を釈放してくれたことには、お礼を言いたい。感謝している」と北朝鮮で拘束された米国人3人の解放に謝意を述べている。そして「遠慮なく私に電話するか、書簡を送ってほしい」と、最大限の敬意を示している。 つまり、今回のトランプ大統領の書簡は、金委員長の体面を傷つけないように配慮し、称賛する内容になっている。あくまで、北朝鮮の指導者を決して非難せず、部下の外務次官を批判しているにすぎないのである。外交テクニックを駆使したトランプ大統領はなかなかの交渉上手といえる。2018年4月27日、板門店宣言に署名後、共同発表に臨む韓国の文在寅大統領(左)と北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長(韓国共同写真記者団・共同) 今回の「会談中止」の決断は、実は中国に向けられたメッセージでもある。トランプ大統領は、北朝鮮の態度が5月8日の中朝首脳会談後に硬化したと述べている。だから、中国に北朝鮮の非核化に協力しないと、米中貿易戦争で譲歩しないとの意向も表明している。 一方で、トランプ大統領は安倍晋三首相と韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領に対し、北朝鮮が非核化に応じない場合には軍事攻撃する方針を明らかにしたと述べている。北朝鮮と関係諸国は今、「戦争」か「首脳会談」かの別れ道に立たされている。

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    【韓国現地リポート】「北朝鮮は変わらない」南北融和、脱北者のホンネ

     10年半ぶりとなった「南北首脳会談」。開催を前に韓国を訪れ、脱北者で漫画 家のチェ・ソングク氏(38)にインタビューした。南北融和ムードが広がる 今、脱北者が語るホンネとは。■動画のテーマはこちら

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    世界を欺く「政治ショー」南北首脳会談

    韓国の文在寅大統領と北朝鮮の金正恩委員長が、軍事境界線にある板門店で会談した。最大の焦点は「朝鮮半島の非核化」だが、具体的な方向性を打ち出せるかは不透明だ。南北融和を演出する「政治ショー」に終わる可能性もある。10年半ぶり3回目の南北会談、世界の思惑を読む。

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    南北会談に成果なし、世界を欺く「政治ショー」の真意を読む

    李相哲(龍谷大教授) 4月21日、北朝鮮は核実験と大陸間弾道ミサイル(ICBM)発射実験を中止し、平壌北部にある豊渓里(プンゲリ)核実験場を廃棄すると発表した。 これに対し、韓国政府は「決定を歓迎する。全世界が念願する韓半島非核のための意味のある進展だ」と評価した。さらに、青瓦台関係者は「北韓がこれほど早く、しかも果敢な措置を取るとは思わなかった」と、北朝鮮の決定に応えるかたちで、2日後の23日、南北境界線沿いに設置していた対北朝鮮放送を電撃的に中止した。  これらは南北首脳会談を意識し、「朝鮮半島平和体制構築」に向けて双方が行動を示したともいえるが、素直に喜べるものではない。なぜなら、南北首脳会談は北朝鮮の非核化を促すためではなく、世界を欺(あざむ)くための政治ショーで終わる可能性が高いからだ。  まず、何のための首脳会談かを考えれば、金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長の目的は二つある。アメリカの圧力をやわらげ、軍事的な攻撃を回避することと、いち早く制裁を緩和させることである。 韓国との融和ムードを演出し、平和的なイベントを続けていけば、アメリカの圧力をやわらげ、軍事衝突へ発展することを阻止できる。また、韓国をテコに国際制裁の包囲網を突破することも可能だ。韓国との経済交流、人道的支援の門戸を開くことにもつながるだろう。 そして、文在寅(ムン・ジェイン)大統領は、保守政権の対北朝鮮政策を転換した結果、緊張状態は解消され、朝鮮半島に平和をもたらした「成果」をアピールできる。南北首脳会談というイベントをなるべく派手に、大々的に見せるのは双方にとってプラスなのだ。 ただ、南北首脳会談が本当に実のあるものになるかは疑問だ。そもそも、会談は何かを解決するとか、結論を出すものではないからだ。南北とも非核化については突っ込んだ話をするつもりもなく、結論も出せないだろう。 具体的に「北朝鮮の非核化」について話すのではなく、「朝鮮半島の非核化」について意見交換するに過ぎない。「平和体制構築」に向けて努力するという曖昧(あいまい)な「原則」には合意しても、いつまでにどのような方法で非核化を実現するかについては将来の課題にし、アメリカに委ねることになるだろう。 また、北朝鮮は核開発をやめ、経済重視に転換したのではないかと思われているが、実際はそうではない。 北朝鮮の労働党中央委員会で採択した「ICBM発射実験の中止、北部の核実験場の廃棄および核実験の中止」は、対内的には併進路線(核武装と経済建設を平行して進める)は勝利を収め、核保有国になったので、これから経済に注力するという宣言にほかならない。韓国芸術団の公演を観覧に訪れた金正恩委員長(左)と韓国の都鍾煥文化体育観光相 ただ、対外的には、もはや使いものにならない実験場を「廃棄」する姿勢をみせ、「非核化」に向けて行動したかのような印象を与えるだけなのだ。 これまで6回の核実験を行った結果、プンゲリ核実験場の山は崩落が発生し、すでに9回も余震が起きている。昨年はこの場所で作業していた200人が死亡する事故もあった。そもそも閉鎖せざるを得ない状況にあることは言うまでもない。すべては「米朝会談」次第 また、ICBM発射実験中止は、アメリカにとってはグッドニュースで、トランプ大統領は評価しているようだが、北朝鮮は実験を中止すると言っただけで「開発」を中止するとも言ってないし、廃棄するとも言っていない。あくまで凍結なのだ。凍結とは、あるものをいったん倉庫にしまっておくという意味なので、いつでも持ちだすことは可能だ。 北朝鮮の真意を考えれば、これまでに開発した核を保有したまま、今後核を作らないことを条件に(裏では密かに核の完成を目指しながら)、アメリカと折り合いをつけ、経済活性化に邁進するつもりだろう。このまま2年ぐらい持ちこたえれば、北朝鮮の核能力は完全なものになるからだ。そうすればアメリカも認めざるを得ないと考えているのだろう。 そして焦点になるのは、こうした北朝鮮の思惑をアメリカが容認するかどうかだ。アメリカは絶対妥協しないだろう。トランプ大統領は、北朝鮮がアメリカに届くICBM発射実験と核実験をやめれば、妥協するのではないかという観測もあるが、それはないと考えていい。 トランプ大統領の発言が二転三転しているとはいえ、北朝鮮の非核化は「完全かつ検証可能で不可逆」な形でないとダメだという点では一度もブレていない。それには理由がある。 北朝鮮が核を持てば、イランがさらに核保有の意思を強めるからだ。そしてイランが持てばサウジラビアやアラブ首長国連邦も持つだろう。そうなれば、日本と韓国も安全保障政策を見直さなければならなくなり、「核の世界」が現実になりかねない。 これを阻止するためには、やはり北朝鮮の核保有を完全に潰さなければならない。北朝鮮核問題を曖昧にすれば、トランプ大統領の指導力に疑問符が付き、同盟国の信用失墜は免れないだろう。トランプ大統領と金正恩委員長との首脳会談が実現する方向に動いたことを伝えた街頭テレビ=2018年3月(寺河内美奈撮影) 今回の南北首脳会談が過去の首脳会談と異なるのは、北朝鮮が立場上優位に立っていることだ。核を事実上保有する金正恩委員長とそれに対応できるカードを持たない文在寅大統領という構図は変わらない。 そもそも、首脳会談で韓国政府が実現しようとする目標は「朝鮮半島の平和体制」構築という曖昧な原則合意を取り付けることでしかない。南北が終戦を宣言し、「平和協定」を結ぶ平和体制構築のために、南北間で交流を拡大することに合意はするだろう。 これを大きな成果に見せかけることは可能だが、平和体制構築のための前提条件である「終戦宣言」や平和協定の締結も、結局はアメリカの同意がなければ無意味だ。ゆえに、今回の首脳会談は一過性の政治ショーで終わる可能性は高く、真に評価するためには、米朝首脳会談の結果を待つしかないのだ。

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    「38度線が対馬まで下りる」南北会談後に起き得る地政学リスク

    大中大統領は平壌国際空港で向かい合い、別れのあいさつを交わした=2000年6月(韓国取材団=共同) 北朝鮮は国と認められておらず、国家保安法により「反国家団体」とされ、そこに加担すると最高死刑とされている。ちなみに、国家保安法では朝鮮総連も反国家団体とされている。そのため、金大中大統領も南北共同宣言では「国家連合」という用語を使わず「連合制」と記したのだ。 ところが、文在寅新大統領は、前述の通り、選挙戦での討論で「低い段階の連邦制とわれわれが主張する国家連合はほとんど違わない」と語った。金大中氏さえ使えなかった「国家連合」という用語を使ったという点で憲法違反の素地(そじ)がある発言だった。なお、盧武鉉大統領も大統領在職時、「国家連合」という用語を使っているから、文在寅氏の発言はそれに倣ったものと言えるのかもしれない。金正恩はカダフィになれるか 文在寅発言のもう一つの問題は「低い段階の統一案」を韓国の統一案と「ほとんど違わない」として肯定的に評価したことだ。  ここで、北朝鮮の統一案を概観しておく。北朝鮮は1960年に初めて連邦制統一案を提唱し、1980年には「高麗連邦共和国統一案」として国号まで提唱した。 韓国の盧泰愚政権が前述の通り1989年に連邦制を否定する「韓民族共同体統一案」を提唱すると、韓国に揺さぶりをかける意図を持って1992年に連邦制を二つのプロセスに分け、まず「低い段階の連邦制」を実現しようと提唱した。そこでは「1民族、1国家、2制度、2政府体制で、二つの政府は政治、軍事、外交権をはじめとする言現在の機能と権限をそのまま維持し、その上に民族統一機構を置く」とした。 また、高麗連邦共和国統一案では先決条件として駐韓米軍撤収、国家保安法廃止、共産主義活動合法化などが求められていたが、低い段階の連邦制ではそれはない。 しかし、いくら低い段階と言っても一つの国家になれば、当然、北朝鮮を反国家団体と定める国家保安法は効力を失うし、北朝鮮を仮想敵とする韓米同盟は変質し、在韓米軍は撤収するはずだ。亡命した黄長燁(ファン・ジャンヨプ)元朝鮮労働党書記によると、金日成(キム・イルソン)は90年代半ば、低い段階の連邦制の狙いについて「民族統一機構で統一問題を議論するとき、南北同数で会議をすれば、北代表は100%われわれの側だが、南代表のうち半分は左派が占めるから、結局3対1でわれわれが主導権を握れる」と語ったという。 文在寅大統領は国会に提出した憲法全面改正大統領案で、第1条3項に「大韓民国は地方分権国家を志向する」という規定を新設したが、これは連邦制による布石だと多くの保守派リーダーが批判している。 今回の文在寅大統領と金正恩(キム・ジョンウン)の会談では、「低い段階の連邦制」と「国家連合」の方向で南北を統一しようと合意する可能性が高い。それをすれば韓国の自由民主主義勢力は太極旗を持って街頭に出て体を張った抵抗をするだろう。既に4月20日、元首相や元国会議長らが「大韓民国守護非常国民会議」を立ち上げ、連邦制統一に反対すると宣言した。左派もろうそくデモで対抗するはずだ。流血の事態さえ予想されるし、国軍がその状況をただ見てばかりいるのか、という問いも出てくる。  一方、トランプ大統領は韓国が独走すれば、北朝鮮と取引をした韓国企業への制裁を発動することになろう。南北会談はあくまでも前座であり、やはり米朝会談がすべてを決める。勝負の分かれ目は、金正恩がリビア型の核放棄を飲むかどうかにかかっている。ランプ米大統領(左)とボルトン大統領補佐官 =2018年4月9日、ワシントン(ロイター) トランプ大統領は米朝首脳会談が決まってから、ボルトン氏を大統領補佐官に入れた。したがって中途半端な解決はしないのではないか。そうした可能性は下がったとみている。北朝鮮がリビア型の核廃棄ができるかどうか、それは金正恩の恐怖心がどの程度なのかにかかっている。私は米国から殺されてしまうという恐怖心がかなり強いと見ている。 北朝鮮が反撃して、道連れとなって死ぬ者が出てきても、その場合は金正恩自身も死んでしまう。リビアのカダフィ大佐は米国の攻撃直前に妥協して交渉を妥結させた。一方、イラクのフセイン大統領は実際には大量破壊兵器を保持していなかったのに、米国に妥協しなかったので殺されてしまった。さて、金正恩はどちらを選択するのか。どこまで自分の身を守ろうとするのか。日本が直面する日露戦争と同じ危機 トランプ大統領は核ミサイル問題だけでなく、拉致問題も交渉のディールに使おうとしている。単に北朝鮮側が調査すると言うだけではダメで、「(拉致被害者を)連れ戻すように」と明言している。 交渉が順調に進めば、米朝間では国交正常化へと話が進んでいく。平和条約を結ぶことになろう。日朝間でも拉致被害者が帰ってくれば、国交正常化の話になっていこう。 米国は非核化のところまでで、それ以上はやらない。そうなると、韓国と北朝鮮が緩い連邦制を取り入れ、「赤い朝鮮半島」になってしまうかもしれない。今は38度線で対峙(たいじ)しているが、それが対馬まで下りてきてしまう。中国の影響力が強まらざるを得ない。もっとも韓国内部にも、自由統一を指向する保守勢力があるので、そうした状況になるのを許さないかもしれないが、予断を許さない。 また、米朝首脳会談が不調に終われば(そもそも開催されない可能性もある)トランプ政権は軍事攻撃を検討するだろう。ただし、攻撃をして核ミサイルを取り上げた後、すぐ軍を引く限定攻撃だ。北朝鮮地域の平定と軍政を米軍が担う意思はない。文在寅政権の韓国がそれを担うならば、中国は半島全体が自由化することに強く反対して軍を出し、北朝鮮地域が分割占領されるかもしれない。   または、文在寅政権が米国との共同作戦参加を拒否し、米韓同盟が破綻して、米軍は北朝鮮地域だけでなく韓国からも撤収し、北朝鮮地域の平定と軍政は中国軍が担うかもしれない。文在寅政権は中国の傀儡(かいらい)となった次期北朝鮮政権と連邦制で統一するか、あるいは韓国単独で中国と軍事同盟を結ぶこともあり得る。韓国内の反共自由民主主義勢力が韓米同盟を守るため、文在寅政権を倒す可能性も残っている。 さまざまなシナリオを考えても、アジアの覇権を狙う中国が半島全体を事実上支配し、38度線が対馬まで下りてくることになる。これが、金正恩の核危機の後ろにあるわが国の「地政学的危機」だ。 もはや米国は同盟国を守るため、あるいは自由という理念を世界に広げるため、陸上部隊を投入しない。これからの米軍は、空軍と海軍だけを使った、米国軍人の命を犠牲にしない「安全な戦争」しかしない。 中国の習近平政権は米国に並ぶ軍事大国を目指し、東アジアでの覇権を握ろうとしている。彼らは「力の空白」があればすぐに軍を出す。北京の人民大会堂で歓迎式典に向かう北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長(左)と中国の習近平国家主席=2018年3月29日(朝鮮中央通信撮影・共同) 日本は自分の国の軍隊で中国軍と対峙しなければ誰も代わりに戦ってはくれない。朝鮮半島でこれから起きることと同じことが、尖閣でも台湾でも、そして沖縄でさえ起きるかもしれない。 日本の独立が脅かされる日露戦争直前と同じ危機が、すぐ近くに来ている。大多数の国民がそれに気がついていないことが、実は重層危機の深層にある一番恐ろしい危機だ。

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    南北会談の次は日朝対話、金正恩が最後に使う「シンゾウカード」

    重村智計(東京通信大教授) 韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領と北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長は27日、南北を分断する板門店の韓国側施設で初めて会談する。2人は「朝鮮半島の非核化」に合意することで、日米を煙に巻こうとしている。 何より、文大統領は「北の非核化」を求めそうにない。それどころか、中朝の求めに呼応し、経済協力と制裁措置の緩和を推し進めようとしている。さらに、南北不可侵協定、南北鉄道の開通など長年の懸案に合意し、米朝平和協定の締結も呼びかけるだろう。 そもそも、朝鮮半島緊張の原因は何か。どの識者も指摘していないが、北朝鮮が取り続けた二つの「政策」が最大の原因だ。第一に、北朝鮮は韓国を国家として認めていない。朝鮮半島における唯一合法政権は朝鮮民主主義人民共和国だけである、との立場を変えていない。だから、北朝鮮は「平和共存」政策に移行できないのである。 第二に、北朝鮮は韓国を統一する方針を「国是」としている。しかも、公式上は「平和的統一」をうたうが、巨大な工作機関を事実上維持しており、軍事的統一の可能性を変えていない。ところが奇妙なことに、韓国はこの二つの政策の放棄を北朝鮮に求めていないのである。 文大統領と金委員長の会談目的は、北朝鮮支援の推進と、韓国左派政権の長期政権化である。2人で制裁緩和を米国に認めさせる「芝居」を打とうとしている。このため、会談は「朝鮮半島の非核化」「南北平和協定」「南北鉄道の開通」「人道支援の拡大」「北の経済集中政策への支持」「制裁の緩和」「南北離散家族の交流」「朝鮮戦争平和協定の締結」-に合意し、朝鮮半島の緊張緩和を実現した、と世界にアピールする。 だが、疑問点もいくつか残されている。例えば、会談の焦点となる「朝鮮半島の非核化」は「北の非核化」を意味しない。米国による韓国への「核の傘」の放棄も含まれ、履行が不可能になるからである。 また北朝鮮は、2010年3月に起きた韓国哨戒艦「天安(チョナン)」撃沈事件の再調査を求めている。李明博(イ・ミョンバク)政権下で行われた調査では、撃沈の原因を「北の攻撃」と断定していた。これに対し、北朝鮮は事件を「米軍による誤射であり、でっち上げである」と主張し、関与を否定し続けてきた。韓国の左派勢力は北の主張を支持しており、彼らを基盤とする文大統領が再調査に合意する可能性がある。2010年5月、韓国の哨戒艦沈没事件を北朝鮮の犯行と主張する韓国と日米を非難するため、平壌の金日成広場で行われた集会(朝鮮中央通信=朝鮮通信) 韓国は、北朝鮮への独自制裁の理由として「天安」撃沈事件を挙げており、事件への謝罪か解決なしには制裁解除は難しいという事情がある。そこで、再調査を理由に制裁解除につなげる意図もある。北朝鮮「核実験中止」宣言の裏事情 さらに、北朝鮮はこれまで一貫して、在韓米軍の撤退を求めていた。会談でこの主張に触れないとなると、まるで「在韓米軍は駐留してもいい」と暗に認めるに等しい。在韓米軍が撤退すると、むしろ米軍による軍事攻撃が可能になってしまうと北朝鮮が心配しているという。 文在寅政権は、北朝鮮に強いシンパシーを抱く左派政権だ。このため、何としても北朝鮮を支援したいと考えている。一方で、文大統領は憲法を改正し、大統領任期を現在の1期5年から2期8年に延長しようとしている。このためにも南北会談の成功は欠かせない。 会談に先立って、金委員長は核爆弾と大陸間弾道ミサイル(ICBM)の「実験中止」を表明した。だが、あくまで実験の中止であって、「核放棄」ではない。ここにごまかしがある、と日米政府や韓国の専門家らは警戒している。それでも、文大統領は、北朝鮮の「政策転換」を歴史的成果と強調する。 中国は北朝鮮の「核実験中止」宣言を受けて、各国の独自制裁と国連制裁の緩和を求めている。トランプ米大統領と安倍晋三首相は「核放棄」実現まで「最大限の圧力」を継続することで合意している。 だが、文大統領はその後の日韓電話首脳会談でも圧力継続で合意したが、むしろ立場は中国に近い。韓国世論と米国を制裁緩和に動かすために、首脳会談の成果を高らかにうたいあげる必要があるのである。 一方、歴史的な南北首脳会談の背後で、少数の専門家が金委員長と朝鮮人民軍の「緊張関係」を指摘している。金委員長の軍への姿勢が、あまりに冷たいのだ。 実際、4月20日に開催された党中央委員会総会で、政治局常務委員に軍人や軍代表者がいなくなったのがその表れだ。異例である。しかも、軍への配慮や軍を称賛する言葉が全くなかった。異常である。このため、金委員長に不満を持つ軍人による暗殺やクーデターの危険がささやかれ始めている。2018年4月20日、朝鮮労働党中央委員会第7期第3回総会で報告を行う金正恩委員長=平壌(朝鮮中央通信=朝鮮通信) その上、金委員長はこれまでの「軍優先」政策を放棄し、「経済優先」への転換を明言した。本当であれば「革命的」といっていい。北朝鮮は歴史的に軍の地位を高め、体制を維持してきたからである。 例えば、父親の金正日(キム・ジョンイル)総書記は軍事優先の「先軍政治」を数十年も続けてきた。それにより、軍部が朝鮮労働党よりも力を持ち、軍人が利権を手にしてきたのである。ところが、「経済優先」を宣言することは、すなわち軍と軍人優位の体制を放棄することである。だから、金委員長は反対する軍幹部を処刑したのである。金正恩が対話を決めた「周辺の国々」 また、金委員長は総会で、自身が推進した「核と経済の並進路線」の「勝利」と「完結」を強調した。その上で「経済集中」政策への転換を宣言している。まだ核とミサイルは完成したわけではないにもかかわらず、完成したと「みなした」のだ。これが北朝鮮得意の「みなしの論理」である。 金委員長の「完結宣言」は、制裁が効果を上げたためである。文大統領の側近でさえ「国連と各国の制裁が続けば、北は2年で崩壊の危機に直面する」と語っている。反対に、制裁は効果がないとの主張があるのも確かだ。 だが、常識で考えてほしい。北朝鮮は「世界最低の石油保有国」である。国連の発表では、2016年の石油輸入量はわずか120万トンしかなかった。島根県や山形県の石油消費量よりも少ないのである。それが今年は、軍用の石油が40万トンに激減する。核実験をすればさらに減るだろう。これでは軍が崩壊する。軍が崩壊すれば、国家も崩壊に向かう。 金委員長は、党中央委総会で「周辺の国々と国際社会との緊密な連携や対話を積極化していく」との方針を決定した。この「周辺の国々」が日本を指すのは明らかだ。本来であれば、「周辺の国々」とは日本と中韓露の4カ国である。東南アジア諸国との関係は、2016年の金正男暗殺の影響で悪化しており、「周辺」には含まれない。 北朝鮮は日本を除く中韓露3カ国とはすでに連携し、対話もしている。とすれば、この表現は日朝対話を行う方針を事実上表明したものだ。金委員長は、日朝首脳会談を受け入れる準備を進めているという。 中朝の外交関係者によると、実は、平壌は北京の北朝鮮大使館に日朝対話のための情報収集を命じている。安倍首相の要請を受けたトランプ大統領が、米朝首脳会談で「日本人拉致問題」を取り上げると金委員長に通告したからだ。2018年2月9日、平昌冬季五輪の開会式で、北朝鮮の金与正氏(中央右)と金永南最高人民会議常任委員長(同左)の近くに座るペンス米副大統領(左手前)。右端は安倍首相(聯合=共同)   それを受けて、北朝鮮政府はどう対応するかの検討に入ったという。拉致被害者「全員死亡」では、トランプ大統領は納得しないだろう。そうなれば、トランプ大統領は「それならシンゾウと話し合え」と要求する。 金委員長は、米朝首脳会談が成功すれば、日朝首脳会談に応じざるを得ない状況にある。また、失敗したら当然制裁は解除されず、経済支援を獲得するには日本との首脳会談を受け入れるしかないのである。

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    映画「チャーチル」と北の核開発、首脳会談「宥和主義」に落ち込むな

    思えるからだ。 今日、日本や米国、いや世界の関心を引きつけている大きな問題のひとつは、いうまでもなく北朝鮮の核開発だ。このような脅威は、切迫、現実的という意味では、かつて経験したことがなかった。 これを打開しようと、4月27日には南北首脳会談、来月以降には初の米朝首脳会談が予定されている。こうした重要な機会に、当事者の米国や韓国、日本はじめ国際社会が、宥和主義の〝陥穽〟に落ち込んでしまう恐れはないのか。すでに「条件」などが取りざたされていること自体、不必要な譲歩がなされるのではないかとの憶測を生む。 大胆な妥協、譲歩をしても、戦争を避け平和的手段で問題を解決しようというのが宥和主義だ。言葉が穏当な響きを持つから大衆受けしやすい。しかしながら、誰もが平和的な解決を望むとはいえ、警戒しなければならないのは、相手を恐れるあまりの妥協が結果的に膨脹主義者、独裁主義者の跳梁を許してしまうことだ。ウィンストン・チャーチル(英国の政治家・元首相) 典型的なケースは、映画「チャーチル」の中でも触れられているミュンヘン会談だ。第2次世界大戦前夜の1938年9月、英仏独伊4カ国の首脳が出席したこの会談で、ヒトラーによるチェコスロバキアのスデーテン地方割譲の要求が協議された。 当時、世界のリーダーだった英国のチェンバレン首相はヒトラーの威嚇に屈し、これを受け入れた。以後領土的要求を捨てると約束したにもかかわらず、ドイツの異常な指導者は、チェコを保護領に置くなど背信行為を続け、1939年9月にポーランドに侵入、第2次世界大戦を引き起こした。 「ミュンヘンの宥和」と呼ばれるこの妥協は、独裁者、膨脹主義者を勢いづけ、戦争の惨禍をもたらした悪しき例として、しばしば国際政治を論じる時に言及される。あろうことか、この合意は、チャーチルら反宥和主義者たちの猛反発をよそに、当時、英国やフランスの国民からは、熱狂的に歓迎された。北朝鮮の悪しき妥協を懸念 当時、米ハーバード大学の学生だった故ジョン・F・ケネディ元米大統領は、その卒業論文でこれを取り上げ、分析している。戦争だけは避けたいと願望する国民から、宥和主義が強い支持を受けたため、その政策を掲げるチェンバレンが必要な軍備の増強に手をつけようとせず、結局、ドイツに対抗する力を失ってしまったーと。ちなみにこの卒業論文は後に「英国はなぜ眠ったか」というタイトルで日本でも出版された。 映画に話を戻すと、ダンケルクでの英仏軍の孤立など苦しい戦局の中で登場したチャーチルは戦時内閣を組織したが、ハリファックス外相らがヒトラーとの和平を強く主張、激しい論争が展開される。宥和主義者の一方の雄、ハリファックスの主張は強硬、理路整然としており、チャーチルは、ほとんど和平協議やむなしに傾く。そこに意外な援軍が現れる…。 これ以上、映画のストーリーに踏み込むのは避けるが、最終的に戦争継続を決意したチャーチルの断固とした姿勢は、議会、国民から圧倒的な支持を受け、〝バトル・オブ・ブリテン〟の勝利への途を開く。 銀幕を離れて現実の世界に立ち返る。 米朝首脳会談が実際に開催されれば、さまざまな議題が話し合われることになろう。 不調に終わった場合、また会談自体が見送られたなら、武力行使がいよいよ現実性を帯びてくる。各国がもっとも恐れる事態であり、それだけに宥和主義が入り込んでくる余地があると言うべきだろう。ミュンヘン会談で英国がヒトラーに対したように、大きな譲歩を与えても最悪の事態を回避しようという主張が勢いを増しかねない。 首脳会談の展開については、すでに内外のメディアで論じられているので、予測は避ける。 しかし、核問題をとってみても、ICBM(大陸間弾道弾)の発射実験中止、核実験場の廃棄など、4月20日の金正恩朝鮮労働党委員長の決定について、トランプ大統領が、自らへの脅威は取り除かれたと判断、これまで保有した核兵器、中短距離ミサイルは黙認すれば、根本解決にはほど遠い結果となってしまう。 北朝鮮が全面的な核放棄を約束したとしても、明確な実行期限が設けられなければ、2006年9月の6カ国協議での北朝鮮による核廃棄表明と同様に反故にされてしまうだろう。米ホワイトハウスで首脳会談後に共同記者会見を行うエマニュエル・マクロン仏大統領(左)とドナルド・トランプ米大統領=2018年4月24日(ロイター=共同) トランプ大統領は4月24日のマクロン仏大統領との共同記者会見で、「これまでも、われわれは譲歩をしたことがなかった」と述べ、米朝首脳会談でも、しないことを強調したが、それでもなお、悪しき妥協を懸念せざるをえない〝状況証拠〟がある。3つの「状況証拠」 第1は、先に述べた20日の北朝鮮の新たな方針だ。これは、米国が首脳会談開催の前提条件として北朝鮮に要求したものではないかとささやかれている。そうだとすれば、前提条件が満たされたことになるため、不完全であるにもかかわらず、米国が受諾を拒否する理由がなくなってしまう。 北京の人民大会堂で開かれた夕食会で、芸術団に拍手する北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長=2018年3月26日(朝鮮中央通信撮影・共同) 第2は、これに関連するが、北朝鮮の決定に対して、トランプ大統領がすかさず反応し、「北朝鮮と世界にとって、非常にいい知らせ、大きな前進だ」と歓迎、「(首脳会談を)楽しみにしている」と、異常なはしゃぎぶりをみせたことだ。 金正恩は「核戦力兵器化の完結が検証された。もはやいかなる核実験や(ミサイル)試射も必要なくなり実験場は使命を終えた」と述べている。核廃棄どころか「核兵器、ミサイルの完成宣言」に等しい。 米国から突きつけられた条件を呑むために「路線変更を正当化するための苦肉の策」(4月22日付産経新聞)という見方もあるが、そうであるにせよ、保有核兵器の完全廃棄について言及していないことに大統領が何ら触れていないのは不可解というほかはない。妥協ありきというのが、トランプ大統領の腹つもりではないかと思われても仕方がないだろう。 第3は、最近使われるCVIDという言葉の定義だ。この言葉はブッシュ政権(子)時に使用されはじめ、その後はあまり聞かれなくなったが、最近再びメディアを賑わしている。当初は、complete, verifiable and irreversible dismantlement」、「完全かつ検証可能、不可逆的な廃棄」と訳されていた。しかし、最近ではdismantlementに代わって、denuclearization(非核化)という表現が用いられている。 筆者はこのことを、うかつにも、4月16日の日本記者クラブでの浅羽祐樹・新潟県立大教授の会見をきくまで知らなかった。 調べてみると、ことし2月25日の朝鮮半島非核化に関するホワイトハウス報道官声明では、はっきりと「denuclearization」の表現が使われていた。4月18日に行われたトランプ大統領と安倍首相の会談についてのホワイトハウスの声明でも同様な表現がみられ、dismantlementという言葉はなかった。 ニュアンスの問題だが、廃棄や分解を意味するdismantlementに比べ、denuclearizationからは、単なる非核化という軽い響き、意味合いしか感じられない。使用不能にさえすれば、廃棄は必要ないと解釈できないこともない。安易な妥協は危険 こうした状況証拠とは別に、側近の進言やアドバイスに耳を傾けることなく、自ら独裁的に決定を下すといわれるトランプ大統領が、交渉の場の独特な雰囲気の中で、高揚感から不用意な譲歩に走ることは考えられるだろう。大統領が、ホワイトハウスを訪れた韓国特使団から金正恩との首脳会談の話を持ち出された時、その場で即断したことを考えれば、根拠のない懸念とは言えない。 北朝鮮が首脳会談に応じてきたことについて安倍首相らは、各国が圧力をかけ続けてきたため、金正恩がそれに耐えられなくなったと分析している。おそらく正しい見方だろう。 そうであれば、極端な話、首脳会談など行わなくとも、北朝鮮に圧力をかけ続けさえすれば、先方は〝白旗〟を掲げてくるだろう。〝熟柿作戦〟ともいえようが、妥協、譲歩を引き出されるリスクを伴う首脳会談より、時間はかかっても効果的、得策ではないか。 思い出してほしいのはリビアのケースだ。リビアは、北朝鮮と同様に大量破壊兵器を開発しながら米英の圧力で完全放棄したが、米英との間で、首脳会談や交渉などは一切なかった。両国の情報機関が圧力をかけ続けた結果、当時の最高指導者、カダフィ大佐が2003年12月、突然、廃棄の意向を伝えてきた。 その直前、イラクのフセイン大統領が米軍に身柄を拘束されたことに衝撃を受けたのかもしれない。それはともかく、米国は廃棄をリビアに任せることなく、核兵器、関連機器をすべて米国本土に運んで自らの手で廃棄した。 リビアのケースは、圧力をかけて追い詰めれば、武力によらなくとも、北朝鮮に核を廃棄させることが可能であることを示した。 「金正恩の野望」を描いた4月22日放映のNHKスペシャルで、韓国に亡命した北朝鮮のテ・ヨンホ元駐英公使が語っていた。「北朝鮮は昨年まで、核実験、ミサイル実験を繰り返してきた。今年になって対話路線に転換した。世界は〝ああ、よかった〟と思うだろう」―。この安堵感が危ない。カダフィ体制の打倒を叫ぶデモ参加者ら=2006年1月29日(黒沢潤撮影) アフガニスタン、イラクにおける戦争で、米国民の間には〝厭戦気分〟が少なくない。平和解決こそ最も重要なことではあるが、心理的なスキが不必要な妥協を生むことがあってはなるまい。 安易な妥協で合意が成立した場合、宥和主義によるものか、トランプ政権の判断ミスによるかはともかくとして、もたらされる深刻さは同じレベルだろう。 断っておくが、筆者は映画に感化されて、首脳会談より戦争による解決をーなどといっているのではない。不必要な譲歩は有害、危険であるか、ということを強調したいだけだ。 安易な妥協によってヒトラーの跳梁を許してしまったチェンバレンは、罵声を浴びながらの退陣を余儀なくされた。 トランプ大統領は、「チャーチル ヒトラーから世界を救った男」を鑑賞しただろうか。まだなら、首脳会談前にぜひ見てほしい。

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    北朝鮮収容所経験者「金王朝は死ぬなら国民も道連れにする」

     いま、韓国と北朝鮮の融和ムードが高まっている。しかし、金正恩は恐怖政治をやめる気配すらない。長年、北朝鮮について取材してきた落合信彦氏が、かつてインタビューした北朝鮮収容所経験者の証言を紹介する。 * * * かつて北朝鮮の収容所で10年間過ごし、中国経由で韓国に亡命した姜哲煥氏を1993年にインタビューしたことがある。彼の祖父は日本の京都の朝鮮総連系商工会の幹部をしていたが、ある日、訪れた平壌で行方不明になってしまった。姜氏によると、平壌の政治犯収容所に入れられたのではないかという。その直後、一家は平壌の北、咸鏡南道にある収容所に送られた。姜氏は当時9歳だった。「年齢は関係ありません。北朝鮮では誰かが“犯罪”を犯すと、必ず連帯処罰として家族全体を罰するので赤ん坊でも逃れられないのです。本人だけ捕らえると、あとでその子供が大きくなったとき復讐を考えるかもしれないという心配があるわけです」 収容所生活で辛かったのは寒さと餓えだったという。だが、それ以上に辛かったのは処刑場面を見ることだった。毎年15人ずつ処刑されたという。「餓えが限界にきて、食糧欲しさに反乱を起こしたり、逃走を謀ったりした人々です。絞首刑のときなど、われわれは死体に向かって石を投げるよう命令されました」 1987年に収容所を出た姜氏は、後に賄賂を使いながら鴨緑江を渡り中国経由で韓国に亡命した。金王朝で地獄を見た姜氏の金正日評は傾聴に値する。彼は次のように語った。「彼(金正日)は民族のことを一番に考えるような立派な指導者ではありません。念頭にあるのは政権維持だけです。少なくともこれまでの彼を見る限りそう言い切れます。平壌で行われた軍事パレードで演説する北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長。=2018年2月8日、北朝鮮・平壌(コリアメディア提供・共同) どこの国に毎晩キーセン・パーティーにうつつを抜かし、数多くの女をはべらせ、ポルノ映画ばかり見ている指導者がいますか。彼にとっては政権を失うということは死を意味します。だからどうせ自分が死ぬのなら国家と国民も道連れにしていこうと当然考えるでしょう」 その独善的思考はそのまま息子の金正恩に受け継がれている。そして今や彼は核を手にした。にもかかわらず、いまだに話し合いでこの男をなだめられるという思考がいかに危険かがわかるはずだ。関連記事■ 北朝鮮で強制収容所の囚人1万5000人が消えたとの情報■ 北の漂着船 元軍人の漁師を強制送還すると1人83万円かかる■ トランプ×金正恩 いざ会ってみたら意気投合する可能性あり■ 統一コリアvs日本の国力比較 貿易額、経済規模、兵力など■ 北朝鮮と韓国との全面戦争はあるか? 専門家はないと説明

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    韓国の歴史教科書から反北的記述が次々削除されている

     北朝鮮の「微笑み外交」に乗じても、何ら果実を得られないことは、歴史が証明している。核は金正恩体制の命綱である。それを放棄するはずはない。にもかかわらず、なぜ北朝鮮の術中に、文在寅政権は自ら嵌まるのか。韓国人ジャーナリスト・朴承ミン氏が深層を読む。三池淵管弦楽団の公演後、金与正・朝鮮労働党第1副部長(左)の手を取る韓国の文在寅大統領=2018年2月11日、韓国・ソウル(聯合=共同) * * * 親北政策に突き進む背景として最初に挙げなければいけないのは、青瓦台(大統領府)の秘書官(参謀陣)の面々である。文在寅大統領の秘書官のうち半数近くを占めるのが「586グループ」だ。 現在50代で、1980年代に大学時代を送って、1960年代に生まれた世代を指す。彼らは80年代に盛んだった民主化運動、つまり反政府学生運動に参加していた人間だ。学生運動時代に金日成主体思想に傾倒していた者もいる。 与党、共に民主党(民主党)でも586グループが重要なポストの約8割を掌握している。文大統領自体も大学時代に学生運動に勤しんでおり、586グループの先輩格にあたる。“後輩”の意見を反映させることを当然のように思っているかもしれない。 もちろん、文大統領自身の野心もそこにはある。歴代大統領は、南北首脳会談に強い関心を示してきた。文大統領が系譜を継ぐ左派政権、2000年の金大中政権、2007年の盧武鉉政権もそれを実現した。文大統領も業績を上げる機会として狙っているのだろう。 それにしても、現政権が北朝鮮に気を使う様は度を超している。その象徴が、歴史教科書改定だ。 政府は新しい歴史教科書の執筆基準の試案で、「北朝鮮政権の全面的南侵で勃発した6・25(韓国)戦争」という表現を「6・25(韓国)戦争」に変えている。この指針通りになるなら、学生たちは戦争を誰が起こしたのかわからない。また、「北朝鮮体制の世襲」「北朝鮮市民の人権」という表現も抜いた。北朝鮮の首脳部が気に入らないと思うようなことは歴史教科書に入れないということだ。 若者の歴史教育は、国家のアイデンティティー形成に大きく影響するだけに、慎重な舵取りを求めたい。【PROFILE】朴承ミン/時事通信の元ソウル支局記者。長年、北朝鮮問題と韓国政治を取材。その間に平壌と開城工業団地、金剛山など北朝鮮の現地を5回ほど訪問取材。現在、韓国と日本のメディアに寄稿している。関連記事■ 韓国・北朝鮮が描く「統一コリア」へのロードマップ■ 統一コリアvs日本の国力比較 貿易額、経済規模、兵力など■ ホッケー南北合同チームに文在寅氏支持派若者からも批判の声■ 親北を掲げる文在寅政権の先は「赤化統一」と暗黒の生活■ 人類滅亡――マヤ暦の予言とは異なる「2012年問題」の正体

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    「首相の訪朝を実現する」詐欺師と同じ日本置き去り論に警戒せよ

    4月27日に開催されることが決まった。5月中には米朝首脳会談が行われる予定である。これに先立つ形で、北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長は3月末に中国を訪問し、習近平国家主席と首脳会談を行った。 この動きを受けて、日本政府の「置き去り」「乗り遅れ」を主張する報道や論調が多い。中には、便乗して「私が平壌につなぐ」「首相の訪朝を実現する」と売り込み、首相官邸周辺を徘徊する「詐欺師」まで現れた。 しかし、日本で金委員長に直接つながる個人や組織など99%いない。そんなチャンネルがあれば、とっくに機能しているだろう。北系団体や親北政治家、運動組織の多くは嘘つきだ。民主党政権時代、官邸はこの手の「詐欺師」に多額の「機密費」を騙し取られてしまった。 「置き去り」や「乗り遅れ」を唱える論者は、真実を隠す「北の手先」なのだろうか。さもなくば「朝鮮半島の国際政治」を知らず、「日本への愛情」もない人たちといわざるを得ない。 かつて、1990年の「金丸訪朝団」をはじめとして、渡辺美智雄氏(95年)、森喜朗氏(97年)、飛鳥田一雄氏(77年)など与野党の指導的政治家が、北朝鮮を競って訪問した。だが、結局コメなどを北朝鮮に「援助」として奪われただけで、日本の成果は何も残っていない。その「成果なき訪朝」を動かしたのは「乗り遅れ」と「置き去り」の声だったのである。だから「置き去り」論は「戦略的歴史観」に欠けている。 朝鮮半島に軍事的、政治的に深く関与すると、日本は必ず大敗北することを歴史は教えてくれた。7世紀の白村江の戦いや、豊臣秀吉による文禄・慶長の役は歴史的大敗北に終わった。中国が必ず介入するからだ。近代に入っても、日清、日露の戦勝後は帝国主義的植民地化の失敗により、韓国と北朝鮮からいまだに恨まれ、日韓・日朝外交も混迷したままだ。1990年9月、会談の冒頭、「金丸訪朝団」の金丸信元副総理(左)と田辺誠・社会党副委員長と握手する北朝鮮の金日成主席 しかしながら、朝鮮戦争に直接参加しなかった戦後の日本は、「朝鮮特需」により経済復興という利益を手にしたのである。この教訓は非常に重い。 実は、中朝首脳会談において、報道も専門家も見落とした一節がある。「朝鮮半島情勢は重要な変化も起きている。情義の上でも道義の上でも、私は時を移さず、習近平総書記同志と対面して状況を報告すべきだった」。中国外務省の公表文には、金委員長のこの発言があった。 この発言は「これまで中国を訪問せず申し訳なかった」という金委員長の謝罪である。「情義」「道義」という言葉にも、「義理と人情を忘れていた」とのお詫びが込められている。「時を移さず、状況を報告すべきだった」ということから、北朝鮮が南北首脳会談と米朝首脳会談を中国側に事前説明しなかった事実が読み取れる。 また、夕食会でのあいさつで、金委員長はこうも述べている。「両国関係を継承・発展させる一念で、中国を電撃的に訪問した。我々の訪問提案を快諾した習近平国家主席に感謝する」。特に「訪問を受け入れた習近平主席に感謝する」との言葉には、中国がようやく訪問を許した、との真実がうかがえる。中国は「核放棄を約束するまで訪問させない」との方針を示していたとされるが、金委員長の言葉により、くしくも裏付けられた格好である。「巻き込み外交」の天才 では、習主席はなぜ「金正恩電撃訪中」に応じたのか。それはひとえに「トランプの背信」にある。トランプ大統領は、大統領選中に中国に対して激しい非難を繰り返したが、就任後は一転して「米中友好」に切り替えている。 それが、中国製品への大幅な関税引き上げで「貿易戦争」に方針を変えた。中国はトランプ大統領の「敵対政策」復活を敏感に受け止め、「対北朝鮮政策では協力できない」と米国に反撃に出たのである。 一方で、トランプ大統領は、大統領選でのロシアによる選挙干渉疑惑の捜査の行方を心配している。メディアと世論の関心を他に向けるために、米朝首脳会談に即座に応じたわけである。韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領にしても、支持率回復と憲法改正によって政権の延命を図り、北朝鮮を支援するために南北会談の求めに応じた。言い換えれば、米朝の「仲介役」を演じているのである。要するに、金委員長や習主席をはじめ、トランプ大統領も文大統領も、それぞれが政治的問題を抱えているから首脳会談に応じたのである。 とりわけ、朝鮮半島の国家は「乗り遅れ」論を流すことで、周辺の大国を外交競争に引きずり込む戦略を展開する。まさに「巻き込み外交」の天才だ。例えば、米ソ冷戦が終結した1990年9月に、旧ソ連は密かに「ソ韓国交正常化」を北朝鮮に伝えていた。 何も知らない日本は、金丸信元副総理を団長、田辺誠社会党副委員長を副団長として訪朝し、日朝国交正常化や経済支援を約束する羽目になった。国家崩壊を恐れた北朝鮮が日本に画策した「巻き込み外交」が成功したのである。 北朝鮮は冷戦時代、大国の対立を利用し、中ソの間を行き来する「振り子外交」を得意としていた。だから、今でも周辺諸国に「乗り遅れ懸念」を撒き散らす。南北関係が悪化すれば米朝交渉に向かい、米朝がダメとなれば日本に秋波を送ることを繰り返したのである。 南北関係と米朝関係、中朝関係、露朝関係が同時に友好であることはなかった。つまり、南北首脳会談も米朝首脳会談も「簡単に成功するとは限らない」、この戦略的視点が大切である。米朝首脳会談の焦点は「北朝鮮の核放棄」「在韓米軍撤退」「米朝平和条約」「対北制裁の解除」、この4つの外交カードをどのように組み合わせた合意ができるかだ。極めて難しい交渉であり、決裂の可能性もある。2018年3月26日、北京の人民大会堂で中国の習近平国家主席(右)と握手する北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長(朝鮮中央通信撮影・共同) ただし、日本にとって朝鮮半島に関わらない政策が「戦略的」だとしても、拉致された日本人の救出は急務だ。そのためには日朝首脳会談が欠かせない。日本は、拉致問題と核問題を切り離した交渉に持ち込むのが望ましい。安倍晋三首相は4月中旬の訪米でトランプ大統領に対し、米朝首脳会談で拉致問題の解決を議題にさせ、核問題と切り離した日朝首脳会談の実現を改めて求める必要がある。 拉致問題はなぜ解決しないのか。2002年、当時の小泉純一郎首相と金正日(キム・ジョンイル)総書記の間で行われた日朝首脳会談で、日本側が「拉致被害者全員の帰国」「北朝鮮の主権侵害」を主張しなかったからだ。北朝鮮高官によると、日本の交渉責任者は「拉致被害者の安否情報」だけを求め、「全員帰国」を要求しなかったという。「国交正常化後の拉致被害者の段階的帰国でいい」という方針だったらしい。 過去の国際政治から、北朝鮮は必ず「日本に近づく」という教訓を残した。日本は拉致問題解決のために、日朝首脳会談を、欧米の首脳やプーチン大統領、習主席など大国の首脳に常に働きかけ、国連決議に盛り込むことが大切である。

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    習近平先生の怒りを買った「悪ガキ」金正恩の大チョンボ

    重村智計(早稲田大名誉教授) 北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長が突然、中国を訪問した。メディアは電撃訪問に驚き、「中朝関係改善」「(米朝首脳会談へ)中国の支援確保」といった北朝鮮の「外交勝利」とみるコメントや報道を並べた。だが、外交問題は双方の立場を確認しないと危険だ。同じ報道や解説を掲げるのは、ただの「大本営発表」である。他とは違う報道や解説をしないと専門家の意味はない。 中朝双方の報道機関は、28日午前に「中朝首脳会談」を報道した。中国国営新華社通信は「(金委員長は)非核化への努力を約束した」と報じた。一方で北朝鮮は「非核化の約束」を報じなかった。それどころか、政府の公式発表もない「冷たい中朝首脳会談」だった。 中国側の報道映像は、習近平国家主席が余裕を持って対応し、金委員長がメモを取る姿を映し出した。この映像は「先生」のように指示する習主席の言葉に、「生徒」のような北朝鮮指導者が聞き入る姿を強調していた。 日本の新聞、テレビは28日の朝刊で「金正恩訪中」を確認できなかった。産経新聞だけが「電撃訪中」の見出しを掲げた。「正恩氏? 突然の訪中」(朝日)「訪中の情報」(日経)「訪中の要人 金正恩氏か」(毎日)「初の訪中か」(読売)と、いずれも曖昧な見出しだった。別の言い方をすれば、産経以外は「特オチ」である。日本メディアの確認取材の能力が欠如しているというしかない。 最近の日本メディアは、韓国の報道や韓国政府発表に頼りすぎている。独自の取材源を持っていないようだ。かたや、中国の報道関係者や当局者は知っていた。中国の対応からは、誰が見ても「金正恩訪中」しかないと判断できたはずである。北京駅(奥)に入る北朝鮮の要人を乗せたとみられる車列=2018年3月27日(共同) 電撃訪中の焦点は「中国に呼びつけられた」のか、「中国がお願いして来てもらったのか」である。朝鮮問題の専門家や記者は「中国が頭を下げた」との見方が大勢を占めるが、これまたおかしな話だ。最近の北朝鮮に対する中国の怒りや、中朝関係の過去の経緯を知らないはずもあるまい。北朝鮮は、南北首脳会談や米朝首脳会談について、事前に中国に説明してこなかった。中国はメンツを傷つけられ、怒っていたのである。 最近の中朝関係は最悪の状態だった。中国は、北朝鮮による昨年の核実験に失望し、国連制裁に同調して多量の石油禁輸を実行していた。北朝鮮の報道機関は、あからさまに中国を非難していた。 中国は東アジアの超大国であり、北朝鮮は小国だ。中国が北朝鮮に頭を下げたのではなく、北朝鮮が中国に呼びつけられたと考える方が真実に近いだろう。この判断をテレビで示したのは、元外交官の宮家邦彦氏ぐらいであり、さすがは中国外交を知り尽くす専門家である。 今回の電撃訪中でまず考えるべきは、それが公式訪中か非公式訪中か、という判断だが、今回は明らかに非公式だった。仮に公式訪中であれば、中国は歓迎式典を行うだろうし、メディア向けに報道文も発表し、中国メディアも大きく報道していたはずである。そして、最後に中国は「お土産」を準備し、北朝鮮側はそれを誇示する。しかし、今回の場合、金委員長の訪問は秘密裡に行われ、北京を出発した後も公式発表は行われていない。 中国と北朝鮮は、ともにメンツを重んじる国である。習主席と会談したのに、石油などの経済支援を獲得できなければ、指導者は大義名分とメンツを失う。首脳会談を前に、日米韓三国への中国による牽制(けんせい)と北朝鮮への支援確保が目的、との解説もあった。仮にそうならば、大々的に公表して報道しなければ意味がない。「非核化に努力する」の意味 また、メディアは「北朝鮮の指導者が中国を電撃訪問したのは2000年以来18年ぶり」と歴史的意義を強調した。実は2000年以降にも、電撃訪中を繰り返している。例えば、2005年の米国による金融制裁を受けて、北朝鮮はマカオの銀行の秘密口座から資金を引き出せなくなった。それに慌てた金正日(キム・ジョンイル)総書記が電撃訪中し、マカオ近くまで長時間列車で移動した。このときは、中国当局と交渉したが失敗したと報じられた。要するに、北朝鮮は困り果てたから電撃訪中したのである。 中国は、金委員長の訪中を北朝鮮に帰国するまで発表しなかった。指導者が国を空けてといると分かると、クーデターの危険があったからだ。また、列車の往来で爆破テロの恐れもあった。これは北朝鮮内部が決して安定していない事実を示唆している。 北朝鮮は南北首脳会談の合意と米朝首脳会談の提案を事前に中国に説明していなかった、と中国政府筋は明らかにしていた。国際関係が大きく変化する際には、事前に説明するのが外交上の礼儀である。中国は当然、説明のための特使派遣を求めた。一方で、北朝鮮筋によると、平壌では「中国側から特使を派遣したいとの申し入れがあった」との噂が意図的に流されたという。事実はまったく逆であったようだ。 普通に考えれば、南北首脳会談と米朝首脳会談の発表直後に、中朝首脳会談が実現するのが理想である。それが発表から1カ月もかかったというのは、中朝の調整がうまくいかなかった証左であろう。では、なぜ金委員長は電撃訪中をせざる得なくなったのか。中国政府筋によると、中国は北朝鮮に「送油施設の故障で、半年ほど原油を送れない」と通告したという。石油供給を中断したのである。 さらに、北朝鮮は米朝首脳会談の事前接触がうまくいっていない事実にも困り果てていたという。トランプ米大統領は、軍事攻撃を主張していたボルトン元国連大使を国家安全保障担当の大統領補佐官に任命するなど、その後も軍事攻撃を示唆する言動を続けていたからである。 北朝鮮の歴代指導者は、就任前と就任後には必ず訪中していた。ところが、金委員長は就任以来一度も訪中できなかった。習主席が金委員長を快く思っていなかったことが原因らしい。北京の人民大会堂で握手する北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長(左)と中国の習近平国家主席(新華社=共同) そのため、中国は国連制裁に従い、石油供給を減少させた。その上で、北朝鮮に「非核化」を約束しないと首脳会談は難しいと伝えていた、と中国政府高官は述べている。 中国メディアは会談で「朝鮮半島の非核化に努力する」と約束したと報じた。しかし、かつて金日成(キム・イルソン)主席も金総書記も用いたこの表現は、韓国の非核化も意味する。だが、韓国に核兵器はないので実効性を伴わない。実は、会談の中で金委員長が一歩踏み込んで「朝鮮半島」の言葉を外し、単に「非核化に努力する」と言及したのではないだろうか。これは北朝鮮の非核化を約束したに等しい。つまり、北朝鮮指導者の「最大限の譲歩」を意味しているのである。

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    「金正恩の敗北」トランプ電撃会談の舞台裏を読む

    安倍・トランプ外交」の成功を意味する。実現すれば、朝鮮半島情勢を大きく変える可能性がある。それでも、北朝鮮は核放棄を約束しないだろう。苦境打開を狙った金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長のサプライズ戦略とも言えるが、成功するのはラクダが針の穴を通るより難しい。米朝の指導者はともに行き詰まった国内情勢を打開するため、「同床異夢」ながら首脳会談を急いだとみるのが自然だろう。 サプライズ外交は、金正日(キム・ジョンイル)総書記の得意技だった。予想外の提案や行動に出て、相手を翻弄(ほんろう)して成果を挙げる。過去にも米朝の枠組み合意で、世界は希望を抱かされたが、あっさり覆された。核開発を放棄すると約束して、原子炉の冷却塔を破壊する芝居に、米国はまんまと資金をだまし取られた。 トランプ米大統領との首脳会談提案は、金委員長としては初めてのサプライズ外交である。外国首脳とは初の会談だ。歴代の北朝鮮首脳は、最初に中国首脳と会談した。そして、中朝関係が悪化すると、今度はロシアに傾斜した。いずれも北朝鮮の友好国である。2018年3月9日、米国のトランプ大統領が北朝鮮の要請を受諾し、金正恩朝鮮労働党委員長との首脳会談が実現する方向に動いたことを伝える街頭テレビ(寺河内美奈撮影) その慣例を破る米首脳との会談は、言い換えれば中国へのあてつけである。中国が国連や米国主導の制裁に協力する姿勢に対する不満の表明だ。北朝鮮が米朝首脳会談を呼びかけたのも、中国の気を引くためだったとみていいだろう。中国は水面下で相当の圧力をかけるだろうから、米朝首脳会談がトランプ大統領の思惑通り開催できるかは、なお不透明だ。 米国は、韓国側からの伝達内容が本当かどうか、北朝鮮に確認しないと話に乗れない。北朝鮮の思惑は裏読みしないと見えない。たとえ公式報道で「人民は党に従い、思想の学びを徹底し帝国主義の策動に立ち向かっている」と伝えていても、実際は党に従わない人民の方が多く、むしろ韓国のビデオや音楽が人民の間で流行っているのが実情である。首脳会談提案からは、金委員長が相当な苦境に立たされている事実が読み取れよう。 一方、トランプ大統領もサプライズが好きだ。金委員長の提案を逆手に取り、「5月までにやろう」と逆サプライズを仕掛けた。北朝鮮はまさかそんなに早い実現を予想していなかっただろう。日程と首脳会談の場所が最初の関門になる。実は北朝鮮では首脳会談について一切報じられていない。これはおかしな話だ。北朝鮮の本気度が問われる。 なぜトランプ大統領は「5月までの会談」を提示したのか。一言で言えば、北朝鮮が相当に困り果てている現実をよく理解していたからだ。つまり、北朝鮮への制裁が効果を挙げているのである。首都・平壌では最近、米や食料品の価格が上昇しているという。石油の値上がりも伝えられている。国民生活は圧迫され、軍隊は石油が底をつき、演習や訓練がまともにできない。空軍の飛行時間は極端に減った。 こうした状況は、トランプ大統領に詳細に報告されており、「制裁は効果を挙げている」との大統領発言の裏付けになっている。トランプ大統領が平昌五輪への北朝鮮参加や、南北首脳会談の合意について「俺のおかげだ」と述べたのは理由がある。制裁の成果が確認できたからだ。このため、制裁を続けていれば、金委員長は必ず譲歩すると読んでいたのである。米朝首脳会談は成功するのか トランプ大統領が首脳会談に臨む真の目的は「支持率の上昇」「秋の中間選挙への利用」「次期大統領選挙への野望」の三つだ。 言わずもがな、トランプ外交は内外で批判され続けている。特に欧州各国は彼をまったく尊敬していない。戦後、これほど欧州で不人気の米大統領は初めてだ。教養がなく知性と品格に欠けるとみられている。歴史と文化の教訓に学ぼうとしない態度を欧州はもはや我慢できないのである。 この不人気を打破するために、金委員長との会談を利用しようとしている。「金正恩に最初に会う外国元首」としてメディアに大きく扱わせる。特に、金委員長をワシントンに招待できれば、世界中の話題を独占して、中国やロシアの鼻を明かすこともできる。支持率は上昇し、その勢いで中間選挙も乗り切りたいとの思惑はみえみえである。2018年3月8日、ホワイトハウスで会談する韓国大統領府の鄭義溶国家安保室長(左)とトランプ米大統領(韓国大統領府提供・共同) とはいえ、米朝首脳会談は本当に成功するのか。はっきり言って、乗り越えるべき難問が余りに多すぎる。まず、北朝鮮は絶対に核放棄を約束できない。金委員長は朝鮮人民軍を掌握はしたが、核放棄を宣言すれば軍が反乱を起こしかねない。クーデターに直面するリスクをはらんでいるのである。不満を抱く中国やロシアも、裏でクーデターを画策する可能性もある。 さらに、会談場所をどうするのか。北朝鮮の指導者は海外に出掛けるつもりはない。これに対し、トランプ大統領は是が非でも米国に呼びたい。ただ、金委員長にとっては訪問の隙を突いて、北朝鮮国内でクーデターが起きるかもしれない。もし第三国でやるのであれば、北朝鮮側は中国の顔を立てて、北京を提案するかもしれない。 一方で、トランプ大統領が北朝鮮を訪問すれば、米国内で批判が高まるのは必至だ。かつてのオルブライト国務長官の訪朝時のように、マスゲームを見せられ、人権問題に言及しなければ「失敗」と非難される。 金委員長は、首脳会談を盛り上げて少しでも制裁を緩和させ、今年9月の建国70周年の式典を盛り上げたい。米国に近づき、中国とロシアの気も引き、ひそかに支援を得る戦略だ。韓国も協力するとみている。 この北朝鮮の戦略と作戦に乗せられると、トランプ大統領は必ず失敗する。トランプ大統領は安倍晋三首相と協力し、「成功しなくてもいい」と腹をくくり、これまでの強硬政策を継続しないと足をすくわれる。 トランプ大統領に「石油制裁が最も効果的だ」と伝えたのは他ならぬ安倍首相だった。トランプ大統領も、北朝鮮政策をめぐる安倍首相の判断力を信頼している。「制裁を継続すれば北朝鮮は譲歩する。もう少しだ」との理解を二人は共有している。 だからこそ、トランプ大統領が安倍首相を出し抜いて、米朝正常化に踏み切る恐れはまずないと断言できる。北朝鮮は米韓合同軍事演習に反対し、核実験を続けた。その上、米国とトランプ大統領を激しく罵(ののし)った。これまでの対応を180度転換した金委員長の譲歩は、結果的に「北朝鮮外交の敗北」を意味するのである。 日本は米朝首脳会談で拉致被害者の帰国を強く訴えるだろう。「拉致被害者の帰国なしには、米朝国交正常化はない」との立場を共有しなければならない。拉致被害者の帰国を、日米同盟の基本的な価値として改めて確認すべきだ。