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    大橋巨泉のがん闘病に何を学ぶ

    たタレント、大橋巨泉さんが11年にも及ぶがん闘病の末、82歳で亡くなった。死後、妻の寿々子さんが在宅医療の医師によるモルヒネ系鎮痛剤の「誤投与」を訴え、物議を醸した。巨泉さんの死は「天命」だったのか、「無念」だったのか。その是非を問う。

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    患者は厚かましくても構わない、大橋巨泉「殺された」報道に思うこと

    上昌広(医療ガバナンス研究所理事長) 大橋巨泉さんの最期が話題だ。 週刊現代8月6日号には「独占!巨泉さん家族の怒り「あの医者、あの薬に殺された」~無念の死。最後は寝たきりに」という記事が掲載されている。http://gendai.ismedia.jp/articles/-/49309 この記事によれば、巨泉さんは、国立がん研究センターを退院し、在宅医療を受けるつもりだったが、がんの終末期医療と勘違いした在宅医が、過剰にモルヒネ製剤を処方し、亡くなってしまったらしい。故大橋巨泉氏の遺影と祭壇 =9月5日、東京都港区 この話を聞くと、ほとんどの読者は「在宅医療担当医はとんでもない男だ」と思われるだろう。巨泉さんは有名人だから、この医師も慎重な対応をしたはずだ。それなのに、患者・家族に、ここまで不評を買っているのだから、この医師に、何らかの落ち度があった可能性は高い。 ただ、今回のケースを、この医師個人の資質の問題で片付かせてしまっていいのだろうか。週刊現代の記事によると、巨泉さんはモルヒネ系の薬を飲み始めて2日目には、「フラフラして一人で歩けなくなり」、3日目になると「二人がかりじゃないと支えられないほど」になっている。そして、5日目には在宅医から「今日がヤマです」と告げられている。その後、集中治療室に担ぎ込まれて、亡くなった。 週刊現代によれば、巨泉さんが使用した麻薬はMSコンチンやオプソだったらしい。 MSコンチンとは、モルヒネの徐放剤だ。10~20mgの12時間毎の投与から始め、痛みがコントロールされるまで、一日量を40mg、60mg、80mgという風に増量していく。オプソは、急に痛みが強くなったときに、一日に必要なモルヒネの量の6分の1程度を補充する速放モルヒネ製剤だ。 このように少量から開始して、増量していくのは、研修医でも知っている常識だ。在宅医が、このルールを破っていたなら問題だが、おそらくそうではないだろう。 巨泉さんの場合、モルヒネ投与2日目から、体調の異常が出現した。週刊現代では、このことを問題視している。ただ、モルヒネは投与開始時に悪心、嘔吐、傾眠傾向、便秘などの副作用が生じることが多い。多くの場合、モルヒネを続けるうちに、体は慣れてくる。便秘以外の副作用は、やがて改善する。多くの医師は電話よりメールや手紙を好む モルヒネ開始時の副作用には、大きな個人差がある。その評価は、時に、経験豊富な主治医でも難しいことがある。 週刊現代によれば、国立がん研究センターの二人の主治医は、「異口同音に『痛み止め(モルヒネ)の使用法に問題がありそうだ』と、再入院をすすめた」そうだ。状況が切迫していたのだろう。 ただ、この部分を読んで、私は「そんなことを言うくらいなら、なぜ、国立がん研究センターの医師が、電話で直接、在宅医と連絡と取り合わなかったのだろうか」と疑問を感じる。 国立がん研究センターの医師は、がんの専門家だ。在宅医よりも、モルヒネの管理には慣れているだろう。モルヒネには拮抗薬が存在することも知っていたはずだ。巨泉さんの死因に麻薬の過量投与が絡んでいるとすれば、早い段階で拮抗薬を投与すれば、救命できていた可能性もある。画像はイメージです 私は、巨泉さんの本当に死因を知らない。週刊現代の記事を額面通りに受け取れないところもある。ただ、医療は結果が全てだ。巨泉さんとご家族が、巨泉さんの亡くなり方に納得していなかったことは間違いない。どうすれば、このような不幸を繰り返さずに済むのだろうか。 私は当事者間のコミュニケーションが重要だと思う。特に、専門病院から在宅医療に患者を紹介するときなど、主治医間で密にやりとりする必要がある。「診療情報提供書」を送って終わりではなく、疑問があれば、すぐにスマホで話したり、LINEやフェースブックメッセンジャーでやりとりすればいい。そうすれば、臨機応変な対応も可能になる。 ところが、これが難しい。多くの若き医師を指導した経験から言えば、多くの医師は、電話で直接やりとりするより、メールや手紙で情報を送ることを好む。先方に情報を提供したという証拠が残るため、厚労省が「診療情報提供書」を介したやりとりを推奨していることもあろうが、直接、見知らぬ人(医師)と話すのは精神的なストレスが強く、回避しているのが本当のところだろう。医師のコミュニケーション力に問題があるのだが、この状況は一朝一夕では変わらない。患者・家族が賢くならねばならない。 巨泉さんのご家族も、遠慮せず、「先生同士でもっと話して下さい。先方の携帯番号をお伝えしますから、かけてください」くらい言えば良かったのではないだろか。 昨今、在宅で終末を迎えることを希望する患者が増えている。在宅治療では、専門病院から在宅専門医に主治医が交代することが多い。また、24時間、看護師がつきそう入院治療と比較して、患者の細かい変化は見落としがちだ。どうすれば、安全で満足できる治療を受けることが出来るか。それは、関係者の間で密なコミュニケーションをとることだ。医師任せにすべきではない。厚かましいと思われてもいい。どんどん、主治医に希望を伝えることだ。

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    40歳、モーレツ仕事人間ががんになった

    高山知朗(IT企業経営者)30歳でIT企業を興して経営者となった高山知朗さん。ところが猛烈に働いていた40歳の時に脳腫瘍、さらに42歳の時に白血病と、2回の異なるがんを経験します。5年生存率はそれぞれ25%と40%、かけ合わせると10%という低い確率です。『治るという前提でがんになった 情報戦でがんに克つ』では高山さんが2度の闘病経験から学んだ、病を生き抜くヒントを丁寧に解説しています。今回はその中から「前書き」を試し読みとして公開します。生存率10%を生き抜いた高山さんが選んだ、がん治療法とは!?*  *  * 私は40代前半の頃、悪性脳腫瘍と白血病の2回のがんを経験しました。30歳で株式会社オーシャンブリッジというIT関連会社を起業した私は、経営者として事業拡大に邁進してきました。「会社経営=自分の人生」のような生き方をしてきました。 そんな中、40歳で悪性脳腫瘍を告知されたのです。娘がまだ1歳の頃でした。 その闘病から2年後、仕事に復帰してまた忙しくしているときに、2度目のがんである白血病・悪性リンパ腫を告知されました。脳腫瘍の再発ではなく、全く別のがんでした。 がんでよく言われる「5年生存率」は、脳腫瘍では25%、白血病では40%でした。かけ合わせると10%です。つまり10人に1人しか5年生きられないという低い確率です。 その2回のがんを、手術、放射線治療、抗がん剤治療のいわゆる「がんの三大治療」で乗り越えてきました。脳腫瘍の手術からは区切りとなる5年が経過し、白血病の入院治療終了からはもうすぐ3年が経過しますが、再発の兆候も全くなく、普通の生活を送っています。 私はがん治療においては代替療法、民間療法、食事療法などの類(たぐい)には頼っていません。退院後、治療による副作用や後遺症の軽減、免疫力の回復のために東洋医学を一部取り入れていますが、がんそのものの治療については、完全にがんの三大治療だけを信じました。 今、日本では2人に1人ががんになり、3人に1人ががんで死ぬと言われています。そしてマスメディアでは、有名人のがんに関するニュースに加え、「抗がん剤は効かない」「がんは放置すべき」など、西洋医学を否定するような意見が報道されています。そうした報道に不安を覚える人、混乱する人も少なくないのではと思います。「もし自分ががんになったときには、どうすればいいんだろう?」と。 この本は、私が2回のがん闘病経験から学んだ、がんを受け入れ、立ち向かい、克服するための具体的な心構えをまとめたものです。 まず第一章、第二章では、私自身の脳腫瘍、白血病の闘病体験を書いています。生存率10%に入るために私が考えたこと、やったことの記録です。 そして第三章では、その闘病体験から学んだ「気づき」や「知恵」を、できるだけ多くの方に参考にしていただけるようにまとめています。病院選び、医師とのコミュニケーション、入院、手術、抗がん剤治療、副作用、治療費などの闘病の段階ごとに、みなさんの参考にしていただけそうなポイントをまとめました。 第四章では、私が闘病中に精神的な苦しみの中で気づいていった、がんになることの意味、がんを引き寄せてしまう考え方とその手放し方、そして人生のシナリオなどについても書いています。 この本の内容は私個人が経験したこと、考えたことですので、全てのがん患者さんに当てはまるわけではありません。でも、実際に2回のがん闘病を経験して、そこから学んだことの中には、他の患者さんやご家族にとって多少でも参考にしていただけることがあるのではないかと考えています。 この本が、がんと闘っている患者さんやそのご家族をはじめ、健康に漠然とした不安を感じているみなさんに、少しでもお役に立つのであれば幸いです。一人でも多くの患者さんががんを乗り越えて幸せな人生を歩まれることを願っています。 (高山知朗『治るという前提でがんになった 情報戦でがんに克つ』に続く)たかやま・のりあき 1971年、長野県伊那市生まれ。早稲田大学政治経済学部を卒業後、アンダーセンコンサルティング(現アクセンチュア)戦略グループにて各種コンサルティングプロジェクトに従事。その後Web関連ベンチャーを経て、2001年、株式会社オーシャンブリッジを設立し、代表取締役社長に就任。現在、同社代表取締役会長。海外のソフトウェアやクラウドサービスを発掘してローカライズ(日本語化)し、日本企業向けに販売する事業を展開。11年7月に悪性脳腫瘍(グリオーマ)摘出手術を受ける。13年5月には白血病・悪性リンパ腫を発症し、7ヶ月間の入院による抗がん剤治療を経て、現在維持療法中。2度のがん闘病の記録をつぶさにつづったブログは、がん患者とその家族から「勇気と希望がわいた」「冷静で客観的な文章で分かりやすい」と反響が大きく、全国の医師からのアクセスも多い。オーシャンブリッジ高山のブログ http://www.oceanbridge.jp/taka/関連記事■ 病院選びは命の長さを選ぶのと同じ■ 人間ドッグだけでがんは見つからない■ 受験生を上手に褒めるちょっとしたコツとは■ 「美容」にまつわるメモ ひとり暮しの手帖

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    大橋巨泉の誤投与はきっと防げた  「これも天命」と思える医師選び

    から死亡の連絡があったのだという。医師や看護婦はその急変のについての経緯を十分に説明しきれず、母親は医療ミスを疑った。実際に医療ミスによる死だったかは分からないのだが、病院側の対応に強い不信感が残ったのは事実だ。それでも、相談した弁護士や専門家は「医療ミスは立証が難しい」として訴訟など法的な抗議を起こすには至らず、泣き寝入りしたという。死の後に医師への不信感が残ったという意味では巨泉さんのケースと同じだ。 6月、歌舞伎役者の市川海老蔵さんは、妻の小林麻央さんが乳ガンであることを発表。海老蔵さんはマスコミへの追跡取材を強く拒んでいたが、これは妻への配慮だけでなく、病院側との距離感も理由だったといわれる。実際にその後、一部週刊誌では治療方針を巡って海老蔵さんが一部の医師と対立、転院したことが伝えられた。信頼できる医師でなかったらそういう選択肢もあるから、記者が情報を小出しにすることを嫌がったのかもしれない。 筆者がかつてテレビマンだった時代、現場で優しく声をかけてくれた元フジテレビのアナウンサーの故・逸見政孝さんは、仕事合間の雑談の中でたまたま「医師選びはしっかりとね」と言っていたのだが、93年9月にテレビカメラの前で「私がいま侵されている病気の名前、病名はガンです」と告白。闘病の決意表明をした。医師選びに賢明だった逸見さんだけに、その覚悟の強さだけでなく、信頼できる医者が付いていることを感じたものだ。軽視できない「かかりつけ医」の役割 ただ、有名タレントのようなセレブでもなければ、私たち一般人が海老蔵さんや逸見さんのように有能な医者探しをするというのはなかなか難しい。大病院に行ったところで、どの医者が担当するかは分からず、それは病院側に託される。 どんな人にもあるのが生命への執着で、それこそが生きている証なのだが、それと対峙する医師は大きな責任を負うだけに「医療ミス」の可能性については隠ぺいしやすいのが現実だ。巨泉さんのようにミスがすぐに分かった話ばかりではない。あの東京女子医大でさえも過去、手術中に亡くなった患者のカルテ改ざんがあったほどだ。これは遺族が医療ミスを疑って調査を申し出たことで、警察も捜査に踏み切ったものだった。 こうしたことをゼロにすることは私たち自身の手では不可能なことで、揉めたところで死者が帰ってくるわけでもない、あくまで事後のトラブルに過ぎず、結局は名医だろうがヤブ医者だろうが私たちは医師たちに我が命を委ねる、死ぬ可能性も含めてそれを委ねるという覚悟に立たされることに変わりはない。 その点で軽視できないのが「かかりつけ」の医者の役割だ。変な例えだが、今日初めて乗った新車では小さな異常があっても気づきにくいが、3年間乗り続けた愛車なら、微細な違和感も気付きやすい。日ごろから自分の体調をデータとして持っている「かかりつけ」の医師は少なくとも最初のチェックゲートになる可能性は高く、もっと重要視されてもいいのではないか。 かかりつけ医は北欧のデンマークなどが法的な制度を厳格に運用している。これは患者がまずかかりつけ医の診察を経ないと専門医療を受診できないというもの。ヨーロッパではこのかかりつけ医の方が高収入であるケースも多く、中でも先進のデンマークでは自分で治せる軽い風邪程度の病気については病院が対応せず、薬も処方しない。代わりに大きな手術や難しい治療が必要なものは無料、すべて税金で医療費をまかなっていることで、入院患者を減らすことにも成功。眼科や耳鼻科などは例外とするなど柔軟な対応もとっている。日本では些細なことでも病院を利用するため、ちょっとした症状でも多数の検査をしてしまい、病院内は常に混雑。重い症状の人の手当てが遅れ、慢性的な医師不足にも陥っている。その流れでは医師の技量も向上しにくく、高齢化社会に嫌でも向き合う日本にとっては検討すべき重要な話だ。命を預けられる医師と出会えてましたか? 巨泉さんの担当医が、どのぐらい巨泉さんと付き合いのあった医師なのかは分からないが、重病には相応の慎重な判断が求められ、それには医師の環境も含めた国民全員の意識改革や議論が必要かもしれない。 筆者も実は長年の「かかりつけ医」に頼っていて、逆流性食道炎や過敏性腸炎を患っていたことで、少しでも具合が悪くなると「とりあえず診察」をしてもらってきた。その点では医師を酷使しすぎたと反省する次第だが、6年前に医師が亡くなって病院自体が閉院。そうなると長年の治療履歴が書かれたカルテ(医療情報)が『特別な事情がないかぎり渡せない』と、別な病院への資料提出も拒まれてしまった。マイナンバー制度の導入でカルテの共有ができるようになったということでは、ひと安心する部分もあるが、新たなかかりつけ医が定着するまでの間は非常に不安であり、我が身をもって日本が「かかりつけ医」の問題を認識した次第だ。新たな医師にイチから病状を説明しても、それはあくまで表面的な症状を伝えているにすぎず、きちんと理解してもらえるのか疑問だった。いまも新たな担当医には、その肩書きだけでは見えない「信頼」を構築できているとは言いきれず、いつなんどきそれが「薬の過剰投与」みたいなことになるかとも思ってしまう。 もし、信頼できる「かかりつけ医」にすべてを預ける覚悟が私にあれば、たとえ医療ミスで死んだとしても、死の瞬間「先生に任せたのだから、これも天命」と思える気がするが、そうでないなら遺族ともども無念極まりない。巨泉さんの死については、医学的な知識がないからその治療方法の是非にまで触れることはできないが、ひとつ問えるとすれば、「命を預けられる医師と出会えてましたか」ということ。医師も人間である以上、ミスは起こしてしまうもの。それだけに我々は必要とするのは、医師との信頼をどうやって作っていくか、である。制度の見直しは急務だと思う。

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    知らないうちに進行する「あの病気のリスク」

    森田豊(医療ジャーナリスト)健康診断「問題なし」でも要注意!40代になると、身体に無理がきかなくなり、さまざまな不調を感じる人が多いだろう。若さでカバーできた20代や30代と同じ生活をしていると、病気にかかるリスクも高くなる。不摂生を続けると、どんな病気の危険性があるのか。そして、病気にならないために普段の生活をどのように見直すべきか、アドバイスをいただいた。 脳梗塞 ~その前兆を見逃すな!~ 脳梗塞とは、脳の血管を血の塊である血栓が塞ぎ、脳細胞の一部が死んでしまう病気です。血液が脳に届かなくなり、ある日突然バッタリ倒れることも。 脳梗塞の患者数は、この30年で3倍以上に増えています。その背景にあるのは、食生活が豊かになったことによる糖尿病や高脂血症、肥満の増加。その結果、血管にコレステロールや脂肪が溜まり、動脈硬化を起こす人が増えているのです。 突然襲ってくるイメージの強い脳梗塞ですが、実は本人が気づかないだけで、前兆がある場合も多いのです。それを見逃さないよう気をつけることが、脳梗塞のリスクを回避する何よりの方法と言えるでしょう。 チェックリストのうち、とくにリスクが高いのは「左右どちらかの身体や手足がしびれて動かせない」「足がふらつく」「ろれつが回らない」です。これに当てはまる人は、要注意。すでに脳に血栓ができているのに、まだ症状が出ていない「隠れ脳梗塞」の可能性があります。 隠れ脳梗塞は自覚症状がなく、症状が現われてもごく短時間で回復するため、本人も「気のせいだったのか」と放置しがちです。しかし、隠れ脳梗塞ができて数年以内に、約3割の人が脳梗塞を起こしているというデータがあります。本格的な脳梗塞を発症したら、4時間半以内に専門的な治療を受ければ予後が良好になる可能性が高まります。ただ、そうなる前に先ほどの3つの項目に当てはまる人は、一度脳ドック(MRI検査)を受診することを勧めます。 脳梗塞の前兆は、顔にも現われます。鏡の前でにっこり笑ってみてください。片方の唇が下がり、顔がゆがんでいたら、軽い麻痺が起こっている証拠です。顔の表情に左右差があるときは、危険信号と考えてください。 他にも、「ラリルレロ」「パピプペポ」が発音しづらくないか、などが脳梗塞の前兆に気づくきっかけになります。定期的にチェックをして、顔や手、言葉に異変があれば脳梗塞を疑い、病院で診察を受けましょう。 なお、朝と入浴時は脳梗塞を起こしやすいので注意しましょう。就寝中の発汗や長湯による脱水状態によって、血液がドロドロになって血栓ができやすくなるのです。予防のために、就寝時と起床時、入浴の前後に、必ず水分補給する習慣をつけてください。脳梗塞チェックリスト1.文字が上手く書けなくなるなど、手先が不器用になったと感じる。2. 手先に力が入りにくいことがある。3.左右どちらかの身体がしびれて動かせない。震えが止まらない。4.立ち上がろうとして足がもつれたり、階段を登るときつまずいたりする。5.突然ろれつが回らなくなる。6.笑顔になったとき、片方の唇が下がっている。7.顔の表情に左右差がある。8.最近、もの忘れがひどくなった。9.時々、めまいや耳鳴りがする。10.早口で話をされると理解しにくい。難解な本を読んでも頭に入ってこない。11.食べ物を飲み込みにくく感じる。むせやすい。12.視野の半分が欠けてみえることがある。13.突然冷や汗が出たり、動悸が出たりすることがある。糖尿病 ~健診OKでも安心はできない~糖尿病 ~健診OKでも安心はできない~ 40代になると、男女ともに糖尿病になる人が増えます。厚生労働省の2012年の「国民健康・栄養調査」によると、糖尿病が強く疑われる人の数は約950万人、可能性を否定できない人は1,100人に上ります。40歳以上に限れば、3人に1人は糖尿病もしくはその予備軍だというデータもあります。 糖尿病予備軍とは、「血糖値が正常よりは高いが、糖尿病と診断される値よりは低い状態」の人たちです。正常値は空腹時の血糖値が110㎎/dl未満で、食後の血糖値が140㎎/dl未満。糖尿病と診断されるのは、空腹時の血糖値が126㎎/dl以上、または食後の血糖値が200/dl以上です。この間にいるのが“予備軍”になるわけですが、会社の健康診断で「問題なし」と言われた人も安心はできません。一般的な健診では空腹時の血糖値しか測定しないので、食後の血糖値が上がりやすい“隠れ糖尿病”の人は見逃されているかもしれないからです。 しかも糖尿病は、ある程度進行するまで自覚症状がありません。典型的な症状とされる「のどが渇く」「体重が減って疲れやすくなる」などは、かなり進行した段階で現われるもの。知らないうちに病状を悪化させないよう、チェックリストで隠れ糖尿病のリスクを確認しましょう。 もし4項目以上当てはまったら、病院の内科で「ブドウ糖負荷試験」という検査を受けることをお勧めします。これは食後の血糖値の変化を正確に測るもので、ブドウ糖を摂取し、30分後、1時間後、2時間後などと時間を置いて、数回にわたり血糖値を測定します。 検査によって、自分が隠れ糖尿病だと判明したら、病気を進行させないよう、食生活を見直すことが大切です。まずは、食物繊維の多い野菜を多くとること。そして、血糖値の急激な上昇を抑える効果のある酢を使ったメニューを積極的に取り入れることなどです。 食べる順番にも気をつけましょう。最初に、血糖値が上がりにくい肉や野菜類をゆっくり食べ、最後に、血糖値が上がりやすいごはんやパンを食べるようにしましょう。 食品のカロリーやおおよその摂取量を把握しながら、食べすぎを防ぐことも必要。栄養の知識を身につければ、食事を楽しみながら血糖値をコントロールすることも可能になります。糖尿病チェックリスト1.肉親に糖尿病患者がいる。2.肥満である。3.40歳以上である。4.運動不足である。5.食べたいものを好きなだけ食べている。6.お酒をよく飲む。飲むときは、よく食べる。7.食事が不規則。8.朝食を抜くことが多い。9.甘いものが好き。10.ストレスを溜めている。※0~3は経過観察。4~6個なら医師に相談を。7個以上は、精密検査を受けてください。五十肩 ~女性はとくに注意~五十肩 ~女性はとくに注意~ 重い荷物を持ったり、ゴルフの素振りをした瞬間、肩に激痛が走ったことはないでしょうか。俗に言う「五十肩」の症状ですが、実際には40代にも多く見られます。デスクワーク中心で運動量が少ない人も、五十肩になりやすいのです。 五十肩(正式名称は「肩関節周囲炎」)になるのは、長年腕や肩を動かすうちに、肩関節にある回かい旋せん腱けん板ばんが疲労してもろくなり、周辺組織が炎症を起こすから。つまり、関節の老化です。 チェックリストの2番目から6番目の動作で痛みを感じたら五十肩の疑いがあります。 とはいえ、痛みが出ても適切な治療をすれば症状は和らぎます。日頃からストレッチや肩の運動をするのも効果的です。たとえば、肩のリハビリに有効なのが、お風呂で行なう「指階段療法」。湯船に肩まで浸かって身体を温めたら、痛むほうの腕の人差し指と中指を壁に当て、2本の指で歩くようにして、少しずつ腕を上げていきます。これ以上は上がらない地点まできたら、腕に身体を預けるように寄りかかり、10秒キープ。毎日続ければ肩や腕の筋肉が伸びて、肩の稼働域が広がります。五十肩チェックリスト1.40歳以上である。2.両腕を真上に上げると痛い、またはスムーズにできない。3.両腕を肩の高さで上下させると痛い、4.またはスムーズにできない。5.両腕を曲げて、外に開くと痛い、またはスムーズにできない。6.両腕を腰の後ろで組むと痛い、またはスムーズにできない。7.両腕を首の後ろで組むと痛い、またはスムーズにできない。8.日頃、運動をほとんどしていない。9.デスクワークが多く、身体を動かすことが少ない。10.ひどい肩こりである。11.左右の肩の形が違う。※1に該当し、2~6のうちの1つでもあてはまれば、「五十肩」の疑いがあります。がん ~「前立腺がん」が増えている!?~がん ~「前立腺がん」が増えている!?~ がんは日本人の死因の第1位を占める病気です。1950年には全死亡者数の7%に過ぎませんでしたが、81年以降は死因トップを走り続け、2013年の死亡者数は全体の3割を超える36万人強まで増加しました。つまり、日本人の3人に1人はがんで亡くなっているのです。 身体が正常な状態であれば、約60兆個の細胞の数はほぼ一定に保たれます。しかし、食生活や生活環境などさまざまな理由で遺伝子が突然変異すると、細胞の数が無制限に増えてしまう。これが「がん」であり、ほぼすべての臓器にできる可能性があります。 最新の統計によれば、がんの中で最も死亡者が多いのは「肺がん」。2位が「大腸がん」、3番目が「胃がん」です 。※国立研究開発法人国立がん研究センター 2015年のがん罹患数、死亡数予測より ただし、1位~3位には入っておりませんが、中でも注意したいのは近年患者数が伸びている「前立腺がん」。死亡者数は2015年で12,200人に上ると予測され、2000年の2倍以上、1995年の約3倍に上ると推定されています。 前立腺がんが急増した理由は、いくつかあります。まず、日本人の寿命が延びたこと。前立腺がんは比較的進行が遅く、年齢が上がるごとに発症率が高まります。 さらに、日本人の食生活が欧米化し、動物性脂肪を多く摂るようになったことも原因の一つでしょう。 一方で、近年は血液検査だけで前立腺がんを早期発見できる「PSA検査」が普及し、患者が顕在化しやすくなったという背景もあります。 いずれにしても、がんで命を落とさないためには、何よりも早期発見・早期治療が肝心。あなたの前立腺がんのリスクはどの程度か、チェックリストで確かめてください。 どのがんの予防にも効果的なのは、食生活の改善です。肉類の食べすぎを避け、緑黄色野菜を多く摂るよう心がけてください。洋風の食事よりは、和食のほうがバランスよく野菜を摂れるのでお勧めです。 また、大豆や緑茶などは、前立腺がんの予防に効果的と言われていますので、普段の食事に積極的に取り入れましょう。 適度な運動を習慣づけ、肥満にならないよう心がけることも、がんのリスク低下につながります。前立腺がんチェックリスト1.50歳以上である。2.父親や兄弟など、血縁者に前立腺がんの患者がいる。3.チーズ、牛乳などの乳製品が好きだ。4.肉類など、動物性脂肪が多い食べ物が好きでよく食べる。5.緑黄色野菜が嫌いであまり食べない。6.日頃、運動をほとんどしていない。7.肥満である。8.性活動が活発である。9.生活パターンが一定しておらず、不規則な生活をしている。10.ストレスが多い。 ※3個以上当てはまれば経過観察。4個以上もしくは2に該当する人はなるべく早くがん検診を受けましょう。骨粗しょう症 ~老後の寝たきりにつながる~骨粗しょう症 ~老後の寝たきりにつながる~ 骨粗しょう症は、骨量の低下によって骨が弱くなる病気です。主な原因は加齢で、40歳以上の骨粗しょう症患者数は1,280万人。そのうち女性は980万人、男性は300万人と推定されます。骨粗しょう症は女性がなりやすいイメージがありますが、男性の患者数も決して少なくないことがわかります。 高齢化社会において、骨粗しょう症は大きな問題。高齢者が寝たきりになる原因の約20%が「骨折」であり、それをきっかけに認知症が進行するケースも多いのです。「まだ若いから大丈夫」と思うかもしれませんが、骨量の低下は40代から始まります。 予防のためにとくに大事なのが、食事。カルシウムは1日に800㎎の摂取を目標とし、乳製品や大豆製品、海草類を積極的に食べましょう。また、ビタミンBやマグネシウムも欠かせません。前者は鮭やサンマなどの魚に、後者は玄米や豆類に多く含まれます。 なお、リンを含むスナック菓子やインスタント食品を摂りすぎると、カルシウムが尿から排泄されやすくなるので注意してください。骨粗しょう症チェックリスト1.55歳以上である。2.女性の場合、閉経している。3.細身の体型である。4.ちょっとしたことで骨折したことがある。5.最近、背が縮んだ。6.あるいは背中や腰が曲がってきたと感じる。7.乳製品や大豆製品をあまり食べない。8.運動不足である。※3つ以上あてはまる人は、骨量の低下に警戒が必要です。取材・構成 塚田有香もりた・ゆたか 医療ジャーナリスト。1963年、東京都生まれ。秋田大学医学部卒、東京大学大学院医学系研究科博士課程修了。東京大学医学部附属病院助手、米国ハーバード大学医学部専任講師、埼玉県立がんセンター医長、板橋中央総合病院部長を経て、現職。医師として現場に立ちながら、テレビや雑誌で医療情報を発信。近著に『今すぐ「それ」をやめなさい!』(すばる舎)など。関連記事■ 「間違いだらけの食習慣」を見直し、若く健康な身体を手に入れよう■ 疲れがスッキリ取れる!  入浴の正解■ 気になるあの「食のウワサ」はウソ?本当?

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    40代からの「カラダ」見直し術

    白澤卓二(白澤抗加齢医学研究所所長)健康な人vs.病気になる人の違いは「食と背骨」にあった!「体力の衰えを感じる」「メタボが気になる」「仕事で無理が利かなくなった」など、40代に近づくにつれ、身体の変調を来す人は多いだろう。基礎代謝が落ちてくる40代以降は、それまでと同じ生活をしていては疲れが溜まる一方。では、その後の人生を健康に過ごすために、今、何をすればいいのか、抗加齢の専門家である白澤卓二先生に話をうかがった。 40代は、今までの「ツケ」を払う時期 これまでと同じ生活をしているのに、最近、疲れやすくなった、お腹回りの肉が目立ってきた、慢性的な腰痛や肩こりに悩まされる――40歳が近づいてくる頃から、そんなことを感じる人は多いのではないでしょうか。 40代は、身体の機能が老いに向かい始める年頃。基礎代謝、ホルモン、体力、免疫力の低下が顕著に進んできます。 また、疲れやすくなるなどの不調の原因は、今の生活だけではなく、20、30代の生活習慣が蓄積した結果でもあります。若い頃は、表に出てこなかったものが、いよいよ表面化してくるのです。 さらに、職場での責任が増え、中間管理職として部下を抱え、ストレスも増えてきます。このように、40代は多様な要因が重なって、身体の変調を来しやすい人生のターニングポイントでもあるのです。 それに加えて、現代人を取り囲む生活環境は実に過酷ですこの半世紀ほどで人類の生活環境は劇的に変わりました。自動車や電車などの交通機関が発達し、身体を動かさずして長距離を移動できるようになりました。その結果、現代人の足腰は衰える一方です。 食べ物についても、人類史上例を見ない飽食の時代を迎えた一方、品種改良や農薬、添加物など、別の意味での「食の危機」にさらされています。 また、ここわずか十数年で急速に進んだIT化で、一日中座りっぱなしでパソコンやスマホの画面とにらみ合って過ごす人が急増しています。 こうした生活環境は「当たり前」のように思えますが、長い人類の歴史から見ればつい最近のこと。人間の身体は、その生活にまだ対応しきれていないのです。 そのことに気づかず、身体を動かさずラクをして、食べたい物を食べて、垂れ流しの情報におぼれていれば、この先の自分の健康はとうてい守ることはできません。糖尿病や高血圧などの生活習慣病も忍び寄ってくることとなり、これらは、がん、心筋梗塞、脳卒中などにもつながって、50代での突然死を引き起こすこともあります。 40代はまさに、これまでの生活習慣を見直し、自分の身体と向き合うのに最適な時期でしょう。それをするかしないかで、今後の人生は大きく変わってきます。 とはいえ、難しいことをする必要はなく、日常生活の中で少し気をつければ変えられることばかり。まずは、その基本となる「運動」と「食」について説明します。筋トレより「歩く」ほうが効果的筋トレより「歩く」ほうが効果的 現代人の多くは、便利な生活に慣れきって運動不足の傾向にあります。とくに長年、デスクワークを続けているビジネスマンは、足腰の衰えが引き起こす背骨のゆがみ、それを原因とする腰痛や肩こりが顕著になってきます。 40代が近づいてきたら意識してほしいのが「背骨」回りを鍛えることです。40歳頃から、背骨の骨と骨の間にある椎間板というクッション組織が軟化してきます。それによって椎間板が骨に押し出されて神経を刺激し、腰痛を発症しやすくなるのです。椎間板組織の変性は加齢現象ですが、背骨の筋肉がしっかりさえしていれば、筋肉が骨を支えるので椎間板を守ることができるのです。 背骨回りを守る運動として効果的なのが「歩く」ことです。足を左右交互に出して骨盤を回転させることで、背骨のゆがみが矯正されていきます。また、脳への血流が良くなるので脳の機能が活性化し、カロリーも消費されます。単純なことですが、「歩く」ことは最良の健康法なのです。 また、電車通勤の方にお勧めなのが、あえて大きなターミナル駅を乗換駅にすること。歩く距離が自然に増えることに加え、階段を利用することで、階段の上り下りをエクササイズにできるのです。階段の上り下りは、平地を歩くのに比べて、下半身の筋肉と骨におよそ3倍の負荷がかかります。このように少し負荷のかかる階段エクササイズを、日常生活に効果的に取り入れるといいでしょう。 一方、筋トレはあまりお勧めしません。筋トレは一方向に筋肉を使う反復運動なので、偏った筋肉がつきがち。やはり、バランス良く身体を使うことが大切です。身近にある意外な「ジャンクフード」とは?身近にある意外な「ジャンクフード」とは? 食に関してはさまざまな健康習慣がありますが、短期間でてきめんに効果が現われやすいのが、ジャンクフードを避ける食生活に切り替えることです。 ジャンクフードと言うと、スナック菓子や炭酸飲料などが思い浮かびますが、意外と知られていないのが「パン」です。たとえば今、日本で最も多く流通している、ふわふわもっちりした食感のパン。しかし本来、パンは硬くてパサパサしているものです。この柔らかさは、人工的にグルテン含有量が増強された、品種改良された小麦に起因します。それを長い間食べ続けていれば、身体が不調を起こすのも当然かもしれません。 それでは、私たちはこれからどんな食べ物を摂ればいいのでしょうか。答えは簡単。日本人の伝統的な食生活に戻ることです。ご飯(できれば玄米)、野菜、魚介、豆、海藻類を中心とした食事です。 人生後半戦にさしかかる40代――これからの生き方は、自分の身体の変化に向き合い、できるところから少しずつでも行動を変えていく。そして、世の中の「当たり前」を疑い、その異常さを自覚して、自分の頭で考え、バランスを取っていくことが肝要です。こうした知性ある健康管理が、人生後半を健康に、楽しく過ごす秘訣なのです。《取材・構成:麻生泰子》しらさわ・たくじ 白澤抗加齢医学研究所所長・医学博士。1958年、神奈川県生まれ。1982年に千葉大学医学部を卒業後、東京都老人総合研究所分子病理部門研究員、老化ゲノムバイオマーカー研究チームリーダーなどを経て、2007~15年、順天堂大学大学院医学研究科加齢制御医学講座教授。15年より、米国ミシガン大学医学部客員教授。専門は、寿命制御遺伝子の分子遺伝子学、アルツハイマー病の分子生物学・分子生理学、アスリートの遺伝子研究など。テレビ、雑誌、講演、書籍などでの老化防止対策のわかりやすい解説に定評がある。 日本抗加齢(アンチエイジング)医学会理事。主な著書に『100歳までボケない101の方法』(文春新書)、『2週間で効果がでる!〈白澤式〉ケトン食事法j(かんき出版)、『「砂糖」をやめれば10歳若返る』(KKベストセラーズ)など。

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    大橋巨泉氏のモルヒネ投与医師はニキビ治療専門家だった

    た巨泉さんは、国立がん研究センターで放射線治療などを受けた後、今年4月に退院し、千葉県内の自宅で在宅医療を受けていた。2001年8月7日、参院選後の臨時国会で初登院した民主党の大橋巨泉さん。半年で辞職した=東京都千代田区 それを担ったのが、近所の在宅診療所の院長であるA医師だった。A氏は、巨泉さんが「背中が痛い」というと、モルヒネ系の鎮痛剤を処方したという。巨泉さんはその後、一人で歩けなくなるほど体力が低下し、再びがんセンターに入院。それから約3か月後にこの世を去った。寿々子さんは今も鎮痛剤の服用を後悔しているという。巨泉さんの親族が語る。「親族はみな後悔の気持ちでいっぱいです。あとで調べたら、A氏は皮膚科や美容形成外科の分野で有名な医師だったと知り、驚きました」 A氏はもともと防衛医科大学校病院の形成外科医として勤務後、都内に美容皮膚科クリニックを開業。重症のニキビに対する光線力学療法で話題を呼び、ニキビ治療に関する著書も出版するなど、業界内では有名な存在だった。 だが、その得意分野においてもこんな過去があった。防衛医大病院の形成外科医時代の1998年に、あざの治療をめぐって医療事故訴訟を起こされていたのである。原告であるフリーライターの井上静氏によれば、裁判では「十分な説明がなされないまま手術をした診療契約上の債務不履行にあたる」として、勤務する防衛医大=国に、500万円の賠償命令が下された。井上氏はこういう。「私は背中の手術だったため、命に影響はなかったが、巨泉さんは違う。形成外科医ががん患者の在宅医療に携わっているとは思いもよりませんでした」 今回の背景には、高齢化が進むなかで注目を集める「在宅医療」の構造的問題があると、この分野のパイオニアとして知られる長尾クリニックの長尾和宏院長がいう。「多くの医師が在宅医療に続々参入していますが、終末期医療や在宅緩和ケアに関する教育体制が追いついていません。皮膚科や眼科など緩和医療の研鑽を積んでいない医師が、末期がんの在宅患者を診ている場合もあるのが実情です」 A氏が経営する診療所に取材すると、「(巨泉さんのことも裁判のことも)何も答えられない」というのみだった。 終末期における治療には、慎重な対応が求められる。関連記事■ 水原希子 天安門中指写真に「いいね!」で謝罪の背景■ 嵐・二宮と熱愛報道 伊藤綾子アナに松潤ファン激怒の理由■ 乳がんの小林麻央 全摘出しなかったのはなぜなのか?■ SMAP 「香取の乱」で25周年コンサートが絶望的■ 故・大橋巨泉さん 献身の妻が後悔する「在宅がん治療」

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    大橋巨泉さんでも叶わなかった「平穏死」

    ていた『週刊現代』の連載を終了させました。「いつまで生きられるかわからない」と認め、4月に受けた在宅医療の際の、モルヒネの誤投与に対しても指摘をしています。「在宅医からモルヒネをなぜだか大量に渡された」「モルヒネ投与からたった5日で意識が薄れ、歩行もままならぬ身体になったのだから恐ろしいことだ」とも記しているのです。また、安楽死を望むも、看病をしていた弟さんから、「今の日本の法律では安楽死は認められていない」と言われ、「生きている意味がない」とまで書いています。 そして今年の7月12日、入院先の千葉の病院で死去されました。82歳でした。奥様の寿々子さんは、マスコミ宛のFAXで以下のように心境を吐露されています。 先生からは「死因は“急性呼吸不全”ですが、その原因には、中咽頭がん以来の手術や放射線などの影響も含まれますが、最後に受けたモルヒネ系の鎮痛剤の過剰投与による影響も大きい」と伺いました。もし、一つ愚痴をお許しいただければ、最後の在宅介護の痛み止めの誤投与が無ければと許せない気持ちです 私は、約1000人の患者さんを在宅で看取った医師として、とても複雑な想いで一連の報道を見ていました。モルヒネの誤投与、これは絶対にあってはならない事です。医療用麻薬の取り扱いについては、在宅医によってその技術は一様であるとは残念ながら言えません。今後、多死社会に向けて、国は在宅医療への推進に懸命ですが、そのスピードに質が追い付かず、モルヒネにあまり慣れていない在宅医が存在することも事実だと思います。 もし誤投与が真実であるとすれば、これはあってはならないことですし、真相を究明するべき事態です。医療用に使われるモルヒネは、あくまで痛みを取り除くものであり、少量からさじ加減をしながら適切に使用すれば意識が無くなることも中毒になることもありません。ましてや、死期を早めることもなく、安全で効果的な緩和ケアに欠かせない薬です。安楽死は法律で認められていない 私は常に10人くらいの末期がんの患者さんを、最期まで自宅で診させて頂いていますが、モルヒネ(医療用麻薬)無しでは到底それはできません。ですから、今回の件により在宅医療に対して誤解が生まれることは、今まで若い在宅医を育てるために啓蒙活動をしてきた私にとっては、甚だ不本意、残念で悲しいことです。 そして巨泉さんが言うように、日本では安楽死は法律で認められていません。しかし、尊厳死や平穏死は叶います。安楽死の定義、尊厳死の定義は、「広辞苑」にはそれぞれこう書かれています。 【安楽死】⇒助かる見込みのない病人を、本人の希望に従って、苦痛の少ない方法で人為的に死なせること。 【尊厳死】⇒一個の人格としての尊厳を保って死を迎える、あるいは迎えさせること。近代医学の延命技術などが、死に臨む人の人間性を無視しがちであることへの反省として、認識されるようになった。 さらに、辞書「新明解」ではここまで具体的に説明があります。会場隣に設置された人気番組「クイズダービー」のセットに座る女優、竹下景子=9月5日午後、東京都港区(納冨康撮影) 【尊厳死】⇒人間として、自分の意志で死を迎えること。現在の医療技術では回復が不可能で死を迎えるしかないがんの末期などの場合、延命のための治療行為を断り、自らの意志で死を迎えようとする考え。リビングウィル(の結果)。 また、こういう捉え方もできます。日本の尊厳死=自然死=平穏死/日本の尊厳死=欧米では当たり前のことなので該当する言葉は無い/日本の安楽死=欧米の尊厳死/欧米の安楽死=日本では、殺人罪。 私は、約12万人の会員が加入されている一般財団法人・日本尊厳死協会の副理事を拝命しています。そして「平穏死」と名のつく本をたくさん書いてきました。「尊厳死」を市民に身近に感じてもらうべく、ほぼ同じ定義なのですが二つの言葉を使っています。尊厳死(平穏死)を望むには、リビングウィルが不可欠です。 リビングウィルとは、終末期医療への意思を、伝えられない状態になる前にあらかじめ書面で明らかにしておくこと。自己決定を表した文書です。普段から家族に話してあるから大丈夫、とはならないのです。必ず文書で残すこと。こうすることで、ご家族も「私を人殺しにさせないで」という想いに囚われなくても済むのです。 巨泉さんは最期の最期まで、自らの闘病に対し冷静な分析を行い、その都度ベストな選択肢を選びながら、世の中に多くのテーマを投げかけられました。実にお見事な最期だったと思います。医師として私も、多くの宿題を頂いたような気がしています。 大橋巨泉さんのご冥福を、心よりお祈り申し上げます。ながお・かずひろ 長尾クリニック院長。1958年香川県出身。1984年に東京医科大学卒業、大阪大学第二内科入局。阪神大震災をきっかけに、兵庫県尼崎市で長尾クリニック開業。現在クリニックでは計7人の医師が365日24時間態勢で外来診療と在宅医療に取り組んでいる。趣味はゴルフと音楽。著書は「長尾先生、「近藤誠理論」のどこが間違っているのですか?」(ブックマン社)、「『平穏死』10の条件」(同)、「抗がん剤10の『やめどき』」(同)。

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    歯の不健康が、がんや心筋梗塞を引き起こす!?

    九州歯科大学講師、岩手医科大学助教授、国立感染症研究所部長、九州大学教授(厚生労働省併任)、国立保健医療科学院部長を経て、2008年より現職。この間、健康日本21計画策定委員などを務める。著書に『白米が健康寿命を縮める』(光文社新書)などがある。関連記事■ 40歳を超えたら、運動は「8,000歩/20分」のウォーキングで十分■ 40代からの「カラダ」見直し術■ 健康管理の決め手は自律神経と腸内環境

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    大橋巨泉氏の薬の誤投与 特殊なケースではない

    た。11年間にわたるがん闘病生活を送ってきた巨泉氏は、亡くなる約3か月前に千葉県内の自宅に戻り、在宅医療を受けた。 しかし、在宅医は背中の痛みを訴えた巨泉氏に大量のモルヒネを投与。意識障害を起こすなどした巨泉氏は退院してわずか6日後に再入院し、そのまま帰らぬ人となった。大橋巨泉さんが司会を務めたTBS系「世界まるごとHOWマッチ」の収録風景。左はアシスタントの西村知江子さん=東京・渋谷ビデオスタジオ(1988年5月28日)〈一つ愚痴をお許し頂ければ、最後の在宅介護の痛み止めの誤投与が無ければと許せない気持ちです〉 妻の寿々子さんが死後、発表した手記の一文だ。巨泉氏の在宅医は「元々は皮膚科の専門医」だったことが明らかになっている。巨泉氏のケースが特殊ではないと話すのは、埼玉県在住の霧島文子さん(仮名・60)である。「長く認知症を患っていた母は1年ほど前から寝たきりが続き、褥瘡(じょくそう=床ずれ)に悩まされていました。在宅医に相談すると、軟膏を塗ってガーゼを貼って“これで大丈夫”と言うだけ。でも、日が経つにつれて患部は広がり、とうとうお尻一面がただれたように真っ赤になってしまいました。 近くの大学病院で診断を受けたところ、患部の皮下組織が壊死している。“切開手術が必要です”と言われたのです。すぐに在宅医に伝えると、“私の専門は泌尿器科ですから!”と逆ギレされました」 他にも在宅医療を選択した家族に話を聞くと、「夜中に往診を頼んだ時、酒に酔って家に現われた」(60代・男性)「80代の父が夜中に“胸が痛い”と訴えたので、在宅医に往診を頼んだら不機嫌そうな顔でやって来て、鎮痛剤を飲ませて3分で帰ってしまった」(50代・女性) などの証言を得た。関連記事■ 大橋巨泉氏 終活の日々と叶わなかった「金婚式の夢」■ 大橋巨泉氏のモルヒネ投与医師はニキビ治療専門家だった■ 故・大橋巨泉さん 献身の妻が後悔する「在宅がん治療」■ がん難民コーディネーターと在宅医療従事医師による対談集■ 金子哲雄氏の妻 遺作に「臨終の瞬間」書き足すべきか悩んだ

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    それでも娘に受けさせますか? 子宮頸がんワクチンが「危険」な理由

    患者の支援活動を行っている。CFS/MEは厚労省が定める難病のリストにないため、研究は進んでないし、医療費の助成や生活支援も無い。医師からも「心因反応」とか「詐病」だとみなされることが多い難病だ。 2011年にHPVワクチン接種後に日常生活が困難となった女子中高生のことを知り、HPVワクチン接種後の症状とCFS/MEの症状との共通性、そして患者達の社会状況の類似性に驚いた。 私はHPVワクチンについては慎重の立場だ。被害者を診療してないので、形式的には当事者ではないが、全国子宮頸がんワクチン被害者連絡会とは昨年から連絡を取り合っている。私が今日までかかわってきた経験を基礎として、HPVワクチン問題の創造的な解決に役立つ“種”となるような言説を展開したい。会見で全身の痛みや記憶障害などの深刻な症状を涙で話す被害者の谷口結衣さん (中央)=3月30日、東京都港区(早坂洋祐撮影)「HPVワクチン接種後症候群」の症状 「HPVワクチン接種後症候群」という呼称は私が独自に使用している。症候群とは症状と医師の診察による徴候の組み合わせとの意味である。これらは以下のような多彩な症状の組み合わせで特徴づけられる。1. 運動系障害: 姿勢保持・起立・歩行障害、不随意運動、痙攣、筋力低下、運動後の疲労回復の遅延2. 感覚系障害: 頭痛、四肢・関節などの疼痛、光・音・嗅覚過敏、激しい生理痛3. 自律神経・内分泌系障害: 過敏性腸症候群、体温調節障害、発汗異常、睡眠障害、生理不順、ナルコレプシー、起座位での低血圧や頻脈4. 認知・情動系障害:無気力、だるさ、幻視、幻聴、妄想、暴言、記憶障害、学習障害、集中力低下、肉親の顔をみても認知できない テレビの映像でよく取り上げられる手足が勝手に動くという不随意運動・痙攣は症状の一つに過ぎなく、どの患者にも必ず出現するのではないことは強調されねばならない(ワクチンによる被害を軽視する一部の医師は、不随意運動・痙攣だけを取り上げて、昔からそんな症状を呈する未成年はしばしばいると見当違いのことを言っている)。 上記の諸症状の多くが、接種後すぐに一度に現れるのではなく、長い経過の間に出現したり消えたりする。慢性的な極度の疲労や歩行障害が出現したら、通学不能となる。痛みや脱力を我慢して通学はしても、学習が困難なケースが少なくない。読者にはこのような多彩な症状が自らにふりかかったら、生活がどうなるかを想像して欲しいと願う。車いす生活を余儀なくされている女子中高生が何人も存在する事実の重みを考えていただきたい。 患者を実際に診療した医師達は最初の患者をみて、このような症状の組み合わせは「みたことがない」と驚き、似たような症状の患者が幾人も外来に来て、HPVワクチン接種が共通項であることに気づいた。患者を何人も診療した医師達は互いに連絡を取り合い、共同で研究し、診断基準を作成したが、未だにそれは仮説段階である。「HPVワクチン接種後症候群」が新たな疾患だと示唆される理由 ちなみに、HPVワクチン接種後症候群とCFS/MEとの相違点は、後者では「不随意運動、痙攣、幻視、幻聴、妄想、暴言」等がほとんどみられないこと。被害者会に登録している女子中高生の中には真のCFS/ME患者が一人以上「紛れ込んで」いると推察されるが、そのことは問題とするに足らないことは常識的に考えて自明であろう。 この項の最後に、名古屋市による計7万人のHPVワクチン接種・非接種者についての調査報告に触れないわけにはいかない。名古屋市は様々な症状の一つ一つについて「だけ」比較したため、当然のことながら明確な結果は出なかった。HPVワクチン接種後症候群というくくりで、複数の症状を組み合わせての比較(当然、組み合わせは何種類も必要)をしなかった理由は不明だ。症状の組み合わせでの比較検討は厚労省の研究班による調査報告に期待する。 新たな「疾患」だと示唆される理由 新たな疾患として世界レベルの医学界で認知される条件としてあげられるのは、症状の新規性はもちろん、時間と空間の広がりの二点で未知の疾患が発生していると考えないと説明がつかないこと。原因の判明も客観的な検査による診断が可能なことも、新たな疾患と認定される必須条件ではない(例えば、CFS/MEは原因不明で、しかも検査による診断は不可能であるが疾患として認知されている)。1. 空間の観点 米国、イギリス、アイルランド、デンマーク、フランス、ドイツ、オーストラリア、インド、コロンビア等の諸国において、HPVワクチン接種後症候群が多数報告されており、日本と同様に多かれ少なかれ社会問題化している。医師組織が接種中止を求めたり、被害者・家族が裁判に訴えたりしている事実はネットで検索したら枚挙にいとまがない。一部の医師は「日本だけで社会問題化」しているように主張しているが、根拠を欠いている。2. 時間の観点 HPVワクチンを接種した生来健康な女子達の一部が、多彩な症状で日常生活が困難になっている事実が第一に重大(一部の医師は、出来事の時系列関係は因果関係を証明しないと当然のことを言い、被害者団体を揶揄しているが、言うまでなくそんなことは被害者も父母も理解している)。このような症状の発現が他のワクチンでも極めて稀にはあったと考えられるが、社会問題化することはほとんどなかったという事実も重大だ。 決定的なことは、厚労省が積極的な接種推奨を中止した2013年6月以降は接種が激減し、それ以後に接種してから発症した患者の被害者会へ登録は二人しかいないこと。HPVワクチン接種後症候群を診療している医師達は「新たな患者さんは(ほとんど、あるいは全く)来てない」と証言している。 思い起こしていただきたい事実がある。チェルノブイリ原発事故後に、小児甲状腺癌が激増したとき、放射線による増加ではないと一部の医師は主張したものの、その後に発病が経時的に減少したために、主張の誤りが明らかとなったことを。 一部の医師は、「そのような症状の患者はもともと存在しており、減じてない」との根拠無き仮説を未だに維持し、「HPVワクチン接種が激減したから、HPVワクチンが原因とは疑わないので、HPVワクチン接種後症候群をみている医師のところにはいかないだけだ。被害者連絡会に登録などしないのだ」と主張するかも知れないが、事実による根拠を提示できるとは思えない。 これら二点の重要性は、医学的知識がない一般の方々にも自明だと思う。接種後に症状が長期化した女子の数接種後に症状が長期化した女子の数 ワクチン接種後、日常生活に支障がでるほどの副作用が数か月続く頻度が、何万人に一人なら、あなた、あるいは、あなたの娘への接種を容認するであろうか。50~100万人に一人なら、大多数の人はリスクを許容すると思う。5~10万に一人なら、少なからずの人々は接種を控えるのではあるまいか。5~10万に一人がそうなってしまうようなワクチンを厚生労働省が医薬品として認可するとは考えられないのではなかろうか。 約338万人が接種(延べでない)した。もしも5万人に一人ならば、68人くらいしか深刻で長期にわたる健康被害は発生してないこととなる。その程度の発病者数であれば、被害者会が発足するような事態にはなるまい。  厚労省が昨年公開した報告書より引用。未回復の186人の生活状況は、入院した期間あり87人、日常生活に介助を要した期間あり63人、通学・通勤に支障を生じた期間あり135人 この186人という数値は、あくまでも医療機関が副反応疑いとして自発的に報告した2584例のうち、どうなったか判明した1739例についてのもの。186人の全員が長期にわたり日常生活に支障をきたしたわけではない。「期間」ありという表現が「今はそうではない」ということを必ずしも意味するわけでもない。 被害者会に登録されている患者は約550人。登録者の全員が「日常生活に支障がでるほどの副作用が数か月ないし今日まで継続している」わけではないことは言うまでもない。被害者会の550人中の3分の1、すなわち183人が「長期にわたり日常生活に支障をきたした(ている)」と仮定し、厚労省調査で未回復の186人という数値を参考に推定しみよう。 「二万人に一人」との推定頻度になるのだ。338÷2=169。183・186を少なめに169とするならば。「二万人に一人」という推定頻度は、娘への接種を控えさせるに十分に高いのではないのだろうか。提訴のため車椅子で大阪地裁に入る原告=7月27日、大阪市北区の大阪地裁中枢神経系の機能異常 多彩な症状の多くは中枢神経系の機能異常そのものであるが、客観的な検査による機能異常に関連する生理的異常の裏付けはまだまだ不足している。私が注目したのは、2015年5月、日本神経学会における信州大病院の医師による報告。症状を説明できる脳の特定部位において、頭部MRIでは異常はないが、血流ないしブドウ糖取り込みの異常が認められたとのこと。 ちなみに、同大学の池田修一教授はマウスでの実験結果の途中経過をマスコミに公開した。脳内炎症の存在を「示唆」するという控えめの結論であったが、その手法について一部の医師は「ねつ造」との行き過ぎた表現をし、それどころか教授の人格も攻撃した。中枢神経系の機能異常は厳然たる事実であり、そのことに疑問を呈する医師は私の知る限りいない。 池田教授は中枢神経系の機能異常についての仮説を検証するためにマウスで実験しただけのことであり、同教授の手法に一定の限界があるのは医学研究の経験がある医師には自明のこと。研究手法の限界を理由に、中枢神経系の機能異常の存在自体を否定することは原理的に不可能なことを念のために強調しておく。予防・慎重の原則と医師の倫理予防・慎重の原則と医師の倫理 医薬品は人の生命・生活を左右する。医薬品による健康被害をゼロにすることはできないが、最小限にするための適正な手続きは必須であり、諸国において法令により厳密に定められている。健康被害が発生した後に、完全に回復させる治療法が無い限りは予防するという大原則だ。 もう一つは「疑わしきは使用を認めない」という慎重の原則。HPVワクチン接種後症候群に関して言えば、地球上の諸国において同様の症状を呈する女子が高頻度に発生しており社会問題化している。HPVワクチンが原因か否かの判定にはまだまだ年余にわたる研究が必要であることは言うまでもない。 一部の医師はワクチンの安全性は「確立」されていると信じて、厚労省は積極的な推奨を再開すべしと主張しているが、安全性の根拠は何であろうか。事実上は、ワクチン製造会社がほとんどの資金を提供した臨床治験だけなのだ。莫大な資金提供を受けた医師であっても、不都合な結果がでないように研究をデザインしたり、結果を可能な限り捻じ曲げないだろうと、一般市民の大多数は信じないのではないだろうか。製薬会社による医学研究者の事実上の買収による結果ねつ造事件は数多い。だから、HPVワクチンもそうに「違いない」とまでは言わないのであるが。画像はイメージです 医師の倫理についても触れないわけにはいかない。様々な理由や動機(製薬会社からお金をもらっているとか、そうではなくて、論文を読んだから安全性と有効性を信じたからでもよい)により、医師がHPVワクチンの推進再開を強く提唱するだけならまだしも理解できる。しかしながら、一部の医師は被害者会の方々を医師倫理に違反する疑いのある言葉で非難している。 例えば、私の元友人である上昌広医師。彼は特定非営利活動法人・医療ガバナンス研究所理事長で、2010年に私がCFS/ME患者についての支援をお願いしたとき、直ちに患者会代表と面会し、絶大な支援をしてくださった。HPVワクチン接種後症候群とCFS/MEの症状が類似しており、社会的状況もほとんど同一なのに、どうしたものか上氏はHPVワクチン接種後症候群については最初からその重大性を軽視している。HPVワクチン推進言動では非常によく知られているが、なんと上氏は「16歳の高校生を利用した『社会運動』、そろそろやめたらどうだろう」とツイッターで言明した。 患者と家族の怒りを買ったことは言うまでもない。同じく元友人の医師、久住英二氏(医療法人社団鉄医会理事長)も被害者会の活動を「醜悪」と表現して、轟轟たる非難を浴びた。両人とも患者と被害者団体による批判など馬耳東風で今日に至るまで、相変わらず「患者の診療をすることなく」、「医学研究の結果に対しては、独自の研究で反証を試みることもなく」、ほとんどネット上だけで同じ主張を繰り返している。 正直のところ、元友人の実名をあげて批判することは心苦しいのであるが、彼らは実名をさらして言論を展開しているからには、覚悟の上なのであろう。匿名でHPV推進を声高に提唱し、池田教授や被害者団体の誹謗中傷を継続して実行している一部の医師については言及するに値しないので直接には触れないが、彼・彼女らも元友人の両人と同様に患者を実際に診療しての「根拠」を何一つ示していない。問題解決のために最も重要なこと問題解決のために最も重要なこと HPVワクチン接種後症候群に関しては、まだまだ不明の点が数多いことでは推進派も反対・慎重派も一致していると思える。両派が対立することは、必要なことだった考えるが、私は両派の人々に問題解決のための協業を模索しようと呼びかける(この提唱は、ワクチン製造会社のエージェントとして活動している医師は対象外)。 協業実現の必要条件の一つは、推進派が自らの決定的な欠陥を自覚することだ。患者をみることなくネット空間や非医学雑誌で声高に主張しても、医学専門誌や学会において有力な証拠を提示できない限りは、無力であり続けることを。反対・慎重派の医師達はHPVワクチンについての医学論文を読んだ上で、現実の患者を診療して危険性がわかったので警鐘を鳴らしている。これに対して、推進派は外国の他人が執筆した論文だけが主張の根拠。この決定的な非対称性が解消しない限りは、両派の協業などできないであろう。 推進派の医師達は被害者会と真摯な対話を始めるべきだ。これまでのような言動を無反省に継続すると、いつの日か医療界での信用を決定的に失うことになろう。 問題解決のための協業における、具体的な諸目標の中で最も重要と考えられることを一つだけ挙げる。 本人・家族のアレルギー体質、白血球型(HLA)、人種とか様々なファクターと、HPVワクチン接種後症候群の発病頻度との関連性を明らかにすること。そのためには、338万人の既接種女子について、50万人くらいは調査する必要があろう。既に健康を害している被害者とその家族の全員については特に詳細な調査が必要であろう。なお、調査のための資金は、国庫支出金プラス製薬会社の拠出金によってまかなわれることになろう。 調査のデザインは精緻かつ偏らない態様であらねばならない。名古屋市の調査はテザインに決定的な欠陥があったため、意味のある結果を出せなかった。そのようなことを防止するためには、調査・研究デザインの作成には、ワクチン専門家たけでなく、推進派と反対・慎重派双方の医師を加えるべきではあるまいか。 調査・研究の結果、個人のリスク評価が可能となれば、厚労省として「これこれに該当する方には推奨しない」と明確なガイドラインを作成できる。個々のリスクを数値化して、合計点により定量的なリスク評価をする手法も確立できるかも知れない。 リスクが高いと判定された女子は受けないであろうが、そのことにより死亡リスクが高まることがないように、実際に必要な検診を受ける確率を高めるための、実効的なシステムの構築も必要であろう。 そもそも、接種したとしても、子宮頸がんの原因ウイルスは幾種類もあり、ワクチンの攻撃対象ウイルスはそのごく一部。接種したことで安心して、検診をしないことによりかえって死亡率が高まる危険もあるから、検診体制を先進国並みに整備することは是非ともなされねばならない。 リスクを評価する手法が確立することにより、実際の被害者の実数は大きく減じることであろう。被害者の実数が著明に減じることは、ワクチン製造企業にとっての利益であることも言うまでもない。リスク評価手法の確立は、女子中高生にとって必須なことであり、ワクチン製造企業、推進派、反対・慎重派、厚労省の四者ともそれに賛成し、四者は協業できるのではなかろうか。医師としての倫理を踏み外したように見える元友人の医師二人へ元友人の医師二人へ HPVワクチン推進派の代表格とみなされる二人の医師、上昌広氏と久住英二氏には、2008年以来、個人的に絶大な恩義がある(2008年、私は厚生労働大臣を被告として、リハビリ棄民政策の差し止めを求めて二件の行政訴訟を開始。真っ先に支援を開始してくれたのは両人だった)。HPVワクチン問題への姿勢が異なるために、両氏は私をツイッターでブロックする形で、私との人間関係を断った。『女性セブン』の2016年4月14日号において、私は上氏の言動を「医師としての倫理」の観点から非難した。 彼らは「現場からの医療改革推進」を実践してきた。両氏が苦境に陥った患者達(CFS/MEという難病患者だけでない)を救うために絶大な努力を重ねてきたことを、私は深く知っている。現場・現実を直視して問題を同定し、解決するための方策を試みるという両人のかつての姿勢と、HPVワクチン接種後の患者をみることなくして被害者会(の人々)を揶揄・誹謗・中傷するような言動とは明らかに矛盾している。彼らがどのような経緯で道を踏み外したのか、幾通りもの説明が考えられるが、それは言わない。 私が昨年6月に被害者のある方とコンタクトを取った時に、(被害者会から憎まれている)上・久住両医師とは昔からの知り合いだと正直に言ったため、「スパイ」の疑いをもたれてしまった。誤解が解けてからは、被害者会の方々と情報・意見交換を重ねてきている。私には上氏らと被害者会とを仲介する用意がある。このような立ち位置にある医者は私以外にそんなにいないはずだ。 両氏に呼びかける。まずは、これまでの医師倫理に反する言動について、被害者会の人達に真摯に謝罪すること。謝罪が受け入れられたら、現実の患者さんをみさせて下さいとお願いすること。HPVワクチンの「有効性」と「安全性」を示唆する百の医学論文よりも、現実世界で苦境に陥っている数人の女子中高生をしっかりとみる方が大切ではなかろうか。 HPVワクチンの被害者達が7月27日に集団訴訟に踏み切った。上氏も久住氏も私が「勝てる見込みがほぼゼロの裁判」を起こした時は絶大なる応援をしてくれた。然るに、久住氏はHPVワクチン被害者は裁判で勝てるはずがないと公言し、被害者会の事務局長を執拗にツイッターで揶揄している。上氏と久住氏が本来の「現場主義」の姿勢に戻ることを願って、本稿の終わりとする。 善とは人と人とを結び付けること、悪とは人と人とを離反させること(トルストイ)

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    計り知れぬ潜在被害者 暴かれた子宮頸がんワクチン禍の真相 

    問題も見えてきました。推進派と慎重派の間には、ワクチンに対する評価、それを支える公衆衛生観、あるべき医療リテラシー、などに大きな超え難い壁があるかもしれません。 しかし、こと子宮頸がんワクチンについては、「いらないものを入れて被害を発生、拡大。副作用を原因不明の病気、心因性のものとして接種との因果関係をかたくなに否定する」国の姿勢への漠然とした不信感は共有できるのではないでしょうか。身を挺した少女たちの訴えに対してマスコミももっと真摯に耳をかたむけるべきでしょう。 今回の提訴を契機に、被害の実相や関係者の果たした役割が明らかになることを隠したい個人や機関(組織)、それを擁護する学識者等を中心に、ワクチンの有効性のことさらの強調、国際平準化を根拠とした根拠のない因果関係の否定論や無過失補償の提言などが散見します。本来導入すべきでないものを導入した責任を回避するだけでなく、被害者の権利回復と国の誤った制度設計責任を問う国民の権利に対する侵害であり大きな問題と言わざるを得ません。実態が不透明なワクチン被害被害の実態が不透明 子宮頸がんワクチンは、接種後の過剰な免疫応答により、神経障害(中枢神経系症状、抹消神経症状)をおこしています。①感覚系障害(頭痛、関節痛、筋肉痛、視覚障害、痺れ等)、②運動系障害(不随意運動、脱力、筋力低下、歩行運動失調、けいれん)、③認知・情動系障害(学習障害、記憶障害、見当識障害、睡眠障害)、④自律神経・内分泌系障害(発熱、月経異常、過呼吸)などを発生させているとされます。 今回の提訴者の中には重篤な副作用である、ギランバレー症候群、複合性局所疼痛症候群(CRPS)、多発性硬化症(MS)、全身性エリテマトーデス、体位性頻拍症候群(POTS)などの自己免疫性疾患や脱随性疾患など難病の診断を受けている人もいるようです。「第15回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会、平成 27年度第 4 回薬事・食品衛生審議会医薬品等安全対策部会安全対策調査会」(合同開催:2015 年9月17日)で、厚労省は「子宮頸がんワクチン副反応報告」を提出しました。 この中で、これまで副反応報告で集積した2584人を副反応疑い例とした上で、発症日・転帰が確認できたものが1739人、うち未回復者を186人と発表していますが、この数はあまりにも少ないとの批判があります。今なお重篤な副作用のために治療中の被害者が調査の報告中に入っていなかったり、調査自体が国や自治体ではなくメーカーのMR(医薬情報担当者)が主導していたこと、救済窓口となるべき自治体の中には救済制度はおろか、この問題についての大きな情報格差があることなどから、もの言えぬ被害者が多く存在することが予想され、国の把握している被害者数は氷山の一角に過ぎないと思われます。 全国子宮頸がん被害者連絡会に寄せられた被害者登録では①被害者は全国におよぶこと(とりわけ首都圏に多い)、②接種年齢は13歳をピークに12、14、15歳が大半を占めること、③20代~45歳までの接種者もいることなどが報告されています。初交以後の接種も含め、このワクチンの有効性についての正確な情報提供がされないままに接種が推進されていたことがわかります。2016年3月の提訴会見以後、被害者登録数は530件余になったとされていますが、潜在的な被害者数は計り知れません。認められない副作用被害 2016年8月3日の子宮頸がんワクチンに関するPMDAの報告では、ADEMやギランバレー症候群(GBS)など添付文書にも副作用として書かれている症状についてもたった1件しか認められていません。また、市販後、2016年6月30日までに決定(判断)された件数は129件ですが、うち28例が不支給、救済されたのは101例とされています。救済申請自体が多くの書類や医師の診断書等の労多いものですが、重篤な副作用にあい、ようやく申請までこぎつけても否認が大多数というのが実態です。大半は医療費と医療手当のみの支給に留まり、被害救済に資するものとなっていません。そもそも、申請自体にたどりつけない被害者が大半です。 子宮頸がんワクチンは定期接種前の被害者が大半を占めます。ですから定期接種以外の PMDA での審査も詳しく公表される必要があります。公表されることで、同じような症状に悩むより多くの全国の被害者が被害に気が付くことが必要です。入院レベルでないものも救済するとしていますが、入院できずにさまざまな不調を訴えたり、学校に通えなくなっている多くの子どもがいます。接種から数年たち、患者記録の保存もむずかしくなってきています。症状が改善している例もありますが、症状によってはこうした救済の土俵にすら上がれない人も多くいます。医学的な原因解明の困難にどう立ち向かうか 筆者が相談を受けた中には、3年近くたってからうつ病となったという方もいます。精神科を含む病院を受診し、学業を中断され、実家への帰郷を余儀なくされた本人の苦しみ。家族の心労や、経済的負担も驚くほどです。しかし、当初から、ワクチンの副作用とは全く気付かれませんでした。気づいたとしても申請すらできないし、「どうしたらよいかわからない」という状態です。この方に限らず、遅延性のものがあり、状態も好悪を繰り返す被害者も多くいるようです。 こうした中、医療者、研究者の間では、個別の症状を分断してとらえたり既存疾患にあてはめたりしないで、ワクチンによる過剰な免疫反応が引き起こす疾患群として、HPVワクチン関連神経免疫異常症候群(HPV vaccine-associated neuroimmunopathic syndorome)と呼ぶことも提唱されています。検査では異常はでない、治療法が確立していないものについて、丁寧な分析をし、救済への足がかりを提供するものといえます。 これに対して、国の審議会の座長はHANSは病名ではないとして、殊更無視をしています。心因性のものとして認知行動療法をすすめる国と、多くの症例をていねいに分析して被害救済を訴える研究者、どちらが医療者として適格か、良心があるかは明白でしょう。国が因果関係は治療に無意味との見解を重用し、因果関係を否定し、責任を認めることをあくまでも拒否するのであれば訴訟以外に取るべき道はありません。医学的原因解明の困難にどう立ち向かうか 子宮頸がんワクチンの副作用の医学的な原因は未だ解明されていません。子宮頸がんワクチンは遺伝子組み換え技術で作成されたウイルス様粒子(VLP)にアジュバントと外来DNAなど自然免疫を活性化する数種の成分が含まれているとされています。どの成分が激烈な免疫応答を示すかは科学的に解明されていません。よく、海外では副作用被害は発生していないとか、日本ほど発生していないなどと言われますが、海外でも副作用は大きな問題となっており、報告のトップは神経系関連障害とされています。自己免疫疾患や神経障害が多数報告されています。日本でも海外でも医学的な原因究明の努力がされていますが、未だ、原因は明らかになっていません。 子宮頸がんワクチンに限らず、ワクチンにより自然免疫の強力な活性化や炎症反応により、神経障害の臨床症状が発生することは、その原因物質がアルミニュームや水銀(チメロサール)に由来するのではないかと指摘されてきました。原因がわからない中で、どう法的救済につなげるのか。因果関係が認められなければ、当然損害論までたどり着けない日本の司法制度の中で、過去の4大裁判でいかに原告が勝訴することができたのか。白木4原則が果たした役割を紹介します。 予防接種禍4大裁判で原告側証人として活躍され、水俣病、スモンでも原告側の証人として証言された、白木博次博士は著作(藤原書店 冒される日本人の脳より「 」内引用)の中でこう述べられています。白木博次博士は、優れた臨床神経病理学者ですが、化学物質とそれよる被害の因果関係の立証は極めて困難とし、終始、厳密細心に自然科学の手続きを踏みながら、同時にそのなかで、(物)の局面での「客観性」に固執して魂の訴え(自覚症状など)を軽視する科学の手法の本質的な限界に警鐘を鳴らしながら、今日の科学技術文明は、自然には存在しない人工化学物質の多用による速効性の追求と、反面、そのマイナスの副作用の顕在化を特色とするとしています。 ワクチン禍の医学的解明は、ほとんど不可能に近いとし、ワクチン禍の総論または原則論を組み立てるのに参考になる医学関係のわが国の文献は全くないに等しいということで、自分で考えられたのです。白木博士の因果関係の立証のための白木4原則は、①ワクチン接種と予防接種事故とが、時間的、空間的に密接していること、②他に原因となるべきものが考えられないこと、③副反応とその後遺症(折れ曲がり)が原則として質量的に強烈であること、④事故発生のメカニズムが、実験・病理・臨床などの観点からみて、科学的・学問的に実証性や妥当性があること、の4つを組み合わせて、その蓋然性の高低の視点から、ワクチン禍の有無を考えることを提唱しました。 そして、現にある被害は動物実験のように条件づけできないので、あるがままの状態を受け取る経験科学ととらえ、4つの原則論の組み合わせによって蓋然性が60%以上の確率によりワクチン禍の存在を肯定すべきとし、これが全国の裁判所に受け入れられたのでした。(その後の因果関係判定のためのルンバール事件[注3]も同様のロジックである[注2])。白木博士の卓越した点は、東京裁判以外の全患者を診察、CT、MRI、PET、脳波などの特殊検査を加味し、主として母親と近親者の聞き取り調査も行い、死亡した患者の剖検所見も参考として、その実態について総合的に把握することを怠たらずにされたことです。もう一度問い直す子宮頸がんワクチンの危険性 その上で、因果関係の立証は、動物実験のように条件づけできないので、あるがままの状態を受け取る経験科学として、4つの原則論の組み合わせによって蓋然性が60%以上の確率によりワクチン禍の存在を肯定させたことです。こうした化学物質による被害の因果関係の立証については、経験医学、社会医学の観点から解決されるべきだと提唱されています。 予防接種問題についての白木博士はいくつか「遺言」を残されています。まず、白木博士は、ワクチンがどう改良されても絶対になくならないと断言しています。「ワクチンを製造・管理する人が自らいわれているように、ワクチンは所詮「毒をもって毒を制する必要悪」であって、「たとえ防御抗原のみの純粋な製剤が開発されたとしても、それ自体は抗原であるから、アレルギー反応による神経系の傷害を惹起する可能性を避けられないであろう。(中略)。正と負の効果(アレルギー反応とワクチン禍)とは常に表裏一体をなしている。特に神経障害のように、少数であっても犠牲者が出てしまうことを、今後いかにワクチンを改良しようとも避けて通ることができないのは、理論上または経験上からも明白である。またもし副作用を避けるために本来の毒性を薄めてしまうなら、その防御効果は全く期待できないことになる。しかも神経細胞は容易に失われやすい事実に加えて、失われた神経細胞は二度と再生されることはなく、後遺症として永久かつ不可逆性に残ってしまうという厳然たる事実がそこにある。これが神経組織が他の臓器や組織と違う最大の特徴をなしている」 「①弱毒化したワクチンが強毒化する点についての症例は述べなかったが、これはワクチン自体の問題か、それとも接種を受ける個体側の問題か、それは大きな学問的な問題として未解決。いずれ実現するであろう遺伝子組み換えワクチンによる安全性について、特に大きな問題になるであろう。遺伝子組み換えの基礎的な部分が完全にわかっていないのではないだろうか。②ワクチン禍には第1から第4アレルギー型まであり、それぞれ相互の移行型もあり免疫学の領域から見ても未知の部分が数多く残っている。また、遅延型アレルギーの重大な問題が残っている。4原則目は、医学のうちの特に免疫学のうちで、未知の領域が数多く残っている。今後のワクチンの改良、強制接種の廃止、その他によって、将来の問題としてクローズアップされるのは、国賠がそのまま適用できなくなるというのは思い過ごしか。(中略)どのようにワクチンが改良され、被害者の数は減ってこようと、ワクチン禍がなくなってしまうことは考えられないとすれば、今後のワクチン禍訴訟は、どのような総論・原則論に基づき、国の責任論はどのようなものになるのかの問題を今からでも真剣にかんがえておかなければならない」。白木博士が、1998年12月に危惧されていた問題提起は、子宮頸がんワクチン問題の発生を見据えていたかのような重みがあります。もう一度問い直す、子宮頸がんワクチンの必要性 長年予防接種問題に取り組む中で、シンプルな結論にたどり着きつつあります。それは、「ワクチンの安全性や有効性に優先するものは当該ワクチンの必要性についての徹底した検証」です。一言でいえば、「やらなくてよいワクチンで、利益より被害が多いものはやるべきではない」ということです。現在、0才までに13回(2016年10月からはB型肝炎ワクチンも導入されるために16回)のワクチン接種が定期接種とされています。勢い、複数ワクチンの同時接種が勧められ、同時接種後の死亡例も発生しています。効果に疑問のあるインフルエンザワクチンも1994年の改正時には30万本まで減少したものが、5500万本を超える生産高となっています。 2000年代に入り、一方で、被害者救済が強調されることは、より多くの感染症による被害を予防すべきワクチン行政をゆがめるという指摘のもと、ワクチンで予防できる病気という原語が、ワクチンで防げるものは防ぎたい(防ぐべき)という標語のもとに、Vaccine Preventable Desease(VPD)という考え方が台頭し、予防接種推進の巻き返しを図る医師会とワクチンの世界戦略が跋扈するなか、2012年5月23日の厚生科学審議会予防接種部会の「予防接種制度の見直しについて(第二次提言)[注4]以降、厚労省も基本政策としてVPDの考えを採ることを明確に打ち出しています。しかし、いまこそ、ワクチンがあるから接種すべきというのではなく、本当にそのワクチンが必要であるのかどうかという原点に返って考え直さなければならない時期にきていると思います。子宮頸がんワクチン問題はそのことを警告していると言っても過言ではありません。 接種再開論者は、「日本だけがワクチンを接種しないことで将来子宮頸がんで死亡する不利益がある」と言います。しかし、当初から、ワクチン接種だけでは原因ウイルスであるHPVの感染を防ぐことはできず、検診の重要性が強調されていました。ワクチンの有効性については添付文書ですら、断定していません。がん予防効果は証明されていない上、前がん病変の予防効果も限定的、継続感染におけ効果持続期間すら不明です。以下は拙著[注1]からの引用です。厚労省は予防接種行政を見直すべき HPVというのは、大体100種類くらいあって、皮膚と粘膜に、ほとんど常在的にいるウイルスです。そのうちの15種類くらいが、ハイリスクグループと言われ子宮頸がんと関係があります。ワクチンが効くのはわずか2種のウイルスです。HPVは100種類くらいあり、子宮頸がんと関わるハイリスクHPVといわれるのは15種類です。日本人の場合、子宮頸がんで見つかる16型、18型の頻度は併せて58.8%。認可されているワクチンは16型、18型が対象のもの(サーバリックスでハイリスクの方はガーダシルの同様)ですが、日本人でそれ以外に多いのが52型、58型、33型があります。このワクチンでは16型、18型以外のハイリスクHPVの感染は、予防できないのです。 しかも、ウイルスを取り込んでも、自然のメカニズムでウイルスの存在がなくなり、持続感染になるのはごく一部で、さらにその一部、HPV感染を起こしたものの0.15%だけしかがんにならないのです。HPVというのは皮膚常在のウイルスで、ウイルス単独で存在しても、そこで増殖することはできません。細胞の中に入り込んで、その中で細胞の機能も利用しながら増殖するのです。 たとえば、HIV(エイズウイルス)はリンパ球の中で増え、B型肝炎ウイルスは肝細胞の中に入って、そこで増殖するという特徴があります。HPVは、子宮頸部の粘膜の上皮細胞の中に入り込んで、そこで生き続けていくわけです。他のワクチン療法と違って難しいのは、ワクチンを使うことによって、HPVの感染を防ぐことはできますが、がんそのものを防ぐことはできないのです。 HPVに感染することにより、その後、細胞の異形成をつくり、それらががん化し、さらに進行して浸潤がんになるということであれば、この最初のHPVの感染をワクチンで防ごうという考え方が出てきたわけです。しかし感染してからがん化して浸潤がんに変化するまでには、数年から十数年という時間がかかります。非常にゆっくり進んでいくので、現在の検診のシステムで充分この変化を捉えていくことは可能です。そうしたことを考えて、ワクチンの必要性も考えていくべきでしょう。 うつらない病気、他に安全で有効かつ経済合理性ある対策があることを情報提供し、副作用被害防止のために必要な政策へシフトすることが必要ですが、子宮頸がんワクチンはまさに、WHOが推奨しているとか、世界では日本のような被害はない、最近では、ワクチン接種をやめたままでいると将来的に日本は、子宮頸がん対策で世界の遅れをとるなどの意見があり、被害者を詐病や思春期の一過性の症状扱いしたり、提訴を「不幸なこと」などと揶揄したりする主張がされています。しかし、実際にはがん予防効果は限定的であり、「がん予防ワクチン」というネーミング自体おかしいこと、世界的にも深刻な副作用被害が多発していることなどが明らかになっているのです。厚労省は予防接種行政を根本的に見直すべき 全国子宮頸がんワクチン被害者連絡会や自治体議員や教員、市民の支援者による取り組み、民間の研究者による治療や原因究明への努力は、国の救済に向けた動きを促してきたものの、国は未だに被害と接種との間の因果関係を認めず、相談体制や協力医療機関の設置など、小手先の対応に終始してきました。厚労省の検討部会は2014年、ワクチン後の症状について「心身の反応によるもの」との検討結果をまとめる一方、健康被害を訴える患者を診る協力医療機関を整備し、研究班を作って治療法の開発などを急いでいるとされていますが、その対応は被害者の救済支援とは程遠いものです。 2016年7月22日、厚労省の「ヒトパピロマーウイルス感染症の予防接種後に生じた症状の診療に係る研修会」で出された「当面の対応」は、2015年9月17日の審議会での結論を敷衍したものでした。被害者の声を無視できない厚労省は、頑なに因果関係を認めない一方で、2015年9月17日に、副反応を検討する審議会の合同開催の委員であり、疾病・傷害認定審査会感染症・予防接種審査分科会(分科会長五十嵐隆、稲松孝思、岡部信彦、多屋馨子(敬称略))連名で、「ワクチン接種後に生じた症状に関する今後の救済に対する意見」(以下、有志の意見書)をだしました。ここでの結論は、因果関係は認めないまま、ある程度の救済は行うという中途半端なものでした。 その内容は、①患者とのていねいな個別交渉で対応する、②入院以外にも医療費、医療手当を払う(接種を受けた時期が定期接種化(2013年4月)の前か後かで救済範囲に差があるのを改善し、定期接種化前では入院相当しか出なかった医療費と医療手当(月額 34,000~36,000円)を、定期接種化後と同じように通院でも出す)、③患者の治療のために患者からの研究への協力を得やすくする仕組みを検討する(因果関係が否定された場合でも、治療が必要な人には研究に協力してもらうとの名目で支援金を出す)、④協力医療機関が全都道府県に整備されたが、患者に適切な治療ができるよう、更に診療の質の充実を図る、⑤患者の学習支援や教育現場との連携等、患者の生活を支えるための相談体制を拡充する、というものでした。利益相反体制の下で適正な議論がなされるか 翌9月18日から疾病・障害認定審査会感染症・予防接種分科会(認定部会)ではHPVワクチンの審査が始められました。しかし、申請自体が多くない中、しかも定期接種前の接種が大半であることから、もともと被害者を絞っておこなう審査制度は真の被害者の救済のための審査とは程遠いものといえます。2016年7月22日の、「研修会」では、「診療の質を高める」「被害者で診療調査協力者には支援金を出す」「事業接種時のPMDA法では救済されない入院相当でない通院についても医療費・医療手当の範囲とする予算事業措置をする」と確認されました。目新しいところでは、「臨床的観点からの研究に加え、疫学的観点からの研究を実施する」というものですが、現在の被害者のためにどれだけ役立つ研究がされるのか疑問です。 この「研修会」は、「回復例」の報告研修会と称し、国の協力指定病院のうちの4例を医療機関の医師(ペインクリニック等)が回復例として紹介しましたが、痛み感覚障害や脱力、意識消失発作、記憶力低下、頭痛、耳鳴り、まぶしさ、立ちくらみなど、それぞれ患者の接種歴や主訴、初診時の様子や経緯を説明し、医療者が患者に親切に冷静に対応すること、普通の生活をさせること、慢性疾患となった副作用被害に病名をつけることは意味がないこと、ワクチンとの因果関係を追及することは痛みに対するネガティブな思考となり症状を悪化させること、原因のわからない痛みは多くあることなどを患者に説明している等と報告されました。 牛田班[注2]が提唱していたように、認知行動療法(慢性疼痛の原因治療と慢性痛と心理社会的要因の相互作用から物事の受け取り方や考え方である「認知」に働きかけて物事のとらえ方を改善し、日常生活でできることを増やし、痛みがあっても安心してできることをする、因果関係や病名を特定することは意味がないなど、決して因果関係を認めようとしない国の立場に添うため、ワクチンとの関係を棚上げしたままで対処方法をすすめているように受け止められました。心因性の病気には心因性治療で対応するというものでしょうか。 そもそも、政府の予防接種関連の審議会は、ワクチンの導入から、評価、救済にいたるまで、一貫してワクチン擁護の立場を取っており、その委員構成は利益相反を強く疑わせるものです。子宮頸がんワクチンも最初にワクチンの医学的な評価をするためのファクトシート作成にあたって、グラクソスミス・クライン(GSK) 社員の論文が重用されたり、関係委員がメーカーからの寄付金を受け取っていたことなども明らかにされていますが、このようなことは氷山の一角です。 副反応の検討すべき審議会(厚生科学審議会医薬品等安全対策部会安全対策調査会と予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会の合同開催、以下合同開催)の委員長が、メーカーから多額の寄付金を受け取っていて、合同開催の審議規程により参加できないことも多々あります。しかし実際はその委員の知見が必要として発言を許し、審議会の議論をリードしています。しかも、その委員が最終的な個々の副反応を審査する認定部会の部会長をしているのがこの国の実態です。信頼できる審議会体制とは到底言えないところで、実質的な予防接種行政を決定づける審議会は国の責任回避のためのノウハウを蓄積しているとしか思えません。 それ以上に問題なのは、こうした失政が明らかになると審議会内の一部委員が「意見」を出して小手先の救済の対応(ポーズ)をとることです。2015年9月17日の「有志の意見書」はその典型例です。国としては訴訟回避しながら被害者の声にこたえるための苦肉の策かもしれませんが、責任をあいまいにする姿勢は許されるものではありません。訴訟ではどこまでこうした意思決定が問われるのか、注視していきたいと思います。無過失補償制度は被害者保護になるのか 4大裁判やMMR裁判を経て、1994年に予防接種禍4大訴訟の敗訴をうけた国は、予防接種法を改正しました。予防接種は集団社会防衛から個人の健康を守るため個別接種となり、接種は基本的に義務ではなくなりました。どのようなワクチンも基本的には、接種を受ける側が選択できることが保障されたわけです。しかし、その後の制度設計そのものが、経済成長戦略の観点から、ワクチンの増加による市場規模の急速な拡大と、り患するリスクの少ない疾病についても、ワクチンで防げるものは防ぐVPD(Vaccine Preventable Diseases)という考えのもと、国と業界、医師界の太宗、一部マスコミをあげての接種推進政策が続けられている点に根本的な問題があります。 ネット等で被害者へのバッシングともうけとれる論調に、「国際的にはHPVワクチンの有用性・安全性は確立されています」との前提のもとに、「因果関係がないことは国際的にも明らか」とか、「米国疾病予防管理センター(CDC)や欧州医薬品庁(EMA)もHPVワクチンの安全声明を出し、『これまでの科学的検討から、HPVワクチンが複合性局所疼痛症候群(CRPS)や起立性調節障害(POTS)を引き起こすことを支持する知見はない』と断言している」とし、(被害者の副作用を)「日本で年間約3000人の命を奪う子宮頚がんの脅威と比べて、ゼロではないとしても如何に小さい『副反応』であるかはあきらか」としたうえで、(私の目的は提訴に踏み切った)「彼女たちを『科学的ではない』と批判することにはありません。彼女たちは『HPVワクチン接種後に、それぞれの後遺症を受けた』被害者です。科学的方法とは、A→Bの順番に起こったことをそのまま『因果関係』と認めることではありません。適切な証拠、明確な結論、証拠と結論を結ぶ推論過程、並びに事象の再現性。このような条件を揃えて、科学者はある事象を(少なくともその時点での)科学的事実と捉えます」としています。 「(原告となることを決めた『被害者』12人を批判する気はありません。『因果関係』が科学的に認められようと認められなかろうと、彼女たちが『被害』を受けたことは事実であり、それに対して『無過失補償』を行うことは必要だと考えています。最終的に因果関係が明確に否定される(あるいは「被害者」たちが納得する)日が来たら、『無過失補償』ではなく、通常のCRPSやPOTSに対する保険診療のみで対応しても良いでしょうが、まだ原告たちが納得できる社会状況にはないと考えています。)としています。(「 」内2016年4月1日 MRIC by 医療ガバナンス学会寄稿文より抜粋) 因果関係に関する主張の当否は別として、このほかにも、無過失補償をすべきとの議論があります。訴訟という多大なる時間と費用を考えた場合に、無過失補償という立法的解決は有用な選択肢であることも論を待たないでしょう。現にこれまでの薬害エイズやB型肝炎訴訟、スモンなどの一連の訴訟では敗訴または和解後、国は被害者救済のための特別立法での救済の対応を行っています。 しかし、それも因果関係を認めさせ、訴訟という過酷な手続きを経ての成果です。「因果関係はともかく、被害を受けたから無過失補償でいいじゃないか」という考えは、真の意味での原因究明や責任の所在をあいまいにするものであり、失政やそれに加担した真の原因者の責任をあいまいにし、将来にわたって化学物質等における被害救済にとって組織的過失を繰り返す元凶だということに思いを致す必要があります。なによりも、被害者はなぜ、このようになったのか、その原因を知りたい、そしてもとの状態にもどしてほしいというのは当然の権利というべきものです。 そもそも予防接種法自体が。国が強制(積極的勧奨)をしたことによる損失補償的な観点からつくられた法律ですから、本来は国の無過失責任を保障するものであったはずです。1994年の法改正以後、迅速な救済と情報公開の理念のもとに改正された法律ですが、その改正を跨いで、予防接種法上の救済と国家賠償法による救済が両方とも司法で認められたことが、改正後の予防接種法の解釈に混乱を期待している原因のように思われます。ここでもう一歩、法的救済について考えてみましょう。 日本では、民事上、行政上被害を受けた場合の被害回復の金銭的な填補として、損害賠償と損失補償という制度があります。損害賠償は、民事上、債務不履行や不法行為等の違法な行為によって損害が発生した場合に損害を与えた者が、損害を受けた者に対してその損害を賠償して、損害がなかった状態と同じ状態にすることをいいます。損害賠償で賠償される損害の範囲は、原則として不法行為や債務不履行等の原因事実と相当因果関係に立つ全損害。国が損害を与えた場合は、国家賠償法によるとされます。 これに対して、損失補償とは、適法な公権力の行使によって損なわれた特別の犠牲による財産的補償をいいます。一般的な法律の定めはありませんが、憲法第29条第1項は、「財産権は、これを侵してはならない」と定め、同条第3項では、「私有財産は、正当な補償の下に、これを公共のために用いることができる」と定め、損失補償の根拠とされています。米国の制度は優れているのか 予防接種禍の法的救済としては、第1に,1976年,予防接種法が改正され予防接種健康被害救済制度(以下,被害救済制度)が作られているので,それによる給付を求める(予防接種法の救済)、第2に,国が行っている予防接種制度によって被害を受けたとして,国家賠償法に基づき裁判に訴えて損害賠償を求める、第3に,一方で,被害救済制度は不十分であり,他方で,損害賠償請求訴訟では過失の立証その他,被害者に重い負担があるとして,損失補償の理論による救済を求めることができるとされてきました。 被害救済制度による給付請求では予防接種と後遺症との因果関係が,国家賠償法による損害賠償では過失の有無および後遺症との因果関係が問題となりました。この場合の過失とは何か,そしてそれぞれの手続で争われた因果関係はどのような内容のものかが論点とされました。1986年に福島県で提訴された訴訟(筆者も傍聴)では、1996年に不支給処分取り消しとして、第1の請求が認められました。また、2001年,東京地裁は,本件接種に過失があり,それによって原告は損害を被ったとして因果関係も肯定し、第2についても原告勝訴の判決を出しました。 その後、第1が認められると自動的に第2も認められることから、被害者救済に厚い反面、国が認めない方向に固執し、逆に被害者救済を阻害することになったいう見解も出され、「疑わしきものは認定」ということで、国の因果関係を肯定する姿勢を躊躇させ、逆に被害者救済逆に阻害する可能性が出てきたとの見解もだされています。第3の請求のロジックは今のところ日本の高裁レベルでは否定されていますが、米国はこれに近い考え方取っており、低額ではあっても無過失補償を得るか、弁護士を立て徹底的に損害賠償を争うかの二者択一をさせるという制度を取っています。米国の制度は優れているのか 米国では、1970年代から80年代にかけて,予防接種による被害者がワクチン製造業者や予防接種を実施した医師を被告として訴える訴訟が増加しました。予防接種を推進した州政府や連邦政府を訴えなかったのは,アメリカでは伝統的な主権免責法理の下で国家責任を問うことが難しいこと,主権免責を放棄した州についても予防接種自体が効果的な公衆衛生の施策だと評価されている限り,そこに過失を伴う不法行為があるという立証は不可能に近いと考えられたからだとされています。 そこで,アメリカでは,当時製造物責任一般について判例法による無過失責任(厳格責任)等の救済が拡大していたことから、ワクチン製造業者に対する製造物責任訴訟が主要な被害者救済手段となりました。1980年から1986年までの間に,予防接種被害に関する製造物責任訴訟の請求額は総額で35億ドルにも上り,賠償責任を恐れて,製薬会社でワクチン製造から手を引くものが増加したとされています。 アメリカの場合には,社会の個人主義的傾向にもかかわらず,強制という要素を伴わせて1988年に救済制度が連邦政府の下で作られました。しかも,アメリカの場合,その救済を選択すると損害賠償請求の訴権を失う形(補償としての被害救済制度と損害賠償請求訴訟が択一的で,どちらかを選択しなければならない)になっているのです。その代わり,被害救済制度では過失を立証する必要がなく,予防接種によって被害を受けたことだけを立証すれば救済が与えられるとされています。 アメリカの弁護士には,予防接種によって被害を受けた人に相談をされた場合,この救済制度が存在することを知らせる義務が課されており,不法行為訴訟に訴える前に救済制度への請求をしなければならない形になっているそうです。しかしながら、米国の救済制度がうまくいっているわけではなさそうです。 無過失補償と言っても、① 軽微な損害を除外するため,損害は少なくとも6か月以上継続し,死亡かまたは入院や手術を必要とする重症の場合に限定した。②救済を請求する期間に一定の出訴期限を設けた。③請求にあたっては,百日ぜきなど限定列挙された一定範囲の感染症に対する予防接種を受けた事実とそれによって被害を受けたことを証明する医療記録を提示することが求められている。④法律には付表(table)が付けられており,そこには予防接種の種類ごとに一定の副反応と接種後発症する通常の期間が明記されている。それに当てはまる請求は付表型として因果関係ありとの推定が働く。しかし,それが当てはまらないケース(非付表型)では,被害者は予防接種によって被害が生じたことの立証責任を負う。⑤請求は裁判所に行う。Court of Federal Claims(連邦請求裁判所)に訴え,補助裁判官(special master)が240日以内に認定を行い,通常はそれに従った決定の形で判断がなされる。上訴も可能であり,その場合,Court of Appeals for the Federal Circuit(連邦巡回区控訴裁判所)への上訴がなされ,最終的には連邦最高裁へも上訴する可能性がある。国の責任追及と訴訟への支援を その実態は、被害者に手厚い保護を与えるための制度だと強調していたにもかかわらず,実際の運用は敵対主義的になっており,容易に因果関係が認められない状況になっている。予防接種と副反応との因果関係が現代の医学では十分にわからないことのリスクを,どちらかといえば被害者に負わせているのである。なお2001年から2005年までの期間で,この救済制度の恩恵を受けた被害者は年平均66件である。(以上、医療と法を考える 法学教室 2007 June № 321 予防接種被害と救済 樋口範雄より抜粋引用)日本のこれから~国の責任追及と訴訟への支援を これまで述べてきたように、子宮頸がんワクチンはいまだに定期接種の対象に入っています。未だに接種を受けている人がいるのです。また、いつ被害が発症するかとの不安な思いを持っている接種をした人に十分な説明責任を果たすためにも、定期接種から外し、政策の誤りを認め公的に謝罪すべきでしょう。まずはここから始めるとしても、被害者のための救済体制の整備もされていません。厚労大臣は超法規的な救済も視野に入れるとの発言をして、予防接種リサーチセンターで、わずかばかりの救済事業を始めましたが、医療費や医療手当の支給の留まり、その手続きも煩雑で被害者を苦しめています。 こうした中で、定期接種からもすでに5年を超えた今、法的裏付けのある公的な救済体制を求めての提訴は当然の権利です。提訴にネガティブな意見がネット上散見されますが、再発防止の観点から、国は真摯に訴えを受け、検証委員会を設置し、第三者機関として導入の経緯から再発防止の観点から、国自らがこれまでの姿勢を問うことがなければなりません。それをしないで、接種再開など許されるはずがないことは言うまでもありません。 最期に、お子さんがインフルエンザワクチンで被害に遭われ、「私憤から公憤へ」の著者であり、4大裁判の被害者をまとめ上げ26年の訴訟を戦い抜かれた吉原賢二さんの言葉を引用させていただきます。少数の被害者は「ひとごと」ではなく、もしかしたら自分にもあたるかもしれない災厄であり、社会の多数者の問題として意識されなけれならないということです。人がそれぞれの知恵とわざをもって造りあげた文明社会で、連帯の精神を忘れたらどうなるでしょう。社会は崩れるほかないと思います。予防接種が社会問題となって約40年、このことを明らかにしてきた私どもの運動はそれなりに意義があったと確信します。(中略)伝染病と人類の闘いは有史以来ですが、ワクチンは万能ではなく、その効果の限界、副反応の状況をよく把握して使わなければなりません。  問われているのは、私たち一人ひとりの医療リテラシーかもしれません。子宮頸がんワクチン禍訴訟を全力で支援していきます。[注1] 新刊ブックレット それでも受けますか?予防接種~知っておきたい副作用と救済のこと(コンシューマネット・ジャパン)[注2] http://www.aichi-med-u.ac.jp/mpcmhlw/H25研究報告.html(代表研究者 牛田享宏  愛知医科大学医学部学際的痛みセンター教授)[注3]ルンバール事件(東大病院ルンバール事件) 1975年10月24日に下された最高裁判決(民集29巻9号1417)。因果関係について、裁判所が因果関係の証明に関して「指導的な判断」を示した判例[注4]厚生労働省「予防接種制度の見直しについて(第二次提言)」(この提言で7つのワクチンの積極的推進の方向が出されたが、特に子宮頸がんワクチンについては委員間で疑問も呈される中、座長の加藤達夫氏が異例の意見書を出していた)

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    名古屋市子宮頸がんワクチン副反応調査「事実上撤回」の真相

    社会学修士。その後、北海道大学医学部卒。WHO(世界保健機関)の新興・再興感染症対策チーム等を経て、医療・科学ものを中心に執筆中。京都大学大学院医学研究科非常勤講師も務める。

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    子宮頸がんワクチン研究班捏造問題を報じぬメディアの罪

    上昌広(医療ガバナンス研究所 理事長)「上昌広と福島県浜通り便り」  6月17日、村中璃子氏が『ウェッジ』で衝撃的なレポートを発表した。タイトルは「子宮頸がんワクチン薬害研究班に捏造行為が発覚」だ。 6月23日には、「子宮頸がんワクチン研究班が捏造 厚労省、信州大は調査委設置を 利用される日本の科学報道」という続報が公開された。 村中氏は、これらのレポートで、子宮頸がんワクチンが重大な副作用をもたらすと主張してきた池田修一・信州大学教授(同大副学長、医学部長)らが提示したデータが捏造されたものであったことを示した。 村中氏は、子宮頸がんワクチンがマウスの脳に障害を起こす証拠として提示された写真が「ワクチンを打ったマウスの脳のものではない」こと、および「ワクチンを接種したノックアウトマウスから血清(血液の液体成分)を採取。その血清を別の正常なマウスの脳切片にふりかけて撮った画像」であることを挙げた。 子宮頸がんワクチンが脳障害を起こしたと主張したいなら、血液中に抗体があり、それを実験室で正常脳組織と反応させるだけでは不十分だ。血液と脳の間には血液脳関門と言われるシステムがあり、血液内のたんぱく質の大部分が脳には移行しないからだ。 血中の抗体が脳に移行し、実際に脳組織を破壊していることを示さねばならない。実は、池田氏は、マウスを解剖し、この点も分析していた。おそらく、結果は問題なかったのだろう。この結果は村中氏に追及されるまで隠していた。自分に都合のいいデータだけを取り上げ、牽強付会な論理を構築する。池田氏の態度は科学的には不適切であり、「捏造」と言われても仕方がない。 3月16日、池田教授が研究成果を発表したとき、マスコミは大々的に取り上げた。例えば、TBSは看板番組の「NEWS23」で「子宮頸がんワクチン副反応『脳に障害』国研究班発表」、共同通信は「脳の症状、免疫関与かー子宮頸がんワクチン研究班」と報じている。 3月16日の段階で、各紙が池田教授の発表を、そのまま報じたことは仕方がない。信州大の副学長を務める人物が、厚労省の研究班の班長として発表したのを、「捏造かもしれない」と考える記者はいないだろう。 では、ウェッジのレポートを各紙はどう扱っただろうか。重要なのは、池田氏の発表が不適切であったことが判明したあとのマスコミの対応だ。残念ながら、ウェッジのレポートが発表されてから一週間の6月24日現在、テレビ・新聞はどこも報じていない。 知人の医療を専門とする全国紙の記者に聞いたところ、「社内で揉めている。このことを書きたい記者がいるが、被害者サイドにたつ記者が書かせないようにしている」と言われた。 被害者の救済と、子宮頸がんワクチンの安全性の議論は別物だ。こんなことをしていると、ワクチンを使うことで、予防できるかもしれない子宮頸がんをみすみす見逃すことになる。 どんなワクチンでも副作用はある。メリットとデメリットを天秤にかけねばならない。ワクチン接種は社会全体で考える問題だ。そのためには、正確な情報が国民に伝わらなければならない。これはメディアの仕事だ。今回のような対応は、自らその責任を放棄したことになる。マスコミの自殺と言っていい。 記者が主義・主張をもつことは大いに結構だが、都合の悪いニュースを無視してはならない。短期的に国民を騙せても、やがて信頼を失う。子宮頸がんワクチン問題に関して、マスコミ関係者の奮起を期待したい。

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    女医アンケート 定期的にがん検診受けている割合は47.5%

    がんにはまずかからない」「不要な検診はしない」というのが主な理由。「自分で診断する」という声も。女性医療ジャーナリストの増田美加さんはこう解説する。「20~30代医師も含まれているため、受けていない人が多いのかもしれませんね。現在、科学的証拠(エビデンス)のあるがん検診では、子宮(頸)がん検診以外は40才以降1~2年に1回でOKです」 ちなみにがん検診を受けているという女医を対象に「受けている項目は?」(複数回答可)と質問したところ、「子宮がん」「乳がん」がともに40人、「胃がん」が26人、「肺がん」が25人、「大腸がん」が22人という結果となった。「30代までは胃がん、大腸がんの検査は不要」とした人でも、「乳がん、子宮がん検診は20代から」という声多数。「子宮(頸)がん検診は20才から1~2年に1回定期的に受けることで、がんになる前に発見することも可能です。しかし日本の子宮(頸)がん検診受診率は約24%。乳がんも同様で先進国で最低の値です」(増田さん)

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    注目高まる乳がん検診 マンモグラフィー効果は多様な見解

    ラフィーについて海外では「意味がない」「リスクがある」との意見も強い。実際、2014年5月にはスイス医療委員会が「マンモグラフィーは死亡率を低下させない」として廃止勧告、2009年には米国予防医学特別作業部会が「推奨しない」と結論づけたことを発表。2014年にはカナダ・トロント大学も「マンモグラフィー検診は、乳房触診検査や通常診療のみの場合に比べ乳がん死を低減しなかった」と指摘した。 新潟大学名誉教授の岡田正彦氏が言う。「検診を受けた人と受けない人の死亡率は統計学的に有意な差がないという報告があります。つまり乳がん検診に有益性はありません。 乳がん患者が増えているのは単純に検診率の上昇とともに過剰な診断が増えているからでしょう。死亡者数はほぼ横ばいです。誤診によって投薬や切除されてしまうこともあるなど不利益もあります」 マンモグラフィーへの疑念と同時に、日本では視触診に対する見直しの動きもある。「厚生労働省は2015年に、《乳がんの早期発見という観点からはしこりを発見する視触診は最適な検査法であるとは言い難い》としていて、全国各地の病院のなかには視触診を廃止した病院もあります」(富永院長) ではどうすればいいのか。富永院長が続ける。「2015年に東北大学の教授らによるグループが発表した論文で、マンモグラフィーと超音波を併用すると発見率が1.5倍上がったことが報告されました。調査の中心となった対象は40代ですので、特に50才までは併用することをおすすめします」 大切なのは“検診しているから大丈夫”“若いから大丈夫”といった「○○だから大丈夫」という油断を捨てることだ。 自分の手で体をなぞるセルフチェックを欠かさないようにし、日々の変化を見逃さないことが求められる。海老蔵は6月10日、会見後に「検診に行きます」というコメントが殺到したことを受け、ブログにこう綴った。《これってマオがとても喜ぶなぁと想いました。マオは元気になったら少しでも世の中の為に役立ちたいと思っているので…。(中略)今回の事で多くの方が検査をして場合によっては救われる方も出てくる。その様なとらえ方ならば昨日の会見はよかった》関連記事■ 女医アンケート 定期的にがん検診受けている割合は47.5%■ ピンクリボン運動始めた医師 検診受けやすい環境作りも行う■ 乳がん検診 マンモグラフィーより超音波が検出率高いと医師■ 北斗晶がマンモグラフィーで乳がん発見できず 医師が理由解説■ 厚生労働省の乳がん検診無料クーポン 利用者は24.1%

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    子宮頸がんワクチンは危険なのか

    「子宮頸がんワクチン」をめぐり、国と製薬会社2社を相手取った集団提訴が間もなく提起される。本当に薬害を引き起こしているのか否かという議論もさることながら、ワクチン問題は現代を生きる私たちが陥った、ある深刻な病巣を浮かび上がらせる。

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    子宮頸がんワクチンがあぶり出すメディアとアカデミアと行政の病巣

    (ヒト白血球型抗原)型とマウス実験に重大な疑義があることを示した村中氏の記事は非常によく読まれ、特に医療界に大きな衝撃を与えた。前者は遺伝子頻度と保有率をあえて混同しており、ミスリードは甚だしい。後者は、深刻すぎて説明を始めると紙幅を要するため詳細は上記記事をご覧いただきたいが、少なくとも明らかな研究不正であり、その実験デザインと恣意的な発表に込められた意図を考えれば「捏造」と呼ぶにふさわしいと弊誌は判断している。Wedge編集部は6月17日着で信州大学の濱田州博学長宛てに雑誌をお届けし、「大学として何らかの措置をとられるべきではないか」との書簡を添えた。村中氏が大学事務に6月27日午後に確認をとったところ、学長判断として内規に基づく調査委員会を設置する方針であるとのことだった。 同日夜に毎日新聞はウェブに次のような記事を掲載した(以下、太字は筆者)。■「子宮頸がんワクチン 信州大、研究内容で調査委設置」(最終更新 6月27日 19時41分) 子宮頸(けい)がんワクチン接種後の健康被害を訴える女性らを診療している、厚生労働省研究班代表の池田修一・信州大教授(脳神経内科)が、3月に発表した研究内容について、不正を疑う通報があり、同大は27日、学内規定に基づく調査委員会を設置する方針を決めた。(中略) 発表では、子宮頸がんワクチンを打ったマウスの脳組織にのみ、自分の体を攻撃してしまう抗体が沈着していたと説明した。しかし、外部の医療関係者らから詳しい実験データの開示を求める声や、実験自体への疑義が上がっていた。(以下略)■朝日新聞は翌28日朝刊で追随した。ウェブサイトにも転載されている。「子宮頸がんワクチン副反応研究で信州大が調査委設置」(2016年6月28日07時05分) 信州大学は27日、子宮頸(けい)がんワクチンの副作用などを研究している厚生労働省研究班代表の池田修一教授(脳神経内科)の発表内容について、不正を疑う通報があったとして学内に調査委員会を設置する方針を決めた。 発表は今年3月、厚労省内で池田教授がした。自己免疫疾患を起こしやすく遺伝子操作したマウスに、子宮頸がんワクチンや他のワクチンなどを打って反応を調べたところ、子宮頸がんワクチンを打ったマウスだけに異常な抗体が見られたと説明していた。 しかし、外部の研究者らから詳しい実験データの開示を求める声や、研究手法への疑問が出ていた。(以下略)日本テレビも追随している。■「頸がんワクチン研究内容巡り 信州大調査へ」(2016年6月27日 23:40) 子宮頸がんワクチンの副反応の原因究明を行っている信州大学の教授をトップとした国の研究班の研究発表に対し、一部報道などで研究内容に対する疑いが指摘されていることを受け、信州大学は27日、調査委員会を設置することを決めた。 信州大学の医学部長である池田修一教授は、子宮頸がんワクチンの副反応に関する国の研究班の代表者として、今年3月、「子宮頸がんワクチンの接種後に副反応の出ている患者の脳には障害が出ていて、そのワクチンを打ったマウスの脳にのみ緑に光る『自己抗体』が見られた」という内容の発表をしていた。 しかしその後、実験の詳細な内容が明かされないことなどから、一部報道で実験自体への疑いが指摘されていた。この指摘を受けて、信州大学は27日、調査委員会を立ち上げて発表された内容について大学内で調査を行うことを決めた。 信州大学には弊誌を含む複数の通報が届いているであろうし、大学側も誰からの通報と明かすことはないだろうから、「通報があって」という表現は致し方ないのかもしれない。が、「医療関係者ら」「研究者ら」「一部報道」とは何だろうか。たしかに、発表当初からSNSなどで感想を述べる医療関係者や研究者は存在しただろうが、報道として耐え、大学も耳を傾けることのできるレベルでエビデンスを提示したのは村中璃子氏の記事が初めてだった。なぜ、「村中璃子氏」「Wedge」と原先行報道を明記しないのだろうか。 スクープを連発している週刊文春は、「一部週刊誌が報じた」「いついつまでにわかった」など書くメディアに対して厳重な抗議を重ね、「週刊文春が報じた」と書かせるようにしていると新谷学編集長が複数の媒体インタビューに答えている(参考記事の一つ:Yahoo!ニュース 特集 ジャーナリスト森健氏の記事)。新谷編集長は「スクープ泥棒」は恥ずかしいことだと自覚してほしいと、このYahoo!記事で述べている。メディアが抱える「病巣」 これは単に表現の問題ではなく、新聞やテレビといった大手レガシーメディアが抱える「病巣」が露出されているように感じる。 特ネタ・特オチを気にする記者たちは、「抜いた・抜かれた」を過剰に気にしている。しかも、そのネタの多くは、「発表モノ」だ。警察がどんな事件をつかんでいるか、大臣や役所が何を発表するか、大企業が次の社長を誰にするか、どこの企業とどこの企業が合併するか、いずれは公式にリリースされ、全国民が知ることとなる情報を、1分でも早く報じようと鎬を削り、役所や企業の「中の人」との人脈作りに励む。抜かれた場合は、「同業の○○新聞が報じたところによれば」と書くのは恥なので絶対にやらない。ネタ元の役所や企業に「こういう情報はあるか」とアテて、さも自分がもともと別にネタをつかんでいたかのような顔をして報じる。 どうせいずれ公になる「発表モノ」ならそれでいいのかもしれない。しかし、多大なリスクとコストをかけて先行者が取材している「調査報道」に同じことをしていいのだろうか。彼ら大手レガシーメディアの記事の書き方は、形式的には間違ってはいなくても、職業倫理の感じられない不適切なやり方だと筆者は思う。 そもそも、先に紹介した大手メディアは、池田班の発表をどう報じていたか。タイトルを拾う。「健康障害 患者8割、同じ遺伝子 」(毎日新聞、2016年3月17日朝刊「子宮頸がんワクチン 脳障害発症の8割で共通の白血球型」(朝日新聞、2016年3月17日朝刊)「子宮頸がんワクチン副反応 白血球型影響か」(日本テレビ、2016年3月16日22:18日テレNEWS24) 新聞でもっとも詳しく報じた毎日新聞は、「事前に遺伝子型を調べることで、接種後の障害の出やすさの予測につなげられる可能性があるという」「研究班は複数のワクチンをマウスに接種する実験で、子宮頸がんワクチンを打ったマウスの脳だけに神経細胞を攻撃する抗体が作られたとしている」とまで書いた。もちろん、発表があったのは事実であり、“研究班”という主語が「という」「としている」と書く限りは毎日新聞に形式上の落ち度はない。 しかし、これらの報道は、市民にどのような印象を与えたかを考えてほしい。「という」と書きさえすれば、メディアの責任は免れるのだろうか。発表している相手、役所なり企業なり学者なりの言っていることが正しいのかどうかを検証してから報じるのがメディアの務めではないのだろうか。正しいのか自信が持てなければ「報じない」という権利を行使することもできる。 先行する報道の主体をあえて明記しないという有り様と、公的な機関の発表を検証しないで垂れ流すという有り様は、どちらも「発表モノ」の「抜いた・抜かれた」に溺れる業界の文化に深く根ざしているのではないか。これは大手レガシーメディアの深刻な「病巣」であると筆者は思う。アカデミアの「病巣」アカデミアの「病巣」 次に、アカデミアの「病巣」である。 研究不正と言えば、STAP問題が記憶に新しい。あの理研(理化学研究所)が発表したのだからと言わんばかりにそのまま内容を垂れ流し、「リケジョ」「ムーミン」「割烹着」と理研の広報戦略に乗せられて、耳目を引く報道が当初溢れたのは、これもまた先述のメディアの「病巣」の一つと言えようが、注目したいのはアカデミアの自浄作用である。 STAP問題における理研の迷走は目に余るものがあった。詳細は、今回問題になっている信州大学を舞台に実施されている倫理教育プロジェクト「CITI Japan」に参加する市川家國氏の筆による弊誌過去記事「小保方晴子が開けたパンドラの箱 アカデミアは不都合な真実に向き合えるか」に譲るが、研究不正に対してどう対応するかは、近年、日本の研究機関が何度も突き付けられてきた課題である。 研究不正の摘発においては、在野の匿名市民が大きな役割を果たしている。STAP問題でも問題に火をつけ、多くの記者が参考にしていた「世界変動展望」のブログ主も子宮頸がんワクチン問題に関心を寄せてくれているが、彼はこんなツイートをしている。「子宮頸がんワクチン捏造の調査が始まったが、これまでの例から言うと不正認定はなかなか難しく最後までどうなるか不明。J-ADNIも厚労省関係のやつだったが東大は改ざんを否定した。大問題ほど調査されやすいが不正認定基準が上がる事もある」(6月27日、https://twitter.com/lemonstoism/status/747436441106546688) J-ADNIとは、朝日新聞がデータ改ざんの疑いを指摘し、大問題になった国が主導するアルツハイマー病研究プロジェクト。データ改ざんを内部告発した研究者が実名で会見までしたが、東京大学に設置された第三者委員会は、データ書き換えはあるが修正の範疇で意図的な改ざんではなかったと結論付けた。「不適切だが違法ではない」 そう、どこかの知事の問題で何度も聞いた、あのオチである。これまで日本のアカデミアが数々の不正案件で見せなかった自浄作用を、信州大学が発揮することができるか、要注目である。行政の「病巣」行政の「病巣」 一方、名古屋の疫学調査では、村中氏が上記記事で詳述したように、名古屋市が、いったんは公開した、委託先である名古屋市立大学の解析結果を封印し、公開要請にも応じないという、極めて憂慮すべき事態に陥っている。 記事はこう結んでいる。「市が主体的に『因果関係なし』と主張していると受け止められると何かと困るから、解析結果に蓋をしてしまったというだけだ。クレームが来れば科学を封印する、そんな行政でよいのだろうか」 行政が市民や議員のクレームに耳を傾けることは大事である。しかし、科学を封印してはいけない。 市の担当者は、編集部の取材に対し、「名古屋市立大学の解析結果は、いち解析結果として否定しない」、しかし、「解析結果について、専門家がいない市役所では評価できないから公表は差し控えたい」とし、市立大学が公表することも許可しないとしている。 専門家ではない市が科学的な評価を下せないと主張するのは、まだ理解できる。であれば、市の言う、まさに「いち結果」として淡々と、市立大学の解析結果を公表し、合わせて、ほかの疫学者が解析しやすいような全データの開示に努めればいい。そして、市としては、市立大学の解析結果を保持したまま、アカデミアの多様な研究や議論を喚起し、すべて出そろった段階で、行政として市民に必要な一定の判断を下せばいい。 最終的な評価・判断を下すための専門性がないなら、専門家を集めて委員会を立ち上げることもできる。河村たかし市長は会見で見解を示すのは国に委ねたいと言ったが、そんなことはない。かねてから主張している「地方分権」を完遂するなら、まさにこのようなテーマで、大都市名古屋の長として、一定の評価・判断を下すところまでやり切るべきだ。 行政が科学的な評価・判断をいきなり下すのはもちろんおかしい。しかし、アカデミアは多様な意見が尊重されるからアカデミアなのであって、その多様な研究や議論を尊重したうえで、一定の評価・判断を下さなければ、責任ある政治・行政は遂行できないのではないか。 いったん発表した、ある一つのアカデミアの結論を闇に葬る権利は行政にない。それは「専門性のない」市がもっともやってはいけない科学に対する越権行為ではないか。 池田班の問題では、信州大学は調査委設置を決めたようだが、厚生労働省に動きがない。池田班は、厚生労働科学研究班であって、厚労省が管轄する国費を使った研究プロジェクトである。いわば、厚労省がスポンサーなのであり、ガバナンスをきかせる主体である。厚労省は、専門性がないから判断できないと名古屋市のように逃げるのではなく、研究班が行う発表や、出す結果を受け取る主体として、研究班の行動に問題が発生すれば、適切に監視、調査を行うべきである。 そもそも厚労科学研究班の班会議はクローズドで行われるのが一般的なのに、成果発表会として公開扱いになったのは被害者サイドの要望だ。接種後症状を受け止める全国各地の拠点病院の医師たちに、研究成果を発表して、専門家の中で共有・議論を行おうという取り組みが、それなら患者・被害者にも見せるべきだという要望が入り、厚労省はそれに応じることとなった。 アカデミアは倫理観と正しい科学的手法をもって研究に取り組み、捏造などの不正行為を排し、多様性を維持する。行政はその多様なアカデミアの意見から、もっとも合理的で適切な結論を選択し、政策に反映する。メディアは、アカデミアや行政と市民の間に立つ立場として、専門的な議論や、相反する議論や、複雑難解な事実を、よく取材して、適切な情報提供に努める。3者がそれぞれの役割を果たさなければ、これほどまでに高度に進化した科学技術社会、情報化社会をより良くしていくことはできない と思う。 一見、市民に寄り添っているように見える、アカデミアや行政やメディアの恣意的で安直な行動が、複雑化する現代社会の適切なコンセンサス形成を妨げているのではないだろうか。

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    子宮頸がんワクチン「脳障害」に根拠なし 誤報の震源は医学部長

    社会学修士。その後、北海道大学医学部卒。WHO(世界保健機関)の新興・再興感染症対策チーム等を経て、医療・科学ものを中心に執筆中。京都大学大学院医学研究科非常勤講師も務める。

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    一匹のマウス実験で結論 子宮頸がんワクチン研究班捏造の実態

    ット実験の状態で、有意差を認められるような結果は得られていません。将来、何かしらの情報が得られれば、医療機関で同ワクチン接種の際、付加コメントが出来れば良いかと思っています。宜しく御願い致します。 A Wedge編集部は7月号発売直前の6月17日、厚労省担当課に記事の内容を説明しに行った際に、池田修一教授から厚労省に対し電話が入「ウェッジは人権侵害である」と池田教授は言ったそうだ。 編集部は、「このような方が副学長、医学部長の任にあることは大きな問題であると考えます。大学として何らかの措置をとられるべきではないかと存じます」との手紙を添えて、信州大の学長宛てにWedge7月号を6月17日午前着の宅配便で送付している。学長に呼び出された池田修一教授は、このような手紙を学長に送ることは人権侵害だと言っているらしい。 記事で問われた実験内容については一切のコメントなく、人権侵害だという怒りの電話をなぜか厚労省にかける池田修一教授。何が人権侵害なのか不明だが、万が一そうだとしても、言うべき相手は編集部だろう。 編集部は、池田修一教授にも同日着でWedge7月号を届けている。「先日は当方の取材に対して誠実なご回答がいただけませんでしたが、どういうお考えでこのようなことをなさったのか、ぜひ改めてきちんとお答えいただけないでしょうか」という手紙を添えて。 まもなく1週間が経つが、池田教授からリアクションはない。 それぞれの立場と動機から、捏造に手を染める研究者たち——これが国費を投じた子宮頸がんワクチン薬害研究班の実態だ。子宮頸がん罹患リスクを負ったワクチン未接種の少女たちとワクチンに人生を奪われたと苦しむ少女たちの未来は、こんな大人たちの手に委ねられている。むらなか・りこ 医師・ジャーナリスト。東京都出身。一橋大学社会学部・大学院卒、社会学修士。その後、北海道大学医学部卒。WHO(世界保健機関)の新興・再興感染症対策チーム等を経て、医療・科学ものを中心に執筆中。京都大学大学院医学研究科非常勤講師も務める。

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    子宮頸がんワクチンと遺伝子 不安煽るミスリードをする研究班

    ど脳の働きに関する症状を訴えた患者の7~8割は特定の白血球の型を持っていることが分かった」(中日新聞<共同通信配信>、2016年3月17日朝刊) 3月16日以降、こんな報道が続いた。 16日の午後、池田修一・信州大学脳神経内科教授を班長とする「子宮頸がんワクチン接種後の神経障害に関する治療法の確立と情報提供についての研究」(通称:池田班)と、牛田享宏・愛知医科大学医学部学際的痛みセンター教授を班長とする「慢性の痛み診療・教育の基盤となるシステム構築に関する研究」(通称:牛田班)の2つの子宮頸がんワクチン副反応研究班による成果発表会が行われた。これまで2班は非公開の合同会議を繰り返してきたが、この日はその模様がメディアに公開される形となった。一連の報道は2班のプレゼンテーションを受けてのものである。「遺伝子」に食いつくメディア プレゼン合戦の結果は、池田班の圧勝だった。メディアは池田班の発表だけに触れた。科学的な意味を持たないデータでも「遺伝子」「白血球型」といった科学的なワードを使って不安を煽るデータを出せば、メディアは進んで書く。言い方にさえ気をつけていれば、問題になっても「メディアが勝手に書きました」と言える。牛田班が公然と池田班を批判しないことも分かっていただろう。神経に障害が無くても痛みが生じることや、子宮頸がんワクチン導入以前から、原因不明の長引く痛みを訴える子供が多数いることを紹介した牛田班の眠たげなデータに触れたメディアはなかった。 問題の白血球型は、正しくはHLA(ヒト白血球型抗原)型と呼ばれ、ヒトの免疫応答に深く関与する遺伝子の配列だ。人によって型が異なり、例えば、移植を行う際に拒絶反応がおきないよう患者と臓器提供者との間で一致させるのもこのHLA型である。比較の対象とはならない別の数値を比較 2015年7月4日、毎日新聞が「信州大の池田班に加わる鹿児島大のグループが12人の患者の血液を検査したところ、HLA-DPB1という遺伝子が0501型だった患者が11人(92%)に上り、免疫異常による脳炎を起こしていた。0501型は日本人に多い型だが、全体では4〜5割に過ぎないため、同グループは、『HLA型が副作用に関連している可能性がある』とした」 と報じて以来、界隈では注目されていた話だったが、今回の成果発表会ではデータが更新され、*05:01の型の患者が鹿児島大で19人中16人(84%)、信州大で14人中10人(71%)となった。 筆者は、京都大学大学院医学研究科附属ゲノム医学センターの松田文彦教授の協力を得て、池田班の発表資料を検証した。すると、池田班の発表には複数の重大なミスリードが見つかった。出所:厚生労働科学研究事業成果発表会資料 それはまず、池田班が、比較の対象とはならない別の数値を比較していることだ。「患者で84%(鹿児島大)、71%(信州大)」という数値は、患者集団の「遺伝子(正確には、アレル)保有率」であり、「日本人全体で4割程度」という数値は、日本人が保有する「遺伝子頻度(アレル頻度)」だからである。 池田班のやっていることをわかりやすいたとえで言えばこうだ。夫婦12組、計24人のある集団の収入を調査したところ、少なくともどちらか1人が500万円以上の収入のある夫婦が11組あった。働く日本人全体の40から50%が年収500万円以上であることがわかっているとする。だからこの集団は平均より年収500万円以上の人の割合が多い。これは本当だろうか。11組すべてでどちらか1人だけが500万円以上稼いでいたとすれば、11/24x100=45.8(%)である。これは日本人の平均40から50%と変わりない。出所:厚生労働科学研究事業成果発表会資料をもとに作成 詳しく説明する。HLA型は父・母の両親から各1個ずつ引き継ぐ2個の遺伝子により決まっている。例えば、12人の患者がいれば、遺伝子は24 個ある。「遺伝子保有率」とは12 人の患者において2個のうち1個でも特定のHLA型を持っている人の割合(●/12人)であり、「遺伝子頻度」とは24個の遺伝子のうち特定のHLA型が占める割合(▲/24個)のことである。正しい比較を試みる比較してはいけないものを比較する ここで*05:01型をA、*05:01以外の型をaと表すとする。HLA-DPB1はAA(ホモ)、Aa(ヘテロ)、aaの3通りのパターンがある。仮に計12名、AA、Aa、aaがそれぞれ3名、6名、3名の集団があったとすると、*05:01の「保有率」は12 名中9名で75%だが、「遺伝子頻度」は24個中12個、すなわち、50%となる。保有率と頻度はまったく別のもので、同じ集団の異なるものを見ていることが分かるだろう。 筆者は改めて正しい比較を、すなわち、遺伝子頻度同士の比較を行うため、まずはAA、Aa、aaを保有する人の人数の再現を試みた。 鹿児島大の19例には遺伝子頻度の記述がないため分析しようがないが、HLA-DPB1*05:01だけは、欄外の注記に「2例追加」「ホモ接合例6例、ヘテロ12例」とあるので、2例追加後の21例を母集団(検体数:N=21)とすれば、保有率85.7%、遺伝子頻度57.1%と計算が再現できる。また、信州大の14例については、すべてのHLA型について保有率と遺伝子頻度がきちんと明記されているため、人数の再現ができ、遺伝子頻度を計算することができた。その結果が次の2つの図であり、鹿児島大57.1%、信州大が46.4%である。出所:厚生労働科学研究事業成果発表会資料をもとに作成 次に「日本人全体で4割程度」と報道されている数字について検証する。鹿児島大の表でいうところの「HLA遺伝子アレル頻度(日本人control)」と、信州大の表でいうところの「遺伝子頻度(一般日本人)」であり、HLA-DPB1*05:01は、鹿児島大40.70%、信州大38.4%となっているのでどちらの数字も「4割程度」で間違いない。ただし、信州大は38.4%という数字の出典を「HLA研究所のデータ」としているものの、鹿児島大の40.70%という数字の出典は不明であるため、ここからは、日本人全体の遺伝子頻度は、信州大の数字である38.4%(つまりHLA研究所のデータ)として話を進める。 さて、本題は、先ほど計算したHLA-DPB1の*05:01の遺伝子頻度である、「鹿児島大57.1%(N=21)、信州大46.4%(N=14)」という数字は、「日本人全体の遺伝子頻度38.4%」に比べて本当に多い(統計学的に有意差あり)と言えるのか、である。有意差がない!?比較すべきものを比較すると有意差がない そこで今度は、松田教授に検定(FisherのExact検定)を実施してもらった(信州大は他の6つのHLA型についても遺伝子頻度が明記されているため、それらについても検定を行ってもらった)。 その結果、p値は上図H列のとおりとなった。有意水準は厳密な統計解析では1%を設定し、p値が0.01より小さければ「有意差あり」とするが、鹿児島大のp値は0.0162で「有意差はない」。ところが、鹿児島大の発表資料の欄外注記にはp<0.001となっており、これは検定の手法に重大な誤りが想起されるほどの大きな違いである。少なくとも鹿児島大は計算根拠を示すべきだろう。 鹿児島大が示している日本人全体の遺伝子頻度40.7%を使っていないからだという反論はあたらない。HLA研究所の38.4%という数字の方が40.7%という数字よりも値が小さく、むしろ有意差が出やすいからだ。 有意水準は5%と少し緩めに設定する場合もあるが、鹿児島大のデータは10種類のHLA型を比較しているので、設定した有意水準の0.05を10で割った数字(この場合は0.005)より小さな時に初めて有意差があると判断する。「下手な鉄砲も数打ちゃ当たる」を避ける一般的な方法で、統計学者は常にそれを行なう。そうすると、0.0162は5%の有意水準でも「有意差はない」と結論されることになる。 信州大の検定結果も、HLA-DPB1の*05:01型を含む全7つの型についてp値は0.05を大きく上回り、「有意差は全くない」とも言える結果となった。 すなわち、日本人全体で4割程度の人が保有している*05:01型が、ある集団で57.1%や46.4%という頻度を示すことは極めて当たり前のことなのだ。 池田班の発表とそれに基づくメディア報道には、遺伝学者や統計学者の専門的サポートを受けていないのではないかと思われる箇所が散見されている。これまで述べた保有率と頻度の混同という極めて基本的な誤りがその代表例だが、例えば鹿児島大のスライドでは「05;01」などとセミコロン「;」を使っている。HLA遺伝子の遺伝子型の表記ではコロン「:」を用いるのが世界のコンセンサスだ。現段階でのデータは科学的意味を全く持たない 松田教授はこう語る。「そもそも、21とか14という少ない検体数では偶然の産物である場合が多すぎて、科学的にどうということは論じられない。そのため検定を行うことはほとんど意味をもたず、だから発表では検定の結果を示さなかったのかもしれない。今後の計画では150人に検体を増やしていくらしいが、少なくとも現段階でのデータは科学的意味を全く持たない」 では、150人にまで検体数を増やすと、どんな検定結果が予想されるのか。 「信州大の14例の分布結果と同じままだったら」という仮定を念頭に松田教授に尋ねると、次のような答えが返ってきた。 「検定はデータが揃ってから行うものであり、仮定に基づいた推論はできない。いずれにせよ、150人のHLAを調べた結果が14人のときと全く同じであるとは考えられない。たとえば、*05:01の遺伝子頻度が約46.4%だとすると、14人が15人になった時に15人目の人がAA、Aa, aaである確率は、それぞれ21.5%、49.8%、28.7%であり、15人目がどれになってもおかしくない。それによって15人の集団の遺伝子頻度は50.0%、46.7%、43.3%となる。一例増やしただけでもこのようにぶれてくるので、14例から150例で頻度が変わらないという単純な発想は通用しない。それでも何か言えることはないかと聞かれれば、極めて控えめにではあるが、検体数を増やせば、14例のときDPB1*05:01よりも患者と対照群で頻度の差が大きかったDQB1*06:01やDRB1*15:02でより強い関連が得られる可能性がある」出所:厚生労働科学研究事業成果発表会資料 では、なぜ池田班はHLA-DPB1の*05:01というHLA型にこだわるのだろうか。先述した15年7月4日付け毎日新聞で紹介されたように、12例中11例と保有率が極めて高く(現段階でも保有率が7〜8割と高い)、他の遺伝子より目立ったこともあるだろうが、この考え方は保有率と頻度の混同であって誤りである。同時に、次のスライドからは、池田班のひとつの「狙い」が透けて見える。むらなか・りこ 医師・ジャーナリスト。東京都出身。一橋大学社会学部・大学院卒、社会学修士。その後、北海道大学医学部卒。WHO(世界保健機関)の新興・再興感染症対策チーム等を経て、医療・科学ものを中心に執筆中。京都大学大学院医学研究科非常勤講師も務める。

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    日本人はがんとどう向き合うべきか

    今や日本人にとって、がんは最も身近な病と言える。昭和56年以降、日本人の死因のトップはがんであり、もはや世界有数の「がん大国」といっても過言ではない。がん治療は日進月歩とはいえ、私たちの死生観に今なお大きな影響を与える。日本人とがん、この重くて難しいテーマについて考えたい。

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    「がんになったら不幸ですか?」若くしてがんになるということ

    れてしまう。咳の患者さん全員に肺がんを疑ってCT検査を行うようなことをしていたら、おそらく国家予算は医療費で破産するだろう。でも、その咳の患者さんの中には確実に肺がん患者が潜んでいる。 現段階では、若い人のがんを早期に見つける手立ては残念ながら無いといって良いだろう。山下弘子さん(右)と、鈴木美穂記者(左・カメラ)の取材中の一コマ そんな若年性のがん。 10代でがんにかかった人がいる。山下弘子さん、22歳。 19歳の時に肝細胞がんにかかり、「余命半年」と言われた。19cmもの巨大な腫瘍だったそうだ。それを聞くだけで、医師はこう想像する。「いつrupture(破裂)してもおかしくないし、もしruptureしたらおそらく数分でshockから死に至り、救命は不可能だっただろう」と。 それから複数回にわたる手術、抗がん剤治療、RFA(ラジオ波凝固療法)を経て、現在も治療を続けている。「がんになった今の方が幸せ」山下弘子さん(左)と鈴木美穂記者(右) こう言い切る山下弘子さんを見つめカメラを回したのは、日本テレビの報道記者、鈴木美穂氏(31)。記者である彼女は、実は24歳の時に乳がんにかかっていた。Stage IIIだった。 手術、抗がん剤治療を経て、再発なし。現在はホルモン療法のみで元気に働いている。 そんな彼女が企画・編集し、自らの闘病をも描いたドキュメンタリー番組が、7/4(土)午前10時半から日本テレビで放送された。 番組では、鈴木記者の闘病の様子がありありと流される。手術室に向かうシーン、「死んじゃうー!」と泣き叫ぶシーン、抗がん剤でほとんどの髪が抜けて落ち込むシーン。あまりに生々しい映像に、目を背けたくなる。鈴木記者自身も、その壮絶さに編集作業中に寝込んでしまったほどだ。 二人の若年性がんの患者。姉と妹のように仲の良い二人。二つの人生が交錯する。 若くしてがんにかかるということ。そして立ち向かうということ。 がんにかかった二人は、それぞれ自らの死と直面する。 自らの死を想うことで、「生きるとは何か」「幸せとは何か」を自問する。 自らの死を想うことは、人生を変える最高のトリガーなのである。 筆者は、拙著「幸せな死のために一刻も早くあなたにお伝えしたいこと 若き外科医が見つめた「いのち」の現場三百六十五日」(幻冬舎 2014/3/25)で、「死を想う」ことの大切さ、そして「死を想う」ことによって聞こえてきた「自分の本音」を知り、それに従って生きることの大切さをお話ししてきた。それがあなたの最期のときの無念や悔いを、少しでも減らすことになると考えるからだ。 がんと宣告され、本当に「死を想」った彼女たちだからこそ、いまなにをすべきか、いまどう生きるべきなのか、自分の本音に従って歩んでいけるのであろう。そこに筆者は、目がくらむような魅力を感じ、誤解を恐れずに言えば「幸せそうだ」とさえ思い、この記事を書くに至ったのである。 拙著を読んでいただいたことで筆者は鈴木記者と繋がり、山下弘子さんを知った。そして山下弘子さんの著書「人生の目覚まし時計が鳴ったとき」(KADOKAWA 2015/2/24)に強く共感し、このドキュメンタリー番組の企画を知り取材させてもらったのだ。 がんの宣告。 そんな人生の目覚まし時計が鳴ったとき、あなたは何を想うのだろう。 番組放映はすでに終了しているが、全国からの反響が大きかったためホームページから動画を無料で配信中だ(編集部注・配信終了)。 動画はこちら。 番組ホームページはこちら。 二人が出会い、一年が経つ。 七夕を目の前にして、二人の想いは混ざりあい、ゆっくりと天に昇っていく。(参考・出典)国立がん研究センターがん情報サービスhttp://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/summary.html(『Yahoo!ニュース個人』より2015年7月3日分を転載)なかやま・ゆうじろう 1980年、神奈川県生まれ。鹿児島大学医学部卒。その後、がん・感染症センター都立駒込病院外科初期・後期研修医を修了。現在は同院大腸外科医師(非常勤)として勤務。資格はマンモグラフィー読影認定医、外科専門医、がん治療認定医。モットーは「いつ死んでも後悔するように生きる」。著書は「幸せな死のために一刻も早くあなたにお伝えしたいこと〜若き外科医が見つめた『いのち』の現場三百六十五日〜」(幻冬舎)。

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    がんはいずれ「理想の死に方」になる

    ないくらい深刻だ。なぜなら、日本は癌の疼痛対策後進国だからだ。世界保健機構によると、日本は処方すべき医療用麻薬の16%しか処方していない。多くのがん患者が適切な緩和ケアを受けることなく、痛みをこらえながら亡くなっている。この状況は、一日もはやく是正されなければならない。 どのような終末期を迎えるか。それは、どのように尊厳を持って生きるかだ。いま、寿命を延ばすことを全てに優先してきた価値観の転換が求められている。癌との付き合い方も考え直さねばならない。

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    がん三大治療の限界 抗がん剤では「がん幹細胞」は殺せない

    治も進行を止めることもできません。「がん幹細胞仮説」は現在も議論の最中ではありますが、多くの研究者や医療者が納得しつつある有望な仮説です。新しい統合医療と混合診療の壁―がん幹細胞仮説が新しい常識になると、進行がんには抗がん剤という従来のがん治療の常識も見直す必要がありますか。白川 そう思います。なぜなら、がん幹細胞には抗がん剤が効きにくいからです。抗がん剤を投与すると、がん細胞は次々と死んでいきます。一見、がん細胞がなくなったように見えますが、女王蜂のがん幹細胞はしっかりと生き残っている。 なぜがん幹細胞が生き残れるのかというと、体内の臓器や組織でがん細胞が集まって塊をつくる固形がんの場合、一般のがん細胞たちががん幹細胞を取り囲むように防波堤をつくって守っているから。死ぬのは働き蜂ばかりで、鎧の中にいる女王蜂までは攻撃が届かないのです。 半面、白血病や悪性リンパ腫といった血液のがんは、ばらばらのがん細胞がうようよと浮いている状態。女王蜂だろうと働き蜂だろうと関係なく抗がん剤の攻撃を浴び、次々と死んでいく。だから血液のがんには抗がん剤が効きやすいのです。 したがって、固形がんに有効な抗がん剤治療をしようとすれば、働き蜂の鎧をすべてどけるか、鎧の中にかいくぐって攻撃するかのどちらかしかありません。しかし、働き蜂を全滅させるほど高濃度の抗がん剤を投与すれば、がんが全滅する前に患者さん自身が死んでしまいます。働き蜂のブロックをかわしてがん幹細胞を叩く方法すら、まだ見つかっていないのです。こうした現状では、たとえ水溶性と脂溶性の問題をクリアした抗がん剤が開発されても、本当にリンパ管の中のがん幹細胞に効くか疑問です。―時に正しい情報より政治的・経済的判断で動くWHO(世界保健機関)が、抗がん剤禁止令を出したという話は本当ですか。白川 2014年5月に「抗がん剤治療は中止すべき」という趣旨の勧告をホームページに出したのは事実です。WHO内の化学療法審議会が議論の末、「ほとんどの抗がん剤は固形がんには無効である」との結論に達し、その内容をまとめたレポートをWHOのホームページに掲載したのです。本来なら社会的に議論されるべきレポートですが、日本ではあまり知られていません。なぜならホームページに掲載されたのは半日だけ。世界中のニュースサイトでトップニュースとして紹介されたものの、日本時間では夜中に掲載され、朝にはもう姿を消していたからです。おそらく掲載が化学療法審議会の独断だったのでしょう。内外からの反響の大きさに慌てて引っ込めたのか、真相は藪の中ですが、WHOが禁止令を出しても不思議ではない状況になっているのは確かです。新しい統合医療と混合診療の壁――白川先生のクリニックでは、リンパ管の中に確実に届き、なおかつ女王蜂のがん幹細胞まで叩ける治療法を実践されているということですね。具体的にはどのような治療をしているのですか。白川 「遺伝子治療」「温熱治療」「免疫治療」と、サプリメントを取り入れた「栄養療法」を加えた4つを組み合わせた統合医療を実践し、実際に効果を上げています。 まず、無限に分裂するがん細胞の動きを止めるための遺伝子をリンパ管の中に送り込む「遺伝子治療」を行ないます。次に、40度を超える高温に弱い性質を利用して、リンパ管の中に潜むがん細胞を直接叩くために、強力な遠赤外線を当てて体全体を温める「温熱治療」を施す。そして体内から取り出したがん細胞と闘う免疫細胞のNK細胞を、機能を強化したうえで再び体内に戻し、攻撃型T細胞では対応できないがん細胞への攻撃力を高める「免疫治療」を行ないます。 さらに、サプリメントを取り入れた「栄養療法」で全身状態を改善することで、1+1+1+1=4ではなく、時にそれ以上の相乗効果を得られる新しいがん治療です。この治療法と合わせて、病状をモニターするため適宜血液中のがん遺伝子を測定しています。自由診療ですから治療費は全額患者負担です。―治療の成果を教えてください。白川 これまで私は500人の患者を診てきました。そのほとんどがステージ4の末期がん患者の方ですが、治療有効率(3年生存率)を約60%にまで伸ばすことができました。国立がんセンターや大学病院といった権威ある拠点病院におけるステージ3、4の治療成績と比べて、治療有効率の高さは明らかです。臨床数が少ないとはいえ、進行・末期がん治療における大きな進歩といえる成果だと思います。がん発生の仕組みをがん予防に生かす―3大治療、とくに抗がん剤治療の行き詰まりをかなりの研究者や医療者が感じている。にもかかわらず、治療現場の多くで3大治療を組み合わせる標準治療が選択されているのはなぜですか。白川 理由はいろいろ考えられます。世の中に3大治療以外の治療法は山ほどありますが、ありすぎてどれが効く/効かないの判断ができない。ましてや一人ひとり違う患者に合う治療法を選ぶなどとてもできません。とくに大学病院などの大きな病院ほど保身からマニュアル診療優先の傾向が強い。ガイドラインに則った治療をしていれば、結果はどうあろうと医療者と病院側の責任を問われることがないからです。 制度上は、混合診療という大きな壁があります。医師個人がその患者に保険適用外の治療法がベターだと確信していたとしても、保険診療を順守する病院の方針に反して混合診療を選ぶことは事実上不可能です。この壁は大きいと思います。―医療行政のほうから新たな動きはありませんか。白川 免疫治療が第4の治療として保険適用されるという話は耳に入ってきます。どの大学病院でも治験と称して始めていますし、2011年のノーベル生理医学賞は免疫療法の一種である「樹状細胞の役割」を解明したスタインマン博士らが受賞しました。世界の権威が認めた治療法として、いずれ現実にそうなるだろうと思います。ただ、混合診療を認めないまま、高額の免疫治療を保険適用する方針のようですから、何かの治療を保険から外さないと、医療費の増加に歯止めがかかりません。混合診療の解禁以外に妙案があるとは思えないのですが。がん発生の仕組みをがん予防に生かす―日本人のがん死亡者数は年間約36万人(2013年、国立がん研究センター調べ)で、いまや男性の2人に1人、女性の3人に1人が生涯のうちに何らかのがんにかかると推察されています。「国民病」ともいえる「がん」との付き合い方、予防に関する考え、行動も最新の知見に基づいて変える必要があるのでしょうか。白川 そうです。がんの新常識を身に付け、予防や再発防止に役立て健康寿命を延ばす。そのためにはまず、がん発生の仕組みを知ることが重要です。じつは健康な人でも、体内では毎日3000~5000個の「がん細胞の元」が生まれています。人の体内では約60兆個の細胞が日々、細胞分裂を繰り返しているのですが、その際に紫外線や放射線、食品などに含まれる化学物質、ウイルス、ストレス、活性酸素などの「発がん因子」によって細胞の遺伝子が傷つけられ、コピーミスが生じるためです。 ただ、この段階はまだがん細胞ではなく、「発がん遺伝子」が作動した、正常な細胞から変異した異形成の細胞にすぎません。人の体内には、がん細胞の分裂を止める「がん抑制遺伝子」があり、発がん遺伝子を正常な遺伝子に修復してくれます。つまり、異形細胞の段階であれば、まだ正常細胞に戻れます。食事や生活習慣の変化など、何らかの要因で正常細胞に戻ることがよくあります。―傷ついた遺伝子を自動的に修復する機能が備わっているわけですね。白川 その一方で、体内にはがん抑制遺伝子の働きを邪魔したり、異形細胞の分裂を応援する「発がん促進因子」も多数存在しているのです。血液や体液中にある活性酸素、過酸化脂質、化学物質、有害毒素などがその代表です。発がん促進因子のせいで、がん抑制遺伝子の働きが邪魔されると、遺伝子が変異したままの形で増殖を始め、分裂して新しく生まれる細胞に引き継がれます。ここまで来ると立派ながん細胞です。―体内にはまだがん細胞を取り締まる「免疫細胞」という警察組織があります。白川 免疫細胞には、がん細胞という異物を察知して食べてくれる「マクロファージ」、異常な細胞を見つけて攻撃を仕掛ける「攻撃型T細胞」、体内をパトロールして異常な細胞を見つけて殺す「NK(ナチュラルキラー)細胞」などがある。そして体内では、毎日新たに生まれる異形細胞やがん細胞と、5000勝無敗の闘いが繰り返されます。 しかしあるとき、たった1つのがん細胞が「違法改造車」と見破られない外見をもち、免疫細胞をだますことに成功するのです。1度、取り締まりを擦り抜けると、体の中で大幅な「法改正」が行なわれないかぎり、基本的には2度と免疫細胞に退治されることがないので、5~20年の時間をかけて1㎝のがんへと成長していきます。この1㎝のがんが、倍の2㎝、さらに倍の4㎝に成長するまでの期間はおよそ数カ月です。増殖して大きくなったがんは原発巣を離れ、リンパ管などを通じて体内の別の臓器や組織へ転移していく。転移した進行がんに標準治療が効きにくい理由はすでに説明したとおりです。受動喫煙の発がんリスクは信憑性に欠ける受動喫煙の発がんリスクは信憑性に欠ける―がんの発生過程を聞くと、生活習慣・環境のすべてに原因があることがよくわかります。これまでたばこや飲酒が発がん要因としてやり玉に挙げられてきましたが、その常識も非常識になりつつあるのでしょうか。白川 人間の体の多様性を考慮しない20世紀医療の常識は、21世紀のオーダーメイド医療に沿った新常識に書き換えられていくと思います。人によっては、たばこや飲酒が発がん因子、発がん促進因子になりうるのは確か。ただ、飲酒・喫煙習慣をもちながら60歳まで大過なく過ごせたということは、その人が「酒・たばこの習慣があってもDNAの修復能力が高く、がんになりにくい遺伝子」をもっている可能性が高い。いまから禁酒禁煙したところで、我慢することで生じるストレスのほうがよほど免疫力を低下させ、かえって健康には悪影響。逆に「酒・たばこに影響されやすい遺伝子」をもつ人もいる。そういう人は、きちんと調べて治療しなければなりません。 受動喫煙の発がんリスクについては、検証不能な「平山論文」の非科学性と合わせて、喫煙リスク以上に信憑性に欠けるというのが正直なところです。受動喫煙を避ける権利と喫煙する権利は同等だと思っているので、分煙で棲み分ければ問題ないでしょう。―喫煙率が下がり、受動喫煙の機会も激減しました。それでも肺がんはもちろん、他のがんの発生数も一向に減りません。日本人の健康における課題は何だと考えていますか。白川 最近の疫学調査で、食事が発がんの最大素因であることがわかってきました。食品・水や食品添加物のなかに発がん因子があり、調理の過程で発がん物質が発生し、摂取後の体内で発がん物質が産生されることがあります。 また、発がんを抑制する栄養が欠如した食事、体を冷やし免疫力を低下させる食事を続けていたり、発がん因子の化学物質を含む農薬、肥料、飼料を使った食品を日常的に口にしている。日本人の大半が、そうした食事と無縁ではないはずです。 国立がん研究センターが発表した「2015年の部位別予測罹患数」では、ついに大腸がんが発生数の1位と予測されました。食生活の欧米化が、欧米人より長めの腸でゆっくり消化する日本人の体質に合わず、大腸がんの増加につながったのです。―和食中心の食生活への変更を勧めたり、長年の食生活で変更が難しい人には代替案を提案する必要がありますね。医師にそこまでの知見・指導力があるのですか。白川 日本の医学に栄養学はないので、知識のない医師には指導できません。このことが日本人の健康を守るうえで最大の障害になるのではと危惧しています。がん治療や予防で求められるのは「分子栄養学」で、食品やサプリメントを受け入れる人の治療・予防に必要な栄養や働きを分子レベルで考える学問のこと。 サプリメントや機能性食品が抗がん剤に取って代わるであろう、これからの健康常識に不可欠な知見なんです。 知識をもっているのは農学系統の学者ですが、彼らは患者に直接接して指導できない。病院の栄養士は、医者の処方に従って食事をつくっている。患者は結局、医師に聞くしかありませんが、その医師には知識がない。長年、放置されている構造的な問題です。―今後の問題どころか、いまの医療現場で顕在化している問題なのですね。白川 たとえば、がん患者や食の細い老人に対して、玄米など菜食中心の食事、消化のよいお粥を出す医師は新常識がない可能性が高い。粗食や炭水化物のお粥ではタンパク質の摂取量が減ってしまうからです。免疫系を活発に動かすには必須アミノ酸が不可欠なのですが、良質なタンパク質からつくられます。必須アミノ酸が足りないと、体内の抵抗力が落ち、逆に身体を弱らせてしまうことがある。免疫力が落ちたり食べられない人こそ、効率的にタンパク質、それも吸収のよいオリゴペプチドを摂取すべきなのです。 具体的な食材を挙げれば、卵とシジミ。古い常識ではコレステロール値を高める卵は、病人食・老人食に相応しくないと蛇蠍のごとく嫌われる食材です。ところが、アメリカの疫学調査でコレステロール値が上がっても、死亡率は上がらないことが判明しました。―タンパク質を取るのが常識の時代が来て、最近は植物性脂肪か動物性脂肪かが議論されていると聞きました。白川 そうなんです。ここ3、40年間は、マーガリンなど植物性の不飽和脂肪酸が体によくて、バターの動物性飽和脂肪酸は体に悪いとされてきました。いまになってじつは、不飽和脂肪酸の食べ物がいいと結論付けた数十年前のデータ解析が正確ではなかった。そういう話になりつつあるのです。しかも植物性の不飽和脂肪酸は過酸化脂質ができやすいから、むしろ体に悪い。マーガリンよりもバターの時代が訪れようとしています。食事を改革するしかない食事を改革するしかない―新しい時代の常識に対応した医療を実践して成果を上げている国はありますか。白川 アメリカです。栄養学のエキスパートが医師と同等の発言権をもって、同じ医療チームのメンバーとして活躍しています。アメリカはかつて、世界で最も抗がん剤を使っていた国ですよ。ただ、当時から抗がん剤治療以外の、栄養学に基づく治療を実践するグループが多かった。彼らの知見と医学界の知見が統合され、脱抗がん剤の動きが始まります。米国がん協会では毎年、がんの死亡者数を公表しています。同協会の報告書によると、がんの死亡率は1990年代に低下に転じ、2003年にはがんの死亡者数が1930年以来初めて減少したと報告しています。その後も、アメリカのがん死亡者数は右肩下がりに減少しつづけているのです。―1990年前後に国内で生活習慣の大きな変化があったのでしょうか。白川 肥満の富裕層が、余命を考えて「早死にしたくなければ食事を改革するしかない」と考えたようです。ビジネスエリートたちのあいだで、太った人は自己管理ができない。ビジネスマン失格だという価値観が出てきたのも、同じ時期だったと思います。いまはヘルシーな食事と体内に溜まった有毒物質を体外へ排出する断食のファスティング。この2つがブームです。 多くの日本人は知らない事実ですが、1人当たりの1日の野菜摂取量は、アメリカのほうが日本より多いんですよ。農林水産省が平成25年に発表した「野菜の消費をめぐる状況について」によると、2009年度の日本人1人1年当たりの野菜摂取量は102㎏(1日平均約280g)に対して、アメリカ人は123㎏(1日平均約340g)です。医学部に栄養学を―日本人としては衝撃的な事実ですね。国内ではそうした動きはないのでしょうか。白川 女性のほうは敏感に察知して、毎朝、野菜スムージーや酵素ジュースを飲んだりしていますよ(笑)。栄養学の知識が医師より詳しい人がゴマンといます。ところが、中年男性は白いパンにマーガリンを塗りたくった朝食に、昼食は牛丼、夜はストレス発散と称して居酒屋で1杯やっている。健康になるはずがありません。―日本の国を活気づけ、健康な国にするには、中年男性の栄養をどう改善していくかがカギということですね。白川 日本人の今後の平均寿命・健康寿命を左右する大問題ですから、早急に医学部に栄養学の授業、講座を取り戻す。それが無理なら、医師の生涯教育として栄養学の講習を設けて、その単位を取らないとがんの専門医として認定しない。ある程度の強制力をもたせるかたちで導入しないと、手遅れになってしまいます。―最後に、口に入るものとして空気はどうですか。白川 空気の問題も大きいですね。空気は個人でコントロールできないから、それこそ国家管理の問題です。中国の大気汚染、とくにPM2・5の問題は、黄砂と一緒に飛んでくる日本にとっても深刻で、たばこのリスクよりもはるかに心配すべきです。政府として中国に規制を求めてしかるべきでしょう。 また、たばこと関連した簡単な計算問題ですが、仮に肺活量が3リットルあったとしましょう。そのうち空気の出入りで使うのは2リットルぐらい。1分間の呼吸数が十数回として、毎分30リットルの出入り。1時間に1800リットル、24時間なら数万、年間では数百万リットルの出入りです。そのなかに、自動車や工場などの排ガスに含まれる有害物質やPM2・5のような粒がどれだけ入っているか、見当もつきません。その数百万リットルの空気の出入りのなかで、たばこ由来のものが屋外・屋内の喫煙が規制された日本で、どの程度の割合を占めるのでしょう。おそらく微々たるものです。 発がんリスクをいうのであれば、せめて数値的な確率を基に算出すべきで、現在のたばこの疫学調査などはとても科学的な水準に達していません。遺伝も体質も考慮なしに患者を断定するのはそれこそリスクが高い、といわざるをえません。(取材/構成 清水 泰<フリーライター>)関連記事■ 先端医療? 先進医療? 標準治療? 東大病院を辞めたから言える「がん」の話■ がんビジネスへの警鐘~川島なお美さんの闘病手記『カーテンコール』で明らかになったこと■ 「いざ!」というとき後悔しない「病院選び」のポイント

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    がん治療 先端、先進という「キラキラワード」にだまされるな

    ん」の話』より)がんの正しい治療を選ぶための基礎知識 がん保険商品の説明などでしばしば目にする「先端医療」や「先進医療」という言葉の意味について、みなさんはどれほど正確に理解されているでしょうか。「先端」や「先進」という言葉のもつ響きや、保険の効かない高額治療であるということから、何やらミラクルを引き起こす「ハイグレード治療」というイメージが誤って蔓延しているようです。 そこで、「正しい治療とは何か」という点について、一般の読者の方でも最低限知っておくべき(にもかかわらず、あまりにも知られていない)基礎知識について解説していきます。 冒頭に挙げた「先端医療」「先進医療」の説明の前に、まずは保険診療枠で行われている「標準治療」の定義について考えていきましょう。「標準治療」という名の最善治療 「標準治療」の意味をまだまだ誤解している方が多いようです。じつは、車の「標準」装備などといった言葉で使用されるような「平均、普通レベル」という意味では決してありません。例えば、スティーブ・ジョブズ氏ですらも、膵臓由来の悪性腫瘍(正式には膵内分泌腫瘍)の治療においては、当初は様々な民間療法に陶酔してしまったようなのですが、病気の悪化にともなって結果的には「標準治療」のもとに戻ってきたそうです。 すなわち、「標準治療」とは「世界中どこの先進国であっても通用する、推奨レベルのもっとも高い治療」のことを指します。安全で有効性が確認されているベストな治療であるからこそ、誰も知らない秘密のものにしておく必要はありません。世に広く標準化されることで、同じ病気を抱える世界中の患者さんに等しく恩恵を与えることが期待される、いわば「最善治療」のことを指すのです。 ただし、「標準治療」とはいっても、例えば米国ではこの標準治療を受けるだけで、非常に高額な治療費が請求されるのです。経済的な理由のために、受けたくても「標準治療」を受けることができない患者さんは、じつはたくさんいらっしゃいます。高額な治療費用が「副作用」のひとつとして考えられているくらいです。 しかし、日本では国民皆保険制度で保障されている「高額療養費」の申請によって、一定の自己負担金しか支払わなくても、みなが等しくそれを受けることができます。そのせいなのか、「標準治療」の本来の価値が正当に評価されていないようにもみえます。 ある意味、当たり前に享受できる治療になっているために、「先端医療」や「先進医療」といった何かキラキラしたイメージに心惹かれてしまう人間の性のようなものがあるのかもしれません。先端医療、先進医療という「キラキラワード」が招く誤解先端医療、先進医療という「キラキラワード」が招く誤解 「先端、先進というからには、厚生労働省がお墨付きを与えた高級治療ではないのか」こういったイメージを抱いている人が意外と多いことに驚きます。それは大きな誤解であることを以下で説明していきましょう。 まず「先端医療」とは、勝手につけられたキャッチコピーのようなものです。医学的にも行政的にも意味をもたない、私的な造語にすぎません。例えば、巷のクリニックレベルで行われている免疫療法や、大学病院で薦められる研究治療などのほとんどがこれに当てはまります。「安全で有効」という患者さんの利益よりもお金儲けや研究者の業績としてしか考えられていない場合がほとんどなので、それらを選択する際には、いくら自己責任とはいえ十分な注意が必要でしょう。 一方で「先進医療」は、一応は行政上でも認められている用語です。これは保険診療との併用が認められているものの、現段階ではまだまだ「安全で有効」であることが十分に確立されていない暫定的な治療のことを指します。それらの中には、確かに将来的に有望な「標準治療」になるものも出てくるかもしれません。しかしその反面、効果がないものも含まれていることでしょう。たとえるならば、プロ入りが期待されている有望なアマチュア選手のような段階です。本当にプロになれるのか、臨床試験というテストで試されている最中のものがほとんどなのです。ところが、すでに確立された立派な高級治療のごとくメディアなどを介して盛んに取り上げられることが少なくありません。基本的には保険診療枠で実施されている「標準治療」に勝る治療ではないにもかかわらず、です。 例えば、2012年に、「NHKスペシャル」で、こうした報道がありました。まだ臨床試験の最中であったにもかかわらず、膵臓がん患者への「がんペプチドカクテルワクチン」があたかも「夢の治療薬」のごとく大手を振って放送されたのです。ところが、このワクチン治療がその後どうなったかといいますと、第三者機関が行った中間解析の結果、主要評価項目であった全生存期間(寿命)の有意な延長が達成される可能性が低いことがわかり、この試験は早期に中止となりました。要するに、効果がなくてテストで失格とされてしまったのです。 しかし、当時放映された番組内では、このがんワクチンが劇的に効果を示したとされる個別ケースが、誇大に強調されていたのです。このように目新しいものだからという理由で、テストの結果も出ていないうちから過度の期待を寄せるのは注意したほうがよい、ということです。「高額=レベルの高い治療」という大いなる勘違い「高額=レベルの高い治療」という大いなる勘違い そもそも、このような報道バイアスは、本来は高額である「標準治療」が、日本では特別安価で当たり前のように受けることができる「慣れ」に対する反動から発生しているともいえるでしょう。高いお金を支払うのだから、先端や先進のようなキラキラした冠がついていればきっとレベルの高い治療なのだろうと思われることは、人情としてよく理解できます。 しかし実態は、海のモノか山のモノかもわからないような商品がたくさん紛れ込んでいる、ということです。 今や、そのような冠のついた詐欺まがい治療を扱うクリニックの開設が全国何百カ所も相次いでいるそうです。これは、世界中の先進国を見渡してもこの国ならではの「医学(サイエンス)を理解できない」恥ずべき特異現象だといえます。しかしそうはいっても、それだけの需要があるからこそ成り立っているわけです。もしかしたら、行政が厳格に取り締まりのできない何かウラでもあるのでは、とも勘ぐりたくもなってしまいます。本当に切らずに治せるのか?「粒子線治療」 ここで、耳にしたことがある方が多いであろう「重粒子線」または「陽子線」治療という先進医療についても、少し言及してみます。 現在の放射線治療は昔のものと明らかに様変わりしました。放射線治療装置やコンピューター技術の革新にともなって、その学問は確実に進歩しているのは本当です。治療する標的周囲にある臓器への放射線障害をなるべく減らしながら、がん病巣だけにできるだけ的を絞ってピンポイント照射できる技術力などもそうです。前立腺がんや、頭頸部がん、脳腫瘍などには過去には難しかった恩恵が受けられるようになっています。そのような中、放射線とは異なるエネルギーをもった重粒子や陽子を用いた治療が「先進医療」として位置づけられ、多くの国民の関心が、体にストレスを与えないハイテク治療に向いているのは確かでしょう。 しかし、従来の放射線治療を凌駕することを示した検証データはまだどこにも存在していません。まだまだ臨床研究段階レベルのいわばテスト最中の治療であり、対象を明確にして慎重な取扱いとするべきなのです。ところが、この「先進医療」を実施する装置がいたるところに設置され、各生命保険会社が、それら「先進医療」などもカバーできる保険商品を盛んに売り出していることも相まってか、まるで「万能治療」のような目に余る宣伝が見受けられることが少なくありません。 これらは、あくまでも従来の放射線治療枠の代替という位置づけであるにもかかわらず、本来のあるべき標準治療体系までも覆すような「切らずに治す」というメッセージを平気で言い切ってしまうことは大きな問題です。そのような実態以上の宣伝が社会に向けて大々的に発信され、そこに「先進医療」という何やら立派な冠がついているがゆえに、100万円を超えるような高額な自己負担であっても、すんなり受け入れてしまうのです。「切らずに治す」という甘言と不誠実「切らずに治す」という甘言と不誠実 現状、治すことを目指した治療として本当に「切らずに」済む可能性があるかどうかを具体的に議論してよいがんは、転移性肝がん、前立腺がん、脳腫瘍、肉腫などといった限られた疾患の、限られた状況に対してです。 「切らずに治す」という主張を言い切る人たちは、その無責任さゆえに患者さんを最善の治療に導いていないリスクを与えていることを、強く自覚するべきでしょう。治るという確認作業は治療後の長期に及ぶ経過観察(アフターケア)が大前提です。日本放射線腫瘍学会による「粒子線治療施設等のあり方に関する声明」においても、「粒子線治療を行った国内患者は、すべて症例登録が行われ、当該病院、連携医療施設にて適切に経過観察されるべきである」と言及されています。 「がん」という病気は、一時のパフォーマンスの成功のみで治癒が得られる保証などどこにも存在していません。多くの放射線科医たちは患者さんの死の場面に立ち会うことはなく、その転帰(生死)についてはカルテや診療録などをのぞいて、後から結果を知るだけのことがほとんどでしょう。患者さんはどのような再発をして最期をどのようにして迎えたのかについてまで丁寧にアフターケアしない者に、治療の本当の意義などわかるはずがありません。患者さんの前では調子いいことはいくらでもいえるのでしょうが……。 誤解しないでいただきたいのですが、私は別にすべての放射線科医を悪くいっているのではなく、仕事の領分の違いを述べているだけです。進歩した放射線治療学を理性的に普及させようとする、素晴らしい専門医もたくさん知っているのですが、先進医療がまるで「魔法の杖」であるかのように語る放射線科医は、一体どのようなインフォームド・コンセントを患者さんとの間で交わしているのでしょうか。粒子線治療が格下げになる? 最後に、2015年8月8日付の「読売新聞」「毎日新聞」が報じたニュースによると、重粒子や陽子を用いた粒子線治療について、日本放射線腫瘍学会が「前立腺がんなど一部では、既存の治療法との比較で優位性を示すデータを集められなかった」とする報告書を厚生労働省に提出したようです。後ほどデータの詳細なども明らかになるでしょう。このような現状では、先進医療といったキラキラとした冠が付されていても、高額であることを加味すると標準治療に取って代わることは難しいわけです。場合によっては格下げ治療となることも考えられるでしょう。しかし、検証結果がまだ出ていないうちに、各地域で多くの粒子線治療装置施設の建設ラッシュがすでに見切り発進されていると聞きます。今後、この治療に対してどのような評価が行政として下されるのでしょうか。節度ある理性的な対応を期待したいところです。おおば・まさる 東京オンコロジークリニック院長。1972年、石川県生まれ。外科医、腫瘍内科医。医学博士。金沢大学医学部卒業後、がん研有明病院等を経て東京大学医学部附属病院肝胆膵外科助教。外科医と腫瘍内科医の両方の専門性を有するがん治療専門医。2015年に退職し、セカンドオピニオンやがん相談を主とした「東京オンコロジークリニック」を開設。著書に『がんと著書に『がんとの賢い闘い方「近藤誠理論」徹底批判』(新潮新書)がある。関連記事■ がん治療に携わる医師の「説明責任」~近藤誠氏の川島なお美さん記事に思うこと■ がんビジネスへの警鐘~川島なお美さんの闘病手記『カーテンコール』で明らかになったこと■ 「いざ!」というとき後悔しない「病院選び」のポイント■ がんと健康の常識、非常識〜抗がん剤では「がん幹細胞」は殺せない!?■ やせたい人は、今夜もビールを飲みなさい―メタボが気になる方に朗報!

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    エセ医学が蔓延する「がんビジネス」 川島なお美が鳴らした警鐘

    い方向性を示してあげることも大切だと思われます。 ひとりでも多くの患者さんが、納得し安心をして最善の医療を受けられることを心から願うばかりです。おおば・まさる 東京オンコロジークリニック院長。1972年、石川県生まれ。外科医、腫瘍内科医。医学博士。金沢大学医学部卒業後、がん研有明病院等を経て東京大学医学部附属病院肝胆膵外科助教。外科医と腫瘍内科医の両方の専門性を有するがん治療専門医。2015年に退職し、セカンドオピニオンやがん相談を主とした「東京オンコロジークリニック」を開設。著書に『がんと著書に『がんとの賢い闘い方「近藤誠理論」徹底批判』(新潮新書)がある。関連記事■ 先端医療? 先進医療? 標準治療? 東大病院を辞めたから言える「がん」の話■ がん治療に携わる医師の「説明責任」~近藤誠氏の川島なお美さん記事に思うこと■ 手術支援ロボット「ダビンチ」が拓く未来■ ストレスに強くなり、胃が元気になる生活習慣■ やせたい人は、今夜もビールを飲みなさい―メタボが気になる方に朗報!

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    近年の乳がん治療 全摘出乳房再建が主流で精神的苦痛も減少

     現在、日本女性の12人に1人がなるという乳がん。その乳がんが見つかった場合、どんな治療を受けるのか。他人事ではない、乳がん治療について紹介する。 乳がんのタイプや病状に応じて、手術、放射線治療、抗がん剤治療などがある。女性ホルモンが影響しているタイプのがんでは、乳がん細胞に対する女性ホルモンの作用をブロックするホルモン治療を5~10年間行って再発を防止するなど、治療法はさまざまだ。濱岡ブレストクリニックの濱岡剛院長はこう語る。「早期でしこりが小さい場合は、乳房を部分切除して温存するケースが多いです。温存した場合は、術後に放射線治療をすることが多く、がんのタイプによっては手術前後に抗がん剤治療も併用します」 手術をするにあたって、決断を迫られるのが、乳房の「部分切除」か「全摘出」かだ。2007年に乳がんに罹ったアグネス・チャン(60才)は部分切除し、2012年に乳がんだと診断された麻木久仁子(53才)は乳頭を温存して、左右両乳房を部分摘出した。 北斗晶(48才)の場合は全摘手術をしたが、全摘出でも不安になることはない。昔は全摘出といえば乳頭を含めてすべて切除するので、傷跡は残り、文字通り“乳房がなくなって”いた。女性には抵抗がある手術のため、可能な限り部分切除をして乳房を温存するのがこれまでの主流だった。しかし、近年では全摘出乳房再建が主流になりつつある。「近年、乳房再建技術が格段に進歩し、乳房の皮膚や乳頭といった外側はそのまま残し、内側を全て切除すると同時に人工パックに入れ替えて再建することができるようになりました。1回の手術で初期の再建まで行うので、精神的なダメージも少なく、外見からは傷がほとんどわかりません。 乳腺は全部切除するので乳房内再発の可能性も極めて低くなります。乳房を温存するときは放射線治療が必要ですが、すべて摘出した上で再建すれば、それも必要ない場合もあります。なおかつ、2014年から乳房再建手術は自費負担ではなく、保険適用になりました」(濱岡院長) 乳房の再建は、摘出手術と同時に行うことも、時間をおいてから行うこともできる。治療に際して不安なのは、副作用だろう。北斗も抗がん剤の影響で微熱や吐き気の症状が出たことや、わきに転移していた腫瘍を取った影響で右腕のリハビリが必要なことを告白している。関連記事■ 「女性の出産率が低下し乳がん発症率が高まった」と南雲医師■ 乳がん診断後の乳房再建手術が少数派である理由を医師解説■ 「命とるか、乳房とるか」だった乳がん 今では綺麗に残せる■ 乳がん手術 全摘と同時再建を保険適用で選択する患者が増加■ がん治療費 乳がんは5年92万円、肺がんは2年45万円のケース

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    末期がんの僧侶「余命幾ばくもない患者救えるのは宗教だけ」

    ん患者のケースでは、担当医が本人にがんを告知せず、必ず治ると嘘をついていて、その嘘がバレ、患者さんは医療不信に陥った。そして、「毎週、新しい信者を5人連れてきて、一人2万円ずつ払わせれば、病気を治してやる」というインチキ宗教に騙され、家族は多額の借金を負ってしまったという不幸な例もありました。 不治のがん患者がこうしたインチキに騙されて、すがってしまうのは、日本の医療現場に「スピリチュアル・ケアワーカー」がいないことが原因の一つです。スピリチュアル・ケアワーカーとは、患者さんや医療従事者の「いのちの苦」のケアをする専門職です。 欧米では一般にキリスト教の聖職者がなります。スピリチュアル・ケアワーカーの原則は、「患者本人の生き方を尊重すること」「自分の宗教を押しつけないこと」「あらゆる宗教に対応すること」です。 キリスト教の聖職者であっても、キリスト教の教えを押しつけるのは禁じられています。「傾聴」といいますが、あくまで患者さんの話をじっくり聞いてあげて、どんな人生であっても、自分の人生には価値があったと感じてもらう。そして、自分の人生という物語を完結させるのをお手伝いするのです。 私はローマ教皇庁医療国際会議にこれまで4回招待されましたが、そこで聞いた話では、バチカンの大学ではスピリチュアル・ケアワーカーを養成する講座があり、哲学2年、神学4年、医療2年の計8年もかけて学んで資格を取るそうです。 スピリチュアル・ケアワーカーは別に宗教者でなくてもなれますが、死生観を問われるので、西洋ではキリスト教の聖職者が多く、日本では仏教の聖職者がなるのが適当だと思います。 日本でも、高野山大学や龍谷大学など仏教系の大学等で、スピリチュアルケアを担当する「臨床宗教師」や「臨床仏教師」の養成が行なわれています。 当院で臨床仏教実習生が担当していたある患者さんは症状が進んで話ができなくなっていて、筆談になりました。「あなたの考えは浅い」と厳しいことも書かれましたが、何時間も対話して、最後は「また来てください」とお書きになった。 僧衣で病院をうろつかれると、他の患者さんがギョッとすると思うかもしれませんが、意外とそうでもない。違和感があるなら制服を作ればいいのです。ローマの病院のスピリチュアル・ケアワーカーは、白衣を着て仕事をしていました。 世界医師会の「患者の権利宣言(リスボン宣言)」には、「患者は、患者自身が選んだ宗教の聖職者による支援を含めて、宗教的および倫理的慰安を受ける権利を有す」とあります。患者さんにとっては宗教者の支援を受けることは、当たり前の権利なのです。 日本の医療はWHO(世界保健機関)から世界最高とのお墨付きをもらっていますが、唯一の欠陥は、医療現場に宗教者がいないことです。医療という「科学」ではどうにもならなくなった、余命幾ばくもない患者さんを救えるのは、「非科学」である宗教しかないと思います。 たとえ信仰のない人であっても、自分の命より大事なものがあるのなら、それがその人の「宗教」です。 私もそれに気づくことができたので、残されたわずかな時間を生きていけると思います。関連記事■ 書籍『「余命3カ月」のウソ』出版以降「余命4カ月」宣告も■ 説明もなく何種類もの薬を出す病院は信用して大丈夫なのか■ 患者多い総合病院 カネ払ったサクラ患者がいると看護師暴露■ 近年増加傾向にある乳がん患者受け入れ数トップ10病院発表■ 自覚症状なく治療困難な肺がん患者 受け入れ数トップ10病院

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    「すぐに手術していたら…」長尾和宏医師が川島なお美さんの闘病を解説

    だ治療方法について聞いた。 兵庫県尼崎市でクリニックを運営し、「町医者」という肩書に誇りを持って地域医療に従事する内科医で、さまざまなコラムでも全国的にファンを持つ長尾氏。がん専門家で独自理論を展開している近藤誠氏の治療法に疑問を呈した本「長尾先生、「近藤誠理論」のどこが間違っているのですか?」(ブックマン社)を夏に出版している。 長尾氏は、胆管がんについて「胆管とは肝臓で造られた胆汁を十二指腸に運ぶ管のことで、肝臓の中にある肝内胆管にがんができると、肝内胆管がんと呼び、胆管がんはかなり進行するまで症状が表れないため、早期発見が難しいがん」だという。長尾クリニック(兵庫県尼崎市)の長尾和宏院長 「早期発見には腹部エコーが有用であり、CTやMRIによる精密検査が行われる。進行すると、黄疸、腹痛、食欲不振などの症状が出る。原因としては、肝内胆管の結石、高脂肪食、印刷工場での職業歴が知られている。わが国の2013年の胆のう・胆管がん死亡数は男性約8900人および女性約9300人で、それぞれがん死亡者全体の4%および6%を占めている」 川島さんは「人間ドックで自覚症状が出る前に発見されたことは幸運だった」というが、「手術をためらい、手術までに6ケ月の間が開いたことはマイナスだったかもしれない」という。「少なくとも、発見されてすぐに手術をしていたら、経過が異なっていた可能性がある」と話す。 また川島さんは抗がん剤治療を行っていなかったが、「根治性を期待できる手術は受けて、手術後の抗がん剤も放射線治療も行わなかったという川島さんの選択は、とても良かった。実際、早期に仕事にも復帰もできていたようです。もし抗がん剤治療をしていれば、あれほど早く仕事に復帰できなかったことは、川島さんご本人が一番わかっていたはず。たとえ主治医から勧められても、彼女のように『抗がん剤はやらない』という選択はもちろんあります。そして報道から知る限りにおいて、抗がん剤をやっても結果はほぼ同じか、かえって寿命を縮めた可能性が高いはず。少なくとも、抗がん剤をやらなかったから再発して死に至ったわけではない」と語る。 ちなみにワインとがんの関係性については「一般的には、ワインはポリフェノールの作用でがんの発生には抑制的と考えられている。ただしアルコールは飲み過ぎると肝硬変や脂肪肝になるので危険。ワインと胆管がんの直接の関係は知られていないが、ワインのつまみとして食べるチーズやハムソーセージ類などの高脂肪食が、胆管がんに関係した可能性は充分ありえます。またもし川島さんが喫煙もされていたなら、リスクを高めた可能性はある」と話す。 そして最後に「川島さんは亡くなる直前まで、皆さんの前に姿を現し、仕事をしていたこと、一切弱音を吐かなかった点は、見事というか、あっぱれの一言だ。がんでも最期まで働けることを証明した初の芸能人ではないか」といい「その根底には『平穏死』の思想があったことに気がついて欲しい。平穏死の思想は老衰だけではなく、がんでもまったく同じ。本人、家族、そして医療スタッフとも『枯れていくことを待てた』ことで最期まで仕事を続けて、食事をして、笑顔でいられたのだと思う。川島さんのがんは、悪性度の高いがんであったのだろうが、手術後1年半も生きられたので、少なくとも手術が彼女の寿命を縮めた可能性は極めて少ない。なによりも、川島さんは自分のいいタイミングで、治療の『やめどき』を自己決定、何よりも前向きさをわれわれは見習うべきだと思う」と話していた。

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    川島なお美さん 手術遅かったとの指摘は間違いと近藤誠医師

     9月24日、川島なお美さんが胆管がんで54歳にして亡くなった。川島さんが胆管がんと診断されたのは昨年8月のことだが、その翌月に近藤誠医師のセカンドオピニオン外来を訪れていたことがわかった。 近藤誠医師といえば、手術も抗がん剤も患者にとって有害だとする「がん放置療法」で知られる。他臓器に転移しないがんを「がんもどき」と名づけ、治療せずに放っておいた方が長生きできるというのだ。 そんな近藤医師から川島さんはどんなセカンドオピニオンを受けたのだろうか。取材にあたり、近藤医師は患者のプライバシーに関わること、亡くなった人に対する守秘義務は生じないことを説明した上で、「話しておかなくてはならないことがある」と取材に応じてくれた。「テレビの報道を見ていると、もっと早く手術していればとか、抗がん剤治療を受けていれば助かったのに、という趣旨のコメントが目立ちます。これでは視聴者が誤った認識に誘導されてしまうと危惧を抱いています。川島さんのケースから明らかなことは、手術が遅かったことではなく、手術をしても救えなかったという事実です。なぜそこを誰も突っ込まないのでしょうか」 川島さんは一昨年の8月半ばに人間ドックのPET-CTで胆管がんを発見された。近藤医師のセカンドオピニオン外来にはCT画像などの検査データを持参していた。近藤医師のセカンドオピニオンはいかなるものだったのか。医師の近藤誠氏「その時点で症状は出ていなかったのですが、確かにがんだとわかりました。胆管がんは肝臓、膵臓などと並んで予後の悪いがんのひとつです。症状がなくても、いずれ転移が出てくる可能性が高い。 考えられる治療法は4つ。1、手術。2、ラジオ波焼灼術。3、放射線治療。4、様子を見る、です。川島さんはミュージカルの舞台を優先したいこと、そのためには今手術は受けられないこと、抗がん剤治療は体を傷めるので受けたくないことなど、はっきりした意志をお持ちでした。 ぼくは『ラジオ波なら手術をしないで済むし、1ショットで100%焼ける。体への負担も小さい。そのあと様子を見たらどうですか?』と提案しました。『手術しても十中八九、転移しますよ』ともお伝えしました。むしろ手術することで転移を早めてしまう可能性もあるからです」 セカンドオピニオンを受けて約4か月後の今年1月、川島さんは手術を受けた。しかし半年後の7月に再発。抗がん剤治療を拒否し、舞台に立ち続けた。そして9月、激やせした姿で記者会見を行った。川島さんの再発がどのようなものだったのか、施術した病院や医師からの発表はないが、近藤医師は再発の理由をこう分析する。「手術後わずか半年で再発したのは、やはり手術が原因だったのではないでしょうか。手術することでがん細胞が暴れ出し、再発が早まることはよくあります。また、転移先のがんの増殖を抑える物質が初発巣(初めにがんができた部位)から出ている可能性についても近年わかってきました。テレビに出てくる医者には、川島さんはもっと早く手術するべきだったと言う人がいますが、もっと早く手術していたら、もっと早く再発し、死期を早めていた可能性もあります」 もう1点、他の医師たちから疑問の声が上がった川島さんの“抗がん剤拒否”については、「賢明な選択だった」と近藤医師は言う。「医者からはかなり強く勧められたようですね。でも、もし手術後におきまりの抗がん剤治療を受けていたら、あのように舞台に立ち続けることはできなかった。抗がん剤を受けなかったからこそ、彼女は死の1週間前まで舞台に立ち、毅然とした態度で記者会見を行うことができたのです。実にあっぱれな生き方だったと思います」 最後に、川島さんも毎年受けていたという有名ブランド病院の人間ドックについて。「これだけは言っておきたい」と、近藤医師は警告する。「高級な人間ドックに行くと、最先端の検査機器がたくさんありますから、胆管がんのような見つけにくいがんも発見されます。川島さんの胆管がんも、ご本人がおっしゃっていたように早期発見でした。それでも治らないのですから、早期発見しても意味がない。早期発見するほど手術も早まるから、人間ドックでがんを見つけられると早死にすることもあるわけです。川島さんのケースも残念ながら、人間ドックの被害者と言えるかもしれません」◆近藤誠(こんどう・まこと):1948年生まれ。慶應義塾大学医学部放射線科講師を2014年3月に定年退職。「乳房温存療法」のパイオニアとして知られ、安易な手術、抗がん剤治療を批判。現在「近藤誠がん研究所・セカンドオピニオン外来」を運営。著書に『がんより怖いがん治療』、近著に倉田真由美氏との共著『先生、医者代減らすと寿命が延びるって本当ですか?』など。関連記事■ 書籍『「余命3カ月」のウソ』出版以降「余命4カ月」宣告も■ 中村勘三郎さん がん検診したことで死期が早まったとの意見も■ 「抗がん剤は使えば使うほど寿命が縮まります」と近藤誠医師■ がん放置療法の近藤誠医師 がん治療がいらない理由を語る■ 川島なお美 露出の多いワンピースで深刻な様子ナシと目撃談

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    誰が川島なお美の命を奪ったのか

    今年9月、胆管がんで急逝した女優の川島なお美さんは、抗がん剤による治療を最期まで拒んだ。54歳という早すぎる死に衝撃が広がったが、一方で医師が患者にがん放置療法を勧める「セカンドオピニオン」も物議を醸した。もし、がんと診断されたら、私たちはがんとどう向き合えばいいのか。

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    川島なお美さんの死から考える 「がんによる死」に向き合うこと

    る。 充実した生をおくるためにも、死から目をそむけず、死に向き合うことが必要なのではないだろうか。 医療者は、患者さんの死に方を知ることで、死に対する苦痛を和らげる方法の開発や、死を少し先に伸ばす治療法の開発をすることができる。 そして、医療者でない人も、死に方を知れば、死に対する漠然とした不安が和らぐのではないか。がんになったらもう終わりだ、と極論するのではなく、どのような経過をたどり死に至るのかを知ることで、それぞれの段階でできることを見極め、死に備えることができる。 もちろん、死に方を知ったとしても、自分という存在が消滅することに対する恐怖は減らないかもしれない。けれど、決して逃れることのできない死と付き合っていくためにも、「死に方の科学」が今求められている。(『Yahoo!ニュース個人』より2015年9月26日分を転載)えのき・えいすけ 病理専門医。1971年、横浜市生まれ。東大理学部生物学科動物学専攻卒業後、同大学院博士課程を中退し、神戸大医学部に学士編入学。兵庫県内の病院で病理医として勤務後、2011年近大医学部病理学教室講師。15年から同学部附属病院臨床研究センター講師を兼務。主な著書に『博士漂流時代』『医者ムラの真実』(以上、ディスカヴァー・トゥエンティワン)『嘘と絶望の生命科学』(文藝春秋)。

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    川島さんはもっと生きられたか 手術すべきか否かは運みたいなものだ

    池田清彦(生物学者) 川島なお美さんが、肝内胆管がんで亡くなった後、医師の近藤誠さんが文藝春秋にコメントを寄せた内容について、賛否両論の意見が飛び交っているようだ。近藤さんの話によると、川島さんはがんの診断を受けた1ヵ月後の2014年9月に近藤さんの「セカンドオピニオン外来」に来て、がんの治療について相談をしたという。その席で、川島さんは「10月から始まる稽古に備え、暫く様子を見ることにしたい」と言い、「そんな仕事優先の私は間違っていますか」と尋ねたようだ。川島さんは「切除手術も抗がん剤治療も受けたくないが、初発病巣だけは何とかしたい」と強く願っていたので、近藤さんは「ラジオ波焼灼術」を勧めたという。  然るに、川島さんは4ヵ月後の2015年1月に切除手術を受け、7月に再発、抗がん剤治療を拒否し、9月に亡くなった。近藤さんは手術を受けなければもっと長生きできたと主張し、抗がん剤治療を拒否したのは賢明で、抗がん剤を投与されていたら、死の直前まで舞台に立つことはできなかったろうと述べたのだ。 これに対し、何人かの医師から猛烈な非難が浴びせられた。抗がん剤が効かないという主張は間違っているとか、ラジオ波焼灼術は川島さんのがんに対しては良い治療法ではないとか、果ては、川島さんは亡くなっているとはいえ、個人情報を公表したのは医師の倫理に反するといったものまでいろいろあったわけだが、主要な論点は、診断してすぐに切除手術を受けたら助かっていたかも知れず、近藤医師のセカンドオピニオンにより手術をためらった結果、手遅れになったというものだ。まあ、医者の立場からすれば、がんの手術をする人がいなくなってしまうと、かなりの外科医は飯の食い上げになるので、手術をしてもらった方がありがたいし、抗がん剤も使ってもらったほうが儲かることは確かだけれどね。ともあれ、川島さんは一人しかいなかったわけで、様々な治療法の良し悪しを川島さん個人で比較することは原理的に不可能なので、何を主張しても所詮水掛け論であることは間違いない。 問題は、個々人によって最適な治療法は異なるのだけれど、何が最適かをあらかじめ知ることができない点にあるのだ。私見によれば、がんと診断されたものの相当数は近藤さんの言う所謂「がんもどき」であることは間違いない。近藤さんの著書を読むと、がんの治療を受けずに長生きしている事例がいくつも紹介されており、ウソでなければ、こういったがんは悪性度が低いのだろう。 私の狭い個人的な知見でも、がんと診断された後、病巣が大きくも小さくもならずに、10年以上元気な人や、がんと診断されて、手術を強く勧められたが、「いやだなあ」とためらっているうちにがんが消えてしまった人もいるので、がんと診断された病変の全てが、放置しておくと手遅れになって死に至るという言説だけは間違っていることは確かである。 医者のなかには「がんもどき」の存在を認めても、それは例外的なものだと主張する人もいるが、たとえば、がんと診断された10000人を放置したらどうなるのかといったデータは取りようがないので、「がんもどき」と本物のがんの割合は分からない。ただし、近藤さんは「がんもどき」は放置しておいても本物のがんにならないかのような口ぶりだが、これは同意しかねる。「がんもどき」が増殖途中の突然変異によって転移能力を獲得することは、可能性は低いかもしれないが、ありうると思う。 ごく初期の段階から転移能力を持っているがん、終生転移する能力がないがん、分裂して増殖していく途中で転移能力を獲得するがん(いつの段階で転移能力を獲得するかはケース・バイ・ケースであろう)の3タイプのがんがあるのだろう。手術に適応的ながんは最後のタイプのうち、まだ転移してなくていずれ転移する可能性があるものだけである。 問題は、現在の技術水準ではこれらのがんの違いを調べる方法がないことである。近藤さんは多くのタイプのがんは、最初のタイプか二番目のタイプで、最後のタイプのがんはほとんどないと考えているようである。この見解が正しければ、最初のタイプは手術しても手遅れで、二番目のがんは手術をしないほうがいいので、がんは放置しておいた方が、平均的な生存率は高いということになる。 確かに、多くのがんで、検診群と非検診群の死亡率に差がないことから考えて、近藤説はおおむね正しいのだろうが、手術をしたほうが正解だったがん患者がいることも間違いないと思われる。同じように、手術をしないほうが長生きできた人もいることもまた、間違いない。今の技術水準では「がんもどき」と本物のがんの区別ができない以上、どちらに賭けるかは運みたいなものだ。 手術を受けて再発も転移もせずに生き延びている人は、手術を受けてよかったと思うであろうし、手術を受けても旬日を経ずに死にそうな人(あるいは死んだ人の家族)は、手術などしなければ良かったと思うであろう。反対に、手術をせずに生き延びている人は、手術をしなくて本当に良かったと思うであろうし、手術を受けずに悪化して死にそうな人は、思い切って手術をすれば良かったと思うかもしれない。いずれ、「がんもどき」と本物のがんを見分けるマーカーが発見されると思うが、それまではどれが正解かは誰にも分からないのだ。現時点で、この問題に関しては、すべての人に当てはまる正解というものはない。 分かっていることは手術をしたり抗がん剤治療をしたりすれば、時間とお金がかかることと、治療を受けた患者さんは治るにせよ治らないにせよ、多少は苦しいことだ。そして更に確かなことは、何をしようといずれ人は死ぬことだ。 がんと診断された時、どんな治療を選択するか(あるいは治療をしないで様子を見るか)は、何人かの医者の意見を聞いて自分で決めるほかはないと思う。残念ながら、川島さんはがんの発見後1年1ヶ月で亡くなってしまったが、一般的に言って胆管がんは予後の悪いがんで、別の選択をすれば、もっと生きられたかどうかは誰にも分からない。最終的にご自身で決断されたようだから、それでよろしいのではないですか。

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    川島なお美さんが選んだ「がん治療」は間違っていなかった

     女優川島なお美さんが受けたがん医療のあり方が議論を呼んでいる。 彼女は人間ドックで肝内胆管癌と診断され、腹腔鏡手術を受けたが再発。その後、抗がん剤や放射線治療を受けず、ビタミンC大量投与や電磁波療法などの民間療法を受け、最終的に診断から二年後に亡くなった。大阪コレクションに金のドレスで登場した川島なお美さん=2008年7月16日、大阪市北区 私は、彼女の受けた治療は合理的だったと思う。彼女が自分で考え、自分で選択した、彼女らしい闘病だったのではなかろうか。 彼女の治療についての論点はがん検診、治療、そして民間療法の三つだ。何れも、がん治療を受ける上で重要な問題だ。 まずは、がん検診の有効性だ。彼女のようにがん検診を受けて早期診断されても、助からなければ、がん検診の意義はないという意見がある。 私は胆管癌については、概ね、その通りだと思う。一般的に予後が悪い癌、つまり進行が早い癌は、検診でどんなに早く見つけても、その時には既に転移していることが多い。診断しても、心理的なストレスを与えるだけで予後を改善しない可能性が高い。 この状況は、検診が推奨されている子宮頸がんや大腸癌とは対照的だ。このような癌では、前癌病変から進行がんへの移行に時間がかかるため、検診で早期診断する意義は大きい。 川島さんの場合、胆管癌は人間ドックで偶然見つかった。折角、検診を受けたのに、治癒が難しい癌が見つかってしまった。彼女にとっては「死刑宣告」に近かったかもしれない。がん検診は、時に「藪蛇」になる。我々は、がん検診のこのような陰の側面についても、十分に認識しなければならない。 では、偶然見つかった予後不良の癌には、どのように対応すればいいだろう。色んな考え方があると思う。何もしない方がいいと考える医師がいても不思議ではない。 確かに、彼女の経過を見れば、手術を受けない方が良かったとも言えるかもしれない。治癒の期待が低いのに、手術の侵襲に苦しんだからだ。 一方で、胆管がん患者の一部は長期生存する。ごく稀に治癒する患者もいる。全身を検査して、転移病巣がないことを確認したら、外科手術を選択せずにいれるだろうか。 私は、極めて難しいと思う。同じような境遇になったら、私も手術を選ぶ。川島なお美さんの選択は、ごく自然だ。 では、その際、どのような手術を選択するかだ。術式として、開腹手術と腹腔鏡手術がある。効果に大きな差はないが、前者の方が侵襲は大きく、皮膚に手術痕が残る。一方、後者は、侵襲は少ないが、一定の確率で事故を起こす。そして時に死亡する。群馬大学や千葉県がんセンターで問題となった事例だ。 両者はリスクとベネフィットがトレード・オフの関係にある。最終的には患者が自ら決めるしかない。 彼女は腹腔鏡手術を選択した。これは彼女が女優だったからだろう。手術を受けたとき、当然、完治を考えていたはずだ。今後も女優として活動する。彼女は『失楽園』などでベッドシーンも演じてきた。体にメスを入れるのは最小限にしたかったのだろう。そう考えれば、彼女が多少のリスクを冒してでも腹腔鏡を選択したのは合理的だ。主治医も、その意向を尊重したのだろう。 さらに、彼女が合理的だったのが、再発してからの対応だ。一部の方は民間療法に走ったことを批判するが、私はその意見に与さない。 再発した胆管癌は治癒しない。残された時間も少ない。ごく一部の患者で抗がん剤が効くことがあるが、基本的には無効だ。それなのに脱毛などの副作用を伴う。私が患者なら、緩和医療の一環としての放射線治療は兎も角、抗がん剤治療は受けたくない。 一方でビタミンCや電磁波には「副作用」はない。勿論、効果も期待できないが、精神的な救いを求め、民間療法を受ける人がいても不思議ではない。 私の経験から言っても、治癒の可能性がなくなった進行がんの患者は、しばしば何かに救いを求める。それが宗教であることも、民間療法であることもある。現在の医療は、このような患者ニーズに対応できていないし、このような行為を「エビデンスがない」と言って批判するのも大人げない。終末期の段階で、彼女は民間療法に救いを求めた。そして、それを支えに、最後まで彼女らしく生き抜いた。 このように考えると、川島なお美さんは、彼女の価値観が最優先された素晴らしいものだったと思う。それには夫君をはじめ、ご家族の献身的な支えもあっただろうが、「女優として生き抜きたい」という彼女の強い意志を反映したものだったのではなかろうか。自分で考え、自分で決めた素晴らしい闘病生活だったと思う。ご冥福をお祈りしたい。

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    川島なお美さんの命を奪った「セカンド・オピニオン」

    よる記事が掲載されました。近藤氏といえば、文藝春秋にとってみれば、これまでに多くのセンセーショナルな医療記事やベストセラー著作を生み出してきた、いわば切っても切れない常連仲でもあります。そのような背景はあるにせよ、今回の川島さんの記事について、主観を一切そぎ落としたうえで、一臨床医として読み進めていくと、その内容には、信じ難い多くの問題を抱えていることがわかりました。 いくら一般向け読み物とはいえ、「がん」という病気を扱った医学情報を基にした記事としての内容としては極めて異質であり、それら医学的な誤りについてこのブログで糺してみようと思います。「医師の守秘義務」に抵触しているのでは? 先ず記事の冒頭で、「法律上、亡くなった方は医師の守秘義務の対象ではなくなりますが、(以下略)」(P188)という前提を置いたうえで、亡くなられた川島さんの個人情報をベラベラと公で語り出すのは倫理的にいかがなものでしょうか。まだまだ心の深いキズも癒えていないはずの、夫の鎧塚さんもさぞかし不本意なことだと思われます。たった一度、わずか30分間お話しただけの医師が、川島さんご本人に対して本当にそのような裁量権を持ち得るのでしょうか。 医師の守秘義務とは、「医師・患者関係において知り得た患者に関する秘密を、他に漏洩してはならない」という医師の義務のことです。法的に云々という前に、本来は専門職業(プロフェッショナル)に従事する医師の倫理上の義務だということになります。古くは、『ヒポクラテスの誓い』において、「治療の機会に見聞きしたことや、治療と関係なくても他人の私生活について洩らすべきでないことは、他言してはならないとの信念をもって、沈黙を守ります。」と述べられています。それを引き継ぎ、1948年に採択されたジュネーブ宣言の中でも、医師の守秘義務について、「私は、私への信頼のゆえに知り得た患者の秘密を、たとえその死後においても尊重する。」と述べられています。 では、法的義務としてはどうかというと、日本において医師の守秘義務違反については、プライバシー侵害等の不法行為に該当するか否かをめぐり、民事上の責任が問われた先例があるようです。しかし、明文でこの問題をとり上げているのは刑法の次の規定があります。刑法134条(秘密漏示)第1項「医師、薬剤師、医薬品販売業者、助産婦、…の職にあった者が、正当な理由がないのに、その業務上取り扱ったことについて知り得た人の秘密を漏らしたときは、6月以下の懲役又は10万円以下の罰金に処する。」日本医師会ホームページ「医師の守秘義務について」 川島なお美さんご本人の同意があるとは決して思えない状況下で、近藤氏は法的云々を前提に置く前に、先ずは医師として遵守すべき医療倫理が欠如しているといえるでしょう。ちなみに、川島さんが訪れた「近藤誠がん研究所・セカンドオピニオン外来」のホームページに明記されている「個人情報の管理と保護」がまったく遵守されていないということになります。「肝内胆管がん」の医学的な誤りについて 川島なお美さんの訃報が流れたタイミングで様々な専門性を持った医師たちがメディアを介して盛んにコメントをされていました。しかし、時系列として彼女が患った「肝内胆管がん」と診断された時点における重要な各論は皆無であったような気がします。「予後が悪いがん」だから、手術をしても治らなかったのでは?と、なんとなく決めつけられたフワフワした議論もみられました。本当にそうだったのでしょうか。 記事の文面通りに解釈すると、8月の中旬頃に都内の有名ブランド病院で「肝内胆管がん」が発見されています。その1カ月後の9月12日に、川島さんは近藤氏のもとを訪れ、セカンド・オピニオンを求めました(P189)。そのやりとりの中で、過密な仕事スケジュールや主治医との折り合いも悪かったようですが、11月にもう一度、病気の進行具合を確認したうえで12月23日に舞台が終わってから治療を受けたい意思を示したうえで、「(近藤)先生、そんな仕事優先の私は間違っていますか」(P191)と尋ねたようです。 それに対して、近藤氏のコメントは、「転移はありませんでしたし、川島さん自身も『早期発見だった』とおっしゃっていたんですが、胆管がんは膵臓がんなどと並び予後のきわめて悪いがんです。彼女の場合、腫瘍は肝臓の左葉の真ん中付近にあったんですが、いずれ目に見えない転移巣が明らかになってくる可能性が高かった。そうなるとステージ(病期)は末期のIVということで、切除手術自体が無意味ということになってしまいます」(P191)。身勝手に末期のステージIVと決めつけ、要するに手術を受けないように薦めているのです。 詳細な情報がありませんので明確なことは言えませんが、同様な病気を患われた方がこの記事にある誤った情報に引っ張られないためにも、以下指摘してみます。「MRI検査で二センチほどの影が確認された」(P189)「検査画像を見る限り転移はありませんでした」(P191) 要するに、「腫瘍径:2cm大」「腫瘍個数:単発(1個だけ)」「転移:目に見えるリンパ節転移や遠隔転移を認めない」という条件の「肝内胆管がん」だと思われます。『原発性肝癌取扱い規約 第6版』(日本肝癌研究会編)に従うと、ステージII(2cmを超えた場合にはステージIII)ということになります。 近藤氏は、転移がすでに潜んでいる「予後が悪いがん」と決めつけていますが、上記条件の川島さんの「肝内胆管がん」に対して、がんの取り残しなく、しっかり手術を受けるとどれほどの予後が予測されるかご存知でしょうか。 質の高い手術レベルで有名なジョンズ・ホプキンス大学(米国)の外科医、Hyder医師の報告によると、514例の「肝内胆管がん」を治療した成績をふまえて提案した「ノモグラム」という予後予測解析ツールというものがあります(JAMA Surg 2014;149: p432-438.)。 それを使って川島さんの予後予測をしてみますと、近藤氏のもとに訪れた時点では、少なくとも「手術によって3年生存率は80%以上、5年生存率は70%以上」という結果になります。あくまでも予測ですが、この「ノモグラム」には再現性があり、診断当初はいくらでも治せるチャンスがあったと言えます。正しいセカンド・オピニオンの薦め「肝内胆管がん」の特徴的ふるまい 「肝内胆管がん」が厄介なのは、肝臓には豊富なリンパ流があり、そのふるまいはリンパ節転移を非常に起こしやすいということに尽きます。記事通りだと、川島さんは、実際に手術を受けたのが、診断時からなんと「5ヶ月」も経ってからのようです。病気が見つかってから「5ヶ月」も経てば、がん細胞は容易にリンパの流れに乗って、転移をしてしまうリスクが高くなるのは当然でしょう。以下、4つの大きなリンパ流((1)肝十二指腸間膜、(2)胃小彎、(3)大動脈周囲、(4)縦隔)を示します。 お仕事の都合があるとはいえ、川島さんは何よりも「治癒」を目標ゴールとして目指したかったでしょうから、これらリンパの流れを意識した質の高い手術が、適切なタイミングで求められるべきでした。 それでも近藤氏は、手術は「合併症も含めてバタバタと亡くなっていく」(P191)、「メスを入れたところにがん細胞が集まり、急激に暴れ出すことが多々ある」(P192)、危険だぞ、怖いぞ、と数字を一切示さないで誇大に恐怖を煽るだけです。それらの根拠は一体どこにあるというのでしょうか。 結果的には、川島さんは早期に発見されてから半年ほど「放置」されていたことになります。この病気特有のふるまいが、診断された時点で、主治医からも近藤氏からも、おそらく丁寧に説明されなかったことが最大の罪に思えてなりません。誤った選択肢の提示 主治医から説明を受けていたからなのでしょうが、川島さんは「ラジオ波焼却術は、肝臓がんには有効だが、肝内胆管がんには効かないと言われましたが本当ですか」と尋ねているのにもかかわらず、以下のように答えています。ぼくは『ラジオ波なら手術をしないで済むし、1ショットで100%焼ける。体への負担も小さい。そのあと様子を見たらどうですか?』と提案しました。『手術しても十中八九、転移しますよ』ともお伝えしました。むしろ手術することで転移を早めてしまう可能性もあるからです」川島なお美さん 手術遅かったとの指摘は間違いと近藤誠医師(NEWSポストセブン) 「肝内胆管がん」に対して、病気を焼くことで生存利益を示した科学的根拠(エビデンス)は存在しません。近藤氏は100%焼けると言い切っていますが、目に見える病気をいくら焼いたとしても、近傍に潜んでいるかもしれない、あるいはリンパ節に潜んでいるかもしれない、目に見えないがん細胞にはまるで意味を持ちません。適当にその辺りを焼くくらいであれば、何もしない方がまだマシだとも言えます。 前述したようなリンパの流れを意識した真面目な手術をすることで、「治癒」できるかどうかが議論されるべき病気なのに、なんとなく姑息的に焼いたらいいと、個人の主観や嗜好でものを言ってはいけないのです。生存利益があるという根拠がない限り、気軽にラジオ波というオプションを提示するのは間違いです。放射線治療も然りです。正しいセカンド・オピニオンのすすめ 「がん」は人生を一変させる病気です。そのような病気が読者自身の厳粛な現実(リアル)として訪れてしまった場合、最善の情報や治療にアクセスしたいと希望されるのは当然のことです。それにもかかわらず、藁にもすがる思いで不安や心配で揺れ動く患者さんを弄ぶかのように、世の中には科学的根拠(エビデンス)を欠いた様々なエセ医学が氾濫しています。検証のない近藤誠言論もその中のひとつと言えるでしょう。 昨今のがん医療現場において、主治医の説明が理解できない、納得がいかない、信頼関係が築けないという鬱憤に端を発し、信じがたい不幸な医療事故ニュースの見聞が目立つようになってきました。そのような背景も相まってか、不馴れや未知、不安や心配、そのような普段とは異なる精神病理に巧みに付け入ることで、不誠実なエセ医学は温存され続け、普段はどれほど教養レベルの高い人たちでも、まるで「洗脳」のごとく容易に誤った方向に引っ張られてしまう患者さんをこれまで数多く目の当たりにしてきました。 川島さんのケースの場合でも、最初から関わっていた主治医と彼女との間でどのようなコミュニケーションが交わされていたのでしょうか。耳に入ってくる情報では、決して良好な信頼関係が築けていたようには感じられません。「がん」についての情報が十分に備わっていない彼女が本当に理解し納得するまで、「病気のこと」「治療のこと」について真摯で丁寧な説明がされていたのでしょうか。そして、リンパ節転移を起こしやすい「肝内胆管がん」に対して、適切とは言えない腹腔鏡で行った手術はどのようなレベルのものであったのでしょうか。 一方で、彼女のセカンド・オピニオンを担った近藤氏は、元放射線科医という立場で気軽に「肝内胆管がん」を語るべきではないのです。結果的には、医学的なオピニオンから明らかに逸脱し、近藤氏の単なる「思想」を押し付けられただけであり、非常に忌まわしい問題といえます。 セカンド・オピニオンとは、患者さんが納得のいく意思決定ができるように、現在診療を受けている主治医の「第1の意見」ファースト・オピニオンとは異なる医療機関の医師に「第2の意見」を求めることです。「第3の意見」「第4の意見」として求めてもよいでしょう。「がん」について、インターネットや書籍棚の世界には誤ったエセ医学情報が蔓延しています。自身の受ける治療について正しく考えることの基準を教えてくれる絶好の機会として、気後れすることなくセカンド・オピニオンを大いに活用することは非常に大切です。 現在の主治医から説明された診断や治療方針について、説明内容がよくわからない、納得のいかないことも多々あるかもしれません。あるいは、「他にもっとよい治療法はないのか」と思われる場合もあるでしょう。セカンド・オピニオンを受けることで、今ある主治医の意見を別の角度からも検討することができます。もし同じようなオピニオンが説明された場合でも、それは決して無駄ではなく治療に対する理解や安心が深まることになるでしょう。また、別の意見が提示された場合には、治療選択の幅が広がることで、意思決定の質を高めることにも繋がります。悪質な一貫性 文藝春秋の記事見出しには、手術を受けなければ「川島なお美さんはもっと生きられた」とありますが、事の真相は、近藤氏の意見(オピニオン)に振り回された結果、「治るチャンスを逸してしまった」ということではないでしょうか。医学的に誤った内容を平然と記事にしても恥じない出版社×近藤誠氏、事実(ファクト)を歪め、川島なお美さんの尊い命を自らのビジネスに利用することに良心の呵責はあるのでしょうか。 いつの時代も、著名人の「がん」について各メディアは様々な各論抜きで、なんとなくエモーショナルに報道しているような気がします。川島さんについても、最期まで潔く女優人生を貫かれたという報道に異論はありません。しかし、私のセカンド・オピニオンが最後まで許されるのであれば、もし最善の情報、最善の医師に辿り着いていたとしたならば、病気を克服され、現在も元気な姿で舞台に立っていたような気がします。素晴らしい女優であったからこそ、早い最期が惜しまれてなりません。

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    避けて通れない原発事故対策 病院が直面する隠れた弱点

    わからない。ここでは、その議論はしない。 筆者は医師だ。ご縁があり、東日本大震災以降、福島県浜通りの医療支援を続けている。筆者の関心は原発事故が周囲に与える影響と、事故対策である。 原発の安全性を向上させるための議論は重要だ。廃炉の議論は大いにすべきである。ただ、これだけで議論を終わらせてはならない。福島第一原発事故を経験し、我々は「どんな原発でも事故を起こす可能性がある」ことを学んだ。福島第一原発のような自然災害であれ、チェルノブイリやスリーマイル島原発のような人為的ミスであれ、原発事故は起こりうる。原発の安全性を考えるにあたり、事故対策の議論は避けて通れない。 ところが、これが難しい。それは、「安全神話」に代表されるプロパガンダの問題だけではない。私は、原発事故は、事故発生当初は被害の規模が分からないことの方が影響していると思う。 例えば、福島では、事故発生後、相当時間が経つまで、誰も正確な状況を掴めなかった。政府は、とりあえず、原発から20キロ圏内に避難指示、30キロ圏内に屋内退避指示を出したが、この判断は不適切だった。 もっとも汚染された地区の一つに、原発30キロ圏外の飯舘村が含まれる。汚染は原発からの距離より、事故当時の風向きや天候が影響するからだ。結果論だが、政府の指示に従わず、独自の判断で避難した人が被曝を避けたことになる。結局、誰も被害を予想できなかった。 今後、原発事故が起これば、多くの住民が、政府の避難指示を無視し、自分の意思で避難するだろう。彼らにとって、一時的に避難することは何のデメリットもないからだ。この結果、周辺の道路は渋滞し、地域は混乱する。 我々が対策を考えねばならないのは、このような健常人ではなく、重症患者や寝たきり老人だ。彼らの避難にはリスクを伴う。 例えば、双葉病院(大熊町)のケースだ。震災発生時、340人の患者、および系列の介護老人保健施設には98人の高齢者が入所していた。搬送途上で10人、最終的に84人が亡くなった。被曝のリスクを考慮すれば、早急な避難が合理的だったとは言いがたい。双葉病院の敷地内に運び出されたベッド。東京電力福島第1原発事故からの避難中に多くの患者が犠牲になった=平成23年11月、福島県大熊町 原発事故が発生した場合、医療関係者は十分な情報を集め、自分の頭で対応策を考えなければならない。取るものも取りあえず、患者を避難させてはならない。まずは籠城すべきと言っていいかもしれない。 ただ、そのためには、原発事故が発生しても、一定期間、病院機能を維持しなければならない。ところが、これが難しい。物流が遮断されるからだ。 南相馬市立総合病院には3月16日に自衛隊が物資を搬入するまで、医薬品や食料は入ってこなかった。物流を担う民間企業が被曝を恐れ、従業員に、この地域での活動を禁じたからだ。 この結果、病院は孤立し、診療は継続できず、避難を余儀なくされた。3月18日には、自衛隊のサポートの元、入院患者の搬送を開始した。ただ、この7日間が、患者の命を救った。十分な準備が出来たからだ。避難中に死亡した患者はいない。 病院が直面する問題は物資不足だけではない。病院スタッフも不足する。特記すべきは、病院には看護師をはじめ、若い女性職員が多いことだ。多くは子どもを抱えている。原発事故が起これば、子どもの被曝を考えなければならなくなる。この結果、多くの女性スタッフは職場を離れざるを得なくなる。南相馬市内の多くの病院では職員数は3分の1程度まで減った。同様のことがスリーマイル島の原発事故でも報告されている。 対照的なのが消防署だ。南相馬市の救急隊員は全員が男性で、原発事故後も誰も避難しなかった。救急搬送は平常通り行われた。 病院は災害時の基本インフラだ。ところが、病院には女性が多いということが、災害時の隠れた弱点となる。これまで、このことが議論されたことはない。 一旦、原発事故が起これば、住民の命を守るためには、政府と地元の連携が欠かせない。その際、地元の人材の層の厚さがものを言う。 福島第一原発事故が起こった浜通り地区は、震災前から医師・看護師が大幅に不足していた。一部の医師や看護師が避難したため、病院機能を維持できなくなるところがあったのは、このためだ。 我が国で医師・看護師は遍在している。基本的に西日本に多く、関東・甲信越・東北地方など東日本に少ない。果たして、このようなことが原発の安全性の議論に、どれだけ考慮されたのだろうか。稼働してから40年未満の原発でも、周辺状況を考慮して、廃炉を検討すべきところがあるかもしれない。逆もまたしかりだ。 廃炉を議論する際、たとえ将来的に脱原発を目指すとしても、現段階では、原発事故の発生確率を考慮し、廃炉のリスクとベネフィットを冷静に議論しなければならない。そして、一旦事故が起こった場合のフェイルセーフの観点からの議論も必要だ。これは医師・看護師の数の問題だけではない。福島第一原発事故では、優れた市役所職員・教師・介護士などが大活躍した。このような専門人材の層の厚さこそ、地域力だ。残念ながら、このような人材の層の厚さには、厳然とした地域間格差が存在する。原発廃炉を議論する際、このような事実を冷静に見つめる必要がある。関連記事■ 上昌広が説く STAP騒動から何を学ぶべきか■ “医療地獄”の東京 地方へ「脱出」も選択肢だ■ シェールガスで原発は不要と煽った反原発団体の“まやかし”

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    果たして医療事故調査制度は機能できるのか

     医療事故調査制度とは、医療機関で診療行為に関連した予期せぬ死亡事故が起きた際に使われる制度。医療機関は第三者機関である「医療事故調査・支援センター」(通称・医療事故調)に事故を報告し、院内調査を開始する。院内調査の結果は第三者機関と遺族に報告され、遺族が結果に納得できない場合は第三者機関に調査を求めることができる。事故が起きた際の院内調査はこれまでも行われてきたが、その内容を報告し、調査するための第三者機関が設立されるのは初めてだ。来年10月から始まる「医療事故調査制度」。制度のあり方について議論が白熱している 医療事故調設立の背景には、2000年前後に全国で医療過誤が相次ぎ、医師が逮捕されるなど司法機関による「個人の責任追及」が医療崩壊を招く事態に直面したことがある。 1999年2月、東京都立広尾病院で手術を受けた女性が誤って消毒液を点滴され死亡。この事件の直前には横浜市立医大で患者取り違え事故が起きており、国民の医療不信は高まった。医療訴訟が増え、2006年には福島県立大野病院の産科医が逮捕される事件も起きた。産科医は裁判で無罪が確定したが、医療行為に伴うリスクを誰が評価し、判断するのかという根本的な課題について、現行の法執行体制に対する不信が、報道のあり方も含め、医療側には深く広がっていった。その結果は、産科など訴訟リスクが高い診療科のなり手が少なくなり、妊婦のたらい回しなどの事件につながることにもなった。 警察の介入に不信を持つ医療者側の求めに応じて、厚労省は第三者による医療事故調査機関の設立を検討。一度は法案大綱案をまとめたが、「悪質な事例は警察に通報する」としたことに医療界が猛反発し頓挫している。しかし、第三者による調査を求める医療事故被害者らの声は根強く、その後も検討が重ねられ、事故調制度の枠組みを定めた改正医療法が今年の通常国会で成立したのである。 ただ、この制度がどのように運用されるのかなど具体的なことは厚生労働省令や指針で定めることになっており、現在も厚労省の検討会で議論が進められている。 検討会は今年度中に結論をまとめる予定だが、もっとも大きな論点は、届け出の対象となる「予期せぬ死亡」の定義である。実際の運用では、遺族が考える予期しない死亡と、医療者側が考える予期しない死亡が異なることも考えられる。 また、第三者機関の構成をどうするか、再発防止策をどのように示して共有するのか、遺族に調査結果をどこまで開示するのかなどについても意見が分かれている。検討会の複数のメンバーからは「調査結果が民事訴訟や警察の捜査の証拠に使われたら、責任追及を恐れて誰も本当の証言をしなくなるのではないか」との懸念の声もあがっている。 医療行為は専門性が高く複雑で、目の前の症例は1件ずつ異なる。原因を特定することが難しい事例も多いだろう。一方で、何が起きたのか、なぜそうなったのかを明確にすることは、身近な人の死を受け止める家族にとっても大きな意味を持つ。「第三者機関」を代理法廷にするのではなく、目の前の死を未来の医療の安全に繋げる視点が、具体的なシステム設計段階に入ったいまこそ求められている。(道丸摩耶)

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    「事故調」で医療は信じられるか

    平成25年に医療機関から報告があった「医療事故」は初めて3千件を超えた。近年、医療過誤をめぐる民事訴訟や刑事捜査も増えていることから、平成27年秋から調査制度が始まる。果たして、医療者、患者・家族双方から信頼を得られるようになるのか。

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    拙速で稚拙な医療事故調は医療を崩壊させかねない

     昨年6月、改正医療法が成立し、今年10月には医療事故調査制度が始まる。詳細は政省令などで規定される。現在、厚労省の検討会で議論が進んでいるところである。医療事故調査制度の設立には、様々な思惑が絡む。悪質な医師を規制するため、医療界を統制したい厚労省、医療事故を起こした医師の処分を願う患者・遺族、医療事故訴訟を新たなビジネスと考える弁護士達である。 医療界も一枚岩ではない。モデル事業を主導してきた医学界幹部たちは、厚労省寄りの姿勢を貫いている一方、坂根みち子医師や佐藤一樹医師など、この問題に危機感を抱いた医師たちは、通称「坂根班」というグループを結成し、独自案を発表した。この案は、最終的には小田原良治医師らにより日本医療法人協会医療事故調ガイドラインへと引き継がれた。現在、厚労省内での議論では、このガイドラインがベースとなっている。 一連の議論を通じ、医師法21条との関係、WHOガイドラインとの整合性、報告書の取り扱いなど、医療事故調についての理解が深まり、コンセンサスが形成されつつある。私は、この問題については、もっと議論が必要だと思う。拙速で稚拙な医療事故調は、我が国の医療を崩壊させかねないと考える。 例えば、調査報告書の取り扱いだ。多くの医師が、調査報告書が遺族に開示されることには反対している。正直に語った医師が、報告書を「証拠」に刑事や民事訴訟に訴えられる可能性があるからだ。真相究明のための調査と、処分を前提にした調査は、本来、明確に区別すべきである。ただ、このような常識は、現状では世間には受け入れられていない。 4月19日、国立国際医療研究センター病院の整形外科の後期研修医が、誤って血管注射用の造影剤を脊髄造影に用い、患者が死亡する事故が起こった。同病院は、院内に調査委員会を立ち上げ、原因究明を始めるという。この医師は、後日、書類送検され、刑事処分が検討されることになった。別途、民事責任も負うだろう。このような事件が起こった場合、国民は担当医の処分を求める。そして、メディアは、被害者の声を大きく報じる。このような状況下で、院内事故調の調査報告書を、遺族に見せずに済ますことは難しい。また、多くの国民は「調査報告書を入手した遺族は、訴訟に使おうが、刑事告発しようが勝手だ。そんな権利を制限することはできない」と考える。 業務上過失致死事件での真相究明と処分感情。両者のバランスをどのようにとるかは、もう少し時間をかけた議論が必要だ。医療だけでなく、航空機や鉄道などの他の領域でも、議論が深まるのを待たねばならない。 さらに、私が問題と考えるのは、厚労省が想定する医療事故調査委員会では真相究明が難しいことだ。例えば、今回の事件では、同院は臨床研修で有名だ。しかしながら、この状況は必ずしも患者のためになっていない。同院の医師は「研修医とレジデントが大勢いるのに、上級医が少ない。この病院らしい事故」という。 さらに、厚労省の思惑も絡む。同センターは、厚労省により糖尿病研究の拠点と位置づけられている。前出の医師は「糖尿病関係の医師は全部で約30名。常勤医師12名とレジデント7人。入院の多くは食事指導で10名程度にすぎない。一方、事故を起こした整形外科の常勤医は6人。レジデントは2人。入院患者が多く、十分に指導できていたか疑わしい」という。果たして、このような背景を、どのようなスキームで議論すればいいのだろうか。本来、他の病院の運営も熟知する委員が参加する第三者機関がチェックするしかない。 ところが、現在、議論されている第三者機関が、そのような役割を果たせるかは疑わしい。私が問題と考えているのは、第三者機関として「国が唯一の調査機関」を認定することだ。厚労省は第三者機関を「民間」の機関と唱っているが、その運営に補助金を出せば、厚労省の息のかかった委員が主導権を握る。 もし、この第三者機関が間違えば、誰がチェックするのだろう。歴史を振り返れば、国は何度も間違ってきた。ハンセン病の隔離政策など、その象徴だ。 また、厚労省は基本的に医師の味方だ。特に国立の医療機関への対応は常軌を逸することがある。例えば、東大病院のSIGN試験事件では、厚労省は東大病院、ノバルティスファーマと影で口裏を合わせていたことが判明している。また、昨年、国立がん研究センターで臨床研究不正が発覚した際、第三者委員会も作らず、有耶無耶にしてしまった。果たして、国立機関で医療事故が起こった場合、厚労省が認定した第三者委員会は、本当に患者のためになるのだろうか? 私は、厚労省が主導して「最高裁型」の事故調査委員会を作ることには賛成できない。そうではなく、セカンドオピニオンのように、患者が納得の行くまで他の専門家の意見を聞けるようにするほうがいいと考える。複数の医療機関が事故の原因を調査すれば、自ずと相互チェックするようになる。これは医師にとって都合がいい。厚労省や医師への処罰感情が強い遺族が、どのような意向を持とうが、議論を積み重ねるうちに、妥当なコンセンサスが形成されていくからだ。 私は、医療事故の死因究明の体制を整備することには賛成だ。ただ、その仕組みは、もっと議論すべきである。今国会に提出されている厚労省案は、多くの患者・遺族のためにならない可能性が高い。

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    医療事故遺族・永井裕之氏、医療事故調「『有名無実化』は避けよ」

     来年10月から始まる「医療事故調査制度」で、運用指針を協議する厚生労働省の検討会での議論が白熱している。制度は医療行為に伴う「予期せぬ死亡」があった際、病院が第三者機関に報告したうえで院内調査し、結果を遺族と第三者機関に伝えるもの。だが、予期せぬ死亡の定義、院内調査や報告書のあり方などをめぐり、医療界の一部と医療事故遺族側との意見の隔たりは大きい。制度はどうあるべきか。医療事故遺族の永井裕之氏に話を聞いた。 ──自身も委員で参加しているが、これまでの検討会の議論をどうみるかインタビューに応じる医療事故遺族の永井裕之氏 「危惧していた発言が、一部医療団体の委員から多くみられる。『再発防止策を報告書に書く必要はない』『遺族と患者は違う』などといった意見には驚く。医療事故の原因究明と再発防止に役立て、日本の医療の安全と質を高めることが目的のはず。自分の病院だけでなく、ほかの病院にも共通する問題が出てきた場合に医療界全体で対処することが、医療事故から学ぶということだが、『どうやって医師を守るか』しか考えていないようにみえる」 ──制度のあり方によっては、刑事責任追及や医療の萎縮につながるという意見がある 「医療事故の被害者遺族が納得すれば、決してそうならない。納得とはインフォームドコンセント(告知と同意)や事実経過で、病院側と遺族側の認識が一致していること。今回の制度は遺族のためではないとはいえ、原因を究明して再発防止策を遺族側に示すことは、制度の趣旨と全く同じはずだ」 ──第三者機関への報告基準となる範囲についての考えは 「薬の取り違えによる死亡などは『予期せぬ死』に入らず、届け出なくてもいいという理屈はおかしい。私の妻が亡くなった都立広尾病院の点滴ミス事件で、病院側は「消毒液が入った可能性が高まった」と言いながら、医療事故とは断言できないとし、うやむやにされそうになった。『薬を間違えて亡くなる可能性がある』と事前に患者に説明する病院がありますか? 遺族が予期しなかったものを全部届け出ろとは言わないが、病院側と遺族側の双方が認識する『予期』の内容が近接していないといけない。そうでなければ、合併症も含めると大半が届け出られないことになる」 ──ほかに、制度の運用上のポイントは 「単純ミスも含め、まず24時間から一両日中に第三者機関に届け出た上で、院内調査を行う。この際、全国をいくつかのブロックに分け、専門家ら外部の人間が入る方が透明性・公平性を担保できるし、真相に近づける。院内調査の報告書は再発防止策を盛り込み、遺族側にも提出する」 ──どんな医療事故調制度になることを望むか 「『小さく産んで大きく育てる』のが理想だ。小さく産むとは、制度の対象を小さくという意味ではない。大学病院などの大きな病院が制度を引っ張っていくことが大切。私は小さな診療所を含め、制度が完全に医療界に定着するまで30年はかかると思っている。それだけに、魂の入らない有名無実化した制度で運用がスタートしてはならない」(伊藤弘一郎)永井裕之(ながい・ひろゆき) 昭和16年、長野市生まれ。73歳。東北大工学部卒業。平成11年、都立広尾病院の医療ミスで妻を亡くし、医療安全の活動を続ける。「患者の視点で医療安全を考える連絡協議会」代表。

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    医師・佐藤一樹氏、医療事故調は「責任追及より安全確保」

     来年10月から始まる「医療事故調査制度」で、運用指針を協議する厚生労働省の検討会での議論が白熱している。制度は医療行為に伴う「予期せぬ死亡」があった際、病院が第三者機関に報告したうえで院内調査し、結果を遺族と第三者機関に伝えるもの。だが、予期せぬ死亡の定義、院内調査や報告書のあり方などをめぐり、医療界の一部と医療事故遺族側との意見の隔たりは大きい。制度はどうあるべきか。医師の佐藤一樹氏に話を聞いた。 ──これまでの検討会の議論をどうみているか「いつき会ハートクリニック」の佐藤一樹医師 「医療事故調制度の目的は医療事故が起きた場合に何が起きたか分析し、医療安全の確保につなげることだ。原因を究明することは得てして責任追及につながりやすいが、責任が問われるとなると現場の医療者は事実を証言しにくく、医療機関の管理者側の都合の良い物語を作ってしまうことがある。医療安全は、紛争解決や責任追及といった考え方と共存できない。責任追及でなく、原因をきちんと分析し医療安全につなげる制度にしてほしい」 ──医療者が自らの責任回避を求めているようにもみえるが 「私は平成13年に東京女子医大病院で起きた死亡事故をめぐり、業務上過失致死容疑で逮捕された(21年に無罪確定)。院内の調査委員会が、私が人工心肺装置の操作を誤ったとする報告書をまとめたからだ。実際は他に問題があったことが事故につながったのだが、調査委は手術に立ち会った全員から十分に聞き取りをせず、私も30分ほど事情を聴かれただけだった。不完全で誤った事故調査は冤罪(えんざい)を生む。新制度でも事故調査はまず院内で行われるが、冤罪を防ぐためにも、院内調査は誰が悪いかではなく、そのとき何が起きたかを徹底して調査すべきだ」 ──第三者機関へ報告する対象をめぐっても、考え方に隔たりがある 「改正医療法は『医療機関の管理者が死亡を予期しなかったものを調査対象とする』としているが、予期しなかったという言葉は分かりにくい。一方の医師法には、医師は死体を検案して(体の表面に)異状を認めたときは警察に届け出なければならないとの規定がある。現状では『異状』が何を指すのかが条文や最高裁判断の通りに周知されておらず、これを機に、警察に届け出をする場合と第三者機関に報告する場合を整理する必要がある」 ──院内調査の報告書を遺族に渡すかどうかも意見がまとまっていない 「報告書は医療安全の確保のためにのみ使われるべきだ。今月初め、脊髄に使ってはいけない造影剤を誤投与して医師が書類送検されたが、造影剤の同種死亡事故で現場医療者の責任が問われるのは私が知る限り7件目だ。責任追及は再発防止につながっていない。それよりも事故の内容を分析し、安全のために医療機関が情報を共有できるシステムを作るべきで、報告書はそのために使ってほしい」 ──患者側の医療不信にどう応えるべきか 「医療事故が起きたとき一番優先されるのは、第三者機関への報告よりも目の前の患者や家族にしっかり対応することだ。臨床現場の過剰な負担を減らすことが、結果として医療安全につながり患者のためになる」(道丸摩耶)佐藤一樹(さとう・かずき) 昭和38年、東京都生まれ。51歳。山梨医科大(現山梨大医学部)卒業。東京女子医大日本心臓血圧研究所循環器小児外科に入局し、平成21年に「いつき会ハートクリニック」(東京都葛飾区)開院。

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    政治的にはタフでも医療崩壊の危機に立ち向かえ

     衆院選で自公が圧勝し、安倍政権は長期化する可能性が出てきた。 本稿では安倍政権の医療政策について意見を述べたい。 私は、安倍政権は医療については、あまり熱心でないと感じている。厚労省・厚労大臣に丸投げの感が強い。 その最大の根拠は、診療報酬改定だ。平成26年度の改定では、プラス0・1%と説明された。ただ、消費税が増税され、医療機関は存在問題を抱えるため、実質はマイナス1・26%の大幅なマイナス改定だ。 平成25年度の税収は約47兆円。当初の見積もりを1・6兆円上回った。税収は伸びたが、医療費は抑えたことになる。 これと対照的だったのが、民主党への政権交代後の平成22年の診療報酬改訂だ。全体でプラス0・19%、金額にして700億円相当を引き上げた。実に10年ぶりのプラス改定であった。 注意すべきは、このときはリーマンショック直後で、税収が大幅に落ち込んでいたことだ。平成21年度の税収は38・7兆円に過ぎない。この中で、民主党政権は、医療に重点的に予算をあてがい、40万人以上の雇用を産みだしたと言われている。この過程で、民主党政権幹部は、財務省と全面的に対決した。 民主党政権と比較して、安倍総理の政権運営は安定している。多くの国民が、今回の解散・総選挙に賛成していないのに、与党を支持しているのも頷ける。 ただ、安倍政権の医療に対する基本的な姿勢は、我々は認識しなければならない。 私個人としては、安倍政権のやり方に反対ではない。社会保障費を圧縮しなければ、いつの日か、我が国は破産する。医療費と雖も、青天井で増やせる筈がない。医療費の抑制は必要だ。 しかしながら、医療費を抑制するだけでは、医療システムは破綻してしまう。高齢化が進むわが国では医療需要は急増する。我が国の医療は政府による価格統制が徹底しており、診療報酬を引き下げ続ければ、やがて医療機関の経営は立ちゆかなくなる。 医療崩壊を防ぐには、医療システムに循環する資金を増やさねばならない。税金・保険料で補えないのであれば、民間の資金を活用出来るようにしなければならない。 そのための具体策が、混合診療の解禁である。 我が国では、健康保険で支払う治療はすべて厚労省が一律に価格を決めている。混合診療が禁止されているため、例外はない。このことが、我が国の医療の進歩を阻害し、医療産業の発展を妨げている。 先日、13年間、凍結させた卵子を用いて出産した癌患者のニュースが報じられた。このように、我が国の不妊治療は世界最高水準だ。それは不妊治療が自費診療で、医療機関が独自に価格を設定できるからだ。患者満足度を上げれば、価格に転嫁できる。収益を増大すれば、最新機器を購入し、専門スタッフが雇用できる。一方で、不妊治療の専門医も増え、医療機関間に競争が生じ、サービス内容・料金は多様化した。これは患者にとっても福音だ。 厚労省は、完全自費診療には関与せず、混合診療は厳禁というのは二枚舌だ。厚労省が、このような態度をとるのは、医療行為の医学的妥当性よりも、医療費の支払いに関心があるからだろう。医療費の伸びを抑制するとともに、医療行為の価格の決定権限を握ることで、大きな権限を持てることは官僚にとって好都合だ。ところが、こんなことを続けていると、我が国の医療は崩壊してしまう。 我が国の医療システムが生き残る、つまり国民皆保険を堅持するには、混合診療規制の緩和が必須だ。 ただ、この問題に安倍政権が真摯に取り組んできたとは言いがたい。安倍政権は「岩盤規制改革」の象徴として、混合診療の解禁を唱っているが、先月、厚労省が発表した案では、混合診療が実施できるのは原則として百程度の大病院に限定されるらしい。これでは、多くの国民が規制緩和の恩恵に預かることが出来ず、見事な骨抜きである。 我が国の医療は、混合診療禁止という規制のもと、様々な既得権を生んできた。公定価格の元、一切の値下げ競争に曝されることはなく、開業医から製薬企業まで大きな利益を上げてきた。厚労官僚たちも絶大な権限を持ち、医療業界誌は、診療報酬改訂情報を垂れ流すだけで、売り上げを確保している。混合診療規制を緩和しようとすれば、彼らからの抵抗を受ける。混合診療規制の緩和は、政治的にはタフな仕事だ。さて、安倍政権は、どこまでやるだろうか。総選挙後の動きに注目したい。