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だから早く「入国禁止」しろと言っただろ!
「早く入国禁止にしておけば…」。新型コロナウイルス対策で、新型インフル特措法が改正され、緊急事態宣言を出しても、政府にこう言いたくなる人もいるだろう。武漢に入った習近平主席が「抑え込み」を宣言したように中国が「反攻」に転じれば、日本も応戦するしかない。だが、「国際情報戦」で本当に挽回できるのか。
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新型コロナ対中「情報戦」 懲りずに敗北を繰り返す気か
山岡鉄秀(情報戦略アナリスト) 海外暮らしが長かった私の思考回路は、日本在住の今でも外から日本を眺める感覚のままだ。そして、海外在住者たちと毎日交信して情報提供を受けている。 そんな人たちが今、頭を抱えて落胆している。外から見ていて、日本の新型コロナウイルス(COVID-19)への対応が緩慢で後手に回り、「危機管理能力が非常に低い」という印象を世界に与え、国際的信用とイメージを著しく低下させてしまったからだ。 日本国内にいると、それがなかなか実感できないのが問題だ。つまりは、国際情報戦の大敗北だが、実はこれまで散々繰り返してきた「歴史戦」の敗北と同じ構造なのだ。「歴史」はあくまで過去の出来事だが、「新型コロナ」は今現在の問題だからより深刻である。 なぜ日本は性懲りもなく敗北を繰り返すのか。その答えは単純だ。自らの言動が外からどう見えるか、どう解釈されるか、誤解を防ぎ、好意的に解釈されるにはどうすべきか、といった発想がすっぽり抜け落ちているからだ。 島国で均一性の高い民族構成、単一言語など、恵まれた要素が国際性を育む上では障害になり得るのは理解できる。しかし、自らに欠けている思考回路を認識して会得する努力が不十分なのも確かで、国内でしか通用しない議論に時間を費やしてしまう癖が抜けない。 何より、日本政府は自国が五輪開催国であることを忘れてしまったのか。世界中から超一流のアスリートと大勢の観光客が押し寄せる五輪開催国に求められるのは、当然ながら高い危機管理能力だ。 だから、今回の新型コロナウイルス騒動では、日本政府は大げさなぐらいに他国に先んじて行動し、さまざまな施策を矢継ぎ早に講じる姿勢をことさら見せつけなくてはならなかった。ここで重要なのは、個別の施策にどの程度の効果があるかを考えて逡巡(しゅんじゅん)としてはならない、ということだ。 まず、できることはすべてやる。結果は後で検証すればよい。アクションファーストだ。そして走りながら考える。東京五輪マスコットの写真を撮るマスク姿の男性=2020年2月、東京都内(AP=共同) 全力を尽くした上で、たとえ今の状況に陥っても、日本への信頼は損なわれないが、理解不能な行動を重ねて感染国になり果てれば軽蔑と嘲笑の対象となる。そして、五輪を失う大失態にもつながりかねない。 最大の失敗はもちろん、中国からの入国を迅速かつ全面的にストップさせなかったことだ。求められる「政治家の仕事」 この点について、「入国制限は感染症対策としては効果がない。むしろ、ビジネスを損なうデメリットの方が大きくなる」という議論があった。ではなぜ、諸外国は早々に全面的入国禁止に踏み切ったのか。それは、この問題を「未知のウイルスに対する国家的危機管理の問題」と捉えたからだ。 初期段階での情報は限られている。従来のものとは根本的に異なる可能性が常にあり、過去の研究が直接役に立つとは限らない。 権威に弱い日本人は世界保健機関(WHO)や英医学誌「ランセット」などの論文を引き合いに出したがる。ただ、いくら真面目に分析されていても、その段階で入手できる限られたサンプルで最大限分かることを書いているにすぎない。 後から全く予期しなかった発見があって、前提が崩れるのはよくあることだ。現に、新型コロナウイルスにはいまだによく分からないことも多い。 したがって、初期段階の分析をベースに楽観論で応じたのは、危機管理として失策だった。まして今回のウイルスは渡り鳥が運んでくるのではなく、人から人への感染が明らかで、かつ発生源が明確だった。 さらに、潜伏期間でも感染力があるため、水際作戦が無力なのも早くから分かっていた。早期の全面入国制限が有効であり、不可欠であると判断するのは合理的だった。 ここで重要なポイントなのだが、私は専門家の意見を軽視してもよいと言っているのではない。専門家の意見も多様だ。悲観論も楽観論もあれば、それぞれの根拠もある。経済活動とのバランスももちろんある。 そうしたさまざまな情報を素早く吟味して、総合的に政治判断を下すことが国家として極めて重要である。それはまさしく政治家の仕事であり、その最高責任者は総理大臣だ。総合的な政治判断をせずして官僚に任せるのは無責任であり、政治家を養う意味がない。記者会見するWHOのテドロス事務局長=2020年2月24日、ジュネーブ(ロイター=共同) 例えば、専門家がこうアドバイスしたとしよう。 入国制限は初期段階なら効果が見込めるのですが、中国政府が1カ月以上も情報を隠蔽(いんぺい)しているうちに、日本に武漢からだけでも100万人近くが入国してしまいました。日本国内も既に相当汚染されていると推測されます。今から制限してもさしたる効果が望めません。つまり、汚れてしまった水に汚水を加えても大差ないということです。むしろ、入国制限することで経済的損失の方が大きくなってしまう可能性が高いといえるでしょう。 このアドバイスは、それ単体で見れば間違っているとは言えない。しかし、私なら2月25日に安倍首相に送った手紙にしたためたように、あえて全面入国禁止に踏み切る。「唐突」でもやむを得ず 米国、オーストラリア、シンガポールなどの主要国は中国人の入国全面禁止を決定している。日本だけ中途半端な制限にとどめてしまえば、日本は五輪開催国にもかかわらず、危機管理に真剣ではないという印象を与えることになる。その上で、感染者数が急速に増加する事態にでもなれば、完全に信頼を失ってしまう。 既に中国が団体旅行を禁止したことで、日本に入国する中国人の数は減少していたが、そのビジネスを守るために他国のビジネスを全て失い、五輪開催まで危うくなる可能性がある。目先の利得のために中長期的な大損害を被(こうむ)ることは避けなければならない。 たとえ結果として同じ状況に陥っても、全力を尽くす決意を示したか、中途半端な姿勢に終始したかでは世界に与える印象が全く違ってしまう。したがって、中国の全地域からの入国を禁ずるという総合的政治判断を迅速に下すべきだった。 この観点からは、「実際に入国している中国人の人数は少ない、感染者の数はさらに少ないと推測されるから問題ない」といった議論は意味を成さない。世界はそんなことに関心を払わないからだ。「日本はいつまでも中国に国を開いて、感染拡大を許している国だ」としか思われないのである。 そういう国に遊びに行きたい外国人はいない。理屈ではない。印象なのだ。海外では、日本人が中国人だと思われて差別されるケースが出ていたが、日本への渡航を禁止したり、日本人の入国を制限する国が増えるにつれて、最近では日本人であることで差別されるケースが出てきた。簡単にレイシズム(人種差別主義)に結びついてしまうほど感覚的、感情的なものなのだ。もちろん、そのような国に虎の子の「オリンピックアスリート」を送りたい国はない。 果たして、日本はどのような経緯をたどったか。2月26日、安倍晋三首相は人が大勢集まるイベントの自粛や延期を、27日にも全国の公立小中高学校の休校などを含む感染拡大阻止行動を国民に要請した。 現在の日本はアウトブレイク(流行)直前の武漢そっくりであり、このままでは武漢と同様の状況に陥る可能性もあるという。それを阻止する最後のチャンスが2週間程度の全国的な活動停止というわけだ。新型コロナウイルス感染症対策本部会合で発言する安倍首相。中国、韓国からの入国者に指定場所での2週間待機を要請すると表明した=2020年3月5日 当然ながら、「唐突過ぎる」という批判を呼んでいるが、私はやむを得ないと思う。ここまできたら、それぐらいやるしかない。武漢と同じ状況に陥ったら完全にジ・エンドだ。 だが、強い違和感はある。初期段階の楽観論は何だったのだろう。インフルエンザと同じように対処すれば十分だという話は何だったのだろうか。手洗いとうがいで対処できるはずではなかったのか。気が付けば「尻に火」 楽観論を広めて国民に「慌てるな」と言い、目先の中国人観光ビジネスを守っておいて、今になって1億総開店休業しろと言うのか。まるで下手な戦闘を重ねた揚げ句に「本土決戦」「一億玉砕」を迫った旧軍部のようではないか。 今ごろになって、ウイルスの本当の危険性を悟ったのか。危機管理としては「下策」のそしりは免れない。初期段階で全力を尽くしていれば、このような事態は避けられたかもしれない。 予想される経済的損失は中国インバウンド(外国人訪日客)どころの話ではない。あの中国がだてに1千万都市を完全封鎖するわけがないではないか。備蓄のマスクや防護服を送っている間に、気が付けば自分の尻に火が付いてしまった。 そして驚くべきことに、全国民に自己犠牲を強いながら、中国からの入国を全面禁止しなかった。これは人数の多寡の問題ではなく、道義的な問題だ。こんな理不尽な仕打ちを受けてもメディアも野党も攻撃せず、暴動も起きない国は日本ぐらいのものだろう。 さらに驚くべきは中国の態度だ。日本と韓国が「中国忖度」を続けるうちに、山東省威海市と北京市が逆に日韓からの入国者全員を14日間隔離するという措置を打ち出した。今や危険なホットスポット(高感染地域)は日韓に移り、他国に感染を拡大させるリスクも中国より高いと言わんばかりだ。 それでいて、中国は日韓への支援を惜しまないという。中国の電子商取引(EC)最大手、アリババグループ創業者の馬雲(ジャック・マー)氏は、日本に100万枚のマスクを送ると表明した。もちろん、巧妙に計算された情報戦だ。今や、世界に迷惑をかける「厄介者」は、日本、韓国、イタリア、イランなどで、中国は慈愛の精神で助ける側に回った「正義の国」というわけだ。 日本の経済的凋落(ちょうらく)は周知の事実だったが、それでも日本は勤勉で、危機管理能力が高い国だと信じられていた。しかし、今回の一件で、実は危機管理能力が極めて低く、中国の属国化した国だとの印象を広げてしまった。国民の命よりも中国の意向を優先したのだ。 この情報戦大敗の構造は、南京大虐殺や慰安婦性奴隷、朝鮮人労働者強制連行の諸問題と全く同じだ。世界がどう受け止めるか、どのような印象を持つか、自国に有利に導くにはどうするべきかを常に考慮して総合的政治判断を下し、即時実行する能力が欠落しているのだ。そして、そんなことには頓着せず、中国にとことん媚びる人間が政権の中枢や霞が関に侵入している。新型コロナウイルス感染拡大の影響で閑散とする成田空港の出発ロビー=2020年3月6日 今から少しでも挽回するためには、中国と韓国からの入国者に2週間の待機を要請するだけではなく、中韓からの入国を全面的に制限すべきだ。 そして、GDP(国内総生産)を大幅に落としてでも日本列島を「開店休業」状態にするからには、たとえ世界がパンデミックに陥っても感染者数と死亡者数を低く抑え、時期をずらしてでも五輪開催を実現することだ。世界の目にはっきりと見えるアクションで結果を出す、それしかないと断言する。
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米老雄決戦を吹き飛ばす「対岸の火事」
「スーパーチューズデー」で復活を遂げたバイデン氏がサンダース氏をうっちゃった民主党の候補指名争い。米大統領選では、現職のトランプ氏とともに「老雄決戦」がぼぼ確実となったが、ここでもあのウイルスの影がちらつき始めた。入国制限措置を早期にとった「対岸の火事」から一転、今後の流れも左右しかねない。(写真はロイター=共同)
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バイデン、サンダース、トランプ「コロナリスク」が直撃するのは誰か
前嶋和弘(上智大総合グローバル学部教授) 11月の米大統領選に向けた民主党の候補指名争いは、3月3日の「スーパーチューズデー」の結果、事前の各種世論調査で劣勢だったバイデン前副大統領が14州中、10州を抑えて形勢を大きく変えた。米ニューヨーク・タイムズ紙は、4日の社説で「死の淵からよみがえった奇跡」ともてはやす。 確かに潮目が変わった感がある。10日に開かれた6州の予備選・党員集会で、バイデン氏が重要州のミシガンなど3州で勝利を確実にした。さらには、世論調査を見ると、17日のオハイオ、フロリダなど4州での戦いでも、多くの州で今度は選挙戦を優位に進めている。 ただ、この情勢の変化とともに今後の大統領選の流れを大きく左右しかねないワイルドカードへの注目が集まっている。世界を震撼(しんかん)させている「新型コロナウイルス(COVID-19)」というカードだ。 新型コロナウイルス問題は米国の場合、日本よりも約1カ月遅れで大きな社会問題となっている。初期段階まで、感染がワシントン州などの西海岸の一部州に限られ、感染者も中国への渡航歴がある人たちばかりだった。そのため、感染の深刻化に対する懸念は、日本から見れば、だいぶ遅れていたともいえる。 状況が変化したのは、カリフォルニア州で中国への渡航歴がない感染者が確認された2月26日だった。さらに、その後はニューヨークなどの東海岸などにも広がっていった。 一部の大学では、授業をオンライン形式にするなどの対応が進んでいる。テキサス州オースティンで、3月13~22日に行われる予定だった音楽祭や映画祭などの大規模イベント「サウス・バイ・サウス・ウエスト(SXSW)も中止になった。2020年2月、米南部サウスカロライナ州チャールストンで行われた民主党討論会で発言するサンダース上院議員(左)とバイデン前副大統領(ロイター=共同) 一種の社会的パニック状態に突入しつつあるのも、日本と似ている。ワシントンやニューヨークの友人によると、消毒用アルコールがどの店でも売り切れているという。 買い占めは一部の食料品にも及んでいる。実際の感染状況以上に、消費者心理は日本と同じようなオーバーリアクション状態になりつつある。利用された「トランプ叩き」 3月8日(米時間)現在、米国での感染は33州、532人になり、死者も21人となった。日本の10日正午現在の感染者数514人、死者9人を既に超えている。数を単純に比較すべきではないかもしれないが、今や「日米逆転」の状況になっている。 この社会的パニック状態が米国で「政治化」しつつあるのだ。新型コロナウイルス対策については、スーパーチューズデー直前から「トランプ政権の対応が悪い」など、民主党候補にとって格好の「トランプ叩き」の材料になっていた。特に、「米疾病対策センター(CDC)の予算をトランプ政権が削減した」というのが、各候補による政権非難の常套句(じょうとうく)になっていた。 「CDCの予算をトランプ政権が削減」したかどうか、実際には微妙だ。政府全体の予算見直しの中、トランプ政権は毎年の予算教書で、CDCの予算削減を要求し続けてはいる。 ただ、議会側の反発もあり、他の多くの政府予算と同じように、ここ数年のCDCの予算はほとんど変わっていない。2020年会計年度(2020年10月~21年9月)は77億ドル(約8千億円)と感染症対策を専門に担う司令塔の組織が不在の日本から見るとかなり潤沢な額である。2020年10月からの2021年会計年度に向けた予算教書でも、今のところ7億ドルほど減額要求となっているが、議会の本格審議はこれからである。 一方、トランプ大統領にとっては、景気にも大きな影響があるため、的確な対応をアピールしなければならない。二転三転した後、7日、CDCに乗り込んで記者会見したのもその一環である。 記者会見を見たが、「感染者数が増えるのは、それだけ検査を含めた対策をしっかりやっているからだ」というレッドフィールド所長の横で、トランプ氏は念を押すように「しっかりやっているんだ」と妙に強調していた。その言葉からは、逆に今後の感染拡大に対する世論の反応をかなり気にしているのが明らかだった。2020年3月6日、米疾病対策センター(CDC)のレッドフィールド所長(右)の隣で記者団に語るトランプ大統領=アトランタ(Hyosub Shin/Atlanta Journal―Constitution提供・AP=共同) 新型コロナウイルスの感染拡大は急務であるため、トランプ政権と議会が協力して、3月6日にはワクチンの開発や企業の支援などに充てる費用として、83億ドルというCDCの年間予算を上回る規模の緊急対策法を成立させている。緊急性から考えれば当然かもしれないが、社会的パニック状態が予算そのものの大きさも「政治化」させているといえる。 実際の感染そのものが、今後の大統領選自体にも、今後大きな影響を与えていくのは必至だ。各種政治イベントは選挙の年には欠かせないが、そのイベントが感染源となりかねないからだ。選挙に直結する「あの問題」 3月7日、既に首都ワシントンでも感染が確認されており、政治の中枢に影響が及ばないか懸念が出ている。前日には、2月末にワシントン近郊で開催された全米最大の保守団体「米国保守連合」(ACU)の年次総会、CPAC(保守政治行動会議)に感染者がいたことも判明した。 この保守系の一大イベントには、スピーカーなどとして、トランプ氏やペンス副大統領、閣僚、ホワイトハウス高官らが多数出席していたが、接触の機会はなかった。また、同じように感染者が確認されたイスラエル支持のロビー団体、米国イスラエル公共問題委員会(AIPAC)にも、ペンス氏やポンペオ国務長官、連邦議員ら多数が参加していた。 もし、大統領が感染してしまえば、政治そのものが動かなくなる。これは民主党側の候補者も同じことだ。 そして、選挙により直結する「今後の選挙集会はどうなるのか」という議論まで広がっている。トランプ氏は8日現在、選挙集会の日程を変えないことを宣言はしているものの、今後はどうなるか予想できない。 選挙への影響は、まず民主党の指名候補争いに影響が出てくるかもしれない。重症化しやすい高齢者に感染が広がるようなイメージが付いた場合、その勢いが、「若者に強い」サンダース上院議員よりも、「高齢者に強い」バイデン氏に影響をもたらす可能性すらある。また、集会を減らす形での投票となった場合、民主党側の「反トランプ」の士気も全く高まりづらいだろう。 さらに、民主党も共和党も、夏の党大会を開催できない前代未聞の事態も考えられる。その際は、オンラインで投票するようなことになれば、不正アクセス対策というコンピューターの「ウイルス」対策も急務になってしまう。 共和党への影響は、トランプ氏の支持率の源泉が好景気にある以上、新型コロナウイルスが景気に与えるダメージが何よりも懸念される。2020年3月10日、新型コロナウイルスのため、サンダース米上院議員がオハイオ州クリーブランドの施設で予定していた選挙集会の中止を伝える案内(ゲッティ=共同) 的確な対応を進めることができず、感染者が増え続ける事態が一定期間続けば、景気は停滞し、再選もおぼつかなくなってしまう。ただ今後、感染者が急激に減少し、株価も回復した場合、「新型コロナを撃退した大統領」として、政権側に有利になることは必至だ。 「新型コロナウイルス」という米大統領選の行方を左右しかねない「ワイルドカード」には、さらなる注視が必要だ。
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ワイドショー発コロナパニックで現実となる「破滅博士」の予言
を見る側を不安にさせる。 何より感染者数の総数「だけ」に注目するのは適切ではない。病状に応じて適切な医療サービスを提供できているか否かが、より重要だろう。社会的な防疫政策が上手に機能しているかどうかも重要である。その意味では、死亡者数(3月8日で6人)や重篤な患者の推移(低位推移)、回復者数(3月8日で80人と増加傾向)、新規感染者数の動向などを重視すべきだ。記者会見中に額を押さえるWHOのテドロス事務局長=2020年2月28日(ロイター=共同) あくまで現段階であるが、日本の感染症介入政策は「後手後手」という批判にもかかわらず、かなり健闘しているのではないだろうか。少なくとも、WHOは懸念すべき国に日本を含めていない。 「後手後手」批判の代表例とされる中国への「水際対策」にしても、日本は世界に先駆ける形で、武漢というホットゾーンからの入国制限を採っている。その意味で、日本の水際対策を全面否定するような動きには異論を唱えたい。 次に挙げたいのが、「検査や医療を過剰に要求する報道」だ。言うまでもなく、医療資源は有限である。設備や医療スタッフには各国とも限りがある。医療資源「制約」はどこへ行った この医療資源をいかに安定的に維持できるかが、今回の新型コロナウイルス問題でもクローズアップされている。だが、ワイドショーやニュース番組では、医療資源の制約を無視したような「医者」や「専門家」たちが多く出演している。 特に、新型コロナウイルスを高精度で検出するPCR検査の実施数が多ければ多いほどいい、という論調がワイドショーを支配している。この発想がいかに医療資源を浪費し、最悪、医療崩壊に至る危険性を秘めているかは、感染症専門医の忽那賢志氏による解説を参照されたい。 PCR検査は優れた検査法だが、万能ではない。偽陰性や偽陽性の問題が発生するからだ。忽那氏は一つの推論として、東京都民1千万人にPCR検査を受けさせた場合、1320人の真の感染者が見逃され(偽陰性)、その10倍の1万人の偽陽性が発生するとしている。 つまり、この1万人がただの風邪にもかかわらず、感染症指定医療機関に隔離されて治療されることになってしまう。ちなみに、平成29年医療施設調査によると、全国の感染症病床は1876床にしかすぎないことは、大正大の高原正之客員教授の指摘を参照すれば分かることだ。 つまり、どんどん検査すればいいわけではないことが、この簡単な例でも分かる。無制限な検査は、医療資源の制約を徐々に厳しくし、やがて医療崩壊につながる。具体的には、現場でさばききれないほど病院に殺到する武漢の人たちの映像などをイメージすればいい。 今の政府方針は、相談・受診の目安を(1)風邪の症状や37・5度以上の発熱が4日以上続く、(2)強いだるさや息苦しさがある、としている。これも、発表された当初はワイドショーなどで批判する向きが強かった。 しかし、これは大勢の患者が病院に殺到するのを避けるための基準であることは明瞭である。ちなみに、個人的な経験だが、最近持病があるために、かかりつけの大きめの病院に行ってみると、驚くほど閑散としていた。患者が病院に集中することによるリスクを、日本の人たちが合理的に判断した結果でもあるだろう。新型コロナウイルスの検査に使われる装置(岐阜県保健環境研究所提供) それでも、ワイドショーでは、いまだにPCR検査を受ければ受けるほどいい、という主張が根強く、日本の医療システムの直接的な脅威となっている。日本のマスコミがパニックを生み出すことに寄与するとしたら、看過できない。 ワイドショーの中には、政府があえて検査をしないかのような「陰謀論」を語るコメンテーターを好んで出演させているようだ。これも視聴者の不安な心理を煽っているのだろう。「政府vsマスコミ」 最後に「政府vsマスコミ」の問題を取り上げたい。新型コロナウイルス問題をめぐるワイドショーや新聞などの報道姿勢については、しばしばインターネットとの対比で語られていた。 個人的には、現在はテレビのワイドショーの大半とニュース番組は見ない方がいいかもしれないと思っている。ドラッグストアやスーパーからトイレットペーパーやティッシュペーパーが消えた映像や写真が大量に流されると、合理的な行動としても感情的な行動としても、人は大挙してトイレットペーパーなどを買いに走るだろう。このような群集心理を煽る効果がある。 さらに、最近では、政府とマスコミの間で報道をめぐる「論争」が生じている。厚生労働省が一部メディアに会員制交流サイト(SNS)上で行った反論だが、内容は次のようなものだ。 一部報道で「新型のコロナであるため、感染が新しいウイルスであり、私たちには基礎的な免疫がなく、普通のインフルエンザよりもかかりやすい。」との指摘がありました。新しいウイルスのため基礎免疫はありませんが、普通のインフルエンザよりかかりやすいということにはなりませんし、そのようなエビデンスはありません。また、3月3日に世界保健機関(WHO)は、新型コロナウイルスの特徴について、中国で得たデータを踏まえ、季節性インフルエンザと比べて感染力は高くないとの見解を示しています。 このような政府の公的言論としての姿勢は評価したい。まだ試行段階であるが、マスコミが事実と異なるニュースで社会的不安を煽るようであれば、当然の対処だといえる。 ワイドショーなどのテレビ報道、そして新聞報道の在り方がこれからも厳しく問われるだろう。それはいいことだ。 今まで、この「権力」はあまりにもデタラメでありすぎた。政府の公的言論を含めて、国民の討議の中で、その「権力」によるデタラメな報道が検証されるべきである。これは「言論弾圧」などとはまったく異なる。新型コロナウイルスに関して会見する加藤勝信厚労相と厚生労働省のロゴマーク=2020年2月20日(宮崎瑞穂撮影) 3月9日現在、新型コロナウイルスの欧米への感染拡大が、死亡者数と感染者数の増加、そのスピードを見ても深刻化している。それが世界経済の先行きに濃い暗雲をもたらしている。東京株もついに2万円台を大きく割ってしまった。 現状で利用できる代表的な経済予測を確認しておきたい。経済協力開発機構(OECD)の基本シナリオでは、2020年の世界経済は従来の成長率2・9%から2・4%に減速、さらに、ドミノシナリオでは1・5%にまで経済成長率が落ち込む。また、「破滅博士」の異名を持つ米ニューヨーク大のヌリエル・ルービニ教授の予測はドミノシナリオとほぼ同じレベルである。リセッション入りは確実 日本経済への影響だが、OECD基本シナリオの予測では、経済成長率が19年0・7%から20年0・2%と、従来予測(0・6%)から0・4ポイント減速する。ドミノシナリオでは、日本個別は不明だが、基本シナリオの3倍のインパクトと考えればマイナス0・6%ほどに落ち込む。 「破滅博士」は、日本とイタリアのリセッション(景気後退)まで予測している。このリセッション入りは確実だろう。 日本経済がドミノシナリオ通りに、マイナス成長に落ち込んだ場合、補正予算ベースで最低でも6兆円超は必要になる。これでも、それ以前の消費増税と景気後退効果は払拭(ふっしょく)できないのだ。 払拭するためには、さらなる財政政策と金融政策の協調が必要である。この点については前回も指摘したので参照されたい。 OECDでも「破滅博士」でも、基本シナリオ通りなら、20年第1四半期で新型コロナウイルスの経済的影響が終息することが必要である。第2四半期(2020年4~6月)、第3四半期(同7~9月)まで、北半球(日本では特に環太平洋地域)での世界総需要の動向がカギを握る。ここが落ち込むとその深度に応じて、ドミノシナリオが真実味を帯びてくるだろう。 仮に世界景気が思ったほど失速しなくても、日本が経済政策で「無策」を採用すれば、日本だけが深刻な不況に直面するだろう。内閣官房参与でイェール大の浜田宏一名誉教授は、最近の論文で「財政政策の機動性を十分に生かせ」と提言している。 既に中国、韓国など海外からの観光客の急減に加え、風評被害ともいえるコロナショックに見舞われている業態も出始めた。非正規雇用を中心に雇い止めの動きが加速する懸念も強い。2020年3月9日、2万円を割り込んだ日経平均株価の終値と1ドル=102円台の円相場を示すボード 経済評論家の上念司氏は、文化放送「おはよう寺ちゃん活動中」やツイッターで「予備費2700億円とかショボい事言ってるからだよ。あと、本予算通らないと補正予算議論できないなんて手続き論は市場では通用しないのさ」と発言したが、筆者も激しく賛同する。政府が早急に補正予算を打ち出すことが重要だ。日銀も緊急政策決定会合を開くべきだ。 ワイドショーの煽るパニックも恐ろしいが、政府と日銀の無策が生み出す経済不況も恐ろしいものだ。日本は今、この二つの脅威に直面している。
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新型ウイルス退治に必死の文在寅を「怨念」は決して赦さない
重村智計(東京通信大教授) 韓国で新型コロナウイルス(COVID-19)の感染が拡大している。政府批判の高まりを受け、政局も不透明さを増している。 このままでは、4月に行われる総選挙で、与党「共に民主党」は第1党の地位を失い、文在寅(ムン・ジェイン)政権がレームダック(死に体)化しかねない。韓国社会と政界混乱の背景には、日本人には分からない宗教事情と地域対立、そして政治文化が隠されている。 「天変地異は支配者に徳がないからだ」と受け止めるのが韓国の儒教的価値観だ。近代化によって相当変化していても、庶民の素朴な感情は変わらない。 この価値観も相まって、政府の対策遅れと中国への「忖度(そんたく)」が批判を呼んでいる。皮肉なことに、日本の対応を評価する声まで出ていたが、日本政府が韓国からの入国を抑制するため、9日から発給済み査証(ビザ)の効力停止を発表したことで、状況が変わりそうだ。 2月25日、文在寅大統領が感染源とされる新興宗教団体「新天地イエス教会」や、病院のある南東部の大邱(テグ)市を突然訪問した。大邱は元々朴槿恵(パク・クネ)前大統領の地盤で、父の故朴正煕(パク・チョンヒ)元大統領を絶対的に支持する保守派の拠点であるため、「反文感情」の強い地域とされる。それゆえ、何もしなければ「見捨てた」「差別だ」とすぐに批判される。 大邱を「封鎖する」と発言した与党報道官が、たちまちクビになったことでもお分かりだろう。先述のように、大邱のある慶尚北道(キョンサンプクト)は、文大統領に反発する保守派の支持者が占めている。報道官の発言は、慶尚道と対立する全羅道(チョルラド)勢力と左派の陰謀だ、と受け取られるからだ。2019年9月、ソウルで開かれた保守派の集会で横断幕を掲げる男性。幕には朴槿恵前大統領(右)や父親の朴正熙元大統領(左)が描かれている(共同) 韓国では、朴父娘や盧泰愚(ノ・テウ)元大統領を輩出した慶尚北道と、左派勢力の地盤とされ、故金大中(キム・デジュン)元大統領の出身地の全羅道の対立が今も続く。左派勢力にとっては、慶尚北道という「保守の牙城」を崩さなければ、4月の総選挙と2022年の次期大統領選を優位に進めることは難しい。その思惑もあってか、文大統領は大邱を訪問したが、かえって「遅すぎる」との批判も出ている。 韓国での新型コロナウイルス感染は主に「新天地教会」の教会に通う信者の間で拡大している。教会は中国の武漢市で伝道していたことを明らかにしている。 韓国の報道によると、この教会は、教祖が「キリストの生まれ変わり」を自称し、多くの信者を集めたという。「新天地教会」も日本で知られる世界平和統一家庭連合(旧統一教会)も韓国の正統キリスト教界からは異端の存在だ。新興団体が狙う「宗教観」 韓国のプロテスタントは、キリスト教長老派とイエス教長老派が二大勢力である。キリスト教長老派は、かつて民主化運動や反体制運動の中心勢力となった。一方、イエス教長老派は保守的だという。信者はイエス教長老派の方が多いとされる。 ただ、韓国のキリスト教ではこの2教派のほかに、正統教会から異端視される新興団体も多くの信者を抱えている。過去にも問題を起こした新興団体は数万人から10万人もの信徒を抱えていた。 韓国では「献金の多い信徒が天国に行ける」といった思いがある。新興勢力は、この宗教理解を巧みに利用し、韓国人に「教祖は神様と話ができる」「教祖はキリストの甦り」と教導することで信徒を増やしていった。 さらには「誰が天国に行けるかは、教祖様と神様の相談次第だ。だから献金しなさい」といった教えが語られるから、教会には多くの資金が集まる。 韓国庶民の宗教は、李王朝時代から続く「ムーダン(巫堂)」と呼ばれるシャーマニズム(巫女の預言、加持祈禱(かじきとう))が今も生きている。この伝統と宗教感情をも利用し、教会は信者数を拡大させていった。「教祖が神様と話ができる」という呼びかけは、シャーマニズムが息づく朝鮮半島の宗教文化では受け入れられやすいのである。 感染源とされる「新天地教会」は海外伝道にも力を入れており、武漢や米国の首都ワシントン、アフリカのウガンダ、内モンゴルなどに教会支部を設置しているという。ただ、新型コロナウイルス感染が韓国内で問題視され始めると、協会のホームページから「武漢」の名前が消えた。 中国のキリスト教は当局支配下の組織として「三自愛国教会」や「天主教愛国会」などに限られ、指導部は外国団体の伝道を認めない。そのため、「新天地教会」には秘密集会で布教していた可能性が浮上する。 つまり、教会関係者や幹部が昨年末まで武漢を行き来するうちに感染し、信者にも広がった疑いがある。それでも、韓国政府とメディアは、この問題を追及していなかった。だが、3月に入って、ソウル市が教祖ら幹部を殺人、傷害、感染病の予防などに関する違反などの疑いで検察に告発し、教祖はようやくひざまずいて謝罪した。2020年3月、韓国北部の京畿道加平郡の教団施設周辺で記者会見し、謝罪する新天地イエス教会の李萬熙教主(聯合=共同) 韓国の宗教団体はお金持ちである。特に、新興キリスト教団体には毎年数十億円から100億円単位の献金が入ってくる。 その資金を海外布教に投資していると宣伝する。韓国当局はマネーロンダリング(資金洗浄)を疑っているが、手が出せないのが現実だ。「日本の期待」は甘くない 海外でマネーロンダリングされた資金は、別の海外口座やタックスヘイブン(租税回避地)の口座に転送される。その後、密かに韓国に還流され、政治献金や教祖個人の目的や投資などに使われる。資金調査を行った当局者や取材に当たった記者は脅されたり、危険な目に遭わされたりした。 韓国での報道や当局の説明でも、教会と武漢の関係について言及されることはなく、闇に包まれたままだ。韓国内では、新型コロナウイルスは「武漢にある軍の研究施設が発生源」とのインターネット情報が拡散し、多くの市民が話題にしている。 日本には、コロナウイルス対策に失敗し、文政権が崩壊するとの期待が少なからずある。だが、韓国の政治はかなり複雑で、韓流(はんりゅう)ドラマで描かれるような陰謀劇が渦巻くため、そう簡単な話ではない。 また、韓国の保守勢力が合流して新党を立ち上げたことへの期待も語られるが、そんなに甘くはない。左派勢力が陰謀とスキャンダルを準備しているからだ。 なんと言っても、韓国は「和解と赦(ゆる)しの政治」ではない。保守勢力は底流に、朴槿恵前大統領に忠誠を誓う勢力と大統領弾劾に賛成した反朴槿恵勢力が感情対立を続けている。 もし、朴前大統領が大政治家としての思想と決断力の持ち主で、獄中から「反朴派を赦す」と宣言すれば、保守は大同団結ができる。「赦し」の政治と思想を実行すれば、偉大な政治家として歴史に残るのに、言わない。恨みと怒りを抑えられないのである。 女性政治家の限界というべきか、「嫌いであっても、政治的には協力する」という大局が見えない。だから、「韓国の未来と国民のために赦しの政治を行う」と言えず、朴前大統領を説得する長老や政治家もいない。韓国政治の伝統的な悲劇である。2020年3月1日、ソウル市内で開かれた三・一独立運動の式典で演説する韓国の文在寅大統領(共同) 日韓に横たわる歴史認識問題でも分かるように、韓国には「赦し」の思想がない。聖書は「キリストがあなたの罪を赦したように、人の罪を赦しなさい」と教えるが、なぜか韓国のキリスト教には神の「赦し」の神学と信仰がない。 「韓国のガンジー」と呼ばれた思想家の咸錫憲(ハム・ソクホン)が、国民を思う指導者や政治家の不在から、韓国民を「悲劇の民族」と呼んだのも無理からぬ話なのである。
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新型ウイルスでもビクともしない習近平「盤石」政権にはワケがある
く農村を視察して回っているのはそのためだ。紅二代から授かった使命でもある。 感染問題が長引き、十分な医療を受けられない貧困層の生活や健康、生命が脅かされる状態になれば、そのときこそ政権の是非が問われる。だからこそ多少の荒療治をしてでも、それを食い止めなければならない。習氏はそこを見ているし、心ある中国ウオッチャーもやはりそこに目を向けなければならない。
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身動き取れない、脆弱「感染列島」
感染が広がる新型コロナウイルスについて、政府が矢継ぎ早に対策を打ち出しているが、混乱は収まらない。終息への正念場と分かっていても不安が消えないのは、感染リスクだけではなく、政府の「後手後手」感が拭えないからだ。感染症の恐怖に直面し、政治まで身動きできなかったとでも言うのだろうか。
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舛添要一だから言える、新型ウイルス「厚生労働相」ここが危ない
の肩書のある者に限って採用するという権威主義的な方策を採った。しかし、私は感染症がはやっていた関西の医療現場で対応している若い医師たちの意見を聞くことにした。今果たすべき「大臣の役割」 官邸がチームAなら、私の方はチームBである。そのチームには、今回クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」の内情をユーチューブで公開した感染症専門医、神戸大の岩田健太郎教授も入っていた。結局、やはり現場の意見の方が正しく、私はそちらを採用して、対応に成果を上げることができたのである。 安倍長期政権の下で、野党が弱く、官僚は官邸に忖度し、批判的な意見など無視される状況では、2009年のように広く意見を求める、つまり「万機公論に決すべし」というのは不可能になってしまった。そこで、数多くの感染症専門家がテレビに出て、それぞれの見解を述べ、どの説が正しいか分からず、国民は不安になっているのである。加藤厚労相は自らのリーダーシップで広範な意見を聞き、政策立案に生かす必要がある。 第二に、従来の官僚機構とは別の大臣直属のチームを持つことである。私が大臣のときは、まず袋小路に入った年金記録問題を解決するために、各省、そして民間から優秀な人々を集めたチームを作った。 そして、このチームに社会保険庁への立ち入り調査をなどの権限を付与した。その結果、社保庁の不正やミスが次々と明らかになったのである。このようなチームを作ることを官僚は嫌がるが、人事権を握っているのは大臣であることを忘れてはならない。 また、年金記録問題のときは、政権党である自民党が国民から厳しい批判を受け、党でも07年の参院選前にチームを作って対応に当たっていた。私は、そのメンバーだったので、その流れで第1次安倍内閣の厚労相に就任したのである。 今回の新型肺炎対応に当たっては、厚労省にも自民党にも、そのような独立した強力なチームが作られたという話は広く国民には知らされていない。 第三は、徹底した情報公開である。官僚は情報を隠したがる。それを吐き出させるのが大臣の役割である。 新型インフルエンザのときは、大臣の私自らが会見して、毎日のように国民に情報を伝えた。例えば、医療現場から上がってくる患者情報を分析し、新型インフルエンザの症例の特徴、つまり発熱や咳(せき)、痰(たん)などのデータを図表化して国民に伝えたのである。しかし、今回は、すでに950人も感染者が国内で発生しているのに、症例の詳細なデータがあまり出ていない。新型コロナウイルスの国内流行に備える政府の基本方針に関する記者会見で、手元に視線を落とす加藤厚労相=2020年2月、厚労省 また、「ダイヤモンド・プリンセス」の乗客・乗員の国籍別人数、年齢、性別などのデータが広く公開されなかった。その数を国民が知ったのは、各国がチャーター機を派遣して自国を帰国させたときである。最初からこれをもっと世界に知らせていれば、国際世論がクルーズ船対策の改善を求める声を上げていたであろう。 官僚機構を動かすのは政治家の役割である。その意味で安倍内閣、とりわけ加藤厚労相の責任は極めて重いと言わざるをえない。
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新型コロナ禍で正念場の日本、米国に学ぶべき非常事態時の「覚悟」
していた。 しかし、それは幼児による薬の誤飲を防ぐための措置であった。大国でありながら貧者がまともな医療を受けることができぬアメリカではあるが、「国民の命」を守ることにおいて周到な準備と配慮を怠らず、それを徹底している一面がある。そのためなら大胆ともいえる政治決断をためらうことなく行う国でもある。 新型コロナウイルスに対する日本政府の対応を見ていて、9・11のテロに際してのアメリカ政府の決断を想起せざるを得なかった。今回の出来事を9・11に準(なぞら)えるのは大げさ過ぎる、同列に扱うのは不適当との意見は当然あるだろう。 しかし、両者は、非常時に際し「国民の命」を守るため、全ての責任を背負った政治決断が求められている点では同じである。日本はいかなる準備と覚悟を持っているのか、それが試されている。新型コロナウイルス対策本部の会合で発言する安倍晋三首相。左は加藤隆信厚労相=2020年2月、首相官邸 冒頭に述べた「覚悟」は、政権担当者はもとより、与党だけでなく野党政治家にも、国政だけではなく地方政治においても問われている。政治に携わる者は、その立場を越え、国や地方問わず肝に銘じておく必要がある。 対外関係を配慮し過ぎて、あるいは関係機関の調整と了解に傾注するあまり、あるいは揚げ足取りにしか見えない低劣な批判への対応に時間を奪われるあまり、然るべきときに、然るべき決断ができず、結果として弥縫(びぼう)策に終始する日本政治の弱点が露呈しないことを願うばかりである。
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台湾が新型コロナの感染拡大を抑制できている理由
拡大防止に一役買っている。台湾は国民皆保険制度で、誰もがICチップ入りの保険証を持つ。個人の番号は、医療保険や身分証明書など公的書類に共通で、海外渡航や治療履歴がすぐに分かる。2月21日 台北市内で記者会見する台湾の陳時中衛生福利部長(田中靖人撮影) 隔離を免れようとしても困難だ。湖北省などに滞在していた台湾人は、発熱などがあれば直ちに隔離される。密かに台湾に戻っても、当局が捕まえにくるそうだ。法務部調査局など台湾の情報機関が、スマートフォンを経由して個人の動向を詳しく把握しているとのうわさもある。末端行政機関で日本の町内会ぐらいの規模を管轄する「里」も、住民の動向に目を光らせている。国民管理は日本より厳しい。台湾はイメージほどヤワな国家ではない。 このほか、今年1月の台湾総統選で蔡英文総統が圧勝し、中国当局が嫌がらせのため、中国人の台湾観光旅行を規制していたことも、かえって幸いだった。この見方は、反政権側の国民もしぶしぶ認めている。国民党の対立候補、韓国瑜氏は観光を含む中国との交流強化を訴えていた。ある市民は「韓氏が当選して、中国の観光客が押し寄せていたら、今ごろどうなっていたか」と話している。 なおSARSは重症化すると肺に後遺症が残り、治癒後も激しい運動ができなくるという知識も、台湾人に共有されている。新型コロナウイルス肺炎も同じという。男性医師は「インフルエンザと同じと思うのは禁物」と話している。いのうえ・ゆうすけ 1963年東京生まれ。早稲田大学法学部卒。天津南開大学へ留学経験あり。共同通信記者、時事通信上海支局勤務、衆院議員政策秘書などを経て現在に至る。
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ペスト、赤痢菌… 北里柴三郎ら日本人研究者の戦いの歴史
今回の新型コロナウイルスに限らず、人類はさまざまな感染症と戦ってきた。14世紀の欧州で猛威を振るったペストの致死率は60~90%にも及び、当時の欧州人口の半数にあたる数千万人が死亡したと推計されている。 この病原体との闘いに大きな貢献をしたのが日本人研究者たちだ。 19世紀末から20世紀初頭にかけて日本でもペストの流行が幾度も起きた。明治政府はその対策として、破傷風菌研究の世界的権威・北里柴三郎に白羽の矢を立てた。 ペストが蔓延していた香港に派遣された北里は、助手や他の研究者が感染して倒れるなか、世界で初めてペスト菌を発見するという偉業を成し遂げた。 有史以来7度のパンデミック(感染爆発)を引き起こしたコレラの撲滅に大きな貢献をしたのも北里だ。世界初のコレラ血清療法を確立したうえ、1916年にはコレラワクチンも完成。数十万人に接種された。志賀潔(医学博士、細菌学者、脳科学者) 19世紀末に、結核やコレラなどの原因菌が次々に発見されるなか、正体がつかめないままだったのが赤痢菌である。日本では1897年に大流行し、9万人が感染。致死率は25%に達した。この赤痢菌を世界で初めて発見したのが、北里から直接指導を受けた志賀潔だ。 北里から赤痢の病原菌探索を指示されると、志賀は下宿を引き払い、研究室に住み込んだ。日々、感染の危険に晒されながらも患者の便を顕微鏡で粘り強く調べ続け、発見に至ったのである。 20世紀初頭、野口英世は南米で蔓延していた黄熱病の研究に人生を捧げた。貧しい出自ながら勉学に没頭し、最期は自身も黄熱病に感染して命を落とした野口の生き様は、伝記として読み継がれ、多くの後継者を生んだ。『まんが医学の歴史』の著者で、いばらきレディースクリニック院長の茨木保氏は、日本人研究者の貢献をこう評価する。「感染症の新しい治療法を確立したという意味では、『血清療法』を開発した北里柴三郎、病原体を直接叩く『化学療法』で梅毒の特効薬サルバルサンを発見した秦佐八郎の業績が光ります」 感染症の医学史に名を刻んだ日本人研究者の志は、いま最前線で戦う者にも時を超えて受け継がれる。関連記事■努力の人・野口英世は遊郭入り浸り 留学費用で放蕩三昧■ノーベル賞で万能薬イメージ、がん免疫治療薬の注意点■中国で豚コレラ蔓延、マフィアが感染豚を転売し荒稼ぎ■東京五輪 マラソン以外でも「開催地変更」を要求される懸念■新型肺炎でマスク「転売ヤー」が出現 定価の3倍で取引も
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コロナショック直撃、救えるのは日銀の「非公式見解」しかない
田中秀臣(上武大学ビジネス情報学部教授) 新型コロナウイルス(COVID-19)感染の影響が、経済的にも社会的にも拡大し始めている。経済的な影響は、昨年からの経済動向を分析すると、3段階の局面が重要になっている。 一つ目は、日本経済が米中貿易戦争などの影響で2018年秋から減速傾向を見せ始め、19年には明らかに景気下降局面入りになった。このタイミングで、10月に消費税率10%引き上げが政治的な思惑を優先する形で導入された。 二つ目は、消費増税が政府の対応策をほぼ無効化し、消費や設備投資、輸入など日本の購買力を直撃し、その影響が現段階まで持続している。その状況で今回、新型コロナウイルスによる経済的な影響が国内外で発生している。 三つ目の局面は今後の状況にかかっている。それは、「景気下降局面」プラス「消費増税」プラス「新型コロナウイルス」の「三重苦」がいったいいつまで持続するかだ。 この三重苦の中で、比較的短期に終息しそうと思われているのが、新型コロナウイルスの経済的ショックだろう。ここでは、中国、日本、そして世界における本格的感染の終息宣言が、世界保健機関(WHO)や各国政府などから早期に出されるケースを想定している。その場合でも、本格的な感染がいつ終わるかによって、日本経済には深刻なダメージが待ち受けている。 もちろん、それは今夏の東京五輪・パラリンピックの開催をめぐるものだ。中でも、嘉悦大の高橋洋一教授は最も悲観的な予測を提示している。 高橋氏によれば、国際オリンピック委員会(IOC)が開催するか否かの判断時期を5月中に設定する場合、WHOの終息宣言は少なくとも5月下旬がリミットになるが、それまでに本当に終息するかどうか微妙だ、という。もし、東京で開催しないと決定されれば、その経済的影響は計り知れないというものだ。下げ幅が一時1000円を超えて急落した日経平均株価を示すモニター=2020年2月25日午前、東京・八重洲 ただ、高橋氏の「悲観シナリオ」はあくまで一定の前提の上での話であることに注意が必要だろう。WHOや各国政府の終息宣言がいつ出されるか、まだ全く不確定な話でしかないからだ。 五輪やサッカーのワールドカップといったスポーツのビッグイベントの経済効果を、よく言われるようにインバウンド(外国人観光客)消費の増加や公共事業による経済浮揚効果に限定するのは、正しくはない。ビッグイベントに伴うインフラ整備は、開催までにそのほとんどの「経済効果」を使い切っている。あとは、その既存設備がどのように活用され、社会資本として機能していくかだけになる。「三重苦」への経済対策は インバウンド消費も直接面だけを見るのは妥当ではない。五輪などの一時的な観光客増を嫌って、人々が他国や地域に観光に出掛けるかもしれないし、違う形態の消費におカネを使うかもしれない。つまり、混雑効果を考慮しなくてはいけなくなる。 ある実証研究では、五輪の経済効果は、開催国の国際的な信頼性を上昇させることで輸出が増加する効果として現れるという。他方で、五輪などのビッグイベント自体の経済効果よりも、金融政策などのコントロールがうまくいっている方が重要だ、という実証もある。 仮に、高橋氏の悲観シナリオが不幸にして成立してしまえば、日本の「国際的信頼」は毀損(きそん)され、輸出にも影響を及ぼすかもしれない。他方で、増加が見込まれるインバウンド消費や五輪を当て込んだ国内消費や投資などは大幅に失われる。 今回の新型コロナウイルス問題以前に提起されていた東京五輪による経済効果の各種推計を読み解くと、既に2020年は各種インフラ整備への支出はほぼ終わっているため、キャンセル効果は大きくない。インバウンド消費が3~4兆円、国内消費も1兆円程度が失われる。 ただ、本当に「失われる」かどうかは分からない。先ほど簡単に例示したが、五輪の混雑を忌避する観光客の消費増が国内外から発生するかもしれない。もっとも、これも新型コロナウイルスの風評被害がゼロであるという前提に立っている。 新型コロナウイルスの感染拡大が収まらないことで、五輪が中止になれば、日本の「国際的な信頼」が毀損されるだろう。「観光立国」というブランド(があるとして)も大きく低下するかもしれない。 いずれにせよ、上述の悲観シナリオの当否は取りあえず別にしても、「景気下降局面」プラス「消費増税」プラス「新型コロナウイルス」の「三重苦」に対応する経済政策が必要になる。現在の国会で審議されている補正予算だけでは不十分だ。都庁で行われた記者会見で新型肺炎の東京五輪に対する影響について説明する東京都の小池百合子知事=2020年1月31日 では、どのくらいの規模が必要だろうか。現在、審議中の補正予算案は4兆3千億円程度でしかない。これではおそらく「三重苦」の「景気下降局面」プラス「消費増税」、二つの悪影響の、それも3分の2程度しか打ち消すことができないだろう。 やや粗い計算になるが、公表されている日本銀行の需給ギャップ(国内総生産=GDP=ギャップ)推計を利用してみよう。 日本経済の潜在GDP(資本や労働が完全利用されている水準のGDP)と約530兆円ある現実のGDPとの開きは、2019年の第3四半期でプラス1・02%と3四半期連続で悪化していた。この状況に「消費増税ショック」がのしかかるが、14年の増税並みと仮定すると、日銀推計のGDPギャップはおそらくマイナス域に限りなく接近するか、場合によっては小幅マイナスになるだろう。消費増税ショック再び? 「マイナスといっても、小幅だからいいじゃないか」という話ではない。次期日銀審議委員に決まったエコノミストの安達誠司氏が以前指摘していたが、日本経済がデフレ脱却に最も近づいたころが2018年秋ぐらいまでだ。その時期の日銀推計のGDPギャップは2%超だったが、この水準(以上)を目指さなくてはいけないからだ。 仮に、新型コロナウイルスの経済的影響を14年の消費増税ショック並みと見れば、上述の「三重苦」でGDPギャップは最悪マイナス1%近くまで落ち込む。要するに、消費増税が半年足らずの間に2度やってくるようなものだ。 これを打ち消すには、現状の19年補正予算4兆3千億円に加え、6兆円以上の新たな補正予算が必要になるだろう。さらに2018年秋レベルのデフレ脱却可能な水準にまで引き上げるには、さらに6兆円以上の補正予算が求められる。新型コロナウイルスの影響次第だが、補正予算ベースで総額16兆円規模になる。 これらは粗い計算ではあるが、一つの目安ぐらいにはなるだろう。「デフレ脱却を後回しにして、取りあえず経済を『三重苦』から脱却させろ」というせっかちな(愚かな?)要求ならば、10兆円程度になる。新たな補正予算には6兆円超が確実に必要というわけだ。 日銀の政策委員会にはいわゆるリフレ派が3人いる。現状では、若田部昌澄(まさずみ)副総裁と片岡剛士審議委員、そして原田泰審議委員だ。原田氏に代わり、3月26日からは安達氏が委員に就任する。 政策委では、金融政策決定会合で反対票を投じる片岡氏と原田氏がしばしば注目される。しかし、両氏以上に重要なのが、若田部氏の「隠れたメッセージ」を解読することだ。 総裁、副総裁2人から成る執行部は意思統一を強く求められるため、日銀の「公式見解」とずれる内容をなかなか言いにくい。だが実は、若田部氏は読む人がしっかりと読めばわかる大胆な提案を、講演や記者会見で発言している。青森市で記者会見する日銀の若田部昌澄副総裁=2020年6月 最近の講演では、やはり彼が政府と日銀の協調を提起しているところがツボである。黒田総裁なら、しなびたミカンの皮程度のことしか言わないものだ。 日本銀行が大規模金融緩和を継続するもとで、経済情勢に対応して機動的に財政政策が運営されることは、金融緩和と財政刺激の相乗作用を高め、景気刺激効果をより強力なものにすると考えています。一般に、政府が国債増発を通じて政府支出を増加させると、長めの市場金利に上昇圧力が加わり、これが次第に民間投資などを抑制するメカニズムが働きます。これに対して、政府支出が拡大するもとでも、中央銀行が市場金利の上昇を抑制すれば、民間投資などへのマイナスの影響は限られ、景気刺激効果の強まりが期待できるということです。若田部昌澄「最近の金融経済情勢と金融政策運営」2020.02.05 若田部氏のメッセージを実行する、このことが何よりも求められるのである。
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新型コロナウイルスと向き合うための「危機管理の鉄則」
への情報提供(リスク・コミュニケーション)(3)感染症の蔓延防止に関する措置(セキュリティー)(4)医療の提供体制の確保のための総合調整(ロジスティクス)(5)国民生活や国民経済の安定に関する措置(セキュリティー・ロジスティクス) この五つの基本計画はこの新型コロナウイルス対策においても踏襲される。パンデミック対策のカギ これらのインテリジェンス、リスク・コミュニケーション、ロジスティクス、セキュリティーの四つの活動も、特に感染症のパンデミック対策では、そのスピードが勝負の鍵となる。素早い判断と、素早い手続き、素早い指揮命令と、現場における素早い対応によって、感染拡大の規模を最小化することが可能になる。 医学的な判断や国際状況を見極める態度は重要だ。ただ、そのためにじっくり見極める時間を取ることで、対応が遅れて感染が広がるという対策上のミスを防がなくてはならないのが、感染症のパンデミック対策である。 感染症が国内に入ることを防止する水際対策も、決して万全なものではなく、感染症の国内流入を防ぐことはできない。この水際対策も機能的には時間稼ぎであり、国内に感染症が入ってくるのを極力遅らせること、流入する感染者の数を極力少なくすることにより、感染拡大スピードを遅らせることが目的である。この感染拡大スピードを遅らせることで、その間に国内の対策を進める時間的猶予を作り出すという、時間との戦いである。 危機管理の鉄則は、「最悪の事態を想定する」ということであり、「空振り三振はしても、見逃し三振はするな」という態度である。つまり、新型ウイルスなどの感染症パンデミック対策においても、常に最悪の事態を想定し、過剰な対応策となったとしても、空振り三振を恐れず、対策の一手を先行して打つということが求められる。それが政治責任であり、政治判断である。 感染症のパンデミック対策においては、社会全体の市民や組織の協力体制が不可欠である。そのためには、自治体はどのような対応を採るべきか、企業は社員に対してどう対応すべきか、学校は生徒に対してどう指示すべきか、市民一人一人はどのような対応策をとるべきなのか、積極的な広報を展開する必要がある。 それを平常時に実施するのがリスク・コミュニケーションという活動であり、それを危機発生後に行うのがクライシス・コミュニケーションである。 国家を挙げた危機である感染症パンデミック対策であれば、重要な役割を果たすのが政府とメディアである。こうしたクライシス・コミュニケーションの過程では、(1)政府から自治体への指示(2)政府からメディア各社へのリリースや会見(3)政府から国民に向けた広報、が積極的に展開されなければならない。中国・武漢から29日にチャーター機で帰国した日本人3人の新型コロナウイルス感染が確認され、会見する厚労省の担当者=2020年1月30日(寺河内美奈撮影) 政府が直接市民に向けて発信できるメディアも、インターネット、会員制交流サイト(SNS)の時代を迎えて増加した。こうしたネットやSNSを最大限に活用した感染症対策の社会教育をより積極的に展開せねばならない。 そのためには、新しい感染症に対応したリスク・コンテンツの拡充と、それを市民に分かりやすく伝える政府や官庁のリスク・コミュニケーターの育成が必要である。連日テレビや新聞で報道される感染症関連のニュースも、社会教育においては極めて重要であり、こうした従来のテレビや新聞などのマスメディアを通じて、市民は感染症の実態や対処法を学ぶことができる。 こうしたテレビのニュース番組やワイドショー、情報番組を社会教育の手段として有効活用するためには、政府や官庁から、メディア各社への積極的なプレスリリース、記者会見や、リスク・コミュニケーターの派遣を展開することが必要不可欠である。「人権」と「人命」 ここで国民世論における「不安」と「安心」のバランスを考慮した積極的な広報が求められる。危機に際して、「不安を煽ってパニックになるのではないか」ということを恐れ、公的機関の広報が消極的になるケースが発生する。 むしろ、それは逆であり、情報を積極的に発信して社会教育することにより、市民の不安を払しょくし、安心をもたらして合理的で冷静な対応行動をとることが可能となる、という側面があることを忘れてはならない。 新型コロナウイルスが指定感染症と定められたことにより、感染が確認された場合には患者に入院勧告し、従わなかった場合には強制入院させることが可能となる。職場に出勤させない就業規制も可能である。 感染症のパンデミックで日本政府が在留邦人の保護のために政府チャーター機を派遣したのは歴史上初めてのことである。こうして、武漢からの在留邦人を乗せたチャーター機が帰国したが、帰国した邦人への検査態勢と対応措置、新型肺炎に感染した邦人患者への措置には課題が残った。 その課題は、アウトブレイクした外国都市からの在留邦人が帰国した場合、今回のような新型感染症の検査の強制的実施の問題、検査結果を問わず潜伏期間を含めた一定期間の隔離実施の問題など多岐にわたる。指定感染症を定めるタイミングや、それに間に合わない初動における対処には、まだグレーゾーンが残っている。そのためには感染症法や検疫法、新型インフルエンザ等対策特別措置法などのさまざまな法律の間の整合性を再検討しなければならない。 こうした人権問題に関わる事例をクリアする法制度の構築と、それを社会で議論し、合意形成していく民主主義的なリスク・コミュニケーションの過程が、平常時に求められる。 危機管理の普遍的な課題である、「安全・安心」と「自由・人権」の対立、トレードオフの問題を感染症パンデミック対策でも検討せねばならない。中国・武漢から羽田空港に到着した日本政府のチャーター機。手前は待機する救急隊員=2020年1月29日 今後、さまざまな新型の感染症に対してワクチンを開発する取り組みが始まるが、ワクチンの開発がパンデミックの過程において間に合った場合でも、その数量の限られたワクチンを誰から摂取するか、医療関係者、子供、高齢者、一般成人など接種の優先順位の検討と決定が必要となる。どの地域の、どの自治体から摂取を始めるか、どのような場所でどのような方法で接種を行うか、徹底した議論と合意形成が求められる。 こうした命の優先順位ともいえる機微な課題を、最大限、人権に配慮しながらも、パンデミックの被害を最小限化し、人命を優先するために、冷静に決断しなければならない事態が訪れている。 こうした議論と合意形成のために、市民に対する情報提供や情報公開は不可欠であると同時に、それを担うメディアの役割も重大である。これが危機管理におけるリスク・コミュニケーションの意義であり、現在の新型コロナウイルス肺炎の対策に必要なことも、この社会全体を巻き込んだリスク・コミュニケーションなのである。
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アベノミクスにもよく効く「パンデミック」の教訓
者が81人、患者数は2744人になり、世界中では3千人に迫る規模で増加している。武漢市当局者の発言や医療従事者の証言によれば、市内ではさらに1千人規模で感染者が増える可能性があり、感染力自体も高まっている。 既に日本でも患者が確認されており、今後も社会的な防疫体制の強化が必要だ。日本政府はチャーター機を手配するなどして、武漢からの邦人の全員帰国を実現しようとしている。 ただ、新型コロナウイルスに関して、これまでの日本政府の広報体制は十分なものとはいえない。画像を参照してほしいが、27日早朝の厚生労働省のホームページには、季節性のインフルエンザに対する注意喚起程度しかない、といっていい状況だ。参考として紹介している国立感染症研究所の情報も、単なるコロナウイルスの種別解説しか記載がない。 他方で、インターネット上では、国内外の報道や医療関係者の具体的な発言を無数に確認することができる。もちろん、その中には虚偽の伝聞や、過剰な煽りも多い。 日本政府の情報発信のレベルの低さは、すなわち危機管理力の決定的な遅れだ。社会的な疫病対策には、病そのものへの対応と同時に、社会的な不安を抑制する仕組みも必要だろう。その点で、日本政府の情報発信はまさに稚拙以外の何物でもない。 NHKでは、世界保健機関(WHO)の発表を紹介し、ウイルスの感染力が患者1人から2・5人(以前は1・4人)に拡大していること、致死率は3%であることを伝えている。感染力や致死率は、2003年に流行した重症急性呼吸器症候群(SARS)に比べれば格段に低い。ただし、多くの医療関係者は、人から人に感染していく中での変異を懸念する声も多い。 昨夏大きな注目が集まった日韓の輸出管理問題では、当時の経済産業相だった自民党の世耕弘成参院幹事長が積極的にツイッターでマスメディアの報道の問題点や、制度自体の詳細を解説して、国民の誤解を防ぐ役割を果たしてきた。河野太郎防衛相も、外相時代から始めた外交・防衛活動を現職まで続けることで、リアルタイムに政府の取り組みを知らせることに成功したといえる。 だが、今回の件では、加藤勝信厚労相の積極性は皆無だ。上述の通り、厚労省の広報もネット時代に対応できておらず、全くダメだ。車両の通行が制限され閑散とする中国・武漢市内=2020年1月26日(共同) 繰り返すが、社会的な防疫体制に、今はネットによる情報発信が極めて重要だ。その意味で、政府の現時点の対応は稚拙なものである。 最近の報道では、SARSとの比較が目立つが、新型ウイルスの猛威によって世界中で多くの人命が損なわれたのは、約1世紀中では1918年のインフルエンザのパンデミック(世界的大流行)だろう。そのときの経験から学べる教訓は多い。パンデミックの「教訓」 米歴史学者、アルフレッド・W・クロスビー氏の『史上最悪のインフルエンザ』(みすず書房)や、最近惜しくも亡くなられた歴史学者の速水融氏『日本を襲ったスペイン・インフルエンザ』(藤原書房)で、当時世界的規模で流行したことが実証的に明らかになりつつある。当時、日本では45万人、米国でも67万5千人、全世界では推計4千万人の死者が出た。 交通網の整備や人口の集中度合いなどが、致死率を高めることにつながった。現代は、1918年当時とは比較にならないほど都市化と国際的な人的交流の発展が進み、新型感染症の脅威はさらに高まっている。なお、ウイルスの基礎知識やパンデミックの定義など初歩的な解説としては、BBCの動画ニュースを参考にするといいだろう。 18年のインフルエンザと今回を比べる上で、ミシシッピ大のトマス・A・ガレット教授の論文「パンデミック経済学:1918年インフルエンザと今日の含意」(2008年)がいまだに役立つ。ガレット氏の論文を参考にして、重要な論点を列挙しておく。1)1918年のケースでは、都市部と地方で致死率に大きな違いがあり、都市部の方が致死率は高かった。しかし今日では、交通網の整備などで都市部と地方での有意な違いはないかもしれない。2)18年当時では、低所得階層で特に致死率が高かった。今回の武漢のケースでも貧困層が最も高い罹患(りかん)のリスクに直面しているとの指摘もある。3)18年当時では、都市部住民は比較的医療サービスを受けやすい環境にあったが、医療サービスの供給を過度に超える需要が存在することで、かえってインフルエンザの集団発生に貢献してしまった。例えば、狭い医療空間の中での患者や医療関係者が直面する場合である。報道によれば、武漢の一部の医療機関では、患者たちの過密する状況があるようだ。4)18年当時では、保険に加入していた人たちは経済的負担をある程度回避できたが、この保険でも低所得者層には致死率の面で、高所得者層に比べて不利だった。医療保険は正常財であり、所得が大きければより購買量が増える財だからだ。5)18年当時では、米国のフィラデルフィアとセントルイスは対照的だった。前者はカーニバルで多くの人が特定地域に密集し、全米で最もインフルエンザの脅威に晒された。対して、セントルイスでは地域を早急に封鎖することで、インフルエンザの波及を食い止めた。春節中の国外旅行を事実上禁止した中国政府の動きはこの教訓からいって妥当だったかもしれない。武漢などの「都市封鎖」もこのときの経験を参照したのかもしれない。 過去の教訓として重要なのは、ガレット氏が「パンデミックの経済学」で述べているように、公的機関の協調だ。これら政府の協調が失敗しないためには、人々の公的機関の情報に対する信頼性が何よりも鍵になる。 ただし、経済成長率や人権抑圧の状況でもそうだったように、中国政府が提供する情報は多くの人たちに疑問視されてきた。この信頼性の欠如が、今回の新型コロナウイルスの事例でもネックになりそうだ。日本政府の情報発信の問題については先に述べた通りである。 安倍晋三政権の危機管理能力が残念な点は、新型コロナウイルス対応への情報発信だけではない。経済問題に関しても深刻である。核心にあるのが、消費増税による悪影響を低く見積もる姿勢だ。これは政府だけではなく、日本銀行を含めた体質でもある。 先日閉幕した世界経済フォーラム(WEF)年次総会(ダボス会議)の記者会見の席で、日銀の黒田東彦(はるひこ)総裁が、2019年10~12月までの経済成長率がマイナスになるとの見方を示した。国内総生産(GDP)統計(速報値)自体は2月17日に公表される予定だ。マイナス成長の主因は相次いで日本に上陸した大型台風の影響だという。金融政策決定会合後の会見で質問する記者を指名する日銀の黒田東彦総裁=2020年1月21日(酒巻俊介撮影) 大型台風の影響が深刻で今も爪痕が残ることは理解できる。だが、それは10月に集中していたはずだ。同じく10月に実施された黒田氏の発言は、消費税率10%引き上げの影響をできるだけ大きく見せないように終始しているように思えた。これは悪質な欺瞞である。 岩田規久男前副総裁は『日銀日記』(筑摩書房)の中で、黒田氏が14年の消費税率8%引き上げの最大の功労者=戦犯であると指摘している。岩田氏も同僚であったので、慎重な書き方ではあるが、一読すれば趣旨は明瞭だ。防疫も経済も協調なし? 日銀による金融緩和政策の効果を大きく削いでしまったのは、金融政策の責任者である黒田氏自身にあった。財務省出身という黒田氏のキャリアが、消費増税を推進するスタンスに大きな影響を与えているのだろう。 ここで、金融緩和政策と消費増税の関係を比喩的に説明しよう。大胆な金融緩和政策を採用する「アベノミクス」以前は、駅前のロータリーをそれなりの速いスピードでぐるぐる回るだけでしかなかった。 これは金融緩和に否定的な人たちがよく用いる形容であるが、「マネーをじゃぶじゃぶ」しても、デフレ停滞から一向に脱することができなかったことを意味している。つまり、どんなにスピードを上げても駅前のロータリーから出られないのだ。 アベノミクスはこの政策スタンスとは違う。まず目的地を設定して、高速道に乗って近くのリゾート地に向かうことを決めている。それがインフレ目標2%であり、目標を通じた雇用や経済成長の安定化だった。車は当初は高速道を80キロくらいのスピードで順調に運転していた。これが2013年終わりまでのアベノミクスの根幹である金融緩和政策の姿だ。 だが、2014年4月の消費増税は、高速道で同じスピードのまま猛烈な向かい風に当たることになる。当然にアクセルを踏む力が同じままであれば、速度は大幅にダウンする。 ただし、とりあえず進むことは進んでいる。雇用の持続的改善の主因は、目的地を見据えた緩和の継続にある。これを「アベノミクスは史上最悪の緊縮政策」「消費増税で日本経済ハルマゲドン」論者たちが見落としていることだ。 もちろん、強烈な向かい風があれば、アクセルを踏み込んで80キロに上げればいいのだが、そもそも、消費増税という向かい風を政府自らが起こす必要はないはずだ。ところが、今回の増税でもその手法を採用している。 防疫体制もそうだが、国民の生命は経済政策によっても保障されている。その経済政策の点から、政府と日銀は国民に対して、長期停滞という深刻な病に再び陥ることを強要しているともいえる。新型コロナウイルスに関連した感染症対策に関する関係閣僚会議で発言する安倍晋三首相。手前は加藤勝信厚労相=2020年1月24日(春名中撮影) 新型の感染症対策には、公的機関の協調が必要であり、その核は公的機関の発信する情報の信頼性にあると指摘した。経済対策でも同じことだ。 黒田総裁や政府からは消費増税の悪影響をできるだけ過小に見せかける発言しか聞こえてこない。これでは、国民の信頼を得ることはできないだろう。まずは、安倍首相自らがインフレ目標2%へのコミット(関与)を再度強調することが必要であろう。
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この先も相次ぐ「中国発」新型コロナウイルスの潜在的な脅威
上昌広(医療ガバナンス研究所理事長) 中国の武漢市で新型コロナウイルスの感染が確認された。この記事を書いている1月19日現在、判明していることは以下だ。 中国国内の患者数の合計は62人。このうち、8人が重症と判断され、2人が亡くなっている。1人は進行した肝疾患を抱えた61歳の男性。ウイルス感染が基礎疾患を悪化させた可能性が高い。もう1人は69歳の男性で、基礎疾患の有無は明らかではない。 中国国外で診断されたのは2人だ。1人は1月12日にタイで診断された61歳の男性。武漢からの旅行者で、5日に発症していた。もう1人は30代の日本人だ。16日に報告された。6日に武漢から帰国し、同日に医療機関を受診した。10日に入院し、15日に軽快、退院している。 では、このウイルスの毒性は、どの程度だろうか。2003年3月に中国広東省から広まった重症急性呼吸器症候群(SARS)の致死率は9・6%、13年5月にサウジアラビアで発生した中東呼吸器症候群(MERS)は34・4%だった。いずれも今回と同じコロナウイルスだが、現時点では、このようなウイルスよりは毒性は低いと考えられている。 ただ、これはなんとも言えないと思う。もし、69歳の死亡例が健常人であれば、楽観視できない。重症と言われている8人の全てが亡くなれば、致死率はSARSを上回る。 次の問題は感染力だ。注目すべきは、中国国内で診断された62人の多くが武漢の海鮮市場で働いていたことだ。この中に妻も感染したケースが含まれる。この妻は海鮮市場に出入りしていないから、職場と家族内で一気に拡散したという見方もできるし、感染している動物と接触すると容易に感染するが、家族内での感染が少ないことを考慮すれば、人から人への感染リスクは高くないのかもしれない。新型コロナウイルスが原因とみられる肺炎患者が多く出た中国湖北省武漢市内の海鮮市場(共同) ちなみに、タイと日本の患者は、この市場との接触はない。感染経路は不明だが、彼らが普通の会社員であれば、感染動物と接触し、うつった可能性は低いだろう。以上の事実は、ヒト・ヒト感染を起こす可能性を示唆している。 現在、厚生労働省や有識者の多くが「過剰に心配する必要はない」と主張している。そして、国民の多くが、毒性も感染力も低いと考えている。私は、このような希望的な観測には賛同できない。 そもそも計64人の感染者のうち、8人が重症化したのだから、毒性はそれなりに強いだろう。彼らの多くは市場で働いていた現役世代だ。介護施設に入っているような高齢者ではない。免疫を持っていない状態で罹患すれば、かなりの確率で重症化しそうだ。現状は「患者が置き去り」 ただ、私は現時点では危険とも安全とも言えないと考えている。このまま収束する可能性もあれば、将来的に大流行する可能性も否定できない。現時点で「過剰に心配する必要がない」のは、発症から時間が経っていないため、まだ拡散されていないからだ。感染者と接触する可能性は低いため、その意味でインフルエンザの方がはるかに「危険」だが、このことが新型ウイルスについて何も心配しないでいいと保証するものではない。 現に英インペリアル・カレッジ・ロンドンの研究者たちは、武漢市内の感染者は推計で既に1723人にのぼると報告した。上海や深圳でも疑い例の存在が報じられている。 では、どうすればいいのか。私は正確な情報を世界でシェアすることだと思う。まずは遺伝子配列のデータを一刻も早く公開することだ。世界中の専門家が様々な意見を学術論文という形で述べるだろう。また、医療現場でやるべきは、正確に診断することだ。そのためには医療現場、特に最初に受診する開業医に診断手段を提供しなければならない。 具体的には、彼らが普段使っている検査会社に普通にオーダーずれば、結果がすぐに返ってくるようにすることだ。国立感染症研究所に申し込み、サンプルを自分で送るようでは、多忙な医師は対応できない。 専門家の中には、後日、保存された血清などを用いて、疫学的な調査をすればいいという人もいるだろうが、これでは患者が置き去りだ。医療機関を受診する患者の中には「新型ウイルスにかかっているのではないか」と悩む人もいるだろう。彼らの不安に全く対応していない。政府や専門家がやるべきことは、国民と医療現場を統制することでなく、彼らを支援することだ。 これは2009年の新型インフルエンザ流行の反省だ。このときもそして現在も、厚労省は新型ウイルスの流入を水際で食い止めるといい、メディアもこの方針に疑問を呈さない。 数カ月間かけて世界を旅する大航海時代ならいざ知らず、現在、こんなことは不可能だ。日本と中国は飛行機でわずか数時間の距離で、潜伏期間の患者はどんな方法を使っても食い止められないからだ。新型のウイルス性肺炎患者が国内で初めて確認されたことについて記者会見する厚労省の担当者=2020年1月 09年の新型インフルエンザ流行の際には、最初に診断された症例は神戸の住民で、海外渡航歴はなかった。地元の医師が感染を疑い、特別に検査したところ感染が判明した。当時、厚労省は検査する患者の基準を定めており、この患者は厚労省の基準を満たしていなかった。熱意ある医師が何とか関係機関と調整して、検査をしてもらったのだ。 その後、新型インフルエンザが国内で大流行したのは、ご存じの通りだ。今回、この教訓は活かされるのだろうか。ここまでは、その兆候はない。 なぜ、やらないのだろうか。もし、財源が必要なら、加藤勝信厚労相や安倍晋三総理に正確な状況と費用を説明して、リーダーシップを発揮してもらうことだ。せっかく、検査体制を整備しても、もし流行しなかった場合は、カネは無駄になる。それはそれでいいではないか。国民の命がかかっているのだから。必要なのは「患者目線」の対応 この問題は今回の流行だけに限らない。新型ウイルスに対する危機管理体制を確立するのは、日本にとって喫緊の課題だ。なぜなら、今後も中国発の新型ウイルスが出現し続けるからだ。この問題は、今こそ議論すべきだ。 新しいウイルスは突然なにもないところから生まれてくるわけではない。多くは動物に感染するウイルスで、何らかの突然変異が生じ、動物からヒトに感染するようになる。そして、さらに変異が生じ、ヒトからヒトに感染するようになる。 例えば「はしか」は、元はウシやイヌの感染症だ。家畜化の過程でヒトの感染症へと変異した。ヒトのみに感染する天然痘は、元は齧歯(げっし)類のポックスウイルスから進化したと考えられている。人類社会が発展し、ネズミと「共生」するようになったため、ヒトに感染する変異体が生まれた。 現在、新型ウイルスが最も生まれやすいのは中国だ。二つの理由がある。一つは中国には大量の家畜が存在することだ。2017年に世界で9億6700万頭のブタが飼育されていたが、このうちの45%は中国だ。2位のアメリカの7・6%を大きく引き離して断トツのトップだ。 ニワトリは全世界で228億羽飼育されているが、21・3%が中国だ。これも2位のインドネシアの9・5%を大きく引き離す。もう一つの問題は飼育場所が人間の生活圏と近接し、家畜を生きたまま販売する習慣があることだ。 この点は以前から危険性が指摘されてきた。『サイエンティフィック・アメリカン』誌の編集長を務めたフレッド・グテル氏は著書『人類が絶滅する6つのシナリオ』の中で、「食肉用の動物を生きたまま販売する」伝統を紹介している。新型のウイルス性肺炎について注意喚起するポスターが掲示された成田空港検疫所を通過する中国湖北省武漢市からの到着客=2020年1月16日 例えば、「広東省の市場では、ニワトリが一羽ずつ入ったかごがいくつも積み上げられているのが普通」という感じだ。このような家畜は狭いところで、密集して生活しており、一旦感染症が流行すると、容易に伝搬する。そして、消費者や労働者にもうつる。これが中国から新型ウイルスが生まれ続ける理由だ。今後も状況は変わらないだろう。 中国は日本の隣国だ。われわれは、今回のような事態を繰り返し経験し続ける。今こそ、患者目線で現実的な対応を議論すべきだ。
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医学博士の直言「加熱式タバコなら安全」なんてもう言わせない
田淵貴大(医師・医学博士)(内外出版社『新型タバコの本当のリスク』より) 日本全国のコンビニエンスストアには、タバコ会社が作った加熱式タバコの広告看板が立ち並び、加熱式タバコのパンフレットがあふれている。 ご存知だろうか、これが、世界の中で、日本だけで起きている現象だということを。2014年に日本とイタリアの一部の都市限定で加熱式タバコ、アイコス(IQOS)の販売が開始され、2016年に世界で初めて日本が全国的にアイコスを販売している国となった。 そして、2016年10月時点で日本がアイコスの世界シェアの96%を占めた。ほとんど全てのアイコスは、ここ日本で使われている。すなわち、日本が新しいタバコ、新型タバコ、加熱式タバコの実験場になっているのだ。 加熱式タバコに関する情報は、タバコ会社が提供するものしか出回っていない。そのため、多くの人はタバコ会社の言うことをそのままに受け止めてしまっている。実は、タバコ会社は意図的に、加熱式タバコには害がないと誤解させるようなプロモーション活動を行っている。 それで、多くの人がまじめな顔で、「加熱式タバコにはほとんど害がないんですよね?」とか「加熱式タバコなら子どもの前で吸っても安全ですよね?」などと筆者に質問を寄せてくる。あまりにも多くの人が誤解させられている事態に筆者はショックを受けた。 これまでの加熱式タバコに関する情報のほとんどは、タバコ産業が発表したものだ。「このタバコの新製品は、今までのタバコ製品と違ってクリーンで害が少ない」と。このタバコ会社からのメッセージは、決して目新しいものではない。タバコ会社は、これまでもずっとタバコを少し改変しては、同じメッセージを繰り返し発表してきた。過去には、タールの少ないタバコが発売された。人々はタールの少ないタバコのほうが安全だと信じたが、タールの少ないタバコも従来のタバコと害は変わらなかったのだ。「glo」の記者説明会で発表するブリティッシュ・アメリカン・タバコ・ジャパンのロベルタ・パラツェッティ社長=2017年5月30日午後、東京都千代田区 現在のところ、アイコスやプルーム・テック(PloomTECH)といった加熱式タバコ製品が今までのタバコ製品よりも害が少ないという証拠はない。それどころか、加熱式タバコから出る有害物質など加熱式タバコの有害性に関して科学的に吟味された学術論文が次々に発表されてきているのだ。徐々に、加熱式タバコについて判断を下すための資料、科学的根拠、疫学データ等の情報が集まってきている。社会は成熟してきている。 筆者の子ども時代や社会人になったばかりの頃の社会と比べて、現在の日本社会はルールや規範がより整い、成熟してきていると感じている。他人のタバコの煙を吸わされることによる健康被害の問題、すなわち受動喫煙の問題についても社会は一歩一歩改善してきている。 子どもの頃に乗った新幹線の自由席は、タバコの煙が充満していて、煙たく、喉がイガイガして気持ち悪くなり、目も痛くなり、つらかった記憶がある。今でも一部、喫煙車両が運行されているが、禁煙の車両を選べば、タバコの煙に悩まされることは格段に少なくなった。まだまだ受動喫煙の対策は不十分だという声があちこちから聞こえてきそうだが、2018年には改正健康増進法が可決され、日本社会も受動喫煙を防止する社会へと確実に舵(かじ)をきっているのである。新型タバコのウソ そんな中で、日本では新型タバコ問題が突如として現れた。タバコ問題に取り組んできていた我々が一切関知しない状態で、新型タバコである加熱式タバコのプルームおよびアイコスが日本で発売されたのである。単にタバコ会社は、新しいタバコの銘柄の発売を開始するのと同じように、いつも通りに財務省に加熱式タバコの発売を申請し、承認されただけなのだ。 しかしその時点では、その加熱式タバコは世界中のどの国でもまだ発売されていない、紙巻タバコとはかなり違ったタイプのタバコであり、おそらく誰にもそれを簡単に許可すべきか否か判断はつかないはずのものであった。それでも日本では簡単に発売が開始されている。 発売の承認にあたり、何らかの議論があったという話さえ聞こえてこなかった。おそらく今までにも販売されたことのある電子式のタバコ製品の一種ということで、簡単に認可されたのだろう。今までの電子式のタバコ製品と同様に、たいして売れない、と考えられたのかもしれない。 ところが、今回の新型タバコはブレークした。これには財務省も驚いたことだろう。加熱式タバコではたばこ税の計算方法もうまくバランスがとられていなかった。売れるとなると税収の面で大きな違いが出てくる。すぐに税制は変更され、加熱式タバコという新しいカテゴリーが作られた。 成熟してきていた日本社会にあって、突如として出てきた新型タバコ、タバコ会社も加熱式タバコがブレークするとは予想していなかったかもしれない。それは加熱式タバコのブレーク当初、しばらく品薄状態が続いたことからもわかる。 新しい未知の問題に対して、我々はどのように取り組むべきなのか?誰も予想していなかった事態である。 この日本での事態を受けて、加熱式タバコを禁止した国もある。しかし、日本は世界で初めて加熱式タバコの販売を許可した国であり、今更すぐに禁止とはできない。加熱式タバコ(電子タバコ)。左からグロー(glo)、アイコス(IQOS)、プルーム・テック(Ploom TECH)=2018年6月8日、東京(早坂洋祐撮影) 個人としても、社会としても、国としても、新型タバコと向き合わなければならない。もうすでに新型タバコは日本で社会に浸透しつつあるのだ。新型タバコにはメリットもデメリットもありそうだ。新型タバコ問題に限らず、世の中の問題のほとんどは、あるかないかのゼロイチではなく、程度の問題である。新型タバコに対してどのように対応するべきなのか、情報も経験も、議論も足りない。 現在、世の中に出回っている新型タバコに関する情報は、タバコ会社の息がかかったものばかりだ。テレビ、新聞、雑誌、コンビニやタバコ店の看板、ありとあらゆるメディアで宣伝、広告、販売促進活動が積極的に展開されている。タバコ会社は、あたかも病気になるリスクが低いかのように伝わる広告メッセージを意図的に広めている。そのため、多くの人は、新型タバコにはほとんど害がないと誤解しているようだ。 まずは、それは誤解だと伝えておきたい。たぶち・たかひろ 医師・医学博士。大阪国際がんセンターがん対策センター疫学統計部副部長。昭和51年、岡山県生まれ。岡山大医学部卒。血液内科臨床医を経て、大阪大学大学院で医学博士取得。専門は公衆衛生学・疫学。平成29年、後藤喜代子・ポールブルダリ科学賞受賞。現在、主にタバコ対策および健康格差の研究に従事。
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アメトーーク!から始まった加熱式タバコの「人体実験」
田淵貴大(医師・医学博士)(内外出版社『新型タバコの本当のリスク』より) 皆さんは新型タバコにどのくらい関心を持っているだろうか? 人々が何にどの程度関心を持っているのかを知るための1つの指標としてグーグル(Google)検索ボリュームというものがある。現在の日本では約90%の人がインターネットにアクセスすることができ、そのうちの約60%の人がグーグル検索を使用している。 グーグル社が無料で提供しているグーグル・トレンド(GoogleTrends)というサービスを利用すれば、世界中の人々がグーグル検索でどんなキーワードをどれだけ、いつからいつの間に検索したのか時系列でグーグル検索ボリュームのデータを得ることができる。 グーグル検索ボリュームは指定した条件下(キーワード、期間、国などの地域)において最も多い検索数を100として計算される数値である。例えば、「サッカー」というキーワードを入力し、「過去5年間」という期間、「日本」という地域を指定すると、図表1-5のようなグラフが得られる。 日本で2018年6月24日~30日の1週間において「サッカー」の検索数が最も多く、検索ボリュームの数値が100であった。2014年6月と2018年6月に高いスパイクが認められ、ちょうどサッカーのワールドカップが開催された時期と一致しているとわかる。図表1-5 Google Trendsによる検索例 サッカーワールドカップが開催されると人々のサッカーへの関心が高まり、「サッカー」というキーワードを普段よりも多くグーグル検索で検索しているのである。このようにグーグル・トレンドのデータは、世界の、あるいは日本の人々がどんなキーワードに関心を示しているのかを知るための指標にできる。 日本国内でどれだけ「アイコス(IQOS)」や「グロー(glo)」といった単語が検索されていたのか筆者が調べたグーグル・トレンドの結果を示す。日本での2013~2017年における検索数(検索ボリューム)の推移を示したのが図表1-6である。図表1-6 Google Trends:新型タバコの検索ボリュームの推移 ここでは日本語と英語など複数のキーワードを統合した数値としている。例えば、アイコスは日本語の「アイコス」と英語の「IQOS」を合算している。2016年4月にアイコスの検索数が爆発的に増加していた。その時、何があったのだろうか? なんと、2016年4月28日に放送された人気テレビ番組「アメトーーク!」で「最新!芸人タバコ事情」と題して加熱式タバコ、アイコスが紹介されていたのである。「アメトーーク!」は午後11時過ぎからの放送だが、非常に人気のある番組で視聴率も高い。これまでにも「アメトーーク!」で紹介された電化製品などの新製品がちまたで売り切れになるなどの事象が起きていた。アメトーーク!の裏事情? 「アメトーーク!」で人気芸人たちが自分たちがなぜアイコスを使うようになったのか?どんなふうにアイコスを使っているのか?アイコスや喫煙にまつわるエピソードが面白おかしく伝えられたのだ。 筆者も「アメトーーク!」が好きで、いつも必ず録画して見ていたため、この出来事にもすぐに気付いた。そしてその回の「アメトーーク!」の放送により日本でのアイコスへの関心が高められた事実を調査し、論文にまとめ出版したのである。 今回の知見は、テレビといったメディアが人々に与える影響は非常に大きいことをあらためて認識させられる出来事であった。2016年4月を境にして、アイコスの検索数が激的に増え、4月以降も他の新型タバコ製品と比べて検索数は高く維持されたままだ。 実は、番組内で新型タバコの中でもアイコスだけが取り上げられた。アイコスはちょうど番組が放送される直前の2016年4月18日に、12都道府県限定販売から全国47都道府県での販売へと拡大されたばかりというタイミングだった(番組の収録はそれ以前に行われている)。 2016年4月時点ではグローは販売されておらず、プルーム・テックも全国展開されていなかったため、単純に最もよく知られていたアイコスだけが取り上げられたのかもしれない(図表17)。 その回の「アメトーーク!」でアイコスが紹介された背景には何らかの事情があったのだろうか?図表1-7 加熱式タバコの販売年表 それは筆者にはわからない。電話で問い合わせた番組の関係者によるとタバコ会社からの資金提供はないとのことであった。 どれだけの日本人が新型タバコを使っているのだろうか?2015~2018年にかけて日本在住の15~69歳の男女を対象としてインターネット調査を実施した。楽天リサーチ(現・楽天インサイト株式会社)という調査会社に登録された日本全国の約250万人の中から、アンケート調査の回答者がランダムに選択され、インターネット経由で調査票が回答者に届けられた。 2015年1~2月に実施された最初の調査では、日本全国の15~69歳(2015年1月時点)の男女の回答者数が約9000人に達した段階で調査を終了した。回答者約9000人のうち、回答に矛盾や不正があると考えられた者のデータを除外し、有効回答者8240人についてデータ分析を実施した。2016年以降も毎年、同じ回答者に対して繰り返しアンケート調査が実施された。日本は「実験場」 調査では、新型タバコを含めタバコの使用実態を知るため、それぞれのタバコ製品について次のように質問した。「あなたは、直近30日以内に、それぞれのタバコ製品を吸ったり、使ったりしましたか?」 選択肢は「使わなかった(吸わなかった)」もしくは「使った(吸った)」の2択である。一般にタバコの使用状況が調査される場合には、30日以内に使用したことをもって「現在使用」と定義し、30日以上止やめていることをもって「タバコを止めた(禁煙した、あるいは過去喫煙)」と定義されることが多い。 結果をみてみよう。2015~2017年にかけて、加熱式タバコを30日以内に使用(現在使用)している人の割合は、アイコスでは2015年に0・3%であったのが、2017年には3・6%に増えていた(図表1-8)。 実にこの2年間で10倍以上に増えたわけだ。プルーム・テックや電子タバコの使用者も徐々に増えてきているが、これらの新型タバコ製品と比べると、アイコスだけが突出して増加していた。図表1-8 成人日本人の新型タバコ使用率の推移 日本人成人の3・6%もの多くの人がアイコスを使っていたのである。2017年の調査時点での調査対象者の年齢は17~71歳であった。日本の17~71歳の人口約8600万人から換算すると、日本のアイコス使用者はおよそ310万人と推計された。この調査だけで日本全体のアイコスの使用状況を完全に把握できるとは考えないが、この数字は他の調査会社による推定値やタバコ会社が販売実績データから算出した人数とほぼ一致した。日本だけがアイコスの実験場になっている 加熱式タバコ、アイコスは、2014年に日本とイタリアで販売が開始され、2019年には世界の30ヶ国以上で販売されている(図表113)。日本を除く多くの国では、アイコスの販売は一部の都市に限定されている。2016年4月、日本は世界で初めてアイコスが全国的に販売される国となった。2016年の4月から10月にかけて、日本のタバコ市場におけるアイコス専用スティックのシェアは1・6%から4・9%へと急増した(図表1-14)。図表1-14 日本のアイコス用スティックのシェアの推移 英国の調査会社ユーロモニター・インターナショナルによると、全世界での加熱式タバコや電子タバコの市場規模は合計で2016年には120億ドル(約1兆3000億円)に達したという。同データによると、2016年10月時点で、アイコスの販売世界シェアの96%を日本が占めていたのである。すなわち、アイコスはほとんど全て日本人が使用していると言っても過言ではない。アイコスには一体どんな害があるのかが明らかになっていない中、世界で日本だけがアイコスの実験場となったのである。たぶち・たかひろ 医師・医学博士。大阪国際がんセンターがん対策センター疫学統計部副部長。昭和51年、岡山県生まれ。岡山大医学部卒。血液内科臨床医を経て、大阪大学大学院で医学博士取得。専門は公衆衛生学・疫学。平成29年、後藤喜代子・ポールブルダリ科学賞受賞。現在、主にタバコ対策および健康格差の研究に従事。
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三原じゅん子手記「がん公表、私の思い」
日本人の死因トップは依然がんである。2人に1人が罹患するとされ、関心が高いだけに著名人の相次ぐ「がん公表」は反響も大きい。こうした中、10年前、報道によってがん公表に至った元女優で参院議員の三原じゅん子氏がiRONNAに手記を寄せた。誰もが当事者になり得るがんだが、著名人の公表にどう向き合うべきか。
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三原じゅん子手記「著名人のがん公表、私はこう思う」
はイメージです(GettyImages) 今では放射線療法や科学療法も著しく進化していますし、ゲノム医療や創薬の発展により、がんは治る病気となりつつあります。しかし安易に自己判断や油断はせずに、しっかり検診と体調管理に努めることが大切です。人生100年時代、そして女性活躍時代に向けてまい進していきましょう。■ 池江璃花子「白血病」親切の押し売りが患者を悩ませる■ 小林麻央さんの闘病が共感されても日本で「がん告知」が進まない理由■ がんはいずれ「理想の死に方」になる
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葛藤の末に選んだ「がん公表」に色眼鏡なんていらない
9年2月、競泳の池江璃花子選手が白血病と診断されたことを報じる東京・有楽町の街頭テレビ ここ数十年の医療の進歩により、小児がん(0〜14歳)の70〜80%が治るようになったと言われる背景があり、特に10代、20代の若い世代については、小児に準じる形で治療のスケジュールを組み立てる場合があるというのだ。「心のつえ」はどこに AYA世代のがんは情報も少なく、同じ種類のがんを経験した患者同士で繋がり合いたいというニーズもある。同世代でないと分かり合えない生活上の悩みもある。がんを特別視せず、「必要な人が必要な人とつながっていく手段の一つとして『公表』もありだよね」とフラットに考える人が増えれば、著名人であっても、一般人であっても、もっと安心してがんのことを打ち明けられるようになるだろう。 堀ちえみさんが公表した舌がんを含む「口腔(こうくう)・咽頭がん」は、罹患者数が全がんの約2・3%(国立がん研究センター2018年のがん統計予測)にすぎない。希少がんの患者にとっては、術後の「日常」の発信もまた、大事な情報源になる。 3月9日に堀さんが更新したブログでは、舌がんの手術後に食べ物の嚥下(えんげ、飲み込み)の訓練をする模様をこう記している。 人参ゼリーは、つるんとしているので、舌がもたついているうちに、口の中でどこかにいってしまいます。(中略)右奥の残っている舌が、とても健気でね… もたつく新しい舌を、一生懸命に引っ張ってゼリーを追いかけて。そしてゴール(喉元へ)に向かって、シュート!(中略)これから嚥下の練習は毎食ごとにあります。楽しみながら乗り切っていきたいと思います。 堀さんは舌がんの進行度がステージ4であることも公表しているが、人生の真ん中には暮らしがあり、悩みも笑いもあり、進行がんという色メガネが不要であるということが、じかに、ポジティブに伝わってくる。 もちろん、がん患者本人の発信だからといって、あらゆる患者が分かり合えるわけではない。情報の押し付けは、相手への迷惑になることもある。堀ちえみのブログ「hori-day」 私が望ましいと感じるのは、先にがんを経験した人から後に続く人への「心のつえ」となるような情報が、手を伸ばせばあちこちに、ポン、ポンとさりげなく置かれているような社会だ。その情報を取りたい人が取ればいい。 今は、個人が情報を発信しやすく、自分が「心のつえ」を得た経験を「誰か」に届けることができる時代だ。発信する人の有名無名を問わず、実名と匿名のどちらにせよ、「がんを公表する社会」の最大のメリットは、そこにあるのではないか。 だからこそ、問われるべきなのは、がんの当事者の善意により公開された情報を引用したり、転用したりする側の、情報モラルなのだと思う。■ 池江璃花子「白血病」親切の押し売りが患者を悩ませる■ 小林麻央さんの闘病が共感されても日本で「がん告知」が進まない理由■ がんはいずれ「理想の死に方」になる
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「がん公表」患者へのエールを歪める心理バイアス
れやすいがんではなく、より深刻な病期の「がん」に罹患したケースを想定しています。有名人に群がる「詐欺医療」 昨年8月、代表作『ちびまる子ちゃん』とともに皆に愛されながら、この世を去られた漫画家、さくらももこさんのように、自身のがんを公表することなく、最期まで黙して人生を全うされる生き方もあります。もちろん、当事者の心理や気持ちについては推し量ることができませんので、個々人の公表の是非について意見を述べるつもりはありません。 ひと昔前までは、医者が「がんであることを本人に告げないでほしい」と家族に切望され、患者本人にはがんであることが伏せられたまま、最期まで手術や抗がん剤治療が施されていた時代がありました。しかし、今はインフォームド・コンセント(十分な説明と同意)が当たり前です。 それに、医療者側の営為が医学的コレクトネス(適切性)の追求に終始するあまり、かえって患者との対話が不足し、患者の幸福にそれほど寄与できていない可能性もあります。そのような昨今、がんであることを知った有名人が自ら公表することにより、支持者からのエールで孤独感や精神的苦痛から少しでも解放されたり、前向きに生きるためのモチベーションを保ち続けられる効果は少なくないでしょう。 一方で、有名人のがん公表は、良きにつけあしきにつけ、個人のプライバシーを越え、大きな影響力を与えてしまうこともあります。また、有名人の病気に対するリテラシー(情報判断能力)や、施されている医療レベルも見て取れることもあるはずです。 そうなると「なぜあのような手術を選択してしまったのだろうか」「インチキ免疫療法だと理解して受けているのだろうか」「非常に辛そうな印象だが、緩和ケアはしっかりされているのだろうか」「怪しい食事療法に妄信的過ぎないか」と思い至ることだって十分考えられます。 しかし、そのようなことを言外に示しただけでも、「本人が納得して下した判断だから、外野から言うのはやめるべきだ」「個人の人生に、後からケチをつけるな」などと、負の感情論が引き起こされ、批判を受けることも少なくありません。ゆえに、ある種の医学情報として公にすることの影響力に関して、有名人は自覚的であってもよいと、個人的には思います。 有名人のように経済的な余裕があるからこそ、「隠れた特別な治療があれば、高額な費用を払ってでも頼りたい」気持ちが募ることもあるでしょう。確かに行動経済学から見れば、「上手な秘訣(ひけつ)」を求めてしまう心理バイアス(偏り)について一定の理解を示すこともできます。※写真はイメージです(ゲッティイメージズ) ただ、詐欺的医療ビジネスに関わる人たちは、リテラシー欠如というポイントを突いて、有名人に必死で近寄ろうとします。そして、いつしかエセ医学の広告塔の役割を果たす人までも出てしまうわけです。 そのような、いわゆる「がん克服ビジネス」「生き証人ビジネス」に加担している有名人の話には批判的にとらえた方がよさそうです。サプリメント、青汁などの栄養食品や、食事療法、漢方、インチキ免疫療法、高濃度ビタミンC、点滴療法といったものに「がん免疫力」の効能を強調した場合は要注意といえるでしょう。メディアを動かす「世間の性」 改めて、今回のテーマについて考察するとき、常に意識しておくべきことがあります。それは、有名人のようにスポットライトを浴びることもなく、厳粛なリアルを受け入れながら、同じがんと明るく向き合っている患者さんが、社会には数え切れないほど多くいることです。 歌舞伎役者、市川海老蔵さんの妻の小林麻央さんが、自身が乳がんであることを公表されたときのエピソードは記憶に新しいことでしょう。治癒の難しいがんを背負いながらも、愛する夫、子供、家族のために、1日でも長く、自分らしく生きたいと希求する表現の数々がブログに綴られました。それらは、同じ病気と日々向き合っている、多くの患者さんたちにとっても、大きな勇気や希望となっていたのは間違いありません。 しかし、残念な問題も生じました。有名人が病気になると、世間には、より詳細なプライバシーを知りたい欲求にかられる性(さが)があります。それががんであれば、なおさらの話です。メディアの方も、世間の欲求に応えようと、必死で情報を先取りすべく行動します。 麻央さんの場合でも、ブログでのがん公表以来、どこの病院でどのような治療を受けているか報じようと、メディアが躍起になって麻央さんや家族を追いかけ回しました。揚げ句には、生命予後を勘ぐるような記事までも出てくる始末です。 結局のところ、有名人のがんを報道するメディア側の深層に、がんへの偏見や先入観があるようにみえます。こうして、がんは「死をイメージさせる暗くて怖い特別な病気」のように映るわけです。 一方で、お茶の間の視聴者も、ワイドショーで報じられる有名人のセンセーショナルながん公表に、感情だけを面白おかしくかき立てられ、思考が停滞しているのではないでしょうか。そうなれば、がんに関する考えも論理的ではなく、半ば直感的にしか及ばないことも少なくありません。そのような「ヒューリスティック」と呼ばれる心理バイアスに巧みにつけ込むことで、有名人ががんで死去した途端、さまざまなエピソードを上手に利用して「がんは放置するに限る」というエセ思想の流布に成功した人物さえいました。妻の小林麻央さんが乳がんで1年8カ月間闘病していることを公表した歌舞伎俳優の市川海老蔵=2016年6月(蔵賢斗撮影) がんは、生涯において2人に1人が罹患するリスクを抱えている「国民病」の様相を呈しています。裏を返せば、がんがそれだけ身近な出来事であることを意味します。何も、昨今増えている有名人のがん公表を特別扱いするような話ではないのです。 ワイドショーから流れてくる有名人の「物語」に、一時的に感情的になるのはもちろん自由です。でも、自身や家族にがんというリアルが訪れた際、どのようなリテラシーを育み、どのように振る舞えるか、そちらの方が重要ではないでしょうか。皆さんには、一人一人ががんのことを真摯(しんし)に考える契機となれば幸いです。■ 池江璃花子「白血病」親切の押し売りが患者を悩ませる■ 小林麻央さんの闘病が共感されても日本で「がん告知」が進まない理由■ がんはいずれ「理想の死に方」になる
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樹木希林さん、貴重な「遺言講演」の知られざる中身
昨年9月に亡くなった樹木希林さん(享年75)の「言葉」を綴った本がベストセラーとなっている。しかし彼女はメディアから言葉を求められても、「それは依存症というものよ、あなた。自分で考えてよ」「そんなこと話して私に何の得があるの」と突き放すこともしばしば。そのため講演を引き受けることはほとんどなかったという。 そんななか発表された貴重な記録が、DVDつき書籍『樹木希林 ある日の遺言 食べるのも日常 死ぬのも日常』(小学館)だ。 2016年10月29日、静岡市で開催された「樹木希林の遺言」という約1時間の講演は、旧知のテレビ・プロデューサー、田川一郎氏(80)によって実現したものだ。田川氏が話す。「その内容は、希林さんの人生観や死生観がしっかり語られ、病気になった人を勇気づける素晴らしいものでした。映画館で公開しようと希林さんに相談したのですが、彼女は“映画館ねぇ、そこは監督さんが必死に作った作品を上映する場所でしょう”と。実現には至りませんでした。 ところが、希林さんは逝ってしまった。このまま埋もれさせてしまうのはもったいない。そこで娘の也哉子さんに相談したんです。そしたら“母の話を聴いてみたい、と言ってくださる方がいるのであればいいのかもしれませんね”と言ってもらえました」“向こう側”を想像して 古い留袖を自ら仕立て直した黒い衣装で現われた希林さんは、軽妙なジョークを挟みながら、観衆を独特な世界観に引き込んでいく。身振り手振りを交え、時にステージを歩き回る姿は、まるで独り芝居かのようだ。 希林さんが話し始めたのは、2004年に乳がんが発覚した時のことだった。手術のため、タイのプーケットでの映画の撮影をキャンセルする。ところが滞在するはずだったその日に、多数の犠牲者を出したスマトラ島沖地震の津波が、彼の地を襲ったのだという。映画「万引き家族」の完成披露試写会舞台あいさつに出席した樹木希林さん=2018年4月(山田俊介撮影)「(手術の前に)そういうものにぶつかってたわけ。だから、いずれにしても人間はスレスレのところで生きてるんだなっていうふうに感じるわけです。 だから逆に乳がんの手術した時に、もう何があっても、御の字。何かそこで吹っ切れたって覚悟が決まったっていうか、そういう時から、その私のがんの生活、始まったんです」 希林さんは「死」について考えるのは決して悲観的なことではないとも語る。「健康な人も一度自分が、向こう側へ行くということを想像してみるといいと思うんですね。そうすると、つまんない欲だとか、金銭欲だとか、名誉欲だとか、いろんな欲がありますよね。そうしたものからね、離れていくんです」驚きのタロット占い 希林さんがお土産やプレゼントを徹底して受け取らず、一度手にしたものは常に最後まで使い切っていたことはよく知られている。「モノを拒否するってことは、逆にエネルギーが要るのね。だけどしていかないとね、もう片付かないの。(中略、モノは)多けりゃいいというもんじゃないのね。私はモノに対して執着を捨てたときに、ただ捨てるんじゃなくて、モノの冥利も考えて、どう活かすかってことを考える」 冥利とは仏教用語で、仏が与える利益、恩恵のこと。人生もモノも「十分に活かしきること」を考えるのが希林流なのだ。驚きのタロット占い 講演が一際盛り上がったのは、希林さんが夫・内田裕也さん(享年79)について語った場面だった。 娘の也哉子さんがイギリスでタロット占いをしてもらった時のことだ。母親の病気、そしてその後に残されるかもしれない父親について心配していると聞くと、占い師はこう答えたという。「『あ、大丈夫ですよ、お父さんはお母さんが死ぬときに首根っこ捕まえて一緒に連れて行きますから。グーッと連れて行きますから』って、そう言ったんですって。私それ聞いてね、それはいいね、それは安心だね、別にタロット占いを信用してるワケじゃないけど、ほっとしちゃったんですよね。それで夫が機嫌の良いときに話したんですよ。そしたら(裕也さんは)真剣な顔をして『お前な、頼むから一人で行ってくれ』って(笑い)」 このときは笑い話だったが、占い師の“予言”通り、内田裕也さんは今年3月、妻の後を追うようにこの世を去った。2人の因縁を感じさせるエピソードだ。 そして希林さんは、夫についてこうも語った。「すごくいいヤツでね、あの夫じゃなかったらば、こんな面白い人生はなかったと思います」 結婚わずか1年半で別居。夫の生き様に苦しめられたこともある。しかしそれでも、希林さんは夫との出会いを徹底して面白がったのだ。紹介したのはDVDの内容のほんの一部。これ以外にも深く頷かされる言葉を数多く聴ける。関連記事■宮沢りえ、安藤サクラ 希林さん告別式での喪服姿■内田裕也さん“内縁妻”と本木夫婦が「お別れ会」巡り衝突■樹木希林さんの金言、「男にも響く言葉」5選■樹木希林さん がん発症から14年、生き抜いた秘密■樹木希林、西城秀樹に魯山人の器とともに送った直筆のお礼状
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「がん免疫療法」の闇、高額なのに効果不明瞭の実態
いました。貯蓄はすべてなくなりました」 そう語るのは、免疫療法をはじめとした標準治療外の治療を複数の医療機関で受けたにもかかわらず、卵巣がんが進行した林紀子さん(仮名・60歳)だ。ある病院では、治療を受ける前に「何があっても当院を訴えません」という誓約書にサインさせられたという。林さんは現在、標準治療である抗がん剤治療を受けている。先進医療を外れた治療 「私のところにも、こうした治療に高額の費用を支払うも効果が出ず、セカンドオピニオンを求めに来る患者が多い」と日本医科大学武蔵小杉病院腫瘍内科教授の勝俣範之氏は語る。こうした声は、今回取材した複数のがん専門医からも耳にした。彼らは一様に「もっと早く来てくれていれば抗がん剤も効いたかもしれないと思うとやりきれない気持ちになる」と嘆く。免疫療法に通った患者の中には、「お金が払えなくなった途端に放置され、相談も聞いてもらえなくなった」という人も多いという。 免疫療法は、現段階で効果が認められていないだけで、将来には効果が認められるかもしれない。それを提供して何が悪いのか? そう思う人もいるかもしれない。事実、免疫療法を提供する病院やクリニックのホームページでは、「現段階ではまだ効果が認められていないが、標準治療で治らなかった患者のために」「がん治療をあきらめない」といった表現がよく見られる。 だが、本当に患者のためならば、その治療が将来、科学的に効果が認められることを目指した取り組みを行うべきではないか。例えば、国が定めた一定の条件を備えた医療機関では、新しい試験的な医療技術を、将来の保険適用を視野に入れ、国が承認する「先進医療」という形で提供される。 また、新しい治療法や薬の候補が標準治療として認められ、広く普及することを目指した研究として、臨床研究法に則った適切なモニタリングや監査を経て行われる「臨床研究」という仕組みがある。効果が認められていない治療を提供するのであれば、このような枠組みに沿ってデータを積み上げながら行うべきだろう。 自由診療で免疫療法を提供する某クリニック主催のセミナーで、自由診療ではなく、臨床研究で行うべきではないかと質問をしたところ、「できれば臨床試験でやりたいとは思っているが、必要な資金が足りず実施できない」という答えが返ってきた。 埼玉医科大学国際医療センター婦人科腫瘍科教授の藤原恵一氏は「高額の治療費をとっているのなら、それらを基金として研究を行い、データを積み重ねればいい。それをしないのであれば、効果があることを証明する自信がないと受け取られても仕方がない」と指摘する。 質の高い専門的ながん医療の提供を行う病院として厚生労働省から認可された病院を「がん診療連携拠点病院」(以下、がん拠点病院)というが、「がん拠点病院の中にも、先進医療から外れた形で免疫療法を提供している病院がある」(若尾氏)というから驚きだ。 あるがん拠点病院のホームページ(9月7日現在)を見ると、「新規に活性化自己リンパ球移入療法を希望する患者には、先進医療A(以下、先進A)の取り扱いは終了しており、自由診療の取り扱いで先進Aと同じ療法で治療を行う」という内容の記載(17年2月14日付)がある。厚生労働省の指示により先進Aから(より厳格な対応が求められる)先進Bへの変更手続きを行うことになり、先進Aを新規希望者に提供することができなくなった。そこで、希望者に対し、全く同じ治療を自由診療で提供している。 がん拠点病院を指定する検討会でも、免疫療法の取り扱いは問題視されている。下の表は、今年の1月12日に行われた、「第12回がん診療連携拠点病院等の指定に関する検討会」の議事録からの抜粋だ。(出所)2017年1月12日の第12回がん診療連携拠点病院等の指定に関する検討会・議事録 (注)新規指定を申請した埼玉県(上尾中央総合病院)の提供する免疫療法に対する発言抜粋 上尾中央総合病院(埼玉県上尾市)のホームページで「樹状細胞ワクチン療法を200万円の自費診療で提供」と表示されていることなどから、自由診療として免疫療法を行っている点が問題視され、地域のがん診療を担う病院として推薦されることに疑義が呈された。ネット上の情報の波に飲まれる こうした免疫療法を提供する医療機関、そしてそれを受ける患者が後をたたないのはなぜなのだろうか。卵巣がん体験者の会スマイリー代表の片木美穂氏によれば、「これ以上できる治療法はないと医師に言われた患者が、何か他に方法はないものかとインターネットや口コミなどで手だてを探そうとし、結果的に免疫療法にたどりつく」という。 標準治療外の治療法に計800万円を費やした先述の林さんは「インターネットや書店でがん治療に関する情報を調べると、『抗がん剤は効かない』といったような標準治療を否定する情報がたくさんあり、それを信じてしまった」と当時の心境を語る。 インターネットで、「がん 治療」と打ち込み検索すると、免疫療法に関する情報が大量に出てくる。こうした情報は国立がん研究センターが提供している科学的にエビデンスのあるものから、個人の体験談までさまざまだ。 現在、医療広告に関しては、医療法に基づく医療広告ガイドラインにより掲載ルールが定められている。例えば、客観的事実であることを証明できない広告や、虚偽・誇大な広告などは禁止されている。今年の6月の医療法改正(1年以内に施行)により医療機関のホームページも医療広告に該当することになった。 活用したいのが厚生労働省が8月24日から始めた『医療機関ネットパトロール』だ。医療機関のウェブサイトにうそや大げさな表示がないかどうかを監視し、問題があれば是正を求める。一般の人々も、専用の窓口に通報することができる。 しかし、これまでもルールから逸脱した医療広告についての問い合わせ窓口を各自治体の保健所が担い、問題のある医療機関に指導を行う体制が組まれていたが、実際は、「保健所によっては、対応できる人員にも限りがあり、効果的に機能していなかった」(インターネット医療協議会事務局長の三谷博明氏)。実効的なものになるかどうかは行政がいかに取り締まれるかにかかっている。 根本的には、科学的に効果の認められていない治療法を、先進医療や臨床研究としてデータを積み上げる形でなく自由診療で提供することに対し、何かしらの条件を設けるなどの仕組みが必要ではないか。この点について、厚生労働省医政局総務課保健医療技術調整官の木下栄作氏は、「高度な専門知識を有した医師によって適切な診療が行われることが大前提。国としては、衛生面など最低限度の規制は行うが、診療内容に関して一律に規制を行うようなことは現実的ではない」と語る。その前提が崩れているという認識はないのだろうか。 問題の解決にはまだまだ時間がかかりそうだ。全国がん患者団体連合会理事の桜井なおみ氏は「本来、効果の認められていない治療を受けるときには担当医に相談しセカンドオピニオンを受けることが一番だが、多くの患者が担当医に気をつかい、それをためらう」と、医師と患者との意思疎通の難しさについても指摘する。 「がんを治したい」と願い、さまざまな治療を受ける患者の気持ちは否定できない。しかし残念ながら、短期的には患者自身で自衛することが必要だ。がん治療に関する正しい情報は、国立がん研究センターが運営する「がん情報サービス」を見たり、無料で相談に乗ってもらえるがん相談支援センターも活用できる。免疫療法を本当に将来の患者に役立てたい者だけが提供を続けられるような仕組みにしていかなければならない。
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食道がん併発の堀ちえみ 夫の前向きな対応で公表決意か
んになりやすい体質といえます。定期的に検査を受け、とにかく早期発見に努めることが大切です」(内科医で医療ガバナンス研究所の上昌広さん)取材に応じる(左から)松本伊代、堀ちえみ、早見優=2016年10月、東京都内 舌がんのリハビリ中での新たながん発覚は身体的にも大きな負担になるはずだが、堀はあくまで前向きだ。「ご主人が“このタイミングで検査を受けて見つかったのは運がよかった”とポジティブな対応をしてくれたことで、一時期は落ち込んでいた堀さん自身も気持ちを転換できて今回の公表に至ったようです」(前出・堀の知人) 堀は食道がんを公表したブログを《また癌が見つかったけど、それでも自分の身体が愛おしいです。いろいろな病気を経験してきましたが、全て無意味ではないと思っています。頑張ります!》と締めくくっている。 舌がん発覚後も、一時は面会謝絶状態ながらカラオケや義母の病院付き添いなど奇跡的な回復を見せていた堀。今回も家族一丸で乗り越えていく。関連記事■アクセス数断トツ! 堀ちえみ「決意のグラビア」未公開写真■5児の母・堀ちえみ 24年ぶり決意のグラビアで魅せた肢体■堀ちえみ 新恋人と出会うため犬を連れてウロウロしていた■頻繁に渡韓の堀ちえみ レーザー整形と舌がんに関係あるか■堀ちえみが82年組同窓会を希望、明菜への連絡係は小泉今日子
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池江璃花子「白血病」親切の押し売りが患者を悩ませる
確かに、患者一人ひとりの気持ちに寄り添って治療を模索することは、大切だと理解しています。とはいえ、医療の非常識や間違った知識を強制されることに対して、私はどうしても寛容になれません。 実際の臨床でも、医療的におかしな処置であっても、患者の価値観を重視し希望に沿えるよう努めますが、「医療的にはおかしい」と患者には明確に伝えています。医療者として、患者の希望に全て寄り添い、対応することが全部正しいわけではないと考えているからです。 また、マスコミが報じる白血病の「完治」という言葉に対して、「自分の白血病は完治してないのに、マスコミが『白血病が完治する』というのはおかしい」という意見も見かけました。つまり、「40~50%が絶対に完治する」と報じることに問題があるというのです。実際、直接対話した患者からも「『完治する』という言葉はおかしい。『運が良ければ完治する』と言わなければ」と指摘されたことがあります。 背景には、発症前の状態に100%回復するイメージを「完治」に抱く患者と、完全寛解状態が5年以上続き、病気再発も命を落とすこともないことを「完治」とする血液内科の定義に隔たりがあるからです。私も血液内科医として「完治」の定義に従っている以上、この指摘は受け入れなければいけません。2018年8月、パンパシフィック選手権の公式練習で、外国選手と談笑する池江璃花子選手(左)=東京辰巳国際水泳場 もちろん家族に対しては、少し厳し目に説明しています。しかし、まだ治療前で、状態もわからない患者に「完治しないかもしれない」という否定的なことを私は伝えたくはありません。患者が治療に前向きになれば、治療成績は向上するからです。 実際、池江選手と同じ18歳で白血病を発症した女優の吉井怜さんも、「一緒に乗り越えよう」という医師の言葉に元気付けられたことを述べています。たとえ確率的にあまり高くなくても、「完治する」という希望を前面に出すことは間違いではないと、医療者として考えています。■ 「窃盗症と拒食の心理」元マラソン女王が陥ったアスリート魂の限界■ 神童から金メダリストへ 萩野公介に見る「天才」の育て方■ 競泳日本を圧勝させた「攻め」から「待ち」への転換コーチング
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中国「ゲノム編集」ベビーは許されるか
中国広東省の南方科技大の賀建奎・元副教授がゲノム編集で遺伝子を改変した受精卵を使い、世界で初めて双子の女児を誕生させた。倫理面や安全性への懸念が広がる中、研究者の功名心や利益目的との報道も出て、まさに批判一辺倒である。負の側面ばかりが注目されるゲノム研究。本当に議論の余地もないのか。
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ゲノム双子「カリスマ研究者」を潰せない中国当局の戸惑い
富坂聰(ジャーナリスト、拓殖大学海外事情研究所教授) さすがは中国、そんなことまでやっちゃうのか! 第一報に接した日本の読者のほとんどは、そんな感想を抱いたに違いない。 2018年11月26日、世界を駆け巡った「エイズウイルス(HIV)の免疫を持つ双子誕生」のニュースは衝撃だった。中国の研究者で、南方科技大学の賀建奎(が・けんけい)副教授は、生物の細胞が持つ全遺伝情報(ゲノム)の中で、狙った遺伝子を自由自在に改変する「ゲノム編集」技術を使うことで父親のHIVが細胞に入らないようにした双子の女児、ルルとナナを誕生させたと発表した。 ゲノム編集を人間に施すことは、技術的には可能であっても、安全性に加えて倫理の点からも課題は多く、「越えてはならない一線」と広く認識されてきた。その倫理の壁をやすやすと飛び越えてしまった中国の研究者に対して、世界から非難が集中した。 早い段階で、当事者である賀氏にインタビューし、記事を配信したAP通信は、各国の主要な研究者がそろって否定的な見解を示したことを紹介した。日本の反応も同様で、12月4日には「日本ゲノム編集学会」が「倫理規範上も大きな問題で国際的な指針にも違反した行為に強い懸念を表明する」という声明を出した。 こうした反応は、むしろ織り込み済みだったようにも思えるのだが、興味深かったのは、発表当初から中国のメディアまでが否定的なニュアンスで扱ったことだ。 AP通信の記事を受けた『環球時報』などは「中国人による驚愕(きょうがく)の実験に 外国メディアもショック!」(ウェブ版、11月26日付)の記事の中で、世界各国からさまざまな問題が指摘されていることを紹介した。それだけでなく、わざわざ広東省衛生健康委員会と深圳(しんせん)市医学倫理専門家委員会が、それぞれ組織を挙げてこの問題を調査し、後日その結果を公表すると宣した公告を載せたのである。中央政府が賀氏に対する調査を省政府に指示したとされる。中国深圳にある南方科技大=2018年11月(共同) 賀氏の所属する南方科技大も「(研究は)大学外で報告なく行われたことで、倫理と学問的規範に違反している」との声明を発表。中国を代表する科学者122人も連名で賀氏を批判した。当局「戸惑い」のワケ 『環球時報』は、いわゆる「左派系」(日本でいう「右派」)に分類されるメディアで、外国に対する厳しい論調が持ち味の国際情報紙だ。もし、賀氏の研究が誇るべき成果であれば、外国の反応や他の国内メディアの反応がどうであれ、その功績を称揚する論陣を張ったはずだ。賀氏の研究成果は、まさに四面楚歌(そか)という展開になったのである。 あるメディア関係者は「こうした場合、次に考えられるのは賀氏が公表した研究が虚偽であったと発表されることや、何らかのトラブルで彼が逮捕される展開です」と話す。 ニュースが拡散した直後には「実際に誕生した嬰児(えいじ)が公開されていない」といった批判も多く、どの研究者も「もし本当なら…」という断りを入れていたことが印象的であった。また、騒動から約1週間後に報じた香港紙は、賀氏が大学当局から軟禁されているというショッキングな記事を掲載した。世界から脚光を浴びた賀氏の周りに、暗雲が立ち込めるようであった。 本来であれば、中国でお決まりの「消息不明」から「逮捕」という流れに向かっていくことになる。だが、発覚当初、当局はそのつもりではなかったらしい。 「実は、今回の騒動で戸惑っているのは当局の方だったのです。研究者や専門機関からの反応は確かにネガティブなものが目立つのですが、国民の賀氏への支持は極めて高いのです。海外の反応は気にしつつも、何が何でも彼を処分するといった雰囲気ではありませんでした」 困惑ぶりをこう振り返った党機関紙の記者がさらに続ける。「そもそも賀氏は、この騒動が起きる前から有名な研究者です。米国でも実績を残したことから、中国の未来を担う一人と目されています。特に中国が国として力を入れていこうとしている最先端の分野を担い、同時に会社も8社ほど立ち上げている『若者のカリスマ』ですから。最初から、彼に対して『潰し』ありきの選択はできなかったのでしょう」 AP通信のインタビューの中で、賀氏は「私の責任は重大だと感じている。単に、初めてのケースというだけでなく、彼女を一つの成功例としていかなければならい」と語り、「もし予想外の副作用が出た場合は、その痛みを共有して全責任を負う」と語っていた。折しも、同じ11月末に中国のエイズ感染者が85万人に達したと報じられたのは、何かの因縁だろうか。2018年11月、香港で開かれた国際会議で講演する中国・南方科技大の賀建奎副教授(共同) 2019年に入って、広東省当局の調査結果が公表され、双子誕生のみならず、別の女性1人も妊娠中であることを確認した。賀氏の行為も「自らの名誉と利益のため」と断罪され、立件に向けて公安機関に送致されると、国営新華社通信が報じた。当局の認定により、お決まりの方向に進むことは避けられなくなったのである。■ ファーウェイ敵視にも動じない中国「祖流我放」の冷めた感覚■ 「習近平独裁」を中国人はなぜ歓迎するのか■ ファン・ビンビン巨額脱税、中国当局が狙い撃つ人気女優の利用価値
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「ゲノム双子誕生」中国を批判、周回遅れの日本が言える立場か
上昌広(医療ガバナンス研究所理事長) ゲノム編集の在り方が世間の関心を集めている。きっかけは昨年11月、中国南方科技大学の賀建奎(が・けんけい)副教授が、世界で初めてゲノム編集で遺伝子を改変した双子の赤ちゃんを作り出したと発表したことだった。 この行為の妥当性については、既に多くの意見が寄せられている。日本でも報道され、ご存じの方も多いだろう。だが、多くの日本のメディアは、中国の研究者を倫理的側面から批判した。一方で西側先進国の科学研究に一刻も早く追いつこうとした中国の焦りを指摘した報道もある。 私は、一連の報道は妥当だと考える。ただ、今回の件では、中国を批判するだけでいいのだろうかと疑問に思う。私は今こそ、ゲノム編集技術の基礎となる「ゲノム研究」の在り方について議論すべきだと考えるが、そのような指摘は残念ながら皆無である。 ゲノム研究を推し進める原動力は、個別化医療の推進だ。個別化医療とは、主にがんの診療分野で、がんのゲノム情報に基づき治療法を変更することである。この診断・治療法が普及すれば、多くのがん患者が正確に診断され、適切な治療を受けられるようになる。副作用を減らし、より高い治療効果も期待できる。 近年、個別化医療が急速に進歩した理由はゲノムシーケンス(DNAの配列決定)技術の急速な発達にある。1990年に米国が主導して始まったヒトゲノム計画の完遂には、13年の歳月と30億ドルの予算を要したが、最近では数時間、1千ドル程度で解読することが可能になった。 近年は中国企業なども積極的に参入し、競争が激しい。コストは半額以下になるとも言われる。今回、問題となったゲノム修復技術は、その背景を知れば見方が変わってくる。 このような技術革新は、医療業界のパワー・ポリティクス(力の政治)に影響を与えた。具体的には製薬企業や検査メーカーが仕切る領域にIT企業が参入するようになった。最初の標的は遺伝子ビジネスだった。米国では「23andMe」をはじめとした複数の遺伝子検査会社が、DTC(消費者への直接販売)による遺伝子検査を始めた。ちなみに、同社の株主はグーグル創業者の妻である。 また、わが国でもDeNA社が、2014年8月から同様のサービスを開始した。このサービスを利用すれば、唾液を採取して検査会社に送るだけで、がんや糖尿病などにかかるリスクや、肥満や薄毛の体質などが解析できる。費用は検査項目によって異なるが、おおよそ1~3万円だ。 このような成果は当然ながら、がん医療にも応用できる。※写真はイメージ(ゲッティ・イメージズ) 2014年には米国で「マイ・パスウェイ試験」という多施設共同臨床研究が始まった。この臨床研究では、手術や細胞の一部を切り取って調べる「生検」などで患者から採取したがん組織を用いて、「HER2」「EGFR」「BRAF」「ヘッジホッグシグナル伝達系遺伝子」という4種類の遺伝子の変異を調べた。そして、遺伝子の変異の状況に併せて、分子標的治療薬「トラスツズマブ」や「ベムラフェニブ」などの投与を決めた。難病治癒に貢献 個別化医療の進歩は、これだけではない。特定の遺伝子だけでなく、すべてのゲノム配列を分析し、難病の診断や治療に役立てようという動きも始まっている。 例えば、米国のニコラス・ヴォルカー君という4歳児のケースだ。がんではないが、診断・治療の過程が興味深いのでご紹介したい。ヴォルカー君は、出生時より下痢、血便などの腸炎を繰り返していた。さまざまな病院を受診したが、「原因不明の難病」として対症的に治療されただけだった。 2009年、米ウィスコンシン医科大学の研究者たちは、ヴォルカー君の全エクソーム解析(全遺伝子解析)を行い、腸を細菌の攻撃から守る働きに関係していると考えられている「XIAP遺伝子」の変異であることを突き止めた。腸炎の原因は先天性の免疫異常だったのである。 ヴォルカー君は臍帯血(さいたいけつ)移植を受け、その後病気は治癒した。全遺伝子解析を受けていなければ、「原因不明の難病」として、遅かれ早かれ命を落としていただろう。 ヴォルカー君は全遺伝子解析が救命した世界初の症例として注目を集めた。米紙「ミルウォーキー・ジャーナル・センティネル」の取材班は2010年12月にこのニュースを報じ、翌年ピューリッツァー賞を受賞した。 では、日本の状況はどうだろうか。昨年12月、厚生労働省の薬事・食品衛生審議会医療機器・体外診断薬部会は、シスメックス社が承認申請していた遺伝子変異解析キット「オンコガイドNCCオンコパネルシステム」の承認を了承した。 これは、同社が国立がん研究センターと共同で、がんに関する複数の遺伝子を一括で調べる「パネル検査」(パネルシーケンス)だ。※写真はイメージ(ゲッティ・イメージズ) もう一つ、中外製薬が米ファウンデーション・メディシン社から導入した「FoundationOneCDxがんゲノムプロファイル」という同様の検査も承認が了承された。パネル検査が保険適用になれば、多くのがん患者が遺伝子検査を受け、その結果に基づいた効果の高い抗がん剤治療を受けられるようになる。 しかしながら、今回の承認では、使用は一部の施設に限定され、受診のハードルは高い。対象患者が原発不明がん、標準治療のない希少がん、標準治療が終了または終了が見込まれる「固形がん」で全身状態が日常生活に支障のないレベルの元気な患者という条件がつく。全ての患者が遺伝子パネル検査を受けられるわけではない。 以上の通り、わが国はパネル検査がようやく始まったところだが、果たしてパネル検査だけで十分と言えるだろうか。周回遅れの日本 前出の米ウィスコンシン医大の研究チームで、全遺伝子シーケンスにより発見された約5千の変異を半年間かけて、XIAP遺伝子の変異が原因であることを突き止めたのは、リズ・ワーシー氏だ。 同氏は2017年3月に東大医科学研究所を訪れ、講演している。彼の講演に参加した井元清哉・東大医科研教授は「(冒頭に紹介したパネルシークエンスも全ゲノムシークエンスも)両方をやっている彼らが、全ゲノムシーケンスを推奨していたのは示唆に富みました」という。 実は、パネルシーケンスは、半分以上の関連遺伝子を見逃してしまうことが分かっている。全ての遺伝子を解析できる全ゲノムシーケンスや全遺伝子シーケンスと、特定の遺伝子だけを解析するパネルシーケンスのポテンシャルの差は明らかである。 世界では、ゲノムにとどまらず、全クリプトーム(全転写産物、RNAのこと)解析の臨床応用が始まっている。昨年12月、米ニューヨークゲノムセンターは、全ゲノム解析と全トランスクリプトーム解析を組み合わせたサービスを開始すると発表した。 一方で、パネルシーケンスがようやく承認される見通しとなったわが国は、世界の最先端から「周回遅れ」と言っていい。遺伝子修復ベビーが批判を浴びた中国は、この分野で最先端を走っている。今後、この差はますます広がるだろう。その理由は二つある。 まずは、個別化医療の推進に必須な「情報工学者」の不足である。今や世界のゲノム研究を推し進めるのは、医師ではなく情報工学者だ。 既に知られた遺伝子変異に対しては、それに対する治療法も決まっており、どの医師でも判断できる。しかし、それ以外の遺伝子変異が見つかった場合にどう対処するのか、医師だけでは判断できない。その遺伝子の役割、変異によって引き起こされる病態について、あらゆる論文データを検討しなければならないからだ。 わが国のゲノム研究の中心は、理化学研究所と東大医科学研究所のチームだ。現在のリーダーは情報工学者である宮野悟・東大医科研ヒトゲノム解析センター長だが、2013年には従来の治療が効かない白血病患者の全遺伝子を解読し、IBMの人工知能ワトソン(質問応答システム)を用いて、患者に最適な治療法を提案した。※写真はイメージ(ゲッティ・イメージズ) この患者の治療は劇的に反応した。これは「人工知能が救命した最初の患者」として報じられたが、このプロジェクトをリードしたのが宮野教授である。前出の井元教授の上司でもある。宮野教授は九州大を卒業した数学者であり、井元教授も九大を卒業した統計家だ。 2人とも医師ではない。今後、個別化医療の研究を進めるには、情報工学の専門家と医師が協同しなければならない。ところが、医学部や医学系研究所における情報工学者のポストは圧倒的に少ない。財政難の国立大学で、医学部に情報工学者のポストを新設するのは難しい。医学部と情報系の学部の交流を加速させるしかないが、昨今の不祥事をみても明らかなように医学部は閉鎖的だ。現状では難しいと言わざるを得ない。変わるがん治療のパラダイム むろん、政治リーダーの見識も不可欠である。米国でがんの個別化医療を推進したのは、バラク・オバマ前大統領だ。彼は自らが主導した2016年度予算で、約2億1500万ドルを「プレシジョンメディスン(精密医療)」に投資した。これはがんの撲滅を目指す「ムーンショット計画」の一環だ。 「プレシジョンメディスン」とは、ゲノム情報などに基づき、最適な治療方法を最適なタイミングで提供することだ。個別化医療の発展形である。特定のがんに対して、特定の抗がん剤をパッケージで投与する従来型の「標準療法」とは対極の考え方である。 個別化医療にとって重要なのは、患者の状況を正確に把握することに尽きる。その一つががんのゲノム情報だが、もう一つは病状及び治療効果の判定だ。この点で注目すべきは「リキッドバイオプシー」という新規技術である。 リキッドバイオプシーとは、血液などの体液のサンプルを用いて、診断や治療効果の判定を行う手法である。ゲノム解析を行うことも可能だ。従来の生検と比べて、はるかに低い侵襲で大きなデータを入手できる。また、患者の状態によっては手術や生検ができないケースも多々あるが、血液検査であれば誰でも簡単にできる。 ただ、この方法には高度な技術を要する。血液中を循環する腫瘍細胞及び腫瘍細胞由来のDNAなどの物質は、ごくわずかだからだ。腫瘍細胞の場合、通常1ミリリットルの血液中に10細胞以下しか存在しない。 とはいえ、世界中の企業が現在、技術開発にしのぎを削っている。既にいくつかの興味深い研究成果も報告されている。 米ジョンズ・ホプキンス大の研究者たちは、昨年1月に米科学誌『サイエンス』に自らが開発した「CancerSEEK」と呼ばれるリキッドバイオプシーの研究成果を公表した。この研究では、一般的な8つのがんを対象に検査を行ったところ、卵巣がんでの診断率は98%だった。臨床応用は近いかもしれない。ただ一方で、乳がんでは40%を下回ったという。 この技術は開発途上だが、企業側の鼻息は荒い。技術開発の筆頭を走るのは、米シリコンバレーのグレイル社だ。ゲノムシークエンス最大手、イルミナ社から2016年に独立した。同社は「2019年までに最初のリキッドバイオプシーを実現する」と宣言している。 この見解に懐疑的な関係者も多いが、遅くとも数年の間に、この技術は臨床応用されるだろう。そうなれば、ゲノム情報に基づく個別化医療だけでなく、がん治療後の再発のスクリーニング(選別)や、がん検診にも応用が期待できる。現在のがん治療のパラダイム(認識の枠組み)が大きく変わることになる。※写真はイメージ(ゲッティ・イメージズ) がんは多くの先進国で死因の首位を占め、関心を集めている。がんの診断・治療法の開発は、ゲノム研究の進歩とともに日進月歩だ。中国での遺伝子修復ベビーの誕生も、このような流れの一環として理解すべきだろう。この領域では米中がヘゲモニー(主導的地位)を握りつつある。 一方、わが国は米中と比べ「周回遅れ」になりつつある。遺伝子修復ベビーの誕生に関しては、中国を批判するだけでなく、その背景にあるゲノム研究の進歩を理解し、前向きに議論しなければならない。■夢のがん治療薬は国を滅ぼす? ボロ儲け製薬企業の「暴走」を阻止せよ■がんはいずれ「理想の死に方」になる■カネではタフな研究者は育たない 日本人がノーベル賞を取れる理由
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遺伝子治療の最前線、「クリスパー・キャス9」の衝撃
最大の発明と称される「クリスパー・キャス・ナイン」の技術の素晴らしさは認められているが、遺伝子治療を医療現場で応用するとなると、解決すべき課題が山積している。そうしたなかで遺伝子治療を実用化に近づけようと、日本でも研究が進められている。 東京大学大学院の生物科学専攻の濡木理(ぬれきおさむ)教授は「『クリスパー・キャス・ナイン』は素晴らしい技術だが、臨床現場では使い勝手が悪い部分がある。いまの『キャス・ナイン』(酵素たんぱく質)は大きすぎて、『クリスパー』(遺伝子配列)を修復したい遺伝子まで運ぶのが難しいので、これを小型化して遺伝子の編集作業を自在にコントロールできる『ミニ・キャスナイン』ができないか研究をしている。この技術が遺伝子治療に幅広く使えるようになれば大きく飛躍できる」と期待する。1億円を超える世界最高薬価 都心から電車に2時間ほど乗った栃木県下野市にある自治医科大学。広いキャンパスの一角にある研究棟ビルの中でブタが十数頭飼育されている。濡木教授は自治医大の再生医学研究部の花園豊教授と連携して、開発した新技術をブタを使って試している。人間に用いるのと同じX線透視装置や手術支援ロボットを備えた手術室もある。 花園教授は「マウスだと小さすぎて、必ずしも正確なデータが得られないが、ブタは人間とサイズや生理学的特徴がよく似ているので、臨床に役立つ結果が得られる。ブタを用いてのこれだけの医療設備があるところはほかにない」と話す。現在、遺伝子の変異によって起きるとされる難病SCID(X連鎖重症複合免疫不全症)の治療がゲノム編集でできないか研究中で、ブタで成功すれば人間による臨床に移り、実用化の可能性が高まる。 いままでFDAが承認した遺伝子治療は、昨年末に承認した網膜ジストロフィーのケースも含めて変異した遺伝子はそのままにしておいて、正常な遺伝子を体内に導入する手法だ。だが、「クリスパー・キャス・ナイン」を使えば、変異遺伝子に狙いを定めて修復ができる。正常な遺伝子を入れる手法の場合、入れた位置が悪かったりして白血病などの副作用を起こすリスクがあるといわれている。 それに比べ、遺伝子を修復する方法は、そうしたリスクが低く、安全性が高い点が指摘されている。「人体の設計図」を意図的に変更することになる遺伝子編集は、安全性を抜きにして実用化はできない。 「クリスパー・キャス・ナイン」のゲノム編集技術は、難病の治療に使われようとしているが、日本人の2人に1人がなるとされる、がんの治療につながるかというと、そう簡単ではない。なぜなら、がん患者は多くの場合、いくつもの遺伝子が変異を起こしているケースが多く、どの遺伝子の変異が、がんの発症につながっているのか識別するのがいまの医療技術では難しいという。このため、いまのところゲノム編集技術は、一つの遺伝子の変異によって発症しているとみられる病気の治療に応用されようとしている。 実際の遺伝子治療はようやく緒についたところだ。17年7月までに全世界で約2400件もの遺伝子治療の臨床研究が行われてきたという。しかし、販売が承認された治療製剤はわずか10件で、日本での承認はない。 開発が順調に進展しなかった理由は、リスクの見極めの難しさにある。いままでの化学薬剤とは異なり、一度遺伝子を改変すると、長期にわたり人体に影響を及ぼす。欧州ではその副作用で白血病を発症し、被験者が死亡した悲劇もあった。 そのため、数年以上の緻密な安全性評価が必要となり、さらに規制を厳格にしたことで研究マインドは冷えていった。しかしこの教訓は生かされ、この数年、欧米でより安全な遺伝子治療の承認が相次いでいる。そこに新しい技術であるゲノム編集が加わり、熱い視線が集まっている。自治医科大学の実験室(写真・WEDGE) 北海道大学の石井哲也・安全衛生本部教授は、開発費用と保険適用の問題を喚起する。「欧米で承認された遺伝子治療製剤は、患者一人あたり数千万円以上と軒並み高額で、中には1億円以上と世界最高薬価を記録した製剤もある。国からみれば高額薬の登場は財政上の問題だ。しかし、患者数が少なく、真に有効な治療法がなかった希少疾病に対する遺伝子治療製剤でさえ国の健康保険でカバーしないなら、それは国民皆保険制度の趣旨から外れる」と指摘する。実際、英国は希少疾病に対する遺伝子治療は保険対象とする見通しだ。 それだけに承認する側の厚労省としては慎重にならざるを得ない。しかし、これをあまりにも厳しくし過ぎると、製剤を開発する側の意欲をそぐことになり、そのバランスが難しい。同省ではがんや難病の治療に遺伝子治療を役立てようと、治療のガイドラインの見直し作業を進めている。目をつけるベンチャーファンド また、がん患者の遺伝子情報に基づいて最適な治療薬を選ぶ「がんゲノム医療」を4月から全国規模で行うことになり、同省は3月27日に100の病院を指定した。手術、抗がん剤、放射線など従来の治療法では効果がなかった希少がん患者などに対して、遺伝子を調べ、臨床研究の結果で適した薬があれば投与、治療する。 ゲノム編集技術は、いま実用化に向けて世界の研究者がしのぎを削っている。米国では一昨年あたりから多くのベンチャーファンドがこの技術の実用化でひとヤマ当てようと、技術の開発に巨額の資金をつぎ込んでいる。ゲノム編集が実用化されると、難病やがんの治療だけでなく、美容やアンチエイジングへの応用も期待されている。 また動植物の遺伝子編集により、人間にとって効率的な食料生産ができるようになるなど、将来的にはマーケットが大きく広がる可能性がある。このため、バイオベンチャーの多いボストンやサンフランシスコでは、先物買いによる遺伝子治療への投資がブームになり、新規上場により資金調達する企業も多い。 濡木教授はこの開発を加速するために、16年1月に産学連携のベンチャーEDIGENE(エディジーン、東京都中央区、森田晴彦社長)を設立。ボストンにもオフィスを構え、米国の研究者をスカウトして遺伝子治療技術の実用化を急ごうとしている。そのためには開発資金が必要で、製薬、化学会社などから16億円の資金を集めることに成功した。日本の製薬会社やベンチャーキャピタルはこれまで、こうしたベンチャーに対して資金を提供することに消極的だった。 しかし、ゲノム編集技術の進化から遺伝子治療実現の期待が高まってきているため、積極的に資金を提供しようとする動きも出始めている。昨年12月、先端医療分野を将来の事業の柱と位置付ける富士フイルムがエディジーンに対して4億7000万円の出資を決定、思い切った先行投資に踏み切った。 同社はこれまで培ってきた高度なナノ技術を活用し、有効成分を効率的に患部に届けて薬効を高めるリポソーム製剤の技術を、遺伝子治療の開発に役立てたいとしている。 中国では15年の時点で医療関係者の間でタブー視されてきた人間の生殖細胞の遺伝子編集を行い、世界の医療関係者のひんしゅくを買った。この分野は米国と中国で先陣争いをしており、科学雑誌「Nature」(16年11月24日付)はその模様を1950年代の旧ソ連の人工衛星開発競争に例えて、「スプートニクVer2」と揶揄している。米国では既にエイズ治療にゲノム編集技術を使っているが、中国はさらに先に進んで、肺がんの治療にこの技術を使っているという。遺伝子(ゲノム)をピンポイントで操作できるのがゲノム編集の特徴(ゲッティイメージズ) 一方、日本はこの分野の論文数や特許件数では大きく出遅れている。日本の製薬会社は、リスクを恐れずに果敢に挑戦してもらいたい。また厚労省もこうした新薬を開発するチャレンジに対しては、15年から新薬の審査期間を通常の半分の6カ月に短縮する「先駆け審査指定制度」を導入、世界レベルの開発競争に負けないように対応しようとしている。 こうした官民の努力が成果を挙げることができれば、日本も遺伝子治療の最先端分野の競争の仲間に入ることができ、将来、大きな果実を得ることができるかもしれない。なかにし・とおる 経済ジャーナリスト。1948年岡山県生まれ。72年共同通信社に入社。88年から91年までニューヨーク特派員、経済分野を取材し、編集委員を経て2010年に退社。現在は経済ジャーナリスト。著書は「ジャパンマネーの奔流―ニューヨーク・東京・ロンドンの24時間」(1987年、ダイヤモンド社)、「日本買い 外資は何を狙っているか」(2005年、PHP研究所)など。
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中国でブタの臓器のヒトへの移植が秒読み 2年後に実現か
間にブタの臓器を移植する手術が2年後の2019年までに、中国政府によって許可される見通しであることが医療関係者の証言で分かった。ブタの臓器は人間のそれと機能や大きさがほとんど同じであることが分かっているそうで、これまでもブタの臓器をサルやヒヒに移植し、成功した実験例が報告されているという。 ただ、ブタの体内には人間に対して毒性があるウイルスが存在することが分かっており、中国の医療関係機関では、そのウイルスを持たないクローンブタの増殖実験を繰り返しているという。中国青年報などが報じた。 ブタの臓器移植について、医療関係者の間では世界的に関心が高い。なぜならば、心臓や肺、肝臓などの臓器に深刻な疾患を持つ患者は多く、米国では今年8月現在、11万7000人の移植待機者がおり、ドナー不足から毎日22人の命が奪われているという。 とくに、中国の場合、2010年から2016年までの7年間で10万人以上の患者に人間の臓器が移植されてきたが、移植待機者は毎年、150万人にも上っているという。 中国では2015年まで、死亡した服役囚の臓器が摘出され、移植されてきたが、同年以降、服役囚の臓器の移植は基本的に禁止されており、近年、中国の医療関係者の間で、ブタなどの臓器移植研究への関心が高まりを見せている。すでに、陝西省の第4軍病院や上海、北京、広東省の病院が合同で、国家プロジェクトとして研究を進めている。※写真はイメージです(ゲッティイメージズ) ブタの臓器の人間への移植については、日本やアメリカ、欧州各国でも研究されており、これまで動物実験が繰り返されてきた。そのなかでも、中国では研究が進んでおり、ブタの角膜の人間への移植手術が行われており、成功例が報告されている。 ただ、角膜の場合、血液がごく少量で、ブタの体内にあるウイルスが人間に感染する危険性が少ないことから、ほとんど問題はないが、心臓などの臓器には血液を介在して人間に毒性を持つウイルスが侵入することも考えられるだけに、現段階では、各国もブタの臓器の移植手術には慎重な姿勢を示している。 中国や米国では手術の実現を目指し、遺伝子操作でウイルスを無毒化したブタを誕生させ、そのブタのクローンブタを生産する実験に成功している。同紙は第4軍病院の関係者の話として、「ブタの臓器の移植は秒読みで、2年後の2019年には政府から許可がおりる見通しだ」と報じている。また、同紙は米国の研究者の話も紹介し、「ブタの心臓や肺などが人間に移植可能となれば、多くの命を救うことができるようになり、動物の組織を人体で利用するという、異種間移植への道が開かれることになる」との見通しを伝えている。関連記事■ 米での臓器移植金額、高騰させ日本人の渡航移植避ける思惑も■ 中国渡航の臓器移植500~1500万円 後ろめたかった人は2割■ キューバ 臓器移植技術高い上脳死状態の移植を大多数が承諾■ 6才未満の子供からの臓器移植 難しかった理由を医師解説■ 6才未満の子供の臓器移植について賛成派と反対派の意見紹介
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麻生氏「医療費あほらしい」は暴論か
る。3年ぶりに解放されたジャーナリスト、安田純平さんに対してもそうだったが、不摂生で病気になった人の医療費負担をめぐり「あほらしい」と指摘した麻生太郎財務相の発言もまた物議を醸した。麻生氏の発言は暴論か、それとも一理あるのか。
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医療費は控除から手当へ、麻生氏「あほらしい」発言は一理ある
で病院の世話になったことはほとんどない」と前置きした上で、「『自分で飲み倒して、運動も全然しない人の医療費を、健康に努力している俺が払うのはあほらしい、やってられん』と言った先輩がいた。いいこと言うなと思って聞いていた」と述べた。 この発言に対しては、各方面から批判の声が高まっている。「誰も好き好んで病気になっているわけではない」「健康保険制度の趣旨を理解していない」というような反論である。 麻生氏は「生まれつきもあるので、一概に言うのは簡単な話ではない」と記者会見の中で「弁明」はしているが、彼特有の、トランプ的な率直かつ上品とは言いがたい表現が批判に輪を掛けている。あるいは、麻生氏に対しては「のれんに腕押し」で、何を言っても無駄だという諦めも広がっている。 確かに、表現は適切でないかもしれないが、麻生氏の言っていることにも一理はある。そのような考え方は、米国、特に共和党支持者の間では一般的であり、麻生氏が米国の政治家なら拍手喝采されたであろう。それは、公的な健康保険制度を充実させようとするオバマケアに対する批判が、なぜ強いかを考えるとよく分かる。 「代表なくして課税なし」という原則が米独立戦争の理念であり、米国人は税金の徴収、使途について厳しく監視する。自分のできることは自分で行い、政府の役割をできるだけ小さくして税金を最小限にするというのが平均的な米国市民の考え方である。その結果は、小さな政府であり、夜警国家である。※写真はイメージです(ゲッティイメージズ) 私は、米国の建国の基礎は「銃とキリスト教」だと考えているが、大都市はともかく、地方では、保安官を雇わなくても、自らの銃で家族やコミュニティーを守っていくという発想が今なお健在である。 もちろん、現代では緊迫する国際関係の中で、外交や防衛などに巨額の予算が必要である。しかしながら、米国は連邦国家であり、各州はいわば独立国家であるため、各人の生活に関わることは州や市町村レベルで処理することになっている。日本の考え方は欧州型 将来起こり得る病気やけがに対しては、各人が民間の保険会社と契約して備えをする。これが普通の考え方であり、日本のような国民皆保険制度を積極的に導入することに賛成の米国人はあまりいない。 まさに「天は自ら助く者を助く」であって、麻生氏が言うように、「なぜ不摂生して病気になった者の面倒などみる必要があるのか」というわけである。もちろん、格差の拡大とともに、保険料の支払いもできない貧困層が拡大しており、彼らをどう救うかという問題は大きな政治問題となっている。 米国では、慈善事業(チャリティー)や寄付の文化が定着しているが、公的な救済制度がなくても、それが大きな貢献をしていることを忘れてはならない。米マイクロソフト創業者のビル・ゲイツ氏が典型的だが、成功して大富豪となった者は、寄付という形で利益を社会に還元する。米国の企業家、富裕層の友人たちと話をすると、必ず慈善事業をどうするかというテーマが出てくる。 例えば、米国の私学は授業料が高い。それでも、成績優秀で品行方正であれば、卒業生で成功した先輩たちが奨学金制度を作り、毎年多額の寄付をしているので、学生はその恩恵にあずかることができる。 欧州では少し事情が違う。移民が形成した「新興国アメリカ」と違って、伝統社会である。社会主義といえば、マルクスやレーニンの名が浮かぶかもしれないが、元祖社会主義は、サン・シモンに代表されるようにフランスである。そのフランス社会主義の理念とは、医療や教育の分野が貧富の格差に影響されてはならないというものである。 他の欧州諸国もほぼ同様であり、ドイツのビスマルクは、19世紀後半に全国民強制加入の社会保険制度を作り上げている。最近は極右の台頭で凋落(ちょうらく)したが、長い間、欧州では社会民主党が政権を担ってきたことを忘れてはならない。ドイツの「鉄血宰相」ビルマルク(ゲッティイメージズ) 日本は米国型ではなく、欧州型である。国民皆保険や国民皆年金を廃止し、米国のように、個人で民間の保険会社と契約することに賛成する日本人はほとんどいないと思う。しかし、医療費の無駄遣いについては、厳しく点検し、制度の不断の見直しが不可欠である。 昨年度の医療費は42・2兆円にも上っている。国の予算が約100兆円なので、その額の大きさがよく分かる。別の比較をすれば、トランプ大統領が怒っている米国の対中貿易赤字も同額である。発想と制度の転換を 私が厚生労働大臣のときも、伸び続ける医療費抑制のために、さまざまな政策を動員してきたし、今もその努力は続けられている。後発医薬品(ジェネリック医薬品)の活用、定額支払い制度の導入、自己負担分の拡大、高額療養費制度の見直しなどである。 笑い話で言われるように、かつては「元気なときは喫茶店やサロンに行く気分で病院に行く、病気になったら寝込んで病院に行かない」「リハビリと称してマッサージ代わりに使っている」といった無駄遣いの指摘が多かったが、これも最近では相当に改善されている。私も股関節手術後にリハビリに通ったが、マッサージ代わりに使っている高齢者はほとんどいなかった。 医療費の抑制は全国民の課題である。日本人の平均寿命は、男性が81・09歳、女性が87・26歳であるが、健康寿命は男性が72・14歳、女性が74・79歳である。 問題は健康寿命、つまり自立した生活を送れる期間であり、これを伸ばさなければならない。そのためには、麻生氏が言うように、摂生し、適度な運動をし、生活習慣病の予防を図ることが肝要である。 もう一つ、発想と制度の転換を提案しておきたい。今は、医療費がかかると、税金から控除される対象になる。つまり、節税のためには医療費を使ったほうが得をする気がするのである。これが控除という制度の問題であり、健康手当という形で支給する仕組みに変えるのも一つの手である。 かつて、企業や団体が主管する健康保険組合では一定期間、例えば1年間病院の世話にならないと、ご褒美として報奨金を支払う制度があったが、それと同じ発想である。つまり、控除ではなく、皆に健康手当として、月に例えば3千円支給する。2009年5月、新型インフルエンザ対策本部であいさつする麻生太郎首相。左は舛添要一厚生労働相(酒巻俊介撮影) それを使って健康のための活動を積極的に行ってもらう。そして健康保険を1年間使わなかった人には、ボーナスとして1万円を支給するといった政策である。 「控除から手当へ」という制度は、民主党政権下で子ども手当が導入されたが、民主党政権の説明の拙劣さと政権運営のまずさから、あまり評判はよくなかった。しかし、医療費控除から健康手当へという発想の転換は、麻生氏の期待にも応えるものと思っている。
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麻生さん、病気に「自己責任論」を持ち出すのはやっぱり酷です
ンター副部長) 麻生太郎財務相が10月23日に行った閣議後の記者会見の内容が波紋を広げている。 予防医療推進に関する質問に対し「『自分で飲み倒して運動も全然しない(で病気になった)人の医療費を健康に努力している俺が払うのはあほらしい、やってられん』と言っていた先輩がいた。良いことを言うなと思って聞いていた」と答えたというもの。記者から自身の考えを問われると「生まれつきもあるので、一概に言うのは簡単な話ではない」と補足説明した。 麻生氏の同様の発言は、実は今回が初めてではない。内閣総理大臣在任中の2008年11月の経済財政諮問会議では「67、68歳になって同窓会に行くと、よぼよぼしている、医者にやたらかかっている者がいる。(中略)たらたら飲んで、食べて、何もしない人の分の金を何で私が払うんだ」と発言している。 2013年4月の都内会合でも「食いたいだけ食って、飲みたいだけ飲んで糖尿になって病院に入るやつの医療費は俺たちが払っているんだから、公平じゃない」と発言。いずれも健康の維持に努力している人とそうでない人での医療費に関する不公平感を述べたものであるが、一部が「病気になるのは本人の自己責任」と受けとられたことから議論になった。 折しも、中東で監禁、釈放されたフリージャーナリストの安田純平氏に自己責任論が噴出しているが、病気も自己責任なのか。そこには一概にそうとはいえない事情が隠れている。 2015年度の国民医療費は42兆3644億円で、前年度から約1兆5000億円増加し過去最大となった。政府の推計によるとこの額は2040年度には68兆5000億円まで膨らむ見通しである。その理由としては高齢化に加え、新薬の薬価が高騰していることが挙げられる。閣議終了後、記者団の質問に答える麻生太郎副総理兼財務相=2018年9月、首相官邸(春名中撮影) ノーベル賞で話題となったオプジーボは画期的ながん治療薬であるが、当初の薬価は1瓶(100mg)あたり約73万円。体重60キロの患者が1年間使用すると、なんと年額3500万円にも及ぶものだった。 相次ぐ高額な新薬に対し、財務省は10月9日の財政制度等審議会で、経済性に応じて公的医療保険の適用外にすることも検討するという、かなり突っ込んだ改革案を示している。同改革案には予防医療に関して「予防医療による経費節減効果は明らかでない」とも示されている。 予防医療=医療費削減と思われがちだが、実は予防医療のうち医療費抑制に有効なのは約2割しかないとの報告がある。予防で病気の発症を遅らせても、いずれは何らかの病気になり医療費がかかる、つまり予防医療はかかる医療費を先送りにしているにすぎないというわけだ。予防医療のメリットはむしろ、医療費削減ではなく健康長寿にあると思った方がよい。寿命の延長により家族や友人と過ごせる期間が延びることは経済では語ることができない。「きれいな長谷川豊」論争 さらに、その間に就労が可能であれば社会活動に伴う税収増にも寄与しうる。安倍政権は、予防医療による健康長寿と高齢者雇用の拡大を社会保障改革の柱としている。予防医療の推進は医療費削減ではなく、健康長寿とそれによる社会生産性向上を目的として議論すべきである。 この問題で思い出されるのは2016年のフリーアナウンサー、長谷川豊氏による「自業自得の人工透析患者なんて、全員実費負担にさせよ!無理だと泣くならそのまま殺せ!」というブログ記事である。本件に対してはあっという間に批判が殺到し、人工透析患者の偏見につながるとして全国腎臓病協議会も抗議文を出すに至り、結果として長谷川氏は当時の全ての番組を降板することになった。 結論から言うと、病気に自己責任論を持ち込むのは無理がある。なぜなら、危険を伴う地域への渡航と異なり、自ら進んで病気なる人は誰もいない。そして、生活習慣の努力の程度は、線引きが事実上不可能だからである。病気は複合的な要因で生じるため、遺伝や社会環境など個人ではどうしようもない部分があり、自助努力だけで防ぐことはできない。 一方で、過度の飲酒や喫煙、運動不足で自堕落な生活をしていても病気にならない人もいる。病気に対する自己責任論を突き詰めると、国民皆保険制度の崩壊につながってしまう。その先の未来がどうなるかはアメリカの医療をみれば明らかであろう。 予防医療の目的を純粋に健康長寿とした場合、健康意識や健(検)診受診率の向上を目指すにはどうしたらよいのであろうか。「2020年以降の経済財政構想小委員会」のまとめを発表する自民党の小泉進次郎氏=2016年10月、東京・永田町の自民党本部(斎藤良雄撮影) 一つが健康状態のいい人や健康管理に努力している人を優遇するというやり方である。民間保険ではリスク細分型保険というカテゴリーの商品がすでに定着している。非喫煙者を対象としたノンスモーカー割引は、ニコチンを検出する唾液検査をクリアすることが条件で、保険を契約する際に通常の保険料の10~30%の割引を受けることができる。 第一生命は健康診断割引特約として健康診断書などを提出するだけで保険料を割引し、体格指数(BMI)18以上27以下、血圧が最低85mmHg未満かつ最高130mmHg未満、40歳以上ではHbA1c5・5%以下といった良好な健康状態の人はさらに割引になる商品を開始した。民間保険は加入が任意なので、このような方法でなんら問題はないが、公的保険に関してはかつて議論が巻き起こった。 小泉進次郎衆議院議員らが2016年10月に雇用や社会保障に関する政策提言の中に取り入れた「健康ゴールド免許」制度である。この制度はIT技術を活用することで、個人ごとに健(検)診履歴などを把握し、健康管理に取り組んできた人へ「健康ゴールド免許」を付与し、病気になったときの自己負担割合を3割から2割に減免するというもの。しかし、発表直後から賛否が巻き起こり、否定派からは「きれいな長谷川豊」と言われ、その後すっかり話題に上らなくなってしまった。進次郎が失敗したワケ 自助を促す趣旨には賛同できるが、努力だけではどうしようもない部分まで含むスキームが悪かったのだろう。このような健(検)診や健康管理に一生懸命取り組んでいる人への優遇は一見有効に見えるが、実際は限界がある。事実、特定健診を受けない人は、高年齢、低学歴、低所得の人が多く、病気になったときのことまで考える余裕がない。自己負担の減免の恩恵を受けられるのは結局のところ、普段からスポーツジムで汗を流して健康管理ができる富裕層ということになる。 それでは、健(検)診を受けない健康意識の低い人たちを振り向かせるにはどうしたらよいのであろうか。まずは、マイナンバーを活用し、健(検)診受診と判定結果による治療介入の有無をしっかり把握することである。未受診者や要治療者にははがきによる個別勧奨を積極的に行う。インセンティブには健康マイレージが良いだろう。 NTTドコモでは自治体向けにスマホと歩数計、リストデバイスを用いてウオーキングや特定健診の受診、自らの健康管理の程度に応じてポイントがたまる健康マイレージサービスを行っている。ポイントに応じて景品と交換できる仕組みである。 宮崎県木城町は、国民健康保険と後期高齢者医療の被保険者を対象にした健康マイレージを行っている。特定健診や各種がん検診などの受診でポイントがたまり、町内の登録店舗で利用できる商品券と交換できる。町内経済の活性化も狙えて一石二鳥だ。 貧富や教育などの社会的要因に対するアプローチも重要である。例えば、タバコ代を上げると低所得者層ほど禁煙するというデータがある。小中学生に対する予防医療教育も将来的な健康格差の縮小につながるだろう。健(検)診を受診できる日を選択する機会を増やすことも有効だ。福岡市健康づくりサポートセンターの健(検)診は、土曜、日曜、祝日にも実施している。さらに、月に1度は平日の夜間にも実施しており、仕事帰りの利用にも対応している。 がん検診の受診率上昇には韓国の政策が参考になる。胃がんを例にとると、韓国の胃がんの検診受診率はなんと70%を超えているそうだ。その要因は、住民登録番号を利用したデータ管理、保健所による個別受診勧奨、検診料は健康保険でカバーされ健康保険料下位50%は本人負担ゼロ、指定を受けた医療機関であれば全国どこでも受診可能、という徹底したものだ。「県コバトン健康マイレージ」事業で使用する歩数計と読み取り機器=2017年4月4日、埼玉県(菅野真沙美撮影) さらに公的がん検診で発見されたがんには治療費の補助も行われる。ここまでやるには予算もそれなりに必要だが、本気で受診率の上昇を目指すのであればこれくらいの対策が必要ということだ。 麻生氏は冒頭の発言の際、予防医療の必要性についての理解も示したが、予防医療の推進は医療費削減どころか、さらにお金がかかることもある。医療費の議論は別にして、健康長寿のための予防医療を効率的に推進する政策を期待したい。
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この先もあると思うな国民皆保険、麻生発言は全然アホらしくない
してくださったのは、麻生閣下です。 麻生太郎副総理兼財務相が10月23日の会見で「不摂生している人の医療費を健康に努力している人があほらしい」との意見に同調する発言をしたことが問題視されており、ネットを中心に大炎上しております。 麻生氏の発言は下記になります。 「飲み倒して運動も全然しない(で病気になった)人の医療費を、健康に努力している俺が払うのはあほらしくてやってられんと言っていた先輩がいた。良いことを言うなと思った」 また、「自身も同じ考えか」という質問に麻生氏は「生まれつきのものがあるし、一概に言える簡単な話ではない」と答えています。ちなみに、2008年にも「たらたら飲んで、食べて、何もしない人(患者)の分の金(医療費)を何で私が払うんだ」と経済財政諮問会議で発言し、後に陳謝しています。 この発言を読んでも、まあいつもの麻生閣下のことであるなと特に驚きもしなかったのでありますが、日本の一定層の人々の怒りに唐辛子を塗り込むような効果があったことは間違いありません。この一定層の人々というのは国民皆保険サービスというのは当たり前のことであり、誰しも平等に医療を受ける権利があると信じている人々のことです。財政制度等審議会の財政制度分科会であいさつする麻生太郎財務相(右)=2018年10月 しかし、ちょっと振り返って考えてみましょう。実は国民皆保険サービスというのが始まったのはそんなに昔の話ではありません。日本やイギリスをはじめとする各国で始まったのは、第二次世界大戦後のことでありました。 なぜかと言うと、戦争であまりにも多くの負傷者や障害者が出てしまい、医療費を払えない人が大量に発生してしまったため、これでは破壊された街を復興させるための労働力を確保できないので困るとして各国の政府が国民皆保険サービスというものを考えついたわけです。 国民皆保険サービスというのは収入がある人たちから一定のお金を集め、それを使って医療サービスを提供するという、まあある意味宝くじのような仕組みです。提供する医療サービスというのはたくさん払っても少なく払っても平等というのが建前です。建前というか、実質そういう国がほとんどです。低下する医療の質 前述したように、国民皆保険サービスが日本や欧州で設計されたのは戦後すぐのことでした。戦争でかなりの数の人が亡くなり、人口も今より少なく人の移動もほとんどありませんでした。当時は人々の収入格差も今と比べて大きく、高額納税者の所得税は70%とか80%に達することもありました。つまり、ごく少数の大金持ちからお金をむしり取ってそれを貧民の健康維持に使い、社会全体を何とか回して行こうという仕組みでありました。 しかし、この仕組みは、使う人の数が少なければ成り立つのですが、使う人が多く、さらにその数が急に増えたりするとシステムが崩壊してしまいます。この状況がかなり過激なことになっているのがイギリスをはじめとする欧州各国の国民皆保険制度です。EUの移動の自由化で何が起きたかと言うと、東欧や西側諸国の貧しい国や町から豊かな都市へ人々が大規模に移動して住み始めたことでした。住むのも働くのも許可が一切いりませんから、当たり前の状況です。 そして、10年ばかりの間に特定の町の人口が急激に増え、病院利用者が大幅に増加しました。しかし、病院の予算は国保や税金で賄われており、その予算が急激に増えるわけではありません。移動してきた人の中には短期滞在の季節労働者や学生も大量にいました。 さらに、欧州では日本のように高齢化が進んでいるので、高齢者の病院費用も激増しました。そこで発生したのが質の激烈な低下です。イギリスの場合は時間外の夜間緊急窓口に行った場合、4時間から8時間待たされるということも珍しくありません。 重症者を優先するからという言い訳がありますが、かなり具合が悪くても廊下で長時間待たされることがあります。MRI(磁気共鳴画像装置)やCTスキャン(コンピューター断層撮影装置)などの機器も少なく、検査を受けるのに2カ月、3カ月待たされることも当たり前です。 病院はお金がなく、人が雇えませんので外科医やスタッフの数も多くはありません。手術が当日や前日になってキャンセルされてしまい、数カ月先に延ばされてしまうということもあります。また、入院ベッドの数も足りないので一般家庭に患者の面倒を見ることを外注する仕組みにまで手を出し始めています。 私は世界各地のいろいろな病院で世話になっていますが、イギリスの病院の中には中国やロシアの病院よりもひどいところがありました。(ゲッティ・イメージズ) このような状況にもかかわらず、健康保険の費用というのは安くはなく、年収が700万円ぐらいまでの人は収入の9%を支払い、年収が700万円を超える人の場合は2%を払います。高額収入者の場合はこの2%というのは莫大な金額になりますが、受けられるサービスは、病院によっては発展途上国並みのサービスです。 高いお金を払ってもサービスを受けられないので中流以上の多くの人は民間の保険に入ってプライベートで医療サービスを受けています。つまり自分が払っている健康保険は他人の治療に使われているわけです。 このような状況ではありますが、イギリスの国立病院は太り過ぎの人に減量手術を提供したり、海外で整形手術を受けて豊胸手術に失敗した人に対して修正の手術を行います。海外から飛行機でやってくる臨月の妊婦は無料で出産をすることができます。かなり進行した白内障の老人が海外から飛行機でやってきて緊急で手術を受けることもあります。費用を徴収しようとしても外国に逃げてしまうので回収できないことも多いです。欧州では不満噴出 このように、イギリスの場合、かなり極端な例が多いわけですが、同国だけではなく欧州でも国民皆保険に対しては制度が既に崩壊していると言って不満たらたらの人が多いのです。 日本は、クレジットカードの多重債務者のような財政状況であるのに医療費は惜しまず、どんどん使いまくっていますし、地方交付金も配りまくり、市役所や道路にお金を使いまくっています。育児支援だってはっきり言ってほとんどの欧州の国より充実しているんです。 恐ろしいスピードで少子高齢化が進んでいる日本で役所が財布のひもを締め始めた場合、今のレベルで医療サービスの質が維持されると思っている方はどのぐらいいるでしょうか? 医療サービスの質が下がるということは、月6万円の健康保険料を払っても自分が手術を受けられるのは1年後ということが当たり前になるということです。 病院のベッドのシーツは取り換えられず、医療スタッフは給料削減で働く人はいないので外国人だらけになります。病院食はレンジでチンするだけの冷凍食品になります。心臓の手術を受けても退院するのは翌日です。 こういう状況にサラリーマンの皆さんが直面することが当たり前になるようになっても、・不摂生で太りすぎた人の減量手術を優先してあげましょう・不妊をしなかったので妊娠してしまった10代の母の出産費用は全部無料にしてあげましょう・アルコール中毒になった人の治療は全部無料にしてあげましょうといった寛容性を維持できるのかどうか、私には分かりません。(ゲッティ・イメージズ) 私は社会全体の幸せや安定性というものを保つために国民皆保険というのはあった方が良いと思います。社会というのは多くの人がいてモノを売り買いし、サービスを消費するからこそ豊かになるのです。 モノを消費するのには仕事をして稼ぐことが重要ですし、安心して仕事をするためには病気になっても手軽に治療を受けられて自己負担が少ないという仕組みは、とても重要です。ごく一部の豊かな人がレベルの高い生活を享受するアメリカ型のモデルは日本には合いませんし、社会の安定性は失われます。 しかし、残念ながら日本にはお金がないのです。多くの人に質の高い医療サービスを提供することが難しくなっているのです。その現実をいったい何人の人が自覚し、自分は高い保険料を払っても治療が受けられないと言った立場になるのか。それをきちんと理解すべきではないのでしょうか。
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風邪らしい患者なら、受診料は安く、薬代は高くすべし
己負担を上乗せするという見直し案をまとめたようです 。軽い病気でも気楽に診察を受ける患者が多いので、医療費が嵩んでいる、というのが理由のようです。財務省が財政再建に熱心なのはわかりますが、一工夫必要でしょう。 風邪だとわかっていれば、受診の必要はありませんが、怖いのは「風邪のような症状の悪質な感染症」である可能性です。「風邪だと自己負担が高いから、受診しない」という患者が悪質な感染症であった場合、症状が悪化して周囲に感染させてしまう可能性があります。従って、そうした可能性のある患者は気楽に受診してもらい、風邪だとわかればそれで良いでしょう。 風邪だとわかるまでの診察料は、自己負担を少なくして積極的に受診してもらう一方で、風邪だとわかった後の風邪薬は、自己負担率を100%にすれば良いと思います。単なる風邪なのに、市販薬より安く処方薬が手にはいる必要性はありませんから。 問題は、風邪だとわかっている患者が受診している例も多そうだ、ということです。時間が十分にある高齢者が風邪に罹患した時、「薬局へ行って市販薬を買うよりも、国民健康保険を利用して診察を受けて処方薬を買った方が安い」と考えて受診する可能性があるからです。 これは、ぜひともやめて欲しいです。金銭面で国民健康保険の負担が大きいですし、診療所の混雑によって多忙な現役世代の患者が「待ち時間が長いので、諦めた」ということにもなりかねないからです。 そのためには、風邪薬の自己負担率を100%にすることが有効だと思われます。「風邪薬は自己負担率100%」という制度ができれば、風邪だとわかっている高齢者は診療所へ行かずに薬局へ直行するでしょう。診療を受けると、時間も金(自己負担分)もかかる上に、隣の患者のインフルエンザに感染してしまうリスクもありますから。そうなれば、国民健康保険は大助かりです。 話し相手がいない孤独老人が診療所の待合室をサロンとして使っているという笑い話もありますが、もし本当にそれが心配ならば、「診療所の開設を認可する条件として、待合室のほかに談話室を設けること」と定めればよいのです(笑)。 風邪かもしれない、という場合には、診察を受けないと風邪だとわかりませんから、診察は必要でしょう。しかし、慢性疾患の場合には、診察を受けなくても自分の問題点が分かっているわけですから、頻繁に受診する必要はないでしょう。※画像はイメージです(ゲッティイメージズ) たとえば軽度の高血圧の場合、降圧剤を処方されて飲んでいる患者の血圧は正常でしょう。そうだとすると、患者が自分で血圧を測定し、正常であることを確認すれば、診察を受ける必要は無ないはずです。つまり、降圧剤の処方箋の有効期限を「患者が異変を申し出るまで」としておけば良いのです。現実的には「1年あるいは2年に1度は受診するように」、ということで良いと思います。 そうなれば、受診の回数が減り、本人も健康保険組合も助かるでしょう。本人が血圧を自宅で測定するのを怠って異変に気付くことができなくても、それは自業自得ということで良いでしょう。感染症と異なり、他人に迷惑をかける話ではありませんから。医薬品はジェネリックをデフォルトに 高血圧以外の慢性疾患についても、基本は同じで良いと思います。感染症の場合を除き、基本は「自己責任で異変を感じた時に受診する。異変を感じなければ、1年か2年に1度受診する」で良いと思いますが、いかがでしょうか。 受診回数を減らすほかにも、患者に安い薬を使ってもらえる工夫が必要でしょう。 昨年のノーベル経済学賞を受賞したのは行動経済学分野でした。その研究成果の一つとして、「人間は面倒なことを嫌う」というものがあります。そんなことはノーベル賞学者に教えていただかなくても、誰でも知っていることでしょうが(笑)。 現行の制度でも、これが利用されています。医師が処方した薬に、効き目が同じで値段が安い別の薬としてジェネリック医薬品が発売されていて、医師が「変更不可」と指示していない場合には、患者がジェネリックへの変更を薬剤師に願い出ることができるという制度になっているのです。 「医師が変更可能と指示している場合には変更できる」という制度と比較した場合、ジェネリックの利用が増えることは明らかです。「医師が面倒だから何もしなかった」という場合には、ジェネリックを使い得るからです。これは、優れた制度です。 しかし、どうせなら、もう一段の改善をして欲しいものです。それは、医師から「変更不可」の指示がない場合には、「患者が拒まない限り、薬剤師はジェネリックを選択しなければならない」と定めればよいのです。 現在でも、患者が「ジェネリックを希望する」と薬剤師に伝えれば、ジェネリックを使える制度となっていて、その方が患者の自己負担も健康保険会計の負担も軽いのですが、患者がそのことを知らなかったりジェネリック薬品の存在を知らなかったり「申し出るのが面倒だ」と思ったりした場合には、ジェネリックではない高価な薬が使われるわけです。 そうした場合でも、上記のような定めがあれば、患者はわざわざ拒むのは面倒なので何もせず、結果として自動的にジェネリック薬品が使われることになりますから、患者本人にとっても健康保険組合にとってもよいことでしょう。 ちなみに、上記は財務省の観点から書いたものです。政治家の観点からは、医師や薬局の票が減りかねない危険な案に見えるでしょうから、採用されるか否かは何とも言えませんが(笑)。つかさき・きみよし 久留米大学商学部教授。1981年、東京大学法学部卒業後、日本興業銀行(現みずほ銀行)に入行。主に調査関連部署に勤務した後、2005年に銀行を退行して久留米大学へ。著書に『増補改訂 よくわかる日本経済入門』(朝日新書)、『老後破産しないためのお金の教科書』(東洋経済新報社)、『世界でいちばんやさしくて役立つ経済の教科書』(宝島社)、『なんだ、そうなのか! 経済入門』(日本経済新聞出版社)など多数。
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麻生氏の「通院なし70歳以上に10万円」案は理にかなっている
ティーで、「70歳以上で、年に1回も通院しなかった人には10万円あげる」と、大胆な提案をした。膨らむ医療費を削減するためのアイディアだが、麻生氏は、以前にもこんな発言をしている。「努力して健康を保った人には何かしてくれるとか、インセンティブ(動機づけ)がないといけない。予防するとごそっと減る」 この「ごそっと減る」には2つの意味がある。もちろん前述の問題にあった高齢者の患者数そのもの。そしてもう一つは、増大を続ける「医療費」の問題だ。 厚生労働省の資料によれば、平成22年度の「国民医療費」の総額は37.4兆円。これは昭和60年度と比較すると2倍以上となっている。このうち75歳以上の後期高齢者の医療費に絞れば、昭和60年度は4兆円だったものが、平成22年度には12.7兆円。なんと3倍に膨れあがり、全体の34%を占めているのだ。 特筆すべきは、そうした医療費における1人あたりの自己負担額及び保険料である。再び麻生氏の弁。「生まれつき体が弱いとか、ケガをしたとかは別の話だ。食いたいだけ食って、飲みたいだけ飲んで、糖尿病になって病院に入っているやつの医療費はおれたちが払っている。公平ではない。無性に腹が立つ」 実際に、増大する高齢者医療を支えるために、若い世代が、医療費に対して倍以上の負担を強いられているのだ。 現在、医療費における患者負担は、義務教育就学後~69歳は3割、70歳以上は1割(住民税課税所得が145万円以上の者は3割)となっている。このうち70~74歳については、今年4月1日から2割負担となる予定だったが、今月6日、来年度以降に先送りされることが決まった。※写真はイメージです(ゲッティイメージズ)「参院選を睨み、政府が票田である高齢者の反発を避けたのではないかといわれています。負担増によって受診を控えてしまい、病状の悪化が懸念されるという反対意見がありましたからね。ただその一方で、今後団塊の世代が次々に70歳代に突入すると、負担がさらに増大するのは目に見えています」(全国紙記者) その意味でも、今回の麻生プランは理にかなっている。病気でもないのに病院に来れば、当然医療費が発生する。だからインセンティブを出し、高齢者が不要不急の通院を減らせば、医療費は減り、さらに空いた時間で本当に必要な人が医療サービスを受けられる、という話なのだ。関連記事■ 麻生氏の「自民支持者は新聞不要論」が説得力持つ理由■ 麻生氏「ナチス発言」報道でメディアの場当たり的姿が露わに■ 麻生氏はなぜ福田次官をかばい、首相は更迭方針撤回したのか■ 麻生氏が「悪いのは昭恵だろう!」と怒鳴る声が役人に話題■ 安倍退陣なら後継に麻生氏か メディアも麻生番増強へ
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4月の診療報酬改定で「大病院」→「かかりつけ医」へシフト
診る場合の報酬がひと月2160円増える。 増え続ける高齢者が大病院に集中すると、重症者や救急患者への医療提供に支障が出てしまうため、一般の患者を地域のクリニックに誘導する必要に迫られている。だからこそ、国は「かかりつけ医」優遇に動いたわけだ。『かかりつけ医は選ぶ時代』(北國新聞社刊)の著者で金沢市・ティーズ内科クリニック院長の土山智也医師が言う。「今でも大病院を受診するにはかかりつけ医の紹介状が必要で、紹介状がない場合は5000円以上の定額料金を診断料とは別に取られる。今後はますます大病院での受診がしづらくなると考えられます。 患者にとって、かかりつけ医の存在はこれまでより大きくなり、大げさな話ではなく、かかりつけ医に自分の命を預けることになるのです」※写真はイメージです(ゲッティイメージズ) もしかかりつけ医が判断を誤れば、大病院を受診する前に病状が悪化し、手遅れになる可能性もある。「近所にあるから」といった安易な理由でかかりつけ医を選ぶと、後悔することになりかねない。関連記事■ やたらと多くの診療科目を掲げている町の診療所 注意が必要か■ 病院で混雑を避ける方法とTVで有名な名医の診察受ける方法■ かかりつけ医の見分け方 多い診療科目、出身大学の注意点■ 良かかりつけ医の見分け方 病院のスリッパ、雑誌も判断材料■ かかりつけ医の見つけ方・医師の本音や外国の事情が分かる本
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みんな、まるちゃんが好きだった
漫画家、さくらももこさんが53歳の若さで亡くなった。代表作『ちびまる子ちゃん』の主人公、まるちゃんはさくらさん自身の子供時代を投影したものだったという。「みんな、まるちゃんが好きだった」。こんなタイトルをつけて、さくらももこさんの追悼特集をお届けしたい。
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がん闘病を告白しなかったさくらももこは心底すごいと思う
くの人が応援し、さらには同じ病気で悩んでいる人を励ますこともできる。良い時代になったと思う。同時に、医療が発達して「がん≒死」というイメージが払拭された結果だとも言える。 一方、これだけ多くの人が闘病をカミングアウトしている時代は、医療者泣かせの時代でもある。告白しないほうが少数派「私が読んでいるこのブログの人はこういう治療をしているがどう思うか」「この芸能人が通っている免疫療法クリニックを紹介してくれ」「余命半年と私は言われたが、このタレントさんは私と同じ状態でもう10年も生きているがどう思うか」 ご丁寧に、その有名人のブログをプリントアウトした紙を持って来院する人もいる。検索が過ぎる人ほど、間違った情報を仕入れているケースが多い。 そうしたブログに(無作為に)掲載される治療法やクリニックの広告も、中には首をかしげざるを得ないものもある。グーグルに頼る前にちゃんと検診を受けて、まずは主治医の話に耳を傾けてほしいのだ。患者さんの誤解を解くことから治療を始めなければならないことも多く、悩ましい問題である。 むしろ昨今は、「病気を周囲に告白しない」ほうが少数派ではないだろうか。 先日、53歳の若さで亡くなられたさくらももこさんの死は「なぜ、がんの報道、闘病の報道がなかったのか?」ということが、余計世間に衝撃を与えたようにも見える。「黙っていた、隠していた」こと自体が大きく報道されるなど、25年前には考えられなかったことである。 詳しい病状は一切明らかにされてはいないが、かなり以前より乳がんの闘病をされており、ごく親しい人にしか打ち明けていなかったという。強い人だったのだろう。 2年前にさくらさんと同じ乳がんで、51歳の若さで旅立たれた『ちびまる子ちゃん』のお姉さん役の声優、水谷優子さんの死を知ったとき、あるいはたった3カ月前の、「まる子」の永遠のアイドル、西城秀樹さんの死を知ったとき、さくらさんはどんな気持ちだったろうか。「実は私も…」とつい告白してしまいそうな状況だったと想像するが、さくらさんはそれをかたくなにしなかった。2018年5月、西城秀樹さんの葬儀・告別式で弔辞を読む野口五郎(右、代表撮影) 日本中の誰もが知る国民的漫画家であるのに、さくらさん自身は、ほとんどメディアに出ることはなかった。『ちびまる子ちゃん』の作品性への影響を考えてのことだったかもしれない。 がんを告白するのも勇気なら、今の時代、しないこともまた勇気だ。そして、どちらの勇気も肯定されるべきだと私は考える。漫画業界こそ働き方改革が必要 あなたが誰かからがんを告白されても、間違っても、自分が見つけてきた治療法や健康食品や根拠の薄い情報を勧めるような善意の押し付けをしてはいけない。また、告白されなかったからと言って、「なんで教えてくれなかったの!?」などと責めたりするのは愚の骨頂だ。 がんになったからといって、「がん患者」としてあなたに扱ってほしいのではなく、今までと変わらぬ付き合い方をご本人は求めているはずだから。 それにしても、漫画家という職業は短命の人が多い印象がある。作品の産みの苦しみと闘いながら、長時間机に向かい続ける仕事。当然、疲労がたまり血流も悪くなる。 売れっ子であればあるほど、運動不足になっていくのではないだろうか。そして、締め切りというプレッシャー。あれほど精神的に追い詰められるものはない。漫画業界こそ、働き方改革が必要だと思われる。 睡眠時間さえ確保するのが難しいであろう多忙な人に、運動する暇などないのかもしれない。しかし、そういう人はただ歩くだけでいいのだ。 事務所に移動するまでの距離を一駅分だけ歩いたり、夕食の買い物は、わざと遠いスーパーまで出掛けたりと、工夫次第で歩行距離は増やせる。1日1キロ歩行距離を増やせば、1年間で365キロ多く歩いたことになる。 2016年に、米国立がん研究所、米国立衛生研究所、米国がん学会の合同チームが、ウオーキングなどの運動を習慣にすると、13種類のがん発症リスクが下がるという研究結果を発表している。内訳は以下の通りだ。<食道がん(42%) 肝臓がん(27%) 肺がん(26%)腎臓がん(23%) 胃がん(22%) 子宮体がん(21%) 骨髄性白血病(20%)骨髄腫(17%) 結腸がん(16%) 頭脛部がん(15%) 直腸がん(13%) ぼうこうがん乳がん(10%)>2018年8月、作者のさくらももこさんが死去し、静岡市内の「ちびまる子ちゃんランド」に設置された記帳台で記帳する来場者 もちろん、漫画家に限ったことではない。座りっぱなしの仕事の人は、ぜひ少しだけライフスタイルを改めてほしいのである。私も24時間365日年中無休の町医者のため、規則正しい生活とは無縁の人間だ。偉そうに言える立場ではないのだが、在宅患者さんへの往診で日々歩き回っているため、60歳を過ぎてもまあまあ健康でいられるのかなあと思う。 この原稿を終えた今から、乳がん患者さんのところに往診に行く。西城秀樹さんが歌ったちびまる子ちゃんのテーマ曲、『走れ正直者』を歌いながら、尼崎の町を歩く。
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「がん治療に100%はない」さくらももこの訃報に思う
術が進めば進むほど情報が増えて錯綜し、100%の答えを出すことが難しくなっています。そして、これだけ医療が進歩しても治しにくいがんがあることも事実なのです。国立がん研究センターがん予防・検診研究センター つまり、がんといわれたら、治療すべきか経過をみるべきか、手術するのかしないのか、抗がん剤や放射線治療をするのかしないのか、正直そのがんによって選択肢は全く異なるということになります。悪性リンパ腫の中でも濾胞性リンパ腫とびまん性大細胞型リンパ腫があるように、同じ名前の一つのがんでも、本当にさまざまな多様性があるのです。 当然、同じ名前のがんでも、治療への反応が違うし、個人でも反応が違います。そのようなことを考えた上で、現場では個別に治療を変える必要が出てきていますし、悪性度、個人の状態によって薬の量を変えることなどはもう当然のこととして現場で行われています。最適ながん治療との向き合い方とは このように、がんの多様性を知れば知るほど、全てのがんに効果のあるとうたう健康食品などは間違いということが理解できると思います。そういろいろながんがあるのに薬が一つでいいわけないのです。 このことを踏まえた上で、今現在ある最適ながん治療との向き合い方はなんでしょうか。最善の方法は医療者との信頼関係の構築、良好なコミュニケーションになります。 患者さんは、がんの種類とは関係なく、年齢、価値観、社会的状況、経済的状況、いわゆる生き方(宗教など)によって全く異なります。その意味でも、どのように治療を行っていくかは医療従事者と患者さんのコミュニケーションによって成り立ちます。 今、医療従事者ができることは、エビデンスや医学的アセスメントに基づき、意思決定のためにさまざまな情報を与えることになります。1・十分な情報提供からの治療選択肢の提示、医学的助言、意思決定の支援(がん治療の緊急性、生命予後などの情報)2・医療の提供(副作用に対処しながらさまざまな治療法の実施)3・患者の教育機会の提供(治療における必要事項など) 正直その医療の質はかなり異なりますし、専門的な部分も多くわかりにくいものです。そして、その情報を患者自身が確認した上でできること、すべきこととして以下の3点が挙げられます。1・治療への能動的参加(受動的ではがんが治っても寝たきりになってしまう恐れ、リハビリなど)2・さまざまな自己管理(タバコ、アルコール、リハビリなど)3・精神的安定を含めての医療者とのコミュニケーションの継続(気軽に話し合える、弱音を出せるなど)さくらももこさんのオフィシャルブログに掲載された死去のお知らせ これらを踏まえた上で患者の自己決定権に基づき治療法を決め治療を継続していくことがより良いがん医療となります。 私が最終的に患者さんたちに答えとして言えることは「がんはまだまだわからないことがいっぱいあります。だから今はっきりと証明されている一番いいといわれていることを医療者と一緒に淡々とやっていきましょう。答えは100%ではないかもしれませんが、最大の確率で恩恵が受けられます」です。俗にいう「標準治療」ということになります。 その上で信頼できる医療者と切磋琢磨(せっさたくま)し、新しい情報をしっかり整理し、自分の価値観で予防法、診断法、治療法などを決めていってください。その「標準治療」で稼いだ時間でまた次のいい治療が受けられるかもしれません。
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10年近く闘病していたさくらももこさん 夏前に急激に悪化
漫画家のさくらももこさんが8月15日、乳がんのため亡くなった。53才だった。《深い悲しみがまとめて湧いてきた。今、目の前にいる大切な人達とも、いつの日かを境に二度と会えなくなるのだと思うと、悲しすぎると思い、毎晩布団の中でむせび泣く日が続いた。むせび泣きは、一年以上続いていたように思う。》(『おんぶにだっこ』小学館刊) さくらももこさんは、祖母と近所のおばあちゃんの死に直面した5才の頃を回想し、そう綴った。 日常の中にある子供の瑞々しい感覚を、絶妙なタッチで描き出した国民的漫画『ちびまる子ちゃん』。テレビアニメとしては28年間も放送が続いている。主人公・まる子のモデルはさくらさん自身だという。怠け者で、お調子者だが、子供らしい鋭い感受性を持った女の子だった。「さくらさんの乳がんの闘病はもう10年近くになるはずです。40代半ばでのがん発覚後も治療を続けながら仕事のペースは落ちず、以前と変わらず穏やかな笑いのある漫画を描き続けていました。しかし、近しい人以外にはがん闘病のことは一切明かさず、病気と向き合っていました。感性の塊のような人なので、孤独の中にさまざまな葛藤があったと思います」(さくらさんの知人) 病気が発覚したすぐ後に、東日本大震災(2011年3月11日)が起きた。さくらさんは、直後は作品中では触れるべきではないと考えたが、震災1週間後、まる子が花畑の中で涙を浮かべながら「きっと大丈夫だよね。日本も」と語る内容の4コマ漫画を新聞に描いた。その後2週間、新聞の連載を休んだ。さくらさんはその時期が本当につらかったと振り返っている。 優しく穏やかで明るい日常を描き続ける一方で、その繊細な感性で「死」とも向き合い続けていた。「病状はずっと膠着状態でしたが、この夏前になって、急激に悪化したそうです」(前出・知人)※写真はイメージです(ゲッティイメージズ) 東京都心にある自宅からすぐ近くにある総合病院に通って治療を続けていたようだ。奇しくも、そこは、乳がん闘病の末に昨年、命を落とした元アナウンサーの小林麻央さん(享年34)もがん発覚直後に通っていた病院だった。「最期は、静岡から上京して都内の自宅で一緒に暮らしていたご両親や20代半ばになった息子さんらに看取られたそうです」(前出・知人)関連記事■ 市川海老蔵、麻央さんと住んでいた一戸建ての売却を検討■ 乳がんの小林麻央 全摘出しなかったのはなぜなのか?■ 小林麻耶 ”海老蔵似”夫と手つなぎデートで幸せ絶頂写真5枚■ 告別式で奇跡のブラスバンド 20歳で逝った若者の生き様■ 「誤診がん」の恐怖 12人に1人が検診で間違われる衝撃調査
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東京医大「差別入試」は必要悪?
東京医科大が女子や3浪以上の受験者の得点を一律減点し、合格者数を抑制していたことが明らかになった。受験者の属性による「差別入試」の背景には、女性医師の高い離職率などがあったようだが、それを必要悪と短絡的に受け止めてもいいのか。議論の核心を読む。
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医学界に蔓延する女性差別、現役女医が明かした「男社会」の現実
山本佳奈(医療ガバナンス研究所内科医・研究員) 東京医科大が女子受験生を一律減点し、恣意(しい)的操作を行っていたことが発覚した。裏口入学に続いて、あきれた実態が続々と明らかになっている。前代未聞の不祥事であり、海外でも報道され注目を集めている。 新聞報道によれば、2010年の医学科一般入試において、女子の合格者数が全体の38%に達したため、2011年頃から女子受験生を一律に減点し、女子の合格者数を3割に前後に抑えていたという。 その理由として、女子は結婚や出産で医師を辞めるケースが多いことや、緊急手術が多く勤務体系が不規則な外科系の診療科では「女3人で男1人分」と、出産や子育てを経験する女性医師は男性医師ほど働けないことを挙げていた。系列の病院で勤務する医局員不足を懸念しての「必要悪」であり、「暗黙の了解」であったという。 報道の翌日、勤務先の病院の女性医師の医局部屋では、この話で持ち切りだった。「女子だからって減点するなんてひどい」「子育てしながら働いているのに」「女医が辞めざるを得ない環境を改善することが大事なのに」「某私大もそうみたいよね」などと議論は尽きなかった。 一般的に女子の方が男子に比べて優秀な受験生が多く、普通に試験をするとどうしても女子が多くなるという。どうしても男性の方が多く欲しいのであれば、良いか悪いかは置いておくとして、募集要項に男女各々の募集人数を堂々と書けばいい。受験生は、その募集要項に従うしか選択肢はないのだから。どうして、水面下でコソコソと女子だけ不利に扱うのだろう。不正入試問題の内部調査報告を受けて記者会見に臨む東京医科大の行岡哲男常務理事(左)ら2018年8月7日、東京都内のホテル(斎藤良雄撮影) 私自身、医師になりたい一心で受験勉強をしてきた。高校1年の夏、医師を夢見て勉強を始めた。同時に、思春期真っ盛りだった私は、体型を気にしてダイエットを始めた。いつの間にか、摂食障害に陥っていた。1年半後のある日、「明日死んでしまうよ」と私は医師から宣告された。摂食障害を克服できたのは、医師になりたいという強い思いだった。それを支えてくれたのは、高校の担任教諭であり、両親だった。 一浪し、なんとかつかんだ医学部合格だった。予備校時代、多浪するほど医学部に入りにくくなる、なんて噂は聞いたことがあったが、医学部入試で女子差別がされているとは夢にも思っていなかった。今もそうだが、私が受験生だった時も、国公立のほとんどの医学部で男子の合格者数の方が女子よりも多かった。 この事実について、私自身まったく疑問を持っていなかった。というのも、生まれ育った関西には、中学入試で偏差値の高い私立男子校が大阪や京都、神戸、奈良に何校もある。一方で、女子校や共学は少なかったからだ。中高の教育レベルが、医学部の合格者数に比例するのだろうと勝手に思っていた。女子差別の実態があると知っていたら、それでも私は医師を目指していたのだろうか。「退職」ではなく「転職」 医学生の頃は、憧れを抱いたままだった。医学部5年時の病院実習(「ポリクリ」と呼ばれていた)は、あくまで見学であり、実際に働く訳ではない。ある外科を研修していると、女性医師が「女を捨てた」と言っているのを聞き、外科系は出産や子育てなどができない、と学生ながら感じることもあれば、別の科ではオンオフがはっきりしているから「女性も働きやすいよ」としつこく言われた。 だが、初期研修医になると、医師としてさまざまな診療科を回り、各診療科の仕事内容やハードさを、身をもって体験する。仕事も続けたいが、いつかは出産も育児もしたい。だから、緊急手術や夜間の呼び出しの有無、身体的・精神的に耐えられるかどうかなど、女性として働くことが可能かどうかを考え、初期研修を終えるまでに診療科を選ばなければならなかった。いや、むしろ診療科を切り捨てて行った、という方が正しいのかもしれない。 東京医大の言い分が正しいのかというと、当然ながら正しくない。一般に、女性の労働力は、結婚や出産期に当たる年代にいったん減少し、育児が落ち着いた頃に再び上昇することが知られている。これを「M字カーブ」というが、女性医師も例外ではない。 平成18年度厚生労働科学研究「日本の医師需給の実証的調査研究」によると、女性医師の就業率は、医学部卒業後減少傾向を認め、卒後11年目(36歳)で76%まで落ち込んだ後、再び回復している。結婚や出産を機に医師を辞める選択をする女性医師がいることも事実だが、ベビーシッターを雇いながら勤務を続ける医師もいれば、出産後すぐに復帰して第一線で働く医師もいる。 さらに、多くの女性医師は職場や働き方を変えながら、医師を続けている。東京医大の経営者にしてみれば「退職」と同じだが、当事者の女医からみれば「転職」だ。東京医大の経営者は、自分のところで働く医師にしか関心がないのかもしれない。 実は、この点こそが今回の問題の本質である。医学部の入学試験は、単なる大学入試ではない。大学医局への就職試験という側面もある。大学経営者にとっては、卒業後医師として自らが経営する大学病院や系列病院で働いてくれる人を選ぶ「採用試験」でもある。だから、出産や子育てを理由に辞めてしまう、あるいは男性に比べて戦力にならない女性医師はいらない、ということになる。東京医科大学正門前=2018年7月4日、東京都新宿区(萩原悠久人撮影) 一律減点や裏口入学は、実は医大経営者の本音を表しているのだ。だが、医学部は教育機関であるにもかかわらず、医学部合否の基準に卒後の働き方が入っていることを誰もおかしいと感じない。このことが、問題の根深さを象徴している。 実は、これは入試に限った話ではない。医局の勧誘や専門医制度も、医師や医局員不足対策として「囲い込み」をしているにすぎないのだ。 大学5年の時、病院実習として各科をローテーションした。その度に、医局説明会や歓迎会に誘われた。それはまるで部活の歓迎会のようだった。県内に残ることを説得され、「女医は医局に入らないと仕事を続けられないよ」と毎回脅された。 研修医2年目の秋ごろだったと思う。母校の産婦人科教授が、はるばる当時私が勤めていた福島県南相馬市までやって来た。産婦人科を志望していた私に会うためだった。その後、「母校に帰って来なさい。専門医を取得しないと将来の可能性を狭める。母校の産婦人科プログラムは入局を求めているが、個人を縛るものではない。あなたのことが心底心配だ」と何通もメールが来た。それほどに医局員を欲しているのかと驚くほどだった。3年目の医師になり、教授からのメールはパタリと来なくなった。「男社会は仕方ない」 本来、教師は生徒の味方だ。だからこそ、多くの人が社会に出てからも、何か困ったことがあったときに恩師に相談する。ところが、医学部は違う。教授は医局の「経営者」でもある。一人でも多くの若手を囲い込みたい。いろんな理屈をつけて、縛り付ける。それが分かっているから、在校生の時も、もちろん卒業してからも、教授に相談したことは一切ない。 その典型が専門医制度だ。この制度では、若手に「専門医」という肩書をチラつかせ、医局員として働かせている。それにしても「専門医」とは何なのだろう。専門性とは一生かけて取得していくものではないのか。たった数年で取得できるはずがない。まして、学会費を支払い、学会に参加し、決まった症例数と決まった年数をクリアすれば取得できるなんて、どう考えてもおかしな話だ。 ただ、これは医学部教授から見れば有り難い。最も働いてくれる30代前半までの医師を囲い込み、後期研修を終えれば、「雇い止め」することができるからだ。そして、新たな若手を「教育」という名の下で縛り付ける。普通の職業なら、こんな有期雇用は認められない。 裏口入学は、世間でいう「コネ入社」と同じだ。医師になるための切符をくれた大学には一生頭が上がらない。医局員として一生働き続ける。大学の経営者にしてみれば、裏口入学を認めた代わりに、ずっと働いてくれる医局員を確保できる。お安い御用なのだろう。 某私大の皮膚科医局に所属している友人によれば、医局スタッフの約8割を占めている女性医師が、産休や育休を理由に医局を辞めるケースが後を絶たず、特に入れ替わりが激しいという。しかも、女性医師が多いために時短制度を導入できず、フルで勤務せざるを得なくなり、途中でリタイアしてしまう女性が多いそうだ。だから、教授も女性の入局希望者を採用したがっておらず、医局スタッフでさえ男性の入局希望者を優先させたがっているらしい。 この状況は、大学経営者や教授にとっては「女は使えない」ことに等しいが、われわれ女性からみれば「男社会は仕方ない」ことになる。教授や系列病院の部長を目指し、滅私奉公することを私は求めない。 ある病院の産婦人科で研修をした大学6年の時のこと。定時(9時〜17時)で働いている女性医師が患者の急変に気がつかなかったようで、フルタイムで勤務している女性医師が彼女を責め立てていたことがあった。「急変時に対応できないなら、勤務しない方がマシだ。結局フルで働く私たちにしわ寄せがくるんだ」と。定時で帰ってしまう医師をフォローし合うという意識が全く感じられなかったことは、学生ながら残念に思った。 私が医師を目指したのは、大学教授のような「肩書」が欲しいからではない。患者さんを診察して治療し、患者さんに寄り添っていく中で、医療と医学の両方を学びたいからだ。私は、大学医局には属さず、新専門医制度にも登録しなかった。福島県と東京都で臨床医として働きながら、臨床研究にも取り組んでいる。画像:Getty Images 女子受験生を一律減点し、恣意(しい)的に合格者数を抑制していたことは、女子差別であるとしか言いようがない。だが、根底に隠れている問題は、医学教育という名の下、大学において入試や専門医の名を語った医師の囲い込みや就職活動が行われているという現状があることである。そこは典型的な「男社会」だ。私はそのような人生を送りたくない。おそらく同様に感じている女性医師も多いだろう。 こうした現状を打破するには、医学部と大学病院を分ける、といった対応が必要だろう。今こそ「女性差別」という問題だけで終わらせることなく、その裏に隠された医学教育という名の下の体制や慣習にメスを入れる時なのではないだろうか。
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「男と女どちらが優秀?」差別入試、この議論をしても意味がない
れどころか「差異の検証」に終始することは、差別の正当化を暗黙に容認する結果すら導いてしまうだろう。「医療現場を調べたところ、男性医師は女性医師より出産による離職率が低いので女性より優秀であることが実証された。よって優秀な男子を入試で優遇することは正当化され、差別ではない」といった結論が出てしまいかねない。もしくは、極端かもしれないが、「女性医師の出産による離職が問題なので、女性医師の産休、育休を認めない」とか、「一定数の女性を強制的に外科や救急に配属し、出産を制限する」などの不当な処遇が「男女平等」の未来予想図にされてしまう可能性もある。2018年8月、東京医科大前で「#女だからというだけで」と書かれたプラカードを掲げ、抗議活動する女性 私たちは今一度、何をどうすれば「平等」だと言えるのか、そのイメージを明確にしなければならない。求めるものは何なのか。性別による差異があることは前提として、その差異をどう扱えばより社会的な理想に近づけるのか。 男性医師と女性医師の差異をあげつらって「どちらが優秀か」などと泥仕合をしている場合ではない。また、ある分野で特に男性医師の労働力が求められているからといって、そこへ全員の医師が照準を合わせなくてはならない前提を疑ってかかることも必要だろう。 本件をきっかけに、私たちは男女平等のあり方と医療現場の現状を考えるべきである。しつこいようだが繰り返したい。何をどうすれば「平等」だと言えるのか、はっきりしたイメージがないままに男女差を検証するだけの不毛な議論は、もう終わりにしたい。
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教授に媚び製薬会社にたかる「白い巨塔」が差別を生んだ
上昌広(医療ガバナンス研究所理事長) 東京医科大が世間の注目を集めている。裏口入学が状態化していたことに加え、8月2日、入試で女性受験者の点数を一律に切り下げていたことが明らかになった。このことは海外でも報じられ、言うまでもなく前代未聞の不祥事である。 報道等によれば、東京医大による女子合格者の抑制は2006年から始まったという。2010年の医学科の一般入試では、女子の合格者数が69人と全体(181人)の38%に達したことに強い危機感を抱いたらしい。大学関係者は取材に対し、出産や子育てを抱える女性医師は男性医師ほど働けないと説明している。特に、外科系の診療科では「女3人で男1人分」との言葉もささやかれていたという。 私が驚いたのは、メディアのこのような論調に誰も疑問を呈さないことだ。今回、問題が発覚したのは東京医大の入試である。東京医大病院の就職試験ではない。どうして、入試の合否の基準に卒業後の働き方が考慮されるのだろうか。 医師不足が深刻な社会問題となっている昨今、確かに彼らの言い分は一定の説得力を持つ。男性と比較して、女性が働き続けるのは困難を伴う。激務の医療現場ならなおさらだろう。 ただ、この問題は医療界に限った話ではない。医療界でも看護師は同じ問題を抱える。日本看護協会をはじめ、看護師の業界団体も、この問題に取り組んで来た。安倍政権も女性活躍を目指して多くの政策を立案している。 医学部医学科以外で、卒業後に大学で学んだ技術を用いた仕事に就かないから、入試で差別する、というばかげた主張がまかり通ることはない。 なぜ、こんなことが真剣に議論されるのだろうか。それは東京医大の場合、医師国家試験に合格した卒業生の大半が、東京医大病院をはじめ系列の病院で働くことになるからだ。つまり、大学入試が「東京医大グループ」への就職試験を兼ねていることになる。おそらく、このような形で運用されているのは、大学の学部では医学部だけだろう。 医学部教授は学生を指導する教員であると同時に「病院の経営者」でもある。病院経営の観点から考えれば、給与が安くてよく働く若手医師をできるだけ多く確保したいというのが本音である。 東京医大に限らず、若手医師の待遇は劣悪だ。東京医大のホームページ(HP)によれば、東京医大病院後期研修医(卒後3から8年程度の若手医師)の給料は月額20万円だ。これに夜勤手当、超過勤務手当てなどがつく。この給料で、新宿近辺でマンションを借りて生活しようと思えば、親から仕送りをもらうか、夜間や休日は当直バイトに精を出すしかない。 しかも、この契約は3年間で満了となり、その後は一年契約となる。さらに常勤ではなく、仮に妊娠した場合、雇用が契約されるか否かは、東京医大に委ねられる。 大学病院経営の視点から考えれば、女性より男性が安上がりであることは間違いない。男性はめったに産休などをとらず、待遇面での不満や特別な事情でもない限り一生働き続けるからだ。入学試験の成績が多少悪かろうが、男性を合格させたいという考えも理解はできる。東京医科大学内に入る女性ら= 2018年 8月2日、東京都新宿区(吉沢良太撮影) 実は、このような主張も屁(へ)理屈だ。女医に限らず、女性は出産・子育ての時期に一時的に仕事を離れることが多い。これを「M字カーブ」という。 少し古いが、2006年の長谷川敏彦・日本医科大学教授(当時)の研究を紹介しよう。この研究によれば、医師の就業率は男女とも20代は93%だが、30代半ばで男性は90%、女性76%と差がつく。メディアは、このことを強調する。 ただ、これは今回の不正入試の本当の原因ではない。東京医大が主張する通り、入学者の4割が女性になったことが問題で、これを全国平均の3割に抑えたとしても、それで増加する医師はわずか1人である。その程度の効果しかないのに、東京医大の幹部が不正のリスクを冒したのはなぜなのか。教授に媚びる男性医師 問題の本質は、結婚や出産した女性医師が職場を変えることだ。本件に関して言えば、東京医大病院や関連病院を辞めてしまう、ということである。 例えば、東京医大の内科系診療科の場合、HPに掲載されている循環器内科など8つの内科系診療グループのスタッフに占める女性の割合は、教授・准教授で5%、助教以上のスタッフで22%、後期研修医で37%だった。女性は年齢を重ねてキャリアが上がるにつれて、東京医大病院で働かなくなっていることが分かる。 医師の平均的なキャリアパスは24歳で医学部を卒業し、2年間の初期研修を終え、その後、3~5年間の後期研修を受ける。その時点で30代前半になる。 その後のキャリアは雑多だ。東京医大の場合、「臨床研究医」などの医局員を経て、助教、講師へと出世していくようだが、速い人であれば40歳代前半で准教授となる。 大学病院は教授を目指した「出世競争の場」である。主任教授になれば、医局員の人事を差配し、製薬企業や患者から多くのカネを受け取る。東京医大のある内科教授は、2016年度に115回も製薬企業が主催する講演会の講師などを務め、計1646万円もの謝金を受け取っていたことが明らかになっている。 大学で出世するためには、安月給でも土日返上で働き、論文を書かねばならない。一方、私大医学部の経営者は、医師の名誉欲を利用する。知人の私立医科大の理事長は「大学の肩書をつければ、人件費を3割は抑制できる」と打ち明けてくれた。 ところが、女医にはこの作戦は通用しない。医師の世界で男性は保守的、女性は進歩的なケースが多い。食いっぱぐれのない医師は、親が子供に勧める職業の一つである。男性医師の多くは親や教師の勧めに従順に従って、医学部に進む。だが、女性は違う。苦労を知りながら、「女だてら」に医師になる。多くの女医は、狭い医局の世界で出世争いに汲々(きゅうきゅう)とする男性医師を見て嫌になり、医局を辞めていく。 週刊ポストは8月10日号で、製薬企業からの謝礼が特に多い主要医学会の幹部医師50人の実名を公開した。その中に含まれる女性医師はわずか1人だった。 大学病院から女医が去って行くのは、勤務体系が劣悪という理由だけではない。診療や研究そっちのけで、教授に媚(こ)び、製薬企業にたかる体質に嫌気が差しているからだ。東大医学部を卒業した知人の女性医師は「男性は本当に肩書が好きですね。私たちには分からない」と本音を漏らす。画像:Getty Images 国民の視点に立てば、女医はどこで働いてもらってもいい。彼女たちが育児と両立しやすい職場に移ればいい。象牙の塔を離れ、市中で診療してくれるのは、むしろ有り難いことだ。 彼女たちが大学病院を辞めて本当に困るのは、経営者だけである。とりわけ、彼らは「女性は使えない」と思い込んでいる。だからこそ、女子受験者を一律減点し、入学を制限しようとしたのである。 大学教育とは一体何なのか。むろん学生を育てることである。それは医学部だろうが、他学部だろうが関係ない。ところが、東京医大は学生を自らが経営する大学病院の「労働者」としてしか見ていない。 この問題を解決するには、情報公開を徹底するしかない。さらに、大学病院を医学部から分離する、あるいは卒業生の入局を制限するなどの対応が必要だろう。 これは学生にとってはプラスである。進学校から医学部に進み、そのまま入局して、一生母校の医局にいたら、まともな人間になるはずがない。不正に関与した東京医大の幹部はまさに反面教師である。 近年、大学医学部で不祥事が続発している。今こそ、学生教育という本来の目的に立ち返り、徹底的に議論し改革を促すべきだ。
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東京医大「差別入試」 気になる違法性はここが分かれ目
、前時代的かつ働き方や資格制度の在り方といった問題の本質から目を背けている。 確かに大学病院は、地域医療に多大な貢献を行い、それぞれの医師が寝る間も惜しんで医療サービスを提供している実情があること、その職場環境が非常に厳しいものであることは理解できる。 しかし、試験の結果は当然、知識力や思考力や判断力、さらにそういった能力を培うための、本人の継続的な努力によって形成されたものである。今回の東京医大の対応は、「試験時点」の「能力で勝る女性医師の卵」と「能力で劣る男性医師の卵」を比べ、後者の方を優先させるという判断をしたものだ。しかし、上記したような能力で劣るものを優先して、本当に医療サービスの確保を目的としているといえるだろうか。 少なくとも、「医療サービスの確保」を理由に正当化するのであれば、その理由についての明確な根拠が必要であろう。 東京医大レベルの医学部入試のためには、多くの受験生が高額な費用を予備校に払い、浪人も厭(いと)わずに受験に臨む。さらに入試にはその学校独自の特性もあることを考えると、この学校に入りたいと思って受験している学生の中には、受験前にこうした事情を知っていれば、「そもそもこんな大学は候補に入れない」という受験生も多くいたことだろう。 仮に大学が本気で男性を優先的に合格させたいのであれば、それを明言すればよかった。しかし、そのような対処をすると大学としての評判を下げ、結果的に人気校と言えなくなることや、女性の進出に否定的な大学といった風聞が立つ。そうなれば自身のブランディングに影を落とすことを気にしたのだろう。 こうした受験生の状況も考えると、性別の評価要素は説明が必要な重要事項であろう。事前の告知が一切受験生にされていないということが重要な問題点だ。そして説明をしなかった以上は、後から「性別が実は大事な要素だ」というのは不合理な主張と考えられる。(ゲッティイメージズ) 今回の試験について、仮に性別を考慮することが他事考慮といえる場合、女性受験生が法律上できると考えられるのは、慰謝料請求、損害賠償の請求と、試験に合格したとして東京医大の学生としての身分の確認請求を行うことだ。 本来合格だった者が、不合格を言い渡されることは、その者に精神的苦痛を与えるものであり、さらには知っていれば受けなかった受験生らの無駄になった受験料なども損害といえ、慰謝料請求や損害賠償の請求が可能であると考えられる。 さらに、性別による評価が他事考慮であるとすれば、その点数分はいわば「採点ミス」である。このような「採点ミス」の結果不合格になった者を再度評価し、合格点を超えていれば、その学生には東京医大での学生の地位が与えられる可能性がある。 もちろん、その地位を「当該女性が望むのであれば」ということにはなるが。
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「女性医師が担当なら死亡率が下がる」──異色論文の根拠
イムスなど一般紙からツイッターまで、メディアやSNSでの引用状況をもとに論文の影響力を評価している。医療関係者はもとより、一般社会にも大きなインパクトを与えた、という評価です」(医療経済ジャーナリストの室井一辰氏)「メディケア患者」とは、米国の高齢者医療制度を利用している患者のことで、調査対象となったのは、2011~2014年の間に、米国で肺炎や心疾患、慢性閉塞性肺疾患などの病気で内科に入院した65歳以上の男女約150万人だ。入院日から30日以内の死亡率と、退院後の30日以内に再入院する確率を、女医が担当したケースと男性医師が担当したケースとで比較した。 その結果、女医が治療を担当した場合の死亡率と再入院率は男性医師と比べて、共に約4%低いという結果が出たのだ。女医なら3万人死亡者減 4%という数字は決して小さくない。論文執筆者で『「原因と結果」の経済学』(ダイヤモンド社刊)の著書もある、医師の津川友介・カリフォルニア大学ロサンゼルス校助教授が語る。女医さんが担当だったら喜ぶべし「4%というのは、過去10年間の医学界における死亡率の改善とほぼ同じレベルです。臨床において、日々、新しい薬や医療機器が開発されていますが、それらを全部合わせて10年蓄積した分と同じですから、臨床的にも意味のある数字だと考えます。論文の前提に立って、もし男性医師が女性医師と同程度の医療の質だったとしたら、全米で死亡者数を年間約3万2000人減らせる計算になります」 しかし、なぜ女医のほうが、死亡率や再入院率が低くなるのか。津川氏が解説する。<日本の女医もうなずいた「調査結果からは、女性医師のほうが男性医師よりも“リスク回避的”であることが分かりました。臨床ガイドラインとエビデンス(根拠)に基づく診療を忠実に守る傾向が強かったのです。 さらに、予防医療により多くの労力をかけており、コミュニケーションスキルも高い。患者さんの話をよく聞くこと、周りの医師にも相談することで、より慎重かつ個々の患者さんに適した治療が選択されているのだと思います」 こうした女医の細やかなケアが、高齢者の“異常”を上手く拾い上げた、と見られている。日本の女医もうなずいた 同内容の論文は医学界の“トレンド”でもある。「『メディカルケア』という学術雑誌に掲載された2016年のカナダでの研究によれば、女性医師にかかった場合、緊急手術を行なう事態になる可能性が17%低く、入院の可能性は11%低いと出ています」(前出・室井氏) 逆に、男性医師のほうが質の高い医療を提供しているとする研究結果はほとんど報告されていないという。この研究結果を女医たちは実感としてどう受け止めるのか。里見英子クリニックの里見英子・院長(内科医)は納得の様子で語る。「私は大病院での勤務経験が長いんですが、男性医師は患者さんを早く退院させることに重きを置きすぎる傾向にあると思います。回転率を上げたほうが病院から評価され、出世すると考えられているからです。ガイドラインから外れても、『自分が判断したからいいんだ』という考えが強いように思います。女性医師のほうが患者の話をよく聞き、ガイドラインを守るという指摘は、その通りだと思います」 津川氏は今回の研究の成果について、こう語る。「米国でも日本でも、担当医が女性であるというだけで不安に思う患者さんがいますが、データを見る限りでは、杞憂であることがわかります。米国では女性医師のほうが給与が安かったり、昇進が遅かったりすることが社会問題になっていますが、女性医師の診療の質が高いことが今回の研究で明らかになりました」 女医の割合がおよそ2割の日本の医療界は、米国以上に男社会といわれる。患者側が、「女医に当たってラッキー」と考えるようになれば、医学界も変わっていくかもしれない。関連記事■ かかりつけ医の良し悪し 受診中に注意したい4つのポイント■ 名医が教える 危ない“かかりつけ医”を見分ける薬の目安■ 病院で混雑を避ける方法とTVで有名な名医の診察受ける方法■ 死亡率減少する「内科は若手医師・外科は高齢医師」の根拠■ カルシウム摂り過ぎると死亡率2.6倍の根拠を医療専門家解説
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夏の高校野球「朝日の熱中症対策」医師の私が言葉を失った理由
上昌広(医療ガバナンス研究所理事長) 熱波がわが国を襲っている。7月23日には埼玉県熊谷市で観測史上最高の41・1度を記録した。東京の青梅市でも40度を超えた。 これは日本に限った現象ではない。共同通信によれば、米国カリフォルニア州デスバレーでは52度、ロサンゼルス近郊のチノでも48・9度を記録。さらに、北欧のノルウェーのバルドゥフォスで33・5度、フィンランドのケボでも33・4度を記録した。スウェーデンでは50カ所の森林火災が確認されているという。近年の地球温暖化はすさまじい。 私が初めて猛暑を実感したのは1994年の夏だった。後に「1994年猛暑」と記録される年だ。この年は、8月3日に東京都千代田区で39・1度を記録し、大分県日田市では22日間連続の猛暑日(最高気温が35度以上の日)を記録した。現在も破られていない日本記録だ。 この年、私は大宮赤十字病院(現さいたま赤十字病院)の2年目の内科研修医だった。7月半ば、私は意識障害で救急搬送されてきた50代の男性患者を受け持った。初診時の診察で体は焼けるように暑かった。正確な体温は覚えていないが40度以上はあったと思う。皮膚は乾いており、心電図モニターをつけると不整脈が頻発していた。血圧は低下しており、集中治療管理となった。 指導医が「典型的な熱中症」と教えてくれた。体外・体内から冷却し、10リットル程度の点滴を続けたが、状態は改善しなかった。やがて、全身に皮下出血が生じた。最終的には腹腔(ふくくう)内出血で死亡した。 この患者は工事現場の労働者で、猛暑の中での作業中に倒れた。熱中症による循環不全が生じ、播種(はしゅ)性血管内凝固症候群(DIC)という重症合併症を合併した。DICになると出血が止まらなくなる。このため、皮下出血がおこり、腹腔内にも出血する。これが、この患者の命取りとなった。気温が上がり、JR渋谷駅前の交差点を日傘を差すなどして待つ人たち=2018年7月23日、東京都渋谷区(松本健吾撮影) 私は大学時代まで剣道をしていた。真夏でも防具をつけて稽古をしていた。熱射病で死ぬなど、考えたことすらなかった。当時、研修医だった私に、この症例は強烈な印象を残した。 わが国で熱中症への関心が高まるのは、この年からだ。日経新聞が運営する新聞データベース『日経テレコン』を用いて、全国紙、および共同通信、時事通信、NHKニュースで報じられた熱中症に関する記事は、この年、前年の37報から229報に増加した。 厚生労働省も動いた。95年以降、熱中症による死者の統計を公開している。2010年までは5年ごと、2012年以降は毎年だ。 この統計のおかげで、猛暑の年に熱中症の患者が急増することが確認できる。2005年までは年間300例程度だったのが、2010年には1,731例に急増する。「観測史上最も暑い夏」と呼ばれた年だ。 2013年にも猛暑が襲う。この年は1077人が死亡した。この中には22人の10~30代も含まれる。詳細は開示されていないが、基礎疾患があるか、猛暑の中で激しい運動や労働を続けたのだろう。この年、前出の全国紙に掲載された熱中症の記事数は2567報と、過去最多を記録する。本稿を執筆している7月24日現在、今年の熱中症の記事数は2007報。2013年を抜くのは確実だ。携帯する人が増えた「OS-1」 このような多くの報道を通じ、わが国での熱中症の認知度は向上した。いまや、熱中症対策の根幹が水分補給であることは多くの人々が知るようになった。私も、夏場に高齢の患者を診察するときは、「水分を取るように」と助言することにしている。特に6月末から7月にかけては、繰り返し注意している。真夏に加え、この時期も熱中症が起こりやすいからだ。 真夏に熱中症が起こりやすいことは、誰もが想像がつく。ところが、梅雨の晴れ間や梅雨明けの急に暑くなったときが危険だとは、あまり認識されていない。 なぜ、この時期が危険なのだろうか。それは、体が暑さになれていないためだ。徐々に体を暑さに順応することを暑熱順化と呼ぶが、暑熱順化の効率には湿度が影響することが分かっている。 人体は発汗量を増やすことで、熱を発散し体温を下げる。しかしながら、周囲の湿度が高いと汗が蒸発しにくくなり、十分に発汗できない。 わが国の特徴は、6月に梅雨の影響で湿度が急上昇し、7月にピークを迎えることだ。この時期の東京の平均湿度は約80%となる。梅雨の晴れ間や梅雨明けに急に気温が上がったときには、体も慣れておらず、さらに湿度も高い。この結果、十分に汗をかけず、熱中症になりやすくなる。私が経験した症例も、この時期に起こった。 どうすれば、被害者を減らすことができるか。それは、こまめに水分を補充し、高温多湿な環境を避けるしかない。そのためには、日常生活での工夫が必要だ。わが国は、個人および社会のレベルで着実に変わりつつある。祇園祭の後祭。猛暑のなかの巡行で山鉾の足下もとはかげろうのようにかすんで見えた=2018年7月24日午前、京都市中京区(鈴木健児撮影) 例えば、筆者は毎週月曜日の16時から21時まで、ナビタスクリニック新宿で診療しているが、最近は「OS-1」などの経口補水液を携行している人が増えた。彼らは発熱、倦怠(けんたい)感を主訴(しゅそ)に受診しているのだが、来院前から熱中症の可能性を疑い、「OS-1」を飲んでいる。これは医学的に適切な対応だ。 「OS-1」は、2001年に大塚製薬工場が発売した製品で、水分だけでなく、汗で失った電解質も補充できる。所ジョージ氏のCMで有名だ。彼は、2010年に家庭菜園の手入れをしている最中に熱中症で倒れた。 「OS-1」は美味な飲み物ではない。それでも、患者さんが「OS-1」を購入するのは、それだけ、熱中症に対する認識が深まったことを意味するのだろう。 社会も変わった。屋外での作業時間を工夫するようになった。2011年に起こった福島第一原発の廃炉作業では、東京電力は午後2時から5時までの屋外の作業を控え、それ以外の時間でも作業員に対して、「クールベスト」と呼ばれる保冷剤入りの作業着を配布した。 今年は京都の夏の名物である祇園祭の花傘巡行が中止となった。着物姿の女性たち1000人程度が、午前10時から2時間にわたり、市内中心部約3キロを歩くのだが、主催者は暑さが許容レベルを超えていると判断したようだ。こうなると、猛暑を自然災害と見做(みな)したことになる。朝日の記事に唖然とした 夏と言えば高校野球だ。高校球界も対応に余念がない。滋賀県予選では、7月21、22日に4試合ずつ行う予定だった3回戦を午前開始の2試合のみとし、21-24日の4日間に分散した。暑い午後の時間を割けたことになる。 京都府予選では、午後1時半に開始予定であった第3試合を午後4時開始とし、第4試合は午後7時からのナイターにした。この日の最高気温は38・7度だったという。 おそらく全国各地で、同様のことが起こっているだろう。真夏のスポーツの在り方が変わりつつある。 全国高校野球選手権を主催する日本高校野球連盟と朝日新聞社も対応に余念がない。7月19日に各都道府県の高野連に対し、熱中症対策に万全を期すように呼び掛けた。 全国選手権では、スポーツドリンクや氷囊(ひょうのう)も準備するそうだ。1日あたり14-8人の理学療法士を待機させ、全身状態もチェックするらしい。朝日新聞は7月19日の記事で、彼らの取り組みを大きく報じている。 朝日新聞の真意は分からないが、私はこの記事を読んで唖然(あぜん)とした。選手を守ろうという点で、滋賀県や京都府の高野連の対応と全く異なるからだ。捕手の防具は仲間が着け、当人は水分補給=2018年6月2日(岩崎吉昭撮影) もちろん、氷嚢(ひょうのう)やスポーツドリンクを用意すること、メディカルスタッフを待機させることが悪いとは言わない。ただ、そんなことをしても、熱中症を予防するのは限界がある。もっとも有効なのは、滋賀県や京都府の高野連がやったように、炎天下での試合を避けることだ。具体的には午前の試合開始を早め、午後は夕方からに遅らせることだ。おそらく、朝日新聞にはテレビ放送など大人の都合があるのだろう。 今年で100回目を迎える夏の全国高校野球選手権大会は、わが国を代表する国民的行事だ。この大会を通じ、毎年スターが誕生し、そこからプロ野球やメジャーリーグで活躍する人物が生まれる。この大会は、わが国の野球を支える「ふ卵器」のような存在だ。この大会がなくなれば、わが国の野球は衰退するだろう。 地球温暖化が進み、猛暑が常態化した日本で、夏の全国高校野球選手権大会はどうすれば続けていけるだろう。今こそ、球児の健康を第一に考え、その在り方を問い直すべきだ。
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西城秀樹「ギャランドゥ」な人生考
歌手、西城秀樹さんが63歳という若さでこの世を去った。スーパースターとしての逸話は数知れない。中でも1983年のヒット曲『ギャランドゥ』は後年、ヒデキを象徴する代名詞になった。今では体毛の濃い男性を意味する俗語として定着したが、その男っぷりは彼の人生そのものだった。昭和を飾った大スターの生き様を考える。

















































